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寝友

 ( 小説投稿城 )
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カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 私は如月楓。今、親友である橋本由美の目の前にいる。二度と目を覚ますことのない眠りについている、親友の…。
 決して死んだわけではない。ただ、意識不明なのだ。脳死もしていなければ、内蔵もなんとか機能している。ただし…延命装置に繋がれている間は。
 せめて20歳になるまではと、延命装置をはずさないという決断をした由美の両親は、毎日欠かさず病院に来ている。もちろん、私も。
 「楓ちゃん、いつもありがとうね。」「いえ…。こちらこそ、いつもお世話になっています。」由美のお母さんとは、元々仲が良かった。そして今、悲しみを分かち合っていた。
 どうして由美がこうなってしまったのか。それは…1ヶ月前の話。修学旅行に行ったときのことだった。

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カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 帰りの新幹線。私はもちろん由美と隣だった。「ちょっとトイレ行ってくるね。」そう言って由美は別車両に移動した。
 数分が経ったときだった。突然新幹線が大きく揺れた。地震だった。新幹線は緊急停止したものの、勢い余ったことと大きい地震の影響で脱線。ちょうど由美の行った車両のところから落下してしまった。
 高さはあまりなかったが、摩擦の影響で火災が発生。乗務員の指示に従って避難することになった。私たちは窓を割って脱出した。しかし。クラスごとに並んだ瞬間、私は気づいた。「先生!由美が…由美がいません!」辺りは騒然となった。
 「橋本さんが…?如月さん、隣にいたんじゃなかったの?」「それが…由美、ちょうどトイレに行ってて…」それを偶然聞いた乗務員の顔が青ざめたのがわかった。
 その乗務員は慌てて由美のいる車両に飛び込んだ。しかしすぐに戻ってきて告げた。「…トイレのドアは、歪みの影響で…開きません。」私は血の気が引いた。
 「由美ーーー!!!」新幹線は横に倒れ、由美のいるトイレからの出口はす全てふさがれていた。「嘘…でしょ…!?」
 消防車と救急車はすぐに来たが、救助隊はなかなか来なかった。先生が確認もせず全員いると伝えてしまったため、連絡が遅れてしまったのだ。消防車が急いで火を消そうとするも、なかなか消えない。「由美…由美…。」
 救助隊が来て、真っ先にトイレのドアをこじ開けようとした。しかしなかなか開かず、最終的に色んな機械を使ってドアを破壊した。「由美!」救助隊が窓から出てきたときに抱きかかえていたのは、紛れもなく由美だった。このときすでに、意識はなかった。

4ヶ月前 No.1

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 由美はすぐに病院に運ばれた。私たちは徒歩で最寄りの駅に向かった。そしてそこから帰れる電車を探し、何回かにわけてやっとの思いで帰った。
 翌日。代休だったため私は急いで病院に向かった。あまりにも重症だったため、大きい病院に運ばれたらしい。そこは私1人でも何とかバスを乗り継いで行ける距離だった。お金はかかったが、父が出してくれた。
 受付の人に由美の部屋を尋ね、急いで部屋に入った。「由美!」そこには由美の両親と、医者がいた。「あ…楓ちゃん。そうだ、先生。今の話、彼女にもしてくださいませんか?彼女はこの子の小さい頃からの親友で…」「わかりました。楓さん、ですか?どうぞこちらへ。」親切な男の先生に案内され、椅子に座る。「今から、大事な話をするよ。よく聞いててね。」私は耳をかたむけ、一語一句聞き逃さないよう意識を集中した。
 「由美さんは、大量の煙を吸い込んでしまって、瀕死の状態なんだ。大きい機械が見えるだろう?これは延命装置というんだ。これをはずせば、彼女は亡くなる。逆に言えば、これをつけていれば彼女の命は途絶えない…わけではない。だが、本来ならなくなってしまう命を延ばしているのだ。いつまで生きられるかはわからないし、大規模な停電なんて起きたらすぐに亡くなってしまう。今、この装置をはずすかはずさないかを、ご両親とお話していたんだよ。」私はゴクリと唾を飲んだ。初めて見た延命装置。聞いたことはあったが、まさか本当にあるとは。「では、そろそろ…。どうなさいますか?橋本さん。」「…せめて、この子が20歳になるまで…はずさないでください。」泣きながら、由美の母が答えた。声を震わせながら…。

4ヶ月前 No.2

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 私はあれからずっと病院に通った。部活も止め、由美を最優先にした。今までは延命装置に繋がれた由美を見て、『由美は生きている』と思うだけで満足だった。しかし、由美との写真を見ると、由美と遊びたい、由美と話したいという思いが溢れてくる。「由美…!」
 私は延命装置をはずしてもその人が死なない確率や、その方法を調べたが、そんなものほとんどなかった。前例はもちろんない。延命装置自体、使われるようになったのは最近。だからあまり、情報はなかった。
 ある日。由美を見つめていると、あの男の先生が来た。「あ…楓さん、ですよね。聞いてますよ、毎日来てるって。」「あ…はい。どうも。」「それにしても、すごいですね。毎日通い続けるなんて。家から遠いでしょう?お金もかかるだろうし。」「お金は父がくれるんです。その代わり、お小遣いは半分になりましたが。」「そうか…。…良かったら、今から昼食でも一緒にどうかな?話したいことがあるんだ。」「…?はい、いいですよ。」私はその先生…手塚翔先生に着いていき、食堂に行った。
 「注文、どうする?」「私、オムライスで…。」「じゃあ僕も。あ、奢るよ?」「いえ、大丈夫です、そんな…」「いいから、奢らせて。」私は不思議な気持ちになるも、甘えることにした。「早速だけど、話したいことなんだけどね…。」私は水を飲む手を止めた。

4ヶ月前 No.3

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 「…実は、僕、橋本さんが初めての重体患者で…どうしても、救いたいんだ。あのままじゃなく、元のようにしたいんだ…。」手塚先生の目頭が熱くなるのを感じた。「…先生。実は、私も思っていたんです。」私は先生の目を見つめて言った。
  それからというもの、私は色んな事例を調べた。先生はたくさんの薬を試した。しかしどれも効果はなく、由美は寝続けていた。
 あれから月日が経ち、夏休みになった。私の学校では今回の事故の件もあり由美ほど重症な人はいないものの怪我人が多くいたため、課題は免除された。私は毎日受験勉強に取り組みながらも病院通いを続けた。
 由美はいまだに、眠り続けている。まるで眠り姫のようだ…。ん?眠り姫…?私は突然思い立った。そして造花を大量購入。花の冠も買って、それを由美の頭につけた。ベッドの上や周りには、たくさんの造花を置いた。由美が美しい顔立ちだったこともあり、完璧な眠り姫となっていた。
 私はそれを写真に撮り、クラスのグループに送った。もちろん大好評だった。SNSにも載せた。こちらでも大好評だった。特にみんなに言われたこと…それは「花があるのにお葬式っぽくなくて良い」だった。
 造花を買うときに考えたことは3つだった。1つは、明るく映えること。もう1つは…お葬式に絶対使わないであろう花ということ。さらにもう1つ…それは、花言葉が前向きなものであること。
 手塚先生を呼ぶと、すごく驚かれた。「2人で写真撮るかい…?」「はい、お願いします!」今思うと、久しぶりの由美とのツーショット。もう1つ買ってあった花の冠を身につけ、写真を撮ってもらった。「すごく、親友想いなんだね。」「よくわからないです。でも、きっとそうなんだと思います。」

4ヶ月前 No.4

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 あれから2週間が経った。何を試しても由美は生き返らなかった。当然といえば当然だ。機械によって生かされている人間が普通に生活できるようになるわけがない。それでも探し続けた幸せは、ただの妄想にしかすぎなかった。
 そんなとき、楓にもう1つショックな出来事が起きた。手塚先生が病院を異動することになったのだ。「手塚先生…。」「…ごめんな。何も出来なくて。」「いえ…ありがとうございました。」「こちらこそ、ありがとう。」
 新しい由美の主治医は、なかなか決まらなかった。みんなやりがいのある仕事をしたいばかりに、ほぼ植物状態の由美につきたいという人はいなかった。
 しかし、遠くからそれを聞きつけた医者が病院にかけつけてきた。「これは…」その医者は田舎から来たため、延命装置を見たとたん驚いた。そして言い放った。「都会はこんなものに命を託してるんか。こんなもんさっさと外さんか。」
 私は慌ててその手を止めた。「何するんですか!?そんなことをしたら由美が…由美が死んじゃいます!」「えぇ?だって心拍数も脈拍数も普通だし、自発呼吸もあるじゃないか。」「え…?」私は唖然となった。由美が…自分で呼吸をしてる…?

3ヶ月前 No.5

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 新しく来た医者…笹沼先生の発言に私は何も言えなかった。やっとの思いで口を開いた。「…自発呼吸してるって…どうしてわかるんですか。」「だって、今、呼吸器動いてないじゃないか。」「延命装置に繋がれてるから…じゃないんですか?」「仕組みを見る限り…呼吸は呼吸器しか影響していなそうだがな。」私は機械を見た。…わからない。私には、わからない。
 「…いちかばちか、だがな。」笹沼先生はそう言うと、由美から呼吸器をとった…「いやっ…」…あの音は、流れなかった。“ピー”という、聞きたくない音は…。
 「え…?」おそるおそる目を開けると、由美が気持ち良さげに寝ていた。機械を見ると、呼吸が今までより安定していた。「呼吸器が、邪魔だったんだな。」笹沼先生は呟いた。「あ…ありがとうございます!」私は叫んだ。
 由美の容態はすくすく回復。徐々に延命装置をはずす場所を増やした。そしてついに、待ちに待った日が訪れた。「今日はすべてはずす日だ。」
 とっくに夏休みは終わっていたし、受験が迫っていた。しかし、今、私に口出しする人はいなかった。由美が…私のすべてだったから。笹沼先生は、延命装置をすべてはずした。「…どう…だ…?」
 家族、親戚、先生、友達、合わせて50人ちかくに由美は見守られた。全員が手を合わせ、願った。
『由美が生き続けるように』と。
 笹沼先生も一瞬たりとも意識をかたむけなかった。一瞬でも何か異変があったら、すぐに延命装置を戻すために準備をしていた。「このまま1時間が経過すれば…橋本さんは、無事です。」1秒1秒…長い時間が刻々と過ぎていく。そしてとうとう1時間が経った。

3ヶ月前 No.6

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 「無事…だ…!」担任の声でみんなが目を開ける。由美は意識こそないものの、生きていた。延命装置をはずしても、生き続けていた。「由美!!」私は由美に抱きついた。
 「…デ?」ボソッと何かが聞こえた気がした。「え…?」「楓…?」その声は、紛れもなく由美の声だった。「由美…!」「橋本さん!」「橋本!」全員がかけよる。「み、みんな、どうしたの?」何も知らない由美に私はすべてを話した。
 「そんなに長い時間…あぁ〜人生無駄にしたなぁ…。」いつも通りの由美だった。「心配したんだからね!?」私は由美に抱きついたまま泣いた。周りにいる人もほとんど泣いていた。
 「笹沼先生。ありがとうございました。」私は深々とお辞儀をした。なんと言えばいいかわからないくらい感謝が溢れた。「私はたいしたことはしていない。橋本さんが、1番頑張ったんだよ。」私はその言葉でまた泣いた。
 看護師さんが写真を撮ってくれるというので、総勢50人程度で撮ってもらった。もちろん、由美とのツーショットも撮った。
 みんなが帰ったあと、私は由美を中庭に呼び出し、手塚先生のことを話した。「今、メールしたから、そろそろ返事が来ると思う。あ、きた。」『由美さんが復活したって本当かい?出来れば電話したいな。いいかな?』『はい、もちろんです。』手塚先生と電話をするのは初めてではないが、今日はどこか緊張していた。なぜだろうと思いつつ電話をかける。「手塚先生、ですか?初めまして、橋本由美です。本当にありがとうございました。」「あなたが…。初めまして、手塚です。全然、僕は何もしてないですよ。」
 数分3人で電話したあと、由美は病室に戻った。私は手塚先生と電話をしていた。「延命装置をはずした!?すごいね、その先生。」「ほんとですよね!」ずっと話しているうちに、なんだかこのままでいたいとも思えた。親友のことでこんなに語れる人は、今までいなかったから…。
 月日はどんどん経っていき、1月になった。由美はリハビリが完了したものの、受験勉強は間に合わないから志望高校のレベルを下げるしかないと言われたが、由美はどうしても“清涼高等学校”という県でトップの高校に行きたかったため病院で猛勉強をした。
 私も同じ高校に行くために気が狂うほど勉強した。由美と一緒だからこそ頑張れたことだった。
 あれから何度か、手塚先生と会う機会をつくっては2人で語っていた。由美の話はもちろんだが、手塚先生が新たに勤めた病院での患者の話、世間話、趣味の話、たまに恋愛の話で盛り上がっていた。受験期の私にはピッタリの息抜きだった。
 一方由美は病室が移動され、同室になった秋葉原 誠と仲良くなっていた。秋葉原 誠もまた清涼高等学校志望の受験生で、2人で勉強を頑張っているという。
 そして、3月…。清涼高等学校の受験会場には、私と由美と秋葉原がいた。みんなでかけ声をかけて校舎内に入った。

3ヶ月前 No.7

カピバラ @pandako ★3DS=JtHx4DyZvP

 2日後。合格発表。受験番号は私が0176、由美が0263、秋葉原が0218。毎年350人ちかくが受けるが、ここに入れるのはわずか240人。3人で自分たちの番号を探した。
 「あった!」真っ先に見つけたのは秋葉原だった。「あ、私も!」「見つけた!」全員の番号が、あった。私は喜びのあまり泣いた。そのまま写真を撮られたが、その写真には、笑顔の由美と秋葉原と、泣きながらも笑う私がいた。
 あれから何年経っただろうか。私はすっかり大学院生になっていた。医者になるためにトップクラスの大学に入って…。
 由美は大逆転人生をメディアに取り上げられた。また、性格の良さとルックスの良さ、センスの良さからタレントになり、たくさんの番組で活躍していた。
 秋葉原はアナウンサーになるという夢を叶えた。アドリブ上手で噛まないアナウンサーとしてすっかり有名になっていた。
 私は今、研修のためとある病院に来ている。「楓さん、これお願い。」「はい…先生。」目の前にいるのは、手塚先生だった。「まさか君とまたこうして会えるとはね。嬉しいよ。」「私もです。」いつのまにか2人で会うことも増え、すっかり親しくなっていた。
 そしてそれは突然だった。「僕…楓さんのことが好きです。付き合ってください。」「…喜んで。」
 その日の夜。多忙なはずの由美からメールが来た。その内容は…『誠さんとお付き合いを始めました♪』
 半年後に彼からのプロポーズを受けて私は結婚、その半年後に由美たちが結婚した。「事故に逢っていなかったら、誠さんに会えなかったかもしれないし、楓も手塚先生と会えていないかもしれない。私の事故は無駄ではなかったのね。」「由美…。」涙もろい私はまた泣いた。告白されたときも、プロポーズされたときも、結婚式でも泣いたのに。まだ涙が出てくるのだ。
 そして今。私と由美と秋葉原は28歳、手塚翔は39歳になっていた。私と翔は2人で病院を経営。院長と副院長として病院を支え、たくさんの患者を救った。もちろんチーフは、笹沼先生だった。
 由美はタレントとしてモデル業界やバラエティにも足を伸ばして活躍。たくさんの世代から絶大な人気を得ていた。
 秋葉原はアナウンサーとしてどんどん昇格。気づけば“アナウンサーの鏡”となっていた。2人は結婚後共演することも増え、幸せな日々を送っていた。
 中3の修学旅行からは全く考えられない人生。だけど、何が起こるかわからないからこそ、人生は面白い。そう強く感じる人生だった。

END

3ヶ月前 No.8
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