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巡間の街は眠らない

 ( 小説投稿城 )
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すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。男も女も、子供も老人も、人間も妖怪も、誰でも何でも大歓迎。


おっとお兄さん、あんたも此処に来たばっかりかい?いや、その呆けた面じゃすぐわかる。来たばかりの奴は大抵そういう顔をして、どうすることもなくふらふらするか、其処に突っ立っていることしかできないものだからね。
大丈夫さ、この街は良いところだ。あんたのような者が集まってできているからね。きっとすぐに仲間もできて、仕事のあても見つかるさ。こんな自分だって今はこうして語り部をやっているんだ、あんたくらいならもう少しいい仕事に就けるんじゃあないかい?……嗚呼、そうだった。お客様方を待たせていたんだった。お待たせいたしました、新たな仲間が入ったところで、ただいま開始といたしましょう。

此の街の名は巡間の街。死者の魂と妖怪の住む、喧騒と人情の街にござりまする。おっとお兄さん、あんたも既に死んでいる。死んだ理由がわからない?そんなの皆だ、皆自らの死んだ理由や生前の己のことを知るために此処に連れてこられたのさ。たとえどんな金持ちも、たとえどんな貧乏人でも、この街では皆等しく扱われ、皆等しく裁かれる。そんな平等、ありえるのかって?それは己の目で見てたしかめるがいいさ。


昼は賑わい、夜も眠らぬ巡間の街。死者の魂、そして妖怪の織り成す人情劇の、はじまりはじまり。

メモ2017/06/05 22:42 : すずり @suzuri0213★Android-nMqLjsjQcP

〜注意書〜

はじめましての方もそうでない方も、閲覧ありがとうございます。此処でちょっとした注意書をば。


壱、いいねやコメントをいただいた日には狂喜乱舞いたします。

弐、感想なんてくださると天にも昇る勢いです。

参、誹謗中傷お断り。下手くそなのは自認してます。


拙い文ではありますが、完結を目指して頑張ります。よろしくお願いいたします。

ページ: 1


 
 

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

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10ヶ月前 No.1

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

蕎麦屋へと連れていかれた佳乃はなぜか若者に奢られることとなった。まあ佳乃は財布を持っていないし一文無しなのでそうしてもらえた方が良かったのだが、あの勢いで連れていかれて「奢ってあげましょう」と言われたら「あっはい」としか返せない。

「美味しいでしょうここの蕎麦。大好きなんですよ」
「はあ……そうですね……」

ずるずる美味しそうに蕎麦を啜る若者に佳乃はそう返すしかなかった。此処で「いやちょっと……」とか言って斬られたら洒落にならない。佳乃も蕎麦をちびちび食べていたが、若者がはっと気づいたようにその整った顔を上げた。ちゅるんと啜っていた蕎麦を飲み込んでから、にっこり佳乃に微笑みかける。

「それであなた、名前はなんというんです?」
「へ?名前?」
「嗚呼、私が名乗っていませんでしたね。私のことはお菊さんとでも呼びなさい。此処では本名を名乗りたくない人はあだ名で呼ばれますからね」

若者━━━━もといお菊さんはそう言って優しく微笑む。やはり美しいのだが、名前からしても性別がわからないままだった。男性なのか女性なのか、今の時点でははっきりしない。

「私、は……佳乃、といいます」
「佳乃さんですか。後で役所に届け出に行かなくてはなりませんね。此処に新しく来た者はそうしなければいけないですから。その前に此の街について私が教えてあげましょう」

お菊さんはいちいち言葉が長い。儚げな容姿に対してかなりお喋りなようだ。これがいわゆるギャップというやつなのだろうか。
そんな風に佳乃が考えている間にも、お菊さんはペラペラと此の街の説明をし始めた。

「此の街は巡間の街といって、何処にも属さぬまさに狭間にある街です。此処にいるのは死者の魂と妖怪。つまり佳乃さん、あなたは死にました」
「ゑっ?……げっほげっほげほ」
「あ、大丈夫ですか?かなり驚かれているみたいですけど」

そりゃ驚くわ、と思うが佳乃は黙っておいた。いきなりの死にました宣言。蕎麦を思いっきり吸い込みすぎてむせてもおかしくない。いやむせたのは申し訳ないとは思うが唐突にあの発言はいけなかった。しばらく佳乃の背をさすっていたお菊さんだったが、ようやく落ち着いた佳乃に向かってにっこりして、

「落ち着きましたか?」
「いきなりあなた死にましたって言われて落ち着くも何もあるんですか!落ち着けるわけないでしょ!つーか死んだってどういうことですか!私死んだ記憶が何一つないんですけど!」
「まあまあ怒らないで。こういうのは経験者に語らせた方が早いんですけどね。私は死んだ記憶がばっちりありますし」
「あんの!?」
「そりゃあもちろん。まあ私は比較的知り合いの死も含めると平和的な最期でしたよ」

けろりとした表情でお菊さんは言うが、彼(彼女かもしれない)の死を知らない佳乃にとってはどうもコメントしづらかった。目の前でにこにこ笑っているこの端正な若者は既に死んでいるのだから。聞けば佳乃も既に死んでしまっているらしいのだが原因がわからない以上どうこう言えない。

「とにもかくにも此の街の方は皆死んでいるか人ではありません。いわば天国でも地獄でもないところです。これは私の推測なのですが、此処に来るのは自らの死に納得できていない方だと思うのです」
「納得……?」
「自分の望む死に方ができなかった方、と言えばいいのでしょうか。私は病で死にましたが本当はそのような死を望んでいませんでしたからね。自分が死んだことに気づいていない人も、此処に来るのではないでしょうか」

お菊さんの説明を聞いて、なんとなくではあるが佳乃は話に納得することができた。つまり自分は自らの死因がわからないのだ。だからこの巡間の街とやらに迷いこんだ。そういうことである、ということは理解できた。

10ヶ月前 No.2

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

「それで、佳乃さんはこれからどうするのですか?」

粗方蕎麦を食べ終わり満腹になったところでお菊さんがそう聞いてきた。汁まで飲み干した佳乃はその質問に一瞬きょとんとしたが、大切なことに気づいた。

此処に家はないではないか。

自分が此処に来たことはなんとなくではあるが納得できた。しかし此処巡間の街でホームレスになることに納得はできない。佳乃は頭を抱えて空っぽになったどんぶりを見下ろすしかできなかった。一文無しかつ知り合いもろくにいない佳乃が巡間の街で生きていくには泥水を啜り言葉にするのも躊躇われるようなことをしていかなければならないというわけか……。

「ずいぶん深刻に考えているようですけど、此処はあなたが思っているほどひどい環境ではありませんよ」
「で、でもお菊さん、私見ての通り家がないんです!知り合いもいないし、もうこうなったら裏のお仕事をするしか……!」

佳乃が必死にわけを説明しようとすると、どういうわけかお菊さんはげらげら笑いだした。腹を抱えてひとしきり笑ったあとに、けろっとして佳乃に向き直る。

「あなた、若いのに苦労してきたんですね!」
「どういう意味ですか!」
「いや、なんでもありませんよ。くくっ……あなた、いくつですか?」
「え、15歳ですけど……」
「へぇ、見た目からして12か其処らかと思っていました。だからけっこうしっかりしていたんですね」
(━━━━あっ)

佳乃は自分の両手を見つめてから、がたん!と音がするくらいに机を叩いた。店の客の視線が一斉に佳乃に注がれることになったのですごすごとまた縮こまることになったのだが。

「あの、お菊さん!私、生前の姿よりもだいぶ幼くなってるみたいなんですけど!」
「嗚呼、そんなことよくありますよ。自らの死因がわからない人は、生前よりも若い姿で此処に来ます。死因がわかるまでは、生きているときと同じように体も成長するんです」
「え、じゃあ死因がわかれば成長が止まるんですか?」
「そういうことです。それから佳乃さん、家の心配はありませんよ。これから役所であなたの住民登録をします。そのときに、役所の役人からあなたのお家が指定されるでしょうから」

そういうことならもっと早く言ってほしかった。一人でわあわあ騒いでいた自分が馬鹿みたいではないか。はぁー……と溜め息を吐く佳乃を見て、お菊さんはまたくすくすと笑う。言い返す気力も湧いてこなかった。

「いやぁ、佳乃さんは本当に面白いなぁ。私の知り合いにも面白い方がいるんですけどね、彼らと肩を並べられますよ」
「……並べなくていいです……」
「疲れきるには早いですよ、佳乃さん。今から役所に行かなければならないのですからね」

ぱちっ、と茶目っ気たっぷりにウィンクして見せるお菊さんに、今度こそ佳乃は脱力した。

10ヶ月前 No.3

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

役所まではお菊さんが案内すると言って、二人で街中を歩くことになった。街並みはやはり時代劇のセットを思わせるもので、街を歩く人々もその時代をイメージさせる服装をしている。その中を洋服で歩くのは浮いているようにも佳乃は感じた。

「……気になりますか?」
「えっ……」
「後で着物を貸してあげましょうか。嗚呼、人の着たものが嫌なら買ってあげましょうか」
「でも、ご迷惑になります」
「子供は大人に迷惑をかけるものですよ」

さらっとお菊さんは言うが、佳乃としてはそのまま納得してああそうですかと言うわけにもいかなかった。お菊さんは好い人なのだろう。しかし、その厚意にいつまでも甘えていいわけがなかった。
そんなことを悶々と考えていると、ぴたりとお菊さんの足が止まった。目の前には出雲大社や伊勢神宮を思わせる巨大な神殿がある。そこにはけっこうな人だかりができており、人が集まる場所であることが佳乃にも理解できた。

「此処が役所ですか?」
「ええ。此処で住民登録ができるんです。さ、参りましょう」

中に入るとお菊さんは近場にいた陰陽師のような服装をした人物(何人か建物の中をうろついていたので役人だろう)から一枚の紙をもらってくると、それを佳乃へと手渡した。

「これが住民登録の用紙です。そちらに筆記用具があるので、書いてきてください」
「わかりました」

お菊さんの指差す先には仕切りの取り付けられた机のようなものが並んでいた。何人か其処で書き物をしている人がいるので彼処はああいった場所なのだろう。佳乃も用紙を持って机に向かった。
用紙には自分の名前と振り仮名、生年月日や出身地などを記入する欄が設けられていた。名前以外は覚えていない場合は書かなくてもいいらしい。偽る者が出てくるのではないかと佳乃は疑ったが、偽りの情報を記入した者は処罰されるとのことだったのでその心配は杞憂に終わった。

(もしかしてお菊さん、気を遣ってくれているのかな)

今もお菊さんは役所の中をぶらぶら回って佳乃が書き終わるのを待ってくれている。佳乃を置いて帰ることもできるのに、わざわざ待っている。なんだか申し訳ない気持ちになって、佳乃は筆を強く握りしめていた。そこだけ少し……というかかなり墨が滲んでしまった。

「書き終わりましたか?」

最後の一文字を書いたところで、ちょうどタイミング良く役人に話しかけられた。後ろから声をかけられたので振り返ってみると、2メートルもあるのではないかという大男が佳乃のことを見下ろしていた。他の役人よりも簡素な服装をしている。

「は……はひ……」
「……怖がらせるつもりは、なかったのですが」

何処かしゅんとしながら大男は佳乃に目線を合わせるためかわざわざ中腰になってきた。その心遣いはありがたいのだが、威圧感と貫禄が半端ない。顔立ちは美しく瞳は切れ長で、凛々しい美男子ではあるのだが、いかんせん上背と無表情なのが相まって美しいというよりはなんだか怖い。

「あの……役人さん、なんですか?」
「いえ……私の本職は此処ではありませんよ。今日は仕事で此処に来ているだけです」
「そうなんですか……」
「あなたのような幼子を見て、心配になったのです。あなたを探るつもりはなかったのですが、怖がらせてしまったならば申し訳ありません」

深々とお辞儀をしようとする大男を佳乃は「い、いえ!全然そんなことありませんから!」と必死に押し止めた。謝ってほしいわけではないし、むしろ心配してくれたのなら嬉しい気持ちもある。

「……あなたは、これから此の街で暮らしていくのですよね?」
「はい、そのつもりです」
「此処はとてもいいところです。どうか、良き日々を」

大男はそう言うと、何をするでもなくそのまま去っていった。彼が何者なのかはわからなかったが、佳乃は不思議と悪い気持ちにはならなかったのである。

10ヶ月前 No.4

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

佳乃が役人に用紙を渡すと何やら木札のようなものを手渡された。巡間の街での身分証明書のようなものらしく絶対に無くしてはならないと念を押された。そこまでドジなわけではないが今の佳乃は年端も行かぬ子供である。見た目からして頼りなさそうに見えないこともないのだろう。
とにもかくにも無事に手続きが終わったので佳乃はお菊さんのところへと戻った。お菊さんはぶらぶらと役所を回っていたらしいが、疲れたのか近場にあった長椅子に座って佳乃を待っていた。

「無事終わりましたか?」
「はい、お陰様で……。それで、木札のようなものをいただいたんですけど……」

佳乃が木札を取り出そうとすると「いいんですよ」とやんわり止められた。

「それはあなたしか知り得ない情報も書かれているはずです。むやみやたらに人に見せてはいけませんよ」
「わかりました……すみません」
「謝る必要はありません。まあ、あなたは私とは違って普通の札のようですからね。役人に目をつけられることはないでしょう」
「お菊さんのお札は、特別なものなんですか?」

佳乃が問いかけるとお菊さんはふっと微笑んで懐から同じような木札を取り出した。裏返しだったので表に何が書いてあるかはわからなかったが、それが佳乃のものと違うことは一目でわかった。

真っ赤なのである。

お菊さんの木札は血を塗ったように赤かった。佳乃のものは何も塗っておらず茶色のままになっている。佳乃は自分のものと見比べながらお菊さんに尋ねた。

「どうして真っ赤なんですか?」
「……どうしてだと思いますか?」
「え……なんでしょう、死因、とか……?」
「残念」

ぶっぶー、と少し苛つく返しをされた。じゃあなんなんだよ、と思った佳乃の頭をぐりぐりと撫でながら、近くの鳥の名前でも教えるかのようにお菊さんは佳乃の問いに答える。


「私は生前、人を殺したのです」


え、と佳乃が凍りつくのを、お菊さんは見越していたのだろうか。ぱっと頭を撫でる手を止めると、今までと同じようににこにこ笑っていた。

「まあ、あなたが信じるか信じないかは任せますがね。でもあなたは普通で安心しました。さすがに人を意図的に殺める方とは思えませんでしたけど、たまにすごいのがいますからね」
「お菊、さん……」
「気にしないでもいいのですよ。私の場合はそういう時代でしたから、ある意味仕方がなかったのだと思います。赤い札の人は案外いるものですから」

何事もないかのようにお菊さんは言ってくれるが、それも時代ゆえなのだろうか。そう思いながら、佳乃は黙って彼(もしくは彼女)のあとに続いた。

10ヶ月前 No.5

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

お菊さんに聞いたところによると、巡間の街の住民は普通長屋か一軒家に住んでいるのだという。仕事の関係上で住まいが特殊な者もいるそうだが、お菊さんはそのような類いの人間ではないらしい。街の喧騒から少し離れた地域のこぢんまりした一軒家でひっそり暮らしていると語った。

「長屋で暮らすのも楽なんですけどね。あなたはしばらく私と共に暮らした方がいいでしょう」
「はい、私もその方がいいと思います」

外見的にも幼く、まだ巡間の街の勝手についてよくわからない佳乃が一人暮らしをするのは酷だと考えたのだろうか、お菊さんは共同生活を持ちかけてきた。もちろん断るはずもなく、佳乃は快諾したのであった。今は生活に必要な衣類や小物を見て回っている。

「お菊さんは、何かお仕事をなさられているんですか?」
「うーん……定職には就いていませんよ。でも毎月お上からある程度のお金は届くし、私は助っ人のようなものですから。普段は街をぶらぶらするしかありませんね」
「それってつまり年金じゃ……」

佳乃は言いかけたがお菊さんの名誉のためにも言うのはやめておいた。お菊さんがいつから巡間の街で暮らしているのかはわからないが見た目は若いのだからいきなり老人扱いはいくらなんでも失礼極まりない。せっかく助けていただいたのだからある程度の礼儀はわきまえておかなければ。

(あれ、お上ってことは……)

ここで佳乃はあることに気がついた。先程お菊さんはお上からある程度のお金がもらえると言っていた。ということはつまり……。

「此処って……政府とか、あるんですか?」
「一応それらしいものはありますが、政を行っているわけではなさそうです。なんでも、この街を造った者の一族や、生前に政に携わった者が統治をしているようですからね。特に問題は起こっていなさそうですよ」
「へぇ……そうなんですか」
「そういったことをしている官僚はやはりいい暮らしをしているようですよ。私はあまり興味ないですけど」

お菊さんはさらっと毒を吐きながらふらりと呉服屋に入っていった。佳乃は急いでそれを追いかける。お菊さんは気まぐれに店を見て回るのでついてくる方は地味にきつかった。

「この浴衣とか、あなたに似合いそうですよ」

ぱっと顔をほころばせながら、お菊さんは佳乃に似合う浴衣をあれやこれやと見繕ってくれる。なんだか恥ずかしいが自分のためにしてくれていると思うとなんだか嬉しかった。しかし佳乃も嬉しいだけの子供ではない。

「あの……お金って……」
「嗚呼、私が払うから問題ありませんよ。私って普段そんなに買い物しないから、ちょっとばかりお金は余裕があるのです」
「それならいいんですが……なんだか、悪いなって」

お菊さんばかりに負担をかけるのは佳乃としてもなんだか申し訳ない気分になる。お菊さん本人はあまり気にしていないようだったが、わざわざ佳乃のためだけにこんなにしてくれるわけが未だに佳乃はわからなかった。

「どうかしたんですか?」
「えっ、あ、なんでもないです!」

前を歩くお菊さんに唐突に話しかけられて、佳乃は慌ててその後を追ったのだった。

10ヶ月前 No.6

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

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10ヶ月前 No.7

すずり @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

空嶺と涼風と別れたあと、佳乃とお菊さんは街の中心部を抜けて郊外まで歩いてきた。周りに畑や田んぼがちらほらと見え始め、喧騒もだいぶ落ち着いている。空嶺は山あいに暮らしていると言ったが、その山も近くにあるのかもしれない。

「此処ですよ」

お菊さんが一軒のあばら家の前で立ち止まる。このあばら家がお菊さんの家らしい。きょろきょろと見回していると、「珍しいものは何も置いてありませんよ」とお菊さんに苦笑された。

(ちょっとした農村みたいだな)
「少しボロいですが其処は見逃してくださいね」
「いえ、そんなことは!住まわせていただくだけでも十分ですから!」

お菊さんの爆弾発言に佳乃は必死でフォローを入れた。というかお菊さんでもボロいとか言うんだ……とあまり嬉しくない発見をしてしまった。
あばら家はお世辞にも広いとは言えなかったが、しっかり手入れも行き届いていて綺麗にしてあった。お菊さんはあまりものを買わない質なのだろうか、あばら家は狭いのにそれほどものが詰め込まれているようには見えない。家具も必要最低限しかないようで、テレビや電化製品がないとはいえ無駄なものは置いていないようだった。

「そんなところに立っていないで、座ってもいいのですよ。今お菓子を持ってきますから」
「あ、ありがとうございます」

茶の間に置かれたちゃぶ台のそばの座蒲団に腰を下ろすと、ほどなくしてお茶とお菓子をお盆に乗せたお菊さんがやって来た。どうやら羊羮のようだ。佳乃は和菓子が嫌いではない。そのため地味に嬉しかった。

「はぁ……なんとか一段落、ですね。狭いとは思いますが許してください」
「と、とんでもありません!ありがたい限りです!」
「あなたは本当にいちいち反応が面白いなぁ。……まあとりあえず、お茶でも飲んでゆっくりなさい」

出されたお茶(梅昆布茶だった)を飲む。ほどよい温さが心地よかった。お菊さんはごくごくとお茶を飲む佳乃を微笑ましそうに眺めていた。

「……あの、お菊さん。お菊さんはどうして、私を引き取ろうと思ったのですか?」
「急にどうしたんですか?」
「いや、なんとなく気になって……。私を引き取ったら大変なのに、なぜそうしたのかなと……」

佳乃がずっと気になっていたことを尋ねると、お菊さんはきょとんとして佳乃を見つめていた。そうしてしばらくうーんとかむむっとか可愛らしい唸り声を上げて思案しているようだったが、やがてにっこりと微笑んで佳乃に向き直る。

「どうしてだと思いますか?」
「へっ?」
「逆に佳乃さんはどうして私があなたを引き取ったと考えるのですか?」
「ず……ずるいですよ!」

質問を質問で返してくるとは思ってもいなかった。思わず怒りのあまり身を乗り出してしまったが、お菊さんに眉間を人差し指で押さえられて身動きが取れなくなる。

「何時かあなたには話しましょう。今はこれからのことが最優先です」
「……本当に話してくれますか?」
「私が約束を守らないように見えますか?」
(見える)

内心そんな風に反論していたことを、果たしてお菊さんはわかっていたのだろうか。このときの佳乃にはわからなかった。

10ヶ月前 No.8

削除済み @suzuri0213 ★Android=nMqLjsjQcP

【記事主より削除】 ( 2017/06/12 22:28 )

10ヶ月前 No.9

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=nMqLjsjQcP

【第2話:喧騒と、そして人情と】

狭間の街は何時眠るのだろうか、と思うくらいに朝から騒がしい。あのスクランブル交差点でさえ深夜には人っ子一人いなくなるらしいのに、この街では朝日が上るとカンカンと街の中央にある鐘を鳴らして時間を告げる。そしてその鐘の音に混じって人々の声まで聞こえてくるのだから、狭間の街の賑わい方は尋常ではない、と佳乃は思う。

(まあ時代的な問題もあるんだろうけどね……)

井戸水で顔を洗いながら、佳乃はとほほと苦笑いした。もともと朝に弱くて寝起きもよろしくない佳乃は朝っぱらからひっきりなしに鳴り響く鐘の音に加えて、お菊さんに布団をひっぺがされるという憂き目に遭った。普通なら布団を奪い返して二度寝でも決め込もうとするところだが、お菊さんはあっという間に布団を押し入れに仕舞い込んでしまった。ぽかんとする佳乃に相変わらずの性別のわかりにくい微笑みで「顔を洗ってきなさい」の一言。まさか逆らってそのまま寝るわけにもいかないので佳乃は今に至る。お菊さんから受け取った手拭いでがしがしと顔を拭くと、太陽の眩しさに顔をしかめながらあばら家に戻った。

「ふふ、いい目覚ましになったみたいですね」

お世辞にもにこやかとは言えない表情の佳乃を、お菊さんは朗らかに迎え入れた。卓袱台には不恰好な握り飯が二つずつ皿に乗せられて置いてある。佳乃は目をぱちくりさせたあと、おずおずとお菊さんに問いかける。

「こ……これって、朝ご飯、ですか?」
「はい。いつもは外で済ませてしまうんですけど、たまには手作りしてみようかなと思いまして。……おにぎり、嫌いですか?」
「い、いいえ、大好きです」

見るからに細やかそうで家事も得意そうに見えるのに意外とお菊さんはそうでもないらしい。その握り飯は形が崩れかけなのに加えて大きさがとてつもない。恐らくお菊さんの基準で握られたのだろう。作ってもらっている身分でなにも文句は言えないので佳乃はそれ以上詮索することをやめた。味が良ければ全て良しだ。

「いただきますっ」

ぱちん、と手を叩いて握り飯にかぶり付く。まず口の中に広がったのは塩の風味で、その後に追ってきた米粒の食感すらも押し潰し、とりあえず塩辛さだけは佳乃の口の中に広がった。つまりはしょっぱかった。

「……もしかして、美味しくなかったですか?」
「そんなことありませんッ!」

苦々しげな佳乃の表情を察したのか、探るような口振りで尋ねてくるお菊さんを真っ向から切り捨てて、佳乃は気合いで握り飯を1個完食した。2個目は大きさや味の問題もあってさすがに食べきれる気がしなかったが、一先ず罰当たりな真似はせずに済んだ。昔からご飯は残すなと言われて育てられてきた甲斐があった。

「やっぱり女の子に二つは厳しかったみたいですね。残りは私がお昼に食べますから、そこに置いておいてください」

むむむと考え込むような身振り手振りを見せているお菊さんからは怒りとか悲しみのような負の感情は見受けられない。佳乃はホッと胸を撫で下ろしたのであった。

3ヶ月前 No.10
ページ: 1

 
 
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