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とある異世界の学園の日常(?)

 ( 小説投稿城 )
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彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

「なになに…注意書があるな…」

「へー、読んでみてよ」

「えーと…ここの学園はそして厨二病要素有り、学園要素有り、異世界要素有り、異能力要素有り、ネタ有り、シリアス有り、エロは…ないな」

「当たり前だね」

「で、以上の事が了承出来ぬ方はフェードアウトしてください…」

「アニメじゃないんだから」

二人の前にそびえ立つ灰色の壁は、まさに城壁と呼ぶに相応しく、そこの門は学園の門とは思えないほどしっかりした、城門と呼べるものだった。

「これ、普通に刑務所の門だよね…」

「…だね」

ここはただの学園ではない。
帰ろう。
そう思い、二人が壁に背を向けたとき、男が思い出したように言った。

「____そういえば、ここに来る時に看板があったなー」

「へー」

「その看板、日本国憲法通用しませんとか書いてあったような…」

「それ最初に言いなさいよ!」




その後二人を見た者はいなかったとさ




___________ここは真海学園。
いわゆる異世界の学園だが、学園でありながら国家として存在している。

そして、そこに通うとある生徒が、その世界の歴史をどうにかしてしまうようだ。




【はい、100%勢いだけで書きますねー。戦闘シーンとかは結構力入れますけど他は手抜きです多分。後、主の都合で更新ペースは酷く上下しますよー】

メモ2017/04/13 04:13 : 天雷☆YV/LbxVUS0Pr @kgb★Android-0bca4o0hXK

【注意】

勢いだけでやってます


なので設定ガバガバのガバナンスですはい(なに言ってるかわからない)


訳:サブ記事にはまともなものが書ける気がしない


注意

・第四の壁が存在しません

・ネタ、シリアス両方あります

・その他諸々あります

切替: メイン記事(33) サブ記事 (2) ページ: 1


 
 

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第1話 お粥に明太子混ぜると結構美味しい】


夕日が教室に差し込んでいる。

時刻は午後5時を割り込んでおり、時計の文字盤は照明がない分暗く見えた。

「おーい」

窓際の前から3番目の机に突っ伏し、居眠りしている男男子生徒に、黒いロングヘアーの女子生徒が近付く。

「クー…クー…」

まだ寝ている。
どこまでだらしないんだ、こいつは。

そう思いながら、今度は耳を引っ張った。

「いてえっ!!」

その拍子に彼は飛び起き、耳をさする。

「いってえな…ちぎる気か!?」
「お望みとあらば」
「怖っ!」
女に耳を引きちぎられるのを想像した彼は、一瞬顔が青ざめた。

「冗談はここまでにして、シリアスな話をします」
「…は?」
いや、シリアスな話とか求めてませんが…と突っ込もうとしたら、彼女の真剣な目はそれを言わせなかった。
「今夜、鍋にします」
「…それかよっ!?なんだ、シリアスな鍋って!?なんか逆に食いたくなる!」
盛大に場を冷やし、盛大に暖める。
彼女のからかい方のひとつだ。

「じゃ、そんなわけで帰るわよー」
「…あ、はい」

振り回されっぱなしだが、彼___峯風龍司は、彼女___黒月摩耶のサポートなしには生活出来ない。
毎日、本当に助かっているし、摩耶には感謝してもしきれない。

「ところで、今日の鍋は?」
「キムチ鍋よ」
「おいおい、夏も近いのに、キムチ鍋はちょっと…」
「そう?じゃあタバスコ鍋でも…」
するんと言い放った摩耶に、すかさず龍司は突っ込む。
「それただドギツイだけの鍋だから。暑さ吹き飛ぶどころか脳ミソ吹っ飛んじゃうから」

下駄箱から靴を取り、靴を履いて外へ出る二人。
「それにしても、暑くなってきたわね」
思えば、確かに暑く感じる。
「もう6月の下旬だしな。8月なんざ地獄だ。…あっちの世界はな」
「…あっちねえ…どんな世界かしら。1回行ってみたいものだわー」
「キムチ鍋が楽しみだなあ!」
うっかり口に出したが、こんなところで伏線を出すわけにもいかないよなあ、と強引に話を切った。

「いや、伏線出ちゃってますよ」
「え、マジで?隠したいんだけど、書き手が…」
と、筆者のせいにする龍司。

「発言がダメですよ龍司くん」

こうなるともう訳がわからない。
普通にキャラクターが第四の壁を突き破ってくるのは、銀魂みたいだからなんとなくアレだなあ、と摩耶は思った。

18日前 No.1

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第2話 制服は着ないとすぐに埃を被る】

龍司の自宅は、濃厚なキムチの匂いで充満していた。
床のフローリングに絨毯を敷き、そこにちゃぶ台が置いてあり、鍋と加熱器が乗っていた。
鍋はグツグツと煮立っており、鼻がイカれそうなレベルでキムチの匂いが噴出していた。

「熱い!」
部屋にキムチの匂いが染み込む前に片付けようとして、肉を一気に食べようとしたが、とんでもなく熱い。

「そりゃ鍋だもん。一気に食べようとしたって無駄よ」
「摩耶、謀ったな!?摩耶!!」
「ガルマの真似したってダメー」

そりゃそうだ。

「まあ落ち着いて食べなさいよ」
お母さんみたいなことを言ってくるが、せっかくの部屋がキムチ臭くなるのは抵抗がある。
まあ、それを言えばこの鍋を楽しむことは出来ないのだが、いずれにしても苦しいぞこれは。

息を吹き掛けて肉を冷ます。
「あーんでもする?」
「断る」
「ですよねー」

からかい方がもう恋人のそれでしかない。

「うん、うまい。さすが鍋奉行。」
「あらよかったわ。…この調子でもっともっと…」
「いらないです」


キムチの匂いがたっぷり染み込んだ部屋で、キムチの匂いがたっぷり染み込んだ鍋を片付け、床に寝転がってテレビを点ける龍司。

「アニメやってねーかなー」
「ニュースだけよこの時間帯は」

窓際の壁に掛けてある時計を見れば、時刻は午後10時を回っている。
「…お前、帰んないの?」
ふと龍司が訊く。
「帰ってもなんにもないしね。今晩も泊まってくわ」
「お、おう」
なぜ泊まるのか困惑する龍司。
別に俺の家もなんにもないんだが…。


翌日。
朝起きたのは、龍司の方が早かった。
二人分の皿を用意し、パンをオーブントースターに突っ込む。
焼き上がる間の時間を利用して、目玉焼きを作っていたとき、部屋から摩耶が起き出した。

「あ、おはよー。顔、洗ってきな」

「ふぁーい…」

寝起きは悪いのな…。
そう思いながら、龍司は目玉焼きをひっくり返した。

18日前 No.2

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第3話 推理小説では主人公が犯人だったりする】

授業が、だるい。

とにかく、だるい。

数学ともなると、とにかくだるい。

「ねみー…」

あくびが止まらない。

龍司は大きく一度あくびをすると、黒板に書かれた数式を怨めしく見つめた。

摩耶はと言えば、優等生らしく、ちゃんとノートを取っている。

黒月摩耶。
この真海学園の高校2年生で、ここのクラス、5組の学級委員だ。
容姿端麗、スタイル抜群、頭脳明晰…。
まさに完璧とも言える存在だ。

「…本日の授業はここまで」
教師の声が龍司の頭に響き、その拍子に緊張の糸が切れたのか、またひとつ、大きなあくびをしてそのまま机に突っ伏した。

「りゅー。おーい」
「…ん、なんだよ」
眠ろうとした龍司に話しかけてきたのは、沢谷という男子生徒だ。

「いや、次体育」
「…あ」
「さっさと着替えなー」
「うい」


グラウンドに敷かれたトラックに、6人の男が並び立った。
「徒競走とかだるいわー」
内側から3番目の列に立つ龍司がぼやく。
「お前得意だろ、体育」
右隣の沢谷が嫌みな口調で突っ込む。
「面倒なものは面倒なんだよ」
そう言っているうちに、破裂音が鳴った。

スタートの合図だ。

「えぇ…」
だるがりながらも、龍司は本気で走った。

そして一周し、ゴールした辺りでは、龍司が1位となっていた。

「やっぱだるい」
龍司がまたぼやいた。

17日前 No.3

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第4話 シリアスは突然に ―屋上争乱篇@―】

飯の時間。
龍司は適当に買った握り飯を屋上で頬張っていた。

買ったのは、ツナ、明太子、昆布とあとひとつだが、そのあとひとつの種類がわからない。

おもいっきりそれを口に放り込む。

「っ…!?」

酸っぱい!

梅干しか!

「チクショー、よく見ときゃよかった!」

今さら後悔しても意味がない。
我慢して食べる。

種だけが口に残った。

「…プッ」

梅干しの種を吹き出した。

しかし、それが運の尽きだった。

龍司が柵の近くで食べていたこともあり、種はそのまま柵を飛び越え、地上へ落ちていった。
そしてその種は、地上にいた良からぬ集団のところへと落下していた…。

「…あ」

良からぬ集団。
龍司はそれらを知っていた。

種が、不良の1人の頭に当たってしまった。

「んあ?なんか当たったなァ!?」
種が当たった本人は周りを見回し、足元に落っこっている種を見つけた。
「何だこりゃァ!?」
「シンさん、あいつじゃねーですか!?」
不良が屋上にいる龍司の姿を見つけ、指を差す。

「やべ、見つかった!」
面倒事は御免だ。
「待てェ!」
逃げようとした龍司の背中に、強烈な風圧と不良の声が投げ掛けられた。

(…!?こいつ…、ただ者じゃねえ!)
振り向いた龍司に、不良は捲し立てる。
「モノぶつけといて謝罪もなしたァ、ナメてんのかてめえ!」

不良は空を飛んでいる。
強い風が吹いていることから、奴は能力者…それも風を操るものだ。空を飛べるという辺りから言って、カテゴリー5の強者と思われた。

「…梅干しの種が当たってしまったのは謝罪します」
「あァん!?いまなんつった!?」
「ですから、梅干しの種が____」
言い終わらないうちに、不良が風圧と共にこちらに吹っ飛んできた。
慌てて右にステップした龍司の左頬を、不良の拳が掠めた。
「なんで!?」
「俺梅干し嫌いなんだよおおお!」
「はああああ!?!?」

こうして奇妙なシリアスバトルが始まった。

17日前 No.4

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第5話 サブ記事あるけど設定書くの面倒だからこの第5話で大まかな設定出すよ ―屋上争乱篇A―】

「おいサブタイほとんど告知じゃねーか!」
「なに言ってんだてめえはァ!」
龍司が第4の壁を易々と突き抜けて突っ込んだ刹那、不良の右足の裏が目に映った。
飛び蹴りだ。
風圧を利用した能力で蹴りの威力を上げているのは明らかだ。

「危ねっ!」
間一髪、それを避けた龍司。
その瞬間、激しい激突音と共に屋上の床に穴が空いた。

当たっていたら死んでいたかもしれない。

そしてそれが、龍司に戦うことを決意させた。

「やるしかないか…!」
「ブツブツうるせえ!」
右ストレートを放った不良。
しかし、次の瞬間に吹っ飛んでいたのは、不良の方だった。
不良は龍司の右手の裏拳を顔面にまともに喰らい、屋上の柵に吹っ飛び、頭から激突した。

鉄の柵が、耳を突ん裂くような金属音を立ててひしゃげた。

柵に激突した不良は、頭からおびただしい量の血を流しながら仰向けに倒れていた。

流石に能力者カテゴリー5でも、この打撃はキツイだろう。

今度こそその場を立ち去ろうとした龍司の背中に、不良が声をかけた。
「おいお前…」
「まだやるのか?」
「お前…カテゴリー8か…?」
血まみれになりながら、よろよろと立ち上がりながら言った。
「その目は…並みの戦闘で得られるイロじゃねえよ。たった1人で戦争を生き抜いたような、そんな目だ…。お前、一体何してきたんだ?何を経験して、ここにいる…?」


この世界では、能力を持っている者が多い。
戦闘にしか向かないような能力もあれば、本当に需要のない、全く以て必要ない能力まである。
それらのレベルは『カテゴリー』として分けられており、カテゴリーは0から10まである。それ以上もあり、それらはカテゴリー・アンノウンとされ、能力者の中では最強クラスであり、強さはチートレベルと言っても過言ではない。


「…さあな」
不良の問い掛けに、龍司はぐらかした。
「少なくとも、ヤンキー気取りのガキに教えることじゃねーよ」
そう吐き捨てると、龍司はその場から去った。

17日前 No.5

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第6話 ナンバー2って割とツラいからナンバー1に憧れるけどそこもそこでツラい ―屋上争乱篇B―】

鐘のような音が教室に鳴り響く。

始業のチャイムだ。

しかし、教師は教室に入ってこない。

普段は恨めしい黒板には、嬉しいことに、『自習』と書いてあった。

しかし、生徒たちに自習をする気はさらさらない。
あたかも自習していたかのような体を装うため、机に自習道具を置き、そして仲の良い友達と騒ぐだけだ。

龍司はと言えば、ずっと窓の外を見て黄昏ていた。

何故自習なのか、大体理由はわかる。

さっきの喧嘩だ。

あれだけの音がしたのだ、流石に誰も気付かない訳がない。

あの不良は、どうしたのだろうか。
屋上の上とはいえ、彼は仲間の前でメンツを叩き潰されたのは間違いない。

何かしらの報復があるかもしれないな____そう結論に達したときだった。

「ねえ、龍司くん」

摩耶の声だ。
しかし、どこか怯えたような声にも聞こえる。

「なんだ?」
振り向きながら応答する。
そこで龍司は、摩耶の蒼冷めた顔を目に捉えた。

「話があるの。休み時間になったら、第2階段に来て」

だいたい察した。
恐らく、屋上の事を見ていたのだ。

摩耶の能力は、『凍結(アイス・バーン)』。カテゴリー7の中堅だ。
その身体能力、応用能力も相まって、実質カテゴリー8ではないかとも言わしめる程。

だが______今はどうでもいい。

今は、これ以上勘繰られないことだ。

それだけが頭にあった、

17日前 No.6

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第7話 通常パートよりシリアスパートの方が大きくなってきたけどどうすればいいのかわからない ―屋上争乱篇C―】

自習時間、5時限目が終わった。

次の6時限目はちゃんとした授業をするようだ。

6時限目の教科書やらをカバンから引っ張り出しているとき、横目で摩耶の席を確認する。

いない。彼女は既に、第2階段に向かったようだ。

早く行かないといけない。

教科書やノートを机に叩きつけ、足早に教室を出た。


第2階段に着くと、やはりそこには摩耶がいた。

「どうした、摩耶?」
「…さっき、屋上で足柄くんと喧嘩したでしょう?」

やはり、見られていた。

「…そうだが」

摩耶のその目は、暴力行為を咎める目ではない。
虚偽を許さない目だ。

「私は龍司くんの暴力をどうこう言うつもりはないわ。あれは正当防衛だから」
「…」
確かに、あのときは逃げようにも逃げられないし、かといって受け流していればジリ貧となっただろう。

「私が何を説教したいのかはね…」

口ごもるところで察した。

「まだ隠してること、あるよね?」
「…あぁ、ある」
「…まず確認させて」
「…」
「龍司くんは、この世界の人間ではないのよね?」
「あぁ。そうだ」

「…で、この世界には、事故に遭った拍子に来た…これは?」
「…まあ」
はぐらかす。

「はっきりして」
しかし、有無を言わせぬ口調で彼女が迫る。
流石にこれを下手に隠せば、後々面倒なことになる。

「違う」
「…実際はどうだったの?」
「…死にかけたのは同じ。詳細は教えられない」
「…そう…。じゃあ、能力については…?」

見せてしまった以上、仕方ない。
「俺の能力は、『全強化(オール・マイティ)』。カテゴリーは多分8」
「元いた世界でも、能力者だったの?」
「…そうだ」

一瞬悪夢が脳裏に甦る。
だがそれを一瞬で打ち消した龍司は、
「これ以上は、言えない。知ったところで良いことはないし、上の奴らの耳に入れば、どうなるかわかったものじゃない」
「…私が信用できないの…?」

虚ろ目になった摩耶の肩を、龍司が掴む。

「信用してないわけじゃない。でも、情報は知れば知るだけ漏れやすいものなんだ。それぐらいわかるだろ?」

「…うん」

「俺はお前に恩義を感じている。そして俺が情報を開示しないのは、お前を守りたいからだ。生徒会や高麗の連中が本気出せば、いくらカテゴリー7のお前でも簡単に殺されちまう。俺はそうなってほしくないんだ」

摩耶の目から、涙がこぼれた。

「だから、今は教えられない」

「…ごめんね」

摩耶が俯いて謝罪した。

「謝るなよ」
龍司がハンカチをポケットから出した。

「さっ、早く教室戻ろうぜ」
「…うん!」
ハンカチを受け取り、涙を拭った摩耶と、龍司は教室へ向かい始めた。


屋上争乱篇 ―終―

17日前 No.7

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第8話 兎は寂しいと死ぬが人は虚しさで死ぬ】

休日。

やることがない。

龍司はソファに寝転がり、ニュース番組をただボーっと眺めている。
その様は、まさにニートと言えた。

しかし、やることがないのは当然のことだ。

時刻は、まだ午前5時。

やることがあったらむしろそっちの方が怖い。

_____とは言え、もうすぐ摩耶も起き出す頃だ。

「今日、なにすっかなあ」


ドアが開く音が聞こえた。
「おはよ〜…」
摩耶だ。
「おう、おはよ」

「相変わらず早起きねえ〜」

「相変わらず寝起き悪いな〜」

「うるさーい」

いつもの朝の会話だ。

キッチンでコーヒーを淹れながら、龍司は問い掛けた。
「今日どーするー?」

「んー、特にやることないわね〜」

共同生活の弊害だ。
住んでいるのが自分1人なら、自由にどこへ行っても勝手だが、共同生活ともなると自由とはいかなくなる。

「久しぶりに、自由行動ってどう?」

「そうだね、そうしよう」

こうしてこの日のスケジュールは決まった。

17日前 No.8

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第9話 落雷にはご注意を】

「いくとこねーなあ」

自転車に乗って、河川敷上の道路を走っている龍司。

とにかく行くところがない。


一方、こちらも自転車で商店街をブラブラする摩耶も、
「自由行動とか言ったけど、変わんないなーこれじゃ」
とぼやいていた。


「家でゴロゴロするかなー」

2人は同時に、同じ結論を出したのだった。


龍司の家は、第13マンションの一室である。

よって、彼の持つ自転車はマンションの敷地内の駐輪場に停められる。

駐輪場に着くと、反対側から摩耶がやって来た。

摩耶も、このマンションに部屋を持っているが、何故か龍司の部屋へ居候している。

「あれ、なんでいるんだ?」
「それはこっちの台詞よ?」
2人とも驚いた。

龍司はこのマンションの883号室に住んでいる。
5部屋もある大きなところで、摩耶が居候していても全く窮屈には感じない。
むしろ広すぎて困っていたほどだ。

龍司が煎餅が何枚か入った小さなカゴを持ってきて、床に置くと、その場に寝転がってテレビを点けた。
そしてソファに摩耶が寝転がる。
「お前もか」
すかさず龍司が突っ込む。
「いやあなたも」
摩耶も突っ込みで返した。
「煎餅ちょーだい」
摩耶が求める。
「はいよ」
すぐに煎餅を手渡す龍司。

2人揃って寝転がり、テレビを見るその様は、どこか和みを覚えた。

17日前 No.9

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第10話 知るは一時の恥、知らぬは一生の恥 ―晴天霹靂篇@―】

あの喧嘩騒動からかれこれ1週間。

騒動の捜査で、警察委員会が本格的に動いているという噂があったりする。

それもそうだ。

カテゴリー5を一撃で倒す、未確認のカテゴリー8保有者がいるということが確実となっているからだ。

だが、そのカテゴリー8保有者の龍司や、一般生徒である彼らにそれらが噂として伝わるということは、どういうことかなんとなく龍司は察していた。

_____そう、情報を流すことで、カテゴリー8探しを自発的にしてもらおう、と考えているのだろう。

そう結論付けていた。

(そんなうまくいかねーだろ…)

窓の外を見つめる龍司。

当たり前だ。

常識的に考えて、自発的捜索など望むべくもないだろう。
となれば、恐らくこの事件を何かに利用しようとしている連中がいるのか…?

勘繰れば勘繰るほど、この学園に立ち込める闇が深まっていくように感じた。

その時、頭になにかが当たった。
次いで、机になにかが落ちた。
思わず当たった箇所を押さえると、粉状の感触があった。
なんだこれ、と一瞬思ったが、机に転がっていたチョークを見て納得した。

「峯風、ボーっとすんな」

このハゲの教師が恨めしく思えた瞬間だった。

17日前 No.10

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第11話 ゴキブリは割と清潔な生き物だったりする ―晴天霹靂篇A―】

いつも通り、摩耶と帰路を歩いていた。

「宿題だるい」
「見てあげるから音をあげないでよ〜」
「やる気の問題」
「肉料理作ろうかな」
「やります」

犬か、俺は。

なんだか手懐けられてる感がするが、敢えてそこには目を瞑ろう。

「肉料理はなににするんだ?」
「うーんそうね…」
考え中。

まあ、咄嗟に思い付くのが難しいのが肉料理だ。

焼くか蒸すかだけでも相当種の料理となるのだから、いきなり考えるのは色々無理がある。

そうこう考えているうちに、龍司は不意に、背後から気配を感じた。

龍司はそこで立ち止まった。

摩耶がしばらく歩くが、そのうち止まっている龍司に気づいて振り向いた。
「どうしたの?」

あのときの不良…足柄と言ったか、彼の気配と同じだった。

「なんだ」
「ほう、噂の優等生と並び歩いてるのは、結構様になってんなあ?」

あのときと同じ声。

やはり足柄か。

頭に包帯を巻いている。まだ怪我は治らないようだ。

「慰謝料請求ならごめん被るぜ?足柄とやら」
「名前掴むの早いっすねえ峯風さん」

お互い、名前を知っているようだ。

しかし口調が違う。

改心でもしたか?

「…またボコられたいか?」
とりあえず脅す。

「いんや?ただ伝えたいことがあるだけさ」
そうか、あの時は激昂していたのか。
なら普段の状態がこれであると言われれば頷ける。

「なんだ、伝えたいってのは」

「カテゴリー8保有者の云々で、武警とサツが対立してる」

そうきたか。
しかし、この男の言うことを、素直に信じる理由はない。

「根拠を教えろ。でなけりゃ信用できない」

足柄は黙る。

しばらくして、ようやくその一言を言った。
「武警は生徒会転覆を目論んでる」

16日前 No.11

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第12話 ラスボスは意外と間近にいる ―晴天霹靂篇B―】

「武警が生徒会転覆を目論んでいる」
「おいもうストーリー的にラスボス出てきそうじゃねーかよ」
足柄の言葉に、龍司が突っ込む。
「安心しろ、ラスボスはあと数話出てこない予定だ」
「いや出てくんなよ。ラスボスはラスボスらしく寝とけよ」
「だがスケジュールが…」
「いや事件事故にスケジュールないから」
「作者の…」
「メタいわ!」

閑話休題。

気を取り直して。

「んで?つまりはアニメの最終回間近みたいなことが起こりかけてると?」
「そうだ」
「そうなったいきさつは?」
「以前から、武警には生徒会を…政権を転覆する計画があった」

足柄の言葉に対し、摩耶が信じられないといった目をしていた。
龍司は黙って聞く。

「数年前の事件や、月華帝国による侵攻で、当時武警を統帥していた穏健派幹部は軒並み失脚し、穏健派と対立していた武闘派が台頭した。これはわかるな?」

「それで、この学園の防衛機能をより高めることを考えたが、それをするには政権を転覆させるしかない、とれは考えたわけか」

「さすが。そこまで見えるとは」
足柄が笑う。
「んで、その計画を察知した警察が、計画を阻止すべく武警と対立した、というわけか」
「あながち間違いじゃあないな」

足柄がかぶりをふる。
まだ裏があるようだ。

「警察は決定的な証拠を掴んだわけじゃない。警察は『別の事件』として探りをいれてるに過ぎない」

16日前 No.12

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第13話 厄介事 ―晴天霹靂C―】

「別の事件…ねえ?なんだそれは」
訝しげに聞く龍司。
「武警と高麗が、裏で繋がってるという疑惑の追及だ」
相変わらず口調は重々しい。
喧嘩したときはこんな感じではなかったが…。

「待って!よくわからないんだけど、つまり今、警察と武警は、敵対状態にあるの?」
摩耶がひきつった顔で言った。
無理もない。優等生が普通聞く会話ではない。
「そうみたいだな。そしてそこへ高麗が介入している…」

高麗。
この『国』最大の犯罪組織。
構成員は数千名、武器密輸に麻薬売買、挙げ句の果てには周辺国で戦争があれば傭兵組織ともなる。
軍部、警察、武警に次ぐ第四の勢力として近年台頭してきている。

「…なるほど。つまり、高麗と武警が同盟を組んで、この国をどうにかしようと?」
全てを察した龍司は、淡々とそれを述べた。

「まだ完全にそうだと決まったわけじゃない。だから高麗と武警の繋がりを暴くために警察が探りを入れ、武警は武警で警察の汚職事件の捜査を進めてる」
足柄はそれに注釈する形で説明し、新たな事実も交えた。

「汚職事件ねえ…まさかただの職権乱用じゃないよな?」
「職権乱用然り、不正然り、なんでもござれで調べてるとよ」
なるほど。警察の腐敗を武警が叩き、武警の疑惑を警察が探り、というお互いの弱点を攻撃しあっている状態のようだ。

どの道いい風にはならないようだ。
しかし、原点の疑問は消えない。
「なんでそこにあの事件が入るんだ?それが訳わからんのだが」

発端というには、関係性が希薄すぎる。
いや、これではないに等しいだろう。

「武警はお前を欲しがり、警察もお前を欲しがっている。連中は最悪の事態を見越して実働戦力の増強を目指してるのさ」

なるほど。
つまり、対立状態が長く続き、その緊張の末に武警と警察が武力衝突すれば、学園及び軍部は警察に味方し、高麗が武警に味方をするという構図がよく見える。

つまり、アニメの最終回ちょっと前らへんの状態になるわけだ。

「つまり、いざってときのためか」
「そういうわけだ」

つくづくあきれた。

どーして異世界までシリアスなんだか…。

「んで、お前は俺にどうしてほしい?あとその情報はどこから手に入れた?」

「俺は魏龍の人間でな。俺の仲間もお前を探してるが、理由は大方仕返しのためだ。そんなことでうちの戦力を削ぎたくないし、その為にはお前に接触する必要があった。その経緯を説明出来るだけの材料を持ってな」

なるほど。

要は下手に動けば新たなカテゴリー8保有者であるのが俺だとバレ、面倒な事になる。
そうなれば、魏龍は高麗に次ぐナンバー2の勢力を失い、衰退してしまうかもしれない。

これもビジネスの1つ、というわけか。


「…わかった。元々動くつもりもなかったが、動きたくもなくなったよ。ありがとよ、俺も巻き込まれんのは嫌いなんでな」

「それが得策だな。こちらとしてもありがたい」

「礼は言わねえが、とりあえずご足労なことで」

「ビジネスの一環さ」

その言葉を最後に、足柄は踵を帰してその場を去った。

去っていく足柄の背中を見ながら、龍司はため息を尽いた。

「…厄介事は、動かなくとも向こうからやって来ることだってあるのさ…」

16日前 No.13

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第14話 襲撃 ―晴天霹靂篇D―】

その日の夜。

空腹を覚え、龍司は布団から抜け出した。

銀色に光る冷蔵庫を開けるが、すぐに食べられるものは入っていない。

仕方ないので、500円玉1枚をポケットに突っ込み、コンビニに向かった。

家から200メートルほど離れたところに建っている、エイティーコンビニならば夜食にうってつけのものが売っているかもしれない。

何故か下らない希望を抱きながら、街灯が照らす夜道をひたすら歩いた。

しかし妙だ。

夜とはいえ、車は全く通らないし、第一いつもこの時間帯ならあちこちにならず者が跋扈しているはず。

違和感を抱きながら、龍司は街灯が照らす夜道を、ひたすら歩いた。

コンビニまであと100メートルほどの交差点に来た。
横断歩道の信号は赤で、反対側の道へ渡ればコンビニに着く。
ここの信号、割と長いんだよな…そう思っている時だった。

突然、殺気を感じ、左横を振り向いた瞬間、黒い塊が飛んできた。
それが見事に左頬に炸裂し、龍司は吹っ飛ばされた。

吹っ飛ばされた龍司は、街路樹を1本薙ぎ倒し、花壇に背中からぶつかって止まった。

「ありゃ、違ったかこりゃ」

その声で顔をあげる。

敵の姿を凝視した。
黒いコートを羽織っており、顔はその黒いフードに覆われて見えない。
声音から男だとわかったくらいだ。

「カテゴリー8がこんな弱っちいわけないもんな」
声が若い。中学生か?
だが背の丈は高校生くらいだ。

しかし、その声は普通ではない、と龍司は感じた。
数々の死闘を制してきた、修羅の声。
龍司には、それがわかった。

「あっ…おお…」

龍司は"お前は誰だ"と言おうとした。
しかし、その時になって気がついた。

顎の骨が砕けている。
しかも、首の骨もかなり捻れて、殆ど折れている状態だ。

「へえ、驚いたな。まだ声を出せる力があったなんてね…普通なら死んでるから、その時点で充分凄いけどね」

龍司の『全強化(オール・マイティ)』は、身体能力を極限にまで上げるだけではない。
回復能力や思考能力、果ては生命力の極限上昇も可能だ。

従って、その生命力は龍司に死を許さず、回復能力は例え回復困難な怪我でもすぐに治ってしまう。

「て…んめえ…!」

顎の基部が治ってきたようだ。
呻くように、恨みを込めて言った。

「ふーん、凄いじゃん。あれだけの攻撃喰らって、すぐに治るって。やっぱり噂のカテゴリー8保有者かな?」

「んなこたぁ…どーだってぇ…いい…!」

首の骨の歪みは消え、砕けていた顎の骨は元に戻る。

「いってえなあ…てめえ誰だ…?」
顎を押さえながら言う。

「凄い殺気だね。まるで獣みたいだ。なにしてきたんだろうね?その拳は」

「ぼやかすなァッ!」
怒りのあまり、拳に力が入る。
気がつけば、足が動いていた。

15日前 No.14

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第15話 訓戒 ―晴天霹靂篇E―】

地面を右足が蹴った。
龍司は目の前のコート男に拳を打つために飛びかかった。

「でええいッ!」

一瞬で男の眼前に躍り出て、気合いとともに顔面に渾身の右ストレートを放つ。
しかし_____頭を打ち砕かんと放たれた拳は、全く効かなかった。

逆に、龍司の右拳から血が出ている。

「…なんなんだ、おまえ」

とっさに手を引き、バックステップで10メートルほど距離を取る。

あの頭は、とんでもなく硬かった。
鉄とは全く違う、異質の硬さだ。

そういえば、先の不意打ちのときも、拳の感触はあったものの、硬さは拳なんかよりよっぽど硬かった。

「お前の能力は…体を硬化させる『硬質化(スチール・モード)』…そしてカテゴリーは8だな?」
「ご明察〜。なら君は『全強化(オール・マイティ)』みたいだね。それもカテゴリー8の」
クソッ、こういうときに隠すのが難しいな、この能力は____龍司は恨み節を込めて心中で呟いた。

「目的はなんだ?俺を見つけることか?」
「うーん…わかんないな」
バカなのか。
俺の居場所がわかったら、真っ先に売るのが先決だろうが。
やはり殺してしまうべきか?

「もしかして、俺がお前を売るなんて想像してる?」
「当たり前だ」
「しないよそんなの」
「は?」
驚愕した龍司は、一瞬嘘かと思った。
しかし、次の発言はそんな龍司を否定するものだった。
「俺は強いヤツが好きなんだ。だから汚い手で倒すなんてことはしないよ」
飄々とした体を装いながらも、実は義理人情に厚いのか…?
龍司はそう思ったが、この男は更に斜め上を行った。

「強いヤツは汚い手ではなく、正々堂々勝負して倒すのが、一番気持ちいいんだ」

14日前 No.15

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第16話 仮面 ―晴天霹靂篇F―】

この男は、ただの戦闘狂であるようだ。
厄介だ。こういうのは日常だろうがなんだろうが、ズカズカ入り込んでは戦いを挑んでくる。しかも殺す気でだ。

どうすればいい…?
この場で殺すべきか?

「なにぼやっとしてんのさ!」

気がつけば眼前に男がいた。次いで、真っ黒な拳が、次いで迫ってくる。
龍司はそれを右手で手首を掴み、左手でその顔にジャブを放った。

____しかし左ジャブは男の右手に受け止められ、風圧が男の顔を覆っていたコートのフードを飛ばした。

初めて男の素顔が露となる。

まるで中学生のような顔だった。

そしてその表情は____笑っていた。

その笑みに、龍司は狂気を感じた。
本能が「こいつと戦うな」と訴えた。

だがそれでも、1度入ったスイッチは切れない。

右足で薙ぐような蹴りを、男の脇腹に叩き込んだ。
多少のダメージはあったようで、男は右手を掴むのをやめて左に飛び、ビルの壁に張り付く。

逃がさない、とその刹那に龍司が地面を蹴り、渾身の右ストレートを叩き込まんと飛び、男もビルの壁を蹴って拳を構えた。

_____その時だった。
龍司に向かって飛んだ男が、突然横から現れた男に蹴り飛ばされたのは。

「師団長よ〜、わからねえでもねえんだが、獲物を見て熱くなるはやめてくんねえっすかねえ?」

飛ばされた男はそのまま道に叩きつけられ、タイルを抉って土埃を上げ、見えなくなった。

新たに現れた男も、コートを羽織っている。
しかし、今度はフードをしていない。
いかにもそこらへんにいるようなおっさんの顔だ。

「すいませんねえ、うちのバカがちょっかいかけてしまってねえ?」
間延びしたおっさんの声だが、龍司には普通ではないと感じた。
あのガキと同じく、戦いと共に生きてきた、歴戦の戦士だ…。
龍司はそう感じ、それは間違っていなかった。

「おいおい、そいつは噂のカテゴリー8だよ?」

土埃から、さっきのあの声が聞こえてきた。
師団長、とか呼ばれていたが、それはなんなのか…?

「見てりゃわかるわい!だが少しは自重してくれよ〜、見つけて突き出して、俺らの計画に影響するようなことがあったら、それこそ終いだぜ?」
「そんときゃまとめてぶっ飛ばせばいいし、第一、俺はこいつと戦ったみたかっただけ。もし本気で殺し合えば、勝ち負け関係なくこの町が滅びるよ」

なんだこの会話。
龍司は心底突っ込みたかったが、それはなんとか抑え、別の話を横から切り出した。
「なあ、コンビニ行っていいか?俺腹へってんだけど」
「あー、いーんじゃね?このバカは俺が抑えるんで」
とおっさんが言った。
「お、そうか。じゃあな」
後ろを向いて、ちょうど青になっていた横断歩道を渡ろうとする。

だが龍司はそこでまたなにかが飛んできたのに気付き、それを振り向き様に右手で掴んだ。
「まだ終わってねえぞ?」
振り向いた龍司が見据えたガキは、投げナイフを投げてきたようだ。
その柄を掴んだ龍司は、それを足元に捨てる。
「残念だが、お相手は御免被るね。殺るんなら…また別の機会にお願いしたい」
弾みで言ってしまったが、こうでもしなければ戦い続けることになっただろう。
おっさんの方は全く呆れたという顔だった。
「やれやれ…獣は止めらんないねえ?全く、お前らには頭が上がんないよ」
本当に呆れたようだ。
ガキの方も口を開く。
「まあいいさ。また別の機会に、とお誘いをもらったんだ。今日のところはこれで下がろうじゃないか」
やっとこれで終わるな…。
しかし、まだ訊いていないことがある。

「お前、名前はなんだ?」
ガキを指差して訊く龍司。
すると、彼は胸を反らして名乗った。
「俺は高麗第八師団団長の烙影啓双。こっちは俺の副官、斑尾晃城。以後、お見知りおきを」

自慢気だが、結構重要な情報が入っていたのを、龍司は見逃さない。
高麗…。そうか、ヤツは高麗の人間だったのか…!

だが、今はあまり深入りしない方がいいだろう。

「そうか。じゃあな」
それで帰ろうとした。
後ろから声を投げ掛けられる。
「死ぬなよ?」
「当たり前だ」

横断歩道を渡りきり、後ろを向いたとき、既に2人の姿はなかった。

そしてそこで気がついた。

「俺、服血だらけじゃねえか!」

14日前 No.16

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【第17話 春眠 ―晴天霹靂篇G―】

まずい。
非常にまずい。

先の戦闘で、どこからか出血したのは間違いない。

そしてその血が、服を血に染めたのも疑いない。

問題は、このままではコンビニに入れないし、家に帰って摩耶に見つかったらかなり面倒である。

「あの野郎…!」

思い出すだけでも頭に血が上ってくる。
いや、大半八つ当たりだが。


とか思いながら、龍司は何事もなく帰宅し、何事もなく着替えた。
またコンビニへ行こうか迷ったが、このときは空腹より倦怠感が勝った。

そのまんま寝てしまった。



晴天霹靂篇 ―終―

12日前 No.17

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第18話 金は使えば失せていく】

ある休日、龍司は1人で商店街を歩いていた。

学園の中心、学都・歳礼の近郊にある六番商店街だ。

____因みに、龍司が住んでいるのは歳礼南西の八番住宅街で、通っているのは第三高校だ。


ともあれ、摩耶は今日、所用があって家を空けており、龍司も予定もないのでとりあえずフラフラしていたら六番商店街に着いたという次第だった。

とりあえず、来たからにはなにか買わなければいけないという強迫観念が芽生えてしまうのがこの商店街という場所なのだろうか。
何故かチキンカツが買いたくなっていた。

「おばちゃん、チキンカツ1つ」

揚げ物屋で150円のチキンカツを買うと、そのまま食べ歩いた。

「にしても、説明詐欺だよなあこれ…」

龍司が差しているのは、この小説の事だ。
堂々と第四の壁突き破るのは、彼の得意技だ。

「なあ、筆者は『戦闘シーンには力入れる』とか言ってたじゃん?でもリア友にこれ見せたら、『日常シーンの方が力入ってんじゃね?』とか言われたらしいじゃん?」

これ以上はナレーターとしては言ってほしくないところだ。
しかし彼はお構いなしに続けた。

「しかも、『シリアスストーリーの方が日常より圧倒的に多いぞ?』とさっき気付いたらしいぜ?アホじゃね?つうか、これを人に見せたがる辺り、もうただのバカにしか見えないと思うの」

なんでこうも堂々と言えるのか、不思議である。
第四の壁は突き破るものではないのに…!
破ってはいけないとうのに…!

「てかさ、シリアスストーリーの締め方、下手くそじゃね?最初の屋上争乱篇とか、ラスト俺と摩耶イチャつかせておしまいじゃん?さっきの晴天霹靂篇なんて、最後めんどくさがって締めたじゃん?完全に勢いだけでやってます感満載なんすけどこr」

これ以上は不味い、と判断したので、これにて第18話を終了させていただきます!
「最後も雑じゃねえか!」

12日前 No.18

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【第19話 神の髪は紙1枚より薄い】

ある日の夕食後。
龍司はいつも通り寝転がってテレビを見ていた。

だがそれは『とりあえず目に写してるだけ』である。

それ以外にすることがないというのもあるが、自室で寝転がるよりはここにいた方がなんとなく気分がよくなるということもある。

しかし、なんにもないのにここで寝転がるのもあれなので、こうしてテレビをつけているわけだ。

しかし、眠気が襲ってくると話は別だ。

「なー摩耶」
「ん?」

台所で皿を洗う摩耶に声をかける。

「俺そろそろ寝るわ」
「ん、わかったわ。また明日、よろしくね」
「うい」

そう言うと、立ち上がってそのまま部屋に行った。


12日前 No.19

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【第20話 実は金閣寺は1回燃えてる】

朝起きると、珍しく摩耶が先に起きて朝食を作っていた。

「珍しいじゃん」
「気が向いたのよ」

彼女はそう言うと、フライパンの目玉焼きをひっくり返した。


朝食を終え、歯を磨いて制服に着替えて学校へ向かう。

一般的な家庭の朝は、この家の場合にも当てはまる。
唯一違うのは、親がいないことだが、親がいないことでこの共同生活は成り立っていた。


教室に着けば、何故か変な目で見てくる生徒がちらほらいる。

それもそのはず、龍司は様々な事情があって摩耶という女性と生活し、摩耶も摩耶で諸事情あって龍司という男性の家で生活しているのだ。

それはクラスのだいたいは生徒は知っていたし、良識ある者は事情は知らずとも理解している。

しかし、それを交際と捉える者も中にはいるようで、そんな輩があらぬ噂を立て、広げる。

だが龍司も去るもので…。

「草鹿、火消し頼む」
学級委員の草鹿剣。
性格もよく、成績もよく、能力者カテゴリー7でもあるこのザ・優男な彼は、龍司の親友の1人である。
「わかりました、任せてください」
誰に対しても、例え緊急時でも敬語を使うのが玉に傷だが、別にそれは問題ないだろう…。

「ちっすりゅーちゃん」
「いつになくチャラいな」
沢谷だ。
やはり朝はみんなテンションが低いと言うが、彼は全く違った。
朝からバカ全開だった。

12日前 No.20

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第21話 鹿のツノはかなり痛い】

「なありゅー」
「なんだサワ」
休み時間、居眠りをする龍司の元に、沢谷がやってきた。

彼曰く、「暇だから放課後に商店街いこうぜ」とのことだった。
この日はあいにく四時間授業で、午後は完全にやることがなかったので、丁度いい用事といえばそうだった。

「じゃあ私も混ぜてくれる?」
摩耶だ。
まだ龍司は了承していない。

…どうやら、行かないという選択肢はないようだ。

「おう、わかった。持ち合わせがないから沢谷が持てよ?」


龍司と摩耶は金銭面を沢谷に丸投げし、商店街へ向かった。
沢谷の顔が青銅器顔負けレベルで真っ青だったのは言うまでもない。

「お、あそこのチキンカツうまいぞ」

ここは以前来た六番商店街だ。
摩耶も沢谷も名前は知ってるが来たことがないそうで、紹介して回っていた。

例のチキンカツを早速紹介するが、
「ふーん」
「へー」
と二人は流した。
「え、なにその無反応」
すかさず突っ込む。
「第18話で一瞬出てきたからみんな気になってると思ったんだが」
「平然と第四の壁を突き破るな!」
沢谷が突っ込み返した。

閑話休題。

龍司たちが商店街を一回りした頃に日が暮れ、買い食いしたために腹も膨れていた。

「んじゃ、俺はここいらで」
と沢谷は別れ際に言うと、六番商店街北口から外へ出た。
…あいつ、たしか帰る方向は南じゃなかったかな…?と龍司は思ったが、敢えて口には出さなかった。


帰り道。
摩耶と二人で、夕暮れの街を歩いていた。
「あいつ、顔真っ青だったな」
沢谷のことだ。
彼は、今日買ったものを全額払わされている。
財布はさぞかし寒いだろう…。
「確か、合計で2万6750円買ったわね」
「よく覚えてんなお前」
すげえよ摩耶は…買ったものの金額を覚えてやがった。
まあ、これくらい覚えてなきゃ学級委員は務まらんのだろうな…。
そう思いながら、龍司は摩耶の能力に感服した。

大きな鉄橋に差し掛かった。
この橋は八塩橋と呼ばれ、その下には勝喇河と呼ばれる大きな川が流れている。
そして、この川の対岸に龍司の住む八番住宅街がある。
ガードレールの向こうの車の往来とエンジンの音がこだまするなか、二人はまっすぐ歩いていく。

橋の真ん中に来たところで、異変は起きた。
「なにか聞こえない?」
「なんかって…?うん?」
龍司はそこで摩耶と同様に気がついた。
エンジンの音に混じって、なにか1つ、違うものがある。
「…悲鳴?」
龍司がそう勘づいたとき、咄嗟に上を見上げると、1人の少女が降ってきた。
「ウワーーーーーーッッッッ!!!!」
「親方ー!空から女の子がー!」
降ってきた女性と、龍司の声が重なる。
「早く受け止めィ!」
摩耶が突っ込む。
直後、龍司は少女を両腕でどうにか受け止め、地面へ降ろした。

「よっ…と…。怪我はないか?」
「う、うん…」
少女の顔は赤く染まっていた。
まあ無理もない。なんせ、お姫様だっこの要領で受け止めたのだから。
そして龍司は絶句した。
そう、少女は_______美人だったのだ。
(…摩耶もなかなかだが、これも…。俺は恵まれてるな!)
二人を交互に見て、一瞬鼻の下が伸びる。
それを横目で見ていた摩耶に、龍司は橋から突き落とされた。
川面が大きく揺れ、水柱が立った。
「ぶはッ!なにすんだ!?」
川の底から浮き上がり、水面から顔を出した龍司は、摩耶に抗議する。
「美女を見ていかがわしいことを考える変態お断り!」
「はァ!?んなこと考えて…はい、考えてました」
その瞬間、クナイが龍司の額に突き刺さった。

7日前 No.21

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第22話 坂本龍馬と吉田松陰を間違える教師が極稀にいる】

引き続き橋の上だ。
「…で、聞いてなかったけど、名前は?」
びしょ濡れの龍司が少女に名前を訊く。
「私は宮古愛宕よ。さっきはどーも。愛宕と呼んでちょうだい」
割と声が高い。そしてその声はどこか高飛車な印象を抱かせた。
愛宕と名乗った少女の背丈は龍司や摩耶とそこまで変わらず、その端正な顔立ちも幼いわけではない。
「俺は峯風龍司。こっちは黒月摩耶」
「なんで空から降ってきたの?」
今度は摩耶が質問する。
そらそうだ。いきなり空から降ってきたのだ。
疑問に思わないわけがない。
「あー、それね」

「さっき、あそこから飛んだのよ!」
愛宕が指差した先は、龍司から見て南、川の対岸にある大きな電波塔だ。
高さはゆうに200メートルを超える。
「はァ!?」
「え、まさか、あなた能力者?」
驚愕する龍司の横で、摩耶が更に問い掛けた。
「そうよ!私の能力は『物体浮遊(エア・クラフト)』。カテゴリー6よ」
中級カテゴリーの能力者…。
戦闘にも日常でも使える、汎用性の高い能力だ。
「触ったものは浮かせられるわ」
そう言った愛宕の目の前で、龍司が宙に浮いた。
無重力状態とやらに近い状態を味わいながら、能力の内容わ思い出した。
「…なるほど、中級カテゴリーの物体浮遊は、能力を解けば着地するまで再発動はできないってわけだな。そして、宮古は」
「せーかい!龍司すごいわねー」
「タメ口を許可した覚えはない」
「堅ッ苦しいわねぇ〜?禿げるわよ」
「禿げねえよ」
「はいはい二人ともそこまで」
摩耶が割って入った。

閑話休題。

摩耶と愛宕と龍司は、橋を渡りながら会話を交わしていた。
「つまり、愛宕はあの塔から気晴らしに飛んでたら、うっかり解除して落下して、こうなった、というわけか」
「そ。もーほんとイライラしててさー」
なんだか放置していたら面倒なことになりそうだ。
ここはガス抜きに、話を聞いておこうと摩耶は判断した。
「なにがあったのか教えてくれる?」

7日前 No.22

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【第23話 カビの生えたパンを食べるのはやめましょう】

「よかったら、なにがあったのか教えてくれる?」
「うーん、どーしよっかなー」
テストの点が悪かったのか?と摩耶は察し、龍司は友人関係かと思った。
「そーねえ、まあ簡単に言うと、うざったいのよね」
「なにが?」
「親よ。ああしなさいこうしなさい、貞淑を装え、大人しくしてろ宮古家の家風はこうだ、こんな男と付き合え、金もないやつと付き合うな、てさ」
もしこれが本当なら異常な親だ。
どこかの名家か?
「んで、イラっとしてたからたまに飛んでたのね」
「そうね。空を感じてると、全部忘れられるのよ」
「危なっかしいわねえ」
「やめらんないのよ〜」
恍惚な表情を浮かべる愛宕と、それを呆れた様子で見つめる摩耶。
女子トークの進み方がよくわかった龍司だった。

「ところで摩耶もそんなことなーい?」
「え、なんで?」
「だってさー、こんな冴えない彼氏持って、イライラしない?」
「はァ!?」
「ちょっと待って、私達、付き合ってるわけじゃないわよ!?」
龍司と摩耶が全力で愛宕の問い掛けを否定する。
「知ってるわよ」
あっけらかんと言い放った愛宕。
「だいたい、そんなことに時間を費やす連中がいるなんて、わけわかんないわ」
「え?」
これはつまり、愛宕は恋愛を理解してないのか…?
「意外ね。宮古さんは、そーいうのに翻弄されるタイプかと思ったわ」
「ひどいわね〜、人をビッ○のような言い方しないでよ」
「失礼しました〜」
微笑みながら言う摩耶。反省の色はゼロだ。
愛宕の顔はかなり不満そうだ。

二人とも、深層の本質が似ているからなのか、ここまで打ち解けるのにそう時間が掛かっていない。
まあ元々、摩耶はフレンドリーな性格であるし、恐らく愛宕も同様なのであろうことは龍司も理解していた。
「んじゃ私はここで。家あっちだから」
と橋を渡ったところで、愛宕と別れた。
「気を付けて帰れよー」
既に日は落ち、辺りは完全に暗くなっていた。

こうして、長い1日は終わった。

7日前 No.23

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【第24話 ツンデレは扱いがめんどくせェ!】

愛宕と出会ってから数日が経った。

今日は休日で、龍司はいつも通り終日ゴロゴロする予定だった。
が、しかし…。

「ん…?暑ッ苦しいわね…」
蒸し暑さで起床した摩耶は、真っ先に時計を見た。時刻は午前10時だ。
気温は21度、若干暖かいといった感じだろうか。
しかし、起きた瞬間の暑苦しさを説明するには、それは足りない。
「ん…」
「うん?」
誰かの声が一瞬聞こえた。
しかも、どこかで聞き覚えのあるトーンだ。
そういえば、さっきから右から温もりを感じる…そう思って右を見ると、そこには愛宕が寝転がっていた。

「…」
「ん…。…あれ、起きたの?」
むっくりと起き上がる愛宕は、目を擦りながら寝惚けた口調で言った。
「いや、あなたどこから入ったの!?」
と摩耶は盛大に突っ込む。
そしてその時、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。
そこには龍司がいた。
「おい摩耶、どうし…はァ!?」
「え、ちょ、龍司くん、そうじゃないのよ!?そうじゃないからね!?」
「お前ら、そ、そそそういう関係だったのか!」
「ち、違うから!起きたらこの子が!つうか私レズじゃないから!」
「あら〜?じゃあ龍司も混じる?摩耶ってすごいわよ?」
「なんの話!?」
「決まってるじゃない。恋人同士と言えば、【規定により削除されました】くらい当たり前でしょ?」
「さらっと変なこと言わないでよ!?私そんなの興味ないからねっ!?」
「お、じゃあ混じろうかな」
「龍司くんも乗らないで!」

「いやー、マジでびっくりしたわ。なんかすげえ声が聞こえたから開けてみたら、こんなことになってるとは…」
リビングで、摩耶と龍司が神妙な表情で言葉を交わす。
「え、龍司くん心当たりないの?」
「さあ…?」
ないといえば嘘になる。
なんだか夢のような気もするが、深夜に愛宕と会ったような覚えがあるのだ。
そこへ、摩耶の部屋からひょっこり顔を出した愛宕が横槍を入れる。
「なに言ってんのよ。入れてくれたの龍司じゃない」
「はァ!?」
「えっ!?」
まさか、と龍司は思ったが、まさかあの夢は正夢だったのか…!?
「夜中にここ来たら、龍司が入れて、摩耶の部屋で寝かせてくれたじゃない」
「マジかよ…」
「と、とりあえず、来た訳を教えてくれない?」
「そーね、私しばらくここに居候する予定だし、話しとくわね」
(居候する予定なのかよ…食費とか学校出してくれっかな…?)
龍司の関心は理由より食費にあったのだった。

6日前 No.24

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第25話 これよく考えたら主人公ハーレム状態だよな羨ましい】

愛宕がここに来た理由は、十数時間前に遡る。


愛宕が橋に落下し、龍司たちと出会い、橋を渡ったところで別れた後だ。

「はあ…帰るの憂鬱ね…」
愛宕はそう呟きながら、ドアを開け、家の中に入った。

「愛宕!こんな時間までなにをしていた!?」
頭上から振り下ろされる野太く大きな声は、愛宕の耳に叩きつけられる。
立ちすくみながら恐る恐る見上げると、そこには愛宕の父親がいた。
老け顔、白髪で筋骨隆々のこの父親が、愛宕は大の苦手だった。
「ふん!どうせクソつまらん男の元で淫らに遊んでおったのだろう?愚か者めが」
その言葉は毒舌の域を遥かに超えており、しかもそれが長々と続くのだ。
並みの者なら精神崩壊待ったなしだろう。

おまけに腕っぷしの相当立つ。

小学校の頃、この父親の毒舌に参っている旨を教師に話し、どうにかしてもらおうとしたが、その教師は口を開く間もなく簡単に捻り倒されてしまった。

「父さんは貴女の為に言っているんですよ!」
台所から母も出てきた。
この母は、父親の言うことに倣う、いわばイエスマンと言っても過言ではない。
しかもその声はどこか、耳だけでなく頭もイカれるレベルでうざったい。

この毒親が揃えば、数時間説教など当たり前だった。

しかし、この日は違った。
「まあよい。じきにお前とは、しばらく会わなくなる」
「…え?」
うなだれていた愛宕が、驚きのあまり顔をあげる。
「お前は今から、修行に出る。ワシらのところでは、どういうわけかこれ以上は育たんだろうからな」
事実上の勘当とも捉えられる発言だ。
いや、愛宕としては、ある意味嬉しい言葉だ。
毎日毎日、あの腐った説教を数時間も聞く必要はないのだ。
「学校も第三高校へ転校だ。あそこならお前の腐った根性も叩き直せるだろう?なに、改心したならすぐに帰ってこい。また元の第五高校へ戻してやる」
(誰が帰るもんか!)
父が温情を込めたであろう最後の一行も、愛宕には傲慢にしか聞こえなかった。
「…わかったわ。じゃあ、荷物取っ払ってさっさと行くわ。修行するなら、少しでも長い方が良いでしょ?」

愛宕はこの家から出たくて仕方なかったのだった。

そして愛宕は1時間後に家を出た。
キャンプ用品や生活必需品、ケータイ、カメラ、勉強道具、教材などを目一杯詰めているリュックサックは、今にもはち切れんばかりに膨らんでいた。
行く宛はない。
何故なら愛宕には、友達らしい友達がほとんどいないのだ。
幼い頃から、宮古の家名を背負っているが故に、周りに人が近寄ってこないのだ。
「家の宿命…か」
こんなときも親が邪魔を______!
憎悪の念が沸き起こった。
そしてしばらく、とぼとぼと歩き続ける内に、
「…そういえば…」
と思い出した。
数時間前、あの橋の上で出会った二人を。
彼らなら、泊めてくれるかもしれない______!
そうして六番住宅街へ向かった。

1時間ほど掛けて、六番住宅街に着いたは良いが、龍司の家なんて全く検討がつかない。
とりあえず、愛宕はまた小一時間ほど歩いた。
勘に任せて歩き続け、勘に任せて探し回った。

六番住宅街の中心に近いところまで来た。
ここらへんまで来ると、もうほとんどなにがなんだかわからないレベルで家が多い。

もう諦めようか、と思ったその時、頭に電流のようなものが走った。
咄嗟に後ろを振り返ると、そこにはマンションがあった。

勘を頼りにマンションの敷地に入り、渡り廊下を通る。
階段をいくつか上がって、その度に目を見回して『峯風』、もしくは『黒月』の表札を探した。

そして、ようやく見つけた。
表札には『峯風』と書かれており、彼のもので間違いない。
おもむろにチャイムを押す。
数秒経ってから、中からゴトゴトと音が響き、次いでドアが開いて人が出てくる。

龍司だ。

「あれ?愛宕じゃん」
寝惚け眼の龍司は、愛宕の姿を捉えても全く動じない。
夢の中とでも思っているようだ。
「ちょっとさあ、家追い出されたから、泊めてくんない?」
「いーぞぉ…」
言ったそばから欠伸が出る龍司。
そのままドアを全開にして家の中に愛宕を招き入れた。
「空いてる部屋ないから、摩耶の部屋で寝ちゃって」
龍司は廊下の奥のドアからリビングに入るなり、そう言った。
(え、まさかあの二人、同棲してんの!?)
と一瞬動揺したが、部屋は別々なことから、共同生活と言った方が正しいようだ。
「摩耶ー、失礼するわよ〜」
恐る恐る摩耶の部屋にはいる。
そしてその瞬間、今までの疲労が一気に出たのか、愛宕は摩耶と同じ布団に入って寝てしまった。


「お前じゃねーかッ!」
愛宕の回想が終わるなり、龍司は摩耶に右頬を蹴っ飛ばされ、頭から壁に突っ込み、めり込んだ。

「いってーわ!殺す気か!」
壁から抜け出し、頭から血を流しながら猛烈に抗議する龍司。
そんなことはお構い無しに、摩耶は愛宕に向かい合った。
「まあ事情はわかったわ。…で、どうするの?」
「私としては、しばらくここに泊めて貰いたいわ。…とか言っても、長居しそうな気がするけどね」
「俺としては、どっちでもいーぞ。食費さえどうにかなれば後はどーだっていーし」
愛宕は思った。
彼は、龍司は本当にいい人だと。
「ま、風評被害が増えるのは待ったなしだけどな!」
と龍司は笑って言った。

5日前 No.25

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第26話 摩耶と愛宕って二人とも山の名前だった知ってた?次の女キャラの名前は川の名前かも】

愛宕が我が家に来てその翌日の月曜日の朝。

「おはよ〜…あら、この家の朝食当番はあんたなのね」
「そうよ〜」

龍司が朝食の用意をしていると、二人がぼちぼち起き出してくる。
「おかげで朝が楽なのよ〜」
「こっちは好きでやってっからまさにWIN-WINってやつだ」
「私の寝起きが悪いだけよ」
「ハハハッ、それもあるな!」
むくれた様子で摩耶が言い、龍司がそれを笑う。
「夫婦みたいね〜そのまま結婚しちゃえば?」
冗談じみた口調で愛宕が冷やかす。
「あー、そうだな、じゃあそうしようかな」
「いや本気にしないでよ」
とぼける龍司、突っ込む愛宕。
もうなにがなんだかわからなくなってくる朝だ。
平和だな、と龍司は思った。
しかし、彼女は違った。
「けっ、結婚…!?私と、龍司くんが!?」
「えっ!?」
「真に受けるな!」
そしてその瞬間、頬を真っ赤に染めた摩耶は昏倒した。

5日前 No.26

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第27話 さっきゲームのデータが全部吹き飛んだから運営に報告してみたらそんなことはないとか言われたけどどうしよう】

「それにしても、さっきはホントびっくりしたぜ〜」
「もーやめてよー…恥ずかしいんだから…」

昏倒した摩耶はなんとか再起し、仲良く朝の道を歩いているというわけだ。
ちなみに、龍司は既に同じセリフを6回くらい言っている。この度に摩耶が恥ずかしがっている。
よほどのことだったのだろう。
まあ無理もない。
結婚云々の冗談で倒れたなどと誰かに知られれば、それだけでかなりヤバい。とんでもなくヤバい。

そんなわけで、この話は共有の秘密となっている。

だがは龍司は、歩みを進める度に違和感に気づいている。
「ところでだがなんでお前は俺らにぴったりなんだ?」
『お前』とは、愛宕のことだ。
着ている制服も摩耶の制服と同じ、即ち第三高校のものだ。
「え?私は三高に転属したのよ?」
「はあッ!?聞いてないぞ!?」
「いや言ったわよ」
「いつ!?」
>>25 の回想で」
「第四の壁を破るな!」


《「学校も第三高校へ転校だ。あそこならお前の腐った根性も叩き直せるだろう?なに、改心したならすぐに帰ってこい。また元の第五高校へ戻してやる」
(誰が帰るもんか!)
父が温情を込めたであろう最後の一行も、愛宕には傲慢にしか聞こえなかった。》

「親父さんの言葉かよッ!?」
「まあともあれ、私たちの学校へ来るのね。…クラスは?」
「1年5組よ」
「俺らのクラスじゃないか!」
さっきから驚愕の連続で顎が外れそうな龍司。
「そうなの!?」
愛宕もかなり驚いているようだ。
それもそうだ。
自分が居候している家に住んでいる人たちが、同じ学校同じクラスともなれば、そんな反応になるに決まってる。


そうやって歩いている内に、龍司たちは学校、第三高校に着いた。

5日前 No.27

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第28話 ヤバい人はヤバい】

「今日からお世話になります、宮古愛宕です!」

龍司のクラスに、愛宕がやって来た。

まあこの朝にそれ知ったのだから、別段驚きもしない。
窓際の席に座る龍司は、退屈な顔をしたままだった。



愛宕の驚愕の能力が明からとなったのは、その直後の授業、1時限目の体育だった。

この日の体育は、かんと抜き打ちマラソンだった。

第三高校の、というかこの学園のグラウンドは、軒並みクソ広い。普通に全周8キロはある。
そしてそれを、このマラソンでは3周させられるのだから、終わった頃には大抵の者は倒れる。

…摩耶はとりあえず出来る方だが、俺に比べれば全然だ。
まず龍司は能力の影響でただでさえ身体能力が常人より相当高いので、比べるのはおかしな話とも言えるが…。

まあ龍司からすれば、軽くひとっ走りするレベルのマラソンだが、この日は彼もなぜか本気になった。

何故なら____

今、真横で走っているのは、他でもない、愛宕だ。

(嘘だろ!?こいつの能力はエアクラフトじゃなかったか!?)
龍司は軽く走っているつもりだったが、いつの間にかどんどん足が速まる。
それは愛宕も同じだった。
(えぇ!?なんでこんな速いの!?)
愛宕も龍司を追い抜こうと躍起になる。競争本能からか、足が自動的に速まっていく。


「速いわよ二人ともぉ!」
後ろから摩耶からの悲鳴が飛ぶが、龍司と愛宕には届かない。
「やるわね!あんた!」
「お前こそ、ついてこれるとはな!」
龍司と愛宕は、他の集団を大幅に引き離して、なお加速していく。
「あとどれだけ持つかしらね!」
「ほざいてろ!」
ついに龍司が本気になった。
彼は本格的に能力を使い始めた。
加速速度はそれまでの数倍となって愛宕を抜いていく。
「…!凄い…!」
しかし愛宕も去るもので、すぐに龍司に追い付いた。
「お前…!」
「お互い全力でいきましょう!」
「望むところだぁぁぁぁッッッッ!!!!」
「おおおおおおおおッッッッ!!!!」
「であああああああッッッッ!!!!」
二人は後方集団を遥かに引き離し、半周分もいいところ、更に1周、2周と回った。

二人はまるで食い合うようにして最終走に入った。

「俺が勝つ!」
「私が勝つ!」
「だったらもっと速く走れ!」
「その言葉、そのまま返すわ!」
肩で息をしながら、超人的な走りを見せ、なおかつ低俗ながらも舌戦を繰り広げる龍司と愛宕。
それは、他の生徒が後に語り継ぐ程の激しさだった。

恐らく武器を持たせていたら、本当に殺し合いそうなレベルの壮絶な殺気を帯びた二人は、同時にゴールした。

それはなんと、ビデオで確認し、測定できる限りの秒数も同じ、つまり同着と言う信じられない結果だった。

「ハァ…ハァ…最高だったぜ、愛宕」
「私こそ、久しぶりにまともに張れる奴見つけられて嬉しいわ…ハァ…ハァ…」

そしてこのあと、龍司は教師にめちゃくちゃ怒られた。
内容は、「あれほど速く走れるんならなんでそれを出さない!?」というものだった。





因みに、龍司と愛宕の対決はこの後もマラソンがある度に勃発し、その戦いは『龍王会戦』と呼ばれ、何度も起こるにつれて『第○次』と頭につくようになった。

5日前 No.28

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第29話 チート能力持ちが二人いるわけない】

更に愛宕の能力というか、才能が明からとなったのは、他にもある。

2時限目は数学の授業で、面倒な数式を解けと言うものだった。

龍司は勉強はからっきし苦手だ。
なので、ここでは龍司の活躍は見れない。
しかし、読者諸君は忘れてないだろうか。
この小説のもう一人の主人公の才能を…。

「じゃあ、ここの20問解いてくれる人〜」
「はい!」
教師が言葉を発した瞬間、摩耶と愛宕の声が重なった。

二人の計算速度は超人的で、二人に割り振られた10問ずつの問題など、3分足らずで全て解き、それを黒板に現した。
「先生!もっと、もっと問題ください!」
摩耶と愛宕の目は、互いを高め合うと言うより、戦いを欲する獣に近い目だった。

教師はその気迫に押され、教科書から問題を捻り出しまくった。

それらを次々に解き、黒板にチョークで書き込んでいく。
教室にいる面々は、二人以外、龍司も含めてポカーンとしていた。
一堂の頭には、共通の言葉が現れていた。

「すげえ…!」

(愛宕…すごいわ、この私と張れるなんて…!)
(摩耶すげー、今まで私とまともに勝負できたの殆どいないわよ!?)
二人は同時に、互いを認めあっていた。


そして授業時間が終わる頃には、殆どの生徒が疲れきっていた。

「次もよろしくね、摩耶!」
「あなたこそよろしく、愛宕さん!」

余談だが、この数学勝負は『山岳会戦』と呼ばれた。
山岳会戦というのは、摩耶も愛宕も、山の名前が彼女の名前であることから言われるようになった。

そしてこれも余談だが、この山岳会戦は、数学の授業が来る度に繰り広げられ、この度に第○次山岳会戦とついた。

5日前 No.29

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第30話 劣化したゴムボールの表面を剥がすと異臭がする】

セミが鳴き始め、暑さも本格的に厳しくなってきた。
生徒たちお待ちかねの夏休みも近くなり、大抵の者は緊張が緩みきっている。
だからと言うべきか、なんと言うべきか、この第三高校でも奇人変人が目覚め始め、喧嘩や事件が起こることも、珍しくなくなっていた。


放課後になった。
摩耶はこのところ、委員会の仕事で龍司と帰ることは滅多にない。
夏休み前の雑務があるのだろう。
では独りで帰るのかといえば、そうではない。

放課後の教室。
自分の席で居眠りする龍司。
「龍司ー!」
「おう、なんだよ愛宕」
「一緒に帰りましょ!」
「…おう」

少し前ににこの学校に転校してきた我が家の第二の居候、宮古愛宕。
最近ではもうすっかりクラスに馴染み、少しお転婆な活力溢れるリーダー的存在としてクラスの女子をまとめあげている。
だが、帰るときは何故か絶対に龍司と帰る。
理由はわからないでもないが、とりあえず聞かないでいる。
まあ、愛宕としては、理由を聞かれたところではぐらかすしかないし、理由を聞かずにこうして黙って一緒に帰ってくれる龍司をありがたく感じていた。

「おや、もう帰るのですか?」
「ああ、本当はもー少し寝ていたいがな」
背後から呼び掛けられた。
学級委員の草鹿だ。
彼は放課後、よく教室に残って仕事やら何やらをしている。
現在、教室には龍司、愛宕、草鹿の三人しかいない。
いつもは夕日が差すこの教室も、夏なので日が長く、まだまだ明るかった。
「ははっ、相変わらず仲がよろしいことで」
「誤解を招くような発言はやめていただきたい」
おどけたような口調で返す龍司と、それを笑う草鹿。

その刹那、草鹿の顔に陰が差した。
「でも慕われてるんですね、龍司さん。羨ましいです」
「…?どういう意味だ、それは」
「僕は…この学級では一応の尊敬を得ているのは間違いないんです。ですが、それは『僕自身』に対する尊敬ではなくて、『功績』に対する尊敬です」
「…」
彼は_____草鹿剣は、非常に優秀な人間で、ある種英雄的なものと見られている節がある。
だからこそ、草鹿は皆が望む姿でなくてはならないし、草鹿はそれを投げ出すことはできない。

才能あるがゆえの、責任。

大いなる力には、大いなる責任が伴う。

つまりは、そういうことだ。
草鹿はそうやって、自虐的な価値観に敢えて囚われることで、自己像を形成し、今日までの地位を得ている。
その努力は並大抵のものではない。

だからこそ、草鹿が望むものは、しっかりと見える。

「同情はしないぞ」

そう、これだ。

草鹿は同情を求めているのではない。
共に手を取り合って進むなにかを求めているのではない。
彼が求めているのは、評価だ。

「…なにがあろうが、それはお前が決めた選択であって、それをどうこう言う資格は誰にもない。ましてや同情なんざ以ての他だ。だから敢えて言わせてもらうぞ」
そこで龍司は一拍置いた。

「お前はよくやってる。これはダチの意見でも、お前を崇拝する人間の言うことでもない。ただの他人からの視点、第三者視点からの評価だ」

草鹿の表情が、明るくなった。

「やはり、あなたは僕にとって最高の友人ですね…嬉しいです」
と、微笑みながら言う草鹿。
「勘違いすんなよ?俺は同情しないだけで哀れむことをしないわけではないからな?」
「わかってますよ。…ああ、軽く立ち話をするつもりが、つい長話になってしまいましたね。すいません」
「いーんだよ。俺もお前の中身が聞けてよかっt」
「あーもうながったらしいわね!私いるのも忘れないでよね!?」
愛宕が割って入る。
そういえば、彼女はずっと蚊帳の外だった。
訳のわからん会話を聞かされて、さぞ苛立っているのだろう。
「というわけた草鹿。俺は帰るぜ。こいつに殴られたらたまらん」
「うるさい!」
その瞬間、愛宕の鉄拳が顔面に炸裂し、ロッカーに吹っ飛ばされた。
「いってえわ!すぐ手ェ出すのやめて!」
「断るわ!あと百発殴んないと気がすまないわ!」

たわいもない会話を聞きながら、草鹿は彼のことを、本当にいい人と感じていた。

3日前 No.30

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【第31話 夏休み前ってみんなワクワクしてるけど、実際殆ど部活に取られるって知ってた?】

愛宕には、妙なモヤモヤがあった。

彼女は、あの橋で龍司に出会い、何故か龍司に強く惹かれたのを覚えている。
だから彼女は、追い出されたときも龍司を頼ったし、今もこうして一緒に帰っている。

愛宕は、その時何故龍司に惹かれたのか、なにに惹かれたのかを探していた。

そしてそれのヒントを、ようやく見つけた。

龍司は、他者に対し決して同情しない。
草鹿との会話で、それがわかった。

聞きようによっては最低なものだが、愛宕や摩耶、草鹿などの特別な状況下にある者にとっては、それは実に好ましいことかがよくわかる。

要は、彼はまっすぐなのだ。
どんなに苦しいことになっている者がいても、その心中を察してそれ以上探りを入れない。黙って救いの手を差し伸べる。

探らない、という意味での同情とは、彼にとっては「知らない方がいいこともある」という意味なのだろうか。

それは愛宕にはわからなかったが、少なくともそうであってほしかったし、それのお陰で彼女は助かっている。

龍司と摩耶のような、共生関係ではなくどちらかと言えば寄生関係にあるが、それでも龍司は文句のひとつも言わず、ただ笑っていた。


しかし、愛宕にはもうひとつわからないことがあった。

それは龍司がどきどき見せる、虚ろな目だった。
どこを見ているのかわからない、焦点の合っていない目だ。

まるで死人のような目だ。

「どした?」
龍司は愛宕の視線に気がついたのか、声をかけてきた。
「なーんにも」
そっぽを向く愛宕。

今だってそうだった。
龍司の虚ろな、死人の目は、たいてい無言な時に出てくる。

「…ねえ龍司」
「ん?」
「なんか隠してない?」
思わず訊いてしまった。
無意識の内に、疑問が口に出ていた。

失敗した_____!

愛宕が渋い顔をしたその時、龍司は口を開いた。

「…隠してるわけじゃない」

その言葉で、愛宕は衝撃を覚えた。
隠してるわけではない、つまり、なにかがある。
その「なにか」は、現在の龍司の人格を形成しているものに違いないし、龍司の虚ろな目の正体であることは間違いなかった。

「…そ。じゃあ聞かないでおくわ。話す必要ないし」
「そか。それが一番嬉しいよ」

龍司にとっても、愛宕にとっても、この会話は短くて重苦しかった。

3日前 No.31

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2日前 No.32

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第33話 水着回はだいたいメビでやると削除されるけどあえてやるのはなぜだろう】

引き続き海である。

「あはははー」
「きゃははははー」
「うふふふふー」
ほとんど定型文に近いはしゃぎ声だ。

仕方ない。
龍司は彼女達を直視できないのだ。

摩耶や愛宕も、目の前の筋肉野郎の姿が眩しすぎて見れなかった。

(やべえ…!なんかの拍子にこいつら見たら確実にやべえ…!脚本関係なくなっちゃうよ!メビから永久追放されるよ!)
冷や汗を滝をのように流す龍司。
その後ろを走る愛宕や摩耶も、
(ヤバいわ…このままじゃ海に来た意味ないわ…!)
と愛宕。
(早く…早くどうにかしないと…!私が緊張でおかしくなる!)
と摩耶。
しかしその時だった。
前方から「あ〜〜っ!!」という絶叫とも喚声とも着かない声が聞こえ、摩耶と愛宕が前にいるはずの龍司を見た。
すると、その龍司は絶叫しながら万歳の姿勢で横っ飛びに海に突っ込んでいた。
「もう辛抱たまんねえ〜〜〜っ!!!!!」
直後、龍司が突っ込んだ海面から、巨大な水柱が立ち上った。
「龍司くん!?」
すぐさま摩耶が海に飛び込み、次いで愛宕も、「仕方ないわねー」と海へ入った。

直後に救出された龍司が、大量の鼻血を流して気絶していたのは言うまでもない。

1日前 No.33
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