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とある異世界の学園の日常(?)

 ( 小説投稿城 )
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彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

「なになに…注意書があるな…」

「へー、読んでみてよ」

「えーと…ここの学園はそして厨二病要素有り、学園要素有り、異世界要素有り、異能力要素有り、ネタ有り、シリアス有り、エロは…ないな」

「当たり前だね」

「で、以上の事が了承出来ぬ方はフェードアウトしてください…」

「アニメじゃないんだから」

二人の前にそびえ立つ灰色の壁は、まさに城壁と呼ぶに相応しく、そこの門は学園の門とは思えないほどしっかりした、城門と呼べるものだった。

「これ、普通に刑務所の門だよね…」

「…だね」

ここはただの学園ではない。
帰ろう。
そう思い、二人が壁に背を向けたとき、男が思い出したように言った。

「____そういえば、ここに来る時に看板があったなー」

「へー」

「その看板、日本国憲法通用しませんとか書いてあったような…」

「それ最初に言いなさいよ!」




その後二人を見た者はいなかったとさ




___________ここは真海学園。
いわゆる異世界の学園だが、学園でありながら国家として存在している。

そして、そこに通うとある生徒が、その世界の歴史をどうにかしてしまうようだ。




【はい、100%勢いだけで書きますねー。戦闘シーンとかは結構力入れますけど他は手抜きです多分。後、主の都合で更新ペースは酷く上下しますよー】

メモ2017/04/13 04:13 : 天雷☆YV/LbxVUS0Pr @kgb★Android-0bca4o0hXK

【注意】

勢いだけでやってます


なので設定ガバガバのガバナンスですはい(なに言ってるかわからない)


訳:サブ記事にはまともなものが書ける気がしない


注意

・第四の壁が存在しません

・ネタ、シリアス両方あります

・その他諸々あります

切替: メイン記事(50) サブ記事 (2) ページ: 1


 
 

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第1話 お粥に明太子混ぜると結構美味しい】


夕日が教室に差し込んでいる。

時刻は午後5時を割り込んでおり、時計の文字盤は照明がない分暗く見えた。

「おーい」

窓際の前から3番目の机に突っ伏し、居眠りしている男男子生徒に、黒いロングヘアーの女子生徒が近付く。

「クー…クー…」

まだ寝ている。
どこまでだらしないんだ、こいつは。

そう思いながら、今度は耳を引っ張った。

「いてえっ!!」

その拍子に彼は飛び起き、耳をさする。

「いってえな…ちぎる気か!?」
「お望みとあらば」
「怖っ!」
女に耳を引きちぎられるのを想像した彼は、一瞬顔が青ざめた。

「冗談はここまでにして、シリアスな話をします」
「…は?」
いや、シリアスな話とか求めてませんが…と突っ込もうとしたら、彼女の真剣な目はそれを言わせなかった。
「今夜、鍋にします」
「…それかよっ!?なんだ、シリアスな鍋って!?なんか逆に食いたくなる!」
盛大に場を冷やし、盛大に暖める。
彼女のからかい方のひとつだ。

「じゃ、そんなわけで帰るわよー」
「…あ、はい」

振り回されっぱなしだが、彼___峯風龍司は、彼女___黒月摩耶のサポートなしには生活出来ない。
毎日、本当に助かっているし、摩耶には感謝してもしきれない。

「ところで、今日の鍋は?」
「キムチ鍋よ」
「おいおい、夏も近いのに、キムチ鍋はちょっと…」
「そう?じゃあタバスコ鍋でも…」
するんと言い放った摩耶に、すかさず龍司は突っ込む。
「それただドギツイだけの鍋だから。暑さ吹き飛ぶどころか脳ミソ吹っ飛んじゃうから」

下駄箱から靴を取り、靴を履いて外へ出る二人。
「それにしても、暑くなってきたわね」
思えば、確かに暑く感じる。
「もう6月の下旬だしな。8月なんざ地獄だ。…あっちの世界はな」
「…あっちねえ…どんな世界かしら。1回行ってみたいものだわー」
「キムチ鍋が楽しみだなあ!」
うっかり口に出したが、こんなところで伏線を出すわけにもいかないよなあ、と強引に話を切った。

「いや、伏線出ちゃってますよ」
「え、マジで?隠したいんだけど、書き手が…」
と、筆者のせいにする龍司。

「発言がダメですよ龍司くん」

こうなるともう訳がわからない。
普通にキャラクターが第四の壁を突き破ってくるのは、銀魂みたいだからなんとなくアレだなあ、と摩耶は思った。

1ヶ月前 No.1

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第2話 制服は着ないとすぐに埃を被る】

龍司の自宅は、濃厚なキムチの匂いで充満していた。
床のフローリングに絨毯を敷き、そこにちゃぶ台が置いてあり、鍋と加熱器が乗っていた。
鍋はグツグツと煮立っており、鼻がイカれそうなレベルでキムチの匂いが噴出していた。

「熱い!」
部屋にキムチの匂いが染み込む前に片付けようとして、肉を一気に食べようとしたが、とんでもなく熱い。

「そりゃ鍋だもん。一気に食べようとしたって無駄よ」
「摩耶、謀ったな!?摩耶!!」
「ガルマの真似したってダメー」

そりゃそうだ。

「まあ落ち着いて食べなさいよ」
お母さんみたいなことを言ってくるが、せっかくの部屋がキムチ臭くなるのは抵抗がある。
まあ、それを言えばこの鍋を楽しむことは出来ないのだが、いずれにしても苦しいぞこれは。

息を吹き掛けて肉を冷ます。
「あーんでもする?」
「断る」
「ですよねー」

からかい方がもう恋人のそれでしかない。

「うん、うまい。さすが鍋奉行。」
「あらよかったわ。…この調子でもっともっと…」
「いらないです」


キムチの匂いがたっぷり染み込んだ部屋で、キムチの匂いがたっぷり染み込んだ鍋を片付け、床に寝転がってテレビを点ける龍司。

「アニメやってねーかなー」
「ニュースだけよこの時間帯は」

窓際の壁に掛けてある時計を見れば、時刻は午後10時を回っている。
「…お前、帰んないの?」
ふと龍司が訊く。
「帰ってもなんにもないしね。今晩も泊まってくわ」
「お、おう」
なぜ泊まるのか困惑する龍司。
別に俺の家もなんにもないんだが…。


翌日。
朝起きたのは、龍司の方が早かった。
二人分の皿を用意し、パンをオーブントースターに突っ込む。
焼き上がる間の時間を利用して、目玉焼きを作っていたとき、部屋から摩耶が起き出した。

「あ、おはよー。顔、洗ってきな」

「ふぁーい…」

寝起きは悪いのな…。
そう思いながら、龍司は目玉焼きをひっくり返した。

1ヶ月前 No.2

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第3話 推理小説では主人公が犯人だったりする】

授業が、だるい。

とにかく、だるい。

数学ともなると、とにかくだるい。

「ねみー…」

あくびが止まらない。

龍司は大きく一度あくびをすると、黒板に書かれた数式を怨めしく見つめた。

摩耶はと言えば、優等生らしく、ちゃんとノートを取っている。

黒月摩耶。
この真海学園の高校2年生で、ここのクラス、5組の学級委員だ。
容姿端麗、スタイル抜群、頭脳明晰…。
まさに完璧とも言える存在だ。

「…本日の授業はここまで」
教師の声が龍司の頭に響き、その拍子に緊張の糸が切れたのか、またひとつ、大きなあくびをしてそのまま机に突っ伏した。

「りゅー。おーい」
「…ん、なんだよ」
眠ろうとした龍司に話しかけてきたのは、沢谷という男子生徒だ。

「いや、次体育」
「…あ」
「さっさと着替えなー」
「うい」


グラウンドに敷かれたトラックに、6人の男が並び立った。
「徒競走とかだるいわー」
内側から3番目の列に立つ龍司がぼやく。
「お前得意だろ、体育」
右隣の沢谷が嫌みな口調で突っ込む。
「面倒なものは面倒なんだよ」
そう言っているうちに、破裂音が鳴った。

スタートの合図だ。

「えぇ…」
だるがりながらも、龍司は本気で走った。

そして一周し、ゴールした辺りでは、龍司が1位となっていた。

「やっぱだるい」
龍司がまたぼやいた。

1ヶ月前 No.3

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第4話 シリアスは突然に ―屋上争乱篇@―】

飯の時間。
龍司は適当に買った握り飯を屋上で頬張っていた。

買ったのは、ツナ、明太子、昆布とあとひとつだが、そのあとひとつの種類がわからない。

おもいっきりそれを口に放り込む。

「っ…!?」

酸っぱい!

梅干しか!

「チクショー、よく見ときゃよかった!」

今さら後悔しても意味がない。
我慢して食べる。

種だけが口に残った。

「…プッ」

梅干しの種を吹き出した。

しかし、それが運の尽きだった。

龍司が柵の近くで食べていたこともあり、種はそのまま柵を飛び越え、地上へ落ちていった。
そしてその種は、地上にいた良からぬ集団のところへと落下していた…。

「…あ」

良からぬ集団。
龍司はそれらを知っていた。

種が、不良の1人の頭に当たってしまった。

「んあ?なんか当たったなァ!?」
種が当たった本人は周りを見回し、足元に落っこっている種を見つけた。
「何だこりゃァ!?」
「シンさん、あいつじゃねーですか!?」
不良が屋上にいる龍司の姿を見つけ、指を差す。

「やべ、見つかった!」
面倒事は御免だ。
「待てェ!」
逃げようとした龍司の背中に、強烈な風圧と不良の声が投げ掛けられた。

(…!?こいつ…、ただ者じゃねえ!)
振り向いた龍司に、不良は捲し立てる。
「モノぶつけといて謝罪もなしたァ、ナメてんのかてめえ!」

不良は空を飛んでいる。
強い風が吹いていることから、奴は能力者…それも風を操るものだ。空を飛べるという辺りから言って、カテゴリー5の強者と思われた。

「…梅干しの種が当たってしまったのは謝罪します」
「あァん!?いまなんつった!?」
「ですから、梅干しの種が____」
言い終わらないうちに、不良が風圧と共にこちらに吹っ飛んできた。
慌てて右にステップした龍司の左頬を、不良の拳が掠めた。
「なんで!?」
「俺梅干し嫌いなんだよおおお!」
「はああああ!?!?」

こうして奇妙なシリアスバトルが始まった。

1ヶ月前 No.4

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第5話 サブ記事あるけど設定書くの面倒だからこの第5話で大まかな設定出すよ ―屋上争乱篇A―】

「おいサブタイほとんど告知じゃねーか!」
「なに言ってんだてめえはァ!」
龍司が第4の壁を易々と突き抜けて突っ込んだ刹那、不良の右足の裏が目に映った。
飛び蹴りだ。
風圧を利用した能力で蹴りの威力を上げているのは明らかだ。

「危ねっ!」
間一髪、それを避けた龍司。
その瞬間、激しい激突音と共に屋上の床に穴が空いた。

当たっていたら死んでいたかもしれない。

そしてそれが、龍司に戦うことを決意させた。

「やるしかないか…!」
「ブツブツうるせえ!」
右ストレートを放った不良。
しかし、次の瞬間に吹っ飛んでいたのは、不良の方だった。
不良は龍司の右手の裏拳を顔面にまともに喰らい、屋上の柵に吹っ飛び、頭から激突した。

鉄の柵が、耳を突ん裂くような金属音を立ててひしゃげた。

柵に激突した不良は、頭からおびただしい量の血を流しながら仰向けに倒れていた。

流石に能力者カテゴリー5でも、この打撃はキツイだろう。

今度こそその場を立ち去ろうとした龍司の背中に、不良が声をかけた。
「おいお前…」
「まだやるのか?」
「お前…カテゴリー8か…?」
血まみれになりながら、よろよろと立ち上がりながら言った。
「その目は…並みの戦闘で得られるイロじゃねえよ。たった1人で戦争を生き抜いたような、そんな目だ…。お前、一体何してきたんだ?何を経験して、ここにいる…?」


この世界では、能力を持っている者が多い。
戦闘にしか向かないような能力もあれば、本当に需要のない、全く以て必要ない能力まである。
それらのレベルは『カテゴリー』として分けられており、カテゴリーは0から10まである。それ以上もあり、それらはカテゴリー・アンノウンとされ、能力者の中では最強クラスであり、強さはチートレベルと言っても過言ではない。


「…さあな」
不良の問い掛けに、龍司はぐらかした。
「少なくとも、ヤンキー気取りのガキに教えることじゃねーよ」
そう吐き捨てると、龍司はその場から去った。

1ヶ月前 No.5

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第6話 ナンバー2って割とツラいからナンバー1に憧れるけどそこもそこでツラい ―屋上争乱篇B―】

鐘のような音が教室に鳴り響く。

始業のチャイムだ。

しかし、教師は教室に入ってこない。

普段は恨めしい黒板には、嬉しいことに、『自習』と書いてあった。

しかし、生徒たちに自習をする気はさらさらない。
あたかも自習していたかのような体を装うため、机に自習道具を置き、そして仲の良い友達と騒ぐだけだ。

龍司はと言えば、ずっと窓の外を見て黄昏ていた。

何故自習なのか、大体理由はわかる。

さっきの喧嘩だ。

あれだけの音がしたのだ、流石に誰も気付かない訳がない。

あの不良は、どうしたのだろうか。
屋上の上とはいえ、彼は仲間の前でメンツを叩き潰されたのは間違いない。

何かしらの報復があるかもしれないな____そう結論に達したときだった。

「ねえ、龍司くん」

摩耶の声だ。
しかし、どこか怯えたような声にも聞こえる。

「なんだ?」
振り向きながら応答する。
そこで龍司は、摩耶の蒼冷めた顔を目に捉えた。

「話があるの。休み時間になったら、第2階段に来て」

だいたい察した。
恐らく、屋上の事を見ていたのだ。

摩耶の能力は、『凍結(アイス・バーン)』。カテゴリー7の中堅だ。
その身体能力、応用能力も相まって、実質カテゴリー8ではないかとも言わしめる程。

だが______今はどうでもいい。

今は、これ以上勘繰られないことだ。

それだけが頭にあった、

1ヶ月前 No.6

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第7話 通常パートよりシリアスパートの方が大きくなってきたけどどうすればいいのかわからない ―屋上争乱篇C―】

自習時間、5時限目が終わった。

次の6時限目はちゃんとした授業をするようだ。

6時限目の教科書やらをカバンから引っ張り出しているとき、横目で摩耶の席を確認する。

いない。彼女は既に、第2階段に向かったようだ。

早く行かないといけない。

教科書やノートを机に叩きつけ、足早に教室を出た。


第2階段に着くと、やはりそこには摩耶がいた。

「どうした、摩耶?」
「…さっき、屋上で足柄くんと喧嘩したでしょう?」

やはり、見られていた。

「…そうだが」

摩耶のその目は、暴力行為を咎める目ではない。
虚偽を許さない目だ。

「私は龍司くんの暴力をどうこう言うつもりはないわ。あれは正当防衛だから」
「…」
確かに、あのときは逃げようにも逃げられないし、かといって受け流していればジリ貧となっただろう。

「私が何を説教したいのかはね…」

口ごもるところで察した。

「まだ隠してること、あるよね?」
「…あぁ、ある」
「…まず確認させて」
「…」
「龍司くんは、この世界の人間ではないのよね?」
「あぁ。そうだ」

「…で、この世界には、事故に遭った拍子に来た…これは?」
「…まあ」
はぐらかす。

「はっきりして」
しかし、有無を言わせぬ口調で彼女が迫る。
流石にこれを下手に隠せば、後々面倒なことになる。

「違う」
「…実際はどうだったの?」
「…死にかけたのは同じ。詳細は教えられない」
「…そう…。じゃあ、能力については…?」

見せてしまった以上、仕方ない。
「俺の能力は、『全強化(オール・マイティ)』。カテゴリーは多分8」
「元いた世界でも、能力者だったの?」
「…そうだ」

一瞬悪夢が脳裏に甦る。
だがそれを一瞬で打ち消した龍司は、
「これ以上は、言えない。知ったところで良いことはないし、上の奴らの耳に入れば、どうなるかわかったものじゃない」
「…私が信用できないの…?」

虚ろ目になった摩耶の肩を、龍司が掴む。

「信用してないわけじゃない。でも、情報は知れば知るだけ漏れやすいものなんだ。それぐらいわかるだろ?」

「…うん」

「俺はお前に恩義を感じている。そして俺が情報を開示しないのは、お前を守りたいからだ。生徒会や高麗の連中が本気出せば、いくらカテゴリー7のお前でも簡単に殺されちまう。俺はそうなってほしくないんだ」

摩耶の目から、涙がこぼれた。

「だから、今は教えられない」

「…ごめんね」

摩耶が俯いて謝罪した。

「謝るなよ」
龍司がハンカチをポケットから出した。

「さっ、早く教室戻ろうぜ」
「…うん!」
ハンカチを受け取り、涙を拭った摩耶と、龍司は教室へ向かい始めた。


屋上争乱篇 ―終―

1ヶ月前 No.7

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第8話 兎は寂しいと死ぬが人は虚しさで死ぬ】

休日。

やることがない。

龍司はソファに寝転がり、ニュース番組をただボーっと眺めている。
その様は、まさにニートと言えた。

しかし、やることがないのは当然のことだ。

時刻は、まだ午前5時。

やることがあったらむしろそっちの方が怖い。

_____とは言え、もうすぐ摩耶も起き出す頃だ。

「今日、なにすっかなあ」


ドアが開く音が聞こえた。
「おはよ〜…」
摩耶だ。
「おう、おはよ」

「相変わらず早起きねえ〜」

「相変わらず寝起き悪いな〜」

「うるさーい」

いつもの朝の会話だ。

キッチンでコーヒーを淹れながら、龍司は問い掛けた。
「今日どーするー?」

「んー、特にやることないわね〜」

共同生活の弊害だ。
住んでいるのが自分1人なら、自由にどこへ行っても勝手だが、共同生活ともなると自由とはいかなくなる。

「久しぶりに、自由行動ってどう?」

「そうだね、そうしよう」

こうしてこの日のスケジュールは決まった。

1ヶ月前 No.8

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第9話 落雷にはご注意を】

「いくとこねーなあ」

自転車に乗って、河川敷上の道路を走っている龍司。

とにかく行くところがない。


一方、こちらも自転車で商店街をブラブラする摩耶も、
「自由行動とか言ったけど、変わんないなーこれじゃ」
とぼやいていた。


「家でゴロゴロするかなー」

2人は同時に、同じ結論を出したのだった。


龍司の家は、第13マンションの一室である。

よって、彼の持つ自転車はマンションの敷地内の駐輪場に停められる。

駐輪場に着くと、反対側から摩耶がやって来た。

摩耶も、このマンションに部屋を持っているが、何故か龍司の部屋へ居候している。

「あれ、なんでいるんだ?」
「それはこっちの台詞よ?」
2人とも驚いた。

龍司はこのマンションの883号室に住んでいる。
5部屋もある大きなところで、摩耶が居候していても全く窮屈には感じない。
むしろ広すぎて困っていたほどだ。

龍司が煎餅が何枚か入った小さなカゴを持ってきて、床に置くと、その場に寝転がってテレビを点けた。
そしてソファに摩耶が寝転がる。
「お前もか」
すかさず龍司が突っ込む。
「いやあなたも」
摩耶も突っ込みで返した。
「煎餅ちょーだい」
摩耶が求める。
「はいよ」
すぐに煎餅を手渡す龍司。

2人揃って寝転がり、テレビを見るその様は、どこか和みを覚えた。

1ヶ月前 No.9

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第10話 知るは一時の恥、知らぬは一生の恥 ―晴天霹靂篇@―】

あの喧嘩騒動からかれこれ1週間。

騒動の捜査で、警察委員会が本格的に動いているという噂があったりする。

それもそうだ。

カテゴリー5を一撃で倒す、未確認のカテゴリー8保有者がいるということが確実となっているからだ。

だが、そのカテゴリー8保有者の龍司や、一般生徒である彼らにそれらが噂として伝わるということは、どういうことかなんとなく龍司は察していた。

_____そう、情報を流すことで、カテゴリー8探しを自発的にしてもらおう、と考えているのだろう。

そう結論付けていた。

(そんなうまくいかねーだろ…)

窓の外を見つめる龍司。

当たり前だ。

常識的に考えて、自発的捜索など望むべくもないだろう。
となれば、恐らくこの事件を何かに利用しようとしている連中がいるのか…?

勘繰れば勘繰るほど、この学園に立ち込める闇が深まっていくように感じた。

その時、頭になにかが当たった。
次いで、机になにかが落ちた。
思わず当たった箇所を押さえると、粉状の感触があった。
なんだこれ、と一瞬思ったが、机に転がっていたチョークを見て納得した。

「峯風、ボーっとすんな」

このハゲの教師が恨めしく思えた瞬間だった。

1ヶ月前 No.10

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第11話 ゴキブリは割と清潔な生き物だったりする ―晴天霹靂篇A―】

いつも通り、摩耶と帰路を歩いていた。

「宿題だるい」
「見てあげるから音をあげないでよ〜」
「やる気の問題」
「肉料理作ろうかな」
「やります」

犬か、俺は。

なんだか手懐けられてる感がするが、敢えてそこには目を瞑ろう。

「肉料理はなににするんだ?」
「うーんそうね…」
考え中。

まあ、咄嗟に思い付くのが難しいのが肉料理だ。

焼くか蒸すかだけでも相当種の料理となるのだから、いきなり考えるのは色々無理がある。

そうこう考えているうちに、龍司は不意に、背後から気配を感じた。

龍司はそこで立ち止まった。

摩耶がしばらく歩くが、そのうち止まっている龍司に気づいて振り向いた。
「どうしたの?」

あのときの不良…足柄と言ったか、彼の気配と同じだった。

「なんだ」
「ほう、噂の優等生と並び歩いてるのは、結構様になってんなあ?」

あのときと同じ声。

やはり足柄か。

頭に包帯を巻いている。まだ怪我は治らないようだ。

「慰謝料請求ならごめん被るぜ?足柄とやら」
「名前掴むの早いっすねえ峯風さん」

お互い、名前を知っているようだ。

しかし口調が違う。

改心でもしたか?

「…またボコられたいか?」
とりあえず脅す。

「いんや?ただ伝えたいことがあるだけさ」
そうか、あの時は激昂していたのか。
なら普段の状態がこれであると言われれば頷ける。

「なんだ、伝えたいってのは」

「カテゴリー8保有者の云々で、武警とサツが対立してる」

そうきたか。
しかし、この男の言うことを、素直に信じる理由はない。

「根拠を教えろ。でなけりゃ信用できない」

足柄は黙る。

しばらくして、ようやくその一言を言った。
「武警は生徒会転覆を目論んでる」

1ヶ月前 No.11

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第12話 ラスボスは意外と間近にいる ―晴天霹靂篇B―】

「武警が生徒会転覆を目論んでいる」
「おいもうストーリー的にラスボス出てきそうじゃねーかよ」
足柄の言葉に、龍司が突っ込む。
「安心しろ、ラスボスはあと数話出てこない予定だ」
「いや出てくんなよ。ラスボスはラスボスらしく寝とけよ」
「だがスケジュールが…」
「いや事件事故にスケジュールないから」
「作者の…」
「メタいわ!」

閑話休題。

気を取り直して。

「んで?つまりはアニメの最終回間近みたいなことが起こりかけてると?」
「そうだ」
「そうなったいきさつは?」
「以前から、武警には生徒会を…政権を転覆する計画があった」

足柄の言葉に対し、摩耶が信じられないといった目をしていた。
龍司は黙って聞く。

「数年前の事件や、月華帝国による侵攻で、当時武警を統帥していた穏健派幹部は軒並み失脚し、穏健派と対立していた武闘派が台頭した。これはわかるな?」

「それで、この学園の防衛機能をより高めることを考えたが、それをするには政権を転覆させるしかない、とれは考えたわけか」

「さすが。そこまで見えるとは」
足柄が笑う。
「んで、その計画を察知した警察が、計画を阻止すべく武警と対立した、というわけか」
「あながち間違いじゃあないな」

足柄がかぶりをふる。
まだ裏があるようだ。

「警察は決定的な証拠を掴んだわけじゃない。警察は『別の事件』として探りをいれてるに過ぎない」

1ヶ月前 No.12

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第13話 厄介事 ―晴天霹靂C―】

「別の事件…ねえ?なんだそれは」
訝しげに聞く龍司。
「武警と高麗が、裏で繋がってるという疑惑の追及だ」
相変わらず口調は重々しい。
喧嘩したときはこんな感じではなかったが…。

「待って!よくわからないんだけど、つまり今、警察と武警は、敵対状態にあるの?」
摩耶がひきつった顔で言った。
無理もない。優等生が普通聞く会話ではない。
「そうみたいだな。そしてそこへ高麗が介入している…」

高麗。
この『国』最大の犯罪組織。
構成員は数千名、武器密輸に麻薬売買、挙げ句の果てには周辺国で戦争があれば傭兵組織ともなる。
軍部、警察、武警に次ぐ第四の勢力として近年台頭してきている。

「…なるほど。つまり、高麗と武警が同盟を組んで、この国をどうにかしようと?」
全てを察した龍司は、淡々とそれを述べた。

「まだ完全にそうだと決まったわけじゃない。だから高麗と武警の繋がりを暴くために警察が探りを入れ、武警は武警で警察の汚職事件の捜査を進めてる」
足柄はそれに注釈する形で説明し、新たな事実も交えた。

「汚職事件ねえ…まさかただの職権乱用じゃないよな?」
「職権乱用然り、不正然り、なんでもござれで調べてるとよ」
なるほど。警察の腐敗を武警が叩き、武警の疑惑を警察が探り、というお互いの弱点を攻撃しあっている状態のようだ。

どの道いい風にはならないようだ。
しかし、原点の疑問は消えない。
「なんでそこにあの事件が入るんだ?それが訳わからんのだが」

発端というには、関係性が希薄すぎる。
いや、これではないに等しいだろう。

「武警はお前を欲しがり、警察もお前を欲しがっている。連中は最悪の事態を見越して実働戦力の増強を目指してるのさ」

なるほど。
つまり、対立状態が長く続き、その緊張の末に武警と警察が武力衝突すれば、学園及び軍部は警察に味方し、高麗が武警に味方をするという構図がよく見える。

つまり、アニメの最終回ちょっと前らへんの状態になるわけだ。

「つまり、いざってときのためか」
「そういうわけだ」

つくづくあきれた。

どーして異世界までシリアスなんだか…。

「んで、お前は俺にどうしてほしい?あとその情報はどこから手に入れた?」

「俺は魏龍の人間でな。俺の仲間もお前を探してるが、理由は大方仕返しのためだ。そんなことでうちの戦力を削ぎたくないし、その為にはお前に接触する必要があった。その経緯を説明出来るだけの材料を持ってな」

なるほど。

要は下手に動けば新たなカテゴリー8保有者であるのが俺だとバレ、面倒な事になる。
そうなれば、魏龍は高麗に次ぐナンバー2の勢力を失い、衰退してしまうかもしれない。

これもビジネスの1つ、というわけか。


「…わかった。元々動くつもりもなかったが、動きたくもなくなったよ。ありがとよ、俺も巻き込まれんのは嫌いなんでな」

「それが得策だな。こちらとしてもありがたい」

「礼は言わねえが、とりあえずご足労なことで」

「ビジネスの一環さ」

その言葉を最後に、足柄は踵を帰してその場を去った。

去っていく足柄の背中を見ながら、龍司はため息を尽いた。

「…厄介事は、動かなくとも向こうからやって来ることだってあるのさ…」

1ヶ月前 No.13

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第14話 襲撃 ―晴天霹靂篇D―】

その日の夜。

空腹を覚え、龍司は布団から抜け出した。

銀色に光る冷蔵庫を開けるが、すぐに食べられるものは入っていない。

仕方ないので、500円玉1枚をポケットに突っ込み、コンビニに向かった。

家から200メートルほど離れたところに建っている、エイティーコンビニならば夜食にうってつけのものが売っているかもしれない。

何故か下らない希望を抱きながら、街灯が照らす夜道をひたすら歩いた。

しかし妙だ。

夜とはいえ、車は全く通らないし、第一いつもこの時間帯ならあちこちにならず者が跋扈しているはず。

違和感を抱きながら、龍司は街灯が照らす夜道を、ひたすら歩いた。

コンビニまであと100メートルほどの交差点に来た。
横断歩道の信号は赤で、反対側の道へ渡ればコンビニに着く。
ここの信号、割と長いんだよな…そう思っている時だった。

突然、殺気を感じ、左横を振り向いた瞬間、黒い塊が飛んできた。
それが見事に左頬に炸裂し、龍司は吹っ飛ばされた。

吹っ飛ばされた龍司は、街路樹を1本薙ぎ倒し、花壇に背中からぶつかって止まった。

「ありゃ、違ったかこりゃ」

その声で顔をあげる。

敵の姿を凝視した。
黒いコートを羽織っており、顔はその黒いフードに覆われて見えない。
声音から男だとわかったくらいだ。

「カテゴリー8がこんな弱っちいわけないもんな」
声が若い。中学生か?
だが背の丈は高校生くらいだ。

しかし、その声は普通ではない、と龍司は感じた。
数々の死闘を制してきた、修羅の声。
龍司には、それがわかった。

「あっ…おお…」

龍司は"お前は誰だ"と言おうとした。
しかし、その時になって気がついた。

顎の骨が砕けている。
しかも、首の骨もかなり捻れて、殆ど折れている状態だ。

「へえ、驚いたな。まだ声を出せる力があったなんてね…普通なら死んでるから、その時点で充分凄いけどね」

龍司の『全強化(オール・マイティ)』は、身体能力を極限にまで上げるだけではない。
回復能力や思考能力、果ては生命力の極限上昇も可能だ。

従って、その生命力は龍司に死を許さず、回復能力は例え回復困難な怪我でもすぐに治ってしまう。

「て…んめえ…!」

顎の基部が治ってきたようだ。
呻くように、恨みを込めて言った。

「ふーん、凄いじゃん。あれだけの攻撃喰らって、すぐに治るって。やっぱり噂のカテゴリー8保有者かな?」

「んなこたぁ…どーだってぇ…いい…!」

首の骨の歪みは消え、砕けていた顎の骨は元に戻る。

「いってえなあ…てめえ誰だ…?」
顎を押さえながら言う。

「凄い殺気だね。まるで獣みたいだ。なにしてきたんだろうね?その拳は」

「ぼやかすなァッ!」
怒りのあまり、拳に力が入る。
気がつけば、足が動いていた。

1ヶ月前 No.14

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第15話 訓戒 ―晴天霹靂篇E―】

地面を右足が蹴った。
龍司は目の前のコート男に拳を打つために飛びかかった。

「でええいッ!」

一瞬で男の眼前に躍り出て、気合いとともに顔面に渾身の右ストレートを放つ。
しかし_____頭を打ち砕かんと放たれた拳は、全く効かなかった。

逆に、龍司の右拳から血が出ている。

「…なんなんだ、おまえ」

とっさに手を引き、バックステップで10メートルほど距離を取る。

あの頭は、とんでもなく硬かった。
鉄とは全く違う、異質の硬さだ。

そういえば、先の不意打ちのときも、拳の感触はあったものの、硬さは拳なんかよりよっぽど硬かった。

「お前の能力は…体を硬化させる『硬質化(スチール・モード)』…そしてカテゴリーは8だな?」
「ご明察〜。なら君は『全強化(オール・マイティ)』みたいだね。それもカテゴリー8の」
クソッ、こういうときに隠すのが難しいな、この能力は____龍司は恨み節を込めて心中で呟いた。

「目的はなんだ?俺を見つけることか?」
「うーん…わかんないな」
バカなのか。
俺の居場所がわかったら、真っ先に売るのが先決だろうが。
やはり殺してしまうべきか?

「もしかして、俺がお前を売るなんて想像してる?」
「当たり前だ」
「しないよそんなの」
「は?」
驚愕した龍司は、一瞬嘘かと思った。
しかし、次の発言はそんな龍司を否定するものだった。
「俺は強いヤツが好きなんだ。だから汚い手で倒すなんてことはしないよ」
飄々とした体を装いながらも、実は義理人情に厚いのか…?
龍司はそう思ったが、この男は更に斜め上を行った。

「強いヤツは汚い手ではなく、正々堂々勝負して倒すのが、一番気持ちいいんだ」

1ヶ月前 No.15

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第16話 仮面 ―晴天霹靂篇F―】

この男は、ただの戦闘狂であるようだ。
厄介だ。こういうのは日常だろうがなんだろうが、ズカズカ入り込んでは戦いを挑んでくる。しかも殺す気でだ。

どうすればいい…?
この場で殺すべきか?

「なにぼやっとしてんのさ!」

気がつけば眼前に男がいた。次いで、真っ黒な拳が、次いで迫ってくる。
龍司はそれを右手で手首を掴み、左手でその顔にジャブを放った。

____しかし左ジャブは男の右手に受け止められ、風圧が男の顔を覆っていたコートのフードを飛ばした。

初めて男の素顔が露となる。

まるで中学生のような顔だった。

そしてその表情は____笑っていた。

その笑みに、龍司は狂気を感じた。
本能が「こいつと戦うな」と訴えた。

だがそれでも、1度入ったスイッチは切れない。

右足で薙ぐような蹴りを、男の脇腹に叩き込んだ。
多少のダメージはあったようで、男は右手を掴むのをやめて左に飛び、ビルの壁に張り付く。

逃がさない、とその刹那に龍司が地面を蹴り、渾身の右ストレートを叩き込まんと飛び、男もビルの壁を蹴って拳を構えた。

_____その時だった。
龍司に向かって飛んだ男が、突然横から現れた男に蹴り飛ばされたのは。

「師団長よ〜、わからねえでもねえんだが、獲物を見て熱くなるはやめてくんねえっすかねえ?」

飛ばされた男はそのまま道に叩きつけられ、タイルを抉って土埃を上げ、見えなくなった。

新たに現れた男も、コートを羽織っている。
しかし、今度はフードをしていない。
いかにもそこらへんにいるようなおっさんの顔だ。

「すいませんねえ、うちのバカがちょっかいかけてしまってねえ?」
間延びしたおっさんの声だが、龍司には普通ではないと感じた。
あのガキと同じく、戦いと共に生きてきた、歴戦の戦士だ…。
龍司はそう感じ、それは間違っていなかった。

「おいおい、そいつは噂のカテゴリー8だよ?」

土埃から、さっきのあの声が聞こえてきた。
師団長、とか呼ばれていたが、それはなんなのか…?

「見てりゃわかるわい!だが少しは自重してくれよ〜、見つけて突き出して、俺らの計画に影響するようなことがあったら、それこそ終いだぜ?」
「そんときゃまとめてぶっ飛ばせばいいし、第一、俺はこいつと戦ったみたかっただけ。もし本気で殺し合えば、勝ち負け関係なくこの町が滅びるよ」

なんだこの会話。
龍司は心底突っ込みたかったが、それはなんとか抑え、別の話を横から切り出した。
「なあ、コンビニ行っていいか?俺腹へってんだけど」
「あー、いーんじゃね?このバカは俺が抑えるんで」
とおっさんが言った。
「お、そうか。じゃあな」
後ろを向いて、ちょうど青になっていた横断歩道を渡ろうとする。

だが龍司はそこでまたなにかが飛んできたのに気付き、それを振り向き様に右手で掴んだ。
「まだ終わってねえぞ?」
振り向いた龍司が見据えたガキは、投げナイフを投げてきたようだ。
その柄を掴んだ龍司は、それを足元に捨てる。
「残念だが、お相手は御免被るね。殺るんなら…また別の機会にお願いしたい」
弾みで言ってしまったが、こうでもしなければ戦い続けることになっただろう。
おっさんの方は全く呆れたという顔だった。
「やれやれ…獣は止めらんないねえ?全く、お前らには頭が上がんないよ」
本当に呆れたようだ。
ガキの方も口を開く。
「まあいいさ。また別の機会に、とお誘いをもらったんだ。今日のところはこれで下がろうじゃないか」
やっとこれで終わるな…。
しかし、まだ訊いていないことがある。

「お前、名前はなんだ?」
ガキを指差して訊く龍司。
すると、彼は胸を反らして名乗った。
「俺は高麗第八師団団長の烙影啓双。こっちは俺の副官、斑尾晃城。以後、お見知りおきを」

自慢気だが、結構重要な情報が入っていたのを、龍司は見逃さない。
高麗…。そうか、ヤツは高麗の人間だったのか…!

だが、今はあまり深入りしない方がいいだろう。

「そうか。じゃあな」
それで帰ろうとした。
後ろから声を投げ掛けられる。
「死ぬなよ?」
「当たり前だ」

横断歩道を渡りきり、後ろを向いたとき、既に2人の姿はなかった。

そしてそこで気がついた。

「俺、服血だらけじゃねえか!」

1ヶ月前 No.16

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【第17話 春眠 ―晴天霹靂篇G―】

まずい。
非常にまずい。

先の戦闘で、どこからか出血したのは間違いない。

そしてその血が、服を血に染めたのも疑いない。

問題は、このままではコンビニに入れないし、家に帰って摩耶に見つかったらかなり面倒である。

「あの野郎…!」

思い出すだけでも頭に血が上ってくる。
いや、大半八つ当たりだが。


とか思いながら、龍司は何事もなく帰宅し、何事もなく着替えた。
またコンビニへ行こうか迷ったが、このときは空腹より倦怠感が勝った。

そのまんま寝てしまった。



晴天霹靂篇 ―終―

1ヶ月前 No.17

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第18話 金は使えば失せていく】

ある休日、龍司は1人で商店街を歩いていた。

学園の中心、学都・歳礼の近郊にある六番商店街だ。

____因みに、龍司が住んでいるのは歳礼南西の八番住宅街で、通っているのは第三高校だ。


ともあれ、摩耶は今日、所用があって家を空けており、龍司も予定もないのでとりあえずフラフラしていたら六番商店街に着いたという次第だった。

とりあえず、来たからにはなにか買わなければいけないという強迫観念が芽生えてしまうのがこの商店街という場所なのだろうか。
何故かチキンカツが買いたくなっていた。

「おばちゃん、チキンカツ1つ」

揚げ物屋で150円のチキンカツを買うと、そのまま食べ歩いた。

「にしても、説明詐欺だよなあこれ…」

龍司が差しているのは、この小説の事だ。
堂々と第四の壁突き破るのは、彼の得意技だ。

「なあ、筆者は『戦闘シーンには力入れる』とか言ってたじゃん?でもリア友にこれ見せたら、『日常シーンの方が力入ってんじゃね?』とか言われたらしいじゃん?」

これ以上はナレーターとしては言ってほしくないところだ。
しかし彼はお構いなしに続けた。

「しかも、『シリアスストーリーの方が日常より圧倒的に多いぞ?』とさっき気付いたらしいぜ?アホじゃね?つうか、これを人に見せたがる辺り、もうただのバカにしか見えないと思うの」

なんでこうも堂々と言えるのか、不思議である。
第四の壁は突き破るものではないのに…!
破ってはいけないとうのに…!

「てかさ、シリアスストーリーの締め方、下手くそじゃね?最初の屋上争乱篇とか、ラスト俺と摩耶イチャつかせておしまいじゃん?さっきの晴天霹靂篇なんて、最後めんどくさがって締めたじゃん?完全に勢いだけでやってます感満載なんすけどこr」

これ以上は不味い、と判断したので、これにて第18話を終了させていただきます!
「最後も雑じゃねえか!」

1ヶ月前 No.18

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【第19話 神の髪は紙1枚より薄い】

ある日の夕食後。
龍司はいつも通り寝転がってテレビを見ていた。

だがそれは『とりあえず目に写してるだけ』である。

それ以外にすることがないというのもあるが、自室で寝転がるよりはここにいた方がなんとなく気分がよくなるということもある。

しかし、なんにもないのにここで寝転がるのもあれなので、こうしてテレビをつけているわけだ。

しかし、眠気が襲ってくると話は別だ。

「なー摩耶」
「ん?」

台所で皿を洗う摩耶に声をかける。

「俺そろそろ寝るわ」
「ん、わかったわ。また明日、よろしくね」
「うい」

そう言うと、立ち上がってそのまま部屋に行った。


1ヶ月前 No.19

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第20話 実は金閣寺は1回燃えてる】

朝起きると、珍しく摩耶が先に起きて朝食を作っていた。

「珍しいじゃん」
「気が向いたのよ」

彼女はそう言うと、フライパンの目玉焼きをひっくり返した。


朝食を終え、歯を磨いて制服に着替えて学校へ向かう。

一般的な家庭の朝は、この家の場合にも当てはまる。
唯一違うのは、親がいないことだが、親がいないことでこの共同生活は成り立っていた。


教室に着けば、何故か変な目で見てくる生徒がちらほらいる。

それもそのはず、龍司は様々な事情があって摩耶という女性と生活し、摩耶も摩耶で諸事情あって龍司という男性の家で生活しているのだ。

それはクラスのだいたいは生徒は知っていたし、良識ある者は事情は知らずとも理解している。

しかし、それを交際と捉える者も中にはいるようで、そんな輩があらぬ噂を立て、広げる。

だが龍司も去るもので…。

「草鹿、火消し頼む」
学級委員の草鹿剣。
性格もよく、成績もよく、能力者カテゴリー7でもあるこのザ・優男な彼は、龍司の親友の1人である。
「わかりました、任せてください」
誰に対しても、例え緊急時でも敬語を使うのが玉に傷だが、別にそれは問題ないだろう…。

「ちっすりゅーちゃん」
「いつになくチャラいな」
沢谷だ。
やはり朝はみんなテンションが低いと言うが、彼は全く違った。
朝からバカ全開だった。

1ヶ月前 No.20

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第21話 鹿のツノはかなり痛い】

「なありゅー」
「なんだサワ」
休み時間、居眠りをする龍司の元に、沢谷がやってきた。

彼曰く、「暇だから放課後に商店街いこうぜ」とのことだった。
この日はあいにく四時間授業で、午後は完全にやることがなかったので、丁度いい用事といえばそうだった。

「じゃあ私も混ぜてくれる?」
摩耶だ。
まだ龍司は了承していない。

…どうやら、行かないという選択肢はないようだ。

「おう、わかった。持ち合わせがないから沢谷が持てよ?」


龍司と摩耶は金銭面を沢谷に丸投げし、商店街へ向かった。
沢谷の顔が青銅器顔負けレベルで真っ青だったのは言うまでもない。

「お、あそこのチキンカツうまいぞ」

ここは以前来た六番商店街だ。
摩耶も沢谷も名前は知ってるが来たことがないそうで、紹介して回っていた。

例のチキンカツを早速紹介するが、
「ふーん」
「へー」
と二人は流した。
「え、なにその無反応」
すかさず突っ込む。
「第18話で一瞬出てきたからみんな気になってると思ったんだが」
「平然と第四の壁を突き破るな!」
沢谷が突っ込み返した。

閑話休題。

龍司たちが商店街を一回りした頃に日が暮れ、買い食いしたために腹も膨れていた。

「んじゃ、俺はここいらで」
と沢谷は別れ際に言うと、六番商店街北口から外へ出た。
…あいつ、たしか帰る方向は南じゃなかったかな…?と龍司は思ったが、敢えて口には出さなかった。


帰り道。
摩耶と二人で、夕暮れの街を歩いていた。
「あいつ、顔真っ青だったな」
沢谷のことだ。
彼は、今日買ったものを全額払わされている。
財布はさぞかし寒いだろう…。
「確か、合計で2万6750円買ったわね」
「よく覚えてんなお前」
すげえよ摩耶は…買ったものの金額を覚えてやがった。
まあ、これくらい覚えてなきゃ学級委員は務まらんのだろうな…。
そう思いながら、龍司は摩耶の能力に感服した。

大きな鉄橋に差し掛かった。
この橋は八塩橋と呼ばれ、その下には勝喇河と呼ばれる大きな川が流れている。
そして、この川の対岸に龍司の住む八番住宅街がある。
ガードレールの向こうの車の往来とエンジンの音がこだまするなか、二人はまっすぐ歩いていく。

橋の真ん中に来たところで、異変は起きた。
「なにか聞こえない?」
「なんかって…?うん?」
龍司はそこで摩耶と同様に気がついた。
エンジンの音に混じって、なにか1つ、違うものがある。
「…悲鳴?」
龍司がそう勘づいたとき、咄嗟に上を見上げると、1人の少女が降ってきた。
「ウワーーーーーーッッッッ!!!!」
「親方ー!空から女の子がー!」
降ってきた女性と、龍司の声が重なる。
「早く受け止めィ!」
摩耶が突っ込む。
直後、龍司は少女を両腕でどうにか受け止め、地面へ降ろした。

「よっ…と…。怪我はないか?」
「う、うん…」
少女の顔は赤く染まっていた。
まあ無理もない。なんせ、お姫様だっこの要領で受け止めたのだから。
そして龍司は絶句した。
そう、少女は_______美人だったのだ。
(…摩耶もなかなかだが、これも…。俺は恵まれてるな!)
二人を交互に見て、一瞬鼻の下が伸びる。
それを横目で見ていた摩耶に、龍司は橋から突き落とされた。
川面が大きく揺れ、水柱が立った。
「ぶはッ!なにすんだ!?」
川の底から浮き上がり、水面から顔を出した龍司は、摩耶に抗議する。
「美女を見ていかがわしいことを考える変態お断り!」
「はァ!?んなこと考えて…はい、考えてました」
その瞬間、クナイが龍司の額に突き刺さった。

1ヶ月前 No.21

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【第22話 坂本龍馬と吉田松陰を間違える教師が極稀にいる】

引き続き橋の上だ。
「…で、聞いてなかったけど、名前は?」
びしょ濡れの龍司が少女に名前を訊く。
「私は宮古愛宕よ。さっきはどーも。愛宕と呼んでちょうだい」
割と声が高い。そしてその声はどこか高飛車な印象を抱かせた。
愛宕と名乗った少女の背丈は龍司や摩耶とそこまで変わらず、その端正な顔立ちも幼いわけではない。
「俺は峯風龍司。こっちは黒月摩耶」
「なんで空から降ってきたの?」
今度は摩耶が質問する。
そらそうだ。いきなり空から降ってきたのだ。
疑問に思わないわけがない。
「あー、それね」

「さっき、あそこから飛んだのよ!」
愛宕が指差した先は、龍司から見て南、川の対岸にある大きな電波塔だ。
高さはゆうに200メートルを超える。
「はァ!?」
「え、まさか、あなた能力者?」
驚愕する龍司の横で、摩耶が更に問い掛けた。
「そうよ!私の能力は『物体浮遊(エア・クラフト)』。カテゴリー6よ」
中級カテゴリーの能力者…。
戦闘にも日常でも使える、汎用性の高い能力だ。
「触ったものは浮かせられるわ」
そう言った愛宕の目の前で、龍司が宙に浮いた。
無重力状態とやらに近い状態を味わいながら、能力の内容わ思い出した。
「…なるほど、中級カテゴリーの物体浮遊は、能力を解けば着地するまで再発動はできないってわけだな。そして、宮古は」
「せーかい!龍司すごいわねー」
「タメ口を許可した覚えはない」
「堅ッ苦しいわねぇ〜?禿げるわよ」
「禿げねえよ」
「はいはい二人ともそこまで」
摩耶が割って入った。

閑話休題。

摩耶と愛宕と龍司は、橋を渡りながら会話を交わしていた。
「つまり、愛宕はあの塔から気晴らしに飛んでたら、うっかり解除して落下して、こうなった、というわけか」
「そ。もーほんとイライラしててさー」
なんだか放置していたら面倒なことになりそうだ。
ここはガス抜きに、話を聞いておこうと摩耶は判断した。
「なにがあったのか教えてくれる?」

1ヶ月前 No.22

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【第23話 カビの生えたパンを食べるのはやめましょう】

「よかったら、なにがあったのか教えてくれる?」
「うーん、どーしよっかなー」
テストの点が悪かったのか?と摩耶は察し、龍司は友人関係かと思った。
「そーねえ、まあ簡単に言うと、うざったいのよね」
「なにが?」
「親よ。ああしなさいこうしなさい、貞淑を装え、大人しくしてろ宮古家の家風はこうだ、こんな男と付き合え、金もないやつと付き合うな、てさ」
もしこれが本当なら異常な親だ。
どこかの名家か?
「んで、イラっとしてたからたまに飛んでたのね」
「そうね。空を感じてると、全部忘れられるのよ」
「危なっかしいわねえ」
「やめらんないのよ〜」
恍惚な表情を浮かべる愛宕と、それを呆れた様子で見つめる摩耶。
女子トークの進み方がよくわかった龍司だった。

「ところで摩耶もそんなことなーい?」
「え、なんで?」
「だってさー、こんな冴えない彼氏持って、イライラしない?」
「はァ!?」
「ちょっと待って、私達、付き合ってるわけじゃないわよ!?」
龍司と摩耶が全力で愛宕の問い掛けを否定する。
「知ってるわよ」
あっけらかんと言い放った愛宕。
「だいたい、そんなことに時間を費やす連中がいるなんて、わけわかんないわ」
「え?」
これはつまり、愛宕は恋愛を理解してないのか…?
「意外ね。宮古さんは、そーいうのに翻弄されるタイプかと思ったわ」
「ひどいわね〜、人をビッ○のような言い方しないでよ」
「失礼しました〜」
微笑みながら言う摩耶。反省の色はゼロだ。
愛宕の顔はかなり不満そうだ。

二人とも、深層の本質が似ているからなのか、ここまで打ち解けるのにそう時間が掛かっていない。
まあ元々、摩耶はフレンドリーな性格であるし、恐らく愛宕も同様なのであろうことは龍司も理解していた。
「んじゃ私はここで。家あっちだから」
と橋を渡ったところで、愛宕と別れた。
「気を付けて帰れよー」
既に日は落ち、辺りは完全に暗くなっていた。

こうして、長い1日は終わった。

1ヶ月前 No.23

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【第24話 ツンデレは扱いがめんどくせェ!】

愛宕と出会ってから数日が経った。

今日は休日で、龍司はいつも通り終日ゴロゴロする予定だった。
が、しかし…。

「ん…?暑ッ苦しいわね…」
蒸し暑さで起床した摩耶は、真っ先に時計を見た。時刻は午前10時だ。
気温は21度、若干暖かいといった感じだろうか。
しかし、起きた瞬間の暑苦しさを説明するには、それは足りない。
「ん…」
「うん?」
誰かの声が一瞬聞こえた。
しかも、どこかで聞き覚えのあるトーンだ。
そういえば、さっきから右から温もりを感じる…そう思って右を見ると、そこには愛宕が寝転がっていた。

「…」
「ん…。…あれ、起きたの?」
むっくりと起き上がる愛宕は、目を擦りながら寝惚けた口調で言った。
「いや、あなたどこから入ったの!?」
と摩耶は盛大に突っ込む。
そしてその時、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。
そこには龍司がいた。
「おい摩耶、どうし…はァ!?」
「え、ちょ、龍司くん、そうじゃないのよ!?そうじゃないからね!?」
「お前ら、そ、そそそういう関係だったのか!」
「ち、違うから!起きたらこの子が!つうか私レズじゃないから!」
「あら〜?じゃあ龍司も混じる?摩耶ってすごいわよ?」
「なんの話!?」
「決まってるじゃない。恋人同士と言えば、【規定により削除されました】くらい当たり前でしょ?」
「さらっと変なこと言わないでよ!?私そんなの興味ないからねっ!?」
「お、じゃあ混じろうかな」
「龍司くんも乗らないで!」

「いやー、マジでびっくりしたわ。なんかすげえ声が聞こえたから開けてみたら、こんなことになってるとは…」
リビングで、摩耶と龍司が神妙な表情で言葉を交わす。
「え、龍司くん心当たりないの?」
「さあ…?」
ないといえば嘘になる。
なんだか夢のような気もするが、深夜に愛宕と会ったような覚えがあるのだ。
そこへ、摩耶の部屋からひょっこり顔を出した愛宕が横槍を入れる。
「なに言ってんのよ。入れてくれたの龍司じゃない」
「はァ!?」
「えっ!?」
まさか、と龍司は思ったが、まさかあの夢は正夢だったのか…!?
「夜中にここ来たら、龍司が入れて、摩耶の部屋で寝かせてくれたじゃない」
「マジかよ…」
「と、とりあえず、来た訳を教えてくれない?」
「そーね、私しばらくここに居候する予定だし、話しとくわね」
(居候する予定なのかよ…食費とか学校出してくれっかな…?)
龍司の関心は理由より食費にあったのだった。

1ヶ月前 No.24

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第25話 これよく考えたら主人公ハーレム状態だよな羨ましい】

愛宕がここに来た理由は、十数時間前に遡る。


愛宕が橋に落下し、龍司たちと出会い、橋を渡ったところで別れた後だ。

「はあ…帰るの憂鬱ね…」
愛宕はそう呟きながら、ドアを開け、家の中に入った。

「愛宕!こんな時間までなにをしていた!?」
頭上から振り下ろされる野太く大きな声は、愛宕の耳に叩きつけられる。
立ちすくみながら恐る恐る見上げると、そこには愛宕の父親がいた。
老け顔、白髪で筋骨隆々のこの父親が、愛宕は大の苦手だった。
「ふん!どうせクソつまらん男の元で淫らに遊んでおったのだろう?愚か者めが」
その言葉は毒舌の域を遥かに超えており、しかもそれが長々と続くのだ。
並みの者なら精神崩壊待ったなしだろう。

おまけに腕っぷしの相当立つ。

小学校の頃、この父親の毒舌に参っている旨を教師に話し、どうにかしてもらおうとしたが、その教師は口を開く間もなく簡単に捻り倒されてしまった。

「父さんは貴女の為に言っているんですよ!」
台所から母も出てきた。
この母は、父親の言うことに倣う、いわばイエスマンと言っても過言ではない。
しかもその声はどこか、耳だけでなく頭もイカれるレベルでうざったい。

この毒親が揃えば、数時間説教など当たり前だった。

しかし、この日は違った。
「まあよい。じきにお前とは、しばらく会わなくなる」
「…え?」
うなだれていた愛宕が、驚きのあまり顔をあげる。
「お前は今から、修行に出る。ワシらのところでは、どういうわけかこれ以上は育たんだろうからな」
事実上の勘当とも捉えられる発言だ。
いや、愛宕としては、ある意味嬉しい言葉だ。
毎日毎日、あの腐った説教を数時間も聞く必要はないのだ。
「学校も第三高校へ転校だ。あそこならお前の腐った根性も叩き直せるだろう?なに、改心したならすぐに帰ってこい。また元の第五高校へ戻してやる」
(誰が帰るもんか!)
父が温情を込めたであろう最後の一行も、愛宕には傲慢にしか聞こえなかった。
「…わかったわ。じゃあ、荷物取っ払ってさっさと行くわ。修行するなら、少しでも長い方が良いでしょ?」

愛宕はこの家から出たくて仕方なかったのだった。

そして愛宕は1時間後に家を出た。
キャンプ用品や生活必需品、ケータイ、カメラ、勉強道具、教材などを目一杯詰めているリュックサックは、今にもはち切れんばかりに膨らんでいた。
行く宛はない。
何故なら愛宕には、友達らしい友達がほとんどいないのだ。
幼い頃から、宮古の家名を背負っているが故に、周りに人が近寄ってこないのだ。
「家の宿命…か」
こんなときも親が邪魔を______!
憎悪の念が沸き起こった。
そしてしばらく、とぼとぼと歩き続ける内に、
「…そういえば…」
と思い出した。
数時間前、あの橋の上で出会った二人を。
彼らなら、泊めてくれるかもしれない______!
そうして六番住宅街へ向かった。

1時間ほど掛けて、六番住宅街に着いたは良いが、龍司の家なんて全く検討がつかない。
とりあえず、愛宕はまた小一時間ほど歩いた。
勘に任せて歩き続け、勘に任せて探し回った。

六番住宅街の中心に近いところまで来た。
ここらへんまで来ると、もうほとんどなにがなんだかわからないレベルで家が多い。

もう諦めようか、と思ったその時、頭に電流のようなものが走った。
咄嗟に後ろを振り返ると、そこにはマンションがあった。

勘を頼りにマンションの敷地に入り、渡り廊下を通る。
階段をいくつか上がって、その度に目を見回して『峯風』、もしくは『黒月』の表札を探した。

そして、ようやく見つけた。
表札には『峯風』と書かれており、彼のもので間違いない。
おもむろにチャイムを押す。
数秒経ってから、中からゴトゴトと音が響き、次いでドアが開いて人が出てくる。

龍司だ。

「あれ?愛宕じゃん」
寝惚け眼の龍司は、愛宕の姿を捉えても全く動じない。
夢の中とでも思っているようだ。
「ちょっとさあ、家追い出されたから、泊めてくんない?」
「いーぞぉ…」
言ったそばから欠伸が出る龍司。
そのままドアを全開にして家の中に愛宕を招き入れた。
「空いてる部屋ないから、摩耶の部屋で寝ちゃって」
龍司は廊下の奥のドアからリビングに入るなり、そう言った。
(え、まさかあの二人、同棲してんの!?)
と一瞬動揺したが、部屋は別々なことから、共同生活と言った方が正しいようだ。
「摩耶ー、失礼するわよ〜」
恐る恐る摩耶の部屋にはいる。
そしてその瞬間、今までの疲労が一気に出たのか、愛宕は摩耶と同じ布団に入って寝てしまった。


「お前じゃねーかッ!」
愛宕の回想が終わるなり、龍司は摩耶に右頬を蹴っ飛ばされ、頭から壁に突っ込み、めり込んだ。

「いってーわ!殺す気か!」
壁から抜け出し、頭から血を流しながら猛烈に抗議する龍司。
そんなことはお構い無しに、摩耶は愛宕に向かい合った。
「まあ事情はわかったわ。…で、どうするの?」
「私としては、しばらくここに泊めて貰いたいわ。…とか言っても、長居しそうな気がするけどね」
「俺としては、どっちでもいーぞ。食費さえどうにかなれば後はどーだっていーし」
愛宕は思った。
彼は、龍司は本当にいい人だと。
「ま、風評被害が増えるのは待ったなしだけどな!」
と龍司は笑って言った。

1ヶ月前 No.25

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第26話 摩耶と愛宕って二人とも山の名前だった知ってた?次の女キャラの名前は川の名前かも】

愛宕が我が家に来てその翌日の月曜日の朝。

「おはよ〜…あら、この家の朝食当番はあんたなのね」
「そうよ〜」

龍司が朝食の用意をしていると、二人がぼちぼち起き出してくる。
「おかげで朝が楽なのよ〜」
「こっちは好きでやってっからまさにWIN-WINってやつだ」
「私の寝起きが悪いだけよ」
「ハハハッ、それもあるな!」
むくれた様子で摩耶が言い、龍司がそれを笑う。
「夫婦みたいね〜そのまま結婚しちゃえば?」
冗談じみた口調で愛宕が冷やかす。
「あー、そうだな、じゃあそうしようかな」
「いや本気にしないでよ」
とぼける龍司、突っ込む愛宕。
もうなにがなんだかわからなくなってくる朝だ。
平和だな、と龍司は思った。
しかし、彼女は違った。
「けっ、結婚…!?私と、龍司くんが!?」
「えっ!?」
「真に受けるな!」
そしてその瞬間、頬を真っ赤に染めた摩耶は昏倒した。

1ヶ月前 No.26

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第27話 さっきゲームのデータが全部吹き飛んだから運営に報告してみたらそんなことはないとか言われたけどどうしよう】

「それにしても、さっきはホントびっくりしたぜ〜」
「もーやめてよー…恥ずかしいんだから…」

昏倒した摩耶はなんとか再起し、仲良く朝の道を歩いているというわけだ。
ちなみに、龍司は既に同じセリフを6回くらい言っている。この度に摩耶が恥ずかしがっている。
よほどのことだったのだろう。
まあ無理もない。
結婚云々の冗談で倒れたなどと誰かに知られれば、それだけでかなりヤバい。とんでもなくヤバい。

そんなわけで、この話は共有の秘密となっている。

だがは龍司は、歩みを進める度に違和感に気づいている。
「ところでだがなんでお前は俺らにぴったりなんだ?」
『お前』とは、愛宕のことだ。
着ている制服も摩耶の制服と同じ、即ち第三高校のものだ。
「え?私は三高に転属したのよ?」
「はあッ!?聞いてないぞ!?」
「いや言ったわよ」
「いつ!?」
>>25 の回想で」
「第四の壁を破るな!」


《「学校も第三高校へ転校だ。あそこならお前の腐った根性も叩き直せるだろう?なに、改心したならすぐに帰ってこい。また元の第五高校へ戻してやる」
(誰が帰るもんか!)
父が温情を込めたであろう最後の一行も、愛宕には傲慢にしか聞こえなかった。》

「親父さんの言葉かよッ!?」
「まあともあれ、私たちの学校へ来るのね。…クラスは?」
「1年5組よ」
「俺らのクラスじゃないか!」
さっきから驚愕の連続で顎が外れそうな龍司。
「そうなの!?」
愛宕もかなり驚いているようだ。
それもそうだ。
自分が居候している家に住んでいる人たちが、同じ学校同じクラスともなれば、そんな反応になるに決まってる。


そうやって歩いている内に、龍司たちは学校、第三高校に着いた。

1ヶ月前 No.27

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第28話 ヤバい人はヤバい】

「今日からお世話になります、宮古愛宕です!」

龍司のクラスに、愛宕がやって来た。

まあこの朝にそれ知ったのだから、別段驚きもしない。
窓際の席に座る龍司は、退屈な顔をしたままだった。



愛宕の驚愕の能力が明からとなったのは、その直後の授業、1時限目の体育だった。

この日の体育は、かんと抜き打ちマラソンだった。

第三高校の、というかこの学園のグラウンドは、軒並みクソ広い。普通に全周8キロはある。
そしてそれを、このマラソンでは3周させられるのだから、終わった頃には大抵の者は倒れる。

…摩耶はとりあえず出来る方だが、俺に比べれば全然だ。
まず龍司は能力の影響でただでさえ身体能力が常人より相当高いので、比べるのはおかしな話とも言えるが…。

まあ龍司からすれば、軽くひとっ走りするレベルのマラソンだが、この日は彼もなぜか本気になった。

何故なら____

今、真横で走っているのは、他でもない、愛宕だ。

(嘘だろ!?こいつの能力はエアクラフトじゃなかったか!?)
龍司は軽く走っているつもりだったが、いつの間にかどんどん足が速まる。
それは愛宕も同じだった。
(えぇ!?なんでこんな速いの!?)
愛宕も龍司を追い抜こうと躍起になる。競争本能からか、足が自動的に速まっていく。


「速いわよ二人ともぉ!」
後ろから摩耶からの悲鳴が飛ぶが、龍司と愛宕には届かない。
「やるわね!あんた!」
「お前こそ、ついてこれるとはな!」
龍司と愛宕は、他の集団を大幅に引き離して、なお加速していく。
「あとどれだけ持つかしらね!」
「ほざいてろ!」
ついに龍司が本気になった。
彼は本格的に能力を使い始めた。
加速速度はそれまでの数倍となって愛宕を抜いていく。
「…!凄い…!」
しかし愛宕も去るもので、すぐに龍司に追い付いた。
「お前…!」
「お互い全力でいきましょう!」
「望むところだぁぁぁぁッッッッ!!!!」
「おおおおおおおおッッッッ!!!!」
「であああああああッッッッ!!!!」
二人は後方集団を遥かに引き離し、半周分もいいところ、更に1周、2周と回った。

二人はまるで食い合うようにして最終走に入った。

「俺が勝つ!」
「私が勝つ!」
「だったらもっと速く走れ!」
「その言葉、そのまま返すわ!」
肩で息をしながら、超人的な走りを見せ、なおかつ低俗ながらも舌戦を繰り広げる龍司と愛宕。
それは、他の生徒が後に語り継ぐ程の激しさだった。

恐らく武器を持たせていたら、本当に殺し合いそうなレベルの壮絶な殺気を帯びた二人は、同時にゴールした。

それはなんと、ビデオで確認し、測定できる限りの秒数も同じ、つまり同着と言う信じられない結果だった。

「ハァ…ハァ…最高だったぜ、愛宕」
「私こそ、久しぶりにまともに張れる奴見つけられて嬉しいわ…ハァ…ハァ…」

そしてこのあと、龍司は教師にめちゃくちゃ怒られた。
内容は、「あれほど速く走れるんならなんでそれを出さない!?」というものだった。





因みに、龍司と愛宕の対決はこの後もマラソンがある度に勃発し、その戦いは『龍王会戦』と呼ばれ、何度も起こるにつれて『第○次』と頭につくようになった。

1ヶ月前 No.28

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第29話 チート能力持ちが二人いるわけない】

更に愛宕の能力というか、才能が明からとなったのは、他にもある。

2時限目は数学の授業で、面倒な数式を解けと言うものだった。

龍司は勉強はからっきし苦手だ。
なので、ここでは龍司の活躍は見れない。
しかし、読者諸君は忘れてないだろうか。
この小説のもう一人の主人公の才能を…。

「じゃあ、ここの20問解いてくれる人〜」
「はい!」
教師が言葉を発した瞬間、摩耶と愛宕の声が重なった。

二人の計算速度は超人的で、二人に割り振られた10問ずつの問題など、3分足らずで全て解き、それを黒板に現した。
「先生!もっと、もっと問題ください!」
摩耶と愛宕の目は、互いを高め合うと言うより、戦いを欲する獣に近い目だった。

教師はその気迫に押され、教科書から問題を捻り出しまくった。

それらを次々に解き、黒板にチョークで書き込んでいく。
教室にいる面々は、二人以外、龍司も含めてポカーンとしていた。
一堂の頭には、共通の言葉が現れていた。

「すげえ…!」

(愛宕…すごいわ、この私と張れるなんて…!)
(摩耶すげー、今まで私とまともに勝負できたの殆どいないわよ!?)
二人は同時に、互いを認めあっていた。


そして授業時間が終わる頃には、殆どの生徒が疲れきっていた。

「次もよろしくね、摩耶!」
「あなたこそよろしく、愛宕さん!」

余談だが、この数学勝負は『山岳会戦』と呼ばれた。
山岳会戦というのは、摩耶も愛宕も、山の名前が彼女の名前であることから言われるようになった。

そしてこれも余談だが、この山岳会戦は、数学の授業が来る度に繰り広げられ、この度に第○次山岳会戦とついた。

1ヶ月前 No.29

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第30話 劣化したゴムボールの表面を剥がすと異臭がする】

セミが鳴き始め、暑さも本格的に厳しくなってきた。
生徒たちお待ちかねの夏休みも近くなり、大抵の者は緊張が緩みきっている。
だからと言うべきか、なんと言うべきか、この第三高校でも奇人変人が目覚め始め、喧嘩や事件が起こることも、珍しくなくなっていた。


放課後になった。
摩耶はこのところ、委員会の仕事で龍司と帰ることは滅多にない。
夏休み前の雑務があるのだろう。
では独りで帰るのかといえば、そうではない。

放課後の教室。
自分の席で居眠りする龍司。
「龍司ー!」
「おう、なんだよ愛宕」
「一緒に帰りましょ!」
「…おう」

少し前ににこの学校に転校してきた我が家の第二の居候、宮古愛宕。
最近ではもうすっかりクラスに馴染み、少しお転婆な活力溢れるリーダー的存在としてクラスの女子をまとめあげている。
だが、帰るときは何故か絶対に龍司と帰る。
理由はわからないでもないが、とりあえず聞かないでいる。
まあ、愛宕としては、理由を聞かれたところではぐらかすしかないし、理由を聞かずにこうして黙って一緒に帰ってくれる龍司をありがたく感じていた。

「おや、もう帰るのですか?」
「ああ、本当はもー少し寝ていたいがな」
背後から呼び掛けられた。
学級委員の草鹿だ。
彼は放課後、よく教室に残って仕事やら何やらをしている。
現在、教室には龍司、愛宕、草鹿の三人しかいない。
いつもは夕日が差すこの教室も、夏なので日が長く、まだまだ明るかった。
「ははっ、相変わらず仲がよろしいことで」
「誤解を招くような発言はやめていただきたい」
おどけたような口調で返す龍司と、それを笑う草鹿。

その刹那、草鹿の顔に陰が差した。
「でも慕われてるんですね、龍司さん。羨ましいです」
「…?どういう意味だ、それは」
「僕は…この学級では一応の尊敬を得ているのは間違いないんです。ですが、それは『僕自身』に対する尊敬ではなくて、『功績』に対する尊敬です」
「…」
彼は_____草鹿剣は、非常に優秀な人間で、ある種英雄的なものと見られている節がある。
だからこそ、草鹿は皆が望む姿でなくてはならないし、草鹿はそれを投げ出すことはできない。

才能あるがゆえの、責任。

大いなる力には、大いなる責任が伴う。

つまりは、そういうことだ。
草鹿はそうやって、自虐的な価値観に敢えて囚われることで、自己像を形成し、今日までの地位を得ている。
その努力は並大抵のものではない。

だからこそ、草鹿が望むものは、しっかりと見える。

「同情はしないぞ」

そう、これだ。

草鹿は同情を求めているのではない。
共に手を取り合って進むなにかを求めているのではない。
彼が求めているのは、評価だ。

「…なにがあろうが、それはお前が決めた選択であって、それをどうこう言う資格は誰にもない。ましてや同情なんざ以ての他だ。だから敢えて言わせてもらうぞ」
そこで龍司は一拍置いた。

「お前はよくやってる。これはダチの意見でも、お前を崇拝する人間の言うことでもない。ただの他人からの視点、第三者視点からの評価だ」

草鹿の表情が、明るくなった。

「やはり、あなたは僕にとって最高の友人ですね…嬉しいです」
と、微笑みながら言う草鹿。
「勘違いすんなよ?俺は同情しないだけで哀れむことをしないわけではないからな?」
「わかってますよ。…ああ、軽く立ち話をするつもりが、つい長話になってしまいましたね。すいません」
「いーんだよ。俺もお前の中身が聞けてよかっt」
「あーもうながったらしいわね!私いるのも忘れないでよね!?」
愛宕が割って入る。
そういえば、彼女はずっと蚊帳の外だった。
訳のわからん会話を聞かされて、さぞ苛立っているのだろう。
「というわけた草鹿。俺は帰るぜ。こいつに殴られたらたまらん」
「うるさい!」
その瞬間、愛宕の鉄拳が顔面に炸裂し、ロッカーに吹っ飛ばされた。
「いってえわ!すぐ手ェ出すのやめて!」
「断るわ!あと百発殴んないと気がすまないわ!」

たわいもない会話を聞きながら、草鹿は彼のことを、本当にいい人と感じていた。

1ヶ月前 No.30

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【第31話 夏休み前ってみんなワクワクしてるけど、実際殆ど部活に取られるって知ってた?】

愛宕には、妙なモヤモヤがあった。

彼女は、あの橋で龍司に出会い、何故か龍司に強く惹かれたのを覚えている。
だから彼女は、追い出されたときも龍司を頼ったし、今もこうして一緒に帰っている。

愛宕は、その時何故龍司に惹かれたのか、なにに惹かれたのかを探していた。

そしてそれのヒントを、ようやく見つけた。

龍司は、他者に対し決して同情しない。
草鹿との会話で、それがわかった。

聞きようによっては最低なものだが、愛宕や摩耶、草鹿などの特別な状況下にある者にとっては、それは実に好ましいことかがよくわかる。

要は、彼はまっすぐなのだ。
どんなに苦しいことになっている者がいても、その心中を察してそれ以上探りを入れない。黙って救いの手を差し伸べる。

探らない、という意味での同情とは、彼にとっては「知らない方がいいこともある」という意味なのだろうか。

それは愛宕にはわからなかったが、少なくともそうであってほしかったし、それのお陰で彼女は助かっている。

龍司と摩耶のような、共生関係ではなくどちらかと言えば寄生関係にあるが、それでも龍司は文句のひとつも言わず、ただ笑っていた。


しかし、愛宕にはもうひとつわからないことがあった。

それは龍司がどきどき見せる、虚ろな目だった。
どこを見ているのかわからない、焦点の合っていない目だ。

まるで死人のような目だ。

「どした?」
龍司は愛宕の視線に気がついたのか、声をかけてきた。
「なーんにも」
そっぽを向く愛宕。

今だってそうだった。
龍司の虚ろな、死人の目は、たいてい無言な時に出てくる。

「…ねえ龍司」
「ん?」
「なんか隠してない?」
思わず訊いてしまった。
無意識の内に、疑問が口に出ていた。

失敗した_____!

愛宕が渋い顔をしたその時、龍司は口を開いた。

「…隠してるわけじゃない」

その言葉で、愛宕は衝撃を覚えた。
隠してるわけではない、つまり、なにかがある。
その「なにか」は、現在の龍司の人格を形成しているものに違いないし、龍司の虚ろな目の正体であることは間違いなかった。

「…そ。じゃあ聞かないでおくわ。話す必要ないし」
「そか。それが一番嬉しいよ」

龍司にとっても、愛宕にとっても、この会話は短くて重苦しかった。

1ヶ月前 No.31

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1ヶ月前 No.32

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【第33話 水着回はだいたいメビでやると削除されるけどあえてやるのはなぜだろう】

引き続き海である。

「あはははー」
「きゃははははー」
「うふふふふー」
ほとんど定型文に近いはしゃぎ声だ。

仕方ない。
龍司は彼女達を直視できないのだ。

摩耶や愛宕も、目の前の筋肉野郎の姿が眩しすぎて見れなかった。

(やべえ…!なんかの拍子にこいつら見たら確実にやべえ…!脚本関係なくなっちゃうよ!メビから永久追放されるよ!)
冷や汗を滝をのように流す龍司。
その後ろを走る愛宕や摩耶も、
(ヤバいわ…このままじゃ海に来た意味ないわ…!)
と愛宕。
(早く…早くどうにかしないと…!私が緊張でおかしくなる!)
と摩耶。
しかしその時だった。
前方から「あ〜〜っ!!」という絶叫とも喚声とも着かない声が聞こえ、摩耶と愛宕が前にいるはずの龍司を見た。
すると、その龍司は絶叫しながら万歳の姿勢で横っ飛びに海に突っ込んでいた。
「もう辛抱たまんねえ〜〜〜っ!!!!!」
直後、龍司が突っ込んだ海面から、巨大な水柱が立ち上った。
「龍司くん!?」
すぐさま摩耶が海に飛び込み、次いで愛宕も、「仕方ないわねー」と海へ入った。

直後に救出された龍司が、大量の鼻血を流して気絶していたのは言うまでもない。

1ヶ月前 No.33

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【第34話 夏休みはマンネリ化が激しい ―熱夏閃光篇@―】

夏休みも1週間が過ぎた。
相変わらず暑いな、と暑苦しさで起き出した龍司は、またいつものようにラフな格好でリビングに向かった。
「ん…?」
リビングから人の気配がする。
誰だろう…?

若干警戒しながらリビングのドアを開ける龍司。
生暖かいドアノブは、今日が少し蒸し暑いことを示していた。
「あ、龍司」
「なんだ愛宕か」
食卓には、コーヒー片手に菓子をかじり、テレビを見ている愛宕がいた。
彼女は寝起きがいいような印象はなかったが、今日はたまたまなのだろうか?
「今日はやけに早いな。摩耶はまだ寝てんの?」
と言いながら、向かい合った席に座る龍司。わりか
「みたいよ。まったく、起こそうとしても全然起きないんだから」
愛宕が呆れた様子で愚痴をこぼす。
だが摩耶は起こそうとしても起きないぞ、と心で呼び掛けた龍司だった。
龍司が時計を一瞬チラ見し、そろそろ朝飯の時間だな、と判断する。
「あー、じゃあ朝飯作るから待っててくれ。そろそろ摩耶も起きるぞ」
席を立つ龍司。
その龍司を見上げながら、愛宕が訊く。
「へーえ、あの子、決まった時間に起きるの?」
「平日休日、疲労、ストレスの程度に関係なく、な」
そう返すと、愛宕が驚いた様子で言った。
「さっすが優等生ね」
「だから寝てるときはそっとしてあげな。前、無理に起こそうとしたら、部屋から放り投げられた」
若干冗談めかしたが、あのときは本当に怖かったな、と回想する龍司。
やっぱり女の本性は男と変わらないんだな、と思った。
「…私は運が良かったのね…」
と胸を撫で下ろす愛宕。だがその刹那、彼女は立ち上がってこちらに向き合い、目を見開いて言った。
「あんた!まさか女子の部屋に忍び込んだのね!」
「はァ!?…あ!」
摩耶を起こしに行った=摩耶の部屋に入った。
なるほど、自爆だ。
「そりゃ投げられますわ…」
「いや、そ、それは誤解だ!」
「同じ家に住んでいる男から夜這いを掛けられるとはね…」
腕を組んで頷きながら述べる愛宕。
それに突っ込む龍司。
「やめてー!それ以上はヤバイから!夜這いの単語使った時点でメビのルール的にグレーゾーンだから!下手すりゃアウトだから!」
「アウトなことしたのはあんたでしょうが!」
「気付いたら家に入ってたみたいな奴に言われたかねえ!」
「それもあんたが」
「騒がしいわねーいったい何かしら?ふぁ〜…」
摩耶が起き出してきた。
「おう、摩耶か。おはよ」
龍司は何事もなかったかのように爽やかな笑顔で返した。

29日前 No.34

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【第35話 揚げパンを初めて食べたときの感動は今でも忘れられない ―熱夏閃光篇A―】

前回の続きである。
ようやく3人が揃い、朝食も済ませた。

「葦餝にいきましょ!」と、突然愛宕が言い出した。
「いってらっしゃ〜い」 と龍司は返したが、愛宕は「あんたも摩耶も行くのよ!」と言った。
「…葦餝って、あの繁華街の?」
「そうよ!」
摩耶の問い掛けに、自信満々に頷く愛宕。
「治安悪いからはんたーい」
「関係ないわよ!」
そうやって愛宕に引っ張られて来た繁華街・葦餝。
ここは龍司たちの住む六番住宅街から数キロ南南西にあり、兼ねてより治安が悪いことで有名で、数年前から圧倒的武力を誇る巨大犯罪組織・高麗が進出してきたことでチンピラどもは一掃され、ある程度良くなったようだが、それでも各組織が隙を狙っている。

相当危ないところだ。

「高麗…ねえ」
龍司がしみじみと言う。
そういえば、以前会ったあの二人…烙影双啓と斑尾晃城は、高麗の人間だと言っていた。
まさか、ここで会うことはないよな…?
「あんまりはしゃぐなよー?ここただでさえ怖いんだからさー」と言ったものの…。
「ここの饅頭おいしーわよ!」
愛宕が龍司から見て、つまり大通りの右の饅頭屋で早速買い食いしている。
「あら!このおせんべい、イケるわ!おばさん、これ二つお願いします!」
摩耶は愛宕と反対側の煎餅屋で早速買っている。
…言ったそばからこれである。
特に摩耶は来たがっていなかったじゃないか…。
人の心境の変化は、そこまで早いものかと呆れた龍司だった。

しかし、漂ってくる香ばしい匂いを前にして、長時間我慢して帰った後に後悔などしないと断言出来るほど、峯風龍司という男に根性はなかった。
やきそば屋に堂々と足を進め、真剣な顔で言い放った。
「おっちゃん!やきそば1つくれ!大盛りで!」

「はー来てよかったわー」
先ほどの大通りの置に設置されているベンチに座り、やきそばを食べながら呟く龍司。
「でしょー?私ここ初めて来たんだけどさー、ここの料理は評判だって聞いたのよー。でも想像以上ね!」
隣には、大きな茶色い紙袋から饅頭を出しては口に持っていく愛宕がいる。
「…お前、何個買った?」
率直な疑問をぶつける。
「そーね、確か12個くらいかしら」
「買ったなー、おい。」
一瞬呆れる龍司に、新たな疑問が浮かんだ。
「…ん?お前、饅頭好きなのか?」
「そーよ?知らなかった?」
そういえば…と龍司は気づく。
「聞いてなかったな、そういえば」
「あー…確かに。というかその描写すらなかったもんね」
「また堂々と第四の壁を…」
「あははははは!」
苦笑いする龍司と笑う愛宕だった。

29日前 No.35

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【第36話 路地裏に注意 ―熱夏閃光篇B―】

龍司と愛宕がベンチで談笑する数分前。
「私、ちょっとアイス買ってくる」
「おう、気を付けろよ」
龍司たちにそう告げ、ベンチから立ち上がった摩耶の背中に龍司の言葉が投げ掛けられる。
「大丈夫よ」
振り返って笑顔で龍司に返す摩耶。
「大丈夫よ、そう心配しなくたって。摩耶は怪しい奴なんてすぐコテンパンにしちゃうんだから」
「万が一というのがあってだな…」
「億が一でしょ」
「結局一はあるんかい!」
龍司と愛宕のボケとツッコミを耳にしながら、摩耶はその場を離れた。

それが間違いだったのかもしれない。

最寄りのアイスの屋台は、ベンチから右に数十メートル程度しか離れておらず、大通りの向こう側の廃ビルの目の前にある。
愛宕はそこへ向かった。大通りを渡る。
歩みを進める摩耶。廃ビル前のアイス屋の屋台まであと少し、というところで異変が起きた。

廃ビルとレストランの間の路地裏から、腕が延びてきた。
それを視界の隅に認めた摩耶は、それを避けようとするが、腕はそれより早く動き、摩耶の首を掴んで路地裏に引き込んだ。

「うっ…」
路地裏に引き込まれるなり、廃ビルの壁に叩きつけられる摩耶。
叫び声をあげようとするが、うまく声が出ない。
どうやら声があげられず、息が詰まらない程度に首を絞められているようだ。
自分の首を絞め絞めている手に指をかけてほどこうとするが、手の力はそれ以上だった。
能力を使おうとするが、それも何故か使えない。
しかも、徐々に力が抜けていくのだ。
「へえ、写真で見たよりすげえ美人じゃん」
男の声のする方向へ、憎悪の念を込めた目を向ける。
首を絞めている男は、スキンヘッドで色黒の男だった。
発言から考えて、摩耶は自分がこの男に狙われたことを瞬時に察した。
あのとき、龍司か愛宕のどちらかを連れていくべきだった。
今更後悔しても遅いことを痛感しながら、摩耶は憎悪の念を深めて目の前の男を見つめた。
「なんだ、その目は?」
男のこめかみに力が入る。
「まあいい。とりあえずお前には来てもらうぜ」と男が言った刹那、足元がガクッと沈んだ。
足元に視線を移すと、足元は真っ暗な闇だった。
そこへ、自分と男がどんどん沈んでいくのだ。
「…!」
「『暗黒落下口(ブラック・ホール)』さ。心配するな、死ぬ訳じゃない」
「…り…」
「ん?」
「龍司が…黙ってない…わよ!」
声を絞り出して摩耶は小さく叫ぶ。
「この小娘…!」
男が指に力を掛けた。
摩耶はその瞬間に気絶した。

29日前 No.36

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【第37話 衝動 ―熱夏閃光篇C―】

「遅いな、あいつ」
「すぐそこよね?アイスの屋台って」
摩耶がアイスを買いに行ってから10分以上経った。
適当に談笑して待っていた愛宕と龍司だったが、流石に遅いと心配し始めた。
「…まさか、な」
「まさか…よね?」
二人の脳裏に、"ある可能性"が浮かんだ。
「連れ去られた!?」
二人は同時に叫んだ。
「探すぞ!」
「うん!」

龍司と愛宕が最初に向かったのは、摩耶がいこうとした最寄りのアイスの屋台だった。
「すいません、人を探してるんですが、ちょっといいですか?」
屋台で佇んでいる初老の男に声をかける。
男がこちらを向き、「ああ、いいよ」と返した。
その瞬間、男の口が一瞬吊り上がったのを、龍司は見逃さなかった。
「この人、知りませんか?」
龍司が1枚の写真を見せた。写真には、摩耶の顔が載っている。
「あー、この人?さっきこっちに向かってきたような気がするけど、なんかひょこっと消えたな」
なるほど…。
龍司はあることを確信して、ある要求をした。
「ちょっと今、お時間いただけますか?」
「いいよ」
そう言って、路地裏に行くように促した。

「おい。てめえなんか知ってんだろ?」
男を路地裏に連れ込むなり、龍司はいきなり首を掴んで廃ビルの壁に叩きつけた。
「は…?なんのことですか?」
男が苦しそうな声で返した。
「龍司…?なにしてんの…?」
突然の龍司の凶行に、驚いた声を出す愛宕。
それを無視して龍司は続けた。
「ネタは上がってんだよ。てめえ、雇われたんだろ?」
「だからなんのことです____」
その瞬間、男の首を掴む右手に、更に力を入れた。
「さあ、吐け。吐かねーとこのまま絞め殺しちまうぞ?」
男の顔がみるみる青くなっていく。
手足をばたつかせ、龍司から放されようと必死に抵抗する。
しかし、龍司は全く動じない。
ここに来て、ようやく観念したようで、男は必死に言った。
「い"い"ま"す!い"い"ま"すから"!」
龍司が手を放し、男はようやく解放された。
「吐いてもらおうか」
その声に、慈悲はなかった。

28日前 No.37

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【第38話 怒り ―熱夏閃光篇D―】

男は、悶絶しながらその廃城で摩耶が囚われていると言っていた。
更に軽く拷問して吐かせたところ、その廃城は現在高麗が買い取っていて、葦餝一帯を制圧下に置いている高麗の下部組織が根城にしていることがわかる。
下部組織の名は、第一二師団。
高麗下部組織20個師団の1つであるということは明白で、数年前まで荒れに荒れていた葦餝を平定したのを鑑みると、有力な戦闘員と優秀な参謀やリーダーがいるのは間違いない。
「お前ごときに…第一二師団を倒せると思うなよ…!?」
息も絶え絶えの男は、そう言うと動かなくなった。
「し…死んだ…?」
震える声で愛宕が言う。
「いいや。気絶してるだけだ」
「でも…!」
「死んだとしても問題ねえよ。こんなとこじゃ、人が死んでもお構い無しさ。ゴミ捨てようとしたらゴミ箱に死体が入ってた、なんざ日常茶飯事もいいとこだ」
「ひっ…」
摩耶が狼狽える。聞いたことのない龍司の声音、言葉、口調に恐怖を覚えたようだ。
強張った表情で震える愛宕に、龍司は再度声を掛けた。
「愛宕。お前はこの街を出て草鹿に連絡しろ。あいつに事の一切を話せ。いいか?」
「う、うん…」
震える愛宕を横目に、路地裏を出ようとした龍司は、違和感を覚えた。
無数の人の気配が、外から漂ってくるのだ。
「愛宕…。お前、飛べるだろ?」
彼女の能力は、『物体浮遊(エア・クラフト)』。
彼女ならば、この状況を乗り切れるはずだ。
「そうだけど…なんで?」
「ここの外に敵が無数にいるみてーだ…あいつら、隙さえあれば、ここに入ってくるだろうな。幸い、上からは気配が全くしないから、お前が垂直に飛んで逃げて草鹿に連絡しろ」
「わかった……あんたはどうすんのよ?」
「は?決まってんだろ」
そう言うと、龍司は暗がりにいる愛宕に振り向き、至極当然といったような声で言い放った。
「こいつら全員…ぶっ殺すんだよ」

28日前 No.38

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【第39話 破砕 ―熱夏閃光篇E―】

「こいつら全員…ぶっ殺すんだよ」
至極当然といったような声で言った龍司の目は、摩耶が彼と出会ってから初めて見た、彼の深淵を、真っ暗な闇を写し出していた。
「無茶よ!?あんた、まず能力者なの!?」
「『全強化(オール・マイティ)』カテゴリー8。これだけ言えばもう充分だろ」
「でも!」
「でもじゃねえ!俺はな、守りたかったダチを傷つけられて、心底ムカついてんだよ!ぜってえ許さねえ!高麗だか第一二師団だか知らねえ!んなもん関係ねえ!だからお前はさっさと行け!俺はここで連中ぶっ殺して、城まで行って摩耶を取り戻す。お前はここ抜け出して、草鹿に連絡しろ!いいな?」
龍司の吊り上がった光のない目と、有無を言わせぬ激しい口調は、今まで摩耶が抱いていた、龍司の柔和な印象を根本から崩壊させた。
「は、はい…」
摩耶が渋々、了承した。
足元に微かな風圧を感じた瞬間、摩耶は逃げるように垂直に飛んでいった。

「…さて…と」
龍司は外に向き合う。
「あとは俺の番だな…」
彼はにやけていた。
懐かしい匂い、懐かしい戦場。
鬼気迫る面持ちの兵どもは、彼を殺さんと刃を向けてくる。
己も彼らも、戦場で生き残ることに必死だ。
生き残る方法はただひとつ。
ただ敵を殺すのみ。
龍司の顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

その時、路地裏の外にいた無数の兵達は、刀、銃、斧、双剣、ハンマーなどの武器を携えて突入命令を待っていた。
斧を持っている、指揮官らしき男が叫んだ。
「全隊、突入!」
号令一下、兵たちはその狭い路地裏に向けて走り込んでいった。
数十人程が暗がりに消えたところで、異変が起きた。
突然、鈍い爆発音と共に、暗がりから土埃とともに男達が吹っ飛んだ。
「この俺を相手に、この数たァ…ナメ腐ってくれるじゃねえかァ!」
倒れた兵達が土埃の中から現れた龍司は、一振りの日本刀を右手に、と自動小銃を左手に持っていた。
敵から奪ったものだろう。
「へへっ…この刀、いつまで持つかねェ…この刀」
日本刀を振り上げて肩に刀身を担ぎ、銃を腰だめに構えた。
「やれェ!」
誰かが叫んだ瞬間、兵達が全方向から龍司に飛び掛かった。龍司は飛び掛かってきた兵を片っ端から銃で撃ち落とす。
しかし、そこまで時間がない。
引き金を引きっぱなしに乱射しているのとあまり変わらない。
腰だめにして撃ちながら、右足と左足をずらしながら、銃弾をばらまいていく。目の前の兵達の体に銃弾がめり込んでいき、次々に血飛沫を上げて倒れていった。

そんな時間もすぐに過ぎる。

左側で取りこぼした敵が至近距離まで接近し、斧を振り下ろしてきた。
龍司はそいつの顔をすかさず銃で打ちつけた。
しかしその時には、多数の敵が至近距離に迫っている。
「チッ…」
龍司が軽く舌打ちすると、銃を正面に投げ捨てて敵を1人倒し、それを乗り越えてもう1人を右に持った日本刀で袈裟懸けに斬り倒す。
そこへ背後から襲いかかってきた敵を足払いでバランスを崩させ、踵を返して敵が仰向けに倒れる瞬間に腹を突き刺し、その死体を更に背後の敵集団に振り飛ばした。
そして一拍置いて龍司は新たな集団に突っ込んだ。
刀を振った瞬間、斬った敵が斬り裂かれるだけでなく、それを突き抜けて衝撃波がその後ろの敵も吹き飛ばしていった。

28日前 No.39

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【第40話 走破 ―熱夏閃光篇F―】

「…我々は、売ってはいけない相手に喧嘩を売ってしまったようですね…完全に見謝りましたね、彼の戦闘力を、桁ひとつ分。」
紅茶を啜りながら、金髪の男が言った。
「完全に失敗だったなあおい。四番隊と五番隊、七番隊を相手に互角以上、いや無双状態とは…」
あのスキンヘッドの男がそれに返し、現状報告をした。
「一応各方面から全隊を集めてココの正面に配置したが、抑えられんのか?」
ココ、つまり葦餝中央の廃城のことで、摩耶がそこにいた。
スキンヘッドの男は、これに疑問を感じていた。
「なあ…これ意味あんのか?こんな小娘のために、ウチの兵隊磨り潰す意味がよ」
男が、斜め後ろの柱に縛り付けている小娘…摩耶を一瞥する。
「もうこうなってはどうもこうもあるまい。わしが出る」
奥の襖が開き、ひときわ大きな人影が現れた。
白髪の初老の男で、袈裟を着ているがその上からも筋骨隆々というのが伝わってくる。
「親方…。んじゃ、俺と二番隊も出ますわ」
「仕方ない、私と三番隊も出ましょう」
「うむ…しかし、ココを出る必要はないようじゃな」
親方、と呼ばれた男が呟いた瞬間だった。
突然、轟音とともに壁が破壊され、その衝撃波で壁の近くに整列していた兵が数人吹き飛ぶ。直後には砂煙が辺りを漂い、壁の破孔を覆った。
一瞬の静寂。
そのあとに、コツ、コツ、とゆっくりな足音が、漂う砂煙の中から聞こえてきた。
「こーんにーちわァー、皆殺しに来ましたァー」
砂煙の中から、刀を担いだ龍司が現れた。
その左手には、血に染まったなにかを持っていた。

人の首だった。

兵達は、この男の異常性に気がつき、一瞬たじろいだが、それも本当に一瞬で、すぐに殺気を帯びた目を龍司に向けた。
「おうおう、そんな怖い目ェして…どうしたんだい?…ああ、これ?」
龍司が首を持ち上げると、「門の前の連中、クソみてえに弱くてさァ…ちょっと退屈してたんだが、ここはそうでもねェらしいな」
首を後ろに投げ捨て、上を見上げる龍司。
2階には例の三人の男がいた。
そしてスキンヘッドの男の斜め後ろに、摩耶の姿を認めた。
「あー、すいません、そこの女の人、返してくれませんかねェ?大人しく返してくださったら、危ねェこたァしませんから」
「返すと思うか?」
親方が即答する。
「んなわけねェよな…」
龍司が呆れたように言う。
いや、この状況でおいそれと返してくれるわけがない。
「返してほしくば、力ずくでやってみせ____」
「仰せのままにィ!」
親方が言葉を言い終わらぬ内に、龍司が地面を蹴った。
その刹那、龍司は二階の親方に飛び蹴りを喰らわせ、吹き飛ばし、奥の壁に激突させていた。
「…チッ」
何故か軽く舌打ちした龍司の両側面から、あの二人の男が殴り掛かってきた。
それをジャンプして空中2回転してやり過ごした龍司は、そのまま降下、右足の踵を一階の床に打ち、強烈な衝撃波を発生させ、兵たちを群がるをいちどきに薙ぎ倒し、吹き飛ばした。

27日前 No.40

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第41話 駿巡 ―熱夏閃光篇G―】

「おい…お前ら名前聞いてなかったな」
死屍累々の一階広間の中心に突っ立っている龍司は、顔をあげて鋭い目を上の男二人に向けた。
「参ったねェ…一撃でウチの兵隊片付けちゃうヤツなんて聞いたことねえよ」
「質問にこたえろ!」
スキンヘッドの男に怒鳴る龍司は、次は殺す、と念を押して名前を訊いた。
「俺の名前は癸巳呶陽犖。そこの金髪は交野欧師。高麗第一二師団参謀だ」
一瞬の沈黙。
そして龍司が口を開いた。
「俺の目的はそこの女の返還だ。素直に返してくれりゃ俺はこれ以上は暴れねえよ」
眉ひとつ動かさずに冷たく龍司が言い放つ。
もちろん、龍司はそう簡単に返してくれるわけがないというのはわかっている。
だからここの連中を殺し尽くす覚悟があったし、その処理としての対策も講じている。
それの限度もあるが、そこらへんに至ってはもうヤケだ。
「返すわけねえだろ」
癸巳呶が予想通りの答えを返してくる。
「じゃあ…仕方ねえよな」
龍司が刀を構えた。
そのときだった。
突然、轟音と共に天井が破れ、なにかが降ってきた。
龍司は咄嗟に避けようとしたが、避けきれず、拳が飛んできた。
吹き飛ばされた龍司は、背中から壁に激突し、深くめり込んだ。
「ぐッ…!」
うなだれる龍司が血を吐いた。吐いた血は服に染み込んでいく。
飛んできた拳はなんとかそこら辺に落ちていた人間を盾にして防いだが、直接ダメージは防げても衝撃は防げなかった。
「…ってえ…」
血の塊を吐き捨て、口元を拭う。
あの拳…。恐らくあれも能力者で、その中でも特に厄介な…『能力模写(コピー)』、しかもカテゴリー8以上は確実だ…!
「まァた厄介なことになっちまったな」
「わしは第一二師団団長、鑚嶌公三と申す。峯風龍司…貴様は、『全強化(オール・マイティ)』カテゴリー8だな?」
顔をあげれば、すぐ目の前に先程殴り飛ばした男がいた。
…ヤツは、あえて俺の拳を受け、能力をコピーしたのか!
してやられた。
『コピー』の埼大の長所は、コピーした能力のカテゴリーが、コピーのカテゴリーと同じになることにある。
つまり、カテゴリー4程度のコピーなら、カテゴリー8の能力をコピーしても、使えるのはその能力のカテゴリー4である、ということで逆にコピーがカテゴリー8なら、コピーした能力がカテゴリー4であっても使用できる能力のカテゴリーは8になるのだ。
感触からして、目の前の男、鑚嶌公三の『コピー』はカテゴリー9以上は確実。
つまり、今ヤツが所持している『オール・マイティ』はカテゴリー9以上というモノで、バケモノという言葉では済まない。いや、俺も俺でバケモノだが、とても俺じゃ対抗は不可能だ。

それでも…摩耶を助けたい!

その思いを胸に、龍司は足を踏み出す。
「ほう…貴様はまだ、抗うか。ならばッ…!」
鑚嶌の右拳が龍司の全てを打ち砕かんと迫り、龍司の右拳が鑚嶌の、この城の全てを打ち抜かんと迫った。

25日前 No.41

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第42話 待ち人 ―熱夏閃光篇G―】

龍司が廃城で摩耶のために戦うその前の事。
愛宕は葦餝を飛び、街を抜けた頃の事だ。


郊外の野原に降りた私は、背後に見える葦餝を振り返り、路地裏にいた、"あの"龍司に思いを馳せた。
『でもじゃねえ!俺はな、守りたかったダチを傷つけられて、心底ムカついてんだよ!ぜってえ許さねえ!高麗だか第一二師団だか知らねえ!んなもん関係ねえ!だからお前はさっさと行け!俺はここで連中ぶっ殺して、城まで行って摩耶を取り戻す。お前はここ抜け出して、草鹿に連絡しろ!いいな?』
私の脳裏に、龍司が最後に言った言葉がよぎった。

あれは彼じゃない。

あれは、彼の姿を借りた、悪魔かなにかだ。
あんな龍司は、見たことがない。

あれが龍司ならば、今まで見てきた龍司は、偶像なのだろうか?

「…そんなこと考えてる暇、ないじゃない!」
龍司は草鹿に連絡しろと言っていた。
恐らく龍司は、高麗の大軍に呑まれているはずだ。
余裕なんかないだろう。
ポケットからスマホを出して、草鹿の電話番号を探し、そこに電話を掛けた。
数秒間の呼び出し音の後、聞き慣れた優しい声が聞こえてきた。
「もしもし。どうされましたか?」
「あ、草鹿?今葦餝にいるんだけど、摩耶が誘拐されて、龍司が高麗に喧嘩を____」
「了解しました。今すぐ助けに向かいます。貴女はそこで大人しくしていてくだい」
そう言うと、草鹿は電話を切った。
恐らく、草鹿は教師かなにかしらの組織の友人にでも助けてもらうように頼み込むのだろう。
友人の多そうな彼の事だ、恐らくなにかしらのツテがあるのは間違いない。

「それにしても…」
やはり、疑念が沸く。
なぜ龍司はあのとき、『戦う』と決断したのか。
私の能力を利用してあの場を脱し、城に向かう事もできたはずだ。
なのに、それをしなかったのはなぜなのか…。
そして、彼の能力の内容とカテゴリー。この二つがなんなのかまったくわからないし、本当にそれが大軍を相手に出来るレベルなのだろうか。

私の頭から、疑念は尽きなかった。

そして、私はひとつの仮説を考え出した。

峯風龍司は、いつかどこかの戦争に参加したのではないか。
友を守ることに固執するのは、戦争で多くの戦友を失ったことに対する後悔などがあるからで、それが一種の強迫観念にもなってるのではないか。あの虚ろな目は、なんとしてでも友を守る、という深層意識から来る、いわゆるリミッターの喪失だったのではないだろうか。

そこまで考えて、私は考えるのをやめた。
正確には、考えるのを"やめさせられた"。
「宮古さんですね?」
聞き覚えのある、柔和な声が、背後から投げ掛けられた。
「草鹿!」
私は怒鳴るように後ろを向いた。
すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「こんにちわ。こんなところで遊んで、事件に巻き込まれるだなんて、まったく…面白いですね貴方たちは」
そこにいる草鹿剣は、私の知っている草鹿剣じゃなかった。
黒い学ラン、黒いシャツ、黒いズボン、赤いネクタイ…。
右腕につけている腕章には、『武装警察』と書かれていた。
そして、彼の背後には、100名ほどの銃を持った男と大型トラックがおり、遠くの空からは黒塗りのヘリコプターもこちらに向かって来ており、そこからはなにかよくわからない塊のような物がぶら下がっていた。
「あんた…まさか!」
「ええ、お察しの通りです。詳しい話は後ですが、要は城を制圧すればよろしいのでしょう?」
「…そうよ」
驚愕、驚嘆、畏怖____ありとあらゆる感情がない交ぜになったまま、私はそう答えた。
「了解です。貴女は…そうですね、とりあえず一緒に来てください」
「わ、わかりました…」
言われるままに応じ、私は草鹿についていった。

24日前 No.42

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【第43話 殴・破・断 ―熱夏閃光篇I―】

「チ…クショー…」
壁にめり込み、大量に出血している龍司。
頭からは血が流れ、それが目に流れ込んで視界が赤くぼやけて、破れた服から覗く肌は残らずなにかしらの破片が突き刺さり、出血していた。
「ほほう。まだ生きておるか」
「ああ…なんとか、な」
よろよろと立ち上がった龍司は、再び刀を構える。
「死なねえ限り、俺という刀が折れることはねえよ」
「だったら今すぐその刀、へし折ってみせよう」
鑚嶌が拳を振るう。龍司はそれを刀で受け止めるが、刀は案の定折れ、腹に拳がめり込んだ龍司は再び壁に打ち据えられた。
「くっ…そう」
罵声を漏らす。
対抗策はないか、と血の足りない頭で模索するが、なかなか浮かばない。
能力のカテゴリーで負け、唯一の武器も失い、蓄積したダメージが今になって響いてくるという最悪な状況下で、どうやってこの男の首を取るか…。
だが、この男を倒したところで、二階で静観している二人の男を倒せるかと言われれば、不可能だろう。
いや…この状況を覆す切り札は、発動できる状況にあった。
そして、龍司はこの状況を待っていた。
「ほう…まだ立てるか」
龍司はまた立った。
そして、近くに落ちていた刀を拾う。
「まだ抗うか」
「目的はきっちり果たさせてもらうぜ」
刀をを右斜め上に投げた。
刀は二階の床を突き破った。突き破った先には、摩耶がいた。
刀は摩耶を縛っている縄をうまい具合に断ち切った。

その瞬間、摩耶の周囲に青い光が迸った。

刹那、摩耶が目を見開き、あらゆる物が氷となり、城全体を冷気が包んだ。
「悪いな。遅れた」
立ち上がった摩耶に、龍司が問い掛けた。
「遅すぎよ。もう6話も寝っぱなしとか辛いことこの上ないわ」
「起きて早々に第4の壁を破るスタイル、嫌いじゃねえぞ。…まあ、見ての通りだ。お前はそこの間抜け二人組を殺っちまえ。責任はどうにかなるさ。…それに…」
龍司が右を向く。
するとそこには、草鹿と銃を持った男達が立っていた。
「遅くなってしまいました。…ああ、まだこれから、といったところでしょうか?」
「いいや。もう終わるさ。このジジイ殺すだけなんだからな」
「殺してもらっては困りますねえ。私としては、彼を捕まえないといけないのでね」
「じゃあ、『生かさず殺さず』で行くか?」
冗談めかす龍司。
草鹿は、「いいですね、それ。ではそうしましょう」と乗り気だった。

24日前 No.43

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【第44話 仁 ―熱夏閃光篇J―】

龍司、摩耶、草鹿とその部下が揃ったところで、鑚嶌が口を開いた。
「貴様ら。数を揃えたとて、わしに勝てると思っておるのか?」
ドスの効いた声はそこにいた者全ての耳に響いた。
「喚くのはよしな。どのみちお縄に掛かんだから」
「その前に、わしがここにいる全員を殺すじゃろう」
「無理だね」
「ほう?手負いの身でまだそんなことをほざけるのか」
深呼吸をひとつした龍司は、鬼のような形相の鑚嶌に言い放った。
「主人公は物語序盤じゃ死なねえんだよ。もちろん、周りもな」
「言っている意味がわからんな」
「序盤の敵はみんな雑魚って相場なんだよ」
冷たく言った龍司。
その瞬間、眼前に鑚嶌が迫り、その太い右の拳が龍司の顔を叩き潰さんと迫った。
しかし龍司は、その拳を右手で掴み、鑚嶌の二の腕をそれを上から左肘で、下から右膝で思いきり叩きつける。
鑚嶌の右の二の腕は折れ曲がり、折れた骨が皮膚を裂いて血飛沫を上げた。
「ーーッ!?」
「これを待ってたんだよ」
鑚嶌は明らかに狼狽していた。
打撃はいくらか龍司から喰らっていたが、殆ど効きもしなかった。
しかし、戦い始めて以来、初めて受ける大きなダメージが、鑚嶌から冷静な思考を奪っていった。
「でえええやあああああ!!!!!!」
鑚嶌が渾身の左ストレートを放つ。
しかし、それも龍司は掴んで防ぎ、足払いを掛けてバランスを崩させ、それを利用して背負い投げをし、背後の壁に叩き付けた。
壁が盛大にひび割れ、次いで穴が開く。壁にめり込んだ鑚嶌の左腕も、龍司は渾身の右足蹴りで折った。
左腕が更に深くめり込み、蹴られた部位は窪んだように落ち込んだ。
しかし鑚嶌も去るもので、腹筋を活かして跳ね上がり、龍司に両足蹴りを見舞う。
これは不意打ちだったようで、避ける間もないので両腕を交差して防いだが、耐えられずに後ろに吹っ飛ばされた。
「癸巳呶!交野!こいつを叩き潰せ!」
二階を見上げて叫ぶ鑚嶌。
しかし、二人は草鹿、摩耶と戦っている最中だった。
「親方!すいません!こいつら押さえんのに精一杯です!」
「こちらも、なかなか手強くてそちらには行けそうもないです!」
癸巳呶と交野が攻撃の合間に言う。
余裕がないのは声からわかった。
鑚嶌は、単独でいきなり化け物じみた強さを見せるようになった龍司を相手取らなくてはならなくなった。
それはいい。
しかし、鑚嶌はひとつ、おかしなことに気が付いた。
二度の攻撃で受けた怪我の治りが遅いことと、いとも簡単に腕が折られ、投げられたことである。
「なぜじゃ…」
心の声が、口に出てしまった。
「教えてやるよ」
褐色の砂煙の向こうから、龍司の声が飛んできた。
「『全強化(オール・マイティ)』は、発動すると身体能力や身体強度、自己治癒能力が無意識のうちに上昇する、一見すると戦闘専門のクソ強い能力なんだわ」
砂煙に、こちらに向かってくる龍司の影が浮かぶ。
「でもな、致命的な欠点があるのを知ってっかァ?」
そう言って、龍司は煙の中から姿を現した。
「焦ったり、極端に興奮すると、無意識に身体強度が普通の人間と同じレベルになるんだわ」
その手には、メイスが握られていた。
「つまり、俺が発破掛けて、ぶちギレちまったてめえは、防御力ゼロのカスだ!」
そう言って、メイスを思いきり投げた。投げたメイスは猛速で飛んでいき、防御する間もなく鑚嶌の腹を打ち、鑚嶌をそのまままた壁に叩き付けた。

22日前 No.44

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【第45話 長い(戦いが) ―熱夏閃光篇K―】

「龍司さん、やりますね」
「思った以上よね、あれは」
二階で龍司の戦い振りを見て草鹿と摩耶が目を合わせた。
「よそ見してんじゃねえぞ!」
癸巳呶が上から、交野が左から飛び掛かる。
「ふん!」
摩耶が地面に右手を付くとそこから氷河から削り出したかのような氷の壁が出現して癸巳呶を撥ね付け、草鹿が発光し、まさに光のような速さで交野の至近距離まで接近して殴り飛ばした。

癸巳呶が氷の壁から離れるが、氷の壁があたかも生きているかのように蠢き、そこから人の腕のような物が生え、癸巳呶の左足をがっしり掴んだ。
「なッ!?」
「逃がさないわ!」
手に氷の槍を持った摩耶が壁の上に立つ。
癸巳呶が右手に緑色の球体を浮かばせるなり、それを自分の左足を掴んでいる氷に投げつけた。
氷の腕は一瞬で溶け、癸巳呶は解放された。
「俺の『強酸爆弾(スーパーアシッド・ボム)』を舐めるなッ!」
「なら私の『氷細工(アイス・クラフト)』も甘く見ちゃいけないわよ」
摩耶の手が氷の壁に触れると、摩耶が立っている部分を除いた全ての氷が何十本もの氷の槍と化し、摩耶が右手を左から右に薙いだ瞬間、氷の槍は癸巳呶に向けて飛んでいった。
癸巳呶は上手い具合に全て避け、それが出来ないものは強酸を投げつけて熔解させた。
最後の一本を避けたその刹那、前から摩耶が氷の床をスケートのように滑走し、もう猛速で突っ込んできた。
氷槍の嵐は、氷の床を作るための僅かな隙を作るための陽動だったのだ。
しかし、気づいてももう遅い。
避けきれない____そう判断した癸巳呶は両手に強酸を発生させ、捨て身の攻撃に賭けた。
摩耶の持っている氷の槍が身体を貫くが先か、強酸が摩耶の手を溶かすのが先か。
摩耶が癸巳呶の至近距離に接近した刹那、摩耶は槍を大きな盾に変化させて癸巳呶の強酸を無効化し、更にその一瞬後に盾から氷が伸び、癸巳呶の両手を氷が覆った。
「もうこれで戦闘不能ね」
摩耶が微笑んだ。

草鹿の対峙する交野も、同じように草鹿に苦戦していた。
彼の能力『電撃(ライジング)』では、草鹿の『光速化(ライトニング)』を捉えることはできないのだ。
「速い、速すぎる!」
草鹿に一方的に殴られ続ける交野も、しばらく同じような動作を繰り返してから倒れ、制圧された。

22日前 No.45

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【第46話 そろそろ終わらせたいのだがアニメにハマって集中できねえ ―熱夏閃光篇L―】

「おのれ…」
壁に叩きつけられ、血を吐きながら、鑚嶌は龍司を睨んだ。
せめて右腕さえ治れば、メイスであの小兵を叩き潰せるというのに…!
鑚嶌が右腕に意識を集中させる。
「全強化自体、そこまで使ってるヤツが多い能力じゃないからな。弱点なんざわかんなくて当然だ」
龍司がゆっくりとこちらへ歩みを進めてくる。
その手には、大鉈が握られていた。
「あんたの最大の汚点はなァ…」
龍司が大鉈を構える。
「俺に喧嘩売ったことォ!」
そう言いながら、大鉈で鑚嶌の首を断ち斬らんと飛び掛かった。
それと同時に、鑚嶌が自身の右腕が元に戻っているのに気がついた。
治ったばかりの右腕でメイスを掴み、振り上げた時には龍司は目の前にいた。
メイスを力一杯振り下ろす。
刹那、激震と衝撃波が周辺を駆け抜け、鑚嶌は砂煙に包まれた。
叩き潰せた____鑚嶌はそう思っていた。
しかし_____。
「もう一個あるぜ」
砂煙の中から、メイスの先端の下から、あの男の声がした。
同時に、タイミング良く砂煙の切れ間からメイスの先端の下____メイスを大鉈で頭に当たる寸前で食い止めている龍司が現れた。
とはいえ、その渾身の力で振り下ろしたメイスを止めるのは容易ではなかったようで、龍司の周辺の床板は消え、床下の地面すらもクレーター状に抉れ、そこに片膝を突き、大鉈を両手で抑えることでようやく防げていた。
「俺のダチを_____」
龍司が大鉈を滑らせ、メイスに大鉈の先端を引っ掛ける。
直後、呆気なく鑚嶌の手からメイスは引き離され、弾き飛ばされる。
先の一撃で力を使い果たしていた鑚嶌は、反撃の余力すらなかった。
瞬き一つした後には、龍司が超至近距離にいた。
「傷つけたことだァッ!!!」
大鉈を龍司が振り下ろした。
大鉈は鑚嶌の身体を袈裟懸けに斬り、大鉈の引っ掛けは骨を抉り出し、破壊した。
大鉈が鑚嶌の肉体を脱した直後に、龍司は鑚嶌の返り血に染まっていた。

斯くして、葦餝にて繰り広げられた戦争は、龍司たちの勝利に終わった。

17日前 No.46

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【第47話 長いよ(シリアスパートが) ―熱夏閃光篇M―】

あれから数時間後。
夜の帳が降りた、城の最上階で龍司と草鹿は、高麗の支配から解き放たれた葦餝の街を見下ろしていた。
普段なら、中華街の華やかな照明が夜闇を照らし、街を行き交う男女で賑わうのだろう。
しかし、今日はそうもいかず、武装警察委員会の捜査が入っている。
龍司が口を開いた。
「…戦後処理はどうするんだ?」
草鹿か龍司を一瞥し、夜空を見上げて淡々と述べた。
「葦餝は、私の隊の管轄とします。鑚嶌公三は逮捕前に抵抗し、私の隊と交戦、その末に死亡したことにします。交野や癸巳呶も、相当数の罪状がありますので、拘束期間をたくさん引き延ばし、一生を取り調べと裁判で過ごしてもらいます」
「そこはいい。だが、摩耶と愛宕はどうなる?」
そう、龍司の言う「戦後処理」というのは、そういうことだった。
「確かに、これは俺がやっちまったことだが、それでも____」
「彼女達は、どうにかなりますよ。もちろん貴方も」
「…?」
「貴方達は、葦餝に遊びに来ていたところ、犯罪捜査に来ていた私の隊と高麗第一二師団の抗争に巻き込まれ、負傷した…この程度の事実、簡単にでっち上げられます」
視線を下に移すと逮捕者が列をなして街の外へ向かっているのが見えた。
「あれはどうすんだ?」
「主要人物は全員口封じをします。他の雑兵は、了承したらの場合ですが、戸籍を変えて私の隊に入れます」
「…お前、なんか企んでるか?」
草鹿を横目で一瞥する。
「軍拡をするのは、理由があんだろ?」
「そうですねえ…。まあ、一度組織に入ったら、頭は取りたいですよね」
「つまり影響力と行動力を高めたいのか」
「そんなところです」
いつもいつもにっこり顔で語る草鹿の心の内は、龍司には読めない。
ある意味恐怖だが、読み取る方法は言葉だけだというのも、またわかりやすい。
「…まあいい。しっかり頼むぞ。俺は日常が壊れるのは御免なんでな」

「うまくいったみたいだね」
月を背に、ビルの上に佇む男達がいた。
ビルの縁に右足を掛けている男の左斜め後ろにいる、比較的大柄な男が、言った。
「ま、やっこさんをうまい具合に焚き付ければ第一二師団は勝手に消えんのは確実だったろ」
小柄な男が軽い口調で言う。
「途中危なかったじゃないか。峯風殺されかけてたし」
「大丈夫だったろ。ま、カテゴリー10相手にほぼ単独で勝つなんざ、逆転優勝もいいとこだがな」
「結構危ない賭けだったけど、これでようやく進める」
小柄な男____烙影啓双が、声音を下げて言った。
背後から差す月明かりが、彼の髪を染める。
比較的大柄な男、斑尾益城が感慨深げに言った。
「高麗をモノにするのもあと少し、ってか」
「ああ。俺らはもう止まれない、止まらない。ヤツが、草鹿と俺達が利益を共有し、全てを変えていく。この同盟の主旨は、そういうことだろ?」
烙影が、目を細めて口角を上げ、微笑んだ。

熱夏閃光篇 ―終―

17日前 No.47

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第48話 長かった(シリアスパートが)】

葦餝の一件以来、龍司と愛宕には、言い知れぬ壁がある。
龍司のあの言動とその姿を見てしまったからだろうか。

「なあ愛宕。ここにあったピーナッツバターチョコレートビスケットグリフォン知らねえか?」
やたら長い名前の菓子の所在を、龍司の定位置で寝転がる愛宕に訊いた。
「知らん」
「…」
ぶっきらぼうな。
「そっか。じゃあ買ってくるわ」
「行ってらっしゃーい」
いつもなら、「私も行くわ」とついてくるはずだ。

…あの一件が関連しているのは間違いないが、これはこれでツラい。
だが、ここでそれを追及しても、関係が悪化するだけだろう。
幸い、まだ夏休みは中頃に入るところで、時間はまだたくさんある。結論は後でもいいだろう。

龍司は結論を先伸ばしにした。


彼女にとって、峯風龍司という人物は、「救い主」であった。
よく言えば天真爛漫で、悪く言えば自分本位で動くという性格の持ち主である愛宕は、長らく友と呼べる者はおらず、家庭内でも理解が得られず、家を追い出されてしまった。
そんな彼女を、龍司は快く迎え入れ、受け入れてくれた。心から笑ってくれた。
そして友情とは全く異なる感情を抱いていたのも事実だ。

しかし、そんな愛宕は、ある日見てしまった。

光の全くない、暗闇に沈み込んだ、あの目を。

理解が、出来なかった。
言動、声音、表情_____どれを取っても、愛宕が知っている龍司ではなかった。
いや_____この衝撃は、たかだか数ヶ月程度で全てを知っている気になっていた傲慢を彼女に認識させたが、「それでも」という言葉が脳裏に食い込んだ。
それほどまでに強烈な経験であった。

故に、愛宕は無意識のうちに龍司と距離を置いてしまっている。
彼女に対し、龍司は変わりなく接してくれているのにも関わらずだ。

彼がいないリビングで1人悩んでいた。

「どうしたの?」
声の主は、いつの間にか背後の席についていた摩耶だった。。
愛宕は頭だけ動かして摩耶を見上げる。
「そういえば最近、龍司くんへの態度、おかしいわよ?」
「…なんでもないわよ」
摩耶も気づいていた。
いや、いつも龍司に絡みまくるのに、全く絡まなくなった時点で、それはお察し済みのようだ。
「私もわからないわ」
不意に、摩耶がしみじみと言った。

11日前 No.48

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第49話 ネタパートがなかなか出せなくてコンセプトから外れまくってる件について】

「私もわからないわ」
摩耶が発したその一言は、愛宕の混乱を深めた。
「…え?あんた、あいつの…」
「そうね、貴女よりかは知っているつもりよ。でも…」
摩耶の顔が曇る。
そこで愛宕は察した。彼女も、龍司を知っているわけではないのだ、と。
「彼は…私たちが思うほど深い人間ではないのかもしれない。けど、その逆もあり得るのよ」
「…」
「私は、彼が時々見せる空虚な目が怖い。あの奥に映るものがなんなのか、理解出来ないし、知りたくないから。でもそれって、逃げよね」
自嘲的に笑う摩耶に、愛宕は掛ける言葉がなかった。

「じゃあさ、聞いてみよ?」
しばらくの沈黙の後に、愛宕が思い切って切り出した。
摩耶はしばらく考える。
「…そうね、確かにそうすれば…でも…」
摩耶はなにかを知っている。
ある程度だが、なにかを知っている。
愛宕はそう確信した。
「あんた、なにか知ってるでしょ?」
「え?」
驚く摩耶。
その表情は、質問に対して否定をしていなかった。
「…何から話しましょうか?」
「初めから全て」
「言ったけど、全部知ってる訳じゃないし、彼も断片的にしか教えてくれなかったから、多分そこまで多くは語れない。だからわからない部分は彼に聞いてね?」
と、摩耶は断りを入れた。

10日前 No.49

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第50話 忘れ物はいつもしょうもない】

ピーナッツバターチョコレートクッキーグリフォンの箱が入った、小さなレジ袋を左手に持った俺は、家のドアを開けようとする手を止めてしまった。
ドアから漂う、殺気に近いなにか。
「…?」
ドアから二、三歩離れ、マンションの廊下の側壁に背中を預けた。
腕を組み、天井を仰ぐ。
「また面倒な…」
この物々しい雰囲気は、なんとなく察しがつく。
ここは敢えて、飛び込んでいくという選択肢は間違いなく面倒事を引き起こす。面倒な状況を悪化させるのは良くない。だからといって、しばらく待つという選択肢もあるがこれは更にBAD。時間が経てば経つだけ事態が深刻化することなどザラなのだ。
なら仕方ない。ここは思い切って突っ込むしかない。
そう考え、心を無にし、ドアに手を掛けた。

「ただいまー」
ドアを開けると、そこにはいつもの玄関があった。
靴を脱いで家に上がる。
廊下を歩き、リビングへ真っ先に向かう。
多分、そのときの俺は死んだ目をしているだろう。
だから、リビングに入ったときに振り向いた摩耶と愛宕が見せた驚愕の顔は、ある意味仕方ないと言えた。

なぜなら、このとき彼女らは俺の話をしていたのだから。


「なんか話してた?」
俺はリビングに入るなり、冷蔵庫に例のクッキーを詰め込みながらそう言った。
「えーと…」
摩耶が口ごもる。
その様子でだいたい察した。
俺の素性を、愛宕に教えたのだろう。
となれば、次に来るものはだいたいわかる。
「ねえあんた、異世界人てホント?」
愛宕が席を立ち、俺の方に歩み寄ってきた。

このとき、俺はこの質問を予想はしていたとは言え、俺はそれに対する有効な回答を有していなかった。
ここで「違う」と言えば摩耶は嘘つきとなり、「はいそうです」と言ったところで、それを証明するものはないし、あまり話せないものも聞かれるだろう。それを拒否すれば、俺と摩耶、愛宕の間に亀裂が入る。

ああ、いつかはこうなるのはわかっちゃいたんだ。
なのに、なんの対策も講じなかったのは、あまりの愚策と言えた。

だが、まだ切り札はある。

「…どこから聞きたい?」

俺は、情報を小出しにしてこの場を乗り切ることを選んだ。

8日前 No.50
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