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私の犬

 ( 小説投稿城 )
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司徒 @nobunaga11 ★dGrf6rPuvk_yoD

 腰に炎を抱けども、それは決して解き放たれる事は無く。
 彼の黒々とした髪、年増ゆえの小皺、弛んだ無防備な体、低く無愛想な声、媚び諂うように哀れな目元、草臥れた背広、全てが私の神経を逆撫でる。整わずして生まれてきた可哀想な顔立ちが、私の罵倒により苦痛と恥辱に歪むのが、何よりも楽しく好ましい。蕩けた暗闇に全身を浸らせても、こうも畜生にはなるまいという性質を抱きながら、悲劇的に生を受けた彼が、その事実を私に突き付けられ、怒り、嘆き、最後には挫折する姿は、非常に煽情的で刹那的で、喉を震わす艶やかさを醸し出している。


「わたしのいぬになりなさい」


 私はそう言ったね。おまえは、年若の女にそう言われてどう思ったかな。嗚呼、嘗められていると思ったかな。その女が、家柄も、能力も、容姿も、環境も、全てにおいて自分より上だと知った時、おまえは年甲斐も無く意地を張って、私に世話を焼いたじゃないか。その行動が犬なんだよ、はあはあ五月蠅く息をして、優先順位をはっきり心得ているじゃないか。人間として愚図なおまえも、犬としては上等なものだ。冗談にそう告げると、おまえは確かに嫌そうな顔をするが、心の奥で、瞳の奥で歓喜に潤んでいるのを隠せている訳じゃない。
 ___嗚呼、おまえは本当に愚図で、木偶の坊で、可愛らしい年増男だ。


「……わたしのいぬになりなさい」


 おまえはもう返事をしない。白い装束を着て、静かに棺桶に寝そべっている。犬の葬儀にしちゃあ、皆が泣いて、沈痛な表情を浮かべている。おまえはこんなにも愛されていた。だがおまえは、生涯の最後を私の為に使ったのだ。妻も娶らず、子も作らず、味気の無い人生を、私だけに全てを求める事で賄おうとしたのだ。私はおまえの女になるつもりも甚だ無く、おまえの娘になる気も全く無かったのに、だ。私を求めて何を得たかった?


「わからない」

 私はおまえが分からない。こんなにも最期を共に過ごしたのに、おまえがちっとも理解できない。嗚呼、そうだ、これは追憶の物語。これは、私がおまえを辿る走馬燈。なあ、私がおまえを愛していたならば___。


___否、これは愛で語れる程陳腐なものじゃない。飼い主が迷い犬の行く先を辿る、そんな喜劇であれば良い。







荒らしは禁止
感想大歓迎です

メモ2017/03/03 16:44 : 司徒 @nobunaga11★dGrf6rPuvk_yoD


元 犬の葬列

美少女ご主人様×おじさん犬


愛ある鬼畜


人を選ぶ内容です

ページ: 1

 
 

司徒 @nobunaga11 ★dGrf6rPuvk_yoD

犬の章





 ベラドンナの色が思い出せない。
 母が好きな植物だと言っていたような気がする。小説家だった母は、その時代では珍しいシングルマザーのキャリアウーマンで、それでも世間の波に揉まれもせず、1人分の金を欲しいままにして、息子の反抗期すら金で収めた程だった。官能的な文章を書いては売り、金を受け取り、騒動を起こし、それを題材に文章を書き……を繰り返す、謂わば尻軽な女だったが、愛書は何百冊以上という位の読書家な面と、またそれらを全て暗唱する記憶力と知識力を備えており、途轍もない頭脳を持っていた。俺はそんな母を信頼していたし、男をとっかえひっかえする合間にする話が面白く、よく記憶に残っている。

『ベラ・ドンナは上品な貴婦人という意味を持つが……実際くすんだ色のその果実は、毒とこの上ない臭気を持ち合わせている。まあ、女なんて一皮剥けばそんなものよ。ゆめゆめ気をつけなさい』

 母は柄にもなく慈愛に満ちた笑顔でそう呟いた。その後には、急に厭世的になって、編集者の住む高層マンションの屋上から飛び降りて死んだ。痴情の縺れで死んだ母に、優しい言葉は1つもかけられず、逆に俺は厚遇され、裕福な叔父夫婦に引き取られてからは今まで以上に順風満帆な日々を送って来た。彼らも亡くなり、会社の有力ポストや財産を余す所なく受け取り、仕事人間として生きてきた。だが、最近、星空が妙に近いように感じている。

 まるで、空が天井で、段々押し潰されていくような気分だ。都心の空は近くて狭い。見上げれば排気ガスに汚染された星空がそこにある。いや、もう夜空は穢れ過ぎて一種の沼のようだ。ぽっかりと空いた空間か、蚯蚓や蜥蜴の渦巻く蟲毒の箱か。手を伸ばせば、汚らしい星が掴めそうだ。干上がったダムの虫を拾うように簡単に。会社の屋上のベンチで、終日時間を費やしながら、そんな馬鹿げた思考で脳を麻痺させている。
 もう五十五も過ぎ、後五年もすれば還暦だというのに、俺の居場所は職場には無い。資料管理とは名ばかりの、生き地獄のような日々。年下の上司にこき使われるのはもう慣れたが、新人にさえ暴言や愚痴の捌け口としか認識されていないのは、中々堪える。金を持っているならばもっと出世して、俺たちを見下せば良い、と嫌味を言われる。確かにそうだ、俺だって、借金さえ無ければこんな塵溜めの生活を送りたくは無い。金は全部、金を借りた会社に流れていく。最初はくだらない理由だったのに、次々と量は嵩んで、今じゃ何故金を借りたかすら思い出せない。分かっているのは、貰ったポストも財産も、ほぼ使い切ってしまったという事実だけだ。家と見てくれだけが高価な俺を、卑屈な俺を、俺自身も嫌っていた。
 溜息を吐き疲れて、冷たいベンチに横になる。こんな寒い時期に、しかも飽き飽き暗くなった時間に、屋上へ来たがる奴なんてほとんど居ない。コンビニ弁当をゆっくりと貪りながら、重たくなった瞼を閉じようとした。どうせ家に帰る予定も無い、会社に閉じ込められても構わなかった。

「嗚呼、ここにいらっしゃったの」

 鞠を転がすような清らかで可愛らしい声色。歌うような発音に、俺はふと目を開いた。夜空はそこには無かった。代わりに、少女の顔が間近に迫っていて、俺は思わず喉を鳴らして飛び退いた。衝撃で弁当が乾いた音を立てて、コンクリートに直撃する。俺は喉奥に詰まったままの驚嘆に四苦八苦して、少女に何の言葉もかけられなかった。何処かの名門校だろうか、黒いセーラー服は、夜闇に溶け込んで、心臓の如く赤いリボンの輪郭をくっきりと示している。濃紺のタイツは、滑らかで白々とした足に艶めかしく纏わりつき、窄まった踝から爪先にかけての優美な曲線は、焦げ茶のローファーが遮るばかりだった。何という白磁の肌だろう。人形さながらの顔や、猫目石の瞳、そして一際目を引く、何とも手触りの良さそうな白髪の長い髪が、星空をぐんと引き離して、一等辺りを照らしていた。
 少女は小さく、天女みたいな笑みを零し、俺の肩を軽く揺さぶった。そして、よく手入れされているだろう、細く優美な指を__あろう事か、俺の首にぎりりと巻き付けた。瞬間、脳に酸素が行き渡らず、体中で警鐘が響き渡った。朗朗と危機を謳うそいつに吐き気を催し、俺は情けなくも少女を振り払う為、その華奢な肩を引っ掻いた。少女の鎖骨に蚯蚓腫れを引き起こした気がしたが、彼女は笑いを隠さずに、更に力を強めた。かは、と唾液が口端から零れた。蛙が潰れたような悲鳴が、自身から漏れ、気付けば俺は少女を睨みつけていた。すると、彼女はくすりと尚も俺を嘲り__やっと呟いた。

「わたしのいぬになりなさい」

 時が止まったように思えた。残酷で、しかし、蕩けるような甘美な響きを以て、褥での睦言の雰囲気を孕ませて。俺は、腹の辺りが気持ち悪く重くなるのを感じた。まるで、この女の声、で。途切れ途切れに呼吸をしながらも、俺は辛うじて意識を保ち、はっきりと首を横に振って否定した。何を言っているんだ、この女は。憤怒が全身を熱くした。けれど、それ以上に熱く、甘い囁きが神経を焼き尽くす。

「空が近いと思わないか。でもそいつは押し潰してはくれないよ。私がおまえを潰してやろう、引き潰して、ぐちゃぐちゃにして、汚して、掻き乱してやろう__残った亡骸は、私が全て喰らってやるよ」



 絞められたまま抱き締められた頭が、じんじんと熱を孕んでいる。遠退く世界で、一瞬だけ女神を見た様な気がした。

2ヶ月前 No.1
ページ: 1

 
 
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