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千年京異聞録

 ( 小説投稿城 )
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夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_qxX

 アヤカシ――それは、人とは異なる理に生きるモノ。それは、気紛れに人の生活を脅かすモノ。それは、滅されなければならないモノ……そして、今を共に生きるもの。

 陰陽師――それは、人とは異なる理に生きるモノ。それは、意図的にアヤカシの存在を脅かすモノ。それは、屠らなければならないモノ……そして、何時の間にか隣に在ったもの。

 京都という古の都で、人ならざるモノと人に非ざるヒトの運命は、幾度となく交じり合った。互いに闘い、奪い、傷つき、守り。互いを癒し、憎み、愛し。
 世界を巻き込んだ戦乱もあった。たったふたりにだけ通じる誓いがあった。主従の絆と、仲間との夢と、忘れられない願いがあった。地獄の業火に焼かれる夜と、木漏れ日の穏やかな昼下がりがあった。

 これはそんな幾億の物語から零れ落ちた、ほんの小さな欠片たち。

【当スレッドはオリジナルなりきり「千年京とヘマトフィリア〜名無しのアヤカシ〜」(URL→  http://mb2.jp/_nro/13445.html  )の本編中で描き切れなかった物語を補完するための外伝集です。従って基本的な世界観や用語は上述のスレッドに準じます。また、基本的にはスレ主の叶こと夕邑三日月が自己満足の為に書き上げた作品を放り投げておく場となりますが、参加者様からの依頼があれば当スレッドを解放する、代理投稿を行うこともあるかもしれません。その時はよろしくお願い致します。最後になりますが、クリック・タップ有難うございました、拙い文章ではありますがどうぞゆっくり楽しんでいってください。】


メモ2017/01/04 01:36 : 夕邑三日月☆NIljAHmRyhk @mistydark★R3lMq2ye0U_qxX

 ひぃ、本編始まる前からいいねが……有難うございます!


【目次】

1雪影遺文(セツエイイブン) 暗雨編>>1 初雪編>>2 残雪編 翠影編 

切替: メイン記事(4) サブ記事 (1) ページ: 1


 
 

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_qxX

【雪影遺文】

―暗雨編―

 1853年、夏、京都。
 とうの昔に夜の帳が下りた街を、闇よりも濃い影が駆ける、翔ける。
 追われているのは、一人の男。辻斬りの被害にでも遭ったかのように、右の二の腕からは血を流しながら、必死の形相で人気のない路地を逃げていた。死に物狂いの男とは対照的に、追い掛ける影は呼吸一つ乱さず、ただ冷静に冷酷に塵芥でも見るような瞳で男を見詰めながら、足を前に進めていた。
 男は通りを走り続け、一条戻橋の辺りで力尽き、頽れる――否、遂に黒い影は彼を捕え、背後から迷うことなく、心の臓に脇差を突き立てた。その剣を引き抜き男から離れるまでの動作を一瞬でやってのけたがために、彼は勝手に倒れ込んだように見えたが……影の一丈ほど先で、男は事切れていた。
「……アヤカシなんぞに媚び諂うから、こんな目に遭うんだよ莫迦が」
 今度はゆっくりとした足取りで男に近づき、足蹴にして転がしながら顔を確認した影――黒い装束に仮面で顔を隠した青年は、既に唯の屍と化した相手に吐き捨てた。そうしてそのまま、橋の上から堀川に向かって死体を蹴り落とす。
 暗い水面に全てが飲み込まれる音は、闇の中に掻き消されていく。

 この世界には、アヤカシが居る。気紛れに人を襲い、人間を弄ぶ異形が居る。
 男は、数百年の時を越えて京の町を、ひいては日本をアヤカシから守護する陰陽師の一人だった。尤も、自分の命が惜しいが為に、以前の戦闘で敗北したアヤカシに仲間の情報を売っていたらしいのだが。
 男が内通していることを知った陰陽師の統括組織・陰陽寮の上層部は、青年に彼の処分を命じた。そうしてその仕事を、青年は完璧にこなして見せた。
 仕事を終え、仮面外して一息ついた青年――暗殺や密偵など、陰陽師でありながら対人間の仕事をこなす暗部の人間の頬を、小さな雫が濡らす。彼が空を見上げた瞬間、大きさも勢いも先程とは比べ物にならない水滴が、青年の顔に、体に、全身に向かって落ちてきた。
「……雨、か」
 丁度良い、と青年は口角を上げる。
 今夜の痕跡は、この雨が全て流してくれるだろう。橋の上の血痕を消す手間が省けた。
 そう結論を下した青年は、くるりと踵を返す。

 浦賀沖に現れたペリーが自国にもたらした混乱などどこ吹く風、ただただ国内の……自らの任務にのみ没頭する一人の男が、其処には居る。
 彼の名前は芦屋道影。陰陽師の御三家の一つ、芦屋家の頭首の息子の一人でありながら、頭首争いとは最も遠い所に居る存在だった。

1ヶ月前 No.1

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★UqSK0FK9ug_mgE

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1ヶ月前 No.2

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_qxX

 女性の名は、淡雪と言った。生まれた時から体中の色素が欠乏する病を患っており、銀の髪と赤い瞳を気味悪がった家族に、物心つかぬうちに見世物小屋に売られたらしい。十六年間あの薄汚い屋敷で暮らした淡雪は、気付けば他の面子の姉代わりのような存在になっており、半年ほど前に連れてこられた子鬼にも懐かれていたようだ。
 その子鬼を取り返すべく仲間たちが見世物小屋を襲撃したのが事件の発端であり、その主人は役人に引き渡され、当然その稼業は廃業に追い込まれた。
 そして現在……件の子鬼と淡雪は、道影の屋敷に部屋を与えられてひっそりと暮らしていた。あの場に居た者たちは陰陽師のほうぼうの屋敷に引き取られたり親元に返されたりしていたのだが、この二人の面倒を見るとは、道影が進んで言い出したことだった。彼をよく知る者は珍しいこともあるものだと首を傾げたのだが、太陽の光に弱い淡雪の保護に責任を持てる者はほかになく、結局彼に一任された。
 道影としても、どうして自分がそんな気になったのかはよく分からなかったのだが、あんなにも儚くて今にも消えてしまいそうだったくせに、真っ直ぐで強い瞳を見てしまえば、捕らわれない人間はいない気がしていた。
 そして、表と裏の仕事で忙しく家を空けがちで、殆どと言っていいほど自分に干渉をしてこない道影の在り方は、淡雪たちにとってもまだ居心地が良かったようで。

 それは、彼女たちが屋敷に来てから、二月ほど経ったある日の夜のことだった。
「あーっと……調子はどうや?」
 仕事から戻り、着替えやら何やらを済ませた道影は、襖の向こうの二人に声を掛ける。すると僅かな時間をおいて、内側から襖が開かれた。
「お陰様で、変わりありません」
 道影のすぐ下で、灰色の地味な着物に身を包んだ淡雪が微笑を浮かべていた。彼女が「りく」と名付けた子鬼は、部屋の奥で猫か何かのように手毬にじゃれ付いている。
「あ、えと……それは、何より、です」
 自分で聞いたくせに、若干言葉を詰まらせながら道影は答える。母を早くに亡くし、男ばかりの三兄弟の中で育った道影は、仕事以外で女性と接することに殆ど免疫がなかった。
「……外は冷えますから、どうぞ中へ」
「いやあのそんなお構いなく! ってか此処俺の家やけど……あのな、今日ちょっと渡したいものがあってん」
 首を傾げる淡雪から目を逸らし、道影は荷物持ちをさせていた部下を振り返り、彼から大きな包みと紙袋を一つ受け取る。因みに、彼はそれで下がっていき、最後まで何でもない風を装ってはいたものの、最後まで上司の様子に吹き出すのを堪えるのに必死だった。
「この間の仕事、江戸やってん。何や色々ごたごたしとるけど、やっぱ向こうの方が良ぇもん揃うからなぁ……ほれりく、何故か江戸で売っとった長崎のかすていら」
 道影に自分の名が呼ばれると、まだ一瞬怯えたようなそぶりを見せるりくも、甘いものと聞いて飛んできた。目を輝かせながら袋をひったくっていく様子は、本当にただの子供である。
「りく、ちゃんと道影さんにお礼を……」
「いや、構へんて。あの子は俺に対して思う所も多いやろうし、ご機嫌取りせなあかんのはこっちやし」
 淡雪の言葉を遮った道影は、彼女の前に残った包みを置いた。
「んで、こっちは君に。家まともな女居らんからな、母親の、何十年も前の着物ばっかりやと流石に悪い思てな……あ、俺選んでへんから、ちゃんと女の子に任せたから!」
 脈絡のない言葉を告げるだけ告げると、道影は逃げるように部屋を出ていった。

 取り残された淡雪は一体どうしたものかと意味もなく視線を彷徨わせていたのだが、答えを呉れる者は辺りに居ない。そこで取り敢えず、包みを解いてみることにした。丁寧に紐を解き、折られた紙を開いていく。畳の半分はありそうな大きな包みだったが、開くのにそう時間はかからなかった。
「……綺麗」
 思わず、淡雪はそう漏らす。
 包みの中から出て来たのは、彼女が今までに目にした中で最も美しい着物だった。浅葱色の布地で、足元に鈴蘭が描かれたそれは、控えめでありながらも上品な存在感を放つものだった。そこまで高価なものでもないのだが、これまでずっと見世物小屋で暮らしてきた淡雪には、まるで姫君が袖を通すようなものに思えた。
 何処か恍惚とした表情で着物を見詰める淡雪に、りくは袋を抱えたまま近づいてくる。
「……姉サン、アイツ、好キ?」
 丸い瞳を僅かに陰らせて自分を見上げるりくの様子に、淡雪はふっと微笑むとその頭を撫でた。
「私たちを助けてくれた方よ、嫌いになんてなれる訳ないじゃない」
 りくは淡雪の手の平の温かさに安堵した表情を浮かべながらも、ぷいと視線をそらしてしまう。
「オレ、アイツ、嫌イ。アイツ……血ノ匂イスル、怖イ」
「……仕方がないでしょう? 世の中にはそういうお仕事だってあるの……それにあの人は……本当はとっても優しい人よ。ただ、不器用なだけだと思うの」
 淡雪は着物を脇へ避けて、りくを膝の上に抱いた。そうして彼に言い聞かせるように、自分の願いを唇に乗せる。
「優しい、人だから……平和に暮らして欲しいの」
 恩人に対する些細な願いは、夜闇に飲まれて消えていった。

 それから数カ月、共に過ごしていくうちに淡雪は道影の不器用な優しさに触れ続け、彼に命の恩人に向ける以上の感情を抱くようになっていた。そして道影もまた、今まで彼自身が生きてきた世界とは余りにも異なる安寧を手にし、それを生み出す淡雪を守りたいと思った。当人たちが、そして傍から見ても、二人が恋仲になるのに時間はかからなかった。

1ヶ月前 No.3

@mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_qxX

 季節も変わり、京都の茹だるような暑さも彼方に消えた、底冷えのする冬。
 火鉢を置いた座敷の端で、道影は文机に向かっていた。その反対側には、彼の邪魔にならぬ位置で淡雪も座っている。そして当然りくもその傍に……居たのだが、思い立ったように彼は道影の方へと歩き出した。
 資料とも日記ともつかぬものを書き散らしていた道影は、ちょいちょいと着物の袖が引かれる感覚に視線を移す。
「ん? 何やりく」
 この数カ月の間に、多少の蟠りは消した二人だが、それでもりくが進んで道影の注意を引くことは少なかった。不思議そうに問いかける道影とともに、淡雪も珍しいことがあるものだと言う顔をしていた。
 一人、何かを決意した強い瞳をしているりくだけが、道影をじっと見詰めていて。

「オレ、山、帰ル」
 唐突に、そう言い放った。

『え?』
 部屋の両端、道影と淡雪の声が重なる。
「山、マダ、仲間居ル。ソレニ」
 困惑している道影の方に手を伸ばし、りくは彼の胸倉を……掴もうにも届かなかったのでもう一度着物を引っ張って顔を近付けさせた。その状態でりくは道影にそっと耳打ちする。
「オレ、邪魔者。オ前モウ、血ノ匂イシナイ……姉サン、任セタ」
「りく……お前……」
 話が聞こえていない淡雪を余所に、男同士の友情が芽生えた瞬間だった。
「ま、まぁ……りくがそう言うんやったら引き留めはせんけどな……せめて、もうちょい暖かなるまで待たんか? もう如月も終わりやし、あと一週間もしたら山の雪も溶けるやろ」
「そ……そう、ですね。私もそれが良いと思います。ね? りくも、突然出て行ってしまうなんてことはないのでしょう?」
 当惑こそしているものの、淡雪もりくの意見を尊重する気持ちは変わらないようだった。それを理解している彼もまたゆっくりと頷き、もう暫くの間だけは道影の屋敷に留まることを決めた。

 その一週間は、本当にあっという間に過ぎて行ったのだけれど。
 暦が弥生に変わった頃、桜の蕾さえも膨らみ始めた山道を、道影はりくを抱いて登っていた。淡雪は着いてきていない。一緒に行けば別れるのが辛くなるからと、一人部屋に残っている。
 子供一人を抱きかかえるよりずっと軽いりくを抱き上げ、そのぬくもりに触れながら、道影はぽつりと呟いた。
「なぁ、りく……昔の俺って、そんな血の匂いぷんんぷんさせて歩いとったんか?」
 りくは答えない。ただ複雑そうな表情をして、ふいと視線を逸らした。
「まぁ……仕事が仕事やもんな。しゃーないわ……確かに俺の両手は、疾うの昔に朱に染まっとる……アヤカシも人間も殺し過ぎた。俺かて一匹の夜叉やってん……そのことに疑問もなかったし、罪悪感とか、後悔もあらへんかった。それがあった所で勿論、俺の罪は、一生かかっても消えへんやろうけどなぁ……それでも」
 道影は、言葉を気っていったん空を仰ぐ。雲一つない、何処までも続きそうな晴天だった。
「俺が……欠片でも人間らしさを取り戻せたんは……普通に暮らして、普通に幸せになりたい思えるようになったんはな、お前と淡雪のお蔭やねん。有難うな」
 それだけ言うと、道影は適当な岩陰にりくを下ろした。
「この辺で良ぇやろ? ほな、達者で暮らせよ」
 唇を引き結んだままのりくに背を向け、道影は来た道を戻ろうとする。振り返るまい、彼はそう決めていた――決めて、いたのに。
「……道影!」
 初めて名を呼ばれ、その決意はいとも容易く翻った。初めてりくに笑顔を向けられ、自責も全て吹き飛んだ。
「マタナ」
 手を振って闇の中へと消えて行ったりくに、道影もまた軽く右手を上げて応えた。

__________


 陰陽寮内部に設けられた特別会議場。御簾で隔てられた座敷の中で、高官達が秘密裏に話し合いを行っていた。

「……芦屋家の三男坊の事だが……彼奴の所業は、最近目に余る物がある」
「ふむ……確かに、以前の様な無慈悲で正確な技術は鳴りを潜めて居るようだのう……」
「アヤカシの処遇もそうじゃ。近頃の奴は手緩い……アヤカシにせよ裏切り者にせよ、見逃せばどうなるのか分からぬ訳でもなかろうに……!」
「先日は何処の馬の骨とも知らぬ娘と一緒に守手でもないアヤカシを引き取り、挙句は野に放ったとか何とか……」
「奴は……良くも悪くも陰陽寮に深く関わり過ぎて居る。此の儘放っておく事は出来ぬ」
「矢張りそうなりますな……こうなってしまっては致し方ない。早急に処分を」

24日前 No.4
切替: メイン記事(4) サブ記事 (1) ページ: 1

 
 
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