Google
    
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▼レス(11) >>

繰り人形

 ( 小説投稿城 )
- アクセス(128) - ●メイン記事(11) / サブ記事 - いいね!(2)

雪桜 冬 ★iPhone=7M95f8ds86

私は保母でございます。今こそ年を取り保母としての職務を果たせなくなりましたが昔は近所で評判も高うございました。
三年ほど前まで子供達に保母さん、保母さんと呼ばれ楽しく過ごしておりました。
保母としての生活をしていた頃、私には深く印象に残った一人の子供がおりました。
その子は年に合わずとても静かな子だったと記憶しています。おとなしい、というわけではございません。
静かな子だったのでございます。
笑いもしなければ泣きもせず走り回ることも無くただ、一言も発することなく一人で本を読んでおりました。
まるで、魂の無い人形の様にひたすら目の前にある本に目を通しておりました。
私も初めは気になりまして、しきりに話しかけました。
しかし、その子は私と目も合わせず返答もしませんでした。
耳が聞こえないわけではありませんでした。
何故ならば、親御さんが迎えに来て声を掛けますとその子は立ち上がり親御さんの元へ駆けていったからでございます。
その後時が経ちその子は国民学校初等科へと上がりました。
ひと月ほど経った頃、その子のご両親が私に挨拶に来てくださいました。
「保母さんには、息子が大変お世話になりました。どうしてもほぼ保母さんに息子の姿を見せたくて」
そうして、ご両親がその子の名前を呼びました。
その子は、はい。と大きく返事をし私の元へと駆け寄ってきました。
私は驚愕いたしました。
ほんとひと月前まで静かで人と目を合わせず人形の様であった子が、幼い、可愛い、笑みを浮かべ私にすり寄って来たのです。
真に、狐につままれた様な気分でございました。

1年前 No.0
関連リンク: 拝啓貴方。 Swapped twins 
ページ: 1


 
 

雪桜 冬 ★iPhone=o8a0xW8NPu

私は喜怒哀楽というものをあまり表さぬ子供でした。
幼き頃から笑わず、泣かず、他人と話す事を嫌い、本ばかり読んでおりました。
二歳を過ぎた頃でしょうか。
私は実家の事情で保母さんに預けられる事になりました。
保母さんはよく笑い、子供達に好かれておりました。
預けられた当初は誰とも話さぬ私を気遣ってかよく話しかけてくださいました。
しかし、私はその行為をとても鬱陶しく思っておりました。
保育所内は騒がしく私にとって生きにくい場所でありました。
年が近い子供達が猿のように泣き喚いたり
笑ったり動き回ったりとしている姿が私には見るに堪えない者でございました。
幼心ながらにその様子がまるで物の怪のように見え気色の悪い者でした。
私は物の怪になど成りたくなかったので、周りの子供達と反面し感情が乏しいものになってしまいました。

1年前 No.1

雪桜 冬 ★iPhone=U6Jm1qWDzh

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

1年前 No.2

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=vQEyqrNWHJ

暫くして父が着いたぞ、と私に声をかけました。
私は、はぁいとぼんやりした様な声色で返事をし、車を降りました。
両親が私に、先に挨拶に行くからお前はここで待ってなさい。と言いました。
私は頷くと保育所の門の所にもたれ待っていました。
五分と経たないうちに父が私の名前を呼びました。
私は、はい。と大きな声で返事をし保母さんのところへ駆け出しました。
私はにっこりと保母さんに笑いながら擦り寄ります。
すると、保母さんは少々驚いたような顔をしました。
しかし、すぐに笑顔になり私に話しかけてくださいました。
「秋彦君。こんなに大きくなって。」
「学校は楽しいですか」

保母さんは私の目を見ながら言いました。
私も保母さんの目を見てはい。と答えました。

この瞬間だけ見ればなんとも微笑ましい光景なのでしょう。
しかし、私にとってはただ虚しいだけなのです。

1年前 No.3

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=vQEyqrNWHJ

こんな生活を続けて二年ほど経った時、私の身にある事件が起こったのでした。
私が三年生の時でした。
その日は残暑の厳しい雨天でした。
雨がざあざあ降っていて湿気の多い生ぬるい空気が肌を撫でていました。
皆、雨が続き体力が有り余っている様でした。
私は授業の合間の中休みに友人と駄弁っておりました。
好きな本の話や遊びの話など他愛もない内容です。
中休みが残り十分になった時。
教室の入り口から私の名を呼ぶ声が聞こえました。
耳を劈く様な大声でしたので、教室中が驚いて
水を打ったように静かになりました。
私も驚いて声のした方を見ますと声の主は隣の組の男子生徒数人でした。
四、五人の男子生徒が私を睨みつけるように立っていました。
その中には私より一回り大きい男子生徒がいました。
彼は近所でも悪名の高い、所謂ガキ大将という奴でした。
他にも、彼の腰巾着の様な子達がいました。
私は変な事で評判を下げるのは滅法ごめんでしたので彼等とは言葉を交わすどころか顔を合わせた事すらありません。
ですから、彼らが私の名を呼び鬼の様な表情で睨みつける理由がてんで見当がつかなかったのです。
「なんですか」
私は彼らに近づき尋ねました。
彼らは私を睨みつけたまま胸倉を掴み外まで引きずり出しました。
恐ろしいという感情より、雨で体や衣服が濡れることによる嫌悪感のほうが勝っていたことをよく覚えています。
昇降口まで来ると私の胸倉を掴んでいた男子生徒が私を外に放り投げました。
地面はぬかるんでおり手や背中に泥が付きました。
「・・何の用でしょうか」
私は彼らにまた尋ねます。
ガキ大将の男子生徒が私に向かって怒鳴りました。
「てめぇの性格が気にいらねぇ」
私は彼の言っていることが理解できませんでした。
私は彼らとは言葉を交わした事はない。
なのに、何故彼らに性格の事をとやかく言われなければならないのか。
全く分かりませんでした。
「そんな事言われてもどうしようもないですよ。第一私と貴方は面識がない。なのに何故?」
これは皮肉では無く私の純粋な彼らへの疑問でした。
しかし、彼らは見る見るうちに顔が赤くなっていき私にいきなり殴りかかって来たのです。
一人が私を蹴り、もう一人が髪を引っ張り上げてきました。
顔を殴ってきたり、一人が私を羽交締めにして後の者たちが私を殴ったり、蹴ったりして来ました。
最初の内は黙ってやられておりました。
しかし、段々と腹が立ってきました。
何故、こんな理由で殴られなければならないのか。
雨が体に当たって痛く、衣服が泥塗れで気持ち悪い。
ガキ大将が思い切り私の頬を殴ってきました。
体が吹っ飛び地面に倒れました。
その時、私の堪忍袋の緒が音を立てて切れ、次にはガキ大将を殴り倒しておりました。
その後から記憶が少々曖昧で鮮明に覚えているのは周りに倒れている男子生徒達の姿と先生が私を呼ぶ声。
ただそれだけでございました。

1年前 No.4

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=rmxdQ3vC9i

その後、私は職員室に呼ばれ先生と一対一で尋問を行いました。
何があったのか。
何をしたのか。
その原因、などを詳しく問いただされました。
先生に何を聞かれても私は答える事ができませんでした。
原因など知らないし、聞かれても答えようがありませんでした。
時間は刻一刻と流れていき、痺れを切らした先生が私を怒鳴りました。
私は怒鳴られているというのに何故か笑いが溢れ声を出して笑い出しました。

「何がおかしい」

先生は私の頬を思い切り殴りました。
私は座っていたソファに沈むように倒れ込みました。
口の端に鈍い痛みが走り、着物の襟口とカッターシャツに血が落ちました。
そして、口の中にじわりと鉄の味が広がりました。
私は手の甲で血をぐいっと拭うと顔を上げ先生の方を見つめました。
私は二、三度瞬きをした後、口を開きました。

「休み時間が終わる頃、男子生徒数人に外に引っ張り出されました。」

「理由は分かりませんが、彼等が私の事を殴ってきました」

「殴られてばかりで痛かったのと衣服が泥で汚れるのが嫌だったのとで段々と怒りが湧いてきて、その男子生徒達を殴り飛ばしました」

私は覚えている範囲で答えました。
先生は何かを考えているようでしたが、すぐ私の方を見ました。

「分かった。もう、教室に戻れ」

そう言い職員室の入り口の方を指さしました。
私は先生に言われた通り職員室を出ました。
出る際に先生に軽く会釈をして扉を閉めました。
中休みが終わってからもう一時間ほど経っています。
今は五時間目をしているところでしょうか。
廊下はしんと静まり返っていて人っ子一人居りません。
私は教室前に着くと、なるべく静かに扉を開けました。
しかし、皆は一斉に私の方を見ました。
浴びせられる視線に私は少し身震いしながら自分の席に座りました。
今は国語の時間でしたので、私はいそいそと教科書を出しページを開きました。
授業が続いてる中で、視線は刺さるように自分に向けられ気の休む時が有りませんでした。




1年前 No.5

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=9vJUFjjEjA

授業終了の予鈴が鳴り、先生の号令とともに皆が一斉に私の机に集まってきました。
私に皆が質問を投げかけてきました。
それも、多くの子達が一斉に質問するものですから雑音にしか聞こえず私は困りました。
それからは、質問の応答と授業をそつなくこなし家に帰宅する頃にはくたくたに疲れていました。
ただいま。と声をかけて家に入りました。
室内はシン、としていて人の気配がしません。
母は買い物にでも行っているのでしょう。
私は自室に入ると、襖にもたれ掛かりました。
そうして、両手で顔を覆いました。
私は生きていく上で最もしてはいけない事をこの手でやらかしてしまった事に気付いたからです。
国民学校に上がった時から心に決めていた事を破ってしまったのです。
私は、よく笑い無邪気で純真無垢な子供の振りをしてきました。
ずっと、この演技を突き通して来たというのに私は今までの事を壊してしまうにも等しい行いをしてしまいました。
私は人を殴ってしまったのです。
たとえ無意識の状態であったとしても、私は、この手で、他人を殴り倒してしまったのです。
これが両親に知られでもしたものならどうなる事か。
今まで築き上げてきた、幼く、純真無垢な、秋彦が壊れてしまう。
私は体がガクガクと震え出し、冷や汗が吹き出し喉奥から声にならない悲鳴が出ました。
やっと、やっと、手に入れたのです。
生きる術を、守りを、力を。
それを、こんな事で失うわけにはいかない。
どうすればいいのか。
どうすれば誤魔化せる?
その事ばかりぐるぐると頭を回っていました。
1時間ほど経った頃、玄関から母の声が聞こえました。
私はこの時、死んだ様な気持ちになりました。
なんとか笑顔を作り、いつものように母を出迎えました。
「あら、帰っていたの」
母はすぐ夕ご飯を作りますからね、と言って台所に進みました。
母が見えなくなると私の顔から笑顔が消え、その代わりに恐怖の色が浮かんできました。
また、自室へと逃げ込むと布団を頭まで被り怯えていました。
暫くして、父が帰ってきてそれと同時に家の黒電話が鳴りました。
口から心臓が出るかと思いました。
きっと、先生に違いない。
今日の事を両親に報告に電話してきたのだろう。
この瞬間先生がとても恨めしく思いました。
私は耳を塞ぎ目を固く瞑り外の世界を遮断しました。
しかし、父が私の部屋の前まで来ると勢い良く襖を開け私を布団から引っ張り出し居間に連れ出しました。

1年前 No.6

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=M4VwRnRz2a

襟首をぐっと捕まれ、ひっなどと情け無い声を出しました。
居間まで引きずり出されると父の前に正座させられました。
父は普段は温厚であまり怒らない方でしたが、教育に対してはひどく厳格で一時間でも、二時間でもずっと叱っている方でした。
その為、私はこれから起こるであろう出来事に怯えながら父が言葉を発するのを正座をして只々待っていました。
父が一度を息をゆっくり吸い私に聞きました。

「先ほど先生から電話があった。秋彦、お前学校で喧嘩をしたそうだな。」

「はい。」
私は小さく声を上げました。

「何故こんな事をした?何があった」

私は父の疑問にすぐには答えられませんでした。
生唾を飲み込み震えそうな声を全力で隠しながら理由を話しました。
喧嘩に至るまでの経緯、その時の心情などを詳しく父に伝えました。
父は聞き終わると私に手を伸ばしてきました。
私は殴られるのだと思い力強く目を瞑り歯を食いしばりました。
しかし、予想していた激痛は来ず父は私の頭を撫でただけでした。
この時の私の心は、正に理解不能という言葉がよく似合うものでございました。
父は私にこう言いました。

「お前はいつもニコニコと笑っていて落ち着いており絵に描いたような優等生であった。しかし、お前も年相応に少しくらいやんちゃをしたほうが健康というものだ。不謹慎だが、私は嬉しい」

私は父の放った言葉で、先ほどの父の行動が理解できました。
それから私は解放され、自室に戻りました。
そうしてまたじっくりと考えることにしたのです。
両親や周りが望む良い子とは優等生の事ではなかったのか?
思えば私は、木登りや悪戯等野蛮だと思い友人に誘われても絶対について行かなかった。
それが一番だと思ったからだ。
しかし、現実は違ったようだ。
両親や周りは私に少し野蛮になってほしかったようだ。
私はそう結論付けると早速明日から実行することにしました。

1年前 No.7

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=nFHxPJGSiZ

それから、私は木登りや魚釣り、隣町の学校の子とのチャンバラごっこなどに参加しました。
友人達は付き合いがよくなって嬉しい、と喜んでいました。
その頃から私は外で体を動かす事が多くなった為、腕や足に筋肉がついてきました。
以前はよく周りから、秋彦は針金のように細くて折れてしまいそうだと笑われていたため嬉しく思いました。
同年代の子には劣るものの、それなりに健康的な体型になりました。
その年の冬に、私は友人たちに連れられて近所の川へと足を運んでいました。
なんでも、隣の組の子が川で河童を見たというのです。
河童など架空の生き物でいるわけが無いし、第一この類の怪奇は夏に起こるのが普通だろうと気が乗りませんでした。
最初は断りましたが、何度も友人達が誘ってきて私は渋々ついていく事になったのです。
いくら待っても河童は現れず寒さで体も震えてきた頃突然ぴゅうと音を鳴らしながら風がふきました。私はその時、河原の下の方に立っていて風がふいたときにあまりの寒さに身震いをしました。
その拍子に足が滑り川に落ちてしまいました。
冬の川は、死ぬほど冷たくすぐに這い上がろうとしましたが手が滑りうまく上がれません。
友人達は私には気づかず漫画の話をしていました。
「助けて!川に落ちた」
そう叫んだのですが冷たさで大声が出ず気付いてもらえませんでした。
このまま、気づいてもらえ無かったらどうしよう。私は死の恐怖を感じました。

1年前 No.8

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=qGJ8nNfhBk

死の恐怖に気付くとそれは、早急にじわじわと私の心を蝕んでいきました。
私は、無我夢中で叫びました。
声が出ず、代わりに喉が鳴っても、ずっと叫んでいました。
しかし皆は私が居なくなった事になど全く気付かず駄弁っています。
私の喉も体力も限界でした。
腕の筋肉が痙攣し始めてぼろぼろと涙が溢れてきました。
とうとう、手の力が抜け私は川へと沈んでしまいました。
私は絶望しました。
死にたくない、死にたくない。
体を動かして沈まぬ様にもがきました。
しかし、浮くどころかどんどん沈んでいき意識も薄れてきました。
飴のように溶けていく意識の中で最後に見たのは漸く私が流されていくことに気づいた友人達が慌てる姿でした。

もう、遅い。そんな事を考え私の意識は暗闇へと沈んでいきました。

次に目が覚めたのは病院のベッドの上でした。
ぼんやりとした意識で天井を見ていました。
意識がはっきりしてくると体を起き上がらせて周りを見回しました。
ちょうど廊下を通ったお医者様がこちらに気付いて駆け寄ってきました。

「此処が何処だがわかるかな?」

「・・・びょう・・いん」
声を出そうとすると酷く喉が痛み掠れた声しか出ず途切れ途切れにしか言葉を発せませんでした。
お医者様はゆっくりで良いからね。と言って私に幾つかの質問をされました。

「君の名前は何かわかるかな。歳はいくつ?」

「・・・あきひ・・・こ。 九つ・・・」

「じゃあ、これが何本かわかるかな」

私の眼の前に指を一本立てて見せました。

「いっぽん・・・で・・・す」

「うん。わかった。ありがとうね」

そう言い先生は一度病室を出ました。
喉が痛い。声はあまり出したくない。
私はまたベットに寝転びました。

1年前 No.9

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=YTd2PiwRxG

ベッドに体を沈め、私はゆっくりゆっくり頭を回転させていました。
私は助かったということなのか。
今は何時なんだろうか。
家族はどうしているだろうか。
病院の白天井を見ながらぼうっと考えていますと、お医者様と共に両親がやって来ました。
母は私を見るなり、安心した表情を浮かべ、泣きました。
父は私の肩を掴み、抱きしめました。
私は、この時初めて、何処かに消えていた恐怖や安心、歓喜や憎悪の感情が戻って来たようでした。
堰き止められたダムが決壊するが如く、溢れ出た感情で混乱し、涙が止まりませんでした。
喉は痛く、嗚咽交じりに私は泣きました。

暫くして、落ち着くと私はすぐに寝入ってしまったようです。
涙でぼやけた視界が次第に微睡み、暗くなっていくのがわかりました。
私はその後、一週間ほど入院しました。
体に異常は無かったため直ぐに家に返してもらうことができました。

学校に行くと、友人達が駆け寄って来ました。
皆、口々に謝罪の言葉を述べ中には泣き出す子も居ました。
私は驚いて、友人を慰めることに必死でした。
心身ともに健康で、いつもと同じ生活が送れると思っていました。

しかし、私は自身の身に起こる変化に気付きました。
水が異常に恐ろしいのです。
川はもちろん、飲み水さえ恐ろしく感じるようになってしまいました。
水を目にすると体が震えるのです。
冷や汗が吹き出し、息が荒くなって、視界がぼやけてきます。
お医者様に聞いてみますと、心の病気なんだそうです。
私は、一体どうすればいいのか、と頭を抱えました。

1年前 No.10

雪桜 冬 @yukiouhuyu ★iPhone=wmxR2sXqmw

時間が心を癒す、と何処かで聞いた文句をあてにして一ヶ月待ってみました。
しかし一向に良くなりません。寧ろ、悪化している様な気がします。最近では、風呂の水さえ怖くなってしまって入るのにも一苦労なのです。
まず衣服を脱いで、浴室に立ちます。
そして、もくもくと立ち上る湯気の中ゆらゆら揺れる水面を見て深呼吸をするのです。
そして、何度も何度も大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて、桶でお湯を掬い足にかけます。
それからゆっくり身体にかけていって、やっと湯船に浸かれるのです。
この行程をしないと、恐くて堪りません。
例えこの行程をしっかり行なったとしても、長時間は浸かって入られません。せいぜい、二十分。所詮は一時的な気休めなのです。
風呂から出たら体をタオルで一心不乱に拭きます。水の一滴すら残さない様、入念に。
少し前は力加減を間違えて皮膚が赤くなってしまってヒリヒリと針で刺される様な痛みが続いた事がありました。
やっとの思いで寝巻きに着替えて僕は床につくのです。

ある晩、僕は布団に入るとふとこんなことを考えました。水が苦手なまま僕は大人にならなくてはいけないのだろうか。僕は、普通でありたい。そうしないとこの世界では生きていけない。どうすれば良い?これ以上、両親にも迷惑なんてかけなくは無い。考えろ、考えろ…。
一晩中、水を克服するための方法ばかり考えていました。
太陽が昇って、鳥たちが鳴き始めた頃僕は一つの方法を思いついたのです。

2ヶ月前 No.11
ページ: 1

 
 
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▲ページ上 >>
★必ず ローカルルールメビウスリングのルール をご覧ください。
 ▼スタンプ▲スタンプ
※スタンプはいちどに 3個 まで使えます  ×閉じる
注…感想・コメントはこの記事ではなく、サブ記事に書き込んでください。(小説カテゴリでは必須です)