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狂  っ   た   ボ   ク   の   物   語

 ( 小説投稿城 )
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みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug

風にさらりとなびく髪


白く美しいその素肌


キミのすべてがいとおしくてたまらないんだ

キミのすべてが欲しい

それくらい好きだよ好きだよ好きなんだよ


ボクはキミが好きでキミもボクが好きなんだ




だから


君に近づくものは


ふたりの愛を引き裂くものは


















――――絶対絶対絶対絶対許さないよ


















━ 狂 っ た ボ ク の 物 語 



2010/04/13 20:32 No.0
切替: メイン記事(72) サブ記事 (1212) ページ: 1 2


 
 
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みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca

――


病室━


エリカは、ベッドで眠る坂本の横の椅子に座ったままで、坂本の手をずっと握っていた。

「……エリカ?」

そして、ふと坂本は目を覚ます。

「! 坂本くん! あたし、坂本くんが明日まで目を覚まさないって聞いたから、今日はずっとここにいようと思ってたの……。 ……よかった……」

エリカはそう言ってまた涙を流して、ぎゅっと坂本の手を握る。

「あ……俺、遊園地で榎本に刺されたんだっけ……」

「うん……。 でもね、もう大丈夫だよ。 全治するまでには2週間かかるみたいだけど、命には別状はないって……。


結果が出るまでの間……あたし、本当に心配だったの。 だからすっごく安心して……嬉しかった……」

「……」

坂本はゆっくり体を起こして、涙を流しているエリカの肩を抱き寄せた。

そして小さく笑って、エリカの目をまっすぐに見て言った。

「泣くなよ。

エリカ。 ……心配させて、ごめん。 ずっと側にいてくれてありがとう」

「坂本くん……」

エリカは首を横に振りながら、また涙を流した。


「あ。 今、榎本は?」

坂本は思い出したように言う。

「ああ……。


榎本くんは――」




――




<ズルルルルルルッ>


うどん屋。

カウンター席に座っているボクは、音をたてて熱いうどんをすする。


昼ごはんを食べていなかったボクは相当お腹がすいていて、

わざわざ隣の隣の町のうどん屋まで行っていた。

ああ、やっぱりうどんは良いよ。

お腹がすいてから食べるうどんは格別だねー。 うん。

2倍は美味しいよねぇ。


……それにしても、周りの客の視線が気になるなぁー。


皆じろじろボクのこと見るんだもん。

嫌んなっちゃうよ。

まあ仕方ないか、ニット帽を深くかぶってサングラスをかけてるなんて

どっからどう見てもあやしいよねぇ。

だけどこれくらい変装しないと、すぐに警察に見つかっちゃうんだもーん。

そんなの嫌なんだもーん。


「あいつ、怪しくね?」

「ね、ね、なんか変だよね!」


隣にいるカップルが、ボクを見て騒いでいる。

うるさいなぁ、もう。

昼ごはんくらいゆっくり食べさせてくれよっ!

ボクは溜め息をついて、ぐっと顔を上げた。

店に置いてあるテレビがちょうどよく見える。

今の時間はお昼のニュースが放送されていた。















そして。






「……っ!」


















――次のニュースを見た瞬間、ボクの全身に衝撃が走り渡った。


















『次のニュースです。






本日、●●県▲▲市で、今日午前10時頃、男子中学生が同級生の男子を木の枝で刺し、全治2週間の軽傷を負わせるという事件が発生しました。


被害者の男子中学生は、腹部を刺され全治2週間の軽傷を負いましたが、命に別状はありませんでした。








なお、容疑が疑われている男子生徒は現在逃走中で、警察は、全面的に捜査し、見つかり次第逮捕するということです。









また、現在逃走中の少年は――』


















<ガッシャーン!!!!!!>
















――――まだうどんが入っていたどんぶりはボクの手からするりと抜けて、床へと大きく音を立てて落ちてしまった。










騒いでいた周りの客の声は一気に消え失せ、破片が床中に散らばる。










いやだ……



いやだ!!!!

ボクは絶対に見つかりたくないんだ!!!


刑務所なんて死刑なんて嫌だあああああぁぁぁっ!!!!!!!





もっと!!





――もっと遠くへ逃げなくちゃ!!!




<ガタンッ>







もっと遠くへ逃げるんだあああ!!!!!







「ああああああっ!!!!!!!」

















ボクは叫んで席を立ち上がり、走って店を出て行った。

2010/05/12 21:28 No.23

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca

ボクは駅へと向かって走る。


「ちょっとおおぉっ!! 無銭飲食よ!!!!」

走って通り過ぎていった店の中から、うどんを作っているおばさんの叫び声が聞こえた。

……無銭飲食?

……誰かが、お金を払わずにうどんを食べたのかなあ。

全く、駄目な奴だね。

無銭飲食は駄目だよ。 作ってくれたおばさんの気持ちを考え…………て……





……あ。





「ボク……


お金払って……ない」


たった今思い出した……。

そうだ。

ボク、お金を払わないで、しかもお皿まで破損してそのまんま店を出ちゃった……んだ……

ボクは走っていた足をぴたりと止めて両手で口を押さえた。

顔が青ざめていくのが分かる。


「あ……あ……」

そしてパニック状態に陥ってしまった。

どうしようどうしよう

……お金を払いに戻った方がいいのかな


でも――

それで警察を呼ばれちゃったらボクは終わりじゃないか!

坂本を刺したのと無銭飲食とお皿を割ったのとで

かなり罪は重くなっちゃうよ!!!!!


……あー無理無理無理そんな嫌だ嫌だ。

おばさん、ごめん。

ボクは行くよ。

……この街から出て行くのさ……



<♪ピュウ〜>


ボクは小さく口笛を吹いて、両手を上着のポケットに入れるとニット帽を深く被り直して駅へと向かった。






――


















ぎりぎりのお金で、とりあえず一番端っこの駅まで行ってみた。










眠くて電車の中で眠っていたボクは、車内に響く「終点〜」というアナウンスで目を覚ましたのだった。
















終点の駅は本当に端っこで、降りたのはボク1人だけだった。















「うわーお」





下車して、駅の窓から景色を見たボクは驚いて声をあげた。






空は紫色に染まり、真ん中に橙色の夕日が顔を出している。

そして、広がっているのは見慣れない景色。


眠っていたせいで、ボクはどこまで行ったのか……

まったくここがどこなのかが分からない。





――全然知らないところへ来ちゃったらしい。






つまり……、



逃走成功、だね。








「いやったあああ! ばんざーいっ!!!」

誰もいない駅で、ボクは1人で喜んでいた。

エリカちゃんの笑顔を思い出すと、少し寂しいけれど……

平気さ。

ちゃあんとエリカちゃんの写真、持ってきたからね。

これさえあれば、1人の夜でもエリカちゃんをそばに感じられるんだ。







ふうー……。

さてさてさて。

これからどうしようかなー。


とりあえず夜は公園か……、ネットカフェかなんかで寝よう。

だけどここがどこか分からない。

地図もなにもなくて、誰かに聞きたいけど、誰もいない。


うーん。 どうしよう……。





そのとき。







「あ」


窓の外に、1人で歩いているおまわりさんを見つけた。

そうだそうだ、ここがどこなのかおまわりさんに聞けばいいんだ。


ボクは階段を下って、駅を出た。







ボクは駅を出てすぐにおまわりさんの前へ立ちはばかる。















そして。













「あーもしもしおまわりさん、ここはどこですか?」


















ずっとかぶってて熱かったニット帽とサングラスを取って、笑顔で聞いてみた――。





2010/05/12 19:13 No.24

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug




「……!?」



警察は驚いたようにボクの顔をまじまじと見つめた。

な、何だよぉ。

ボクってそんなに有名人?


ボクが戸惑っていると。













<ガシッ>

「!?」





おまわりさんにいきなり腕をつかまれて、ボクは驚いて目を大きく見開いた。

「榎本タケルさんですね、通報がきています。




――無銭飲食、ならびに傷害罪の罪であなたを逮捕します」











おまわりさん……







……警察のその言葉を聞いた瞬間。

ボクの頭の中に、忘れていた全ての記憶が蘇ってきた。








そうだ










ボクは逮捕されそうになって逃走していたんだ













警 察 か ら 逃 げ て い た ん だ









「う、うわあああああっ!」




ボクは警察の腕を強引に振り払い、叫びながらその場から走り去った。


「待てえっ!!!」

警察の声が後ろから聞こえてきて、ボクは全力で走り続ける。













ボクはなんて馬鹿なのだろう







警察から逃げているのに

警察に声をかけるなんて


しかもサングラスも帽子もはずしてしまうなんて










なんて馬鹿なんだ













「はあっ!!!!! はあああっ」


しばらく走りきって、ボクは裏道の電信柱の後ろに隠れる。






<ウー……ウー>





裏道の隙間から何台かのパトカーと、何人もの警察が見えた。




少しの間で、こんなに警察が増えているなんて。

どうしよう。













「いやだよ……







怖いよぉ……」





自然と涙の粒が、次々と零れ落ちていく。

怖い。

怖い。



逮捕なんてされたくない。






エリカちゃんは、初めてボクが見つけたたったひとつの光だったんだ。

真っ暗闇だった、ボクの心に暖かい光を差してくれた。





それなのに、エリカちゃんは坂本が好きだなんて言って。



それでもボクはエリカちゃんをあきらめることなんてできない。


世界で一番エリカちゃんを愛しているのはボクなんだから

好きで好きで好きで仕方ないんだから





ボクの命よりも大切なものなんだから










だからせめて、エリカちゃんがボクに振り向いてくれるようにしたいと思うのに――




ボクはたったひとりで逮捕なんてされそうになっちゃって。











ああ、ああ、ああ、ああ

お願いしますお願いしますお願いしますお願いします


ねえお願いだから助けてよ

どうすれば助けてくれるの

誰か

誰か

ボクをたすけて







……神様












エ リ カ ち ゃ ん 、 助 け て


















――そのとき。


















「いたぞおおおおぉぉぉ!!!!!!!」


















後ろから警察の声が聞こえた。









2010/05/14 17:29 No.25

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca

「っ!」

ボクは肩をあげて振り返った。

すると、そこには警察が数人立っていた――。


警察だ。

警察だ。

ケイサツダ。

逃げなきゃ逃げなきゃ

捕まったら死刑ツカマッタラシケイシケイシケイ


「うわあああ!」

ボクはまた走り出した。

だけど目の前にも数人の警察がやってきて、ボクは挟み撃ちされた状態になる。


ど……うしたらいいんだ


「もう逃げられないぞ」

警察が前からも後ろからも走ってくる。


あああああ来ないでくれ


「い……いやだあああああ」


いやだ

逮捕されたくない

怖いよ

逮捕なんてされたくない


嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!





そのとき。





<バサバサバサッ>


「あ……」

リュックの中から、エリカちゃんの写真が一枚一枚落ちていった。


「何だ、これは」

警察の1人が写真を拾いあげて、その写真を他の警察たちに見せている。

「か……かえせっ」

そう言った瞬間、警察数人に腕を掴まれる。

エリカちゃんの写真を持った警察は、ひそひそと仲間達と話し合いながら、写真をファイルのようなものに挟んでしまった。




そして。









<ガチャッ>







同時に、ボクの両手に手錠がはめられた――。

「おい、行くぞ」

ボクは警察に背中を押されて、どこかへ連れ去られていく。



「ま……待って……




あの写真だけは……」



ボクは震える声で言う。


「あの写真だけは取らないでくれ……











あれだけがボクの生きる希望なんだああ!!!!!!!


ボクの希望を取らないでくれえええ!!!!!

返してくれええええ!!!!!






うわああああああああああ!!!!!!!!」





ボクの叫びを丸無視するように、警察たちは何も言わずにボクを歩かせる。


「いや……だ……あ


















いやだああああああああああああああ――――っ!!!!!!!!!!!!!」


















ボクの逃走生活は、一日で幕を閉じた――――。



2010/05/16 15:40 No.26

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca





『えー、速報です。


同級生の男子に怪我を負わせ、そのまま逃走していた中学生の少年が、市内で警察に捕らえられました。

少年は、飲食店で無銭飲食をした後に、電車で市内の駅まで移動し、逃走先で道を訪ねに署へ顔を出し、その後慌てて逃げ出しましたが、すぐに捕らえられてしまったということです。

なお、少年のリュックからは何十枚も、少年の同級生とみられる1人の女子生徒の写真が見つかり、

警察は、その女子生徒をめぐり、少年が同級生に怪我を負わせたと発表しています。

これから、さらに詳しく事情聴取を行うということです――』



そのニュースが全国に伝わったのは、

昼に『少年が逃走中だ』というニュースが流れてから1時間後のことだった。



「榎本くん、見つかったみたいだね……」

「うん」

坂本とエリカはそのニュースを、病室のテレビから見ていた。


「逃走なんて、しなければよかったのに。 もっと罪が深くなっちゃうだけなのに……ね」

そう言うエリカは、複雑な表情をしていた。

「あたし、榎本くんのこと好きじゃない。 だけど、……もっと違う形で会っていれば。 あのとき、あたしが勘違いさせるようなことをしていなければ、榎本くんはこんなに狂わなかったかもしれない」

エリカは小さな声でそう言うと、ひとつ溜め息をつくと下を向いた。

「エリカ……、榎本のこと、心配してる?」

坂本はエリカの表情を伺いながら聞いた。

「坂本くんってば何言ってるの! 心配っていうか……うーん、……ちゃんと罪を償ってほしいなって思って」

エリカは笑って言う。

「そうだな」


病院の窓の外の空は、少しずつ暗くなっていく。


「……よかった。 これからはもう、坂本くんの側を離れなくていいの。 毎日、榎本くんにおびえて眠れなくない夜を過ごすこともないんだ……。

……よかった……」


そう言うエリカの瞳には、涙が溢れている。


「泣くなって。 ……絶対もう……、どこにも行くなよ」


坂本はエリカの目を見て言う。

「うん……」

エリカは目をこすると、顔をあげて言った。

「あのね、坂本くん。 傷が治って、退院できたら……、もう一度、あたしと一緒にあの遊園地に行ってくれる?

あの日、何にも出来ずに終わっちゃったから。

もう一度デートし直したいの」

「うん。 いいよ」

「よかった! すっごく楽しみ!」

エリカは嬉しそうに笑う。


ふたりの間には、幸せな時間が流れていた。




――





ボクは、坂本を刺した。


逃げた。







失敗した。









それから一週間が経ち、ボクはどこかのセンターに入れられていた。



(半端なところでごめんなさい!)

2010/05/18 18:06 No.27

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca


「……ボクはいつになったら帰れるんだよ」




警察と一対一の状態で、机に向かっているボク。

俯いたままボクは呟いた。




「君がちゃんと事情を話して、罪を償ったら出られるさ。


君、ずっと前から彼女をストーカーしてきたんだろう。

早く出たいなら、早く反省しろ」


警察はボクをじっと見て言った。


「……ボクは悪くない……



エリカちゃんはっ……

エリカちゃんはボクのたったひとつの光だったんだ!

それなのに!

坂本がいるせいでエリカちゃんは……


坂本さえいなかったらボクは幸せになれたんだ!!!!

だから悪いのは坂本なんだあーっ!!!!!

反省なんかするもんかっ!!!!!」


ボクは顔を上げて叫ぶ。

警察は小さく何度か頷くと、きっとボクを睨みつけた。


「お前は馬鹿か?


どうして、自分の過ちを他人のせいにしかできないんだ。

どうしてそんなことをしたら彼女を傷つけるだけだとわからなかったんだ!


――お前が心の底から反省しないかぎり、お前は一生ここから出られないんだ!!!」


そして立ち上がって声をあげる。

「くっ……」

ボクはまた下を向いた。


……ボクは悪くないもん。


ボクはただエリカちゃんが好きなんだ……



狂 う ほ ど に 愛 し て い る ん だ 。





(半端ですが一旦切らせていただきます><)


2010/05/19 21:33 No.28

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca




――






「榎本、起きろ」





朝。

センターの湿った布団で眠りについていたボクは、監視役の男の声で目が覚めた。


「……なぁんだよ……」

ボクは眠い目を擦り、体を半分布団から起き上がらせる。

「何だよ、じゃねぇ。


今日はお前のお母さんが面会に来る日だ」

「……ああ」




そういえばそうだったね……。










今日、これからお母さんと会うんだ――――。

2010/05/19 21:30 No.29

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca


――




<ガチャッ>


面会室のドアを開けると、透明なガラスの向こう側に……、


お母さんがいた。




「久しぶりね、タケル」


お母さんは無表情のままボクにそう言った。




お母さん。




――お母さんといって思い浮かぶものは何にもない。


お母さんと会うのは何日ぶりかも思い出せない。

お母さんとの思い出なんて、何一つ思い出せない。


お母さんがボクを愛してくれているかなんて……わからない……。


それほど、ボクのお母さんは、「母」と言っていいのか分からないほど、ボクに無関心な人間だった――。


お母さんはかなり美人で、ボクを産んだのもかなり早いらしい。

そのせいか知らないけど、とにかく無関心なんだよねぇ。




ほとんど言葉も交わさず、

いつも仕事をしていて、お母さんと1日顔をあわせない日だってあった。


お母さんと二人きりで話すなんて、小さい頃にしかなかった……。

まあ、どうせお母さんは、仕方なく面会に来たんだろうけどねー。

別に、寂しいなんて思ったことないからいいけどさあ。




このとき、ボクは気づいていなかった。




――飢えた愛情が、ボクの愛を異常なまでに狂わせたのだと。








「あー……、どうも」

ボクは薄ら笑いを浮かべながら、軽く頭をさげる。


「早速話に入るけど――


……あんた、なんで坂本くんとか言う人のこと刺したのよ」

「……あいつが、ボクの好きな娘と付き合うとか抜かしたから」


「バッカじゃないの? しかも逃走して無銭飲食って、あんた一体何考えてんのよお!


どんだけ金かかるか分かってる?

どんだけ人に噂されているか知ってる!?

本当、迷惑かかるのはこっちなんだから!」


お母さんはそう言って、はぁーっと大きく溜め息をついた。



「で? いつごろ出られんの」

「まだわかんない……」

ボクは下を向いたまま答えた。


そして。


「……ふーん」

<ガタッ!>





「じゃ、私もう帰るから。 出られる日が決まったらまた会いに来るわ」

お母さんは椅子から立ち上がって言った。



「えっ、もうお帰りですか?」


警備官の男がお母さんに言う。


「はい。 出られる日が決まったら、必ず連絡してください。



タケル!」

「はっ、はい!」

突然お母さんに名前を呼ばれて、ボクは驚いて肩を上げた。





「出られるまでに、どっか適当にアパートでも借りてあげるから――



あんた、ここから出たらで1人暮らししなさい。

ここから離れた場所で」



「え……」


「あんたがまた同じ家に住み着いたりしたら、あんたの噂がいつまでたっても絶えないでしょ。

お母さんのことを思ってくれてるのなら、絶対に家に戻ろうなんて考えたりしないでちょうだい。



――絶対に1人暮らしするのよ。


いいわね」



<バタン>



お母さんは淡々と言い放つと、ドアの向こうへといなくなってしまった――。

2010/05/22 11:00 No.30

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca

ほら、ね。

ああ、ああ、やっぱりねー。



お母さんってボクのこと、まったく興味ないんだね。

自分達の負担ばあっかり考えてさっ。


ま、ボクが迷惑をかけたんだけどねぇー。




――……もう少し、話すと思ってたんだけどなぁ。




別に、


別に寂しくなんてないけどぉ。




「……」



ボクは黙って椅子から立ち上がり、警備官と共に部屋へ向かって戻っていった。


そしてボクは、狭くて暗くて、なにもない部屋で独りになった。






ああ。



今のボクの日常は、なぁーんてつまらないんだろう。



エリカちゃんが側にいたときは、あんなにも日常が潤っていたのに。

エリカちゃんもいなくて

暗くて狭いここに閉じ込められてしまった今。

ボクの日常は完全に乾涸びてしまった――。



ここから出たい。



ここはすべての自由を奪われている場所。





だけど出てもボクは1人暮らしするしかない――




エリカちゃんに会うことはできない。










……




一生反省なんてしない。




一生、ここから出られなくてもいい。






だから






エリカちゃんに……




エリカちゃんに……会いたいよぉ……






またあの美しい顔がみたいよ

あの柔らかい手を握りたいよ

あの可愛い声を聞きたいよ

あの優しい香りに身を委ねたいよ








ああ、





ああ


ああ

ああ

感情がこみ上がってくる





エリカちゃん





エリカちゃん!!!!!!!!!


エリカちゃんに会いたい








エ リ カ ち ゃ ん を 今 す ぐ ダ キ シ メ タ イ






「あぁー……うわあああぁ――っ!!!」




ボクは、布団に寝転びながらうめき声を上げた。




「どうした!」


警備官が走ってボクの部屋へとかけつけてくる。


ボクは息を切らしながら、警備官の肩をぐっと掴んだ。



そして――



「いつになったらぁっ……




いつになったらボクはエリカちゃんに会えるんだあぁああ!!!!



ボクは反省なんてしてないから

一生ここから出られなくてもいいから……


早くエリカちゃんに会わせてくれええええぇ!!!!!!!

これからずっとエリカちゃんの顔を見れないなんて



ボクはもう死にそうだよおおおぉ!!!


うわあああああああ! エリカちゃん!!!!!!


エリカちゃあああぁあああんっ!!!!!!」






ボクは警備官の肩を激しく揺さぶりながら、声の限り叫んだ。







「榎本、落ち着け!」



警備官はタケルの腕を取って言う。








「落ち着いて聞け。



今日からちょうど十日後、



――裁判がある」





「……裁判?」










「そうだ。


そこで、お前があとどれだけここにいるのか、

これからどうなるのか――……





今後、お前がどうなるかがはっきりと知らされるんだ」




2010/05/23 10:36 No.31

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca

――


















あれから十日が過ぎ






ボクの裁判がはじまって




ボクの裁判はあっさりと終わって


















今ここにいるのは


















裁判を終えて何もない抜け殻のボク


















誰も教えてくれる人はいないから



ボクはひとりで



永遠に問い続けるんだ






あーあ

むなしい

















あーあ


















苦シイ。


















そしてまたボクはボクに問う


















ボ  ク  は  何  で  生  き  て  い  る  の  ?


















エリカちゃんがいればどんな泥沼だって天国

エリカちゃんがいなければどんな豪邸だって地獄













な、の、に、


















「ねえ……



おじさぁーん……」

「あ?」






ボクの後ろに突っ立っている警備官のおじさんに話しかけると、おじさんはだるそうに返事を返した。












「ボクさあ……





こんな汚くて暗くてせっまーい所に


2週間いるだけで



苦しくて苦しくて辛くて辛くて――












もう死にそうだったんだぁ。














エリカちゃんがいないから。


















なのに……











なのにさぁ……、


















――――ボクはこの苦しみにあと2年も耐えなければいけないのか」












ボクは警備官をぎろっと睨んで言った。

警備官は小さく頷くと、


それがお前の犯した罪の大きさだ、と言い残していなくなった。


















ねえ、












ねえ









誰か教えてくれよ


















ボクはなんでこの世に生まれてきたんだよ


















なんで生きているんだよ??????


















苦しむためか??????


哀れな人間の実験体か??????












ボクは息が詰まりそうになるほど苦しくて辛いんだよ!!!!!!!!!!!





会いたくても会いたくても会いたくても




エリカちゃんには会えないんだよ!!!!!!!!!





だけど出て行ったところでエリカちゃんにも会えない!!!!!!!!!!!


















誰もボクを見てくれない


誰もボクを愛してくれない


それならせめて


ボクから誰かを愛そう――と


さがしてさがして


エリカちゃんを見つけた


だけどそのエリカちゃんにも会えない


















ボクは生きているだけで拷問にかけられているのか?????



ボクは一生苦しむために生まれてきたのか??????












一生の孤独を約束されて生まれてきた人間なのか























……



誰でもいいんだ

坂本でもいいんだ

散々ボクを笑いものにしたクラスの奴らでもいいんだ







誰、でもいい、から、


















ボクの生まれた意味を教えてくれよおおおおおおおおぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」


















<バン!!!!!!!! バンッ!!!!!! >


















「うわあああああああ!!!!!!!!!!!!







あああああああああああああ――――っ」







ボクは叫びながら、そこにあった枕を何度も何度も激しく床に打ち付けた。


















いっそのこと 「お前は苦しむために生まれてきたんだ」と














誰かに冷たく突き放してもらいたい











そうしたら












――そうしたらどれだけ楽だろうか











「……」






やがて枕は破れて、綿が出てきて無残にそこに転がる――――。


















「……っ……、はあ……」












ボクは息を切らしながら、ボロボロになった枕を見て思った。


















神様だってボクのことなんていらないさ









だから、




だから、、、もう、、、


















――――いっそ自殺してしまおうか。

2010/05/24 17:29 No.32

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_Ca

――


<ガリッ>

<ガリッ……>


狭く暗い室内に、しきりに物をとぐ音が響く――。


「はあ……っ、はぁ……」

ボクは真っ白な部屋の壁で、或る物を強く強くとぎ続けた。


息が苦しくなって、額から汗が吹き出る。

死に向かって、精神が引き締められいるせいで――体中が熱い。


そのとき。

<ガチャッ>

「榎本。 昼飯だ」

部屋の鍵が開かれて、おじさんがまずい昼食を持ってきた。

「どうも……」

ボクは小さく頭を下げた。


――――右手を、さっと後ろに隠して。




――



<ガリ……ガリッ……>


今日もボクは、ある物を壁でとぎ続ける。



胸がドキドキして、体中が熱い。

汗がとまらない。




ああ、これで一体何日目になるのだろうか。

何日も何日も、何時間も何時間もとぎ続けて。


やっと大分尖ってきた。


……そろそろいいだろう。





「ああ……」

ボクは右手を上にかかげて、虚ろな瞳で――
















何日もとがれて、鋭くとがった人差し指の爪を見つめた。






毎日、毎時間、……少しずつ少しずつといだんだぁ。

この爪こそを凶器にするために。




この爪で――











自ら命を絶つために。


















ボクって頭いいでしょぉ。

自殺したくてもするための凶器がなかったから、自分の体のパーツで作っちゃったの。




自分の爪をとがらせて凶器にしたなんて、ボクってすごいね。







「ふっ……、


コレで一発で死んじゃうだろ? っははは」





ボクは笑いながら、ひとり呟いた。






さあ、






ボクは、、、死ヌンダ。




もうこんな世の中では生きていきたくない

生きていけない。



ボクが生まれたのは



苦しむためなんだろ

孤独を感じるためなんだろ







ボクは神様が使命を下した


「世界で一番可哀相な人間」という実験体、なんだろ、














エリカちゃん


キミが大好きだった

キミが今でも大好きだ


















キミがいたからここまで生きた












ボクの人生の中心はキミさ




エリカちゃんただひとりさ


















ほんの一瞬だけどキミはボクの心に

暖かい春の日差しを

差し込んでくれた。





それがどれだけ幸せだっただろう。


キミに出会えてボクはどれだけ救われただろう。









<ドキンッ……ドキン……>





心臓が高鳴る。


















「……ありがとうエリカちゃん








大好きだよ大好きだよ大好きだよ、だいすきだよ、大好きだよ」









だいすきだよ




大好きだよ





ボクはそう言い続けたまま、鋭く尖った爪を首の太い脈にあててみせて――


















強く瞳を閉じた。

2010/05/26 21:29 No.33

みルく@pupe ★iPad=zt5XHhDA0ug_1p












<ツッ……>







爪の先が、少し肌に触れた。

















そして。









「……いっ


いったあああぁ!!!!!!!!!」











あまりの痛さに、ボクは叫んだ。



直後。


「どうした!」


警備官がボクの声を聞いて駆けつけてくる。





……ああ





な ん て 馬 鹿 な こ と を し た ん だ






心の底からそう思った。




「何やって……、んだ……」




警備官が駆けつけてきた。

警備官の視線はすぐに、ボクの首に移される。


そして。



「……お前、



血出てるぞ」


恐ろしいものを見るような顔で言った――。


「!」


ボクは急いで、右手で首元を隠す。



警備官はボクの右手を見て、目を大きく見開いてまた驚く。




「おっ……お前……!



この爪はなんだ!!!!?????










まさか自殺でも図ったのか!!!????」





警備官はボクの右手首を見ながらそう言った。




指先のとがった爪からは


一滴血が滴る――。





ああ


やばいやばいやばい




ばれちゃったよ






どうしよう



どうしよう!!!!!!!







「……っああ





そうだよ?

ボクは自殺しようと思ってるよ?


お前だって……

ぼ……ボクの身になれば……


どっっっれだけ辛かったか――

どれだけ死にたくなるか解るさ……




もうこの世は汚れすぎているんだ……








……文句あんのかああああっ????










なあ!!!!! 頼むから死なせてくれよおおぉ!!!!!!!!!」




ボクは警備官をきっと睨み上げて叫んだ。



警備官は全くひるまずに、ボクの目を見ながら言う。








「……じゃあお前がこの汚れた世界を――

お前が快適に生きてゆけるような美しい世界に変えろよ。



お前がそんなんだったら世界はいつまでも汚れたままだぞ!





絶対に自殺なんてさせない!!!!」


















キレイゴトイウナ










「……ふぅん……



死なせてくれないっていうの……?」





ボクは警備官の真剣な眼差しを見ながら、フッ、と鼻で笑った。













ボクの苦しみなんて悲しみなんて孤独さなんて

なにもしらない人間が





なんでこんなことをほざくんだ






汚れた世界を綺麗にしようと努力するたびにどす黒く汚れてゆくこの世界に

どれだけ絶望したか







お前しってんのか











ここまで狂ったボクの世界観がお前にわかるのか!!!!!!!!!!???????


















「……じゃあ……





死なないさ……


















――――っこっから抜け出してやるうううううううう!!!!!!!!!!!!」


















<ギッ!!!!!!!!!!>


















ぶらりと垂れ下がった右腕を振り上げて













強く指先を伸ばして――


















――――ボクの爪は警備官の頬を強く引っかいた。


















そして部屋を出て走り出した。



2010/05/28 22:55 No.34

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

「待て!!!」


警備官の声が後ろから聞こえる。

だけど頬を抑えながら走る警備官のスピードは遅く、

ボクは捕まることなくすいすいと逃げ続けた。


このどす黒く汚い世界で生きることは

もう無理だと思った。


それで……


それでボクは自殺を図ったんだよ

なのに

それさえも許してくれない……





生きても孤独が募るだけ


死ねばそれもなくなる


だけど死ぬことは許されない




っていうかさ、死ぬ勇気なんて本当はないし


結局死ねないんだよ

死にたくて死にたくて死ねないんだよ



……ねえ

やっぱりボクってさあ

可哀相な人間の実験体なんだろう

人間はここまで孤独になれるのだと

神様が納得するために

生かされているんだろ


だから死ぬと言ったら

理屈は通っているだろ

誰もなんの反論もしようがないだろう


辛いから死ぬ

それになんの文句があるんだよ


なあ


ボクが生きて得する人間はいないじゃないか!


ボクが死んで泣いてくれる人間なんて――


……ひとりも、いないじゃないか……


ひとりも……


「……」


ボクは、その場でぴたりと走り続けていた足を止めた。





ボクは





何 を し て い る ん だ ?





ここから逃げだして


一体何になるんだ







ここから逃げ出してその先にあるのは


誰も待っていてはくれなかった


絶望と孤独が一面に広がる世界




エリカちゃんも


だれもボクを待っていてくれる人もいない世界に戻って


一体何になる





――さらに孤独が積み重なってゆくだけじゃないのか




「……」




そうだ


ボクはやっとわかったよ




ここから逃げ出したって


孤独な人生から解放されるわけじゃない




生きている限りボクは一生孤独なんだ




ここから逃げても日本から出て行っても空を越えても宇宙に行っても















…… ボ ク は 、 孤 独 だ












「待て、榎本!」





遠くから数人の警備官の声が聞こえる。





「大丈夫だよぉ……



脱獄なんて……しないさ……」



ボクは静かにその場に寝転がり、どんどん近くなってゆく警備官の姿を虚ろな瞳で見続けていた。







――








「榎本、最近おかしいんじゃないか」

「まったく喋らなくなって」

「でも前みたいに自殺を図ったりはしないんだろ――」


「もう生命力がないんだろうな、あいつには……」









今日も部屋の外で、ボクについて話し合う警備官たちの声が聞こえる。


















逮捕されてからもう半年が経った――――。












警備官の頬を引っ掻いてから


ボクは罰としてさらに狭く暗くなにもない部屋に移された



トイレと布団ひとつと聖書一冊

それだけしかない何の娯楽もなく何の苦しみもない部屋に――






ああそうだよボクにはもうまったく生命力なんてないね


生きていても楽しくないね








だけどいつも考えているよ


エリカちゃんのこと


いま何をしているの

怪我はしなかった?

何か大きなことはなかったか





そしてここから出たらなにをしようか




とりあえず1人暮らししてさ


ネットとアニメとゲームに漫画に明け暮れてさ

美味しいお菓子たべて


たったひとりで……






それで十分幸せ……なんじゃないか






そう思うのに



何で

何でだろうね



涙が出てくるんだよ














涙……が……








<ギイ……>










そのとき静かに部屋の扉が開いた。






なんだ?

昼食か

弁護士との対談か





……それか

死刑とでも言い渡されたりしないかなーぁ






逮捕される前はあれだけ嫌がっていたけれど



今はいっそ死刑にでもなってしまいたい










コノ世界カラ消エタイ





ボクはちょっと変わったよねたぶん






「榎本……」





なんですか、おじさん

ボクはゆっくりと首を警備官の方へと傾ける。





警備官は意を決したように言った。






「今……、


















――中本エリカさんが、面会に来ている」

2010/05/30 14:14 No.35

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タケルが逮捕されてから、半年が経って――

エリカと坂本の学校で、タケルのことが話題になるのは滅多になくなった。


生徒達の心の中で、タケルの存在は薄くなっていた――――。



半年が経って坂本の怪我は完治し、坂本はエリカと順調に交際を続けていた。


そしてエリカと坂本の間でも、タケルのことが話されることはほとんど無かった。




――


「坂本くん、あたしたち、もうすぐ卒業するんだよね……」


エリカがタケルの面会に向かう、前日の放課後。


エリカと坂本は手を繋いで通学路を歩き下校していた。


「あたし……絶対坂本くんと同じ高校行けるように、頑張るから」

「うん……。

高校行ったらさ。 俺達が一緒にいられる時間も今以上に減っちゃうかもしれないし、


……これから俺達がどうなるのか分かんないけど――」


坂本はぴたりと足を止めた。

そして、真剣な瞳で続ける。


「絶対、一緒の高校行こう。 卒業しても一緒にいよう」


「……うん!」

エリカは嬉しそうに微笑んだ。


「ねえ坂本くん、よかったら今日、あたしの家来ない? まだあたしの家って招待ことなかったから……、どうかな」

「え……家に? 俺は全然大丈夫だけどさ、エリカの家は平気なの?」

坂本は戸惑いがちに言った。

「うん。 来てっ!」


そして、坂本はエリカの家に向かうことになった――。




――




「多分お母さんが家にいると思うから……」

エリカと坂本は話しながら、エリカの家に向かった。


そしてエリカの家の前で、足をとめたとき――


「すいません」

「はい?」


警察のような格好をした男がエリカに声をかけた。


「……この近くに、中本エリカさんの家はありますでしょうか」


「え? ……あたしが、中本エリカ……ですけど」

エリカと坂本は、怪しそうに顔を見合わせる。



「あなたが中本エリカさんですか。



私は、××センターの白石という者です。

今、榎本タケルさんの警備を担当しています」


「!」


白石のその言葉は、一瞬にして坂本とエリカの心に衝撃を与えた。


「榎本くん……の」

エリカは視線を合わせずに言う。


「はい。 それで今回私があなたを訪ねたのは――



……この前、榎本がセンター内で、自殺を図りまして。


榎本はとてもあなたのことが好きだったみたいですが、あなたに会えなくなった苦しみから、もう生きる希望をなくしてしまって、抜け殻のような状態です。


榎本の両親は、面会には来たもののまったく榎本への関心がないのです。

それもあって、榎本は孤独感に絶望して完全に生命力がなくしています――。


中本さん、どうか、一度面会に来ていただけないでしょうか。

そして榎本を励まして、生きることへの意欲を与えてはいただけませんか」

「え……」


白石の表情は真剣だった。

エリカは戸惑って視線を彼方此方に動かせる。


「そんな……、あたし、榎本くんのこと……ただの同級生としか――」

「それでもいいんです。 榎本を元気付けてあげてください。


榎本はセンターに入ってから、いつも貴方の名前を泣き叫んで――

一日中暴れていました。


最近は食事にもあまり手をつけずに、一日中何も言葉を発せず、ただただ俯いているんです。


……正直、こんな状態では此方側にも負担がかかるんです。

どうか協力していただけませんか」


「そんなの、エリカには関係な……」

「待って、坂本くん……」


白石を咎める坂本の言葉をさえぎって、エリカは言った。


「榎本くん……もう生きる意欲がないんですか?


……死にたがってるんですか」


白石は黙ってうなずいた。



そして、


「……わかりました。








明日、……面会に行きます」



エリカは前を見てそう言った。

白石の表情が明るくなるのと同時に坂本が俯く。


「ありがとうございます! それじゃあ何時でもいいので、待っていますので!」


白石はそう言って走り去った。








「エリカ、……お前は関係ないんだから、榎本に会いに行く必要なんてないと思うんだけど」

坂本が溜め息をついて言う。

「うん……。


でもね、榎本くんはあたしのせいで傷ついたんだよ――。

だから、その傷を癒すのはあたしにしかできないと思う。


だけどあたし、早く榎本くんからは解放されたいの。

だから……、これで最後にする。

もう榎本くんに会うのは、これが本当に最後。


――最後だからこそ、榎本くんがちゃんと前向きに生きれるように勇気付けてあげたい。


あたし、間違ってるかな」


エリカは坂本の瞳をまっすぐに見て言った。

「……」


坂本はすこし黙ったあと――



「うん。 ……わかった。


――俺も、外で待ってるから。

行ってきなよ!」


意を決して笑顔で言った。










――









そして、今日の午後2時。







エリカはセンター内にある、タケルが待っている面会室へ向かった。

2010/06/01 22:15 No.36

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

――


「今……、


――中本エリカさんが、面会に来ている」


目の前にいるおじさんはたぶん白石という名前





その白石の言葉を聞いたその瞬間その刹那


目の前に広がる世界が














――――狂ッタ。













全身が震えて熱を帯びた

ずっと虚ろだった瞳が開いた

穏やかだった心臓が高鳴り始めた

息が苦しくなった

汗がどっと噴出した






頭の中ぜんぶにエリカちゃんの顔がはっきりと蘇ってきた





人間のボクが今此処に戻ってきた


思想が人格が機能が



いま







此処ニ戻ッテキタンダ……






「……っ……、……」



全身が震えて

ガタガタと歯は鳴る




「会いたいか?」

そんなボクに、白石は冷静に対処する――



「う……、うん……」


ボクは両手で口を押さえて言った。



でも


どうしてエリカちゃんは来たの

どうして?

ボクに何か言うことなんて

今更……話すことなんて

そんなのあるのぉ……?




エリカちゃんに会える



それがどれだけ嬉しいかキミは知ってる?








あのね


エリカちゃんボクはねこれが人生最後の日でも構わないってくらいなんだよ



……でも

期待なんてしないから

どうせエリカちゃんは顔だけ見たらすぐ帰るんだろ

気まぐれ出会いに来てくれただけなんだろ



――どうせボクは孤独なままなんだ










――





<ガチャ……>



面会室のドアが開く。


ボクは白石の後ろについて、俯いたまま部屋へ入っていった。





「榎本くん……、久しぶり……」



「……」





約半年ぶりに聞くエリカちゃんの声。





――ボクは恐る恐る顔をあげた。


















この世で世界で宇宙で一番愛しているキミが今此処にボクの目の前にいる


















一枚のガラスの向こう側にエリカちゃんがいる








セミロングの長さの髪


大きくて潤んだ瞳

ぽってりとした唇







すべて変わらずに此処にある









ああ








体中が震えて熱くて



あの頃の気持ちがそのまま蘇ってくるよ









も う こ の ま ま 死 ん で し ま い た い








「あのね、……あたし、榎本くんが死にたがっているって聞いて、それで一言だけ言いにきたの」

「なんだい……エリカちゃん???」


ボクはにっと笑って言った。

上手く笑えているのかな。


笑うのなんて、もう1年ぶりくらいかもね。







「……





榎本くん、何があっても死んじゃだめだよ」



エリカちゃんそう言って、ガラス越しにボクをまっすぐに見つめた。

「……」

ボクは思わず目をそらす。




「榎本くんは決して独りぼっちなんかじゃない。



もっと、世界を大きく見つめてほしい。


こんな狭いところであたし独りのことだけを考えていないで。

こんな狭い世界で、孤独を噛みしめていたって何も変わるはずがないよ。



ねえ……こんな狭い世界が榎本くんの全てじゃない。

そうでしょう?

今あたしたちが立っているこの世界で孤独だったからって、全世界で孤独を約束されたわけじゃないでしょう?



だから、もっともっと大きな世界へ飛び出してみてほしい。















――――絶望するのなら、もっと大きくて広い世界に行き尽くしてから絶望してよ。










……だから絶対に死なないでね、榎本くん。


生きていれば、孤独から抜け出すことはできるけれど――


死んじゃったら、榎本くんは一生孤独なままだよ……。


















それじゃあ、帰るね――」


















<バタン……>





エリカちゃんはそう言って部屋を出て行った。

2010/06/04 21:24 No.37

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2010/06/06 12:29 No.38

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p



ボクはエリカちゃんが好き

エリカちゃんもボクが……好き!


だから――

だからねエリカちゃん

ボクもう暴れないから泣き叫んだりしないから脱獄をはかろうだなんてしないから

キミに会いにいけるその日まで

じっとここで大人しくしているから


……24時間心の中でキミへの愛を叫び続けているから


待っててね、エリカちゃん



――



「坂本くん。 終わったよ!」

タケルと面会を終えたエリカは、外で待つ坂本の元へと駆け寄った。

「早かったな」

「うん。 言いたいことだけ言って、すぐに終わらせたよ。


絶対に自殺なんかしちゃ駄目って……。

あたしのことはもう考えないで、榎本くんにはもっと大きな――知らない世界へ向かってみてほしいって。


きっとこれで、榎本くんは完全にあたしへの気持ちを捨ててくれたんじゃないかな……って思う。

もう榎本くんと会うのは本当にこれで最後だから、ちゃんと励ますことができてよかった」

エリカは笑って言う。

「――……そっか。 じゃあもう、榎本と俺達は何の関わりもなくなるんだ……」

「そうだね……」

そして坂本とエリカは、黙って歩き出した。

「もう榎本くんのことは忘れよう。 あの頃のことは、本当に悪夢でしかないから。 思い出したくないの。


榎本くんのことはもう……忘れよう、坂本くん」

そう言ってエリカは、坂本の腕にかるく掴まった。

「――そうだな。



もう、あいつと会うことなんて二度とないんだから」


そして坂本とエリカは歩き続けた。














もうタケルに会うことなど、二度とはないと信じて――。





――



「白石。 榎本、最近暴れなくなったな」

「ああ」


タケルの留まっているセンター。

白石は他の警備官と共に話をしていた。


「この前、あいつのずっと好きだったエリカって子に面会に来てもらったんだ。 それで励ましの言葉を貰ったから、きっと生命力を取り戻したんだと思う」

「――え? おい白石、それってエリカさんが危ないんじゃないか?


榎本のことだから、エリカさんは自分を好きなんだって思い込んでたりしそうじゃないか。

……榎本が出所したら、エリカさん――かなり危なくないか」

相手の警備官は、怪訝そうな顔をして話した。

「え……」

白石は想定外のその言葉に戸惑う。

「いや、それは……ないだろ。 エリカさんに恋人がいるっていうのは榎本だって知っている。

一クラスメイトとしての助言だと、榎本だって承知しているはずさ。 榎本だって……それくらいは分かるはずだ」


――白石は、冷静に言いながらも、内心は依然と戸惑っていた。

そして、すぐ隣に見えるタケルの部屋に視点をおく。

タケルは大人しく黙々と聖書を読んでいた。


「ほら、きっと大丈夫だ――」


白石は自分にも言い聞かせるようにそう言って、その場を去っていった。



2010/06/08 17:44 No.39

削除済み ★PSP=TsgcfekC6Rk

【 この投稿は ”ポンデリング” 削除されました (?) 】 削除者: 愛浦☆マスター 2010/06/15 20:44  削除理由: 羅列/文字稼ぎ/AA/チェーン/無断転載/宣伝/他

2010/06/12 23:23 No.40

削除済み ★PSP=TsgcfekC6Rk

【 この投稿は ”ポンデリング” 削除されました (?) 】 削除者: 愛浦☆マスター 2010/06/15 20:44  削除理由: 羅列/文字稼ぎ/AA/チェーン/無断転載/宣伝/他

2010/06/12 23:27 No.41

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p



※ ↑の二つの投稿( >>40, >>41 )は私になりすました偽者が書いたものです。
   完結はまだまだ先ですので、読者の皆様は絶対に信じないで下さい。
   本当の最終話は、もう少しストーリーが進んだら私の手でちゃんと書きます。

2010/06/13 13:20 No.42

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

「……」

影がかる廊下を歩く白石は、あの警察官の言葉が心にひっかかっていた。

“榎本のことだから、エリカさんは自分を好きなんだって思い込んでたりしそうじゃないか。

……榎本が出所したら、エリカさん――かなり危なくないか”

何度も頭に響く言葉に、白石はふと足を止めた。


(エリカさんは榎本のことを好きでもなんでもない。

いや、以前自分のストーカーをしていた榎本への考えは、ただのクラスメイト以下かもしれない。

それにエリカさんには恋人だっている……)

白石は、壁にもたれかかり黙々と思考をめぐらせる。


(榎本。

お前がエリカさんたちの間に入る余地なんて、ほんの1ミリだってないんだ。


榎本だって、それくらい分かるだろう。

それくらいの常識はあるはずだ。

――……そう信じてあげないと、あまりにも可哀相じゃないか。

俺から見た榎本は、絶対に更生へと進んでいる。

それなのに、榎本はまだエリカさんを狙っているだなんて疑うなんて、最低じゃないか――)


「……疑うなんて榎本が可哀相だ……けど……」


白石は小さな声でぽつりとそう呟く。

そして、しばらくしてから、意を決して歩き始めた。




――




<キイッ……>


3時間前から、ページの動かないままの聖書に目を寄せているボク――。

ボクは突然沈黙を破ったドアの開く音に、微かに反応をした。

気づくと部屋には、少し緊迫そうな顔をした白石が立っている。


「ああ、まだ読んでいたのか。 邪魔してごめんな……」

白石の言葉に、ボクは俯いたまま首を横に振る。


「ちょっと話していいか? すぐ終わるから」

白石はそう言って、部屋の隅に座っているボクの前にしゃがみこんだ。

「……うん……」

ボクは聖書から目を離し、真剣な白石の顔をじっと見つめて小さく頷いた。


「あのな、榎本。

この前エリカさんが面会に来てくれたけど――

はっきり言って、エリカさんはお前のことをクラスメイトとしか思っていない。

俺にはそう見えたんだ。


……榎本、わかっているよな?

エリカさんはお前のことを好きじゃないんだ。 寄り添う恋人だっているんだ。


出所してから、エリカさんをまた苦しめるようなことなんかしないよな。

間に入って邪魔したり、以前のようにストーカーなんかしてはいけないって――分かっているよな?

俺はお前はそんな人間なんかじゃないって信じている」


そう言う白石の顔はいつになく真剣だった。

――今、何もかもを捨てて、すべての信念を一気にボクに注いでいるようだった。


「……うん、わかってる。

エリカちゃんはボクのことなんか好きじゃないって……分かってる……。

エリカちゃんを苦しめるようなことはもうしないよ……、大丈夫だよ。

ボクもうちゃんと反省してるもん……」

ボクはそう言ってにっこりと笑った。

直後、白石は安堵に満ちた顔になり、ひとつ大きな溜め息をついた。


「……そう……だよな。

ああ、よかった、ずっと考えていたんだ。

ごめんな、少しでも疑ったりして。


――お前はもう、前のお前とは違うんだな。

あと少し、一緒にがんばろうな」


白石がそう言って笑うから、ボクは一度崩した笑顔をまた戻す。

そして白石は嬉しそうに嬉しそうに、部屋から出て行った。






ボクはもうエリカちゃんを苦しめるようなことは、しない。

だってエリカちゃんもボクを好きだから。



エリカちゃんもボクを好きだからボクもエリカちゃんを愛す



――そのことが、どうしてエリカちゃんを苦しめるのだろうか。










……なめんじゃねぇ。






ああそうだよ、ボクは前とは違う。

学習したんだ。

人前で、エリカちゃんへの愛を叫べば叫ぶほどボクは責められる。

エリカちゃんもボクを好きだと、誰も信じてはくれない。

……最近になって、ボクとエリカちゃんの愛はそういうものだと知った。


だからもう、これからはエリカちゃんへの愛は誰にもみせずに隠し続ける。

いくら、エリカちゃんがまだ好きなのかと白石に問われようと、そのたびに否定する。

“エリカちゃんのことはもう好きじゃないよ”って優しく笑って否定してみせる。


エリカちゃんへの愛はエリカちゃんだけに伝えれば十分だ。





出所できるまで――

再びエリカちゃんに会えるまであと少しかかる。



だけど。

ボクはずっと、毎日毎日毎日毎日。








静かに、微動だにせず、激しく、強く、大きくエリカちゃんにこの愛を叫び続ける。










エリカちゃんはボクのことをクラスメイトとしか思っていない、なんて。

そんな白石の言葉なんか聞き入れるもんか。

ボクらの愛は、第三者の言葉なんかに惑わされるほどもろいものじゃない。


出所したら――





……エリカちゃん、一番にキミに会いにゆくからねぇ。





そして。

ボクは心のなかの宇宙空間でエリカちゃんへの愛を激しく叫んで、静かに聖書に目を移すのだった。







2010/06/18 12:50 No.43

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p










――











ボクが踏みしめてきたこの地は、どれだけ深かったのだろう。









白石に幾度も「エリカさんはお前のことは好きじゃないんだぞ」と言い聞かされて


その度に喉まで出掛かった言葉を必死に押さえて


ただ心の中だけでエリカちゃんへの愛を叫び続けて



静かに


激しく


この世界をこの場所で生き抜いて。







――――あれから、どれだけ広い静寂の世界に依存していたのだろう。


















もう2年が経った。


今2年目の朝がやってきた。








今日は運命の日

外の世界へ解放される日


















エ リ カ ち ゃ ん に 会 う こ と が 自 由 に な る 日 ―― 。









――






「榎本、今まで本当によくやったな。

決して平らな道ではなかっただろう。

――辛くて何もかもを投げ出したくなる夜だってあっただろう。


だけどお前はここまで来れたんだ。


俺と一緒に、2年もの年月を越えたんだよ。

お前は挫けないでいることができたんだよ!



本当によかった。 これからのお前の人生はきっと輝いているから、前を向いて歩け」








因人服ではなく


逮捕されたあの日の服装で――




大きな大きな警察庁の前の階段の2段目に座り込むボクと白石。








……外の世界はなんて久しぶりなのだろう。

ああ、



……長かった。

いつになれば終わるのか分からない苦しみに、死を覚悟した事だってあったよぉ。


だけどボクは幸せだったよ。



それは――



エリカちゃん






キミの存在があったからなんだ……

釈放されたらすぐキミに会いにいって



また一から愛を育むって

ずっとずっとずっと頭に思い浮かべていたから


ボクは今地球上に存在できているんだ……









そこに。









<キキーッ……>







また久しぶりに見る、真っ赤な車がボクの前で停まった。



中からは、深緑色のサングラスを掛けた茶髪の女性が乱暴に出てくる。



「タケル、早く乗りなさい」



そう一言言って。




「……」

ボクは何となく後ろを振り返る。


どこか悲しそうで、でも清清しい表情の白石が見える。



「榎本、がんばれよ」




――白石はそう言って笑うと、

ボクの丸まった背中を軽く押した。


「うん……」


そして――


ボクはどこか悲しげな表情を作って前を向くと、階段を下りお母さんの待つ車へと乗り込んでいった。










――







高速道路。



渋滞で、ずっと道の真ん中に停まったままの赤い車。





「――2年間、どうだった」


お母さんは煙草を吸いながら、窓を見たままで聞く。






「幸せだったよぉ……」





助手席に座るボクは、咽ながら答えた。






幸せだったさ。



ボクを苦しめるお母さんには会えなくてすんだ。

坂本にも会わずに、ただただ愛しいエリカちゃん一人のことで脳内を埋め尽くすことの出来た

最高に満たされた2年間だったよ……。



「幸せなの。 変な奴」

お母さんは怪訝そうにそう言って、煙草の火を消して――

少し動き出した車の流れにのり車を走らせた。



――――煙草の苦い残り香が、車内に充満していた。











――






渋滞を抜けて、3時間くらいかけてボクは住居地についた。




――家からは大分離れ小さくなった、もうひとつの住居地。


小さくて古びたアパートの一部屋だった。





「……」



ボクは小さな部屋の真ん中に座り込んだ。




「家具はすべて揃えておいてあげたわよ。

かなり小さいけど、あんた一人で暮らすのには十分でしょ。


家事はあんた、一人でできるわよね?

学校とか金銭面については――詳しくはメモに書いてあるから絶対に見なさい。


まあ、詳しいことはここの大家さんに聞いてちょうだい。



それじゃあまた1年位したら会いにきてあげる」





<バタン>

ドアが閉まる。

お母さんは素早く説明して、素早く帰っていった。

3時間もかけてやってきたのに、1分程度しかここにはいなかった。












「……狭ーい、暗ーい、あっつうーい……」









ボクは部屋の真ん中に座り込んだまま呟いた。





すぐ目の前の窓の外に見える景色は、いままでとまた違った景色だった。


エリカちゃんがいたあの街の面影は、ひとつもない古くて小さな街――。



ボクはこれから、ここで生活するんだぁ……。


















「……


エリカちゃん
















やっと会えるんだ……」






ボクは此処にはいないエリカちゃんに語り始める。
















「明日ね


明日――――



絶対にエリカちゃんに会いに行くからね


大体2年ぶりの再開になるんだね……


ボクさぁ、もう、今からわくわくしちゃって胸が弾けちゃいそうなんだ。









……エリカちゃん















キミを世界で一番愛しているよ」









そして。







「エリカちゃあああん!!!!!!!!!



愛してる!!!! キミが可愛くて仕方がないんだ!!!

ずっとずっとずっとずーっとキミのことだけを考えていた!!!!

今すぐに何もかもを壊して

全世界を壊してエリカちゃんを壊して愛に埋もれたいんだよ!!!


好きだ!!!! キミは世界で一番可愛いんだ!!! 愛しているんだ!!


エリカちゃんっ、エリカちゃんっ!!!!






ああああああ――っ


あああああああああああ――――っ!!!!!!!」















――もう止められなかった。








ボクは窓の鍵を何度も開け閉めを繰り返して


リビングの電気のスイッチを何度もつけては消して






激しい愛を、静寂の宇宙を破り叫び続けた。

2010/06/20 13:23 No.44

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p



――


「はあ……、はあ……っ」





翌日の朝。


体中を照る太陽に汗をかきながら、ボクは息を切らして駅へと歩いていた。



エリカちゃんの元へ行くために――。


今日はね、本当は自分の高校に行かなくちゃいけないんだよねぇ。

でもさ、でもさ、普通に考えようよ。


ボクはセンターにいる間、いつも「ここから出たら一番にエリカちゃんに会いに行くからね」って――心の中でエリカちゃんに誓ったんだよ。 約束したんだよ。


だから会いに行くの。

高校なんかどうでもいい、先生もお母さんも、何もかもどうでもいいの。



どんなに遠くても暑くてもエリカちゃんに逢えるのなら我慢して歩き続ける





早くエリカちゃんに  、  会イタイ――――。






――







「行ってきます」



朝。

高校生になり、グレーで統一された制服を身にまとって私は家を出ていった。



……あれからもう2年経つなんて。

榎本くんがいたあの頃から、いつのまにか2年経っていたなんて。

すっごくすっごく早かった。


榎本くんのことを、2年経った今でもふと思い出す。

そして怖くなる――。



もう2年経っているのに。

もう、榎本くんと会うことなんか絶対にないのに。


たまに思い出して、どうしようもない恐怖に怯えてしまう。




「エリカちゃん」「エリカちゃん」って、

耳に纏わりつくようなあたしを呼ぶ声。


クラス替えをして隣の席になって、突然手を握られたこと。

写真を撮られたこと。

坂本くんを守るために、榎本くんと付き合うことになってしまったこと。


――……私と榎本が付き合っていると、皆に宣言されたこと。


思い出すだけで、目の前が真っ暗になってしまいそうなほど、怖くなる。



あのときは坂本くんがずっと側にいてくれたから――

あたしを優しく守ってくれたから、どんなに怖くても生きていられた。

体を張ってあたしを守ってくれたから――。


そして、榎本くんは逮捕という形で、あたしと榎本くんがまた会うことはもうなくなった。





だけど今。


坂本くんはそばにはいない。

……結局、坂本くんとあたしは別々の高校に別れてしまうことになった。


暇なときにはいつでも会うし、いつもメールだってしている。

だけど最近はお互いの時間が減ってきて、なかなか会う機会もなくなってしまった。


だから……、怖い。




もう榎本くんに会うことなんてあるはずはないのに、怖くなる……。




……でもきっと、考えすぎなんだよね。

もう榎本くんに会うことなんて二度とないのに、未だに怯えているあたしがバカなんだ。


もう――榎本くんに、あたしの日常を狂わされることなんて、二度とないんだから。


そう言い聞かせてあたしは歩き続けた。

















そして。


















「……エリカちゃん、可愛い」


















次の瞬間、後ろから聞こえてあたしの耳に入ってきた、聞き覚えのある声。












「……」





あたしはあまりの衝撃に、肩を上げてしまった。


そして全身が震えだす。
















この声――






榎本くん?


















……そんな訳ない。


榎本くんがあたしのそばにいるなんて。


またあたしのことを見ているなんて。

そんな訳ない……。










だけど――









……榎本くんが、釈放されるのは……あれから2年が経った夏。





そして今は……







……あれから2年が経った夏だ――――


















まさか



まさか本当に榎本くんなの?






今あたしの後ろにいるのは――




……あたしをストーカーしているのは



……榎本くん???





「……っ」





あたしは声を震わせながら。



全身の勇気を振り絞って――









ゆっくりと後ろを振り返った。

2010/06/23 17:47 No.45

削除済み@mamonn ★KaJ.lkQzNkY_LJ

【 この投稿は ”ポンデリング” 削除されました (?) 】 削除者: 愛浦☆マスター 2010/06/24 21:39  削除理由: ローカルルール違反

2010/06/24 15:49 No.46

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p










「……みーつけた」





2年ぶりに見た、エリカちゃんの家。

そしてその周辺の町並み。

大きな杉木。


そして――








可愛い可愛いエリカちゃんの後ろ姿。







ずっと探してた。

朝から電車に乗って此処まで来た。

エリカちゃん。

ボクね、高校なんかさぼってキミに会いに来たんだよぉ。




会いたかった。

会いたかった……。


ボクは、早足で歩く制服姿のエリカちゃんの少し後ろを、足音を忍ばせてじりじりとついていった。


……早くカオが見たい。

2年経ったってエリカちゃんの可愛さが薄れることなんてないだろうね

エリカちゃん……


……キミの顔が見たい……



そのとき。

「……」


ボクの気配に気づいたのだろうか。

エリカちゃんは突然歩いていた足をぴたりと止めて――


ゆっくりと振り返った。







「エリカちゃああああああああああああん!!!!!!!!」

「いやああああ――――っ!!!!」








ボクとエリカちゃんの声が重なる。


振り返ったエリカちゃんの顔はやっぱり可愛かった。

胸元まで切られた少し茶色い髪、大きな瞳、ぽってりとした唇……

ああ。


やっぱりエリカちゃんだ。



「久しぶりだねぇ……」

ボクはにっと笑って、Tシャツの裾をぐっとつかみながら言った。

エリカちゃん、やっぱりボクのことを覚えててくれてたんだね。

うれしいよ。


――――世界で一番可愛くて愛しいエリカちゃん。



「い、いやあああっ!」


エリカちゃんはボクの顔を見るなり、全力で走ってボクから逃げていった。

少し涙目になって――。


なんで、

なんで逃げるんだい?


相変わらず恥ずかしがりやなんだね、エリカちゃんは。



「っあっはははははは! エリカちゃん、なんで逃げるの!」


ボクはにっこりと笑いながら、必死に走るエリカちゃんを追っていった。

ボクも全力で走ってエリカちゃんを追う。

やっと再開できたんだ。

――絶対に逃がさないよぉ。




逃げないで。



逃げないで、エリカちゃん。






ボクから逃げようったって、無駄だよ――――。









…… キ ミ は 絶 対 に ボ ク か ら 逃 げ ら れ な い 。









そして。

ボクとエリカちゃんの距離はぐんぐん縮まって――



<グッ……>





「つかまえた……」




ボクは震えているエリカちゃんの


やわらかくてすべすべした手を握って――






息を荒げながら、優しい笑顔をつくった。


















――――モウ絶対ニキミヲ離サナイ。


2010/06/25 15:02 No.47

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p





「や……やめ……て、離して……」



エリカちゃんの声が、手が震えている。

そして潤んだ瞳で、ボクに苦痛を訴えかけるんだ。

「やだよ。 離さないもんねーぇ」

ボクはにっこり笑ったまま、離れそうになるエリカちゃんの手を力いっぱい掴む。


――そのとき。


<キーン コーン……>


すぐ隣にあった、ボクたちが昔通っていた中学校のチャイムが鳴った。

……ああ、懐かしいなぁ。

エリカちゃんと会えたことを除けば嫌な思い出ばっかりだし、別に戻りたくなんかないけどさ。


「……。 榎本くん、あたし、早く行かないと遅刻しちゃうの……。

だから今は離して。


……帰り、話聞くから……ね」


そう言うエリカちゃんは、精一杯笑顔を作っているようだった。

「……遅刻、かぁ。 まあ……そうだよねぇ……。

――わかったよ。 ボクずっと駅前で待ってるからぁ、絶対に話そうね!!!」


そして、ボクはエリカちゃんの手をすっと離した。


「……っ」


エリカちゃんはボクの手から解放されると、涙を地面に一滴零して、駅へと走り去っていった。

なんで泣いてるんだろうね。

ボクに会えて感激してる、ってトコだろうけど!


ああ――

エリカちゃんの手の感触が、温もりがまだこの手の中に残っている。


「エリカちゃん……」

ボクは手のひらをぎゅっと握り瞳を閉じた。



――






「……っ……」



駅に向かって走る途中。

あたしのなかで何かが切れて、あたしは道路の電信柱の後ろでしゃがみこんだ。



震えがとまらなくて涙が止まらなかった。



どうしてあたしばっかりこんな目に合うの?

どうして榎本くんはあたしを何時も世界の中心に置いてしまうの?




怖い。

怖い。


坂本くん、助けて。


お願い。

高校が離れてしまっても、坂本くんだけがあたしの大切な人だから……

坂本くん……。


「坂本くん……っ」

あたしは、震える手で掴んだ携帯で、気づいたら坂本くんに電話をしていた。


<プルルルルル……>


『……エリカ?』

――坂本くんは出てくれた。

『どうしたんだよ、俺、もうすぐ授業始まるんだけど……』

「……っ……」

『エリカ? ――泣いてる?』

「あたし……っ……、……助けて……」

『え?』


「……」


<――ブチッ>


……あたし、何やってるのかな。

今坂本くんに電話をかけたって、ちゃんと話すことはできないし――迷惑をかけるだけなのに。

そう思って、自ら電話を切った。

だけど。

坂本くん、あたし怖いの。

言えないけど、本当は今すぐ坂本くんに会いたいの――――。


……坂本くん……。


そして、しばらくしゃがみこんだままでいた後で携帯を見てみると、もう9時を過ぎていた。

……無断欠席になっちゃうけど、学校なんて今日は……行けないよ。

家に戻ろう……。

あたしは涙を拭って立ち上がった。






そのとき。


















「坂本くん……」






目の前に。


制服姿のまま、駅の方から走ってくる坂本くんがいた。









「エリカ!」


坂本くんは息を荒げてあたしの名を呼ぶ。





目を疑いながらも、あたしは坂本くんの方へと走り出した。





「学校は……? どうして……?」

そう言うあたしの目からはまた涙が溢れ出す。



本当に、会いにきてくれたなんて。


「いや、お前のせいで抜け出しちゃったんだって! お前、電話で泣いてたから……。 どうしたん――」

「坂本くんっ!!!」



坂本くんの言葉を遮って、あたしは坂本くんに強く抱きついた。



ここまで坂本くんを、好きだと思ったのは初めてかもしれない。

それほど、坂本くんがあたしの目の前にいることが愛しくて、安心した。





あたしはしばらくそのままで、ただ涙を流し続けていた。






2010/06/27 14:51 No.48

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p


「坂本くん、坂本くん……」

「何があったんだよ」


坂本くんに抱きついたまま、

ただ泣くことしかできないあたしに、坂本くんは真剣な瞳で言った。


「……っ……え……、榎本くんが……またあたしに会いに来た……」

あたしは声を震わせて言う。

「――榎本?」

「……センターから出たみたいで、ついさっき……駅に向かう途中で、手を握られたの。

離してって言っても離してくれなくて!

怖くて……怖くて……っ」

「うん……」

不安に怯えるあたしを宥めるように、坂本くんはあたしの話を優しく聞いてくれた。

「だ……から……っ、学校が終わった放課後話してあげるからって言ったら……やっと……離してくれたけど……。

榎本くんと話すのなんて怖い。

……2年前のこと、思い出すだけで息が詰まりそうなほど怖いの。

それにもうこんな状態じゃ学校になんて行けない……。


坂本くん、ごめんね……。

坂本くんは学校に行ってたのに、……坂本くんは関係ないのに――」

「なに言ってんだよ」

あたしのその言葉を遮った坂本くんは、少し怒っているようだった。

「お前のこと大切だから……心配で心配で仕方ないんだよ! だから安易に学校だって抜け出したんだ」

「……ごめん」

そしてしばらくの間、重苦しい沈黙が流れる。

あたしたちは自然に、すぐそこにある公園まで歩いて、ベンチに座り肩を並べていた。


「どうしたらいいのか分からない。 怖いの」

そう切り出したあたしの目からは、また涙が溢れだす。

「……正直、2年も経ってんのに榎本がまだお前のことを諦めてなかったなんて、――そこまで執念深いなんて、思いもしなかったっつーか……

油断してた。


だけど榎本はまだお前のことが好きなんだったら、諦めさせるまで何度でも戦うしかねえよ」

「でも坂本くん、また刺されちゃったりしたら……」

そう言った直後、胸が痛い鼓動を上げた。

記憶から消そうとしていた、遊園地でのあの出来事がまたあたしの頭をよぎる。


「もう刺されないって。 俺はそんな弱くないから。

俺はエリカが大切だからまた戦うから、だからエリカも榎本に立ち向かって。

……放課後、俺、また榎本をどうにか説得するから、ふたりで榎本に会おう。


俺ももう、学校は行かない」

坂本くんはあたしの目を見て言った。

「……坂本くん、ごめんね……」

「謝るなよ」


「……うん……。 ありがとう、坂本くん……。


あたし、坂本くんがいなかったら、もうとっくに死んでたかもしれない」


坂本くんはそういうあたしの頭をすっと撫でた。


坂本くんがいてくれて本当に良かった。

坂本くんの優しさにまた涙が零れそうだった――。



――



ふたりでそのベンチに座ったままで、どれくらい経ったのだろう。

いつのまにか隣にいる坂本くんは静かに眠っていて。

平日の昼間の公園は人も少なくて、あたしたちのいる空間は風と小鳥の声だけがさわぐ静寂に包まれていた。



坂本くんの寝顔を見てあたしは思う。


本当に坂本くんがいなかったら、あたしは生きていられなかったんだよ、きっと。

一生鎮圧されることのない大波に、榎本くんに……。

たったひとりじゃ絶対に立ち向かえなかったよ。

あたしはどれだけ坂本くんに救われているのかな。


<ゴーン ゴーン...>


公園のチャイムの音が響く。

時計を見ると、もう3時になっていた。


榎本くんはもうそろそろ駅前で待っているかもしれない。



「……もう行こう」

――同時に坂本くんもふっと目を覚まして、突然そう言った。

「うん……」


そしてあたしたちは、榎本くんの待っている駅前へ歩き出した。



――




駅のすぐ近く。

遠くにはやっぱり榎本くんの姿が見えた。

もう一度見る榎本くんの姿に、また胸が痛む。




「……」



あたしと坂本くんは少しずつ、後ろ向きの榎本くんに近づいていった。





そして。



「榎本」




その坂本くんの声に、榎本くんがゆっくりと振り返った――。

2010/06/30 21:26 No.49

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p



「……さ、かもと? と、エリカちゃん??」

「榎本。 久しぶり」



どこかで聞いたような声に振り返ると――

そこには、坂本とエリカちゃんが一緒にいた。



「ななななななななんで坂本とエリカちゃんが一緒にいるんだよおおっ!!! え、エリカちゃん、ボクと二人っきりで話してくれるんじゃなかったのぉ!? さ……坂本が無理矢理ついてきたのか!」

ボクはそう言って坂本を指差した。

ま、またか?

またエリカちゃんは坂本に付きまとわれているのかっ!?

「違うっつーの。 お前に諦めてもらうために来たんだよ」

「はあ?」


<グッ>

坂本を指差したままの、ボクの手。

坂本はその手を掴んで言った。


「な……なんだよ」

「お前、何回言ってもエリカのこと諦めてくれなかったよな。 終いには俺のこと刺して、センターにまで入れられた。

だから俺、お前はもうエリカに執着してないって思ってたよ」

「はぁ!? ボクとエリカちゃんの愛はそう簡単に引き裂かれないさ!」

「それなのにお前はまだエリカに執着してんだな。 正直がっかりしたよ、お前がそこまで堕ちきった人間だったなんて!」

坂本はそう言って、ボクの手を強く強く掴んだ。

「いっ、痛い! やめろよぉ!」

「俺、絶対諦めないから。 お前がエリカから離れるまでずっとずっとお前を説得しに行くからな!

俺はエリカのことが本当に好きなんだよ!!

――また刺されたって、お前のエリカの気持ちが完全に消えるまでずーっとお前と闘うってエリカと決めてんだよ!


エリカはお前のことなんか好きじゃねえんだよ!! 大嫌いなんだよ!!!

早く目の前から失せろよ!!!」


坂本の叫びが響く。

2年前よりも強さっていうか怖さを感じた。


エリカちゃんはその隣で何かを言おうとしていた。


「う……うるさいっ!!!! エリカちゃんはボクのことを嫌ってなんかないさ!!!

――2年の月日を越えて、ボクたちは愛し合っているんだよ!!!!」

それに対抗してボクも叫ぶ。

何度も坂本の手を離そうとしたけれど、ボクの何倍も強い坂本の手はなかなか離れなかった。


「……っえ……エリカちゃああんっつ!!!」


ボクは、坂本の隣で俯いているエリカちゃんの名を叫んだ。

「えっ……」

エリカちゃんは俯いていた顔を上げる。



「ボク、坂本の言うことなんか信じないからねええぇっ!!! キミに付きまとっているのはボクじゃなくて坂本なんだもんねえっ!!!!!

ねえエリカちゃん、ボクとキミは愛し合っているんだよね?



――――……キミはボクのこと……好きなんだよねええぇぇっ!!!??」




ボクはエリカちゃんにそう聞いた。



今思うと、こうしてエリカちゃんにはっきりと聞くのは……はじめてかもしれない。


「……あたしは……」

「エリカ! はっきり言え」


坂本とエリカちゃんの声が重なる。


エリカちゃんは小さく頷いた。







そして言った――。





「あたしは榎本くんのこと…………


















……


















――――……だい……きらい」

2010/07/03 21:47 No.50

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p













……










……だ




いきらい


だいきらい





だいきらい

だいきらい……

だいきらいだいきらいだいきらいだいきらい






――エリカちゃんの声が、ボクの脳内でこだましていた。




「……! あ……っ」


次の瞬間、エリカちゃんが目を大きく見開いて、はっとしたように口を押さえた。



「ご……ごめんね……!!!!! あたし……!」


そして――叫ぶような宥めるような声で言った。









「……榎本。 お願いだから、もう諦めてくれよ。





早く俺達の目の前から消えろ」



その隣で、坂本が冷静なトーンでボクに話しかける。



「……」

エリカちゃんは坂本の言葉になんの異議も出さず、黙って俯いている。














……ああ



なんだかもう







今この瞬間


自分自身が何を考えているのかもわからなくなった。











エリカちゃんは



ボクのことが……きらい


……だいきらい……






だいきらいだいきらい




だいきらい……


……大……嫌い……!!!!!!!!





エリカちゃんの言葉ががんがん響いて、頭にこびり付いて離れなかった。


















「……






……っ


















……坂本っ!!!!!! うわあああ……っ!!!!!!!」


















――――エリカちゃんが……








また坂本に脅されているのかなんて

思ったわけじゃない







こうすることで――エリカちゃんがボクに振り向いてくれるだなんて思ったわけじゃない




エリカちゃんを取られて悔しいわけじゃない



坂本からエリカちゃんを奪い返したいと思ったわけじゃない




坂本を……





殺したいなんて思ったわけじゃない……














ただ、ただそのときのボクの脳内には


エリカちゃんが好きだという事実しか残っていなくて……、、


















――――ボクは2年前のあの日のように、坂本の腹をめがけて思い切り走り出していた。




2010/07/05 18:52 No.51

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p











「は……!?」



どんどん近づいてゆく坂本の顔。

ボクは視線を坂本の腹に移しながらただただ掛けていった。



ボクの硬い石頭を――

坂本の腹へ当てようとして走っていた。



何をしているのか分からない


何がしたいのか分からない……。




何 を 求 め て る の か 、


わ か ら な い 。



「……何だよっ!」


坂本はすっ、と身をこなしてボクから避けた。




――突然坂本が目の前からいなくなって、ボクは戸惑う。




走り続けていた足を止めようとしたけど、


なかなか止められなかった。






そして……








「う……うわあっ!」


















不安定になったボクの体はなかなかとまらなくて


そのまま車道へと走ってしまっていた。




ボクは車道の真ん中に座り込む。





駅近くの車道には、数え切れないほどの車が走っている。


「う……うわ……うわあ……」


ボクの隣、後ろ――


そこらじゅうで車が走っていて。





なんだか怖くなってしまったボクはその場から動けなかった。





どうしよう。


どうしよう。






逃げなくちゃいけないのに。




「榎本、何やってんだよ! 危ないからこっち戻れっ」

「榎本くん……」






歩道から、エリカちゃんと坂本の声が聞こえた。




それでも動けないボクの足――。










い……

かなくちゃ





エリカちゃんのいる方へ戻らなくちゃ



このままじゃ




轢カレチャウヨ……





なのに

それなのに


体中が震えて足がすくんで











――――どうしても動けないんだ!!!!!!!!!!


















次の瞬間。

















「……っ!!!!!!!!!


















榎本くん!!!!!!!!!! 危ないっ!!!!!!!!!!!!!!!」













エリカちゃんの叫び声が聞こえてボクは顔を上げた。



<半端なところでごめんなさい!>

2010/07/06 20:57 No.52

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p







――その刹那。


















<ドンッ>


















衝突音がボクの世界に響いたのと同時に







視界がぐらりと揺れて






景色丸ごとがすごいスピードで右から左へと動いた







一瞬で震える体に












衝撃と痛みが同時に走り渡って


















気づいたら





ボクの体は少し先に続く道路に強く打ち付けられて






倒れこんでいたんだ


















「……」
















何が……










何が起こったの……?















いたい




痛い痛い痛い





体中が痛みに襲われているよ












「ご……ごめんなさい!!!!! あ、ああああ、警察を!! 誰かああっ」






運転手の叫び声




「大丈夫ですか!?」

「今轢かれたよね……」





ボクの周りに群がる奴らの好奇心に満ちた声




様々な声が飛び交っている


















……あれ








ボク






















轢 カ レ タ ――――?


















「榎本くんっ!!!!!!!!!!!!」

「榎本……」
















エリカちゃんと坂本の声が聞こえる









そして二人でボクの方と掛けてゆく


















「……っごほ……」
















エリカちゃんが来てる












ボクのために






走ってきてくれている……










ボクは小刻みに咳き込みながら、ボクへ向かって走ってゆくエリカちゃんを見て小さく笑った。

2010/07/08 17:51 No.53

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p





「榎本くんっ!!!!」



エリカちゃん。


そしてその後ろに坂本がついて、二人でボクの方へと向かってゆく――そんな様子が、微かにぼやけた視界に映されていた。



「え……りかちゃん」


声が震える。

喉の奥が苦しい。


……体中が痛い。





全身が悲鳴をあげている。



「……ごめん……。


ごめんねっ!!! 榎本くん!!!!!!

あたし……あたし……っ……、……っ大嫌いなんて言うつもりなかったのに……っ!!!!!!!」



エリカちゃんがボクの隣で、そう言いながら






――――涙を流していた。







ああ。




幸せだ、とボクはふいに感じた。








全身が痛いはずなのに、ボクは今こんなにも幸せだよ。

暖かくて、嬉しさが溢れるような気持ちで、胸の中がいっぱいなんだ……。




エリカちゃんが、ボクのために泣いてくれているから――。

エリカちゃんは優しいんだね。







「……いいんだよ……ぉ、エリカちゃん……。



キミがボクのために泣いてくれたって……


……それだけでボクは満足……さ」


「榎本くん…!」


「榎本……」




エリカちゃんと坂本の姿が、ボクの視界から消えたり映ったりする。



意識がもうろうとしている。





その中でこんなにも幸せな気持ちが溢れている。





そして。




「はじめから……こうやって聞いてれば良かったんだ……。 ……エリカちゃんが、早く言ってくれればよかたんだ。

……もっと早く、キミの気持ちをボクが知ることが……できていたら……」








ボクはそう言って顔を上げた。





そして続ける――。


















「そうしたら……ボクはここまで狂わなかったのに……」















――――と。



「全部あたしのせいだよ…! あたしが思わせぶりな態度なんか取るから。 あ……あたし……いつも思ったことを、怖がっちゃってはっきり言えなくて……っ!


ごめんね……ごめんねぇっ、榎本くんっ……」



エリカちゃんはそう言ってまた涙を流した。







……ねえ、エリカちゃん。







……もうボクは、これだけでこんなにも幸せなんだぁ。






これで十分なんだ。


これだけで……満足なんだ。







ボクは重い頭を、ゆっくりと左右に振った。




「うう……ん。


いいんだよ、もう……。

ボク……ねぇ、今ね……すごくすごく幸せなんだ。


……ありがとう……」
















……ああ。






意識が




遠のいてゆく――――。


















体中に響き渡る痛みのなかに













エリカちゃんへの愛しさが






嬉しさが


シアワセが









溢レテイテ















涙になって……






ボクの頬に








伝っ……て


いっ




て……


















「榎本くんっ……!!!! 榎本くん……」


















そしてボクは意識を失った――――。

2010/07/10 09:19 No.54

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p



「……っ病院……



病院っ!!!! はやく……

早く病院行かないと!!!

榎本くんが死んじゃう!!!!!!!!」




意識を失ったタケルのそばで、エリカは混乱した様子で叫んだ。

「落ち着けよ。 今、周りの人が救急車呼んでくれたから」

「坂本くん……」


エリカをそっと宥める坂本。


エリカは涙を一滴一滴ゆっくりこぼしながら、坂本に寄りかかって言った。




「……どうして今なの?



どうして今になって、榎本くんは自分の過ちに気づくの……?







もっと……もっと早く気づいていたら……

こんなことにはならなかったよね……。


――っあたしが……

あたしがもっと早く――自分の気持ちを榎本くんに伝えていたら!!!!!

榎本くんはここまで狂わなかったのに!!!!


あたしのせいでっ……!」


「エリカ!!!!!!!」


叫びに近い声を上げるエリカ。



「お前のせいじゃねえよ。 お前は悪くない。

……きっと、こうならないと、榎本もお前も俺も気づかなかったんだよ。

自分の愚かさとかさ。


ここまでギリギリにならないと、皆気づけなかったんだよ。

だから……お前のせいじゃねえよ」


「……」


坂本はエリカの瞳をしっかりと捕らえて言った。

そしてエリカの震えている肩をぎゅっと抱きしめる。


エリカは小さく頷きながら、意識のないタケルを見て涙を流し続けていることしかできなかった。











そして――――。





それから30分程度がたったとき、やっと救急車がやってきた。

光る赤いランプを回しながら、タケルのもとへと止まる。



「大丈夫ですか!」

「大丈夫ですか」



救急車から数人の隊員が降りてきて、タケルを救急車の中へ運ぶ。





「……あたしも、一緒に行きます」

「あ、俺も……」




「お二人は――お友達の方ですか?」



「……」


エリカと坂本が、救急車のそばへと駆け寄り乗っていった。



――ふたりとも、隊員の問いには、答えられないままで。


















そしてエリカ、坂本、タケルの3人を乗せた救急車は、よく混んだ道路の真ん中を走り抜けて病院へと向かっていった。

2010/07/13 08:00 No.55

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

白い壁と壁とで作られた、まだ新しい病院。

前に坂本が怪我をしたときにも来た病院。


坂本とエリカは看護婦の指示のもと、そこの待合室で肩を並べてタケルの状態が確認できるのを待っていた。

「……」

さっきからずっとエリカは涙を流したままで。

ふたりの間には沈黙が流れている――。


「あたし……」

「え?」

突如、エリカが沈黙を破り話しはじめた。


「あたし、なんで泣いているのかな」

「エリカ……」

「榎本くんのこと、友達だなんて思っていないのに。 いい思い出なんてなにひとつ残っていないのに、ううん、……辛くて、苦しい思い出しか残っていないのに。 なのに……。

……怖いんだ、自分が殺人をしているみたいで。

あたしのせいで榎本くんが死んじゃったって……狂ってしまったって……、そう考えると怖くて仕方がないの。 榎本くんのためじゃなくて、ただ自分自身が怖いからって独りよがりな考えで、泣いているなんて。 あたし……最低」

「そんなことねえよ……」

「あたしは自分勝手だよ! 自分が責められるのが怖いから、榎本くんの死をこんなにも怯えているの。 榎本くんに死んでほしくないの。 榎本くんのことを好きでもないのに、こんな中途半端な気持ちで涙を流しているなんて!!! あたし最低っ……、ただの弱虫――」


「やめろよ!」

涙を流し続けるエリカの手をとって、坂本が叫んだ。

「あたし……ここにいていいのかな。 坂本くんの側にいる権利なんて……ないと思うの……」

エリカはゆっくりと俯いていた顔を上げる。

頬に涙が一筋伝っていた。


「どこにも行くな。 お前がどんなに最低でも俺は構わないから、エリカが此処にいてくれるだけで十分だから。 お前のこと……何処にも渡したくないんだ。

俺のわがままでもいいからここにいろよ」

そう言って、エリカを強く強く抱きしめる坂本の体は冷え切っていて。

「冷たい……」

エリカは温もりのない坂本の手をぎゅっと握る。


「……ありがとう、坂本くん。 ここまで弱いあたしを支えてくれるのは、きっとずっと坂本くんしかいないから」

「うん」

「だからあたし、こんなときだって、少し揺れながらも自分を保っていられるの。 坂本くんのおかげなんだよ。

……榎本くんのこと、信じて待とう」


エリカはそう言って、涙を流したまま小さく微笑んだ。


病院の廊下は、遠くに看護婦たちの声が響くのみで静寂に包まれていた。

タケルは広い部屋に入ったままずっと出てこない――。





そして、それからどれ程経ったのだろうか……。





<ガチャッ>


タケルのいた部屋のドアが、静かに開かれた。

タケルの姿こそ見えなかったが、医者や看護婦が、ぞろぞろと廊下へ出てくる。


「……」

タケルの死を覚悟したかのように、エリカは一度強く瞳を閉じたあと――

手を胸に当てて、坂本と一緒に立ち上がった。


そして、ゆっくりと俯いていた顔を上げるのだった――。

2010/07/17 12:27 No.56

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

――



――――





ボ ク は 誰 な ん だ ろ う






ただ目の前はまっくらで


名前も今いる場所も


なにもかも思い出せない




確かすこし前に


車に轢かれて倒れた気がする

だけど

だけど

そこにいた人間も何故そうなったのかも

どこで轢かれたのかも


なにもかも

おもいだせなくて……






……ここはどこなんだろう?









ボクは両手で周りを探りながら――


暗闇のなかを彷徨っていた。


















「榎本くん」





「榎本……」





「まだ信じられない。 あたしのせいかもしれない」





「違うよ」





「だけど……」





「これで良かったんだよ、きっと。 これでやっと終わるんだ」





「うん……永かったね」


















何処からか


もうろうとした意識のなかで



暗闇のなかで





誰かの声がきこえて






すぐに消えてゆくんだ……




たぶん



男女二人組で




女は涙交じりに話していた














誰の声なんだろう……













ボクは








――――誰なんだろう?


















そのとき。














「……!」







暗闇のなかに突然光が差しこんできた――。













……白くて、キレイな光が……


















ボクはゆっくりと、その光の差す方に向かって歩き出した。


















【短くてごめんなさい。

今回はタケルの意識の中を書いています。

私文章力ないんで、なんか勘違いされそうなんで一応書きました←

あと少しで完結です!】

2010/07/17 14:04 No.57

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

「なにい……この光……」


ボクはそうぼそっと呟いて、光に手を伸ばしてみせた。

――すると。





『榎本くん、おはよう!』

『あ、おはよ』





その光に、

ボクと誰かわからないけど一人の女の子が、学校の校門前で笑いあっている映像が鮮明に映し出された――――。

どこかで見覚えのある女子だった。





「……」





ボクは暗闇の中地べたに座り込んで、その映像を黙々と見続けた。









――









『まずXをここに代入して値を求めます、それから――』


学校の――教室。


数学かなんかの授業中で、黒板の前には見覚えのある先生が立って説明していた。


『榎本くん……はい』


『……』


ボクは後ろの方の席で、隣の席の女子から小さく折られたメモを受け取っていた。


――さっき、校門前で笑いあっていたあの女子だ。


どうやら、さっきから何度も呼ばれている「榎本」っていう名はボクの苗字らしい。


<今日、一緒に帰ろうね>


手元にある、そう書かれたメモ。


<いいよ!>


ボクはそう書き足してもう一度その女子に渡そうとして、


途中でさっとメモを戻してまた書き足した。


<あ、途中までカズヤも一緒に帰っていい? あいつ部活帰り一緒に帰るやついないんだって>


そして隣の女子に渡す。


カズヤ……?


……誰だった、かな。


<いいよ! 坂本くんいると面白いし(笑)>


再びこっちに渡ってきたメモにはそう書かれていた。


坂本……


……坂本カズヤ……。


聞き覚えがある。 どこかで聞いた名前。


絶対に知っているはずの名前。


だけどなかなか思い出せなくて、思い出そうとするたびに頭がキーンと痛んだ。


まるで、ボクが思い出すのを拒否しているみたいに。


<キーン…… コーン……>


そして、チャイムが鳴って休み時間になった。


『タケル!』


何人かの男子が、ボクの方へと向かってくる。


ボクの名前は……「タケル」って名前なんだ。


苗字は「榎本」名前は「タケル」


――ボクの名前は、「榎本タケル」と言うんだ。


そのとき初めて認識した。


『お前、中本と文通してただろ!? 俺ずっと見てたんだけど』


一人の男子が、そう言ってボクの肩に腕を回した。


見覚えのある、誰かが――。


『は、お前見てたの!?』


『仲いいねー、相変わらず!』


動揺するボクを、周りにいた男子が茶化す。


中本……


さっきの女子は


中本っていう苗字……


……下の名前は、喉まで出掛かっているのに思い出せない。


『ってか坂本、今日も榎本とエリカちゃんと一緒に帰るんだろー? 邪魔者じゃん』


『いいんだよっ! 俺は――、中本とタケルのキューピットだから♪』


『うわっ! 気持ち悪ぃ――――』


苦笑するボクの横で、「坂本」と言われた男子と、他の男子が笑いあっていた。













思い出したよ。













今ボクの隣にいるのが坂本。




榎本、タケル、って呼ばれているのがボク。



ボクの隣の席にいる可愛い女子がエリカちゃん。










そうだ……。


そうだね。






ボクたち、同じ学校で同じクラスで過ごした仲間だったよね……。










ただ――





ボクたち3人の関係は思い出せないんだ。








ボクたちの関係は


なんだったの?





ボクとエリカちゃんは、友達? 恋人?


ボクと坂本は? ライバル? 友達?




エリカちゃんと坂本は……、恋人? 友達……?





『タケル!』


映像のなかから聞こえてきた、坂本のボクを呼ぶ声に、ボクは慌てて顔を上げて映像の続きを見始めた。


『ん?』


『今日さ、帰りお前ん家寄ってっていい?』


『んー、いいよ!』


『さんきゅー』


ボクと話す坂本は、嬉しそうに笑う。


『お前ら本当仲いいよな』


そこにいた男子が笑いながら言う。






そして。







『当然当然。 俺とタケルくんは大親友ですからー』














坂本はそう言って笑うと


用事がある、と言って教室を出て行ってしまった。

















……ああ、




そっか……



そうなんだ……。










ボクたちは




ボクと……


坂本は……




大親友、だったんだ――――。














……なんで……かな。






なんでかはわからないけど、





心の奥があたたかくて。















…………すこしずつ、静かに、涙が出ている。

















……なんで……なんだろうね……。


















――――ボクは涙を流したまま、その映像を見続けていた。










2010/07/19 17:13 No.58

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そのまま、映像は途切れることなく流れつづけて。



ボクの1日の様子が――ボクの学校での様子が映し出されていた。






そして……。



――




――放課後、学校からの帰り道。


橙色に染まる道を、ボクとエリカちゃんと坂本は肩を並べて歩いていた。


道路に、3つの大きな影が映し出される。


『ごめんな、二人の間に邪魔者が入りこんじゃて!』


坂本が、ボクとエリカちゃんの顔を交互に見合わせながら言った。


『え? 邪魔なんかじゃ……』


『そんな、坂本くんのことを邪魔だなんて……』


そして、


――手を振って否定するボクと、エリカちゃんの声がぴったりと重なった。


『あ、ハモったハモった! お前ら本当仲いいよなー!』


『もうっ、坂本くんってば……!』


ボクたちを茶化す坂本と、少し怒った様子のエリカちゃん。


『ははは、ごめんごめん! じゃ、俺こっちだから』


道のちょうど曲がり角で、坂本は足をとめて言った。


『うん、それじゃあね』


『仲良くやれよ!』


『うるせーな!』


ボクは、だんだん遠くなっていく坂本と大声で叫びあっていた――。




――



坂本がいなくなって、急に静かになった帰り道。


『ねえ、榎本くん……』


『ん?』


静けさを少しでも消そう、というようににエリカちゃんが突然切り出した。


『今週の土曜日、あいてない?』


『え、土曜日? うーんと……、うん、暇だよ』


『本当!? ……じゃあさ、あの……あたし、今見たい映画あるから……一緒に観にいかない?』


エリカちゃんは恥ずかしそうに、俯いたまま言った。


気づくとボクの家の前についていて、ボクとエリカちゃんは家の前で足を止める。


『うん、いいよ』


ボクは小さく笑って言う。


『ありがとう! じゃあ、詳しいことはメールするからね。 それじゃあまたね!』


エリカちゃんは俯いていた顔を上げて、嬉しそうににっこり笑って――


遠くなって完全に見えなくなるまで、ボクに手を降り続けていた。










――――ズキンッ!











その、瞬間。


















「……ああああ……









あああああああああ――――――――っ!!!!!!!!」
















ボクの頭が強く痛み出して。







ボクは歯を食いしばりながら、両手で頭を押さえて。









映像はエリカちゃんの笑顔、ただひとつだけが映し出されている。


















なにか……


















なにか







大切なことを



ボクは忘れていて…………








……今













――思い出そうとしているんだ


















そうだ




ボクとエリカちゃんの“関係”



ボクはずっと忘れていたんだ













だけど












「あああ……っ!!!!!」











だ け ど 今 思 い 出 し た ん だ 。


















現実では


















車から轢かれる前は


















エリカちゃんは







ボクの“彼女”


















ボクは



エリカちゃんの“彼氏”


















――――ボクとエリカちゃんは“恋人”という関係にあったんだ……









2010/07/22 00:53 No.59

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エリカ……ちゃん

エリカちゃん……



ボクは思い出したんだ。

坂本はボクの親友。

エリカちゃんと坂本は、ただのクラスメート。


エリカちゃんとボクは、




――――恋人、だったって。










――





<ガチャ……>


映像の中で、ボクはの家のドアを開く。


そして再び映像は流れ、ボクはエリカちゃんと別れて、自宅の玄関で靴を脱いでいた。


『おう、おかえり!』


『ただいまー……、って、え!?』


家に入るなり、ボクは驚いていた。


――目の前には、どこかで見たような……


優しい瞳をした……


まだ若いけど、ボクとは大分年が離れている男性が立っている。


それを見て驚いているようだった。


『びっくりしただろ?』


『な、なんでいるんだよ? 兄ちゃん、警察の仕事は!?』


“兄ちゃん”


映像の中のボクはたしかにそう言った。


……兄ちゃん? ボクの、お兄さん?


そんな人いた記憶、ない。


だけどこの男性は確かに見覚えがあって……



……おかしいな。


ボクの記憶では、どこか暗くてじめじめしたところで、ずっとこの人とふたりでいたことがあって。


この人はずっと警官服を着て、項垂れるボクを見張っていて……


それしか思い出せない。



それなのに今、この人はボクの目の前にいる。 ボクの家にいる。


……この人は、ボクが思い出せないだけで、現実ではボクのお兄ちゃんだったのかな……。


――ボクの記憶の方が、間違っているんだね、きっと。



この人はボクのお兄ちゃんなんだ。



『ふふん、なんでいると思う?』


『え? わかんないよ……』


『なんだよ、お前! 忘れたのか? お前の誕生日だから!』


『え、……誕生日?』


『あ、正しくは明日が誕生日だけどな。 明日、タケルの誕生日だから――絶対に休みをとりたかったんだけど……どうしても、明日は仕事があるんだ。 だから無理言って、前日の今日休ませてもらったんだ!』


“お兄ちゃん”は、そう言ってにっこり笑った。


『マジで……さ、さんきゅ……』


『いやいやいや、お礼を言うのはまだ早いから! こっちこっち――』


とまどうボクの背中を押して、“お兄ちゃん”はボクを居間へと誘導する。




そして――。


『タケル、一日早いけど誕生日おめでとう!』


そこにはお母さんがエプロン姿で立っていて。


テーブルの上には美味しそうな料理が、いっぱい並んでいた。


それは、全てボクの大好物で……。


『お母さん、これ全部作ってくれたの?』


『ええ! 今日ならお父さんも早く帰れるし、明日よりも家族全員揃っているときにお祝いしたいでしょ。 ほら、部活で疲れてるでしょうけど――あんたのためにいっぱい作ったんだからいっぱい食べてよ!』


お母さんはそう言って嬉しそうに笑った。


額の上で、汗がきらきら光って流れている。






おかあ、さん。



優しいおかあさん。





よく思い出せないけれど、


きっと現実でもそうだったんだね。


きっと現実でも、お母さんはボクのことをいつも考えてくれて、いつも構ってくれる優しいお母さんだったんだね。








ボクを愛してくれる、母親だったんだね……。


















【半端なところでごめんなさい。

今日中にまた更新します♪ 今日は更新する意欲ありまくりです!←】

2010/07/22 14:46 No.60

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【本日二度目の更新ですので、上の話も見てください^^】





――





『『かんぱーい!』』



そして、間もなくお父さんも家に到着して――


時刻はPM7:00、ちょうどいいタイミングで我が家の夕食が始まる。


家族みんなでテーブルを囲んで、お母さんの作ってくれたおいしいご飯を食べて、いっぱい話をした。


『タケルももう受験生なんだよな。 学校はどうだ?』


『すっごい楽しいよ。 いい友達に恵まれててさ』


ボクの向かいの席に座るお父さんとボクは話す。


『そうそう、親父、こいつ彼女もいるんだよー』


そのとき、ボクの隣にいる“お兄ちゃん”が、お茶碗を持って笑って言った。


『え? カノジョ?』


『は!? 兄ちゃん何言ってんだよ! そ、そうそう、兄ちゃんは最近仕事どうなんだよ』


ボクは動揺して、持っていた箸を落としそうになる。


そして、急いで話題を“お兄ちゃん”の仕事の話に変えた。


『んー? 最近は結構忙しいぞ。 なんかなぁ、中3……お前と同い年なんだけど、好きな女子にストーカーしたあげく、その女子の彼氏に暴行をして、で……なんだっけ。 あと無銭飲食と器物破損だったかな。 とにかく色々罪を重ねてる男子がいてさぁ。 俺、今そいつの担当なんだよね。 まあ……なんとかして立ち直らせないとなっ』


“お兄ちゃん”は、ハンバーグを一つ口に入れて言う。





――――チクッ





映像から流れる、その言葉を聞いた瞬間、一瞬、ほんの一瞬胸が痛んだ。


そしてなにかが胸の中で閃いたんだ。


……なにかわからないけれど、忘れてしまっている大切ななにかが思い出せそうだったんだ。


だけど思い出せなかった。



『へえー、そんなやついるんだ……』


映像の中のボクは、あまり興味なさげにそう言いながらご飯を食べ続ける。


『その子も可哀相ね、きっと親が悪いのよ。 親の愛情に飢えてる子って、なにが罪かも分からずにそういう行動に走ってしまうから。 タケルは絶対にそんなことしちゃ駄目よ』


『そうだぞ、タケル。 そんなことしたって自分があとで苦しむだけなんだから』


『わかってるよ! そんなん絶対に有り得ないからさ』


心配するお母さんとお父さんの言葉にボクは笑って返した。


『っつーか、まず暴行とかさぁ、タケルにそんな勇気ないっしょ――』


『うるせえよっ』


そして、ボクは笑ったまま隣にいる“お兄ちゃん”を軽く叩く。


その様子を見て、お母さんもお父さんも嬉しそうにやさしく笑っていた。


















――ねえ。







ボクは、




ボクはさあ――









現実では、世界で一番暖かい家族に囲まれていたんだね。







いつも笑いの絶えない、




暖かくて何よりの居場所に……
















ボクは……暮らしていたんだね…………。


















楽しそうに笑う、家族4人の映像を見ながら――













ボクはなぜかまた泣いていた。


















どうしてかはわからないけれど、その映像を見るたびに胸が痛んで、悲しい気持ちになって、涙がぽろぽろと溢れ出していた。











へんなの。










ボクはこんなに幸せだったのに……





どうしてこんなに、悲しくてむなしい気持ちになるんだろうね……。
















涙が……











零れ落ちてとまらないんだろうね……


















【タケルは、現実では一人っ子ですが、映像の中では兄がいる設定になっています。


タケルの兄の正体は、名前こそ本文では明かしていませんが


ちゃんと読解力のある方なら誰なのか分かります。 きっと(笑)】




2010/07/22 15:06 No.61

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――


映像は進んでいって、しばらくして夕食を終えたボクは自分の部屋へこもると、勉強机の小さなランプだけつけて宿題に取り組んでいた。


<ガチャッ>


『タケルー』


そのとき、ノックもせずに“お兄ちゃん”がボクの部屋のドアを開けて入り込んできた。


『おー、お前勉強してんの!? 偉いなあー』


『兄ちゃん、ノックぐらいしろよ。 何の用?』


机に向き合ったままのボクに、“お兄ちゃん”は勝手に部屋のソファに座って苦笑する。


『なんだよお前、冷てえな。 別にさ……明日から俺また仕事だし、近くで働いているっていっても、やっぱりもうしばらく会えないじゃん。 だからなんとなく話したくてさ』


『うーん……』


映像の中のボクは勉強に集中していて、“お兄ちゃん”の言葉をあまり聞いていないようだった。


“お兄ちゃん”は笑いながら小さく溜め息をついて、立ち上がった。


『ったく、勉強ばっかしてないで少しくらい休めよ。


――……っていうかさ、何これ』


“お兄ちゃん”はボクの机の前に立つと、机に敷いてあった何かに反応した。


目を凝らしてみてみると、それは写真で……


……ボクと、エリカちゃんが二人で笑って映っている。


ああ。


現実でもこうやって、ふたりの写真を机の下に敷いていたんだね。


ボクって、現実では本当に彼女と……エリカちゃんと愛し合っていたんだなぁ。


『彼女か! めっちゃかわいいー』


“お兄ちゃん”はその写真を机の下から取り出して、再びソファに寝転がってじっくりと見始めた。


『っちょ! 兄ちゃん、もうっ』


ボクは怒りながらも、小さく笑ってその写真をさっと奪い返した。


『お前、幸せそうじゃん。 本当良かったな』


『……うん。 恵まれてる』


ボクはそう言って嬉しそうに笑っている。


『……さっきさ、お前と同い年でセンターに入ってる男子がいて、今俺がそいつの担当になってるって話しただろ?』


『ああ、うん』


『見るたびに、タケルとは正反対だなって思うよ。 好きな女子にストーカーするとか、友達も誰もいなくて……親にも愛されてない、とかさ。 なんかもう、普通じゃないんだ。 本当にお前には考えられないことばっかだよ』


『うん』


『だからこそ思うんだ。 お前みたいに普通に幸せに恵まれている人間がいるなかで、まったく幸せも愛情もないやつもいるって、めちゃくちゃ不公平じゃん。 だから俺……、そういう不公平なでこぼこしたものを失くしたくて。 まずはそいつのことを、少しでも“普通”に近づけてやりたい。 それが俺の今の役目だって思ってる』


『なんだよ兄ちゃん、かっこいいじゃん』


『まじで? ありがと』


そして、ボクと“お兄ちゃん”は小さく笑いあった。


映像を見ながら、ボクの“お兄ちゃん”ってなんかかっこいいな、なんて思ってしまった。


『……うん。 じゃ俺、明日早いからそろそろ寝るわ』


『うん。 あのさ、仕事がんばって』


『お前も学校がんばれよ!』


<ガチャ……>


“お兄ちゃん”は立ち上がると、閉まっていたドアを開いて自分の部屋へと戻っていった。




【今日中にまた更新します\(^^)/】

2010/07/25 11:17 No.62

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【また一日に二回更新しました!笑 なので上の話も見てください】




――


時間は流れ、AM0:00。


ずっと勉強していたボクは、動かしていたシャーペンを止めて、机の上を片付けはじめた。


そして一回大きく欠伸をすると、机の上のランプを消そうと手を伸ばした。



――そのとき。


<ブルルルルルル>


机の端に置いていた携帯が震えてメールの受信を知らせた。



ディスプレイには、“中本 エリカ”の文字。


そして、そのメールを確認しようと携帯を開くと、また携帯が振動した。


それから10分間はその繰り返しで、ボクの携帯は途絶えることなくずっとメールを受信し続けていた。


何件くらいかな。


たぶん20件くらいだね。


しばらくしてメールの波が落ち着いたころ、ボクは一通一通メールの内容を確認し始めた。


一通目は、エリカちゃん。


“榎本くんへ

誕生日おめでとう!
12時ぴったりに送れたかな?

榎本くんが生まれてきたことに
本当に感謝してます。

もう受験生だね。
一緒の高校行けるように、私も勉強頑張るね!
これから先もずっとずっと、榎本くんの誕生日をお祝いできますように”


絵文字は少なめで、暖かい文面のメールだった。



二通目は、坂本。


“誕生日おめでとう!
マジでお前といると楽しい!
お前とは一生ダチでいてやるよw
これからもよろしく”


絵文字にデコメ付きで、なんとも見づらくて少し気持ち悪いメールだった。


そのメールを見た映像の中のボクは、ふっと面白そうに笑っていた。




ボクの周りには、本当に優しくて自分を求めてくれる人がいっぱいいっぱいいたんだね。


こんなにもボクがいてくれることを、喜んでくれる。


ボクという一つの存在を、こんなにも必要としてくれる。



現実では、こんなのボクにとって当たり前のことだったのかもしれないね。


だけど、今はそのことがすごくすごく嬉しくて。


映像を見ながら、悲しみじゃなくて喜びと感動の涙が零れそうだった。







そして三通目、四通目とボクは一つ一つメールを確認して、丁寧に返した。


たくさんありすぎるメールを返しているうちに、いつのまにかもう時刻はAM1:00を過ぎている。



――だけど、映像の中のボクはとてもとても嬉しそうで。









その映像でのボクの様子を見て、ボクもなんだか心があたたかくなって笑っていた。




――――同時に、少しだけ胸が痛んで悲しくなったような気がしたけれど、よくわからないよ。







ボクは笑って、映像の中のボクがベッドに入って眠るまでその映像を見続けていた。






――




そして、しばらく映像が真っ暗になって、突然パッと映像が再び流れ出した。





時間は流れ、土曜日の朝になっていて。








映像のなかのボクは、家でエリカちゃんとのデートの支度をしていた。


【そろそろ終盤です。 なかなか終わらせられなくてごめんなさい^^;】

2010/07/25 18:22 No.63

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そして仕度を終えたボクは、少し胸を躍らせながら家を出た。

エリカちゃんと待ち合わせている映画館の前に向かって。


――


『榎本くん! ごめんね、遅れてっ』


エリカちゃんが映画館の前にやってきたのは、待ち合わせの時刻、10:00ちょうど。

10分くらい前についていたボクにとっては遅く感じた。

『ううん、また10:00ぴったりだし』

『そっか……。 ああ、疲れた』

エリカちゃんはそう言って息を切らしながら、肩の前にかかっている髪をパサッと後ろに除けた。

耳元の、ハートのイヤリングがきらきら光る。

エリカちゃんが着ている、白くてふわふわしたワンピースによく似合っていた。

『……』

可愛いな、なんて思いながらぼーっとエリカちゃんを見つめていると。

『えっ? な、なに?』

『あ……ううん。 ごめん』

『うん……、あ、行こうか』

『うん』

ボクたちはぎこちない会話を交わしたあとで、映画館の中へ入っていった。


――


場面は変わって、映画館の近くにある喫茶店。

映画を見終えたエリカちゃんとボクは、そこでそれぞれココアとコーヒーを頼んで休憩していた。


『ねえねえ、映画すっごく面白かったね!』

『うん。 ああいうの、好きなの?』

『好き好き。 シリーズ1からずーっと見てるの』

ボクとエリカちゃんは他愛の無い会話で盛り上がっていた。

『あ、ねえ、こんな時間だし、そろそろ帰らない?』

エリカちゃんは腕時計を見ながら言う。

時計の針はもう4:00を示していた。

『あー……そうだね。 じゃ、帰ろっか』


そしてボクたちは喫茶店を出た。


――


帰り道を歩き出すボクとエリカちゃん。

疲れからか、二人の間に交わされる会話は少なかった。


『……ねえ、榎本くん』

エリカちゃんの家に近づいたあるとき。

エリカちゃんが、突然そう切り出した。

『ん?』

『今日、本当にたのしかったよ。 また……一緒に行ってくれる?』

『うん、もちろん。 絶対にまた行こう!』

ボクはにっこり笑ってエリカちゃんに言った。

少し不安げなエリカちゃんの表情がぱっと明るくなる。


『……うん! ありがとう!


これからもずっと一緒にいようね』


エリカちゃんは、そう言って嬉しそうに笑って。

家へと向かって走っていった。














―――











――






















<バリッ!!!!!!!!!!!!!!!!!>


















エリカちゃんの嬉しそうな笑顔を、














最後に。


















映像はひとつ大きな音を立てると、真っ暗な画面になって消えてしまった――。

2010/07/28 13:51 No.64

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「……きえ、ちゃった」


その映像がなくなって、今ボクのいる世界は光を失って暗闇に化した。

目の前は真っ暗で何も見えない。

どこがどこだかわからない――。

ボクはその場にしゃがみこんだまま。


「……」

そんな中で。

ボクは、頬に伝う少し温かいものを感じた。


また、涙がこぼれてゆく。


ボクは口を閉じたまま、何も話さないままで。

真っ暗な静寂の世界の中で……、ボクはただ涙を流していた。





うれしかったんだ。



あの映像は、きっとボクの現実の姿を映しているんだろう。

それで、映像の中のボクは――本当に本当に本当に幸せそうだったから。


やさしいお母さん。

ちゃんとしたお父さん。

頼もしいお兄ちゃん。


面白い最高の親友。




何よりも大切で、ボクを愛してくれる彼女。


こんなにも素敵な人に囲まれていたことが

本当に本当にうれしかったんだ。


これは他人にとっては、あたりまえのことなのかな。

あたりまえの幸せで、あたりまえの日常なのかな。


ううん。

現実では、ボクにとってもそれはあたりまえだったのかな。


だけど、今のボクにとってはそれが本当に嬉しくて……。

どうしてかは分からないけれど、

“普通”の幸せが何よりも誇らしくて何よりも大切で、





ボクを必要としてくれる人がいることが




こんなにこんなにこんなに嬉しいんだ。


こんなに胸があたたかいんだ。

こんなに優しくて楽しい気持ちになれるんだ。







ボクのなかで最後に残っていた記憶は、エリカちゃんと坂本の目の前で事故に合ったということ。


きっとボクは、今……現実ではどこかの病院のベッドの上。

きっと生死をさまようその真っ只中。




エリカちゃんと坂本は……そんなボクの無事を願ってくれているんだろうな。



ごめんね。

心配かけて、ごめんね。



だけどもう戻れないよ。


こうして泣いている間に、なんだか体が疲れてきて。

眠くなってきて……。

足を上げることさえもできなくて、もう立ち上がれない。






きっとボクはもうだめなんだ。



ボクはもう、……生きてはいられないんだ。




この真っ暗な世界も、そのうち消えて完全にボクは意識を失うだろう。







……ああ。






ありがとう。






本当にありがとう。




ボクは現実の世界では本当に幸せだった。

大切な人といっぱい出逢っていっぱい笑った。



ありがとう。

ありがとう。

ごめんね。

ありがとう。







今ならわかる。












ボクは世界一幸せだった――――。


















そのとき。


















「榎本くん」


















突然、聞きなれたやさしいやさしい声が聞こえたのと同時に――











手のひらに、誰かの手の暖かいぬくもりを感じた。


















ボクはもうその場に倒れこんでいて、瞳も開けることはできなかった。









小さな手を握り返す力もない。












だけど














誰が来てくれたか……


















わかるよ……


















ありがとう……


















「……」


















ボクは涙を流し瞳を閉じたまま、ゆっくりと口角を上げて微笑んだ。














――











【タケルの意識の中の話はこれで最後です。 ですがまだ最終回ではありません】



2010/07/30 11:29 No.65

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――





































<ピ――――――――――――――――>


















タケルの眠る病院の一部屋。






心電図の音だけがどうにか静寂を塞いでいて、病室では誰一人言葉を口にしなかった。









病室にいるのは一人の医者、数人の看護婦、







――タケルの眠るベッドの隣で立ち尽くす、エリカと坂本。













――そして今、間隔を置いて鳴り続けていた心電図の音が停まり。











代わりに長く重い音が響き渡った――――。

















「……榎本くん」

















エリカはそのときを覚悟していたかのように、先程までの涙はなくなっていて、依然として冷静だった。








坂本もまた、涙ひとつ流さずに動かないタケルの姿をじっと見ていた。















「坂本くん、榎本くんね……泣いてる」







坂本はそう言うエリカの言葉に反応して見てみると、タケルの頬には一筋の涙が伝っていた。







「でもね、幸せそうに笑っているの。













榎本くんは、幸せな夢から目覚めないままで……幸せなまま死んだ。












きっとそれが榎本くんにとって一番の望みだったんだ」









そう言って、ただ一定に動かないタケルの顔を見つめながら諭すエリカは、タケルの意識のなかをすべて見ていたようだった。










涙を流しながら、タケルは小さく微笑を浮かべている――。













「榎本……」














「榎本くん……よかった。 榎本くんが幸せなままで目覚めなくって、よかった。








あたしは何もしてあげられなかったから。






あたしは榎本くんのこと、傷つけることしかできなかったから」






「……」






坂本は俯いているエリカの肩をぎゅっと抱く。










「あたし、榎本くんに言いたいことがあるの。









……今まで言えなくてごめんね。









榎本くんが生きている間にこう思えたらよかった。






榎本くんが生きている間に、榎本くんの前でこう言えればよかったね。










今になって、やっと自分に嘘つかないで言えるようになったの。


















――――あたし、榎本くんの友達だよ。


















榎本くんは、あたしの友達だよ。 いなくなっちゃっても、ずっとずっと……」










そう言った後のエリカの瞳が、少し潤んでいる。



一度消えたはずの涙が、少しだけ溢れ出す。











「……俺も……、お前と友達だって、今やっと言える」











俯いたまま、小さな声で坂本が言った。






少しだけ戸惑いを残したままで。


















誰も笑わないで







暗い表情だけを浮かべている病室。


















その中で、タケル一人だけがすべてに満足したように微笑を浮かべていた。

2010/08/02 14:33 No.66

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タケルが亡くなったあとの病室は、先程にも増して静寂に包まれていた。



「……」

「……」


エリカも坂本も、決してタケルとのいい思い出はひとつも持っていなかった。

それでも、今までタケルと過ごした日々のことが――少し重苦しく、エリカと坂本の胸に圧し掛かっていた。



「3人で、いろんな経験をしたよね……」

エリカは小さく笑って言った。



(全ては、榎本くんのシャーペンを拾い上げたときから始まった。


もう何年前になるんだろう。 2年くらい前かな。

3年生に進級したあたしは、付き合ってまだ日も浅い坂本くんと同じクラスになれたことを、純粋に喜んでいて。

あたしは、榎本くんの隣の席になって……シャーペンを拾ってあげて。 そのとき榎本くんは、あたしの気持ちを勘違いしたのだろう。

その日の放課後には、部活中に何枚も写真を撮られた。

そして、次の日……あたしの名前が書き綴られたリボンで巻かれたシャーペンを、榎本くんは持ってきた。

榎本くんはシャーペンを持ってあたしに迫ってきたけれど、坂本くんが守ってくれた。


だけど。 そのことで腹を立てた榎本くんは、嘘の手紙で坂本くんを呼び出して、ライターを使って坂本くんを傷つけようとした。

その場に居合わせたあたしは、坂本くんを守るために、「榎本くんと付き合う」なんて言い出して……。

…………正直、もう思い出したくはないこと。 だけど今日だけは思い出そう。 今日だけは。


それからほんの少しの間だけど、あたしと榎本くんは事実上「付き合う」ことになった。

榎本くんはクラスの皆にもそのことを言いふらしていて。

本当に辛くて辛くて、学校に行くのが怖かった。


だけどそんな中で――坂本くんは変わらずにあたしのことを守ってくれた。

自分の身を案じるより先に、あたしを守ってくれた。 それが、あの頃のあたしにとってどれだけ救いだったのだろう。


そして、それからすぐに運命の日はやってきた。

榎本くんと遊園地でデートの約束をしたあたしは、坂本くんを連れて、待ち合わせの時間よりすこし早く約束の場所で待っていた。

「ふたりで榎本を説得しよう」――坂本くんの意見のもとに。


しばらくして榎本くんはやってきた。

あたしと坂本くんはすぐに言った。 もう榎本くんとは付き合えないってことを必死に話した。


――だけど榎本くんは分かってくれなくて、鋭い木の枝を……坂本くんの腹に刺した。

坂本くんは血を流して意識を失ったけれど、命に別状はなかった。

そのときの安心感は今もはっきり覚えている。


榎本くんは、そのまま逃走した。

警察に捕まることを恐れて、「死刑になりたくない」と言って逃げた。

後から聞いた話では、榎本くんはあたしの写真を持ったまま逃げて、さらに逃走途中に器物破損、無銭飲食も犯してしまったらしい。

もちろん榎本くんはすぐに逮捕された。

そのことはテレビで流れたニュースですぐに分かった。


榎本くんが逮捕されてからの毎日は、平和だった。

坂本くん、仲のいい友達、優しい家族。

当たり前にあたしの周りにいてくれる人が、すごく大切に思えた毎日だった……)



一旦切ります!

2010/08/05 12:02 No.67

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

(そして、榎本くんが逮捕されて。

それから半年くらい経った頃。

受験に向けて、坂本くんと一緒に勉強する毎日のなかで、突然「白石」という人があたしの前に現れた。

白石さんは榎本くんの警備をしている人で――「榎本は逮捕されてからずっと元気がない。 励ましてあげてください」とあたしにお願いをしてきた。

その頼みを受け入れたあたしは、思いのすべてを榎本くんに伝えた。

あたしを世界の中心に置かないで、もっと世界を広く見てほしい。

そして広い世界の中で、もう一度生き抜いて欲しいと。


――それから約2年が経って、現在、今日の話。

今日はすごくすごく長い一日だったね、榎本くん。


2年前と変わらずにあたしの前に現れた榎本くんは、またあたしへのストーカーを始めた。

また不安と恐怖に襲われるのと同時に、2年前のあたしの言葉はなにも伝わっていなかったのかな、とショックを受けた。

だけど坂本くんは、学校を抜け出してまた守ってくれた。


そして坂本くんは榎本くんをまた説得した。

……あたしは、あたしの中で何かが切れて「大嫌い」って言った。 言ってしまった。

榎本くんがどう思ったのかはわからない。


榎本くんは、そのまま車に轢かれて――――……今はもうこの世にはいない。


だけど榎本くんは最後に言ったよね。

あたしの「大嫌い」という言葉に対して。


『はじめからこうやって聞いてれば良かったんだ。 エリカちゃんが、早く言ってくれればよかたんだ。

……もっと早く、キミの気持ちをボクが知ることが……できていたら……ボクはここまで狂わなかったのに』


榎本くんは決して恨めしそうではなく、何もかもが終わったのを察しているかのように穏やかだった。

あたしはきっと一生この言葉を忘れないだろう。

あたしのせいだ。 あたしが、思わせぶりな態度をとらずに、もっと早くはっきり言っていればよかったのに――。

ただ、そう自分を責めていた。


今もまだ胸が痛い。

だけどこのおかげでかもしれないけど、あたしは今胸を張って……榎本くんと「友達」だったって言えるんだよ。

あんなに嫌っていた榎本くんのことを、友達だって言える。

許せない気持ちもある。 だけどそれは榎本くんも一緒だと思うから、もう前ほどは嫌いじゃないんだ。


――榎本くんは「友達」だから)



「エリカ?」

「……っ」


長い思想を廻らせていたエリカは、坂本の声でふっと気がついた。


「ごめんね、色々思い出してたんだ。 今までのこと。 本当にいっぱいあったよね」

「……うん」

「いい思い出なんか、正直言ってひとつもない。 だけど今やっとすべてが終わって、やっと榎本くんと友達になれる。 今になって……」

「……」


そしてまた、沈黙の世界が病室に流れる。



――しばらくして。




<ガチャ……>



病室のドアが開き、誰かがやってきた。


【あと2話で完結させる予定です^^】

2010/08/05 14:49 No.68

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

「……あ」

「お久しぶりです……」


ドアの向こうからやってきた男性と、エリカの声が重なる。


「エリカさん?」

「はい。 覚えていてくれて嬉しいです……。 ……白石さんですよね。 お仕事は……」


「……榎本が亡くなったって聞いて、駆けつけてきたんです」

白石は、そう言って涙を一筋残したまま動かないタケルの側へ駆け寄った。


「馬鹿野郎……」

<バシッ――>

小さくそう呟いた後で。

白石は、タケルを叩こうとして手を上に大きく振り上げて、そのままタケルに触れずに振り落とした。


「白石さん」

「最悪ですよ、こいつ。

榎本は……出所したらもうエリカさんにつきまとうのはやめるって、俺と約束してくれたんです。

新しい自分に生まれ変わるって言ってたんです。

いつも笑顔でそう言ってたんです」

「……」

淡々と話す白石に、エリカと坂本は何も言わずに黙っていた。


「――でもそれも全部嘘だったのかよ!!!

最初からエリカさんを諦めるつもりなんかなくて、でも俺に従わないと面倒なことになるから――俺の前だから嘘ついてたのか??

ふざけんなよ!!!

あんなに毎日泣き叫んでたお前が、やっと変わる決心をしてくれたって……!

更生の道へ歩き出そうとしてくれたって……俺がどんなに嬉しかったか分かってんのかよ!!

ふざけんなよ!!!!」

「白石さん……ここ病院ですから! 落ち着いて――」

怒りに狂う白石を、坂本が必死に抑える。

白石は起こりながらも、どこか悲しげな複雑な表情をしていた。


「……っ」

白石はちいさく一つ溜め息をつくと、ベッドの隣にある椅子に腰掛けた。

そしてしばらくの間、またさっきのように沈黙が流れる。


「……榎本が、2年前とまったく変わってないって聞いて、すごく怒りが沸いた。

だから榎本に会って、いっぱいいっぱい話をしようと思ったんだ。


だけど、そのことを知ったのと榎本の死を知ったのは、皮肉にも同時だったんだ……」


白石が、そう言って重苦しい沈黙を破った。


「榎本はずるい。 卑怯だ。

俺の思いはなにも知らずに、自分だけ幸せなまま死んでいくのか?


……いっぱいいっぱい話したいことがあった。

それで……俺がまた榎本のことを変えさせてあげたかったのに……

今度こそ生まれ変わらせてやりたかったのに――



ふざけんなよ……

……もうそれさえもできない……」



白石はそう言って両手で顔面を覆った。


エリカは白石の中にある、怒りと、そして悲しみを察し取った。



(……榎本くん。



榎本くんのことを、ちゃんと考えてくれる人が今あたしの目の前にいるよ。

榎本くんの死を、悲しんでくれている人がいるよ。


あたしも坂本くんもその一人。


榎本くんのことを許せる気持ちなんてない。

いい思い出なんかひとつもない。


だけど、ねえ、榎本くんの“狂い”をどうにかして鎮める方法は、死しかなかったのかな。

あたし達はこれから先、答えが見つかるまでずっと捜し続けて迷い続けるんだろう。


あたし達と榎本くんは今日、はじめて友達になったから――。



ねえ榎本くん。



榎本くんが生きている間に、このことを知らせてあげられたら……

きっと何かが変わっていたのにね)




「白石さん」

「……」

「これからもお仕事、頑張ってください。 榎本のような人は、まだまだいっぱいいますから……その人たちが、少しでも減らせるように。 榎本のようにならないように。 白石さんなら出来ます」

坂本が、白石の前に立って言った。

「……そうだな。 ありがとう」


白石は、椅子から立ち上がってドアへと歩き出した。



「俺は榎本のこと、きっとこれからもずっと忘れない。

だから君達も、忘れないでいてほしいんだ」


そしてドアの前で、そう言って振り返った。

「もちろんです。 絶対に忘れられませんから」

エリカと坂本は小さく笑って言う。


「……ありがとう」




白石はそう言うと、微笑んで病室を出た。


――最後の白石の言葉は、幸せに笑っているタケルの言葉のように聞こえた。



【初めはあと1話で完結の予定でしたが、諸事情によりもしかしたら完結まであと2〜3話かかるかもしれません。 いつも曖昧で申し訳ございません; どうか最後までよろしくです!】

2010/08/07 12:19 No.69

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p



そして、それから幾らか時間が経ったとき。

「……もうそろそろ、行く?」

坂本がそう切り出した。

「そう……だね。 そろそろ――」

そろそろ行こうか、とエリカが言いかけた。

その瞬間。

<バンッ>

病室のドアが少し強く開いて、坂本とエリカの視線はドアの方へと向けられる。


「あ……」

「誰よ、あんたたち」


そこにいたのは、眩しいような明るい茶髪に、濃いメイクをした女性だった。


「あの……、あたしたちはここにいる……榎本タケルくんの――」

「ああ、タケルの関係者? こんなやつのためにわざわざ来てくれたんだ、いい子ねー」

少し緊張して話すエリカに、その女性はにんまりと笑って言った。

「……あ、もしかしてさあ、エリカちゃんと坂本くんでしょお」

その女性はそう言って、坂本とエリカの顔をじっと見た。

「どうして俺達の名前を――」

「あたし、こいつの母親だから。 こいつが逮捕されたときあんたたちのこと聞いたんだよねー。 あんたたちも大変だよねっ、こんな人間のせいで散々な目にあってさあ」

タケルの母親だと名乗る女性はそう言って、声を上げて笑った。

「……」

エリカは身が引き締まるような思いで、タケルの母親を見る。

「仕方ないから来てやったんだけどねー、まあこっちにとっても良い事だよね。 あんたたちも、早くこいつなんかにいなくなって欲しかったでしょ」

「……なんてことを聞くんですか。 貴女は本当に榎本くんの母親なんですか……」

「……あ?」

エリカは、思わず思っていたことを口に出していた。

「そんなこと言うなんておかしいです。 信じられない」

「なによ、その言い方。 あんたたちも仕方なく来ただけなんじゃないの!?」


「違います。 あたしたちは……榎本くんの友達ですから。 榎本くんのことを許している訳じゃないけれど、榎本くんの狂いを……“死”でしか鎮められなかったのは、あたしの責任だから。 だから友達になるっことで、榎本くんをすこしでも救いたいんです」

「はあ? 何言ってんのかさっぱりわかんないわ」

タケルの母親は、馬鹿にしたように鼻で笑う。

「あーもう気分悪い。 帰ろ」

そして。

<バアン!>

タケルの母親は最後に一つ舌打ちをして、病室を出て行った。

力を込められて閉じたドアの音が、強く響く。


「エリカ。 俺達も帰ろう」

「うん……」

しばらくして、エリカと坂本も病室から去っていった。

そしてタケルは一人病室で、幸せに眠り続けていた――。


――


「ねえ、坂本くん」

「何?」


エリカと坂本は、バスを待ってバス停に立っていた。

もう日が暮れて人影は少なく、バス停にはエリカと坂本のふたりしかいない。


「あの……ね、あたしとずっと一緒にいて欲しい」

エリカは少し背の高い坂本の顔を見上げて、消え入るような声でそう言った。

「……なんだよ、急に」

坂本は小さく笑う。

「……坂本くんがいない世界なんか考えられないの。 この先、坂本くんのほかにあたしを受け止めてくれる人なんて……きっといないから……。 今日のことで、突然……そう思って」

そう言うエリカの声は、震えていた。

「どうしようかなー……」

ふっと笑ってから、坂本はそう言ってみせた。

エリカの顔が悲しそうに崩れる。

「嘘だよ。 仕方ないから俺がずっと面倒見てやるよ。 お前ってなんていうか……純粋すぎて、ほっとくとすぐ変な奴に引っ掛かっちゃいそうだから、ほっとけない」

「本当?」

エリカは坂本の横顔を見つめる。

「ありがと、坂本くん」

そしてそう言って、嬉しそうに微笑んだ。


やがてしばらくしてバスが到着し、二人はバスに乗り込んでいった。


【次回最終回です、多分(笑) またずれてしまったら申し訳ございません;;】

2010/08/10 11:49 No.70

みルく@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p









―――















――






























X年後━


















「おはかだー! みんな灰色だね、アハハ」


大理石が埋め込まれた、広い墓場を走り回る一人の女の子。

ひとつの小さな影が大地に映る。



「ほら、走り回らないの」

後ろから来た一人の女性は小さく笑ってそう言うと、墓場の奥の方へと歩いていった。

子供は慌ててその後を追う。


「ママ、此処ってエノモトって人のお墓なんでしょう」

「そうよ。 今日はね、その人が死んじゃった日だからこうしてお参りにきてるの」

「エノモトって、だれ? どういう人?」

「うーん、友達かな。 昔ね、ママの同級生だったの」

「どうきゅうせいって?」

「年齢がいっしょでね、同じ学校で勉強してたのよ」

「ふうん、ママの恋人?」

「もう、そんなんじゃないって。 ほら、あなたも手を合わせて」

女の子から質問攻めに合っていた女性は小さく笑うと、両手をあわせて瞳を閉じた。

女の子もつられたように、ゆっくりと手を合わせる。


そのままの状態で、しばらく経ったとき。


<ドンッ!>

真っ暗な視界が、衝撃を受けてぐらりと揺れて、その女性は驚いて瞳を開けた。

すると、その女性の腰くらいまでの背丈の小さな男の子が立っている。


「ごめんね、大丈夫?」

――こんな場所に子供ひとりで立っているなんて、なんだかおかしい。

そう思いつつ、女性はすっとしゃがみ込んでその子供の顔を見上げた。


すると。


「ア……ァ、大丈夫……だよぉ」

「えっ?」

その男の子は、震えた声でそう言うと、女性の後ろに隠れていた女の子をじっと見た。

「……」

そして小さく口角を上げると――そのまま走って墓場の外へと行ってしまった。



「……今の子……」

女性はその男の子の背中を見つめたままゆっくりと立ち上がった。

「今の男の子、わたしと目があったよ! わたしと同い年くらいだったね! もしかしたら“どうきゅうせい”かもしれないよ、ね、ママぁ……」

「……あっ、ごめんね。 そうだね、同級生だったらすごいね」

心配そうな女の子の声に我に返った女性は、慌ててその女の子に笑いかける。


「あっ、パパ!」

次の瞬間、女の子が墓場の入り口に立っている男性を見つけて掛けていった。

「ごめんな、遅れて」

「今ね……」

「ん?」

男性ははしゃぐ女の子の頭を撫でると、心配そうな女性の顔を見た。


「今ね、エノモトくんみたいな子がいたの」

「なんだよそれ」

「そっくりで、吃驚した。 見た目とか喋り方とか、……それで、まったく同じ視線で、この子のことをじっと見てたの」

「命日だからかな。 すごいな、そんな似てるなんて」

「わたしと“どうきゅうせい”かもしれないんだよー!」

「そっかそっか、すごいじゃん」

うれしそうに話す女の子に、男性は笑いかけた。


「……あなたは、狂いを知ることなく、世界を大きく見つめてね。 人の気持ちを考えられる、優しい大人になってね」

女性は女の子にそう言って、笑った。

「え……、狂いって、なあに」

「ごめんね、まだちょっと難しかったかな。 あなたが、あの頃のわたしと同じくらいの年になったらまた話すね……」

そして男性は、そろそろ行こうか、と、墓場の出口へと歩いていった。

女性は、男性と女の子の後を追ってゆっくり歩き出す。











『エリカちゃん』




「え?」








幻聴、だろうか。

女性は、そのとき頭に入り込んできた言葉に、思わず振り返った。

(確かに聞こえた、あの声が聞こえた……)

だけどそこには誰もいなくて、代わりに生温い風が頬を切った。


「……」

「エリカ、どうしたの?」


その声に振り返っていた顔を戻すと、男性達が少し先で待っている。


「……ううん!」

女性は笑って首を振って、走って男性達を追いかけた。







『ありがとう、それから、ボクね……』




またあの声が聞こえたような気がしたけれど、それを振り切って――。


















狂 っ た ボ ク の 物 語    END


2010.8.15   みルく

2010/08/15 23:51 No.71

みルく 完結+あとがき@pupe ★zt5XHhDA0ug_1p

あとかぎ!

こんにちは、みるくです。
やっと完結しました!
最終回の更新、とても遅れてしまって申し訳ございません。
(実は色々なパターンを考えていまして、その中からひとつ選んで本当の最終回に採用しました)
結構中途半端になってしまったような気がしますが、これが限界なのでどうか許してください(笑)

この小説は、「呪っちゃった」に次ぐ狂った系というか……
まあそういう系のおハナシで、主人公のタケルがすごく濃くて、個性的なキャラなので
とても早く展開が進んで書き易かったです(笑)
最終的にタケルは死んでしまうことになるのですが、この小説が「狂い」だけでないことをどうにかして残せたらいいなと思って、終盤はシリアスさを重視して書かせて頂きました。

そして今までで一番、サブ記事やカウンタの数を多く得ることができた小説でした。
10000人以上の方がこの小説に目を通してくれて、100名以上の方がこの小説にコメントを残してくれました。
いつもすごく支えられていました。
中傷や批判も、こんなにたくさんの支えがあったからこそ耐え抜いて完結まで持ち堪えることができたんだと思います。
本当にありがとうございます!

度々アカウントの方でも言っているので、多くの方はわかっていると思いますが、私はこの小説を最後に卒ります。
なので、この小説はメビウスリングでの最終作となるのですが、ちゃんと完結させることができて本当に良かったです。

これからは、皆さんとの交流はしたいので、アカウントの方には本当にたまーに来ると思いますが、もうここでは小説を書くつもりはありません。
自ら運営するサイトで、本格的に小説と詩に挑戦してみたいんです。
まあ卒ると言ってもサイトでいつでも交流できるので、ぜひサイトに遊びに来てください!

それでは長くなってすみませんでした。
メビ卒については、また落ち着いたらアカウントの日記で詳しくお話するつもりです!
色々と片付けてから、あと一週間以内に卒れたらなと思います。

今まで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。

                                         8.15  みルく



追記:卒ったあとは↓のサイトで活動しますので是非来てください(^^)

「月影に舞うアゲハ蝶」
http://www.google.co.jp/search?q=%E6%9C%88%E5%BD%B1%E3%81%AB%E8%88%9E%E3%81%86%E3%82%A2%E3%82%B2%E3%83%8F%E8%9D%B6%E3%80%80milknovels&hl=ja&source=hp&lr=&rlz=1R2TSHD_jaJP373&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=&btnG=%E6%A4%9C%E7%B4%A2

2010/08/15 13:19 No.72
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