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紅血の餓狼【『烈風』、戦線投入】

 ( SF小説投稿城 )
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桜花 @huron10☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

「こちら第17特戦機大隊!!K、D、A中隊が全滅!戦闘不能!」
無線からの絶叫が司令部を包む。
「了解した、撤退を許可する。」
司令官がマイクを手に取り、命令を出す。
マイクを置くと、ため息を吐いた。
「我が方の損害は…」
「…現在、投入戦力の6割がやられています」
「後方戦力は?」
「現在戦線へ向かって進撃中ですが、来るまでに現在の戦線が持ち堪えられるかどうか…」
「我々は…我々はヴァルター梯団には如何程の損害を与えた?」
「わかりません…次から次へと戦力を補充しているようで、もうわかりません…」
「…」
そう聞くと、その司令官は力が抜け、椅子に腰を落としてしまった。
その数秒後、凄まじい衝撃と熱がその司令部を襲い、全てを溶かし、破壊した。
遠距離から放たれた列車砲級の80センチ酸弾が直撃した結果であった。

薄暗いコックピットの中に、一瞬耳障りな音声ノイズが走る。
「こちら司令部、ジーク1どうぞ」
「…」
彼はすぐには答えない。
一瞬の沈黙。
「こちら司令部、ジーク1、応答せよ」
再度の呼び掛けで、ようやく彼は口を開いた。
「_こちらジーク1。我が第262特戦機中隊は『灰色熊(グリズリー)』と会敵できず。どうぞ」
「こちら司令部。了解した。引き続き進撃せよ」
「こちらジーク1。了解、引き続き進撃します」
ジーク1こと第262特戦機中隊指揮官、池井純一大尉はいつものように暗い面持ちと暗い声で応じた。
『灰色熊』__ノモンハンに来冠したヴァルター大梯団の右翼側に展開する梯団に冠された名称__を殲滅するべく、第262特戦機中隊の18機は、第6仮設基地から出撃した。

「ジーク、こちら第6仮設基地。統制司令部が列車砲級のせいで壊滅した!撤退せよ!」
「なんだって!?俺たちはまだ戦える!」
「馬鹿野郎!戦えるからこそ生きるんだ!情報を一括管理する場所がないんだぞ!各部隊との連携が取れなくなった今、無闇に戦闘を続ければ、各個撃破される可能性が高い!前途有望な君たちを死なせるわけにはいかないんだ!」
管制官は必死に訴えた。
確かにその通りだ…池井はそう感じ、仕方なく指揮下の全機へ命令を下した。
「こちらジーク1。総員に告ぐ。司令部がやられた為、現在情報の一括管理が不可能な状態となっている。戦闘を継続すれば、戦力の消耗に繋がる。来るべきときに備え、戦力を温存する。よって、ただちに撤退せよ。以上。」

2025年10月21日
中東、アフリカへ多数の隕石が落下。
しかし、同地は殆ど損害らしいもなく、また落下地点もわからず、そのまま2ヵ月が過ぎていった…。
12月27日、エジプトの首都、カイロが謎の生物による襲撃を受け、壊滅。
更にアフリカ、中東各地で様々な異生物が確認され、それらは次々に人を襲い、強靭な生命力で銃弾を跳ね返す。
瞬く間に中東及びアフリカを支配下に置いた怪物達は、『ヴァルター』と呼称され、米中、米ソ代理戦争が世界各地で繰り広げられ、混迷の最中にあった世界を更に恐怖のドン底に叩き込んだ。
しかし、希望もあった。
2030年2月、特殊戦闘機、略称『特戦機』の登場により、人類は『ヴァルター』に対して、ある程度善戦していた。
共産主義と資本主義、2つに別れた世界。
東と西、2つに別れた日本で、若者たちは運命に抗い続ける____。

1年前 No.0
メモ2017/03/29 04:50 : 彗星☆YV/LbxVUS0Pr @kgb★Android-0bca4o0hXK

【第1章 灼熱の大地】

>>1>>20


【第2章 国境紛争】

>>21>>34


【第3章 戦線崩壊】

切替: メイン記事(52) サブ記事 (4) ページ: 1 2


 
 
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桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

「こちらジーク1。全機上昇!高度2000で集結!」
戦闘プロテクターと呼ばれる、ゴムとプラスチックで出来た操縦用の服で身を包んだ第262特戦機中隊隊長、池井純一大尉は、通信回線を開き、指揮下の全機に伝えた。
ヴァルター梯団の各所から、262の紋章を付けた一式特戦機『迅雷』が空へ飛び出す。
高度2000という低空域で18機が集結した。
「こちらジーク1。我が中隊は、これより敵梯団後方の火砲種集団を叩く!突撃陣形組め!全機、我に続け!」
隊長機型特有の、頭部ブレードアンテナを装備した迅雷が、エンジンユニットのスロットルを開き、ヴァルター梯団の後方へ向けて、高度を下げ、高度200の低空飛行でヴァルター梯団後方へ行く。
他の機も、それに続いて、突撃陣形を組みながら高度200で飛んでいく。
地面を覆う無数のヴァルターの上を通り越し、後方へ抜けていった。

「ジーク1より全機へ、突撃銃撃ち方用意!」
池井の掛け声と共に、18機の迅雷が、両腕に装備した、二丁の一式突撃銃の銃口が、すぐ目の前に見えてきた火砲種の集団へ向いた。
モニターに映る照準は、目標との距離が1万メートルあることを示している。
突撃銃の最大射程は2000メートル。
まだまだ射程には遠い。
最大速度で飛行しているため、距離はどんどん縮まっていく。
「9000…8000…7000…6000…」
秒読みの如く、呟く池井。
「5000…4000…3000…2000!直進そのまま!撃ち方始めッ!」
池井機の突撃銃の銃身が火を噴き、辺りに幾重もの轟音がこだまし、目の前の重砲型に110ミリ弾が殺到する。
他の機も、突撃銃を撃ちまくる。
護衛の小型種や重戦車型、本命の火砲種へ、次々と射弾を浴びせ、撃破していく。
火砲種集団の上空を通り過ぎ、高度1000まで上昇。
「こちらジーク1!全機、残弾及び損傷状況を報告せよ!」
「こちらジーク2、被弾なし、残弾は弾倉含めて500発程度。まだまだ行けます」
副隊長レナ・C・田中中尉の健在なことを示すかのような声であった。
「こちらジーク3、脚部を酸がかすったが問題はなし。残弾は400発くらいです」
かすった、の文言で一瞬焦ったが、機体情報を見たところ、本当に問題は無いようだ。
「こちらジーク4、サブカメラに、撃破したヴァルターの足がへばりついた以外に問題なし!残弾は500発丁度です!」
足がへばりついた、で少々吹き出した。
胸部コックピット外部に取り付けられているサブカメラに、ヴァルターの足がへばりついているのを想像すると、どうしても笑いが込み上げてくる。
「こちらジーク5、背部武器ソケットが破損。他に被害なし、残弾は700程度です。」

淡々としたやり取りが続き、大した被害がないのを確認すると、次にこう命じた。
「奇数番機は俺についてこい!偶数番機はジーク2の指揮下に入れ。ジーク2、指揮下の部隊で火砲種を攻撃せよ。俺の部隊は護衛を叩く。敵の防御網に大きな穴が開いたら突入しろ!」
「了解。中隊長、御武運を」
「ふん、武運長久を祈る」
短いやり取りを終え、さっきの奇襲突撃よりはるかに数を増した敵火砲種護衛群を見据えた。
「数はおおよそ200…」
大体の見積もりである。
「突破できない訳じゃない…だが、護衛を叩かねば突入しても四方八方を囲まれてしまうな…ジーク1より奇数番機全機に告ぐ。敵の護衛群へ向けて、突撃せよ!」

1年前 No.3

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

この日の任務を終え、第262中隊は第6仮設基地へ帰還した。
「全員無事だな…よかった」
池井は、戦果や戦功よりも、まず自分達の仲間が無事かどうかに安心した。
「よし…明日も出撃がある。ちゃんと体調管理をしっかりしろよ」
「ま、またですか!?」
田中中尉が驚いた表情で言った。
何故なら、かれこれ1週間毎日出撃しているのだ。
つい一ヶ月前までは、2日に1度、悪くても3日連続出撃はない。
だが最近は毎日毎日出撃だ。
この中隊ではまだ大丈夫だが、他の部隊では、連日の疲労と精神的疲弊で、肉離れや筋肉痛、疲労骨折、幻覚、幻聴、発狂したりなど、何かしらの異常をきたす者が出始めていると言う。
今のうちに休ませなければ、彼らは疲れきり、使い物にならなくなるかもしれない。
そう感じてはいたが、なにぶんそうしないと行けないほど戦線は追い込まれている。
「仕方ない…。上からの命令だ。」
「ですが隊長、隊員達は…疲れています!」
「…田中中尉、気持ちはわかる…俺も、できれば休ませてやりたい。俺自身も休みたいくらいだ。だが、そうしなければ、この戦線は崩壊してしまう…。俺達が逃げれば、そのせいで戦線が崩れ、一気に日本本土を侵されるかもしれないんだ…そうなってからでは遅いんだよ…」
「…すいませんでした」

休養を取りたい。
皆がそう感じていた。

1年前 No.4

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

「目標確認!中型種集団、目の前!」
「こちらジーク1。突撃銃構え…撃て!」
110ミリの太い火箭が、幾重も噴き伸び、2000メートル先の巨人型や鬼型が、血飛沫をあげながら絶命していく。
集団の上空を通り抜けた時だった。
「前方より高熱源反応多数!」
田中中尉が絶叫する。
「回避しろ!総員散開!」
池井は叫び、即座に中隊の全機が散開した。
その間を光る何かが瞬時に通り過ぎ、同時に後方から、多数のくもぐった爆発音が響いてきた。
「後方のソ連空軍第18空中機動大隊が全滅した模様」
「了解ジーク2。」
一瞬にして、ソ連の特戦機一個大隊24機が消滅した。
「なんなんだ?あれは…。」
考えを巡らせたが、あんな攻撃をする種類のヴァルターなど、知る由もない。
何故なら、それは新種だったからだ。
「こちらジーク9。中隊長へ報告する」
「なんだ?」
ジーク9…高坂明宏中尉だったか。
彼は、国防戦略情報総司令部___戦争状態になった際に結成される、軍や内閣を含めた、いわゆる『大本営』___のメンバーと交流があり、更に米軍の要人とも面識がある。
彼を通じて、様々な情報が中隊に伝わるし、この中隊もまた、意思を伝えることも出来た。
恐らく、彼なら何かを知っているはず…。
「先程のアレ、知ってます。」
やはりな…そう呟きながら、池井は高坂の言葉の続きを待った。

1年前 No.5

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

「あれは…確か、光線戦車型(レーザー・タンクタイプ)です!」
高坂中尉は叫ぶ。
「レーザー…?」
すっとんきょうな声で応じる池井。
「そうです!生体レーザー器官を有する戦車種です!」
「…!?」
聞き慣れない「レーザー」という言葉に、池井は困惑した。
「つまり、レーザーを撃つヤツ、という事か?」
「そうです!」
「前方に高熱源反応!こっちには来ません!上です!」
田中中尉が報告する。
池井は上と聞いて、何か思い当たった。
「上…上空…高空……ハッ!まさか!」
ハッと気がついた時には、衝動的にエンジンユニットを噴かし、機体を上へ、空へ押し上げていた。
「全機、高度一万まで上昇せよ!米軍の爆撃隊が危ない!」
「隊長無茶です!」
田中中尉が絶叫し、他の隊員も叫ぶ。
中隊の全機が高度六千に達した時だった。
爆発音が響いた。
爆発しているのは、ヴァルター梯団を爆撃するために飛行してきた、米空軍第120戦略爆撃隊の70機のB-67だった。
爆発したB-67は、何かの光が当たっていた。
レーザーとやらだろう。
多数のレーザーが戦略爆撃隊を襲い、狙われたものは確実に墜落していく。
爆弾倉に直撃し、積んでいた爆弾が誘爆し、一瞬で消える機。
操縦席に当たり、その部分だけが融解し、原型をとどめた状態でゆっくりと墜落していくもの。
レーザーに切り裂かれ、機体が割れて空中分解を起こすもの。
「……!」
池井は一瞬、目の前の悲劇に我を失ったが、
「敵梯団、数が増えます!司令部によれば、数は10万とのこと」
「総員、全武装スタンバイ!敵梯団に突撃する!」
「了解!」
「突撃陣形を組み、現空域から急降下する!弾が無くなったら長刀で戦えッ!貴様らの能力ならこの現状を切り抜けることも可能だ!」

三角形の突撃陣形を組み、池井の迅雷が降下の合図を送ると、18機の迅雷が一斉に最大速度で急降下。
あっという間に高度200メートルに達するが、ここで緩降下に切り替え、高度30メートルにまで降下し、そこから平行飛行を開始し、背部武器収納機のアームシステムを起動し、肩から2丁の突撃銃、両手にも突撃銃をセットし、そして18機はヴァルターに向けて、全力で撃ちまくった。
巨人型や鬼型が倒れ、小型種が次々に吹き飛び、戦車種の集団を蹴散らし、梯団の奥深くへ突入していく。
段々と、前方に巨大な影が見え始めた。
シルエットからして、列車砲型(グスタフ)だろうか。
隣には、重戦車型も見える。
その時だった。
「残弾がなくなりました!」「こっちもです!」
残弾が0になっていた。池井も例外ではなく、既に弾を使いきっている。
「全機、銃を捨てて長刀を持て!行くぞ!」
長刀を構え、エンジンユニットを最大出力で突撃していく特戦機の一団が、無数のヴァルターを切り裂き、屠りながら、グスタフに向かっていく。
「行けえっ!」
ジーク2がグスタフの足を3本、瞬時に切り落とし、ジーク3が背中を切りつけ、大量の血を浴びた。
他の機は、護衛の重戦車型を相手取っており、列車砲型にとどめを指すのは、池井しかいなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
池井がグスタフの強酸発射器官を切り落とし、次いでバックブーストを掛けて地面に降下。だが接地したのは一瞬で、エンジンユニットを背後に向けると、膝を曲げて揚力を付け、更にエンジンを点火させて地面スレスレを飛行し、そのままグスタフの腹に潜り込んだ。
前足と前足の間に入った瞬間、長刀を柄の部分までグスタフの腹に突き刺し、腹を切り裂き始めた。
おびただしい量の血が吹き出し、グスタフの中身がぶちまけられる。
長刀を使っている分、速度はかなり低下しており、ヴァルターに狙われやすい。
その上、こんな技が出来るのは、ベテランの成せる技であって、まさに神業であった。
そうして、池井は運よく攻撃されずに、グスタフの腹を掻っ捌き、仕留めた。
それと同時に、ヴァルター達は一斉に撤退を開始した。
息絶えたグスタフの巨体の上で、第262特戦機中隊の全機は集結していた。
「何で敵は撤退を…?」
「もしや、このグスタフが鍵なのかもな…」
「俺たち、勝ったんだよな?」
「戦線は押し戻せたようね」
「でも、これで終わった訳じゃないでしょ?ヴァルターとか、まだたくさんいるんだし…」
隊員達は喜んでいた。
これからの苦境を心配する声もあったが、そんなことはどうだっていい。
「田中中尉、状況説明を。」
「ハッ、恐らく、敵はグスタフを撃破されことで戦意を喪失したのではないでしょうか?」
「ほう…それは今後の戦いに影響を及ぼすものか?」
「はい。高坂中尉を通じて、総司令部に報告すれば、新戦術として重宝されるかもしれません。どちらにしろ、今日の勝利は今後の鍵となりましょう」
スラッとした声で淡々と答えた田中中尉。
池井は、何かを感じていた。

突然、甲高い音が幾重にも鳴り響いた。
池井たちが後ろ、つまり味方防衛陣地の方向を見てみると、空を覆い尽くすかのような、おびただしい数の特戦機が飛行していた。
追撃をするようだ。
すると突然、ヴァルター梯団の後部が反転し、再び突撃してきた。
総数は、おおよそ2万。
まともにぶつかれば、甚大な被害を被ることが予想された。
「…行くぞ。全機、目の前の反転勢力へ突撃!」
「了解!」
鋼鉄の巨人たちが一斉に飛翔し、反転してきたヴァルター達を蹴散らしていく。
厳しい訓練を重ね、各部隊から選りすぐりのエースだけを集め、今日まで生き残ってきた最精鋭部隊、第262特戦機中隊は、この戦場で、華やかに舞い、敵を屠り、撃破していく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっッッ!!!」
池井は、目の前の鬼型の首をすっ飛ばし、巨人型の腹を突き刺し、貫通。そのまま一気に引き抜き、多量の血を浴びながらも長刀を振るい続けた。
「でえええいッ!」
重戦車型を一刀両断した瞬間、意識が飛んだ。

1年前 No.6

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

気が付けば、池井の機体は操縦もしていないのに飛翔し、前へ進んでいた。
慌てて計器類や操縦系統をいじるが、反応がない。
モニター中央に写る表示は「大破」。
機体は所々破壊され、動力が完全にイカれているようだ。
ため息を吐いた時、通信機から音声が聞こえてきた。
「気が付いたのかな?262の隊長さん」
「みてーだなぁ。挨拶しとけよ?」
「そうね、やっとくわ。262中隊の隊長さん、私は日本社会主義人民共和国陸軍第58装甲機動大隊副隊長の鈴城麗奈。階級は中尉。」
「同じく、大隊長の田中博隆大尉だ。宜しくな」
薄暗いコックピットに、通信機から聞こえてくる音声が響く。
恐らく、今自分の機体は、西日本軍の特戦機2機に両肩部を担がれながら、彼らの基地へ向かっているのだろう。
とりあえずの身の安全を得ている事を確認し、安心したのか、池井は彼らに、あることを聞いた。
「何故社会主義国の貴方達が俺を助けたんです?」
問い掛ける池井。
返ってきた答えは予想に反し、冷たい声だった。
鈴城麗奈と名乗った女性の声が通信機から響いた。
「池井純一大尉、我々は祖国の命令のもとに、貴様とその指揮下の第262中隊全員の身柄を拘束する。」
「はァッ!?」
「困惑するのも当然だな。なに、悪いようにはしないと思うぞ。なんせ、ヴァルターの大梯団を撃退した『英雄たち』なんだからな」
田中が通信機の向こうから嘲笑にも似た口調で言った。
そういえば、列車砲型を撃破し、あの後にヴァルターが撤退したのを覚えている。
意識が無くなった部分は、恐らく機体が大破し、気絶していたからだろう。
「拉致…」
呻くような口調で池井が呟いた。
よくあることだ。
東側国家による隣国の人間の拉致は、毎年のように起こっている。
これから身の回りに起こる事を想像した池井は、本国に残した妻と6歳になったばかりの娘と息子を思い出し、二度と会えないかもしれないと言う覚悟を固めた。

1年前 No.7

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「やあ、池井大尉。気分はどうかね?」
「クソッタレとでも言いましょうか?長井大佐」
池井は今、西日本の鳥取収容所に居た。
もう既に一週間近くに渡って、軟禁状態に置かれていた。
外出も許されず、腰や肩の骨はかなりこっている。
262中隊の仲間の安否が気になるところだが、まずは目の前の現実が問題だ。
「相変わらず反抗的だねぇ。でもそれで良いよ。簡単に屈する英雄は誰も慕わないからね」
「…私をどうするおつもりで?」
「そんなもの、言えるはずがないだろう?」
「…」
三畳の小部屋。
布団と机があるだけの、本当に狭い部屋だ。
その中に池井以外の誰かが入ってくるとなると、ただでさえ狭い部屋が更に狭く感じる。
「ところで、だ。」
長井が嘲笑うような目をやめ、真剣な表情に変わったのを池井は感じていた。
「私に従う気は無いかね?」
「…西を裏切れ、と?」
「そうなるねぇ。でもここで野垂れ死ぬより、戦場で生きる方が、君にとって遥かに良いだろう?」
「…」
「どうするかは君の自由だ。選択の自由くらいは与えよう。では」
長井はそう言うと、部屋を去った。

1年前 No.8

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

後に残された彼は、目の前の無機質な鉄扉を見詰めながら考えた。
「東日本を裏切り、この国へ帰属すれば、東京に残した家族はどうなるかわからない…。だが、その為に262中隊のメンバーは…」
目を瞑り、東日本に居た頃の事を思い出す。
幼い頃、今は亡き父に肩車されながら公園を駆け回った時。
母の子守唄に、眠気を誘われ、深い眠りへ誘われた瞬間。
妻や息子、娘と過ごした、幸せな時間。
そして、隊員達と荒川の河原に寝転んだ時。
涙がこぼれた。
だが、自分は多くの人命を預かる立場に居る。
我欲は捨てなければならない。
胸中を、悲しい物が満たし、目から暖かい涙が流れ、頬を伝い、顎から落ちた。
そしてその涙を拭い、深呼吸をして、決意を固めた。

1年前 No.9

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「進退を決めたようだね」
翌日の朝、再び長井は訪れた。
長井は訝しげな目をした。
布団を畳み、座布団を敷いて、その上に正座をしている池井の目は、不屈の精神を感じさせたが…
「…従いましょう…」
絞り出すかのように発せられた池井の声は意外なほどか細く、低く唸るような物だった。
「賢明な判断だ。君は尊敬に値するよ。自己を犠牲に、仲間を守ろうとするその覚悟…。並大抵の物ではないよ」
薄っぺらい。
薄氷のように冷たく、浅はかな礼だ、と池井は感じた。
「…で、俺はどうすれば良いのでしょう?」
「簡単だ。私についてくれば良い。」
長井が立ち上がり、部屋を出た。
池井のほうも、慌てて立ち上がって、部屋を出た。

1年前 No.10

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

収容所から出て、初めて見た空は、曇りだった。
約一週間ほど軟禁されていた池井の身には、この曇りがいつからなのかがわからないが、これからの事を案じるにふさわしい天気であった。
長井が池井を見て言った。
「車を手配してある。乗れ」
「…」
一陣の風が吹き、池井の髪を揺らした。

エンジン音が、池井の乗る車に響く。
池井は後部座席に、長井は補助席に座っている。
窓の外は、どこかの町の大通りで、紅葉が美しく舞っている。
秋の日は、その美しさを深めていくのがわかる。
「西の景色を見るのは初めてだろう?」
補助席から池井に長井が問い掛ける。
「…ええ。」
「あと少しで、君の仲間達に会えるというのに、浮かない顔をしているな」
「…」
「哀愁の英雄ここにあり、か」
嘲笑うように言った長井の言葉は、次々と池井の心に深く刺さった。

1年前 No.11

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

車に二時間ほど揺られ、着いた場所は、西日本軍の基地だった。
「大佐、まさかここに…」
「仲間に会いたいのだろう?」
「…」
池井は唇を噛んだ。
それ以上を答える事は、不安と冷や汗に包まれた池井には無理だった。


その頃、池井の住んでいた東日本では、第262中隊が消えたことが、連日話題になり、ラジオやニュースでも取り上げられ、新聞の一面には、『ノモンハンの英雄たちはいずこへ?』『消えた最強部隊』などと載るほどだ。
また、とある新聞社の記事には、『西日本が関与した疑いあり』と、推測する勘の良い記者も居た。
何故ここまで話題に上がるのか。
理由は簡単だ。
第262中隊は、東日本陸軍特戦機部隊のなかでも屈指のトップエースを集め部隊だ。
彼らをまるごと失うのは、陸軍特戦機部隊がその看板を失うのに等しく、また彼らの活躍によって恩恵を受けていた勢力と、そして彼らの存在をよしとしない勢力との間で、政治闘争が起きる可能性があるのだ。
事実上の軍事政権が敷かれている東日本全体で見れば、国家が破綻しかねない事態でもあった。

1年前 No.12

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「隊長!お久しぶりです!」
少し汚れた施設に入り、その中央の広場に着くと、最初に駆け寄ってきたのは、262中隊の副長レナ・C・田中中尉であった。
次に、田中より少し大柄な男__高坂昭宏__が来た。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。お前らは?」
「全く問題ありません。聞かされていたよりかなり待遇が良かったです」
意外にも、すっきりとした声で高坂は言った。
「そうか。」
池井はひとまず安心した。
その安堵と、今まで持っていた不安感情を、「そうか。」の一言に込めて吐き出したのだ。
「…東も西も、変わらないと言うことか。」
窓の外の山々を見詰めながら、池井は呟いた。

10ヶ月前 No.13

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「第2連隊!早く攻撃を!」
「無茶言うなッ!まだ集結が済んでないんだ!」
「こちら第8小隊!小隊長以下全員が戦死!残ったのは私だけです!」

ノモンハン戦線での戦いは、激しさのほどを増していた。
司令部には怒号がひっきりなしに飛び交い、前線部隊とのやり取りが絶えない。
廊下には、数えきれない程たくさん人間が寝転がっている。
司令部の要員が仮眠を取っているのだ。
ノモンハン戦線司令部は、人員を増やし、交代で対応に当たっているが、ヴァルターの底無し物量の前に、戦力低下が顕著になってきていた。
ノモンハン戦線司令官の、アーノルド・バール大将は、薄暗い天井を仰ぎ見て叫んだ。
「262中隊はどこに行ったのだ!?」

10ヶ月前 No.14

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

大阪。
西日本の首都であるこの街は、商業と外交が盛んで、近年、大きく発展している。
ヴァルター戦争が勃発して以来、武器輸出で多くの収入を得ており、成長率は社会主義陣営の中では随一である。
今日も今日とて、大賑わいの大阪を一人の男が、どこにでもあるような軽自動車から降りた。
彼の名は、小谷敬三。
小谷が降りた場所は、中世の城を連想させるような、石造りの建物の前だった。
正確には、その建物のある敷地の外郭にある、正門の前だ。
四角い金属製の棒を組み合わせたような門に掲げられた表札には、『外務省』と書いてあった。

小谷敬三。
齢49の初老の外交官だ。
肩書きは、駐西日本総領事、城風康生の補佐官だが、綿密な情報網は、世界中に広がっているほどの情報通だった。
手続きを済ませ、西日本外務大臣、島邦留勝のいる部屋に入った。
部屋に入ると、島邦はソファから立ち上がり、喜色の笑みを浮かべて言った。
「これはこれは小谷殿。」
まるで親友のように接してくる島邦を、心中で「俗物めが」と嘲りながら、小谷は言った。
「単刀直入に申し上げます。我が陸軍の、第262特戦機中隊を拉致したのは、そちらの軍ですね?」

10ヶ月前 No.15

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「貴官は262中隊を、我が国が隠している、とでも言いたいのですか?」
すっとんきょうな声で、島邦は返した。
もちろん、そういう世界を渡り歩いてきた小谷には、それが芸であるというのは、嫌でもわかった。
「ええ。私の、それも信頼出来る情報筋からそのような情報を戴き、更にその証拠も得ております。」
小谷がそう言い放つと、テーブルに幾つかの写真を並べた。
一番右の写真を指差し、
「これは隊長の池井純一大尉。彼は鳥取収容所に、そして右が副隊長の…」
と、一人一人の名前と収監場所を全て言った。
「これでも、言い逃れをいたしますか?」
島邦は沈黙したままだ。
2分が経過し、小谷は少しイラついてきた。
すると、島邦は立ち上がり、いきなり小谷の額に拳銃を突き付けた。
「…何をするおつもりで?」
声を必死に絞り出し、島邦に投げ掛けるが、無表情の彼は冷たく言い放った。
「小谷君、君には社会主義の美しさを、知ってもらおう。」

1週間後、東日本の新聞の一面に載ったのは、小谷総領事補佐が行方不明になったことと、その小谷が自室に残したメモに書かれていた、262中隊の行方とその理由、その後の情勢と262中隊の扱いの予想であった。

10ヶ月前 No.16

桜花 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「なんたることだ…よりによって彼らが西にいるとは…!」
「ともかく、政治的手段で奪還するしかあるまい」
「西がそんなことで返してくれるのか?だったら拉致被害者もすぐに返ってくると思うのだが」
「今やヴァルターは全世界の敵だ。262中隊の戦線離脱の意味が、彼らにわからぬ筈もないが…」


霞ヶ関の軍最高司令部の会議室で、数人の男達が激論を戦わせている。
一番奥の席に座っている男の前には、上の方に小文字で、「内閣総理大臣」と書かれ、その下には「矢谷重明」と書いてある。
その目の前で、真剣な面持ちで、声を張り上げている4人の男__陸軍元帥の黒川洋司、海軍元帥の寺内幸、空軍元帥の田城忠一郎、宇宙航空軍元帥の早坂荘二郎が、この場で主導権を握ろうと必死になっている。

(くだらん政争…)
阿津邦男海軍参謀は、いつまでも結論に至らないその光景を見て、一人呆れていた。
今の東日本は、時代的機運もあってか、軍国政治に近い体制となっており、軍部の発言力が大きい。
その中で優位に立ち、より多くの益を欲する者が出るのは当たり前で、これがますますヴァルターに利した状態になっているのは言うまでもない。
「西日本に返還要求を…」
そのあと三時間に渡って繰り広げられた無意味な議論は、その結論で終結した。

10ヶ月前 No.17

巡洋戦艦『高雄』 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「返還要求だと?突っ跳ねなさい!」
小柄で痩身の男が、届けられた報告に対する回答を大声で述べた。
「しかし、アメリカもこれに抗議をしております。我が国としても、陣営全体としてもよろしくないかと…」
「ほう…全体に益はない、そう言いたいのだな?」
痩身の男、西日本大統領の矢神修斗が考え込むような口調で言った。
「しかし、今はなくとも将来的には益はあろう。ソ連も味方してくれるさ」
「大統領、それではいけません。今、ただでさえ東日本では我が国に対する感情が悪い上に、今回の件で更に悪くなっております。このままですと、戦争になります!」
外務大臣の紙崎孝博が叫んだ。
紙崎に向き直った矢神は怒鳴るように言った。
「戦争?結構ではないか!アメリカや東日本に、我が国、いや我が陣営全体を敵に回す程の根気はなかろう!そしてこれは、東西統一のチャンスでもあるのだよ!わかるかね!?」
一呼吸置いて、矢神はゆっくりと話し始めた。
「良いかね、日本を統一すれば、社会主義の素晴らしい思想を、太平洋沿岸の国々に輸出できるのだ。それは、全体として非常に良い手段ではないかね?」

9ヶ月前 No.18

巡洋戦艦『高雄』 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「要求は拒否されました」
東日本外務大臣の城山爲種は、内閣公室に入るなり、沈んだ声で報告した。
「…やはり、な」
海軍元帥寺内が呟くと、次いで陸軍元帥の黒川が発言した。
「首相、海軍としては、これを好機と心得ます」
「ほう、何故だ?」
首相の矢谷が聞くと、
「昨今の対ヴァルター戦では、かの262中隊は多大な戦果を挙げております。また、彼らに救われた部隊は数多く、彼らを『英雄』と呼ぶ者も多いとか聞き及んでおります」
黒川がそこまで言ってから言葉を止めた。
周りに発言の続行を求めているのだ。
空軍の田城が「早く喋ろ」と目を向け、矢谷が「続きを」と呼び掛ける。
黒川が軽く息を吸って続きを始めた。
「ノモンハンの英雄を拉致した、ということが国際社会に広まれば、西日本のみならず、東側諸国に対する風当たりは強くなります。西日本の立場は悪くなり、かの国の今後の外交政策に大きな影響を与え、我が国に有利に働くと思われます。私の意見は以上です」

全員が唸っている。
寺内も田城も、反論の余地が無いようで、腕組みして瞑目しながら黙考している。
それを見渡している黒川は、心中で勝ち誇っていた。
緩みそうになる頬に力を入れながら、黒川が矢谷に迫った。
「首相、どうされますか?」
瞑目していた矢谷が目を開き、城山を一瞥すると、
「わかった…。国連安全保障理事会に、この話を持っていこう。最低でも、東側諸国を分裂させることが出来るだろうね」
と言うと、歯を見せて笑った。

9ヶ月前 No.19

宇宙巡洋戦艦『高雄』 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

11月4日、ジュネーブで国連安全保障理事会が開かれた。
最初の議題は、今後の対ヴァルター戦についてだった。
これはあまり意味のない、将来的な希望にだけ固執した議論に留まり、どうにもならない。
そのうち、時間切れとなって次回に持ち越しとなった。
次の議論は、西日本による262中隊拉致事件である。
矢谷首相が席を立ち、英語で唱えた。
「今年10月、我が国の陸軍に所属する、第262特戦機中隊が、日本社会主義人民共和国連邦軍に拉致され、更に我が国要人1人が、西日本の者によって拉致されており、その所在は一向にわかっておりません。国際法に照らし合わせても、これらの行為は許されるものではありません」
西日本の紙崎外務大臣が席を立って反論した。
「我が国が行った、という証拠はありません」
東日本の城山外務大臣も立ち、厳然たる面持ちで言った。
「証拠ならここにあります」
そう言って、262中隊の各人の収容所での写真を、看板くらいの大きさはある写真を部下に持ってこさせた。
「更に、これらの収容所の所在が記してある資料もあります」
同じように、その資料を大きくしたものを持ってこさせた。
「これが証拠です」
「異議あり。それらの証拠は公平性を欠いており、証拠能力はありません」
「同感ですな。我が国が独自に編成した調査団の報告も、『証拠ですらない』とありました」
紙崎が言えば、中国の亮泰丙国家主席が憮然とした態度で言い放った。
「いいえ。これらのものは、我が国の調査団にやる裏付けも出来ております。関係した者によれば、西日本のとある政府要人の要望であった、と証言もしておりますぞ」
アメリカのカール・アラート国務長官が厳しく言った。
また、ソヴィエトのポトリャノク・ワルキュネクスキー外務大臣が喧嘩腰で噛みついた。
「何故関係のない貴国がこの問題に介入してくるのですか?かつて中東で行われた紛争問題に付け込んだのと同じように__」
「その問題は今は関係ありますまい。今行われるべき議論は、西日本による英雄の拉致事件の解決でありましょう」
「我が国はやっておりません!これは国威に賭けて申します!」
アラートが静かに言えば、矢神はその側から怒鳴った。
もはや議論になっていない。
陣営同士の水掛け論が、泥沼状態を作り出していた。

この日の会議の結論は、当事国同士の外交交渉による解決が決定された。
西日本としては、不本意な結末と言わざるを得ないだろう。
しかしこれらは、矢谷首相の各国要人への根回しの賜物であった。
俗に言われる、能ある鷹は爪を隠す、とやらであり、矢谷はその実力は、この会議で見せつけたとも言えた。
しかし、代償は大きく、両陣営の深刻な対立を生んでいたのには、まだ誰も気がついていなかった。

8ヶ月前 No.20

シャア・アズナブル @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

【第2章 国境紛争】

本州の真ん中に位置する丘陵地帯、長野。
この県には、東西日本軍が多数展開している。
佐山礼次郎中将率いる東日本陸軍第87師団は、防衛拠点たる松代に駐在していた。
この師団は、昨年度から生産が始まった最新鋭の三一式戦車が180輌ほど配備されており、他にも歩兵2万名、砲兵4千名、火砲800門、更に、一式特戦機『迅雷』が110機がいる。
長野方面軍の主力師団である。
師団の司令官、佐山は、陸軍内部では黒川元帥の過激派に属していて、そのなかでも随一の過激思想を持っている。
黒川とはかなり仲が良く、この戦力はその証拠でもある。
「グズグズしていたら、我々の同胞は殺されるに決まっているッ!我々だけで向こうに突入し、262中隊を救出しよう!」
松代の北、海津城跡地に設けられた長野方面軍の司令部に集まった各師団の師団長たちの前で佐山は演説した。
各師団長はそうだ、という顔で頷く。
軍司令官の亀島勝司大将も援護する。
亀島も黒川の過激派である。
「佐山の言う通りである!262中隊は人類の勝利の希望であり、それを潰そうしている者共を放ってはならん!」
そう言ってピークに達した。
「そうだ!」「そうするべきだ!」という声は良い方で、「今すぐ攻め込め!」という物騒な声もある。
満面の笑みを浮かべ、亀島は言い放った。
「よしッ!これより我々は、長野を越えて、西日本へ攻め込むッ!!異論はないなッ!?」

8ヶ月前 No.21

宇宙巡洋戦艦『高雄』 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

「大佐!大変です!東日本軍が前進してきます!」
11月9日の夜。
西日本陸軍独立第5連隊所属の有馬海翔一等兵は、息を切らして連隊指揮官の篠山真二大佐の元へ駆け込んだ。
「なにっ!?」
また別の兵が転がり込んできた。
「申し上げまぁすッ!東日本軍が、国境を越えました!敵は戦車や特戦機を前面に押し立てています!現在、第8中隊が攻撃されており、応戦していますが、極めて劣勢です!」
「通信兵、本部に連絡だ!『我、敵の攻撃を受く』とな!」

「なんだと!?東日本軍が越境してきただと!?」
西日本陸軍東部方面軍司令の釜井永興大将が絶句した。
岐阜城に設けられた司令部に入ってくる情報は自軍の劣勢を伝えるものばかりで、良いものはひとつもなかった。
「第6師団が全滅!」
「第28特戦機集団が、壊滅的打撃を受けました!」
「空軍はどうしたッ!?」
「出撃準備、整いませんッ!!」
「美濃市に敵先鋒接近!」
「敵軍先鋒は特戦機です!第23機動空中連隊が応戦していますが、持ちませんッ!」
敵が間近に迫っていることがわかるが、どうにもできない。
「この圧倒的な侵攻速度…敵は電撃戦を戦っている…補給線を叩けば…いやだめだ、今は速効性が求められているんだ…!」
釜井は悩む。
参謀長の奥寺藤吾少将が進言した。
「部隊を滋賀方面に撤退させ、防備を固めましょう。これ以上損害を増やせば、再建は不可能となります!」
「しかし、私には…」
「司令官ッ!貴方には勝つ義務があります!ですが、兵を守り、人民に被害を与えないというのは、軍人の責務であります!司令官、御決断を!」
奥寺の剣幕に根負けし、釜井は遂に滋賀方面への撤退を決めた。

8ヶ月前 No.22

宇宙巡洋戦艦『高雄』 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

釜井の撤退決断より十数分前。
美濃市上空に、彼らはいた。

「ほう、あれが東日本御自慢の迅雷とやらか」
第23機動空中連隊所属の第5中隊隊長景井友三郎大尉は、モニター越しに見える巨人___東日本軍の一式特戦機『迅雷』を確認した。
「第5中隊より連隊司令部。攻撃許可を求む」
司令部無線機で司令部に問い合わせた。
答えはすぐに返ってきた。
「どうぞ!思いっきりやってください!」
了解も入れずに隊内無線に切り替え、怒鳴った。
「レッド1より全機へ!攻撃開始!」
「了解!」
と一斉に快活な答えが返ってきた。
敵特戦機、迅雷も、こちらに気づいたようだ。
一斉に上昇してくる。
130ミリ突撃銃の射程にはまだ遠い。
しかし、景井は既に目標を定め、引き金に指を掛けている。
「機体性能なら負けんよ!」
景井が搭乗する特戦機は、YB−28“真蛇”甲二型。
迅雷と同世代機で、性能は多少劣るが、機体性能だけが全てじゃないことを教えてやるぞ、東日本軍。
そう意気込んで一気に急降下し、間合いを縮める。
強烈なGが景井を襲うが、景井は全く動じない。
射程に入った途端、引き金を引いた。
夜の闇を、血のように紅い火箭が貫き、定めた標的に向けて飛んでいく。
迅雷は簡単にそれを回避する。
景井は食らい付く。
狙った迅雷が回避した方向へ、勘で130ミリ弾を叩き込む。
手応えはあったが、撃墜には至らない。
防御力は高いようだ。
追撃は不可能と見た景井は、手近にいた敵機を見つけ、130ミリ弾を叩き込んだ。
ローリング回避で射弾を回避したものの、その瞬間にはその迅雷に景井の真蛇は肉迫し、突撃銃が火を噴いた。
紅い火箭が迅雷を貫き、夜闇に一際強い閃光が走る。
「撃墜!」
と景井は叫ぶ。
「もう一丁!」
と気勢を上げてスロットルを開くと、司令部無線から命令が届いた。
「第23機動空中連隊所属機は、滋賀方面に撤退せよ!」
「何故だッ!」とオペレーターに噛み付くと、
「これは司令部の決定です!」
とキッパリと返してきた。

史上初の特戦機対決となった【美濃市航空戦】は、引き分けに終わった。

8ヶ月前 No.23

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

電撃戦により岐阜から西日本軍を叩き出した長野方面軍は、更なる攻勢の為に準備していた。
しかし、ここまで来るともはや国境紛争なのか、事変なのか、はたまた“大規模な局地戦”なのか、線引きが難しくなっている。
早くも、アメリカなどの西側諸国は、「西日本の横暴による悲劇」という旨の声明を発表しており、ソ連、中国などの東側諸国は、「東日本の一方的な侵略行為」という声明を発していた。
東京でもこれに対して、「侵略」とするか「同胞奪還」とするかで賛否両論分かれている。
黒川元帥は、その両論の狭間にいた。
「これを称賛すれば、私の立場は高くなるかもしれない。しかし、彼らが押し戻され、逆に侵攻を受けたら私は軍から叩き出される…しかし、これを否定すれば、陸軍内部で彼らが孤立し、“あの事件”の真実を暴露されるかもしれない…」

黒川は陸軍大臣公室で思案していた。

“あの事件”とは…
3年前に起きた、東西日本全面戦争どころか、社会主義陣営と資本主義陣営の全面戦争を招きかねない“事件”があった。
その“事件”はすぐに解決し、厳しい報道規制や箝口令が敷かれ、殆ど風化している。
しかさは、黒川ら過激派に関わらず、様々な派閥の者にとっては記憶に新しいものだ。
だが、その詳しい内容を語ることは許されなかった。

8ヶ月前 No.24

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

11月11日。
岐阜城に司令部を移した長野方面軍は、黒川のコネもあって、新たに最新装備の2個師団を指揮下に入れている。
この日の午前10時に、まず歩兵第23師団と砲兵42師団、そして第503特戦機連隊によって、伊吹山の西日本軍に攻勢を掛けた。
ここを橋頭堡に、滋賀の中心を目指す、という目的があったが、なかなか陥ちない。
偵察機によれば、同地に西日本軍は3個師団程を駐留させているという。
更に、特戦機の出現も報告されている。
手こずるのも当然だった。
仕方なく、午後1時に他所の攻撃にあてる予定だった歩兵2個師団を伊吹山に投入した。
しかし、突如御池岳方面から西日本軍の大反撃が始まる。
西日本東部方面軍は、福井と三重の防衛を諦め、滋賀の防衛のために福井と三重にいた歩兵4個師団を結集したのだ。
突然の奇襲に、東日本軍は混乱、戦線は崩壊し、東日本軍は戦線を岐阜城付近まで後退させざるを得なかった。
午後6時。
一日の日照時間が短いこの時期、既に日が落ち、辺りは真っ暗になっていた。
岐阜城には東日本陸軍長野方面軍の司令部が置かれており、ここを攻撃してくるであろうことは予想できた。
しかし、案に反して、西日本軍は山形市に攻勢を掛けた。
また奇襲を受けた東日本軍は、岐阜城の守備兵力の1つである第83師団を山形市の戦線に送り込んだ。
そこへ、岐阜城にも攻撃が掛けられた。
攻撃は特戦機2個大隊が向けられた。
岐阜城攻防戦の始まりであった。

8ヶ月前 No.25

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

最初に攻撃を仕掛けたのは、第23空中機動連隊だった。
「全機、突撃用意!」
連隊長の山橋辰家大佐の号令一下、総勢93機のYB28"真蛇"が一気に加速した。
楔型陣形をとる第23空中機動連隊の左翼を担当する、景井友三郎大尉率いる第5中隊がいる。
「レーダーに反応あり!正面に敵機多数!」
中隊二番機の朝熊和也中尉が、隊内無線で報告をあげた。
景井の一番機も、その機影をレーダーに捉えている。
景井は隊内無線から司令部無線に切り替え、
「了解。『レッド』より『ハンマー』。我、正面の敵機に対処する」
と報告した。
「ハンマーよりレッド。了解した。武運祈る」
山橋連隊長の反応は素早かった。
恐らく、本隊でも正面に敵機がいるのを掴んでおり、楔型を維持し続けるのは不可能と判断したのだろう。
呼び出し符丁の『ハンマー』とは、第23空中機動連隊本隊のことである。
景井は隊内無線に切り替えて命じた。
「レッド1よりレッド全機へ。目標、正面の敵機。掛かれ!」
「了解!」
快い隊員たちの返事を受け取って、景井は右手にスロットルレバーを握って、目一杯に引く。機体の速度を最大に達し、大気を裂いて真蛇を引っ張っていく。
高度2000を飛行する第5中隊は、夜闇に染まった真っ黒な雲に突っ込んだ。
すると突然、真っ赤な火箭が雲を貫いた。
「うわあッ!」
無線機から絶叫が響いた。
「五番機被弾!」
「射撃開始!」
敵の奇襲だった。
景井が慌てて命令を下したが、五番機の羽島熊太郎少尉の真蛇は撃墜されたようだ。
「九番機、落伍します!」
「十五番機、損傷甚大!撤退します!」
九番機の立谷次郎少尉と、十五番機の亀谷吾郎少尉が離脱したようだ。
戦列から3機が失われ、戦力は六分の五に減じた第5中隊だが、進撃はやめない。
夜間、しかも雲の中のため、視界は無きに等しい。
レーダーに映っている敵機に照準を合わせ、真蛇の右腕にもつ突撃銃の130ミリ弾を撃ち込む。
しかし、なかなか当たらない。
これがヴァルターなら当たっているのだろうが、相手は人だ。
「クソッ!」
景井が唇を歪める。
突撃銃を背部一番ソケットに収納し、二番ソケットから長刀を引き抜いた。
鈍い火花と共に抜かれた、刃渡り10メートル、幅3メートルの三三式長刀を右腕に構え、レーダーに映る、右前方の敵機に突進した。
その敵機は、景井の接近に気づき、慌てて突撃銃を撃ちまくってきた。
しかし、右回りローリングで回避し、突進を続け、あっという間に敵機__一式迅雷の姿が視認できる距離になり、次の瞬間には長刀の間合いにその敵機を捉えた。
その迅雷がようやく突撃銃から長刀に持ち換えたとき、景井は長刀を降り下ろしていた。
景井の長刀は、迅雷の頭部から股関節部に掛けて、綺麗に一刀両断した。
当然、敵機のパイロットもろともだ。
しかし、景井はそんなことには関心を持たない。
背後から別の敵機が接近しているのをレーダーで知ったからだ。
すぐに後ろを向き、バックブーストでその敵機と間合いを取った。

乱戦になっているようだ。
あちこちで味方と敵が乱舞し、口径の違う二つの大口径銃弾が闇夜を裂く。
時おり、真っ赤な炎が噴き出し、レーダーから反応が1つ、また1つと消えていく。
密雲の戦場で、ひとつだけわかるのは、第5中隊が劣勢であるということだけだった。

8ヶ月前 No.26

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

東日本陸軍の第505、第879特戦機中隊は、雲に隠れて西日本軍の第23空中機動連隊第5中隊を奇襲し、交戦していた。
2倍もの数で当たれば、どうにかなると考えていたが、どうやら甘かったようだ。
目の前の敵特戦機部隊は、圧倒的優位に立っている505、879中隊を相手に奮戦している。
更に、レーダーによれば、左側から別の部隊が救援に来ているようで、それもかなりの数だ。
「ちっ、面倒な…!」 第505中隊二番機、つまり副隊長の鳥山翔中尉は、目尻を歪めて舌打ちした。
残弾は180。
6連射で撃ち尽くす量だが、6機を倒すのには充分だ。 長刀もあるから、どうにかなるだろう。なにより、数の差がある。
「当ったれぇ!」
レーダーに映る前方の敵機に射弾を叩き込む。
しかし、敵機はまったく動じない。当たっていないようだ
「だったら…!」
右腕の突撃銃を、背部の二番ソケットに収納し、一番ソケットから三二式長刀を引き抜いて構えると、一気に加速した。
距離を詰め、敵機が間近に迫る。 敵も慌てて逃げようとするが、遅い。
「でぇぇぇやああああッ!!」
鳥山の迅雷は、長刀を横に薙いで、敵機の胴体を横から寸断した。
「撃墜1!」
まだ若く、血気盛んな鳥山は、その場から離れ、新たな敵を求めた。
「まだまだァッ!」
鳥山の迅雷が、重量7トンの長刀を引っ提げて加速し、レーダーに映る敵機に向かっていく。
火箭が夜闇を貫いて鳥山の迅雷に殺到する。
ローリング機動で大口径銃弾を回避し、敵機に肉迫した。
頭部のカメラライトの光が見える。
それを目印に、鳥山は右操縦桿を捻り倒し、迅雷が右腕に持つ長刀を、敵機の頭部に突き刺した。
しかし、敵機も去るもので、その右腕の突撃銃の銃口を、鳥山の迅雷に向けた。
鳥山は即座にスロットルレバーとエンジンユニット指向レバーの2つを目一杯引き、離脱を図った。
しかし、一瞬早く敵機が発砲し、命中の衝撃がコックピットを揺らした。
直後にバックブーストで離脱したが、何発か喰らったようだ。
ただし、バックブースト時、エンジンユニットが敵機に向けられた時の排気熱で、敵機は溶け、機能不全に陥ったようだ。
例の空域から遠ざかる中、雲に隠れているが、黒い影が下へ墜ちていくのが見えた。
「2機目、か。」
あと3機、撃墜すればエースだが、その分、ヴァルターを差し置いて人類同士、しかも同じ日本人同士で殺し合うのだ。
少し頭を冷やせば、つまらないものであった。
「雲を抜けるぞ!気を付けろ!」
隊長機から無線があった。
雲を抜け、夜の空に放り出されたら、東日本軍特戦機部隊の優位は消える。
何故なら、この優位は雲の中の奇襲であったからこそ成り立ったもので、敵の増援が来ている中、空に出れば数の差は埋めようがなくなるのだ。
だが、それでも戦わなければならない。
しかし、鳥山はそんなこと関係なかった。東日本陸軍の第505、第879特戦機中隊は、西日本軍の第23空中機動連隊第5中隊と交戦していた。
2倍もの数で当たれば、どうにかなると考えていたが、どうやら甘かったようだ。
目の前の敵特戦機部隊は、その2倍もの数を相手にしながらも、奮戦している。
更に、レーダーによれば、左側から別の部隊が救援に来ているようで、それもかなりの数だ。
「ちっ、面倒な…!」 第505中隊二番機、つまり副隊長の鳥山翔中尉は、目尻を歪めて舌打ちした。
残弾は180。
6連射で撃ち尽くす量だが、6機を倒すのには充分だ。 長刀もあるから、どうにかなるだろう。なにより、数の差がある。
「当ったれぇ!」
レーダーに映る前方の敵機に射弾を叩き込む。
しかし、敵機はまったく動じない。当たっていないようだ
「だったら…!」
右腕の突撃銃を、背部の二番ソケットに収納し、一番ソケットから三二式長刀を引き抜いて構えると、一気に加速した。
距離を詰め、敵機が間近に迫る。 敵も慌てて逃げようとするが、遅い。
「でぇぇぇやああああッ!!」
鳥山の迅雷は、長刀を横に薙いで、敵機の胴体を横から寸断した。
「撃墜1!」
まだ若く、血気盛んな鳥山は、その場から離れ、新たな敵を求めた。
「まだまだァッ!」
鳥山の迅雷が、重量7トンの長刀を引っ提げて加速し、レーダーに映る敵機に向かっていく。
火箭が夜闇を貫いて鳥山の迅雷に殺到する。
ローリング機動で大口径銃弾を回避し、敵機に肉迫した。
頭部のカメラライトの光が見える。
それを目印に、鳥山は右操縦桿を捻り倒し、迅雷が右腕に持つ長刀を、敵機の頭部に突き刺した。
しかし、敵機も去るもので、その右腕の突撃銃の銃口を、鳥山の迅雷に向けた。
鳥山は即座にスロットルレバーとエンジンユニット指向レバーの2つを目一杯引き、離脱を図った。
しかし、一瞬早く敵機が発砲し、命中の衝撃がコックピットを揺らした。
直後にバックブーストで離脱したが、何発か喰らったようだ。
ただし、バックブースト時、エンジンユニットが敵機に向けられた時の排気熱で、敵機は溶け、機能不全に陥ったようだ。
例の空域から遠ざかる中、雲に隠れているが、黒い影が下へ墜ちていくのが見えた。
「2機目、か。」
あと3機、撃墜すればエースだが、その分、ヴァルターを差し置いて人類同士、しかも同じ日本人同士で殺し合うのだ。
少し頭を冷やせば、つまらないものであった。
「雲を抜けるぞ!気を付けろ!」
隊長機から無線があった。
雲を抜け、夜の空に放り出されたら、東日本軍特戦機部隊の優位は消える。
何故なら、この優位は雲の中の奇襲であったからこそ成り立ったもので、敵の増援が来ている中、空に出れば数の差は埋めようがなくなるのだ。
だが、それでも戦わなければならない。
しかし、鳥山はそんなこと関係なかった。
「やってやるさ。それが俺ら、軍人なんだよ」

8ヶ月前 No.27

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

鳥取県沖合いに、それはいた。
漆黒に染まった海に浮かぶ黒塗りのそれは、東日本のマークを付けていた。
「第一小隊、発進せよ!」
東日本海軍第五艦隊第八潜水艦隊に所属する、伊号第八七三潜水艦艦長、福嶋留治郎大佐が、艦内スピーカーで怒鳴る。
その甲板上には、特戦機が専用カタパルトに載っていた。
零式特戦機『月龍』海軍仕様B型。
今日では既に、旧式化したように思われているが、まだまだ月龍には使いどころがある。
海軍は、独自に月龍を手に入れて、改造を施し、空母搭載用の海軍仕様A型として近海警備に当たっていることが多い。
なぜ月龍かと言えば、月龍は安価なため、迅雷より使い勝手が良く、重宝されている。
更に、伊八七〇型の潜水艦は、特戦機専用空母として建造されているため、それに合わせて潜水空母用の改造を施した。
それが海軍仕様B型だ。
海軍仕様型のベースは月龍四二型。
機動力は悪いが、バズーカを多数搭載できるため、それを対海中バズーカに持ち替えて使用できる。
だが、今回の任務は、近海警備のそれとは違う。
要人救出という任務のため、装備しているのは対海中バズーカではなく、突撃銃だ。
「マッド1、出ます!」
カタパルトからツノつきの月龍が打ち出され、空へ上がった。
続々と打ち出されていく月龍は、9機にもなった。
そして、全機が集まったところで、進撃開始の命令が出された。

8ヶ月前 No.28

桜花 @huron10☆9mB61c9GWuE ★Android=4be3QRkVeE

突然の轟音と衝撃は、池井の意識を夢から覚醒状態に強制的に移行させるのに充分だった。
房の中で状況を把握するのは不可能だが、この衝撃の正体を、池井は何となく知っていた。
「特戦機…」
すると、無数の銃声が、房の外の通路に響いた。
悲鳴と叫び声、怒号が幾つか聞こえると、銃声が止んだ。
無数の銃声の次に、無数の足音が響く。
すると、チェーンソーのけたたましい作動音が幾つも響いた。
池井の房にも、チェーンソーの刃が、火花を散らしながら鉄扉を突き抜けた。
その部分は、ドアノブの付近の隙間との中間部分だ。
次の瞬間、鉄扉が外れ、その向こうに黒ずくめの装備を纏った人間が何人も現れた。
手には、一番手前の男を除いて自動小銃を手にしており、気風からも、まさに忍者の様だ。
特殊部隊だな、と池井は感じていた。
「誰だ」
池井が問う。
すると、部屋に一人の男が入り、
「第262特戦機中隊隊長、池井純一大尉とお見受けいたした」
と言った。
「そうだ」
と池井が答えると、「我々は海軍特殊作戦部隊第7大隊。私はこの隊を率いる篠山です。階級は大尉。もちろん、東日本の、です」
安心して良いようだ。
しかし、訊きたいことはまだある。
「ほう…貴官らの目的はなんだ?」
すると、まるで定型文と言わんばかりに篠山が喋った。
「貴方と、262中隊の奪還であります。すぐ近くに、『翔鶴』と『瑞鶴』の輸送ヘリが来ております。ここで立ち話もアレですから、続きは後々」
促されるまま、外へ出る。
途中、血まみれの死体や、蜂の巣になった死体などが何体かあったが、そんなことは気にも留めずに進んだ。

「これ…月龍じゃないか!」
外にあったのは、8機の輸送ヘリと10機の特戦機だった。
「月龍は護衛です。我々はヘリに」
「わかった」

262中隊の18人全員と、特殊部隊の人たちが全員輸送ヘリに乗り終えると、途端にローター音が増した。
ヘリが発進し終えると、月龍も飛び立った。

「後方より接近するもの6!戦闘機です」
後ろから、確かにジェットエンジンの甲高い音が聞こえる。
池井が窓ガラス越しに後ろを見ると、月龍が反転し、敵戦闘機に射弾を浴びせようとしていた。
オレンジ色の火矢が飛び交い、時折火を噴いているものが見えた。
それがミサイルなのか、墜落機なのかは、暗闇の中ではわからなかった。

8機の輸送ヘリは、無事に攻撃空母『翔鶴』と『瑞鶴』に到達した。
どうやら、あの月龍はこの空母の物ではなく、別の艦のものであるようだ。
ヘリから降り、『翔鶴』の飛行甲板に立つ池井。
曙光が照らす海は、美しく感じた。
「おはよう、池井大尉殿」
後ろから声を掛けられ、振り向くと、中将の紀章を付けた小柄な男がいた。
池井は瞬時に屹立、敬礼した。
「まあそう堅くなるな。軍が違うのだぞ」
「しかし、それでもた中将でしょう?」
「ふむ。礼儀正しいのだな」
「処世術であります」
「それはおもしろい。…ああ、申し遅れた、私は第一航空戦隊司令官、名瀬島文十郎。見ての通り、中将だ」
今更か、と言いたくなるほどの間だが、そんなことはどうでもいい。
「は」
名瀬島は続ける。
「我々は、君たちを救出し、無事に本国へ送り届けることが任務だ」
隣を走っている『瑞鶴』から輸送ヘリが降りてきた。
「戦線復帰は出来ますか?」
池井が訊くと、
「それは答えられない。というのも、それは私の管轄外なので、わからないのだよ」
尤もな回答だと思った。
「…では、我々はしばらく、この艦にお世話になるのですね?」
「そういうことになるな。まあ、VIP待遇だから、そう緊張することないさ」

名瀬島の言葉に嘘はなかった。
舞鶴港に帰港するまで、262中隊の者たちは本当にVIP待遇を受けた。
しかし、この一連の行動は、国際問題へと発展した。

7ヶ月前 No.29

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

東日本海軍による262中隊の奪還作戦。
これは、『国境線の大規模な局地戦』を、『本格的な戦争』に拡大してしまう行為に他ならなかった。
社会主義陣営の諸国は、こぞって東日本を非難し、資本主義陣営の諸国はこの行動を褒め称えた。
前者は『平和を破壊する戦争行動』、後者は『紛争の根本を取り除くべく行われた英雄的行動』とした。
しかし、それで紛争が、いや戦争が終わるはずもない。
岐阜城の攻防戦は長引き、史上初の特戦機同士の戦闘まで行われ、双方の国民の反感が極限にまで高まり、いよいよ戦争となりかけた。

しかし、12月3日にようやく駐東日米国大使カイルム・ハーバルが和平の仲介を申し入れ、12月10日にようやく停戦がなされ、東西全面戦争は回避された。

そして、彼らの真の戦いが始まる。

6ヶ月前 No.30

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

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6ヶ月前 No.31

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=fzTgolRfsd

こうして、家族と食卓を囲むのは、何年ぶりだろうか。
ノモンハンに飛ばされてから、本土帰還許可は1度も出ず、毎日のように戦場を駆け回り、ヴァルターを狩っていた。
そのおかげで、家族と再開するのはこれが2年ぶりで、自分を殆ど知らない長男、隆司と長女の真希に、どう接していいのか、まったくわからない。
まあそれでも唯一の救いは、2人はまだ3才と2才で、今からでもやり直しが効く。今から俺のことを教えれば、まだなんとかなる。俺は父親なんだから…。
そう思いながら、純一はとりあえず食卓に座り、自分の右隣に座る隆司に、声を掛けた。
「あー…俺、知ってる?」
「うーん、わかんない」
平均的な答えだ。
無邪気で、無駄に大きい声だが、元気であるのはよくわかる。
「俺、君のお父さん…いや、パパだよ」
「えー」
えーとはなんだえーとは。
「なんかこわーい」
と真希。
…。
2才だよな、この子。
精悍な顔立ち、と言われる純一だが、子供からすればやはりこわいのか。
「え…パパの顔、こわい?」
「クモみたい!」
その“こわい”は、“気持ち悪い”の方だろ…。
確かにクモは子供の目からすれは恐怖の対象として映るのはそうだが、だが流石にそれは…。
心底傷ついた純一であった。

寝室は、クイーンサイズのベッドが1つ置いてあるだけの部屋で、窓からは月の光が差し込んでくる。
久しぶりに、ふかふかのベッドで寝る純一は、それまでの疲れからか、掛け布団を掛けた瞬間に熟睡してしまった。
雪美はその顔を、隣でしばらく見詰めた後、寝た。
午前2時。
ふと目覚めた純一は、起き上がって久々に目にした隆司と真希を思い浮かべていた。
不意に、「気にすることないわよ」と、声がした。
純一が左横を見ると、雪美も体をベッドに横たえながら目覚めていた。
「2才と3才であんなに喋ったら、確かに不思議よね」
「いやそっちじゃない」
即座に突っ込む。
でも確かに、よく喋った。
2才でも、あんなに喋れるのか、と思い直した。
「…俺さ、ずっと嫌なとこにいたんだ。毎日毎日、人が死ぬのを見ながら、守れなかったって後悔しながら、目の前の化け物を必死こいて殺していくんだ」
「…」
「でも逃げたら、また誰かが死ぬ。自分がいないだけで、何人死ぬかわかんない。そんなとこに、ずっと…」
雪美は、黙って静かに純一の話を聞いている。
「だからさ、ああやって、隆司とかを見たら、凄く愛おしいんだ。今まで感じてこなかった感情が、沸き上がってくるんだ」
「それはさ、あなたが父親になった証なんじゃないかしら?」
「…!」
それに気づくと、純一は静かに泣いた。
その純一を、雪美は静かに、優しく抱き締めた。

6ヶ月前 No.32

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

彼らに与えられた休暇は、あまりにも短かった。

翌日、第262特戦機中隊の面々は東京から新潟へ飛ばされ、更に翌日に飛行機を使ってノモンハンへ飛ばされた。

11月15日。
一式特戦機『迅雷』を配備され、再戦力化の完了した第262中隊は、即日戦線投入された。
見慣れた第6仮設基地からの出撃は、彼らに郷里の思い出を振り切らせた。

「ジーク1よりジーク全機へ。目標を発見。第3小隊は目標左翼を、2小隊は右翼を、1小隊は俺に続いて中央へ突撃!」
ノモンハン上空5000メートルでヴァルターの混成悌団を発見した第262中隊は、池井の即断で散開、攻撃を開始した。
「ジークより司令部。我、ポイント・アルファ到達前に、ヴァルター悌団に遭遇。これより戦闘を開始する」
池井の報告に、オペレーターは即座に反応した。
「了解。健闘を祈る」
司令部無線を切る。
数は300程度。
中型種が主体のようだ。
池井が隊内無線を入れる。
「ジーク1よりジーク全機。高度を300に下げろ。そして配置に着き次第突撃せよ。以降の戦闘指揮は各小隊長に委任する。」
「3小隊、了解」
「2小隊、了解」
2小隊長レナ・C・田中中尉と、3小隊長増田憲昭中尉が了承の報告を上げる。
「武運を祈る」
そう呟くと意識をヴァルターを殺すことに向けた。
「こちらの射程圏まで、あと5、4、3、2、1、」
副隊長兼2小隊長田中中尉が秒読みをする。
会敵は近い。
「0!」
「突撃!」
田中の声を、それよりも強烈で大きい池井の命令が掻き消した。
一気に262中隊所属18機全機が加速し、ヴァルターに110ミリ突撃銃弾を浴びせていく。
巨人型に殺到した110ミリ弾は、頭、両腕を即座に吹き飛ばし、終いには複数の110ミリ弾を腹部に食らって臓物を撒き散らしながら絶命し、鬼型が無数の110ミリ弾を浴びて地面に倒れ、兵士型の一団が地面に着弾した複数の110ミリ弾によって粉々に吹き飛ばされる。
そうこうするうちに一度中隊は悌団の上を通りすぎ、反転、各小隊に分散して遊撃戦闘を開始。
1小隊は分隊ごとに散開遊撃、2小隊は統制的な小隊による一撃離脱戦法、3小隊は火砲種掃討のために各機分散した。
262中隊の技量は凄まじかった。
数体の中砲型が3小隊の迅雷1機に強酸の一斉放射を浴びせるが、その迅雷はその弾幕を巧みに避け、隙を見ては借弾を浴びせて4秒足らずで全てを撃破し、1小隊では6秒の間に3体の巨人型を蜂の巣にした者や、2小隊では猛烈な火箭を雨霰と浴びせて小型種も中型種もひとしなみに砕いていった。
池井の活躍は、この中でも更に光っていた。
地上スレスレまで降下した彼は、まず鉄の棒で殴りかかってきた鬼型を、顎を右脚を横に薙ぎ砕いて頭骨ごと破壊し、背後から襲いかかってきた巨人型にエンジンユニットを向けて焼き尽くし、前に突進してまた別の巨人型の頭に射弾を叩き込んで吹き飛ばす。
その間、僅か5秒。
「まだまだっ!」
気合いと共に急上昇し、高等70メートルで制止し、突撃銃の掃射を浴びせた。
数体の巨人型、鬼型が、臓物や骨、肉片を飛び散らせ、小型種は次々と薙ぎ倒されていく。
20秒ほど経つと、周囲で立っているヴァルターは殆どいなかった。
「あらかた片付いたか…?」
そう呟いたとき、池井は何かを感じ、東の方向へ飛んだ。直率の第1分隊もそれに倣う。
「やはり…」
モニター左下方に表示されているレーダースクリーンには、新たなヴァルター悌団を現す赤のマークが続々と増え続けていた。
「こちらジーク。新たなヴァルター悌団を発見した。数はおおよそ500、指示求む」
「ジーク、了解した。撤退を許可する」
「優秀なるオペレーターで良かった。了解、既存の悌団を潰してから撤退する」
隊内無線に切り替える。
「1分隊全機反転。既存の悌団を殲滅する。」
1分隊が反転し、先ほどのヴァルター悌団を見つけた頃には、ほぼ全てが殲滅されていた。
「ジーク1よりジーク全機、残弾及び損害状況を報告せよ!」
「ジーク2、左腕損傷。残弾170」
「ジーク3、右肩部装甲に被弾1あれど問題なし。残弾123」
各小隊長機は問題ないようだ。
「ジーク4、右腕マニピュレーター損傷、握力低下の為1番突撃銃を喪失。2番突撃銃の残弾158」
「ジーク5、1番エンジンユニットに被弾、推力30%低下。残弾133」
「ジーク6、背部ソケットユニット全損、長刀と2番突撃銃喪失。残弾182」
6番機までの各分隊長は全員無事なようだ。
各分隊の隊員も、全員無事だった。
第262中隊は、誰1人欠けることなくヴァルター悌団を1つ潰したのだった。
だが、池井の胸中に疑問が残る。
「何故、あの悌団が哨戒線に引っ掛からない
んだ…?」
それだけが疑問だったが、今は仲間が1人も死ななかったことが何よりだった。

5ヶ月前 No.33

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

「哨戒線に引っかからない敵悌団が複数も…」
国連軍ノモンハン戦線総司令部で頭を抱えているのは、米陸軍大将、アーノルド・バールだった。
バールの悩みの種は、先刻出現した哨戒線に引っかからないヴァルター悌団だ。
濃密に張り巡らせたレーダー警戒網は、今までいち早くヴァルター悌団を感知し、この司令部にその情報を届けてくれた。 しかし、今回のものは全く異質だ。
そのレーダー警戒網に引っかからず、更に偵察機ですら見つけられていない。そう、突然現れたのだ。
いや、一番の問題は、哨戒線に引っかからないというものではない。
『数』である。
ヴァルターは今まで、少なくとも1万以上の数で押し寄せ、それ以下はないのだ。
だが、今回のはたかだか数百程度。これでは、ヴァルターの最大の特徴である『数』を充分に活かしきれず、各個撃破されておしまいなのだ。
不可解である。
いくらサル以下の知能でも、そのような愚は流石に犯すはずがないのだ。
何かの前触れとしか思えなかった。
それが一番厄介なところだった。
「262中隊が帰ってきた瞬間に敵の新戦術か…」
バールは一人ごちた。

5ヶ月前 No.34

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

池井は迅雷から降りるなり、整備道具を持ってきて、愛機の整備を始めた。

このあと、ブリーフィングがあるが、それまで1時間ある。それまでの暇潰しだ。

他の隊員は、だいたいシャワーを浴びるなり、本を読むなり、思い思いの時間を過ごしている。いわゆる趣味の時間だ。

こうした時間を設けることで、隊員の士気は一定の旺盛さを保ち、疲労と集中力の回復が出来る。

そしてなにより、彼らに求められている存在意義である『トップ・エース部隊』の生存能力の向上となる。

『この絶望的状況にあるこの世界には、君たちのような英雄を必要としている。君らが戦場で活躍することで、未来の軍人が、特戦機搭乗員がより一層技量の向上に励み、人類の未来を明るくするものとなり、いつかこの異星生物を地球から駆逐してくれる。その日まで、頑張ってもらいたい』

いつか…、いつか、とある人物がそんな風に、262中隊を言っていた。
あまり思い出したくない顔だ。

ひとつだけ言えることがある。
俺たちは軍人だ。
軍人の使命は、その身を挺して国を、子供たちの未来を守ることだ。
だが、自分の、自分達の存在意義は、まるで守るべきものである子供を戦場に送るのを目的としているようだ。矛盾もいいところだ。
だがそれでも戦うしかない。
戦わなければ、自分達の背後にいる子供を死なせてしまう結果になる。
だが、戦っても子供は戦場に送られる。
これでは本末転倒だ。

死なせたくないから戦う。死にたくないから戦う。

軍人とは、そこに存在意義があったんじゃないのか?
それとも、ヴァルターと戦うから、意義が変わったのか?
だったら、なんで東西冷戦が未だに続いているのか?

疑問が尽きず、絶えず自問自答しながら、池井は整備員と一緒に愛機の整備を進めていた。

東日本陸軍第262独立特戦機甲中隊"インペリアル・ジーク"。
本当の戦いは、これからだった。

4ヶ月前 No.35

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Tablet=Z137Fy4ffw

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4ヶ月前 No.36

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11月16日の朝。
旭川よりも緯度の高いここ、ノモンハン戦線は既に気温が氷点下に達することも珍しくない。特に朝の冷えは耐え難いものがある。

電力節約の為、第6仮設基地では兵舎における暖房設備は皆無で、唯一食堂とブリーフィングルームに設置されているのみだ。居住性はかなり悪いとも言える。

だがそれでも、最前線で常に塹壕に潜っている歩兵部隊に比べればまだ幾分かマシというものだが____。

その日の朝食は、トースト1枚とベーコン3枚、目玉焼き1個とチーズ一切れといった具合だ。

「相変わらず少ない…」

田中中尉がぼやく。

「仕方ねーじゃん。ここもまだいくらかマシな方さ。なんせ、前線じゃ1日につきカロリーメイト2個って状態らしいからな」

262中隊6番機、ジーク3を務める佐藤義武中尉が田中に言った。
彼は第3小隊長で、262中隊では3番目の撃破数を誇るエースである。

「やっぱりどこも苦しいのね…」

「俺らはそのなかでは恵まれてるのさ」

池井がしみじみと言った。
前線部隊は戦線の維持で手一杯、補給部隊は作業のしようがないのでは、どうしようもない。
誰もが知っているが、いつ戦線が崩壊するかわからないという恐怖が、ノモンハンの国連軍内に蔓延し始めている。
しかも、先日の突然出現するヴァルター悌団はその恐怖を更に加速させている。
「前の敵を撃てば後ろから殺される」
そんな可能性が高まり始めているのだ。
司令部も対応策を練っているのだろうが______。

「あまり深い話はしない方がいい。朝飯はおいしく食べるものだ」

池井はそう締め括って話を一旦切った。

「あ、それと、本日午後2時より出撃がある。そのために本日午後12時からブリーフィングを行う。それまで諸作業を終了させておけ」

「了解!」

食堂に彼らの声が響いた。

4ヶ月前 No.37

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

【第3章 戦線崩壊】

「ブリーフィングを始める」

いつものように池井が壇上に立ち、ホワイトボードに映写機から投影される画像が浮かび上がる。

ザバイカリスクに向けてヴァルター悌団を示す太い赤い矢印が刺さっている。

「現在の戦線は、昨今とあまり変わらない。膠着状態と言えば聞こえは良いが、実際は絶え間ないヴァルターの突撃を前線部隊がなんとか受け止めているだけで、いつ崩壊するかわからない、極めて危険な状態にある。」

後ろ手を組んだ池井が隊員たちをしっかり見ながら言った。

「そして本日未明に、戦線中央、ザバイカリスクへ向けて進撃中のヴァルター悌団を確認した。数はおおよそ、17万」
17万という数を聞いたとき、彼ら262中隊の面々は驚愕した。

昨日までの戦闘で、第20次防衛戦で確認された数40万のうち11万を撃破したばかりだ。それも、戦線全てでの合計だ。

それでも、それを上回る17万という数を用意するヴァルターとは、一体どのような生物なのか…。

彼らの脳裏に、一瞬絶望の未来が浮かんだ。

「これを受けて、国連軍はこの悌団を重要な脅威と捉え、これを撃破すべく攻撃を敢行することを決定した。もちろん、我が中隊単独の攻撃ではない。日米共同作戦だ。作戦名は、『シルバー』」

つまり、作戦の概要は、高高度から侵入した米軍の第86戦略爆撃航空団がクラスター爆弾による爆撃で小型種を掃討。その後に米陸軍4個特戦機大隊と東日本陸軍第7特戦機機甲連隊及び第262独立特戦機甲中隊の突撃で大型種、中型種に対し攻撃するというものだ。

そしてこの作戦では、東日本特戦機部隊の先鋒を262中隊が務める。

「以上が今回の作戦の内容であるが、質問があるなら受け付けよう」

「質問です」
佐藤中尉が手を挙げた。

「なんだ」

「攻撃は中隊単位の攻撃でしょうか?」

「それは各小隊長に任せる。中隊単位の戦闘では殲滅しきれないからな」

「了解です」

「他に質問は?」

「あの…」

田中が手を挙げた。
「どうした」

「今作戦は、かなり急に組まれたもののように思えます。各部隊との打ち合わせや、その他の連携などはどうなっているのでしょうか?」

痛いところを突かれた。
そう、これはつい数時間前にようやく決定されたもので、他部隊との連絡や諸連携はうまく行っているとは言い難い。
それらの諸作業を完了するより、ヴァルター悌団の進撃速度が上回っているのだ。

乏しい戦力、うまく行かない連携、頼みの綱は個々の技量頼み…。
とても軍隊の要諦を成しているとは言えない状態だ。

池井がブリーフィングルーム全体を見渡す。
中隊隊員の一人一人を見る。
彼らは、多くの死闘を戦い抜き、修羅場を潜り抜けた精鋭たちだ。各々が浮かべる顔は、これから赴く死地に対し、なんら疑問がないことを確認した。

「今回の迎撃作戦は、乏しい戦力で今次防衛戦での合計撃破数をいちどきに超えなければならないという非常に厳しく、困難か戦いだ。だが、それでも我々はやる、やらねばならない!1度が無理なら2度出撃し、2度も無理なら3度、4度と出撃し、攻撃を反復する!その覚悟で臨んでもらいたい!」

ブリーフィングルームに、池井の声が響いた。
「了解!」
隊員たちもそれに負けじと声を張り上げた。

「よろしい!これより各員、乗機に搭乗し、待機せよ。出撃は2時からで、発進準備は40分からだから、それまで整備や点検、操縦OSの確認をせよ!以上、解散!」

「はい!」
彼らの声と池井の声が重なった。

3ヶ月前 No.38

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午後1時40分。
第6仮設基地8番格納庫内で、整備台の上に乗る18機の鋼鉄の巨人が佇んでいた。

一式特戦機『迅雷』。

その18機の迅雷は、1時40分になった瞬間にカメラ・アイが赤白く煌めいた。システムが起動したのだ。
迅雷の両腕には突撃銃が握られ、背部武器ソケットユニットにはバズーカと長刀が装備されている。18機全機がそうだ。
このような重装備は、他に類を見ないが、迅雷だからこそ出来るものだ。

「こちらジーク2、全システム、オールグリーン。いつでもいけます!」
「ジーク3、こっちも全システムオールグリーン。ついでに調子も良好です!」
各員から報告が挙げられる。

「了解した。よし、滑走路に出るぞ。第1小隊、付いてこい。第2、第3小隊は、第1小隊の発進後に番号順で発進。なお空中集合はなしだ。迅速に行くぞ」
「了解!」

士気は旺盛、機体も満足、全てが最高の状態だ。

格納庫の装甲シャッターが開き始める。
上下開閉式ではなく、左右開閉式のこの装甲シャッターがレールを転がりながら開いていく音は、まるで地獄の門の如く重く、腹に響く重低音がする。
この音だけは耐えられない、と感じている者も多いだろう。

_______装甲シャッターが完全に開いた時、池井の迅雷は既に足を上げ、歩く体勢に入っていた。
一歩歩くごとに地響きが鳴り、地面が揺れる。
6機の迅雷が同時に歩み、少し遅れて後の12機も歩み始めた。

滑走路のカタパルトに着くまでの時間、ずっと聞いていなければならない迅雷の足音は、これから死と隣り合わせの戦場に向かう者たちにとっては死神の足音に等しい。
この間に、彼らは何を思い、何を考えるのか_____。

それぞれが郷里に残した家族、友人、恋人の顔が脳裏に浮かび、それを守るのだという決意に変わっていった。

3ヶ月前 No.39

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装甲シャッターを潜り、滑走路に出ると、そこには鉛のような曇り空と、見渡す限りの大平原の光景が目に映った。

「雲量は10か…風量は問題ないな」
モニター右上に表示されている、各気象条件のデータを見て呟いた。

時刻は1時50分。
少し早めだが、最後に発進する第3小隊の事を考えれば、ちょうどいい。

そう考えているうち、いつの間にかカタパルトが目前にあった。
池井機はまず右足を、次いで左足をカタパルトに掛けた。
他の1小隊機も同様だ。

「ジーク・リーダーよりジーク・G(グループ)1。発進準備いいか?」
「問題ありません!」
「準備完了、いつでもいけます!」
勇ましい声が無線機から流れてくる。

「管制室、こちらジーク・リーダー。発進準備完了、発進の許可を」
池井が基地内回線を開いて管制室に問い掛けた。
「管制室よりジーク・リーダー。了解、発進を許可する。御武運を」
女性管制官の声が流れてくる。
それに対し、池井は
「了解」
とだけ返した。

「ジーク・リーダーよりジーク・G1。これより発進する」
一拍置いて、
「ジーク・G1、発進!」

その声と同時に、第1小隊の迅雷6機の乗ったカタパルトが、破裂音を伴って前に飛び出す。
充分か加速を付けた迅雷は、ほぼ同時にカタパルトから足を外し、エンジンユニットを点火して空へ翔け上がった。

3ヶ月前 No.40

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

飛行から一時間ほどが過ぎたとき、モニターの左上に表示されているレーダースクリーンに変化があった。
自機を示す中心の赤丸、自分の隊機を示す青い点、そしてそれらの左後方から現れた、いくつもの緑の点。

友軍機反応だ。

「ジーク・リーダーよりジーク。左後方より友軍機反応。第7特戦機甲連隊と思われる」

その数秒後、無線機から突然声が流れてきた。

「こちら第7特戦機甲連隊隊長、竹石東二中佐。第262中隊と見受けた」

すかさず池井も返す。

「第262独立特戦機甲中隊隊長、池井純一大尉です」

「池井大尉、よろしく。早速だが、そちらのコードネームを教えてくれないか?」

極端な情報交換の不足。

竹石中佐が262中隊をジークと呼ばない理由、そして池井が第7連隊のコードネームを呼ばない理由は、そこにあった。

「コードネームはジークです。そちらは?」

「ジーク・リーダー、こちらはボクサーだ。」

「了解、ボクサー・リーダー。作戦計画通り、我々が、先鋒を務めます。ボクサーはそれに続いてください」

「OK、ジーク・リーダー。斬り込みは任せた。露払いは任せろ!…その前に、米軍がどれだけ狩っちまうかわかんねーが…」

米軍の1個戦略爆撃航空団の投下するクラスター爆弾は、およそ5000トン。
これだけあれば、さすがのヴァルターでも相当な消耗を強いられるだろう。

だが…。
数ヶ月前、目の前で同じく米戦略爆撃航空団が、レーザーによって貫かれ、一瞬で壊滅した光景を、池井は未だ鮮明に覚えている。

まさか、あれの存在を知りながら、爆撃を強行するのか…。
池井の脳裏に、一抹の不安が浮かんだ。

3ヶ月前 No.41

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

ヴァルターの一番恐ろしいところは、その数にある。
何より、その内の小型種は、戦闘力こそ低いものの、強靭な生命力と圧倒的な数、そしてなにより、機敏なところに脅威がある。

塹壕にこもる歩兵にとっては、腐人型や骸骨型はまさに

その小型種は、特戦機にとっても脅威だ。

多数の小型種に取り付けれ、コックピットをこじ開けられて無惨にもパイロットが食い散らかされたりすることもしばしばある。

飛んでいれば火砲種に狙い撃ちされ、かといって接地戦闘を行えば小型種に、といった状態だ。

なら、中高度の安全を保つため、強力な前衛部隊を配置して火砲種の群れに斬り込み駆逐することで、制空権を確保する、といった戦術がとられている。
もちろん、飛行種ヴァルターに対しても、専門の駆逐部隊が存在する。

第262中隊は、その二つの任務を遂行するために存在する。

しかし、戦場の制空権を確保する以前に、その物量に押され、戦線の維持に手一杯でそこに部隊を投入する、という泥沼状態となっているのが現状だ。

だから、正真正銘の『火砲種狩り』はこれが久しぶりだ。


レーダーに反応があった。
前方に赤い点が現れ、その数は急速に数を増やしていく。
この三次元レーダーは、探知範囲が17キロという性能で、それがたった今17キロ先のヴァルター悌団を捉えた。

無数の赤点に近づくにつれ、己の内から恐怖が涌き出てくる。
本能が、己に「危険」を訴えている。

「ジーク・リーダーよりジーク。正面にヴァルター!繰り返す、正面にヴァルター!火器管制装置を起動しろ!」

これまでにない恐怖。
本能が逃げろと訴えていた。

だが池井はそれを捩じ伏せた。

その時、レーダーに新たな反応があった。

緑の点が後ろからいくつも現れ、あっという間に自分達の頭上を飛んでいった。

モニターにその正体が映った。

米軍のB5戦略爆撃機。
米空軍の戦略爆撃航空団のようだ。

「ボクサー・リーダーよりジーク・リーダー。米軍の露払いだ。幾分か楽になるぞ」

竹石中佐が軽口を叩いた。

しかし、悲劇は起きた。

目の前から進んでくる、黒々と大地を埋め尽くすように広がるヴァルターの悌団から、無数の光が、直角に近い角度で空へ伸びた。

「なッ…!?」
池井が呻く。見たことのある光だからだ。
次の瞬間、光が貫いた空で無数の大爆発が起きた。

恐れていたことは起きてしまった。
光線戦車型…いや、この角度レーザー照射は、レーザーを撃つタイプの火砲種…新種に違いない!

とにかく、恐るべき対空兵器を有したあの悌団に、航空攻撃は危険だ。
米軍戦略爆撃航空団は壊滅した。
これでは、作戦は…!

「シルバー作戦本部より現場の全部隊。作戦を続行せよ。増援の爆撃団を要請した。第262中隊は火砲種の掃討を優先せよ」

「こちらジーク・リーダー。小型種の掃討が…!」

「これは命令だ。1時間持ちこたえろ。この作戦は、特戦機部隊はおまけで主力は爆撃だ。わかったら従え!」

なんて傲慢な管制官だ…!
池井は唇を噛み締めたが、それを抑えた。
「…了解」

3ヶ月前 No.42

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

攻撃続行が伝えられ、第262中隊と第7連隊は引き続き進行した。

「ジーク・リーダーよりジーク!1小隊先鋒!3小隊右、2小隊左に展開!くさび型陣形だ!」

ヴァルター悌団へ突入するには、この陣形が一番だ。
そして効果的に悌団を掻き乱せる。

レーダーを見れば、第7連隊も同様に、中隊単位のくさび型陣形を敷いている。

さすがに連隊とあって、その陣形の数は多い。

連隊より先に突撃を開始し、火砲種を駆逐すれば、かなり楽になるだろう…。

「大尉!」

突然叫んだ田中中尉。その声は緊急事態を示していた。

「なんだ!?」

「米軍の特戦機がいません!」

「!?」

田中中尉の第2小隊は右に展開している。

事前に伝えられた作戦計画では、米軍特戦機部隊は南、つまり左の第2小隊の方向から現れることになっていた。

しかし、中尉によれば米軍は現れていない。

「ジーク・リーダーよりシルバー本部!」

即座に作戦本部を呼び出した。

「米軍はどうなってる!?」

「米空軍第88特戦機連隊は、現在発進が遅れ、30分以上の遅れが出ている」

嘘だ、と直感した。

恐らく、米軍はなるべく損害を出さぬ為に消耗を東日軍に任せ、最後の残敵掃討のみをするつもりだ…!

もし、発進の遅延が本当なら、我々に対する報告のひとつもないのがおかしい。

これが、もしレーザーによって爆撃団が全滅するか否かに関係なく…いや、違う。

"爆撃団が全滅したから"こそ、戦力を出し惜しんだのだ。

だが、だからと言って、逃げ出すことはできない。

こうなればやけくそだ。米軍が新しい爆撃団と特戦機部隊を送る前に、ヴァルターを食い尽くしてやる!

「ジーク・リーダーよりジーク!火器管制オート!ユニット最大出力!突撃だ!」

3ヶ月前 No.43

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

「ジーク・リーダーよりジーク。悌団突入後は各小隊長の指示に従え」

頭に血が登りながらも、池井は冷静に判断を下す。


「ジーク2よりジーク。接敵まで残り5、4、」

田中中尉の秒読みと共に、ヴァルター悌団の黒々とした大群が目の前に広がってくる。

行くな。死ぬぞ。やめろ。
本能が訴えかける。

関係ない。

「3、2、1、0!」

田中の0の声と共に、彼らはヴァルター悌団の只中へ斬り込んだ。

「1小隊!応戦しながら俺に続け!無駄弾は撃つな、中型種だけ狙え!」

110ミリ突撃銃を撃ち、最大速度でヴァルターの間をすり抜けていく。
目の前を塞ぐ巨人型や鬼型には110ミリ突撃銃が火を噴き、その身体を打ち砕いていく。

レーダーには、第7連隊も映っている。
レーダーを見る限りでは、ヴァルターを次々と撃破している。
腕は確かな部隊のようだ。

任務に集中する。
「どこだ、やつらは!?」

少しして、焦りの色が見え始めた。

火砲種が見当たらない。
やつらはかなり奥深くにいるようだ。

第2小隊、第3小隊も、まだ見つけられていないようだ。

任務の性質上、自分たちは火砲種掃討だけすれば後は撤退するだけでいい。第7連隊も然りで、ヴァルターの攻撃を陽動・吸収することで262中隊の支援をする。
つまり、自分たちが如何に早く火砲種を潰すかによって、味方の損害を軽減できるかが変わるのだ。

そして今、自分たちは孤立無援の状況下にある。

それ故に、焦った。

高度を上げて確認しようにも、上げれば酸の嵐。
しかしこのままいけば、火砲種を見つけられないまま擂り潰されるかもしれない。

一瞬、池井に危険な考えが浮かんだ。

それは、己の技量に賭け、己の信念を問う行動だった。

「ジーク・リーダーよりジークG1!俺が高度を取って上空から管制誘導する!1小隊機はそこへ向かえ!」

「しかし隊長!それでは撃墜される危険が_____」
誰かが即座に異議を唱えた。
ジーク4、第4分隊長だ。

「このまま無闇に突撃したってジリ貧だ!これは命令だ、従え!」

「…了解」

理不尽なものだ、戦場とは。
誰か一人が犠牲を払うことで勝つことあるとは…。
兵学校で教わった事には、そんな項はなかったのに…。

そう思った刹那、思考を切り替えた。

エンジンの出力そのまま、ユニットを下に向け、垂直に空へ飛び上がる。
高度は170。
視界の確保は充分だ。

案の定、酸弾の嵐はすぐに飛んできた。
まさに横殴りのスコールの如く、無数の緑色の液体が池井の迅雷に殺到する。

「当たるかよッ!」
ローリング機動で回避しながら、酸弾の発射箇所を特定すべく、探知センサーをフルに稼働させる。

通常、酸弾は自動回避システムを使うが、だいたいそれはパターンがあり、ランダムではない。
従って、パターンが読まれることもしばしばあり、それによって撃墜されることも少なくない。
迅雷は重装甲重防御の為、酸弾の5、6発は平気だが、他はそうもいかない。

だから、ベテランパイロットは手動制御での回避を好む。

池井もその一人だ。

「あたんねえよ…そんなモン!」

迅雷の運動性能は、他の特戦機より低い。
機体が極端に重いからだ。

しかし、池井のそれはそのハンデを感じさせなかった。

あまりにも、彼の操縦技術が優れていたからだった。

3ヶ月前 No.44

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

ローリング機動で酸の嵐を掻い潜るなか、きっちり任務は果たしていた。

「見つけた!」

遂に火砲種の位置を特定した。
モニター左上、レーダーマップに、黄色の点が出てきた。
火砲種だ。

酸の嵐はどこから飛んでくるのか、それを逆再生・追尾し、火砲種の位置を割り出す、この探知センサーの性能に感謝した。


「ジーク・リーダーよりジーク!火砲種の位置を特定した!全機にデータを転送する!」

ローリング機動で、強烈なGが掛かるなか、データ転送の操作をする池井。

転送ボタンが表示され、それを急いで押した。

と、同時に、一気に急降下し、地面すれすれで機体を引き起こす。
1小隊機が周りに集まり、まとまって火砲種のポイントへ急いだ。

レーダーを見る限り、第7連隊は割りと持ちこたえているが、心なしかさっきより若干減ったように見える。

突撃銃を撃ちまくり、強引に目の前の道を切り開いていく。
110ミリ弾が巨人型の手を、腕を、足を、首を粉砕し、重戦車型を蜂の巣にする。

池井が目の前の鬼型を撃ち倒した時、ようやく開けたところに出た。

目の前には火砲種がたくさんいた。
これだ。

「目標目の前!撃ち方始めェッ!」

262中隊はようやく火砲種集団と会敵した。
無数の火箭が、火砲種に集中した。
中砲型が胴体を粉砕され、重砲型が強酸発射器官を破壊される。軽砲型が一瞬で消え失せる。
当然、火砲種集団も黙ってはいない。酸を撃ちまくる。
しかし、262中隊の迅雷は、巧みな機動で酸を寄せ付けない。

しかし、数が多い。
予備弾倉も背部ソケットも撃っているが、全く減らない。
「くそっ、弾切れか!」
池井も何十体目かを倒したところで弾切れとなった。
そこで池井はあることに気が付いた。
酸を全く撃ってこないやつがいる。
あれはもしかしたらレーザーを撃つタイプではないかと直感した。

「1小隊!俺に続け!」
長刀を振るい、重砲型を斬り倒す。その死骸を踏み台にしてエンジンを噴かして飛び上がり、高速でその火砲種たちに接近した。

3ヶ月前 No.45

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

酸を撃ってこない火砲種の集団に突っ込んだ池井は、長刀を振り回しまくった。

長刀は次々に火砲種を切り刻んでいった。
重砲型の胴体を両断し、軽砲型を風圧で粉々に吹き飛ばす。逃げる中砲型に飛び乗り、刺し殺す。

斬っては飛び、斬っては飛びを繰り返しているうちに、池井の迅雷は血で赤く染まっていた。

突然、目の前に鬼型が現れた。
火砲種集団に混じっていたのだろう。

だが池井には全く関係ない。

そのままエンジン出力を最大にして懐に突っ込んだ。
鬼型は棍棒を振り下ろしたが、池井は長刀を振り上げてそれをもつ右手を切断し、それを下ろす勢いで鬼型を両断した。

そしてすぐに飛んだ。

もたもたすれば、そこにヴァルターは集るからだ。

飛んで、新たな敵を求めた。


味方も凄まじい。
「こちらジーク2。こちらの火砲種駆逐完了」
「こちらジーク3。こちらも火砲種駆逐完了」

駆逐開始からまだ数分しか経っていないのに、もう____。
池井は一瞬驚いたが…。
「了解。では1、2小隊は1小隊の支援を頼む。こちらの担当する火砲種集団の数が多い」
「ジーク2、了解しました。至急支援に向かいます」
「ジーク3、了解」
頼もしいやつらだ…。

池井はそう感じながら、火砲種ヴァルターを切り刻んでいった。

「隊長!奥になにかいます!」
重砲型を斬り倒した瞬間に、田中の緊迫した声が流れてきた。
コードも言わない辺り、相当な緊急事態なのだろう。
「ジーク2。なにかとはなんだ」
「ぐ、列車砲(グスタフ)型です!何匹もいます!信じられない…!」

無理もない。これだけ巨体な悌団なのだ。
列車砲型の一匹や二匹、いるに決まっている。

しかし、その認識は間違っていた。

レーダーを見れば、列車砲型の反応は10以上を数えてい
る。

「…!?」
なぜ、こんなに___!?

戦闘経過から言って、恐らく各機の弾薬残量は残り三割弱、燃料もそこまで期待できないだろう。しかも、披撃墜機も出ている。
それに、第7連隊も善戦してはいるものの、相当な損害を受けている。

しかし、ここで撤退すれば_____

「中隊全機、俺に続けェッ!」
考えるより先に体が動いた。


目の前の列車砲型を殺せ、と闘争本能が喚く。

「でええええい!」
長刀を投げ飛ばし、黒々とした列車砲の皮膚に突き刺さる。
血液が滝のように溢れ出る。
長刀が刺さったところへ、池井の迅雷が猛速で突っ込む。
両手には脚部に収納されていた短刀が握られている。
列車砲型の皮膚に足が着き、膝を折り曲げた瞬間、両手の短刀が列車砲型の皮膚を、長刀を中心に十字に切り裂いた。
そのまま短刀を背部ソケットへ収納し、突き刺さったままの長刀を握り締め、一気に肉を抉った。
列車砲型の苦悶の呻きがどよめく。
その巨大な傷口に、田中が突っ込み、突撃銃の銃口を押し付けて連射した。

3ヶ月前 No.46

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

列車砲型の断末魔が大気を震わせた。

装甲に覆われた迅雷のコックピットにもそれは響いた。

その時、司令部無線から音声が流れてきた。

「シルバー作戦本部よりジーク及びボクサー。米軍爆撃団が到着した。速やかに撤退せよ。爆撃終了後は米軍特戦機部隊が掃討作戦を展開する」

「ジーク・リーダー、了解」
池井は即答する。
「ボクサー2、了解」
若い男性の声だった。

おかしい…ボクサー・リーダーは…竹石中佐は…!?

「ジーク・リーダーよりボクサー。ボクサー・リーダーはどうした!?」
「ボクサー2よりジーク・リーダー。ボクサー・リーダーは…竹石中佐は戦死されました…」

間に合わなかったか…。
「了解…」

「隊長!」
田中の声。
「現在、我々はヴァルター悌団の包囲下にあり、脱出は容易では____」
「残存機数は15機か…。これだけの死闘で3人だけってのは、運がいいのか悪いのか知んねえな…」
残った彼らの迅雷は、背中を合わせた。
レーダーを見れば、火砲種駆逐のためにヴァルター悌団に深入りしたようだ。
「隊長…?」
田中が怪訝な声を出す。
「なあジーク2。脱出は…撤退は容易じゃないと言ったな?」
「…はい」
「諦めてないよな、みんな?」
試すような口調で問い掛けた。
「当たり前です!」
「死にたくありません!」
「まだ諦めませんよ!」
口々に皆言った。
「だろうな…」

全体の弾薬は2割を切っている。燃料も乏しい。無事な機体は池井と田中ぐらいだ。

池井は腹を決めた。
「これより我が中隊は敵の包囲網を突破、基地へ帰投する。俺はお前らの技量を信じている。これ以上誰一人として欠けることは許さねえ!俺らに損害押し付けて良いとこどりしようって連中に目にもの見せてやれ!」
「おう!」
「やってやる!」
彼らは吼えた。
「いけええええええええ!!!!!!!」

池井の迅雷が急加速し、目の前の重戦車型を斬り裂き、それを踏み台に高度を取った。

3ヶ月前 No.47

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目の前の中型種や戦車種を斬り伏せ、小型種を蹴り飛ばす。
前も、右も、左も、後ろも、全くヴァルターを寄せ付けない。
262中隊は、隊そのものが巨大な弾丸の如くヴァルターを蹴散らし、包囲網を突き抜けていく。

「邪魔だああああ!!!」
中隊の先頭にいる池井の長刀が一閃し、巨人型の胴体が、腕ごと横に両断される。田中の迅雷が突撃銃を連射し、鬼型の上半身を打ち砕く。
巨人型を2体串刺しにしたところで、池井は強敵の存在に気がついた。
距離はおおよそ200メートル。
白煙に覆われてよく見えない。
しかし、城郭のように巨大な体躯、カブトムシのような輪郭____間違いない!
「ジーク・リーダーよりジーク!中隊正面、要塞型(フォート・タイプ)!」

弾薬は恐らくゼロに近い。迂回していくほど燃料に余裕はない。
突っ切って行くには巨大過ぎる。
倒すしかない。
「1小隊目標、正面の要塞型!2、3小隊は1小隊が時間を稼ぐ間に包囲を突破せよ!なにも考えるな、目の前の敵だけ撃て!」
脱出点まで、あと3000。
こんな前の方に要塞型が出てくるのは、恐らく先ほどの第7連隊に対応するためだったのだろう。その証拠に、周囲に第7連隊のものと思われる特戦機の残骸が落ちていた。
「しかし隊長!それでは1小隊が!」
田中が心配する。
「文句を言うなら脱出してからだ!それからなら幾らでも聞いてやる!」
「…了解」
不承不承といった様子で引き下がる田中。

1小隊は池井を先頭に要塞型に突撃した。
要塞型は頭のその巨大な二本角で、池井たちを砕かんと振るう。
池井たちはそれを回避し、ジーク4が突撃銃の一連射を放つ。
しかし、皮膚は硬く、110ミリ弾を弾いた。
「まさに要塞…!」
狼狽えるジーク4。
「だが足は遅い!」
池井の迅雷は、頭目掛けて長刀を振り投げた。
三四式長刀の重量は約7トン。迅雷の腕部パワードモーターの最大出力は50トン。更に遠心力と重力で威力を増した長刀は、要塞型の皮膚を貫いた。
「でいやあああああ!」
喚声と共に要塞型の皮膚に着地すると同時に長刀を更に押して深く突き刺した。
それから横に力を掛け、一気に肉を抉った。
赤々とした肉片が飛び散り、大量の血飛沫が宙を舞い、血に染まった長刀が現れた。
要塞型の頭に黒々とした穴が空き、そこへ突撃銃を持った迅雷が110ミリ弾を撃ち込んだ。

要塞型は絶命した。

3ヶ月前 No.48

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

絶命した要塞型の屍を踏み越えた彼らは、眼前のヴァルターを斬り伏せ、撃ち砕きながら脱出点を目指した。

「こちらジーク2。第2小隊、包囲網を突破しました!」
「こちらジーク3、同様に第3小隊も包囲網を突破しました」
「ご苦労。速やかに帰投し、休息をとってくれ」

どうやら、無事に着いたようだ。

だが問題は、自分たち第1小隊だ。

燃料、弾薬共に尽きる寸前、疲労は限界、機体も限界…。

しかしそんなもの関係ない。

修羅の如く戦い続け、血を浴び、肉片を喰らいながら眼前の敵を斬り倒していく。

そうして、ようやく彼らは脱出した。

「…ジーク・リーダーよりシルバー作戦本部。我々は悌団から離脱した」
「了解。爆撃を速やかに開始する」

どうにか窮地は脱した。
後は基地へ戻るだけだ…。

そして、ようやく基地へ帰った彼らに、吉報が届いた。
「爆撃に成功した」と。

3ヶ月前 No.49

彗星 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

「17万体中、5万体弱を撃破か…」
自室にてシルバー作戦の最終結果報告書を受け取った池井は、素早く読み取った。

「悌団は未だに11万体以上おり、ザバイカリスクへ向けて東進中…か」


今回の作戦で、262中隊は相当な犠牲を払った。

隊員18名中、4名が未帰還、3名が負傷。
対ヴァルター戦争では、未帰還とは戦死と同義である。

262中隊の戦力は12機となった。

恐らく、しばらくは出撃はないだろう_____。

「また、仲間を失った…」
池井の精神的ショックは大きい。

理不尽な命令で戦友を失い、理不尽な罪を着せられ、悲しみに明け暮れたあの時。
それと同じ状態となりかけていた。

ドアをノックする音が聞こえ、次いで声が聞こえた。
「大尉、いらっしゃいますか?」
田中だ。
「ああ、入れ」
「失礼します」

室内に入ってきた田中は、一束の書類を持っていた。
「新型機についての概要書です」
新型機…?
とりあえず受け取っておこう。
「わかった。目を通しておこう」
「では、失礼します」
田中が部屋を去った。

机の上に置かれた書類の束を手に取る。
一番上の題字には、【三式特戦機『烈風』の概要】と書いてある。
機体レイアウトが載っていたが、それを見る限りでは月龍を多少大きくしたくらいにしか感じない。
恐らく、月龍の後継機なのだろう。
運動性能は月龍と同等、装甲は迅雷と同等、武装はそれ以上…。
間違いない、使える。
迅雷の重装甲、月龍の運動性能を合わせたら、まさしく最強だろう。

問題は操縦性と生産性、そして新型の六八式エンジンの信頼性。
どんな名機でも、操縦性が悪ければ使い物にならないし、数を揃えられなければ結果は変わらない。そして動かなければただのガラクタなのだ。
だが、運動性能の証明がなされているということは、それなりに操縦性がよいのだろう。

となれば、後はエンジンと生産性だ。
新型機にエンジンの問題は付き物だが、今はそれすら許されるものではない。
案の定、下の方の注意項目に、「エンジンの信頼性に不安あり」と記載されていた。
生産性はそこそこのようで、月龍五二型と迅雷三二型の部品を流用しているため、互換性が高く、生産性は申し分ないようだ。

_______なるほど確かに、この二種類の特戦機の部品と設計を流用することで、開発期間の短縮と生産性の向上を図ったのなら、これこそ戦時大量生産に向いていると言える。

そして最後の項目、優先配備部隊の欄に、池井は驚愕した。
「最優先に…俺たち…!?」

3ヶ月前 No.50

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

大きなオフィスに、70人ほどの人間が詰めている。
ある者は人を集めてなにかを説明したり、ある者は定規を使って紙に線を引いている。

その紙に描かれているのは、特戦機だった。

ここは、東京第一設計局。
各企業の特戦機技術者の中から優秀な者を選び抜き、集めた特戦機設計局だ。
特戦機登場当初、軍は開発を各企業に任せ、それらを競争させるとでより良い特戦機を採用するという方針を執っていた。
しかし、それでは一長一短な特戦機が出来るばかりで、総合性能の向上がうまくいかないことが判明したため、『ならばある部門の最優秀を集めれば、そこでうまく最高の特戦機が出来るのではないか』と軍は考えた。

そうやって誕生したのが、この東京第一設計局だ。

その東京第一設計局____通称『東一』の設計機第一号、二式特戦機はテスト時に中途半端な性能であることがわかり、改修をいくらしても殆ど性能向上が認められないことから開発を破棄。練習機として運用されることとなった。

一時はこの大失敗で、東一の解体が囁かれたが、1年後に新型機の開発に成功した。
その名は三式特戦機『烈風』。
一式特戦機『迅雷』と、その前作である零式特戦機『月龍』の長所を合わせた、世界随一の性能を持つ特戦機だ。
尤も、まだ戦場に出ていないため、カタログスペック上の話だ。

だが、これもまだ『継ぎ』の1つだ。

こうして設計開発をずっと続けていれば、その分に使う資金が相当な物となり、いずれ生産に余裕が出せなくなるのは自明だ。
ならば、何年、何十年先も生産し、運用出来る超高性能量産型汎用特戦機を開発すればいい、という思想だ。

今、設計されているのは、上記の機体のプロトタイプであり、地固めやデータ収集などを目的とした特戦機だ。

上記の機体を簡素化し、整備性、稼働率を高めた特戦機も考案されている。
これはインドなどの後進国など、技術力が低い、生産が可能でも独自に開発が出来ない国に向けた、いわゆるライセンス用の機体だ。

更に、重火器を固定装備とし、範囲制圧を目的とした中距離支援用特戦機、大口径無反動砲を搭載した長距離支援用特戦機なども設計している。

これらの特戦機が揃えば、ヴァルターに奪われた中東、アフリカを取り戻せるかもしれなかった。

3ヶ月前 No.51

天雷 @kgb☆YV/LbxVUS0Pr ★Android=0bca4o0hXK

『第262特戦機甲中隊に明日、新型機及び補充要員を送る』
昨日、池井の元に届いた司令部からの通達文書である。
262中隊は、数日前の戦闘で、6名が戦線から離脱した為、しばらく前線に出れていない。
戦線司令部としては、2個小隊程の戦力となった中隊を使い潰してしまうわけにはいかないので、戦力が整うまではザバイカリスクに進撃中のヴァルター挺団への攻撃には使いたくない、ということだろう。

新型機というのは、恐らく烈風のことだろう。
しかし、量産開始からそこまで時間が経っておらず、試作機も含めた18機の烈風が配備されるとのことだ。

「…試作機ねえ…」
月龍のシルエットを踏襲し、新型装甲を装着することで重装甲軽量化に成功し、若干の大型化に留めながらも性能は月龍と迅雷の合成…。
カタログデータは現時点で世界最高違いない。
米軍の現主力機、F29ヘルキャットは重装甲と高速力、安直な操縦性で評価が高いが、運動性は相当悪い。
中国の殲57は、生産性重視で、性能はソ連のMIG34の廉価版といった感じだ。
西ドイツのMe623グスタフが、烈風と同等の性能ではなかろうか。

なんて考えたところで、池井は考えを断ち切った。
「…ま、考えても仕方ないよなぁ」
わかりきった答えだ。
カタログデータはカタログデータでしかなく、所詮は訓練次第なのだ。
訓練しなければ、特戦機は動きもしない。
今は、部隊の練度向上に努め、本土の家族のために精一杯生きることが先決だ_____。
そう思いながら、池井はブリーフィングルームへ向かった。

2ヶ月前 No.52
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