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幸福

 ( 真・恋愛小説投稿城 )
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参音寺 幾美 ★3mizm4nShH.

 始まりは、雨。

 昼過ぎから、突然の大雨。傘を忘れて、困っている男子が、やたらそわそわと私たちの中学校の昇降口を行ったり来たりしている。
 余程あせっているのだろう。顔がどんどん暗くなっていく。
 意を決した私は、彼に勇気を振り絞り話しかけた。
「傘、無いの? いいよ。私の傘おっきいから。送ってってあげるよ。なんか、焦ってるんでしょ。約束でもあるの?」
 私が聞いたら、そいつは子供みたいな笑顔でありがとうと言ったとたん、傘の中に飛び込んできた。
 背は、私よりも低い。私の身長が161という中学一年生の女子としてはかなりの高身長だという理由もあるが、身長差は十センチ以上もある。
 こいつ、どんだけ小さいんだ。
 そう呟きながら雨の中を二人で歩く。こんなやつ、同じ学年にいただろうか。休み時間等、廊下で見かけたことがあるような気がする。
 歩きながらの沈黙。けれど、その沈黙を破ったのは私だった。

「名前は?」
「おれ? えっと、稲垣彰ってんだ。一年二組のアイドル。いやスターだね。宜しく!」
 何なんだ、こいつは。自信過剰もほどほどにしておけよ。
 喉元まで出かかった言葉を全力で止める。変な奴と関わってしまった。
 心の中は後悔でいっぱいだった。 
 ふと、視線を感じて隣を見ると、アキラの視線は私に突き刺さっていた。こいつ、可愛い。
「何? どうした?」
「おまえは?」
「は、何が。何なのよいきなり……」
「だからさ、ほら。あれだよ。名前。お前の名前何て言うの?」
「末永樹。男みたいな名前でしょ? 恥ずかしいから、絶対名前で呼ばないでよ」
 顔を赤らめて言うと、アキラは頭をぶんぶん横に振った。一つ一つの仕草が可愛い。
 自分が可愛いものが好きなんだと自覚した。我ながら、自分のことなのに気付くの遅いなあと思う。
 頭をぶんぶん振っていたアキラが顔をあげ、例えるならばキラキラした目をこちらに向ける。
「いいじゃん。いい名前じゃん。イツキって、いい名前だよ。カッコいいよ。俺だって、アキラなんて女にもいそうだしカッチョワリィじゃん。あ、おれの家ここだから」
「え、あ、うん。じゃあね」
「おう! ありがとな、イツキ」
「名前で呼ぶな。呼ぶな」

 彼はもう家の中に入ってしまった。
 出会いは、最悪なのか、最高なのか。
 私の胸にあるのは、なんともいえない幸福感だった。


2008/11/19 22:02 No.0
メモ : 参音寺☆lW1vUp7.L7U★Cv4FgmuLdyE

>>2に書いた挨拶をここでもさせていただきます。


ここ、真・恋愛小説投稿城にて小説を書かせていただきます、

参音寺 幾美(さんのんじ いくみ)と申します。

挨拶や、新記事を作る場合などは参音寺 幾美として投稿させていただきますが、

普段の小説の投稿では参音寺とだけ名乗らせていただきます。

いずれにしても同一人物です。


この小説は、自信の持てるような作品に仕上げていくために、私も全力を尽くしますが、

ここ、真・恋愛小説投稿城に相応しくないと思われた方がいらしたら、遠慮なく申しつけてください。

私はまだまだ未熟かもしれませんが、もしもこの小説を読んでいただけたら、

感想、もしくはアドバイス、何でもよろしいのでこの記事に足跡を残していってください。

更新はかなりの亀となりますが、どうか、最後まで続けていきたいと思いますので、最後までよろしくお願いたします。


誤字報告


 >>12 「上履きを抜いて」→「上履きを脱いで」


 >>13 「膝まづいている」→「跪いている」です。


 情けない誤字報告をさせていただきました。申し訳ないです。


=お知らせ=

 

 一時、やや更新休止とします。

 夏までには復帰するかと。私情で申し訳ないです。

ページ: 1


 
 

参音寺 ★3mizm4nShH.

 また、朝がきて学校に行ったけれど、気分がもやもやしていて何かスッキリしない。
 気にしないようにしていたけれど、やはり気になってしまったため、自称一年二組のスターもとい、稲垣彰へと会いに行った。
 一人で歩く廊下というものは、あまり好きではない。何か、周りの世界が違って見えるからだ。
 けれど、自分のクラスである六組と二組の距離は意外にも遠かったため、歩いている時間がそもそも苦痛だった。
 二組に着き、中をそっと覗いた。アキラは、大勢の男子の輪の中の中心にいた。楽しそうに笑い合っていた。
 そういうところを見ると、やはり男子は良いなと感じる。

 アキラは、低身長が故、自分よりも背の高い男子に囲まれてしまえば見えなくなってしまう。けれど、声は確かにアキラだ。
 よく通るハスキーな声で、中心にいるものがアキラだと分かる。
「お、イツキ! イツキじゃん。どうしたんだよ」
 輪の中の中心で手を振りながら叫んだものだから、男子の集団が一斉にこちらを振りかえる。
 驚きのあまり、少しおろおろしていると、アキラがこちらにむかって走って来た。
「なんで来るのよ。暇つぶしに覗いただけなんだから。あーもう。すごい恥ずかしかったじゃない」
「いやいや、学校でイツキを見かけんの、何か初めてだったような気がしたから。ちょっと、嬉しくってさ。ついついやっちゃったんだ」
 照れくさそうに笑った。
 アキラは、やっぱり小さい。恐らく、150もいっていないのだろう。
 その体格、その性格、その仕草。すべてがとても可愛い。
 野球部なのだろう、頭は坊主頭だったが少しだけ伸ばしたような髪型だ。
 ユニフォームを着ている姿を想像すると、よく似合っている。想像のアキラもまた可愛かった。
「あれ、六組の末永じゃない?」
「え、まさか彰とそういう関係? うわ、青春してるね」
 男子たちの視線が突き刺さる。
 肩までくらいのストレートな髪、割と自信のある大きな目、平均よりいくらか細い体。
 それらを見て、一人の男子が笑いながら言った。知らないやつだ。
「末永って子、なかなかだよな。羨ましーぞ彰!」
 男子たちからの冷やかしがあった。
 その言葉たちに少しドキドキして、顔を紅潮させうつむいてしまう。まるで、自分が本当にアキラのことが好きになってしまったようだった。
 アキラの反応は、と気になって顔を上げれば、アキラは笑っていた。
「んな関係じゃねーって。昨日、たまたま傘に入れてもらったの。そんだけ」
 男子たちから、また冷やかし混じりの歓声が上がった。
 ひそひそ言うものの声や、大きな声で冷やかす者の声が、一つ一つしっかり耳に入ってくる。
 こういうところが嫌なんだ。男子というものは。
「みんながうるせえから、戻るわ。じゃあな。昨日はありがと」
「あ、うん。ごめんね邪魔しちゃって」
 アキラが戻ってしまったのが、ほんの少しだけ悲しかった。
 けど、これで胸の中のモヤモヤがすっきりした。
 教室へ帰ろうと、そっと振り返れば、にんまりとニヤケた顔をした由美がいた。
「なになに、あの男の子、かーわいい。へえ、ついに出来たんだカレシ」
「ば、ばか。そんなんじゃないってば。そんなんじゃないよ」
 由美こと、萩原由美は恋愛に関しては鋭いやつだ。キツそうなツリ目や、黒ぶち眼鏡。頭のてっぺんにおだんごのような髪形。
 そんな外見から、何となく変わり者。という勝手な思い込みをされて、浮いていた由美に話しかけたのは、今までで一番勇気を振り絞ったことだった。
 あの時のことは、多分一生忘れられないだろう。
 声をかけた瞬間、優しそうにやわらかく笑った由美の顔は、今でも鮮明に思い出せる。
 彼女は私のことをイッキと呼んだ。イツキが言いにくかったらしい。その呼び方も、私は気に入った。
 それから由美はクラスで浮かなくなった。私と一緒にいることで、よく笑う様になった由美をみんなは好きになったらしい。
 私にも、由美のおかげで友達も増えた。由美と私は、一般的に言う親友という存在だった。
 由美には、すでにカレシが居るらしく、私が男子としゃべっていると、すぐに恋の方向へ持って行ってしまう。
 あえて言えば、そこが欠点だろう。今も、そうだ。
「へえ、イッキも作れば? カレシ」
「馬鹿言わないでよ。まだ早いってば」

 口ではそんなこと言っているけれど、でも。
 心臓がドキドキして、止まらない。この変な気持に首をかしげ、由美と一緒に教室へ戻った。


2008/11/20 18:12 No.1

参音寺 ★3mizm4nShH.

第一話、二話を書き終えたところで挨拶させて頂きます。
遅くなりまして、大変申し訳ありません。
ここ、真・恋愛小説投稿城にて小説を書かせていただきます、
参音寺 幾美(さんのんじ いくみ)と申します。
挨拶や、新記事を作る場合などは参音寺 幾美として投稿させていただきますが、
普段の小説の投稿では参音寺とだけ名乗らせていただきます。
いずれにしても同一人物です。

この小説は、自信の持てるような作品に仕上げていくために、私も全力を尽くしますが、
ここ、真・恋愛小説投稿城に相応しくないと思われた方がいらしたら、遠慮なく申しつけてください。
私はまだまだ未熟かもしれませんが、もしもこの小説を読んでいただけたら、
感想、もしくはアドバイス、何でもよろしいのでこの記事に足跡を残していってください。
更新はかなりの亀となりますが、どうか、最後まで続けていきたいと思いますので、最後までよろしくお願いたします。

※念のためですが、小説の中で彰とアキラや樹とイツキは表記が違っていても同一人物です。

2008/11/20 18:23 No.2

参音寺 ★3mizm4nShH.

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2008/11/22 21:01 No.3

参音寺  ★3mizm4nShH.


 不良軍団により、学年の中で何人かが酷い目に遭わされている。
 ということは前から聞いていたので少しは知っていたけれど、それを目の前で見たのは初めてだ。
 上着を脱いで、制服の長ズボンから体操着の短パンに履き替えると、傷が露わになった。
「うわっ……」
 誰もがそっと息をのんだ。
 穏やかな顔をしていた私自身、傷を見たとたんに背筋が凍るような気持ちだった。
 赤紫色の花弁が修吾の手に、足に、あるいは顔に。こんなになるまで、彼は殴られたのだろうか。
 どのような方法で? 素手? 棒? ナイフ? いずれにしても想像の中の修吾も、目の前の修吾も見ていられない。

「修君」
 みなみの目には涙が浮かんでいる。大好きな彼氏がこんな目に遭っているのだ。みなみが泣くのも無理はないだろう。
 修吾は泣いているみなみをちらりと見て、そっと笑った。
「守ってやったぞ、みなみ。ごめんな、そんな顔、させたかったわけじゃないんだ」
 修吾の、傷だらけのブイサインが痛々しくて、私は目を背けてしまった。
 長い長い休み時間はようやく終わった。

「えっと、片山は保健室に行くそうだ。佐藤は付き添っている。みんなにひとつ、言っておきたいことがある。……やっかい事には首を突っ込むな」
 担任教師、南山啓。四十五歳がいう。
 ケイセンというアダながついている。
「どういう意味ですか?」
 磯辺がいたって真面目な顔をして聞いた。
 磯辺はこういうとき、怒ると怖い。相手が誰であろうと、ぷっつりキレてしまえば磯辺はもう人間ではなくなるというほど怖い。
 感情コントロールの下手な人間だった。比較的穏やかな私は磯辺のそういうところだけは好きになれない。
「片山のような犠牲者を増やすことになる」
「でも、修吾は佐藤のことを助けるために自ら飛び出したんだ。片山がいかなきゃ、犠牲者は佐藤だった。佐藤は女だから、修吾以上の傷を負ってたかもしんねぇ」
 確かに、その通りだと思う。
 修吾はある程度抵抗し、あの傷ですんだのだと思われる。なので、みなみがやられていればあの程度の傷ではすまなかったかもしれない。

「磯辺の言う通りだと思います。今度、もしも女子が襲われそうになったら男子が助ける。これは普通なんじゃないですか? 首を突っ込むのと、違います」
「そうそう、それに、首を突っ込むなっつっても、不良に目ぇつけられたら首突っ込むも何もないし」
 勇気を出して言った私の意見に、由美は賛成してくれた。
 私はそっと由美にウインクすると、由美は誇らしげに笑った。
「ああ、わかったわかった。せいぜい、不良に目をつけられないようにな」

 中学一年生の反論にあきれたかのように、ケイセンは軽く流した。
「それでは授業を始める」
 いつもの、一年六組だった。


2008/11/23 11:36 No.4

参音寺  ★3mizm4nShH.


「教科書の二十三ページを、そうだなあ。佐藤、読んでくれ」
「はい。えっと……どこからですか?」
「方程式を解くには、から始まるところから」
 指名されたみなみは、少し赤い鼻と目のまま教科書を読みだした。
 先生も、こんなときにわざわざみなみを指名しなくてもいいじゃないか。と心の中で毒づいた。 

 また、休み時間。少しだけ、アキラのことを覗こうと、私は二組の前に訪れた。
 アキラの姿はなく、ただ六組と同じように賑やかだった。アキラを探そうと、踵を返した。

「イッキ、誰を探してるの? まさか、男?」
「由美はうるさい。いいじゃない別に」
 由美には、いえない。まさか、アキラという低身長の可愛いやつのことが、知り合ったばかりとは言え気になって仕方がないなんて。
 絶対、恋だと言われる。私は、絶対否定する。これは、恋じゃない。
 ましてや、昨日会ったばかりのやつなのに、恋をするなんて、ありえないだろう。一目ぼれなんて、自分はしない。
「イッキ、あのさ、イッキが誰かのこと好きになったら私、全力で応援するからね」
「……ありがとう。でもね、本当に違うの。好きなんかじゃ、ないの」
 声が弱々しいというのは自分でもわかった。
 でも、堂々と言えない。おかしな、気持ちが。自分の中でぐるぐる渦を巻いている。

「藤井朱音って子、知ってる?」
「知ってる。あれでしょ、不良軍団の一人」
 藤井朱音は、私の塾友達で、由美とは学校が一緒の子だった。
 そんな朱音は小学生の頃は真面目な子だった。私ともそれなりに仲が良かった。けれど、両親の離婚など、複雑な事情から彼女は変わってしまった。
 変わってしまった彼女に、みんなの目は冷たかった。彼女に対する虐めが始まったのだ。
 その虐めによって、彼女は悪に染まってしまったのだった。
 自分よりも強いやつに必死でくっついて。
 虐めだって、リンチだって、彼女は時に目を背けながらやった。
 今ではもう、不良軍団の一員となってしまっている。世間の目も、彼女を恐れている。でも、朱音は本当は真面目で優しい、いいやつなのだ。
 染まってしまっただけで、朱音は、本当に――。
 今となっては、きっと誰も信じてくれないだろうけど。

「そう、朱音も可哀そうだよね。両親、何処で何してるんだか」
「あんまりそういうこと言わないほうがいいと思う。朱音にとっては同情に過ぎないよ、そんなこと」
「そうだよね」
 言ったあと、由美は得意のふわりとした笑みを浮かべた。
「なんでそんなこと聞くの?」
「えっとね、朱音は不良軍団の男たち、ほぼ全員と付き合ってるんだって」
「ええっと、それってフタマタってこと?」
「そう。二股どころじゃないけどね。びっくりしたでしょ」
 ビックリどころではない。昔の彼女の性格からして心底驚いた。
 今の彼女はハーレム状態となっているらしい。朱音が壊れていってしまうのは、見ていて辛い。
 何股もかけていたら、その内自分が誰が一番好きなのか分からなくなってしまいそうで、私には絶対にできない。本命一筋で十分だ。
「驚くよ、そりゃ。そういえば、本命はだれなの? あの、リーダー的存在のでっかい人?」
「ごめん、それはさすがに分からないや。朱音の心に聞いてみなくちゃ」
「そっか、そうだね」
  

 そんな会話をした後に、ふと廊下に目を移す。
 何かおかしな雰囲気の朱音と一緒に歩いているのは、背の低い少年。
「アキラ……?」
「あれ、まさかあれ朱音の本命だったりして!」
 見たくない。まさか、あの二人が。信じたくない。
 洩れて聞こえてくる言葉を、聞きたくない。
「好きだよ、彰君」
 確かに聞こえた、朱音のひとこと。それに、照れくさそうに答えるアキラの顔は、やっぱり可愛かった。
「俺も、だよ」

 世界が、割れた。
 そんな、感覚。

2008/11/23 18:03 No.5

参音寺  ★3mizm4nShH.

 
 信じられなかった。信じたくなかった。心底驚いた。
「アキラは、朱音のことが……」
 アキラは知っているだろうか。朱音が何股となくかけているということを。
 アキラは知っているだろうか。朱音がどんなやつなのか、ということを。
 知っているだろうな。アキラは、あの性格だから、好きになったらずっと一図にその人を見つめていくんだ。
 だから、朱音のことはみんな知っているだろう。けれど、その上で好きになったのだろう。
 そうだ。絶対そうだ。だから、アキラと朱音を引き離すことなんて不可能だろう。
「イッキ、どうした?」
「え! いや、なんでもないよ」
 
 だめだ。込み上げてくる。汚い感情が。
 だめだ。抑えきれない。好きだ。好きだ好きだ好きだ――!
 認めるよ。私は、昨日会ったばかりの少年に恋をしたよ。好きになったよ、アキラ。
 懐かしいような感覚。ひとめぼれなんて、初めての事だというのに。
「あ……、アキラ? 朱音?」
 ゆっくりと、幸せそうな二人に歩み寄った。たぶん、作っている笑顔は引き攣っているだろう。
 二人は平然とした表情で私を振り返った。
「おう、イツキじゃん。どうしたの?」
「樹、彰と知り合いだったのね。ふふ、見られちゃったかな」
「幸せそうだね。良かったね」

 作り笑いが空しすぎる。
 二人の笑顔が突き刺さる。
 後ろで、不安げな表情を浮かべている由美の視線も、突き刺さってくる。
 この世のすべてをもう、壊してしまいたい。そして、アキラだけ壊れた世界から取り除いて、また二人の世界を作りたい。
 もう、だめだ。気づいてしまったら、もう。
「えへ、そうなの。あたしたち、付き合ってるの」
「小学校の頃からだったっけな。たまたま道でばったり会ってさ」
 運命、という奴だったらしい。
 悔しくて、たまらなくて、自分を壊してしまうそうで。
 恋がこんなにも恐ろしいものだなんて思わなかった。知らなかった。……知りたくなかった。

「お幸せに」
 最高の作り笑いを浮かべて振り返った。
 由美の顔は、眼は、何か残酷なものをみたようなそんな虚ろな目だった。
 ――やめてよ。そんな眼で、そんな眼で私を見るなよ。その眼をどこか別の方向に移してしまえよ。
 頼むから、そんな顔しないでよ。お願いだから――。

「イッキ」
 私の名前を呼んで、由美はそっと私の手を握った。
 私の、右手に。由美の柔らかくて小さな両手が重なった。
「分かるからね。イッキ。我慢しないで。あたしが相談に乗ってあげるから。大丈夫だよ。稲垣君、いい人だし。えっと、あの」
「いいよ。ありがとう。フォローしてくれなくても大丈夫だよ」

 身にしみる優しさが、痛くて、辛い。
 ただひとつ、確かな感情。好きだよ、アキラ。……諦めないから。
 私は、私の幸福を限界まで求めてやるから……。


2008/11/24 13:15 No.6

参音寺  ★3mizm4nShH.

ふおおおおぉっ!
意味わからん叫び失礼しました。

この記事を支持してくださった方がいらっしゃったようで!
嬉しいです。本当にありがとうございます。
私も、一生懸命更新させますので、今後もよろしくお願いします!

2008/11/24 13:18 No.7

玲那 ★vU90JugAwPc

初めまして、玲那です。
そして先日は私の拙い小説にコメントを有難う御座いました^^

早速読ませてもらいました。
やはりこの掲示板に参加される皆さんはレベルが高いとつくづく感じた次第です。
参音寺様の描写、特に心理描写は大変参考になりますね。
実は恋愛小説苦手なので、是非参考にさせていただきます。

そして始まり方がいいですね。

「始まりは、雨。」

一気に惹き付ける文章の始まり方ではないかと^^

ピュアな樹ちゃんの恋が失恋ぽいようですが、きっとこの後、色々と展開が用意されているのだろうと勝手に想像しております。

心から楽しみにしてます。更新頑張ってくださいね。
それでは^^

2008/11/24 22:51 No.8

風歌☆BVK/yqzWseE ★4fxoOVq2PSs

告知の間から参りました、風歌(ふうか)です。
早速批評を。

「いいよ。ありがとう。フォローしてくれなくても大丈夫だよ」

 身にしみる優しさが、痛くて、辛い。
 ただひとつ、確かな感情。好きだよ、アキラ。……諦めないから。
 私は、私の幸福を限界まで求めてやるから……。

文章全体なんですが、会話文(「」を使っている文)以外、一マス開けていますね。
これは、段落を作りすぎているからでしょう。もう少し段落を減らしてみては?

心理描写がうまいですね。ただ、情景描写が少ないように思います。

…………それ以外、見当たりませんね。批評、ドドドドドド下手で……スミマセンww


では、感想に移りたいと思います。
樹ちゃん、失恋してしまったみたいですね。ここからどんな展開になるのか、楽しみです。
不良軍団にどなりたくなりましたよ、本気で。
もう、樹ちゃん頑張れー! 勝ってくれー!
↑の、無視して下さいww

これからも頑張ってください! 応援しています!

2008/11/25 17:43 No.9

参音寺  ★3mizm4nShH.

玲那さま>私のダメダメ小説を見て下さった上、感想までありがとうございます!

うーん、樹はピュアと言うよりもちょっと恋を特別視してる感じの子ですね。多分。
だから、壊れてしまえば壊れてしまうんでしょう。怖い怖い。

心理描写はとても書いていて楽しいのですが、情景描写が苦手で……。
つい疎かになってしまうんですよね。
私も怜那さまの小説を色々と参考にさせていただきました^^

始まり方は、私のこの悪い頭をひねってひねって考えました。
そう言っていただけて光栄です。

コメントありがとうございました。励みになります^^


風歌さま>批評ありがとうございます!
心理描写について、褒めていただけて嬉しいです。


情景描写は苦手なもので、つい疎かになってしまいがちなのですが、
やっぱりいけませんよね。気を付けます。ご指摘ありがとうございます。

ドドドド下手なんてことはないですよ^^

あと、会話文以外の一マス開けについてなのですが、
これは段落ではなく、小説の書き方のルールのようなものです^^。
なので、その部分だけは少し、失礼ながら言わせていただきました。すみません。

最後に感想までつけていただけて嬉しいです。
わざわざ有難うございました^^
参考になりました。


2008/11/25 18:51 No.10

参音寺  ★3mizm4nShH.

「ねえ、イッキ。稲垣君のこと好き……だったの?」
「分かるでしょ? 聞かないで」
 由美にさえ、冷たい態度をとってしまう。由美は寂しそうな顔をして首を竦め、俯いてしまった。
 悪いことをしてしまった。そう思ったけれど、謝る気にはなれなかった。
 昔から、自分はおかしいんだってふと思ってしまう時が何度かあった。その度に、胸が苦しくなって涙が出てきた。
 自分は、恋愛というものに怯えている。

 いつだったか、小さい頃だったと思う。かっこいい男の子に恋をした。初恋だった。
 その男の子は良いヤツで、誰からも好かれる。そんな存在だったため、恋のライバルはたくさん居た。その中の誰ひとりにも勝とうとは思わなかった。
 ただ、純粋に恋をして、その人を影からひっそり見つめて居られれば幸せ。そう思っていたけれど。
 小学校四年生のころ、何年も思い続けていた彼に彼女ができた。ライバルの内の一人だった。
 
 その時、胸の奥から込み上げてきた汚い感情。
 独占欲。なんて醜いんだろう。込み上げてくるのはそんなものばかり。嫌な、汚いものばかりだ。
「返せよ。私もアイツのことずっと想ってきたんだから。あんたなんかに渡したくない」
 叫んでいた。
 その直後の、あの子の瞳が。恐怖に満ちていたのは忘れられない。
 何か哀れな、醜いものを見るような眼をしていた。

 返せよ。アイツのこと、返せよ。あんたなんかより、絶対私のほうがアイツのこと好きなんだから。絶対にアンタなんかに負けないんだから。返せよ。なあ、返せ。返せ。返せ――!
 醜いだろう。
 哀れだろう。
 嘲笑ってくれよ。愚かで哀れな私を。最高に最低で、最低に最高な醜い私を見てよ。ほら、こんなにも……。

 その後、友達に励まされ、何度かの精神カウンセリングののち、私は学校へ復帰した。
「異常者だ」
「気でも違ったんだろう」
「可哀想に」
「近づいちゃだめ」
 そんな目で見られていたことを私は知らなかった。
 中学に入り、そんな過去を吹っ切り明るく過ごしていた。
 ほんの少しだけ学区の違う中学へ入り、おなじ小学校の人が指折り数える程しかいないところへ行った。
 小学校の頃の悪夢は、ようやく終わったのだった。

 それをまた、繰り返そうとしているのだ。
 私は、また。
「由美、私、自分が怖い」
「あ……。イッキ、ごめんね。あたし、力になれないかもしれない、けど……」
「ごめんね。私、由美には話せないことが昔あって。恋愛ってものに怯えてるのかもしれない。だから……、もし、私が朱音に何かしようとしてたら、絶対止めてね」
「うん、約束」

 交わした、約束。
 絡んだ小指の小さな温もり。


2008/11/25 19:45 No.11

参音寺  ★3mizm4nShH.

 もう、アキラのことは諦めようと思った。
 好きだと思う気持ちなんて、あっという間に消えてしまうものなのだから。
 まだ、アキラに伝えてない。だから、自分の中で落ち着けば良いことだった。

 また、始業のチャイムが鳴った。
 急いで教室の中へ入っていく人たち。私もそれにまぎれて教室に飛び込んだ。
 いつも通りの私でいなくちゃ。でも、あれ? いつもの私って、どんなだった? 私はいつも、どんな風に過ごしていた?
 解らなくなって黙り込んでしまう。同時に、うつむく。
 先生が私に近づいて、私の体調を心配してくれた。私は愛想笑いを浮かべ、保健室へ向かうため席を立った。

 一人になりたかった。
 それが一番の理由だった。

「あら、末永さん。どうしたの、具合悪い?」
 病気がちの私は、保健室の常連だ。先生にも顔を覚えられている。
 保健室の先生は優しくて、まだ若くて可愛い。大好きだ。
「あの、ちょっと気持ち悪くて。出来れば横になりたいです」
「そう、じゃあ熱を計ってね。そしたら少しだけ寝ようか。辛かったら早退してもいいよ」
 先生の柔らかい口調と優しさが胸にしみた。一層辛くなった。
 胸の中のモヤモヤをすべて吐き出してしまいたくなった。
「熱が少しあるわね。寝る? それとも帰る?」
「寝てれば治る。帰りたくないです」
 上履きを抜いて、ベッドによじ登るとカーテンを閉めてもらった。

 白い天井、白いベッド。先生の趣味なのか、掛け布団だけは派手なピンク色だ。ここにいることは多いため、この環境にも慣れた。
 ここで具合が悪い時うなっていると、次の休み時間では由美が来てくれる。その時間が学校生活で一番好きだった。
 何もすることがなくて、目をつぶった。
 そうすれば、浮かんでくるアキラの顔。アキラの声。朱音とアキラのツーショット。
 辛くて辛くて、涙が出てくる。
 保健室で一人で泣いている所なんて見られたくないから、うつぶせになって枕に顔を押し付ける。
 時折嗚咽が漏れる。情けない。

「先生、あのさ、俺熱あるかもー。具合悪い」
 保健室の入り口付近から飛び出してきた声。
「アキラ?」 
 思わず声が出てしまった。アキラにきこえていませんようにと願う。
 朱音と付き合っているアキラが。
 一年二組のスーパーヒーロー様だと言っているアキラが。
 クラスの中心的存在で明るくて、行動がとても可愛いアキラが。
 とてつもなく好きになってしまっていた。
 すると、聞こえてきた先生の声。やっぱり、誰に対しても優しくて明るく柔らかいしゃべり方だった。
「あら、稲垣君。またなの? 最近具合悪いこと多いわね。学校少しの間休んだら?」
「そりゃ嫌だよ。だってさ、俺ただでさえ馬鹿なのにさ。どんどんみんなとはなれちゃうじゃんかよ」
「へえ、真面目なのね。でも、こうして保健室にずっと寝てたら変わらないよ。それより、一日まるまる休んで、元気になってから学校来た方がいいよ」
 二人の会話が聞こえる。アキラは最近体調を崩しているらしい。野球部はほとんど休日も休みなしだ。
 磯辺も野球部だが、いつも部活がキツいといっている。私もソフトボール部に入っているけれど、そこまで練習は辛くない。
 やはり、野球部は熱血なんだろうと思った。

「あら、熱あるじゃないの。帰った方がいいんじゃないの?」
「寝てれば治る。帰りたくない」
 アキラの言葉を聞いて、先生はプッと吹き出した。
「あはは、稲垣君、末永さんと同じこと言ってるよ。面白い」
「末永……? え、あ、イツキ! イツキ居るの?」
 騒ぎ出したアキラに先生は人差し指をたて唇に押し当てた。
 息だけで静かにしなさいと叱った。アキラは苦笑いをして軽く謝った。
「末永さんは寝てるよ。そこの右のベッド」
 先生が言った瞬間、カーテンが開けられた。
 私はあわてて布団を頭の先までしっかりかぶった。頭の上からアキラの声がする。
「イツキ、だいじょうぶか? 具合悪いのか?」

 私の心臓は踊っている。どうか、この情けない顔を見られないようにしなくては。
 カーテンが閉められるまでの数秒間、私の心臓は激しくダンスしていた。


2008/11/30 12:47 No.12

参音寺☆gbC9zUE7YGY ★Cv4FgmuLdyE

 アキラが、保健室常連客だったなんて思いもよらなかった。なぜなら、あんなに元気いっぱいのアキラを見てしまったら、誰だって信じられないだろう。
 そして、私も保健室の常連だ。アキラと会える機会がまた増えたことがうれしかった。
 朱音には悪いけど、私は。私はアキラのこと、朱音から奪うつもりだから。奪う気まんまんだよ? 余裕ぶっこいてたら持って行っちゃうよ?
 込み上げてくる感情を、ぎりぎりで抑えて心の中で爆発させる。気持ちよかった。朱音が、今、憎くて仕方ない朱音が、私の心の中で私に膝まづいている。彼女を私が支配している。心地よくて仕方ない。

「あはっ、あははは、あはははは!」
 笑いがこみあげてきて、声を抑えてベットの上でのた打ち回った。
 ドタンバタンと白いベッドが小さな悲鳴を上げているけれど、先生も、隣で寝ているであろうアキラも気付かない。誰も、私に。
 カーテンの隙間に先生の姿が見えない。白いカーテンをちらりとめくっても、やはり先生の姿はなかった。
 どこかに行ってしまったのだろうか? でも、これは、チャンス。

 ベッドから起きだして、私は隣で寝ているアキラのベッドへ向かった。
 アキラのことだ寝ているだろう。そう思って、白いカーテンを開けてアキラのことを覗いてみる。
 アキラは見ていても気持ちがよいほどぐっすり寝ていた。チャンス、だから。
「ごめんね」
 謝罪の言葉。
 静まり返る室内。
 アキラの吐息が髪にかかる。その音だけが響く。アキラが、今、私の目の前。二人きり。眠っている。
 こんなチャンスって、もう、ないでしょう?
 冷静になれ? 嫌だよ。そんなもの、必要ないでしょう? 落ち着いた心も、その冷静さも、全部捨てたから。必要ない、でしょう?

 目をつぶって、アキラに向かって突き出した唇。
 アキラの吐息の音に重なった、チュッと軽い音。

「ごめんね」
 もう一度、謝罪の言葉。
 大丈夫だよね、こいつは、アキラはやさしいから。
 謝っても許してくれないような奴じゃないもんね。優しいんだもんね。
「ごめんね。朱音。ごめんね、アキラ」
 口に出したら、悲しくなってきた。心に少しだけ隙間があいた、その瞬間に。
 入り込んできたのは。罪悪感。
 孤独感、絶望感。なんだこれは。これらが私の心を支配していく。私の心を支配していたのは私のはず、なのに。なんで? なんなの、こいつら。出てけ。私の心から、出てけ。

 念じても、通じない。悲しくて、涙があふれてくる。
 自分はとんでもないことをしてしまったことに、ようやく気がついた。
 また、繰り返す。
 私は変わっていない。前のままの私と、何にも変わってない。

「ごめんね」 
 あふれ出す涙と、謝罪の言葉。止まらなくて、苦しかった。


2008/12/15 19:24 No.13

★wF4pUgwsjCg

図〜と更新ないんで…
それとも終わりですか?

2009/03/31 09:31 No.14

参音寺 ★Cv4FgmuLdyE

琴さん>コメントありがとうございます^^
 更新するの、忙しくてできませんでした。申し訳ないです……。
 まだまだ終わりませんよ^^
 それまでしっかり続けられるかどうか、あやしいですけどね^^;
 これからも頑張りたいと思います。
 更新はだいぶカメとなりますが、よろしくお願いいたします。


 誤字報告

 >>12 「上履きを抜いて」→「上履きを脱いで」

 >>13 「膝まづいている」→「跪いている」です。

 情けない誤字報告をさせていただきました。申し訳ないです。

2009/04/02 12:09 No.15

参音寺 ★Cv4FgmuLdyE

 今のことは、私だけが知っていること。私が忘れてしまえば、それでいい。
 そう思って、再びベッドへ戻って目を閉じる。
 思い出したらいけないのに。なんであんなことしたんだろう。
 後悔した。けど、幸福感も確かに心の中にあるのだ。複雑で気持ち悪い思い。

「イッキ、大丈夫?」
 バーンとドアを開けて入ってきた由美の明るい声に目を覚ました。
 私は眠っていたのだ。自分でも気がつかないうちにぐっすりと。
 目をこすって由美の顔を見つめると、いつもの笑顔がそこにあった。その笑顔に安心してほほ笑むと、由美も私と同じように笑った。
「大丈夫そうだね、よかった。心配でたまらなかったの」
「いつものことでしょ? 私は保健室の常連なんだから。ごめんね、体弱くって。いいなあ、由美は健康で」
 そうかなあと首をかしげた由美は、私の寝ているベッドに腰掛ける。
 隣のベットのカーテンはまだ閉まっている。アキラのやつ、呑気に寝てるんだ。でも、それは私にとっては好都合だった。

 彼は何も知らない。何も知らない。でも、それでいいの。彼が知らなくていい事ばかりなんだ。知らなくていい事。
 それを知らないんだから、わざわざ教える必要もないし、知らないことをどうこういう必要もないのだ。
 私はせめて、先ほどの自分の行為を自分の胸の中に秘めておくように注意するだけ。それだけでいいんだ。
「彰ぁ、大丈夫なの? 頭痛い? 熱あるの? 起きれる?」
 気持ち悪いくらい甲高く、甘ったるい声と喋り方。朱音だ。この気持ち悪く甘ったるい声にアキラは起こされたのだろう。可哀想に。
 朱音は最低なやつだ。ぶりっこで、気持ち悪い。昔はそんな奴じゃなかったのに。今の印象はそんなものだ。

「朱音だね。稲垣君、隣にいるんだ」
 黙って頷いた。それ以外に何も言えないのだから、うなずくだけでも十分だ。
 二人で黙って、朱音とアキラの会話をひたすら盗み聞き。
「あのさ、彰は浮気なんてしてないよね? あたしだけ、だよね」
 気持ち悪いくらいにぶりっこしてる。私は、こいつが嫌い。はっきり感じる。
 自分はどうなの? アキラをだけにそんなこと言いやがって。ふざけんなふざけんなふざけんな。
 自分の胸に手を当てて考えてみろよ。お前はどうなんだよ――!

 落ち着いて、耳を澄ました。聞こえてくる二人の会話。
「当たり前じゃん。朱音のこと、好きだから」
 アキラらしい、素直なことば。それは私に向けられているものじゃないの。分かってるのに。
 涙があふれてきそうになるのを必死でこらえて、ベッドをギュッとつかむ。ベッドが小さな悲鳴を上げる。
「嘘だあ。六組の末永さん。いいえ、樹とはどういう関係なのよ」
 私の名前。
 突然出てきた名前に驚いて、思わず声が出そうになる。両手で口を押さえてあわててそれを押し殺した。
 由美をちらりと見れば、真剣な目をして二人の会話を聞いている。
 私の名前が出てきたことを由美も驚いているようだった。けれど冷静な彼女は大してそれを表に出さなかった。

「イツキのこと? あれは、友達だよ。恩人っていうのかな? さっきもここで会った」
「ここ? 保健室? なら、まさかこの隣のベッドって?」
 恐る恐る朱音が問うと、アキラは至って普通に答える。
「そうだよ。多分。イツキも具合悪いんだってさ」
 朱音のやつ、焦ってる。いい気味ね。本当に、いい気味だわ。
 くすくす笑っていると、由美に見つかった。何笑っているのと注意された。
 
 友達、恩人。そんなイメージ? 私って。
 アキラは私のものにしてあげるから。浮気女。こっちへいらっしゃい?
 その自信に満ちた顔、ぐしゃぐしゃにしてあげるから。
 今はまだ。ね? いつか、いつかね。その時は、アキラは私のものになっていると思いなさい?

2009/04/02 20:45 No.16

参音寺 ★Cv4FgmuLdyE

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2009/04/21 10:51 No.17

参音寺 ★Cv4FgmuLdyE

あうっ! すっかり由美の存在を忘れていました……。
更新がカメすぎたのが原因かと。
>>17の三行目に、
「朱音が出て行ったことを確認すると、由美もふわりとした笑顔を浮かべ保健室から出て行った」
の一文を入れてくださるとうれしいです。
文章抜けということでよろしくお願いします。

本当にすみません。
前の文章の確認もせずに……。
それと、文章の小さなミスは記事メモにも載せていこうと思います。
ちなみに、一話一話に題名はありません。

この記事を読んでくださった方がいらっしゃったら是非コメントをお願いいたします。
暖かいコメントをお待ちしております。

2009/04/21 14:10 No.18

参音寺 ★Cv4FgmuLdyE

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2009/05/03 12:40 No.19

参音寺☆lW1vUp7.L7U ★Cv4FgmuLdyE

「好きな人って誰だよ」
 真剣な目が突き刺さる。私に。ちくちくする。気持ち悪い。
 彼の眼は真っすぐに私をとらえて、逃がそうとしてくれなかった。けれど、その瞳の奥にはきっと朱音の姿があるのでは、と疑ってしまう。
 だって、彼が好きなのは朱音なんだもの。私がどんなに君を好きでいても、それは空回りしてしまうに決まっているよ。
 だってじゃない。そんなの、言い訳に過ぎないのに。なのに。私はいつだって。
「好きな人なんていないよ。ウソウソ。冗談。そうでも言わないと納得しないでしょ? あんたも、美弥も。美弥にはちゃんと伝えておいてね」
 驚いたように大きな可愛らしい目を見開いたアキラが、ふっと悲しそうな顔をして再度私を見つめた。
 私に気づかれないように最大の配慮をして、それでも吐いた小さなため息に、私はt惑いを隠せなかった。
 私に、失望している? 見損なった? そんな。そんな……。私はこんな子じゃないんだよ。本当は素直で、もっと、もっといい子なのに。
 それなのに。貴方にもっと私の良い所見てもらいたいのに。できないのが悔しくて、悔しくてたまらない。
「嘘つくんだな。仲良しの美弥にまで、嘘つくんだな。嘘吐き。でも、俺には教えてくれないかな。本当の理由を。あるんだろ、他に」
 いつだって、私を疑わない、まっすぐな瞳。綺麗だった。汚い私と比例して、きれいだった。

「本当の理由? いいよ。教えてあげる。あのね、私は美弥の好きな人を知ってるの。だから、その子と付き合うべきなんじゃないの?」
「でも、美弥は今は誰とも付き合いたくないって言ってるんだぞ?」
「だからこそ、そこで私と振りなんかしちゃったら、その子が美弥のこと好きでもあきらめちゃうんじゃないの?」
 正論を並べたつもり。口から出まかせをどんどん出した。
 いつかバレてしまうだろうけど、その時はまた出まかせを並べるつもりでいる。
 そのたびにきっとアキラは私に失望するだろう。けれど、アキラは私を信じてくれる。信じていてほしいから。
「なるほど」
 それだけ言ってぱあっと顔を明るくした。
 可愛らしい八重歯がちらちらする。今すぐその薄くて小さな唇と私の唇を重ねてしまいたいのに。
 そんなこと出来る勇気なんてないから。
 私は我慢の連続で、我慢して我慢して、我慢して。爆発しそうなほど我慢して。もう嫌になるまでは我慢するつもり。
「あのさ、朱音のことなんだけど、ちょっと話聞いてもらってもいい?」
 突然切りかえられた話題に戸惑ったが、愛想笑いを浮かべごまかした。
 いいよと笑って、彼を安心させてあげた。ふわりと彼も、私に向けて笑った。

「朱音が浮気してんの、俺知ってるんだ」
 それだけ言って、堪えた涙と震える拳。今すぐに。今すぐ抱きしめてあげたい。
 心の中で叫んでも無駄だったのに。
「それでも俺、あいつのこと大好きなんだ」
 その時、私の中で何かが音をたてて崩れてしまった。気がした。

2009/05/05 12:39 No.20

参音寺☆lW1vUp7.L7U ★Cv4FgmuLdyE

 

 そっか。そうなんだ。朱音のこと大好きなんだね。アキラのバカ野郎。
 二股かけられてるの分かっているくせに。
 自分が本命なのかどうかなんてわかってないくせに。
 不安に押しつぶされそうになっているくせに。
 保健室に来ている理由の一つになっているくせに。
 なんで? 私なら、アキラをそんなに追い詰めないのに。一緒にいられるだけで構わないから。それだけで幸せなのに。
「アキラぁ。そんなに朱音がいいの? 私じゃダメなの?」
 何でなのか分からない。朱音にそこまで魅力があるとは思えない。そりゃあ、ちょっと可愛いかもしれない。ちょっとスタイル良いかもしれない。
 でも、不良軍団の中で唯一の女子で。性格も悪くて、二股女で。フタマタどころじゃないんだよ。知っているんだよね。
 けど、私がそれを言ったところできっと君はおれないと思う。
 それは、君がそれだけ朱音のことを好きでいるっていう証拠なんだよね。
 私は、それを分かってあげなくちゃいけない筈なのに。それは、分かっているんだよ。私だって、バカじゃないんだもの。
 でも、でも、出来ないんだから仕方ない。それは、私がそれだけ君のことを好きでいるって言う証拠なんだよね。
 それも私、ちゃんと分かってる。なのに、抑えきれない感情があふれてくる。あふれてくる。
 よりにもよって、それをぶちまけるのは彼に対して。君は、どんな反応をするのかな? 嫌な顔、するのかな。
「私じゃダメなのって、何? あの、さあ。俺、バカだから、何聞かれてるのかわからないよ。もっと詳しく言って」
 分かってくれなくてもいいよ。私がいけないんだから。

「ごめん、今の……忘れて。今のは無かったことにしてね。ちょっと嫌なこと思い出しちゃったの。なんでもない。ごめんね」
 カタコトになっちゃったかもしれない。けど、それでもちゃんと通じればいいや。
 今のは無かったことにしてもらおう。落ち着け。おちつけ。
 ごめんねアキラなかったことにして。見なかった。貴方は何も見なかった。それでいいよね。
「そっか。どうした? 熱でもあるのか?」
 いつもどおりのキラキラした笑顔を私に向けた。
 そんなにまぶしい笑顔を私に見せないで。お願いだから。
 君を見ていたら、自分の滑稽さが分かってしまうから。それがとても惨めだって私にはわかるから。
 気づきたくない。だから何も考えない。得意の愛想笑いを浮かべて、自分を隠した。
 私の愛想笑いは壁を作る力がある。自分と、見せかけの自分との間の、壁を。
「心配かけて、ごめんね」
「わあっ」
 それは一瞬のことでした。
 何が起こったのか理解する暇もありませんでした。
 だって、一瞬のことだったんですよ? 理解できる方が不思議です。
 今はただ、硬直状態。
 
 アキラがベットから立ち上がった拍子に、勢いが良すぎてつんのめった。
 転びそうになってるアキラを見殺しになんて出来ない私が飛び出した。
 私はアキラを、抱きとめた。その小さな体をしっかりと。
 実際抱きしめてみて、その小ささを身をもって感じた。私が大きいだけかもしれないけれど。でも、彼の小ささは心地よかった。
 私にすっぽり収まった彼は、頬を真っ赤に染めてうつむいた。その可愛らしさが異常だった。
 私もどうすればいいのか分からずじまい。
 このまま溶け合ってしまおうか? そんなことも口に出来てしまいそうな、空気。
 そんな中浮かんだ朱音の顔。大好きだといった、アキラの顔。目の前にいる小動物、もといアキラの顔が頭の中に浮かぶ。
 アキラの目に映るのは、映るべきなのは私じゃないんだ。朱音なんだ。
 気づいて、悔しくて、悔しくて、突き飛ばした。
 胸に抱いている彼が。愛しい存在が、憎らしくてたまらなくなった。なってしまった。だから、思い切り突き飛ばした。
 ドンっと響く、鈍い音。ベッドの角が尖っていることに気づく。
 白い床に倒れこむアキラを見て、私は戸惑うわけでもなく、ただ彼を冷たく見下ろした。
「ごめんね」
 あんたのせいだよ? 私を、私だけを見てくれるまでは、許さないから。
 頭を抱えるアキラ。きっと笑って大丈夫って言ってくれるって思ってた。でも、それはあくまで思っていただけ。
 予想に過ぎなかったことを私は後で知ることになる。


 

2009/05/06 18:16 No.21

参音寺☆lW1vUp7.L7U ★Cv4FgmuLdyE

「なんか、鈍い音したけど、何かあったんですが先生」
 不思議そうな顔をして出てきたのはみなみだった。
 修吾の付き添いをしたままずっとそこにいたのだろう。
 私はその存在にすら気付かずに、アキラとの会話をしていたなんて、恥ずかしすぎてもう目を背けたくなってしまう。
 けど、天然少女であるみなみはそんなこと気付いてもいないだろう。
 問題は、修吾だ。寝ていてくれればいいのだけれど。
「え、と? 樹ちゃん。末永さん? どうしたの。これは……」
 みなみの顔から血の気が引いていくのが分かった。艶のある赤い唇の色すらも薄くなっていたのが見ただけでわかるほどだった。
 見られた。それだけが私の中で渦巻いてしまい、他はもうどうでもよくなってしまった。
 そういうわけにもいかず、私は平静を装って愛想笑いを浮かべた。
 冷静に平静に、笑顔で。それだけを意識して問うた。
「修吾はどう? 寝てるのかな。大丈夫?」
「え、う、うん。大丈夫だったよ。思ったより傷も浅かったし。薬塗ってもらったり、湿布張ったりして。それでもう大丈夫だって言われたの」
 本当にうれしそうにみなみがいうものだから、私は良心が痛んだ。悲しいと思った。
「って。ごまかさないでくれるかな? あのね、あたし心配してるんだよ、これでもさあ。……迷惑かも知れないけど」
 ごめんね、ってちょっとおどけて言えばいいのか。どうすればいいのか。私には考えても分からない。
 だって目の前で起きていることは、なかったことになんて出来るわけがないんだから。

 認めます。
 私こと、末永樹はアキラこと稲垣彰君のことを突き飛ばしました。
 なるべく、強く。深い傷が残るように。そんなことを咄嗟に考えることができる私は凄いのかもしれない。
 自分で思ってくすりと笑う。
「迷惑なんかじゃないよ。でもね、ひとつだけ頼んでもいいかな? ここで見たことは誰にも言わないで。今すぐカーテン閉めて。修吾にもなにも見せないで」
「えっ……?」
 じれったい。何で私がこんなことを一所懸命言わなくちゃいけないのか。
 みなみはなんでこんなにも物分かりが悪いのか。むかついた。みなみにも、むかついた。
 なんかもう、皆嫌だった。私はもう、生きているのすらも嫌になった。
「うるさいな。あんたはただ頷けばいい。あとはもうなにもするな。……失せろ」
 ゆっくりとした口調でみなみを責めた。ひたすら、ひたすら。
 みなみの丸っこいどんぐり眼にうっすら涙が浮かんだ。それを隠すように顔を伏せて、長いまつげが涙を覆った。
 分かったと言わんばかりに小さくうなずいて、さっきまでの気弱な表情とはうってかわって強気な目をぱっと上げた。
「わかったよ樹ちゃん。ここで見たことは誰にも言わない。ううん、可能な限り隠し通すよ。その代り、樹ちゃんお願い。これで最後にしてね」
 強気な目。大きなどんぐり眼だからこそそれが引き立った。
 ぞっと、のけぞってしまいそうなほどに迫力があった。足を踏ん張ってこらえる。にらみ返した。
「どういう意味よ。私にわかるように言ってくれないかな?」
 みなみは下がらなかった。さらに強気な目になって私をじっと見つめていた。
 一瞬たりとも、彼女が私から目を離すことなんてなかった。
「もうこんなことはしないでね。誰も傷つけないで。知ってるんだ。貴方の小学校時代のこと」
 
 足を踏ん張る力が、抜けた。
 私はみなみから耐えられずに目をそらす。

 この少女と私は小学校が違う。なのになんで。
 なんでこの子は私の過去を知っている?
 もうそれは数年前に終わったことのはずなのに。
 中学一年生になったとき、それはもう忘れてしまおうと頑張ったのに。
 あの時の私の苦労はどうなるの? それはこの子のせいですべてが無駄になるの?
 知っているのはこの子だけ? 違うとしたら、この子の周りの子たち、すべて?
 まず最初に浮かぶのは修吾だ。修吾は友達が多いんだからきっとしゃべってしまうだろう。かなりの大人数に。
 こんな面白い噂はないだろう。なら、なら……。

 ひょっとしたらこの学校も、昔の私の消えない罪を知っている?
 この場所も、私の敵なのか?

「みなみ、確認するよ。冗談ではないんだよね」
「当たり前。でも安心して。誰にも言ってない。本当だよ」
「……誰から聞いた。答えろ。十秒以内」
 みなみは顔を伏せ、ためらうように口ごもった。
 私の冷静なカウントダウンが始まると、苦しそうな表情をした後に叫んだ。
「あっ、朱音ちゃんっ!」
 顔を伏せて、ぎゅっと目をつむって叫んだ。
 名前を聞いた瞬間、私は知らないうちに拳をきつく握り締めていた。





2009/06/02 20:18 No.22

参音寺☆CaF1966CMCo ★Cv4FgmuLdyE

 足の力が抜けた。立っていられるはずもなく、情けないけど尻もちをついた。自分がいまスカートをはいていることなんて気にもせず。
 胡坐をかいて見上げるようにみなみを見つめた。
 握りしめたこぶしの中に爪が突き刺さる。痛い。痛いよ。
「朱音、ってさ。この学年に一人しかいない、あの朱音に間違いないんだよね。私と前に仲が良かった、あの子。今はアキラと付き合っている、あの子」
 みなみは何も言わなかった。ただ目をそらさずに頷いた。足がかすかに震えていたけれど、そんなことは私が気にすることじゃない。
「朱音ちゃんね、私にこのことを話したとき、凄く恐かった。あなたのことをまるで嫌っている様だった」
 知っている。あの子は私が邪魔なんだろう。
 きっとみなみにこの話しをしたのは最近だろう。
 そうだ、朱音は私とアキラの相合傘を見てたんだ。私たちの、始まりの雨を。朱音は全部知っていたんだ。
 朱音はこう考えたに違いない。
 みなみはきっと鈍感で愚鈍だから、あの子にこの話しをしたとしても重大さなんてわからないはず。広めて、って伝えれば、うわさ好きの修吾に伝わるんだ。
 そうして、樹の暮らしにくい学校の出来上がり。
 そうすればアキラはもちろん、彼女の友達もみんないなくなるだろう。
 きっと朱音は、そう考えた。
「朱音はちょっとミスったね。みなみはそんなバカじゃなかった。そしていま、私は朱音の計画を知った。これは朱音のミス、でしょうね」

 残念でした。貴方の思うとおりになんてさせませんから。
 残念でした。残念でした。残念でした。

2009/06/28 12:07 No.23

参音寺☆yIUBTGN7J.Q ★Cv4FgmuLdyE


「みなみ、わざわざ伝えてくれてありがとうね。でもね、今度朱音に会ったら伝えておいてくれるかな? みなみを見縊るんじゃねぇ。って」
「え、何それどういうこと? 喧嘩はしちゃダメだよ。そのためなら、協力なんてしないからね」
 みなみはパッと顔をあげて、私に反論した。
 でも、ちょっと強い口調で怒鳴れば、みなみは私の言うことを聞く。なんてこと知ってるんだから。
「関係ない。私の言うとおりにしてくれない? 喧嘩なんて、しないから」
 冷静に、静かに、そして強く。こんな話し方出来る人間、少ないと思う。
 見上げるみなみがすごくちっぽけな存在に見えてきた。その陰に朱音が、いる。みなみと朱音がグルかもしれない。
 そんな可能性、ないって言いきれないんだから。
 朱音は嫌いだ。前は大好きだったのに。あんなに好きだったのに。
 今の朱音は嫌いだ。朱音もきっと、私のことが嫌いなんだ。
 だけど、これ以上敵なんて増やしたくない。増やしたくないよ。
 だから私はみなみを信じよう。この不器用で鈍感なこの子を信じよう。朱音とみなみは、グルなんかじゃない。
 
「みなみ」
 立ち上がって、今度は私がみなみを見下ろす体制になる。
 みなみは背が低く、クラスの中でも三本の指に入るくらいだろう。
 クラスで一番背の高い私がみなみを見ると、見下ろすようになるのは仕方ないだろう。
「なに、樹ちゃん。怖い顔しないでよ。あたしこういう雰囲気苦手なんだから」
 けらけら笑って、その場を明るくしようとするみなみに少しだけいらっとする。
「私はみなみのこと、信じるよ。だから、この場のことは口外しないで。修吾はもちろん、誰にもね。言ったらただじゃすまさない」
 いつから私はこんなに性格が歪んでしまったんだろうか。
 そうだ、彼と出会ったせいなんだ。私は恋愛で人が変わるんだ。
 あいつのせいだ。そうだ。今私の目の前で倒れている、こいつのせいなんだ。
 こいつさえいなければ、朱音と不仲になることなんてなかった。
 こいつさえいなければ、みなみと気まずくなる必要もなかった。
 こいつさえいなければ、私は……私は……。

 こんなつらい思い、する必要なんてなかったのに。

 それだけがただ、悲しくて。
 アキラのことが好き、とか言っておきながら、何でもアキラのせいにしてしまう自分が嫌だった。嫌いになった。
「わかったよ。樹ちゃんを裏切るようなまねはしないよ。あたしは樹ちゃんのこと好きなんだから。修吾より、誰よりも。あこがれなんだから」
 みなみの言葉に、嘘はないと思った。
 目がそう言っている。目を見れば大抵のことはわかるんだ
 みなみのくせは、嘘を吐くときに目が泳いでしまうことなんだ。
 でも、今の目は泳いでなんていない。それに、まっすぐ私のことを見つめていて、その眼に全く揺らぎはない。
「信じるよ」
 本当の気持ちだった。
 嘘偽りのない気持ちだった。
 私もみなみのこと信じてるんだから。裏切らないでね、絶対に。
「でも、樹ちゃん、彰君はどうするの? こんなことになっちゃって」
「大丈夫だよ。アキラは他のベッドで寝かしておけばいい。うちの学校ベットたくさんあるんだから。起きちゃえば、誤魔化せるから」
 みなみは悲しい顔をして、そうなんだと相槌を打った。
 私らしからぬ発言だったのだろう。みなみの中では。
 自分でもそう思うよ。でもね、私はみなみの思っているほどカッコいい女じゃないから。
 期待はずれでごめんね。
「私、もう具合悪くなくなったから戻るね」
「うん。分かった。彰君のことは任せてくれて構わないよ」
 みなみには本当に感謝する。
 せっかく私のお見舞いに来てくれた由美も先に帰らしちゃった。
 みんなに、みんなに迷惑かけちゃった。ごめんね。

 私は、もう。どうだっていい。

2009/08/14 13:54 No.24

参音寺☆yIUBTGN7J.Q ★Cv4FgmuLdyE


 午後の授業がもう、始まっているところだった。
 ガラガラと、音をたてないように気をつけながらドアを開けた。
 一年六組のみんなは、優しい。明るくて、虐めなんてない。みんな大好きだ。
 由美が心配そうに私を振り返る。いつものように愛想笑いを浮かべ、先生のもとへゆっくり、ゆっくり歩いて行った。
「あらぁ、末永さん。保健室へ行ってたのね。ずいぶん長かったわね。大丈夫なの? 家に帰らなくて平気なの?」
 社会の担当の先生、小倉亜由美。大嫌い。きっとこの人も、私のことを嫌っているんだ。
 この人が担任だったら、私は今頃不登校にでもなっていたんじゃないだろうか。よかった、ケイセンで。あの人は、嫌いじゃない。
 おばちゃんだし、口うるさいし、私がまるで保健室でサボっているような話し方をしてくるんだ。いつも、いつも。 
 今日はまだいい方だ。小さな嫌味しか隠れていないし、顔は至って真面目だ。おちょくるような嫌な目をしていない。
 一番ひどかった時なんて、具合が悪くて早退を伝えようとしていた私に、小倉はこんなことをいう。

「末永さん、私の授業のときほとんどいないわよね。でも成績いいわよね。テストなんていっつも満点よね。なんで? カンニングかしら」
 このとき、私は小倉のことが大嫌いになった。クラスのみんなは一気に反論してくれた。
「小倉先生、末永さんが先生に何かしましたか? 何もしてないですよね。そんな言いがかりをつけるなんて、最低です」
 学級委員、田代君がキリッと一言。嬉しかった。
 でも、この授業が終わった後、私は田代君に告白されてしまったわけで。それは、ちょっと。って断ってしまったわけで。申し訳ない。
「そうだよね。小倉先生最低だよ。樹ちゃん何もしてないよ。頭いいのは塾で頑張ってるからだよ。体弱くても、頑張ってるのに。最低」
 正義感の強い、みなみ。いつでも正論。みなみは間違ったことなんて言わない。いくら不良グループの前でも、注意できる子。
 一泡吹かせられた小倉先生は、まだ私にネチネチと小さな嫌がらせをしてくる。だから、大嫌い。そばに寄ってほしくないくらい。

「すみません小倉先生。家には帰りません。帰ってほしかったですか? そうですよね。先生私のこと嫌いですものね。すみません。今日は治ったので帰りません」
 プッと、誰かが噴き出した。私のボケが分かってもらえたようだった。ちょっとうれしい。
 ちらりと小倉先生の反応を見ると、顔を真っ赤にして私を睨んでいた。
 そんな顔で無理やり作っている笑顔は引きつっていた。
 そんなことないわよぉ。先生は末永さんのこと心配しているのよとても言うように、笑顔を作っていた。
 先生、作りすぎた笑顔のせいで、皺がすんごく増えていますよ。とは言わなかった。
 堂々と自分の席へ戻った。周りの席の子がくすくす笑いながら話しかけてくる。
 このクラスの、いつもどおりの雰囲気だった。あったかかった。

2009/08/27 11:53 No.25

参音寺☆eoxA385NLRg ★Cv4FgmuLdyE

誤字報告
>>25 「いくら不良グループにでも」ではなく
  「たとえ不良グループにでも」でした。すみませんでした。
  

2009/10/08 19:23 No.26

参音寺☆DEeTDFs9uiw ★Cv4FgmuLdyE


 長い長い小倉先生の授業が終わった。一息ついていると、由美が私に近づいてくる。その顔には、うっすら意地の悪い笑顔が浮かんでいた。
「やったね、イッキ。小倉先生すごい焦ってた。面白かったよ。笑わせてくれてありがとうねイッキ」
 くすくすと乾いた笑い声をあげて、彼女は笑った。
 由美の笑顔は大好きだった。真剣な顔も、いかにも頭のよさそうと思わせる黒ぶち眼鏡も好きだけれど、笑顔の由美が一番好きだった。
 一番生き生きとして見えるからだ。
 笑った由美は、可愛いから。出来ればもっと笑っていてもらいたい。
「小倉先生なんて、メじゃないし。私が本気出せば、あんなオバサン泣かすことくらい簡単だよ」
「ひゃあ、おっかないの。そういうのって、イッキのキャラじゃないよ。イッキはもっと正義感強くて、格好良いイメージあるもの」
 前半と後半で声が変わった。表情が変わった。
 そういうのって、イッキのキャラじゃないよ。由美の本音、だと思う。
 ごめんね、私はそんなに格好良い人間じゃないんだ。さっきだって、私、アキラのことを……。
 突き飛ばしたんだもの。けがを負わせたんだもの。それを人に押し付けて、何食わぬ顔で授業に出ているんだもの。
 私よりも最低な人間が、朱音のほかに何人いるだろうか。少なくとも、私が知っている人間の中には居ないだろう。そう、朱音以外は。

「おおい、もうチャイムなるぞ。席つけ。おら、早くしねえと成績下げんぞ」
 乱暴な口調の川上先生が、荒荒しくドアを開けて教室へはいってきた。口調は乱暴だけども、川上先生はいい人だ。私を小倉先生から助けてくれたことだってあるんだから。
 川上先生はクラスの中でも人気がある。口調だけ直せばもっと人気ものになれるのに。
 若くて、がっしりしていて、顔はなかなか格好良い。女の人にももてるんだろうな、という顔をしている。
「先生、佐藤さんと片山君が保健室に行っています。多分、授業には戻ってこないと思います」
 学級委員、田代君がまたキリッと。
 気まずいから、目を合わせないようにする。ひたすら自分の手元を見ていた。
 そうかそうかと大きくうなずいて、川上先生の数学が始まった。数学は嫌いだ。一番嫌いかも知れない。
 
 こつんと何かが手の甲に当たった。小さなメモ帳だった。手紙回しってやつだろう。
 中を開いてみると、汚い字で書いてあった。
『朱音のことを悪く言うなら許せない。朱音は私の親友なんだから。朱音をこれ以上悪く言うんだったらあんたのこと外すから』
 はあ、と思わず首をかしげてしまうほど稚拙な文章だった。
 差出人不明。だけど斜め後ろの席の山野実蘭が私を執拗に睨んでくるため、犯人はほぼ特定できたも同然だ。
 朱音のことを悪く言っているつもりはない。ただ、嫌いなのだ。朱音のことが嫌いなのだ。
 それなのに、あの素直なアキラのことたぶらかして。私とアキラの邪魔をして。朱音のことが大嫌いだ。近づきたくもないくらいに。
 面倒なことに、実蘭はクラスのリーダーだ。数年前同じクラスになった時にいじめをしていたことを覚えている。
 今回の標的はたぶん私だろう。幼稚すぎる。相手にしないことに決めた。

 川上先生のだみ声を聞きながら、数学の授業が終わるのをただ待っていたのだった。

2009/10/08 19:46 No.27

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 チャイムが目ざましになった。私はいつの間にか眠っていたのだ。
「イッキ」
 由美がすかさず私の席に肘を置いて、笑顔で私の名前を呼んだ。
「おはよう」
 にこにこと、眼鏡の下の細い眼はなくなってしまうほどに細くなる。いつもの由美だ。
 私は由美におはようと返して、はにかみながら席を立った。川上先生に怒られるかと思ったけど、川上先生は私に興味がないようだった。
 自分の授業の時に生徒が寝ていても気付かない先生なんて、あり得ない。興味あるなしの問題の前に、先生として失格なんじゃないかと思った。
「末永さん、稲垣……くんが呼んでるよ、すっごくあわててるみたい」
 くす、って。くすって笑った。実蘭だった。
 まるで私のことをバカにしているみたいな笑い方だった。
 気に障ったけれど、アキラの名前を聞いた瞬間、私は血の気が引いていくのを感じた。
 あわてている様子だということを聞いた瞬間、私の顔が真っ青になっているような気がした。
 逃げたくて、走りだしたくて、叫びたかった。でも、指一本すらも動かなかった。
 怖くて、額に冷や汗が滲む。怖かった。本当に怖かった。
 アキラを見るのが怖い。もしもアキラの額から血が流れていたら? 血相を変えて、殴りかかってきたら?
 怖くて、怖くて。数十秒の間が、何時間にも思えた。

「すえながさーん? 呼んでますよお」
 さらに馬鹿にした口調になって、実蘭が調子に乗った。むかついたけれど、そんなことには構ってられない。
 震える右手を、震える左手で抑えつけた。当然、震えなんて収まるはずもない。
「イツキ! あのさあ、俺何回も呼んでるんだけど。どしたの? なんかあった?」
「へっ?」
 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
 アキラは私のことを怒ってなんていなかった。 
 いつものような、のんびりとした口調で私の顔を覗き込んだ。
 私の顔に浮かんでいる冷や汗に気づいたようで、うわぁとのけぞった。
「イツキ、どうしたんだよ。具合悪いのか? 保健室行くか? さっきはごめん、俺途中で寝ちゃったから。気づいたらイツキ居なくって」
 え。
 声に出そうとしたけど出なかった。
 覚えて、ないの? 怒って、ないの? 私のこと……嫌いになってなかったの?
「ううん別に気にしてないよだいじょうぶだよそれよりアキラは良くなったの?」
 一気に喋った。
 どうしよう。彼の言っていることが分からない。
 私はただ、アキラの口から「覚えているよ」という言葉が出てこないことを祈って、震えていた。

 

2009/10/11 21:40 No.28
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