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貴方と歩いた道。

 ( 恋愛小説投稿城 )
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★cLY1gnc8G2_keJ


高校なんて場所に、希望なんてないと思っていた。


ただ勉強がしたくて、自分を変えたくて…飛び込んだ場所。


思い返せばこの3年間は


貴方の言葉に、背中を押されてきた。


貴方の笑顔に、安心をもらってた。



ありがとう、先生――――………

ページ: 1


 
 

★cLY1gnc8G2_keJ

♯1

真新しい制服に着替えて、ドレッサーの前に座る。

今日は半日だけだし、化粧はファンデとチークとマスカラのみ。

メイク道具は、お姉ちゃんから去年の誕生日にもらったもの。

雑誌を読みあさり、見よう見まねでいろいろと試して、

わかったことは、あたしには、派手なメイクは似合わないということ。

あのときの自分の顔は、思い出すと今でも笑える顔だったな…

その反省を生かして、ナチュラルメイクにたどり着いた今、

鏡にうつる自分は、ブレザーに短いスカートに胸の下まである茶髪の巻き髪。

これから始まる高校生活に期待をしているような初々しさは何もないけれど…

あたしのホントの「高校生」は、これから始まるんだ――…

ポーチや財布をかばんに入れ、ケイタイはブレザーのポケットにしまった。


階段を下りて、リビングに顔を出す。

いつも同じニュース番組、アナウンサーが厳しい顔で原稿を読み上げている。

「あ、おはよう。制服、似合うじゃない」

リビングとつながっているキッチンで

洗い物をしていたお母さんがあたしに気づいてそう言った。

「ホントにひとりでいいの?ほかの家は保護者も来てるんじゃない?お母さん、やっぱり…」

「高校の入学式、2回も出席なんてめんどくさいでしょ!行ってくるね」

お母さんの言葉を途中で遮って、勢いよくリビングのドアを閉めた。

玄関の前身鏡の前でくるっと1回転して、もう一度自分の全身を確認。

久しぶりにローファーを履いて、家を出た。

2ヶ月前 No.1

★cLY1gnc8G2_keJ

♯2

ケイタイを開いて時間を確認すると、少しぎりぎりの時間。

新着メールが届いているという表示は気になったが、

今は歩くことに集中することにした。

春の風は少し冷たく、そしてとても暖かかった。

この追い風は、がんばれって…あたしの背中を押してくれてるのかな。

歩いて10分、駅に着くと電車の時間まで少し余裕がある。

券売機で切符を買い、改札を通る。

゛早く定期買わなきゃな―…″

そんなことを思いながら、切符をポケットのに入れた。

階段をおりて、ホームのベンチに座った。

ふぅーっと一息ついてケイタイを開く。

「新着メール一件」

こんな朝から…迷惑メール?

<送信者:海斗>

少し前までは見慣れていたのに、今は不自然に思えるその名前。

メールを開く。

<<今日入学式か?>>

…付き合ってた頃と何にも変わらないメール。

<<うん!今日入学式だよ>>

海斗から見ても、あたしのメールは変わらないように思えるのかな…?

時間通りに電車は来たけれど、なんだか乗る気にならず、そのまま見送った。

2ヶ月前 No.2

★cLY1gnc8G2_keJ

♯3

改札を通ってしまっているので、ただベンチに座っていることしかできない。

電車を何本見送っても、乗る気にはならなかった。

新着メールはありません″

「海斗…」

入学式に遅れる…そんなことはわかっていたけれど、どうにも動きたくない…

結局、電車に乗ったのは予定より1時間遅れ。

海斗、今日学校なのかな…

これ以上考えるとそのことで頭がいっぱいになっちゃう、考えるのやめよ。

二人掛けに座り、かばんを横に置く。

外の景色に目を向けて、海斗のことは考えないようにした。

これから3年間、毎日この景色を見ることになるんだな――…

電車に20分ほど揺られて、そろそろ眠くなってくる…という頃に駅に着く。

改札を抜けて、周りを見渡す。

ここに来るのは2回目。

受験のときに、お母さんに「車で送っていく」と言われたのに

断って電車で来た時以来…

右に進んでいくと看板が見えた。

その看板に従い、歩いていくと白い建物が目に入ってきた。

少し古めで小さいけれど、どこか懐かしい感じがする校舎。

校門をくぐって歩く。

シーンと静かな校舎。今はまだ入学式中…?

下駄箱を見つけ、端っこから自分の名前が書かれている場所を探す。

自分のクラスがわからない…

入学前の説明会に来てないから当たり前か。

そんなことを考えながら確認していくと、

1年2組1番 藍沢こころ

と書かれた場所を見つけた。

げ…出席番号、また1番か…

名字の頭文字が出席番号になるなんて、誰が決めたんだろう。

そういえば…あたし、上履きも買ってないや。

そのとき、誰かの足音が聞こえた。

2ヶ月前 No.3

★cLY1gnc8G2_keJ

♯4

「あ…藍沢さん?」

通りすがった男は、あたしの顔を見てはっきりとそう言った。

「はい」

そう答えたあたしの顔は、結構こわばっていたように思う。

「担任の岡崎です!これからホームルーム始まるんだけど、一緒に行こう」

この人が、これからのあたしの担任らしい…。

背が高めで、黒髪の短髪。さらりとスーツを着こなしている。

見るからに若いけど、どこか落ち着きのある…そんな人。

「あ、そうだ!ここでちょっと待ってて」

そう言い残した先生は、1分もしないうちに戻ってきた。

「はい、これ履いて」

あたしの足元に置かれたのは、「来客用」と書かれたスリッパ。

上履きがないこと、気づいてくれたんだ…。

担任だから、当たり前なのかな。

「あ…ありがとうございます」

先生の後を追い、教室に向かった。

ドアを開けて先生が入ると、一斉にみんながこっちを見た。

入学したばかりのころならではの静かさ…。

みんなの視線が集まってくるのを感じた。

その分、あたしも教室全体を見渡す。

おとなしそうな子、ちょっと派手目に化粧をした子、

坊主頭の野球少年…?見るからにヤンキーちっくな男子。

いろんな人がいたけれど、偏差値低い高校だから賢い子は少ないのかな。

先生に言われる前に、自分の席の場所はわかっていたので勝手に座った。

窓際の、一番前。

先生は、あたしが席に着いたことを確認して、話を始めた。

「えーっと、入学式お疲れさん!さっきちょこっと紹介されたけど改めて…

 俺は、岡崎哲也といいます!この学校に来て2年目、教師2年目で初めての担任です…

 こんな担任初めてなんてみんなに何だか申し訳ないけど、

 一緒に成長していけたらと思う!よろしくな!」

ありきたりな挨拶。なんだ、慣れてるのかな。

「えーと、じゃあ次にみんなの自己紹介、してもらおうかな!」

入学式ならではの、よくあるパターン…

心の中でため息をついていると、

「じゃあ…藍沢さんから!自己紹介!」

と指名をくらってしまった。

また、みんなの視線を背中に感じながら立ち上がった。

ギギギ…と床にイスがこすれる音が響いた。

2ヶ月前 No.4

★cLY1gnc8G2_keJ

♯5

何を話せばいいのかな…と、心の中で考えた。

「あー!俺もな、名簿番号早いから

 こういうときに何言おうか考える時間なくて大変だったわ!

 趣味とか、中学時代の部活とか思い出とかでいいからさ!」

聞いてないのに明るく声をかけられた。

あたしはくるっと後ろを向いて、話し始めた。

「藍沢こころですーえーっと…入学前に引っ越してきましたー。

 中学時代は生徒会長やってましたー。よろしくお願いしますー」

なんてやる気のないあいさつ。

なのに、振り返ると先生は

「さすが元生徒会長だな!最初なのに堂々としてる!」と笑っていた。

その笑顔に、思わずあたしも顔がほころんだ。ちょっとした安心感…。

次々と続く自己紹介。

あたしは爪をいじりながら、終わりを待っていた。

自己紹介なんて、真剣に聞いてる人いるのかなー…

でも、そろそろ終わるだろう。

「吉岡優斗ですー…」

その声を聞いた途端、心臓がドキドキ言うのが分かった。

でもそれは、いい意味ではない。

振り向きたいけど、怖くて振り向けない…。

「えーっと、中学時代はサッカーやってました。よろしくー」

優斗くん…なんでいるの?

怖くて
、一度も後ろを振り返ることができなかった。

優斗君から海斗に話が伝わったらどうしよう…

そう思いながら、机にひじをついて顔を覆った。

はあーっと意識してないのにため息が漏れた。

「じゃあ、今日は終わり。保護者説明会も終わったみたいだし、これで解散な!」

そう担任が言ったあとに、みんなが席を立って教室を出ていくのが足音で分かった。

もう誰も教室に残っていないとわかっても、なかなか顔を上げる気にはならなかった。

「…どーした?体調悪いの?」

そう声をかけられて、まだ誰かが残っていたのか、と体がビクッとしたけれど、

さっきからずっと聞いてた声に、少し安心もした。

「あ、いや、大丈夫です」

顔を上げて、そう答える。

「ほんと?大丈夫?」

「はい、えっと…何か用事ですか?」

「ちょっと来てくれる?」

にこっと笑った担任。

席を立ち、かばんを持って後に続いた。

2ヶ月前 No.5

★cLY1gnc8G2_keJ

♯6

教室から少し離れたところにある倉庫のようなところに連れていかれた。

「何、倉庫?」

「いや、数学準備室って書いてあんじゃん!」

そう言って先生は声を出して笑った。

…だって、いろんなものがゴチャゴチャしてて…倉庫みたいなものじゃん。

誰の目もない、ふたりだけの空間になったとき、お互いに遠慮も敬語もなくなりつつあった。

「はい、上履き」

あたしの前に赤のラインの入っている上履きが置かれた。

「あたし、上履きまだ注文してないんですけど」

「そりゃそうでしょ!だって入学説明会に連絡もなしに休む新入生なんて前代未聞だもん!

代わりに、俺が頼んでおいたの。サイズ、23でよかった?」

「きもちわるい…ぴったり」

迷ったけど、まさか当たってたとは、と笑いながら、先生は机の上に、

体育用のジャージの注文票やら、緊急の連絡先やらの紙を渡してきた。

向かい合うように先生とあたしで座った。

「俺、数学担当なんだよね。職員室にいない時はだいたいここだから…いつでも来て」

「初めての担任なのに、堂々としてるんですね」

記入するためのボールペンを取り出しながら、ぶっきらぼうにそう言った。

「藍沢だって、入学式早々遅刻するなんて、堂々としてんじゃん」

「ちょっと用事があったんです。カタチだけの式なんて、出なくても関係ないじゃないですか」

「…そうだな、君の通っていた前の高校と違って、ここは細かいことにはうるさくないからな」

「…知ってるんですよね」

あたしの胸がドキドキ言うのが先生にも聞こえてしまうんではないかと思ったけれど、

自分ではどうしようもできないくらいの大きさになっていた。

「当たり前。俺は、君の担任。

県内1.2を争う偏差値の高い高校から、県内の最下位1.2を争うこの高校に、

1年学年が遅れても入りたかった、やり直しにすべてをかけている君を、応援しようって決めた担任」

2ヶ月前 No.6

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♯7

「みんなには、言わないでくださいよ」

「そりゃー、いくら担任だからって個人情報ばらしていいわけないからな」

この人、好きじゃない…。

もともと教師が嫌いなあたしは、うるさそうなベテラン担任じゃなくてよかった、

なんて思っていたけれど前言撤回。初日からこのテンション、絶対に深く干渉してくるに違いない…。

「俺、君に会うの楽しみだったんだよね。どんな希望をもって入学してくるのかな、って。

そうしたら、入学説明会には来ねーわ、入学式当日に遅刻してくるわ…

想像もしてなかった、とんでもねー不良少女だったわ」

笑いながら窓を開けた先生。

スーツのポケットから取り出されたのは、タバコとライター。

タバコ吸うんだ…。

それも、生徒の前で普通に。

ごくごく自然な動きだったから、ちょっとビックリしてしまった。

前の学校の先生たちは、生徒に干渉しない分、人間らしいところというか…

自分の事や、授業以外のことを…そんな素振りを全く見せないのが、教師だと思っていたから。

窓の外を見ながらゆっくりとタバコを吸い終えて、先生は言った。

「とりあえず、明日朝イチはホームルームで俺の授業だから、遅れんなよ」

はーい、と適当に返事をした。先生は玄関まで送っていく、と言ったが、

それを断ってひおりで生徒用の玄関に向かった。

上履きを脱いで、片付け、下駄箱の扉を閉じた。

「1年2組1番 藍沢こころ」

自分の名前をなぞって…深く一息ついた。

なんとか、ここまで来れた。

今日までの高校生活は、思い出したくないことばかりでため息が出るけれど、

今日からはそんな思いは絶対にしない。

だれにも頼らず、自分で切り開いていこう。

駅に向かう足取りは、朝とは違って少し軽かった。

ケイタイを開いてみると、海斗からの返信が来ていた。

<<こころの新しいスタート、応援してる。俺、また5組だったよ>>

海斗の近況は聞きたくなかったが、優斗くんからは何も聞いていないような内容で…少し安心した。

2ヶ月前 No.7

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♯8

「藍沢のこれからの目標は、友達を一人でも作ること。心から許せる、友達を―…」

その言葉が頭から離れず、帰り道、久しぶりに涙が出てきた。

まさか…高校生活2日目から、泣くとは思っていなかったな。

もう泣かないって決めたのに…あの担任のせいだ。


――8時間前

珍しく目覚ましが鳴る前に目が覚めて、気持ちが軽く準備も終わった。

明日は遅れるなよ、と担任に言われたから。というわけではないが、

さすがに入学早々連続遅刻はまずいだろう…。

今日は定刻通りの電車に乗った。

到着した電車に一斉に入っていく人々…あたしは、いちばん後ろから電車に乗る。

昨日より少し早いだけの時間なのに、人の多さに驚いた。

鞄を片手に、もう片手にはスマホを持つ若いサラリーマン…

スーツを着こなし、手鏡を見ながら髪をとかすOLさん…

腕を組んで、今にも寝てしまいそうな格好の大学生のような人…

前の高校の時にはバス通学だったから知らなかったけれど、

朝からこんなにたくさんの人が、仕事や学校に向かっているんだ…。

あたしも…がんばらないと。

同じ駅で降りるのはほとんどがあたしと同じ、東高校の学生。

誰がどの学年かはまだわからないけれど、一人で歩いているのはあたしくらいか…。

女子高生というのは朝から元気だ…。

耳に響くくらいの笑い声でくだらない話をしている。

別に聞くつもりはないけれど、嫌でも耳に入ってくるのだ。

校舎に近づいたところで、何人もの教師が昇降口に立ち、生徒を迎えているのが分かった。

挨拶を交えながら、生徒に頭髪の注意をしたり、体調の観察をしているようだった。

前の学校では絶対にない光景に少し驚きながらも、

女子生徒たちに囲まれている担任の姿を見つけた。

いろんな人の会話が聞こえてきて、朝から耳が疲れる…

音楽を聴いて気持ちを落ち着かせようとイヤホンを片耳にさしたところで、

後ろから誰かに肩をたたかれたのが分かった。

1ヶ月前 No.8

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♯9

「…こころちゃん?」

「優斗くん…」

海斗とそっくりだけれど、少し幼さの残る声。

「やっぱこころちゃんだ!昨日声かけようかなと思ったんだけど、タイミング逃して」

あたしの名前を呼ぶ声のトーンも、笑い方も、自分の思ったことを話し始めると

周りなんて関係ないくらいの大きな声になるところも、変わっていない。

ふう、と小さく息をついてあたしも笑ってみた。

「髪なんか染めちゃって、お母さんビックリしてなかった?」

「まーた、姉ちゃんみたいなこと言うのかよ。今は俺たち、同級生なんだろ?」

思ってもみなかった言葉が出てきて、一瞬言葉に詰まってしまった。

「そうだけど、…海斗には言わないで」

今にも消えてしまいそうなくらいの小さな声しか出せなかった。

周りは誰もあたしたちのことを気にしてなんていないけれど、

あまり目立ちたくはなかったのだ。

「なんで?こころちゃんが元気って知ったら、兄貴喜ぶよきっと」

「昨日、メールでちょっと話したからいいのもう…言わないで、お願いだから」

もうすぐ朝のホームルームが始まることを知らせる予鈴のチャイムが聞こえた。

急ぎ足で下駄箱に入っていく生徒たちに混ざり、あたしも優斗君から背中を向けて

また歩き出そうとしたが、今度は腕をつかまれた。

「待ってよ、ねえなんで、兄貴と別れたの?」

いつもまっすぐな優斗くんの言葉は、時に心に突き刺さってくる刃物かのように鋭い。

悪気のない発言であることが多いからこそ、辛くて、言葉を返せない。

「授業…始まるから」

腕を振り払って、靴を履き替え、教室へと向かった。

昨日とさほど変わりないクラスの雰囲気。

だけれども打ち解け始めているような女子たちのグループが、少しずつ出来上がっていた。

ちょうどあたしの席の周りにも女子が5人で固まっていた。

お互いの名前を呼びあうためにニックネームをつけて盛り上がっている。

あたしは顔色一つ変えずに席に着くために椅子を引いた。

「おはよう」と声をかけようか迷ったけれど、その一言がどうしても出なかった。

1ヶ月前 No.9

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♯10

今日の1限目はホームルーム。昨日と何らテンションの変わらない担任が、

校舎内の配置図や、今学期の時間割、部活勧誘のチラシなどを配りながら説明をしている。

あたしは必要なプリントとそうでないものを分けてファイルに閉じた。

「さ、堅苦しい説明はここまで!」

担任のその言葉を聞いて、あたしはファイルをかばんにしまった。

「今から、ちょっとしたゲームのようなものをしようと思う!」

ゲーム…だったら、堅苦しい説明を聞いている方がまだいいな…と思っているのはあたしくらいか。

担任から配られたプリントを後ろの席に回してく。

プリントには、「自分の名前」「相手の名前」と、二行の名前を書く欄があった。

その下には、1〜20の質問のようなものが書かれている。

すぐに1つの質問に目が留まり、心臓がドキッとした。

「全員にプリント、届いたか?今から、隣の席のやつと向かい合ってくれ。

 女子同士、男子同士になるように席を交換してもいいぞ」

全員が一斉に姿勢を変えながら、担任の言葉の続きを待っていた。

「今から5分間フリータイムだ!せっかく縁があって知り合った仲間たちを知りたくないか?

 プリントに書かれている質問をしあって、お互いのことをもっと知ろう。

 もしかしたら、思いがけず気が合う所や、びっくりする発見があるかもしれないぞ。

 ルールは2つ。まずはお互いの自己紹介から初めて、相手の名前を書き込むこと。

 もうひとつは、相手が質問の答えに困ったときは、それ以上追求しないこと。じゃあ、スタート」

あたしの隣の席の子は、黒髪のショートカットにくりっとした目が特徴の女の子。

「じゃあ、私から自己紹介していいかな?」

喋り方もはきはきしていて、いわゆる「優等生」タイプのようだが、

耳に光るゴールドのピアスをあたしは見逃さなかった。

「私の名前は菊川サヤカ。花の菊に川。サヤカはー、えっと…ちょっと貸して!」

あたしのプリントとシャーペンを手にとり、名前を書き込んでくれた。

「菊川紗耶香」これが、彼女の名前らしい。

「あたしの名前は、藍沢こころ…藍色の藍に、簡単な沢…こころは、ひらがな」

目をしっかり合わせながら話を聞いてくれる菊川さん。

「ひらがななのっ?!かわいい名前だね!」

にこっと笑った口元から見えた八重歯が魅力的な菊川さん。

やわらかい雰囲気にあたしは気持ちがゆるんで、「こころって呼んで」

そう、初めて自然な笑顔を出して言うことができた。

1ヶ月前 No.10

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♯11

「これって、順番通りじゃなくてもいいよね?サヤカから質問するねっ!5番。中学の時にやっていた部活は?」

プリントとあたしの顔を交互に見合わせながら、菊川さんは言った。

「えっと、吹奏楽!トランペット、吹いてたの」

「トランペットって、あの一番前で目立つラッパみたいなやつだよね?!すごーい!」

一つひとつの発言やリアクションが大きい菊川さんを見て、思わず笑ってしまった。

見た目は少しクールなようだけれど、そのギャップに驚く。

「菊川さんは?何やってたの?」

「サヤカでいいから!バレーやってたんだよ、見えないでしょ?ずっとバレー漬けだったから

 受験勉強やり方わからないし、成績も悪かったから、この高校しか選択肢がなかったの!」

あっけらかんと笑って見せたサヤカ。

仕方なく選んだような言い方だけれど、サヤカはきっと…

ちっぽけな高校生活以上に、もっともっと大きな世界の中で生きているんだ。

「じゃあ、次はあたしから質問…トマトときゅうり、どっちが好きですか?」

いちばん気持ちが和む質問を選んだ。

「質問の幅が広すぎるっ!えーっ、トマトかな?きゅうりっ、そのまま食べると味がなくない?」

「わかる!この質問のチョイスもよくわからないし、きゅうりよりトマトのがおいしい!」

だよね、とあたしたちは顔を見合わせて笑った。

周りのペアの子たちも、それぞれにいろんな質問をしあっているようで、盛り上がっている声が聞こえてくる。

めんどくさいなんて思っていたけれど、担任なかなかやるじゃん。

その後も順番に質問をしあって、お互いのことを知ることができた。

お互いの共通点は、英語が苦手なことと、電車通学をしていること。

サヤカは高校でもバレーを続けるつもりだと答え、あたしは部活には入らないつもりであると話した。

「残り、あと1分だぞー!」

担任の声と共に、サヤカがあたしに最後の質問をぶつけてきた。

「じゃあ20番っ!“今、会いたい人はいますか?”」

…心がドキッとした。サヤカの声が、その言葉が、重くのしかかってくる感覚になった。

「今…会いたい人かあ…」

気持ちをごまかすように言葉を濁したが、あたしの心は叫んでいた。

海斗、海斗、海斗。

今あたしは、ものすごく海斗に会いたい。

誰よりも、海斗に会いたい。

本当はメールだって電話だってなんだってしたい。ただ…会いたい。

「今、会いたいのは…死んじゃった、おじいちゃんかな?」

無理矢理に笑顔を作って答えた。

おじいちゃん、こんな時ばかり名前を使ってごめん。

「おじいちゃんかあ」

サヤカの言葉と同時に、担任が終了であることをクラス全員に伝えた。

1ヶ月前 No.11

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♯12

始めてクラスメイトと話せた嬉しさと、少しほっとした気持ち…

嬉しさ…?サヤカと少し仲良くなれた気がした、ってこと?

…あたしは、友達なんていらなかったんじゃなかったっけ。

ちらっと横を向くと、背筋をピンと伸ばして真っすぐに前を向いているサヤカ。

偏差値の低いこんな高校に、サヤカのような…

明るくて、ハッキリとしている、優等生タイプの子がいるなんて思ってもみなかった。

あたしも1年前は、こんなに希望に満ちた顔をしてたのかな…

今なんて、高校生活の楽しみなんて何も考えていない…

それどころか、何も目立たず、ただただ平和に3年間を終わらせたいとさえ思っている…

いつからこんな卑屈になったんだろ、あたし…。

「はいっ、こころがいいと思います!」

んっ、今、サヤカ、あたしの名前を呼んだ?

手を挙げて、真っすぐ担任を見ながら、ニコニコして…

「な、に…」

「藍沢、やるか?」

えっ、なんのこと?

状況を飲み込めずに前を向くと、担任が黒板に向かって、

「学級委員長」「副学級委員長」と書き込んでいるところだった。

「こころ、学級委員向いてるっしょ?」

「え、学級委員?あたし…?」

話聞いてなかったの?と笑うサヤカの声を聞いてクラス中が笑った。

恥ずかしい…いきなりクラスの笑いものなんて…

学級委員を決めようとしている今の状況、サヤカがあたしを推薦したことがやっとわかった。

「いや、あたし…」

そんなことをいきなり言われても、断りたいけど…この状況、断りずら…

「藍沢、どうだ?」

にやにやしている担任。

何だその、期待に満ちている目は。後で文句を言いに行くしかない…

「やります」

あたしの返事と共に、クラスの中で小さな拍手が起こった。

みんな、そんなにやりたくないのかな…

「こころのこと、サポートするからさっ♪」

サヤカがこっそりと言ってきたので、“じゃあ副やってよ…”と、言いかけた時に…

「俺、副学級長やります」

後ろから声が聞こえた。

うそでしょ、うそでしょ、うそ…!

「吉岡、やってくれるのか?」

「はい、やります」

またクラスの中に拍手が響いた。

やめてくれよ…なんでこうなるのよ…

「じゃあ、学級長が藍沢で、副が吉岡、っと…」

「学級委員長 藍沢こころ 副学級委員長 吉岡優斗」

黒板に書かれた文字を見て、心の中で思わず「サイアク」そう、つぶやいた。

22日前 No.12
ページ: 1

 
 
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