asahi @banana2 ★SKhHm1cSFv_PHR 誰だって叶わない恋なんてしたくない。 5ヶ月前 No.0
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asahi @banana2 ★SKhHm1cSFv_PHR 誰だって叶わない恋なんてしたくない。 5ヶ月前 No.0
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asahi @banana2 ★SKhHm1cSFv_PHR
『いいか? 黒田川高校の生徒には絶対に近づいたらだめだぞ。……あいつらはどうしようもないやつらなんだ』。
小学生3年生のとき。
普段は優しくて面白くて頼りになる先生が、俺を含む数人に対して、真剣な顔でそう言っていた。
あの冷たい目。当時はただただ怖かっただけだった。
だけど、少しだけ大人になった今なら分かる……。あれは人を見下したような目だった。
黒田川高校。県内でも『最悪』と呼ばれている高校。
中学で悪さばかりしていたようなヤツが集まる高校。地域の人には煙たがられていて、いつも『悪さをするんじゃないか?』という目で見られている。
……。
まさかそんな高校に俺が入学するなんて全く思わなかったな。
しかもそんな『最悪の学校』での生活はもう2年目。特に何の思い出もないまま、高校2年生になっていた。
「瑛斗ー。この後どうするー?」
椅子にだらしなくもたれかかり、机に両足を置いて、タバコに火をつけながら友達の涼太が言った。
床に雑誌や漫画やゴミが乱雑に置かれている教室。
一歩この教室から出ると、『サッカー部 部室』という紙が扉に貼られているのが目につく。
サッカー部の部室、というのは名ばかりで、この教室は俺と涼太みたいなバカな生徒のたまり場になっている。
「んー……。とりあえず駅行って、そっから考える?」
「あー。あり。それでいこ」
適当に暇つぶしを提案すると、涼太はその誘いに乗ってきた。
俺たちは立ち上がり、財布をケツポケットに入れて立ち上がる。……学校指定のスクールバッグなんて多分、3か月は持ってきていない。
もう学校には財布しか持ってこないのが当たり前になっていた。
そんなどうしようもないヤツ感が出てる俺の姿が、ガラスの窓に映った。
金髪。学ランのボタンは全部あけて、中にはカッターシャツなんて来ておらず、Tシャツ。
両耳には細めのフープピアスをつけて、ネックレスも。指には右手の人差し指と小指にリング。左手にも人差し指にリング。
こんな高校生が普通にいるのは、たぶん黒田川だけだろうな。
asahi @banana2 ★SKhHm1cSFv_PHR
黒田川高校の校門をくぐる。
チラッと校門から黒田川高校の様子を見てみる。
ゴミがあちこちに散らばっているし、ところどころにガラの悪そうな高校生がいるし……。
こりゃあ嫌われるのは当然だな。俺のここの生徒だけど。
「なにしてんだ? はやく行くぞー」
「わりー」
先に前を歩く涼太にせかされて、小走りでついていく。
5分ほど歩くと、さっきの汚くてガラの悪い黒田川とは真逆。
今度はゴミなんてどこにも落ちてなくて、それどころか花壇に綺麗な花があって、校門から見える生徒は全員上品でおしとやか。
『光ヶ丘学園高等学校』。
黒田川高校は公立の男子校なのに対して、光ヶ丘学園は私立の女子高。
それだけじゃなくて、偏差値も県内屈指。部活動も盛ん。さらにはお嬢様ばかり。
こんな対極にある高校が、歩いて5分ほどの距離にあるのは本当に面白い。
光ヶ丘の生徒には本当に申し訳ないなぁ。
「うわぁ、いいなー、こんな綺麗な学校」
右隣を歩く涼太が、道路を挟んで向こう側にある光ヶ丘を見ながらボソッと呟いた。
「俺らとは住む世界が違うな」
「だよなー。あー、光ヶ丘のお嬢様と付き合ってヒモになりてー」
asahi @banana2 ★SKhHm1cSFv_PHR
「なにくだらねぇこといってんだよ。早く歩けって」
頭の後ろで腕を組んでダルそうに歩く涼太の背中をポンッと叩いて前に出る。
後ろで涼太が気の抜けた返事をしたのが聞こえてきた。
光ヶ丘を通り過ぎてさらに10分ほど歩いて駅についた。
この駅は中々栄えているほうで、周りに飲み屋街や怪しいお店も多い。
電車を利用する学生は俺ら黒田川の生徒だけだ。
駅についたものの結局何もやることがないという結論に至った俺たちは、適当にファミレスに入ることにした。
ファミレスの中は結構混んでいて、丁度2人用の席だけが空いていた。
「ふー……疲れた」
黒田川から駅まで15分。ろくに運動もせずにダラダラと過ごしている俺にとっては、こんな距離でさえ歩くのはいつも疲れる。
息を静かに吐きながらソファ席に腰を降ろす。向かい側の椅子の席に涼太が腰を降ろす。
涼太は横をチラッチラッと見ながら、落ち着かない様子でいた。
「なんでキョドってんの。恥ずかしいからやめろよ」
そんな涼太を見ながら眉をひそめてそういう。
「はっ?! バカッ、お前。……横見ろよ」
大きめのリアクションをした後に、俺の方に顔をズイッと近づけて涼太が小声で俺にだけ聞こえるようにささやく。
涼太に言われた通りに彼がチラチラと見ている方向に視線を向ける。
高級感のある紺色のブレザー。シワなんて全くついていない綺麗な制服。
清楚な見た目で、綺麗な姿勢でいる。
一目見ただけで光ヶ丘の生徒だと気づいた。
asahi @banana2 ★SKhHm1cSFv_PHR
ファミレスの中にはあまりにも馴染まないその綺麗な4人組は、不思議そうに店内を見回していた。
「やべー。光ヶ丘の生徒ってファミレスくるんだ。初めて見た」
なおも小声でそういう涼太。光ヶ丘の生徒がよほど珍しいのかニッコリと笑っている。
毎日光ヶ丘の前通るたびに変なこといってんだろ、お前。
だけど俺も光ヶ丘の生徒がファミレスにいる、というそのギャップが面白くて、黙って光ヶ丘の生徒の話に聞き耳をたてる。
「すごいね。……ドリンクバーって、自分で飲み物を入れに行ってくださいってことだよね?」
人2人分ほどあけて俺の隣に座る光ヶ丘の女子が残りの3人に話しかける。
「うん。そういうことだと思うよ」
その返事はなんとも自信がなさげ。本当にファミレスに来たことが初めてなんだな、と思わせられる。
「ちょっと、いってくる!」
俺の隣の女子がガタンッと立ち上がり、ドリンクバーの方へ足を進めていく。
涼太の隣をすれ違うとき、涼太がその女子をガン見しているので、光ヶ丘の生徒が涼太と俺の存在に気付いた。
怪訝そうに眉をひそめて、アホそうな顔でニコニコと笑っている涼太を見て、ヒソヒソ話をする。
そんなことにも全く気付かずになおもニコニコと笑っている涼太のことがなんだかうざくなって、頭を叩いた。
「いてぇな! なんだよ、ビックリした」
「恥ずかしいからそのアホ面やめろ」
「はぁ? 俺様のキラースマイルがアホ面とかお前目ついてんの?」
「……隣見てみろって」
俺にそういわれて涼太が隣の光ヶ丘の女子に視線をうつす。
嫌な顔をして涼太を見つめているその視線に気づき、涼太が顔を真っ赤にしてテーブルに視線を落とした。
誰だってあんな顔で友達をガン見されたら嫌だろう。悪いのは完全に涼太だ。