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輪廻転生した僕らは

 ( 恋愛小説投稿城 )
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茜縁 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

プロローグ

彼女のことを最後まで守りきれなかったことを俺は最後の最後の時まで悔やんだ。

途中で隊を抜けることになった時の彼女の顔は、今も泣き出しそうな顔で、連れ出したくなったが、彼女には彼女の任務があり、この場から離れることが出来なかった。

「大丈夫、生きてる限り、俺らはまたどこかで出会える……そうは思わねぇか?」
「そうだけど、今の世は、すげぇ、戦乱、だから、また会える、なんて思えない、俺、離れたくない……。」

初めてわがままを言ってもらえて、嬉しかった。抱きしめたくなる手を堪えて、頭を撫で、「大丈夫、いつかまた会おう、な? 」

と言って彼女に背を向けた。
今思えば、彼女には色々なものを貰った。

当初は彼女は他の男に惚れていたのを思い出す。けれどその男は、とある事件で尊い命を落とした。

汚い手だとは思った。けれどそんなとでしか、彼女と近づくことが出来なかった。そして、ついこの間、鳥羽伏見の戦いの前に付き合うことが出来たのだが、それも束の間だった。鳥羽伏見の戦い以降、局長が変わってしまい、その方針は俺らにとってはついていけない……と言うよりは、局長は、前の局長ではなくなってしまったことからの絶望で、俺らは離れることを決めた。

その後、俺は倒幕派の連中との戦いの間で命を落とした。

心残りを残したまま──────────。

そして、俺たち新選組は平和になった平成に輪廻転生をした。
こうゆう時はやはり集まるのだろうか。新選組のヤツらの年齢の近い奴らは、同じ教育大学で知り合った。けれど、記憶は持ち合わせていなかった。当たり前といえば当たり前だ。

そして、高校教師になった時、年齢が遠かった奴ら、と知り合った。そいつらも当然記憶はなかった。

けれど今度こそ、あいつを守りたい。

そう思った──────────。

プロローグ終

お久し振りです。
これはかなり前に書いていた小説をさらにリメイクを加え、さらにリニューアルをして書く小説なので、一番はじめの面影なんかありません。そして設定も色々見直させていただきたいと思います。

ちなみに、新選組の輪廻転生です。
1部オリジナルキャラクターはいますが、ダメなようなら、サブ記事にて教えをお願い致します。

更新は亀ですが、ご了承ください

それではお楽しみください

メモ2017/01/04 11:29 : 千里 @matunogirl★Android-W1VemU3zJF
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千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

99話

2年教室──────────

冬木如一はいつもと違う視線にほんの少し、戸惑っていた。
「ねぇ、冬木くん、冬木君って、もしかして3年の不知火先輩と付き合ってたり……する?」
「えっ、そ、それどっから聞いたの?!」
「え、すごい今噂になってるよ!」
「千里だなぁ……。」

如一は隠しているつもりなのだが、案外周囲にはバレバレだったりするのだが、如一はそれに気がついていない。だからこそ真っ先に千里を疑った。千里はよくからかわれていたから。

超特急で千里のところに向かうも千里は何やら不機嫌でイライラがマックスに近い状態だった。
「……んだよ、如一。、俺今お前に構ってるほど暇じゃねぇんだよ、」
「アッ……はーい」

いち早くなにかを察した如一は千里から離れ、秋良が手招きしているところへと向かった。

「んだよ!!またその話かよ!!ちげぇつってんだろ?!ちったあ黙ってろよ!」

遠くで千里の怒鳴り声が聞こえつつ、孤高の美人と買いい始めたやつらは誰なんだよ、と少し思う。
「今、千里凄い噂の真っ只中にいて、イライラしてるんだよね。」
「え」
「その噂の内容ってのが、"千里と上野先輩で楔のことを取り合っていて、今の所千里が勝っている"って噂。多分……そろそろ噂が更新される頃じゃない?」

少し廊下の話に如一が耳を傾けると、また少し違った噂を耳にした
「地雷ってさ、楔と一と付き合ってて、二股してるんだって。」
正直に言えば、耳を疑った。何故こうも噂というのはだんだんと大きくなっていくのかが不思議でたまらない。
「あー、そろそろ千里手拳で沈めてくる。そろそろアイツ暴れ出すわ。」
ちらりと如一が教室を覗き込むと、千里の殺気に変化が生じており、そろそろ回収しないと、あの頃の千里がやって来てしまうのが目に見えていた。全国でも2位を争うぐらいの強さと誇りを持った一匹狼のクソヤンキーが。
「千里、そこまでだ。お前は少し眠れ。」

そういながら如一は千里を担ぎ、教室から出ていく。
「楔は……伊織のことが好きなのに……、」

俺なんかとのこと噂されて嫌だろうな、なんてふと考える。伊織と楔のいい噂なら俺だって信じたかった。し、応援をしたかもしれなかった。

でも千里だった。それに対してもむかついていたし、何よりもそれが本当だったらいいのに、と思ってしまった自分が何よりも嫌いで、イラついて仕方なかった。
自己嫌悪で、さらに怒りが込み上がってきた時のこと。

「あ、如一ちゃん!それに千里ちゃん……、大変なことになっちゃったねぇ、千里ちゃんも辛かったでしょ?……まぁ後で話さないとね、平助と。ちゃんと話そう、?」
楔が現れたのは。
「そ、そーだなぁ、」

流石に今回は楔も余裕が無いのか、千里らをほめることなく、ほんの少しイライラしているのが伝わる。それでも穏やかな話し方で、泣きそうになった。しかし、それは如一には分からなかった「相変わらず楔くん可愛いよね」と笑っているあたり、気がついていないことが分かる。やっぱり俺に怒っているのだろうか。なぜ、伊織じゃなく、興味も欠けらも無い自分なのかと。そう思うと、噂をしていたヤツらに対する怒りも静まり、今度は少し気分が落ちてしまった。如一は千里の殺気が楔が来た時に一瞬でなくなってしまったのに驚いていた。

「……少し、落ち着いたか?」
「……おぅ。」
「そうか……。とりあえずお前は保健室で寝てろ。……楔君と平助には俺から伝えておく。今日は保健室からでるんじゃねぇよ。」

千里は短く、おぅ、とだけ応える。
如一が出ていった後に、千里はベッドの上で蹲りながら
「もうやだ……自分が嫌いだ……、」

と、小さく呟いた。
ほんとは気がついていた。亜留斗に言われるまでもなく、楔に対して恋愛感情を持ち合わせていることぐらい。そこまで、千里は鈍感にはなりきれなかった。平助の気持ちにだって薄々は気がついていたけど、間違えてたら失礼だし、何よりも、そんな自分は愛される価値はないと自負していた。それでも楔への思いは止まることを知らず、楔の伊織に対する真っ直ぐな思いに惹かれていったのも薄々はなんとなく分かっていた。確かに裏の楔はやばいやつだけど、その中でも特に、約束をきちんと守るところとか、頼りになるかと思えば、意外とピュアで、なかなか行動に移せないヘタレだったり、馬鹿かよ、と突っ込みたくなるような所とか。楔だからこそ、千里も好感をもてた。楔だから、徐々に好いてしまっていた。多分、一番惚れたと思うのは、楔の優しさと、一途なところなんだな、と自身で考察をしたし、叶わない上での恋だということは知っていたのに、胸が締め付けられる。苦しくて、苦しくて仕方なかった。千里はようやく気がついたのだ。知らず知らずのうちに溜まっていた楔への恋心を。いつの間にかこんなに好きになっていたなんて思いもしなかった。

「……なんで地雷泣いてんだよ、馬鹿じゃねぇの、」
「っあ……くさ、び……」

今目の前にいた。更に泣き出したい気持ちを押し殺し、
「目、目にゴミ、ゴミが入った!それがまた痛くってさ……、それで泣いてた!」
「ふぅん、取り合えず鼻水と、涙拭けよ。」

そう言いながら、とても雑にティッシュを千里に投げるを恐らく、千里はバレてんだろうなぁ、と思いながら、投げつけられたティッシュで鼻をかんでから、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭う。
「ごめんごめん、んで、どうしたんだよ、楔」
「……さっき話した時、地雷の様子いつもと違ったし、落ち込んでるように見えたから、ちゃんと話したかっただけ。んで、冬木から居場所聞いて来てみたらお前は何故かうずくまって泣いてるしさ……。」
ほんの少し呆れたように口を開いた。
「で?俺としても、友人が悩んでたら相談ぐらいは乗るよ。……それを後で伊織ちゃんにさえ話してくれれば。」

楔の口から伊織ちゃん、という単語を聞くだけでものすごく胸が締め付けられた。それでも千里は何でもない、とは言えなかった。恐らく楔は先ほどの嘘は簡単に見抜いていたのだった。隠しても、そのうちバレんだろうと思おつつ、本人の前で、本人の名前を言えるか言えないかといえば千里は後者の方で、誤魔化しながら話をした

「好きなやつ、出来てさ。でも俺って叶わない上での恋でさ、そいつ、頭おかしいし、変なとこヘタレで変なところ積極的で、ちょっと思考が危ねぇヤツで、最初は好感度、低かったんだよ。それでもそいつと話してくうちにどん……ドン惹かれて言っちゃって……っ、今では、どーしよもないぐらい、そいつのこと、好きみてぇなんだよ、馬鹿だよなぁ、俺。」
楔の事が、とは口が裂けても言えなくて、そいつ、と誤魔化した。けれど、楔からすれば、誰かは大抵予想はついたが、しっかりとは定まることは無かった。楔は一度、めんどくさそうに頭をガシガシとかいてみせる。その後、盛大にため息を吐いたあとに、千里をじっと見つめて、口を開いた。その真剣な瞳に千里が吸い込まれていくということも知らずに。
「お前は、そいつに告白したの?」
「してない。、そいつは、他に好きなやついるし。」
「じゃあ、そいつは、お前が近づくことで、迷惑だ、って言ったことはあんのか?」
「……ない、と思う。でも思われているかもしれない。」

思われているかもは、しれない。けれど、思い返せば言われたことは無かった。
「お前がかつて俺に行ってくれた言葉、そのまんま返すわ。諦めんなよ、脈があるかも、だろ。」
「ちょっと違うけど、でも……俺のは脈ないから、絶対。すげぇ一途で。俺、そこ好きになったんだから、俺なんかに惚れられても困る。それに俺はさ、好きなやつには幸せになって欲しいから」
「……地雷、お前それ絶対後悔するやつだよ、」

その人と付き合いたいかと聞かれれば、確かに付き合いたいし、好きになってもらえたら、すごく幸せになれるし、浮気なんかしないだろう。だとしても、それでも千里は嫌だった。

一番の千里の願い。それは、好きな人には幸せになって欲しい。それだけだったから。

20日前 No.100

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

100話

次の日には噂は拡大していて、伊織が二股してるとか言われており、千里も聞いていて気持ちがいいものではなかった。それに楔についての嫌な噂もほんの少し聞いて、つい舌打ちをしてしまう。
「千里、今日はきれねぇんだな。」
如一が一時間目の授業後に来た時に珍しそうに声をかける。
「既にキレた。悪いけど、机の天板一枚割ってたよ。」
「既にキレてたか……」

秋良による報告で既に手遅れだったことに気がつくが、それにしては雰囲気が少し抑えられている
「なんであいつ今大人しいの……?」
「ついさっきまで、縁先輩がいたからかな?千里、縁先輩来た瞬間少し雰囲気柔らかくなったんだよ。」

如一はふぅん、と思いながら千里のことを見やる。
「如一かよ……。なに?」
「天板割ったらしいーな、手、大丈夫かよ」
「まぁなぁー。あー、少しイライラ収まった。とりあえず楔達の噂の始まりと、真相とやらを探ってくるよ。」

噂というのも、酷いものだ。
伊織は美貌を手に、総司と一とつきあっており、楔も狙っている。という噂を聞いた。楔は楔で可愛さを手玉に取り、千里、美桜の二人を手にしているというものだった。
「けっ、気分わりぃ。」

伊織、千里、楔というのは校内でも目立っている人達で、噂は瞬く間に広がっていた。人の噂も七十五日と言われているのだが、果たして本当に七十五日で終わる程度の噂なのだろうか。

「あああああああああああ!!!イライラすんだけど!!!」
「荒れてんなー楔のヤツ。」
「そーだなぁ、てかお前今学校だぞ。良いのか」
「それどころじゃねぇよ!!今日1日だけで何ッ回裏が出そうになったか……、上野のやつ……」

昼休み。いつも通り、屋上で食事をとっていた。
「地雷だって、迷惑だろうし。俺だっていい迷惑だよ!!伊織ちゃん抱きしめるだけでグチグチ言われるし……」
楔は普段の倍以上に荒れている様子で、イライラしていた。大げさに舌打ちを打った。千里は申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんな?楔。俺もお前と噂になってほんの少し迷惑だよ、普段から言われてんのに……。お前にまで迷惑かけてんな……。ごめん。」
「別に。地雷は悪くねぇよ。気にすんな。なんなら地雷じゃなくて……。伊織ちゃんとがよかったけどね。ま、俺らよくこうやって話してるからな。噂にはなるかとは思うけどなー……。こいつのこと見えてねぇの?」

楔は気にしなくていい、と言っていたが、千里は申し訳なくて仕方なかった。確かに、この場には平助も一緒にいた。けれど、そんなの周りから見れば、関係ない。というのが周りの意見だった。し、もう意味がわからない噂が流れて千里自身が聞くのが嫌になっていた。

「伊織……大丈夫かなぁ……、」
「……。」
「こんな悪い噂とか悪意……俺は慣れてっからいいけどさ……。伊織は慣れてねぇだろーし……。楔、お前そばにいなくていいの?支えてやれよ。」
「……うん、そうするね。」

食事が終わったあと、楔は慌てて屋上から出ていった。一度、こちらを振り返り、何か考えていたようだったので「さっさと行ってこい、」と言いながら、手を振ると、思い違いや勘違いを振り消すような勢いで屋上から出ていく。

楔は先ほどの千里にほんの少しドキッとしていた。けれど、その思いは勘違いだと思いたくて伊織の元へと、走っていた。

教室に行くと伊織は座っていた。その姿を認めると、心がフワフワとした。そう、これなんだ。千里に感じないものはこれだった。
「いーおりちゃんっ!」
「おっ、楔どーした?」
「最近元気なさそうだったからねぇ……、ねぇ、保健室……行かない?あそこなら、山南先生とかが、周りの子達が何か言っても静かにするように行ってくれると思うんだぁ。」
「楔……ありがと、ごめんね、迷惑かけて」

ほんの少し目尻が下がる。その顔に少なからずとも心が痛んだ。
「なんで……っ、好きな人にこんな顔させなきゃ……。」
「楔?どうかした?」
「!!ううん、何でもないよぉ。じゃあ伊織ちゃん、ここでゆっくり休んでて?もし帰るなら、千里ちゃんとかを呼ぶんだよぉ。千里ちゃんなら多分だけど、守ってくれると思うよぉ。……あれ?」
「ふはっ……、でも、楔のこと呼ぶよ、あんま千里ばっかり頼れないからねぇ。帰りたくなったら呼ぶね。」
「……!!うん!ぜひ呼んでよぉ!!すぐに飛んでくるねぇ!」
「大げさだなぁ、楔は。」

クスクスと庵は笑いながら、大げさだ、と言う。そんな小さなことでもほんの少しでも、楔は自分を頼ってくれたのが嬉しかった。嬉しくて、仕方が無かった。久々に話せたのもあり、時間を忘れたくなるほど、話をしていた。
「……」
土方が呼んでいたぞ、と千里が呼びに来ていたのだが、それをはばかりたくなるほど。それと同時に、小学生からの仲には入り込めない仲があることを知った。少し楔に怒られる覚悟をしながら、保健室へと入った。

「おふたりさん、邪魔して悪いね。楔、お前何5時間目フケてんだよ、土方センセーが激おこで探してたぞ。」
千里が入ってくると、ほんの少し、不機嫌になるも、要件を伝えると、授業のことを忘れていたのか、あ、と声を上げる。
「あ゛……んん、忘れてたぁ……。ありがとぉ、千里ちゃん!俺、怒られてくるねぇ、」
「おーお、ドンマイ、一応、昼休みん時体調悪そうにしてたぞ、と伝えて置いたから、保健室で寝てました、とでも言っときゃあんま怒られねぇと思うぞー、」
「千里ちゃんありがとぉ、とりあえず、んじゃあ怒られてくるねぇ」

そう言いながら、楔は保健室から慌ただしく出ていった。
「なぁ、伊織。」
「んー?どうした、千里。」
「学校……、行くの辛かったら休めば?今の時期、っつか、悪意受けとんの、慣れてねぇべ。」
「……ありがと。明日はやすむかも。」

そっか。
それだけは千里を言って、保健室には静寂と、廊下のヒソヒソとした会話だけが広がる。
「お待たせぇ!!あれぇ、千里ちゃんまだ居たんだね、原田先生が探してたよお。話があるんだってぇ。行ってあげたらあ?」

バタバタと廊下から、走るような音が聞こえたかと思えば、思い切り保健室の扉を開ける。伊織はあからさまにビクリと驚いた様に肩を揺らす。もちろん千里も驚いて肩を揺らした。その後に入って来たのは楔で、少し怒られていたのか、慌ててきた様だった。その後に伝えてきたのは、原田が呼んでいる、という事。千里は大方、噂や、今後の捜査や事件についての事のだろうと思い、後に回した。
「あー……、どうせ今のくっだらねぇ噂についてと、後は俺の職業の今後の予定についての話だし、別にいつでもいい話だからなあー……。明日にでも行くことにするよ。もしくは後で連絡するよ。……なんとなく教室に行きたかねぇから屋上で寝るわ。」
「そっかぁ、俺はこの次も休むこと伝えたから、伊織ちゃんとここに居ることにするねぇ。」

やっぱり楔は伊織のことが大好きなんだな、と思いながら、千里は保健室に背を向けて、欠伸をしてから屋上への道を歩き始めた

18日前 No.101

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

101話

──────────少しだけ、嫌な夢を見た。誰かは分からない。誰かが赤い赤い血を流す夢を見た。赤い赤い血を沢山流す夢を見た。あぁ、嫌だ。赤は嫌い。赤い赤い真っ赤な血は嫌いだ。赤い赤い真っ赤な血を沢山見るのはもう嫌だ。赤い赤い真っ赤な血を流すのは誰なの──────────?
「おい!!千里!!」
「んぁ?……あれは……夢、か。所でどったんだよ、平助。」

六時間目、屋上で寝ていると、誰かが呼ぶ声が聞こえる。その声で目が覚めると、体は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。コンクリにもほんの少しだけ、濡れた箇所があり、なにか夢でも見たのか──────────。しかし覚えていない。思い出そうとすると頭痛がした。思い出すのをやめて、改めて声を掛けてきたものに目を向けると、そこには、かつて、千里の事を好いていた平助だった。いつの間にか隣に座り、呆れたように声をかけてきていた。
「おっまえなぁ……、何寝汗書くほど眠りこけてんだよ。楔のやつから聞いてたけど、本気でサボったのかよ……。いくら出来るからってあんまサボりすぎたら単位取れなくて留年するぞ。」

千里はかったるそうに体を起こしてから、溜息をつく。前はほんの少し千里は距離を感じていたのだが、いまは前よりも距離が近い気がして、ほんの少し嬉しかったし、仲良くなった気がした。
「……まぁ、そ□なんだけどさ。ほら、俺天才だからさwぶっちゃけ授業受けなくても、分かるし、テストはやる気さえあれば主席ヨユー。なんなら平助勝負するか?俺が勝ったらお前秋良に告白せぇよ。」
「は?!無理むり無理無理無理!!!お前に勝つとか絶っっっっ対無理!!」
「はは□ん?まーだビビってんの?」

からかうようにうりうりと肘でつつくと、一度プルプルと体を震わせると、だああん、とコンクリを叩く。……今度は別の意味でふるふると震わせていたが、その後、手首をさすりながらニヤリと笑いながら、ゆらりと立ち上がる。
「……俺ばっかじゃ不公平、ってやつだよなぁ……?よし!じゃあお前も、俺が勝ったら"楔に告白"しろよ?」
「……は?……なんで楔の名前が出てくるんだよ。意味わっかんねぇし……楔関係ないべ」

関係なくないだろ、と平助はため息と共にそう言った。
「お前、楔のこと好きなんだろ?」
「は?いや、そんな訳ないだろ……、誰があんな裏表激しい奴なんかを好きになるかよ……、」
「じゃあ……、なんで目を逸らした?」

平助は厳しい瞳を千里に向ける。恐らく、千里の事を好きだった頃は有り得ない話だ。そもそもこんな話、敵なのかは分からないが、敵に塩を送るような話、しないであろう。
「そ……それは……。」
「俺さ、知ってたよ。一度、楔のこと好きになったことあんのも、最近楔のことまた好きになったこともさ。」

平助は千里のことをほんの少し寂しげな目で見ていた。
「分かんだよ、何となく。中学の頃からずっと見ていた訳だし。」

そう言いながら、ほんの少し寂しげに笑う。
「……そっかぁ……、平助にはバレてたかぁ……」
「バレバレ。最悪楔が知っててもおかしくねぇぞ?……まぁ知らないとは思うぜ、あいつ、伊織以外に興味持たねぇし。」
千里は恥ずかしそうにほんの少し下を向く。平助からすれば、その顔は昔なら好きだった頃に見たかったものだろうが、今はそんなに嬉しくはなかったし、んな顔は好きなやつに見せろよ、とか思っていた。少しイライラしてきたので、話を元に戻すために大声を出す。
「とりあえず!!俺が勝ったらお前は楔に告白!!俺が負けたらちゃんと秋良に告白してやるよ!!」
「はあああああ?!なんで勝手に俺まで巻き込んでんの?!」
「じゃあ戦わずして千里の負け、それでいいんだあ……、じゃあ楔に告白してこい、よ?」
「……はっ、挑発のつもりかよ。いーよ、乗ってやろーじゃん。てめぇぜってぇ負かせて告白させてやらぁ。」
長年の平助の付き合いのおかげなのか。千里はまんまと挑発にのったのだった。ある意味、千里は馬鹿で、挑発に乗りやすい、掛ではある意味、千里は単純だということだった。

18日前 No.102

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

102話

「んじゃあ、勝負は、次の期末!そん時に勝負!それでいい?」
「あったりまえよう!俺に捜査や、事件がどかすか入らなきゃの話だけどな!!」

勝負の内容について、話し合うことにする。ここをきちんと話し合わないと、恐らく、後で、下らない言い争いになるのは二人には目に見えていたので、予め話し合うことにする。もちろん話し合った内容は、お互いにメモをとっている。
「あー、そしたら問答無用で千里の負けだからな。」
「な!!……テスト中は捜査休ませてもらうか……。」
負けず嫌いな千里の性格からして、挑発に乗らせるのはとても容易く、よくこうして仲の良いものと軽い競走をしたことがある。如一以外に負けをとったことはないが、さて果て。今回はどうなる事やら。
それはともかく置いておくことにして。
「んじゃあ、約束として、もし千里の必要不可欠、もしくは冬木家の事情で嫌でも捜査に出なくちゃ行けなくなったら仕方ないとして、課題の終わらせるスピード、もしくは誰かに頼んで似たような問題で勝負。」
「よし、じゃあその約束の元、勝負だ!」

千里は一度、それでいい、と言いながら親指を立てた。「んで、負けた方が好きな人に告白する、これでいいな?」
「おぅ!!」
「んじゃあお互い本気でぶつかり合う!」
「あったり前!負けたくねぇもん!伝えた所で、俺は叶わないのは百も承知だしな!」

そう言いながら、教室に戻る途中、楔の教室の目の前を通ると、ほんの少し顔を曇らせながら、楔が話しかけていた。
「あ……、千里ちゃんと平助。ねぇ、千里ちゃん。ちょぉっと大切なお話あるんだけどさぁ。今日……空いてるかなぁ?」
「く……楔……、今日?空いてる、けど……どうかした?」
「ちょっとだけ、伊織ちゃんに関する相談……、なんだけどねぇ、ここではあんまり話したくなくてぇ……、千里ちゃんのお家でお話しても平気かなぁ?」
負けたら告白するかもしれない相手を前にするとやはりほんの少し緊張するもので、ほんの少し口調がたどたどしくなるものなのだが、隣にいる平助から肘で小突かれ、背筋を伸ばし、余裕を見せる。
「ん……、大丈夫。じゃあ放課後俺んちで大丈夫?てかお前俺の家、覚えてんの?」
「あ、うん、それは大丈夫だよぉ。
……あ、でもほんのちょっと不安だからね、迷子になったら電話するから、迎えに来てねぇ、」
「はいはい、仕方ないなぁ。てか迷子になられても困るからさ、スーパーあったろ?あそこで待ってろよ。あそこに付いたら連絡してくんね?」
「うん、わかったぁ!」

千里は楔に手を振りながら平助と共に教室へと戻っていく。その道中に話した内容が
「……なぁ、千里はアレでいいのかよ。」
「……あれっ……て?」
「楔の伊織のやつだよ。」
「あー、あれね。うん、アレでいいんだ。」

平助は不思議そうに訪ねていた。
「……何で?」
「んー、なんて言うか俺さ、好きなやつには幸せになって欲しいし、それの幸せにできんのは俺じゃねぇわけ。伊織だってのも。適わねぇのは百も承知だよ。だーかーら、これでいいの。」
千里はほんの少し寂しげに話しながら笑う。友達である千里のその顔を見ているのはほんの少し、心苦しいものがあった。
「千里ってさ、昔ッからそーゆーとこあったよなぁ、自分より相手優先で。たまには自分の思い、優先してもいいんじゃねぇの?」
「いーの。それが俺の幸せ。……だから……俺としては楔と伊織が幸せそーならそれでいーんだよ。多分だけど、伊織も楔のことまだ気がついてねぇと思うけど……。多分好きだと思うぜ。」
「そっか……」

千里は何処かいつもみんなから一歩引いたところでみんなの笑顔を見守ってそれで満足している立ち位置だった。今回もまた、そうするつもりなのだろうか。
「千里がいいなら……それでいいんじゃね?」
「うん。」

18日前 No.103

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

103話

「千里千里ー!……あのさ、そーだんあるんだけど、これから……大丈夫?すぐ終わるから!!」
「この後……?楔と話しあるけど……まぁ、楔にはほんの少し伊織の話聞くから遅れるとでも言っておくよ。」

HR前の時間。ほんの少しの間を塗って伊織が相談に乗ってほしい、と言われた。もちろん断る理由もないし、楔も伊織のためならおそらく待ってくれるのが分かる。その後すぐに"分かった。なるべく急げよ。"と返信があり、珍しいと思いながら"珍しいな、でもまぁ急ぐね。但し相談内容によっては遅くなる。一応地図送っとくし、嗅ぎ渡しとくから先家行っててもいいよ。"と送ると、"……家で待ってる。"とすぐに返信がきた。

「うん、楔も遅れるてもいいかって聞いたらいいってさ。じゃあ近くの喫茶店でいい?」
「うん、奢るよ。」
「え?悪いからいいよ。ちゃんと自分の分は払うよ、そのぐらい簡単だよ。」

そう言うと、バツの悪そうな顔をしつつも、「ありがと、」と呟く。恐らく、楔も伊織のこういうところにも惚れているのだろう。千里にはないものを好きになったのかなぁと思った。HRの時間は原田が何かを言っていたが、何を言っていたのか、覚えているわけがなかった。
「千里!ごめんね!HR延びちゃった、歳三の話が長くて。」
「あー?別にイイよ、俺んとこも長引いてた。」
「なんか……また大変なこと起こってるらしいね。」
「は?なにそれ俺知らない。」
「え。あー、うん、まぁとりあえず、楔待たしちゃうの悪いし……、喫茶店行かない?」

「ん……、分かったんじゃあ行こ。」

帰り道の途中、楔とすれ違ったが、何か思いつめたような顔をしていて、こちらには気がついていないようだった。その顔を見て、心配になったが、伊織もココ最近心配だったのもあり、伊織を優先させてもらった。

「んで……、今回千里を呼び出した理由の、相談の事なんだけど……最近、楔が、千里とばかり仲良くしてて羨ましいというか寂しくてさ……、それと最近楔が遠い気がするんだよ、前は隣にいてくれたきがしたんだけど、今はなんつぅか一歩から2歩位後ろにいる感じがして……、なんか……いやだ。それに、何か……寂しい……、楔がいなくて……。」
「っ……」

千里はここまで聞いて、もうこの先に続く言葉をもう理解来てしまい、辛かった。あぁ、やっぱり伊織も楔のことが、好きだということを知ってしまったから。
「なんか……少しだけ、最近千里に嫉妬してんなぁってなんとなく思ってさ……、なんで……だと思う?」
「……っ……ごめん、俺、よく……わかんないや、ごめんな、」

そっか、と伊織は悲しそうに笑う。凄くその顔を見るのは辛かった。けれどここで本当のことを教えてしまえば、たぶんもう千里は楔からすれば用済みで、もう話すことがなくなってしまうのが嫌だった。

結局のところ、千里だって、楔の事が好きで、取られたくない、という感情があったことに気がつき、楔が自分で幸せにできたらいいのに、なんて思ってしまう。そんなことを思ってしまう自分も嫌いで、嫌だなぁ、って思ってしまった。

「話聞いてくれてサンキュ、少しだけ、軽くなったよ。楔……待たしてんだろ?早く行けよ、」
「ん……、ごめんな?大した力になってやれなくて。」

千里は心の中で、いや違う、嘘ついて、だろ。と心で思う。自分の願いのために、嘘をつくことしか出来なくて、辛かった。それでも久しぶりに千里に戻ってきたのだ。取られたくない、という感情が。如一が聞いたら喜ぶだろうが、千里はあまり喜べるものではなかったし、最近は色々な感情が戻りつつあるが、それでもまだ如一はきちんと戻っていない、と言っていた。戻ってきていない感情が何かが千里は分からなかった。
そもそも、中一の途中まで感情なんてなにかなんて忘れていたぐらいだ。分かるはずがない。

「さて……と、楔ん所行くか……絶対待たしてるよなぁ、怒られそうだなぁ、」
小走りをしながら千里は家へと向かう。いつもよりは遅く帰宅になってしまったが、恐らく、楔が居るのだろう。鍵が開いているところを見ると、恐らく中にもう居るのだろう。扉を開けると、中で楔が客室で待っていた。
「楔?相談って……どうした?」
「うん……、伊織ちゃんの事なんだけどさ?……最近……本当に伊織ちゃんのこと……好きなのかなって……思いはじてて……」

18日前 No.104

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

104話

「うん……、伊織ちゃんのことなんだけどさ?……最近……本当に伊織ちゃんのこと……好きなのかなって……思いはじめてて……」
「…………え?」

楔の口から聞いたのは──────────弱音。楔はたしかに悪意を受け取ったことがあるが、あまり無かったはず。その悪意の嵐に耐えきれなくなっただけなんだろう。千里は慣れているので、何時もうっとおしいのが増えた、程度にしか考えていなかったが、慣れていないとこんなにも弱ってしまうものか。千里はなかなか考えさせられた。
「最近、もしかしたら本当は地雷の事が好──────────」
「楔、それりゃ気の所為だよ、」

好きかもしれない、楔が言おうとしていた言葉を遮る。一体自分は何がしたいのか。最近それがわからない。何故かわからない。楔の言葉を遮って自分の不利な方向へと持っていくのか。
「じゃあかんがえてもみろって。じゃあきくぜ、"お前がつけて回りたい程俺は魅力的"か?」
楔はそう聞く、と首をかしげながらも、一つ、頷く。千里はこりゃまじか、と思いながらまた一つ口を開く。でもその次に口を開いた時は肯定でもなく質問でもなく──────────。否定、の言葉だった。
「違うよ、楔。違う。俺は伊織ちゃんじゃない、縁楔。お前が好きなのは、橘伊織……、俺みたいにもう心が枯れきってて自分が何したいのか分からなくなってる馬鹿で哀れな俺じゃないよ……。」

そこまで千里が吐き出すように声を出すと、楔はハッとしたように声を上げる。
「え……?あー……、えっと……、うん。ごめん、地雷。馬鹿な事言った。忘れろ。てか忘れて。忘れないと」
「……当たり前だろ、伊織を好きじゃない縁楔がいたらきもっち悪いよ。」
「ああ?!きもっちわりぃは言いすぎだろ!おっ前失礼だぞ?!」
「事実ですー、そもそも俺なんかに惚れるのはあの馬鹿な平助だけで充分だってw」
「お前それは平助可哀想謝れ」

吹っ切れたのか。悩みがなくなって心が軽くなったからなのか。楔はいつも通りに戻っていた。千里はたしかにほんの少し後悔をしているのだが、それを千里は隠すのがうまい。
「にしても確かになんで俺お前だったんだろ。」
「噂のせいだろー、噂に惑わされるなんて、馬鹿だなぁ、俺なんてお前なんか友達以上恋人未満にしか見れないですぅー」
「あっそ……、」

この時楔は確かに千里の気持ちにたった一つの嘘に気がついていたのだが、ここで千里に是非を確認するのも野暮だろうし、千里の自分に対する心遣いもすべて無駄にしてしまうことになる。楔もそこまで馬鹿ではないので、あえてそこは突っ込まないでいた。

「……とりあえず……さ、楔。お前は諦めず、頑張れ、脈はあるはずだからさ。」
「なんで……んなこと分かんの?馬鹿のくせに」
「……女の勘。」

千里はまた一つ嘘を重ねる。本当は伊織の気持ちも気がついた上で、話なんてできなかった。楔もこの嘘だけは見抜くことが出来なかった。それほど、伊織の想いに対して、自信が持てなかったのだ。
「なぁ……地雷。」
「ん……?なんだよ。」
「お前……俺に──────────いや、何でもね。それよりも、これからも多分、お前に迷惑かけると思うんだよ。その度にこーして喝入れて……来んね?」

惚れているのだろう。その言葉は飲み込んで、まったく関係ない話を持ちかけた。それに千里は苦笑しながら「しょうがねぇなぁ、」と承諾をした。楔も裏を知ってもなお楔の元から離れなかったのは、千里で二人──────────、いや三人目だったが、千里は気持ちのいいやつだった。平助と並んで、それなりにイイヤツだとは思う。自分の犯罪も揉み消してくれるから。時には廬のことについて依頼をされることもあって、楔にはとても嬉しい限りであった。

「ありがとぉ、千里ちゃん相談に乗ってくれてぇ。心軽くなったよぉ。」

それでもほんの少し気がかりだったのがあった。千里の悲しそうな笑顔を見ると、ほんの少し心が締め付けられる。そんな気持ちに駆られたのだった。

18日前 No.105

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

105話

世の中も梅雨に入り、ジメジメと鬱陶しい空気の中、鬱陶しい噂。梅雨の時期と言うのは千里は嫌いで、タダでさえいらいらしているというのに、その千里のいらいらを掻き立てるには充分過ぎるほど噂といと言うのは執拗いは、いつもは絡んでくることのない人たちまでがからかうつもりで話しかけてくることにイライラしていた。しかし、最近楔や平助、あとは2年の噂は本当だったらしく、別の意味で収まってはいた。しかし、俺や伊織についての噂は拡大だけを続けていた。もうある意味知っちゃかめっちゃかだ。

「……ああ、イライラする。」

梅雨というのは厄介だった。どこかでも話したとは思うが、雨というのは綺麗さっぱりと証拠を洗い流してしまう。時には残っていることもあるが、有力な手がかりになるかと言われれば、悩むところだ。指紋さえ残って居れば、いいのだか、雨というのは指紋さえ洗い流してしまい、今、県警の捜査は難航をきたしていた。来月までに解決できればいいが、正直言ってしまえば、微妙なラインなのだ。

いらいらしていると、どうやら聴覚が良くなるのか。廊下からよく見知った声が聞こえる。
「─────せん、───せて貰いませんか、ちょっとしんどくて。」
そちらに視線を向けると、土方と伊織が立っていた。
「あれ……伊織今日は来てたのか……。」

昨日、伊織は学校を休んでいて、楔は酷いことを口走っていたのを思い出す。しかし、千里が珍しいな、と思っていたのはその際、一度足りとも伊織に連絡入れている様子がなかった、という事。前の楔なら授業中だろうと、千里達と話していようがお構い無しに伊織に連絡をしていたものだが、今回それをしていなかった。
不思議に思いつつも、口に出さなかったのは。多分自分と話しているのに伊織と話をして欲しくない──────────。そんな感情があったせいなのかと思っている。我ながら最低だな、と千里は心の中で毒を吐いた。無意識に廊下へと歩いていっていた。近くに近づくと、先程よりもかなり鮮明に話の内容が聞こえると、
「じゃあ気をつけて帰れよ。あー、お前ひとりじゃ何しでかすか分かんねぇからな……誰か──────────」
「俺、連れて帰ります。」
気がついた時には既に立候補していた
「俺なら成績もイイし、てか授業とか受けなくても分かるし。家まで送りますよ」
「おっ前……そろそろ単位あぶねぇからな?!授業受けろよ!!」
「嫌です。そもそも俺はサボりたければさぼるし、抜け出したきゃ抜け出します。それに俺は授業なんか受けなくてもわかりますし、正直、テストさえ受けさせてもらえればいいんですよ。テスト範囲もいりませんし。」
千里は冷たい凍り付くような瞳で土方の事を下から見つめる。土方は有り得ない、という顔をしながらも確かに千里の成績は常に学年トップに近いところをキープしているし、そもそもの話、確かにここで止めようと何をしようと千里はサボるし、学校抜け出すことは変わりなかった。だから土方は溜息をついた後、渋々、と言った感じで許可を下ろす。

「んじゃあ、伊織。帰ろーぜ。」
千里は伊織を送るだけなので、一応何かあった時のための普段用のスマホと仕事用のスマホを二台持っていく。

「あれ、千里変えるの?」
と秋良に途中で話しかけられたのだが、
「伊織の警護しに行ってくる。悪いけど、多分楔くると思うから、楔には"伊織ちゃんは体調悪くなって帰ったから、お見舞いにでも行けば?"って俺が言ってたこと伝えておいてよ!」

秋良にそう伝言を頼むと、秋良は不思議そうな顔をしながら、了承をした。でも秋良はほんの少し疑問に思った
「ココ最近……、縁先輩が伊織さんと一緒のとこ見ないな……、けど千里と一緒なのはよく見かけるや……どうしたのかな……?」

このつぶやきは休み時間である教室ではほかの人の話し声で掻き消され、誰の耳にも入ることは無かった。そう、誰の耳にも。

昨日未明

「ねぇ、美桜。ホントーにやるんだね!これで楔君と仲良くなる上で邪魔な女ひとりは潰せるね……?」
「あったりまえだよォ!てか最近地雷チョーシに乗りすぎだよねぇ、この間勝手に家に入っただけですっごぉいこわぁい顔で怒られた!その事を話したら、私のこと好きな男の子達まぁんまと騙されちゃったんだもぉん!」
「あはは、最っ高!そろそろ平助君と楔君は解放しないとねぇ、あんまりだもんね。巻き込まれてただけだし……仲良くしておいた方が後々便利だとは思うよ?」
「あー、そうだねぇ、そうしないとぉ、」
「まぁ、とりあえず明日は橘伊織を殺して、その後、地雷千里を殺す……でいいんだよね?」
「うん!協力してねぇ」


陰に隠れながらその話を聞いていた千里は全部は聞き取ることは出来なかった。けれどしっかりと聞き取れたのは橘伊織を殺す、という事だけ。まさか自分も狙われるとは思っていないし、自分の命なんてどうでもいい千里としては、自分の名前なんて聞こえなくて当たり前なのかもしれないが、少し自分のことも大切にして欲しかった。

だから千里は今日は名乗り出たのだ。送り届けることに。楔でもよかったけど、殺す、となると恐らく、怪我をしてしまう可能性もあった。

「ねえ、待って千里ちょっと早い……」
「あ……ごめんな?」

千里は伊織を守りたかった。楔のためだけに。いつの間にか掴んでいた伊織の手をぱっと離し、隣をゆっくりと歩くり
「千里ってさ、……初めてあった時から思ってたけど……綺麗だし、美人……だよね。眩しいや」
「は?何言ってんだよ、」

千里には伊織の言っている意味がよくわからなかった。千里からすれば伊織の方が美人で綺麗だ。
「俺……もう無理……死にたいよ。」
「な……!!なんでそんなんになる前に……」

楔に言わなかった、頼らなかった。なんなら俺でも相談になら乗ってやった。
「……みんなさ、俺に向かって死なないで……って言うけど……俺もう、死んだ方がましだよ……辛い。」

千里は一体何がここまで伊織を追い詰めたのか。一体何のせいで、こんなにまで伊織を弱らせたのか。本当に悪意を受け取り慣れてない人っていうのは簡単に壊れてしまうことがわかり、本当に辛かった。

「……さいきん、さ。楔がまだ遠いところにいる気がしてならないんだよね……。もっと言えばもっと遠くにいる気分。寂しくて怖い……。楔いないと、怖い。嫌だよ、寂しい。最近……前より楔千里といふこと増えたよ、」

多分、伊織はもう気がついてる。自分の気持ちに。楔に対する気持ちに。でも気がついた時が、タイミングが悪かった。と言いきれる問題なのだろうか。
「でも、、さ?気がついた時には時すでに遅し……って奴かなぁ、へへ、告白する前から振られちゃった。」

そんなことない、とは言いきれなかった。この間楔は明らかに自信を失っていた。ほんの少しづつ歯車が狂っていくような気がしてならなかった

「あの、ね!もう俺1人で!平気、!だから千里は学校戻って……?」
伊織が走り出し、千里を振り切ろうととした瞬間。

歩道に一台のトラックが伊織をめがけて突っ込んでくる。千里は手を伸ばし、手を取って伊織を守り、自分が身代わりになろうとしたが──────────。その手は空を斬り目の前で大きな打撃音と、何か細かい破片が散らばる音そして──────────。

たくさんの赤い血。

「あ……、いお……り……、え……?あかい……ち?やだ、これしらない……わかんない……、でん、わ……いつい、にでんわ……しなくちゃ……」

手が震える。カタカタと小刻みに
「おい、千里!!今授業中だよ!!何電話かけてきてんだよ!」
「いつ……い、いお……いおりが、ねいまめのまえで……じこ……あって……ち……あかいち……いっぱい出てて……」
「……とりあえず落ち着け。深呼吸だ。俺から地雷家の警察と冬木家の救急班に連絡入れとく。お前はとりあえず落ち着け。お前がしっかりしてないと、"また守れねぇよ"。」

そう言って如一は電話をぶつん、と切った。

17日前 No.106

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

106話

赤い赤い血は怖い。
赤い赤い血が沢山流れていると、その人は死んじゃうから。
赤い赤い血が沢山。その人死んじゃう。
大きいものに潰されてるものを見るのは怖い。
だってその人は死んじゃうから。

ふと手を見ると、自分の手が紅く染まっていた。まるで"あの時"みたいに。
「ぃやだっ……!!」
千里はその手を見ないように、耳と目を塞いで、力のある限り叫ぶ
「怖い!!怖いよ!!」

その時、何かが動かないとパラパラ、と落ちることのないものが落ちて、その音で千里は目を開け、そちらを確認すると、伊織はまだほんの少し息があるようだった。頭上でも如一家の救急班と、地雷家の警察部隊が既に到着していた。
「……まだ生きてる……、だい、丈夫……?」
「ちさ……と、だ……い、丈夫、だから、深呼吸、深呼吸……、」

そう言ってから、伊織は気を失って、しまう。さすが冬木家の使いの者達で、なかなか救出から、運ぶまでの時間が異様に短かった。もちろん千里もいつの間にかヘリに乗せられ、病院に連れていかれていた。顔や、足には特に外傷は無かったが、伸ばした右手に、抉られたような深い一つの傷ができていたらしい。どうやら千里の手のひらについていた真っ赤な血は自身のもので、伊織のではなかったことが分かった。それでも千里はこの目ででしっかりと伊織がたくさんの血を流しているのを見てしまった。

「い……やだ……ご、、ごめんなさ……、いお……しぬ……?やだ……わかんな……、ちが……、あか……あか……、ち……、やだ、おもい、だす……、なに……やだ、あか……、おれ、わたし、ぼく、ごめ、ごめ……う……」

周りか何を言っているのか、何を話しているのか。今
の、千里には理解出来なかった。
「マズイな……血が足りない……。」

カルテを見ながら亜留斗は難しい顔をする。その時、ばたばたと走りながら、知らせに来たのは、研究班の1人、日下部一郎だった。
「班長!!橘さんの血液はORH+だということが分かりました!!」
「でかした!!適当にO型引っ捕えて、輸血に協力させてもらってくれ!」
「かしこまりました!……地雷さんはどう致しますか?正直、自殺してもおかしくないですが……。」
「そろそろ冬木が縁楔をつれてじきにくる。それまで他の班のメンバーに見てもらうことにしよう」

亜留斗は先程見た千里の様子を思い出す。目には生気が灯らず、人の死を見ることに対する恐怖、仲間を失うかもしれない恐怖、失望、後悔の色をしていて、口からはカタカタと震わせながら、平仮名で、何かをブツブツと呟いていた。その時、遠くでバタバタと走りながらこちらに向かってくる、二人の姿が見られる。とはいえ、ひとりは引きずられているのでおそらく走っていたのは冬木如一。こいつだ。幾らか楔が落ち着いてるところを見ると、いつが既に事のあらましをすべて話しているのだろう。そして輸血をして、脈が安定していることも。けれど、静かな怒りを讃えていた。この一連の騒動の犯人に。恐らく千里の事だ。当然仕切ってくれる。そう思っていた楔の目に入り込んだのは、すっかりボロボロになった千里の姿だった

「おれ、わた、ぼく、がくさび、とった、から、おれ、わた、ぼく、、いら……ない、くさ、び、なん、いや、だ……あかい、ちは……いや、だ……たくさん、やだ……」
「千里……、」

如一はこの状態の千里に一度、直面したことがある。親を失ってすぐの時。たまたま見かけたのだ。如一もその時はまさかこいつが伝説の警視総監地雷千歳さんの娘だとは思わず、何こいつあぶねぇ、ぐらいにしか思っていなかった。
その時、拾えば今みたいにひねくれた性格にはならなかったとは思うが、そんなのは恐らくないだろう。
「じ……じら、い?」

楔は信じられなかった。普段あんだけ気丈に振舞っていて、警察、という少なからずとも血と接触するような事件とは毎回向き合った後でもいつもニコニコと笑っていて、一時期こいつ感情ねぇのかよとか思っていたぐらいだ。ある意味それはただしかったのだが、ある意味間違っていた。強がっている振りをしていただけなのでは、と楔は思う。本当は辛いのに。楔には話していない千里の過去があるから仕方の無いことなのだが、勝手に考えてしまう。本当は違うのに。

千里は極端に仲間の血を見るのを嫌がる。指で手を切ったぐらいでも過剰に心配する時はした。

「っ──────────、
地雷!!」
「いや、だ……くさ、くさび……、おれぼくわたし、まもろ……とした……て……とどかな……か……た、」
「とりあえず、おちつけ。」
「い……おりから……たくさん……ちが……ちが……あかい……あか……いちが……たくさん……でると……みんな……しんじゃ、っ……て、いしゃ……も、みす……てる……、いやだ」

楔は今の千里と話しても何も変わらない、そう思っていたが。
「つぎは……まもりた……かった……のに……"また"守れなかった……、もう……いやだよ……ちが……いっぱ……い……たくさん……でて……なか……ま……みんな……うしないたく……ないよ……」
ほんの少し見えた千里のここまで過剰に仲間の血に対して怯えている真実の谷間。
そう言いながら初めて見た千里の涙。
「泣くなって……、俺も泣きたいよ……。伊織ちゃんは」

「くさ……び、おれ……ぼくわた、……のせい……で……いおり……からはな……れて、いお……り、、さみしがってた……、おれ、ぼ……くわた、いなかったら……こんなこと……ならてなか……た、おれ、いらない……?」

楔は信じられなかった。千里が無意識に発した言葉に。"伊織は楔が居なくて寂しがっていた"という事実に。
「おれ……ぼ、たし、いなか……たら……いお……くさ……みんな……しあわ、せ、いお……くさび、のこと……すき、なのに、ちゃん……といえなか…………た……、ごめん、ごめんなさい……」

「……!!
なんで……おれ、伊織ちゃんのこと放置、してたのかなぁ……。でも、地雷……ありがと。ようやく気がついたよ、俺。地雷のこと好きになりかけてた。でも、伊織ちゃんの方が好きだよ。ごめん。ごめんな。」

千里は今何も聞こえてないのをいいことに楔はそう呟いた後、如一に向かって話しかける。
「如一ちゃん、千里ちゃんのこと、任せたよ、おれ、伊織ちゃんの様子みたいんだ。」
「え、あぁ、おう。」

千里は気持ちの良い奴で、強いやつだと勝手に勘違いしていたが、あいつもきちんと感情があったことが分かったのが嬉しかったけれど、今は伊織ちゃんの方が心配だった。

「さて、縁楔。お前には二つの質問をしてもいいかい?」

17日前 No.107

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

107話


「君──────────、ついさっきまで橘伊織よりも地雷千里に傾き始めていた。そうだね。でもついさっきの地雷の伊織に関することで、思い直した。」
「うっせぇなぁ!!全ッ部地雷から聞いたさ!!伊織ちゃんが寂しがっていたこと!!けど……!!!わっかんねぇんだよ!!なんで地雷があそこまで自分を追い込む理由が……!!!いちっばん気になるのは、なんで伊織ちゃんがこんな目に遭わなきゃいけない理由が……!!」

「……片方は話せるが、片方は地雷。アイツの意志がないと話せない。勝手に人の深いところを話してしまうのはさすがにはばかられるんでね。どうしても気になるのなら、本人から聞くことが一番だな。まあ、一番の理由としては縁楔。アンタのせいだ。お前が一連……地雷や、舶来、周りの悪い噂を覚えているだろう?あれもお前のせいだ。」
「な……っ!!」

自分も巻き込まれたというのに何故、犯人は自分だとでも言われなくてはいけないのか。訳がわからなかったし、じぶんも騒動の中にいたと言うのになぜなのか。

「あんたが誰にでも振りまく愛想……、それのせいだよ。途中から誰と誰の噂だけがひどくなって言ったのかよく良く考えれば分かることだろう。お前とよく話していて、かつお前が好きな人だ。」

そう言えば、地雷と伊織は特に酷くなって行く一方で、弱まることを知らなかった。
「橘伊織と、地雷千里を邪魔に思う人物……
恐らく心当たりはあるのだろう。犯人はそいつだが自らは手を下していない。むしろ、味方だと思わせているよ。まぁ、地雷は信用はしていなかったようだが、橘の方はどうかな。友達の1人は自分と仲のいい人と一緒で、寂しい思いをしている時にそんなことを言われたら。」

「でも……みんなに愛想振りまかないと伊織ちゃん、は俺のこと、愛して……」
「愛してくれないか?」

そこまで言うと心を読まれていたのかと思うが、顔を上げて楔は亜留斗のことを睨み付ける。こわいこわいとケラケラ笑いながら言っているあたり、怖くないのだろう。そう言えば、千里もケラケラ笑いながらお前こぇんだよ、とか言っていた。こんなの、伊織ちゃんに見せたら、嫌われる。怖いっていいなガから。そしたら、自分はどうすればいいのかわからなくなる。

「君がだいぶ人間らしくなったし、安全になったから、この話をしている。……まぁまだ少し早かったかもしれないが、おそらく人を殺しはしないだろうとこの間千里が言っててね。もしまた伊織が襲われて俺が使いもんにならなかったら、楔に話をするのは任せたと任されてしまってね……まったく。縁楔。君は変わったね。地雷に会ったからかな?……そしてもう一つだが、お前は、大馬鹿者で最低なのだな。長年付き合ってても分からないとは……。地雷よりも馬鹿なんじゃないかい?いや、あいつはこういう意味では既にもう馬鹿じゃないとなると、やはり最低なヤツであっているのか。千里はもう気がついてるよ、橘伊織の気持ちについて。過去のこともあるのだが、それで今余計に彼女を苦しめているのだよ、きちんと言えなかったことで。」

「なん……だよ、それ。」

17日前 No.108

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

108話

「縁が地雷に傾いている間、橘伊織は寂しい思いを沢山していた。好きで好きでたまらない相手がほかの女と仲良く食事をしているところを見たら──────────どう思う。」

伊織ちゃんが自分を好き、という言葉に自惚れた。しかし、ほんの少し前千里から聞いた情報によると、こいつ──────────六合亜留斗は脈の動きや、ちょっとしたことで、感情が分かるとかいう奴で、ということは、こいつのいうことには間違いがない、ということだ。
「おれ、だったらそいつを太平洋に沈めたあと、これでもかというほど、やる……。」
「はは、まぁそれは別にいいとする。どうせ地雷がお前のために隠すさ。目撃者諸共殺すだろう。そしてこの事件の真犯人だか……まぁ恐らくここまで話せば気がつくだろうが、お前を好いている……二人いるが、一人はまともだな。もう1人の女子生徒だよ。」

地雷が隠してくれる、という言葉に確かにあいつならやりかねないと思いつつも、真犯人で浮かんできた人物はまぎれもない縁楔のストーカーである、上野美桜、だった。

「とりあえず……橘伊織の脈や呼吸は安定した。目は覚ましてないが……。アイツの回復力にもよるだろう。あぁ、羅そうだ。様子を見に行くかい?あぁ、その前に地雷と話をさせてほしい。正直あの状態の地雷何にしでかすか本当に分からないからね……。」
「は?別に構わねぇよ。俺だって一応あの状態は見てるし、地雷は何もしないって一応信じてるから。」

ありがとう、助かるよ、と言いながら楔が元来た道を走って行く。楔もそれに続いてとぼとぼと歩き始める。

途中、千里は冬木に抱かれながら伊織の病室へと向かうところを見かける。恐らくもう立てない所なのだろう。
「伊織ちゃんごめんね……、寂しかった、よね、当たり前だよね。ごめんね、ごめん、おれ、なんにも分かってなかったよ。」
楔は1人、寒い廊下で、泣いている。

「いお……り、たす……か、る、の?もうだいじょーぶ……、?しなな、い?おれ……のせい……でしな……ない?おれ、いおり……あやまんなきゃ……ごめんなさい……ていっぱ……いあやまら……ないと……いおり……は……しんだら……だめ……ごめんな……、おれ……しんだ……ほうが……いい、」

「とりあえず君は暫くここの病院でお世話になりなさい。今のまま君を家に帰らせたら変な気を起こす気がしてね……。橘と部屋を隣同士にしてくれないか?あと、さっさと地雷を黙らせてくれないか。マイナス発言ばかりで気が滅入る。」

千里は深い傷をまたひとつ増やした。罪悪感ってこんなに重いものなのだと、千里はこの時はまだわからなかったが、これを理解するのも早いだろう。
亜留斗は周りにテキパキと指示を出していく。普段この役割というのは千里なのだが、今の千里には荷が重いであろう。千里は抵抗も何もせず、とりあえず得体の知れないものを打ち込まれ、深い睡眠へと陥る。

次に千里が目が覚めたのはその二時間後で、病院の天井をじっと見つめていた。その瞳には──────────。光なんてモノはしらない、希望なんて忘れていた頃、冬木家に引き取られたばかりの頃の瞳の色に戻っていた。

そんなの事はまだ誰も知らないし、千里が目覚めていることもまだ誰も知らなかった

17日前 No.109

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

109話

千里が目を覚めて五分後。
起き上がって、何もせず声も出さず息を殺して、ぼんやりとしていると、ことの真相の犯人である、上野美桜が尋ねてきた。千里は何かが入ってきたのでそちらの方に瞳を向ける。

「あれぇ、千里ちゃん、もう壊れちゃってたかぁ。残念だなぁ。最後くらい美桜の手で壊したかったのに。」
「……。」
「……やっだぁ。こっわぁい顔。そんな目で見ないでくれる?ごめんねぇ、千里ちゃんの過去は勝手に調べさせてもらったよぉ。みんな美桜が聞けば、おしゃべりしてくれるからねぇ、聞き出すのはとぉっても簡単だったよぉ。お陰でこぉして、邪魔だった橘は死んじゃったし、邪魔なあんたもこれで壊れちゃったから、学校には来れないでしょ?」

「が……こう…………いお……り……しぬ……?」
ちさとが目覚めて初めて放った言葉。学校、だった。その後に続いた単語に千里は呼吸が苦しくなる。
「やだ……、いお……り、まもれ……まも……おか……あか……ち……」
「え……、ちょっ……!」

千里は無意識にナースコールを強く押した。その後にバタバタと人が走って近づいてくる気配がする。美桜はその前に舌打ちをしてから慌てて出ていく。監視のめを掻い潜って入ってきたのだから、当たり前なのだが、そんなのは関係なかった。
「千里!!めぇ覚めた?!」
「……ふゆ……き?」
「……うん、そう冬木だよ、千里。記憶まではぶっ飛んでなくてよかったよ。お前たまにこーゆーこと起こると記憶ぶっ飛ぶ時あるからな、めんどくせぇんだわ。」

ケラケラと笑いながら病室へと入ってくる如一だが、いつもの千里なら飛んでくるもの……と言っても軽い拳なのだが、それが今日は飛んでこなかった。
「おれ、わた、ぼく、いらない、、じゃま、だから……いらな……、しに……ころ……して……、」

譫言のように呟き続ける千里の姿に、これ以上一緒に居ても、千里の力にはなれない、そう判断した如一は「また来るよ、」と言って病室から出ていく。如一が出ていったことを見届けてから、手首を見る。今ではもうあとなんか残っちゃいないが、あの頃は色々無理をしたものだ、と思う。この年まで生きているのが不思議な程。
「あか……ち……は……ひと……ころす……しんじゃ……う、言お
……しん……だら……くさ……くさび……くさびが、……かな……かな……しむ、いや、いやだ、そんな、かお……させたかった、んじゃない……、」

もう何も見たくなくなって、目を瞑る。ところが、目を瞑って思い出すのはあの日のこと、ついさきほど起きたあのことがフラッシュバックとして巻き起こる
「ああああああああああああああ!!!」

もちろん、鎮静剤を打ち込み、強制的に眠らされたのは言うまでもない。

次の日。伊織はまだ目を覚まさなかった。しかし、昨日よりは呼吸や脈、それから顔色も良くなっていることから、時期に目を覚ますだろう、と亜留斗が話していた。そして、彼女と仲のいい人にだけなら説明しておけ、という話の元、如一は平助や、総司、一にも説明した。楔は昨日ほんの少し説明を受けたので、そのまま亜留斗に説明を受けてもらうつもりだ。もちろん、秋良にも説明して欲しい、とせがまれて、仕方なしに冬木家に呼んで話をする事になる。秋良は冬木家を見るなり、立ちくらみを起こし、平助に助けてもらっていたのはここだけの話。粗方説明し終えると、話の早い一、総司が徐に口を開いた。
「……地雷は今どうしている?」
「……うん、伊織ちゃんはとりあえず無事なら次は千里ちゃんが心配だよ。あんなこと、あったし。」
「……千里、あん時のこと、思い出したっぽくって。今は亜留斗の管理下に置かれてるよ。でも……今の千里は誰の言葉も届かない。……千里が好きだった楔くんの言葉すら届かなくてただひたすらに楔くんに謝ってた。伊織守れなくてごめん、って。」

というのも、一度楔と話はさせたのだが、あまり効果が出なかったのだ。謝るばかりで、話にならない、という事で、退出させられる。

「ごめ、ごめんなさ……、く…さ…び、ごめん、くさび、いお……いおり、まも……まもり……きれ、なかった……ごめん、ごめんなさ……さい、ごめんなさ……ぁ……、やだ、おかあ……さん、たす……けて、嫌だ、……ぱぱ……まま……、」

ひとりでいる分にはまだ、平気なのだが、誰かが来ると、誰でも謝る──────────、そんな状態では、面会謝絶は取り消すことが出来ず、入ることが出来るのは冬木家のものと、亜留斗のみだった。

そして、奇跡が起こったのだ。

17日前 No.110

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

110話

その奇跡を話す前に、今回の千里をここまで追いやってしまった、一つの悲しい事件を話したいと思う。

事が起こったのは、五年前の千里の誕生日の日。久々に母さんと父さんが帰ってきて、みんなで遊びに行こう、という提案をした。千里には既に行方不明になっているが、(ちなみにいくつ上かも忘れている)兄がいた。兄の名前は、地雷日向と言って、シスコンと言っても過言ではないぐらいに妹を大切にする兄と、警視総監の仕事をして、とても部下から頼りにされていて、稀に見る天才と言われている地雷千歳。父はその片腕とされていて、とても頼りにされている地雷里琉。なので、父と母は帰ってくることは少ないものの、たまに帰ってきたときには沢山愛を受け取っていた。
それでも寂しいこともあったが、それなりに幸せで、優しい家族に囲まれ、裕福で幸せな家庭で過ごしていたので、千里もこの頃は剣道なんて弱く、ただ趣味程度で嗜んでいる程度だった。し、それで千里も満足していた。強くなりたい、なんてあんな事件が起こらなければ、恐らく今でも千里は弱いままで、伊織の母の事件もなかったのだから、伊織にも知り合わない、むしろかかわらなかったし、それは如一も同様だろう。平助や総司達には関わるだろうが、楔とかには出会わなかったわけなのだから、良かったといえばよかったかもしれないが、この事件は千里の心に深く傷をつけて、今でもその傷は残っている。

その千里を変えてしまう原因となった事件の話をしようと思う。その日は二人は無理やり休みを取ってきたのか、会議を抜け出してきたのか。慌ただしく家に帰ってきた。というのも、千里の誕生日の前には、大きな事件、連続強盗殺人事件が解決したばかりで、世の中は賑わっていた。しかし、組織の人間はまだ全員は逮捕に至っておらず、警戒態勢の状態だった。
「たっだいまぁー千里!お誕生日だし、日向も誕生日近いものね、どっかに遊びに行きましょ?父さんも母さんも今日は二人のために無理言って休んできちゃった!」

そう言いながら出かける用意を慌てて揃える父と母の姿をちさとは今ではもう思い出せないが、とても嬉しかったのだが、まだ警戒態勢が解けないことを千里はなんとなく知っていたので、「平気なの?」と問い掛けたことを思い出すが、母と父は「大丈夫、」と言いながら外へと遊びに行った。行先は、平助達と一緒に出かけた遊園地で、母ときた時も楽しかった。

帰りは当然車だった。その帰りで千里のトラウマである事件が起こった。

突然、前に投げ出される感覚。何かにぶつかり、車が止まる。シートベルトのお陰で、外には投げ出されなかったものの、車の中は息苦しく、押しつぶされそうだった。比較的身長の低かった千里は、動けていたので、ほんの少しの隙間から、運転席の方へと動こうとした。けれど目の前に広がっていたのは赤い真っ赤な血。手がぬるりとした感覚になり、手を見ると、母と父の血なのかもう分からなくなってしまったが、手に血がつく。
「ひっ……、」

その後、何者かが読んだ救急車で運ばれた先──────────、有馬総合病院は助けを求める小さな女のコにこう吐き捨てた。
「お金のないお嬢ちゃんは助けられないんだよ、出世払いや後払いはどうも信用出来なくてね。すぐ用意出来ないのなら、そのまま死にな。手当だけでもしてやったんだ。あぁ、なんでガキからは金が取れないんだ。うるさいガキが……。お嬢ちゃん、早く帰ってくれないか?ここには君を救ってくれる医者……いや全国を探しても居ないと思うよ?」

これ以降、千里は赤い赤い真っ赤な血を見るのは怖くなりました。自分自身ならようやく母や父の元へいけると思うのだが、他の人……知り合いの血を見るのは苦手になりました。ほんの少し切っただけの血でもとてもこわいです。
そうして、ひねくれて医者が大嫌いで、信用出来なくて、一匹狼でヤンキーとなってしまった1人の平成の新選組と異名を持つ一人の少女が生まれたのでした。

17日前 No.111

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

111話

如一は最後の最後まで悩んだ。千里のトラウマである過去のことを話すか。千里をここまで追いやったものの正体を話すか。最後の最後まで悩んだ。でも、結局話せないまま、時間だけが過ぎていく。

千里はこの事については絶対内緒にして、と悲しげな笑顔で言われたことがある。千里から無理やり聞き出したのではなく、千里は酔った拍子にボソッと呟いたように言っていて、次の日それについて聞いた時、そう言ったのだ。そう如一が話すと秋良がほんの少し悲しそうな顔を見せる。いたたまれなくなった如一は口を開く。

「多分……千里は今回……ここまで追いやった理由……話せない、と思う……から……、そんなに思い、詰めなくて……、いいと思う……。あの事件……は、千里にとってトラウマ、で……話せない……から……話すのも怖いって……だから……千里が足を踏み入れることを許す……てか、話すのも怖いって言ってたから、その……千里が話したいって思うまで待っててやって、欲しい、んだよ。その、俺が聞いた時、もその……千里酔った拍子に呟くように言っていて、無意識、のうちだったから……多分素面のまま、じゃ……何も、話してくれない……とおもう……。」

如一は申し訳がたたなくて、ゴニョゴニョと話す。それを聞いた秋良ぷっと吹き出した後に、盛大に驚く
「待って千里酒飲んでんの?」
「あ、これも黙ってろって言われてた……。」

とこちらはほんの少し空気が和やかになっていた。

一方、その頃病院では、亜留斗が2人が入院している病院を訪ねていた。亜留斗が尋ねると二人の入院している特別室へと通される。そんなに通っているつもりは無いのだが、無意識、の通っていたのだろうし、そもそも、この病院を訪ねる時は大体特別室に用がある時だと思うとなかなか皮肉なものだ。
「あ、亜留斗様、まだ橘さん、一向に目を覚ましませんね……。」
「そんなの当たり前だろう。人間、あれだけ血が出ていて生きてる方が奇跡なのだから。」
「それに、地雷様も……。なかなか安定しなくて……」
「それも当たり前だろう。彼女にとってのトラウマが再現されたようなものだよ、あんなもの。それでおかしくするなという方が鬼畜すぎる話ではないかい?」

亜留斗が足を踏み入れると看護師から話があると言われ、話をすることになったが、毎回訪ねる度に聞くのは正直どうなっている、と思っていた。不安になるのはわかるが、伊織が倒れてまだ2日、3日ぐらいだ。あの2人だってあれだけの血の量を出せば、1週間ぐらいは死にかけている可能性だってありうるのだ。

千里のことをちらりと見たが、こちらはマトモに話が出来る状態ではなかったので、病室に入ることは無かった。

伊織の方は安定しているようだった。帰ろうとして、背を向けた時。
「ん……、あれ、亜留斗?何でここに?」
「一体君の回復力……と言うか生命力はどうなっているんだい……、あれだけの血の量を出しておいて……。」

亜留斗はとりあえずそれは置いておくことにして、使いの者に「冬木と縁に連絡を入れておいてくれ。恐らくみんなとんでくると思うが、少し診察をしなくてはいけないから、少し待つように伝えておいてくれ。特に縁には厳しく頼むよ。」と言うと、バタバタとそれぞれ走っていく。千里の方は、恐らく自分の使いより、信用の置いてるものの方がいいと考え、後で誰かに呼びに行かせることにする。
ある程度の診察を終えた後、
「……生きてる……のか。あーあ、死にたかったのになぁ。殺してくれてありがとう、って言っちゃったのに。自殺する勇気なんてなかったし。」
「……いいか「伊織ちゃんばっかじゃないの?!!なんでそんな事言うのさ!!」……なのだが……」
「え、あ……?くさ……び……?」

亜留斗の言葉を遮るかのように大声を張り上げる楔。それを見て伊織は目を見開いた。わなわなと怒りと悲しみで楔は震えていた。
「なんで……千里のとこいなくていいの……?心配かける……よ?」
「地雷は関係ない!!伊織ちゃんのところに居たいの!!それに、なんで死にたいとかいうわけ?!伊織ちゃん死んだら俺どうすればいいのかわっかんなくなるだろ?!いつ、誰が伊織ちゃんのこと好きじゃないって言ったわけ?!おれ、伊織ちゃん居なくなったら……!!伊織ちゃんには貰ってばかりで、守ってばかりで……!!返していないのに……!!なんで……?!」
「ま……待って、楔……、」
伊織は頭が追いつかなくなっていた。いつもの雰囲気なんて消えていたから。一体どうしたというのだろうか。伊織はすごく申し訳なくなって、「……ごめん……なさい……。」と弱々しげに謝る。

「縁、少し落ち着いたらどうだい……。今はまだ目が覚めたばかりで、追いつかないと思うさ。あぁ、そうだ、隣にいる地雷を引きずってでもいいから連れてきてくれないかい?そうでもしないと鬱陶しくて仕方が無いんでね。」
「……分かった。病んでくる。」
「待ってくれ、お前まで病まれたら僕の仕事が増えるだろう。いいから呼んできてくれないかまた後で話す機会を与えるから。」
「……。」

そこで一度小さく頷くと、人睨みしてから伊織の病室から出ていく。
「なんか……楔……怖かった……」
「嫌いになるかい?」
そう尋ねると慌てて首をふるふると降る。

「はは!縁もそう言ってくれれば喜ぶだろう。にしても君は皆に……特に縁に愛されてるね。」
「……そんなことないっすよ。みんな……特に楔なんか
ほにはもう嫌われてる。自惚れたくないから、お世辞でもそんなこと言わないでください……、」
「そうかい?みんな好きでもないやつが死のうとしてたらやめとけ、で終わると思うよ。あんなふうに怒ったり、しないと思うのだが。久々に起きたから喉が渇くだろう、なにか取ってこよう。」
「喉乾いてな「いるよね?」うぃっす……オレンジジュースで」
オレンジジュースが好きなのか、と思いながら、分かった。持ってくるよ、といい、伊織の病室から出ていく。
隣の地雷の部屋を見ると、何やら手こずっているようで、引きずり出そうとしていたが、それも苦戦しているようだった。

「ああああ……!!」
「もう無理……誰か助けて……」
そんな叫びも聞こえていたが、亜留斗は無視をして、オレンジジュースを手に、伊織の病室へとまた戻っていったのだった。

16日前 No.112

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

112話

「伊織のチョーシどーよ、亜留斗」
「本当に死にかけだったのかと疑いたくなるぐらい順調に回復に向かってるよ。逆に地雷の方が今度は危ないんじゃないかい?全く、鬱陶しくてかなわない。」
「おま……、さすがマッドサイエンティストだよ、」
「心外だね、今は地雷は患者だ。患者一人ひとりに一々気になどしていられるか。」

「しぬ……?おれ……ころした……?いおり……、ごめんなさい……あぁ……やだ……パパ……まま……」

数分ほど前に精神安定剤を打ち込んでいたので、ある程度はしずかだが、それでもまだ、危ない状態で、相変わらず瞳には光がともらず、ボソボソと喋ることしか出来ない人形のようだった。
そんな状態である千里は数日前からろくに睡眠も取っていない。睡眠剤でも打ち込もうかと考えるが、恐らくそんなものに頼るようになってしまっては困る、と結論づけたが、寝れていないらしい。

「あぁ、そう言えば冬木、お前今回から警察の仕事もするようだね、大丈夫かい?」
「死にゃあしないから。」
「それはどうかな。地雷あそこで臥せっているアイツは度々ここに来てはビタミン剤を貰いに来ていたよ。あぁ、後栄養剤も貰いに来ていたよ。」
「……なんか……悪いことした気分。」

幹部で会話をしていると、不意にそこに近づく足音が聞こえる。
「──おい!如一!!」
「っち…………。んだよ、クソ親父が。」
「おやおや、元総長ではないですか、」

こんなところに何のようだ、と思いつつ亜留斗はあまり騒がないでくれよ、と思いながら、用意されていた椅子に腰掛ける。

「……おれ……しぬ……?ころした……?おれが……おれのせい、で……?おれ……いら、ない……?」

薬が切れてきたのか、少しづつ言葉が怪しげなものになり、生気が無くなってくる。"必要ない。"という千里の発言に少なくともほんの少しのむかつきを覚える。
「おっ前何言ってんだよ!!お前は必要だよ!!」
「冬木。今のそいつには何言っても無駄さ。」
「でも……!!」
「総長!!お嬢のことはあまり悪くいいませんように!!」

そう言いながら腕を握ってきたのは父親の側近である、椛島(はなじま)だった。その手は微かに震えていた。
「お願いです……、」
「……ごめん、悪かったよ。」

溜息をつきながら、その手から逃れるようにそっと離れさせる。
「ふん……、本当に如一。お前はいらない娘だよ、本当によく冬木の名を辱めたり、汚すことばかりしやがって。」
「ふん、悪かったね。それと、悪いけど、今の千里の前でその話は控えてくれって言ったよな、このくそジジィ。」
「お前はもう他人だ。今スグ家から出ていけ。」
「じゃあ六合、地雷家をくださいよ。そしたら出ていきますよ。」
「何言ってんだ!!糞ガキが!!生意気抜かしてんじゃねぇ!!」
「……じゃあこれからもヨロシクお願いしますね、俺もあんたの娘……いや息子として、糞ガキとして生きていきますね、」

そう言いながらニッコリと笑顔を貼り付けたまま、病室をあとにする。亜留斗もため息を吐きながらその後を静かに追うように病室を後にした。もちろん千里も引っ張って。
「君ねぇ、僕達を勝手に巻き込まないでくれないか?」
「……あぁ、悪い悪い。ほんとにごめんって、睨むなよ。」

お前はいらない──────────。
少なくとも今の如一を追い込むのには充分すぎる言葉だった

15日前 No.113

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

113話

伊織が目を覚まして1週間。如一はいつもより忙しかった。事件の報告書作成、現場への指示、自分たちが犯したことに対する隠蔽工作による始末書、自分たちの組の犯したことによる家から出る始末書、捜索願い、エトセトラ……

と如一は多忙の日々で、学校似いけない、と言うか行くことができないほど忙しくなっていた。元々自分の仕事すら手が回っていない状態で、千里の警察の仕事も加えタとなると、それは相当だろう。
「大丈夫かい?冬木。今にも死にそうな顔をしているよ。……少しだけ休むといい。科学班と地雷の仕事を少しだけ片付けておこう。」
「……面目ない……でもこれ片付けないと……」
「……いいから寝たまえ。寝ないなら、無理やりにでも寝かすことになるが。」
「ワーイオフトンダイスキイマスグネマース」

早口でそう言ったかと思えば、病院の仮眠室の布団に寝転び、数分と立たないうちに寝息を立て始める。ここ最近寝ていなくて、心配だ、と如一の部下である椛島に相談を持ちかけられたので、こうした迄なのだが、もしこの相談をされなくとも、近い内に無理やりにでも寝かす予定だった。まさかここまで早い段階で、そうなるとは思ってはいなかったが────。

「さて、そろそろ地雷も鬱陶しいってのもあるが、そろそろ立ち直ってもらわないと困るからね……。そろそろやることにしなくては。」

如一がしっかりと眠っているとは確証が持てないが、横になるだけでも体は楽になるというので敢えて起こすことなく眠の浅い如一を思いやるかのように静かに退出をする。

「地雷、気晴らしに散歩でもいこう。いや来てもらわないと困る。さて、行こうか。」
「え……あ、ごめん、なさい……。」

あの日から比べるとだいぶ話もできるし、話も通じるようになったが、それはある程度の薬が必要なだけで、一概に大丈夫とは言いきれない。

「あ……いお……り……、ねぇ、亜留斗いやだよ、……ごめん、ごめんなさい……、」

伊織の病室前で止まり、入ろうとすると頑なに拒む千里を無理やり、と言うかすんなりと入っていく亜留斗。もちろん千里を引っ張りながら。

「あれ、亜留斗と千里。」
病室に入るときょとんとしながらこちらを見つめる。千里は目線も合わせないように顔を逸らした。そこまでで、急にスマホから連絡を知らせるバイブが胸元のポケットの中で起こる。内容をちらりと確認すると、何やら科学班の方で問題が起きたらしい。亜留斗に来てほしい、との事だった。確かにここは退出したかったので、言い訳に使える、と思いほんのすこしだけ口角を上げる。

「おおっと、悪いけど、地雷。どうやら何やら科学班の方で問題が起こったようでね。僕はそっちに向かわないといけないんだが、暫く伊織の部屋にいてくれないかい?」
悪いね、と言いながら、白衣を翻して伊織の病室をすぐさま出た後に外から鍵をかける。中には一応トイレもあるので、出られなくて困る、ということはない。

「あ、亜留斗?!」と扉の向こう側から、戸惑う声も聞く暇もなく、亜留斗は走り出していた。

「あ……え……あ……、いお……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな」
「ねぇ、千里。」

伊織は幾度も謝る千里にニッコリと笑いながら千里の名前を呼ぶ。千里はビクリと肩を震わせてから、怯えた瞳を下へと向ける。伊織とは目は合わせるつもりは無いようだった。
「えっとねぇ、しつこいよ。あとウザい」
「……は……?」

今の千里を驚かせて黙らせるのにはとても最適な言葉だったのかもしれない。つづけて伊織はここぞとばかりに更に口を開く。
「いや、亜留斗とかからあらかたの説明聞いて、あぁ、責任感じてんだろうなとは思ってたけど、あれは流石にうざいししつこい。生きてるんだから、ん何謝るな。てか殺すな。……悔しいけど生きてるんだからさ。」

伊織は最後まで笑顔を絶やさずに一気に捲し立てる。千里は最後の言葉に、腹を立てたかのように声を張り上げる。
「な──────────!!俺はただ、お前がしぬんじゃねぇかって……!あの時、大切な人が目の前で死んだあの日みたいに──────────!!」
「……親の時、みたいに?」
「はっ……!?」

伊織は顔を曇らせる。やはり、これは真実だった。千里がここまで追い込んだ理由というものが。条件が揃いすぎていた。千里はしどろもどろになりながらも、そんなわけ、無いと言っていた。
「……千里。俺は生きてるよ。死んでない。むしろ死んでて欲しかったの?なら今から死んであげようか?別に構わないよ。それでも。」
「なわけない!!俺は、……俺も含めて、皆は、伊織が生きてないと、ダメになるよ。」

伊織が真剣な顔付きになり、生きてるよ、と伝える。するとほんの少し、千里の瞳には色が灯る。その後の死んであげようか?という発言には、怒りを顕にした。
「ぷっ……、……なら他にもいう言葉、あんじゃない?俺に。謝罪じゃないよ。もうさんざんそれは聞いたからね。腐るほど。」
「……伊織……、えと、その、これからも生きてて欲しい、いきててくれてありがとう、……」

よく言えました、と伊織は言いながら、ちさとの頭をぐしゃぐしゃとかき回すようになでる。ほんの少しづつ、千里はいつも通りの笑顔と表情が戻っていく。

「それにしてもほんとに楔と千里仲いいね。」
「うん。まぁ仲いいっちゃいいよ。あったりまえだろ、俺はあいつの友達だからね!」

楔の話になる頃には、伊織が危篤になる前と何ら変わりない千里がそこには座っていた。伊織も変な噂が出回る前の様子に戻っており、亜留斗の狙い通りの結果となっていた。
「ところで話変えるけど、千里ってさ、楔のこと好きだろ。」
「えっ?!あー、うん。まぁ好きだよ。でもな、俺はアイツに思いも告げないし、告げた所で、振られるのわかってるから。アイツ、小四の頃から心から大好き──────────っつか、愛してるやついるし?今でも好きらしいよ、一途だよな!」
「え、嘘だろ?!マジかー……」
「あー、伊織。今度ってか早目に楔に告白保留してたらしいじゃん。その返事してやれよ、多分楔まだ待ってんぞ」
「うん、……頑張る。振られたら千里の家行く。」

千里からすればそんな心配はねぇのに、と思いつつも、それを話すのは野暮だと思うし、そんなことを言っても信じてもらえないのは重々承知している千里は「おぅ、まっててやらァ、振られなかったら電話くれな、お祝いしてやる。」とケラケラと笑いながら、いい報告も待ってるよ、という意味合いをこめて、からかうように口にした。

「……俺、安心したら眠くなってきたわ、久々に疲れた。……とりあえず亜留斗の事だし、とっくの昔に大変な事態とやらは解決してるだろうし、外で聞き耳を立ててるよ。そろそろ開けてもらおうか。俺帰って寝たい。」
千里は一つあくびをしながら外にいる亜留斗に言葉を投げかける。その後すぐに扉の鍵が開く音と共に、亜留斗が顔を見せる。
「いきなり素に戻るのは辞めてくれないか……驚くだろう……。というよりいつから気がついていた。」
「んー……、そうだねぇ、あぁ、楔の話になる直前だと思うよ。」
「なんでわかっているんだよ、君は……」
「んじゃあ伊織まったなー、明日またくるよ。野生の勘。はよ帰らせろ。つか、俺の仕事誰が?」
「全く……、ほら行くよ。というより君は明日にでも退院しなさい。それだけ瞳に光と笑顔が戻れば大丈夫だろう。あぁ、それなら冬木だよ。明日から仕事にも戻れるか?」
「はーい。うん、現場にも多分出られると思うし。知り合いじゃなきゃ平気。てか今如一がやってる仕事、こっち回せ、あいつの事だ睡眠時間削って──────────」

伊織にはあまりよくわからない話ばかりだったが、恐らく千里の仕事、と言っているあたり、如一もその関連の仕事を手伝っている、ということで間違いはない。如一の仕事も千里のせいで知ることになったのだが、ある意味二人共よく生きているなと思う。

「てか千里……あいつ寝るって言ってなかった……?」
寝るといいながら仲間の仕事や、仕事の話をするのは関心はしなかったが、そのまま伊織はゆっくりとまぶたを閉じ、暗闇へと意識を手放す。

15日前 No.114

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

114話

次の日。千里は如一がいる場所に赴き、扉を大袈裟に開けると、亜留斗からほんの少し睨まれる。が、あまり気にしないで如一に詰め寄った。
「おい、ばか如一。選手交代だ。」
「え、千里?」
「そこどけ、お前はきちんと布団で寝ろ。俺の寝てた……つかいたベットに移動しろ。そこ邪魔。」
「え、え?」

完全に頭が寝ていて、情報の整理が追い付いていない如一と完全復活をした千里が初の対面の時はなかなかバカバカしいものだった。
「え?これ千里?あの布団の上で死んでた千里?え、これ夢?俺寝てんの?あ、もしかしなくても死んだ?」
「いつまで寝ぼけてんだよ!?てか俺は生きてる!お前はいいから寝ろ。俺のせいでごめんな、お前に余計なもんまで背負い込ませて。後の仕事は俺ができる範囲のは、片すし、警察の仕事ももう大丈夫だからさ。お前は休め。お前は必要だから。」

そう言いながら千里は無理やり如一をベットに押し込み、千里はさっさと仕事に向き合う。確かにまだ不安がないかといえば嘘になる。
しかし、伊織は生きている、と証明をして見せた。必ずしも皆死ぬ訳では無い、ということが分かり、ほんの少し安心を覚えた。


しかし、数時間後。久々、と言っても数日前だが、知らぬ間にいろんな事件が起きていて、みんなには悪いことをしたなと反省しつつ、作業が捗らなかった。
「亜留斗、酒。」
「何君は堂々と法律違反発言しているんだい、一応ここは病院なのだからアルコールは禁止だ」
「……じゃああれだ、アルコール消毒液。あれ飲む。」
「……馬鹿なのか?」

亜留斗はありえない、という目で千里のことを見下ろす。千里はかなり本気だったのだが、これで本気といえば間違いなく飲まされる。その後に着火させられそうだと思い、誤魔化すために口を開く。
「……やだなぁ千里ちゃん得系アメリカンジョーク(ほし)とか言うやつだよ。」
「言っていいかい?今盛大に僕は引いている。オブラートに包まずにいえば、普通に気色悪いぞ。」
「……うん、俺も流石に自分で自分のこと殴り殺したいぐらいには気持ち悪いと思う。」

ダメだ、頭が働いていない。そう思いながら机に突っ伏す。と言うのも、数時間ほど前から眠気を感じていた。それも二日は寝ていないので、当たり前の話なのだが、如何せん、ちさとにはその自覚はなかった。
「その事に関する自覚があったようで何よりだよ。珈琲ぐらいなら出せるが、それでいいな?」
「……うん……うーんと濃く作ってよ、眠気に襲われてる……。」

素直に寝たらどうだ、と思いながらもそれを口にしたところで、聞いてくれないことは分かりきっていた亜留斗はやれやれと肩を竦めながら珈琲を入れに立ち上がった。その直後、パタンという扉が閉まる音で目を覚ましてしまったのか、如一がもぞりと動きカラダを起こす。
「んん……、おはよ、千里……」
「うん。おはようの時間じゃねぇけどな。はよ。体はどうよ。」
「なんかすげぇ体が軽い。なんで?」
「あー、なんか亜留斗が薬とか言って点滴打ち込んでた。それと最近寝てねぇからそのせいじゃね?俺もこの書類片し終わったらねるよ。なんか肩が重くて……。」

「おや、冬木も起きたのか。コーヒー飲むかい?あぁこっちはうんと濃く作ってあるから地雷の分だ。」

もらったコーヒーを一口飲むとものすごく苦い。思わず顔を顰める。確かにものすごく濃いが、砂糖かなにかは入れてほしいものだ。しかしすっかり目の冴えた千里はまた書類へと目を落とした。

期限があるのもなかには入っていたので、それを確認するために手帳に目を向けると、期末テストという文字が見える。
「あぁ……。そういやそろそろテストか……。まぁ平助のことだし、どうせ負けるだろ。あいつ馬鹿だもん。てか賭けの存在すら忘れてそう。」

全くその通りなのだが、ここで敵に塩を送るような真似をしないのが千里で、恐らく直前に賭けの話をするつもりだ。
というか、そんな下らない連絡をしている暇もないのが事実なのだが。

15日前 No.115

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

115話

次の日。千里は結局ろくにねることなく、朝を迎え久々……と言っても3日ぶりぐらいにだが、学園へとへ戻る。簡単な荷物と話をするためだけに消えていた。伊織の悪い噂はだいぶ消えてはいた。とはいえ、千里"だけ"悪い噂は消えてなかった。伊織の悪い噂は根本から人気のある如一に頼み、消してもらった。千里のは消しようがなかった。普段から悪い噂しか流れないから。
鬱陶しく思いながらも、職員室へと真っ直ぐ向かう。
「おーい、あれ、左之と新八ー居ねぇの?土方ぁ、二人に伝言頼むよ、話しあっからよ。今すぐ視聴覚室来いや。来なかったら覚えとけよ。って。ついでにお前もこい。話ある。」
「お前物騒なんだよ……、まぁ一応伝えとくよ。」
「なるべく早めに頼むよ、俺、今日このあと色々やることあるからさ。」
「ところで地雷。お前もう、平気なのか?」

平気なのか?という言葉に少なからずともビクリと反応してしまう。本音を言えば、大丈夫とは言い難い状況だ。今だって、自己嫌悪に駆られないかといえば、嘘になる。もしあそこで俺が伊織から離れなければ、守りきれたのに。っていう。けれど、そんなこと言ってなんになるというのだ。なのでそんなことを感じさせないように、ニッコリと顔に笑顔を貼り付ける。

「大丈夫ですよ。俺、そんな脆くないです。そうですねぇ、冬木あたりは脆いですよ、あいつは俺なんかよりももっとでかいもん背負ってるんで、その分気ぃ張るし、あいつ馬鹿だから、一人で背負い込みますよ。後は、伊織ですね、この2人は馬鹿です。一人でなぁんでも背負い込んで耐えちゃうんですから。」

こんなことを言ってしまえば、恐らくみんなからはお前も変わらない、と言われてしまうだろうが、俺は悪意には慣れてる。悪意のある噂なんてしょっちゅうだ。中学の頃なんかは私立に通っていたので、本当に一時期、退学になるかもしれない噂まで流されたことがある。……まぁそれなりに悪いこともしていたが。それは公立に入ってからだ。私立は1ヶ月も持たないうちに退学、という扱いになった。

「そんなのはお前もかわら──「あぁ、もう煩いですねぇ、早くあいつら呼んでくださいよ、俺はこう見えても忙しいんです。このあと本の少しだけ楔とも話さないとなんで。」

お決まりの言葉が言われそうになりイラついたように口を開いて土方の言葉を遮った。
「……そうか、悪かった。」

その後、放送で原田と永倉の名前が呼び出される。二人は血の気の失せた顔で慌てて来たが、俺の姿を見つけ、さらに血の気が失せる。

「さて、原田くん、永倉くん、土方くん。さて、話というのはほかでもない私達がいつ学園に来るか、という話だ。今回のこの噂のことの真相についてだが……。それを暴くために私はしばらく学園を離れ、仕事に専念しようかと思うのだよ。あぁ、安心してくれたまえ。テストまでには戻ってこれるよう、努力しよう。」

永倉は恐る恐る、と言った感じで口を開き、ビクビクとしながら声を出す。
「あの……、地雷、さん。俺と土方、先生はなんでここに呼ばれたんだ?これならさ……原田だけでも……」
「これから話そうと思っていたのだよ。全くせっかちな男だ。永倉くん悪いけど、しばらく冬木如一くんも学園には戻れないと思っていてくれ。理由としては、冬木の方でもちょっとした揉め事が起こっていてね。橘くんは、まだ暫く学園に来させるのは控えようかと思うのだよ。まだ目覚めたばかりなのもあるが、実は伊織が襲われる前、不吉な話を聞いてね。まぁその話は置いておこう。そして一番の理由が彼女が学校に来たがらないのでね。出席日数とか色々辛いかもしれないが、そこは大目に見てやってくれ。……助けれなかった私の責任だな……。申し訳ないが、大目に見てやってほしいのだ。俺がすべて代わりに受け止めよう。すいません……、守りきれなくて。」

さいごの謝罪は一体誰に対しての謝罪なのだろうか。千里は最後の最後まで自分を犠牲にしてまで、他の人のための行動を取るくせは変わらなかった。

「……じゃあ俺は楔にも用があるので、ここで失礼致します。……伊織には、このこと秘密にしておいてほしいんです。多分俺、また怒られちゃいます。」
悲しげに笑いながら視聴覚室室を出ていき、楔の所属する教室へと向かった。三人はただただその悲しげな背中を見送ることしか出来なくて、もどかしい思いで心の中を支配して言った。

千里は廊下でとぼとぼと歩いている楔を攫うように連れ去り、屋上に来ていた。
「さぁて、楔君。君は伊織が目覚めて以来、何度お見舞いに来たのかなぁ。俺が覚えてる限りでは、目覚めたその日。それだけな気がするんだが。……また伊織のこと、追い込むつもり?……なんのつもりか知らないけどさぁ。」
「地雷には、関係、無い。」
「へぇ……?じゃあ総司に取られても文句言えないね。……どうしたんだよ、楔。」
「そんなの嫌だ!!!分かった、言うよ!言うからそいつの名前だけは出すな!!虫唾が走る!……。行くのが、怖い。」
「……なんか亜留斗に言われたか?」

いきなり叫んだかと思えば、行くのが怖い、と一言。亜留斗に何か言われたのかと思い、呆れたように尋ねる。すると舌打ちを打ちながら、頷いた。
「伊織ちゃんが襲われたのは俺のせいだって。俺が誰にでも愛想振りまくからって。」
「……そりゃあうん、まぁ。それはそうだけど……。で?これ以上伊織に関わると今度こそ伊織が死ぬかもって?ばっかじゃねぇの?おっ前それでも伊織のストーカーかよ。命に変えてでもお前が守れ。そして支えてやれ。……永倉には、私が適当に誤魔化しておこう。今から伊織に会いに行ってやれ。」

「でも……。」
「……っち!ガタガタうるせぇんだよ!!お前は!伊織が好きなのかきれぇなのか?!ああ?!!」

煮え切らない態度の楔に少なからずともイラッとした。思わず、出入口の壁を殴ってしまうぐらいには。胸ぐらを掴まないだけ、マシだと思え、と思いながら。でも多分、掴めない。掴んでしまったら、諦められない。
「好きに決まってるでしょ!!てか好きじゃないから!!愛してるだから!!間違えんなよ!!」

その言葉に胸がチクリと痛む。ああ、やっぱり俺が入り込む隙なんて無かった。そんなことを考えてい事を悟られないように、好きだということが悟られないように、きっと睨みつけて、口を開く

「ならとっとと病院にいけよ、永倉には適当に誤魔化しておいてやるからさ。」
「……っ、お前は!!本当にそれでいいのかよ、俺に伝えたいこと、ねぇの?!後悔しないって言えるのかよ!?これで!!」

千里はもしかしたらバレていたのかもしれない、と思いながらも、これ以上ここにいられてしまっては諦めがつかないことがわかり始めていた。もう、目元には涙が今にもたまりそうだったし、こんな顔、見られてしまっては、ある、ということがバレてしまうので、千里はとっさに下を向いてから声を張り上げる。
「ねぇよ!!だから早く行け!!十秒以内にここから立ち去れ!!」
「…………!!」

その言葉で楔は、通り間際に「ごめん、ありがとな、」と呟いてから屋上から慌てて出ていく。一粒だけこぼれた涙。見られずに済んだかな、と思いながら顔を上げる。するとそこにはいつから居たのか、総司が立っていた。
「……僕には本音をいいなよ、アレで……良かったの?」
「……あんま良くない。でも、俺ね、伊織の笑顔が好き。楔の伊織にゾッコンで、一途なところが好き。だから、いいの、これで。あんま良くないのは確かだし、付き合いたいと思ったことがないのかと聞かれれば嘘になっちゃうしね。それに……俺、好きなやつの幸せそうな顔が一番だから、辛気臭そうな顔されんの嫌だ。」

そう言いながら目元の涙を袖口でグイッと力強く拭う。ほんの少しだけヒリヒリとしているが、そんなのは関係なかった。
「総司もさ。これでいいの?まださっきなら間に合ったよ?」
「良くないよ。でも、僕も伊織ちゃんの笑ってる顔が見たいし、幸せになって欲しいからね。まったく……千里ちゃんってお人好しだよね、」

隣で総司もほんの少しだけ泣いているのがわかる。声が先程よりも鼻声だ。
「……総司。お互いに好きなやつができるまで限定でさ、付き合っちゃわない?傷の舐め合いって感じで嫌かもだけど」
「……いいね、お互いの好きな人の好きな人を好きになっちゃったんだもんね、いいんじゃない。じゃあよろしくね、千里ちゃん。」

こうして、総司とは傷の舐め合いの虚しい関係が始まったのだが、俺はもう学園にいる時間はない。
「そしてごめん、総司俺これから仕事あるんだ、しばらく学園来れないや。また今度来るね、」
「頑張ってね、千里ちゃん。」

千里は総司に手を振りながら、屋上から下の階段まで降りてから、校門までを慌てて走り去る。

伊織たちの成功を願いながら──────────。

14日前 No.116

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

116話

「……千里……でないや、お礼、言いたかったんだけどなぁ。」
「え?伊織ちゃんも千里ちゃんに背中押してもらったの?俺なんか喝まで入れられたついでに怒られた。」
「千里は優しいね、楔のために怒ってくれたんだよ、多分。……へへ、でも千里のお陰で俺たち……付き合えたし、よかったよね。」
「うん。」


その頃、冬木家

「本当にお前無能だ!」

怒鳴り声が部屋に響く。それは隣の部屋にまで届くほど。一枚扉を隔てたところに、如一は今いる。どうやらこの間仕事をおわらせずに寝ていたことがバレたらしい。寝かせたのは俺だ、と言ったのだが、そんなの聞く耳持たずだった。そもそも、冬木家はある意味本の少しだけ派閥が産まれている。現総長派、まぁ如一のことだが。と元総長、いわゆる如一の親父さん派のどちらかに属している。どちらでも言い、という人もいる。俺は何方かと言えば如一派のどちらでも良い。だった。扉の向こうからは殴られる音や、何かが勢いよく倒れる音、蹴られる音と、聞いていて気持ちの良いものではなかった。ふと後ろから何者かが気配を消しながら近寄ってくる。気配を探るとよく見知った人物、椛島だった。
「……椛島か。後ろから気配を消しながら近づくとは感心しないね、でもさすが、とでも褒めておこうか。あと……腕を上げたね。如一も褒めてくれたろう?」
「……さすが地雷様です、そうです。椛島。お褒めに預かり、光栄です。はい!昨日如一様にも褒めていただけたんですよ!!とっても嬉しいです!」

椛島は如一に対してものすごい忠義心を抱いている。それがたとえ如一の父である既に元、に変わってしまっているが、総代長に逆らうことになってとしても。
「お前は本当にいい部下だな、俺も同僚として誇らしいよ。」
「いえ、私なんてまだまだでございます。ですが、そう言っていただけるだけでも嬉しいですよ。」
「何を言うか、如一もそろそろ昇格してやりてぇなってボヤいてたぞ。……近いうち出来るんじゃないかい?」
千里はそう言いながら、如一のいる部屋へと目を向ける。音が病んできた。今日は3時間、というところだろうか。
「おかえり、また随分とやられたねぇ。亜留斗のところに行くかい?今なら椛島が車を出してくれるだろうし、ついでに伊織たちの見舞いにでも行こう。」
「……ん、行く。あっ、でも仕事……。」
「車の中でもできるやつしか今はないから安心したまえ。」
如一は、力なくありがとうと言った後、ふらふらとした足取りで車までの道を歩く。手を貸してやりたいが、千里自身、逆らったことで、1発だけ食らったところが腫れていて、良く歩けているな、という状況だった。

「あ、ほんとだ、これなら一時間あれば終わるな……。千里の方は仕事どう?」
「俺?今んとこは……、明日の二時から三時まで会議、その後は、職場から出されている書類の確認かな……。確か期限が近いのが多かったはずだよ、」
「そっちもそっちで大変そうだな……、警察の方はもう気にしなくていいから。お前はそっちに集中してろ、終わんなくてまた殴られらんぞ」

如一は幼い頃から要らないだの、失敗作だの、紛い物だの散々な言われ用をされながら生きていた。なぜ、自分ばかりがこんな言われようをしなくてはいけないのか。
弟の一樹はとてもそれはたいせつに育てられる。少し失敗でも怒られなかった。でも如一が同じことをすれば怒られる。如一はどんなに頑張っても認められなかった。

認めて欲しくて言う通りに総長にもなった。それでも認められなくて、未だにいらない、失敗作、紛い物と言われ続けていた。愛してほしいし、愛していた。

あんな酷い親だったけど、如一はきちんとそれでも憧れたし、大好きだった。だからこそ、認めてほしいだけだった。愛されなくてもいい、褒められなくても言い、……それこそ必要とされなくてもいい。ただ、一言。認めて欲しかった。それだけで、総長になった。……嘘をついた。
認めてほしい、いらないなんて言って欲しくない、必要とされたい、失敗作だなんて言われたくない、褒めて欲しい。大嫌いで、尊敬していて、憧れて、大好きだった父親と母親に。

認めてほしい、肯定してほしい、あいして──────────欲しい。

その思いだけが今の如一を総長にさせている正体だった。


「如一様。地雷様。つきましたよ、病院。戻られる時はお呼びください。」
ぼんやりとしているといつの間にか病院に付いていたようだった。仕事はいつの間にか終わっていて、千里は車酔いをしたのか真っ青な顔をしていた。酔うなんて珍しい、なんて思いながら車を降りて、亜留斗の元へと向かう。その後千里は無理やり押さえつけられ、応急処置と薬を受け取っていた。

「んじゃあ亜留斗も伊織の見舞いにいくべー」

14日前 No.117

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

117話

「おや……じ……、一樹……。」

伊織の部屋に入ると中には如一を邪魔と思っている親父と、恐らく小さな頃は仲が良かったと聞く弟──────────、後は千里は断ったが婚約者であった一樹がいた。

「……どうも、お久しぶりです、"元"総代長。」
「……何を言ってる。先程も顔を合わせたではないか」

ニッコリと笑いながら千里は元、を強調しながら前に歩みでる。元総代長は、千里の命の恩人ではあるが、千里の中では如一だけが命の恩人みたいなものだ。そんなのも気に求めないずにところで、と言いながら如一の父親は如一のことを睨みつける。
「如一、なんでお前がここにいる。お前は部屋で仕事をやれと言っておいたはずだが?」
「それは「お言葉ですが総長は、私が無理矢理連れ出しました。伊織の見舞い二と思ったのと、気分転換にでもいかがと思いましてね。最近お仕事ばかりされていらっしゃる、というのを椛島から聞きまして。私がこうして復活した後でも未だに警察のお仕事……まぁ、私の仕事ですね。それを如一に回している、と聞き及びましたが、それはどういうおつもりで?」

如一が言い訳をするよりもほんの少し遅れたが、千里はそれを遮るかのように口を挟む。如一はおまそれ嘘という顔をしているのがわかったので、ニッコリと冷たい笑みを浮かべながら「大丈夫、」と笑う。
「そいつはつかえない、いらないやつだからな。地雷、お前には下っ端がやるような雑用はやらなくていいんだよ。お前は必要だからな。」
「じゃあ、俺はその不要な人間に助けられた惨めなやつ、亜留斗も、そうなるってことか?」
「……。」
「それなら、私も不必要な人間に助けられた情けない人間だ、という解釈で宜しいでしょうか?そこにいる六合様も地雷様もそうなりますねぇ?貴方がとても必要としているお2人も。それなら、いらない人間同士、いつまでも下っ端をやらせていただきましょう。ねぇ、地雷様方。」
卑しい笑顔をにたにたと浮かべながら話すその姿。
──────────忌々しい。
千里は心の中でそう思っていた。伊織は、亜留斗に抑えられているはものの、怒りで目を滾らせていた。恐らく亜留斗が抑えていなかったら、確実にこの目の前にいるむかつくやつを殴り飛ばしてただろう。そしていきなり入ってきた椛島日本の少し驚く。大分気配を消すのが上手くなってきたな。そう思うと自然と口角があがる。
「……さて、お引き取り願いましょうか。元総代長のみ。一樹君は残りたまえ。……まぁこの場に居残りたいのなら、の話だが。椛島君、君は大分成長したね。同じ"仲間"として嬉しいよ。」
「……。いえ、如一様の為、ですから。」

元総代長は一樹を引っ張って病室から出ていく。
「全く……。君たちは本当に僕まで巻き込むのが好きだね……。」
「すまんすまん、如一の親父さんは特に六合を特にリスペクトしているからね。」

如一はずっと考えが頭を巡っていた。

要らない。
そんなの分かってる。認めてくれないのだって、認めたくないからというのを理解してる。何故なら、如一は出来がよく育ち過ぎた。女の癖に親に褒められたくて、認められたくて、頑張った結果、認められない、なのに実力だけがついていった。

要らないなんていうな。そんなの、分かってんだよ。俺がいると、良くないってのも。

もう全部聞きなれたし、全部理解してる。俺に微塵も興味もないこと、微塵も話を聞く気がないこと、そんなのも知ってたし分かってた。

もう、如一は限界だった。

14日前 No.118

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

118話

「ねぇ、亜留斗。冬木先輩を──────────たすけたい」

そう相談を亜留斗が、持ちかけられたのは千里と如一が退室した後の話。この相談はここで話す内容ではないので、亜留斗は場所を移動しよう、と言って家へと招く。完全防音が施された離れの方に。たしかに、今の時期、冬木家はいつ内部戦争が起きてもおかしくない状態で、荒れていた。

「いやいや……、よく考え直したまえ。君も見たろう?あの人を。あの人は反省などしないし、もしあの人がいなくなっても柊とかいう男が、裏にはいるからね……?」
「べっつに。知人、それも人の先輩のこと悪く言われるのはものすごく気に食わない。それにあの人、自分の子供でしょう?……なんであんなことを言うのか意味わかんない。」
「……まぁ冬木家は一般人には理解できないだろうね。」
「……そんなもんなのかなぁ。……まぁ千里たちの会話は理解し難いからそんなもんなのか……。でも気に食わないのは確かだから。ちょっとだけ制裁をする。」

にやりと笑いながらそう宣告をする。
「はぁ……地雷にも連絡してくれ、恐らく今の地雷は確実に乗る。」
「え、まじ?あ、今呼んだ。すぐ来るって。」
「地雷はあまりよく思ってないからな。そうか、それじゃあ今の内に冬木家の内部について教えようか。」

柊──────────、いわゆる千里にとって義理の父親と冬木如一。内部はこの2人のうち、総代長はどちらが相応しいかで争っていた。どちらにも属すことのない千里は無理矢理でも柊に入ることを強要するだろう。
「……地雷は恐らく嫌でも向こうに引き抜かれるだろう。となるとこちらの戦力は大幅ダウンだ。……まぁ千里は柊の味方の振り、はするだろう。戦闘になった場合は真っ先に手を貸すだろうね。」
「……まじかぁ、まあ千里は立場上仕方ねぇか……」

うーむ、と悩みながら、伊織は顎に手を当てる。そんな時だった。
「……そ……こ……は!まか……せろ、」

千里はあからさまに息が上がっていて、言葉が途切れ途切れになる。
「千里!!……お疲れ様。場所、言ってあげればよかった?」
「うん、言って欲しかった。まさか病院から亜留斗の家までこんなに離れてるなんて思わなかった。」
千里は薄らと浮かんでいる汗を拳で拭い、大きく息を吐いた。まあいいや、と言いながら千里は向かいの席に座る。
「んで?如一の親父さん消す作戦?いいね、協力するよ。皮肉な話、亜留斗と俺は柊さんには一目置かれてるからね。多分上手くいくよ?……流石に俺も目を瞑りきれない。そろそろ動きたかった。」

ぼそぼそと口を開くと、満足げに微笑む。その後、あぁ、そうだ、と思い出したかのように、口を開く
「あぁ、あと物理的に冬木家潰すから。平たくいえばドカーンと爆発させようかと思うんだけど。」
「……流石に爆破は……誤魔化しきれないから、いいや柊さん逮捕すりゃ万事解決、かな。」

「おっ、さっすが千里!話分かるねぇ、話が早くて助かるよ。」

伊織はにししと笑う。こういうことに一般人を巻き込みたくはなかった。たとえ伊織がどんなにお金持ちだったとしても。だから敢えて、真剣に伊織に向き合う。
「でも伊織気をつけろ、あいつは血も涙もないし、慈悲すらないよ。たとえ女子高生としても容赦なく殺しにかかるだろうね。……絶対、死ぬなよ。死んだら末代まで自分のこと呪う。」
「はは、死なないよ。楔と約束したし。それと今回更地にした土地は分家にする予定。……もちろん地雷も協力するよね?資金。上手く行けば、同盟、組めるかな。」
「そこは任せたまえよ、抜かりないさ。一応これでも貯金は腐るほどあるんでね。そこの交渉は保証はできない。が、如一の事だ。お前の強さを見込んで自らスカウトすると思うよ。さて……いつやる?」

よかった、成功したんだ。まぁ当たり前か。そう思いながら、その事には敢えて触れずに、日程の確認をとる
「早くて明日。少なくともこの数日のうちに片付けたい。……テストも近いしね。」
「うん、分かった。如一と柊が戦えば、恐らく如一は負ける。その前に、叩き潰せ。いいか、一発しか与えられないよ。その後は恐らく……。まぁ、無理だったら当然俺も手伝うさ。任せておきなよ。如一を負かせることが出来るお前にしか頼めないことだ。……ゴメンな、こんなにお家問題に巻き込む形になって。」
「俺から首突っ込んだことだしね。最後までやるよ。協力、感謝するよ。」

13日前 No.119

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

119話

そして、翌日。一枚隔てた扉の向こうには如一と柊がいる。如一にはこの作戦のことを伝えていないので、恐らく、混乱すると思われる。しかし如一とて馬鹿ではない。すぐにでも状況を理解して、千聖たちの応戦をするだろう。しかし、今回は如一には、自分の父親、柊ではなく、その取り巻きを相手して欲しい。理由としては、如一では、柊に勝てない、と思ったからだ。
伊織から作戦決行、というメッセージが届き、ちさとは、図らずともニヤリ、と口元を緩める。

「さぁってと……。亜留斗には大体の現在地が俺のおかげでわかるだろ。さて……、こちらもいい感じに延長してるねぇ。相変わらず総長は避けるのがうまいようで。さて、そこにいるのだろう、椛島。君は俺達がこれから何をしようとしてるのか。分かっているね?……そしてその作戦に入れて欲しくてここまで赴いた。間違いはないか?」
「……流石です、……でもそこまで分かられていると流石に気味が悪いですよ。地雷様。」
「俺が推理力が高いのは今に始まったことではないだろう?気味が悪いですまでは言いすぎた。さすがの俺でも答えるものがあるぞ?」
「……すいません。仲間に居れて、貰えないでしょうか。俺は如一様に恩返しがしたいのです。俺はあの日、如一様に助けられなければ、内蔵を売り飛ばされていました。恩返しがしたい、それだけでここまで登りつめました。地雷様にも並ぶであろうぐらいまでに。」

そこにいるのだろう、と言いながらもう既に真後ろにいたのか、すぐに目の前に現れる。案外すぐそばにいたのかと思うと、なかなかこいつは使える、と思いながら、試すように口を開く。その後に声が震え混じりに熱弁を始めた。最後は煽られているのか、千里の名前が出る。それもそうだ。俺もある意味組織では嫌う者もいる。いきなり現れたかと思えば、幹部クラスの扱いだ。不満に思う人も少なくはない。しかし千里はそれを聞きながら、「ヒュー、言ってくれんじゃん、」と口笛を吹きながら、にやり、と笑った。

「ともかく!如一様を助けたい、です。」
「……うん、いいね。合格。じゃあお前にはひとつの命を下そうか。君の役目は、俺ともう二人、仲間がいる。1人は亜留斗君。君も見覚えがあるだろう。そしてもう1人は零が殺そうとした事のある、女弁慶の異名をもつ、橘伊織君だ。俺ら三人で殴っても無駄かもしれない。だから、君には、総長の気を逸らしてほしい。如一総代長を守りながら、ね。当然、出来るよね?」

ニッコリと笑いながら言うと、ばっと顔を上げる。
「……何台、こんな簡単なことも出来ないのか?」
「いえ!!この椛島、その命、しかと受け取った、この椛島、命に変えても如一様をお守りいたします!」
「うん、意気込みはいいね。嫌いじゃないよ。でもね、あくまでも俺達は柊派への制裁。死者はなるべく出したくないのだよ、後処理も面倒だしね。だから絶対死ぬなよ。」

そこまで話したところで、気配を消しながら向こう側から、忍び足でなるべく素早くこちらに向かっている亜留斗と、全く音を立てずにすり足で歩く伊織の姿を認める。
「……やっと来たかい。君ら遅いよ。あと、協力者が増えたよ。この人は如一派の中でも俺の次ぐらいに腕が立つ人だ。もしもの時は頼んであるから、任せたまえ。」
そう言いながら、椛島を紹介した。
「椛島です、まぁお二人はもう知っているかも知れませんが、如一様の側近です。」
「君がいてくれるのは心強い。それにしても君もだいぶ気配消すのが上手くなったね。確かに戦力にはなるね。……さぁ、ここからは気配を消しつつ、地雷が囮になっている間に、伊織は柊さんの後ろに回り込んで、殴り飛ばす。この後は、昨日話したとおりで。」

軽く打ち合わせをしてから、俺が先にこの一枚扉を隔てた先に入る。その後、椛島は如一を保護した後に、説明をする。そして、冬木家での内部戦争は始まりを見せたかと思えば、俺達は窓から飛び出して、爆破と同時に脱出をする。

「んじゃ信用してるぜ、我が親愛なる戦友たちよ。」

そう言いながら、如一と柊がいる部屋の扉を開いた。

13日前 No.120

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

120話

気配を悟られないように、静かにこっそりと入り、死角となる場所に体を滑り込ませる。

呼吸を整えてから、静かに如一を庇うかのように立ちはだかる。そしてなるべくニッコリと笑いながら千里は柊に話しかけた。
「柊さーん?今日はいつもより激しめですねぇ?……俺が入ってきたこと、気がつきました?」
「……?!いつから入ってた?」
「ついさっきですよ、おかしいですねぇ、いつもなら俺の気配ぐらい、話しかけてもわかるくせに。……さて、ここからは本題です。今日いつもより、殴る時間が長いですけど……。どうかなさいましたか?」
「……昨日の事だ。そこをどけ。」
「……あぁ、抜け出した話ですね。それは俺がお誘いした、と言ったはずですが?殴るべきは如一総長ではなく、この俺──────────。如一総長は悪くないと、俺は思うのですが?」

そう話しながら気配を探る。どうやらもう中に入っているようだった。如一の斜め25度の所に、椛島。あそこはここからは死角となる場所。亜留斗は、伊織と柊の後ろに、着いていた。もちろん息を殺して。
「……俺に逆らうつもりか?」
「……話が早くて、助かります。さすご、柊さんです。でも、俺、ひとりじゃないんですよ、……あれ?まだ気が付きませんか?」

このセリフは合図だ。伊織に殺れ、という。
「後ろに、人、いますよ?」

それと同時にすっと現れた伊織に殴られる。千里は本当にこんな穴だらけの作戦でよく成功したな、と思う。本当に心の底から思っていた。前のこいつならこんなの避けたし、そもそも、俺が入ってきた時点で、気がついていた。千里は心の中で"お前の方が、何よりも要らないよ"と思いながら、冷たい笑顔を貼り付けたまま、
「……腕、落ちましたね。なんだかとても残念ですよ。こーんな穴だらけの警備、コーンな穴だらけな気配、俺でもわかるぐらいの気配なのに気がつけないなんてね。この作戦も穴だらけ、なんですから。本当に残念ですよ。……今のお前だったら、棒を持たせた橘伊織1人だけでも充分倒せちゃいますね、伊織の心配をした俺が馬鹿みたいです。前なんか俺が入ってきたこと、人っ子1人入ってきただけでも気がついたというのに。天下を誇る元総長が、落ちこぼれたものです。」
「お前は!俺に助けてもらった恩を!忘れたのか、!」
「……私が?お前に?……悪いですけど、私としてはあなたに助けられた覚えはございません。……確かに母があなたと面識があったからこそここで生きています。……しかし、本当の意味で助けて頂いたのは、あなたが要らない、失敗作だ、と散々言ってくださってる"冬木如一総長"で、"冬木柊という落ちこぼれた総長"なんかじゃ──────────ないです、よ?」

笑顔を消して、真顔になる。──────────いつ、誰がお前に助けられた?あんなことを言ったお前に?
強くえすなければ、ここでは生きていけない、強くなければ、お前はいらない。千里は弱い頃、散々言われた。それがあったからこそ今は強かった。けれどその言葉は今でもしっかりと染み付いている。

「俺からも一言、いいですか?」
「……どうぞ、伊織くん。危ないから俺の隣に立っててね?……まぁ殴られても……」

ちらりと亜留斗の方を向くとやれやれ、と言った感じで、部屋の端にある武器の中でも長い棒と竹刀を手に持つ。
「確かに冬木先輩は、総代長としては頼りないし、俺には薙刀では毎回負けてます。けれどですね。人の先輩のこといらないだとか失敗作だとか悪く言われるのは……とてつもなく気分が悪いです。」

「ガキはすっこんでろ!!」
大分回復した柊が殴られそうになるのを庇うかのように千里は伊織の事を振りをする。というのも伊織はここで一度一歩引くように言ってあるから。その代わりに伊織の目の前に立ち、俺が変わりに殴られる。抵抗に少なからずとも血が騒いでしまうあたりもう終わっていると思うが、こうでもしないと盛り上がらない。

千里は口元に弧を描きながら、亜留斗から投げられた竹刀を掴む。
「……やっぱ、こうなんつうか、制裁とやらを加えるなら、抵抗に抵抗を重ねてもらわねぇとつまんねぇよなぁ……?」
「え、何千里マゾなの引くわ」
「ちっっげぇよ!!なんかこう、職業柄なのか、こう抵抗されると血が滾ると言うか、なんというか……」
「ごめんちょっと理解し難い」
「うるせぇ、」

柊の軍はやはり、強い。しかし、千里と伊織、亜留斗からすればまだまだ弱いと言われてもおかしくはない
「やっぱさ、最近ちょっと腕が訛ってたっぽいわ、強いヤツと戦うっていいねぇ、」
「父様と比べたら弱いし、遅い。」
「椛島!分かってんだろうなぁ!」
「分かってますよ、如一様、どうなさいますか?」

完全に処理が追いついていない如一に向かって微笑む。
「こーはい達や、新米達ばかりに任せてらんないよな?なぁ、椛島。……お前、成長したな、よし、合格だ。」
「は……!」

「あーあ、どーする?先に柊さん、やる?」
「そうだねぇ、殺らないとダメかなぁ?」
「漢字漢字。まぁやるかぁ、さてと、如一お前は下っ端任せたよ?すぐにそっちやるから。」

了解!と言いながら、応戦をする。

12日前 No.121

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

121話

「君たちそろそろ決着をつけないと、やばいんじゃないかい?」
「あれ?もうそんな時間?そっかァ、じゃあそろそろ伊織に薙刀渡してよー、俺ひとりじゃ流石にこの人気絶させらんないなぁ。あ、伊織間違っても殺らないようにね?この人は世間で裁くつもり。大丈夫、冬木の名も出さないし、君たちの名前も出さない。そこは任せたまえ。」

にやりと笑いながら、心の中で、残り秒数を確認する。亜留斗が時計をちらりと見やると、どうやらそろそろ例の仕掛けが作動するらしい。千里もそろそろやばいかな?と思ってはいたので、どうやらぴったりらしい。
「んじゃぁいちにのさんっで、窓から飛び降りろよ?!その後、どっかーんっとするはず。」
「……は?」
「そんじゃ、まず柊さんやっつけないと、ね?」
「え?」

ひとり状況に置いてけぼりにされている如一の混乱は差し置いて、千里と伊織は目を合わせて頷き合う。その後、同時に地を蹴り柊へと、しないと、近くにあったすごい硬そうな長い棒で後ろから、襲いかかった。

「なっ──────────?!」
「読みが甘かったみたいだね、柊、さん?」

最後の一撃を加えると気絶したのかその場で倒れる。
「君たち急ぎたまえ!!あと10秒で……!」
「分かってるっちゅーの!一応柊さん誰か担げ!如一は椛島頼んだよ!」
そういいながら、千里は外へと脱出の合図である、いちにの……と言いながら前かがみになる。微かな音の変化。
「さん!」
と言いながら、窓に向かって部屋の床を蹴り飛ばす。体が窓に当たるのと同時にカッと光り、ドオオン、という地鳴りと共に、千里たちの体は外へと投げ出される。
「っと……危ない危ない、見んなぁ、受け身取れた?」
「……何とかね、全く……君はなんて作戦を考えるんだ……」
亜留斗はため息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。
如一もその姿をただ呆然と眺めていた。まるで何かとの別れを惜しむかのように。
「さて、ここから先は君たち民間人が出る枠でない、ってのは理解できるね?あぁ、でも橘伊織。君には出てきてもらわないと始まらない……。君には一つの仕事をしてもらいたい。恐らくそろそろ瓦礫の下から出てくるんじゃないか?冬木如一、君のお父さんが。」

そう言うと瓦礫がガラリ、と言いながら動き、そこから、柊が立ち上がる。
「うわ、何あれまだあれでもくたばらないの?」と伊織は若干引いていた。しかしここてくたばられても困る。なぜなら、如一にこいつをどうするか、許すか、許さないかを聞かなくてはならない。千里は今までの笑みをさらに深める。
「さて、ここには、元気100倍な如一の派閥の人間と、そちらには辛うじて生き残っている柊派の人間がいます。」
伊織もその後を続けるかのように口を開く
「さぁ、柊派の皆さん。柊さんには、住処を頂いた以外に何をして、もらいましたか?答えてもらってもいいですか?」

「っ……」

柊派の皆は、言葉を詰まらせた。──────────何もしてもらっていないから。
「さてさて、それでは如一派の皆さんに聞いてみまっしょっー!」
千里はそう言いながら体をぐるりと廻転させて柊派の皆から背を向ける。その隙に、一番強いと勘違いされている千里が狙われた。
「あっれれー?話の途中なのに割り込んできちゃうー?改心しないなぁ、」

千里は邪魔が入ることはわかっていたが、正面からかかってこれないことに"如一派の人間との質の違いに"絶望と呆れを感じた。
「取り敢えずさぁ、話し終わるまで、待っててくれない?俺、今最大にキレてるから、お前らのこと、殺っちゃうかも、よ?」
「……?!」
「そうだねぇ、最悪俺も殺すかも、ね?」

伊織は冷徹な笑を浮かべる。そこにはいつもの優しさが消え失せ、巴が出ていた。
「察すが女弁慶の異名を持つ巴サン。惚れ惚れするなぁ、とりあえず、如一派の皆さん。如一には何をしてもらいましたか?」
「……命を、助けてもらいました。居場所と寝床をくれたのはたしかに元総長です。ですが、本当の意味で居場所を提供してくださったのは、如一様、ただ1人です。」

それを聞いて千里は満足げに微笑む。そう、俺もそうだった。
「ありがとう、んじゃあ、如一の側近の椛島君。あなたは何をしてもらった?」
「海外の人に内蔵を売り飛ばされそうになったところを助けていただきました。その後、身寄りのない私を引き取って、こんな環境でも生きていけるように鍛えていただきました。確かに私はまだ弱いですし、家をくださったのは柊さんですが、本当に助けていただいたのは、如一様だけです。」
「お前ら……。」
それを聞いて今度は優しい笑みへと変える。が、その後怒りの色を瞳に灯す。
「そうだね、俺もそうだし、亜留斗だってここにいる橘伊織だって、そうだ。ここにいる人は少なからずとも、柊派の奴らだって、助けてもらったことあるんじゃねぇか?なんだかんだ言ってよ、押し付けてんじゃねぇのか?なぁ、そこの俺の部下である日下部さんよぉ。俺あんたに頼んだはずの仕事を如一がやってんの見たことあるんだぜぇ?はっ、なっさけねぇよなぁ?」
「ほーんと、なっさけない。あんた達の尊敬する人が失敗作だなんだ言ってる人に仕事押し付けるなんて。なんて情けないんだろうね?」

千里たちは、もう既に、自身の抱えられる怒りの器を超えていた。だからこそ、悲しかった。
「さて、如一。親父のこと、許せるか?許せないか?」
「ゆる……せない……。」

如一は震える声でポツリと呟いた。千里はそれを聞いて弾の入っていない拳銃を静かに突きつける。
「え……?!」

伊織は確実に予定に入っていない俺の行動に確実に驚きの声を上げる。なので、この後の動きは決めていないのもあるのだが、伊織にこっそりと耳打ちをする。
「伊織、これフェイク。弾は入ってない。柊を殺すのは……お前だよ」
と言うと、はっとしたかのように、伊織は目の前にいる柊に集中した。ほんの少しのすきを狙うつもりなのだ。柊がなにかに気がついたかのように、口を開く。
「……地雷。お前のそれには弾は入ってないのだろう?……それに手が震えているよ。」
「……おや、気がついていましたか。流石総長。いやはや……。この拳銃重くてねぇ。別に俺はお前のこと殺すなんて、簡単だけど?」

そう言いながら、ニッコリと笑う。いつの間にか伊織も柊さんの後ろについていた。それをしっかりと確認するわけでもなく、気配だけで探る。
「けれどやはり気配を探る能力ら落ちしまわれたのですねぇ、残念です。」

そうにこやかに言葉を紡ぐと、伊織は最後の一撃を、柊に落とす。
「ごめんねぇ、柊さん、柊派の皆さん。君たちとはここでお別れのようですねぇ。さよーなら、落ちこぼれになった元、総長……さん?」

その言葉が合図だ。柊派の殲滅、の。伊織は一人で一つの舞台を潰したぐらいだ。こんなのは赤子の手をひねるぐらい簡単だったろう。五分もすれば皆片付いていた。
その後、門から出ていき、如一派の人たちはとりあえず、冬木家預かりの千里の家へと行くことになった。千里の家は確かにでかいし、部屋もあまり過ぎていたので、大したことはないだろう。そして、如一は覚束無い足取りでとりあえず病院に行くことになった。伊織だって退院している訳ではなく、外出が許されただけなのだから。

病院の治療室。人払いを済ませてから、本題へと入ることにした。
「……さて、冬木先輩。まず、お父様のことについてですが、御冥福をお祈り致します。そして本題ですが、あなたは弱いです。たしかに弱いです。ボロボロになるぐらい。そして、弱いからこそ俺や千里みたいな弱者の視点で見ることが出来る。救うことが出来る。それでもあなたはここにいる人達にとっては大切ですし、それに学校にいる平助や総ちゃんもあなたのことを大切に思っています。あなたは失敗作なんかじゃありません。決してそんなことはありません。貴方は必要です。……だからここにいて下さい。俺が認めましょう。貴方は必要です。そしてそんな冬木先輩のこと、少なくとも嫌いではないですよ。偽物なんかじゃ……ないです。」

「いお……り……。」

如一は、これまであまり涙というものを流したことは無かった。それなのに、あの如一が泣いている。
認めて欲しくて。だけど認められなくて。あいされたくて。でも愛してくれなくて。

──────────ライバルである伊織でも嬉しかった。誰でもいいから認めて欲しかった。でもそれは千里や如一派の家の中の者じゃもうダメだった。

10日前 No.122

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

122話

如一はあの後、泣きわめいた。みんなそれを唯黙って叫びを聞いていた。今まで貯めていたもの。総長としての重み、認めて欲しかっただけだったということ。
全てを聞いて、やはり千里はこんなにまだ半人前のやつにこんな重いヤツを持たせていたのかと思うとほんの少し殺意すら覚えるが、もう死んでしまっている。関係ないだろう。


如一もだいぶ落ち着いて、手当もし終わったので、
そろそろ話をしよう、ということになる。
「今回、爆発して冬木家が無くなったわけですが、この度、あそこは分家にしたいと思います。んで本家は立地条件のいい所を探して、新しく立て直したいと思うんですよ。まあ資金援助の方は橘の方で何とかします。この際同盟くみましょう。なので今後共ご贔屓に、橘道場を!」
「まぁ、別にいいよ。じゃあ千里書類作成頼んだわ。」
「はぁ……はいはい。家帰ってからでいいか?家にその関係の書類あるから。」
「あーい」

その返事を境に治療室には静けさが広がった。これがタイミングが悪いのかいいのかはわからないけど、とりあえず、ガタン、と千里は立ち上がった。
「とりあえず、俺は総長。お前に言いたいことがある。」
「え?なに、愛の告白?やだてれちゃう」
「中二のころ!俺を助けてくれてありがとう!これが恩返しになったかは分かんねぇ。確かに家に住まわせてくれたのはお前の親父さんだ。けれど一人きりだった俺を本当の意味で闇の中から救ってくれたのは、如一お前だけだった。言うの、遅いかも知んねえし、何が言いててぇのかわっかんねぇかもしれないけど……!!ありがとう!」
「なんだよー、そんな事かよ、」
「そんな事って……!!」
「んなの当たり前じゃん、この俺だぜ?困ってる奴を助けねぇわけねぇじゃんか!ばっかだなぁ、お前!」

そうケラケラと笑いながら、千里の頭をわしゃわしゃ、隣でくりまわす。「子供扱いするな!」とちさとは怒りながら如一の手をそっと払い除ける。それを楽しそうに払いのけられないように押さえつける如一。それを眺めてから伊織は静かに立ち上がる
「如一先輩。俺も如一先輩に助けていただきました。あの時、助けられて居なかったら、多分今ここにいないでしょう。ありがとうございました。」
「な、なんだよ!みんなして!!……助けるに決まってんだろ、お前は、俺の大切な後輩で、ライバルなんだから。お前に死なれたら俺だって千里としかはりあいがなくなるからつまんねぇつーの。」

本当に恥ずかしくなってきたのか、俯き、そっぽを向きながら、頭を撫でる。
「子供扱いしないでくれませんかね?子供扱いするなら薙刀で勝ってからにしてください。まぁまだ勝てないでしょうけど!」
「なにおぅ?!」

「君たち、静かにしてくれないか、ここは一応病院なのだよ。……そろそろ面会時間も終わるよ。伊織は部屋に戻りなさい。……冬木は……。」
「千里と帰るー。千里ちゃん今感情高ぶってるからね、変な気起こしそう」
「うるせぇ!!人っ子一人そんな感じにしたぐらいで死なねぇよ!?」

そう言いながら、如一は、千里の手を引っ張る。ずんずんと進む。
「さて、ここまで来ればもう誰も聞こえないよな……?
……千里。帰ろっか?あとね、千里助けてくれてありがとう。……嬉しかった。伊織に秘密な、あいつ知ったら全力でからかってくる。」

なんとなくそんな気がしたので、ふっと頬がゆるまる。そんな時だった

「あれ?千里……だよね?わぁ、久しぶりだなぁ!」

ニッコリと笑みを浮かべながら、如一はあまり見知らない男の人が話しかけてきたのは。しかし、対照的に千里は目を見開き、瞳が揺れている。そうしてポツリと男の名前を呟いた。

「……よ、りくん……」

10日前 No.123

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

123話

「……よ、りくん……」

綺麗なコバルトブルーの瞳を持った男の子は、千里に親しげに話しかける。
「ほんとに久しぶりだなぁ……。元気にしてた?中学校1年生の時にいきなり居なくなっちゃったんだもん。びっくりしたよ」

頼くん、と呼ばれた男の子は、優しげに千里の頭を撫でる。千里はビクリ、と肩を震わせた。瞳には怯えの色が写っているが、俯いてる為、それは如一の目には入らない。
「ご……ごめん……なさい……。い、いきなりきえて……」
「大丈夫だよ、お母さんとお父さんが家で待ってる」
「えっ……お義父さまとお義母さまが……?でも、ごめんなさい、その、おれ……永瀬家は、もう……帰れない、です……。」

如一は意外に思った。千里は自分に拾われる前の話を全くしてくれなかったから。父と母が死んだことは、すぐに知ったし、自分で言っていた。でも、永瀬家のことは聞いたことがなかった。どこかでお世話になっていた、程度には聞いていたが、そこでの話を全くしてくれない。

「久々に戻っておいでよ、お父さんもお母さんも待ってる、よ?」
「え……あ……、後日、そちらには向かい、ますので……、その……近々テストなので……、テストっ、終わったら行きます……、ご、ごめん、なさい……」
「そんなに謝らなくてもいいんだよ?お友達は大切にねせっかくできたお友達なんでしょ?」
「……は、はい……。」

その後、如一には聞こえないように、こっそりと耳打ちをする。その言葉を聞いた千里はどんどん顔から血の気が引いていく。
その言われた内容とは
───「帰ってきた時は覚えておいてね?また千里ちゃんを絶望の淵へと落としてあげる。さぁ、いつまで皆は千里ちゃんのそばにいてくれるかな……?」──

そう言いながら、ニッコリと笑って、手を振りながら、千里と如一の元を離れた。
「お前、どうしたんだよ……、顔、真っ青だぞ?」
「や……、大丈夫。大丈夫、だから。明日から学校、行くから……」
そう言いながら、ふらりとした足取りで家までの道を歩いていったのだ。

10日前 No.124

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

124話

「千里!!ひっさしぶりぃ!てかあんた何テスト当日にだけ来てんの?!出来るの?!」
「おぅ!秋良!ひっさしぶりぃ!大丈夫、ヨユー」
「マジか、と引いた目でこちらを見やるが、高校程度の勉強なんて簡単だった。それよりも難しいのは大学院の勉強。今からでも楽しみすぎて、胸がワクワクする。

「まぁ、大学院なんて行ってる暇無いけどね……出席日数とかで……」
どこか小さく諦めたような声が聞こえた気がして、秋良は、コテン、と首を傾げる。「どうかした?」と尋ねられ、初めて声に出していたことに気がつく。
「んーん、何でもないよ。あ、そう言えば平助ってかけのこと覚えてんのかなぁ、確認しとこ、」
何でもない、と言いながら頭を振った。そうしてテスト、ということで、賭けのことも忘れていたが、思い出すことが出来た。なので、千里は確認をしに行くところだ。伊織のクラスの前を通ると、伊織と話していた楔と伊織が話しかけてくる
「あ、千里、先日はどーも!」
「あ、千里ちゃんだぁ、久しぶりだねぇ。」

楔は媚びることはやめた。けれど、こののらりくらりとした話し方じゃないとなんか落ち着かねーとか言いながら、楔は人のことを褒めなくなった代わりに、話し方をしているのだ。褒めるのは伊織だけ。そこにほんの少しの羨ましさも感じながら笑顔で口を開いた。うまく笑えてるかはわからなかったけれど。
「お、よーやくお前らくっついたか、良かったよ。俺も心配してたんだからな?」
「えへへ、ごめんね、千里ちゃん。」
まゆをへの時に曲げて、謝る。恐らく、今度呼び出されて渾身の土げさをしてくれると信じているため、会えてそこでは深くは追求せず、すぐに話を変える。
「まーま、謝んなくていいし。平助には報告したのか?」
「平助に?んーん。まだだよぉ。千里ちゃん平助に用あるならついでに伝えといてよぉ。」
「しゃあねぇなぁ……。」

千里は溜息をつきながら、了承をした。んじゃあ、またなー!と言いながら千里は平助が待つ教室へと歩を進める。伊織はその背中を見ながら、ポツリとつぶやく。その声はどうやら楔にも届いていたようで、小さなポツリ、ポツリとつぶやく独り言のような会話が始まっていた。
「千里は、強いね。」
「……そうかなぁ、伊織ちゃんの方が強いよぉ。」
「……そういうんじゃなくてさ、精神的に。千里は、強いよ。弱いところもあるけれど……。泣いたあとが……なかった。」
「……そっかぁ……。伊織ちゃん、千里ちゃんの思いに気がついてたんだ。」
「うん。楔も?」
「ほんの少しだけねぇ。でも伊織ちゃんの方がだぁい好きだから、千里ちゃんの思いは受け取れないよぉ。それに、告白もしてきてないから、知らないってことになってるし……ねぇ。」


伊織たちに背を向けて、歩き出すといつの間にか総司がいた。
「……千里ちゃん演技上手くなったね。」
「……うまく笑えてたなら何より。……後で、話しがしたい……。放課後、家においでよ。」
「……うん。」

そう言いながら、総司は自身への教室へと歩く最中、伊織達に捕まる。総司も演技力がついた様子で、何事も無かったかのように、伊織と話すし、振る舞う。その様子を見て、ほんの少し、辛かった。無理してるのが分かるから。

「へーすけぇ、お前に客人。A組の地雷」
「え?千里が?何の用だろ……」

平助は千里が訪ねてくるなんて珍しい、なんて思いながら席を立ち上がり、千里の前に立つ。
「よ、千里。久しぶり。」
「みんな久しぶりってw
ところで平助くん本題ですが、貴方様は覚えていますか?賭けのことを。」

平助は一度はぁ?という顔をした後にみるみる顔が真っ青になっていく。恐らく、今の今までその存在を忘れて今回もゲーム三昧だったのだろう。中学の頃から変わらないな、なんて思いながら、ニヤニヤと笑う
「トーゼン覚えてるよなぁ、あー、勝負の勝敗、楽しみだなぁ?」

その後そのニヤニヤも深めながら、千里は教室へと戻って言った。

その後、平助の絶叫が、学園に響いたのは秘密ではないが、秘密の話

9日前 No.125

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

125話

しかし全く噂というものは酷いものだ。
そう、あの噂。「A組の地雷と2年の楔が付き合っている」。それだけは如一も消すことが出来なかった。

千里がどんなに否定しても「またまたー、照れちゃって」と言われた。
そろそろ楔も限界なんじゃないか。そう思い、伊織と平助を無理やり引っ張って楔のクラスへ向かう。……まぁ伊織は素直についてきたのだが、なにせ平助は先ほどのショックでほとんど動いてくれない。ずるずると引きずられながら歩くところ3分(階段は自分で登ってもらった)楔の教室を覗くとキレる数秒前。
「あー……。そろそろ楔、キレっかな……。」
「んん……?」

3人で物陰に隠れて様子を見つめる

「あぁ、もううっせんだよ!!いつから俺が上野のこと好きになったとか言った?!いってねぇよなぁ?!誰があんなアバズレで自分が世界一可愛いとか思ってる女好きになるかよ!!俺が愛してるのは伊織ちゃんだけだ!!」
「……」

教室静寂に包まれる。みんな唖然として楔のことを見つめる。楔はハットしてから誤魔化すようにあはは……と笑いながら舌をぺろり、と出す。
「……なーんちゃって……あはは……。」
「いや、言い訳には苦しいと思うぞ……?」
誰かのそんな声が聞こえ、もうヤケになった楔が声を再び荒らげた。
「……ああ!そうだよ!今までの俺は猫かぶりだよ!本当はおまえらなんかまとわりついて欲しくねぇし!俺に近寄んなって感じだよ!!なんか悪ぃかよ!伊織ちゃんは誰にも渡さないし、譲るつもりなんか微塵もねぇよ!!それになんか勘違いしてるみたいだけど!!俺は地雷なんか好きじゃない!!伊織ちゃんにしか興味ねぇよ!そもそも伊織ちゃん以外皆死ねばいいとか、伊織ちゃんさえ居てくれれば生きていけるとか思ってるこの俺が!!ほかの女に手を出すとか思ってんのが頭おかしいんだよ!!このクソあばずれくそストーカーのこと誰が好きになるかよ!!」

はぁはぁ、と息を切らしながら、今まで溜め込んでいたものを吐き出す。千里と平助のみが、「いや、お前も充分ストーカーしてるから……」と思いながらもそれを苦笑しながら眺める。されてたとしても、伊織は楔のことは嫌いにはならないんだろうなとは思う。
「え?あれ楔?あれ?今俺夢見てる?」
「……今の楔をみて、伊織はどう思う?」
「……カッコイイし、余計に好きになった……。」
「そっか……良かったよ、それなら俺も自信を持って声を出せるよ。」
「え……?」

その言葉を最後に千里は、大声をあげながら、教室へと入室する
「よくぞ言ったぞ楔!お前ら、友愛と恋愛の違いもわっかんねぇの?ばっかだなぁ、お前ら!そして楔。俺は今とっても聞き捨てならないセリフを聞いた。さて、落ち着いてもう一度。」
「え?あー、クソあばずれストーカー?」
「そう、そのクソあばずれは余計だが、ストーカー。君が被害届を出せば、上野美桜。君は俺の手によって逮捕できる。」
そう言いながら、ニッコリとわらいながら警察手帳を懐から取り出す。
「さぁ、この俺、地雷千里様は場に応じて君をストーカーの容疑で逮捕できる。更には、君には殺人予告及び、殺人の容疑で逮捕だってできるんだよ?」
そう言いながら、証拠となるテープレコーダーも取り出した。そして徐に再生ボタンを押した。

『ねぇ、美桜。ホントーにやるんだね!これで楔君と仲良くなる上で邪魔な女ひとりは潰せるね……?』
『あったりまえだよォ!てか最近地雷チョーシに乗りすぎだよねぇ、この間勝手に家に入っただけですっごぉいこわぁい顔で怒られた!その事を話したら、私のこと好きな男の子達まぁんまと騙されちゃったんだもぉん!』
『あはは、最っ高!そろそろ平助君と楔君は解放しないとねぇ、あんまりだもんね。巻き込まれてただけだし……仲良くしておいた方が後々便利だとは思うよ?』
『あー、そうだねぇ、そうしないとぉ』
『まぁ、とりあえず明日は橘伊織を殺して、その後、地雷千里を殺す……でいいんだよね?』
『うん!協力してねぇ』

この一連の騒動の時。伊織が襲われる前の日に聞いたものを再生する。
まさか自分も標的になってるとは知らなかったため、今までかっこつけてたのをぶち壊し、「ウォ!まじか、俺も殺されるところだった!!」と叫んだ後、咳払いをしてから、再び口を開く。
「さて、ここにいる皆さんに聞きましょう。……さぁこの声の主の名前が出ましたが、この人は殺す、と完全に殺人予告をしました。しかし、直接は手を下してはいません。しかし、本当にこれでいいのでしょうか?こーんな自分が気に食わない相手がいればすぐ殺そうとする人が、そばにいたら怖くありませんか?……さぁ、橘伊織さん、縁楔くん。貴方がたが被害届を提出すれば、この私が今すぐ、受理し、上野美桜をこの場で容疑者、として逮捕できますが、以下がなさいますか?」

ピラり、と3つ折りに畳んだ被害届をにやりと笑いながら見せる。
伊織は笑いながら、「それ、書くわ。とりあえず、すぐに書いてくるね。他にも、色々余罪はあるみたいだし……?」
「んじゃあ、俺も書くよ。こんなヤツ、危ない。」

そう言いながら、二人共、走り書きの字で、書く。
「はーい、ありがとうございマース……?さて、今俺がこれで受理しました。あなたは逮捕、となります。」
「そ……そんなの!!あんたみたいな下の警察官が決められるわけ……!!」
「待ってました!!そのお言葉!!まぁ、あんまりこうした発表は、控えたかったのですが!こう言われてしまっては、私としても!素性をかくすのはたいっへん心苦しいので、発表いたしましょう。」

そう言いながら、千里は、今までのやけに大袈裟な演技を引っ込め、大人のような冷淡な口調で、話し始めた。
「……改めまして名を紹介させていただきましょう。今年度からこの地区に配属された警視総監地雷千里です。これからもお世話になります。とはいえ、私はまだ学生の身分……。本格的なお仕事はしていません。しかし、この街の平和を守るため、時折捜査の舞台に行くため、早退、ちこくが多いですが、よろしくお願いします……。」
そうしながら、綺麗にお辞儀をした。そしてニッコリと笑う。
「そして上野美桜さん……。あなたにはたくさんの余罪がございます。住居侵入罪、ストーカー容疑、殺人予告及び殺人未遂……。上げたらどのくらいになるでしょうか?さて、私としてもあまりここで貴方様の余罪は話しません。……侮辱罪に値する、と言われてしまいますので。詳しい話は署で行います。……学生ですので、テストは、受けさせます。……その後、もちろんスグにお迎えにあがりますので、署まで動向、お願いできますね……?」

そう言いながら、千里はイエスもノーも聞かないうちから教室を出ていく。
「てめぇ千里!!テメェが秘密にしたいっつーから秘密にしておいたことをなんでわざわざバラした!!」
「あー、土方さん!仕方が無いじゃないですかぁー!だぁって、バラさらざるを得ない状態だったんですよー!と言うか、見てたなら参戦してくださったていいじゃないですかー。」

そう言いながら、ケラケラと笑いながら千里は一年への教室の道を歩く。
「お前ら、嘘だとは思うけど、この俺が証明するぜ。あいつは六年前、ここで担当していた地雷千歳さんの娘で、天才と言われてる警視総監だぜ……。みんなにも期待されてるし……。あんま下手なこと学園でするなよ。」そう言いながら、平助は伊織を引っ張りながら二年の教室をあとにした

「はー……、まさか千里があんなことするとは思わなかったよ……。」
「へっへ、なんかさ、楔と伊織の笑顔が守りたいって思ったらいつの間にか動いてた。俺も正直今自分のしたことに驚いてる。」
「まじか……。」

その後、テストが終わった後、千里はほとんど無理やり上野美桜の手首に手錠をかけた後、引きずるように、学園を出ていった。

9日前 No.126

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

126話

「よっ、伊織。おめっとさん。」
千里は警察の車に上野美桜を預け、警察署へ送って貰い、伊織のクラスを訪ね、祝杯を上げる。
「あ、ありがとう……。でも千里はいいの?だってお前楔のこと……。」
「いいの、だって俺お前らに幸せになって欲しかったからさ?それに、お前らの幸せそうな笑顔見てたら、どーでも良くなってんだよ。」

そう言いながら、にししと笑う。その顔を見て、伊織は「千里って、変に強い、よね……。」
「んん?!何で?!」
「んー、何となく」

千里は強くなんかないよ。思っている。実際今日は赤い目を誤魔化すために、なれない化粧をしている。早く落としたいと思っているぐらいだ。
「つか、テストお疲れ。……死にそうな顔するなよ……。そういやあまり成績良くねぇんだっけ?……今度でよければ、勉強見てやるよ?楔も誘えば?2人ぐらいなら見れる。」
「うん……?ちさと1年のくせに二年の勉強できるのなんかむかつく。俺より授業出てないのに。」
「まあまぁ、そこは置いといてよw」

ケラケラと笑いながら千里は勝手に一の席の机の上に座る。一がいたら恐らく、死ぬほど怒られるだろうが、カバンもないし、恐らくもう帰宅しているのだろう。
そう思い、迷いなくこの席に座った。ほかの席は何だか座りにくいからだ。

あの後、学園はざわついていた。俺が警察関係者だったということ、楔のあの本性。詳しい話は、分からないが、あの後、楔には、男子達に土下座していた。昼休みには、千里のところにも来たのだが、それすら知らない。どうでもいいから。確かに、楔のことは好きだったが、それを噂されるのは俺としても胸糞悪い思いをしていた。
「千里は……楔のどこを好きになったの?」
「……唐突だな……。まぁ今は人もいないし……話してもいいよ?」
妙な間を開けながら千里は口を開くのは理由としてはまた変な噂が楔に流されては困るので、気配を探っていた。あたりには誰もいないようだ。楔は今事情聴取と言うなの被害届を出したので、その話を如一にしている所。
「伊織のことを真っ直ぐに好きでいたところ。だから、楔が伊織のこと、好きじゃないとか抜かした暁にはぶっ飛ばすつもりでいるwでもありえない話だから、さ?安心しな。それに俺は、楔のことは簡単に諦められるよ。伊織には適わねぇからな」
そうケラケラと笑いながらポンポン、と頭を撫でる。
「……千里って、やっぱ色々おかしい……」
「そうか?当たり前だよ。」

そこまで話すと、階段らへんから如一と楔が来るのがわかる。
「お、そろそろ楔と如一が来るんじゃね?んじゃあ、俺は警察署へ戻るよ。仕事が溜まってて……。テスト期間は俺は行くこと禁じられてるから……。テスト明けのこの時期、睡眠時間削ってかないと仕事が終わらないんだよね……。」
「……お疲れ様です……」

「んじゃあ、俺帰る!楔にはあのこと、秘密にしておけよ!」
そう言いながら、教室を出ていく。
楔に聞かれていたが、「俺と千里だけの秘密ー、」と言って頑なに話さないので、やっぱ伊織に話してよかった、と思うし、諦められる。そう言葉にすることで言い聞かせことにもなって余計に諦められるかな。そう思いながらも、涙は零れてくるので、上を見る。涙が零れないように。

「ちーさとちゃん!」
そう言いながら、総司は後ろから脅かすように話しかけてくる
「……!!びっ……くりした……。……脅かすなよ、ばか。」
そう言いながら、顔を画すようにそっぽを向く。
「……改めて振られた気分だね、千里ちゃん。」
「……そうだな……。」

鼻声になっているのも気にせずに口を開いた。掃除の前でしか千里は泣けなかった。泣くことが出来なかった。
「……。帰ろっか。」
千里は徐に口を開き、そう言いながら、教室へと足を向ける。
「うん……。ねぇ、千里ちゃん。泣きたくなったら、僕のところおいでね?……どんな事でもいいよ。」
「……ありがとう。幼馴染みとしてでもその言葉、嬉しいから。んじゃあ、帰ろ。」
「うん。」

そう言いながら、総司も教室の方へと足を向ける。ほんの少し、辛くないかと聞かれれば、辛い。そんなのは当たり前だ。辛くないわけが無い。多分この先、楔以上に好きな人ができるのか、もし伊織と楔が結婚することになっても笑顔で祝福ができるのか。……不安と後悔しかない。今でも楔のことは好きだし、多分この先も誰と付き合っても心の片隅には千里は楔が、総司は伊織が残るだろう。けれど、2人は、楔の心から幸せだという笑顔を見てしまったら。伊織のあの心から幸せそうな顔を見てしまえば、そんなのはどうでも良くなっていた。邪魔もしてやろうという気も失せてしまい、逆に千里は応援をしたくなっていた。

「んじゃあ、総司。また……」
「あれ?隣の男の子は総司君?わぁ、大きくなったねぇ、迎えに来たよ、千里ちゃん。」

家に着いたところで、迎えに来たよ、と言って立っていたのは、永瀬頼。
「……頼くん……、なんでここが分かった……んですか?」
「ふふ、千里ちゃんが仲のいい如一ちゃんに聞いたよ!あのこいいこだねぇ、千里ちゃんには勿体ないよ。」

そうにこやかに笑いながら、千里に1歩づつ近寄る。
「……。頼くん、久しぶり、だね。また、千里ちゃんの事いじめるの?」
「……虐めてるなんてやだなぁ、千里ちゃんに僕がそんなことする分けないでしょ?」
「どうだか。少なくとも、僕も、一くんも、君のことは、信じないよ。」
「あれ、一くんも、まだ千里ちゃんのそばに居るんだ、なんか意外だね。」
「……僕はどんなことがあっても千里ちゃんのことは見捨てるつもりは無いし、どんな事があっても暴力行為はしません。」

しっかりと千里のことを守るように立ちはだかる。というのも、千里の無意識に総司のTシャツの裾をつかむ力が強くなったからだ。千里は無意識のうちに総司や一の前にだけに限り、なにか嫌なものを前にすると裾をつかむ癖がほんの少し強くなる。普段から千里は少し悲しいことがあると裾をつかむのだが、怖いものの対象が近くにいると、掴む手が強くなる。たまにぎりぎりと引っ張られるので、服が伸びるのだが、仕方が無い、と思っている。

「……今日はなんか気分が悪いし、家に帰るよ。……みんな待ってるから、早く帰ってきて……ね?」

千里はその言葉に、ビクリと肩を揺らして小さな声で「はい。」と答えた。

遠ざかる背中が見えなくなった頃、千里はぱっと裾から手を離して、玄関の鍵を開ける。
「じゃあ、またね、総司。また明日。」
「……うんまたね。」

9日前 No.127

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

127話

次の日。学園の掲示板には学年別テストの順位が掲げられていた。

「……お前……、大丈夫か、逆に心配になってきたよ、俺……。でも賭けは俺の勝ちだからな……。補習ガンバ……」
「うぅ……、分かってるよ……、どうせ補習だよ……」

千里は平助に誘われて一緒に成績表をみていたが、あまりの成績の悪さに逆に心配になってきた。なぜならほとんどの教科で赤点を取っていたからだ。
「うわ!!千里一位?!え、てか全部オール100って……。何で?!なんで千里そんなに点数いいの?!あんだけサボったり、途中で、警察の捜査もしくは仕事であんだけ休んでたのに?!」
「あ、秋良。うん!俺ねー、勉強だけはできるから!」
「地雷ってまじで成績よかったんだ、以外。」
「あ?!楔ちゃん?以外ってどういう意味かな?!そんなに俺バカっぽい?!」
「うん。だって……」
「「千里普段授業受けないじゃん」」

いや、そーだけどさ、と言いながら、二年の順位も同じところで発表されるので、そちらも見ると、楔が1位だった。
「お、楔すげぇ。1位だ。」
「まぁね!伊織ちゃん勉強だけは苦手だから、頑張ったんだよ。今回だって漢字さえ間違えなければ、地雷と同じall500だったんだよ?」

あー、悔しい!と言いながら、結果表を見つめる。そこに伊織が溜息をつきながら、近づいてくる。
「俺何位?赤点何個?補講の日程は?後、補習回避のためのテストの日は?」
「あること前提?!……まぁ伊織勉強苦手だもんな……。でも伊織今回仕方ねぇべ。色々あって休んでたし。俺みたいに勉強出来るわけじゃねぇんだから。せっかくだし、楔教えてやれよ。出来んだろ。どうせ。」
「もちろんそのつもり。あ、平助には教えないから。地雷とか、舶来に教われよ。」
「え!?俺も赤点あるんだけど……」

秋良は確かにいいとは言えないが、赤点は一つだけ。千里はぶっちゃけると伊織も平助も秋良も心配だった。成績もおそらくギリギリだろう。ここで合格できなければ、夏休みの補修は免れないし、最悪平助は留年だ。千里はほんの少し悩んでから口を開いた。
「んー、伊織の方は別に楔なら任せられるし、ぶっちゃけるとこれからも面倒を見てほしいところ。でおそらくお前らふたりは流石に楔も面倒みきれない。……んー、じゃあふたりは明日から家に泊まり込みでみっ……ちり教えてあげるよ。」

そう言いながら、2人に笑顔を見せると、ふたりはガタガタと震えながら「御手柔らかにお願いしまーす……。」と呟く。残りのふたりは、めが笑ってない……と思いながら、その場を離れる。明日からなのには予定があるからなのだが、この場の誰1人ともそれを言わなかった。気がつかなかったというのもあるのだが。
「んじゃあ、俺平助と話があるから、秋良先教室戻っててー。」
「了解、早めに戻ってきてね、そろそろホームルーム始まる。」
「すぐ終わるよ、」

その背中を見送ってから、千里は「じゃあすぐに終わらせるよ。さて、きみは賭けに負けました。夏休み前までに告白、しなよ。まあ、雰囲気にこだわるのもいいんじゃない?協力ならするよ?今日するなら、すればいいし──────────。」
「今週の土曜!!秋良と2人で遊び行く約束、したから、そんとき……負けても勝ってもするつもりだっ、た!ので、頑張ります……、」
「……うん、がんばれ。」
「千里はしないの?楔に告白。」
「……あの脳内お花畑の幸せ野郎に告白しろと。ふぅん。 面白いこと言うね。俺は諦めるの。諦めなきゃいけないからね……。」

そう言いながら、呆然としている平助をひとり残して教室へと向かう。教室へと入るとテスト結果を見た数人の人が周りに寄ってくる。
「じーらい!お前すげぇな!あんだけこないくせにあんなに成績よかったんだ!俺、見直したよ!」
「地雷さんって、あれだけ出来るなんて羨ましいなぁ」
「カンニングとかしてたんじゃないの?そうじゃなきゃあんな点数取れないよ!」
「お前、何言ってんの?!地雷だけは視聴覚室で、持ち物検査と身体検査を厳重に受けた上で、更にワンツーマンの監視を受けてテストしてるんだぜ?!その状態でどうやってカンニングするんだよ!」

カンニングを疑われたが、一人の男子の手によってそのカンニングの疑いは晴れた。俺はたしかにその体制を強いられる。が、それをこいつが知っていることにほんの少しいわかんをかんじた、が。おそらく見られていたと言うところだ。確かにこの男──────────阪崎はたまたま通りかかってその様子を知っただけであり、千里には微塵も興味もなかった。

千里はあまり気が乗らなかった。放課後になることを。
「あー、二人共。じゃあ明日、放課後俺の家ね。」

そう言いながら、パタパタと慌てて学校を出ていった

8日前 No.128

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

128話

千里は一度家に帰り、保険証とテープレコーダーをカバンに入れ、重い足取りで永瀬家へと向かう。
「はぁ……。」
何度目なのか。それすらわからなくなるぐらいのため息を吐いた。ここから、永瀬家は、ほんの少しだけ離れている。
と言ってもこの地区なので、そこまで遠い訳では無いが、如一に頼み、家をほんの少し離してもらった。母と父と、共に住んでいた家からでは、近いから。確かに総司や一の家は前の家の方が近い。けれど、少しでも永瀬から離れたかった。千里の今の家は、永瀬家から反対方向。故に離れている。この間総司が送ってくれたのだって、俺のせい。悶々と考えながら歩いてると重い足取りでも付いてしまった。

「はぁ……、入りたくねぇ……。」
門の前で溜息をつきながら突っ立っていると。
「……千里か?こっちに来ても平気なのか?」
「あれ、千里ちゃんじゃない。千里ちゃんがこっちに来るの珍しいね。……永瀬さんとこ、本当に行くつもり?」
「……一、総司……。うん。約束はしたからね。けどこの1回こっきりだよ。……無理やり連れ去られない限り、は。」

いつまでもうだうだしていると、総司と一が、学校の方から歩いてきて、心配そうに話しかけてくる。総司はほんの少し怒っているようだった。
「……ん。この家の前で死んでたら、亜留斗に連絡入れて。最悪どっちかの家に行くから。……総司の家は確かここから2軒先で一君の家は、総司のお向かいさん、だったよね。」
「……分かった。とりあえず、無理しないんだよ、千里ちゃん。」
「ん……、善処します。」

そう言いながら、悲しげに笑った後に、頼が待つ家の恐る恐る千里はインターホンへと手を伸ばした。ピンポーン……、と懐かしい音が聞こえ、そのまま待つ。するとバタバタ、という音と共に頼が降りてきて、玄関の先を開ける。
「わ!千里ちゃん来てくれたんだぁ!うれしいなあ、おじさんもおばさんも待ってるよ、ほら、早くおいで。」

頼は千里の手を無理やり引っ張るかのように家の中へと押し込む。耳元で、「ほんとに帰ってきてくれて嬉しいよ、八つ当たり対象が帰ってきてくれて……ね?」
ちさとはその言葉にゾッとしながらもこっそりとテープレコーダーのスイッチを入れる。……恐らくこれで入った。
「……頼くん。お義母様とお義父様にご挨拶しましたら私は帰ります。明日も、学校あるので。」
「ここから通えばいいじゃない、総司君や一くんだってここら辺から通ってるんでしょう?ここに居ようよ。」

口元は笑っているが、目は決して笑っていなかった。怖い。千里が唯一人で怖いと思うもの。それは永瀬頼1人だけだった。
確かに起こった如一も千里は恐れている。切れた伊織だって怖い。けれど、誰よりも抜き出て怖いのは、永瀬頼だった。

「お前さぁ、ホンット変わんねぇな。相変わらずビクビクしちゃって。またお友達、離れてくんじゃない?ボロッボロのボロ雑巾みたいになった千里ちゃんのこと見たら。……あぁ、総司君や一君は違かったね。あの子達も──────────ころしちゃう?」
「っ!!それだけはやめろ!!みんなに手ぇ出してみろ!!俺が許さない!」
「へぇ……あんたっていつからそんなに偉くなったの?俺に口答えするの?いいご身分だね。」

そう言いながら、頼は千里の肩を思いきり殴りつける。苦痛に顔を歪めるが、柊に比べれば、そんなに痛くはないが、これが続けば確かに頭から血は流れるし、骨の一本か2本は折れるかな、と思いながら、ただ黙ってじっと殴られる痛みに耐え続けること3時間。少しづつ痛みも麻痺してきて、口の中に血の味が広がり顔を顰める。頼も息切れしてきたところを見るともう終わりのようだ。千里は黙って立ち上がりながら、手の甲で血を拭う。その後で、口の中に溜まった血を、台所へと捨てた後、千里は冷えた目で頼を見つめる。
「満足……した?もういいよね。お義母様とお義父様にはよろしく行っておいてください。ここまでの時間待っても帰ってこないのなら、私は帰ります。」
そう言いながら、千里はスタスタと歩きながら、荷物をまとめ、家の外へと出る。玄関から出ると門の外で、塀に寄りかかって千里のことを待つ総司の姿が目に入った。その姿を千里は認めると、気が抜けたかのようにふらふらとした足取りで、総司の元へと歩く。
「そう……じ……」
「ちょっ……?!千里ちゃん?!」
ところがその足は途中で縺れ、総司の元にたどり着く前に、倒れそうになる。しかし、倒れ込む前に総司が既んのところで、受け止める。それと同時に千里の意識は無くなる。
「はぁ……、だから言ったのに……。流石に千里ちゃん軽いとはいえ鍛えてあるから、病院まで抱えて連れてくのは厳しいからな……。とりあえず、僕の家まで運んで、亜留斗ちゃんに電話かけよう……。」

そう言いながら、総司は千里のことを抱え、自分の家へと戻る。

8日前 No.129

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

129話

「君はねぇ!!!いい加減にして欲しいなぁ?!」
「う゛……。いや、今回ばかりは仕方が無いんだって……、不可抗力っつーか、なんつうか……、」

目が覚めた時瞬間、亜留斗に怒鳴られる。千里はタジタジになりながらも言い訳の言葉を口にする。

「ええ……と、君の幼なじみの沖田……だったか?あいつも怒っていたぞ。電話をしておくから、反省しておくんだね。」
「うへぇ……パパに怒られるー……。」
「冗談じゃなく、本気で君は一度怒られることを覚えた方がいい。そして君は"大切にされてる"ことを自覚した方がいい。とりあえず、沖田は待合室にいるから、会いに行きたまえ。……そのまま今日は沖田の家にお世話になるといいよ。車をだそう。」

亜留斗はそう言いながら、病室の外へと出ていく。どうやらここは病室。入院するほどではないにせよ、大怪我を負ったことは確か。なのでここに居るのだろう。体を起こすと、ほんの少し痛むが、動けないほど痛い訳では無いし、実際外まで歩けたのだからなんの問題はないと思われる。……ミイラっぽくなっているのだろうが、一ミリも問題は生まれない。何にせよ移動には問題はない。それなら千里からすれば移動に困らないことに越したことはなあ。しかし、問題は
「……千里ちゃん。」
「……ハイ……。」

この目の前で憤怒に近い怒りを讃えた沖田総司──────────。この人だろう。
「僕言ったよね?無理するなって。何かあったら相談してねって。」
「……うん……。無理はしてない、」
「……へぇ……?じゃあ君は怒られる様なことはしてない、そう思う?」
「……。」
流石にこれは首を縦にふれなかった。横にも振れなかった。ギュッって唇を噛み締める。ここで明確な答えを出してしまえば、自分の価値を自分で踏みにじってしまうからだ。
「……千里ちゃん。僕は怒ってる。色んな意味で。幼なじみとしてとても心配している。なんでか……分かる?」

千里には分からなかった。自分にはこうしてもらう価値が無いのにこんなことをしてもらう理由が。
「分からない、か。本当千里ちゃんって馬鹿だよね。じゃあ聞くよ。もし、僕が頼くんにボコボコに殴られて千里ちゃん目の前で倒れたら……どう思う?」
「………いや、だ。すごい心配する。」
「………そうだよね?そんなことになったら、君は僕にどうして欲しい?」
「心配かけたこと謝ってほしい……。頼くんにも、総司に謝らせたい……」

俯きながら、ボソボソと喋る。
「うん、僕もそう思ってる。なら、千里ちゃんは他にもいうことがあるんじゃないかな?……頼くんについてだけど……。これからはなるべくひとりでの行動を避けてね。」
「……!!
総司、ごめんなさい……、気を付けます……。」

それでいいよ、と言いながら総司は、小さい頃のように千里の頭を撫でる。千里は頭に手をやると包帯が巻かれていた。頭も怪我していたらしい。手には軽く包帯が巻かれ、足にもところどころに絆創膏が貼ってあった。派手にやってくれたなぁ、と思いながら、大人しく千里は撫でられることにした。
「総司って本当パパだよね……。」
「いつから僕は父親になったのさ……、それに誰のせいだと思ってるの!」
「うぅ…………、と、とりあえず亜留斗が待ってるし、送ってくれるらしいから、帰ろう……、」
「らしいね。今日は千里ちゃん泊まってくんでしょ?それもさっき聞いたし、僕が提案した。千里ちゃんは隠れて泣く癖が消えてないみたいだからね。」

総司は呆れながらもそう口にする。否定出来ないのが千里は辛かった。その後、痺れを切らした亜留斗がほんの少し怒りながら迎えに来て、病院から総司の家へと送ってもらい、その後、瞳を閉じて、眠りについた。

7日前 No.130

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

130話

次の日。千里は総司と一と共に学園へと向かっていた。もちろん周りの目は千里の怪我に向いていた。千里が警察をしている、ということが全生徒に知れ渡った今、千里が喧嘩して大怪我した、ではなくなったものの、やはり居心地の悪い思いをしていた。

教室へと入ると、ぎょっとした様な目で見られる。その後、口をぱくぱくさせながら、話しかけてきた。
「え、ちさ……千里?!ちょっ……ま!!……とりあえず、千里その怪我どうした。」
「え?!あー……、いやー……、薬の密売の現場にたまたま居合わせちゃってぇー……、それでぇ……、乱闘になったんだけど、物の見事にボコられてた……?」
「なんでそこ疑問形?!おかしくない?!」
「……ボコられた!!」
「千里がボコられるなんて、珍しいね……。相手そんなに強かった?」
「うん、強かったよ」
我ながら嘘は下手くそだ、と思いながら、その場を切り抜ける。事情を知ってるはずの総司が口を挟まないでいてくれたことが何よりも嬉しかった。

「もー、気をつけなよ、千里ほんといつか殺されちゃうからね!?あー、あと相談!総司、千里借りるよ!」
「え?!」

秋良は猪突猛進だと思う。相手の返事を聞く前にスタスタと行動する。特に、相談事の場合は。
「……屋上でいいよね?」
「……そう言いながら既に屋上じゃねぇか……。給水タンクの上でいい?」
「どこでもいいよー、」
「んじゃあ、給水タンクの上。」

そう言いながら、千里は給水タンクの上に登る。秋良もその後を追いながら、登った。
最近は、出てすぐの屋根の上にいたが、ポリタンクの上に場所を移したらしい。
理由は定かではない。千里は気分で居場所を変えたりするから、今回も気分だろう。

「んで、相談ってのが、俺平助に告白する。」
「……は?」
「いや、なんかもう、こう…………平助が千里と話すの見てると、なんか、嫌だし、その、確かに平助は、俺じゃない誰かを好きらしいけど……っ、振られる覚悟で告白する!今日の昼休み」

まじかコイツと思いながら、千里は「お、おぅ、」と答える。土曜日まで待ってやれ、そんな言葉をかけることすら忘れていた。

「その、だから……今日って平助と縁先輩とお昼食べたりする予定あったなら、悪いなーって思って……」
「あーそれなら平気。大抵その三人で食べる時は楔のアホが叫びたい時に、だし今となれば校内のやつみんな知ってるから、適当に誰か引っ捕まえて相談にのってやらァ。」
「ありがとう!」

秋良はにへら、と笑いながらお礼を述べた。
そこに、ぎぃぃと、鈍い音を立てながら、屋上の扉が開く。誰だろうか、そう思いながらふたりは扉の方を見ると沖田総司がそこに立っていた。千里はその姿を認めると、幼なじみからなのか、嬉しそうな顔をしながら、千里は、タンクの上から飛び降りて、総司の元へと駆け寄る。
「総司!お前ここに来るなんて珍しいな!なんかあった?」
「女の子からの呼び出し。あと千里ちゃん、こんなの届いてたけど、僕から丁重にお断りしてきたよ。」
「おっまえなあ……。ほんとパパみたい。過保護パパ。」
「ひどいなぁwいつから僕は君のお父さんになったのさ。」
ケラケラと笑いながら総司はお父さん、というところを否定する。その様子を見ながら秋良はきちんと階段を使って降り、総司の隣に立つ。
「過保護否定しないのか……。」
「うん、だって流石に否定出来ないしね。」
「こいつやばいから、すげぇ過保護。色んな意味でめんどくさいよ。」
「ちょっと千里ちゃん!それってどういう意味かな?!」
「あったりまえだろ?!何処の世界に幼なじみの告白を代わりに断りに行く人がいる?!いや!結局のところ断るけどさ!!それと、捜査が入る度、連絡!!あれクソめんどい。あ、でも伊織ん時はごめん。」

そう。実は総司と一つの約束をしている。捜査に向かう前は必ず連絡を入れること──────────。これはかなりめんどくさい。理由としては、つい忘れてしまうのだ。この前あった伊織が狙われてるかもしれない事件の時、報告し忘れ、怒られたこともある。

その時、謝らなかったので、今謝ることに越したことはない、と思い頭を下げる。
「……だってすぐに千里ちゃん自分の命捨ててまで人の命守ろうとするんだもん。心配するに決まってるでしょ?」
「待って二人共俺は今ついていけてない」

1人、秋良が取り残され、どうやら話についていけてないようだった。
「「大丈夫、そのうち慣れるよ。」」そう言いながら、千里と総司は、指を立てたのだった

7日前 No.131

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

131話

昼休み。朝から雲一つと無いとてもいい天気で、ジリジリと日照りが日向を焼けつくす。明はそれを避けるかのように日陰でとある人を待っていた。
そう、平助だ。
千里との約束を果たすために秋良は平助をあまり人のこない校舎裏へと呼び出していた。秋良は不安だったが、ここで千里共にくると、なんだか女々しい気がしたので、一人できた。
女々しいもなにも秋良は女なので、そんなことは無いのだが、なんだか、秋良は自分の告白に人とともに来るのが嫌だった。女らしくないな、と思いながらほんの少しだけ自虐的な笑みを浮かべた。約束の時間まであと5分。そんな時だった。茂みの方から音がしたのは。
「平助……。」
「……よぉ、秋良。んで、話って……どうかした?」

秋良はいつもと違う平助にドキドキしながらも口を開いた。平助もぶっきらぼうにしているが、内心心臓が破裂するのではないか──────────。そう疑ってしまってならないぐらい、心臓の鼓動は早くなっていた。ふたりの間には沈黙が走る。その沈黙に耐え切れなくなった秋良が口を開く。
「あのね!平助。俺、平助に大切な用があって、ここに呼んだ。だからこれから話すことはだまって聞いててほしい。」

秋良は一度そこまで言うと、一度高鳴ってどくどくと言っている心臓を抑えるために深呼吸をした。暖かい空気が肺に入り込み、ほんの少し体の温度が高くなった気がした。心臓が少し落ち着いたのをいいことに、秋良は勇気を振り絞って、口を開く。

「俺……!!いつからかは分かんねぇんだよ……、でも、俺、お前のこと、好き……です……。」

段々とか細くなり、肩を窄める。いつの間にか身体は震えていた。外は汗が滝のように流れるほど暑いというのに。身体は震えていた。平助は、返事ができなかった───硬直していたの、間違えかもしれないが。
「……そ、それだけ!それだけだから!伝えたかったことっての。んじゃあ……、また放課後……」
秋良はいたたまれなくなり、その場を逃げるかのように去ろうとした。しかしそれを許さなかった平助の腕。平助自身も、己のしたことに驚いており、「あ、ごめん、」とたどたどしく謝る。
「でも、俺……秋良に告白の返事してない。」
「……」

秋良は下を俯き平助に背を向けたまま、話を聞く
「俺も……秋良の事好きだよ、確かに千里は好きだった。けど、もう千里には振られてるし、それ以前に、その振られる前から、千里の好きなやつなんとなく分かっちゃっ…………て、かないっこない奴だったからさ。そんなのもあったけど、それよりも秋良に惹かれた。何かわかんねぇけど、秋良のこといつの間にか目線で追いかけてた。キラキラしてて、何時でもまっすぐ前を見据えてるところが。」

「信じらんない。だって、平助は……!!」
「俺だって正直混乱してるよ!でも、俺今、千里よりも秋良の方が好きになってる。その、……なんつうのかな、……こうして話してる今だって、すげぇドキドキして、心臓破裂しそうなんだぜ、ちゃんと言うよ、俺、秋良。お前のことが好きだよ、誰よりも……。」
「千里は……このこと知ってた?」
「え?ああ、うん。伊織も知ってるし、楔も知ってる。総司も知ってるんじゃねぇか?」
「……真相、確かめなくても、なんとなくみんなの目でわかる……ほんとーに俺でいいんだな……?」

秋良は念を推すように、震えた声で確認をとる。
「あたりまえだろ……、お前以外、他に誰がいるんだよ……」
「他にも可愛い女の子いるし、俺よりも素直でいい子いっぱいいるのに?俺なんて、お前より身長でかいんだぞ。……自分より身長の高い女なんて嫌に決まってるよ。」
「……確かにそうだけど……。でも俺は!お前がいいの!お前じゃなきゃ嫌なの!」

平助は、秋良の手の握る力を引き寄せる力に変える。秋良は大きくバランスを崩して平助に勢いよく抱きしめられる。まぁ平助もそのまま一緒にバランスを崩して倒れてしまったのだが。
「うわぁ?!」
「それに!こうやれば、身長差なん的になんねぇし、そもそも、秋良のこと好きになったんだし、身長なんてどうでもいい。」

そう言いながら、平助は身体を起こすも、秋良のことを離すことはなく、抱きしめ続けていた。
「……後悔なんてしてねぇし、秋良にもせない……だから、付き合ってほしい……」
「……おぅ……」

短い返答。それでも平助は満足だった。確かに千里の約束では自分から、だったが、結果的にこうして付き合えたのだ。平助は千里に感謝してるし、秋良も千里のおかげで勇気が出せたので、感謝していた。

2人が成功したのは、千里はすぐに分かった。屋上からニヤニヤと笑いながら、その様子を伊織、楔、如一、総司のみんなで眺めていたから。一は、呆れながら遠巻きでその様子を見ていた。

7日前 No.132

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

132話

放課後。
「さて、おふたりさん!楽しい楽しいお勉強の時間ですねぇ!」

千里は両手を広げながら目の前に居る赤点組をにやりとした目で見る。
「ちょっと地雷?!伊織ちゃん虐めてないよね?!」
「虐めるかっ!!一体どこの世の中にお前というおっそろしいセコムいる伊織虐めるんだよ!!いや、上野がいたけどさぁ?!しかも俺は秋良と平助に向かって言ったんだよ、!」
「ちょっとそれ地雷俺に失礼。あ、上野とかいうヤツ、一発ぶん殴っていい?殺さない。」
「いや、事実。仕方ねぇな、五発まで許してやるだから俺の分と伊織の分と、総司の分、平助の分1発ずつ。あ、一発食らわせる事に拳はこう……重くしろよ。殺してもいーよ」
「待って、千里。」

その殺してもいい、という言葉にツッコミを入れようとしたのは当然ながら、赤点組の中でも唯一ギリギリ救える範囲である秋良だ。他のふたりは順位では3桁という千里からしたら有り得ない順位をとっていて、ほんの少しクラりとしたぐらいだ。……主に平助の順位に、だ。
参考のために、と思い順位を聞くと、秋良は99位。これでも赤点なのか、と思うとほんの少しこの学園が心配になる。これでもこの学園は部活に力を注いでもいるが、同時に進学校でもあるのだ。なので赤点の点数はかなりシビアでとてもじゃないが普通の高校からだと、難しすぎる、と言われている。それでもトップを取れる実力を持つ人もいるし、余裕で百点をたたき出すもの、惜しくも1字だけ漢字を間違え、オール百を逃すだけ、という優秀な生徒もいる。しかし、それとは逆にあまり成績は芳しくない者もいる。それが、伊織と平助だった。この学園は一学年200人程度いるのだが、庵はその中でも120位。平助は何があったのか、199位というみんなも引くようなテストの点数をとっていた。

これには楔も流石に心配そうに
「お前、大丈夫?よくここ受かったね、剣道の推薦は確か地雷、だったよね?男子部門は確か沖田……だよな。」
「……俺は推薦断ったよ。……ぶっちゃけ実力でよゆーだし。だから確か女子剣道の推薦は、秋良じゃねぇの?」
「……うん、俺推薦組……。ぶっちゃけ実力で入れるわけない。」

秋良はあはは……と、力なく笑いながら、うわ言のように呟く。
「あ、でもこの学園三学期赤点あったら、留年だった気が……」
「うそ……だろ?!」

明らかに絶望したような顔をするのは平助と伊織。千里と楔はため息を同時に吐いて、千里が静かに淡々と述べる。
「わかった。三学期学年末テストは俺らのふたりが付きっきりで教えてやる。……楔も異論は?」
「ないよ……。家はどうするのさ。俺んちは狭いよ。」
「それなら問題ないよ。俺の家がある。客室も余ってるし、広さも申し分はないだろ?」
「そうだね、」

赤点組の3人は、千里と楔のことを神でも見るかのような目で見つめる。
「あー、あと如一も読んでいい?アイツかなり頭いーよ。俺よりいいし。」
「え?でも、あいつ赤点……」
「あいつは学校のテストじゃやる気出ねぇからって本気出さないよ。わざと、点数落とすんだよ……。その証拠に、補習のテストはオール100だよ。俺このテスト受けないとなんだよな、単位足りなくて。」

ぴらりと見ると、千里の名前も書いてある。理由は単位が足りないのだ。それも当たり前だろう。仕事のせいでただでさえ授業に出ていないというのに、サボり癖がある。このサボリ癖は中学のクソヤンキー時代についてしまったので、今更戻せないのだが、高校程度の問題なんて千里はおそるるに足らず。簡単すぎるのだ。

「……まぁ、とりあえず。伊織は楔んとこいけ。そこで教われよ。大丈夫、楔なら。合格させてくれるよ。」
「うん……。楔、よろしくな、」
「うん!じゃあな地雷、平助と舶来のこと、頼んだぜー、」
そう言いながら、楔と伊織は歩いて行ってしまう。
「さて、俺らも行くとしますか。」

そう言いながら、スタスタと千里は歩いて教室を出ていく。二人も慌ててその後を付いて来たのだった。

7日前 No.133

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

133話

家の倉庫からホワイトボードを取り出し、ダイニングテーブルの前に設置した。
「……さて、秋良と平助。どこをおしえてほしい?」

参考までに、と思い解答用紙を見せて貰ったのは間違いだった気がした。秋良は一応埋まってはおるが、英語のみは半分ぐらいが白紙だった。平助に至ってはほぼすべてが白紙だった。二人の解答用紙がダイニングテーブルの上にはらり、と落ちる。二人は声をそろえて「面目ない」と言いながら頭を下げる。
「お前なぁ……、お前よく桜才入れたな……」
「うん、奇跡だと思ってる。」
「というか、平助。お前の場合……。恋に現を抜かしてっから赤点とるんだよ。夏休み皆で遊びたいなら、赤点頑張って回避しような」
あきれながらも二人のために頑張ってやろうと思い、千里は猿でもわかる数学やらほんの少し小馬鹿にしたような参考書を手にしながら二人に話しかける。

「あ、そうそう睡眠時間は少ない者と思えよ。ぶっちゃけお前ら……まあ主に平助。お前はマジで合格できるかと聞かれれば難しい。だけど、合格しなかったらせっかくの秋良との時間とられるぜ?」

千里はにやにやと笑いながら二人のことを見下ろす。秋良は恥ずかしそうにそっぽを向き、平助はわなわなと震えていた。千里はその後にまぁ、これは冗談として、といいながら顔を引き締めた後に
「まぁ、合格するように勉強は教えるよ。さて、どこから教えてほしい?」
相当と平助は当然ながら真顔で、
「全部。」
と答えた。秋良は、英語だけが赤点だったが、教えて欲しいのは数学らしい。そう言えば英語の次に成績が良くないのは数学だ。
「そう言えば秋良英語だけ真っ白だよな、前の中間は成績良かったのに。」
「英語の時ぶっちゃけそれどころじゃなくて……。英語は出来るから、いいとして、不安なのが数学だから数学教わろうかなって。」
「……まぁ、いいけどね。とりあえず、一時間目は数学やるよー。まぁ秋良も成績あげるつもりで、平助と同じメニューこなす?」
「んー……。そうすることにする。」

秋良は一度悩んだそぶりを見せながら、最終的には頷く。

「じゃあまず、一次方程式だけど、カッコの外し方は?」
「待って千里、一次方程式って何」

千里は説明を始めてすぐ。平助の一次方程式って何、という発言には千里も持っていたペンを落とさずにはいられなかった。隣にいた秋良も目を疑わずにはいられなかったらしく、目を見開いてまじまじと見つめていた。
「……とりあえず……一次方程式ってのは……説明のしようがないんだけど……。1次方程式とは ax+b=0 の形に直せるもの、としか言えないよね。」
「……あー……うん。」
「てめぇぜってぇ分かってねぇな。じゃあ、次は解き方。これは分かる?」
「んー、微妙。なんちゃら法則でそのカッコ外すのは覚えてる。」
「分配法則な。まぁあってるから良しとしよう。分配法則法則のやり方は、カッコの外にあるのをカッコの中にあるもの全てにかけてあげること。次に、移行についてだけど、移行する時に注意するべきことがある。さて、これはなんだと思う?」
「ええっと、確か符号?だっけな、それがなんか変わった気がする。」
「うん、それを理解してるなら平気かな。」
一次方程式についての事を簡潔にまとめたものをホワイトボードに書き込む。キュッ耳にはほんの少し痛い音が鳴る。注意するべきことは赤で書いて、わかりやすいようにまとめる。

「んー、ここまで理解すれば何とかなるだろうけど……試しで問題といてみる?」

平助に至ってはようやく中学卒業程度かな、そう思いながらも、簡単に割り切れそうな基礎問題を二人の前に提示した。平助もこれなら出来るのか、割とあっさりとペンを置いた。

「出来た!」
「簡単……。」
「……うん、まぁ出来て当たり前だけどね?!中学のワークから抜粋してるし……。」
千里はすでに呆れながらも丸つけをする。一応二人共全問あってはいるものの、平助はところどころ危うい所もある。

「んー……。平助ここさ、君気をつけた方がいいよ。マイナス×マイナスの時はプラスに変わる、とかも覚えておいてね。てか覚えてる?」
「あー……、そんなこともあったなぁ……。」
とか、教わる前は言っていたので、正直不安しか残らない。

「……と、そろそろセールの時間か……。よし、二人共。息抜きの運動、セールに行こうか。」
「え……?!」
「は?」

二人は驚きの声をあげる。たしかに俺は働いてるし、高額納税者だ。しかし将来のことを考え、資金は貯めている。まぁ、冬木家にいる限りお金に困ることはないのだが。

そんなことはさておき、とりあえず驚かれる理由がわからない。
「なんで驚く?!俺だって、普通にスーパーのタイムセール行くよ?!」
「意外……。」
「……千里主婦みたい」

「失礼な人たちだなぁ……。」
そう言いながら、さっさとスーパーに行く用意を済ませる。「置いてくよ、」と声をかけると慌てて二人は出かける用意を終わらせ、慌てて着いてきた。

仲良しだなぁ、と思い苦笑を浮かべた。

4日前 No.134

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

134話

少し離れているスーパーに行き、平助に買って欲しいとせがまれたお菓子と、砂糖をカゴ入れたところで、伊織が試食コーナーのおばあちゃんと話しているのが目に入る。
「あれ、伊織。」
「千里?千里も買い物?」
「まぁな、楔と勉強中じゃなかったのか?」
「今楔買い物してる!此処で待ってれば、戻ってくるかなぁって。」

あたりを見渡すと、今のところは見当たらない。しかし、今日はセールだ。そのためわざわざ遠いスーパーに来ているのだ。いつものスーパーは本当にいつも高い。セールは年末年始、お盆くらいだ。それ以外はあたりのスーパーと同じ、もしくはほんの少し高いぐらいだ。それなら近くでいいが、セールをやっていると言うのに、近いスーパーで買うバカはいないだろう。
「まぁ、あいつの事だし、セールの方にいるだろうし、心配してるだろうから、会ったら楔に言っておくよ。じゃあ俺、タイムセール行ってくる!」

伊織はありがとー、といいながら手を振った後に、伊織は再び、試食のおばちゃんと話し始める。

それを軽く見てから千里は背を向けた。秋良達は、伊織達といてもらおうかと思い、そこに置いてきた。……ナンパとかそれの予防だ。してくるような人はいないと信じ難いが、信じきることは出来なかった。だからこそ、女の子ふたりではなく、男一人おいてきた。平助居るか居ないかでも少しは変わるだろう。

今回、セール品は、100品限定で、ひとり二パックまでの、牛肉だ。冷凍保存さえしていれば、一ヶ月はもつし、きちんと正しい保存の仕方さえすれば、美味しさは保たれる。そう思うと、こんなお得な日を逃すわけには行かなかった。千里としても、なかなか手の出せない牛肉を手に入れる機会を逃すわけにはいかない。最低でもひとつは手に入れたい。
ほんの少し意気込みながら、千里は精肉売り場へと歩みを早めた。そこにはたまたま楔の姿も認める。アイツ、絶対慣れてないな、そう思いながらタイムセール待ちの人の中に小さな体を滑り込ませた。

その頃縁楔は、伊織のために、ほんの少し奮発したい──────────。そう思うと、今日タイムセール出ている牛肉だなぁ、と思いながら精肉コーナーへと足が自然とタイムセールへと足が赴くのだが、この時楔は、タイムセールを侮っていた。簡単に取れるもんだと思っていた。

しかし、現実というものは無残だ。結局楔は牛肉はても届かないうちに空っぽになっていた。改めて主婦の恐ろしさを学ぶはめになった楔。
「どーするか……。困ったなぁ……。」

1人、精肉コーナーの鶏肉コーナーで、悩みながら、頭をガシガシとかきむしっていると。
「あれ、楔?何、お前タイムセールに来てたのかよ……。取れなかったろw」

千里はそう笑いながら、楔のかごの中を一目見て、からかう。
「うるさいなぁ!」
「タイムセール侮ってると痛い目みるからなー……。どうせ伊織がいるから奮発したいなーとか思ってたんだろ?しょうがねぇなぁ、俺これ1パックでいいし、たまたま二つ取れたから、お前に一パックあげるよ。周りの人にはこれ、な?」

楔は、図星なのか、言葉を一度詰まらせた後、千里の牛肉のパックを受け取る。楔は、ほんの少し悪い気がしながらも、折角の手に入れられるはずのない牛肉をかごの中に入れるも、複雑な気持ちだった。その複雑な気持ちというのは、本当に自分なんかに譲ってもいいのか。そういう感情だった
「……お前、なんで一つでいいの?」
「これ、冷凍して取っておくんだよ、ちゃんと取っといておけば、鮮度もそのまま、美味しさもギュッと詰まったまま一ヶ月後持つんだぜ?!この機会に買っておいて、損はねぇだろ?」

千里は女子高生らしからぬことを言っており、目を見開く。千里は知ってて当たり前だろうということが、たまに普通の女子高生は知らなかったりして、驚いたりもする。
「……あれ?これ普通じゃなかった?……。またお母さんとか言われんのかなぁ……。」

ため息を吐きながらも、千里はブツブツと言いながら、肉を物色し始めた。
「あー、そうだ!楔。伊織だけど、秋良と平助と一緒に試食コーナーに残してきたから。早めに迎えに行ってやれよ!」

そろそろ伊織ちゃんを探して会計に行こう、と思い楔が動き始めると千里は思い出したかのように体を起こして、楔のこれから探そうとしていた人物の居場所と一緒にいる人の名前を挙げる。ほんの少し恐怖を感じつつ、千里に礼を告げてから、伊織を迎えに行き、会計をしたのだった。

4日前 No.135

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

135話

「楔って料理上手いんだね!びっくりした!」
「ふふ、そんなことないよ?地雷なんかに比べたらまだまだ……。」
「んー、千里のは千里ので美味しいけど、楔のも美味しいよ?」
「……!!ありがとう……。伊織ちゃん、お粗末さまでした。」
「ごちそうさま……!美味しかったよ!」

楔は、千里に貰った牛肉で、伊織の好きそうなメニューと伊織の健康を気にして、サラダに野菜が多めのスープを作り、その後、デザートもつけた。そしたら楔の思った以上に喜んでもらえていて、幸福で満ち足りていた。それにこの2日間、伊織と一日中ふたりきりなのだ。
「んじゃあ伊織ちゃん、先お風呂入っててよ。俺、自分の寝る用意しなきゃ。伊織ちゃん、俺の部屋のベッド寝てね。」
「え……、でも楔に悪いよ、楔ベッドで……」
「女の子は体冷やしちゃいけません!……遠慮なくベッド使って?」

そこまで言われてしまえば、断れないのが伊織で、「じゃあ、遠慮なく使わせてもらう……」そう言いながら、伊織は楔の母がかつて着ていた服を持って、風呂場へと向かう。
楔としても、一番似合うと思われるのと、寝やすそうなのを真面目に選んでおり、傍から見れば変なやつだろう。
伊織を見送ったあと。不安に思うことが一つだけあった。
「俺……。1人で伊織ちゃんとひとつ屋根の下だけど……襲わないかなぁ……。」
ポツリ、と自然と口から言葉が漏れた。今日は平気かもしれないが、これが二日と言われると、正直不安しか残らない。
「二日も伊織ちゃんのこと襲わないでひとつ屋根の下は無理かもしれない……。いや、一日でも下手したら耐えられないかもなのに……。いや、大丈夫、大丈夫……。そうだ、違うこと考えよ……明日伊織ちゃん誕生日……ああああ!!待って!?伊織ちゃんの事考えたらダメだ!!」

楔だって健全な男子だ。やはり考えることはそういう下世話な事ばかりなのだが、楔からすれば、伊織には嫌われたくはない、これが一番なので、無理矢理は嫌だなぁとか、女の子にも準備とかあるよなぁとかそういうことばかり考えてる。

「……理性抑えられなくなる前に明日は地雷とか平助呼ぼうかなぁ……。」

ため息を吐きながら、一つの結論を出した。恐らく、地雷ならすぐに飛んできてくれるだろう。そして、おそらく楔の理性を抑えるために、色々手を尽くしてくれるだろうし、あいつなら、夜同士でも付き合ってくれそうなイメージだ。
「……地雷頼るか……。」
「楔ー?どうかした?」

目の前でふわりと笑いながら、顔をのぞきこんでいた伊織。楔はいつの間にかこんなに考え混んでいたのかと思うと、何か変な事呟いてないかとか、先ほどの理性がどうたらこうたらという話が聞かれていないかが怖かった。
「い、伊織ちゃん?!いつの間に……!」
「ついさっき来たばかりだよ!なんか難しい顔してたけど、何かあった?」
「う……ううん?!何でもない!お風呂動だった?」
「湯加減ちょうど良かったよー、気持ちよかった!」
「なら良かったぁ。」

そうこうしながら、一日目は幕を閉じた。

3日前 No.136

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

136話

2日目の夜。
翌日は伊織の誕生日なので、楔は、心の中でほんの少し浮かれながら伊織にずっと教えていたが、夜。寝る前のこと。伊織は弱音を吐き始める。
「うぅ……なんか自信なくなってきたよ……。」
「どうしたの、伊織ちゃんらしくないよ?」

そう言いながら、優しく頭を撫でる。
「楔に教えて貰ったから、分かるようにはなったけど……。なんか直前になったら頭真っ白になりそう……。」
「うーん……じゃあそしたら焦らないおまじない?みたいなの教えてあげるよ。俺はね、なんでここまでこうして勉強したのか考える。すると自然と冷静になるよ。だから、伊織ちゃんなら、夏休みの補習回避、の為でしょ?」

その中に、自分と過ごしたい、という意見もあればいいのになぁ、と思いながらも楔は、それをあえて口に出さなかった。自惚れたくないから。
「楔と過ごしたい、って言うのもあるし、識とも遊びに行く約束してるし、部活の時間もとられたくない、からかなぁ。」
「!……それなら余計に頑張らないとね、テスト合格するの、俺も応援するし、終わるまで待ってるね?」

識の名前がそこに入ってたのはほんの少し気に食わないところでもあったが、自分の名前が入ってたことで、そんなのはどうでも良くなっていた。それに、素直に嬉しかった。

「んじゃ、俺寝るね?また楔の部屋でいいんだよね?」
「うん、大丈夫。」

本当はあまり平気ではない。今にでも理性が飛んでいきそうなのだが、今のところ、抑えられている。
数分後。
「はぁ……。とりあえず、伊織ちゃん寝たっぽいし……。耐えられるうちに地雷なら話聞いてくれそうだし……。すぐに理性が危なさそうだったら切れる前に来てくれんだろ。」

そんな信頼から、楔は千里に電話をかける。
千里はちょうどその頃2人を寝かせたところだったので、すぐに出ることが出来た。

「……あ、なんだよ楔。」
「理性。死にそう」
「しぬなよ……。まだ襲うなよ。……まぁ切れそうなら俺がそっちに行ってやる。朝ごはんの用意は既に机の上に置いておいたよ。……んで?何話すの?」

電話の向こうから呆れたような掠れた声で千里はため息をつく。これが伊織ちゃんなら最高なのになぁ、そんなことを考えながら、少し悩んでから口を開いた。兄である鎖からなんとなく地雷、という名前を聞いたことがある気がしたからだ。
「そう言えば、お前って兄さんいるの?」
「……俺?居る、のは知ってんよ。名前も忘れた。親が死んだと同時に行方不明になったから。あのクソ野郎まじいつか殴る。再会した時には絶対許さない。」
「……それ、兄って言えるの?」
「しらねぇよ……。ともかく、今更俺の前に現れても、兄って認めない。それは確か。今の今まで俺のこと放置してたし。今更。」

電話の向こうで無表情なんだろうか。
そんな千里の顔しか浮かばなくて、楔はくすり、と笑うってしまう。
「あ、何お前笑ってんだよ、なんかおかしい事言った?そーゆーお前は?」
「なんか面白かった。俺?兄さんね、鎖っていうクソ兄貴がいる。既婚済み。」

あー、そう言えば、そうだったな、なんて言いながら、千里は冷蔵庫を漁りながらカシュッという、活きのいい音を立てながら缶を開ける。そんな時だった。

玄関が開いたのは。
「嫁と喧嘩した。ムカついたから、殴って帰ってきた。」
「……っち、帰ってくんなよ、くそ兄貴。」
「何で?実家に帰ってくることについて何が悪いの?」

千里はその話を無言で聞きながら、あまり音を立てずに素早く家を出る準備を済ませる。その間も通話は切らずにいた。
「俺の部屋はいらないでよね?!」
「お前の荷物を借りに来たんだっつうの!!」

そこで、兄弟の話が終わった。その頃には千里も出かける用意が終わり、家に向かうところだった。楔は、苛ただしく千里に話しかける
「今の聞いてたろ?!今すぐ俺ん家に来い!!」
「もう向かってるっつうの……。はぁ……。」

千里がため息を付くと楔の耳には千里が走ってるのか風を切る音と、千里のほんの少し呼吸音が聞こえた。

「え……おん……なのこ……?」

鎖は、弟の部屋に眠るひとりの女の子に一目惚れをした。兄弟が故なのか、それとも、性なのか。

分からなかったが、なんとしてでも手に入れたい──────────。それがもし、どんなに汚い手だとしても、だ。

そんな彼の思惑に気がつく者はいないが、楔は、鎖が伊織のことを好きになるのではないか、と冷や冷やしていた。兄の方が、自分より優れている。有名企業次期社長としても、期待されていたりするし、何よりも社会人だ。

「俺なんかよりも……っ……。」

頼りにはなる──────────。
そんな自分を責めながら千里の到着をただただひたすらに待つしかなくて、その間は本の数秒だったが、楔はそのほんの少しがすごく長く感じたのだった。

3日前 No.137

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

137話

その後すぐに到着した千里はそのまま、楔を宥めるのに回る。なぜなら、物凄い怒りで、今にでも兄を殺してしまいそうなそんな雰囲気だったからだ。流石の千里もそれは止めるしかできなかった。伊織が見たら、悲鳴あげる。そう言うと大人しくはなったが、その後、鎖が伊織に惚れるだの何だのたくさん聞かされ、千里はほんの少し疲れつつと、朝を迎える。

朝ごはんの支度は千里が行い、楔は、つかの間の眠りに入ることにする。
……千里に寝ろ、という脅しをかけられ、無理やり体を休めていると言っても過言ではない。

朝の6時ぐらいのこと。楔の部屋から、ひとりの女の子……、と言っても千里を除けば伊織しかいないので、伊織の叫び声が響いた。千里もその声には驚いて、肩を揺らす。もちろん楔は飛び起きて、すぐに自分の部屋へと走っていく。

その後楔の叫び声しか聞こえなかったが、千里は4人分の朝ごはんの用意を進める。
「ちょっと!!俺の伊織ちゃんに抱きつかないでくれる?!ほら、離れて!!離せ!!ゴミ兄貴!!というか、部屋に入るなって言ったよなぁ?!」
「何言っちゃってんの?!減るからね?!既婚者の癖に女の子手ぇ出してんじゃねぇよ!!てかおまえ今年25だろ?!犯罪になるからね?!」
「いやいや……!!伊織ちゃん、こんなやつに挨拶なんかしなくていいから!!てか手ぇ出すなよ!!」
「ふざっけんな!!」

千里はその楔の声しか聞こえない会話を聞きながら、そう言えば、25ならば、自分の兄も生きて居れば同い年ぐらいのはずだ、そう思いながら楔が出して置いてくれたさらに丁寧に盛り付ける。

楔の兄、鎖が何を話してるかも聞こえないし、伊織との会話も聞こえない。しかし、降りてきた様子を見れば、伊織は彼に対する印象はいいものだと伺えるが、千里は楔の兄、ということで、こいつも裏があるのではないか、そういう疑いの目で見ることにする。
「うわあああああ?!もう一人増えてる?!てかご飯作ってる……。美味しそうだねぇ、えっと……?」
「……人に名前を問いたいのなら、自分から名乗るのが筋、なのではないでしょうか……。」

「そうだったね……。俺の名前は、縁鎖。既婚者で、昨日の夜中、お嫁さんと喧嘩しちゃって。追い出されちゃったんだ。」

困ったように眉を下げるが、千里からすればそれも怪しかった。というのも昨日の電話は通じたままだったので、裏の話し方も知っていれば、ここにいる理由もなんとなくは分かっている。なので千里は一定の距離を起きながら、口を開いた。
「……地雷……千里です。縁楔君とは仲良くさせてもらっています……。」
「……地雷……千里ちゃん、ね……。もしかしてお兄さんとかいる?」
「……義理と、ちのつながった兄が。血の繋がった兄の行方は今わかりません。小3の頃から会ってないです。後、あまり人のことをそうやって、人前で聞かないでくれますか?……あまりいい気分はしないので。出来ることなら、人のいないところでお話がしたいのですが。」

千里は今まで楔たちにとったことの無い様な態度で、距離を置きながら、話をする。
食事中も千里はわらってはいるものの、目は笑ってなくて、千里と鎖の関係は最悪と言っても仕方が無いぐらい冷えきっていた。

「じゃあ鎖さん?
ではまた後日先程話したことについて、2人きりで、お話したいので、いいですね?」

朝食後、千里は家に残したふたりが心配だ、と言って早めに出ていく。二人も遅刻しないようにな、と言いながらドタバタと慌てて家への道を走った。

3日前 No.138

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

138話

「楔楔!!千里千里!!受かったよ!!補習にならなかった!!」

学校にいつも通り向かい、放課後、みんなのテストが終わるまで、図書館で待っていると、平助と秋良、伊織がキラキラとした目で入ってくる。秋良は伊織と話しながら、楔のところにいた。

みんな無事合格したようだった。良かったな、と楔は思った。これで伊織ちゃんと沢山遊べるな、とか暇な時に平助を呼び出せるとか憂さ晴らしに呼び出せる、とかしか考えてなかったが、今思えば、平助にも彼女が出来た。そう簡単には来てくれなくなるだろう。平助を目線だけで探すと、千里のところにいて、何やらお礼を言っているようで、千里は苦笑をしながら平助に遊園地の無料招待券を渡す。それを平助はありがたそうに受け取ってから、こちらに走ってきて、秋良を攫う様に廊下に連れ出して、遊園地の招待券を取り出し、たどたどしく話していた。
「あー……、あのさ!秋良。折角合格したし、今日このまま帰んのもなんか持ったいねぇし……、今日までの無料招待券貰ったから……どっか遊びに行かね……?」
「行く!このまま直行でいいの?」
「お、おう!」

廊下で話しているので、会話内容はすべて中にいる人に筒抜けなのだが、誰もそれに突っ込まなかった。楔も楔で覚悟を決めないと平助よりヘタレだということになる。
「……あの、伊織ちゃん!この後家に帰る……?」
「んー……楔ともう少し話したいかな……?」
「鎖の奴がいると邪魔だし、どっか遊びにいかない……?」
「別にいても気にしないんだけどな……。」
「俺が、やだ……。鎖俺の兄だし、絶対伊織ちゃんのこと好きになる……。」

もごもごと話していると、ちさとの電話がぴ、と音を立てた瞬間電話を切った。千里は何の感情も宿っていない顔で、
「……はい。地雷です。……あぁ、鎖さんですか……。一体どこから俺の電話番号を……?ああそうですか。はい。はい……では……今から行きますので、そこなら10時にはつくと思います。……え?あぁ……出来ることなら会いたくないです。何年間も放って置かれたんですよ。今更現れて兄貴面されても殴り飛ばしたいぐらいムカつくだけです。……では切ります。……分かってます。大丈夫です。」

伊織は鎖、と聞いて、ほんの少し顔が輝く。楔は、あまりいい気分はしなかった。
「……家に行けば?2時間ぐらいなら多分俺でも稼げるから。伊織、誕生日おめでと。」
「……!地雷ありがとう!!この恩はいつか返すわ。」
「いーよ、要らない。」

いらない、と言ったが千里はこうして、好きだ、という気持ちを隠したままの俺でも付き合ってくれるだけで、充分嬉しい、けれど、彼女が好きで好きで好きで、やっと付き合えて幸せそうな彼にそんなことは言えなかった。だから、要らない、とだけ返して、千里は踵を返して、手を振っている伊織に向かって笑いながら、で振り返してから約束の場所へと向かう。

「じゃあ伊織ちゃん。俺達も地雷が作ってくれた時間無駄にしないように早く行こ!」
「う、うん……!」

3日前 No.139

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

140話

「じゃあ伊織ちゃん、入って?」
「お、お邪魔します……っ!」

楔は、兄を出し抜いて伊織とふたりきりになれたことにほんの少し勝ち誇った気分でいた。その後に千里が右頬に綺麗なもみじ型に赤く腫れた状態でも尚引きずられながら、家に来るとも知らずに。

「伊織ちゃん、オレンジジュースでいいよね?」
「うん!オレンジジュースでいいよ?」

楔は、冷蔵庫を開けて、オレンジジュースのパックを取り出して、コップに注ぐ。
「……」

しかし、いざ二人きりになってしまえば、楔は緊張して何も話せなかった。なにか話そう、そう思った時今日は伊織の誕生日だ、ということを思い出した。
「ねぇ、今日伊織ちゃん誕生日だよね?なにか欲しいものとかある?」
「んー……、いざ言われると、あんまり無いんだよね……、普段なら結構出てくるんだけど……。」
本気で悩みはじめた伊織。出てくるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。楔は、伊織の欲しがるものならなんでも与えたかった。そのためにバイトもしてるし、貯金もある程度はしている。確かに生活するため、でもあるが、切りつめて生活しているので、そんなにお金に困っている訳では無い。
伊織が決まるまで、マジマジと見つめていると、少しづつ伊織の顔が朱色に染まる。
「あの……楔……。そんな見られてると流石に恥ずかしいんだけど……。」

隣で恥ずかしそうにもごもごと喋る伊織を見ていると自然と口元が緩む。
「ちょっと!!まだ話聞かせろよ!!てめぇ、どう言う事だ!!永瀬……永瀬頼……君からも俺の話を聞いたって……!」
「……やっぱり怖いんだ?頼のこと。悪いやつじゃないとは思うんだけとな、優しい義妹思いの人だと思うんだけど?」
「……!!日向の奴も……そう言ってんの……?!」
外が何やら騒がしくなり何事かと思いながら不機嫌丸出しで、外を見に行くと、珍しく焦っているような顔面蒼白な千里の姿が目に入る。会話内容は聞こえないが、家に入れまいと奮闘しているようだった。

「……地雷……?」
小さく奮闘している彼女の名前を呼ぶと、伊織が気がついたようで、「千里がどうかした?」
と言いながら窓の外をちらりと見て、ほんの少し顔を輝かせる。楔は、その顔は自分に向けて欲しかった。そんな顔は兄である鎖にはして欲しくなかった──────────。そう思いながらも嫌われるのを恐れ口にすることは出来なかった。

「千里っ!お兄さん!!」
顔を輝かせながら家を出て行ってしまった彼女のことを目線だけで追う。
千里は伊織が来たことを認めると、先程までの表情は消え、いつも通りの千里の顔に戻っていた。心配をかけたくない──────────。そんな思いで一瞬で表情を変えることが出来る千里は凄いな、と楔はほんの少し思った。まだほんの少し顔は青いが、伊織にはバレないんだろうな、と楔は結論する。

そろそろみんな家に来るだろうな。そう思いながら楔は、千里の分のオレンジジュースを用意して、三人が家へと戻ってくるのをイライラしながら待っていた。

程なくすれば、千里は伊織、鎖を引き連れて帰ってきたが、千里は申し訳なさそうな顔で、「思ったより早かった。ゴメンな、二人の時間とっちまって。……。どっかで埋め合わせしておけ?」とこっそり謝って来たのだった。

3日前 No.140

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

140話

ほんの少しだけ、時を戻そう。
千里は伊織と楔を家にいくように仕向けたところで、楔の兄、鎖の元へと向かった。鎖は、買い物を終えた後なのか、高そうなブランド物……と言うより、有名なブランド企業のアクセサリー類だった。いくらそういうのに疎い千里でも覚えている、と言うからには相当有名なので、伊織も知っているだろう。

千里に気がつくとニッコリと笑いながら近づき、お店までの道をエスコートされる。席に座る時も、先に椅子をひいて座りやすいようにしてくれた。しかし千里は、それを断って、反対側の椅子へと手を伸ばす。千里が座ったところで、鎖は口を開いた。
「ねぇ、君って日向君の妹、だよね?」
「……すみません。俺、兄の名前知らないんです。何しろ親が事故で死んだ後、行方。分からなくなったもので。もう名前も覚えてません。分かっているのは当たり前の事で、地雷という名を持っているということぐらいです。」
「そっかぁ、俺ね多分君のお兄さん知ってるよ。同期だし。」
「……そうですか。」
興味なさげに千里は返事を投げつける。実際問題、生きてるならどうして。従兄弟である頼とは仲良かった癖に自分の前に現れなかったのか。そのイラつきだけが募る。そもそも、もう兄のあの頃の顔すら思い出せない。そんな人のことをどう思えばいいのか、分かるわけがなかった。
「あまり嬉しそうじゃなさそうだね。嬉しくないの?」
「嬉しくないですね。……さんざん俺のことを放置してきた兄です。今更目の前に現れて兄貴面されてもイラつくだけです。多分私の態度にも気に食わないところが出てくると思います。余計な争いを生むくらいなら、私達は再会しない方が得だと思います。」
千里は感情のこもらない声で無表情を貫いて淡々と話を進めた。
「そっか。……あとね、君は知らないかもしれないけれど、永瀬頼……いるよね。君の義理のお兄さん……。あの人とも俺ね、繋がりあるから、君のこと……。なんでも知ってるんだよ?」
「……え……。」

ニッコリと彼は永瀬頼、という千里が恐れをなしている人物の名前を聞いた。その名を聞くだけでも千里は背筋が冷える思いだった。その後、彼は再び口を開く。
「君のお兄さん……日向君は君のこと、殺したいほど恨んでいたよ?母を殺したやつだって言って。それを庇っていたのは君の嫌いな人……永瀬頼君、なんだよ?」
「お……俺……は殺して……なんか……。」

あの時のことが脳裏の裏に宿り、ほんの少し吐き気を催すが、そんなのは感じさせないように、再び口を開く。
「……俺の仮にその人が兄さんだとして……。そんなに私のことを憎んでるのならば。本当に私たち兄弟は再会しない方がいいと思います。無益な殺生が起こるのは嫌なので。……。ところでそれ。何ですか?」

千里は静かに彼の傍らにあるブランド物だということを主張している少し眺めの箱を指でさす
「……伊織ちゃんに誕生日プレゼント?ほら、楔がお世話になってるしね?あ、もしかして千里ちゃんも欲しい?こういうの。誕生日教えてくれたら、送るよ?」
「……。誕生日、嫌いなんで。兄と友達なら知ってるとは思うんですが。」
「……あぁ、11月3日かぁ、誕生日に親御さん二人もお亡くなりになられたんだったね。うん、覚えておくね?」
「……聞いてましたか?」

誕生日いつだ、という問いに千里はあからさまに嫌悪感を表す。

「……聞いてたよ?それでもいつまでも引きずっていたら、千歳さんも里琉さんも浮かばれないよ?」
「……!!お前なんかが軽々しく母さんと父さんの名前を口にするな……!!」

千里は喫茶店だということを忘れ、声を荒らげ鎖の胸ぐらをつかむ。しかし、すぐに気が付き手を離して、静かに座り直す。
「……。すみません……。少し……感情が高ぶりました。……ほとんど初めてあった人に、母と父の名前呼ばれるの、好きじゃないんで……。」

本当は、鎖に呼ばれたくなかったのだが、あえてそれを口にするなんて子供のようなことはしなかった。

これでも大人の世界に早めに入っている。そういう常識はわきまえているが、先程は抑えられないほど、ムカついたのだった。

「やっぱり、君は頼から聞いていたような人だったよ。君……。本当はそんなにいい子じゃないよね?」
「は……?」

頼から聞いていた。その言葉で千里は目を見開く。一体、自分の何を言われていたのだろうか。嘘つきだとか、優しくしてるのに怯えられている、とかなのだろうか。
「……もう帰るね?伊織ちゃんにこれ渡したいんだ。」
「待て!!話はまだ終わってない!!」
「うるさいなぁ、俺の中ではもう……話したいことは終わったよ?……この手、離してくれないかなぁ。」
「……。いやだ。ちゃんと話すまで離すものか。」

千里はしっかりと鎖を見つめ、きゅっと唇を閉じる。いくら千里が鍛えてるからとはいえ、同じように鍛えていて、男には勝てるものではない。千里はずるずると引きずられながらも、鎖の邪魔をする。
人通りが少なくなってきたところで、ちさとも思いかげなかった拳。
殴られた──────────。そう思いながらもその手を離さず、声を荒らげる。

楔の家が見えてきたところで、その声のボリュームをさらにあげる。

楔に気がついて欲しくて。鎖が門に手をかけると同時。玄関のドアが開く。現れたのは伊織で、千里は一気に笑顔を取り繕う。伊織は楽しそうに鎖と話をし始めた。けれど千里は心の中では、鎖に対する評価は下がりつつあった。

千里が入るように促して、家にいっぽ足を踏み入れると楔がほんの少し……いや、かなりの怒りを讃えた瞳で千里達を出迎える。ふたりきりの時間を邪魔したのだから、千里は申し訳ない気持ちで1杯で、悲しそうに笑いながら楔に一言謝った。
「思ったより早かった。ゴメンな、二人の時間とっちまって。どっかで埋め合わせしておけ?」

楔はそれを見て、悲しくなった。なぜだか分からない。けれどほんの少し悲しくなり、素っ気なく「別に。地雷なんか当てにしてなかったし。」と言いながら部屋の奥へと行って、千里が出ていこうとした時に、その背中に、楔は声をかけた。
「地雷も中に入りなよ。オレンジジュース飲む前にこれ飲んでからね。」
そう言いながら、吐き気止めである錠剤を手渡す。
「……いや、平気。思い出したくねぇこと思い出して、辛くなっただけ。」
「……その辛いことって……なんなの?」
「……。ごめん、俺まだ弱いからさ!人に話す前に吐くと思うし、お前に迷惑かける。そんなの……嫌だから。」

千里は薬をにぎって小さく苦しそうに笑う。話してくれないことに距離を感じた。はじめてだったから。こうして千里に距離を置かれてしまったのも。
「……んな顔すんなよ。……まぁ……いつかは話してやるから、さ。そこまで待っててよ。」
「え……?!」
「ほら、二人が待ってんだろ?行こーぜ。」

そんなに自分は落ち込んだ顔をしていたのだろうか。そんなに感情が出ていたのか。そう思うと少し驚いてしまう。千里はそんな楔の思いも知らずに早く行こう、と話しかける。楔は、家主のくせに千里よりもあとにリビングに戻ってきていた。

2日前 No.141

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

142話

「伊織ちゃん、可愛い!似合ってるよ!やっぱり悩んで買ったがいがあるね。」
「……でも、これってあの有名なブランド物ですよね……?流石に受け取れないですよ……?!」
「もぅ、誕生日なんだから気にしないで!」
「そ……そうですか……?じゃあ、ありがとうございます……!」

伊織は嬉しそうにそれを受け取った。伊織の中で確実に鎖に対する評価は確実に上がり、絆されていった。楔だって確かに働いてるし、プレゼントは買えるが、高校生の財力ではあんなに高価な有名なブランドものは買えない。買えるわけがないのだ。
楔は面白くなかった。伊織の隣は自分がいない間に鎖に取られており、やむを得ず千里の隣に腰掛ける。

伊織は楔の兄だということで、警戒も何もしていない。寧ろ、無防備だ。伊織はまさか自分が縁の名前に気に入られるとは思っていない。
それに、10歳も自分は年下。相手もまさか手は出してこない、と信用して心を開ききっている。だからこそ楔は面白くなかった。
「ねぇ、くそ兄貴。あんまりさぁ、伊織ちゃん……俺の彼女にベタベタ触んないでよ。汚いなぁ。嫁に怒られるよ。」
だからこそ、立ち上がり、抱きしめながら、むすり、と頬を膨らませる。伊織は楔の腕の中で恥ずかしそうに俯いた。鎖はその言葉に、少し悲しそうな顔をしながら、口を開く。
「あー……。昨日の喧嘩が原因でね、離婚になっちゃった。……ごめんね?伊織ちゃん。誕生日にこんな話し聞かせちゃって。」
「そ、そうだったんですか……、」
「……まぁ、束縛とか色々酷くて……。辛くなってきたから俺から言ったから、伊織ちゃんは気にしなくていいよ?」

楔は、内心まずいことになり始めていた、と思っていた。鎖は、自分の願いを叶えるためなら、何でもする。欲しいもののためならお金を使うことに躊躇うことは無い。そして束縛については、鎖はニヤニヤとしながら楔のことを見つめる。自分が言われてる気がして、千里をちらりと見るが、何も話さない、こちらも見ようともしない、かばいすらしなかった。地雷らしくない。そんなことを思いながら、楔にとってどんどん悪い方へと進んでいくのが焦りを感じていた。

「……俺、トイレ行ってくる。」
楔は、ここまでずっと黙っていた千里が動き、発した言葉に正直拍子抜けした。
「……場所、わかる?」
「……探すからいいです。我慢出来ないほどでは無いので。」

鎖が千里に視線を投げると千里はそれを逸らすかのようにふい、と廊下へと視線を向ける。
「……千里らしくないね……。」
「……。」

伊織の呟いた言葉に返答することは無かった、しかしうっすらと思っていた。
数分後、鎖が「やっぱり探しに行ってくるね、」
と言いながら千里を探しに行っていた。

千里はあまり迷わずにトイレには辿り着けたのだが、あまりリビングに戻りたくないと思っていたからだ。
千里は兄の鎖──────────。あいつの纏う空気がほんの少し、嫌なものに変わりつつある。元からあまり好きではなかったのもあるのだが、だからこそ、あそこにいると、気分が悪くなる。だからこそあまり口を開かなかったのだが、トイレ行ってくる、と言って逃げてきた。
洗面台の前で、手を洗って、出ていこうとすると、ドアに寄りかかるように鎖が立っていた。
口元に弧を描きながら。
「千里ちゃん、君さ。俺の弟の楔……好きでしょ。」
「は……っ?!」

2日前 No.142

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

142話

「わかりやすいよ?千里ちゃん」
「……だから何なんですか?別に伊織と楔についてはなんとも思ってないです。」
千里は顔を伏せながら、小さな嘘をつく。
「そう思いたいだけだよね?本当にそう思ってたらちゃんと顔見れるもんね?」
「……。何が言いたいんでしょうか。」
「じゃあなんで楔が伊織ちゃんのこと抱きしめた時ほんの少し悲しそうな顔をしたの?」
どうでもよかったらそんな顔しないよね、そう言いながら、彼は笑う。千里は弱みを握られた。そう思いながらも、極めて冷静に口を開く
「……まだほんの少し引きずってるだけです。鎖さんには関係ないでしょう?そこ、どいて頂けますか……邪魔、なので。」

そう言うと鎖を押し退けて、千里はリビングへと向かう。リビングに入ると、楔が一番はじめに千里が帰ってきたことに気がつき、声を掛ける。
「あれ、地雷ひとり?くそ兄貴そっち行かなかった?」
「……来た。……置いてきた。洗面所まできやがった……。」
「千里があんなに敬語なの、珍しいね……。」
「……そう?射水さんにも敬語じゃん。」
「そうじゃなくて、なんか、相手を嫌悪してるような話し方……?」
「んなことないよ。……とりあえず……。そんなことは無いから。」
「てか、顔真っ青だけど……。平気?」
千里は無意識に顔が青くなっていたのかと思うと、嫌になる。けれど千里は「大丈夫。」とだけ答えて、先程まで座っていたところに座り直す。

「ちょっと楔。俺の席取らないでよね。邪魔。」
「ちょっ……?!伊織ちゃんの隣は俺の特等席なんだけど!!」
「く、楔、いいよ、また今度、家に来た時隣に座って?」
「うっ……伊織ちゃんがそう言うなら……。」

「千里ちゃんって誕生日、11月3日だよね?プレゼント、何が欲しい」
「……要らないです。誕生日……嫌いなんで。先程も言いましたよね……?」
「そう言えば、そうだったね。お母さん達、誕生日に殺されちゃったもんね?」
「…………っ。」
「ち……千里?」
「……くそ兄貴!!やっぱりお前そこどけ!!塚家から出てけ!!今すぐ!!」

その対応を見て、鎖は口許に弧を描きながら口を開く。
「……やっぱり千里ちゃんと楔は、お似合いだね。」
「は……?!」
「……鎖さん。ご冗談を。俺と楔の間には恋愛感情なんて……ありませんから。」
「そう?千里ちゃんの方は満更でもなさそうだけど?」

「……何もないって言ってますよね。これ以上、そんな事言うなら、俺は帰ります。」
「ちょっ……?!地雷待てって!!」

「…………っ。」
「伊織ちゃん?どうかしたの?」
「あんまり、千里……いじめないで欲しいです……。それ、と!楔は、俺とつ、付き合ってる、から……。」
「……そうだったね、ごめんね?後で千里ちゃんにも謝っておくね?」
「……そうして、下さい。」

千里は早足で縁家を離れていく。走った千里は如一以外誰も追いつけないが早歩きぐらいなら、追いつける。楔は、走って千里のことを追いかけ、家から数10m離れたところで、千里に追いつき、腕をつかむ。
「だああああもう!待てって言ってんだろ?!地雷っ!!」
「……。ゴメンな、楔。」
「……?!おま……なんで泣いてんだよ……。」
「え、あー……分かんない……。……ごめん、楔。俺帰る。後、楔には悪いけど、鎖のこと、俺嫌いかも。」

そう一言残してから、千里は楔の手を振り払って、逃げるように走って帰っていく。千里は触れて欲しくないところを鎖に踏まれたのか、触れられたのか。

千里があそこまで怒りに耐えている顔は楔は初めて見たからだ。
「……流石に友達に悩み相談されねぇのは嫌かも……。伊織ちゃんなら自殺した方が良いけど。」

「ゴメンな、楔。俺が弱くて。」

千里はそう呟いて、そっと離れる。家に帰ると、吐き気がした。
暫くトイレに篭ったが、何も出なかった。
「寝るか……。」

そう言えば、最近ろくに睡眠も取っていない。そのせいだ。そう思うことにして千里は布団に潜り込んで眠った

2日前 No.143

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

144話

楔がリビングに戻ると、伊織と親しげに話す伊織の姿を見て、とてつもなくイラつきを覚えた。だから、鎖のことを無理やり引き剥がし、楔は、伊織の隣に座り込む。それに関する
「おかえり、楔。千里ちゃん、どうだった?」
「……。怒ってた。くそ兄貴に。」
「……。へぇ……。なんであんなに怒られないとなんだろうね?」
「……触れてほしくないとこだったんだよ、千里の。」
「なんか、雰囲気悪くしちゃった?……ごめんね?」
「……俺、やっぱり千里に謝りに……!」
「伊織ちゃん。伊織ちゃんは悪くないから……。俺が悪いんだよ、だから俺が謝りに行くね?」
「早く行けよ!!二度と帰ってくるな!」

鎖は楔に追い出されるかのように家を出ていく。しかし、向かった先は、千里の家がある方向とは真逆の方角。繁華街があるところだ。
「っち……。誰が行くかよ謝りになんて。はー、それにしても伊織ちゃん、いい子だなぁ可愛いし、綺麗だし……。手に入れたいなぁ……。本当楔邪魔だなぁ……。何とかしてでも伊織ちゃん欲しいなぁ……。どうしたら俺を好きになるかなぁ……。」

そう言いながら、鎖は徐にスマホを取り出し、ゆるりと口元を綻ばせる。
伊織からの連絡があったからだ。メール内容を確認すると、
「千里ならちゃんと謝れば許してくれる、ね……。これだけはどんなに謝っても許してくれないだろうなあ……あはっ。」
そう笑いながら繁華街へと足を踏み入れる。伊織とあそびにいくとしたらどこに行こう、そう考えながら歩き始める。
その頃、縁家では。伊織がメールを送った後、心配そうにつぶやく。伊織はあんな千里を見たことがなかったはずだからだ。同期で元ヤンの2人だが、あまり接点はなかった。2人とも1人で居たのだから。ほんの少し接点があるとすれば、それは総司の話で聞くぐらいだろう。しかし、話だけで、名前しか知らない、という状態だっただろう。
「……千里、大丈夫かな……。」
「地雷は平気だよ。……多分。」
「……そこは確信持って欲しかった……。連絡の返信こないし……」
「寝てると思うよ。さっき顔色悪かったし……。」
「そうだといいけど…。体調悪いのに無理させたかな?」
「あいつの事だし、多分起きたりしたら連絡寄越すだろ。あいつの判断だよ。」
「……楔、千里のことよくわかるね……。何かちょっと嫌かも……」
「地雷がわかりやすいだけ!あいつすぐ謝るし。伊織ちゃんのことの方がわかるよ!」
「……そういえばそうだったね……。なんか嬉しいような恥ずかしいような……。」

しかし、伊織の中での心配が消えることは無かった。あの時の千里の反応には、色々おかしな点があったのだから、当たり前といえば、当たり前だろう。だから、居てもたってもいられなくなった伊織は立ち上がり、
「やっぱり俺、千里のとこ行ってくる!」
「はぁ?!いやいやいや……!!待ってよ?!……あー、多分地雷は伊織ちゃん相手でも話さないだろうなぁ……。冬木は知ってそうだけど……。」

伊織が、飛び出すように家を出て言って五分後。楔のケータイから、メールを知らせるアラームがなる。
確認すると、千里からで、内容はおもったとおり謝罪のメールで、"雰囲気悪くしてごめんな。"と簡素に伝えられる。
楔は、ため息を吐いてから"お前のせいじゃないから気にすんな。俺のくそ兄貴が悪かったな。"と返信をすると、暫く返信が来なかったが、伊織が帰ってくる五分前に"お前が謝る必要は無いから"

とだけが来ていた。

1日前 No.144

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

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21時間前 No.145

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

145話

七夕の夕方。日向は自然といつも集まる飲み屋へと足が赴く。一人でぼんやりと飲んでいると、
「日向!」
「あれ、頼じゃないか。久々だなぁ……。いつ以来だ?千里は元気にしてる?」
「2ヶ月くらいじゃないか?それで久々とか、お前も歳をとったな、日向。……千里?知らないね。中2の頃、出ていったきり、あってないし。」

急に声をかけられ、後ろを振り返ると、仕事帰りの頼だった。二人はよく仕事帰りにここに来て飲みには来ていたのだが、時間が合わなかったり、もしくは仕事が長引いたのもあるのだが、日向の方で色々内部でのいざこざでなかなかのみに来れないでいた。日向自身が久々の飲みに来ている。頼が左隣に座り、「いつもの。」と言いながら、日向に向き直った。
「まぁ、噂は聞くけどね……。警視総監になったらしいよ?……元気かなぁ……。」
「知らねぇよ?!」
そんな会話を交わしていると、後ろから声をかけられる。
「あれ、日向珍しいね。」
と。頼が後ろを振り向くと、そこには、鎖が立っていた。この2人は日向よりもお互い通じるものがあり、一番の親友と言っても過言ではないだろう。鎖は嫁を暴行、所謂DVを、頼は千里を虐待、暴行を繰り返していた。被害者からすれば、どちらも許せないことなのだが、千里は、頼が恐ろしくて、逮捕、などそんな末恐ろしいことは出来ずにいる。
そんなこともあり、二人は本当に特別仲が良かった。
「あ、鎖じゃん。そういやお前の弟と同じ高校じゃなかったか?」
「いや……いきなりなんだし……。」
「ほら、日向の可愛いとか言われてる妹。俺からしたらどこが可愛いのか知らねぇけど。」
「いや、可愛いよ?」
「あぁ千里ちゃんね。うん、知ってるよ。今日家にも来てた。楔と仲良しだね、それと弟に一方的な恋をしてるよ。」

鎖はいきなり話をふられ、知るかよ、という顔をしながらも、日向の右隣の席に座る。その後に千里、という名前が出ると、そんなのもいたな、あの後どうしたか、そんなことを考えながら、知っているよ、と答える。その後に自分の弟に惚れている事を話すと、自分たちよりも早く来ていた日向はすでに酔いが回っていたのか、たどたどしく口を開く。その発言はかなりシスコンじみているのだが、6年間も放置した兄の言葉では信用も何も無いのだが、日向からすれば、日向も日向であの日のことはトラウマなのだ。千里よりはたしかに軽いかもしれないが、トラウマなのには違いがない。あの裏切ったあの日のことも日向は悪く思っていて、トラウマで、まだ立ち直れていない。
「待ってなにそれ許さん。」
「6年間も放置した兄がいうセリフかよ……。」
「だって……。怖かった……、から……」
「兄の名前も覚えてないとよw」
「なにそれ死にたい」

机に突っ伏し、すすり泣き始める。こうなると面倒なのを知っている彼らは、放置することに決める。しかし、放置していても酔いが冷めてくれば、また口を開き、
「千里に会いたい、」
というのだが、やはり今更顔は合わせずらいだろう。なかなか踏み出せずにいた。

日向は日向で千里に恨まれている、と思っていたからこそだ。

19時間前 No.146

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

146話

しかし、会いたい、というのもあるが、日向は今でも両親が死んだのは千里のせいだ、と思っている節もあったのだ。
だからこそ、あってしまえば、恨み言が口をついて出てしまうのではないか、そもそも会わない方がいいのではないか。向こうも向こうで、親が死んだのは自分のせいだと思われているのではないか。そして、親を見殺しにして、親の死を前にして、逃げ出した上に自分を捨てた、最低な兄だと思われているのではないか。

日向の解釈は半分あっているし、半分間違って入る
確かに、千里は兄のことを恨んでいる。しかし、千里は自分がわがままを言ったせいで、死んだ、と思っている。あの頃の思い出など、もう思い出せないし、思い出そうとすれば、頭痛がするぐらいだ。

「はぁ……、ゴメンな、千里……。」
酒屋で日向は机に突っ伏し、この場にいない最愛の妹の名前を口にする。
「そう言えば、千里ちゃんは親が死ぬ前のあの頃よりも剣道かなり強くなったみたいだよ。ほら、楔のヤツ桜才って高校通ってるけど、千里ちゃんも同じだから……。あそこって武道関係の名門だろ?……羨ましい限りだよ。それに、なんか千里ちゃん推薦きたらしいけど、断って、自分の実力で主席入学だってよ。あと、常に成績もトップキープしてるらしいし。それにこの間の連続バラバラ殺人事件。あの解決に導いた人と、協力者。あれ千里ちゃんの知り合いらしいね。……まぁ全部楔から聞いた話だけどね。」
「……なんか、俺の妹、俺が知らない間にどんどん遠い人になったなぁ……。」

鎖から伝えられる千里の情報にすっかりとあの頃とは変わってしまったことがわかる。自分の知っている弱々しいくて、「お兄ちゃん」と呼んでちょこちょこと後ろをついてきた時とはもう違い、一人歩きをしてしまい、もう自分のあとをついてきてくることもない。ほんの少し寂しい気もするが、これでいい気がしていた。

「そう言えば、千里ちゃんまだ千歳さんと里琉さんのこと、引きずってるっぽいよ。この間会ったときに二人の名前出した時、胸ぐら掴まれちゃった。」
「……千里のせいで父さんも母さんも死んだのに……っ。」

最愛の妹のせいにするのは、いささかずるい気もしたが、そうでもしないと、自分の罪悪感で押し潰されそうになるから、という理由で千里のせいにするクズなのだが、頼も鎖も、ここにはいないが、円戸も皆クズなのだ。先程も話をしたが、頼は千里に対する暴力の虐待、鎖は元嫁に対する暴力行為、円戸は意図的に学生時代の友人を殺した。日向は最愛の妹をひとり置いて、親のしを目の前に恐怖で逃げ出した。日向はもう吹っ切れているが、やはり心の中では千里のせいで死んだ、そう思うのとで振り切れている。心の中では千里も、自分のせいだと思うことで振り切っているのだろう。そう思っていたが、しかし、現実というのは残酷だ。千里は未だに夢に見て、苦しんでいたり、あの時のことを思い出すだけで吐いたり、過呼吸になることも日向は知ることは無かった。自分のことで精一杯なのだ。最愛の妹の千里のことを考える余裕はなかったのだが、千里は、大切な父と母のことを忘れることは出来なかった。

誰を恨めばいいのわからなかったからだ。親を失ってまもなく、すぐに頼からの暴行。千里がグレていくのには時間はかからなかった。

「ちょっと……、日向も頼も待っててくれてもよかったんじゃない?」
「あれ。円戸じゃない。君が来たことだし、家に行こうか。」
「……」

18時間前 No.147

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

147話

「うぇっ……、」
結局千里はあの後も寝れなかった。眠る度に、母と父の亡骸の夢を見るのだ。それに段々鮮明になり始めたのだ。
起き上がる度に吐き気しかしなくて、もう寝ることも諦め始めていた。そう言えば、伊織のあの事件で封印していた記憶が呼び覚まされてのもあるが、縁鎖──────────。
あの人物の出会いから酷くなったものだ。

「はぁっ……。最っ悪だ……。」
ここまでくると、精神的にもきつい。こうなってしまえば、朝まで誰かと話そうかと思うが、こんな時間に誰が起きてるか。時計を見れば、夜中の一時半過ぎている。というより、もう二時と言ってもおかしくはない。こんな時はいつも総司を何かと頼るのだが、流石にこの時間だと頼るに頼れない。千里は未だに吐き気を訴えている体を他所に、スマホで連絡先を確認しながら起きてそうな人を見てみるが、流石に皆寝ているだろうと予想して、スマホの画面を落とす。暫く適当にチャンネルを回したが、特に興味を引かれるものはないし、掃除も洗濯もやることは何も無い。

こういう時、一人暮らしというのは辛い。部屋で、唯一残っている母に買ってもらったぬいぐるみにでも抱きつき、気分を落ち着かせようか。そう思った時。スマホが着信を知らせる。

「……はい、地雷です。ただ今夜中ですなんの御用ですか」
「はぁ……切る。」
「……?!楔っ……?!こんな夜中にマジなんの用だよ、お前俺が寝てる可能性考えなかったのか?」
「……お前なら起きてるかなって思った。後、寝れてねぇだろって思って。……お前、なんかあったか?」

電話の相手は楔で心の底から驚いたものだった。伊織は寝てるとはいえ、自分に暇だから連絡を寄越したことに。そして、自分の体調を気遣ってくれたことに。

自惚れるな、これは楔が暇だから電話をかけてきたのだ。だから、他意なんて一ミリもない。そうはわかっていても嬉しい。しかし、体調が優れない理由は
「んー……まぁ話せない俺の事情?……ごめんな。話すとしたら、んー……、そうだな。」

千里はそこで一度言葉を詰まらせた。絶対にありえない条件を言わなくては。草莽と自然と口はこう、発していた
「……楔が俺と付き合う事に……なったら……、教えてもいいよ。」
と。
「……なに、それ。ぜってぇ教えてもらえねぇじゃん!!」
楔は一度黙り込んだ後、電話の向こうで盛大なため息をついた。その理由が、可能性として有り得たから。一度楔には弱気になっていた頃、千里に一度惹かれたことがあるから。ない、とも言いきれなかったことが悔しかった。しかし、その気持ちの変化は千里には伝わらなかったのが唯一の救いだろう。今回の楔の微妙な空いた時間も呆れて物が言えない、と勘違いをしてくれたようで、
「教える気ねぇしw」
とだけ言われた。しかし、楔もあそこまでの拒絶反応が出たり、あの伊織が真っ赤に染め上がったあの時。あれは楔も出来ることなら二度と見たくはないのだが、あの時の千里の反応。あれは幾ら何でもかじょうだ。そう思うと、理由がやはり気になるところ。冬木なら、何か知っていると思った楔は真っ先にその名前を出した。
「冬木に聞く。」
「聞いても口割らねぇと思うぞwあいつ意外と口硬いからなぁ……。」
「何それ意外。」
「おま……っwそれあいつに失礼だぞ?w
まぁ、俺も思うけどね。いつかあいつぺろりと吐きそう
……。」
「ちょ、地雷汚い。」
「そーゆー意味じゃねぇよ!」

千里は、楔にとって伊織を除いて、何でも話せる一番の仲だった。平助も確かに何でも話せるが、最近では、一番ではないのかもしれない。
それに楔は千里とあってからいい方向へと変わり始めていた。千里は楔に、人間らしさを与えていた。だからこそ、楔には伊織と同じぐらい感謝もしているが、複雑な気分にもなっていた。
「……楔?」

いつの間にか考え込んでいたのか、電話の向こうから、千里の何かを問い掛ける時に、千里はいつも小さめな声で吐息混じりで、2度ぐらいだけ首を傾げる。……ほとんど動いてはいないが。背が低い彼女は、そうしないと相手の顔が見えない時もあるから仕方がない。
しかし、電話をしていてもその姿が浮かぶとなると、恐らく伊織のくせなら電話越しでも鮮明に映るだろう。

「いや、地雷のなんか訪ねたりする時のくせが浮かんだから、伊織ちゃんなら、目の前にいるかのように浮かぶんだろうなぁって……」
「ほんっと……お前……はぁ、伊織、大好きだな、……だから、話す必要は無いから安心だな……。」
「……は?最後の方聞き取れない、てか俺は、大好きじゃなくて、愛してるな?!間違えんな。」

千里は楔の言葉に呆れながらも庵のことを本当に好きだということを自覚してしまい、辛くなる。けれど、この分なら、話す必要が無いことに安堵していたのだった。

「ふぁ……、」
「……ん?楔眠いなら寝ろよ。おやすみ。……多分そろそろ総司が起きてくr「やだ。眠くない。」

楔はあくびを一つした。
眠いが、何故かこのままもう少し千里と話していたかて、電話を切ることを躊躇う。
「……やっぱりお前寝とけって。俺も少し眠いし。またなんかあったら相談するからよ。」
「……ごめん……」

あやまんな。
そう言ってから千里は通話を切って、布団へと潜り込んだ。その日、久々にあの夢を見ずに心地のよい眠りをすることが出来たのだった

16時間前 No.148

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

148話

目が覚めた時は久々に心地の良い目覚めだった。……目覚めたのは次の日の明け方の4時だったのだが。丸一日寝ていたことになる。あの夢も見なかった。
楔にはお礼をしなくては。そう思い、千里はメールで"サンキュ、よく眠れたよ"
と送ると、案外すぐにメールの返信が来た"……今日も寝れそうか?"
千里は悩んだ。しかし、二日も付き合ってもらうのは些か気に食わない。だから千里は"大丈夫!今日は総司に付き合ってもらうことにするよ"

と返信をした。楔はそれを見て
「……。沖田ねぇ……?……まあ、伊織ちゃんじゃないし、まぁ……いいか」
そう呟きながら、スライドをして"そっか、まぁまたなんかあったら相談しなよ、伊織ちゃんとの時間を邪魔しない限りいいよ?"と送ると、千里からはわーってるよ、と言いながらやれやれ、というスタンプが送られる。

ほんの少しそのやれやれというスタンプにほんの少しイラッとしたのだが、そろそろ楔には楔のやることがある。その用意を始めるため、スマホを机の上に置いて、クローゼットに手を伸ばし、普段から早朝出かける時に着る服に着替える。既に日課となりつつあるトレーニング。いつもより早目の時間にでた。あまり気分が優れなかったからだ。走れば少しは良くなるだろうと思い、早めの時間に出ることにしたのだ。早朝の空気は心地がいい。それなのに。

「はぁ……気分悪……。」
走っても気分は優れなかった。昨日寝れなかったのは、鎖が原因だった。昨日も家を訪ねてくれた伊織が家に帰った後、喧嘩をした。普段から喧嘩をしてるが、今回は伊織に関すること。楔が一昨日、深夜に千里に電話をかけたのも、なんとなく寝れなかったからだ。

何故か、確信がもてたのだ。"地雷なら起きてるだろうな"と。しかし、実際は寝起きっぽい声で申し訳なく思いながらも寝れなかった、と話す彼女は自分の心に安堵をもたらせた。

「……楔じゃん……。何、お前も走り込み?」
「……地雷?あー、そう言えば、お前、町内一周してるとか言ってたな……。」
「まぁね!……にしてもお前この時間だったか?……もう少し日が登ってから……」
「それはお前もだろ?……なんかあった?」
「……一日寝て、朝早くに目ェ覚めたんだよ。何となく寝る気分には。」

慣れなくて、と千里は小さく笑った。……無理やり笑ったようにも見えた。
「……ったく、仕方ねぇやつだなぁ、」

小さく笑って自分よりも小さな身長のちさとの頭を軽くくしゃり、と撫でる。少なくともちさとは胸が高鳴る。顔が赤くなっているのか、確認が取れないから、下を向いて俯く。千里は、嫌がったり、伊織に悪い、そんなふうに言えなかった。だって、好きだから。
────こんな自分、嫌いだ。

楔は、なんで自分がこんなことしたのかがわからなかった。二人は気がつくことが出来なかった。その光景を息を潜め、静かに見守る影に。
「っと……、じゃあ俺そろそろまた走りに行ってくる。」
「……ん。楔!ちゃんと水分取りながら走るんだぞ!」

楔は、その言葉を聞いて、後ろを振り返らずに、手を振る。
何故だろうか。ほんの少しだけ、気分が良くなったな、と思ったのは。このまま伊織に会うことができたら、多分体調はとても良くなる。そう思った楔は普段のコースから外れている伊織の家の前を通るコースへと変えた。

「あれ……、伊織ちゃん居ないのかな?」
「楔?呼んだ?」
「うわあああ?!い、伊織ちゃん……?」

後ろからいきなり最愛の人に声をかけられ、気を抜いていたため、本気で驚く。普段なら気がつけたものが、気づけなかったことにほんの少し、悔しさを感じながら、口を開いた
「ねぇ、い……伊織ちゃん!あ、のね、夏休み、2人で遊びに行かない?ほら、地雷とか舶来とか、平助の奴も誘って!みんなで遊ばない……?」

何故か言い訳をするかのような口ぶりになる。伊織の顔を見て、先ほどのことが罪悪感として、思い起こされ、言い訳をする様になってしまう。
「……ごめん、夏休み……いそがしく、て……。ほ、ほら……識が帰ってくるし……、帰ってきたなら相手したい、し……部活も……忙しくて……だから変わりに、千里誘えば?なんか今年、暇らしいから……っ、珍しいらしいよ!」

3時間前 No.149
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