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輪廻転生した僕らは

 ( 恋愛小説投稿城 )
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茜縁 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

プロローグ

彼女のことを最後まで守りきれなかったことを俺は最後の最後の時まで悔やんだ。

途中で隊を抜けることになった時の彼女の顔は、今も泣き出しそうな顔で、連れ出したくなったが、彼女には彼女の任務があり、この場から離れることが出来なかった。

「大丈夫、生きてる限り、俺らはまたどこかで出会える……そうは思わねぇか?」
「そうだけど、今の世は、すげぇ、戦乱、だから、また会える、なんて思えない、俺、離れたくない……。」

初めてわがままを言ってもらえて、嬉しかった。抱きしめたくなる手を堪えて、頭を撫で、「大丈夫、いつかまた会おう、な? 」

と言って彼女に背を向けた。
今思えば、彼女には色々なものを貰った。

当初は彼女は他の男に惚れていたのを思い出す。けれどその男は、とある事件で尊い命を落とした。

汚い手だとは思った。けれどそんなとでしか、彼女と近づくことが出来なかった。そして、ついこの間、鳥羽伏見の戦いの前に付き合うことが出来たのだが、それも束の間だった。鳥羽伏見の戦い以降、局長が変わってしまい、その方針は俺らにとってはついていけない……と言うよりは、局長は、前の局長ではなくなってしまったことからの絶望で、俺らは離れることを決めた。

その後、俺は倒幕派の連中との戦いの間で命を落とした。

心残りを残したまま──────────。

そして、俺たち新選組は平和になった平成に輪廻転生をした。
こうゆう時はやはり集まるのだろうか。新選組のヤツらの年齢の近い奴らは、同じ教育大学で知り合った。けれど、記憶は持ち合わせていなかった。当たり前といえば当たり前だ。

そして、高校教師になった時、年齢が遠かった奴ら、と知り合った。そいつらも当然記憶はなかった。

けれど今度こそ、あいつを守りたい。

そう思った──────────。

プロローグ終

お久し振りです。
これはかなり前に書いていた小説をさらにリメイクを加え、さらにリニューアルをして書く小説なので、一番はじめの面影なんかありません。そして設定も色々見直させていただきたいと思います。

ちなみに、新選組の輪廻転生です。
1部オリジナルキャラクターはいますが、ダメなようなら、サブ記事にて教えをお願い致します。

更新は亀ですが、ご了承ください

それではお楽しみください

メモ2017/01/04 11:29 : 千里 @matunogirl★Android-W1VemU3zJF
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千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

130話

次の日。千里は総司と一と共に学園へと向かっていた。もちろん周りの目は千里の怪我に向いていた。千里が警察をしている、ということが全生徒に知れ渡った今、千里が喧嘩して大怪我した、ではなくなったものの、やはり居心地の悪い思いをしていた。

教室へと入ると、ぎょっとした様な目で見られる。その後、口をぱくぱくさせながら、話しかけてきた。
「え、ちさ……千里?!ちょっ……ま!!……とりあえず、千里その怪我どうした。」
「え?!あー……、いやー……、薬の密売の現場にたまたま居合わせちゃってぇー……、それでぇ……、乱闘になったんだけど、物の見事にボコられてた……?」
「なんでそこ疑問形?!おかしくない?!」
「……ボコられた!!」
「千里がボコられるなんて、珍しいね……。相手そんなに強かった?」
「うん、強かったよ」
我ながら嘘は下手くそだ、と思いながら、その場を切り抜ける。事情を知ってるはずの総司が口を挟まないでいてくれたことが何よりも嬉しかった。

「もー、気をつけなよ、千里ほんといつか殺されちゃうからね!?あー、あと相談!総司、千里借りるよ!」
「え?!」

秋良は猪突猛進だと思う。相手の返事を聞く前にスタスタと行動する。特に、相談事の場合は。
「……屋上でいいよね?」
「……そう言いながら既に屋上じゃねぇか……。給水タンクの上でいい?」
「どこでもいいよー、」
「んじゃあ、給水タンクの上。」

そう言いながら、千里は給水タンクの上に登る。秋良もその後を追いながら、登った。
最近は、出てすぐの屋根の上にいたが、ポリタンクの上に場所を移したらしい。
理由は定かではない。千里は気分で居場所を変えたりするから、今回も気分だろう。

「んで、相談ってのが、俺平助に告白する。」
「……は?」
「いや、なんかもう、こう…………平助が千里と話すの見てると、なんか、嫌だし、その、確かに平助は、俺じゃない誰かを好きらしいけど……っ、振られる覚悟で告白する!今日の昼休み」

まじかコイツと思いながら、千里は「お、おぅ、」と答える。土曜日まで待ってやれ、そんな言葉をかけることすら忘れていた。

「その、だから……今日って平助と縁先輩とお昼食べたりする予定あったなら、悪いなーって思って……」
「あーそれなら平気。大抵その三人で食べる時は楔のアホが叫びたい時に、だし今となれば校内のやつみんな知ってるから、適当に誰か引っ捕まえて相談にのってやらァ。」
「ありがとう!」

秋良はにへら、と笑いながらお礼を述べた。
そこに、ぎぃぃと、鈍い音を立てながら、屋上の扉が開く。誰だろうか、そう思いながらふたりは扉の方を見ると沖田総司がそこに立っていた。千里はその姿を認めると、幼なじみからなのか、嬉しそうな顔をしながら、千里は、タンクの上から飛び降りて、総司の元へと駆け寄る。
「総司!お前ここに来るなんて珍しいな!なんかあった?」
「女の子からの呼び出し。あと千里ちゃん、こんなの届いてたけど、僕から丁重にお断りしてきたよ。」
「おっまえなあ……。ほんとパパみたい。過保護パパ。」
「ひどいなぁwいつから僕は君のお父さんになったのさ。」
ケラケラと笑いながら総司はお父さん、というところを否定する。その様子を見ながら秋良はきちんと階段を使って降り、総司の隣に立つ。
「過保護否定しないのか……。」
「うん、だって流石に否定出来ないしね。」
「こいつやばいから、すげぇ過保護。色んな意味でめんどくさいよ。」
「ちょっと千里ちゃん!それってどういう意味かな?!」
「あったりまえだろ?!何処の世界に幼なじみの告白を代わりに断りに行く人がいる?!いや!結局のところ断るけどさ!!それと、捜査が入る度、連絡!!あれクソめんどい。あ、でも伊織ん時はごめん。」

そう。実は総司と一つの約束をしている。捜査に向かう前は必ず連絡を入れること──────────。これはかなりめんどくさい。理由としては、つい忘れてしまうのだ。この前あった伊織が狙われてるかもしれない事件の時、報告し忘れ、怒られたこともある。

その時、謝らなかったので、今謝ることに越したことはない、と思い頭を下げる。
「……だってすぐに千里ちゃん自分の命捨ててまで人の命守ろうとするんだもん。心配するに決まってるでしょ?」
「待って二人共俺は今ついていけてない」

1人、秋良が取り残され、どうやら話についていけてないようだった。
「「大丈夫、そのうち慣れるよ。」」そう言いながら、千里と総司は、指を立てたのだった

2ヶ月前 No.131

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

131話

昼休み。朝から雲一つと無いとてもいい天気で、ジリジリと日照りが日向を焼けつくす。明はそれを避けるかのように日陰でとある人を待っていた。
そう、平助だ。
千里との約束を果たすために秋良は平助をあまり人のこない校舎裏へと呼び出していた。秋良は不安だったが、ここで千里共にくると、なんだか女々しい気がしたので、一人できた。
女々しいもなにも秋良は女なので、そんなことは無いのだが、なんだか、秋良は自分の告白に人とともに来るのが嫌だった。女らしくないな、と思いながらほんの少しだけ自虐的な笑みを浮かべた。約束の時間まであと5分。そんな時だった。茂みの方から音がしたのは。
「平助……。」
「……よぉ、秋良。んで、話って……どうかした?」

秋良はいつもと違う平助にドキドキしながらも口を開いた。平助もぶっきらぼうにしているが、内心心臓が破裂するのではないか──────────。そう疑ってしまってならないぐらい、心臓の鼓動は早くなっていた。ふたりの間には沈黙が走る。その沈黙に耐え切れなくなった秋良が口を開く。
「あのね!平助。俺、平助に大切な用があって、ここに呼んだ。だからこれから話すことはだまって聞いててほしい。」

秋良は一度そこまで言うと、一度高鳴ってどくどくと言っている心臓を抑えるために深呼吸をした。暖かい空気が肺に入り込み、ほんの少し体の温度が高くなった気がした。心臓が少し落ち着いたのをいいことに、秋良は勇気を振り絞って、口を開く。

「俺……!!いつからかは分かんねぇんだよ……、でも、俺、お前のこと、好き……です……。」

段々とか細くなり、肩を窄める。いつの間にか身体は震えていた。外は汗が滝のように流れるほど暑いというのに。身体は震えていた。平助は、返事ができなかった───硬直していたの、間違えかもしれないが。
「……そ、それだけ!それだけだから!伝えたかったことっての。んじゃあ……、また放課後……」
秋良はいたたまれなくなり、その場を逃げるかのように去ろうとした。しかしそれを許さなかった平助の腕。平助自身も、己のしたことに驚いており、「あ、ごめん、」とたどたどしく謝る。
「でも、俺……秋良に告白の返事してない。」
「……」

秋良は下を俯き平助に背を向けたまま、話を聞く
「俺も……秋良の事好きだよ、確かに千里は好きだった。けど、もう千里には振られてるし、それ以前に、その振られる前から、千里の好きなやつなんとなく分かっちゃっ…………て、かないっこない奴だったからさ。そんなのもあったけど、それよりも秋良に惹かれた。何かわかんねぇけど、秋良のこといつの間にか目線で追いかけてた。キラキラしてて、何時でもまっすぐ前を見据えてるところが。」

「信じらんない。だって、平助は……!!」
「俺だって正直混乱してるよ!でも、俺今、千里よりも秋良の方が好きになってる。その、……なんつうのかな、……こうして話してる今だって、すげぇドキドキして、心臓破裂しそうなんだぜ、ちゃんと言うよ、俺、秋良。お前のことが好きだよ、誰よりも……。」
「千里は……このこと知ってた?」
「え?ああ、うん。伊織も知ってるし、楔も知ってる。総司も知ってるんじゃねぇか?」
「……真相、確かめなくても、なんとなくみんなの目でわかる……ほんとーに俺でいいんだな……?」

秋良は念を推すように、震えた声で確認をとる。
「あたりまえだろ……、お前以外、他に誰がいるんだよ……」
「他にも可愛い女の子いるし、俺よりも素直でいい子いっぱいいるのに?俺なんて、お前より身長でかいんだぞ。……自分より身長の高い女なんて嫌に決まってるよ。」
「……確かにそうだけど……。でも俺は!お前がいいの!お前じゃなきゃ嫌なの!」

平助は、秋良の手の握る力を引き寄せる力に変える。秋良は大きくバランスを崩して平助に勢いよく抱きしめられる。まぁ平助もそのまま一緒にバランスを崩して倒れてしまったのだが。
「うわぁ?!」
「それに!こうやれば、身長差なん的になんねぇし、そもそも、秋良のこと好きになったんだし、身長なんてどうでもいい。」

そう言いながら、平助は身体を起こすも、秋良のことを離すことはなく、抱きしめ続けていた。
「……後悔なんてしてねぇし、秋良にもせない……だから、付き合ってほしい……」
「……おぅ……」

短い返答。それでも平助は満足だった。確かに千里の約束では自分から、だったが、結果的にこうして付き合えたのだ。平助は千里に感謝してるし、秋良も千里のおかげで勇気が出せたので、感謝していた。

2人が成功したのは、千里はすぐに分かった。屋上からニヤニヤと笑いながら、その様子を伊織、楔、如一、総司のみんなで眺めていたから。一は、呆れながら遠巻きでその様子を見ていた。

2ヶ月前 No.132

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

132話

放課後。
「さて、おふたりさん!楽しい楽しいお勉強の時間ですねぇ!」

千里は両手を広げながら目の前に居る赤点組をにやりとした目で見る。
「ちょっと地雷?!伊織ちゃん虐めてないよね?!」
「虐めるかっ!!一体どこの世の中にお前というおっそろしいセコムいる伊織虐めるんだよ!!いや、上野がいたけどさぁ?!しかも俺は秋良と平助に向かって言ったんだよ、!」
「ちょっとそれ地雷俺に失礼。あ、上野とかいうヤツ、一発ぶん殴っていい?殺さない。」
「いや、事実。仕方ねぇな、五発まで許してやるだから俺の分と伊織の分と、総司の分、平助の分1発ずつ。あ、一発食らわせる事に拳はこう……重くしろよ。殺してもいーよ」
「待って、千里。」

その殺してもいい、という言葉にツッコミを入れようとしたのは当然ながら、赤点組の中でも唯一ギリギリ救える範囲である秋良だ。他のふたりは順位では3桁という千里からしたら有り得ない順位をとっていて、ほんの少しクラりとしたぐらいだ。……主に平助の順位に、だ。
参考のために、と思い順位を聞くと、秋良は99位。これでも赤点なのか、と思うとほんの少しこの学園が心配になる。これでもこの学園は部活に力を注いでもいるが、同時に進学校でもあるのだ。なので赤点の点数はかなりシビアでとてもじゃないが普通の高校からだと、難しすぎる、と言われている。それでもトップを取れる実力を持つ人もいるし、余裕で百点をたたき出すもの、惜しくも1字だけ漢字を間違え、オール百を逃すだけ、という優秀な生徒もいる。しかし、それとは逆にあまり成績は芳しくない者もいる。それが、伊織と平助だった。この学園は一学年200人程度いるのだが、庵はその中でも120位。平助は何があったのか、199位というみんなも引くようなテストの点数をとっていた。

これには楔も流石に心配そうに
「お前、大丈夫?よくここ受かったね、剣道の推薦は確か地雷、だったよね?男子部門は確か沖田……だよな。」
「……俺は推薦断ったよ。……ぶっちゃけ実力でよゆーだし。だから確か女子剣道の推薦は、秋良じゃねぇの?」
「……うん、俺推薦組……。ぶっちゃけ実力で入れるわけない。」

秋良はあはは……と、力なく笑いながら、うわ言のように呟く。
「あ、でもこの学園三学期赤点あったら、留年だった気が……」
「うそ……だろ?!」

明らかに絶望したような顔をするのは平助と伊織。千里と楔はため息を同時に吐いて、千里が静かに淡々と述べる。
「わかった。三学期学年末テストは俺らのふたりが付きっきりで教えてやる。……楔も異論は?」
「ないよ……。家はどうするのさ。俺んちは狭いよ。」
「それなら問題ないよ。俺の家がある。客室も余ってるし、広さも申し分はないだろ?」
「そうだね、」

赤点組の3人は、千里と楔のことを神でも見るかのような目で見つめる。
「あー、あと如一も読んでいい?アイツかなり頭いーよ。俺よりいいし。」
「え?でも、あいつ赤点……」
「あいつは学校のテストじゃやる気出ねぇからって本気出さないよ。わざと、点数落とすんだよ……。その証拠に、補習のテストはオール100だよ。俺このテスト受けないとなんだよな、単位足りなくて。」

ぴらりと見ると、千里の名前も書いてある。理由は単位が足りないのだ。それも当たり前だろう。仕事のせいでただでさえ授業に出ていないというのに、サボり癖がある。このサボリ癖は中学のクソヤンキー時代についてしまったので、今更戻せないのだが、高校程度の問題なんて千里はおそるるに足らず。簡単すぎるのだ。

「……まぁ、とりあえず。伊織は楔んとこいけ。そこで教われよ。大丈夫、楔なら。合格させてくれるよ。」
「うん……。楔、よろしくな、」
「うん!じゃあな地雷、平助と舶来のこと、頼んだぜー、」
そう言いながら、楔と伊織は歩いて行ってしまう。
「さて、俺らも行くとしますか。」

そう言いながら、スタスタと千里は歩いて教室を出ていく。二人も慌ててその後を付いて来たのだった。

2ヶ月前 No.133

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

133話

家の倉庫からホワイトボードを取り出し、ダイニングテーブルの前に設置した。
「……さて、秋良と平助。どこをおしえてほしい?」

参考までに、と思い解答用紙を見せて貰ったのは間違いだった気がした。秋良は一応埋まってはおるが、英語のみは半分ぐらいが白紙だった。平助に至ってはほぼすべてが白紙だった。二人の解答用紙がダイニングテーブルの上にはらり、と落ちる。二人は声をそろえて「面目ない」と言いながら頭を下げる。
「お前なぁ……、お前よく桜才入れたな……」
「うん、奇跡だと思ってる。」
「というか、平助。お前の場合……。恋に現を抜かしてっから赤点とるんだよ。夏休み皆で遊びたいなら、赤点頑張って回避しような」
あきれながらも二人のために頑張ってやろうと思い、千里は猿でもわかる数学やらほんの少し小馬鹿にしたような参考書を手にしながら二人に話しかける。

「あ、そうそう睡眠時間は少ない者と思えよ。ぶっちゃけお前ら……まあ主に平助。お前はマジで合格できるかと聞かれれば難しい。だけど、合格しなかったらせっかくの秋良との時間とられるぜ?」

千里はにやにやと笑いながら二人のことを見下ろす。秋良は恥ずかしそうにそっぽを向き、平助はわなわなと震えていた。千里はその後にまぁ、これは冗談として、といいながら顔を引き締めた後に
「まぁ、合格するように勉強は教えるよ。さて、どこから教えてほしい?」
相当と平助は当然ながら真顔で、
「全部。」
と答えた。秋良は、英語だけが赤点だったが、教えて欲しいのは数学らしい。そう言えば英語の次に成績が良くないのは数学だ。
「そう言えば秋良英語だけ真っ白だよな、前の中間は成績良かったのに。」
「英語の時ぶっちゃけそれどころじゃなくて……。英語は出来るから、いいとして、不安なのが数学だから数学教わろうかなって。」
「……まぁ、いいけどね。とりあえず、一時間目は数学やるよー。まぁ秋良も成績あげるつもりで、平助と同じメニューこなす?」
「んー……。そうすることにする。」

秋良は一度悩んだそぶりを見せながら、最終的には頷く。

「じゃあまず、一次方程式だけど、カッコの外し方は?」
「待って千里、一次方程式って何」

千里は説明を始めてすぐ。平助の一次方程式って何、という発言には千里も持っていたペンを落とさずにはいられなかった。隣にいた秋良も目を疑わずにはいられなかったらしく、目を見開いてまじまじと見つめていた。
「……とりあえず……一次方程式ってのは……説明のしようがないんだけど……。1次方程式とは ax+b=0 の形に直せるもの、としか言えないよね。」
「……あー……うん。」
「てめぇぜってぇ分かってねぇな。じゃあ、次は解き方。これは分かる?」
「んー、微妙。なんちゃら法則でそのカッコ外すのは覚えてる。」
「分配法則な。まぁあってるから良しとしよう。分配法則法則のやり方は、カッコの外にあるのをカッコの中にあるもの全てにかけてあげること。次に、移行についてだけど、移行する時に注意するべきことがある。さて、これはなんだと思う?」
「ええっと、確か符号?だっけな、それがなんか変わった気がする。」
「うん、それを理解してるなら平気かな。」
一次方程式についての事を簡潔にまとめたものをホワイトボードに書き込む。キュッ耳にはほんの少し痛い音が鳴る。注意するべきことは赤で書いて、わかりやすいようにまとめる。

「んー、ここまで理解すれば何とかなるだろうけど……試しで問題といてみる?」

平助に至ってはようやく中学卒業程度かな、そう思いながらも、簡単に割り切れそうな基礎問題を二人の前に提示した。平助もこれなら出来るのか、割とあっさりとペンを置いた。

「出来た!」
「簡単……。」
「……うん、まぁ出来て当たり前だけどね?!中学のワークから抜粋してるし……。」
千里はすでに呆れながらも丸つけをする。一応二人共全問あってはいるものの、平助はところどころ危うい所もある。

「んー……。平助ここさ、君気をつけた方がいいよ。マイナス×マイナスの時はプラスに変わる、とかも覚えておいてね。てか覚えてる?」
「あー……、そんなこともあったなぁ……。」
とか、教わる前は言っていたので、正直不安しか残らない。

「……と、そろそろセールの時間か……。よし、二人共。息抜きの運動、セールに行こうか。」
「え……?!」
「は?」

二人は驚きの声をあげる。たしかに俺は働いてるし、高額納税者だ。しかし将来のことを考え、資金は貯めている。まぁ、冬木家にいる限りお金に困ることはないのだが。

そんなことはさておき、とりあえず驚かれる理由がわからない。
「なんで驚く?!俺だって、普通にスーパーのタイムセール行くよ?!」
「意外……。」
「……千里主婦みたい」

「失礼な人たちだなぁ……。」
そう言いながら、さっさとスーパーに行く用意を済ませる。「置いてくよ、」と声をかけると慌てて二人は出かける用意を終わらせ、慌てて着いてきた。

仲良しだなぁ、と思い苦笑を浮かべた。

2ヶ月前 No.134

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

134話

少し離れているスーパーに行き、平助に買って欲しいとせがまれたお菓子と、砂糖をカゴ入れたところで、伊織が試食コーナーのおばあちゃんと話しているのが目に入る。
「あれ、伊織。」
「千里?千里も買い物?」
「まぁな、楔と勉強中じゃなかったのか?」
「今楔買い物してる!此処で待ってれば、戻ってくるかなぁって。」

あたりを見渡すと、今のところは見当たらない。しかし、今日はセールだ。そのためわざわざ遠いスーパーに来ているのだ。いつものスーパーは本当にいつも高い。セールは年末年始、お盆くらいだ。それ以外はあたりのスーパーと同じ、もしくはほんの少し高いぐらいだ。それなら近くでいいが、セールをやっていると言うのに、近いスーパーで買うバカはいないだろう。
「まぁ、あいつの事だし、セールの方にいるだろうし、心配してるだろうから、会ったら楔に言っておくよ。じゃあ俺、タイムセール行ってくる!」

伊織はありがとー、といいながら手を振った後に、伊織は再び、試食のおばちゃんと話し始める。

それを軽く見てから千里は背を向けた。秋良達は、伊織達といてもらおうかと思い、そこに置いてきた。……ナンパとかそれの予防だ。してくるような人はいないと信じ難いが、信じきることは出来なかった。だからこそ、女の子ふたりではなく、男一人おいてきた。平助居るか居ないかでも少しは変わるだろう。

今回、セール品は、100品限定で、ひとり二パックまでの、牛肉だ。冷凍保存さえしていれば、一ヶ月はもつし、きちんと正しい保存の仕方さえすれば、美味しさは保たれる。そう思うと、こんなお得な日を逃すわけには行かなかった。千里としても、なかなか手の出せない牛肉を手に入れる機会を逃すわけにはいかない。最低でもひとつは手に入れたい。
ほんの少し意気込みながら、千里は精肉売り場へと歩みを早めた。そこにはたまたま楔の姿も認める。アイツ、絶対慣れてないな、そう思いながらタイムセール待ちの人の中に小さな体を滑り込ませた。

その頃縁楔は、伊織のために、ほんの少し奮発したい──────────。そう思うと、今日タイムセール出ている牛肉だなぁ、と思いながら精肉コーナーへと足が自然とタイムセールへと足が赴くのだが、この時楔は、タイムセールを侮っていた。簡単に取れるもんだと思っていた。

しかし、現実というものは無残だ。結局楔は牛肉はても届かないうちに空っぽになっていた。改めて主婦の恐ろしさを学ぶはめになった楔。
「どーするか……。困ったなぁ……。」

1人、精肉コーナーの鶏肉コーナーで、悩みながら、頭をガシガシとかきむしっていると。
「あれ、楔?何、お前タイムセールに来てたのかよ……。取れなかったろw」

千里はそう笑いながら、楔のかごの中を一目見て、からかう。
「うるさいなぁ!」
「タイムセール侮ってると痛い目みるからなー……。どうせ伊織がいるから奮発したいなーとか思ってたんだろ?しょうがねぇなぁ、俺これ1パックでいいし、たまたま二つ取れたから、お前に一パックあげるよ。周りの人にはこれ、な?」

楔は、図星なのか、言葉を一度詰まらせた後、千里の牛肉のパックを受け取る。楔は、ほんの少し悪い気がしながらも、折角の手に入れられるはずのない牛肉をかごの中に入れるも、複雑な気持ちだった。その複雑な気持ちというのは、本当に自分なんかに譲ってもいいのか。そういう感情だった
「……お前、なんで一つでいいの?」
「これ、冷凍して取っておくんだよ、ちゃんと取っといておけば、鮮度もそのまま、美味しさもギュッと詰まったまま一ヶ月後持つんだぜ?!この機会に買っておいて、損はねぇだろ?」

千里は女子高生らしからぬことを言っており、目を見開く。千里は知ってて当たり前だろうということが、たまに普通の女子高生は知らなかったりして、驚いたりもする。
「……あれ?これ普通じゃなかった?……。またお母さんとか言われんのかなぁ……。」

ため息を吐きながらも、千里はブツブツと言いながら、肉を物色し始めた。
「あー、そうだ!楔。伊織だけど、秋良と平助と一緒に試食コーナーに残してきたから。早めに迎えに行ってやれよ!」

そろそろ伊織ちゃんを探して会計に行こう、と思い楔が動き始めると千里は思い出したかのように体を起こして、楔のこれから探そうとしていた人物の居場所と一緒にいる人の名前を挙げる。ほんの少し恐怖を感じつつ、千里に礼を告げてから、伊織を迎えに行き、会計をしたのだった。

2ヶ月前 No.135

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

135話

「楔って料理上手いんだね!びっくりした!」
「ふふ、そんなことないよ?地雷なんかに比べたらまだまだ……。」
「んー、千里のは千里ので美味しいけど、楔のも美味しいよ?」
「……!!ありがとう……。伊織ちゃん、お粗末さまでした。」
「ごちそうさま……!美味しかったよ!」

楔は、千里に貰った牛肉で、伊織の好きそうなメニューと伊織の健康を気にして、サラダに野菜が多めのスープを作り、その後、デザートもつけた。そしたら楔の思った以上に喜んでもらえていて、幸福で満ち足りていた。それにこの2日間、伊織と一日中ふたりきりなのだ。
「んじゃあ伊織ちゃん、先お風呂入っててよ。俺、自分の寝る用意しなきゃ。伊織ちゃん、俺の部屋のベッド寝てね。」
「え……、でも楔に悪いよ、楔ベッドで……」
「女の子は体冷やしちゃいけません!……遠慮なくベッド使って?」

そこまで言われてしまえば、断れないのが伊織で、「じゃあ、遠慮なく使わせてもらう……」そう言いながら、伊織は楔の母がかつて着ていた服を持って、風呂場へと向かう。
楔としても、一番似合うと思われるのと、寝やすそうなのを真面目に選んでおり、傍から見れば変なやつだろう。
伊織を見送ったあと。不安に思うことが一つだけあった。
「俺……。1人で伊織ちゃんとひとつ屋根の下だけど……襲わないかなぁ……。」
ポツリ、と自然と口から言葉が漏れた。今日は平気かもしれないが、これが二日と言われると、正直不安しか残らない。
「二日も伊織ちゃんのこと襲わないでひとつ屋根の下は無理かもしれない……。いや、一日でも下手したら耐えられないかもなのに……。いや、大丈夫、大丈夫……。そうだ、違うこと考えよ……明日伊織ちゃん誕生日……ああああ!!待って!?伊織ちゃんの事考えたらダメだ!!」

楔だって健全な男子だ。やはり考えることはそういう下世話な事ばかりなのだが、楔からすれば、伊織には嫌われたくはない、これが一番なので、無理矢理は嫌だなぁとか、女の子にも準備とかあるよなぁとかそういうことばかり考えてる。

「……理性抑えられなくなる前に明日は地雷とか平助呼ぼうかなぁ……。」

ため息を吐きながら、一つの結論を出した。恐らく、地雷ならすぐに飛んできてくれるだろう。そして、おそらく楔の理性を抑えるために、色々手を尽くしてくれるだろうし、あいつなら、夜同士でも付き合ってくれそうなイメージだ。
「……地雷頼るか……。」
「楔ー?どうかした?」

目の前でふわりと笑いながら、顔をのぞきこんでいた伊織。楔はいつの間にかこんなに考え混んでいたのかと思うと、何か変な事呟いてないかとか、先ほどの理性がどうたらこうたらという話が聞かれていないかが怖かった。
「い、伊織ちゃん?!いつの間に……!」
「ついさっき来たばかりだよ!なんか難しい顔してたけど、何かあった?」
「う……ううん?!何でもない!お風呂動だった?」
「湯加減ちょうど良かったよー、気持ちよかった!」
「なら良かったぁ。」

そうこうしながら、一日目は幕を閉じた。

2ヶ月前 No.136

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

136話

2日目の夜。
翌日は伊織の誕生日なので、楔は、心の中でほんの少し浮かれながら伊織にずっと教えていたが、夜。寝る前のこと。伊織は弱音を吐き始める。
「うぅ……なんか自信なくなってきたよ……。」
「どうしたの、伊織ちゃんらしくないよ?」

そう言いながら、優しく頭を撫でる。
「楔に教えて貰ったから、分かるようにはなったけど……。なんか直前になったら頭真っ白になりそう……。」
「うーん……じゃあそしたら焦らないおまじない?みたいなの教えてあげるよ。俺はね、なんでここまでこうして勉強したのか考える。すると自然と冷静になるよ。だから、伊織ちゃんなら、夏休みの補習回避、の為でしょ?」

その中に、自分と過ごしたい、という意見もあればいいのになぁ、と思いながらも楔は、それをあえて口に出さなかった。自惚れたくないから。
「楔と過ごしたい、って言うのもあるし、識とも遊びに行く約束してるし、部活の時間もとられたくない、からかなぁ。」
「!……それなら余計に頑張らないとね、テスト合格するの、俺も応援するし、終わるまで待ってるね?」

識の名前がそこに入ってたのはほんの少し気に食わないところでもあったが、自分の名前が入ってたことで、そんなのはどうでも良くなっていた。それに、素直に嬉しかった。

「んじゃ、俺寝るね?また楔の部屋でいいんだよね?」
「うん、大丈夫。」

本当はあまり平気ではない。今にでも理性が飛んでいきそうなのだが、今のところ、抑えられている。
数分後。
「はぁ……。とりあえず、伊織ちゃん寝たっぽいし……。耐えられるうちに地雷なら話聞いてくれそうだし……。すぐに理性が危なさそうだったら切れる前に来てくれんだろ。」

そんな信頼から、楔は千里に電話をかける。
千里はちょうどその頃2人を寝かせたところだったので、すぐに出ることが出来た。

「……あ、なんだよ楔。」
「理性。死にそう」
「しぬなよ……。まだ襲うなよ。……まぁ切れそうなら俺がそっちに行ってやる。朝ごはんの用意は既に机の上に置いておいたよ。……んで?何話すの?」

電話の向こうから呆れたような掠れた声で千里はため息をつく。これが伊織ちゃんなら最高なのになぁ、そんなことを考えながら、少し悩んでから口を開いた。兄である鎖からなんとなく地雷、という名前を聞いたことがある気がしたからだ。
「そう言えば、お前って兄さんいるの?」
「……俺?居る、のは知ってんよ。名前も忘れた。親が死んだと同時に行方不明になったから。あのクソ野郎まじいつか殴る。再会した時には絶対許さない。」
「……それ、兄って言えるの?」
「しらねぇよ……。ともかく、今更俺の前に現れても、兄って認めない。それは確か。今の今まで俺のこと放置してたし。今更。」

電話の向こうで無表情なんだろうか。
そんな千里の顔しか浮かばなくて、楔はくすり、と笑うってしまう。
「あ、何お前笑ってんだよ、なんかおかしい事言った?そーゆーお前は?」
「なんか面白かった。俺?兄さんね、鎖っていうクソ兄貴がいる。既婚済み。」

あー、そう言えば、そうだったな、なんて言いながら、千里は冷蔵庫を漁りながらカシュッという、活きのいい音を立てながら缶を開ける。そんな時だった。

玄関が開いたのは。
「嫁と喧嘩した。ムカついたから、殴って帰ってきた。」
「……っち、帰ってくんなよ、くそ兄貴。」
「何で?実家に帰ってくることについて何が悪いの?」

千里はその話を無言で聞きながら、あまり音を立てずに素早く家を出る準備を済ませる。その間も通話は切らずにいた。
「俺の部屋はいらないでよね?!」
「お前の荷物を借りに来たんだっつうの!!」

そこで、兄弟の話が終わった。その頃には千里も出かける用意が終わり、家に向かうところだった。楔は、苛ただしく千里に話しかける
「今の聞いてたろ?!今すぐ俺ん家に来い!!」
「もう向かってるっつうの……。はぁ……。」

千里がため息を付くと楔の耳には千里が走ってるのか風を切る音と、千里のほんの少し呼吸音が聞こえた。

「え……おん……なのこ……?」

鎖は、弟の部屋に眠るひとりの女の子に一目惚れをした。兄弟が故なのか、それとも、性なのか。

分からなかったが、なんとしてでも手に入れたい──────────。それがもし、どんなに汚い手だとしても、だ。

そんな彼の思惑に気がつく者はいないが、楔は、鎖が伊織のことを好きになるのではないか、と冷や冷やしていた。兄の方が、自分より優れている。有名企業次期社長としても、期待されていたりするし、何よりも社会人だ。

「俺なんかよりも……っ……。」

頼りにはなる──────────。
そんな自分を責めながら千里の到着をただただひたすらに待つしかなくて、その間は本の数秒だったが、楔はそのほんの少しがすごく長く感じたのだった。

2ヶ月前 No.137

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

137話

その後すぐに到着した千里はそのまま、楔を宥めるのに回る。なぜなら、物凄い怒りで、今にでも兄を殺してしまいそうなそんな雰囲気だったからだ。流石の千里もそれは止めるしかできなかった。伊織が見たら、悲鳴あげる。そう言うと大人しくはなったが、その後、鎖が伊織に惚れるだの何だのたくさん聞かされ、千里はほんの少し疲れつつと、朝を迎える。

朝ごはんの支度は千里が行い、楔は、つかの間の眠りに入ることにする。
……千里に寝ろ、という脅しをかけられ、無理やり体を休めていると言っても過言ではない。

朝の6時ぐらいのこと。楔の部屋から、ひとりの女の子……、と言っても千里を除けば伊織しかいないので、伊織の叫び声が響いた。千里もその声には驚いて、肩を揺らす。もちろん楔は飛び起きて、すぐに自分の部屋へと走っていく。

その後楔の叫び声しか聞こえなかったが、千里は4人分の朝ごはんの用意を進める。
「ちょっと!!俺の伊織ちゃんに抱きつかないでくれる?!ほら、離れて!!離せ!!ゴミ兄貴!!というか、部屋に入るなって言ったよなぁ?!」
「何言っちゃってんの?!減るからね?!既婚者の癖に女の子手ぇ出してんじゃねぇよ!!てかおまえ今年25だろ?!犯罪になるからね?!」
「いやいや……!!伊織ちゃん、こんなやつに挨拶なんかしなくていいから!!てか手ぇ出すなよ!!」
「ふざっけんな!!」

千里はその楔の声しか聞こえない会話を聞きながら、そう言えば、25ならば、自分の兄も生きて居れば同い年ぐらいのはずだ、そう思いながら楔が出して置いてくれたさらに丁寧に盛り付ける。

楔の兄、鎖が何を話してるかも聞こえないし、伊織との会話も聞こえない。しかし、降りてきた様子を見れば、伊織は彼に対する印象はいいものだと伺えるが、千里は楔の兄、ということで、こいつも裏があるのではないか、そういう疑いの目で見ることにする。
「うわあああああ?!もう一人増えてる?!てかご飯作ってる……。美味しそうだねぇ、えっと……?」
「……人に名前を問いたいのなら、自分から名乗るのが筋、なのではないでしょうか……。」

「そうだったね……。俺の名前は、縁鎖。既婚者で、昨日の夜中、お嫁さんと喧嘩しちゃって。追い出されちゃったんだ。」

困ったように眉を下げるが、千里からすればそれも怪しかった。というのも昨日の電話は通じたままだったので、裏の話し方も知っていれば、ここにいる理由もなんとなくは分かっている。なので千里は一定の距離を起きながら、口を開いた。
「……地雷……千里です。縁楔君とは仲良くさせてもらっています……。」
「……地雷……千里ちゃん、ね……。もしかしてお兄さんとかいる?」
「……義理と、ちのつながった兄が。血の繋がった兄の行方は今わかりません。小3の頃から会ってないです。後、あまり人のことをそうやって、人前で聞かないでくれますか?……あまりいい気分はしないので。出来ることなら、人のいないところでお話がしたいのですが。」

千里は今まで楔たちにとったことの無い様な態度で、距離を置きながら、話をする。
食事中も千里はわらってはいるものの、目は笑ってなくて、千里と鎖の関係は最悪と言っても仕方が無いぐらい冷えきっていた。

「じゃあ鎖さん?
ではまた後日先程話したことについて、2人きりで、お話したいので、いいですね?」

朝食後、千里は家に残したふたりが心配だ、と言って早めに出ていく。二人も遅刻しないようにな、と言いながらドタバタと慌てて家への道を走った。

2ヶ月前 No.138

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

138話

「楔楔!!千里千里!!受かったよ!!補習にならなかった!!」

学校にいつも通り向かい、放課後、みんなのテストが終わるまで、図書館で待っていると、平助と秋良、伊織がキラキラとした目で入ってくる。秋良は伊織と話しながら、楔のところにいた。

みんな無事合格したようだった。良かったな、と楔は思った。これで伊織ちゃんと沢山遊べるな、とか暇な時に平助を呼び出せるとか憂さ晴らしに呼び出せる、とかしか考えてなかったが、今思えば、平助にも彼女が出来た。そう簡単には来てくれなくなるだろう。平助を目線だけで探すと、千里のところにいて、何やらお礼を言っているようで、千里は苦笑をしながら平助に遊園地の無料招待券を渡す。それを平助はありがたそうに受け取ってから、こちらに走ってきて、秋良を攫う様に廊下に連れ出して、遊園地の招待券を取り出し、たどたどしく話していた。
「あー……、あのさ!秋良。折角合格したし、今日このまま帰んのもなんか持ったいねぇし……、今日までの無料招待券貰ったから……どっか遊びに行かね……?」
「行く!このまま直行でいいの?」
「お、おう!」

廊下で話しているので、会話内容はすべて中にいる人に筒抜けなのだが、誰もそれに突っ込まなかった。楔も楔で覚悟を決めないと平助よりヘタレだということになる。
「……あの、伊織ちゃん!この後家に帰る……?」
「んー……楔ともう少し話したいかな……?」
「鎖の奴がいると邪魔だし、どっか遊びにいかない……?」
「別にいても気にしないんだけどな……。」
「俺が、やだ……。鎖俺の兄だし、絶対伊織ちゃんのこと好きになる……。」

もごもごと話していると、ちさとの電話がぴ、と音を立てた瞬間電話を切った。千里は何の感情も宿っていない顔で、
「……はい。地雷です。……あぁ、鎖さんですか……。一体どこから俺の電話番号を……?ああそうですか。はい。はい……では……今から行きますので、そこなら10時にはつくと思います。……え?あぁ……出来ることなら会いたくないです。何年間も放って置かれたんですよ。今更現れて兄貴面されても殴り飛ばしたいぐらいムカつくだけです。……では切ります。……分かってます。大丈夫です。」

伊織は鎖、と聞いて、ほんの少し顔が輝く。楔は、あまりいい気分はしなかった。
「……家に行けば?2時間ぐらいなら多分俺でも稼げるから。伊織、誕生日おめでと。」
「……!地雷ありがとう!!この恩はいつか返すわ。」
「いーよ、要らない。」

いらない、と言ったが千里はこうして、好きだ、という気持ちを隠したままの俺でも付き合ってくれるだけで、充分嬉しい、けれど、彼女が好きで好きで好きで、やっと付き合えて幸せそうな彼にそんなことは言えなかった。だから、要らない、とだけ返して、千里は踵を返して、手を振っている伊織に向かって笑いながら、で振り返してから約束の場所へと向かう。

「じゃあ伊織ちゃん。俺達も地雷が作ってくれた時間無駄にしないように早く行こ!」
「う、うん……!」

2ヶ月前 No.139

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

140話

「じゃあ伊織ちゃん、入って?」
「お、お邪魔します……っ!」

楔は、兄を出し抜いて伊織とふたりきりになれたことにほんの少し勝ち誇った気分でいた。その後に千里が右頬に綺麗なもみじ型に赤く腫れた状態でも尚引きずられながら、家に来るとも知らずに。

「伊織ちゃん、オレンジジュースでいいよね?」
「うん!オレンジジュースでいいよ?」

楔は、冷蔵庫を開けて、オレンジジュースのパックを取り出して、コップに注ぐ。
「……」

しかし、いざ二人きりになってしまえば、楔は緊張して何も話せなかった。なにか話そう、そう思った時今日は伊織の誕生日だ、ということを思い出した。
「ねぇ、今日伊織ちゃん誕生日だよね?なにか欲しいものとかある?」
「んー……、いざ言われると、あんまり無いんだよね……、普段なら結構出てくるんだけど……。」
本気で悩みはじめた伊織。出てくるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。楔は、伊織の欲しがるものならなんでも与えたかった。そのためにバイトもしてるし、貯金もある程度はしている。確かに生活するため、でもあるが、切りつめて生活しているので、そんなにお金に困っている訳では無い。
伊織が決まるまで、マジマジと見つめていると、少しづつ伊織の顔が朱色に染まる。
「あの……楔……。そんな見られてると流石に恥ずかしいんだけど……。」

隣で恥ずかしそうにもごもごと喋る伊織を見ていると自然と口元が緩む。
「ちょっと!!まだ話聞かせろよ!!てめぇ、どう言う事だ!!永瀬……永瀬頼……君からも俺の話を聞いたって……!」
「……やっぱり怖いんだ?頼のこと。悪いやつじゃないとは思うんだけとな、優しい義妹思いの人だと思うんだけど?」
「……!!日向の奴も……そう言ってんの……?!」
外が何やら騒がしくなり何事かと思いながら不機嫌丸出しで、外を見に行くと、珍しく焦っているような顔面蒼白な千里の姿が目に入る。会話内容は聞こえないが、家に入れまいと奮闘しているようだった。

「……地雷……?」
小さく奮闘している彼女の名前を呼ぶと、伊織が気がついたようで、「千里がどうかした?」
と言いながら窓の外をちらりと見て、ほんの少し顔を輝かせる。楔は、その顔は自分に向けて欲しかった。そんな顔は兄である鎖にはして欲しくなかった──────────。そう思いながらも嫌われるのを恐れ口にすることは出来なかった。

「千里っ!お兄さん!!」
顔を輝かせながら家を出て行ってしまった彼女のことを目線だけで追う。
千里は伊織が来たことを認めると、先程までの表情は消え、いつも通りの千里の顔に戻っていた。心配をかけたくない──────────。そんな思いで一瞬で表情を変えることが出来る千里は凄いな、と楔はほんの少し思った。まだほんの少し顔は青いが、伊織にはバレないんだろうな、と楔は結論する。

そろそろみんな家に来るだろうな。そう思いながら楔は、千里の分のオレンジジュースを用意して、三人が家へと戻ってくるのをイライラしながら待っていた。

程なくすれば、千里は伊織、鎖を引き連れて帰ってきたが、千里は申し訳なさそうな顔で、「思ったより早かった。ゴメンな、二人の時間とっちまって。……。どっかで埋め合わせしておけ?」とこっそり謝って来たのだった。

2ヶ月前 No.140

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

140話

ほんの少しだけ、時を戻そう。
千里は伊織と楔を家にいくように仕向けたところで、楔の兄、鎖の元へと向かった。鎖は、買い物を終えた後なのか、高そうなブランド物……と言うより、有名なブランド企業のアクセサリー類だった。いくらそういうのに疎い千里でも覚えている、と言うからには相当有名なので、伊織も知っているだろう。

千里に気がつくとニッコリと笑いながら近づき、お店までの道をエスコートされる。席に座る時も、先に椅子をひいて座りやすいようにしてくれた。しかし千里は、それを断って、反対側の椅子へと手を伸ばす。千里が座ったところで、鎖は口を開いた。
「ねぇ、君って日向君の妹、だよね?」
「……すみません。俺、兄の名前知らないんです。何しろ親が事故で死んだ後、行方。分からなくなったもので。もう名前も覚えてません。分かっているのは当たり前の事で、地雷という名を持っているということぐらいです。」
「そっかぁ、俺ね多分君のお兄さん知ってるよ。同期だし。」
「……そうですか。」
興味なさげに千里は返事を投げつける。実際問題、生きてるならどうして。従兄弟である頼とは仲良かった癖に自分の前に現れなかったのか。そのイラつきだけが募る。そもそも、もう兄のあの頃の顔すら思い出せない。そんな人のことをどう思えばいいのか、分かるわけがなかった。
「あまり嬉しそうじゃなさそうだね。嬉しくないの?」
「嬉しくないですね。……さんざん俺のことを放置してきた兄です。今更目の前に現れて兄貴面されてもイラつくだけです。多分私の態度にも気に食わないところが出てくると思います。余計な争いを生むくらいなら、私達は再会しない方が得だと思います。」
千里は感情のこもらない声で無表情を貫いて淡々と話を進めた。
「そっか。……あとね、君は知らないかもしれないけれど、永瀬頼……いるよね。君の義理のお兄さん……。あの人とも俺ね、繋がりあるから、君のこと……。なんでも知ってるんだよ?」
「……え……。」

ニッコリと彼は永瀬頼、という千里が恐れをなしている人物の名前を聞いた。その名を聞くだけでも千里は背筋が冷える思いだった。その後、彼は再び口を開く。
「君のお兄さん……日向君は君のこと、殺したいほど恨んでいたよ?母を殺したやつだって言って。それを庇っていたのは君の嫌いな人……永瀬頼君、なんだよ?」
「お……俺……は殺して……なんか……。」

あの時のことが脳裏の裏に宿り、ほんの少し吐き気を催すが、そんなのは感じさせないように、再び口を開く。
「……俺の仮にその人が兄さんだとして……。そんなに私のことを憎んでるのならば。本当に私たち兄弟は再会しない方がいいと思います。無益な殺生が起こるのは嫌なので。……。ところでそれ。何ですか?」

千里は静かに彼の傍らにあるブランド物だということを主張している少し眺めの箱を指でさす
「……伊織ちゃんに誕生日プレゼント?ほら、楔がお世話になってるしね?あ、もしかして千里ちゃんも欲しい?こういうの。誕生日教えてくれたら、送るよ?」
「……。誕生日、嫌いなんで。兄と友達なら知ってるとは思うんですが。」
「……あぁ、11月3日かぁ、誕生日に親御さん二人もお亡くなりになられたんだったね。うん、覚えておくね?」
「……聞いてましたか?」

誕生日いつだ、という問いに千里はあからさまに嫌悪感を表す。

「……聞いてたよ?それでもいつまでも引きずっていたら、千歳さんも里琉さんも浮かばれないよ?」
「……!!お前なんかが軽々しく母さんと父さんの名前を口にするな……!!」

千里は喫茶店だということを忘れ、声を荒らげ鎖の胸ぐらをつかむ。しかし、すぐに気が付き手を離して、静かに座り直す。
「……。すみません……。少し……感情が高ぶりました。……ほとんど初めてあった人に、母と父の名前呼ばれるの、好きじゃないんで……。」

本当は、鎖に呼ばれたくなかったのだが、あえてそれを口にするなんて子供のようなことはしなかった。

これでも大人の世界に早めに入っている。そういう常識はわきまえているが、先程は抑えられないほど、ムカついたのだった。

「やっぱり、君は頼から聞いていたような人だったよ。君……。本当はそんなにいい子じゃないよね?」
「は……?」

頼から聞いていた。その言葉で千里は目を見開く。一体、自分の何を言われていたのだろうか。嘘つきだとか、優しくしてるのに怯えられている、とかなのだろうか。
「……もう帰るね?伊織ちゃんにこれ渡したいんだ。」
「待て!!話はまだ終わってない!!」
「うるさいなぁ、俺の中ではもう……話したいことは終わったよ?……この手、離してくれないかなぁ。」
「……。いやだ。ちゃんと話すまで離すものか。」

千里はしっかりと鎖を見つめ、きゅっと唇を閉じる。いくら千里が鍛えてるからとはいえ、同じように鍛えていて、男には勝てるものではない。千里はずるずると引きずられながらも、鎖の邪魔をする。
人通りが少なくなってきたところで、ちさとも思いかげなかった拳。
殴られた──────────。そう思いながらもその手を離さず、声を荒らげる。

楔の家が見えてきたところで、その声のボリュームをさらにあげる。

楔に気がついて欲しくて。鎖が門に手をかけると同時。玄関のドアが開く。現れたのは伊織で、千里は一気に笑顔を取り繕う。伊織は楽しそうに鎖と話をし始めた。けれど千里は心の中では、鎖に対する評価は下がりつつあった。

千里が入るように促して、家にいっぽ足を踏み入れると楔がほんの少し……いや、かなりの怒りを讃えた瞳で千里達を出迎える。ふたりきりの時間を邪魔したのだから、千里は申し訳ない気持ちで1杯で、悲しそうに笑いながら楔に一言謝った。
「思ったより早かった。ゴメンな、二人の時間とっちまって。どっかで埋め合わせしておけ?」

楔はそれを見て、悲しくなった。なぜだか分からない。けれどほんの少し悲しくなり、素っ気なく「別に。地雷なんか当てにしてなかったし。」と言いながら部屋の奥へと行って、千里が出ていこうとした時に、その背中に、楔は声をかけた。
「地雷も中に入りなよ。オレンジジュース飲む前にこれ飲んでからね。」
そう言いながら、吐き気止めである錠剤を手渡す。
「……いや、平気。思い出したくねぇこと思い出して、辛くなっただけ。」
「……その辛いことって……なんなの?」
「……。ごめん、俺まだ弱いからさ!人に話す前に吐くと思うし、お前に迷惑かける。そんなの……嫌だから。」

千里は薬をにぎって小さく苦しそうに笑う。話してくれないことに距離を感じた。はじめてだったから。こうして千里に距離を置かれてしまったのも。
「……んな顔すんなよ。……まぁ……いつかは話してやるから、さ。そこまで待っててよ。」
「え……?!」
「ほら、二人が待ってんだろ?行こーぜ。」

そんなに自分は落ち込んだ顔をしていたのだろうか。そんなに感情が出ていたのか。そう思うと少し驚いてしまう。千里はそんな楔の思いも知らずに早く行こう、と話しかける。楔は、家主のくせに千里よりもあとにリビングに戻ってきていた。

2ヶ月前 No.141

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

142話

「伊織ちゃん、可愛い!似合ってるよ!やっぱり悩んで買ったがいがあるね。」
「……でも、これってあの有名なブランド物ですよね……?流石に受け取れないですよ……?!」
「もぅ、誕生日なんだから気にしないで!」
「そ……そうですか……?じゃあ、ありがとうございます……!」

伊織は嬉しそうにそれを受け取った。伊織の中で確実に鎖に対する評価は確実に上がり、絆されていった。楔だって確かに働いてるし、プレゼントは買えるが、高校生の財力ではあんなに高価な有名なブランドものは買えない。買えるわけがないのだ。
楔は面白くなかった。伊織の隣は自分がいない間に鎖に取られており、やむを得ず千里の隣に腰掛ける。

伊織は楔の兄だということで、警戒も何もしていない。寧ろ、無防備だ。伊織はまさか自分が縁の名前に気に入られるとは思っていない。
それに、10歳も自分は年下。相手もまさか手は出してこない、と信用して心を開ききっている。だからこそ楔は面白くなかった。
「ねぇ、くそ兄貴。あんまりさぁ、伊織ちゃん……俺の彼女にベタベタ触んないでよ。汚いなぁ。嫁に怒られるよ。」
だからこそ、立ち上がり、抱きしめながら、むすり、と頬を膨らませる。伊織は楔の腕の中で恥ずかしそうに俯いた。鎖はその言葉に、少し悲しそうな顔をしながら、口を開く。
「あー……。昨日の喧嘩が原因でね、離婚になっちゃった。……ごめんね?伊織ちゃん。誕生日にこんな話し聞かせちゃって。」
「そ、そうだったんですか……、」
「……まぁ、束縛とか色々酷くて……。辛くなってきたから俺から言ったから、伊織ちゃんは気にしなくていいよ?」

楔は、内心まずいことになり始めていた、と思っていた。鎖は、自分の願いを叶えるためなら、何でもする。欲しいもののためならお金を使うことに躊躇うことは無い。そして束縛については、鎖はニヤニヤとしながら楔のことを見つめる。自分が言われてる気がして、千里をちらりと見るが、何も話さない、こちらも見ようともしない、かばいすらしなかった。地雷らしくない。そんなことを思いながら、楔にとってどんどん悪い方へと進んでいくのが焦りを感じていた。

「……俺、トイレ行ってくる。」
楔は、ここまでずっと黙っていた千里が動き、発した言葉に正直拍子抜けした。
「……場所、わかる?」
「……探すからいいです。我慢出来ないほどでは無いので。」

鎖が千里に視線を投げると千里はそれを逸らすかのようにふい、と廊下へと視線を向ける。
「……千里らしくないね……。」
「……。」

伊織の呟いた言葉に返答することは無かった、しかしうっすらと思っていた。
数分後、鎖が「やっぱり探しに行ってくるね、」
と言いながら千里を探しに行っていた。

千里はあまり迷わずにトイレには辿り着けたのだが、あまりリビングに戻りたくないと思っていたからだ。
千里は兄の鎖──────────。あいつの纏う空気がほんの少し、嫌なものに変わりつつある。元からあまり好きではなかったのもあるのだが、だからこそ、あそこにいると、気分が悪くなる。だからこそあまり口を開かなかったのだが、トイレ行ってくる、と言って逃げてきた。
洗面台の前で、手を洗って、出ていこうとすると、ドアに寄りかかるように鎖が立っていた。
口元に弧を描きながら。
「千里ちゃん、君さ。俺の弟の楔……好きでしょ。」
「は……っ?!」

2ヶ月前 No.142

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

142話

「わかりやすいよ?千里ちゃん」
「……だから何なんですか?別に伊織と楔についてはなんとも思ってないです。」
千里は顔を伏せながら、小さな嘘をつく。
「そう思いたいだけだよね?本当にそう思ってたらちゃんと顔見れるもんね?」
「……。何が言いたいんでしょうか。」
「じゃあなんで楔が伊織ちゃんのこと抱きしめた時ほんの少し悲しそうな顔をしたの?」
どうでもよかったらそんな顔しないよね、そう言いながら、彼は笑う。千里は弱みを握られた。そう思いながらも、極めて冷静に口を開く
「……まだほんの少し引きずってるだけです。鎖さんには関係ないでしょう?そこ、どいて頂けますか……邪魔、なので。」

そう言うと鎖を押し退けて、千里はリビングへと向かう。リビングに入ると、楔が一番はじめに千里が帰ってきたことに気がつき、声を掛ける。
「あれ、地雷ひとり?くそ兄貴そっち行かなかった?」
「……来た。……置いてきた。洗面所まできやがった……。」
「千里があんなに敬語なの、珍しいね……。」
「……そう?射水さんにも敬語じゃん。」
「そうじゃなくて、なんか、相手を嫌悪してるような話し方……?」
「んなことないよ。……とりあえず……。そんなことは無いから。」
「てか、顔真っ青だけど……。平気?」
千里は無意識に顔が青くなっていたのかと思うと、嫌になる。けれど千里は「大丈夫。」とだけ答えて、先程まで座っていたところに座り直す。

「ちょっと楔。俺の席取らないでよね。邪魔。」
「ちょっ……?!伊織ちゃんの隣は俺の特等席なんだけど!!」
「く、楔、いいよ、また今度、家に来た時隣に座って?」
「うっ……伊織ちゃんがそう言うなら……。」

「千里ちゃんって誕生日、11月3日だよね?プレゼント、何が欲しい」
「……要らないです。誕生日……嫌いなんで。先程も言いましたよね……?」
「そう言えば、そうだったね。お母さん達、誕生日に殺されちゃったもんね?」
「…………っ。」
「ち……千里?」
「……くそ兄貴!!やっぱりお前そこどけ!!塚家から出てけ!!今すぐ!!」

その対応を見て、鎖は口許に弧を描きながら口を開く。
「……やっぱり千里ちゃんと楔は、お似合いだね。」
「は……?!」
「……鎖さん。ご冗談を。俺と楔の間には恋愛感情なんて……ありませんから。」
「そう?千里ちゃんの方は満更でもなさそうだけど?」

「……何もないって言ってますよね。これ以上、そんな事言うなら、俺は帰ります。」
「ちょっ……?!地雷待てって!!」

「…………っ。」
「伊織ちゃん?どうかしたの?」
「あんまり、千里……いじめないで欲しいです……。それ、と!楔は、俺とつ、付き合ってる、から……。」
「……そうだったね、ごめんね?後で千里ちゃんにも謝っておくね?」
「……そうして、下さい。」

千里は早足で縁家を離れていく。走った千里は如一以外誰も追いつけないが早歩きぐらいなら、追いつける。楔は、走って千里のことを追いかけ、家から数10m離れたところで、千里に追いつき、腕をつかむ。
「だああああもう!待てって言ってんだろ?!地雷っ!!」
「……。ゴメンな、楔。」
「……?!おま……なんで泣いてんだよ……。」
「え、あー……分かんない……。……ごめん、楔。俺帰る。後、楔には悪いけど、鎖のこと、俺嫌いかも。」

そう一言残してから、千里は楔の手を振り払って、逃げるように走って帰っていく。千里は触れて欲しくないところを鎖に踏まれたのか、触れられたのか。

千里があそこまで怒りに耐えている顔は楔は初めて見たからだ。
「……流石に友達に悩み相談されねぇのは嫌かも……。伊織ちゃんなら自殺した方が良いけど。」

「ゴメンな、楔。俺が弱くて。」

千里はそう呟いて、そっと離れる。家に帰ると、吐き気がした。
暫くトイレに篭ったが、何も出なかった。
「寝るか……。」

そう言えば、最近ろくに睡眠も取っていない。そのせいだ。そう思うことにして千里は布団に潜り込んで眠った

2ヶ月前 No.143

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

144話

楔がリビングに戻ると、伊織と親しげに話す伊織の姿を見て、とてつもなくイラつきを覚えた。だから、鎖のことを無理やり引き剥がし、楔は、伊織の隣に座り込む。それに関する
「おかえり、楔。千里ちゃん、どうだった?」
「……。怒ってた。くそ兄貴に。」
「……。へぇ……。なんであんなに怒られないとなんだろうね?」
「……触れてほしくないとこだったんだよ、千里の。」
「なんか、雰囲気悪くしちゃった?……ごめんね?」
「……俺、やっぱり千里に謝りに……!」
「伊織ちゃん。伊織ちゃんは悪くないから……。俺が悪いんだよ、だから俺が謝りに行くね?」
「早く行けよ!!二度と帰ってくるな!」

鎖は楔に追い出されるかのように家を出ていく。しかし、向かった先は、千里の家がある方向とは真逆の方角。繁華街があるところだ。
「っち……。誰が行くかよ謝りになんて。はー、それにしても伊織ちゃん、いい子だなぁ可愛いし、綺麗だし……。手に入れたいなぁ……。本当楔邪魔だなぁ……。何とかしてでも伊織ちゃん欲しいなぁ……。どうしたら俺を好きになるかなぁ……。」

そう言いながら、鎖は徐にスマホを取り出し、ゆるりと口元を綻ばせる。
伊織からの連絡があったからだ。メール内容を確認すると、
「千里ならちゃんと謝れば許してくれる、ね……。これだけはどんなに謝っても許してくれないだろうなあ……あはっ。」
そう笑いながら繁華街へと足を踏み入れる。伊織とあそびにいくとしたらどこに行こう、そう考えながら歩き始める。
その頃、縁家では。伊織がメールを送った後、心配そうにつぶやく。伊織はあんな千里を見たことがなかったはずだからだ。同期で元ヤンの2人だが、あまり接点はなかった。2人とも1人で居たのだから。ほんの少し接点があるとすれば、それは総司の話で聞くぐらいだろう。しかし、話だけで、名前しか知らない、という状態だっただろう。
「……千里、大丈夫かな……。」
「地雷は平気だよ。……多分。」
「……そこは確信持って欲しかった……。連絡の返信こないし……」
「寝てると思うよ。さっき顔色悪かったし……。」
「そうだといいけど…。体調悪いのに無理させたかな?」
「あいつの事だし、多分起きたりしたら連絡寄越すだろ。あいつの判断だよ。」
「……楔、千里のことよくわかるね……。何かちょっと嫌かも……」
「地雷がわかりやすいだけ!あいつすぐ謝るし。伊織ちゃんのことの方がわかるよ!」
「……そういえばそうだったね……。なんか嬉しいような恥ずかしいような……。」

しかし、伊織の中での心配が消えることは無かった。あの時の千里の反応には、色々おかしな点があったのだから、当たり前といえば、当たり前だろう。だから、居てもたってもいられなくなった伊織は立ち上がり、
「やっぱり俺、千里のとこ行ってくる!」
「はぁ?!いやいやいや……!!待ってよ?!……あー、多分地雷は伊織ちゃん相手でも話さないだろうなぁ……。冬木は知ってそうだけど……。」

伊織が、飛び出すように家を出て言って五分後。楔のケータイから、メールを知らせるアラームがなる。
確認すると、千里からで、内容はおもったとおり謝罪のメールで、"雰囲気悪くしてごめんな。"と簡素に伝えられる。
楔は、ため息を吐いてから"お前のせいじゃないから気にすんな。俺のくそ兄貴が悪かったな。"と返信をすると、暫く返信が来なかったが、伊織が帰ってくる五分前に"お前が謝る必要は無いから"

とだけが来ていた。

2ヶ月前 No.144

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

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2ヶ月前 No.145

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

145話

七夕の夕方。日向は自然といつも集まる飲み屋へと足が赴く。一人でぼんやりと飲んでいると、
「日向!」
「あれ、頼じゃないか。久々だなぁ……。いつ以来だ?千里は元気にしてる?」
「2ヶ月くらいじゃないか?それで久々とか、お前も歳をとったな、日向。……千里?知らないね。中2の頃、出ていったきり、あってないし。」

急に声をかけられ、後ろを振り返ると、仕事帰りの頼だった。二人はよく仕事帰りにここに来て飲みには来ていたのだが、時間が合わなかったり、もしくは仕事が長引いたのもあるのだが、日向の方で色々内部でのいざこざでなかなかのみに来れないでいた。日向自身が久々の飲みに来ている。頼が左隣に座り、「いつもの。」と言いながら、日向に向き直った。
「まぁ、噂は聞くけどね……。警視総監になったらしいよ?……元気かなぁ……。」
「知らねぇよ?!」
そんな会話を交わしていると、後ろから声をかけられる。
「あれ、日向珍しいね。」
と。頼が後ろを振り向くと、そこには、鎖が立っていた。この2人は日向よりもお互い通じるものがあり、一番の親友と言っても過言ではないだろう。鎖は嫁を暴行、所謂DVを、頼は千里を虐待、暴行を繰り返していた。被害者からすれば、どちらも許せないことなのだが、千里は、頼が恐ろしくて、逮捕、などそんな末恐ろしいことは出来ずにいる。
そんなこともあり、二人は本当に特別仲が良かった。
「あ、鎖じゃん。そういやお前の弟と同じ高校じゃなかったか?」
「いや……いきなりなんだし……。」
「ほら、日向の可愛いとか言われてる妹。俺からしたらどこが可愛いのか知らねぇけど。」
「いや、可愛いよ?」
「あぁ千里ちゃんね。うん、知ってるよ。今日家にも来てた。楔と仲良しだね、それと弟に一方的な恋をしてるよ。」

鎖はいきなり話をふられ、知るかよ、という顔をしながらも、日向の右隣の席に座る。その後に千里、という名前が出ると、そんなのもいたな、あの後どうしたか、そんなことを考えながら、知っているよ、と答える。その後に自分の弟に惚れている事を話すと、自分たちよりも早く来ていた日向はすでに酔いが回っていたのか、たどたどしく口を開く。その発言はかなりシスコンじみているのだが、6年間も放置した兄の言葉では信用も何も無いのだが、日向からすれば、日向も日向であの日のことはトラウマなのだ。千里よりはたしかに軽いかもしれないが、トラウマなのには違いがない。あの裏切ったあの日のことも日向は悪く思っていて、トラウマで、まだ立ち直れていない。
「待ってなにそれ許さん。」
「6年間も放置した兄がいうセリフかよ……。」
「だって……。怖かった……、から……」
「兄の名前も覚えてないとよw」
「なにそれ死にたい」

机に突っ伏し、すすり泣き始める。こうなると面倒なのを知っている彼らは、放置することに決める。しかし、放置していても酔いが冷めてくれば、また口を開き、
「千里に会いたい、」
というのだが、やはり今更顔は合わせずらいだろう。なかなか踏み出せずにいた。

日向は日向で千里に恨まれている、と思っていたからこそだ。

2ヶ月前 No.146

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

146話

しかし、会いたい、というのもあるが、日向は今でも両親が死んだのは千里のせいだ、と思っている節もあったのだ。
だからこそ、あってしまえば、恨み言が口をついて出てしまうのではないか、そもそも会わない方がいいのではないか。向こうも向こうで、親が死んだのは自分のせいだと思われているのではないか。そして、親を見殺しにして、親の死を前にして、逃げ出した上に自分を捨てた、最低な兄だと思われているのではないか。

日向の解釈は半分あっているし、半分間違って入る
確かに、千里は兄のことを恨んでいる。しかし、千里は自分がわがままを言ったせいで、死んだ、と思っている。あの頃の思い出など、もう思い出せないし、思い出そうとすれば、頭痛がするぐらいだ。

「はぁ……、ゴメンな、千里……。」
酒屋で日向は机に突っ伏し、この場にいない最愛の妹の名前を口にする。
「そう言えば、千里ちゃんは親が死ぬ前のあの頃よりも剣道かなり強くなったみたいだよ。ほら、楔のヤツ桜才って高校通ってるけど、千里ちゃんも同じだから……。あそこって武道関係の名門だろ?……羨ましい限りだよ。それに、なんか千里ちゃん推薦きたらしいけど、断って、自分の実力で主席入学だってよ。あと、常に成績もトップキープしてるらしいし。それにこの間の連続バラバラ殺人事件。あの解決に導いた人と、協力者。あれ千里ちゃんの知り合いらしいね。……まぁ全部楔から聞いた話だけどね。」
「……なんか、俺の妹、俺が知らない間にどんどん遠い人になったなぁ……。」

鎖から伝えられる千里の情報にすっかりとあの頃とは変わってしまったことがわかる。自分の知っている弱々しいくて、「お兄ちゃん」と呼んでちょこちょこと後ろをついてきた時とはもう違い、一人歩きをしてしまい、もう自分のあとをついてきてくることもない。ほんの少し寂しい気もするが、これでいい気がしていた。

「そう言えば、千里ちゃんまだ千歳さんと里琉さんのこと、引きずってるっぽいよ。この間会ったときに二人の名前出した時、胸ぐら掴まれちゃった。」
「……千里のせいで父さんも母さんも死んだのに……っ。」

最愛の妹のせいにするのは、いささかずるい気もしたが、そうでもしないと、自分の罪悪感で押し潰されそうになるから、という理由で千里のせいにするクズなのだが、頼も鎖も、ここにはいないが、円戸も皆クズなのだ。先程も話をしたが、頼は千里に対する暴力の虐待、鎖は元嫁に対する暴力行為、円戸は意図的に学生時代の友人を殺した。日向は最愛の妹をひとり置いて、親のしを目の前に恐怖で逃げ出した。日向はもう吹っ切れているが、やはり心の中では千里のせいで死んだ、そう思うのとで振り切れている。心の中では千里も、自分のせいだと思うことで振り切っているのだろう。そう思っていたが、しかし、現実というのは残酷だ。千里は未だに夢に見て、苦しんでいたり、あの時のことを思い出すだけで吐いたり、過呼吸になることも日向は知ることは無かった。自分のことで精一杯なのだ。最愛の妹の千里のことを考える余裕はなかったのだが、千里は、大切な父と母のことを忘れることは出来なかった。

誰を恨めばいいのわからなかったからだ。親を失ってまもなく、すぐに頼からの暴行。千里がグレていくのには時間はかからなかった。

「ちょっと……、日向も頼も待っててくれてもよかったんじゃない?」
「あれ。円戸じゃない。君が来たことだし、家に行こうか。」
「……」

2ヶ月前 No.147

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

147話

「うぇっ……、」
結局千里はあの後も寝れなかった。眠る度に、母と父の亡骸の夢を見るのだ。それに段々鮮明になり始めたのだ。
起き上がる度に吐き気しかしなくて、もう寝ることも諦め始めていた。そう言えば、伊織のあの事件で封印していた記憶が呼び覚まされてのもあるが、縁鎖──────────。
あの人物の出会いから酷くなったものだ。

「はぁっ……。最っ悪だ……。」
ここまでくると、精神的にもきつい。こうなってしまえば、朝まで誰かと話そうかと思うが、こんな時間に誰が起きてるか。時計を見れば、夜中の一時半過ぎている。というより、もう二時と言ってもおかしくはない。こんな時はいつも総司を何かと頼るのだが、流石にこの時間だと頼るに頼れない。千里は未だに吐き気を訴えている体を他所に、スマホで連絡先を確認しながら起きてそうな人を見てみるが、流石に皆寝ているだろうと予想して、スマホの画面を落とす。暫く適当にチャンネルを回したが、特に興味を引かれるものはないし、掃除も洗濯もやることは何も無い。

こういう時、一人暮らしというのは辛い。部屋で、唯一残っている母に買ってもらったぬいぐるみにでも抱きつき、気分を落ち着かせようか。そう思った時。スマホが着信を知らせる。

「……はい、地雷です。ただ今夜中ですなんの御用ですか」
「はぁ……切る。」
「……?!楔っ……?!こんな夜中にマジなんの用だよ、お前俺が寝てる可能性考えなかったのか?」
「……お前なら起きてるかなって思った。後、寝れてねぇだろって思って。……お前、なんかあったか?」

電話の相手は楔で心の底から驚いたものだった。伊織は寝てるとはいえ、自分に暇だから連絡を寄越したことに。そして、自分の体調を気遣ってくれたことに。

自惚れるな、これは楔が暇だから電話をかけてきたのだ。だから、他意なんて一ミリもない。そうはわかっていても嬉しい。しかし、体調が優れない理由は
「んー……まぁ話せない俺の事情?……ごめんな。話すとしたら、んー……、そうだな。」

千里はそこで一度言葉を詰まらせた。絶対にありえない条件を言わなくては。草莽と自然と口はこう、発していた
「……楔が俺と付き合う事に……なったら……、教えてもいいよ。」
と。
「……なに、それ。ぜってぇ教えてもらえねぇじゃん!!」
楔は一度黙り込んだ後、電話の向こうで盛大なため息をついた。その理由が、可能性として有り得たから。一度楔には弱気になっていた頃、千里に一度惹かれたことがあるから。ない、とも言いきれなかったことが悔しかった。しかし、その気持ちの変化は千里には伝わらなかったのが唯一の救いだろう。今回の楔の微妙な空いた時間も呆れて物が言えない、と勘違いをしてくれたようで、
「教える気ねぇしw」
とだけ言われた。しかし、楔もあそこまでの拒絶反応が出たり、あの伊織が真っ赤に染め上がったあの時。あれは楔も出来ることなら二度と見たくはないのだが、あの時の千里の反応。あれは幾ら何でもかじょうだ。そう思うと、理由がやはり気になるところ。冬木なら、何か知っていると思った楔は真っ先にその名前を出した。
「冬木に聞く。」
「聞いても口割らねぇと思うぞwあいつ意外と口硬いからなぁ……。」
「何それ意外。」
「おま……っwそれあいつに失礼だぞ?w
まぁ、俺も思うけどね。いつかあいつぺろりと吐きそう
……。」
「ちょ、地雷汚い。」
「そーゆー意味じゃねぇよ!」

千里は、楔にとって伊織を除いて、何でも話せる一番の仲だった。平助も確かに何でも話せるが、最近では、一番ではないのかもしれない。
それに楔は千里とあってからいい方向へと変わり始めていた。千里は楔に、人間らしさを与えていた。だからこそ、楔には伊織と同じぐらい感謝もしているが、複雑な気分にもなっていた。
「……楔?」

いつの間にか考え込んでいたのか、電話の向こうから、千里の何かを問い掛ける時に、千里はいつも小さめな声で吐息混じりで、2度ぐらいだけ首を傾げる。……ほとんど動いてはいないが。背が低い彼女は、そうしないと相手の顔が見えない時もあるから仕方がない。
しかし、電話をしていてもその姿が浮かぶとなると、恐らく伊織のくせなら電話越しでも鮮明に映るだろう。

「いや、地雷のなんか訪ねたりする時のくせが浮かんだから、伊織ちゃんなら、目の前にいるかのように浮かぶんだろうなぁって……」
「ほんっと……お前……はぁ、伊織、大好きだな、……だから、話す必要は無いから安心だな……。」
「……は?最後の方聞き取れない、てか俺は、大好きじゃなくて、愛してるな?!間違えんな。」

千里は楔の言葉に呆れながらも庵のことを本当に好きだということを自覚してしまい、辛くなる。けれど、この分なら、話す必要が無いことに安堵していたのだった。

「ふぁ……、」
「……ん?楔眠いなら寝ろよ。おやすみ。……多分そろそろ総司が起きてくr「やだ。眠くない。」

楔はあくびを一つした。
眠いが、何故かこのままもう少し千里と話していたかて、電話を切ることを躊躇う。
「……やっぱりお前寝とけって。俺も少し眠いし。またなんかあったら相談するからよ。」
「……ごめん……」

あやまんな。
そう言ってから千里は通話を切って、布団へと潜り込んだ。その日、久々にあの夢を見ずに心地のよい眠りをすることが出来たのだった

2ヶ月前 No.148

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

148話

目が覚めた時は久々に心地の良い目覚めだった。……目覚めたのは次の日の明け方の4時だったのだが。丸一日寝ていたことになる。あの夢も見なかった。
楔にはお礼をしなくては。そう思い、千里はメールで"サンキュ、よく眠れたよ"
と送ると、案外すぐにメールの返信が来た"……今日も寝れそうか?"
千里は悩んだ。しかし、二日も付き合ってもらうのは些か気に食わない。だから千里は"大丈夫!今日は総司に付き合ってもらうことにするよ"

と返信をした。楔はそれを見て
「……。沖田ねぇ……?……まあ、伊織ちゃんじゃないし、まぁ……いいか」
そう呟きながら、スライドをして"そっか、まぁまたなんかあったら相談しなよ、伊織ちゃんとの時間を邪魔しない限りいいよ?"と送ると、千里からはわーってるよ、と言いながらやれやれ、というスタンプが送られる。

ほんの少しそのやれやれというスタンプにほんの少しイラッとしたのだが、そろそろ楔には楔のやることがある。その用意を始めるため、スマホを机の上に置いて、クローゼットに手を伸ばし、普段から早朝出かける時に着る服に着替える。既に日課となりつつあるトレーニング。いつもより早目の時間にでた。あまり気分が優れなかったからだ。走れば少しは良くなるだろうと思い、早めの時間に出ることにしたのだ。早朝の空気は心地がいい。それなのに。

「はぁ……気分悪……。」
走っても気分は優れなかった。昨日寝れなかったのは、鎖が原因だった。昨日も家を訪ねてくれた伊織が家に帰った後、喧嘩をした。普段から喧嘩をしてるが、今回は伊織に関すること。楔が一昨日、深夜に千里に電話をかけたのも、なんとなく寝れなかったからだ。

何故か、確信がもてたのだ。"地雷なら起きてるだろうな"と。しかし、実際は寝起きっぽい声で申し訳なく思いながらも寝れなかった、と話す彼女は自分の心に安堵をもたらせた。

「……楔じゃん……。何、お前も走り込み?」
「……地雷?あー、そう言えば、お前、町内一周してるとか言ってたな……。」
「まぁね!……にしてもお前この時間だったか?……もう少し日が登ってから……」
「それはお前もだろ?……なんかあった?」
「……一日寝て、朝早くに目ェ覚めたんだよ。何となく寝る気分には。」

慣れなくて、と千里は小さく笑った。……無理やり笑ったようにも見えた。
「……ったく、仕方ねぇやつだなぁ、」

小さく笑って自分よりも小さな身長のちさとの頭を軽くくしゃり、と撫でる。少なくともちさとは胸が高鳴る。顔が赤くなっているのか、確認が取れないから、下を向いて俯く。千里は、嫌がったり、伊織に悪い、そんなふうに言えなかった。だって、好きだから。
────こんな自分、嫌いだ。

楔は、なんで自分がこんなことしたのかがわからなかった。二人は気がつくことが出来なかった。その光景を息を潜め、静かに見守る影に。
「っと……、じゃあ俺そろそろまた走りに行ってくる。」
「……ん。楔!ちゃんと水分取りながら走るんだぞ!」

楔は、その言葉を聞いて、後ろを振り返らずに、手を振る。
何故だろうか。ほんの少しだけ、気分が良くなったな、と思ったのは。このまま伊織に会うことができたら、多分体調はとても良くなる。そう思った楔は普段のコースから外れている伊織の家の前を通るコースへと変えた。

「あれ……、伊織ちゃん居ないのかな?」
「楔?呼んだ?」
「うわあああ?!い、伊織ちゃん……?」

後ろからいきなり最愛の人に声をかけられ、気を抜いていたため、本気で驚く。普段なら気がつけたものが、気づけなかったことにほんの少し、悔しさを感じながら、口を開いた
「ねぇ、い……伊織ちゃん!あ、のね、夏休み、2人で遊びに行かない?ほら、地雷とか舶来とか、平助の奴も誘って!みんなで遊ばない……?」

何故か言い訳をするかのような口ぶりになる。伊織の顔を見て、先ほどのことが罪悪感として、思い起こされ、言い訳をする様になってしまう。
「……ごめん、夏休み……いそがしく、て……。ほ、ほら……識が帰ってくるし……、帰ってきたなら相手したい、し……部活も……忙しくて……だから変わりに、千里誘えば?なんか今年、暇らしいから……っ、珍しいらしいよ!」

2ヶ月前 No.149

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

149話

「え……?」
「千里誘ってよ、俺じゃなくて。」

伊織の口から千里の名前が出てくることは珍しいことではなかったが、自分よりも、千里と遊んで来い。

伊織は、楔にそう言った。
「それと、今日これから、泊りがけで海、行くから……じゃあ、またね、楔。」
伊織は楔の横を通り抜け、逃げる様に家の中へと入っていく。
帰り道、楔は気分が重く沈んでいた。スマホを開いて無意識に千里の連絡画面を開いていた。しかし、途中で辞めた。あまり、迷惑はかけられない。そう思った楔はスマホの電源を切った。

ちさともあの後、頼に捕まり、サンドバッグにされていた。千里も楔の声が聞きたい。あの落ち着いていてそれでいて安心するあの声。

──────────けれど、通話ボタンを押す直前で辞めた。楔だってもう彼女持ちだ。近くは確か総司の家だったはずだ。千里は踵を返して、総司の家へと向かう。
「総司?」
総司に連絡を入れると3コールででてきた。
「……どうしたのさ、千里ちゃん。朝早くに珍しいね。」
「まぁね……。そうだ、総司。家に行ってもいい?まぁ、もう家の前にいるけど。……頼くんに捕まってボコボコにされちゃった。亜留斗のとこ行く程でもないから、総司に手当してもらいたいなって、あの頃みたいに。」

千里がかわいた笑いを浮かべながら言うと、がチャリ、と鍵の開く音とともに、まだ寝巻きと寝癖が付いている総司が顔を見せる。
「……ほんとにボロボロだね……。まぁ入りなよ。」
「へへっ、サンキュ。」

総司は千里の姿を見つけると、呆れたかのように声を出して、その後、千里の手を取った。
「……にしても、こんな明け方に外に出るなんて……。どうしたのさ。トレーニングだって、もう少し遅い時間でしょ?」
「んー……。早くに目が覚めすぎた?一昨日、寝れなくてさ。ずっと人と話してて朝寝たんだけど……。」
「ふぅん……。」

総司は丁寧、なおかつ慣れた手つきで、千里の怪我の手当をした。
「……ところで千里ちゃん?」
「……はい……。」
手当が終わったあと。救急箱をしまう前に、総司はニッコリと笑いながら逃げようとした千里の腕をつかむ。千里は総司の顔を恐る恐ると見上げる。総司は「ん?」と言いながら黒い笑みをそのまま千里に向けた。
「僕さぁ……。言ったよね……?頼くんに捕まりそうになったら逃げろって……。僕を呼んでって。」
「うっ……。す、すまん……。」
千里はタジタジにながらもすまん、と謝ると総司はその目を細める。ほんの少しドスの効いた声で、千里の言った言葉をオウムのように繰り返した。
「すまん……?」
「ゔ……ごめんなさい……。」
「それでいいよ。」

ほんの少し目を細めて見下すと、千里は素直に謝った。総司としても、あまりこういうことはやりたくは無かった。しかし、こうでもしないと千里は反省をしない。ただでさえ、自己犠牲が酷い彼女だ。

誰かが叱咤したり、守らなければ、いつか彼女は人のため、命を落としそうだ。

だからこそ、嫌われるのを覚悟でこういうことを彼女に続けていた。これがお父さんだ、と言われる由縁なのだから皮肉だろう。
「あ、千里ちゃん。僕家まで送ってくよ。」
「……ありがと。」

2ヶ月前 No.150

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

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2ヶ月前 No.151

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

152話

「……で?」
次の日。平助は千里の家を訪ね、話を聞いて、最後に真顔で、一言だけどを口にした。
「いや……、その……あの……」

楔は平助と目が合わせられなかった。それ程までに恐ろしい怒気を孕んだ瞳、殺意を秘めた瞳をしていたから。千里だけはただ口をきつく結んで、まっすぐと平助を見つめていた。
「……あいつ、相当なことしない限り、"信じない"、"信じたくないなんて言わない。……だから敢えて言わせてもらう。楔、お前が悪い」
「楔は、悪くない。伊織が悪い。」
「は?何で?」
「……楔を信じきれなかった。それだけ。俺なら、楔を信じ抜くことが出来る。」
「はぁ?お前が?短気のくせに何言ってんだよ。」
「逆に聞くよ、なんで楔が悪いんだよ。」
「普通に伊織に、信じないって言わせるのが異常なんだよ」
「伊織なら普通にそういうのは信じませーんって言ってたぞ。それに早とちりの可能性だってある。」
「それは無い」
「なんでそうと言いきれんの?」

突如、始まった口喧嘩。楔は自分のことで、二人が争うのを申し訳なく思っていた。
「勝手に勘違いして別れるって言ったのは伊織だぜ?楔がいつ伊織のこと嫌いになったって言ったんだよ。」
「そんな勘違いさせるようなことばかりした楔が悪いだろ」
「俺だったら、どんなことしても楔のことは信じれるし、幸せにできるよ。」
「そんなのお前が決めることじゃねぇし、結局の所、楔は悪いんだよ。馬鹿じゃねぇの?」

俺だったら。
楔が一番嫌う言葉。伊織を卑下するような言い方。それに少なからずとも、吐き気を覚える。口元を抑えながら、2人に「ごめん、気分悪くなったから、トイレ借りる。」
そう言いながら、二人の元を後にした。千里の家は前入った時は明るい雰囲気だったものが、重苦しい雰囲気になっていた。楔がトイレから戻ると、更にギスギスとした空気は悪化していた。そもそもふたりは静かに言い争いをしていた。どちらも声を荒らげることなく。
「……伊織のこと、何もわかってねぇんだなお前。楔が100パーセント悪い。穴だらけじゃねぇか」
「……知らねぇよ、それを言うなら、お前だって楔のことなんも知らねぇよ。楔に穴なんてねぇよ。」
「は?楔には穴しかねぇよ。じゃあ聞くよ。伊織にはどんな穴があった。」
「楔を信じてやれなかった。俺なら、楔を信じてやれる。だって楔は好きなやつには一途だから。」
「は、どうだか。伊織と付き合ってるくせにお前と一緒にいるぐらいだぜ。信用ならねぇよ。」
「ふん、友愛も分かんねぇの?俺らはただの友達だよ。だから楔よりも伊織の方が悪い。俺だったら、絶対楔のことを裏切らない。伊織なんかよりも。」

伊織なんか。楔はその言葉に再びの吐き気を催した。これ以上ここに入れば、おそらく千里に恐がられる。それはなんとなく嫌だった楔は、「帰る、わ。」
と言って、千里の家を出ていく。「気をつけて帰れな。なんかあったら、連絡すれば迎えに行ってやる。」千里はそう言って、出ていく背中を見てから、平助に視線を戻す。
「……とりあえず、俺は楔は悪くない。伊織が悪い。そう思うから。これだけは、誰と対立しようと、皆と縁を切ることになっても……俺は折れない。たとえ、幼なじみの総司や、一、命の恩人如一と対立しても、だ。」
「あぁ、そうかよ。お前、最低な奴だな。」
「は?」
「どうせ、別れてラッキーだとか考えてるんだろ?」
「それは……っ、」
「は、肯定って取ってもいいよな?何も言えねぇってことは。」
「……。」
「お似合い、おめでとう、末永くお幸せに、ね。よく言うよ。」
「……うるせぇ。」

2ヶ月前 No.152

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

153話

「……もう知ってると思うけど……」
「うん、聞いた。」
「……そっか。……総司には悪いけど、俺は伊織が悪いって思ってる。だから……。」
「……そっか……。ごめんね、千里ちゃん。今回ばかりは、伊織は悪くない、って思うから。……平助君はどうするの?」
「……もう、縁切った。」
「……覚悟、したんだ、孤立しちゃう。」
「ごめん。」


千里はもう、総司は頼れない。たとえこの先、"どんなに酷いことをされても"だ。すると頼れる人など、千里はもういない訳で、怪我の手当も自分でやらなくてはならない。しかし、千里のことだ。確実に適当に止血して終わりにするだろう。

総司は、それだけが心配だった。千里は自分の怪我の手当というのは止血をするだけ。消毒も包帯もしない。
「お願い、誰かに頼ってよ……。」
そう、つぶやくことしか出来なかった。

それから3日後。鎖から連絡があった。ウゼェ、そう思いながらも開く。
伊織ならどれが好きかな、とか何すれば喜ぶか。それを尋ねるメールで、無視をすることにした。
なんとなく散歩に出かけた。ぼんやりと歩いてると窓辺でぼんやりとしている楔を見かける。
どんなにこっちに来ないようにしていても、無意識になると、やはりここに足が赴くらしい。

苦笑しながら、楔の家によることにする。理由としては下らない。
楔の瞳に光は灯ってなかったからだ。それにココ最近連絡が来ない。最近倒れていたとも噂で聞いた。病み上がりにあんな所で、ぼんやりとしていれば、ぶり返す可能性だって無きにしも非ずだ。

インターホンを押そうとすると出掛けるところなのか、鎖が出てきた。
「……楔に、なんか用?今あいつ何話しても聞かないと思うよ?」
「……そうですか。家に上がらせてもらいますね。お邪魔いたします。鎖さんはどこへ?」
「友達のとこだよ。頼や日向のとこ。」
「そう……ですか。」

千里は感情を籠らせずにそれだけを言うと、鎖に背を向けた。楔の部屋に入ると光の入らない瞳で窓の外の鳥達を眺めていた。
「楔。」
「じらい……。」
「外、行くぞ。そんな所で鳥みてたり、引きこもってたら余計に体調崩すぞ。」
「……でも俺、ここにいたい……。」
「ああ、もう……そんなだから伊織に誤解されたんだろ?……ほら行くよ。」

千里は楔の腕を掴んで、外に連れ出す。
「……どこ、行きたい?」
「……そうだな……水ぞ……いや、かめ……いや……」
「ああ、もうまどろっこしいなぁ……。」

いつまでもうだうだ悩んでる楔に、まどろっこしい。そう言いながら、千里は笑った。そこは笑うところではないのだが、なるべく明るくいよう。そう思った千里の精一杯の努力だ。
「まぁ、ともかく行きたいとこ言ってみろよ、どこでも付き合うぜ?」
「……あり……がと……。なんか地雷優しいね。気持ち悪い」
「気持ち悪いは失礼だぞ……。」
「じゃあ行くぞ、全部お前の奢りな?」
千里の優しさにほんの少しづつ心が軽くなる。冗談混じりに奢らせろ、と言うと千里は一度、顔を顰めた後、飽きれたように溜息をつきながら、奢る、と言い出した。
「あ?……しゃあねぇなぁ。俺様に任せな」
「ちょっと待って流石にお前女だし、女に全額ださせるとか面目立たないから半分は出すよ?!」
「なんだよ、ああ言ったりこういったり……。別に金には余裕あるし、給料入ったばかりだし……。奢るよ?」
「……なんかムカつく……。」

流石に楔だって一応千里は女だ、と思っているから、全部奢らせるのは気が悪かったし、それがもしほかの人でも同じだったろう。まぁ、昔はそんなことは無かったのだが。なぜだか千里の余裕が羨ましい、と思う反面、ほんの少しだけムカついたが、千里は高校に通いながらも楔より給与の高い本職をしている。そのせいでどこか千里は大人びた雰囲気を出す時や、伊織には劣るが、ほんの少しの威圧感もある。それは警察、という本職をしている時に限る話だが。普段の彼女からは想像もつかないようなテンション、話し方で、周りも少し引いていたぐらいだ。まぁ、ともかくそんな話は置いておくとしよう。楔がムカつく。そうつぶやくと、千里はあわてたように視線をさ迷わせ、ワタワタと手を動かした後にわため息を吐いて、苦笑しながら
「え?!あー……、ったく……。じゃあ半分出してもらっていい?」
と言った。
誰でも頼られるのは嬉しい。初めて、そう思った。
「……!!あったりまえだろ。俺男だし?」
「ふはっ……、はいはい。」

2ヶ月前 No.153

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

153話

二人は日向にいるのは暑い、ということで近くの公園で木陰に入り、アイスを千里の奢りで買って、食べながら、どうするかを話し合っていた。千里はスマホで日付を確認すると今日は祭りの日だということがわかる。
「……とりあえず、今日近くで夏祭りあるらしいし、そこ行くか?」
「んー、そうするか……。てか、その時間まで何して時間潰すんだよ。早く決めるぞ、」
「えぇ?それも俺決めるの?じゃあ……、動物園、とか水族館……どうだ?」
「動物園、水族館……ね……。……まぁ、この時期なら水族館かな……」
「おっけ、この辺だと確かー……。一駅先に桜木町の水族館があったはずだよな、そこにするか?」
「え、なに、お前このへんの地理分かんの?」
「……まぁ、警察だし?何となくなら。」
「……この辺で最寄りの動物園の行き方は?」
「んー、確かこの辺だったら学校前からバスに乗って5個から6個か?ぐらい先のワンワンぱぁくってところで降りて、南に二キロ歩いたところにあるんじゃなかったか?」
「……遊園地!!」
「遊園地!遊園地はねぇ、少し離れてるけど、確か司馬炎駅ってのがあるんだけどな、確かここの最寄り、桜才駅から、下りに乗って五個ぐらい先だったはずだよ。」
「……この辺で一番でかい映画館!!」
「……んー、近所にあるあの映画館はちゃちいけど、桜才の上りに乗ってまず、神々廻ってところで降りて、神々廻ってところで乗り換えして、連判ってとこにあったと思うけど?」
「……カラオケ!!」
「あれ、なんか俺質問攻めされてる?まぁいいや。確かカラオケは、楔の家からなら確か桜才駅東口行き出てたはずだから、それに乗って、終点で降りた目の前にあると思うぞ?」

「……お前と行けば迷子知らず、だな……。」
「あれ、なんか酷くね?全部なんとなくだよ。」

何となく。そうは言うものの楔は調べた上で場所を聞いたのだが、すべて全問正解していた。唯一違うところといえば、カラオケなのだが、千里の説明の方が分かりやすかった。
「なぁなぁお前、住所さえわかれば迷子になっても迎えにこれそう……?」
「どうだろ……。んー……県外は無理だけど、県内だったらいけんじゃね?」
「お前、まじ怖いわ……。お前ならぜってぇ犯人逃がさねぇだろうな……地形とか完璧覚えてるだろ……」

楔が恐る恐ると尋ねると、千里は一度考え込んでから、多分行けるよ、と笑いながら答える。というのも、千里は少し前に起こった……と言ってももう色々ありすぎて、正確な日時は覚えてないが、とある事件の反省からせめてこの県だけでも地理を覚えようと思い、覚えたのだが、何の因縁か知らないが、伊織のお陰でこうして街の地理を覚えるきっかけになった。し、それと同時に案外小学生とか子供たちの通学路に案外暗かったり人通りのない道を知る事が出来て、犯罪を未然に防ぐことが出来たので、結果的によかったのかもしれないが、伊織のおかげ、というのがほんの少し、心に引っかかりが覚える。
千里は楔の完璧に覚えてる、というのには、否定した。完璧ではない。まだまだ半人前だから。
「おっまえ……俺のことなんだと思ってんだよ……とりあえずほら、行くぞ?はやくしねぇとシャチのえさやりの時間とか、イルカのショー終わっちまうよ!」

いたたまれなくなった千里は、呆れながらもすっと立ち上がり、振り返る。千里はにしし、と笑って歯を見せながら楔の手を掴み、駆け出したのだった────

2ヶ月前 No.154

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

154話

「んー!やっぱりいいねぇ、マイナスイオン!ストレスから解放される気分になるよ。」
そう言いながら、千里はちらりと楔の方を見た。相変わらず瞳に光は灯らないものの、少しだけ顔が明るくなったことに千里はほんの少し安堵した。

「イルカってまじであんなに飛ぶんだな!初めて見た!」
「うっそだろ?!水族館初めてかよ」
イルカのショーを見終えた後。二人は水族館の中にあるカフェに来ていた。千里はミルクティーをノンシュガーで、楔はブラックコーヒを頼んでいた。もちろんこれは割り勘なのだ。二人はそこて、先ほどのイルカのショーの感想を話していた。千里は実は、イルカのショーを見るのは初めてで、イルカがあんなに本当に飛ぶとは思っていなかった知識としては知っていたが、実物で、実際に見るのは初めてだったからだ。お互いびしょ濡れになって、持ってきたハンカチで拭いたが、ほんの少しまだ濡れている。困る程度ではない。楔は千里の初めて、という言葉に呆れた顔をしながら笑う。そんな顔にドキリとしない訳では無いし、恥ずかしくない訳がなかった。それを隠すかのように下を向いて、メニュー表を眺める。
「あ……、初めて、じゃねぇけど……、なんつうかな、イルカのショーは、初めて?知識としては知ってたよ!けど本当にあんなにジャンプできるんだなって……」
「なんで疑問形なんだよ……。そんな奴いたんだな……」
「最後に行ったの小二だぜ?憶えてねーよ。ホンットお前失礼なやつだよな?!」
そんな失礼極まりない奴を好きなのは自分なのだと思うと、全く困ったものだ。
「…小2……?お前、遠足とかは?後は、社会科見学とか……」
「覚えてるわけねぇだろ……?それに小学校の遠足とか、社会科見学とか、かったりぃって言って行ったふりしてサボってたし……、遠足もサボったな。校外学習……だったか?それもサボった。修学旅行ってやつもサボった。運動会とか体育祭もサボった。アレでよく主席キープしてたよな。あ、でも小1と小2のは行ったな……覚えてねぇけど……。だから、ある意味、高校が初めてだよ、イベント系参加したの。」

千里は理由を話しながら頬を膨らませ、頬杖をつきながら、ストローで無意味にかき混ぜる。小2から、というのも、親が死んだから、そんなところには行けないと思っていただけで、今はこうして遊びに来ることが出来ている。それがほんの少し怖かった。楔は中学の頃を思い出す。思い出には伊織の姿とそれを邪魔するかのように総司や呆れた顔をした平助ばかりが浮かぶ。ただ単純に楔が伊織にしか興味がなかったせいなのだが、確かに言われてみれば、千里が学校のイベント関係には出ていないことを思い出す。それは当たり前で、千里はイベントの度にそのイベント前に暴動を起こして、参加拒否をしていたからなのだが。なのでお互い高校からの知り合いだ。

「……確かになんか中学でお前見かけた覚えない。学校全体のイベントで……。何かしらには出てたろ、流石に。」
「だろ?えー、どうだったろ。なかった気が……。あ、待って待って。でも卒業式と入学式と剣道の大会だけは出たよ。入学式は寝たけど。卒業式は確か俺答辞やった。よくあいつらも俺みたいな問題児に答辞なんつーものやらしたよな。剣道の大会は、俺強いからって喧嘩した後でも出場許可してもらってたよ!」
「おいちょっと待てよ」

千里は少し考え込むかのようにストローを再びカップの中でかき混ぜた。その直後。思い出したかのように胸を張りながら口にした言葉に楔はおい、と突っ込む。
「……まさかお前元ヤン?」
「うっせ、とある事情があってグレざるをえなかったんですぅー。まだ恨んでるよ?そのグレる原因を作った所。んで、多分……結構俺もそれなりに名を馳せてたらしいから、伊織には適わねぇけど、伊織の次に強かったって自分でも思うよ?伊織には勝てないわ、あいつ強いし」
「いや、お前それ胸張って言うことじゃねぇからな?!てか、元ヤンが学年主席取れる学校とか平気かよ……」
「……大丈夫じゃない?……元々俺一度中学変えてるし。」
「……は?」
千里は胸を張りながら、伊織には適わないが、その次に強いのではないかと告げると楔のまじのトーンで呆れた声が聞こえる。その後、ついぽろり、と口が滑ったかのようにちさとの言葉に楔は怪訝そうな顔で、見ると、千里は口を慌てて抑え、首に手を置いて、楔から目をそらす。
「えー、と……あー……うん。口が滑った。気にしなくていいよ。これアルコールでも入ってんのか……?……一応未成年なんだけどな……ま、いいか。」
「……わか……った。」

これ以上聞けば、多分千里はにっこりと笑いながら楔のことを諭したろう。君は知らなくていいことだよ、分かるよね、それくらい、と言いながら。そう思った楔は聞きたいところを抑えて口を噤んだ。しかし、千里は別に諭すこともなく、聞かれたら答えたい、とは思ってはいたが、まだ早い。そう思ったから、気にしないで。そう言ってしまった
────ごめんな、楔。まだ話せない。

そんなふうに思いながら、千里は話を変えるために、夏祭りの時間の確認をしたりしたのだった────。

2ヶ月前 No.155

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

155話

千里がイルカショーの話を興奮気味にし終えた後ふぅ、吐息を吐きすっかり氷の溶けきった紅茶を飲んだ。その後に、楔は最初は苦笑を零しながら笑っていたが、すぐにくすくすと笑い始めた。千里は「なんだよ、」と言いながら楔に目線を戻す。
「てか、地雷でもあんなにはしゃぐんだな?なんか意外だった……」
「なっ……、いや、俺だって年頃の女の子とやらだよ?!普通にはしゃぐからな?!」

千里は楔の「お前でもはしゃぐんだな。」その言葉に少なくとも驚いていた。それと同時にこいつ失礼だな、とも思っていた。なのに嫌いになれない自分が嫌いだった。楔は俺のはしゃぐ、というのは意外だと思っていたらしい。確かに千里は傍から見れば蚊帳の外でみんなの笑顔を見てる親なのだ。それは自分でも薄々とは分かっていたが、どうにもテンションが上がらなかっただけなのだが。

「普段の雰囲気からは見えねぇよ?!お前がああやってはしゃぐ姿。だってお前……、笑うつっても、俺が見たことある限りでは苦笑、微笑、冷笑……まあ、見たことあんのはあん時だけだけど。後は、歯を見せて笑う……一番マシなのこれか?まぁどうでもいいやそれぐらいだぞ?!」
「マジか……。そんなに笑ってなかったか……、あれでも笑ってると思ってたんだけどな……」
「マジだよ。お前笑うの下手くそだな、てかお前のその発言に俺はびっくりだよ。」

楔は千里の笑顔についてあまりにも下手くそだと断言をした。確かに昔は笑うのは苦手。今はだいぶ笑ってる気がする。だったので、改めて下手だと言われるとほんの少し落ち込む。楔も千里の笑顔にぎこちなさを感じる時があって下手くそ過ぎるだろ思っていた。しかし、ちさとはあれでも笑ってるつもりだということに楔は驚いて目を見開いた。そのあとに吹き出して、ケラケラと笑い始める。それを見た千里は不服そうに顔を歪めた。
「ひどい言い草だなぁ。……てか笑い過ぎだし、人のことなんだ思ってんだよ。」
「……おれをか……変人?笑うの下手くそすぎ?」
「ぶっ飛ばす。そこは否定出来ないから言わないで。てか、そんなに下手なの……か……なんか落ち込む……」

楔は言いかけた言葉を飲み込んで、変人、笑うのが下手?とまだ笑いながら言っていた何度も流石に下手だと言われるとすごく落ち込む。ションボリとしながら紅茶に口をつけた。そんな千里の姿を見て、誰といてもカフェとかではいつでも紅茶を飲んでいたことを思い出し、ポツリと口を開いた。
「……そう言えば、地雷って紅茶、好きだよな……。」
「え?……まぁ……死んだ、お母さんが好きだったんだよ、ミルクティー。それでちっこい頃から飲んでたら……かな。昔は砂糖なしだと飲めなかったのに……俺も成長したなって思ってんだよな……。」
「……ふぅん……」
千里は寂しそうに、口元を下げ、眉が下がる。
「そろそろ行くか、いい時間だし。な?」

千里はこのあとの言葉に困ってしまったのか、話を変えるようにそろそろ行こう、と口にした。 楔が自分の分を財布から出して、それを千里が受け取り、レジへと向かう。
「……です。……お預かりいたします。ありがうございました、またのお越しをお待ちしております。」

千里が流れるように会計を済ませ、楔の1歩後ろを歩いた。千里は楔の隣を歩く資格はない。そう思いながら、いつも楔の一歩後ろもしくは一歩前を歩いていた。たまに無意識に隣を歩いていたりするが、気がつくと少し歩幅を緩め、一歩後ろを歩いた。楔はそれを気がついていながらも、口にはせず駅まで歩く。
「あれ?千里ちゃんと楔じゃないの。」
「げ、永瀬……。」
「……!!よ……りくん……。」
「なんだよ、地雷知り合い?鎖のの友達だけど。」
「ま……まぁな。えと、俺のお母さんが死んだ時、お世話になってたお家にいたお兄さん、で……こ、こんな俺にも優しくしてくれた……いい、人だよ。」
「はぁ?こいつが?見えねぇわ……。」

千里が苦し紛れに出た言葉。頼はその言葉を聞いて、満足げに微笑むが、楔の信じられない、というニュアンスを込めた言葉に少しイラッとした。それを千里は収めるかのように、言葉を発した。
「ちょっと!楔それ失礼だから……!本当に優しくしてもらってたから!一番……っ、優しくしてもらってた。」
「そうだよ千里ちゃんには沢山優しくしてあげてたのに、いきなり出て行っちゃうんだもんビックリしちゃった。」
「ご……めんなさい、えと……頼くん……の優しさ……が、申し訳なく……なって……俺のせいで、お母さんが死んだようなもの、だったので……。」
分かってたんだ、それならいいんだよ。頼はそんなふうに思いながら、口元を歪めて、千里の頭を撫でた。千里は楔の前だからと嬉しそうに笑った"ふり"をした。
「気にしなくても良かったのに。まあ、そこが千里ちゃんのいい所……だよね。」
「気に、します……。……電車、来たみたいですし乗りましょう?頼君はこれからどこへ?」
「鎖のとこ。呼ばれたからさ」
「そう、ですか。」

千里は楔の手を引いて、電車に乗りこんだのだった。千里が背を向けた時の頼の顔は誰も知らないままだった────。

1ヶ月前 No.156

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

156話

千里たちが、祭りの会場につく頃はほんの少しだけあたりが暗やんでいて、人も既にたくさん来ていた。

千里が背伸びをしながら、人の波を見やりながら、呟く。
「おー……、やっぱ人たくさん居るなー…。」
「……っ当たり前だろ…………。」

楔は少しあたりを見回して、気がついてしまった。伊織の姿に。そのあとすぐに気がついてその場を離れようとした。しかし、
「あれ、楔と千里ちゃんじゃない。どーしたの。こんな所で」
「っち……気分悪ぃ……」
楔の兄、鎖に見つかってしまった。そして楔は同時に気がついた。伊織は鎖といたことに。
「まぁまぁ、楔。そんな事言うなって」

千里は苦笑を零しながら、楔を宥める。
「昨日まで、散々吐いて熱も高かったのに、今日は大丈夫なの?」
「……え?!楔、大丈夫?!体調悪かったの?」
「伊織ちゃん……、うん、今日はもう平気。気分転換にって思って来たんだけど、たまたま地雷に会ったんだ。」
「うん。駅で会ったから、行く場所どうせ同じなら一緒に行くかってなって。」

千里は普通に答える。ここで、楔に迷惑をかけたくない。本音を言えば、今日は2人で遊んでいた────。そう言いたかった。けれど、楔の"たまたま地雷に会ったんだ。"それを壊すのは忍びなくて、千里もそれに合わせた。
「そっか。それなら良かったよ。楔、体には気をつけてね?」
「う……ん。」
楔は悔しそうに下を向いた。諦められていなかったのだ。それほどまでに伊織のことを好いていたから。
「っと、千里は初めまして……、かな。地雷日向さんと永瀬頼さん!!千里と同じ苗字の人がいたんだね。」
「ひな……た?あ、でも頼くんは知ってます。小さな頃、お世話になったことがあるんです。優しくしていただきました。」

確かに千里は初めてだった。この人に会うのは。けれど、千里の口の中で、日向という言葉はどこか懐かしくて、ものすごく腹が立った。そして頼に関しては、もう機械のように、同じ言葉を繰り返していた。千里はその後にすぐに日向へと向き直った。
「あ、日向さん。申し遅れました。俺地雷千里って言います。奇遇ですね。同じ名前なんて。」
千里は少しだけ口角を上げ、自己紹介をした。日向はその千里の顔を改めてみて、驚いていた。目を見開いて。
「……千里……?!」
「……?日向さんは俺のこと知ってるん……ですか?ごめんなさい、俺……覚えてないんです。どこかでお会いしましたか?あ、でも……。なんか日向さんの顔みてると、ぶん殴りたくなります。」

千里は覚えていなかった。けれど、どこか写真で見た兄の面影を持っていた日向。それもそうだろう。千里の兄なのだから。しかし、千里はぶん殴りたくなる程度で、思い出すことは無かった。
「あ……いやごめんね?知り合いにちー……千里ちゃんによく似た人、知ってて。」
「大丈夫ですよ。俺もちゃんと顔は知らないですけど、日向さんによく似た人、知ってるんです。……俺の兄で、母さんが死んじゃう時、行方不明になっちゃったんですけどね。その人に日向さん、よく似てて。ついついぶん殴りたくなりました。……悪いくせですね。」

日向は自分の妹に恨まれてることを改めて痛感することになった。千里は兄と出会ってはいるが、気が付かないし、言われたら拒絶をするだろう。
「ふたりきりだったのに、邪魔して、ごめんね?千里。」
「え?別にいいって。2人きりじゃなかったから……。たまたま会っただけだって。」

伊織の悲しそうな顔を見てると、なんだかとても悪いことをした気分になる。
────何やってんだろ、俺。
正直、楔と伊織が別れたと聞いた時、「何で?!」と思ったと同時に「嬉しい」。そういう気持ちも芽生えていた。そんな自分が嫌いで、嫌いで仕方がなかった。

────千里と居ないでほしい。
本音を言ってしまえば、楔と千里は一緒にいてほしくなかった。千里は楔の事が好きだし、楔も自分といる時よりも自然で、自分が見たことないような顔をしていた。
自分だけに向けられる愛しい人を見つめる顔には気がついてはいたけれど、それでも千里しか知らない顔があるのは嫌だった。そんなに自分が嫌いだった。
「でも……」
「っと、楔がそろそろ体調悪化してきたっぽいし、俺楔と帰るわ。……伊織は……どうする?」
「……鎖さんたちと居ることにするよ。」
「……そっか。んじゃあ俺らは帰るね。
……ほら、体調悪くなってきたなら帰んぞ、楔。」
「……ごめん、地雷……。」
「いいってことよ。」

千里は伊織の言葉を遮るように声を出した。着いてくるか、と聞いたが本音を言えば、着いてきて欲しくなかったので、着いてこない、と言った時は嬉しかった。それと同時にまた、自己嫌悪に走った。

2人は祭りに行く人たちとは逆に歩いていた。遠くで祭囃子が響いてきて、もう夏も終わるし、夏休みも終わることを世の中に知らせていた。
千里は楔を家まで送り届け、帰路につく。その間、千里は今日までしてきたことと今思ってる事の矛盾の多さに乾いた笑みが零れた。
「はっ……、やっぱり俺あいつの言う通り最低で最悪なやつだな……。」

それでも、楔を好きなことは変わりない。それだけだった。────楔なんか好きにならなきゃよかった。そう思うことすらできなかった。
「はぁ……。」
千里のこぼしたため息の理由は誰も知る由がないし、このため息は何かの決意を込めた溜息だということも誰も知ることは無い。

1ヶ月前 No.157

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

157話

2日後。暑くて色々あった夏休みも終焉を迎え、新学期を迎えた。千里は剣道部には顔出しをしようか悩みながらも顔だしするつもりでモヤモヤとした思いをしながら早めに出ると、学校の近くで、楔を見かける。千里は駆け寄って声をかけた。

「おはよ、楔。」
「はよ。……地雷、今日早いんだな」
「まぁな!今日剣道部の……やっぱ今日は参加やめておくわ。」

今日は剣道部の、朝練で家を早めに出た千里だったが、ついこの間楔と伊織のことで、平助は疎か、総司ともほんの少し疎遠になってしまった。だから、剣道部には顔を出しにくかった。
「あー、今日から学校とか嫌だなぁ……。また睡眠時間削られる……。」
「んだよまた仕事?」
「まぁ。でもでかい案件入ってないだけまだマシ、かな。」
「……大変そうだな……」
「大変だよ、当たり前だろ……。」

千里は、二日前、決めていた決意は揺らいでいた。タイミングが掴めずにいたから。グダグダとしてる間に学校についてしまう。そう思った千里は途中で歩くのをやめ、前にいる楔に声をかけた。
「なぁ、楔。」
「なんだよ、遅刻するぞ。」
「まだしねぇよ!
……俺と、付き合ってほしい……んだよ、えとその……、俺なら、伊織といる時より、楽かなって思うし……その、楔のこと……ずっと信じてられる、から……。それに、俺、は楔のこと好きだから……さ。だから……付き合って……ほしい……。」
千里は不安だった。声は震えていないかとか、ちゃんと声はでてるか、とかそんなこと。そして、ちゃんと……。最後まで聞こえていたか。
千里の声はきちんと楔まで届いていた。しかし楔は悩んだ。このまま、伊織を好きでいいのか。伊織を卑下するような人と付き合ってもいいのか。ほんの少し悩んでから、ニッコリと笑いながら、千里返事を、した。

「……うん、いいよ?」

楔は、伊織を諦める、という選択をした。
「え……?」
「付き合おっか。」
「え、……は?」

千里は信じられない、とでも言いたげに楔のことを二度見した。「ホントだよ、」と言うと千里は呆然と楔のことをまじまじと見つめていた。
「ほら、行くよ。……始業式遅刻するから。」
そう言うと千里のところまで歩いていき、千里の腕を引っ張る。千里はその後に、モゴモゴとしながら口を開いた。
「こ、ちらこそ……お願いします……」
「おぅ」

1ヶ月前 No.158

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

158話

千里はいつも学校に行くのが億劫だった。というのも学園の近くに永瀬家があることについ最近気がついた。昔は、周りなど見ていなかったことに気がつく。

「ねぇ……。地雷。いきなり歩数緩めないでよ……。」
「……あぁ、ごめん。顔、合わせにくくて」
「……お前は気にしなくていいよ。」
「……ん……。」

その後は、少し軽くなった千里は歩く。校門の近くまで来ると千里は本当に足を止めた。
「ぁ……」
「……?どうした?」
「……なんでも……ないから。平気。」

目線の先にいたのは千里が忌み嫌い、そして恐れている頼と、個人的に余り好きではない鎖が立っていた。2人ともそれなりに顔は整っているし、社会人ということで目を引いていた。
「彼女さんとか、きになっている人ぉ、いるんですかぁ?」
「もう結婚とかしてたりしますぅ?」
「……ごめんね、俺は伊織ちゃんのこと好きで、こっちの頼ってやつは千里のこと迎えに来たんだよ。だから、ごめんね?」
「そうですかー、やっぱり橘さんと地雷さんなんだね……。でも地雷って人は私好きじゃないんだよね……、なんか怖いし……。」

千里には会話内容が聞こえていない。それどころじゃなかったから。しかし、ほとんど引きずられるように千里は少しづつ学園の校門に近づいていく。少しづつ千里の足取りは重いものとなりつつあった。楔はそれをわかりつつもここで止まれば、千里の足は動かなくなるとわかっていたから、無理矢理にでも進んだ。

「……あ、楔。……千里ちゃんも一緒、だったんだね?」
「ぁ……、はい。一緒……です。」
「千里ちゃん伊織ちゃんのクラスってどこ?」
「伊織……ですか?伊織、ならBだったはずですが、多分まだ来てないと思います……。」

千里は黙って楔と繋いでいた手を離す。頼の視線が千里に向いていたからだ。視線に気がついた楔は仮ではあるが、千里を守ろうと思い、千里の前に立ちはだかった。
「あ、楔君。そこ、退いてくれないかなあ?俺ね、千里ちゃんに用があるんだ。大丈夫、悪いようにはしないから。」
もちろんこの悪いようにはしない、というのは嘘だ。頼は教育と称して虐待を繰り返しているような人だった。前に一度千里はそれで倒れたことがあるのだが、それは知らない。し、知ったとしてもやめるつもりなんて一ミリもなかった。しかし なかなか退こうとしない楔の態度は気に食わなかった。
「大丈夫、大人しく千里ちゃん引き渡してくれたら君の一番大切な伊織ちゃんには何もしないし、鎖からも手を引かせるように務めるよ……?」

────もちろんのこと、嘘だった。楔を千里の前から退けられればなんでも良かった。しかし、楔はどかなかった。伊織の事は心配だったが、もし伊織に傷一つついたら、この男────────。鎖も許さないだろう。それを楔は分かっていたので、動かなかった。苦渋の判断だったが。

「退かない……か。ねぇ、千里ちゃん。今って伊織ちゃん……どこにいる?」
「……わ……からないです。……ご……ごめん……なさい……。」
「…………。ふぅん。でもまだ来てないよね?家は?」
「……わかり……ません。ごめんなさい……。」

頼は千里のことをまじまじと見つめて、ニッコリと笑った。家を知らない。その嘘に気がついたから。
「楔が退かないなら、伊織ちゃんのとこ行っちゃお!俺、伊織ちゃんのこと好きになったんだ!ほら、類は友を呼ぶとか言うじゃないか!」

もちろん、これも嘘だ。楔が千里の前から退きさえすれば、どうでもいい。そもそも手を出したりすれば後ろにいる鎖に抹殺されるだろう。それがわかっていた彼は、"伊織には手を出さない"が、"手を挙げない"と約束する保証はなかった。

頼は
「あ、橘ちゃんだ!おーい!!」
「……えと……、確か鎖さんのお友達の……」
「永瀬頼です。いつも千里がお世話になってるね。」
「え……あ、千里の小さかった頃お世話になってた人!」
「早々、その人。」

平助は、千里、という言葉にほんの少し顔を顰めるが、何となく嫌な雰囲気がしたので、平助は伊織の前に立った。
「……何のようですか?オニーサン。」
「あれれ……なんか俺警戒されてる?そんな怖い顔しないでよ、やだなぁ……。」

楔は平助の眼は気に食わなかった。元からイライラしているのもあったので、余計に気に食わない。それはもちろん伊織も同様に気に食わなかった。理由は下らない。自分の名前を覚えようともしないから。人が聞けば、それだけで?と聞きたくなるようなことだが、よりは些細なことで、イライラするのだ。
「テメェ、伊織ちゃんに汚ねぇ手出触んじゃねえよ!!」
「は……?!」
「おー、楔かっこいいー!」
「楔……?!」
「あいつばか……っ」

頼が伊織に手を伸ばした瞬間、楔が動いた。伊織は呑気に楔かっこいい。平助は現状を把握しきれていないかのように、楔の名を呼んだ。千里は青ざめた顔で、バカと小さく呟いた。

頼はふらつくものの、着地をした。
「楔君、君強いんだねぇ。ビックリしちゃった」
「うるせぇ!!」
「でも、君は伊織ちゃんを選んだ。ということで千里ちゃんは連れて帰るね?」
「……勝手にしろ!」

楔の選択は間違っていた。しかし、楔は伊織さえ良ければ、千里なんて取るに足らない。千里はそれがわかっていたので、大人しく頼に着いていった。ここで抵抗すれば後で行われる"教育"が激しくなるだけ。

最後に一度だけ振り替えると、伊織の心配そうな顔、平助の複雑そうな何やら考え込んでいる顔、楔の顔は────見えなかった。

「ほら、千里ちゃん行くよ。」
「……はい。」

後ろにいる2人に悲しそうに微笑んでから、千里は頼の元へと駆け寄ったのだった。

伊織に「千里の様子がおかしい」そう聞いた楔は後ろを振り返って、小さく後悔をした。でも、伊織は無事だったので、楔は良かった
「伊織ちゃんが無事なら、地雷なんて、どうでもいいの。」
「え……?」

1ヶ月前 No.159

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

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1ヶ月前 No.160

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

160話

午後10時。傷だらけになった千里は夜の街を歩く。亜留斗の元へ向かって。不意に顔を顰め、口元を拭った。
「血の……味がする……。」
どうやら、口の中まで切っていたらしく、口の中には血の味が広がった。不快な味に千里は制服の袖で再び拭った後、口の中に溜まっていた血を吐き出す。

あの後すぐに頼は戻ってきた。やはりあそこでの判断は正しかった。それに1日も待たずに、伊織をどうするかと聞かれ、千里は苦渋の決断で、「伊織は……わたさない」と睨みを聞かせて言った。
もちろんその後、首を縦に振るまで殴られたのだが、流石にぶっ続けで殴り続けるのは頼だってキツかった。散々殴られた挙句に、放り捨てるかのように、外に投げ出された。
当然しばらく動けないはずなのだが、千里は無理やり立ち上がり、ふらふらとした足取りで、永瀬家を離れ冬木家が経営している病院へと向かっていたのだ。
「明日も続くのか……。」
頭に手をやると、あの懐かしい、ぬるりとした感覚で、「ひっ……」と声が出る。しかし、あたりを見回しても、誰もいない。ということはこれは自分の血だ。そんなのは当たり前なのだが、吐き気がする。
「……痛いし、気持ち悪……。」

「馬鹿なのか?!きみは!」
千里が傷だらけの姿のまま病院に着くと、すぐさま亜留斗が呼ばれた。俺の姿を見て亜留斗は開口一番、馬鹿なのか?!と叫ぶ。
「何故幼馴染み達を頼らなかった!」
「……こんなに殴られたの、初めてですから。こんな血まみれの姿、見せられないでしょう。……ごめんね、亜留斗。」
「全く君は……。とりあえず止血はしたのか?」
「うん。一応な。俺が死んだら……今死んだら、あいつは」

そこで言葉を切った。恐らく、ここで今千里が死んでしまえば、おもちゃをなくした頼は真っ先に伊織に手を出すだろう。そう思った千里は死なないように止血だけは施した。
「とりあえず、車で帰りは帰りたまえ。次は、ないからな」
その言葉に、明日からは自分で手当てをしなくては。そう思いながら、「はーい、」と答え、足を引きずりながら、歩き亜留斗の用意した車には乗らずに、歩いて家まで帰った。

「……疲れた……。」
家に着く時には既に心も体も疲弊しきっていて、布団に倒れ込むように寝っ転がって、数分もしないうちに、寝息を立て始めたのだった────。

1ヶ月前 No.161

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

161話

次の日。なるべくこの姿を見られたくなかった千里は普段より早めに家を出た。
しかし、そこにはウトウトとしながら歩いている楔を見つけてしまった。やってしまった。そう思いながらも声をかけないのはおかしい。そう思いながら、極めて明るく声をかけた。

「くーさびっ。はよ。」
「……地雷は元気だな……はああああっ?!」
「……んだよ、ん何驚くことか?これが。てか近所迷惑。うるさい。」

楔はやれやれと言いたげにこちらを振り向いた瞬間、大きな声を上げた。はっきり言えば、耳で響いたし、怪我にも響いた。
「いやいや!!驚くよなぁ?!昨日まで怪我一つしてなかったやつが次の日大怪我で包帯巻いてたら!!え?!てかお前のせいだよな?!なんで俺そんな迷惑そうな顔で見られないといけないわけ?!」
「……そう?お前うるさいって。」
「お前の常識は俺らには通用しないからな?!……どうしたんだよ、その怪我。」

千里はその言葉に、一度言葉をつまらせる。"頼に殴られた"そんなことを言って信じてくれた人は居ない。だから、千里はそのことを口にするのはいつの間にか、いけないことだと自分に言い聞かせた。
「えっと…………寝ぼけてて……階段から落ちた。こりゃ見事にゴロゴロって。しかも打ち所悪かったらしく、頭から血が出てて……。血痕拭くの大変だった……。」
「いやいやいや!!階段から落ちたとしてもそんなふうになる奴いるか?!初めて見たよ!!」
「知らねぇよ!!俺覚えてねぇもん!!」
「お前がもんとか言っても気持ちわりぃから言うなよ!!」
「知ってるよ!!俺も思ってたよ!!」
千里のほんの少し悲痛な声で、楔はそこまで言うと、ハットしたように頭をガシガシと掻きむしった後に、溜息をしてから、心配の言葉を投げかける。
「……はぁ、気を付けろよ、跡残ったらどーすんだよ。」
「……全部アザだから残らないよ、頭は分からないけど……。」
「……可愛くねぇやつ」
「……しってる。」

そんな会話をしながら、千里は本の束の間の幸せを感じていた。偽りでも良かった。楔の隣を歩けれれば。例え楔が自分を見てなくて、自分を通して伊織を見てることをわかってても。

学園について、楔と別れてから、千里は平助の元へと向かった。
「藤堂。暫く伊織のこと守ってやってほしい。……永瀬頼から。……頼んだよ。」
「……?!おい、地雷!!なんだよその怪我……!!」
「……階段から転げ落ちただけです。……他に用は?」
「……そうか……。伊織に関することありがとう……。」
「……ゴメンな、藤堂。俺じゃこのざまになるから、お前に任したよ。」
「……?」

平助は意味が分からなかった。何せよ、平助は何方かと言えば千里より弱かったから。その千里があの大怪我をするなら、絶対に自分では敵わないだろうに。理由を知らないから、そんな風に思うからなのだが、理由を知っていたら、もしかしたらこんなことにはならなかったのかもしれない。
しかし、今はあくまでも敵対している。なのに、その喧嘩の原因である伊織を守れとは、どういうことなのか、本当に理解は難かったのだが何にせよ、永瀬頼────。あいつは警戒することは決まっていたことだった。

1ヶ月前 No.162

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

162話

その日から、千里の怪我は増えてくばかりだった。治らなかった。
楔は何度も聞いた。そのたびに「警察の仕事で」「階段で転んで」「ヤクザグループの喧嘩に巻き込まれた」
と毎日理由が変わっていく。千里はこうも嘘がポンポンと出てくることに驚きつつもほんの少し引いていた。
「……。本当に千里ちゃん嘘下手くそだよね……。」
それを影で見守る一人の影に気がつくこともないまま。

千里は今日も呼ばれていた。
しかし、いつもは家の中だったのだが、今日は永瀬さんご夫妻がいるということで、外での暴行となっていた。
千里はそれに冷や冷やしていた。バレたら嫌だ、バレたくない。やだやだ……。
バレたら嫌だ……その人と共に、死を選ぶ……。
そう思っていると、珍しく早めに暴力が終わった。なんか、あったのだろうか。頼が去った後に、千里はゆっくりと立ち上がり、いつもより泥だらけになった制服に目を落としてから、制服についたホコリを払い落として、隠れていた場所から出ていくと

「……地雷っ……!!」
「…………?!く……さび?!
……あーあ。見られちゃった?」
「あーあ。見られちゃった……じゃねぇよなあ?!今お前……っ!!」
「殴られてたね?」
「なんでお前そんなに呑気なんだよ!!」
「……俺が諦めれば、伊織は無事だから。俺が我慢すれば、みんなが、無事だから。」

なんで呑気なのか。千里は分からなかったけれど、適当な事言っていればいいし、伊織をまもるためだと言えば、楔は引くと思っていた。「そっか、」と。しかし、千里の読みは物の見事に外れた。
「ばっかじゃねぇの?!人を守るため……伊織ちゃん守るためとはいえ、お前が犠牲になる必要なんて……!」
「……じゃあ……伊織売ってもよかったの?アイツに伊織渡したら何するか知らねぇよ?俺。」
「……伊織ちゃんを傷つけたら、殺すまでだ。」
千里は敢えて、嫌われるような言動をした。嫌われたら、この気持ちを諦められる。そう思ったから。伊織を出汁に使った。それはたしかに事実でもある。何をするかわからないのも事実だ。それを言うと、楔は頼の向かった方向を睨みつけた。
「……はっ、無理だよ。楔には。……大丈夫……。俺がサンドバッグになってる限りは伊織には手を出さない。そう約束させたから。」
「……っ……。」
「さて、俺は帰るよ。」
「待ちなよ、千里。」
千里が楔に背を向けて歩き始めると、楔が千里の名を読んだ。千里は有り得ない。そんな目で楔のことを振り返りながら見つめた。
「……は?」
「……手当してやる。ついでに、その怪我の原因、お前に親がいない理由話せ。……それに約束だろ。"俺とお前がつき合ったら秘密を教えてやる"って……。」
「えぇ……、それ有効だったの……」
手当してやる。そう言いながら、呆れたように口を開く。千里は、前に約束していたことを持ち出され、えぇ、と不満げな声を上げた。
「当たり前。ほら、千里の家でいいから。いくよ。」
「あっ、楔待って……」
楔は当たり前、と言いながら千里を支えてやるように隣に立った。それというのも、千里の過去にようやく知ることが出来るから。けれど、それはずっと誰も触れることのなかった、いや出来なかった千里の深い深い闇の中。楔はまだ、知らなかった。千里が自分が思ったよりも深い闇を抱えていたことを────。

1ヶ月前 No.163

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

163話

「……地雷、これは?消毒した?」
「……一昨日の……怪我、です。してないっす……」
「……。このあざは?冷やしてないみたいだけど。」
「ええっと……昨日……かな?」
「……はぁ……。」
楔が手際良くテキパキと怪我の手当てをしていくのを千里はぼんやりと眺める。見蕩れていた、と言ってもいいかもしれない。楔はその視線に気がつくと、顔を上げて「なんだよまだどっか怪我してんの?腹とか腰だったら、やり方教えてやるから、自分でやれよ。」と言われた。「そんなんじゃねぇよ!」と言いながら楔から視線をそらした。楔は珍しく長袖シャツを着ている千里に半袖になるように命じ、千里のアザの数を見てゲンナリとした。それに切り傷等は特に目立った手当は施されてなく、洗っただけ、というのが丸わかりしてしまう。手当てが雑なので、自分でやったことは、バレているのだが、楔にはわからなかった何故、千里はこうも自尊心が低く、自分のこととなると、とてつもなくズボラと言うか、扱いが雑なのか。もうすこし、自分の身体を労わって欲しい。楔がため息を吐くと、千里は頭を掻きながら、謝る。
「いやぁ……面目ない。」
「お前本気で言ってる?てかお前頭怪我してんだから触んな。」
「……すんません……、ぶっちゃけ手当めんどかったです!!」
「……帰る。」

千里が面倒、と叫ぶと楔はあきれたように帰るといった
。千里はそれは有難い話だし、出来ることなら人に話したくない、話せない過去だったので、その方が都合がよかった。帰ってくれた方が。
「あ、うんバイバーイ。」
「まてまて待て!!俺はまだお前との約束のあの話を聞いてない」

「っち……覚えてたか……。……飲んでいい?素面だと、ほんとまじ無理な話だから。」
「飲んでいいかって……普通聞くか?
……つかなに飲むんだよ」
「さ……オレンジジュース?」
「……飲まなくてもいいよな?」
「ウィッス……。」

千里が覚えていたか。そう言いながら舌打ちをしながら、飲んでもいいかを聞いた。楔はさほど強くない。それを知っていた。……飲ませたことがあるから。だから、千里は飲んでいいかを聞くと、ぎゃくに何を飲む、と聞かれた。思わずお酒、と答えそうになったが、直前で、オレンジジュースにかえる。飲まなくていいよな、と言いながらニッコリと笑う彼に千里は何も言えなくなり、渋々シラフで話すことになった。ここで吐いたときのための用意はしていないので、吐かないために努力をしよう。そう思いながら、口を開いた。

「……まぁ、俺も昔はそれなりに幸せで、裕福なくらしをしてたんだよ。両親ともに警察で、母さんなんてすげぇんだ。警視総監にまで上り詰めたんだよ。……とりあえず待って、吐き気止めそこの箱に入ってるから……持ってくる……。」

やはり、吐き気はするので、吐き気止めを棚から出して、楔が持ってきてくれたコップに入った水とともに飲み込む。しばらくすれば吐き気は抑えられ、話せる程度になってきたので、また楔に向き直って無理に笑った。
「……とまぁ、こんな風に話すのでさえも無理なぐらいのトラウマだけど、約束しちまったしな、話すよ。それで、父さんは母さんの片腕で、補佐官だったんだ。警察庁に行く度に聞かされる父さんと母さんの武勇伝は俺の自慢だよ。……んで、父さんと母さんがいない理由は……この様子なら事件で殺された。そう思うのが妥当だろ?けど、違うんだよ。」
「……は?」
「その詳しい話もいまするよ。憶えてないとは思うけど、俺の誕生日の近くにとある大きな犯罪組織の一部を母さん……っと、父さん……が、捕まえて……っ誕生日が近かったんだけ……ど、父さんと母さん、俺の誕生日だけの為に家に帰ってきて、プレゼント買いに遊びに行こうって話になったんだ。……けど……その帰り……に……っ……」
「……地雷?」
「おぇ……っ、……だい、じょうぶ……。もうどんな……状況……のとらっ……くか……わすれたけど……、その……トラック……にぶつけられて…………父さんと母さん……は、潰されてた……。まだ……いきはしてた……から……近くにいた……ひとが救急車……読んでくれたんだけど……その……病院……では……まま……とパパ……見捨てられて……それで……その後……俺、は永瀬家に引き取られた。」

千里が顔を一気にあおざめると、楔が心配そうに声をかけた。千里はそれに大丈夫ではないが、大丈夫だと答え、続きを話した。
あの事件は世の中を騒がせていた連続強盗殺人事件。それなりに被害も大きかったし、組織も大きかった。だから一度で全員は掴まれられず、組織の十人ぐらいに逃げられてしまった。なので警察ではまだ厳重警戒が敷かれていた。しかし、その最中に父と母は無理やり帰ってきて自分たちの子供の誕生日を祝うのと、子供を守るために────。其の帰りに父と母は襲われた。あの日の光景が瞼の裏にまだ宿っていて伊織のあの時の姿と被った。はっきり言えば、目からは涙が止まらない。喉も引く着いてうまく声が出せない。それでも誰かに話さなければ、この過去は断ち切れない。そう思ったからこそ今話せているのだと思う。
「その……後、暫く、は頼君も優しかった……けど、軽い……暴行ぐらいで。でも、段々エスカレートしてった。その、うち……永瀬さんご夫妻にも……されて……。……まぁ、俺がグレるのには充分すぎたし、そのグレたのが原因で
もっと殴られてたんだけどね……。いつの間にか心は死んでいて、いつごろぐらいかな、痛みも消えてた……。そんな時だよ。如一が助けてくれたの。」
「……。」
「今でも父さんと母さんのことが夢に出ると、気持ち悪くなる。でもね、俺さぁ昔はこうやって話すだけでもこの場で吐いてたから。俺ね、親が死んで虐待されてる時。死のうとしたけど、俺、弱虫だからさ。無理だったよ。ごめん……トイレ行ってきまーす。」

確かに頼は最初はそれなりに庇ってはくれていた。ほんの少し八つ当たりはされていたが。しかし、段々日を追うごとに、その暴力行為はエスカレートしていき、いつの間にか、こんなにボロボロになるまで蹴られたり、殴られたりするのだ。義理の母にも父にも殴られたりしていたら、それは確かにグレるかもしれない。父と母を医者に見捨てられ、殺された挙句に虐待だ。グレるだろうし、心もいつしか死ぬだろう。最悪、自殺を選んだ。しかし千里にはそんな選択ができなかった。怖かったのだ。死ぬことが。
千里は全てを話終えると、いつも自慢している脚力でトイレへと一気に駆け込んだのだった────

1ヶ月前 No.164

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

165話

千里が落ち着いて来たので、部屋に戻ると、楔が部屋の隅に置いてあった本棚から適当な本を読んで待っていた。千里に気がつくと、顔を上げた。
「もう大丈夫なのか?」
「……うん……。何、お前待ってたの?」
「あんな体調悪そうなやつほっておけるかよ……。それに俺だって、お前に面倒見てもらったことあるしな。」
「え……、あー、あれね、アレ。うん」
千里はあの時のことを思い出して、苦笑をした。あの時は、自分が悪かったので、面倒を見たのであって、楔は悪くなかった。その事もありこうしてもらうことに罪悪感を感じていた。

「お前……案外……。こんなちっせぇ癖にやばいもん背負ってたんだな……頑張ったな。」

「……伊織には負けるよ。俺、自分の部下あん時初めてこんなに使えないやつだったのかって思って、すげぇ悲しかった。……伊織には悪いことをしたよ。……だから、俺は自分が殴られたくないからって……!伊織を頼なんかに渡す何て最低なこと……出来なかった。悩まなかったわけじゃない。でも……出来なかった。俺、最低なヤツだから……下心もあるし。」

楔は頑張った。そう言いながら千里の頭を軽く撫でる。その優しさが千里を追い詰めた。
下心。
それは楔にも言えない、千里の汚いところ。確かにあの時、伊織を差し出せば、伊織という邪魔、そして、千里の罪悪感を増す人はいなくなる。けれど、そんなことをしてしまえば、本当の意味でもう2度とこんなふうに話せない、頭を撫でてもらえない。
────楔に、会えない。

それが嫌で、伊織を差し出せなかった。ふと、頭に温もりがなくなると、楔は帰る用意を始めていた。
「……とりあえず、もう平気か?」
「あ……、うん。ごめんな、遅くなっちまって。」
時計を見ると、既に夜の七時を回っていた。外はまだ明るいが、暗くなりつつある。
「楔、送るよ。」
「お前なぁ……女の子に送ってもらう男がどこにいんだよ……。危ないからいーよ。」

楔は千里に背を向けながら手を振った。千里はその優しが嬉しくて、どこか悲しかった────。

次の日。
いつも通り学校に行こうと家のドアを開けると。いままさにインターホンを押そうとしている楔が目に入った。
「……なんだ、押す必要なかった。」
「楔……?」
「……そうだよ。ほら、手出せ。支えてあげるから。」
「……ありがと。」
「……別に。」

楔は門を開けて、千里の手を取って、千里がなるべく傷で痛むことのないように歩き始める。
「やっぱ、鎖さんの弟だなぁ」
しみじみと、千里が言うと、ゲンナリとしたように楔が振り返る。
「あんなのでも兄さんかと思うとムカつく。」
「あはは……、」
「そうだ、それで思い出したけど、お前の兄さん。この間の祭りん時にあった日向だとよ。……殴りたきゃ殴れば?」
「まじ?!あいつ俺の兄さん……?……はぁ分かった。出会い頭に1発渾身の力を込めて殴る。」
「……言うと思った……。それならちゃんと怪我、完治させろよ。」
「……うん。」

教室まで送ってもらい、自分の席でぼんやりとしていると伊織が、頼と共に校舎裏の方へ向かうのが見えた。ひとりで行くことも考えたが、恐らく千里は殴られて終わるし、怖くて声が出るとは思えないし、千里の声では誰も集まってはくれはしない。ならば、楔を呼ばなくちゃ。

でも足が動かなかった。けれど、頼の様子が普段と違った。それに伊織も警戒もせず、近くに駆け寄る。……前から交流があった……?
千里は楔に知らせることなく、頼の元へ向かった。

「……ちゃん……ない……?」
「……い。……ないです。」

会話が良く聞こえない。千里はもう少し近くに寄るために、一歩を踏み出した。
「誰?!」
頼が声を上げる。頼の冷たい瞳が千里を捉えるなり、口元を歪める。
「千里ちゃん!ちょうどよかったぁ、今から、そっち。行こうと思ってたんだ。」
「っあ…………、」
「当然、家に来るよね?放課後。迎えに来るよ。」
「っはい……。」

頼はそう言ってから、伊織のあたまをやさしく撫で、校門から出ていってしまった。
「こわ……かったなぁ……。」
「千里、頼さんと知り合いだったんだね!」
「……まぁ、」
「あの人"優しい"よね!」
「……は?」

確かに前から交流があったなら、伊織には傷ができてる、もしくは自分みたいに長袖を着たりしてあざを隠すだろう。しかし、彼女は傷一つなくて、それどころか、仲のいい"兄妹"のようにじゃれあっていた。
「ところで、千里長袖って暑くないの……?」
「え……?あ……、うん。実はちょっと風邪気味だから……。」
「え、大丈夫なの?!」
「だい……じょうぶ……。」
「最近千里怪我も多いから気を付けてね」
「……うん。」

二人の間に沈黙が宿った。千里はその沈黙が耐えられなくて、口を開いた
「ねぇ……。伊織。伊織はまだ楔のことを……好き……?」
思わず聞いてしまった。慌てて口を塞ぐも、もう時は遅い。伊織はほんの少し悲しそうに微笑みながら答えを口にした。
「うん、大好き!」
「……そっか。」

千里はきいて後悔した。本当にこのまま甘えてていいのか。
千里は段々罪悪感に耐えきれなくなっていた────。

1ヶ月前 No.165

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

165話

千里のあの質問以降、二人の間にはまた沈黙が訪れた。その沈黙を破ったのは、ホームルームの始まりを知らせるチャイムだった。それを機に千里が長い髪を翻しながら、伊織に背を向けた。その時たまたま見えてしまった、千里の首に出来ていた小さなあざが見えてしまった。
「え、えとじゃあ俺教室戻るね、伊織も早めに戻れよ。」
「……っ?!……えっと……千里!」
「……伊織?」
「……何かあったら相談して……!!なんでもいいから……!助けるから!」
「……うん。ありがとな、」

気まずくなった伊織は助ける。そう言葉にして千里の背中を見送る。しかし、伊織にはなんとなく分かっていた。怪我の頻度や、している所。千里の────隠していることが。けれど、それは誰から、まではわからなかったし、伊織にも関わりがあることをまだ、お互いに知りない。

「頼……くん。伊織とは一体……」
「あはっ……千里に関係無いよね?」
「っ……た……、」
「でもまぁ、特別に教えてあげてもいいよ。
橘ちゃんは俺の実の妹。」
「……は?」
「……なんか今日は調子でないから……。ここまでにして上あげるよ。……早く帰ってよ。気分悪い。」
「……ごめんなさい」

その日。珍しく頼は千里に対するぼうりょくをふるわなかった。それでも千里に対する冷たい瞳は相変わらずだった。これだけは聞いておきたい、そう思っていたことを口にした。その問に対する答えは、平手打ちと、共に帰ってきた。しかし、その後も振り下ろされると思われた手は、振り下ろされることは無かった。気分悪いなら、いつもならもっと殴られているはずだし、酷いときは首を掴まれることもあった。千里は一言謝ると、平手打ちされた頬をさする。

千里が帰っていったのをきちんと確認すると、ベッドにダイブして、スネを柵にぶつけた。当然激しい痛みに顔を歪める。しかし、小さな時のあのこの姿、先程まで目の前にいて、前まで教育だと言いながら殴っていた千里の姿を思い出すと、自分の痛みなんてまだまだだと思う。あんなに殴っても友人を売らなかった千里にイラつかなかった訳では無い。それでも、心は痛んだ。
「……ごめんな、千里……。こんっな、最っ低な義理の兄さんで……。伊織もごめんね……。伊織の大事なお友達殴って……っ、それでそれを教育って……、ごめんな、ゴメンな、こんッな最低なやつが"お兄ちゃん"で……っ!」

ボロボロと涙を零しながら誰に言うでもなく、シーツを濡らしながら謝った。ただひたすらに、誰もいない部屋で"ごめんな、ごめんな、"と。
千里の怯えた色をたたえながらで己を見つめる瞳。
仲間を出しに使った時にみせる己を憎むような目で見つめる瞳。最近は頼の前では、瞳に光が入ることはなくなった。
「こんな事が……っ、したかった訳じゃ……ねぇ、のに!!」

1ヶ月前 No.166

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

166話

千里は────耐えかねていた。
楔の、瞳に。
自分を見ていない瞳に。
それでも好きで、自分のことを見てくれていない楔のことが好きな────自分に。

もやもやとした気持ちをしながら、教室の隅でぼんやりとしているとふと影が差し込む。顔を上げると、そこには、複雑そうな顔をした、平助が立っていた。
「……地雷。ちょっとこっち来い」
「……は?!ちょ……、藤堂……?!うわああああ!!」

平助は千里の腕をつかむなり、廊下へと歩きはじめる。千里はそのままほとんど引きずられるように平助のあとをおった。痛みで一瞬引き攣らせる。しかし、前にいる平助には気が付かない。屋上まで来ると、ようやく千里の方に振り返った。
「……んで、何のようだよ、こんなところまで連れ出して。……腕、痛かったんだけど。」
「……お前、なんでこんな暑い時期に長袖なんて、着てんだよ。それに身体能力が高いお前が俺に引っ張られたぐらいで体痛むか?」
「……っ風邪気味だから。痛むし普通に。それに、それ以外に何があんだよ、あとはまぁ、日焼け防止ってのもあんだろ、ほかの女子だって………」
「お前のその言葉だけはそれは信じらんねぇな。日焼けとか気にしねぇだろ。風邪気味ってのも信じねぇ。総司が言ってた。……それから頭の包帯。何のつもりだ?」
「……っ!……お前には……関係、無い。」

千里は図星を突かれ一言めの、反応が遅れてしまった。そして包帯のことを問われ、お前には関係ない。そう断言すると平助は、ため息を吐きながら反応をした。
「関係なくはないんだよなあ、これまた。俺のたーい切な幼馴染みの伊織がさ、"最近ちさとが大怪我ばかりしてる気がするし、なんか心配"とか言ってるもんで?俺としてもそろそろその怪我の原因とか……後はこっちは個人的な用。怪我の仕方が伊織の一時期と似てっから。多分……だけど……。」
「…………っ……」

伊織。その名前を出すと千里はあからさまに顔を引き締めた。平助には理由が分からない。しかし、顔を青ざめさせているあたり、伊織になにか関することを言われた。この千里の怪我の原因の人に。そう考えるのが妥当だ。そこで思い出したのが、昔伊織が別の苗字だったのだ。そしてその名前の表札がついたところから出てきたことがあるのを知っていた。それに、見たことがあった。だからこそ確信を持って千里に訪ねた。

「ところで……。お前、永瀬頼って知ってるか?」
「……知ってる……。小3の頃から如一に助けられるまでそこで……お世話になってた……。最近また、再会したよ。」
「ふぅん、やっぱりな」

千里が昔お世話になっていた。そういうと納得したかのように声を上げる。千里は何故か怖くなって平助から目を逸らした。何故か、全てを探られているような気がした。
「な、なんだよ」
「お前、その怪我、最近の様子から言って……"また"永瀬頼に"虐待"さてるだろ。」
「……っ?!……んなわけないよ!!頼君は……っ!頼くんは、最初は助けてくれてた!!けどっけど……っ!!」
「前は……だろ。……でも今は無意味に殴られてるんだろ?……それなら……虐待になるよ。それでお前は、あの頃痛みも感じなくなってたんじゃないか?……お前なら……分かるだろ?お前は仮にも警察だろ。それに……伊織に心配かけたくねぇなら、いくのやめるんだな。」

千里は虐待だ、という言葉に過敏に反応を見せ、珍しく怯えた瞳を平助に向けた。そして、虐待はなかった。そう信じたかった。

「……行くのをやめたら……今度は伊織が……。」
「……は?」
「大丈夫。俺がぜーんぶ我慢していれば、伊織には一本も出たしはしない。」
「……そうか……。伊織には指1本……。手出しはしない。そうだな。もし出すことになったら……おまえはどうする。」
「その時は迷いなく楔を連れて、頼のまえにいくよ。殺される覚悟、でね。」

千里が呟いた言葉に平助は怪訝そうに顔を顰めた。
千里はその顔を見て、安心させるかのようにニッコリと笑った。平助はその顔を見て、こいつには何を言っても引くことはない。そう思った。

だから、聞いた。もし手を出したらどうする、と。すると、千里は悲しげに笑いながら、楔とともに殺される覚悟を決め、伊織を助けに行く。そう宣言をしたのだった。

1ヶ月前 No.167

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

167話

「なぁ、伊織。お前さ……自分の前の苗字、覚えてるか?」
「何があったの、いきなり。……でもまぁ、ごめんな、覚えてない、が正しいかもな……。」
「まじか……。あの頃はゴメンな、俺バカだったし、子供だったからさ。」
「今も馬鹿なのは変わらないだろ。でもいいよ、覚えてねぇし。」
「お前なぁ……。永瀬って名前どう思う?あと永瀬頼。」
「んー、何か嫌な感じはする。頼さん?頼さんね、なんか懐かしい。話してるとなんかこっちを気遣う様な……そんな感じ。」
「……ふぅん。」

平助は千里の決意を秘めた瞳に何も言えなくなってしまった。千里は平助に背を向けてつい先程戻って行った。屋上にある低い手すりに腕を乗せ、ぼんやりとした。授業開始を知らせる鐘が鳴り響いてたのだが、教室に戻る気分でもなかったので、そのままぼんやりとし続けた。それからどれぐらい経った頃だろうか。不意に屋上のドアが開く音がしたのは。振り返ると、屋上と廊下をつなぐ壁から秋良と伊織が顔を覗かせながら立っていた。
「あ、やっぱりここにいた」
「平助、土方先生怒ってたよ。」
「え?!あー……さっきの授業土方先生だったのか……。」
「平助バカでしょ……。」

秋良が平助と目が合うと、近付いてきて伊織もその後をちょこちょこ、という擬音がつきそうな感じでついてきていた。平助は、授業を忘れていたと言うと、秋良は呆れたように声を出し、馬鹿か、と言われた。確かに、馬鹿だと思う。ただでさえ、千里とか楔とは喧嘩して、話すと言っても冷えた空気になる。授業だけで、成績を取れるようなやつではない。自分でも後悔をしていた。サボったことに。だからこそそこを抉られ、ほんの少し落ち込む。
「え、ちょ秋良酷い」
「馬鹿は馬鹿でしょ。……どうするの、仕方ないから一緒に怒られてあげるけど。」
「……!!ありがとう……。でも俺が悪いから秋良は気にしなくてもいいよ。」

平助はなんとなく考えていた。秋良は優しいな……と。それでも、サボった自分が悪いので、秋良に付き合ってもらう訳にはいかない。それにしても、秋良と伊織。珍しい組み合わせだと思いながら、秋良を見つめる。その視線には秋良は気が付かず苦笑した。
「じゃあ……、職員室行ってこい。」
「……うん。ところで、なんで伊織?お前らあんまり仲良くないだろ。お前なら、千里と来ると思ってた。」
「……失礼だなぁ……。……最近千里と平助の呼び方がよそよそしい、縁先輩とも平助が距離を置いてる。だから、顔合わせにくいのかなって思って。だから伊織さんと来たんだけど。余計なお節介だった?」
「……そんなことないけど……」
「別にいいじゃん、秋良が誰と一緒に来ようと。……あと ねぇ、秋良、平助。目の前でいちゃつかないでよ。」

平助は聞いてしまった。ずっと思っていた疑問。それをぶつけてしまった。その答えは、秋良のほんの少し膨れたような呆れたような声とともに返ってきた。最近、千里とか楔と喧嘩したのがバレていた。そう思うと、申し訳ないなぁと思う反面、そこを考えて秋良はあえてあまり仲良くはない伊織と来たのかと思うと、秋良は気が利くな。そんなふうに思ってると、伊織の目の前でイチャつくな。その言葉に秋良はほんの少し顔を赤らめた。平助は、当然硬直した。
「い、いちゃ……?!」
「ぅ…………。ごめんね、伊織さん。とりあえず、そろそろ授業始まるし、教室戻ろ。平助も戻るよ。あ、ところで、千里知らない?……さっきの時間、千里いなくて……。カバンはあったから学校に入るとは思うけど……。」
「んー……どうだろ。総司か、一くんなら分かるんじゃないか?あいつら幼馴染みらしいし。」
「じゃあ総司に聞いてみようかな……。」
「……。中庭に居ると思うよ。」
「……知ってるじゃん。」
「……ごめん。」

総司か、一に聞こうかな。その言葉に、恥ずかしながら平助は嫉妬してしまった。だから、居そうな場所を聞いたことがあったので、それを答えた。すると、秋良からほんの少しむくれたような声が聞こえる。なんだか、悪い事をした気分になり、謝った。秋良は「いいよ、」と言いながら笑った。

1ヶ月前 No.168

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

168話

千里は中庭にあるベンチに寝転んで、空を見ながらぼんやりとしながらつい昨日頼が言っていた言葉の意味を考える。目を閉じると、昨日のことが今起こったかのように思い出す。昨日は昨日でまた、呼び出されていつもみたいに殴られるのかそう思いながらビクビクしていると、殴られるには殴られた。けれど、それはいつもよりは痛くなかった。不思議に思って千里が頼を見上げた。

差し伸べられる手。千里はてっきり殴られるとかと思って身を縮めた。しかし、いつまで経っても殴られた痛みは走らなかった。恐る恐る目を開けて、頼のことを見ると、冷たい瞳はしてはいるものの、瞳の奥に宿る優しげなものがあったので、千里はその手を取って、立ち上がった。立ち上がると頼は千里の背中を押して、家から追い出そうとした。
「もう……千里。ここには二度と来ないで……。」
「……え?」
「……この間ね、千里には言ったでしょ。橘ちゃんは俺のたーい切な妹だよって。あれはね、全部本当。」
「……信用、できない……。」
「……知ってる。そんなの、俺の過ちだから。……でね、そんな大切な妹なのに、守れなかったんだよ。それでさえ最低なんだから……。ねぇ、お願い。これ以上……最低な兄さんに、義兄さんにしないで……っ!!お願い……っ!早く……っ」
「頼……君……。」
「もう……、遅いかもしれない……っ、でも、ごめんね、千里……、ごめんね……!!親が……両親が怖かった……!!ごめんな……っ、」
「……ごめんね、頼君。俺も弱かったから。あとね、頼君。助けてくれて、ありがとう。また、ね。」

今思えば、頼は弱い男だった────。
それもそうだろう。
本当は頼は伊織もたいせつにしたかった。親からの虐待から守りたかった。出来なかった。後から来た千里も、最初は守るつもりだった。優しくしてあげたかった。いや最初だけは守ってくれていた。なのに────。守れなかった。
頼のあの"伊織は兄妹"だという言葉。確信は持てないが、なんとなく、わかる気がした。けれど、それは千里はまだ信用しきっている訳では無い。伊織と兄弟。信じられる話ではない。もし、本当に伊織と頼が兄妹関係に当たるのならば。それは伊織と千里は従兄弟という関係にあたいする。それなら何故、伊織が橘にいるのか。理由はなんとなくは察せた。けれど、確信を持てることは何一つない。……兄妹なら確かに、千里の母────。千歳と面識があっても可笑しくないし、定期的に会いに行くのだって理解はできた。

千里は目を見開くと、あまりの眩しさに、顔を顰めた。木の隙間からみえる木漏れ日を避けるように腕をかざした。
それでもほんの少し日差しが入り込み、顔をしかめる。何度、授業開始の鐘が鳴っただろう。授業終了の鐘が鳴ったか。もう分からなくなったが、日の角度からいって、お昼近い。けれど、何となく体を動かす気分にはなれず、ごろりと横を向いて、太陽を避ける。しかし、横を向いた時、桜才学園の制服のズボンが目に入った。誰だろうか。そう思いながら千里は顔を上げる。しかし、眩しさで目の上に手をかざして見ると、楔が立っていた。千里がぼんやりとした頭で名前を呼んだ。

「楔……?」
「そう楔。てか俺以外に誰がいるんだよ……。つか……お前、午前の授業全部サボったらしいな……。」
「うん……。ごめん。何となく、ここから動きたくなかったのと……。あと……だるくてさ。」
千里はそう言いながらノロノロと体を起こした。楔はその隣に腰掛ける。楔は千里の隣に座ると千里の顔をじっと見つめた。千里が横を向いた時、目が合ってしまった。千里は目が合うと恥ずかしそうに目を逸らし、頬を染めた。
「……ところで、地雷。今日水分取ったか?ずっとここにいたらしいけど。」
「……取ったよ。水だけ……。」
「はぁ……ちょっと待ってろ。俺の奢りでスポーツドリンク持ってきてやる。あとなんか食え。」
「え、いいよいいよ。俺、体調悪い訳じゃないから……。食欲もねぇし……。」

楔が千里の顔を見つめた後、口を開いた。千里は一応水分は取りながら、ぼんやりとしていた。しかし、食欲がわかず、千里は朝食を抜いていた。普段はきちんと食べるのだが、なんとなく食べられなかった。なんとなく食べられない。
「お前……成績いい癖に、分かんねぇの?!水だけだと、熱中症になるぞ?!……てかなりかけてんじゃねえの……?」
「……いや、ほんとに大丈夫……。うん……。多分夏バテ」
「駄目じゃねぇか。あー、めんどくせぇ。いいから甘えとけ。……千里。」
「……!うん、待ってる。」

千里の夏バテという言葉にダメじゃないか。楔は呆れながら言った後、頭をグシャグシャとほんの少し雑に頭を撫で回しながら、何か買ってやるから甘えておけ。そう言いながら楔は走って購買部の方へと消えていった。その小さくなる背中を千里はほんの少し寂しげに見つめたのだった────。

1ヶ月前 No.169

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

169話

小さくなっていく楔の背中が見えなくなると、千里は気だるげにズルズルとベンチに寝そべる。なんとなく座って居られるほど余裕がなかった千里は目をつぶってうとうととしていると、冷たいペットボトルが大したことない高さからだが、落下してくる。……鳩尾には入らなかったが。そこだけは良かったとは思うが、流石にむせる。
ちさ犯人は、分かっているが、確認のためにむせながらそっと起き上がり、犯人を恨めしく睨みつける。因みに落されたペットボトルは膝の上で捕まえている。
「ちょっと楔……。げほっ、テメェふざけんな……ごほっ……」
「ごめん、ごめん。買ってきた飲み物飲めば?」

体を起こすと、予想通り楔が立っており、口元にニヤニヤとした笑みを讃えながら千里のことを見下ろしていた。楔の言う通り膝に置かれたままのペットボトルを眺める。普通のスポーツ飲料水で、キャッチフレーズなのか、可愛らしい女の子が"オイシイヨ!"と、言っていた。なんとなく女の子が伊織に似ており、こいつホント伊織好きだな、とか思っていた
「……早く飲めよ?!眺めてたって飲めねぇよ。」
「ぅ……はぁい。」

眺めてても飲めないぞ、と言われ確かに飲めないな、と思いながら、ペットボトルの蓋を開け1口、また一口と口に含む。あまりのしょっぱさに顔を顰めた。口の中に広がる塩の味。美味しいとは言いがたく、つい、口に出してしょっぱさを伝えてしまった。
「しょっぱ……。」
「……お前水しか飲んでないって言ってたから、学食の井上さん……だったか?その人に頼んで、ほんの少し塩増やしてもらった。」
「……美味しくないんだけど?」
「……大丈夫、塩分不足には丁度いいはず。」
「……美味しくないんだけど?大事なことだから二度いうけど、美味しくないんだけど?」
「……黙ろっか。」
「ウィッス……。」

美味しくない、と伝えると、楔はそりゃそうだろ、とでも言いたげに、塩を足したことを告げた。確かに、これはしょっぱいし、体に染み渡る感じがするが、普通に美味しいとは言えない。一口飲んでみろや、とは思ったが、流石に口をつけたものを飲めとはいえない千里は、悔しい思いをしながら、楔の持ってきた飲み物をチビチビと飲む。相変わらず美味しくはないが、だんだん味にも慣れてきたのか、あまり美味しくない、という感情は消えていた。
けれど、大切なことなので、2度言うと、楔はニッコリとしながら黙ろっか。そう言われると流石に何も言えなくなってしまい、適当に返事をして、また一口と口に含む。

「……不味くないの?」
「美味しくはないよ。けど、飲んでおかないとぶっ倒れるしね。……そろそろ警察の方も繁忙期でさ……。最悪学校来れなくなるかもなんだよなー。まぁ、隙を見て来るとは思うけど、どーなるかなぁ……。文化祭参加できるかできないか……ってとこ。やだなぁ、マジで。」
「千里も大変そうだな、つかかガキかよ。……そういやなんだっけ、お前とよくいるあのちょっと身長でかくて、お前のことリスペクトしまくってるやつ」
「……秋良の事?」
「そうそう、舶来。舶来から伝言預かってきたんだけど、次の時間文化祭の実行委員決めだとよ。参加したいなら、連絡入れてほしい……だって。どーすんだ?」

楔は訝しげに千里に不味くないのかを訪ねてきた。さっきの聞いてなかったのかよと思いながらも美味しくはないといいながらため息を吐いた。思い出してしまったのだ。そろそろ警察の方が忙しくなること。たしかこの時期にかなり父と母が忙しそうにしていたのを思い出す。そろそろ出席日数も危ない頃なのだが(ずる休みやサボりも含め)、ここで休むと本当に留年の危機が迫る。ほんの少しの間を塗ってでも来ようかな、と思いつつも、ペットボトルの蓋をぐるぐると回して遊んだ。ガキかよ、と言われると流石にイラつくものがあるので、ピタリとやめた。
その後、楔も何かを思い出したかのように、口を開く。楔の口から出てきたのは秋良の事で、文化祭の実行委員をやるか、やらないかという話だった。
「んー……やりたいけど、ちゃんと行けるかわかんねぇからなー……。……今回は辞めておくよ。楔は?」
「……どうしようかな……。んー、今回は辞めておく。」

千里は少し考え込んでから、これ以上仕事を背負うのは辞めよう。そう思ったので、辞めておく。そう告げてから、楔にやるかやらないかを聞くと、楔もほんの少し悩んだ素振りを見せてから、今回は辞めておく。そう言って悲しげに笑った。

1ヶ月前 No.170

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

170話

昼休みが終わる鐘がなると楔は立ち上がり、「教室に戻る」とだけ言ってさっさと歩いていってしまった。流石に千里もこれ以上外にいると何となく危ない気がしたのと、そろそろ授業に戻ろう、と思っていたのもあり、立ち上がって教室へと戻る。

「あ!千里。土方先生と原田先生が怒りながら千里が来たら職員室に来いって言ってた。後、縁先輩から聞いた?」
「あー、うん。後で行くよ。……てかあれだろ文化祭のやつ決め終わったあと、左之に連れ去られる。多分聞いた。文化祭実行委員のことだろ?俺はやらないことにするよ。このあと実は俺はすげぇ忙しくなりそうだし、それに仕事が最近大詰めでさ……。まぁまだ先のことなんだけど……文化祭出られるかわかんねぇし、そんな奴が委員になってもクラスのヤツらに迷惑かけちまうだけだから……。」
「あはは……、たしかにそうかも。そっか……じゃあ俺がやろ。平助に誘われてたんだけど、千里がやらないならやるって言ったから。」
「そっか、なら余計に俺は出来ねぇな、二人の邪魔しちゃうもん。がんばれよ。」
「……ありがとう……。」

教室に戻ると秋良が真っ先に話しかけてくる。秋良は、あはは……と乾いた笑いをしながら、それもそうだろう。ここ最近千里はあまり授業に参加しない。そのため、土方も原田も怒る理由はわかる。しかし、それは千里からすれば鬱陶しい教師でしか無かった。最初はどの先生も千里を気にかけ、授業に出るように言い聞かせたものだが、一ヶ月をすぎる頃には勝手に抜け出しても、屋上でサボっていようと何も言われなくなっていた。
土方と原田を除いて。このふたりだけはいつまでも千里に授業に出るように言い聞かせ、出なかったら怒る。出れば、褒める、を繰り返していた。千里は内心、鬱陶しいし、ほっておいて欲しかった。
「お、地雷きたなぁ?お前後で職員室な。土方先生と話がある。」
「うぃー。」

原田先生が来ると早速千里に気が付いたのか、職員室に来い、と呼び出される。恐らくここで会わなくとも、後で放送で呼び出されるんだろうな、と思いながらも秋良に手を振りながら、自分の席へと戻る。

「まぁ、みんな知ってるとは思うが、来月の頭には文化祭だ!今年は姉妹校の桜木と合同でやるかもしれない、という案が出ている!それはまぁ、まだ予定だが、今日の会議で警察や、あちらさんの、高校の教職員で話し合って決めるんだが……。話を持ちかけてきたのは、桜木高校の生徒なのだが、教師達もこちららがいいと言うなら、ということで持ちかけてきた。恐らく、可決すると思っている。という事で、うちは家でやることになったとしても、大丈夫な様に一応、実行委員決めるぞー、まぁ合同になっても実行委員には変わりねえけどな」

左之ケラケラと笑いながら、文化祭の話をした。
どうやら今年は俺の決定次第では合同になるかもしれない、ということらしい。面倒なことになりそうだ、なんて千里は思いながら、窓の外を眺める。もしここで反対すれば、一部の生徒からは不満を買うだろうし、むこうの生徒さんにも悪い。しかし、許可をすれば許可をしたで、仕事も増える、向こうの生徒さんとも円滑な連携が必要だし、用具の運び出し、経費、その他諸々の面でおそらく生徒会のあいつら────。1人は確か如一の彼氏とかだったはずだが、生徒会のヤツらと関わる必要性がある。確か生徒会長の風谷智景とか言うやつだったはず。あいつはどうも千里は苦手だった。というか、この学校の生徒会はまともな奴がいない。そう聞いている。去年まではそんな彼らの仕事を手伝っている人が居たらしいが、今はやってる人がいない。そうなれば必然的に生徒達でやることになる。

「……反対も賛成もどっちもどっちでめんどくさそ……。」
少し未来を考えてみたが、どちらにせよめんどくさそうなのには変わりがない。しかし、生徒からすれば、姉妹校の桜木と初めての合同文化祭。テンションも上がるし、モチベーションも上がりそうだ。たしかに色々経費とかが面倒ではあるが、この学園にはそれなりに出してくれそうな人は2人は知っている。しかし、一人には頼みづらい。
「んー……。」

となると自然と冬木家、地雷家で負担するのだが、一体どのくらいかかるのか。少し考えただけでも少しぞっとするものがある。
それに向こうが何をやるのか、どのくらい生徒がいるのかそれもわかっていない今は考えるのはやめにして、黒板に目を戻す。
今は出し物を決めているらしく、参加できるかできないかは別として、ラインナップとしては普通の文化祭らしいものがあれやこれやと出ていた。主に出ていたのは千里の苦手とするお化け屋敷や絶対これだけはやりたくないというメイド喫茶等があり、これが当選したらぜってぇバックれてやるとか思いながら、秋良がこれ以上出ないことに戸惑っているのか、困ったように笑っていた。相手はどうやら総司。総司の奴は本当に困ってるやつを見るのが好きな男だ。ニヤニヤと口元に含み笑いをしていた。因みにこれは後で聞いた話なのだが、上の二つメイド喫茶、お化け屋敷を出したのは総司だったらしい。どうやら「困っている秋良ちゃんと嫌がる千里ちゃんが見たかった」となかなかのゲスい発言をしていたので、1発だけ殴らせてもらった。
とりあえず、千里としてもこの二つだけは絶対にやりたくなかったので、挙手をすると秋良が安堵したかのように顔を綻ばせる。
「じゃあ、千里!」
「まぁ……、在り来りだけど……たこ焼きとか、あとは射的かな。」
「おぉ、いいね、それも一応案として入れよう。」

その後も何も出なかったので多数決を取ると、結局お化け屋敷になった。参加できるかもわからないが、千里は中の人だけは絶対無理を連呼して呼び込み係をやることになったのだった────。

1ヶ月前 No.171

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

171話

「あっはははは!!ねぇねぇねぇ!!原田、土方!!まっさかとは思うけど、俺が呼び出された理由って、合同文化祭の事ーーー?ねー!」

その後、左之に引き摺られるように職員室に連れてこられると、千里が真顔で土方に詰め寄る。土方は、ニヤニヤと笑いながら俺を見下ろした。
「おぅ、わかってんなら話ははぇじゃねぇか」
「みんなゲスだああああああ……。まぁいいや。…知ってるも何もさっきの時間、一応授業には出ましたからね。……別にいいですけど……。俺の仕事増やさないで頂きたいんですが。……まぁいいや。とりあえず後で桜木の方にも契約書を届けに行きたいと思います。地図、頂けますか?あと、家に契約書を取りにいきますんで、1回家に帰らせていただきます。後、あちらさんとも連携が取りたいのですがその場合ってどうすれば?」
「お、おう……。その事だが、そろそろ相手方の言い出しっぺ……いわゆる向こうの代表が来るはずなんだが……。何しろ、こっちに越してきたばかりでな。もしかしたら迷子になってるかもしれん。」
「……そうですか……。誰かここやさしい方が連れてきてくれるといいです……ね?」

千里がため息を吐きながらもあっさりと許可を下ろしたことに驚きつつも、千里は淡々と作業を進める。そしていきなり、相手方のことを訪ねた時は、さすがの土方も面を喰らい、一瞬だけ反応が遅れる。しかし、千里は相手が遅れるということが分かると、机の上に腰掛け、向こうの提出してきたプリントに目を落としながら、誰かがここまで連れてきてくれるといいですね。
そこまで言うと、ガラリと引き戸が開かれる音がして、千里はそちらに視線を向けると伊織と共に誰かが入ってくる。
「しゅいまっしぇん、道に迷っちおった!そいで、橘伊織しゃんに助けてもろうたんやけど……。朝もお世話になりよったっちゆうんに、なん度も申し訳なかたい。やい文化祭ん話ばってんしようや!」
「えと……、地雷千里です。この街の警視総監をやりつつも、この高校に通わせていただいてます……?……えっと」
「いぁ、はじめましてやね!四月一日徹守っちゆうもんやけど!以後よろしゅうお願い致するけんね。
おぉ警視総監しゃん。なんかそげな感じのするけんねねぇ。」
「ええと……、四月一日くん。分かった。標準語苦手ならそのまんまでも構わねぇから。とりあえず、文化祭の事についてだけど、後でそちらさんの先生方に契約書を書いてもらわないとなんだけど。あー、伊織ありがとな!四月一日君。」
千里がいきなりの方便で目をぱちくりさせながら、千里は対応をした。伊織から凄い!という目で見られているが、あまり千里も理解は出来ていないので、あまりそのような目では見て欲しくはなかった。それに、千里は伊織に尊敬されるような人間ではない、と自分で思っていた。
「んーん!別に構わないよ。せっかくだし帰りも送ってく!」
「ごめんな!俺このあとちょっと色々手配しないといけないのと、如一にこの予算について話し合わなきゃ……。あーめんどくせぇ……。、まぁやると決めたからにはやるけど……」
「そいはほんとやか?嬉しかたい宜しくお願いしますやね!おれも全力ばつくしてのんばらしぇて頂きましゅ!」
「あはは、その代わり四月一日くんには沢山協力して貰うからね」
任しぇちゃんない、そう言いながら四月一日は胸を叩いて、また、やったぁ!と声を上げる。千里はどこか一歩引いたところでそれを見て教師と同じように喜んでいる人を眺めた
「……いや、なんでお前まで年寄り臭い顔で笑ってんだよ。子供らしくねえな。」
「……俺にはもう、子供らしく笑うなんて……出来ないです。俺、帰ります。やんないといけないし……。あ、もしかしたら、ちょっと学校のことも関係はしてますが、忙しくなりそうなんで、学校来れない日があるかもしれないです。その前にはご連絡致します。じゃ。」

そう言ってから千里は一度お辞儀をしてから職員室を出ていったのだった────。

1ヶ月前 No.172

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

172話

時を遡ること数分前。
四月一日徹守は迷子になっていた

「いー、ほんなごとこん辺ん家は太かなぁ……。
そいに朝に会った橘伊織ちゃん……凄い綺麗な人やったなぁ……。」

四月一日徹守は桜才に向かう途中で、大きな家の連なるところに再び迷い込んだ。あたりをキョロキョロと見渡しても、大きな家、家、家────。見覚えがある気がしたが、それも当たり前だろう。朝と同じところに迷い込んでいるのだから。

キョロキョロとあたりを見回していると、伊織が、朝と同じように話しかけてくる。────今度は一人だけでいた。
「あれ、もしかして四月一日……徹守……さん?」
「……!橘さん!会えて嬉しか!すぃとぉーよ!い、ちごうとる、これはちごうとる……。どこさ桜才学園あっけんんか聞かんっち……。
実はまた迷子になっちゃっち……。桜才学園にちょー用のちゃて来よるんばってん……。」

伊織が話しかけるととても嬉しそうに顔を輝かせる。本当に素直なんだな、と思いながら新鮮な気持ちだった。こんなにも真っ直ぐに想いを伝えてくる人は。確かに楔だっていた。けれど、楔は遠まわしな言い方で、伝え方だった。だからこそ、絆されるスピードは早かった。けれど、それに気がつくのには遅い。
徹守がこちらに来る、そう聞いて伊織は少なからず嬉しさで、笑顔が零れた。
「あ、桜才学園来るんですか?!そう言えば、桜木と合同で文化祭やるって……。もしかして、発案者、四月一日君?」
「そげんたい!おれの提案したばいんだ!そいでね、しょっちん人の許可しとってくれれば、しょっちん代表ん人っちよか文化祭にしゅるから、楽しみにしててか!」
「ええっと……わぁ!多分千里の事だから、嫌な顔しつつも、許可下ろしてくれるよ!」
「千里……?そい誰?!男ん子?!」
胸を張って、"俺が提案したんだ!"と言うと、ほんの少し理解するのには遅れたが、朝に比べれば、理解するのに苦しまずにいることが出来た。伊織が千里の名前を出すと、男の子?!とすごい勢いで聞かれてしまった。伊織は少しその勢いに驚きつつも、口を開いた。
「千里は、女の子で……荒っぽい性格してるけど、いいやつだと思うよ。……初対面の時はホンットに塩対応だとは思うけど……」
「良か、橘しゃんんオッサンげなやなくて。
よかよかよかよか!橘しゃんんために頑張るか!」
「えっと……?千里はオッサンじゃないな……。うんまぁ、はい、俺……んん、私も頑張りますね。じゃあ桜才まで、行きましょう。送ります。」
伊織はオッサンの意味をきちんと理解はしていないものの、千里はオッサンではないと、断言をした。すると、徹守は安堵のため息をつく。
「宜しくお願いしますやね!
ほんなごと橘しゃんすぃとぉーよ!」
「うう、なんかすごい恥ずかしいな……。」
伊織が、徹守を連れて、学園へと戻る。
「伊織……ちゃん……。」

それを悲しげに見つめる楔の姿。
千里を待っている間。たまたま見てしまった伊織の姿。楽しげな、伊織の────姿。

1ヶ月前 No.173

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

173話

先程、職員室を出る前に、千里がスマホを確認するとreibに連絡がはいっていた。内容を確認すると、"お前の教室で待ってる"と楔から入っていたのだ。
それを見てから千里が慌てて、教室への道を走って、教室に入ると楔が窓際でぼんやりと外を眺めていた。
「お前、まじで待ってたのかよ。」
「まぁ。待ってる、って言ったし……。」

千里が悲しげな雰囲気を纏っている楔をこちらも悲しげに見つめながら慌てて帰宅する準備を整えた。
「ごめんな……楔、待たせて。帰ろうぜ。」
「待った。……これからも遅くなるのか?」
「んー……、分かんない。まぁ、遅くなったとしても、暗い時間にはならないと思うけど?」

千里がカバンを肩から下げ、楔にごめん、と言いながら駆け寄りながら話しかけると、待った、と言いながらその場を歩き始め、教室を出ていく。怒っているのかと思いながら、千里がその後ろを追いかけ、顔を見るとそこまで怒ってはいないように見受けられる。隣に並んで、学校を出た後に、これからも遅くなるのかを尋ねられると、千里はほんの少し悩みながら口を開く。遅くなるかはその日の会議の進み具合によって変わる。だから一概に遅くならないとは言いきれずに、分からない。とだけ答える。それを聞くと、興味なさげに楔は口を開いた。
「……ふうん、まぁ、お前ならいくら遅くなっても平気か……。いかにも強そうだし」
「……っ。なんだそりゃ、まぁ最近女の子が狙われる時期でさー……。んー……、まあ、狙われてもはっ倒すけど……。」
「……こっわ……。」

お前なら平気だ。楔の口から聞いたその言葉。千里は少なからず傷付いていたりする。けれどそれは口にせずになんだそりゃ、といいながら肩を竦める。そして、その時に思い出したのは女の子が狙われることが増えてくるこの時期。確かに千里は狙われてもはっ倒すだろうな、と思って口にすると、楔がほんの少し引きながら、こっわと呟くと千里はじろりと隣で歩いている楔を睨んで、口を開く。
「……うるさい。じゃあなんだよ、"きゃあー、楔くん怖ぁい守ってぇ"とでも言って欲しいのかよ。」
「お前それ棒読みすぎ。」
「何、じゃあアイツ……えっと……」
「……上野?」
「そーそ、そいつ。名前忘れてたわ。そいつみたいにブリってやろうか?」
「マジやめろ」
「知ってる。俺もやりたくないあんな気もっち悪いの」
「おま……それは言い過ぎ。すげぇ分かるけど。」

棒読みでブリって見ると、楔が真顔で、ツッコミを入れた。千里はその後、ムッとしながら、上野の名前が思い出せず、唸っていると、楔から、その人の名前が出てきた。その後に、真似してやろうか?と聞きながらニヤニヤと口元を緩める。
楔は苦虫を噛み潰したような顔をしながらやめろ、と言った。しかし千里としても、あの人の真似はしたくないので、真顔で、やりたくないと言うと、ふっ、と笑いながら楔も同意をしてくれる。

千里はいつまでもこんな関係を続けてもいいのか。楔は未だに自分を通して伊織を見てることも、もうやめたいと思っていることも知っていた。けれど、言い出せなかった。辞めよう、なんて。

「あ、ここだよね、楔の家。じゃあまたね。俺帰る。」
「おー、お前も気をつけろよ。」
「じゃあまた明日な。」

千里は手を振りながら、楔に背を向けた。

二人はまだ知らない。四月一日徹守の登場で波乱が生まれることを。それが原因で、色んなことが拗れてしまうことも────。

1ヶ月前 No.174

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

175話

文化祭まで残り5日間となった今日。
千里は珍しくイライラしていた。
千里は通学路の道をくっきりと目の下に出来たくまと、雑に結ばれたポニーテールを揺らしながら歩いていた。雑に結ばれて入るが、いつもより低い位置に作られているだけで、普段と変わらない。
「あーっくっそ、」
「女がくそとか言うなよ……。」
「くそとかいってなきゃやってらんねぇつっーの……。」
「何があったんだよ……」
「しーごーと!今の時期やたらと増えんだよ……ふざっけんな」
「……どんまい」

楔は千里の隣を歩きながら千里の様子を見る。イライラしている他にもどこかで隠していることを探るつもりだったが、生憎楔には伊織以外の感情は分からなかった。
「ほんっと、嫌になるわー……。何とかなんねぇかなぁ、あの仕事の量……。頭痛くなるわ。てか痛い。」
「……お前ストレスで頭痛くなるタイプか。以外だわ。」
「うわ、ひでぇ。俺だってぶっ倒れることあるし……それに、一回死にかけた時もあるな。」
「……お疲れ様でーす……」
「あーねむい……。この後もあの四月一日……?だっけな、あいつと話し合いなんだよねー。」
「あぁ……あいつ、ね。」
「……俺、あの人苦手かも知んない……。無意識なんだろうけど、俺の痛いところとか……触れてほしくない所触ってくる……。」
「俺はあいつ嫌い。なんかムカつく。後悔してるところついてくるし、本当なんかムカつく。無意識ならなおさら腹立つ。内蔵引きずり出して市内一周したい」
「うーん……。楔も大変だな……。てかそれはそれで俺の仕事増えるからやめてね」

千里は楔の話を聞いてなおさら苦手意識が強まる。
今までの話し合いでも、教師が来るまでは雑談しているのだが、どうにもこうにも痛いところをなかなか的確につついてくる。
『橘しゃん好いとぉ人奪っち楽しか?おれは見てて楽しくなか。っちゆうちゃり、地雷しゃ、後悔しとるちゃね?後悔しとるなら、そげなんしゃ、辞めちゃいなちゃ。』
『ぇねぇ、なしけんそげん後悔しよっとにはよ別れていげなかと?縁も可哀想ばい。ねぇ、なして?』
遂に、この間、千里にとって気軽に聞いて欲しくない、気軽にそんな話せない気軽に触れてほしくない所を聞かれた。
『そー言えば、地雷っちどっかで聞いたこつあっけんっち思っとったんやけど、ひょっとして、あん有名な警視総監地雷千歳しゃんん娘?そいであん事件────。医者に裏切られた警視総監ん娘しゃんやったりしゅる?』

それを聞かれた時は、気分が悪くなり、先生に話して、会議を取りやめさせてもらった。あのまま話しても何も頭に入らないし、最悪吐いてしまっていた────。
そんなふうに考えながら歩いた。昨日の夜、これから逃げる方法を考えて、結論を出した。それは、仕事。学校に来ないこと。だから、まだ誰もいない校門のの前で、足を止め、千里は楔の名前を呼んだ。
「なぁ、楔。」
「んだよ……。」
「ほんのちょっと……距離おこっか。」
「……は?」
「いや、俺、今日は仕事の関係でこれからしばらく学校これないこと伝えに来ただけで……。だから、学校に来れないから、距離おこうって言ってんの。」
「……そっか。分かった。死なねー程度に頑張れよ、仕事」
「大丈夫、ほとんど書類作業だけだから。でも今もう部屋の半分埋まっててさー。ごめんな。」

楔は気がついていた。千里の嘘に。
楔は内心、こいつは嘘は苦手だな。そんなふうに思いながらも同意を示す。ここで、反対しても千里は自分の決めた意見は曲げない────。そんなことは高校に入って友人という関係を持ってから嫌という程思い知らされた。そう思いながら、千里が校舎に向かって歩く背中を黙って見つめていた────。

1ヶ月前 No.175

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

176話

「────という訳なので。しばらく学校に来れないっすね。……まぁ、文化祭ぐらい俺なんかがいなくても何とかなります。うちのクラス代表……、秋良なら俺がいなくてもなんとかやってくれますよ。というより俺なんかがいない方が成功しますよ。あ、でも多分見回りとして来るかもしれないっすね。」
「……。どのぐらいあるんだ?」
「んー、部屋の半分以上がうまるぐらいですよ。ちなみに一部屋は完璧仕事の書類で消えてます。」

千里は淡々とこれから少しまた来れないことを告げると土方はバツが悪そうな顔をしながらタバコを更かしていたのを灰皿で消した。どのぐらいあるんだ?という土方の問に対する答えをほんの少し悩んだ素振りを見せてから、ほんの少し数を多くしたが、素直に答える。部屋の半分以上がというのは正しいから。それを聞いた後、土方は本格的に苦虫をかみ潰したような顔をしながら口を開いた。
「……そうか。色々無理させて悪かったな。」
「いえ。……もう帰らないと、ぶっちゃけ文化祭に間に合わないかもしれないんで。下手したら俺のあとを追って如一の奴も一緒に休むかもなんですが、よろしく頼みます。」

そう言ってから職員室を出ていき、帰路につこうとした時。
「千里ちゃん!」
「総司。久しぶり。と言ってももう俺帰るけどね。」
「また……仕事?」
「うん。」
「そっか……。じゃあまた、ね。」
「うん。」

千里は総司から顔を逸らしながら答えた。
千里は逃げるように学校を去って、部屋へとこもり仕事を片付け始めたのだった────。

千里は仕事中はメガネをかけるくせがいつの間にか出来ていた。細かい字を書いたり、細かい字を追うことがあるので、警視総監として、視力を落とすわけに行かなかった。千里も馬鹿ではないので、きちんと眼鏡屋に行って、自分に合った眼鏡をかけている。山になった様々な諸外国との契約事項、事件の報告書、始末書、事件の後始末────。そんな書類の山の中に千里は埋もれていた。次の書類に手を伸ばした時だった。チャイムがなって、びっくりしたことで、書類の山を倒してしまったのは
「うわああああああ!!せっかく積み上げた書類がああああ!!じゃなくて、誰だよ!このクッソ忙しい時に来たやつ!」

イライラとした様子で、千里はキッと外を睨みつけた後、不機嫌きまわりないという顔と態度を取りながら、突然の来訪者を確認するため、部屋を出て玄関へと向かったのだった────。

1ヶ月前 No.176

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

176話

苛立ちを隠すことなく扉を開けると、そこに居たのは、冬木如一────、仕事の関係でいえば千里の上司、普段の関係でいえば、友達である人だった。

「なんだよ……、てかお前のせいでせっかく積んでおいた書類全部倒れたんだけど。」
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。」

そう言いながら、如一はぐるりと部屋を見渡した。部屋の隅に積んである大量の書類。それを見て如一は顔を引き攣らせる。
「まさか、千里さん……」
「あぁ、そうだよぜんっぶ仕事だよ!アイツらどこに今だけ仕事溜め込んでるんだよ、あいつらぜってぇ子供だからって馬鹿にしてやがる。なぁーにが、地雷様ァだよ、けっ、あいつらが解決出来なかった事件片っ端から片付けて頭地面に擦り付けさせてその後その頭踏んでやる……。しかもその後グリグリとおでこが血が出てもグリグリと押し付けてやる……」
「ちょちょちょちょちょちょ……千里さん怖い。」

千里はイライラとしながらも客人である如一にお茶を入れ、再び、部屋に入って、適当な量の書類を取って居間へと戻る。
「なぁ、千里。お前、学校行かないでしばらく警察の仕事に本腰入れるつもりか?」
「……まあ。最近は、仕事サボりすぎたし……。文化祭の件で。」
「あー、あれかぁ。よく千里許可したねぇ。」
「うるっせぇなぁ、許可下ろさなかったら学校中から不満の声があがんだろうが。めんどくせぇんだよ、そーゆーの。」

千里は面倒くさそうに口を開く。如一はそういうことするから自分の仕事が増えるのに。そう思いながら、出されたお茶を啜る。
「お前ってさぁ、本当自分で自分の首閉めるの好きだよなぁ。」
「……はぁ?」

如一のポツリと呟いた言葉に千里は怪訝そうな顔をしながら顔を上げる。
「おっまえなぁ、俺はそんなことしてるつもりは無いから!面倒事を避けたいだけ。」
そう言いながら、千里はコーヒーを口に含みながらどこか焦点の合わない目をしながら呟く
「……それに仕事がたくさんあれば、仕事に逃げられるし……。」
「お前ってほんと……将来社畜とかになりそ……。いやもう社畜か……」
「はあ?お前なにいってんの?」

1ヶ月前 No.177

千里 @matunogirl ★Android=W1VemU3zJF

177話
その頃学園では────

「…………。なんだよ、四月一日先輩」
「なんか用?縁。
そー言えば、あん、地雷しゃんげなゆう彼おなごしは?こん前見なかばってん」
「……千里……は、お前のせいで、仕事に追われてる。学校にも来れねぇほどだってよ。……あ!伊織ちゃん!」
「そげなん、おれは関係なかちゃね。
……い!橘しゃん!好いとーよ!」

2人が廊下で火花を散らしているのは既に慣れたことなのか、みんな何も言うことなく、自分の作業を続ける。そんな時だった。
「あ!!徹守さん!恥ずかしいな……、あと、楔も!」
「ちごうとるちごうとる、徹守。
そー呼んでちゃ。」

伊織が二人の前に現れたのは。
「伊織ちゃんのクラスどう?捗ってる?」
「うーん、まぁまぁ、かな。でも心配なのは、千里のクラスなんだよね、ほら……千里が結構な仕事やってたらしいから……まぁ、全部終わらしてから来なくなったみたいだけど、それでもやっぱり千里人脈はない割には結構リーダーシップ取れるだろ?なのに来ないから、秋良が手間取ってるっぽい。」
「ふぅん……。」
「橘しゃん、そー言えば、土方先生っち人の、橘しゃんんこつ探しよったよ。文化祭んこつでなんか用のあっけんげな」
「あー!ほんと?!ありがと!えっと、徹守……?」
「……!嬉しかなぁ、橘しゃんからそー呼んばってんらえるなんて!いりのっちう!これからもそー呼んでちゃ、ほんっっちよかねえ……」
「えっと……?」
「そう呼んでもらえてえっと、嬉しい、」
「こんなので良ければ、いくらでも……?」
「いりのっちう!」

そう会話をしながらも誇らしげに楔のことを四月一日は見下ろしているのだった。
その時の楔の顔は、気にしてない、なんて言える顔ではなく、悔しげにいらただしげに顔を歪めていたのだった────。

1ヶ月前 No.178

千里 @matunogirl☆X.uIv1.h0OI ★bmcMf8SVlV_yFt

178話

『縁、あんましぼんやりしとるっちおれの貰っちゃうちゃ?後悔しても知らんたい。バーカ』

それがついこの間、楔が四月一日徹守に言われたセリフだ。徹守は、確実に周りと溶け込み、いつの間にか橘家にもお邪魔してあの男────、織すらも絆されていた。それでもあまりいい人、とは思われていないが――――。それにすでに伊織の幼馴染みである平助ともなじんでしまったようで楔が前居た場所に徹守はいつの間にか存在していた。

そんなことを知らない楔は、自分の選んだ選択肢のくせに後悔の念に囚われていた。
何で、千里の告白を受けたのだと。なんで断らなかったのか。いくら自分が疲れていたとはいえ、なんで受けたのか。
それに最近は楔は千里とも連絡を取ろうとするが、reivは既読は付かないし、電話をかけても通話中のアナウンスである『もしも―翅地雷千里さんはただいま通話中デース後であかけ直し下さい』、もしくは千里の馬鹿明るい『はいはぁいもしも―しただいま天才警視総監地雷千里様は事件解決、もしくは学校はたまたお仕事中なのでただいまお電話に出ることが困難でーす。ピーという発信音の後にご用件とお名前をどうぞ』

と言ういい加減聞き飽きてきた音声しか流れない。それに千里は必ず折り返しの電話をするのだが、その折り返しの電話も帰ってこない位だ。楔は面倒だったが楔は千里のクラスを訪ねると代表なのか秋良はあわあわと慌てながらも的確に指示を出していく。秋良がこちらに気がつくともう一人の暮らす代表の子に声をかけてから秋良は「どうかした?」と小首をかしげながら聞いてきた。楔は一度聞くべきか悩んだが、そろそろと口を開く。
「あー…えっと…うん、おい、舶来。千里って最近どうしてる?」
「千里?ここ二週間ぐらい音信不通だねぇ―…。それに、つい昨日来てたけど、学園祭の必要書類取りに来てすぐ帰ってた。久々に見たけど千里すげぇいらいらしてて、目の下のクマがいままでの中で一番酷かった。」
「いやっ……うん、そっか…」

求めていた答えと余計な一言が混ざっていたのもあり、微妙なきぶんになってしまう。
「まぁ……あぁ、そうだ。舶来、ありがとな。」
「え?うん…。」

しかし、楔とて礼儀を知らない男ではない。楔は一度難しい顔をしてから、思い出したかのようにぶっきらぼうにお礼を告げるとよくわかっていない秋良は首をかしげながらどういたしまして?と言う風にしながら教室に戻っていく。もう一度楔はreivは返されることも既読が付くことはなく、ただただ、楔の最後に送った「お前文化祭来るの?」という質問でスマホだけ時が止まってしまったかのように虚しくぽつんとしていた。
「千里に会いたいなら家に行った方が早いと思うぞ。あ、でも今の千里に会うのはおすすめしない。あいつマジいらいらしてるあら。用件なら俺が聞くけど。楔君」
「ふ、ふゆっ…?!」
「ちなみに昨日はお酒が飲みたい冬木買ってこい、と言う正義の警察官にあるまじき発言してた。」
「おおぅ…。」

いきなり声をかけられ内心心臓止まるかと思っていたのだが、それを表に出さずに話しかけてきた如一の方へと振り返る。するとこちらも疲労困憊といった様子の如一が立っていた。どうやら寝る暇もないぐらい忙しいというのは比喩なんかではなく、本気で忙しいのだろう
「楔君、千里に伝言あるなら聞いておこうか?俺伝えとくけど。まぁ、その返事が文化祭後か文化祭の日にはなりそうだけど…」
「特に重要性はないから。」

そんなに忙しいなら文化祭に来るのは難しいだろう、そう思った楔は新規で「忙しそうだな。来れそうにないならいいよ」と打ったことを確認してから送信ボタンを押した。そしてそのまま制服のポケットにスマホを姉妹、教室へと向かうのだった――――――――。

22日前 No.179

千里 @matunogirl☆JygYpuYd4vU ★Android=W1VemU3zJF

179話

前日(178話)の夜────。
「ただいっ……?!」
「うっ…………」
「おーい、千里サーン生きてますかー?……死んでる……?あーらら……。」
「ごフッ……生きてる……勝手に殺すな……」
「お、生きてる生きてる。」
「疲れた無理死んじゃう冬木、酒。」
「おい正義のヒーロー警察。警視総監んな事言ってんじゃねぇよ未成年の飲酒厳禁」
冬木がコンビニに出かけ、夕飯の弁当を買って帰ってきたところ。トイレの帰りなのか廊下の真ん中でぶっ倒れてる千里を見つけ、あまりの驚きに如一は一度言葉を詰まらせ、近くに屈んで、肩を叩きながら声をかける。すると千里はごふっ……と言いながら、薄らと目を開いた。如一は千里が目を開いた言葉を発した事で如一はにししと笑いながら、立ち上がる。千里は寝っ転がったまま未成年にも関わらず、お酒を求めた。それに対し、如一は盛大に突っ込む。
千里はその言葉に「ちっ」と盛大に舌打ちを打つとむくりと起き上がる。
「なんだよ動けんのかよ。」
「五分寝たからね。だいぶ回復した」
「マジかよ怪物」
「お前に言われたくない」

千里はいらただしげに起き上がると、再び部屋への戻っていく。
「あぁ、そうだ、明日学園に行くけど、何か持ってきてほしいものとか買ってきて欲しいものある?」
「あー……原田に言って必要書類と後近所のスーパーでスーパードライのお酒買ってきて。」
「りょーか……いってやるかボケ!!お酒は買わない」
「やぁだぁあああああああああ!!お酒ええええええ!!」
「未成年飲酒禁止!!」
「やだあああああ!!」
「もうやだこいつ亜留斗呼ぶ」

如一はいつもと立場が逆転するとすぐに亜留斗を呼ぶ癖があった。というのも千里は疲れてくると、お酒を求めてくるので、亜留斗に栄養剤を持ってきてもらい、それをいつも飲むと大分落ち着くのだ。と言ってもお酒だけは欲するが。

17日前 No.180
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