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そして、私の大好きな

 ( 恋愛小説投稿城 )
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三鈴 ★HSBFgjXg7O_Iwi

あなたは今、何を思っているの?


何を思って……あの人を見ているの?


あの人に向け笑顔を見せているあなたを見ていると、胸が痛みます。



とても……辛く、涙が出そうになります。













5年前 No.0
切替: メイン記事(85) サブ記事 (8) ページ: 1 2


 
 
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このはβ.+・。* ★xWbgY3bL81_7Ea


悔しかった……。




すごく、すごく、悔しかった。



カオリさんは、なんて、気のきく人なんだろう。




私は、少しは、ナツさんのことを気にしながらも、観光を楽しんでた。


でも、カオリさんは違ってた。


観光をしていた時も、カオリさんは、ナツさんのことばかり……考えていたんだ。




ナツさん………だからなの?




ナツさんにだから、そういうことするの?


他の人にも……ユウさんにも、同じことしてあげれる?




多分、しないよね。




ナツさんだから、するんだよね。



ナツさん……だから。




なんで?




なんで、なんで、なんで、なんで………なんで!?



彼氏いるじゃん!!


それで、いいじゃん!!



なんで、彼氏いるのに、他の人好きになるの?



なんで、それがナツさんなの!?



私にはわからない。



わからないよ……。




4年前 No.36

このはβ.+・。* ★xWbgY3bL81_7Ea

宿泊するホテルには、4時前に着いた。




雪がチラチラと降り出し、さらに私の心を凍らせていった。




私は最低だ……。




バスの中では、カオリさんを見れなかった。


カオリさんは、旅行を楽しくしようと、色々と話してくれてたのに、私は生返事。




きっと、変に思ったよね。




でも………


私には無理。


嫉妬心で、自分が醜くなっていたから。




カオリさんの笑顔を見たら、もっと……もっと、醜くなっていくような気がしたから。




そんな気持ちを、なんとか抑えながら、ホテルへと入った。




ホテルのロビーは広くて明るかった。


薄いピンクの絨毯が敷かれていて、可愛らしく、そして清潔感がある。




大浴場の他に露天風呂もあり、100人を収容できる宴会場が3ヶ所もある……というくらい、大きなホテルだった。




私たちが仲居さんに案内されたのは8畳と、テーブル、椅子が置いてある板間の部屋だった。


カオリさんと、事務所の年配のパートさん二人と私が、同じ部屋。




正直、今の私には、カオリさんと同じ部屋は………辛かった。




でも私は、カオリさんと一緒にいるしか、出来なかった。






………ナツさんのそばにいたかったから。






だって……




だって………私は、ナツさんにとって、きっと、カオリさんの連れ、くらいにしか思われていだろうから。




まだ『友達』にも、なれてない、ただの後輩。






ただの……後輩。






そんなの、私自身が一番わかっていたんだよ……。




4年前 No.37

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「まだ4時だし、温泉入りに行かない?」




カオリさんは、いつも通り、明るく誘ってきてくれた。




「ちょっと、疲れちゃったから、部屋で休んでて……いい?」




疲れたのは事実だった。


会社の人達、大勢と長時間、一緒にいての気疲れ。




そして、少しの間でいいから、カオリさんと離れたかった。




「そっか、わかった。ゆっくり休んでてね」




そう言うと、カオリさんは、パートさんたちと一緒に部屋を出て行った。






―― ゴロン……




畳に寝転がった。




「疲れた〜」




そして、目を瞑った。




今日の事を思い出して、考えていたが、すぐに眠くなり、寝息をたてていた。




「そろそろ起きて。宴会が始まるよ」




そう言うカオリさんの言葉に目を覚ました。




「え……今、何時……?」




「そろそろ夕飯だよ。パートさんたち、もう行っちゃったから、うちらも行こ?」




カオリさんが戻ったのも気付かないくらい、熟睡しちゃってたんだ……。




「うん……」




それだけ返事をすると、とりあえず、化粧を直してから、カオリさんと一緒に部屋を後にした。






宴会場に行くと、すでに料理が並べられていて、うちの社員さん達が集まっていた。


ナツさんもユウさんも、工場の人たちの中にいた。




「ユキちゃん、ここ、ここ」




カオリさんが手をヒラヒラとさせ、私を呼んだ。




『南 ユキ 様』




そう書かれた紙が料理の上に置かれていた。



4年前 No.38

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

席、決まってるんだ……。




隣はカオリさん。


反対隣は、同じ部屋のパートさん。


向かいには、営業さんたちが並んだ。




ナツさん、ユウさんは、離れた列にいた。




……工場の人たちは、遠いなぁ。




なんて、少し残念に思ったんだけど、そんなことはなかったって、後で思うことになった。




……かなり、すごい状態でね。






宴会は社長の挨拶から始まり、1時間もすれば、誰がどこにいるのかも、わからない状態になっていた。


ステージ上では、お祭り好きの人たちが、余興をして、周りを楽しませていた。




……その中には、ナツさんもいた。


もちろん、ユウさんも。




「あははははは。楽し〜ね〜。ユ〜キ〜ちゃ〜ん」




カオリさんは、私の横で壊れていた。


笑いっぱなし……、笑い上戸なんだ。




「何、座っちゃってんの〜、こっち来いよ〜〜!!」




………えっ、ナツさん!?


うわぁ〜、壊れてる。




ステージ上では、はだけた浴衣姿のナツさんが、私たちを呼んでいた。




「はいは〜い!!今、行くね〜〜!!」


カオリさんが、勢い良く返事をすると、私の腕を取って、ステージに上がった。




ドキドキしながら、隣のナツさんに立つと、はだけた胸元が横にあった。




浴衣のはだけたナツさん……何か色っぽいんですけど!!




私はすぐに胸元から目を外し、周りを見回した。




みんな楽しそうだけど、飲み過ぎ!!


酔いすぎだよ!!




帰らないでいいせいか、ナツさん、ユウさん、カオリさんは、いつも飲んでる時とは違い………壊れちゃってる。




でも……私は、みんなみたいには酔えない。


アルコールに強いから。




でも、この場をシラケさせる訳にはいかない!!


そう思い、私はしょうがなく、マラカスを手に、マイクを持って、気持ち良く歌っている、ユウさんの横で、リズムをとることにした。




無理矢理笑顔を作りながら……。



4年前 No.39

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

そんな宴会も9時頃にはお開きとなり、飲み足りない、騒ぎ足りない人たちは、ホテル1階にあるカラオケバーへと、流れた。




もちろん、私たちもその流れに乗っていった。




カラオケバーでは、宴会場の時とは違い、ムードのある『大人』な感じが、少しドキドキ感を与えてくれた。




居酒屋で出されるカクテルと違い、アルコールが強く、私の心と身体を軽くしてくれた。






―― ソルティ ドッグ




私が、必ず最初に頼むカクテル。


ウォッカをグレープフルーツで割ったもの。


グラスの縁には、塩が薄く付けられていて、一緒に味わいながら飲む。




大人になって、初めて飲んだカクテル。




未成年の頃から、多少(?)は飲んでいたけれど、きちんと、シェイカーを振ってもらったのは、20才を越えてからだった。




周りでは、上司や先輩方が歌っていた。


私は、カクテルの美味しさで、自分の世界に入っていた。





だから、ナツさんとカオリさんが、途中で席を立ったことを、この時はまだ……






知らなかったんだよね。




――あれ?




ソルティ ドッグを2杯飲み終える時くらいに、あることに気が付いた。




ナツさん……いない?




辺りを見回すと、カオリさんもいないことに気が付いた。




―― ドキン……




なんか、嫌な感じに、心臓が鼓動した。




ユウさんは………っと、いた。




ユウさんは、少し離れたテーブルでナツさんではない、工場の人と飲んでいた。




さっきまで、ユウさんと一緒にいたはずなのに。




宴会場では、4人で一緒に騒いでいたけど、バーに来た時に、私はカオリさんと営業の先輩たちと。


ナツさんは、ユウさんと工場の人たちと。




って、別れて飲んでいた。




だから……気付かなかった。




トイレとかってないよね。


二人揃っていないんだから。




だったら………。


どこかで二人きりなの?




もしかして……最初から、約束してた?




頭の中で、考えたくない思いばかりが、巡っていた。



4年前 No.40

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「すみません、ちょっとトイレに……」




先輩たちに、そう言って、私は席を立った。




バーを出たけれど、どこにいるのかなんて、わかるはずもなく、ロビーやトイレを通り、自分たちの部屋へと向かい、廊下の角を曲がろうとした時だった。






―― !!





私は慌てて、曲がろうとした角に身を隠した。






ナツさんと、カオリさんが……




抱き合っていたから……。





――ズキン……






嫉妬と言う名の棘が、私の心に、深く突き刺さった。




胸が痛い……。




『嫉妬』が、私の心を破裂させてしまいそう。




痛い………


苦しい………




見たくないのに、目が離せなかった。



のどの奥の方が痛い。




泣きそうだった。




でも……涙は出ない。




びっくりしたから?




……違う。




理解が出来ないからだ。




ううん……したくなかったから。






「ナツ……」




カオリさんの可愛らしい声が、私の耳に届いた。




もう、見ていられなかった。




見ていたく……なかった。








カオリさんの後の言葉を聞く前に、私はその場を離れた。




……逃げたかった。




どこか、誰もいない所に。




私の足は無意識に外へ向かっていた。




空を見上げると、雪が、ちらちらと空から舞い落ちている。




静かで、暗い空の闇が私を引きずり込みそうだった。




……それでもいいと思った。




深い闇の中に消え去りたかった。




カオリさんは、きっとナツさんが……好き。




カオリさんの表情を見ていれば、わかる。




前からそんなの、わかっていたのに……




思いたくなかったんだ。




カオリさんが、ナツさんを好きだ……と言うことを。

4年前 No.41

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy



……ナツさんは?




ナツさんはどうなの?




もし好きだったら?




付き合っちゃったりしたら?




私は、耐えられるの?




こんなにも、好きで、好きなのに……。




大好きなのに。




……耐えられない。




耐えられるわけがない。




でも……




でも………そばにいたい。




アナタの目に私が映っていなくても。




隣にカオリさんがいたとしても。



友達じゃなくても。




……それでも、いい。




顔を見ていられるだけで……






ただ、それだけで……いい。






そばに……近くにいたいよ、ナツさん。








4年前 No.42

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


そう……自分に、言い聞かせた。




そして、決めたんだ。




『嫉妬』という棘と一緒に、『恋』をした心を封印することに。




見えない……私が造り出した『箱』に、それを入れ、二度と使うことはないであろう鍵で閉め、頑丈な鎖で縛って……




身体の奥、深くに封印することに。




これで、これで……いいよね。




カオリさんと、仲良くしていれば、たとえ、カオリさんがナツさんの彼女になったとしても、近くにいられる。




私を見てくれなくてもいい。


カオリさんの連れでいい。


ただの後輩でいい。




あなたの側に、いさせて下さい。




私の気持ちは封印したから……。


迷惑はかけないから。






―― そして、ナツさんとカオリさんの関係がわからないまま、旅行は終わった。




私の、切ない決心と共に……。



4年前 No.43

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

ねぇ、ナツさん。






気持ちを封印するって……






本当に辛かったんだよ。






でもね、あなたのそばにいるためには、そうするしかなかったんだ。






嫌われたくなかったから。






でも、そんな気持ちすら、あなたにとっては、きっと迷惑だっただろうね。



4年前 No.44

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

初めてナツさんの名前を知ってから、一年が過ぎた。


今年の新入社員、中途入社の人はいなかった。




今年も、私が一番下。




社員旅行に行ってから、もうすぐ3ヶ月になろうとしていた。


相変わらず、私はカオリさんにくっついて、ナツさん、ユウさんと出掛けていた。




あの後、ナツさんもカオリさんも、何も変わらず接していた。




付き合って……いないのかな?




そう、思うほど、普通だ。




でも、2人が付き合っていなくても、カオリさんがナツさんを好きなのは、事実。




そして……多分、ナツさんも。




私は、辛くても側にいる。




辛くても、辛くても、ナツさんの顔を見られれば、それだけで……。




でも、たまに、私の奥にある『箱』が音をたてる。




哀しくなる……。


苦しくなる……。




だから……、だから私は、チヅルの誘いに乗った。



4年前 No.45

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

「彼氏の仲間たちと一緒に、テニスしに行かない?」



って誘い。


1週間くらい前……夜、家に電話が掛ってきて、そう誘われた。




「もうそろそろ、気持ち、落ち着いたかなって思ってね。」


チヅルは、そう言った。




チヅルには、社員旅行の出来事を話した。


もちろん、マキにも……。


二人共、すごく心配してくれた。



嬉しかった………。


本心を話せる友達。


……親友。


……心友、心からの友達。




だから、チヅルからの気遣いが嬉しかった。




私は、ナツさんに会ってからは、男の人が来る集まりには、行かなくなっていた。


他の男の人になんて興味がなかったから。




ほんとは今だって、興味はない。


でも、少し外の空気を吸ってもいいかなって、思った。




ナツさんのいない空気を吸うことで、少しでも、気が紛れれば……いいなって。




この時の私は、逃げていたのかもしれない。




側にいたい、と決めて『心』を封印したのに……。



4年前 No.46

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「ユキ、おはよ〜。」




私の目の前に停まった車から、チヅルが顔を出した。




―― 北千住のルミネ前


私たちの待ち合わせ場所。




チヅルが車で迎えに来てくれて、テニスコートに行くことになっていた。




「おはよ。あれ?……彼は一緒じゃないの?」


「先に、他の人の車でコートに行ってるって。」




チヅルの彼氏とは、今日が初顔合わせだった。




早く見てみたかったので、ちょっと、残念って思った。




そして、助手席に私を乗せ、チヅルは車を発進させた。




すぐに……彼氏が一緒に乗って来なかった理由がわかった。




チヅルの運転ってば、怖い。


……出来れば、もう乗りたくないくらいの運転だった。





そういえば、今まで、車を出したのは私だったっけ……。




まぁ、そのおかげで早くテニスコートには着いたんだけどね。


4年前 No.47

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「あそこ、あそこ!」




チヅルが指差したその先で、3人の人がテニスをしていた。




……どれが、チヅルの彼かな!?


なんて思っていたら、向こうから一人、走ってきた。




「チィ〜、早かったね〜」




『チィ』、チヅルのことか。


……って、この人が、彼!?




「うん。道空いてたからね」




チヅルは、可愛く微笑んだ。




私たちには普段見せない笑顔。




へぇ、彼氏にはこんな顔するんだぁ。




ちょっと羨ましく思った。




そんな笑顔が出来ることを。




そんな笑顔をする相手が………いるってことを。



4年前 No.48

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「こんにちは。ユキちゃんだよね? 若井 カズト です。よろしく」




日に焼けて、大きな……いや、体格のいい人だった。




テニスより、ラグビーでもやってそうな……。




クマ……みたい。




人の彼氏に対して、随分な印象を持った。




でも、目はクリッっとしていて、優しい感じ。


髪は短く刈ってあって、スポーツマンの爽やかさがあった。




「こんにちは。南 ユキです。カズトさんのことは、チヅルから色々、聞いてます」


「えっ本当!?僕の悪口とか言ってない?」


「全然、言ってないですよ〜。いっつもノロケられてるんですよ〜」




カズトさんは、9才も年が離れている。


でも、そんな風には見えなくて、話しやすい。




「え〜、ノロケてないから〜、カズ君、本気にしないでねっ!」




ちょっと赤くなりながら、慌ててるチヅルが……可愛いかった。



4年前 No.49

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「お〜い、カズ〜、こっちにも紹介しろよ〜」




コートの中から声がした。




「いけない、いけない。チィ、ユキちゃん、コートに行こうか」




そう言うと、カズトさんは、私とチヅルをコートに連れていってくれた。




コートには、背の高い、ひょろっとした、眼鏡の人と、私より少し高いかな?……くらいの人が立っていた。




「…っと、チィは知ってるよね。こちらはチィの友達で、南 ユキ ちゃん」




カズトさんに紹介されたので、とりあえず


「よろしくです」


って、軽く頭を下げた。




すると、いきなり、背の低い方が


「じゃあ、ユキちゃん、僕と組もう」


そう言うと、私の手を取った。




別に、ドキドキ……とは、しなかったけど、なんか、くすぐったい感じがした。




「菅野 ヨシユキ。カンちゃんって呼んで!みんな、そう呼ぶから」




私の目を真っ直ぐ見て、ニコってした。




優しい、温かい笑顔だった。




笑うと、細い目が更に細くなって、誰が見ても、いい人って思うだろうなぁ、って。




―― 犬……それも柴犬。


そんなカンジの人。




自然と、笑みがこぼれた。




久しぶりに……素直に、微笑んだのを感じた。

4年前 No.50

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


私はカンちゃんと、チヅルはカズトさんとペアになって、試合前のウォームアップをした。




背の高い眼鏡の人は、審判ということで、何もすることなく、ベンチで休憩していた。




―― 背の高い眼鏡の人


佐々木 タツヤ さん。


カズトさんと一緒で、9才上。




カンちゃんだけ、3才上。




3人とも、同じ会社で、営業さん。


テニスが終わってから、チヅルにそう教えてもらった。




そして、身体も温まった頃に、試合をすることになった。




テニスは、中学の時に部活でやっていたけど、卒業してからは、遊びでしかやってなかった。


なので、試合と言うより、打ち合い……みたいな感じになってしまった。




悪いなぁ。




男性陣は経験者らしく、打ちやすいところに、球を返してくれていた。




何ゲームかは、5人でペアを変えて試合をした。


でも、みんなみたいに、定期的に体を動かしてなかっから、途中で、バテてちゃって




「少し…休ませて下さい」




って、お願いしてしまった。




4年前 No.51

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「私も〜……」




チヅルも私同様、バテていた。




「じゃあ、チィとユキちゃんは休んでて」




カズトさんは、そう言うと、今度はシングルで試合を始めた。




……タフだなぁ。




私とチヅルは、目を合わせて苦笑した。




目の前で試合をする、カズトさんとカンちゃん。


私たちはベンチに座り、それを眺めていた。




「ユキ……楽しめてる?」




不意にチヅルが聞いてきた。




「え……うん、楽しいよ。疲れたけどね。でも、テニス、ホント楽しい。誘ってくれて、ありがと」


「良かったぁ」




チヅルの気持ちが、嬉しかった。




私のことを気遣って、テニスに誘ってくれたこと。


心配して、外に連れ出してくれたこと。




ホント、ありがと……。






その後、遅いお昼を一緒に食べて、チヅルに北千住まで送ってもらった。


あの、怖い運転で……再び。




コートからの帰り際


「今度、みんなで飲みに行こうよ」


と、カンちゃんが言った。




何でか嬉しかった。


ちょこっとだけどね。




ほんの………ちょこっと、ね。



4年前 No.52

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


カンちゃんの言葉が現実になったのは、テニスに行ってからすぐのことだった。




「今度の金曜の夜、飲み会に行こうって。行ける?」


チヅルから、そう電話があった。




私はその電話を思い出しながら、事務所の屋上から工場を見下ろしていた。




そして複雑な気持ちになりながら、仕事を淡々とこなすナツさんを目で追っていた。




真剣な顔のナツさん。


いくら心を閉じ込めても、姿を見れば嬉しくなる。




目で追わないでは……いられなくなる。






でも、ナツさんを見ていると、あの時の光景が思い出される。




カオリさんの顔が浮かんでくる……。




わかってる……。




わかってる………から。




目を、ギュッて瞑り、数秒……。


私は、ナツさんが見える場所を後にした。




金曜日、楽しもう。


きっと、楽しめる。




テニスの時は楽しかった。


テニスが楽しかったのか、カンちゃんたちといたから楽しかったのか、わからないけど……




でも、違う空気が新鮮で、そういう空気もあるんだってことを忘れていた。


『好き』とかって、恋愛感情なんか関係なく、遊ぶってことを。


短大時代のサークルや、友達と行った合コンとか。




今は……今の私には、そういうのが、いいのかもしれないね。


そういう軽いのが、私の心を楽にしてくれるのかもね。




この時は、そう思っていたんだんだけどね……。


4年前 No.53

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

―― 金曜日




待ち合わせは、北千住に7時。




定時で仕事が終わったので、ロッカールームで軽く化粧を直していた。




「あれ、ユキちゃん、今日、雰囲気違くない?」




―― !!


カオリさんってば……するどい。




「あっ、もしかしてデート?」



「違う!違う!友達と飲みに行くの!!」




私は慌てて否定した。




……何、一生懸命否定してるんだろう、私。




「それより、カオリさんこそ、カワイっぽくない?」


とりあえず、話題をそらすために、言ってみたんだけど……




「うん、デートだからね」




って……返ってきた。




―― デート!?




……って、彼と?


それとも……ナツさん?




私の心が、揺れた。




今まで、わからないで過ごしてきたし、これからも知らなくてもいいって思ってた。




もしカオリさんから、ナツさんと付き合う……なんて事を言われたら、やっぱりショックだから。




「じゃあ、先、行くね。また来週ね」




私が、ぐるぐると考えている間に、カオリさんは用意を済ませ、ロッカールームを出て行ってしまった。




私は、確かめないではいられなかった。




知るのが怖くて、カオリさんには聞けなかったけど、カオリさんのデート相手がナツさん……なのかってことを。




私は、ロッカールームを出て、屋上に向かって、走った。




工場の人は、毎日、残業がある。




もし、ナツさんがいたら……残業してたなら。




デートの相手は、ナツさんじゃないってことだよね?




だって、残業してたなら、8時まで仕事してるし。




そしたら、カオリさんだって残業していくよね!




私は、そう都合良く考えていた。




心を封印していても……




もう、ナツさんのことを諦めたとしても……




やっぱり、やだ。




カオリさんが彼女なんて……いやだ。




絶対にいやだ!!




4年前 No.54

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


屋上に着くと、真っ直ぐ工場を見渡せる場所へと、急いぎ、息を切らしながら、屋上の冊から、下を覗いた。






―― いた!!






作業服を着た、ナツさんとユウさんの姿があった。




……良かった。




仕事してる。




ほぅ〜……っと、大きく息を吐いた。


と、その時だった。




―― プップッー




……?


クラクション?




工場とは反対の道路側から、クラクションとともにエンジン音が聞こえてきた。




あっ……カオリさん。




反対側を覗き込むと、ちょうど、カオリさんが、車に乗り込むところを見た。




彼氏と……デートだったんだ。




助手席のドアが閉まると同時に、車は走り去ってしまった。





彼とは、変わらなく付き合ってるってことだよね?




ナツさんとは、見た通り……付き合ってはいないのかな?




そうであってほしい。




だって……思い知らされたから。




私のカオリさんに対する思いが。




『絶対にいやだ』




そう、思った時に……




憎い……って思いでいっぱいになってしまったから。



4年前 No.55

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

カオリさんは、優しい。




みんなに優しい。




男に媚びてるわけでなく、自然に、男の人の中に溶け込める。




だから、一緒にいると、比較されてるようで……。




私の勝手な思い込み。




そんなの、自分で良くわかってる。




なのに……なのに、カオリさんを憎く思ってしまう。




『彼』がいて、ナツさんが好きで。




そして『彼』から愛されて。




きっと……ナツさんからは、好かれていて。




羨ましい……。




誰からも好かれるカオリさんが……。




好きな人……自分が好きになった人から愛される、カオリさんが。




そして、私も……カオリさんが好き。




憎く思っても、嫌いになれない。




嫌いになれたら、どれだけ楽なんだろう。




私の頭の上、空には、厚い雲が立ち込めていた。




まるで……私の頭の中。






なかなか晴れない私の頭の中のようだった。




4年前 No.56

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy



私は……






今でも、あなたが好です。






でも、外に目を向けて行かなきゃ、いけないんだよね……きっと。






もしかしたら……






目を向けられるチャンスなのかもしれない。






もし、そう出来たら……







私の気持ちは、楽になるのかな?



4年前 No.57

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「お疲れ〜、乾杯」




―― チン、 カチン……




カズトさんの合図で、みんなでジョッキを合わせ、鳴らした。




みんな……この前のテニスのメンバー。


チヅル、カズトさん、タツヤさん、そしてカンちゃん。




マキはテニスの時も今回も、バイトで来れなかった。




私は、カンちゃんの隣に座った。




仕事が終わるまでは、楽しみにしてた飲み会だったのに、私の頭の中は、晴れないでいた。






「つまんない?」




カンちゃんが、私の顔を覗き込んで言った。




「えっ、あっ、ううん、そんなんじゃないです。仕事の事考えてただけっ!!」




とっさに仕事のせいにした。


いけない、こういう態度、良くないよね。


チヅルにも、悪いし。




「今日は、仕事は忘れて、楽しもうっ!!ほら、飲んで、飲んで!!」




そう言うと、カンちゃんは、私の手にジョッキを持たせた。


とりあえず、グビグビッと一気に飲んでみた。




「お〜、強いね〜。おかわりもビールでいい?」


「はい、それでヨロシクです」




いっぱい飲んじゃおう。


そうすれば……


いっぱい飲めば……忘れられるかな?




カオリさんへの思いも、何もかも、忘れられれば……いいのにな。





ある程度飲んだ後、最近みんながハマっているという、ビリヤードをしに向かった。




ビリヤード……。




初めてやったのは、カオリさんたちと。


私に教えてくれたのは……ナツさんだった。


でも、センスがないのか、全然思った方に飛ばせなくって……。




「下手クソだなぁ」




そう言って、いつも、ナツさんは苦笑していたっけ。






「うわ〜、また曲がっちゃったね〜」




カンちゃんは、違った。




「大丈夫!大丈夫!ちょっとずつ、真ん中当たるようになってきてるよ」




……優しい。


どことなく、ユウさんの雰囲気があった。




だから、私は心地いいな……って思ったのかも。




親しみやすい笑顔。


優しい口調。




そして、『私』を見てくれる。




チヅルの連れ、じゃなくて……『南 ユキ』自身を。




そんなの、当たり前なのかもしれないけど、今の私には、そんな些細なことが嬉しかった。

4年前 No.58

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「ユキちゃんってさ、休みの日とかって何してるの?」




―― コンッ


っと、突きながらカンちゃんは聞いてきた。




―― カツン コロ…コロ…コロ… カコン


カンちゃんが突いた白い球が、9の球をポケットに落とした。




「よっしゃ!!入った〜!!」




カンちゃんも……上手いなぁ。


隣でやっている、カズトさん、タツヤさんも上手。




でも、一番上手いのは……




格好いいのは……






―― フルフル




私は頭を振った。


頭の中に浮かんだ顔を……振り払った。




「友達と買い物行ったり、映画行ったり……色々かな」


「なんか、女の子だね」


「えっ、女の子っぽくなんかないですよ。この前、チヅルとドーム行ってきたくらいだし」




そう……、私とチヅルは野球観戦が好き。


高校の時から、コインロッカーに私服を入れて、帰りに着替えて、ドームに行ってたっけね。




外野、自由席。


メガホンを振って、大声だして…。


次の日には、声が枯れちゃってね。


とにかく、野球観戦は楽しい!!


4年前 No.59

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

「あっ、ホント!?僕も野球見るの好きなんだ。でも、球場に行ったことないんだよね〜。ねっ、今度、連れてってくれない?」






―― !!!!




それって、それって……デートってこと!?




「ふ、二人……で?」




うわぁ、私、動揺してる。




「えっ、ダメ?」




それに比べ、カンちゃんはさらっと。




あっ……そっか。


『友達』として誘ってるんだよね。


なに、意識しちゃってるんだ、私ってば!




「ううん、全然いいですよ〜。行きましょ!!」



だから、そう、軽く答えた。






でも……軽く答えたことが、後々、後悔させることになったんだよね。


―― カチャ カチャン……




……ん?


何か、いい匂い。


……お腹すいたぁ。




匂いのする方を、眠い目をこすりながら見た。




チヅルだぁ。


あっ、朝ご飯作ってる。




昨日、遅くまで遊んでて、終電がなくなり、チヅルのところに泊めてもらっていた。




チヅルは就職したと同時にアパートで一人暮らしをしている。


ここは、私とマキの憩いの場……溜り場になっていた。




「おはよー。うわぁ……おいしそー!!」




テーブルの上には、ハムエッグとデニッシュが並べられていた。




「ユキおはよ。良く寝れた?……はい、これ」




チヅルは、コーヒーの入ったマグカップを差し出した。




「サンキュ」




受け取ると、イスに腰を掛けた。



「さっ、食べよ。いただき〜」


「いただきま〜す」




とりあえず、コーヒーを一口。


うん、おいし。



そして、デニッシュにかぶりついた。

4年前 No.60

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

「うん、おいし」




私はニコニコ顔で、デニッシュを頬張った。




「ねぇ、カンちゃん……どうだった?」




マグカップを手に持ちなから、チヅルが聞いてきた。




「カンちゃん?いい人なんじゃない?」




軽く答えた。




「そうじゃなくてぇ。」


「……? 今度、ドームに野球見に行く約束したけど……」




「――!! なんだ、上手くやってんじゃん」




そう言うと、チヅルは満足気な顔をして、コーヒーに口を付けた。



えっ!?




上手く……って、そんなんじゃないんだけどな。


ただ、ノリで、そういうことになったんだけど。






……でも、何となく、悪い気はしなかった。




ビリヤードをしていたお店を出ると、駅まで、カンちゃんと並んで歩いた。




私は少し高めのヒールを履いていた。




真横に目線があった。


カンちゃんは、あまり背が高くないから、顔が近くに、感じられた。




「はい、これ」




カンちゃんの手に、名刺が握られていた。




「これ、僕の携帯番号ね」




会社の名刺の一番下に、携帯番号が書かれていた。




でも、この頃、私はまだ携帯を持っていなかった。




カンちゃん、携帯……持ってるんだ。




……カンちゃん……も。




カオリさんも、ユウさんも。




………そして、ナツさんも持っている。




4年前 No.61

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「私、携帯、持ってないんですよね」


「いいよ。ユキちゃんから連絡してくれれば」




さすがに、実家の番号は教えたくはない。




「うん、わかった。なら、ドームでの試合日程、調べたら、連絡しますね」




カンちゃんから名刺を受け取って、手帳の間にはさんだ。




カンちゃんは、駅に行く間も、色々と話しかけてくれた。




表情がクルクル動いて……なんか、かわいい。




年上なのに、そんな感じしなくて。






カンちゃんとだったら……




カンちゃんとだったら……きっと、穏やかな、温かな、恋愛ができそう。




そう、思えてきたんだよね。




「いいんじゃない?そういうのでも」




チヅルは、微笑んで、そう言った。




「何も、辛い想いを抱えてること、ないんじゃない?ドキドキするだけが、恋愛じゃないって。付き合ってから、好きになってくこともあるでしょ」






昔はそう思っていた。


それが理想なんだ……って。




でも、ナツさんに会って、私は自分が好きにならないと、ダメなんだと思ったんだ。




辛くても、そばにいて見ていられるだけで、幸せなんだと……。






チヅルの言うことはわかる。




昨日は、カンちゃんとの恋愛、いいのかもって思ったのもホント。




でも……でも……




どうしたらいいのか、どうしたいのか……




わからない。






「ごめん、ごめん。朝から悩ませちゃったね」


「ううん」




チヅルが謝ることじゃない。


私のことを考えて言ってくれてるんだから。




「とりあえず、食べちゃおうか!」




チヅルは大きく口を開け、ハムを食べた。


私も、止めていた手と口を動かすことにした。




窓からはキラキラと陽が射している。




悩んでるのが、もったいないくらいの眩しい陽射しだった……。




4年前 No.62

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

週も明け、また、同じ毎日がやってきた。




同じ時間に起きて、会社に行って、仕事をする。




カオリさんとも、何も変わらず……。




当たり前だよね……。


だって、何一つ、聞いてないんだもん。




私が勝手に悩んでるだけ……なんだもん。




カンちゃんのことだって、答えは出なかった。




チヅルは、私とカンちゃんが上手くいけば……って思ってるんだと思う。




カンちゃんは、どう思ってるのかな?




私は勝手に、『ノリで誘った』って思ってたけど、実際のところ、わからない。




もし……もし、カンちゃんが、チヅルの言うようになってもいいって思っているなら……。




正直……揺れていた。




温泉で、自分に誓った言葉も、嘘じゃない。


そばにいれたら、それだけでいい……って。




でも、ちょっとの優しさが、心に染み渡る。




私は、ホントは弱いんだよ……。



弱いくせに、強がって……。




……その優しさに、負けちゃいそうだった。





結局、答えを出せないまま、カンちゃんとドームに行ったんだよね。


自分の気持ちも定まらないままに。




ビリヤードに行き、カンちゃんと約束してから、2週間。


私は、JR水道橋の駅の改札に立っていた。




カンちゃんとの待ち合わせのために。






1週間と少し前……。


ドームでの野球の日程を調べたところ、昨日、今日、明日と、試合が入っていた。




カンちゃんからもらった名刺を片手に、もう一方で、電話番号をプッシュした。




―― Pululululu lulululu…




……なんか、緊張しちゃうな。




そして、2回のコールの後……




「はい、もしもし」




―― カンちゃんだ!!




カンちゃんが出るの……当たり前なんだけど、ちょっとドキっとした。




「もしもし、南です。……あの、今、平気ですか?」




時間は夜の10時。


後ろ、ガヤガヤしていた。



4年前 No.63

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「あ、後ろ、うるさいでしょ?ごめんね〜。今、麻雀してて。」




なんか……意外だった。


カンちゃんが、麻雀って。




ナツさんは、昔、よく朝までやってたって言ってた。


徹夜明けの朝日が、紫……っていったい!?って思ったのを覚えてる。




男の人って……。




緊張も、ちょっとのドキってのも、どこかに行ってしまった。




結局、この日の電話は、行く日にちを決めるだけで終わってしまった。




チケットを購入した後も、1回しか電話では話さなかった。




待ち合わせ場所、時間、そして、ちょこっとだけのおしゃべりだった……。




「ごめんね〜、待った?」




改札を出ると、カンちゃんは、こっちに向かって走ってきた。




―― 12時50分




待ち合わせは、1時。




カンちゃんって時間に正確なんだ。


そういうとこは、ちょっといいなって思う。




「ううん、私も、今さっき来たとこだから」


「良かった。じゃあ、お昼食べにいこうか!」




特に決めてたわけじゃなかったんだけど、ドームのそばにある、アメリカンスタイルのレストランに入ることにした。




ここは、私とチヅルのお勧めのお店。


雰囲気も料理も、外国チックで、気に入っていた。




ハンバーガーに、フレンチフライ。


そしてサラダとコーラを注文した。




この時に、私の心の中で、「あれ?」って思ったことがあった。




ほんの……些細なこと。




それは、注文する時のこと。




「じゃあ、店員さん、呼びましょっか」


「そうだね……っと、ユキちゃん、呼んでくれる?」




辺りに店員が居なく、少し離れたところに居たのを見つけ、カンちゃんは、私にそう言った。




えっ……自分で呼べばいいのに。




そうは思ったんだけど


「いいですよ」


……って、軽く、ニコッってして、店員を呼んだ。




私が気にし過ぎてるだけなんだって、わかってるんだけど、どうしても、思ってしまったこと……。


4年前 No.64

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


カンちゃんは大声を出すのを、恥ずかしく思う人だった。




それは、後で野球を観戦した時にわかったこと……。


この時は、まだ、恥ずかしがりやなのかな?


くらいで、まぁ、いっか……って、思ったんだよね。




そして、注文した後は、楽しくおしゃべりしたし、ハンバーガーを食べた。




食べた後も、野球までの時間がまだ結構あったから、ゲームセンターに入り、一緒に出来るゲームをした。




カンちゃんとの対戦は楽しかった。


勝ったり、負けたり……って、いい勝負だった。






なのに……




それなのに、そんな時に考えてしまうのは……ナツさんのこと。




カンちゃんには、すごく失礼だったと思う。




車のレースをしている時、銃を撃っている時。




何をやっている時でも、私はカンちゃんじゃなく、ナツさんを感じていたから……。




いつも、みんなでゲームセンターに行って、ナツさんと対戦すると、いつも私が負けてしまう。




「下っ手だなぁ」




なんて、得意気な顔をするナツさんに……




会いたい。




そう、思ってしまったから。



4年前 No.65

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


4時近くになり、25番ゲートに、自由席のチケットを持った人たちが並び始めた。




私とカンちゃんも、一緒にメガホンを買って並んだ。




5時に入場し、後ろの方だったけど、なんとか座ることができ、6時の試合開始を迎えた。




ゲームセンターを出た後からは、ナツさんのことを考えないように、自分の心を抑えようとした。




だから、カンちゃんといっぱい会話をした。




いっぱい、いっぱい、応援した。



応援しているチームがチャンスの時には、立って、大声で応援したし、メガホンもバシバシと、壊れるんじゃないか…ってくらい、叩いた。




……もし、この時にカンちゃんが、同じように、応援してくれていたら。



一緒に騒いでくれていたら。




すぐにでは、なかっただろうけど、カンちゃんを好きになっていったんじゃなかったかなって思うよ……。




できれば……そうなりたかったよ。






でも、カンちゃんは、そういう応援、引いちゃたんだよね。


恥ずかしいって、思ったんだよね。




「……すごいね」




この一言で、……あぁ、違うんだなって思った。


多分、カンちゃんもそう思っただろうね。






……そして、抑えていた、ナツさんへの「会いたい」って気持ちが、心に溜まり、涙となって、溢れでそうだった。

4年前 No.66

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野球観戦は、応援していたチームが勝って終わった。




……なのに、私の心は重たかった。




お腹が空いていて、マクドナルドに入ったけど、愛想笑いをするので、精一杯だった。




「楽しかったね。また遊びに行こうね」




カンちゃんは、そう言った。




本心なのか、社交辞令なのか、わからなかったけど、もう私には……どっちでもよかった。




「そうですね。今度は、みんなで遊びに行きましょうね」




私の……精一杯の否定の言葉だった。




「………そうだね。みんなでまた飲みに行こうね」




カンちゃんは、軽く微笑んで、そう答えた。




その後、駅で別れたけれど、あの、目がなくなっちゃうような、人なつっこい笑顔を見ることは……最後までなかったんだよね。


4年前 No.67

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私は忘れられないのかな?






誰といても……






ナツさんを想ってしまうの。






何をしていても……






好きって気持ちでいっぱいなの。






ねぇ、いつになったら、私の心から出ていってくれるの?






……嘘。






本当は、出ていって欲しくなんて……ないんだよ。




4年前 No.68

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―― 夏が過ぎ、…そして秋、冬も穏やかに過ぎようとしていた。



その間に、私の周りで一つの変化があった。




それは、ユウさんが結婚したこと。



ずっと付き合っていた彼女と……。




結婚式の時に、初めて会ったユウさんの彼女……奥さんは、とても笑顔の素敵な人だった。




ユウさんと、どことなく雰囲気が似ていて、お似合いだなって思った。






そして、このユウさんの結婚が、私たちの関係を変えたんだ。




それは、冬の寒さもようやく過ぎた頃だったんだよね。



「私ね、来年、結婚することになったんだ」




金曜日の仕事帰り、4人で居酒屋で飲んでる時、カオリさんが、いきなりそう、告白してきた。






―― !!!!






「マジでっ!?おめでとう」


「おめでとう、良かったな、カオリ」




ユウさん、ナツさんがそれぞれに、おめでとう……と言っていたけど、私はすぐには、声が出なかった。




あまりにも突然で、すごく……びっくりした。




「あ……、カオリさん、おめでと…」




私は、それだけ言うのが、やっとだった。




カオリさんは、今までにないくらい、素敵な笑顔を見せた。




ああ、幸せなんだな……って思った。




そう思いながら、私は、ナツさんを、チラッ……と見た。




普通に笑ってた。




もう、カオリさんのことは、いいのかな?




……って、少し……ほんの少しだけど、期待しちゃったんだ。


4年前 No.69

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「うーっん…、ここは気持ちいいね」




伸びをしながら、カオリさんは言った。




週が開け、私はカオリさんと、事務所の屋上にいた。




「えー、……寒いと思うんだけど」




いくら、雲一つなく、太陽が屋上一面を照らしていても、冬の空気は冷たかった。




「……で、カオリさん、話って、なに?」




ここに誘ってきたのは、カオリさんだった。




「ユキちゃん、ナツのこと、どう思ってる?」






―― !!






えっ!?……何?


何でそんなこと、聞いてくるの?




私は、なかなか答えられなかった。




……でも、もうカオリさんは結婚する。




なら、隠しておく必要ないかな、って思った。




そして、軽く息を吸い、一呼吸置いてから私は口を開いた。




「ナツさんのこと、好き……です」




『好き』……この言葉が、私の奥深くにしまい込んだ私の『心』を解放した。




頑丈に縛った鎖も、鍵を掛けた箱も、すべてを消し去っていった。




心が軽くなった………気がした。




「やっぱり……。そっかな〜って思ってた」




「……ごめん……なさい」




何でかわからないけど、私は謝っていた。




「何で、ユキちゃんが謝るの?」




カオリさんは、困ったように笑った。




「私のせいだよね。私がナツのこと、好き……だったから。ユキちゃん、気付いてたんでしょ?」




……何も言えなかった。


……目線を合わせられなかった。




「いいんだよ、ユキちゃん。私に気を遣うこと、ないよ」



「私の……ナツへの気持ちは、終わってるから」




え!?……終わってる……?




私は顔を上げ、カオリさんを見た。






―― コクン……




と、小さく頷くと……




「告白して、振られちゃったから」




カオリさんは、ニコッてして、そう言った。






信じられなかった。




ナツさんはカオリさんの事……好きなはず。




そんなの、ナツさんを見てると、わかるよ。




ナツさんの気持ちが、カオリさんに向いてるのが、痛いくらいに。




なのに……それなのに、なんでカオリさんは振られちゃってるの?




私の頭の中で何度もその言葉をリピートしていた。




何も言えないでいる私に、カオリさんは続けた。




「私ね、旅行の時にナツに告白したのね」






―― ズキッ……






「そしたら、『無理だろ』って言われちゃったの」




「『彼氏と別れたわけじゃねーんだろ』ってね」


4年前 No.70

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


……あっ、それは私も思った。
彼がいるのに、って。




「私、ずるかったんだ。ナツが『OK』してくれたら、彼と別れよう……なんて。ナツはね、そういうの、すごい嫌がるの。……わかってたんだけどね」




ナツさんは、カオリさんのこと、本当に好きなんだ。




だから、彼氏とちゃんと別れてから……告白して欲しかったんだよね。




でもカオリさんは、ナツさんに振られるのが怖くて、振られた後、一人になっちゃうのが怖くて、彼氏との関係はそのままで……告白したんだね。






冷静にそう考えていた時だった。




「私……自信がなかったんだ」




―― えっ!?




「私、背、低くいし……。子どもっぽいじゃない?ユキちゃんの大人っぽいところや、落ち着いてるところが羨ましかったんだ……」


「ちょ…、ちょっと待って!!何それ!?……私が羨ましいって。」




カオリさんの言葉が信じられなかった。




だって、カオリさんは可愛いし、気が利くし。




自信がないなんて。


私が、羨ましいなんて、そんな……。




「正直、焦ったよ。ユキちゃん、ナツのこと、好きなんじゃないかな……って思った時、ナツのこと、渡したくないって」




―― !!……同じだ。




カオリさんも、私と同じように思ってたんだ。




初めて、『カオリさん』って人を知ったように思った。




完璧な人なんて……いない。


誰だって、自信がないんだ。




4年前 No.71

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy



「だから、一生懸命だったよ。……もう、旅行に行った時には抑えられなくなってね……告白しちゃった」




微笑んだカオリさんは、ちょっと切な気に見えた。




「……でも、ナツに振られて、立ち止まって、考えたてみたの。私はどうしたいのかなって。何日も、何日も。そしてね、ユウさんの結婚式を見た時に、ああ、私もあそこに……一番華やかな場所に、『彼』と座りたいなって思ったんだ。ナツじゃなく、彼と……ね」



そう言った、カオリさんの顔からは切なさが消え、満面の笑顔へと変わっていた。




太陽の日差しを浴びて、キラキラと笑顔が光って見えた。




「だから、ユキちゃん、頑張って!」






『頑張って』





その言葉が、私の心を熱くした。




ああ、そっか……。


私は、ナツさんのそばにいたいから、カオリさんに嫌われないようにしなきゃ……って思って、気持ちを封印してたんだと思ってた。




……でも、違う。




ナツさんへの想い、だけじゃなかったんだね。




私は、カオリさんのことも好きなんだ。


先輩後輩……ってだけじゃなく。




だから、自分の気持ちを封印してまで、二人のそばにいたかったんだね。




……憎んでいたはずの気持ちが、温かい…温かい気持ちへと変わって行くのを感じた。




「……ってことで、ナツさんに頑張ってみようと思います!!」




私はチヅルとマキに、気持ちも新たに、宣誓した。






今日は土曜日。




チヅルのアパートで、久々にマキも揃っての「チーズフォンデュ・パーティー」をしていた。




「でも、良かったね。カオリさんとも、今まで以上に打ち解けたんでしょ?」


「それに、カオリさん結婚しちゃうから、狙い時じゃん?」




パンにチーズを絡めながら、ニヤニヤと二人して、私の顔を見た。




「え〜、早いよ。……多分。」




なんて、答えながらも、私も浮かれていた。




もう、自分の気持ちを抑えなくていいって思ったら、途端に、目の前に明るい道が広がったみたいで。



全てがいい方向に進んで行くんじゃないか……って錯覚すらしていたんだ。






……だから、ナツさんの気持ちを思いやってあげることを忘れてしまったんだよね。


4年前 No.72

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

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4年前 No.73

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

「カンちゃんって、ユキがちょっと気になってたって人?」




パンの次に、茹でたジャガイモをチーズの中に突っ込みながら、マキが言った。




「……うん。いい人だったんだけど……なんて言うか、違うなぁって思っちゃってね」


「しょうがないよ!ユキはナツさんのこと、ホントに好きじゃん?だってさ、ナツさんのことを話してるユキって、すっごく『女』って感じするし!!」


「あぁ、わかる、わかる〜」




マキの言葉に、チヅルも納得したようにうなずいてた。




「はぁ〜?なにそれ、……『女』っていったい」




マキは、いつも突拍子もないことを言ってくる。


車を運転している時にも、「『女』だよね〜」って言われたことがあった。


マキいわく、「ユキは動きが『女』で、考え方は『男』」なんだそうだ。




ハンドルの握り方や、回し方が『女』。


優柔不断とは、ほど遠く、即決、即実行が『男』。




……らしい。




でも、もしかして、カオリさんにも、そう見えてたのかな?




そうだと……いいな。




自分ではわからない、『女』なところが本当にあるのなら、ナツさんにも、そう見えてほしい。






私はこの日から、スカートを意識して履くようにしたんだっけ。




冬の寒い日でも、タイツなんて履いて頑張ったりしたしね。




言葉一つ、考え一つで、自分がこんなに変われるとは思ってなかった。




『恋』って気持ち、『好き』って気持ちをちゃんと受け入れるって……素敵なことなんだなって、思ったよ。


4年前 No.74

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カオリさんの結婚が、あと半年となった時、衝撃的なことを聞かされた。




「私、3月いっぱいで、会社辞めることになったんだ……」




少し残念そうな顔をしながら、カオリさんは、そう言った。




「何でっ!?」




真っ先に口を開いたのは、私だった。




「そうだよ、なんで辞めちゃうんだよ?……―!!まさか、赤ちゃんでも出来た?」


「カオリ、マジで!?」


「ホントに!?」




ユウさんの言葉に、ナツさんと私が過敏に反応した。




あっ……ナツさん、ショックかな?




「違う、違う!!」




カオリさんは慌てて否定した。




「あのね、彼の家の仕事を手伝わなきゃいけなくなってね…。残念なんだけどさ……」




あっ、そういうこと。


じゃあ、みんなで遊びに行くのも、後……少しなんだ。




カオリさんと、会社でお喋りするのも。




淋しい気持ちが、心の中に広がっていった。


4年前 No.75

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話を聞いた翌日、工場の近くを歩いていた時、ユウさんに呼び止められた。




「ユウさん、どうしたんですか?」


「カオリは……いないね」




キョロキョロしながら、ユウさんはそう言った。




―― ?




「あのさ、ナツと話したんだけど、カオリの結婚&退職祝いを3人で買いに行かない?」




3人って、ユウさん、ナツさんに……私?




「カオリいないと、イヤかな?」


「そんなことないです!!全然、3人でOKです!!!!」




私は慌てて返事をした。




「良かった〜、じゃあ、日にちや金額とかは、また後で決めようね。……じゃ、オレ、仕事に戻んね」




そう言うと、ユウさんは、工場へと走って行った。






カオリさんがいなくての、初めてのお出かけ!!




カオリさんが辞めちゃうことで、淋しさが漂っていた心が、嬉しさでいっぱいになった。




私ってば、ゲンキンだな〜……なんてちょっと思っちゃうけど、やっぱり嬉しい!!




ユウさんもいるけど、ナツさんと喋るチャンスがいっぱいあるってことだよね。




『カオリさんの連れ』から『南 ユキ』をアピールできるチャンスなんだから!!






本当に自分勝手なんだけど、すべてが思い通りに行くんじゃないかな……なんて、この時は思っていたんだよね。




4年前 No.76

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


カオリさんの結婚式まで約、あと3ヶ月。




私は、ユウさん、ナツさんが来るのを、北千住のルミネの中を覗きながら待っていた。


着いたら掛ってくる着信音を待ちながら。




この頃には、私も携帯電話を持つようになっていた。




メモリーには、カオリさんの番号、ユウさんの番号はもちろん、ナツさんの番号が入っている。




ナツさんには、まだ掛けたこともなければ、掛ってきたことも……ない。




でも……それでも、ナツさんの番号がメモリーに入ってるって思うと、『繋がっている』って感じた。




それだけで、幸せな気持ちになれた。






ピピピピピッ ピピピピピッ




手に持っていた携帯が鳴った。


液晶にはユウさんの名前。




「もしもし……、あっ、はい、はい。わかりました。じゃあ、行きます」




ナツさんも一緒に、常磐線の改札にいるって。




私は、携帯を切るとすぐに、ルミネ2階の改札方面の出口に向かった。




出口を出る時、ガラスに映った自分を見て、ちょこっとだけ、髪型を整えてから出た。






―― トクンッ……






改札横には、ユウさん、そして……ナツさんが立ってるのが見えて、私の心臓が軽く波打った。


4年前 No.77

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

「あっ、ユキちゃ〜ん」




私に気付いたユウさんが、手を振りながら、こっちに向かって、歩いてきた。


もちろん、ナツさんも。




「どうも」




私は軽く……ニコッてした。




「よう」




相変わらず、ナツさんの返事はそっけない。




「待った〜?」




ユウさんは、爽やかな笑顔で聞いてきてくれる。




改めて見ると、ナツさんとユウさんって、正反対だな……って思った。



愛想の良い、ユウさん。


それに引き替え、無愛想なナツさん。





……でも、なのに、ナツさんに惹かれてしまう。




『想う』ってことは、理屈じゃないんだね。




「どうかした?」




ナツさんと視線がぶつかった。




―― !!




「あっ、いや、その…、何でもないです」




私ってば、こういうところが、ダメなんだよね……。


せっかくの、会話のチャンスなのに……ドキドキしちゃって。


4年前 No.78

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「じゃ、物色しに行きますか!」




結局、話せないまま、ユウさんの合図で、ルミネの中へと入っていった。




お祝い、って言っても、何をあげればいいんだろう。




ユウさんは、キョロキョロしてるけど、ナツさんとのお喋りに夢中だし。


ナツさんは、お喋りだけして、特に探す素振りすらないし……。




こんなんで、決まるんだろうか?




そう思っている時だった。




「そういやさ〜、カオリって、ディズニー好きだったよね〜。なんかさ、それ系で探さない?」




そうユウさんが切り出した。




あっ……そう言えば、ディズニー好きだったっけ。




うん、いいかも。




ナツさんも賛成して、ディズニーショップへと向かった。




可愛いディズニーショップ……その中にいるナツさん。


ちょっと照れ臭そうに棚を見るナツさんが、可愛く見えた。




それを見れただけで、とても……幸せな気持ちになった。



そして、カオリさんへのプレゼントは、プーさんのティーセットに決まった。



買い物も済んだし、もう帰るのかな?って思っていた。




「さてと、4時だし、オレ、奥さんと夜、待ち合わせてるから、帰るね〜」




ユウさんが、携帯を取り出して時間を見ながら、そう言った。




やっぱりね、バイバイだよね……。




結局、ナツさんとは、ほとんど話せなかったなぁ。


もうちょっと、一緒にいたかった……。




そう、少し、しょげていた時だった。




「ユキちゃんは、この後、予定あんの?」




いきなり、ナツさんに、そう聞かれた。




「いえ、ないです!!ヒマしてます!!」




間髪入れずに、私はそう答えた。




えっ!?どういうこと?


予定ないと、どうなの?




私の頭の中は、パンクしそうなくらい、いろいろな答えを考えていた。




「じゃあ、一緒にメシ食ってかねー?帰ってもメシねぇし」





4年前 No.79

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

やったーーーーっ!!




私は飛び上がりたいくらい、嬉しかった。




嬉しくて、嬉しくて、本当に嬉しくて……。




泣きそうになった。




嬉し過ぎると、幸せ過ぎると、泣きそうになるんだね。




「じゃあ、オレは行くね」




ユウさんは、そう言うと、最後の方だけ、私の耳元に顔を寄せて……


「頑張ってね」


って言って去って行った。






―― !!




……もしかして、バレてる?



確かに、バレててもおかしくない。


カオリさんにだって、バレてたくらいだし。




私……態度に出やすいから。




どうしよう。




ナツさんにもバレてるのかな?




……でも、それだったら、夕飯を誘ってくれたのって、少しは期待してもいいのかな?






私は本当に、自分の都合の良いように考えていた。




良く考えれば……わかることだったのに。




「さて……と、まだ早いから、どっか行くか。パチでいい?」


「あ、はい」




パチスロ……かぁ。




ナツさんとユウさんは、よく、会社帰りに行ってる。




私は、あの空気と音が苦手だったりする。


私はタバコは吸わないから。


ジャラジャラってうるさいし。




でも、ナツさんが「パチでいい?」って言ってるのに、「イヤ」とは言えなかった。






長い足を邪魔そうに組んで、タバコをくわえながら、ナツさんは、右手で、スロットのボタンを押していく。




そんな単純な作業をしているナツさんも、カッコいいな……なんて、横目で見ながら、一応、私もスロットをやってみた。




……多分、センスないんだなぁ。


簡単に、1000円、2000円となくなっていった。




横では、ナツさんが、出していた。


コインが入った箱が、積み重なっていた。




ナツさん、嬉しそう。




まあ、それだけでも、お金をムダにした甲斐があったかな。




4年前 No.80

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


「やりぃ、結構儲かった」




機嫌の良いナツさんと、パチンコ店を出たのは、6時も少しまわった頃だった。




「じゃ、飲みにでも行きますか。今日はおごってやるよ」


「あっ、ホントですか?嬉しいです!!」




……なんて、喜んで見せたけど、おごってもらうことなんかより、こうして、二人きりで、ナツさんと歩けることの方が、嬉しかった。






初めての二人での飲みは、どこにでもある、チェーン店の居酒屋だった。


でも、私には、特別に感じられた。




隣にいる人が『ナツさん』ってだけで、何もかもが、特別に感じられた。




「お疲れ」


「あ、お疲れさまです」




とりあえず……の、中生(ビール)で乾杯。


軽く、つまみながら、お酒がいい具合に入ったナツさんと、いろいろ、お喋りをした。




ナツさんは、弱くはないけど、お酒が入ると、お喋りになる。




普段とのギャップが、楽しいし、嬉しかった。




4年前 No.81

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy



楽しい時間というのは、本当に早く過ぎてしまう……。




それも、大好きな人との時間。




ずっと、このままで、いたい。




本当に、そう思えるほど、幸せな時間だった。





「さー、帰るか」


「……はい」




ナツさんは、清算を済ませると、私が乗る電車のホームまで、送ってくれた。






―― まもなく 1番線に電車がまいります……




私の乗る電車のライトが、少し先の方で見えた。




来ちゃっ……た。




この時の私は、すごい淋し気な顔をしていたのかもしれない。




「大丈夫?」




ナツさんが、テンションの低い私を心配して、覗きこんできた。




いつもの私なら、「大丈夫です。」って、言っているのに……、
この時の私は、あまりの淋しさと、いい感じに入ったお酒の力が、違う言葉を言わせた。







「……大丈夫じゃ、ないです」




4年前 No.82

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy


……うわぁ、言っちゃった!!




ナツさん、どう思ったかな。




私は下を向いたまま、ナツさんを見れないでいた。






――と、電車が勢いを落として、ホームへと入ってきた。




電車が停まり、ドアが開き……


乗らないと、って思った時だった。




「乗り遅れるよ、ほら」




……って言って、ナツさんは私の肩を抱いて、一緒に電車に乗り込んだ。




その途端、ドアが閉まった。




……え?




少しの間、この状況が理解出来ないでいた。




「あの……ナツさん、ドア閉まっちゃったんですけど?」




ようやく状況が飲み込めた時には、もう電車は走り出していた。




「あー……、そっちの駅まで送ってくよ」




ナツさんは、そう言うと、私の肩から手を離し、空いている席に腰を下ろした。




私の肩には、ナツさんの手の感触が残っていた……。







私たちの乗った電車は、まばらにしか、人は乗っていなかった。




私は、感触の残った肩に、そっと手を置き、ナツさんの横に、ちょこん……と座った。




「あ〜、眠ぃ〜」




そう言うと、ナツさんは、私にもたれ掛ってきて……肩に頭を乗せた。






うわっ!!






もう……我慢が出来なかった。




気持ちを抑えることが、出来なくなった。






「……好き」






小さい、震えた声だったけど、ナツさんの耳には、届いた……はず。




私は目をギュ……って瞑り、下を向いて、ナツさんの言葉を待った。




心臓が、ドクドクドクドク……と波を打つ。




電車の、レールを規則的に鳴らすリズムなんかより、早く。




周りに聞こえてしまうんじゃないかってほど、大きな音で。






……私の生まれて初めての『告白』だった。



4年前 No.83

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「そっか……」






それが、私の初めての『告白』に対する、ナツさんの第一声だった。




ナツさんは、ゆっくりと私の肩から頭を上げると、私の方を見るように、軽く座り直した。




私は、目を開け、ナツさんの顔に視線を向けた。




……ナツさんと、視線がぶつかった。




私は今、どんな顔をしてるんだろう。




緊張、恥ずかしさ、怖さ……




全てが入り混じって、きっと、変な顔してると思う。




何か言わなきゃ……。




そう思うと、心臓の鼓動を更に速くした。




でも、何を言っていいのか、わからなかった。




少しの間、見つめ合う形になって、沈黙が続いた。




その沈黙を先に破ったのは、ナツさんだった。






「……で、どうしたいの?」






―― ……え?





まさか、そんな風に返ってくるとは思ってなかった。







4年前 No.84

このはβ.+・。* @harusaki ★xWbgY3bL81_hBy

……普通は「ごめん」とか、「ありがとう」とかじゃないの?




それに「どうしたいの?」って言われても、良くわからないよ……。




告白しようと考えてた訳じゃなく、気持ちが抑えられなくなって、思わず口から出ちゃったんだから。




……私の頭、パンクするんじゃないかって思った。




それくらい、考えて、考えて……考えていた。




時間にしたら、ほんの数分の出来事だったと思うけど、私には、すごく長い時間に感じられた。




「やっぱり、付き合いたいとか思う?」




私が答えられないでいると、ナツさんが口を開いた。




「えっ……、そりゃあ付き合えるなら……」




付き合えるなら……彼氏と彼女になれるのなら、こんなに嬉しいことはない。




けど……




いくら、すべてが良い方向に行ってるなって思ってても、そこまで思えることはなかった。




そんな都合のいいことなんて……あるわけない。




「じゃあ、付き合うか」






『あるわけない』って思ったと同時の言葉……だった。




「……うそ」




それ以上、言葉が出て来なかった。




嬉しいとか、やった!!……とか、そんな感情よりも、信じられない思いでいっぱいだった。






返事も出来ないまま、降りる駅に着いた。




ナツさんも一緒に降りて、反対側に来る電車を待つために、ホームのベンチに腰を掛けた。




「あの……、付き合うって、その……」




私はベンチに座ってるナツさんを見下ろす形で、口を開いた。




「そのまんまの意味だけど?好きだから、付き合いたいんでしょ?」




……そりゃ、そうなんだけど。




「ユキちゃんのこと、嫌いじゃないし、いいんじゃん、それで」




4年前 No.85
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