Google
    
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▼レス(2) >>

マリア様についての覚え書き

 ( プロ詩投稿城 )
- アクセス(154) - いいね!(2)

一輪車 ★I1wpISAuQ2_YD6

むかし、わたしが下宿していた二階の隣部屋に
マリアさまが住んでいた。

知的障害のある小汚いおばさんだった。
髪はぼさぼさにのばし放題で、日焼けした顔は煤けて
一年中同じ服を着ていた。

わたしは好き嫌いの激しい、偏見に凝り固まった世俗的常識の
持ち主なので、狂人で乞食のようなおばさんと顔を合わせても
挨拶一つしないで黙殺していた。

今からおもうと恥ずかしいことだし哀しい人間だった。
おばさんは朝はやくでかけると近所の公園に一日中座っているか、
そうでないときは、しばらくはどこやらに姿をくらました。

そのおばさんを喫茶店をやっている家主の東という男が
ボランティアで面倒をみていた。

おばさんの部屋の戸が開いていたことがある。
歯ブラシひとつなく、センベイ布団一組だけが饐えた臭いを
はなっていた。
おばさんは夜になると帰ってきてただそこに眠るだけだった。

わたしを含めた東の喫茶店の常連たちは、はやいところ
おばさんをそれなりの施設に入れてやれよと東をことあるごとに非難した。
しかしなぜか東は、決して首を縦にふることはなかった。

わたしはこのおばさんと一度だけ言葉を交わしたことがある。
といってもおばさんから一方的に声をかけられたのだが。
悪ふざけというか退屈しのぎというか近所の公園から野生のニワトリを
捕獲してきたときだ。
みなで鶏スキにして食おうということになった。
捕獲はもと自衛隊レンジャー部隊出身のHがやった。
調理は板前経験者のわたしにまかせるという。
ところがニワトリを〆ることができない。
ニワトリを抱いていると、胸のあたりに温かい心臓があり
そのぬくもりが手に伝わってくる。それが命そのものという感じで
とても殺すなんてできない。
命を奪うなんて無理だと思い始めた。
「いや〜、できないな」「無理だ、無理だ」
「ちょっとむずかしい」
などと、首を折ろうとしてはためらっていると、
いつもは気弱に黙っていたおばさんがめずらしく怒り出した。
「ウジウジと女の腐ったみたいに、なにをためらってるの。殺るならさっさと
殺りなさいよ!」
心の底の欺瞞を見透かしたような一喝だった。
わたしはハッとして、瞬間、穴があったら入りたくなるような恥ずかしさを
覚えた。そのときはじめて、わたしは彼女が只者ではないと直感した。

ある日、Hが泥酔して現れ、さらに二人で飲んだ。
気がつくとHはおばさんの部屋の布団にくるまって眠りこんでいた。
それからおばさんが帰ってきたのかどうかは知らない。
わたしも泥のように眠った。
翌朝、東の喫茶店でコーヒーを飲みながら「Hのやつ、おばさんの
部屋で寝たぞ」と報告すると、常連客たちがそろって爆笑した。
マスターの東は気弱そうに微笑んでいる。
「ノミとかシラミがうつってなければいいんだけど」

すこしたってから二日酔いの間延びした顔つきのHが姿をみせた。
みながからかうとHは真剣な顔つきで「ああ、オレ、おばさんの
布団に寝ちまったんだね。でも、目を覚ましたとき、うつくしい
マリアさまの顔がね目の前に見えたんだよ。ああ、これがほんとの
あのマリアさまなんだとおもった」

男らしいが、あまり冗談のいえないHがそんなことをいうと、みなは、
また大笑いした。わたしは、魂がぬけたような顔つきのHをみながら
ただ、目をぱちくりするだけだった。

ページ: 1

 
 

沙織 ★Tablet=f7AKAsWFNJ

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

5ヶ月前 No.1

沙織 ★Tablet=f7AKAsWFNJ

?何故か、フィルターをされてしまいましたが……、見られて恥ずかしいことは書いておりません。

……よくわかりませんが、……申し訳御座いません。

5ヶ月前 No.2
ページ: 1

 
 
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▲ページ上 >>
★必ず ローカルルールメビウスリングのルール をご覧ください。
 ▼スタンプ▲スタンプ
※スタンプはいちどに 3個 まで使えます  ×閉じる