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舟入にて

 ( プロ詩投稿城 )
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一輪車 ★I1wpISAuQ2_D9v

足をさしいれればそのまま
向こう岸へわたっていけそうな深さの流れは
川底の御影石を涼やかに映し
うつむいて歩くはやさほどにゆったりと
流れている

しだれ柳と桜木がつくるトンネルの陰に
史跡を残す内浜の舟入は
いまから数百年もまえに罪人たちが獄へ運ばれた
水路の途上の駅と聞く

そこに足を留め
地表よりすこし高い石橋に腰をおろして
はるか来し方を眺め
あるいはまた
肩をおとして川面に映るわが影をみつめる

むかし、京の町に
人より三尺も高く跳べるのは怪しいといった理由で
磔(はりつけ)になった男がいたそうな
その男も舟にのせられて、この川を渡っていった
のだろうか
安全、安心、火の用心
祠のわきに貼られた町内会の貼紙が風にあおられる。

そうだ、想い出した
板前修業時代、この路地の暗がりで
若い女に声をかけられたことがある
病弱そうなその娘を買って 終え
宿を出てすぐのうどん屋でうどんをすすっていたら
しばらくしてその娘が
年配のヒモ男と一緒に入ってきた
そのときはじめて彼女が"チンバ"であることに
気づいたのだ

「おはようさん」「おはようさんどす」
川をはさんでおかみさんたちの声が交わされる
せせらぎにそって遊郭が並んでいたこの町の朝はおそい
昼すぎまで枝の緑にさえぎられて陽のささないこの界隈は
歩く人の姿もまばらだ
「○○さん、えらい火事だったそうどすなあ」
「あんなこと、比叡山焼き討ち以来のことどす」
「ほんまに」
わたしは頬のゆるみを結んで流罪人の川を同伴する

罪びとが運ばれた運河のあとはいまも静かに流れている
たれも知らない秘密の通路のような
水の回廊に風が吹いている
ステンドグラスと漆喰の家の前には
青苔の色もうつくしい桜の木の太い幹が
カブト虫をとまらせていた
黒い光沢の甲冑もじっと動かぬ時を刻んでいる

関連リンク: 父の権威 
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