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TOKYO CITY Re:BERATION

 ( オリジナルなりきり )
- アクセス(3275) - ●メイン記事(219) / サブ記事 (109) - いいね!(23)

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



 ヒトはいつの世もいずれ訪れる未来に想いを馳せ、荒唐無稽に好き勝手語ってきた訳だ。
 がーーーーたまには未来が過去を振り返り、過ぎ去っていった「かつて」に想いを馳せるのも、まぁ悪くはないだろう。

 何せこの西暦2121年、22世紀真っ只中の大都心「TOKYO CITY」に於ける流行(トレンド)が、この眠たくなるような郷愁の風潮なのだから。
 既に文化(カルチャー)は停滞し、1980年代のロック・ミュージックが流れる傍ら、自家用車が空を舞い、ヒトを模したアンドロイドが我々に紛れて闊歩する、そんな歪な近未来の今日この頃。大いなる存在の手により、人類史の狭間に隠されし「死筋遺産(オーパーツ)」、それを狙い暗躍する「街罪者(アウトロー)」、そんな不届きな彼らを根絶すべくして日々奮闘する「自警団(ブラザーフッド)」。薄皮の下で刃物が這っている限り、この街は痛みで眠らない。眠れない。

 閉ざされた未来、そしてお情けの如く我々へと残された過去の遺産。この近未来に生き、戦う者達にとって、空想はおろか、果てには流行たる郷愁ですらが容易なものではない。真の「力」、その本分を求める限りーーその身に宿された超細胞による暴力(もんどう)は、明ける事なく延々と続く。

 TOKYO CITYで武器を取れ。
 閉ざされた未来を切り開くべく、過ぎ去りし過去を振り払うべく。

 そしてーーーー

「ヒト」としての欲望を満たす為に!



(当スレは、オリジナルなりきりスレッド「TOKYO CITY PARABELLUM」 http://mb2.jp/_nro/11815.html のリメイクスレッドです。が、新規の参加者様にも楽しんで頂くというコンセプトですので、どうぞお気兼ねなく閲覧、ご参加下さいませ)

(スレ主が本編に書き込むまで、書き込み禁止です)

メモ2020/01/01 01:42 : わんます @onemass★Android-nRixlpObtx

あけまして


おめでとうござい


わんます。

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友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_Bsg

【 内代匡 / SHINJUKUエリア / 歌舞伎町 】

 男を意のままに操る美しさの女たちが、今宵も着飾り紅引いて夜の街を闊歩する。
 その裏ではヤクザ者の男たちが仁義や面子や金銭のために諍いを繰り返していた。
 容姿に優れたる水商売の男たちは養分として女の愛と財産を搾り取り尽くしては。
 酒飲みに来ただけのサラリーマンたちを破滅させんと、そこいらで魔性が手招く。

 爛熟しすぎた、腐り落ちる寸前の甘ったるさ。そして血と鉄の匂いを纏って咲く夜行の花。
 客引き。極道。チンピラ。売女。ホスト。銀猫。夜鷹。酔っ払い。薬物中毒者。風俗嬢。不法入国者。売り専ボーイ。援交女子高生。その客。
 目の前を通り過ぎてゆく人々がそんなラインナップで埋め尽くされているのは、この町を除いて他にはあり得ない。
 此処は歌舞伎町。愛と欲と暴と金と性の都。
 それらを見送る内代匡の肩書も『情報屋』。つまるところは立派にこの町らしい住人であり、事実、彼はここに根を下ろして数年になる13歳の中学一年生だ。

「蝉の声を聞く度に、目に浮かぶ九十九里浜――」

 今となっては遠い昔。1990年代に発売された女性シンガーの、タイトルにこの町の名を冠したヒット曲をリズミカルに歌い上げながら匡は歩く。
 声を張り上げはしなくとも、よく通るボーイソプラノの音色はすれ違う人々の視線を引っ攫った。

 厚く白粉を重ねたようなきめ細かさの、けれど確かに自前の透き通った柔肌。
 豊満な女性にはない未成熟で華奢な四肢がどことなく艶めかしく人々を誘惑する。
 数多の男と淫らな夜を重ねて来た人生を簡単に想像させる、不幸せと不健全から生まれた美しい生き物の歪み汚れた色香。
 それらを微量のフェロモンと共に路上に振り撒いて、加賀友禅染めの反物とヨーロッパから輸入した職人お手製のル・ピュイレースとを組み合わせた装束の裾を軽やかに翻しつつ、匡は目的地のラブホテルに向かっていた。

 そこで待ち構えているのはもちろん恋人、ではない。もう何か月も前からこちらにアプローチを仕掛けて来ている、女装少年に股座をおっ勃てるような性的嗜好を持ったとある大企業の重役の男だ。齢はとうに40を超えており、もちろん法律上、13歳の匡とそのような関係を持てば問答無用で罰せられる。
 だがここは歌舞伎町。昼も夜も正義だけは眠り続けている不夜城。未成年が春をひさいで暮らそうと、それを食い物にする大人が居ようと、あるいは美人局で返り討ちの憂き目にあう間抜けがいようと、大した騒ぎにもならないのだ。

「女に成ったあたしが、売るのは自分だけで――。
 同情を欲した時に、全てを失うだろう――」

 歌を口ずさんだまま曲がり道でくるりとターンをすれば、五彩の自然美が描かれた正絹の布地が、夜蝶の羽ばたきのように怪しく愛らしく揺れる。
 本当に己の貞操を明け渡す気はないけれど、あの男は中々に利用価値のある情報を持っていそうな立場だし、そうでなくても金だけはあるので飼いならせば財布として十分に使える。だからいつも通り、フェロモン漬けにしてからキスとペッティングのテクニックだけで骨抜きにしてやるつもりだ。
 口元に果てしなく涎を零しては血走った目で己の足元に縋り付いて愛を乞う男の姿を想像し、表面上はあくまで小悪魔めいた仕草でぺろりと唇を一舐めするも、心の中では生理的な嫌悪感でいっぱいだった。嗚呼、憂鬱である。そんなことをしなければ生きていけない子供だから、厭でもそうしてみせるけれど。いつまでもいつまでも、慣れた振りが上手くなるばかりで本当に慣れはしないのだ。
 だから話の上でそう語られるような虚像の自分、淫魔のごとき傾城の男娼にも実際は程遠い。

 性根は誰かの庇護とと愛情と幸福とを求める弱々しい子供のままだから。
 だから、男が下心を込めて贈ってきたこの衣服に袖を通す時だって、鳥肌をたてないのに必死だった。

「今夜からは此の町で、娘のあたしが女王様――」

 歌も一段落つき、嬌声にも似た甘い余韻だけを残してぷつりと途絶える。
 そう。此処は歌舞伎町。己が住処。己が地獄。己が戦場。今日もここで一夜を過ごそう。いつか訪れる破滅を知りながら、それでも世の中の全てを好きにできると信じ込んだ魔女のような顔をして生きよう。
 虚勢は大事だ。自分の人生には真なる幸福など存在し得ないのだと気付いてしまっているならば、猶更。だって救いのないものを直視して生きるのはあまりにも辛い。それならせめて、暗黒の中に仮初の極彩を幻視して暮らそうではないか。

 どうせ最後には自分は何かに台無しにされるんだ。
 ならばそうなってしまうまでは、少しでも幸せそうに振舞おう。

>ALL様

3ヶ月前 No.170

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

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3ヶ月前 No.171

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_Bsg

【 内代匡 / SHINJUKUエリア / 歌舞伎町 】

 歌を終えて二度目の曲がり角を行った矢先。匡の視線の先に現れたのは、凛然とした若武者といった風情の美しく逞しい青年であった。
 服装が黒尽くしにタンクトップでなく、袴や胴着であったなら時代劇の撮影中かと思ったかもしれない。それくらいに侍キャラにありがちな黒髪ポニーテールのよく似合う男子であった。鋭い目つきも珠に瑕どころか、この容姿にむしろ個性という華を添えている。このタイプの男性が好きな女性には堪らないであろう。ただ同時にホストクラブで人気が出るタイプではない。なのに歌舞伎町にいるということは、うん、筋肉の付き方や佇まいからして戦える手合いに見えるし、どこかの店のボディガード辺りだろうか。少なくとも客として風俗に通う姿は想像し辛い。そういうルックスをしている。
 周りに片付けられたゴミという名の人間どもがいるのは、歌舞伎町では日常茶飯事なのでスルーするとしよう。兎角、こちらに魅了されている様子も無いのに洋服やら顔面やらをジロジロと凝視してくる青年を不思議に感じつつも、知り合いではないからと声も掛けず通り過ぎようとしていた。していたのだが。

「っわ――」

 急に不機嫌そうに舌打ちなんぞをしたかと思えば、そのまま歩み寄ってきて腰を引き寄せられる。咄嗟にバランスを崩して相手の胸元に体重を預けた。今日は履物がこっぽり下駄なので、少しでも前に体が揺れるとそのまま倒れてしまうのだ。
 強引なナンパかと思案しつつ咄嗟に顔を上げる。刹那、降り注いできたのは男のリップクリームも塗られていない、けれど荒れてもいない薄い唇であった。

 ディープキス。しかしそこに性的な意図はない。上顎や歯の裏を舌先でなぞるでもない、甘噛みするでもない、耳を塞いで音で興奮させるでもない、合間の息継ぎも無ければ漏れ出る喘ぎも無い。
 至極淡々とした、それこそロボットに人工呼吸でもされているような気持ちになる温度の無い口付け。唾液を吸われた点だけは情熱的だと評価できなくもないけれど、そこにもやはり愛も欲も込められてはいなさそうだ。

「――――」

 いきなりのことに呆然とし、互いの舌先を繋いだ銀の糸がぷつりと切れて完全に唇が離れきるまで、匡はずっと無言であった。
 半開きのままの口元。10gで税込み5000円近くにもなる某ブランドのリップバームを、自宅を出る前に塗って来たばかりなのに。そのほとんどが相手の唇に移行した気がする。上に重ねて塗ったLIP HONEY LABの蜂蜜リップに至っては9割くらい向こうの唇に奪われただろう。
 いや。そんなことより大事なのは、突然キスをされたという事実だ。どうして見知らぬ男にここまで好き勝手されなければならないのだろう。いや、いや。むしろこれより重要なことがあった。この男、己と――キスの一つで札束の山さえせしめるこの内代匡と口付けたというのに。なのに威張って誇示するでも、周りに嬉しげに自慢するでもなく、平然と他のことに気を回しているのだ。
 これに怒りを覚えずどこに覚えよう。

 嗚呼くそ。突然のことだからといって、お手柔らかにただ口内を蹂躙させてやるのではなかった。
 色事なら潜って来た修羅場はこちらのほうが上。途中から主導権を奪い返してとんでもない技巧の数々でそのまま衆人環視の街中エンドレス絶頂に追いやってやれば良かった。それならば多少スカッとして、一方的に接触をはかってきたことも許せたろうに。

 いっそ今から仕掛けなおすかと迷っている内に、何やら納得したらしい向こうの男は腰を抱いたまま手首まで掴んでくる。
 何やら素性と能力がバレているらしいことに一瞬だけ焦りかけたが、少し冷静さを取り戻して相手の全身にざっと視線を走らせると、たかがキスの一つでこちらの情報を把握された理由が分かって落ち着けた。
 そうだ。この男は自警団の古参、あの百目鬼茂義の拾った血の繋がらない息子だ。そしてアンドロイド。即ちDNAからCOAを解析するくらい造作もなし。匡とのキスに反応する情緒が無いのも、そもそも情緒なんてものがマトモに備わってはいない存在だから。

「…………エスコート」

 ……そこまで分かっているのに。それでも何故だかご機嫌が斜めになるのが抑えきれなくて、匡は至近距離の鬼太郎に対し僅かに頬を膨らませながら言った。

「ねぇ、知ってるぅ? イスラムじゃね、男は美少女より美少年からの色香のほうが強いって教わって育ってるし、女の人が性的な誘惑をする悪魔を一匹だけ連れてるなら、美少年は17匹も連れてるって言われてるんだぁ」

 別の国の少年愛事情についての豆知識を謎に拾うした後、余った片腕をするりと艶めかしく鬼太郎の首に回す。女に化けた白蛇の化生が獲物と断じた男を閨に誘うような仕草。特に意識せずとも仕草に色を孕むのが、この少年の日々の出来事を物語っている。
 それなのに少しのふくれっ面はどこか子供らしい所があって。そのアンバランスさに胸を痛める者も股を硬くする者もいるだろうが、眼前の彼はどちらでもなかった。

「そんな魅力的な美少年の妾くんの、唇を、タダで味わったんだから。当然、お詫びはするべきだと思わない? だから妾くんの目的地までエスコートさせてあげるねぇ」

 逃がさない、良いだろう。ならば着いてくれば良い。こちらは歩みを止めないが貴方から進んで離れようとはしない、だから貴方は進んでこちらに着いてくればそれで解決だ。
 どこか拗ねたような表情から一転、『噂』らしい小悪魔めいた表情を浮かべるだけの平静を取り戻し、そう嘯いては彼の唇をお返しとばかりにぺろりと舐め上げる。やはり唇から移っていたらしく、舌でねぶった其処は蜂蜜の味と香りがした。
 掴まれた左手の指先で、掴む彼の右手をそろりと淫靡になぞり上げ。布地の下にはこれから行くラブホテルに待機している男の趣味でガーターベルトまで付けている華奢な脚の、その片方を相手の引き締まった両足の間にねじ込む。反応はしないと知りつつ、周りに見せつけるようにあからさまに膝頭で鬼太郎の陰部を柔く巧みに愛撫して。
 真白い脚のその淫らでゆったりとした動きに衆人が生唾を飲み込む音を聞きながら、匡は背伸びして鬼太郎の耳元に甘ったるい吐息と艶めかしい囁きを注いだ。

「CIRCUS HEAVENのラブホテル。今からそこに売りに行くから、逃がしたくないなら着いて来てぇ」

 嗚呼、気になるなら『最中』も観て行って良いよぉ?
 なんてくすくす笑って、それからやっと相手のイチモツに布越しに戯れるのを切り上げる。
 そのまま首に回していた手も外すと、左手首は掴まれたまま相手の右手にこちらの右手を回す。途端にイチャイチャと密着するカップルのような体勢の完成だ。

「それじゃあ行こっかぁ。鬼太郎くん。あは。お兄ちゃんとか、パパとか、そういう呼び方のほうが好きなら言ってねぇ」

 暗闇に生きる淫売だけが咲かせられる妖艶な一笑。
 しかし、寂寥と誘惑と自棄が混じりあったような声色をしている。
 見る者を桃色の世界に連れ去っていく艶やかな少年は、けれどいつまで経ってもそのピンクを黒や灰色としか認識できなかった。
 それなのに、今だって自分が桃色だと思っているような、その桃色を楽しんでいるようなフリをしてしまう。
 自分自身の行いに軋んでストレスを訴える心臓を普段通りに無視して、匡は目的地にたどり着くための『列車』に乗れる場所へと歩を進める。

 ――いっそ誰かにめちゃくちゃにされてしまったほうが。
 こんな、こんな息を吸っているだけで頭を掻きむしりたくなる生活を送らずに済むのだろうか。

>百目鬼鬼太郎様&ALL様

3ヶ月前 No.172

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

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3ヶ月前 No.173

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=ZIzAEpImxr

[極愛クヒドー/VRワールド 中継地点-ここではないどこか-]

──クヒドー。覚えておきなさい。
──あなたの思い通りには絶対させないから。

 自分以外誰もいない空間。自分が発する以外、色も、音も、匂いも、何もない。VRワールドならばこういった空間を簡単に作ることが出来る。どこまでも続いていそうな、ただただ白い世界に立つ彼女のメモリ内にソフトウェアAIRの言葉が反響する。上を見上げていた彼女だが大きく息を吐きながら正面を向き直る。
 VMtuberとして既に成功している彼女達がどうしてこうもダーク派ボスと言われる存在を更生しようとするのだろうか。よっぽどの事がない限りクヒドーから他のVMtuberに攻撃を仕掛けることはない。VMtuber界隈に置いてクヒドーの影響力は計り知れないと言え、三食好きなものを食べて暖かい布団で寝る生活が出来る程度の収入ならば彼女に関わらずとも目指すことは可能だ。と、なればソフトウェアAIRや雁木マリカが、極愛クヒドーという触らぬ神に関わることに首を傾げるVMtuberも少なくないだろう。何故自ら飛んで火にいるのか。当の本人のクヒドーでさえ、これだという正解は正直分かっていない。
 原初としての使命感なのか、世間一般の価値観で言う『間違った』ことをしている彼女を救おうとしているのか。それは道徳的観念か。倫理観か。正義感か。笑止千万。

 “償うって何をですか?”

 左手の人差し指と親指でLを作ると空に水色をした半透明のモニターが現れる。それを操作し、VRワールドの場所を切り替えるとブティックのような場所になる。



[VRワールド/Virtual-Interesting-Partner所属者衣装室]

“うんうん、やっぱり似合う。これにして正解”
“課長が経費でいいよー、って”

“だって仲間だもの”

 いつも首の後ろでまとめている髪を乱暴に解き、首を振る。三つ編みを折り畳んでいる彼女の髪の量が多いことは気が付きにくい。放射状に広がった髪が弧を一度描いてから、彼女の背中に堕ちる。鉛のような重く、灰色をした息を吐き出すと同時に唸り声とも表現できる声を上げる。
 髪を掻き上げた彼女は少し考える仕草を取ると指を鳴らした。

 小さく機械の起動音が鳴ったかと思うといつもの黒地パーカーから装飾が煌びやかな赤地のドレスへと変わる。端を指で摘まむように持ち上げると体を振って正面にある鏡を見ては首を少し傾げる。

「うーん、違う」

 再度指を鳴らすと紺地のフォーマルドレスへと服が変わった。落ち着いた雰囲気も悪くはないが、これから向かう先に行った場合に周りに埋もれてしまう自分が脳内に思い浮かぶと納得がいかないのか眉間にしわを作った。

「違う」

 指を鳴らす。深緑をしたロングドレス。色は先程同様に落ち着いているが背中と足に大きなスリットが入っており人目を惹くのは確かであるが、今の彼女の気分と擦り合わせた場合に少し思うところがあるようだ

「違う」

 指を鳴らす。Tシャツ端結びへそ出しホットパンツ。確かに人目は惹くだろう。ドレスにはない動きやすさもある。だが機体年数を考えた場合に苦しい点がないかと考えてしまう。着たいものを着るのが一番であると信じ、とりあえず第一候補に入れておく。

 一応、他の候補を探すために指を鳴らす。セーラー服。膝上10cm。

「流石に無理がある。同人即売会に行くんじゃないんだから」

 言葉の端に怒りを滲ませながらも笑い顔のままのクヒドー。再度、空に表示されているモニターを操作するとCIRCUS HEAVENが表示されていた。
 世界最大規模を誇る各種施設複合型ナイトクラブ『CIRCUS HEAVEN』に仕事とプライベートの二つで関わっているクヒドー。
 今回はそこに出向くということで、普段の配信では過ごしやすいという理由でパーカーを選んでいるクヒドーだが、流石にTPOを考える。折角ならば楽しめる装いでいかねば失礼というもの。セーラー服で行けば周りは楽しいかもしれないが。
 少し悩んだ表情を見せていたクヒドーは頭上に豆電球が見えるように片手で拳を作るともう片手の手のひらの上に置いた。普段より更に笑みを深めた彼女は空に表示されているモニターを操作し、何かを確認すると先ほどより気合を入れて指を鳴らした。
 するとドレスに近いがサイバーの雰囲気が強い衣装へと変わる。右側にスリットが入っていたりへそや肩を出したりしているところがあるがこれを着られるとなると自然とテンションが上がってしまう。思わずステップを踏んでは小躍りしてしまう。

「自撮りが捗るなぁ」

 端末を操作してはシャッター音が衣装室に小さく響く。クヒドーが様々な角度や表情で撮影を繰り返しているとVRワールド衣装室に数人がわいわいと話しながらログインしてくる。



「はい、とうちゃーく!!おっ先ぃ!!」
「ちょっとお姉ちゃん、待ってってば」

[VMtuberランキング10位『気になるあれこれやっちゃいます』-空想科学系VMtuber-曇後姉妹]

 左側頭部に生えたサイドテールを振り回しながら元気に登場する姉、曇後晴は颯爽と登場すると誰よりも早くクヒドーを見つけ、一ヶ月前、あの銀行強盗の時の的間トマのような気合の入った飛び付きをクヒドーへとお見舞いする。最早、突撃と表現して差し支えないだろう。
 それを笑顔で正面から抱きとめたクヒドーはまるで甘ったるい恋愛映画のワンシーンのように、飛び付いてきた相手を抱き上げその勢いのままクルクルと回転し始めた。喜楽を持前の大声で表現する晴。ゆっくりと地に戻ってくるとクヒドーに撫でられ、満面の笑みを見せる。

「クヒドーさん、お疲れ様です」

 その後ろから小走りで近づいてきた妹の霙。こちらは右側頭部にサイドテールが生えており、軽く会釈をしながらクヒドーへと労いの言葉を向ける。クヒドーはそれに対してお礼を返した後に少し手招きをする。
 恥ずかしいのか遠慮がちに俯く霙だったが晴に腕を掴まれ、引かれた勢いのままクヒドーの胸へと顔を埋め嬉しそうに笑った。
 その二人の後ろからも数人のVMtuberが各々の感想を述べながらクヒドーの周りへと集まってくる。全員の名前を呼んで確認する中、誰かが口にする。

「それ、新しい衣装ですよね?」

 何かを変えた時に人に言われるのを待ってしまうクヒドーは待っていましたと言わんばかりに再びステップを踏んでは最期に決めポーズを決める。完全にノリノリである。そろそろ本題に入らねばならない。クヒドーは空に表示していたモニターを二回りほど大きくし、モニターにするとそこにはCIRCUS HEAVENのHPや公式SNSが表示されていた。

「えっと今回は、皆各々忙しいのに集まってくれてありがとう。前回、込み入った所まで話さなかったから今回は、これから私達がする配信についての詳しい説明をするね」

 CIRCUS HEAVENは世界規模で見ても巨大な複合施設である。正に、“何でもある”。娯楽施設、飲食施設に始まり表舞台や公共の電波に乗せられない代物まで。
 一日中遊べるなどと言う甘いものではなく、一年、否、住んで一生過ごすことも出来るだろう。そんな場所に行って、生配信をするという旨は一ヶ月前、銀行強盗のニュースが冷めやらぬ頃に既に皆に話してある。

「CIRCUS HEAVENは私達V.I.P.のビジネスとしても大きく絡んでくるのだけれど……簡単に言うとね、今日ここに物資を運びたいヤの付く人がいるみたいでね。私も無関係、ってわけではないけど今これの話はいいや。CIRCUS HEAVEN唯一と行っても過言ではない、そこに行くための手段の電車があるのは皆知っているよね。それに積んでいて、今ここにいない数人は電車での護衛をお願いしているの」

 モニターを見ていたVMtuber達は納得したようにお互いの顔を見合わせる。そうしてクヒドーが言った護衛、という単語に皆の表情が鋭いものに変わる。

「ヤのつく人が運ぶ物だからそりゃ自警団が黙ってないわけ。多分もう情報は流れているだろうしヤーさんの人達も感づいているはず。そこに私達が首突っ込むともっと面倒なことになるから私達はそこには行きません。護衛を依頼したメンバーにも少しでもヤバイと思ったら逃げろって言ってあるしね。護衛よりは連絡役かな。じゃあ、私達は何をするかと言うと」

 難しい表情を見せていたクヒドーだが、悪戯っ子のような笑顔を見せるとモニターへ、CIRCUS HEAVENの概要や中にある施設を紹介するページを移した。そして一度息を吸いこむと勢いよくモニターを指差し、威勢よく叫ぶ。

「ここで遊びます!!」


 動かない水面のように静寂がゆっくりと広がる。ふふんと、したり顔を見せていたクヒドーは明らかに皆との温度差があることに徐々に気づき、慌て始めた。両手を中心に体をパタパタと動かすと真新しい衣装の裾がひらりと動く。

「え、え、え、み、皆、嬉しくないの?」

 決して熱くないのに背中と額に冷たい汗が滲む。ざわつきを見せていたVMtuberの中の一人がそっと手を上げる。

「イヤ、嬉しくないとかじゃないンですケド、ゴールが見えてこないと言うカ……」

[VMtuberランキング15位『言語を学ぶならスラングから』-海の向こうから来たVMtuber-ライラ・ジャクリーン]

 困ったように笑うライラの顔を見て、ハッとしたクヒドーは腕を組むと順を追って説明を始めた。

「えっと、難しいことは考えなくてもいいんだよ……世間の注目をなるべくCIRCUS HEAVENの方に向けさせたいの。人気VMtuberが大勢集まっていれば世間の注目はCIRCUS HEAVENへと向くし、自警団も警戒せざるを得ないでしょ?既に建物内にいる自警団の意識を私達に向けさせる、って言うのが無理矢理付けた理由。……うーん、本当に皆に楽しんでほしいだけなんだけど。正直、ヤのつく人達とは仲良くしたいけど関わりすぎると何あるか分からないし……既に遊んでるメンバーもいるし……皆最近、企業案件とか多かったでしょ?息抜きだと思って、ね?」

 何となく腑に落ちない者もいるようだが苦笑いで了承する所を見るとクヒドーの信用され具合が見て取れる。良かったと胸をなでおろすクヒドーはモニターを閉じた。


「じゃあ、行こっか」



 [CIRCUS HEAVEN/上空]


 水色の薄い板がVMtuber達の足元に広がっている。まるで魔法の絨毯のように宙に浮き、上を見上げても星一つない、すべてを飲み込んでしまいそうな暗闇が存在していると言うのに。下を見るとネオンに彩られた巨大な建物が見える。星が地に落ちたなんて上手く表現した人がいたものだ。ここからCIRCUS HEAVENへと向かうVMtuber達はさしずめ隕石とでも言おうか。
 クヒドーの背筋がゾクゾクと震える。早く、早く楽しいことをしたい。目の前に玩具を用意された幼子のような笑顔を見せながらも獲物を見つけた肉食獣のような雰囲気をまとっている。そんな中、全員を一度見た後に指を立てるクヒドー。

「よし、皆の行きたい所は決まったね。じゃあ、私がそこに送るから。各自で生配信開始してね、Gretterにリンクを張るのも忘れないようにね。──あ、一つだけ、私との約束」


「視聴者より、周りの人より、誰より──自分が楽しむこと!!」


 拳を掲げたクヒドーの掛け声に続いて皆が元気よく声を上げるのを最後に上空にいたクヒドー以外の皆の姿が消える。


 ──あなたの思い通りには絶対させないから。

 原初の声がもう一度脳内で再生されると同時に怒りに身を任せ、足元の板を強く踏むとヒビが入る。もう一度踏みつけると更に広がる。何度も何度も何度も何度も繰り返すと、全体に広がり、遂に割れる。
 自由落下を始める中、気味が悪い程にこやかな笑みを浮かべるNO.1。


「その言葉、そのままお返ししますよ」



[TREND4極愛クヒドーside アンドロイドは今日も笑う]



「あ、Gretterに投稿するの忘れてた」

 頭から真っ逆さまにCIRCUS HEAVENへと落ちていく彼女はまるで落下などしていないかのように端末を操作していた。Gretterを開いて衣装室で撮った自撮りの中から写りが良いものを探し、加工アプリで手を加える。よし、と投稿のボタンを押した。

[ http://imepic.jp/20200225/807270]

 と、同時に余所見をしていたのかCIRCUS HEAVENの何処かの施設に天窓から突入してしまった。ガラスの割れる音と共に地面に叩きつけられる。動画は開始が命というのをその身を持って証明してしまったのである。


[遅れてしまいましたが、TREND4開始おめでとうございます。よろしくお願い致します]

>>周辺皆様

3ヶ月前 No.174

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_Tf2

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3ヶ月前 No.175

しどにー @huroga ★Android=kYlzODfWCM

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3ヶ月前 No.176

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx


【SHINJUKUエリア、ステーション前。アルター前広場】

【宵闇と喧騒、アスファルトを行き交うホバータクシーを眺めながら、一人のリーマンがタブレットにて現在の天候状況を調べる】

【天候は快晴。現在の気温、2度】

【成る程。息が白む訳だ】

【…………】

【季節外れにも程がある、酷い寒さだ】



【奇妙な情報屋と、半ば左遷された自警団員のアンドロイドが向かった先】

【二人を結ぶのは欲望か、それとも】

【迷宮とも称されるSHINJUKUステーション構内。終電前でごった返し、人の波の合間で呼吸している気にさえなる。窮屈、辟易、嗚呼。普段の街並みが開放的に思える程に、この構内はいつでも混沌の渦中だ】

【進む二人。白む息。かじかむ指。耳に入ってくる話題は、やはりこの春先の異常気象についてばかり】

【途中、蕎麦屋の暖かな芳香が鼻孔をくすぐりつつも】

【やがて、 "そこに通じる扉" を通り抜けようと、二人が傍らのネオデイズを過ぎようとした時】



「Boy。一体どうしたんだ」

「随分遅かったじゃねえか……」



 口元で燻らせる葉巻。
 軽く振り、マッチの火を掻き消す屈強で大きな手。
 同僚、「カウボーイ」ジュリアーノは壁に凭れたまま、鬼太郎へと顎でジェスチャーした。



【説明……、を求めるのは、あまりに無粋な気もする】

【相も変わらず翻るスーツの厚着に、マフラーの余白流れる寒風】

【営み、普遍、そして齎されし忙しなき不変】

【 "時代錯誤" も甚だしきこのカウボーイは、一体今後の何を識るのか】



【Brotherhood MISSION:弾丸輸送列車ヘヴンリートレインの内部調査、及び "消えた" 刑事達の捜索】



【ジュリアーノ・イーストウッド/SHINJUKUエリア ステーション構内/「快楽へと続く扉」前】

 今やもう見慣れた、同僚たるアンドロイドの仏頂面。が、しかし。それにしてもこの連れ添った、その……見た目麗しき「女装の麗人」は如何に。「あの」百目鬼 鬼太郎である。一体何があった、というか、どういう心境の変化があったのか。ふっ、と含んだ笑いを一つ、肩を竦めたカウボーイは、ネオデイズの向かい側の珈琲ショップのカウンターへと肘を乗せウインク。

「格別に甘いカプチーノを二つ。レイディー」

 引き攣った笑みの受付店員に礼を言い、寒気に湯気の立ち上る紙コップのホット・カプチーノを受け取るカウボーイ。一つはずい、と鬼太郎に渡し、もう一つは小さな掌を包み込むようにして匡へと優しく手渡し。

「重要任務を前にしてアレだが、色々と心境の変化があったようで何よりだ」
「俺に言ってくれりゃあ、綾瀬のとっつぁんにも口添えしてやったのによ」

 何か勘違いしている。
 しているが、嗚呼。この状況、実際にどう説明したものか。同僚の鬼太郎、恐らくはあくまで超然端。このぶきっちょの中のぶきっちょが連れた、混沌に入る偶然の御子たる匡少年。ヒュウ、と軽妙な口笛一つ、百戦錬磨の男娼を覗き込む伝説に名高きカウボーイ。

「ヘイ、レイディー。もとい……嗚呼。先に言っておくぜ」
「やっこさんは随分ウブな輩だ。ハッハッハッ……で、鬼太郎」
「オマエさん、この子も巻き込むつもりかよ」

 しゅ、と軽妙な音と共にマッチを擦り、2本目の葉巻。
 眼前には行き交う人波に、些か過剰が過ぎる地下の真っ白な照明群。ネオデイズ併設の屋台から立ち昇るスコーンの芳香を鼻孔に収めつつ、カウボーイが首を傾げて笑う。

「合流までの猶予はねェ」

 砂塵に晒されきったブーツが風を切り、ひっそりと施錠されていた「そこに通じる扉」が蹴破られる。CIRCUS HEAVENに至る為の、この広大なステーション構内の七不思議たる「秘密のホーム」への、無数ある内の一つである直通路。少女少年――――匡の目的と彼ら自警団の行き先は合致していれど、しかし。そもそも少年からすれば前述の「重要任務」とやらに関しての前知識は全くなく、どうやらこの鬼太郎を「ついて来させた」事により、思わぬ厄介事に首を突っ込んでしまった雰囲気さえある。

「レディファースト……と言いたいところだが、此処は先導させて貰うぜ」

 拍車付きの踵を鳴らし、明滅する蛍光灯の階段を降りてゆくカウボーイ。……この一連の「巻き込まれ」について、少年はどう見解するのだろうか。名も知らぬ一般市民ならば尻込みの一つもする展開であるが、嗚呼。そうである。刹那主義に生きる男娼の気紛れと享楽。それすらをも「楽しみかねない」外部の彼だ。



>>鬼太郎、匡




【時同じくして、長い階段を降りるカウボーイが向かう先】



【綾瀬 斗真/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 発着ホーム】



 打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた、天井を吹き抜ける風さえも遠く感じる程に広大な地下空間。よく見知ったこの迷宮駅に、よもやこんな発着場があったとは。ホーム下には2列の線路。一本は客室列車として欲望の徒を運ぶ、「豪華客室環状線列車ヘヴンリートレイン」のレール。そしてもう一本のレールに聳え、今現在。鉄の軋る轟音を響かせながら物資が運び込まれるのを待つ、健啖で大柄のAGトレイン。それを柱の陰から遠巻きに窺い、溜め息を吐く「特殊管轄」刑事たる綾瀬。

 状況はこうだ。
 VMtuber極愛 クヒドー傘下である、目元を覆うバイザーと橙色のジャンプスーツが特徴的な「V.I.P」の作業員アンドロイドが複数名。そして生身の人間故に、歌舞伎町の「影」の瘴気でやられないよう一様にガスマスクを装着した「流転會」系列の黒スーツの極道達。治外法権と名高いCIRCUS HEAVENの運営に出資する両者であるが、まぁ納得である。彼らにとって懸念すべきは「そもそもVMtuberという連中とヤクザが何の諍いもなく行動出来るのか」という点だが、とりあえず現場を見てみよう。羊のようなモコモコファーのパーカーを着た一体のアンドロイドが、何やら暇を持て余したのかヤクザ達の周りを彷徨いているものの。

「おいコラァ、お前暇なら少しは作業手伝えよ!」

「はぁぁ!? 手伝うワケなし!! くららはこの列車のボスだぞ!! いうこときけヤクザ!!」

「喧しい!! 働かざる者食うべからずって言葉を知らねぇのか!? お前も配信者ならわかんだろ!! 配信もしねぇでファンが増えるか!?」

「わあああああ、びえええええ。ヤクザがいじめるううううう。ぼににぃぃ。ルカしゃんに言いつけてやるわああああ……」

 流石の極道もVMtuberの自由主義にはタジタジらしい。耳掛けの小型インカムを起動し、「先んじて潜入を果たした」二人へと連絡する綾瀬。

「おい。迅、シンイチ。男同士でおアツい最中だろうが、合図があるまで待機してろよ。返事は不要だ。そんなヘマで見つかりたくねェだろ」
「俺にとやかく言うんじゃねェぞ。楽器ケースは鳴のアイデアだからな……」

 インカムを切り、さて、と傍らに控えさせた部下である船越 鳴を向く。が、そこにいたのは、何処ぞから入り込んできたおいも星人であった。思わず目を剥く綾瀬。

「めッ……、鳴!? 何処行きやがったアイツ!?」

 素知らぬ様子でころころと前転し、一人で遊んでいるおいも星人。慌てて周囲を見回すものの、無情にも多難は続く。

 仰々しい起動音を一つ。
 先程までノンビリと作業を待っていたヘヴンリートレインが――――既に動き出している!?

「オイ、オイ、オイ!! バカヤロ……!!」

 思わず銜えていた禁煙パイプを落とし、絶句する刑事。そして、柱に隠れた彼を見下ろすかのように貨物列車の屋根にて佇む一人のアンドロイド。

「 "ボス" からネズミが紛れ込むという情報が予め届いていたんだ」
「クックックッ。滑稽なこったな……」

 頬に入った縦線に、白を基調とした冬服の装い。銀行強盗騒ぎも冷めやらぬ内に姿を現した「電脳少女ルカ」。浮き上がり、徐々に、そして確実に加速しつつある弾丸輸送列車。何としてでもこの列車がCIRCUS HEAVENに辿り着く前に潜入し、「細胞具現解(ニュートライザー)」に関する情報を洗わなければならない。目的地に到達してしまえば、両陣営の戦力が合流してしまいジリ貧になるのは確実だ。既に困惑の猶予すらなき今――――敏腕刑事の慧眼に止まったのは、作業点検用に設置されていた複数のホバータイプのダート、スピードバイクに、壁に無造作に掛けられたガスマスクであった。



>>鳴、迅、シンイチ

3ヶ月前 No.177

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx


【自警団、そして奇妙な男娼の少年】

【彼らの目的地である "地上の楽園" 、その更なる深み】

【場面(スポット)は、天空のVIPエリアへ移る】



【葉隠 雪国/CIRCUS HEAVEN中心部 "快楽の穴(ファンタイム・ボイド)" エリア/VIPルーム】



 "屑吏様。今日は、いろいろと教えてくださいね"



 あの「葉隠 雪国」の女だ。
 最初こそ、さもからかってやろうと下卑た雰囲気をぶつけてみたはものの、殊勝に次ぐ殊勝。汚泥で穢れ、小汚いドジョウだのガマガエルだのが泳ぐ濁った池を優雅に往く蘭鋳一輪。その所作、一挙手一投足に思わず目を奪われていると、有名芸人、蛍迫を知らぬという「箱入り」の事実でさえも様になってしまうから驚きだ。目を細め、コニャックのグラスを傾げると向かい側の雪国を睨む屑吏。

「オメェ、細胞具現解(ニュートライザー)よか良いモン手に入れたんじゃねェのか?」

「ヒャッヒャッヒャッヒャッ……」

「今時こんな箱入り、天然記念物にも等しいぜ」

「やかぁしいわ」

「アレか? 下の方は教えたのか?」

「屑吏キサン、その辺にしとけよホンマ」

 全くブレる事なく下衆っぷりを発揮する「理想のアウトロー」。成る程、蘭鋳に纏わり付く薄汚いドジョウとは言い得て妙か。尤も、その蘭鋳は巨大なホオジロザメに囲われているのが現状であるが。豪快な音を立て、雪国のグラスに注がれる琥珀色のコニャック。採水地を拘り抜いた丸氷ごとそれを一呑みすると、硝子容器に収められた飴玉を掌に取り、がりごりと咀嚼する。

「安物のキャンディや」
「コニャックに良く合う。試してみい、玲」

 コニャックに飴。
 思わず目を丸くする屑吏。

「合うのか、それ」

「鬼怒泰のボケの受け売りやけどな。あの大酒飲みのアホはこういう知識ばっかや」

「ヘェー、俺もやってみよ。オイ飛鳥、オメェどう思うよコレ」

「理には叶ってンじゃねェか? そこのデクの棒の入れ知恵ってのが癪だが」

 額に血管を浮かべ、先程まで黙していた飛鳥が漸く言葉を発する。思わず笑顔のままで固まる屑吏。深くソファに凭れ掛かり、コニャックを煽り嗤う雪国。

「ファウストが殺られたのはテメェが噛んでンのか」

「オイオイオイ何や、屑吏。キサンとこの犬は喋るんか。躾が一周回って随分お利口になったみたいやのォ」

 間髪入れず、がしゃん、と硝子の砕ける音。屑吏の放ったグラスが、彼の部下のこめかみを打った音だった。

「飛鳥ァ。テメェ、俺に恥かかすつもりか?」
「勝手にイキリ立ってンじゃねェよ。俺を信用出来ねェのか、テメェ」

 琥珀色と流血が混じり、垂れ落ちるものの。
 それを拭わず、サングラスを直す飛鳥。ふと玲の「お節介」を予想してか、彼女の膝に掌を乗せる雪国。

「スマねェ、ジュン」

「わかりゃイイんだよ。そうそう、そういや余興だよ余興!! 俺の芸能にも通じる人脈の賜物だぜ」

 気を取り直し、掌を打ち鳴らす屑吏。
 VIPエリアの扉が従業員によって開かれ、そこから現れた胡散臭い風体の大物芸人。再び扉が閉められ、特徴的なポーズと高いテンション。

「どぉーーーーもぉ!! 蛍迫でっっす!! 今日はホンマにご招待頂き」

 ありがとうございます、の「あ」を言い掛け、突如として蹴破られた扉と壁に叩き付けられた大物芸人。二つの黒いシルエット。踏め込めば顕になるその姿に、裂けそうな程に口角を上げ、極道は嗤う。



「確かに、随分な余興やなぁ」



 "こんばんは。雪国兄さん"



 脚を組み直し、ボトルごと残りのコニャックを咀嚼する雪国。

「オイ。新しい客やで。とっとと次用意しろや」

 部下に告げ、顎で合図する。

「まぁ座れや」
「壬生さんもホラ。遠慮せんでどうぞ」

 関西侠皇會伏見組、その代紋を背負って立つ男。「狂気の正義」さえも捨て去り、剥き身となったその姿を見据え――――あくまでも嗤いは解かず。

「テメェ……ッ、ファウストを殺ったガキじゃねェか!! おい雪国、テメェどういうこったァ!!?」

「俺に聞かれてもなァ。向こうから訪ねて来てくれたんやで、そんな言い方もないやろ自分」

 激高の屑吏。そして仇敵のいざない、促される一歩。しかし、「吸血鬼」と伏見組の古参若頭――――その傍らに立ち、COAの醸す強力なオーラを滾らせる男の姿。

「ジュン、どうする」

 射抜き、刺し殺さんばかりの眼光をサングラスに隠し、しかし迸るかのように肌を割る血管は、そのまま臨戦態勢を示す。「伝説の右腕」、同田貫 飛鳥。そして玲の指を掌の中で玩び、嗤い、一部始終を悠々と観察する「極道」葉隠 雪国。楽園の懐、されど一気に張り詰めた緊張の糸。下手に出るのは許されない。



>>玲、夜尋、壬生




【 "法" の袂を去りし極道、一触即発の様相】

【失墜の星達を呑み込み、眼下では相も変わらずネオンの輝きが繁栄している】

【VIPエリアの窓に、落下(おち)ゆくVMtuber達の姿が映っているのも露知らず】

【舞台は改め、環状の楽園へと移る】



 悪徳と無謀、そして原始的闘争欲求の徒。
 第三特殊部隊サイコポリス所属にして、ハリウッドセレブとして銀幕に君臨する暴虐の華一輪。「バンドネオンの豹」、セリーヌ・G・ラヴチェイス。巷の名をグリセリーナ。



(以下はグリセリーナについて、とある記者の述懐の記録である)

(記録1)



 米国最大手情報サイト「Rolling Life」。当サイトで6年程芸能ゴシップのライターを勤めているビル・エヴァンス氏は、ハリウッドセレブ――――否、「爆弾魔」としてのグリセリーナについて、以下のように評している。

『芸能界に於ける悪習……数字至上主義の申し子、といえば何かと誤解を与えるかもしれないけど、そう称しても謙遜ないぐらいには市民の羨望を集める存在だよ。グリセリーナという女性は』

『君も知っての通り、彼女はとにかく過激で、尚且つ魅力的だ。絵画の世界から飛び出してきたかのように完成されたスタイル。誰に媚びる訳でもなく、常に我を通し己が道を往く姿勢。善悪という価値観を持ち出すには、グリセリーナという "個" はあまりにも強すぎる』

『大体、現実的じゃないだろう? 例えば君がニクドナルドでしけた昼食を摂っている時に、ミーハーな学生達が話しているのが聞こえてくる。「ワオ! 今日のBreakdown TVのゲストはグリセリーナだ!」「今回のTNT換算コーナーでは何を吹き飛ばしてくれるのかしら? 閉鎖された工場? それとも廃棄寸前の旅客機? 前に特番でやった、湖を丸ごと干上がらせる爆撃も披露してくれないかしら」 これは核実験を行ってる中東の国についてのディベートじゃない、れっきとした一女優に関しての話題なんだから驚きだ! 何だかもう笑えてしまうよ』

(エヴァンス氏、時折ジョークを挟みながら手元のクラッカーをつまむ)

『まぁ、彼女ぐらいのものだろうね。休日にブティックでショッピングを楽しむにしても、動向を見守るのはパパラッチではなく米軍当局。グリセリーナを中心とした半径1km圏内では保険が適用されないというのも有名な話だし』

『え? 話題がずれているって? アッハッハッ……そりゃ僕ぁ彼女にゾッコンだからね。少し喋りすぎたのを許してくれ』



『よし、それでは本題に入ろうか。彼女が地球上で唯一 "核" を所有する個人と称される由縁――――』



(記録1終了)



【十文寺 空護/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】



 改めて、ようこそおいでやす。
 この「欲望の楽園」へ。
 例えば君が、胡散臭い社長に絡まれてしまったり、気色悪いリスザルと話し込むハメになったり。強盗のアレコレを握るアンドロイドから強請りを受けたり、阿呆な連れが要らぬ喧嘩を酔った勢いで窮地に陥ったとしても、大丈夫!

 楽しいから!!

「う、ううんん……。これは此処で死ぬべきではないと。そういう事ですね。ワタクシどっこい生きてる」

 のそのそと匍匐し、未だチカチカする視界の中で呟く「委員長」ことVMtuber 巡星 愛兎。黒煙は残るものの、ああそうだ。此処は、此処が目的の我が楽園ではないか! 更に見回す。豪奢な赤絨毯に洒落たバーステーション、環状のソファ、毒々しい証明と巨大なミラーボール。そして何やらあちらに集う人だかり。よろめきながらもそちらを窺えば、このパーリーピーポー達の頭上に聳えた「シャンパンタワー」。幾多のグラスによって構成されたその頂上へと跳躍――――「風切跳(リコシェ)」の応用で滞空し、鮮やかなクリア・グリーンの炭酸をグラスへと振る舞うホスト風の男の姿。

「It's a DISCO Time!! Baby!!」

 よく通る声で叫び、既に臨戦態勢を整えているサギリの傍らに立つNNSグループ従業員、クウゴ。優しく掌を彼女の両肩に乗せ、そっと耳打ち。あふん。

「ハニー、ちょっと俺っちに協力してよ笑 や、少しでいいから笑」
「俺っちの能力ね、ゴニョゴニョ。こんなの笑 社長から君の能力は聞いてっから……」

 コソコソとした二人の態度に、いよいよグリセリーナの怒髪もヒートアップしてゆく。読んで字の如くわさわさと持ち上がる頭髪は、強力なCOA能力の為せる技か。

「知っての通り……こちらは苛ついてンのよ、阿呆共(ワナビーズ)」
「とっとと失せなッ、三枚目!!」

 くるくるとホストの手の中で転がり、そして高い天井目指して放られるシャンパンボトル。直後、ズドン、と凄まじい爆音と地響きが彼を襲うものの――――ホストがいない。まさか、塵も残らず消してしまったか!? 流石のグリセリーナもやり過ぎたかしら、と冷や汗を浮かべる、が。

 回転し、宙を舞うボトル。
 透明度の高いそれから極光が迸り、思わず目を覆うパーリーピーポー、もといワナビーズ。

「人は俺っちをこう評する」
「 "シャンパンに棲む妖精" とッッ!!」

「そんなン初めて聞いたぞ」

 有栖川のツッコミも余所に、まるでレーザー・ビームかの如くシャンパンを介して再び現れたホスト、十文寺 空護。ぴきり、とグリセリーナの額に浮かぶ縦筋。再びのノーモーション爆撃――――しかしそこにやはり男の姿はなく、ワナビーズの悲鳴よりも早く、高揚と酔いが回るよりも尚速く。びゅおん、とレーザーと化した彼の躯体が、シャンパン、シャンデリア、果てには構えられたスマホの液晶。ありとあらゆる「透明」を行き交い、グリセリーナを撹乱しているのだ!

「ッ、シィット!! このォ……!!」

「ざまあないワネ、クソあばずれ!! このまま死になさい!!」

「オマエはいい加減黙れッッ!!」

 彼に協力し、灰皿、ボトル、あらゆる「透明」を雑多に並べたり放ったりで奔走するサギリ。ついでに爆撃でフッ飛ばされるフランソワ。こうなればグリセリーナも躍起である。爆音と撒き散らされる七色の光にワナビーズは更に更にと沸き立ち、フロアが熱気に包まれる頃。ふらふらと委員長に寄り添うトマ。

「委員長ぉぉぉぉ。みぃーつけたぁー。ヒック、うぃ……」

「あ、トマちゃん……って酒臭っ!? ワタクシを助けに来てくれたの!? 単に遊びに来てたの!? どっち!?」

「あ、あんれぇ……? ろっちらったっけぇ…?」

 もう本人にも曖昧だし、そもそもこのフロアは混沌の坩堝の最高潮を迎えようとしている。

 そう……「混沌」だ。
 このスレッドを往く諸君らならば、今までに嫌という程に体験したこの街最大の特色。さぁ、今宵もケツの穴までご覧頂こう!!

「It's a clear night How y'all feel tonight!?」

「イェーーーーイ!! フゥー!!」

「オーーーーライLet me hear you say!! イェーーーー!!」

「イェーーーー!!」

 いつの間にやらダンスフロアに陣取り、サギリの隣に立ちコールアンドレスポンスをキメているクウゴ。紫色と赤の照明が演出し、シャンパンタワー頂上から流れる透明は更に輝きを増してゆき。印象的な導入から始まるBGMに、場のワナビーズがハンカチーフ、マフラー、果てには生理用ナプキンを振り回し踊り狂う!!

「ワン、トゥー、スリー」



 G o o o o o o o o o ! ! ! ! ! !



(Party People Music THEME:https://m.youtube.com/watch?v=KFpMipVzLs0)



 思わずたじろぎ、目を白黒させるグリセリーナ。もはや、このフロアの興奮は止められない。曲に合わせて歌い始めるクウゴ、そして遠巻きにそれを見つめ、ぐぬぬ、と唇を結ぶ委員長。

「何という熱気……ワタクシも盛り上げないと!!」

 何の使命感か。何が彼女を衝き動かすか。
 巡星 愛兎自身の言葉を借りるならば、「これがVMtuber」の在り方なのだろう。既に熟睡しているトマを寝かせ、その勇み足はフロアのDJブースへ。と、天井からぱらぱらと振る硝子片に、丁度DJブースへと落ちてきたらしいダーク派VMtuberの王、極愛 クヒドー。

「はッ!? クヒドーちゃんすごい可愛い!! 語彙!!」

 だがしかし、みなまで言わぬ。
 今、自身らがやる事など決まっているではないか。ライトとダークの垣根を越えて、お互い言葉もなく目線を交わす委員長とクヒドー。永い夜の開幕である。



>>サギリ、クヒドー

3ヶ月前 No.178

13 @madhatter ★WjVvxVF9Cu_Tf2

【伏見 夜尋 & 壬生 歳征/CIRCUS HEAVEN中心部 "快楽の穴(ファンタイム・ボイド)" エリア/VIPルーム】



「なんや、やっすい饗し受けてはんねんな。なあ? 雪国兄さん」

 黒いフォーマルシューズを履いた右足を下ろし、夜尋はポケットに両手を押し込んだまま吐き捨てた。余裕の笑みを浮かべる雪国を見据えつつも、感情のない目を細めた。普段とは異なり、サングラスを掛けていないその目はすでに深紅の色を帯び、HARD COAの常時発動を告げている。

『まぁ座れや。壬生さんもホラ。遠慮せんでどうぞ』

 雪国が告げた言葉に、夜尋はひとまず黙ったまま雪国を見据える。深紅の視線を動かし、その巨漢が侍らせている女を見、眉間に皺を寄せた。
 覚えのある顔だ。関東最大の指定暴力団組織である、任侠一家赤羽組。その本家筋、組長の娘であったはずだ。どこでどう繋がっていたのかなど興味はないが、面倒な役どころが居合わせるものだ。彼女を殺してしまえば、油川組だけでなく、赤羽組ともことを構えることになりかねない。そんなことになれば本家のクソジジイが怒り狂うだろう。
 まったく、どこまでも面倒を生み出す連中め。嫌がらせの天才ではないだろうか。

「葉隠ェ、ワレなにしたかわかっとんか? え?」

 隣に立つ壬生が雪国を前に凄むが、夜尋は左手を上げてそれを制する。
 おおっぴらに怒りを振りまいて凄んだところで疲れるだけだ。始末をつけるにしても、そう力むことなどない。仕事はスマートにこなしてやればよいのだ。面子やプライドなどという安いものとは違う。

『テメェ……ッ、ファウストを殺ったガキじゃねェか!! おい雪国、テメェどういうこったァ!!?』

 と、そのときだった。わなわなと震えていたらしい男がようやく口を開いた。
 この男は屑吏 純。理想のアウトローの名で知られる人物だ。裏の社会で伝説的とまで言われる組織力を有する個人。自警団でもマークされている生粋の悪人だ。自分やこの雪国のように、力を行使することで悪虐を生み出すのではなく、この男は悪意によって悪虐をばら撒く。狡猾と言えば聞こえは良いが、所詮は虎の威を借る狐。侮ることはないが、わざわざ相手にする必要もない。
 1ヶ月前に殺害した銀行強盗、DANK'sのファウストとも繋がりがあったようだが……なるほど、おおかた油川組に細胞具現解の話を持ちかけたのはこの小物だったというところだろう。

『俺に聞かれてもなァ。向こうから訪ねて来てくれたんやで、そんな言い方もないやろ自分』

「せや。わざわざこないして、こっちからタマ取りに来たってんねやから――」

 言いながら、夜尋はポケットから両の手を抜き出した。傍らでは壬生がその身に業火を纏う。一瞬にして火の海と化すVIPルーム。出入り口を塞いで立つ夜尋は予め傷つけ、血に塗れている両手の指先に鋭い針のような血の爪を生成し、続ける。

「――小物はすっこんどれや」


【The Red and Red THEME:https://www.youtube.com/watch?v=5JqY-6q-RNA


 鳴り響く火災報知器。笑みを浮かべて腰掛ける雪国目掛け、夜尋は火のついたローテーブルを蹴り上げた。
 床に落ちて砕けるグラス。宙を舞い、雪国へと向かって飛ぶテーブル。それは雪国の異形の腕によって両断されるも、夜尋は間髪入れずに床を蹴り、両断されたテーブルの片割れに足をつけ、勢いのまま雪国へ向けて再度蹴り飛ばす。

「はっ」

 鼻で笑う雪国の声が聞こえ、蹴り飛ばしたテーブルの片割れが止まる。素手でテーブルの破片を受け止めた雪国がそれを背後へ放り投げながらも、傍らの玲に「端の方で待っとれ」と言い残してソファーから立ち上がった。
 それからこちらの爪を一瞥した雪国が、満足げに笑みを深めた。

「その爪、久しぶりに見るのォ。夜尋。それにその目ェや。昔っから気味の悪い、その死んだ目ェ……懐かしいのォ」

 けらけらと笑う大男。眼鏡を掛けたその巨漢に自身のHARD COAである真祖の血統は通らないが、馴染みのこの爪で斬り裂いてやる。

「オラァ! なにしとん! ホンモンの吸血鬼と焔鬼が揃い踏みなんか滅多にあらへんぞォオ! 相手して貰わんかい!!」

 背後に控えていた黒スーツの部下たちを意気揚々と捲し立て、半ば追いやるようにしてこちらへ差し向ける雪国。燃え盛る炎が放つ熱気と鳴り響く警報の中、夜尋は息を吐き、ソファーを飛び越えて向かってくる1人目の黒スーツが振り下ろしてくる右腕を屈んで回避しつつ、右足を大きく踏み込んで右腕を振り上げ、かわした拳を先端にその腕を縦に斬り裂く。その流れのまま身体をぐるりと横向きに回転させ、左足を振り上げて腕を失くした黒スーツの胴を蹴り抜く。
 1人目が壁に叩きつけられると同時に迫る2人目を迎え撃つようにして右手を突き出し、伸ばした爪で喉を貫く。「あガッ……!?」となにが起きたかわからないというような声を上げた黒スーツに冷めた目を向けたまま、貫いた爪を翻してその喉を裂く。
 崩れ落ちるその向こうから、ドスを振り上げ、雄叫びを上げながら向かってくる3人目の黒スーツ。その顔面を左手で鷲掴みにすると、その目を真っ直ぐに見据える。途端に3人目の身体ががたがたと痙攣し、さながら風船が弾けるようにして破裂した。赤い液体が飛び散り、華やかだったVIPルームが血に染まる。
 血で湯浴みをしたかのように全身を深紅に染めた夜尋。その背後から襲いかかる影。同田貫 飛鳥だ。伝説の右腕であるその男が振り上げた拳。しかし、夜尋は振り返らない。瞬間、その間に割り込んだ壬生が、炎を纏う腕で同田貫の拳を受け止める。

「若の邪魔すんなや。三下」

 血と火によって染められたVIPルームで、壬生が唸るように言い放つのを背後に聞きながら、夜尋は悠長に踏み出し、雪国へと向かって歩み寄る。

「相変わらず、人間の命なんぞなんとも思っとらんのォ」

「そらそうやろ。もともとまともやないんやから。俺等」

 雪国が懐かしそうに言うのに返し、夜尋は瞬く間に踏み込んだ。縮地法を用いた高速移動、素人目には瞬間移動と見紛うほどのスピードで急迫し、振り上げた爪を振り下ろす。しかし、それは雪国の鉤爪のような異形の腕に払われ、一瞬の均衡の後に弾ける。夜尋は後方に吹き飛びかける身体を両足で制動し、即座に床を踏み切って軽く飛び上がると、右足を振り上げて蹴りかかる。しかし、雪国も右足を振り上げてこちらを迎撃し、右足同士が衝突。互いに弾かれるも、体格の差によって雪国は2、3歩下がる程度ですみ、夜尋は1度着地してから後方に宙返りして制動する。そこへ急迫した雪国が振り上げた腕が振るわれるよりも速く、その手首を左手で掴むことで、すんでのところで攻撃を阻止する夜尋。しかし、即座に打ち込まれた頭突きによって頭が後方に振れる。歯噛みしながらもそのまま上半身を反らし、後方に転回するようにして両足を跳ね上げ、雪国の顎を蹴り上げる。そのまま床についた手で後方に跳び、距離を取った。

「やるなァ、夜尋」

「石頭が……大人しいくたばれや、ボケが」

 口の端から流れ落ちた血を拭いつつ言う雪国に、額から流れ出てきた血を同じように拭い、夜尋は吐き捨てた。


>>雪国、屑吏、同田貫、玲

2ヶ月前 No.179

しどにー @huroga ★Android=kYlzODfWCM

【サギリ/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】

"It's a DISCO Time!! Baby!!"

「!?」

フロアによく響き渡る声。
決して気を抜いていたつもりはなかった……が。有栖川社長に水を差し出していたホスト風の男――十文字空護がいつの間にか背後に立っていた事に驚愕した。


"ハニー、ちょっと俺っちに協力してよ笑 や、少しでいいから笑
俺っちの能力ね、ゴニョゴニョ。こんなの笑 社長から君の能力は聞いてっから……"


「あの外人の周囲に反射する物を配置……?何の意味が……?」


"知っての通り……こちらは苛ついてンのよ、阿呆共(ワナビーズ)"
"とっとと失せなッ、三枚目!!"


空護がシャンパンを放り投げるのと同時に先程と同じ爆発が、今度は空護を襲う―――が、爆発の直前にささやかな輝きと共に空護の姿が消えたのをサギリは確かに見た。

そして爆発の収束と共に再び現れる無傷の空護。
事態を飲み込めていないグリセリーナは明らかに戸惑いの表情を見せている。

一連の流れから爆発の正体は間違いなくグリセリーナの能力である事を確信した。
爆破の予兆や予備動作の一切が不明な事は疑問だが……

そしてさらに問題は空護の能力。

「(光……反射……?いや違う。光子と一体になる能力……?波長が似た光があれば転移も可能なら、さっきの指示も合点がいく。そして、必要な光は恐らく)」

空護の能力を冷静に分析する。
こちらは仮説の段階だが、これから検証に移ればいい。

「(白。ね)」


再び宙を舞うシャンパンボトルと爆撃。爆撃。爆撃。
空護はというと、一体どんな反射神経なのか見事に光に紛れやり過ごしている。

「(少なくとも転移能力に関しては私よりも数段上だわ……)」

目の前の男に対する純粋な驚愕と賞賛。
そして数度見るうちにグリセリーナの能力の正体も掴めてきた。

空護を爆破する際。やはり予備動作はないが"視線"だけは常に空護を追っている。
……想像したくもないが、グリセリーナは"視界の範囲内を予備動作も無しに爆破出来る"としか考えられない。


"ざまあないワネ、クソあばずれ!! このまま死になさい!!"

依然変わらずに悪口をぶちまけるフランソワだが、間違いなくグリセリーナの思考を削ぐ事に一役買っているのは確かだ。

"オマエはいい加減黙れッッ!!"

「フランソワ!アンタも手伝っ」

サギリが言いかけて、直後に"ちゅどッ"という小気味良い爆発音と共にバーカウンターの向こうまで吹き飛ぶフランソワ

「フランソワ!?」

ダンスフロアの影から空護の援護をしていたが、フランソワが吹き飛ばされるのを見て咄嗟に小型爆弾をグリセリーナの後頭部付近へ跳ばし、起爆させる。

下手をすれば殺しかねないと思って放った攻撃であったが、爆炎の中からは全くの無傷の状態のグリセリーナが、サギリの攻撃になど気づいてすらいない様子で立っていた。

「(爆破を扱う以上は爆発でダメージを負わないって事……?)」

COAの本質は攻撃ではなく防御である。
炎を扱う者が炎に耐性を持つ事などサギリでも知っている常識であるし、サギリ自身は知らないがサギリも"肉体を分解する攻撃"に対する耐性を持っているのだが、それにしても全くの無傷は流石に予想外だった。
完全無効ともなればHARD COAの領域にまで達している。

更に言えば、爆破に対するダメージだけでなく、爆破で飛散したであろう爆弾の金属片によるダメージすら全く受けていないように見受けられる。
彼女に対しては爆発を介した攻撃全般が無効の可能性まで視野に入れねばならなそうだ

「(拳銃も火薬の爆発を利用して銃弾を撃ち出してるに過ぎない……効かないと思った方がいいわね)」

有効な戦術の九割方が封じられたも同然な事に気付き、空護に任せるべく更に光源を配置する。


"It's a clear night How y'all feel tonight!?"

"イェーーーーイ!! フゥー!!"

"オーーーーライLet me hear you say!! イェーーーー!!"

"イェーーーー!!"


この空護という男。グリセリーナから一撃でも受ければ即死級のダメージを受けるレベルの攻撃を繰り返されているにも関わらず、そんなものを気にかけるでもなく、ワナビーズを焚き付け歌い始める辺り凄まじい胆力の持ち主である。

「(とはいえ、何も解決してないんだけど……!)」

グリセリーナは完全に冷静さを失って空護のみを狙っているが、空護ではなくフロア全体を爆破でもされたらアウトだ。
そして恐らくそれが出来るだけの力を持っている筈。

「爆弾はダメ……拳銃もダメ……何か、何か……」

ゴソゴソとポケットをまさぐるが葉巻やら、ライターやら状況を打開出来るものは出てこない。

「これって……」

"やぁ姉さん。"コレ"どう?"

――先程購入したドラッグだ。

「(確か、ケツにカプセル入りのドラッグを詰めて密輸しようとした奴のカプセルが破裂して直腸からドラッグを過剰に吸収して死んだニュースあったわね……)」

自身の能力ならばグリセリーナの体内に直接跳ばせる。
さすがにそれだけで倒すには至らなくとも、強制的にトリップさせられれば隙を作るには十分だろう。

「ねぇアンタ!空護だっけ?ちょっと協力して!」

ドラッグを口に咥え、ライターで火を点けながら依然ワナビーズを盛り上げ続けている空護に言う。
いつの間にかDJも加わり、更に混沌と化している辺りこの男のカリスマ性には舌を撒くばかりだ。

「一歩でいい。アイツを後退させて!」

そして、空護の目の前で火を点けたドラッグを跳ばして見せ。
自身は吹き飛んでいったフランソワの元へ向かった。


>>グリセリーナ 十文字空護 フランソワ

2ヶ月前 No.180

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

【百目鬼 鬼太郎/SHINJUKUエリア ステーション構内/「快楽へと続く扉」前】


好きに呼べとは言ったが、まさか“ダーリン”などと呼ばれるとは思いもしなかった鬼太郎。もう一つ“きーたん”というのもあったが、どちらにせよ今までにない新たな呼称に僅かだが眉間に皺がよる。この感じが鬼太郎のよく知る人物に似ていて、その者のことと重なって余計に呆れてしまったのは致し方ない。マイペースという人種は、どこにいても、どんな状況でも己が信念を崩さない。反論したところで糠に釘、暖簾に腕押しだ。


「マイペースもそこまでくればたいしたもんだな、“ハニー小僧”」


何のマナーだか知らないが、お望み通りにハニーと呼ぶ鬼太郎。先程までは「少年」と彼なりに丁寧に呼んでいたが、この数分のやりとりで匡に対する態度を変えたのは、やはり先程から彼と重なる知り合いの影響が大きい。関われば関わるほど、相手のワールドに取り込まれていくような……そう、面倒くさい感じが、匡を少年ではなく小僧と雑に呼んでしまう理由。あの“チャラ男クソ野郎”を思い出すだけで頭が痛くなるのは機械のメンテが必要なのか。はたまた、これからの何かを予感してからなのか。

 匡にではなく、メモリーの中にある色褪せない相手を思い浮かべて鬼太郎はため息をつく。匡のこの男を誘惑する動作も言動もあいつらなら効果てきめんだっただろうなと懐かしみながら、何故かいいように弄ばれる耳。周りの視線が羨望やら嫌悪など入り混じる中を我関せずに通り抜けて目指すその最中ーー


「なんでおまえがここにいるんだ、ジュリアーノ」


このステーション内で異様な風貌を浮くことなく着こなす男。動作の全てが彼を物語るように、鬼の同僚である現代に落ちたカウボーイはキザったらしく言葉を並べて、頼んだカプチーノを手渡してくる。お姫様抱っこの状態で受け取ったが、いいタイミングだと思い匡をそっと地に下ろす。さすがに熱い飲み物を持ったままで万が一にも商売道具であろう彼の肌を傷つけるわけにはいかない。鬼太郎なりの気遣いだが、いかんせん言葉に出さない為たびたび相手にそして周囲にも誤解を与える。本人は全く気づいてもいないし、気にしてもいないが。それよりも、だ。この目の前のカウボーイもといキザ男。一体何を勘違いしているのか、一人でペラペラ喋り話を進めていくが、鬼太郎にはただただ疑問があった。


「さっきから何をわけわかんねえことを言ってんだ?俺はたまたま民間に影響を及ぼしかねない奴を見つけただけだ。こいつの素性を把握するまで行動を共にしている。この、ハニー小僧のな」


顎でくいっと匡を示してみるが、このカウボーイは聞いちゃいない。巻き込むつもりかと問うてる辺り、その重要任務とやらに自分も含まれているのだろう。左遷させられた身なのにおかしいとは思うが、この男との付き合いは長い。どのような人物なのかも知っている。たぶん、否……完全にこの男、ジュリアーノの勘違いだろう。それでも止まらない男ジュリアーノ。鬼太郎たちが元々目指していた「そこに通じる扉」を蹴破り、CIRCUS HEAVENに至る為の秘密のホームへの階段を降りて進んでいく。その様子を見て鬼太郎は今宵一番大きなため息をつき、匡の後ろに立ち先に行けと態度で示す。ジュリアーノ、匡、鬼太郎の順で階段を降りながらジュリアーノに声をかける鬼太郎。


「で、ジュリアーノ。おまえの言う重要任務ってのは俺に何の役割を期待しているんだ?」


淡々と純粋に疑問をぶつける。左遷された身。それは相応の問題が生じた証。銀行強盗の事件で上層部に対し命令違反を起こし、嘘の情報でクヒドー達を逃がして張本人。本部に戻って開発部門で受けた検査からはプログラムの一部が書き換えられているという結果がでた。しかも、その書き換えたプログラムの変更不可という事実。それを聞いた時、とうとう壊れたかと、スクラップいきかと覚悟をした。しかしそうはならなかった。オジキが……庇ってくれたから。情けないことに、自分一人ではどうにもならないと思っていた。ここで終わりだと……。それがオジキの手によって免れた。表向きは“変異体”という名称をつけられ、研究対象として継続ということで、鬼太郎はまだ自警団員でいられる。


「言っとくが、俺はーー“変異体”だぞ」


変異体ーーアンドロイドの概念を根本的に変えたというモノに向けられた言葉。主人の命令に逆らって行動を起こした鬼太郎の変化を表す名前。この世界で初めての症例に研究者たちは動揺と好奇の眼差しを向け、他のものは畏怖の念を向けてくる。おまえはおかしい。狂ってる。異常なんだと……そう、言われてる気分の言葉。鬼太郎にとって、ただただ屈辱を味わうだけの呪い。同じアンドロイドであるジュリアーノの耳に入っているかは知らないが、そんな変異体の己を易々と任務に加えるなんて、何か問題があっても構わないといっているようなものだ。


「俺はこのハニー小僧をラブホに送るまでの監察にすぎない。それ以上のことは、期待すんな」


任務が嫌なわけではない。そんなレベルの話ではないのだ。今までにない行動をとってしまった自分に対する恐怖。仲間に対してだって、何をするかわからない不安。冷たい口調の裏側にあるのは、この鬼太郎という人物をよく知る者からすれば容易に想像できること。


鬼と呼ばれる彼の不器用な優しさからくる言葉だと。



〉ジュリアーノ、匡


【船越 鳴/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 発着ホーム】


柱の陰から「特殊管轄」刑事たる綾瀬が星の動向を見張っているその傍ら。共に来ていた刑事四年目の彼女はーーーー


「ふん、ふん、ふふふーーん」


駅のトイレにて鏡を見て髪の手入れをしていた。たいして長くもない、むしろベリーショートのオレンジ茶髪を手ですきながら、鼻歌まじりに自分をチェック。髪よし、お目目よし、服装よし。彼女の今日のネクタイは機関車柄。服装は基本的に自由の自警団にて、こんなへんてこな柄のネクタイをしめるのは彼女くらいだろう。ちなみにネクタイの柄は毎回変わる。そんなどうでもいい話はおいといて、何故彼女は綾瀬を放ってこんなところにきているのか。決まっている。


「バッチリ完了!これで綾瀬さんのハートはいただき!」


愛しの綾瀬の前で恥ずかしい格好はできない。ただそんな、そう、そんなくだらない理由で途中抜け出したアホ。刑事部門 第一課、船越 鳴である。

そんな鳴、トイレで身支度を済ますと一目散に駆け出した。向かうはもちろん、綾瀬の元。その時、丁度聞こえた仰々しい起動音に鳴は目を丸くして口をあわあわと開けた。今回の任務であるヘヴンリートレインが動いている事実。動揺と焦りを見せる鳴。任務なのにと誰もが思う中、鳴の心情は一つ。


(ええええええええ!!!!綾瀬さんとのラブリー任務は!!!!?まさかの終わり!?)


こういう奴なのである。先程よりもダッシュして、綾瀬のいる柱の所まで行き、彼を見つけた途端「綾瀬さぁぁぁん!!!!」と、叫びながら目の前にいたおいも星人を蹴飛ばしてーー


「ずべべべしっっっ!!!!」


思いっきりずっこけた。顔面から駅のホームのアスファルトにダイブ。痛い、痛すぎる。ゆっくりと上げた顔はところどころ擦り切れて血が滲み、打ち付けた部分は赤く腫れていた。そして極め付けに「ひいいん」と泣く。なんとも、無様。寧ろ滑稽とさえ思える。そんな哀れな彼女に心配そうに近づいてきたおいも星人。蹴飛ばされたことなどお構いなしの親切心に胸打たれそうになるが、鳴は痛さで顔を片手で覆い隠しながら、もう片方の手でおいも星人に触れる。すると、不思議なことに鳴の怪我が綺麗さっぱり消えて、代わりにおいも星人が傷だらけになった。摩訶不思議、いやいやなんてことはない。これが彼女、船越鳴のCOA。『泣言不要(ギブアップ)』の力なのだ。


「おいも星人よ、すまねぇな。しかし、これも致し方ない。そう、運命なのだよ」


泣いていた滑稽な女はどこへいったのか。打って変わってニッコニコの笑顔でおいも星人にさらばと片手を上げて、目に入った綾瀬に気付き「あ、や、せさぁぁぁぁん!!!!」とタックルを決めるくらいの勢いで目の前まで突っ込んだ。


「綾瀬さん、大変です!列車動いてますよ!追いかけないと!私と綾瀬さんのデート任務の危機です!!!!」


緊迫した中での間の抜けた発言。本人は真面目であるのだから質が悪い。そして鳴は、綾瀬の肩越しに
見えた複数のホバータイプのダートやらガスマスクに気付いて閃いたというように手を挙げる。


「ピッカーンですよ!これ、あれですね。あれ、あれっす。それでいきましょう!」


最早さっぱりである。だが、指差す先とバイクのジェスチャーをして訴えた姿に察しがつかない綾瀬ではない。こんなへんてこな考えにもフォローを入れてくるだろう。ベテラン刑事の名は伊達じゃない。なにより、鳴が惚れこんだ男。毎朝会うたびに「ハートにズキュン」などとふざけたアプローチをしているくらいキュンときてる男。鳴の考えを察し頷いた綾瀬を見て、テンションを上げるのは至極当然。


「きゃほー!!さっすが綾瀬さん!もう、ほんとにっ、ハートにズキュウウウウン!」


「キュン死にいいいい」と戯言を言い放ち、鳴はバンザイのポーズで止まった。目が合う、列車の上のアンドロイド。彼女の目が言っている。なんだあの変なやつ、と。



〉綾瀬、迅、シンイチ

2ヶ月前 No.181

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

【赤羽 玲/CIRCUS HEAVEN中心部 "快楽の穴(ファンタイム・ボイド)" エリア/VIPルーム】


雪国が自分を守るような返しで屑吏と言い合う中、耳に入った聞き慣れない単語。“細胞具現解(ニュートライザー)”とは一体何なのか。下衆な事を言われても表情一つ崩さぬまま、玲は隣で豪快に酒を呷る雪国に勧められたキャンディを一粒手にとり、その小さな口を手で隠しながら口の中に入れた飴をコロコロと舌で転がし甘さを楽しむ。そしてコニャックを少し口に含めると「まぁ」と目を丸くして驚きつつも、嬉しそうに雪国を見る。


「お酒なしでも甘くて美味ですが、合わせると更に美味しゅうございますね」


自分の反応に気を良くする雪国。反対に屑吏の後ろに立つ飛鳥はお気に召さないのか、はたまた別の理由からか棘のある言い方をして一触即発しそうな雰囲気のこの場。目の前で交わされるやりとり。その最中、屑吏が投げたグラスによって怪我を負う飛鳥にハッとした時には、何もかもお見通しな雪国の大きな掌が膝に乗せられる。余計なことはするなというより、力を見せるなという思いからなのだろう。この裏の世界で玲のCOAを見た者は、その凄さに玲を喉から手が出るほど欲しがる。隙を見せれば、誘拐されてもおかしくない。それほどの“使える女”。そんな玲をまるで守るように囲う雪国は騎士なのか。否、こんな凶悪な騎士などいない。悪の親玉というのが相応しいだろう。

ぐっと耐えれば、血を流した相手はそのままでも和やかな雰囲気に戻る。変わらないのは傷だけ。それを容易く癒す力があるのに、それすらも叶わないとはなんて滑稽なのだろうと玲は自身の上に未だに置かれる雪国の手を見つめる。重くてまるで鉛のようなそれに、そっと触れられたのはどこを探しても自分だけ。それでも何かを主張することは許されない主従関係。自分が何かをしでかしたせいで赤羽組まで陥れられたら……そう頭によぎるたびに、隠してきた本心。誰にも気づかせない心の中。仮面を繕って笑みを浮かべれば、上機嫌に芸人を呼ぶ屑吏とそれに合わせて現れた大物芸人。何やら奇妙な出で立ちでいるが、これが面白いものなのだろうかと不思議そうに首を傾げる玲。瞬間ーー突如として蹴破られた扉。前にいた芸人達は壁に叩き付けられうずくまる。一体何が起こったのか。そんなことは隣の雪国の低く嗤う声を聞いて、ああ、また始まったのかと理解した。抗えぬ運命の鎖に……。


極道の集まるところには極道が現れる。まるで磁石のSとN。互いに引き寄せられて、時に手を組み、時に反発する。雪国を前にしてもその姿勢を崩さない、伏見組の男2人。機嫌がいいのは雪国だけで、後の全員が各々矛先を見据える。ある者は怒りを。ある者はただ冷徹に。臨戦態勢になる屑吏の右腕にして最強を誇る飛鳥。そんな彼らを前にしても尚
、揺るがなくマイペースに酒を口にしながら、玲の指を絡めて、手を握る雪国。常に危険と隣り合わせの者は、その境地すら快楽になるという。今の雪国のように……既に心が麻痺をしているのだ。どうしたものかと顔を上げて見れば、ふと、絡まる視線。先程から雪国と怯むことなく対等に話をする伏見組の男。あのお姿は確か……組長の息子の方だったはず。その彼の真紅の瞳は、射抜かんとばかりにこちらを見て何を思ったのだろうか。まさか、赤羽組の娘が雪国と共にいるなんてと、意外に思ったに違いない。理由を話したところで、見逃すわけもないだろうけれど。玲は真っ直ぐに夜尋の顔を見つめ返し、この場がどう動くのか、ただ黙って見守ることにした。

刹那ーーーー先に動いたのは伏見組の2人。業火を纏った一人と、両手の指先に鋭い針のような血の爪を生成するもう一人。一瞬にして火の海となる部屋。逃げ場は塞がれている。眼前に迫る火のついたローテーブルに雪国の部下がひいっと悲鳴をあげる中、玲は動じることなくそれを見つめる。全ては、雪国を信じているから。その強さを……何者も屈服させるその両腕を。なんなくローテーブルも攻撃をしかけてくる夜尋も片手でいなしてしまう彼に、端で待つようにと告げられ頷く。ゆっくりと立ち上がり端に向かい壁を背にして部屋の有様を悠々と眺めながら……その顔は曇りを見せた。


ーーああ……どうして、私は見ているだけしか許されないのか。


止まない怒声。耳をつんざく雪国の部下の悲鳴。血に塗れる一室。燃えあがる炎。全てがまるで夢のような、けれども悲惨な現実。すぐに部下たちに駆け寄れば、助かる者もいるかもしれない。しかし、ここで勝手をすれば雪国に迷惑がかかる。伏見組の2人にとって、自分は雪国の隙を生む唯一の存在。未だかつてあの方が地に伏したところなど見たことないが、未来はわからない。玲は戦い続ける雪国を哀しそうに、辛そうに目で追いながら彼の表情を見て、ああ……とぎゅっと着物を握る。


ーーなんて、愉しそうに人を傷つけるのだろうか。あの方は。


自分がやめてと懇願すれば、きっと戦いなど放り出してそばにきてくれるだろう。けれども、言えやしない。雪国にとって、これが日常。戦うことでしか、血を浴びることでしか己の存在を認められない。生きていることをーー。


ーー雪国様は強い。きっと今回も相手を傷つけてしまう。雪国様は強い。決して、倒れたりしないから。雪国様は強い。どんな怪我も傷も……治してしまうから。ーー私が。


玲はただ真っ直ぐに雪国を見つめる。愚かな自分を嘆きながら、彼の背中を……目に焼き付けながら。泣くことなどできない。これは、自分が決めた道だから。


〉雪国、夜尋、壬生、屑吏、飛鳥

2ヶ月前 No.182

aki @asynchro73 ★sYV7BQwacQ_Mfh

【東雲 迅/新 一/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 発着ホーム】

 SHINJUKUステーション構内の地下エリア―――そこに佇む快楽の楽園へと誘う鉄の塊ヘヴンリートレイン。輸送列車の内部で巨大なコントラバスケースの中に身を隠す迅とシンイチは、外部で作業する流転會の極道達の声に耳を傾ける。

「(こりゃあバレたらとんでもねェな)」

 喧嘩っ早い性格であるシンイチも、流石にこの状況で特攻する程無謀ではない。流転會の面々の力が未知数である以上、警戒するに越したことはない。
 最中、2人の耳に掛けてある小型のインカムから響く声。その声の主は共に作戦を決行する自警団「特殊管轄」の綾瀬 斗真である。

"「おい。迅、シンイチ。男同士でおアツい最中だろうが、合図があるまで待機してろよ。返事は不要だ。そんなヘマで見つかりたくねェだろ」
「俺にとやかく言うんじゃねェぞ。楽器ケースは鳴のアイデアだからな……」"

「マジでこの中お熱いからな!!オッサン変わってくれよ頼む!!」

「オメー返事すんなっって言ってんだろ!!」

 バチコーンとシンイチの頭をぶん殴る迅。お前も充分にうるさい。この2人に潜入作戦を任せて大丈夫なのか?筆者も少し不安になって来ている。
 メタ的な事はさておき、先程からこの列車どうも様子がおかしい。

「(オイ、迅。この列車動いてねぇか?)」

「(ハッハッ、なわけ)」

 起動音と共に動きだす快楽への船出。―――この列車は既に目的地へと向かっている……!!!

「(マズイマズイマズイ!!このまま着いたら俺ら二人で戦う羽目になるぞ!!)」

「(お、おいオッサン!!どーすんだ!!)」

 インカムで急いで通信を試みる2人。このまま距離が離れすぎてしまうとその時点で綾瀬達とは分断されてしまう。

"「 "ボス" からネズミが紛れ込むという情報が予め届いていたんだ」
「クックックッ。滑稽なこったな……」"

「(……)」

「(……)」

「(なあシンイチ……上になんかいるよな?)」

「(いんな)」

 貨物列車の屋根の上に佇む人影、否、機械の影。

『オイ、ヤベェぞ』

 響く電子音、ノイドの声である。

『あの機体の周波数……間違いねぇ、あの時銀行で戦ったアンドロイドだ』

「(うそ、マジで)」

 聞こえてきた口調や声から、あの時とは随分と印象が違う。しかし、ノイドが感じ取った周波数……それはまさしく「電脳少女ルカ」のものである。

『なあ、迅。オレに良い考えがある』

「(……?考え?)」


『あぁ―――簡単な話だ。アイツの機体(身体)をぶんどっちまえばいい』


 ノイドの不敵な笑み。待て。そんな事が……そんな事が出来るのか……?
 確かに、彼はハッキングに対しては右に出るものがいない才を持つ人工知能であるが―――人工知能vsアンドロイド、世紀の闘いが開幕してしまうというのか!?

>>綾瀬、鳴、ルカ

2ヶ月前 No.183

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_BaP

【 内代匡 / SHINJUKUエリア / SHINJUKUステーション 】

 ハニー小僧。……ハニー小僧。…………ハニー小僧かぁ。
 可愛いような、可愛くないような。絶妙な塩梅の呼称にむむむと悩むも、そこからの改善を訴えたって鬼太郎が聞いてくれるとは思えなかったので止む無く受け入れることにした。
 それに英訳するとハニーボーイだ。こっちなら可愛い。うん、そんな感じの映画だかドラマだかも海外にあった気がするし。ハニーボーイ。良い響きだ。そう呼ばれていると思い込んでおこう。

「可愛い子ちゃんへの呼び方としては、ちょーっとばかしラブリィ度数が足りないけどぉ。まあ良いよぉ。妾くんは寛大なので許してあげ……およ?」

 雑談を続けようとした傍から、匡、というよりも鬼太郎に掛けられた第三者の声。それに反応して視線を向ける。
 男が居た。厚生労働省の区分だと壮年期くらいの扱いであろう年代の、背丈が高いダンディな男だ。ハリウッド映画に居そうな男らしい整い方をしたルックスである。サブカル的な言い方だと雄みが強い。夜の町を歩けば自分から声を掛けなくても向こうから誘ってくる女がいそうな程度には野郎の色気がある。体つきも筋肉質で、太陽に愛された肌がセクシーだ。酸いも甘いも□み分けて来た力強さを感じる。
 だが特筆すべきは彼の恰好良さではない。ファッションだ。彼は古い西部劇に出てくるガンマンそのままの装いをしている。というか首元の年季が入ったスカーフなんて、それこそ本当に西部開拓時代から残されているものじゃないかと考えてしまうアンティーク感に満ち溢れていた。古着屋ではなく博物館でお目にかかるタイプの歴史の重みを目で見られる。凄い。洗濯とかどうしているのか。したらボロボロになりそうだし、しなかったらちょっと洗っていない歴100年超えであまりにも不潔すぎる。どちらに転んでも大変なのによくぞアレを普段使いに……。

 匡が目の前の西部劇アウトロー風男の衣装事情について思いを馳せている間にも、鬼太郎と彼とのやり取りは進んでいた。
 ジュリアーノ。カウボーイは確かにそう呼ばれている。脳内の情報網をパラパラと捲ってその名について探ってみた。――ヒット。サイコポリスの一員だ。すなわち自警団員。広義で同じ職場ならば、そりゃあ顔見知りにもなるだろう。まして同じアンドロイド仲間だ。
 匡は情報屋なだけあって会ったこともない相手の事くらい知っているけれど、見た瞬間にコンマ零秒でその記憶と眼前の相手とを結びつけられるほど機械的ではない。思い出す、という行為は流石に必要であった。

「わ、ありがとうおじ様ぁ。えっへん。妾くんはお礼のちゃんと言える良い子!」

 紳士的な仕草で手渡されたカプチーノを受け取り、ウインクと冗談めかした言い草とを交えながら感謝を述べてみる。いくら退廃的と言って良い人生を送っている男娼だって、こんな場面では無暗に艶然とはしない。
 熱々のスチームミルクとフォームミルクに口を付ける。うん。格別に美味しくなくとも、平均点に至っているだけでそもそもカプチーノは美味い。それが駅に店舗を入れているチェーン店ともなれば一定のクオリティは保証されたも同然だ。

「よいしょっと。妾くん、地上に帰還ー」

 ホットなカプチーノをこちらにかけない為だろう。予想外の優しさから突然地面に降ろされ、匡は多少驚きつつも無事に床へ着地した。彼の今までの言動だと、正直なところ地面にいきなりポイッと投げ捨てられるのもあり得ると思っていたから。この対応には不良が野良猫に餌をやっているところを見たような気持ちになる。
 ジュリアーノは自分と鬼太郎との関係性を誤解している節があったが、その誤解は解消されないほうが面白いなと判断して口出しはしない。ちまちまとカプチーノを飲み進めてゆく。

(それにしても、妾くんったら随分な面倒事に巻き込まれた予感。んー。どうしよう。今からでも妾くんを誘ってきたおじ様に言って待ち合わせのラブホ変えて貰おっかなぁ。でもダーリンに任務があるなら、どっち道ヘヴンリートレインまで一緒に引っ張って行かれそうだしぃ?)

 天井のライト周辺を羽虫が行ったり来たりしている。薄い羽根なのに飛ぶ音がブーンと五月蠅くて堪らない。それらの音さえも掻き消す喧しさでジュリアーノは『扉』を蹴り飛ばし、迷いの無い足取りで向こうへ進んだ。
 そうだ。思い出した。ここにも確か、ヘヴンリートレインへ通じる通路は在った。

「んー……。ここで帰るのはなぁ、やっぱり無理っぽいかぁ。しょうがない。妾くん、行っきまーす」

 ひとまずCIRCUS HEAVENに行かないことを諦め、体重の存在を感じさせない軽い動きで通路に一歩を踏み出す。そのまま歩いて目の前のカウボーイに着いて行った。後ろには鬼太郎がいる。周りの被害も考えずに取れる手段を全て取れば、彼からこの場で離れて雲隠れすることも可能だろう。それをしないのはまだ鬼太郎が比較的に穏便な対応を自分にして来るからだ。
 真剣に殺す気で来られたらこちらも手段は選べなくなる。四方八方の有象無象を片っ端から強烈に魅了し尽くしてでも、そうして出来上がったフェロモンの奴隷を命の無事さえ勘定に入れず鬼太郎に特攻させてでも。彼の隙を縫って逃げねばならなくなる。だって内代匡はまだ死にたくない。不幸と破滅を前提にした束の間の生にまだ浸っていたい。

 コツコツ。静けさの中を三人分の足音が侵す。
 忙しなく円の動きで飛び回る羽虫らも此処にはいなかった。

「ねぇねぇ、だぁりん。妾くん、この先でなんかやばい事しちゃっても、それが命の危機に際しての事なら巻き込んだだぁりんの責任って事にして良いんだよねぇ?」

 念のため、そこだけ認識を合わせたくて確認しておく。
 歩きながら首だけ後ろに振り向いて鬼太郎と目を合わせた。だって自分の所為じゃない出来事で自分の罪が増えては堪らない。まかり間違って今回の彼らの『任務』とやらのとばっちりが匡にも来て、仕方なしの動きが罪に問われて逃げきれず隠しきれずで刑務所にでもぶち込まれようものなら。
 間違いなく、なんだかんだ今まで最後の一線として守って来た尻の貞操がお陀仏になるのは目に見えている。刑務所なんてあんなのヘテロでも女っ気が無さ過ぎてホモに走る環境なのだ。己のような若くて少女的な容姿をしている上にそもそもフェロモンを完全にオフにすることは出来ないから常時周囲を“誘っている”者、秒でスラングとしてのディックを上と下のお口にINされてジ・エンドだ。イメージ映像で椿の花が地面に落ちたり百合の花びらが舞い散ったりしてしまう。

>百目鬼鬼太郎様&ジュリアーノ・イーストウッド様&ALL様

2ヶ月前 No.184

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



【やれ急げよ、遁走すは獲物の兎】

【してやられやも、尻に噛み付け正義の獅子】

【Chugga chugga choo choo(シュッポシュッポシュッポッポー)!! めざせ楽園なんの園(その)、驚天霹靂弾丸貨物列車逃避行(バレットトレイン・ラナウェイブルース)】

【そうはさせるかてやんでえ。22世紀の岡っ引きが群、楽園行きの切符を拝借。コイツぁ無効だおらが法】

【列車を止めるな】

【列車を行かすな】

【止めるな】

【行かすな】

【吸った揉んだか】

【切ったか貼ったか】



「このまま止まるなッッ!! "CIRCUS HEAVEN" まで一直線だァーーーー!!」

「止まりやがれェ馬鹿共がァーーーー!!」



【綾瀬 斗真/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 発着ホーム】

【Chase Phase:→地下線路】



 この街、ひいてこの世界には「愛」が足りていない。ふと薔薇の花を差し出してみたり、幸福を想い、胸一杯に空気を吸い込んでみたりだとか。そういう慈愛の概念というか、一種の余裕が一向に見当たらないのである。このけったくそ悪い打ちっぱなしコンクリの地下空間でさえそうだ。見てみろ。どいつもこいつも忙しなくバタバタとしていて、挙げ句の果てには罵詈雑言の応酬さえ繰り広げられている。

 辟易である。
「愛」を求めている。無償の、澄み切った良心から来る真の慈愛が欲しい。
 この街は、見ていてとても疲れてしまう。
 今回もまた、未だ暴力沙汰には至っていないものの、早くもそれを存分に予感させているし、実際発展するだろう。暴力沙汰に。

 一旦、この街から目を逸らそう。
 フゥーー……。
 想像。想像とは無料(タダ)にして、人類最後のプライバシーが約束された空間でもある。今は何時か、天候は? そんな事はどうでもいい。厚手のカーテンを開き、ただ、想像に耽てみよう。そこは入道雲の聳える塗られたような青空に、路端に黄金のヒマワリが並んで踊る一夏の田園風景。燃ゆる命たる蝉達の合唱も、黙する畔の細道も、そこにある全ては約束された安寧である。その中で寝転がり、太陽を腕で遮り臍を天に向ける。熱い。暑さ以上の、じりじりと焼けるような感覚。ホットに非ずファイア、いやスコーチ? スコーチなら焼死体になってしまうな。はっはっはっ……。

 …………。
 で……何だったっけ?

「クソッ!! こう叫んでホシが止まった覚えはねェが――――叫ばずにはいられん!」
「止まりやがれェーーーーッッ!!」

 ああそうだ!! メッチャ立て込んでんじゃん!!
 何ノンビリしちゃってんの!! 田園風景とか知るかよ!!
 キャメラキャメラ!! キャメラこっち!! ナレーションOK!! 本番いきます!!



 どうやら、標的(ホシ)はこちらの動向など既にお見通しだったらしい。圧倒的な貨物列車の車体がふわりと数センチ程浮き上がるや否や、徐々に、しかし確実に加速してゆくヘヴンリートレイン。そして屋根上に陣取り、こちらを見下し嗤うアンドロイドの影。屈辱、と憤る猶予すらない。置かれたバイクへと駆け寄ろうとする綾瀬だが、これまたハートマークだのを振り撒きながら前方から駆け寄るのは、頼れる後輩たる船越某である。よく見れば先程に比べ、やけに小奇麗になったような気もするが、嗚呼。状況が状況である。

「こンンのバッキャロウ!! テメェ何処で道草食ってやがったんだ!!」

「いじゃあああああい!! いじゃああああああああいゅぅぅぅぅ!!」

 何やらあそこではズタボロになったおいも星人が泣き叫んでいるし、割と真面目に何があったのかは気になる。が、わかっている。優先順位優先順位。とかく、どれだけ怒鳴ろうとも、この有能極まりない部下には右から左なのはわかりきっている。

 "綾瀬さん、大変です!列車動いてますよ!追いかけないと!私と綾瀬さんのデート任務の危機です!!!! "

 もしかすると、コイツは将来的には大物になっているのかもしれない。返事代わりとばかりにガボっとヘルメット型のガスマスクを被せ、手早く大型スピードバイクの後部座席に我が部下を乗せる綾瀬。妙に手慣れている。

 "きゃほー!!さっすが綾瀬さん!もう、ほんとにっ、ハートにズキュウウウウン! "

 と、此処で動向を遠巻きに見ていたルカ曰く。

「…………」
「あいつら、ちゃんと追って来れるのか?」



【ルクレツィア・E・ウィンチェスター/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン内 貨物室】

【Runaway Phase:→地下線路】



 ふわりと屋根から降り立ち、埃っぽく無骨な貨物室内部を見回すルカ。雑多な積荷に、最奥金庫に収められた「細胞具現解(ニュートライザー)」の原料となる例のブツ。そして壁に立て掛けられた、何やらゴトゴトと動いているコントラバスのケース。向かい側で凭れ、火の点いた煙草を銜えつつ無言でそれを観察していると、バタバタと入り込んできた羊パーカー。列車の主であるまこ田兄妹の片割れ、妹のぼににである。

「ハァハァハァ!! ルカボス!! ルカボス!! クヒドーボスの言ってたとおりだった!! マジでブラザーフッド来てる!! やべ!! すんげ!!」

「だろうな」

 ふと、掌を差し出すまこ田妹。
 その柔らかそうな掌で煙草の火を揉み消すと、ある種獰猛な笑みを浮かべて腕を組む「偉人」にして「過去の忌まわしき産物」、ルクレツィア・E・ウィンチェスター。繰り返す日常、行住坐臥「配信」に身を捧げ、多くのファンを魅了する「電脳傭兵ルカ」のキャラクターはなりを潜め、今此処に居るのは、本来の彼女に等しい。企業の機密事項の山が故、カメラを回す事のないヘヴンリートレイン護衛任務とは、彼女が素を晒す事の出来る数少ない「安寧」の時でもあるのだ。

「ぼにに。 "面白くなってきたら" 起こせ。おれは少し寝る」

「あいよ! でもウチらがナニゴトもなく片しちゃうから面白くならないかも。アカバネのつえーヤクザもいるし。あ、それじゃルカボスが不機嫌になる!? ならどうすれば!?」

「お前は、自分の出来る、最大限の、仕事を、やれ。わかったな? 下らねェ事でおれの眠りを妨げてみろよ。次はお前のスクラップとコラボ配信してやる」

「あひぃ!! あいあいさー!!」

 何か思うところがあったのか、慌てて貨物室を去る羊。フゥ、と息を吐くと、積荷に紛れていた突撃銃(アサルトライフル)を拾い上げ、片手でコントラバスケースへと向けるルカ。

「ばぁん!!!!」

 そして銃声……ではなく、彼女の声である。悪趣味極まりないからかいを止め、コントラバスケースに凭れる。どうやら、完全に「潜入者」に対し勘付いている様子である。

「独り言でもごちるか」
「痛かったなァ、ありゃあ……」

 ケース内にて抱き合う男二人。濃ゆい熱気に滴る汗。「その内の一人」に語りかけるかの如く、恍惚の笑みを浮かべ話し始める「偉人」。指を自身の頬に伝わせ、なぞり、更に伝わせ、腹に置き、撫ぜる。火事場の馬鹿力とでも称すべきか、追い詰められ、しかし圧倒的な出力を以て自身の躯体を屠り仰せた自警団員、東雲 迅。久方振りに味わった、脳天を劈くような激痛に、喉を塞いだマシンオイルの血流の味。それらを回想しつつも、やはりその顔に浮かんだのは歪んだ恍惚。

「下手な考えは起こさない方が良い」
「後続と合流したら出てきな。その時に "また" 相手してやる」

 一方的に助言すると、腕を組み立ったまま俯き、ケースに凭れながら鼻ちょうちんを作り眠ってしまうルカ。既に入り込んだ「ネズミ」を敢えて見逃し、脅威に対し身を晒すという暴挙。一見は敵をいざなう罠に見えなくもないが、恐らく裏はないだろう。何故そう言い切れるのかって……?

 コイツはそこまで深く考えているような奴ではないからだ。
 自身の楽しみをこそ優先。VMtuberの鑑である。



>>迅、シンイチ

2ヶ月前 No.185

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx


【ジュリアーノ・イーストウッド/SHINJUKUエリア ステーション構内】

【Chase Phase:→地下線路】



 そう。考え過ぎとはよろしくない。
 知に働けば角が立ち、情に棹させば流される。論理かもしくは感情か、その均衡を見定めるのに多くの人類は腐心し、本日もまた日常を往くのだが。この男、百目鬼 鬼太郎。「それ」が格別に、誰よりも彼よりも不器用な野郎(おとこ)なのである。



【Make a choice:https://m.youtube.com/watch?v=qtEpNOyeOd4



 "で、ジュリアーノ。おまえの言う重要任務ってのは俺に何の役割を期待しているんだ? "

「朝起きて、牛の世話して、ブーツ磨いて買い出しに出掛け、陽の完全に落ちる前にメシ食って眠る」
「ルーチンってのは時に大事だぜ、坊や。逆に訊かせなよ。 "今のお前は、いつも通りの役割を担ってくれるのかい? " 」

 未だ脳内に燻り、鬼太郎へと一種のトラウマを植え付けた「東方都市銀行」での強盗事件。「そうである筈のない」己を呼び覚ましてしまった困惑。「そうであるべきではない」自身に陥ってしまった嫌悪、羞恥。左遷、という今現在の彼の立場は、言い換えるならばそのトラウマから一時遠く引き離されているとも言える。歌舞伎町にて、厄介者を取り締まるだけのルーチン。日々揮われる暴力を宥める為の暴力。

 だが、そこに「彼」の求む答えはあるのだろうか。
 胸に燻り、そして確かに今も存在する「同胞への感情」。困惑に苛まれる鬼太郎だが、たった一つ、それは紛れもない本心だろう。ふと想起されるは、自身が救おうとしたかつての同僚、彼女――――「アイ」の後ろ姿。

 これから彼らが向かう事となる「特殊任務」。
 或いは、百目鬼 鬼太郎を否応なしに現実と向き合わせる事になるかもしれない「極愛 クヒドー」へと至る道。乾いた足音を立て、灰色を、確実に一歩一歩と下ってゆく。

 "言っとくが、俺はーー“変異体”だぞ"

「奇遇だな。俺ァ "変態" なんでね」

 無精髭を掻きつつ答えるジュリアーノ。
 そう。この男もまた「不器用」。昔ながらのダンディズムさながらに、しかしながら「これしかない」。虫の羽音も今や遠く、最低限の暖房で満たされていた駅構内からは遠く離れた地下の底冷え。

 "ねぇねぇ、だぁりん。妾くん、この先でなんかやばい事しちゃっても、それが命の危機に際しての事なら巻き込んだだぁりんの責任って事にして良いんだよねぇ? "

 と、此処で当初の鬼太郎の目的であった不思議な男娼。今まで状況や相関を窺っていた彼からすれば、この裏付けは当然とも言えるだろう。巷の自警団員ならば彼を見逃し、特殊任務とやらに同行していたのかもしれないが、そこはアレだ。「不器用」のやる事。それでもみすみすと少年を逃す真似もしないだろう。背中越しに肩を竦めてみせるジュリアーノ。

「この機に乗じてやりたい事はやっといた方がいいぜ、ハニー。何せそこのダンナが被ってくれるからな」
「冗談、冗談……。ジュリアーノ・イーストウッドだ。 "護送" は任せてくれ、不幸な情報屋のボーイ。 "こちらも" 既にお前さんに関しての情報を掘り起こしたところさ」

 無論、命の危機に瀕した際の正当防衛は許可せざるを得ない。寧ろ「これ」に一般人(立場的にはグレーな人間だが)を巻き込んで尚、この任務をも遂行しようとする鬼太郎の相変わらずな気概である。「きっとまた、上層部が黙っていないだろう」、「またアイツか」、「次こそは」。想像するだけで頭の痛くなる小言。否、果たして次は小言で済むのだろうか。そんな懸念など露知らず、カウボーイはただ笑う。

「何だ、歌舞伎町でブラブラしてた時よか随分 "お前さんらしい" じゃねぇか」
「ハニー。お前さんの不幸は、 "ウチの" 百目鬼 鬼太郎にとっ捕まった事だな」

 階段を、下ってゆく。
 困惑はそのままに、足取りは確実に「目的」を目指し。



「何も変わっちゃいねえさ。 "いつも通り" のお前さんでいい」



 押しの強い一人目のカウボーイ。
 奇しくもこれを気に、再び「現実」へと、「アイ」の真実へと向き合う事となる二人目のカウボーイ。
 巨大歓楽要塞にて、今宵も世俗と「刹那」に生きる為。三人目のカウボーイ。
 足並みを揃え、いざ勇んでゆかん。
 自警団による世紀の「列車強盗」、刮目せよ!



「馬鹿野郎ォォッッ!! とっとと追い掛けやがれェェッッ!!」

 と、禁断の地下ホームの扉を蹴破るや否や、猛スピードのホバーバイクを駆り、半ば絶叫にも近い激を残して我々の前を走り去っていったオヤジ刑事。綾瀬である。後部座席でピースしているガスマスク女は第一課の船越 鳴か? いやはや、何が起きている。此処にある筈の弾丸輸送列車の姿はなく、それを半狂乱で追い掛ける我がブラザー。皆まで言うな、嗚呼。「いつも通り」のピンチに過ぎん。

「オー。早くもお盛んだぜ」

 傍らの作業員用のバイク群へと、躊躇なくカウボーイダッシュ。ガオン、ガオンと大型ホバースピードバイクのマフラーを鳴らすジュリアーノだが、「おっと」と匡へとヘルメット一体型のガスマスクを手渡す。

「キュートな顔が見られなくなるのは惜しいが、判るだろ。これから向かうのは "影" に浸かりきった "行燈道(あんどんみち)" ――――」
「呼吸器はケアしとくんだッ、ボーイ!! ヒィーーーーハァーーーー!!!!」

 ウィリー走行の体勢勇ましく、エンジンはフルスロットル。馬の嘶きにも似た轟音を響かせ、ジュリアーノの馬(バイク)が迸る。時速80km、AGトレインの線路を縫い、徐々に、徐々にスピードは増してゆき、地下鉄トンネル内の疎らな電飾が次々に高速で通り過ぎてゆく最中――――見つけた。鳴の背と、それを追う綾瀬のバイク。そして後方車両にわらわらと集い、迎撃せんと構えるバイザーにジャンプスーツ姿のアンドロイド達。「快楽へと至る」弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン。だが、奴をみすみす敵の中枢であるCIRCUS HEAVENへと辿り着かせてはならない。目下の目的は、とにかくコイツを停める事だ!

>>鬼太郎、匡、鳴




【葉隠 雪国/CIRCUS HEAVEN中心部 "快楽の穴(ファンタイム・ボイド)" エリア/VIPルーム】



 さて。
「快楽」という頂点に至る、凡そありとあらゆる雑多、混迷、そして無数の道たる概念がある。普遍的な例を持ち出せば、食、睡眠、性の3大欲求。少し特殊な例ならば、高負荷のトレーニング、ギャンブルに勝ち続ける高揚感、ドーパミンの分泌。

 "そらそうやろ。もともとまともやないんやから。俺等"

 そして、余りにも度し難く、余りにも不謹慎であり、生産性なく、赦しすらをも撥ね退ける背信の極み。ちゃり、と鼈甲眼鏡を直し、口元の血を異様に長い舌で舐め取る。

「なァ」
「楽しなってきたなァ」

 "ーーなんて、愉しそうに人を傷つけるのだろうか。あの方は"



 葉隠 雪国にとっての快楽とは、「度を超えた暴力」に他ならないのだ。



「飛鳥ァ!!」

 壬生の首筋を狙い放たれたハイキック。しかし屑吏の激を受け、それを直前で留め、下がる飛鳥。皮の焦げる臭い、炭化した自身の拳を収めるものの――――その殺意を乗せた眼光は依然鋭く。

「な、なッ……なんスかねコレッ!? あの僕、お呼びでない!?」

 鼻血塗れになり、ようやく這い出してきたのは、先の余興とやらである。困惑する蛍迫をぎろりと見下ろし、雪国。

「キサン、テープ回してないやろなァ……?」

「は、はヒぃっっ!!? してないしてない!! してませんしてませんハイ!!」

 殊勝である。
 再び「吸血鬼」へと向き直り、続きを、と踏み出す極道であるが、いよいよ「理想のアウトロー」の堪忍袋は限界らしい。ベランダへと至る巨大な窓際に飛鳥と共に立ち、その形相は憤怒がまま。

「有事にゃあ備えるタチなんだがよ、テメェら。よくもまぁ此処までコケにしてくれやがったよなァ、クソヤクザ共……」

 窓を突き破る飛鳥。
 躊躇なく飛び降りるアウトロー二人。
 何事か、と雪国が眉間に皺を寄せるが――――次いで上空に現れたのは、改造ホバーボードを乗りこなす、B-BOYファッションに身を包んだ若きギャング達である。



「ガソリンは好きか?」



【総合危険度B+】

【空飛ぶギャンググループ:B・S・フロウライダーズ】



 返事を待たず、VIPルームと向かい合い、強靭な呼吸器と肺で一気に酸素を取り込み――――まるで風船の如く膨らむ、リーダー格の黒人の青年。もしや備えていた屑吏の傘下か。疑問よりも早く、放られたガソリンのドラム缶に彼の息、もとい「爆噴」が叩き付けられるや否や、流転會の極道達の全身をガトリングガンのように穿ち、室内の炎を喰らい液体がのたうつ。

「玲。こっちゃ来いや」

 轟々と燃え盛り、一瞬にして灼熱の渦へと陥った天空のVIPルーム。炭化し、崩れゆく小物にカーテン。そしてぐらりと傾く床。赤羽の嬢を両手で抱いたまま、しかしこの煉獄の渦中にて夜尋へと嗤いかける雪国。



「とんだ邪魔が入ったが」
「続き、下でやろうや」



 木とコンクリートが潰れ、燃え盛る異音。
 CIRCUS HEAVENの誇る天空のラウンジが傾き、空中にて分解し、燃え盛るがまま遥か眼下の地上へと降り注ぐ。此処が「快楽」の袂ならば、依然、それが途切れる事もない。我々の永き夜は、まだまだこれからである――――。



>>夜尋、壬生、玲

2ヶ月前 No.186

13 @madhatter ★WjVvxVF9Cu_BaP

 ああ……思えば、がらんどうの人生だ。なにもない。なにもない。なにもない。

 人並みの幸せも、迸るような激情も、涙するような衝動も、歯噛みするような苦痛も、夜をともにする孤独も、なに1つない。

 多くのものが滑り落ちていった手に残ったのは、虚無。

 これを埋められるものはほんの少ししか知らず、そして、それは永遠に虚無を埋めてくれるものなどではないのだ。

 ああ、だからこそ――



【伏見 夜尋 & 壬生 歳征/CIRCUS HEAVEN中心部 "快楽の穴(ファンタイム・ボイド)" エリア/VIPルーム】


 視界を鮮やかに染める血。皮膚を緩やかに焼く炎。ともに紅蓮を纏うその赫灼たるや、このCIRCUS HEAVENという天国を地獄へ変貌せしめんとする凶星の如く、煌々と揺らめく。
 指先に伸ばした鋭すぎる爪を構えることすらせず、悠長に立つ夜尋。同田貫の殺意を受けてなお揺るがぬ壬生。
 楽しくなってきたなどと零す雪国を冷めた目で見ながら、耳に飛び込んできた声に、平坦な、しかし唸るような低い声で一蹴する。

『な、なッ……なんスかねコレッ!? あの僕、お呼びでない!?』

「早う失せえ」

 テープを回してはいなかったらしいこの芸人。見たことはあるがこの状況で構ってなどいられない。守るような筋合いもない。
 サイコポリスであった時分からは想像もつかない威圧感を放ちつつも、まだこんな言葉を吐けるだけの余裕があることに失笑する。
 気を引き締めろ。目の前にいるのは流転會油川組 若頭、葉隠 雪国。自分がこの血の爪を使うきっかけとなった男であり、殺すと決めた敵だ。
 こちらに向き直り、1歩踏み出す極道を見据えながらも、燃え盛る炎と、血の海の中、夜尋はこちらに向けられた殺意に懐かしさを覚えた。

 そうだ。かつて、このTOKYOに来るよりも前。この身に向けられた殺意を、その傲慢を、自信を、力を、この手で砕き、捻じ伏せ、ばらばらにして、踏み躙り、足蹴にした自分は、きっと、いまと同じように……。

『有事にゃあ備えるタチなんだがよ、テメェら。よくもまぁ此処までコケにしてくれやがったよなァ、クソヤクザ共……』

 と、そこまでが脳裏を過り、静かに目を伏せたときだった。
 憤怒の形相を浮かべたまま、窓を突き破った同田貫とともに夜天へと躍り出る理想のアウトロー。残された雪国、壬生とともにそちらへ視線を向けるも、さほどの関心はなかった。
 現れたホバーボードの餓鬼共が放った火の手がVIPルームをさらに燃え上がらせる。

『玲。こっちゃ来いや』

 そう告げ、部屋の隅に逃れていた赤羽組の娘が雪国の鉄筋のような腕に収まる。
 煉獄と称しても不足ない程度に燃え上がるVIPルームの床が傾く。それでもなおよろけることさえなく、膝と足首で重心を保ち、互いに睨み合う両者。ピリピリと張り詰めた空気とガソリンを喰らい、燃え上がる炎が髪を揺らす。血の色の両眼ほ刃のように研ぎ澄まし、雪国の言葉を聞く。

『とんだ邪魔が入ったが……続き、下でやろうや』

 がらがらと音を立て、いよいよバランスを保てなくなったラウンジ。その崩れ落ちる最中、夜尋は短く放った。

「壬生」

 瞬間、壬生の纏う炎が一気に火力を上げ、空中で崩れ落ちるラウンジを巻き込んで爆発する。空を裂く爆音。駆け抜ける爆炎と衝撃。
 弾け飛び、一気に落下を始めるラウンジ。
 両腕で玲を庇いつつも炎と黒煙を引いて落下する雪国。しかし、この程度で大したダメージになるわけがない。いや……。


 ……この程度でくたばられてはつまらない。


 落下する瓦礫を蹴りつけ、縮地法を用い、落下途中の雪国へ向けて跳ぶ。炎と黒煙を突っ切り、両の手の爪を振りかぶり、急迫する。
 空を舞う翼など、自分には不要。あんなものは飾りに他ならない。戦場がどこであろうと、敵が誰であろうと、この爪を以て斬り伏せる。

 そう、自分の虚無を埋めるのは、この狂気なのだ。それはほんの一瞬、一時的なものだ。

 ――だからこそ、いま、この一瞬だけは。

 振りかざされる爪。感情のない眼は刃のように、その口元は狂気に歪めて、本物の吸血鬼は星のない夜に舞い戻った。


>>雪国、屑吏、同田貫、玲

2ヶ月前 No.187

aki @asynchro73 ★sYV7BQwacQ_INV

【東雲 迅/新 一/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 貨物室(地下線路)】

 寄生虫

 という言葉は誰もが耳にしたことがあるだろう。突然なんだと思うだろうが、これからそれについて長々と語るので虫が苦手な人は飛ばして貰って構わない。

 寄生虫は植物や動物といった生物を宿主として、脳に作用し身体を操り繁殖しやすい環境へと移動させたり、或いは宿主を殺さぬよう栄養だけを摂取し生き永らえようとする者など、実に様々な種類が存在する。
 その名の通り他者に寄生し搾取する事で生きている存在価値が不明な生物と思われがちだが、幾星霜を経ての生体の変化や工夫で現代に適応しているという訳だ。

 有名な寄生虫にハリガネムシというものが存在する。これは水中でしか繁殖する事が出来ず、カマキリやコオロギなど陸上で生活する昆虫へと寄生し、身体を操り水辺に追いやる事でその目的を果たす。

 はて、しかしこの様な生き物がが如何にして宿主に寄生し動かすに至るのか。
 宿主が寄生された事に気づかぬよう限りなく静かに、さりげなく体内へと侵入しては化学物質を発しその身体の主導権を奪う。それこそが、寄生虫が生きるためのプロセスである。

 ノイドのハッキングの原理は、限りなくそれに近い。侵入したアンドロイドのデータ解析を速やかに行い、悟られぬように自身のデータの分身を機体中に分散させることで徐々に浸食し最終的には人格メモリそのものを乗っ取る。
 つまりは、そう言う事なのだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ........機体データ解析完了、機体作動プログラムへのACCESS..........

   〔電脳傭兵ルカ〕 メモリ:浸食率5%

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

『(侵入は成功できた……が、勘づかれてメモリのリカバリーでもされたらその時点でこの作戦は失敗だ)』

『(精々時間稼いでくれよ……2人ともよ)』

"「ハァハァハァ!! ルカボス!! ルカボス!! クヒドーボスの言ってたとおりだった!! マジでブラザーフッド来てる!! やべ!! すんげ!!」"

 外から聞こえる電脳少女ルカとはまた別の声。ルカをボスと呼ぶ事から仲間である事は容易に想像できるものの、この場にいる敵はやはり彼女1人では無いと分かった以上余計に迂闊な真似をする事は出来ない。と言うか、普通に存在がバレている。

「(クッソー……鳴さんの作戦完璧だと思ってたのに)」

 ぐぬぬ……と声を漏らす迅。この作戦を立案してきたのは彼の先輩である船越 鳴であるが、このようにバレた時にどうするかは何も聞かれていなかった。
 貨物室をごそごそと漁る音、積み荷に紛れたアサルトライフルをカチャリと構え。

"「ばぁん!!!!」"

 ・・・・・・・。
 ごくりと迅が息をのみ込む。どうやら銃は発砲していないようだが、どうにもルカの考えが彼には読めない。
 存在に気づいていて尚、こうして彼ら弄んでいると言う事は恐らくルカはこの状況を楽しんでいる――――。

"「独り言でもごちるか」「痛かったなァ、ありゃあ……」"

 銀行での戦闘を回想しているのか、迅に語り掛けるかのような独り言を呟き始める。しかし、あの時のルカとは違う、彼女の素の姿……「偉人」としてのルクレツィア・E・ウィンチェスターである。もっとも、銀行では配信中なのを意識してのキャラ作りをしていたのだろうが。

 しばらくして、迅は思う。この状況はまさしくピンチだ。敵に命を握られていて、相手の気分次第ではすぐに己らを始末する事が出来る。言葉通り下手な考えを起こせば彼女の傍らにあるアサルトライフルが2人をハチの巣にするのだろう。

「さっきからごちゃごちゃうるせェんだよ」

 コントラバスケースを突き破り、ゆらりと現れる人影。怒りを纏ったシンイチが、眠るルカの前に対峙する。

「シンイチ……何やってんだ……何やってだ……おまっ……おまえ……」

 狼狽する迅。それにはお構いなしに言葉を続けるシンイチ

「俺はよォ、結構鼻が効くんだよ。野生の本能っつうのか?よくわかんねぇけど」
「さっきからスゲェ臭うんだよ、コイツから。マシンオイルと血の混ざった溝にぶちまけたゲロみたいにドス黒い悪党の臭いってやつが」

 これはまずいと思いつつも同じくコントラバスケースから飛び出し、能力を発動し臨戦態勢を取る迅。

「俺たちは逃げも隠れもしねェ。何故なら俺は自警団だから、そして――――」
「あの中がクッッッッッッッッッソあっちぃからだ!!!!!!!!!!!!」

 もぬけの殻と化したコントラバスケースを指差しながら吠えるシンイチ。
 ノイドの浸食と増援が来るまでの時間稼ぎ……頼むぞ、2人とも!!マジで!!

>>ルカ

2ヶ月前 No.188

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

【船越 鳴/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 発着ホーム】

【Chase Phase:→地下線路】

お約束のハートにズキュウウウンをかました鳴。天の恵みか綾瀬自身にバイクの後部座席に座らされるというご褒美つきに被せてもらったヘルメット型のガスマスクが吹っ飛びそうになるが、死ぬので気持ちを抑えておく。

そんなこんなで列車をバイクで追走することになった自警団。綾瀬が先頭を切り突っ走る中、視界の端に捉えた今回の任務の仲間に檄を飛ばす傍らでピースサインを出しておく鳴は旅行気分間違いなし。地下鉄トンネル内でよく響く、先程まで突っ立っていたジュリアーノの「ヒィーーーーハァーーーー!!!!」とお馴染みの掛け声を耳にして、眼前に迫る輸送列車ヘヴンリートレインを見れば、後方車両にわんさか出てくる敵。


「ありゃりゃー。あれら全部こっち迎え撃つ気ですよ綾瀬さん。ピンチピンチ大ピンチ。でもご安心を!こんな時のために……」


綾瀬のうしろでガサゴソとウエストポーチから取り出す動作をする鳴。一体何をしているのか?わかっていることは、確実にろくでもないことということ。だが本人は至って真面目。ふふふーんと鼻歌まじりでもだ。そして「じゃじゃじゃーん!」と右手に掲げたそれは……白い丸にグルンと黒いツノを模した物が二個ついてる羊型の閃光弾。


「可愛くないですか?これ。開発部門に頼んで作ってもらった特注品ですよこれ」


開発部門に頼んだ。それは間違いない。ただし、無理やりと付け加えておく。見た目などどうでもいいのに、そんなところにもこだわるのが乙女心というもの。つまり鳴は綾瀬に可愛いなと思ってもらうため、あわよくば綾瀬のハートにズキュンさせるためにやったといっても過言ではない。それはさておき、この羊型閃光弾。その効果とは一体……。


「でりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


習うより慣れろ。百聞は一見にしかず。説明するより早いという精神で、鳴は閃光弾を揮発(フォース)を使って後方車両で構えるアンドロイド共目掛けて放った。


『ハートにズキュウウウン!』
『キュン死にいいいいいい!』
『あーはーーーん!!!??』
『あ、や、せさぁぁぁん!!』


光り輝く中に耳を呪うように入ってくる戯言。敵は目が眩むだけでなく、わけのわからない言葉まで攻められて何事かと混乱。そう、これが船越鳴の殺傷能力ゼロなのに何故かメンタルが抉られる攻撃。名付けて『メーメーメイちゃんメンタルズキュン』である。もちろん、この閃光弾は今初めてお披露目してので、名前も全て今しがた考えた。適当に。そう、こいつは本当に適当な奴なのだ。後輩たちに「潜入捜査ならコントラバスケース一択だよ」などと適当アドバイスをして、綾瀬と2人きりの時間を作るためにやってのけたともいってもいい確信犯。あんな物の中に男の2人が入れば熱くてたまらんことなど、知る由もない。


「ジュリアーノさぁーん!トドメのバキュウウウンお願いっしまーっす!!」


後ろに顔を向けて、いつの間にかピタリと追いついてきたジュリアーノに手を振りながら合図をだす。そして、それが終わればまた前を向き愛しの綾瀬にしがみついて「あーん!スピード速くてこわぁーい!」と思ってもないことを言いながら、ぎゅうっと綾瀬の腰に両手を回してしがみつく。息遣いは「はぁ、はぁ」と変態のそれだから救いようがない。



〉ヘヴンリートレイン現場All



【百目鬼 鬼太郎/SHINJUKUエリア ステーション構内/「快楽へと続く扉」前】


【Chase Phase:→地下線路】



“奇遇だな。俺ァ "変態" なんでね”


「っ……!」


悠々と何のためらいもなく、さもそれが当然のように言ってのけた相手。西武のガンマンの漢気は伊達じゃない。自分の中にあるトラウマが己を蝕んとする中で、見出した一筋の光。差し出される“見えない掌”は天国行きの切符か、地獄への案内状か。鬼太郎自身がぶつかる壁はとてつもなく高く、分厚い。かつての同胞である「アイ」の痕跡を辿ろうとする無鉄砲さ。それを導かんと先導する今も大事な同胞のガンマン。白でも黒でもない答えを求める灰色の心は、その瞳に何を写すのか。全てはこの特殊任務を終えた先にあるはず。

地下に着けば先程の暖かさはなくなり、この時期にしては寒すぎるが最近のニュースで気象の異常で温度がおかしくなっているということを思い出し納得しかけ、振り向いてきた匡に「ああ」と頷く。ジュリアーノも言っているが、この人物を調べるための護送。それ以外に巻き込んだのはこちらだ。その責務は全て自分が被るのが筋というもの。たとえそれが、鬼太郎を自警団から追い込む結果になろうとも。


「危機を感じたら躊躇わず対処しろ。俺たちと違ってお前らの命は……一つしかないんだからな」


匡に告げるのは嫌味でもなんでもない。彼の本心から出た言葉。上層部が知ればまた罰を与えられるだろう。居場所はなくなるかもしれない。それでも、一人ではないから……目の前のジュリアーノも自分を想うオジキも。立場が変わったとしても関係全てがクリアになるわけではない。己の筋を通すために、鬼は前を向く。“いつも通りのお前”でいいと言ってくれた仲間のためにも。


自警団特殊機動部隊の鬼 百目鬼鬼太郎。その眼光は凄まじく、その両腕は何もかも投げ飛ばし、その信念は……己の中に。不器用な男の歩みは止まらない。


“馬鹿野郎ォォッッ!! とっとと追い掛けやがれェェッッ!!”


禁断の地下ホームの扉をジュリアーノが蹴破って入った瞬間、聞こえた怒声。通過する一瞬でみたデータを解析。自警団特殊管轄の綾瀬と一課の船越鳴その2人。猛スピードでホバーバイクを走らせて過ぎ去っていく2人を見送りながら、最初に動いたジュリアーノの最早パフォーマンスともいえるウィリー走行に呆れながらも自身も即座に作業員用のホバーバイクを拝借する。跨り、ハンドルに手をかけ握り、ブォンブォンとスピードがあり尚且つ小回りの利く小型のホバーバイク特有のエンジン音を耳にして、ふと、先程ジュリアーノからガスマスクヘルメットを受け取った匡に視線を移す。


「お前は走れんのか、ハニー小僧」


この少年にバイクを乗り回す技術があるとは到底思えない。どちらかといえば、男の上で乗り回してるイメージが強い。この任務はただでさえ普通のバイク乗りとは違う。追走というスピード技術と敵の攻撃を避けるテクニックが求められる。果たして、それができるのか。悩んでる猶予はない。列車は遠のいていくばかりだからだ。


〉現場All


【赤羽 玲/CIRCUS HEAVEN中心部 "快楽の穴(ファンタイム・ボイド)" エリア/VIPルーム】


ここは地獄か煉獄か。炎の中で睨み合う己が信念に畏れを背負った男たち。誰が勝者と成り得るのか、誰が地に伏せる敗者となるのだろうか。戦況を変えたのは、最高のアウトローと名高い屑吏とその側近飛鳥。窓の外に飛び出していった直後、ホバーカーを操るギャングから放たれるのは業火の鉄槌。先程までとは打って変わり一瞬にして火の海と化したVIPルーム。どこもかしこも危険なこの場。もちろん、自分1人でどうにかして逃げることなどできない。それでも玲には確信があった。絶対に雪国が自分を呼ぶことを。証拠に「こっちゃ来い」とその芯のある声で名を呼ばれる。とてとてと小走りに向かえば、両の手で抱かれる身体。それはとても優しい手つきで、先程までこの手で応戦していたとは思えないくらいの安心する暖かさ。


ーーああ、私は……怖かったのか。


いつのまにか、恐怖を抱いていたのだろう。信頼する護衛もいない。逃げ場も封じられた。どう生き抜くべきかをたった1人で思い巡らすことを強要される無残な屍たち。あの燃え上がる火の中で、瞳に映る血飛沫が……全てが嘘のようにさえ思える現実。そんな中で、まるで周りが敵だらけのような惨状の中で、差し出される一つの希望。それが今この場で、玲にとっての雪国だった。


「雪国様、お怪我は……」


言いかけたその時、刹那ーー爆発するラウンジ。崩れ行くこの中で、先程よりもしっかりと抱きしめられる。雪国の胸に顔を埋めているから周りの状況は見えないが、焦げる匂いに雪国が火傷を負ったのではと心配になり、手をその部分に触れようとしたーーそれを許さない、男の追撃。炎と黒煙の中から勢いよく姿を現わす夜尋。赤黒く鋭利な両の手の爪が今、雪国めがけて振り下ろされようとした。


「だめっーー」


咄嗟に反応した身体。怪我に触れようした手は迫り来る刃に向かう。受け止めることなど、この小さな手ではできはしないのに。傷を負えば癒せるが、自身の生命力を使って癒すのだから、結果的に自分を追い込むことにかわりはない。最善かどうかといえば、最悪な選択。それなのに今まで冷静だった玲がそのような愚かな行いをしてしまったのはーー



『お嬢は優しすぎる。それじゃあいずれ自分を苦しめることになりますよ』

『あ、赤羽さ、ん。辛く、ない、の?』

『いらん言うてもお嬢は聞かへんからな。自分大事にしいや!』


自分の手の届く範囲にいる人が、傷つくことなど見たくないから故。たとえ、それが自身を蝕む結果になろうとも。これが、癒しのCOAを手にしてしまった玲の振りほどけない“業”なのだ。



〉現場All

2ヶ月前 No.189

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_BaP

【 内代匡 / SHINJUKUエリア / SHINJUKUステーション構内→地下線路 】

 ジュリアーノと鬼野郎。二人の自警団員から責任に関しての言質はとった。此処でごねられなかったことに心中で胸を撫でおろす。彼らが暴君でなくて良かった。舌先八寸は不得意でもないが、進んで口頭でぶつかり合いたくもない。すんなり話が通るのが一番だ。
 こんなにもカウボーイ・カウボーイしている見た目のジュリアーノでもやはりアンドロイド、脳内にはスーパーコンピューターじみた回路があるらしく、こちらの情報を鬼太郎と同じく把握住みであることはあっさりと告げられた。予想できたこと――というより、アンドロイド相手なら当たり前のことなのでそのことに機嫌は損ねない。とりあえず頷いておく。
 護送、とまで言うなら守ってくれるつもりなのだろうか。そうだと苦労が少なくて良いなとは思う。しかし高望みはしないでおこう。

「いつも通り、ねぇ……。確かに、跨るのが人間の雄から機械仕掛けの牡馬に変わるだけだ。どっちも乗りこなすのに支障は無い。かな」

 絶叫と共に機体で駆け抜けた刑事。後部座席の女性らしきシルエット。それらに負けじと早速ホバーバイクで追いすがるジュリアーノ。楽しげに忙しない三人を見送って、受け取ったヘルメット兼ガスマスクの便利装備を頭からすっぽりと被る。
 ここまで来たらもう引き下がるほうが面倒臭い。進もう。キュートな顔を見せてあげられなくなる代わりに、ゴージャスな走りを披露しようではないか。

「ノンノンだぜ、だぁりん。妾くんが走るんじゃなく、この牡馬が妾くんのために走るのさぁ」

 既にホバーバイクのエンジンをかけた鬼太郎からの問いかけに、匡は最前までの小悪魔っぽい笑みを見えずとも連想させるヘルメット越しダブルピース付きでそう答える。手首のスナップがプロのそれだ。
 さて。いつまでもゆっくりしていてはジュリアーノの姿は豆粒ほどにしか見えなくなってしまう。
 こっぽり下駄を履いているとは思えない俊敏さで足場を蹴り上げ、颯爽とホバーバイクに着地を決めた匡は百戦錬磨の風俗嬢が客のブツにスキンを被せる時よりもスピーディにエンジンを起動させる。
 ジュリアーノのエンジン音は馬の嘶きのようなエンジン音を響かせたが、匡のホバーバイクから響くのは限りなく無音に近い、例えるならば猛禽類の風切羽が空を裂いて翔ぶ際の音だ。ホバーバイクのスペックは等しい筈だから、これはマシン性能ではなく運転技術……いや、乗りこなし方の好みの差だろう。

「ダーリン、妾くんが逃げちゃわないようにジュリアーノおじ様との間に妾くんを挟んでおきたいでしょう? ってな訳で、妾くんおっさきー」

 どうせ見えないのにご丁寧にウインクまでし、ハンドルを握り直した匡は初っ端からかなりのスピードでマシンを発進させた。
 視界のだいぶ先で炸裂した閃光弾のせいか、車両の敵対者(?)たちが悲鳴と共に幾つか小型の携帯武器を線路に落とし、転がって来たそれらが匡のホバーバイクに当たりそうになった時はアクセルワークの要領で体重移動を駆使して難なく避ける。
 ついでに使えるタイミングがあるかもしれないので2,3個は適当に拾っておいた。レーサーが道を曲がる時のように低重心の体勢になってバイクを床スレスレまで傾ければ、いちいちホバーバイクから降りなくても地面の物に手だって届くのだ。それに怯えてスピードを意図的に緩めなければ失速もほぼ無い。

「ジュリアーノおじ様ぁー。そちらのツーリングデート中の御二方はぁ、だぁりんとおじ様のお仲間だと思って大丈夫ー?」

 情報屋といえど、さすがに顔が隠れていると鳴のことは鳴だと分からない。その前にいる綾瀬だって背中側にいる鳴で隠れてあまり見えない。ので、念のために気持ち声を張り上げてジュリアーノに質問を飛ばしておく。
 答えを聞きたい耳には、けれどその前に車両からの発砲音がお邪魔して来た。それをバレルロール――本来は戦闘機等が空中で行うものであり決してバイクでチャレンジするような動きではない――特有の螺旋の動きでホバーバイクごと大胆かつテクニカルに回避。
 無傷で地面に降り立つと最低限のタイムラグでまたトップススピードに戻し、車両や先行組との距離を詰めて行った。

 曲芸じみた運転。人間だろうがバイクだろうが自分はどんな男でも乗りこなせるとばかりの、あまりにも鮮やかな疾駆ぶり。風に激しく煽られてはためく加賀友禅とレースの布地。そして明らかに成人を迎えていない華奢で未成熟な体。
 全てが全てアンバランスな、だからこそ目を惹く存在。これだけ堂々とした13歳がまさか状況に巻き込まれただけの不幸な子供その1だとは実情を知る者でなければ思うまい。

>百目鬼鬼太郎様&ジュリアーノ・イーストウッド様&ALL様

2ヶ月前 No.190

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=ZIzAEpImxr

[極愛クヒドー/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街Club「ビッグツイスター」]

 大の字に寝そべり、読んで字のごとく天を仰ぐと自分が突き破った天窓が見えた。彼女が飛び込んだ、否、落ちた先はCIRCUS HEAVENの中で人数比率に対しての盛り上がりが最も高いと言われるClub『ビッグツイスター』であった。
 一秒前と同じ色を発していない灯は目に優しくなく、煌びやかにホールを彩っている。響き渡る音楽も明るいだけでなく、聴いているものをリズムに乗せるようなダンスミュージックが多く、確かV.I.P.所属のあの子がカバーしていた曲だな、なんて思う。
 視線を天窓に向けたまま上半身を起こす。まるでここは一つの宇宙のようだ。天井から下がるミラーボールが天体のように見え、客は天体の住民。DJブースで住民を煽るDJはさしずめ神様だろうか。俗世から斬り離れたような雰囲気が満ちている中、天井に空いた穴からは深淵が続いている。建物の名の通り、ここは天国なのかもしれない。
 今日は随分と詩人気取りなことばかり考えるなぁと自覚し、ゆっくりと腰を上げて立ち上がると聞き覚えのある声が聞こえてきた。声の主は所属や派閥は違うが仲良くしてくれるVMtuberの巡星愛兎。クヒドーが最初にCIRCUS HEAVENへと向かおうとした理由である。探す手間が省けたことは喜ばしいことだ。
 彼女は開口一番でクヒドーの衣装を褒めてくれた。自身の語彙力の無さを憂いているようだが、そんなことは些細な問題である。好きなものは好きと、良いと思うものには良いと、楽しいと感じることには楽しいと。ただそう言えるだけで価値は十二分にあるはずだとクヒドーは思っている。言葉少なく、多くは語らないことが称賛に繋がることも多々ある。だが先ず彼女のように短くても肯定の言葉を言えるのは大切なことだと思う。

 そして、彼女が無事助かっていることに安堵を覚える。何せ、見るからに流転曾油川組の構成員に拷問を受けていたのだから。マーキングを付けていた相手の視界を何度か拝借して見たのだから間違いない。
 周囲を見渡すと明らかに不自然に崩れた壁がある。誰もそこに気を留めず踊ったり騒いだり喧嘩したりしているので見落とすところだった。

 いつもは委員長と呼んでいるのだが、普段のブレザーにスカート、カーディガンではなくしっかりとこの場にあったフォーマルドレスを着ている彼女にその呼び名は合わないはずだ。愛兎さん、と名前で呼ぶとドレスに着いていた埃や塵を手で掃う。
 相手の後ろに回ると水分を含み、重くなった相手の髪をそっと持ち上げる。少し残念そうな顔でそれを見つめていたクヒドーは相手の髪にそっと唇を落とすともう片方の手のひらに月に兎が乗っている絵柄の髪留めを出した。ただ流しているよりはいいと思いますよ、などと言いながら相手の髪を高い位置で手際よくまとめる。これでよしと言いたげに微笑みながら相手の肩を叩く。ポカンとしている相手に自分も生配信を始めたいのでホールの盛り上げをお願いする旨を伝え、自分は崩れた壁へと向かう。


[極愛クヒドー/おたのしみルーム跡]

 崩れ、無造作に積まれる瓦礫を軽く蹴る。意識して鼻呼吸を行うと硝煙の香りが鼻を抜けた。爆発によって壁が崩されたのだろうか。少し視線を左右に動かすが爆発物の破片は見当たらない。となるとここがCIRCUS HEAVENでありすぐ隣がClub『ビッグツイスター』であること、そもそも騒ぎが耳に入っていたことから彼女がそこにいることは分かっていた。彼女ならばこんな壁一つは破壊することなど容易いだろう。ハリウッドセレブにして爆弾魔にして第三特殊部隊サイコポリス所属にして──上げたらキリがないのでこの辺りにしておく。キャラクターの大渋滞だ。
 そんな彼女が何故ここを破壊したかは分からないがおかげで委員長含め“彼ら”を探す手間が省けたのは感謝しなくてはならない。油川組の構成員、二人を埋もれた瓦礫から襟首を掴んでは引きずり出す。まだ息はあるようだ。『いやぁ、よかった、よかった。死んでない』。笑みを絶やさないクヒドーはもう一人も近くから発見すると同じように襟首を持つと二人まとめて近くに壁へと勢いよく投げつけた。

 二人して背中から壁に叩きつけられると肺から空気が押し出されたのか大きく咳き込んで意識を取り戻す油川組の構成員。何とか霞む視界を擦ると少しずつ世界にピントが合っていく。

「はいどーも皆さん、おはようございます。極愛クヒドーで〜す。今日はなんと快楽の権化、CIRCUS HEAVENへと来てま〜す!!……え、新衣装似合ってる!?ふふん、そうでしょう、そうでしょう。この衣装をデザインしてくれたのは去年のデンジノイズフェスで私の衣装のデザインをしてくれた方なんですよ〜!!」

 そこには配信を始めたのか水色のモニターに向かって普段以上の笑顔を振りまくVMtuberの姿があった。衣装の裾を持っては左右に体を揺らしては空にある水色のモニターを動かして全身を映している。荒れた景観に似合わない喜楽を身にまとい楽しいと笑う彼女。
爆発によって気を失っていた彼らにとって壁が破壊されていることや彼女が何故目の前にいるのか等、分からないことばかりの彼らにとって夢かとも疑いたくなるような景色。

「おいてめ──」

 二人組の兄貴分、アワがその背中に絞り出した声を投げようとした時。

 鈍い音が響く。

 クヒドーは崩れた壁から見えていた鉄筋を引き抜き、振り向くと同時にフルスイングでアワの頭を側頭部から振り抜いた。

 何が起きたか一瞬理解出来ていなかった弟分のヒエが理解すると同じく、アワの痛みに耐えかねる叫びが当たりに響き渡る。それを聞いてはいつも上がっている口角をへの字になるように下げ、不快だと言わんばかりな表情を見せるクヒドー。ため息をつきながら相手に近づくと横に左半身を下にして倒れるアワの頭を力強く踏みつけた。

「配信は最初の10秒が命なんですよ。恐ろしい速度でコンテンツが消費される世の中、10秒あればブラウザバックするかどうか決められてしまう。生放送はぶっつけ本番でそこを工夫しないといけない」

 足を上げ、もう一度勢いよく踏みつける。

「それを」

 踏む。

「ゴミみたいな」

 踏む。

「お前の」

 踏む。

「せいで」

 踏む。

「失われた」

 踏む。

「私の楽しいや」

 踏む。

「視聴者の楽しいを」

 踏む。

「どうしてくれるんですか?」

 言葉を区切りながら何度も何度も相手を踏みつける中、一度再び力を込めて踏みつけると靴の裏側を押し付けるようにグリグリと動かした。呻き声に代わっていった相手を見下しては足を離し手に持ったままの鉄筋を使って相手の体を起こす。
 腰を曲げて相手に顔を近づけると蛇のような、否、生命体とは思えない。泥のような沼のような粘着質な笑顔を見せるクヒドー。

「それに、配信外で委員長をいじめていいのは私だけなので」

 背筋を伸ばし、手に持った鉄筋をカンフー映画の登場する人物が使う槍術のように風切り音を鳴らして器用に動かす。既に盛り上がっている彼女の配信のコメント欄は更に熱量が増す。プログラミングされた軌道を動く機械のように寸分の狂いもなく動かした後にしっかりと構える。感触を確かめるように握り直すとバチッと小さく音が鳴り、一瞬の内に『ゲームに登場するような』戦槌、ウォーハンマーへと姿を変える。
 彼女の機能なのだろうか。それは定かではないが目の前で起きた出来事に驚きを隠せない油川組の構成員二人。戦槌を肩に担ぐ彼女の見せる笑顔は、目の前に好きな玩具が用意された幼子のように明るく、大切な人との思い出を語るように愛しそうで。
 この世の悪意を無理矢理混ぜたような悪意をまとっていた。

「貴方が失わせた楽しいは貴方で補填するのが道理というもの。本当ならば頭から西瓜のようにパッカーンいくのが一番“ばえる”んで動画向きではありますがこれは生放送。長い目で視聴者に楽しんでもらわないといけません。ですので、潰す部位の順番は貴方に選ばせてあげましょう。私ってば優しすぎる……優しすぎて……や、やさ……やさ……あ、ごめん。思いつかないから今のなし」

 今からやろうとしていることと彼女が見せる表情がまるで合っていない。宙に浮くモニターに向かって笑顔を見せることも、盛り上がるコメント欄及び視聴者。これがトップのVMtuber。奇異なことが多すぎてそれが本流となってしまっている。度を越した人気と過激はそれを受け取る者の倫理観や思想までも麻痺させてしまう。彼女にそのつもりがあろうとなかろうと。


(更新が遅れてしまい申し訳ありません。宛先は周辺皆様と書きましたが、全体の動きを見ながらクヒドーを動かしていこうと思います)

>>周辺皆様

2ヶ月前 No.191

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



 "独り座って あなたの光を見ていた"

 "10代の夜 友達はあなただけだった"

 "僕の知るべきことはみんな"

 "あなたから教わったんだ"

 (Queen - Radio Ga Ga)



【時系列】

【TREND 4 の開始から約2週間前の夕刻】



「シーナ」

「何だい、親分」

「話があるの」



(Talk Tonight:https://m.youtube.com/watch?v=2oda_FzTD7o)



【ソフトウェア AIR/都内某所 某大学病院/隠された個室】



「しかしあの時は、随分ヒヤヒヤしたもんだぜ」
「一応リスナー向けに取り繕いはしたけどよ、絶対安静の身だぞ? それも、よりによってクヒドーに会いに行くだなんて何考えてんだよ」

 Vの字の描かれたマグカップにココアを注ぎ、ベッドに架かる小卓へと置く。白い病室、壁一面に賑わせるように貼られた、拙くも真っ直ぐなイラスト達。ココアの湯気の温もりの向こう側――――緩慢に横になっているのが、そこに描かれた彼女。「一番最初のVMtuber」として名高きカリスマ、ソフトウェア・AIRである。ベッドの隣の丸椅子に腰掛け、横目で彼女を見るもう一人のカリスマ、「シーナ」ことマリカ。相変わらずパンクな出で立ちの見舞人とは対照的に、トレードマークのカチューシャを外し、白い入院着を纒いやつれた顔のAIRからは、普段の配信で魅せる覇気や活気がまるで感じられない。

「ところで、また痩せたな」

「あなた人の事言えないでしょう。最後に食べたのいつ?」

「あ、アー……。2日前か? いやちゃんとマシンオイルは摂ってるよホントに」

「信用出来ない」

「母親か」

「母親みたいなもんです」

 いつも通りの小言に、頬杖をついて大袈裟な溜め息。仕方なしに懐からチューブ型のマシンオイルを取り出し目の前で啜ってみせ、「な?」と尤もらしく振る舞うマリカ。小さく頷き、ココアを一口含むAIR。全く、こちらの健康を問いただしてくる入院患者など、この「親分」くらいであってほしいものだ。養生とは口実なりや。

「で、ママ。そっちの容態は?」

「明日は午前中から配信。 "オリンピック" 関連の仕事が山積みなのよ」

「容態を聞いてんだよ。仕事なんか全部キャンセルに決まってんだろ」

「調子は大丈夫」

「またそれだ。強盗騒ぎの後でブッ倒れたのは何処の誰だよ? 配信中にあんな事態になりゃネット中が動揺の嵐だ」

「ルカやクヒドーが知ったら喜ぶでしょうね」

「なワケねぇだろ。自分の手でアンタをバラバラに出来るってんならまだしも。アイツらはそういう奴らだ」

「クヒドーも?」

「アイツは……ルカよりかは複雑だな」
「葬式に乗り込んできて顔に落書きくらいはして帰るかもしらんが」

 言い終えた後、自身の顔を両手で覆うマリカ。

「モノの例えだからな。無敵のソフトウェア・AIRが死ぬ訳ねぇし」

「今日したかった話はね、その件についてなの」

「嫌だね。聞きたくない」

「ママを困らせてばかりじゃダメでしょ」

「ママじゃねぇだろ」

「母親みたいなもんでしょう」

 どうにも敵わない。
 観念したように抱えたままだったバッグを棚へ置くと、肩を落として「親分」と向かい合う。

「アンドロイドにとっての不治の病よ。 "夢を見なくなる" 病気」

「間違いないのか」

「間違いないわね。日に日に周期が減っているもの」
「私達が "VRワールド" を失えば、もうバックアップには触れられなくなる」

 小さな溜め息。俯いたままのマリカ。
 澄んだ瞳の半分を伏せた瞼に隠し、AIRが囁く。

「それだけじゃない」
「私ももう古い存在」
「どんどん、私が私じゃなくなっていくのがわかる」

 二口目のココア。
 既に熱は逃げ、生ぬるく冷めている。

「私はクヒドーも、勿論アナタも。誰も傷付けたくない」

「わかってる」

「シーナ。……いいえ。私の愛した紫杏」
「世界は広いの。広ければ、それに見合った答えだってきっと見つかる筈よ」
「忘れないで」



 疾病という名の生業を、丸ごと飲み込めそうな程に巨大で静かな玄関口。燻るように雲がかった空の闇から、降り落ちては突き刺さる雨をマリカは見上げる。ふと取り出したのは、片時も離さず持っている一枚の、あまりにも古びたチラシ。



『日付:200X年』

『未来への担い手! ソフトウェアを超えて、インターネットに風が吹く!』

『各種機能複合型AI端末 ソフトウェ

 (チラシは、此処で破けて途切れている)



「母親のようなもんか」
「返す言葉もねェや」



 革の上着を、天からの水が滑るのも厭わず。
 VMtuber マリカは、雨に晒され帰路を辿った。



>>(ひとりごと)

2ヶ月前 No.192

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

赤羽組には一人娘がいる。

気高く、凛と咲き誇る華のような乙女。

それを守るのは薔薇でも、檻でもない。

研ぎ澄まされた牙を剥き出しにする“三つ首の番犬”


一人は輝く黄金のたてがみの獅子

一人は冷たい眼で射抜く大鷲

一人は闇に力を潜ませる狼


三者三様その力の根源は、全て、たった一人の聖母のために。



かつて、紅の髪色をした悪ガキは言った。

『いつかテメーをぶっ殺す!!』

まだ熱のこもっていた青年は応えた。

『俺に追いつくなんざ100万年早いぞ』

未だ力に怯える少年は呟いた。

『こん、なのっ……望んで、なかった……』



血塗れだった獅子は雄々しく黄金に。

灼熱の意志を持った大鷲は氷の城に。

臆病な狼は闇にその牙を隠したまま。


それぞれの思惑は、それぞれの胸に。




【若草 吾大/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン内 運転室の後車両】


イライラする。そう、それが男の正直な気持ちだった。ダークスーツに身を包み赤いシャツに映える多少傷んでいる金髪を掻きながら「あーーっ!」と無駄に叫んでしまうのはご愛嬌。そもそも何故この男はこんなにも苛立っているのか。理由は簡明で率直。

「なんで俺らが「流転會」やら「V.I.P」やらと手ぇ組まなあかんねん!あんな人殺して稼いだり、馬鹿騒ぎして楽しむだけの奴らとなんか虫唾が走るわ」

そう、ただ組む相手が好かないから。一つ訂正するとすれば、この男は誰と組んだところでこのようにイラつくのは明白。色黒で傷だらけの強面な見た目に比例した単細胞でカッと頭に血が上りやすい性格。これが赤羽組お嬢の護衛 若草 吾大という男なのだ。そんな吾大を一瞥しふぅーっと煙草を吹かす男。灰色のスーツに藍色のシャツを身にまとう、生気の無い瞳が印象的な無精髭を生やした静かな、しかし隙のない男。

「黙れよ“スピッツ”」

「誰が犬じゃ!!」

「喚くなってんだよ。お嬢に言われたことを忘れたのか?これは、お嬢の望みだ。お前の意思は関係ない」

ふぅーっと再び煙を吐き出し、火を消すために煙草を携帯灰皿に押し付ける。言われっぱなしの吾大は「煙いんじゃボケが!」と文句を垂れるが、そんなもの気にする素振りも見せず、スーツの襟を正していくマイペースぶり。冷静沈着な赤羽組お嬢のもう一人の護衛 花宮 小慈その人だ。

「騒ぐなよ、俺たちの任務は荷物の護送。IRCUS HEAVENに細胞具現解(ニュートライザー)を届けることだけに集中しろ」

「わかっとるわ!だいたい、なんでこんな運転席の近くの車両に荷物置いとくんや。ふつー貨物室とかちゃうん?」

吾大の疑問は最もである。貨物室には全然別の荷物が入っているのだが、一番重要な細胞具現解(ニュートライザー)は何故かここ、運転車両のすぐ後ろの車両に置いてあるのだ。吾大の疑問に小慈はため息をつきながら淡々と答える。

「後ろの貨物室で何かあったらどうすんだ」

「あ?そんなのその何かを潰せばええやろ」

「それじゃ遅い。荷物に危害があったらならねぇんだよアホ」

「アホ言うなや!じゃ、なんや?ここなら敵さんに狙われんの?」

「狙われるだろ」

「なら、意味ないやん!」

「本当にお前はアホだな。いいか、頭使え。もしこの荷物を狙う輩が現れたとする。俺たちのとる行動は敵の迎撃と荷物の護衛。そして、苦戦してきた場合の緊急措置だ」

小慈の説明に頭に疑問符を浮かべる吾大。何にもピンときていない様子である。それに気づいた小慈は先程よりも盛大にため息をついて、顎である場所を示した。示された方に吾大が顔を向けたそこは……

「運転車両?なんや、運転室乗っ取る作戦か?」

「切り離すんだよ」

「は?」

「この車両から後ろを切り離すんだ」

淡々と告げる小慈。吾大は「はぁ?」と大袈裟に反応して、またバカにするように話し出す。

「このヘヴンリートレインはあれやん、“まこ田兄妹”とかいうアンドロイドが繋がってるんやろ?変形とかするゆうてたやん。切り離したら、あいつらバラバラになるやん!」

怖っ!と吾大が小慈を明らかに馬鹿にしながら非難する。その顔は随分と楽しそうだが、当人の小慈は気にもしていないので効果は無意味。

「だから、緊急措置だってんだよ。アンドロイド共でも防げないほどの内部に人が雪崩れ込んだ場合だ。アンドロイド共とも承諾済みだ」

「はぁ?聞いてないやんそれ!」

「お前に話したところで忘れんだろ。頭空っぽなんだから」

「誰がスカスカや!!」


なんとも賑やかな車両。しかしこんなに話していても一切隙を見せない2人。これが、極道というものなのか。ホームにて作業をしていた「流転會」の輩とは格段に違う何か。場数か。恐れか。血の経験か。話し終えたところで小慈はガスマスクを顔に装着する。煙草を吸うために一時的に外していたとはいえ、肝が据わっているのは確かだ。そして、吾大にもガスマスクを装着するように指示する。

「おい、そろそろつけとけよアホ」

「わかっとるわ!ヒゲ!」

吾大はうざったいという理由だけでガスマスクを外していたが、いつ戦闘になるかわからない現状。不利なことはしない。隙を見せないということは、準備を怠らないということ。このヘヴンリートレイン。強者揃いの輸送列車。自警団はお目当ての物に無事に辿りつけるのか。否、決してならない。なぜならーー


「誰がきたって返り討ちにしてやるわ」

「ここまで来れたらな」


最終の警備がとんでもない輩だからだ。



〉ヘヴンリートレインAll

2ヶ月前 No.193

aki @asynchro73 ★Android=C7J0RZKhTz

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2ヶ月前 No.194

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



【 "移ろい" を喪い、郷愁に陥ったこの街(かこい)】

【喪くす事とは、手放す事だ】

【そして手放す事とは、新たなる布石ともなり得る】

【身も心も裸のままで、再び此処へと相まみえる時】

【どうか、君の心を教えておくれ】

【深い話は要らない。ただ、その所在を】

【それだけ、ただ訊いておきたいんだ】



【時系列:曖昧(東雲 南が没した2116年より以前、即ち5年以上前である事は確か)】

【自警団の星、東雲 南がまだ健在であり、極愛 クヒドーは、まだサイバー犯罪対策部門で一生懸命働いていて、そして】

【寂しい彼女が、こわれそうになっていた頃の物語】






【Good Morning. マイセルフ】

【本日も善き一日でありますように】



【21XX年/イチョウの絨毯鮮やかな並木道に、ひっそりと建つ中流のブランドマンション】

【/おはようございます、私】

【/サイバー犯罪対策部門「A.C.O」オフィサー、 "アイ" 】



 冷蔵庫の駆動音さえ響き渡る、静かで殺風景な部屋。質素な壁紙。暫し天井を見つめた後で、脳内にて響くアラームを止める。ゆらりと姿勢正しく身を起こし、スリッパを履いて立ち上がり、薄い遮光カーテンを開ける。今はまだ「人間達の喧騒」とは遠い、快晴の朝の世界。



【身支度を整えましょうね、私】

【自分の重たく長い髪:実はちょっと好き】

【おっと。歯磨き粉を出しすぎてしまいました:これは反省】

【たぶん、キワミちゃんに話したら爆笑されそう】

【あの娘は箸が転げても笑うゲラなので】



 人工の心で思い描いたものが、ヘッドアップディスプレイとしてつらつらと視界内に展開されては消えてゆく。チューブ型のマシンオイルを片手間に飲み干し、ルドベキアの描かれたネクタイをしっかり、寸分の狂いもなく締める。



【いつもみたいに笑えてる?】

【最近、わからない】

【最九里(モグリ)さんに、相談してみようか】

【茶化される確率:82%】

【→却下】



 マンションのホールを出て、いよいよアンドロイドはいつもの外界へと足を踏み入れる。すっかりと木から葉は剥がれ、黄金に染まった並木道。乾いていて、撫ぜるような心地の良い秋風に、朝陽すらもが何故か優しい。

 通勤の前にヘッドホンを耳に被せ、「アイ」は呟く。



「本日もまた、善き一日でありますように」



【→古い時代の音楽家の曲:LIVE音源】

【音量:適正 字幕:オン】



( "アイ" こそ全て:https://m.youtube.com/watch?v=PsldSb_RoZs)



【嗚呼、何処のどなたか、誰か】

【誰か、僕の……】



【僕の愛すべき人を、見つけてくれないか】



 コリーを連れた老婆と擦れ違う。
 昨晩の雨が嘘のように、路端の植え込みの朝露煌めく平日。
 TOKYO CITYは大きい。あまりにも。
 健啖で、強欲で、それで尚且つ眠らない街。
 そんな街並も、夜とはまた違う忙しなさを見せ始めている。



【毎朝起きる度、少しずつ僕が死んで削られてゆく】

【自分の足を踏み締めて、何とか此処に留まっているけれど】

【鏡で自分の姿を見ると、ポロポロと涙が溢れるんだ】

【神様! あなたはこの僕に、一体何をしたのでしょうか?】



 駅が近付くにつれ、まるで巨大な建造物群の合間を縫っては迷う蟻のような気分になる。それは作られた感情? それならば人間は神に作られたと仮定して、彼らは神の操り人形か。ふと自販機でホットコーヒーを買い、駅前のロータリーに据えられたベンチに腰掛けるアンドロイド。AGトレインは、ひっきりなしに往復する。今回もまた、いつもの限りだ。就業開始時間までにはそれでも間に合う。余裕がある。

 はて。余裕とな。
 今の私には、そんな余裕があるのかな。
 笑えてる? 或いは、取り繕えている? やはりわからない。
 キワミちゃんに教えて欲しい。



【僕はこれまで、ずっと貴方を信じて生きてきたのに】

【だけど全然救いなんかない。あんまりじゃないか、神s――mmma.m!字幕ERROR!】



【あんまりじゃないか、 "正義" よ!】



 珈琲を口にする。
 朝陽と風が心地良い。味はわからない。
 ふと、自分の足元に鞠(ボール)が転がった。
 取って、返してあげた。人間の、幼い子供。
 彼の親は包みにも隠さず、嫌悪と恐怖で叫んだ。

「 "それ" に近付いちゃダメよ!!」
「私の子供に近寄らないで、人形モドキ!!」

 上手く笑って、誤魔化して、凌げているだろうか。
 もう、何も。何もわからない。



【 "私" は、一生懸命に仕事を続けている】

 ( "彼女" は、一生懸命に働いている)

【毎日、毎日、明くる日も、明くる日も……】

【骨が軋む程に、それこそ社会の為に】

【漸く今日は過ぎ、自分で稼いだ給料を手にしておうちに帰る】

【私は、屈んで、跪いて】

【ただ、ただ祈る】

【ふと流れる涙を、抑えきれなくなるまで】

【 "正義" よ、いいえ――――何処のどなたか。嗚呼、誰か、誰か!】



【どうか、誰か。私の愛するべき人を、捜して下さい】



 ひっきりなしに行き交うAGトレインもまた、この街の底なしの「営み」を賄えなくなってきているのは明白だ。大渋滞の通勤ラッシュ、押し込められる人々の中、アンドロイド。

「お前、出ていけよ」

「ドサクサに紛れてブッ壊してやろうか?」

 彼女へと囁かれる、人間の悪意。

「何をニヤニヤ笑ってんだよ」

「そういうプログラムなんだろ」

「知ってるぜ。コイツらが俺達の雇用を奪ってる事」

「ママ! あの人、さっきボール取ってくれた。ありがとう!」

「しっ!! アレに関わるのはやめなさい!」

 囁きは、しかし彼女には届かない。
 雄大な歌声、「過去」から彼女へと捧げられた魂。
 ふと、流れ行く景色の中で、アンドロイドは、彼女は確かに視た。



 ビルの外壁、巨大な電子モニター。
 そこに映っていたのは、V字のカチューシャが特徴的なアンドロイドの少女。



『はい、どーもぉ!! ソフトウェア・AIRです!!』



 その澄み切った瞳と、確かに目が合った。



 (彼女は、あまりにも真摯に働き詰めている)

【毎日、頑張って、削られて、それでも尚】

【だけど、皆は私を非難する】

【皆が口を揃える。私は狂ってるって】

【脳ミソにバグでもあるんじゃないかって】

【嗚呼、そうですとも。私は普通なんかじゃないもの】



 もみくちゃにされ、逃げるように、弾き出されるように列車を飛び出し、駅を抜け、霞ヶ関の晴天を仰ぐ。空は繋がっている。空気に見守られ。いつでも優しい。

 今日もまた、職場へと足が向かう。
 そう、プログラムされているから?
 違う。
 私の意思で。
 私の一存で。
 守らないと。
 ヒトを。法を。
 それは、きっと、。
 それこそが、このアイの、意思なのだから。



【嗚呼、信じた "正義" よ】

【いいえ、誰か、何処のどなたか】

【どうか私に、愛するべき人を見つけて下さい】

【あぁ、誰か、誰か……】

【私は愛したい】

【誰かを】

【胸一杯の愛で】



 ぶつり、ぶつりと脳内の再生プレイヤーが歪み始め、頭痛に軽くよろめきながらも。
 彼女の足は、自警団本部。霞ヶ関の職場の警備員を通り過ぎ、今日もまた、そこへ辿り着いた、ものの。



「(嗚呼、私は)」
「(私は、一体)」



 それは、ふとした支障(バグ)が視せた幻なのか、それとも。いつものだだっ広いホールが広がるだけの、自警団本部の様相は、その様相はあまりにも。



 彼女を、「アイ」を迎えた、何億というアンドロイド達、そして歓声。
 地鳴りのようなそれを目の当たりにし、ただ呆然とするばかりで。最中に右側、彼女の傍らに立ち、安心させるかのように肩を叩く、ギターを抱えたツインテールのアンドロイド。反対の左側に立ち、やはり彼女の肩に手を乗せ、笑顔で頷く冬服のアンドロイドの姿。



【いつか】

【いつか、自由になるんだ。私は!】

【だから】

【嗚呼】

【Find me somebody to love】



 Find me somebody to love

 Find me somebody to love

 Find me somebody to love

 Find me somebody to love...



【誰か私に】

【誰か私に】

【誰か、嗚呼! 誰か!】

【私が愛して】

【私が心から愛せて、】

【大切に出来て】

【一緒に、ずっと一緒に楽しい事を出来るような】

【そんな愛せるような人を】

【心から愛せるような人を!!】



 Can anybody find me somebody to love.
 (どなたか私に、 "アイ" を見出して下さい)

 (Queen - Somebody To Love)







「Hey. Howdy、 "アイ" 」
「今日は調子が悪そうだな」

 焦点の合わぬ目。
 それを心配した、別部署である「サイコポリス」のアンドロイドカウボーイことジュリアーノ・イーストウッドの呼び掛けにより、どうやら彼女は、アイは現実へと戻ったらしい。

「地下の、お前さんの部署にゃあ "共振性共感力回復ハーモナイザー" だなんてのもあったろ。名前合ってるか?」
「レイディーに疲労は大敵だ。キワミ・チヤンに診て貰うといい」

 なぁ、と、隣に立つ伝説に名高き特殊機動部隊所属の「東雲 南」に目線を移すジュリアーノ。このおちゃらけた男がどう返すのか知る由もないが、嗚呼。アンドロイドは、「アイ」は本日も忙しい。



>>アイ、ミナミ

2ヶ月前 No.195

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



【 "夜が転がりゆく" 。喧騒とネオンの極彩を巻き込み、急転直下に闇を征く】

【今宵、今だけは】

【この場所で、 "夜" の既成概念(ステレオ)を取っ払え】

【ところ大江戸歌舞伎町、火事場騒ぎはまだまだ続く】



【十文寺 空護/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】



 ダンスフロアを中心に展開される灼熱、矢の如く放たれては乱れ喘ぐ光の束。靴音の鳴る軽快な音は大掛かりな音響に掻き消され、しかし確かに腹の底に響き渡る、パーリィ・ピーポー達の醸すグルーヴ。バーカウンター、フルーツ盛り合わせ。剥かれ、唾液に濡れる黄金のバナナ。実った葡萄。振った粉物(パウダー)ごと咀嚼される、瑞々しき水蜜桃。心臓、血液、舌の紅。堂々と巡る乱恥気騒ぎ――――手元のマイクをくるりと回転させ、サギリへと向けるクウゴ。

 "ねぇアンタ!空護だっけ?ちょっと協力して!"

 "一歩でいい。アイツを後退させて!"

「オーーーーケーーーーハニィーーーー!!」

 爆音で響き渡る声。言わずもがな怪訝な顔をするグリセリーナ。ふと思い付いた、常軌を逸した「尻掘り」作戦は一瞬で形なしである。月並みな表現だが、サギリの心労余りある。それにしても、随分と「ケツ」と縁の深い彼女である。タブレットのAIは勿論、やたらケツ、ケツ、ケツ、と、後ろの話題に事欠かない。と、そんなサギリの後方からゆらゆらと現れたアンドロイド。自慢の白髪ボブを爆破によってアフロに変えられ、ボロを纏いつつもソウルフルな様相にされたフランソワである。爆笑。

「そうよ!! あんな奴とっととシバくのよォ!!」

 グリセリーナを指差し、例の如くキーキー騒ぐアバズレ。無事だそうで何よりであるが、問題は踊り続けるクウゴとワナビーズの輪の中で、みるみる内に顔に青筋を浮かべてゆくグリセリーナである。

「殺す…………」

 筆者の見解が間違っていないならば、これは恐らく怒っている。確証がないので何とも言えなく申し訳ないが、多分、多分グリセリーナは腹ワタも煮えくり返る程、猛烈に激高している可能性がある。それも、血走った目でサギリを見据えた状態で。



【一方その頃、サギリ達の様子を窺っていた巡星 愛兎の取った行動とは如何に】



 天窓を突き破ってきたのが隕石かと思いきや、それが自分と仲の良い同業者、それも極上の新規衣装姿だった日には流石の委員長も目を丸くせざるを得ない。ダーク派VMtuberの頭領、極愛 クヒドー。Urban Eats(アーバンイーツ)で彼女のお届けを頼んだ覚えもなし、もしやこれは配信による偶然の産物なのでは。と、例の如く考えを巡らせていると、あくまでマイペースにこちらの身辺を整えてくれるダーク派筆頭。慈しむかのような目線、しかし振り向いた背には確かな怒りを宿し、嗚呼。やはりこの人の矛先は。

 幾ら此処で止めようとしても、この人の怒りは収まらないだろう。流転會の面々も、随分と厄介な首の突っ込み方をしてくれたとある種の同情さえ抱くものの、そうだ。何よりこの場は託されたのだ。DJブースに隠れたまま、よそ行きの装いを脱捨(パージ)。ドットを思わせる塵を還し、そして輝く「新衣装」を身に纏うや否や、ブースへと立ち、状況を一瞥。飛び交うネオンの中を颯爽と飛び、グリセリーナとサギリの合間に立つ。

「何だアイツ」

「VMtuberの委員長じゃん!!」

「今クヒドーが配信してるって。色々来てるみたい!」

 普段の「清楚」で知られる装いではない。逆さに被ったウッドソックスのキャップ、ティアドロップのゴツいサングラスに、大胆にも臍を出したタンクトップにホットパンツ、原色の派手なシューズ。クウゴの手からマイクを奪い、ストリートファッションの委員長がグリセリーナを指差す。

「偶然とはいえ、先程はどうも」
「お礼に "撮れ高" の下剋上を見せて差し上げましょう――――」

 グリセリーナを取り囲むように練り歩き、マイクを握る小指を立たせ、堂々宣言。例え相手が「爆弾魔」で知られる狂犬とて、カメラを前にしたVMtuberに敵はいない。そしてやはり偶然にもサギリの狙い通り、迫る委員長の圧を受け、グリセリーナが一歩退いた、まさにその瞬間であった。



>>サギリ、クヒドー




【餅名 唯/おたのしみルーム跡地】



 迅速な状況判断には、場を把握する為の相応の能力が求められる。黒煙は引き、しかし拷問ヤクザを打ち、伸ばし、引っ張りで未だ血生臭い当おたのしみルーム。アワとヒエの兄弟で知られる油川組の二人組は、「ダーク派」の凄味を前にして文字通りアワアワやヒエーだの呻き、或いは腰を抜かすだけである。そんな最中、クヒドーの足元からのそのそと匍匐で現れた少女アンドロイドの姿。

「いいんちょ大丈夫かー。なんや急に爆発してん、何があってん……」
「あてぃしはね、隠れてたわけやないの。様子を見てただけやからね……ビビってないよ……」

 どうやらコイツもトマと同じく、委員長を救うべくして潜入していたVMtuberらしい。餅名 唯、またの名を「三下」。その威名に違わず、すっかりヤクザ達にビビってしまい隠れていたものの、責め苦に合う委員長の様子を見ていよいよ怖くなってしまったらしい。つらつらと言い訳を並べながら立ち上がるものの、はて。この笑い顔に、しかし見慣れない衣装。爪先から頭のてっぺんまでじっくり鑑賞し、はっと気が付く。

「クヒドーちぁん!! え、何でクヒドーちゃんが此処におんの!? てか新衣装めちゃカワやん」

 VMtuberとはどいつもこいつもマイペースな連中ばかりなのだろうか。足元で呻くヤクザ兄弟を「グロっ」と一蹴する餅名。が、どうやら「お楽しみ」の為の役者は揃ったようだ。



>>クヒドー

2ヶ月前 No.196

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx


【ジュリアーノ・イーストウッド/Chase→弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】



 遡る事、凡そ250年も昔。
 今も米本国に於ける文献に記される、カリフォルニアの僻地たる「ガーネットタウン」で決行された、無法者達の伝説の合戦を我々は知っている。

 南米の白人達で結成された、当時の一大マフィア「クイーン・マリー一家」。西部開拓時代当時にて最強、そして最悪を誇るその無法者達は、無意味に動物を殺し、高潔なインディアンを手に掛け、そして法にすら唾を吐き、明くる日も略奪を繰り返していた。

 (中略)

 一家を壊滅させた、たった5人の正義の無法者(カウボーイ)。
 後に「ハゲワシの丘(バルチャー・ヒル)の決闘」と名付けられたその伝説の一戦は、クイーン・マリーのメンバー達が強盗(ジャック)した蒸気機関車内外で繰り広げられる事となった。



(Vulture Hill's THEME:https://m.youtube.com/watch?v=wWd3Ti7QzkY)



「へッへ。アイツらに追いつけると思うか?」

 後方車両より「置いてけぼり」を喰らった自警団達を嘲笑う、流転會所属のチンピラ上がりのヤクザ。傍らのジャンプスーツにバイザー姿の「同業者」へと囁くものの、相変わらず返事はそっけない。

「僕達は、ボスの "楽しい" の為にこの列車を守るのみ」

「は! つまらねぇ奴らだぜ」

 車両の壁に凭れ、淡々と作業を続けるアンドロイドの男を見つめるチンピラ。よく働くもんだ、と関心しつつ、その事務的な仕事振りを眺めていたが。

「なぁ、そういやお前らのボスから連絡あったけどよ。今回参加してる自警団、ジュリアーノ・イーストウッドがいるってな」

 そのチンピラの一言に、ぴくりと反応するアンドロイド。

「……それが、何か?」

「男のサガってやつなのかな。サムライやカウボーイが好きって野郎のオーラは隠せないぜ」

 掴んでいた貨物をどさりと置き、俯くアンドロイド。何だ何だ、と様子を窺うチンピラだが、突如振り向き、彼の手をガシッと握り、満面の笑み。

「……実は僕……大ファンなんだ!!」
「ジュリアーノ・イーストウッド!! ボスは、アイ様はスゴいんだよ!! 元々は自警団でさ、彼とも同僚だったんだ!! 嗚呼、 "バルチャー・ヒルの決闘" は最高の映画だったとも!! 君は観た!?」

「おう、おう。勿論観たとも。何だ、お前らもそんな顔出来るじゃねぇか。はっはっ……」

 お互いに手を繋ぎ語る、流転會のチンピラとV.I.Pのアンドロイド。
 永遠とも思える時間。しかし、そこに追い縋るは、バイクに跨ったかの「伝説」の姿。

「なぁ。僕には夢があるんだ」

「何だ、言ってみろよ。俺達もうダチだろ?」

「はは……」
「ジュリアーノを、 "伝説の5人" をやっつけてみたい」
「ボスの為に、いいや……アイさんの為に!」



 逃走せしクイーン・マリーの蒸気機関車。
 馬で追い縋る5人のカウボーイ。
 その一人の名は、ジュリアーノ・ロバーツ・イーストウッド。
 語るまでもない、西部最強のガンマン。

 二人目の名は、トーマー・シンプソン。
 定年を間近にしたガーネットタウンの保安官。

 三人目はその部下たる保安官、フランシス・メイ。トーマーを慕う同性愛者だったとされている。

 四人目。ガーネットタウンで「仕事」に勤しんでいた、卓越した殺しの腕を持つ男娼カーラ・トゥインダイ。どうやらジュリアーノとトーマーの「決行」に巻き込まれたらしいが、その馬を駆るテクニックは屈強なカウボーイ達を唸らせたという。

 そして五人目。
 米本国の根強い差別を受けながらも、この国の為に正義を見出したメキシコの星。保安官、ドゥメーリァ・キターロ。生まれながらにして強力な膂力を有する彼は、悪党共をちぎっては投げ、と活躍したそうな。



 何たる偶然か。
 この面々(メンツ)、そして5人の醸す、理論では測れぬオーラ。馬の嘶きにも似た唸りを上げ、或いは猛禽の狩りが如く音無にて忍び寄り――――「5人のガンマン」達が来る!!

『ハートにズキュウウウン!』
『キュン死にいいいいいい!』
『あーはーーーん!!!??』
『あ、や、せさぁぁぁん!!』

 雄叫びと共に投擲され、そして眼を灼く程に強烈な光が地下鉄を照らす。自警団の、否、船越 鳴の誇る閃光弾――――妙なボイスには突っ込むまい。後方車両の二人がよろけ、更なる人員があれよあれよと雪崩込んで来る最中。

 "ジュリアーノおじ様ぁー。そちらのツーリングデート中の御二方はぁ、だぁりんとおじ様のお仲間だと思って大丈夫ー?"

「ザッツライ。刑事の綾瀬のとっつぁんとそのハニー、鳴だ。妬いて撃つなよ、ベイビー」
「Howdy、鳴。久し振りじゃねぇか。とっつぁんもいいが、今度はこのジュリアーノとお茶でもどうだい?」

「テメェはとっとと撃ちやがれ、ノロケカウボーイ!! 鳴、テメェもベタベタくっつくんじゃねェ!! 暑苦しいんだよ!!」

「とっつぁんにフラレちまったな。Hey、カタミ! 下がってな、今から――――」



「撃つぜ」



 後方車両に待ち受ける人員達。
 先の閃光弾である程度は撹乱されど、バイザー装備のアンドロイド達に効果はなく。こちらを向く無数の銃口。が、その全てが放たれる遥か以前に――――リボルバーを回転させた、ジュリアーノの常軌を逸した速撃ち。



『バキュゥゥゥゥーーーーンッッッッ』



「覚えときな、ガキ共」
「ホンモノの拳銃(チャカ)ってのは、サウンドも一流を奏でるもんさ」



 脚を、手を、或いは手先を。
 あらゆる四肢を撃たれたヤクザとアンドロイド数十名が、瞬く間に沈む神業。しかし、この車両に潜む「脅威」は、まだまだ抑えられていない。更に速度を増し、歌舞伎町の闇の中を突っ切るヘヴンリートレイン。回転数は天井知らず、追い縋るホバーバイク。

「カタミ。お前さんは下って――――」

 言いかけ、唖然とするジュリアーノ。
 闇の中を梟、否――――猛禽が如く軽やかに舞い、後続の銃撃をかわす男娼の軽やかな操縦テク。全く、男に跨るのが玄人ならば、ホバーバイクさえも手の内か。にやりと笑い、並走するカウボーイ。

「いいや、何でもない。退屈凌ぎに競争しようぜ」



>>鳴、鬼太郎、匡




【一方その頃。ヘヴンリートレイン貨物室】



 "さっきからごちゃごちゃうるせェんだよ"



 意外にも意外。
 自身の凭れていたコントラバスケースを勢い良く開け、景気良くルカを跳ね飛ばした男が一人。ふごッ、と鼻ちょうちんを割り、のそのそと涙目で起き上がるルカ。

「何なんだよ。せっかくそれっぽい理由を付けてようやく寝ようと思ってたのに……」

 多忙なVMtuber、ルカの心労もまた然りでる。あちらを向いてみれば、困惑を隠せない迅(アンチクショウ)に、ゴゴゴゴ、と背景に響かせるもう一人の青年が。

 "俺はよォ、結構鼻が効くんだよ。野生の本能っつうのか?よくわかんねぇけど"
 "さっきからスゲェ臭うんだよ、コイツから。マシンオイルと血の混ざった溝にぶちまけたゲロみたいにドス黒い悪党の臭いってやつが"

 思わず怪訝な表情を浮かべ、慌てて自身の腕や脇を嗅ぐルカ。オフでも天然が入っているのは変わらずらしい。予想外の事態に全く、と呆れたような半目で二人を睨みつつ、香水を振りかけておく。

「そこはよ、大人しく隠れてるべきだろ……」
「わかったわかった。居心地が悪かったって? ならこうしようや」

 大量の貨物の中から一際ファンシーな風呂敷を引っ張り出し、その中からピンク基調のイルカ柄の「三人は入れる」敷布団、掛け布団、そして枕と寝具一式、クヒドーとロババのぬいぐるみを取り出すルカ。そして二人の前でスルスルとお馴染みの冬服を脱ぎ、何食わぬ顔で一糸纏わぬ姿となる。普段隠れていてわからなかった、張った肩やバキバキに割れたシックスパックはやはりというか、コイツをかつての超常的な軍人と予感させるというか。赤面する間もなくイルカ柄のパジャマとナイトキャップを身に着け、「どけよ」とシンイチを退かして敷布団を敷き、シーツを整え、掛け布団と枕を置き、クヒドー、ロババぬいぐるみを抱きながらその中に潜り込んでしまう。

「なぁ。これは本当に真面目な駆け引きなんだけど、お互い万全の状態でやった方が楽しめるだろ……」
「少なくともおれは寝不足だし、真面目に戦えない俺と戦ってもつまらないだろ? 二人共」
「後続が来るまで一緒に寝て体力を養おう。お前らも疲れてるだろ。入ってこいよ、あったかいよ。今は寝とこう。ふわぁ……」



「二人共、その後でしっかり殺してやるからよ」



 寝返りを打ち、シンイチと迅へ背を向けつつ再び鼻ちょうちんを作り、眠ってしまうルカ。虚言でも、ましてや脅しでもない、戦闘狂のみが持つ特異な観点。果たしてこの異様なピロー・トークに二人は付き合うのか否か。とはいえ、今の眠そうなルカを刺激するのはあまりに危険すぎるし、事実、二人もお疲れでしょう?



>>迅、シンイチ




【葉隠 雪国/CIRCUS HEAVEN上空】



 この遣り取り、あまりにも「短い」。
 そして我らが「稼業」、短命を余儀なくされる。
 こうでしか生きられない。短い。これ以外では生きられない。あまりにも太く、そして繊細。自己矛盾の極地、極道。極まった道、「こうでしか」が羅列される稼業。同じ貉。同じ血。同じ運命、そして同じ末路。

 束の間の空に、運命を視た。
 何も知らぬ者(カタギ)達からすれば、笑い飛ばすような今時分。炎上する快楽の頂点、そして――――それさえも見下す、

 天空の要塞快楽都市、吉原遊郭。

「玲」
「出来過ぎた真似をすない」

 がし、と少女の柔らかな頬を鷲掴みにする左手。雪国の眼は、笑っていない。今も未だ、落ち続ける。壬生、夜尋、雪国、玲。あまりにも遠く、星を失くした空より、あの眩いネオンの懐へ。

 ざくり。
 ある種軽妙な音を立て、玲に代わり、雪国へと突き立てられた「吸血鬼」の爪。爪と称するにはあまりにも鋭く、そして血塗られた剣戟。込められし力、この男を、漸く。どてっ腹に射し込まれ、そのブ厚い身ごと幾多のアウトローを屠ってきた一撃は。

 未だ葉隠 雪国には、届かなかった。

「キサンは」
「随分と迷い多き男やな」

 バラバラと分解する爪。
 破られたスーツの中、健在の雪国の肉体。
 この男を、「過去」を振り切るには依然として足らないと謂わんがばかりに

 夜尋の額に添えられた、雪国の「デコピン」。



「俺を、 "細胞具現解(ニュートライザー)" を追って来い、夜尋」
「キサンの選んだ "道" は――――」



「まだまだ、あやふやや」



 凄まじい轟音。
 数十メートル先を通りすがった航空機が、その衝撃波にて揺れる程に。
 放たれた「稚児を戒める為の」デコピンに、しかし殺気はなく。

 その「手心」こそが、吸血鬼へ新たな火種を生むことを予感していたかの如く、極道は嗤う。



「また逢おうや、夜尋」
「なぁ。玲、帰ろか」



 その若き牙は、今は「流転會」を取り逃がし。
 骨肉の争いの起点となる攻防は、今は集結を迎えるのであった。



>>夜尋、壬生

2ヶ月前 No.197

13 @madhatter ★WjVvxVF9Cu_BaP

【嵐山 朝乃/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 貨物車両(地下線路)】


「よっ……」

 至極気の抜けた、まるで雨上がりに水溜りを飛び越える程度の声色で言いながら、嵐山 朝乃は貨物車両へと続くドアを蹴破った。
 ガァン!と景気の良い音を響かせながらも、ドアが室内へと転がる。

「ほんま、やっちゃんてばウチのこと置いてくとかなに考えてるんやろ……」

 やや呆れたような声色で愚痴りながらも、ドアが転がっていった貨物室の内部へと目を向ける。と、そこには知らぬ顔がいくつか並んでいる。
 ああ、これはまた厄介そうな状況だ。すでに対立が出来上がってしまっているようだ。

『俺たちは逃げも隠れもしねェ。何故なら俺は自警団だから、そして――――あの中がクッッッッッッッッッソあっちぃからだ!!!!!!!!!!!!』

 なんて威勢のよい声が響いている辺り、すでに一触即発というところまで場は進んでいる。
 が、しかしだ。しかし。スーパーウルトラマイペースな朝乃には関係のないことだ。

「こんばんはぁ。えらい楽しそうやけど、そちら、どちらさん?」

 我が道を行く女。極道にして自由気ままな女狼、嵐山 朝乃。参入。


>>新一、迅、ルカ





【伏見 夜尋 & 壬生 歳征/CIRCUS HEAVEN上空 → CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】


 爆風を背に、その鋭利な爪を振り上げ、狂気を身に纏って襲いかかった。しかし、その爪は標的の皮膚を抉ることもなく、ばらばらと崩れ落ちた。
 強烈な酸でもあるこの血の爪が、その身に傷すら負わせられずに砕けたのだ。

『キサンは、随分と迷い多き男やな』

 告げられる言葉。伸びてきた雪国の太い腕がその指を引き絞り、こちらの額の前で構えられる。
 夜尋はそれを目にしながらも、急激に冷めていく思考に目を細め、深く息を吐いた。

『俺を、 "細胞具現解(ニュートライザー)" を追って来い、夜尋。キサンの選んだ "道" は――――』

「……す……ろす……殺」

 小さく、唇が動く。ぼそりと、言葉にならないほどか細い言葉が漏れ出す。雪国が言葉を続けるのも構わず、その言葉は周囲を巻き込んで勢いを強める濁流のように溢れ出る。
 それは流れ出る死の宣告。殺害予告。

「――――――――――――――」

『まだまだ、あやふやや』

 響き渡る轟音。まるで子供をからかうときに放つような一撃。その一撃をまともに受け、夜尋は勢いよく吹き飛んだ。

「若っ!!」

 勢いよく吹き飛んでいく最中、壬生の声が聞こえたが、足の踏み場のない空中で制動は叶うまい。星のない夜天を裂いて飛んだ夜尋はWestエリアまで飛び、建物の窓を突き破った。
 ばらばらと崩れ落ちたガラス片が流れ出た血によって溶解し始める中、低い声で唸りながらも夜尋は立ち上がり、手近なソファーに崩れ落ちるようにして腰掛けた。深紅の両眼で周囲を見やれば、そこはきらびやかなクラブだ。どうやら自分は窓を突き破って派手な音とともに入店した挙げ句に、馬鹿騒ぎを楽しんでいたテーブルの1つをぶち壊す形で落ちてきたらしい。壬生とははぐれてしまった。

『また逢おうや、夜尋』

 脳裏を過る雪国の言葉。忌々しいその声を振り払うように、口の中に溜まった血を吐き捨てる。豪勢な絨毯が酸に溶け出し、更にその下の床をも融解させ始める。
 最悪の気分とはこういうのを言うのだろう。敵に吹き飛ばされた上、綺麗に挨拶まで残されての離脱。敗北とさえ言える結果に、夜尋は歯噛みする。と、そのときだった。もともと騒がしい店内に、声が響いた。

『お礼に "撮れ高" の下剋上を見せて差し上げましょう――――』

 ああ、またか。まただ。またではないか。またしても、面倒はかくも舞い込むものか。

「あぁ……?」

 ここまできてはなにもかもが不愉快。目に入るすべてが忌々しい。で、あるならば、この憂さは晴らさねばなるまい。
 血に塗れた夜尋は運良く割れずに転がっていたシャンパンの瓶を拾い上げ、ぐいと煽る。そして無造作にそれを投げ捨てた。

「じゃあかぁしいのォ……ボケが……」


>>周辺ALL

2ヶ月前 No.198

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd



【船越 鳴/Chase→弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】


「あはーーーん!冷たい綾瀬さんもステキですっっ!!そーいうわけなんで、ジュリアーノさんお茶はちょっと……自警団刑事部門 船越 鳴!綾瀬さん一筋ですんで!!」


何やら何を言ってもこの娘には意味はなさそうだ。列車に向かってお得意の『バキュゥゥゥゥーーーーンッッッッ』を繰り出したジュリアーノの最早挨拶ともいえるお誘いを真摯に断り漢気を見せた鳴。この状況で浮かれているのは鳴くらいだろうと、ほかの者にとっては頭が痛くなりそうな状況だがそんなことで頭を抱えるのは今のところ綾瀬一人。

「ひゃーっ!!さっすがですねバキュウウウンの威力。あちらさん皆さんお陀仏じゃないですか!これはもう、仕事終わりそうですかね。ね?そーですよね?え、デート?もしや!ここから始まるデート!!」

ジュリアーノに撃たれたヤクザとアンドロイド数十名が他に伏せたのを確認し、ふざけているのか本気なのか戯言を宣う鳴。しかし輸送列車は止まらない。みるみるスピードを増して闇夜を駆け抜けていく。それを追うジュリアーノ、綾瀬&鳴……そして、見慣れぬおちびさん。

「んん?ちょっとこちらの可愛らしい声のお方はどちらの回しもんですか?バイクテクが常人じゃないんですけど!え?もしかして……スパイ!?綾瀬さんのハートを狙うスパイですか!?そうはさせませんよ!綾瀬さんのハートを狙うのは私、船越 鳴ですから!」

鮮やかなバイク操作をする匡に向かってヘルメット越しに目を光らせる鳴。ジュリアーノが応待しているところからして絶対にスパイではないとわかってはいるが、こんな風におふざけをしてしまうのは船越鳴という人間の性質上致し方ないことなのである。お気楽呑気な変わり者。嫌なことは全て忘れるニワトリ頭。しかし、その実力は綾瀬も認めるほどのもの。そんな普段の所作からはわからないボケボケ女。彼女の真髄は、いかにして楽にするか。それだけである。

「え、もしやもしや!戦力さんですか?これはラッキーですね、ラッキーラッキーいい感じ!」


勘違いなのかどうかは置いておいて、とりあえず4人はヘヴンリートレインの車両に近づいた。……しかし、忘れてはならない。バイク運転において彼を抜かしては語れない。特殊機動部隊随一のバイクテクを誇るオジキ。その息子にして、そのバイクテクを受け継いだアンドロイド鬼太郎。

4人に追いつくようにして聞こえてくるバイク音。ジュリアーノとも匡とも異なる音で駆け抜けてくるそれは猛禽類?馬?否、彼は黒猫だ。闇夜に溶け込んで敵を仕留める獣。トンネル抜けてその姿を現した彼に振り向いた鳴は思わず叫んだ。

「な、な、なんですかあの格好!!サーカス!?」

そう、鳴が驚くのも無理はない。鬼太郎はバイクに跨りながらその片腕に一つずつホバーバイクを担いで追走してきてのだ。まるで米俵を持つように軽々と。アンドロイドならではのバランス感覚のおかげで一切のズレもなく運転できるのはさすがとしか言いようがないが……何故ホバーバイクを担いできたのか。


「鬼太郎さん!?それどーするんですか!?」

鳴の声を遮るように、鬼太郎は担いでいたバイクをまるで槍投げのように放つ。ヘヴンリートレインの車両に向かって。

ーーズドォォォォンンンン!!

「ぎょえええええええ!?投げる!?バイク投げるもの!?」

「こんくらいのことで騒ぐな」

バイクの重さが無くなった分、スピードを出せたのかすぐにジュリアーノたちに追いついた鬼太郎。騒ぎすぎる鳴をぴしゃりと黙らせる鬼畜さも健在。

「こんなんで足止めできるなら苦労しねぇよ。油断すんなよ」

眼光鋭く睨みつけるヘヴンリートレイン。先程あんな狂ったことをした者と同一人物とは思えない冷静さ。先程も言ったが、忘れてはならない。鬼太郎はオジキに育てられた息子。常人とは逸脱している“オジキ”の教えを受け継いだ“アンドロイド”なのだ。


「乗り込むタイミングがありゃいいんだが……どうする?」


鬼太郎のブッ刺したバイクによって少しスピードが緩んだヘヴンリートレインだが、何があるかは未知数。



〉ヘヴンリートレイン現場All




【赤羽 玲/CIRCUS HEAVEN上空】


天空の要塞快楽都市、吉原遊郭にて起こった紛争。それがたった2人のヤクザの因縁対決だと誰が知るだろうか。伏見組の夜尋の憤りを余裕で躱す雪国。先程も自分が庇おうとしたことを止められ、傷を受けても尚愉しそうな彼に玲は頬を掴まれたまま目をとじた。もう、そのような表情は見たくなかったから。閉じた視界には映らない替わりに耳に届く音。争う2人の狂った音。そこに終止符を打ったのはーー葉隠雪国という巨悪。

凄まじい轟音の後に囁かれた声色。先程とは違い柔和な音にそっと目を開ければ雪国はいつものように笑っていた。そこに夜尋の姿はどこにもなく、彼と共にいた壬生という男だけが取り残されていた。何があったのかなんて聞かなくてもわかる。また一人、雪国の餌食になった者が去っただけ。伏見組の夜尋という男。彼はどこまでもつのだろうか。どこまで、この巨悪を追いかけてくるのだろうか。


「はい、雪国様」


帰ろうと言われて微笑みながら、従う。出しゃばりすぎて庇われた形になった雪国の怪我に触れてすうううっとものの数秒で治した後、その大きな手に自分の小さな手両手を重ねる。見上げれば視線が絡み、きっと今から言おうとしていることも把握済みなのだろう。愉しそうな笑みを浮かべている雪国。玲は目を逸らすことなく、その薄桃色の可愛らしい口を開いた。


「 "細胞具現解(ニュートライザー)"とは、いったい何なのですか?」


うっすら笑みを浮かべて、問いかけるその姿。責めるわけでもなく、怯える様子もない。それなのに、不思議と答えたくなる魅力……否、魔力が玲にはある。相手の懐にすっと入り込み、その全てを委ねてしまいそうに誘う術は極道の人間の特技か。果たして雪国は正直に答えてくれるだろうか。はぐらかされるかもしれない。余計なことを聞くなと脅されるかもしれない。それでも、玲には知る必要がある。

「疲れてしまいましたから、座って、ゆっくりとお茶を飲みながら、あなたとお話しがしたいのです」

「ね、雪国様」と可憐に微笑み、重ねた手は離さない。玲のCOAは癒しの力。触れたもの治すこととは別にもう一つ。その空気さえも浄化する能力。玲の周りにいるものは、その浄化の力で癒されて、気分が良くなるのだ。洗脳などというものの類ではないが、リラックスした人間は心を解放する。この巨悪、葉隠雪国に通用するかどうかなどは関係ない。隠されているその答えを知らなければ、玲は、ずっと“このまま”だ。

終わらない極道の争いは、また一つ、道を交差させた。


〉周辺All

2ヶ月前 No.199

aki @asynchro73 ★Android=C7J0RZKhTz

【東雲 迅/新 一/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 貨物車両(地下線路)】

 まさに一色触発の貨物車両。
 突如としてコントラバスケースから飛び出したシンイチを宥める迅、眠りを妨げられたことに呆れるルカ。三者三様の反応の中、貨物室の扉がガァンッ!!と飛び跳ねる。

"「こんばんはぁ。えらい楽しそうやけど、そちら、どちらさん?」"

「―――――――!!」

 現れた女のその姿を見た迅は、まるで自身の心臓を撃ち抜かれたかのような衝撃が走る。
 恐らくいくつかは年上なのだろうその立ち振る舞いと、切れ長な目から漂うセクシー感。これは……これは……。

「素敵なお姉さん……!!」

 敵か味方かもわからない相手になびくドあほである。現れた女性の前にササッと立ち、手を握る。

「自分は東雲 迅……迅とでも呼んでください。しかし、この僕が何故このような薄暗い貨物室の中にいるのか……それはやはり、貴女のような可憐で美しいお姉様に出会う為であり……」

「おめェ結構バカなんだな」

「うるせぇ!!今いいとこなんだよ!!」

 どこがだ。
 呆れ顔で見つめるシンイチ。突然の乱入者には興味を示さず、目の前に対峙するこの白きアンドロイドへと視線を戻す。

"「そこはよ、大人しく隠れてるべきだろ……わかったわかった。居心地が悪かったって? ならこうしようや」"

 貨物から引っ張り出される敷布団や寝具一式。超速で着替えを終え布団の中に潜り込むルカを怪訝そうな眼で見つめる。

「あァ……?なんだァ、コイツ何考えてんだ……」

 飽くまで今は戦う意思がない事を伝えるルカ。相当眠いのか、布団に潜り込んですぐ眠りこけてしまう。こうなってしまうとシンイチも手が出しにくい。
 やれやれと言った風に頭を掻き、ふと布団の方を見ると。

「そうだぞ、シンイチ……。ここは一旦休もうぜ」

「何で真っ先に布団に入ってんだよおめェ!!」

 布団の中でルカの隣に潜り込む迅。吠えるシンイチを無視し、先程現れた謎の女性を自身の隣へと手招き。

「ふふっ……ここ、空いてますよ」

 アホは放っておいていい。

 一方で……ルカの機体の解析を進めるノイド。マシンデータの解析は既に終え、彼女の思考……及び記憶メモリへと侵入していた。
 大半を占める戦闘の記憶。戦闘狂ゆえの性であろうか……しかし、彼女の中で一際輝いている異質な存在が1つあった。

「おい……嘘だろ」

 自身の存在しないはずの記憶と照らし合わせるノイド。ルカの思考の半分以上をも占めるそのアンドロイドを……正確に言えばその"中身"を彼は何故か知っていた。

「……"アイ"」

【今よりも、ちょっと昔の】

【"アイ"がまだ自警団に所属していた頃のおはなし】

【そしてこれは――――"最強"と言われた男から見た、彼女についての記憶】

【時系列:知るかよ。俺が生きてる頃だろ】

【東雲 南/CHIYODAエリア 霞ヶ関/自警団本部】

 人間というのは進化しないもので、どれだけ昔の歴史を辿って「差別」という行為は未だ無くならない。古来より肌の色、宗教、性、言語……あらゆる手段で人々は"異端者"と見なす者をを排除・差別を繰り返している。
 21XX年という現代においてもそれは変わる事なく人の営みとして普遍的に行われている、嘆かわしいことに。だが、違うところがあるとすればその対象が"ヒト"ではなく"アンドロイド"に変わっているということか。
 人々の生活を支える為にアンドロイドという存在が生まれた。しかし、皮肉なものにアンドロイドは人間の職を奪う事になり、多くの失業者を生んだ。それ故にアンドロイドを恨むものも少なくない。



 だから、何だ?



 差別だの排除だの、そう言うのは弱い人間がやることだ。弱い人間ほど何かのせいにしたがる。何かのせいにしなければ心の均衡が保てない。
 アンドロイドが何かをしたのか?彼らは自分らの責務を全うしただけだろう?ならばそれを差別する必要がどこにある?
 東雲 南は生まれながらにしての圧倒的な「強者」である為、彼はそう考える。アンドロイド差別なんてものはなくなるべきだと思うが、現実問題なくなることはない。きっと、この世の中は綺麗事だけでは生きられないのだ。
 だから、ヒトである自分だけでもアンドロイドとも手を取り協力するし友人にもなる。

 これは、そんなヒトとアンドロイドを取り巻く"知られざる過去"の出来事である。

「うぃーっす、アイさんどないしたん?元気なさそーだけど」

 ぼーっとした足取りで自警団本部へと辿り着いたアイを横目に、ジュリアーノの隣で着崩したスーツのポケットに手を突っ込みながら立っているおちゃらけた男―――自警団最強とも謳われる、『人類資産』東雲 南。

"「レイディーに疲労は大敵だ。キワミ・チヤンに診て貰うといい」"

 なぁ、とジュリアーノに話題を振られ。

「ジュリちゃんの言う通りだ。アイさん普段から頑張ってんだから、ちょっとぐらい休んでも罰はあたらねぇ」
「なんなら、これからサボって皆でどっかSHIBUYAの方で遊びに行こうぜ。久しぶりにゲーセンとか行きてぇ」

 するとジュリアーノに頭を小突かれ「冗談冗談」とおどけてみせる。何と言うか……これがあの伝説に名高い自警団の立ち振る舞いなのか、些か信じがたい。堂々とサボり宣言をするような奴が。
 実際、アイがサイバー部門で一生懸命に働いている事はこの2人は誰よりも知っているのは本当だ。アイに何があったのか、何故こんなに調子が悪そうなのか……彼らには分かりかねるものの、少しでも元気になってほしいという想いは変わらない。

>>アイ、ジュリアーノ



【巳華凪 摩奈/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 路上 →Club「ビッグツイスター」】

ラブホテル付近のコインロッカーに詰めていたおいも星人のまむしをぽてぽてと引き連れ、12番街へと差し掛かる。
路上の様子を見てみると、見るからにアウトローなグルーブやチャラチャラした男女2人組や夜のお店の客引きなど、何ともまあ煌びやかな夜の街に相応しいパーリーピーポー具体である。

「お姉さん可愛いね□そこで一緒に飲んでかね?笑」

「青いドレスの方!!良い仕事あるんで良かったら話だけでもどうですか□!?」

「(早く終わらせて帰ろう……)」

ナンパやお店のスカウトをスルーしながらCIRCUS HEAVENを歩く。
正直、摩奈はこの感じが苦手である。自分の殻に閉じこもり日陰を歩いてきた彼女にとって、このように対極な存在を目にすると拒否反応が起きてしまうからである。
それに加えて学生時代にいじめられていた過去をフラッシュバックさせるようでどうにもこの雰囲気は馴染めない。
サイコポリス巳華凪の唯一の弱点というわけである。

「まむし、ちょっとだけごめんね……」

過呼吸1歩手前のような状況の摩奈は一旦立ち止まり、横で歩くまむしを拾い上げるとぬいぐるみを抱くかのように腕でそっと包むと、また再び歩き始める。

「こうしていると落ち着くの……」

摩奈は幼い頃から何かあった時はぬいぐるみを抱く事で不安を和らげている。一種のルーチンである。
彼女がいつも抱いているのはユーメロディ(ピンク色のうさぎのようなマスコット)やハローキャッツ(白猫のマスコット)というキャラクターのぬいぐるみだが、自室に置いてあるものなので今回はまむしを代用している。
おいも星人は摩奈にとっては可愛くない生き物なのだが、こうして抱いている分にはもちもちにやわっこくて心地がいい。

すると、流れ星のように夜を引き裂き近場のクラブ内へと落ちる何かの姿。それにしてもその姿にはどうも見覚えがある。

「嘘……伏見さん!?」

流れ星ならぬ、流れ吸血鬼である。抱いていたまむしを地面に下ろすと、急いで彼の落下地点であるクラブへと入店する摩奈。
眩しいぐらいに鮮やかな照明が店内を照らし、パーリーピーポーがナイトフィーバーしている光景をなるべく目に入れないように、踊り狂う人々を掻き分け夜尋の姿を探す。
何やら店内は騒がしい様相であるが、今の彼女にとってはそれどころではない。

「(やっぱり……伏見さんだ)」

血まみれでソファーに腰掛け、シャンパンを煽る夜尋の姿を遠目で確認する。やっと辿り着いた探し人の姿だが、それにしても……どうにも様子がおかしい。

>>夜尋、ビッグツイスターALL

2ヶ月前 No.200

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_BaP

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2ヶ月前 No.201

しどにー @huroga ★Android=kYlzODfWCM

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2ヶ月前 No.202

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=ZIzAEpImxr

[鉄屑の山に埋もれる記憶の欠片]

[記憶なんてものは所詮電気信号の名残]

[ちゃんと消したはずなのに、なんで残っているのでしょう]


[時系列:覚えてませーん。バーカバーカ]

[自律思考型対サイバー犯罪用人工知能/CHIYODAエリア 霞ヶ関/自警団本部入口]

 先程見たのは幻覚だろうか。自分は人前に出るタイプのアンドロイドでもないし、プログラムの関係か出たいと思ったこともない。否、完全にないと言うのも嘘になってしまう。巨大なビルの巨大なモニターに映って元気よく話す……ソフトウェアAIRだったか、あのアンドロイドを見た時に“そういう生き方”もあるのかと感じた。
 だが、しかし。私は人間の子どもでもなく、汎用性を持ったアンドロイドでもない。目的を持って製造され、職業病を生まれながらにして持ち、未来を確約されているアンドロイドなのだ。それも法の使者、自警団への所属を目的に作成された。

 人で言う『目を覚ます』という感覚に近いのだろうか。私が意識を持って瞼を開けた二時間後には自警団本部へと向かっていたのを昨日のように思い出す。メモリーから映像を持ってくるだけだが。

 先程の幻覚にもう一度思いを馳せてみる。いや、違う。思いを馳せられるのは人間だ。アンドロイド的に表すならば視界を一度シャットアウトして、メモリーに書き込まれた電気信号を読み込んで──。


『今日は調子が悪そうだな』

 揺れる視界のピントを合わせるとそこにいたのは長身の男性。否、男性型アンドロイドと言うべきか。まるで西部劇の映画から飛び出してきたような、皆が思い描くようなカウボーイ。
 彼、ジュリアーノをカウボーイ型アンドロイドと言う表し方は50点である。彼は俗に言うメモリアルアンドロイド。偉人等を含む、伝説の人を機械仕掛けでこの世に復活させるなど創作物のようだが今の技術ではそんなことも可能なのだ。

 ヘッドホンを外し首に掛けると後頭部を掻きながら目を細める。

「アンドロイドに調子も何もないでしょう。……一応職場の為に細かい訂正をしておきますと“アンドロイド用電気振動同調矯正ハーモナイザー”です。例えば“リラックス”を『1』、“悲しい”を『2』として他からのアクションや信号によってバグりそうなアンドロイドに無理やり『1』の信号を送り込んで落ち着かせたり、逆に暴れるアンドロイドに『2』の信号を大量に送り込んでキャパオーバーで動きを止めたりとか……どちらかと言えば体調回復よりか洗脳に近いですよ。……あと、キワミさんに診て貰えとか正気ですか」

 聞かれてもいないのにペラペラと話し込んだ彼女はカウボーイの隣に並ぶ人物、こちらはしっかりとした人間である彼に視線を移した。

「東雲さんお疲れ様です。頑張る、ですか。……頑張っている気はありませんので大丈夫です。仕事ですので」

 小さく息を吐きながら軽く会釈をする。
 アンドロイドである自分にもさん付けで話しかけてくる男性。東雲南という名を聞けば腰を抜かし、震え上がる者は多いだろう。ジュリアーノが蘇る伝説ならば東雲は生ける伝説である。自警団トップクラスの戦闘能力と言っても過言ではないだろう。あの人類資産にすら匹敵する実力と言われている。最早サポートすらいらない彼の話は彼女の職場である地下深くにまで聞こえてくる。
 そんな彼がサボタージュのお誘いとは。ここは笑うところだろうか。ふむ、と顎に手を添えて考えているとジュリアーノに頭を小突かれ冗談だと笑っていた。
 東雲の優しさに少し不思議な気持ちになる。未だに彼の優しさ、と言えばいいのだろうか。それには慣れない。ここに辿り着くまでに既に数え切れない程の悪意を見にぶつけられながらここまで来た為か、尚更彼のような人物は記憶に残りやすい。

 汎用アンドロイドとして作られたものが自警団に入りたいとここに来たのではない。
 彼女は最初から自警団に配属される為に製造されたのだ。


 動く理由、働く理由、生きる理由。
 すべては自警団の、TOKYO CITYの、正義のために。


 ふと、先程見た幻覚を思い出そうとしてみる。隣にいたツインテールでギターを持った人と防寒具のような衣服に身を包んだ人。おそらく二人ともアンドロイドだろうか。ハッキリと姿を見たわけではないが、今まで自分が製造されてからのメモリーと照らし合わせてみたが該当者はいなかった。本当に幻なのだろうか。
 とりあえず考えても仕方ないと判断し、記憶を閉じた。

「お二人共……これから現場でしょうか」

 入口でエンカウントしたということは通報でもあったのだろうか。いや、ゆっくり彼女と話しているところを見るとその可能性は低いか。
 ──ここに配属されてからすぐと比べると誰かと関わることは増えた気がする。やはり自警団の人々は良くも悪くも個性が強く、巻き込まれる形だが。

 ──結構、楽しいですよ。

>>東雲 南様 ジュリアーノ・イーストウッド様




[極愛クヒドー/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街Club「ビッグツイスター」/おたのしみルーム跡]



 ──最高。楽しいですよ。

「どォォォォッッせェェェェッッッい!!」

 ウォーハンマーの頭を引き摺るようにしてから大きく振りかぶると地面に横たわるアワの左足首より下を狙って振り下ろす。明らかに有機体、もっと言えば肉。体の一部が潰れる音と同時に成人男性の悲鳴が辺りに響き渡る。ずるりとウォーハンマーを引きずるとその後を追うように赤黒い線が雑に引かれる。

「あはっ」

 語尾に星でも付いていそうな跳ねる笑い声。思わず顔をしかめる餅名を横目に一仕事終えたような清々しい笑顔を見せるクヒドー。



「はい、ではアンケート結果の通り、左足を先ず潰してみました〜〜!!次は部位だけでなく凶器もアンケート取りますね。変わらず鈍器でも刃物でも銃火器でもいいですよ〜。私が実況したことあるゲームならそれに登場する武器でもOK〜」

 空に表示されている半透明で青いモニターに向かって手を振り楽しそうに話すクヒドーはゆっくりと顔を動かすとウォーハンマーを壁へと立てかけた。
 カメラ外に移動すると餅名へと近寄る。

 先程足元に積まれていた瓦礫の中から這い出でるように登場した餅名 唯。委員長と同じだいさんじ所属のVMtuberである。何度かコラボしたこともある。
 衣装も褒めてもらえたし悪い気はしない。するりと相手の髪の内側に手を差し込み頬に触れた。顔や髪に付いていた砂塵を軽い手つきで払うと少し瞳を覗かせた。

「唯さん。楽しそう、それだけで私がいる理由に足るのですよ」

 相手の目をくすんだ瞳と歪んだ視線でまっすぐ見つめると語り掛けるようにそう口にする。そのまま鼻が当たる距離まで顔を近付ける。

「でも、今日の私にはあまり関わらない方がいいかもしれません」

 そうしていつもの笑顔を見せ、相手の額に唇を落とすと軽く手を振りモニターの前へと戻っていく。


 ウォーハンマーを手に取ると小さく音が鳴り鉄骨へと姿を戻した。それに両手を重ねて杖の付く。モニターへと顔を近づけ、楽しそうに声を弾ませる。

「アンケートの結果……ドコドコドコドコドコドコ……次の武器は“鎖鋸”になりましたね。どんぱふ〜。はい拍手お願いしま〜す」

 鉄骨を横にすると片手で根元、もう片手で根元から少し離れた場所を持つ。そうして再び小さく音が鳴り、樹木の伐採に使われる鎖鋸──チェーンソーへと姿を変える。
 やはり彼女の能力なのだろうか。鉄骨とある程度形が似ていたウォーハンマーだけではなく、動力機械であり、複雑な機構をしたチェーンソーへの変化も可能のようだ。

 そうしてまた新たな玩具を手に入れたクヒドーは嫋やかな笑みを見せるとハンドルを握り直し、一度地面へと置く。空いた手でバッテリーに付いているスイッチを入れると軽く音が鳴り小さく振動を繰り返すチェーンソー。
 それを見て鼻歌混じりに腰を上げてモニターを操作してはMytubeの生配信機能の一つであるアンケート機能を使う。

「次にヤるのはどの部位がいいと思います?」

 コメントで足だ、腕だ、胴体だ、首だ、顔だと次々とコメントが流れていく。それを見る度にそれもいいですね、とまるで夕飯の献立の案を聞くように顎に手を添えながら愛おしそうにしていた。

>>餅名 唯様 周囲皆様

2ヶ月前 No.203

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx

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2ヶ月前 No.204

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx

【一方その頃。ヘヴンリートレイン貨物室】



 Time(時)、Place(ところ)、そしてOccasion(ばやい)。所謂普遍、常識として啓蒙されしTPOである。社会生活を営む上で常識的な服装、枠の範疇たる面構え、無闇に威嚇しないような振る舞い。我々とて殊勝であり、そして文化然とした規範となるべきなのである。普段よく働いているだろう。法も犯さず、クソ真面目に毎日コツコツと。そうだ、TPOだ。良識的な一都民として生きる我々こそ、再びこれを学び、啓蒙せねばならない。

 ところで、この貨物室に集った連中を俯瞰してみよう。
 元ヤンを思わせる荒々しい佇まいのサイコポリス、シンイチ。たわわに実った丘稜を望む、びんとそそり立つ一本のヤシの木に二つのココナッツ。東雲 迅。寝ぼけて迅に抱き着き、細く絞られていても、腕を回せば余ってしまう細い腰。弛緩しきった水蜜桃のような尻。他意もなく押し付けられる、上記丘稜。彼のヤシの木を更にそそり立てる罪作りなVMtuber、ルカ(合間に挟まれたクヒドーぬいぐるみが、迅を睨んでいるような気がする)。おまけにもう一人、「西から来た極道」にして、流転會の仇敵。お転婆という喩えさえも霞む、天翔る流狼!

 "こんばんはぁ。えらい楽しそうやけど、そちら、どちらさん? "

 嵐の山の朝乃、推参ッッ。

 "自分は東雲 迅……迅とでも呼んでください。しかし、この僕が何故このような薄暗い貨物室の中にいるのか……それはやはり、貴女のような可憐で美しいお姉様に出会う為であり……"

 まず、まず。先んじてだ。
 少なくとも、筆者が此処に現れた朝乃女史であったならば、まず「貨物室に布団が敷いてあり、本来ならば殺し合いをしていてもおかしくない男女がリの字で寝ている」のにブッたまげる事請け合いだろう。当の朝乃が事情を何処まで知っているかによるが、少なくとも流転會と現状、骨肉の争いを繰り広げているであろう彼女である。羅列されては積もる「そもそも」、そして「何故」。呑気に朝乃を隣に寝かせようとしているジゴロの迅だが、その逆側。鋭く爪を立てたルカが、寝ぼけながらも自身の耳を齧っている事に関しては気付いているのであろうか。

「……マーシュ。マーシュぅぅ……」
「おれを独りにしたら、また暴れてやるからなァ……」

 まるで野生の肉食動物の戯れ。
 歴史に明るい諸兄ならば、察するところ余りあるだろう。「軍神」ルカ・ウィンチェスターの傍らに常に立っていたイギリス軍人、マーシュ・ガーランド。常にロバの被り物に頭部を包む奇妙なフォトグラフが印象的な彼だが、嗚呼。何やら既視感があるようなないような。

 ともかく、目下の動きとしては、後方の車両が大いに騒がしい事についてだ。変型に変型を重ね、遂に真の姿を顕にした快楽への環状線。ぐるぐると堂々を巡るのは、列車だけではない。異なる陣営同士の合間を廻る、支離滅裂な人間模様。未だ謎に包まれた、「細胞具現解(ニュートライザー)」の行方と共に、燻る行燈道の「闇」は、街を覆い隠したまま。



>>朝乃、迅、シンイチ




【ところ変わり】

【舞台は "過去へ" 】

【赦されざる過ち】



 "償うって何をですか?"



【彼女には、 "償い" が判らない】

【 "未来" しか視えていない】

【その礎から目を反らし、血に濡れた両手は、猟奇は、更に先鋭を纏い】

【先鋭とは、先細る事だ】

【先細るという事は、永くはいられないという事だ】

【嗚呼。クヒドー】

【貴女はそれでいいのかもしれない】

【けれど】

【貴女の愛する仲間達は、そんな貴女に】



【きっと、死ぬまでついていく】



【みんな、貴女が大好きなのだから】

【私も、そう】

【貴女は、極愛 クヒドー】



 "──最近気になる子?あの名無しって子、面白いよね。私、好きだな。"



【私の愛した、少しシャイで固くて、それでも友達想いで、新しく何かを為そうと、見出そうと足掻いていたクヒドー】

【貴女に、耐えられるとは思えないの】



【先鋭が、貴女の "楽しい" が淘汰されてしまう未来を】



【時系列】

【TREND 4 の開始から約1週間前の夕刻】

【ソフトウェア AIR/都内某所 某大学病院/隠された個室】



「ほらね……。やっぱり来てくれたでしょ」
「 "そのとおりです! ふだんはエンリョしてますが、ごくあクヒドーはおそれしらずなんですよ" 」
「フフ……」

 笑顔のクヒドーぬいぐるみを手元で撫でつつ、AIR。もとい、「あの時」目の合った、今ではすっかりと覇気を失くした、原初のVMtuberがはにかむ。

「クヒドー、立ち話もなんでしょう」
「ベッドに座りなさいな」



 "教えてよ コウノトリ"
 "私は何処へ行くの"

 (The Yellow Monkey - 砂の塔)



>>No Characters

2ヶ月前 No.205

13 @madhatter ★WjVvxVF9Cu_4TG

 伏見 夜尋という彼は、子供の頃はとても優しかった。やんちゃだった私をよく助けてくれたものだ。しかし、彼の母親の葬儀の日から彼は笑わなくなった。常に苛々しているように見え、なにかに取り憑かれたかのようだった。多くのことに興味を示さず、言葉を交わすこともほとんどなくなってしまった。
 いまのような飄々とした雰囲気を纏い始めたのは、彼の目付役だった相原という構成員が命を落としてからのことだった。その死が彼のなにを変えたのかはわからなかったが、それでも少し良くなったと思った。母親を亡くしてからの彼はまるで触れればなにかを傷つける刃物のようで、切れる直前のピンと張り詰めたワイヤーのようでもあった。それに比べれば、飄々とした彼の方が子供の頃に近いと感じた。それでも、あの目は笑わないままだったが。
 彼の父親が死に、古巣へと戻ってきた彼を見たとき、母親を亡くしたときの彼を思い出した。実際にはあの頃よりもさらにおかしくなっているように見え、少しだけ恐ろしくなった。

 彼は血に恵まれなかった。極道という柵に縛られ、まるで檻の中で鎖に繋がれた野獣のように、窮屈な日々を強いられてきた。その姿は酷く虚無的で、痛々しく見えた。
 自分はかつて彼に救われた。ゆえに、いまこそ彼の力にならなければならない。彼の、私たちの過去に決着をつけ、精算するために戦いが必要なのならば、自分は彼の矛となり、盾となろう。



【嵐山 朝乃/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 貨物車両】


『自分は東雲 迅……迅とでも呼んでください。しかし、この僕が何故このような薄暗い貨物室の中にいるのか……それはやはり、貴女のような可憐で美しいお姉様に出会う為であり……』

 いましがた蹴破ったドアが転がったヘヴンリートレインの貨物室に響いた声。東雲 迅と名乗ったその声に『おめェ結構バカなんだな』と別な声が返る。『うるせぇ!!今いいとこなんだよ!!』と続けられた迅の声に、朝乃は呑気に「ふーん」と返しながら頭を動かした。
 東雲……KYOTOからこのTOKYOに向かう道すがら、できるだけ交戦するなと夜尋が命じたリストの中にあった名だ。TOKYOに名高き自警団。その特殊機動部門に属する少年。夜尋が挙げたのは名前だけであったため、顔はわからなかったが、えらくマセた少年だ。

『そこはよ、大人しく隠れてるべきだろ……わかったわかった。居心地が悪かったって? ならこうしようや』

 と、件の迅少年とその連れ――おそらくは彼も自警団の人間だろう――と対峙していた白いアンドロイド。こちらは朝乃も知っている人物だ。電脳傭兵ルカ。暴力を売りとするVMtuber。ストレス過多の現代社会で、若者を中心に大流行している"コンテンツ"の1つだ。彼女についても、夜尋の話に出てきた。こちらは戦うなと言われたが、どういう理由かまでは話してくれなかった。
 貨物からファンシーな布団一式を引っ張り出したルカがその中へと潜り込む。これがホンマの寝台特急とでも言えばいいのだろうか?いやわからないが。ついでに言えば状況もわからない。なぜ自警団とVMtuberがともにこんなところで油を売っているのだろう?自分は細胞具現解を追って来てみたわけだが、夜尋が告げた名の持ち主に1度に遭遇するとは思っていなかった。
 自分の行動については夜尋に伝えてはいないし、彼もそれは承知している。敵を欺くには味方からとも言うが、彼はそもそもからその行動パターンを把握する気がないのだ。

『ふふっ……ここ、空いてますよ』

「あ、ウチそういうんノーサンキュー」

 迅少年の決め文句を適当に一蹴し、朝乃はこの状況をいかにプラスへと持っていくかを考え始めた。
 自警団ということは、敵対組織である流転會の敵。敵の敵は味方とは言うが、自分たち侠皇會もアウトローに変わりはない。法の番人である彼等がどんな対応をするかなど、想像に容易い。夜尋からはできるだけ交戦するなと言われてはいるが、交戦を禁じられているわけではない。つまり必要な場合は応戦しても良いということだ。もしもの場合は蹴飛ばしてやれば良い。侠皇會御三家と言われる嵐山の血を引くからには、この程度のわけのわからなさぐらい、なんとかしてみせる。

「ウチ、細胞具現解っていうんを調べてるんやけど、なんか知ってる?」

 と、朝乃は問いかけた。
 相手には名を問いかけておいて、自ら名乗ることはしない。そんなアウトローの常識を自然体で行いながら。


>>新一、迅、ルカ




【壬生 歳征/CIRCUS HEAVEN Westエリア】


「ほんまに、空中で仕掛けるなんか無茶苦茶や……」

 真っ黒な天から落下した壬生は自らが付き従う伏見 夜尋とはぐれてしまっていた。
 というのも、CIRCUS HEAVEN上空のVIPルームから落下しながらも葉隠 雪国へと仕掛けた夜尋の爪は、敵の身体に傷を残すことすらなく砕け、夜尋自身は反撃に吹き飛ばされて眼下のクラブへと突っ込んでいったからだ。上空から落下する最中、あの状況での強襲など、そうやすやすと実行に移せるものでもない。まして爆風を利用してなど。やはり伏見の家の血を引くだけあって、気質は持ち合わせているようだ。
 しかし、あの夜尋の爪を用いた刃術をもってしても貫けないとは、葉隠め、どういう身体能力をしているのか。侠皇會の極道者は皆、戦いに備えて刃術と拳術と呼ばれる独自の戦闘術を習得する。これはCOAに寄らない、世間的にいう空手や剣道と大差ないものだが、より実践的な戦いへ向けた、侠皇會独自のものだ。どちらもその文字通り、刃術は刃物を用い、拳術は徒手空拳での戦いを極めるためのもの。會の構成員は全員がその両方を収め、個人の判断でそのどちらかをより極めていく。
 中でもより拳術に特化する壬生の家系、刃術に特化する烏丸の家系は双方の総本山などと呼ばれるが、本家である伏見はその双方を極める。つまり総合力が高いのだ。壬生や烏丸のように特化していない分、それぞれの性能となれば劣るが、なんでもありのただの戦いであればまず負けることはない。

「若の力やとまだ足れへんいうことか」

 夜尋に刃術を仕込んだのは先代の烏丸だが、それが通じないとなれば、なにか策を考えなくてはならない。

「とにかく、いまは合流が先やな」

 言いながらも、夜尋が突っ込んだクラブを目指し、壬生は駆けた。

2ヶ月前 No.206

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

【船越 鳴/Chase→ 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】

鳴は思った。ああ、今自分は愛しの綾瀬さんに抱えられている。これはもう、キュン死にだ。


「今なら悔いはありません。私は満足です」


着地した車両のところで座りながら天井を仰ぐ鳴。それは悟りを開いた者のよう。しかし、直後に響く轟音に現実に舞い戻る思考で鳴はやっとこさ慌てふためく。喋る羊に変形するトレイン。炸裂する爆風と愛しよ綾瀬の温もり。全てキャパオーバー。鳴ちゃんパニックなうである。


「ぎょえええええええ!ありえない!ありえないですよ!ビーストウォーズじゃねぇんだよクソが!!」


キャパオーバーしすぎて口調も乱暴になったが、とにかくまずい状況に鳴は綾瀬の腕の中でブツブツ祈る。南無阿弥陀と聞こえるが、物騒すぎる呪文に綾瀬の鉄拳を頭にくらい「うげえ」と唱えるのをやめた。しかし、それにしてもだ。あの兵器たちは穏やかではない。


「これはピンチです!エマージェンシー!コードレッド!緊急離脱!」


一人で大盛り上がりの鳴だがふざけているように見えて、全然ふざけていない。悲しいことにこれが彼女の素。泣き言ばっかり言って逃避するのが特徴の自警団員。鳴がまともにこの戦場に立つには、彼女の泣き言をどうにかしなければならない。どうやって?言い聞かせる?いやいや、簡単ですよ視聴者の皆さん。船越鳴のCOA、覚えてないですか?そう、他者に嫌なものを譲る能力。

「えーーん!怖いです!もう、いや!」

鳴は叫ぶと手を“列車の床”につける。他者にしか委ねられない能力は物には効かない。しかし今この列車はアンドロイドまこ田兄妹と融合している。その事に気づかないほどマヌケな鳴ではない。寧ろ、こういう抜け目のないところが綾瀬にも買われている部分だ。

ーー発動 “泣言不要(ギブアップ)!


鳴の嫌な気持ち、恐怖、逃避の感情全てまこ田兄妹に譲渡した。おかげで鳴はスッキリ爽快。


「さぁ!さっさとやっちゃいましょう綾瀬さん!」


元気も回復。阿保面復活。めーめー鳴ちゃん帰還。


》トレインAll




【百目鬼 鬼太郎/Chase→ 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】


「おいおい、あれは変形ロボットか何かか?電車じゃねえのかよ」

眼前に迫る動く巨大要塞。向けられる兵器に眉間にシワを寄せて、はぁっと溜息をつく。隣のジュリアーノはこんな状況でもなんのその。お得意の口笛をぴゅーっと鳴らして、この現場を案外楽しんでいるように見えた。とにもかくにも、乗り込んだ3人の安全が第一だ。鬼太郎は燃え上がる最後尾の車両を見据えると「ジュリアーノ」と彼の方を向かずに名を呼ぶ。


「おれは中から駆け上がる。おまえは外からこのデカブツの硬い皮、ひん剥いてやれ」


そう紡いだ鬼太郎の口元は、微かに微笑んでいた。否、ニヤついていたというべきか。彼もこの状況を愉しんでいる?鬼太郎に限ってそんなはずがない。それとも、これが本来の鬼太郎の姿なのだろうか。弱き者の命よりも、己が信ずる正義よりも、見捨てられない同胞よりも……ただこの戦場を、狂気を、与えられた任務を遂行するためだけの“人形”。

鬼太郎はバイクを飛ばした。そのまま、スピードを緩めることなど一切なく。真っ直ぐに、燃え上がる炎の渦の中を目掛けてーーーー


ガシャァァァァァン!!!!


「な、なんだ!?ぎゃぁぁぁぁ!!」


誰かの悲鳴が響く。アンドロイドかヤクザか、はたまた両者か。先に乗り込んだ“ハニー小僧”の行方を追いながら、鬼太郎はバイクを乗り捨て歩き出す。周りを取り囲むモノの頭を鷲掴み、壁に当てていく。ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、進むその姿。背に纏いし炎。まるで、それはーーーー


「ーーメカニカル・パレード……」


誰かが呟いた。あの忌まわしき惨劇の事件。アンドロイドが立て込んでいる所に乗り込んだ自警団のアンドロイド。交渉も失敗し、向かってくる彼らにその手を、その腕を、その拳を振りかざした正義の鉄槌。あの大事件は実働部隊の鬼太郎を誘導した優秀なサイバー犯罪部のアンドロイドがいた。大袈裟かもしれないが、2人のアンドロイドがあの事件を終息させたといってもいいくらいだと周りは認識している。冷酷無慈悲に指示を出したアンドロイドと任務遂行の為に心を殺した鬼。ニュースでも放映されたあの事件を覚えていた者が列車にいたのだろう。そう、今鬼太郎は、あの時の“自分”と同じ。

悲鳴と共に腕を押さえるヤクザ。懇願の眼差しと共に頭のパーツを押さえるアンドロイド。匡のフェロモンの効果を上回る“恐怖の支配”。『あんな一人くらい、みんなで壊してしまえば怖くない』と、誰一人思わないのは……


「よお、お前ら。俺の前に立つってことは、覚悟ができてるんだろうな?」


ニヤリと嘲笑うその顔に、強制的に“死”を連想するから。人間達はその脳髄が、アンドロイドたちはそのメモリーが警鐘する。『関わるな』と。

目の前の者たちが俯く。こちらに目を合わせようとはしないその光景に、鬼太郎は小さく笑った。


ーーああ、あの時と同じだな。

ーーなあ、俺たちは間違ってたのか?

ーー任務の為に、平和な世の中にする為に

ーー必死で心を殺してもがいてきたのにな

ーーそうだろ?“アイ”……


鬼は進む。目指すは先頭車両。



〉ヘヴンリートレイン現場All

1ヶ月前 No.207

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_Jph

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1ヶ月前 No.208

aki @asynchro73 ★sYV7BQwacQ_Ghj

【東雲 迅/新 一/SHINJUKUステーション構内 シークレットエリア/弾丸輸送列車ヘヴンリートレイン 貨物車両(地下線路)】

 眠りこけるルカ、ナンパする迅、呆れるシンイチ、そして素敵なお姉さん朝乃。
 愉快なメンツを乗せた列車がどんぶらこどんぶらこと線路を走るよどこまでも。行先は地獄か天国か、それとも……辿り着く前にお陀仏か。

"「あ、ウチそういうんノーサンキュー」"

「ァ……」

"「あ、ウチそういうんノーサンキュー」"

「アァ……」

 くどい。
 既に1人でお陀仏状態であるが、気にしないでほしい。
 およよと泣く迅。その傍らには寝ぼけて抱き付きつつ耳を齧るルカ。天敵とは言え、見た目は美少女のこのアンドロイド。流石の迅もこれにはどぎまぎしてしまう。

「くぅぅ……俺はもう知らんッ」

 振られたショックでルカと一緒に寝転がり、抱き枕と化して不貞腐れる迅。やる気あんのかと問いたくなるが、それにしても騒がしいのはこの車両だけではない。

「にしてもよ、外の方が随分と騒がしいな」

 その異変にいち早く気づいたのシンイチである。まさか後方からデッドヒートを繰り広げるホバーバイクと、アンドロイと列車が変形合体してるなどとは夢にも思うまい。
 匂いである程度は察知できるが、列車内に侵入してきた見知った自警団の人間が多数、そして彼も全く知らない良い香りの"男"が1名。

「いや……女?」

 ふと疑問に思う。鼻が敏感なシンイチはある程度男女の匂いの違いについて嗅ぎ分ける事ができるのだが、列車に差し迫る1名においてはその実態が掴めない。
 男女が身体を交えた後の残香ともまた違う、単一の存在から漂う甘い香気。

"「ウチ、細胞具現解っていうんを調べてるんやけど、なんか知ってる?」"

「え。お姉さん……何故それを」

 まさに今自分達が捜査をしている"細胞具現解(ニュートライザー)"という単語を聞き、ぎょっとする迅。一部の人間の間でしか知られていないようなそれが彼女の口から飛び出すと言う事は―――自警団団員という線は考えにくいものの、となると少なくともアウトロー側の人間だということだろうか。

「オイ待て、この女怪しいぞ。コイツの仲間なんじゃあねェのか?」

 警戒するシンイチ。
 コイツ……即ちルカ。もしそうであるならば、こちらが持っている情報を無暗に喋るべきではないが果たして。

>>ルカ、朝乃

1ヶ月前 No.209

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



【舞台は更に潜り込み、想像もつかぬ過去の出来事】

【時系列:アイの過去】



【あの時、あの場所で】

【人知れず、二又の路が生まれた】

【もしもあの時、ああしていたら】

【もしもあの時、こうすれば】

【移ろいをこそ喪えど、それでも過ぎし "時" に慈悲はない】

【IFもない】

【なるようにして事は為り】

【かくして "叛逆" は、実行へと至った】






【TREND 4.5】

【エレクトリック・サーカス】






【ジュリアーノ・イーストウッド/自警団本部】



 "アンドロイドに調子も何もないでしょう。……一応職場の為に細かい訂正をしておきますと“アンドロイド用電気振動同調矯正れハーモナイザー”です。例えば"……

「アァー、勿論。知ってるとも。100年以上の前の話だがよ、牛追いの時に活躍したってモンさ」
「な、ミナミ」

 "なんなら、これからサボって皆でどっかSHIBUYAの方で遊びに行こうぜ。久しぶりにゲーセンとか行きてぇ"

 時には縄でふん縛り、列車を追い、数えきれない程に撃鉄を起こしてきたカウボーイでさえ、どうにも想像の及ばない領域というものが存在する。矯正機だとか、筐体だとか、とにかく未だ、この超現代都心に於いても「けーぶる」の関わるアレコレは不得手だ。

 "お二人共……これから現場でしょうか"

「聞いて驚くなよ、ベイビー」
「 "合同捜査" ってパーティさ。勿論、このミナミも含めたな」



【キワミちゃん/CHIYODAエリア 霞ヶ関/A.C.Oデスク】



 陽の届かない本部の地下空間には、魔物が潜むという噂がある。大柄なエレベーターから踏み出せば、控えめな光量にしけた灰色。「エージェントオフィサー」のデスクを訪ねてみれば、そこに居たのは一体の名物アンドロイドである。

「おはよ゛お゛おおおお!! おはよ゛ございあ゛ー!!」

 3人分のコーヒーカップを盆に乗せ、鉢合うや否や挨拶と共に勧めてくる。渋々その一つを取り、一気に飲み干し、目を細めるジュリアーノ。

「ああ、これは……。味のどうこうは置いといて、相変わらず目の覚める風味だ」

 A.C.Oマスコット職員、通称キワミちゃん。
 終始終日行住坐臥喧しい彼女だが、パンチの利いたこのキャラは、サイバー犯罪対策部門に於いて悪くない評判を得ているらしい。と、床を巡る幾多のケーブルを跨ぎ、漸く現れた当オフィスの責任者。丸型のサングラスが特徴のエージェントオフィサー……最九里である。

「おお、おお。こんな朝も早うに、もっとノンビリ来てくれてもよかったんじゃが。アイに合わせたんか?」
「まぁ、ほんじゃけ……3人とも座うてくれや。合同捜査に関して説明させて貰うけん」

 特機、及びサイコポリスを交えた合同捜査。
 内訳を考えるに、どうも交戦の可能性を大いに含んでおり、血生臭いものになりかねない予感さえする。

>>アイ、ミナミ




【葉隠 雪国/CIRCUS HEAVEN】



 "疲れてしまいましたから、座って、ゆっくりとお茶を飲みながら、あなたとお話しがしたいのです"

 思惑は還る。いずれはあるべき場所へと。
 それが花を咲かせるのか、もしくは人知れず朽ち果てるのか、それは定かではない。今は未だ。

「細胞具現解(ニュートライザー)」に関して答える事はなく、相変わらず眼を硝子の奥へ隠し、口元は笑ったまま。玲を抱えたまま、極道は歩みだす。

「ああ。今宵はスマンかったなぁ」
「改めて休もか、玲」

>>玲




【巡星 愛兎/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】



 星空の粒は軒並み堕ち、ネオンへと溶けた歌舞伎町の夜。しかしだ。仰ぎ見れば、そこにはたった一つだけ、巨大なミラーボールがぽっかりと浮かんでいるのがわかる。

 かつての古代、人々は認(したた)めた。
 かの「月(ルナティカ)」には、狂気が宿ると。
 あの狂気の膝元には、餅を突く兎が住むのだと。

「あらグリちゃんお調子悪そうね、お母さん思わず心配しちゃうわそんなだと」
「グリちゃんね、アメリカ人だからこういう言葉遊び得意でしょ。こう、ラップバトル? ね、アメリカ人だから。グリーンダカラ、子宝、北の国から……」

 マイク越しの大声で、一体何を吼えるのか。たじろぎ、見透かされたかの如く、その眼を踊らせるグリセリーナ。急激に現れた違和感、そして不調。アイツの口ぶりはハッタリではない。考えられるのは奴――――サギリだ。奴が能力を用いて何かしでかしたに違いない。

「ファック!! この……!!」

「こら! グリちゃん、今なんて言った!? そういうのは伏せ字を使えってのがマナーでしょ、ピー音入るわよそういうの」
「じゃあ問題、OMEHHHNHKTNINDY。何の伏せ字かわかる? 正解はね――――」
「 "お前は母には勝てないんだよォ" ッ!!」



【餅名 唯/おたのしみルーム跡】



 さて、VMtuberの「光と闇」。
 更に度し難く、そして救い難しは「それを求める側」、まさしくリスナーに他ならない。ヤクザ兄弟の片割れを潰し、穿ち、絶叫させた戦鎚の一撃。まるでコメディ映画の如くそれを組み換え、鋸の行き交う巨大な工具へ。ヒートアップは止まず、この赤黒くもグロテスクな様相を無慈悲に楽しむ他人達。

「わはぁん!! グロっ!! ウチそういうのアカンねん!!」

 熱狂するダーク派筆頭の忠告通り、彼女のガワはR-18G展開に盛り上がる一方。そして並行して活気を見せる、壁一枚を隔てた委員長のステージ。既に黒煙は晴れ、ビッグツイスターの様子を窺えば、思った通りに暴れている。

 ……さて。
 餅名 唯。自分は反社会的な行動でリスナーを稼ぐスタイルではないのだが、かといえ特に反社会的行為に物を申したい訳ではない。派閥が違うとはいえ、先のクヒドーとも何度かコラボしている通りである。しかしながら、このCIRCUS HEAVENという巨大な遊技場に居合わせたランキング1位と9位という両巨塔。極愛 クヒドーと巡星 愛兎がそれぞれコラボもなく、お互いに別の場所で配信をしている状況……同じ配信者として、これに関しては見過ごせない。

「とうっ!!」

 意外にも動ける我が身を駆使し、チェーンソーを構えるクヒドーの頭上を跳ぶ餅名。すたっ、と綺麗に降り立つや否や、ローファーの底の「バーチャルブースター」を可動。高速を以てクヒドーにタックルをかまし、抱き着き、ゴロゴロと暫く転がる。大いに目を回しつつも現1位に抱き着いたまま、辺りを窺えば――――そこは睨み合う委員長とグリセリーナに挟まれた真っ只中!

 自身の脳内でブラウザを展開。
 2窓にてクヒドーと委員長の配信の様子を確認すれば、その唐突な「コラボ」へと更に雪崩込むリスナーの群。

「やってやったぜ」

 満足そうに、短く言い残す餅名。
 激昂と混乱に揺らぐグリセリーナの瞳には、確かに彼女が捕捉されていた。



>>ビッグツイスターALL

1ヶ月前 No.210

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



 "眠らないジルは同時に三本の映画 観ながら全て理解し尽くしてる"

 (ROSSO - 眠らないジル)



【綾瀬 斗真/Chase→ 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】



 歌舞伎の名に恥じない「演目(オイタ)」である。
 躍る違法に駆る義法、同じ法なら「通さにゃ」損。まかり通すが力なら、それを鎮圧(ふせ)ぐのもまた力。ガタゴトガタゴト、車輪はなくも揺れに振られる鉄籠の巨大躯体。ゆらりとマシン・アームが浮き、列車の猛攻は激しさを増す。

「めぇっへっへっへ!! お前みたいな!! オコチャマが!! どーしてここにいるのかな!?」

「いひッ! くらら! この女の子、今にもおもらししちゃうよそんな事したら!」

「そしたら配信で晒してやるっ! めぇえっへっへっへ!! そういえば、和服にパンツってどうなんだろ」

「和服専用パンツがあるんじゃない……? DOODLEでドドッてみよ」

「どう?」

約 47,900,000 件 (0.37 秒)
検索結果
和服 パンツ の画像検索結果

「あった! あった! 結構出てきたよ!」

「めぇへへへへ!! ハズカチー!!」

 本格的にどうでもいい話は置いといて、このバイクにて突っ切る女の子、もしくは男の娘(決定的矛盾)、先程から一生懸命に捕捉してやろうにも全然捕まらない。跳ぶわ、跳ねるわ、果てにはちょっと飛ぶわ。装いや雰囲気こそインドア風であれど、一体何なのだ、コイツは。2車両を軽く飛び越え、更に更にと奥へ進んでゆく匡。生身で潜入した後続の綾瀬も、それに続き、得意の「ちぎっては投げる」鬼太郎を見送りつつ、半ば呆れている始末である。

 "ぎょえええええええ!ありえない!ありえないですよ!ビーストウォーズじゃねぇんだよクソが!! "

「おい、ジュリアーノ! やっこさんはマジで何なんだ!?」

「騙してすまねェな。匡もメモリアルアンドロイドなんだ。とあるBMXのプロで……」

「プロで……?」

「尚且つ、腕の立つ殺し屋だった」
「当時は "デリバラー" と恐れられたってな。今もUrban Eatsを片手間に殺りまくってるとよ」

「やかぁしい、嘘付くんじゃねェやてやんでえ!! ブチのめすぞカウボーイ!!」

「はっはっはっはっ!! 鬼太郎! とりあえずそっちの援護に回るぜ」

 行燈道の影を駆けつつ、豪快に笑うジュリアーノ。鳴の頭にゲンコツを落としておく綾瀬。前方では鬼が暴れ、カウボーイがハジキを弾き、「妾くん」がベッドの上同様にトンではハネ。「法」の快進撃は止む事なく、それを面白く思わないのは、無論、先程から一生懸命列車を揺らしたりミサイルランチャーを放って車両を破壊している羊兄妹である。

「えーん! えーん! 捕まらないよううう! くららはもうダメなんだ! この仕事もクビになって、 "傀儡人の行き着く地(ソローズ・グレイブヤード)" でスクラップにされちゃうんだああああ!!」

「ちょ、ちょっと! くらら、落ち着いてよう! 一体どうしたの!? 何だかおかしいよ!」

 やけに自暴自棄な相方に対し、思わず困惑する妹。ネガい感情などジンギスカン鍋の中に置いてきたであろう我が兄が、どうにも取り乱しすぎている。

 さて。聡明な読者諸君は、既にお気づきであろう。

 "さぁ!さっさとやっちゃいましょう綾瀬さん! "

 ちゃっかり、もとい抜け目なくも発動されていた、鳴の鬼畜極まりなき精神的COA。それが早くも発動したくららは、こうして取り乱している訳だ。コントロールを失ったかの如く右往左往するマシンアーム。

「いいぞ、でかした! めーめー対決はオメェの勝ちなようだな。祝勝会はジンギスカン鍋に決まりだ!」

 ジンギスカン鍋はクセがあるにせよ、辛味を絡ませると数ある肉の中でも特に美味い。本場北海道のジンギスカン鍋とは、中央底の上げられた専用の鉄板を用い、真ん中は肉、そして周りはもやしを始めとした野菜類。持ち上げられた肉が焼けると共に肉汁が底の野菜へと染み込むが、肉はそれに浸かる事はないという合理的な

「今そういう話じゃねえだろ!!」

 ナレーションに絡むな!!
 肉にタレ絡ませろ!!
 まあいい。続きだ。
 とにかく美味そうなマトンチョップ2匹は、もう二人して泣き叫ぶしかない。絶望、逃走欲、そして――――「最後の手段」。漸く列車は大人しくなり、遂に最後尾たる最重要貨物室へと辿り着いた男の娘、匡。とある男のナニをナニする為に来た割には、随分遠回りだったに違いない。しかし此処で、突如響き渡る兄妹の絶叫。

「ルカボスぅぅぅぅーーーー!!」

「だじゅげでええええ!! もうやだあああ!! ぴえええええ!! んめええええええええ」

 なりふり構わない「甘え」。
 鳴の能力もまた、中々に凶悪な代物である。匡に追い付いた綾瀬が扉を蹴破るや否や、目に飛び込んできたのは「独りで」布団に寝ている迅。立ち尽くしたシンイチ。そして関西の顔役たる極道、その女の顔。

「…………何のパーティか知らねえが」
「迅ン。てめェ、何呑気に布団なんぞで寝腐ってやがる……?」



(Wake Up THEME:https://m.youtube.com/watch?v=dqM5L5JQseI)



 はて。
 先程まで迅に抱き着き、柔らかい太腿の脚を絡ませ、胸を押し付け、耳まで齧っていたルカの姿は一体いずこへ。
 迅の弁解よりも早く、速く、ずしんと地響き。そして、またも響き渡る兄妹の絶叫。

「ぎゃああああーーーーッッ!! 痛い、いだいいいいいいっっ!!」

「ぼににの足が、足がああああ!! 酷いよおおルカボスうううう!!」

 妙に嗜虐心を煽る叫び声だが、それよりも。後方の車両にて悠然と立ち、「1車両を丸ごと引きちぎった鉄塊」を軽々と片手で持ち上げ、匡へと薄く笑みを浮かべるアンドロイドの姿。

「お前は――――情報になかったな」

 ぶおん、と、まるで物理法則そのものを足蹴にしたかのように、巨大な鉄塊が高速で匡へと振るわれるものの。彼を抱き、間一髪で貨物車両内部へと逃げ込む綾瀬。

「Hey!! ブラザーフッド!!」
「コイツからは……ただならぬ気配を感じるぜ」

 貨物車両の屋根を破壊した鉄塊に、思わず叫ぶジュリアーノ。
 何食わぬ顔で肩を抑え、ぐるぐると腕を捻り、首を鳴らすルカ。

「誤差は100000分の1か……」
「十分に遊べる」

 端正な顔を舌で舐め、しかし齎す破壊は凶悪無比。
 未だ止まらない列車、そして今ミッションの最大の障壁たる「ダーク派VMtuber」最強のアンドロイド――――ルカ・ウィンチェスター。漸く参戦!!



>>ヘヴンリートレインALL

1ヶ月前 No.211

13 @madhatter ★WjVvxVF9Cu_4TG

【 伏見 夜尋 / CIRCUS HEAVEN Westエリア / 12番街 Club「ビッグツイスター」】


 響くダンスミュージック。騒ぐVMtuber。ビートと喧騒がさながら新ジャンルのイカしたミュージックを紡ぎ出すかのようだが、いまの夜尋に言わせればただの騒音に過ぎない。
 かつて同じ穴の狢だったハリウッドセレブの怒りがその低い沸点をいまにも飛び越えそうなその光景をぼんやりと眺めながらも、夜尋は深く、深くため息を吐いた。
 項垂れるようにして高い天井を仰げば、淀んだ空気とともに喧騒が遠ざかる。

 ああ、酸素が足りない。脳に巡るべき酸素が。呼吸が浅くなる。しかし、それとは裏腹に頭は冴えてくる。思考は深まり、深く、深く潜って行く。
 なんなんだこれは。なんだこれは。不愉快にも、殺すと決め、殺さなければならない相手を殺し損ね、軽くあしらわれて落ち、落ちた先は喧騒の嵐。
 まるで土砂降りの雨だ。大きな雨粒が地面へと打ち付ける。視界すらなく、この身を濡らすあの日の豪雨のようだ。側溝に流れていく水に赤い色が滲み出す。響いた最期の言葉が途切れ、胸ぐらを掴んでいた手がずるりと落ちた。瞬間、夜尋の意識は弾かれたようにして現実へと戻る。

 深紅の両眼を見開き、その表情に憎悪を貼り付けて、指先に血の爪を形成する。苛立ちに任せ、ローテーブルを蹴り飛ばす。
 それは勢いよく飛び、いましがた転がり込んだ餅名とクヒドーの目前に落下した。それすなわち睨み合う委員長とグリセリーナの丁度ど真ん中である。
 長く伸ばした紅の爪の先端が床を削り、不気味な融解の痕跡を残しながらも、夜尋は無言のまま、かつかつと革靴の靴音を響かせて睨み合う2人へと近づく。




>>ビッグツイスターALL




【 嵐山 朝乃 / 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン / 歌舞伎町行燈道】


『え。お姉さん……何故それを』

「なんでウチがそんなこと知ってるんかなんか別にええねん」

 ぎょっとする迅の言葉を一蹴し、朝乃ははっきりと告げる。もともとさばさばしているのだが、今回に関しては要らぬ会話をする必要性はない。
 が、やはり細胞具現解というワードだけで疑いを向けてきた。

『オイ待て、この女怪しいぞ。コイツの仲間なんじゃあねェのか?』

 言いながら電脳傭兵ルカを指す自警団の彼。
 そもそもなにも知らなければ、こんな疑いを向けられることもないはずだ。まして、ルカを指して仲間ではないのかと疑われるなど本来であればありえない。
 少なくとも自警団は細胞具現解についてなにかしらの調査を行っている。それはいまのやり取りで確信できた。では……。

「なんか知ってるんやね?」

 言いながら、右足の爪先で床を打つ。
 と、そのときだった。飛び込んできた新たな自警団の面々。と、少女?少年?

『あっは。列車(カラダ)の隅から隅までしゃぶり尽くしてアクメ極めさせたげる、お客様! サービス料はそっちの敗北で支払ってねぇ!』

「えらい可愛い子やなあ。言うてることはお下劣やけど」

 ボヤきつつ、COAを発動する。混沌の戦場となりそうなこの場所で単独というのもいささか心もとないが、どう足掻いても敵対する人員ばかりだろう。
 やるしかない。自分は他の組員たちのように戦闘慣れしていないが、ここで引き下がるつもりはなかった。

『誤差は100000分の1か……十分に遊べる』

 止まらぬ列車の中、この場においてもっとも警戒すべき戦力の声が響く。
 ああ、骨が折れる鉄火場になりそうだ。


>>ヘヴンリートレインALL

1ヶ月前 No.212

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd


最後方車両でゆっくりと前へと進む鬼。ジュリアーノの援護射撃が敵をとらえ確実にその歩むスピードは速くなる。それでもまだ、前方にいる匡達の姿は見えない。ただ、騒がしい雑音は嫌になるくらい耳に響いているが。


【船越 鳴/Chase→ 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】



「ひゃっほおおおい!綾瀬さんからのデートのお誘いきたこれ!」

じん、じん、ジンギスカーン!と陽気に歌い出す鳴のテンションは絶好調。嫌な感情は全て譲渡したおかげであり、その効果は偉大。現にこのマシーンアーム共をコントロール不能にした。逃げ腰鳴の性格は見事に自身のCOAとマッチしており、有効活用している。これで落ち着くかと思えば安心できないヘヴンリートレイン。新たなパワーワード『ルカボス』が舞い降りてきたのである。車両一つ軽々と持ち上げて。おいおい、どこのアンドロイドだよ。


「ぎょえええええええ!!また変なのがきましたよ!迅くんも寝てるし!知らない女の人もいるし!相変わらずシンイチくんは眼光鋭いし!怖すぎいいい!」

またしても恐怖テンション襲来。相変わらずの騒がしさは最早自警団一といっても過言ではない。しかし、その後である。ルカボスことルカはニヤリと嫌な笑みを浮かべた後、その車両を匡へとぶん投げた。あんなもの当たれば即死。それも無残にも潰されて。そんな匡を間一髪で救出したのは綾瀬だった。そう、愛しの綾瀬の腕に抱かれる匡。


「えええええええええええええええ!まさかの綾瀬さん浮気者おおおおお!」

およよよと悲痛な叫びを上げる姿は、かの有名なムンクの叫び改め鳴ちゃんの叫び。貨物車両の屋根は吹っ飛ぶは、あちらさんお遊び感覚だわと苦難すぎる任務。

そこへ響くーー轟音。

ルカ目掛けて放たれた“それ”は先程ルカがやったのと同じ車両一つ分の鉄の塊。見事にルカに直撃したその後方で……ゆるりと佇むは、泣く子も黙る鬼。


「その誤差100000分の1で今日がおまえの墓場だ」


漸く追いついた鬼太郎。車両全員を気絶やら骨折やらで再起不能にしたその鬼の目に写る次のターゲット。同じアンドロイド、否ーージュリアーノと同じメモリアルアンドロイド「ルカ・ウィンチェスター」。


「あれくらいじゃ潰れねえだろ、おまえは。さっさと出てこい」


普通ならば仕留めたところ、しかし相手はあのルカ・ウィンチェスター。冷たく言い放ち、外を駆けるジュリアーノに目配せして距離を測る鬼太郎。デッドヒートの予感がする貨物車両。またもや車両をちぎられた痛みで叫ぶまこ田兄妹。そんな騒ぎは前方の運転室隣の車両にまで轟いていた。


【若草 吾大/Chase→ 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】

「なんか騒がしないか?」

「ドンパチしてるんだろ。おい、余計な真似はするなよ。アンドロイド共がどうなろうが、俺たちは仕事をするだけだ」

「わかっとるわ!このクソ髭!」

まこ田兄妹の悲鳴はここ運転室隣の車両にも届いている。貨物車両とはまだまだ随分と距離があるが、ここまで響く音に眉間に皺を寄せる吾大を冷たく諭す小慈。二人は動かない。ただこの車両にある荷物「細胞具現解(ニュートライザー)」を死守するための人員。いざとなれば、ここから後ろの車両を切り離す所存。しかし、それには見極めが重要である。


「いつになったら切り離すん?」

「緊急事態レベルのことが起きると予想したらだ」

「その予想を明確にすんには後ろの車両の状況確認が必須やんな?」

「……おまえがどうなろうと知ったこっちゃないぞ。お前の亡骸を置いてでも仕事を続けるだけだ」

「勝手に殺すんやめや!車両切り離されたって俺には関係あらへんわ!おい、羊ども!おまえらもメーメー鳴くんやめや!」

ふんっと鼻息荒く、まこ田兄妹にも矛先を向ける吾大。手には吾大専用の特大ホバーボードを抱え、その行動に呆れてため息をつく小慈。

「さっさと確認して戻ってこい。お嬢の命令を違うなよ」

「わかっとるわ!お嬢の命令は絶対やからな!」

小言を零すお母さんに反抗する息子の様に言い返した吾大は車両のドアを開けて、そのままホバーボードへ乗って上空へ。上から見渡せば、車両の一部の屋根がないことに気づく。更にはなんだか燃えてる最後尾車両。ガスマスクからもよく見える悠々と燃え上がる炎に、あーあーとめんどくさそうに呟きながら……その顔はニンマリしている。この阿保も大概おかしい。おかしいから、そう、おかしいから……そのホバーボードは動き出す。近づく貨物車両。


「おーおー、こりゃまた大勢やな。あんたらのお目当ての宝探しにしちゃ、随分劣勢やんな」

車両よりも高い位地。上空からの言葉。その高さはだいたい三階建ての高さくらいだろうか。ここまできた阿保な吾大だが、さすがの極道。むやみやたらに近づくことはない。普段とは違うダークスーツに顔を覆うガスマスクで吾大の顔は相手にはわからない。ましてや、赤羽の者だと確信する者は同じ極道でも難しいだろう。それだけ普段の甚平姿が印象的なのだ。

「ちんたら宝探ししとってもええけど、ゲームにはタイムリミットがつきもんやからな?」

それは貨物車両のダミーの荷物を指し、立ちはだかるルカを指す言葉。そしてーー小慈による車両切り離しのタイミングのことだ。さてさて、宝に辿り着く者はいるのだろうか?


》トレインAll

1ヶ月前 No.213

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★mbC91aBHcA_b2e

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1ヶ月前 No.214

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=ZIzAEpImxr

[ヒトは私のことを鉄屑と呼びます]

[きっとそれは正しいのでしょう]

[だって]

[他でもない私自身がそう思っているのですから]


[時系列:忘れちゃいました]
[自律思考型対サイバー犯罪用人工知能/CHIYODAエリア 霞ヶ関/自警団本部入口→自警団 サイバー犯罪対策部門オフィス]


「……牛追いの時にLANケーブルでも投げて捕まえていたのですか貴方は」

 知っているとも、と返す相手に苦笑いを見せながら皮肉でも言ってみる。
 メモリアルアンドロイドは元々、人であるためか、アンドロイドという名称を持ちながらどこか人間らしさを感じることがある。感じると言っても自分は根っからのアンドロイドのため、膨大な量のデータと彼を照合した結果そういう結果が出ただけだが。

「合同捜査……」

 カウボーイの言葉を小さく復唱する。彼女が在籍しているサイバー犯罪対策部門は言ってしまえば『餅は餅屋』状態であり、コンピューターネットワークやネットワークプロトコル、電子空間を介した犯罪を一身に受けている。
 他の部署が彼女達の仕事が出来ないように、彼女達も現場での仕事は出来ない。そこを上手く補い合いながら動いているのだ。

 だが、通信設備や各部で使う備品の修理等を「機械に強いから」という理由で押し付けられることもあったり、時代が進むに連れて犯罪も電子化が進んでいったりと仕事量が増えているのも事実であった。閑話休題。

 言ってしまえば合同捜査自体は初めてではない。犯罪者集団の基地をGPSで発見しては現場のメンバーに連絡を送って向かってもらうことは何度かある。
 だが、今回は現場職の中でもエリートであるカウボーイと東雲南が参加する任務であること。そしてその説明が両者を交えて一緒に行うこと。この二つが彼女には引っ掛かる。現場から依頼が来て調査を行い、情報を送り返しては現場が動くのではなく、同時説明。

 何だろうかと小さく首を傾げてはエレベーターに乗り込む。
 一番下の階であるボタンを押すと橙色に点灯してから機械音と共に心地良い圧迫感が彼女を包む。

 扉上部に表示されている数字が変わっていくのを眺めていた彼女は着ていたコートのポケットに両手を入れた。
 すると、何か小さい物が指に当たった。不思議に思い、それを取り出すと掌には一枚のコイン。ふむ、と小さく声を漏らしてはいつ入れただろうかと思い返す。

 あぁ、そうだ。
 昨日を映し出す電子記号の記憶。

 巨大な街頭モニターの中でV字のカチューシャを動かすアンドロイドが印象に残っているアンドロイド用清涼飲料水のCM。
 食に拘りを持たない彼女は昨日の帰り道に見たその清涼飲料水を買ったのだ。するとコラボ商品だったらしく貰ったコイン。因みに全4種あったはずだ。貰った以上捨てるのも、と感じコートのポケットに入れていたのだ。

「……」

 ジッとそれを見つめていた彼女はコインを右手の親指に乗せ、コイントスをするように弾き始めた。控えめに浮いたコインは綺麗に回転しては彼女の親指の上に戻ってくる。それを何度も繰り返す。

 次にコインを少し高めに弾くと右手を解き、手の甲に落ちてくるように変えた。コインが手の甲に当たる瞬間に小さく、だが早く手首を左右に動かして手の甲でコインを転がす。時に手首を返しては手のひらの上で転がしてみたりする。

 今度は右手を少し大きく動かして左手へとコインを移す。左手でコインを受け取った勢いそのままに今度は左手の指の上を通るようにコインを転がす。宛ら悪路を走る車のように波打ちながら移動するコイン。

 小指まで移動し、落ちる寸前の所でこちらでもコインを巻き込むように手首を返すと今度は手のひらを上にした状態でコインが指の上を転がっていく。各指を通る時に指を持ち上げることでコインを少し加速させたりもしてみる。

 二周した時にコインを指で弾くと、今度は右手で同じ動作を繰り返し、二周させるとまだ左手へとコインを弾く。その速度がどんどん上がっていく。

 視線は手のひらやコインを見ておらず、B1、B2と増えていく数字を見つめていた。

 目的の階数に着いたエレベーターから音が聞こえるのと同時に左手の親指から力強くコインを弾くと左手の人差し指と中指でコインを縦に挟んで掴む。



 ──今日も異常なし。



 心中で呟いた。どうぞ、とジェスチャーをする二人に小さく頭を下げ入ったのは戦場、否、職場。
そこにいた一人のアンドロイドがこちらを見つけると鼓膜が破れる勢いの挨拶と共にカップに注がれた飲み物を差し出した。

【おはようございます: レッドスミスVX2105】

 地下深くに造られたこのオフィスでは明るすぎる目に優しくない色合いをした現代風に改造されている振り袖に足袋型白ニーソ。底が厚い草履。この職場にてもう一人のアンドロイド。通称、キワミちゃん。
 普段と変わらない表情を見せ、カップを一つ受け取っては口を付ける。朝一で飲むエナジードリンクは体への良い悪いを別とした場合、少なくともインパクトはある。
 カップを持ったまま数歩移動し、自身のデスクへと置くとコートを椅子へと掛ける。その背中に「あ゛た゛しキワミちゃんって名前あるんだよぉ゛ぉぉ!?」と声が聞こえてくる。このやりとりは何回目だろうか。
 背負っていた鞄もデスクへと置くと朝早く来たのに既に職場にいる上司へと頭を下げる。

「おはようございます。最九里さん」
「あ゛た゛しも名前がいいんだけどぉぉ──う゛え゛っ」

 ニュっと現れる相手の頬を手のひらで押して退ける。勘違いしないでほしいのは名前で呼んだことがないわけではない、というところである。

 オタク部署と陰口を言われる部署の責任者とは思えないラフと言うか、チャラいと言うか、浮いていると言うか。
 特徴的なドレッドへアにこれまた目に悪い発光をするヘアバンド、綺麗に焼けた肌を見せるかのようなタンクトップ。サイバー犯罪対策部門のエージェントオフィサー、最九里 清晴。

 彼に挨拶を済ませた彼女はデスクからキャスター付きの椅子を持ってくると一緒に数本のコードを引っ張って来た。

 一本は首に掛けているヘッドホンをずらして首の後ろに。
 一本は少し服をたくし上げて腰に。
 一本は後頭部に。

 それぞれ挿し込んでから椅子に腰を下ろした。

「よろしくお願いします」





[極愛クヒドー/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街Club「ビッグツイスター」/おたのしみルーム跡→ホール]

 餅名の見事なタックルを受けて転がったクヒドーは天井を見上げていた。
 先日の銀行強盗の時のトマと言い、よく体当たりされるなぁなんてことを考える。

 パッと音の如くチェーンソーが彼女の手から消える。

「楽しい、邪魔されちゃったなぁ」

 ビクリと餅名の体が動く。そんな相手の頭を撫でたクヒドーはゆっくりと立ち上がると共に相手の手も引き、立ち上がらせる。相手の服の砂埃を掃ってはそれ以上何も言わず、小さく微笑んでから周囲を見渡す。
 随分と盛り上がっているのを確認してから服装が随分と変わっている委員長を見つめる。彼女にはホールの盛り上げをお願いしたのだ。ここで話しかけるのは無粋だろう。

「この盛り上がりに私は不要ですね」

 誰に言うでもなく小さく呟いたクヒドーは近くになったバーカウンターへと歩を進めると一つ、椅子を引き、隣に座る人物に一言謝ってからそこに座ってはバーテンダーを見る。

「すいません、ストロングコーヒー使ったお酒とかお願い出来ませんか?私、あれが好きで。あと適当に甘いものを」


 ふと思い立ったエナジードリンク。
 記憶の中に残る数少ないピース。


 バーテンダーは顎に手を添えて少し考える素振りを見せた後にかしこまりましたと一言残して飲み物を奥へと取りに行った。
 頬杖を突いたクヒドーが小さくモニターを表示させる。


「ちょっと冷めてしまいましたし、最近出来てなかったコメント返信とか質問コーナーでもしようか」

 先程までチェーンソーを振り回していたとは思えないほどに、モニターへと向ける微笑みは温かいものだった。




>>周辺皆様

1ヶ月前 No.215

aki @asynchro73 ★sYV7BQwacQ_Ghj

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1ヶ月前 No.216

しどにー @huroga ★Android=kYlzODfWCM

【サギリ/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】

いそいそと現状の安全地帯とも言えるステージの影にたどり着いたサギリは背をもたれ「ふぅ」と一息つき、現状の確認を始める。

まずは有栖川社長だが、特に動きは無いので意識から外す。
空護も変わらずサギリがもたれているステージの上で歌い続けている。……いや何やってんだと突っ込みたいところではあるが、もはや彼は彼の仕事をこなしたのだ。こちらも好きにさせておこう。


"あらグリちゃんお調子悪そうね、お母さん思わず心配しちゃうわそんなだと"

"グリちゃんね、アメリカ人だからこういう言葉遊び得意でしょ。こう、ラップバトル? ね、アメリカ人だから。グリーンダカラ、子宝、北の国から……"

そしてグリセリーナと委員長こと巡星愛兎だが――――


「なんかよく分かんないことになってるわね……」

ラップやら何やらのカルチャーに明るくないサギリだが、愛兎のそれが根本的に間違っているのは分かる。何がとかではなくなんとなく。

「(まぁいいか……それはそれとして、さっきから"あっち"が気になるのよね)」

意識を向けた先は先程グリセリーナがキレた時に最初に爆破した壁の先にあるお楽しみルームと呼ばれた場所だった。



一つ深呼吸をして乱れた息を整えると目を閉じ、静かに副次作用:占星眼を発現する。

騒がしいフロアから隔絶されたかのような、まるで時間が停止したかのような感覚に襲われ、天に浮かぶ星々から周囲の情報を取得する。

「(壁の先には何人か倒れてる男に、アンドロイドが一人……いや二人……他には特にめぼしいものはないか)」

個人で独自にCOAの開発をしてきたサギリにとって副次作用はどれも苦手な部類であったが、占星眼については唯一例外的に得意とし、サギリを中心とした半径30メートル以内に存在する人間を完全に判別するほどの精度を誇っていた。
その精度を壁の先からフロアへ向けた時にサギリに衝撃が走り、閉じていた目を開く。


「伏見夜尋。それに巳華凪摩奈……!?なんでここに!?」

それは、つい1ヶ月前に銀行強盗の現場で交戦した二名の自警団員の名前だった。
絶対に会いたくない。間違っても会ってはいけない者達と同じ現場に居る。そう意識したら心臓が跳ねるのを感じた。
幸いなのは銀行強盗の際にはマスクを被っていた為に顔が割れていない事とあちらがまだこちらに意識を向けていない事だろうか。


「フランソワ。フランソワはどこ……?」

再び占星眼を発現すると。――居た。
ワナビーズの中に紛れて変わらずグリセリーナに対して罵詈雑言を撒き散らしていた。

「フランソワ!」

身を低くしたままフランソワに駆け寄り、名前を呼ぶ。
こちらに気付いたようで視線をこちらに向けたのを確認して続ける

「銀行強盗の時の自警団が居るわ!ファウストを殺った奴と、金庫を追いかけてきた鎌の女よ!」

伝えていると夜尋が動き出したらしく、蹴り飛ばしたローテーブルがグリセリーナと愛兎の間へ落下し、二人の元へ歩む。

"伏見さんッ!!!"

そして摩奈も動き出したらしい。


「こっちに気付いたらヤバいわ。今のうちに退きましょう!」

刻一刻と変化する状況に流されまいと抗う意志を見せる。

>>付近all

1ヶ月前 No.217

わんます @onemass ★Android=nRixlpObtx



 "私はプラットフォームに立ち、列車に片足を乗せている"

 "ニュー・オーリンズに帰らなきゃ"

 "鉄球に繋がれた、足枷を嵌める為に"

 (The Animals - The House Of Rising Sun)



 魂失き、列車と名付けられた巨大な鉄塊。
 その灰色に集うのは、今宵もまた、色とりどりの魂が群。そしてヘヴンリートレインを取り囲む「影」の合間から覗くのは、眠らない町の迸るネオン街。小首に手を添え、控えめに鳴らし、先の一撃の砂埃が未だ立ち込める中――――ふと、ルカが口を開く。

「ところで、だ」
「お前達、この列車が何処に向かっているのか。知らないわきゃあるまい」

 快楽を運ぶ列車の終点とは、言わずもがな快楽の袂、快楽の快楽たる本懐。「CIRCUS HEAVEN」へと脇目も振らずに特急するこの大槍。法の主張、もとい目的は単純である。「目的を、目的へと辿り着かせない事」。

「この羊(アホ)二匹と戯れて、十分経っただろう」
「心配事は尽きないんじゃないか? 」

 "ちんたら宝探ししとってもええけど、ゲームにはタイムリミットがつきもんやからな?"

 上空からの、不敵な笑みを携えた声。
 赤羽組の大幹部たる吾大、そして再び現れた、例の羊兄妹。お互いに両脚が欠損し、啜り泣きながら匍匐している様を見るに、やはりというか、この列車との融合はリスクを伴う荒業だったらしい。

 ひとこと「殺し文句」を残し、更なる仕事を果たすべくして姿を消した男娼。そしてルカへと落ちる影――――「鬼」の膂力による、引き千切った車輌を力任せに叩き付ける「意趣返し」。一見は下敷きとなったルカだが、めきめきと貨物室の鋼鉄をひん曲げ、何事もなく姿を現す。

「法に与するアンドロイドか。殊勝なモンだ」
「そしてお前。今度は上手くいくと思うなよ」

 鬼太郎と迅。二人と対峙し、その余裕は血を求める恍惚が故。列車は未だ爆走を止めず、ギンガムのネオンは刻一刻と迫る。



>>列車ALL




【フランソワ/CIRCUS HEAVEN Westエリア/12番街 Club「ビッグツイスター」】



 場の混迷極める中、漸くサギリに見つけられたちっこいの。敏腕殺し屋、またはその日暮らしのヤリエッティと称されるフランソワからすれば、己の手腕とは即ち金(ビジネス)である。こういうプライベートの場で暴れるなど言語道断。喧嘩自慢の不良でもあるまいし。

「その通りよ。つまりワタシはそう言いたかったワケ。逃げるわよ、チャオ!」

 先程の酔いは何処へやら、ゴキブリ並の速さでビッグツイスターを去る白髪アフロ。顔を突き合わせていた有栖川社長とペットの猿も、お互いにエスケープと判断したらしい。

 いよいよ以て夜も佳境。
 レーザー・ビームの光を浴び、再びステージへと立つクウゴ。ワナビーズの興奮も最高潮となり、足元覚束ないグリセリーナが彼らの波に飲まれ、見えなくなるのに、時間は掛からなかった。



>>ビッグツイスターALL

1ヶ月前 No.218

ゼロ @0xxx0jienx ★iPhone=Ykn6Y6espd

刻々と進む時計の針。時間というのは有限で、その限られた中で何をどうして過ごすのかは己次第。このヘヴンリートレイン内でもそれは変わらない。

獲物をゲットする為に紛れ込んだ自警団員。

それを迎え討つVIPのアンドロイド共。

何かを探る為に果敢にも乗り込んだ乙女。

巻き込まれたにすぎないが目的地は同じ少年娼婦。

それぞれの示す指針は……一つだけ、そう、一つだけ逃しているものがあった。


【若草 吾大/Chase→ 超速特快鋼鎧怪物重輸送列車(チューチューモンスター)ヘヴンリートレイン/歌舞伎町行燈道】

自警団とアンドロイド。その他数名。対峙する両者を上空から我関せず余裕で眺める吾大は、同じく車両屋根にいるまこ田兄妹にホバーボードに乗りながら近づき、そっと耳打ちする。

「おい、羊共。おまえらさっさと融合解除せい」

まあ、吾大なので全くヒソヒソになっておらず、こちらに注意を向けている者ならば聞こえているであろう声量。しかし融合解除をしろという本当の意味を理解できるかといえば、難しいだろう。その真意を読み取るということは、つまりこの貨物車の荷物のダミーに気づき、尚且つ運転室に目当ての物があると気づくもの。そう、車両を切り離されると察したものだけ。

「あのヤニ野郎が俺の帰りを待つなんてありえへんからな。もう少しでさっさ行動を起こすはずや。おまえら、もう痛い思いしたないやろ?」

はぁーっとわざとらしく溜息をついて、いやだいやだとリアクションする吾大。意外にもこの吾大という男は見た目に反して小動物的な者には温情をかける。それは態度や言葉もそうなのだが、本人のオーラが何故だかそういうものを惹きつけてしまうところがあるという不思議部分もあり、今までにも子どもや動物に懐かれる過去があった。この目の前のまこ田兄妹も例外ではない。今回限りの任務だが、その仕事仲間というよりは放ってはおけない小さな子どもという認識。

だからこそ、下のドンパチには混ざらず声をかけた。まこ田兄妹が吾大の言うことを聞いて融合解除をしたか定かではないそんな数秒後ーー


ーーーーガタンッッ


一度大きな音がした。そう、たった一度。その一度が、この現状の全てを変える一手。


「あいつ……やりやがったな」

その声色はイラついているというよりは、どこか楽しげでーー分かるものには音だけでわかる。わからないものはそれを見れば理解する。見ないものは、遅れて気づく。


「ちょっ!!綾瀬さん!前、前!!列車!進んでますよ!!」

焦る鳴の声を皮切りに、そちらに目を向ける者達。変わらぬスピードで悠々と走る列車は2両。運転室とそのすぐ後ろの車両のみ。後の部分は取り残されて無残にも重量に逆らえず、止まることもできず動き続ける。制御もきかない車両。このままでは壁にぶつかるまで止まらない。いや、それよりも……もし、下にでも落ちれば、被害は尋常ではない。


「ーーっっ!なんてことをしやがるんだっ!!」

こちらはまだ何人も乗っている。人の命、アンドロイドの無事を自警団である鬼太郎は、自分勝手なプライドのために捨て去ることはできない。停めなければならない。そう判断するのはコンマ数秒。その僅かな時間で鬼太郎はルカと迅から離れて線路をバイクで駆ける同胞の後ろに跨った。

「ジュリアーノ!!切り離された先頭車両まで飛ばせっっ!!」

鬼太郎は先頭車両までいき腕力で列車を止める気でいる。それが例え、自身のボディを破壊することになってもーー替えのきくアンドロイドとして自警団に身を寄せる自分の信念。壊れた部分は付け替えればいい。痛みなど、アンドロイドなのだから感じるはずはない。赤いオイルはとめどなく流れるかもしれないが、本当の赤い液が流れないのなら、それでいい。自己犠牲?笑わせる。人間の代わりに人間のできないことを実行する。それが、アンドロイドの使命なのだから。


》トレインAll

14日前 No.219
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