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青い心臓、ブルーキュラソー色の地下水に沈む/2

 ( オリジナルなりきり )
- アクセス(1566) - ●メイン記事(46) / サブ記事 (96) - いいね!(14)

青い心臓×トラジコメディ @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


 波の音なんか聞いたことがない。若者の苦し紛れの言葉に、運転手は笑うだけだった。


「よせよ。お前、知らないのか? 人間の形してりゃあ誰だって雇うような組織だぞ?」
「知ってますよ。でも、おれの夢なんです」
「引き返すなら今だ。グラムに入った後、帰って来なかった奴を三人知ってる」
「おれは、うまくやる。それで絶対に、のし上がる」
「……何処までだ? これが最後だ。送ってってやるよ」
「西区域の、アパート。104号室の女を殺らなきゃいけない」
「それ以上は喋るな。五分後には俺らは敵だ」


▼104号室は呪われていた。

「ねえ、青い心臓のユメを見せて?」


 目が覚めると、真っ暗の部屋の中、シマウマ模様に光り続けるテレビの容赦ない明るさに目を細めた。シマウマが上下に行ったり来たり、悪あがきみたいに点滅を繰り返す。わたしが人間であった頃、そこに映るのは異国の楽曲を延々と流す放送が流れていたはずだった。最後に聞いた曲は、わたしと彼が愛していた曲だった。フィール・ラヴ。ありきたりなラヴソング。夕食の後、八時二十三分になると、彼はいつもその曲を口ずさみながら踊るのだった。それは彼の癖でもあったし、一種の××みたいなものでもあった。それから、諦めきれない夢でもあった。
 何十年も前に流行った歌姫の姿を真似て、キスするみたく唇を突き出しながら妖艶な手先をひらひらと振って、彼女になりきった顔で意味も知らない歌詞を唇に乗せて形作る。

 わたしはもう、人間ではないけれど。彼が舞台に立って踊る姿が見たかっただけの、寂しい人間の女だったけれど。
 スポットライトが大好きだった彼は、よく電球を買ってきた。偽物の明かりを買ってきた。だからこの部屋には、四十二個の裸電球が天井から吊り下げられている。一番低い物は、わたしの身長と同じ高さだった。わたしは、赤いルージュを引いた後で、彼と同じ身長の電球にキスを落とした。かつて人間だった、ケモノからの愛情表現。


▼人間に、戻りたい。

「夢を語るな」
「夢を語るな」
「夢を語るな」
「夢に食い殺される」

▼「泳いでごらん。泳ぎ切ってごらん。青い血を、流してごらんよ」


「……そう、地下水路に?」

 その少女は、ワンボックスの後部座席に埋もれていた。天井は、ポニーテールヘアーの少女の頭よりもずっと高い。遠くで緑色のネオンがふてぶてしく輝く様も、少女の目には届かなかった。雨粒に反射した縦長の光を遠目に見て、少女はわざとらしく溜め息を吐く。

「ちゃあんと始末できたのね、彼」
「ですが、あれじゃあ素人同然だ。二度目はなくていいでしょう」
「……で、水の色は?」
「ドブ色のままでした」
「じゃあ、誰かが好きでやったことにすればいいわ」

 少女が退屈そうに両手を組んで頭上へ伸ばす。それでも、まだ天井は高かった。

「ねえ、それ、ビークマークのつもり?」

 運転手が胸元に置いた手を慌ててハンドルへと戻した。

「また持ってきたんでしょう? それ、世間じゃとっても気持ち悪いことよ。マトモぶったところで、所詮あなたと私たちは同類なのよ」

 少女が、躰を乗り出す。運転手を目隠しをするような手つきのせいで、わずかに車輪がセンターラインからはみ出した。窓硝子越しに危険性がないことを確認した後、少女は運転手の胸ポケットから赤く染まったハンカチーフを取り出す。それから、舌を出してうへえと唸った。運転手がハンドル操作を誤ることはない。ただ、少女の丸い肘が首筋に触れた時、苦手な物を食べた時みたいな顔をした。


「やつらは夢を吸収する。そういう映画、観たことない?」


▼これは、青い心臓を、巡る話。


【違法ドラッグ「青い心臓」を巡って、様々な組織や個人が対立しながら「夢」を叶えよう・壊そうとするお話です。
 続きはサブ記事で行いますので、興味を持たれましたら足を運んでくださると嬉しいです!】

切替: メイン記事(46) サブ記事 (96) ページ: 1

 
 

始まり @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


 ▼ 開幕


 104号室は、呪われていた。
 その部屋の住民は、最初にその部屋で眠ってから半年と八日後には無残な死体となって見つかることと決まっている。例外なく、その前もその前だってそうだった。だから、その部屋は余所から来た者がよく借りている。そして、今回もそうだった。今回の住人は、若い男女。男は未だ日の目を見ないアーティストで、女の方は大通りのカフェ店員だった。二人が仲良さそうに手を繋いで歩く姿も多数目撃されており、恐らく恋人同士であったと推測される。×月×日の事件当日、女の死体は腹部にへたくそな射創を二つ付けたままで、隣区域の地下水路にて上半身を沈ませていた。少し遠くでは、片方だけになった左の耳が寂しそうに片割を探そうと彷徨っていた。それから、男の死体は部屋の納戸にて、まるで獣に食い荒らされたような傷跡をつくったままで収められていた。

 そして、この呪いには続きがある。
 例の部屋は規制線によって外界と切り離され、警察組織から派遣された三名が現場の警備を担当していた。しかし警備から二日後の明朝、警察官三名の死体が104号室から見つかることとなる。狭い中で銃撃戦が繰り広げられたのか、壁や床にまで弾痕が届き、盾として使用された家具も同様に周囲に木屑を散乱させていた。また、口紅で壁に描かれた三つの文字は、その下のタイルから皹が入れられ判別が不可能な状態となっていた。バスタブの縁に付着した青い粉末についても、塗装ごと剥がすようにして鋭利的な物で根こそぎ剥ぎ取られていた。そのバスタブの下からは、半壊した銃器が見つかっており、鑑定の結果その型が三週間前にグラムに送られた大量の武器の中の一つと一致したと報告された。
 警察官三名の躰には、それぞれその型の銃器に使用される弾丸による射創が幾つか付けられていた。犯人は未だピキーナオルヴァ内を逃走中と考えられる。


 ――情報を取る者、盗らぬ者、それぞれに平等に最初の夜が訪れた。


【只今より、本記事を解禁したいと思います!】

2ヶ月前 No.1

皇 朝陽 @coffeedrop☆Tohc/3veYiU ★1QFq6tTJ18_eQW

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2ヶ月前 No.2

花戯らぴす @lapis12☆4NUzRRaRYiw ★iPhone=vaUwG0CLgh

【ドギー/西区路地裏→】


 暗い路地裏に、一筋の金の光が走る。軽やかな音を置き去りにして障害となりうる木箱や捨てられた鉄パイプを飛び越える様子は人間というよりは獣に似ていた。息を荒らげながらも口元は弧を描き、気紛れに後ろを振り向けば追っ手数名と自分から流れる血の跡が点々と。角を右に、左に、粗末な脳を使って追っ手を撒こうと試みるも目敏い彼らは血の跡に気付き手負いの獣を確実に追い詰めていた。
 金に卑しいこの獣は背中に浴びる怒声を聴きながら、そういえば借用書だなんだと言われ署名欄にサインをしたなぁ、と最悪の事態に陥ってなお呑気に考えてた。何一つ理解はしていなかったし、何一つ頭に残ってはしないけれど、紙切れ一枚が証拠となって合法的に眼球を狙っていることは分かっていた。臓器売買をしたのはまだ記憶に新しい。肺と腎臓を片方ずつ売り、煩わしかった借金取りを黙らせた。今だって眼球でなければ大人しく手術台に乗り上がり、吸入麻酔薬を肺の隅々まで行き渡らせていただろう。しかし眼球は、ドギーにとって唯一無二のものだ。闇の中でも爛々と輝く金色を己でも気に入っている。渡すならそれ相応でなくては、価値が下がるというものだ。

 借金取りに雇われた男に殴られ蹴られ、走り回ること数十分。煙草やクスリの影響に加え、元々体力や筋力のないドギーは喉から出る音の異常さに気付いた。身体の中を酸素が巡っていないせいか道がぐにゃりと歪んで見える。あと少しすればまた曲がり角に突き当たり、そこを右に曲がると少しばかり一通りの多い目立つ道に入るはずだ。気を抜けば縺れそうになる足をとにかく持ち上げ、一歩、一歩と前へ足掻く。夜とは言え路地裏の狭まった閉塞的な暗闇とは違う、月の明かりが差し込む場所へと突き進む。
 手を伸ばし、煉瓦の壁に爪を引っ掛けた。遠心力を利用する形で勢いよく曲がり、誰か都合の良い人間――出来れば借金を肩代わりしてくれて尚且つ今日大負けしたオレに明日カジノに行くための金をくれるような奴――に出会えないかと心の隅で願いながら急に差し込んだ冴えた月光に目を奪われ、前を見るのを一瞬忘れていた。

「ぅ、っおあ!」

 ドギーの声に注目が集まる。大きな道ではないとはいえ、転がった林檎を踏みつけ前のめりに盛大に転け、疲れ切っていたのと咄嗟のことで受け身が取れずごろりと転がったのだから目立つのも仕方ない。背中を地面に打ち付け一瞬息が止まるも、咳き込んで壁伝いにまた歩き出す。逃げねえとマジでやべぇ、と思った瞬間に雨が降ってきた。それも、赤くて芳醇な香りのする雨。
 見上げればちょうどドギーの真上にある窓から伸びた手がワインのボトルを持っており、酔っ払っているのかそのボトルの口は真下を、つまりはちょうどドギーの頭を狙っていたのだ。頬を滑る赤い雫を舐め取り、濡れた髪をかきあげる。大きく裂けた口元を縫うリボンも濡れて元気なく垂れていた。溜め息を吐くも笑みはそのままで、くはっと小さく吹き出してずるりと壁に背中を預けて座り込む。投げ出した足はもう立ち上がってくれそうにない。

「こんだけ運悪けりゃ負けるのもトーゼンだな……クソ、ヤんなるぜ」

 好奇の目を向ける人々は頭からワインを被り、血が僅かに混ざった赤い水溜りを作る男に声をかける様子はない。こちらに近付いてくる今日で散々聞き慣れた怒声と足音に気付きながらも逃げる気力はもうなかった。というよりは、面倒になったのだ。眼球売ったらお釣りくんのかなあ、とやはり金のことを考え、コートの胸ポケットにいれた煙草を取り出すと当然のごとくそれは濡れていた。チッ、と舌打ちし、濡れたタンクトップ越しに上下する胸元を撫でながらもう一つ、溜め息をつく。
 道行く人々の囁き声には殺人犯、逃走している犯人、などの言葉が含まれているが既にドギーの頭は次のギャンブルで占められ気付くことはなかった。

>>ALL


【本編開始おめでとうございます、すごく楽しみにしていました! 西区の路地裏を抜けてどこかに辿り着いたドギー(血とワインを添えて)です。ぜひ気軽に声をかけてくださいませ。楽しくて嬉しくて、長ったらしくなって申し訳ないです。これからよろしくお願いします……!】

2ヶ月前 No.3

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=LUtXGUBCy4

【ギャビン・シルヴァーナー / 西区「ヘルヘイム」】

 一度目の咳は、丁度その報せを耳にした時だった。

 外の世界は夜。だが、地下にあるヘルヘイムでは太陽がどこに登っているだとか、月の満ち欠けは全くもって意味をなさない。欲望、そして夢が渦巻くこの城には、黒い悪魔が居るという。その悪魔の真の正体を知る者は、手で数えられるほどしかいない。不思議なことではない。客は皆、自分のことで精一杯で、他人に関心を持つ者は少ないのだ。何匹か嗅ぎ回っている鼠が居るようだが、真相に辿り着いた幸運な鼠は、恐らく、まだ、ゼロ。
 今日も静かに賑わうカジノの片隅で、そのオーナーであるギャビンは、煙草を片手にマスクに取り付けられた受信機の周波数を弄っていた。レヴのカウンターに繋いで合図を送ると、ノイズ混じりに流れ込む情報。警察官三名殺害事件の犯人は、顔も覚えていないようなグラムの二人組だという。だがその名前には聞き覚えがあった。早々に受信機のスイッチを切り、深く、息を吸う。肺が上げる悲鳴が心地よい。

「馬鹿なヤツラ」

 吐き捨てた言葉は、紫煙と共に天井に登っていく。そして二度目の咳。大して思慮深くもなく、言うことの聞けない馬鹿な仲間はいらない。いや、そもそもグラムの人間を仲間だと思ったことは無い。それどころか、未だかつてギャビンには仲間と呼べる存在はいなかった。仲良しごっこは無意味だ。信頼には価値がない。人は死ぬ時は独りなのに、仮初の愛で孤独を埋めるのは憐れだ。
 手元の灰皿に灰を落とす。駒にすらならない無能な構成員は何人居ても意味が無い。癌は早めに治療すべきだと思っていたが、自分から切り離れていったことは嬉しい誤算。今回の件についてまだボスの判断をあおっていないが、きっと自分と同じ考えだ。そんなことまで予想出来てしまうのがまた腹立たしくあるのだけれども。

「犬が、サン匹……」

 火種を撒き逃走した馬鹿な犬、凶暴な飼い犬、勝手に上がり込んできた野良犬。静かに煙を吐き出す。動物を殺すのはシュミじゃない。何故ならオレは慈悲深いニンゲンだから。一人嘯きほくそ笑んだ。そうだ、夜の散歩に行こう。髪をかきあげる。
 灰皿で煙草の火をにじり消し、噎せながらフィルタをマスクにはめ込んだ。骨張った長く細い指、白磁の肌。髪と同じように漆黒に染まった強膜と、血のように赤い虹彩。黒曜石の中にぽっかりと紅玉が浮かんだような瞳で、気だるげに店内を見渡した。此処は、ギャビン・シルヴァーナーの城。

【ひとまずギャビンはヘルヘイムスタートにします!居座るよりは、外に出ようと思っているので、絡んで下さる方は夜のお散歩デートに行きましょう!それでは皆様、宜しくお願いします】

>>ALL

1ヶ月前 No.4

テラ @skyfall12☆l3fAFLxpXTw ★Android=wj8oYSwHFt

【 ガブリエル・キューブリック/北区教会→ 】


 青い夢を見る。きっとそれは蕩けて素晴らしく甘く、とても美味しい誰かの部位を煮込んだスープだ。きれいな夢を煮詰めて、聖なる晩餐に神へのお祈りと共に捧げよう。

 ぱちり。音がする程くっきりと目を開けて、ガブリエル・キューブリック司祭は束の間の休息から目覚めた。昼間は信徒たちが神についての思考に沈んでいた教会堂も、今では閑散と閑古鳥が囀っている。ステンドグラスには濁った外の景色が映され、講壇にも澱んだ青い明かりを落としている。嗚呼、と気怠げに喉を鳴らして、ガブリエルは祭服の袖で口を拭い、神父を証明するローマンカラーを乱暴に外した。白い筈のそれはなぜか赤茶けていた。
 講壇には底が深いスープ皿が置かれている。中には赤黒く染まった、強烈に血腥い何かが注がれていた。所々に筋肉のような、繊維のような白い塊がプカプカと浮かんでおり、ガブリエルは「おっといけない」と呟いて、スプーンでそれを掬って頬張った。

「うーん、hallelujah! 俳優志望さんだからでしょうか、顔の筋肉が締まっていて美味しいです!」

 まるで三ツ星レストランの最高級ディナーのメインディッシュを食しているかのように、ガブリエルは満面の笑みを浮かべ、あっと言う間に皿の中のものを食べ尽くした。そして椅子から立ち上がり、自分のすぐそばにうつ伏せで倒れている男の死骸の後頭部を優しく撫でた。

「愛しい愛しい新米の坊や……あなたの夢はとォっても美味しかったですよォ! ウフフフ……って、もー何ですか、こんな時に電話なんて」

 死骸の首筋に赤々と残ったビークマークを撫でながら暫し口の中で肉を味わっていると、無粋な着信音に興を削がれた。ガブリエルは若干不機嫌な顔で、教会堂の一番後ろの席に設置されている固定電話の受話器を取った。電話の相手は教会と癒着しているグラムという闇組織の組員だった。

「ハアーイ、こちら北区教会でございます。おっと、ええ、そうですか。逃亡者……成程、はい分かりました。お助けしましょう! 何たって人助けですからねえ、いえいえ、ウフフフ! 照れますねえ、では!」

 鼻歌交じりに電話を切り、ガブリエルは教会堂を不格好な歩き方で抜け、入口に設置されている鏡台の前に立った。その瞬間、ガブリエルの陽気な表情に陰りが出来た。その愛想の良い面は、顔半分が焼け爛れたおぞましい姿だった。ふう、と溜息を吐いて壁に掛けてある外套と黒頭巾、帽子、手袋を身につけ杖を手に取る。
 勢いよく扉を開けると、ガブリエルは『逃亡者』の特徴を聴き忘れた事に気づいて歩みを止めた。

「あーー! …………まあでも、神様が導いてくださいますよね! さあレッツゴー!」

 威勢の良い掛け声に、何も知らぬ近所の住民は「あらあらもう夜だってのに神父様はお元気で何よりね」と顔を綻ばせるのであった。

>>All様


【 解禁おめでとうございます!
 初っ端からぶっ飛ばしているガブリエル参上でございます。この後逃亡者を無計画に追いかける感じです。よろしくお願い致します! 】

1ヶ月前 No.5

ブロッサム @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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1ヶ月前 No.6

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【アシェル/東区/路地裏】


 今朝アシェルが目覚めた場所、それはとある弱小マフィアのアジトだった。いつ何が目的で拉致られたのか、そしてどうやって此処まで運び込まれたかは謎であったが、粗末なパイプに上半身を荒縄で括り付けられた体勢のまま、右目の視界を奪おうとするほどの流血によって、そういうことかと冷めた様子で決定付けていた。埃っぽいこれまた粗末な部屋の中で、アシェルと監視役と思われる三人の男と目が合う。誰一人としてその顔に見覚えはなかった。欠伸をするアシェルに狼狽えながらも、どうやら三人は首謀者である彼らのボスを待っている様子であった。――さてと。アシェルは一人首をごきりと鳴らす。睡眠は十分取った、後は動くだけだった。喧嘩を売る相手は選んだ方が良いと、駄犬共を躾てやらねえと。両肘を外に開くように関節を鳴らせば、荒縄は簡単に緩んだ。こんなクソみてえな拘束じゃあ、ガキでもすり抜けられるだろうよ。
 パイプ椅子から立ち上がってしまえば、三人の男は簡単に怯んだ。負け犬らしく態度は合格だが、これじゃあ教育にはならねえ。銃口を向けられるよりも先に、アシェルは一番右に立っていた男にパイプ椅子を投げる。と、同時に男は壁まで吹っ飛んで行った。二人の男がその様子に鳥肌を立てている隙に、真ん中の男の顔面に助走を付けて振り下ろすようにして拳を入れる。左の男と目が合った。泳がせた目は、手元の拳銃に向けられていた。白目も黒目もよく動きやがる。撃ってみろよ。そう言いたげにアシェルが両手を広げると、ややあった後、不格好な発砲音が響いた。

「…………ヘタクソ」

 左手の前腕を掠めた銃弾を見て、アシェルは口角を吊り上げる。粗末な仕事ぶりに見合った最期をくれてやろうと、足元の荒縄の端を引っ手繰るように拾い上げて、震えた手で拳銃を握ったままの男の首を一気に締め上げた。少しして、かくりと落ちる感覚がした。荒縄と拳銃と一緒に、男の躰が床へと落ちていく。
 鉄パイプの下で伸びた男の隣に、アシェルが普段相棒としている鉄パイプは立てかけられていた。敵のエモノまで運んでくるとは律儀なこって。鉄パイプに手をかけた瞬間、部屋の外で足音が聞こえた。――ボスか? 咄嗟に身を屈めると、案の定その足音は部屋の前で止まり、不用心にもドアノブが回される。おいおい、マジかよ。半笑いのままで立ち上がっては、ちょうど目の前の磨硝子には、自分よりも低い人影が一つ。腰を入れながら鉄パイプをフルスイングしては、短い悲鳴だけが聞こえた。振動で蝶番が緩まり、軽く足で蹴るだけでドアごと廊下へと倒れていく。

 それから鉄パイプを振り下ろすこと暫く。ボスであろうその男も、気付けば既にもう潰せる箇所がなくなっていた。


 手当たり次第にアジトを荒らし終え、それに飽きて外へ出る頃には時刻は夜を示していた。
 東区、寂れた映画館のちょうど真裏の路地裏。この辺りはアシェルの所有する縄張りとは異なるが、この地下水路周辺はアシェルの好きな場所であった。地下水路には、偶に面白い物が落っこちていた。アシェルの立ち寄ったこの間はゴムのチューブ。その前は腰部だけの遺体、そのもう一つ前は中身の詰まったドラム缶だった。さっき通りかかった時は、前に背泳ぎをキメこんでいた人間の耳はもうなくなっていた。路地裏を煉瓦の壁に沿って歩きながら、時々引きずる鉄パイプの先が窪みや小石に引っかかる。その度に金属音が跳ねた。――いや、さっき引っ掛けた白ェのは骨か。
 下げていた視線を上げ、ふと鼻を鳴らす。後方から此方へ向かって、忙しそうな二組の足音が響いてきた。ちょうど、アシェルの真横を二人の若い男が通り過ぎようとして――その内の一人が盛大に転んだ。否、アシェルが伸ばした鉄パイプの湾曲部分が男の首に引っかかり、そのまま体勢を崩すようにして背部から地面に付いた。ひひ、とアシェルが喉を鳴らす。もう片方が何事かと盛大にすっ転んだ方の男を振り返るが、アシェルと目が合った瞬間に気まずそうな表情を振りまいて、そのまま前を向いて駆け出した。金髪の若い男だった。もう一度アシェルが鼻を鳴らす。においは、したが。――こっちじゃねえかもしれねえな。まァ、どうでもいい。まず、最初はこいつ。次はさっきのクソガキ。それだけだろ。
 転んだ男が薄汚れた地面に両手を付いて立ち上がろうとするのを、左足を蹴飛ばして防いでやる。常人の目はこの暗闇では対応できないのか、急に現れたように見えたアシェルの靴の先を見て、男が喉をのけぞらした。


「…………違ぇナ……間違エた」

 打撲痕だらけになった男を、爪先で転がしてうつ伏せにさせる。血液のにおいの主張を差し引いても、さっきまで確かにあった例の「ヤク」のにおいは消えていた。鉄パイプを杖にするようにしてしゃがみ込み、男の右耳に付けられたピアスを一瞬で引きちぎる。本日の戦利品。シルバーの髑髏マークの重量感のあるピアス。これがいつか役に立つ日がくるだろうと、アシェルはいつものようにポケットへと押し込んだ。中には、前回の戦利品も押し込めたままになっていた。思い返せば、グラムの飼い主にはここ何日か連絡していない。面倒事になる前に戻るか。鉄パイプを引きずりながら、冷たくなった男から踵を返した。

>ALL
【よろしくお願いしますー! シトリーの方は何方かのALL文に絡ませていただこうかなと考えております!】

1ヶ月前 No.7

皇 朝陽 @coffeedrop☆Tohc/3veYiU ★1QFq6tTJ18_eQW

【 アシュリー・カラム・ディーリアス / 西区「ヘルヘイム」 】


 駒の二人がなにやら騒ぎを起こしたらしい。巷では一連の猟奇的な殺人事件の一部として噂され、警察もその筋で動いている。首の皮一枚でつながったとでも言えようか。しかし、いくら大きな組織といえど独断での犯行はあまり許されたものではない。幹部達は、ボスは、彼ら二人をどこまで許すだろうか。そんなことを考えながら、薄らと口元に笑みを浮かべる女が一人。
 西区にある雑居ビルの地下、会員制のカジノ「ヘルヘイム」。薄らと口元に笑みを浮かべる女はそこにいた。艶のある鮮やかな淡い薄紫色の髪を揺らしながら、どんぐりのような澄んだ蒼色の目で辺りを見渡す。せっかくの休みだというのに職場に来ることになるだなんて、アシュリーは小さく溜息をつきながら、その人を探した。

「……ちょっと、そこのあなた。オーナーがどこにいるかご存知かしら?」

 声をかけたのは同じ従業員の男。その男はアシュリーを見るなり、怪訝そうな顔を彼女に向けた。休みであるはずの彼女がなぜここにいるのか、そう聞きたいのだろう。しかし、彼はなにも問わず「オーナーだったら……」と辺りを見渡し、彼女が探す人物を指差した。アシュリーは一言お礼を言えば、再び歩き出す。わざとらしくヒールを鳴らしながら、彼の目の前で止まる。

「随分派手にやったわね、お父様から聞いたわ。……ギャビン、あなたこれから時間あるかしら?」

 アシュリーは貴重品が入る程度の小さなカバンから煙草とジッポーを取り出し、煙草に火を点ける。ふうっと吐き出した煙はふわふわと辺りを舞い、やがて空気の中に消えてゆく。その煙にちらっと視線を向けつつ、ここヘルヘイムのオーナーであるギャビン・シルヴァーナーを見つめる。


( 早速アシュリーでギャビンくんに絡ませていただきました! ぜひぜひ、夜のお散歩デート連れて行ってください……! )

>>ギャビンくん、ALL

1ヶ月前 No.8

シルヴァ @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【シルヴェストル・オウィス/西区メインストリート】

 賑わい始めた西区の中央通り。その大通りの建物沿いを控えめにシルヴァは歩いていた。女性に見紛うほどの華奢なシルエット。少し寒そうにニットの袖口を軽く引っ張って、手の甲辺りまで覆う。
 シルヴァの昼の仕事は北区にある喫茶店の店員だった。裕福な主婦に洒落た学生、それからビジネスマン。少なくとも生活に困窮しているような人間が訪れることはない。にこやかにコーヒーを淹れて茶菓子を出し、ときに他愛もない雑談を交わす。それが日中の時間潰し。けれどもう日は沈んだ今、あんなきれいな場所に用はない。ネオンの妖しい光が散らばる大通りを見渡したシルヴァは、ふと足を止めた。見知った影を目にしたからだった。喫茶店の常連客――レイ、とか言ったか。喫茶店に足繁く来店するような身綺麗な人間にあまり興味はないが、彼は別だった。警察官というのもあるが、それ以上に不穏な香りをレイは漂わせていた。彼自身は繕っているつもりなのかもしれないが。

「あっこんばんはレイさん、偶然ですね。……あっ、えっと、ボクはルヴォワールの、」

 店外でレイに会うのは記憶している限り初めてだった。白シャツにエプロンといういつもの出で立ちではないことを気にしてか、勤め先の店名を口にする。自分が知る限り彼はボンクラではないはずだったが、万一の保険をかけるように、シルヴァは困ったような笑みを添えた。

>レイヴィスさん、all
【本編開始おめでとうございます。レイさんのもとに行かせていただきました。よろしければお相手お願いします。】

1ヶ月前 No.9

白露 @sayu325☆SBcHdOFmAwY ★CBCRcA8YIU_pcO

【マリー/西区メインストリート→西区路地裏】

 月の光を打ち消すほどの電燈が灯る西区の大通りは、マリーにとっては昼間のようだった。
 きらきらと輝く人工物の集まりは賑やかで、華やかで、気持ちが昂る。
 ここまで人が多いとアルビノである白い髪も、透き通りすぎる肌も、ルビーのような瞳も好奇の目に晒されない。町を歩く人は酔っぱらったり自身の世界にのめり込んだりと忙しく、通り過ぎるだけの人に対してそこまで関心をもたないのだ。

「グラムで金髪の男……さすがに絞るには情報が少なすぎる」

 ぽつり呟いて、周りを見わたせばそれこそ金髪の男など溢れるほど居た。

 耳に嵌め込んだイヤホンから聞こえてくる声は、グラムの構成員のものだ。随分前から携帯の電波をジャックして、盗み聞きをしている。
 何でも屋をしているマリーには、少なからず世間的にはよろしくない依頼が舞い込む。今回の依頼は「犯人を見つけて殺した後、頭部を持ってきてほしい」という、明らかによろしくないものだった。依頼人は被害者の縁故らしいが、両親なのか友人なのかは知らない。ただ報酬が 魅力的だったから引き受けることにした。
 さて、問題はグラムを出し抜いて犯人の頭を持ち帰ることだが、これが難しい。この街は大袈裟に言えばグラムの街だ。それこそ構成員はそこらにいて、誰もがグラムを知っている。出し抜ければ気持ちいいが、失敗したときの竹箆返しは考えるだけでそら恐ろしい。
 どうしたものかと慮っていると、一際大きな声が響き、思わず振り返ってしまった。
 そこには、前のめりに転び、咳き込み、しまいにはワインらしい何かを頭に溢されている哀れな男がいた。漫画のような光景に思わず吹き出してしまいそうになるのを堪える。
 周りの人々も何事だと足を止めて野次馬をするが事態は厄介らしく、男は複数の人間に取り囲まれてしまう。人々のさざめきは「殺人犯」「例の逃亡している人」など聞き逃すわけにはいかない単語が含まれていた。

(――グラム、かしら。まさか犯人ってあの人?)

 遠目だと金髪なのかどうか曖昧だ。しかも赤ワインで薄汚れて尚更である。近づこうとしたところで、不穏な空気をぶち壊してもう一人が乱入する。
 さながら王子さまのような登場だ。
 が、活躍する暇を与えずに、取り囲んだ男は鉄パイプを躊躇いなく振り下ろす。鮮血が飛んだ。道行く人々や野次馬をしていた人々が動揺し、かかわるのは御免だというように足早に散っていく。

「金髪、」

 マリーは、物陰に身をひそめて乱入したプラチナブロンドの髪を眺めた。思わず、太股の携帯したガーターナイフの存在を確認する。
 現場はここから近い。可能性は――、ある。


>>ドギーさん、ブロッサムさん、周辺all様


【 本編開始楽しみにしておりました!
 しばらくお二方の様子を遠巻きに観察させていただきたいです。どうぞよろしくお願いします】

1ヶ月前 No.10

@bbrainbow☆arv480hPsCY ★iPhone=3FA2LTrqvX

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1ヶ月前 No.11

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シトリー・デュコーズ/北区/警察署→教会前】

 静かな警察署内。響く靴音は俺一人だけ。
 ――件の続104号室事件。誰の差し金かは知らねえが、単純に好機だと本能が感じ取っていた。遅かれ早かれ事は動かす予定だったが、此処にきて予想外の好機が訪れた。それならば、利用してやらなければならない。署内のほとんどの奴等は出払い、後は頭ン中に叩き込んだシフト表の面々にさえ気を遣えば自由に動き回れる身だった。単なる猟奇的事件にしちゃあ人手の割き方に疑問を感じるが、俺が実際に足を使うのは弟の情報があると確信があった時だけ。後は、持っているヤツから奪えばいい。

 書類を脇に抱え、地下への階段を下りる。見回りの交代はあと二十分は来ない。それに加え、今は“先輩”も署内にはいないから、時間にはかなり余裕があった。地下に広がる留置場は中央の通路を挟んで左右に檻が設置されている。突き当りの、向かって左側の檻に目的の人物は収容されていた。俺の足音を覚えるほどに調教されたそいつは、かつて俺自身が手錠をかけたヤツだった。――此処へ異動してきた最初の週に、俺はくだらないミスを仕出かした。今思い出しても、焦るあまりその時の俺はどうにかしていた。署内に置かれている全国民に関する書類データを洗おうとした矢先、管理の杜撰さに甘えて後片付けを怠ったのがいけなかった。あっさりと“何者か”が侵入したと署内ではその話題で持ち切りになっていた。で、俺が直々に外でスカウトしてきたのがコイツだった。何度か檻の中で可愛がってやったら、今ではすっかり自分を本当の犯人だと思い込むようになっていた。

 伸びきった黒い髪の男。鉄格子を蹴り飛ばすと、そいつは両手で頭を押さえて蹲った状態から、ゆっくりと顔を上げた。

「東区域、このアパートに見覚えあるか?」

 そいつは昔、東区域をテリトリーとする売人だった。写真を見せては、震えるように小さく首を縦に振る。

「いいか、正確に答えろよ。このアパートが取り壊されたのはいつだ?」

 蚊の鳴くような声が八年前の月日を答えた。手元の書類に視線を落とす。――書類には、三年前に取り壊されたと無機質な文字で記されていた。わざと沈黙を作っては、男の見せる反応を愉しむ。
 俺はこの男を試していた。未だ信頼するには値しなかった。だが、今回の件で、こいつにもう一度チャンスをやることにした。東区域のそのアパートは、かつて俺が家族と暮らしていた場所だった。兎小屋みてえなその小さいアパートが、八年前に取り壊されていたことも知っていた。この男は正しい。この署で作成されたデータは、これで一気に信用できないものであると証明された。それに、八年前に取り壊されているのならば、恐らく弟は既に住処を移している。

「上出来だ。こっちに来い」

 男が上目遣いに俺を丸い目で捉えた後、左右後方を気にしてから、ゆっくりとした動作で鉄格子まで近付いて来た。笑顔の俺に安心したように表情を緩めた瞬間に、その暑苦しい髪を掴み上げてやる。

「次は、東区域で起きたお前の知ってる事件を洗いざらい吐いてもらう。それまでによォく思い出しとけよ」

 ひゅう、とか細い喉を鳴らしながら、男は何度も頷いた。此処で一番目ぼしい情報を吐くように脅すこともできるが、それを直接言葉にして語るにはリスクが大きすぎる。ぱ、と手を離しては、床に崩れ落ちる男に踵を返して地上階を目指した。途中で持ち出した書類をシュレッダーにかけることも忘れずに。一度やったミスは繰り返さない。それが新人に課せられた仕事だ。


 さすがにこの状況でいつまでも署内に留まるのは避けたい。ホワイトボードの自分の札の隣にに外回りの文字を書き足しては、ジャケットを羽織って北区域を回ることにした。
 実はこの辺りはあまり詳しくない。怪しいと睨む箇所はいくつかあるが、どうも得体の知れない圧が纏わり付いているような気がしていた。下手に動かない方が良いと本能が告げていた。正直、104号室事件の逃走者の情報は流れてきてはいたが、どうでもよかった。ただ、それに乗じて他の情報を得ることができるだろうとは踏んでいた。漸く目の前の道が、見知った景色へと変わってくる。この辺りは、確か。そう歩みを進めていた時だった。
 前方から、勢いよく閉まる扉の音が聞こえた。それから、聞きなれた声を捉える。角を曲がった先、そこには見覚えのある人物の背が見えた。

 ――ガブリエル・キューブリック。北区域の教会の神父を務める男だった。初めに他人の弱みを掴もうと懺悔の盗み聞きを目的として教会に踏み入れた時から、その興味は一目見た時から神父であるその男へ移った。見る限りでは信仰心こそは本物であろうが、容姿だけでなく随所から見える所作や目付きからは、単なる神父で片付けられるような者ではなかった。上手くいけば未知の情報を引き出せるような、そのような気がしていた。

「神父サマ? どうも。こんな時間からお出かけですか?」

 余所行き顔を貼り付けて、大柄な黒い背中へと声をかける。その問いに特に意味はなかった。だが、探る価値はあると勘が告げていた。


>ガブリエルさん
【募集の件、ありがとうございました! さっそく絡ませていただきました、よろしくお願いします!】

1ヶ月前 No.12

テラ @skyfall12☆l3fAFLxpXTw ★Android=wj8oYSwHFt


【ガブリエル・キューブリック/北区教会前】


 教会の前で「さてどちらに行きましょうかねえ」と顎をさすり腕を組みながら考えていると、ふと背後から声をかけられた。声をかけられるのはまあ珍しくはない。大抵それは挨拶であったり、青い心臓の催促であったり、マインドコントロール済みのドリーマーからの愛のある追跡、つまりストーキングであったりする訳だが。これは珍しいと引き裂くような笑顔を見せて、ガブリエルはカソックの裾を摘まんで惨たらしく優雅に振り返った。

「おやおやどなたかと思ったら! シトリーさんではありませんか! こんな暮れにご機嫌よう。ええ実は少し用事がありましてねえ、神の僕として人助けに従事せぬ訳にはいけませんよねえ? シトリーさんもとってもお仕事熱心で尊敬致しますゥ! ウフフフ!」

 一息で全て言い切ると、ガブリエルは息を切らしてゼエゼエ笑った。頭巾と帽子のせいで強調される色違いの目が、シトリー・デュコーズという男をゆらりと見つめる。特徴的なスパイラルパーマと粘度の高い猫目、何より笑みの端に覗く二股の舌が印象に残る、ピキーナオルヴァの警察官。愛想が良く、教会にも通っていると言っていい程来てくれるので、ガブリエルの中では中々の善人にカテゴリ分けされている。だが彼は、教会の信徒でもなければつまみ食いの出来るドリーマーでもない。それは警察官という職業の人間が見せる特有の隙の無さであったり、ガブリエルの勘から来る「まだ狙い時ではない」というお告げのせいだ。
 ああ、とってもスリリングで魅力的ですねえ。
 そんな気持ちを隠して、ガブリエルはシトリーに視線を合わせながら、「でもねェ」と勿体ぶって眉尻を下げた。

「もっとお話ししていたいのですが……これから伺ってディナーをご馳走する方はとってもせっかちな方でしてねえ、茫々動き回っているものですから、お腹も空かせているでしょうし。早くお会いして神様の愛を届けて差し上げないといけないのですよ」

 ほらこれなんですけどね、懐から魔法瓶を取り出す。中身は『俳優志望の男の顔面入りスープ〜コンソメ仕立て〜』な訳だが、本人はまるでシチューが入っていますよと言わんばかりに普段と変わりない表情を浮かべていた。

「シトリーさんにも今度差し上げましょうか? 料理が趣味なのは良いんですが、つい多く作りすぎてしまって困ってるんです。神父が残飯を多く出すのも思慮に欠けますし、いつも信徒の方々やホームレスの方に配るのですが……どうですか? 今度ディナーでも」

 大抵が聖餐で捧げられた『焼けた生け贄』だけれども。勿論、具材は明かさない。けれど、ガブリエルは料理の腕には自信があった。それに少し不健康そうなシトリーも心配だ。あくまで誠実で献身的な善意からくる無償の愛というやつだ。少なくともガブリエルはそう信じている。
 また、よくよく考えてみればシトリーとの遭遇も神様の思し召しかもしれない。その焼けただれた顔を黒頭巾越しでも分かる程歪ませて、ガブリエルはシトリーの返答を待った。

>>シトリーさん


【 絡みありがとうございます!
 よろしくお願い致します! 】

1ヶ月前 No.13

皇 朝陽 @coffeedrop☆Tohc/3veYiU ★1QFq6tTJ18_eQW

【 レイヴィス・オズボーン / 西区メインストリート 】


 噂というものはいとも簡単に広まるもので、すれ違うマダム達は口々に一連の猟奇的殺人事件の話をしていた。次はどんな住人が例の104号室にやって来るだろうか、犯人は一体全体どんな人間なのだろうか、あの人が怪しいなど、よく飽きもせず同じ話ばかりできるものだ。人の不幸は蜜の味、その言葉を体現しているマダム達をレイヴィスはすれ違いざまにちらりと見る。自分や周りの人間が被害に遭えば口うるさく喚くくせに、赤の他人だと面白おかしい噂話に早変わり。噂ほど恐ろしいものはないのかもしれない。そんなことを考えながら、メインストリートを歩いていると、ふっとある人物に声を掛けられた。

「――? ……どうも、いつも美味しいコーヒーを淹れてくれる店員さん、ですよね?」

 怪訝そうな表情でその声の方へ振り向けば、そこには常連の喫茶店の店員がいた。確かシルヴァと呼ばれている店員だったはずとレイヴィスは記憶の引き出しを漁る。ルヴォワールの外で会うのはこれが初めてで、仕事着姿ではない彼はいつにも増して新鮮だった。レイヴィスは軽く会釈をしながら自分の記憶に間違いはないか、彼に確認する。

「噂話は聞きました? 猟奇的な殺人事件の噂話。あまり遅くまで出歩かないほうが良いですよ」

 レイヴィスはシルヴァにへらっとした笑みを向ける。一日中人通りがあり、夜も眠らないメインストリートは少なからず安全かもしれないが、事件が起こったのも同じ西区にあるアパートなわけで。警察官としてなのか、レイヴィス自身の正義感からなのか、ふっとそんな言葉が零れた。


( 絡みありがとうございます! スタートからシルヴァくんと絡むことが出来てとても嬉しいです……! )

>>シルヴァくん、ALL

1ヶ月前 No.14

花戯らぴす @lapis12☆4NUzRRaRYiw ★iPhone=vaUwG0CLgh



【ドギー/西区路地(移動開始)】


 ……死にたがりの、バカが来た。
 目の前の金髪に赤が散る様は、芸術に馴染みのないドギーにうつくしさを感じさせた。
 ワインを被って赤く染まった当人とは異なり、金色を染める赤は純粋な血液。その姿になってなお立ち上がって笑う彼に投げかけた言葉は、助けられた身に相応しくない悪態だった。血濡れの妖精となったブロッサム・ハザリーの言うヘルヘル星とはカジノ、ヘルヘイムのことだろう。そこのオーナーと言えばドギーが金を度々借りており、色々と、本当に色々と世話になっている人物である。できることなら金以外のことで彼に借りを作りたくはない。
 ぐ、と眉間に皺が寄ったのはオーナーの笑見が脳裏を過ったからである。この状況でのブロッサムの笑い声は、ドギーの心境を知ってのことだろう。普段はどちらかといえばブロッサムのことをからかい遊んでいる立場としては身体的にも、精神的にも遊ばれ見下されるようで現状が面白くない。腹部に手をやれば血が吹き出す感覚はなかったので止まったのだと勝手に判断する。鈍い痛みを感じながらも立ち上がりワインと血で濡れたタンクトップを引っ張って顔に付着したワインを拭えば、金色の目を愉しそうに細めてブロッサムを見る。

「アンタが勝手に出てきて、勝手に鉄パイプにぶつかったんだろ。そのままをクソオーナーに言えばいい。オレのせいにしようとしてもムーダ。オレは少しも悪くねェもん」

 アルバイトとして働くブロッサム、金を強請りギャンブルで散財する客である自身。何かにつけてヘルヘイムのオーナー、ギャビン・シルヴァーナーはブロッサムを贔屓するところがあるが、今回に限っては完全にブロッサムの自業自得である。オレに非はひとつもない、と助けられた立場ということはすっかり頭から消え去り、ブロッサムが怒られる様子が浮かんではンくく、と口に笑いを含ませた。
 するりと猫のような仕草で近付いては赤く染まった金髪を一房手に取る。そのまま指を滑らせて白い肌に描かれた赤いラインまでなぞる。まるでキャンバスに絵を描くように、血で遊ぶ。静かな周囲に視線を向ければ、いつの間にか男たちは後ずさって随分と離れていた。この状況で笑い合う男が二人、それは気味の悪い光景だろう。

「この売れっ子絵本作家センセーサマから金調達するから、今日は帰ってくんねェ? コイツ殺したら、マジで金ないし。眼球もこのままだとワインでイカれて使いもんになんないよ。そしたら困るのアンタらだろ」

 きゃらきゃら、逃げていたときの切羽詰まった顔はどこへやら。余裕そうに首を傾げれば男たちは追い詰めることなく暗い路地裏へと戻って行った。ドギーの言葉など信じてはいないだろうが、鉄パイプをくらって笑う奇妙な男と対面したくないのでは、と考えてはドギーは笑いを止められなかった。邪魔者はいなくなったし、さっさと『ヘルヘル星』に行こうぜ、と。おそらく、ヘルヘイムと言おうとして噛んでしまったであろう間違いを揶揄うように口にした。この姿でヘルヘイムに行ったときの他の従業員やオーナーの反応が楽しみだ。

 それともうひとつ。こちらを窺う視線の主。追われることに慣れているドギーは視線にも敏く、それが好意的でなければ尚更嗅覚がはたらく。ヘルヘイムと名前を出さなかったのは、揶揄う意外にこちらの情報を渡さないためでもあった。借金取りの仲間か、ブロッサムの過激なファンか、もしくは血に染まった男二人を襲おうとする強盗か何かか。確信が持てない以上下手に刺激しても良いことはない。上品な雰囲気のブロッサムはもちろんのこと、修羅場を幾度も潜り抜けた野良犬も喧嘩は弱い。ならば様子を見るしか手段はなく、ヘルヘイムまで無事にたどり着くしかない身を守るすべはない。運が良ければ、ブロッサムの保護者のような存在であり、無駄に力の強いオカマがいるだろう。この姿を見ればアルバイトであるブロッサムは保護されるはず。そこにドギーもちゃっかり着いていけばいい。さすがに蹴り出されることはないだろう。否、そう思いたい。

「さて、『ヘルヘル星』はどこかなァ。右か左か……それともお空にでもあんのかなあ?」

 にやにやと視線のことを気にしながらも普段と変わらない笑い方でブロッサムを見る。前頭部を切ったせいで流血は派手だが傷自体はそう深いものではないのだろう。髪や頬を触りながらそれを確認すると視線の主とブロッサムの間に入り込む位置に並び、彼の腕に自身の腕を絡めて歩き出す。
 様子見と考えるも、向こうが手を出すならばドギーだって大人しくしているつもりはない。トレッキングブーツに仕込んだナイフは、飾りではないのだから。


>>ブロッサム、マリー、ALL



【絡んでいただいてありがとうございます! ブロッサムさんに傷がついてしまったのが本体としては心が痛むところです……。マリーさんの存在に気付きつつもとりあえずは様子を見ておりますが、ぜひいつでも声をかけてくださいね。ヘルヘル星……いえ、ヘルヘイムへと向かうべく足を踏み出したドギーですが引き止めてくださっても全く構いません。口が悪い犬をよろしくお願いします】

1ヶ月前 No.15

ジークムント @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジークムント・ヒュギエイア/北区セントルカ総合病院→北区住宅街】

叶わない願望ならば捨ててしまえ。
また今日もそう言って、僕は人の夢を壊した。
医師を志す青年だった。自分と同じ道を志す若人を本当ならば応援し背中を押してやりたかった。けれど、そうすべきではなかった。人には神によって備えられた本分というものがある。タレント或いはギフト、つまりは才能であり賜物である。我々人間は、それを活かし此の世に於ける使命を全うしなくてはならない。彼か天より与えられし使命は、少なくとも医道では無かった。青年は理想通りにいかない現実に、努力しても報われることのない結果に、自分は無力だ駄目な奴だと心を病んでしまった。……然うではない。君は何においても駄目なわけじゃない。偶々この道が合わなかっただけだ。まだ道は幾らでもある。君はまだ若い。まだ選び直しがきく。一つの固定観念に囚えられ、一つの強迫観念に駆られているのなら、立ち止まり遠くから自分を見つめ直してみるのです。君にはまだ救いがある。だから。
「分かりましたか。……叶わない夢なんて、初めから見ない方がマシなんだ。わかったら今すぐその馬鹿げた願望を捨てなさい。現実を見なさい。これが最後の忠告です。……君のため、なんですよ」
……叶わない願望ならば捨ててしまえ。傷付くことのない楽な道を選べ。ユメなんか、見るものじゃない。

そうやって押さえ込み捻じ曲げた治療が功を奏したらしい。今日全く別の進路が決まったと、律儀に診察室まで報告に来た青年は初めて出会った時の顔とは別人のように晴れ晴れと輝いていた。憑き物が落ちたようだった。無謀な夢は時として重くのし掛かる憑き物になる。いや、下手をすればそれよりも厄介な魔物になる。けれど、僕に壊されたあの青年の夢はその持ち主からも忘れ去られてしまう。ドリームキラーに夢を壊されたドリーマーは、元々の夢に関する記憶の一部を失い、別の夢に書き換えられる。三度目ぐらいの診察の時だっただろうか、彼が初めて「おれ、先生みたいな医者になりたいんです」と言ってくれたことも、おそらく忘れてしまう。その後何度も、普段傾聴の態度を崩さない僕が呆れて止めに入っても尚熱く語り続けた理想の医師像の話も、無責任に忘れてしまう。それだけは少し寂しい気がした。


ーー「ねえ、ジークってば」

不意に呼ばれた気がして、僕は今日一日の仕事を振り返る回想の旅から現実に引き戻された。無機質な白い部屋。空間を四角く切り取る壁には妻と二人で映った写真や、妻の実家の家族写真、一緒に旅した外国の風景の写真、それから花瓶の花や彼女のお気に入りの本や雑貨が飾られている。僕が来るといつも消してしまうラジオ。机の上には届けられた新聞。思った通り……監察医を兼任している他科の医師が死体検案に当たったという例の男女殺害及び警察官殺害の事件が掲載されている。知ってる? とベッドの上の妻から心配そうに身振りで問われ、僕は首を横に振っておくことにした。この事件はただの殺人事件では無い。絡んでいるのは触れてはいけない組織とおそらくは、関わってはいけないオソロシイモノ。エデンの園の、善悪を知る木の実のようなものだ。人が触れるべきでは無い。知っていたとしても、関わりたくもない。

おしごと、忙しかったの?
と、妻はいつものように小さなスケッチブックに万年筆を走らせた。僕の妻は、三年前に声を無くした。金糸雀の囀るように愛らしかった声をまた聞くことができる日は来るかどうかわからない。……いや、本当はもう来ない。更に昔から病気がちで、今もセントルカ総合病院内科病棟に入院している。職場である精神科と同じ敷地内だから、僕は毎日診療が終わると妻の見舞いに行く生活だった。面会時間のことは大目にみてもらえるので、このソファに寝泊まりして当直室横のシャワーを使いそのまま出勤することも多々ある。

「そんなに、疲れて見えたかい」

毎日会っていると誤魔化せないな、と溜息まじりに言うと、妻は笑って鏡を僕に向けて差し出した。なるほど。そう言われるのも無理はない。灰色の髪の白い部分は明らかに増えているし、目の下の隈は濃くなって顔に疲れが滲み出ている。随分と老けた。なんだか年寄のようなのに、鏡の中からこちらを睨む冷たい三白眼の視線は陰気に粘り、気味が悪ささえ感じた。久しぶりに見たら、蛇のようだ。全然良い医者の顔をしていない。
随分根暗そうな旦那さんですね、と僕にしては特大級の冗談を言って手鏡を返してやると、妻はもっと笑って僕の頬を撫でた。僕は、そんな妻になんとか救われている。

「今日はね、この前終診だった男の子が御礼を言いに来てくれたよ」

その時、時計が短いアラーム音を立てた。
今日は妻が食べたがっていた林檎のタルトを予約しておいたのだった。有名店だから普通に仕事帰りだと購入できないために、驚かせようと思ってとった手段だ。少し待ってて、と言い残し、僕は病室を後にして病院からは少しだけ距離のある北区内の西洋菓子店に向かうことにした。座っていたソファの上に偽善者の白衣を抜け殻のように捨て、古びたカーディガンを羽織った。

急ぎ足で階下へと降り、夜間出口から外に出れば、面はすっかり暗くなっていた。夜風は少しだけ冷たい。
駐車場を抜け街灯の間を縫って行くように歩いていると、昼間の青年のことがまた思い出される。一人になると何度も何度も自らの行いを内省してしまうのは、悪い癖だ。
僕のしたことは、僕のしていることは、本当に正しいのか。
僕は、あの患者を本当にちゃんと救うことができたのか。
僕、ジークムント・ヒュギエイアの夢は『出会った人みんなを救うこと』。例外はあってはならない。誰一人残らず、全員助けられるようになりたいんだ。

これで良かったんだ。
そう自分自身に言い聞かせる毎日。
間違ってはいなかった、これで僕はあの人を救えたんだ。
そう言い聞かせなければやっていられない毎日。
あの青年も、医者にならなくて良かった。医者になんてならないほうがいい。況してや、僕のようになんか。

>all様


【大変遅くなりましたが、二役目・ジークムントの初投です。こちらはall文で出させていただきました。ケーキ屋さんに行くと言いつつしばらくうろうろしていると思いますので絡んでいただければ幸いです!】

1ヶ月前 No.16

ブロッサム @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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1ヶ月前 No.17

ふぁすね @yupihiko☆d.mPOva7Vfg ★iPhone=nKOHuLPp3t

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1ヶ月前 No.18

@bbrainbow☆arv480hPsCY ★iPhone=obd4aq0LAn

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1ヶ月前 No.19

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

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1ヶ月前 No.20

アントワネット @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【アントワネット・フォン・ヴィルヌーヴ/北区移動中】

 陶磁器販売会社オルタンシア、そこの自社ブランド製品以外の買い付けは、少なくとも先代からは社長自らと彼に選び抜かれた少数精鋭が行っている。代々受け継がれた審美眼が如何程のものかは売り上げを見れば何となく分かるが、裏を返せばそれはつまり、重役の長期出張がザラにあるということだ。今だって社長は「ジャパンとチャイナの茶器は素晴らしいんだ!」と言って出ていったっきり、もう二週間も帰っていない。
 そんな時こそ、慈善事業要員の副社長の腕の見せどころなのだが。
 朝からありとあらゆる書類を代決し、堆く積まれた仕事の山が三文の一ほどになった頃、終業のベルがなった。皆が帰り支度をするのを見届けてから、オルタンシア副社長たるアントワネットも大きく伸びをしてデスクを離れる。
 今日は朝から家を空けてしまったから、子供たちの好きなアップルパイでも買って帰ろう、なんて。

 オートロックのオフィスを社員証で通り抜けると、北区のメインストリートの裏側に出る。正面玄関はその通りに面しているのだが、従業員は大人しく裏口を使えという事らしい。そのことには全く以て不満も異論もないのだが、それとは全く別のところでアントワネットの気に食わない所が一つ。
 目に入るのだ、この位置からだとどうしても。何なら、どう足掻いても近くを通らなければならないのだ。悔しいことにこの世界の何処にでもあって、何処にあろうとアントワネットを苛立たせる、彼女が秘かに滅ぼしたいと願うモノの僕の家が。
 一歩一歩と足を進める度に、アントワネットの顔付きは険しくなる。嘗て亡夫にその目がこれ以上恐ろしげになることはないだろうと冗談混じりに言われたこともあるが、そんな事態は往々にしてあった。今日はその前に胡散臭い司祭が立っていないことをせめてもの救いとし、アントワネットは足早に大通りへと戻る。
「ああ……――なんて居なくなれば良いのに」
 それは、彼女が幼い頃から抱くユメ。

 今年で10歳になる娘がご所望のアップルパイは、最後に焼き上げたらしいものが一つだけ残っていた。他にもあるはあるが、あとは予約だという。運が良かったですねと笑う店員に曖昧に返し、バターとシナモンの甘い香りが白い箱に閉じ込められるのを待つ。店の名前がプリントされた可愛らしい紙袋はアラフォーが抱えて歩くのは躊躇われる程だが、子供のためと思えば悪くない。
 入ってきた時と同じドアベルを鳴らして外に出ると、辺りはもう暗くなっていた。
――……そう言えば、殺人犯が今も逃走中なのだっけ?
 昼間オフィスで見たニュースが、ふとアントワネットの脳裏を過った。しかし彼女の立場上、それがどうした、だから何だと開き直るしかない。ただ彼等は彼女の眼鏡に叶わなかったので、憐れだとは思う。
 所詮彼女も同じ穴の狢。ピキーナオルヴァとは突き詰めればそういう街だ。今日も何処かで人が死ぬ……それはきっと塵芥の落ちるように無慈悲で当たり前のこと。
「う、わ」
 そんな物思いとも呼べない思考に耽っていたアントワネットは、幾らか進んだ辺りで前方の何者かにぶつかった。それを理解した瞬間に取り敢えず守ったのはケーキの箱で、結果として盛大に尻餅をつくことになる。
「……済まない。少し、考え事をしていた」
 大事には至らなかったので平静を装い、謝罪がてら相手を見上げれば、長身痩躯のグレーの髪の男性がいた。

【遅くなりましたが本編解禁おめでとうございます。いきなり色々やらかしまして申し訳ありませんm(__)m】

>ジークムントさん、(リリアーナさん、)周辺all

1ヶ月前 No.21

テラ @skyfall12☆l3fAFLxpXTw ★Android=wj8oYSwHFt

【ガブリエル・キューブリック/北区教会→】


 104号室の、痛ましくも幻想的であり、非現実的であり、しかしガブリエルにとっては最もリアリティのある事件。新鮮な肉を食べ損なう原因となった事柄である。グラムの飼い犬としてあくせく働く事には特に不満は無いが、お粗末な逃亡者を捕まえるのは手間が掛かる。かつて自分も逃亡者だったからよく分かるが、窮鼠というのは全く侮れない、寸での所で思いも寄らない力を発揮する。手強いと思う反面、ガブリエルはとてつもなく上機嫌だった。ドリームキラーの肉を食らうのは趣味ではないが、『鼠』の肉は食らった経験が無い。ゲテモノをゲテモノと思わず食すのも神の博愛だろう。
 シトリーの謙遜に頬を弛ませる。いや何と、本当に立派な人だ、と。神の愛の前にへりくだる精神、哀しみに身を任せる素直な心! 罪人を導く警官として素晴らしい人格者だ。ガブリエルはそんなシトリーが提案した人捜しの協力に、大きな瞳孔をカメラのレンズさながらに細め、穏やかに首を横に振った。警官を巻き込んでしまっては、グラムからの信頼が地に墜ちてしまうだろう。そうなってしまったら、いくら自由なガブリエルとはいえ、少しばかり身動きし辛くなる。

「それが、その方はとォっても照れ屋な性分でしてねえ……あまり人と関わりたがらないのです。私も最初は警戒されましたが、胃袋こそ神の恵みの最上の器。今では大親友なんです。そんな彼を困らせてはいけませんからねえ。ご好意、申し訳無いです」

 眉尻を下げ、いかにも罪悪感を感じているように低い猫撫で声で謝罪する。だが、考えれば考える程面白い。警官と一緒に逃亡者を捜し、その場で2人纏めて聖餐に招待するのも楽しそうだ。マインドコントロール不足なのが本当に勿体ない。
 更にシトリーはこちらに返答する。まともな物を口にしていないなんて。自分が食事を抜くのを想像して、顔を蒼くする。ガブリエルはコミカルな汗を飛ばして、「それはいけませんよォ!」とビシッとシトリーの眼前に人さし指を指した。

「神様は智恵をパンとして与えられましたが! しかし、人間は生地としてのパンを食す生き物です! いくら忙しくても、食は有意義なのですよ」

 だから、と微笑みながら続ける。

「お好きな時に来てくださいね。神様もあなたを歓迎してくださいますよ」

 そう言いながら、重い外套を翻す。漏れる含み笑いを頭巾を押さえて隠しながら、シトリーに別れの挨拶をする。杖をついている自分を尾行するなんて、警官にとっては簡単な事だろう。それをまこうとは思わない。面白そうだ。故意に誘ったならそれは罪だが、しかし尾行の末となれば事故に変じる。ついて来ないならついて来ないで、ひとりで好きに出来る訳だ。どちらにしても損はない。我ながら名案だと独りごちつつ、ガブリエルはシトリーの出方を待った。

>>シトリーさん

1ヶ月前 No.22

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=BNfgT0fOur

【ギャビン・シルヴァーナー / 西区「ヘルヘイム」→地上】

 ヒールの音はこちらに近づいてくる。だが何者かが目の前で立ち止まったときに初めて、ギャビンは顔を上げた。薄紫色の髪を揺らす女性の、澄んだ蒼い瞳と視線がぶつかる。同じグラムに所属し幹部補佐を務めるアシュリー・カラム・ディーリアス。彼女はヘルヘイムのディーラーでもあった。自分と接点の多い彼女の短い問いに、僅かに眉を上げる。

「……時間ならたっぷりアるさ」

 ガスマスク越し故にくぐもった声は、何処か楽しげで。クツクツと堪えきれない笑いを漏らす。そして煙草に火をつけるアシュリーの動作を、目で追った。蛇のような目。ゆっくりと腰を上げながら、彼女がそのジッポーの蓋を閉じる動作を遮るように片手を伸ばし、自分の親指で閉じた。レザーグローブが、カジノの仄暗い照明を浴びてより一層艶めかしく動く。

「行くぜ、アシュ。ヨルはこれからだ」

 そう言いながら首の丁度イーグルのタトゥーが彫られている辺りに手をあて、ぐるぐると数回を回した。鷲は自由の象徴。地下に幽閉された身で、空に憧憬する哀れな男を皮肉ったそのタトゥーを、ギャビンは存外気に入っていた。続いて徐に腰も伸ばす。何度かポキポキと音が鳴った。
 人をエスコートするのは苦手だった。だが目の前のお嬢様は、自分が歩けば付いてきてくれる。というような、ある種信頼とも言えるかもしれないものをアシュリーに置いていた。勿論、真に人を信じることはないが。
 彼女を振り返ることなく、歩みを進めていく。ヒールとはまた違う、革靴の底から鳴る低い音に、従業員達が目を向けた。目が合った適当な相手に「あとは任せたぜ。今日はカエらねぇ」と声を掛け、『Come visit us again.(またお越し下さい)』と書かれた簡素な掛け看板がぶら下がる扉を押す。カランと小さなベルが鳴った。

 重い足を動かし、階段を上がってようやく地上に出たときに、グレーのロングコートのフードを被った細身の男が、やけに印象的に視界に映って。興味の無い素振りで彼を眺めること数秒後、己の背後を一瞥した。
 手持ち無沙汰に見上げた夜空は、ネオンの煩くて下品な輝きに負けないくらい、煌々たる星と白い月が綺麗だった。そう語り掛けたい唯一の相手は、遥か昔に居なくなってしまった、が。
 そしてひとつ、咳をした。

【絡みありがとうございました!!!そしてスフィくんにも絡んでみました。返信が大変遅くなってしまい申し訳ありません……!よろしくお願いします】

>>アシュリー、スフィ、ALL

1ヶ月前 No.23

ジークムント @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジークムント・ヒュギエイア/北区・住宅街】

冬の夜空は黒く透明。街明かりはその漆色を明く霞ませて、天をまるで宝石を沈めた滝瀬のような色にしていた。星のみ匂うような静寂の中に、昼間の喧騒も煩雑さも小さな後悔も全て溶かして覆い隠す、その冷たくて柔らかい包まれるような安心感を僕は遠い日の記憶の中に知っている。元来寒さというものは環境的因子として人の心に働きかけ孤独感を生む要因となりやすい。故に雪深く閉ざされ日照時間が少なくなると人は抑鬱状態になりやすく、雪国では冬になると自殺者が増えるというのはもはや素人間にも通説となりつつある。寒さ、暗さにすぐに足を取られる孤独で弱小な人間達が、かといってすぐには病むこともなく闇に堕ちることもなく、その厳しい冬の夜の中に温かと癒しを見出すことが出来るのは、そこに光があるからだ。冷たく澄んだ深い水底のような夜空には、深海と違って天からの光がある。希望の光、星灯り。僕はそれを考えるたび、聖書の中のベツレヘムの星の事を想う。救世主の聖誕を告げ知らせす約束の星。その光を待ちわびて、辿り、救いを信じるから、希望を見出すから、人は仮令迷い凍えそうになっても生き抜いて行くことができる。僕は、澪標の星にはなれないけれど、天を仰ぐ心の余裕を失い病める人々に顔を上げさせ、その闇の中に瞬く星がある事を教えてあげることはできる。それが僕の使命だと思っている。

甘い、林檎の焼ける匂いがする。桂皮の良い香りも。考え事をしながら歩いていて、もう洋菓子店に着いたのか。ふと我に返って辺りを見回す。
そんなはずはない。まだ病院から出て幾許も歩いていなかった。買いに行く林檎のタルトは妻の為であって、僕自身は其処までの執着は持っていなかったつもりだったが、あまり想像していると遂にはその香りがしてくるように錯覚が生じるのだろうか、不思議だ。
洋菓子店の代わりに、角を曲がった先に見つけたのは、よく見知った女性の姿だった。

「……リリさん?」

如何してこんなところに、と言いかけてやめた。
彼女、リリアーナ・アイディールは僕の患者の一人である。精神科医をしている僕の元に彼女が他者に理解してもらえない心の悩みを持って来院してきたのはだいぶ昔のことになる。気付けば長い付き合いになり、今ではただの患者の一人ではなく、根暗な僕の数少ない友人のようにさえなっている。しかしそれにしても、彼女が病院の診療時間も終わっているような時間帯に、周辺は住宅ばかりのようなこの辺りで何をしていたのだろう。素朴な疑問が頭を掠めたが、問診でもないのにそのような事を聞くのも野暮だろうと飲み込んで仕舞っておくことにした。
ただ、どうしても言っておかなくてはならないと思うのは、今ピキーナオルヴァを騒がせている殺人犯が逃走中だという事だ。日頃から治安の良い国とはお世辞にも言い難いが、とにかく今夜は仕事の帰り道でも無ければ無用に女性が一人で外を出歩くのは良くない。

「今夜はあまり出歩かないほうがいいかもしれない……一人なら僕が、……」

家まで送ろうかと言いかけて、病室で待つ妻の事が脳裏にちらつく。隣人に親切にし危険から守らなくてはいけないという公を重んじる僕がいながら、けれど一方で家庭という私事を捨てきれない僕がいた。
言いかけたタイミングで何かがぶつかってきたのは、ある意味天の助けかと思うほど幸運な事だったのかもしれない。
その衝撃は、さっきから薄っすらと漂っていた林檎と桂皮の香りを纏って飛び込んできた。

「えっ?」

道の途中で知り合いを見つけ立ち止まっていた僕が悪かった。斜め後ろから何かに押されるようにぶつかられ、驚き振り向いた時にはその何かは声を上げて視界から消えていた。街灯が点々と連なる閑静な通りの奥に目を凝らしても闇が渦巻いているばかりなので内心首を傾げながら視線を下げると、足元に大きめの紙袋を抱えた仕事帰り風の出で立ちの女性が尻餅をついて転んでいた。驚きのあまり、甘く美味しい匂いも一瞬夜風に攫われるようだった。

「だ、大丈夫ですか! すみません…………」

慌てて身を屈め、助け起す。大事そうに抱え守っていた紙袋から、また林檎の良い匂いがし始めた。

「申し訳ない……お怪我はありませんか。御召し物が汚れてしまったのでは……?」

ケーキも、と指し示した紙袋には、これから向かおうと思っていた洋菓子店のロゴが入っていた。不幸中の幸いというべきか、怪我をしてしまっていたら病院に戻って僕が応急処置が出来るし、服にシミがついてしまっていたらちょうど此処にいるリリさんが扱いに長けているだろうから良い対処法を聞くことにしよう。

>リリアーナさん、アントワネットさん


【リリアーナさん、アントワネットさん、絡みありがとうございます!! お返事が遅くなり申し訳無いです……】

1ヶ月前 No.24

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【アシェル/東区/路地裏】

 冷たくなった男を背に、アシェルは路地裏を引き返していた。向かう先は、逃げたもう一人の金髪の男のもと。二人の飼い主からの命令が無い時は、いつも自然に興味の引くものへとへと身を任せていた。金髪の男については、恐らくグラムの方の飼い主と関係がある話題であるのだろうが、アシェルにとってはどうでも良かった。ただ、負け犬の近くには面白い情報が集まることをアシェルは知っていた。鉄パイプを路面に引きずり、たまに面白そうに口角を吊り上げて壁を叩いたりしながら、勿体付けるかのようにゆったりとした足取りで真っ暗の中を進む。八歩ほど歩いた先、アシェルの頭の中にあるのは、今朝見逃した子供向けの言語教育番組のことだった。普段は飼い主の店かどこかでシリアルを頬張りながら視聴するのが日課だった。確か今日は、先週の続きで魚の種類についての放送だったはず。見逃した腹いせに、真横の煉瓦の壁に鉄パイプを抉る様に叩きつける。

「ウさぎピョンぴょんピチぴちさカなー」

 覚えたての言語教育番組の始まりに流れる歌をちぐはぐな発音で口ずさむ。アシェルの記憶の中で、青色の目の大きな兎と二本足の生えた魚のパペットが通り過ぎていった。今日あった出来事を、いつか飼い主に話してみたいと考えていた。けれど言語教育番組のラインナップは、いつもアシェルの興味の的を外していた。兎と魚の日常はいつも平和で、アシェルの語りたい言葉は二匹の会話からは出てくることがない。
 ふと、空気が変わるのを感じた。暗闇の中に、自分とは別の足音が混じり始める。靴音と砂の摩擦音は、軽い。――ガキか? アシェルが鼻を鳴らすと、やや遅れて細い鉄のような血のにおいが鼻腔を追いかけてきた。鉄パイプを握る手に力がこもる。
 そこに見えてきたのは、アシェルよりも随分と背の低い輪郭だった。朧気だったその輪郭は、息を殺して暗闇に潜む間に段々とクリアになっていく。無造作に伸ばされた黒髪の下から覗く眼光に、アシェルは小さな獣を連想した。
 そうして、何事もなかったかのように獣のように自然な動作で少年との間合いを詰めては、不意に鉄パイプを振りかぶり、目の前の頭目掛けて真横に薙ぎ払おうとして――アシェルは相手にぶつける寸前で、手を止めた。ブウンと風を切る音が、暗い路地に溶け込んでいく。

「…………ちガう、お前じャねえナ」

 ぽつりと、聞く者が違和感を覚えるような発音でアシェルはやや口角を吊り上げてそれだけを口にした。それからもう一度小さく鼻を鳴らして、路地の向こう側を向いて目を細める。数人の足音と、まだ真新しい出血のにおいを嗅ぎ取っていた。あの血のにおいの持ち主を狩りたかったのに、と目の前の小柄な少年を無表情で睨むようにして見つめる。――コイツ、誰だ? アシェルはその顔に見覚えがなかった。飼い主から言いつけられたあらゆるリストの中にもこの少年は該当しない。

「……オまえ…………何……?」

 手持無沙汰になった鉄パイプの先を地に下ろして、腰を屈めて少年の顔を覗き込んだ。この国では珍しい、数少ない青いクスリのにおいのしない人間だった。


>Rさん、ALL
【絡んでくださってありがとうございます!】

1ヶ月前 No.25

白露 @sayu325☆SBcHdOFmAwY ★rgfJ8K1WZN_TJc


 鮮血のように頭から滴るワインを気にかけるでもなく、ワインのように頭から滴る血液を気にかけるでもなくーー、異様な雰囲気を纏う2人は民間人ではないと直感が告げた。前者の男はただ絡まれたわけではなく借金か何かの取り立てで自業自得の結果こうなり、後者の男は被虐趣味の持ち主のように見受けられる。しかし、流石に話している内容がすべて拾えるほど近くにいるわけではない。野次馬の輪もなく、黒髪の青年を囲う男たちも狼狽える中、明らかに女らしいマリーが様子を見に行くのは目立ちすぎるというものだ。
 だから、ワインか或いは血のように赤い瞳を細め、マリーは静かに彼らを観察する。
 煤けた橙色をした煉瓦の建物の影、少し覗いた程度では彼らも気づかない死角。微かに彼らの声が聞こえた。

(ヘルヘルセイ……、って何かしら。ヘル・ヘルセイ? 名前、隠し言葉、?)

 ヘルヘイムというカジノを知らないマリーには直感で理解できる言葉ではなかった。小首を傾げ、眉間に皺を寄せる。仮に彼らのアジトやそれに類するものの場合、おいそれと尾行するのも命に関わってしまう。武器はガーターナイフ二本に小さなナイフ。すぐに応援に駆けつけてくれる仲間はおらず、策略なしで乗り込むのは危険すぎる。――だが、あとをつけていく程度なら恐らくどうにかなるだろう。
 どちらも通信機を持っている様子や此方に気づいてる様子でもない。警察からもグラムからも殺人犯に関する有力な情報が漏れてこないなら、とりあえず彼らのあとをつけてみるのも有りだ。
 そう決めたところで、ドギーがブロッサムとマリーの間を遮るように立つ。どきりと心臓が痛んだ、が、視線は此方には投げてこない。完全に場所を把握しているわけではないようだ。獣のように鋭い勘はやはり只者ではない。――そう緊張が走って息をひそめたマリーを他所に、プラチナブロンドの王子様のような件の青年は、薬でもキメたのかと思うほどに高い笑い声をあげてぐるぐると回り始める。
彼はマリーには気づいていないように、見える。しかし或いは、と思考の深みに嵌ろうとしたとことで、突然走り出す彼らによって意識が急速に現実に戻ってきた。

(――まって)

『ヘルヘルセイ』が何かはわからない。殺人犯の手がかりになるのかもわからない。けれど怪しい彼らは可能性があって、見過ごすわけにはいかない。
纏まらない思考のまま追いかけることの危険は百も承知の上で、マリーは走り出す。あくまで、足音はたてず一定の距離を持って。



【 マリーを混ぜてくださってありがとうございます。引き続きこっそりストーキングさせていただております……!
名前を出さずに文章が書けず、ロルの都合上お名前出してしまいました。ご了承くださいませ……。】

>>ブロッサムさん、ドギーさん、周辺おーる様

1ヶ月前 No.26

にのまえ @arinn1111☆0KTbw4aL25Q ★Android=JBfQAhNF8m

【レイチェル・アトモスフィア/北区古書店「シュヴァルツヴァルト」前路地】

 はあ、とレイチェルは溜息を零し、その溜息に撒かれた憂鬱に沈むように顔を伏せた。仕入れ先一つ目、休み。二つ目、休み。三つ目、……ここも本日休業。手に持ったアンティーク調の手帳を、苛立たし気に、音を立てて閉じる。恐らくは自分の勝手な思い込み、間違い。もしくは相手方の申告が間違えていた。三件も間違えるかどうかという確率はさほど高くはない。自分がメモし間違えたのだろうな、と手帳の表紙をゆっくり撫ぜた。先程溜息を吐きつつ見ていたものと同じページを思い浮かべれば、確かに書店の横には本日の日付けが書かれている。

「――、間違えてしまったわ」

 恐れるべきは、その声に多くの感情を乗せていないことか。その表情は確かに落ち込んでいる顔を見せているのに、声だけは、それだけは一定のトーン。かつりと靴の音を鳴らせば、目の前にある家兼自身の店から離れるように歩き出す。元よりお世辞でも客足の多い古書店とは言えない店である。出掛ける前に扉にかけたCLOSEと書かれている板はそのままにレイチェルは教会のある方向へと足を進め、先程まで手に持っていた手帳を布地のハンドバッグに入れた。

「こんな間違いをしてしまうなんて……」

 「わたしも歳ということかしら」、なんて若干十九歳の女が言うことではなく、しかしその言葉に突っ込みを入れる人物も居ないため、レイチェルはその言葉をなんの障害もなく吐き出す。ピキーナオルヴァの闇の一端を担う存在であるにも関わらずレイチェルがそれを知られていない、知られていてもその母数が少ないのは、レイチェルが『そう在ろうとしていない』からだ。最近起きたらしい事件に敏感になるのは、もしかしたらドリーマーを狙ったドリームキラーの仕業かもしれないと思案する故。――思わず足を向けた先が教会なのは、恐らくではあるが、レイチェルの罪を暴くのが神ゆえか。

 かつり、と歩みを止める。目的地である教会は既に目と鼻の先にあるが、それよりも目立って目に入るのは二人の男で、雰囲気からして『そういう話』をしているような不穏を感じるのが現実。闇の一端とはいえその端の端、犯罪などそれ以外に犯したことの無いレイチェルはほぼ一般人のようなもので。

「今日は本当にツイてないのね。……どう、しましょうか」

 結局、その場に留まるしかなかったレイチェル。隠れている訳では無い以上、姿は見えているのだが。

≫周辺ALLさま

1ヶ月前 No.27

テラ @skyfall12☆l3fAFLxpXTw ★Android=wj8oYSwHFt

ガブリエル・キューブリック/→南区総合廃ビル前】

 南区には様々なにおいが入り乱れている。人間の血肉が沸き立ち、汗が迸り、脳味噌が軸から腐敗するような無教養なにおい。最も原始的で、料理で例えるならばジビエだ。様々な薬を狩り、それを有害な毒にするのも自分次第の野生の空間。好ましい。こういう荒野に降り立つからこそ、自由を象徴する神は崇め奉られるのだ。
 通りがけの人々をじろじろと覗き込みながら、件の男を捜す。外見の特徴は全く聞いていないが、しかし逃亡者というものは独特の雰囲気を醸し出すものだ。周囲への警戒から来る不自然な視線の往復、緊張による発汗、挙動不審―――それを取り繕う為の作られた無表情。人間は自分の生理現象をコントロール出来ない。だからこそ隠れようとする。移動とは逃げている自分を世間にさらけ出す行為に他ならず、出来るだけ移動を少なくするには、隠れる事が重要なのだ。そしてこの南区は言うなれば『藁』だ。逃亡者という弱った『葦』にとっては良い隠れ蓑だろう。
 ガブリエルは魔法瓶を取り出し、蓋を開けて中身を啜った。ちょうど肉片が唇に当たったので、スープごと飲み下す。そのまま辺りを見回し、逃亡者の兆候を追い求める。ああ、ここではどんな人間も同じようにしか見えない。ドリームキラーであってもドリーマーであってもジャンキーな煙に覆われて曖昧だ。ふう、と息を吐いて、空を見上げた。

「隠れるならどこでしょうねえ、ウフフ。主なる神はアダムを呼ばれた。どこにいるのか、と。ウフフ、私なら建物の中に隠れますよォ、木の陰に隠れたアダムのように、あるいは弟の血を地面に流したカインのように」

 手頃な建物は南区には沢山あるだろう。廃教会や、二層の地下、またはそこいらじゅうに建ち並ぶ廃墟だ。ガブリエルは杖をついて通りを進みながら、聖書をパラパラとめくる。

「ウフフ、そうですねえ。教会は境になっている場所だ。隠れるにはお粗末すぎる。だからといって地下は危ない。危な過ぎますねえ、ならば廃墟……階数も多く、隠れる場所も沢山あって、うんうん……おや」

 思案しているうちに、魔法瓶も空になってしまったようだ。最後の一滴を飲み干して、ペロリと飲み口を名残惜しそうに舐める。その視線の先に、少し背の高い廃ビルが目に入った。ビルの入口では薬の売人であろう男2、3人が取引を行っていた。躊躇せずそこに割り込むように体を滑らせると、屈強な男は自分より背の高いガブリエルに竦みながらも、ガブリエルの腹にナイフを押しあて物凄い剣幕で脅したてた。ガブリエルは鋭い痛みに呻き、咳き込んだ。

「痛いです、やめてください。ああ、だめですよ。そんなことをしたらあなたを傷つけてしまいます。やめてください、杖は取らな…………、その指! どうされたんですか!?」

 荒くれ者の男は、更にナイフに力をこめようとしたが、ガブリエルの言葉を聞いてふと自分の指を見た。次の瞬間、男は小指が無くなった自分の右手を視認し、ナイフを宙に放り投げた。そのナイフを器用に聖書で弾くと、背後の別の男の胸ポケットに丁寧に入れた。「仲間割れですか!? 彼のポケットにナイフが!」なんて叫びも添えて。背後で半狂乱で喚く男達には目もくれず、ガブリエルは廃ビルの中に侵入した。
 2階へ続く階段を中程まで進んだところで、ロザリオの蓋を外し、仕込みナイフにこびりついた血液を壁に擦り付ける。その動作に続き、壁を抉るように小振りの仕込みナイフを突き立てる。キイキイと刃物と固いものがぶつかる不快な音が響いて、ガブリエルはそれをかき消すように讃美歌を唱えた。

「Hallelujah! hallelujah! …………困りましたねえ、全く。私はあまり血を流したくないのですが。でも安心してください、先程の方の指は綺麗に切り落としましたから、またくっつくと思いますよ。ですが彼自身を堕落させる罪な指は、落とした方が寧ろ神の御心に叶っていたかもしれませんねえ? でも、私とて罪なき方に罪を負わせたのは反省していますよ。彼が怪我をしたら、私が責任を取って手当て致しますとも………ところで、どこにいらっしゃるんですかぁ、出ておいで! パパは何も怖いことなんてしませんよ!」

 仕込みナイフをただのロザリオに戻しつつ、ガブリエルはきわめて優しく逃亡者に呼びかけた。全て善意だとでも言うように。


>>All(逃亡者のモブ)

1ヶ月前 No.28

シルヴァ @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【シルヴェストル・オウィス/西区メインストリート】

 こちらを振り向いたレイヴィスは、初めの一瞬こそ怪訝そうに眉を寄せていたが、すぐにその表情を緩ませた。どうやら身なりが違っても認識してもらえる程度には顔を覚えてもらえていたようで、ほっとする。

「いつも贔屓にしていただいて、ありがとうございます。レイさんは今夜もお仕事中ですか?」

 身長差があるため自然と少し上目に、レイヴィスの顔を見る。喫茶店に現れるときはその表情やコーヒーを飲むペースから仕事中なのか非番なのか雰囲気で伝わってくるが、外だとそうもいかない。レイヴィスと会ったのが西区でよかったと思う。警察官である彼はどんな地区にいようと違和感などないが、自分がたとえば南区の下層にでもいたら、多少なりとも訝しく思うだろう。まあ、あんな場所に行くことは少ないのだが。あそこは貧乏人ばかりだ。クスリなんてそう売れない。

「ああ……なんか、怖い事件みたいですね。ちょっと買い物をしていたら遅くなっちゃって。でも、レイさんお巡りさんだから、こんなに心強いことはありません」

 そう返しながらシルヴァは少しだけ目を細めてみせた。道中も、今だって、うんざりするほど猟奇殺人の話題は耳に入ってきた。けれど、見ず知らずの誰かがどこでどんな死に方をしようが自分には全く関係ない。いや、見ず知らずの誰かでなく知り合い、たとえば目の前にいるレイヴィスだったとしても、大した問題ではないだろう。そんなことを考えていることなど微塵も表には出さず、控えめに微笑みながらレイヴィスを見上げていた。

>レイヴィスさん、all
【遅くなりましてすみません…!】

1ヶ月前 No.29

皇 朝陽 @coffeedrop☆Tohc/3veYiU ★1QFq6tTJ18_eQW

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1ヶ月前 No.30

皇 朝陽 @coffeedrop☆Tohc/3veYiU ★1QFq6tTJ18_eQW

【 レイヴィス・オズボーン / 西区メインストリート 】

 ほっとした様子の彼を見て、レイヴィスもまたほっとする。自分の認識は間違っていなかったのだと。レイヴィス自身、あまり人の顔や名前を覚えることが得意ではなく、近しい人物や親しい仲でない限り、あやふやな記憶をたどって相手を認識することがほとんどだった。しかし、それも失礼な話なわけで。彼はレイヴィスがよく足を運ぶ喫茶店の従業員だ。始めは義兄の悪事を暴く手掛かりになるかと思い、足を運ぶようになったのだが、居心地の良さとコーヒーの味の良さから今ではすっかり常連客となっていた。

「……いや、そんな。利益になるようなメニューを注文せず、長々と申し訳ないとは思ってるんだ。うーん、仕事といえば仕事かな?」

 自分を上目に見つめる彼に向かってレイヴィスは苦笑を浮かべた。喫茶店でレイヴィスが頼むのはブレンドコーヒーがほとんどで、休日は食事もそこで済ませることが多いが、自分にあまり投資をしないレイヴィスは値が低いメニューばかり注文している。本を読むわけでも勉強をするわけでもなく、長いこと居座り続ける彼の存在は店にとっては毒に違いなかった。そして、今夜も仕事なのかと問われ、ぽりぽりっと左頬を掻く。確かに上官から例の104号室の事件について捜査せよと指示はされているが、他にも大勢の捜査官がいるため、レイヴィスが躍起になって捜査する必要はなさそうだった。それよりもバディを見つけなければと心の中で呟く。上官から捜査命令が出されているにも関わらず、バディと行動を共にしていないだなんて知れたら、かんかんに怒られるだろう。それだけは避けたい。

「僕はそこまで信用できる警察官じゃないよ。出世欲もなければ、野心もないからね」

 自分と一緒にいるから心強いという彼に、ははっと笑い声をあげる。そこまで言ってもらえるだなんて思ってもみなかった。警察官になったのだって国の平和を守りたいと思ったからじゃない。すべては愛する義姉のためにしたことで、それがレイヴィスの行動指針だった。警察組織の上層部を目指そうだなんて空っぽ頭の警察官がすることだ。自分の権力や実力をひけらかす人間をレイヴィスは嫌っている。本来の能力なんて窮地の際にだけ発揮できればそれでいい。まあ、それでも警察官になったからには国の平和を守らなければいけないわけで。レイヴィスは「どこまで行くの? 事件があったばかりだし、近くまで送るよ」とシルヴァに向かって優しい笑みを向けた。


( いえ、大丈夫ですよ! シルヴァくんとのやり取り、緊張の中に心地よさがあってとてもエモいです……! )

>>シルヴァくん、周辺ALL

1ヶ月前 No.31

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【金髪モブ/南区一層/総合廃ビル・地下一階階段】

 走るのは、もう限界だった。掌を口に当てながら、大袈裟なほどに横隔膜が開くのを、身を縮めてただ耐えていた。
 咄嗟に逃げ込んだ南区の境目の、偶然見つけた廃ビルの中に独り身を隠していた。少し前までは入口付近に立って、外を定期的に偵察しながら“相棒”を待っていたが、フラッシュバックする映像に合わせて指先が震えはじめてから、オレはやっと気が付いた。――もしかして、オレ達が手を出したことは、とんでもないことだったんじゃないか、って。
 逃げる途中、引きずり込まれるようにして路地の暗闇に落ちて行った相棒のことを思い出す。いや、オレ達は良かれと思ってやったんだ。何もかも。

「……馬鹿かよ。認めてもらうって約束しただろ」

 そう、それで、もっと組織に信頼されて、大きな仕事をもらって。相棒と夢を語り合った昨夜を思い出す。迎えに行くべきか、否か。いや、あいつは大丈夫だ。あいつよりも強い信念を持った男を、オレは他に知らない。待つべきだ、ここは。
 廃ビルの地下へと繋がる階段の一番下に腰を下ろして、膝の上で肘を付いた。相棒と揃いのスニーカーの爪先を合わせる。ふと、スカジャンのポケットからビニールの袋が擦れる音が響いた。ここには、例の104号室から盗んできたドロドロに溶けた青いクスリを入れていた。バスタブの塗装ごと剥がしたそれは、冷たい空気の中で重量感を持っていた。
 それだけが自分の味方であるかのように錯覚していた刹那、上階の入口付近から野太い叫び声が聞こえてきた。咄嗟に手すりを掴んで、中腰になりながら入口の方を見上げた。相棒の到着ではないことは、勘のようなもので瞬時に悟った。ちりちりと皮膚が針で刺されるように痛む。何だ、一体何が起きている。

 移動をするべきかどうか。中腰のままで暫く考え込んでいると、緊迫した状況とは不釣り合いな余裕を持った足音が上階へ向かうのが聞こえた。それから、鼓膜を引っ掻くような本能的に恐怖を与えるような音が続いていく。

「な、んだよ、聞いてねえって」

 鉄パイプの野郎といい、あの上のイカレ野郎といい、一体何が起きてやがる。
 あいつ、オレを追ってるのか。いや、もしオレが目的じゃないとしても、さっきの叫び声の二の舞になるかもしれねえ。ばくばくと震える心臓を、なんとか抑えつけようと努める。
 ――もしかして。もしかして、あいつ、グラムのメンバーだったりして。


>ガブリエルさん、ALL

1ヶ月前 No.32

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シトリー・デュコーズ/北区/教会前】

「ご厚意感謝します、神父サマ。では、また」

 小さく右掌を上げて見せて、それから外套を翻し去って行くガブリエルの背を見ていた。否、正確に言えば歩き方を、だ。場合によっては弱点となり得る杖に視線を移して、重心の寄り方を余所行き顔の笑みを貼り付けたままで黙ってみていた。何せあのタッパだ。もしものことでも起きれば俺に勝算は無い。あれが計算であろうがそうでなかろうが、そこらの不良に比べれば追うのは容易い部類だ。警戒するとすれば、あのガブリエルの妙にキレた第六感くらいか。
 ガブリエルが追う人間が誰であろうがどうでもよかった。むしろ、面倒に巻き込まれるくらいならば他のサツにでも手柄を渡してやりたいくらいだ。ただ、どうも一点が気になって仕方がない。――もし、仮に逃げた男の内の一人が弟だとしたら。
 いや、そんな訳あるかよ。なあ。確証が得られないことが無性に苛つかせる。弟が今何をしていようが、俺がすべてから護ってやらなければ。爪先に力がこもっていく。我に返ると、ガブリエルの背中はもう視界から消えていた。

 氷のように冷えた指先を小さく動かして、内ポケットから煙草を一本取り出した。唇が、安心感を求めている。咥えようと口を開いて、閉じた。視界の端に、人の影があった。やすらぎタイムはお預けだ。左手で前髪をかき上げながら、その“一般人”へ、流れるような動作で会釈をした。隠すように二本の指の間で煙草を折り曲げて、ポケットへと乱暴に押し込みながら。

「こんばんは、お嬢さん。もしかして、教会にご用ですか? 生憎、たった今神父サマはお出かけになられたところですよ」

 プラチナブロンドの長髪に、見覚えはなかった。俺からすれば“お嬢さん”とは初対面だが、あちらからはどう映るかは任せるとして。警察手帳はポケットにしまったまま、にっこりと爽やかに笑ってみせる。一般人からすれば警察手帳は安心を与えるシロモノだが、一般人以外からすればただの警戒のマトだ。アンタはどっちだろうな、と気付かれないように品定めするように出方を待つ。教会に用があると踏んだのは、お嬢さんの視線がそっちに動いたから。あの神父サマに用事かねえ。まァ、この様子じゃあ、ありがてえ神様の代理人とでも思ってる奴等の方が多いって訳か。

>ガブリエルさん、レイチェルさん、ALL

1ヶ月前 No.33

@bbrainbow☆arv480hPsCY ★iPhone=ADhavRnVa1

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【リリアーナ・アイディール(リリ)/北区・住宅街】


 近づいてきたと思った足音は案外距離があったらしい。まだ止まることなく、そして想像よりも優しい靴音で距離を詰めていた。深呼吸。吸って、吐いて新しい空気で血液を廻す。暗いが夜に溶け始めた街の空気は澄んでいて心を浄化してくれるから好きだ。でもわたしは星があまり好きではない。昼間にも確かに存在はしているのに、太陽の光が強すぎて輝けないだなんて、だってそんなのはあんまりだ。明るい世界では光れないのを受け入れて、朝になると姿を消し、夜になるとまた何事も無かったかのように眩く瞬くのがどうにも納得がいかない。そうだ、好きではないのではなく、輝ける力があるのに明るい方へ行こうとしないのが気に食わないのだ。自分のことを否定したら生きている価値すらないただの骸。わたしはそれが何よりも恐ろしい。わたしの顔をして、同じ声で喋る空虚な物体がいつか存在しゆる危険性をこの世界は秘めていることが。わたしは太陽を憎むべきなのだろうか。いや、それも違う。わたしが星にならなければいいだけだ。そして、周りの星たちを暗い世界から明るい場所へ送ってやればいい。空に宣戦布告でもするかのようにできる限り凛とした眼差しを向けた。
 「リリさん」と呼ぶ声で現実に引き戻される。驚いたような声色のする方向を見ると想像通り、ジークが心底心配そうな顔でこちらを見ていた。足音の正体は彼だったらしい。だって彼の病院の前に来たのだ。話しかけられるのは彼に決まっているではないか。でも、良かった。情けない姿も、わたしのちっぽけな覚悟も彼にだったら見られても良いと思えるくらいには長い付き合いの相手だ。ジークムント・ヒュギエイアはわたしの昔からの主治医であり、それゆえか気の置けない友人の一人でもある。わたしよりも一枚上手で大人な彼のそばにいることは新しいことと出会えるのでとても楽しい。そしていつ発作が起きてしまわないかと、心配しながら話さなくてもいいので居心地が良すぎるほど良かった。
 心を読めるわけではない。けれど先生の気持ちに揺らぎがあるように感じて、何か言葉を飲み込んだのだろうなと思う。有難い。気遣いのできる彼に感謝しつつ、そんな彼にわたしが出来ることは気を使ってくれたことに気付かないふりをして普通に振る舞うことだけだった。

 清楚な女性だ、といつか言われた日をわたしは忘れない。あの日開けたピアスの穴はあと幾年経とうと塞がることは無いだろう。先生の前でピアスを隠すように耳にかけていた髪を戻してから、右手を軽く上げて挨拶をした。

 「ジーク先生。今晩は。なんだか散歩がしたくて……、夜だから大丈夫かと思ったの。なんせ、北区だし発作はきっと出ないじゃない」

 夜だから大丈夫、だけで恐らくジーク先生にはわたしの共感覚のことを話しているのだと伝わるだろう。背筋を伸ばしながら先生の方に歩み寄ると、わたしの答えに重なるようにして彼が話す。今夜はあまり出歩かない方が、なんて。彼が心配しているのは違うポイントだったらしい。今夜、ピキーナオルヴァを騒がせているニュース。恐ろしい事件が怒ったらしい。けれど、そんなのって無いじゃない。他人に振り回されて暗いところに閉じこもるのだけはごめんよ。
 そう、けれどジーク先生はそういう人なのだ。酷く心配性で悪意は微塵もない。誰にでも優しくする。少し困ってしまった。小首を傾けながら困惑した気持ちをそのままに笑ってみせる。

 「先生、いや……ジークは心配し過ぎ。わたしは一人でも歩けるわよ。今は診療じゃないんだからあなたはわたしの先生じゃないの。診療が終わったならジークには大切な人がいるでしょう。患者に優しくする時間はお終いでいいのよ」

 家まで送ろうかという提案をする彼を説得しようとしていると何かが彼に衝突してきた。甘い匂いを纏わせながら影が下に落ちる。ジークに隠れていてよく見えなかったが覗いて見てみるとケーキの箱を大切そうに抱えて尻餅をついている女性の姿が目に入った。リリは何処かの国では林檎の意味を持つらしいと昔本で読んだことがある。微かな林檎の匂いに自分を重ねつつ女性に守ってくれてありがとうと心の中で告げる。おそらく彼女の頑張りの成果でケーキは救われた。
 ジークが慌てて彼女を起こすのを見ながら、二人の服が夜道で汚れていることに気がついた。そこでわたしも反射的にハンカチを出す。油が跳ねている訳では無いから乾いた布で簡易的に染み抜きのようなものをすれば跡が残ることは無いはずだ。

 「お二人さん、少し失礼するわよ」

 初々しく挨拶を交わされる前にまずははやく洋服の手入れをしなくてはいけない。せっかく素敵な洋服なのだから泥のハネなどは勿体なくて堪らない。二人の服の裾のあたりを捕まえて汚れを見つけてはトントンと軽快なリズムで落とし始めた。外で自分が役に立てることがあることに喜びを感じる。先生の身体に染み付いた薬品の匂いと甘いケーキの匂いが混ざりあって、鬱な夜を彩り始めたのをわたしは確かに感じていた。


>>ジークムントさん、アントワネットさん、周辺allさま


( お返事遅くなってしまい申し訳ないです )

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27日前 No.34

@bbrainbow☆arv480hPsCY ★iPhone=ADhavRnVa1

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27日前 No.35

かぎらぴす @lapis12☆4NUzRRaRYiw ★iPhone=vaUwG0CLgh



【ドギー/西区裏路地→ヘルヘイム付近】

 なんだかんだと、文句を言いながらもついてくると思っていたブロッサム。はいはいといなしながら外よりは屋内に入った方が都合がいいだろうと考えてヘルヘイムへと向かおうとしていたところ、隣の金髪がぐわんと揺れるのが見えた。それと同時にぐっとこちら側に体重がかかる。嫌な予感に口元がひきつるのがわかったが止められない。今この状況でなければ、面倒くさい気配を放つ彼を放り投げて颯爽とヘルヘイムに向かうのだが、放り捨てたせいで彼に何かあった場合を考えると恐ろしくなる。おもに、自分が見捨てたせいだと彼の雇い主や同僚にバレることが。
 頼むから堪えてくれ、という切なる願いも虚しく響き渡る笑い声。かかっていた重さは途端に消え、手首を握られてぐるんぐるん回されぴょんぴょん跳ねる彼に引っ張られて腕が上下する。ドギーは思った。この男、オレが怪我してンのも頭からすっかり消えてやがんなァ、と。血が止まった傷口は、ハイな絵本作家に揺すられる度にごぷりごぷりと熟れたブラックチェリーのような血液が溢れ出ている。痛さを顔に出すことはしない。だが痛くないわけではない。それは頭に鉄パイプを浴びたブロッサムも同じはずなのだが。

「ブロッサム、おい、ブロー! ブロッサム! ――……クソイカれマザコン野郎!!」

 駆け出した彼に引っ張られる形でついていく。控えめに名前を呼ぶのは一瞬のこと、口悪く罵声を叫びながら足を前に動かす。少しでも自分に、現実に意識が向くようにという目的と少しの憂さ晴らしも含めながらマザコン! ともう一度叫んだ。ヘルヘイムに行く前にどうにかこちらを見ている奴を撒いた方がいいのではないかとも考えたが今となっては難しいだろう。自分の声が届くかどうかも分からないブロッサムを片手にしてしまえば、リードをつけられた犬のようなものだ。バックの恐ろしいブロッサム、虎の威を勝手に感じて狐の首輪に自ら収まるのだから物好きなものだと自分をわらう。この一分、一秒が迷惑料として金になる、そう自分に言い聞かせながらブロッサムの手が急に離れないようドギーも握り返し、血を被った二十代の男二人が手を繋いで走るという奇妙な図が出来上がる。
 足音は慌ただしい自分たちのものしか聞こえない。追いかけてくる音はしないがそれだけで相手を撒けていると考えるのは浅はかだろう。足音を消し、追いかけている。幻覚やら何やらに踊らされているブロッサムに注意を向けてしまい周囲に気を配ることが出来ずに確信まで至らない。不幸中の幸いはといえば、ブロッサムが一応はヘルヘイムへと向かっていることだろうか。

「そのままヘムヘ……ヘム……クソッ、ヘル、ヘル星まで走れよ……!」

 ヘルヘル星とさえ言葉にできず、噛んでしまったのは走って息が詰まったせいとして。西区の路地裏が見慣れた道になっていく。ヘルヘイムまで遠くないことに安心したのはドギーにとって喜ばしくないことではあった。スリリングを求める彼にとって、『安心』などは本来似つかわしくないものである。
 誰に言われたわけでもないが、言い訳のように心のうちで考える。この場合の『安心』とは、隣でドギーに見えない何かに話しかけている絵本作家を放棄できること、そして無事にヘルヘイム(安全地帯)に送り届けたことで彼から金を巻き上げ明日もギャンブルができることなのだ、と。根っからの――少なくとも記憶のあるうちからギャンブルに身を沈め、金にだけ心を砕いた彼にとっては日々の安寧のため『金蔓』を失うわけにはいかないのだ。

>>ブロッサム、マリー、ALL



【もうヘルヘイムは目の前……まで来ました! ブロッサムくんのことを酷い呼び方をしていますが愛情の裏返しです。じゃれているだけ、と思っていただけるとありがたい……。マリーさんより隣のブロッサムくんの手綱を握るのに必死で現在は気配を読めてない無防備な男になっております。】

27日前 No.36

テラ @skyfall12☆l3fAFLxpXTw ★Android=wj8oYSwHFt

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25日前 No.37

ブロッサム @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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19日前 No.38

白露 @sayu325☆SBcHdOFmAwY ★gLIoX6Bghd_Tbw

【マリー/西区→ヘルヘイム付近】

 息が上がっていく。
 随分と前を走る男たちは、人の賑わう通りに入っても一向に速度が減速しない。マリーは彼らから離れすぎないよう、近づきすぎないよう――、それから面倒ごとに巻き込んで見失ってしまわないように注意を払いながら必死に後をつけていた。
 血まみれの男たちに驚いて慌てて飛びのく者、笑う者、珍し気に指さして会話している者、――人々は彼らと関わらないように無意識に道を開けていっていく。しかし、そのすぐ後には元の賑わう通りに戻っていった。そこを低身長の女が追い付こうとしても難しい。すみません、通して、急いでるの、と何度も口にして、人の間を縫うようかき分けていく。もうすっかりマリーの行動範囲外の場所だった。何となく見覚えがあるから一回か二回ほど訪れたことがあるかもしれないが、細部まで記憶できるほど記憶力がいいわけでもない。段々と煩わしさを感じ始めた時に、溢れるばかりの人の合間で、はたとマリーの足が止まった。

「――アルビノだ」「目が赤い」「高く売れる」

 耳にそんな会話が聞こえて、背筋が凍るようだった。会話が聞こえた方角を横目で見ると、店先には男たちが腕を組んでマリーを眺めている。苦虫を踏み潰したように表情を険しくさせて、マリーはコートのフードを被ると、目立ちすぎる白髪を中にしまい込んだ。そして、人ごみにまぎれ、人々におされるように店から離れていく。心臓が何度も叩かれているような痛みがする。全速力で走っていたのも理由だが、それ以上に分かりやすく動揺をしていた。
 アルビノであることを誰かに囁かれることにはなれた。しかし、こうも売り「物」として見られることには慣れることが出来ない。孤児院から抜け出したときに「そういうこと」になりかけたこともあったせいだ。トラウマになるほどではなかったものの、たまに思い起こしては嫌悪で自身がはちきれそうになる。孤児院でも、町でも、どこでも、マリーはいつでも「商品」であって、人としての存在を認められはしないような、そんな気さえした。

「見失っちゃったじゃない、あほ、ばか……」

 俯ぎがちの顔を上げると、道の奥に彼らの姿はない。あるのは賑やかに往来を楽しむ人々の姿で、思わずため息をついてしまう。
 彼らの名前は知らない。わかるのはヘムヘムセイだとかいう人なのか施設の名前なのか暗号なのか、よくわからない言葉だけ。あまりにも少なすぎる情報をぼんやり思い返しつつ、適当に歩を進める。104号室の殺人犯。金髪の男。グラム。それから、青い心臓。104号室に行けば――あの深い幸福をもう一度味わえるだろうか。

「あ、」

 人がまばらな道に、薄紫色が鮮明にうつった。よく知る人物で、鬱々としかけた気分が途端に晴れ上がる。廃色がかった景色に彩が宿った。

「アシュリーだわ、……アシュリーっ! こんばんはっ、偶然ね、あえて嬉しいっ」

 彼女を取り囲む人たちなど全く視界に入らず、名前を呼び彼女――、アシュリー・カラム・ディーリアスに駆け寄って腕を握ろうとする。その時に風が吹いてフードが外れ、白い髪が電燈の明かりを纏いながら波をうって広がった。
 マリーは満面の笑みを浮かべ、だがすぐに、割って入る男の声に怪訝そうな表情を浮かべる。

(ちょ、っと、待って、冗談、きついんじゃないかしら……)

 前方からは先ほどマリーが追いかけていたはずの男二人がもつれて転びかけながら、喜色満面の笑顔で此方に向かってきている。自制して表情には出さないようにつとめた。傍にいるフードの男も、夜の底のように黒い髪をした男も、視界の端で存在感を増す。またしても心臓が痛んで、さも一般の人がそうするように少し怯えた風を装い、眉尻を下げながら、アシュリーを見上げた。


>>ドギーさん、ブロッサムさん、アシュリーちゃん、ギャビンさん、スフィさん



【迷った先で友人のアシュリー嬢にあえて嬉しいです!腕をからめた描写はダメでしたらなかったことにして大丈夫です;
一般人を取り繕いながら頑張ります! どうぞよろしくお願いします。】

18日前 No.39

アントワネット @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【アントワネット・フォン・ヴィルヌーヴ/北区病院付近】

 娘の為に買ったアップルパイと共に地面に転がって数秒、慌てた男性の声が頭上から降ってきた。不注意なのはアントワネットとておなじこと。気にしなくていいという意味で頭を振りながら、膝の上の袋の中身を覗き込む。少なくとも目に見えてダメにはなっていないようだった。
「ああ、大丈夫だ、問題ない……私もケーキも無事だよ。怪我もないし、こっちも充分食べられそうだ……私の方こそ不注意だった、申し訳ない」
 自身を助け起こそうと差し伸べられた手を借りて立ち上がったアントワネットは、そのままスカートに着いた埃を払い落とそうとする……したのだが、それよりも先に通りすがりの女性のハンカチが、手際よく汚れを落としはじめていた。
「あ、いやあの……本当に大丈夫だから……これも仕事着だし、そちらのハンカチの方が汚れてしまう」
 一瞬たじろいだアントワネットの視線は、他に行く宛も思い付かず先程自分がぶつかってしまった男性に注がれる。どうやら二人は知り合いのようだったが、もしかして良いところを邪魔してしまったのだろうかとの懸念が頭を過った。尤も今女性の興味関心は完全にスカートの汚れに注がれているので、結局アントワネットは道の真ん中で見ず知らずの女性に服の汚れを落とさせるというなかなかの現状を受け入れるしかなかったのだが。

「本当に済まない……お気遣いありがとう。私はアントワネット、このお礼はいつか必ず」
 そうしてあらかた服の汚れが落ちて女性も満足したであろうタイミングで、アントワネットは改めて二人に頭を下げた。家で彼女の帰りを待つ娘がいなければ、ケーキの袋をそのまま押し付けて立ち去っただろう。
「本当はこの場でお茶でもご馳走するべきなのだろうが……時間も時間だし、物騒な事件もあるようだから、日を改めさせて頂きたい。もし良ければなんだが、お二人の予定を教えてもらえると助かるんだが」
 二人、特に洋服を綺麗にしてくれた女性の方には結構な恩義を感じてしまっているアントワネットとしては、是が非でもお礼の場を設けたい所だった。結果として新手のナンパのようになってしまったが、他意はない筈である。

【返信遅くなりまして申し訳ありませんm(__)m こんなんですが来年も是非宜しくお願い致します。】

>ジークムントさん、リリアーナさん、周辺all

17日前 No.40

皇 朝陽 @coffeedrop☆Tohc/3veYiU ★1QFq6tTJ18_8By

【 アシュリー・カラム・ディーリアス / 西区「ヘルヘイム」前 】


 104号室の事件のことで最悪な夜だと思っていたのに、彼と会えたことで最高の夜に変わった。しかし、こうして彼と偶然会えたにも関わらず自分の傍らには別の男がいる。それに、今日はプライベートな時間を過ごしている暇はない。104号室で起きた事件の加害者であるイヌを探しに行かなければならない。アシュリーは己の運の悪さを恨みながら、深く頭を下げる彼を見つめる。その瞳が自分を捉えていることに恍惚としながら。

「ヘルヘイムの前で随分ご苦労なことね。……そうね、オーナーとデートってところかしら? 例の104号室の事件が気になって、警察ごっこでもしてみましょってところね」

 こんばんはと返す代わりに軽く会釈をし、続く問いにふふっと笑みを浮かべる。自分の素性を知っている彼に隠しごとをする必要はないわけだが、やはり組織として動いている以上、守秘義務はあるだろう。隣にいるギャビンはグラムの幹部でもあるわけで、104号室の事件にグラムが関わっているだなんて口が裂けても彼には言えない。口元に笑みを浮かべながら、アシュリーはゆっくりとスフィに近づくと耳元で囁いた。「……口止め料は払うわ」と。その口止め料が何なのか、二人にとっては暗黙の了解だろう。

 スフィと会話を続けていると、ふっと聞き慣れた声が聞こえてきた。それは「ヘルヘイム」で働く同僚の声で、アシュリーはなんでこんな時にと心の中で深い溜息をつく。自分のことを姐さんと呼ぶ彼は、ブロッサム・ハザリーで絵本作家でもある。彼の描いた絵本をアシュリーは何度も「ヘルヘイム」で読んでいた。

「……あなたまでわたくしが働きに来たと思っているのね。残念ながら、今日は非番よ。あなたの言う通り、オーナーを迎えに来たの。デートするためにね。……って、そこの男は新入りのバイトじゃないわよ!」

 中にいた従業員もそうだったが、どうして自分以外のシフトを認識していないのかしらとアシュリーは小さく溜息をつきながら、ブロッサムへと目を向ける。そして、オーナーであるギャビンとデートなのかと問われれば、口元に笑みを浮かべ、肯定する。この誤魔化し方が一番自然だろうと判断したらしい。男女が二人で出かけることをデートと呼ぶなら、これは列記としたデートなのかもしれない。アシュリーの口から「デート」だなんて父親が聞いたら何と言うか。それ故に父親のことを知るギャビンの顔を見れない自分がいる。ブロッサムがスフィを新入りのバイトだと勘違いし、馴れ馴れしい言葉を向ければ、アシュリーはきっと表情を変える。確かにスフィが「ヘルヘイム」で働いてくれたらと思うこともなくはないが、やはりここ「ヘルヘイム」は彼には隠しておきたいアシュリーの内側のようなもので。見られたくない、知られたくない秘密は誰しもあるだろう。そう、それは必ずしも特別視している相手にだけではない。

「マリー……?! あなた、一体こんなところでなにをしているの?」

 またも背後から聞き慣れた声がアシュリーの耳に届く。それは友人であるマリーのもので、彼女はアシュリーがグラムの幹部候補であることを知らなかった。ぎゅっと腕を絡めてきたマリーにアシュリーは一時思考が停止する。スフィは自分がグラムの幹部候補であることを知っている。ブロッサムはグラムのことは知らないが、同じ「ヘルヘイム」の従業員。彼が連れているドギーという名の男は「ヘルヘイム」で何度か目にしたことがあるが、自分がグラム関係者であることは知らないだろう。そして、マリーは自分が「ヘルヘイム」で働いていることはもちろんのことグラム関係者であることさえ知らない。どう切り抜けようかとアシュリーは止まった思考を再び巡らせる。

「……マリー、この方達はわたくしの父の知り合いなの。実は、わたくしの父がギャンブル好きでここの常連なのよ」

 周囲に、特にブロッサムとドギーに聞かれぬように注意しながら、アシュリーはマリーに苦笑を向ける。自分の父親がギャンブル好きで「ヘルヘイム」の同僚だと。こんな嘘でどこまで切り抜けられるか分からないが、一か八か、これに賭けるしかない。アシュリーは心の中でスフィやギャビンが助け舟を出してくれないかと祈った。


( お返事遅くなってすみません……! 多方面に苦しい言い訳をしているアシュリーをどなたかお助け下さい(笑) )

>>ヘルヘイム周辺ALL

9日前 No.41

シルヴァ @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【シルヴェストル・オウィス/西区メインストリート】

「そんなこと仰らないでください。大事な、お客様ですよ。マスターもボクも、いつでもお待ちしていますから」

 大きな儲けに繋がらなくとも、居心地の良さを見出して足繁く通ってくれる常連客。そんなレイヴィスを店長が歓迎していないわけがない。シルヴァにはその自信があった。グラムという闇の世界から足を洗い、”心を入れ替えたらしい”店長にとって、自らの営む喫茶店がそのような場所になっていることは喜ばしいことだろう。仮に、利益を生まない客たちによってルヴォワールが経営難に陥ったとしても、一従業員である自分にはさして影響もなかった。

「出世だけを望んで夢見る人より、レイさんはずっと素敵ですよ。……あ、どうしようかな。用はもう済んだんですけど……。もしその、レイさんがご迷惑じゃなかったら、どこかでご飯でもどうですか? ちょっとお腹すいちゃって」

 そう言って、えへへと少し幼い笑みを溢す。人の好さそうな警察官。出世を望まず野心もない彼の夢は何だろうか。断られるなら断れるで構わないけれど、いつもより距離の近い状況で会ったこの機を無価値に終わらせるつもりもない。仕事と言えば仕事、とレイヴィスは言ったが、明確な目的のある勤務中ならばそのような言い方をすることはないだろう。

>レイヴィス、all

【大変遅くなりまして本当にすみません……!】

5日前 No.42

はいせ @lapis12☆4NUzRRaRYiw ★iPhone=vaUwG0CLgh



【ドギー/西区 ヘルヘイム前(→南区へ)】


 自分のことは棚に上げてほんの少し噛んでしまったことをこれでもかと揶揄し笑い、かと思えば早口言葉を披露しておいてヘルヘイムという言葉は未だ言えていない。もはやどこから文句を言えばいいのかわからず自然と痛くなる頭を押さえた。意趣返しにと繋いだ手に力を込めたのと、誰かを見つけてブロッサムが駆け出したのはほぼ同時。ここで手を握る力を強くしていなければ簡単に振り払われ置いていかれていただろう。自分の状態を思えばその方が良かったかもしれない。犬のごとく駆け出した彼が気を遣えるはずもなく、またもや振り回されながらヘルヘイムの前へと引っ張られた。
 ブロッサムが叫んだ呼称は、ドギーにも十分馴染みがあるものだった。ヘルヘイムにて金を荒稼ぎし、時には全財産を失いスタッフとしてありとあらゆる期待と欲望に金の為ならばと悦んで対応するドギー。ただの一般客と言うには踏み込み過ぎているがゆえに、スタッフ、オーナー共々色々と親しくさせてもらっている。常ならば即座に『このクソ作家ディーラーがオレに迷惑かけた分寄越せ』と借金塗れの分際で図々しく手を差し出すのだが、生憎片方は未だブロッサムの手と仲良くしており、片方はどこかの誰かのせいで再び血を滲ませた箇所へと軽く当てられている。はあ、とため息を吐くのは疲れと気疲れ、そして堂々とカモと言い切ったブロッサムの元気さに呆れたからだ。程度は違うが怪我をしていながら何故こんなに元気なのか。自分が弱いせいではなく、ただこの男の神経がイカれているからだと思いたい。

 過度に勢いをつけてブロッサムの手を投げるように振り払うと、その手で汗が滲んだ額を拭い髪を後ろへと撫でつける。視界の右側を邪魔していた黒がなくなり、改めてヘルヘイム前の集団に黄金色の目を向ければ見知った顔と見知らぬ顔があるのに気付く。ヘルヘイム関係者たるギャビン、アシュリーはわかる。ブロッサムが新入りと呼び、アシュリーがそれを否定したフードの男はおそらく面識がない。そして彼女のすぐ横に立つ白い髪の女も、ドギーは知らなかった。尾行していたのがその彼女と言うのにも、気付くことはなかった。
 ギャビン、アシュリーを見たあと、あからさまに値踏みをするように目を細めてフードの男、白髪の女へと視線を回す。フードの男が新入りでなければアシュリーと面識ことからヘルヘイムの客かと思った。しかし、そうであるならヘルヘイムに入り浸っているドギーが知らないのは不自然だ。あやしい。白い髪の女の表情や仕草もどこか不自然な匂いを感じ、かつ聞こえはしなかったがアシュリーが何かを耳打つのが見てとれた。あやしい。

 結論――面倒くさい。

 アシュリーも随分と誤魔化し方が下手になったものだと喉だけで笑う。否、それだけフードの男、白い髪の女、ブロッサム、そして己に隠さなければならないことがあるということだろうか。ヘルヘイムにてドギーの勝ち分のほとんどを奪っていったポーカーフェイスと冷静さが今は少し隙があるように見えた。しかし、それを突くのはやぶ蛇と言うものだろう。愉しいことはこの上なく好きだが、一歩踏み込み金も命も失うような展開はまだ望んでいない。
 ドギーは根無し草である。ヘルヘイムと切れぬ縁こそあれど関係者というわけではない。ましてやフードの男と繋がるアシュリーとも関わりはない。――そういえば、アシュリーと『デート』とやらをしようとしていた辺り、ギャビンもヘルヘイムとは別の繋がりが彼女とあるのではないだろうか。そこにフードの男が絡んでいるかは、現時点では何とも言えない。おそらく白髪の女は関わりがないだろう。アシュリーの個人的な友人としか今は思えない。やはりここで、ドギーの出る幕はないのだ。

 ばちり、ばちりと瞬きをし頬に濃い影を落としながらも射抜く視線が彼らを突き刺す。裂けた口角は弧を描き、つらつらと思考したその一欠片も外に漏らさぬように、ただ見慣れない顔を警戒する犬のように振る舞う。もしドギーが噂の殺人事件を知っていたら、もう少し核心へと触れられただろう。馬鹿ではあるが鈍くはない。心の機敏に聡いからこそ、ギャンブルで生きることができ、デッドオアアライブのぎりぎりのラインを渡ることができているのだ。
 一般人たるドギーの道化が、『彼ら』にどこまで通用するかわからないが。

「そこの奴がヘルヘイムの新入りだろうがそうじゃなかろうが、アシュリーにくっついてるそこの奴が何だろうが、オレには関係ないよねェ。ブロッサムの迷惑料は明日ぐらいに徴収に来る――ってコトで、オレはこんくらいで帰っていい?」

 へらり、笑いながら軽い口調で集団に向けて言葉を放つ。部外者である自分がここからいなくなっても問題はないはずだ。むしろ、隠し事をしたいのならば好都合とさえ言える。おそらく、ブロッサムにも隠したいことがあるのだろう彼らへ気紛れに救いの手を出すがのごとく、粘度の高い血に塗れた手のひらを揺らし、イテテ、とここはわざとらしくよろめき、後退して見せた。

「オレさあ、怪我してんの。見知らぬ男にナイフで刺されてイタイの。……その後ゴロツキにブロッサムクンは鉄パイプで頭殴られてたし。オレのカラダもココロももうぼろぼろのズタズタ。だから、ゆっくり休みてぇの。……じゃあ、そういうことで」

 ドギーが借金取りではなく、見知らぬ暴漢と言ったのは、責任から逃れるためだ。自業自得の報復にブロッサムを巻き込んだとなれば、ブロッサムが怪我をした責任も負わなくてはならなくなる。そんな重ったるく面倒なもの、ドギーは御免だ。語尾にハートマークがつきそうな口調は上機嫌なようにも思えたが、語気の強さは引き止めるなと言わんばかりだった。「ブロッサムクンの手当てしてから出かけてやれよ」と気紛れの延長、ブロッサムの心配なんかもしつつ、ドギーは彼らに背を向け、軽快に駆け出る。流れていく西区の喧騒や光は手負いの犬には毒に感じられ、向かう先、鬱蒼とした南区が少し恋しかった。

 ドギーは彼らに見知らぬ男に襲われた、と嘘をついた。もし、噂の殺人事件を知っていたら、決してつかない嘘だった。


>>ヘルヘイム周辺ALL



【お返事遅くなりまして申しわけないです……。無事ブロッサムさんをヘルヘル星に送り届けられました、達成感! 不穏な雰囲気とあやしさが満ちた空気に面倒くさくなったうちの犬は嘘だけ残して背を向けました……。お相手ありがとうございます。南区に向かいますが、背にかけられた言葉等はすべて拾わせていただきますので! 突然の個人行動すみません……どこかで出会えた際にはまたよろしくお願いします!ぜひ!】

3日前 No.43

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シトリー・デュコーズ/北区/教会前→南区/境目付近】

 咥え煙草をしながら、三拍子の後を追う。
 果たしてそう仕向けているのか、それとも善良な警察官の俺に対してノーマークなのか、神父サマの後を正しく追っかけるのは容易だった。偶に俺の可愛い協力者ちゃん達とすれ違っては、神父サマとの距離を稼ぐ様に現状報告をし合ったり、路地裏でショートカットしたり、未来の協力者ちゃんから財布をスリ返したりしながら、また神父サマの背中へと戻っていく。
 ――おいおい、嘘だろ。べえと舌を出しながら、爪先立ちで南区の境目を神父サマに倣って越えて行く。南区は嫌いだ。此処の人間共はルールを知らねえ。その証拠に恨みを買った警察官が何人かこの地でヤられてる。だが、神父サマはこの地に真っ直ぐ向かって来た。意図はどうであれ案内人としては最高の出来だ。神父サマが廃ビルの目の前で何やら騒ぎを起こすのを欠伸しながら横目で見、丁度入口を潜ったのを見届けた後に、腕時計で三分ほど過ぎるのを待ってから廃ビルへと近付いた。

「おい、ちょっといいか?」

 神父サマが何やら揉めていた半狂乱になって叫び続ける男の片方の腕を背側でねじり上げるようにして、その背後に立つ。その様子に、周りに居た男の仲間だか客だかの二人の男が動きを止めた。濡れた感触に視線を落とすと、男の小指から真っ赤な断面が覗かせていた。やぁだ、可愛い。こんなに痛がっちゃって。――神父サマ、が? まじかよ、こえーな。

「さっきの男の前に此処に入ってった奴を見たか?」

 小指ちゃんはぎゃんぎゃん吠えるだけで話にならねえ。力関係を理解してくれたのか、周りの一人が小さく頷いた。「どんな?」「わ、若い男が一人」「容姿は?」「金髪……に、スカジャン。青いスカジャンだった」「そいつに見覚えは?」「ない。本当だ。この辺では見ない顔だ」「ありがと」言い終わると共に、野放しになってた小指ちゃんのもう片方の手が後方の俺の方まで伸びてきた。咄嗟にその手の小指もへし折ってやっては、両小指ちゃんとなった男が薄汚れた地面へと躰を横たわらせた。

「さっきの、信じていいんだな?」

 さっきまで代表で答えていた男がぶんぶんと頷くのを見て、連絡先の入った紙をジャケットの中に押し込んでやった。今度テストでもしてやろう。合格すれば、晴れて協力者ちゃんデビューさせてやる。「俺が来たの内緒にしといてね」そう唇に人差し指を当ててやってから、廃ビルの隣の路地へと身を潜らせた。金髪ちゃんに縄をかけるのは他の奴の仕事でいい。手柄なんてあげて目立ちでもして出世なんてしちまえば、それこそ大事だ。大きな何かが絡んでるのは明らかだが、どうせなら喧嘩売る相手は選びたい。この情報を掴む人間は、すべて疑ってかかるべきだ。この背後を嗅ぎまわるための情報が、今は欲しい。

>南区周辺ALL

2日前 No.44

ジークムント @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジークムント・ヒュギエイア/北区・住宅街】

差し出した手に重なったもう一つの手房は相対的にとても小さく嫋やかに見え、僅かに力を込めただけで易々と相手の女性は引き上げられた。こう立ち並んで見ると彼女の背は高く、ピンヒールに乗せたその長身は僕が目を合わすのにもそう苦労はしないサイズだった。仕事帰りだったのだろう、女性の身なりはきちんとしており清潔感がある。どうやら転倒による外傷のほうは僕の杞憂で、歯切れの良い口調でさくさくと答える彼女に怪我はなさそうだ。語調は緩徐でないが冷たいとか怒気を含んでいるという訳ではなく、どちらかというと聡明で活発な印象を受けた。

対する僕のほうはといえば、相手が怪我人でも病人でも無いとなると、もうただのでかいだけの木偶の坊で、横から出てきたリリさんの仕事の手際の良さをただ感嘆と共に見守るばかりだ。

「さすがプロは手際が違うね……」

僕がおろおろと「すみませんすみません」とつまらぬ無駄口を叩く間に、傍の友人はトントントントンと軽快なリズムで汚れを叩き出していた。
みるみるうちに綺麗になっていく見ず知らずだった人様のスカートを、興味深げに凝視するような形になってしまっていた。やましい心は何も無いとはいえど、それではあまりに良く無いと、気づいてからなんとなく目を逸らす。
暫くしてシミ抜きが終わると、僕もその女性と一緒になって礼を言った。

「ありがとう、リリさん。僕も助かった……。……アントワネットさん、すみません足止めをしてしまって……私はジークムント・ヒュギエイアと申します。予定と言うほどのものも無くて、そこの病院で働いていますから、いつもこのぐらいの時間にはこの近辺に居るんですよ」

振り向けば斜め後ろに聳え立っている自分の職場を指差して答えた。背の高いシルエットを翳す夜の病院はぬっと闇に浮かび上がっている。けれど入院棟の窓が幾つも温かな明かりを灯しているからかあまり言われるほど不気味では無いものだな、なんて思いながら。しかし第三者になりきるその視点すら、すっかり見慣れて麻痺している僕の感覚のズレ或いは、あの灯りの幾つもが僕の知っている人達のものでその一つが僕の家族の灯りであることによる、内集団バイアスなのかも知れない。

「そういえば…………そうだ、物騒な事件ですよ」

アントワネットさんの言葉に、僕は彼女とぶつかる前リリさんと話していた内容がなんだったかを思い出した。

「ちょうどリリさんと話していたところだったんです、殺人事件の犯人が逃走中だとか……お詫びです、夜道は危ないですから、宜しければ一緒に送りますよ」

リリさんは一人でも大丈夫だと心配しすぎだと言ったが、流石にもともと治安の良くないピキーナオルヴァでそんな事件のあった後に若い女性を一人で歩かせるのは矢張り良くない。病院の駐車場に戻れば車もある。勿論「一緒に」と言ったのは、もしリリさんが居なくて僕だけだったなら、絶対に僕のほうこそが暴漢か不審者だと勘違いされそうだからだ。それにそう言ったなら、用心棒は要らないというリリさんも安全の為に送り届けることを許してくれそうだと思ったからだ。確かに今は診療時間外だが、僕にとって彼女は友人であっても、彼女に今はわたしの先生じゃないと言われても、それでも何処かで僕の患者は、責任を持って救うべき僕の患者なのだから。

>リリアーナさん、アントワネットさん、周辺all様



【お返事遅くなってしまいすみません……! 西区(?)へドライブ!?】

1日前 No.45

はいせ @lapis12☆4NUzRRaRYiw ★iPhone=vaUwG0CLgh



【ドギー/南区境目・廃ビルエントランス→地下への階段】


 ここに来てしまえば、怪我をしているドギーに珍しさの欠片もなかった。治安が悪く犯罪が謳歌し、売人が鼻歌を歌う南区に入ったことは体でわかる。最初の記憶はこの南区から、長い間晒された空気感は程よい心地よさを与えるほどだった。
 現在も気まぐれに南区に訪れ、愛用するドラッグを買うのも専らこの場所が多い。顔は覚えていないが、「よおドギー、またやべぇことに顔突っ込んでんのかァ?」と背を叩いたのも薬の売人だろう。聞いてもいないことをぺらぺらと話してくるのを半分聞き流していたが、殺人だの逃走犯だの104号室事件だのと物騒で興味のそそる話題も中にはあった。そこでやっと、見知らぬ男に襲われたと言い残してきたことを後悔したのだが、あの集団の誰かに糾弾されることがあれば一緒にいたブロッサムがどうにかこうにか答えてくれるだろう、と期待するしかない。ワインを被ったせいで甘い味のする唇を舐め取り、ぺろりと黒のタンクトップを捲ると肌に付着した血液は乾いて傷口をうまいこと塞いでいた。

「ニンゲンってフシギィ」

 そんな小さな呟きにハイテンションで言葉を放つ絡んでくる男は、ドラッグに溺れている様子だった。先程までは興味深い話をしていたがそれも徐々に支離滅裂な羅列に変わっていく。ああウッゼ、振り払うのも面倒――そう思っていたところに、ふんわりとした見慣れたダークアッシュが目に入った。好都合、そう心の中で笑い、わざとらしく眉を下げればダークアッシュの彼に足を向け「オレのダーリンが迎えに来てくれたみたい。……サツの、」と、振り返りざまウインクをすれば瞬間後ずさるのが見えた。イカれた頭でも警察に対する警戒心や恐れがあるようで簡単に撒けたことに機嫌良くしつつドギー曰くのダーリン、シトリーに少し近付けば事情聴取という名の詰問をしているのだと彼らの雰囲気から感じ取った。そっと近付いて行けば「金髪」「スカジャン」と言葉が聞こえる。かちり、ピースのハマる音がした。
 南区の雑踏に紛れていたせいか、シトリーは背後のドギーに気づくことなく廃ビルの隣の路地裏に体を滑り込ませた。その姿を確認し、ドギーはその背を追いかけることなく軽い足取りで向かったのは廃ビルの入口。先程までシトリーと会話をしていた彼らは既に覇気がなく、くくっと喉で笑う。踏み込んだ廃ビルは太陽の残り香すらなく、そもそも陽の光が差し込んだことがあるのかと疑う程だった。歩けば地面に散らばったガラスの欠片や風化した壁の一部が音を立てる。お邪魔しまーす、と景観に似合わず呑気な声を終わりが過ぎ去って長いその場所に響かせる。

 見渡せば、エントランスにある案内図が目に入った。柱の影に隠れる神父に気付く気配はなく、じっと目を向ければやはり、地下の文字がドギーもまた気になるようで。

「……地下、ね。隠れ場所としては絶好って感じだけど」

 指先で唇を撫でる。高揚と、緊張があった。こんな廃ビルに追い込まれた殺人犯と対峙したときどうなるか、想像に容易い。そのときドギーがどこまで対応できるかわからなかった。無意識に傷の上を撫で、案内図を隅から隅まで眺めた後、最後に目を向けたのは――地下への階段。オレだったら下に潜る。暗いところへ、誰にも見つからないだろう場所へ隠れる。わかる、わかるぜ。オレらはおんなじネズミだもんなァ。

 かつ、と階段への一歩を踏み出す。そこでトレッキングブーツに仕込んだ出番の少ないナイフを手に取った。念のため、お守りに。殺さないようにしないと。ドギーにとって殺人犯は金塊と等しくある。捕獲すれば警察に恩を売れる。どうしようもないクズなら殺す手前に抑えて臓器を売り飛ばせばいい。可能性を色々と考えるも、後者の展開にはならないと確信に近いものを抱いていた。シトリーが動いているとは、『そういうこと』だとドギーは思っている。何を見たのか、何を知ったのか。何を思って、誰の命令で、誰のために殺したのか。殺して、逃げて、その手に何を掴んだのか。探らねばならないことはたくさんある。ひとつでも見過ごせば価値は落ち、金塊に傷がつく。危険な橋を渡り歩くドギーが金のやり取りをする相手に、その小さな傷を見逃すぬるい輩はいない。焦らすようにゆっくりと階段を下った。爪先が触れる音、踵が着く音、手すりを擦る手の音。それらは一定のリズムで廃墟に響き、――そして、止まる。
 ドギーと目が合ったのは、一人の男だった。太陽の光が僅かも差し込まないネズミの寝床でも金髪だとわかった。盗み聞いた特徴を満たし、こんな怪しげな廃墟で緊迫を色濃く瞳に滲ませている。止めていた足を再度動かし、逃走犯を見下ろすように彼よりも二段上の場所でナイフを回し悠々と立つ。口角に亀裂が走ってはいるものの、普段よりも柔らかい印象で笑いドギーは口元に人差し指を立てた。甘く囁くように「ヒドイことしないから、騒がないでね」と薄い唇に言葉を乗せる。ドギーの知り合いがその仕草を見れば胡散臭いこと極まりないと感じるだろうが、相手は追い詰められた逃走犯である。優しくするのが得策だろうと判断し、ドギーはナイフをパンツのポケットに押し込んだ。好戦的な様子が見られないのなら、あえてナイフで脅す必要もない。逆上され取っ組み合いの争いになるのはドギーとしても避けたいところだ。フリーハンドでおどけたハンズアップ、どかりと階段に座り込み中腰の体勢で時が止まっている彼と目線の高さを合わせる。

「あんたらのしたヒドイこと、知ってる。大変だったねェ、よく逃げたねえ。それで、オレね、知りたいことあんの。知ってる範囲でいーから答えてくれる? なんでこんなことしたのかとかー、104号室で何を見たのかとかー……あぁ、それからさ、何かを手に入れたんだったらオレにもソレ見せてよ」

 まるで遊びの誘い文句のように紡がれる言葉は緊張感の欠片もなかった。「色々教えてくれたら、あんたがこっから逃げる手助けしたげるよ」と、守る気もない約束を口にする。しかし声音だけは変に真剣みを帯びているものだから、ドギーは自分でも笑いたくなってしまった。欲張って矢継ぎ早に質問をしたが急かすことはしまい。相手の緊張を解くようにと軽い口調を意図的に選択したのだ。心をほぐし、一から十まですべての情報を聞きたいが時間がそれほど残されていると思ってはいなかった。
 第三者が地下へ来る可能性は十分考えられたし、それよりもまず自分の化けの皮が剥がれてしまいそうだ。ああ怪我さえしていなければ顔面に煙草を押し付け、「吐かないと殺すよりヒドイことするよ?」と今よりもっと良い笑顔で言ってやるのに。



>>南区廃ビル内、(モブ)、周辺ALL




【南区までやってきてシトリーさんのお話を盗み聞きしたドギーです……そして地下へと動きモブさんに出会わせていただきました! まだ若干本調子ではないですがクズ具合は絶好調です。よろしくお願いします!】

4時間前 No.46
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