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▼kill kill kiss▲

 ( オリジナルなりきり )
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戦闘/対立関係/喧嘩/恋愛 @basuke21☆xM4sO6EUbuM ★sBHPZi6My9_OSy

──時代は2××0年。

当たり前のように車は空を飛び、当たり前のように人は宇宙へ行き、当たり前のように人は『能力』を使える時代。
人は1000人に1人の割合で、ひとつだけ、能力を持って産まれる。
能力を持たずに産まれた999人も、『能力育成機関』という国が運営している学校のようなものがあり、そこで能力を開花させる者もいる。
能力を開花させる者は999人に100人いるかいないか、であるが。
して、その能力は様々である。
日常生活において便利な能力、対人にて使える能力、逆に全くどの場面でも使えそうにない能力など。




──舞台は『プロスペリタ』。

石造りで、かつての欧州を感じさせるような、歴史が眠る大きな街。
木々から漏れる木漏れ日、大通りの涼しげな噴水、温かみのある木造の宿屋、コーヒーの香りが漂うカフェのテラス席、雲まで巻き込むほど高いタワーや聳え立つ摩天楼。
そんなプロスペリタの端と端に、二つの大きな組織が存在した。
二つの組織は、何年、何十年、何百年も、因果関係を築き上げてきている。
幼稚園児でも理解できる「仲良く」なんて、その二つの組織にしてみれば、世界から戦争を無くすレベルでもはや不可能であった。




──2××0年、6月上旬。

プロスペリタの人々は、コミュニケーションが大好きであった。
そのため、泡沫のように浮かび、やがて消えゆく言の葉たちは、真か偽かは問わずに伝言ゲームの如く広まってゆく。
「ここだけの話だけどさ」とか、「誰にも言わないでほしいんだけど」とか、そういう類の前置きなど、ハンバーグについているセロリに等しい存在感且つ存在価値である。


「なあ、聞いたか?ついに『ユーリス』の精鋭たちが『アイアンメイデン』幹部対策本部を立ち上げた、ってやつ」

「ああ。とうとう本気を出してきたか、って感じだ」

「でもよ、ユーリスの精鋭も、アイアンメイデンの幹部も、どっちも強いじゃねえか」

「そりゃあな、お前。プロスペリタだけでなく、世界に名を轟かせる組織だかんなぁ」

「俺はアイアンメイデンを応援するぜ。あいつらは『必要悪』だ」

「おま、嘘だろ。どう考えてもユーリスだ。あいつらこそ真の『正義』だろうが」





──『ユーリス』。

プロスペリタの右端に存在する本部は、近未来的なガラスとその他諸々で建てられた、大きな大きなタワーのようなビル。
能力を使える人間の中でも、特に秀でた者たちが多く所在している。
所謂「公安」や「警察」のような役割を果たしており、プロスペリタの市民の平和と安寧のために、日々秩序を乱す者を罰しているのだ。
己の「正義」を掲げて。




──『アイアンメイデン』。

プロスペリタの左端に存在する本部は、まるで高級ホテルのように豪華に、しかし上品に建てられている、大きな大きなビル。
能力に秀でた者からそうでない者、良い人から悪い人まで、とにかく様々な事情、力を持った者たちが所在している。
所謂「マフィア」や「ヤクザ」のようなもので、プロスペリタで組織の繁栄のために日々事件を起こしているのだ。
己の「正義」を掲げて。







「お前、じゃあ入るならユーリスとアイアンメイデン、どっちがいいんだ?」

「そりゃあ……支持するのはアイアンメイデンだが……そういうお前はどうなんだよ」

「俺か?俺は……」









「──ユーリスだよなあ?旦那」



「──アイアンメイデンでしょう?おじ様」








轟く罵声、怒声、破壊音。
プロスペリタの市民たちは、またか、なんて思いながら、「いいぞーもっとやれ!」と野次を飛ばすのであった。

メモ2018/11/10 19:25 : はるみや ☆xM4sO6EUbuM @basuke21★iPhone-P8R3pzxhha

≪イベント告知≫

.

T.『始まり』10/26/00:00〜11/09/23:59

「アイアンメイデン幹部対策本部を設置する。」

ユーリスのトップ、志真 伊弉諾は、プロスペリタの市民に向けて声明を発表した。

「始まり」の始まりなのか、「終わり」の始まりなのか。ユーリスの精鋭10人と、アイアンメイデンの幹部10人は、それぞれの正義を胸に抱きながら、各々の「始まり」に立つ。


U.『大能闘演武』11/09/00:00〜

ユーリスとアイアンメイデンの関係が最悪な中、三年に一度行われるプロスペリタで最大の祭り、『大能闘演武(だいのうとうえんぶ)』が始まろうとしていた。

結末に待っているのは勝利か、敗北か。名声か、醜聞か。ユーリスの精鋭9人と、アイアンメイデンの幹部9人は、それぞれの能力だけを指標に、各々のステージに立つ。

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-182#RES


─────


≪登場人物≫


『ユーリス』


志真 伊弉諾(はるみや)

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-102#RES

夢幻 甘利(雨宮様)

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-82#RES

カール・ハルデンベルグ(有栖川様)

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-155#RES

待宵 多々良(つゆり。様)

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-66#RES

エリアス・スタンレイ(たますだれ様)

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-152#RES

ユリーカ・パチル(狼谷様)

http://mb2.jp/_subnro/15778.html-68#RES

…続きを読む(60行)

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ぴーぴーけー @ppkppk☆ErEBsPNY5g.j ★iUcwHsnoGa_NqW

【ア/中央区大通り/エクエス・ランスロット(デルニエール・シュヴァリエ)】

 人の波に逆らわぬよう横断歩道を歩き始めると、まもなく背後から聞き慣れた軽快な足音が喧噪に混ざっていることに気付いた。人の足音というものは案外個性が出るものだ。対象が自分に対して好意的かそうでないかの判別程度ならそれこそわずかな訓練でできるようになるし、長く共に暮らしてきたような仲であれば個人の判別すら不可能ではない。そう、僕の背後にいる、組織内での妹のような存在――――胡桃 姫環のように。
 歩き方からして、警戒しながら近づいてきている。おそらくは僕を驚かそうとしているのだろう。こういうところでまだ子供っぽさが抜けない部分がある。しかしこの人混みでそんな歩き方で歩けば――――

「……ほら姫環、危ないでしょう? こんなところで驚かせようとするんじゃありません。周りの歩行者に迷惑がかかるでしょう?」

 雑踏の影をわずかに物質化すれば位置は把握できる。背後1mにも満たない位置で彼女の足元は乱れた。素早く振り向いて手をとり引き寄せ、相手の身体を半回転させて転ばないように背に手を回して抱きとめる。転ぶと思ったのか強く目を閉じて身体をこわばらせる相手に、静かに諭すように問いかける。まったく、いつまでたっても手のかかる――――僕にとってはかわいい妹だ。


【絡みありがとうございます! さっそく支えます(笑)】

>>胡桃 姫環様





【ア/中央区大通り/エクエス・ランスロット(デルニエール・シュヴァリエ)】

「おや、こんばんはジーンさん。一服ですか?」

 もし運命というものが存在するとしたら、それは生まれた頃の僕に味方したのだろう。僕の持つ、まさしく闇を制する能力。僕の正義にとって、とても強い力。日没後の闇であればそれこそ場を支配できると言っても過言ではないこの力は、その影響か、僕の暗闇での環境把握力を底上げさせていた。横断歩道を渡りきり路地に差し掛かったところで、路地裏の闇から聞き慣れた声を耳にした。ふと左側を見れば、その闇の中に見知った姿が見えた。僕にとって組織の中で特に親しい間柄であろう一人の男、ジーン・オールビー。いつも通りの渋い佇まいで煙草を燻らせるその姿は、まさしくハードボイルドといったところか。僕にとっては、男としても人としても、非常に頼りにしている人物であった。

「はい、ちょうど先程終わったところでして……。そうですね、僕は『デルニエール・シュヴァリエというただの弁護士』ですから、あくまでその怪盗が逮捕された『後』に仕事をする立場です」

 相手の持っている新聞に目を落としながら、相手の不快感のない軽口には苦笑交じりに定型文を返す。いつもの慣れたやりとりである。彼と僕はかなり長い付き合いだ。彼はある意味で兄のような存在であり、また同時に良き友人でもあった。

「そうだ、ジーンさん。これから暇ですか? 僕はちょうどお茶したあとに晩御飯をとって、それから少し飲もうかと考えていたのですが……あなたがいらっしゃるならバーで食事をとってしまっても構いませんね。よろしければ一杯いかがですか?」

 ふと妙案を思いつき、それをそのまま彼に提示してみる。お茶は特に急いでいるわけでもないため、今度の機会でも一向に構わない。エヴリカに赴けば、もしかしたらあの、まるで双子のような桃色の髪の2人の少女もいるかもしれない。それに、彼と一緒に行くのであればバーで時間を過ごす方がお互いに気を使わなくて済む。まだ夜は長い、たまにはこうして早いうちから飲むのも一興、といったところだろう。


【絡みありがとうございます! プロフを拝見してジーン様とは長い付き合いということにしてしまったのですが、大丈夫でしたでしょうか? 事後での確認になってしまい申し訳ございません!】

>>ジーン・オールビー様

1ヶ月前 No.62

篠葉 @xiv☆8qw5LAZnvEo ★bgIFF8Q6fY_cL8

【ユ / ユーリス本部 / 篠倉瑠璃羽】

 平然と知ってるぞ、と告げたカールに思わず「え」と漏らす。高校の先輩……カールの。“フランクリン・スカビオサ”が。瑠璃羽はカールの精悍な顔をまじまじと見つめ、とてもそうは思えないな、なんてフランにとって失礼極まりないことを考える。そもそも瑠璃羽はフランの顔写真しか知らないのに。普段はこういう偏見だとか先入観でもって決めつけるようなことはしないのだが、如何せん瑠璃羽は勝手ながらも彼に腹を立てていたのだ。

「じゃあ、お知り合い……? だったんですね。どんな人だったんですか?」

 気を取り直して。敵の情報を持っている人が身近にいたなら聞いておかない手はないだろうと質問してみる。カールの口調からしてやはりろくでもない人物なのだろうとアタリはつけているが。彼の言う通り悪人面ではないにせよ、どんな悪事を働いているのか分からない。この男も、──“ヴェロニカ”も。ロニー……いや、ヴェロニカを『この女』と称したカールにそんな呼び方しないで、と言いたくなるのをぐっと堪える。もしかしたらとんでもない悪さをしているのかもしれないけれど、それでも友達なのだ。でもそれを知られる訳にはいかない。自分なら彼女の趣味やよく行く場所をカールに伝えることができるし、何なら呼び出すことだってできるだろう。しかしそんなこと、瑠璃羽にできるはずがないのだ。いつも優しいカールを騙すことになる。胸が張り裂けそうになる思いを必死で押し隠し、普段通りを心掛ける。ちゃんと、出来ているだろうか。
 もしかしたら共に大学に通っていたかもな。その言葉にぎゅっと胸が締め付けられる。ロニーと同じ学校に。そうなれていたら、きっと幸せだったろうな。瑠璃羽は普通の学校など行ったこともなかったから、余計に憧れてしまう。けれどそんな現実はどこにもない。

「……そうですね。そうだったら、良かったなぁ」

 思わず漏れたのは本音。はっとして「こんな風に争い合うより、その方がずっと良いですもんね」と付け加える。

>カールくん




【ユ / 大通り 映画館前 / 篠倉瑠璃羽】

 やっぱり今はもうこんな時間だし、明日は急すぎるだろうか。今からでも訂正のメールを送って──と再びメール送信フォームを開こうとした時、またスマホが振動する。驚いて取り落としそうになって、少しため息。もう何度もメールのやり取りを交わしたはずなのに、未だにこの着信時の感覚は慣れないものだ。というか急に振動されるとビックリするのは当たり前だ、事前に『今から振動します』って言ってくれればいいのに──なんてマナーモードの意味が全くないことを考えたりする。ちなみに瑠璃羽のスマホがマナーモードなのは、変え方が分からなくなってしまったからである。変え忘れて会議中に鳴らしてしまうよりはいいかと放置しているのだ。
 わたわたしながら受信したメールを見る。やはりロニーからだ。『待ちきれないから今から会いに行く』だって、ロニーはなんて可愛いんだろう────え、今から?

「ハァイ、ルリィ!」
「ひぁっ!?」

 後ろから掛けられた声、肩に置かれた手。スマホの振動の比じゃない驚きに文字通り瑠璃羽は飛び上がる。ついでに喉の奥からひっくり返ったヘンな声まで出てしまった。バクバクする心臓を抑えながら振り返る。
 ロニーだ。いや、分かってはいた。瑠璃羽のことを「ルリィ」と甘い呼び方をするのは彼女しかいない。サングラスを外しながらウィンクするその顔を見て、漸くホッと息を吐く。「もう、脅かさないでよ」と怒ったフリをしてみても、緩みきった表情は隠しきれない。
 もしかしたら彼女は、瑠璃羽がメールを返そうとしているところから見ていたのだろうか? そうだとしたらかなり……決まりが悪い。恥ずかしさでじんわり頬が赤くなるのを軽く咳払いで誤魔化す。

「あはは、見た目強そうに見えても実際に戦えなきゃ意味ないけどね」

 私なんて怪我した人の手当てくらいしか出来ないんだもん。へらっと笑って言う。嘘だ。瑠璃羽は戦える。実戦経験の少なさから一人で戦える自信があるとは言い難いが、それでも精鋭に選ばれるくらいの実力はあるはずだ。大好きなロニーに隠し事をしなければならない。彼女と会えて浮かれていた心がすぅっと冷えていくのを感じる。その変化をおくびにも見せず、瑠璃羽は甘い笑顔で続ける。

「仕事終わりだよ。ほんとは真っ直ぐ帰ろうと思ってたんだけど、ロニーに会いたいなぁって思ってたらこんなところに来ちゃってた」

 これは本当だ。会いたかった。会えば安心できそうな気がしてたから。そして実際にほっとしている。いつも通りのロニー、いつも通りの自分。これからもずっと続いていく。そうに違いない。
 一緒にディナー。その言葉を聞いた瞬間、瑠璃羽の顔はこれまで以上に綻ぶ。まさに花が咲いたような、という表現がぴったりだろう。本来の瑠璃羽は分かりやすいのだ。

「行こう! ちょうどね、これから買い物行くのも面倒だから外食しようかなぁって思ってたの!」

 弾む声を抑えきれず、ロニーの袖口を引っ張って、行き先も考えずに歩き出そうとする。方向音痴の特性だ。今日も明日もロニーに会える、その嬉しさでぴょんぴょん飛び跳ねそうになるのを我慢するので精一杯だったのだから、何処で食べようかなどと考える余裕がなかったのだ。

>ヴェロニカちゃん



【ユ / 中央区某路地 / 篠倉瑠璃羽】

 転ばせるには至らなかったか。しかしこれでだいぶ距離を詰めることに成功した。あとは自分の身体能力を上げて拳か蹴りでも入れて気絶させれば──と思っていたところで突如相手が動き出す。先程までのスピードはない。だが、本来の身体能力の低い瑠璃羽に避けきるのは困難だ。あっという間に懐に飛び込まれる。咄嗟に防御姿勢を取るも、威力の乗った攻撃を食らえば彼女の小さな体は簡単に弾き飛ばされる。すぐ横にあったレンガ作りの建物に打ち付けられ、一瞬息が詰まり、ついで咳くようにして吐く。頭の右側面に生温い感触。伝ってくるのは血か。頭がくらくらする。落ちそうになる瞼をこじ開けて必死に意識を保つ。すぐに怪我の度合いを確かめる。骨は折れていない。大丈夫、まだやれる。まだ立てる。
 此方に攻撃が入ったことを確認したフランは既に逃げの姿勢を取っていた。しかしまだ、能力の届く範囲にいる。とは言え悠長に自分の怪我を治していては逃げられるだろう。このままやるしかない。もうエネルギーを温存などと言っていられない。

「……逃がすもんか」

 あのパワーは筋力を上昇させた故のものだろう。つまり、常人相手に使う程度の弱体では足りない。エネルギー残量は少し余裕があるが、恐らくはこれでほぼ空になるだろう。これが最後のチャンスだ。

(動けなくなるまでその筋力、全部削いでやる……!)

 瑠璃羽はしっかりとフランを視界に入れ、手を伸ばし、今度は全力で敵の脚の筋力を落としにかかる。ついでふらつく体を背後の壁で支えながら立ち上がり、再び距離を詰めた。

>フランくん

1ヶ月前 No.63

なお @onpkun ★iPhone=cadbpcvG2u

【 ア / アイアンメイデン本部 屋上 / 神楽坂 夜】


「確かに…映画館とか入りずらくなってしまうのは困るわね。とはいえ流石にそんな所ではあちら様もそんなに簡単に手出しはしてこないんじゃないかしら。一般のお客様にも迷惑だし、そういうのは向こうの正義とやらに反するでしょう」


ヴェロニカの言葉に確かに困る、と少しだけ困った表情を見せる。映画や娯楽は夜にとっても非常に大切なものだし、それはこのアイアンメイデンの他のみんなにとってもそうだろう。万が一そんな所で敵襲なんて受けたものなら、普段なら冷静な夜も声を荒らげることがあるかもしれない。楽しい時間を他人に邪魔をされることが何よりも大嫌いなのだ。むしろそんな所でされたら容赦なく心臓を貫いてしまうに違いない。血濡れの映画館なんて、嫌以外の何者でもない。その瞬間を想像し静かに溢れ出そうになる殺意を、なんとか笑顔で誤魔化す。


ぐぅ、と鳴ってしまった自分のお腹にヴェロニカが思わず反応してしまったみたいで「 夜さんもお腹鳴るんですね 」なんて言葉を投げかけられた。彼女が自分のことをどんな風に見ているのか分かる一言でくすりと笑みが漏れる。普段から飄々としているという自覚はあるが、もしかしてAIか何かの類とでも思われてしまっているんだろうか。もちろんそんな存在ではないし、普通にお腹も空く。ただ年下にはいつまでも格好をつけていたいので、そういったことはあまり表に出さないようにしていたのだ。
めんどくさい人間なのだ、神楽坂夜という人物は。「私だってお腹くらい鳴るわよ、人間だもの」と告げれば少し拗ねるような素振りをして見せる。


「軽食も確かに良いかもしれないけれど、聞いての通り私とってもお腹が空いてしまっているみたい。お肉とか食べたいなぁなんて思っているんだけど、どうかしら。それともお肉なんて嫌い?」


ヴェロニカの顔を見ていると、甘いものというよりもお肉とかの方もいいなぁ…と考えているだろうなとなんとなく分かってしまった。丁度赤く染った空がどことなくお肉に見えなくもない。実際夜もお腹が空いている事だしその考えに乗っかってみようと思う。

>>ヴェロニカちゃん



【 ア / 中央区駅前 / 神楽坂 夜】

彼の言葉にそれもそうね、と続ける。割と親しい間柄なのだからこんな風に皮肉等を吐いても大丈夫で居られるのだ。割と動いていたからか疲れてしまったのだろうか。普段ならこんな風に感傷的になったりすることも少ないので、自分にもまだこんな一面があったのかと面白さを感じた。
幼い頃はそこそこ素直に、しかもきちんと愛嬌もあった方なのだ。神楽坂さん家の夜ちゃんは礼儀正しいわね、なんて良く近所の人から言われたものだ。家族仲は良かったし、妹とも仲が良かったから良いお姉ちゃんをしていたと自分でも思う。今の夜を昔の人達が見たら相当変わったと言われるだろう。外見はそれほど変わった訳では無いが、性格が180度変わったと言っても過言ではない。昔のように好奇心が旺盛なのは変わっていないが。
この夕暮れ時という時間からか、近くを駆けていく姉妹であろう2人を見たからなのか少し感傷的になってしまった。


「それもそうね、雑魚相手に少し感傷的になってしまったみたい。そういう事なら今日は貴方に奢ってもらおうかしら、さっきまで働いていた私を存分に労わってもらわないと。」


ふう、と息を吐くといつもの調子が戻ってきた。いつものようによく回る口でそう告げると壁から背を離した彼に倣うように自身も歩き出す。先程までの感傷的な気持ちはどこへやら、今はお酒という単語にウキウキした気持ちが止まらないでいた。普段よりも少し上等なものを嗜むのも良いだろう。もちろん相手に奢って頂くことを前提で、だ。

>>ジーンさん、



【 ア / ユーリス本部 / 神楽坂夜 】

彼がこちらに近づいてきたのを見て、やはりなーーと夜は思った。彼ならばある程度の情報を持っている、直感的だったものが確信に変わった。何かしらの情報を持ち帰ることが出来れば、今後のアイアンメイデンの立ち回り方なども考えることが出来る。ついでに言えば相手の能力もどんなものか分かるかもしれない…願ってもない一石二鳥の事態に柄にもなく浮かれてしまっているのを感じた。いつもゆったりと歩いている夜の足が、いつもより少し早くなる程には。


「迷子?……そうね、そんな所かしら。ちょっとこの辺りに興味があって来てみたんだけれど見慣れないものが多くて、良かったら案内していただける?」


お互いにニコニコと表情は笑っているが、目元はお互いに笑っていない。この人どことなく自分と似ているかも、と考えると同族嫌悪に似たような感情が押し寄せてくる。ユーリスの人達は気が合わないと思ってはいたが、この男はより気が合わないだろうなというのが強く印象に残った。
とはいえここで逃げ出すわけにはいかないし、運が良ければユーリス本部の中にまで入ることが出来るかもしれない。そんな期待が夜の中にはあった。最低限構造さえ分かっていればもし誰かが捕まった時などでもそれを利用してなんとかできるかもしれないからだ。うちの連中に限って捕まるなんていう阿呆はいないとはおもうが、念には念をだ。
と、再び彼が言葉を紡ぐ。その言葉には皮肉と敵意が込められていた。中まで案内してくれる、そうは言っているが向こうにはこちらがアイアンメイデンの人間だということはバレてしまっているだろう。でなければこんな風に話しかけて来ない。中まで行けるのはいい事だが、今この状況で1人で出向くのは得策ではないだろう。思い通りに行かない状況に少しの苛立ちを感じつつも、表情は崩さない。


「そうね。…中も興味はあるけれど、今日はもうこんな時間だから、外を案内してもらおうかな。こんな素敵な人にエスコートしてもらえるなんて、今日は素敵な日ね」


全く思っていない言葉をつらつらと紡ぎ出す夜をどうか素晴らしいと言って欲しい。とりあえずこの人の名前、ついでに能力なんかも知ってから帰ってやる…そう心に誓ったのだった。

>>エリアスさん、


【いいと思います!!笑
夜は最初のエリアスさんの印象はなんとなく良くない感じにしておきました。笑ここから仲良く(?)なっていくのがたのしみです、】

1ヶ月前 No.64

雪鹿 @class ★Android=42zyboh5vZ

【ア/西区・バー『GrandChariot』/ルレッタ・ファウスト】

 気前よく笑いを上げたジーンは一片のムラもなく塗られた黒のカウンターへ、頬杖をついて壁に掛けられたアンティークのランプも照らす中、此方へ顔を向ける。この店内に漂うノスタルジックな雰囲気も相成ってか、柔らかな明るさのせいで遠い昔の事をぼんやりと思い出していたが、それに応じるようにして終わった事だと追想をぶつりと断ち切った。
 なぁ、マスター、そう言って視線を奥へと飛ばした彼を追うように視線をそちらへ向ける。そして、彼女は上品ながらに愛想のいい笑みを向ける――きっと此処がカジノだったなら、真っ先にお会いに行った事でしょうに、と「お邪魔してるわ」なんて答えながらも浮かべた気前の良さげな柔らかな微笑みの裏で、静かに相手の度量を測りながら。
 そのマスターが私を指した言葉はカジノの女王――ジーンが夜の女王と呼んだ直後の呼び名にしては、やけに具体的。きっと多かれ少なかれ知っていたんでしょうね……んー、こりゃカジノで会ってても体良く降りられちゃうわね。ちょっぴり残念。
 それとマスターの口調も、全体に薄く施された化粧と、やけに目立つ赤い口紅が先に大方語ってくれていたおかげで、その事に特別な驚きは無かった。今時、特に気にするほど特別な事でもないもの……まぁ、多少の物珍しさはあるけれどね。

 青と赤、奇しくも瞳と同じ色のカクテルを頼んだ後に交わされた、ジーンとマスターの会話に口を挟む訳でも茶々を入れる訳でもなく傾聴していた。その中で『葉巻』『法外な金額』『鳥肌』……なんか、あったんでしょうけど、とは考えつつも、何だかんだで程ほどに仲の良さげなやり取りを少しだけ面白がって上機嫌に笑みを零す。そして、静かに机の下でタイツを纏った足を組むと共に、軽く頬杖をついた。
 犬でも追い払うかのようにジーンに手で追いやられたマスターは、クスクスと笑って店の奥へと消えて行く。その様子にマスターよりも控え目だけれど、思わず笑ってしまっていたのは……そうね、秘密にしておこうかしら。

 吸っていた煙草の先に貯まった灰を、灰皿へ落としながら、ジーンは数刻前に尋ねた質問の答えを返してきた。昔は吸っていた――という事は、何か理由があるんでしょう? そう、尋ねるように言葉は挟まず、彼女はジーンの顔へ愉快そうに微笑みを向けておく。

「へぇ、そういうこと。彼――彼女、随分と面白い人なのね。けれど、色々と合点がいったわ……アンタのソレも、昔のイカれ野郎の事もね」

 絶品だった、その言葉から始まって次第に雲行きが怪しくなっていく話を最後まで聞き終えて、頬杖をつくのをやめて両手を胸の下辺りでゆるりと腕を組む。マスターの入っていった奥の方へ視線をちら、と向けて愉快そうに口元を僅かに緩めた。かと思えば、ふと吸っていた煙草とジーンの方へと向き直れば、フッと笑った。
 そう、何時だったか忘れたけれど、カジノで見た事がある。葉巻の為だと大金を稼ぐために、私の前に立った男を――あの時はてっきり、そういう隠語で示されたヤクの類いとばかり思っていたけれど、こんな所で種明かしをされるだなんて思っていなかったわ。ま、ヤクって事に変わりはないけれど。……それにしたって、こういうのって本当に不思議なものね。ま、今回は特に分かんなくたって良かったんだけれど。

「私は……そうね、昔は吸ってたわよ。早い話が、煙草吸ってるより男も寄ってこないし楽だったの。ま、今は必要も無いし滅多に吸わないわ。元々、そんなに趣味じゃ無かったしね」

 自分の事を尋ねられ、数秒目を伏せて閉じたかと思えば、灰皿に残った吸い殻とジーンの顔を眺めて答えを語る。「今から思えば、本当に可愛いげの無い小娘だったわ」なんて、可愛らしくもない大人びた笑みを浮かべながら、他愛もない冗談めかして自虐的に付け加えておく。自虐、そうは言っても自分から見て真っ当な評価とは思ってはいたが。

「それにしても、アンタの知り合いって濃いわよね。ま、飽きなくて丁度良いけど」

 腕を組んだまま、毅然とした様子ではあったが、何処か愉しげに。しかし、決して場の雰囲気を崩さずに淡く笑みを浮かべていた。いずれ昇る朝日も深まっていく夜も気にする事はなく、ただ、今を楽しむように。

>ジーン

1ヶ月前 No.65

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_kE1

【ユ/ユーリス本部/カール・ハルデンベルグ】
 瑠璃羽が捕まえるべき相手の事を知っていると伝えたことに対する反応は、案の定というか驚きのそれであった。それはカールからしても充分に予測できているものであった。彼女でなくても、真面目な自分と今の明らかに不真面目な彼と接点があるようには見えまい。

「あぁ、優等生だったよ。俺とは反りが合わない人だったが、まぁそれも俺が頭堅過ぎたのが原因の一つだろうからなぁ。
部活での印象だって悪くなかったし、何なら尊敬する先輩の一人に数えてたくらいだ。高校卒業してから何かあったのは確実だと思うんだが、俺もあまり深いところは知らなくてな」

 今じゃ見ての通りだし、尊敬しているだなんて口が裂けても言えないけどな、と、冗談めかした口調で付け加える。何があったのかはわからないが、何かがあったのは確かな事だろう。でなければ、勤勉な優等生が酒浸りになるような、性格が反転したかのような状況に陥るわけがない。その原因がよもや宗教がらみの事だとは知らず、それ故に彼が変わった原因についての言及は避けた。
 目の前の少女はなんとなく、本当に僅かに普段と様子が違うように見えなくもないが、その理由が『ヴェロニカ・ロロン』にあるとは気が付かず、気のせいだろうと片付ける。それが気のせいではないと気がついていれば、あるいはその点についてしっかりと対話すれば、お前が誰と親交を持っていようとお前の自由だと思うと告げていれば、早めに彼女の肩の荷も下りたのだろうが。

「ああ。有り得ないことを考えても意味はないが、さぞ平和だろうからなぁ」

 心からといった風に同意する瑠璃羽に対して、そう応える。何もかも有り得ないことだ、そもそも誰一人大学に入るという選択をしていないのだから。しかし、だからこそ、その選択肢の先にある事を夢想できるともいえる。それくらいはいいだろう、想像する事ぐらいの自由時間はまだ取れるはずだ。

>>瑠璃羽



【ユ/大通り 映画館前/カール・ハルデンベルグ】
 条件は夕陽の順光、影が長くなっているとはいえ彼女の顔にはかかっていないのだからこれほどなくしっかりと彼女の表情も行動も見ることが出来るような状態だ。だから、彼女が不自然なほどに息を止めていたのだって見えていた。恐らくそれは、速攻で見つかったことに対する驚きなどによるものなのだろう。逆なら俺だってそうなる、誰がそんな1時間ほどで見つかるなどと思うか。誰だって思うまい、だからこそ不用心になる。相手もそんなに早く見つけられないだろうと思い込んでしまうものだ。本当に、今日こんな早く見つけられるというのは神様の助けがあったのではなかろうか。

「ハハ、たしかにコーヒーの美味しい喫茶店を知ってはいるがそうじゃあねぇんだ」

 紅い、血がそのまま透けているかのような、あるいはルビーのような。綺麗な紅い眼だ、と、思わず一瞬仕事を忘れそうになる。仕草そのものも妖しさがあるが、あぁ年齢相応に笑顔は可愛らしい―――意識を仕事に無理やり戻す。
 ナンパか、と問うヴェロニカに、そう苦笑交じりに返す。ユーリス本部一階の喫茶店のコーヒーは好きだが、彼女と飲むなど永劫望めまい。そもそも彼女とてきっと本気でその問いを投げてきたわけではあるまいし、あまり深く考えるべきことではないだろう。

「そうか。君には複数の暴行、傷害、同教唆等の容疑がかかっている。
 女性相手に手荒な真似をしたくはない、素直にユーリス本部まで同行してもらえるかな」

 ユーリスに声を掛けられるいわれはないというヴェロニカへと、生真面目に返答する。実際に彼女がそういうことをしたのかはまだ分からないが、少なくとも部下に対して暴力行為の示唆をしたであろうことは簡単に想像がつく。故に並べた罪状はそれらだ。繰り返すが、まだヴェロニカが本当に拷問担当であることを彼は知らない。
>>ヴェロニカ・ロロン

1ヶ月前 No.66

たますだれ @zfrower ★nNVOMllOgi_iGf

【ユ / ユーリス本部 / エリアス・スタンレイ】

 自分でも少し反省するくらいにはわかりやすく皮肉ったつもりだが、彼女の態度に特に変化はない。それどころか不敵にほほ笑んで見せる彼女の表情に赤い口紅はよく映えていた。それが忌々しくて目をそらす。社交辞令よりも空々しい世辞には軽く口の端を上げるだけで聞き流し“外”を選んだ彼女に「そうかい」とだけ答えた。それではさすがに子どもっぽいかと思い直し、

「それはよかった。暗くなると危ないからね、いろいろと」

 そう付け加え、待ってのジェスチャーをした後、机に置きっぱなしになっていた空のカップと書類の束を手に取る。くるりと踵を返し彼女のもとへ戻ると、ちらと一瞥し先ほどエスコートなどと言われた意趣返しに「それじゃ、こちらへどうぞお嬢さん」と芝居がかった言い回しで先導して歩き出す。速度は気持ち控えめに。さすがに敵方といえどその程度気遣えないほど耄碌はしていない。が、世間話を差し向けてあげるほど気を使うつもりはなかった。なぜここに来たのか尋ねたい気持ちもあるがこっちからつつくのも癪に触る。そんなわけで先手を打つ気にもなれずエリアスはきゅ、と口を引き結んだまま真っすぐ出口まで進む。

>>神楽坂夜

【わーい!ギスギスだ!!!楽しい! あ、短くてすみません。外に出てドンパチ始める前にいくつか掛け合いできたらいいなと思って外に出る前で止めました。じゃあ話しかけろって感じなんですけどもしよかったら今のうちに情報引き出して下さい】

1ヶ月前 No.67

はるみや @basuke21☆xM4sO6EUbuM ★sBHPZi6My9_OSy

【ア>レオン・アレン / 『エヴリカ』付近】


 ビリビリとした、一瞬の隙を見せることが許されないこの空間がレオンは好きだった。自分の呼吸の音、相手の呼吸の音、自分衣服の音、相手の衣服の音、風の音、遠くから聞こえる雑踏の音、風に乗って鼻腔を擽る色々なものが混ざったにおい、肌に直に感じる季節の風、大地、空。五感がいつもより研ぎ澄まされ、戦闘の開始前にしか味わえない、自分は生きているんだと、息が荒くなり、頭がくらくらする──興奮。しかし、すまなかったね、と右手を上げるハイドレンジに、リンゴのタルトでも買えば良かったな、なんて思える余裕は生まれていた。
 とはいえ、それでもまだ視線は逸らさない。ジッ、と。いつでも俺はお前に攻撃を仕掛けられるのだと、言わんばかりに。
 己に背を向け、去るハイドレンジに今奇襲を仕掛けたらどんな戦法で太刀打ちしてくるのか、だとか、その辺の物を投げたらどんな反応するのだろうか、だとか、次は戦闘のことしか頭になかったレオンが、ごくりと息を飲む番だった。ぞくりと背筋に走る、やはり戦闘独特の感覚。緩んだ糸がぴんと張り詰めるような、そんな形容し難い感覚に陥ったレオンは、自分の口角が上がっていることに気づいていない。
 少しだけ残ったリンゴの芳醇な香りと、ハイドレンジのにおい。実にユーリスらしい女だと、ここで初めて自分が笑っていることに気がついた。

「……度胸が無い女も味気ない。──ああ、その通りだ」

 次に会うのが楽しみだと、少しだけ。一滴の雫程度だけ。ハイドレンジに興味を抱いたレオンだった。だがケーキは自分で買う、と。しっかり心の中で付け足すのを忘れない。

>>ハイドレンジ




【ア>レオン・アレン / アイアンメイデン本部 ヴェロニカの部屋 】

 ヴェロニカの部屋だな、と。真っ先に感じる、そんな部屋だった。ずっと放映中だったらしい映画はクライマックスらしい、荘厳なBGMと、何やら叫んでいる俳優たち、そして迫力のある演出。
 とはいえ、肝心の最初の方を見ていなかったので、何がどうしてこうなったのか分からない以上、どんな感動するラストを見ても何も感じない。映画だけではない、人間だってそうだ。人間だって、そうなのだ。レオンにとっては。
 視線をゾンビ映画に向けたまま、くつろいてください、と言うヴェロニカの言葉を「ん」なんて聞いてるのか聞いてないのか分からない一文字で返す。近くにあった大きな大きなソファにどかりと腰を下ろしたのは、ヴェロニカの言葉を聞いていたからなのか、それともレオンの性格なのか。
 「覗きたいなら覗いてもいいっすよ」とケラケラ笑いながら言う声で、はっきりと意識がヴェロニカに向いた。こんな何も分からないゾンビ映画を見入ってたことに少し驚きながら、彼女が入って行った風呂場の扉に視線を移す。「覗くぞ」なんて少し大きな声で軽口に軽口で返そうとした瞬間、首だけが出てきて少し驚く。そして目が合ったのでちょっと気まずい。
 「手?」手。言われて初めて自分の手が汚れていることに気づいた……というより、思い出したレオン。自分の手に視線を移して「ああ」なんて短く呟けば、食事に行くのだから洗っといた方がいいだろうという結論に至る。
 ヴェロニカがシャワーを浴びている間に手を洗い、そしてまたソファに腰掛け、ゾンビ映画に目を向けた。主人公らしき男とヒロインらしき女が抱き合ってる。レオンからしてみれば、中途半端に始まり、中途半端に終わる、ちっとも感動しない薄っぺらい映画。特に何の感情も抱かずそれを見ていると、いつもよりお洒落な、大人な彼女が出てきた。少しだけ目を見開いて、ふ、と息を吐くように笑う。レオンの目にはどう映っているのか、レオンにしか分からない。しかしひとつだけ、全くもって不思議なことではあるが、明確なのは

「肉が可哀相だな」

 食用の肉にされ、ヴェロニカという女に追いかけられ、食される肉への同情だった。

>>ヴェロニカ




【ア>レオン・アレン / パティスリー『エヴリカ』付近】

 レオンは得体の知れない感情にイライラを募らせていた。目の前のユリーカに。今まで抱いたことのない、イライラと何かと何かが混ざってぐちゃぐちゃにかき混ぜたような、不快な感情。今のレオンにその感情の正体は分からなかった。
 ユリーカの大きな目は泣きそうに揺れている、ように思えたが、違った。「やだ、です!」なんで、揺るがない意思を持っている目。厄介で、面倒くさくて、だるい、目。イライライライラ。イライラが募る。募り募って、やがて斜塔のように見る者をハラハラさせてしまいそうなレオンの目は、炎、血。物騒なものを押し詰めた棺桶のように、ゆらゆらと揺れていた。レオンの感情を表しているかのように。
 しかしそれはユリーカの大きな声によって止まった。目玉零れるぞ、なんて間抜けなことを素直に感じたレオンも、驚きに目を見開く。が、すぐにいつもの目に戻る。なんだ、そんなことかと言わんばかりに。というより、コイツ、本当に気付いていなかったのか。ちんちくりんはどこまでもちんちくりんなんだな。と内心好き勝手言っていると、なんだか心が晴れやかな気持ちになった。
 いつもなら、普通なら、この後始まるのは戦闘。レオンの好きな、戦闘。自然と緩む口角。だからこそ、

「…………は?」

 ユリーカの前代未聞な行動と言動に、素っ頓狂な声が出た。
 手を握られている。握手だろうか。何故だろう。戦闘前の礼儀とかいうやつだろうか。かと思えば自己紹介。なんだか親密な関係を築けそうだ。戦闘はいつ始まるんだ。戦闘……始まるのか、コレ。始まらない。絶対始まらない。これは、絶対。始まらない。
 一人で脳内会議を終えたレオンは、世界記録に挑戦できそうな程長いため息を吐いた。「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」最後の方は消え入りそうな細い声。

「……ユーリスは、お前みたいなちんちくりんでも幹部になれるんだな……」

 そう言う声は、どこか楽しそうで──太陽のように晴れていて──秋風のように爽やかな声だった。

>>ユリーカ

1ヶ月前 No.68

雨宮 @monochr0me ★Android=uBxL73ss8E

夢幻 甘利 【ユーリス/自室内→廊下】


簡素なベットとモニター、キーボード。息をつく。自分の部屋(とは言えど勝手に空き部屋を改造しただけだが)はやはり落ち着く物だ。
さて、貰った資料を読み込もうか。
……ボクの獲物──ルレッタ・ファウストの情報を頭に入れる。……前に窓際まで歩き、シンプルなデザインのカーテンを閉める。真っ赤な夕日が隠され、辺りが闇に包まれる。暗い方が集中できない?まあ、どうでもいいよね。そんなこと。
モニターの電源を付け、人工の白い光を灯す。机近くにあるキャンディポットから日のお供を選び、並べる。さあ、やるかな。お気に入りのオフィスチェアに腰掛けようとした、時。こんこんこん、三回。規則正しいリズムが鳴り響いた。後に在室の有無を尋ねる声。
珍しい。ここは皆立ち入る事が少ない棟だ。滅多に人なんて来ないのに。
でも仕事を行う前でよかったー。音なんて聞こえたら途端に現実に引き戻される。集中が途切れる。邪魔をされるのは嫌いだ。例え、意図的だろうがそうでなかろうが、親しいか他人かは関係ない。邪魔されたのは事実だし。
廊下に窓を遮る物など無い。電気は付けなくてもいいかな。用件は何だろう。……話すまで幾ら予想しても、結局徒労に終わる。時間のムダだ。さっさと出て、話を終わらせよう。
「はーい。誰?」
声はあくまで明るく、歓迎するように。少し不機嫌になったことは一切隠して。偽るのは特意だ。慣れてしまった、なんて。
声の主に尋ね、扉をそっと開けるが目線が合わない。悔しいけど仕方ない。首を動かし見上げる。顔が見えた。
──ハイドレンジ・ローゼンヴィリア。……ボクはレンと呼んでいる。親しみを込めて、そして相棒として。続けて問う。
「あれ?レンじゃん!さっきぶりだね。……こんな所まで来てどうしたの?ボクに用事?」
とりあえず理由を聞いて、それからだ。レンの返事を大人しく待つ事にした。


【大変遅くなり申し訳ございません。絡んでいただきありがとうございます!嬉しいです……!】

>>ハイドレンジ・ローゼンヴィリア様

1ヶ月前 No.69

@line☆1jppp41g33s ★Android=Iph2i3QnCf

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1ヶ月前 No.70

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=rWwjSnqBVX

【ユ>ユリーカ・パチル / 中央区大通り】

 ユーフェミアのターゲットの特徴を聞いたユリーカは、口をひし形に開いて、文字におこせない感嘆の言葉を吐き出した。あえて言うならば、ほえーが当てはまるだろうか。冬の空みたいな目、馴染みのない表現だった。それはきっと冷たい印象を与える瞳なのかもしれないが、ユーフェミアの口から紡がれるその言葉には、何故か暖かさが隠れているように思えた。

「素敵な方なんですね、きっと」

 無意識のうちにユリーカの口は動いていた。そして微笑む。それは相手を安心させるような優しい微笑みであった。珍しくいつもよりも大人びた表情を浮かべていたかと思えば、次の瞬間にはユーフェミアの頭に乗せていた手を下ろし、顔の前に持ってきた拳をグッと握る。

「弱気はダメなことじゃないよ。これから、ゆっくりでいいから、一緒にがんばりましょう!」

 元々つり気味な眉をいっそうキリリとさせ、頼もしげな雰囲気を醸し出しているつもりのユリーカ。実際には、むふーと聞こえてきそうなくらいのしたり顔にしか見えないのだが。でも、ユーフェミアが元気になってくれたようで一安心である。
 ターゲットは自分では選べない。だからこそ葛藤が生まれることだってあるだろう。自分の捕まえるべき相手は、今まで知らなかった人だったので何も複雑な思いは生まれてこなかった。寧ろどんな声なのか、どんな風に笑うのか、どんな人なのか、ワクワクしているくらいだ。面識がなさすぎるので不安に……もなるはずがなく。

 いっこうにクレープに手をつけないユーフェミアに「食べないと冷めちゃうよー」と、急かすように且つ冗談っぽく声を上げた。目敏く指摘した理由は、彼女の手に持つクレープが自分の持つクレープと同じくらい美味しそうで魅力的だから、ずっと注視していたのである。彼女がある程度食べたら一口もらおうと思っていたけれど、これでは貰いようがない。出来たてでも冷めていても美味しいので、本当は急かすことではないのだけれど、ついこんなことを言ってしまった。誤魔化すようにえへへと笑って、

「腹が減っては戦は出来ぬ、ですよ!」

 残り僅かとなったクレープの包装紙を器用に剥き、食べやすくなったクレープを、笑顔でユーフェミアに差し出した。だってシェアする約束をしたから。いらない、と言われたらそれまでだけれども、有言実行当たり前なのがユリーカなのだ。そして断られたくらいでは凹まないのもユリーカクオリティ。
 それにしても中々に美味しかった、このクレープは。今はオープン記念セールを主な理由に、幅広い年齢層の客で溢れているが、セールが終わってからも安定の人気を博しそうだ。そのうちユリーカがチェックしている雑誌にも人気店として載ることだろう。それこそ、『エヴリカ』と記事が隣り合わせになることだって有り得る。また中央区に来た時は買いに寄ろうと決意を固めつつ、満足げにお腹をさすった。まだまだ食べられるけれど、幸福感という点においてはおなかいっぱいだ。

>>ユーフェミア




【ユ>ユリーカ・パチル / パティスリー『エヴリカ』付近】

 脊髄反射的に、勢いあまって、いつもの調子でレオンの手を握ってしまっていた。にこにこと朗らかに笑うユリーカとは対照的に、唖然とした表情を浮かべる相手。まさか彼が脳内で思考を巡らせているとはつゆ知らず、小さくぷにぷにと柔らかいその両手で、大きく無骨な手を握り締める。そして、頭上から降り注ぐ長過ぎる溜息に、ぽかんと口を開けた。なになに、なにが始まるの。なんて。飼い主に待てと言われているのに待ちきれない犬のように、尻尾があればぶんぶん振っていたであろう期待に充ちた目。キラキラ光線なんて、前に誰かに比喩されていたっけ。
 何を言われるかと思えば、そんなこと。

「ちんちくりんじゃなくてユリーカだよ」

 そう言葉を紡ぎ、ふわりと微笑んだ。幼い頃から憧れていたユーリスになってから早5年。色々なことがあったし、色々な出会いがあった。右も左も分からなかった頃に一から業務を教えてくれた尊敬する上司、切磋琢磨し互いに高みを目指し合う同期、初めて立った戦線でサポートしてくれた頼れる先輩、仕事ではもちろん日常生活でも懇意にしてくれる大好きなバディ、他にも素敵な出会いが現在進行形でたくさん。気付けば精鋭と呼ばれるようになって、今回晴れて幹部対策本部に……

「そーだ! わたし、あなたを捕まえないといけないんです!」

 ようやく相手の手を離して、一歩下がる。一応距離を取った、つもり。捕獲、となるとやはり能力を使ってワイヤーでぐるぐる巻きにしてしまうのが手っ取り早いだろうか。まだ温かさの残る両手を擦り合わせ、さてどうしようかと相手から目を離すことなく黙念する。真面目な顔をすると口先が尖ってしまうのは癖である。数秒後、「あ、でも」と言い淀んだ。ここで初めて不安げに眉を下げ、相手を見上げる。

「ケーキ……。ユリーカはそれが気がかりで気がかりで、このままだと今夜は眠れない夜になってしまいそうです。確かにうちのお店は女性客が多いので入りづらいかもしれません。けど、でもでも、そんなことで諦めてほしくない! ユリーカが代わりに買ってきましょうか?」

 相手に口を挟む隙を与えない勢いで、言いたいことを言い切った。くるくると変わる表情、視界がうるさいと言いたくなるほどたくさんの身振り手振りを添えて。眉を寄せて目を瞑り顎に手をあててぐぬぬと唸ったかと思えば、目を擦ってから大きく目を開いたり、電球マークのエフェクトが飛びそうなくらい閃いた表情でパーにした右手とグーにした左手をポンと打ち鳴らしたり、エトセトラ。締めくくったあと、「今ならまだ間に合いますよー」と言いながら、くるりと実家へと方向転換し、両腕をしゃかしゃか動かして走るジェスチャーをする。そろそろお察しの通り、さわがしくてせわしないのが、このユリーカである。
 ここまでレオンにケーキを食べてもらうことにこだわる理由は、『あなたに食べてほしいから』。もちろん実家の売上に貢献したいという気持ちもあるが、それよりも、何よりも、ユリーカ自身が父と母のケーキの大ファンで、美味しいものはより多くの人に食べてもらいたいと思っているのだ。小さい頃から食べていたケーキを、多くの人々に買ってもらえるのはとても嬉しい。みんなが美味しいと言って笑顔になってくれると、自分だってつられて笑顔になってしまう。そういうわけで、ユリーカは引けなかったのだった。だが、決して購入の強制はしない。最後に決断を下すのはあくまでレオン。
 ぴたりと動きを止め、彼を見上げながら小首を傾げた。

>>レオン

1ヶ月前 No.71

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【ア/中央区の路地→大通り/フランクリン・スカビオサ】

 ────まずは1発。

 右手の感触を確認したらすぐさま数歩後ろへ下がる。華奢でちっこいガキの身体は、1発で簡単に吹き飛んだ。人2人がギリギリ横に並べる程度の狭い路地、当たり前か不運か、レンガの壁に頭を打ち付けたようで、しばらくアレはマトモに動けないだろう。その間に後ろ向きのまま、牽制するような視線を向けながら、1歩ずつ距離を取る。これなら逃げられる──いや、いいや、慢心するな。相手はユーリスだ。
 アルコールが回ってきて段々冴えてくる頭が出した結論は「マトモにやるべきではない」。即刻逃げるべきだ。それなのに物怖じか恐怖心か、はたまた別の何かか。目を離していけないような気がする、この逃げ足を速めてはいけない気がする。慣れた路地、目を閉じて後ろ歩きしても壁にぶつかることは無いだろう。今の俺なら程度に視線を残したまま射程外まで逃げることは容易だろう。それなのに、なぜか、足が重い。

 ────ほら、やっぱり。

 俺があの傷を負ったらなら、それ以降の戦闘は諦めて大人しく意識を手放す。それなのにあのガキ、この短時間で再び立ち上がるなんて見上げた根性だ。まだやれる気か、本当にやれるのかはわかんないが、このままおちおち逃がしてはくれないだろう。背中に隠したナイフ────は今持ってないんだった。ああもうクソっ、なんでこんな日に限ってこんな目に遭うんだ!!

「ちっ……倒すしかねぇか」

 じりじりと下がり続けていた歩みを思い切って止め、再び臨戦態勢へ。利き足の右足を引いて、腰を落とし、もういつでも動き出せる。立ち上がったあとは何をしてくる。アイツは一体なにを隠しているんだ。僅かな動きでさえも見逃さないように目を凝らす。

『────────』

 ガキの口が動いた刹那。

 身体が膝から崩れ落ちた。比喩ではなく、本当に。感覚が無くなったというかなんというか、立てなくなった。前屈みだった身体は重力に引っ張られ落ちる。咄嗟に左手を地面について支えにし、なんとか膝立ちには留まったが……本当にこのガキの能力はなんなんだ……? この衝撃でうっかりバフは解いてしまった。今更俺に何の抵抗もできないだろう。

「てめぇクソガキ……何しやがった……」

 地面に追突寸前だった顔を上げる。どうやら動かないのは足だけで、首と腕は普通に自由が効いた。
 ……こいつ、さっきまで立ってたよな? いつの間にか俺と同じように糸切れて倒れちまっている。まさか自滅? いやいやそんなことは無いだろう。こんな下っ端に命賭ける、しかも失敗とか敵ながら同情するレベルのアホだぞ。

 数秒、膠着。

 これは一種のフェイントとか考えていたが、この5秒とちょい、一切なにも起こらなかった。俺の足は動かねぇし、目の前のガキは起き上がらない。────あぁいや、俺の足はいつの間にか動くようになっていた。床につきっぱなしの左手を支えに、「っしょ」と声を漏らしながら立ち上がる。……起きないよな? 本当に起きないよな?? 何歩か歩く事にチラチラと後ろを振り向きながら、さっきとは違ういつも通りの軽い足でその場を去る。……四六時中ではないにろ、今後アレが俺を追いかけてくるのか。ああもう、めんどくせぇ。

>>るりちゃん、All


【ケンカと確ロルの許可ありがとうございました! もうすぐ次イベ控えているので退散退散……! るりちゃんかわいいよ……】

1ヶ月前 No.72

篠葉 @xiv☆8qw5LAZnvEo ★iPad=N6pytYwzGR

下書き

【ユ / ユーリス本部 / 篠倉瑠璃羽】

 優等生。尊敬する先輩。
 カールの言葉に瑠璃羽は文字通り目を丸くする。ともすれば彼女の背後に広大な宇宙が広がるような錯覚を覚えたかもしれない。そのくらいの衝撃だった。カールが、尊敬する先輩。この男が。瑠璃羽はまじまじとフランの顔写真を見る。無精髭の生えた、顔色の悪い、ボサボサ頭の、半目の男。とても尊敬されるような人物には見えないが、過去の彼はもっとまともな顔色をしていたのだろうか。

「そう、だったんですね。カールさんが言うくらいなら、きっととても優秀な人だったんでしょうけど……。彼がアイアンメイデンである以上、私は私の仕事をこなすのみです」

 フランがどのような出来事を経て変わってしまったのか、カールにも分からないのなら瑠璃羽が考えても詮無いことだ。きっと見た目以上に手強い相手なのだろうと気を引き締める。そもそも軽薄そうに見えて幹部という立場に座しているくらいなのだから、相当のはずだ。「私に務まるか、ちょっぴり不安ですけど」とちらっと笑って付け足す。実際はちょっぴりどころではない。自分が彼らと肩を並べていいのか、未だに疑問なのだ。きっとこんなことを思っていては、精鋭に抜擢してくれた人──それがシマなのか他の誰かなのかは分からないが──に失礼なのだろうけれど。
 有り得ないこと。そうだ、有り得ないことだ。カールが自分とヴェロニカのことを知ったら、そんなことは有り得ないと、騙されているのだと言われるのだろうか。それとも彼なら、信じてくれるだろうか。

(もしそんな世界があったとして、私と彼女が、)

「……、なんて、こんなこと考えてたら、実際会った時にちょっとだけ捕まえるの躊躇っちゃいそうです」

 喉から出かかった言葉は別のものに変わる。冗談めかした笑いと共にそう言って、瑠璃羽は小さく小さく息を吐く。そしてしゃんと背筋を伸ばして、精一杯小さな体を大きく見せる。でも絶対油断はしませんよ、相手はアイアンメイデンなんですから。キリリと表情を引き締めて、せいぜい頼もしく見えるように。だから一緒に頑張りましょう、なんて、また一つ嘘を塗り重ねて。

>カールくん




【ユ / 中央区路地 / 篠倉瑠璃羽】

 じわりじわりと後退するフランに向かって、能力を使う。確かな手応えを感じながらズキズキと痛む頭を抑えて、覚束ない足取りで近づく。は、と息を吐く度口の中に血の味が広がり、顔を顰める。口の中も切れているのかもしれない。
 揺れる視界の中に地面に膝をついている彼の姿を捉える。足だけに限定したおかげで5秒はもつ、その間に拘束してしまえば瑠璃羽の勝ちだ。彼が何かを言ったのが聞こえたが、内容まではわからない。まずい、立っているのもやっとだ。早く、いやその前に、頭の怪我を治して意識をはっきりさせなければ……。

(ここまできて、逃してなんてやるもんか……)

 判断力の低下した瑠璃羽の頭は、もう既に残りのエネルギーのことを考える余裕はなかった。あと一歩。その距離を詰めようとした時、全身から力が抜け落ちるのを感じた。半分くらいは気力で立っていた足も完全に崩れ落ち、呆気なく地面に倒れ臥す。わずかに残った意識で、瑠璃羽は男が立ち去るのを感じ取った。そしてそのまま完全に意識を手放す。

 目覚めると、そこは先ほどの路地だった。とっぷり日の暮れた其処は闇の世界だ。どのくらい時間が経ったのか定かではないが、恐らくはもうフランには追いつけない。
 瑠璃羽はよろよろと立ち上がり、脇の方に転がっていた鞄の中を探った。中から飴玉を取り出して口に放り込み、乱暴に噛み砕く。飴の甘さと血のにおいが同時に鼻から抜けていく。彼女はその場にへたりと座り込み、ぼんやり空を見上げた。遠い空で星がちらつく。だんだん頭が冴えていくと共に、彼女の頬を静かに涙が伝った。
 逃してしまった。せっかくのチャンスを自分でフイにして。悔しくて、腹立たしくて、流れ落ちる涙を止められない。また一つ飴を取り出して、苛立ちをぶつけるように噛み砕いた。
 エネルギーが行き渡るのを感じると、怪我の回復へと取り掛かる。打ち付けた頭の傷を完全に塞ぎ、殴られた箇所を癒す。そうして立ち上がると、ユーリス本部から出てきた直後と同じくらいの調子に戻っていた。もちろん、体の調子は戻せても心の調子までは戻せないが。

(もっと、上手くできたはずなのに)

 次から次へと滲み出る涙を袖で拭う。泣きたくなんてないのに、勝手に出てくる涙が彼女は嫌いだった。すん、と鼻をすすって、路地から出るために歩き出す。帰り道、分からないんだっけ。そんなことを他人事のように考えながら、服についた埃も払わずに、半ば自棄になって通ってきたような記憶のある道を進んでいった。
>フランくん、ALL


【こちらこそ喧嘩ありがとうございました楽しかったですフランくんだいすき……】
【一応ALLにしておきましたが次イベント控えているため無視していただいて大丈夫です!】

1ヶ月前 No.73

鶏チキン @rmlp3322 ★wejhOBMSnu_keJ

【アイアンメイデン/ヴェロニカ・ロロン/大通り 映画館前→?】

 瑠璃羽の心底驚いたという声に私は満足感を覚える、その満足はくくく、と噛み殺しきれない悪そうな笑いで表現される。瑠璃羽の反応はいつも面白くて、もちろん他の部分も瑠璃羽は魅力がたっぷりだけど、瑠璃羽の様々な反応や表情を見たいがためについついからかってしまうのだ。
 脅かさないでよ、と言う瑠璃羽の顔はどことなく柔らかいままだ。口調を厳しくしても心から怒っているわけではないと分かっているので私もヘラヘラしたままだ。

「だって、瑠璃羽がこわーい顔してるんだもん。さっきだけは強そうだったよ? ……でも、私に気付かないのはだめー」

 戦えなきゃ意味がない、という瑠璃羽の言葉を拾いつつ、首を傾げる。一瞬その真剣さに驚いたのも事実だ、なにをそれほど考え込むことがあったのか。……まさか私のことだろうか、とよぎる不安をかき消すように明るい声を出す。だめだ、と瑠璃羽のおでこをツン、と突こうとした。
 瑠璃羽の言葉を信じるしかない私は、戦闘に特化した能力でない瑠璃羽が精鋭になる可能性は低いだろうと信じ込むしかない。このときの私は瑠璃羽が心の中でどれほど傷ついているのかなんて気付かず、自分の罪を彼女に隠すことで精いっぱいだった。愚かだ。だから瑠璃羽の会いたかったという甘い言葉に警戒心をすべて取っ払ってしまう。大丈夫、まだ疑われていない。私も会いたかった、と言えないほど胸がいっぱいになってしまって、にへら、と笑い返す。

「おお、じゃあエスコートしますねお嬢さん……って、ルリィ!」

 ここからいちばん近い、雰囲気いいとこあったかな、なんて考える暇も与えられず、瑠璃羽は歩き出す。これどこ行くつもりなんだろ、と思うと噴き出してしまう。とりあえず瑠璃羽がどこに向かっているんだっけ、と目的を思い出すまで黙って付いて行こうと思った。その場で美味しそうなところに入ればいいだろう、瑠璃羽と一緒なら何でもおいしいんだから。
 私の袖口を掴む瑠璃羽の手をぎゅっと握る。あったかかった。

「これは今日は私がエスコートされる番かなあ」

 夜の気配に包まれていく街に瑠璃羽と踏み込んでいくのは怖くなかった。たとえ瑠璃羽がどこへ向かっているのか私はわからなくても。
>瑠璃羽ちゃん


【アイアンメイデン/ヴェロニカ・ロロン/アイアンメイデン本部 屋上】

 夜さんも楽しみとかを邪魔されるのが嫌いな人だ。悠然としている人だけれど、特にユーリスの連中に邪魔されるのは好きではないようだ。夜さんの行きつけのバーなんかに彼らが押しかけてきたらとんでもないことになるだろうということは想像に難くない。彼女の能力と相まって地獄絵図だろう。でもその様子を想像すると私はスプラッタ映画のワンシーンみたいだと頬を緩めてしまうし、なんならレオンせんぱいあたりだって笑っちゃうだろう。夜さんには(というか夜さんの行きつけには)悪いけれどいつかそんなことが起こってほしいなとも思う。血濡れの夜さんは本当の女優さんみたいに綺麗なのだ。
 一瞬夜さんから漏れた殺意にぞくっとする。この人を捕まえる人は骨が折れるだろう。……骨が折れるどころで済めばいいけどね。

 ちょっと拗ねたような夜さんに私は焦る。怒らせちゃったかな、なんて。

「違うんすよ、夜さんはいつも女優さんみたいだから。女優さんって完璧じゃないっすか、綺麗で、かっこよくて。そういう夜さんが、なんか可愛いなって」

 しどろもどろになりながら正直に話す私は嘘を吐いているようにも見えるだろう。あまり人を真正面から褒めようとしたことがないのでこういうときに言葉が出ない。他人を貶す言葉ならいくらでも出てくるんだけどなあ。ちょっとしゅんとしながら夜さんの反応を伺っていると、お肉はどう? と提案される。肉は大好物だ。私はしゅんとしてたほうがいいのだろうけどつい「お肉食べたいっす!」と両手をあげて喜んでしまう。

「肉、大好きっす! いっぱい食べられますよ自分。ほんとはお肉食べたいって思ってたんすよ、赤身のお肉。わかったんすか? エスパーっすか?」

 夜さんを拗ねさせてしまったことよりも肉が食べたいなあなんて考えていたことを見抜かれたような提案に尻尾を振るようにはしゃいでしまう。そうと決まれば行きましょう、と言わんばかりに目をキラキラさせて夜さんの一声を待つ。
>夜さん


【アイアンメイデン/ヴェロニカ・ロロン/大通り 映画館前】

 軽口をたたく目の前の男。服装といい、雰囲気といい、大真面目なやつに見える。こういうやつは大体私みたいなちゃらんぽらんが嫌いだし、私みたいなちゃらんぽらんは大体こういうやつと相いれない。堅物ながら醸し出す余裕に、おそらくこいつは使いっ走りの部下なんかではなく、正真正銘の精鋭というやつなのだろうと結論付ける。アイアンメイデンの勘というやつだ。
 精鋭ならば逃げ出すのは容易ではないだろう。私は頭の中で地図を広げながら、どこをどう通れば本部まで最短かを考える。そんな素振りは表に出さず、「ええー、違うんですかあ? 残念、お兄さんの顔好みなんでナンパでもいいかなって思ったんすけど」とへらへら笑う。ユーリスの連中は市民を巻き込むことには正義とやらが反するらしいので乗り気ではない。ガチの殺し合いみたいな追いかけっこを見て酒を飲む連中なんだから巻き込まれてもげらげら笑ってそうだけど。とにかく、こいつらから逃げるには裏路地に入るよりも大通りのほうがいい、そういうことを考える。

 暴行、傷害、同教唆等の容疑という言葉に私はふうん、と目の前の男を改めて爪先から頭までじっくりと観察する。意外と狡猾だ。それっぽい単語を並べて私が狼狽えるのを待っているというところか。おそらく私たちアイアンメイデンの幹部たちがどのような仕事を得意としているかまでは情報がないのだろう。たしかに、今の法に照らせば暴行とか傷害とか? そういうものになるんだろうけど。ってかきょーさってなんだ。
 私はにやっと笑う、さっきまでのへらへらとした軽い笑いではない。男を見下して馬鹿にする笑いだ。ポケットに手を突っ込んでサングラスを頭にひっかけたまま、男との距離を詰める。

「お兄さんさあ、嘘吐いちゃだめでしょ。適当にそれっぽい罪状並べてさあ。嘘つきは泥棒のはじまりだよ?」

 身体と身体が密着するくらいまで近寄ろうと歩みを止めない。ぴりついた空気を感じ取ってきたのか、市民もざわめきだしている。そんな彼らに聞かれないように小声で、私は男に囁いた。

「だって、それキミらに密告する人、もういないっしょ? ユーリスと癒着してた裏切り者はみんな舌抜いちゃったんだから」

 たぶん私はいま悪い顔をしている。これはわざわざ自分の情報を流すようなものだけど、拷問くらいみんなやってるし、と思う。あれやってなかったけ? 姫環とかはやってなかった気がする。
 べえ、と舌を見せつけて真面目なこの男の反応を伺う。

「それにさ、裏切り者以外はプロスぺリタで悪いことするヤクザとか外の奴らなんだから。――市民を守るのは、正義ですよねえ?」

 私よりもだいぶ背が高い男を見上げ、ひそひそとした声で話しかける。正義と言う言葉に難癖を付けたくなるのは昔からの癖なので仕方がない。煽れるだけ煽っておこう、こういう堅物は火をつけると面白いのだ。「あっここで暴れまわってもいいですけど、周りの住民のみなさんはどうなりますかね? 私、自分の能力を制御するの苦手なんですよ」と場に似合わない明るい声で忠告しておく。制御できないというのはもちろん嘘だ。
>カールくん


【アイアンメイデン/ヴェロニカ・ロロン/自室→アイアンメイデン本部近く】

 うるさい、と言われ消されているだろうと思った映画はまだ続いていてエンドロールのちょっと手前。感動的な音楽と渾身の演技。めちゃめちゃ売れたわけではないけれど、ゾンビ映画としての評価は高い一本だ。伏線の回収が上手なので、せんぱいにはぜひ最初から最後まで腰を据えて見てほしかったところである。また今度別の映画に誘おう、とリモコンをいじってテレビを消す。唐突に無音になった、耳が寂しい。
 肉が可哀そう、というせんぱいの言葉の意味はよく分からなかったけれど、私はとりあえず笑っておく。褒められた、と解釈しておけば私は自分を喜ばせられるので今のもせんぱいなりの誉め言葉ということにしておく。似合うとだいたい同じ意味だろ、くらい解釈は投げやりだ。

「自分もうお腹ぺっこぺこっす! はやく牛さんが食べたい。あっ、さっきね、手にくっついてたお肉食べてみたんですけど、ぜんぜん味しなくて。せんぱいは人の肉食べたことあります?」

 部屋に来た時と同じようにせんぱいの手を引っ張って歩いて行こうとする。私が手を繋ぐ男の人はせんぱいくらいだけど、アイアンメイデンのみんなが噂にすることはない。繰り返しになるが私たちは奇妙な関係なのだ。デキてる、などと茶化す命知らずはいない。むしろふたりでいるとまた血なまぐさいことをしているのだろうと勘違いされて部下なんかは遠ざかっていく。いっつも拷問ばっかりしてるわけじゃないのにね。
 エレベーターに乗って下まで降りる。外から吹き抜ける風はやや冷たい。もう夜になるのだな、と思ってため息が出た。どこに連れてってくれるんです? と尋ねるように振り返ってせんぱいの顔を見た。
>レオンくん


【遅くなってしまい申し訳ありませんでした……!! 拙くて本当に申し訳ございません……レス力ほしい】

1ヶ月前 No.74

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_kE1

【ユ/ユーリス本部→/カール・ハルデンベルグ】
 かつて『フランクリン・スカビオサ』が『フランクリン・テイラー』であった頃の話を、その名前の変化には触れることなく少し聞かせれば、彼が尊敬できる先輩だったという言葉はやはり驚きを持って瑠璃羽に受け止められた。彼女の驚きは全くもって当然のことだと思う。今彼と初めて出会っていたとすれば全く別の角度からしか、彼の事をあくまでも逮捕するべき犯罪者の一人としてしか認識できなかっただろう。

「そうだな。瑠璃羽はもっと自信を持っていいと思うよ、何せ君の同期で君以上の人間はいないんだから」

頼もしい後輩の返答に頷きつつ、そうエールを送る。励ましの言葉になっているか、むしろ今の文言ではプレッシャーを与えるだけになってしまっているのではないだろうかと不安にもなるが、しかしそれを考えても後の祭りだ。彼女がポジティブな考えで事に臨んでくれることを祈るほかない。

「俺は殆どそんな事ないなぁ、目の前の相手と空想の相手は全く違うって分けちまう癖が付いちまった。ついでに実在の人物が目の前に居てもその要素を分けちまう。親だろうと親友だろうと同期だろうと、それが犯罪者なら捕まえなきゃならんのが俺達だからな。相手がどれだけ大事だろうと、罪を犯したなら俺はそれを重視して平等に捕まえる。
瑠璃羽も絶対にそうしろとまでは言わんが、そうしたほうがある程度楽だと思うぜ。無理に大事な相手の事を嫌いになったりせずに済むからな」

 捕まえにくくなるのではないか、と言われるが、そこへの共感は出来ず。素直に、普段どう考えているかという事を瑠璃羽へと披露する。
肉親であろうが友人であろうが、敵であれば敵対するし、逆に親の仇であろうとも味方であれば共闘する。無理やりにでもすっぱりと感情と行動とを切り分けてしまう、というわけだ。必ずしも彼女にそうしろというつもりはないし、今それを披露した理由もそういう考え方もあるしそうしたほうが楽になる場合もある、という程度の事だ。
 後輩の発奮に対して応、がんばろうぜ、と表情を僅かに緩めて短く答えてみせ、背を向けて扉へと向かいつつ手をひらりと振る。何となくだが、彼女をこれ以上見ていられない気がして。これ以上彼女に何かを繕わせるよりは、という事を感じたのだが、はてさてこれもあっているのかどうか。

>>瑠璃羽

【次のイベントも間近という事で、一旦絡みを切らせていただきます。お相手有難うございました、るりちゃんめっちゃかわいい……】

【ユ/大通り 映画館前/カール・ハルデンベルグ】
 先程のナンパの話がまだ続いている。恐らく本気にするだけ無駄だろうと考え、「そうかい、悪いな」とだけ短く言葉を紡いで話を切る。顔が好みなどと言われることが今までなかったわけではないし、何なら学生時代からもそういう色恋沙汰に巻き込まれなかったわけではないのだが、可能な限り誠実にお断りしてきた人生だ。実際ナンパしたところで、それ以上の話にはつながるまい。
 限りなくゼロ距離まで距離を詰められる嫌悪感を、久々に感じている。単純な距離で言えば通勤時間帯の満員のバスのような―――いやあれはまだマシか、相手に害意が無い場合が殆どなのだから。少なくとも、目の前の女は自らのパーソナルスペースが余程近いのか、あるいはそれを侵されたとしても気にしない性質なのか。何にせよ、彼女は意図的にそれをやっているせいか、彼女自身はそれを嫌がるそぶりは少なくとも表には出ていない。

「……ハ。やっぱ合ってんじゃねぇか」

 彼女が犯罪を自白して、漸く口に出来た言葉がそれとは、我ながら呆れかえる話だが。初対面の相手に意図的にここまで密着される時点で、潔癖な人間にはかなり堪えるのだ。勘弁してほしい。
 密告する者の舌を抜いた、という言葉が文字通りの物であるか、それは判断できないが。どういうわけか、見た事の無い地下室で、見たことのない男の顔が血で染まっているような、そういうイメージが鮮明に浮かんできた。全くもって、不快で不愉快だ。何だかんだ言って、彼女だって犯罪の片棒を担いでいるのは確かなのだ。であれば素直につかまれば良い物を、どうしてこんなに不快な思いをさせてくれるというのか。いっそ公務執行妨害で首輪をつけて引っ張って行ってやろうか―――流石にそれはやりすぎか。

「生憎と、何やってようとそれが犯罪ならやってる奴を捕まえなきゃいけない職業でな」

 彼女が正義という言葉を態々用いたのであれば、意図的にこちらはその言葉を用いないだけだ。ユーリスの行動が正義かを決めるのは、少なくとも自分ではなく、市井の人々であるはずだからだ。
 肌を焦がすような、じりじりとした不快感が全身くまなく襲ってくる中でも、彼女へと対応しなければならないというのは思った以上に大変な仕事だ。今までこのように意図的かつ積極的に距離を詰めてくるような相手がいただろうか、いやほとんどいなかったはずだ。
>>ヴェロニカ・ロロン

1ヶ月前 No.75

@line☆1jppp41g33s ★Android=Iph2i3QnCf


【ア/西区・バー『GrandChariot』/ジーン・オールビー】

 愉快そうに微笑むルレッタに、ジーンは思わず「ハハッ!」と声を上げて笑った。

「そんなことを言うのはお前が初めてだ。大抵は面食らって宇宙人を見たかのようにポカーンとしている。だが、確かにヤツは面白い。趣味は情報収集、ゆえに色んなことを知ってる。が、同時に厄介者でもある。気をつけろ、腐っても商売人だ。付け入られたら高額で葉巻売りつけてくるぞ」

 煙草をふかしながら、ジーンは昔を思い出すかのように遠い目をしてそう言った。経験者は語るというやつである。
 皆、自分の都合のいい幻を見たくて葉巻を吸う。それがどんなに高額で、自分がカモにされていると分かっていても、ほんの少しの間だけでもいいから夢を見ていたいのだと葉巻に手を伸ばす。一体どんなヤクを使っているのか知らない、いや知りたくもないが、病みつきになる者も多い。葉巻欲しさに金儲けをするために、カジノに出入りする者もいると聞くくらいだ。表向きはバーのマスターだが、この男は裏の顔を持っている。
 奥へと入っていくマスターの後ろ姿を見て、ジーンはそっとため息を吐いた。
 そして、灰皿に短くなった煙草の先端を潰すと、懐から赤いシガレットケースを取り出して煙草を取り出す。ライターに火をつけ煙草の先に宛てがうと、煙が細く立ち上る。

 目を伏せて静かに語り始めるルレッタ。昔を思い出しているのだろう。自分が知っているのは一部にしか過ぎないが、「男も寄ってこないし楽」「可愛げのない小娘」という言葉を聞いて険しい道のりを歩んできたのだということは容易に想像できた。カジノに行けば彼女の常勝無敗であった話を、自分の自慢話のように語る輩もいた。子供の頃からカジノに入り浸っていたルレッタにとって、葉巻を吸うことは舐められないための防御であったかもしれないし、男に対する牽制でもあったのだろう。「そうか」とジーンは煙草を口から離して煙を吐き出しながら答え、続けた。

「昔はどうであれ、今のお前はいい女さ。赤のカクテルを飲むに相応しい。そうだな、葉巻なんか必要ないだろうよ。あれは煙草に比べたら高ェからな。俺にとっちゃ、ごくたまに吸うくらいがちょうどいい」

 口説いている、というよりは、よく共にいる相棒としての言葉だ。さらりとそう言っては、頬杖をついてくすりと笑みを浮かべる。そして自分の知り合いが濃いと言われれば、ジーンはあっけらかんと笑って「お前も濃い方ではあるだろう、夜の女王」と言うのだった。濃い、といってもマスターのような濃さではなく、存在感があるという意味でだが。

 そして、マスターがこちらへ戻ってきて銀のシェイカーを上下に振り始める。いつもの慣れた手つきだ。その小気味よい音を聞いていると、なぜだか色んなことがどうでもよくなって、ただその音に身を浸す。ぼんやりとカクテルが出来る工程を見ながら、澄まし顔のマスターと目が合えばふと笑って視線を逸らした。
 カクテルが完成し、カウンターに置かれる。「お口に合えばいいけれど?」というわりには彼の顔は既に勝ち誇った笑みを浮かべている。
 飲み口の広いカクテルグラスにはそれぞれ、赤と青の色彩のカクテルが光に照らされている。

「企業秘密だから詳しくは言えないけれど、『赤』は赤ワインをベースに、青はブルーキュラソーをベースにしてるのよ」

 マスターの言葉を聞きながら、ジーンはその色合いを目で見て楽しむ。
 赤のカクテルは深みのある鮮やかな赤。炎が燃えているような、ハッと目が覚めるような色彩。
 青のカクテルは透き通った青。冷たい気候の日に頭上に広がる空のような色彩。
 ジーンは青のカクテルを手に取って、グラスを口につける。爽やかな味わいと喉にツンとくるような辛み。飲むのは二度目ではあったが思わず「美味い」と呟いて、ふと笑みを浮かべるのだった。

>ルレッタ

【遅くなった挙句、中途半端な形で終わってすみません……!絡みありがとうございました!大人なルレッタさんが素敵で、毎回雪鹿さまの表現豊かな描写に身悶えしてました!また絡めたときはよろしくお願いします……!】

1ヶ月前 No.76

篠葉 @xiv☆8qw5LAZnvEo ★iPad=N6pytYwzGR

【ユ / 大通り映画館前→駅近く / 篠倉瑠璃羽】

 怖い顔。怖い顔なんて、していただろうか。瑠璃羽はきょとんと目を瞬かせる。そもそも、どうして自分はロニーに気づかなかったのだったか。──ああ、そうだ、スマホと睨めっこしていたんだった。だって扱い方が分からないんだもの、なんて心の中で言い訳をしてみたり。
 ツン、と額を突かれて、反射的にきゅっと目を閉じる。すぐにぱっと目を開けると目の前にはロニーの笑顔があって、それだけで胸の内の痛みが和らいでいくような気がする。私に気づかないのはダメ、と言う彼女にえへへと笑ってごめんね、と返す。
 夕食までロニーと一緒にいられることにすっかり興奮した瑠璃羽は、彼女の袖を引っ張り行き先も考えずにそのままずんずん進んでいく。人を避けながら真っ直ぐ真っ直ぐ前に進み、そしてきょろきょろと辺りを見渡して────立ち止まった。いつの間にか繋いでいた彼女の手を握って、これから訪れるであろう夜空のようなラピスラズリの瞳を不安げに揺らして振り返る。ただでさえ下がり気味な形の良い眉を更に八の字にして、言った。

「ロニー……ここ、どこ?」

 真っ直ぐ進んだだけである。

「どこに行くの……?」

 勝手に歩き出したのは瑠璃羽である。
 周りを確認する。飲食店は結構ある。というか飲食店だらけだ。それはいいが、現在地がまるでわからない。日が落ちてきたせいもあって余計に把握しづらいのだ──なんて思ってみるが明るくても同じである。そもそも昼間のように、とは言えないものの十分明かりの灯るこの場所で周りが見づらいなどということは全くもってない。なんだか見たことあるような景色だから、きっと何度か通ったことはあるのだろう。惜しいことにもう少し進んでいれば中央区にある駅が見えていただろうが、瑠璃羽が現実に帰ってくるのが早かったようだ。駅前の通りから一歩だけ手前の場所、それが二人の現在地だ。

>ヴェロニカちゃん



【ユ / ユーリス本部 / 篠倉瑠璃羽】

 カールの言葉に、瑠璃羽は照れたように頬を染めて笑みを浮かべる。誰かに認めてもらうことは、こうして褒めてもらうことは照れくさくて、そして嬉しい。ありがとうございます、と弾んだ声で答える。やっぱり不安は残るけれど、カールに認められた自分のことは認められる気がする。彼と話して良かった。
 実在の人物の、その要素をわける。瑠璃羽はしばしその言葉の意味を考える。どんなに親しい相手でも、罪を犯せば捕まえなければならない。それは正しい。きっと、正しくて善いことなのだろう。ならば自分はヴェロニカを……ロニーを捕まえられるだろうか? いいや、できない。だってそんなことをしてしまったら、きっともう二度と会えないから。彼女と会えなくなることは嫌だ。
 彼の言葉を自分に都合のいいように解釈すれば、“ヴェロニカ”は捕まえるべき相手であるが、“ロニー”はただの瑠璃羽の親友だから捕まえなくてもいい、ということになるだろうか。しかしそれは問題の先延ばしにしかならない。

(私はこのまま、ユーリスのみんなといられる時間が、ロニーと親友でいられる時間が続いてほしいだけのに)

 後悔しない選択を。自分が精鋭で、“ヴェロニカ”のことを知っていると彼女に知られるのは時間の問題だろうから、それまでに考えておかなければ。もしその時が来たら────どちらを諦めるのかを。

「はい、色々お話ありがとうございました!」

 しっかり顔を上げて礼を伝え、瑠璃羽もその場から立ち去る。時刻はまだ日の沈む直前の夕方。考えなければいけないことは山積みだが、とにかく今は気持ちの整理に専念しよう。美味しいものを食べて、しっかり睡眠をとれば、きっと良い考えも思いつく。もうこんな時間だし、今から買い物にいくのも面倒だから外食でもしようかな。そんなことを思いながら、ユーリス本部を後にした彼女は大通りの方へと足を向ける。
>カールくん


【こちらこそありがとうございました! カールくんかっこよすぎて毎回きゅんきゅんしますうへへ……】

1ヶ月前 No.77

鶏チキン @rmlp3322 ★wejhOBMSnu_keJ

【アイアンメイデン/大通り 映画館前/ヴェロニカ・ロロン】

 男が私の言葉を本気にしていないことが伝わってきて私はムッとする。聞き流されることは嫌いだ。父親や家政婦が私に見せた背中、拒絶とか無関心とかを思い出す。目の前の銀髪の男は私とこんなに近くで向き合っているくせに私個人には興味がないように感じた。
 ムカつく。
 私はどうにかこの男の目を自分に向けたくなる。よく見ればさきほど声をかけてきたときの余裕綽々とした顔は若干歪んでいる。どれが彼の琴線に触れたのかは知らないが私の何かが彼の余裕を削いだのだ。それは面白いと思った。
 舌を抜いた、という私の発言に対して男の空色の目を不快の色が過ぎった。ちらりと男の全身を確認すると引け腰、というほどでもないが近寄りたくないという嫌悪感が表れている。

「……へえ」

 爪先と爪先が触れるくらい近寄る。もう男の綺麗事にカチンとくることはなかった、それよりも面白い玩具を見つけたからだ。私が嫌いなのか、拷問というものが嫌いなのか、両方か。どちらにせよ近寄られるのは嫌なようだ。職業柄、何をされて嫌がるのかを見抜くのは得意だ。得意だからこの職に就いたのか? まあどっちでもいいや。
 くいっとボタンの閉じられていない制服を引っ張って更に引き寄せる。周りからは恋人にも思われるような体勢だ。しかし私は心底愉快がっているだけだし、男はその真逆だろう。

「いや? ……嫌なんだ」

 くつくつと腹の奥から笑いが込み上げてくる。もっと嫌がらせるにはどうしたらいいか、ここで一発銃弾を撃ち込むよりも彼にとって最悪なことを考える。大通り、人混み、嫌いな人間、映画。私はにやっと笑う。閃いた。
 背伸びをして男が抵抗する間も与えないくらいあっさりと、私は彼の唇に自分のそれを重ねる。大通りで知らない女に唇を奪われる。ある意味ではロマンティックな映画のはじまりみたいだけど、彼にとってはそうではないはずだ。
 ぷは、と顔を離したのはおよそ三秒後。たっぷりと唇を奪ってやった。

「……ふ、ははは。あははは! ご馳走様! どうだった? ときめいた? 拷問担当の汚い女に唇奪われて嬉しいー? ふは」

 どん、と男を突き放し、くるくると男の目の前で舞うように回ってみせる。楽しくてしょうがない。無関心だった女に、拷問なんて薄汚いことをしているこの私に、高潔なユーリス様がキスされたなんて、どの映画よりも愉快なはじまりだ。唇の温度を確かめるように舌なめずりをして、そのまま男に別れを告げる。

「んふふ、汚れちゃったねえ。これに懲りたらもう追って来ないでね? じゃあ、ばいばーい」

 悠々と人込みに紛れていく。追ってくるのならばそれなりに対処するつもりだが、派手なことはできまい。何度も言うが、夜を迎い入れる街並みはこれから夜の楽しみへと向かう一般人も多いのだ。どのような能力があるかは知らないが巻き込む可能性があるのなら無駄に暴れることはしないだろう。
 ああ、愉快だ。次があればどんな風にからかってやろうか。意地の悪い笑みを浮かべて私は夜の街へ溶け込んでいく。
>カールくん

【確定ロルの許可ありがとうございました! こちらはこれで絡みを終わらせていただきます! カールくんとエモい始まりが出来て嬉しいです〜!!】




【アイアンメイデン/駅近く/ヴェロニカ・ロロン】

 しばらく黙って上機嫌の瑠璃羽に付いて行く。私はいたって冷静なのでいくつかの目印となるような店で駅の方向に向かっているのだと理解している。いつ瑠璃羽が現実に戻り困惑するだろうかと楽しみにしながらされるがままになる。
 そのタイミングは思ったよりも早かった。駅すら通り過ぎてからあれ? となり不安げな顔を見せることに勝手に賭けていたのだけど、駅の手前で我に返ったようだ。ぴたりと立ち止まり、私はおっと思った。振り返った瑠璃羽は不安そうに眉を顰めている。ここはどこ? どこに行くの? と真剣に聞く瑠璃羽に私は笑いを抑えるので必死だ。まっすぐ歩いてきただけで、しかもこのあたりはまだ私たちの行動範囲内だ。テンションが上がって周りなんてすっかり見ていなかったのだろう。そういう必死なところがとても可愛くて好きだ。

「うーん、どこだろうねえ。ロニーにも分からない」

 にこにこしながら平然と嘘を吐く。しかし瑠璃羽を意味もなく不安にさせると新しいトラブルの原因にもなりかねないし、私の我慢の限界だった。数秒黙った後ぶはっと吹き出してしまう。そのあとお腹を抱えて身体をくの字にさせてハハハ! と明るく瑠璃羽の不安を笑ってしまう。

「大丈夫、駅の近くだよ? 瑠璃羽、自分でまっすぐ進んできたのに……ふっふふ」

 笑い過ぎて滲んだ涙を指先で掬いながらほら、あっちが駅だよ、と指で示す。適当に進んだ割には飲食店が多いところで助かった。このあたりは食堂もあればカフェもある。ユーリスからもアイアンメイデンからもやや離れた場所なので関係者も多くはないだろう。繋いだ手を離してきょろきょろと見渡す。だいぶお腹が空いていた。

「ねえねえ、瑠璃羽、洋食屋さんなんてどう? 私結構腹ペコみたいなんだよねえ。がっつきたい気分」

 一軒の昔からそこにありました、という顔をした洋食屋を指さして尋ねる。こんな風になんとなくお店を決めることも多いけれど後悔したことは一度もない。瑠璃羽はなんでも楽しそうに、美味しそうに食べてくれるからだ。
 この時の私はすっかり暗い気持ちから抜け出してしまっていて、お別れを言わなければいけないことすら忘れていた。いや、たぶん忘れようとしていたのだろう。ここなら誰にも見つかることはないだろう、そう安堵したことにより私は先ほどまでの使命感を取り戻すことになる。

「ルリィ」

 思わず真剣な声で名前を呼んでしまった。しかし何を、どう伝えれば分からず、そして伝えるべきなのかもわからない。二、三度目をうろうろさせてから「明日も、楽しみだね」となるべく明るい声を出そうとして失敗してしまう。やや上ずった声。自分が発してしまった違和感を払うように「オムライス食べたい!」と言って瑠璃羽の意見を聞く前にお店に入っていってしまう。自分勝手だ、なにもかも。
 明日も楽しくいられますようにと願うことすら、おそらく彼女を苦しめてしまうことなのになあ。
>瑠璃羽ちゃん

【可愛い瑠璃羽ちゃんと絡めて楽しかったです!イベントの関係もあるので、私の方からはこれで絡みを終わりにさせていただきます! これからもエモエモ親友できれば嬉しいです、楽しみです〜!!よろしくお願いいたしますね!】

1ヶ月前 No.78

ぴーぴーけー @ppkppk☆ErEBsPNY5g.j ★iUcwHsnoGa_NqW

【ア/中央区大通り/エクエス・ランスロット(デルニエール・シュヴァリエ)】

 いつものように一切媚びたり取り繕ったりする様子もなく自分の仁義に則った立ち居振る舞いをする。僕にとって彼はまさしく一つ上の頼れる兄のような存在で、それは組織内で妹のような存在である姫環にとっても同じだろう。実際、彼の部下達から話を聞いても一様に「厳しいけど頼れる存在」と返ってくる。本人のいないところで立つ評価こそその本人を如実に映す。つまりそれだけ彼が男としても上司としても頼れる存在ということだろう。

「ありがとうございます。……ああ、よかった。その様子なら、今日の上がりも上々のようですね。」

 立ち上がった相手の横に並び、静かだった裏路地からまだ騒がしい喧噪に向かい歩き始める。たしかに慎重では僕の方が高いのだが、やはり静かな威圧感なのだろう、僕自身からしてもとてもそうは感じない。ある意味で法の外での生き方を極めている相手だ、当然自分のような2重3重の姿を行き来して生きているわけではない。常に黒に染まり生きるという過酷な環境で上位に登りつめ、かつその位置で「居続ける」という強さ。生き方が違うとはいえ、僕には到底真似はできないだろう。この時間帯に暇を持て余しているということは、今日の「仕事」もうまく行ったということだろう。もっとも、彼がこの数年で仕事を大きくしくじったという話は終ぞ聞いたことがないのだが。

「そうですね……この前クライアントに教わった店があるのですが、そこに行きましょうか。大丈夫、『安全性』は確かです。そうだ、姫環も呼びましょうか。あの子もおなかをすかせている頃でしょうし。」

 相手の問いに少し考えた後、少し前に受けた仕事で利用した店を思い出した。あの店ならば良い酒も出るし料理もおいしい。雰囲気もよく、かつその店自体が「こちら寄り」だ。世間一般にとっての「安全」と、裏の人間にとっての「安全」はその意味合いが全く違う。そして当然その店は後者である。店の説明をしながらもふと2人にとっての「妹」の存在を思い出し、提案する。まだ幼い部分も垣間見える彼女のことだ、その個性でさらに小さく幼いアイアンメイデンの構成員と遊んであげていることもよくある。そして今頃は、きっと本部で暇を持て余している頃だろう。西区寄りにある店の場所からして、今呼んでおけば途中で合流できるはずだ。コートの内ポケットから携帯電話を出して姫環にその旨と集合場所を携帯電話で手早く連絡し、再びポケットにしまってから、代わりにあるものを取り出した。

「はいどうぞ、お疲れ様です。今日の会議で会うからと思って買っておいたのですが、その時に渡しそびれてしまって。」

 自らのミスに苦笑しつつも取り出して差し出したのは、彼のお気に入りの銘柄の煙草。彼もよく仕事終わりにバーに誘ってくれる。これはそういった日常の些細なお返しである。バーで夜通し飲むとすれば相応に煙草も吸うだろう。なので、タイミングではちょうどよかったのかもしれない。

>>ジーン・オールビー様

【遅くなりましたごめんなさい……。イベント前ですので先に締めに入ります、もし補完や書きたい情景等がございましたら載せていただいて構いません!】

1ヶ月前 No.79

雪鹿 @class ★Android=42zyboh5vZ

【ア/西区・バー『GrandChariot』/ルレッタ・ファウスト】

 愉快に笑っていたかと思えば、感慨に耽ったような彼は遠い目をしていた。それが果たして何を思っているのか、そこまでは分からないけれど、一つ言えるのは過去を思ってるって事だけ。当たり前のようだけれど、私だって彼の全てを知っているわけでは無いもの。
 忠告にも近い彼の言葉を聞いていて少し自分の悪い癖が出た事に気付くと、誤魔化すように視線をほんの少し逸らしてから、瞳を一度そっと閉じて吐息をふっと吐く。

「ご忠告、痛み入るわ。ま、アンタが言うんだったら、流石に私も手は出したくないもの」

 ため息を吐いたジーンの横顔を見れば、僅かに呆れの混じった微笑を浮かべて少しだけ皮肉っぽく言葉を返す。自分の悪癖――危ない橋を見て躊躇いも無く渡ろうとする癖に向けた呆れ。どうにも、こればっかりは治りそうもないのよね……ま、今更治そうとも思ってないんだけれど。

 それから、ちょっとした私の昔話を終えた所でジーンは煙草から口を離して紫煙を宙へと吐き、言葉を続ける。相変わらず、口説き文句みたいな言葉選びとは思いつつも、それがそうでない事を知っている。そこら辺はきっとお互い様なんでしょう、なんてね。

「ふふっ、ありがと。そうね、たまに吸ってる位で丁度良いわ」

 でもまぁ、そう褒められるのは悪い気分はしないわね、なんてクスリと口元を緩めれば、微かに聞こえた物音に顔を前へと向けてから僅かに頷いていた。スリルもずっと味わってたら、いずれ慣れて飽きてしまう――だから、そういう特上はたまにで良いの。ま、葉巻が特上かどうか、って言われると少し微妙な所だけれどね。
 お前も濃い方だろう、そう言われれば、彼女は意地悪く笑って「あら、そう?」なんてジーンの込めた意味を分かりきってる癖に惚けていた。ジーンだって似たようなもんだし……類は友を呼ぶって事かしらね?

 それから間も無く、裏手から戻ってきたマスターがシェイカーを慣れた手付きで振り始めた。その一定の感覚で鳴らされる小気味のいい音を思わず聞き入ってしまいながらも、マスターの澄ました顔に期待が高鳴る。少なくとも、この街でジーンと私を前にして、その顔が出来るバーのマスターなんてそう居ないでしょうに。
 時は少し過ぎて、カクテルが完成したらしくスッと差し出された二色のカクテル。まるで、森の奥で見上げた寒空を掬い上げてきたように透き通った青と、燃え盛る火を溶いたような、鮮やかでいて深みを持った赤。淡い光に照らされて、その色を更に艶やかに魅せていた。
 お口に会えば良いのだけれど? そう言ったマスターの勝ち誇ったような笑みは全てを物語っていたけれど、それでも手に取って赤く揺らぐグラスに口付けをするように一口。

 重く渋味の強いものが多い赤ワインをベースに、そう告げられていたものだから、そういうカクテルだと思っていた。それなのに、芳醇な果実の香りと口当たりはなめらかで僅かな甘味を渋味がより引き立てていて力強さはそのままに。まさしく極上、そういう他ないカクテルに思わず笑みを零して「美味しい」とそう言葉にしていた。奇しくも、隣に居たジーンも同じように言ってから、然したる時間を置かずに言ってしまって、我ながら可笑しくって笑ってしまう。

 こうして夜の帳の下ろされて行く中で、プロスペリタに一つの悪として君臨する女王と英雄は空に浮かぶ道標の元で瞳を飲み交わし、いつか浮かぶ月のように弧を描いて笑い合った。

>ジーン

【いえいえ!私もちょくちょく遅れてしまっていましたし、どうぞお気になさらず!私も豪快でいながら、大人っぽいジーンさんと絡めて楽しかったですし、遥さんの素敵な表現や文のおかげで書きやすかったですので……!また、絡む機会がありましたら、その時は此方こそ宜しくお願い致します!】

1ヶ月前 No.80

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★Android=LYOl0pG1zo

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1ヶ月前 No.81

はるみや @basuke21☆xM4sO6EUbuM ★iPhone=P8R3pzxhha

【1日目/シマ・イザナギ&愛玉/コロッセオ司会者席】

 夜空に咲く数多の花火、大地を震わす声、煌々と街を照らす灯り。そして、喜び、嬉しさ、楽しさ。この世に存在するありとあらゆるプラスの要素が、プロスペリタの街を支配していた。
 五日目の閉会式まで、プロスペリタは眠らない街となる。

 三年に一度行われる、『大能闘演武』。能力に正義を吹き込んで、その正義を能力者は奮う。
 一方で、世界各国からやって来る旅行者、プロスペリタの市民。人々は皆、中央区噴水広場横の闘技場──コロッセオに集う。
 コロッセオは、収容人数の五万人を優に超えていた。立見客が何人も、何百人も、何千人もおり、パーソナルスペースなどあったものではない。空気は燃えるように暑く、人々の歓声でコロッセオ内に響くアナウンスを聞くのがやっとである。
 コロッセオだけではない。
 コロッセオ周囲の噴水広場や中央区……否、プロスペリタの街がとにかく文字通り人で溢れていた。

 『正義』を観るために。











「大能闘演武、何故か司会を務めるユーリスのシマだ。俺の隣にいるのは、同じく何故か司会を務めるゴリ」

「愛玉アル!我の隣にいるのはゴキブリアルよ!」

「……」

「……」

「さて、三年に一度の祭りだ。俺からは一つだけ。五日間、夜は来ないものと思え。夜通しで暴れて、騒いで、楽しむんだ。ユーリスのお前らー、楽しむことを第一に考えろよー」

「我からも一つだけ!おめーら、とにかく楽しむアル!!そしてアイアンメイデンのおめーら。ぜってーユーリスに負けんじゃねーアルよ。ユーリスの奴らに負けた奴は──最近我の椅子が壊れ気味アルねぇ……」

「発想がゴリラだな」

「あ"?」

「……」

「……」

「本番は明日からアル!二日目はプグナ、三日目はトリプディオ、四日目はタルタロス!!ん〜、我も出場したかったアルねえ……」

「やめとけ、ばばあにはしんどいぞ」

「……」

「……」

「おめー、さっきから黙って聞いてれば……我に喧嘩売ってるアルか?」

「喧嘩の大セール中でーす」

「あ"ぁ"!?上等だ、表に出ろゴラァ!!」

「ここが表だろ」

「きーーーーっ!!あっ、待て、逃げんな!!!!──っ、おめーら、後は頼んだアル!!!!」


 斯くして、大能闘演武は幕を開けた。

>>ユーリス、アイアンメイデンALL様

【なんともアレな始まり方で申し訳ないです…!言い訳としてはパソコンが使えなくなったからというアレがありまして…えへへ……
……とまあ、言い訳はここまでにして、イベントU開始です!最終確認ですが、イベントはプグナ、トリプディオ一斉開始です。そのため文章を投下する際は文頭に【〇日目/競技名/名前】の記載をお願いします。
ではでは、よろしくお願いします!!】

1ヶ月前 No.82

はるみや @basuke21☆xM4sO6EUbuM ★sBHPZi6My9_OSy

【二日目/プグナ/レオン・アレン/コロッセオ】

 カール・ハルデンベルグ。
 まだ来ない相手の名前を、コロッセオの中心で何度も何度も心の中で唱えた。
 カール、カール。一体どんな奴なのだろうか。強いのか、それとも弱いのか。能力を使うのか、武器をメインに使うのか。年上なのか、年下なのか。考えれば考える程、レオンの闘志は燃えるばかりであった。自然と揺れる身体は、失われた落ち着きと倍増する興奮を表していた。そんな今のレオンに、ぐるりと囲むように集った観客たちの投げかける声援など、届いていない。
 レオンは小さく息を吐いて、心を落ち着かせるように目を瞑る。
 ──最初はどんな戦法でいこうか。初動は相手の動きを知るために、能力を使わない方がいいだろうか。いや、逆に初動で相手の虚を衝ければ後々有利か?しかし相手の能力、力量が分からない以上、最初から疲労を溜めるのは賢いとはいえない。……どちらにせよ、短時間で終わらせたいものだ。
 と、一人で脳内会議を始める。脳内会議をすることで、ぐちゃぐちゃと渦巻き荒ぶっていた感情がすう、と落ち着き、冷静さを取り戻せる。ような気がする。
 レオンは闘志にゆらゆらと燃える目を開け、カール・ハルデンベルグをジッと、待てをされている犬のように、大人しく待つ。
 先ほどまでの身体の揺れは無くなった。手足もいい感じに脱力している。真っ赤に燃える瞳は、相手が入ってくるゲートだけを見据えていた。ピリッとした緊張感がレオンを取り巻く空間を支配する。太陽はまだ明るい。スポットライトのようにコロシアムの中心を、レオンを照らしている。風は涼しい。不快ではない。何もかもが恵まれている、最高のコンディションだ。
 これだ、と。内心呟いた。戦闘前の頭が沸騰するような感覚に自然と緩む口角。

「…………楽しませてくれよ」

 玩具を与えられた子供のように、さも楽しげにそう小さく呟いた。

>>カール、ALL様

【わくわくが止まらなくてはるみやの頭も沸騰しそうです……。何卒よろしくお願いします!】

1ヶ月前 No.83

たますだれ @zfrower ★Android=4gOqpaO6ow

【1日目/ ユ / 放送室(席) / エリアス・スタンレイ】

3年に1度の祭典『大能闘演武』
異能を所持する者達による対決、パフォーマンスが行われる5日間続くお祭り騒ぎ。この日ばかりはユーリスもアイアンメイデンも所属を超えてこの熱気に興じることになる。今回エリアスは大会運営の手伝いを願い出たため、演目自体には参加しないが、幸運にもある意味特等席の放送室から司会という大役を務めるシマと愛玉2人の姿を眺めていた。

犬猿の仲、追うものと追われるもの、犯罪者と執行者、相容れない陣営同士ではあるが、こうしてトップ2人が肩を並べる光景もあんがい悪くないのかもしれない。

そんなふうに、互いを口撃し合う司会者たちを穏やかに眺めていられたのもほんの一時だった。今どきグレた少年でもここまで子供じみた喧嘩のはじめ方はないだろうと思うレベルの売り言葉に買い言葉。それらはヒートアップしていき、ついには「あとは任せた」などという言葉だけ置いて司会者達は追いかけっこを始めてしまった。役者がいなくなった舞台に、場内がざわめき出す。ついでにこれはマズいと運営側の働き者達も慌てて動き始める。

放送室の1席に座っていたエリアスは、どれだけ自由な人達なんだ、と思わず天井を仰いだ。頭痛がするような気がするが、気がしているということは気の所為だろうきっとそうだそういうことにしておこう。なにせ3年に1度、街中が楽しみにしている大会だ。この程度で進行を止めるわけにはいかない。
本来なら迷子対応やその他雑事の手伝いをする予定ではあったが、今はそうとも言ってられない。エリアスは腹を括ってマイクのスイッチを入れた。

「それでは、本日の競技を開始します。まずは――――」

なぜか用意されていた司会の台本を読み上げる。
喋る役には慣れているつもりだが、やはり我らがトップの奔放さに内心呆れないわけではなかった。


>>all


【大会だー!というわけで司会役やってます。まあ放送で喋ってる声がなんか聞き覚えあるなぁーくらいでいいんじゃないでしょうか(雑) 放送室来ていただければもちろんお喋り出来ますし、抜け出した体で皆さんに絡みに行く予定です!】

1ヶ月前 No.84

@line☆1jppp41g33s ★Android=Iph2i3QnCf

【二日目/プグナ/ジーン・オールビー/控え室→コロッセオ】

 対戦相手を聞いたとき、まさかと耳を疑った。危うく煙草を落としかけたほどに、信じ難かった。
 何かの間違いじゃないのかと、係員が持っていた対戦表を受け取り、実際自分の目で確認してようやくそれが間違いでないことに気付いた。

 ――ユーフェミア・クレイヴン。

 その名前を見たとき、息が詰まる思いがした。内心の動揺を悟られないようにしながら、対戦表を係員にぶっきらぼうに返しては自分の控室に戻った。そのまま机上に手をついて、しばらくまとまらない思考のまま机上をただ一点だけ見つめながら呆けていた。
 ユフィ、と声にならない言葉を心の内で呟いて目を閉じる。
 かつてスラムにいた同胞。共にチームを組み、自分の傍らにいた幼馴染みの少女。しかしある日、彼女は突然目の前から姿を消した。探しても探しても、スラムのどこにもいなかった。異能が強かった彼女が人攫いに会うなど有り得ない。――街へ行ったのか。一つの推測がずっと心の中に留まり、かと言ってこの歳になるまで確信が持てずにいた。突発的に病にかかり、その最期を見られたくなくて姿を消す者も、あの時は少なくはなかったのだ。
 もし彼女が生きてこの街にいるなら。
 普通の市民となり、どこかの店で働いて、飢えることもなく寝床に困ることもなく、幸せな暮らしをしているのなら。そうであって欲しかった。アイアンメイデンに所属した自分と、関わりなど持てなくて良かったのだ。そんな贅沢は求めてはいなかったのだ。
 ――生きていて良かった。そんな安堵が心の中に満ちた。しかし同時に思わずにはいられなかった。

「――……なぜ」

 なぜお前がユーリスに。そんな感情が突き抜けたが、ふいに緩く首を振った。
 いや、きっと向こうも同じことを思うかもしれない。なぜお前はアイアンメイデンにいるのかと。ユーリスに所属しているなら幹部の名前や顔写真、異能は筒抜けのはずだ。
 机上に置いた手を握り締め、拳を作る。
 昔馴染みであったユーフェミア・クレイヴンは、敵対組織ユーリスに所属する精鋭となってこの街にいたのだ。



 再会が祭りでよかったと思うべきなのかもしれない。煙草に火をつけながら、一人心の中で思う。
 ゲートが開き、眩しい光が身を包む。
 歓声、熱狂と興奮、目先の刺激を求める人々の、熱いエネルギーと衝動が押し寄せてくる。すり鉢状になった舞台、それを取り囲むように並ぶ階段の座席には、多くの観客で賑わっていた。しかし観客の方を一瞥しただけで、ただ真っ直ぐに広い舞台に歩みを進めていく。用があるのはたった1人だけだ。皮肉なほどに澄み切った空の下、コロシアムの中央に辿り着くとピタリと足を止め、前方にあるゲートを見据えた。
 あのゲートの奥に彼女がいる。
 ――……なに? 同姓同名じゃないかって? 俺も考えたさ、けれどユーリスの精鋭になれる程の異能を持つ『ユーフェミア・クレイヴン』など俺の頭の中にはただ1人しか知らない。金髪とリーフグリーンの瞳を持った彼女しか。

 なぁ、ユーフェミア。昔はよく喧嘩したな。それは本気のときもお遊びのときもあったが、俺たちはそれでも結局元に戻って、なんてことのなかったかのように過酷な日常を過ごした。今回もただの喧嘩に該当すると思うか? お前はどう思う。祭りとは言え、お互いの組織を背負ってここに立つ以上、お遊びとは言い難いかもしれないな。
 それでも俺は思うわけだ。
 ――勝負しよう。
 真剣勝負だ。お前だって俺に言いたいことは山ほどあるだろう。俺もたくさんある。だから全てお互いに異能を用いてぶつけ合って、決着をつけよう。勝負はシンプルだ、どちらが強いか。組織が関係しているというのであれば、尚更お前だとて俺は手加減などしない。

 出てこい、ユーフェミア。俺の前に再び姿を見せてくれ――。

>ユーフェミア、ALL

【心理描写ながい!!ごめんなさい……!滾っちゃって長くなってしまいました。これからよろしくお願い致します……!】

1ヶ月前 No.85

雪鹿 @class ★Android=42zyboh5vZ

【三日目/ア/トリプディオ/コロッセオ/ルレッタ・ファウスト】

 一か八かの駆け引き、それは凄く楽しくて、スリルに身を焦がすのは堪らなく気持ちよかった。
 それが賭博だろうと戦場だろうと何も変わりはしない。でも、だからと言って勝てる勝負を捨てるほど私は甘くないの。私の能力は運に左右されるもの――運に自信はあっても、精神を戦闘で磨耗した上で最上の結果を約束出来るか、と言われると微妙と言わざるを得ないわ。だから、一発勝負のトリプディオを選んだ……っていうのは建前。実はダイスで決めたのよ、面倒だったし。
 とにかく、そういう訳で私は此処に立ってるの。指を咥えて見てるだけの観客達にとびきり格好よく私の姿と力を魅せて、楽しませてあげれば良いんでしょう? 普段なら御断りだけれど――良いわ、今日位は見世物になってあげる。


 さて、この祭典の三日目も残すところ、たったの四時間。星々の瞬く夜の帳はすっかり落ちきれども、その石造りの舞台を照らす光は止む気配すら無い。その舞台の中央を今か今か、と約十万の瞳が一人の女を待ち望んでいた。その場所へ彼女は歩き始める。
 ボディラインが浮き出るような真紅のナイトドレスに身を包み、そのスリットから覗く白い足とワインレッドのハイヒールが舞台の床をカツンカツン、と踏み鳴らして行く。片手にワイヤレスマイクを持ち、後ろで結われた白銀の髪を揺らして彼女は舞台の真ん中へと今、疲れも見える観客からの熱い視線を浴びて辿り着いた。

 右手に持っていたマイクを口元へと運び、薄く弧を描いていたその唇が開かれた。しかし、その顔は一寸の間違いなく、女王と呼ばれて讃えられ恐れられる彼女のものだ。

「レディース&ジェルトルマン、ごきげんよう。
私はこの舞台の一幕を預かりました、ルレッタ・ファウストと申します。どうぞ、今宵ばかりはお見知り置きを。
そして、これから皆様に御見せ致しますのは、刹那を生きる私からの細やかなる夢舞台! どうぞ、心行くままに――ですが、決して息を忘れませんように楽しんでくださいませ!」

 マイクを通して会場に響く、艶やかでいて上品な声による挨拶と名乗り。それから、緩急を付けながらも鮮烈な声で語りゆく口上は会場全体を覆う五万の観客達の期待を高めて行く。彼女の口元には微笑みを湛えているのに、その瞳は挑戦的でいて観客の全員を試すかのような苛烈さを秘めていた。
 その口上を語り終え、少ししゃがんでマイクの電源を切れば床に置いた。とうとう始まる、いよいよ彼女の舞台の幕が上がる。それを誰もが理解して、彼女の一挙一動から目を離さない、離せない。

 立ち上がり、ゆっくりと右手を顔の前へと持ってゆく。その手にはきらりと何かが輝いたかと思えば、それはいつの間か、カードの形状を取って徐々に姿を現してゆく。口元へ手が辿り着く頃には、五枚のトランプが扇状に広げられてルレッタの顔を覆い、小さく彼女は囁いた。

    “ It's Showtime!”

 勢いを付けて空へ放られた五枚のトランプはひらりと宙を舞い、突如として人よりも大きくなって最初からそうなると決まっていたかのように、間隔を持ちながらも彼女の頭上でくるくると回転する。ハートのJ、ハートの10、ハートのA、ハートのK――そして、ハートのQが全員が確認したであろう、その瞬間に扇状へと広がって鮮やかなルージュで描いたような“Royal Straight Fresh”という文字がトランプの前に浮かび上がった。言わば、カジノで行われるポーカーならば最上級の役とされるそれに、彼女を知る観客は沸き上がる。彼女の本気が見れる、そう口にしたのは誰であったろうか。彼女がもたらす最上の舞台になる、そう確信したのは何人居たろうか。
 ともかく、それから間を置かずにルレッタが上に翳した手をスッと横へ撫でるように動かせば、文字は消えてトランプは折り重なる。手を下に下ろすと同時に、トランプは倒れて裏面を観客へ見せたままに水平を保ったまま。
 その下で殆どの観客から姿の見えない彼女がパチンッ、と指を鳴らす。それを合図に、折り重なったトランプは少し膨れるように弓形に歪んだかと思えば、パンッと弾けるように幾枚もの巨大なトランプが宙に跳ね上がって、夜空を彩るように舞ってゆく。それは最初に見た五枚だけで無くて、トランプ一組をそのまま放り投げたように、数多の札の姿が見える。

 落ち行くばかりであったはずのトランプ達は、最後に跳ね上がって勢いよく全てのトランプを追い越し、頂点に達したハートのクイーンを確認すれば、それに追従するように飛んでゆく。そして、全てのトランプがクイーンの周りを囲むように集まれば、気紛れなクイーンはその身を下へと落とす。それを追うように、数多のトランプ達は螺旋を描いて次々にクイーンを追う。彼女の気紛れに振り回される忠実な下僕のように。
 落ちていく中で普通のトランプと変わらないサイズに変わっていったクイーン。それを見計らっていたかのように上に挙げたルレッタの手へと落ちて、彼女がそれを掴まえた所で螺旋を描いていたトランプ達は止まってしまう。そのトランプ達の姿は幾重にも折り重なった複雑化螺旋階段のようで、ルレッタはマイクを持ち上げてから、傍らにあった一段目に足を置いて上へと登ってゆく。カツン、カツン、と鉄の板を踏むかのような音を鳴らして。

「皆様、前菜は御満足頂けたかしら? あら、そこのおじ様ったら口が開きっぱなしよ。まるで、鳩に大砲でも撃ち込んだみたい――なんてね、ごめんあそばせ。けれど、そろそろメインディッシュを御紹介させてくださいな」

 ゆっくりと、しかし着実に上へと登っていくルレッタはマイクを通して、再び観客へと語り掛ける。最中、冗談も交えて悪戯な微笑みを湛えた彼女に息を飲んだ者も居ただろう。あるいは、彼女の語りに更なる期待に胸を高鳴らせて目を輝かせる者も居るだろう。普段とは違うそれも、カジノの女王と呼ばれた彼女からしてみれば、普段より数が多いというだけで何も変わりはしない。なんだったら、日記の一行目に「今日も昨日と同じだった」位で纏めたって構わないくらいに、当たり前の事だった。

 ――そして、彼女は最上段へと登り詰める。観客の視線は彼女に注がれ、螺旋を描いていたはずのトランプは下から少しずつ崩れて行き、彼女の頭上へ舞い上がってゆく。

「これより私は普段より酷使している、このトランプ達の反逆によって囚われ、この身を切り刻まれる事でしょう――ですが、どうぞ御心配無く。本日の私は幸運に恵まれていますから。皆様の前で見事、奇跡を起こして御覧にいれましょう!」

 最初こそ、何処か物悲しそうな淑女のように、これから起こる事を告げる。しかし、一転して彼女は高らかに奇跡を起こすと宣う。その姿には一辺の曇りも恐れも存在せず、ただ女王としての彼女が気高く其所にあるだけだった。

 次第に足場は見やすいように少しだけしたに下がる。最初は彼女の真上に。それから、左右、後ろの順で大きいままのトランプが塞いでゆく。残されるのはただ正面のみ、彼女は優雅に微笑みを湛えて顔には恐れの一つも存在しない。

「それでは、皆様。生き残れましたら、どうぞ御喝采を――Arrivederci(アルヴィデールチ)」

 そう告げると共に、下からゆっくりとせり上がってゆく最後の壁は彼女の姿を次第に隠して行く。最後まで優雅な微笑を観客へと向け続ける彼女は、自らの作り上げたトランプの密なる牢獄へと閉じ込められた。隙間なんて一ミリも無く、その宙に浮かぶトランプの牢獄にはいっさいの仕掛けなんて存在していない。誰がどう見たって、そう思う程に完璧な檻であった。
 牢獄の周りを上下も左右も関係無く35枚もの巨大なトランプが取り囲んでいき、彼女を囚えた牢獄へとギロチンの刃のように、その身を向ける。残りは全て、その身を小さくして観客のように宙で、その様を眺めるばかり。

 まず、上から彼女が居たであろう場所へ振り下ろされた一枚目。直後、堰を切ったかのように次々とトランプがあらゆる方向から牢獄を切り刻む。徹底的に、絶対的に。

 無惨にも硬質なトランプが突き刺さってしまった牢獄から、真っ赤な液体が刻まれたトランプの隙間を伝ってぽつりぽつりと滲み落ちる。

 それを見て、思わず口元を覆った者も居たかもしれない、思わず目を瞑った者も居たかもしれない。絶句した者は数え切れないだろう。しかし、アイアンメイデンの幹部が居たとしたら、何も心配などしていないであろう。何故なら、彼女はあらゆる奇跡を起こして当然。それが認められた女、ルレッタ・ファウストなのだから。


 バラバラと刻まれた牢獄が崩れ始めた頃、放送室の扉が勢いよく開いた――否、勢いよくワインレッドのピンヒールで蹴破られた。

「ごきげんよう、ヴェロニカ! ……と、ユーリスのお兄さん。代打のお仕事、お疲れ様。マイク、少しだけ貸してもらえる? ちょっと手違いがあったのよ」

 中に居た同僚のヴェロニカには愛想良く挨拶をして、隣に居たユーリスの男には先程まで見せていた優雅な微笑を向けるが、瞳には然したる興味も無さそうにも関わらず一応の労いをしてから、有無を言わせる事はなく、エリアスの手間にあるマイクへ身を乗り出すように口を近付ける。

「Ciao(チャオ)! 皆様、ごめんなさい。私ったら、ほんの少しだけ出てくる場所間違えちゃったみたい。今、そっちに戻るわね」

 それだけ言い終えれば、二人へ微笑みと共に「ありがと、引き続き頑張ってね」と軽く手を振って廊下へと出て行く。まるで嵐のような女だ、なんて思われるかもしれないが、それもまぁ……あながち間違いでも無いのかもしれない。

 直後、放送室の近くにあったバルコニーから、ハートのクイーンが飛び出して、Uターンで戻ってくる。それに合わせるようにハイヒールでカツカツと小気味良く音。普段ならば、そこまで見られないくらいに彼女は優雅で、尚且つ勇ましく歩いて行く。その姿には一辺の曇りはもちろん、傷すら一つも残されていない。
 周りの人々は彼女の姿に驚きながらも道を開けて行く。その彼女が歩いてきたスペース目掛けて、彼女を飛び越えて背後に浮かんだのは戻ってきたハートのクイーン。そして、彼女はバルコニーに居た観客へと艶やかに笑みを浮かべ、腰を掛けた。その彼女を見て、近くに居た観客は沸き立つが、当然未だに分かっていない者も居る。
 フィナーレを飾るためにも35枚の内、無事に残っていた12枚。そして、観客のように眺めていた残りのトランプ達を引き連れて、コロシアムの沸き立つ観客達の頭上を掠めるように滑空していく。その姿を見た観客達は、確かに切り刻まれたであろうと思われた彼女の帰還を喜び、本当に奇跡が起きたと騒ぐ者まで居た。今、この一時は一部の例外を除けば、誰もが彼女に魅せられた事だろう。
 当のルレッタは、時に小さな子供と軽くハイタッチをしたり、ラブコールを送ってくれた男には軽くを手を振っていた。その姿を例えるならば、国民の前にパレードとして姿を現した一人の愛される女王のように。


 それから二周程した所で、再び最初に立っていた舞台へと戻っていき、彼女は真紅のドレスを揺らめかせて其所に降り立った。誰もが、此処で終わりを確信した事だろう。中には、用事でもあるらしく席を立とうとする者まで居た――しかし、此処まで普通でなかった彼女が、どうして普通に終わる事があろうか。

「デザートをお忘れだなんて、そそっかしい人――さぁて、と。一花咲かせてみましょうか」

 クスリ、彼女は悪戯に笑みを零す。先程まで座っていたハートの女王が天高く舞い上がり、それに連なるようにコロシアムの上空全体へと舞い広がったトランプ達。果たして何が起こるのか、誰もが首を傾けた。

「それでは、これにて私の舞台のフィナーレを。Buongiorno(ボンジョルノ)」

 言葉の最後に彼女は微かに笑みを浮かべて、その通る声で別れの挨拶を送り、踵を返す。そして、入ってきた道へ歩みを進めて行く最中でパチンッ、かつて鳴らされた指鳴りの音が響く。
 それを合図に、突如としてトランプは爆ぜたかと思えば、トランプのマークを象った輝きを会場へと降らせて行く。それは触れれば消えてしまう淡い輝きでこそあったが、彼女に見せた夢舞台の幕引きに相応しい程の夢のような輝きであった。その観客達は一瞬の静寂の後に、歓声を再び響かせて口を鳴らし、拍手喝采を送った。
 そう、数多居る観光客や一般の客はもちろんのこと、最初はアイアンメイデンが何をする、せせら笑った筈の男も、かつてギャンブルで負かされてブーイングの1つでもしようと思った女も、今だけは去り行く彼女へ万雷の喝采を送る他無いのだ。
 ――――奇跡を平気な顔で起こし続ける、女王の後ろ姿へ。

>(エリアス・スタンレイさん、ヴェロニカ・ロロンさん、all)

【という訳で、トリプディオのルレッタ編でした!長々しくお目汚ししてしまってすみません!
もし、読んで頂けた方がいらっしゃいましたら、最後まで読んでくださって有り難う御座いました!】

1ヶ月前 No.86

篠葉 @xiv☆8qw5LAZnvEo ★bgIFF8Q6fY_cL8

【ユ / 三日目 / トリプディオ / 控え室→コロッセオ→通路 / 篠倉瑠璃羽】

 控え室にて、瑠璃羽は静かに溜息をついた。先程から椅子に座ったり立ったり歩き回ったりと落ち着かない様子を見せている。もともと争いを好まない性格で、更に能力も戦闘よりは支援向きのためトリプディオへの出場を決めたものの、本当に大丈夫だろうか。きっと他の人々はもっと華のある演武をするだろうし、自分は地味に映るかもしれない。そんな不安と緊張を抱えて、自分を抱きしめるように腕を組む。ユーリスのみんなの足を引っ張るようなことはしたくない。シマにがっかりされたらどうしよう、なんてマイナス思考に陥る。

(やっぱり私も、出場しない方が良かったかな)

 演武非参加の面々を思い浮かべて、そんなことを考える。とは言えもうエントリーしてしまったのだし、後の祭りだ。しかも出番は目前に控えている。

(考えたってしょうがない。私は私の全力をぶつけるだけだ)

 鏡で身だしなみを確認する。ユーリスの制服に、インナーは白いワイシャツ。そして水色のリボン。髪に結んでいるリボンもきっちり確認して、最後に笑顔の練習。深呼吸をして、小さくよし、と呟く。
 十四時ちょうど。出番だ。控え室から出て、震える足を叱咤して一歩一歩進む。大丈夫、楽しむことを第一に。しゃんと顔を上げて、入場口から中へ一歩を踏み出した。外から差す明かりに一瞬目が暗み、ついで大きく地面を蹴って駆け出す。目指すは中央、そこに置かれた巨大なメイス。周りには煉瓦の壁が多数。三年に一度の祭典だけあって、観客席は満員だった。瑠璃羽が姿を見せた途端に歓声が上がる。皆が彼女の動きに注目している。彼女はメイスの柄を両手で掴み、頭の部分を下にして置かれたその部分に両足を乗せて観客席を見渡すと、笑みを浮かべて大きく手を振った。歓声がより一層大きくなる。手を振りながら、瑠璃羽は自分の筋力を高める。自分の背丈ほどのあるメイス。扱える時間はせいぜい一分程度か。周りを取り囲むように置かれた壁は高さ幅共に二メートル程。それが十枚。内側に五枚、その間を埋めるような形で外側に五枚。

 十分メイスを持ち運べる程度の筋力に調節して、次いで常に体力や怪我の回復ができるようにバフをかけておく。そして彼女はメイス頭部から飛び降りしっかりと足で地面を捉えると、腰を落としてぐっと踏ん張り、一時的に筋力を上げて両手で掴んだメイスの柄を横に振り回すようにして持ち上げる。程よい重みが腕に伝わる。観客は小柄で華奢な少女が重量のあるであろうそれを持ち上げたことに息を呑む。そのどよめきは最早彼女の耳には届いていない。
 一度確かめるように持ち上げた後、右手側の壁に向かって駆け出す。引きずるように持っていたメイスを持ち上げ、一回転して勢いをつけると壁に叩きつける。ガラガラと音を立てて崩れるそれを見て、観客はメイスや煉瓦の壁が偽物ではないと確信しただろう。彼女はそのまま足を止めずに左手の二枚目へ駆け出している。もう一度。大きく割れた壁の破片が彼女の側頭部を打ち微かに血を流し、客席からは悲鳴が上がる。しかし彼女の怪我は見る間に塞がり、まるで初めから怪我などしていなかったかのように三枚目へと駆け出す。

 三枚目と四枚目の壁の間まで走り込み、メイスを持ったまま身体を捻って回転する。フルスイングの要領でぐるぐると回り、その勢いで三枚目、ついで四枚目を破る。湧き上がる歓声はその技に対するものなのか、それとも遠心力で大きく浮かび上がったスカートに対するものなのかは定かではないが。
 ガン、と得物を地面に打ち付け勢いを殺すと、回ったあとの目眩など感じさせぬ動きで五枚目へ駆け出す。下からすくい上げる形で壁に打ち付けて壊し、崩れ落ちる破片の中を突破して六枚目へ。裏側へ回り込むと、六枚目は無視して七枚目の方へとメイスを投げる。六枚目は筋力にブーストをかけ、助走をつけて地面を蹴り、飛び蹴りの要領で壁を壊す。その間に投げたメイスは七枚目の壁を打ち壊しそのすぐ側に転がっていた。それを素早く回収して八枚目へと向かう。

 瑠璃羽は更にブーストをかけると、地面を蹴って高く跳躍した。メイスを高く持ち上げ、ふわりと浮き上がるスカートを意に介さず、八枚目の壁に向かって頭の上から振り抜く。ラスト二枚。痛んだそばから治っていく怪我に顔を顰めつつ、助走をつけて振り回し、二枚の壁に向かって投げる。勢いで髪を留めていたリボンが解け、淡い桜色の髪がふわりと舞う。メイスは見事壁を二枚とも破り、少し先で回転しながら地面に落ちた。
 エネルギーは最早ほぼ空だ。流れる汗を袖で拭い、解けて顔に纏わり付いた髪を手で払いのける。服についた砂埃を手で軽く叩き落として顔を上げると、くるっと一回転して深く頭を下げた。大きな歓声と割れんばかりの拍手にほっと安心する。頭を上げて笑顔を見せ、両手で手を振ると、入場したときと同じように退場口へ駆け出す。
 控え室へと続く通路を少し進んだところで、彼女は床に座り込む。膝がガクガクと震え、立っているのも限界だった。

(──なんとか、成功した。あれで良かったのか分からないけど。これで残りは怪我人の手当てをするお仕事だけ……なんだけど、これは暫く動けないかもなぁ)

 はあ、と息を吐いて、ポケットから飴を取り出す。口に放り込んだそれを舐めながら、人気のない通路でぼんやりとエネルギーの回復を待つ。

>ALL


【わーーついにはじまった!! そして早速瑠璃羽の出番終わりました!!!! ルレッタさんのトリプディオかっこよすぎて瑠璃羽のゴリラ&パンチラ芸こんなんで大丈夫かって感じですが! お目汚し失礼致しました(土下座)
 この後のんびり演武楽しみたいと思いますプグナ対決も楽しみすぎる□□!】

1ヶ月前 No.87

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【二日目/プグナ/フランクリン・スカビオサ/コロッセオ】

 コロッセウム、客席の真下。あと5分で俺は闘技場行きだ。正直言って、今の気分は屠畜場の豚。マジでこんなことやりたくない。面倒臭いのももちろんあるが、普通に怪我とか痛いし、下手したら死ぬし、治療スタッフがいるとはいえ死ぬ時は死ぬし。人間の本能として死は怖いものだ。てかもうマジで、ジーンさんみたいに華があるし、レオンくんは華かはどうかわからないがなかなか派手な見た目の使い方もできる。しかし俺のは外にはほとんど見えない、しかも自分の中で完全に完結するクソ地味能力なんだ。相手がどこの誰────あぁいや、ユーリスってとこまでは察した────かはわからないが、そいつも俺と戦うなんて可哀想だろう。適当に負けに行くから適当にいなして欲しい。能力バレてんだろ、なんかこういい感じにサクッと制圧してサクッと降参したい。

「はぁ……」

 そうこうしてる内に、目の前のゲートが開いた。────出番だ。いつものナイフとは違う感触を右手と両肩に、(終わったらぜってー愛玉さん1発ぶん殴る)と実行されるはずもない愚痴を垂らしながら、闘技場の中心へと足を進める。
 ユリーカ・パチルといったか、向こう側からやってきたのは、ピンクの髪を持つ小柄な女。ちょっと待てピンクの髪って、まさかこの前路地裏でやり合ったクソガキか!? ────いや、それは杞憂だった。距離が詰まればわかる、顔が明らかに違う。違う人種というか、そもそも造りが違う。……よかった。いや、何がよかったって、理由は特に無いんだが、あれにもう一度会ってしまったらなんかやばいことになりそうな気がするんだ。

「はぁ……」

 本日何回目かわからない溜息。スタート位置についた瞬間に、一気に愛玉さんの「ぜってー勝て死んでも勝て」といった叱咤激励や、5万人の視線や、その他なんか色々なものが肩にのしかかる。……正直言って、この重圧だけで俺は死にそうだ。
 いつものナイフは右腰のホルスターに仕舞ってある。使う前にケリをつけられたいが、まぁなんかあったときのためだ。1日限りの相棒は肩に担ぐようにしてある。薙ぎ払ったり振り下ろしたりするのが主なんだから、こうやってある程度高い位置に保持していた方がのちのち動きやすいだろう。無駄に長大な鞘はゲートの外に置いてきた。まだアイアンメイデン新人だった頃、ヴェロニカの能力の練習に付き合って色んな武器を試していた頃、ナイフの次くらいに使いやすかった超長剣、俗にツヴァイヘンダーと呼ばれるもの。これを使うために身体能力は重いものを持ち上げる、動かすような筋力に全集中してある。振り上げることさえできれば、あとは重力が勝手に地面に落としてくれるから、いつもより速く動けるのは足だけ。ゲートの外からでも聞こえたうるさいくらいの5万人の声はもう聞こえない。聞こえるのは大音量の放送、目の前の女が喋ればその声も多分聞き取れる程度。

「……手加減してくれよ?」

 俺にはもう聞こえていないが、5万人のざわめきに掻き消されそうな声で呟いた。

>>ユリーカちゃん


【2章開始おめでとうございます! ユリーカちゃん仲良くドンパチしましょう、よろしくお願いします!!】

1ヶ月前 No.88

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=rWwjSnqBVX

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1ヶ月前 No.89

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_kE1

【ユ/2日目 14:00/プグナ/カール・ハルデンベルグ/コロッセオ】
 時間は14時。太陽は中天からやや傾きつつも変わらずにその陽光で周囲を明るく照らし、気温が一日で最も高くなるとされる時間。
 プグナにおける、ユーリスの同期3連戦となる14時開始の回から18時開始の回。そのトップバッターが自分、カール・ハルデンベルグだ。実のところ、この戦闘が今日の、そして明日以降の流れを作るのではないかと否が応でも緊張していたところだが、ゲートを抜け、コロッセオの中心へと歩み寄り、既に先にゲートをくぐっていたらしい対戦相手の姿を見た瞬間に、その緊張も吹き飛んだ。
 レオン・アレン。同期の一人でこの後の回に出るユリーカ・パチルがその担当となっている男。彼の第一印象は、『どことなく自分に似ている』という事、そして『何故かムカつく野郎だ』という事であった。それが何故なのかははっきりとはわからない。しかし本能的に、相手を殴らなければならないという風な気分になってしまっている。ここが、コロッセオがそういう場所だからなのか、知らず知らずのうちに会場の熱気に当てられてしまっているからか、それともほかの場所でも出会えばそうなるのか。それはまだ、わからない話だ。
 一つ、深呼吸をする。昨日シマさんも『楽しめ』と言っていた。これは祭りなのだから、きっとそれでいいのだ。勝敗はさておき、この戦いを楽しむことを第一に考えていこう。

「カール・ハルデンベルグだ。よろしくな」

 ユーリスの制服のまま、髪形さえいつも通りの、ほぼ普段通りの外見で。繕う事なく、レオンへと声を飛ばす。
 自らの身体そのものが武器であるのだから、丸腰なのもいつものこと。普段と違うところを挙げれば、自分の手を保護するための白い手袋をはめているくらいだ。普段とは違い、最大で2時間ぶっ通しで相手を殴り殴られ蹴りけられる、となれば、流石に文字通りの素手では手も腫れるというものだ。これで相手が遠距離武器を持ってきていたら流石に逃げに徹するところだったが、とりあえずその賭けには勝ったとみていいだろうか。

>>レオン、場内all

【ということでカールも投稿です、よろしくお願いいたしますねー!】

1ヶ月前 No.90

なお @onpkun ★iPhone=EriHEvKaSR

【 ア /3日目 / トリプディオ / 神楽坂 夜】


3年に1度の大能闘演武、街を上げてのこのイベントに彼女の心も少なからず…いや、かなり高揚していた。やはりこういったイベント事は乗るに限る、前回までは見ている側だったが、今年は出てみたいと思うようになったのだ。というのも、以前街で知り合った小さい女の子に「おねえちゃんが出てるの見てみたい!」と言われてしまったのだ。年下には激甘な彼女がその可愛らしいお願いを一蹴するわけにもいかず、こうして出番を待っている。何に出ようかと迷ったが、あの子に見てもらうなら血なまぐさい戦いは避けるべきだろうと思い、トリプディオに出場することに決めた。といっても彼女の能力的にどうしたって血を見ることにはなってしまうのだが。

普段あまり緊張しない夜だが、気分が高揚しているせいもあるのか心臓がうるさい程に鳴っていた。前のふたりの出番が終わっていよいよ自分の番…名前を呼ばれゆっくりと広場へと足を踏み入れる。その中央には何も用意されておらず、観客はどよどよとどよめきをあげている。だいたい皆は何かしらの道具を用意してきているが、彼女が用意しているのは自身の身ひとつだ。いつもの制服とは違う白いドレスにローラー靴というどこか異色な組み合わせだ。白というものはあまり好きではないのだが、綺麗に魅せる為には仕方がなかったのだ。普段とは印象の違う彼女に好奇の目が向けられているのが手に取るように分かった。

広場の中央に立つとあの時の少女が1番前にいるのに気が付き、小さく手を振る。準備が整ったところでゆったりとした音楽が流れ始め、その音楽に委ねるように広場を滑り始めた。
自身の体内に流れている血液を外に出し、小さな玉状にしてぽんぽんとお手玉のように投げる。ふわふわと浮いているそれらは夜の身体を囲うようにして大きな円を描いていた。玉だったそれらは細かく形を変え、星型やハート型など様々な形に変化していく。

飴細工のように細かいそれらは、パチンと指を鳴らすと小さく音を立てて散っていった。ゆったりとした音楽から一変、アップテンポなリズムに切り替わると待ってましたと言わんばかりに細い剣を作り、今度は大きな玉状にした血液を次々と切り裂いていく。赤い血液はその衝撃で広がっていき、宙に舞って行く。滑りながら行っているその行為は舞を舞っているようにも見えるだろう。先程までざわめいていた会場も、その空気感に呑まれたのかいつの間にか静まり返っていた。曲もフィナーレへと向かい最高潮に達した所で、彼女もふわりと舞い上がる。実はワイヤーで釣り上げているのだが、薄暗くなってきたこの時間では宙に浮いているように見える。両手を広げると体内の血液を一気に解放し、丸いアーチ状になりながら綺麗に地面まで落ちていく。ゆらゆらと揺らめきながら落ちていく様は、照明に反射して雪の結晶のようになっていた。
最後の1粒が地面に着いた時、静まり返っていた会場からは溢れんばかりの拍手で満ち溢れた。上から見ていた夜もゆっくりと地面に降り立ち、満足そうに微笑む。ぱちぱちと大きな拍手をしていた女の子に近づくとぽんぽんと頭を撫でてその場を後にした。


夜の姿が見えなくなってからも拍手は鳴り続いていたが、その拍手とは裏腹に体力はがくりと落ちていた。


「やっぱり、無理し過ぎたかしら……でも、楽しそうで良かった……」


皆からの拍手とちいさな女の子の楽しそうな笑顔にほっとしながら、人目につかなそうな通路の壁に背を着けた。


>>ALL



【2章開始おめでとうございます!!!
トリプディオにしたはいいものの全然出てこなくてだらだら駄文を積み上げてしまって申し訳ないです…!
体力が回復し次第、他の方にも絡みに行かせていただきますっ!!!

そして1章で絡んで頂きました皆さん本当にありがとうございました…!】

1ヶ月前 No.91

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【二日目/プグナ/ユーリス/ユーフェミア・クレイヴン/控え室→コロッセオ】

━━━━歓声が聞こえる。ぼやけつつあったユーフェミアの視界は、それが耳に馴染むにつれて段々と晴れていった。
プロスペリタを沸かせる祭典。その演目のひとつであるプグナにユーフェミアは参加することになっていた。日頃から淑女を名乗っているユーフェミアが闘技に挑むというのはイメージダウンに繋がりかねないのではないかとユーリスに入りたてかつこの演舞に出る予定のなかった頃は無駄に思案したものだったが、今となっては最早気にするまでもない。演目が演目であれ、淑女らしさを崩すことなく勝利を掴み取れば良いのだから。だから今回プグナに参加することをユーフェミアは躊躇わなかった。もとの腕っぷしが強いので相手が誰であれそれなりに上手く立ち回れるのではないか。そうユーフェミアは考えていた。要するに余裕をぶっこいていた。少なくとも、ついこの間自分に与えられた厄介な任務の気晴らしにはなるかとも思った。淑女であるユーフェミア・クレイヴンは完全に油断していたのだ。

「……ジーン・オールビー……」

ずれた伊達眼鏡を押し上げながら、ユーフェミアは今日何度目になるかわからない溜め息を吐く。気を紛らわせようと少しの仮眠を取っても、この憂鬱さ加減は抜けきることがない。
ユーリスにおいてユーフェミアに与えられた任務、それはかつての幼馴染であり、悪友であり、劣悪なスラム街の中を共に生き抜いた戦友のジーン・オールビーを捕縛することであった。それだけでもユーフェミアの毎日は憂鬱で、つい街のゴロツキを殴る拳に力が入ってしまう日々を送ってきた。それだけならまだ良い。まさかプグナでも当たることになってしまうとは。もしも運命の赤い糸というものがあったのならそんなものは今すぐにでも引きちぎってやりたい気持ちに駆られる。ジーンのことは嫌いではない。むしろ好ましい存在だ。それゆえに会いたくなかった。きっとユーフェミアは、ジーンと会ったその瞬間に淑女としての体面を保つことが出来なくなる。数年間かけてユーフェミアの積み上げてきたものが、ジーン・オールビーという男一人によっていとも容易く崩されてしまいかねない。そして、ユーフェミアが忘れたくない、在りし日の薄汚れた、されど輝かしい日々の記憶も崩れ去ってしまいそうな不安さえあった。

(……私は淑女。淑女、ユーフェミア・クレイヴン)

胸元から取り出した懐中時計を確認してから、ユーフェミアは立ち上がる。何度も何度も、しつこいくらいに自分に言い聞かせた。そうだ、己は淑女なのだ。どのような過去を持とうと、今の自分が淑女であることに、ユーリスの精鋭であることに変わりはない。自分はもう、スラム街を駆け回っていたユーフェミアという小汚ない餓鬼ではないのだ。
かつん、かつんと、コロッセオに向かう道にユーフェミアの靴音が鳴る。少しだけ早くなった動悸を落ち着けるために胸に左手を当ててから、ユーフェミアは小さく深呼吸した。大丈夫、私はやれる。そう自分を励ましてから、目の前に聳え立つゲートを見据える。弱気で臆病なユーフェミアは此処まで。ゲートが開きさえしてしまえば、其処にいるのはプロスペリタを守るユーリスの精鋭が一人、淑女と名高いユーフェミア・クレイヴンなのだから。


「━━━━皆さん、ごきげんよう」


ゲートが開いた。其処から一歩を踏み出して観客に向けて微笑みかけるのは、紛れもなく先程の不安げな表情を浮かべていた女性と同一人物である。薄く微笑を浮かべた上品な佇まいの淑女は、自らの対戦相手に向かっても柔らかな笑顔を向ける。その表情はこれから対戦する相手に向けるものとは思えない程穏やかなものであった。これから共にティータイムでも楽しむ相手に向けるかのような、敵意も悪意も感じさせない微笑み。それはユーフェミアがここ数年間で鍛えてきた、淑女であるための仮面であった。

「ジーン・オールビー様……にございますね?ご存知かとは思いますが、今回相手をさせていただくことになりました、ユーフェミア・クレイヴンと申します。何卒、よろしくお願いいたしますね?」

はっきりと、決して大きすぎはしないがよく通る声で、ユーフェミアはジーンに向けてよそよそしく、かつ優雅にそう挨拶をした。淑女たるものどのような相手であれ挨拶はせねばなるまい。そのまま流麗に一礼してから、ユーフェミアは腰に携えていたサーベルにそっと左手を添えた。普段は二丁拳銃を得物としているユーフェミアだが、万が一観客に流れ弾でも飛んでいったら無粋なので今回は近接武器を選んでおいた。ユーフェミアとて此処で油断する訳にもいかないのでサーベルに加えてスティレットも装備している。今時刺突を主とする剣というものは時代遅れにも思えるが、ユーフェミアの異能であればそういった問題もカバー出来る。
間もなく開始の合図が鳴り響くだろう。ユーフェミアはその時をじっと待つ。微笑みを絶やすことなく、その佇まいは変わらず淑女のままに。

>>ジーン・オールビー様、場内all様

【後れ馳せながら新イベント開始おめでとうございます……!再会プグナ楽しませていただこうと思います、よろしくお願いいたします!】

1ヶ月前 No.92

鶏チキン @rmlp3322 ★wejhOBMSnu_keJ

【二日目/アイアンメイデン/→放送席/ヴェロニカ・ロロン】

 自分インドアなんで! と言って参加を断ってよかったと思っている。正々堂々、正面から戦うのは私の戦い方じゃないし、人を魅せる方法なんて知らない、私が出来るパフォーマンスなんて人間解体ショーくらいだ。ちなみに昔やったら部下が失神したので禁止にされている。
 それに人と人がこのコロッセオで戦っているところを上から見下ろしているのは思いのほか楽しい。なんだかサーカスか何かを見ているみたいでポップコーンを漁る手が止まらなかった。
 さてさて、知っている顔でも探しに行きますかね、とそろそろフランくんの出番が近づいてきているけれど席を立つ。隣の仲良くなったおじさんに次は見ないのかい? と声をかけられたけれど、「もう勝敗は分かってるんで、そんじゃっす!」と言い残した。愛玉さんに「やれ」って言われたフランくん、勝たないはずがないと私はなんだかんだ同期の勝利を確信している。というか勝たなかったら後で泣くくらいいじめてやる。

 席を立ってコロッセオの内部を歩くけれど、歓声や賭け事をする人たちの声でなんとなく状況は分かる。フランくん以外の幹部のみんなはどこだろうときょろきょろしながら歩いていると曲がり角で人とぶつかった。その衝撃は軽く、目視する前から子供であると分かる。子供にテメーどこ見てんだしっかり歩けと言う私ではない。

「ごめんね、だいじょうぶ?」

 そうは言うけれど片手にはポップコーンを抱えたままだし転んだその少女を起き上がらせようともしない。女の子は自分で立ち上がるけれどその顔は真っ赤で、というかそのクリッとした瞳からぼろぼろと大粒の涙を零している。私は慌てて、「どっか痛いんすか? 脱臼なら治せるけど骨折はちょっと……」とか言って女の子に駆け寄る。
 しゃがんで女の子の身体に傷がついていないかチェックしようとすると、女の子は傷害の容疑者であるはずの私にぎゅっと抱き着いてきてワンワンと泣き始めてしまった。ええ……? なにこれ、新手の当たり屋?
 ちがった。これはどうやら迷子というものらしい。

 女の子は一緒に来ていた両親とはぐれてしまったようで、ぐるぐるとこのコロッセオを歩き回っていたらしい。泣いてる彼女をどうにか黙らせるために持っていたキャラメルポップコーンの残りを渡してしまった。甘いそれをゆっくり噛み締めていたら悲しみや動揺よりも空腹の方が勝ったようで、女の子は涙を流してスンスン鼻を鳴らしながらもポップコーンをしゃくしゃく食べ始める。あーあ。私のポップコーン。
 よく人でなしだとか悪魔とか鬼畜とか人でないものに喩えられることが多いけど、本当の悪魔ではないのでここで逞しく生きるんだぞ、と肩を叩いて激励することはしない。

「あー……おねえちゃんとさあ、放送席行こうか? パパとママに迎えに来てもらおうよ」

 女の子は何も言わず私の手をぎゅっと握ってくる。おお、ちいさい、そしてあたたかい。ずっと泣いてたからかちょっと湿ってる。
 ということで私は名も知らない小さな女の子をパーティに加え、ずんちゃずんちゃと愉快に放送席へ向かう。うそだ。気まずい。


「あー……、すいません」

 小さい子供を連れてスムーズに歩くことは難しく、平常なら五分で着きそうな放送席に十五分もかかってしまった。その間の話題といえば「最近映画何見た?」という完全に趣味に寄った質問だけだ。答えはジュラシック・ワールドだった、渋いかよ。
 放送席の人はあからさまに仕事中なのですこし控えめに声をかける。後姿と声だけでも、穏やかな人だって分かる。私より子供慣れしてそうな雰囲気に安堵する。大歓声にびっくりしてしまったのか、また不安げな顔をする女の子が私の手を握る力強さを感じながら、「この子迷子なんです」と放送席の後ろ姿に声をかけた。どうしよう、まるで善人みたいなことをしているけど私はダメージジーンズにゆったりとしたTシャツ、頭にはサングラスといった感じであまり良いことをする人間に見えない。人攫いだと思われたらどうしようと思いながら。女の子はポップコーンの空き箱をまるでぬいぐるみかのように大切そうに抱えており、やはり不安げだった。

>エリアスくん


【新イベント開始おめでとうございます! エリアス聖者くんのところに迷子のお届けにくるところから始めさせていただきました! イベント中はふらふらしているので一瞬声をかけるような絡みもするかと思いますが、どうぞ今回もよろしくお願いいたします!】

1ヶ月前 No.93

@line☆1jppp41g33s ★Android=Iph2i3QnCf

【二日目/プグナ/アイアンメイデン/ジーン・オールビー/コロッセオ】

 ずっと会いたかった相手。
 しかし、関わりたいとは一度も思ったことのない相手。関わってはならないと、ずっとそう思ってきた相手。
 なのに、なぜよりによってお前が目の前に立ちはだかるのだろう。
 この世で最も厄介な相手となって、なぜ再会しなければならなかったのか。

 ゲートが開く。歓声がいっそう大きく会場に響き渡る。そしてゲートから出てきたその人物に、ジーンは絶句した。久方ぶりに見たユーフェミアの姿は、自分の描いていた想像を遥かに逸脱していた。
 確かにお互いあの頃のままではないだろうとは分かっていた。彼女はユーリス、自分はアイアンメイデン。組織の影響は少なからず受ける。その環境に身を置けば、自ずとその職に相応しい者の雰囲気を放つ。だが、根本的な性格まで変わることはないだろうと高を括っていた。その者の生活背景まで匂わせない立ち振る舞いなど、至難の業だ。それこそエクエスのように器用で、立ち回りの上手い者でなければ。
 職業柄、他人のことはよく見ている質であると思っていた。それ故に初対面の相手でも、どんな上質な衣服を纏い、自分の前に偽って現れたとしても、直感で違和感を覚えたり、話したりしていくうちに自ずと隙が見えたりしてくるものだ。
 だが、彼女の姿はまさに正義という言葉に相応しく、一片の隙も窺いしれなかった。ユーリスの白い制服は眩しく、彼女の茶色に近い金髪によく映えていた。いつの間にか穢れを知らない正義の制服が似合う女になっていた。スラムの中で、時に泥に塗れて共に生き抜いてきた少女とは、似ても似つかなかった。まるで別人だ。

 自分に微笑みかけるこの女は、一体誰だ。

 知っているはずの答えに対し思わず己に問いかけた、そのときだった。
 ――ジーン・オールビー様。
 鼓膜が震えた。上品な声音で名を呼ばれ、すっと目線を上げる。……『様』だと? 一体何のつもりだ。怪訝に目を細め、緑の瞳を見据えた。しかしまるで初めて会うかのように自己紹介をし出す彼女の言葉に、何かを察したかのようにジーンは目を伏せた。「あぁ」と言葉を返し、口の端で笑った。

「いかにも。アイアンメイデン幹部、ジーン・オールビーだ。ハハ、随分と『良いご挨拶』するじゃねェか、えぇ? ユーリスの淑女サンよ」

 ようやく日が傾き始めた空に向かって、ゆっくりと煙を吐き出す。視線をユーフェミアに注ぐとジーンは心持ち目を細め、微かに笑った。
 この言葉を皮肉だと気付く者は果たしてどれほどいるだろうか。少なくとも目の前にいる彼女には分かるはずだ。知り合いであるはずの者に、いかにも初対面の挨拶を交わしたことへの皮肉が。
 彼女は自分の知るユーフェミア・クレイヴンではない。彼女はユーリスの精鋭が一人、淑女のユーフェミア・クレイヴンだ。そういう意味では確かに初めましてかもしれないな。
 だがユーフェミア、人間どうであれ、過去の自分とは切り離せない。過去があってこそ、今の自分が成り立っている。違うか? だから俺と再会したことは、お前にとっちゃ不幸なことに違いなかっただろうな。やはり、俺たちは関わり合いになるべきではなかったのかもしれない。

 彼女が流麗に一礼したのを見て、ジーンはふっと笑って煙草の火を消して黙礼した。
 時は午後18時、日は沈み始めオレンジ色の光がコロシアムを照らしていた。自分の影が伸び、濃くなっていくのを視界の隅に映しながら、逢魔が時とはよく言ったものだと思った。自分にとってかつて大切な仲間であった彼女を、敵として目の前に連れてきてしまったのだとそんな気さえ起こさせる。
 ユーフェミアが左手でサーベルにそっと手を添えたとき、ジーンは片足を引き、自分の刀の柄を静かに握った。
 会場が緊迫した雰囲気に包まれる。そして審判により、開始の号令がコロシアムに響いた。

「――勝負だ。ユーリスの精鋭、ユーフェミア・クレイヴン!」

 その瞬間、ジーンは目の色を変え、ユーフェミアを見据えた。

>ユーフェミア、ALL

1ヶ月前 No.94

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【2日目16時/プグナ/ア/フランクリン・スカビオサ】

 ────あなたの全力、見せてください

 微かだが聞こえた。……全力を見せる気にはなれない。俺はこういう言葉で発破かかって急にやる気を出すようなタイプじゃないんだ。……パチルの手にはリング、武器らしい武器は持っていない。ステゴロ……いや、能力で武器、または武器に近いものを生み出せるのかもしれない。間合いがこっちの方が広いのは今だけかもしれない。油断するな、油断したら死ぬ。

 ────試合開始を報せる音。

 律儀に俺に対してお辞儀をしたことに、少しだが拍子抜けしてしまった。悪いな、正々堂々ってガラじゃないんだ。
 ……どう出ようか。俺が勝敗はともかく、サクッと終わらせるためにも、とりあえず持久戦は避けたい。今日はいつものような俊敏一点突破ではなく、五感を全体的に筋力俊敏に宛てている。能力を使わなくても、今の俺と同じ動きができるやつは世界中探せばたぶんいる、といった程度だろう。……まだ動き出さないパチルも、俺と同じく出方を探っているのか。それなら俺の能力に関しては知らない、知らされてないと考えていいのか? 『俺がまだ能力を使っていない、まだ隠し玉を持ってる』と思わせたまま、ある程度の余力を残させた状態で決着を着けられるかもしれない。────先手を、打とう。

 パチルはまだ間合いの外だが、大きく前に1歩踏み出す程度で、俺の身長ほどもある大剣の切っ先が届く程度だろうか。初手で軽微でもダメージでも入れられたら俺の目標歯達成、ということにしよう。今決めた。

 右手だけで保持し肩に預けていた大剣に、左手を添え、そのまま1度地面に落とす。軌道は決めた。こんなデカブツ、1度勢いに乗ればそうそう制御できるもんじゃない。俺にも制御できないものが、あの生身で止められるものか。

「────っ!」

 前に2歩、地面に預けた大剣の切っ先は既に俺の斜め後ろにあるあら、上に持ち上げるだけですぐに攻撃できる姿勢になる。そのまま右足を支えに左足を踏み込んで右へ降ると、重量も手伝い右斜め下への斬撃、ひとつめ。その勢いを殺さないように手を返し、途中で右手を離し勢いに任せ、右から左へ、腰あたりの高さを右から左へ水平に薙いで、ふたつめ。

「はああぁぁっ!」

 剣に引っ張られて斜め後ろを向きたがる身体、そのまま左足を軸に身を返し1回転、右手でもう一度柄を捕まえ、俺の目線程度まで振り上げた刀身をもう一度、地面を斬るように振り下ろす、みっつめ。

 地面に激突し砂埃を上げ、そこで一連の動きはひとまず終了となる。まだ息は切れてない、体温も大して上がってない。

>>ユリーカちゃん

1ヶ月前 No.95

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_NQd

【ユ/3日目 14:00/カール・ハルデンベルグ/(客席→)通路】
 ユーリス精鋭の仲間にして大事な後輩の一人でもある篠倉瑠璃羽、彼女の演武が今まさに終わりを告げた。周囲の歓声も当然の事だろう、彼女らしい素晴らしい演技だったと称賛するしかない。一つ一つの動作が伸びやかでありながら力強くもあり、まさに剣で舞うという言葉通りの動作に思わず見入ってしまっていた。彼女がただ救護要員として守られるべきだけの存在ではないということを改めて実感しつつ、声を掛けに行こうと席を立った。
 途中の売店でスポーツドリンクを購入し、通路を進み今日の演者たちの控室へと向かう。昨日プグナの待機のために使用したところと同じであることを祈りつつ、それで違って場所がわからなければ聞けばいいかと向かった先で、瑠璃羽が通路に座り込んでいるのが見えた。
 彼女の怪我を治しながらの演武であったというのは見えていたし、普段と同等以上に身体に負担をかけていたのであろう。恐らく体力を使い果たしてしまったに違いない、という事は容易に察せられた。

「よう、瑠璃羽。お前らしい良い剣舞だった、見惚れちまったよ」

 だからこそ彼女に無理をさせないようにと、彼女の傍に片膝をついて瑠璃羽に目線を合わせつつ、そう声をかける。恐らく消耗しているだろうとスポーツドリンクをついでに差し出すが、彼女に飲む余裕があるかも今一つ判然としない。
 昨日の怪我も治った今なら、動けないなら背負うなり抱くなりして救護室まで行くことなど造作もない。見たところ彼女が治療できないレベルの大けがをしているわけではないようだし、それを考えれば今は彼女がそれを望むかどうか次第だろう。

>>瑠璃羽

【るりちゃんかわいいヤッターという事でまた絡ませていただきます、よろしくお願いいたしますー!】

30日前 No.96

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【二日目/プグナ/ユーリス/ユーフェミア・クレイヴン/コロッセオ】

もしも相手がユーフェミアの知る頃のジーンと同じならば、彼はきっと自分の立ち振舞いに驚愕するであろうとユーフェミアは踏んでいた。だってスラム街にいた頃のユーフェミアは優雅のゆの字も淑女のしの字もなくて、女性らしくしろと言われればハッと鼻で笑ってあしらうような、スラム特有の聞き分けのない餓鬼でしかなかったのだから。それが悪いことだと教えてくれる大人はいなかったし、そうでもしなければ彼処では生きていけなかった。それはユーフェミアも重々承知している。だからこそ、今の……ユーリスの精鋭として生きるユーフェミアは淑女として生まれ変わろうとした。己が過去を捨てて、プロスペリタを守る英雄として生まれ変わろうと決意したのだ。

(……だから、仕方がないこと)

ユーフェミアは自分に言い聞かせる。目の前に対峙するかつての幼馴染に、皮肉を交えた言葉と視線を向けられたとしても、それは致し方のないことなのだと。……そう考えているのに、ユーフェミアはそれを微笑んで受け流すことが難しくてならなかった。お前だってそう変わらない生き方をしてきた癖に、と。私のことを何も知らない癖に、と。かつてプロスペリタのスラム街を走り回っていたただの“ユーフェミアという少女”が“ユーリスの精鋭であるユーフェミア・クレイヴン”を酷く責め立てるのだ。こいつ、一回ぶん殴ってやろうか、とかつてのユーフェミアは顔に憤怒を塗りたくりながら淑女のユーフェミアを急かす。わかっている、わかっていると暴れだしそうな己が内に潜むスラム街の子供を宥めつつ、ユーフェミアはジーンをきっと見据える。もうじき開始を告げる合図が鳴り響くだろう。いつまで淑女として見栄を張れるかはわからないが、出来るところまでユーフェミアはユーリスの精鋭であり続けなければならない。なぜならそう、試合前に自分で決めたのだから。

「……えぇ、そうですね」

勝負だ、と。己の名前を呼ぶジーンにユーフェミアは微笑もうとした。しかしいつもはするりと上がるはずの口角は思うように動いてくれず、ユーフェミアの顔は微笑むことなくひきつる。観客に見えていたのなら後悔するであろう、ありとあらゆるマイナスの感情が複雑に絡み合った表情を生み出してしまった。


━━━━そして、頃合いを見計らったかのように試合開始の合図が鳴り響く。


ユーフェミアの耳はその音を聞き逃さなかった。スラム街で嫌が応にも鍛えられた彼女の五感はこんなところで鈍らない。否、いつでも鈍ってはいけないのだ。まがりなりにもユーリスの精鋭は伊達ではない。

(先手を、突く……!)

その間は、数秒にも満たなかっただろう。合図が鳴ると共に、ユーフェミアはジーンに向かって駆け出していた。いつの間にかサーベルはその鞘から抜き放たれている。いつもは遠距離武器ばかり使っているユーフェミアだが、たいていの武具は扱えるようにと自分なりに訓練を積んできてはいる。だからたとえ使用する武器が変わったとしてもユーフェミアにはこれといった差し支えはないことだろう。

「っ、やぁっ!」

ジーンの懐に潜り込むかのように、ユーフェミアは姿勢を低く保つ。そしてそのままジーンへと斬りかかる。防御無視のユーフェミアの異能。それは先手であれば有利な展開に持ち込みやすい。しかしそれはきっとジーンも承知の上であろう。彼がどう出るのか。それを見極めるための一撃であった。

>>ジーン・オールビー様、場内all様

30日前 No.97

はるみや @basuke21☆xM4sO6EUbuM ★sBHPZi6My9_OSy

【2日目/プグナ/レオン・アレン/コロッセオ】

 観客の歓声が一際大きくなった。
 レオンは何かを惜しむように、ゆるりと視線をゲートへ向ける。
 真紅に燃える双眸は初めて、カール・ハルデンベルグを捕らえた。逃がさないと言わんばかりに、鋭い目つきで。
 ゆらり。真紅が揺れた。

「……気に入らねぇ」

 何を考えるよりも先に、あまりに自然と、当たり前のように、ぽつりと。言葉が零れた。コロッセオを揺らす歓声に比べ、その言葉はあまりに小さすぎた。カールに届いているかいないかは分からないが、レオンは自然と漏れたその言葉に後悔はしていない。寧ろ得体の知れないドロドロが全身を駆け巡り、闘争心を煽りにかかる。
 ──カール・ハルデンベルグ。
 心の中で、相手の名前を呟く。

「気に入らねぇ」

 今度ははっきりと。そう発言した。カールに届くように、はっきりと、縁取りされた言葉で。
 上がっていた口角は下がり、上機嫌だった気分は世界に名を轟かせるジェットコースターも顔負けの速度で急降下している。
 レオンはとにかくカールという男が気に入らなかった。名前も、顔も、正義を具現化したような雰囲気も、凛とした声も、他のユーリスの人たちと違ってあまり着崩されていない制服も、太陽に反射する美しい髪も、風に揺れるオールバックも、見抜かれるような瞳も、武器を持っていないことも、一見丸腰に見えることも、爽やか且つ大人な挨拶も。
 何故かは分からないし、分かろうともしてなかった。
 今のレオンは、カールの初雪のようなシルバーブロンドの頭を踏みつけ、白いユーリスの制服を血と泥の赤と黒──まるでアイアンメイデンの制服みたいだな、とレオンは小さく笑った──に汚し、整った顔に浮かばせた澄ました表情を憤怒、憎悪、そして絶望に染め、誠実が滲み出ている声を、恐怖と屈辱に揺れながら「降参だ」と言わせる。ただそれだけを考えていた。

「挨拶はいい。──先を譲ってやるよ、カール」

 頭がぼーとし、クラクラする、興奮にも似た感覚。そして五感が普段より鋭敏になっている感覚。先ほどまでの不機嫌など感じさせない、にぃっと吊り上る口角。
 挑発するように、下から覗き込むようにして相手を真紅の双眸で捉え、低く、そう言った。

>>カール、場内ALL

【アッ、すいません…ちょっと過激?な表現があります…。もし不快にさせてしまったら申し訳ないです;;】

29日前 No.98

篠葉 @xiv☆8qw5LAZnvEo ★iPad=N6pytYwzGR

【3日目 / ユ / 通路 / 篠倉瑠璃羽】

 舌の上で転がした飴が溶けていくと同時に、全身にその甘さが染み渡るような感覚。もう立てるくらいには回復しただろうか、と足に力を入れてみるも、まだ歩けるようになるには少しかかりそうだ。ここにずっと座り込んでいても迷惑になりそうだし、壁伝いになんとか移動できないだろうかと顔を上げかけたとき、瑠璃羽は誰かの気配を感じる。
 こつこつと通路を歩いてくる音の方向に目を向けると、そこにいたのは同じユーリスの精鋭であり先輩であるカール・ハルデンベルグだった。彼の出番は昨日のプグナで終わったはずなのに、何故ここに。彼女はそう思って首を傾げるが、差し出されたスポーツドリンクを見て察する。

「カールさん……! わざわざすみません、ありがとうございます」

 膝をついて目線を合わせたくれたカールに甘えて、そのままの姿勢で礼を口にする。スポーツドリンクを受け取りながら、彼の「見惚れちまった」という言葉に照れたように頬を染めつつもう一度「ありがとうございます」と言ってはにかむ。自分のトリプディオを見ていてくれたこと、こうして自分がエネルギーを使い果たしてしまっているであろうと予想して気遣ってくれたこと、それが嬉しくて暖かい。
 ペットボトルのキャップを開けようとして、自分にその余力が残っていないことを思い出す。元の筋力、握力が弱いのに加えて今は余計に力も残っていない。勿論強化するためのエネルギーもない。少しの逡巡の後、申し訳なさげに眉を寄せて、受け取ったばかりのペットボトルをカールに差し出し、「すみません、力が入らなくて……これ、開けてもらってもいいですか?」と控え目に言う。スポーツドリンクなら、小さな飴を舐めるより効率的にエネルギー変換もできるだろう。これを飲んで少しだけ休めば少しの移動くらいは出来るはずだ。いつまでもカールに膝をつかせておく訳にもいかない。

>カールくん


【ヤッター! カール先輩かっこよすぎる惚れそう……。よろしくですーー!!】

27日前 No.99

ぴーぴーけー @ppkppk☆ErEBsPNY5g.j ★iUcwHsnoGa_2YW

【ア/3日目22:00、トリプディオ/コロッセオ/エクエス・ランスロット(怪盗騎士王)】

 ――突然、会場は暗黒に包まれた。

 カジノの女王が去った後のステージは場面転換のために数十分の幕間が設けられてはいたものの、観客の興奮は冷めることを知らず、未だに夥しい熱気に包まれていた。あちこちから響く口笛、鳴り止まぬ万雷の拍手。それを終わらせたのは、突如訪れた照明の暗転、そして数瞬後にステージ後方に設置された巨大スクリーンに映ったメッセージだった。

  『 今宵、観客の皆様の感動をいただきに参ります。 』

 白いスクリーンに映ったシンプルな黒い文字。文字の背景にはコウモリの図章。静寂の中、ひそひそと不安な声が零れる。何が起こったのかわからない観客達。しかしその静寂に水を差したのは、あるひとりの熱烈なファンであった。

「……これ……予告状だ……!……怪盗騎士王の予告状だ……!!」

 まさに世間を賑わすダークヒーロー。そのファンが放った波紋は、急速に観客席全体へと伝播していく。突如として出現したその「予告状」に戸惑いを隠せない観客達。しかしそれを鎮めたのも、その直後にスクリーンの映像が消えて訪れた闇、そしてわずかに残ったブラックライトの青暗い光。

 時刻は22時。大怪盗のステージの始まりである。

 ふとステージの上方から、ひらひらと黒い布が舞い降りてきた。訝しげにそれを眺める観客達。やがてそれはステージ中央に音もなく着地した。観客の静かなどよめきも露知らず、黒い布はただそこにあるばかり。しかしふと、それが動き始めた。観客のわずかな驚きの声とともに、その動きは大きくなっていく。生き物のように盛り上がり、やがて人間くらいの大きさになったと思いきや、会場にズンズンと胸に響くダンスミュージックが流れ始めた。
 曲の盛り上がりに合わせ、布の動きがぴたりと止まる。そしてその周囲に、同じような形をした12体の黒い影が現れた。曲の展開に合わせ、突如として黒い存在それぞれの中心に縦に裂けた割れ目が走り、そこから白い手袋をはめた手がぬるりと現れる。最前列の女性客がひっと驚いた声をあげたものの、会場に響くBGMにかき消される。黒い布の塊と周囲の黒い影はいつの間にか黒いローブを被った人間のような姿となり、ブラックライトによって紫外線蛍光を発したその白い手と黒い腕は、BGMに合わせ完全に動きの揃ったきびきびとしたヴォーグダンスを魅せる。
 いつの間にか観客はリズムに合わせて身体を揺らし、歓声を上げ、そこら中から煽るような口笛が聞こえてくる。そしてBGMのブレイクの瞬間、ステージ中央の黒い存在はその場で綺麗なスピンをすると同時に、周囲の12体の黒い影が消失した。中央の黒い存在は2回転して正面を向く瞬間にローブ……いや、マントがばさりと広がり、白い手袋をはめた両手を大きく広げた。同時に照らされたスポットライトの下に、黒衣の男がその姿を現した。
 それは世間を賑わす大泥棒、怪盗騎士王。

「彩りましょう、宵闇を。奏でましょう、希望の調べを。
隠れた悪が奪いし糧を、弱き者へと与えましょう。

夜空を翔ける大泥棒、怪盗騎士王ただいま参上。

本日は大能闘演武にお越しいただき、誠にありがとうございます。
突然ですが、予告通り今から皆様の感動を盗んでご覧にいれましょう――」

 ステージ中央で優雅にボウ・アンド・スクレープの礼をする、期待通り現れた大怪盗。その姿に、観客は堰をきったかのように沸き上がる。連日報道されるダークヒーローが、今自分の目の前にいる。ミュージシャンのライブに来たかのように熱狂する観客達。今宵は何をしでかしてくれるんだ。そういった期待が歓声となってステージに降りかかる。怪盗が右手を高く上げてパチンと指を鳴らせば、また照明が消え、暗黒の世界が訪れる。観客の声も、何が起こるのかを見逃すまいと一斉に静まり返る。

「ワン、ツー、スリー……!」

 漆黒の静寂の中で、怪盗がインカムで語りかける落ちついた声だけがスピーカーから聞こえる。その闇の中で、多くの観客が自分の傍を風が吹き抜けるのを感じた。怪盗が演出に用いた特殊効果かと思いつつも、怪盗が3カウント唱え終われば再び照明がついた。しかし依然として暗いブラックライトオンリーの青暗い世界。だが先程の漆黒との対比故か、今度は幾分明るく感じた。
 青白い舞台の上で、怪盗は大きくマントを翻した。その瞬間、マントの陰から現れた何かの山に観客の視線は釘付けになる。その山は、黒や茶色、白や黄色、様々な色、様々な素材でできた手に収まるサイズの何かで形作られていた。ものによってはブラックライトに照らされた紫外線蛍光により仰々しく輝いている。やがて最前列の観客が「それ」の正体に気付き、まさかと思って自分のポケットをまさぐる。あるはずのモノが、無い。

「財布……えっ……?」

 その声とともに、周囲の観客も自分の大急ぎで所持品を確認する。無い。無い。どこにも無い。ついさっきまで、確かにあったはずなのに。そして件の壇上にあるものを急いで確認する。積み上がった山の一部に、見覚えのあるモノがある。そうだ、まぎれもなくあれは私の財布だ。観客席を見渡せば、どうやら取られたのは自分だけではないらしい。というよりも――

「……やりやがった……怪盗騎士王……!
 こんな状況で、あいつは観客全員の財布を盗みやがった……!!」

 大大大ブーイング。いくらパフォーマンスとはいえ、財布を取られるなどたまったものではない。ある意味で先ほどよりもひどい喧噪を気にも留めず、怪盗はステージの上で腹を抱えて笑っていた。そして再びおどけたように両手を広げる。突然の動作に観客もあっけに取られ、やがて静かになっていく。

「……いやはや、失敬失敬。あまりにも簡単に盗めたものでね。君達、もう少し警戒した方がいいですよ? でないと私じゃなくても別の人にスられちゃいますよ?」

 怪盗はくすくすと笑いながら、突然再び手を上げて指を鳴らす。例のごとく突然の暗転。再び観客の傍を何かが駆け抜ける。今度は風が吹き抜けるとともに、自分の手に何かを握らされる。あちこちで驚いた声がしている、中には渡された何かにびっくりして取り落としたものも少なくないだろう。
 再び3秒ほどで照明は復旧した。今度はステージを照らす場明かりがしっかりと点灯している。突然の明るさに目が眩む観客達。だがすぐに目は慣れた。手に渡されたものを見てみれば、それは自分の財布であった。数十秒の旅から帰ってきた財布は、外から見たところではどこにも以前と変わった様子はなかった。急いでステージを確認する。しかしそこに怪盗の姿はすでになかった。しかしすぐに、ただ怪盗の声だけが会場に響いた。

「フフフ、楽しかったですか? 約束通り、皆様の感動はいただきました。
私のステージはひとまずこれで終わり。次のステージは、いつになることやら。
ただし一つだけ言えるのは、悪いことをしている政治家や悪徳企業は、私のステージになってもらいます。

そうそう、財布の中身、確認しておいた方がいいかもしれませんね。
さすがの私も、いちいち全員分覚えていられませんので」

 あっけに取られながらも、観客達はおずおずと自分の財布の中身を確認する。直後、高所得者向けのS席の方から数々の悲鳴が湧き上がる。

「中身がない!?」
「空っぽだわ!?」
「「「盗まれた!!」」」

 まさかと思って自分の財布の中にある額面を確認する一般席の人々。しかしどうやら自分達の財布はそのままのようだ。だが次は別の意味の声が湧き上がる。

「なんだこれ……!?」
「パパ、どうしたの?」

 ここにいる父子はもともと貧しい身ではあったが、ちょうど先日、息子の将来のためにと思ってかけあった保険会社から詐欺まがいの被害に遭っていた。合法的に客の財産を取り立てる、まさしく悪徳企業である。たまたまそれを儚んだアパートの大家である老夫妻が、親子を誘い4人で観戦に来ていたのだった。被害のせいで財産は底をさらうほどまでに奪われたため、もともと財布の中には紙幣など1枚も入っていなかったはずだ。明くる朝の朝食にも悩むほどであった父親の手元には今、ちょうど被害に遭った額と同じくらいの札束の入った小さなカバンが持たされていた。

「……まさか……!?」
「ははは、とっておきなさい。財布の中にいくら入ってたかなんて、誰も証明できないんだ。

……彼は本当に、『義賊(ヒーロー)』だね……」

 一緒に座っていた大家夫妻が、その父親に向かってくくくと笑いながら囁いた。そう、彼ら夫妻も怪盗のファンであった。
 ちょうどその頃、S席ではその保険会社の幹部達が悲鳴を上げていた。父親はその様子を遠目に見つけ、驚きを落ちつかせることができないままに、ただ誰もいないステージを眺めた。やがて彼は、怪盗がやったことのすべてを理解した。


「……うっ、ぐ……ひっ……ありがとう、ございます……怪盗騎士王……ありがとうございます……!!」

 静かに頬を伝う涙を止めることも無く財布とともに息子を抱きしめ、すでにその場を去った怪盗に向かって、ただただ精一杯の礼の言葉を繰り返すだけだった。観客席には、ちらほらと同じような光景があった。どうやら同じように怪盗に助けられた者は他にもいるようだ。

 依然鳴り止まぬ大きな歓声。

 世間を賑わす大怪盗は、まさしく感動を盗んでいった。


>>ALL

【2章開始おめでとうございます!!とりあえずエクエスはデルニエールとして観客席に出没させます。】

27日前 No.100

鶏チキン @rmlp3322 ★wejhOBMSnu_keJ

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27日前 No.101

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=LUtXGUBCy4

【二日目 / プグナ / ユ>ユリーカ・パチル / コロッセオ】

 一度目の斬撃。フランクリンが大剣を地面に落とした瞬間から、既に回避のために全神経を注いでいたため、相手の動きに合わせて大きく後ろへ跳躍する。体の中を隅々まで力が駆け巡る感覚。後退している間、片時もフランクリンから目を離すことは無くて。相手の踏み込む動きがコマ送りのように見えた。斬撃は目が追いきれなかったが、攻撃を回避することは出来た。

 フランクリンとの戦闘で、自身の能力の出し惜しみをするつもりはなかった。相手の次の攻撃に備えつつ、杭状になった金属の先端を左の手の平から覗かせる。普段、街中の戦闘では、先端を様々な形状に変化させて壁の突起などに引っ掛け、ワイヤーの伸縮運動を駆使した空中戦を主としている。だが生憎、コロッセオ内に突出した障害物は、特に見当たらない。ならば、地面に突き刺せばいいだけのこと。それでも十分機能する。だから杭なのである。コートの袖はユリーカの腕よりも長いため、手の平の様子はまだ相手には目視されていない。
 二度目の斬撃。薙ぎ払うようなその軌道。反射的に左足を前に出し、左腕を体の前に構えて、身をよじる。

「っ!」

 声にならない声を上げ、よろめく体を左足で踏ん張り支えた。続いて襲いくる三度目の斬撃。大剣が振り下ろされようとしていたその時、ユリーカの姿は忽然と消えた。

 いや、正確には消えた訳では無い。右手から伸びるワイヤーでコロッセオの壁にぶら下がっていた。応援席の手すりに釣り針型の先端を引っ掛けて、このように宙ぶらりんになっているのであった。ワイヤーには、ユリーカの体重を支える強度は十分にある。ぶらりと体の横に垂れ下がる左腕、その袖は一部に血が滲んでいる。その様子は赤い花が咲いたようであった。白い制服に映える。フランクリンの二度目の斬撃によるもの。傷は浅いが、手に力が入りにくくなったようで、一瞬だけ眉根を寄せて口先を尖らせる。
 キラキラと、いや、ギラギラと。フランクリンを捉える目は、いっそう輝く。西に傾き始めているものの、未だ空で燦々と輝く太陽のように。

 シュルシュルとワイヤーを縮め、まるでリフトで下から上へ上がっていくかのように、緩やかに上昇していくユリーカ。不意に、観客席の最前列に座っていた子供と目が合う。口角を少し上げてパチッとウインクしたが、直ぐに視線をフランクリンへ戻し、見下ろした。大剣を得物として振り回す彼の息は、まだ上がっていないように見える。

(うーん、どういう仕組みなのかなあ? あーんなに大きな大きな、おーーーきな剣、ユリーカが百年トレーニングしても扱えそうになくてしょんぼりしちゃいます……。スカビオサさんは相当鍛えていらっしゃるようですね。だってあんなのカールでも能力使ったほうが、ちゃんと扱えるくらいだもん。――――……あれ?)

 ふと、己の筋力を強化する能力を持っている同期を思い浮かべた。そのとき、フランクリンが大剣を扱えるのは能力を使っているからではないか、という答えに辿り着く。だからといって、能力の詳細は分からない。持続時間、そしてデメリット、何一つ分かっていない。ただ、カールがそうであるように、持久戦には向いていないと仮定しても良いだろう。
 左手の指にはめたリングナイフの感触を確かめる。持久戦に持ち込めば勝機はある。常に走り回っているため、体力には自信がある。

(でも……、せっかくのこの大きな舞台で、逃げ回るのはやだ、なあ)

 おもむろに左の手の平をフランクリンに向けた。中央にぽっかり穴の空いたグローブ。刹那、その穴から杭状の先端が勢い良く飛び出していく。目標地点はフランクリンの射程圏内より僅か外の、地面。蛇のように横にうねりながら、左手の平から伸びるワイヤー。杭が地面に刺さろうとする頃、右手のワイヤーの先端を、釣り針から錨へと変化させ、壁から吊り下げられていた体を宙に投げすてる。右のワイヤーを縮小しつつ、左のワイヤーに体は引っ張られるように、フランクリンへ目掛けて距離を縮めていく。狙った獲物は何処までも、執念深く追跡する。砂漠の捕食者ガラガラヘビの不気味な横ばい運動のように、そのワイヤーをくねらせて。故に《サイドワインダー》。ユリーカの身に宿る能力。

 左のワイヤーの先端が地面に食い込んだのとほぼ同時に、右手の平をフランクリンに――正確には彼が持つ大剣の持ち手――向ける。数センチ手の平から飛び出していた先端が錨のワイヤーは、するりと伸びていく。その意図は、持ち手を絡めとってしまおうというもの。そのためにはフランクリンに近づく必要があった。肉が切られるのは百も承知。だが、骨が断たれなければ大丈夫だと考えている。
 そして地面に着地する。一歩、そして二歩、しっかりと踏み込んで、左ワイヤーを巻き取りながら、握りしめた左拳を相手の喉元に。空を切るその勢いで、袖に隠れていた左手が露わになる。ただの拳ではない。三連のリングナイフの切っ先が煌めいていた。掻っ切るのではなく、寸止めするつもりで、その拳を突きつけようとする。

>>フランクリン

26日前 No.102

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_NQd

【ユ/2日目 14:00/プグナ/カール・ハルデンベルグ/コロッセオ】
 気に入らない。風に紛れてそういう言葉が聞こえたような気がして、聞き間違いかあるいは観客席の方から聞こえたのかと考えて対戦相手の方を注視する。『気に入らねぇ』。今度こそ、はっきりと聞き取れた。図らずも相手は、自分と全く同じことを考えていたらしい。

「ハ、その余裕が命取りだってな……!」

 先手は譲る。その言葉に嘘は無いのだろう、対戦相手が動く気配はいまだ無い。絶好の機会だ、初撃から痛いのを食らわせてやらないと気が済まない。
 実のところ、勝っても負けてもこれがユリーカの今後の戦闘の糧に、彼女が今後レオン・アレンを逮捕する助けとなるのならそれでいいじゃないかとも考えていたのだ、彼を実際に見るまでは。しかし彼を見た瞬間に、そういった事も、立てていた作戦も、全て消し飛んでしまった。どういったわけか、彼をぼこぼこに殴らなければ、地に叩き伏せなければ、気が済まない。
 深く踏み込み、自らの能力を発動させ筋力を増強させつつレオン・アレンの顔面へと向けて利き腕である右腕のストレートを放つ。最初の様子見など不要、ジャブなど無粋。最初から全力で決めに行く、反省は全部全部終わってからだ。

>>レオン、場内all



【ユ/3日目 14:00/カール・ハルデンベルグ/通路】
 嬉しそうにスポーツドリンクを受け取った瑠璃羽であったが、僅かな時間動きを止めた後に申し訳なさそうな顔をして此方へとボトルを突き返してきた。どういう理由かと思ったが、彼女の言葉で合点がいった。

「ん、あぁそういう事か。済まない、そこまで気が回らなかった」

 彼女の消耗具合は見て分かるレベルだというのに、最初から開けて渡すことをしなかったのは彼女に対して配慮が足りなかった、と反省しつつ、ボトルを再度受け取ってからキャップを回して栓を開ける。確かに開ける直前に随分固くなるし、自分ならばともかく今の彼女には厳しいものがあったかもしれない。
 キャップを緩めた状態のまま、中の液体がこぼれる事の無いように注意しつつ瑠璃羽へとボトルを渡そうとする。蓋の構造を考えれば多少傾いても大丈夫だとは思うが、それでも彼女が濡れてしまってはいけないだろう。

「……他にも何かしてほしい事があったら言ってくれ。救護室まで運ぶことだって容易いからな、任せてくれ」

 彼女がこのまま動けないならばそばについているし、必要とあれば救護室なりどこへなりに運ぼう。彼女だけが救護要員なはずはない、街を挙げた祭りなのだからきっと医療関係者も少なからず協力している筈だし、彼らの力を借りればいい。そんなことを考えながら、なるべく優しく聞こえるように気を付けつつ瑠璃羽へと声をかけた。
>>瑠璃羽

25日前 No.103

@line☆1jppp41g33s ★Android=Iph2i3QnCf

【二日目/プグナ/アイアンメイデン/ジーン・オールビー/コロッセオ】

 引き攣った表情を浮かべるユーフェミアにジーンは密かに息を吐いた。しかし心の中ではユフィ、と名を呼びかけ、彼女の動揺に感応してしまっている自分がいた。しかしアイアンメイデンとしてのジーン・オールビーがその顔を表出することを許さなかった。そっと蓋をして封じ込められる。
 中途半端な真似だけは許さん、そう告げられているような気がした。

 試合開始の合図が鳴る。そしてその瞬間、空気が動いた。ユーフェミアが一気にこちらへ詰めてきた。ぞわりと皮膚が震えた。血が蠢くような錯覚。奥底に眠っていた感覚を刺激されたかのようだった。
 ――速い。
 先手必勝といったところか。この反応の速さ、スラム出身者特有の五感の鋭さは未だ健在というわけだ。思わず口角を吊り上げて笑みを深めた。
 彼女がサーベルを鞘から抜いたと同時、ジーンもほとんど反射的に刀の鯉口を切り、銀の刀身を抜き切った。突きの構えを見せ、迫り来る彼女を見据えた。
 姿勢を低くして懐に飛び込むように目の前に迫るユーフェミア。普通なら防御するであろう場面で、しかしジーンにその選択肢はなかった。判断しかねている間に瞬時に殺られるとは分かっていたし、彼女の異能ももちろん知っている。だからこれは、スラム時代で彼女と喧嘩した経験を、身体で覚えていたのである。いわば本能である。

 彼女のサーベルが一閃する。自分に向かって鋭い突きが繰り出される。が、ジーンは躱そうとはしなかった。自分の左腹部に痛みが走る。血が地面に滴り落ちる。しかしそれとほとんど同時にユーフェミアの右肩に向かってジーンは鋭い突きを放っていた。

 昔、スラム街にいた頃、ちょうどユーフェミアと喧嘩をした後のことだっただろうか。なぜ初手で攻撃を躱さないのかとチームメンバー聞かれたことがある。それは彼女お気に入りの子分だったかもしれないし、はたまた別の者だったかもしれない。その時、ジーンはこう答えたことがある。
 ――初手でユフィの攻撃を躱す、するとどうなるか。自分は守りに入る。そして彼女の性格的にゴリゴリに攻撃に転じてくると思っている。本当にそうかどうか聞いたことはないが、もしそうなれば防御無視の彼女の異能において、弱点はあれど勝ち目は低くなる。だから初手で攻撃を躱すよりも、致命傷にならない傷だと見切ったのなら、攻撃をした方がいいと思っている、と。自分の異能は特に体力勝負なのだから、と。


 場内が沸いた。まさか初手で相打ちのようなことをするとは思ってもみず、観客のどよめきが走る。が、ジーンにはその様子すら耳に入ってこず、自分が刀を握った感覚と、目の前にいる相手の一挙一動が鮮々しく目に映っていた。
 彼女の鋭い突きの動きに、完全に目が覚めたような思いがした。今の彼女はユーリス、昔のままではない。そして自分もまた昔の自分でないことを嫌という程思い知るのかもしれないし、嫌という程昔のことを思い出すのかもしれなかった。

>ユーフェミア、ALL

【遅くなって申し訳ないです……!】

25日前 No.104

はるみや @basuke21☆xM4sO6EUbuM ★sBHPZi6My9_OSy

【2日目/プグナ/レオン・アレン/コロッセオ】

 レオンは上がっていた口角を下げ、元から良いとは言えない目つきを更に悪くしながら眉を顰めた。チッ、と。様々な思いが込められた大きな大きな舌打ちと一緒に。
 その眉間の皺は、相手が深く踏み込んだ瞬間、より深くなる。即座にレオンは右足を一歩引き、拳を軽く握りながら戦闘体制に入り、迫ってくる相手の一挙一動を見逃さないよう観察し思考を巡らる。
 ──能力はなんだ?単純な殴り合いか?それともハッタリか?……と。
 ここまで考えて、レオンは面白いと言わんばかりに口角が上がっていることに気が付く。戦いを楽しむ。それを思い出したレオンは、いずれにせよ相手がどんな能力なのか知る必要があると考えた。ここで無粋に能力を出すのはつまらないし──相手に失礼だ、とも。

 答えは出た。「面白ぇ」と力強く発しながら、足を前後に肩幅より広めに開いて、顔の前で右腕と左腕をクロスさせ、顔面まで迫ってきているカールの拳を──受け止める。
 全身に走る、脳を揺らす衝撃。

「ぐぁっ!!」

 ──ガッ!
 重い重い、拳と腕の衝突の音。
 ──ずざ、ざざざざ!
 地面を引き摺る靴の音。

 刹那の衝撃に痛みを感じる間もなかったが、やがて腕、特にクロスで上になっていた右腕がジクジクと熱を持ち、ジンジンと痛む。
 ふう、と二度、息を吐く。折れたか、運が良くてヒビが入ったか。初動にしてダメージを負いすぎた、と軽率な判断に早くも後悔をしそうになったが、口角は上がったままである。
 レオンは推測した。馬鹿正直なストレート。桁違いの力。コイツ──カールは、自分自身の力を増幅させる能力だと。何をどこまでどのように増幅できるかまでは考えられなかったが、まあ、これで十分だと、笑みを深くさせる。
 観客の歓声、歓声、悲鳴、悲鳴。
 だらん、と両腕を脱力させ、相手から距離を取ることをせず、静かに、冷静に、しかし観客の声に負けない芯の通った声で言った。

「お前となら良い“殴り合い”が出来そうだ。だが、勝負は公平じゃなきゃ駄目だろ?なあ、ユーリスのカール・ハルデンベルグ。まずはお前の両腕を折る。もいでも良いけどな」

 「勝負はそれからだ」と、自分の目の前にいるカールの右腕と左腕の重力を一気に増やす。右腕と左腕に大きなトラック、あるいは大きな岩、あるいはゴリラを乗せるようなイメージ、または右腕と左腕だけを、重力が満ちている箱に閉じ込めるようなイメージで。
 もうレオンの耳に観客の声など届いていなかった。レオンの世界は、目の前のカールだけが支配していた。頭に血が上るような感覚。全身の血管が極限まで収縮しているような感覚。
 今のレオンは、カールを世界で一番嫌っていながら、世界で一番愛していた。


>>カール

【すいません、確定ロルっぽくなってしまいました……。アレでしたら仰ってください…!】

24日前 No.105

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【二日目/プグナ/ユーリス/ユーフェミア・クレイヴン/コロッセオ】

スラム街ほど平和という単語が似つかわしくない場所はない。少なくともユーフェミアはそう考えていた。生き残るには強くなるか、強い者の傘下に入るか、もしくはなにがなんでもスラム街を出ることくらいしか手段らしい手段はなかった。弱い者は踏み台にされ、強い者が生き残る。まさに弱肉強食を具現化したかのような、そんな劣悪な場所だった。其処では年齢も性別も職業も関係なく、純粋な強さだけが鍵となった。其処でそこそこ長い年月を生きてきたユーフェミアはスラム街の中でもそれなりの腕っぷしであると彼女自身は考えている。ただ単純に手を出してきた訳ではない。どのような手を打てば勝てるか、どのように動けば相手の弱点を突くことが出来るか……。それらはスラム暮らしで学ばされたものの中でも大部分を占める。だから、ユーフェミアはこのプグナで誰と当たろうと、決して簡単に負けないつもりでいた。……負けないつもりで、いたのだ。

「━━━━っ!」

肩に走る鋭い痛み。ユーフェミアとて人である。一瞬痛みに顔をしかめたが、すぐに体勢を立て直すとジーンの横を一直線に駆け抜け、一定の距離を取ってから彼に向き直る。一度たりとも、ジーンから注意を逸らしてはいけない。ユーフェミアの直感はそう告げていた。

(……まあ、さすがといったところかしら)

恐らく傷は然程深いものではない。まだ戦える。それにジーンの方も下腹部に傷を負っている。コンディションであれば彼も同様のはずだ。決してユーフェミアだけが不利な条件を背負っている訳ではない。まだ勝算はいくらでもある。
ユーフェミアの異能は平たく言えば防御無視。そのために彼女は先手を打った。先に攻撃を仕掛ければ、相手は防御しない限りユーフェミアの攻撃を受けることとなる。しかしジーンもスラム時代の記憶を葬り去っていた訳ではなかった。相討ちにすることで攻め手であるユーフェミアにもダメージを与える。結果的にジーンも傷を負うこととなったが、それでも彼はユーフェミアに手傷を負わせた。ユーフェミアからしてみればかなり厄介な受け取り方をされたことになる。自分で相手の攻撃を分析しておいて何だが、短気なユーフェミアとしては自分の対応の甘さに苛立ちが募る。

「━━━━チッ」

サーベルを構え直しながら、ユーフェミアは小さく舌打ちする。無論、会場の観客たちにそれが聞こえるはずもないだろう。聞こえていたらユーフェミアは彼らの記憶を何らかの方法で消さねばならない。なぜなら淑女としてのユーフェミアの体面が崩れるにも等しい行動だからである。こんな時でも淑女としての意地を貫き通す辺りがユーフェミアらしかった。

「……まあ、まあ。私の制服に白と青以外の色を付け足されたのは久しぶりのことです。あなたもなかなかやるようですね、ジーン・オールビー」

先程までご丁寧に“様”なんてつけて呼んでいた癖に、ユーフェミアの呼び方はこの短時間で変化していた。サーベルの鋒はジーンに向けたまま、ユーフェミアは彼をしっかと見据えた。他人の感情などユーフェミアにはわからない。もしもユーフェミアの異能が他人の心を読むものであったなら、此処でも何かしらの適切な対応が出来ていたに違いない。けれどユーフェミアの有する異能はそんなものではなかった。自分に対する苛立ちと、何故か沸き起こりつつある高揚感がユーフェミアの胸中を満たす。嗚呼、本当に久しぶりだ。誰かとこんな風に、真っ向から向き合って戦うなんて。

「あなた“も”異能を有しておられるのでしょう?そろそろお使いになってはどうですか?単純な剣技ばかりではつまらないのでは?」

煽るように、揶揄るように。ユーフェミアは先程の優雅なものとは違った色を含む微笑みをジーンに向けた。ジーンの異能はユーフェミアも把握している。それを彼がどのように使うのか、まずは確かめなければならない。自分たちはかつてスラムを駆け回っていた頃とは、何もかもが大きく異なっているのだから。

>>ジーン・オールビー様、場内all様

21日前 No.106

篠葉 @xiv☆8qw5LAZnvEo ★bgIFF8Q6fY_agS

【三日目 / ユ / 通路 / 篠倉瑠璃羽】

 キャップを開けながら「そこまで気が回らなかった」と謝罪するカールに首を振り、瑠璃羽は「いえ、普通ペットボトルのキャップが開けられないなんて思わないですもんね」と申し訳なさげに眉を寄せて言う。こぼさないよう慎重に差し出されたそれをありがとうございます、と受け取り、緩められたキャップを取り外して口をつける。一気に三分の一ほどを飲んで口を離し、ふぅと一息ついた。

「そんなことまでして頂かなくて大丈夫です! もうそろそろ歩けますから」

 確かにカールならば自分一人を運ぶくらいどうということも無いのだろうが、そこまで面倒を見てもらうのは申し訳ない。彼女はしっかりとペットボトルのキャップを閉め、背もたれにしていた壁に手をついてゆっくり立ち上がる。
 危なげなく立ち上がれたことに内心ほっとしつつ、壁から手を離してカールに向かって安心させるように笑いかける。

「私はこのまま救護室でちょっと休んできます」

 昨日と違って今日は怪我人もそう多くはないだろうから、救護室も空いているだろう。自分の出番も少ないはず。本来は救護する側であるが、今日くらいは自分が休んでも大丈夫だろう。
 カールはこの後、観客席に戻るのだろうか。そう思って彼に向かって首を傾げてみせる。次の出番はアイアンメイデンのメンバー。十分見応えはある筈だ。

>カールくん



【二日目 / ユ / 観客席 / 篠倉瑠璃羽】

 夕暮れの包む観客席を、空いた席を探す瑠璃羽は足早に駆けるように進んでいく。
 当然ながら今日は手当を要する出場者は多い。救護室で慌ただしく彼らの怪我を治していたら、自身が所属するユーリスの先輩の出番を見逃すところだった。
 なんとか1つ空いている席を見つけ、そこに座る。漸く舞台に目を向けた瑠璃羽は、そこに凛として立っている金髪の女性――ユーフェミア・クレイヴンに向かって小さく、それでいて力強い声援を送る。

「ユーフェミアさん、頑張れ……!」

 彼女の実力を知っている身としては、心配には及ばないだろうと思う。しかし相手はあのアイアンメイデンの、それも見ただけで相当な実力者だと分かる男だ。彼も幹部だったりするのだろうか、と――ユーフェミアのターゲットを知らない瑠璃羽は、まさしくそのジーン・オールビーが彼女の標的だと知る由もないのだが――考えてみる。先日会った飲んだくれ男よりはずっと幹部らしい佇まいだ。それに何処か懐かしさのようなものも感じる……懐かしさ? 何故。アイアンメイデンに男性の知り合いなどいる筈もないのに、と記憶を探ろうとしたところで試合開始の合図が鳴り響き、その疑問は瑠璃羽の頭の中からするりと抜け落ちてしまった。
 >(ユーフェミアちゃん、ジーンさん)

【ユーフェミアさん大好きな瑠璃羽と、ジーンさんに昔会ってたことを思い出しかけてするっと忘れちゃう瑠璃羽を書きたかった……! 無視して頂いて大丈夫です! どっちも頑張れーー!!!】

19日前 No.107

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_NQd

【ユ/2日目 14:00/プグナ/カール・ハルデンベルグ/コロッセオ】
 開幕から渾身の一撃を。この考えは間違っていなかったらしく、初撃は目の前の相手の右腕を砕くことに成功したらしい。より正確に言えば腕の骨を折り、治療手段を持たないはずの彼は今日のこの戦闘で余程の無理をしない限りこちらを殴ることなど出来ない状態とした、と言った方が良いだろうか。とにかく、彼の近接攻撃手段の一つは封じられたとみていいだろう。
 そんなことを考えていたカールは、距離を取って笑みを浮かべたレオンの言葉とともに、身体に異変を感じた。

「―――――っ!!」

 腕が、重い。
 まるで腕をコンクリートで固められたかのように、僅かに指先を動かそうとするのも困難なほどに、重い。肩から先がマネキンになったかのようだ。しかもそれを、肩の力だけで動かそうとするような、そういう状況。
 一瞬の力の緩みだけで、目の前の相手のように、意図とは真逆に腕が下りていく。さながらこれは、昔親から受けた躾のようだ。親が子に対して、敵えないレベルの力の差で以って、強引に腕を『気を付け』の位置へともっていかせるかのように。だらりと腕が垂れる。

 胴も、足も、頭も、重くはない。つまり相手は、任意の位置から任意の物体の任意の箇所に対して、思うがままに重力を操れるという事らしい。
 嗚呼、これは、

「お前もよく知ってるだろ。ストリートファイトに『公平』だの『平等』だのは存在しねぇ」

 言葉と共に、口角を不敵に上げて。

 再び、拳を握りファイティングポーズをとって見せる。


 これは、異能力そのものの否定ではない。レオン・アレンの能力は依然カールへと掛かっている。
 事象の否定にも、時間の巻き戻しにもあらず。レオン・アレンの能力は依然カールへと掛かっている。

 これは、もっと単純な話だ。筋力の更なる強化によって、掛けられる負荷で鈍る分を補う。ただそれだけの話である。

 重量の増えたベンチプレスのシャフトを、さらに力を込めて持ち上げるように。相手が重力を操ってこちらに負荷をかけてくるのならば、此方はその負荷に見合うだけの出力の上昇で以って対するのみ。
 再び距離を詰めに行く。第二撃、先程とは軌道を変えた右フック。今度は左腕を折ることになるか、顔へと当てるか、あるいは防がれるか。どれであっても、彼へとダメージを与えられるならばそれに越したことはない。仮説が正しければ、彼に拳が当たる瞬間に当たる面の負荷が消えるはずだ、あるいは彼自身にもこの高負荷が襲う事になるだろう。
 こんなこと、他ではできない。ユリーカが相手でも、ユーフェミアが相手でも、ユーリスの他の精鋭の誰かと戦ったって、こんな高い負荷の体験をする事なんてできない。ハイスピードで回る車輪に掛かるブレーキのパッドのように、ガリガリと音を立てて命が削れていくようだ。笑みが深まるのを自覚する。
 嗚呼、これは、最高のトレーニングだ。

>>レオン、場内all



【ユ/3日目 14:00/カール・ハルデンベルグ/通路】
 再び渡したスポーツドリンクは、目算で半分近い量が彼女の喉の中へと消えていった。やはり喉が渇いていたらしいし、そうなのではないかと思ってこの場へと来て正解だった。ふ、と息を吐く。知らず知らず、妙な緊張が走っていたらしい。
 目の前の愛らしい後輩は、自らの回復度合いを示すかのように、壁に手を突きながらではあるが、立ち上がって笑って見せた。確かに先程のキャップを開けられないような状態よりかはかなり改善されているようだが、しかし、先程の状態を見てしまっては、やはり心配も残るというものだ。

「……もしよかったら、同行させてはくれないか? 一応ある程度回復しているにしても、その様子じゃあドアを開けることもままならんだろう。『昨日』の礼にもならんが、それくらいならいいだろう?」

 大丈夫だ、と断ろうとする瑠璃羽に対して、もう一度だけ食い下がってみる。これで彼女が大丈夫だと言ったならば、それを信じて退散するまでだが。妙に心配になってしまう。
 人のことを言えた口ではないが、彼女はどうにも物事を一人で抱え込んでしまっているのではないかという気がするのだ。先ほどの消耗だって、ここに自分が来なかったならばずっと一人で堪えていたことだろう。立場が異なる同期も中々頼りにくいかも知れない。だからどうしても、彼女に目をかけておかねばならないという気がするのだ。
>>瑠璃羽

18日前 No.108

@line☆1jppp41g33s ★Android=Iph2i3QnCf

【二日目/プグナ/アイアンメイデン/ジーン・オールビー/コロッセオ】

 左下腹部に走った痛み。太刀から伝わる肉体を裂いた感触、彼女の肩から流れる鮮血、僅かに苦痛に歪められた緑の瞳。さほど相手を殺傷できてはいないにも関わらず、輪郭がくっきりと、やけに明瞭に網膜に焼き付いたのはなぜなのか。

 お互い挨拶のような初手だとジーンは思った。まるで「覚えているか」とでも問いかけているような一手。そしてお互いの答えは言うまでもなかった。
 彼女は紛れもなく、自分の知っているユーフェミアであることをジーンはこの一手で実感し、そして痛感もしていた。
 間合いを取り、ユーフェミアと再び対峙する。左下腹部にじんわりとした痛みを感じ、思わず傷口に手をやった。痛みからして傷口は浅そうだが、ぬめりとした生暖かい感触が指先に絡みついた。しかしジーンもまた彼女から目を逸らさなかった。2人の視線がぶつかり合う。旧友とは思えぬひりついた雰囲気が漂い、ジーンは思わず笑みを深めた。
 こうでなくては面白くない。
 体面が崩れ始めたユーフェミアを見て、ジーンは心持ち目を細めた。敬称もつけず、僅かに嘲りの色が漂う口調と笑みが彼女から漏れると、ほうと笑った。――良いツラになってきたな。ジーンは天に向かって豪快に笑い飛ばし、ユーフェミアを見据えた。

「ハハハッ! 聞くまでもない質問だ。そんなに異能を使って欲しいか? やらばくれてやる。好きなだけ味わえ。俺の手でお前を赤く染め上げてやろう」

 お前をこの手で傷つけるのは俺の特権さ。少なくとも今はそうだろう。こんな面白い戦い、誰にもくれてやるつもりはない。俺にしか味わえないし、お前にしか味わせてやらない。
 そこでパッと白い隊服と桃色の色彩が視界の隅に動くのが目に入った。集中力が散漫しているというより、戦闘でやけに五感が鋭く研ぎ澄まされていることで見えたもの。さすがに遠くてよく分からないが、恐らくはユーリスの隊服。お前らの隊服は目立つのさ。わざわざ試合を見に来るなんて、随分慕われてるじゃねェか、淑女さんよ。お前は昔から腕っぷしが強くて、子分といい、スラムのガキによく好かれていたな。
 予期せぬときに妙なことを蘇らさせる。これだから厄介な相手だ。ジーンは感情と共に大きく息を吐き、そして真正面にいる相手を真っ直ぐに見据えた。余計な感情は一切削ぎ落とし、その瞳の奥には静かな闘志を燃え上がらせる。

 そしてそれに反応するかのように風がざわつき始める。ゆらゆらと木々が不気味に揺れる。風によって枝から葉が千切れ、乱暴に宙に巻き上げられる。まるで嵐の前触れ。不吉の前兆を予感させる光景。

「準備はいいか? ユーリスの淑女さんよ」

 目を見開き、狂気の笑みを張り付ける。
 瞬間、ジーンは太刀で空気を真一文字に斬り裂いた。それが合図だった。鋭い太刀風から、銀に光り輝く真空波と突風が巻き起こる。その反動で砂塵は舞い上がり、視界が砂で包まれた。突風はジーンを起点として、一太刀の真空波と共に津波のようにユーフェミアへと迫り往く。
 さぁ、存分に愉しませてもらおうじゃねェか――。
 ジーンは舌舐めずりをした。砂塵が舞い狂う中、ジーンはユーフェミアがいる位置を見据えていた。

>ユーフェミア、(瑠璃羽)、ALL

16日前 No.109

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【2日目16時/プグナ/ア/フランクリン・スカビオサ】

(全部避けられたか……)

 空気を叩き切った剣の感触。もちろん大味の剣じゃ微細な感覚は掴めないのもあるが、それでも確実に手に感じられる一撃は無かった。大して速い斬撃ではなかったが、この巨体の中をあの間合いで潜り抜けるのは、相当な見切りと勘と身体能力が必要なはずだ。もちろん相手はユーリス精鋭ということで油断なんてハナからしていなかったが、油断していなかっただけで負けないで済む相手ではないのだろう。
 空気を切った、その刹那まるでユリーカ・パチルは消えたようにも思えた。瞬間移動能力か、それなら厄介すぎる。今あのちみっこいのは壁にワイヤーでぶら下がっている。ああいう武器は見たことない……あの服の中にあんなワイヤーどうやって隠していたんだろうか。俺の大して強くのない頭で考えて、一瞬で答えが出ることは無かった。あそこまで離れた距離、追いかけるべきか……。壁に追い詰めたところで、円形の会場は隅が無い。またああやって逃げられるのがオチだろう。あのワイヤーが服の中に隠せる程度の長さであるなら、闘技場の端から端まで届くようなことはないはずだ。ならば今いる丁度真ん中あたりで決着をつけるのが得策────だと思う。

 ────こちらから向かわずとも、願いが通じたのか、アレの手はこちらを向いた。自分に向かってくるワイヤーに、咄嗟に剣を眼前に構え守りの姿勢を取る。顔に当たったらすごい痛そうだし。しかしそれは杞憂、ワイヤーの先端は2メートルほどの先の地面に突き刺さった。

 ────来る!

 もう片方の手から伸びてきたワイヤー、俺はそれへの対処が出来なかった。気を張りすぎて逆に集中力が途切れるよくあるアレだ。剣を握る手に迫ってきたワイヤーの先端、勢い良く伸びてきたそれは柄に当たると何周か巻き付く。完全に封じられてしまった。これはどうしたものか。考えてる間にユリーカ・パチルはひたひたとこちらへの距離を縮めてきている。早く何か手を……打つ手が……無いなぁ。広い闘技場でナイフ1本は心許無いと思って、やたらと元気の良い部下が持っている骨董品みたいな大剣を借りたはいいが、明らかに手数のストックが無いのだ。アイアンメイデン入りたての頃に、同輩のヴェロニカに付き合ってもらって色々な武器を使っていた頃になんかこんな雰囲気の大剣を使ったこともあるが、結局それだけだ。(あーこれは失策)と思いながら、易々と接近を許す。もういいじゃんこれ負けたわ。愛玉さんの愛の拳骨は怖いがもう大人しく受けることにしよう。そうしよう。

 ────いや、まだあった。

 迫ってくる拳、なぜかスローモーションのように見えたそれに対しニヒルかもしれない笑みを浮かべる。「お前の笑い方はくだらないことを思いついたガキみたいでムカつく」と言われることがたまにある(もちろんそれは不服の極みだ)が、今は正にそんな表情だろう。ワイヤーに絡め取られた剣を、地面に平行から、垂直へ。自身の右斜め後ろの地面へ突き刺す。決して柔らかい地面ではなかったが、コンクリでもなかったので、剣の自重も手伝って20センチくらいは地面に刺さっただろうか。そのまま剣からは手を離す。────勢いをつけるためについ半身を乗り出してしまったのか、首に僅かだが痛みを感じる。リングナイフか? ワイヤーだけでなくそんな武器も隠し持っていたのか。
 剣を手放す。今度はさっきやられたのと同じようにしてやろう。大きく2歩、これで完全にいつもの間合い。右脚のホルダーに仕舞ってあったナイフを引き抜き、切っ先を喉元に向ける。身長は明らかに俺の方がデカいから、足は前後に開いているがそれでもまだ肩が高い。斜め上から喉にむけて、僅かに届かない程度の距離を狙った刺突。…………いつものクセで殺しそうになるが、流石に、演武で取り返しのつかない傷はまずいよなぁ。

>>ユリーカ

16日前 No.110

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

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12日前 No.111
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