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霧の都に葬送曲

 ( オリジナルなりきり )
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芙愛 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

煙る街は薄暗いまま、鈍色の空に輪郭を溶かしている。
片羽を切られた鴉達は、塒を恋いて啼けども飛べぬ。
そのまま街ごと夜霧に呑まれて、時計塔の鐘が鳴る。


「London Bridge is broken down,Broken down, broken down……」

齢七つほどの少年が一人、夜のテムズ河に向かってマザーグースを口遊む。
頭上には蝙蝠傘が揺れているのに、あの人に掛けてもらったフロックコートは霧雨に侵されて、重たい。
真夜中のタワーブリッジを跳ね上げる船は無い。闇夜に浮かぶ二つの塔を従えた橋梁の上で少年は、欄干に凭れたままいつまでも霧の都の夜を眺めていた。
河の向こうから、また大時鐘が深夜を告げる。

「みんな死んじゃった」

鐘の音が、血の匂いを連れて来る。
死神達の夜が来る。
濡羽色の傘の陰から、少年は寂しそうにぽつりと零した。夜に溶けてしまいそうな、儚い声だった。
けれど、もう死神も来ない。
雨と死の匂いに包まれたその街を、人は『霧の都』と呼んでいた。
霧の都には、嘗て恐ろしい殺人鬼達が住んでいて、夜な夜なこの街に怖ろしい血の雨を降らせていた。三年前に少年が彼等と出逢ったのも、こんな、今にも土砂降りに変わりそうな霖雨の夜だった。
少年にとって、霧の都を闊歩する死神達は皆、やさしい育ての親だった。
残酷で歪で優しい殺人鬼達は、雨と死ばかりのこの街で一人の親無し子を彼等なりのやり方で大切に育てて、それから彼を置いて一人残らず死んでしまった。

不気味に黒く沈んだ河の色を見ていた目を上げれば、霧のヴェールの向こうに、見知った背の高い黒いシルクハットの影が見えた気がした。少年はハッとして橋の向こうへと追い掛ける。けれど、靄の切れ間に足を止めれば、其処には誰の姿も無く、ただ青褪めた倫敦塔が処刑場の翳りをたたえて聳え立っているだけだった。
肩を落とし、傘を畳んで、降りしきる雨に身を任せたまま、石畳を踏む。刑場を通り過ぎM街を北上すれば、其処は彼の庭だった。
街に満つ夜霧の、遥か彼方。雨風が織り成す刹那の銀幕。映し出された遠い過去の幻想を恍惚と眺めて、もう傍には居ない彼等との思い出を振り返る。奇妙で幸福で残酷で猟奇的な、町中を恐怖に陥れていた悪人達≠ニの思い出を。

ーーLondon Bridge is broken down,My fair lady.

「嗚呼、それはですね、若いお嬢さんを人柱に埋めたそうですよ」ーー


【こんばんは。スレを建てさせていただきました芙愛と申します。当スレは殺人鬼企画≠ニして興した物語です。一文で紹介させていただくと、「なんか19世紀ロンドンっぽい街に殺人鬼達がいて、柄にもなく子育てなんかしていたが、まあ色々あってみんな死んだ」って感じの話です。興味と御縁がありましたら……注文はずいぶん多いでしょうが、どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。】

メモ2018/09/06 01:43 : 七角羊☆A3LxctuN3d2 @nnir749★nXNfBmBWZd_m9i

此処までの人物相関のまとめです。

後ろに何も書いていないのは確定しているもの、(許可待)となっているのはサブ記事で申し出があったもの、(相談中)となっているのは相談しているのを見かけたけれど正式にはまだ決まっていないものです。

特に「相談中」は私の思い違いや取り零しなどが沢山あると思うので当事者さんはメモで訂正していただければと思います。

また、正式に双方理解で決まったよーという方は、(相談中)や(許可待)を消していただければと思います。他にもこんな関係を作ったよーという方も、追加してください。


味付けはどうぞ、皆様各自で御自由に!


◯シャーロックの

・内縁の妻→スワン

・元嫁→ルーツァン

・お店の常連さん→メロウ、ミカエル

◯ルーツァンの

・弟妹のように可愛がっている同胞→ルイス

・元旦那→シャーロック

・東国同盟?→白雨(相談中)

・水面下で対立している同胞→

・時々生徒→メロウ

◯白雨の

・別れた元旦那→

・アトリエによく来る友人→ダニエラ

・人形作りの弟子→ミリヤム

・東国同盟?→ルーツァン(相談中)

・食事に誘う→シャーロック

・仲が悪い→ルイス

◯エディの

・知り合いの医師(臓器移植仲介人)→シチダンカ

・可愛がっている年下→スワン、ダニエラ

・酒飲み仲間→メロウ、ルーツァン

◯スワンの

・一方的に尽くしている相手→シャーロック

…続きを読む(41行)

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第一幕プロローグ @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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3ヶ月前 No.1

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/西洋料理店Wildcat】

ここに来てから、早くも一週間が過ぎていた。
その間一度も、まだ青空を見ていない。この土地は『霧の都』と呼ばれていて、滅多に晴れ間を仰げることは無いのだと教えてもらった。
今日はその養い親の一人も忙しいらしく厨房と店の表から出てこないし、執拗なハグや頬擦りもしてこない。

幼いジャックには、未だ自分の身の上に起こった出来事の全貌はほとんど理解できていなかった。ただ、自分が両親と離れてしまったらしいということはわかったようだった。それ以上のこと……二人が死んでしまったことも、もう会えないということも、元の家にはもう帰れないということも、自分を誘拐した賑やかな人達が悪党と呼ばれる存在だということも、幼子には明かされなかった。というより、死という概念を彼はまだ理解出来ていないらしかった。
意外にも、元の肉親から得体の知れない殺人鬼達のほうへとジャックの関心が移るのは早かった。
今日は閑散としている昼のサロンルームで、一人カウンター席で待ち惚けをくらわされて暇そうにしている。床には到底届かない短い足は宙ぶらりんで頼りなく揺れ、テーブルの上のプラスチックマグのアップルジュースは半分ぐらい残っていた。目の前に置かれた黒いラベルの酒瓶には、白い小さな提灯が鈴なりについた可憐な花が飾られている。
暇を持て余したジャックは、その瓶に手を伸ばして引き寄せ、深い緑の青々とした茎をそっと持ち上げて抜き取った。豊かな香りを放つその花に顔を近づけてしげしげと不思議そうに眺めている。
「……JACK=c…」
花弁のように小さな唇で、つい先日つけられた自分の名前を口ずさんでみる。やっと読めるようになってきたアルファベットを、昨日瓶のラベルにも見つけて読んだときの育て親の喜びようは実親に何倍も勝るもので、ジャックは誇らしく少し得意になった。
そうだね、これはジャックの酒です、と店主は輸入ウイスキーの残りをロックグラスに移し、空いた瓶に水を入れて美しい君影草を何気なく飾ってくれたのだった。
そんな昨晩の出来事を思い出しながら退屈を紛らわしている彼の耳には、ランチに賑わう表の洋食店の喧騒と、忙しそうにしているシャーロックの接客する声が聞こえるばかりで、ジャックは益々暇を持て余した。

>all様


【本編開始です! こちらで絡んでくださる方にはミッション:ジャックをお出かけに連れ出して遊んであげて≠ェ発生します(笑)
本編開始ですが、第一幕やっている間は、新規キャラさんも二役目さんも追加参加可能、もちろん関係の追加や複雑化もまだまだ可能です〜】

3ヶ月前 No.2

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/6月8日/西洋料理店Wildcat】

地下鉄を降りてから公園を背にしてオックスフォード大通りに向かう途中に、彼の西洋料理店はある。
蔦の絡む洋館は二階建てで、アーチ型の黒い扉にWildcat≠フ文字と猫の絵が描かれた看板が提がっている。この辺りのレストランや飲み屋にはよくあることだが、この店にも例に漏れず表と裏の二つの入り口があった。広い店内で二部屋は厨房で繋がっているのみで客の通り抜けはできないようになっている。中産階級用のサロンと労働者階級用のパブに分かれている一般的な構造はそのままに、この店は表の入り口から入れば普通の西洋料理店、裏の入り口から入れば殺人鬼達の溜まり場たるサロンルーム……と呼ぶには風紀の悪すぎるガストロパブになっているのだ。

目立たない裏の入り口から入ってみよう。真裏に立っているアパートの一室として西洋料理店Wildcatの入り口は隠されている。他の部屋となんら変わりなく並ぶ呼び鈴と表札付きの無愛想なドアの一つを開ければ、その扉だけはアパートの一室ではなく殺人鬼達の隠れ家へと秘密裏に繋がっている。

玄関にあたる部分には、傘立てとふわふわのタオルと、回収籠。
Dry off your body and shoes.=[ー今日も雨で濡れたでしょう、どうぞタオルでよく拭いてくださいね!

廊下の曲がり角には禁煙マークのポスターと灰皿。
Put out the cigarette,please.=[ー当店は禁煙です。煙草を消して美味しい料理を!

神経質な店主だな、と怪しくなってきたところで、また漫画調のポップなポスターと、鍵付きロッカー。
Put your weapon,please.=[ーレストランは御飯を食べるところです。私の店で抗争は御遠慮くださいね!

そろそろ何か店主の悪ふざけがデジャヴの間に見え隠れしてきて鬱陶しくなってきたところで、美しい陶器の洗面台と鏡が現れた。
Wash your hands before meals.=[ー食事の前には手を洗いましょうね!

子供扱いにいい加減嫌気が差すであろうこのタイミングで、急に目の前に重厚な扉が現れる。開けばそこには、古めかしいバーカウンターと幾つものダイニングテーブル、落とした照明の赤茶けた光、ずらりと並ぶ酒瓶、壁に掛けられた絵画……あのふざけたイントロからは想像し難い上質な空間が広がっていた。此処が、殺人鬼達が依頼を取る窓口や、彼等が公にできない取引をする現場になっている場所だ。

店主シャーロックが、カウンターのさらに奥にある厨房から顔を出した。
「おや、こんな時間に珍しいですね、いらっしゃい」
波打つ緑髪は此処のぼやけた照明下ではほとんど黒に見える。いつものように後ろで一つにまとめ、表向きの仕事用のエプロンを身に付けて手元を見もせずにジャガイモの皮を剥いている。晩の下拵えのようだ。

彼は世間的にはこの小さな洋食店の店長をしている。いかにも柔和そうな雰囲気を醸し出した容姿立居振舞であるが、その素性は殺人鬼である。それも、彼の場合は祖父の代から三代続く筋金入りの殺し屋の家系だ。
「私も歳をとったから早く殺人稼業を引退して、美食の国にでも留学に行って専業シェフになりたいのですけれどね」と彼は冗談か本気かわからない口調でよくぼやいているが、歳はまだ四十代程であるし、その真意はわからない。
そんな彼のトレードマークのシルクハットだが、今はカウンターの端でベタベタとシェパードパイを食べているジャックの頭の上に乗せられている。子供にはサイズが大きいに決まっていて、目深になりすぎてまるで帽子がシェパードパイを食べているかのような奇妙な光景になっている。
柔和そうな垂れ目の目元を更に細め、所謂デレデレとした表情で幼子を見守っている間も、手にしたナイフは着実にジャガイモを裸にしていく。
あっ、と気がついたように、仲間であり客人である相手に向き直り、カウンターの席を勧めた。

「おなかは空いていませんか?」

>all様


【こちらも絡み募集です。此方は……そうだなミッション:教育方針の相談或いはシェパードパイ≠ナも……(ノープラン)
このように、冒頭の現在地のところに日付(ジャックの来た6月6日から、翌年の5月30日までの範囲で指定可能)を付けて、時空の捩れを回避します。つまり、 >>2 のジャックと >>3 のシャーロックは同じ空間を舞台にしていますが日付が違うので別の絡みとなります。】

3ヶ月前 No.3

スマイル @smile390 ★Android=N8ewA5S8Mh

【アルト/6月10日/スイーツ専門店-happy apples-】

木々の生い茂る森の中にひっそりと佇む一件の家。草のつるが這った真っ白な壁に赤い屋根、正面には木でできた扉がある。そして丁度扉の上辺りには『-happy apples-』という文字。そう、ここはスイーツ専門店-happy apples-。こんな場所に建てられ、外側には柵もないのでパッと見では、此処がお店だとは誰も思わないだろう。しかし、常連客も多く実はそれなりに有名な店でもある。幸せの林檎__何故そのような名前になったのかは定かではないが、ここの店主が赤髪だというのも理由の一つなのかもしれない。店内は、外見からでは想像出来ないほどの広さでカウンター席からプライベート用の二人席、友達同士で盛り上がれるような四人席まである。勿論、隣の席と合体させてさらに大人数で座ることも可能。ベランダ席もあり森の景色を楽しみながらリラックスすることもできる。全体的にカジュアルな家具が多く、落ち着いた雰囲気を醸し出している。席の一つ一つには花の入れられた花瓶があり、シミ一つないテーブルクロスに天井には明るさの抑えられたシャンデリア。至る所にお洒落な置物も配置されており、この店の店主は相当のセンスの持ち主なのだろう。レジの横にはリボンの付けられた籠に様々な形、種類のクッキーや食べやすいサイズにカットされたバウンドケーキ、マカロンにドーナツなどが透明な袋に入って置かれている。お土産のための用意も万全なようだった。

「カランカラン」

唐突にドアベルが鳴り、今日最初の客が店内に入ってきた。

「いらっしゃ〜い」

まるでそれを予期していたかのようにタイミング良く、一人の少年が店の奥から現れる。そう、彼こそこの店の店主、アルトだった。真紅色の髪に瞼の閉ざされた瞳、薄く血管が見える程の白い肌。男物だが可愛らしいフリルの多い英国服に子供サイズの小さな茶ブーツ。アルトは目を閉じているとは思えない程のスムーズさで客の元へ駆けていくと、注文を尋ねる。

「今日はなぁに?」
「アップルパイといつものを頼む」
「りょーかーい♪」

簡単な会話を済ますとアルトはまた店の奥へぱたぱたと駆けていく。アルトにはだいぶ大きいサイズの大人用のエプロンを着用すると、早速調理に取りかかる。とは言っても、時間のかかるものは既に用意してあった。特にアップルパイはこの店の人気ナンバーワンのメニューでもあるので他のメニューよりは多めに用意してある。他にも日替わりスイーツや飲み物などメニューの種類は豊富だ。また、焼きたてが良ければ最初から作るなどサービス精神も良い。アップルパイは冷蔵庫から出すだけなのでアルトはもう一つの注文"いつもの"の用意を始める。と言ってもこっちも簡単。いつものというのはアイスコーヒーのことだ。慣れた手つきでコーヒーを作ると氷をいっぱいに入れたグラスに注ぐ。お盆にアイスコーヒーと冷蔵庫から出したアップルパイを乗せ、おまけにバニラアイスも添える。このお客さんはそんなに甘党でもないのでバニラアイスには苦めのチョコソースもかけた。こういうサービスをするのはこのお客さんが常連だからだ。初めてのお客さんなら勝手なことをすると怒る場合もあるので必ず確認を取るようにしている。

「おまたせ〜」

どーぞ、とアルトはアップルパイとアイスコーヒーをお客さんのいるテーブルに置く。そしていつの間にか用意していたらしいりんごジュースを前の席に置くと、当たり前のように同席すると

「そういえばあれどうなったのぉ?」

と、世間話に花を咲かせるのであった。

>>ALL様


【投稿の仕方がよく分からなかったのですが、こんな感じで大丈夫でしょうか?アルトには取り敢えず自分の店でのんびりさせていようと思います。余裕ができましたら別ロケーションで誰かに絡みに行くのもいいかなぁとも思っているので、そのときはよろしくお願い致します】

3ヶ月前 No.4

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

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3ヶ月前 No.5

エディ @d0ap ★iPad=qTOmkAVEvD

【エディ/6月8日/フレグランス専門店Sweetie→西洋料理店Wildcat】

繁華街の一画にある上品なアンティーク調の店構えをした扉からは毎日違う香りが漂い、通りかかった人々を扉の内側へと誘い込む。カラン、とベルを鳴らしながら店内に入ると、扉にかけられた看板が小さく揺れた。『フレグランス専門店Sweetie=xと記された看板を提げるこの店は『商品は全て一点物』というこだわりを持ち、同じ品は二度と並ばない店内はこじんまりとした落ち着きのある雰囲気で客人をもてなす。ベルの音を聞きつけたのか、靴音を鳴らして店の奥から姿を現したのは、この店の店主であるエディだった。
何の変哲も無い店の店主とはエディの表向きの姿。その本性は殺人鬼として密かに霧の都に存在していた。

「お買い上げありがとうございます」

ハスキーボイスでお決まりの文言を口にして、店の前で客を見送るとそのまま看板をひっくり返して店を閉じた。開店も閉店も全てはエディの気まぐれである。その赤みがかった茶色のテールコートを翻し店の中へ入ると自室である二階へと上がる。途中、階段を上ったつき当たりにある更に上へと続く簡易的な階段を見上げたが、その上の屋根裏部屋から特に物音がしないところを確認すると自室へと入った。鼻歌交じりにワイシャツやベスト、スラックスの埃を払い、胸元で黒いリボンタイを結ぶと髪の編み込みが乱れていないかをチェックする。最後に明るめの赤い口紅を塗り直し、爽やかなシトラス系の香水を振ると満足そうに微笑んだ。少々派手な格好に身を包むエディだったが、うきうきとした様子でハンドバックを手に取ると「あっ!」と何か思いついた表情でバックに荷物を入れた。

軽やかな足取りで向かったのはWildcatという西洋料理店。但し、表の入り口からは入らず店の裏側にあるアパートの一室へと足を運ぶ。此処こそがこの店の裏口となっており、慣れた足取りで様々なポスターに書かれた文字を素通りすると店の中へと足を踏み入れた。そこは彼と同じ様に霧の都で暗躍する者達の溜まり場となっていた。

「はぁい、シャーロック。可愛い坊やと仲良くしてる?」

意気揚々と慣れたように店の店主であるシャーロックに声をかけると、これまた慣れたようにジャックの隣の席へと座りながら「アタシにもシェパードパイとオススメのお酒頂戴」と注文を口にした。隣を見れば大き過ぎるそのシルクハットはジャックの小さな頭をすっぽりと覆っておりその姿はとても可愛らしく、思わず柔らかな笑みが溢れた。

>シャーロック、all

【本編開始おめでとうございます!早速絡ませていただきます!】

3ヶ月前 No.6

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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3ヶ月前 No.7

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/6月13日/西洋料理店Wildcat】

愛しの幼少年から発せられた「パパ」という甘美な音声にまんまと釣られたか、厨房で魚を捌いていた包丁を手にしたままエプロン姿のシャーロックが飛び出してきたが、ジャックがわざわざミリヤムに訂正し言い直したのを見てわかりやすすぎるほど落胆している。この男、彼の大好きな幼児が絡まなければそれなりに素敵な紳士と言って差し支えないのだが……。
「あ、ああ、ミリヤム……いらっしゃいませ……来ていたんですね」
普段通りの物腰柔らかな口調と優しく細めた目だが、なんと言うか覇気がない。大好きな子供の純粋な言葉は時に殺人鬼をも突き刺す刃になるらしかった。
そんなことはつゆ知らず、ジャックはシャーロックの言葉に「えっ!?」と先日とはだいぶ違う容姿の彼女(彼)が誰なのかようやく分かったらしく、驚きに目を瞬いている。

「すみませんね、表でマダム達の女子会が入りまして……今日のランチタイムは貸切なのです」
魚臭い手を洗い流しながら、だいぶ平静を取り戻すとシャーロックは眉尻を下げて詫びた。
しかしこの男はいつだって、丁寧な低い姿勢を崩さないまま全く悪びれもなく、子供のお使いから無理難題まで注文してくるのだった。
「すみませんがミリヤム、ジャックを何処か遊びに連れて行ってはいただけませんか。……甘〜いベイリーズミルクのタダ酒が待っていますよ」
軽く頭を下げてからにっこりと首を傾げる。しかし気弱そうな態度でそうしながら、視界の端にジャックが寄越すりんごジュースのプラスチックカップを捉えるや否や、目にも止まらぬ速さでそれと花瓶代わりの酒瓶を摘まみ上げるように取り上げた。その動作に乱暴さは一切なく、まるで手品のようにジャックの手から凶器≠ヘ消えていた。平然と微笑を浮かべたまま、カップの中のジュースをシンクに流す。
「さ、ジャック。元気にお外で遊んでいらっしゃい」
そう言って店主シャーロックは一緒に遊べないのを名残惜しそうに激戦の厨房へと消えていった。

>ミリヤム

【絡みありがとうございます! ジャックを残してシャーロックは退散します。行ってらっしゃいませ〜!】

3ヶ月前 No.8

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/6月8日/西洋料理店Wildcat】

来客を告げる高いベルの音ともに、この店に入って来たのは、常連の一人であるエディと、爽やかな柑橘の香り。フレグランスの店を営む彼女……ここは、彼女でいこう、が入店すると、店内には大人の女性の華やかな香りがする。
「おや、今日はメロウは一緒ではないのですね」
シャーロックが名前を挙げたのは、此処によくエディと共にやってくる若い殺人鬼のことだ。彼女達……彼女£B? は、この店のあまり美味しくない料理をほぼ毎日のように文句も言わず食べてくれる貴重な存在だ。その有難味に肝心のシャーロックはあまり気付いていないようだが。
小さな耐熱皿に銘々に拵えてある生のシェパードパイをキッチンストーブにかけ、その間にカウンターに戻って来て、ズラリと並んだ酒瓶の前を行ったり来たりして何か考えている。やがて、菫色のリキュールとジンを手に取り、戻ってくる。

「畏まりました。シェパードパイが焼けるまで時間がかかりますから、どうぞ一杯飲んで待っていてください」
エディが纏うの香りにすっかり引き摺られたか、檸檬を絞り、シェイカーに氷を詰めながら伏していた目をそっとカウンターのほうへ流す。
手をベタベタにしながらシェパードパイを大きなスプーンで口に運んでいたジャックが、隣に座ってきた客を見ようとして無理矢理顎を上げ帽子の陰から覗いている。その仕草が、幼子を攫ってきたばかりの児童性愛者にはたまらなかったらしく、一瞬スマートに見えた紳士の雰囲気がだらしなく崩れ去る。

「ええ、それはもう、私も昨日と今日とでジャックとはだいぶ懇意になったと思います、ふふふっ…………というのは、冗談です。子供というのはいざ手に入れてしまうと思ったよりも大変です」

赤児ではないと思って連れてきたが、泣くし、如何していいかわからないことは多々あるし。だがこの子の親を殺したのは自分であり、幸いにしてこの子はそれをよく分かっていない。客人相手に惚気なのか苦労話なのかよくわからない心中を吐露して溜息をつく。
部屋には古い時計の音と、長い指がシェイカーを包み中身を氷ごと上下に打ち付ける忙しない音だけが暫く続いた。
中身を細身の背の高いグラスにあけ、ソーダを注いで混ぜれば、底に溜まった深い紫が熱帯魚のように水中に尾を引いて舞い上がりながら溶けた。レモンの輪切りを飾る。エディの前に差し出したヴァイオレットフィズは、爽やかなシトラスの香りを纏う紫髪の大人の女性の立ち姿のようだった。

>エディ、all


【絡みありがとうございますー!】

3ヶ月前 No.9

洗濯蟻 @arinohito ★iPhone=n7Rebp7mCv

【ドールホーン/6月13日/聖アンダーソン教会】


霧と煤煙棚引くテムズ川近郊にその廃教会は建っている。小さいながらも重厚な石煉瓦積みの造りで、錆びてはいるが鐘楼や屋根の天辺に立つ十字架は健在だ。廃墟と言うには人の気があり、荒れてはいるが人の手の入っている痕跡もある。

前の神父が病死してから長らく放置されて居たのだが、数年前に教会を買った物好きな貴族の娘が暮らし始め、一応彼女が今の所有者と言うことになって居るが、彼女が教会を再開させる事はなかった。

元々教会だったので今も近所の人々からは『聖アンダーソン教会』と呼ばれている。しかし教会とは名ばかりでここに神はもう居ない。居るのは浮浪者や底辺労働者、そして孤児だけ。地元民以外にその事実を知る者は殆ど居ない。

荒れ放題の前庭。ひび割れた石畳。錆び朽ちた鉄の門。千切れた鎖と壊された錠前。黒くススに汚れた外壁に、ひび割れて色の燻んだステンドグラス。全てが退廃的なこの廃教会を囲う枯れた生垣の中に、女性が一人。

身に纏うシスター服の上に羽織ったカソックコートと長いサイドテールが特徴的だ。


ザンッ


彼女は手にした鉈を振るい、生垣から飛び出した余分な枝葉を切り落としていく。

細長いが幅広く厚い、真っ直ぐな長方形の片刃を持つ大鉈。切っ先のない段平にも見える。錆び掛けて刃も所々掛けているが、今尚鋭さを誇示するかの様に鈍く輝いていた。刃のある側に少し角度が付いた木製の柄には、滑り止めの為か白い布が巻かれている。


ザンッ


彼女の刃物の扱いは手慣れた物があった。一通り刈り込むと彼女は腰を伸ばして立ち、鉈を肩に預けて首を捻りポキポキと骨を鳴らす。ふぅ、と息を吐いて呟く。


「こんな感じで良いかしら……?まぁ見てくれは二の次ね……」


溝川で死んだ魚が豚を見下している様に陰鬱な目で生垣を見遣り、鉈を地面に突き立てる。踵を返して教会前に据えられた石造りのベンチへ向かい、上に被さる枯葉や砂埃を払って腰を下ろす。


___一週間程前、仕事仲間がビズの『おまけ』として一人の幼子を連れ帰って来た。あの時は驚愕のあまりどうにも取っ付きが悪く、自分も早々に依頼へと繰り出してしまったのでろくすっぽ話すことは出来なかった。

議員殺しもファミリーのドンも巧妙に雲隠れしていて今尚依頼は完遂とは言えない。特にファミリーのドンがそう簡単に尻尾を掴ませてくれるはずもなく、一週間経っても数人の影武者を始末するに至ったのみ。仕事のツテで方々を回ってアイデアを纏める傍情報収集をしているが、有益な情報はあっても確信には到らず仕舞い。

「……そういう訳で貴方を攫って来たのだけれど……。まぁ知るはずも無いわよねぇ、下っ端だし……」

「_____!」

教会横の小さな共同墓地の前に転がされた一人の男。手足を縛られ墓穴に詰められたまま自分を見上げるその顔は様々な体液でドロドロの状態だった。

「そう心配しなくても大丈夫よ……?此処には貴方みたいな輩が大勢安らかに眠ってるから。2日前に棺桶に詰めて埋めたあの男ももしかしたらまだ生きてるかも知れないし。寂しくは無いはずだわ……多分ね」

嗜虐的な笑みを浮かべ、嗜好を満たしていると教会内から自分を呼ぶ声が聞こえた。

「ドールホーンさん、パイが焼きあがりましたよ」

「ん。今行くわぁ……。お茶の準備をしていて頂戴」

声に応えて立ち上がると、傍に置いてあったシャベルを引っ掴み、怯え竦む男に近寄る。途中で鉈も拾い上げると、ゆっくりと節を付けて呟く様に歌う。


Hush a bye baby, on the tree top,
When the wind blows the cradle will rock.
When the bow breaks, the cradle will fall.
And down will come baby,
Cradle and all.


男は愈々恐慌状態に陥り、ドールホーンは益々嗜虐の笑みを強くする。相手の泣く顔が愛おしく、慟哭する表情が堪らない。

シャベルを穴の横に突き刺すと男は声にならない悲鳴を上げ、出来る限りの精一杯な命乞いをする。まだ死にたく無い、殺さないでくれ、と哭き叫び喚かんばかりの男の目が最後に見たのは、

曇天の空に翻る鉈の刃が放つ鈍光と、煤煙の中に聳える十字架だった___。


>>周辺ALL

【やっとこ投下!絡む際のドールホーンは穴をシャベルで埋めて居る体でお願いします】

3ヶ月前 No.10

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=tU8wj1dqI7

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3ヶ月前 No.11

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / 西洋料理店Wildcat 】

 からころからころ、と軽やかな高下駄の音を響かせながら霧の都の路地裏を歩く人影。艶やかな紫陽花が描かれた紫色の着物に京紫色の帯を前で結んだ深い闇夜さえ思わせる黒髪の女性。真っ赤な唐傘を差しながら歩くその容貌はこの霧の都には、この国には似つかわしくない異国の顔立ちで。

「うふふ、ほんまに今日もええ天気どすなぁ」

 歌うような口振りで歩くのは白雨。この霧の都で剥製師として小さな工房で営む日の本の国から来た女性であった。だがしかし彼女が剥製にするのは熊や鳥などではなく、人間である。屍体をこよなく愛する屍体愛好者うだあるが故に彼女は剥製にし自身のコレクションや時に裏のオークションなどで売買を繰り返していた。

 今日は仕事はお休みで馴染みの店へと向かう最中のようで辿り着いた西洋料理店Wildcatの裏の入り口、その扉を開きながら唐傘を閉じる。

「こんにちはぁ、ってあら、ええと――――ジャックはん、って言わはりましたっけ」

 どうやら店主であるシャーロックは昼の仕事で忙しいのだろう、と納得しながらカウンター席で一人暇を持て余している少年、ジャックに声をかける。若干うろ覚えではあるものの白雨はシャーロックが誘拐してきたこの少年を嫌ってはいなかった。ただ生者の扱いには不慣れなようでからころと下駄を鳴らしつつもジャックに近寄り目線を合わせるようにしゃがみ込む。

「お暇そうどすなぁ、ちょうどわっちも退屈で此処に来させてもろたんどすけど…………そうや、ジャックはんがええんやったらわっちとお散歩でもいかが?」


>> ジャックくん


(ということでジャックくんをお誘いさせていただきました…!!よろしくお願いいたします〜〜!)

3ヶ月前 No.12

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★Tablet=iiKTVigSmi

【ミカエル/7月2日/ベイカーストリート路地裏】

 沢山の人間に取り囲まれて、ざわざわと、耳障りな音を立てる。ひそひそ、ぶつぶつ。うるさくて仕方がない。手が向かってくる。数多の悪意を持った幽霊のように白い手は、優しく優しくぼくの頬へ伸ばされた。おかあさんの手だ、そう思った次の瞬間、ぼくは赤くなった頬を抑えて蹲っていた。痛い。ずきずきがんがん、頭に響いているのは鼓動の音だと気が付くまで大分時間がかかった。ふと顔を上げれば、周囲のヒトのようなバケモノはクスクスと笑っていた。にこにこ、楽しそうに。ならば、ぼくも楽しいのだろう。一緒に、にこにこ。あれ、頬が引き攣るのは何でだろうか。

「あ」

次に瞳を開いた時、暗闇の中には沢山の血溜まりと、手が散らばっていた。自分を囲うように立っていた人間は一人残らずただの手だけの存在になって床に落ちていた。まるでゴミ屑のように。

それはおとうさんの手だった。
それはおかあさんの手だった。
それは、それは──

ぼくの手だった。





 勢いよく起き上がる。整わない呼吸が喉に詰まり溺れていたかのように激しく咳き込んだ。取り込まれた酸素が脳に回り、次第に現状が掴めてくる。此処は自宅兼研究室。細菌や薬の研究をする場所にも関わらず何の為に置かれているのかも分からない手術台の上で死んだように眠っていたのだ。しかし見たのは紛れも無い悪夢。未だに肩を大きく揺らしてしか出来ない息に警鐘を鳴らし始めた心臓がどくどくと激しく音を出した。その音色に危機感を感じ、一気に頭がパニックに陥る。

 かは、と乾いた吐息が漏れる。転がり落ちるように手術台から降りて、デスクの引き出しを引っくり返す勢いで開いていく。何段目かに乱雑に放置してあった瓶を取り出し、数を数えることもせずこの小さな手に収まるだけの錠剤を飲み込んだ。デスクにあった水差しから直に水を含み薬を流し込む。部屋の隅に隠れるようにガタガタと震えていれば、ゆっくりと、それでも確かに緩やかな呼吸が戻ってくるのを感じた。自らを安心させるようにわざと大きく深呼吸をして、肩をさする。次第にぼんやりとし始めた思考を置き去りに、周りを見渡せば目に入ったのはホルマリン漬けにされて、沢山の瓶に詰められた数々の手。しばらく其れに目を奪われたのち、弾かれたように立ち上がる。

「こ、ころさなきゃ。ぼくをいじめてくれるひとを殺して殺してころしてコロシテ…………ぼくに、触れる手、ぜんぶぜぇんぶ、ホシイ、な」

何処を見ているのかも分からない虚ろな瞳でぶつぶつと言葉を呟きながらマントを被り、いつものようにペストマスクを装着した。こうして今日も小さな、だけど凶悪で狂った殺人鬼は街に繰り出す。







 断末魔さえも響かない路地裏。夜に溶けるような漆黒のマントに身を包んだ小さな影は、霧と、両目に色の異なった光を纒い、その姿を現す。足元に幾つもの死体を携えたその光景はあまりにも異様で、日常からかけ離れていた。

「いーち、にい、さん、よん、ご……五人かぁ」

つまらなさそうにそう零した手の中には特殊に開発した即死性の臓器を侵食する細菌をスプレーにして散布出来る機械が収まっている。一度酸素に触れてしまえば殺傷能力を忽ち失うが、それを直接かけられた人間は叫びを上げる暇無く命を奪われる。まさに殺人兵器とも言える細菌を扱えるのは、自分が一応政府公認の殺人者であるからだろう。今さっき殺した人間も、きちんと政府の依頼に沿った人物だった。しかし指定されていたのは一人だけだったのだが、気が付けばそれ以外の周囲に居た四人も殺してしまっている。悪い癖だとは思っているが、だってぼくを数人で囲んだのがいけないのだ。お腹を蹴ったりするからいけないのだ。うっかり興奮で涎が出ちゃいそうだったけど、それより前に胃液がせり上がっていた。

 顔を叩かれたことで路地裏の端に飛んで行ったペストマスクを眺めながら、先程の出来事を思い返す。あんなにぼくを支配した気になって、心の底から加虐を楽しんでいたのに、ひとたびスイッチを押してしまえばこの通りだ。あぁ、なんて儚くて脆くて可哀想。鼻歌でも歌い出しそうな程愉快な気持ちで懐から背丈に合わないような大きな鋸を取り出す。それをおもむろに死体の右手首に当てたと思えば、明確な切断の意志を持って鋸を前後に動かした。

「ふふ、ひ、ひひひっ……なぁんだ、たった五人……ごにんかぁ。足りないたりないタリナイな。でもでもきみが悪いんだよ? ぼくを叩くから蹴るから罵るから。とってもキモチイイけどとっても怖いの知ってる?ねぇ。だからぼくはきょうも眠れないじゃない……でもきみがその手をくれたらいいの許してあげるのだからちょうだいはやくはやくハヤク」

支離滅裂な言葉を呪いのように路地裏に木霊させ、焦れる心情を表すように鋸を動かす手は早まったが、体力も筋力もそこまである訳ではない。大人の男の手を骨ごと切断するなんてそう簡単に出来ないのだ。

「このままじゃあぼく、ねむれないよぉ……」

疲労に慣れない身体はいとも簡単にエネルギー切れを起こす。重なり合った幾つもの死体の上に座り込み、ぼんやりと蕩け、薬の影響で焦点の合わない瞳で途方に暮れたように雲に隠れた月を見上げた。

(シャーロック様、シチダンカ様)、周辺ALL様>>

【本編開始おめでとうございます!事前に打ち合わせをさせていただいた通り、絡み待機のレスを投下致します。どうぞこれからよろしくお願いします!サブ記事の方のお返事も少々お待ちいただけると幸いです。】

3ヶ月前 No.13

スワン @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【スワン/11月1日/ベイカーストリート】

 秋の日の昼下がり。スワンはベイカーストリートを歩いていた。灰色のロングワンピースに柔らかな白の羽織物。小ぶりな編みかごを片手にゆったりと歩く姿は淑やかに映るが、鮮やかな桃色の巻き髪は嫌でも人目を引いた。

 今日のお夕飯は何にしようかしら。
 右手に下げたかごに視線を落とす。中に入っているのはさっき気まぐれで買った焼き菓子の紙袋だけ。夫であるシャーロックは私がお土産に買っていったものは何でも食べてくれる。けれど彼がさほど甘いものを好まないことも知っていた。だから、今日は彼の好物を作ろうかしら。料理は彼の本業だけれど、それとこれとは別。少しでも良い奥さんでいたいじゃない。

「……あら?」

 数軒先のアンティークショップから出てきた一人の人物に、スワンは目を留めた。緑色のショートヘアの"女"学生。厳密に言えば実際はそうではないが、スワンにとってはそんなことは大した問題ではない。彼女――メロウが女学生だと言うなら、女学生なのだ。

「メロウちゃーん」

 大きくはないが、よく通る声でメロウに呼びかけ、ぱたぱたと小走りで駆け寄る。と言ってもロングワンピース姿にパンプスを履いたスワンが走れるわけもなく、"駆けている"雰囲気を出すのが精一杯だ。後ろに流れた髪を肩の前に戻しつつ、メロウに柔らかく微笑みかける。

「偶然ねぇ、学校はもう終わりました? お買い物かしら?」

>メロウ、all
【メロウくんに突撃させていただきました!よろしくお願いします……!】

3ヶ月前 No.14

シチダンカ @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シチダンカ/8月31日/シチダンカ宅、二階診療所→外】

 未だ、霧が晴れない。

 普段、診療所として使っている一室の奥、開け放った窓からは湿度の高い薄ら寒い風が尚も侵入を止めなかった。窓枠を人差し指でそっとなぞる。これから起こる事柄に、換気が必要だった。窓硝子に薄く残る数字、二十四。あと一時間もしない内に、これが二十三に書き換わる、筈だった。


 すっかり色褪せた数枚の封筒の一番上、今朝になって漸く自宅ポストから救出された“それ”が鎮座している。それは、全貌すら掴めない政府とやらからの御達しだった。あたしが前に殺した患者の中に、都を脅かしていた殺し屋が混ざっていたらしい。それがいつの誰のことなのかなんて、どうでも良かった。患者の過去にも興味は無い。出会った時が始まりなの。それから、苦しみから救われた時が終わりなの。
 ――ただ、手口を見られたというのなら、挨拶にでも伺う必要がありそうね。

 窓を背に、室内を振り返る。中央に小さな丸テーブルと猫足の赤いソファーだけの簡素な部屋。丸テーブルの上には、ワイングラスが二つ。一つは空に、もう一つはワインを半分ほど残したままで結露を起こしている。そして、そのテーブルと窓の間、ブルーシートの真上。かつての患者の若い男が仰向けになって転がっている。食事制限を言いつけておいて良かった。運ぶ時、ひどく軽かったもの。
 片方の髪を耳にかけて、乱暴に黒のハイヒールをその場で脱ぎ捨てた。キスの位置が合わないと、最期の挨拶の時に困るもの。裸足に外気の冷たさを覚えながら、ブルーシートを踏みつける。そうして、床に寝そべるかつての患者に、あたしは両の掌を彼の肩越しのブルーシートに押し付けながら、ゆっくりと覆いかぶさるようにして肘を曲げていく。整った寝息が乱れるのは、恐らくあと少しのこと。

「あなたのことは、よく覚えてるわ。出会ったあの夜のこと、あたしの髪を褒めてくれたこと、初めてのキス」

 唇を重ねると、彼が小さく目を開いた。愛しいアンバーブラウンの瞳が、ゆっくりとあたしを捉えていく。唇を二度三度と重ねる中、あたしが思うのはたった一つだった。――薬の量、間違えたわ。

「ねえ、さっき言ったこと、本当なの?」

 あたしを連れて、この都を出て、どこか遠い場所で一緒に暮らす、って。
 小さく吐息を漏らしながら、彼があたしの髪を撫でる。その手に重ねるようにして手を伸ばしながら、垂れる髪を耳にかけた。そろそろ頃合いね。身体まで覚醒されると、後々面倒だし。もう一度深く口付けながら、右手でソファーの下を探る。――垂れたままの片方の髪に気配を隠しながら、牛刀を彼の右腕へ振り上げた。
 ブルーシートが小さく悲鳴を上げた。

 噛まれた唇を、拭う。あなたに与えた痛みに比べたら、随分と可愛い反撃ね。離れ離れになったその右腕をなぞりながら、骨ばった彼の指に絡めるようにして手を握る。ぽき。骨が折れる音がした。だってあたし、昔から力だけは強かったから。
 口から血の泡を吹きだすその右腕の持ち主が、後退りをしながらあたしを見上げる。

「やめなさいよ、ブルーシートずれちゃうじゃない」

 けたけた笑うあたしに、彼は狂気のように鋭く尖った言葉を投げつける。血が床に染み込むと、後々大変なのよね。溜息を吐く間、彼の姿が一瞬にして消えた。否、窓の向こうへと引きずり込まれていった。

「あ」

 窓開けたままにしておいたの、忘れてたわ。

「……それ、とっても燃える展開ね」

 牛刀の柄を口に咥えながら、ハイヒールをゆったりとした動作で履いていく。横目で窓の向こうを見ると、霧の向こうで地を這う彼の姿が見えた。自ら苦しみの中に飛び込むなんて駄目じゃないの、折角あたしが苦しみから救ってあげたのに。一息吐いた後、窓枠に両足を掛けて、彼を追うようにしてそのまま真下へ身を投げた。


【本編開始おめでとうございます!
 シチダンカの殺しの現場を目撃されたい欲からALL文を投下させていただきました……! 余裕が出来次第どなたかのALL文にも絡みに行きたいと思います、よろしくお願いします!】
>ALL

3ヶ月前 No.15

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/西洋料理店Wildcat】

 店の入口に佇むミリヤムを見付けて、ジャックは逆さまの瞳を文字通り輝かせた。危険人物その幾つかの来訪にここまで喜んでしまうなんて、余程退屈だったに違いない。まぁ、ミリヤムやシャーロックをはじめとするWildcatに集う人間達を殺人鬼と思って居ないだけの可能性が高いが。
 さて、ミリヤムは人形好きの屍体性愛者である。それは即ち、生きて動いているものはそこまで好んではいないということだ。しかしそのミリヤムの感性をもってしても、幼いジャックの無邪気な言動は心の奥底を擽られるものがある。だからそれは、ジャックを、ひいては幼児達を溺愛している店の店主には堪らないものだったのだろう。
 パパ!? と叫んで扉から飛び出してきたのは、平和的な魚の生臭さを携えたシャーロックである。尤も次の瞬間には、ジャックにパパ呼ばわりされたいという彼の希望は脆くも儚く崩れ去ったようだが。
「ジャック……あなた……!」
 そしてその一方で、甘いものが飲みたいという自身の希望を聞いたジャックからリンゴジュースの花瓶水割りを差し出されたミリヤムも、彼を直視出来なくなりテーブルの影に踞った。

 不覚にも可愛いと思ってしまった。何だこの生き物は。可愛い。人形にして手元に置いておきたい。でもそんなことをしようものなら間違いなくシャーロックに殺される。それ以外の殺人鬼達に殺される可能性すらある。まだ自分の身を危険に晒す気にはなれない、オーケー。

「……タダ酒、ねぇ」
 物騒な思考を押さえ付けながら、未だテーブルの影からシャーロックの提案を吟味する。
 ジャックとお散歩をしたら、ベイリーズミルクが待っている。悪くない提案だった。どうせなら洋品店にでも連れていって、ジャックに服でも買ってあげようか。請求書はシャーロックに押し付ければ良いのだし。
「えぇ、良いわよ。ジャックがそれで構わないのならね」
 自分がジャックを連れて出掛ける分には構わないと結論付けたミリヤムはゆっくりと立ち上がる。その頃には彼女に差し出された筈のリンゴジュース(以下略)は魔法のように消え失せていた、そして。
「ハァイ、おねぇさーん、ししょー? 一応アタシも居るのよねー」
 店内には人が一人増えていた。

 この国のものではない綺麗な衣装に身を包んだ妖艶な女性・白雨は、殺人鬼で屍体性愛者で剥製師としての類稀なる腕を持つ、正真正銘ミリヤムの同族同類である。ミリヤムは彼女の腕に惚れ込んでよく工房に押し掛けているが、それはまた別のお話。
 そんな白雨は、今まさにミリヤムがシャーロックから頼まれたことを実行に移そうとしていた。
「どうするベイビー。そっちのエキゾチックなお姉様か、こっちの千変万化のお姉さんか、どっちとお散歩したい? あ、両方でも全然構わないわよ」

>ジャックくん、(シャーロックさん、)白雨さん

【僭越ながら、白雨さんとジャック君の間に割って入ることにしますm(__)m】

3ヶ月前 No.16

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/西洋料理店Wildcat→】

再び扉が開いて、雨の匂いが僅かに流れ込む。ジャックはカウンターの椅子ごと反動をつけてぐるりとドアの方を振り返っては、目を輝かせる。あのドアが開くと、お客さん達がやってくる。みんな「ジャック」と声を掛けてくれる優しいお客さん達だ。此処に来て一週間もすればそろそろ学習し始めていた。まだ子供の彼の脳は、オペラント条件付けに染まりやすい動物達とそう変わらないらしかった。
「あーっ!」
ミリヤムに続いて現れた人影に、ジャックは笑顔を輝かせた。霧の都の空には久しく見ない晴れ間のような笑顔。どうやらミリヤムの時も白雨の時も上げたこの奇声は、見知った人が現れた時の彼なりの行為を表す挨拶のようだった。

「シラサメ・ネエサン!」
艶やかな原色の風変わりな衣服、東洋人特有の顔立ち、振り撒かれる色香と柔らかく上品な物腰。この店に集っていた者の中に彼女を「姐さん」と呼ぶものがあったのを覚えていたのだろう。ジャックは何か呪文のようにその名を唱えて背の高いスツールから飛び降りた。
「シラサメ・シショー……?」
身の丈よりも大きく聳え立つテーブル席の合間を縫って、白雨に近寄る途中で、ミリヤムの口から発せられた言葉に不思議そうに振り返る。シショー、師匠。それはまだ幼子にはまだ未知の呼称だった。シショーってなんだ? と言わんばかりに真ん丸い目を更に大きくして二人の大人を見比べている。

「ミリヤム! シショー! おさんぽ、いこ! おさんぽ!」

散歩という言葉が聞こえた瞬間の、ジャックの行動は早かった。一目散に扉の前へ駆け寄る。短い足で、左右にまだ少し揺れているような少し鈍臭い走り方で。背伸びをしてドアノブを掴む。が、しかし、重くて動かない。振り返って急かすように二人の方向へそれぞれ右手と左手とを差し出した。

>ミリヤム、白雨、all


【御二方ともありがとうございます! 囚われた宇宙人みたいに霧の都をお散歩しましょう!笑 行き先はお任せしますよ!】

3ヶ月前 No.17

エディ @d0ap ★iPad=qTOmkAVEvD

【エディ/6月8日/西洋料理店Wildcat】

「誘おうか迷ったんだけど、部屋から物音がしなかったから休んでいるのか、出掛けているのか……まぁ、アタシが行くとこなんて限られてるから何処にいるかすぐ分かるでしょうけどね」

シャーロックの口から飛び出した名前にふふっと笑みを浮かべながら同居人であるメロウの姿を思い浮かべる。可憐な女学生……は、良くエディの晩酌を付き合ってくれ、このWildcatにも幾度となく共に足を運んでいる。美味しいお酒に弾む会話で此処で過ごす時間はとても楽しいもので気がつくと、常連と呼ばれるほど通っていた。
隣では手を汚しながらも一生懸命食べているジャックがこちらを見上げようと帽子の隙間から目線を向けているのがわかり、シャーロック同様エディもだらしなく頬が緩んだ。

「もう、なにこの可愛い生き物は!坊や、シャーロックに飽きたらいつでもオネエさんのおうちに来ていいからねぇ」

その細い体を思わず抱き締めシルクハットの上から少々乱暴にジャックの頭を撫でると猫なで声でその女性より低いハスキーボイスを響かせた。そしてシャーロックに向かって「アタシもどこからか連れて来ちゃおうかしら」と悪戯気に楽しそうに微笑んだ。エディにとってジャックくらいの年頃の子供は堪らなく愛おしく心を激しく揺さぶる存在。専らエディは少女の方が好きなのだが、少年も悪くないとジャックを見て内心で呟いた。

「あら、子供って結構大変なのね」

暫くジャックの子供特有の柔らかさを堪能するとそっと離れ、シャーロックの言葉に頬杖をついて話を聞く。実際子供がいないエディにはその大変さは想像しきれなかったが、シャーロックの言葉の端々からそこそこ苦労しているのを見て取れた。
シェイカーの心地良い音の後、注がれたグラスの中身のその綺麗な紫にエディは目を細めると、グラスを手に取り一口含んだ。そして、ふっと満足気に笑みを浮かべると「此処のお酒はいつも最高よね」と賛辞を口にした。

>ジャック、シャーロック

3ヶ月前 No.18

洗濯蟻 @arinohito ★iPhone=n7Rebp7mCv

【ドールホーン/6月13日/聖アンダーソン教会】


ある程度まで穴を埋めた後、そろそろ紅茶も淹れた頃かとスコップを地面に突き刺す。

火照る顔に風を通す為にさらりと掻き上げられた前髪の向こう側に碧く生気のない半目が覗く。その右目には縦に一本大きな傷痕が在り、黒い眼帯で綴じられていた。

身体を軽く伸ばして踵を返し教会内へ。
荒れ放題で薄暗く、嘗ては列べられていたであろう長椅子は端の方に追いやられているか、孤児達が寝床にしている場所の間仕切りとして積み上げられているか。まともな位置にあるのはほんの二、三脚程度だ。

先程ドールホーンを呼んだのも此処を寝床としている浮浪孤児である。礼拝堂の隅にあるテーブルと椅子だけは整えられ、赤い蝋燭の光が銀の燭台に反射して煌めいている。湯気の立つティーカップとすでに何人かが取り分けた後らしいコテージパイの盆。誰かが表で摘んで来たらしい白い花が飾られていた。

「ま、平和なのはいい事だわ……」

椅子に座り、傍の移動式本棚に手を伸ばす。数冊の書物が収まっているがこの内殆どはドールホーン自身が出版した本である。


『墓場で嗤うな少女達 〜Girl's Grave Garden〜』
『良い子の為の童謡・童話』
『百合薔薇 シャーロック』
『銀水晶帝國紀行』
『私は御主人様の犬であります』
『蠍の灯』
『聖書』
『死人の箱には15人のインディアン』


適当な本を一冊取って開き、紅茶のカップに口を付ける。穏やかな1日だ。


>>ALL

【ジャック君がここにある本を読んで純粋で居られる確率は四分の一】
【更に二つはクリティカルで更に二つはファンブルです】

3ヶ月前 No.19

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=tU8wj1dqI7

【メロウ/8月31日/シチダンカ宅前】

 酒が入って火照った頬を撫でる風が、八月の終わりを感じさせた。酔い醒ましにと、自宅へは遠回りとなる道を選んで、少し頼りない足取りで歩いていた。酷く酔っているわけではないけれど、少々浮つく程度には嗜んできたのだった。

 鼻歌交じりに見慣れない景色を眺めていたら、何かの音がした。重量のある何かが高い所から落ちる音、だろうか。昔、献体に向かない屍を自室の窓から突き落とした時に聞いた鈍い音に似ている。あの時は確か、マンホールの下に棄てたのだっけ。幸いにも下水道の住人達が掃除してくれたのか、次の日も、翌週も、新聞で取り上げられることは無かった。
 身投げかな。
 なんて、特に気にも留めず、歩みを進めていたのだが、霧で隠されていた前方が明らかになり、視線はそれに釘付けになる。這いずり□くそれは、確かに人ではあったが、右腕はなく、代わりに血が滴り地面に赤い跡を作っていた。
 生きた人間から流れる血を見る機会のないメロウは、引き攣った短い悲鳴にも興奮混じりの感嘆の声にも聞こえる、言葉にならない声を上げた。もっと近くで見てみたい。こんな機会滅多にない。死に損ないならこのままもっと切り開いて、蠢く心臓を触ってみたい。観察したい。隅々まで。だって死にたかった人間なんでしょ、ぼくの役に立ってから死ねよ。
 血の巡りが早くなる。熱を持った指先で、唇をなぞる。体の奥から抑えきれない欲が湧いてきて、うずうずが止まらない。酔いは醒めきっていた。どうしようもない探求欲と好奇心で支配されていた所に、追撃するように、何かが、いいや誰かが降ってきた。丸い目をさらに丸く、大きく開いて、新たな興味の対象を見つめる。揺れる長い髪にハイヒールの後ろ姿から察するに、女性か。それも大柄の。メロウの金と橙の眼が、今日一番の輝きを持って揺れた。

「すてきー……」

 不意に口をついた呟きは、霧の中に消えた。
 無理心中には到底見えなかった。痴話喧嘩、にしては物騒だ。ただただ両手を胸の前で組んだ状態で突っ立って、目の前で繰り広げられるであろう、既に始まっている出来事に遭遇した幸運に感謝するのだった。逃げ去ったほうがいいだとか、危機感だとかは微塵もなかった。だって、とっても、面白そうじゃない。

【こんな感じでいいのかな、と思いつつ、シチダンカさんの現場を目撃しに来ました!】

>>シチダンカ、ALL

3ヶ月前 No.20

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=tU8wj1dqI7

【メロウ/11月1日/ベイカーストリート】

 メロウちゃーんと、自分を呼ぶ声がして、声のする方へと顔を向けた。鮮やかで可憐な桃色の髪を揺らしてこちらに駆けてくる女性の姿があった。顔にかかった、透明感のある緑の髪を耳にかけて、彼女がやって来るのを待った。

「ごきげんようー! そうなの、さっき終わったばかりなの。」

 えへえへと笑いながら会釈する。この、おっとりしていて且つ気品溢れる女性は、メロウが常連客となっている西洋料理店Wildcatの店主の奥さんだ。店主を通じて面識がある他、高台にある彼女の家で星を観測したり、アフタヌーンティを楽しむような仲である。

「スワンさんもお買い物?」

 彼女の横に並んで、その片手にある小ぶりな編みかごの中を覗き込む。一つ紙袋が入っているだけで、他は何も入っていなかった。せっかく会えたのだから、一緒に店を見て回れたらいいなと思う。男性との買い物も勿論楽しいのだが、女性とのウィンドウショッピングはそれに勝る魅力がある。色々なお店を見て回って、他愛のないおしゃべりをして、偶然見つけたカフェで一休み、なんていうのが大好きだ。

 あ、そうだ。と呟いて、抱いていた紙袋からおもむろに中身を取り出した。落としたら大変なので、そうっと、だ。割れないように丁寧に、幾十にも包装されている物を箱から取り出し、さらに包装紙を剥がしていく。先程ショーウィンドウの前にへばりついていた時と同じように目を輝かせ、口元を緩ませ、やっと現れたストームグラスをスワンに見せた。

「じゃじゃーん。これね、ぼくの新しい宝物! 今買ってきたところだから、見せたのはスワンさんが一人目だよー。あとでジャックやシャーロックにも見せようと思って!」

 いつもより語尾が跳ねる。嬉しくてたまらないといった様子で、首を左右に小さく揺らし、口角を上げる。丸底フラスコのような形状のガラス管は、底が斜め置きできるようになっており、その中にはまるで雪の結晶のような沈殿物が上の方まで積もっている。浮遊する結晶も見られる。ストームグラスは頻繁に見ることの出来るものではなかったが、天文学者であるスワンなら、天文に近い気象に関する物なのでこの品物のことも知っているかもしれない。それにストームグラスについて説明をすると熱弁してしまう自信があったので、ここではあえて説明はせずに、彼女の反応を待った。

【ありがとうございます!よろしくお願いします!】

>>スワン、ALL

3ヶ月前 No.21

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム(ウィリアム)/9月5日/ロンドン橋付近、テムズ河の畔】

 ミリヤムというのは、“彼”が“彼女”に付けた名前のことである。だから“彼”を指して“ミリヤム”と呼ぶことは、多分正解ではない。“彼”を正確に形容できる言葉は、産まれた時からこの世界に存在してはいなかったが、それでも今の彼を呼ぶとすればそれは“ウィリアム”以外になかった。
 曲がりくねり渦を巻くテムズ河の暗い水面とそこに映る橋の影を見詰めながら、それでも、とウィリアムは考える。やはり、ミリヤムで来た方が良かったかも知れないと。
 今彼が男物のグレーのスーツを身に纏っているのは、今日のターゲットが女性で、更に言うなら娼婦だったからだ。それ以外の訳などない。別に彼女の油断を誘うつもりも、ましてや彼女を買う演技をするつもりもなかった。ミリヤムでない方が都合が良かったのも間違いないが、それでも。

――俺は、ミリヤムより余程弱いから。

  ウィリアムはそっと、唯一つミリヤムと変わらない金色の瞳を伏せる。そこには真っ青の草の海の中で真っ赤な花を咲かせている一人の女が居た。大きく開いた安物のドレスの胸元からは、真っ直ぐにサバイバルナイフが伸びている。白い手袋に覆われた手でそれを引き抜くと、華奢な躰がびくんと跳ねた。だがそれでも、アイスブルーの瞳に最早光はなかった。

 今の形になるまでに、幾度となく崩れ流され焼け落ちたというロンドン橋。その下には人柱の少女だか青年だか、罪人だか聖人だかが埋まっているという。
 同じように橋の袂で死んだ彼女の魂は安らかに眠れるのだろうか、或いは永遠に眠ることも許されず、彼等に囚われてしまうのだろうか。

「……ごめん」
 ただ、依頼があったから。身体を売る傍ら手に入れたスキャンダルで小銭を稼いでいた彼女は、知りすぎてしまったから。それだけの理由でその命を散らしてしまったことに、ウィリアムは身勝手な罪悪感を覚える。しかし此処には彼の謝罪を聞き入れる相手も、彼の懺悔を受け入れる神もない。そんなこと分かりきっているのに、我ながら何と女々しいことか、と二三度頭を振った。
 彼女を殺したのがミリヤムであれば、何の感慨もなく自分の趣味に走っただろう……何の感慨もなく、“彼女”は彼女の死を背負い、消化し、生きていけるのだろう。
「ごめん」
 根本も意識も結局の所全く同じ人間なのに、服装だけで思考の浮き沈みが恐ろしく変わる自分に心底から辟易しながら、ウィリアムはもう一度ナイフを振りかぶった。二人は一人の人間であればこそ、譬え過程が異なろうとも、行き着く先は変わらない。
 即ちウィリアムは、今し方その命を奪ったことに後悔のようなものを抱いた彼女を、自分の手で美しく作り替えるべく解体しようとしていた。

 ざくりとわざとらしく音を立てて頸動脈を切り裂くと、鼓動が止まっているため飛沫こそ上がらないものの、まるで生きているかのような鮮血が溢れ出してくる。手首、足首と目に見える太い血管を次々に切り裂き、まだ温かかった彼女の躯は、あっという間に白く冷たくなっていく。
 死んでいるのだからそれが当たり前の、血の気の失せた白い顔。ただ一点を見詰めて動かない虚ろな瞳。投げ出された肢体に、それらを彩るアカ。
「あぁ」
 感極まったように、知らず、ウィリアムの口から溜息が漏れる。
 自らの体が汚れるのも厭わず、まるで慾望の塊を押し付けるかのように死した彼女へと覆い被さる。まだ柔らかい半開きの唇に自分のそれを重ねて、またほぅと息を吐いた。
 深紅のルージュが塗りたくられた唇は、三日月のような弧を描いた。
「……今のアンタの方が、さっきよりよっぽど綺麗だよ」
 口調はまるで、恋人に愛を囁く男のもの。それは誰の耳にも届かず、夜霧の闇へと消えていった。

>all

【色々やってしまいました……もし絡んで下さる方がいらっしゃればその頃には落ち着いていますのでご安心下さい。】

3ヶ月前 No.22

凍雨 @kafune☆01.vmkBoVYY ★iPhone=Ht37eDoIdS



【 ルイス / 6月30日 / ベイカーストリート 】


 穏やかな日々が崩れゆく音が好きだった。
 霧の街に夜が訪れる頃、顔に白いマスクを着けた男はまだ仕事をしている従業員が幾らか残っている工場に忍び込む。窓枠に嵌められた硝子なんて鈍器で叩き割ってしまえば自分のような素人にも簡単に侵入することが出来る現状に対し、なんて不用心なんだろうか等と心にもないことを思う。滑稽で、愉快で笑えてくる。まさか、マスクの中身が巷を賑わせている俳優――ルイスだとは誰も思うまい。そっと物陰に身を潜めながら先程から抱えていた麻布袋の中に手を入れた。


 そこから取り出したものはルイスの拳一つ分ほどの大きさの爆弾だった。麻布袋からはそれがゴロゴロと次から次に出てくる。凡そ両手で持つには少し多いかな、と思うような量の爆弾を抱えながら一つずつ丁寧に各所へ置いてゆく。これは火力も威力も十分なものだけれどやはりやるのならもっとド派手にやった方がいい。何時、如何なる時に自分の行いによって自らの命が絶たれようとも構わないと胸を張って言えるようなものにしたい。そんな傲慢さを孕みながらルイスは満足そうに微笑みつつ、配置を終えた爆弾の一つに近付いて行く。ズボンのポケットから取り出したマッチに火をつけ、それを目の前に置かれた爆弾の導火線に近付けるとすぐに火は燃え移った。ルイスはその行為を手際良く繰り返し、全爆弾へ火を灯し終えると入ってきた窓から逃げ出すようにその場を後にした。


 工場を背後にルイスは全力で走る。途中で息苦しさを感じてマスクを外してしまったが急ぐ足を止めることなく、工場から距離を取る事だけに意識を集中した。けれどその表情は宛ら鬼から捕まらないように必死で逃げ回る子供のように無邪気だった。血走った目も、笑いが耐えない顔も、バクバクと五月蝿く音を鳴らす心臓も、全てが心地好くて仕方がない。そんなことが頭の中を埋め尽くす。嗚呼一生この時間が続けばいいのに、にやけながらそう囁きかけた時、背後では大きな爆発音と爆風が辺りを襲った。


**


「は、っ……はぁ、も、……はしれな、……っ」


 全力疾走の後、ベイカーストリートの一角で床に腰を下ろしたルイスは肩で息をする。肺に新鮮な空気を送り込みたいのに上手く出来ない。呼吸の仕方が下手くそになってしまったのだろうか。その時、どこかの誰かに教わったことを思い出す。


『こういう時は焦らずに息を吐く事を意識すればいい』


 もう声も覚えていない朧気な記憶がルイスに言葉の意味を諭しているかのようで気味が悪かった。けれど、それはどこか懐かしくて、恐ろしくて、ルイスはその言葉を否定することなく、従順に従って大きく息を吐いた。


 呼吸が落ち着いて行えるようになった時には辺りを見渡せる余裕も生まれていたルイスは、どうしたものかと思考と視線を巡らせた。辺りが賑やかになるのは時間の問題。それに此処に留まるのも色々と不都合な事が多い。さて、何処へ行こうか。そんな事を考えながら重たい腰を上げた。

>>オール様



【こんばんは。今回はルイスの犯行現場並びにその後をちょっぴり描かせて頂きました。通りすがりでも、故意的に着いて来るでも構いませんので絡んで貰えたら嬉しいです!】

3ヶ月前 No.23

@xxxri0 ★iPhone=jRTGQCns6m

【 Lily / 6月30日 / ベイカーストリート / 路地裏の奥、廃れた彫刻屋「 L 」】

路地裏周辺に立ち込める濃霧の中、掻き分ける様にして奥へ奥へと進んだ角の隅に、其の廃れた彫刻屋は、異様な不気味さと惹かれる何かを放って、其処に在った。

『 welcome 』

まるで、貴方の来店を喜んではいないかの様な取れ掛けたボロっちい黒い看板に、そう拙い文字で書かれている扉を開ければ、四肢が組み替えられた気味の悪い彫刻やら、首だけが無い男性の裸体の彫刻やら何やらが飾られている空間へと、足を踏み入れる事になるだろう。

「 彫る事だって、嫌いじゃないけれど 」

半分以上出来上がった新しい彫刻を眺めながら、物を彫る手は止まった。土葬 火葬 水葬 … この女の様な男にとっては何だって良い、そう、ただ屍に合った埋葬をする事さえ出来れば。ボーっと遠くを見る様な眼差しで、何とも見晴らしの悪い窓から、外を見詰める。カタン と小さな音を立てながら彫刻刀を置けば、ゆっくり窓の方へと近付いて行こうか。

「 -- 雨、ねえ。 濡れない、濡れないわよ、雨如きじゃ私は。彫って削って、完成した私の作品を見ていたって、屍ちゃんを埋葬した時の、あの快感と興奮には勝る事なんて無いもの。」

数日前に土葬したあの瞬間が脳裏に過ぎっては、手が、足が、身体全体が震える感覚に、彼女は酔う。

『 死体が欲しい 』

血液が滾る、最早自らの手で殺して仕舞おうか、なんて。
そう、昔の様に。

「 … ? 」

彼女の鼓膜を震わせるは、突然の爆発音。振動が伝わらず、音も微かな所を見ると、どうやら少し遠いらしい。「 物騒ねえ 」なんて身を竦めてはいるが、口許は弧を描き、眼は卑しく細められた。遠方で灰色の煙りが上がるのを暫く見詰めていれば、店の付近を、脚を引きずって歩く様な音が届く。彼女は平然とした顔で入口の方へと、ヒールの コツコツ という心地の良い音を鳴らしながら向かって行こう。ギィィ … と鈍い音をたてながら開かれた先に居るのは


「 Hello。 … 御機嫌、如何? 」


>>ルイス様


( ベイカーストリートの一角に居らっしゃる という事で、早速絡みに行かせて頂きましたっ。ちょっと無理矢理かな…? とも思いますが、ご愛嬌で( ) 皆様もどうぞ、宜しく御願い致します!

3ヶ月前 No.24

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / 西洋料理店Wildcat→ 】

 無邪気な声音だと思った。ジャックの声に微笑みを浮かべていた白雨だが突如聞こえた声にゆるりと目を瞬かせ首を傾ける。

「あらまぁ、ミリヤムはんいはったんどすねぇ。全然気付かへんかったわ。うふふ、ジャックはんまで師匠、やなんて……わっちはそんな偉うないんやけどねぇ」

 ミリヤム。彼女は白雨とある意味において同族であり同類だった。白雨を師匠、と呼ぶ事に苦笑を浮かべつつもそれを真似するジャックに淡い微笑を零した。

「ほな、三人で散歩やねぇ。おんな二人侍らすやなんて、ジャックはんは罪作りなおとこどすなぁ」

 うふふ、と笑いながら差し出されたジャックの左手を握る。この小さな美少年がいつの日か大きく美しく育つのだろうか、そうなれば自分の手で美しく作りかえられたら、なんて邪推な思考を一瞬浮かべ、あの英国紳士に殺されてしまうやろなぁ、とただ一人心の中で笑みを零した。

>> ジャックくん、ミリヤムさん


(わーミリヤムさんのレスを見落として申し訳ないですー! 三人で仲良くお散歩しましょ〜〜!)

3ヶ月前 No.25

真白蝶々 @papillon☆0uO5mlUpCUns ★sAbT0rwP1n_mgE

【ルーツァン/7月2日/ベイカーストリート路地裏】


 美しくなければ生きるイミが無い。美しくないモノには存在しているカチが無い。美しい事コソが至高にしてシフク。ウツクシサだけが世の救済。

 深く暗く重い、霧の都の夜に雨が降る。煙るように細かな、けれど確かに世界を包んで濡らす紅い雨が。

 美しいものダケが欲しかった。美しいものだけに囲マレテ生きたかった。美しい小さなハコニワの楽園で、美しいだけの作り物のテンゴクで、美しいセカイで息絶えたかった。

 断末魔は品が無い、雨音のみの柔らかな静寂を劈くその響きはまるで冒涜そのものだ。だから手短に済まそう、索敵必滅。

 なのに、ナノニ、なのに何故、何故ドウシテ。美しき世界の中で、私だけがミニクイのだろう。こんなハズでは、コレデハ、こんな様デハ。あア、アあ、マッタクモッテこの世は。


「嗚呼、諸行無常」


 湿った重々しい水音が路地裏の静けさを破ると共に、その直前まで木霊していた捌かれる豚の叫びに似た悲鳴はぴたりと止んだ。近くの高層建築の屋上から降ってきただろう肉塊は最早微かにも動きはせず、音も無く降る霧雨に湿らされて熱を失っていく。生命から立ち昇っていた真っ白な湯気もすぐに冷め、後には雨の香にも掻き消される事無く漂う独特な臭気だけが残された。

 生温かく、鉄の匂いを孕んだ生臭い風が吹き抜けた、その直後。かつん、こつんと、高く澄んだ靴音が薄暗がりの奥から迫ってくる。
 それは、まるで黄泉平坂に落ちた影が人の形を持って彷徨い出てきたような、黒尽くめの女だった。目元を隠す何処か爬虫類じみた模様の描かれた黒の仮面、この国では珍しい異国の衣――巷ではチャイナドレスなどと呼ばれていた――には、黒地に白い頭蓋骨が一つ、ぽつんと縫い込まれている。だが風に靡いてめくれたその裏地には、金や朱や銀で麗しい程に鮮やかな地獄絵図が染め抜かれているのがはっきりと見えた。遥か遠い大陸を思わせる装いに似合わないのは、短く刈って乱れ一つ無いように整え撫でつけた銀髪と、冷え冷えとした光を放つ黒いエナメルのピンヒール。
 漆黒の女の手には何やら奇妙なものが揺れていた。歪な楕円形の果実に似ていた、金色の細く長い蔦のようなものが無数に伸びており、女はそれを片手に絡めて握っていた。

 ああ、なんと悍ましい事だろう。女が手にしていたのは、苦悶と絶望の表情を浮かべた〈それ〉は。

「――――ウフフ、ココはなぁんて不思議な場所なのでしょうねエ。掃き溜めのナカに五つの肉細工、そしてハネを失くした堕天使……さぁテ、此処はワタクシにとって酒池肉林の極楽でしょうカ、それとも亡者も慄く無間地獄かしラ?」

 赤茶けた埃っぽい土の上に転がっていたペストマスクを空いた片手でそっと拾い上げると、黒い女は手にしていた恐ろしいものを足元に置いた。びちゃり、と聞き苦しい音を立てるそれを放ったままマスクの汚れを空いた指先で払うと、女はすでに息をするのを止めた亡者達の上に放心した様子で座っている少女のような姿の女性でゆっくりと近付いて行く。

「さっき手に入れた首(コレ)よりモ、ソノママ恐怖に凍り付いて綺麗な宝石(イシ)になった眼球よりモ、ワタクシにはアナタの方がずっと魅力的なのですワ……ねエ、ワタクシの可愛い堕天使サン?」

 座り込んだまま黒いマントの女性、ミカエルと目線を合わせる為に軽く身を屈めて。漆黒の瞳を持つ女――ルーツァン――は、ペストマスクをミカエルの顔に戻してやろうとしながら、ふと何かに気付いて自身の黒い仮面を外してすうっと目を細めた。それは苦々しげで、そして忌々しげな、静かな怒りを押し殺した表情。
 ミカエルの顎に指を当て、強引に己の方を見させると、ルーツァンはじっと彼女の目を見詰める。

「吐き気がする程滑稽だワ、またオクスリを飲んだのデスネ?」

 ルーツァンの常夜の闇を思わせる瞳はあくまで凪いだ海のごとく穏やかに見えた、だがそれは嵐の海のようなもの。水底は激しく渦巻き唸りを上げて、それでも激流となりそうな感情を押し殺している。

 ルーツァンは薬物を嫌っていた、否、憎悪していた。ミカエルとルーツァンは奇妙な縁により結ばれ、まるで母の子のような、もしくは姉と妹のような、血の絆さえ軽々と超えた歪な愛情と執着の糸で雁字搦めになっていた。だからこそ、ルーツァンは精神の安定の為に時に薬物を乱用するミカエルに、表には出さずとも言葉では言い表せぬ感情を抱いていたのだ。
 なにせルーツァンの故郷は、とある国から運ばれてきた薬物によって滅びかけたのだから。そして、彼女の本当の血筋は、もうこの世には存在していないのだ。全ては快楽に見せかけた悪意を孕んだ甘い毒によって。
 それは、〈この国〉からやってきた。それは、国を傾かせ、人を人で無くする、汚染の毒物。

 貴殿は、阿片という名の戦争の種をご存じだろうか。

「ネエ、羽根を失くした天使サン? 毒に溺れ血に酔っテ、屑籠の底で見る胡蝶の夢ハ」

 指をミカエルの顎に添えたまま、ルーツァンはペストマスクを彼女の膝の上に置くと、背後に腕を回した。それを頭上へ掲げると、そこにはいつの間にか銀色をした短い棒のような物が握られている。次の瞬間、それはあちこちから真っ白な蒸気を吹き出し、みるみる形状を変えていく。先端で翼を広げるように刃が開き、するすると全体が伸びるとそれは一瞬で何処か禍々しいスコップらしき物になっていた。確かに形はスコップなのだが、明らかにその用途は通常とは断るだろう、何せその刃先には未だにべっとりと真っ赤な液体がこびりついていたのだから。

 この国では蒸気機関の原理を活用した擬似科学のような技術が異常に発達しており、このような機械仕掛けの凶器を生み出せる職人も裏世界には存在している。
 この霧の都はまさしく魔都、魑魅魍魎も裸足に逃げ出す、人を殺める鬼を更に喰らう鬼が潜んでいるのだ。

「本当ニ美シイモノナノデスカ?」

 己の髪と同じ、銀色のスコップを素早く地面に突き立てると、ミカエルの目の前に転がっていた骸の手首が真っ二つに刎ねられて、びくりと跳ねて落ちた。

 血生臭い風はひょうひょうと吹いて、修羅道に落ちた二人の鬼を見る屍の瞳は相変わらず濁ったままで。


>>ミカエル、周辺ALL


【遅ればせながら、本編開始おめでとうございます! そして初めから長々と失礼致します、つい書き過ぎましたごめんなさい。絡繰様、この後の流れについては把握しておりますので、数レス後には移動しますからどうぞお許しを。短い間ですが、宜しければお相手をお願い致します】

3ヶ月前 No.26

スワン @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【スワン/11月1日/ベイカーストリート】

 こちらに気づいたメロウは、足を止めて待っていてくれた。あどけなく笑いながら私の持つかごの中を覗く彼女に、小さく首を傾げて笑みを返す。

「ええ、そうなの。お夕飯の食材を買わなくちゃいけないのに、さっきあんまり良い香りがしてたものだからついマドレーヌを買っちゃったの」

 そう言って困ったように眉を下げてみせるが、スワンの表情にはご機嫌さが滲んでいた。理由だって品物だって何でもいいのだけれど、大切な人と一緒に美味しいものを食べる、その予定があるだけでつい顔がほころんでしまう。

 あ、そうだ、と口にしたメロウは、紙袋の中身を開け始めた。厳重に包まれた品の包装が解かれていく。何が始まるのだろうと、スワンは目を円くしてそれを見ていた。
 得意気なメロウの声と共に包装紙の中から現れたのは、透明なガラス管。中は液体で満たされ、白い結晶が沈殿している。ちらちらと浮遊しているものも見えた。

「わあ、ストームグラスね、すごいわ!」

 そう言って、メロウに追いつかんばかりの勢いでぱっと顔を輝かせた。ショーケースの中に展示されているものは見たことがあったが、手の届く距離で見るのは初めてだった。思わず触れてしまいそうになるのをなんとか抑え、代わりに自分の口の近くで両手を合わせる。しばしの間目をきらきらと輝かせながら至近距離でそれを見つめたあと、メロウに視線を戻す。

「きれいねえ、ほんとにきれい。これからはお天気のことはメロウちゃんに聞けばいいのね」

 星の観測に天候の把握は欠かせない。普通の人よりは空模様から予想するのは得意だけれど、それがいつも完璧なはずもなく。学問に長けた彼女なら、ストームグラスの状態から気象の変化を教えてくれるだろう。スワンは嬉しいそうに目を細めた。

>メロウ、all

3ヶ月前 No.27

スワン @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【スワン/9月5日/ロンドン橋付近、テムズ河の畔】

 まだ夏の香りが残る時期とはいえ、夜の風はひんやりとしていた。月明かりの下、両腕で己の体を抱きしめるようにしながら橋を歩く。
 ジムと名乗った可愛らしい坊やは、お家に帰りたいと泣いてしまった。私と星を見るよりも、やっぱりママのところに帰りたいと。愛しくて愛しくてたまらなくて、私のものにしたかったけれど、泣き始めた坊やを見たら何かがすうっと引いていった。泣きじゃくる坊やの手を引いて家の前まで送り届けた帰り道。今日はもう星を見る気にはなれない。シャーロックさんの待つ家に帰ろう。

 ロンドン橋を渡りきったところで、ふわりと血の香りがした。嗅ぎ慣れた臭いのはずだったが、自分の愛しい子どもから発せられるものとは訳が違う。背筋がぞわりとして、思わず足が止まった。
 何の気もなくふと顔を横に向けると、河の畔に人影があった。はじめは一人に見えたが、違った。横たわったもう一人に、誰かが刃物を突き立てていた。横たわっている方の人間は既に息絶えているようだった。

「……きゃっ」

 口を手で抑え、息を呑む。人殺し。怖い。私も、殺される?
 逃げなくちゃ、通報しなくちゃ。そう思ったが、足が固まって動かない。衝撃のあまり、目線も釘付けにされたまま逸らせなかった。不本意なまま死体を見つめる。月明かりに照らされた真っ白な顔。これほど白い人間の肌を見たことはなかった。

「…………なんだか、きれい」

 無意識にそう呟いていた。無垢な愛しい子どもたちの骨を飾ったら、とても映えそうだと思った。いつしか恐怖心ではなく、魅入られていた。足を摺るようにして、静かに、少しずつ近付いていく。
 近づくにつれ、刃物を手にした人物の姿も明瞭になっていく。紅い髪のスーツ姿の男性だった。傍に行って何をしようというつもりがあるわけでもない。男性の背中まで数メートル、というところで、つま先が小石を蹴飛ばした。カツン、という小さくも尖った音が、夜の闇にこだました。

>ミリヤム、all
【殺人現場にお邪魔します……!よろしければお相手お願いします。】

3ヶ月前 No.28

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/6月8日/西洋料理店Wildcat】

エディと話しているうちに、厨房の方からはそこはかとなく良い香りが漂ってきたようだ。
カウンターで紫苑色のカクテルを口にしては最高と褒めてくれる紫髪の彼女にシャーロックは心底嬉しそうに頬を緩めた。
「ありがとうございます」

彼はいつでもそうだった。代々続く殺し屋の家系に育ちながら、人殺しよりも料理と子供の方が好きな妙な殺人鬼である。表向き用の仕事として始めた洋食店の飯は、御世辞にもあまり美味しいという評判は立たなかった。暗殺の腕は一流でも、好きでやっている料理の腕前は今ひとつ。良いのは手際と見た目だけで……つまり、料理人が味覚音痴なのだ。
キッチンストーブの扉を開けて、美味しそうな匂いが溢れ出す。取り出したシェパードパイは表面がグツグツと泡立ち狐色になって濛々とほかほかの湯気を立ちのぼらせ流涎を誘う。シェパードパイは、ラムの挽肉と細かく切った野菜をミートソース状にし、その上からマッシュポテトを敷き詰めてオーブンで焼いたパイ生地を使わないパイ料理である。表面のチーズが蕩け、中の柔らかなマッシュポテトが煮え立ち、その奥から昇り立つ肉の焼ける匂いと共に良い香りが鼻をくすぐる。いかにも、いかにも美味しそうだ。初めて見る人であれば一気に食欲を駆り立てられ生唾を飲み込むところだろう。
「お待たせしました」
口を開ける猫のパペットのような鍋つかみで、グラタン皿を取り出し、そのままエディの待つカウンターへと戻ってくる。鍋敷きの上にシェパードパイを置き、カトラリーを添えて出す。そしてその横に、塩、胡椒、砂糖、シナモン、豆板醤、オイスターソース、醤油、ビネガー、七味唐辛子、オリーブオイル、ケチャップ、マスタード、山葵……ありとあらゆる調味料が入った籠が擦り寄せられた。……そういう事だ。此処の店主の作る料理は、とにかく味が無い。これはシャーロックの悪戯などではなく、彼は自分の料理をそれなりに美味しいと思っている。もっとも、彼の場合どこで何を食べても……内縁の妻スワンの手料理だろうと、賞味期限を少し過ぎて乾涸びたパンであろうと、多少鮮度の悪い魚だろうと、「美味しいね」の一言で片付ける強靭な味覚の持ち主だ。最近の最近まで気がつかなかったが、どうやらもっと違う味が良いという客が多いのを知って、そんなにダメかな? と首を傾げながらも「味付けは各自で御自由に!」の精神で快く今のシステムになったのだった。

エディにシェパードパイを出すと、丁度エディがジャックを思い切り抱きしめ帽子の上から頭を撫で回し、勧誘の声を掛けているところだった。

「シェパードパイで……すって、あっ! 私の!」

私のジャック! 何を勝手に勧誘しているんだ……と、ジャックとエディの間に割って入りそうだったが、すぐにジャックが解放されたので、むっと口を噤み引き下がる。別にジャックはシャーロックの所有物でないのだが。シルクハット頭のジャックはしばらくゆらんゆらんと首を動かして一人で揺れている。

「まったく、油断も隙もない」

子供はこういうところが大変だ。ジャックは揺れるのを止めると、やっと解決法に気付いたのか、鼻のあたりまで被ってしまっていたシルクハットを両手で外し、「あっ!」と叫ぶ。まだ此処にきて二日、一度にたくさんの人物に会ったためか、ジャックは目の前にいる彼女の名前を思い出すのに暫し「んーーー」と考え込む。「エリィ……エミリー……」……捻り出す。閃く。「エディ、オネエサン!」

「…………」
こんな風だから、ジャックは容易に誘拐されてきたのだ。親を殺害されたというのに、その犯人と共に何の疑問もなく暮らし始め、まだ正体を知らないとはいえ恐ろしい殺人鬼集団の中に当たり前のようにどんどん溶け込んでいく。その危うさを孕む純粋さを、シャーロックは複雑な面持ちで見つめ、エディから繰り返された「子供って大変」という言葉に、カウンターに並ぶ彼女とジャックの肩越しに、自分が為した一昨日の汚れた仕事を追憶として眺めていた。

>エディ、all

3ヶ月前 No.29

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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3ヶ月前 No.30

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/西洋料理店Wildcat】

 白雨を見付けたジャックは、奇声とともにおかしなイントネーションで彼女の名を呼んだ。ネエサンは姐さんだろうか、此処に集まる殺人鬼達が彼女をそう形容するのを、ミリヤムも聞いたことがある。しかも、ミリヤムの言動のせいか、ネエサンはシショーに上書きされてしまった。ちらりと覗き見た白雨の様子は別に不満そうではなかったので、ミリヤムも特に訂正はしないでおくことにする。
「うふふ、師匠っていうのはね大切なことを教えてくれる人のことよ。先生でも良いわ。ジャックもいつか素敵な師匠を見付けるのよー?」
 何の、とは言わないけれど。

 シショーって何だと言わんばかりの顔をしていたジャックに適当な説明をし、店の出入り口へと駆け出した彼を追い掛けるようにミリヤムも歩き出す。そこには既に準備万端で手を繋ぐ白雨とジャックが居り、一瞬の逡巡を経て、ミリヤムは空いているジャックの右手をそっと掴んだ。僅かな申し訳なさはあったが、手袋はそのままだ。
 そうして改めて、反対側にいる白雨にも声をかける。
「こんにちは白雨姐さん、この間は助かったわ、ありがとう」
 いつぞやに人形作りのアドバイスを貰った時のことを引き合いに出して笑う。そして、ジャックを罪作りと言った彼女の言葉にうんうんと頷いた。
「ほんとにねぇ、この二人を侍らせられるなんて霧の都中探してもベイビーだけよこの色男。さて、おねえさん二人に囲まれて王子様は何をご所望かしら? おもちゃでもお菓子でもお洋服でも、シャーロックが買ってくれるわよ」
 そして取り敢えず、ミリヤムの中では散歩とはウィンドウショッピングのことを指すらしかった。遊びに行くと言うより買い物に行くと言う勢いで、店の扉に手を掛けた。

>ジャックくん、白雨さん

3ヶ月前 No.31

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム(ウィリアム)/9月5日/ロンドン橋付近、テムズ河の畔】

 ウィリアムは、噎せ返る鉄錆の匂いに溺れながら、今し方殺めた女の体から流れる血をじっと見詰めていた。彼には血液性愛の気はなかったが、人間の体から出ていく血の量に比例して、蒼白く透き通っていく肌の様子が堪らなく愛しくて眺めているのだった。

 白い肌は陶器に似ている。虚ろな瞳はガラス玉のよう。もう二度と自分の意思では動かせない体は、球体関節のマリオネット――死体とは最早、至上の人形と呼べるのではないだろうか。それと二人きりで戯れるのは、此の世で最も美しく残酷で悍ましい。

 その光景を想像するだけで、ウィリアムの気持ちは昂り、その顔に凄絶な笑みが刻まれる。
 ナイフを振り下ろすのを止め、ウィリアムは彼女の完成図を思い描いた。血抜きは終わった、後は防腐処理と傷口の縫合と……彼女に映える衣装と装飾品。流石にこれ以上此処で作業は続けられないので、一度バラすなり何なりして運ぶ必要もあるか……。
 そうして少し冷静に今後の段取りを考えだしたウィリアムの耳に、僅かな音が届いた。小石が蹴飛ばされるようなその音に、今度は彼自身が血の気を引かせ、鼓動と脳髄がこれでもかと警鐘を鳴らす。彼女の姿に夢中になりすぎていて、何者かに接近を許してしまったらしい。手の中のナイフを見遣り、ごくりと生唾を飲み込んだウィリアムは、決死の覚悟で振り返る。
 しかし次の瞬間、ばくばくと五月蠅い位に早鐘を打っていた心臓はすっと治まった。

「なんだ……アンタ確かシャーロックさんとこの……」

 丈の長いワンピースを纏ったピンクの髪の女性の姿を闇の中に何とか見据え、ウィリアムはほっと胸を撫で下ろした。そこにいたのが一般人なら死体が一つ増える所だが、彼女は――スワンはかのシャーロックの妻である。人殺しの現場を見られても特にこれと言った問題はない。強いて言えば、スワンの方が僅かに怯えているように見えることくらいか。
 にしても、とウィリアムは死体とスワンとを交互に見て、およその距離を測れば溜め息を吐いた。幾ら彼女に夢中になっていたとは言え、またスワンの立場もあるとは言え、此処まで近付かれても気が付かないとは、とても二百人近くの人間を葬ってきた殺人鬼とは思えない。次からはもう少し自重しようと、彼はこっそりと心に決めた。
 そうして改めて、ウィリアムはスワンの視線が自分が殺した女へと熱心に注がれているのに気付く。
「ああ、これ……綺麗でしょう? 俺は彼女を、これからもっともっと綺麗にして見せますよ……生きてた時の何倍も綺麗に。俺、人形作って売ってんですけど、良かったらお一つ如何です?」
 先程までの狼狽っぷりは何処へやら、ウィリアムは死体を見て明らかに恍惚としながらセールストークを始めた。サービスしますよ、何て冗談めいて聞こえる言葉も、決してスワンへ取り入ろうとしているのではなく彼のプライドに由来するものだった。

>スワンさん

【わぁい、お待ちしておりました! 目撃ありがとうございます。】

3ヶ月前 No.32

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/おさんぽ】

ふぅん、とジャックは解ったような解らなかったような顔で口を尖らせた。師匠は大切なことを教えてくれる人。白雨はミリヤムに大切なことを教えてくれるという事。たいせつ、ってどんな事だろう?

「ジャックも、ししょー ほしいな、いいないいな」

なんの、とは、よく解っていないようだった。しかし、幼心にも二人を繋ぐ絆のような何かは言外にも気配のように感じ取れたようだ。ふと、ジャックの左手にさらりと滑らかな細い指が絡みつく。ひんやりしているが、しっかり握ると芯の温かい手だ。

「つみつくり って、えすこーと のこと?」

罪作りはエスコートではない。エスコートは、女性を侍らせることでは絶対にない筈だ。自分の置かれた贅沢すぎるこの状況の有り難みをちっとも理解しないまま、ジャックはされるがままに空いていた右手も預けてしまう。右手に繋がる手は、少し大きく指は細く長いながらしっかりして、さらさらとした手袋越しに体温が伝わってきた。こんな風に両手を繋がれて出掛けるのは生まれて初めてのことで、ジャックはわくわくして目を輝かせた。
両手を万歳したような格好で、濡れた石畳の街を歩く。雨はしとしとといまにも止まりそうな小雨のまま降り続いていた。ジャックは時折、白雨の差す異国の傘を物珍しそうに見上げて、それからまた嬉しそうに小さな口で弧を描いては白雨とミリヤムを交互に見比べた。お喋りをしながら、霧の都の街を行く。
「おもちゃ! おかし!」
ジャックは水たまりの上をスキップした。二人の腕に吊り下げられるようにして、大きな水溜りを飛び越え、着地する。その先にある小さな水溜りが、ピチャンと音を立て刹那に飛沫を上げた。
やや歩いて着いたのは、まだ来たことがないエリアだった。若者の通りが多く、傘の花が行ったり来たりしている。目に飛び込んでくる看板やショーウィンドウ、全てが目新しくて、それだけでも楽しそうに、ジャックはキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回した。

>白雨、ミリヤム

3ヶ月前 No.33

洗濯蟻 @arinohito ★iPhone=n7Rebp7mCv

【ドールホーン/6月13日/聖アンダーソン教会】


「雨はまだ続きそうね……」

つたつたと教会の屋根を雨が叩く音がする。本を閉じて紅茶を飲み干したドールホーンは椅子をガタリと下げて立ち上がる。

土が柔く湿らない内に穴を埋め切らないと行けないだろう。


Rain rain go away, Come again another day.
Etticoat wants to play.
Rain, rain, go to Grave garden, Never show your face again!


雨よ雨よとマザーグースの替え歌を唄いながら表に出ると、雨粒が石畳を打つ漣めいた音が耳を洗う。
中程まで埋まった墓穴からは恨めしげに突き出た右手が黒雲を掴むように伸びていた。

シャベルを掴んで土を掬い、穴の上に振り落とす。土を掬い、振り落とす。叩いて均してまた土を被せ、小雨の降る中行われた作業は最後に粗末な十字架を土の山の上に挿して終わった。

奴等の墓に書く事は何も無い。故に白無垢の木の板を組んで縛っただけの簡素な物だ。形式上最後に十字を切っておき、使い終わったシャベルを納屋に仕舞いに行く。

教会の裏手はそこそこに広い墓園になっているが、埋まっているのは自身が手に掛けた者達の骨とか遺品とか、仲間が処分に困って持って来たあれこれだけなので此処に来る人は殆ど居らず、荒れに荒れている。その一角に納屋があり、『仕事』に使う物品が置かれていて、シャベルは壁に掛ける。

他にはノコギリだとか枝切り鋏だとか、鉈にツルハシ、先の戦争での使われた物ではあるが槍や剣やメイスなんかが置いてある。コールタールの樽、農機具なんかは隅の方に山になっていて、壁に据えられた棚の上には雑多な我楽多に混じり頭蓋骨が五つ。


My mother has killed me,
My father is eating me,
My brothers and sisters sit under the table,
Picking up bury them under the cold marble stones.


初めの一人は物の弾みで。悪戯で薪割り斧の頭に細工して置いたのが忘れた頃に吹っ飛んだ。
百人目は首に縄を括り付けて目隠ししたまま梁の上を渡らせた。布の間から伝う涙は美しかった。
二百人目は死体の処理も手慣れて来た頃。じっくり煮込めば骨も蕩けて柔らかくなる。小説のトリックが役に立った。
三百人目はビズの依頼主。自分を騙して口封じしようとしたけれど逆に鉈を脳天に叩き込んでやった。許しを乞うて哭き叫ぶ顔は滑稽だった。
四百人目は孤児の少女だった。趣向を凝らし、持てる技術を全て使って出来るだけ長く活かすよう務め、その際の全ての記録を取った。思い返すと未だに下腹部が熱くなる。

納屋を締めて鍵を掛け教会に戻る。一度だけ空を仰ぎ見て、孤児に本でも読み聞かせようかと思案しながら濡れたカソックコートを服掛けに投げかけて、髪を乾かす為に暖炉に薪を焚べる。
そうしてまた椅子に座り、小説を開くのだった。

>>ALL

3ヶ月前 No.34

凍雨 @kafune☆01.vmkBoVYY ★iPhone=wo7ubgUPjt



【 ルイス / 6月30日 / ベイカーストリート 】


 ベイカーストリートの一角で建物に背を預けながらルイスは目を凝らした。が、闇夜に立ち込める霧が邪魔をして前がよく見えない。どれだけ探しても先程までルイスが居た工場は姿を表さない。夜霧が全てを覆い隠してしまったらオレのせっかくのショーが台無しになってしまうではないか。そう腹を立てながら口許を卑しく歪ませ、今はひとまずそれでいいと自らを宥めた。だって、ルイスの本当の楽しみはもう少し後に控えているのだから。ゆえに今は焦らず、ゆっくりと、『俳優であるルイス』に成り代わる為に何処へ身を潜めておく必要がある。


 さて、どうするか。考えていた最中、すぐ側の店の扉が鈍い音を鳴らした。――不味い。ルイスの脳内では瞬時に逃げ出すか、近場へ立ち寄った者の振りをするか、はたまた店から出てきた者によっては襲ってしまえば等と思考を巡らせていたがそれはヒールの音を連れて、若葉色の長い髪を揺らしながら現れた者――リリィから訊ねられた台詞によって遮断される。
 一瞬キョトンとした顔をしながらも突然、吹き出したかのような笑い声を上げ、ルイスが愉快そうに嗤う。そうして気が済むまで嗤ったら一呼吸置いて生意気そうな顔をして口を開く。


「――そんなの、最高に決まってるじゃん」


 自信満々に胸を張るルイスは俳優の仮面を被ることにしたらしい。殺人鬼としての仮面は脇に据え、役者ルイスは気紛れに辺りを見渡した。そしてリリィが出てきた建物をマジマジと舐め回すように眺めつつ、ねえ、と声を掛けた。


「ココ、アンタの店なの?」


 随分廃れてるけど、なんて小言を挟みながらリリィに問うて。

>>リリィ様、周囲おーる



【絡みありがとうございます! すっかり生意気ぶってるルイスですが宜しくお願い致します〜!】

3ヶ月前 No.35

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / おさんぽ 】

 師匠、大切なことを教えてくれる人。ミリヤムがジャックに説明しているのをぼんやりと聞きながらも口許に弧を描かせる。この幼く無垢な少年が羨ましがるような、そんな美しいものではないんやけどなぁ、なんてことを口に出すことはなくて。

「うふふ、ジャックはんもいつか出来るかもしれまへんなぁ」

 握られた手にゆるりと目を瞬かせ微笑を零す。人間というのは温かいものだな、と久々の生きた人間との触れ合いに少し緊張しているのは秘密だ。ふと、ミリヤムからかけられた言葉に嗚呼、と呟き唇を開く。

「気にせんといてください。わっちがお力になれるんどしたらいつでも」

 いつのことだったか、と少し思考を巡らせるがなんとなく察したようで首を横に振る。その横で罪作り、という言葉にちょっと変わった解釈をしたジャックに微笑を零しながらくるくると唐傘を回す。

「エスコートとはちょっと違うんやけど、こんな美人二人連れて歩けるジャックはんは幸せどすなぁ、うふふ、王子様はお買い物をご所望みたいやし、後でシャーロックはんに請求しまひょか」

 くすくすと笑いつつも楽しげに歩くジャックを見つめながら自身は着物の裾が濡れないよう、水溜りを跨いで歩く。賑やかなこのエリアを白雨も詳しくはしらなかったが様々な店々を見流してから「ジャックはんが入りたい店行きまひょ。どこがええ?」と小さな少年を見つめ首を傾けた。

>> ミリヤムさん、ジャックくん

3ヶ月前 No.36

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月10日/スイーツ専門店-happy apples-】

この日のジャックは丁度、新しい家族と買い物に出掛けた帰り道だった。天気は優しい曇り空。穏やかな風の吹き抜ける森の小径を、団栗を拾ったり野花を摘んだりしながらジャックは愉しげに進んだ。
背後から「おおーい、ジャックちゃん、泥濘(ぬかるみ)に気を付けてくださいよ、新しいお洋服でスリップしないで」と草臥れたような中年男性のなさけない声が息を切らして追いかけてくる。彼の保護者は、両腕に山のような紙袋を提げ、更に胸の前には塔のようにうず高く積んだプレゼントボックスを抱えている。紙袋にもリボン飾りの箱にも、霧の都の百貨店に看板を連ねる子供服店や子供用品店のロゴが入っていた。自分の店のホールで培った給仕の腕前も大して活きなかったらしく(そもそもあの洋食店で、盆の上に溢れかえる料理を曲芸のように運ばなければならぬほどの盛況は見たことがなかった)、溢れかえる愛情の塔は今にも倒壊寸前だった。品の良いスーツも台無しで、僅か三、四歳ばかりの子供に振り回される中年紳士を、一体誰が殺人鬼を仕留める殺人鬼の古株と思うだろう。

二人は、ハンデのありすぎる鬼ごっこを繰り返しながら、赤い屋根の可愛らしい家の前に辿りついた。
森の中に突如現れたドールハウスのような可愛い家は、まるで絵本の世界から飛び出してきたよう。その門前に立ち止まったジャックを、シャーロックがようやく捕まえた。
ゆらりと立ち昇る黒煙のような、高い影が少年の隣に並び、しかし柄に似合わず優しい笑みを向ける。付いてくるように促すと、塞がった手を差し伸べられずともジャックはその背後に続いて甘い甘い世界への扉をくぐった。カランカランと、陽気なベルが鳴る。

ジャックの鼻孔を擽るのは、焼きたてのお菓子の、今まで嗅いだこともないような甘くて美味しい匂い。丁度目の前を通り過ぎて行ったアップルパイとコーヒーを、背伸びをして覗き込もうとし、鮮やかなアクアマリンの目はすっかり未知の食べ物に釘付けだった。

「此処は、私の知り合いがやっているスイーツのお店です」
「すいーつ?」
「甘くて美味しいもののことです。スワンの買い物が終わるまで少し待っていましょう…………ああ、こんにちは。アル」

ジャックを四人がけテーブルの、窓の外がよく見える席に座らせながら優しく教えてやるシャーロックの眼差しは、まるで父親のようだ。突然増えた家族の為に必要な物資を買いに、妻スワンとジャックと三人で出掛けていた。傍目にはまるで家族のように映った事だろう。だがその実は、殺人鬼と、妻のように暮らす仮初の恋人と、全く別の家族から誘拐してきた他所の子供が仲良くショッピングをして帰りにお洒落なスイーツ店に寄っている図だ。そんな事情を知る由も無いジャックは、大人しく座ってなどおらず、ショーケースに張り付くようにしてケーキを不思議そうに見つめている。そしてそんな事情を深く考える気も無いのかシャーロックは、日頃から懇意にしている若い店主の姿を見つけると、にこにことして帽子を取りながら挨拶をした。何せ、妻やジャックには悪いが、このhappy appleの店主アルこと、アルトは、シャーロックの大の大の大のお気に入り殺人鬼なのである。つまりは、ショタコン的な意味合いで。目の中に入れても痛く無い、と言わんばかりの緩みようで、ジャックが来る前からアルトのことは甘やかし続けている。彼の店に来るのも、果たしてスイーツが目的なのか、アルトを応援するのが目的なのか、わかったものではない。

>アルトさん、all


【ジャックでアルトさんに絡ませていただきました。スイーツ店までの足はシャーロックで……。宜しければお願い致します。ジャックとはこの時が初対面という設定でも、最初の夜に一度会っている設定でも構いませんよ〜】

3ヶ月前 No.37

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/8月16日/ロンドン橋→聖アンダーソン教会】

ジャックが霧の都に誘拐されてきて、二ヶ月半近く過ぎた。霧の都の短い夏が、終わろうとしている。
此処での生活に慣れてきたジャックは、自宅付近でなら一人で遊ぶこともあった。この日は保護者たち≠ェ同伴で、ダニエラのところの美味しいパンを使ってシャーロックが作った、あまり美味しくないサンドイッチ≠手にテムズ河の畔でピクニックをするはずだった。
珍しく、霧の都に僅かな晴れ間が見えた。川は水底に今まで宝石を隠していたかのようにきらきらと輝いている。しかし遠くには、既に厚い鉛色の雨雲が迫っており、この天気もそう長くは続かないことを暗示している。大人達が雨雲に追いつかれる前にいそいそと帰り支度を始めると、ジャックは暇になってしまって、橋の上からテムズ河に石を投げて遊び始めた。

「London Bridge is broken down,Broken down, broken down……」

殺人鬼の一人が教えてくれたマザーグースの歌を、ジャックはあまり意味も知らずに口遊む。手元の石は次々にロンドン橋の上から身投げして、テムズ河の底へと沈んでいった。

「あっ」

それにも飽きてきたのであろうジャックは、思い出したように顔を上げた。ポツーーーーと降り出した雨が、袖に淡いシミを作り、ついで、欄干へ、肩の上へ、頭の上へ。河から立ち上る霧の向こう、古びた教会のとんがり屋根が見えた。

「ドールホーンの きょうかい」

今迄に何度か訪れた事のある、シスター服の彼女の家を、如何やらジャックはちゃんと教会と認識しているようだった。ジャックが誘拐されてきたばかりの頃はなかなか顔を合わすことがなく(もちろん彼はその時の彼女の心境など知る由も無い)、出会ったのは最近のこと。けれど、おはなしを かく おしごと≠しているという彼女の部屋には沢山の本というものと、沢山の歌と、美味しいお茶とコテージパイがあった。ジャックは相手が子供好きであろうとそうでなかろうと、顧みず、興味を持ったものや楽しいものがあるところには直ぐに駆け足で向かうのだった。この日も。

ひび割れた石畳を踏み、雑草だらけの庭を通って、色褪せたステンドグラスを臨む錆びた鉄の門の前にジャックは立って声を上げた。手をメガホンのようにあて、身体をくの字に折り曲げて。

「おーい」

>ドールホーン、周辺all


【予告(?)の待ち合わせレスです。宜しければ絡みましょう! 初対面がどんな風だったかは御想像にお任せし、何度か会ったことがある設定で日常を切り取ってみました。ピクニック引率の大人の方、どなたかやってくだされば迎えにきてくださるのも美味しい……】

3ヶ月前 No.38

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/7月2日/ベイカーストリート裏路地】

真夜中のベイカーストリート。赤煉瓦の壁に、黒く巨大な影法師が現れる。霧の都の夜を行く怪物の影。
背の高いシルクハットに、たっぷりと夜風に翻る蝙蝠のようなコート。畳まれたままの傘と、枯れ木か或いは蜘蛛のような細く長い脚。巨大な影法師は煉瓦模様の凹凸の上を滑るように、殺人犯の少女の背後から這って迫ってくる。

「…………またですか、ミカエル」

咎めるような厳しい声が、凛と辺りの空気を震わせる。ふっと、月が翳ると、壁沿いに追いかけてきていた漆黒の化物が姿を消した。代わりに山の如き影はしゅるりと沙羅の音すら立てそうな鮮やかさで収束して、声の主の足元に集まって、本物が濃霧の中より現われ出でた。
血生臭い夜霧を襟に裾に絡ませて、迷惑そうにポケットの中の依頼書を握り潰している。彼はあの恐ろしい影がそのまま凝集したかのように真黒で、冬の大樹か鋭利な刃物のように冷たく佇んでいた。

「ミカエル」
彼……殺人鬼・シャーロックは目の前の惨状を一瞥し、状況を理解したようだった。一瞬言葉を切った後に、もう一度彼女の名前を呼ぶ。小柄なミカエルとの間には、50cm近い身長差がある。壁のようにぬっと立ちはだかり、ハットの翳り差す目元が視線だけで彼女と屍の小山を見下ろし、傍のルーツァンを冷え冷えとした眼差しで一瞥する。
シャーロックはつかつかと二人の間に割って入ると、不意にミカエルの前に身を屈めた。まるで平手打ちにでもしそうな所作と形相ながら、一変してルーツァンから彼女が掛けようとして辞めたペストマスクを奪い取り、ミカエルの顔に装着した。

「君が感染してはいけない」

蟠る静かな怒りを、理性で押さえ込んだような顔をする。血の匂いがする。眉を潜めた。手を、切り落としたのか。
直接吸わされなければ死には至らない毒であっても、それを使うミカエルの曝露量は一般人の何倍にも及び蓄積されるだろう。況して、子供の体躯である彼女には……。

「ルーツァンも甘やかしすぎだ」

自分のことは棚に上げ、背後のルーツァンをキッと見上げてチクリと棘のある言葉を刺す。彼女が手にした武器のスコップ、屍から離れて転がった手首。ミカエルの恒例行事を、ルーツァンが手伝ってやったらしいのは一目瞭然だ。溜息をつく。子供好きのシャーロックが、ミカエルの母親のようであるルーツァンにこうして腹を立てるのは一度めではなかった。
ペストマスク越しに見えるミカエルの、焦点の合わない目を見つめ、僅かに目を眇める。
ーー薬か。
彼はさっと立ち上がる。

「依頼書にあったのは、この御客様一人のはずでしたが? 殺しすぎです」

淡々と、しかしねちねちと、慇懃無礼とも取れる丁寧な説教が始まる。しかしルーツァンと違って彼は薬には気付いていても言及はしなかった。
コートの中で握り潰している依頼書の標的は、余分な命を道連れに既に足元で息絶えていた。無論、手柄を取られたことを怒っているのではない。もう少し自分が早く来れば、という自責の念もあったのだ。ただしそこはシャーロックも殺人鬼。余計に四人もの尊い命を奪った≠ニは微塵も考えていない。余計に四人分も女児の手を汚させてしまった≠ニ親心に思うのみである。此れでは、彼女のような殺しすぎた殺人鬼や、自分のようなならず者の殺人鬼を達が極刑に処されぬように、政府に殺し屋の誇りを売った意味がない。

「ミカエルは若いのに有能な殺し屋です。私よりも余程ーーいや、その歳でその業績は仲間内でも一二を争う腕前と言っていい。ですが、毎回毎回こんなに余分に殺してきて事を大きくしては、目を付けられますよ。何処に行く先々で何倍も余分に殺し華々しい業績をアピールする暗殺者がいますか。我々は軍人ではなくて殺し屋です。貴女の若く逸る気持ちもわかりますが、気付かれないよう忍ぶということも覚えるべきでは」

小煩い説教は、まだまだ続く。
ルーツァンの視線もお構いなく、肌に纏わり付いていた夏の夜が冷えて行くのもお構いなく。

「……ミカエル。貴女の身体も心配です。私は、貴女の為を思って言っているのですよ」

普段なら甘く幽かに震える囁きのような声音が、冷徹になって機関銃のように一息に喋ってしまうと、それから少し疲れたような哀しそうなしおらしい声になった。
ルーツァンとミカエルの間に転がり落ちた、切断された手首を、空き瓶でも拾い上げるように回収する。骨の見える輪切りの断面から冷めた血が、生者の勢いを失くしずるずると流れ出る。自分の犯行では殆ど汚すことのない純白の手袋が、闇夜にも尚黒く見える程迄に赤黒く濡れていくのをただ黙って見つめていた。
折角ルーツァンが切断してくれた戦利品≠目の前で取り上げてしまうと、シャーロックは踵を返した。本当はこんな煮ても焼いても食えないもの、欲しくもないのだが。

「これは預かっておこう。手首はもう一つ付いているようですが、私は何処かの優しいお母さんと違って子供≠フ悪い遊びには加担いたしませんからね。……ルーツァン」

行きましょう、と、嘗ての相方≠フこれ以上の叱責を抑止するように声をかけ、一足先にミカエルの殺人現場をそのまま後にした。

>ミカエル、ルーツァン、all


【鉢合わせokだったようなので、追いレスで合流させていただきました! 1レスでお説教し掃けた結果、長くなってしまいました、読みにくくてごめんなさい(汗)】

3ヶ月前 No.39

シチダンカ @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シチダンカ/8月31日/シチダンカ宅前】

 彼の後を追う。
 爪先で降り立ち、無意識に膝を曲げて衝撃を受け流した。髪が重力に従い直してやや遅れてから、霧雨が皮膚上に纏わりつくのを再開する。それにしても髪、縛ってこればよかったわ。霧を喜ぶなんて、逃走者以外にはいないのに。頬にへばりつく前に、前髪をかき上げて後ろ髪までをまとめて流した。霧に目が慣れるまでの僅かな間、ふと視界の端で影が動く。霧に隠れて三重にもぼやけるそのシルエットには、案の定一部が歪に欠けていた。

「未だ生きててくれてよかった」

 ヒールの足音にかき消しながら、勿体付けるようにゆったりとした一定の歩幅で間合いを詰めていく。これは狩りではなく、救いなのだから。目の前で芋虫のように地を這うその血の染みついたシャツの、彼の背中をヒールで撫で付けた。びくりと、彼の肩が跳ねる。あたしへの恐怖心だとか、そんな次元ではなく、きっと動物的な本能なのだろうけれど。芋虫のあなたを、此処で蝶にしてあげたいのよ。――さて。牛刀を持ち直した。

「ごめんなさいね。お喋りしたいのは山々なんだけど、先に仕事片付けちゃうわね」

 後方の気配に向かって、それだけを伝える。果たしてどちらに用事があるのかは知らないけれど、――もう優先順位は決まってるの。しゃがみ込んで、彼の首に手を回す。左腕に狙いを付けて、一振り。ぎゃ、と喉を引っ掻くような悲鳴が一つ。

「あたしいつも詰めが甘いのよね」

 右太腿に狙いを付けて、一振り。鑢のように攻撃的な悲鳴が一つ。

「だからいつも」

 右太腿に、もう一振り。

「力任せにやっちゃって」

 次は、左太腿。彼の声はもう、二度と聞こえない。黒マントの裾が、広がる血液を染み込ませていく。

「……服汚しちゃうのよね。これ、仕立ててもらったばかりなのに」

 乱暴に宙で血振りを行って、牛刀をポーチに仕舞い込む。それから、ゆっくりともう一つの気配に向き合った。霧の中に浮かぶシルエットは小柄だった。辛うじて霧に透けて見えたその姿から、小さく感じた親近感に僅かに口角を緩める。誰にだってヒミツはあるもの。

「あたしに用かしら、お嬢ちゃん?」

>メロウ、ALL
【絡んでくださってありがとうございます!!】

3ヶ月前 No.40

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/おさんぽ】

 ジャックを間に挟んで並んだ白雨とミリヤムは、霧雨の中、ゆっくりと彼の歩調に合わせて歩き出す。
「うふふ、何時か出来るわよ。だってジャックは、アタシ達の息子だもの」
 師匠が欲しいと無邪気に笑うジャックに、ミリヤムは相変わらず師弟関係の中身を伏せたまま無責任に告げた。着せ替え人形と同レベルの愛で方をしている彼女が息子発言をするのはそれこそ無責任だが、殺人鬼達のうちの何人かは――驚くべきことに――ジャックにもマトモに接しているので問題はないだろう。
「うーん、それはちょっと違うわねぇ……誰よこの子にエスコート教えたの」
 ジャックの間違った解釈にぶつくさ言いながら歩いていると、そこそこ人の往来のある通りに辿り着いた。彼は目を輝かせて傘の群れを眺めているし、反対側を歩く白雨は、何処に行くかは任せきりの様子である。
 確かに此処なら、ジャックの望むおもちゃもおかしも買えるだろう。先程から彼の興味を引いているらしい白雨の異国の傘だって売っているのかも知れない。

 けれど、ただジャックの買い物に付き合って、後々タダ酒を飲むだけでは、ミリヤムという存在は満足しない。

「ねぇマイスイートベイビー? 玩具やお菓子も勿論だけど、素敵なお洋服も欲しくない? ミリヤム、王子様みたいにカッコいいジャックが見たいなぁ……別に貴方が良ければ、お姫様みたいに可愛いのでも良いんだけど。ね、白雨姐さんも見たいわよね?」
 猫撫声で告げる。
 もう一度言おう、ミリヤムはジャックを、着せ替え人形と同レベルの愛で方をしている、と。

>ジャックくん、白雨さん

3ヶ月前 No.41

洗濯蟻 @arinohito ★iPhone=n7Rebp7mCv

【ドールホーン/8月16日/聖アンダーソン教会】


この日は湿気て暑い日だった。
ただ暑いだけなら我慢が効く。だが湿気は如何にも耐えられない。その点地下にあるドールホーンの部屋は換気さえすれば涼しいものだ。

短い夏、今日も街に雨が降る。浮かれた熱を冷やす様に。


ガチャ ゴンッ


重厚な木の扉を開く。元は礼拝堂の一つだったらしいドールホーンの部屋は、この扉と天井近くの壁にいくつか開いた小窓くらいしか外へ繋がってない。なので長居すると息が詰まりそうになるが、逆にそれが小説を書くのに丁度良いのだ。

階上に続く石の階段。それほど長くは無いが、長時間同じ姿勢だと身体が固まってしまって階段を登るも降るも疲れてしまう。

階上はそのまま聖堂に繋がっていて、今日も暑さに茹だる孤児や浮浪者が涼や日陰を求めて此処に来る。

駆け寄って来る子等が本の読み聞かせをせがむが、それは後でねと頭を撫でりつつ小部屋の一つに増設されたキッチンに向かう。

屋根をつたつたと雨粒が叩く音が聞こえたのでまた雨が降るのだろう。

「ちょっとは涼しくなるかしらね……」

氷室で冷やしておいた紅茶のポットを開けつつ、曇り掛けたガラスの向こうを見る。此処からは何も見えない。所々緑が残る生垣とその向こうにある石積みの壁があるだけ。


「ん……」


不意に面から自身の名を呼ぶ声が聞こえた。あの甲高くも無邪気な、子供特有の声を聞いて、数ヶ月前に知り合った幼子の事を思い出す。

「ジャック」

小さくその名を呟いて、教会の表門を開けに行く。

ジャック。仲間の一人が連れて来た純粋無垢な子供。当初はロクに話す機会もなく仲間内で人伝に聞いた話でその存在を認識した。一ヶ月ほど前にようやく顔をはっきり見る事が出来て、話すことが出来たのもその時が最初。

女の子かと思っていたが実際は男の子だったので驚いた。拙い言葉で自己紹介してくれたのでこっちも名前を言うべきか迷い、結局『ドールホーン』と名乗って付き合いを始めた。前に数度此処へも来た事があり、その時に興味を示した本からいくつかマザーグースやらナーサリーライムやらフォークロアやらを読み聞かせて仕込んでみた所、直ぐにいくつかを覚えてしまった。聡明な子だ。

最初に覚えたのは『ロンドン橋』で、曲の意味について彼方此方聞いて回ったらしい。まぁあの時教えたのはほんの一部だけで、本当の『ロンドン橋』はもっと長いのだけれど。


「いらっしゃい……開いてますわよ」


扉を開けると果たしてそこにジャックが立っていた。雨に濡れかけていたので取り敢えず中に招き入れ、服掛けからタオルを取って彼に渡す。

「良く拭くのよ……丁度良い時に来たと思いますわ。今丁度仕事がひと段落つきましたの……」

奥にジャックを案内する。片隅にあるテーブルの上には一部が切り分け取られたコテージパイと保温瓶に入ったレモネード。夏場にはレモネードが一番だと裏の墓苑の隅にある菜園で取れたものを使っている。

「また、御話でも聞きに来ましたの……?それとも暇潰し……?」


>>ジャック

3ヶ月前 No.42

@xxxri0 ★iPhone=jRTGQCns6m

【 Lily / 6月30日 / ベイカーストリート / 廃れた彫刻屋「 L 」】

"そんなの、最高に決まってる"

淡い桃色の髪から覗く、銀色の眼を卑しく光らせて、女の問いに男はそう返す。中性的で整った顔立ちの男に何処となく既視感を覚えたが、首を少し傾げ、やや最近の記憶を舐める様に遡ってから、気にする事を止めた。女は記憶力に定評がない。興味の有る事柄ならば、異常なまでの執着を持って記憶する事が出来るのだが、それ以外については全くと言って良い程に皆無なのだ。風に舞う己の髪を、少し鬱陶しそうにかきあげては、一呼吸置いて、男が問うた事に対する返答を。

「 ーー ええ、私の店よ。随分と廃れちゃったけれどねえ … 住むには問題無いし、店としても然程、問題は無いのよ。こんな廃れた場所に、誰も脚を踏み入れようなんてしないんだもの。小綺麗に改装しようとも、もう思わないわ。」

男の視線の先へ、次いで己を視線を這わせよう。改めて見ると、確かに廃墟同然にも見える。けれど、この廃れ具合が良いのだ と女は思う。とても客人を迎え入れられる様な外装ではないが、店内はといえば、割りと小綺麗に片付けられているのだからノープロブレムである。クルリと男に背を向けて、蝋燭の灯だけが微かに揺れる、薄暗い店内へと戻って行きながら

「 行く宛が無いのなら、いらっしゃい。行く宛が有るのなら、帰りなさい。未来が有る子って、私嫌いなのよ。行く宛も帰る宛も有る様な子。妬み、と言われればそうなのかもしれないけれど、第一に … 濡れないからね。」

女は振り返らない。ヒールをコツコツと再度鳴らし、薄暗い闇の中へと身を溶かす、まるで魔女の様な妖艶なる雰囲気を纏って。男がどんな表情をしているのか、気にならない訳では無かった。けれど、それでも女は振り返らない。ギシギシと耳障りな音を立てながら、室内のソファーに足を組み座れば、その男の反応を待とう。

>> ルイス様、周囲ALL様



(( 遅くなって、御免なさい!

3ヶ月前 No.43

エディ @d0ap ★iPad=qTOmkAVEvD

【エディ/6月8日/西洋料理店Wildcat】

美味しいカクテルと可愛い子供に上機嫌になっていると店の奥、厨房から食欲を唆るいい匂いが漂ってきた。シャーロックが出来上がったシェパードパイをカウンターへと運んで来たところで、ジャックを弄っているエディを咎めるように声を上げる。対するエディはシャーロックに向かって「可愛がっているだけじゃない」と少し不満気に言葉を返すとジャックから体を離し、カウンターに置かれたシェパードパイへ目を向けた。その見た目の美しさに此処の料理の最大の欠点を忘れそうになる。シェパードパイと共に運ばれてくる多種多様な調味料。そのいくつかをエディは慣れたように手に取ると遠慮なく料理にかけていく。本来であれば料理人を冒涜する行為なのだが、シャーロックの作る料理には味がついていないため仕方のない事だった。

「見た目や香りはお酒と同じくらい最高なのにねぇ」

自分好みの味を付けつつ「勿体無いわよね」と呟くと、空腹を満たすために料理を口に運ぶ。料理を黙々と半分程食べたところで隣から聞こえた声にエディは再び目線をジャックへと移した。先程まで大きなシルクハットが隠していた天使のような輝く柔らかそうな金の髪に空の色を写したような青い瞳の可愛らしい顔がエディの視界に入る。それに加えて一生懸命名前を思い出そうと思案するその姿もとても愛らしく、更に自分の名前がその小さな唇から飛び出すと心底満足そうな笑みを浮かべた。

「ふふっ、正解!よく覚えていたわねぇ。良い子よ、坊や」

今度は優しく大きな手でジャックの頭を包み込むように撫でる。オネエさん≠ニはよく呼ばせたもので、エディは女性とはかけ離れた体格、服装をしている。女性らしいのはその仕草や言葉使い、綺麗に編み込まれた髪に化粧を施した顔のみ。それでもジャックは素直にエディを受け入れたのはまだ幼く知識も少ないからだろうか。そんなジャックに日々此処に通うエディはとても癒されていた。

「そうだ。正解した可愛い坊やに良いものを見せてあげる」

顔の前で手をぽんと合わせると、なにやらカバンの中を探りながら「生き物は好きかしらぁ?」と声をかけつつ取り出したそれをジャックによく見えるように目の前に置いた。それは空気穴が空いているガラスケース。中には鮮やかな黄色を纏った瞳の大きい蛙がこちらをジッと見ていた。

>シャーロック、ジャック、all

【遅くなってしまい申し訳ありません;;】

3ヶ月前 No.44

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/おさんぽ】

石畳に染み込んでいく霧雨は、傘の群れに隠れる人々の肩も、ジャックの着ているレインコートのフードも、静かにしっとりと濡らしていく。
「ふぅん、エスコート、ちょっとちがうんだ……?」
ジャックは女性を連れ歩けばなんでもエスコートだと思っているらしかった。むしろ、エスコートされているのは子どもである自分のほうであろうに。しばらく不思議そうに白雨とミリヤムの言葉を聞いていたが、ややあって、「うん、わかった!」と絶対にわかっていないであろうが満面の笑顔で力強く頷いたのだった。
ジャックは首から下をすっぽりとポンチョ型のレインコートに身を包み、頭にはフードを被って、まるで東洋で言う照る照る坊主のような格好でるんるんと歩いている。
どの店に入りたいのかと尋ねられ、まだ代わる代わる二人を見上げては、口元が跳ね上がるように弧を描く。
霧雨に曇る窓、その中に、キラキラと輝くキャンディやゼリービーンズやチョコレートの詰め込まれた瓶が並んでいるのが見えて、ジャックは「きゃーっ」と甲高い奇声を上げながら駆け出し、頬がぺたりと白くなるぐらい張り付いた。
「キャンディ!」
白雨とミリヤムを追い抜いてキャンディショップのショーウィンドウに張り付いたジャックは、二人を振り返り、店の前を跳ね回りながら指をさす。

「ん? おようふく? ミリヤムは、おようふくみるのがすき? じゃあ、おようふくみにいこうね! おかしは そのあと、だよ!」

そう言った矢先の事だった。その瞬間、ジャック達の横を通り過ぎようとした辻馬車が、運悪く大きな水溜りを跳ね上げた。さばんと激しい音を立てて、針山のような水柱が上がったかと思うと、ジャックはまだ低い頭の上からシャワーのような水を一身に被る。こうなってしまうともはやレインコートの意味なんて何も無い。
「うわぁぁぁぁん!!」
驚いたのか、怖かったのか、ジャックは泣き出してしまった。先日シャーロックが見繕った子供服も、雨だか泥水だか鼻水だかよくわからない液体でびしょ濡れになっている。

>白雨さん、ミリヤムさん

2ヶ月前 No.45

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/8月16日/聖アンダーソン教会】

ギシリと音を立てて、目の前で閉ざされていた門が動いた。隙間から此方に向かって優しい声が響く。

「ドールホーン!!」
ジャックの顔が曇天の下にも分かる程パッと輝いた。
雨の匂いを連れたまま、招かれるままにジャックは教会の敷地内へと足を踏み入れた。シスター姿の婦人の横に並んで歩き、草の伸びた庭を通り抜け、古びたステンドグラスの下から招き入れられるのは初めてではない。
古びた教会の屋根は、降り出した雨からジャックを守ってくれた。「うん!」と頷いてタオルを受け取ると、慣れない不器用な手つきで頭をゴシゴシと拭いた。水気を切る犬のようにブルブルと頭を振りながら、案内されるがままに、いつものように奥の部屋へと進む。
ドールホーンのお話を聞くのが、ジャックは好きなようだった。尤も、中には……というより殆ど、4歳児にはよく理解できない物もあったようだが。そんなとき、ジャックはよく彼女を質問責めにする、手の掛かる生徒となった。それだけではなく、あの西洋料理店に集う他の大人達にも同じ質問をして回るものだから、そして其々が自分勝手な別々の答えをするものだから、彼の興味はなかなか尽きない。

「ピクニック、あめがふってきちゃったの」

ジャックはこの前に来た時と同じ椅子に腰掛け、足をふらふらとさせながら、ドールホーンに報告をする。テーブルの上には美味しそうなコテージパイとレモネードが載っており、特にレモネードはその爽やかな薄黄色を見ているだけで涎が湧いてくるようで、ジャックはごくりと唾を飲んだ。

「きょう 15にんのインディアンのおはなし が ききたいな!」

ジャックは、マザーグースの"Ten Little Indians≠煖Cに入っていた。単純に曲の軽やかさ親しみやすさと、数え歌のような調子の良さが気に入ったのであって歌詞はあまりよく理解していないのであろう、ドールホーンがいる時もいない時も、よく歌いながら指を折り数えて遊んでいる。

>ドールホーンさん

2ヶ月前 No.46

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/おさんぽ】

 手を繋いで歩いているうちは傘を眺めてみたり、エスコートの意味について考えてみたり。かと思えば手を振りほどくようにショーケースにまっしぐらになってみたり。全く子供というものは移り気である、路地裏の男娼の方がよっぽど誠実だ。
 そんなことを思いながらも、ミリヤムは特に何も言うことなくジャックの様子を見守っていた。たとえ彼一人が霧の都を走り回っていようと、自分や白雨の目の届く範囲にいる限り、万が一にも危険はないだろうと思っていた。
 だから、ミリヤムの隣を馬車が走り抜けた時も、その行く先とガラスに張り付くジャックの姿をちらりと見遣っただけで終わってしまった。二つの距離は物理的な危険を伴うものではなかった……ただそこに、大きな水溜まりがあっただけで。
「……あらあらまあまあ」
 馬車の車輪が作り出した大きな水飛沫を全身で受け止めたジャックは、一瞬でずぶ濡れになった。火がついたように泣き出した彼に、ミリヤムは小さく溜め息を吐く。

――さっきの馬車の運転手……ここに居るのがシャーロックじゃなかったことに感謝なさいね。
 一応英国紳士然とした男だ、形振り構わず報復には走らないだろうが、適当な理由をつけて殺される可能性はある。

 そのままジャックの所まで歩み寄ったミリヤムは、鞄からレースのハンカチーフを取り出すと、泣きじゃくるジャックの顔を拭う。
「ほらほら、泣かないのベイビー、可愛いお顔が台無しよ。アタシの為に新しいお洋服を見てくれるんでしょう? だったらちょうどいいじゃない、ね?」
 そうして、慰めなのか何なのか分からない言葉を告げるのだった。

>ジャックくん、白雨さん

2ヶ月前 No.47

凍雨 @kafune☆01.vmkBoVYY ★iPhone=VYPk6iMpWR



【 ルイス / 6月30日 / ベイカーストリート→廃れた彫刻屋「L」 】


 最高だと嗤ったルイスを見て、リリィは首を傾げている。その様子に疑問を覚える。裏の顔は殺人鬼であるけれど表向きにはそこそこ有名な劇場でそこそこに有名な舞台の役柄を演じている若手俳優であるはずなのだが、どうやら目の前の相手にはそれが理解されなかったらしい。でも一層その方が都合が良いと思った。今は、まだ余計な心配しなくても済むから。今度どんなことがあったとしてもリリィにはルイスの存在を知られていない方が後々差し支えがないだろうと考えたルイスは、ひとまず目の前の彼女の話を黙って聞くことにした。


 こんな廃れた場所に、脚を踏み入れようとなんてしない。そう話すリリィの表情に嘘の色は見られなかった。寧ろ事実をありのままに嘘偽りなく語れるその姿勢が羨ましいと思う反面、疎ましいとも思ってしまった。が、それを覆い隠すかのようによく出来た愛想笑いを浮かべる。適当な相槌を打ちながらも、内心では目の前の人物は一体何者なのだろうと思考を巡らせていればこちらのことなんて気にかける素振りもなく、彼女は店内へ戻っていってしまった。なんの前兆もなく、暗い店の中へ溶け込んでいく後ろ姿を疑心の眼差しで見つめていたら、突然妖しげな声が響いた。その内容を聞いたルイスは暫くして首を傾げた。


「……なにそれ、アンタって相当変わってるんだねぇ」


 行く宛や帰る宛のある子が嫌いなんて、本当に変わっている。でもあながち分からない話ではなかった。それはきっと、自分がそうだからなのかもしれない。帰る宛がある奴は幸せ者で、それ以外は可哀想で不幸な子だと言われたならばその人の首は吹っ飛ぶ所だったが、どうやら彼女は違うらしい。第一に、の辺りからもルイスには意味が分からなかったので特にこれといった反応はしないでおこう。けれどリリィも又、常人ではないような気がする。そう結論に至ったルイスはふ、と大きく息をつく。


 さっさと店内へ戻ってしまったリリィのことを目線で追う。足音と同時に木製の床が定期的に鳴らし合う音を連れて、彼女は室内に置かれたソファーへ向かっている様だった。黒いヒールで飾られた長い脚を組んでそれに腰を掛けたリリィの姿を目にしたルイスはじっと、リリィのことを見詰めた末にこんなことをしていても埒が明かないことに気付かされた。恐らく向こうだって名の知れぬ訪問者を何一つ疑うことなく、快く迎えるような真似はしないだろう。少なくともオレならそうはならない。
 かと言って、招かれたのに疑心暗鬼になるあまりここで帰るのもルイスらしくない選択だとも思う。ならば、答えはひとつに決まっている。


「――オレには端から帰れる場所なんてないよ。……だからさ、少しの間だけ、せめて夜が明けるまでいいんだ。オレをここに置いてくれない……?」


 寂れた店のドアを潜るや否や、三流俳優かのように目にはうっすらと涙を浮かべ、如何にもワケありそうな臭い芝居をしながらここに居させてくれと懇願する振りをした。口や顔は演じれる。その意味が嘘でも真でもそれは演じる側にしか分からないのだからどんなことをしてもリリィには分かるわけがない。爆発事件を起こした直後の犯人が身を潜める為に人が寄り付かないであろうこの場所に居たいと思うことだって、きっと彼女には分からない。だから多くを語らず、情に訴える作戦に出た。
 上手くいくか、いかないかは運次第。そう思いながらリリィの近くとも遠くとも言い難い位置で孤児のような真似をして見せたのだった。

>>リリィ様



【遅くなってしまい申し訳ありません。一応店内に入らせて頂きましたがルイスの誘いを受けるも蹴るもリリィさんにお任せ致します……!】

2ヶ月前 No.48

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / おさんぽ 】

 アタシ達の息子、ミリヤムが言った言葉にゆるりと目を瞬かせ微笑を浮かべる。無邪気な笑顔のジャックは何も知らない純真無垢なままだ。唐傘の下で貼り付けた微笑の裏側の自分のことなどきっと気付かないのだろう。

「うふふっ、そうどすねえ。可愛いわっち等の坊ちゃんにはまだちいーと難しそうやけど、いつかは分かる日が来るかもしれまへんなあ」

 いつか美しく成長するであろうその姿を想像しては物言わぬ躯と変えてしまいたくなる、胸の奥底にそんな思いを沈め可愛らしいレインコート姿のジャックを見つめた。

「あらまあ、わっちは洋装は詳しくあらへんからミリヤムはんにお任せしときます、和装はジャックはんにはちょっと歩きにくいかもしれまへんけどきっとかわええと思いますよお」

 洋服を、と提言するミリヤムに同意するジャック。それを聞きながら頷きそんな言葉をかける。お菓子はそのあと、そう言って笑うジャックに笑みを零していれば突然横切る馬車、水溜りから弾ける水飛沫に白雨は一歩後ろへ下がったものの、レインコート姿のジャックはその身で水飛沫を受け止めてしまったようだ。嗚呼可哀想に、きっとあの馬車の運転手がシャーロックに見つかればそのままあの世行きだろう。

「ミリヤムはんちょっと慰めが下手どすなぁ。まあ、たんたはんらしいんやろけど。……ジャックはんも、水も滴るええ男、って言葉がわっちの生まれた国にはありましてなぁ、うふふ」

 白雨も慰めはあまり上手くないようだ。からころと下駄を鳴らしながら二人に近寄ればしゃがみ込み、そっと笑い声を零して。

>> ミリヤムさん、ジャックくん


(おへんじ遅れて申し訳ありません……!)

2ヶ月前 No.49

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/6月8日/西洋料理店Wildcat】


「ふむ……世の中ではやっぱりこれはそんなに美味しくないみたいですねぇ」いつものように調味料を遠慮なくざらざらと振りかけているエディを横目に、シャーロックはカウンターの中から出てきて、エディの二つ隣のカウンター席に斜めに座る。丁度、ジャックとシャーロックがエディを挟む形になる。今日は余程客が入らずに暇なのだろう、下拵えと称した暇潰しのために皮を丸裸にされ執拗なまでに芽を抉られ続けていた馬鈴薯をボウルに放り出す。エディの分のシェパードパイを焼く隣で賄い飯も焼いていたらしい、半分サイズのシェパードパイを並べ、飲みかけで殆ど水割りと化したウイスキーミストを隣に備えた。

本当に、オネエさんとはよく言わせたものだな、とシャーロックは内心呟くが、それを口にしようものなら多方面からいつ寝首を掻かれるかわからない。此処は、殺人鬼の巣窟であるということを忘れる男ではなかった。それに、本人が淑女でいたいなら淑女と、少女でいたいなら少女と、認めて野暮なことは言わずに一人のレディとして扱うのが男というものだと彼は思っていた。べた褒めされるジャックを何と無く得意な気持ちで見やりながら、自らのシェパードパイにも塩をかける。まだジャックとは出会ってから二日ばかりしか経っていないというのに、気分はまさに授業参観で子供が褒められた時の親心だ。塩をかけてもまだ病人食のような味気の無いシェパードパイの、ほくほくと柔らかいマッシュポテト部分を頬張る。
「うん、」
そのままでも我ながら不味からず思っているが、仲間達が思い思いに様々な調味料を掛けるものだから、やってみたかったのである。塩は良い。しょっぱければなんとなく美味しくなったような気がする。「美味しい、なかなか」
この現状満足の有様である。西洋料理店Wildcatの味の向上は当分は見込めなさそうだ。

一方、ジャックは味の無いシェパードパイを残さず綺麗にたいらげ、エディの鞄の口から一体何が出てくるのかとワクワクしながら見守った。
「いきもの……?」
丸く大きな目をさらに大きくして、前のめりになって鞄から登場する生物を待ち構えている。隣で内容を知っている保護者は、グラスを傾けながら苦い微笑を浮かべている。
「わぁっ!」
見たことのない色合いの蛙に、ジャックは感嘆の声を上げた。「フロッグだぁ……っ!」
水槽のようなケースの中を覗き込む少年に、恐れの表情は微塵もない。中に入っている極彩色の生き物に対して、恐れよりも好奇心が圧倒的に勝ったらしい、躊躇いもなく楓のような手を伸ばしてケースを包み持ち、自らの顔の前に近付けた。童心というのは、本当に怖いものを知らない。隣で「食事中に……」と引き気味の紳士を置いて、ジャックはきゃっきゃと歓声をあげて、ケースを頭上に掲げ下から覗いて見たり、傾けて蛙がすーっと滑りそうになるのを夢中で見ている。空気穴から息を吹き入れ、ケース蓋に小さな指を掛ける。
「かわいい かえるさん あーそーぼー」
ケースの蓋が自分で開けられないのを知ると、「あーそーぼー」ともう一度繰り返し、両手で挟んだ蛙さんのケースを上下にゆさゆさと振った。
慌てたように、それまで知らん振りを決め込んでいたシャーロックが「やめなさい」と止めに入る。エディの連れているかわいいペット達≠ヘ、かわいく(といって良いかどうかは疑問だが、まあ「かわいく」)見えていても凶器だ。殺人鬼の凶器。幼い子には知って欲しくもない稼業の、仕事道具だ。

>エディさん、all


【遅くなってしまい申し訳ありません!】

2ヶ月前 No.50

サマエル @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【サマエル/6月8日/移動中→西洋料理店Wildcat】

「全く、私としたことが」

 鈍色の空を見上げ、頬に纏わりつく雨粒を乱暴に拭いながら、その男は地下鉄の駅から霧の都へ降り立った。音もなく降りしきる霧の雨の中で、男は傘を機内においてきたことにようやく気がついたらしい。重たい旅行鞄――中には書きかけの論文が入っている――を胸に抱え、袖を通さず羽織っていたベージュのレインコートよろしく着込むと、左目の片眼鏡(モノクル)についた水滴を、白手袋をした指先でそっと拭う。
 不機嫌そうに眉を潜めているこの男もまた、この霧の街を住処とする殺人鬼であることに違いはない。表向き(といっても殆ど本業のようなものだが)には考古学者をしている彼は、名をサミュエルという。最も、殺人鬼としての彼は「サマエル」と呼ぶべきだが。

 三ヶ月もの間長期の発掘調査に出かけていた彼は、久々の雨の匂いに懐かしさを覚えつつ、やがて諦めたかのように雨の中一歩踏み出した。胸に抱えた鞄が濡れないように注意を払いながら、髪や衣服が濡れるのは仕方がないといった様子で、足早に歩く。彼の足は自然と、いつものあの店の方へと向かっている様だった。半日以上飛行機に揺られていた体は重く、疲労が溜まっているのはもちろんのこと、腹も空いている。何の気なしにくつろげ、そして料理も食べられるところといったら、彼の中で選択肢は一つだった。
 西洋料理店Wildcat。その表ではなく裏口の方へ慣れた様子で回り込めば、何の変哲もないアパートの扉へ手をかける。そのまま中へ入り、ようやっと一息つくといった様子で、彼はその場に置かれたタオルで顔や髪、肩など雨に濡れた体を軽く拭った。そのままふらふらと足を進め、重厚な扉へ手をかけ、そして、開く。

「やあ諸君、久しいねえ。ご機嫌いかがかな。やはりこの時間だと客も少ない様だが――」

 気取った様子の挨拶を店主であるシャーロックと訪れていたエディにしつつ、久方ぶりに訪れる店内をぐるりと見渡し――彼は一つの異変に気付き、思わず言葉を失った。
 そう、ジャックの存在である。彼は三ヶ月前からこの街を後にしていたのだ。当然、数日前にシャーロックがこの幼気な子供を攫ってきた事も知り得ない。殺人鬼たちが集う世間とは隔離されたこの空間に、どうして幼子がいるのか。サマエルは珍しく目を見開き、理解が追いついていないといった様子で数回瞬きをすれば、視線はカエルの入ったケースを弄んでいるジャックに向けたまま、再度口を開いた。

「シャーロック、私がいない間に此処は託児所にでもなったのかい」

>ジャーロック、ジャック、エディ、ALL 【やっっっと本編に来れました……! 遅くなりまして申し訳ございません。これからどうぞよろしくお願いいたします】

2ヶ月前 No.51

洗濯蟻 @arinohito ★iPhone=n7Rebp7mCv

【ドールホーン/8月16日/聖アンダーソン教会】

近くにピクニックに来て、いざ帰るとした所で雨に降られたと悄気るジャック。テーブルについたのを確認してから自身もテーブルに向く。

「それで……ここに来たのね……うん、良いわよ……」

ジャックが付き添いを置いて来たのか付き添いがジャックを置いて来たのか、まあそれは置き。
彼の前にコップと小皿を用意し、簡単な紙ナプキンを折り込んで前掛けにする。

「十五人のインディアン……、前のおさらいで良いかしら。元にした二つのマザーグースと歌からね……」

手慣れた動作でペティナイフを取り出して彼の前の皿に食べやすい大きさに切り分けたコテージパイを取り置き、返す手でカップにレモネードを注ぐ。

「はい、どうぞ召し上がりなさいな……」

移動本棚から自著の本を一つ引き出して開く。金の装飾文字の刷られた、茶色い皮の本だ。


《Fifteen Indians in Dead man's Chest.》

『死人の箱には15人のインディアン』
『著:Flarlia-“Dollhorn”-Scarvillese』


この本の内容はまぁ簡単に言うと推理小説と伝記を組み合わせたものだ。
アイデア元はマザーグースとその歌を二種類ほど組み合わせて、其処に海賊の船乗り歌の内容を盛り込んで捻った作りにしてある。

「うん、良いわねぇ。まずは元になった……"Ten Little Indians (10人の小さいインディアン)"の歌は教えた通りね……」

題名は同じだが歌とマザーグースで内容は異なる。先ずはジャックに教えた事のある歌の方から、簡単に節を付け手遊びを加えて歌い始めた。


One little, two little, three little Indians,
Four little, five little, six little Indians.
Seven little, eight little, nine little Indians,
Ten little Indian boys.

(一人 二人 三人のインディアン)
(四人 五人 六人のインディアン)
(七人 八人 九人のインディアン)
(十人のインディアンボーイ)

歌詞に合わせて指を拡げ、

Ten little, nine little, eight little Indians,
Seven little, six little, five little Indians.
Four little, three little, two little Indians,
One little Indian boy.

(十人 九人 八人のインディアン)
(七人 六人 五人のインディアン)
(四人 三人 二人のインディアン)
(一人のインディアンボーイ)


そして折りたたんで行く。
最後の一本の人差し指を見て、少し思案した後、マザーグースの方も教える事にした。幼い彼に全てを理解する事は出来ないかも知れないが、その内『此方側の色』に染まる様な事になった時にはわかる様になっているかもしれない。

「これは覚えても、覚えなくても良いわ……。食べながらでも良いからね」

朗々と語りかけ、彼に言い聞かせる様に。
密々と囁きかけ、自身に重ね合せる様に。


Ten little Indian boys went out to dine,
One choked his little self and then there were nine.

Nine little Indian boys sat up very late,
One overslept himself and then there were eight.

Eight little Indian boys traveling in Devon,
One said he'd stay there and then there were seven.

Seven little Indian boys chopping up sticks,
One chopped himself in halves and then there were six.

Six little Indian boys playing with a hive,
A bumblebee stung one and then there were five.

Five little Indian boys going in for law,
One got into Chancery and then there were four.

Four little Indian boys going out to sea,
A red herring swallowed one and then there were three.

Three little Indian boys walking in the zoo,
A big bear hugged one and then there were two.

Two Little Indian boys sitting in the sun,
One got frizzled up and then there was one.

One little Indian boy left all alone,
He went out and hanged himself and then there were none.


___10人のインディアンの男の子が食事に出かけた。
一人が咽喉を詰まらせて9人が残った。

9人のインディアンの男の子が夜更かしをした。
一人が朝寝坊をして8人が残った。

8人のインディアンの男の子がデヴォンに旅した。
一人がそこに留まって7人が残った。

7人のインディアンの男の子が薪を割った。
一人が真っ二つになって6人が残った。

6人のインディアンの男の子が蜂の巣で遊んだ。
一人が蜂に刺されて5人が残った。

5人のインディアンの男の子が訴訟を起こした。
一人が裁判所に行って4人が残った。

4人のインディアンの男の子が海に出かけた。
一人がニシンに飲まれて3人が残った。

3人のインディアンの男の子が動物園に行った。
一人が熊に抱きつかれて2人が残った。

2人のインディアンの男の子が日光浴をした。
一人が熱で焦げて一人が残った。

一人のインディアンの男の子は一人ぼっちになった。
自分で首を括って、そして誰も居なくなった___。


一小節が終わる度にドールホーンの顔は陰鬱な、嗜虐的な笑みを湛えて行く。長い前髪の隙間から教会のステンドグラスを見上げる、濁りかけた目。喪った方の目が最後に写した光景が今でも尚こびり付いて剥がれない。

脳髄に刻み込まれたあの表情。
涙と血と体液でぐちゃぐちゃになったあの顔が忘れられない。苦痛に歪み慟哭するあの涙が。

「くふ、くふふふふ、ふふふふふふっ」

不意に笑いが込み上げて来る。同時に目頭が灼けるように熱くなった。
ぽたぽたと床に雫が落ちる。笑いながらドールホーンは泣いていた。愉悦の表情で、蕩けたままの顔で涙を流す。ジャックが目の前に居ようが御構い無しだ。

「くふふ、……グズっ、くっ……ふふふふ……っ……」

嗚咽と嗤いを混濁させ、流れる涙を拭う事も無くドールホーンは椅子に腰を落とした。本のページを捲り、次なる『歌』をジャックに聴かせるために。


>>ジャック

【いきなり泣き笑いする変人】

2ヶ月前 No.52

七角羊 @nnir749☆A3LxctuN3d2 ★nXNfBmBWZd_m9i

【ダニエラ/7月4日/メリルボーンハイストリート裏路地】

ぼさぼさの髪を整えて、バッチリセットして、鏡の前でお化粧を施すの。唇にはお気に入りの紫色のルージュを乗せて、お化粧が済んだら好きな服に着替えて、この間買ったばかりのハイヒールを履いて、街へ繰り出すの。お仕事と、イイ獲物がいないかどうかをチェックしにね!

数々のブティックが並ぶメリルボーンハイストリートの裏側、裏路地の入り組んだ道の先の先。歩いて行くと迷路みたいに二手に分かれているポイントがあり、片方は行き止まり。もう片方は別の路地への道が広がっている。剥がれ掛けのところどころ破れたビラが数枚貼られている灰色の壁に、霧が充満した密室の空間。行き止まりになっている方の場所に一人の男の男が倒れており、もう一人、女が別の男に壁に押し付けられていた。午後の昼下がりにしては、あまりにも物騒な光景であった。

「貴女、綺麗ね。ここの人間じゃないの?どこから来たの?」

ギリギリと強く押さえつけられた痛みと恐怖で震えている女に向けて問いかける。震えた声で告げられたこの"霧の都"ではない地名に、笑みが深まる。

「やっぱり!異邦人の目は久しぶりだわ、ここでは見ない色で綺麗ね。」

うん、うんうん、気に入ったわ、とさらに食い入るように女の目を見つめる。女は何が何だかわからない様子で、震えた声で倒れている男に助けを求める。地面に血を垂れ流し、倒れている男は青ざめた顔で女と男を見上げ、彼女を離せと叫ぶ。叫ぶ気力はあるが、脇腹と右足に突き刺さった針のようなものによりうまく体が動かず、床に這いつくばりじたばたと我武者羅に動くことしかできない。獲物の銃も、いつの間にか奪われてしまった。
淡い紫色の短い髪を撫でつけられており、顔には女性と同じように化粧が施されており濃い紫色のルージュが特徴的。大きく胸元が開けられた黒いシャツと同色のパンツを身に纏った男。靴は真っ赤なハイヒール、首には細いネックレスが光り輝いていた。男、のはずだが口調は女だ。だが女を難なく押さえつけて抵抗を許さないあたり、どう見ても男だ。
這いつくばる男の声に思わず、女の手を一纏めにして壁に押し付け動けないようにしている女のような男が振り向く。

「ちょっとうるさいわねェ。抵抗されるのは悪くないけど、今からワタシがイイもの見せてあげるから黙ってて頂戴」

"貴女のそれ、貰うわ"という一言と共に男の片手に現れた針。あの針で、突然襲われたのだ。彼女とショッピングのあとに散歩をしていた時、後ろから声をかけられた。名前を呼ばれた。男が振り返った頃にはもうすでに右足だけではなく身体の様々な場所に刺され、殺されると感じたのだ。しかし針が刺さった男の顔をジッと見た後、隣にいる女の姿が目に入った瞬間に、突然襲ってきた男の標的は彼から彼女へ変わった。
男の手に再び針が握り直され、女の顔の、目のあたりに近づいていく。何をしようとしたのか気づいた瞬間、男の顔はさらに青ざめ、女の口からは悲鳴があがり、刺した男の顔には恍惚の表情が浮かび上がっていた。深い裏路地の底に女の悲鳴は鈍く飲み込まれ、もっと鳴いて、という言葉と共に鋭いそれが奥へと進んだ。


女の身に起きた恐ろしい光景に気絶するほど血の気が引いてしまい、もう女の悲鳴以外のことはよく覚えていない。あれからどれぐらい経ったのかもわからない。ダニエラのそれは通常行われる殺人と比べると時間が長くかかるが、メインディッシュを食べ始めれば進むのは早い。二つの宝石を奪った後は、宝石が入っていた箱の奥深くに針を突き立てて、かき混ぜて終わり。それで宝石の入れ物は事切れる。女はもう、遊び尽されて飽きられてしまったおもちゃの様に動かない。

「嗚呼良かった。彼女、とっても素敵ね」

これからの生活が楽しみよ、と文字通り血の涙を流す女を見下ろすながらダニエラが這いつくばる男に声をかけるように言う。手の中に納められた液体が入った小瓶の中には、先ほどまで彼女の顔に収まっていたものが入っていた。彼女が入った小瓶を嬉しそうに撫でるダニエラの姿は、男の目には狂っているように映った。どうしてこうなったのだ。人を殺すことを生業としていた自分は殺される覚悟ができていたが、まさか無関係の想い人が殺されるなんて。たまたま偶然一緒にいた時に、こんなことが起こるなんて。

「本当はね、彼女は標的ではないんだけど、まさか貴方がこんなにイイモノを持っているなんて!まさに幸運だわ。」

感謝するわミスター、という言葉と共に投げキスを贈られる。ダニエラの言動が理解できず、男は呆然と見上げることしかできない。ダニエラの言葉の意味も自分ではなく女が手にかかった理由もわからないが、こうしている間にも己の体からは血が流れ、自分も遅かれ早かれ彼女の元へ行くことになることは分かる。もういっそのこと、早く殺してくれとすら思う。そんな男の考えを知ってか否か、ダニエラは「だからね」という言葉と共に、

「貴方を殺すのはこれを吸い終わってからにしてあげる」

残酷に笑ったそう続けた。ちょうど一休みしたかったの、と呟いたダニエラの手に握られていたのは、女が愛用していた煙草とライター。彼女のポケットにいつも入っていたものだ。いつの間に、という考える間もなく、ダニエラの言葉がじわじわと絶望となり、男の頭の中を侵食していく。路地の隅に丁度置いてあった木箱に腰をかけ、足を組んで煙を吐き出す。あまり煙草を好まないダニエラだが、小瓶の中の彼女の手向けにと煙草に手を伸ばした。片方の手で絶え間なく小瓶をいじっては、まるで恋人の様に愛おしそうに目を細めて眺めていた。ここは昼間とは思えないほど暗い、霧がかかった街。充満する霧とダニエラの口から吐き出された煙が混じり、男の慟哭する声さえも飲み込んだ。

>>ALL


【本編への投稿が遅くなってしまって申し訳ございません……!血みどろの殺人現場ですが、よければ一部始終の目撃やまだお仕事中なのにひと休み中で気がゆるゆるのオネエへのお説教等絡んでいただけると嬉しいです……!よろしくお願い致します。】

2ヶ月前 No.53

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/おさんぽ】


ジャックは暫くわぁわぁと泣いていたが、ミリヤムのレースのハンカチーフで拭われているうちに、涙の雨は次第に小雨となってきた。
ふわふわだった金髪はぺったりとしな垂れ、レインコートの裾や髪からは雨の雫がぽたぽたと落ちている。
晴天の空のような碧眼は涙を湛えてぐにゃぐにゃと揺れていた。
歪んだ視界に、しゃがみこんだ二人の美女が映る。
『新しいお洋服』『水も滴るいい男』不慣れなようだがしかし懸命な二人の慰めで宥めすかされ、可憐なハンカチーフは涙と雨と鼻水で台無しにした挙句、ジャックは「うん」と首肯いた。
「……なかないよ」
それから、レインコートのフードに付いた水滴を、犬のように身震いして振り払い、慰め下手だとミリヤムに指導する白雨をみて不思議そうな顔をした。

「シラサメ・シショーは、ことばを おしえてくれる シショー なんだね」

何か大きな勘違いをしたままのようだが、二人のおかげで通り雨のように変わり易い子供の機嫌はすっかり治ったらしい。「いこう」と、左右の手をさっきみたいにそれぞれ繋いで貰えるように差し出して、ミリヤムの云うお洋服屋さんに連れて行ってもらう。
左右にカラフルなショーウィンドウの並ぶ石畳の道を進むと、やがて服屋が何軒も並ぶエリアにやってきた。スタイルの良い美しいマネキン達に、エレガントな婦人服が着せられていたり、大胆なワンピースが着せられていたり、男のマネキンにはブランドもののスーツが着せられて洒落た帽子を被せられていたり。ジャックと同じくらいの背格好の子供のマネキンもある。ジャックはまたさっきとは打って変わった景色に、いちいち不思議そうな顔をしながらショーウィンドウを覗き歩いた。

>白雨さん、ミリヤムさん、all


【好きなお洋服をお好きなだけ御試着どうぞ〜!笑】

2ヶ月前 No.54

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/8月16日/聖アンダーソン教会】

コテージパイが自分の元に取り分けられてくるのを、ジャックは食い入るように見つめていた。スプーンを先にグーの手で握って、大好きな御馳走を待ち構えている。
まず、目の前の小皿にコテージパイが乗る。コテージパイが自らの重みで蕩けるように形を変える。すると挽肉とマッシュポテトとチーズが、こんもりと小さな丘を作り、ポテトとチーズが綺麗な裾を広げていく。断面からはぎっしりと詰まった挽肉の粒が肉汁に繋がれている。

「ありがとう イタダキマス!」

ジャックは大きな声で「いただきます」を言うと、コテージパイのかたまりに噛み付くようにスプーンを立てて、小さなスプーンに乗れるだけ載せた塊を一気に頬張った。「んー」とキラキラした目を細め、頬を摩る。よほど美味しい時にする動作だ。ちなみに、アルトのところのケーキでも、スワンが買って来てくれる美味しいお菓子でも、ドールホーンのコテージパイでもよくこの動作をしているが、シャーロックの料理の時は毎回綺麗に残さず食べる割にこの動作は見られない。

美味しいコテージパイを食べ進め、カップのレモネードを味わっていると、待っていた「ドールホーンのおはなし」が始まった。彼女が『Ten little Indians』を唄い出すと幼いジャックは食事中なのにじっとしていられず、スプーンを握っていない方の手指を順番に開いて遊び始めた。5人のインディアンが揃ったところで、片手では指が足りなくなってしまい、スプーンを口に咥えて残りの6人目以降を数えだす。
「Ten little Indian boys!」
という歌詞をドールホーンとユニゾンで歌った結果、スプーンが口から離れて皿に落ちた。シャーロックが此処に居たら、子供に甘い彼もさすがに怒……ろうとするがやはりジャックにベタ甘なので無理かもしれない。
ジャックのお気に入りの歌が終わると、ドールホーンは少し思案顔をしてからもうひとつの歌≠教えてくれた。なんだかいつもと違う様子の彼女に、ジャックは少し不思議そうな顔をしていたが、レモネードを一口口に運ぶと、こくりと頷いて、黙って大人しくスプーンを手に取る。今度はじっと耳を傾けた。

Ten little Indian boys went out to dine,
One choked his little self and then there were nine.

最初の一節を聞いた時、子供心にも何か思うところあったらしい。One choked his little self ……口いっぱいに頬ばろうとしていたスプーン上のコテージパイを見つめて、怖くなったのだろうかそっと皿の上に置いた。歌はまだ続く。
不思議な光景だった。テーブルを挟んで、本を手に仄暗い詩を歌うシスターと、食べかけの料理と少年。寂れた教会に、ステンドグラスの虹色の光が差す。
全てを聴き終えたあと、幼子の小さな桜唇が、ぽつりと後を追うように繰り返す。

「……then there were none……(そしてだれもいなくなった)」

そしてだれもいなくなった。
海のように青い幼子の眼には、古びたテーブルと椅子、コテージパイ、美しい装丁の茶色い本、泣きながら笑うドールホーンが映っている。しかしその目の奥は、深海のように不思議な色に渦巻いて、じっと動かなかった。
ジャックは椅子から飛び降りると、ドールホーンのそばに駆け寄って、足元を打つ雨粒のような涙の雫を確認し、心配そうに彼女を見上げた。

「……どうしたの? ないてる、は かなしいの? だけど わらってる。いたい?」

>ドールホーンさん


【そしてだれもいなくなった、は象徴的で良いなぁ、と思って……】

2ヶ月前 No.55

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/6月8日/西洋料理店Wildcat】

エディの連れてきたFrog(エディ訳:「可愛いペット」)(シャーロック訳:「超危険生物」)≠巡ってジャックとシャーロックが攻防戦を繰り広げていると、カランカランと扉のベルが鳴る。
慣れ親しんだ理知的で澄ました声が、久しぶりにこの店内に響く。子供にうつつを抜かしていた店主シャーロックが片眉を上げると、戸の前に良く知る人物、けれど意外な人物の影を見る。雨に濡れたサイドテールの髪が、洒落たベストの肩に垂れている。優しげな目を細め、店主は帰宅した仲間を頭から爪先まで眺めてその変わらず達者な様子に微笑した。

「いらっしゃい。……おかえりなさい、サマエル」

それまでは黄色い蛙のケースを掴んで離さないジャックを制止しようと躍起になっていたが、久しぶりの仲間の再来にすっかり気を取られ、子守をお留守して出迎える。
雨に降られたのは一目瞭然なのに、彼はよくいるならず者と違って店主のうるさい注文通りに髪をきちんとして、それから履物の泥も落としている、非常に善良な客人だ。……もっとも、入口で置いてくることになっている武器は彼の腕の延長にあるためそのまま店内持ち込みになっているが。もとより、店内での乱闘を避けるためのあの注文どおりに彼処に武器を置いて入店する殺人鬼など、カエルを堂々と持ち込んでいるエディも然り、皆無である。

「今夜は何を飲まれますか? おなかは、空いていますか?」

食べかけの賄いシェパードパイを三分の一ほど置き去りにして、シャーロックは空いている椅子をサマエルの為に引く。カウンターへの奥へと戻り、店主の顔になって甲斐甲斐しく客人をもてなす。相手の答えを待つより早く、料理人はすっかりその気で、カウンター奥の厨房に足を運んでは、油を張った鍋を火にかけている。

エプロンの背中で紐を結びなおしながら、彼は漸くサマエルの視線が何となく落ち着き無い事に気付く。
ああ、そうか、無理もない。サマエルは可愛いジャックのことを何も知らないのだった……ーー
一方、ジャックはジャックで、シャーロックやエディの馴染みのようで自分の知らない新たな登場人物を、「だぁれだろう?」と問いたげな不思議そうな顔で見つめている。
面白い光景に、シャーロックは「ふふ、」と控えめに笑いを零した。

「そのお人形のようにキュートなマイエンジェルのことですか? いえいえ、彼は預かったのではありません。うちの子ですよ。可愛いでしょう?」

誘拐二日目にしてこの親馬鹿は、さっき芽を抉っていた馬鈴薯を棒状に切って手際よく熱した油に放り込みながらも、デレデレとだらしなく目尻からすっかり表情が溶けている。殺人鬼の気迫も店主の雰囲気も何も其処にはまるであったものではない。

>サマエルさん、エディさん、all


【サマエルさん霧の都と西洋料理店Wildcatへようこそ!】

2ヶ月前 No.56

エディ @d0ap ★iPad=qTOmkAVEvD

【エディ/6月8日/西洋料理店Wildcat】

空を映す瞳をきらきらと輝かせながらケースを手に取り眺めるジャックに「可愛いでしょう。レイチェルというのよ」と満足気な表情を浮かべながらペット兼相方を紹介しつつ、エディは残りのシェパードパイを口に放り込んだ。その感、幼子に好き勝手されている蛙は少々迷惑そうな顔をしつつも主人であるエディを伺っては理不尽な出来事に耐えていた。

「坊や、生き物は大切に愛情を持って接してあげなきゃダメよ?」

ジャックとシャーロックの間で理不尽な扱いを受けていた蛙のレイチェルは、漸く口を出した主人に咎めるような視線を向けた。その視線に気付きつつも敢えて目を合わさないエディはジャックに優しく生き物の扱い方を教える。急にケースを動かしてはいけない事。無理に触ろうとしない事。素手で触ってはいけない事。

「蛙はその皮膚に毒を持っているものが多いから、安易に手を出してはいけないのよ」

エディなりに幼いジャックにも分かるように言い聞かせるように噛み砕いて説明すると最後に「分かったかしら?」と確認するように問い掛けた。ケースの中のレイチェルもその説明に今後は理不尽な扱いを受けないか心配そうにその黒くくりくりとした瞳でジャックを見つめている。
一通りの説明を終えたところでいつのまにか背後にいた客人に気づく。そういえばベルの音がしたっけ……と記憶を遡りつつ久方ぶりの顔へと視線を向けた。

「あら、ミスター。顔を見るのは久しぶりねぇ」

ほぼ毎日Wildcatに通うエディは此処を訪れる客とは大抵顔見知りである。たとえ話をしたことはなくても(勝手に)顔を覚えてしまう程入り浸っていた。そのため目の前の紳士もエディにとっては顔見知りで、それ故に親しそうに片手を上げて挨拶に言葉を返した。が、すでにサマエルの視線は隣のジャックへと向けられているのが分かると事情を察したのか、少々呆れ顔をしつつシャーロックを横目で見遣る。そこにはエディの想像通りの表情をしているシャーロックが目に入り「自分へのご褒美で連れて来たんですって」と補足するように言葉を続けた。

>ジャック、シャーロック、サマエル、all

2ヶ月前 No.57

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/おさんぽ】

「そう、泣かないのよー、ジャックはえらいわぁ」
 一周回って白々しくもある言葉を吐きながらも、ミリヤムは泣き止みつつあるジャックに微笑みかける。白雨に言われるまでもなく、彼女は慰めが下手だ。特に子供相手では。
「ん? そぉねぇ、白雨姐さんは言葉も色々教えてくれるわよ? 専門用語とかパテ作るときの数式とか意外とややこしいのよねぇ」
 そして何か間違った理解をしつつあるジャックのことは敢えて否定せず、此処まで来たときと同じような形で差し出された手を握る。彼も白雨も納得してくれたようなので、行き先はブティックの立ち並ぶ通りだ。
 道すがら、ミリヤムはジャックに気取られないように、後ろ手でハンカチーフを通りのゴミ箱に投げ棄てた。

 そうして歩くこと数分、様々な衣装を身に纏ったマネキン達の熱烈な歓迎を受け、ミリヤムはほうと息を吐く。
 やっぱりヒトガタは良い。動かないし喋らないし変わらないし、そして何より生きていない。本格的な人形に比べればマネキンは少し華やかさに欠けるが、それは色取り取りの衣装が補っている。そもそも彼等は洋服を魅せる為に作られたものだ。その為に余計なパーツを削ぎ落とした曲線美には、文句の付け所などある筈がない。

 閑話休題。

 しばしマネキンに見惚れていたミリヤムは、少し急いでジャックへと視線を戻す。ミリヤムと同じように、けれどきっと違う意味でマネキンに瞳を輝かせている彼を、ずぶ濡れになった頭のてっぺんから足の先まで眺め回す。
「……これは全身総取っ替えよねぇ……下着も変えた方が良いのかしら? 取り敢えず、子供服のあるお店に行きましょう? ブラウスは白よね……アタシとしてはタイが良いけどジャボやリボンも可愛いし……パンツはハーフが良いわね。タイツも捨てがたいけど、ガーターソックスが良いかな……サスペンダーは必要かしら? あ、ジャックは何色が好き? それと靴はやっぱりブーツかしら……レインポンチョじゃなくて傘にする? 白雨姐さんのお好みは?」
 そうして興奮冷めやらぬまま、矢継ぎ早に二人に問い掛けるのだった。

>ジャックくん、白雨さん

2ヶ月前 No.58

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/7月4日/リージェンツパーク→メリルボーンハイストリート裏路地】

親代わりであるシャーロックが熱を出して寝込んでしまったため西洋料理店は休業。ジャックは感染らないようにという愛の計らいで店から放り出される羽目に遭っていた。しかし、霧の都にやってきて一ヶ月ばかりが過ぎようとしているジャックには、今や親代わりは幾らでもいる。今日も店から程近い大きな公園、リージェンツパークで仕事の合間で代わる代わる顔を覗かせる知り合いに遊んでもらっていた。

穏やかな昼下がり。曇りがちな霧の都の空も、今日は僅かに夏の太陽を覗かせる瞬間すらあった。
初夏のリージェンツパークの薔薇園は花盛りで、このところシャーロックと散歩に出れば、園芸と家庭菜園が趣味だという彼は毎度必ず此処を通る。そのたびにジャックに花の名前を教えるものだから、咲き乱れる薔薇の香りごと小さな身体に染み付いていくようだった。
けれど今日は、引率が違えば行先も違う。午後は同じパーク内の動物園に連れて行ってもらえると聞いてジャックは浮足立っていた。いつかエディが連れてきた蛙のときもそうであったが、子供というのは大人が思っている以上に動物が好きなのかもしれない。ジャックはうきうきと園内マップを広げては、まだあまり流暢には読めない字を拾い読みし、飽きると畳んでそれをもったまま芝生を駆けた。

カフェテリアで昼ご飯を食べた後仕事に戻っていく親代わりの代わり≠見送り、次のお迎えまでまだ少しある。待ち合わせの動物園ゲートに向かって、ジャックはすっかり歩き慣れた遊歩道をスキップで進んだ。

「……あ、あれ…………?」

しかし、想定外の出来事はその直後に起きた。
あろうことかジャックは、いつもの遊び場であったはずの公園内を目的の方向とは真逆に進み、反対側の出口から外に出てしまったのである。つまりは迷子だ。相手は未だ弱冠四歳児、無理もない。
目の前を車の往来する道路が横切っていて、一人彷徨うジャックは狼狽え立ち止まる。暫く往来にきょろきょろと首を振っていたが、やがて心細げに待ち合わせの相手の名前を繰り返し繰り返し呼びながら、危うげに道路を渡る。待ち合わせのゲートからはどんどん離れて行っていることを、ジャックは知らない。
道路沿いの蝋人形館の丸いドーム屋根には見覚えがある気がして、迷いながらフラフラと近寄れば、四輪自動車のクラクションが鳴る。はじめて一人で歩く大通りの音に驚いて逃げた先は、もう幼子ジャックにとって全く見知らぬ裏路地だった。

「……ここ…………」

どこなんだろう。大人の目からすれば、そこは賑やかなメリルボーンハイストリートから一本裏に入っただけの小径。しかし、子供の目からすれば、通り一本挟んだだけでもう全くの異次元世界に迷い込んだような感覚だった。ジャックは心許なげに辺りを見回すが、普通の子供ならば引き返しそうなところを決して引き返しはせずにずんずんと灰色の迷宮に自ら飲み込まれていった。せっかく晴れかけていた空がまた翳りを帯び始め、辺りにはまた霧とも煙ともつかぬ白濁の色が立ち込めてくる。
その時、無機質な壁に反響しながら聞き覚えのある声がこちらに向かってくる。ジャックの晴れた空色の目がハッと上げられた。

「ーーーーどこ? どこにいるの?」

その声だけを道標に、小さな身体は鼠のように灰色の迷宮を迷いなく進んだ。幸か不幸か、運命の悪戯なのだろうか、ジャックは呆気なく其処に辿り着いてしまった。

「…………」

朽ちてずり落ちた看板の影から顔を覗かせた瞬間に出くわしたのは、犯行現場と呼ぶ以外に言いようもない決定的瞬間だった。押さえ付けられた女の人の、地面と同じ高さになった視線が、ジャックのそれと偶然にぶつかり合う。誰でもいいから助けてと、懇願するような、視線。その目が急に、グンと持ち上げられ、それきり、もう二度とジャックの視線とは合わなくなる。
女の絶叫が響いた。見なくても良かった景色が、晴れ過ぎた天の色を忽ちに汚していく。
再び見える高さに戻ってきた横たわる女の顔は、ジャックの方を向いているが、変わり果てていた。物言いたげな宝石のような眼球は手品のように忽然と消え失せて、ただ伽藍堂の穴だけが開いている。

「…………」

ジャックは声を上げることも泣くこともなく、ただそこに流れる映像をぽぉっと見つめていた。怯えても驚いてもいない。白昼夢か或いは映画か何かを見るかの如く、まるで現実味の無い表情で。理解が追いついていないのだろう。地面の血、顔の穴、真っ赤なヒールの足元、慟哭、笑い声、煌めく小瓶、煙草、立ち昇る紫煙。それらを銀幕を流れるエンドロールのように、少年はただただ見つめていた。

>ダニエラさん、all


【ダニエラさん、霧の都へようこそ! 予告通りはじめてのお仕事見学〜をしてみましたが、だ、大丈夫だったでしょうかこんな感じで……(汗)】

2ヶ月前 No.59

エディ @d0ap ★iPad=qTOmkAVEvD

【エディ/7月4日/メリルボーンハイストリート→裏路地】

この日、エディは市場調査と気分転換を兼ねてこの通りを訪れていた。人並みもそこそこな此処・メリルボーンハイストリートではカフェやブティックがあり、所々寄り道や休憩をしてはラベンダーの香りを残しながらエディなりの楽しみ方で満喫していた。
ストリートを歩き回っていると見覚えのある小さな背中が裏路地の方へと足早に入っていくのが見え、エディは首を傾げた。いつもなら外を歩く時には決まって誰かが付き添っているからだ。けれど今は一人だったことを不思議に思ったエディは後を追うように裏路地へと足を踏み入れた。
入った瞬間、微かに香る鉄臭さに眉を顰めつつ、この先で何が行われているのかが分かり頭を抱える。このままでは無垢な幼子が凄惨な現場へと出くわしてしまうだろう。教育上よろしくない事態に焦りつつも香りの強い方へと足音を鳴らしながら足早に歩を進めれば、その現場へ辿り着くのは容易だった。

「見ちゃダメよ」

噎せ返るような匂いの中で立ち尽くすジャックの視界を手で覆いつつ、いつもよりも低い声色で耳元でそう囁く。エディの視線は穴の開いた女、這いつくばる男、最後にこの惨劇を生み出したダニエラへと向けられた。ゆったりと一服するダニエラとその手の中の物を見るに悪い癖が出てしまった事が見受けられ、溜息を一つ吐いた。

「ダニエラ、貴女のターゲットはこの女だったかしら……ねぇ?それに気を緩めるのはまだ早いんじゃなぁい?」

新たに現れた人物に男の表情が変わったのが見えた。助かるとでも思っているのだろうか。そんな男の視線を感じ鼻で笑うと、咎めるような表情でダニエラへと声をかけた。エディと似た紫の髪を持つ彼女は普段からエディが可愛がっている親しい相手の一人でもあり、同業者。けれどその殺人スタイルは異なり、その証拠に美しい瞳を愛する彼女は今もガラス瓶に熱い視線を送っていた。

「貴女が手早く殺らないから、幼気な坊やが見てしまったでしょう」

責めるような口調だけれど時間をかけることへのリスクの事もあり、それは結果としてダニエラの身を案じていることにも繋がっていた。それにこの事がジャックの親代わりに知れたら……と思うと、エディは痛くなる頭を気にしないようにしつつジャックの視界を塞いだまま顔を自分の腹部へ押し付けるように抱き締めた。そして顎で男を示しダニエラに「先ずは殺ってしまいなさい」と伝えると、足下の男の瞳は絶望に揺れた。

>ダニエラ、ジャック、all

【ダニエラさんと素敵な関係になれたので早速お邪魔しちゃいました;;既に親しい中でのお説教みたいにしちゃいましたが大丈夫だったでしょうか?ジャック君の初めてのお仕事見学のお邪魔になっていたらすみません;;】

2ヶ月前 No.60

@xxxri0 ★iPhone=jRTGQCns6m

【 Lily / 6月30日 / ベイカーストリート / 廃れた彫刻屋「 L 」】


ーー変わっている、私が?


男の言葉に女は頬の筋肉を緩め、ふは と声を漏らす様にして笑う。己が変わり者だという事くらい、随分と前から理解しているが、改めて他人から言われると「 ええ、そうね 」なんて大変愉快そうに答えて仕舞う。生物学上的には 男性 でも、身なりは 女性 と己を偽っている時点で、血肉の香りも知らない御世間様は、リリィを 変わり者 だと言うのだ。然し男は、其処を突くのではなく、発言でリリィを 変わっている と言う。それがどうにも面白く、久し振りに内面を覗かれた様な気がして嬉しくもあり なんて、リリィの感情という感情を撫で回し、遊ばれている様で。


『 夜が明けるまでで良いんだ、オレをココに置いてくれない? 』次いで男の声が聴こえたなら、女は緩めた頬を戻し、己の首をソファにゆったりと預けて視線を男に向けようか。肘掛けに肘を置き、緩く握った拳を頬に当てながら


「 ーー ええ、勿論、構わないわよ。夜が明けるまで でも、また夜が来るまで でもね。気の済むまで居なさいな、こんな場所で良ければ だけれど。 」


と返せば、クイッ と手招いて。薄らと透き通った涙を浮かべる男は、廃れた店の扉を潜り、此方へと来る。ギシギシと軋む床は、久し振りの客人を喜んでいるかの様に鳴り、何とも不思議で不気味な空間に響き渡っていた。

「 … 何か飲む? 」

座る場所に困るであろう男の為、自らが座っていたソファに腰を掛ける様に促し、当の女は更に奥にあるキッチンへと入って行く。カチャカチャと食器を用意する音、お湯が沸く音、様々な音色が部屋中を埋めている中、女は平然と


「 ーー それで? 如何してアンタ、こんな辺鄙な場所に居たの? ほら、迷子って訳でも無さそうじゃない? 滅多に人なんて入って来ない様な路地裏に、わざわざアンタみたいな小綺麗な子が居る なんて、不思議で堪らないのよねえ 」


なんて、言い放ってみせる。怪しんで ーー ? 否、そんな訳は無い。それであれば端から店に入れたりはしないだろう。ならば何故? ーーそれは興味、ただ、それだけの事だった。未完成の彫刻が並ぶ隙間から、男の顔色を伺う。普通だ、特におかしな所は無い、普通の表情。こういう状況下に置かれた男がしそうな、普通の ーー 顔。まるで作り物の様で、そうでは無いようで、真偽のつかない表情に、またもやリリィの感情は揺れ動く。



「 ーー ねえ、如何して? 」



手を止め、部屋は静寂に包まれる。ジイ と男を見詰める女の眼差しは、何とも妖艶に光り、男を絡め取って離そうとしない。小首を傾げ、ニタリと笑った時。屋根裏で、鼠の走る音がした。


>ルイス様



(( またもや返信が遅れて申し訳ない … 絡ませて頂きましたッ。演技派ルイス君カッコ良い … ( 惚 ) オカマなリリィが変に目を付けない事を祈って←

2ヶ月前 No.61

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / おさんぽ 】

 言葉を教える師匠、泣き止んだジャックの言葉を否定しないミリヤムに小さく息を吐く。

「わっちは教えてるつもりはないんどすけどねえ、剥製作りも慣れどすけど、ミリヤムはんは筋がええとわっちは思います」

 微笑を零しながらミリヤム同様差し出された手を握る。ジャックがこれ以上濡れないように唐傘を傾けつつ歩くこと数分。様々なマネキンが立ち並ぶショーウィンドウをぐるりと眺めながら白雨は動くことのないそれ等に思うのはその出来栄えだった。あれが本物の人間であったなら幾分か心も踊ったのに、なんてあり得ない妄想である。大量生産されたそれ等に白雨の心が動くことはなかった。

「下着から何まで全身やろねえ。……ジャックはんは何着ても似合うと思いますけど、わっちはやっぱり和装どすなぁ、可愛らしいそのお顔によう映えると思います」

 この霧の都には少し浮いてしまいますけど、そんな言葉を付け加えながらもとりあえずは自分の意見を口にする。

>> ミリヤムさん、ジャックくん

2ヶ月前 No.62

ルーツァン @papillon☆0uO5mlUpCUns ★sAbT0rwP1n_mgE

【ルーツァン/7月2日/ベイカーストリート路地裏】


 突如として現れたのは、闇より深く暗い影。忌まわしいその存在は、冥界の悪鬼すら震え上がる事だろう。彼は霧の都で暗躍せし亡者達に下される罰にして、鬼の群れを斬り払う為に正義が用意した必要悪。何せ彼は殺し屋の殺し屋、殺人鬼を狩る殺人鬼。
 そんな彼の気配を、ルーツァンは誰より早く察知していた。何せ彼の事はもうずっと昔から知っている、一時期は彼の一番近くで彼を見てきた。最早切っても切れぬ腐れ縁だ。だからこそ、察知した上でルーツァンは、今まで表に出していなかった感情を容易く顔に出してみせた。苦虫を噛み潰したように、眉間に深い皺を刻んで彼の方さえ見ない。何故なら彼が言葉にする前からわかっていたからだ、彼が今から何を言わんとしているのかが。

 闇の使徒達を総べし長、シャーロック。ルーツァンは昔、彼の伴侶だったのだ。元々好き合って結ばれた訳ではない、古くから定められた許嫁であり、要は政略結婚だった。
 それでも、それでも。愛情が皆無かと言われれば、そうとも言い切れなかったようだ。そうでなければ今、ルーツァンはこんなにも簡単に感情を表に出しはしなかっただろう。

 愛と憎しみは紙一重、所詮この世の全ては表裏一体。

 氷のような眼差しで一瞥されても、手にしていたミカエルのペストマスクを奪い取られても、睨まれて皮肉を投げ掛けられても。ルーツァンはシャーロックを見もしなかった。不貞腐れているようには見えない、無視しているとも異なる。それはまるで、彼の存在を認知していないかのような態度。
 その後も丁寧に、しかし淡々と長々と、更に時折盛大に嫌味の棘を丹念に織り交ぜた、ミカエルへのシャーロックの説教をルーツァンはただ黙って聞いていた。興味がないというよりは、耳にすら入っていない様子で。霧雨の中、何処か遠い虚空を見上げ、まるで見えない星を見ているように。

 だが、シャーロックが地面に転がった手首を拾い上げた時、銀色に鈍く光るスコップを握るルーツァンの手に異様な力が籠った。

「…………『甘やかし過ギ』? 『貴女の若く逸る気持ちもわかりまス』? 『貴女の為を思って言っているのですヨ』? あらまア、これだから頭の固い殿方は嫌になりますわア……虫がいいったらありゃしなイ、反吐が出る程ニ、ねエ」

 言うだけ言って去っていくシャーロックの後ろ姿に吐き捨てつつ、ルーツァンの片端だけを吊り上げた薔薇の花びらのような唇は、最大限の皮肉を込めた微笑を象る。
 側で未だに放心している様子のミカエルの、そのオリーブ色の髪を、勝手でくしゃりと撫でて。ルーツァンはつい今しがた浮かべていたのとは全く違う、困ったようにも寂しそうにも見える微笑みを彼女に向けた。

「――――駄目な姉デ、不出来な母デ、ゴメンナサイ」

 ミカエルの頭から名残惜しげに手を離すと、胸元に差していた目元を隠す漆黒の仮面を装着し、顔を覆う事でルーツァンは人から鬼へと変わる。
 振り返りもせずどんどん闇に溶けていくシャーロックを後を追って、ルーツァンも煙が風に流れるように、瞬時に姿を消した。



 ベイカーストリートの路地裏、其処は見捨てられた者達の最後の領地、掃き溜めの聖地。
 どれ程歩いただろうか。一言も口を利かぬまま、シャーロックとルーツァンはあてもなく常闇の黄泉路を突き進んでいた。決して走っている訳ではない、しかし闇を歩く事に慣れ夜目が利く二人が歩む速度は速い。
 腐臭を放つごみ捨て場の脇を通り抜け、煉瓦造りの崩れた建物を横目に見ながら。ふとルーツァンは、仔猫が弱々しく鳴く声を聞いた気がした。

「シャーロック」

 ぴたりと、ルーツァンが立ち止まった。冷えた氷の刃のような、彼の名を呼ぶ声。

「空腹の仔猫ニ、ネズミを狩るのを止めさせるにはどうしたら良いと思ウ?」

 普段のルーツァンは孤児に生活していく上で必要な学問を教える慈善事業を行っており、そのせいもあってどこか甘く柔らかい独特な声色をしている。しかし今、シャーロックにかけられるその声は普段のそれとは似ても似つかない、冷淡で尖った響きを帯びている。それこそがルーツァンの本性。彼女の素性を知るのは今やこの世で元伴侶であるシャーロックだけ、だからこそ彼にはわかる事だろう、今のルーツァンが表の顔ではなく裏の顔に移行した事が。

「アナタに分かるカ、幼子が親から打たれる恐怖ガ。アナタは見たコトがあるカ、甘えるコトを知らない子どもの怯えた眼差しヲ。アナタは知っているカ、与えられたコトの無い愛情を想像すらデキナイ人間も居る事ヲ」

 手にしていたスコップを、頭上で軽々と一振りしてみせる。金属製であるだけでなく、機械仕掛けも搭載されたスコップの重量は相当なものである筈だ。しかし母国で拳法を学び、武術で鍛えたルーツァンの力は華奢な外見からは想像もつかぬ程のものなのだ。

「先程の問いの答えハ……満たされるまで喰わせてやればイイ。飢えしか知らぬ仔猫を止められるワケもなイ、たっぷりと甘やかシ、慈悲深く抱き締メ、欲しいだけ与えル。アナタはこの世界に必要なソンザイなのですト、何度も何度も繰り返し囁いて分からせなければ凶行は止められなイ」

 じゃごんと奇妙な金属音を立てて、スコップの先端がシャーロックの方を向く。ルーツァンは剃刀のごとく鋭い視線を彼に送った。その漆黒の目は、闇の中ですら尚黒く、重く、深く沈んで見える。

「アナタの綺麗事では何も変えられなイ、誰も救えなイ」

 ふいにスコップの先端から真っ白な蒸気が吹き出し、微かにモーターが起動したような地鳴りに似た唸りが響き始める。ルーツァンのスコップはただの農具などではない、特別な改造を施し蒸気機関の力を利用して人を殺める兵器だ。小さく折り畳んでおいて必要時には一瞬で元の形に戻す事も、先端の幅広な刃を高速で撃ち出す事も可能である。

「救われなければいけないノ、あの子達ハ。アナタやワタクシのように、堕ちるトコロまで堕ちてしまってからではどうしようもなイ。ジャックやミカエル、あの子達に罪は無い。ただ守らなければいけなイ、ただただ光溢れるオモテの世界で生きられるようにしてあげねばならなイ、ワタクシ達のイトシゴ」

 もし今、ルーツァンがスコップの柄に目立たぬよう隠されたボタンを一押しすれば、先端の鋭利な刃は目にも止まらぬ速度でシャーロックに向けて撃ち出される事だろう。狭い路地裏で、ルーツァンの攻撃を避けるのは至難の技かもしれない。
 ただ、ルーツァンの指は動かない。ルーツァンの漆黒の瞳も、シャーロックの表情を捉えたまま、微動だにしない。

「たとえミカエルがすでに多くの命を奪っていたとしてモ、――――それでもあの子はワタクシのヒカリ」

 路地裏の何処か遠いような、しかし近い場所で、仔猫がまた弱々しく鳴いた。

「アナタはまだワタクシの邪魔をするカ? いつまでモ、これから先モ、ワタクシの舞台を台無しにするつもりカ? …………どこまで正反対の道を行けば気が済むカ、オマエという人ハ」


>>ミカエル、シャーロック、周辺ALL


【お返事をお待たせしてごめんなさい……!】

2ヶ月前 No.63

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★0q9IsWx1bF_8gk

【メロウ/11月1日/ベイカーストリート】

 夕飯の食材と聞いて、ぱっと表情を明るくさせた。夫婦(内縁だそうだけれど、夫婦と言い表していいと思っている)仲がいいようで、スワンの嬉しそうな表情を見るとつい自分まで嬉しくなってしまう。
 紙袋の中身はマドレーヌだそうだ。貝の形のかわいらしい焼き菓子を想像する。焼き菓子の中ではフィナンシェが一番好きなのだが、マドレーヌも紅茶に良く合うので好きである。というか焼き菓子は見るのも食べるのも楽しくて飽きない。編みかごから顔を上げる。

「僕らはいつでもシャーロックの料理を食べられるけれど、スワンさんの料理を食べられるのはシャーロックくらいだから、いいなあ。」

 今でこそ食事は全てほとんど外で済ましているメロウだが、かつては料理を作ろうとしていたこともある。だが、ことごとく失敗し、連敗記録が30に突入しようとした頃には、人間誰しも向き不向きがあると結論づけて自炊するのを諦めたのだった。薬の調合などの実験なら得意なのに、この差は何なのかは自分にも他人にも分からない。だが、大切な人と食卓を囲むことへの憧れは今でも持っている。また寒い日にシチューでも作ってみようかなと考える。幸いにも自分の周りには料理に携わる人間が多いので、次は誰かをキッチンに連れ込んで監修してもらえばいいのだ。

 得意げに見せたストームグラスに、こんなに素敵な反応をしてもらえるとは思っていなかった。想像以上に反響があって、うれしさでいっぱいになる。彼女ほど興味を持ってくれる人は他にはいないのではないだろうか。えっへんと誇らしげに背筋を伸ばす。

「……! そーだね、お天気博士になります! ほんと、雪が降るのが楽しみなんだ。降った後の星空も綺麗だから。」

 雪が降る前のガラスの中は、一足先に銀世界のようになるらしい。小さな世界に雪が降る様子を早く見てみたいのだった。冬の訪れが待ち遠しい。ふと空を見上げて微笑む。それに、雪が降った後の空はいつもより明るく澄んでいる気がして好きなのだ。星がいっとうハッキリと、綺麗に、見えるそんな夜は窓際に座って、つい時間を忘れて夜空を眺めてしまう。

「そーだ、お買い物のお供にメロウはいかがですかー?」

 ストームグラスを箱に戻しながら、提案を投げかけた。夕飯の食材を探しているということなので、自分もお菓子を探したい。これから会う洋食店の坊やに、お菓子の詰め合わせを手土産として持っていこうという突然の思いつきだ。

【とても返事が遅くなってしまって申し訳ありません……。】

>スワン、ALL

2ヶ月前 No.64

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★0q9IsWx1bF_8gk

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2ヶ月前 No.65

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/ピカデリーサーカス】

ジャック、ミリヤム、白雨の三人のおさんぽ≠ヘ、雨に霞んでもなお煌めく賑やかな街を巡る。
霧の都の繁華街には高級ホテルに劇場、レストランに洒落たブランドの服屋、土産物屋にスイーツ店と、色鮮やかな誘惑がずらりと軒を並べる。
下界に恋の矢を放つ天使のような像の下の噴水では、沢山の若者たちが銘々の愛する連れを待ち小さな群れをなしていた。ある者は手に花束を、ある者はやたらと身なりを気にしながら、ある者は落ち着きなく行ったり来たりして、ある者は何処か寂しげに。
ジャック達は霧の都屈指のショッピング街へ向かって、美しい愛の神が微笑む広場・ピカデリーサーカスを通り過ぎる。此処でのサーカスとは曲馬団の事ではなく、こうした円形状の広場のことを言う。

「パテ? ハクセイ?」

すっかり泣き止んだジャックは、まだ鼻をすんすんとやりながら、頭上飛び交う二人の会話から聞きなれない単語を拾って繰り返した。両手は来た時と同じく、左右に見事な大輪の花を抱え、バンザイの姿勢になって小雨に煙る煌びやかな街を歩く。もう既にずぶ濡れになって今更雨粒がなんだというレベルなのに、それでも傘を差しかけてくれる白雨が優しかった。

「ハクセイ は おにんぎょう だね。シラサメシショーとミリヤムは、おにんぎょう つくるのがおしごと? 」

霧の都に来てから一週間、ジャックは、大人のみんなには「おしごと」というものがあるということを理解し、いろんな「おしごと」に興味を持つようになっていた。シャーロックは料理人、エディは香水のお店をしているし、アルトはお菓子屋さん、サマエルは考古学者、スワンは星の観測をしているといっていたけれど、「しゅふ」というのになるのだろうか。勿論ジャックは、彼等を繋ぐ組紐のように、共通して「殺人鬼」という本職があるということをゆめゆめ知ることはない。

「これも ハクセイ?」

ジャックの眼差しはショーウィンドウの中の一組の男女のマネキンを示した。店の前で立ち止まっている三人組の客を眼ざとく見つけて出て着た売り子の女が、一瞬驚いた表情で目を丸くしている。勿論、それは違う、当然人間の剥製などではない。
店員は気を取り直したか、「子供服もございますよー」とにこやかに接客をはじめ、ミリヤムと白雨とジャックを店内に誘うと、ミリヤムの見立てに一々「良いと思いますよぉ」「可愛いですねぇ」と頷きながら、陳列棚から言われた通りのアイテムをピックアップし、うんともすんとも言う前にジャックに次々に着せていく。

「……ジャックは、あか がすき……」

と、ジャックが好きな色を答えるよりも、白雨が好きな服のタイプを答えるよりも早く、ジャックは(流石に下着の試着はさせてもらえなかったが)、白ブラウスにサスペンダー、茶色のチェックのハーフパンツに、ガーターソックス、という出で立ちに取り替えられ、おまけに同じく茶色のチェック柄のディアストーカーハットとインバネスコートまで着せられて、小さな英国紳士に仕立て上げられていた。

>ミリヤムさん、白雨さん、all様

2ヶ月前 No.66

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/7月2日/ベイカーストリート路地裏】

背後に置いてきた二つの気配のうち、一つが後を追いかけて来る。振り返らずともその気配の持ち主が容易く分かる。寧ろ振り返ったところで、背後は底なしの闇で、距離を開けてしまえば真っ黒に沈む互いの顔を恐らくはっきりと見ることは叶わないだろう。だから、視覚以外の方法で、彼等は互いを認識し合う。嘗て唯一無二の相棒だった頃からそうであったように。
石畳を大きな歩幅で噛むように蹴りつけ、夜の向こうを見透かすような闇に慣れた目を敵襲に備え光らせる。シャーロックとルーツァンは、ミカエルを置いて黙々と歩いた。

規則正しい足音だけが静寂に波紋を落としていたのを、不意に乱してその声は響いた。「シャーロック」と彼の名を呼ぶ声。其れまで連なっていた二人分の足音が、一人分のものになり、それも二歩三歩も続けば緩やかに止まる。

「…………」
シャーロックは背後に立ち止まって動かないルーツァンを振り返る。シャーロックのフロックコートの裾を揺らし、ルーツァンのチャイナドレスの裾を揺らし、重い湿り気を孕む夜風が朽ちた赤煉瓦の路地を吹き渡る。
ああ、始まった。そう言いたげな顔で、然しシャーロックは温順しく、歩みを再開するのをやめにしてそこに直った。ルーツァンの言葉を最後まで聞き届けてやろうと口を噤む。弱ったように眉尻を下げ、柔和な顔を困らせ黙って耳を傾ける。手にした血まみれの手首を悪趣味で不愉快なものを触るように翫び、細い背を壁に預けたまま空を仰ぎ、雲の切れ間の星を数えては、受け流すふりをして。軈てルーツァンが一息つくのを雨宿りのように待った。気は済みましたか、という穏やかで涼しげな表情が相手の癇に触ることもよくあるのだろう。

「…………分かるつもりだよ、僕にも」

聞き流したふりから、目を伏せ息を吐く。
捲したてるような彼女が怒っている時の物言いには扱い慣れていたが、この場合彼女の言い分には共感できる。共感出来るが、立場上そうする訳にはいかないのであって。
夏を冷やす夜の風が、汚れた手元から血の匂いを燻らせる。
それではそろそろ反論を、と壁に凭れた身を起こそうとした刹那、喉元に大剣のような鋒が突き付けられる。乾いた血を帯びて鈍く光る凶器は、巨大なスコップである。腐れ縁ともいうべきルーツァンとの長い付き合いを経て何度となくこれを目にしてきたシャーロックは、この一種異様な武器を突き付けられても驚く様子も無い。その証拠に、その一瞬のうちに柄と剣先の接続部分を握り締め、首に迫る刃を寸止めにした。壁に追い詰められたような姿勢から、シャーロックは此方を睨んでくる底深い漆黒の瞳を見返す。

「綺麗事か……そうですね。我々が生き残る道は一つだけ。その綺麗事≠ノ甘んじ雇主である政府に楯突かず、従順に、正義面を提げて、より黒い悪を悪の力で斬るだけです。殺し屋の誇りを売ったと言われようとも。そうしなければ私やあの子達が……皆が生きていく方法は無い。だから、好き勝手に殺させる訳にはいかない。飢えていようと、本能であろうと」

すぐにルーツァンからの指摘を素直に認めたのは、シャーロックとてこの綺麗事≠ェ本意では無いからだ。あの中の誰一人として、罪人であること悪党であることからは逃れられず、処刑は免れないであろう。回避するためには、こうするしか無かった。シャーロックとて子供に手を上げられない≠ニいう決定的な弱みがあるが、これでも心を鬼にしたつもりだ。

「……あれを見過ごして繰り返させればミカエルは死ぬ。政府に消される。ミカエルだけじゃない、僕の大切な客人(guest)達は野放しの殺人鬼に戻れはすぐに賊として消されるだろう。……恨まれたって仕方ないと思っていますよ。でも僕が抑止するしか無い。……子供が殺したり、死んだりすべきじゃ無い……」

小さな西洋料理店の裏の扉は、その為に開かれたものだった。いつか穏やかな日々が訪れたら、早く暗殺業は引退して専業シェフになりたいですねぇ。このレストランも、ただのお子様ランチが充実した三つ星西洋料理店に……=c…いつも冗談めかして語る夢がきっと叶わない事は、本当はよくわかっている。
彼や彼女の擁護する子供であろうと、あの中に罪のない人間はいない。

「……ミカエルは、もう光ではないよ。もう、君や僕が守る子供でも、本当は無いのかもしれない……」

ルーツァンがミカエルに掛ける愛情も想いも、シャーロックは傍で見てよく知っていた。子供に注ぐ母のような深い愛情、時に深すぎて溺れるような依存。それを知っていて、冷徹に告げた。スコップを握り締めて止めた手に力を込めて、切っ先を喉元から壁へとずらす。ルーツァンがその気なら、こんな腕の抵抗など無意味になって、刃は鏃のように飛び出し容赦無くこの首を刎ねただろう。けれど彼女は、そうはしなかった。そうしないこともわかっていた。手袋を嵌めた手をするりと柄に滑らせ、ルーツァンの握る持ち手側へと這い寄った。手と手の距離がぐんと縮まり、壁に張り付いていた覆いのような黒い影が彼女に迫った。

「だからジャックは、堕とすわけにはいかない」

人の油断を誘う柔和な目が、守護すべきものを思うとき冷たく煌る。ルーツァンの中ではミカエルとジャックは子供≠ニいう括りで同列のようだが、シャーロックの中では、二人は決定的に違っている。ジャックは人を殺していない。
ーーだから、まだ間に合う
ジャックを餓狼の群れの中に連れてきたのは、彼の変態的な小児性愛の為ということにしているが、本当はそうではない。親を殺し、孤児にしてしまった幼子を、……ーー……否、まだ誰にも話していなかった。

嘗ては妻であった美しい人の顔が目の前にあっても、黒衣を纏う彼女の顔に俄かに出でし月光が差して宝石のように或いは星のように煌めいても、この男の人を嫌味に追い詰める冷淡なまでに怜悧な表情は揺らがなかった。

「考えている事はそう違わぬ筈なのに、如何してこうも、真逆に交差してしまうのだろうね」

邪魔をしているというよりは、合わないのだろう。だから、ビジネスパートナーとしては今でも絶大に信頼しているというのに、あの時は契約終了とばかりに路を別った。逸らしたスコップの剣先に、元から興味など無かったミカエルの戦利品である標的の掌を乗せ、自らはするりと細いシルエットを空蝉にしてルーツァンの横をすり抜けた。背中合わせのまま、通り過ぎざまに言葉を残して。

「いずれ、最後にはわかる。ーー僕ーーがあの子達の為になる」

>ルーツァンさん、(ミカエルさん)、周辺all

2ヶ月前 No.67

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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2ヶ月前 No.68

スワン @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【スワン/9月5日/ロンドン橋付近、テムズ河の畔】

 自身の接近に気付き、ミリヤムは狼狽えた素振りを見せたが、女の死体に魅入られたスワンは彼の様子など目に入っていなかった。
 殺人現場を目撃した瞬間の怯えはどこへやら、スワンは吸い寄せられるように女の亡骸の傍へと寄る。成人の死体をまじまじと見るのは初めてだった。これまで興味すらなかったが、これほど美しいものなのか。

「……あら、主人とお知り合いです?」

 死体の傍らに屈み、女の肌に視線を落としたまま男の言葉に答える。
 なんて美しい白。愛する夫にも秘密のコレクション――幼子たちの骨で作ったアクセサリーを飾ったら、きっと愛らしさを引き立ててくれるだろう。そんなことを思いながら、遺体の上腕辺りを指先で優しくなぞる。弾力はなく、滑らかな感覚が指を伝った。

「……そうね、」

 男のセールストークからしばらくの間をおいて、スワンは口を開いた。
 死体の肌から視線を外し、男の顔を見上げる。口元に優しげな微笑みを湛えて、「おいくら?」と小首を傾げた。

>ミリヤム
【遅くなりましてごめんなさい!】

2ヶ月前 No.69

スワン @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【スワン/11月1日/ベイカーストリート】

「あら、そんなことはないわ。メロウちゃんが遊びに来てくれたら、いつもより頑張って色々作っちゃう」

 私の手料理を食べられるのはシャーロックさんだけ。メロウのその言葉は気分を良くさせたけれど、メロウに料理を振る舞うことに乗り気なのも本当だった。シャーロックさんは私のご飯を何でも残さず食べてくれる。「どう?」と尋ねればいつだって「美味しい」と答えてくれる。けれど、夕食に何が食べたいかと尋ねると、たとえそれがちょっと特別な日だったとしても、あの人は「ハムエッグ」だなんて平然と言うのだ。それはそれでシャーロックさんらしいのだけれど、それでもやっぱり少しつまらない気持ちになる。だからたまにはメロウのような、目をきらきらさせて感想を言ってくれる人にも手料理を振る舞ってみたい。

「そうねえ、待ち遠しいわ、雪……。雪が止んだ夜には天文台に遊びに来てね。綺麗な星空を一緒に見ましょう」

 そう言って空を見上げる。気付けばもう11月。あとひと月もすればすっかり冬だ。スワンは冬の澄んだ夜空が特に好きだった。

「まあ! お買い物付き合ってくれるの? ふふ、嬉しいわ、喜んで。メロウちゃんはこれから何か見たいお店ある?」

 嬉しそうに笑いかけ、まるで少女のように後ろ手を組んでメロウの返事を待った。

>メロウ

2ヶ月前 No.70

シチダンカ @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シチダンカ/9月1日/西洋料理店Wildcat】


 ――此処へ来るのは二度目だった。
 四つ目のメッセージ。手を念入りに洗い終えて、顔を上げる。よく磨かれた鏡に映る自分があまりにもあたしを見つめるのだから、思わず目を逸らした。姿を真似てまでも憧れていた人には似ても似つかない容姿が、いつだって今のあたしを困らせる。きっと育ちすぎちゃったのね。鏡に入りきらなかった前髪から上に目を遣って、小さく笑う。誰かにでもあげちゃいたいくらいだわ。くだらない口パクをしながら鏡に視線を投げたままで、ポーチからルージュを引っ張り出した。髪と同色のルージュで唇を二度縁取っては、色味を馴染ませるために上下ですり合わせる。今日は挨拶をしに行くのだから、最低限のドレスコードをしなくてはね。ルージュを引いて本能を引きずり出せば、――この店の“客”の一人として扉を潜った。

 落とされた照明の下、目を伏せて瞬時に周囲を確認する。客足は、少ない。見渡す限りで特別なルールがないのならば、あたしも勝手にやらせてもらうわ。獲物を見る目、様子を窺う目、その中の一つに振り返っては、誘うように掌を振ってみせた。ねえ、ミスター。次に救われたいのは一体?
 白線の上を歩くようにヒールを鳴らしながらカウンターへと向い、左腕の腕時計へ視線を落とす。秒針が勿体ぶった動きで進んでいく様を、瞬きをしながら時間を潰した。

「お久しぶりね、マスター。今日は特別な夜なの。そんな日にぴったりのお酒、あるかしら?」

 座席に腰を下ろして、伏し目がちに見知ったマスターの顔を覗き込む。――この意味がわかるかしら。咎められなかった過去の悪戯を告白する子供みたく、歪んだ笑みが表に出そうになるのを止める。行き場のない感情を誤魔化すようにカウンターに左肘をついて、手の甲に頬を当てた。やや突き出た形の手首に巻かれた男性ブランドの腕時計。そして、その文字盤には右半分の数字を塗りつぶすかのように付着した血痕。自分の“愛する者”の左手首を旅する時計。それが、今回もまた自分の元に戻ってきた。
 マスターの返答を待つ間、最初に手にしていた人のことを思い出してみる。一番最初に救おうとした、愛しい人のことを。


>シャーロック、(ジャック)、周辺ALL

2ヶ月前 No.71

スワン @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

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2ヶ月前 No.72

七角羊 @nnir749☆A3LxctuN3d2 ★nXNfBmBWZd_m9i

【ダニエラ/7月4日/メリルボーンハイストリート裏路地】

男の呻き声をBGMに、手の中の新しい愛し子を撫でたり見つめたりしていると、背後から小さな気配を感じた。そうしてその足音に遅れてもう一つ、聞こえてきた。子の入り組んだ路地裏にどんどん近づいてくる足音に、手の中を宝石を愛でながらも僅かに気を向けた。一般人?それとも男の仲間?まさかこれから鉢合うのがよく顔の知った同業者と、この場にはいてはいけない人物だとは思わなかった。
より一層近くなった気配に思わず男と手の中の小瓶から意識を外して後ろに振り返ると、そこに立っていたのは、

「――――――ねえさん!とジャッ……ク……?」

エディの姿に声が弾むが、彼女の様子と彼女の腹に顔を押し付けるように抱きしめられている金髪の幼子――――ジャックの存在を認識すると、ぽかんと目をまんまるにし、ジュッと壁に吸っていた煙草を押し付けて急いで消す。殺人鬼が拾ってきた幼子、ジャックと慕っている姉のような存在であるエディとの再会に素直に喜びたいところだが、シチュエーションがシチュエーションであるため素直に喜べず、寧ろ焦る。いつもなら手を大きく広げ、こっちにおいでと抱擁をしたいところだが、それも叶わない。こんなに肝が冷えた再会は初めてかもしれない。"ヤダ、もしかして見ちゃった?"エディの言葉を聞く限り、どうやら自分は大きな失態をやらかしてしまったらしい。幼子をこちらの世界に引き込むつもりがあったにせよなかったにせよ、目撃されたのはどう見ても素敵な"キャンディ"を迎え入れて気が浮かれていたダニエラの落ち度だ。

エディの鋭い指摘に「え、えーッと、」と思わず言葉を濁す。先ほどまでの恐ろしくておかしい、まさに狂った殺人鬼といった様子とは裏腹、愛すべきねえさんに痛いところを突かれて狼狽えているダニエラの姿は人間味があり、どこか滑稽だ。敬愛している相手と最近出会った可愛いボウヤにまさか、ここで出会うなんて!ジャックが見せてほしいと望んだなら喜んで血みどろの世界を見せてあげるところだが、こんな形はワタシだって望んでいないわけで!

「ええ、そうするわねえさん。」

エディに静かに窘められ、申し訳なさそうに言う。まだ両手で数えられる年齢の子供に仕事を見られ、なおかつ尊敬する優しいねえさんにフォローまでしてもらい、自分で言うのもアレだが、気が抜けすぎていた。悪友のような存在であるメロウにこのことが知られたら散々からかわれそうだ。己の思わぬミスに僅かに落ち込み、もう、やんなっちゃう!と叫びたいところを抑えて、這いつくばる男に目を向ける。

「よかったわねェミスター、お迎えが早まったみたい」

地面に這いつくばる男に目線を合わせるようにしゃがみ、上から青白い顔を見下ろす。ジャックとエディの登場により助かると感じていたが、自分に刻一刻と迫る死神の手が消えないことに焦り、再び絶望に染まっていた。そんな男に綺麗に笑って、"バイバーイ"と別れの挨拶を口にすると男の首に勢いよく針を突き刺した。ジャックの手前だ、声帯も貫かれ悲鳴すら上げることが叶わず、男は息絶えた。ア、そういえば彼女の名前を聞くのを忘れてしまった。まあいいか、その綺麗な色に合う名前をあとでつけてあげるとしよう。

男の息が絶えたことを確認すると、ちょっとだけ気まずそうに、しゃがんだ体制のまま、エディの腹に顔をうずめているジャックに目線を合わせるようにじりじりと近づく。殺人鬼に拾われて殺人鬼たちに囲まれて生活をしているとはいえ、これはさすがにショックだっただろうか?

「……ハァ〜イジャック、気分はどう?」

顔をうずめたままの状態であるジャックを心配するように、首をかしげながら問いかける。現場は血まみれであるが、ジャックの目に男女の死体が入らないように彼の正面へと近づいた。いつも興が乗ると大体赤塗れになってしまうが、今日は偶然にも返り血は一滴もついていなかった。ダニエラ自身は返り血で汚れていないことが不幸中の幸いだろうか?どこか他人事のような物言いだが、嫌われちゃったらオカーサンショックだわァ、なんて考えながら、血みどろの現場に泣き声一つ上げないジャックの様子をうかがう。

>>ジャック、エディ、ALL


【ジャックくんとエディさん、絡んでくださりありがとうございます〜!お二人の素敵な文章に興奮しております……!ジャックくんの初のお仕事見学がダニエラなんかでいいのだろうか……?と恐縮しておりますがこうして絡めてとても嬉しいです。エディさんのお説教と顎クイ、胸に染み渡りました……(ジーン)そして文中でメロウさんのお名前をお借りさせていただきました。】

2ヶ月前 No.73

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/ピカデリーサーカス】

 剥製を人形と称したジャックに、ミリヤムは物知りねと笑う。そのまま彼がマネキンをさして告げた言葉には、思わず吹き出してしまったが。タイミングよくやって来てフリーズしている店員にアイコンタクトで謝罪すると、ジャックの目線まで屈んで今度は間違いを訂正する。
「良いことジャック? 剥製っていうのはね、少なくとも外側は本物なの。お店に沢山の剥製が並んでいるというのは、それはそれは大変なことなのよぅ。あれはマネキンっていうの。お洋服を飾る為のお人形、作り物で、剥製じゃないわ」
 自分がやっていることは見事に棚の上に放り投げて告げる。
 そうこうしているうちに、ジャックは小さな英国紳士に仕立て上げられており、マネキンへの興味など何処吹く風状態だったのだが。
「まあ、まあまあまあ、とっても可愛いわジャック! 何処ぞのロリコ……エセ紳士とは大違い、この純真無垢な感じ堪らないわぁ……よく似合ってるわよ! あ、ちょっと其処で回って見せて……そう、そんな感じ! 店員さんもありがとう」
 興奮気味にジャックと店員を褒め称え、ついでに彼女にそっと耳打ちする。
「この子、雨で全身びしょ濡れになっちゃったのよ、下着も良いの見繕って下さる? あと、王子様は赤がお好きらしいので……そうね、ハンカチもお願い。レインコートも暫く役に立たないから、傘も一本頂けるかしら? 請求書は全部纏めてWildcatっていうレストランに送り付けてくれる?」
 ジャックもシャーロックも知らぬところで勝手に商談を成立させたミリヤムは、インバネスコートを翻してくるくると回り続けるジャックの肩を抱いて止め、白雨へと向き直る。

「じゃあ、折角だし今度は和装とやらを見に行きましょう! 姐さん、いいお店教えてね」
 これだけでジャックを着せ替え人形に出来る機会を終わらせるつもりなど小指の甘皮程もないミリヤムは、高らかに宣言したのだった。

>ジャックくん、白雨さん

2ヶ月前 No.74

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/9月1日/西洋料理店Wildcat】

ーーあのひと、前にも確か…………

シャーロックの感じた違和感は、気の所為などではなかった。当然の事だ。霧の都の夜を慄わす、怖ろしき殺人鬼達の群れ。小さな西洋料理店の裏側は、餓狼の巣窟。その中に、善良な一般市民が仔羊のように投げ込まれていたら。……注目を引かないわけがなかった。
この店に集う殺人鬼達は、必ずしも仲間≠ナあるとは限らない。ただし狭い世界だ、同業者としてお互いの存在をある程度は認識しあっているのが普通だ。特に店主はその立場上、西洋料理店Wildcatの大切なお客様≠ニしても、そして殺人鬼が生きにくくなったこの時勢の中で多少なりとも自分を頼ってくれている仲間≠ニしても、この店に出入りするメンバーを誰よりも把握していた……つもりだった。けれど彼……否、彼女のことはそれまでこの店で見たことがなかった。
前に来た時にもこんな風に、赤い煉瓦の薄く照らされた壁の前に現れて、一人でそっと淑やかに席に着いた。他の殺人鬼達が、迷い込んでしまった仔羊を見るようにちらちらと視線を寄越す中を、毅然としてグラスを傾けていた。或いはもしかして、そんな視線にすら気付いていないのかもしれないとすら思った。
最初の夜も、他の客の誰一人声をかけることはしなかった。シャーロックも入り口を間違えていますよ、と親切で教えてやろうかと何度も考え、そして断念した。もしや政府や他の殺し屋組織の諜報員では、という声もあり、グラスを拭きながらそれと気付かれぬよう観察していたが、結局その晩は何事もなく、酒をすっと気持ちよく飲んで出て行ったのを覚えている。

またいる……。
二度目の来訪は予期していなった。流石に、二度目は偶然ではあるまい。本当に、入り口を間違えているのか……? シャーロックは、壁際のテーブル席でビジネストークをしていた二人組に視線を送り、一般人の前だから話題を変えるようにと目配せで制した。

「二度目の御来店ですね、ありがとうございます」

柔らかく落ち着いた声が、しんとなってしまった店内に響く。カウンター越しに穏やかな笑みを浮かべていた店主は、おや、とわざと不意打ちを食らったような顔をしてから、少し思案顔で顎に手袋の指先を這わせた。

「……特別な夜、ですか。それは、おめでとうございます。お祝い事でしたら、どういたしましょう、シャンパンでも開けましょうか?」

どの規模のお祝いなのか、いや、そもそもお祝いなのかはわからないな、それともカクテルが良いだろうか…………とそこは仕事熱心に考えながら、シャーロックはメニュー表を開き、「お赤飯でも炊きましょうか?」と無邪気な笑みを浮かべる。メニュー表の端には、一体どこで覚えたか小さく「Osekihan」と書かれている。そんな悪戯心あるサービスをテーブル上では広げながら、笑みに細めた眼はサッと相手を観察する。
俯き君の角度からこちらを伺うように、薄暗い部屋の中でもキラリと光る淡い緑の視線が投げられる。或いはこちらの反応を楽しんでいるかのような、試すような視線。その左頬に添えられた手の甲を何気なく辿って、シャーロックは極僅かに目を瞠った。
左手首に巻き付けられた時計に、見紛うことも許されないほどべったりと乾いた血痕が付着していた。
ーー彼女がこの店の裏側に来てしまったのは、偶然では無いのだろう……

すぐに声を掛ける事もなく、況してその手首を掴むなんて事もなく、店主は一度目を逸らし、酒瓶の並ぶ棚の方を向いた。細いベストの背中が、待っているであろう今宵のguestへと問い掛けで応える。

「…………お連れ様は、お見えになりますか?」

>シチダンカさん

2ヶ月前 No.75

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム(ウィリアム)/9月5日/ロンドン橋付近、テムズ河の畔】

 ウィリアムが狼狽えている間に、スワンは女の死体へと更に接近していた。自分のことなど眼中に無い様子にウィリアムはそっと溜息をこぼすが、それが安堵なのか呆れなのかは彼自信にも分かっていない。
「知り合いも何も……彼女を殺せと言ってきたのは他でもないシャーロックさんですよ」
 スワンが興味深げに眺めている死体を指さして告げる。彼女は知りすぎました――よくある台詞だが、人が死ぬ理由なんてそんなものだ、ありふれている。
 しかしどうやらスワンは彼女のことを気に入ってくれたようで、セールストークからはややあったものの、その唇から飛び出したのは値段を尋ねる言葉だった。
 さて、とウィリアムは頬に手をやって――正確にはやろうとして、白い手袋が赤く染まっているのに気が付き途中で止めて考える。

 今回はそもそもの素体が依頼によるものだからそこそこの報酬が入る。ともすれば人形作りで利益を追求する必要はないし、次回のオークションまでにはまだ時間がある。作品はまた作ればいい。
「特別サービス、材料代抜きカスタム込みでこんなもんで如何です? 衣装とかデザインとかある程度は融通ききますよ」
 そう言って、ウィリアムはそこまで血に染まっていない左手の指を二本立てて示して見せる。オークションなら割とシンプルなもののスタート価格、ウィリアムからすれば破格の値段だが、それを高いと取るか安いと取るかはスワン次第である。

>スワンさん

2ヶ月前 No.76

ルーツァン @papillon☆0uO5mlUpCUns ★sAbT0rwP1n_mgE

【ルーツァン/7月2日/ベイカーストリート路地裏→(回収)】


 あの顔を見ていると、昔から無性に苛立つのだった。

 深い闇、それは濃厚に香る強い酒のようなもの。飲めば飲む程呑み込まれ、甘く重く沈んで戻れなくなる。そんな黒いこの世界の底を、シャーロックとルーツァンは夜目の利く獣となって突き進んでいた。しかし声無きも進軍も、ルーツァンの一声で終わる。
 振り向いたシャーロックの、あの顔。昔から何回も、何十回も、何百回も。一体どれだけ見てきたかきっと数えきれない程見た、あの顔。これからルーツァンが口にする全てを、言わずともすでに分かっているような、あの冷めた目。分かっていながらわざと困惑したように口元を結んで閉ざし、まるで駄々をこねる子どもをあやすがごとく静かに耳を澄ます。そのくせ結局は知らないふりを決め込むのだ。

 癪なのだ、あの頬を何度引っ叩いてやろうと思った事か。


 シャーロックが水なら、ルーツァンは炎のようなもの。それは二人が初めて出会った頃から変わらない。交わらない二匹の獣は、表と裏もまるで正反対なのである。穏やかに見えて、水底に激しい渦を隠し持つ海のごときシャーロック。苛烈でありながら密やかに、静かなまま花々を蝕んでいく野火のようなルーツァン。共に歩める筈もない、けれど距離感さえ間違えなければ上手く二つのまま薄暗がりを歩いていけたかもしれない。
 生活を共にしていた頃も、そもそも擦れ違う事や合わない部分が多かった。それでも長い時間を連れ添えたのは境遇が似ていた事、そして内面も似ているのに言動が真逆だったからかもしれない。水と油だったから混じり合う事なく、しかし遠ざかる事もなく隣に居られた。誰かに近付いてそっと寄り添う事が苦手な本性を隠し持つ二人だからこそ、もし出会い方が違えばまだ離れてはいなかったかもしれない。

 元々恋愛感情から結ばれた訳ではない二人である、共に代々続く古い家系の生まれだ。しかしそれは表立って誇れる血筋ではない、古より霧の都で暗躍し訳あって人を狩り続けてきた影の輩と、権力者に飼われ望まれるがまま敵を始末してきた猟犬の末裔。遥か遠く離れた異国の地でそれぞれ生きる二つの血族は奇縁により繋がり、やがて友好の証として互いの子どもを差し出すという仄暗い約束を交わした。
 猟犬の娘が祝言を上げるのに相応しい年齢になった頃、彼女の一族は祖国の存亡を懸けた戦乱に巻き込まれて滅びたが、結ばれた契約は消えなかった。猟犬の娘は海を渡り、取り決め通り影の一族の息子に嫁いだのだ。
 二人の関係は夫婦と呼ぶにはあまりに不器用で拙かったが、仕事上では抜群の相性を見せた。影の一族に伝わる人を殺めるありとあらゆる術の全てを受け継ぎ、更にはこの世に存在するどんな猛毒をも完璧に操る最恐の暗殺者である彼。実践的な古武術を会得し、鍛え上げた肉体と凍空のごとく冷徹な闘争本能であらゆる障壁を噛み砕く狼のような彼女。まさに唯一無二の相棒(バディ)として、彼と彼女は文字通り霧の都を震撼させた。何しろ二人とも若かった、容赦というものを知らなかった。毎夜毎晩文字通りの赤い雨を降らせ、路地裏を生臭い鉄の匂いで満たしたのだ。
 しかし、それも今は昔。彼の親が亡くなった時、同時に二人を雁字搦めにした血の契約も解け、彼は彼女に別れを告げた。かくして霧の都を揺るがせた二匹の黒い獣は別々の道を歩み始め、世界を喰らい尽くすかと思われた凶行もぱたりと止んだのだ。

 今やその伝説も過去のものとして忘れ去られつつある。あの頃の凄惨な事件の数々は口にする事すら憚られ、闇に葬られた。
 霧と影に潜みし処刑人達が集う山猫の名を持つ料理店。其処に足繁く通う若い殺し屋達の中には、鼠一匹駆除する事すら出来なさそうに温和な笑みを浮かべる店主と、店の常連であり独特な発音の英語で穏やかに談笑する異人の女、この二人の過去を知らない者さえ今では多い。

 それでも尚、霧の都では。夜なかなか眠らない子どもを脅しつける母親が彼ら彼女らに語るのだ。

『早く眠らないと深い霧に紛れて奴らが来るよ! さあ御覧、窓の外!』

 母親の金切声に、幼子達は涙ぐんでベッドに飛び込み、がたがた震え上がる程に怯えて。恐ろしくも子供だましなその伝承だけは、今なお霧の都に語り継がれている。

『ほら、二つの影を引き摺って、――――黒衣の鬼(ブギーマン)が来たよ!』


 シャーロックの、いつも通り子ども扱いするようなその顔に、つい遠い過去を思い出してしまって。ルーツァンはますます不機嫌になって眉間に刻んだ皺を更に深くする。彼の手で玩具にされている手首が余計に不愉快さを募らせ、ルーツァンはそれを視界から追い出すようにシャーロックの目を鋭く見据える。奥底知れぬ深みを湛えた、ヘーゼルナッツ色の瞳を、睨む。

「分かるツモリ、それはただのアナタの口癖」

 ルーツァンは基本的には自身の激情を上手に隠して表の世界で生きている、しかし視野―ロックの前となると別だ。声こそあまり荒げないものの、言葉を積み重ね、相手が反論出来ないように強い言葉で埋め尽くそうとする。もしくは、一言でばっさり切り捨てる。だから会話が続かないのだが、それでも辛抱強く言葉のキャッチボールを続けようとする今のシャーロックが、ルーツァンは面白くない。

 昔はああではなかった、昔の、あの頃の彼は。

 彼の首にスコップの切っ先を突き付けたまま、しかしルーツァンはそれ以上動かない。シャーロックがスコップを万力のような剛腕で止めているからというのもある、彼はひょろりと長い外見からは想像も出来ない程に力が強い。しかしそれだけではない、相手の言葉を待っているのは何もシャーロックだけではないという事だ。

「綺麗なモノは好キ、けれどその為だけに生き残ろうとはワタクシは思わなイ。ワタクシ達は所詮ヒトの皮を被ったケダモノでしょウ? 今更どう足掻こうが悪は悪。他の者達がどんな意図で政府に従っているのかは知らないけれド、そもそもワタクシはあんなクダラナイ政府などに従っているつもりはないワ。ワタクシの一族を、ワタクシの国を、ワタクシの誇りを殺めタ、こんな国なド……ワタクシが屠るのは忌まわしきあの阿片をばら撒く売人ヤ、それで至福を肥やす愚物のミ。その邪魔をするならこんな国、牙を剥いて引き裂いてやるまデ」

 シャーロックが己の発言を綺麗事と理解している事など、最早長い付き合いであるルーツァンが気付かぬ筈もない。しかし気付いていて尚、彼女は彼にその言葉を投げ掛けた。それは彼を焚きつけようとする意思から出た言葉だ、何せルーツァンはシャーロックと異なり時が流れても相も変わらず牙を隠せぬ獣である。

「それに理由はもう二つあル、一つハ、あの子達の為。そしてもう一つハ、我々の長がアナタだからダ」

 そもそもルーツァンは、この国を未だ憎悪していた。過去の戦乱を未だ自身の記憶として受け継ぎ続け、反逆の焔をその胸に燃やし続けていたのだ。彼女がシャーロックから受けるのはいつも薬物絡みの依頼のみ、しかも機会があれば依頼に託けてさりげなく政府の人間を巻き込んだ事も一度や二度ではない。シャーロックの手回しが無ければ、彼女こそとっくの昔に消されたいただろう身だ。
 それでも、彼の手助けを知っていても。否、だからこそ。ルーツァンは険しい表情のまま、犬歯を剥くようにしてシャーロックに言い放つ。全ては自身の祖先の報復が為、守りたい小さな愛し子達の為。

「制止だけが方法ではないのでしょウ? ワタクシ達のミカエルにこの国が手を出すなら反旗を翻せばいイ、そうではなくテ? あの子が愛おしいなら、アナタの客人が大切ならば、戦って奪い取ればいイ。ワタクシの血族は昔その為に戦っタ、この国ト。ワタクシの祖父も祖母も、父も母も、親類達も皆、戦って死んダ。それでも悔いはなイ、誇りを捨ててまで生きて何になル? そんな生き様は美しくないでしょうニ」

 そして、そして。今も心の何処かで信頼し続けてしまう、眼前の男を想うが故に。だからこそ、強い言葉で焚きつけるのだ。彼の心の内に今も燻っている、気高き獣の血に語り掛ける。
 自身の言葉がいかに荒唐無稽か、彼女とて理解していない訳ではない。それでもスコップを構えたままシャーロックに密着し、爪先立ちになって彼の耳に唇を寄せ、涼やかに淡々と紡いでく言葉には。言葉の響きとは違う、立ち上るように怨念にも近しい強烈な怒気が籠っていた。

「長たる者、護らなければならないのは重々承知の上。だからこソ、アナタだからこソ、ワタクシはアナタに戦う事を要求するのダ。この意味がアナタに分かるカ?」

 シャーロックがミカエルや、山猫の名を冠したあの店に集う強く儚い者達にどんな感情を抱いているか、ルーツァンとて分かる。彼をずっと見続けてきたからこそ、痛い程に、分かる。だが、故にルーツァンはシャーロックとは真逆の答えを突き付けたのだ。彼は長として制御し、規制し、鎖で繋ぐ事で生き延びさせる術を語った。彼女は長だからこそ戦えと、守る為に毒を盛り、刃を振るい、生を勝ち取る野生を説いた。

「――――光ダ、アナタが何と言おうとあの子は人でいられなかったワタクシの光」

 膨れ上がる憤怒、それすら全て飲み込む静と制。

「だからジャックハ、コチラガワに居てはいけなイ」

 シャーロックが身を翻した事で、スコップは鋭い音を立てて煉瓦の壁を易々と貫いた。自身に迫った背の高い影を見上げ、大人と子どものような身長差を物ともせず、ルーツァンはシャーロックに素早く手を伸ばし、その襟元を掴んだ。
 ぐっと顔を近付けて。唇と唇が触れ合いそうな程近く、シャーロックとルーツァンの視線が交差する。

 あの罪なき幼子に関しても、彼と彼女の思惑は、またも真っ向から相反した。

「ワタクシ達が真逆な事なド、出逢ったあの日から分かっていた事だろウ? それにしてもあの頃のオマエは美しかっタ、初対面のワタクシヲ、今宵お前に嫁ぐというワタクシヲ。血族の契りなど知った事ではないト、即座に葬ろうとしたオマエはまるで黄金の虎のようだっタ……お前も老いたナ、シャーロック」

 あの頃の事を思い出す、あの日の事を思い出す。あの頃は、二人ともまだ若かった。容赦を知らなかった、配慮を知らなかった、加減を知らなかった。いつもぎらぎらしていた、全て牙を剥き、まるでこの世にたった二人のようだった。
 過ぎ去りし時は、もう戻らない。あの美しく萌えるような、煌めく雨の季節は帰らない。

「そんなオマエを喰い殺せぬとハ、ワタクシも焼きが回ったものサ」

 スコップの上に乗せられた、汚らしい肉塊。壁からスコップを引き抜くと同時に、ひゅっと壁に叩き付ける。柔らかい物が潰れる奇妙な音がした。
 背中合わせのかつての相棒を、あの頃の伴侶を。ルーツァンは振り向きもせず送る、先程までの怒りの表情が嘘のように、空虚な微笑を浮かべて。まるで、夢から覚めるように。

「いずレ、最後に気付ク、――オマエ自身の過ちニ、ワタクシ達の罪深さニ」

 サヨナラ、カワイイユメ。


>>シャーロック、周辺ALL


【絡んだ期間自体は短かったでしたが、濃密で儚くも美しい時間をどうもありがとうございました……!】

2ヶ月前 No.77

シチダンカ @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【メロウ/8月31日/シチダンカ宅前】


 お嬢ちゃん――彼女の示した礼儀に沿って、右手を左胸に当てて小さく会釈を返した。顔を上げては、オッドアイの両の目と視線が合う。

「彼に用がある、だなんて言われたらどうしようかと思ってたの。……そうじゃなくて良かった。最期まで、ねえ。あたしが、最期まで、しちゃったのよね。あたしが、腕なんて、脚なんて斬ってしまわなければ、彼、まだ生きていたのに」

 ふふ、と小さく笑った。それから、ヒールの爪先で地面に爪を立てたままの彼の指を撫でた。生と死の境目に考えを馳せる度に、それを自分が他へと与えたと自覚する度に、堪え切れない多幸感が身体の中をぐるぐると廻り始める。目の前のこの子にも、少しでもそれが分けられたのならば良いのだけど。そうしたら、この子も一緒に救ったことに、そうならないかしら。そんなことを考えながら、ふと我に返る。この多幸感は、制限付き。三つ呼吸をする間にするりと逃げて、霧の中に埋もれていってしまう。悪酔いしないように、一日一回って決めてるの。ほら、一日一善が丁度いいくらいでしょう。これ以上、病みつきになってしまう前に。だからこそ「あなたを、こうしたりはしないわ」とお嬢ちゃんに向けて、それだけを告げた。
 後片付け。その言葉に、人差し指を唇へ当てる。後片付けって、なあに。

「それは、あたしの仕事じゃあないの。この人の手脚が欲しい人がいたり、靴が欲しかったり、血を飲みたくなったり、左目が欲しくなっちゃったり、臓器を取り出してみたかったり、後はそういう人たちが“そう”すればいいわ。もしもあなたがその中の一人なら、喜んで譲るけれど」

 言い終えて、上着を袖から外す。全て脱ぎ終えた後で、テーブルクロスを広げるように、冷たくなった彼の身体の上へ下ろした。ロングコートの下に収まったパーツたちが、歪な凸凹を残したままに彼を隠しきる。

「そうね、でも――これは裸(無残な死体)の彼にプレゼントするわ。……ねえ、ところで」

 しゃがみ込みながら、ロングコートの襟を捲った。彼の頭部が姿を現す。白くなった頸部に、地面に擦れて癖のついた髪、――そして、黒い渦のような靄に隠れたかつての顔。彼の頬であるだろうその場所に手を伸ばして、死の感覚を確かめる。もしかしたら、触れた場所は唇かもしれないし、見開かれた眼球かもしれない。どうであれ、あたしにはその顔を見ることができない。

「彼、どんな顔をしているかしら?」

 初めて誰かに現場を見られた夜だから。そんな特別な夜だから。だからこそ、聞いてみたいと思った。返答次第によっては、――。

>メロウ、ALL

2ヶ月前 No.78

凍雨 @kafune☆01.vmkBoVYY ★iPhone=rqHFJYyfIa



【 ルイス / 6月30日 / 廃れた彫刻屋「L」 】


 まだ出会って間のないリリィが頬の筋肉をゆっくりと緩ませ、愉快そうに振る舞う姿を涙でボヤけ始めた視界の中で捉える。が、次の瞬間にはそこにあったはずの笑顔は見る影もなかった。薄暗闇に染まる室内にピンク色の瞳が妖しく光を放つ。外で見た時よりもその色は鮮明になっていくようで何処か恐ろしさを感じる。ぞわりと身体に冷たいものが流れると無意識にも防衛本能が働いたのか、自然と流していた涙が引いてしまった。
 ……不味い。臆する気持ちによって一瞬だけ狼狽えつつも、リリィがルイスの頼みを承諾する言葉を聞いた時には既に役者の面を付け直したルイスが安堵の表情を浮かべていた。


「……ありがとう。どんな場所だって、居させてもらえるだけで有難いよ」


 柄にもなく、心からの感謝の念を口に出す。リリィの行為は恐らく同情からだろう、と思ったルイスは未だ孤児の振りを続ける。けれど決して本質は見抜かれぬようにあどけない笑顔を何重にも分厚く着込んでそれを本物の感情とすり替えようと努力するが、そう上手くはならないらしい。どれどけ笑ってもルイスの心は冷たく凍てついたまま動く気配は見られない。ならば仕方がない。嘘を嘘で固めて、真実を欺く。それしかない。ルイスは自らの右手を胸元に添え、服ごと強く握り締めた。それでも変わらぬ笑顔を咲かせるルイスは俯き加減になった視線をリリィの元へ戻すとルイスのことを室内から手招いていた。それに導かれ、ルイスは一歩ずつ不気味な雰囲気の漂う店の奥深くへと足を進める。


 そしてリリィが腰掛けていたソファーに座るように促されるとルイスは大人しく従って腰を下ろした。一応座る間際まで手探りで怪しい仕掛けはないかと疑ったがそれらしきものが見つからなかったので今は下手なことをせず、厚意に甘えるとしよう。そうしてソファーに触れたルイスはあくまでも遠慮がちにそこへ座ることにした。飲み物はどうかと訊ねられたルイスはうーん、と白々しく悩んでいるような素振りを見せながらも「あたたかい紅茶がいい」と我儘を零した。


 ルイスの返事を聞かぬ間にキッチンへ向かってしまったリリィが奏でる生活音たち。その音色を聴きながら静かに瞼を閉じる。暗い店内で揺れる蝋燭の光もやけに懐かしくてなぜだか心地良い。不気味で恐ろしいはずなのに、子供の頃に体験したものと似通った感覚にルイスの心は隙を見せてしまった。ゆえにキッチンから突如として囁かれたリリィの言葉がルイスにキツく突き刺さってしまった。閉じていた瞳を勢い良く見開き、ソファーなら身を乗り出してリリィの居るキッチンの方を見遣る。その顔には穏やかならぬ焦りの色が滲み出ていたがルイスはそんな緊急事態にこそ冷静にならねば、と騒がしく警報の鳴り響く頭を叱咤する。


 落ち着けば大丈夫。きっとどうにかなる。誤魔化すのは得意なんだ。嘘をついても、どうってことない。そうすることが当たり前になればいいんだ――。ルイスの脳内に自己暗示の言葉を繰り返し刷り込ませれば、いつの間にか警報は鳴り止み、頭は通常運転に切り替わる。危なかったと内心の焦りを覆い隠すかの如く、ルイスは乗り出した身を再びソファーの上に戻すとある変化に気付く。
 嫌な予感が次から次に湧き出るほどの静寂と緊迫感が店内を埋め尽くしていた。そして、リリィの口から呪文かのように垂れ流される『どうして?』という言葉が店内に、否、ルイスの精神で木霊する。それからまたあの目がルイスをじっとりと見据えて離れない。とてもいい気分とは言い難い環境に置かれたルイスは一度溜まりに溜まった息を吐き出してから、へらりと道化を着飾る。


「いいや? オレはれっきとした迷子だよ。知り合いとはぐれて帰り道が分かんなくなってここに迷い込んだの。ほらぁ、さっきも言ったじゃん? オレには帰る場所なんかない≠チてさぁ」


 鼠が一匹、ルイスの頭上を走り抜けていく音が聞こえた。鼠もきっと、この目の前に居る蛇のようで、魔女のようにも見える彼女の笑顔に臆して逃げ出したのだろう。だが、ルイスも又、そんな状況でも曲者を気取り、土壇場でも何かを演じることを辞めようとはしない。リリィの瞳が妖艶に光り輝くのなら、三日月のように歪ませた銀色の目も負けじと強い光を放つ。


「ホントのホントに、ただ偶然だよ」


 闇夜をさ迷う野良猫のように真っ直ぐにリリィを見詰めながら相手の次なる動きに身を備えた。

>>リリィ様


【わーお褒め頂きありがとうございます(;;)リリィさんもめちゃくちゃ素敵で妖しいお姉様なのでドキドキが止まりません……!】

2ヶ月前 No.79

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/12月26日/天文台】

ダチュラの花。駆け寄ってくる妻の、可憐なワンピースの翻る姿を、見るたびいつも自分の好きなダチュラの花に似ていると密かに思っていた。妖精の羽のように軽い白く優雅な布地が、陽光に舞うカーテンよりも爽やかに、風に靡いては俯き加減の純白の花弁を開いては閉じ翻る。踊るような足取りも、夢見るような甘い眼差しも、想いを懸けたあの頃の、小さなMy fair lady≠ゥら変わっていない。

今宵も、クリスマスをすっぽかし、普通の女性であれば幾ら憎んでその頬を引っ叩いてもも憎み足りないであろうほどの平然とした面を提げて、手にはぬかりなく素敵なプレゼントさえ持って、帰って来た木偶の坊のことを、スワンは満面の笑みで出迎えた。
「あ、ああ……」
思わず、頬が雪解けのようにへにゃりと緩む。
「……ただいま」
凍えて感覚の無くなっていた手が、不意打で温かい物に包まれて、じんじんと脈を打ち始めた。甘く、何処か懐かしい匂いがする。目を落とせば、可愛い我妻が、良人の冷たくなった両手を体温を分け与えるようにして健気に摩っていた。その細い鼻柱、白い額、柔らかに波打つ春色の髪を、見ているだけで温かな気持ちになって細めた目の奥が一瞬眩んだ。

「…………」

曼陀羅華の、夢の中へと誘うように。

「…………」

靴底の霙が只の水へと変わるまで、シャーロックはその場から動けなかった。一言も発せなかった。微笑ましかった筈の、夢に見た筈の、優しげな情景が偽物であると突然に明かされた時、彼はその光景を凝視したまま動けなくなった。
妻の両手に包まれた己が両手に、みるみるうちに血が染み込んでいく。人殺しの癖に汚れることを嫌う純白の手袋が、血染めの蘇芳に色を変えてゆく。息を止めてそれを見詰め、ハッと目を見開いて、目の前のスワンを頭の先から足の先までもう一度眺めた。

今の今まで、自分が、彼女を見ているようで本当は全く見ていなかったのだと気付いた。
近頃の自分が見ていたのは、瑞々しく若く美しかった時代のーーまだ、この心を射止めていた時代のスワンの面影ばかりであって、目の前の妻を幽霊のように透かして見ていた。惰性に怠け、妻からの無償の愛に甘えて何処か疲れてさえいた。シャーロックは所謂異常なニンフォフィリアの持ち主で、現在の妻スワンを見初めたのも実は遠い遠い昔、彼女がまだほんの子供の頃だった。その時は一目見たスワンに執心だったものの、いつのまにか美しい成女になった彼女とはまるで立場が逆転している。

しかし恋は冷めても彼女が今や大切な家族である事は嘘偽りない……つもりだ。
ここに来れば、妻の前に来れば、獣は人になれると思っていた。後ろ暗い嫌な商売からも汚れ切った血染めの霧の夜からも一時的に抜け出して、束の間の平凡という夢を見られる気がしていた。彼女の傍に居る時だけは、殺人鬼という朽ちた屍のような重い身の上を打捨てて、ただの人間になれる気がしていた。あまりにも、甘く遠い夢にすぎなかった。

此の手を握る手に伝う血、柔らかだった筈の髪にまとわりつき絡み凝り固まっている血、ダチュラの薄い花弁を斑らに汚している血、気付けば部屋中にその香りを満たしている、血ーー。
シャーロックは無言のままスワンの細い肩を避け、玄関から廊下の奥へと進んだ。スワンを置き去りにして部屋を横切って更に奥へ奥へと進む。隣接する、ツリーとテーブルのある部屋に真っ直ぐに向かって、その入り口で再び足を止めた。

「…………どうして」

思っていることを直ぐには口にしない男が、目に余る光景に本心から言葉を零した。薄暗い部屋の中、銀河の星々のように蒼白く瞬くツリーの灯り。優しい筈なのに凛と淋しくさえ見えるその灯の群れに照らされつ翳されつ、まるで生きているように表情を変える幼子の死体。
死体。クリスマスのディナーのように、テーブルクロスの上に横たわっている。血の気のない頬に、クリスマスの残響の光りと影が、色取り取りの星を飾る。手足が、たりない。

ーー……君だけは、闇の中にあっても汚れない光りだと、思っていた。人殺しの側にあっても汚れない純白だと。幼い、ままだと。この幻想は君を雁字搦めにし苦しめる足枷だったのかもしれない。

シャーロックの喉が鋭くヒュッと鳴った。
甘く優しい夢が、破れた鏡のように音を立てて砕け散っていく。
……ダチュラの花言葉は、「夢の中」「あなたを酔わせる」。
自らの長年の行いが、光の道を歩いていた筈だった妻をここまで落とし狂わせる程に乱してしまったのかもしれない。
掠れた血を移したシャーロックの手から、小さな紙袋が離れ、かさりと音を立てて床に転がった。

>スワンさん、all

2ヶ月前 No.80

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / ピカデリーサーカス 】

 剥製を人形だというジャックに目を瞬かせ、そして続くマネキンは剥製なのか、という言葉にくすくすと笑い声を零す。辺りをざわめかせる店員達に軽く一礼しつつも訂正するミリヤムの言葉に同意する。

「わっちが作ってるんはミリヤムはんの言う通り人間(ほんもの)を使おたものどす。このお人形さんはニセモノどすなぁ」

 くすくす、と笑い声を零したままそう告げる。そんなお勉強の時間はすぐに終わり店員等によってマネキンの如くジャックが英国風紳士に早変わりだ。

「あらまぁ、シャーロックはんによう似とりますわぁ、素敵やと思います。うふふ、ミリヤムはんも満足そうやし」

 くるり、とこちらを振り返ったミリヤムに目を瞬かせる。和装の店和装の店、と店の外に視線を向けそれらしい店を探しているようだ。基本インドア派の白雨の服は自国から持ち込んだものばかりであるため店には詳しくないようで、和装の店があるなら自分の分もほしいなぁ、なんて考えていたりもするようだ。

>> ジャックくん、ミリヤムさん

2ヶ月前 No.81

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/7月4日/メリルボーンハイストリート裏路地】

地面を這い蹲り唸る標的と、物言わぬ空筺となった目玉の持ち主と、この現場を思いの儘支配するダニエラ。三人に纏わる一連の事件を棒立ちで見つめていたジャックの視界が不意に閉ざされて暗転した。
見ちゃダメよ、と頭上から降り注ぐ天の声は、何度も聞いた覚えのある、優しい声。噎せ返るような血潮の香りを、ふわりと顔の前に現れたラベンダーの香りが攫ってゆく。目の前を急に塞がれたら人はパニックに陥りそうなものだが、ジャックはその気配のお陰で錯乱を抑止された。

「ねぇ……エディおねえさん、みえないよ……?」

幼いジャックには目の前で展開されていた殺戮劇場の意味も、エディとダニエラの何処か慌てたようなやりとりの理由も、あまりよくわからなかったのか遮るエディの掌を、はるかに小さな掌で押し剥がそうと身動いだ。良く知っている、いつも優しく陽気で長姉のように面倒を見てくれるダニエラが、とても楽しそうにしていたのをジャックは見逃してはいなかった。「なにかたのしかったのかな、ぼくもやってみたい」ぐらいのことを幼心には思っていたのだろうか。確かに、焼きたてのパンを届けに来てくれたり料理店にお酒を飲みに来て仲間と酔っている時もダニエラは楽しそうに見えたが、今日はその比では無いくらい酷く活き活きとして映っていた。
ジャックの願いと好奇心は当然叶うはずもなく、指の覆いがはずれたかと思うと、今度は鼻から何かに押し付けられる。鼻も額も頬も唇も、顔面全てをぎゅうと押し当てるように後頭部から手が回されるのを、ジャックはまたされるがままになっていた。密着する体温に温められたラベンダーの芳香が、幼子を安心させようと躍起になるように一層強く香り立つ。
ジャックの頭上を、いくつかの言葉と忍ぶような物音と不意に訪れる水を打ったような静寂とが通り過ぎる。

急に、声が近くなった。
ーー『ハァ〜イジャック、気分はどう?』
いつもの、良く知っているダニエラの声だった。
ジャックはパッとエディの腹から顔を上げる。

「ダニエラ・ママン!」

急に明るくなった視界には、まずダニエラの顔が前面に映り込んだ。画面一杯に、と喩えるのがこれほど似つかわしいことはないであろう。目の前に迫った万全メイクのオネェさんを見るや、先程のショックは一気に脳内から吹っ飛ばされたように、ジャックは向日葵の満面の笑みを見せ両手を広げてしがみつくようにダニエラの胸元に抱擁した。ママン、というのは、以前まだダニエラとあったばかりの頃、彼女やその仲間がふざけてなのかノリとテンションの結果なのか「ママ」と試みに言わせてみたところ素直にそうなってしまったものだ。因みにジャックはスワンのこともママとは言わないし、シャーロックのこともパパとは呼ばない。どちらかというと、マダム、とか、飲み屋で使う「ママ」に似たような感覚なのだろうか。

ダニエラが背後に何か隠しているのは明白で、ジャックは大きな目を更に大きくクリクリさせて、ダニエラの右肩越しに顔を出そうとする。ダニエラが遮るように動く。今度は左肩側ににょきりと動く。また、遮られて見えない。しばらく地味な攻防戦を続けると、ジャックは楽しそうにきゃっきゃと笑った。殺人現場に響く甲高い子供の笑い声。二つの死体、血潮の匂いと、それに混ざるラベンダーの香り。

「ねぇ、ふたりとも おしごと、おわった?」

幼子は何処までも恐ろしく澄み渡る地底湖のような眼差しで、顔を上げて朗らかに言った。

>エディさん、ダニエラさん


【お返事が遅くなってしまい申し訳ありません!】

2ヶ月前 No.82

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/ピカデリーサーカス】

剥製の外側は本物、マネキンは本物じゃない。白雨の作る剥製は人間を使っていて…………あれれ? と、ジャックが首を傾げるよりも早く、店員がさっさと彼らを店内に誘導したのは実に良かった。ジャックは「ふぅん」納得顔で言ったきり、小さなシャンデリアの灯る店内に足を踏み入れて一瞬で気をそちらに持っていかれた。
柔らかな赤絨毯に沈む足をはしゃいで踏み踏みとしている間に、ジャックは身包み剥がされて童話のお姫様も吃驚の魔法の如くあっという間に、小さな英国紳士に変身していた。
「お坊っちゃん、如何でございましょう?」 と店員が差し出した姿見に小さな英国紳士を映し、ジャックは降り注ぐ褒め言葉に浮かれ気味になってミリヤムと白雨を振り返る。

「ジャック、シャーロックみたい?」

真ん丸い目をキラキラさせて。血は繋がっていなくとも、親子というのはある程度似ていることを本能で求めるのだろうか。
ミリヤムと白雨の少し後ろから三人の様子を見守っていた服屋の店員が、ミリヤムの耳打ちに「かしこまりました」と頷く。自分の着せたコーディネートが褒められて接客スマイルも満点ものだ。
別の棚から子供用の下着を見繕って戻ってくる。一度着せた服を再び今度は下着まで全て剥がし、つるりと色白い幼児の柔肌にまた最初から着せていく。
最後にこれも追加で見繕ってきた深紅のハンカチを小さな胸ポケットに差し込み、同じく赤いトマトのような子供用の傘を持たせて、濡れた衣服のほうを店の袋に入れてくれた。「ありがとうございましたーー」という高く上機嫌な声が、コートを翻して小さな手を振るジャックを送り出す。西洋料理店Wildcatへの請求書を持った店員が店の中に引っ込むと、さっきのマネキン達が店から出てきた三人をショーウィンドウで出迎える。

通りに目を遣り和装の店を探す二人に、ジャックは思い出したように言った。
「はくせいになったひとの なかみは どこにいくの?」

とかくして、二人の探す和装の店も、この賑やかな通りの延長線上に見つかった。円形広場の向こう側、ブロンズ像の恋の矢が指し示している。雨のカーテンを潜ってそちらへ歩み寄れば、通り沿いの土産物屋の一件奥に異国の文字の看板が提がっている。

>ミリヤムさん、白雨さん、all

2ヶ月前 No.83

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/7月2日/ベイカーストリート路地裏→西洋料理店Wildcat(回収)】

辺りは深い闇夜から、綺麗な朧月夜に変わっていた。
浮雲に揺らめく妖しい光を撼わす月は、二人を別つ夜道を照らす。光と闇ではない、裏も表も何方も黒のカード。シャーロックは汚れた手袋を外しながら、月光を振り仰いだ。

「……もうそういう時代ではないのだよ」

何処か諦めに似た虚しい溜息を、曇る夜空に流した。
君は変わらない。僕は変わってしまった。
ルーツァンと話している間、というより、一方的に怒りを受け流している間、シャーロックも遠い昔のことを思い出していた。幻の影として、過ぎ去りし日々の若い二匹のケダモノが、血の雨も流れ去ったベイカーストリートの裏路地を駆け抜けていく。
彼女の言う通りだ。彼女と連れ添っていた頃の自分は若く、殺人鬼としての血気や闘争心が備わっていた。されど、彼女はそれを美しかったと評したがシャーロックはその時代の事を今は疎んでいた。
己が内に流れる血と本能の言いなりだった。狩猟をする獣と同じ、呪われた血の滾りに従うまま、人を殺める凶器だった。けれど今は、もうそんな生き方はできない。丸くなった、覇気が抜けた、歳をとったと人は言うが、此方のほうこそが背負いし運命から解放された場合の自分の心に適っている気がしていた。人を殺すことに、疲れていた。

「…………齢をとったのだろうね、僕も。もう君のように、あんな風には戦えないよ」

否、平穏な生活に身を落ち着けたと思い込んでいる、その凪いだ海原の如き心延えのほうこそが、まやかしだ。腹の底に眠らせた獣は、一生を通して血に飢え続けるのだろう。自分だけじゃない、人殺しの他の誰もが、爛々とした眼差しと熱い血潮を持つ歪んだ獣を飼っている。呪いのように枝を張り宿主を締め上げる種を植えられている。持つものはいずれ、破滅する。
弱気の及腰と見せかけて、本当はそうではない。野蛮な殺しを厭い、本能のままの愉快犯の殺しを憎み、過去の自分を誰よりも軽蔑していたーーその筈なのに、あの雨の夜ジャックの親を殺し誘拐してきた時にはえも言われぬ久方ぶりの高揚感を得た。後から、悲しくなった。
ルーツァンや仲間の一部が、汚れなき幼子を殺人鬼集団の中に連れ込むなんて、と批難するであろうことは想定していた。きっとわからない。反撃の牙を落とした猛獣の、此れが戦いになるであろうことを。

ルーツァンの靴の音が、遠く離れ、軈てそれすら闇に溶かし消したのか、彼女の気配ごと霧の向こうに消えて無くなる。振り返ったシャーロックは、振り返らない先妻の後姿を見送り、自分も前へと向き直って再び歩き出した。
「すまないね、君の気持ちは分かっているつもりだよ」
本当は何も分かっていないくせに、今しがた叱られたばかりのその口癖を性懲りも無く呟いて。シルクハットを乗せた細長い不吉の影も、夜霧の彼方へと融解して消えた。



自宅に戻ってきたシャーロックは、擦り切れそうなほど入念に手を洗った。血の匂いを、ジャックに気付かれないようにする為にだ。外套と帽子を脱ぎ、汚れた手袋を棄て、シャツのボタンを外し襟元を緩める。押し寄せる疲労感と熱の篭るような怠さに深い溜息が出た。その辺りが、この身を縛っていた先代の死と同時に先妻との婚姻関係を早々に解消した理由の一つなのだろう。なのに、別れた後も、ルーツァンの言葉は抜き損じたサボテンの棘のように今更というタイミングでちかちかと胸中を刺す。
その物音で、起きてしまったのか、二階でスワンと一緒に寝ていた筈のジャックが目をこすりながら降りてくる。シャーロックはハッとして反射的に、泥棒のように逃げようとしたが、ジャックは寝ぼけ眼ながらパタパタと駆け寄ってきて抱っこをせがんだ。

「…………っ」
言葉にならないものが込み上げて喉を詰まらせる。
いつもなら名暗殺者一門の名が泣いて怒りだしそうな、すっかり莫迦になった恍惚の顔でジャックを高く抱き上げるのだが、今日はそうはしなかった。両膝をつきジャックの視線の高さに合わせ、そのまま無言で強く抱き締めた。

「……シャーロック……?」

月の染める青白い部屋の中、表情が見えないシャーロックが痛いほど抱き締めるのでジャックは不思議そうに身動ぎしたが、それでもシャーロックは同じ姿勢のまま腕を緩めなかった。熱い腕に力が篭り、いつ耳をすませてもゆっくりと静かに脈打っていたはずの鼓動が、ジャックにも聞こえそうなほど騒がしく高鳴っていた。

ーー『たっぷりと甘やかシ、慈悲深く抱き締メ、欲しいだけ与えル。アナタはこの世界に必要なソンザイなのですト、何度も何度も繰り返し囁いて分からせなければ凶行は止められなイ』

ルーツァンの言葉が蘇る。シャーロックは野生の息を吹き返したように爛々と底光りを湛えた両の目を、震える瞼でそっと閉ざした。

ーー何も変えられない、誰も救えないなんて、言わせない。


>ルーツァンさん(〆)


【お相手いただき感謝です! 私も非常に楽しかったです。二人の因縁、とても楽しく読み書きさせていただき、ありがとうございました〜】

2ヶ月前 No.84

@xxxri0 ★iPhone=jRTGQCns6m

【 Lily / 6月30日 / 廃れた彫刻屋「L」 】


閉じられていた眼が勢い良く開き、ソファーから身を乗り出す様にして此方を見遣る男の表情に、一瞬。ほんの一瞬で有るが、焦りやら動揺やらの色が見れた様な気がして「 あらあら 」と、女は笑いながら小さく声を漏らそう。頼まれた温かい紅茶を、コポコポと心地の良い音を鳴らしながら淹れてやれば「 もう出来るから 」とだけ告げ、いつの間にやら平常心を取り戻していた男の発する < 此処に居た理由 > に耳を傾けていようか。男がそうして声を発している間「 へえ 」「 あら、そう 」なんて、合間合間に適当な相槌を打ちながら、手元ではスプーンでクルリと紅茶をかき混ぜて、茶菓子なんかも用意しよう。


「 ーー ハイ、紅茶。」


ぬらりとキッチンから姿を見せれば、男の前に置いてある机へ、紅茶と簡易な茶菓子を置き「 お待たせ 」と短めに告げる。そして女はまたもやキッチンへと身を引っ込め、冷蔵庫を暫く漁った結果、赤ワインなんかを片手に持って、三本脚の木製の椅子に腰を降ろした。銀色の瞳が女を見詰める中、女も其の妖艶なる視線で捉えた男を離そうとはしない。鼠が屋根裏を走り抜けた音以外、鳴る音も、その場に響く声も、何も無かった。


「 ホントに、ただの偶然だよ 」三日月の如く歪む銀色の眼から放たれる強い光に、女は 真偽を求める事 を止める。ーー どっちだって良いじゃない、面白そうなら なんて、女の胸奥に潜んでいた好奇心がそう唱えた。ゆっくり視線を外して、女はクスリと男に微笑み掛けよう。「 期待外れじゃなければ、嬉しいわ 」と告げながら。


そして女の視線は、一瞬男の後ろへと移る。やや泥の付着したスコップと黒い雨合羽、視線の先にはそれ等が適当に置かれていた。ーー 見付かると面倒そうね と思考しながらも、口では「 紅茶はどう? 美味しい? 」なんて聞いているのだから、女も女で演技派である。けれども、矢張り彫刻家のアトリエに、スコップがあるのは違和感を覚えるだろう。雨合羽ならば、適当な言葉を並べておけば避けれる所、スコップは と思いながらも、下手に動いて視線をズラさせるのも得策では無い気がする。


普段客人なんて呼ばない女からすれば、完全なる盲点であった。流石にスコップがあったくらいで、タフェフィリアである事まで見抜かれるとは考えにくいが、きっと男の事である。何か、不信感は抱くだろう。と、そこまで考えて女は現状維持を選択した。少しばかりの焦りから渇いた喉をワインで潤して「 やっぱりワインは、赤に限るわねえ 」と。


>> ルイス様

2ヶ月前 No.85

ルーツァン @papillon☆0uO5mlUpCUns ★sAbT0rwP1n_mgE

【ルーツァン/7月7日/西洋料理店Wildcat】


 一つ、欺くならば徹底的に。
 中途半端な嘘は良くない、自分も他人も不幸にしてしまう。騙すなら最初から最後まで周到に騙し切らねばならない、役者にならなければいけないのだ。そして上手な嘘の秘訣は、九の真実(まこと)に一の仰々しい偽りを混ぜること。

 一つ、観察を忘れず隙を突くこと。
 どんなに完璧なように見えても、この世に完全無欠なものなど在りはしない。どれ程強く、賢く、そして恐ろしい相手でも。よく見、よく聞き、注意深く探れば必ず一つは弱点があるものだ。其処を容赦なく狙うべし。

 一つ、狩ると決めたら躊躇するな。
 たとえ親友でも、たとえ恋人でも、たとえ家族でも。その時が来たら、戸惑うな。それが我等の理。

 血の掟、それだけが猟犬の運命(さだめ)。

 けれど本当は、運命とは常に自らの手で切り開くべきものだと彼女は知っている。その為なら蛇蝎のごとく忌み嫌われようと構いはしない、たとえ血で血を洗う事になろうとも。信念を貫き通す事こそが美しい、それがいかに横暴で、自己中心的な行為でも。
 間違いは正さねばならない、この手で。それが、それこそが間違った行為だとしても。


 ほとんど毎日冷たい雨の降る、霧深い都。しかしその日は珍しく朝から雨が降っておらず、薄い雲の間から時折陽光が差し込み、淡い青と灰色の空が人々の頭上を覆っていた。
 いよいよ日も暮れ、鳩時計がもうすぐ逢魔が時を示す頃。澄んだ呼び鈴の音色が山猫の名を持つ料理店に響いた。重厚な扉が音も無く開くと、こつりこつりと高い靴音が緩やかな歩調で店内を歩んでいく。
 一歩進む度に鴉の羽根飾りが揺れるつばの広い帽子を取れば、綺麗に撫でつけられた銀色の髪が証明の光りを受けて鈍く輝いた。つやつやと艶めかしい光を放つ黒のマーメイドドレスは身体のラインがはっきりと分かるものの、最高級の生地が惜しげもなく使われているからか、決して下品に見えない独特の清らかささえ感じられる。手にした小さな黒いハンドバックを側の椅子に置くと、黒衣の女――黒妖犬(ブラックドッグ)の二つ名を持つ暗殺者、ルーツァン――は、そっとカウンターへと歩を進める。

「御機嫌ヨウ、可愛い天使サン?」

 漆黒の目を穏やかに細め、黒とも紫ともつかぬ夜天の色をしたルージュを差した唇は微かな弧を描いて。優しげな微笑を浮かべると、密やかだがよく通る声で目の前の小さな彼に語り掛けた。
 其処は彼の特等席である。ほんの数か月前までは誰もが座っていたカウンターの一角に過ぎないが、今では彼が居ない時でも常に空席のままだ。何しろこの店の主は彼を溺愛している、もし今この席に座る者が居ればたちどころに店の外に放り出される事だろう。
 彼は何処までも愛くるしい存在だった。太陽をそのまま写し取ったかのような黄金の髪、よく出来た人形のごとく整った目鼻立ち、白く小さく柔らかな肌は絹織物よりも素晴らしい滑らかさで。ジャック、この店の主シャーロックが連れてきた年端も往かぬこの少年は、まるで下界に降り立った天使である。何より素晴らしいのは最上級の宝玉に似て煌めくその瞳だ、眼球に異常な執着を持つルーツァンとしては強く惹き付けられてしまう訳だが、相手が相手なだけにその気持ちには何とか蓋をしてきた。

「今宵はお留守番なのでしょウ? シャーロックがお出掛けしているコト、ワタクシは存じておりますとモ……退屈、しているのでハ?」

 彼のすぐ側で立ち止まると、ルーツァンは軽く身を屈めてジャックと視線を合わせる。彼が暇を持て余している事は容易に想像出来た、否、それを狙って今此処に来たのだ。
 今夜シャーロックが店を不在にする事は分かっていた、政府の高官達と会う予定があると事前に調べ上げていたのだ。そんな時、シャーロックはいつも店の常連にジャックの子守りを任せる。曜日と時間を照らし合わせて、今夜シャーロックはジャックを任せるとすれば、暗殺業をほとんど引退したも同然のナイフ使いの老人だろうとルーツァンは予測していた。そしてその予想は的中し老人はカウンターの、ジャックの隣の席に座っている。カウンターに突っ伏し、高いびきを響かせて。

「オヤオヤ、アラアラ、マアマア……呑気に夢の中デハ、お人形の番すら務まりませんわねエ」

 咎めるような言葉とは裏腹に、ルーツァンは口元を片手で覆い隠しながら楽しそうにくすくす笑う。
 老人が大の酒好きで、子守りを頼まれていてもつい飲み過ぎては酔い潰れてしまう事が多いと、ルーツァンはよく知っていた。更に今日はある大規模な仕事の依頼が入っていてほとんどの暗殺者達が出払う事も、その依頼が実は周到に仕組まれた偽情報(ガセネタ)である事も、知っているのは彼女だけ。
 そう、今宵全ては彼女の思うがまま。その手の内であらゆる駒を躍らせて、ある目的を果たす為。

「ケイカクドオリ」

 ジャックにさえほとんど聞こえない、ほとんど唇を動かさない独特な発声で、ルーツァンは呟いて。

「ネエ、ワタクシの天使サン? アナタ、七夕を御存知? ワタクシの国の古い言い伝えデ、お空のカナタに住んでいる恋人達が一年に一度だけ逢える日が今日、七月七日なのデス。だからワタクシの国のヒトタチが沢山暮らしている中華街(チャイナタウン)でハ、今日は街中をキレイに飾り立てて夜遅くまで愉快ニ、賑やかなお祭りをするのデスヨ」

 作り物かと思われる程、牡丹の花が開くがごとき甘い微笑を浮かべたまま。ルーツァンはジャックにそっと片手を差し伸べた。

「こんな素敵な美しい夜ニ、一人ボッチのまま暗いお部屋で過ごすのはモッタイナイと思いませんこト? ねえジャック、ワタクシと一緒ニ、二人キリデ」

 鳩時計がこの世で最も禍々しい時刻を告げる。平和の象徴たるあまりに間の抜けた白鳩の鳴き声にこそ、真の魔というものが潜んでいる事を、知るは漆黒の魔犬のみ。

「夜に散歩しませんカ?」

 仄暗い思惑を華やかな笑みと胸の内に隠して。


 その牡丹は、目には見えない毒を孕んで咲いていた。


>>ジャック、周辺ALL


【打ち合わせの通り、ジャックくんをほのぼの楽しい夜のお散歩(?)にお誘いしました。どうぞ宜しくお願い致します】

2ヶ月前 No.86

エディ @d0ap ★iPad=qTOmkAVEvD

【エディ/7月4日/メリルボーンハイストリート→裏路地】

紫煙を漂わせていたダニエラが、自身の指摘により狼狽えている姿に少々呆れたような顔をしながらその行動を見守る。ジャックへの配慮なのか、最期の言葉も許されないまま男が静かに絶命したのを見届けると、一先ず片付いた事に小さく息を一つ吐いた。後はシャーロックにこの事が知られなければ……。最悪の状況を頭から排除しようとしていると、ダニエラがいつもの様にジャックに声をかけていた。心配でジャックの様子を伺っていると、此方もいつものようにダニエラに抱きついていく。離れていくぬくもりに名残惜しさを感じつつ、楽しそうに笑い声をあげるジャックに自然とエディの口元が緩む。ダニエラの後ろでは今尚凄惨な光景が広がっているというのに……。

「えぇ、お仕事は終わり。ダニエラ、そうでしょ?」

此方を見上げて天使のように愛らしい声で問いかけてくるジャックに此方もにこやかに答えつつ、確認するようにダニエラにも声を掛ける。終わったなら早くこの場から離れたい。ジャックに再び余計な刺激を与えたくないのは勿論のこと、この鉄臭さがエディは好きではなく、それは普段自分が任務をこなした後は持参している強めの消臭剤を振り掛ける程だった。

「こんな所にいても何も面白くないわ。坊や、行きたい所はある?何か楽しい事をしましょう」

「ねぇ?」と二人の顔を見ながらそう提案する。ジャックの脳内から殺人現場での出来事を楽しい出来事でどうにか上書き出来ないだろうか……と考えての提案だった。子供は楽しい事が好き。衝撃的な出来事もそれを上回る楽しい事があれば、上手くいけば忘れてくれるだろう。そんな安直な考えがジャックに当て嵌まるかは知らず、何もしないよりはいいだろうと内心で思いつつ二人の反応を待った。

>ジャック、ダニエラ

2ヶ月前 No.87

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=H508FesIAo

【 メロウ / 11月1日 / ベイカーストリート→移動中 】

 メロウの提案を快く受け入れてくれたスワンの問い掛けに、口元に手をあてて少しだけ考え込んだ。行き先の候補はもうほとんど決まっているようなものなのだけれども。

「僕が行きたいのはねー、」


 ……
 日が暮れようとしている頃、二人は洋食屋『Wild Cat』へと足を進めていた。
 今日は散々だった午前中から始まったけれど、運命的な出会いを果たしたストームグラスを衝動的に購入したのち、さらにスワンに会えたことによって有意義なお昼を過ごせたので、結論は「とてもいい日!」だったなあと思い返す。
 会話の中でした彼女との約束も、それが叶う日が来るのが楽しみになるものだった。まずはひとつめ、彼女の家に行けば手料理を振舞ってもらえることになったこと。人の温かさに触れることの出来る手料理は、たとえ誰が作ったものであっても嬉しいし、親しくしてくれる相手のものなら尚更だ。また都合がついたらこの日はどうかと提案してみようと思う。次に、雪の降り終わった夜空を一緒に観測する約束をしたこと。高台にある彼女の自宅は、絵本の世界から切り取られたような感じがしてとても好きだし、そんな素敵な所で綺麗な星空を見るのは想像しただけで胸が躍る。天文学について自分でも予習しておこうと思ったりして。今日スワンと交わした約束が、この冬そして次の春や夏を過ごす楽しみの一つとなる。
 空を見上げていたが、ふと視線を下へと落とした。ふたつの紙袋を抱えている。その紙袋の中身は自分用のストームグラスと、プレゼント用のものである。プレゼント用の紙袋には、キャンディやスコーンなどお菓子のイラストが描かれていて、リボンを象ったシールが貼られている。

「ジャック、喜んでくれるかなあ。」

 問いかけにも独り言にも聞こえる言葉を発する。声音は不安げというよりは、あの子がどんな反応をするかどうか楽しみで仕方ないというような、わくわくを隠しきれない声であった。

>スワン、(ジャック)、ALL

2ヶ月前 No.88

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/7月7日/西洋料理店Wildcat】

貴重な晴れ間のみえる日だというのに、ジャックは薄暗い店内で一人でお絵かきをしていた。隣には、ラムの空瓶を手にしたまま幸せそうないびきも高らかに眠る老人が一人。殺人鬼を引退して陽気で自由な海賊に転職した夢でも見ているのだろうか。
ジャックは背の高い椅子の上で足をぶらぶらとさせ、一本だけ短くなった赤いクレヨンでぐるぐると画面を塗り潰している。汚れるのをまるで気にしない小さな手は楓の葉のように紅葉していた。
幼子がこの店に来て、早くも一ヶ月が過ぎた。
彼の保護者である店主シャーロックは、昼のランチ営業もクローズして慌しく出掛けたきり帰ってこない。ジャックの相手を任された店の常連もこの有様で、子供の彼は当然退屈していた。
原色に彩られたスケッチブック。その真ん中には、人の顔のようで人の顔ではないような、乱雑に力を込めて塗りつぶされた土色の塊があった。人の顔のようと表したのは、その中央に歪んだ口のような紅白の楕円と、鼻筋のような縦線があったから。人の顔ではないようと表したのは、それが顔だというのなら鼻と口の上にあるはずの、両目が無かったからだ。描かれていなかったのではない、画用紙の本来描くべきだった場所が、真ん丸い風穴を穿つように破り取られていたからだ。

カランカラン、と氷の音のような涼しいドアベルが鳴る。
「あっ! いらっしゃませー!!」
小さな一日店長は、スケッチブックとクレヨンを放り出し、本物の店主よりも溌剌と元気な歓迎の声を上げた。
現れた女性の姿が、優雅な猫のようにしなやかな所作で店内で入ってくるのをジャックの青い瞳が追い掛ける。つばの広がった帽子を取り、翳りのヴェールが去って露わになったその顔を見て、ジャックは驚きの声を上げる。

「ルーツァンだぁ!」

今日は皆忙しいから、誰も遊びに来てくれないと思っていた。予期しない客人の訪れに、ジャックの喜びようは二倍になった。

「うん、シャーロック、いそがしいんだって」

おじさんも寝ちゃった、と、傍の呑んだくれを紹介するように示し、つまらなさそうに小さな口を尖らせる。

「たなばた…………?」

七月七日の祭を知っているかと尋ねられて、ジャックは不思議そうにポカンとしたまま首を横に振る。お空の彼方の恋人たち、チャイナタウン、愉快で賑やかな夜のお祭り……。
退屈な一日の終わりに舞い込んだルーツァンからの突然の誘いは、ジャックにとってなんと甘美で魅力的に聞こえたことだろう。ジャックの頭の中は見たことも聞いたこともない七夕祭のことでいっぱいになり、まだ見ぬ憧れの情景は夢想の中で色とりどりのネオンに照らされて、地上のどんな景色よりも鮮やかなパノラマを繰り広げ始めた。

「うん! ジャックもいく!」

ジャックの好奇心は既に鷲掴みにされていた。此処には星もネオンも天の川もランタンもないのに、ジャックの目はキラキラと星を植えたように輝き、すぐに椅子から飛び降りて、ルーツァンの黒いマーメイドドレスの裾に纏わり付いた。

>ルーツァンさん、all


【待ち合わせ、ありがとうございます! 楽しみましょう!】

2ヶ月前 No.89

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/11月1日/西洋料理店Wildcat前】

「シャーロックー、そろそろスワンが かえってくる じかんだよー、はやくー」

まだ店のカウンターでグラス拭きに夢中になっていたシャーロックを呼びに、ジャックが階段からひょこりと顔を出す。

「もうそんな時間か。ジャック、御願いをしてもいいかな」

最後の一つの拭き上げたワイングラスを灯りにかざし、そこから目を離しもしないでシャーロックはジャックに言った。目を細め、ワイングラスに曇りを見つけると、またクロスをさっと広げて入念に磨きをかける。基本的に、仕事や趣味やそれ以外の何かに熱中しているとこの男はいつもこんな感じだ。ジャックのほうも、もうすっかり此処へは馴染んだのか、そんな時の対処方法はよく心得ている。

「ジャックがおむかえにいく!」

階段の残りをタタタッと駆け下り、シャーロックの足元を過ぎ抜けると、慣れた仕草で背伸びの姿勢からドアノブに手を掛け、もう一人の家族を迎えに店の前へと飛び出す。
シャーロックが手を離せない場合……それは大抵毎回、ジャックは店の外までスワンを出迎えに駆けて行き、買い出しの荷物を仕舞うお手伝いをする。それが彼の中では自分の立派な役割と認識されているらしかった。Ristorante Wildcat≠フ文字と山猫が描かれた看板の下に出て、ジャックは澄まし顔で家族の帰りを待っている。

待ち焦がれる人影は、すぐに見えた。
通りの向こうから、長いスカートを秋風に靡かせて、柔らかく優しく甘い香がしてきそうなスワンの姿が近づいてくる。
「スワン!」
駆け寄りはじめて、その隣に今日は素敵なお客様が来ていることを知った。軽やかな制服姿のあの子が来ると、いつでも爽やかで明るい風が一緒に入ってくるようでジャックははしゃぎ気味にその名前を呼んだ。
「メロウ!」
歳はだいぶ離れているはずなのに、ジャックはメロウのことをどちらかというと友達か兄姉のように思っているところがあった。夜な夜な店に集う面々の中でも特にメロウは毎日のように来てくれて、常連達の中でも殊にお酒だけではなく夕食をジャックと一緒に食べている事が多いからだろうか。

「おーーーい!」

日の暮れかけた通りは黄昏色に染まり、石畳の上に大人のように長くなった影を走らせてジャックは二人に駆け寄って行った。

>メロウさん、スワンさん、all


【お迎えに上がってみましたー!】

2ヶ月前 No.90

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/ピカデリーサーカス】

 小さな紳士は、嬉しそうに育ての親に似ているかと訊ねた。白雨は大人の対応をしているが、ミリヤムの本音は「似なくていいのに」である。なかなか上手い言葉の見付からない彼女は、取り繕うように微笑んだ。
「――…………そうね、見た目は大分シャーロックに近付いたのではないかしら?」
 暫くの沈黙の後、絞り出すように言った。商談を纏めていたことを言い訳にさせて貰おう。
 下着と赤いハンカチと傘も追加で入手したジャックに再び可愛い可愛いと誉め散らかし、店員から彼の洋服の入った袋を受け取る。
「さ、じゃあ、次のお店に行きましょう」
 二人に目配せして、店員のありがとうございましたー、という声を背負って歩き出す。白雨も和装のお店には宛がないらしく、こうなったら適当に歩くしかない。

「ん? 剥製の中身? ……そうね、良い人なら天国とか神様の所に行くんじゃないかしら」
 ジャックの素朴な疑問に、一瞬内蔵の話をしそうになって止めた。流石に捨てられるか食べられるかじゃない? とはまだ幼気な光を宿す彼には答えられない。

 円形広場を通り過ぎ、ざっと大通りを見渡してもそれらしいお店はなかったので、ミリヤムは別の路地へと歩を進める。そこには異国の文字――確かカンジとか言ったか?――が踊る看板が沢山連なっていた。
「キリサメゴフクテン? あれとかそうなんじゃない?」
 漢字とカタカナとローマ字が入り交じる看板を何とか読み下したミリヤムは、ショーウィンドウの豪華絢爛な着物やら扇子やらを指差して告げる。
 その時点で、ジャックより遥かに瞳を輝かせながら。

>ジャックくん、白雨さん

【お店の名前は適当ですお許しください】

2ヶ月前 No.91

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / ピカデリーサーカス→キリサメゴフクテン 】


 嬉しそうなジャックと複雑そうなミリヤムの表情を交互に見比べながらうふふ、と白雨は笑う。そして外をきょろきょろとしている間に終わったらしい会計にふわりと店員に一礼をすれば外へと足を踏み出す。

「剥製は美しいどすけど、わっち的には中身は――――へえ、まあミリヤムはんの言う通りどすなぁ」

 ついつい口を滑らせてしまいそうになったようだ。取り繕うように微笑みながらも二人に続き広場を歩く。そして見慣れた異国の文字に目を向ければ何となく懐かしいような、そんな穏やかな気持ちを胸に抱いた。

「霧雨呉服店どすなぁ、こんな所にこんな店があるやなんて……うふふ、なんや嬉しいどすなぁ」

 ショーウィンドウに飾られている着物や扇子に視線を向けながらくすくすと笑う。無邪気なミリヤムの反応を微笑ましく思っていながらも白雨自身も心踊っているのはやはり自国のものだからだろうか。

>> ミリヤムさん、ジャックくん


(名前素敵だとおもいます〜〜!)

2ヶ月前 No.92

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/ピカデリーサーカス→キリサメゴフクテン】

しとしとと小雨の降る繁華街を、見た目だけでも育て親に似た気になっている小さな紳士は上機嫌に歩く。来た時は大人二人と両手を繋ぎ、バンザイの姿勢で挟まれていたジャック。けれど今は傘を手に入れたことでうきうきとスキップしそうな勢いで意気揚々と先陣を切っている。

「ハクセイのなかみもテンゴクかぁ。ジャックしってるよ。 テンゴクにいくと みんなあえるんだよ!」

また何処かの誰かからの受け売りなのだろう。少なくともあの店主では無さそうだ。育て親や白雨やミリヤムや、あの場所に集う者たちの本当の顔を知らないジャックには皆が良い人≠ノ見えるからこそそんな言葉が出るのだろう。「しってた?」とジャックは得意げに胸を張る。

そんなやりとりをしているうちに、目的の和装の店へと到着した。ショーウィンドウの衣服もさながら、和風木造家屋をもして作った格子の引き戸が珍しくて、ジャックがしばらく不思議そうに背伸びをして眺め回していると、呉服店の店員が先に中から気づいたらしく戸を開けてくれた。

「あらあらあら、いらっしゃいませぇ」

暇そうな呉服店の店主は雨降りの店先に三人ものお客さんが見えた事が嬉しかったらしい。にこやかに三人を招き入れると、中でも一目見てその国の人とわかる白雨の容姿を見て更にこの上なく嬉しそうに目を細めた。店内にはショーウィンドウに飾られていたような艶やかな着物や愛らしい小袖に身を包んだマネキンが居たり、そうかと思うと畳の上で衣桁に掛けられている一枚の大きな絵のような着物もあったりして絶妙な和洋折衷を為している。

「シラサメシショーがいっぱいだぁ……」

和服自体を白雨が着ているもの以外ほとんど見た事がないジャックは、目を輝かせているミリヤムの隣で、ときめいているというよりも驚き物珍しがっている表情で、店内の美しい着物の数々を見て回る。
ちょっと目を離すと、好奇心のままに綺麗な晴着姿のお姉さんマネキンに手を伸ばし、ちょいと引っ張っている。その手に持たされていた扇子が目を引いて気になって好奇心を我慢できなかったようだ。
「あっ」と声が上がる。

「…………もげちゃった……」

呉服店店主が制止するには遅く、ジャックは自分の悪戯の果てに呆然と固まっていた。
扇子と一緒に簡単に袖から抜けてしまった人形の左腕を抱えて、目をぱちくりぱちくりと瞬かせ、石像にでもなったかのように静かに凍りついている。

>ミリヤムさん、白雨さん、all


【名付けありがとうございますー!】

2ヶ月前 No.93

ミリヤム @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【ミリヤム/6月13日/霧雨呉服店】

「あら、流石ジャック。やっぱり貴方は物知りね」
 天国について得意気に話すジャックの頭を撫でる。
 彼の言う“みんな”とは、誰だろうか。シャーロックの許に集った面々に天国に入れる資格があるとは思えない。また、シャーロックに殺された面々も、余程の事がなければそれなりの罪科を背負った者達だ。
 今この瞬間にジャックが死んだら、純真無垢で美しい彼は間違いなく天使の仲間入りを果たすだろう。(そしてその遺体は……どうなるか考えない方がよさそうだ。)けれど其処には、シャーロックもいない、スワンもいない。白雨もミリヤムもその他の面子も、彼の実の両親すらいやしない。
 そんな事実には、もう暫くの間は気付かないでいてほしい。

 霧雨呉服店、という白雨の言葉に、間違ってなかった、とミリヤムは少しばかり安堵する。
 店員に迎え入れられれば、ジャックそっちのけで和装アイテムを物色しだす。
「とぉっ……ても綺麗ねこれ! 素晴らしいは、刺繍も細かくて布の手触りも良くて……うちの子達にもきっと似合うわ! でもどうやって着るのかしら……あ、子供用のサイズもあるの?」
 ミリヤムにとっては一枚布にしか見えない着物や浴衣を前に、彼女は店主を誉め殺しと質問攻めにする。
 だからだろうか、店主の静止が間に合わなかったのは。
 あ、という声にミリヤムが振り返ると、マネキンの手を抱えたジャックが硬直していた。
「あらあらジャック、はしゃぎすぎよ。ほら、お店の人にごめんなさいして? 後それちょっと貸してご覧なさい、多分関節が外れただけよ」
 扇子を持ったままのマネキンの左腕をジャックから抜き取り、着物の袖からガサゴソと突き刺す。カチリと音がして腕はもとの位置に収まった……多分。一応、材質がどうあれミリヤムも伊達に人形作りはしていないということだろうか。
「ごめんなさいね。お詫びと言っては何だけど、私のサイズで……そうだな、色は青系で一式纏めて下さる? あと、この子にも着せてあげたいんだけど、いいのあるかしら?」

>ジャックくん、白雨さん

2ヶ月前 No.94

みんと @milkywayy☆woNfuP/Psag ★iPhone=WsHBgyg92L

【 白雨 / 6月13日 / キリサメゴフクテン 】


 霧雨呉服店に足を踏み入れた一行であるが、ミリヤムも目を輝かせ着物に触れているしジャックも興味津々のようで白雨はくすくすと笑みを零す。ぐるり、と辺りを見渡せば柄様々な扇子に目をやりながら唇を開く。

「ミリヤムはん、着付けやったらわっちがお手伝いさせてもらいまひょか?」

 普段から着物姿である白雨がそう提案する。だがしかしミリヤムに気を取られていたせいか、ジャックの身に降りかかる事件には気がつかなかったようで気づいた時には時すでに遅し。あらまあ、と短い言葉を零す。

「ジャックはん、あんまりいらいなぶったらいけまへんよ、お人形は脆いんやから」

 ミリヤムに続くように白雨は店主に深く頭を下げ謝罪の言葉を口にする。そしてぐるりと辺りを見渡しながら悩むように首を捻りながらも店主に向けて声を掛ける。

「ほんなら、わっちもなんか買わせてもらいまひょ。せやなぁ、あの紫陽花の柄の扇子と……紫色か紅色の帯がええどすなぁ。――――嗚呼、そうや。あるんどしたら、その子の着物の柄は百合がええと思うんやけど」


>> ジャックくん、ミリヤムさん

2ヶ月前 No.95

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/6月13日/キリサメゴフクテン】

「……ゴメンナサイ……」

ジャックは二人の見習うべき大人達に倣って、人形の腕を抱えたまま頭を下げる。すると途方にくれたその手がすっと軽くなる。ジャックの手からするりと人形の腕が抜かれた。心配そうに見上げる青い目の向かう先で、ミリヤムはガサゴソとマネキンの袖から身八つ口を探っている。熱心な視線の見守る中、カチリと噛み合う音がして、人形の腕はミリヤムが手を離しても優雅に扇子を携えたまま肩の先にとどまっている。

「よかった……よかったねぇ、ニンギョウさん、よかったねぇ」

本当に手術でも見守るように息を止めて見守っていたジャックは、しきりに「よかったねぇ」と物言わぬマネキンに話しかけている。目を丸くしていた店主も思わず吹き出していた。

「はい、お客様、ありがとうございます。そうですね……此方などはいかがでしょう」

店主が運んできたのは、紺色の江戸小紋。帯は「これが涼しげで素敵かと」と白縹に銀糸が入ったパールホワイト調のものを沿わせ、「ですが此方も可愛いと存じます」と反対色である蘇芳色のものも並べる。帯締め、瑠璃色の帯留、天色の飾り襟、銀の草履に、繊細な造りの簪、果ては襦袢に足袋、腰紐、襟芯に枕などなど……こんなに必要なのか思うほどの装備品がずらりと並べられる。

「あらあら、御心強いお師匠さんがいらっしゃるのですね。……お客様は日の本の国の御方なのですね。帯ですね……かしこまりました」

呉服店の主は白雨のことを着付けの師範≠ニいう意味合いで言ったのだろうが、ジャックは反応して「シショー!」と繰り返した。お眼鏡に叶った扇子を丁寧に箱にしまってから、一度店の奥に入り、桔梗色に青藤色、若紫に竜胆色、菫色、菖蒲色、臙脂色に赤紫、小豆色、薔薇色、と嬉々としてあらゆる色目の帯を見繕ってきた。花魁のような姿をした白雨に似合うよう、柄は大輪の花や金糸がふんだんに使われた蝶々など派手なものが多い。

その間にジャックは、お人形遊びはやめておこう……そう自分に言い聞かせているのか、自分よりも遥かに背の高い浅葱色の着物のマネキンを見上げながら密かに頷いていた。すると、背後に「今度は貴方の番よ、お坊ちゃん」と笑顔の店主から声が掛かる。

ーーかくして、ジャックは何処と無くモダンな香り漂う可愛らしい大和男子風味に仕立てられていた。黒に近い無地の濃藍色の袴に、上は白に近い青白磁の着物。着物は男物にしては珍しく、紺色で一面に白百合の大輪が塗りのない線画の状態であしらわれている。何と無く、その国の女学生のようにも見える中性的ないでたちに、大きな紺色のリボンをつけようとしていたのを……店員は慌てて理性で取り下げ、男の娘という煩悩からの脱却を試みたつもりか、代わりに「こういうのも彼方の国の今風で宜しいかと……」つばのある黒い帽子と墨色の鳶コートを取ってつけた。ジャックは先程の紳士服屋の時とはまた打って変わって、鏡の中の自分の変身を不思議なものを見る目で食い入るように見つめている。

>ミリヤムさん、白雨さん、all

2ヶ月前 No.96

シチダンカ @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【シチダンカ/9月1日/西洋料理店Wildcat】

 隠す気配すら見当たらない周囲の視線や此方に向いた憶測の数々を背で受けながら、綺麗に磨かれたカウンターテーブルへ視線を流す。前回とは違い、それらが人殺しだけが放つことのできる視線と確信できただけでも十分に価値があった。殺害行為の免罪符なんてこの世で最も要らないものだったけれど、――これで夢に近付けるのならば、決して悪い話なんかじゃない。

「あら、覚えていて下さったのね。嬉しいわ」

 ぴんと伸ばした爪の先を見るふりをして、マスターが客へ目くばせするのを確認する。流れるように口から出た言葉に深い意味などなくて、ここで大凡の力関係を把握しておきたかった。これは組織なのか、それとも烏合の衆なのか。手紙を寄越されたということは、あたしの行動を制限されたということ。その中でどれくらい程に自由が利くのかは今日この内に知っておきたかった。この緩やかにかけられた圧を躱す方法を。
 仲間になったこと、これ以上の誤解を生む前に早くそう言ってしまった方が楽かもしれないわね。

「シャンパン、ね。……そう、そうね……良いわね、とてもぴったりだと思うわ、マスター」

 シャンパン。そう聞いただけで、口の中で炭酸の弾ける味がした。ぜんぶ泡になって弾けて消えちゃえばいいのにね、だなんて、まったく思ってすらいない嘘を心の中に吐く。不意に、妙に聞き覚えのある語感が鼓膜を通り抜けた。「オセキハン?」と復唱をしながら、メニューの端の小さな文字を目で追う。――見られていると、素直にそう感じた。態と視線に気づかぬふりをして、メニューをざっと二周半ほど視線を流す。正体をわざわざ口で言ってしまうだなんて、つまらないでしょう。間違い探しみたいに、非日常に気付いて。当てっこみたいに、あたしの本性を暴いて。今日を独りきりの寂しい夜にしないで。向けられた背中に、小さく笑みを零す。あなたの今の顔を知っているのは、ボトル達だけね。薄暗い中じゃ、ボトルに映るその顔さえも見れない。

「いいえ、来ないわ。あたしに、愛想尽かしちゃったのね。……あたしが、約束破っちゃったから」

 何事もなかったように、マスターの問いかけに答える。救いたかった、未だ救えなかった。ただそれだけのことに、感情を動かす意味なんて無いもの。あたしね、小さい頃にカミサマに会ったことがあるのよ。口だけを動かして、それだけを形作って、唇を突き出すように微笑む。人間なんかじゃ与えてくれないような、素敵な夜をプレゼントしてもらったの。それに比べれば、どうってことないの。愛情表現のための薄っぺらな言葉なんて。殺さないで、近付くな、そう語った目を思い出す度に、自己防衛の笑みが溢れてくるの。あたしが一晩ですべてを踏みにじった、かつての連れへの一方通行の約束に対しても、出会った時から昨日までの諸々の過程に対しても、すべて。

「マスター、もしよかったら、一杯付き合って下さらない?」

 角が少し丸まった、例の封書をカウンターの上へ乗せる。乾杯の無い夜なんて、寂しくて耐え切れないもの。

>シャーロック

2ヶ月前 No.97

狼谷 @anima1997☆PMqTzZiUwVg ★iPhone=H508FesIAo

【メロウ/8月31日/シチダンカ宅前】

 穏やかに語りかけるような物腰穏やかな彼女の口調と、赤い唇から紡がれる歪な言葉のアンバランスさに、足元から脳に向かって這い上がる得体の知れない小さな電流のようなものを感じ、目を細めて口角を吊り上げた。
 彼女の返答に、ふうんと小さく声を零す。そして脚やら腕のない胴の部分を見下ろして、少しだけ考える素振りをするが、首を横に振った。

「そんなにバラバラになった体は、もう使えないから、僕はいらない、かな。」

 毒が回っているわけでもない、シンプルに、切り落とされただけで命を絶った死体に興味が無いといえば嘘になるのだが、こういうものは自分が求めている死体の形ではないのだ。残念ながら。趣味で解剖なんて出来ればいいのだが、同居人の素敵な店に血の香を漂わせるのは気が引ける。一人暮らしならば本当に、本当に、魅力に満ち溢れたお誘いなのだけれども。その手足をさらに細かくして、臓器だって試してみたいことが沢山あって、新鮮な肉にメスが入る時の何とも言えないあの感覚が指に蘇り、拳を握った。
 後始末をしないということは、ここにこのまま、誰かが通報するまで野晒し(コートのおかげで、晒しているという表現は不相応かもしれないけれど)なのだろうか。スカートの裾が血濡れた地面に付かないように手で押さえながらしゃがみ込んで、彼女が行う仕草を間近で見守る。そしてコートの膨らみを眺める。
 人間って、やっぱり、簡単に死ぬよね。

「それはオネーサンが誰よりも知っているんじゃない?」

 愛していたのなら。
 彼女の顔を見上げてにこりと微笑む。自分の感想は一切求められていない気がした。
 返答したのち、すくりと立ち上がり、汚れてもいないスカートを手で払う仕草をする。一度爪を確認するために視線を落とし、再びその伏し目がちなライトグリーンの瞳を覗いた。

「きっとすぐに、会えるよね僕たち。だってオネーサンは僕と同じにおいがする。」

 それこそ、そう、殺人鬼達が集まる件の洋食店なんかで。共にテーブルを囲む日がくるかもしれない。ありえない話ではないはずだ。その時たくさんお話できたらいいな、なんて。

 ……心理学者さんだよね。確か。
 先程間近で見たときに確信した。何気なく手に取った雑誌で彼女の小さな顔写真を目にしたことがある。名前も、彼女が述べた見解の内容ももう忘れてしまっていたけれど。自然と話をしたくなるのは彼女の職業柄、流石と言うべきか。

【そろそろ絡み〆かなと思ってこういう風に書かせて頂きました……!】

>シチダンカ、ALL

2ヶ月前 No.98

ルーツァン @papillon☆0uO5mlUpCUns ★sAbT0rwP1n_mgE

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2ヶ月前 No.99

シャーロック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【シャーロック/9月1日/西洋料理店Wildcat】

よもや今更見る必要もあるまい自分の店の酒瓶を眺めながら、返答の一々を背中で受けた。

「なるほど。ふられてしまって、彼の時計だけを連れてきてしまったのですねぇ」

あいも変わらずカウンターに背を向けたまま、まるで酒瓶と世間話でも交わしているような間延びした口調でシャーロックは答えた。『その手を見れば、相手の今日してきたお仕事は大体わかるものですよ』とシャーロックはよく知りたがりの養い子に手品師のように冗談めかして言っていた。流血を伴うほどの負傷した腕に時計をはめていた場合、怪我が掌にでも無い限り、腕を這う血は近位から遠位に向かって、即ち左腕なら文字盤の9時の方向から3時の方向へと流れる。反対に、その左手が加害者で、刺して伝う血ならば手首は上に向いているのでその逆の3時方向から9時方向となる、或いは文字盤はまるで読めないほど赤一色かまだらに塗り潰される。肘から上に外傷を負っているようには到底見えない彼女の腕に、あの奇妙な汚れ方をした時計が鎮座しているのは、些か不自然だ。左腕を傷つけられた誰かの手首から、奪われたもの。
徐ろに取り出したとっておきのクリスタルガラス製フルートグラスを光に翳す。クーラーからシャンパンを選び取る。大きく優雅な掌に二脚のフルートグラスを携える。上機嫌にその所作が躍っている。その様子は旅支度に浮かれる少年のようでもあり、お茶会の支度に勤しむ老執事のようでもあり、はてまた全てはまやかしで、表情などない作り笑いのようにも見える。

「祝い酒のお供ですか、それは光栄ですね。喜んで」

煌めく黄金の泡を封じ込めているコルクの針金に手をかけながら、店主は振り返り、今しがた見聞きした情報に大凡そぐわぬ歓迎の笑みを浮かべた。
カウンターテーブルの上の封筒が、今更目に飛び込む。意地の悪いシャーロックは、今驚きましたと言わんばかりにわざとらしく目を見開いて、「おやおや」と態々大仰に言ってみせる。
はちきれんばかりの金の美酒が詰まった暗緑色のボトルをゆっくりと回す。その挙動に、いつのまにか店内の殺人鬼全員の視線が集中し、今やシャンパンの瓶の弾けるポンという音を心待ちに固唾を飲んで見守っているのが丸わかりだ。皆知らぬふりをして、好奇心を隠せないらしい。烏合の衆に日々囲まれる店主は苦笑いした。

「だぁれー?」

その時、場にそぐわぬ甲高い幼児の声がした。一人を除いてはもうこの場の全員が良く知る存在となっていた……この店の養い子、ジャックである。店主シャーロックが溺愛する、弱い四つばかりの幼子。殺人鬼達の巣窟に一人、金の髪に映える青い目を好奇心にキラキラさせて。不思議で不思議でたまらない、という顔をしている。少年には、周りの大人達から新参者への距離推し量るような対応が、好奇の対象として面白いものに見えたのかもしれない。全く流れも、辺りの空気も読まずに上げた素朴な疑問の声。おそらくこの場にいた多くの殺人鬼達が口にしたくてもできなかった疑問が、なんとも間の抜けた声で店中に響き渡る。

店主はこらえきれずに笑い出した。
嬉しそうな、愛しそうな笑い声が、ジャックの素朴で当然たる疑問符に続いて店内に響く。

「……よく聞いてくれましたね、ジャックちゃん。さすが世界で一番賢い良い子だ。……この子はね、私の大切な友達(guest)≠ネのですよ」

言い終わらぬうちに、シャーロックはコルクを抑えていたその指先を、悪戯にふと緩めた。エレガントに溜息のような音を立てて開くはずだった高級シャンパンの行く末は一転、その細くしなやかな硝子の首から、歓迎を示す高らかな祝砲の音が鳴った。行儀も高級感もかなぐり捨てた無法地帯レストランの天井に、飛び出したコルクが放物線を描く。口笛の音、拍手喝采。方々の席から、祝い酒を分けて寄越せと突き出される空のグラスとビアジョッキ。
「ああ、順番です、順番……あ、ビアジョッキはダメですよ。まずは此方のお客様からです」
俄かに店内は、喧騒を取り戻す。騒がしすぎるほどの、馬鹿げた騒がしさを。
シャーロックはカウンター越しに客人の目の前に据えたフルートグラスに、最初の一杯分を注ぎ込む。細く美しいグラスの底から、光の粒が行列を成してイルミネーションのように立ち昇っていく。
美しい夜に、温かなこの景色に、グラスを掲げた。

「……いらっしゃいませ、西洋料理店Wildcatへようこそ……シチダンカ先生」


>シチダンカさん、all様

2ヶ月前 No.100


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