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霧の都に葬送曲No.55 だけを表示しています。

ジャック @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【ジャック/8月16日/聖アンダーソン教会】

コテージパイが自分の元に取り分けられてくるのを、ジャックは食い入るように見つめていた。スプーンを先にグーの手で握って、大好きな御馳走を待ち構えている。
まず、目の前の小皿にコテージパイが乗る。コテージパイが自らの重みで蕩けるように形を変える。すると挽肉とマッシュポテトとチーズが、こんもりと小さな丘を作り、ポテトとチーズが綺麗な裾を広げていく。断面からはぎっしりと詰まった挽肉の粒が肉汁に繋がれている。

「ありがとう イタダキマス!」

ジャックは大きな声で「いただきます」を言うと、コテージパイのかたまりに噛み付くようにスプーンを立てて、小さなスプーンに乗れるだけ載せた塊を一気に頬張った。「んー」とキラキラした目を細め、頬を摩る。よほど美味しい時にする動作だ。ちなみに、アルトのところのケーキでも、スワンが買って来てくれる美味しいお菓子でも、ドールホーンのコテージパイでもよくこの動作をしているが、シャーロックの料理の時は毎回綺麗に残さず食べる割にこの動作は見られない。

美味しいコテージパイを食べ進め、カップのレモネードを味わっていると、待っていた「ドールホーンのおはなし」が始まった。彼女が『Ten little Indians』を唄い出すと幼いジャックは食事中なのにじっとしていられず、スプーンを握っていない方の手指を順番に開いて遊び始めた。5人のインディアンが揃ったところで、片手では指が足りなくなってしまい、スプーンを口に咥えて残りの6人目以降を数えだす。
「Ten little Indian boys!」
という歌詞をドールホーンとユニゾンで歌った結果、スプーンが口から離れて皿に落ちた。シャーロックが此処に居たら、子供に甘い彼もさすがに怒……ろうとするがやはりジャックにベタ甘なので無理かもしれない。
ジャックのお気に入りの歌が終わると、ドールホーンは少し思案顔をしてからもうひとつの歌≠教えてくれた。なんだかいつもと違う様子の彼女に、ジャックは少し不思議そうな顔をしていたが、レモネードを一口口に運ぶと、こくりと頷いて、黙って大人しくスプーンを手に取る。今度はじっと耳を傾けた。

Ten little Indian boys went out to dine,
One choked his little self and then there were nine.

最初の一節を聞いた時、子供心にも何か思うところあったらしい。One choked his little self ……口いっぱいに頬ばろうとしていたスプーン上のコテージパイを見つめて、怖くなったのだろうかそっと皿の上に置いた。歌はまだ続く。
不思議な光景だった。テーブルを挟んで、本を手に仄暗い詩を歌うシスターと、食べかけの料理と少年。寂れた教会に、ステンドグラスの虹色の光が差す。
全てを聴き終えたあと、幼子の小さな桜唇が、ぽつりと後を追うように繰り返す。

「……then there were none……(そしてだれもいなくなった)」

そしてだれもいなくなった。
海のように青い幼子の眼には、古びたテーブルと椅子、コテージパイ、美しい装丁の茶色い本、泣きながら笑うドールホーンが映っている。しかしその目の奥は、深海のように不思議な色に渦巻いて、じっと動かなかった。
ジャックは椅子から飛び降りると、ドールホーンのそばに駆け寄って、足元を打つ雨粒のような涙の雫を確認し、心配そうに彼女を見上げた。

「……どうしたの? ないてる、は かなしいの? だけど わらってる。いたい?」

>ドールホーンさん


【そしてだれもいなくなった、は象徴的で良いなぁ、と思って……】

2018/07/02 20:21 No.55

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