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霧の都に葬送曲No.42 だけを表示しています。

洗濯蟻 @arinohito ★iPhone=n7Rebp7mCv

【ドールホーン/8月16日/聖アンダーソン教会】


この日は湿気て暑い日だった。
ただ暑いだけなら我慢が効く。だが湿気は如何にも耐えられない。その点地下にあるドールホーンの部屋は換気さえすれば涼しいものだ。

短い夏、今日も街に雨が降る。浮かれた熱を冷やす様に。


ガチャ ゴンッ


重厚な木の扉を開く。元は礼拝堂の一つだったらしいドールホーンの部屋は、この扉と天井近くの壁にいくつか開いた小窓くらいしか外へ繋がってない。なので長居すると息が詰まりそうになるが、逆にそれが小説を書くのに丁度良いのだ。

階上に続く石の階段。それほど長くは無いが、長時間同じ姿勢だと身体が固まってしまって階段を登るも降るも疲れてしまう。

階上はそのまま聖堂に繋がっていて、今日も暑さに茹だる孤児や浮浪者が涼や日陰を求めて此処に来る。

駆け寄って来る子等が本の読み聞かせをせがむが、それは後でねと頭を撫でりつつ小部屋の一つに増設されたキッチンに向かう。

屋根をつたつたと雨粒が叩く音が聞こえたのでまた雨が降るのだろう。

「ちょっとは涼しくなるかしらね……」

氷室で冷やしておいた紅茶のポットを開けつつ、曇り掛けたガラスの向こうを見る。此処からは何も見えない。所々緑が残る生垣とその向こうにある石積みの壁があるだけ。


「ん……」


不意に面から自身の名を呼ぶ声が聞こえた。あの甲高くも無邪気な、子供特有の声を聞いて、数ヶ月前に知り合った幼子の事を思い出す。

「ジャック」

小さくその名を呟いて、教会の表門を開けに行く。

ジャック。仲間の一人が連れて来た純粋無垢な子供。当初はロクに話す機会もなく仲間内で人伝に聞いた話でその存在を認識した。一ヶ月ほど前にようやく顔をはっきり見る事が出来て、話すことが出来たのもその時が最初。

女の子かと思っていたが実際は男の子だったので驚いた。拙い言葉で自己紹介してくれたのでこっちも名前を言うべきか迷い、結局『ドールホーン』と名乗って付き合いを始めた。前に数度此処へも来た事があり、その時に興味を示した本からいくつかマザーグースやらナーサリーライムやらフォークロアやらを読み聞かせて仕込んでみた所、直ぐにいくつかを覚えてしまった。聡明な子だ。

最初に覚えたのは『ロンドン橋』で、曲の意味について彼方此方聞いて回ったらしい。まぁあの時教えたのはほんの一部だけで、本当の『ロンドン橋』はもっと長いのだけれど。


「いらっしゃい……開いてますわよ」


扉を開けると果たしてそこにジャックが立っていた。雨に濡れかけていたので取り敢えず中に招き入れ、服掛けからタオルを取って彼に渡す。

「良く拭くのよ……丁度良い時に来たと思いますわ。今丁度仕事がひと段落つきましたの……」

奥にジャックを案内する。片隅にあるテーブルの上には一部が切り分け取られたコテージパイと保温瓶に入ったレモネード。夏場にはレモネードが一番だと裏の墓苑の隅にある菜園で取れたものを使っている。

「また、御話でも聞きに来ましたの……?それとも暇潰し……?」


>>ジャック

2018/06/20 08:54 No.42

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