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霧の都に葬送曲No.0 だけを表示しています。

芙愛 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

煙る街は薄暗いまま、鈍色の空に輪郭を溶かしている。
片羽を切られた鴉達は、塒を恋いて啼けども飛べぬ。
そのまま街ごと夜霧に呑まれて、時計塔の鐘が鳴る。


「London Bridge is broken down,Broken down, broken down……」

齢七つほどの少年が一人、夜のテムズ河に向かってマザーグースを口遊む。
頭上には蝙蝠傘が揺れているのに、あの人に掛けてもらったフロックコートは霧雨に侵されて、重たい。
真夜中のタワーブリッジを跳ね上げる船は無い。闇夜に浮かぶ二つの塔を従えた橋梁の上で少年は、欄干に凭れたままいつまでも霧の都の夜を眺めていた。
河の向こうから、また大時鐘が深夜を告げる。

「みんな死んじゃった」

鐘の音が、血の匂いを連れて来る。
死神達の夜が来る。
濡羽色の傘の陰から、少年は寂しそうにぽつりと零した。夜に溶けてしまいそうな、儚い声だった。
けれど、もう死神も来ない。
雨と死の匂いに包まれたその街を、人は『霧の都』と呼んでいた。
霧の都には、嘗て恐ろしい殺人鬼達が住んでいて、夜な夜なこの街に怖ろしい血の雨を降らせていた。三年前に少年が彼等と出逢ったのも、こんな、今にも土砂降りに変わりそうな霖雨の夜だった。
少年にとって、霧の都を闊歩する死神達は皆、やさしい育ての親だった。
残酷で歪で優しい殺人鬼達は、雨と死ばかりのこの街で一人の親無し子を彼等なりのやり方で大切に育てて、それから彼を置いて一人残らず死んでしまった。

不気味に黒く沈んだ河の色を見ていた目を上げれば、霧のヴェールの向こうに、見知った背の高い黒いシルクハットの影が見えた気がした。少年はハッとして橋の向こうへと追い掛ける。けれど、靄の切れ間に足を止めれば、其処には誰の姿も無く、ただ青褪めた倫敦塔が処刑場の翳りをたたえて聳え立っているだけだった。
肩を落とし、傘を畳んで、降りしきる雨に身を任せたまま、石畳を踏む。刑場を通り過ぎM街を北上すれば、其処は彼の庭だった。
街に満つ夜霧の、遥か彼方。雨風が織り成す刹那の銀幕。映し出された遠い過去の幻想を恍惚と眺めて、もう傍には居ない彼等との思い出を振り返る。奇妙で幸福で残酷で猟奇的な、町中を恐怖に陥れていた悪人達≠ニの思い出を。

ーーLondon Bridge is broken down,My fair lady.

「嗚呼、それはですね、若いお嬢さんを人柱に埋めたそうですよ」ーー


【こんばんは。スレを建てさせていただきました芙愛と申します。当スレは殺人鬼企画≠ニして興した物語です。一文で紹介させていただくと、「なんか19世紀ロンドンっぽい街に殺人鬼達がいて、柄にもなく子育てなんかしていたが、まあ色々あってみんな死んだ」って感じの話です。興味と御縁がありましたら……注文はずいぶん多いでしょうが、どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。】

2018/06/02 22:23 No.0

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