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退廃都市―火砕流のアノミー―【第二章】

 ( オリジナルなりきり )
- アクセス(1106) - ●メイン記事(62) / サブ記事 (37) - いいね!(15)

ダークファンタジー/少人数制/六章完結 @syuginn ★HPzqP6MFXB_3Nj

     「――――輩よ。俺の復讐をヴァルハラにて見守るがいい」


 霊峰バランシャ――――死火山とも呼ばれるその高山の麓に、黎明都市エリプセの街は繁栄していた。

 しかし、800年ぶりに突如として大噴火した霊峰によって、風光明媚な街並みは全て呑み込まれた。
 黎明都市は、退廃都市へと姿を変えたのである。
 空を覆いつくす火砕流は重力に逆らって渦を巻き、赤黒い雷霆が地を穿った。
 未曾有の大災害によって、退廃都市から人々は姿を消した。

 ――かに思えた。

 肺を焼き、皮膚を爛れさせる邪悪な火山灰に、何故か適応する者が現れたのである。
 一人、また一人と火山灰に倒れてゆく同胞を見つめながら、彼らは――適応者は呪った。
 世界を。霊峰を。生き残ってしまった自分自身すらも。呪って呪って、呪いに溺れる中、彼らは発見した。
 “呪い”こそが、自分に与えられた新たなる力であると。

 また一つ、新たなる脅威。地から湧き出たるは、人とは異なる種族。
 魔族――そう称されるバケモノたちは、嬉々として適応者たちを襲い、蹂躙し、喰らい始めた。
 適応者として生き残ったものの、呪いの力を上手く扱えない者は、魔族の肥やしとなって無残に散った。
 だが、呪いの力を我が物に出来た者は、魔族すらも屠れる力を手にしたも同然。

 一体、何故?
 火山灰に適応できる人間が現れたのか?
 何が呪いの力を人間たちに授けたのか?
 800年もの間眠っていた霊峰が突如覚醒したのは偶然か?
 湧き出る魔族を根絶することは出来るのか?
 ――――かつての穏やかな日々を、奪還することは可能であるか?

 全ての謎を解き明かすべく、適応者は墓標の前で呪威(ノロイ)を握る。



【閲覧ありがとうございます。凄惨で絶望すら待ったなしの血腥い世界観であるため、15禁とさせて頂いております。
 当スレは、生き残ってしまった特殊な人間と、特異な魔族の愛憎混ざり合うストーリーを展開していく少人数制のスレッドです。
 ダークファンタジーに目がないよ!という方はぜひぜひサブ記事もご覧になってくださいませ。
 以降、メイン・サブ共に少々レス禁です。】

メモ2018/02/08 18:07 : 朱銀☆lXg/nRyFCsTU @syuginn★HPzqP6MFXB_gi9

▼△▼ 第一章 ・ ≪ 脅 威 ≫ >>1->>41( 2017/12/19〜2018/02/08 ) ▼△▼


▼△▼ 第二章 ・ ≪ 亀 裂 ≫ ( 2018/02/08〜 ) ▼△▼


 かつて全ての魔を屠った英雄・騎士王を召喚するため、霊峰バランシャへ踏み込んだ適応者たち。

 だが、心せよ。そこは魔の巣窟。

 否――魔は、ヒトの心の内にすら巣食い、亀裂を刻むやもしれぬ。

 劫火は恋人の苦しみを分かち合えないことを悔やみ。

 紅蓮は寄り添い合う魔が抱えた苦しみの秘密を知ってしまい。

 雷霆は守り抜けなかった妻の面影に翻弄され。

 瀑布は最愛の亡骸を突き付けられてなお、反魂を望み。

 狂飆は愛という避けては通れぬ未知に苦悩し。

 治癒はどうしようもない飢えに喘ぎ、叡智はただ一点だけを見つめる。

 ――歯車が、音を立てて動き始めた。


   【募集枠】


◆ラルヴァ・フォーヤン……【http://mb2.jp/_subnro/15669.html-19#a

 @劫火の呪威      

  [ 男性 / 22 / 治癒の呪威を持つ女と恋人関係 ]


◆エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク……【http://mb2.jp/_subnro/15669.html-17#RES

 A紅蓮の呪威

  [ 女性 / 28 / とある魔と恋に落ち、彼のために魔へ転生する方法を捜している ]


◆リヒト・ヒンメル……【http://mb2.jp/_subnro/15669.html-24#a

 B雷霆の呪威

  [ 男性 / 29 / 適応者である妻を喰った魔へ復讐を誓う ]


◆オリビア・ハルフォード……【http://mb2.jp/_subnro/15669.html-26#a

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夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク / 旧市街・西南部 】

 エヴァの放った氷柱は、呆気なく魔によって掻き消された。此方とて小手調べだと格好つけたい所だが、如何せんエヴァの呪威は炎と死ぬほど相性が悪い。しかも、先客の一人は炎の呪威の使い手であるラルヴァだったようだ。とことん分が悪いが、こればかりは自分の運の悪さを嘆くしかない。

「あら、敵の敵は味方という言葉ご存知ない? そこのお嬢さんを守りたい貴方と此処を通りたい私の利害は一致しているのだから、この場は協力しましょうよ」
 助けに来たわけではないのかと嘆くような素振りを見せるラルヴァに軽快に返したものの、内心は舌打ちせんばかりである。
 ああもう本当に、無視してさっさと通り過ぎれば良かった。こんなところで時間を無駄にするわけにはいかないのに。
 後悔先に立たずとはこの事だが、どうやらもう一体いるらしい魔族の正体も知れぬ今、適材適所の振り分けも出来そうにない。矢張りこのまま押し通すしかないようだ、幸か不幸か加勢も二人増えたようだし、翅の魔――メルとか言ったか――はエヴァに対しては油断しきって鼻歌まで歌っている。その隙をつけない、ついても無駄だと分かってしまうのが口惜しいことこの上ないが。
 チラリとエヴァは背後を見遣る。遅れてやってきたのは瀑布のオリビアと雷霆のリヒト……二人の呪威を考えると、エヴァはサポートに回った方が無難そうである。
 そう悟ったエヴァは、膝を落とし地面に両手をついた。絶望して膝を折ったかのような体勢だが、その瞳からは当然輝きは失われていない。
 そして次の瞬間、エヴァを囲うように氷の壁が出現する。それは何時襲い来るとも知れない翅の魔の炎や斬撃に対する防御策……とまではいかないだろうから時間稼ぎであり、そして。
「さぁ、氷なら幾らでも作れるから、溶かして好きに使ってちょうだい」
 どうせ溶けるのなら、溶かしてしまえばいい。
 オリビアの呪威は水を必要とするはずだし、水にしろ氷にしろ電気を通すだろうから後は何とかして欲しい。

>翅の魔、周辺all

【あけましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします。エヴァが大量生産中の氷は壊すも利用するも皆様好きにあしらって下さい……苦戦するパートとのことなのでメルちゃんにぶっ壊されるのが先かもですが。】

3ヶ月前 No.13

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/旧市街・西南部】


暴風が吹き荒れる。その風が翅の魔族との戦況に影響しているのか定かでは無いが、独り善がりなアーロンには興味の無い話だった。
肉眼には見えない靄の魔の身体がアーロンの起こした風に煽られているのか分からない。風の集中する一点を見つめるが相手が見えなければ戦況が一切分からない。だがそう来なくては。魔族との戦闘はこれだから楽しい。死が間近に迫っている感覚。何時死んでも可笑しくない状況。自然と口角が上がる。
しかし魔からの言葉に次の瞬間には顔を顰める事になる。

「あァ? 別に興味ねェな」

もう一体の魔族の方に人が集まっているから何なのだろう。誰も此方に助けに来ないからといって、それが自分に関係有るのだろうか。向こうで共闘というものをしている適合者達はそうしないと魔族と勝てないと分かっているからそうしているのだろう。世間一般から見てそれは正しい事だ。アーロンには一切理解出来ないが、彼らはアーロンとは違う人種だという事だけは分かる。それに誰かが助けに来たとしても楽しみを奪われるだけなのではないだろうか。一体一の勝負の方が死を覚悟出来る。一寸先に死が迫って来ている感覚を存分に味わう事が出来る。誰かが此方に来たら、それだけ死が遠くに行ってしまうのだ。それは我慢ならない。だからアーロンにとっては、自分一人で戦う方が都合が良かった。
それでも無意識下で自分は一人だと思い知らされるのか、常駐する竜巻に力が増した様に感じる。激しい風がアーロンのざんばらな髪を揺らしている。

「――――ッ、が、あ……!?」

また、魔の声が脳に響くと同時に心臓に激しい痛みが走る。思わず胸を抑えて体制を崩す。それをどうにか右手に持つ大鎌を杖にして支えるが、ズルズルと落ちていき終いには地面に膝をついてしまう。一瞬で過ぎ去ったかと勘違いしていた胸の痛みは、まるで無数の針で刺されているように断続的に襲い掛かる。
何が起こったのか、アーロンは瞬時に理解出来なかった。突然の痛みで起こしていた竜巻は消え去り、今ではアーロンの呪威では無い自然が巻き起こす風がただ靡いているばかりである。冷や汗が滲む。鎌の柄を持つ右手が僅かに震えている。軽口を叩く魔に何か言い返そうとするが痛みで声が出ない。アーロンは今正に心臓を掴まれていた。
この状況を如何にして打破しようか考えるも、アーロンには何も思い浮かばない。自分に使えるのは風のみ。口内や鼻腔に風を送る事は出来ても体内にまでは不可能だろう。肺や胃の中なら未だしも掴まれているのは心臓だ。血管内に空気を送れれば良いのかもしれないが、血液に空気が入ればそのせいで先に死んでしまうやもしれない。
そこで、ふと思い付く。アーロンは誰かの心情を答える設問ではその全てが不正解であったが、その他に関しては普通の成績であった。勉強にも興味は無かったがやらねばならぬと思っていたので学校にはキチンと通っていた。理科の授業で、空気には酸素が混じっており、吸い込んだ酸素は血液によって運ばれると習った記憶がある。自分が操るのが風であるならば、酸素だけを操る事が出来るのでは無いかと思ったのだ。思い付いたのは今が初めてで、勿論やってみたことも無い。一種の賭けの様な選択だがやらないよりはマシだろう。
アーロンは地に足を付けたまま風を巻き起こす。死への恐怖と魔族に対しての劣等感から、糧となる負の感情については申し分ない。意識を集中させて空気中の酸素だけを操るように目を閉じる。傍から見れば諦めて死を受け入れたと見られるだろうか。だが他人からの目等アーロンは気にならなかった。
血液中を滑走するように酸素にだけ意識を持っていく。上手く心臓に辿り着いたらその周りで悪さをする魔の一部をどうにか外に追い出したい。外に出すには二酸化炭素を操れば良いのだろうが、何分初めての試みであるので望みは薄そうだった。


>>靄の魔族、ALL様



【書いてて訳分からなくなりましたが、成功する前に助けが来れば良いなーなんて思います……】

3ヶ月前 No.14

劫火の仮面 @kaizelkai ★PEQrslXdTV_mgE

【 ラルヴァ・フォーヤン / 旧市街・西南部 】


「 いや、別にエヴァンジェリンさんの敵だなんて……そうですね、今は協力しましょう。と言っても自分とあれじゃ、どうも相性が悪い。炎が全然効かないみたいで…… 」


 彼女が軽快そうな笑みを浮べて、この場の協力に応じてくれた。此処を通りたいという利害の一致だが、協力してくれるのはありがたいので素直に答える。しかし相手も炎を操り、炎を無効化に出来る能力を持っている。自分との相性が悪すぎる。しかもあちらは自由に動き、自分は恋人を守るために行動を制限されている。大切な者がいるから、自分は戦えるのだと思っているが、それは同時に弱点でもある。だがそんな理不尽な状況でも、まだこうして彼女は無事でいる。そう、無事で。

 だが、現実は甘くはない。何かが斬った音と恋人の短い悲鳴が聞こえた。そう、自分の背後から。何故だかわからない、恋人の背中からおびただしい血が流れている。理解が追いつかなかった、何故彼女が斬られたのか。纏っていた長剣の刀身の炎が消え、彼女の手を取る。


「 え、え……エリィッ!!しっかりしてッ! 」


 エリは無理に笑顔を浮かべている。背中から大きく斬られている。目の前の間が剣を振ったと同時に恋人から悲鳴が上がった。剣を振るうだけで届かない相手を斬る事が出来るのか、だがそんな事はどうでもいい。相手はいつでも斬る事が出来たのだ、それも自分ではなく後ろにいた彼女に。許せなかった、戦えない者を斬った事、そして人が選んだ恋人を嘲笑い、ただ治せる力があるだけで一番先に殺すといったあの魔族の事。

そしてなにより恋人を守ると決めておきながら、あっけなく恋人を傷つかせ、守る事が出来なかった自分が許せなかった。自分の中に溶岩のような怒りが湧き上がる。止まらない、全ての感情が怒りに染まる。


「 ア ア アアァァァ―――ッ!!!」


 火山が火を噴くかのような、憤激の雄たけびを上げる。溜め込まれた感情を全て爆発させる。彼の握られていた長剣もそれに呼応するかのように、真っ赤な火炎が、灰色の地面を茜色に染め上げる。そして、稲妻のような炎を出すと長剣が二つに別れた。両刃の長剣は二つの片刃の柳葉刀へ、姿を変える。その刀身からも絶えず、真赤な炎は噴き荒れている。周囲の空気は熱く熱せられる中、彼の表情はまるで凍りついた表情を浮べて、翅の魔を見上げる。



「 …… 」


 右手に持っていた柳葉刀を逆手に持ち直し、立ち昇っていた火炎が羽虫のように一箇所に、刀の刀身に集まっていく。もっと、もっとだと自分の感情をあの魔を滅ぼすために。そして、上から下へと腕を振り下ろすと、柳葉刀が使い手の一人の手中を爆炎と共に離れて、風を切って飛んで行く。自分の腕力では当然飛んでいる翅の魔には届かない。だが投げられた柳葉刀の柄からロケットのような噴炎によって、加速し、弾丸のように飛んでいた。刀全体が炎に包み込まれており、翅の魔を殺す、凶悪な投擲を放った。


>>エリ、、エヴァンジェリン、翅の魔


【あけましておめでとうございます。】

3ヶ月前 No.15

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_3Nj

【 ???&エリ&アケハ&棺の男 / 旧市街・西南部 】

 氷を扱う呪威を持つ女は、どうやら早々に援護に回ると決め込んだらしい。攻勢を捨て、此方に攻めようとしない意思を表すかのような氷の防壁の布陣を見遣って、メルは退屈そうに短い欠伸を漏らした。けれど、彼女の、エヴァの目を見れば解る。それは決して、諦めの意思ではないと。戦意喪失したわけではない、と。

「――アォォォ――――……」

 ふと、遠くから。響き渡るのはイヌ科の遠吠え。翅と靄、二体の魔族の襲撃によって、気付けばエヴァとアルヴィオンの待ち合わせの時刻は当に超過していた。“大丈夫か。今どこにいる”――遠吠えに含まれたこの意味を知ることが出来るのは、この咆哮の主と愛し合い心を通わせたたった一人の人間、エヴァだけ。だが、翅も靄も、この魔力を帯びた遠吠えが、単なる四足動物が発したものではないことは瞬時に理解していた。
 翅の魔は、この遠吠えを、「腹を空かせ、餌を捜してうろつく他の魔族のもの」であると考えた。魔とヒトが心を許し合い、果ては男女の関係になることなど、およそ魔族の常識からは大きく逸しているため、最初から勘案に入れていない。アルヴィオンは、エヴァが思っている以上に、異端の魔族である。
 だが、今そのこと以上に翅の魔の興味を引いているのは、紅蓮ではなく劫火。翅の一挙一動に心を大きく翻弄させ、されるがままに呪威を猛らせるラルヴァは、翅にとって滑稽このうえない喜劇を演じてくれる役者である。ラルヴァに手を握られたエリも、弱弱しい微笑を返すことしかできない。呪威によって傷口は徐々に塞がりつつあるが、それでも失った血液が戻るわけではない。大量出血によって引き起こされた貧血と、まだ治し切れていない部分から発せられる激痛が、エリから言葉を奪った。

「アハハ、いいね。もっと怒れ怒れぇ」

 ラルヴァの憤怒と殺意を体現するかのように、彼が手にしていた武器の形状が変化していくのを観察し、翅の魔は手を叩いて面白がった。怒りに脳髄を染め上げられたラルヴァは、きっと気付いていないだろう。怒りによって呪威をパワーアップさせることに成功したことすら、翅のシナリオ通りであったことに。ジェット噴射もさながらに、爆炎を纏って飛来する刃に向けて、翅の魔は一直線にフランベルジュを構えた。ちょうど柳葉刀とフランベルジュの切っ先が触れ合った瞬間、轟々と唸るような音を立てて、刀を包み込んでいた火炎がフランベルジュの先端から熱エネルギーごと瞬く間に吸収され、残された抜身の刀は、投擲の勢いをそのままに翅の魔の腹部を貫いた。

「ふーん、こんなもんかぁ。所詮は人間だねぇ。これじゃあその力の方が可哀想じゃん」

 呪威の力をまとわないただの物質に貫かれても、それは魔族の致命傷とはなりえない。翅の魔の腹に開いた風穴は、ぐじゅぐじゅと音を立てて独りでに修復されてゆく。むしろ、翅の魔の防御力は魔族の中でも断然低い方であり、人間が放ったただの刃で身体を貫けるような魔族の方が珍しい。人間がいくら武器を手にして魔族に立ち向かおうとも、人間の産物では魔族の皮膚一枚を切り裂くことすら敵わない。ゆえに、人知を超えた謎の力である呪威を使いこなせる適応者だけが、今もなお生き残っているのである。

「メルが見せてあげる。炎で何かを壊すときはね、こうするんだよぉ」

 邪悪で無邪気な笑みを浮かべながら、ラルヴァの爆炎をたっぷりと吸い込んだフランベルジュを指揮棒のように何度か振るう。たちまち翅の魔の頭上に、藍色の禍々しい魔力が集約してゆき、その昏い塊は直径5m以上はある巨大な球体を成してゆく。そして、ひと際大きくフランベルジュで虚空を一閃した瞬間、その塊から地面に降り注ぐのは、サッカーボール大の質量を持った炎の塊だった。さながら燃える小隕石のようなそれは、防ぎきれるようなちゃちな代物ではない。水によって表面の炎を消すことに成功したとて、その下には重厚な魔力のエネルギー結晶体が待ち構えている。紅蓮のエヴァ、劫火のラル、治癒のエリ、雷霆のリヒト、瀑布のオリビア、その五人に平等に降り注ぐ魔の暴力の数は、一人当たり5個は下らない。万が一全てを躱すことに成功しても、地面に落下した時点でこのエネルギー体は爆裂し、破片と熱風が襲い来る。翅の魔の計算では、この攻撃で上記の五名全員を捕食できる状態にすることができると踏んでいた。

 翅の魔による圧倒的な暴力の標的にならなかった適応者は、この場ではアーロンだけだった。けれどもそれは幸運とは言い難く、すでに彼は靄の魔に命を握られていた。ふとその場に、リン――と澄んだ鈴の音が響き渡った。アーロンも、この冴えるような音色は何度も聴いたことがあるだろう。

「――アーロン様? そのやり方は、お奨め致し兼ねまする」

 死の香りの蔓延する戦場に不釣り合いな、裏表のない笑みをにっこりと湛えながら、叡智の呪威は姿を現した。一歩彼女が歩みを進めるたびに、結い上げられた髪留めに括りつけられている鈴が小さくリンと鳴る。そして彼女の後ろには、何やら棺を背負った筋骨隆々の男も連れられている。その頑強な体つきに加え、付け入る隙を感じさせない不愛想な表情から、その棺の男もまた、歴戦の適応者なのだろうということは想像に難くなかった。

「狂飆とは風の呪威――操れるのは気体ではなく風にござりまする。ゆえに、このままその無茶を続けますれば、空気塞栓で絶命するのが関の山でありまする。……と、アケハめの呪威は申しておりまする」

 厳しい内容を口にしているが、顔に張り付けられているのは依然とした優し気な微笑み。一方で靄の魔はと言えば、突如追加された二匹の餌に嬉しい驚きを感じ、アケハの意味深な物言いと呪威に興をそそられ、甘んじて彼女の好きにさせている。飛び入りゲストの登場によるこの新しいショーが、どのような顛末を迎えるかを見届けてから、ゆっくり捕食する気なのだろう。“上手い飯にありつけると思えば、食前の喜劇まで見られるなんて、ツイてるっすねえ”とでも呟きながら。

「負の力で活性化するのは、呪威だけではありませぬ。先ずはアーロン様の体内に巣食う魔の一部の動きを止めねばなりませぬ」

 アーロンにとっては、何を言っているか分からないだろうし、アケハも深い所まで理解させる気などきっと無いのだろう。言うより行うが易しと言わんばかりに、アケハはふわりと両腕をアーロンに伸ばし、そのまま倒れ込むようにして彼に抱き着いて身を預けた。そして彼に密着したままそっと顔を上げ、背伸びをした――アーロンが拒まぬ限り、アケハと彼の唇が重なるように。

>>周辺ALL



【アーロンくんのみ一足先に次の展開へ移行させて頂きました。他の方々も、次レスか次々レスには移行出来たらいいな、と思っております。アケハのキス、拒む拒まないは勿論アーロン君の自由ですが、大事な選択肢になっております。】

3ヶ月前 No.16

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/旧市街・西南部】


ツキツキと、ズキズキと痛む胸にアーロンの額には冷や汗が滲む。止まない激痛にアーロンの企みは、集中力が途切れる事で失敗に終わる。ズルリと崩れ落ちそうになる身体を鎌の柄を両手で掴む事で何とか保つ。今にも死にそうなこの状況に、正直興奮しない訳では無い。だが死に目に遭う事が好きなだけで痛い思いをしたい訳では無いのだ。今は痛みに耐えるだけで精一杯だった。
その時、リンっと鈴のなる音が聞こえた。全てを雑音だと捉えるアーロンの耳でも、最近聞く事が増えたその音を鈴の音としてキチンと認識していた。その音色の持ち主の事も。
声を掛けられ、顔を上げる。やはり見覚えのある顔だ。生憎と名前までは覚えていなかったが、やたらと話し掛けてくるため顔だけは漸く覚えていた。彼女に名前を呼ばれ、自分はそんな名前だったかと思い出す。大噴火により家族が居なくなった今、自分の名前を呼ぶのは僅かしか居ない。というより、一人しかいない。自分の事にも無頓着なアーロンは彼女に名前を呼ばれる事で自分の名前を記憶していた。

「――ハッ、だろうな」

そのやり方では死ぬ、と宣う彼女に自嘲気味に笑う。風と気体では大分違う。それに含まれているからといって操れる訳では無い事はアーロンも薄々気付いていた。だから失敗した後も続けて試そうとは思わなかった。
アーロンがやろうとした事を簡単に見抜いた彼女の呪威は、そういった知識に関する事なのだろう――名前をはじめ他人の事に全く興味の無いアーロンは彼女から何か言われる度にそう思っていた――しかし何を伝えたいのかいまいち掴み所の無い物言いに、ではどうすれば良いのかと口を開くも痛みに顔を歪めるだけで何も出て来なかった。

「……?」

そうこうしている内に凭れ掛かるように倒れて来た彼女を受け止める。近付いてくる顔も拒む事は無い。女というもの以前に人間に興味の無いアーロンは女性経験が全く無い。物好きな女が近付いて来た事もあったかもしれないが、すぐにアーロンの異常性に気付いて離れていった。だからキスはおろか異性と手を繋ぐ事さえした事の無いアーロンは彼女が何をしようとしているのか一ミリも分からなかったのである。尤も、そういった行為をされたところでアーロンは何の感情も湧かないのだが。


>>靄の魔族、アケハ、ALL様


【拒むわけがなかった。ファーストキッスを捧げます。
思ったのですが30で未経験ってアーロンくん魔法使い……】

3ヶ月前 No.17

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_3Nj

【 ???&アケハ&棺の男 / 旧市街・西南部 】

 アーロンとアケハ、二人がお互いの吐息を感じられるほどの距離で見つめ合っても、そこに熱量が生まれることはなかった。まるで爬虫類かのような無機質な視線が重なり、唇と唇が触れ合う。常人であるならば、顔見知りの女にいきなり口付けをされれば、必ず何かしらの突発的な感情を抱かざるを得ないだろう。嫌悪然り、動揺然り、興奮然り。しかしアーロンは、もはや常人の枠に当てはまる器ではない。殺し合いを好み、死線を好み、果てには己を脅かす魔と同類になることを望む男。そんな男が、女一人風情に今更簡単に興味を抱くわけではない。それを承知の上で、アケハは今回の奇行に打って出た。それが、彼女の持つ叡智の呪威によるお告げだったのか、彼女自身がアーロンの性質を理解したうえで選んだ行動なのかは、彼女のみぞ知るところ。

「…………成程、そういうことっすか」

 キス、というのが人間同士の愛情表現ということを知らない靄の魔は、アケハの行動をもはや空中のどこに霧散しているかわからない眼でじっと観察し、その意図を探る。アーロンの唇にアケハの唇が重なる直前と直後、アーロンが抱いていた感情は“無”。今までアーロンの体内で渦巻いていた負の感情のベクトルが、アケハの行動によって無へ帰したのである。そして靄の魔が抱く違和感。――アーロンの体内に侵入させた身体の一部が、巧く遠隔操作出来ない。その理屈がどういうことか何となく直感で理解した靄の魔は、興味深そうに一人合点した。

「――、ン。アーロン様、どうでござりましょう? もう苦しくはござりませんか?」

 アケハは、アーロンの感情が凍り付くように無になったこと、それに伴ってアーロンの体内で暴れていた魔の一部が沈静したことを感じ取れば、小さく上ずった声を上げて唇を離した。そしてアーロンの顔を見上げ、何事もなかったかのような顔でふわりと微笑んだ。ふと、その背後に靄が渦巻く。それは、先ほどまで分子レベルにまで分解させていた靄の魔の体組織が、人間の目にも可視化するような高密度に結集している証拠で。

「さて、まどろっこしい狩りは終わりっす。そこの雄2匹を喰った後で、あんたには色々聞きたいことが出来たっす」

 禍々しいほどの魔力を渦の中心に湛えた靄の魔は、アーロンと、アケハが引き連れてきた棺の男を捕食したうえで、アケハに“尋問”する意思を表した。体内に自身の身体の一部を入れることで心臓を破壊するという狩りへの対策を取られた今、靄の魔は臨戦態勢へと移行する。無論身体は気体のままなので物理的な攻撃はあまり意味を成さないだろうが、それでも正面から堂々と戦うのはアーロンの得意分野だろう。
 アケハは、靄の魔の敵意を微笑で受け止め、そっとアーロンに耳打ちした。

「――魔になりたいのでござりましょう? 見事あの魔を打ち破りますれば、一つヒントを差し上げまする」


>>アーロン、周辺ALL



【大変遅くなりました、申し訳ございません……!やったねアーロン君のファーストキッス頂きだぜ!】

3ヶ月前 No.18

リヒト @sibamura ★o0W3VsenYO_ly4

【リヒト・ヒンメル / 旧市街・西南部 】


リヒトが放った弾丸のごとき槍の投擲はしかし、紙一重の翅の魔には届かない。

「ちぃっ!」

自らの攻撃が避けられたことに舌打ちすると、リヒトは右手を掲げた。呪威によって発生した磁力により鋼鉄の槍が彼の手元に戻り、再びの投擲を仕掛けようとする。しかし、

「だまれ! 俺の前でその汚れた名を口にするな。」

翅の魔の言葉に彼の動きが止める。魔族の口から出た名。それは彼の最愛の妻を貪り食った彼の復讐の対象なのだった。
その名を聞いてたけり狂うリヒトに、翅の魔が剣を振るう。
普通なら届くはずのない距離である。だが、

「がぁっ……くはっ」

どのような仕掛けな、不可視の斬撃はリヒトの右手を斬りつける。ガントレットごと切り裂かれたその傷口は、腕の切断とまではいかないまでも、骨に達していて、無理に動かせば本当に腕が取れてしまうように見える。
あまりの激痛、そして神経が切断されたことにより、右手に持つ槍を取り落としてリヒトは呻く。

「お、おのれぇぇぇぇ!」

そして、怒りと憎しみの眼光を翅の魔へと向けると、無事な方の左手でどうにか槍を拾いなおすと、再び投擲を行う


「ぐぁぁっぁあ」

だが、右手も使えず、助走も十分でないその投擲は先ほどより明らかに勢いがない。当然、避けられるまでもなく翅の魔に到達するより先に失速して地に落ちてしまった。

>> スレ主様 ALL様

3ヶ月前 No.19

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/旧市街・西南部】


彼女の唇とアーロンの唇が重なった。しかしだからといって何か変化が起きた訳では無い。軽いボディタッチで相手の事を好きになるティーンエイジャーのようにアーロンが彼女に恋心を抱いた訳でも、よく知らない人物に突然キスをされて嫌悪感が沸いた訳でも無い。未だにアーロンは顔を合わせる数だけは有るので顔だけは覚えたが彼女の名前さえも知らないし、教えられた所で覚えられないだろう。彼女に限らずアーロンの世界には自分しか居らず他は全て雑踏の中の概念に過ぎない。正直アーロンにはこの唇を重ね合うという行為に何か意味が有るのか理解出来ない。ただ顔を近付けて来たから受け入れた。まるでテレビでつまらないドラマのワンシーンを観てるかのように無感動で見ていただけだ。だから動揺も無いし困惑も無い。此処が戦場真っ只中でも無く災害が起こる前であれば「で?」と真顔で宣う位には何の意味も無い行為だった。しかし。

「――ああ」

女に問われるがまま、胸に手をやる。確かに、先程まで感じていた痛みも死が迫ってくる感覚も、何も無い。息をする度に引き攣るように走る痛みも、死を感じ取って興奮していた熱も、魔族には敵わないという劣等感も、一人で戦っているという孤独感も何も無く、正しくアーロンは今無に帰していた。それが女の狙いだったのかは定かでは無いが、これでまだ戦えるならアーロンにはどうでも良い事だ。
そんなアーロンの願いが通じたかのように背後で渦巻く音がする。振り返れば靄の魔が集結しており可視化出来るレベルにまで密集している。狩りは終わりだと言う靄の魔の言葉からも、臨戦態勢に移っている事は容易に想像出来た。立ち上がろって迎え撃とうとした矢先、女から耳打ちをされる。――魔になりたいのなら、あの魔を倒せばヒントをやる、と。何故魔になるヒントをこの女が知っているのか疑問に思わないでもないが、だが教えてくれると言うのならそれでいい。死闘のコンディションは完璧だ。いつも魔族を前にして見せる歪んだ笑顔では無く、久々に綺麗な笑みをその顔に浮かべて魔と正面から対峙する。

「その言葉、忘れんじゃねえぞ」

返事も聞かず走り出す。目指すのは勿論靄の魔だ。普通に斬り掛かっても効かないのは既に分かっている。だが自分には真っ向勝負しか出来ない。闘いへの小細工は出来ても元来考えるのは得意では無い。だったら、だったら矢張り大振りの斬り掛かりしかない。
ぶおん、と音がする程鎌を大きく振れば風が生じる。その風はアーロンの思い通りだ。斬撃による風圧は通常よりも数倍に威力を増し、靄の魔を吹き飛ばそうと襲い掛かる。勝負の鉄板、まずは何が効くのか効かないのか、様子見だ。


>>靄の魔、アケハ、ALL様

3ヶ月前 No.20

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク / 旧市街・西南部 】

 その“声”が聞こえたとき、思わずエヴァは瞳だけで辺りの様子を見渡していた。それが単に時刻を確認する為のものなのか、或いは声の主の姿を求めての事だったのかは、当人にも分からない。ただ、それで彼女が理解したのは、愛する者との約束は果たされなかったという事だけで。
(ごめん、全然大丈夫じゃない。)
 思わず口をついて出そうになった返答を飲み込めたのは奇跡に近い。
 周囲の人間はともかくとして、もしかすると同じ魔である者の中には、彼の遠吠えの意味を解してしまう輩が居るかもしれない。況してや交戦中の相手の目の前で、唐突に彼の問い掛けに答えるのは愚の骨頂だ――死ぬほど歯痒くはあったが、何とかそこまで頭を回すだけの余裕がエヴァにはあった。正確には、愛するアルヴィオンとの未来を死守するために無理矢理思考する時間を作り出した。
 そして同時に、盛大に道を塞いでくれている妖精モドキをぶっ飛ばす――そんな決意を新たにした。

「申し訳ないけど私も相性は悪いわね。でもまだ炎の方が効きそうだし、あなたが私のこと信用してくれるっていうのならお嬢さん引き受け……て」
 一応協力関係を取り付けたラルヴァと負傷したその連れ合いの様子を見咎め、攻防の役割分担を提案しようとしたエヴァの言葉は途中で止まった。
 その瞳に写るのは、魔族の頭上で見る間に大きさを増していく藍色の球体……はっきり言って嫌な予感しかしない。
 先程の後ろ暗い決意を力に変えて、エヴァが氷の防壁を強化したのは考えるより先に体が動いた結果だった。

 そして次の瞬間、球体から降り注いだ幾つもの火球が辺りを襲う。ほんの少しだけ、氷が緩衝材となって勢いを殺せたかもしれない。多少であれば、氷により炎が弱まったかもしれない。けれどそれは気休め程度のものであり、実際には氷を溶かし、破壊し、火球はエヴァに突っ込んでくる。おまけとばかりに氷の一番分厚い部分にあたった火球は、その場で大爆発を起こした。
「きゃあっ!」
 爆発により敢えなく吹っ飛ばされたエヴァは、後方の地面に強かに体を打ち付ける。痛みに息が詰まったところに火の粉やら自分が作り出した筈の氷の破片やらが追い掛けてきて、あっという間に彼女の体は打ち身と火傷と裂傷でボロボロになる。むしろ、辛うじて五体満足でいるだけ幸運だったのだろうとさえ思えるほどだった。

>ラルヴァ、翅の魔、周辺all

【返信遅くなりまして申し訳ありません。】

3ヶ月前 No.21

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_3Nj

【 メリエル&ジズ&アルヴィオン&アケハ / 旧市街・西南部 】

 適応者たちを襲った翅の魔のエネルギー結晶体は、生み出された分は全て問題なく炸裂し、概ね思った通りのダメージを彼らに与えることに成功した。翅の魔は喜びに満ちた顔でまたしても鼻歌を口ずさむ。攻撃が成功した喜びではない。ようやく食事にありつける喜びだ。

「治癒持ちのメスは気ぃ失ってるのかあ。じゃあ起きてる方から踊り食いしちゃお」

 目の前の惨状――翅の魔からすれば心躍る光景だが――を見渡し、自身が好む女体の肉を物色する。この中に雌は三体、すなわち紅蓮と治癒と瀑布である。治癒が最もうっとうしい存在ではあるが、彼女に目を向ければ、ボロボロの身体で突っ伏したまま動かない。呼吸によって微かに律動しているので死んではいないが、気絶しているならこれ以上呪威を発動することも出来ない。となれば、捕食対象は必然的にエヴァかオリビアになる。ふよふよと二人に近寄り、吟味するように視線をくれる。

「どっちにしよっかなあ。……銀髪の方は味薄そうだなあ。――決ーめた。まずは」

 がぱぁ、と音を立てながら、顎関節の概念を無視して妖精の口が大きく開く。人間の頭くらいなら丸々口に含めそうなほど、それはそれは大きく。無論伊達でも比喩でもない。首から下は妖精然とした少女の姿のままだが、その頭部はまさに魔族。人間の骨など容易に噛み砕くであろう頑強で鋭利な牙がびっしりと生えそろった禍々しい口で、唱えるのは死刑宣告。

「――氷のメス。良い声で鳴いてよ」

 刹那、旋風。次いで、どがこん、と凄まじい音。

「イーファ」

 バスの利いた、力強く、洗練された低い声が空気を震わす。

「――――俺の、イーファ。よく頑張ったな」

 狼の魔、名をアルヴィオン。遠く離れていても追えるほどに何度も嗅いで覚えたエヴァの体臭と、彼女の扱う呪威の気配を探って現れた、愛を知る異端の魔。エヴァを庇うように彼女の前に立ちはだかりながら、前方に突き出したままの拳からはしゅうしゅうと煙が上がっている。その拳の遠く先には、瓦礫の中に埋もれる翅の魔の姿。――間一髪だった。
 アルヴィオンは、後ろを振り向いてエヴァの顔を見んとしたが、次の瞬間こちらに飛来した大きな瓦礫を砕くために素早く前へ向き直り、翅の魔が投擲したその瓦礫を殴打一発で粉砕する。3mを超えるその巨躯がまさしく盾となって、飛び散った破片からエヴァを守った。

「…………意味、わかんない」

 瓦礫の中から、翅の魔がゆらりと再び姿を現す。俯いているために表情は窺い知れないが、まとう雰囲気は修羅のそれ。

「アルヴィオン。なんで君がヒトを守るの……? 何回狩りに誘っても、来てくれなかったのはそういうこと……?」
「ヒトじゃねえ。イーファだ。俺が守るのはイーファだけだ。狩りなんざ一匹で出来る。わざわざてめえと組む必要がねえ」
「わかんない……わかんないわかんないわかんないよっ!!」

 先ほどまで鼻歌を歌うほど余裕綽々の態度だった翅の魔が、アルヴィオンの登場と彼のとった行動に対してあからさまな怒りをあらわに暴れ狂う。そこから先は、一方的な展開だった。想定外の出来事に感情を爆発させ暴れる翅の魔以上に、アルヴィオンの怒りは燃え盛っていた。適応者5人が苦戦を強いられた翅の魔を、アルヴィオンという魔一体が文字通り滅多打ちにしてゆく。彼の大きな拳を何度も叩きつけられ、ぐちゃぐちゃになってゆく翅の魔は、人間の目からしても哀れに映るやもしれない。

「ゎ……かん、な…………ぃ、よ」
「分からなくていい。どうせてめえはすぐに死ぬ」
「っ……たすけて、ジズ――――」

 ひと際大きな破裂音。翅の魔の顔に風穴が開き、その躯がサラサラと黒い砂と化して崩れ去ってゆく。カラン、と音を立てて翅の魔が握っていたフランベルジュが地面に落ちた。彼女の脳天をぶち抜いたアルヴィオンの拳には、彼女のものである魔核が握られていた。それを片手間に口に放り込み、バキバキと咀嚼しながらアルヴィオンはエヴァに歩み寄る。

「イーファ、遅くなって悪い。……どこもかしこも傷だらけだな。…………この中に炎を使う適応者はいたか?」

 エヴァのそばに寄り添い、彼女の右腕をそっと手に取る。鋭い爪で傷つけてしまわないように、壊れ物を扱うように、それはそれは丁寧に。そしてその腕に刻まれた切り傷や火傷を見遣れば、ぐっと眉間にしわを寄せながら苦々しく呟き、傷口をべろりと舐めた。獣が傷を舐めるあれであるが、魔の獣であるアルヴィオンの唾液に含まれる治癒作用はただの獣の比ではない。すぐに完治させるほど強くはないが、舐めた瞬間に痛みが引くくらいの効果はある。ふと、痛々しい火傷の傷をじっと見つめながら、エヴァには意図が分からないであろう質問を投げかけた。

 一方靄の魔・ジズは、翅の魔・メリエルの元へ現れたアルヴィオンに注意を逸らされていた。否、アルヴィオンではなく、ボロボロになってゆくメリエルの姿に。加勢にいかねば、と思った瞬間、迫り来るアーロンの斬撃。それはジズにとって脅威ではないが、一時的に体組織をバラバラに霧散させられる。無論、すぐに集結してしまうのだが。

「…………メリエル」

 ジズがぽつりと呟く。翅の魔の名だろうか。

「アルヴィオン、っすか……変わり者だとは思ってたっすよ。まあこの際それはいいっす。狩りはツーマンセルが一番効率よかったのに……やってくれたっすねえ。あんた喰って憂さ晴らしっすねこりゃ」

 どこに目がついているか分からないので定かではないが、きっとジズはアーロンではなくアルヴィオンたちの方を見遣っていたのだろう。だが、今はアーロンに向き直ったはず。ざわざわと音を立てて、ジズの魔力が増幅してゆく。大きく、広く、魔力が壁のようにジズを、ひいてはアーロンを包み込んでゆく、まさにその真っ只中で。
 ざく、という音と共に、アーロンの足元には一振りの剣が突き刺さっていた。先ほどまでメリエルが使用していたフランベルジュである。

「さあ、アーロン様。魔になるための小手調べでござりまする。あなたにそれが使いこなせまするか?」
「――! 待て!!」

 どうやらアケハが、棺の男に命じてフランベルジュを回収させ、アーロンの元へ投げ渡させたようだ。先ほどアーロンが浮かべた綺麗な笑みと同じように、何の含みもない微笑みを顔に張り付けてアケハは言う。そして、ジズがここにきて初めて声を荒げた。動揺する素振りなど一切見せなかった、あの靄の魔が。


>>ALL様



【アーロンくんに続いてリヒトくん、エヴァさんも条件完了とさせて頂きました。過半数がチャプタークリアしましたので、強制的に次のチャプターへ移らせて頂きます。オリビアさん、ラルくんごめんなさい……!エヴァさんはアルと絡んで頂いて、あとの皆さまはエリを叩き起こして治癒を受けてくだされば幸いです!】

>>白鷺様


【さて、いよいよジズとの決着も近づいてきたので、少々ヒントをば。メリエルの剣はただの剣ではありません。メリエルサイドのロルをもし読んで頂けていれば分かると思いますが、この魔剣の力は「斬る」ことに加えて「吸収」が出来ます。もはや「斬る」ことはジズには通用しないことは重々承知していらっしゃると思います。ということは……?前レスでアケハが言っていた「負の力で活性化するのは、呪威だけではありませぬ」の言葉も実はヒントになっています。レッツ魔剣解放!】

>>夕邑三日月様


【いえいえ!リアルのご都合や、スレ運営の忙しさの中、レスして下さってありがとうございます。ちょうどアルも登場したことですし、どうか無理のない範囲で構いませんので、当スレでは楽しんでくださいね!!】

>>リヒトくん本体様


【遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします! >>12 のスレ主レスに返答してくださった >>19 のレスについてなのですが、リヒトさん宛て(厳密には翅の魔と交戦している皆様宛て)のスレ主レスは >>12 に加えて >>16 もあります。最新の状況が >>16 ですので、次からは一番新しいレスへの返答も含めて投稿して頂ければ……!本当は同じ絡みの中にいる皆様全員のレスを待ってから私が返答するのがベストの形なのですが、リアルの都合上レス出来る時にしておかないと次に来れるのがいつかはっきりしていないので、本編の流れを滞らせないためにも、今回のようにお返事を待つ前にレスを投下させて頂く場合が今後もあると思います。その時にはぜひ前述のような対応をよろしくお願いいたします、お手数かけまして申し訳ないです;;
 余談ですが、「スレ主レス」って字面だけ見たら回文ですね……!wow!】

3ヶ月前 No.22

劫火の仮面 @kaizelkai ★2P17A3cjY2_M0e

【 ラルヴァ・フォーヤン / 旧市街・西南部 】


 投げ飛ばした片方の柳葉刀はあっけなく炎を吸われ、投擲の勢いをそのままに翅の魔の腹部を貫いても、その傷は修復される。烈火の如く空にいる魔を仕留めない無力感に、いっそう腹立たしく感じる。投擲された柳葉刀を回収するために、手元にある武器を一度消した。そして、もう一度背中に顕現させ、抜くと同時に炎を帯びた二振りの柳葉刀へと変わる。怒りに全て飲み込まれたように見えるが、まだ微かに自我が残っている。自分の力で大切な者を燃やさないという思いなのか、それとも料理人としての道具の扱いからきてるのか、その劫火は荒れ狂う獣のようではなく、間違いなくヒトのために燃え盛る炎である。
邪悪で無邪気な笑みを浮かべながら、サッカーボール大の質量を持ったいくつもの炎の塊がこちらに振ってくる。自分だけではなく、ほぼこの場にいる全員に対してだ。

「 ……モット、もっとだ……ッ! 」

 相手が炎で何かを壊すなら、自分はこの炎で守ると決める。文字通り襲い掛かる火の粉は全て追い払う。二つの柳葉刀を交差させ、後ろにいるエリの方へ振り向く。自分の背中には大切な者がいる、自分の前には大切な者を傷つける相手がいる。自分の中にある怒りを、全て出すという思いが、自分の周囲にいくつかの炎の竜巻を生み出した。炎の竜巻は大きく、鋭く、エリだけを守るように動く。地面に激突した炎の塊は爆裂し、破片と熱風が襲い来ても、その双刀を振るい、叩き落す。細かい破片が自分に当たっても、エリだけには当てさせない。エリを守るという強い欲望もこの劫火を生み出す、薪のようでもあった。


 全ての攻撃を守ったが、その代償は大きかった。体が重く、酷く疲れている。破片による傷、そして熱風による火傷もしていた。二振りの柳葉刀も彼の怒りが静まった時、一本の長剣に姿を戻していた。気が付いたとき、自身を飲み込みそうになった怒りは薄まり、理性が徐々に働いていく。あれほど苦戦していた魔が別の魔によって、一方的にやられていたのだ。魔にも色々あるのかと思いつつ、翅の魔の顔に風穴が開き、その躯がサラサラと黒い砂と化して崩れ去ってゆくのを見る。翅の魔を倒した新たな魔は意図のわからない質問をしてくる。


「 ハァ……ハァ……僕が、使えますけど……炎……その前に、貴方は誰ですか? 」


 傷ついたエヴァンジェリンを優しく介抱する彼の事を怪訝そうに見つつ、背後にいるエリを守るように立つ。疲れていようとも、剣を握り締めた手を緩めず、だがその切っ先は地面には向けている。翅の魔と比べたら悪そうには見えないが、気を許したわけではない。


>>エリ、アルヴィオンall


【遅くなりすみません。】

3ヶ月前 No.23

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/旧市街・西南部】


遠くか、それとも案外近くでか。立て続けに起こった衝撃も、身を焦がすような熱量も、魔族の狼のような遠吠えも。聞こえた気がしたし、見た気がしたし、感じた気がした。けれどアーロンには有って無いようなものだ。男が女を必死こいて守ろうとする様も、種族を超えた理解されない恋も、アーロンには一切興味が無かった。理解が出来なかった。だから、目の前の靄の魔が余所見をしたその事実だけがアーロンを不可解な思いにさせた。

「何怒ってんだテメェ」

名前のようなものを呟いて、恨み辛みを吐き出して、囲むようにアーロン達を魔力で取り囲んで。その様子が、アーロンには怒っているように見えた。アーロンは他人以前に自分にも興味が無いが、別に他人の気持ちが分からない訳では無い。何と無く表情や態度で察せる事が出来たが、何故その感情を抱いているのか、過程から結果に至るまで何一つ理解出来ない。ただそれだけだった。向こうで起こっていた蹂躙から救出劇まで、何一つ知らない、知っていた所でただの映画を観るように素通りするアーロンには靄の魔が怒っている意味が分からず顔を顰めて見上げた。
面倒になって無駄だと分かっていてももう一度斬り掛かってやろうかと鎌を持ち上げた時、足元に何かが刺さった。波を打つような特異な形状をしたそれは剣のように見えたが、それが何のいう名称の武器なのかは分からなかった。だが、背後の女はこれを使いこなして見せろと言う。それで魔へと近付くのならばやってやろうではないか。しかし柄を掴み地面から引き抜いても、何も起こりはしない。これを一体どうしろというのか。

「――……」

ふと、女が現れた時に言っていた言葉を思い出す。――負の感情によって活性化するのは、呪威だけでは無い。自覚があるかは別として、他より魔族と戦った数は多いアーロンだが、その言葉の意味が全く分からない。呪威だけでは無い。ならば他に活性化するのはなんだ。身体能力? 思考の処理の速さ? 五感? ――――武器?
適合者には呪威という能力が授けられる。アーロンの狂飆然り、劫火然り、紅蓮然り、雷霆然り、瀑布然り
治癒然り、叡智然り。だがそれと同時にもう一つ彼等は手にした筈だ。不思議と手によく馴染む、武器を。
正直言って、これが彼女の言葉の意味の正解なのかは分からない。分からないが、やるしかない。魔へと成る、その為に。

「――楽しんでこうぜ、なァ」

考えていた時間は数分か、数秒か。相手に攻撃の余地を与えた事に何か思わないでも無いが、それでもアーロンは寄越された剣を構えれば靄の魔へと突っ込む。大鎌は手の内から消し、それでもいつでも出せるように油断はしない。柄を痛い程に握り締める。思い出せ、理解されなかった自分を。思い出せ、一人で過ごした時間を。思い出せ、手も足も出なかった悔しさを。思い出せ、好き放題やられた無力さを。思い出せ、今の自分と魔族との圧倒的な差を。思い出せ、死への恐怖を。
負の感情を思い起こして、剣を突き刺すように腕を押し出しそのまま上へ振り上げる。この時初めて、アーロンは笑顔を浮かべず攻撃を仕掛けた。


>>靄の魔、アケハ、ALL様



【ヒントありがてえですひええ! 正解がわかりませんが、取り敢えずアルヴィオンかっこよすぎ……】

3ヶ月前 No.24

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_3Nj

【 アルヴィオン&エリ&ジズ&アケハ / 旧市街・西南部 】

 アルヴィオンは、エヴァしか眼中に入れていなかった。この場にいる適応者に苦戦を強いたメリエルを一方的に屠ったのも、その集団の中にエヴァがいたからにすぎない。もし、メリエルと戦っていたのが、紅蓮を除く劫火、瀑布、雷霆だけであれば、そこにアルヴィオンが助太刀することなど、万に一つもありえなかっただろう。
 だからアルヴィオンは、エヴァに問いかけた質問に、ラルヴァという赤の他人が返答したことに、露骨に不快感を抱き、それを隠すこともせず眉間に深い皺を刻んだ。人間の価値観で例えるなら、久々に再開した恋人が2人だけの世界で会話していた所に、無粋にも顔も名も知らぬ第三者が割り込んできた時のそれと非常によく似ていた。アルヴィオンは、エヴァに注いでいた慈しみの視線を、険しい殺意に燃える視線に変えてラルヴァを睨みつけた。だが、エヴァとの会話を邪魔されたこと以上にアルヴィオンを怒らせたのは、「僕が炎を使える」というラルヴァの答えである。エヴァに再会でき、生存を確認できたことで鎮火していた怒りの火種が、再び火の粉を噴いて燃え上がった。

「――てめえか!!」

 今にも飛び掛かりそうな形相で吼える怒号は、あらゆる猛獣の咆哮よりも悍ましい。

「よく見ろ。どいつもこいつも、イーファも、てめえの後ろにいるメスも。火傷、裂傷、わけもわからねえほど傷だらけだろうが。全部てめえのせいだ。私欲に溺れ、怒りに身を任せ、ガキみてえに感情のままに呪威をまき散らした結果がこの有様だ!」

 アルヴィオンの発言は、ラルヴァにとって耳が痛いものだろう。だが、間違ってはいない。

「あのバカの挑発にまんまと乗せられ、誘われるがままに炎を吐いたんだろうが。奴がお前の攻撃を誘ったのは、それを吸収して反撃に利用するためだ。なんで初撃で気付かなかった? 一度吸い込まれて利用されたのに、なんでもう一度炎を使った? 怒りに呑まれて何も考えられなかったか? ……てめえそれでも人間か!」

 責める言葉は止まらない。これは最早、エヴァが傷ついていたのにそれを傍で守ってやれなかった己を悔いる感情の八つ当たりだと思われても仕方のないほどの言い様だった。今アルヴィオンがラルヴァに襲い掛かって八つ裂きにしないのは、単純にそれよりもエヴァの傍に寄り添うことのほうが優先順位が高いからである。
 ふと、ラルヴァの後ろで、今まで倒れていたエリがよろよろと上半身を起こした。意識だけはアルヴィオンが現れた直後あたりから覚醒していたのだが、体の損傷が激しく、自力では起き上がれなかったがために甘んじて地に伏していたのだろう。エリが何度も咳き込む。メリエルの最後の攻撃から、ラルヴァが身を挺して自分を守ってくれていたのは感じていた。しかし、直撃は避けられても、あれだけの熱の中に身を置かれたのだから、熱風を吸い込むだけでもエリの気道はひどく灼け付いてしまっていた。息を吸うだけでも喉に激痛が奔る。とても満足に喋れる容体ではない。それでも、愛する恋人が一方的に罵倒されるのを、黙って聞き入れるほどエリは弱くはなかった。

「っけほ…………アルヴィオン……、さん。もう、それ以上、ラルを、責めないで……。ったしが、無力だから、だめ……なの。責める、なら、わたしを。……お願い、」

 一方、叡智の呪威を持つ女は、導かれるがままに剣を手に取ったアーロンを見て、口元に浮かべた緩やかな弧をわずかに深めた。自分には、見える。剣の柄を握る彼の手から、禍々しいほどの負の感情が、その波打つ刀身へと流れ込んでゆくのが。ドクン、と剣が脈打ったのは、決して気のせいなどではない。
 真剣な表情で、振り上げられた刃。そこに何も特殊なものは生じない――様に見えるだろう、ヒトの目には。しかし、確実にその場で何かが起こったことを、ジズの短い悲鳴が証明した。

「っひ――――」

 ズォォォ、と地響きのような音を立て、ジズの特徴である靄のような身体が徐々に剣の切っ先から吸い込まれてゆく。ゆっくりだが、着実に。だが、心せよ。これは本来、生粋の魔族が――例えるならば以前の持ち主であるメリエルが、魔力を糧に振るう魔の武器。人間の身では、効果を発動させるだけでも至難の業であり、使いこなすなど以ての外。事実、今この瞬間に、アーロンを今まで体感したことがないほどの倦怠感と脱力感が襲っているだろう。これ以上剣を握り続ければ、死んでしまうかのような。剣そのものが、大きくガタガタと震えているため、よほど強い握力を込めなければ、剣を握り続けることすら難しい。何より、ジズの身体が剣へ吸収されてゆくと同時に、アーロンが剣を握っている手から、彼の生命力が吸い上げられている。それは錯覚などではない。

「ありえねぇ……っ、たかがヒトが、魔剣を――、クソっ、クソクソクソ!」

 ジズは焦りを露わに悪態を吐く。彼は魔の中でも特異な、体内に核を持たない不定形の魔。ゆえに、どんな物理攻撃で身体をバラバラにされようとも歯牙にもかけないのが強みだが、体組織すべてを吸収・封印されてしまうのが唯一にして最大の弱点と言ってもいい。みるみる吸い込まれてゆく己の身体。こんな感覚は初めてだった。なんだこれは? 怒り? 否。憎悪? 否。――恐怖。

「おい! 手ぇ放せ。……それ以上魔剣に頼ったら、マジであんた死ぬっすよ」

 それは、ジズが今わの際に吐いた、苦し紛れのハッタリにしか聞こえないだろう。が、残念ながらそれも事実。しかし、“死に近づく”ことは、アーロンにとって足を止める大きな要因にはならないだろう。アケハは、そっとアーロンに歩み寄り、彼が剣を握る手にそっと己の右手を添えた。そして、凛としながらも、どこか艶やかな甘い声で、囁いた。

「アーロン様。“死”に近づくか、“魔”に近づくか。ここで決めますれ。貴男様の“呪い”は、こんな魔剣に喰い尽せるものでござりまするか?」

>>周辺ALL


【>>白鷺さん
 次レスで、ジズを完全に吸い込んでしまって大丈夫です。ただ、吸収が完了した瞬間に、魔剣は砕け散りますので、それを留意したうえでロルを書いて下されば幸いです!

 >>ラル君本体様
 いえいえ、年始でお忙しい中足を運んでくださってありがとうございます!リアルが最優先なので、無理のない範囲で当スレを楽しんで頂ければ本望でございます】

3ヶ月前 No.25

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/旧市街・西南部】

手の中の剣が脈打った事にアーロンは気が付かなかったが、それでも靄の魔が初めて引き攣った声を上げた事で何かが起こったのだと勘づいた。その何かを探るようにチラリの剣先を見遣れば靄の魔の体がゆっくりと吸い込まれているように見える。

「っ、ぐ……!」

吸収しているのだ、と気付いた瞬間身体がこれ以上は無理だと悲鳴をあげた。言い得ぬ脱力感に崩れ落ちそうになる膝を何とか支えて気力だけで体制を維持する。意志を持っているかのように剣が大きく震え、取り落としそうになるが指が白くなるほど握り締めて居たおかげで何とか握り続けた。けれど靄の魔を吸い込むと同じように自分の身体から命が削ぎ落とされていくような苦しさに顔を顰める。息をするのが億劫で倒れ伏してしまいたい。少しでも気を抜けば遠くなる意識にアーロンは僅かに生み出した風で真空刃を起こすと頬を傷付けた。その痛みで意識を繋ぎとめようとしたのだ。すぐに霧散した風の音が無くなり、靄の魔の悪態が代わりに耳に入る。恐れているのだろうか。だがそれが今まで自分が感じてきた死の恐怖だ。もっと味わえば良い。とても心地の良いものだから。
焦ったように靄の魔が口走る。だが承知の上だ。死への恐怖など己を奮い起たせるものでしかない。思わず笑みが零れる。その目は死が間近に迫っているというのに爛々と輝いている。大きくなる剣の震えを黙らせるように更に強く握り締めれば女がアーロンの手にそっと自分の手を重ねた。

「――ハッ、そんなの決まってんだろ」

死か魔か、どちらかを選べと囁かれる言葉。だが言われるまでもない。既にアーロンは決断していた。アーロンが魔へと成りたい理由。もっと死闘を繰り広げたいから。死ぬような思いをした先で勝利を掲げたいからだ。死そのものは望んでいなくても、そこに至る過程は味わいたい。死へと近付いた先で魔になりたい。

「両方だ」

一際愉しそうな笑顔を刻めばもう一度剣を振り上げる。今にも死にそうであるのに楽しくて仕方がない。ゾクゾクとした中に死にたくないという想いがある。生命を吸われる度に興奮も恐怖も増幅し、それが力になる。
大きく声を張り上げながら振り下ろせば靄の魔の身体が剣へと吸い込まれているのが目に見えた。肩で大きく息をしながら左手でも腕を支える。見えていた靄の魔が消えてなくなると、何かの反動で大きく後ろに仰け反る。たたらを踏んで何とか倒れ込まずに済むも剣が手から離れてしまった。空中で大きく震える剣は地面に接触する寸前、一際大きく震えると修繕不可能だと分かる程砕け散った。


>>靄の魔、アケハ、ALL様



【ひえええこうですか、わかりません!
そういえばアーロンくん怪我してなくて治癒イベが無くなっちゃうな、と思ったので怪我させときました()】

3ヶ月前 No.26

キープ @keep4603 ★nJ5qCxa7H9_PHR

【オリビア・ハルフォード / 旧市街地 西南部】


 どうやら全てのカタがついたようだ。周囲の安全を確認すると今まで死んだように地に付していたオリビアが、何事もなかったかのように起き上がる。翅の魔『メリエル』の斬撃により断ち切られた頸動脈付近には生々しくカサブタが浮かんでいた。鉤爪が触れた水を操る力。その水という定義は案外広く、真水でなくとも海水や淡水、泥水や血液であっても水分を含んでいれば問題なく操作が可能だ。オリビアの持つ専門的な医療の知識と組み合わせれば、噴き出した血液を傷口に凝縮し硬化させ止血することなど造作もない。

「随分と激情家ですね……愛しい者を傷つけられて怒りに狂うのは、人も魔族も同じですか」

 オオカミを模した魔族、名は確か『アルヴィオン』と言ったか。彼の収まりきらない憤怒にオリビアは少し同情する。ここにいるものは皆、愛を知り、愛を失った者たち。言葉を交わさなくても、魂が共鳴する。自分たちは似た者同士なのだと。怒りを剣に、哀しみを盾に、憎悪を燃料に、慟哭を十字架に。この死と絶望が跋扈する世界で、我々は皆感情を捨て去ることすら許されない。

 激高する魔族を横目に、オリビアはこの中で最も重傷患者の元へ歩み寄る。どうやらこの女性には治癒の呪威を持っているようだが、あの戦闘を見る限り即効性のある能力ではなさそうだ。出血が多かったためか顔色がよくない。それ以上に、あの爆風を吸い込んだためか気道熱傷を引き起こしているようだ。

「喋らないでください。とりあえず応急処置として増血剤と気付け薬、気道を広げる薬を飲ませます。後の回復は申し訳ありませんがご自分でお願いします。医者の私がこんなことをいうのもなんですが、私ではすでに手の施しようがありませんので」

 常に携帯している小型のポーチから粉薬の入った紙包みを取り出し、それを女性の体に合うように調合していく。気道を含め喉や食道も高熱により損傷しているだろう。唾すら飲み込めない女性の口を半ば強引に押し開ける。右手には先ほどの鉤爪。そこに水を垂れ流すと、自ら意思を持ったかのように球体となってフヨフヨと宙に浮かぶ。その水球が薬を包み込むと、一気に女性の口へと浸入。食道を通り抜けて胃へと流れ込んだ。この間一秒にも満たない。恐らく苦痛はないはずだ。

「羨ましい限りです……誰かを想い、誰かに尽くし、誰かを愛しそして愛されるあなたたちが……私のユギンは、もうどこにもいないのですから」

 鉤爪を消したオリビアの表情に感情は見受けられなかった。まるで精巧にできた人形のように、一種の冷たさすら感じられる。


>>周辺ALL



【返信滞らせてしまい大変申し訳ございませんでした。PCが変わりアカウント名も変わりました。よろしくお願いします】

3ヶ月前 No.27

リヒト @sibamura ★o0W3VsenYO_ly4

【リヒト・ヒンメル / 旧市街・西南部 】

 リヒトが倒れて意識を失っていたのはほんの数秒だったのだろう。わずかに靄がかかったような視界を無理やりにはっきりさせると、リヒトは足の力だけで体を起こして周囲を確認する。
 見れば、3mはあろうかという巨大な狼の魔が先ほどまで翅の魔と戦っていたラルたちと相対している。一方、先ほどまで霧の魔に苦しめられていたアーロンはどうやら自力で危機を脱したようだ。どうやってあの2体の魔を下したのか、それも気になるがそれは後で聞けばいい。それよりも、あの狼の魔はエヴァを守るように立っていながらラルに激しく怒りを見せている。すぐに攻撃に移るつもりはないようだが、どちらにしても放ってはおけない。
 それに、

『っけほ…………アルヴィオン……、さん。もう、それ以上、ラルを、責めないで……。ったしが、無力だから、だめ……なの。責める、なら、わたしを。……お願い、』

 ラルをかばうエリの姿、それが誰かにダブった気がして。

「くっ ぐぅっ」

 右手の傷は重症であり出血もおびただしい、だがリヒトは足を引きずり血をまき散らしながら彼らの方へ向かっていく。その歩みは遅く無様なものであったが、やがて彼らの方へをたどり着いた。そして、口論の内容からどうやら狼の魔が、すくなくともエヴァにとっては味方なのだろうと察して口を出す

「邪魔をして……っ……悪いがな……彼を責めるよりも先に君が守っているご婦人を手当てした方がよいのではないか?……少なくとも俺の知る限り、治癒の呪威を使えるのはエリだけだ。怒りに身を任せ、彼女を無駄に消耗させて、自分の愛するご婦人の傷を癒すのを困難にするのが君の愛かね?」

 アルヴィオンの唾液の治癒について知らないリヒトはまずはそう言って助け舟を出すことにして。まずエヴァが回復してこの狼の魔と意思疎通をしてくれれば多少はましな状況になるだろう


>>アルヴィオン様 ラル様 ALL様


【ご指摘ありがとうございます。こちらのチェック不足で申し訳ありません。以後気を付けますね】

3ヶ月前 No.28

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク / 旧市街・西南部 】

 吹き飛ばされた衝撃に、涙が滲んだ。しかし、エヴァの目に映るもの全てがぼやけてスローモーションのようになっているのは、きっと涙のせいだけではなかったのだろう。目の前で大きく開かれた口は酷く現実味がなくて、死の実感さえも湧かなかった。
 嗚呼、喰われるのか。こんな奴に。どうせ食べられるのなら、いっそ……

「っ、……ア……ル?」
 刹那そこには、愛する彼の姿があった。
 そこにアルヴィオンが居る。遠くで吠えていた筈の彼が居る。そこまではエヴァも理解できた。しかし、アルヴィオンが白馬の王子様よろしく自身の窮地に駆け付け、今にも自分を食い殺そうとしていた魔を蹂躙している所まで思考回路が繋がるには、些か時間を要していた。平たく言えば呆けていたエヴァが現実に帰ってくる頃には、翅の魔は無惨な最期を遂げていることになる。
「な、んで」
 やっとのことで絞り出した言葉には、エヴァの様々な疑問がごちゃ混ぜになっている。何で此処にいるの、とか。何で貴方が闘ってるの、とか。
 そしてそれでも、何よりも。
「なぁんで、出てきちゃうかな……」
 へにゃりとした笑みを浮かべて、咎めるような、慈しむような言葉を、小さく吐いた。聞こえてるのかどうだかは知らないが、聞こえていたとしてもそのままアルヴィオンに言い負かされてしまうのだろう。
 自分のせいだと言うことは百も承知だが、今まで直隠しにしてきたものが呆気なく白日の下にさらけ出されてしまった衝撃も、これまたエヴァにとっては大きかった。今日だって何のためにわざわざ一方通行の連絡をとってきたのか、白昼堂々逢瀬を交わせなかった今までの苦悩は何だったのか。
 思うところは多かったが、同時にエヴァは現状を受け入れていた。アルヴィオンさえ隣に居てくれるなら後はもうどうでも良い。そう思っていた……いたのだが。
「ちょ、ちょっと待って、人! 人前だからぁっ!」
 アルヴィオンに傷口を舐め上げられた瞬間、エヴァは悲鳴に近い声をあげた。羞恥が前に出てくる余裕がある辺りアルヴィオンがとった応急処置も間違ってはいないのだろうが、いかんせん秘密の逢瀬以外に経験のないエヴァは、さっきまでの苦痛も苦悩も忘れて叫ぶしかなかった。
 だがまあそれも、彼女が周囲の適応者達の状況を思い出すまでの短い間ではあるが。

 突然激昂したアルヴィオンと、彼を諭すエリとリヒト。聞けば、さっきまで自分達を襲っていた炎は、元を辿ればラルヴァの呪威であるという。それで色々と合点がいったことも多くあったが、恐らく周囲がエヴァに求めているのは翅の魔の力に納得することではない。
「アル、落ち着いて頂戴。ノコノコ出て行った私も悪かったのだし、結果的にはあなたのお陰でこの通り無事よ。ね? 来てくれて有り難う、あなたとっても格好良かったわ……それを私だけのものにしておけなかった口惜しさに比べればこのくらいの怪我、なんてことないわよ」
 お世辞ですらないただの惚気だが、これだけ言えばアルヴィオンも止まってくれるだろう。それに、罷り間違っても彼に責任の一端があるなどとは思わせてはならない。優しい――それが自分だけに向けられるものであっても――アルヴィオンはきっと、自責の念から八つ当りをしている部分もあるだろうから。
 そんな本音と建前で、笑顔でその場を収めようと静かに奮闘するエヴァの耳に、ふと悲しげな声が届いた。
 振り返ったその先には、人形のように無表情な女性がいる。彼女は告げた、愛する人はもう居ない、と。
 申し訳ないとは思わないが、気の毒だとは思う。そして、もしかすると、彼女は未来の自分の姿かもしれない、とも。
 今回この場に居合わせた適応者は比較的常識人が多いのか、魔であることの一点のみで助太刀に入ったアルヴィオンを傷付けるようなことはなかった。可能かどうかは別としても、そんなことになろうものならエヴァは全力で適応者を迎え撃つだろうし、もし仮にアルヴィオンを喪うようなことになれば、その時は……

 エヴァはそっと頭を振って、自身の恐ろしい想像を打ち消した。

>アルヴィオン様、周辺all

【アル君イケメンすぎてうちの子には勿体無ぇ……スレ主様色々とお気遣いありがとうございます。
 という訳でアル君に全力でベタベタしつつ周りの方にも遠巻きに絡んでみたつもりです。】

2ヶ月前 No.29

劫火の仮面 @kaizelkai ★2P17A3cjY2_M0e

【 ラルヴァ・フォーヤン / 旧市街・西南部 】


「 え……? 」

 自分が炎を使えると言った瞬間、アルヴィオンという魔の雰囲気が鞘から抜かれた剣のように鋭い殺気を放っていた。先ほどの戦闘よりも強く、獰猛で思わず一歩後ずさる。彼の今にも飛び掛かりそうな形相で吼える怒号からの言葉を聞き、自分は今まで敵の思惑に乗っかって、力を与えていたのだと気づく。必要以上に自分ではなく、エリへの攻撃、挑発の言葉で自分を怒らせる事で力をもらってたとしたら、自分はこの魔の言うとおりとんでもない馬鹿なのだと思い知らされる。周囲の被害、エリや同じ適合者への火傷も全部、自分のせいなんだと。


「 僕のせい、なのか……僕が力を使わなければ、こんな事には……ッ!! 」


 芽生える罪の意識が罪悪感を生み、手に持っていた長剣を手放し、灰の上に落ちる。表情が青白く、両手が震えている。先ほどまで劫火を放っていた長剣は降り注ぐ灰を被り、まるで燃え尽きた木炭のようであった。背後に倒れていたエリの声が聞こえる。どうやら彼女の意識が回復したようだ。だが今の自分に彼女に何て声をかけたらいい、彼女に負わせた傷は皆自分のせいなんだ。


「 良いんだエリッ!喋らなくてッ!!そのヒトの言う通り、僕のせいなんだッ。僕が皆を……傷つけたんだ……――うあ゙ぁあ あ゙ぁあぁ゙ああぁぁうあ゙ぁあ゙ぁぁッ!!! 」


 本来ならエリのそばに駆け寄って介抱するだろう。けど彼女を結果的に傷つけたのは自分なのである。そんな自分に彼女に触れる事が、出来なかった。思わず怒鳴るような大声を上げ、その罪悪感は大きくなる。その目から涙が零れ、数滴が地面に落ちる。こんな涙で許されるとは思ってもいない。自分はコドモだったんだ、心のどこかでこの力で恋人や色んな人を守れると自惚れていた。その結果がこうした結果を招いてしまったのだ。灰色の世界の中で、吼えるように泣き始めた。地面に座り込み顔を手で押さえ、その姿は情けなく、無力な青年の姿に見えるだろう。その悲しい気持ちは両親が亡くなった時とは違う、悲しい感情であった。


>>アルヴィオン、エリ、周辺ALL

2ヶ月前 No.30

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_3Nj

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2ヶ月前 No.31

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

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2ヶ月前 No.32

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_3Nj

【 アケハ&レオニダス(棺の男) / 旧市街-西南部 】

 自分の質問に対してアーロンから返ってきた回答は、清々しいほどに想像に難くないものだった。それもそうだろう、自分と一番近しい存在であった家族にすら興味がなかった彼が、赤の他人にそれを抱くはずがない。自分に注がれていた家族愛を何とも思わないのに、誰かと誰かの間に育まれた愛などそれこそ道端に転がる石ころ程度の認識だろう。
 何はともあれ、こちらの話はまだ終わってはいない。血の気も盛んに新しい標的――アルヴィオンへと向けて歩み出すアーロンの背中を見て、アケハは短く溜息を吐き、すぐ近くに控えていた棺の男に目配せをした。

「――レオニダス。」

 アケハにしては珍しく、抑揚のない淡々とした声音でぽつんと誰かの名前を呟く。それは棺の男の名前だったようで、点呼の合図を契機に、棺の男――レオニダスは、その場で何かを投擲するかのように腕を振るった。成人男性がまるまる一人余裕で入れるほどの大きな棺を背負っていながら、彼の動きには澱みがない。レオニダスの手から放たれ、音もなく一直線に飛んで行った黒い何かの着地点は、今まさに鎌を振り上げたアーロンの影だった。黒い楔のようなものがアーロンの影に刺さった瞬間、アーロンの身体はもうぴくりとも動かなくなる。いくら筋肉に力を籠めようが、反対に身体中の筋肉を弛緩させて脱力しようが、大股に歩き鎌を振り上げたその体勢から、1ミリたりとも自力では動けない。

「……アーロン様。魔になりたくば、多少の分別は持ちますれ。でなければ悲願を果たすその前に、犬死に致しまする。誰かの恋路を邪魔する者は、馬に蹴られてなんとやら……と言いますでしょう?」

 動けなくなったアーロンに悠々と歩み寄り、諫めるような、半ば呆れたような口調で苦言を呈す。アーロンの気質上、誰かに小言を言われるのは気に食わないだろうが、あまり自分勝手に行動されすぎるのも、こちらにとって不都合があった。落命、というのはアーロンの行動を躊躇させる要因にはならず、むしろカンフル剤にすらなりえるだろう。だが、犬死にならばどうだろうか。楽しくもない、ただただ無駄で退屈な死。それは互いに望まぬものだろう。

「…………愛を、学びますれ。それこそが、一つのヒントでありまする。愛を理解しろ、とまでは言いませぬ。難しく考える必要もありませぬ。例えるならば……アケハめから見れば、貴男様が死闘に焦がれるその様子が、まさに恋に夢中になっている少年に見えまする。その激情が昂じれば、愛にすらなりうるやもしれませぬ」

 ここでようやく口にしたのが、散々回りくどい言い方を経てはいたが、魔になるためのヒント。現時点では、何故愛について考えることが魔へ転生するためのヒントとなりうるのか、アーロンには想像がつかないだろう。しかし、物語が進むにつれて、その話も中核へ近づいてゆく。その時になって後悔しないためにも、アケハの言葉は素直に受け止めておいた方が賢明だろう。

>>アーロン、周辺ALL


【エヴァさんとイチャついてるアルヴィオンに喧嘩吹っ掛けたらボコボコにされるビジョンしか浮かばなかったので、棺の男の試験運転も兼ねて足止めさせて頂きました。1/31までにアケハへ問いかけて下さる方がいなかった場合、強制的に次の展開へ移らせて頂きます!】

2ヶ月前 No.33

劫火の仮面 @kaizelkai ★2P17A3cjY2_M0e

【 ラルヴァ・フォーヤン / 旧市街・西南部 】



 情けなく泣き声を上げていると、体中の痛みが引いていく。優しい風が自分の体を撫でるように、吹き抜かれる。この感じは彼女が治癒の力を発動をしたのだと気づく。体中の痛みが治っても、心の痛みだけは治らない。だが涙を袖で拭き、ゆっくりとエリの方を見ると、大きな瞳からぽろぽろと涙を流していた。涙を流しても、その太陽のような優しい笑顔だけが自分の中の何かが癒されたような気がした。恋人を泣かせてしまうとは、ますます今の自分が嫌でしょうがない。彼女の暖かい手が自分の頬が触れる。暖かく柔らかい手だ、そっと自分の手を重ねて、その暖かさをその身で感じた。


「 君を泣かせるつもりはなかったのに、ごめんね。僕が弱いから……そうだね、僕は君のために、酷い事をするって決めたんだよね……いつまでもかっこ悪いのは、僕だって嫌さ。今度こそ、この力を正しく使うよ。だから見てて、僕の力を。けど出来れば、エリには酷い事はさせたくないなぁ。」

 まだ若干目が赤いが、優しく彼女に微笑み、改めて自分の覚悟を伝える。彼女の信頼を蔑ろにするつもりはないが、次は皆のためにこの力を振るうと決意を新たにする。怒りや欲を炎に変え、燃やす力は破壊するための力ではないはずだ。守る力としてこの力を使っていきたい。このまま泣き顔もちょっと可愛いから眺めてようかと思ったが、ゆっくりと立ち上がって、周囲の人達に向かって頭を下げた。


「 皆さん、お騒がせしてすみませんでした。あとエヴァンジェリンさんの……恋人さん、貴方のおかげで気づく事が出来ました。本当に、ありがとうございます。 」


 リヒトとオリビア、そしてエヴァとアルヴィオンに向けて、謝罪の言葉を伝える。謝れて許してもらえるかはわからないが、自分の気が収まらない。そして、多分エヴァの恋人であるアルヴィオンに改めて御礼を伝えた。自分を叱咤してくれたおかげで、決意を新たにさせてくれた。自分の逆の立場だったら、彼の気持ちがわかる、大切な者を傷つけて怒る気持ちが。もう一度彼に向かって、頭を下げた。あんな立派な体格で女性を抱くのは、羨ましいなぁと思ってたりもする。

 つかの間の間、周囲の事態は急変している。まず、アーロンがアルヴィオンに向けて大鎌を振り下ろそうとしていた。止めにいこうにも、自分の灰が被った長剣を取っても、間に合わない。斬られると思った瞬間、アーロンの動きが止まった。振り上げた体勢からピクリとも動かない。それにいつの間にか、もう一体の魔がいなく、代わりに見慣れない女性と、棺の男。同じ適合者なのか、見慣れない人物である。


「 貴方達は何者ですか?それに大声で、愛の魔とか二代目の騎士王とかよくわからない事を言ってましたけど……」


 もう一人の魔の声だったと思われる、何かの単語。二代目の騎士王はよくわからないが、愛の魔はそこにいるアルヴィオンの事かと思った。正体のわからない彼女らを気を許してはいけないような気がする。手に持っていた灰を被っていた長剣が一瞬だけ微弱な爆炎を吹き、灰を吹き飛ばす。その刀身は炎を司るに相応しい輝きを取り戻す。彼の新たな決意を表しているようであった。エリを守るように立ち位置に移動し、アケハに問いかけた。アーロンによくわからない事を言ってるが、彼の動作を止めたのは二人の内、どれかだろう。人間を捕食する魔族以上に、不気味に感じる。


>>エリ、アルヴィオン、周辺ALL

2ヶ月前 No.34

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

【 エリ&アルヴィオン&アケハ&レオニダス / 旧市街-西南部 】

「うん……うんっ。それでこそ、わたしのラル。ラルはいつだってかっこいいよ? ……本当に、ありがとう」

 いつもの調子を取り戻したラルヴァの言葉を聞いて、ぐす、と鼻をすすりながらエリも柔らかな笑みを浮かべた。出来れば己に酷いことはさせたくない、という最後の文言に、彼の優しさを感じてまた目頭が熱くなる。涙がもう一筋こぼれるのを見られたくないのと、愛しさがあふれたのもあって、エリはラルヴァの頬に、そっと触れるだけのキスを落とした。
 アルヴィオンも、ラルヴァに話しかけられ、そちらへ視線を向ける。人間と和解したのは、エヴァの次に2人目だ。無論この程度のやり取りでヒトと魔を繋ぐ友情が生まれたわけではないが、アルヴィオンは照れくさそうに視線を逸らし、ぶっきらぼうにラルヴァへ呟いた。

「…………アルヴィオンだ。そう呼べ」

 ふとアケハは、己に猜疑と警戒の視線を投げかけられたのを感じて、ラルヴァを一瞥する。成程、彼の疑問も尤もだ。なにせ、アケハの叡智の呪威がもたらすのは、現代の適応者たちが知り得ない情報ばかり。ならば、魔の一味であると誤解されても致し方ないかもしれない。だが、疑いの目を向けられても、アケハは気分を害することはなく、さも当然と言わんばかりに微笑を浮かべてその疑念を真正面から受け止めた。誤解を晴らすには、堂々としていなければならない。

「貴方“達”……でござりまするか。まずは、その誤解から解かせて頂きまする。あの靄の魔・ジズと、このアケハめは、正真正銘の相争う関係でござりまする。ジズの最期、あのようにゆるりと言葉を交わせたのは、アーロン様が魔剣を使ってジズを封じ込めて下さっていたからに過ぎませぬ。何を隠そうアケハめの呪威は、皆様ご存知の通り叡智の力。貴男様の恋人であるエリ様と同じく、攻勢に向いたものではありませぬ」

 一つ一つ、順を追って説明する。アケハとジズが旧知の仲であるかのように会話していたのは、アケハが叡智の呪威によってジズの情報を得たからであり、決して仲間同士というわけではないこと。アーロンが身体を張って魔剣を発動させていなければ、敵であるジズの前に躍り出ることなど、まともに戦う術を持たないアケハにとっては自殺行為。アケハとジズが悠長に会話できたのは、既にジズの敗北が決定していたからでもある。

「こちらの男の名は、レオニダス。訳あってアケハめに仕える適応者でありまする。つまり、アケハめ同様に、レオニダスも皆様の敵ではございませぬ。この男の呪威は、打楔の力。簡潔に申し上げますれば、黒き楔を打ち込んだものの動きを止めることが出来る力でありまする」

 己の斜め後ろに控える筋骨隆々の大男を目線で指し、彼の紹介を述べる。身長は2mを超え、岩石のように盛り上がった四肢の筋肉は軽く人間離れしている。眉間には常に皺が刻まれており、どこか気難しそうな、それでいて凶暴さはない礼節を弁えた立ち居振る舞いが特徴的だ。隙のない彫の深い目元には、深い緑色の虹彩が見える。口元を覆うように蓄えられた鳶色の髭と、同色の髪は生来のパーマがかかっており、顎辺りまでの長さである。
 加えてレオニダスの呪威を簡単に説明する。“力を強く込めれば、動きだけでなく対象に流れる時間すらも止められる”と付け加えて捕捉をして。

「“愛の魔”、“二代目の騎士王”に関しましては、一つ昔話を聴いて頂く必要がござりまする。少し長くはなりますが、少しでもこの呪われた世に……魔族に興味がござりますれば、御傾聴下さりますれ。」

 そしてアケハは話し始めた。昔話、とやらの内容は以下の通りである。
 800年前、現在と同じように、死火山と思われていた霊峰バランシャが大噴火を起こし、死の火山灰が蔓延し、今と同じような惨状になった。ヒトを喰い散らかす魔族がどこぞより湧き出でて跋扈したことも、それに対抗する術として当時の人々が呪威を手に入れたことも今と全く同じ。
 決定的に違うのは、“騎士王”と呼ばれたヒトの英雄が存在したこと。かつて騎士王は一つの呪威を持つだけの適応者に過ぎなかったが、ある時を境に適応者の領域を遥かに超えた強大な力を得たのである。
 騎士王は“愛の魔”と呼ばれる一体の魔族と恋に落ちた。その魔は、理知的で礼節を弁えた、とても美しい個体。魔族であるにも関わらずヒトである騎士王を愛し、全面的にヒト側の味方をしていた。しかし戦禍の中で、愛の魔は命を落とす。理由は不明だが、愛し合った騎士王の手によって屠られたのだという。
 その後、騎士王はもはや呪威を超えた力で魔を次々と討ち、最終的にはエリプセに巣食う全ての魔を一体残らず殲滅した末に、消息を絶った。
 かくして800年前に起きた魔族との戦争は幕を閉じ、800年の時を経てエリプセは復興し、元の風光明媚な街並みと平和を取り戻していた。

「が、しかし――1年前。再びバランシャは噴火し、魔族は再び蘇ったのでありまする。僭越ながらこのアケハ、皆様の闘いぶりをこの1年間拝見させて頂きました。無論、先ほどの闘いも。正直に申し上げまして、このままでは適応者は全滅し、ヒトという種は滅びまする。今回、翅の魔・メリエルはヒトの手ではなく同族の魔によって葬られ、ジズも魔剣の力を借りて何とか退けられた状態でありまする。……我々には、応援が必要であるという現状に、最早疑いを抱く方はおりますまい」

 言いにくそうに目を伏せ、一通り喋り終えれば、すっと息を吸うと同時に目線を上げた。

「そこで、アケハめの叡智の呪威は囁きました。『騎士王を現世に召喚せよ』と。」

 アルヴィオンの指先が、ぴくりと震えたのは、気のせいだろうか。それをさして気に留めず、アケハは言葉を続けた。

「我が呪威によれば、霊峰バランシャ、その奥底に騎士王の魂が封印されておりまする。しかし、実体のない魂だけでは闘えませぬ。魂を入れる最適な肉体、すなわち“器”が必要なのでありまする。――レオニダス、棺を。」

 アケハが口だけで促せば、レオニダスは素直にそれに従い、背に負った大きな棺を丁寧に地に下ろす。そして、その重厚な蓋をゆっくりと開けた。
 そこに、眠っていたのは、瀑布ことオリビアの亡き恋人、ユギン。
 しかし、死後1年以上経過しているというのに、遺体に損傷や腐食は全く見られない。火山灰にまみれて命を落としたあの日から、ずっと眠り続けているかのような錯覚すら覚えるほど、遺体の状態は極めて良好だ。

「この方こそ、800年前にエリプセを救った英雄、初代騎士王の血族の末裔……すなわち、二代目の騎士王でござりまする。遺体には、レオニダスが呪威の力で楔を打ち込み、死後間もない頃から流れる時を停めさせていただきましたゆえに、崩壊しておらずほぼ生前の状態を保っているのでありまする。このユギン様の肉体だけが、騎士王の魂を降臨させることの出来る唯一の完璧な器なのでありまする」

 ユギンの話をし始めてから、アケハがオリビアへ視線を移さないのは、故意か否か。少なくともアケハには、オリビアの最愛の人の遺体を勝手に拝借したことに対する罪悪感などは微塵もない。自分はただ、使命に従い、叡智の呪威に従ったまでだ。あまりに怜悧と思われても仕方がないし、オリビアに憤怒罵倒されても仕方がない、という自覚はあるが。ユギンは生前、オリビアに自分がそんな大層な血筋の末裔であるなどとは一言も告げていなかった。否、800年の時を経るうちに、騎士王の伝承は忘れ去られ、ユギンの一族そのものが、自分たちが騎士王の系譜を継ぐ者たちであることを忘れていたのだろう。

「皆様には、騎士王召喚のため、アケハめと共にバランシャへ踏み込んで頂きたい所存でござりまする。無論危険は伴いまするが、現状を打開する策はこれしかございませぬことを、どうかご了承いただきますれ。もしも、これ以上に有効な策があるという方がおられましたら、遠慮なくお聞かせくださりますれ。……長くなってしまい申し訳ございませぬ、ここまでの話はご理解いただけましたか?」

 “二代目の騎士王”はユギンの遺体を指すと説明したが、それに付随する“愛の魔の依り代”が一体誰のことを指すのかを説明しなかったのは、故意か否か。それでもアケハは長々と続いた語りに一旦終止符を打ち、全員の反応を微笑のままに待ち受ける。

>>ラルヴァ、周辺ALL



【ラルくん本体様、質問役ありがとうございます!物語が中核へ一歩近づきました。一気に情報量が増えましたので、情報の整理を後程サブ記事に載せさせて頂きます。なにか質問がある方は本編のロル中にてアケハに問うて頂いて、特にない方は普通にレスを投下して頂くか、お時間がない場合はサブ記事か私のアカウントまで【現状把握】とだけ送って下されば、第二章へ移らせて頂きます。この確認は点呼も兼ねていますので、2/5までに応答いただければ幸いです。5名様すべての応答が確認でき次第、ストーリーは進展致します!】

2ヶ月前 No.35

キープ @keep4603 ★nJ5qCxa7H9_PHR

【オリビア・ハルフォード / 旧市街地 西南部】

 ラルヴァとエリ、そしてアルヴィオンとエヴァンジェリンの逢瀬を前に少し居心地の悪さを感じていたので、アケハの登場は正直オリビアにとっては渡りに船と言ったところだった。ラルヴァの言う通り彼女とその後ろに佇む男レオニダスは、ここにいる適応者の中で、いや今まで出会いそして喰われてきたすべての適応者の中でも異質な雰囲気を醸し出している。彼女らだけがこの狂気の盤上ではなくプレイヤーの側に立っているような、当事者意識というものが薄いとオリビアは感じていた。そして彼女が紡ぐ“愛の魔”“二代目の騎士王”とは一体何者なのか。その疑問を問われることを予想していたかのように、アケハはつらつらと昔話を語る。まるでその光景を実際見てきたかのような臨場感ある語り口は、彼女の持つ叡智の呪威によるものか。

「まさか、今と同じ状況が800年前にも起きていたなんて……確かに霊峰バランシャが最後に活動したのは800ほど前と歴史には綴られていましたが、魔族や呪威の適応者なんてどこにも書かれていませんでした。まして騎士王なんて人類の救世主、後世に伝える英雄譚の一つや二つあってもおかしくないはずですが……」

 人が住み文明があるのならば、そこに必ず歴史が存在する。オリビアも子供のころこの島が辿ってきた軌跡を記した書を読んだことがある。特に過去の人々は自分たちが被った災害や人災を事細かに現代に伝えようとしていた。数日続いた嵐により農作物がほぼ全滅した話。逆に日照りが続き、コップ一杯の水を巡って争いがおこった話。そしてその教訓を生かし対処法を編み出すことができた話。この島に生きとし生きるものの息遣いが詰め込んだその書には、この狂った世界のことは一切かかれていなかったはずだ。童話や怪談といった御伽噺にもそのような記述はない。まるで意図的に隠されているような、そんな違和感をオリビアは感じていた。

「器って……その棺桶の中にいった……い――――ッ!?」

 ドクン、と一つ心臓が叩かれ、体中の血液が一気に頭に上る感覚に襲われる。すらりとした長身に美しい銀髪。眠ったように閉じられたその瞳は恐らく宝玉のごとき紅を帯びているだろう。そして見紛うはずもない、左耳朶のホクロ。彼のそのホクロに触れるのがとても好きだったのを思い出す。間違いない、棺に納められていたのは、騎士王の器を称される遺体は。


――ユギン……ユギンに、何をしたの?


 怒りやら憤怒やら殺意やら。おおよそ人がこみ上げるであろう感情の域を、オリビアはとっくに外れていた。触れた水分を意のままに操る黒鉄の鉤爪。実は微量ではあるが鉤爪自体から水分が放出されており、それはオリビアの負の感情に呼応しその量を増減する仕組みになっている。今回オリビアが放出した水の量、いや数値では推し量れないそれは一種の津波であった。最愛の人を奪われ、訳のわからない計画の一部に利用される。甚大なる呪いは漠々とした海原の一部となりアケハとレオニダス目掛け襲い掛かった。たとえレオニダスの楔であっても、打ち込められなければ意味はない。暴れ狂う水の龍はそのままユギン諸共アケハたちを飲み込む……はずだった。

「クッ!」

 轟音が旧市街地に木霊する。水流はアケハたちのすぐ手前で二手に分かれ、彼女たちを素通りし、真後ろの建物に直撃した。まるで砂遊びで作ったお城がやんちゃ坊主の流した水で崩れ落ちるように、石造りの建物が粉々に粉砕され跡形もなくなり、通った地面は10p以上も削り取られ、その威力のすさまじさを象っていた。

「ウッ、アアアァァァ!! ――……どうして、どうして私はっ!!」

 頭を抱えうずくまるオリビア。攻撃の最中、気づいてしまったのだ。こんなことをしても意味がないと。いまここでアケハたちを殺せば、確実に自分たち適応者は全滅する。生き抜くためには彼女たちの協力が、そして騎士王の器であるユギンの存在が絶対不可欠であること。しかしそれはあまりにも理性的で打算に満ちた冷静な判断だ。ラルヴァはエリのために激情をもって魔族に立ち向かった。それが魔族に力を与える結果になろうとも、愛するもののために理性を捨て本能と感情に従い力を行使した彼をオリビアは尊敬する。そして自らの欲求のために、抱きしめあう魔族と人間を切り裂かんとしたアーロンにも同じくらい憧憬の念を抱いていた。それなのに、自分はどうだ。あの戦いでも、早々に勝てないと判断して死んだふりをし、全てが終わるのをずっと待っていた。今回も、ユギンをあんな目に遭わされて、まだ自分は自己保身に走るのか。愚かしいほどに賢しいこの頭脳は、愛より生をとる。儚く図太いこの心は、傷つきながらも壊れてくれない。正常でもなく異常でもない。常人と狂人の境を宙ぶらりんで生きねばならないオリビアの苦悩が、ユギンの姿を見て、爆発した。

>>アケハ レオニダス 周辺ALL



【( >>22 )の件了解しました。まさかユギン君をこう絡めてくるとは……! そして周りのアベックはイチャイチャチュッチュしすぎじゃないですかぁ? ちょっとリヒト本体様、独り身同士仲良くしましょうよぅ。そんなジェラシーマシマシですが第二章とても楽しみです】

2ヶ月前 No.36

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_ly4

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2ヶ月前 No.37

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

【 アケハ / 旧市街-西南部 】

 レオニダスが棺の蓋を開けた瞬間から、オリビアの纏う雰囲気が急速に負の感情へ染め上げられていくのを、じっとアケハは観察していた。直情的なオリビアの怒りは、大切にしていた宝物を勝手に壊されて癇癪を起こす子供を彷彿とさせた。アケハは、オリビアの慟哭を見つめつつ、目を丸くした――まさかこのユギンの遺体の所有権が、オリビアにあるとでも思っていたのだろうか、と。続いて彼女から殺意をもって解き放たれた、清々しいほどに破壊を目的とした大量の水を眺め、“ああ勿体ない”と反射的に思う。ここには、その呪威の暴力を向けるべき相手など、一人たりともいやしないのに、感情と体力の無駄遣いである、と。無論、それを言葉にするメリットはないので、わざわざ口に出しはしないが。
 瀑布の濁流からアケハの身を庇うために、レオニダスが一歩前に出ようとするが、アケハはそれをそっと手の動きだけで御する。まるで、オリビアには自分たちを害することは出来ないと、初めから確信を持っていたかのように。案の定、と言うべきか、寸でのところで冷静さを取り戻したオリビアが水を制御したことで、アケハとレオニダスの両名には少し水飛沫がかかった程度の被害で済んだ。

「――オリビア様。魂を失ったユギン様の躰は、言わば抜け殻でござりまする。しかし、魂が肉体から完全に剥離するのには、短くない時間が必要でありまする。ユギン様の死の直後、レオニダスが遺体の時を止めたその瞬間、ユギン様の残留思念が肉体に残っていたとしたら?」

 今しがた己の命を脅かしかけた水の威力に対する恐れなど微塵も見せず、オリビアが己に抱くであろう憎しみすら歯牙にもかけない様子で、アケハは俄かに言葉を紡ぎ始める。その顔に浮かべられているのは、もはやアケハのトレードマークとも言えるであろう、裏表のない心からの笑み。時としてそれは聖母を連想させるが、今オリビアの目には、悪鬼のそれに等しい笑みと映るだろうか。

「事の次第によっては、取り戻せるやもしれませぬ。狂おしいほどに愛おしい、貴女様の最愛を。」

 その言葉はオリビアにとって、果たして希望となるのか、或いは。どちらにせよ、オリビアの足をアケハらと共にバランシャへと向けさせるインセンティブにはなるだろう。すぐ傍で恋人が悲痛に叫んでいるというのに、我関せずと言わんばかりに、ユギンは未だ眠ったまま。当然である――彼はもう死んでいるのだから。だが、もし。もしも再び彼が目を覚まし、オリビアの名を呼んだとしたならば。その時が、オリビアの物語の終着点になるかもしれない。

 一方アルヴィオンは、この世で唯一自分より重い命であると実感できた存在であるエヴァを双腕に抱いたまま、黙り込んでいた。魔である自分に対して明らかな害意を向けたアーロンに対する警戒も勿論解いてはいないが、それ以上に、アケハとやらがつらつらと並べ立てた話の内容のインパクトが大きすぎた。ただそんな中でも、アルヴィオンの身を案じたゆえに、悲鳴にも似た声で己の名を呼んでくれたエヴァを安心させるために、彼女の小さな手を包み込むように握り締めることは忘れていなかった。
 ――それで、アルはどうなるの?
 震える喉から絞り出されたエヴァのか細い声は、きっとアケハやレオニダスには届かなかっただろう。だが、ヒトとは比べ物にならない五感を備えているアルヴィオンには、はっきりと聞こえていた。無意識のうちに、眉間にしわが刻まれていた。アケハの言う一連の話は、あまりに藪から棒だ。だが、荒唐無稽だと一蹴できない妙な説得力も備えている。信じるしかない、のか。

「……言っただろ、イーファ」

 琥珀色の双眸が、エヴァの潤んだサファイアのそれと重なった。

「邪魔する奴は、全員俺が咬み殺す。例えそれが魔族だろうが、その騎士王とやらだろうが。この世界がどうなろうと知ったことじゃないが、俺はお前だけは手放さない。……お前を愛するのは俺だけだ。お前を傷つけていいのも俺だけだ。そうだろ、イーファ」

 まっすぐな表情と、至極真剣な声音で紡がれるのは、高らかな亭主関白宣言。メリエルによってエヴァが傷つけられたことを、よっぽど悔いているのだろう。無論アルヴィオンにはエヴァを傷つける意思など万に一つもないが、そこに渦巻いているのは、さながら獣が縄張りを守るが如く、本能的な独占欲。しかしそれは決して粘着質ではない。まっすぐで、シンプルで、力強いそれ。そこに羞恥心など一切皆無。むしろ、こいつは俺のものだと、全世界に見せつけているかのようで。

>>オリビア、エヴァンジェリン、周辺ALL


【夕邑さん並びにキープさん、点呼応答ありがとうございます!
 第二章からはそれぞれの群像劇がどんどん色を濃くしていきますので、愛も憎しみも敵意も慈しみもひっくるめて楽しんで頂ければ幸いです。どうか皆様が悔いのない選択をなされますように……!】

2ヶ月前 No.38

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/旧市街・西南部】

己の心に従い、アーロンの振り上げた大鎌は、その振り上げた形のままそこから1ミリ足りとも動く事は無かった。その異常な出来事にアーロンは何が起こったのか顔をして――その表情も動かない事に気付く。表情だけでなく目も開閉出来ないし、口も動かない。臓器はその不動の域では無いのか辛うじて息は出来るもののその他全ての動きが封じられた。アケハの声だけがするりとアーロンの耳に入ってくる。
分別を持て、さもなければ犬死する。恋路を邪魔するのは馬に蹴られて……その辺りでアーロンは顔を顰めたかったがそれも叶わずただ聞くに徹するのみだ。馬に蹴られる云々は知識としてはその言葉を知ってはいたが、正直恋路を邪魔したという自覚がアーロンには無かったので何の話か全くもって分からなかったというのがアーロンの心中を語るに一番近い表現だろう。まるでいつかの母親のように小言を言うアケハに対して特に思う所は無かったが、確かに犬死するのは戴けない。それだけはただ、納得した。

「……愛ねェ」

漸く一つ目のヒントをアケハから貰い、途端動けるようになった体に少しよろめいてから大鎌を消し去る。ヒントの前のお小言はつまり獣の魔に攻撃するなという事なのだろう。止める理由も分からないしそれに従う道理も無かったが、犬死するよりはマシだと思う事にした。案外アケハの言葉が効いているようである。
一つ目のヒント、愛を学べという言葉に思う所は幾つかある。愛を学ぶ事が魔へとなるヒントになるのか信じ難い話では有るが、生まれて初めて抱いた目標の事だ。他に手がかりも無いから一先ず信じておこう。だが愛とは一体何なのか。アケハが出した例え話を聞いても何一つ分からなかったし、だからこそ学べとこの女は言うのだろう。理解まではしなくて良いとも言っていたし、手始めに仲睦まじい様子の目の前で抱き合う魔族と女性を眺めてみる。……数秒見た所でふい、と顔を逸らす。魔族を見ると如何しても戦いたくなるのだ。犬死しない為にもこれ以上見ない方が良いとアーロンは判断した。
そうこうしている内に、アケハがまた語り始めた。長い長い昔話は聞いた事も無い内容だった。全ての事に興味が無いと無関心なアーロンではあるが、物語の登場人物の心情を答えろという問題以外の成績は良かった方である。読み物自体好きではない――というより興味が無い――が、その内容だけを覚える事は他人より出来た。しかしそんなアーロンでも知識には無い話であった。それだけ昔の事であるし、今では忘れ去られた出来事なのであろう。全てを聞き終え、理解出来ない点は何箇所か有るものの知識として内容は覚えた。また"二代目の騎士王"と"愛の魔依り代"という単語も、棺の中で眠る男が"二代目の騎士王"の器となるという事も。顔も名前も直ぐに忘れるだろうが。

「つまりはあの山に入れって事だろ?」

理解出来たかと尋ねるアケハに遠くに見える、未だに灰を放出している頂に目をやりながら応える。顔だけしか覚えていない女の話ではあるが、その呪威が叡智の力でその力がそう言っているのなら信じない理由は無い。その人物ではなく呪威という適合者に与えられた力の事をアーロンは信じていた。
答えたのも束の間、膨大な量の、アーロンは見た事も無かったが津波の如く怒涛の水がアケハとレオニダスに、ひいては傍に居たアーロンにも襲い掛かってきた。丁度視線を逸らした瞬間だったアーロンは襲い来る水に何の対処も出来ずに居たが、焦る間も無くその水は二手に分かれ呑まれる事は無かった。しかしアケハ達の少し前に居たアーロンはアケハ達よりも多分な量の水を被る事になった。それでも服と顔の一部がびしょ濡れになる程度だったのだが。いきなり攻撃を仕掛けてきたと思ったら攻撃を止め次には激昴し始めたエヴァンジェリンを理解し難い者を見る目で見ながら濡れた服の裾を絞り、顔を拭う。服を乾かそうと軽く風を巻き起こした。

>>アケハ、エヴァンジェリン、レオニダス、ALL様



【もうすぐバレンタインすからね、イチャイチャも許しましょう……だがアーロン君が許すかな!(許しました)】

2ヶ月前 No.39

キープ @keep4603 ★nJ5qCxa7H9_PHR

【オリビア・ハルフォード / 旧市街地 西南部】

「クッ……グッ! ゲエェェッ! ゴハッ!」

 キャパシティー以上の呪威を使った反動は大きかった。その場で崩れ去り嘔吐するオリビア。適応者になって以来食事を必要としなかったためか、胃の腑から出てくるのはもはや使いどころを見失った胃液のみ。脂汗をかきながらオリビアは持参している水筒から水を口に含み、軽くうがいをする。口内を胃酸が通ったためかザラザラと気持ち悪い。周囲に立ち込める酸味を帯びた臭い、それに紛れて、悪魔のささやきが聞こえてくる。


 ――――ユギンを、取り戻せる。


 今一度ドクンと心臓が高鳴った。そして想起するは最愛の姿と声。自分の名前を嬉しそうに呼んだあの声。愛していると言葉をつぐんだ時、照れくさそうにはにかんだあの表情。抱きしめると感じられた、魂の鼓動とぬくもり。そのすべてが、今一度自分の前に現れてくれたら。
 オリビアが立ち上がる。膝が笑い、荒く息を吐きながらも。そしてゆっくりとアケハに近づいて行った。死に物狂いとはまさにこのことか、そう思わせる凄味がそこにはあった。

「――――あな、たの……話には、証拠がない。どっからどこまでが本当のことなのか、それとも一から十まで嘘なのか、我々には確かめるすべがない。ユギンが……本当にその騎士王の器なのかどうかも。私を使い勝手のいい手駒にする狂言の可能性もある。淡い希望をちらつかせて、他人を意のままに操る腹積もりなのかもしれない! あなたの言う通りに動くなんて、他人の夢物語を信じて行動するのと同義よ!」

 アケハの前に立つ。見上げるは天使とも悪魔ともとれる真意の笑顔。本当に彼女が人間なのかどうかすらも怪しむほどに、アケハという女は美しくそこに佇んでいた。全てを見据えて、全てを見越して、全てを見下ろして、全て、統べて。あぁまるでこの後の展開もわかっているかのような、その余裕ぶった笑顔がなんとも憎たらしい。

「……それでも、夢物語でも……可能性があるのなら、それが那由他の果てのその先にあるのなら……私はっ――――」

 アケハの横を通り過ぎ、眼前に立つのはユギンの亡骸。その穏やかに瞳を閉じた表情を見上げ、オリビアはようやく、理性の枷から解き放たれた。

「私はっ! ……アァ、グッ! ユギンにぃ! あいだいぃっ!」

 慟哭。抱きしめた最愛には鼓動も聞こえず、温もりもなく。固く強張った両の腕は優しく抱きしめ返すこともなく、だらりとぶら下がっている。しかしレオニダスの呪威によりその全てがあの時のまま止まっている。あの日、互いの幸せを誓い合ったあの日の、彼の香りもそのままに。はぐれた親と再会できた幼子のように、オリビアはユギンの胸に縋って泣いた。死んだ者を生き返らせる。そんな戯言を信じ込み行動する者は、滑稽を通り越して恐怖すら感じる。しかし常軌と呼ぶにはあまりにも破壊的なその姿は、狂気と呼ぶにはあまりにも優しすぎた。


>>アケハ 周辺ALL



【最近自分のキャラをよく吐かせるなぁと書いてて思いました(汗)】

2ヶ月前 No.40

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

【 アケハ&レオニダス&エリ&アルヴィオン / 旧市街-西南部→(〆) 】

 愛というものへの理解には遠く及ばずとも、バランシャへ侵入するという大まかな目標についてはアーロンの理解を得られたことに、アケハは微笑のまま、彼の確認の言葉に頷いて見せる。現時点では戦闘以外に興味を持てない彼が、この先どう愛を学んでいくのか、途方もないいくつもの可能性に思いを馳せて、アケハは口元に浮かべた緩やかな弧を深めて目を細めた。
 ふと、思わず眉をしかめたくなるようなえづき声と、漂ってくる鼻をつく饐えた匂いに、アケハはオリビアへと視線を戻す。無論、そんな醜態を見ても彼女の微笑が崩れることはないが、かといって女性が嘔吐しているというのに心配する素振りも見せることはなく。オリビアがよろけながらも立ち上がり、己に対して呪詛にも似た言葉を叩きつけるのを目の当たりにし、珍しくアケハの表情が変わった――微笑みから、目を丸くするような驚きの顔に。

「……何をお怒りでござりましょう? 時に可逆性が無いのと同じく、本来命にも遡りは在り得ませぬ。その理に歯向かおうと言うのですから、確証がないことは当然でござりましょう」

 アケハの口から並べ立てられるのは、相も変わらず理路整然とした正論だけ。その言葉や態度がさらにオリビアのはらわたを穿り回すことを、分かっているのかいないのか。アケハの心中に渦巻くのは、計算違いからくる驚き。“笑顔”は、人と人とのコミュニケーションを円滑にすると学んだゆえに、己は常に笑みを浮かべていたのに。なのになぜ、オリビアを怒らせてしまったのだろうか。そんな的外れな思考を巡らすうちに、オリビアは己の横を通り過ぎ、レオニダスが支える棺の元へと歩みを進め、感情を吐露しながら騎士王の器の胸に縋りついて咽び泣いていた。

「…………くしい」

 アケハの頬を、一筋の雫が流れ落ち、顎を伝って地面を濡らした。悲哀、恋慕、慟哭、渇望。その全てがオリビアに集約されており、アケハは無意識のうちにそれに見惚れていた。魂を抜かれてしまったかのように目を瞠り、洩らした言葉は、感嘆のあまり吐息にかき消えた。ああ、ああ――彼女は、なんて。なんて美しいのだろう。
 だが、胸に迫る感動に浸っていられた時間は、長くはなかった。この騒ぎをどこかから聞きつけた新手の魔が何体か襲来したのである。困惑するかのような視線をレオニダスから注がれていることに気付き、アケハは人差し指でそっと涙を拭い、レオニダスと視線を合わせて小さく頷いた。アケハのその小さな挙動を契機に、レオニダスは自信を取り戻したかのように堂々とした雰囲気を醸し、新手の魔族すべてに楔を打ち込んだ。アーロンが先ほど動けなくなったのと同じ要領で魔族たちの動きもピタリと止まったが、楔を同時に複数展開することによって一つ一つの精度が落ちるらしく、楔を打ち込まれてもなお、魔族たちは徐々に動き始めている。このままでは、楔の力を振りほどいて襲い掛かって来るのは時間の問題だろう。

「……最早、此処に長居は無用でありまする。往きましょう、皆様――地獄の火口へ」

 騎士王を召喚するためにバランシャへ踏み込むこと――それに異論を唱えた適応者がいなかったことに、アケハは内心安堵する。そして、先導するかのように一足先に歩み始めた。
 レオニダスは、ユギンの遺体に縋って泣くオリビアの肩をそっと数回優しく叩き、彼女に遺体から離れてもらってから棺の蓋を閉め、重厚なそれを再び背負ったのち、アケハに続いて歩を進めた。
 アルヴィオンは、エヴァから少しの間離れ、動きを止められている新手の魔族たち全てに止めを刺した。どうやらこの魔たちは雑魚の部類だったようで、魔核を落とさなかったことに舌打ちしながらも、エヴァの傍に寄り添うように戻ってくれば、彼女と肩を並べてアケハとレオニダスの後に続いた。
 エリは、意を決したかのようにラルヴァの手を握り締め、バランシャの頂をじっと見つめてから、アケハ達に続くように歩き始めた。

 降り積もる死の灰に、8人と1匹の足跡が刻まれてゆく。彼らを嘲笑うかのように、赤黒い雷霆が何度も地を穿った。


【というわけで、第一章コンプリートです!遅くなって申し訳ございませんでした、偏に皆様のおかげで無事に第二章へ進むことが出来ました……本当にありがとうございます……!;;
 〆レス(回収ロル)を投稿して頂く必要はございません。が、もし気が向きましたら次レスの冒頭にでも回想という形でふんわり第一章の〆ロルを書いて頂ければ個人的に嬉しいです(我儘)無論強制ではございませんので、頭の片隅にでもぽろっと置いておいてくだされば十分でございます……!
 第二章開始のレスは後程投下致しますので、もう少々お待ちくださいませ。】

2ヶ月前 No.41

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

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2ヶ月前 No.42

劫火の仮面 @kaizelkai ★PEQrslXdTV_mgE

【 ラルヴァ・フォーヤン / 旧市街・西南部→霊峰バランシャ付近 → 霊峰バランシャ-第一層- 】


 アケハから実は800年前、現在と同じように、死火山と思われていた霊峰バランシャが大噴火を起こし、死の火山灰が蔓延し、今と同じような惨状なったという話を聞き、信じられないと思っていた。エリプセの歴史を一応は知っているが、そのような歴史は聞いたこともない。魔族も自分達と同じ適合者もいたと思うと、不思議な話だ。魔族が人間に恋をする話なんてまるで夢物語かと思ったが、実際にアルヴィオンとエヴァンジェリンが恋人同士なので、いてもおかしくはないと解釈する。昔いたという騎士王は男で、恋した魔族は女性で結びあったと考えると、理由が不明である愛し合った騎士王の手によって屠られたという話も本当なら、何でそんな事になったのだろうか。勉学はさほど得意ではない頭でそう考えていた。


 レオニダスと呼ばれた巨漢の背中にある大きな柩から、男性の遺体の姿を表す。あの大噴火から一年くらい時間が経ったはずだが、その遺体は例えるなら新鮮な食材のように綺麗である。レオニダスの打楔の力は一年もそれを使い続けるのも凄いと思った。
その時、あまり表情に変化のないオリビアから震えた声が聞こえる。彼女はその男性の名前であるユギンと知っているようであった。彼女の黒鉄の鉤爪から水分が放出されており、今までに見たことのない水が、アケハ達に襲いかかる。逃げろと叫んだが、その水流は手前で二手に分かれ、彼女たちを素通りし、真後ろの建物に直撃した。当たらなかった事にふぅと一息をつくと、直撃した建物は粉砕されており、確実に命を奪うために力を使っていた。彼女の気持ちは痛いほど伝わる。もしあの柩の中がエリだと思うと、自分も彼女と同じように劫火でアケハ達を向けてだろう。

 一年前、大切な人の遺体を勝手に匿って、急に現れたと思ったら、遺体を器に使うとか正直、自分勝手にも程がある。アケハに対する行いは、叡智の呪威によってだが、正直信用していいか疑いがある。ユギンの魂がまだ残っているから、魂を入れたら生き返るだろうとか本当なのか、信じがたい話である。


「 ……はぁ……やるしか、ないのかな……。 」


 先程も言ってたが、このままだと魔族の猛威によってヒトは滅ぶ。本当に騎士王が復活して、平和になれるなら乗るしかないだろう。自分はともかくエリを死なせるわけにもいかない。いや、自分もまだ死ぬわけにはいかないのだ。長剣を鞘に収めて、釈然としないまま、霊峰バランシャへ恋人と共に足を進める。



 昔の記憶だと遠くで見る霊峰バランシャは綺麗に思えたが、近くで見ると周囲の景色はどんどん殺伐としたものに、荒野と呼べるほど平坦な地面ではなく、ごつごつとした凹凸の激しい固い地面ばかりであった。大噴火の前ならもっと自然や動物はいっぱいいたんだろうなと思いつつ眺めていると、エリが、地面の窪みに足をとられてよろけしまう。手を掴んで起き上がらせて、体力のないエリには登山なんて無理があったかと考えていると、アケハから今日は此処で野宿することが決まる。エリを休ませる事が出来て、安堵の表情を浮かべる。


「 わかりました、アケハさん。 」


 篝火を焚いて欲しいと言われ、素直に返事をする。自分の背に長剣を出現させ、皆の中心に何事もなく、小さな炎が地面から吹き出る。薪も使わず、まるで地面から炎が噴いているように見える。本来なら食事でもしたいが、今の身体は食事を必要としないので、なんとも味気のない。アケハとアルヴィオンは場の空気がみるみる悪くなっていく中、エリが突如として大きく咳き込んだ。今までにない彼女の異変に彼女のそばにすぐさま近寄った。


「 エリッ!? 」


 酷く衰弱している、素人の自分でも見てわかる状態であった。同じ女性でもエヴァンジェリンやオリビア、アケハでも歩いているにも関わらず、エリだけが状態が酷い。エリだけが戦闘に参加してないなら、同じアケハでも疲れは見えるはず。なのにエリだけが異様に弱って見える。苦しそうな彼女を助ける事が出来ないの自分に腹ただしい。そしてエリはそのまま気を失うように、寝てしまった。自分の黒いコートを脱いで、地面に敷き、そこに彼女を寝かせた。寝ている彼女の髪を撫でつつ、自分も彼女の隣で寝る事にした。そして一晩くらいの時が過ぎた。


「 鍋と食材があれば、君に料理を作る事が出来たのになぁ……おやすみ、エリ。 」





 一晩くらい寝ただろうか。自身の疲れも取れていた。エリも回復しているが、油断は出来ない。今度は隣同士に歩き、エリが転倒しないように自分で支えていこう。
再び歩き始めると、到着した。無骨に、荘厳に聳え立つその死火山は、いくら見上げようとも頂は見えないほどに高い。バランシャヘの入り口である山肌にぽっかりと空いた洞窟があり、そこから入る。意外と洞窟の中は広く、薄暗いので長剣を抜き、剣先から松明程度の炎を灯した。外の悪路に比べたら、洞窟の地面は意外と歩きやすかった。

道の奥から、女性の悲鳴らしき声が響いた。それに重なるように、小さくはない破壊音、奥で誰かが戦っている音だとすぐさまわかった。奥へ進むと、鬼のような魔族と、亜麻色の長い髪を持つ女性が戦っていた。


「 こんな場所にヒトが……すぐに助け―――ダメだ、エリをほおっておくことなんて、出来ない……ッ!。 」


 助けようと歩もうとした時、これでいいのかと迷いが生じる。自分が戦うという事はエリを無防備にさせてしまう。けど魔族に襲われているヒトも助けたい。またエリが狙われる事があったら、どうする。まだ魔族がいるかもしれない。不安、恐怖、そして迷いが自分を惑わせ、剣先に灯っていた炎も揺らめき始めた。



>>ALL



【第二章開始おめでとうございます。】

2ヶ月前 No.43

リヒト @sibamura ★o0W3VsenYO_7sc

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2ヶ月前 No.44

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク /霊峰バランシャ-第一層 】

 旧市街を離れ、霊峰バランシャへ向かう。その道中は色々あったが、結局の所エヴァの脳内を占めていたのはただ一つ――最愛の存在である狼の魔・アルヴィオンのことだけだった。
 世が世なら男尊女卑だなんだと騒がれそうな亭主関白宣言は、彼と彼女にとってはいつものことなので放置する。アルヴィオンがエヴァ以外にきつく当たるのも、現時点では咎めるほどではないので周りに妥協してもらうことにする。
 エヴァが普段の調子なら、せめて適応者への態度くらい、或いはそのどちらもを諌めて場を和ませようという努力をしたかもしれない。しかし、魔を滅ぼす為の方法とこの国の歴史、愛する者を喪ったオリビアの慟哭を耳にした彼女は、正直なところ気が気ではなかった。それは、たとえ最愛のアルヴィオンが邪魔する輩は何であろうとぶちのめすと高らかに宣言しても、彼女の胸中に重くのし掛かったままだ。
 もしこの先でアルヴィオンに何かあったら。もしまた適応者が彼を敵と見なしたら。その時自分はどうするかと、決まりきった答が頭の中で、壊れた時計のようにグルグルと回り続けて、他のことなんか目に入らなかった。
 そしてそんなエヴァに追い討ちをかけるように、丸一日歩き通した頃、アケハはまたとんでもないことを口にした。

 魔族の本能、愛する者を喰らわねば満たされぬ餓え。アルヴィオンはそれを、解っていたのだろうか――?

 彼の反応を見れば何となく事態を察せてしまうエヴァだが、表立ってはアルヴィオンが何も言わないので、彼女もまた何も聞かなかった。正直、エリが倒れて事態を有耶無耶にしてくれて良かったとさえ思う。流石にそれは良心が咎めたので、氷嚢を即席で作って渡したりもしてみたのだが、お互い余り意味などなかったのだろう。結局エヴァは、殆ど眠らぬまま――けれど、アルヴィオンの顔を見上げることも出来ず背を向けたまま――一夜を明かすことになったのだから。
 頭は妙に冴えていたせいで、幸い眠気はそこまで感じなかった。月面のようなでこぼこした道を歩いた疲労も、洞窟のような火山の入口を歩く疲労も、今はまだ無視できる。
「……アル」
 呼んだ名前はほぼ無意識。たとえそれに彼が振り向いたとしても、続く言葉もまた一人言のようなものだろう。
「……私は、貴方と生きていけるなら、他には何も要らないから」
 たとえそれが、どんな形でも。

 胸の奥底に、本当にどうしようもなくなった時にだけ伝えると決めた願いを仕舞い込んで、エヴァは歩く。今はまだその時ではないと、諦めるのは早すぎると、ただひたすらに、自らの望む未来を引き寄せるための可能性を模索する。
 だから。
「……五月蠅い」
 前方で喚く鬼のような魔に、エヴァは八つ当り以外の何者でもない、苛立ちという名の氷柱を全力投球した。それは結果として、魔の前に躍り出たリヒトの助けになるかならないかと言った所だが、エヴァはそこでいったん足を止めた。

>アルヴィオン様、リヒト様、周辺all

【2章開始おめでとうございます。此処に来て自己中モードのエヴァですが、適当にあしらってやって下さい。】

2ヶ月前 No.45

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

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2ヶ月前 No.46

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/霊峰バランシャ付近→霊峰バランシャ-第一層-】


霊峰バランシャへと向かう最中、アーロンは何一つ変わらず過ごしていた。ただ同行者が居るというだけで思考も価値観も何も変わらない。出発しようとした時新たに襲い来る魔族をレオニダスが動きを止めた後に倒そうとしたが、その前にアルヴィオンによって一瞬で蹴散らされた様子を見て、確かにこの魔族には今は適わないと喧嘩を売る事は止めている。でもいつか……と思う事は止めないし、それが唯一己をを突き動かすものである事をアーロンは自覚している。時折ふと思い出したようにアケハに言われた愛を理解しようと、棺を見詰める女の視線や寄り添い合う男女の人間、絶対に女の傍を離れようとしない魔族の姿を眺めてみるがさっぱり分からないというのが現状だ。
どれくらい歩いただろうか。休もうというアケハの言葉で一日歩き通りだった事に気付く。太陽も月の光も何も無い、その上食事もしないとあっては時間感覚なんてあったようなものではなく、それ故に不規則な生活を送ってきていたアーロンだったが、確かに体は疲れたようであるし立ち止まってみると途端に眠気が襲う。欠伸をして火が焚かれるのを待つと早々と近場に寝転がり寝る体勢に入る。微睡み始めるがピリリとした空気に目を開けるとアルヴィオンとアケハとの会話を聞いていた。

「喰いたくて護りたい――愛ってのは本当に意味がわかんねえな」

図星を突かれたアルヴィオンの顔と、途端に咳き込んだ女に駆け寄る男を交互に見て呟く。もう一度欠伸をすると今度こそ寝入るために目を閉じた。

目を覚ましてまた歩みを進めると、霊峰バランシャの入口が一行を出迎えた。念願の目的地に着いてもアーロンはこれまで一徹して無表情だった。道中で魔族が襲って来ても直ぐにアルヴィオンが倒してしまうし、寧ろアルヴィオンが居るからか余り魔族の襲撃を受ける事は無かった。詰まらないと思う事は日常で、すぐ近くに魔族が居るのに狩る事も出来ない状況はフラストレーションが溜まる一方だ。それでも目的があって動くというのはアーロンを気を紛らわせた。だからこそ愛を学べというアケハの言葉に従って名前も覚えられない者達を観察する事も出来た。そして辿り着いた霊峰バランシャ。中は案外歩き易く、火山だというのに暑さは然程感じない。
ふと、悲鳴が聞こえた。今のこの都市で悲鳴はイコール魔族が居る事を示す。鼻を鳴らせば嗅ぎ馴れた戦闘の香りが微かにした。にぃっと笑みを作って走り出そうとする足を一度止めてアケハとレオニダスの方を振り返る。棺の中身を守らねばならないと立ち入る前に言われた事を思い出したからだ。しかし彼等の傍にはアルヴィオンも他の適合者も居る。ならば問題は無いだろうと直ぐ様走り出し広い空間へと出る。振り返っている間に槍を持った男に先を越され、後ろから氷柱が投げられる。近付く間に鬼の姿をした魔族と先程悲鳴を上げただろう女、そしてリヒトの会話が聞こえた。

「はーん? じゃあお前も魔族なわけだ。じゃあ殺したって良いわけだな」

鬼の魔の俺達魔族という言葉に対峙している女もまた魔族なのだと咄嗟に判断する。人間だと思って庇ったのだろうリヒトの行動によって彼の背後が取られないように鎌を振り上げた。



>>リヒト、鬼の魔、???、ALL様



【申し訳ございません! お待たせ致しました!】

2ヶ月前 No.47

キープ @keep4603 ★nJ5qCxa7H9_8gk

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2ヶ月前 No.48

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

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2ヶ月前 No.49

劫火の仮面 @kaizelkai ★PEQrslXdTV_mgE

【 ラルヴァ・フォーヤン / 霊峰バランシャ-第一層-→瓦礫の上 】


 あの鬼の魔と戦える数は限られている。エリを守れる力はあるのだと覚悟を決めると、リヒトから彼女から離れるなよと告げられる。歩みだそうとした足は止まり、振り返ってエリを見る。黒いコートを離さないように掴まれていた。リヒトが颯爽と鬼の魔へ向かっていった事に感謝した。そして同時に戦わなくて済んだと安堵している自分に嫌悪を覚える。まさに他力本願。エリを守る事に他者を利用しているようで、嫌になってくる。だがリヒトももしかしたら、わかってたかもしれない。
突如、エリの容態が急変する。その場にしゃがみ込み、何かに怯えている。彼女の手を掴み、呼びかけた。


「 エリッ!エリッ!大丈夫だよ、僕がついてるから……ッ!」


 必死に呼びかけても、彼女の精神は安定しない。彼女を安心させる事が出来ない自分が無力で、内心舌打ちをするほど嫌悪した。彼女の流す涙すら止める事が出来ない自分は何のために此処にいるのか。思考は焦りと嫌悪ばかり。だが此処にいるのは自分達だけではない。オリビアがエリに言葉をかけ、そして団子のようなものを渡す。薬草と水で練ったものだが、苦そうなイメージがする。そして、次は自分の方に視線が向けられるといきなり叩かれた。


「 痛ッ!?何する―――ひぃっ!? 」


 叩かれた理由もわからず、言い返そうとすると彼女が怒っていたのだ。身長差による、下からにらみつける眼光は迫力満点であり、魔族よりも怖く、後ずさってしまった。だが彼女の叱咤により、目が覚めたような気がした。そのまま鬼の魔族の方へ向かう彼女に深く一礼をする。けど意外だ、誰にも興味なさそうな感じをしていた雰囲気だったが、言葉を交わすと事実は違うようだ。エリも泣き止み、元の状態に戻っていたようだ。改めてオリビアは一体何者なのか、不思議に思い込んだ。


 鬼の魔の棍棒が振り上げられ、そのまま地面へ振り下ろした。地面にぶち当てた音だ。洞窟内の空間全体が震えるほどの衝撃が地面を伝い、今でも崩れそうだ。棍棒から凄まじい力を感じる。あれは魔族が強い攻撃を放つ予備動作に似ている。まさかと思った瞬間、棍棒を地面に叩きつけた時には不安定になった地盤が、ビキビキと大きな音を立てて断裂してゆき、足場が崩壊した。エリ離さない、その一心から彼女を抱き抱えて、自分も落ちていった。



「 ッ!―――エリィッ!! 」


 崩れた先は底の見えない闇。このまま落ちて。死ぬのか。いや、自分もエリも死なせない。絶対に生き抜いてみせる。落下中でも、その確固たる意思は揺るがない。するとアケハからの声が聞こえる。彼女らがいるあの瓦礫の落下速度が遅い。怒れ、望め、この理不尽な状況を打破する術を、この剣に捧げろ。自身の中の憤怒と強欲を喰らい、長剣は二本の片刃の柳葉刀になる。エリを抱きかかえ、腕を交差させた状態か双刀を左右に広げた。闇を切り裂くような赤き炎が吹き荒れ、鳥のような翼状の対になる炎の翼を生み出す。落ちる瓦礫を弾くように、自分とエリを覆うように炎の膜を作る。




「 ―――飛べえええええぇぇぇッ!!! 」




 吠えるような一声と共に、生み出された炎の翼から凄まじい噴炎を放射させる。炎翼は鳥が飛ぶように動きつつ、ロケットのように飛んでいる、飛行に支障のない鋭い先端の炎の膜で落ちてくる瓦礫を突破し、アケハのいる場所へ向かった。その姿は炎の鳥が飛翔する姿のようであった。アケハとレオニダスのいる瓦礫の上に着地し、地面に足がついた事に安堵する。ふた振りの刀は元の長剣の姿へ戻り、使用者の片手に収まった。抱きかかえたエリに乱れた呼吸のまま無事の確認をする。顔の距離がとても近かった。



「 はぁ……はぁ……エリ、大丈夫?怪我とかしてない? 」



>>エリ、アケハ、周辺ALL

2ヶ月前 No.50

キープ @keep4603 ★nJ5qCxa7H9_8gk

【オリビア・ハルフォード / 霊峰バランシャ-第一層→瓦礫の上】

「くっ!――――きゃあッ!?」

 まさしく天変地異の一撃。濃密に魔力を集約された棍棒の一振りは岩盤を易々と砕き割り、現れたのは底なしの常闇であった。一瞬の浮遊感。内臓がフワリと腹の中で踊る。あとは子供でもわかる道理、空(くう)に放った物は地面に落ちる。砕けた岩も、我々適応者も、何人も神の定めたルールには逆らえない。ただ一人この最悪の状況を作り出した鬼は、傲岸不遜に笑いながら飛んではいるが。憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものだと、オリビアは舌打ちをしながらその様子を眺めていた。

『皆様、こちらへ!』

 アケハの声が洞窟に響く。見上げれば一際大きな瓦礫の上に件の男女が佇んでいた。レオニダスの呪威の効果だろう。岩は神のルールに抗うようにゆっくりとしたスピードで落下を続けている。あそこに行けば助かる、しかし水の呪威をどう使用すれば空を飛べるのか。水圧を上げてジェット噴射のようにする方法、いっそうこの洞窟を水没させてしまう方法。いずれも大量の水が必要となり、自己の破綻に繋がりかねない。落ちながら思考していると、自分より比較的上にいたラルヴァから呪威の気配を感じる。ここからでも感じる熱気。その火炎はまるで翼を広げた不死鳥の如く、闇に包まれた洞窟を灯していた。

――――火   鳥   飛翔

「……まさかッ!?」

『 ―――飛べえええええぇぇぇッ!!! 』

 ラルヴァがエリを抱えて『下に向けて』業火を噴出する二手先に、オリビアは水の呪威で彼らとの間に瞬時に水壁を作り上げた。先に鬼の魔へと戦いを挑んでいたアーロンやリヒト、そしてあの女性が自分とほぼ同じ位置にいる。自分だけ水で守ればこの狭い洞窟では彼らはあの噴炎によって焼き焦げてしまうと判断したためだ。水壁に爆炎がぶつかる。その炎熱はすさまじく、バスタブ二杯分に相当する400Lもの水量を一瞬で沸点へと押し上げた。しかしこれもオリビアの狙いの一つ。オリビアはその水蒸気を集約する。掌に収まった膨大な蒸気は今か今かとその時を待つようにその内圧を高めていた。
 感覚に従い落ちているであろう向きに体を垂直に向ける。オリビアの体がアーロンたちより下に行ったことを確認すると、彼女は溜め込んでいた水蒸気を地獄の底へ向けて解放した。

――――ッッッッド!!

 霊峰が揺れる。先ほどの鬼の一撃が地を揺らす地震の模倣ならば、オリビアの一撃はまさにバランシャ噴火の再来だった。水蒸気爆発。水が非常に温度の高い物質と接触することにより気化されて発生する爆発現象のこと。水は水蒸気になると体積が約1700倍にまで膨れ上がる。活火山では時に高温のマグマに地下の帯水層が接触し爆発的な噴火が起こるのだ。その力は、時に人間の体ほどの岩を上空高く押し上げ噴石という災害にまで発展させるほど。オリビアの体は一気に持ち上げられ、天井に手が届くところまできた。もう少し爆発の威力が大きければ天井にぶつかっていたところだ。それ以上に少しでも角度がずれていたならば洞窟の側壁やアケハたちが乗っている瓦礫にぶつかって死んでいただろうし、なかなか危ない賭けだったと今更ながら思う。しかしこの爆風は狂飆の呪威を持つアーロンにとっても助け船になるだろうし、下方に向けた爆発は奇しくも窪み付近に落下していた岩を根こそぎ跳ね除けていた。

 一瞬の浮遊感。そしてまた落ち行く体。その体にオリビアは水を纏った。水球に包まれたオリビアの右手にはいつの間にかこぶし大の石が握られている。先ほどの水蒸気爆発、実はその全てを解放してはいなかった。右手を鬼の魔へと狙いを定めるように向ける。運動エネルギーは物体の重さとそれが動いた速さで求められる。活火山の岩石(推定5kg以上)を水蒸気爆発による亜音速で発射したのなら。

「あなたも落ちなさいな、蚊トンボ」

 射出された石はほぼまっすぐ嗤っている鬼の魔へと飛んでいく。精密にどこを狙おうとは考えていなかった。ただ体のどこかに当たれば少なくともダメージは与えられるだろう。翼や目などに当たってくれれば僥倖だ。爆発により後ろへ弾かれるオリビア。しかしそれも計算の内。アケハたちが乗る瓦礫の上に見事着地した。水を纏っていたため、発射や着地の衝撃はほぼない。纏う水を爪に宿し、オリビアは鬼の魔へと視線を向ける。

>>アケハ レオニダス ラルヴァ エリ 鬼の魔 周辺ALL

1ヶ月前 No.51

リヒト @sibamura ★o0W3VsenYO_t5r

【 アルヴィオン / 霊峰バランシャ-第一層→ 落下通過地点】

『「……なんだテメェ? 人間如きが俺達魔族の邪魔すんのか?」』

『「…………そうよ。これはあたしたちの喧嘩。どこの誰だか知んないけど、すっこんでてくれる」』

 敢然と敵前に飛び込んだリヒトに投げかけられる二つの言葉、それを理解すれば、女性の方は魔族だという。なるほど、そう考えれば一人でこのような場所にいることにも納得がいく。
 だが、

「関係ないな。俺は、俺のちっぽけな自己満足のためにこうしている。お前たちの事情や意見など関係なしになそれは称えられることではなく、蔑まれることではあるかもしれないが、少なくとも今はこれでいい。」

 二人の言葉に動じないように槍を構えなおす。
 そんな彼に対して、鬼の魔が棍棒を振りあげ

「なにっ!」

 振り降ろされる先は、彼でも彼の後ろの女性型の魔でもなく地面。その強烈な一撃は地を割って地割れを起こすと、見る間に足場を崩落させていく。足場を失う喪失感と浮遊感のなか、リヒトは確かにその声を聴いた。

『「――リヒトぉっ!」』

 なぜ、初めて会ったはずの彼女が自分の名を知っているのか。なぜ、この状況で自分を呼ぶのか。そのような疑問は彼の脳裏に掠めることはなかった。彼がなすべきことはただ一つ。

「うおぉぉぉっ!」

 呪威の力を発現させて、自分の身体能力を極限まで強化する。落ち行く瓦礫を蹴って、空中を舞うように落下する女性のところまで近寄ると、その肩を掴もうとする。しかし、

「っく!」

 彼の背後で巻き起こる爆炎と爆発、ラルヴァの炎とオリビアの水が反応した水蒸気爆発だ。それによって体勢を崩すリヒトの手は、あとわずかで女性に届かない。
 ならばとばかりに、リヒトは瓦礫を蹴るとなんと下に向かって加速する。落ち行く女性を追い抜くと、また瓦礫を蹴って自分が彼女の真下に来るように移動。そして、槍を右手で持つと、それを壁面に突き立てた。

「あぁぁっぁ!」

 自分の体重と重力加速度を載せた重みが一気に右手にかかる。常人の握力と筋力なら一瞬でも耐えられない負荷を、しかし、強化されたリヒトの力は耐えた。それでも、苦悶の悲鳴を上げながらリヒトは残った左手を自分に向けて落下してくる女性に向けると、その腰を左手で抱えるようにして受け止める。

「ぐぅ」

 重みが増したことで、さらに苦痛を味わいながらリヒトは懸命に次の行動を考える。すると、オリビアの水によって瓦礫が取り除かれて見えやすくなったくぼみが目に留まった。

「もってくれよ」

 自分に言い聞かせるように言うと、右手で勢いをつけてくぼみに向けて跳躍する。女性を抱きかかえたまま跳躍したリヒトは、くぼみの淵に手を掛けると、爪が剥がれ、血が流れることも意に介さないように右手だけで体を持ち上げた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 そして、女性を比較的安全だと思われるくぼみの奥の方に丁寧に座らせると、自身はくぼみの床に倒れたのだった。

>>???様

1ヶ月前 No.52

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク /霊峰バランシャ-第一層 】

 文字通り苛立ちを凍らせた氷柱は、見事鬼の魔に当たって砕け散った。かと言ってそれでエヴァの感情まで砕けてくれるようなことはないが、それでも耳障りな部外者の声は、愛しい彼の声が掻き消してくれた。
 話がしたい、と願ってもないアルヴィオンの言葉に、エヴァは彼の方に向き直る。しかし、彼女がえぇ、と答えても、二人の間には沈黙が横たわったままだ。たとえ背後でどれだけ怒声が飛び交おうと、そこはただ静かだった。
「……私、は」
 だから、エヴァの方から口を開く。

「アル、貴方に会うまでね……イーファなんて女は、この世の何処にも居なかったの。エヴァもネリーも、結局私とは違う女の子だったのよ」
 それは、先程の一人言の続きに近い。エヴァが孤児でソーンダイク家の養子であることは、アルヴィオンにも話したことがある。そもそも家族という概念があるのかどうかも分からない魔族相手では詰まらない話だっただろうし、彼もきっと理解はしていないだろうとエヴァは思っている。理解してほしい等とは思わないし、そんなことは関係ないと一笑に付してくれることの方が寧ろ嬉しかった。
 だからこそ、彼の前ではイーファを名乗った。Eveを無理矢理もじったその名は、エヴァでもネリーでもない自分だけのものだった。
「だからね、私の世界はあなたが全て。それはこの先何があっても」
――変わらないのよ。

 その言葉は、物凄い衝撃と地響きの轟音に飲み込まれた。

 一瞬遅れてやってくる浮遊感と耳をつんざく風の音に、エヴァは足場が崩れて奈落の底へと真っ逆さまに落ちていることを悟った。
 現実感を失った脳は逆に冷静で、先程の轟音は鬼の魔の棍棒が地面を直撃した音だったのかとか、綺麗に全員巻き込まれて落ちてるじゃないのとか、周りの状況を分析していた。底が深いお陰で、落下して直ぐに衝撃に襲われることはなかったが、その分加速度的に地面にぶつかったときのダメージは増えていく。きっと、肉塊として形が残れば良い方だ。
 けれど、エヴァは気付いていた。あの場にいた鬼の魔以外の全員が落下に巻き込まれていたことを、瓦礫とともに落下を続ける一行の中には当然アルヴィオンの姿もあったことを。
「……ア、ル……ッ!」
 彼が、自分がただ転落死するのを、黙って見ている筈がないことを。
 エヴァもまた、自身へ伸ばされるアルヴィオンの腕を掴もうと必死で空を掻く。彼女の場合、これで助かると言うよりは死なば諸共と言った勢いだが、それでもエヴァは、求めたものをその手に掴んだ。

>アルヴィオン様、周辺all

【此処でアル君を選ばないのはエヴァじゃない……ということで分岐ルートも楽しみにしています。】

1ヶ月前 No.53

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/霊峰バランシャ-第一層-→瓦礫の上】

位置的に、アーロンと鬼の魔との間にはリヒトと謎の女が居る。そのせいか、鬼の魔が棍棒を振り上げた事に気が付かなかった。薄暗い洞窟内であるし、アーロンは女へ攻撃しようとしていた為気を向けていなかったというのもある。だが、濃密な魔力が一点に集中している事には気付いた。それによってアーロンの意識が女から鬼の魔の方へと向かう。つまりは危険度が高い方へ。そしてそれによって女へと振り上げていた鎌も止まる。この一瞬の隙で鬼の魔が動く前に女へ攻撃が出来なかった。

「……っ!」

どがごん、という凄まじい音がして足場が崩れる。次いで訪れる浮遊感にその事を痛感して咄嗟に下を見ると暗く底が見えない。このまま落ちてしまえば死は免れないだろう事が容易に分かる。想像して息を呑むと向こうからアケハの声が聞こえる。見るとゆっくり落下する大きな瓦礫の上にアケハとレオニダスが乗っている。あれに自分も乗れという事か。

「……!?」

風を生み出して其方に向かおうという所で、アーロンが操るまでもなく暴風が身体を持ち上げる。少しの熱気と体が濡れるような風。ラルヴァが起こした火柱がオリビアが生み出した大量の水を蒸発させた事によって発生した水蒸気爆発によるものだったが、アーロンは一部始終を見ていなかったので知る事は無かった。だが自分が生み出すまでもなく発生した暴風を利用しない手はない。
吹き荒れる風を一箇所に集めて人一人を持ち上げれるだけの爆風にする。横向きに吹くその風に身を委ねてそう遠くない距離を飛ぶ。そのままふわりと上に飛び上がるように浮上させると、瓦礫の上にストンと危うげなく着地した。

>>ALL様


【大変遅くなりました! 申し訳ありません! それに加えて駆け足で書きましたので途轍も無く駄文です、申し訳ないです】

1ヶ月前 No.54

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

【 エリ / →瓦礫の上 】

 自分が落ちているのか。それとも周囲の壁が上昇しているのか。元より高い場所が得意ではないエリにとって、心の準備をする間もなく奈落の底へ叩き落されることは、上下感覚すら完全に失ってしまうほどの恐怖と錯乱を意味していた。悲鳴をあげたつもりだが、喉が縮こまってしまって声が出ない。愛しい男の名を呼ぶことすらも叶わないまま、エリの意識はバランシャ第一層へと置き去りにされ、視界は暗転した。
 脳と意識という支配者を失ったエリの身体は、ご多分に漏れず重力に従い落下してゆく。だから、気付かなかった。愛する男が、またしても己の命を救ってくれたこと。それどころか、己の身を案じる言葉をかけてくれたことにさえも。


>>ラルヴァ



【 鬼の魔 / →瓦礫の上 】

 下卑た爆笑は、永遠には続かない。己を羽虫と揶揄した女の手から放たれた岩の弾丸は、見事鬼の魔の左翼に命中した。エヴァに顔面へ氷柱を当てられた時のような、どこか素っ頓狂な声をあげ、鬼の魔は空中で体勢を崩す。しかし、攻撃した本人はきっと違和感を覚えるだろう。複数の呪威を組み合わせ、機転を利かせた攻撃がクリーンヒットしたというのに、鬼の魔の翼からは出血すら見られなければ、痛みを感じている様子も見られない。先ほどの声にしたって、“やられた”というよりも“びっくりした”というニュアンスの方が大きい。
 鬼の魔の巨躯が、推進力を失って空を舞い落ちる紙飛行機のように、数回くるくると回転しながら高度を落としてゆく。だが。鬼の魔の顔面に張り付くのは、不遜な笑み。特筆すべきダメージを負ったようには見えない両翼を畳めば、岩壁を蹴って自ら瓦礫の上へと急降下・着地した。少なく見積もっても600kgは下らないであろう衝撃に、レオニダスの表情が歪む。もし彼の呪威の熟練度が未熟であれば、今頃この瓦礫すらこの一撃でバラバラに砕かれ、今度こそ全員成す術なく奈落へ吸い込まれていただろう。

「っかー! 久々に飛ぶと勝手が分からねえな。オイ女。てめぇ中々イイじゃねえか。暇つぶしぐれぇにゃなりそうだ」

 参った、とでも言わんばかりに片手で顔面の半分を抑えながら言葉を吐く、その口角は吊り上がっている。唇の隙間から覗く牙の羅列は、まるで邪悪な鮫を彷彿とさせた。そして鬼の魔はオリビアへと視線を向ける。命の危機にもすぐに冷静さを取り戻し、聡明な頭脳と行動力を垣間見せた女。少なくとも、瓦礫の上にいる6人の適応者の中では、最も自分を愉しませてくれそうだ。

「そいつは炎、あっちは風か。……まァ遊べそうではあるな」

 ラルヴァとアーロンが瓦礫の上へ移動した方法も間接視野に入っていたようで、各々に視線を巡らせながら値踏みするように体つきを見る。風のほうは悪くはないが、炎のほうは期待できると思えない。だが、最早ヒトの筋力など、どれだけ最高峰まで鍛えようとも、魔の前では赤子のそれに等しい。ならば、答えは一つだ。

「いいか、出し惜しみすんじゃねえぞ? 枯れるまで使えや」

 鬼の魔の両手に、魔力が集まり形を成す。右手に顕現するは、禍々しいほど巨大な石槌。左手には錆びた鉄のような色の、球体状の魔力の塊。

「ノロイってやつをよォ!!」

 吼えるや否や、左手の魔球を空中へ放り投げ、右手に握った石槌でそれをぶち叩く。魔球はたちまち炸裂し、まるで釘爆弾のように魔の弾丸がばら撒かれた。人体はおろか、足場となる瓦礫すら易々と穿つ威力を持つそれ。鬼の魔を中心に散弾の如く四方八方へ放たれているため、全てを回避することは至難の業だろう。


>>ラルヴァ、オリビア、アーロン



【 ??? / 落下通過地点 】

 己が謎の名を無意識に叫んだ途端、雷霆の身体が弾かれたように躍動したのを、亜麻色の髪の女は食い入るように見つめていた。だが、まるで意味が分からないとでも言いたげに、眉間には不快の象徴であるしわが刻まれていた。まさに、見惚れているとは程遠い怪訝で複雑な表情。それでもなお、女は雷霆から目を逸らすことはなかった。
 ふと、運悪く頭上へ落下してきていた岩の瓦礫が女の側頭部にヒットし、女は短く“あっ”と声を漏らして意識を手放した。

 ゆるゆると、意識が浮上する。途端に右側の頭部に激痛が奔り、女は小さく呻いた。両腕を地面へ突っ張って起き上がらなければ、と思ったが、どうやら既に座っている体勢の様だ。落下している真っ最中から記憶がない、なのになぜ――?
 そこで初めて、女は知覚した。自分のすぐ近くで、荒い息遣いが聞こえていること。

「…………なんで、」

 独り言のごとく呟かれた言葉は、無意識に謎の名を口にした己に対してか、それとも眼前で突っ伏す雷霆に対してか。

「分かってるん、でしょ。あたしは魔で、あんたはヒト。魔はヒトの天敵。あんただって、魔を憎んでるんでしょ?」

 まるで自分自身に言い聞かせるかのように、言葉を選びながらぽつりぽつりと呟く。今この女は、雷霆の男に対して、得体の知れない恐怖を抱いていた。気を失う直前に彼が見せた人知を超えた体さばきは、生半可な鍛錬で出来るようになるものではない。ヒトの身で、一体どれほど血の滲むような訓練をしたのか。そんな戦士と、こんな狭い場所で二人きり。今その戦士は疲労困憊の様子だが、もし体力が回復したら――?
 亜麻色の髪の女は、雷霆には見えないように、ぎゅっと拳を握り締めた。問いかけの返答によっては、或いは。


>>リヒト



【 アルヴィオン / →入口-洞窟 】

 言葉を置くように、静かに話し始めたエヴァの声を、一言一句たりとも聞き逃さないように、アルヴィオンは神経を傾注した。彼女の名前のくだりに関しては、以前耳にしたことのある話だということは判別できた。愛しい者の言葉は、絶対に忘れない。それが例え、魔である己には理解できない概念であっても。例え意味が分からなくても、愛しい声で紡がれた言葉を、忘れたことなど一度もなかった。

 轟音、崩壊、落下。一連の絶望の中で、エヴァが己の名を呼んだことも、アルヴィオンは決して聞き逃さなかった。自身が伸ばした腕に、エヴァがきちんと縋ってくれたこと。それだけで、こんな窮地なのにアルヴィオンの中の何かが満たされたような気がする。それがただの錯覚であろうと、どうでもいい。今はただ、この手の中にある最も大切なものを守り抜ければそれでいい。
 エヴァを腕を掴み、半強制的に空中で彼女の身体を引き寄せる。そして俗に言うお姫様抱っこへ移行すれば、落下しながらアルヴィオンはすっと喉を逸らせ、空を仰いだ。天井は遥か遠い。しかも、飛行形態の鬼の魔が鎮座している。エヴァを抱きかかえていることで両手が塞がっているこの状況で、奴と戦えばエヴァを無傷で守り通せるか分からない。だが、やるしかないのだ。アルヴィオンは腹をくくって近くの岩壁を斜め跳びの要領で蹴りつけ、より高みへと跳躍した。
 次の瞬間、己の横を通過して上昇してゆく影が一つ。思わずその人影を目で追う――名前は知らないが、騎士王の器とやらの恋人の女だ。彼女の一計で、鬼の魔は体勢を崩した。今しかない。

「――――ありがとよ」

 上昇してゆくアルヴィオンと、下降してゆくオリビア。二人が再びすれ違う時、アルヴィオンは小さく呟いた。聞こえていたか否かは、彼女のみぞ知る事だろう。
 鬼の魔という邪魔者さえいなければ、アルヴィオンにとって入口の洞窟まで昇ってゆくことは造作もなかった。数分前まで適応者一行で歩いていた洞窟へ逆戻りし、着地する。両腕にのしかかる心地よい重さと温もりを、手放すのが惜しいと言わんばかりに、アルヴィオンはエヴァを解放することなく彼女の顔を覗き込んだ。

「大丈夫か、イーファ」

 もしこれでエヴァが怪我でもしていようものなら――その場合は想像に難くない。殊勝なエヴァのことだから、怪我をしていてもそれを己に隠すかもしれない。そこまで思慮したうえで、アルヴィオンはイヌ科特有の尖った鼻先をエヴァの首元や胸元に寄せ、怪我による血の匂いはしないかとエヴァの体臭をクンクン嗅いだ。

>>エヴァ、オリビア



【大変遅くなって申し訳ありません。私事ですが、三月一日から少しバタバタしておりました。今後とも投稿ペースにムラがあると思いますが、必ずレス返信は致しますので、どうか完結までよろしくお願い致します。なお、エリは戦線離脱させていますので、レオニダスの近くにでも放置して頂いて大丈夫です】

1ヶ月前 No.55

劫火の仮面 @kaizelkai ★PEQrslXdTV_mgE

【 ラルヴァ・フォーヤン / 霊峰バランシャ-第一層-瓦礫の上 】


 エリに問いただすも反応がない。首筋に手を当てると脈の流れが確認し、ちゃんと流れている。どうやら気を失ってしまったようだ。ふぅと一息を吐き、安堵の表情を浮かべる。綺麗な腕や足、それに特に目立った外傷も見当たらない。もっと上手く助けられたら彼女は気を失う事もなかったが、命が失うよりかはマシである。あの鬼の魔がこちらに来る前に、倒れているエリを抱き上げるとレオニダスの所にゆっくりと置いておく。レオニダスもこんな力の使い方をして大丈夫なのだろうかと心配する。
 鬼の魔の巨躯が、空を舞い落ちる紙飛行機のように、数回くるくると回転しながら高度を落としてゆく。さっき誰かが攻撃をしてたような気もするが、きっとそうなのだろう。だが目立つようなダメージを負ったようには見えない。両翼を畳めば、岩壁を蹴って自ら瓦礫の上へと急降下・着地した。ものすごい揺れがしたが、この足場は果たして大丈夫なのだろうかと瓦礫を見る。不用意に足場を壊したら、落下する可能性がある。鬼の魔はこちらを各々に視線を巡らせながら値踏みするように体つきを見てくる。次に言った言葉、まるで面白そうな玩具で遊ぶような、品格のない言葉。それが胸に突き刺さり、鬼の魔を見る目は冷酷に変わり、冷たい視線を向けた。


「 遊び、だって……? 」


 此処にはエリ、そして死んではいけない人達がいる。それを自分の笑顔のために力を振るう相手が許せなかった。腹の底から湧き上がる怒りを。だが頭を冷静に留めておく。怒りだけで相手を圧倒するのは自分も獣と変わらない。考えろ、この力の使い方を。長剣を構えて、思考する。さっきの炎の飛翔、あれをもっと上手く使えないか。エリ一人抱えて飛べたのなら、自分一人でも飛べるはず。鬼の魔が叫ぶと、左手の魔球を空中へ放り投げ、右手に握った石槌でそれをぶち叩くと魔球はたちまち炸裂し、まるで釘爆弾のように魔の弾丸がばら撒かれた。イチかバチか、やってみよう。
 長剣からふた振りの柳葉刀へと分離し、勢いよく走り出した。自分の身体を包み込むように、濁流のような炎の障壁を作り、もう一度柳葉刀から闇を切り裂くような赤き炎が吹き荒れ、鳥のような翼状の対になる炎の翼を生み出した。最初の時より、サイズは小さいが炎の流れにムラがない。迫り来る魔の弾丸に向かって、もう一度瓦礫の上を飛翔した。


「 ―――ッ!? 」


 魔の弾丸の雨を炎で焼き尽くし、突き抜けた。だが障壁に薄い部分があったのか、突破されて身体の一部に痛みを感じる。これくらいの痛み、歯を食いしばって堪える。鳥のように旋回し、鬼の魔の上まで上昇すると重力の任せて急降下、そして更なる加速のために数回爆炎を起し、さらに加速させる。柳葉刃から一本の長剣に合体し、大きく振り上げて、鬼の脳天に向かって振り下ろした。


「 ―――これで……ッ!! 」


 重力の落下加速を利用した急降下のよる斬撃はただの斬撃ではない。長剣の刀身は超高温となっており、刀身から幾つものバーナー状の炎が吹き出ていた。超高熱だけではない、小さくとても強く噴き出す炎柱を刀身に纏う事で切断力を上げている。内包する怒り、そして皆を守りたいというその欲望を捧げる。その眼光は鬼の脳天を突き破るつもりの覚悟を決めた眼だった。



>>瓦礫の上ALL


【遅れてしまい、すみません。】

1ヶ月前 No.56

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク /霊峰バランシャ-第一層 】

 必死だった。愛するアルヴィオンの手を掴むこと、それ以外の全ての事象を意識からシャットアウトしていたエヴァにとって、次々と降り注ぐ瓦礫も辺りに飛び散る火の粉も水流も、直撃すれば火傷では済まされないような水蒸気もひたすらに増していくだけの落下スピードも、先程まで苦難を共にしてきた仲間達の安否も落下の元凶たる鬼の魔の存在も、何もかもが無視出来た。命の危機など、アルヴィオンの前では取るに足りないものだった。
 だから、空中で彼の腕に抱かれた時、エヴァの心を支配したのは、恐らくきっと場違いな歓喜。たとえそれが現実逃避、或いは脳内麻薬による幻想であったとしても、アルヴィオンに抱かれたエヴァは幸福だった。彼の胸に顔を埋めてさえいれば、自分が落下しようが上昇しようが一切関係なかった。

 勿論それは、一瞬だったけれど。

 アルヴィオンの身体能力と――エヴァは知る由も無いことだが――オリビアの呪威によって、彼等は再び洞窟の中へと降り立っていた。轟々と鳴り響いていた風を切る音が不意に止み、エヴァは漸く顔を上げる。そこには全ての脅威が一時的であっても消え去った空間と、近すぎるほどに近いアルヴィオンの顔がある。しかしそれに狼狽している暇は、彼女には与えられなかった。

 安堵した瞬間にエヴァに襲いかかるのは激しい目眩と吐き気、まるで内臓だけ下に置いてきてしまったのではないかと感じるような気持ち悪さに、彼女はアルヴィオンの問い掛けに答えることも出来ず顔面蒼白で顔を背ける。幸か不幸かアルヴィオンが気にしているような外傷はエヴァにはなかったが、冷や汗に手足の痺れも加わり、最早恥ずかしがる所の騒ぎではなかった。
 急降下に次ぐ急上昇で、エヴァの三半規管は完全にやられてしまった――早い話酔っていた。命の危機に瀕して忘れられていた人間としての感覚が、ここに来て一気に反乱を起こしたようである。
 いっそそのまま戻してしまえれば楽だったのだろうが、悲しいかな食べることを必要としない適応者は、嘔吐いた所で何も変わらない。
 震える指で氷塊を作り出し、口の中へと放り込む。じんわりと熱を奪っていく感覚が心地よかった……それで、少しはマシになった。同じようなことを繰り返しながら、何も言わずにただすがり付くだけのエヴァを、アルヴィオンはどう思っただろうか……そうは考えながらも、彼女が落ち着くまでにはそれなりの時間を要した。

「……弱い」
 暫くして、ぼそりと漏れたその言葉は、自身に向かってか、或いは人間という種族そのものに対してか。きっとその答えは、人間であるエヴァンジェリン。魔であるアルヴィオンに助けられ、その先でも醜態を晒して。
「ごめん……ごめんなさい、アル。もう大丈夫だから。助けてくれて有難う」
 言外に下ろしてと告げながら、エヴァは背後を振り返る。地割れによって穿たれた穴は、ぽっかりと巨大な口を開けている。彼女が此処でのんびり酔いを覚ましていられたということは、この中で適応者達は先程の魔と闘っているということだ。
「……どう、しましょうか?」
 先程までの自分を取り繕うように、エヴァはふわりと微笑んだ。

>アルヴィオン様、周辺all

1ヶ月前 No.57

白鷺 @keiunuiek☆mQLLuNXADKnU ★Android=hn2HASXm05

【アーロン・ヴェルヴェット/瓦礫の上】

ゆっくりとしたスピードで落下する一際大きな瓦礫の上に立つと、緩やかに落ちていく微かな浮遊感があった。さて、自分が先程まで狙いを定めていた魔族らしき女は何処へ行ったか。出来る事なら標的を変えたくはないと辺りを見回すと、どうやら落下途中にあった窪みへ男の適合者が連れて行ったらしい。これではもう狙えないだろう。仕方無くあの獲物を明け渡してやろうと、詰まらなさそうな顔でではもう一体の魔族は何処に行ったのかと少し視線をずらせば、鬼の魔はクルクルと速度を落としながら旋回していた。間も無く自らアーロン達が乗っている瓦礫の上へ強い衝撃と共に着地すれば値踏みするような視線を投げかけてくる。その目が、今迄の魔族のように遊び感覚で人を嬲ろうとしているものだと、今迄の経験から即座に理解出来た。

「ハッハ、遊びか。良いねェ」

同じように値踏みをされていた男の適合者──ラルヴァと真逆の事を呟いて鬼の魔と同じように口角を釣り上げる。鬼の魔と同様に異種間による命の奪い合いを遊びだと思っているアーロンには甘美な誘いに思えた。
鬼の魔の両手に魔力が集まって行く。形成されたのは鉄槌と魔力の塊。その二つに、アーロンはもしやと思い至る。災害前はやる事が無く、楽しいかどうかは別として適当な遊びをしたりテレビ番組を垂れ流しにして無感情で観たりと過ごしていたアーロンは、それがまるで野球の道具のよだとその知識から思ったのだ。その予測を裏付けるかのように、鬼の魔が魔球を放り投げ鉄槌を振りかぶる。

「言われなくとも出し惜しみなんてするかよ!」

呪威を使わずして勝つなど、到底出来ない事は身をもって知っている。全力を出してもそれでも適わない魔族が居る事も、先日経験した。ただこの時アーロンが間違えたのは、野球のようだと思ってしまった所為でその魔球がそのまま此方へ飛んで来ると勘違いした事だ。鬼の魔が打ってきた魔球を己の鎌で真っ二つにでもしてやろうとその手に大鎌を具現化させる。そのまま振りかぶるが、鉄槌によって魔球は砕かれ、まるで弾丸の如く四方八方から降り注ぐ。

「ッげ!」

鬼の魔を中心に放たれている所為で迂闊に近付く事も出来ず、アーロンは飛んで来る残骸の幾つかを鎌で薙ぎながら、それによって起こした風で軌道をずらして間一髪のところで何とか直撃を回避する。それでも散弾の如く降ってくるそれはアーロンの四肢を傷付けていく。

>>瓦礫の上ALL様


【遅れて申し訳ありません】

1ヶ月前 No.58

朱銀 @syuginn☆lXg/nRyFCsTU ★HPzqP6MFXB_gi9

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1ヶ月前 No.59

劫火の仮面 @kaizelkai ★2P17A3cjY2_M0e

【 ラルヴァ・フォーヤン / 霊峰バランシャ-第一層-瓦礫の上 】


 振り下ろした剣の感触が柔らかい。まるでいつも切っていた食材と同じくらい鬼の魔の重厚な石槌が柔らかいと感じた。このまま押し切ると思っていた時、轟いたのは野太い叫び声。頭をまるで斬られたくないと避けて、代わりに鬼の魔の右腕が落ちていた。肩からバッサリと両断されており、切断面からはどす黒いドロドロとした質量のある体液が噴き出すように流れており、自分の顔や衣服にも体液が付着する。一撃後、離脱して再び構える。鬼の魔が見せたあの動き、頑丈そうな身体をしていながら頭への攻撃を避けていた。弱点は頭か、憤怒の感情から少しだけ冷静になって、そう理解する。


「 はぁ……はぁ…… 」


 空への飛翔、加速、超高熱と火炎を纏わせた一撃を行ったせいか、異様に疲労を感じる。呼吸が乱れ、立ちくらみもする。ここに来るまで今まで考えてきた自分の力の新たな使い方の検証は成功したが、楽ではないというのがわかった。しかし、片腕も落としても鬼の魔はまだ健在。弾けるような哄笑が再びバランシャ内にこだまし、鬼の魔の顔に張り付いているのはこの上ない愉悦に興じる狂気の笑みを浮かべている。反対に自分は剣で誰かを易々と斬った感触に嫌悪感を覚える。頑丈そうな石槌や、あの剛腕をも斬れてしまうこの力が改めて恐ろしいと感じてしまう。
鬼の魔は残った片腕を広げて天を仰ぐ。全員の上に、巨大すぎる魔力の塊が集約していき、鬼の魔の興奮に任せるかのようにぐんぐんと大きさを増してゆくそれは、質量を宿す鉄の塊。今全員が落下している穴を、ほぼ塞いでしまうほどの直径を持っているほど大きい。この魔力の塊を放置してしまえば、全員に待っているのは圧死。皆が死んでしまう。エリが死ぬ、その恐怖心が再び自分を嫌というほど戦いに奮い立たされる。へばっている場合じゃない。前を向き、感情を燃やせ。長剣からあふれ出る赤い炎のように。



「 ―――人の命を、何だと思っていやがるッ!! 」


 激昂し、怒りのままに吼える。自分の笑顔をためにしか力を使わない相手に殺させない、エリも皆も。自分の背後に炎を集めて、一気に爆発させ、爆風を利用し、一気に前に進む。長剣を右手だけに持ち替え、剣自体に噴炎を最大限に放出させ、ロケットのようにして低空かつ一直線に飛ぶ。串のように鋭く、一点にだけ集中させた超高温の火柱を剣先の出現させ、鬼の魔の攻撃が始まる前に一気に決める。


「 ―――貫けえええええぇぇェッ!!! 」


 弾丸の如く、一直線による高速飛行から右手を突き出し、灼熱の一突きを鬼の眉間へ放つ。剣先から刀身全体が削岩機のように炎の渦を描き、その推進力で普通の人間には出せない力に変えている。そして眉間、やがて顔を縦に割るように刀身が鬼の顔へ食い込んでいく。


>>瓦礫の上ALL


【それでは自分が鬼の眉間を貫かせていただきます。】

1ヶ月前 No.60

キープ @keep4603 ★nJ5qCxa7H9_8gk

【オリビア・ハルフォード / 霊峰バランシャ-第一層→瓦礫の上】



────残念だわ、とても残念


 鬼の魔は気づいているだろうか。自身の傷から漏れ出る体液がその量と勢いを増していることに。オリビアの鉤爪がその体液に触れていることに。オリビアが触れた水分は、全てオリビアの支配下に置かれる。それは他者の血液だろうと例外ではない。鬼の魔からはすでに間欠泉が如き勢いで血が噴き出していた。体重約60kgの人間が保有する血液量は約4.5L〜5L、体重の約1/13ほどだといわれている。1Lも失えば貧血による意識障害が起き、2L以上失えば人間は絶命する。鬼の魔から流れ出た血の量はどんぶり勘定でもざっと5Lを優に超えていた。しかしオリビアは知っている。魔族は『この程度』では死なない。出血多量程度では死なない。例え四肢を切断されても生き続ける。彼らは魔核を破壊しない限り、死なない、いや『死ねない』。今まで何十体もの魔族を『解剖』し『実験』したオリビアは叡智の呪威を持つアケハとは別の意味で魔族の知識が豊富であった。


────残念だわ、とても残念


 大量出血で死なないとはいえ、影響がないわけではない。意識の昏迷、運動機能の低下、彼らを大人しくさせるには血を抜くことが有効な手だとオリビアは自信を持って言える。ラルヴァの一撃、超高熱と突貫力に秀でた攻撃は鬼の魔の頭部ごと魔核を破壊できる代物だ。それが確実に当たるようにオリビアは援護に走る。しかし、彼女の瞳にはある別の感情がくすぶっていた。



────残念だわ、とても残念



 脳が魔核の位置ならば、アケハの言うように眉間を貫く必要はない。額に位置する前頭骨は中身である脳を保護するため十分な厚みと対ショック性を誇る。ストリートファイトでも相手の拳を額で受けて破壊する技術があるほどだ。脳を外から破壊するには、顔面にいくつも空いている孔を使えばいい。それは眼窩であったり、鼻孔であったり、耳孔であったり。嗚呼今操っているこの体液を、あの鬼の魔の顔面に張り付かせ、顔の孔から流し込んだら。眼球を抉り取り鼻骨を内側からへし折り鼓膜を破り三半規管を圧し潰し。それはそれは痛かろう。あの鬼の魔も悲鳴を上げたに違いない。もがき苦しんだに違いない。許しを請い、死を望んだに違いない。自分が今まで殺してきた、魔族のように。


────残念だわ、とても残念


 オリビアの体内から溢れる嗜虐の呪威。ラルヴァが誰かのために感情を起こし呪威を使うのに対し、オリビアの感情は一貫して『自分のため』だ。怒りや悲しみ、死への恐怖は時間とともに薄れるものだが、嗜虐による悦楽は無尽蔵に沸き起こる。自分が飽きるか相手が死ぬまで、オリビアの呪威は源泉が如く猛威を振るうのだ。あの鬼の魔は幸運なのだろう。痛みを伴わず、恐怖を覚えず、ただただ死ねるのだから。


「残念だわ、鬼さん……私もあなたで楽しもうと思ったのに」

 轟音と愉悦の嗤い声が響く洞窟の中、オリビアの声を聴くものは誰もいない。


>>瓦礫の上ALL



【鬼の魔への止め、もしオリビアがやってたらメビリンの規約に抵触どころかど真ん中ストレートストライクバッターアウツになりそうで怖かった】

1ヶ月前 No.61

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【 エヴァンジェリン・ネリー・ソーンダイク /霊峰バランシャ-第一層 】

 大丈夫、そう伝えたかっただけなのに。一体何処で、間違えてしまったのだろうか……?

「……痛っ、あ」
 自らを抱く腕に突然力が籠められ、エヴァは小さく呻いた。けれどそんなことより遥かに重大なのは、刹那響いたのはアルヴィオンの怒号だということ。今まで聞いたことのないような、自分に向けられた怒鳴り声に、エヴァはビクリと体を震わせる。
 脳が現実に追い付かず、それ以上の反応は出来なかった。傍から見ればただ眼を白黒させていただけだろう。気付けば彼女は地に足着けて立っており、大切な温もりは背を向けて去っていく。
「待っ……!」
 待って、と。置いていかないで、と。喉まで出かかった言葉は、空気を震わせることなく消えていく。
 エヴァ自身にはそんなつもりはないが、きっとアルヴィオンには彼女が無理をしているように見えたのだろう。彼はそれが気に食わなかったのだと今なら解る。
 そんな些細なことで、と思う自分も其処にはいたが、些細なことでもアルヴィオンに嫌われたかも知れないという恐怖はエヴァから声を奪った。最後に彼は謝ってくれたような気がするけれど、10メートルにも満たない距離が、今は果てしなく遠い。

 だから。

「アル!?」
 彼が絶叫しながら地面に拳を叩きつけ始めた時、思わず駆け出した足は彼に届くことなく止まった。嫌われたかも知れない、拒絶されるかも知れない、その感情は、エヴァの動きを鈍らせる。しかし、彼の震える背中を見詰めているうちに、それだけではなかったことを彼女は悟った。
 あと少し、手を伸ばせば触れられる距離が埋められない。苦しむ彼を、今度は自分が抱き締めてあげることが出来ない。
 ……苦しむ?
「……アル……もしかして貴方、苦しいの……? 私が……居るから?」
 エヴァにはそう見えた。先程痛感した自らの弱さに加え、あの時アケハが言い放った言葉。弱い自分を守って過ごす負担に加え、魔族の、アルヴィオンの、満たされぬ飢え。
 それが今、まさに彼に襲いかかっているのだとしたら――?
 それが単なる思い違いであるにしろ、彼が苦しむ原因など自分以外に考えられない。
 だから――今更彼に、触れられる筈もなかった。

>アルヴィオン様、周辺all

1ヶ月前 No.62
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