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天喧騒京モノガタリ

 ( オリジナルなりきり )
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現代パロ / 人情 / バトル @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

『続いてのニュースです』

十一月二十六日。太陽が静かに顔をだした頃、街頭ビジョンから報道が流れる。

『今日未明、反社会的組織サングイスから爆破予告を受けた西上大学は全ての授業を休講にし、生徒に注意を呼びかけるとともに万が一に備えて厳戒体制を最高レベルに敷いています。爆破予定時刻まで残り三十五分。現場は緊張が高まっている模様です』
『怖いですねえ。真宿駅爆発事件から早四年。未だサングイスの首謀者も組織規模も不明のまま、国民の不安は募るばかりです』
『今回の爆破予告を受けて安野首相は記者会見を開くとともに、引き続き警戒を呼びかけており――……』

アナウンサーの声が空に響き渡る。
本日も大日本国は晴天である。



( 11月26日午前8時25分 / 西上大学構内 )

「やべえ、このままだとまた遅刻しちまう!」
パンを加えたまま校舎を走る青年が一人。
西上大学に通う彼は、昨日の夜遅くまでドラマを観ていたら寝坊してしまったらしい。呼吸を荒くし、必死に手足を動かすなかで、ふとある異変に気付く。男はその場に立ち止まった。
――何だかやけに、静かだな。
男は考える。大学は不気味なほどに沈黙していた。いつも聞こえるはずの学生たちの黄色い声やが全く聞こえてこない。それどころか校舎内には人っ子ひとり見当たらなかった。
「え、あれ、今日って学校休みだっけ?」
突然の孤独感に襲われた青年は、焦ったように頭を掻く。
彼は爆破予告による休講連絡に気付かず、いつも通り大学に登校していたのだ。



( 11月26日午後3時25分 / ??? )

「あと残り三十五分か。待ち遠しいな」
腕時計を眺め、貧乏ゆすりを始める。
男は西上大学が爆発するのその瞬間を静かに待っていた。
「本当に準備の方は万全なんだろうな?」
「もう、そう何度も確認しないでください。今のところ問題ありません、全て抜かりなく進んでいます」
隣にいた女がピシャリと言い放ち、冷たく遇らう。彼女もまた、双眼鏡から西上大学の行く末を見守っていた。
レンズの先に見えるのはW未だW長閑ないつも通りの景色。しかしそれが豹変した瞬間、彼女たちの計画成功が確定する。
一瞬、その覗いていた視界の中で何かが動いた気がした。
「あれ」女が異変に気付き、声を上げる。
「どうかしたのか?」男が尋ねる。
「いえ。校舎内に一瞬、人影が映ったような気がして――……」



( 11月26日午後3時25分 / 西上大学付近 )

「いいか皆、気を抜くなよ」
「はっ」
校舎内を囲むようにして警備を担う特別高等警察は、男の一言で一斉に背筋を正した。
現場にはかつてないほどの緊張感が走っている。爆発事件が多発している昨今、人を守るのも命懸けの仕事になっていた。
手に汗が滲む。隣にいる警官が生唾を飲み込む音までもが聞こえてくるほどに辺りは静まり返っていた。
男は腕時計に視線を落とす。まだ爆破予告の時間まで三十五分あった。
「サングイスめ、今日こそはその尻尾掴んでやるからな」
男は強い口調で呟く。
その瞳には、燃えるような正義感と確固たる決意が灯っていた。



本日も大日本国は晴天である。
――……さん、
――……に、
――……いち。
長針が丁度十二を指したとき、空に耳を劈くような爆音が響き渡った。



これは第二次世界大戦に勝戦し、天皇政治が続いている大日本国で反政府組織と特高警察とがドンパチする物語。

メモ2018/01/15 14:37 : 神崎りりか ☆TYRYeuBpk3k @else★iPad-MUiShf7G5m

▼第二章「 作戦開始 」※十ニ月十六日始動

http://mb2.jp/_subnro/15640.html-50

▼第一章「 空白時間 」

http://mb2.jp/_subnro/15640.html-34


▼参加者一覧

・反社会組織サングイス

→リーダー:朝比奈 藤司(ひなしろいと)

→副リーダー:玻璃崎 雪乃(芙愛)

→構成員:吾妻 純(かささぎ)

→構成員:是枝 正太(神崎りりか)

→構成員:天野 風香(忍者ぇ)

→構成員:十姫雨 桜(絡繰)


・特別高等警察第一課

→課長:黒瀬 新(Nero)

→課長補佐:生明 岬(ねこみやあか)

→参謀:夢月 叶羽(自由)

→警官:涼宮 衛 (弘樹)

→警官:大狼 椿(崎山)


・特別高等警察零課

→メンバー:速水 奏汰(sizuku)

→メンバー:鳳 嘉音(夕邑三日月)

→メンバー:深町 渚砂(ぽんぽこ)


おかげさまで役柄が全て埋まりました!よって各組織のメンバー枠を無制限に募集します。予約は不要ですのでプロフィールが完成し次第サブ記事に提出してください。

切替: メイン記事(85) サブ記事 (71) ページ: 1 2

 
 

本編開始 @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 喫茶店ローダンセ 】

 挽きたての珈琲豆をペーパーフィルターに入れ、ゆっくりと円を描くように湯を注ぐ。一度目は蒸らすため、二度目は旨味を抽出するため。このときペーパーは濡らしてはいけない。せっかくの脂分が逃げてしまうからだ。
 必要な分を淹れ終わったら素早くドリッパーを外して、雑味の強い最後の一滴を入れないように気をつける。あとは冷めないうちに珈琲をお客様にお出しすれば出来上がりだ。

 店長である村上に言われた通りに珈琲を淹れた是枝正太は、試しに一口啜ってみる。
「……ま、不味い」
 顰め面になりながら呟く。もう五度目だった。何度やってもこの液体は舌を丸ごと洗い出したくなるような味になってしまう。
「何でだろう。今回は自信あったんだけどなあ。やっぱり豆が悪いのかなあ」
 失敗作を睨みつけたまま正太は頭を抱える。喫茶店ローダンセは相も変わらず閑散としていて、昼時だというのに客が一人もいなかった。不味いレッテルを貼られた飲食店に客足を戻すのは難しい。しかし、そもそもの料理が改善されなければ根本的な解決には至らないのだ。
 店番を一人で任されていた正太は、度々こうして暇潰しも兼ねては喫茶店のメニュー改善に取り組んでいた。
 ーー料理は得意なほうだと思ってたんだけどなあ。
 正太は考える。ここまでやっても不味いとなると、珈琲そのものに呪いがかかっているとしか思えない。
 燻んだ濃褐色は依然として呑気に波打っては独特の香りを放っていた。

 十二月二十六日。
 おそらく今、大日本国で最も有名であろう犯罪組織のもとに居候をし始めてから一ヶ月が経とうとしている。
 初めの頃、通っていた大学が爆破され、気を失った隙に拉致されたときは本気で死をも覚悟していたが、どうやら彼等に悪意はないらしく、テロで負った怪我の治療が終わるとリーダーである朝比奈藤司は正太に自由を与えた。
『な、何だよ。俺を人質にするんじゃねえのか』
『くくっ、確かにそれも悪かねぇけど京香の弟さんにそんな手荒な真似は出来ねぇなあ』
『……!』
 その言葉に違和感を覚えた正太は、サングイスに留まることを決意した。別に国をどうこうしたい訳ではない。彼らに同調した訳でもない。ただ、こいつらと一緒にいれば姉のことを何か知れるのではないかと思ったのだ。
 未だ朝比奈は何も語らない。他の奴等も同様に、肝心なことは何も教えてくれない。
「はあ。俺は何やってんだか」
 人差し指をマグカップの縁に滑らしながら正太は呟く。しかし大学が閉鎖している今、何もすることがないのもまた事実であった。


>サングイスおーる
【皆さま長らくお待たせしました、本編開始です! イベント概要を読んだうえでの参加をお願いします。開始する場所は特に指定していませんので、自由にのんびりやっていきましょう。これからよろしくお願い致します。】

9ヶ月前 No.1

忍者ぇ ★iPhone=VYefmAfxtC

【天野風香/サングイス本拠地→喫茶店ローダンセ】




海外で作られたオーソドックスな柄のトランプが、パラパラと右手から左手に移って行く。右手から左手に、左手から右手に。
新品のバイシクルトランプが手に馴染むのを確認すると、作戦会議用のテーブルに敷かれたマジック用のテーブルマットに綺麗に一列に並べる。
スペード、ハート、クローバー、ダイヤの1から13までのトランプが規則正しく並んでいることを確認すると、あろうことかそのトランプを2つの山に分け一枚ずつリフルして噛み合わせて混ぜてしまう。しかも裏表めちゃくちゃなまま。
何度かテーブルの上でカットし、もう一度2つに分けて上下を逆さにして元に戻す。
そのデッキをもう一度広げると、順番どころか裏表すら綺麗に整ったままのトランプが姿を現した。

「やっぱり新品のバイシクルは触ってて心地がいいわ…、いい匂いもするし、あとはお客さんがいれば文句なしなんだけど…」

そう言いながら彼女…世界に名を馳せた元女性プロマジシャン。
現役の頃はステージの大小関係なく訪れ、観客を驚かせ魅了した経歴を持つ彼女。
天野風香が視線をトランプから目の前の座席に座らせたマネキン第一号、第ニ号(通称しょう子とみち男(仮名)に移した。
その瞬間彼女にとてつもない喪失感と虚しさが襲う。
練習ついでに腕が鈍ってないか確かめるために、観客の代わりとしてマネキンを置いたところ凄まじく逆効果。むしろいい感じに力が抜けてスラスラ手を動かせたのが悲しい。
なんだったら女性型のマネキン、しょう子の頭に乗せたカツラが、室外機の風に煽られてふわふわ揺れるのを見ると無性に腹が立って来る。

「…やめよ」

そう一言呟くといそいそとトランプを片付け、マットとマネキンを、その薄暗く少しばかり整理が必要な我らが拠点の物置に押し込んだ。
マジシャン生命を絶たれて、このサングイスに落ち着いてから四年ほどだった。
普段なら仲間や天文学的な…否。
虚数の彼方のような確率で訪れる客に手品を披露している彼女だが、今日に限っては皆どこへ行ってしまったのか姿が見えない。
仕方なくストレスをぶつけるかのごとくマネキンに手を出してみるもなんとも不幸な結果に終わった風香は、片付けが終わると喫茶店の方へと移動する。
あいも変わらずガラガラのテーブルに視線が向かう。

「今日もお客さんはゼロですか…」

そう呟く風香はポケットからトランプを取り出すと、暇つぶしにとリフルシャップルやカットを繰り返し遊ぶことにした。

>>喫茶店オール

【リフル〜カードを一枚づつ交互に噛み合わせてシャッフルする方法。】
【久しぶりのオリナリなので絡みには行かずに逃げてしまいました。
こんな雰囲気でよければ話しかけてやってください】

9ヶ月前 No.2

自由 @nanamaru☆43ke11mKtUk ★iPhone=dgcL1EDLvj

【 夢月 叶羽 / 天京都中心部付近喫茶店 】

 ふわりふわりと目の前に白い湯気が漂う。ピンク色の陶器に黒猫の顔があしらわれたマグカップは、彼のお気に入りだ。ココアの表面に自分の顔を映し、軽く微笑む。その姿には「おかしい」以外にぴったりはまる形容詞が見つからないが、各々が思い思いの時間を過ごすこの空間で、そんなことは人々の気には留められなかった。

 天京都中心部近くにある喫茶店。ここは彼の行きつけだった。特高からも歩けばちょうどいい距離。散歩気分で寄ってリラックスすることのできる、息の詰まる仕事の休憩にはうってつけの場所なのだ。コミュニケーション能力がそもそも高い叶羽だが、ここではもう店長と親子のように仲良くなっている。──店に入った瞬間に何も聞かれず彼のお気に入りのマグカップに注がれた温かいココアと、あたたかい色の照明を反射してキラキラと光る、今にもとろけ落ちてしまいそうな生プリンが運ばれてくるくらいに。

 そして彼が今座っている席は、マスターの目の前のカウンターから少し離れたテーブル席。二人掛けのテーブルを少し贅沢に一人で使う。ここも既に、彼の特等席になっていた。他人と近すぎることもなく、マスターの視界には入るような。一番落ち着く場所だった。

 パーカーの袖の中に手を引っ込め、萌え袖の要領で、まだまだ熱いマグカップを持ち上げ、ふーっ、ふぅーっ、と口を尖らせて息を吹きかける。表面にさざなみが立ち、彼の表情はぼやけて茶色い液体に同化し見えなくなった。この仕草をお洒落な女子高生がやればそこそこ可愛いのだろうが、あいにく叶羽は無駄にひょろっちい図体をした18の男である。中性的な顔立ちは綺麗というには綺麗だが、可愛いと呼ぶことはできない。

 陶器の淵に唇をつけ、ゆっくりと自分の方へ傾ける。熱い液体が舌先に触れ、一瞬びくりと肩を震わせたが、あとは慣れた動作でちょびちょびと器用に少しずつすすっていく。甘ったるくとろけるような味に、思わず顔を綻ばせ、元々だらしなく細めた目を更に猫のように細くした。

「……ふぅー」

 客に珈琲を淹れていたマスターがふとこちらを向く。白髪に丸い眼鏡を掛け、珈琲豆色の蝶ネクタイを結んだ紳士的な雰囲気の彼は、思わず漏れた叶羽の微かな溜息を聞いて、にっこりと青年に微笑みかけた。叶羽もふふ、と笑い声を零し、小さく会釈をする。マスターは頷くと、その表情のまま作業に戻る。叶羽もそれ以上は何も言わず、黙って続きを楽しむ。そう、このくらいの距離が一番いい。近いようでどこか遠い関係は、やはり心地いいものだ。

 ココアを半分ほど味わったところでプリンに移る。興奮を抑えきれずに頬を紅潮させ、つやつやと光るそれにスプーンをゆっくりとさしこんだ。とろりとしていて今にも崩れそうなのに、ぷるぷると震えながら形を保っているプリンに尊敬の念を持ちながら、既に幸せそうな顔をして彼はこの世で一番好きな食べ物を口の中に放り込んだ。



>>All様



【 メイン解禁おめでとうございます〜! とりあえずテンション高いやつなのでベタベタに絡んでくださっても対応できる子です(?)、どんどん声掛けてやってくださいませ! これからよろしくお願いいたします! 】

9ヶ月前 No.3

朝比奈 藤司 @brillante ★iPhone=X7lSIldowa



【 朝比奈 藤司 / 喫茶店ローダンセ 】


 昨日終わらせておくべきだった仕事を、どうにも眠気に勝てず今日まで残してしまった。少し反省しつつも、最近はサングイスと仕事のどちらもを完璧に熟すことが難しくなっていることは事実で、致し方ないといえばそうに違いない。くあっと、涙を目に浮かべて欠伸をする。その行為にまた眠くなるがかろうじて二回目の欠伸はのみこんだ。飲み込んだその次はベットからでなくてはならない。ベットで眠ったのはいつぶりだっただろうか。家に帰ってきて机に向かいそのまま眠っていたり、最近でいちばんひどかったのは風呂場で眠っていたことだ。
 まだ眠っていたいという気持ちがない訳では無いが、いつもよりはだいぶ良く寝た。もそもそと布団から手足を出し、身体を起こす。眠りが深かったおかげか、手足を外へ出したあとはすぐにベットから出ることが出来た。そこからはもう簡単だ。洗面台まで向かい、顔をよく洗う。水がすごく冷たかった、おかげで増して目が覚めてくる。タオルで顔の水気を拭き取るとばしっと、両頬を叩いて喝を入れた。
 絵の具で塗りつぶしたような黒髪をアイロンとスプレー、またワックスを駆使してアップスタイルにしていく。髪の色に似つかわしくない暁色の瞳が鏡越しにこちらを見ていた。少し目を細めてからさっさと、身だしなみを整える。人前にいくのだから綺麗にしておきたいが出来るだけ早く仕事に手をつけたい。
 ご飯は食べなくてもいい。腹は空いているが、なにか飲み物を飲めれば腹は満たされる。それに、なぜだか固形物を食べる気分では無かった。それならばサングイス拠点でもある喫茶店、ロータンゼへ向かおう。パソコンも持っていって、美味しいとは言えないが、のみ慣れた味のコーヒーを飲みたい。そして、仕事も一緒にしてしまえばいい。おそらく、誰かしらサングイスメンバーもいるだろう。


 一度決めたら、行動は早い方で準備を颯爽に済ませて喫茶店に向かおうと、家の鍵を閉めた。今日の服装はなるべく質素なもの。仕事が終わったら喫茶店を手伝おうと思ったからだ。首にぶら下げた錆びた金色のネックレスを服の内側に入れると、喫茶店へ歩き出す。
 あまりぱっとしない天気だった、だが太陽はきちんと顔を出している。過ごしやすい気温ではあったと思う。俺はもう少し空の青さが際立つ方が好きだが。晴れとも言えない、曇りとも雨ともいえないそんな天気は気分さえも晴れなくなるからだ。曖昧なものにはいっそ、名前をつけてしまいたくなる。名前をつけて、片を付けて……。そう、あの爆破事件のことも。そんなことを考えながら歩くとすぐにロータンゼについてしまった。距離が近いから深く考え事をしたいときには向かないが、この身近な感じがたまらなくいい。
 ガラス張りの正面から店内の中を見てみると、やはり客はいなかったがよく知るふたりの影が見えた。少しだけ口角が上がった気がする。こんな世の中だ、見慣れた顔も見れるだげで安心するものだ。
 扉に手をかけると、是枝正太が憂いの声を漏らすのと天野風香の客がいないことに対するため息混じりの声が聞こえた。今日の天気のように重くたれこんでいては駄目だ。人間は自分の意思で曇りがかった空を青く出来るのだから。わざと、いつもよりも明るい声で店の中に入り込む。店の扉にかけられた鈴が心地よい音色を響かせた。
 「…くくっ、正太。風香。そんなくらい声で喋るんじゃねぇよ。ともかくおはよう。今日も客はいねぇようだし、そこの机で仕事をしてもいいか。そんなに時間はかからねぇからよ。…あー、それと正太コーヒーを一杯頼む。風香は、そうだな眠気覚ましの一発。あっと驚くような芸を見せてくれないか」
 綺麗に磨かれた床を靴がかつかつと音を立ててふたりに近寄るとほぼ、無意識に頭をぽんぽんと撫でた。



>>是枝正太、天野風香、周辺Allさま



 【 投稿遅くなってしまい申し訳ありません、そして本編の始動おめでとうございます…!これからどうかよろしくお願い致します。また、絡み文を出したのにも関わらず一人でいる描写が多くなってしまい申し訳ありません。次の投稿からは皆さまとの絡み文を中心にしていくのでどうかお願いします 】


9ヶ月前 No.4

玻璃崎 雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎 雪乃/自宅(電話)】


マンションには寝に帰っているだけの生活だというのに、この内装は果たして必要だったと言えるのだろうか、悩ましいところである。玻璃崎雪乃は久方振りに、タワーマンションの角部屋に降り注ぐ生まれたての陽光を眺めていた。タッセルに纏めたカーテンをクッション代わりに凭れ、シトラスミントの歯磨き粉を口の中に泡だてている。
陽が高く昇って行くにつれて表情を明るくしていく大都会の街並みは、玩具や箱庭のようで愛おしく見ていて飽きることが無い。
ーーこれが、自分達が守っている世界。自分が、あの方に守るよう信任されている世界だ。この箱庭を治める方が、私を必要としてくださっている。
湧き上がる笑みをとどめても、口角が上がるのを抑え切れなかった。
ともすれば零れそうな歯磨剤の泡を啜りあげると、鼻歌まじりの上機嫌で徐ろに首元のファスナーを下ろす。ふわふわもこもことした薄桃色の寝間着が何の前触れも無しにはらりとほどけ、足元に落ちる。レースもふんだんに乙女心をくすぐる白いベビードールの下着が露わになると、今度はそれすらも脱ぎ捨ててしまった。当然、先程まで悠然と大都会の朝を臨んでいた硝子戸はカーテンも開け放しである。此処が近く並ぶビルも無い高層階だからと知っていていつもこの調子なのだった。「雪乃」というその名に違わない、滝飛沫の白く透明な露が織り成したような絹の肌は微温く肉感的で、透けるように白いながらも不健康ではなく仄かな香り立ち上るような桜色が息づいている。脱ぎ捨てた羽衣を拾いあげるかの如く前屈みになれば、柔肌の豊かな双丘に栗色の巻き髪が落ち掛る。一縷と纒わぬ身体になればそれこそ絵画の一場面のよう…………であるかに見えたのだが。
上機嫌な鼻歌と共に、拾い上げたフワモコパジャマとヒラヒラ下着を、雪乃はひとまとめに丸めて無造作にソファーの上に放りなげた。そのまま平然として浴室へと向かうと、蛇口をひねる音と口を濯ぐ音に続いてシャワーの水音が響く。脱ぎっぱなしに放り投げられていたのがパジャマと下着だけならばまだ良い。高級タワーマンションの一室、豪勢なパノラマ景色を映す180度の窓から取り込まれた朝の陽光に照らされた部屋の、その悲惨な光景たるや。今しがた投げ捨てた寝間着一式の下には、ソファーの座面に届くまでの間にまだ死屍累々と、脱ぎ捨てられた形のままの衣類が積み重なっているのだった。全く、その見た目から溢れる女子力というものを見事に裏切っている。
女は嘘をつく。その事実を男性諸君は肝に銘じねばならない。
玻璃崎雪乃の弁明するにはこうだ。雪乃は自他共に認める頭脳明晰冷静沈着たるエリート特殊警察構成員であり、つまり、忙しすぎる。特殊警察零課通常業務の他にスパイとして警戒対象たるテロ集団・サングイスに送り込まれている。潜入している以上、テロ集団で何もしないという訳には勿論いかず、リーダーである朝比奈藤司に近付く為に大学時代の先輩だったというコネクションを使って副リーダーというポジションに潜り込んでいる。更にサングイスのメンバーの目を欺く為には、「警察」以外の「表向きの本業」を持たなくてはならない。父親の経営下にある医療ビルの美容外科で医療事務をしている。一階はネイルサロン、二階が痩身エステ、三階が矯正歯科、そして四階が美容外科、五階が結婚相談所という容姿コンプレックスの欲望と闇が階段式に垣間見える恐ろしい医療ビルだ。医療事務、テロリスト、そして特殊警察構成員という三つの顔と仕事を持つ身では確かにこの生活に対する言い訳も通用するのかもしれない。
バスルームでは雪乃が、浴槽に身を沈めるところだった。薄く曇る硝子張りの小部屋の中で、もっと寛いでいるかと思いきや、何故か彼女は真顔だった。やがて浴槽に悠々と手足を伸ばすと、漸くほっと息を吐いた。持ち込んでいた防水スマートフォンを操作するとハンズフリー状態で呼び出し音が控えめに響く。零課の人間への簡単な連絡。仕事前の雪乃の日常的な雑務の一つだ。

>(零課の御方)、all


【本編開始おめでとうございます。参加がなかなか遅れてしまいすみません。どなた様もどうぞ宜しくお願い致します。雪乃ですが、まず零課の方と絡むべく電話をさせていただいています。どなたでも取ってくださると大変嬉しいのですが、特になければ「繋がらなかった」で喫茶店へ向かおうかと思ってます。】

9ヶ月前 No.5

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/自宅(電話)】

 陽が昇ったとはいうものの、南向きでないこの部屋は薄暗かった。洒落たインテリアなどとは無縁の、必要なものだけが雑多に置かれた室内。所々にはこの部屋に不似合いな少女趣味のぬいぐるみが飾られていた。その狭い部屋の中央に置かれた低い机で、深町渚砂はノートパソコンに向かっていた。少々派手な色のロングヘアに綺麗に化粧の施された顔。細く長い脚。胡座をかいているのが残念ではあるが。夜の街を歩けば男からの誘いが厄介でならないだろう。カタカタカタ、と文字を打ち込むその顔はひどくつまらなそうだ。これも仕事の一部とはいえ、報告書の作成などやはり性に合わない。画面を覗いたまま、半ば無意識に机の右端を手で探った。目当てのものはない。くしゃくしゃ、と長い髪を掻いた。煙草を止めてもう数年になるというのに、未だに癖が抜けない。気を取り直してしばらくキーボードを叩いてから、少々乱暴にエンターキーを叩いた。

「なぎさー、あれ、家でお仕事? 珍しいね」

 洗面所の方から未成年とおぼしき若い娘が姿を見せる。上下の下着に、ガウンを羽織っただけの出で立ちだ。髪は濡れ、十分に拭いていないのか滴が滴っていた。渚砂は彼女を一瞥すると、床に落ちていたタオルを掴んで軽く投げつける。

「拭いてから出てこい。あと服着ろ」

 女の姿をした渚砂から発せられた声は、男のそれそのものだった。だが渚砂と暮らす少女にとっては至極当然のことで、何とも思っていない様子だった。少女は投げつけられたタオルで髪を拭きつつも、もう一つの「服を着ろ」という命令は聞こえなかったかのように流し、渚砂の隣に座り込む。

「服着ろっつっただろ」
「あとで着るから大丈夫」
「ふざけた格好してると襲われるぞ」
「なぎさになら襲われてもいいもん」
「ガキに興味はねぇって言ってんだろ」
「ガキじゃないもん」

 そんな何にもならないやり取りをしているところに、突如スマートホンのバイブレーションが響いた。画面に表示された名前は、零課の同僚のものだった。先程まできゃいきゃいと騒いでいた少女はぴたりと黙り込んでいる。普段は空気を読むなどという発想がないように振る舞っているが、重要な場面では何も言わなくても察してくれる。渚砂はこほん、と咳払いをしてから画面の通話ボタンに触れた。

「はいはーい。姉さん、どうも」

 先程まで男の声だったはずの渚砂の口から発せられたのは、ハスキーでやや低めな女のものだった。通話口の相手、雪乃は自分が男であることは知っている。だが、仕事上は一応『女』として貫くのが今の渚砂のポリシーともいえるものだった。

>雪乃、all
【本編開始おめでとうございます。サングイスの皆様、一課の皆様、そして零課の皆様よろしくお願いします。雪乃さんの電話に勝手ながら出させていただきました。どうぞよろしくお願いします……!】

9ヶ月前 No.6

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬 新/警視庁内】


 気付いた時には窓の外は穏やかな朝日に照らされて淡い光を纏っていた。

 ふと目線を寄越したブラインドから陽光が漏れている様を見て、黒瀬は漸く現時刻を知る事となる。先刻の爆破事件に関する新たな書類に向かい始めて凡そ八時間だろうか、照明の強さで陽の光など掻き消された室内に作業に区切りをつけるような一つの息が吐かれた。デスクの上に置かれた既に冷めきっている珈琲の残りを飲み干す。舌に残る独特な苦味が、澱んでいた意識を叩き起す感覚がする。

 一ヶ月前、サングイスによって再三なる爆破事件が起こった。幸いにも迅速な対応、避難により死傷者はいない。だが又してもテロリストの足取りを掴むことは叶わなかった。眼下に報告書に並べられた無機質な文字列に眉間の皺が深くなっていくのが分かる。今でも犯罪者共がのうのうと息をして、武勇を讃えあっていると思うと腸が煮えくり返って仕方が無い。目の前が赤黒く染まっていく。ぶつ、と耳に籠る音が聞こえ、金属を舐めたような味を確認したところで漸く思考が冷えてきた。どうやら無意識に力んだ影響で口内を噛み切ったようだった。
 滲む血が垂れないように軽く舐め取りながら、眉間を人差し指と親指で抑える。夜通しディスプレイを眺めていた目が突然の急速に驚いたのか薄ら水分が滲み、乾いた眼球に浸透する。そういえば何時から自宅に帰っていないだろうか。荷物を取るために戻る事はあるだろうが、休息を取るためにソファに腰を下ろしたのは遥か彼方の記憶である。根気を詰めすぎるとパンクするぞと口煩い忠告を入れてきたのが誰だったのかとそれさえ忘れてしまうくらいには、周囲も諦めがついて口を挟むことはしなくなった。此方からすれば従う気もない為に好都合ではあったが。
 若干伏せられた目に手を近づけ、人差し指の第二関節で睡眠不足により浮かんだ隈を拭うようになぞる。疲労を感じないといえば嘘になるが、休む気にもなれない。奴等の事が脳裏に浮かんで、寝るに寝られない。徐にデスクに両手を付いて立ち上がり珈琲の入っていたプラスチック製のコップを掴んで部屋を出る。

 珈琲が足りないのだ。


>警視庁内ALL



【メイン開始おめでとうございます! 同時に皆様よろしくお願いします。私事により遅れました申し訳ないです。黒瀬は警視庁に置いておきます】

9ヶ月前 No.7

参加希望 @sibamura ★o0W3VsenYO_zRM

【涼宮 衛/通勤中→警視庁内】

 大勢のスーツ姿の人々が闊歩する歩道を、一人の男が歩いている。
 白いワイシャツに、ストライプの入ったダークグレーのスーツ、黒字にシルバーのラインが入ったネクタイ。道行く人々と比べてもそう変わらない彼の服装で唯一違和感を抱くものがあるとすれば、その足元だろう。彼が履いているのは、一般的な革靴でなく堅牢な作りの黒のワークブーツである。身長は180センチ前後で一見標準的な体系をしているが、見るものが見れば彼の四肢についている無駄のない筋肉から彼が何らかのスポーツ、あるいは武道をやりこんでいることが分かるだろう。頭髪はこの国で一般的な黒髪で、短かめにカットされ、セットされている。目鼻立ちは特に秀でているというわけではないが、若さから来る活力というべきか、あるいは意志の体現化というべきか、きびきびと動くその姿は快活な印象を人に与えるだろう。
 彼、涼宮衛はそういう類の男だった。
 そんな彼が向かうのは大手企業のオフィス街、ではない。彼が向かうのは官庁街。その中でも、門と壕にほど近い建物へと彼は迷わず進んで行く。建物に入る数歩前、この国を統べるお方がましめす建物に一礼し、入口に立っている警備に声を掛けて中に入る。いつものようにIDをゲートに通せば、そこはこの国の治安を守る者たちがひしめき合う場所。

「おはようございます。」

 毎朝顔を合わせる受付嬢に挨拶をしてからエレベーターに乗り込むと、自分と同じように出勤してきたであろう幾人かの男たちも我先にと狭い空間に押し入って来る。
 こんなことなら階段を使えば良かった。そう考えながらエレベーターに揺られることしばし、目的の階に到着した衛は自分の部署のオフィスに颯爽と歩いていく。
 今日も上司は徹夜で仕事をしていたのだろうか。目の下にクマがないこと姿を見たことがない上司の姿を思い浮かべながら、ドアを開けると、調度その上司が空のコーヒーカップを片手に課長室から出てきたところだった。

「おはようございます、課長。また、徹夜ですか?」

 見事な敬礼と挨拶を行った後、衛は気づかわし気に尋ねると同時に右手を差し出した。珈琲をいれましょうか、ということなのだろう。この上司が超過勤務はするのは今に始まったことではないし、今のところ仕事も正確、指示も的確だ。だとすれば、若造の自分がどうこういうよりも、自分より数倍有能な上司の自己管理に任せて、自分はせいぜい彼を支えよう。
 彼、涼宮衛はそういう考えの出来る男だった。

>> ALL様 黒瀬様


【メイン解禁おめでとうございます。なかなか書き込めませんでしたが、これからよろしくお願いいたします。】

9ヶ月前 No.8

自由 @nanamaru☆43ke11mKtUk ★iPhone=dgcL1EDLvj

【 夢月 叶羽 / 移動→警視庁 】

 ごちそうさまでした。小さくマスターに声を掛け、その若い容姿には不相応な分厚い財布から代金を取り出す。18歳になってクレジットカードなんてものも視野に入って来た頃だが、何せ手続きが面倒くさい。何をすればいいのか調べたわけでもないが、調べるのも面倒くさい。それに一応未成年なのだからどうせ親の承諾なんかも必要になってくるだろう、自分の場合誰に頼めば良いと言うのか。それならまあ数年の間くらい現金を持ち歩いていたって苦にはならない。お金をおろすのさえ面倒なせいで、いつも叶羽の財布は、はちきれそうになりながらパーカーのポケットに窮屈そうに押し込まれていた。

 そういえば、黒瀬さんは今日も徹夜だろうか。

 ふとそんな考えが頭をよぎる。自分たちが粛清すべき敵、サングイスが暴れまわっているにも関わらずそれを打破出来ていないこの状況で、仕事場にも行かず喫茶店でのんびりしていた無神経にも程がある叶羽が言うのもなんだが、あの人はやっぱり根を詰めすぎているように思う。それが彼の性格なら仕方ないだろうが、身体を壊されては元も子もない。

「 ……ねえマスター、いつものプリンをいくつか貰える? あ、うん、センパイにね、食べさせてあげようと思って。ここのとっても美味しいし! えっ、まけてくれるの? 本当に? わああ嬉しいっ! うん、感想聞いてくるよ。うんうん、また今度センパイ連れてくる。ありがとう、またねっ。 」

 センパイ、なんて濁した言葉を使ってみる。もし学校に行っているならば、こんなところで朝っぱらから悠々としている暇はないだろう。しかしそれでいてマスターは何も聞いてこない。いつもの微笑みでただ頷き、包装してくれている。やっぱり「このくらいの距離」が一番楽だ。

 マスターには何も言っていない。自分が特別高等警察第一課参謀、夢月叶羽であることも、四年前のあの日まで世間を騒がせていたテロ集団、アノニムの組織員であったことも。この関係は心地良くて、でもほんの少しだけ心の片隅に残った良心が、ほんの少しだけちくり、と痛む。

 僕の全てを知ったときに、ここの人たちはそれでも自分を受け入れてくれるのだろうかと思ったことは一度や二度ではない。でも、そんなことを考えたって仕方がないといつも途中で思考を止める。答えにはまだ、行き着いてない。答えに辿り着くのが怖いのだ。

 店のロゴが入った綺麗な紙袋を受け取り、やっと店をあとにする。時刻は通勤時間帯より少し遅め。喫茶店に入って行く頃にはスーツ姿のサラリーマンで賑わっていた街道には、石段の上で寝そべる一匹の黒猫と、ベンチに座る老人しか残されていなかった。


 もう廊下にすら誰もいない警察庁にふらりと入りこむ。パーカーにジーンズを合わせた彼のラフな服装と仕事に今からかかるとは思えない気怠げな表情は、職員というよりは、はるばる警察庁まで道を訪ねに来た子供か迷い込んで来た浮浪者にしか見えない。目にかかる前髪を鬱陶しそうに払いのけ、鼻歌を歌いながらリズミカルにエレベーターのボタンをパパンッ、と押し、自分の部署へと向かう。ドアをバタンと音を立てて開けるなり、叫んだと言っても良いような音量で口を開いた。

「 おっはよーうございまあす! 」

 溢れんばかりの笑顔とどこからか現れる謎の可愛らしい花のエフェクトを無差別に辺りに撒き散らし、自分に与えられたデスクに向かおうとする。が、そこでひとりの男が目に入った。そう、先程叶羽の頭によぎった黒瀬 新である。やはり今日もその明らかに不健康そうな顔には、長年の付き合いであろう隈が居座っていた。珈琲を飲もうと出てきた、といったところか。睡眠も食事も十分にとらずによく生きているなあ、なんて純粋になんだか圧倒されながら思う。それから、その隣で珈琲を淹れようと佇んでいるのであろう涼宮。二人に同時に声を掛けられる、これはラッキーだ。

「 おはよう、黒瀬さん、涼宮くん。ね、僕さっきそこの喫茶店行ってきたんだけどね、そこのプリンがほんっとうに美味しいの。買ってきたからね、もしお口に合わなかったら申し訳ないんだけど、良かったら食べてよ、ねっ。甘いのとかあんまり好きじゃないかもしれないけど……。多分大丈夫、あんまり甘すぎることもないから 」

 ここに自分のことを本当に味方だと思ってくれている人がどれだけいるのかは知らない。こいつは良いやつだと思ってくれている人なんて、いないかもしれない。そう思われて仕方のないことを自分はやってきた。今まで何人の命を犠牲にして、その上で何を手に入れたのかなんてよく分からない。ただ必死に生きようともがいた結果だ。まあ正義なんて立場や価値観によってすぐコロコロ変わるのだから、後悔やら反省やらそんなことはしてないし、今更そんなことをするつもりもない。けれど、そんなことは関係なしに、一方的な気持ちでも、仲間には健康でいて欲しいのだ。

 それとも、この人ならば、健康よりも、自分が生きることよりも、サングイスへの粛清が大事だと言うだろうか。でも死んでしまえば粛清どころではない。いや、それも分かった上で、だろうか。

 息抜きも大切だよ、なんて黒瀬に言っても無駄なのは分かっている。だから少しの時間でも良い、少しだけゆっくりしてもらえるように、ゆるりと自然に見えるであろう人工的な笑みを浮かべ、プリンと付いていたプラスチック製の使い捨てのスプーンを二人に差し出した。



 >> 黒瀬様 、涼宮様 、周辺All様

9ヶ月前 No.9

玻璃崎 雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎 雪乃/自宅(電話)】

浴室に反響する機械的な呼び出し音。それは比較的短い間に途切れ、中性的な声が何処か気怠げに返ってくる。声の主は深町渚砂。同じ零課に勤める同僚だ。

「おはよう、渚砂。今日はこれから私、出掛けてくるから、みんなにもよろしくね」

浴槽の壁に背を預けた体勢から、縁に両腕を重ね顎を置く姿勢に移る。肌が湯面を切れば受話器の向こうにもチャプチャプとした浮かれた音は伝播し、浴室には甘く青いローズの濃密な香りが立ち込めた。
サングイスのメンバーの会議に出席する時には、零課の誰かの元に一報を入れることになっていた。履歴が偏ることのないように、日替わりにしていたが、今のところ女性の携帯を覗こうとするなどとせせこましい事をしそうな輩には会っていない。

「なんだか、また新しい事をしようとしているみたいよ」
うふふ、と湯気に上気した血色の良い唇が笑う。また水温が響く。重ねた両腕に左頬を寄せる様はさも眠たげであるが、もうとっくのとうに目は覚めて思考はクリアだった。ぽてりとした口唇を舌で濡らして、トリートメントを漬けおいている髪を弄んだ。
仕事の為の建て前とはいえ、自分の「同志」ということになっている朝比奈藤司のことを、雪乃は心から憎からず思っていた。直向きで健気で悲運にある年下の男というのは、なんと蠱惑的なものだろう。二つの顔の何方でも「可愛い」と口癖のように嘯く彼女の言葉は、却って本気めいた現実味を伴わない。事実、「敵味方の恋」だなんて甘美な悲劇は考えてもいないのだ。愛しい者達は、可哀想だからこそ愛しいのだから。
このところ、サングイスによるテロ犯行計画はことごとく上手くいっている。去る真宿駅爆発テロ事件の犯人を血眼になっておっている一課の面々もそろそろ気付いても良い頃合ではないかと思っていた。これまで順風満帆にやってきた若者達の勢いが、たとえば誰かのミスで挫かれて、足がついてしまうことになったとしたら。その時、掻き乱すべき標的衆には一体どんな波紋が投じられるのだろう。

再び水面が大きく揺れる。一人分の体積が湯船から抜け出す無遠慮な水音が立つ。薄紅真珠のヴェールを脱ぎ捨てて洗い場に降り立つ桜色に上気した素肌を、柔らかなシャワーの雨が打つ。ガラス張りの浴室に立ち込めた春霞のような湯煙が、濛々として香のように舞い上がった。コンディショナーを洗い流し、独特のぬめりが首筋から背筋、腰から下へと伝ってゆく。無用な生活音を暫く垂れ流してからようやく、雪乃はさっきから渚砂との通話状態が切れずにそのままになっていたという事に気付いた。

「……あら……ごめんなさいねえ。何かお土産のリクエストはあるかしら?」
渚砂は女と見紛うばかりの容姿を繕いそれに似つかわしいように喋るが、本性は男である。雪乃もその事実を当然知っていたが、だからどうという事もなく、涼しい声音を上げる。

>渚砂、all


【絡みありがとうございます! お返事遅くなってしまいごめんなさいー!!(汗)】

9ヶ月前 No.10

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU


【黒瀬 新/警視庁内】



 ドアノブから伝染った金属特有の冷たさを掌に感じつつ後ろ手に扉を閉める。目線を寄越した室外の窓からは先のブラインド越しのものとは比に為らない程の朝日が差し込んでおり、目覚ましには丁度いいとも言えるだろうが腹の底から出てくる本音は鬱陶しいの一言だった。というより疲弊した眼にとっては少々照度が強すぎるのだ。過ぎた光でじわりと浮かぶ痛みによって自然に寄せられた眉根を隠すこともせず、容赦無く双眸に刺さる日差しを片手で軽く遮りながら歩みを進め始めたところで、タイミングが良いのか悪いのか部署と廊下に隔てられた扉が開いた。その先から姿を現した男────自身の部下の一人である涼宮 衛は、此方の姿を確認してすぐに若者らしい快活とした表情で敬礼と挨拶を述べた。
 言動から見て取れるように彼は市民の理想的な警察のそれと言おうが過言ではない人物だ。内部から見ても時折眉を潜める程の、権威を振りかざすしか脳の無い輩も少ないとは言えぬ環境では稀有な存在である。しかし視点を変えれば、サングイス辺りの独善的な正義に唆され易い部類でもあろう。狡猾な手にかからなければいいが。
 そんな一課の中でも特に明確な正義感を持つ涼宮は流れるような慣れた手付きで自身へと手を差し出していた。恐らくコップを持っている様子を見て己が珈琲を注ぎに行くと察したのだろう。気の回る部下だとは思うが、好意を素直に受け取るような姿勢が黒瀬にあるかといえば答えは明らかに否であり、その意思を読み取った黒瀬はやはり表情を変えること無く少しだけ伏せられた双眸を彼の視線と合わせて口を開いた。

「ああ、お早う。処理しておかなければならない書類があったからな。……これは息抜きも兼ねている、気を使う必要は無い」

 断りと共に一言ありがとう、とでも言えば感じは良いだろう。しかし生憎そんな配慮が出来るような上司で無い事は周知の事実だ。話を切り上げる形で「荷物を置いてくるといい」と彼の横を通り過ぎようとしたその時、あまり間も置かずに再び扉が開かれる。涼宮の時よりもやや力強く、言い方を悪くすれば乱暴に開けられた戸の先から分かりやすく元気の良い挨拶が響いた。異色な未成年の一課所属であり、警視庁内では嫌でも目立つパーカーにジーンズというラフな格好。見間違える事も無い、このような特徴的な存在はこの青年────夢月 叶羽くらいだ。
 元テロ組織の一員という経歴さえ普通では無い彼は一見すれば年齢通り明朗で少し抜けた部分のある青年としか思えないが、その腹の中は不明瞭の一言。反逆するような素振りを見せることがない故に、未だに元組織の象徴であるブレスレットを身に付けている事を疑問視やら問題視する意見もちらほら上がってはいるらしい。単純に過去の仲間への思慮の表れなのか、真相を知る術は無いがどうにしろ役割を果たした上で裏切らないという確証さえ得られれば特に重要視する事柄では無いだろう。
 そんな周囲の反応などお構い無しな青年から繰り出されるプラスチックに収められた甘味と、無邪気で止まることのない言葉へ「いや」やら「俺は別に」やらの断りを挟もうとするが結局は念を押されるような笑顔に負け、最後には薄い口を紡ぎ小さい溜息をついた。

「……分かった、貰おう。俺のデスクに置いておけ」

 若人の力とは恐ろしいものだ。この数分で何故か若干増えたような気がする疲労を感じつつ、夢月へと自身の職務室である部屋の方向を示して珈琲を入れ直す為に二人へ背を向けた。

>涼宮、夢月



【返信が遅くなってしまい申し訳ない。絡みありがとうございます】

9ヶ月前 No.11

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_zRM

【鳳嘉音/東雲宮・自室】

 帰る家など疾うに失した男にとって、仕事をするのに朝も昼も夜もない。
 その日も、鳳嘉音が目覚めたのは書類上の住まいとして荷物置き場にしているマンションの三階の部屋ではなく、特別高等警察零課の仕事場だった。零課の人間には各自部屋が与えられているのを良いことに、嘉音は自分の仕事部屋に立派なベッドを持ち込んでいる。それでも十分すぎる広さを持つ部屋は、和室としての景観が若干可笑しなことになっていること以外、仕事に支障をきたすようなことはなかった。
 気怠そうに起き上がり、サイドテーブルに置いてある眼鏡を手探りで掛ける。ぼやけまくっていた視界がクリアになると同時に、夢の中にあった意識も覚醒させる。
 懐かしい夢だった。まだそこに母の笑顔があった。それがもう二度と戻らないものだと思い出させてくれた。自分のやるべきことを、生きる理由を、朝から思い知らせてくれた。

 何処か温かく、そして暗く口元をほころばせた嘉音は、適当に身支度を整え始める。今日は塾講師の仕事も、零課の方で急ぐ用事もない筈だった。その辺にあったシャツに着替え、自家焙煎のブラックコーヒーで朝食を流し込む。急ぐ理由もないがのんびり一息つく理由もないので、そのままパソコンを立ち上げインターネットをを開く。
 大義名分は一切なくとも、嘉音も零課の人間であることとは変わらない。つい一月ほど前にも爆破事件があったばかりなので、世間の動き――ついでに、安野首相のスキャンダルに繋がりそうな事象――には気を配っておくに越したことはないだろう。尤も、特別高等警察によって取り締まりが強化されているこのご時世、おおっぴらにネットで情報発信がされている訳がないのだが。
 天王陛下への賛辞やサングイスへの罵倒が並ぶ画面にはさっさと見切りをつけて、メールを開く。特に誰からも連絡は入っていない。仕事の催促も、現在どこぞの組織に潜入中の仲間からの定期便もない。後者に至っては他の二人のどちらかに行っている場合もあるが、それならそれでそのうち此方にも情報が流れてくるだろう。
 キャスター付きの椅子が転がりそうな勢いで、後ろに仰け反った嘉音は大きく伸びをする。どうやら現時点で嘉音は手持ち無沙汰になってしまったようだ。
――もう暫く此処で連絡を待って、何もなければ久々に一課でも冷やかしに行こうか……。
 そんな取り留めもないことを考えながら、嘉音は規則的なリズムを刻む時計を見上げていた。

>零課ALL

【大遅刻ぶちかましてしまい申し訳ありません、しかも誰ともまともに絡めていなくて重ね重ね申し訳ありません。
 遅くなりましたが、本編開始おめでとうございます。改めて皆様よろしくお願いいたします】

9ヶ月前 No.12

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【大狼 椿/警視庁内】


 シャワーの蛇口を捻る瞬間も、頭から湯を被るその瞬間も、まるで他人事であった。ただ今は、水を弾く壁のタイルだけが認識できる現実であった。

 点だらけの記憶を、目印もないままに探っていく。件の事件について資料を纏めていた矢先、気が付くと時刻が明け方に迫っていたことは確かに記憶にある。それから、集中が切れたことをきっかけに仮眠でも取ろうとデスクを離れたは良いが、――例のフラッシュバックに見舞われて、気付けば一時間ほど警視庁内の道場にて一人稽古をつけていた、らしい。らしい、というのは、身体を動かしていたという記憶がないのだ、全く。脱ぎ捨てられたジャケットに、額から流れる汗に、ただそう結論付けただけであった。当時ほどよく身体の疲労を感じはいたが、不思議と息は上がってはいなかった。
 その覚醒しきっていない意識のままで両の足を無理矢理に引きずって、眩む視界のままシャワールームへとたどり着き、そして今に至る。

 息を止める。できるものならば、溺れてしまいたかった。
 右手で、前髪をかき上げる。細かな水滴が跳ね上がり、不意に下ろした右手甲の“それ”に、思わず視線が縫い付けられた。否、見惚れた。そのまま視線を二の腕、そして左の腰へと流していく。自身の身体を取り囲むように伸びるそのケロイドに、口角が吊り上る。見る度に、俺はケロイドに抱かれているのだと思い知ることができた。当時、傷を残しておいてと懇願したのは幼い俺であった。不審がる周囲を騙し切るだけの出まかせを、俺はもう習得していた。成長し皮膚が伸びきった先、それが両の腕のような形であると気付いた時は、俺は言い知れぬ恍惚を覚えた。そう、これは加護だ。
 シャワーの水圧を強める。この引き攣った笑い声を、シャワーの水音で掻き消してしまいたかったのだ。

 どれだけそこにそうしていたのか。足りない酸素を補おうと、早々に着替えの衣服に身を通し外へ出る。袖に、小さく冷たさを感じた。薄緑色の石のカフスリンクス。去年の誕生日にこれを俺へ贈った相手とは、二週間ほど会えていなかった。とても、会える状態ではなかった。勿論、仕事だけの話ではない。ジャケットを羽織り、――部署を目指し人気のない階段を上がっていく。
 脳裏に浮かぶのは、件の爆破事件のことであった。果たして、四年前の真宿駅爆破事件と一か月前の西上大学爆破事件につながりがあるとして、なぜ被害に差があったのか。メッセージ性があるとすれば、犯人らの思惑はどこへ向いているのか。――いや、そんなものはどうでもいい。ただ、その中の矛先の一つが俺に向けさえすれば良いのだ。

 微かな甘いにおいに鼻先を上げ、思わず足を止める。少し先で、一課の課長、参謀、部下の涼宮の三人がなにやら会話をしているようであった。参謀の姿に無意識に部署内の時計を見遣る。どうやら、デスクを離れてかなり経っていたらしい。

「……おはようございます」

 デスクへ向かう間、三人へと頭を下げた。ここに居る一課全員と、俺の目的は同じである。しかし、真の目的を果たすことにおいては、己へ向く評価を欺かなければならない。通り過ぎる中、握りしめた右手の革のグローブがみしりと鈍い音を上げていた。そう、“悲劇”に浸り切るには満ち足りた日常を守り続ける必要があるのだ。


>黒瀬、涼宮、夢月、ALL
【遅くなりましたが、本記事解禁おめでとうございます! 皆さんよろしくお願いします!】

9ヶ月前 No.13

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_zRM

【涼宮 衛/警視庁内】

「はい、了解です。」

 珈琲をいれるという彼の提案を断った黒瀬の言葉を、衛は特に感情の動きもなくそのまま受け取った。黒瀬という男の元に配属されて数か月が過ぎたが、この男の行動には、少なくとも部下に対しては悪意はない。ただ彼が不要だと考えたから断った、それだけのことなのだろう、その程度に彼の態度を解釈できるほどにはこの上司に慣れてきていた。
 黒瀬の言葉に従って荷物を自分のデスクに置こうとすると、

『おっはよーうございまあす!』

 黒瀬のそれとはまったく逆の元気な声量が一課に響き渡る。声の主を見やれば、予想と違わず夢月叶羽だった。一見すると華奢な少年にしか見えない彼がどうして精鋭である一課に在籍しているのか、衛はその理由を知らないし、知る必要もないと思っていた。夢月の作戦立案能力は確かなものだし、情報処理能力も衛とは比較にならない。だとすれば、彼を疎外する理由など衛にはなかった。

「ありがとう、いただくよ」

 こちらにプリンとスプーンを差し出してくる夢月の手からそれらを受け取ると、衛は笑みを浮かべた。正直甘いものが好きなのである。と、

「大狼さん、おはようございます。」

 こちらへと声を掛けたもう一人の同僚に返事を返す。右手に革製のグローブをはめた大狼は、こちらへの挨拶もそこそこに自分のデスクへと向かっていく。
 そんな三者三様の上司と同僚の行動を見つつ、衛は給湯室へ向かった。
 ティーポットとカップへと湯を注ぎ、十分に温まるのを待つ間に戸棚から私物である紅茶の葉の入った缶を取り出して蓋を開ける。そのころにはティーポットとカップも温まっているので一度湯を捨てて、ティーポットに3人分の新しい湯と紅茶の葉を入れる。ほのかな香りが給湯室に漂い、彼の鼻腔をくすぐる。
 一課では黒瀬を始めとして珈琲党が多いようだが、衛はどちらかというと紅茶党であった。そのためにわざわざ私物の紅茶を持ち込み、朝にはコーヒーの代わりに紅茶を飲むことにしているのである。
 十分蒸れたことを確認すると、三人分のカップに茶こしを使いながら丁寧に緋色の液体を注いでいく。最後の一滴まで注いだことを確認すると、衛は三つのカップを盆に乗せてオフィスへと戻っていった。

「はい、夢月くん。プリンのお礼にしては安いけど、どうぞ。大狼さんもよかったら。」

 そういって、二人へと紅茶をすすめるのだった。

>> 一課ALL様

8ヶ月前 No.14

自由 @nanamaru☆43ke11mKtUk ★iPhone=dgcL1EDLvj

【 夢月 叶羽 / 警視庁内 】

「 いえいえ、ふふ、なんだか嬉しそうな顔してくれて良かったあ。」

 警察官の鑑のような性格をした涼宮が、明らかに甘そうなものを笑顔で受け取ってくれるとは意外だった。

 いやよく考えてもみろ、こんな大人の男ばかり集まった職場に誰がプリンなんて持っていくのだ。自分が好きだからと思わず買ってしまったが、冷静に考えればちょっと不適切だったかもしれない。まあ自分が好きなものを他人にあげるわけだから、こちらとしても悪意があるわけではないわけで、もうやってしまったことは仕方ない。少数派かもしれないが、こうして喜んでくれた人もいることだし。

「 ん、わかった。 」

 黒瀬の指の動きに合わせて頭をそちらへ向けていき、その指が彼の部屋を指し示していると途中で理解すると、また笑顔で相槌を打つ。安堵の笑みと、嬉しさの笑み。くるりと爪先立ちでターンして、珈琲を淹れ始めた彼に背を向け、彼と丁度背中合わせになり、彼の部屋に向かうことにした。

 なんだかんだ言っても叶羽は参謀でしかない、果たして課長室に入っても良いものか。そんな思考が頭を過らないことはなかったが、一秒と経たないうちに、まあ許可あるんだしいっか、と考えることを放棄する。気楽な頭は無意識のうちに鼻歌を歌うようにと命令を下した。

 もう片方のプリンは誰かの席に置かせてもらい、黒瀬の分のプリンの蓋に、使い捨てのスプーンを人差し指でくっつけ、スキップしながら彼の部屋へと向かう。課長室なのだからマイスプーンとかそういうのもあるかもしれないが、まあ好意として付けておくに越したことはないだろう。

 ガチャリ、無機質な音がしてドアが開く。立派な部屋だ。ここで彼はずっとずっと過ごしているのか。眠ることも少ないだろう、せいぜいさっきのように珈琲を淹れにそこに出るくらいで、外出なんてここ最近ずっとしていないのではないだろうか。これはいけない、今度是非あの喫茶店に連れて行かねば。謎の使命感に駆られながら、珍しく緊張した面持ちで一歩、足を踏み入れる。支えをなくしたドアがパタンと閉まり、辺りには静寂が立ち込めた。なんとも言えない気まずさを独りで感じ、黙って指定されたデスクにプリンを置くと足早に部屋をあとにする。静けさは、嫌いだ。

「 おお、大狼さんおっはよーう! ね、ね、今ふたりには渡したんだけどね、プリンどーう? お口に合わなかったら申し訳ないんだけど、甘すぎることもないから、良ければ一口だけでも食べてみて。もしアレだったら捨ててもいいから、ね! 」

 大狼の姿を見つけるなり、彼の大人しめの挨拶を半ば遮るようにして弾んだ声を上げる。先ほどと同じような宣伝文句を口にしながら、お洒落な紙袋から出したプラスチック容器を頬の横で軽く振って見せた。

 自分のデスクに座ると、ううーと小さな呻き声を上げながら伸びをする。今日もまた相棒──要するにパソコンだ──と一緒に過ごすことになるのか。流石に目が痛い肩が凝るしんどい。黒瀬の前では死んでも言えないような言葉が頭を巡る。本当にあの人はどうやって生きているのだろうか。純粋に疑問だ。

 キィ、またオフィスの扉が開く。くるりと椅子を回してドアの方を振り向くと、涼宮が紅茶の入ったカップを運んできているのを見てガタン、と音を立てて立ち上がった。

「 わあ、涼宮くんおかえりなさーい! わわっ、すっすごい、これ自分で淹れたの……? お返しなんて気にしなくて良いのに。でも、ありがとね。 」

 満面の笑みで台詞を並び立てお礼の言葉を述べると、カップに手を伸ばし、立ったままそろりと口をつけた。猫舌だから、ちょっと待ってね、と困ったように眉を下げて笑みを浮かべると、ふうふうと表面に息を吹きかける。

 正直に言えば紅茶は苦手だった。

 口に入れたときに広がるあの苦味だ。紅茶好き諸君はきっとそれが美味しいのだと言うに違いないが、苦いものが苦手な甘党にとってそれは風味でもうまみでもなんでもない、ただの苦痛である。牛乳に紅茶を少し混ぜたレベルのものなら絶対に美味しいとは思うのだが。

 それでも、せっかくの好意を無駄にするわけにはいかない。僕だってプリンいらないって言われたらちょっと悲しいもの。まあ好きじゃないのならしょうがないけれど。

 美味しい。涼宮くん紅茶淹れるの上手いね、プロみたい。そんな言葉を相手に掛け、少しずつ紅茶をすする。

 ブレスレットと鎖が擦れて、ジャラリと濁った音がした。


 >> 涼宮様 、黒瀬様 、大狼様 、周辺All様

8ヶ月前 No.15

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 喫茶店ローダンセ 】

いつの間にか喫茶店に現れていた天野を遠巻きで眺めつつ、突然鳴ったドアベルの音に反射して顔を上げる。
「あ、おはようございます。朝比奈さん」
そう言葉を零す正太の視線の先には大悪党の頭領、朝比奈藤司の悪そうな笑顔があった。いつもより彼の顔がスッキリしているように見えるのはゆっくり睡眠を確保出来た証拠だろう。西上大学爆破の後始末を終え、サングイスはようやく平穏無事な生活に戻ったようだった。というのは他の仲間から聞いたことであって正太の知るところではないのだが。

「ええ、この不味い珈琲を飲みたいんですか?」

久しぶりの注文に、朝比奈に頭を撫でられることに一切の抵抗を見せないまま正太は顔を顰める。
決して良いとは言えない独特な香りを発し続けるそれを眺めながら「まあ朝比奈さんがそれでいいならいいですけど」とぼやきつつ、正太は新しいものを用意し始めた。
しかし頼まれたとはいえ、不味いと知りながらそれを出すのは少々気が引ける。今度こそ失敗しないように、そう心の中で念じながら再び淹れるもやはり結果は同じことで、また生み出してしまった未知なる濃褐色を申し訳なさそうに朝比奈に手渡した。正太は彼の反応を見まいと視線を落とした。

「そういえば僕が居候を始めてから今日でちょうど一カ月が経ったんですよ」
空気を変えようと正太は壁掛けのカレンダーを指しながら話題を変える。
「本当に、特高の人たち追ってきませんでしたね」
そう呟く正太の目は感心の色に染まっていた。
目の前の男は大悪人であるはずなのに、この奇妙な共同生活は人の感性を捻じ曲げる力でもあるのだろうか。今では朝比奈をどこにでもいる、頼れるお兄さんのようにしか捉えられない自分がいた。
結局あの世にも恐ろしい特高警察を物ともせずに犯行をやり遂げたサングイス。やはり「国家一級」の名は伊達ではないようで、最初に抱いていた疑念や不信はいつのまにかどこかへ消え去っていた。


>風香さん、朝比奈さん、周辺おーる様

8ヶ月前 No.16

かささぎ @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【 吾妻 純 / 屋外→喫茶店ローダンセ 】

 十二月の空気は日中といえど冷たい。吾妻純は首に巻いた藍色のマフラーに顔半分をうずめ、細い両手をコートのポケットに突っ込みながら足早に歩道を歩く。クリスマスからまだ一日しか経っていないにもかかわらず、街に昨晩までの喧騒や、あの特別な雰囲気は微塵も残っていなかった。目前に迫った年末の空気が、ただただ人々を急かしているようで。せかせかと歩く人々の合間を縫って、純は一人うつむき加減で脚を進めていた。
 吾妻純は、天京都の私立大学に在籍する学生であり、テロ組織、サングイスのメンバーでもある。そして、その二つの顔以外に、彼にしか知り得ないもう一つの別の顔があった。
 殺人鬼。それも、残忍な方法で人の命を奪う、通称「特高狩り」の犯人。それが彼の三つ目の顔だった。
 その細い指は幾度も引き金を引き、その耳は幾度も悲鳴と銃声を聞いた。その瞳は何度も飛び散る花弁の如き赤と、事切れた被害者の青白い顔を見た。そしてその口で、彼は嘲笑う。行き場のない憎悪を復讐心を標的に向け、叶わぬ恋慕にも似た羨望を自身に向け、ひとを殺しては自己満足に浸るのだ。その狂気の果にあるものが何なのか、最早彼自身にもわからないだろう。
 しかし、これを続けることが、彼が彼であるために、必要なことなのだ。

「――くしゅんっ」

 ふと、立ち止まれば、彼の口から小さなくしゃみが溢れた。だんだんと風が強くなってきているのがわかる。数度頭を振れば、長めの前髪がふるふると揺れた。早いところ風が防げる場所へ行かなければ。純は先程よりも歩く速度を早める。
 数分してたどり着いた其処は、サングイスの隠れ家である喫茶店「ローダンセ」だった。実家を出て暮らしている純にとって、最早実家の様な場所である。客は、他のメンバーはいるだろうか? かじかむ指先を伸ばし、喫茶店の扉を開ける。

「――しつれい、します」

 おずおずと頭を下げ、マフラーでやや籠った声で挨拶をしながら、純は店内へ脚を踏み入れた。其処には、つい一ヶ月前の大学爆破事件の際に保護した是枝と、同じメンバーでありマジシャンの天野、そしてサングイスのリーダー、朝比奈の姿があった。きっと誰もいないだろうと半ばあきらめていただけに、純は数度目をぱちぱちとまばたきさせた後、三人よりもやや離れた位置にある四人がけの椅子にゆっくりと腰をおろした。

「誰も居ないかと思ってたので、ちょっとびっくりしました」

 ふわりとした笑みを浮かべながら、首に巻いていたマフラーを取り、コートを脱ぐ。店の暖房が心地よく、純は日に当たる猫のように一度、大きく伸びをした。

>正太くん、風香さん、藤司さん、おーる 【大遅刻も甚だしい……顔出すのがめちゃくちゃ遅くなってしまって本当にすみません……。これから宜しくお願い致します……】

8ヶ月前 No.17

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬 新/警視庁内】


 続々と現れる部下達から踵を返して、大狼の挨拶に対して、顔は向けずとも此方も短くおはよう、と返答を投げながら和気藹々と飛び交う声を背後にコーヒーメーカーのスイッチを押した。少しずつ独特な、どこか落ち着く匂いが鼻を掠め始める。
 即座に出来るものでもなく、手持ち無沙汰になるだろうがコップを台の上に置けばプラスチック特有の軽い接触音が耳に入る。後ろでは涼宮が、入れた紅茶を菓子の礼だと夢月に渡しているであろう会話が聞こえて、何時だったか何処かの喫茶店で試しとして飲んだ紅茶の甘さに眉を顰めた記憶がぼんやりと思い返された。元来甘味がそれ程得意で無いのに同僚の勧めだったそれを一度だけだからと特に考えもせず頼んだのだ。今から思えば彼奴は相当の甘党であって、そこから想定すれば招かずとも予測できる結果だったというのに。今でも容易に思い返す事が出来るあの舌に残るようなざらついた甘さは、己にとっては十分すぎるくらい苦い思い出になっている。
 そんな内に籠っていた意識はカチ、とコーヒーメーカーのスイッチが戻る音で漸く戻された。慣れた手つきで置いていたコップへと定量注ぎ、冷ます為にほんの少しだけ息をかけて口に含む。独特な苦味が染み込むように喉の奥へと流れ落ちていく。
 背後を振り返れば先程まで雑談に興じていた者達が少しずつ職務へと戻って行く姿が見えた。先の光景だけを見れば朗らかと称する事が出来るであろう彼等は、一度切り替えが入れば他の人材とは一線を画すと言っても過言では無い有能揃いである。

 豹変して真面目な様相でディスプレイへと向かう彼等の姿を眺め、自身も既に飲み終わったコップをぐしゃりと握り潰して職務の続きに戻る為に課長室へと戻る歩を進めながら手近なゴミ箱に落とした。

 さあ、卑劣で憎むべき犯罪者を引き摺りださなければ。


>警視庁内ALL


【大遅刻した挙句すごい絡みにくい文を落としてしまったのですが、そろそろシーンが変わるかな? という甘い考えの上のレスです。申し訳ない】

8ヶ月前 No.18

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【大狼 椿/警視庁内】

 遠ざかる課長である黒瀬の背を見ながら、少しだけ長く目を閉じる。あの目の向かう先を想像しては、皮膚が小さく震えるようであった。ただ現時点においては、この正体が畏怖に似た武者震いであるとそう勝手に結論付けるほかない。俺の抱く全てを知りたいという思いは、最早職務などを超えた場所にまで到達していた。
 ふと、弾むような声が自分の名を呼び止める。小さく肩を浮かせるように声に反応しては、夢月が此方を見ながらプラスチック容器を手にしていた。――プリン? あまりにもこの場の空気からかけ離れたその単語に、思わず小さく復唱をしていた。それでも夢月の気遣いにやっと気が付いては、ぎこちなくとも口元が自然に緩む。

「甘いものは苦手ではないのですが、あまり好んで買う機会がなくて。ありがとうございます、頂きます」

 夢月からプリンを受け取りながら、一瞬紙袋へと視線を落とす。洒落たデザインに、見覚えがあった。確か、前に一度彼女がこの紙袋を手に持っていたことがあったはずだ。それにしても、昨夜からは何も口にしていない。どうも口に何かを運び入れることすら億劫で、ついに朝を迎えるまで食事については何も意識を向けずにいた訳だが、こう差し入れを貰うというのは嫌いではなかった。いつも夢月にはこうした部分でも世話になっている。自分にはお返しとなるような物は今は生憎持ち合わせていない。今度外に出た時にでも食事を奢ろうか。そう脳内で独りやり取りをしながらデスクへと向かう途中、室内を漂う花に似た香りに涼宮の姿を連想した。よく涼宮が給湯室で紅茶を蒸らしているのを見かけたことがある。が、今回はどうやら俺にも淹れてくれたらしい。

「嗚呼、すまないね、ありがとう。……たまには紅茶も良いですね」

 左手にプリンを手にしたままで、右手で涼宮からカップを受け取る。そして、そのまま顔へ近付けて熱とともに濃く漂う香りを静かに吸い込んだ。普段は缶珈琲で済ませてしまう自分にとって紅茶は、ましてや淹れたての紅茶を飲む機会などほとんど無いに等しかった。それでも、このどこか荒む心を撫で付けるようなこの香りには涼宮らしさが表れているような気がした。捜査のスタイルにしても自分とは正反対と言っても過言ではないが、それは身の回りのこうした一つ一つに対しても同様であるようであった。

 デスクにプリンと紅茶を置き、静かに腰を下ろす。それから、視線を動かすことなく一課所属の一人一人の動向を探るように神経を張り巡らせた。キーボードを叩く音、書類を捲る音、椅子を引く音、小さな雑談、混ざり合っていたそれらの音が、段々と位置の把握とともに音が個々でまとまっていく。自分もパソコン内で記録をまとめるふりをしつつ、今この瞬間に爆破事件を起こした犯人たちが何処で何をしているのか、脳内にある過去のデータからそのような妄想の展開を開始していた。


>警視庁内一課ALL

8ヶ月前 No.19

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU



【黒瀬新/国会議事堂付近】



 大日本国、嘗て勃発した大戦の勝国。その行く末を示す為に生まれた白の大厦は今、普段ならば考えられない静寂に包まれていた。広大に範囲を取った規制線の周囲では警察と思しき人影が足早に歩を進め声を交わす姿や、部外者が規制された内部に入り込まぬように目を光らせた様子が伺える。誰も彼もが貼り付けている強ばった表情は、緊迫と現状の重大さを体現するかのようだ。

 ────昨日、特別高等警察第一課の本拠地である警察庁に一通の手紙が送り付けられてきた。送り手は、記憶に新しい西上大学爆発事件の首謀組織である『サングイス』。内容は明日、十二月二十九日に国会議事堂を爆破するとの事だった。様々な主要施設への破壊行動を実行してきたテロ組織からの、幾度目の挑戦状だ。
 警察庁内に駆け巡った騒然とした声の中無機質に並べられた爆破予告の文字列に、落とした視界が、滴る血涙のように赤く染まっていく錯覚を覚える。今度は、今度はと、まるで追いかける事を楽しむ子供のような、追い手をおちょくる脱兎のような。奴等は国家転覆の為と称した犯罪行為を容易く重ねられるのだ。
 表面上は堅く閉ざされて変化のない口内で、ギチリと上下の歯が激しく擦れる。正義と定めれば、見えぬ死はやむを得ない犠牲と宣うか!

 ダン! と予告状と共に掌をデスクに叩きつけ、その音に一瞬だけ静寂を下ろした第一科のオフィスへと視線を上げる。その目は獲物を前にした獣のように、しかし理性を持して官憲らを見据えた。

「……至急、対策本部を設置。対策内容の立案と企画を」

 ────────、

 現在特高により、付近含めて国会議事堂の全閉鎖、立ち入り管理とテロ組織の人員捜索が行われている。遠隔からの爆破だろうが、操作範囲は限られているだろう。周囲に潜伏が可能でありそうな場の候補を事前に数件上げておき、人数配置を分けて捜索に当たっている状態だ。緊張が流れた昨日の、あの瞬間と同じ様に、張り詰めた表情を浮かべて黒瀬へと向かう一課の者らを、影の落ちた双眸で捉える。
 これは戦争だ。何の利さえ齎さない、唯只管に空虚な戦。だが分かってはいても歩みを止める事は出来ない。例え精根尽き果てようが、泉の如く湧き上がる憎悪が、ガラクタと化した身体さえ引き摺って進むだろう。

 仇敵の喉笛を、引き裂くまでは。

「次の機会などという甘い考えは捨てろ。此処でサングイスを捕らえ、確実に息の根を止める。────これ以上の奴等の暴挙を許すな」

 各々異なる思惑と決意を孕んだ視線を前に、特別高等警察第一課長の、灯台に目を潰された憐れな男の鋭い声が火蓋と共に落ちた。


>>特高ALL


【遅ればせながら第二章の開始文を落とさせていただきます黒瀬です。サングイス、一課、零課の皆様よろしくお願いします】

7ヶ月前 No.20

朝比奈 藤司 @brillante ★iPhone=gVxn3hDnp0

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7ヶ月前 No.21

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 喫茶店ローダンセ(回想) → 公園 】

 いつもとリーダーの様子が違う、と周りは言うが正太にとっては何のことだかさっぱり分からなかった。
 確かに朝比奈は自身が注いだ珈琲を口に入れた瞬間、顔色を変えた(ような気がした)が、それが理由だとはとても思えないし、何より珈琲の味はーー残念なことにーー今日も今日とて変わらず不味かった。

「な、なあ。爆破って簡単に言いのけたけど、具体的には何をするんだよ?」
 朝比奈が突然に宣言したあの日、戸惑う正太は近くにいたメンバーに小声で聞いてみた。
「なあに、簡単だよ。リーダーと副リーダーがちょいと魔法≠使って標的(ターゲット)に細工をするのさ。そしたらあっという間にボンッ、どんなもんでも一瞬で木っ端微塵だ」
 そう言って男の人は楽観的に両腕を大きく広げて爆発を再現した。それを苦々しい顔で受け止めると、正太は小さな溜め息をついた。なるほど、この人たちは朝比奈という人物をとても信頼しているものの、詳しいことは正太同様、何も知らされていないらしい。いくら何度となく国家反逆行為を成功させてきたテロ組織サングイスでも、結局は素人の集まりなのかもしれない、と正太は心の中で思った。やっぱりすごいのはリーダーの朝比奈とその参謀である雪乃なのだろうか。
「まあそう気負うなって」
 楽観的な男は正太の肩に腕を回した。
「百戦練磨の俺たちが負けるわけないから。新人ちゃんは大人しく見てな」
「はあ」
 正太は不安だった。いくら一ヶ月前に彼等のテロ行為を身を以て体験したとはいえ、そう何度も上手くいくとは到底思えなかった。

 実はサングイスに身を置くようになったあとも、正太は皆に隠れて特高警察を訪れていた。まったく音沙汰のない姉の行方を尋ねてはお茶を濁され門前払いをくらう。いつもその繰り返しだったが、正太は諦めずに何度も何度も警察庁に足を運んでいた。
「……なんなんだよ、ちくしょう」
 十数回目のある日、正太は飲み干した缶ジュースを地面に叩きつけた。カラン、と鳴り響く乾いた音に虚しさを覚え、正太は黙ってそれを拾い上げる。姉が心配だった。それだけなのに、今回も特高警察は何も教えてくれなかった。帰ってこなくてもいい、ただどこかで元気にやっているのだと分かればそれで十分だった。それだけなのに、この国の警察はそれさえも教えてくれないのか。
 缶の凹んだ部分をそっと指でなぞりながら正太は考える。あまりの理不尽さに、腹の中ではふつふつと怒りが込み上げていた。
 正太が歯ぎしりしている間にも、サングイスは着々と次の国会議事堂爆破に向けて準備を進めていた。朝比奈も、雪乃も、皆が忙しなく「何か」をしていた。それを遠巻きに見ながら、正太だけはいつも通り喫茶店でぼうっと突っ立ってるだけだった。
 ーーみんな自分のため、仲間のため、未来のために一生懸命頑張っている。
 正太は思う。
 ーーそれなのに俺は一人、呑気に喫茶店で珈琲を注いでいるだけでいいのか。
 正太は手に持ったポットを強く握りしめた。そんなわけがない。これでいいはずがない。顔を上げた彼の瞳には固い決意の色が浮かび上がっていた。

「朝比奈さん。俺にも何かやらせてください」
 国会議事堂を爆破させる前日、正太は思い切って朝比奈に懇願した。ついさっきまでただの大学生だった自分が何か役立てるとは到底思えない。しかし姉を探し出すためには自分も動かなければいけないのだと強く思ったのだ。


>朝比奈さん、サングイスALL

7ヶ月前 No.22

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_xmq

【涼宮 衛/議事堂付近】

 サングイスから予告がなされた議事堂付近、普段は観光客などが行きかうことが多いこの付近も本日ばかりは制服や私服の警官が随所に配置されて凛然とした空気に満ちていた。
 そんな中に涼宮衛もいた。いつものジャケットを着ているが、その表情はいつもの穏やかなものとは違う張り詰めたものであった。それはそうだろう、ほとんど形骸化しているとはいえ民意の象徴たるここを破壊しようなどという予告があったのだ。それに対して彼の胸の中は憤りと緊張とで満たされていた。

「こんなことをしてどうしようというんだ、連中は。」

 思わず言葉が口をついて出る。彼らの意図など彼には推測するしかないが、今回の行動にどんな意図があるのかは彼には測りかねた。彼にわかるのは、もし彼らの計画が実行されればこの国が大きな混乱の渦に巻き込まれるということだけ。そしてそれは、多くの罪のない民が被害を被むるということを意味していた。

『「次の機会などという甘い考えは捨てろ。此処でサングイスを捕らえ、確実に息の根を止める。────これ以上の奴等の暴挙を許すな」』

 黒瀬の激が飛ぶと同時にそれぞれの捜査員は敬礼をして持ち場に散っていく。そんな中、一人残った衛は黒瀬に自分の疑問を投げかけてみた。

「課長、課長にお尋ねしても答えが出るかどうかわかりませんが。やつらは何が狙いでこんな予告を出したのでしょうか?」

>>黒瀬 1課ALL様

7ヶ月前 No.23

自由 @nanamaru☆43ke11mKtUk ★iPhone=dgcL1EDLvj

【 夢月 叶羽 / 国会議事堂付近 】

「 あーあ、また始まっちゃったあ 」

 緊迫した空気の中で、間の抜けた軽い声を発する。
嫌でも無口になってしまうか、鋭い声が飛んでしまうようなこの状況で、叶羽のそれは日常的に出している声質となんら変わらないものであった。もちろん死に物狂いで捜索にあたっている特高一課の警官たちに、その呟きが拾われることもなかったのだけれど。

 ため息をつくと、それは白く変わる。寒いのはあまり好きじゃない。職場の空気に押し出されるようにしてふらふらと現場まで来てしまったが、やっぱり十二月の東京の冷気は愛用している極暖のヒートテックとパーカーだけで凌げるほど甘くはなかった。ポケットに片手をつっこみ、マフラーを耳が隠れるくらいまで上げる。そうしてもう一回ため息をつくと、今度はマフラーに遮られて息は白くならない。代わりに、冷たくなった肌を自分の吐いた湿っぽい暖かな空気が包む。
 ふう。三回目のため息で、叶羽は警官たちが走り回る現場の輪から少し離れて、警備はされているものの特別警戒はされていないのだろう、警官の少ない場所の外階段に腰を下ろした。

 自分のことを参謀として疑っている人がいるのは事実だ。それもあって、そこそこ成果を発揮しないと立場的にまずいのだが、しかし特にこれといってサングイスの壊滅を死ぬ気で目指す目的が叶羽にはない。ただ、一課に拾ってもらわなければ自分はもう自由に生きることなんて出来なかっただろうから、その恩義に乗じているだけで。

 サングイスから送りつけられてきた挑発状をデスクに叩きつけた上司の姿が目に浮かぶ。あの獲物を捉えようとする獣のような血走った瞳。
 本来ならば、参謀である自分は一課長に助言し、導いていくといえば烏滸がましいが、何せ隣で助けなければならない立場だ。参謀はそういう仕事。昔もそうだった。リーダーは、何かあるたびに自分を頼った。完璧なあの人は、頼る必要なんてないのに、必ず叶羽の意見を問うた。聞き終えれば、必ずその意見を採用した。失敗することはなかった。失敗したのは、「最後」のあのときだけだった。自分の立案がよかったのか、実行するメンバーがよかったのか、リーダーの統率力がよかったのか、それともリーダーが責任転嫁を求めて参謀に作戦を一任していたのか、それはもう確認のしようがないけれど。
 でも黒瀬は、助言さえ必要としていない気がするのだ。「 必ず自分がサングイスを潰す 」、そんなかたい意志が、じっとこちらを冷たい瞳で見つめている。
 少し不器用なところもあるが良い人だ。少なくとも叶羽はそう思っている。でも、声を掛けることはできない。自分みたいなただ環境や他人に流されてきた甘っちょろい奴が、こんなに強い意志を持った人に助言なんかしちゃいけない。そう思って、出かけた言葉を呑み込んでしまう。
 出来る限り情報収集はしているし、作戦立案だってきちんとやっている。でも、現場での判断は任せっきりだ。指揮官は黒瀬なのだから当たり前だと言えば当たり前なのだが、それでも現場の状況を把握し最高の作戦を導き出し、黒瀬に伝えるのは自分の仕事。もちろん最終的な判断を下すのは一課長だけれど、叶羽にも大日本国特別高等警察第一課参謀としての自負はある。それでもやっぱり、思ったことを口に出すことはできない。

 今日何度目のため息をつく。自分が情けないとか思いつつ、でもそんなの当たり前じゃんとか妥協したくて、でもそれが癪。独りで勝手に苛立ちながらポケットにつっこんだ片手をスマートフォンと共に引っ張り出し、かじかんだ指先で画面を操作する。何の変哲もないニュース紙だ。 見たところで特に意味はない。ただこのみんなが慌ただしく動き回っている中で独りだけ何もしていないのが気まずくて、ニュースでも見ていればそれっぽいんじゃないかという叶羽なりの結論に達したわけだ。周りからすれば、どこからどう見ても緊迫した空気の中スマートフォンをいじるKYな最近の若者、になってしまうのだが。

「 ああ、そうか 」

 翠色の瞳がきゅっと猫のように細められる。冷たい風が頬をよぎり、マフラーがたなびく。階段から立ち上がる。何をどうするわけでもない、こんなどうでもいい情報なんか誰にも伝えなくていい、というか気付いている人だって多いはずなのだ、ニュースなんかになる前にわかっている人だって少なくはないだろう。どうでもいい情報とはつまり、希少性の低い情報のことだ、当然すぎてみんな気付いているようなこと。

「 ……自己顕示欲? やだなあ、子供じゃあるまいし 」

 ぼそりと吐き出した言葉は、風に拾われて冬の空へ消えた。


 >> 周辺ALL様


【 めちゃくちゃ絡みにくい文章になってしまいました、すみません…! 】

7ヶ月前 No.24

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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7ヶ月前 No.25

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【大狼 椿/国会議事堂付近】

 昨日のあの時より、何一つとして己の喉を通るものはなかった。生命活動を維持するための水分摂取すら、この身は拒んだのだ。眠りに落ちることすらも拒んだ鏡に映るこの姿は、まるで病人のようであった。それでも落ち窪んだ眼孔は、高鳴る心臓に呼応するように揺れているのだ。そう、未だ彼らから送られたあの記号の羅列のような冷たい文字列に尚も意識が引力のように持って行かれるのだ。無意識に、人差し指を唇に当てる。呼吸すら上手くできない程に、焦がれていたのだ。あの予告状は招待状であったのだと、即ち彼らに呼ばれているのだと、そう独り結論付けていた。


 現場には、既に大勢の警察官達が配置場所へと就いているようだった。視界の端を見慣れた制服の数人が駆けていくのが見える。仮に爆弾の起動を遠隔操作で行うとして、彼らは今此処に居るのだろうか。この何処かで、自分たちを見ているというのか。寒さではないその感情により、ぶるりと肩が震えた。周囲には一課の面々が、そして目の前には課長の黒瀬の普段と変わることのない姿が移る。この上司の両の目には、近しいものを感じていた。乾燥でひび割れた下唇を舌でなめる。今はまだ同じ場所に立っているが、いつか意志がたがうようになる日が訪れるのだろうか。いや、案外それは遠くない出来事になるやもしれない。どうも先程から、自分の中の第六感のようなものが静かに騒ぎたてている。本日になにかが変わるのだと、そう告げているようなのだ。

『次の機会などという甘い考えは捨てろ。此処でサングイスを捕らえ、確実に息の根を止める。────これ以上の奴等の暴挙を許すな』

 無言のまま黒瀬を見据え、敬礼を行う。その後は踵を返し、指定された持ち場へとその足で向かった。此処に来て漸く、外気の寒さを自覚し始めた。両手を組んで、関節を伸ばしていく。いつか訪れるだろうその時に向けて、常に準備を行っておかなければならない。サングイス。未だ見ぬその組織の名を、喉の奥へと隠した。
 黒瀬からは彼らの息の根を止めるとは言われたが、もし此方で一瞬でも身柄を確保するのならば、その前に語る口は奪わないようにしなければならない。歯向うために必要な四肢と精神も残しておいてやらねばならない。どこまで痛めつけ、どこまで痛めつけられようか。持ち場の到着と共に足を止める。それから深く息を吐き、周囲を視線のみを動かして見渡した。危険となりうる身内の存在を先に把握しておかなければならない。
 ふいに、腰のポーチにぶら下げた小型無線機が小さく呻るような音を出し始めた。

「こちら大狼、指定の場所へ着きました。これより周囲の警備を開始します」

 所詮、申し訳程度の連絡である。これから起こる全ての事象を逃さないようにしなければならない。――今この瞬間は、一課所属の一警察官として。


>ALL
【第二章の開始おめでとうございます! 一課の方々は引き続き、零課・サングイスの方々は改めてよろしくお願いします!】

7ヶ月前 No.26

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【鳳嘉音/東雲宮・自室→国会議事堂前(移動中)】

 年の瀬だというのに、今日も今日とて嘉音は零課の仕事場にいた。しかも、ただ無為にパソコンの画面を眺めるでも、持ち込んだコーヒーメーカーを弄くり回すでもなく、至って真剣な面持ちで図面を睨み付けていた。平たく言えば、珍しく本気の仕事をしていた。
 彼が今目の前にしているのは、そうそう世間には出回っていない代物――詳細な国会議事堂の設計図である。勿論コピーだが、国家転覆を狙うテロリストなら垂涎の品だろう。それと赤ペンを手に、ブツブツ呟きながら書き込みを行う嘉音の様子は、爆破テロの計画を入念に練っているテロリストそのものだが。
「……まぁ、こんなもんだろうな」
 設計図に幾つ目かの丸をつけながら、嘉音は独り言つ。
 彼が行っているのは一つのシミュレーション、即ち『自分が国会議事堂を爆破するなら何処を狙うか』を真剣に考えていたのである。目の敵にしている首相を巻き込む前提のお遊び要素もあったが、建物の構造に関しては膨大な知識を持つ嘉音の考えは、強ち役に立つ……と思いたい。少なくとも立たないことはない。
 サングイスによる国会議事堂の爆破予告が発表される少し前から、嘉音は嬉々としてこの仕事に取り組んでいた。現在争いの渦中に居るであろう組織に居候中の同僚から爆破計画がリークされると、嘉音は直ぐ様図面を取り寄せさせた。それから今までにらめっこを続けていたのである。
 嘉音本人としては、学生時代に思い描いていた夢――安野首相の晴れ舞台を目茶苦茶にするという、夢と呼ぶには些か後ろ暗い代物――が現実になったようで少し嬉しかったのは、当然秘密である。

「おい、終わったぞ」
 部屋の外へと嘉音が声を掛けると、扉の前に控えていた男が入ってくる。彼が自分付きの使用人だったか政府高官の誰かだったかその使い走りかを、嘉音はもう覚えていない。兎に角彼は、入室してきた黒服の男性に、自分が書き込みを加えた設計図のコピーを放り投げた。
「派手に行くなら正面入口だな。まぁ、警備が固すぎて設置しようと考える馬鹿も居なさそうなもんだが、相手は国家転覆を狙うテロ組織だ。ド直球過ぎて逆にトリッキーな手も打たんとは限らん。比較的侵入が容易なのは見学ルート上、ここも警備はそれなりだから、爆弾が出てきたら何人か首が飛ぶな。単純に象徴としての建物を壊したいなら二階の階段を落とせばいい。ちょっと建築かじった奴が中に居れば直ぐ分かる。あとは立ち入り禁止区域……七階より上のホールか展望室、あそこは入れさえすれば何を仕掛けても滅多なことじゃ見付からない。ついでに塔が壊せるから宣伝効果も抜群だ……が、飛散物を考えると威力は上がるからどうだかな。何を考えてるか知らんが、わざわざ予告まで出して人払いをしてるんだ。人死には出したくないんだろうよ。そうだ、人を殺したいなら会議中の議事堂でも予告なしに爆破すればいい。それをしないということは、建物裏手や吹き抜け広間も狙い目……以上」
 コピーの方には事細かに書かれている内容をつらつらと話して、用は済んだとばかりに嘉音は手を振った。そんな彼の態度に男は余り良い顔はしなかったが、天王直属の零課が相手だからか、礼だけ述べて去っていった。何処ぞに報告に言ったのだろう。
 現場の一課も馬鹿ではない。このくらい考えて警備や捜索にあたっているだろうから、この報告も蛇足になるに違いない。
 だからそう、これで少しでも警備の配置が動いたら御の字だ。

「さて、頼もしい上司と後輩の活躍でも拝みに行くか」
 呟いて、嘉音はコートとステッキを手に取り、わざとらしく足を引摺りながら、国会議事堂へと、テロ事件の渦中へと歩き出したのだった。

>all

【新年あけましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします。年が変わっても投稿が遅くて申し訳ありません……
 文中で鳳が喋っていることは現物に沿っていたりいなかったりしますので宛にはしないで下さい。】

7ヶ月前 No.27

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/国会議事堂付近】

 国会議事堂の周囲には、既に多数の警察官が配備されていた。物々しい雰囲気で任務にあたる彼らを横目で見ながら、渚砂は人混みを縫って歩く。コツコツと響くハイヒールの音も、野次馬らの声に掻き消されていく。

「……懲りもせず舐めた真似しやがって」

 渚砂が小声で吐き捨てると、ちょうどすれ違った少女が一人、目を丸くして振り返った。女の姿をした人間から男の声が発せられる。そんな普通でないものを目にするのは、少女にとって初めてのことだったのだろう。その様子に気付きながらも、渚砂は脇目もふらず足を進める。一般人の一人や二人に多少の違和感を覚えられたところで何かが起こることはない。
 渚砂が示した不快感は、サングイスに対するものだった。国政の転覆を目論むことを否定するつもりはない。国の意思に最も近い任務を担ってきた立場にいればわかる――この国は狂っている。それを承知の上で、その狂気に骨を埋めるつもりで俺は特高零課にいるのだ。それなのに、彼らは「死人を出さずに」などと抜かし、挙げ句にはご丁寧に警察に爆破予告まで叩き付けてきた。そんな舐め腐った奴らが警察に敵うなど、あり得ない。あってはいけない。

 リズミカルに響いていた渚砂の靴音が、少しテンポを落とす。渚砂の視線は二人の男に向けられていた。特別高等警察一課長、黒瀬新。そしてその部下である警察官、涼宮衛。特高の人間の顔と名前はあらかた記憶している。それだけでなく、彼らの家族構成から経歴、趣味嗜好に至る私生活まで探るのは容易だ。だから二人のことはよく知っていた。涼宮衛、この世に表裏のない善人などいないと思って他人を観察しているが、今までに彼のそういった部分を見つけられたことがない。頼りないとも言えるかもしれないが、その汚れのなさは多くの臣民の目に警察官の鑑として映るだろう。黒瀬新は無骨な外面に反して愛情深い男だ。彼が寝る間も惜しんで役務にあたるのは、サングイスへの復讐心がそうさせるのだろう。もし彼に真実を告げたら、どうなるのだろうか。
 渚砂は黒瀬から視線を背けると、顎を引いて歩調をあげた。一般人とは違う。彼らを不必要に見続けるのは危険だ。渚砂はそのまま悠々と、国会議事堂を包囲する警察官の後方でひしめく野次馬たちの中に姿を消した。

>all

【あけましておめでとうございます!久しぶりの投稿になってしまいすみません!二章もどうぞよろしくお願いします!黒瀬さんと涼宮さんを観察させていただきましたが、気付かれない距離から眺めているだけなので、特に反応はいただかなくて大丈夫ですm(__)m】

7ヶ月前 No.28

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


 己の言葉の終わりと共に、緊張の面持ちを浮かべた一課の者達が自身の持ち場へと移動を開始する。命令を下せば後は執拗く付け加えることもない。此処に居る官憲らは皆一様に優秀な人材ばかりなのだから。彼等を部下として束ねる黒瀬がそれを最も理解しているのは当たり前だろう。口に出す事は恐らく無いのだろうが。

 その規律されたかのような彼らの姿の片隅で、自由気ままな参謀がふらりと何処かへ歩を進める姿が目に入った。普通ならば咎めるような場面なのかもしれないが、彼は少々特別と言える。行動こそ官憲とは思えないだろうがこれまで仕事に支障が出ている様子も無く、そもそも元テロ集団からの引き抜きという異例の経歴を持つ夢月だからこそのルーティンがあるのかもしれない。正直な所規律というのは公私を隔て職務を全うする為の道具でしかない。どのような形であれこの場での立ち回りを問題無く熟すのならば語ることもなかろう。

 ふと夢月の背に視線を向けていたその後方から声が掛かる。若干目線を遅れさせながら其方へと顔を向ければ、難しい顔をした涼宮が問いを零していた。問うた本人も分かっているだろうがテロ組織の思想の真相など奴等自身に直接問い質す位しか確実な答えは導けないし、逆に自身らはそれに理解を示してはならない。どんな事情があろうとも奴等は紛れもない犯罪者で、罪の無い者まで手をかけた侮蔑すべき存在なのだから。

「……私には分からん、理解も出来ないだろう。だが理解しようともするな。ああいう手前の信念を語って誑し込む能力は馬鹿に出来ない」

 固定概念というのはその者の思考に存在する選択肢を切り捨てる行為になってはしまうが、犯罪組織、特に思想犯罪を相手取るならば多少の思考断絶は致し方ないと言える。それ程に厄介極まりない案件だからだ。その根張りと吸収の範疇は想定できるようなものではなく、少しでも理解の欠片を示してしまえば忽ち端から喰い尽くされるだろう。
 若干忠告じみた発言となってしまったが、涼宮のような正義感の強い者程"正義"の看板を掲げた違背行為に対しても同情の余地を残してしまう可能性は十二分にある。そもそも自身の部下が盲信の底に堕ちてしまう姿を見たい輩など居ない筈だ。

 会話を切り上げて、ノイズの混じった小型無線機から大狼のいつも通りの無機質な声で並べられた連絡に短く了解の意を返して機器のスイッチを切る。続け様に届けられた零課からの資料を受け取り、顎に手を当てて考え込むような仕草をした後に夢月筆頭に配置案に関わった全員へ確認させるように伝え、場合によっての再考の指示を出した。目を通す限り盲点だったと言えるような点は無い筈ではあるが、助言を受け取った身で穴を残す愚かな状況は晒すわけにはいかない。


 一課の者達が散開し疎らになった国会議事堂前。野次馬の方向から受けたような気がした視線を何故か杞憂と切り捨てられずに、口を一文字に結んだまま相も変わらず鋭い瞳で、黒瀬は規制線に集る人影の群を見据えた。

 予告時刻は近い。

7ヶ月前 No.29

朝比奈 藤司 @brillante ★iPhone=gVxn3hDnp0



【 朝比奈 藤司 / 公園 】





 もぞもぞと何かを隠しているようには感じていたが、あまりにも必死でわざわざ聞き出さなかった。予想通り、そわそわしだしてから何分かもせずに正太は開口する。
 W俺にもなにかやらせてくださいW
 そう来たか。思わず目を見開いた。その瞳に少しだけ姉の色を宿している。正太の顔をまじまじと見るのははじめてだった。やはり、面影があるように思う。
 正太をサングイス組織に率いれてから幾分か時間は過ぎていた。何か目的を持って側に置いている訳でもなければ、いままで正太本人からのアクションもなかったのでこのまま平行線を辿るのだろうと思っていたのだが見当違いだったようだ。こんなにもまっすぐな瞳をしているのに、見くびっていたのかもしれない。
 巫山戯ての言葉でないことは声色、態度が全力で訴えてきていて人間の本能というやつでぞわりと鳥肌が立つのも感じた。その裏で信頼していない訳では無いが首を縦に振り切らない自分もいる。
 勿論、正太が復讐をしたいというなら身内である分の憎しみを晴らすために行動するのは筋だろう。ただそのために手を汚すのか。悶々と考えているうちに眉間に皺が寄っていくのを感じた。目が細くなっていることが容易に想像できる。初対面の人間が見たら睨まれてると感じるであろう形相は俺の深い思案に耽っている印だった。

 どうするのが、一番正しい選択か。国会議事堂の計画はかなり規模が大きい。失敗したらお縄では済まない。そのときふいに耳に入り込む聞きなれた女の声に顔を上げた。女性の声は耳に響くことがあるので得意ではないが、この声は平気だった。大学時代から知るひとつ上の、副リーダー。
 正面で無意識に俺がかけてしまっていたのか、圧力に強ばらせていた正太の身体は雪乃の手が触れたとき少しだけ緩んだ気がした。
 待たせたわね、という声に
 「いいや、俺と正太しかまだ来てねぇ」
 と、返す。正太とはまた違うのだろうが雪乃の視線も真っ直ぐで、どこか遠く何かを見据えているように感じる。俺の目の中にあるものをすべて知っている、すべて探っているような感じもした。副リーダーとしてよく働いてくれる雪乃のことを信頼している。勿論、相手の腹の中を曝け出すような観察眼も。
 他のメンバーの中にはおそらくこの作戦に正太を使うことを反対するやつもいるだろうと思う。ただし、優しさだとかリーダーとしての務めというものは庇護欲に身を任せて可愛がるのは違うと理解していた。
 自分に命を任せてくれた奴らを守るのは勿論。そいつらが描く理想と野望を、それを追いかける姿の盾になるのが役目だ。
 理想を描くには、現実を知らなければならない。夢の中で生きているならば理想は不必要だからだ。綺麗事だとせせら笑われても貫きたい何かを自分で見つけられるように、支える。
 考えると、仲間の反発は可愛いものだと思えるようになった。いままでも無茶はしてきたため、ついて来たいやつだけが今回の作戦に参加すればいい。もう1度腹を括り直した。

 「正太ぁ、……くくっ、お前に仕事をやるよ。一番大事で一番危ねぇ仕事だ。いいか、俺たちはお前の身に何かあっても助けに行かねぇからな。自分で決めて、自分でいけ。決めたなら命をかけろ、俺たちもお前に命かけてんだ」

 何かがあったらもちろん全力で助けに行く。ただし、緊張感を持ち自分で切り拓いて欲しかったから敢えて冷たい言葉をかけた。心の蟠りを取り除くのはいつだって、自分本人しかいないから。




>>雪乃、正太、サングイスallさま



【 あけましておめでとうございます…!どうか本年度もよろしくお願い致します。サングイスの皆さまもお忙しいかとは思うのですが警察の方々との時系列を揃えて行くためにも絡みに来ていただけたら嬉しいです…!!よろしくお願いします;; 】




7ヶ月前 No.30

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_xmq

【涼宮 衛/議事堂付近】

「はっ! 失礼しました。以後気を付けます。」

 サングイスの意図を問うた彼の質問に対して直属の上司たる黒瀬が返した返事は、いつもの通り端的で乾いていて、そして正しかった。彼の言葉に対して涼宮は敬礼をすると、自分の持ち場に移動し始める。その挙動には一片のよどみもない。
 だが、

(課長の言うことは正しい。しかし……)

 黒瀬の言葉に対する反論を涼宮はもたない。どのような理由があろうとサングイスが罪もない一般人を巻き込むような悪行を行っているのは明白だ。たとえ、今まで一件の例外を除いて人的被害が出ていないとしてもそんなことは言い訳にもならない。彼らの行為そのものが、善良な市民の生活に暗い影を落としているのだから。だから、涼宮はサングイスの行為について理解や同情を、ましてや共感を覚えることは決してないだろう。
 けれど同時に考えてしまうのだ。彼らの行動はともかくとしてその理念や考えについて自分はよく知りもしないと。もし、それを知ることができれば、あるいは彼らの正体に近づけるのではないか。黒瀬の心配する盲信とはまた別に考えが涼宮の脳裏に頭をもたげる。もしその心の中の考えを黒瀬が聞けば、それこそ彼の考えを諭してくれるだろうが、いかに上司といえど心の声まで聴きとるほど地獄耳ではない。
 そんなことを考えながら歩いていたからか、涼宮の背筋に寒いものが走る。何か、心を見透かすようん冷たい視線を感じて振り返ればそこには野次馬の山があるだけで一捜査員にすぎない彼を注視しているものなどいようはずもない。

「……いけないな。今は目の前のことに集中、集中」

 若干後ろめたいことを考えていたために被害妄想でも起こしたのだろうと自分を納得させるように自分の頬を軽くたたくと、涼宮は自分の配置先へと足を速めた。

>> 黒瀬様 深町様 一課ALL様 サングイスALL様


【あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。深町様のレスに対しては、ちょっとぞくっと来たくらいに触っておきました。若干、サングイスの人がどんなことを考えているか知りたいな考え中の涼宮はとりあえず周囲を警備いたします。】

7ヶ月前 No.31

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【吾妻 純 / 移動中→公園】

 今日は特別な日だ。僕にとっても、私にとっても。

 リーダーが指定した、国会議事堂からやや離れた寂れた公園。集合場所であるそこに向かう道中、吾妻純は珍しく上機嫌な様子だった。彼はステップを踏むように軽やかな足取りで歩みを進め、時折うっとりするように目を細め、年の瀬の寒空を見上げる。マスクで顔を覆っているせいで口元は見えないが、控えめに、それでいて艶やかに赤いリップが塗られたその唇は、大きく弧を描いていた。か細い歌声が、マスクの下から溢れている。
 腰に取り付けたポシェットを、細い指先が踊るようになぞった。今日は彼にとって、いっとう特別な日なのだ。いつもと違う、身体のラインに沿うようなデザインのタイトな黒いコートを着込んだ彼は、恍惚とした表情を見せる。
 なんて言ったって今日は特別な日。いつもの格好、いつもの武器(やつ)じゃ駄目なのだ。警察にも、サングイスにも、誰にもバレてはいけない。
 コートの内に潜ませた折りたたみ式のナイフの重みが心地よかった。あの子を殺したやつらをあの子と同じように殺すのがいつもだけれど、たまには切り裂くのも悪くはないだろう。拳銃の銃声は、今日は目立ちすぎるだろうから。
 公園の手前まで彼が到着したその時、ポケットの中に入れていたスマートフォンが、数回振動した。立ち止まり、画面を開く。
 そこに表示されたメールに目を通し、純は溢れそうになる笑い声を抑えて、すっと目を細める。

「――――楽しみだわ」

 いつもの彼と違う、ぞくりとするような殺気を孕んだ声で、純はそう独り言ちた。

 彼は今日も特高狩りを行い、サングイスの意思に反する。最早誰もこの感情を止めることはできないだろう。
 僕が僕であるために、私が私であるために。僕(私)は今日も悲鳴を聞き、血を浴び、そして命を奪う。彼が狩るべき命がすべて無くなるまで、彼は繰り返すだろう。狂いだした感情は、最早止まるところを知らないのだ。
 いや、もう、とうの昔に彼は壊れてしまったのかもしれない。彼を、幼馴染のあの子を失ったその日から。

「――遅くなりました、すみません」

 公園の端の、仲間たちの姿が見える其処まで、純はおずおずと頭を下げながら足早に向かう。リーダーである朝比奈と、副リーダーの玻璃崎、そして、是枝の三人を順番に目で捉えれば、「いつもと違う、緊張した面持ちの吾妻純」を演じる。あとは様子を伺って、サングイスの任務と同時並行で、自身の「目的」を遂行するのみ。

「今日は僕も精一杯頑張ります。よろしくおねがいします」

 背筋を伸ばし、朝比奈に向かって一礼をする。コートの内で、またスマートフォンが振動した様な、気がした。

>藤司、雪乃、正太、サングイスALL 【遅くなりましてすみません…… 二章開始おめでとうございます。純は企みまくりですが何卒宜しくお願い致します。イベント楽しみです!】

7ヶ月前 No.32

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

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7ヶ月前 No.33

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎 雪乃/公園】

正太がこのタイミングでサングイスの犯行に積極的にかかわろうとする姿勢を見せた事、それを朝比奈藤司が許した事、その何方もが雪乃にとっては想定外の出来事だった。反政府組織を名乗るサングイスを、初めは噛み付きたくても怯えて出来ない弱い仔犬のような目で見ていた若き青年。それが朝比奈の人格やその理想に燃える姿にいつしか感化されて自らの生き方を模索し始めるであろうことは予想しないではなかった。そうなった場合には、朝比奈のことだからきっとそれを肯定してやるであろうことも。しかしそれが決行の刻を目前にして展開されるとは思ってもみなかった。

「……リーダー……」
雪乃は瞠目し声を上げた。普段は「朝比奈君」と大学時代から変わらず後輩を呼ぶような気安さで声を掛けるのだが、サングイスの仲間の手前では「リーダー」と呼ぶようにしていた。それは他の面子に示しをつける為である以前に、組織を取り纏める朝比奈に対する暗示のようなものでもある。
「本気なの? まさか、正太君に行かせるの……」
北風に晒されかじかんだ指先を温めるようにしてそっと胸の前で摺り合わす。さっきまで笑みを浮かべていた表情に、少し不安の雲が翳す。僅かに眉を顰めたものの、リーダーの決定に何か異議申し立てするような柄では無かった。言葉を飲み込みそっと被りを振ってから、今度はそっと後押しするように首肯する。正太君の身に何かあったら、そう言いかけたのを抑えたのを、二人は汲んでくれただろうか。汲んでくれたのだとしたら、いずれ此処に小さな綻びが生まれることを期待しよう。特高警察零課のスパイである玻璃崎雪乃に、サングイス殲滅の指示はまだ出ていない。本格的に彼等が屠られる準備が整う前に、その組織が内部から崩壊すれば良いと思っている。それが自らを買ってくれた国の為であり、そして何より、愛する朝比奈藤司の為だ。この作戦の間は彼等に溶け込んでサングイスの人間として動き、あわよくば内部から綻びでも見つけることができれば充分だろう。是枝京香の弟は、使える材料となり得るか否か……実のところ目を瞠った直後に湧き上がった思考は、そんな打算だった。予想外の計画変更に幾許かは驚かされたが彼等の考えることはやはり眩しいまでに真っ直ぐだ。あんなことを言いながら朝比奈は、仲間に何かあればきっと助けに行ってしまうに決まっている。

正太の足が僅かに震えている。彼は今恐怖と懸命に戦っているのだろうか。可愛らしい。慈しむ視線を落としていた雪乃は顔を上げ、正太の目へと視線を向けた。
「正太君。……リーダーは貴方を信じているわ。それを裏切らないで頂戴。仕事のこともそうだけど、命を奪うのだけはいけない。他人のも、自分のも」

強い光を宿した目を殆ど正面の高さから見据え、念を推した内容のは、決して嘘や演技では無かった。真っ赤な嘘よりも時として有効なのは、その殆どを純白の真実に包み込んだ口当たり優しい糖衣錠なのである。
人の気配に続いて聞き慣れた声が背後から耳朶に触れ、雪乃は言葉を切って振り返る。緊張の面持ちで佇んでいる吾妻純の姿があった。

「あら、私も来たばかりなのよ。ーー純くん、後ろから聞こえていたと思うけれど、作戦と配置の変更があるわ」

軽く微笑みかけてから、朝比奈の右腕としての冷静沈着な真顔に戻り、言外に正太の存在を指し示す。雪乃のその様は先程の驚きや懸念の表情を洗い流し、努め冷静に振る舞おうとしているかのようだった。

>朝比奈君、正太君、純君、サングイスall


【ごめんなさい、遅くなりました上に珍しく結構苦労しまして、文章がお粗末です……】

6ヶ月前 No.34

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

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6ヶ月前 No.35

朝比奈 藤司 @brillante☆VD5xV0CAcdU ★iPhone=gVxn3hDnp0

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6ヶ月前 No.36

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★Tablet=iiKTVigSmi

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6ヶ月前 No.37

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 公園 → 議事堂付近の公道 】

 戸惑う玻璃崎と慎重な面持ちを浮かべる朝比奈。その二人の表情を見て事の深刻さを思い知った正太は、これから自分に科されるであろう任務の重大さに恐怖した。もらったマフラーの隙間から真冬の風が鋭い針のように突き刺さる。これから二人は俺に何をやらせる気なんだろうか。不安を抱えたまま正太は朝比奈の返事を静かに待った。生唾を飲み込む音がやけに鮮明に聞こえた。

「こいつを国会議事堂の最上階にある展望台に仕掛けろ。爆発のボタンはこちら側が持っている……だから、正太はそれを仕掛けて戻ってくるのが仕事だ」

 そう切り出した朝比奈が差し出したのは小型の爆弾だった。手を伸ばし、恐る恐る受け取る。それに触れた瞬間、正太は腕の神経に震えるような刺激を覚えた。手から全身が緊張していくのが分かる。
 (これが、爆弾)正太は狼狽える。
 初めて目にする凶器は思っていた以上に冷たく、そして重かった。それは冷酷さにおいて正太を遥かに超越していた。
「お、俺がこれを……? そんな重要な役目、俺に任せて大丈夫なんですか?」
 消え入るような声で朝比奈に確認する。国会議事堂へ行き、爆発物を放置する。ただそれだけの任務だった。爆発物は朝比奈の持つボタンによって遠隔操作されるから何の心配もいらない。頭では理解していた。しかし何故それを自分に任せるのか、朝比奈の考えがまるで分からなかった。サングイスに居候を初めて一ヶ月足らずの正太を早くも信頼しきっているのか、それとも彼がサングイスの一員になり得る存在なのかを見極めているのか。いや、もしかしたら捨て駒として彼に一番危険な任務を押し付けただけなのかもしれない。正太には分からなかった。優しい表情の奥で、虎のように爛々と目を光らせる男の感情を読み取ることはできなかった。

 玻璃崎の優しく諭すような声と、十姫雨の間延びした、しかしどこか安心できる声を聞いた正太は深く息を吸った。絡まった糸を解す作業をやめる。
「……いや何でもないです。俺、やってみます」
 覚悟を決めたように、背負っていたリュックの中に爆弾を忍ばせた。サングイスはみんなが優しい。そして自分より遥かに頭が良い。そんな彼らの言うことを疑うより信じるべきだと正太は思った。
「命を奪うな奪われるな、それが俺たち<Tングイスのモットーですもんね」
 そう自分に言い聞かせるように呟く。口に出して初めて自分がサングイスの一員になれたような気がした。そして彼らに向かってぎこちない笑顔を向ける。恐怖を隠すための背一杯の強がりだった。

***

 朝比奈たちに別れを告げ、標的である国会議事堂へ足早に向かう。
 歩を進める度に上下するリュックが罪の重さを再確認させるように爆弾の存在を示した。朝比奈の配慮により被害の少ない場所が爆破されるのだと知っていても、正太の心臓は張り裂けるほどに高鳴っていた。
 公園を出るとすぐ近くで特高警察が厳重警備態勢で見張っていた。予告状を出したあとに爆弾設置の場所を決めたほうが、より人気のない場所が知れて安全だと朝比奈は言う。俺たちは人の命を奪うことが目的ではないと。自分たちの力を誇示できればそれでいいのだと。しかしそれは同時に任務の難易度が上がることを暗示していた。
 特高警察に怪しまれないよう、避難する一般人の波に紛れて少しずつ逆走する。すると近くで誘導していた警官たちの会話が耳に入ってきた。

「そういやこの前の餓鬼、覚えているか?」
「ああ、あの姉を探しているとかっていう男だろ?」

 まるでこれからの爆破事件を本気にしていないかのように、警官たちは怠そうに話していた。二人の言葉に正太は思わず立ち止まる。顔を見ればそれは先日警察庁へ赴いたときに一切取り合わなかった特高警察たちだった。
「性懲りもなく来るけどさ。あいつ、一体いつまで来るつもりなんだろうな」
「本当だよ。何度来たって結果は同じだってのに」
 (結果は同じ?)正太は頭の中で警官の言葉を復唱する。(やっぱりこいつら、姉貴の居場所を知っててわざと隠していやがったな)正太の中で様々な思惑が交錯した。幸いにも警官らは正太の姿に気付いていない。
「だってあの是枝京香って奴、四年前の真宿駅爆破事件のときから辞職扱いだろ。今頃サングイスとかに寝返ってるんじゃねえの」
「間違いない。それなら上が極秘扱いしてるのも頷けるわ」

「え?」

 思わず漏らした喫驚の声を慌てて手で塞いだ。
 (そ、そんなはずはない)正太はすぐさま否定した。今まで朝比奈から京香の現況を聞いたことがなかったし、知っているとも思えない。ましてや彼女がサングイスに加担しているのなら嫌でも再会しているはずだった。しかし正太は京香を見ていない。彼女が退職していること自体が初耳だった。
 (いや、今考えるのはよそう)頭を左右に振って意識をそらす。姉のことは心配だったが、今はこの厳重な警備網をどうくぐり抜けて国会議事堂に辿り着くかを考えることが先だった。
 するりと人の波を潜り抜けて近くの茂みに隠れる。「ったく、すげえ数の警備隊だな……」正太は身を潜めながら悪態をついた。吐く息が白となり消えていく。朝比奈から課された無理難題に早くも弱気になりそうだった。


>朝比奈さん、雪乃さん、桜さん、純さん、その他特高警察ALL
【よく考えたら今回の件もそうですけど、一ヶ月前、警備されていたはずの西上大学に普通に侵入できているあたり正太は影が薄いのかもしれません】

6ヶ月前 No.38

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


 敬礼の後に、持ち場へと戻るべく向けられた涼宮の背が遠のいていく。疑る程ではないのだが背けられる前の彼の表情は未だ何かに対して引っ掛かりを覚えているような釈然としないものに見えた。
 だが確かに今の言葉程度で涼宮の確固とした倫理観が変わるとは思わない上、どうにしろ最後に選択するのは本人であり己の踏み込める範疇ではない。若干薄情に思える思考を早々に切り上げて、己も巡回の為に涼宮とは反対方向へと歩を進め始めた。

 視界の端に映るは、狼狽の混じる雑踏と喧騒。野次馬は少しずつであるが警官の誘導によって規制線から離れてきている。怖いもの見たさが故であろう彼等は、流石に爆破予告に記されていた時刻が近いこともあってか先程よりも不安な様相を色濃く示している。
 思い返される遠き日の光景。巻き上がる黒煙と悲鳴、怒号、阿鼻叫喚。連絡を受けて、酸素を求めて喘ぐ肺の痛みにも目もくれず駆け付けた現場に居たのは、裂傷に塗れた、

(………………、)

 その先へ進む前に双眸を固く閉じた。眉間に深い線が入る。未だ消える事のない心的外傷は突拍子もないきっかけで姿を現す。
 憐憫に昏れる暇などないというのに忌々しい事この上ない過去の情景は、しかし今自身が命を断たずに両の足で歩む為の原動力他ならない。棄て置ける気概もなければ、まず棄てるという選択肢さえ存在し得ないのだ。死ぬまで付いて回る、というよりは其れが事切れた時己も死ぬと言った方が正しい。
 最早悲観など時間の無駄、そう分かっていても人間はそう簡単に割り切れる生き物ではないようで。

(────茶番は終わりだ。今日で全て、終わらせる)

 一つ長い息が吐き出された後、再び開かれた相も変わらない澱み混じりの瞳は、刃を思わせるような一閃の光を湛えて鋭く前を見据えた。
 その目線の先、背を向けて国会議事堂付近から避難する市民の群の中に一つだけ違和感を喚起させる光景が映る。それは人波に逆らうように此方に近付いてくる人影。背丈体格からして小柄な男、だろうか。明らかに不審に思える挙動に黒瀬は思わず怪訝な表情を浮かべた。

 恐らく物好きで不謹慎な趣好持ちの野次馬の線もある、というのも元々そういう輩が少なくは無いだけだが、流石に自身にも被害が及ぶ可能性が出てくれば大抵の者は踵を返す。だと言うのにあの人影は雑踏の波を掻き分けてまで何故此方に向かってくるのか。
 その行動はどの角度から推し量っても一般市民の行動としての領域で勘定する事が出来ない。

(身長は170前後、容姿から見て小柄な男か。遠目だが恐らく若い……成人を越しているかさえ怪しいな。青年期特有の好奇心と捉えることも出来そうだが、)

 怪しい。結論は単刀直入の一言だった。ならばすべき行動は決まっているだろう。人混みに混じる影を見失わぬよう、同時に勘づかれぬように視線を固定しながら様子を観察する。
 それはまるで、草陰から獲物を見据える捕食者の如く。


>涼宮、是枝、国会議事堂付近ALL



【私事により1ヶ月も遅れてしまい申し訳ない限りです。とりあえずは正太くんを見つけて様子見している状況になりましたので、撒く撒かないなど対応の判断は自由に決めてもらって大丈夫です】

6ヶ月前 No.39

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【吾妻 純/公園】

 コートのポケットの中で、スマートフォンが数回振動しているのがわかる。きっと、これから自分の餌食になるであろう特高からの、連絡だろう。顔半分を隠しているマスクの内側の、赤いリップが塗られた唇がゆっくり、ゆっくりと弧を描いたが、眼鏡のレンズに隔てられた彼の細い目は笑っていなかった。

 緊張した面持ちのまま、自分の今来た所だという雪乃の言葉に耳を傾け、純は黙って頷く。雪乃の言った通り、リーダーである朝比奈と、正太の会話は耳に入っていた。どうやらリーダーは、正太にこの作戦の大役を任せるらしい。勿論、純はその事に大して異論は無い。寧ろ、丁度よいくらいだった。
 おそらく、リーダーや雪乃、他のサングイスメンバーも、正太の任務遂行を一番に気がかりにするだろう。いつもと異なり、昼に行う特高狩りへ興味が向けられる確立はほんの少し下がる筈だ。……まあそれも、一番最初の被害者の遺体が見つかるまでの間だけだろうが。

 夜には夜の武器、昼には昼の武器を。役者たるもの、舞台と場にあった装いで、最高の演技をするまでだ。コートの内ポケットにあるナイフの重みを感じながら、そっと胸に手を当てる。いつもより鼓動が速い。緊張か、恐れか、それとも高揚か。いや、その全てだろう。これから起こる事は、誰もが予想し得ない事なのだ。失態を犯すことなく、自らの「任務」を遂行させねばならない。
 形容し難い高揚感にも似た何かが、脈打つ心臓から送り出される血と共に、彼の内側を駆け巡る。特高狩りのときの純が、もうひとつの純が、早く早くと急かしているかのように感じられた。
 ふう、と大きく息を吐けば、十二月の凍てつく空気の中に白が溶けてゆく。ふるふると数回頭を振ってから顔を上げ、から回るなよ、と言葉を掛けてくれた朝比奈と、雪乃、そして正太へと視線を順々に移していく。

「作戦変更、了解しました。……俺も、みんなの足を引っ張らないよう頑張らないと」

 短くそう返事をし、後半はつぶやくようにぼそりと言う。視線を足元に落とし、さも緊張しているかのような表情を浮かべた矢先、拍子抜けするほど明るい声が耳に届いた。ひときわ大きな音を立て、雪乃の背後から不意に姿を表した彼女を見、純は再び、マスクの下で歪な笑みを浮かべる。十姫雨 桜。同じサングイスのメンバーで、互いに「秘密」を共有している、特別な仲だ。彼女もまた此処での禁忌を犯した者。しかし、そういった意味では自分と彼女は「同じ」であるが、「同じ」に至るまでの「理由」が違う。彼女は自分と違い、サングイスの為に掟を破らざるを得なかった、哀れむべき女性(ひと)なのだ。
 そう。だから。
 彼女がしてしまった事、それを正当化してやるのも純の務めである。明るい様相とは裏腹に、ちらりとこちらに視線を向け、曖昧に笑う桜に対し、純は右手を上げてゆるく手を振った。顔には「あの時」と同じ、『大丈夫だよ』の笑みを浮かべながら。今日も、俺と彼女は、共犯者になるだろう。彼の瞳の奥には、桜への「慈悲」が確かに在った。しかし、作戦遂行を志す、純粋なまでの正太の熱意ある言葉を耳にすると、その表情はすこしだけ曇ったように見えた。

 爆弾の入ったリュックを背負い、決意を固めて国会議事堂へと歩みを進めていく正太が去り際に放った一言が、いやに耳に刺さったのだ。

『命を奪うな奪われるな、それが俺たち<Tングイスのモットーですもんね』

「…………」

 黙ったまま、正太の背中を見つめる。暫くそうしていた純だったが、やがて何かを決意したかのように、再び朝比奈の方へ向き直った。

「俺たちも、負けてられないですね」

 ゆるく笑みを浮かべ、そう口にする。続けて、「俺や桜さんは、いつ動きましょう」と、彼に聞いた。


>藤司、雪乃、正太、桜、サングイスALL 【お返事遅くなって申し訳ないです。企みまくりの純です。次レスくらいで場を変えて特高狩りかな? と思っております】

6ヶ月前 No.40

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎雪乃/公園】

朝比奈に手渡された凶器の重みに、是枝京香の弟は狼狽えた。彼が何を渡す気でいたのかなど此方にしてみれば考えるまでもなく分かってはいた事だった。急に怖気付いたような弱々しい声音を出した正太は今、「なぜ自分なんかに」と思っている事だろう。無理もない。新入りに作戦の成否を分けるこんな大役を任せるとしたら、余程の適性を見出したか、敵味方を欺くための別の作戦のカムフラージュか、捨て駒或いは処分か……その辺りがちらついて当然だ。その渦巻く疑惑が、苧環を手繰ってするすると黒い糸を手に取るように雪乃には分かった。
しかし意外だったのは、作戦変更を告げられた吾妻純も後からやってきた十姫雨桜も、そして数秒後の是枝正太本人さえも、何ら疑問を抱いた風もなく何も悲観する事なくリーダーの策をすんなりと受け入れた事だった。反論者が居ないのは別に驚くことでもないが、雪乃が正太の身を案じる一石を投じてみても誰一人として……最終的には正太も含め誰一人として新入りに爆弾を託す≠ニいう事態に動じないというのは驚きだ。
それだけ京香の弟が信頼を集める才能に長けているか、或いは皆の関心が彼に無いか、それともやはりこの信頼が朝比奈藤司という男の持つ人徳の証なのだろうか。雪乃は心の内で感心する。

首筋に、懐かしいような擽ったいような奇妙な感覚がさっきから纏わり付いているのを不意に思い出した。朝比奈が「早く出てこい」と誰も居ないはずの空間に声を投げた事で、しばらく其処に感じていた視線の正体を察した。次の瞬間には、背中に温かく柔らかな感覚が覆い被さる。背後から回された腕に抱擁されると否応無しに背筋が伸びる。相手が誰と分かっていながら、急に触れられる事にはなかなか慣れない。自分から距離を詰めることは得意とする雪乃だが、その逆は彼女と出会ったことでようやく最近慣れてきたところだ。

「っもう、桜ちゃん。駄目よ、今はそんなことしちゃ」

困ったように笑いながら諌めて、首元から引き離した頭を軽くポンポンと撫でる。十姫雨桜。此処にいる中では唯一の雪乃が勧誘したサングイスメンバーである。愛らしい桜はいつもこの調子で、雪乃のことを仔犬のように慕ってくる。多少の場違いな陽気さを持ち込んだところで厳しく咎めようとはしないあたり、冷静沈着な雪乃も桜には甘い。桜は正太に頼もしく「皆のことは守る」と宣言する。純粋な彼女の儚く脆いまでに優しい強さを見て、あの日雪乃は夜の蝶であった彼女を朝比奈の光の下へ誘った。彼女の性質に求めた本当の目的は、本人にすら未だ明かしていない。

雪乃は桜、朝比奈、純と並び、正太を見送った。
誰かが、この作戦の在り方に疑問を感じると期待していた。普通は爆弾設置後に送るであろう爆破予告を設置前に送ったこと、そして素人の正太を実行犯に選んだこと。……新参者への信頼か、買い被りか。死にたがりか、死なす気か。検討の甘さか、捨て駒か。薄情で冷酷なのか。殺さずの理想は。守るといっても何処まで。……そんな疑問を。
正太君の身にもしも何かあれば≠サの続きを、雪乃は本心ではこう綴っただろうーーそれは誰の所為かしら?
警察も舐められたものね、と雪乃は思った。彼女は、ーー彼女の吐いた言葉は本当であってもーー正太が作戦を成功させるとは期待してはいないし望んでもいなかった。特高警察も無能ではない。犯行を宣言しこれだけの包囲網を相手に、素人が爆弾を設置することが如何に難しいか。朝比奈にとって、サングイスにとってはともかく、雪乃にとっては国会議事堂爆破作戦の成功の可否よりも大切なことがある。仲間がしくじった場合に、作戦が失敗に終わった場合に、死なず殺さずの掟が破られた場合に、標的達が何を考えるかだ。それでもこの組織が朝比奈の旗の下に集い続けられるかだ。

「死なず殺さずの掟を破る勿れ……正太君の無事を支えましょう。正太君から少し離れて並走するルートで、彼を追跡している者や近付こうとしている者を排除し撹乱すれば良いかしら」

朝比奈からの指示を待つ純の言葉を受けて、雪乃もそっと進言する。到底従順とは言い難い一計も二計も腹に抱えながら、正太も含め仲間にこんなところで特高一課の手に掛かって死んで欲しくないという気持ちだけは本物だった。

>サングイスの皆様


【お、遅くなりました……!特高狩りにいけるフラグたてられましたかね……? そろそろ私何かをミスってそうで怖い。】

6ヶ月前 No.41

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/議事堂付近公道】

 国会議事堂を囲う野次馬の群れを縫って歩く。渚砂の目に映るのは制服を纏った一課の者ばかりで、他の人間たちは単なる景色と化していた。まだ何も、目ぼしいものはない。口の中で小さく舌打ちをしかけて、渚砂は不意に振り返った。誰かとすれ違った気がした。視界に映るのはただの一般人のみ。僅かな静止ののち、渚砂は強引に人をかき分け、議事堂を囲む人の輪から外れた。
 周囲に目をやる。そして見つけた。議事堂から離れつつある、小柄な少年の後ろ姿を。遠目でも見紛うことはなかった。

「是枝正太……」

 サングイスの構成員であり、かつて自分が殺した同僚の実の弟。この場に現れたということは、彼が爆破を実行するのだろうか。一課に情報を流して証拠が出れば済む話だ。渚砂が捉えたのが正太でない者だったらそうしていただろう。だが、京香の行方に固執する正太が捕まることは、零課にとっては不都合でもあった。
 正太の姿が見えなくなった植え込みに近付く。重そうなリュックを背負ってしゃがみこむ後ろ頭が見えた。こちらには気づいていない。渚砂はおもむろに、正太のリュックを掴んで上に引っ張った。

「あら重い。一体何が入ってるのかしらね」

 からかうように目を細め、口角を上げる。少しの間そうしていたが、やがて飽きたようにリュックから手を離した。ふふふ、と小さく笑い声を溢しながら、正太が体勢を立て直すのを待つ。

「まあいいわ、そんなことは。……お姉さんのこと調べるのはもうやめなさい。是枝正太くん」

 微笑みを貼り付けたまま、声のトーンを落として告げる。厳密にいえば初対面ではないが、正太からすれば見知らぬ相手にそんなことを言われて容易く従うことはないだろう。それでも、彼を止めなければならない。それが自分にとっても、正太にとっても、京香にとっても最善の道なのだから。

>正太、all

5ヶ月前 No.42

朝比奈 藤司 @brillante☆VD5xV0CAcdU ★iPhone=gVxn3hDnp0



【 朝比奈 藤司 / 公園 】



 気張っている正太をポケットに手を突っ込んだまま見送った。マフラーを外すとそとはやはり寒い。首元に冷気がすうっと、当たるたびに急所を何者かに突かれているようで心が曇る。散々正太には脅しをかけるようなことを言ったが、此方にだって策がないわけではない。そうでなければ幾ら信頼を置けると思っていたとしても、生死を預けることは出来ないだろう。勿論、互いに。俺と同様に、正太にもなにか考えがあるのだと思った。寧ろそれ以外は有り得ない。強がりだけは得意な癖に人間は弱く、いざとなると何もかもから逃げてしまう。生命に関してはそれは特に顕著で、先程まで人を殺めていた人間でさえも自分の危機とならば助けを乞うのだ。そういった場面に記事を書いたりだとか、編集だとかいう仕事していると何度も出くわす。いくら、身寄りの場を作ったひとに対してでも所詮は、ただの他人だ。
 だからこそ、それに賭けてみた。正太は生命をかけることを目的とせずなにかW別のことWを目的にしているのではないか、と。生命を賭ける価値のあるものに辿り着けるかもしれない、と彼は考えているのではないだろうか。考えすぎかもしれない。だけど俺とは違う他人だからこそ鋭い着眼点で物事を見据えていることもある。正太に任せたのはそれだけの理由だ。恐らく正太自身もまだ言葉にできないであろう何かを、知るために。とはいえ、やはり危険が伴う。俺の身がどうなろうともさして問題ではないが今回一番被害を受ける可能性が高いのは、一般人と捉えてほぼ差支えのない是枝正太だ。初めての作戦にあの大役は重かったかもしれない。しかし、サングイスがまだ知り得ていない情報の尻尾を掴んで来る可能性が一番高い適任者もまた、彼だった。
 黙ったまま、数分間そんなことを考えている。少し遅れてやってきた桜と純から頼り甲斐のある言葉をかけられているのにそれにすぐ反応することが出来ない。つまるところ、これからの行動について決め倦ねていた。曖昧に返事をするなんて無責任なことはしてはいけない。深く、髄まで思考しろ。あらゆる可能性、最悪の事態に対処できるような善作を頭のなかで追求し続ける。


 まず、俺がなにかアクションを起こす場合緊急事態に対応しにくくなる確率は跳ね上がってしまう。それを考慮すると此処に残るのがいいように思われる。次いで国会議事堂の設備の緩和、破壊をしなくてはならない。これを俺がやる手も考えたが先程の考えにより削除される。両うわ瞼をした瞼に重ねながら、役柄にメンバー一人一人を当てはめてみた。雪乃は恐らく雰囲気も容姿も注目を浴びやすく、セキュリティを解除するのには最も不向きだ。技術面では言わずもがな、任せたい人間ではある。そう考えると純が適任者で、桜も一緒に行かせれば若い男女の組にしか見えない。彼等の腕前もなかなかのものだし、なにより決断力に優れる。いざというときには撤退を考えられるだろう。任務と生命とを天秤にかけるのがうまい。
 最後に、一番問題である正太について。正太の尾行はやはり大切だと思う。彼を信頼しているかしていないかではなく、彼の身柄は生きたまま回収する必要がある。すると、自然と雪乃にこの任務を任せることになってしまう。なぜだか若干の違和を覚えるが掻き消す。これ以上の策はすぐには思いつかない。
 はやく彼等の会話に溶け込まなければ不審に思わせてしまうだろう。すべてを乗せて深いため息として吐き出したい。だが、それを堪える。ここでため息をつくのは今から行う作戦に何らかの妥協をしているように捉えられてしまっても文句は言えない。リーダーとしての自覚を諸作動にも持たせなければ。いつか雑踏に吹き荒らされてしまわないように。そう、だから代わりにめいいっぱい新鮮な空気を回す。取り入れ、血液にする。
 「…そうだな、純と桜には国会議事堂のセキュリティを切る係を任せたい。責任重大なのはまぁ言わなくてもわかるだろう。お前らが機能しなければ正太はもちろん俺達もお釈迦だ。それから雪乃…副リーダには正太の監視を」
 作戦のときには必ず持ってきている小型無線をポケットの中から無造作に取り出すと動きがあったら些細なことでも必ず報告するよう告げる。それからしっかり1人ずつの手の内に小型無線を手渡す。視線は合わせないようにした。きっと眉間にしわがよっているから。ここに突っ立って指示を回す係に全うしなければならない自分があまりにも無力で。一番、危険度が低い役柄を受ける人間がこんなにも大口を叩いて良いのだろうか。たまに俺はリーダーという名前を酷使して卑怯なことをしているように感じてしまう。彼らを纏めるのがこんな卑怯な男でいいのだろうか、と。
 一瞬だけ父親にかつて、苦しいことがあったら笑えと言われたのを思い出す。無理に唇を強ばらせ表情を作り上げた。あまり、表情は豊かな方ではないが記憶の中の声にでさえも縋ってしまいたいくらいに自分に憤りを覚えている。なんともまあ、やるせない。眉根にぐっと力を込めて困ったような顔で笑顔を見せた。
 「悪いな…頼むぞ、お前ら」

 無線に繋がるイヤホンを片耳に付ける。さぁ始動だ…サングイス。




>>周辺サングイスAll


【 私事で立てこもっておりまして、投稿が遅くなってしまいました;;申し訳ないです。絡みが複雑になってきてしまっていたので次のイベントや様々事に関する伏線を張るためにほんの少しだけ絡みを切ったり新しく入れたりと工夫させていただきました…!お不便をお掛けしますが引き続き宜しくお願いいたします 】


5ヶ月前 No.43

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 議事堂付近の公道 】

 戦慄が一瞬にして全身を突き抜ける。
 突如、血に飢えた狼のような視線に突き抜かれた正太は、びくりと肩を動かした。震える己の身体を強く抱き締めながら視線の主を探す。

(も、もしかして、もうオレたちの計画が暴露れてしまっているのか──?)

 冷や汗が一筋頬を伝う。焦燥が全身を支配する。パニックに陥った正太は激しく動揺した様子で辺りを見回した。誰が、一体誰が俺を見ているのか。焦って思考が追いつかない。目立つ行動は避けるべきだったのに、この時の正太の様子は明らかにおかしかった。
 草陰の間から必死に眼球を動かし、見つけた先には一人、冷徹そうな男がいた。特別高等警察第一課の制服を着ている。群衆の一方が避難所に向かい、また一方は野次馬のように国会議事堂に群がっている中で、隈に覆われたその黒い瞳だけは静かに、そして確実に怯えた正太を捉えていた。
「ひっ……」
 正太は思わず声を上げて後ずさりした。何度も警察庁へ赴いていた彼だったが、あの男のような恐怖に満ち溢れた存在を見たのは初めてだった。怖かった。彼にだけは自分の任務を、サングイスの計画を気付かれてはならない──そう直感が叫んでいた。

(──逃げよう。逃げなきゃいけない、とりあえず、あの人の視界が届かないところに)

 そう思い立ち上がろうとした瞬間。正太は不意に自身の背中が軽くなった気がした。驚き慌てて後ろを振り返る。すると先程まで誰もいなかったはずだったのに、一人の女性が、正太のリュックを持ち上げているではないか。
「なっ、は、放せよ……!」
 正太は小声で怒号を吐いた。一課の男のことで頭が埋め尽くされていた正太は、正直この女に構っている場合ではなかったが、ここで一般人を相手に騒いで彼に不審がられてはいけない。そう思った正太は女性が手の力を緩めた瞬間、咄嗟の判断でリュックを強引に取り戻し、自分の身を更に茂みの奥へと隠した。視線は未だ女ではなく特高の男に向けられている。(──突然何なんだこの女(ひと)は。オレをからかってるのか?)正太は考える。恐怖と警戒で身体が思うように動かなかった。女性の不敵な笑い声は正太を余計に苛立たせた。

 ──しかし。

『お姉さんのことを調べるのはもうやめなさい、是枝正太くん』
 女性のその一言で正太の表情が一変した。特高に向けられた思考が一気に停止する。開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだった。
「な、何でキミが、姉貴のことを知ってるんだ……?」
 言葉が突然にして硬い鉛にでもなったかのように咽喉に突っかかる。彼女が何者なのか、なぜ自分の名前を知っているのか。聞きたいことは山ほどあったが、正太がようやく口から絞り出せたのはそれだけだった。

>黒瀬さん、渚砂さん

5ヶ月前 No.44

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

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5ヶ月前 No.45

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/議事堂付近の公道】

 放せよ。そう言ってリュックを奪い返し、正太はさらに茂みに身を隠す。そんな彼の注意はこちらには全く向いていない。正太がやけに気にしている方向を、横目でちらりと見遣る。その先にいたのは議事堂前ですれ違った特高一課長、黒瀬新。正太がこんな場所に身を隠していた理由は、これか。早々と、何厄介なやつに目つけられてんだよ。心の中で舌打ちをする。渚砂自身も黒瀬の前に姿を見せてしまった。こうなれば、あとは堂々としているほかない。
 しかし、京香の名前を出した途端、正太の様子が変わった。『な、何でキミが、姉貴のことを知ってるんだ……?』予定していた通りの、当然の反応だった。

「京香の友達だから。悪いことは言わない。京香のことを探るのはやめなさい。京香も、それを望まない」

 渚砂の口から出た言葉の大半は嘘だった。京香の友人などではない。隠された組織の構成員であり、不要な考えを抱いた京香を葬った張本人。それを友達、などと呼ぶはずもない。そして既にこの世にはいない京香が、何かを望めるはずもなかった。
 けれど――正太がこれ以上京香の行方を探ることは、京香の望まない結果に繋がる。その確信はあった。

「だから、やめなさい」

 ゆっくりと、再び繰り返す。ほんの少し細めた目には、高圧的な態度から一転、どこか正太にすがるような色があった。

>正太、黒瀬、all

5ヶ月前 No.46

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


 焦点を当てていた青年は何かに勘づいたような、そんな妙な素振りを見せた後にはたと此方に視線を向けた。意識しなければ気付きもしないであろうその一瞬の間で、恐怖を孕んだ青年と黒瀬の視線が合わさった。そして確信した、この男は"何かを知っている"。

(────勘のいい奴だ)

 気付かれぬように配慮しながら視線をやっていたつもりではあったのだがこうも簡単に察知されるとは中々侮れない危機管理能力と言える。だがそう遠くない距離、此方とて簡単に撒かれてやるつもりは無かった。
 最早様子見など必要無い。今度ははっきり標的の方向へ顔を向けて歩を進めようとした時、青年に近づくもう一つ人影が視界に入る。その人物────長髪の女は、まるで親しい友人が悪戯をするかのように青年のリュックをひょいと摘み上げる動作を見せた。光景から考えれば、男の悪趣味な興味を咎める友人等と説明出来ようか。
 進みかけていた足を止めて彼等の様子を鋭い視線のまま観察していると、此方に横目で視線をやった女性と自身の目線が不意に合う。

 その目、己は彼女の事を知らない筈なのだが、何故だろうか。瞬間脳裏に、油断するなという警告の叫びが駆け巡った。根拠も何もない。唯思い返せもしない謎の既視感が己に警告音を鳴らし続けている。

 懐にある拳銃の気配を意識しながら今度こそ二人の元へ赴こうとしたと同時に、自身より後方から悲鳴が上がった。思わず標的から視線を外しその方向を見やった先には幾箇所から濛々と立ち上がる白煙と、爆破の予兆かと動揺し逃げ惑う人々の姿。────十中八九、サングイスの仕業だろう。その様子に黒瀬の表情が更に険しさを増す。袖を上げ右腕の時計に目を落とすが、未だ予告に記されていた時刻を示してはいない。

(前回は時刻通りではあったが。……陽動か、それとも奇襲をかけるつもりか)

 音が出るほどの歯軋りを一つ落とし、下げていた無線機を手に取って一課総員に警戒と指示を飛ばした。

「……こちら黒瀬、国会議事堂付近にて白煙発生。爆発物処理班、救護班の派遣また民間人の避難を至急。有毒の場合万が一異常の感知、訴えがあれば即座に退避しろ。陽動の可能性も十二分にある、各班警備の手を緩めるな」

 必要最小限の言葉で済まし、無線機のスイッチを切る。陽動の可能性があると言うだけで無害だという補償など無い。挙句予告通りなのは前回だけで奇襲をかけてくる可能性もゼロではない。最悪の事態に対する想定を浮かべながら、一時とはいえ意識から離してしまったあの男女の方向に再び視線を戻す。だがパニックを起こした群衆に視界が遮られ、はたして彼等がまだあの場にいるかさえ確認出来ない。

 落とした舌打ちは喧騒に紛れた。荒れる人波を避けながら、様子の見えない茂みの方向へと確かに少しずつ近づいていく。恐らくは既に行方を晦ませられた可能性の方が高い。
 それでも、あの二人を此処で見逃してはならないと、根拠の無い己の勘が執拗く告げていた。


>是枝、深町、ALL

5ヶ月前 No.47

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_t5r

【涼宮 衛/議事堂付近】

『「……こちら黒瀬、国会議事堂付近にて白煙発生。爆発物処理班、救護班の派遣また民間人の避難を至急。有毒の場合万が一異常の感知、訴えがあれば即座に退避しろ。陽動の可能性も十二分にある、各班警備の手を緩めるな」』

 議事堂周辺を警戒していた涼宮の耳元のインカムから、黒瀬の落ち着いた声が流れる。その言葉の意味を理解した涼宮が天を仰ぐと、ある地区の一角から白煙が立ち上っていた。爆発音などは聞こえなかったため、爆弾ではないのだろうが、

「こちら涼宮、了解しました。現場に向かいつつ周辺の民衆の保護を行います。」

 無線のスイッチを入れて報告を入れつつ、涼宮は駆け出す。アスファルトの地面を彼のワークブーツが叩けば、彼の身体は加速を開始して問題の地区へと向かっていった。

「皆さん、落ち着いて。これは爆発ではありません。付近の職員の指示に従って非難してください。……ん?」

 突然の出来事に混乱しかけている民衆に呼びかけながら走っている涼宮の視界にある二人組が入る。
 一人は女性、茂みの前に立っている。顔はこちらに背を向けているので見えないが、黒のワンピースを着た、女性としてはかなり長身に入る部類だ。そしてもう一人、茂みの奥に入り込むようにうずくまっている男性。こちらはかなり若い男性のようだが、リュックサックを手に持ってうずくまっている。
 それを見て涼宮の脳裏に最悪の想定がされる。

「まさか……」

 先ほど黒瀬が言った言葉を借りれば、あの煙が有毒の場合である。
 爆発が真の狙いでなく、警備に集まった一課や野次馬、報道陣をあの煙で一挙に害すれば、もしそんなことがあれば、治安力の低下と同時に政府の威信はガタ落ち。サングイスにとっては最良の結果だろう。
 もちろん、サングイスの意図はそんなところにないし、彼らの主義からしてありえないのだが、そんなことが涼宮にわかるはずもない。真偽を確かめるためにも、彼は二人に声を掛けた

「大丈夫ですか? もし、体調が悪いようなら、救護班が待機していますのでそちらに、良ければご案内します。」

>>是枝正太様 深町渚砂様

5ヶ月前 No.48

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 議事堂付近の公道 】

 女の言葉によって正太の謎は深まるばかりだった。
 なぜ姉貴の友達と名乗る人物がこのタイミングで現れたのか。なぜ自分が是枝京香の弟だと分かったのか。なぜ姉貴の行方を捜してはいけないのか。この女は一体何者なのか。
 正太は乾燥した咽喉に唾液を押し込んだ。周囲の喧騒が掻き消されていくように、自身の心臓の高鳴りが激しく耳に響いている。リュックを強く握りしめたまま、正太は疑心の目を女に向けた。特高警察に気付かれてしまった今、早くここから逃げ出さなければならないのだと頭では理解しているのに、この機会を逃せば姉貴がさらに遠ざかってしまうような気がしてなかなか動き出せずにいた。見るからに怪しい女だったが、彼女が京香のことを知っているのもまた事実のようだった。

「や、やめろってどういう──……」

 そう問いかけようとした瞬間。正太の言葉尻と周囲が悲鳴で包まれるのはほぼ同時のことだった。
 驚いて振り返ると、白煙が国会議事堂の周りを囲むようにして立ち込めている。それに混乱する野次馬と特高警察の様子を見て、正太はこれが吾妻の仕業であると即座に判断した。特高警察の警備網を撹乱させるために前もって準備していたのだろう、数日前に彼が発煙筒を手配していたのを思い出した。
 その混沌とした光景を眺めながら、正太は思わず自身が抱える爆弾の存在を思い出した。(そうだよ、今は姉貴のことを考えている場合じゃない)正太は我に返った。(純さんの援護を無駄にしちゃ駄目だ。サングイス(みんな)のために、早くこの爆弾を仕掛けなけないと)
 再び女と対峙するとき、正太の瞳には固い決心の色が灯っていた。

「ごめん。誰だか知らねえけど、キミにとやかく言われる筋合いはないから」

 正太は女の要求をはっきりと断った。そうだ。もしかしたらこれは罠の可能性もある。こんな見ず知らずの女を頼るより、自力で姉貴を探したほうがよっぽど良い。そう思ったとき、発煙しているほうから一人の特高警察──先ほど睨みを利かせていた男より少し優しそうな気がした──が歩み寄り声をかけてきた。どうやら自分たちを避難させようとしているらしい。

「……っ!」

 正太は女が特高警察に気を取られている瞬間を決して逃しはしなかった。これはチャンスだ──そう考えた正太はリュックを抱えたまま勢いよく立ち上がると、女も特高警察の男も振り切って全速力で逃げ出した。女に足止めを食らって特高警察に捕まってしまっては元も子もない。追手が来ないように、正太は力一杯、足を動かしながら視界が遮られている白煙の方角へと遮二無二に駆け抜けていった。


>渚砂さん、涼宮さん、黒瀬さん、周辺おーる
【せっかく絡んでくださったのに逃走しちゃいます……!】

5ヶ月前 No.49

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【鳳嘉音/国会議事堂付近→国会議事堂内部】

 固唾を飲んで国会議事堂を見詰めていた筈の群衆が、ある瞬間に動き出した。
 もうもうと立ち上る白煙が、青い空を白く染め上げる。それが、爆発なのか単なる陽動なのかは分からない。それでも、テロ行為を何処か他人事のように眺めていた人波を、怯えと混乱の渦に叩き落とすには充分だった。
 パニックに陥り、我先にと踵を返す一般人の動きに逆らい、嘉音は道の端へ端へと移動する。建物に体をぴったりくっつけるようにして立ち止まり、蠢く数多の頭の隙間から、特徴的な議事堂の外観を仰ぎ見る。
 それは未だ崩れていない。燃えている様子も、何かが燻る嫌な臭いもない。勿論爆発音さえも。
 つまりこれはただのフェイク。そう判断した嘉音は、逃げ惑う人々の間をすり抜けて議事堂を目指す。それは容易な事ではなかったが、先程迄と違い堂々と道を闊歩出来るようになった分、何も考えずに目的地に近付くことが出来た。恐らく此の状況下で逆走する人間は目立つだろうが、そこは敢えて正面突破を仕掛けることにする。
 人波の先に、嘉音は見付けていた。この状況を自分好みに動かせる可能性を。
 知らず、嘉音の口角は上がる。仄暗い笑みがその顔に一瞬だけ刻まれる。
 何故なら彼は、どうせなら国会議事堂(此処)が壊れて欲しいと思っている。

「よぉ、久しぶりだな小嶋」
 阿鼻叫喚の地獄の手前とは思えない、軽すぎる言葉が嘉音の唇から漏れた。そこにいたのは議事堂の警備に当たっていた警官の一人であり、嘉音の嘗ての後輩であり、彼が表向き警察を辞めたことを知らない人間である。
「全く、サングイスにも困ったもんだ、お陰で折角の休日が台無しだよ……黒瀬指揮官から伝言、ここは俺たち休日出勤組が引き受けるから、お前らは救護班の手伝いに回れ。あの煙は恐らく無害だが、パニックのせいで怪我人が続出してるんだ」
 久しぶりじゃないですよ、と怒号が飛んでくる前に、嘉音は平気で嘘を並べ立てる。恐らく現場を仕切っているのであろう現一課のトップの名前も勝手に拝借する辺り、その面の皮の厚さは並び立つものも多くないだろう……零課には大量発生しているが。
 しかしそんな在り来たりな嘘だけでは、嘉音は満足しない。
「というのは事実だが建前だ。あそこの煙は陽動……つまり、本物のテロリストはまだ現れていない。この混乱に乗じて、今まさに爆弾が仕掛けられる可能性が高いってことだ。敢えてここの警備は手薄にする、奴らを誘い込め」
 真顔でさっき三秒で考えた嘘八百を並べ立てるのはある種の才能だが、その中にも嘉音はいくつかの防衛ラインを張るのも忘れない。混乱の最中に怪我人が増えるのは当たり前であるし、目の前で血を流す一般市民を見て警備の持ち場を離れた警官を一体誰が責められようか。責められるかも知れないが、そこは零課直伝の陽動作戦ということに後でしてしまえばいい。何処までが嘘で何処までが本当かは現時点で小嶋という第三者には判断できず、黒瀬からの指示というのも冗談で押し通せる。
 そうして、何だかんだ縦割りのこの世界、愚直に先輩の言うことを信じた小嶋は、一緒に警備に当たっていた同僚とともにその場を後にしてしまった。嘉音の前に、国会議事堂の裏手へと続く、一本の道が開かれた。
 それを、自らの進む道と信じて疑わない嘉音は真っ直ぐに歩き出した。如何にも警察関係者然として(事実そうだが)歩いていれば、別段怪しまれることもない。部外者でもこの人数、このルートなら突破も可能だろう。

――さぁ、来るなら来いサングイス。利用し尽くして、せいぜい華々しく散らせてやろう。

 そうして、嘉音の、国会議事堂を囮にした自分勝手な攻防戦が始まった。

【久しぶりに出てきた癖に独断専行やら御名前拝借やら色々暴挙に出ました、すみません。小嶋くんは悪くないんです、お咎めは全て嘉音に!!】

>国会議事堂all

5ヶ月前 No.50

自由 @nanamaru☆43ke11mKtUk ★iPhone=dgcL1EDLvj

【 夢月 叶羽 / 国会議事堂付近 】

「 さあて 」

 相変わらずの気の抜けたテノールはそのままにスマートフォンを再びポケットの中に忍ばせると立ち上がる。しばらく動きを止めていたのと、この寒さのせいで身体は凝り固まり、つま先はじんじんと痛んだ。両手を組んで腕を上げる。コリコリと気持ちの良い音が耳を擽った。こんな自由気ままな、下手をすればこの場のピンと張った緊張感を乱しかねない行動を咎めることのない周りに感謝しつつ、ラジオ体操の体で軽くぴょんぴょんと飛び跳ね、さりげなく辺りを見渡した。特に変わったところはない、だろうか。爆弾魔なんて余程の勘が働かない限りちらっと見たところでわかるはずもないのだが。

 黒瀬から確認するようにと届けられた資料は零課によるものだろうか。僕の分析に穴なんてないはずだけど。そんなことを思いながらも、目を細めページをぱらぱらと捲る。見た限りでは特に見落としている部分もなさそうだ。ひとまず安心し、白い溜息をつく。穴なんてない、などと宣いながらきょどきょどと周りの目を気にしつつ、なんでもない風に軽く目を通す自分を嘲笑った。結局自信を置いてきてしまったのだ、あのときに。薄っぺらい自信なんて現実は知らない。ただ冷酷に、机上に積み上げた積み木を音を立てて床に崩し落とすみたいに、簡単に、本当に簡単に奪っていってしまった。

「 …… 」

 背景がこんな規制テープの中でなければ、叶羽の姿は浮浪している若者にしか見えないだろう。いや実際そうだ。特に何をするわけでもなく歩き回る彼は、一応警備をしていることになっているが。

 ……猫? ……黒い、猫が目の前を優雅に通り過ぎる。尻尾をつんと上げ、黄色い双眸を細めて。そういえば家が火事になったときも黒猫がいたんだっけ。それに夢中になっていたから今の僕がいるわけで、だから命の恩人なんだけど、不吉なことが起こってしまうのじゃないかなんて思って。一刻も早く、ここから離れて。どこかへ行って。何かが起こる前に。何かが起こらないように。

「 こんなところで何してるのっ、危ないでしょう。いやねっ、僕も頑張るよ。頑張るけどね、もしかしたらってことがあるからね、この辺が爆発したら君、そんなちっちゃいんだから、吹っ飛んじゃうよ? 」

 ぶつぶつとひとりで呟くと猫を抱き上げ、規制線の外側へ運び出そうとする。外側へ近づくにつれ、辺りは野次馬だらけだ。命よりも情報の最先端に立つことを選ぶのか。それも確かに手だが、情報の最先端に立つことに大して長けてない者がそんなことをしても無駄だろう。情報に命をかけていいのは僕みたいな人だけ、そうでしょう? そう自分に問うたが答えは返ってこない。

 みゃおん、激しく鳴いたかとおもうと腕の中から逃げ出した。手の甲にすうっ、と線を引く痛み。ちょっとどこ行くのっ、「 ちょ 」の音が喉を震わせる前に白い煙は辺りを包んだ。

「 な、にっ! 」

 反射的に口元を手で覆うが、もし毒性があるとするならばもう遅いだろう。そもそも手などで防げるはずもない。辺りを見回す。先程までスマートフォンを構え目を輝かせてざわめいていた集団は、泣き叫び怒鳴り散らしながらパニック状態だ。しかし体調の悪そうな人は……今のところ見受けられない。今から症状が現れる可能性も勿論大きいが。

 今回のサングイスの犯行動機は「 自己顕示欲 」と踏んだ。勿論それほど単純な話でもなかろうが、根本を辿ればそこに行き着くはずだ。では彼らの自己顕示欲を満たすにはどうすればいいのか。派手なことをやることだ。目立つことだ。しかしどのように目立ちたいのか、それによってこの白煙が有毒なのかあるいはただの陽動なのか、また違ってくるだろう。どちらだ。それはもうサングイスに聞くしか方法はないけれど。

 考えながら小型の有害ガス検知器をパーカーの内ポケットから取り出し、起動させる。結果が出るのを待ちながらどれだけ考えたって無駄な考えを巡らせる。

 サングイスとはどんな奴らなのだろう。きっと、悪いやつではないはずなのだ。元にテロリストだった自分は、普通の生活をすることを望んでいた。しかし世間はそれを許さなかった。叫びたいことがあったが、世間は耳を傾けなかった。だからテロリストなんていう道を選んだ。そうしたところで解決することはないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。この世界の理不尽さを。

 いずれにせよ、この白煙はまだ爆発ではない。こればかりに気を取られていれば、間違いなく相手の思う壺だ。さあ、どこから来る、サングイス。

『 ……こちら黒瀬、国会議事堂付近にて白煙発生。爆発物処理班、救護班の派遣また民間人の避難を至急。有毒の場合万が一異常の感知、訴えがあれば即座に退避しろ。陽動の可能性も十二分にある、各班警備の手を緩めるな 』

「 りょーかいっ! 煙のことだけど、検査の結果無害。パニックになってる人を誘導するだけで大丈夫だよっ 」

 そう言って無線を切る。周りを見渡す。一面白い煙。これじゃあ怪しい人いてもわっかんないじゃん、あまり感情的にならない……というよりは、いつも楽しそうな笑みをたたえている叶羽にしては珍しく舌打ちを吐き落とした。

 今警備配置はどうなってる? どうすれば爆発が防げる? これが陽動だとすれば、今から爆発物が仕掛けられるはずだ。どうするのが最善策だ。考えろ、考えろ、酸素を吸い込め、血液を回せ、脳を動かせ。できうる限りの最高のエンディングがやってくるように。

 手の甲に流れた赤い一筋の線は、ひりひりとした心地いい痛みを与えた。目を瞑る。大丈夫。今度は失敗なんてするものか。さあ足掻け、サングイス。テロリストの根性を見せてみろ。

 青年は駆け出した。今度は、しっかりとした足取りで。


> 周辺ALLさま



【 めちゃくちゃ遅くなりましたすみません…! 久しぶりの叶羽くんです、キャラが迷子になっているかもしれませんごめんなさい〜!! 】

5ヶ月前 No.51

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎雪乃/国会議事堂付近】

「承知したわ。……リーダー」
意志の強い大きな目が朝比奈を見つめる。力強い頷き一つの後に、朝比奈に向けてそっと微笑む。庇護の慈愛に満ちた柔らかな笑みを、まるで可愛い後輩の不安を連れ去っていこうと励ますように。
「不死不殺(しなずころさず)の掟、忘れる勿れよ」
吾妻純や十姫雨桜が是枝正太に少し遅れて各々の作戦の為に発って行く。最後に残った雪乃も、朝比奈に微笑の一瞥を残すと、颯爽として立ち去った。
グレーのトレンチコートに巻き髪を揺らし、爪先立つような機敏な足取りで、みるみるうちにそのしなやかに気取った後ろ姿は遠ざかる。




雪乃は指示通り、是枝正太の後を追った。作戦ルートを朝比奈から前以て聞いていたからとは雖も、それにしても正太の姿を見つけるのは容易かった。
(大丈夫かしら……)
朝比奈は爆弾のことだけではなく正太の身のことも案じて雪乃に尾行を命じたのだろうが、雪乃にしてみれば、正太の挙動不審ぶりは心配というよりも、いっそ憐れに思えてきた。正太は警察の目を気にして隠れているつもりのようだ。そこまでは決して予想し得ない出来事ではなかった。素人に爆弾をもたせているのだから。驚いたのは、正太が共にいる人物が、零課の同僚・深町渚砂だったからである。確かに、深町渚砂は、正太の探す姉・是枝京香の秘密を握る人物ではある。
雪乃は立ち止まることなく近づきながら、正太と渚砂の様子を観察する。どうやら、正太は特高一課のみならず、まだサングイスに手を出して良いとも言われていない特高零課の渚砂にまで追われ阻まれているらしい。
冷たい風に誘われて、目と鼻の先を白い靄のような煙が掠めていく。風上を見れば、大衆が半ばパニック状態に陥りながら此方へと避難してくる。しかし此方もみるみるうちに視界が白く朧に霞みがかってきて、雪乃も鼻口にレースのハンカチを充てた。良好とは言い難い視野の中で、特高警察の一人が正太と渚砂に話しかけている。特高一課・サングイス・零課、まさに三つ巴となったその逆境を、煙幕の混乱に乗じて強引に打破し、正太は其処から逃げ出した。賢明で勇敢な判断だと、朝比奈に報告したら彼は正太の決断を褒めるだろうか。「悪くないわ」雪乃は心の中でだけ呟いた。

渚砂も特高警察も、怪しんでいた青年が会話も引き千切って突然逃走したら訝しんで追いかけようとするだろう。しかし、途切れ途切れの煙の中から正太と入れ替わるように雪乃が声を掛ける。
「……なっちゃん! 此処にいたの!」
警察一課の男は、正太と渚砂に声を掛けていた。連れだと思っていたかもしれない。雪乃からしてみれば、正太が一課に捕まるのは勿論、零課の同僚と一課が面倒なことになるのも厄介だ。一課にも正太にも現段階では深入りしない方がいいのは、渚砂の為を考えてのことでもある。
雪乃はハンカチを持ったまま、渚砂のほうに小走りに駆け寄る。白煙がふわふわと彼女の体に纏わり付いて、演技でもなく口の中が本当に粉っぽくかさついて喉が不快だ。普段は「なっちゃん」などとは絶対呼ばないような同僚に、一連の混乱ではぐれた女友達の役を押し付けると、渚砂に話し掛けていた涼宮の警官服を不思議そうに見上げた。友達が、何か警察にお世話になるような事態にでも巻き込まれたのですかとでも言わんばかりに。

>深町渚砂様、涼宮衛様、(サングイスの皆様)


【正太君と入れ替わりで、乱入失礼致します。よろしければ絡みお相手宜しくお願い致します!】

5ヶ月前 No.52

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/国会議事堂付近】

 戸惑った様子で口を開いた正太だったが、彼の言葉は議事堂をたちまちのうちに包む白煙によって遮られた。少なくとも零課の任務にはなかったはずだ。とするとサングイスが仕掛けてきたか。あの厳戒体制の中で、既に爆弾を設置してあったとは考えにくい。陽動か。
 気を取られていた正太が我に返ったように、再び顔を向ける。やはり見知らぬ輩の忠告を受け入れる気はないらしい。それは想定内だった。だが――渚砂の心は僅かに揺れる。きっぱりと断る正太の眼差しが、今は亡き彼の姉と重なった。普段はたいして気も強くないくせに、不意に見せる意志の強い目が同じだった。正太が何と言って拒否しようと、強引にねじ伏せるつもりだったのに、言葉が出てこない。
 そこへ、近付いてくる人物の気配。それに気付いたときには既に声を掛けられていた。「大丈夫ですか?」から始まりそれに続く親切な言葉。先程一方的に姿を確認した特高一課の警察官、涼宮衛だった。気づけば、自分たちが立つ周辺にも白煙が流れてきている。無害そうではあるが、確証はない。彼は市民を守ろうと、気遣って声をかけてきたようだった。

「……ああ、どうも」

 瞳の奥で重なる京香の姿を振り払い、なんとか涼宮に注意を向ける。その隙を、正太は見逃さなかったらしい。素早い動作で立ちあがり、議事堂の方向へ駆けていく。渚砂が手を伸ばす間もなく、正太の背中は白煙の中に消えた。「クソガキが」そう吐き捨てる代わりに舌打ちをする。この騒ぎの中だ。すぐそばにいる人間にも聞こえやしない。もしも聞き取られたところで、気のせいと言えば済む話だ。誰のためにわざわざ忠告しにきたと思っているのか。だが、諦めるつもりはない。次の手を打てばいい。京香の弟を、是枝正太を、止めなければ。

『……なっちゃん! 此処にいたの!』

 ぱたぱたと小走りで、新たな人物が姿を見せる。玻璃崎雪乃。数少ない零課の同僚であり、現在はサングイスの副リーダーという顔も持つ。当然、本当の顔こそが零課だ。サングイスの副リーダーなんてのは単なるスパイに過ぎない。連絡はしばしば取っているが、直接会うのは数日ぶりだった。

「あらぁ、ユキ! 私もどこ行ってたのかなとは思ってたの。でね、さっきユキが可愛いって言ってた子、ナンパしてみたけどダメだった、ごめんネ」

 ふふ、と目を細めて笑い、まるで慰めるように雪乃の両肩に手を置いた。だから何でもないんですよ、というように涼宮にも笑みを貼り付けたまま視線を投げる。その涼宮衛の後方には、まだあの男、黒瀬の姿があった。距離はあるが、最も油断のできない人間の一人だ。遠目に黒瀬の顔を見て、さらに少し口角を上げた。

>涼宮、雪乃、黒瀬、(正太)

5ヶ月前 No.53

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★wgm3NQbNwV_aPY

【十姫雨 桜/公園→国会議事堂付近→公衆トイレ】

 諫めるように頭に乗せられた雪乃の手の感覚に安心感を覚えながら、サングイスのモットーを確かめるように呟いた正太の背中が消えていくのを見送る。純が朝比奈に指示を仰ぐのに追従するように視線を彼に向ければ、雪乃からも零れたその言葉。「不殺」の掟。此処に在る為に絶対に破ってはいけない其れを犯しているということが再び思い出され、なるべく自然なようにくっ付いていた雪乃から離れる。あの時の純の表情がふと脳裏を掠め、冷や汗が伝うような心地がした。

しばらく考え込んでから口を開いた朝比奈は、随分と様々なものを噛み潰したような表情をしていると思った。何か声をかけたいと動きかけた唇はしかし、そのまま停止する。音を紡ごうとした喉は張り付くように乾き、やがて閉じられた。今の自分が、彼の為に何かを言える気がしなかったから。伸ばしかけた腕を引っ込めて、下された指示に「分かりましたぁ」と従順に返事をすることしか出来なかった。


***


 規制線まで乗り越えて状況を愉しんでいるかのような野次馬たちをすり抜けるように、純の後を追う。如何にもその野次馬の一人だと言うように振る舞うのは思ったより簡単だった。というか、皆周囲の状況に夢中で自分たちになんて興味は示さない。何かを仕掛けるには絶好のタイミングだった。ふと純へ視線を向ければ、その手からぽつぽつと何かが落とされているのが見えた。訝し気な目線でそれを追っていれば、察したように純が「大丈夫」と唇だけで囁く。重ねられた右手がやけに暖かく感じられて、思わず安心のようなため息を吐く。まるで迷子になった子供のようにひたすらに彼に付いて行けば、辿り着いたのは国会議事堂からはそこそこ距離の離れた公衆トイレ。電話を取った純は、片手間のように何の躊躇いもなく手元のスイッチを押した。すると、今歩いてきていた方向から徐々に激しく煙が巻き上がる。混乱した一般人の悲鳴が響き渡り、一気に空気が切り替わったことを察知する。あの発煙筒は場の攪乱だけでなく、正太のこれからの行動を妨げないようにと計算されたものだったのだと思い至り、一人で感心したように感嘆を零す。何も出来ない役立たずの自分は、みるみるうちに雰囲気の変貌を遂げていく純の背中を、ただ見詰めることしか出来なかった。


***


 か細い、もう燃え尽きる寸前のような女性の声が、数枚の壁を隔てて聞こえる。それと共にひどく楽し気な、歌うみたいに流暢に話す声も。自分が立ち尽くしているのは公衆トイレの入り口のすぐ前。万が一でも彼が「仕事」をしている間に人が乱入することがないように、見張り番のように其処にただ立っていた。先ほどから耳に入るのは、聞いているだけで中の惨劇が想像できる凄惨な音。でも、それも彼から発されているものだと思えばいっそ心地良い。台詞をなぞるように発される彼の言葉に乗せるように、小さな鼻歌を口遊んでいた。

『おい、君?そんな所で何を……』

 微睡むような意識の狭間に唐突に現れた声に、弾かれたように其方を振り返る。その男が何者なのか確認することもしないまま、反射的に身体は動いていた。凄まじいスピードで呆然と立ったままの男の懐に詰め寄り、握り締めた拳を鳩尾目掛けて振り上げる。鈍い音と汚い嗚咽を散らしながら、一瞬の内に男は倒れ伏した。ドサ、と自分よりかなり図体の大きな体が地面に落ちるのを見届けて、「あ」と気が付いたように声を上げる。またやってしまった。いつも禄に相手の素性の確認もせずに、先に身体が動いてしまう。反射神経があるのは良いことだけど、直した方がいいとサングイスのメンバーから散々忠告されていた。いつまで経っても学習を苦手とする自分の頭脳を悔いて頭を抱えたが、今一度よくよくその男を確認すれば、着ているのは多くの特高が着用している制服で。幸運にも間違っていなかったのかもしれないと、その真偽を確かめる為、その男の襟首を掴み、重い身体をお構いなしに引き摺りながら純が居るであろう女子トイレに入る。

 鼻につく強い鉄の臭いに少しばかり眉を潜め、中の様子を窺う。タイル中にぶちまけられた深紅の華の中心に佇む純は、それはそれは楽しそうで、満足気。その表情を見て自分まで嬉しくなってしまう。トイレの床にぴくりとも動かずに居る人影が、意識に入らない程に。今のボクには、メンバーの幸せがボクの幸せ、なのだから。

「ふふ、純さん……きれい、ですねぇ」

咄嗟に見えた彼の出で立ちの美しさに心を打たれて、傍に駆け寄りその頬に触れ、噛み締めるようにうっとりと呟く。元々パーソナルスペースの狭い自分だが、雪乃と純に関しては頭一つ抜きん出ているレベルで接触しに行こうとする機会が多い。返り血がルージュの引かれた唇をさらに鮮烈に赤く染め上げ、顔を映えさせる。頬に付いてしまった血をハンカチで優しく拭き取り、少し乱れていたウィッグの髪を手櫛で整える。そこでようやく思いだしたように、入り口に置き去りにした男のことを思い出した。

「あ、あのぉ、このひとも、わるい子ですかぁ?」

そう言って襟首を引っ掴み、気を失っている特高所属であろう男を純の方へ差し出す。その行為は彼の狂気の餌食になる生贄を増やしていることと相違ない。だけど、わるい子は要らないから。ボクの正義(サングイス)を壊すものは紛れもない【悪】だから。そう信じて疑わずに、無邪気な笑みを浮かべながら、無慈悲に人柱を純の足元に横たえた。

純さん、ALL様>>

【ドキドキの特高狩りパートに参戦させていただけて嬉しい限りです…!既に倫理観はぶっ飛んでおりますので殺人に関してはお気になさらずバンバンやってください(?)かなり依存度強めの盲目的信者な桜ですので、お好きなように使っていただいて大丈夫です…!どうぞよろしくお願い致します!】

5ヶ月前 No.54

大狼 椿 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【大狼 椿/国会議事堂付近→公衆トイレ】

 指定地到着との無線を流して暫く、野次馬による不審な動きは取り立てて見当たらなかった。此処が国会議事堂の脇ということもあってか、長居するような野次馬は居らず、ただ立ち寄っただけと見られる者や、閑散とした現場を見て期待外れだと言わんばかりに場所を移動する者などと、様子を見る限りでは単なる興味本位で訪れたと思われるような者ばかりであった。此方に今回の騒動について問いかけに来る野次馬も何人かは居たが、此方が語れることは何一つ無いのだ。そう何度も断りを入れる内に興が失せたのか、彼らは数分留まっただけでやがてこの場を去って行った。どうやらこの手の野次馬の面々には同類も存在するのかもしれないと頭の片隅に置いてはいたが、どうやら全くの買い被りであったらしい。彼らは、単に非日常を目の当たりにしたくて此処へ集まっただけのようであった。規制線の内側から聞こえる言葉の端々には、やはり好奇心が表立っている会話ばかりが鼓膜を揺らしていく。
 それからは、主に同じ場所に割り当てられた制服組の二人が野次馬の相手を行っていた。周囲に気を向けたままで、腕時計を確認する。未だ予告時刻には届いていなかった。既に爆発物が国会議事堂の何処かに仕掛けられているのか、それとも――。

 腕時計から周囲へと視線を戻した直後、視界の端に白糸のような靄が映り込んだ。地を這うように蜷局を巻くその白煙に、規制線の先へ視線を投げた。恐らく、発煙筒か。流石にこの状況において尚も国会議事堂に出向くような人間は、ごく僅かな警察関係者以外をおいては存在しないだろう。であるとすれば、この煙を焚いた理由は人の動線を操るためか。この推測の通り国会議事堂に近付かせないためであるとするのならば、彼らの思惑は未だ準備段階であるのかもしれない。不意に、罅割れたような音を上げながら無線が鳴った。黒瀬からのものであった。此方へと駆け寄ろうとする制服組の二人を手で制す。
 その後に続いた夢月からの無線の最中――少し遠くで、紺色の人影が揺れるのが視界に映り込んだ。その見慣れた紺色から連想されるのは、制服組の召物。無線に集中する瞬間に、その紺色は白煙の中へ溶け込んでしまっていた。

「……無線の通りです。これ以上視界が遮られる前に、皆さんを安全な場所まで誘導してください。俺は周辺を見回してから避難場所へ向かいます。能登にも同じように伝えてもらえますか?」
「それが、能登さんと連絡が取れないんです」
「いつからです?」
「一時間ほど前に会ったきりです」
「分かりました。では、二人は救助を優先してください」

 制服組の二人は敬礼を行った後、規制線の方へと駆け出した。遠のく二人の間には会話があるようだが、警戒するような言葉が並ぶことはないだろう。何も疑ってはいない。疑うことすらないだろう。二人の背中が白煙の向こうへ消えるのを見届けた後、静かに無線の電源を切った。


 袖を口に当てながら、白煙の中を進む。持ち場を同じくする警察官たちが能登の姿を誰一人見ていないことは幸いであった。彼女との直接的な繋がりは職務内でも少なかったが、このような事態において誰にも告げず持ち場を離れるというのはまず考えられない行為であろう。似ていると思ったのは、単なる勘のようなものであった。そのつまらない勘の延長戦に、先程白煙の中に見えた紺色の制服が関係していると、そう踏んでいた。制服組の二人が他に連絡不通者の名前を挙げなかったということは、あの消えた一人は少し前までこの辺りで姿を見せていたということになる。先に消えた能登との関係は分からないが、読みが当たっているのならば、二人とも何かを見たことになる。警察官として見過ごせない、何か。想像を巡らせる度に、肩が小さく震える。その震えがやがて指先へと下りた時、目の前にあるのは国会議事堂周囲から少し離れた公衆トイレだった。発煙筒の煙は届かず、周囲の視界はある程度見渡せるようであった。

 声が聞こえた。人の気配がした。そして何よりも、鉄錆のような生々しい臭いが周囲を狭い出入り口から流れ込んできていた。

 静かに、ホルスターから拳銃を抜き出した。罅割れたタイルを踏みつけながら、女性用トイレの出入り口を横に、壁を背にして拳銃を構える。ずるり。摩擦音が奥へと消えていく。砂粒が擦れるような厭な音が混じっていた。一度呼吸を整える。会話の二人、摩擦音の正体、それから血の臭いの出処。最低でも四人がこの中に居ると予想する。さて。

「警察だ、止まりなさい。動けば撃つ」

 トイレの入口へ音無く踏み入れ、言い終えるまでに銃口を手前に居た人影へと向けた。相手の武力を知らない以上、隙を見せないよう最初に捉えた動く対象へと咄嗟に照準を合わせた訳であったが、予想とは大きく異なるその姿に一度目を瞬かせた。その女性の足元に横たわる制服の男を一瞥し、その犯行には不向きであろう恰好と合わせ、まさかと眉根を寄せる。もう一人の方へと向く女性のその表情は読み取れないが、静かにグリップを握る手を強めた。
 そして、その女性の視線が向く先、――血のように濃いルージュが印象的だった。

 銃口を色素の薄い茶髪の女性へと向けたまま、黒髪の女性から視線が外せなかった。その黒髪の女性の頬に薄くこびり付いた血の跡、白い指先に収まるナイフ、そしてその切っ先の真下――そこに、能登の姿があった。全身の血が爆ぜるような気分であった。能登の喉骨の窪みに溜まるどす黒い血液に、思わず唾を飲み込む。

「……羨ましい」

 そう、思わず口にしていた。空虚感を纏うそれが周囲にも聞こえるようなものであったかは、発言した後となっては自分にも分からない。ただ、幼い自分が望んだ姿が、そこにはあった。かつて自分の名前を呼んだ機械音声が警戒音のように脳内を延々と巡り始める。手足を椅子に縛り付けらえた感覚は、今となっても容易に思い出せた。口角が湾曲するのを、唇を噛んで制止する。奮い立たせるようにして、拳銃の安全装置を解除した。


>純さん、桜さん、周辺ALL
【特高狩り編にお邪魔させていただきました! 純さんと桜さんのレスを見て繋げてみたつもりなのですが、時系列などいろいろと展開と違っていましたらすみません;;】

5ヶ月前 No.55

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


「こちら黒瀬、了解。避難誘導は変わらず続けろ」

 騒めく人波を掻き分けながら夢月からの無線に返答を寄越し、周囲の煙とパニック状態と化した現状を見渡す。無毒なのはまだ良いが、この有様なら怪我人が複数名出る事だろう。どちらにしろ誘導に人員を回さなければならない訳で、厄介極まりない事態には変わりはない。
 そうして漸く彼等が身を隠した茂みに近付いてきたのだが、その視界に一番に入り込んだのは男女二人組等ではなく見慣れた男の背であった。

「涼宮……?」

 把握している限り彼の配属地点は此処より離れていた筈だがこの緊急事態である。恐らく民間人の避難を優先した結果であろう。自然と訝しげに変わる表情の裏で思考を巡らせるながらふと一つの視線を察知して其方を見る。
 その主は、涼宮より奥に見える先程青年と会話をしていた女性。彼女の緩く細められた目に、種は違えど黒瀬も鋭い視線を向けた。一度疑心を持てばどの言動も怪訝に思えるようで、果たしてこの笑みの裏にはどれ程仄暗い腹の中を隠しているのかと根拠の無い疑念が浮かび上がって仕方が無い。しかし一方で、己の勘をそう容易く断ち切れない程度には使い物になると踏んでいるからこそ、歩みを止めるという選択肢を放棄したのだが。
 彼等の元に辿り着き、先程までは居なかった筈のもう一人の民間人に気付いて軽く視線をやった後、逆にあの青年が姿を消している事に表情を険しくさせた。予想は出来ていたがこの人混みを鑑みるに大分面倒な状況と言える。周囲を見渡してやはり見つからない事を確認しながら、涼宮の横に立って意図的なのか無意識の内なのか相変わらず妙に威圧の感じる表情と声色で"なっちゃん"と呼ばれた方の女性へと警察手帳を提示しながら話しかけた。

「失礼、質問があるのですが。先程この辺りで貴女が会話していた男性は何処に? 小柄で明るい茶髪の青年です。……彼に少し話を伺いたい」

 意図を聞き返される手間さえ惜しいと、手短に必要最小限の問いを投げかける。万が一本当に青年を逃がすつもりだったとすれば簡単にシラを切られそうではあるが、どうにしろ涼宮が此処に居るなら姿を消す前の彼を目撃していてもおかしく無い。ならば逃げていった方向だけでも情報としては十分だ。
 示した警察手帳を仕舞いながら、首を軽く真横に捻り「お前は何か分かるか」と涼宮にも短い情報開示を求める。その間にも問いかけた女性から離さない黒瀬の鋭利な瞳は、隠す気も無いだろう警戒の意を強かに顕していた。

>夢月、涼宮、深町、瑠璃崎、是枝、all



【中々時間が取れず遅れた挙句に普段より即興の粗雑文となってしまいました、すみません。スレを大分停滞させてしまい申し訳ない限りです】

5ヶ月前 No.56

御柱 建 @sibamura ★o0W3VsenYO_Swk

【涼宮 衛/議事堂付近→議事堂付近の公道】

「あっ! 君」

 衛が二人組の男女に声を掛けたとたん、若い男性、いや少年といってもいいだろう年齢の男子が衛ともう一人の女性を振り払うようにして脱兎のごとく駆け出してしまう。しかも、その向かう先は白煙の立ち上る方角なのだ。

「待ちなさいっ っくっ!」

 即座に少年を追わんとした衛であるが、しばし逡巡する。駆け出した少年が怪しいのは明白であるが、いま彼を追えば残された女性を放置することになる。少年と何か話していたようだが、彼女も少年の関係者だろうか、ならばなぜ彼女はここに残ったのか。いや、こうして彼女がここに残ることで自分の足は止まってしまっている。つまり、彼女は足どめ要因なのだろうか、

『「……なっちゃん! 此処にいたの!」』

『「あらぁ、ユキ! 私もどこ行ってたのかなとは思ってたの。でね、さっきユキが可愛いって言ってた子、ナンパしてみたけどダメだった、ごめんネ」』

 そんな衛の考えを吹き消すかのようにもう一人の女性が介入する。彼女たちの話を信じれば、彼女たちは単なる野次馬であの少年とは単なる偶然出会っただけということだろうか。笑みを浮かべた深町渚砂と不安げにこちらを見る玻璃崎雪乃、老練な零課の二人の擬態は衛には見抜くことができず、衛は二人の話を疑問に思わず信じてしまう。


『涼宮……?』

 そんな彼にかけられた声は、まぎれもなく彼の上司の声で。条件反射的に衛はそちらの方を向いて敬礼しながら、状況を説明した。

「はっ! 先ほど、こちらの茂みに少年がしゃがみ込み、こちらの方が少年と話をしている様子だったので避難指示のために声を掛けたところ少年が白煙の中へ逃走。不甲斐ないことに逃走を許してしまいました。もう一人のこちらの女性は、こちらの方のご友人だそうです。配置場所を離れたことについては弁明のしようもなく、私の非であります。」

 そこまで一息に言って、しかし衛は言葉をつづける。

「しかし、その少年が無関係な市民であるにしろサングイスの協力者であるにしろ。危険な地区に自ら入り込んでしまったことは事実です。自分に、彼の追跡の許可をお願いします。」


>> 黒瀬新様 是枝正太様 深町渚砂様 玻璃崎雪乃様

5ヶ月前 No.57

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎雪乃/国会議事堂付近】

雪乃が渚砂に声を掛け、渚砂が特高一課警察官の目を眩ますために演技をしはじめた。生産性のない虚構の会話の間には、逃げていた正太の後ろ姿はもうすっかり白煙の向こうに消えて見えなくなっていた。

「あっ、残念……だけどなっちゃん、そんなことよりこの煙……此処はまだ良いけど、あっちはなんか凄く酷いことになってるの。良かったぁ……私達も早く逃げましょう。……警察官さん、何処から逃げたら良いんでしょう?」

渚砂に励まされる演技を受けながら、『可愛い男の子・正太』の消えたという白煙の果てに目を向ける。それからすぐに「そんなことより今は」と、眉尻を下げた。『友達・なっちゃん』にこの不安な状況からの避難を訴える。避難勧告と集団パニックに煽られながら逸れた友人を探しに来た風を装っている。
爽やかで人の良さそうな警察官の注意を引き、そうこうしている間にも白煙に包まれて視界の悪くなった周辺からの退路を問いかける。後からやって来たその上司風の一課の男も、正太を追わず渚砂に警察手帳を突き出した。

サングイスとしての雪乃の計画はひとまず成功を収めた。正太が逃げ出してから遠くに行くまでの時間をなるべく稼ぐ。
(私に助けられるのは今はこの程度よ。ーー頑張って頂戴、……『是枝京香の弟』)
吾妻純と十姫雨桜のセキュリティ突破、雪乃の護衛。国会議事堂は目前。逃げ切った此処から先は正太の力次第だ。リーダーである朝比奈に対する責務さえ果たせたなら、雪乃にとっては此処で正太が成功しようと失敗しようと、それは実のところ大した問題ではなかった。
(だって、私は正太君の身を案じて、一度は止めようとしてあげたのよ?)

……正太を逃したら、今度は零課の同僚が一課との面倒ごとに巻き込まれる前になんとかしなくては。何故、渚砂は正太の邪魔をしようとし、上からの指令でもなくサングイスの妨害をしようとしたのか。私の方が後で彼から事情聴取したいぐらいだわ、と彼の前に突き出された警察手帳を横目に思った。

「って、……あら?」
雪乃は不意に目を丸くし声を上げる。艶やかに染められた唇が、無邪気に弧を描く。
「もしかして、貴方、黒瀬新君じゃない……?」
明らかに渚砂を疑っている鋭い視線に対して、あまりにも唐突に和やかな風を送り込んだ。
捜査一課で、部下らしき警察官に指示を送り、渚砂を問い詰めようとしていたのは、同じ大学の一つ下にいた黒瀬新だった。何故学年の違う雪乃が彼を知っているかといえば、言うまでもなく、学生時代から彼女の視線を集めていた朝比奈藤司が黒瀬新と親しくしていたからである。同窓会のノリで軽く話しかけるも、すぐに「ああ、お仕事中にごめんなさい」と控えめに苦笑する。尋問の邪魔にならないように一歩下がって、職務質問を受ける『友達のなっちゃん』の後ろ姿を心配そうに見守った。

>渚砂様、涼宮様、黒瀬様


【お返事が遅くなってしまい申し訳ありません……!】

4ヶ月前 No.58

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂付近 → 国会議事堂内部 】

 辺りに充満する白煙を掻き分けるようにして正太は走った。追っ手が来ているのか、それとも来ていないのか、振り向いてそれを確認する余裕などあるはずもなく、正太は手足を必死に動かすことで後ろから迫り来る恐怖を振り払おうとしていた。
 肺胞に満たされる埃っぽい空気に噎せかえり、涙が溜まった目尻を乱暴に擦る。まるで霧の中を泳いでいるような感覚だった。厚く濃い乳白色の層の向こうから突如として現れる通行人と激しく衝突する度に、腕に抱える爆弾が誤作動を起こすのではないかと錯覚した。
 しばらくして人波の渦から吐き出されるようにして解放されると、目の前には──運の良いことに──サングイスの標的である国会議事堂が悠然と待ち構えていた。どうやら逃げながらも目的地へ向かっていたらしい。正太はゆっくりと議事堂を見上げた。議事堂はこれから倒壊されるとも知らずに、正太を見下ろして嘲笑っていた。
(や、やっと……ついた)
 正太の心は達成感に近いもので満ち溢れていた。朝比奈たちと別れた地点からそう遠く離れていないはずなのに、おそろしく長い距離を走った気分だった。息を切らしながら恐る恐る背後を確認する。誰もいない。煙のせいで遠くがよく見えなかったが、どうやら自分は上手く特高たちを撒くことが出来たらしい。正太はふぅ、と小さく息を吐いてそっと胸を撫で下ろした。もう次はないと思った。また彼等に目をつけられでもしたら、きっと今回のようにはいかないだろう。だからこそ、そうなる前に早くやることを終わらせなければいけない。

 吾妻の引き起こした陽動が功を成したのか、国会議事堂の周りは予想以上に警備が手薄だった。日本一のテロ集団が破壊を高らかに宣言しているというのに、裏門から入り口まで三、四人の警官しか見当たらない。銃を構え、周囲に神経を張り巡らせているとはいえ、それは素人の目からしてもとても十分とは思えない。
 正太は再び茂みの中に潜み、頭の中で計画を練り直した。本来なら腰に隠し持っている秘密兵器≠使って押し通そうと思っていたが、この人数であればはったりをかませば何とかなるかもしれない。そっと腰を下ろし、リュックの中をガサゴソと漁った。こんなこともあろうかと正太なりに準備を事前に済ませていたのだ。
 茂みから飛び出し、右も左も分からないような子犬の溺れ顔を浮かべて警備隊に近づく。そしてリュックから取り出した紙束を見せつけ、困り果てたように尋ねた。

「……あの、すみません。ここらへんで俺の父さんを見ませんでしたか?」

 見せつけたのは警察手帳。警察庁に訪れる度に目にしていたそれを、正太が見よう見まねで偽造したものだった。
「これ、父さんの手帳なのにそこの茂みに落ちてたんです。俺、父さんの身に何かあったんじゃないかって思って心配で……もしかしたらサングイスに何かされたんじゃないかって……」
 もちろん全てでっち上げだった。正太の父親は田舎で畑仕事をしているし、もう何年も顔を合わせていない。警察手帳には上京する前に撮った写真を加工して載せたが、逆にその古さが信憑性を高めていると正太は思った。

「名前は?」
「是枝源平です」
「聞いたことのない名前だな……見せてみろ」

 そう言って見張りが偽物の手帳を手にしたとき、正太は急いで表情を明るくして左を向いた。国会議事堂の中を指差して「あっ、父さん!」と大声で叫ぶ。まるで父親を発見したように嬉々とした、しかしどこか安堵したような顔。そしてその方向へ勢いよく走った。「おい、ちょっと待て!」と叫ぶ特高を尻目に、正太は議事堂の中へと向かっていく。必死に親を探す子のように「父さん」と連呼して走り去る。正太は自身の記憶力と手先の器用さには少し自信があった。あの警察手帳が偽物だと気付くまでまだ時間がかかるだろう。あとほんの少しの間だけでいい。あいつらに自分が警察の子供≠ナある思わせている間に爆弾を設置すれば自分の勝利が確定する。そのあとは特高に捕まろうが何されようが構わなかった。朝比奈たちは自身の命も守れと言っていたが、正太は姉の居場所が分かるのであれば、特高に連れ去られてもいいと内心思っていた。

 駆け足のまま標的の中へ一歩足を踏み入れる。コツン、コツン、と床の大理石とぶつかった自身の冷たい足音が響き渡った。あまりの静けさに正太は思わず身震いをした。ごくりと生唾を飲む。ぐるりと周囲を見回す。不気味だった。避難を済ませているのか、辺りには誰もいない。しかしその静寂はどこか人工的な、まるで誰かに作られたもののようにも思えたのだ。


>特高おーる、(鳳さん)
【スレ主のくせして遅くなってごめんなさい!またまた現在読んでる本に影響されて文体が恐ろしく迷子です。次までにはどうにか元に戻します】

4ヶ月前 No.59

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【吾妻 純/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 ぽたり、ぽたり。
 一定のリズムを刻みながら赤黒い雫がナイフから滴り落ち、薄汚れた白タイルの床で小さく弾ける。赤い花弁を散らすように模様を描くそれからは、むせ返るような深い鉄の匂いが漂っていた。人々の喧騒が、夏の夜の夢の、陽炎の先で揺れる祭り囃子のように遠く感じた。
 純は決まって人を殺した後、自分という存在がぼんやりとしたものに感じるのである。極度の興奮状態から覚めていくその通過点にあるのだろう。自分という存在が非日常から日常へと戻されるその過程で、彼はいつも自分が水の中にいるような、曇りガラス一枚隔てた世界に一人で居るような、そんな感覚に陥るのだ。顔に飛び散った血を拭う事もせず、今、彼はただ赤いルージュのくちびるを三日月の形に歪めながら、ぼんやりとした焦点の合わない瞳で、視界に広がる赤を眺めている。
 未だ手に残るのは、突き刺す感触と、骨の硬さ、吹き出る血液の生の温度。いつもの引き金を引く感覚とは違い、命を奪う感触が直に手に残っている。それらを求めるように、徐に彼はナイフを握ったまま、自身の肩を抱きしめる。大きく息を吐き、公衆トイレの低い天井をぐらりと仰ぎながら、純は目を細めて嗤った。
 不意に、背後に人の気配を感じて振り返ると、其処にはふわりとした花のような笑みを浮かべる同士――桜の姿があった。トイレ内に広がる惨状に目もくれず、彼女は笑みを浮かべたままこちらへ足を進める。純もまた、笑みを浮かべたまま彼女の方を見つめていた。
 桜は「綺麗ですね」と、うっとりした様子で確かにそう言った。そして、数センチの距離でこちらの顔を見つめ、頬についた血を拭い、ウィッグを手ぐしで整えてくれた。
 「綺麗」。その一言があれば、純はもう十分だった。うっとりとした表情で、純もまた桜の方へ手を伸ばす。手のひらについた血を彼女の髪に付けぬよう注意を払い、手の甲を使って桜の頭をそっと撫で、そのまま彼女の白い頬へ掌を落とす。純は愛おしそうに、先程とは打って変わった様子で、聖母のような慈悲に溢れた笑みをその顔に浮かべていた。「ありがとう」と短く、それでいて慈悲の籠った様子で彼女にそうつぶやけば、桜の傍らに倒れる、彼女よりも一回りも大きい男性の警官に気が付く。思い出したかのように警官の襟首を掴み、これも悪い人なのか、と尋ねる桜の目には、純粋な疑問の色のみが映っていた。

「貴女は本当に良い子ねぇ、桜。そうよ、そのひとも、わるいひと。私たちの邪魔をする――――」

 邪魔をするひとなの。そう言いかけた刹那、新たな足音が純の耳に響いた。さっと視線をトイレの入口の方へ向ければ、其処に居たのは銃口を確かにこちらに向ける男性警官の姿で。
 国会議事堂の騒ぎがあるものだから、時間は稼げるものだと思ったのだがそうは行かなかったかと思いつつ、その銃口が桜の方へ向けられているのを瞬時に確認する。彼はきっとこの女性警官の上司か、同僚か。無線が繋がらなくなったのを不審に思って此処を突き止めたのだろう。
 いくら人数で勝っているとはいえ、拳銃にナイフでは圧倒的に此方のほうが不利、加えて銃口は既に桜を捉えている。さて、どうしたものかと思考を巡らせてはいるものの、不思議と純は焦っては居なかった。ただ黙ったまま、真紅の海の中で、彼はただ銃口を構える警官の方をじっと見ていた。自分より背の高い位置にある彼の、自分と同じ黒い瞳をじいと見つめていると、純の足元に横たわる女性の亡骸を視界に捉えた不意に彼の口から、ある言葉が溢れた。
 「羨ましい」。その六文字の音が、純の鼓膜を刺激した瞬間、彼の目がぐっと見開かれる。

「――――――あら、そうなのぉ?」

 いやに明るいトーンで、愉しそうな様子で。まるで歌うように、純がそう答える。察知したのだ。彼は「求めている者」であると。羨望の念が人をどうさせるのかは、自分が一番良く知っている。目前で拳銃を構える彼の目は、満たされない羨望を抱いてきた者の目、かつての自分と同じ目をしていた。

 答えるのとほぼ同時に彼はその華奢な身体で床にしゃがみ込むと、桜の傍らに倒れていた男性警官の襟首をぐいと掴み、力のままに手繰り寄せる。彼の首筋にぴたりと、女性の血の痕が未だ残る鈍色のナイフを食い込ませ――

「羨ましいって……こういう事が、かしら?」

 びしゃ。

 勢いよくナイフを引けば、彼の喉から真っ赤な花弁が辺りに飛び散った。赤の水音と、男性のくぐもった声にならない最期の声。そこに重なるように、つんざくような、純の高笑いが重なった。
 飛び散る鮮やかな血の花弁越しに、飛び込んできた男性の黒い目と、純の目が合った。そのまま、前のめりに倒れかけている男性警官を大狼の方へ勢いよく突き飛ばす。不意打ちを仕掛けるつもりだ。時間稼ぎ程度にしかならないだろうが、成人男性の身体は、盾にするには最適であった。
 右手のナイフを強く握りしめる。命を奪う感触に、純は既に虜になっていた。

>桜さん、大狼さん 【お返事遅くなりまして本当にすみません! そして好き放題やっていてすみません……トイレがどんどん血まみれに……(】

4ヶ月前 No.60

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_Swk

【鳳嘉音/国会議事堂内部】

 かつり、かつりと、大理石の床を鳴らして歩く。人気の無くなったその場所では、手にした杖も偽りの役目を放棄する。
 爆発した際の被害を抑えるためなのか、矢張りまだ爆弾は仕掛けられていないと現場でも踏まれているのか、外部の喧騒が嘘のように辺りは静まり返っていた。もしかすると、爆弾の捜索にまで人手を裂けていないというのが現実なのかも知れない。
 歩きながら、嘉音は頭に叩き込んだ議事堂内部の見取り図を脳内に展開した。自分が考えた爆破箇所に的を絞って待ち伏せるのも面白そうだが、流石に成功確率が低すぎる。結局彼が足を止めたのは、議事堂への裏口ともいえるとある扉が見える窓だった。
 嘉音が開いたのは、議事堂の裏手へと続く道。まんまとサングイスが彼の策にはまってくれたなら、まず間違いなくその扉から入ってくるだろう。嘉音はそれを今か今かと待っていた。
 嘉音は、今ここで敵を捕まえる気など小指の甘皮ほども持っていない。ただ、敵の顔が見られれば、正体が掴めればそれで良かった。後は爆弾でも何でも仕掛けて、思う存分破壊を楽しんでくれればいい。そうしてまた一つ首相の顔に泥を塗ってくれたなら、手懐けて利用するなり捕えて一課に引き渡すなりしてやろうと、特高にあるまじき思考でのんびりと外を眺めていた。
 勿論、サングイスが確実このルートを利用するなどという保証は何処にも無い。十分待って何の動きもなければ、他の厄介事がやって来る前に嘉音はその場を離れるつもりだった。

 しかし、“それ”はやってきた。

 その顔が視認できてしまった瞬間、思わず嘉音は身を屈めて、窓の下へと隠れていた。
 全速力で議事堂の中へと駆け込んできたのは、年若い青年だった。しかしそれだけなら、体制に不満を抱いただけの大きすぎる若気の至り、ご愁傷様でしたという感想だけで済む。問題なのは、そう。
「……是枝」
 それが、嘉音の見知った顔である事だ。
 国会議事堂へと飛び込んで来たのは、あろうことか彼のかつての同僚の弟であり、彼の生徒でもある是枝正太だった。いっそ爆弾を仕掛けに来たのが現同僚の雪乃だったら舌打ちで済んだのだが、予想だにしていなかった人物の登場に、嘉音は珍しく混乱していた。
 よもやまさか逃げ遅れた一般人ではないだろうか、ならば知り合いの誼で外に連れて行くくらいするべきか――
 混乱しすぎて、普段被っている塾講師としての仮面が前面に出て来てしまい、これまた珍しく嘉音の身体は正太を助けるべく動きかける。一応、社会科講師としての身分も有する彼は、授業の資料を集めに議事堂見学に来ていたら逃げ遅れました、という適当過ぎる嘘も用意していた。何なら父の身分を臭わせても良い、やりようは幾らでもある。しかし、ある事を思い出して、嘉音は冷静さを取り戻した。
 正太の姉・是枝京香は、零課が殺している。表向きは行方不明扱いになっているため、彼が姉の行方を聞き出そうと警察に足繁く通っているのは一部では有名だ。ひょんなことから正太が姉の死の真相を知ったのだとしたら……特高の敵である、サングイスに与する理由は十分過ぎるほどにある。
 改めて思い返してみれば、正太はリュックサックを大事そうに抱えていた。その中には何か大切な……或いは、危険なものが入っているのではないだろうか。
「……少し、尾けるか……」
 現時点では、どちらも所詮過程でしかない。しかし、議事堂内での正太の動きを確認すれば、自ずと分かることでもある。だから嘉音はゆっくりと、なるべく音を立てないように、正太が居るであろう場所に向かって移動を始めた。

>正太様、周辺ALL
【一応ステルスしてますが、見つけて頂いても大丈夫です】

4ヶ月前 No.61

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/国会議事堂付近】

 他人の良心を当然のものと信じる純粋な人間、そんな警察官一人を言いくるめることなど実に容易い。多少の強引な設定も、ごく自然な雪乃の対応を含めれば何ら問題ない。涼宮衛ににこりと笑みを投げる。こちらから退く必要はない。涼宮は自分への追及を終え、彼の方から立ち去るだろう。そうなるはずだった。
 そうならなかったのは、やはりというべきか、あの男のせいだった。視界の奥に小さく捉えていた姿が近付くのには気付いたが、だからといって自然に逃げ出すだけの口実はない。涼宮の隣まで来ると、男は黒い手帳を開いて見せてきた。渚砂はほんの一瞬、それを一瞥した。コンマ一秒にも満たないほどの時間だったが、それが警察手帳と分かるには十分だった。そこには黒瀬新という名と、特高一課長という身分と、その無愛想でいかつい面が載っている。そんな分かりきったものをわざわざ見る義理はなかった。

「知らなーい。知ってるわけないでしょおまわりさん。フラれたんだから」

 冗談混じりに、少しだけ喧嘩腰でそう告げる。彼が自分に何らかの警戒心を抱いてるのはわかっている。疑ってかかっているのもわかっている。だが、その猜疑心を根拠付けるだけの何かがあるわけでもないことも知っていた。そもそも、正太の居場所を知らないのは本当のことだ。多少の心当たりがあったとしても、彼の行方を知らないのは事実に違いない。
 同時に隣から、雪乃のなにやら物言いたげな視線を感じる。そりゃそうか。是枝正太は彼女の潜入先の人間だ。正太に近付いたのが任務の範囲外の行動だったことは気付かれているらしい。けれど、少なくとも、零課の不利益になるようなことは何も企んでいない。横目で雪乃を見返すと、なぁに?とでも言うように小さく首を傾げた。

「あら? おまわりさんユキの知り合いなの?」

 ユキこと雪乃の言葉に驚いたように、わざとらしく眼を開いて黒瀬と雪乃を交互に見る。黒瀬の出身大学が彼女と同じであることは知っていた。二人だけではない。サングイスのリーダーの男も、そして京香も。

「私このあと用事があるの。悪いけどおまわりさん、もう行くから。……もしもまた私に会いたくなったら、ユキ経由でいつでもどうぞ」

 逃げも隠れもしない。柔らかい微笑みにどこか挑発的な色を孕ませて、黒瀬に告げる。一同に視線を巡らせると、何か思い付いたように涼宮を見る。不意に彼の耳もとに顔を寄せ、黒瀬にも雪乃にも聞こえないであろう音量で小さく囁いた。090、で始まる番号。零課用、プライベート用とはまた別の、渚砂のもつ第三の携帯電話のものだった。あまり見ないほど純粋過ぎる涼宮への好奇心。素直な彼はナンパされたとでも思うだろうか、さすがにこれは訝しがるだろうか。黒瀬に流れたとしても、それはそれでいい。一度聞いただけの番号など覚えられないというなら、その程度の警察官ということだ。涼宮の耳もとから顔を離すと、彼の肩を軽くぽんと叩き、黒瀬と雪乃に会釈しつつその場から離れた。

>涼宮、黒瀬、雪乃、all
【遅くなりましてすみません……!一旦離脱させていただきます。いつかどこかで使えないかなーと涼宮さんに連絡先を伝えてみました。特に使わなくても大丈夫ですので……!】

4ヶ月前 No.62

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★wgm3NQbNwV_8aC

【十姫雨 桜/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 頬に添えられた純の掌の感触に、うっとりと酔い痴れていた。慈愛の籠った声音に心底安堵を覚え、男を差し出して褒められたことを素直に喜ぼうと思った瞬間、じゃり、と靴が砂を擦る音が聞こえる。『動けば撃つ』いっそ事務的なほどに淡々とした男の声が響いた。ぴたりと身体の動きを止め、視線だけで後ろを窺う。数歩離れただけの位置に凶器を構えた人間が居る。それは一人の人間として恐怖を煽るものではあったが、何よりも自分の目の前に居る純を守らなければという考えが頭を支配していた。純を見遣れば、突然の乱入者に驚きは示しているものの焦燥には至っていないようで、落ち着いた瞳で自分の後ろを見詰めている。どう動けば彼を守れるのかと愚鈍な頭を必死に回し、緊張のせいか口の中に溜まった唾をごくりと飲み込んだ。

 その時、鼓膜を震わせたのは思いがけない背後の男の台詞だった。零れ落ちるように羨望を表すその言葉が紡がれた瞬間、純の真っ赤な唇が妖しく弧を描く。場の雰囲気が一気に変化したのを感じた。一瞬でこの薄汚れた場所は純にとっての煌びやかな舞台に成る。舞うように床へしゃがみ込み、その手が取ったのはついさっきボクが連れてきた【わるい子】。背後の彼に見せつけるようにナイフで男の首がなぞられれば、深紅のカーテンが舞い上がった。酷く醜い断末魔を上げた【悪】はもうぴくりとも動かない。それに重なって奏でられた歌のような純の笑い声に、高揚で頬が染まった。強くて美しい、お姫様。彼を守る騎士で居られることに、誇りを感じた。次の瞬間、自分、及び後ろの男に向かって既に人ではなくなった人間が突き飛ばされる。純の手に握られたナイフから全てを察した自分の身体はほぼ本能的に動いていた。

 突き飛ばされた男がこちらに辿り着くまでのコンマ数秒で勢い良く後ろへ振り返る。案の定自らの頭のすぐ傍にあった銃口を鷲掴み、ターンの要領で銃口を掴んだまま、警官と死体の間を阻まぬようにその射線上から身体ごと避けるように移動する。恐らく動揺しているであろう男性警官の銃は、既に凶器とは言えないほどに殺意が削がれていることを確認していた。タン、と次に自らがステップを踏む音が聞こえた時には、右手に包まれた拳銃はみしりと危なげな音を立てていた。ふと純へ視線だけを向ける。「だいじょうぶ」唇だけでそう告げて、今にもその刃物を警官に突き立てそうな彼を静かに制す。もう一度右手に力を入れた。すると、硬い金属の塊のはずの銃はバキッと荒々しい音を立てて銃口から真っ二つに折れた。あまりにも思い通りに壊れてくれるものだから僅かに口角が上がってしまう。自分のこの力に感謝が出来るのは、こういう時だけだ。あとは、咄嗟の攻撃の手段を失くした警官に、死体がそれなりの速度でぶつかるのを見届けるだけだった。

 一仕事を終えたとでも言うように、警官から離れ、純の元へ帰る。左脇に控えるように佇み、すり、と猫のように彼の首筋に擦り寄って徐に取ったのは純のナイフを握っていない左手だった。絡め取るように奪った手は、所謂恋人繋ぎの形になっていて。見せつけるように、そして祈るように互いの胸の辺りに掲げさせる。その行為は破壊で昂ぶった自らの衝動を治める為のものであったが、傍から見れば主人への独占欲を剥き出しにした犬の威嚇のようでもあった。『羨ましい』その言葉が警官から出た瞬間に、純の彼を見る瞳が明らかに変わったのを見ていた。考えたくもない思念が湧き、言いようのない不安が胸を満たした。彼の興味が、関心が警官に向いてしまえば、棄てられてしまうかもしれない。もう良い子ね、と褒めてくれなくなるかもしれない。必要とされなくなる、それは考えただけで身震いするようなことだった。

「きみ、だれですかぁ」

 いつも通りの呑気な語尾が上がった声を意識して男性警官へ声をかける。しかしその瞳は未だ完全に敵を見るもので、まるで見知らぬ人に出会った子供が母親の背に隠れるかのように警戒心が剥き出しで投げ付けられていた。なるべく動揺を悟られたくなかったため、出来る限りの”いつも通り”を演じたが、足りない頭では何も誤魔化しきれず、結果的に過度なスキンシップとして情動が示される。極めつけに純と絡められた右手とは反対の左腕を彼の腰元に回し、自らの方へ引き寄せた。濃い血の香りは微塵も気にならない。其の表情はある種の愉悦に満ちていて、警官を挑発するかのような仕草を各所に散りばめていた。

純さん、大狼さん >>

【毎度お返事スローペースで申し訳ないです…!本体様方に許可頂いた演出のためにそこそこの確定ロルを含んでしまったのですが、何か問題がありましたら即刻書き直させていただきますので遠慮なくお申し付けください。】

4ヶ月前 No.63

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】

 視線と問いへの返事は模範の様に迅速で真直なものだった。実に涼宮らしいと評すればいいか、間も入れずに並べられた状況説明を受け取って、黒瀬自身もほぼ即答の返答を寄越した。

「……避難誘導優先は私の指示であって、命令に従ったお前に賞賛はあれど非など無い」

 表情こそやはりというか無愛想で、下手をすればまるで失態を咎めるかのような雰囲気ではあるがこれは特に改変のない事実であり、本当に彼が責められるような事柄では無い。この男が恐ろしく表現下手な事など部下である涼宮自身は知れているかもしれないが。そんな一見冷淡な分かりづらい言の葉を締めくくり、それに対する反応を待たないまま再び口を開く。

「────だが職質対象をみすみす逃したのは事実だ。その少年の追跡を許可する。直ぐに追え」

 言ってしまえば人混みという言い訳があるとはいえ取り逃したのは己も同じではあるが、自ら志願してあの青年を追跡すると言うならば彼の意思を咎める気もなかった。逃げた男の一件をまるで理由付けの様に涼宮へ投げやり、二人の女性に向き直って強制的に話を終わらせる。

 自身の問いかけに余裕綽々と答える女の表情を、その腹の底を見極めるように目を細めた。警察手帳を取り出した瞬間の反応、まるで興味の示さない視線の動かし方に己の中で鎌首を擡げていた小さな疑念が更に主張を始めて仕方が無い。
 彼女は何かを知っている。だがそれを引きずり出す程の証拠を持ち合わせていない。所詮自己完結された『勘』なのだから。「そうですか」とほんの少しだけ目を閉じて女性から視線を外した。それは諦念を表す行動であり、それ以上詮索する事の適わない事実への無自覚な仕草だった。
 ならばもうこの場にいる理由も無いと協力への礼を残して二人に踵を返そうとした時、もう片方の女からかけられた声にピタリと身体を止める。間を置いて再び彼女等に向けた黒瀬のその視線は、"怪訝"の一言だった。彼女────瑠璃崎が黒瀬を知っているのは朝比奈という存在が居たからであったように、黒瀬視点ではその媒介の無かったのだから声をかけられようが誰だと特定する事は不可能だろう。
 警戒心を隠す事の無い鋭い目を向けたまま、数秒何故己の名を知っているのかを問おうかと思考し、結果的に現に優先すべき職務を選択して笑みを浮かべる彼女から目線を逸らす。

「御協力ありがとうございました。爆破予告指定と遠くない地点ですので、誘導に従って迅速に避難を」

 忠告と共に彼女等をもう一瞥し、軽く頭を下げてから背を向ける。爆破指定の時刻も近く確証無い人物単体を相手取っている程悠々とした時間は無い。
 振り返る代わりに相変わらず鋭利な目線を軽く横に流して、背後で笑みを浮かべているのであろう女の見えぬ尾を掴み損ねた事への遺憾の念に眉間の皺を深くした。


>涼宮、深町、瑠璃崎、ALL

4ヶ月前 No.64

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・中央広場→階段 】

 深閑とした広間を歩きながら正太は周囲を見回した。大理石で造られた床、赤い絨毯、そして金色に輝くシャンデリア。荘厳華麗な内装に感嘆しつつも、それを一瞥した瞬間に正太の中でどろりとしたどす黒い感情が湧き起こり、そして身体を蝕んでいった。不快に思った。厭らしさすら覚えた。自分が国会議事堂(ここ)にいるという一種のそぐわなさを強制的に思わせるような装飾が、まるで皇族と臣民とでは生きる世界が違うことを明け広げに見せつけているような気がして嫌悪した。

(ふん。どうせ俺には場違いだよ)

 リュックを強く抱きしめたまま正太は悪態をついた。何億と総工費がかかっているであろうこの建物でさえ、自分が持っているこの爆弾一つで木っ端微塵にできるのだから呆気ない。いい気味だと思った。正太は既に勝利を手中に収めた気分でいた。

 朝比奈が次の標的を国会議事堂(ここ)に定めたときから、正太は建物の構造を予め頭の中に叩き込んでいた。まさか本当に自分が爆弾を設置することになるとは夢にも思わなかったが、それでも「もし自分だったらどこに置くだろう」と、公式パンフレットに掲載された見取り図を見ながら色々と妄想していた。子どもの夢物語と同じ、暇潰しのための遊戯である。そして散々悩み抜いた末、正太は一つの答えにたどり着いていた。朝比奈から細かい指示が出されていないいま、正太が目指すのはそこである。

(−−待っていろよ、皇族室)

 国会議事堂の三階にある部屋。天王陛下しか入ることが許されていないという、特別な部屋。そこを爆破することで、天王政治に一矢報いることができると思っていた。
 正太自身、特別天王に思うことはなかった。いくら天王という一族によって支配されているこの国が嫌いだとはいえ、それが普通≠セと教わった彼にとって疑問を差し挟む余地などなく、その絶対の概念に対抗するサングイスの考え方は面白いとは思うものの賛同することはなかった。そんな彼を突き動かすのはサングイスの仲間に気に入られたいという純粋な思いただそれだけだった。

 正太は後ろを振り返る。まだ誰もいない。しかし遠くで特高たちが自分のことを探す声が微かに聞こえた。時間がなかった。外の見張りに追いつかれる前に早く任務を完遂しなければならない。

(……)

 急いで広間を抜けて中央階段を登り始めようとしたそのとき、正太は何か違和感を感じた。誰かに見張られているような、冷たい視線。正太は慌てて立ち止まった。咄嗟にバッと後ろを振り返るものの、しかし周りに人の姿は見えない。

「だ、誰かいるのか!」

 正太は恐る恐る声を張って威嚇した。広い空間が彼のしゃがれた声を響かせる。しかし自身の違和感に確証が持てないいま、もしかしたら自分の勘違いかもしれなかった。


>鳳さん
【遅くなって申し訳ありません!返事してもらっても様子見してもらっても構いません!】

4ヶ月前 No.65

大狼 椿 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【大狼 椿/公衆トイレ】

 ――オオガミ、ツバキクン、ダネ?
 それは、機械の声だった。大袈裟なほどに抑揚をつけた声音が、自分の名前を繰り返している。まるで、水中で膨張するようなぶくぶくと濁ったような機械の声。その声に呼ばれる度に、命を奪われるのは何時かと精神が磨り減っていった。しかし、同時に鼓動も得体の知れぬ鼓動の高鳴りを感じていた。その命を掴まれる感覚に、未だ焦がれているというのだ。


 短いフラッシュバックを終えた先で、男性警察官の首にはナイフが当てがわれていた。まさか。震える唇をすり潰すようにして歯を突き立てる。一瞬にして冷えた指先が、やや間隔を置いた後に燃えるように熱くなっていく。まさか、この後にナイフを引くだなんて非日常は起こらないだろう。まさか、その手にしたナイフを能登と同じような姿にするために使ったりはしないだろう。常識で考えれば、そのようなことは起こるはずがない。人が人を殺すだなんて、そのようなことはありえない。――くつくつと、遂に堪え切れずに喉が小さく鳴った。わざとらしい意識の誘導は、幼少期から得意だった。幾つまさかを並べ立てようと、己の望む姿は一つだけだった。この方は殺すだろう。言葉通りにナイフを引くだろう。人を、殺すだろう。その予想が裏切られ、心の臓に深く沈む期待が合致する様子を、心の底から楽しんでいたのだ。死体となった二人の喉から流れ出るどす黒い血液が、罅割れたタイルを辿り、俺の革靴の先へと行き着いた。それから二手に分かれて俺の周りをゆっくりと取り囲んでいく。殺された男が尚も呼吸を続けようと身体を上下させる度に、喉に開いた穴が力なく開閉する。果たして今、死にゆく彼の脳を満たしている感情は何であるのか。それとも、感情を超越した別の何かを感じているのか。生き方も、思想も、好みも、すべてが異なる二人共が、今此処で同じ殺され方をしたのだ。それでも、お互いに到達する場所は違ったはずだ。あのルージュの女性から、正しく受け取ることができたのは二人の内のどちらだ。――否、二人とも、辿り着けなかったかもしれない。

 俺ならば、その伝言を聞き逃すことなどしない。

 意識が遠のくような感覚に気が緩んだ時だった。何事かと状況把握を開始するよりも早く、銃口が強引に逸らされた。浮上する意識の片隅で、茶髪の女性と一瞬目が合う。到底、それは女性の力とは信じ難いものであった。だが、現に起きている事実は、銃身を軋ませている。彼女の思惑を悟った瞬間に、一つの懸念が脳裏を過った。安全装置を付け直すことでは、それは到底防ぐことはできない。咄嗟に自分の方へと拳銃を引こうと力を込めるが、どうやら彼女の方が瞬発力も力量も上回っていたらしい。右手のグローブが摩擦により鈍い音を立てる中、唯一この状況で有利となり得た武器は、単なる鉄くずと化していた。――だが、恐れていたそれは遂に起こることはなかった。何よりも喜ぶべきなのは、意図せずして人へ危害を与える懸念が消え去ったことであった。
 安堵も束の間、空気の揺れを感じ取っては、視界の右端で揺れるその物体に左足を重心として、右半身でそれ――男性警察官の冷たくなった体を受け止めた。右手で死体の首を掴みながら、自身の体との間を少しだけ引き離す。そうして力を入れれば、尚も未だ穴の空いた開口傷からポンプのように血が流れ、グローブを伝い、裾にまで存在感を表すかのように赤い染みを作り始めていた。塞ぐ様に、抉る様に、薬指の腹で二人から隠れるようにしてその傷を強弱を付けながら撫でつける。

「……暴発しなくて良かった。お怪我はありませんか?」

 何度か指先を往復させながら、思い出すように茶髪の女性へと向き直った。死体に目を、意識を奪われている間に、彼女は黒髪の女性の隣へと移動していた。獣のような鋭い視線が、此方へと向けられている。拳銃の欠片が付着したままの彼女の指先の行方を辿りながら、二人の間に存在する力関係を大凡で把握する。それでも、そのような情報は現時点で必要のないものだった。二人は証明したのだ。次は、自分の番であった。聞かれた問いには、答えなければならない。過不足なく、求められるままに。

「大狼です。特別高等警察に所属しています」

 機械の声でなく、生身の声で呼ばれるための名乗りであった。淡々と言葉を運びながら、二人へ交互に視線を向けていく。名乗り終えてから、右手に死体を抱えたままで不慣れな手つきで警察手帳を取り出そうと視線を右ポケットへと下げた。此処で死体を落とせば、床の血飛沫で二人の召物を汚してしまうかもしれない。意識は二人に向けたまま、左手の指先が手帳の角と接触した。


>純さん、桜さん、周辺ALL
【そろそろかなと思い、大狼の視線を他へ向けさせました……! 思いっきりやっちゃってくださーい!(】

3ヶ月前 No.66

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【鳳嘉音/国会議事堂・中央階段付近→三階】

 外部の喧騒を意識的にシャットアウトしてしまえば、矢張り議事堂の中は静かなものだった。前を歩く正太の背中ではなく、静寂の中に響く足音だけを頼りに、嘉音は進む。近付き過ぎず離れすぎず、相手の存在を感じられる、しかし自身の姿は決して見せない絶妙な距離感を保って歩く。硝子や鏡への映り混みさえ完璧に計算し尽くした彼の行動は、そうそう悟られないだろうと自負されていた。
 議事堂の中を進む正太の足には迷いがない。決して逃げ惑っているのではなく、確固たる目的と、目指す場所がある者の足取りだ。もし何かに追われているのなら、上へ昇るというのは自ら逃げ道を閉ざす愚行である。
――間違いない。是枝はクロだ。
 この短い時間で、嘉音はそう確信していた。だからと言ってどうこうする気は今のところなく、寧ろ彼がサングイスの一員だという前提で、どうするのが己にとって一番有利で愉しい状況を作り上げられるかを考えていた。
 しかし、ある瞬間に正太は叫ぶ。誰か居るのか、と。緊張からか、塾に居た時とは違うしゃがれた声が階段ホールに谺する。
 それは見当違いの方向に向けられたものだったが、念の為嘉音は足を止める。気付いたのだとしたら大したものだし、神経が昂りすぎて有りもしないものに過剰反応している可能性も零ではない。そして、そんな切羽詰まった教え子の声にわざわざ反応してやれるほど、嘉音は馬鹿でも慈悲深くもない。
 ただ、柱の陰で息を潜める。そのまま、正太が諦めて……或いは気のせいだったと納得して、再び歩き出すのを待つ。しかし、正太が動き始めても、彼を追い掛けて階段をそのまま昇るのは余りにもリスクが高すぎるので、別ルートに迂回することにした。

 正太が爆弾を仕掛ける役だとして、階段を落とす、或いは裏手を爆破するという説は消えた。まさか囮と言うわけでもないだろうから、狙うなら展望室か……しかしあそこは普段から非公開だ。この非常時に呑気に入り口を探して鍵を開けて狭い螺旋階段を昇ってとやるのは非効率的だ。爆弾を事前に仕掛けるからこそ、あの場所の見つかりにくいというメリットは真価を発揮する。とすれば彼が向かうのは、今からまだ簡単に狙える、サングイスにとって利益の高い場所。
――サングイス(彼等)の敵は、首相というより天王陛下。
「貴賓室、控え室、皇族室」
 ぼそり、と呟く嘉音の指は――それこそ非常時に呑気なものだが――エレベーターの三階のボタンに伸びていた。
 低く唸りを上げる機械音を聞きながら、嘉音は爆弾を無事設置した正太に優しく手を差し伸べる自分を想像して……正直、反吐が出そうになった。

【という訳で、ステルス鳳はこっそり正太くんの支援に入ります。】

>正太様、国会議事堂all

3ヶ月前 No.67

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・階段→皇族室前 】

 数秒の沈黙。しかし視線の主は姿を現さない。
 結局正太の劇声は寂しく議事堂に響き渡っただけで、彼の威勢は虚空を掴んだだけだった。

「な、何だ気のせいか……」

 頬を伝った一筋の汗を服の袖で拭う。周囲に目を凝らすが、先程まで正太に付き纏っていたはずの視線はいつの間にかどこかへ消えていた。正太は太息を漏らした。同時に身体の力がドッと抜けていく。……もしかしたら極度の緊張で神経過敏になっていたのかもしれない、そう思った正太は暗澹とした気持ちのまま身を翻した。そして急いで階段を駆け上った。
 コツコツコツ。重々しい靴音に耳を傾ける。その間に正太は京香のことを考えていた。今の自分を見たら姉は一体何と言うのだろうか。彼女を探すためとはいえ、自らテロ組織の一員になり、今から大罪を犯そうとしていることを知ればきっと京香は腰を抜かすに違いないだろう。遠くにいると知りながらも、隣から彼女の怒鳴り声が鮮明に聞こえてくるようだった。
 三階まで上り、左折した末に辿り着いた皇族室を前に正太は立ち止まった。行く手を阻むように立ちはだかる巨大な扉を見上げる。正太はごくりと生唾を飲んだ。遂にここまで来た。いよいよだった。ここに爆弾を設置することでサングイス(俺たち)の勝利が確定する。
 恐る恐るドアノブに手をかけてガチャガチャと回すと、やはり――当たり前と言われればそれまでだが――しっかりと施錠されていた。

(うーん。どうしたもんかな)

 腰を下ろしてリュックの中身をゴソゴソと漁る。ピッキングツールは一応用意してきたが、特高警察に追われているいま、素人の自分が短時間でこじ開けられる可能性は低い。
 正太は少し考えたあと、リュックから缶コーヒーを取り出してそれを一気に飲み干した。そこに持ってきた少量の砂糖と除草剤を混ぜて、ダクトテープで扉に貼っつける。

「理論上では上手くいくはずなんだけど……」

 そこに長い紐を入れてライターで着火したあと、正太は急いで来た道を戻った。耳を塞いでしゃがみ込む。そして一秒、二秒……と待っていると、ドンッと鼓膜が破けるような爆発音が響きわたった。どうやら即席で作った爆弾が上手く爆発したらしい。よしっ、と内心で喜びを噛み締めていると、刹那、警報機が鈍い轟音を立てて喚き散らし始めた。「――え?」警報まで計算に入れていなかった正太は狼狽える。激しい焦燥が正太の心を掻き毟った。
 やばい。警察が追いついてくる前に早く爆弾を仕掛けなければ。慌てた正太はリュックから小型爆弾を取り出した。そして急いで皇族室に引き返す。このとき、あの白煙のなかで受けた衝撃で爆弾が壊れていたことなど正太が知る由もなかった。


>鳳さん、国会議事堂おーる
【創作だからこそできるご都合主義全開です……笑】

3ヶ月前 No.68

涼宮衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_iR4

【涼宮衛/議事堂付近→議事堂→階段】

「はっ! ありがとうございます。」

 上司に言葉に涼宮はきびきびして敬礼を返す。それはまさに模範的な警官のそれである……が

「ひゃうっ は、はひっ?」

 渚砂に顔寄せられ、耳元で囁かれるとびくっとわずかに身じろぎした後に顔を赤面させてしまう。それは年相応の若者の姿であったが、彼を責めるのは酷というものであろう。
 中身はともかく、元々中性的な美形な上にフルメイクで見た目は完全な美女にしか見えない渚砂である。そして香水でもかけているのだろう華やかな香りとメイクの匂いに加えて肩へのボディタッチ。視覚・嗅覚・そして触角と様々な角度からのアプローチである。これほどのアプローチを年上の美女(に見える人物)にかけられて動揺しない青年がいるだろうか、いや、いない。
 閑話休題。しかし、番号を言うだけ言って渚砂が去ってしまうと、涼宮は顔を振って気持ちを切り替えて走り出す。ただ、教えられた番号をしっかり暗記していたのはさすがであるが。
 少年が駆け出した方向は議事堂へと向かう道だった。避難するにしろ、警官に声を掛けられて鬱陶しがって逃げるにしろこの状況下ではまずありえない方向、

(考えろ。彼がサングイスの一員だと仮定して、俺が彼ならどこを狙うかを。)

 未だ喧噪冷めやらぬ議事堂周辺を駆けながら涼宮は考える。
 彼らサングイスの目的は、今の世の中の変化だ。そのために議事堂に対して何をするのが彼らにとって最も益があるのか。彼の様子を思い出すとリュックを背負っていた。あの中になんらかの化学薬品を詰めることは可能だろうが、ほとんどの人間が退避している議事堂に化学薬品を仕掛けても意味はない。だとすれば、予告通りの爆発を起こすというのが一番確かな線だろう。だとすれば、どこを狙うのか……

(普通に考えれば議場か? あそこを破壊すれば大きなニュースになり我々の失態を大きく広められる。)

 涼宮は懸命に考えるが、彼が鳳のように正太の狙いに気づくことはなかった。
 それは鳳と涼宮の能力の差であると同時に、認識の差でもあった。涼宮にとって、正太の狙いは『あり得ない』はずのことだったからだ。この国に生きる人間でそのようなことを考えるなどたとえサングイスの人間とはいえ、いや、百歩譲って夢想したとしても実行しようとするなど彼の認識の外であったのだった。
 だから、そのしゃがれた叫びが聞こえなければ彼は正太を見つけることはできなかっただろう。

『「だ、誰かいるのか!」』

 この状況下で議事堂内にいるのはあの少年以外考えられない。よしんば彼でなかったとしても、どちらにしろ不審人物が議事堂内に侵入したことになる。涼宮は声を頼りに駆けた。だが、それでも彼は正太狙いに気づかない、否、気づけない。威厳と風格、歴史と伝統に彩られて豪奢なつくりの廊下を疾駆しながら、未だに正太の狙いを掴みかねていた。しかし、

「警報! しかも、この音の位置は……」

 けたたましく鳴り響く耳障りな音が彼に耳朶を打つに至り、やっと涼宮は正太の狙いを把握することができた。同時に、その事実に一瞬足を止める。

「本気なのか……やつらは……」

 それ以上口にするには恐れ多いとばかりに首を振ると、涼宮は階段を文字通りに跳ぶように駆け上がった。

>>是枝正太様 鳳嘉音

3ヶ月前 No.69

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【鳳嘉音/国会議事堂・三階】

 嘉音が乗り込んだエレベーターが三階に停止したとき……それは最早正常な停止階への設定だったのか、最寄の階に緊急停止したのか分からない状況だった。
 鋼鉄製の箱の中に居ても感じる揺れと、ドアが開く前から耳を劈く爆発音、そして警報。
「あの馬鹿……!」
 全てを悟った嘉音は、仕込み杖など放り出さんばかりの勢いで走り出した。
 一瞬、適当に無線に割り込んで人払いをしようかとも考えた嘉音だったが、こうなってしまえば既に一課を辞している嘉音も怪しい一般人の一人に成り下がる。彼もまた警察に見付かるわけにはいかないので、さっさと退散するべきなのだ、本当は。しかし此処までした以上、せめて一瞬でも正太に接触しておかねば意味がない。
 そして何とか裏工作をするより先に、嘉音は皇族室の前まで辿り着く。無惨に破壊された豪奢な扉を中心に、耳障りな音が鳴り響いていた。未だに若干炎が燻っているような気もするが、それ以上に問題なのは、全速力で駆け抜ける足音も最低一つ、響いていること。

「是枝、話は後だ、すぐ逃げろ。南側の非常階段を使え、バルコニーから抜けられるし、あそこは植え込みがあるから最悪飛び降りても死なない。廊下には出るな、追手がいる」
 部屋の中に滑り込んだ嘉音は、追手の存在故叫ぶことも出来ず、絶賛ナニカを設置中の正太に背後から囁き掛ける。向こうからすれば心臓が止まるだろうが、言いたいことだけ必要最小限伝え、あとは正太の存在など嘉音は完全無視である。景観を損ねないよう巧妙に隠された棚と壁との隙間から消火器を引っ張り出し、入口に向けて容赦なく粉末を浴びせかけた。
 それはボランティアの消火活動であり、目眩ましに他ならない。

「……一つ、貸しにしといてやる」

 一瞬で真っ白に染まる視界の中、嘉音は幻か幽鬼のようにそこから姿を消していた……実際には、皇族室より扉続きになっている貴賓室に入り込んで鍵を掛け、追手が何処かに行くのを息を潜めて待っているだけだが。

【此方も大分ご都合主義ですが、突っ込んでそして消えます。】

>正太様、衛様、国会議事堂all

3ヶ月前 No.70

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎雪乃/国会議事堂付近】

「はい。じゃあ私達、失礼しますね」

愛想笑いに笑窪を作ると、雪乃は垂れ掛かった巻き髪の一房を耳にかけ、黒瀬や涼宮が消えたのとは別の方向ーー即ち、避難経路誘導に従った方向に歩き出した。

(思ってた以上に、仕事熱心なのねぇ)

それが特高警察一課の彼等二人に対する感想だった。もう少しばかり引っ張れるかと思ったのだが、疑う余地だらけの得体の知れない女に名前を言い当てられても目の前の餌を無視して一目散に正太少年の後を追っていった。雪乃を訝しみもしも聞き返していたならば、ただの大学が一緒で見たことがあったというだけの潔白な情報の為に少々の無駄な昔話に花でも咲かしてやるつもりだった。
(皮肉にもあなた達が追っているサングイスのリーダーと副リーダーの情報だったのだけど、残念ね)
そうはいっても、それは一刻を争う爆弾の件に比べたら途方もなくどうでもいい事ばかりといって間違いないだろうが。選ばれなかった選択肢は、颯爽と退場の一路へと引き返す。

白煙の次第に晴れてゆく喧騒の中を、雪乃と黒瀬との背中合わせの影が次第に離れていく。先に離れた渚砂を追いかけるように小走りに靴音が響く。
背を向けたまま、雪乃の唇が弧を描いた。あれでも十分に時間は稼げたと思った。きっと今頃はもう正太はとっくに国会議事堂の中だ。爆弾も仕掛け終わっているかもしれない。本当はもう少し時間を稼げれば、サングイス的には良かったのかもしれないが、そもそも本当はサングイスでもない雪乃にとってしてみれば、爆弾を仕掛けに行った後の正太が成功しようと失敗しようとそんなことは別に重要ではなかった。現段階ではとりあえず、作戦に協力している姿勢を見せ朝比奈の信用を買い、あとは精々正太や他の面子と朝比奈との信頼関係でも観察すれば良いのだ。国会議事堂に入る前に正太が捕まってしまっては、尾行と護衛を命じられた雪乃が管理不行き届きを責められるから……だから仕事をしたまでのこと。

先に雪乃から離れた渚砂に後ろから追いつき、そっと肩に手を触れた。さっきまで友人のふりをしていた彼女≠ヘ雪乃に言わせれば友人などではない。ただの仕事上の……零課の同僚。その肩を引くようにしながら隣に並び立つと、彼と同じ方向を向いたまま、濡れたような唇を開いた。

「……どういうつもりだったのかしら、なっちゃん=v

なんで貴方が、なんで私の邪魔をしたのかしら? 渚砂? ーーーーそう言外に含ませながら、薄っすらと浮かべた笑みの中で瞳が翳り、じっとりと責め苛む気配が蛇のように絡みつく。

>渚砂様、(黒瀬様、涼宮様)


【黒瀬様、涼宮様、お相手ありがとうございました! まだ少し時間があるみたいなので、渚砂さんに談笑尋問(笑)】

3ヶ月前 No.71

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★G113VVfjXs_xHy

【吾妻 純/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 目の前には、つい数時間前の「日常」とは現実離れした光景がただただ広がっていた。ひび割れたタイルは警官二人から流れ出た多量の血液で赤黒く汚れ、呼吸のたびに肺が濃い血の匂いで満たされる。床に転がる女性の死体と、男の右手に抱かれている男性の死体。どちらも、純が確かに殺したもので。
 事を起こした張本人、吾妻純は繋がれた左手の感触と、首筋にすり寄る桜の体温を感じながら、目を細めて笑った。彼は、朝比奈や雪乃らと別れたほんの数時間後に、サングイスが掲げる不殺の掟を破る形となった。掟破りのその先に、彼と彼女は何を見るのだろう。

 純は、再度状況を整理する。
 傍らには桜、目の前には特高の男がいる。彼が手にしていた唯一の武器である拳銃は、先ほど桜によって見事に破壊された。床に打ち捨てられた拳銃だったもの、それを一瞥し、再度男のほうへ視線を向け、その瞳をす、と見据える。
 「羨ましい」と零した男性警官は、今何を想っているのだろう。彼は右腕に同僚の死体を抱え何を感じているのだろう。恐怖か、憎悪か、動揺か。彼の瞳を見る限り、彼の抱く感情はそのどれにも当てはまっていない。

 高揚。そのひとつに尽きる。

 満たされないものが、満たされたいものが、欲しているものを手に入れることが出来ると確信したとき。彼らは決まって高揚する。そういうものなのだ。目の前の男は欲している。渇きを満たしてくれるであろう、自分の存在を。
 武器を奪われ破壊され、同僚を二人殺されたというにもかかわらず、男は拳銃を破壊した桜をねぎらう言葉を投げかけ、桜からお前は誰かと問われれば、素直にもその身分を明かした。彼は大狼と名乗った彼が視線をこちらから外したのを、純は見逃さなかった。
 繋がれた桜の手をそっと離し、彼女ににこりと笑いかける。そのまま躊躇いもなく足を一歩踏み出し、純は血溜りの中に降り立った。赤い飛沫が上がりきらないうちに、彼は一歩また一歩と大狼に近づいていく。純が血溜りを踏み鳴らすたびに、ぱしゃぱしゃという小さな水音が狭いトイレの中に響いた。
 純は、水遊びをする幼子のごとき純粋な笑みを浮かべていた。楽しくてたまらないといった様子だった。

 求めている者には、与えてやるのが一番。そうすれば、自然と彼は自分を求めるようになる。

 大狼の懐に飛び込めば、そのまま彼の胸にそっと手を添える。自分より背の高い彼を見上げれば、頬に長い髪がへばりついた。純はそのまま、艶っぽい笑みを浮かべ、血の様に赤い唇をゆっくりと開く。

「大狼」

 じ、と彼の瞳を見つめ、ほんの数分前に知った彼の名前を口にする。ポケットを探る彼の左手へ、そっと手を添えながら言葉をつづけた。

「欲しいなら、私が与えてあげる。満たされないのなら、私が満たしてあげる。だけど――」

 右手に握りしめた鈍く光る銀。その切っ先を、ひた、と彼の口角に添え。

「まだ、全部≠ヘあげない」

 勢いよく突き立てられた刃は、彼の白い顔を鮮血で染めていく。頬の肉を突き破り、引き裂く柔い感触と、溢れる血が恍惚とした純に降りそそぐ。右手のナイフを一度コートへしまえば、そのまま純は両手で大狼の顔に手を添え、下を向かせる。彼と目を合わせ、背伸びをしたぐっと彼に顔を近づける。
 彼の頬から滴る赤もまた、純の顔を赤く染めた。視界の半分を占める赤と、大狼の黒い瞳をじいと見つめながら、純はかっと目を見開いた。妖艶で、それでいて狂気に満ちた笑みをその顔に浮かべ、喉の奥から低い笑いを漏らす。

「特高(そこ)に居てもあなたは燻るだけだわ。今日のこれは私からのちょっとしたプレゼント。――全部@~しいのなら、私についてきなさい」

 言い終えると純は、ナイフを入れた方と反対のポケットから一枚の紙きれを取り出した。彼の指に付いた血の跡がわずかににじむ白い紙を、そっと大狼のポケットへねじ込む。そのまま彼から一歩離れ、様子を伺った。

>大狼、桜、ALL 【お返事遅くなって申し訳ありません! 早速派手にやらせていただきました……! 渡した紙切れには純の連絡先が書いてある体です!】

3ヶ月前 No.72

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・皇族室→裏庭 】

 ジジジ……ジジ……。
 手の中で小型爆弾が静かに不調を訴える。しかしその小さな悲鳴に気付くことのないまま、正太は早足で皇族室へ戻った。どこだ。どこに爆弾を設置すれば追っ手の特高に気付かれない。迷っている間にも時は刻一刻と過ぎていき、耳を劈くような警報が空間を支配していた。こんなに目立ってしまったら、特高たちがこちらに向かって来るのも最早時間の問題だろう。正太は自分の犯したミスの重大を痛感していた。焦っていた。脳内が「やばい」の三文字で埋め尽くされていた。

 焦げ臭さを残した扉の残骸を潜り抜け、室内に入るとそこは数個の家具が置いてあるだけで、思った以上に殺風景な内装だった(その一つ一つの装飾が豪勢極まりないことにはもう触れるまい)
 特高たちは恐らく大破された扉にまず目を向けるだろうから、そこまで設置場所に拘らなくても問題ないだろう。そう判断した正太は握りしめるそれを椅子の裏側に貼り付けた。早く、早くしないと。焦って手元が狂うなか、どうにかしてダクトテープを引きちぎろうとしていると、突然、耳元からどこかで聞いたことがあるような懐かしい声がした。

『是枝、話は後だ、すぐ逃げろ。南側の非常階段を使え、バルコニーから抜けられるし、あそこは植え込みがあるから最悪飛び降りても死なない。廊下には出るな、追手がいる』

「――え?」
 正太が振り返るのと鳳が身を翻したのはほぼ同時のことだった。先程まで周囲には誰もいなかったはずなのに、そこには懐かしい背中がある。顔を見ることはできなかったが、その声色から、その立ち振る舞いから、正太は彼が誰だか一瞬で理解した。鳳嘉音、正太が高校生の頃世話になった塾講師だった。

「ど、どうして先生がここに……」

 そう尋ねるも返ってくる言葉はなく、代わりに鳳がぶち撒けた消火器の粉末が煙幕のようにして彼を包みこんだ。あまりにも唐突な登場。正太は一瞬何が起きたのか分からず、茫然と立ち尽くした。しかし白煙が晴れた頃にはもう、鳳の姿はどこにもなかった。
「……あれ?」
 左右を見回すがやっぱりいない。まるで一瞬の幻でも見たかのようだった。
(一体なんだったんだろう)
 正太は考える。しかし悠長にしていられる時間はない。何故特高でもない先生が国会議事堂にいて、どうして自分がここにいることを知っているのか。聞きたいことは山程あったが、しかしどうやら彼が敵ではないことだけは確かのようだった。
 正太は急いで爆弾を設置したあと、鳳の指示通り南へ走った。途中まで半信半疑だったが、彼の言った通りに非常階段は存在した。二階のバルコニーに降りてそこから身を乗り出し、勢いよく茂みに飛び込む。たくさんの枝が身体のあちこちに突き刺さり、同時に尻に強い衝撃が響いたが、鳳の言う通り、重症には至らなかった。しかも辺りには追っ手どころか人っ子ひとりいない。完璧な逃走ルートがそこには用意されていた。

「……」

 正太は茂みに埋もれたまま、訝しげな目を三階へ向けた。当然鳳の姿は見えない。結局、彼が一体何者なのか最後まで分かることはなかった。窓から煙と警報音が漏れ出しているだけだった。
 天を仰ぐように上空を見上げ、額に滲む汗を服の袖で拭く。色々と腑に落ちないことはあるが、何はともあれサングイスは爆弾を国会議事堂に設置することに成功したのだ。それだけで正太は満足だった。もうあとは何でもよかった。


>涼宮さん、鳳さん
【遅くなりました……!】

3ヶ月前 No.73

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/国会議事堂付近】

 一課の警察官二人と雪乃に背を向け、その場から離れる渚砂はどこか満足気に目を細めていた。なんとも初な警官、涼宮は予想以上に良い反応を示してくれた。どこまでも汚れのない人間らしい。けれど人はそうそう綺麗なままでいられるものではない。彼はどこまでその生き方を貫けるだろうか。なんならそんな幻想、壊してやるのも面白いかもしれない。
 一人悠々と雑踏を抜け出たが、渚砂は急に歩調を落とした。自分を追ってくる軽やかな足音が近づくのに気付いたためだった。やがて足音の主の手が肩に触れる。渚砂は足を止め、肩に触れた人物の方へ顔を向けた。その人物――雪乃と視線は合わない。彼女は前を見据えていた。

「随分大きくなったのね、是枝正太クン。あの頃はまだ、姉さんよりも背低かったんじゃないかしら」

 同僚の問いに答える代わりに、口角を僅かに引き上げつつも静かな目で雪乃を見遣る。俺が京香の弟、正太と顔を合わせたのは、京香がまだ生きていた頃。もう五、六年も前のことだ。それ以降、顔を突き合わせたのは今日が初めてだ。正太の方は過去に出会っていること自体知らないだろうが。

「……なーんてね、」

 不意に雪乃から視線を外し、目を閉じて笑った。零課の同僚の詰問を、適当にやり過ごそうなどというのはやはり無理だった。任務にも差し障る内容ならば尚の事。

「一課に目つけられたのは悪かったと思ってる。……でも、姉さんにとってもあの子大事な仲間なんでしょ? だったら姉さんも止めてあげて。京香のこと知ろうとしたって、あの子のためにならないんだから」

 嘘はついていない。むしろ喋り過ぎたか。渚砂はややきまりが悪そうに目を伏せた。「姉さんにとっても」などと言ったら、自分にとっても正太が大事であるかのように受け取られてしまう。そしてそれは全くの間違いではないが。サングイス構成員である是枝正太という人間に興味はない。だが、それ以前に正太は是枝京香にとってのかけがえのない肉親なのだ。

>雪乃

【追っかけていただきありがとうございます。適当にかわす予定が雪乃さんの圧に耐えられずちょっと頼る方向に傾いてしまいました……笑】

3ヶ月前 No.74

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_zRF

【涼宮衛/階段】

「くっ……本当にこんなことが」

 警報の発信元に涼宮が見たのは、無残に破壊された扉だった。元は華美にならない程度にシックに、しかし場所にふさわしい程度に彩られた扉の一部が無残に砕け散っていた。それは、この国の権威への挑戦であり、宣戦布告であるように彼には思えた。
 だが、そんな考えを振り払うと彼は職務を忠実に実行しようとする。すなわち部屋に足を踏み入れようというのだ、

「そこまでだ。ここは現在立ち入りが制限されている、また、この扉の損傷についても話を伺いたい。うっ!」

 だが、彼を歓迎するのは消火器の洗礼。視界を塞ぎ、喉を傷める粉末に飲まれて涼宮は一瞬方向を見失う。

『話は後だ、すぐ逃げろ。南側の非常階段を使え、バルコニーから抜けられるし、あそこは植え込みがあるから最悪飛び降りても死なない。廊下には出るな、追手がいる』

 かろうじて無事な聴覚によって何者かへの呼びかけは聞こえる。どうやら犯人は最低でも二人いるらしい、先ほど見た少年の共犯者だろうか。判断がつかないまま煙幕の中を突っ切ると、もはやそこには誰もいなかった。
 本来なら、そのまま追いかけるべきだが

「ここか……」

 鳳が消火器を噴霧したとはいえ、いまだ火種はくすぶっている。万が一燃え広がれば取り返しのつかない事態になることは必至だとして涼宮は消火優先。残りの消火器を探し出すと、火種に向かって鳳と同じように噴霧した。
 そして、

「ここまでしたんだ。ただで帰るはずがない」

 先ほどの少年が本当にサングイスのメンバーだという確証はないが、ここまでしてただのいたずらということはないだろう。だとすれば、この部屋に何かの仕掛けをしていくはず。
 そう考えた涼宮は、部屋の中を探索し始めた

>> 是枝正太様

3ヶ月前 No.75

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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3ヶ月前 No.76

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/国会議事堂付近→倉庫街】

 正太のことは別段大事でもない――静かなトーンで雪乃はそう口にした。まあ、そうか。彼女はそういう女だ。たとえ気に入っている仲間であっても、彼女が己の立場を見失うことは決してないだろう。

「ほんと、姉さんはしたたかね。あの子もお仲間もかわいそうに」

 皮肉混じりに返して小さく笑う。言葉とは裏腹に、微塵もサングイスに同情などはしていなかった。彼女の力を借りることができれば、あるいは正太の詮索をやめさせられるのではないかと期待した。とはいっても、雪乃の反応は想定内ではあった。彼女が情だけで動く甘い人間でないことは百も承知だ。彼女への言葉に孕ませた小さな棘は、単なる八つ当たりに他ならない。
 まるで幼い子供相手のように頭を撫でてから、雪乃は悠々と去っていく。一瞬躱しかけたが、一々反応するほど初ではなく、また今は考えを巡らすのに忙しかった。

「……ああ、死なせるわけには、な」

 渚砂が低く呟いたのは、雪乃が声が届かないほど離れてからだった。くるりと踵を返し、雪乃が去った方角とも議事堂の方角とも違う方へと歩き始める。雪乃の協力が得られない以上、自力で正太を止めるしかない。元よりそのつもりだった。次の手筈は整えてある。
 歩きながら、ジャケットから黒いスマートホンを取り出した。先程涼宮に伝えた番号とは別のものだった。受信メールを開けば、送信者名のない、番号のみが表示されたショートメールがずらりと並ぶ。未読の中の一通を選び、開いた。『問題なく手配した。』、文面はそれだけだった。画面をスクロールすると表示されたのは、一枚の画像。若い男の顔写真だった。表情や視線から見て、本人が知らぬ間に撮られたものであることが窺える。把握している情報とその人物が相違ないことを確認し、渚砂はスマートホンをしまった。

 国家の中枢である国会議事堂のある地区と隣接する区域でありながら、周囲の景色は大きく変わっていた。人気はない。廃工場の先には古びた倉庫が並ぶ。工業用水を運んでいたであろう水路は干上がり、大きな溝と化していた。
 渚砂は歩調を落とし、小さく息を零した。少し落ちかけたジャケットを直すようにして、胸元に仕込んだ銃の存在を確かめる。任務でもなくこれを使えば、ただの殺人犯だ。テロに乗じてあの娘の親を殺したときとは違う。それでも他に手段は浮かばない。所詮狂った国家に堕とした身。今更手を汚すことなど躊躇う必要はなかった。

>相手なし、(雪乃)
【雪乃様お相手ありがとうございました!出番(?)までこのまま待機しております。】

2ヶ月前 No.77

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

 しばらく経ったあと、正太は朝比奈に「爆弾を無事設置することができた」との旨を無線で伝えた。もしかしたら特高に気付かれたかもしれない、と不安を煽るようなことは敢えて言わなかった。万が一に自分が捕まったとしてもそれは完全に自分の落ち度だし、朝比奈や玻璃崎たちに迷惑をかけるつもりはなかった。それに捕まったほうが自分に都合が良いのは確かだった。

『だってあの是枝京香って奴、四年前の真宿駅爆破事件のときから辞職扱いだろ。今頃サングイスとかに寝返ってんじゃねえの』

 国会議事堂に潜り込む前、すれ違った特高の戯言が蘇る。正太はどちらが正でどちらが悪なのかよく分からなくなっていた。朝比奈たちが自分に嘘をついているとは到底思えなかったが、しかし一ヶ月を共にしてもなお、彼らの口から自身の姉の名前が出なかったのもまた事実であった。彼らが何か隠し事をしているのは確かだろう。特高もサングイスも、正太が何度尋ねようと京香の居場所を決して教えようとはしなかった。
 (姉貴)正太は下唇を強く噛んだ。(一体どこで何しているんだよ。もうそろそろ出てきてもいいんじゃねえの)

 爆弾設置という大役を果たした今、もう彼の肩に重くのしかかるものは何もなかった。寒い冬空の下、茂みの中でそっと息を吐く。これでサングイスにおける自分の居場所は確立されたも同然だろう。あとは朝比奈が起爆スイッチを押すまでここでひっそりと身を潜めていればいい。そして全てが上手く終わったあと、もう一度彼に問いただそう。姉の居場所を、姉の現在を。自分が朝比奈にとって信頼に足る人間だと分かってもらえた今、今度こそ何かを教えてくれるかもしれない。

 正太はふと、思い出したようにズボンのポケットから携帯電話を取り出した。そして慣れた手つきで十一個の数字を打ち込む。それは正太がサングイスと繋がる前から世話になっていたとある知り合い≠フ電話番号だった。前から姉の捜索を依頼しており、正太が隠し持っている秘密兵器≠秘密裏に横流ししてくれた人物でもあった。

 プルルルル……プルルルル……

 三回の呼び出し音を経て聞こえてくるはずのいつもの濁声が今日はなかなか聞こえてこない。正太は少し妙に思ったが特に気にとめることなく相手の応答を待った。爆破予定時刻を迎えるまでのこの束の間の休息で、少しでも姉の情報を得ようと思ったのである。


>???

2ヶ月前 No.78

朝比奈 藤司 ★iPhone=YgnLzdE1p0



【 朝比奈 藤司 / 国会議事堂付近公園 】


 一人で待つには凡そ寒すぎる公園でぼんやりと、ロータンゼの不味いコーヒーを飲みたいと思った。何も出来ない歯がゆさを飲み込んで代わりにポケットの中に突っ込んだ手を固く握る。こんなときに、いやこんなときだからこそ平和な生活とサングイスのこれからのことを考えていた。顎に右手を添えて人気のない公園の無機質な茶色の土の一点だけを見る。しっかりと見つめれば見つめるだけピントはぼやけてしまう。未来(これから)のことを示唆されているようで軽視するように目を細めた。見据え過ぎてはいけないが、逸らしては駄目だ。
 吐き出した息が白濁して目に映った。それはあまりにも深い溜息で、公園の中に静かに残る。顎から手を外しもう一度ポケットの中に入れると、無機質な硬いものと手が触れ合った。外には出せないものなので手探りで起爆スイッチであることを確認する。サングイスのメンバーに指示を出してからはや、数分。というよりかは小一時間が経とうとしていた。そろそろ連絡が来てもおかしくない時間だ。ここまで危機を知らせる連絡が一本も入っていないだけ立派なことだと感じる。おおかた、それぞれが与えられた仕事をきちんと粉しているということだろう。もし隠しているのだとしたら灸を据えなければならないが。起爆スイッチとは反対側のポケットに居座る無線機をなぞった。外部に聞かれては困るので無線機から連絡が来たとて、そこから直接声がすることはなく片耳に入っているイヤホンから流れてくる。頭では理解していても俺と奴らを脆く繋げているものに、何度も問いかけた。おい、壊れてはいねぇだろうな。無論、返事はない。なぜだか無償に腹の底が沸騰し始めて、苛立ちを吐き出すように短く舌打ちをした。

 「…っ、くそ」

 奴らを信じているとか信じていないとかの問題ではなく、最高司令の立場の歯痒さを実感する。俺にはやはり、頂点に立つ天性の才がない。ある程度のポストで自分も戦場で活躍する方が向いていると思う。頭で考えるより先に身体が動くタイプだと、大学時代よくつるんでいた友人に言われた。俺の性格上自分が中心の組織で指示のみをして、結果をひたすらに黙って待つことは易くない。暴れたいと野心が疼く。虚しくもこの状況を打破することは出来ず時間だけを空費した。
 人のざわめきが耳に入る。思わず国会議事堂の方に目をやるがこの場所からは見えるはずがない。やけに胸騒ぎがする。どよめいている訳ではないから悪いことでは無いはずだ、今はまだ。誰かから連絡が来ている訳でもない、落ち着け。と、自分自身を嗜める。するとタイミング悪くちょうどイヤホンがザーッと雑音を奏でた。無線機を口許まで持っていき「はい」とだけ言う。もし最悪の事態が起こっていたとしたら無線の先の相手は味方ではない。不容易に所在を明らかにしては危険を招くだろう。
 身構えながら全神経を片耳に向けると、声の主は今回の作戦の最重要ポストを担った是枝正太からのものだった。少し焦り気味の声なのが伝わってくるが、はじめてにしては上々だ。爆弾の設置が完了したという内容のことを告げられた。

 「了解した、ご苦労さん」

 労いの言葉をかけたそばから、明らかに向こう側でほっとしたような雰囲気が流れ込んでくる。しかし、なぜだか声色の焦りのようなものは消えない。早々に無線を切ろうとした正太に、切られる前に告げた。

 「おい正太。お前隠しごとしてねぇよな」

 いや、いい。忘れてくれ。そういうつもりで言い逃げするため無線をこちら側から切った。正太からの連絡が来たということはそろそろ雪乃からも連絡来てもいい頃だろう。悴んだ足先を暖めるようにつま先で土を叩いた。そろそろ出番か、漸く暴れられる。不適にもこの状況に笑みを浮かべていたことを知るものは誰もいない。




>> ?


【 みなさまおひさしぶりです……!!もう忘れたよと思われているかも知れませんが…、そろそろ朝比奈の出番だと主さまからご連絡を頂きましたのでまいりました。IDは違くなっているかもしれませんが本人です。取り敢えず、ソロールというかたちでレスを置かせてもらいます。佳境に入った当スレッドにまたお邪魔できることを嬉しく思います!これからも何卒よろしくお願いいたします 】

2ヶ月前 No.79

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★wgm3NQbNwV_rSG

【十姫雨 桜/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 噎せ返りそうな程に充満した血の匂いは、純と自分だけが知っている、”非日常”の香り。初めて人をこの手で殺めた日は、雨が降っていた。降りしきる雨に血の匂いも自分の匂いもかき消され、ふわふわと地に付かない足の感覚に身震いしたのを覚えている。”ボク”は其処に存在しているのか、それすらも危ういような状態。思い起こされるのは昔の光景。泣きながら逃げて行くお友達、泣いてボクを叩くおかあさん、自分の周りに居た人は皆泣いてばかりだった。その中で唯一、笑みを浮かべて手を差し伸べたのは純だった。彼が存在し、知覚し、会話をすることで自分の存在を認知できた。目の前に転がった死体のことなんて忘れて、ただ彼の姿に見惚れていた時間は、今まで生きていた中で一番永遠にも近い一瞬だった。ボクの”高揚”は殺人にはない。自分の存在を許されること、つまり存在意義を完遂すること、ボクの”高揚感”は其処にあった。ボクの”正義”は其れだった。此れは罪ではない、正義なのだと、彼は言った。ボクはそれに頷いた。掟を破るのはいけないこと。それでも、仲間を守るためには、破らなくてはいけないルールもあると、彼は言った。ボクはまた深く頷いた。真っ赤なあの唇が、忙しなく動いて、台詞を紡ぐ。それを食い入るように見つめる。その理論が大きな矛盾を孕んでいることに気が付かないまま、あの赤の虜になっていた。

 その赤は今目の前にも広がっていた。鼻をくすぐる芳しい香りは二人だけのものと思っていたが、どうやらそうもいかないようで。投げ出された死体を受け止めた彼は怯えるでも警戒を示すでもなく、自分の怪我がないことに安堵していた。意外な対応に目を丸くしている間に、「だあれ」という質問に答えが返ってくる。おおがみ、その名前を咀嚼するようにゆっくりと唇だけでなぞれば、案外不快感はなくて驚いた。状況は置いておくとしても、紳士的な対応に鋭くなっていた眼光をいくらか緩めれば、純の手がするりと離れていく。安心させるように微笑まれ、大人しくその場に佇む。少しの寂しさを誤魔化すように未だに手に残っていた拳銃の破片を払い落した。

 血液の波紋が彼が歩いた場所から広がるのを視界の端に捉え、銀幕を隔てた出来事のように大狼と純のやり取りを眺める。彼の口角から流れる血が気になったが、純が笑っているということは大丈夫なのだろうと勝手に納得する。純の邪魔をせず、暇な時間を潰す子供のように足元の死体の傍に座り込み、傷口や服装などを見つめていたが、ふと純の口から零れ落ちた「ついてくる」の言葉に素早く反応する。会話の全容は理解出来なかったが、つまり仲間が増えるということだろうか。お友達が、増える。一気に瞳が輝く。ならば彼は守るべき対象であり、警戒や嫌悪を向けるべき相手ではないのだろう。そう認識し、よく考えもしないで舞い上がった脳は制御されることなく行動に移した。

「わぁ、純さん、仲間が増えるんですかぁ? お友達、増えるのボク嬉しいですぅ!」

 しゃがみ込んでいた姿勢から即座に立ち上がり、純の傍に駆け寄る。純が作り上げた世界の雰囲気はすっかり自分の明るい声に切り裂かれていたが、その姿は新しいものを買い与えられて喜ぶ犬さながら。難しいことはよく分からないが、彼は純が認めた男らしいということは分かったし、感じた限りでは”いやなにおい”はしない、良い人だ。それだけ分かれば十分と、それまでの警戒も遠慮も忘れて大狼に近寄る。

「なあんだ、お兄さん”わるいひと”じゃないんですねぇ! ボク、桜って言います、おおがみさん、よろしくお願いします」

真っ二つに折った銃のことなどすっかり忘れ、先ほどまでの険悪な雰囲気などいざ知らず。にこやかに自己紹介までし出す始末だったが、自分はこういう人間なのだ、という言葉でしか擁護をし得ない。そして徐にハンカチを取り出し、大狼の血が滴り落ちる頬を拭う。それは純にもした行為であり、それと同じ行為を彼にするということは自分なりの親愛を示しているということだ。友達が増えたという事実に多少舞い上がり、少しばかり彼と距離を取った純と大狼を繋ぐように二人の手を取り、優しく握る。幼い子供が両親と手を繋いで歩くことを彷彿とさせる繋ぎ方に僅かな懐かしさを覚えたが、自分は両親が揃って居たことはないので、ただの錯覚だとしばらくして気が付いた。しかし大狼に向けられた笑顔は、あどけないほどに花が咲くように綻んでいる。

「仲良く、してくださいねぇ」

 桜の中の他人への感情はおよそ二種類しかない。「好き」か「嫌い」かだ。特高に所属しているのか、サングイスに居るのか、そんなことは細事であり、仲間がこの人も仲間なのだと言えばそう認識した。嫌悪感を示す人物ではないと理解した瞬間、その人間は勝手に親しい人間にカテゴライズされる。物理的にも心理的にも唐突に詰められた距離感に大狼が驚くかもしれないなんてことは考えもせず、にこにこと振り撒かれる笑顔は血に塗れたこの空間の中であまりに不釣り合いで不気味であると、彼女が知ることはない。

────知る必要もない。


純さん、大狼さん、周辺ALL様 >>

【お返事いつも大変遅くなってしまい申し訳ありません。かなりのシリアスぶち壊しであったと自覚はしております……反省します…】

2ヶ月前 No.80

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/倉庫街】

 寂れた倉庫街を過ぎる風は、冷たく埃臭かった。ジャケットの下で軽く腕を組んだまま、ゆっくりと歩き続ける。躊躇などないつもりだが、その足取りは重かった。まるでそんなものは見えていないかのように、数棟の倉庫の横を素通りした渚砂だったが、ある一棟の扉の前でぴたりと足を止めた。鉄の引き戸は完全に閉じきっていない。中の様子は見えないが、数センチの隙間が確認できた。
 扉の前まで行くと、渚砂は両手で重い扉を引き開けた。滑りの悪い扉は耳障りな音を立てながらゆっくりと開く。倉庫の中は薄暗く、黴臭さが満ちていた。十メートルほど先、倉庫の中央辺りに一人の男の姿があった。細身の若い男は、ちょうどこちらを振り向いたところだった。先程確認したメールに添付されていた写真の男。彼は是枝正太と落ち合う予定でここにいることを、渚砂は知っていた。けれど正太はここへは来ない。そもそもそんな約束をした覚えもないはずだ。彼をここに来させたのは渚砂に他ならなかった。勿論、口の堅い零課の後輩の力を借りてではあるが。

 真っ直ぐに相手を見据え、渚砂は男に近づいて行く。見知らぬ女の登場に戸惑った表情を浮かべているようだったが、渚砂は容赦なく無言で距離を詰め、同時に自身の胸元から拳銃を取り出した。そのマズルには消音器が取り付けられていた。歩みを止めないままに安全装置を解除し、男に向けた。そして、引き金に指をかける。
 倉庫内に、低くくぐもった破裂音が響いた。外にいれば聞こえないほどの音量だった。左胸を撃ち抜かれた男はどさりと倒れたままもう動かない。痛めつける趣味はなかった。
 この男は死の間際、何を思っただろうか。恐怖する暇も与えられず、訳のわからないまま死んでいった哀れな男。彼には何の罪もなければ、何の恨みもない。ただ彼は是枝正太の情報源になってしまった、それだけだった。銃を胸元にしまいながら、渚砂は男の死体を見下ろしていた。

 倉庫内の静けさを破ったのは、携帯電話のバイブレーションだった。男の手から放り出されたスマートフォンが、鉄の床の上で震えだした。おもむろに近づき、それを拾い上げる。画面に表示された発信者の名前を見て、渚砂は口の端を小さく上げた。タイミングの良い奴だ。応答ボタンに指を触れる。

「……やあ、どうも、是枝正太」

 地声でそう応えてから、スピーカーモードに切り替える。

「お前のお友達はもう何も教えちゃくれねえよ。可哀相にな。……画面」

 そう続けて、渚砂はビデオ通話に切り替えた。スマートフォンをかざし、地に倒れた死体を映す。暗い倉庫内でどこまで鮮明に映るかわからないが、状況を理解するには十分だろう。

「よく見とけ。こいつが死んだのはお前のせいだ」

 それだけ言うと、正太の返答を待たずに渚砂は通話を切った。そのまま男のスマートフォンの電源を落とし、それを自分のジャケットの内ポケットに押し込んだ。是枝正太、頼むから、もう余計なことはするな。お前は何もしらなくていい。
 コツコツと靴音を響かせながら、渚砂は倉庫を後にした。

>正太

【遅くなりましてすみません。モブ殺害させていただきました……!お電話ありがとうございます!】

2ヶ月前 No.81

大狼 椿 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【大狼 椿/公衆トイレ】

 この生を、生き永らえてしまったのだと考えたことはなかった。ただそれでも、この生が一日一日と延びていくほど、その日が来た時には酷く己の心を満たすものだと想像していた。いつか出会うだろうと未だ見ぬ相手を心待った日は、今遂にあの日の自分を迎えに来た。ひどく殺してくださいと、顔中を涙でぐちゃぐちゃに濡らしたあの幼い俺を知る者は、もう自分しかこの世には居ないのだ。それならば、他を巻き込んで、もう一度あの日の再演をしなくては。


 視線の端で、死体の衣服に血飛沫が当たるのを見た。目蓋を押し上げた先で真っ赤なルージュが次に視界へと映り込む。見惚れていた。思考が止まる。痺れたように機能を止めた右手から、ずるりと死体が重力に従って落ちていく。反動で三人の内の誰かの衣服を血飛沫で濡らすだろうことも己の思考の中から外れたまま。予想よりも遥かに鈍い音を立てて、死体が血溜まりに着地した。それは飛沫と共に鋭利な生の残香となって鼻腔を突き刺していく。まるで死すらを認めていない抗いのようであった。この男の死の光景をストロボ再生のように思い出す。自分も、あのように酷く殺して下さるだろうか。胸に伸ばされたその白く骨の浮き出た掌に、長らく高鳴りを忘れた鼓動が震え始めた。一瞬にして、全てを失う覚悟を終える。初めて呼ばれた名に、吐息だけで返事をした。

 痛みを想像する。それは、酷く甘美な気持ちを運んだ。

「どうぞ、貴方の思うままに」

 右手のグローブの先を唇で食みながら、そっと抜き取った。薬指から伸びたケロイドは、右手甲までをも覆っている。唇から、グローブを落とす。この傷跡の、上書きを。左手に添えられた手に、包むようにして右手を重ねた。左口角に、無機質の冷たさを覚える。それでも、視線はルージュの唇に釘付けであった。その唇が紡ぐ、未来の言葉をただ待っていた。
 このお方は、きっとこのままナイフを引かれるだろう。内に醜い欲望を閉じ込めた、この俺の皮膚を引き裂いて下さるだろう。

 それでも、意志とは裏腹に鋭利な刃先の侵入を拒もうと己の皮膚が逆立つかのように防衛を試みる。身体の意志を咎めるように僅かに口角を緩め、刃先の侵入を誘導させる。それからは、一瞬だった。痛覚が上下左右に揺さぶられて、引き伸ばされ、小さな綻びから引き裂かれていった。厚紙を無理に裂かれたような音が脳内に木霊する。まるで、熱した鉄鍋を頬に押し付けられたようだった。――笑う度に、血が大袈裟に流れていく。

 与えられたこれは、未だ、全てではない。その言葉を噛み締めるだけで、己の醜い部分を肯定されたような、満たされる思いだった。不意に、視線が固定される。真下の黒い瞳と目が合うなり、心臓を砂利で洗われるような感覚に支配された。血濡れた口角が、歪に弧を描こうとする。その度に、傷口から溢れ出る血が目の前の白い頬を濡らしていく。まるで、神聖なものを穢していくような、一歩間違えば簡単に堕ちてしまえそうなその感覚に耐えることすら自分にとっては只の褒美であった。
 ――全部。それが表す意味。離れていく手を惜しみながら、左手を伸ばして傷口に触れる。それだけでは物足りず、態と人差し指の腹が傷口に潜る様に、何度も確かめるように撫で付けた。与えられた痛みを更にこの手で増幅させるなど、何と罪深い行為であるのか。ポケットに入れられた紙を横目で見送っては、止め処なく流れる血液に話すことを諦め、目を細めて肯定を表す。緊張の糸が解けたからか、大小の渦巻きの群れが脳内を支配し始めた。傷口に響く鼓動に合わせて、その渦巻きがうねりの幅を狭めていくのだ。

 ――ゃあ、――価値が――、――れますか。
 この生臭い鉄のにおいをかき消すような明るい声に、一瞬にして視野が開けた。意識が引き戻される。――純さん。凛とした声にそう呼ばれた相手を想い、目を伏せた。いつか、その名を自分も口にすることができるのならば。
 桜さん。名乗られた名前を早速口にしようとしたつもりが、うまく発音することができなかった。突っ張る皮膚に視線を落としながら、肯定を表すために小さく笑う。それだけでも傷口が大袈裟に開くのを感じた。そんな折、傷口を塞ぐ様にして、ハンカチが押し当てられる。驚いて意図を探るよりも先に、見えた桜さんの笑顔にすぐさまその思考をかき消した。癒そうとしているのだ、この傷と、心の底に眠る欲を。ハンカチへ左手を伸ばし、桜さんから向けられた想いを引き継いだ。不意に、右手が引かれた。むき出しの右手の傷跡を隠す間もなく、桜さんに引かれ、もう片方の手で純さんの手が握られる。――それは、少し前には考えられない奇妙な光景であった。
 仲良くしてくださいね。そう笑む彼女の顔に、偽りはなかった。その瞳は、所属ではなく個として俺を見ていた。それならばと、短く息を吐く。この想いには、応えなければいけない。

「此方こそ、宜しくお願いしますね。……お二人の行く先を、どうか俺にも見せて下さい」

 左手下、ハンカチが湿りを帯びていく。それでも、身を裂くような痛みに臆することなく言葉を紡いだ。それが意志を証明する術だと確信していたから。

>純さん、桜さんALL
【純さん、ズパッとありがとうございました! そして、桜さんの優しさに癒されております! お二人ともありがとうございました!】

1ヶ月前 No.82

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

『おい正太。お前隠しごとしてねぇよな』

 朝比奈の唐突な、そして核心を突く発言に正太は思わずたじろいだ。通信機を手を強く握りしめたまま、身体が動かない。「そ、そんなわけないじゃないですか」「ちょっと疲れてるだけですよ、ほら、やっぱり建物に潜入するのとか初めてだったので、緊張してそれで」と、咄嗟に苦しい言い訳を並べたが、それは明らかに不自然で、逆に朝比奈の疑心を深める結果に終わってしまった。すぐに一方的に通信を切られ、突如訪れた静寂と虚無に支配されながら正太は暫くの間、呆然と立ち尽くしていた。やっぱり朝比奈さんには到底敵わない。こちらの考えていることなど全てお見通しだと言わんばかりに強い圧が、 朝比奈の強い口調からは感じられた。やはり爆弾を設置した程度では百戦錬磨であるサングイスリーダーの信用は得ることは出来なかったらしい。

 正太は朝比奈という人間が好きだった。彼と出会ってからまだ幾分の月日しか経っていなかったが、彼の人柄の良さは滲み出ていたし、彼の周りに自然と人が集まるのも頷けた。知らず知らずのうちに朝比奈を実の兄のように憧れ慕っていた自分がいた。そんな彼との関係がギクシャクするのは正太としても避けたいところだった。
 ──これが終わったら朝比奈さんに謝ろう。本当はヘマをしたって正直に言おう。もしかしたら特高に自分の顔が割れたかもしれないって。追われるのも時間の問題だって。そうしたら、朝比奈さんも姉貴のことを何か教えてくれるかもしれない。今度こそ。ちゃんと。
 情報屋に電話を掛けているあいだ、奥で流れる呼び出し音に耳を傾けつつ正太は自分に言い聞かせた。
 しかしその矢先、受話器から聞こえた声は正太の予想だにしないものだった。それは全く聞き覚えのない男の声だった。

『やあ、どうも、是枝正太』

 ──……誰だ? 明らかに情報屋の声じゃない。それに……

 警戒心を露わにしたまま、正太は相手の出方を伺った。お互い一切の声を発さず、暫しの無言が続く。その後、再び口を開いた男の言葉でようやく相手がビデオ通話に切り替えていることに気が付き、正太は恐る恐る受話器から耳を離した。そして言われた通りにスマートフォンの画面に目を向ける。

「……!」

 見間違えるはずもない。その画面に写し出されていたのは間違いなく、正太が贔屓にしていたあの情報屋の死体だった。ぽっかりと小さな穴が空いた左胸からは崩壊したダムのように血が流れ出している。スマートフォンの奥にいる男が撃ち殺したのは明らかだった。
 正太が現状を把握するまでそう時間はかからなかった。次第に震えが全身を支配し、スマートフォンが掌から滑り落ちる。正太が実際に死体を見るのは初めてだった。さっきまで生きていたはずの人間が物体となって、抵抗することもできずに無様に地面に転がっている。それは正太が思っていた以上に無機質で、冷たいものだった。
 ガシャンと小さい音を立ててスマートフォンが地面に落下したときにはもう、正太はその場から駆け出していた。怖い。怖い。怖い。特高とは別に、俺の周りを嗅ぎ回っている奴がいる。それだけで正太の頭はパニック状態に陥っていた。別に行く宛があったわけではない。ただ、このままこの場所に留まっていては自分もいずれ殺されてしまうのではと思ったのだ。


>???(朝比奈さん、渚砂さん)
【もう本当、スレ主のくせにスレッドを滞らせてしまい大変申し訳有りませんでした。ようやくリアルが落ち着いたので、引き続き参加してくださったらもうこれ以上の喜びはありません。せっかく紡いできた物語をここで終わらせるのはもったいないと思うので、もしよければもう一度一緒に書きませんか。そして完全に自分のせいであるにもかかわらずお手数をおかけして申し訳ないのですが、次章準備と参加人数の把握のために点呼をとらせていただきたいと思います。詳しくはサブ記事にて】

1ヶ月前 No.83

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_a2e

【涼宮衛/裏庭】

 部屋の消火作業を一通り終えた涼宮は本来の任務、すなわち不審者の探索に戻ろうとしていた。
 正太が部屋を出てからかなり時間が経過しているため、普通なら涼宮は正太の足取りをそう簡単には追えなかっただろう。しかし、

「見つけた!」

 涼宮が正太を見失わせる原因となったものが、今度は正太の居場所へと涼宮を導く。部屋を出た廊下にくっきりと残っているのは、消火器の粉塵。正太の衣服に、あるいは靴の裏に付着した消火器の粉塵が正太が疾走するすることによって床に落ちたのだ。それは正しく正太の足取りを示すものだった。

「このまま逃がすか! こちら涼宮、議事堂内で軽微なボヤが発生しました。火元は消しましたが一応消火班の手配を、それと、付近一帯の閉鎖を願います。」

 だが、身に着いた粉塵はやがてすべて落ちきり、そうなれば正太を再び見失ってしまうだろう。それを危惧した涼宮は、自らも疾駆すると同時に上司である黒瀬へ報告をする。
 足取りはバルコニーのあたりで途絶えていたが、ここまでくればどこへ行ったのかなど明白だ。

「はっ!」

 躊躇なく2階のバルコニーから身を躍らせると、足を地面に向けた落下する。重力から解放されたような一瞬の浮遊感。
 そして、次の瞬間には足元に固く重い感触。衝撃を膝で受け流すと、涼宮はまるでネコ科の猛獣がちょっとした高さから飛び降りたようなしなやかさで、よどみなく次の行動に移った。
 下を向いていた顔を起こして周りを警戒する。落下直後の無防備な自分を攻撃してこなかったところからして、犯人はもう逃げたのか、あるいはどこかに隠れているのか。
 否、そのどちらでもなかった。
 件の少年は、なんと堂々と彼の目の前を駆け去っていく。あまりに合理性に欠ける行動だ。逃げるなら彼が来る前に逃げるべきだし、隠れていたなら落下直後の彼を攻撃するなりそのまま隠れてやり過ごそうとする。だがそれは今はどうでもいい。

「確保。」

 彼が今すべきは、自分の責務を果たすことだった。自分に背を向けて走る正太に追いすがると、右手で彼の右肩を掴む。
 別に肩を掴んだことに深い意味はない。手首でも、腰でも、首でも、肘でも、何なら足首でも構わなかった。人の身体のどこにだろうと関節はあるのだから。
 そして、涼宮はそのまま地を蹴った。正太の右肩を掴んだ自分の右手を起点にして宙返りをしながら身体を半回転させて向きを変える。正太にしてみれば、いきなり後ろから肩を掴まれたと思ったら、頭の上を何かが通り過ぎ、次の瞬間には目の前に涼宮が出現したように見えただろう。
 だが、涼宮は驚く彼にかまうことなく涼宮の肩をひねり上げて地に伏せさせ、後ろ手になった手首に手錠をかける。

「現行犯で緊急確保する。君には法に定められた範囲で権利がある。君には……」

 確保した正太にいくつかの文言を告げるも、正太は捕まったことよりも他のことに混乱しているようだった。

>> 是枝正太様 黒瀬様

22日前 No.84

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

 駆け出して間もなく誰かに肩を掴まれたと思ったら、突然目の前に降ってきた(そういう表現が果たして正しいのか分からないが、とにかく降ってきたのだ)男の姿に正太は「うわああ」と驚嘆し情けない声を上げた。彼が一体誰なのか正太が判断する隙を与えることなく、男は慣れた手つきで正太を取り押さえた。ガシャリと音がして手首に冷たい金属があたったとき、正太はようやく自分が特高に捕まったのだと理解した。強い力で肩を捻られ、背中を押さえつけられ、屈強な警官の腕力に貧弱な正太が勝てるわけもなく、正太はそのまま地に伏すしかなかった。激しい痛みを押し殺しながら頭上を見上げると、そこには今まで執拗に正太を追っていた警官の冷徹な顔が、冷静に正太を見下ろしていた。

「……は、ははは。捕まったんですね、俺」

 くどくどと語る特高を遮るようにして呟く。正太は恐怖に慄くわけでも悔しがるわけでもなく、ただ力なく笑っていた。そして今まで抵抗していた力を呆気なく解放させ、されるがままに地面に突っ伏した。正太は完全に諦めていた。八方ふさがりである彼に足掻く気力など最早どこにも残っていなかった。
(嗚呼、もうこれでよかったのかもしれない)正太は考える。(唯一の情報源は殺され、俺の行動は全部知らねえ男に筒抜けだった。次は俺が殺されるかもしれない。……もうこれ以上俺にどうしろっていうんだよ、姉貴)
 突然現れた鳳(せんせい)の存在や先程の電話の相手、サングイスと京香(あねき)の関係など、正太にはまだわからないことが多くあったが、そのどれもがどうでもいいと思える程に正太は疲弊していた。もうとうの昔に限界は超えていた。

「……あの、言っておきますけど俺を捕まえても無駄ですよ。俺、何も知らないので」

 自暴自棄とも警官への挑発ともとれるような発言をした後、正太は視線を地面に落とした。もう何を信じればいいのか分からなかった。だがこんな状況下に陥ったあとでも正太は自分を「仲間」と呼んでくれた朝比奈や他のサングイスのメンバーを売るような行為だけは決してしまいと心に誓っていた。


>涼宮さん
【またもや遅くなってすみません……!】

9日前 No.85

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