Google
    
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▼レス(105) >>

天喧騒京モノガタリ

 ( オリジナルなりきり )
- アクセス(4492) - ●メイン記事(105) / サブ記事 (88) - いいね!(14)

現代パロ / 人情 / バトル @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

『続いてのニュースです』

十一月二十六日。太陽が静かに顔をだした頃、街頭ビジョンから報道が流れる。

『今日未明、反社会的組織サングイスから爆破予告を受けた西上大学は全ての授業を休講にし、生徒に注意を呼びかけるとともに万が一に備えて厳戒体制を最高レベルに敷いています。爆破予定時刻まで残り三十五分。現場は緊張が高まっている模様です』
『怖いですねえ。真宿駅爆発事件から早四年。未だサングイスの首謀者も組織規模も不明のまま、国民の不安は募るばかりです』
『今回の爆破予告を受けて安野首相は記者会見を開くとともに、引き続き警戒を呼びかけており――……』

アナウンサーの声が空に響き渡る。
本日も大日本国は晴天である。



( 11月26日午前8時25分 / 西上大学構内 )

「やべえ、このままだとまた遅刻しちまう!」
パンを加えたまま校舎を走る青年が一人。
西上大学に通う彼は、昨日の夜遅くまでドラマを観ていたら寝坊してしまったらしい。呼吸を荒くし、必死に手足を動かすなかで、ふとある異変に気付く。男はその場に立ち止まった。
――何だかやけに、静かだな。
男は考える。大学は不気味なほどに沈黙していた。いつも聞こえるはずの学生たちの黄色い声やが全く聞こえてこない。それどころか校舎内には人っ子ひとり見当たらなかった。
「え、あれ、今日って学校休みだっけ?」
突然の孤独感に襲われた青年は、焦ったように頭を掻く。
彼は爆破予告による休講連絡に気付かず、いつも通り大学に登校していたのだ。



( 11月26日午後3時25分 / ??? )

「あと残り三十五分か。待ち遠しいな」
腕時計を眺め、貧乏ゆすりを始める。
男は西上大学が爆発するのその瞬間を静かに待っていた。
「本当に準備の方は万全なんだろうな?」
「もう、そう何度も確認しないでください。今のところ問題ありません、全て抜かりなく進んでいます」
隣にいた女がピシャリと言い放ち、冷たく遇らう。彼女もまた、双眼鏡から西上大学の行く末を見守っていた。
レンズの先に見えるのはW未だW長閑ないつも通りの景色。しかしそれが豹変した瞬間、彼女たちの計画成功が確定する。
一瞬、その覗いていた視界の中で何かが動いた気がした。
「あれ」女が異変に気付き、声を上げる。
「どうかしたのか?」男が尋ねる。
「いえ。校舎内に一瞬、人影が映ったような気がして――……」



( 11月26日午後3時25分 / 西上大学付近 )

「いいか皆、気を抜くなよ」
「はっ」
校舎内を囲むようにして警備を担う特別高等警察は、男の一言で一斉に背筋を正した。
現場にはかつてないほどの緊張感が走っている。爆発事件が多発している昨今、人を守るのも命懸けの仕事になっていた。
手に汗が滲む。隣にいる警官が生唾を飲み込む音までもが聞こえてくるほどに辺りは静まり返っていた。
男は腕時計に視線を落とす。まだ爆破予告の時間まで三十五分あった。
「サングイスめ、今日こそはその尻尾掴んでやるからな」
男は強い口調で呟く。
その瞳には、燃えるような正義感と確固たる決意が灯っていた。



本日も大日本国は晴天である。
――……さん、
――……に、
――……いち。
長針が丁度十二を指したとき、空に耳を劈くような爆音が響き渡った。



これは第二次世界大戦に勝戦し、天皇政治が続いている大日本国で反政府組織と特高警察とがドンパチする物語。

1年前 No.0
メモ2018/09/04 01:15 : 神崎りりか ☆TYRYeuBpk3k @else★t4ewEy7NmI_AC5

▼第二章「 作戦開始 」※十ニ月十六日始動

http://mb2.jp/_subnro/15640.html-50

▼第一章「 空白時間 」

http://mb2.jp/_subnro/15640.html-34


▼参加者一覧

・反社会組織サングイス

→リーダー:朝比奈 藤司(ひなしろいと)

→副リーダー:玻璃崎 雪乃(芙愛)

→構成員:吾妻 純(かささぎ)

→構成員:是枝 正太(神崎りりか)

→構成員:天野 風香(忍者ぇ)

→構成員:十姫雨 桜(絡繰)


・特別高等警察第一課

→課長:黒瀬 新(Nero)

→課長補佐:生明 岬(ねこみやあか)

→参謀:夢月 叶羽(自由)

→警官:涼宮 衛 (弘樹)

→警官:大狼 椿(崎山)

→警官:御手洗 雪彦(推古)


・特別高等警察零課

→メンバー:速水 奏汰(sizuku)

→メンバー:鳳 嘉音(夕邑三日月)

→メンバー:深町 渚砂(ぽんぽこ)

→メンバー:白練 夜鷹(真白蝶々)


おかげさまで役柄が全て埋まりました!よって各組織のメンバー枠を無制限に募集します。予約は不要ですのでプロフィールが完成し次第サブ記事に提出してください。

切替: メイン記事(105) サブ記事 (88) ページ: 1 2

 
 
↑前のページ (55件) | 最新ページ

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


「こちら黒瀬、了解。避難誘導は変わらず続けろ」

 騒めく人波を掻き分けながら夢月からの無線に返答を寄越し、周囲の煙とパニック状態と化した現状を見渡す。無毒なのはまだ良いが、この有様なら怪我人が複数名出る事だろう。どちらにしろ誘導に人員を回さなければならない訳で、厄介極まりない事態には変わりはない。
 そうして漸く彼等が身を隠した茂みに近付いてきたのだが、その視界に一番に入り込んだのは男女二人組等ではなく見慣れた男の背であった。

「涼宮……?」

 把握している限り彼の配属地点は此処より離れていた筈だがこの緊急事態である。恐らく民間人の避難を優先した結果であろう。自然と訝しげに変わる表情の裏で思考を巡らせるながらふと一つの視線を察知して其方を見る。
 その主は、涼宮より奥に見える先程青年と会話をしていた女性。彼女の緩く細められた目に、種は違えど黒瀬も鋭い視線を向けた。一度疑心を持てばどの言動も怪訝に思えるようで、果たしてこの笑みの裏にはどれ程仄暗い腹の中を隠しているのかと根拠の無い疑念が浮かび上がって仕方が無い。しかし一方で、己の勘をそう容易く断ち切れない程度には使い物になると踏んでいるからこそ、歩みを止めるという選択肢を放棄したのだが。
 彼等の元に辿り着き、先程までは居なかった筈のもう一人の民間人に気付いて軽く視線をやった後、逆にあの青年が姿を消している事に表情を険しくさせた。予想は出来ていたがこの人混みを鑑みるに大分面倒な状況と言える。周囲を見渡してやはり見つからない事を確認しながら、涼宮の横に立って意図的なのか無意識の内なのか相変わらず妙に威圧の感じる表情と声色で"なっちゃん"と呼ばれた方の女性へと警察手帳を提示しながら話しかけた。

「失礼、質問があるのですが。先程この辺りで貴女が会話していた男性は何処に? 小柄で明るい茶髪の青年です。……彼に少し話を伺いたい」

 意図を聞き返される手間さえ惜しいと、手短に必要最小限の問いを投げかける。万が一本当に青年を逃がすつもりだったとすれば簡単にシラを切られそうではあるが、どうにしろ涼宮が此処に居るなら姿を消す前の彼を目撃していてもおかしく無い。ならば逃げていった方向だけでも情報としては十分だ。
 示した警察手帳を仕舞いながら、首を軽く真横に捻り「お前は何か分かるか」と涼宮にも短い情報開示を求める。その間にも問いかけた女性から離さない黒瀬の鋭利な瞳は、隠す気も無いだろう警戒の意を強かに顕していた。

>夢月、涼宮、深町、瑠璃崎、是枝、all



【中々時間が取れず遅れた挙句に普段より即興の粗雑文となってしまいました、すみません。スレを大分停滞させてしまい申し訳ない限りです】

9ヶ月前 No.56

御柱 建 @sibamura ★o0W3VsenYO_Swk

【涼宮 衛/議事堂付近→議事堂付近の公道】

「あっ! 君」

 衛が二人組の男女に声を掛けたとたん、若い男性、いや少年といってもいいだろう年齢の男子が衛ともう一人の女性を振り払うようにして脱兎のごとく駆け出してしまう。しかも、その向かう先は白煙の立ち上る方角なのだ。

「待ちなさいっ っくっ!」

 即座に少年を追わんとした衛であるが、しばし逡巡する。駆け出した少年が怪しいのは明白であるが、いま彼を追えば残された女性を放置することになる。少年と何か話していたようだが、彼女も少年の関係者だろうか、ならばなぜ彼女はここに残ったのか。いや、こうして彼女がここに残ることで自分の足は止まってしまっている。つまり、彼女は足どめ要因なのだろうか、

『「……なっちゃん! 此処にいたの!」』

『「あらぁ、ユキ! 私もどこ行ってたのかなとは思ってたの。でね、さっきユキが可愛いって言ってた子、ナンパしてみたけどダメだった、ごめんネ」』

 そんな衛の考えを吹き消すかのようにもう一人の女性が介入する。彼女たちの話を信じれば、彼女たちは単なる野次馬であの少年とは単なる偶然出会っただけということだろうか。笑みを浮かべた深町渚砂と不安げにこちらを見る玻璃崎雪乃、老練な零課の二人の擬態は衛には見抜くことができず、衛は二人の話を疑問に思わず信じてしまう。


『涼宮……?』

 そんな彼にかけられた声は、まぎれもなく彼の上司の声で。条件反射的に衛はそちらの方を向いて敬礼しながら、状況を説明した。

「はっ! 先ほど、こちらの茂みに少年がしゃがみ込み、こちらの方が少年と話をしている様子だったので避難指示のために声を掛けたところ少年が白煙の中へ逃走。不甲斐ないことに逃走を許してしまいました。もう一人のこちらの女性は、こちらの方のご友人だそうです。配置場所を離れたことについては弁明のしようもなく、私の非であります。」

 そこまで一息に言って、しかし衛は言葉をつづける。

「しかし、その少年が無関係な市民であるにしろサングイスの協力者であるにしろ。危険な地区に自ら入り込んでしまったことは事実です。自分に、彼の追跡の許可をお願いします。」


>> 黒瀬新様 是枝正太様 深町渚砂様 玻璃崎雪乃様

9ヶ月前 No.57

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎雪乃/国会議事堂付近】

雪乃が渚砂に声を掛け、渚砂が特高一課警察官の目を眩ますために演技をしはじめた。生産性のない虚構の会話の間には、逃げていた正太の後ろ姿はもうすっかり白煙の向こうに消えて見えなくなっていた。

「あっ、残念……だけどなっちゃん、そんなことよりこの煙……此処はまだ良いけど、あっちはなんか凄く酷いことになってるの。良かったぁ……私達も早く逃げましょう。……警察官さん、何処から逃げたら良いんでしょう?」

渚砂に励まされる演技を受けながら、『可愛い男の子・正太』の消えたという白煙の果てに目を向ける。それからすぐに「そんなことより今は」と、眉尻を下げた。『友達・なっちゃん』にこの不安な状況からの避難を訴える。避難勧告と集団パニックに煽られながら逸れた友人を探しに来た風を装っている。
爽やかで人の良さそうな警察官の注意を引き、そうこうしている間にも白煙に包まれて視界の悪くなった周辺からの退路を問いかける。後からやって来たその上司風の一課の男も、正太を追わず渚砂に警察手帳を突き出した。

サングイスとしての雪乃の計画はひとまず成功を収めた。正太が逃げ出してから遠くに行くまでの時間をなるべく稼ぐ。
(私に助けられるのは今はこの程度よ。ーー頑張って頂戴、……『是枝京香の弟』)
吾妻純と十姫雨桜のセキュリティ突破、雪乃の護衛。国会議事堂は目前。逃げ切った此処から先は正太の力次第だ。リーダーである朝比奈に対する責務さえ果たせたなら、雪乃にとっては此処で正太が成功しようと失敗しようと、それは実のところ大した問題ではなかった。
(だって、私は正太君の身を案じて、一度は止めようとしてあげたのよ?)

……正太を逃したら、今度は零課の同僚が一課との面倒ごとに巻き込まれる前になんとかしなくては。何故、渚砂は正太の邪魔をしようとし、上からの指令でもなくサングイスの妨害をしようとしたのか。私の方が後で彼から事情聴取したいぐらいだわ、と彼の前に突き出された警察手帳を横目に思った。

「って、……あら?」
雪乃は不意に目を丸くし声を上げる。艶やかに染められた唇が、無邪気に弧を描く。
「もしかして、貴方、黒瀬新君じゃない……?」
明らかに渚砂を疑っている鋭い視線に対して、あまりにも唐突に和やかな風を送り込んだ。
捜査一課で、部下らしき警察官に指示を送り、渚砂を問い詰めようとしていたのは、同じ大学の一つ下にいた黒瀬新だった。何故学年の違う雪乃が彼を知っているかといえば、言うまでもなく、学生時代から彼女の視線を集めていた朝比奈藤司が黒瀬新と親しくしていたからである。同窓会のノリで軽く話しかけるも、すぐに「ああ、お仕事中にごめんなさい」と控えめに苦笑する。尋問の邪魔にならないように一歩下がって、職務質問を受ける『友達のなっちゃん』の後ろ姿を心配そうに見守った。

>渚砂様、涼宮様、黒瀬様


【お返事が遅くなってしまい申し訳ありません……!】

8ヶ月前 No.58

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂付近 → 国会議事堂内部 】

 辺りに充満する白煙を掻き分けるようにして正太は走った。追っ手が来ているのか、それとも来ていないのか、振り向いてそれを確認する余裕などあるはずもなく、正太は手足を必死に動かすことで後ろから迫り来る恐怖を振り払おうとしていた。
 肺胞に満たされる埃っぽい空気に噎せかえり、涙が溜まった目尻を乱暴に擦る。まるで霧の中を泳いでいるような感覚だった。厚く濃い乳白色の層の向こうから突如として現れる通行人と激しく衝突する度に、腕に抱える爆弾が誤作動を起こすのではないかと錯覚した。
 しばらくして人波の渦から吐き出されるようにして解放されると、目の前には──運の良いことに──サングイスの標的である国会議事堂が悠然と待ち構えていた。どうやら逃げながらも目的地へ向かっていたらしい。正太はゆっくりと議事堂を見上げた。議事堂はこれから倒壊されるとも知らずに、正太を見下ろして嘲笑っていた。
(や、やっと……ついた)
 正太の心は達成感に近いもので満ち溢れていた。朝比奈たちと別れた地点からそう遠く離れていないはずなのに、おそろしく長い距離を走った気分だった。息を切らしながら恐る恐る背後を確認する。誰もいない。煙のせいで遠くがよく見えなかったが、どうやら自分は上手く特高たちを撒くことが出来たらしい。正太はふぅ、と小さく息を吐いてそっと胸を撫で下ろした。もう次はないと思った。また彼等に目をつけられでもしたら、きっと今回のようにはいかないだろう。だからこそ、そうなる前に早くやることを終わらせなければいけない。

 吾妻の引き起こした陽動が功を成したのか、国会議事堂の周りは予想以上に警備が手薄だった。日本一のテロ集団が破壊を高らかに宣言しているというのに、裏門から入り口まで三、四人の警官しか見当たらない。銃を構え、周囲に神経を張り巡らせているとはいえ、それは素人の目からしてもとても十分とは思えない。
 正太は再び茂みの中に潜み、頭の中で計画を練り直した。本来なら腰に隠し持っている秘密兵器≠使って押し通そうと思っていたが、この人数であればはったりをかませば何とかなるかもしれない。そっと腰を下ろし、リュックの中をガサゴソと漁った。こんなこともあろうかと正太なりに準備を事前に済ませていたのだ。
 茂みから飛び出し、右も左も分からないような子犬の溺れ顔を浮かべて警備隊に近づく。そしてリュックから取り出した紙束を見せつけ、困り果てたように尋ねた。

「……あの、すみません。ここらへんで俺の父さんを見ませんでしたか?」

 見せつけたのは警察手帳。警察庁に訪れる度に目にしていたそれを、正太が見よう見まねで偽造したものだった。
「これ、父さんの手帳なのにそこの茂みに落ちてたんです。俺、父さんの身に何かあったんじゃないかって思って心配で……もしかしたらサングイスに何かされたんじゃないかって……」
 もちろん全てでっち上げだった。正太の父親は田舎で畑仕事をしているし、もう何年も顔を合わせていない。警察手帳には上京する前に撮った写真を加工して載せたが、逆にその古さが信憑性を高めていると正太は思った。

「名前は?」
「是枝源平です」
「聞いたことのない名前だな……見せてみろ」

 そう言って見張りが偽物の手帳を手にしたとき、正太は急いで表情を明るくして左を向いた。国会議事堂の中を指差して「あっ、父さん!」と大声で叫ぶ。まるで父親を発見したように嬉々とした、しかしどこか安堵したような顔。そしてその方向へ勢いよく走った。「おい、ちょっと待て!」と叫ぶ特高を尻目に、正太は議事堂の中へと向かっていく。必死に親を探す子のように「父さん」と連呼して走り去る。正太は自身の記憶力と手先の器用さには少し自信があった。あの警察手帳が偽物だと気付くまでまだ時間がかかるだろう。あとほんの少しの間だけでいい。あいつらに自分が警察の子供≠ナある思わせている間に爆弾を設置すれば自分の勝利が確定する。そのあとは特高に捕まろうが何されようが構わなかった。朝比奈たちは自身の命も守れと言っていたが、正太は姉の居場所が分かるのであれば、特高に連れ去られてもいいと内心思っていた。

 駆け足のまま標的の中へ一歩足を踏み入れる。コツン、コツン、と床の大理石とぶつかった自身の冷たい足音が響き渡った。あまりの静けさに正太は思わず身震いをした。ごくりと生唾を飲む。ぐるりと周囲を見回す。不気味だった。避難を済ませているのか、辺りには誰もいない。しかしその静寂はどこか人工的な、まるで誰かに作られたもののようにも思えたのだ。


>特高おーる、(鳳さん)
【スレ主のくせして遅くなってごめんなさい!またまた現在読んでる本に影響されて文体が恐ろしく迷子です。次までにはどうにか元に戻します】

8ヶ月前 No.59

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【吾妻 純/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 ぽたり、ぽたり。
 一定のリズムを刻みながら赤黒い雫がナイフから滴り落ち、薄汚れた白タイルの床で小さく弾ける。赤い花弁を散らすように模様を描くそれからは、むせ返るような深い鉄の匂いが漂っていた。人々の喧騒が、夏の夜の夢の、陽炎の先で揺れる祭り囃子のように遠く感じた。
 純は決まって人を殺した後、自分という存在がぼんやりとしたものに感じるのである。極度の興奮状態から覚めていくその通過点にあるのだろう。自分という存在が非日常から日常へと戻されるその過程で、彼はいつも自分が水の中にいるような、曇りガラス一枚隔てた世界に一人で居るような、そんな感覚に陥るのだ。顔に飛び散った血を拭う事もせず、今、彼はただ赤いルージュのくちびるを三日月の形に歪めながら、ぼんやりとした焦点の合わない瞳で、視界に広がる赤を眺めている。
 未だ手に残るのは、突き刺す感触と、骨の硬さ、吹き出る血液の生の温度。いつもの引き金を引く感覚とは違い、命を奪う感触が直に手に残っている。それらを求めるように、徐に彼はナイフを握ったまま、自身の肩を抱きしめる。大きく息を吐き、公衆トイレの低い天井をぐらりと仰ぎながら、純は目を細めて嗤った。
 不意に、背後に人の気配を感じて振り返ると、其処にはふわりとした花のような笑みを浮かべる同士――桜の姿があった。トイレ内に広がる惨状に目もくれず、彼女は笑みを浮かべたままこちらへ足を進める。純もまた、笑みを浮かべたまま彼女の方を見つめていた。
 桜は「綺麗ですね」と、うっとりした様子で確かにそう言った。そして、数センチの距離でこちらの顔を見つめ、頬についた血を拭い、ウィッグを手ぐしで整えてくれた。
 「綺麗」。その一言があれば、純はもう十分だった。うっとりとした表情で、純もまた桜の方へ手を伸ばす。手のひらについた血を彼女の髪に付けぬよう注意を払い、手の甲を使って桜の頭をそっと撫で、そのまま彼女の白い頬へ掌を落とす。純は愛おしそうに、先程とは打って変わった様子で、聖母のような慈悲に溢れた笑みをその顔に浮かべていた。「ありがとう」と短く、それでいて慈悲の籠った様子で彼女にそうつぶやけば、桜の傍らに倒れる、彼女よりも一回りも大きい男性の警官に気が付く。思い出したかのように警官の襟首を掴み、これも悪い人なのか、と尋ねる桜の目には、純粋な疑問の色のみが映っていた。

「貴女は本当に良い子ねぇ、桜。そうよ、そのひとも、わるいひと。私たちの邪魔をする――――」

 邪魔をするひとなの。そう言いかけた刹那、新たな足音が純の耳に響いた。さっと視線をトイレの入口の方へ向ければ、其処に居たのは銃口を確かにこちらに向ける男性警官の姿で。
 国会議事堂の騒ぎがあるものだから、時間は稼げるものだと思ったのだがそうは行かなかったかと思いつつ、その銃口が桜の方へ向けられているのを瞬時に確認する。彼はきっとこの女性警官の上司か、同僚か。無線が繋がらなくなったのを不審に思って此処を突き止めたのだろう。
 いくら人数で勝っているとはいえ、拳銃にナイフでは圧倒的に此方のほうが不利、加えて銃口は既に桜を捉えている。さて、どうしたものかと思考を巡らせてはいるものの、不思議と純は焦っては居なかった。ただ黙ったまま、真紅の海の中で、彼はただ銃口を構える警官の方をじっと見ていた。自分より背の高い位置にある彼の、自分と同じ黒い瞳をじいと見つめていると、純の足元に横たわる女性の亡骸を視界に捉えた不意に彼の口から、ある言葉が溢れた。
 「羨ましい」。その六文字の音が、純の鼓膜を刺激した瞬間、彼の目がぐっと見開かれる。

「――――――あら、そうなのぉ?」

 いやに明るいトーンで、愉しそうな様子で。まるで歌うように、純がそう答える。察知したのだ。彼は「求めている者」であると。羨望の念が人をどうさせるのかは、自分が一番良く知っている。目前で拳銃を構える彼の目は、満たされない羨望を抱いてきた者の目、かつての自分と同じ目をしていた。

 答えるのとほぼ同時に彼はその華奢な身体で床にしゃがみ込むと、桜の傍らに倒れていた男性警官の襟首をぐいと掴み、力のままに手繰り寄せる。彼の首筋にぴたりと、女性の血の痕が未だ残る鈍色のナイフを食い込ませ――

「羨ましいって……こういう事が、かしら?」

 びしゃ。

 勢いよくナイフを引けば、彼の喉から真っ赤な花弁が辺りに飛び散った。赤の水音と、男性のくぐもった声にならない最期の声。そこに重なるように、つんざくような、純の高笑いが重なった。
 飛び散る鮮やかな血の花弁越しに、飛び込んできた男性の黒い目と、純の目が合った。そのまま、前のめりに倒れかけている男性警官を大狼の方へ勢いよく突き飛ばす。不意打ちを仕掛けるつもりだ。時間稼ぎ程度にしかならないだろうが、成人男性の身体は、盾にするには最適であった。
 右手のナイフを強く握りしめる。命を奪う感触に、純は既に虜になっていた。

>桜さん、大狼さん 【お返事遅くなりまして本当にすみません! そして好き放題やっていてすみません……トイレがどんどん血まみれに……(】

8ヶ月前 No.60

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★R3lMq2ye0U_Swk

【鳳嘉音/国会議事堂内部】

 かつり、かつりと、大理石の床を鳴らして歩く。人気の無くなったその場所では、手にした杖も偽りの役目を放棄する。
 爆発した際の被害を抑えるためなのか、矢張りまだ爆弾は仕掛けられていないと現場でも踏まれているのか、外部の喧騒が嘘のように辺りは静まり返っていた。もしかすると、爆弾の捜索にまで人手を裂けていないというのが現実なのかも知れない。
 歩きながら、嘉音は頭に叩き込んだ議事堂内部の見取り図を脳内に展開した。自分が考えた爆破箇所に的を絞って待ち伏せるのも面白そうだが、流石に成功確率が低すぎる。結局彼が足を止めたのは、議事堂への裏口ともいえるとある扉が見える窓だった。
 嘉音が開いたのは、議事堂の裏手へと続く道。まんまとサングイスが彼の策にはまってくれたなら、まず間違いなくその扉から入ってくるだろう。嘉音はそれを今か今かと待っていた。
 嘉音は、今ここで敵を捕まえる気など小指の甘皮ほども持っていない。ただ、敵の顔が見られれば、正体が掴めればそれで良かった。後は爆弾でも何でも仕掛けて、思う存分破壊を楽しんでくれればいい。そうしてまた一つ首相の顔に泥を塗ってくれたなら、手懐けて利用するなり捕えて一課に引き渡すなりしてやろうと、特高にあるまじき思考でのんびりと外を眺めていた。
 勿論、サングイスが確実このルートを利用するなどという保証は何処にも無い。十分待って何の動きもなければ、他の厄介事がやって来る前に嘉音はその場を離れるつもりだった。

 しかし、“それ”はやってきた。

 その顔が視認できてしまった瞬間、思わず嘉音は身を屈めて、窓の下へと隠れていた。
 全速力で議事堂の中へと駆け込んできたのは、年若い青年だった。しかしそれだけなら、体制に不満を抱いただけの大きすぎる若気の至り、ご愁傷様でしたという感想だけで済む。問題なのは、そう。
「……是枝」
 それが、嘉音の見知った顔である事だ。
 国会議事堂へと飛び込んで来たのは、あろうことか彼のかつての同僚の弟であり、彼の生徒でもある是枝正太だった。いっそ爆弾を仕掛けに来たのが現同僚の雪乃だったら舌打ちで済んだのだが、予想だにしていなかった人物の登場に、嘉音は珍しく混乱していた。
 よもやまさか逃げ遅れた一般人ではないだろうか、ならば知り合いの誼で外に連れて行くくらいするべきか――
 混乱しすぎて、普段被っている塾講師としての仮面が前面に出て来てしまい、これまた珍しく嘉音の身体は正太を助けるべく動きかける。一応、社会科講師としての身分も有する彼は、授業の資料を集めに議事堂見学に来ていたら逃げ遅れました、という適当過ぎる嘘も用意していた。何なら父の身分を臭わせても良い、やりようは幾らでもある。しかし、ある事を思い出して、嘉音は冷静さを取り戻した。
 正太の姉・是枝京香は、零課が殺している。表向きは行方不明扱いになっているため、彼が姉の行方を聞き出そうと警察に足繁く通っているのは一部では有名だ。ひょんなことから正太が姉の死の真相を知ったのだとしたら……特高の敵である、サングイスに与する理由は十分過ぎるほどにある。
 改めて思い返してみれば、正太はリュックサックを大事そうに抱えていた。その中には何か大切な……或いは、危険なものが入っているのではないだろうか。
「……少し、尾けるか……」
 現時点では、どちらも所詮過程でしかない。しかし、議事堂内での正太の動きを確認すれば、自ずと分かることでもある。だから嘉音はゆっくりと、なるべく音を立てないように、正太が居るであろう場所に向かって移動を始めた。

>正太様、周辺ALL
【一応ステルスしてますが、見つけて頂いても大丈夫です】

8ヶ月前 No.61

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=MNgMSKnMpI

【深町渚砂/国会議事堂付近】

 他人の良心を当然のものと信じる純粋な人間、そんな警察官一人を言いくるめることなど実に容易い。多少の強引な設定も、ごく自然な雪乃の対応を含めれば何ら問題ない。涼宮衛ににこりと笑みを投げる。こちらから退く必要はない。涼宮は自分への追及を終え、彼の方から立ち去るだろう。そうなるはずだった。
 そうならなかったのは、やはりというべきか、あの男のせいだった。視界の奥に小さく捉えていた姿が近付くのには気付いたが、だからといって自然に逃げ出すだけの口実はない。涼宮の隣まで来ると、男は黒い手帳を開いて見せてきた。渚砂はほんの一瞬、それを一瞥した。コンマ一秒にも満たないほどの時間だったが、それが警察手帳と分かるには十分だった。そこには黒瀬新という名と、特高一課長という身分と、その無愛想でいかつい面が載っている。そんな分かりきったものをわざわざ見る義理はなかった。

「知らなーい。知ってるわけないでしょおまわりさん。フラれたんだから」

 冗談混じりに、少しだけ喧嘩腰でそう告げる。彼が自分に何らかの警戒心を抱いてるのはわかっている。疑ってかかっているのもわかっている。だが、その猜疑心を根拠付けるだけの何かがあるわけでもないことも知っていた。そもそも、正太の居場所を知らないのは本当のことだ。多少の心当たりがあったとしても、彼の行方を知らないのは事実に違いない。
 同時に隣から、雪乃のなにやら物言いたげな視線を感じる。そりゃそうか。是枝正太は彼女の潜入先の人間だ。正太に近付いたのが任務の範囲外の行動だったことは気付かれているらしい。けれど、少なくとも、零課の不利益になるようなことは何も企んでいない。横目で雪乃を見返すと、なぁに?とでも言うように小さく首を傾げた。

「あら? おまわりさんユキの知り合いなの?」

 ユキこと雪乃の言葉に驚いたように、わざとらしく眼を開いて黒瀬と雪乃を交互に見る。黒瀬の出身大学が彼女と同じであることは知っていた。二人だけではない。サングイスのリーダーの男も、そして京香も。

「私このあと用事があるの。悪いけどおまわりさん、もう行くから。……もしもまた私に会いたくなったら、ユキ経由でいつでもどうぞ」

 逃げも隠れもしない。柔らかい微笑みにどこか挑発的な色を孕ませて、黒瀬に告げる。一同に視線を巡らせると、何か思い付いたように涼宮を見る。不意に彼の耳もとに顔を寄せ、黒瀬にも雪乃にも聞こえないであろう音量で小さく囁いた。090、で始まる番号。零課用、プライベート用とはまた別の、渚砂のもつ第三の携帯電話のものだった。あまり見ないほど純粋過ぎる涼宮への好奇心。素直な彼はナンパされたとでも思うだろうか、さすがにこれは訝しがるだろうか。黒瀬に流れたとしても、それはそれでいい。一度聞いただけの番号など覚えられないというなら、その程度の警察官ということだ。涼宮の耳もとから顔を離すと、彼の肩を軽くぽんと叩き、黒瀬と雪乃に会釈しつつその場から離れた。

>涼宮、黒瀬、雪乃、all
【遅くなりましてすみません……!一旦離脱させていただきます。いつかどこかで使えないかなーと涼宮さんに連絡先を伝えてみました。特に使わなくても大丈夫ですので……!】

8ヶ月前 No.62

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★wgm3NQbNwV_8aC

【十姫雨 桜/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 頬に添えられた純の掌の感触に、うっとりと酔い痴れていた。慈愛の籠った声音に心底安堵を覚え、男を差し出して褒められたことを素直に喜ぼうと思った瞬間、じゃり、と靴が砂を擦る音が聞こえる。『動けば撃つ』いっそ事務的なほどに淡々とした男の声が響いた。ぴたりと身体の動きを止め、視線だけで後ろを窺う。数歩離れただけの位置に凶器を構えた人間が居る。それは一人の人間として恐怖を煽るものではあったが、何よりも自分の目の前に居る純を守らなければという考えが頭を支配していた。純を見遣れば、突然の乱入者に驚きは示しているものの焦燥には至っていないようで、落ち着いた瞳で自分の後ろを見詰めている。どう動けば彼を守れるのかと愚鈍な頭を必死に回し、緊張のせいか口の中に溜まった唾をごくりと飲み込んだ。

 その時、鼓膜を震わせたのは思いがけない背後の男の台詞だった。零れ落ちるように羨望を表すその言葉が紡がれた瞬間、純の真っ赤な唇が妖しく弧を描く。場の雰囲気が一気に変化したのを感じた。一瞬でこの薄汚れた場所は純にとっての煌びやかな舞台に成る。舞うように床へしゃがみ込み、その手が取ったのはついさっきボクが連れてきた【わるい子】。背後の彼に見せつけるようにナイフで男の首がなぞられれば、深紅のカーテンが舞い上がった。酷く醜い断末魔を上げた【悪】はもうぴくりとも動かない。それに重なって奏でられた歌のような純の笑い声に、高揚で頬が染まった。強くて美しい、お姫様。彼を守る騎士で居られることに、誇りを感じた。次の瞬間、自分、及び後ろの男に向かって既に人ではなくなった人間が突き飛ばされる。純の手に握られたナイフから全てを察した自分の身体はほぼ本能的に動いていた。

 突き飛ばされた男がこちらに辿り着くまでのコンマ数秒で勢い良く後ろへ振り返る。案の定自らの頭のすぐ傍にあった銃口を鷲掴み、ターンの要領で銃口を掴んだまま、警官と死体の間を阻まぬようにその射線上から身体ごと避けるように移動する。恐らく動揺しているであろう男性警官の銃は、既に凶器とは言えないほどに殺意が削がれていることを確認していた。タン、と次に自らがステップを踏む音が聞こえた時には、右手に包まれた拳銃はみしりと危なげな音を立てていた。ふと純へ視線だけを向ける。「だいじょうぶ」唇だけでそう告げて、今にもその刃物を警官に突き立てそうな彼を静かに制す。もう一度右手に力を入れた。すると、硬い金属の塊のはずの銃はバキッと荒々しい音を立てて銃口から真っ二つに折れた。あまりにも思い通りに壊れてくれるものだから僅かに口角が上がってしまう。自分のこの力に感謝が出来るのは、こういう時だけだ。あとは、咄嗟の攻撃の手段を失くした警官に、死体がそれなりの速度でぶつかるのを見届けるだけだった。

 一仕事を終えたとでも言うように、警官から離れ、純の元へ帰る。左脇に控えるように佇み、すり、と猫のように彼の首筋に擦り寄って徐に取ったのは純のナイフを握っていない左手だった。絡め取るように奪った手は、所謂恋人繋ぎの形になっていて。見せつけるように、そして祈るように互いの胸の辺りに掲げさせる。その行為は破壊で昂ぶった自らの衝動を治める為のものであったが、傍から見れば主人への独占欲を剥き出しにした犬の威嚇のようでもあった。『羨ましい』その言葉が警官から出た瞬間に、純の彼を見る瞳が明らかに変わったのを見ていた。考えたくもない思念が湧き、言いようのない不安が胸を満たした。彼の興味が、関心が警官に向いてしまえば、棄てられてしまうかもしれない。もう良い子ね、と褒めてくれなくなるかもしれない。必要とされなくなる、それは考えただけで身震いするようなことだった。

「きみ、だれですかぁ」

 いつも通りの呑気な語尾が上がった声を意識して男性警官へ声をかける。しかしその瞳は未だ完全に敵を見るもので、まるで見知らぬ人に出会った子供が母親の背に隠れるかのように警戒心が剥き出しで投げ付けられていた。なるべく動揺を悟られたくなかったため、出来る限りの”いつも通り”を演じたが、足りない頭では何も誤魔化しきれず、結果的に過度なスキンシップとして情動が示される。極めつけに純と絡められた右手とは反対の左腕を彼の腰元に回し、自らの方へ引き寄せた。濃い血の香りは微塵も気にならない。其の表情はある種の愉悦に満ちていて、警官を挑発するかのような仕草を各所に散りばめていた。

純さん、大狼さん >>

【毎度お返事スローペースで申し訳ないです…!本体様方に許可頂いた演出のためにそこそこの確定ロルを含んでしまったのですが、何か問題がありましたら即刻書き直させていただきますので遠慮なくお申し付けください。】

8ヶ月前 No.63

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】

 視線と問いへの返事は模範の様に迅速で真直なものだった。実に涼宮らしいと評すればいいか、間も入れずに並べられた状況説明を受け取って、黒瀬自身もほぼ即答の返答を寄越した。

「……避難誘導優先は私の指示であって、命令に従ったお前に賞賛はあれど非など無い」

 表情こそやはりというか無愛想で、下手をすればまるで失態を咎めるかのような雰囲気ではあるがこれは特に改変のない事実であり、本当に彼が責められるような事柄では無い。この男が恐ろしく表現下手な事など部下である涼宮自身は知れているかもしれないが。そんな一見冷淡な分かりづらい言の葉を締めくくり、それに対する反応を待たないまま再び口を開く。

「────だが職質対象をみすみす逃したのは事実だ。その少年の追跡を許可する。直ぐに追え」

 言ってしまえば人混みという言い訳があるとはいえ取り逃したのは己も同じではあるが、自ら志願してあの青年を追跡すると言うならば彼の意思を咎める気もなかった。逃げた男の一件をまるで理由付けの様に涼宮へ投げやり、二人の女性に向き直って強制的に話を終わらせる。

 自身の問いかけに余裕綽々と答える女の表情を、その腹の底を見極めるように目を細めた。警察手帳を取り出した瞬間の反応、まるで興味の示さない視線の動かし方に己の中で鎌首を擡げていた小さな疑念が更に主張を始めて仕方が無い。
 彼女は何かを知っている。だがそれを引きずり出す程の証拠を持ち合わせていない。所詮自己完結された『勘』なのだから。「そうですか」とほんの少しだけ目を閉じて女性から視線を外した。それは諦念を表す行動であり、それ以上詮索する事の適わない事実への無自覚な仕草だった。
 ならばもうこの場にいる理由も無いと協力への礼を残して二人に踵を返そうとした時、もう片方の女からかけられた声にピタリと身体を止める。間を置いて再び彼女等に向けた黒瀬のその視線は、"怪訝"の一言だった。彼女────瑠璃崎が黒瀬を知っているのは朝比奈という存在が居たからであったように、黒瀬視点ではその媒介の無かったのだから声をかけられようが誰だと特定する事は不可能だろう。
 警戒心を隠す事の無い鋭い目を向けたまま、数秒何故己の名を知っているのかを問おうかと思考し、結果的に現に優先すべき職務を選択して笑みを浮かべる彼女から目線を逸らす。

「御協力ありがとうございました。爆破予告指定と遠くない地点ですので、誘導に従って迅速に避難を」

 忠告と共に彼女等をもう一瞥し、軽く頭を下げてから背を向ける。爆破指定の時刻も近く確証無い人物単体を相手取っている程悠々とした時間は無い。
 振り返る代わりに相変わらず鋭利な目線を軽く横に流して、背後で笑みを浮かべているのであろう女の見えぬ尾を掴み損ねた事への遺憾の念に眉間の皺を深くした。


>涼宮、深町、瑠璃崎、ALL

8ヶ月前 No.64

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・中央広場→階段 】

 深閑とした広間を歩きながら正太は周囲を見回した。大理石で造られた床、赤い絨毯、そして金色に輝くシャンデリア。荘厳華麗な内装に感嘆しつつも、それを一瞥した瞬間に正太の中でどろりとしたどす黒い感情が湧き起こり、そして身体を蝕んでいった。不快に思った。厭らしさすら覚えた。自分が国会議事堂(ここ)にいるという一種のそぐわなさを強制的に思わせるような装飾が、まるで皇族と臣民とでは生きる世界が違うことを明け広げに見せつけているような気がして嫌悪した。

(ふん。どうせ俺には場違いだよ)

 リュックを強く抱きしめたまま正太は悪態をついた。何億と総工費がかかっているであろうこの建物でさえ、自分が持っているこの爆弾一つで木っ端微塵にできるのだから呆気ない。いい気味だと思った。正太は既に勝利を手中に収めた気分でいた。

 朝比奈が次の標的を国会議事堂(ここ)に定めたときから、正太は建物の構造を予め頭の中に叩き込んでいた。まさか本当に自分が爆弾を設置することになるとは夢にも思わなかったが、それでも「もし自分だったらどこに置くだろう」と、公式パンフレットに掲載された見取り図を見ながら色々と妄想していた。子どもの夢物語と同じ、暇潰しのための遊戯である。そして散々悩み抜いた末、正太は一つの答えにたどり着いていた。朝比奈から細かい指示が出されていないいま、正太が目指すのはそこである。

(−−待っていろよ、皇族室)

 国会議事堂の三階にある部屋。天王陛下しか入ることが許されていないという、特別な部屋。そこを爆破することで、天王政治に一矢報いることができると思っていた。
 正太自身、特別天王に思うことはなかった。いくら天王という一族によって支配されているこの国が嫌いだとはいえ、それが普通≠セと教わった彼にとって疑問を差し挟む余地などなく、その絶対の概念に対抗するサングイスの考え方は面白いとは思うものの賛同することはなかった。そんな彼を突き動かすのはサングイスの仲間に気に入られたいという純粋な思いただそれだけだった。

 正太は後ろを振り返る。まだ誰もいない。しかし遠くで特高たちが自分のことを探す声が微かに聞こえた。時間がなかった。外の見張りに追いつかれる前に早く任務を完遂しなければならない。

(……)

 急いで広間を抜けて中央階段を登り始めようとしたそのとき、正太は何か違和感を感じた。誰かに見張られているような、冷たい視線。正太は慌てて立ち止まった。咄嗟にバッと後ろを振り返るものの、しかし周りに人の姿は見えない。

「だ、誰かいるのか!」

 正太は恐る恐る声を張って威嚇した。広い空間が彼のしゃがれた声を響かせる。しかし自身の違和感に確証が持てないいま、もしかしたら自分の勘違いかもしれなかった。


>鳳さん
【遅くなって申し訳ありません!返事してもらっても様子見してもらっても構いません!】

8ヶ月前 No.65

大狼 椿 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【大狼 椿/公衆トイレ】

 ――オオガミ、ツバキクン、ダネ?
 それは、機械の声だった。大袈裟なほどに抑揚をつけた声音が、自分の名前を繰り返している。まるで、水中で膨張するようなぶくぶくと濁ったような機械の声。その声に呼ばれる度に、命を奪われるのは何時かと精神が磨り減っていった。しかし、同時に鼓動も得体の知れぬ鼓動の高鳴りを感じていた。その命を掴まれる感覚に、未だ焦がれているというのだ。


 短いフラッシュバックを終えた先で、男性警察官の首にはナイフが当てがわれていた。まさか。震える唇をすり潰すようにして歯を突き立てる。一瞬にして冷えた指先が、やや間隔を置いた後に燃えるように熱くなっていく。まさか、この後にナイフを引くだなんて非日常は起こらないだろう。まさか、その手にしたナイフを能登と同じような姿にするために使ったりはしないだろう。常識で考えれば、そのようなことは起こるはずがない。人が人を殺すだなんて、そのようなことはありえない。――くつくつと、遂に堪え切れずに喉が小さく鳴った。わざとらしい意識の誘導は、幼少期から得意だった。幾つまさかを並べ立てようと、己の望む姿は一つだけだった。この方は殺すだろう。言葉通りにナイフを引くだろう。人を、殺すだろう。その予想が裏切られ、心の臓に深く沈む期待が合致する様子を、心の底から楽しんでいたのだ。死体となった二人の喉から流れ出るどす黒い血液が、罅割れたタイルを辿り、俺の革靴の先へと行き着いた。それから二手に分かれて俺の周りをゆっくりと取り囲んでいく。殺された男が尚も呼吸を続けようと身体を上下させる度に、喉に開いた穴が力なく開閉する。果たして今、死にゆく彼の脳を満たしている感情は何であるのか。それとも、感情を超越した別の何かを感じているのか。生き方も、思想も、好みも、すべてが異なる二人共が、今此処で同じ殺され方をしたのだ。それでも、お互いに到達する場所は違ったはずだ。あのルージュの女性から、正しく受け取ることができたのは二人の内のどちらだ。――否、二人とも、辿り着けなかったかもしれない。

 俺ならば、その伝言を聞き逃すことなどしない。

 意識が遠のくような感覚に気が緩んだ時だった。何事かと状況把握を開始するよりも早く、銃口が強引に逸らされた。浮上する意識の片隅で、茶髪の女性と一瞬目が合う。到底、それは女性の力とは信じ難いものであった。だが、現に起きている事実は、銃身を軋ませている。彼女の思惑を悟った瞬間に、一つの懸念が脳裏を過った。安全装置を付け直すことでは、それは到底防ぐことはできない。咄嗟に自分の方へと拳銃を引こうと力を込めるが、どうやら彼女の方が瞬発力も力量も上回っていたらしい。右手のグローブが摩擦により鈍い音を立てる中、唯一この状況で有利となり得た武器は、単なる鉄くずと化していた。――だが、恐れていたそれは遂に起こることはなかった。何よりも喜ぶべきなのは、意図せずして人へ危害を与える懸念が消え去ったことであった。
 安堵も束の間、空気の揺れを感じ取っては、視界の右端で揺れるその物体に左足を重心として、右半身でそれ――男性警察官の冷たくなった体を受け止めた。右手で死体の首を掴みながら、自身の体との間を少しだけ引き離す。そうして力を入れれば、尚も未だ穴の空いた開口傷からポンプのように血が流れ、グローブを伝い、裾にまで存在感を表すかのように赤い染みを作り始めていた。塞ぐ様に、抉る様に、薬指の腹で二人から隠れるようにしてその傷を強弱を付けながら撫でつける。

「……暴発しなくて良かった。お怪我はありませんか?」

 何度か指先を往復させながら、思い出すように茶髪の女性へと向き直った。死体に目を、意識を奪われている間に、彼女は黒髪の女性の隣へと移動していた。獣のような鋭い視線が、此方へと向けられている。拳銃の欠片が付着したままの彼女の指先の行方を辿りながら、二人の間に存在する力関係を大凡で把握する。それでも、そのような情報は現時点で必要のないものだった。二人は証明したのだ。次は、自分の番であった。聞かれた問いには、答えなければならない。過不足なく、求められるままに。

「大狼です。特別高等警察に所属しています」

 機械の声でなく、生身の声で呼ばれるための名乗りであった。淡々と言葉を運びながら、二人へ交互に視線を向けていく。名乗り終えてから、右手に死体を抱えたままで不慣れな手つきで警察手帳を取り出そうと視線を右ポケットへと下げた。此処で死体を落とせば、床の血飛沫で二人の召物を汚してしまうかもしれない。意識は二人に向けたまま、左手の指先が手帳の角と接触した。


>純さん、桜さん、周辺ALL
【そろそろかなと思い、大狼の視線を他へ向けさせました……! 思いっきりやっちゃってくださーい!(】

7ヶ月前 No.66

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【鳳嘉音/国会議事堂・中央階段付近→三階】

 外部の喧騒を意識的にシャットアウトしてしまえば、矢張り議事堂の中は静かなものだった。前を歩く正太の背中ではなく、静寂の中に響く足音だけを頼りに、嘉音は進む。近付き過ぎず離れすぎず、相手の存在を感じられる、しかし自身の姿は決して見せない絶妙な距離感を保って歩く。硝子や鏡への映り混みさえ完璧に計算し尽くした彼の行動は、そうそう悟られないだろうと自負されていた。
 議事堂の中を進む正太の足には迷いがない。決して逃げ惑っているのではなく、確固たる目的と、目指す場所がある者の足取りだ。もし何かに追われているのなら、上へ昇るというのは自ら逃げ道を閉ざす愚行である。
――間違いない。是枝はクロだ。
 この短い時間で、嘉音はそう確信していた。だからと言ってどうこうする気は今のところなく、寧ろ彼がサングイスの一員だという前提で、どうするのが己にとって一番有利で愉しい状況を作り上げられるかを考えていた。
 しかし、ある瞬間に正太は叫ぶ。誰か居るのか、と。緊張からか、塾に居た時とは違うしゃがれた声が階段ホールに谺する。
 それは見当違いの方向に向けられたものだったが、念の為嘉音は足を止める。気付いたのだとしたら大したものだし、神経が昂りすぎて有りもしないものに過剰反応している可能性も零ではない。そして、そんな切羽詰まった教え子の声にわざわざ反応してやれるほど、嘉音は馬鹿でも慈悲深くもない。
 ただ、柱の陰で息を潜める。そのまま、正太が諦めて……或いは気のせいだったと納得して、再び歩き出すのを待つ。しかし、正太が動き始めても、彼を追い掛けて階段をそのまま昇るのは余りにもリスクが高すぎるので、別ルートに迂回することにした。

 正太が爆弾を仕掛ける役だとして、階段を落とす、或いは裏手を爆破するという説は消えた。まさか囮と言うわけでもないだろうから、狙うなら展望室か……しかしあそこは普段から非公開だ。この非常時に呑気に入り口を探して鍵を開けて狭い螺旋階段を昇ってとやるのは非効率的だ。爆弾を事前に仕掛けるからこそ、あの場所の見つかりにくいというメリットは真価を発揮する。とすれば彼が向かうのは、今からまだ簡単に狙える、サングイスにとって利益の高い場所。
――サングイス(彼等)の敵は、首相というより天王陛下。
「貴賓室、控え室、皇族室」
 ぼそり、と呟く嘉音の指は――それこそ非常時に呑気なものだが――エレベーターの三階のボタンに伸びていた。
 低く唸りを上げる機械音を聞きながら、嘉音は爆弾を無事設置した正太に優しく手を差し伸べる自分を想像して……正直、反吐が出そうになった。

【という訳で、ステルス鳳はこっそり正太くんの支援に入ります。】

>正太様、国会議事堂all

7ヶ月前 No.67

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・階段→皇族室前 】

 数秒の沈黙。しかし視線の主は姿を現さない。
 結局正太の劇声は寂しく議事堂に響き渡っただけで、彼の威勢は虚空を掴んだだけだった。

「な、何だ気のせいか……」

 頬を伝った一筋の汗を服の袖で拭う。周囲に目を凝らすが、先程まで正太に付き纏っていたはずの視線はいつの間にかどこかへ消えていた。正太は太息を漏らした。同時に身体の力がドッと抜けていく。……もしかしたら極度の緊張で神経過敏になっていたのかもしれない、そう思った正太は暗澹とした気持ちのまま身を翻した。そして急いで階段を駆け上った。
 コツコツコツ。重々しい靴音に耳を傾ける。その間に正太は京香のことを考えていた。今の自分を見たら姉は一体何と言うのだろうか。彼女を探すためとはいえ、自らテロ組織の一員になり、今から大罪を犯そうとしていることを知ればきっと京香は腰を抜かすに違いないだろう。遠くにいると知りながらも、隣から彼女の怒鳴り声が鮮明に聞こえてくるようだった。
 三階まで上り、左折した末に辿り着いた皇族室を前に正太は立ち止まった。行く手を阻むように立ちはだかる巨大な扉を見上げる。正太はごくりと生唾を飲んだ。遂にここまで来た。いよいよだった。ここに爆弾を設置することでサングイス(俺たち)の勝利が確定する。
 恐る恐るドアノブに手をかけてガチャガチャと回すと、やはり――当たり前と言われればそれまでだが――しっかりと施錠されていた。

(うーん。どうしたもんかな)

 腰を下ろしてリュックの中身をゴソゴソと漁る。ピッキングツールは一応用意してきたが、特高警察に追われているいま、素人の自分が短時間でこじ開けられる可能性は低い。
 正太は少し考えたあと、リュックから缶コーヒーを取り出してそれを一気に飲み干した。そこに持ってきた少量の砂糖と除草剤を混ぜて、ダクトテープで扉に貼っつける。

「理論上では上手くいくはずなんだけど……」

 そこに長い紐を入れてライターで着火したあと、正太は急いで来た道を戻った。耳を塞いでしゃがみ込む。そして一秒、二秒……と待っていると、ドンッと鼓膜が破けるような爆発音が響きわたった。どうやら即席で作った爆弾が上手く爆発したらしい。よしっ、と内心で喜びを噛み締めていると、刹那、警報機が鈍い轟音を立てて喚き散らし始めた。「――え?」警報まで計算に入れていなかった正太は狼狽える。激しい焦燥が正太の心を掻き毟った。
 やばい。警察が追いついてくる前に早く爆弾を仕掛けなければ。慌てた正太はリュックから小型爆弾を取り出した。そして急いで皇族室に引き返す。このとき、あの白煙のなかで受けた衝撃で爆弾が壊れていたことなど正太が知る由もなかった。


>鳳さん、国会議事堂おーる
【創作だからこそできるご都合主義全開です……笑】

7ヶ月前 No.68

涼宮衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_iR4

【涼宮衛/議事堂付近→議事堂→階段】

「はっ! ありがとうございます。」

 上司に言葉に涼宮はきびきびして敬礼を返す。それはまさに模範的な警官のそれである……が

「ひゃうっ は、はひっ?」

 渚砂に顔寄せられ、耳元で囁かれるとびくっとわずかに身じろぎした後に顔を赤面させてしまう。それは年相応の若者の姿であったが、彼を責めるのは酷というものであろう。
 中身はともかく、元々中性的な美形な上にフルメイクで見た目は完全な美女にしか見えない渚砂である。そして香水でもかけているのだろう華やかな香りとメイクの匂いに加えて肩へのボディタッチ。視覚・嗅覚・そして触角と様々な角度からのアプローチである。これほどのアプローチを年上の美女(に見える人物)にかけられて動揺しない青年がいるだろうか、いや、いない。
 閑話休題。しかし、番号を言うだけ言って渚砂が去ってしまうと、涼宮は顔を振って気持ちを切り替えて走り出す。ただ、教えられた番号をしっかり暗記していたのはさすがであるが。
 少年が駆け出した方向は議事堂へと向かう道だった。避難するにしろ、警官に声を掛けられて鬱陶しがって逃げるにしろこの状況下ではまずありえない方向、

(考えろ。彼がサングイスの一員だと仮定して、俺が彼ならどこを狙うかを。)

 未だ喧噪冷めやらぬ議事堂周辺を駆けながら涼宮は考える。
 彼らサングイスの目的は、今の世の中の変化だ。そのために議事堂に対して何をするのが彼らにとって最も益があるのか。彼の様子を思い出すとリュックを背負っていた。あの中になんらかの化学薬品を詰めることは可能だろうが、ほとんどの人間が退避している議事堂に化学薬品を仕掛けても意味はない。だとすれば、予告通りの爆発を起こすというのが一番確かな線だろう。だとすれば、どこを狙うのか……

(普通に考えれば議場か? あそこを破壊すれば大きなニュースになり我々の失態を大きく広められる。)

 涼宮は懸命に考えるが、彼が鳳のように正太の狙いに気づくことはなかった。
 それは鳳と涼宮の能力の差であると同時に、認識の差でもあった。涼宮にとって、正太の狙いは『あり得ない』はずのことだったからだ。この国に生きる人間でそのようなことを考えるなどたとえサングイスの人間とはいえ、いや、百歩譲って夢想したとしても実行しようとするなど彼の認識の外であったのだった。
 だから、そのしゃがれた叫びが聞こえなければ彼は正太を見つけることはできなかっただろう。

『「だ、誰かいるのか!」』

 この状況下で議事堂内にいるのはあの少年以外考えられない。よしんば彼でなかったとしても、どちらにしろ不審人物が議事堂内に侵入したことになる。涼宮は声を頼りに駆けた。だが、それでも彼は正太狙いに気づかない、否、気づけない。威厳と風格、歴史と伝統に彩られて豪奢なつくりの廊下を疾駆しながら、未だに正太の狙いを掴みかねていた。しかし、

「警報! しかも、この音の位置は……」

 けたたましく鳴り響く耳障りな音が彼に耳朶を打つに至り、やっと涼宮は正太の狙いを把握することができた。同時に、その事実に一瞬足を止める。

「本気なのか……やつらは……」

 それ以上口にするには恐れ多いとばかりに首を振ると、涼宮は階段を文字通りに跳ぶように駆け上がった。

>>是枝正太様 鳳嘉音

7ヶ月前 No.69

夕邑三日月 @mistydark☆NIljAHmRyhk ★Android=GaTaMXF8bf

【鳳嘉音/国会議事堂・三階】

 嘉音が乗り込んだエレベーターが三階に停止したとき……それは最早正常な停止階への設定だったのか、最寄の階に緊急停止したのか分からない状況だった。
 鋼鉄製の箱の中に居ても感じる揺れと、ドアが開く前から耳を劈く爆発音、そして警報。
「あの馬鹿……!」
 全てを悟った嘉音は、仕込み杖など放り出さんばかりの勢いで走り出した。
 一瞬、適当に無線に割り込んで人払いをしようかとも考えた嘉音だったが、こうなってしまえば既に一課を辞している嘉音も怪しい一般人の一人に成り下がる。彼もまた警察に見付かるわけにはいかないので、さっさと退散するべきなのだ、本当は。しかし此処までした以上、せめて一瞬でも正太に接触しておかねば意味がない。
 そして何とか裏工作をするより先に、嘉音は皇族室の前まで辿り着く。無惨に破壊された豪奢な扉を中心に、耳障りな音が鳴り響いていた。未だに若干炎が燻っているような気もするが、それ以上に問題なのは、全速力で駆け抜ける足音も最低一つ、響いていること。

「是枝、話は後だ、すぐ逃げろ。南側の非常階段を使え、バルコニーから抜けられるし、あそこは植え込みがあるから最悪飛び降りても死なない。廊下には出るな、追手がいる」
 部屋の中に滑り込んだ嘉音は、追手の存在故叫ぶことも出来ず、絶賛ナニカを設置中の正太に背後から囁き掛ける。向こうからすれば心臓が止まるだろうが、言いたいことだけ必要最小限伝え、あとは正太の存在など嘉音は完全無視である。景観を損ねないよう巧妙に隠された棚と壁との隙間から消火器を引っ張り出し、入口に向けて容赦なく粉末を浴びせかけた。
 それはボランティアの消火活動であり、目眩ましに他ならない。

「……一つ、貸しにしといてやる」

 一瞬で真っ白に染まる視界の中、嘉音は幻か幽鬼のようにそこから姿を消していた……実際には、皇族室より扉続きになっている貴賓室に入り込んで鍵を掛け、追手が何処かに行くのを息を潜めて待っているだけだが。

【此方も大分ご都合主義ですが、突っ込んでそして消えます。】

>正太様、衛様、国会議事堂all

7ヶ月前 No.70

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【玻璃崎雪乃/国会議事堂付近】

「はい。じゃあ私達、失礼しますね」

愛想笑いに笑窪を作ると、雪乃は垂れ掛かった巻き髪の一房を耳にかけ、黒瀬や涼宮が消えたのとは別の方向ーー即ち、避難経路誘導に従った方向に歩き出した。

(思ってた以上に、仕事熱心なのねぇ)

それが特高警察一課の彼等二人に対する感想だった。もう少しばかり引っ張れるかと思ったのだが、疑う余地だらけの得体の知れない女に名前を言い当てられても目の前の餌を無視して一目散に正太少年の後を追っていった。雪乃を訝しみもしも聞き返していたならば、ただの大学が一緒で見たことがあったというだけの潔白な情報の為に少々の無駄な昔話に花でも咲かしてやるつもりだった。
(皮肉にもあなた達が追っているサングイスのリーダーと副リーダーの情報だったのだけど、残念ね)
そうはいっても、それは一刻を争う爆弾の件に比べたら途方もなくどうでもいい事ばかりといって間違いないだろうが。選ばれなかった選択肢は、颯爽と退場の一路へと引き返す。

白煙の次第に晴れてゆく喧騒の中を、雪乃と黒瀬との背中合わせの影が次第に離れていく。先に離れた渚砂を追いかけるように小走りに靴音が響く。
背を向けたまま、雪乃の唇が弧を描いた。あれでも十分に時間は稼げたと思った。きっと今頃はもう正太はとっくに国会議事堂の中だ。爆弾も仕掛け終わっているかもしれない。本当はもう少し時間を稼げれば、サングイス的には良かったのかもしれないが、そもそも本当はサングイスでもない雪乃にとってしてみれば、爆弾を仕掛けに行った後の正太が成功しようと失敗しようとそんなことは別に重要ではなかった。現段階ではとりあえず、作戦に協力している姿勢を見せ朝比奈の信用を買い、あとは精々正太や他の面子と朝比奈との信頼関係でも観察すれば良いのだ。国会議事堂に入る前に正太が捕まってしまっては、尾行と護衛を命じられた雪乃が管理不行き届きを責められるから……だから仕事をしたまでのこと。

先に雪乃から離れた渚砂に後ろから追いつき、そっと肩に手を触れた。さっきまで友人のふりをしていた彼女≠ヘ雪乃に言わせれば友人などではない。ただの仕事上の……零課の同僚。その肩を引くようにしながら隣に並び立つと、彼と同じ方向を向いたまま、濡れたような唇を開いた。

「……どういうつもりだったのかしら、なっちゃん=v

なんで貴方が、なんで私の邪魔をしたのかしら? 渚砂? ーーーーそう言外に含ませながら、薄っすらと浮かべた笑みの中で瞳が翳り、じっとりと責め苛む気配が蛇のように絡みつく。

>渚砂様、(黒瀬様、涼宮様)


【黒瀬様、涼宮様、お相手ありがとうございました! まだ少し時間があるみたいなので、渚砂さんに談笑尋問(笑)】

7ヶ月前 No.71

吾妻 純 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★G113VVfjXs_xHy

【吾妻 純/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 目の前には、つい数時間前の「日常」とは現実離れした光景がただただ広がっていた。ひび割れたタイルは警官二人から流れ出た多量の血液で赤黒く汚れ、呼吸のたびに肺が濃い血の匂いで満たされる。床に転がる女性の死体と、男の右手に抱かれている男性の死体。どちらも、純が確かに殺したもので。
 事を起こした張本人、吾妻純は繋がれた左手の感触と、首筋にすり寄る桜の体温を感じながら、目を細めて笑った。彼は、朝比奈や雪乃らと別れたほんの数時間後に、サングイスが掲げる不殺の掟を破る形となった。掟破りのその先に、彼と彼女は何を見るのだろう。

 純は、再度状況を整理する。
 傍らには桜、目の前には特高の男がいる。彼が手にしていた唯一の武器である拳銃は、先ほど桜によって見事に破壊された。床に打ち捨てられた拳銃だったもの、それを一瞥し、再度男のほうへ視線を向け、その瞳をす、と見据える。
 「羨ましい」と零した男性警官は、今何を想っているのだろう。彼は右腕に同僚の死体を抱え何を感じているのだろう。恐怖か、憎悪か、動揺か。彼の瞳を見る限り、彼の抱く感情はそのどれにも当てはまっていない。

 高揚。そのひとつに尽きる。

 満たされないものが、満たされたいものが、欲しているものを手に入れることが出来ると確信したとき。彼らは決まって高揚する。そういうものなのだ。目の前の男は欲している。渇きを満たしてくれるであろう、自分の存在を。
 武器を奪われ破壊され、同僚を二人殺されたというにもかかわらず、男は拳銃を破壊した桜をねぎらう言葉を投げかけ、桜からお前は誰かと問われれば、素直にもその身分を明かした。彼は大狼と名乗った彼が視線をこちらから外したのを、純は見逃さなかった。
 繋がれた桜の手をそっと離し、彼女ににこりと笑いかける。そのまま躊躇いもなく足を一歩踏み出し、純は血溜りの中に降り立った。赤い飛沫が上がりきらないうちに、彼は一歩また一歩と大狼に近づいていく。純が血溜りを踏み鳴らすたびに、ぱしゃぱしゃという小さな水音が狭いトイレの中に響いた。
 純は、水遊びをする幼子のごとき純粋な笑みを浮かべていた。楽しくてたまらないといった様子だった。

 求めている者には、与えてやるのが一番。そうすれば、自然と彼は自分を求めるようになる。

 大狼の懐に飛び込めば、そのまま彼の胸にそっと手を添える。自分より背の高い彼を見上げれば、頬に長い髪がへばりついた。純はそのまま、艶っぽい笑みを浮かべ、血の様に赤い唇をゆっくりと開く。

「大狼」

 じ、と彼の瞳を見つめ、ほんの数分前に知った彼の名前を口にする。ポケットを探る彼の左手へ、そっと手を添えながら言葉をつづけた。

「欲しいなら、私が与えてあげる。満たされないのなら、私が満たしてあげる。だけど――」

 右手に握りしめた鈍く光る銀。その切っ先を、ひた、と彼の口角に添え。

「まだ、全部≠ヘあげない」

 勢いよく突き立てられた刃は、彼の白い顔を鮮血で染めていく。頬の肉を突き破り、引き裂く柔い感触と、溢れる血が恍惚とした純に降りそそぐ。右手のナイフを一度コートへしまえば、そのまま純は両手で大狼の顔に手を添え、下を向かせる。彼と目を合わせ、背伸びをしたぐっと彼に顔を近づける。
 彼の頬から滴る赤もまた、純の顔を赤く染めた。視界の半分を占める赤と、大狼の黒い瞳をじいと見つめながら、純はかっと目を見開いた。妖艶で、それでいて狂気に満ちた笑みをその顔に浮かべ、喉の奥から低い笑いを漏らす。

「特高(そこ)に居てもあなたは燻るだけだわ。今日のこれは私からのちょっとしたプレゼント。――全部@~しいのなら、私についてきなさい」

 言い終えると純は、ナイフを入れた方と反対のポケットから一枚の紙きれを取り出した。彼の指に付いた血の跡がわずかににじむ白い紙を、そっと大狼のポケットへねじ込む。そのまま彼から一歩離れ、様子を伺った。

>大狼、桜、ALL 【お返事遅くなって申し訳ありません! 早速派手にやらせていただきました……! 渡した紙切れには純の連絡先が書いてある体です!】

7ヶ月前 No.72

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・皇族室→裏庭 】

 ジジジ……ジジ……。
 手の中で小型爆弾が静かに不調を訴える。しかしその小さな悲鳴に気付くことのないまま、正太は早足で皇族室へ戻った。どこだ。どこに爆弾を設置すれば追っ手の特高に気付かれない。迷っている間にも時は刻一刻と過ぎていき、耳を劈くような警報が空間を支配していた。こんなに目立ってしまったら、特高たちがこちらに向かって来るのも最早時間の問題だろう。正太は自分の犯したミスの重大を痛感していた。焦っていた。脳内が「やばい」の三文字で埋め尽くされていた。

 焦げ臭さを残した扉の残骸を潜り抜け、室内に入るとそこは数個の家具が置いてあるだけで、思った以上に殺風景な内装だった(その一つ一つの装飾が豪勢極まりないことにはもう触れるまい)
 特高たちは恐らく大破された扉にまず目を向けるだろうから、そこまで設置場所に拘らなくても問題ないだろう。そう判断した正太は握りしめるそれを椅子の裏側に貼り付けた。早く、早くしないと。焦って手元が狂うなか、どうにかしてダクトテープを引きちぎろうとしていると、突然、耳元からどこかで聞いたことがあるような懐かしい声がした。

『是枝、話は後だ、すぐ逃げろ。南側の非常階段を使え、バルコニーから抜けられるし、あそこは植え込みがあるから最悪飛び降りても死なない。廊下には出るな、追手がいる』

「――え?」
 正太が振り返るのと鳳が身を翻したのはほぼ同時のことだった。先程まで周囲には誰もいなかったはずなのに、そこには懐かしい背中がある。顔を見ることはできなかったが、その声色から、その立ち振る舞いから、正太は彼が誰だか一瞬で理解した。鳳嘉音、正太が高校生の頃世話になった塾講師だった。

「ど、どうして先生がここに……」

 そう尋ねるも返ってくる言葉はなく、代わりに鳳がぶち撒けた消火器の粉末が煙幕のようにして彼を包みこんだ。あまりにも唐突な登場。正太は一瞬何が起きたのか分からず、茫然と立ち尽くした。しかし白煙が晴れた頃にはもう、鳳の姿はどこにもなかった。
「……あれ?」
 左右を見回すがやっぱりいない。まるで一瞬の幻でも見たかのようだった。
(一体なんだったんだろう)
 正太は考える。しかし悠長にしていられる時間はない。何故特高でもない先生が国会議事堂にいて、どうして自分がここにいることを知っているのか。聞きたいことは山程あったが、しかしどうやら彼が敵ではないことだけは確かのようだった。
 正太は急いで爆弾を設置したあと、鳳の指示通り南へ走った。途中まで半信半疑だったが、彼の言った通りに非常階段は存在した。二階のバルコニーに降りてそこから身を乗り出し、勢いよく茂みに飛び込む。たくさんの枝が身体のあちこちに突き刺さり、同時に尻に強い衝撃が響いたが、鳳の言う通り、重症には至らなかった。しかも辺りには追っ手どころか人っ子ひとりいない。完璧な逃走ルートがそこには用意されていた。

「……」

 正太は茂みに埋もれたまま、訝しげな目を三階へ向けた。当然鳳の姿は見えない。結局、彼が一体何者なのか最後まで分かることはなかった。窓から煙と警報音が漏れ出しているだけだった。
 天を仰ぐように上空を見上げ、額に滲む汗を服の袖で拭く。色々と腑に落ちないことはあるが、何はともあれサングイスは爆弾を国会議事堂に設置することに成功したのだ。それだけで正太は満足だった。もうあとは何でもよかった。


>涼宮さん、鳳さん
【遅くなりました……!】

7ヶ月前 No.73

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/国会議事堂付近】

 一課の警察官二人と雪乃に背を向け、その場から離れる渚砂はどこか満足気に目を細めていた。なんとも初な警官、涼宮は予想以上に良い反応を示してくれた。どこまでも汚れのない人間らしい。けれど人はそうそう綺麗なままでいられるものではない。彼はどこまでその生き方を貫けるだろうか。なんならそんな幻想、壊してやるのも面白いかもしれない。
 一人悠々と雑踏を抜け出たが、渚砂は急に歩調を落とした。自分を追ってくる軽やかな足音が近づくのに気付いたためだった。やがて足音の主の手が肩に触れる。渚砂は足を止め、肩に触れた人物の方へ顔を向けた。その人物――雪乃と視線は合わない。彼女は前を見据えていた。

「随分大きくなったのね、是枝正太クン。あの頃はまだ、姉さんよりも背低かったんじゃないかしら」

 同僚の問いに答える代わりに、口角を僅かに引き上げつつも静かな目で雪乃を見遣る。俺が京香の弟、正太と顔を合わせたのは、京香がまだ生きていた頃。もう五、六年も前のことだ。それ以降、顔を突き合わせたのは今日が初めてだ。正太の方は過去に出会っていること自体知らないだろうが。

「……なーんてね、」

 不意に雪乃から視線を外し、目を閉じて笑った。零課の同僚の詰問を、適当にやり過ごそうなどというのはやはり無理だった。任務にも差し障る内容ならば尚の事。

「一課に目つけられたのは悪かったと思ってる。……でも、姉さんにとってもあの子大事な仲間なんでしょ? だったら姉さんも止めてあげて。京香のこと知ろうとしたって、あの子のためにならないんだから」

 嘘はついていない。むしろ喋り過ぎたか。渚砂はややきまりが悪そうに目を伏せた。「姉さんにとっても」などと言ったら、自分にとっても正太が大事であるかのように受け取られてしまう。そしてそれは全くの間違いではないが。サングイス構成員である是枝正太という人間に興味はない。だが、それ以前に正太は是枝京香にとってのかけがえのない肉親なのだ。

>雪乃

【追っかけていただきありがとうございます。適当にかわす予定が雪乃さんの圧に耐えられずちょっと頼る方向に傾いてしまいました……笑】

7ヶ月前 No.74

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_zRF

【涼宮衛/階段】

「くっ……本当にこんなことが」

 警報の発信元に涼宮が見たのは、無残に破壊された扉だった。元は華美にならない程度にシックに、しかし場所にふさわしい程度に彩られた扉の一部が無残に砕け散っていた。それは、この国の権威への挑戦であり、宣戦布告であるように彼には思えた。
 だが、そんな考えを振り払うと彼は職務を忠実に実行しようとする。すなわち部屋に足を踏み入れようというのだ、

「そこまでだ。ここは現在立ち入りが制限されている、また、この扉の損傷についても話を伺いたい。うっ!」

 だが、彼を歓迎するのは消火器の洗礼。視界を塞ぎ、喉を傷める粉末に飲まれて涼宮は一瞬方向を見失う。

『話は後だ、すぐ逃げろ。南側の非常階段を使え、バルコニーから抜けられるし、あそこは植え込みがあるから最悪飛び降りても死なない。廊下には出るな、追手がいる』

 かろうじて無事な聴覚によって何者かへの呼びかけは聞こえる。どうやら犯人は最低でも二人いるらしい、先ほど見た少年の共犯者だろうか。判断がつかないまま煙幕の中を突っ切ると、もはやそこには誰もいなかった。
 本来なら、そのまま追いかけるべきだが

「ここか……」

 鳳が消火器を噴霧したとはいえ、いまだ火種はくすぶっている。万が一燃え広がれば取り返しのつかない事態になることは必至だとして涼宮は消火優先。残りの消火器を探し出すと、火種に向かって鳳と同じように噴霧した。
 そして、

「ここまでしたんだ。ただで帰るはずがない」

 先ほどの少年が本当にサングイスのメンバーだという確証はないが、ここまでしてただのいたずらということはないだろう。だとすれば、この部屋に何かの仕掛けをしていくはず。
 そう考えた涼宮は、部屋の中を探索し始めた

>> 是枝正太様

7ヶ月前 No.75

玻璃崎雪乃 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

この投稿はフィルタされています。表示するにはアカウントにログインして下さい。

7ヶ月前 No.76

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/国会議事堂付近→倉庫街】

 正太のことは別段大事でもない――静かなトーンで雪乃はそう口にした。まあ、そうか。彼女はそういう女だ。たとえ気に入っている仲間であっても、彼女が己の立場を見失うことは決してないだろう。

「ほんと、姉さんはしたたかね。あの子もお仲間もかわいそうに」

 皮肉混じりに返して小さく笑う。言葉とは裏腹に、微塵もサングイスに同情などはしていなかった。彼女の力を借りることができれば、あるいは正太の詮索をやめさせられるのではないかと期待した。とはいっても、雪乃の反応は想定内ではあった。彼女が情だけで動く甘い人間でないことは百も承知だ。彼女への言葉に孕ませた小さな棘は、単なる八つ当たりに他ならない。
 まるで幼い子供相手のように頭を撫でてから、雪乃は悠々と去っていく。一瞬躱しかけたが、一々反応するほど初ではなく、また今は考えを巡らすのに忙しかった。

「……ああ、死なせるわけには、な」

 渚砂が低く呟いたのは、雪乃が声が届かないほど離れてからだった。くるりと踵を返し、雪乃が去った方角とも議事堂の方角とも違う方へと歩き始める。雪乃の協力が得られない以上、自力で正太を止めるしかない。元よりそのつもりだった。次の手筈は整えてある。
 歩きながら、ジャケットから黒いスマートホンを取り出した。先程涼宮に伝えた番号とは別のものだった。受信メールを開けば、送信者名のない、番号のみが表示されたショートメールがずらりと並ぶ。未読の中の一通を選び、開いた。『問題なく手配した。』、文面はそれだけだった。画面をスクロールすると表示されたのは、一枚の画像。若い男の顔写真だった。表情や視線から見て、本人が知らぬ間に撮られたものであることが窺える。把握している情報とその人物が相違ないことを確認し、渚砂はスマートホンをしまった。

 国家の中枢である国会議事堂のある地区と隣接する区域でありながら、周囲の景色は大きく変わっていた。人気はない。廃工場の先には古びた倉庫が並ぶ。工業用水を運んでいたであろう水路は干上がり、大きな溝と化していた。
 渚砂は歩調を落とし、小さく息を零した。少し落ちかけたジャケットを直すようにして、胸元に仕込んだ銃の存在を確かめる。任務でもなくこれを使えば、ただの殺人犯だ。テロに乗じてあの娘の親を殺したときとは違う。それでも他に手段は浮かばない。所詮狂った国家に堕とした身。今更手を汚すことなど躊躇う必要はなかった。

>相手なし、(雪乃)
【雪乃様お相手ありがとうございました!出番(?)までこのまま待機しております。】

6ヶ月前 No.77

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

 しばらく経ったあと、正太は朝比奈に「爆弾を無事設置することができた」との旨を無線で伝えた。もしかしたら特高に気付かれたかもしれない、と不安を煽るようなことは敢えて言わなかった。万が一に自分が捕まったとしてもそれは完全に自分の落ち度だし、朝比奈や玻璃崎たちに迷惑をかけるつもりはなかった。それに捕まったほうが自分に都合が良いのは確かだった。

『だってあの是枝京香って奴、四年前の真宿駅爆破事件のときから辞職扱いだろ。今頃サングイスとかに寝返ってんじゃねえの』

 国会議事堂に潜り込む前、すれ違った特高の戯言が蘇る。正太はどちらが正でどちらが悪なのかよく分からなくなっていた。朝比奈たちが自分に嘘をついているとは到底思えなかったが、しかし一ヶ月を共にしてもなお、彼らの口から自身の姉の名前が出なかったのもまた事実であった。彼らが何か隠し事をしているのは確かだろう。特高もサングイスも、正太が何度尋ねようと京香の居場所を決して教えようとはしなかった。
 (姉貴)正太は下唇を強く噛んだ。(一体どこで何しているんだよ。もうそろそろ出てきてもいいんじゃねえの)

 爆弾設置という大役を果たした今、もう彼の肩に重くのしかかるものは何もなかった。寒い冬空の下、茂みの中でそっと息を吐く。これでサングイスにおける自分の居場所は確立されたも同然だろう。あとは朝比奈が起爆スイッチを押すまでここでひっそりと身を潜めていればいい。そして全てが上手く終わったあと、もう一度彼に問いただそう。姉の居場所を、姉の現在を。自分が朝比奈にとって信頼に足る人間だと分かってもらえた今、今度こそ何かを教えてくれるかもしれない。

 正太はふと、思い出したようにズボンのポケットから携帯電話を取り出した。そして慣れた手つきで十一個の数字を打ち込む。それは正太がサングイスと繋がる前から世話になっていたとある知り合い≠フ電話番号だった。前から姉の捜索を依頼しており、正太が隠し持っている秘密兵器≠秘密裏に横流ししてくれた人物でもあった。

 プルルルル……プルルルル……

 三回の呼び出し音を経て聞こえてくるはずのいつもの濁声が今日はなかなか聞こえてこない。正太は少し妙に思ったが特に気にとめることなく相手の応答を待った。爆破予定時刻を迎えるまでのこの束の間の休息で、少しでも姉の情報を得ようと思ったのである。


>???

6ヶ月前 No.78

朝比奈 藤司 ★iPhone=YgnLzdE1p0



【 朝比奈 藤司 / 国会議事堂付近公園 】


 一人で待つには凡そ寒すぎる公園でぼんやりと、ロータンゼの不味いコーヒーを飲みたいと思った。何も出来ない歯がゆさを飲み込んで代わりにポケットの中に突っ込んだ手を固く握る。こんなときに、いやこんなときだからこそ平和な生活とサングイスのこれからのことを考えていた。顎に右手を添えて人気のない公園の無機質な茶色の土の一点だけを見る。しっかりと見つめれば見つめるだけピントはぼやけてしまう。未来(これから)のことを示唆されているようで軽視するように目を細めた。見据え過ぎてはいけないが、逸らしては駄目だ。
 吐き出した息が白濁して目に映った。それはあまりにも深い溜息で、公園の中に静かに残る。顎から手を外しもう一度ポケットの中に入れると、無機質な硬いものと手が触れ合った。外には出せないものなので手探りで起爆スイッチであることを確認する。サングイスのメンバーに指示を出してからはや、数分。というよりかは小一時間が経とうとしていた。そろそろ連絡が来てもおかしくない時間だ。ここまで危機を知らせる連絡が一本も入っていないだけ立派なことだと感じる。おおかた、それぞれが与えられた仕事をきちんと粉しているということだろう。もし隠しているのだとしたら灸を据えなければならないが。起爆スイッチとは反対側のポケットに居座る無線機をなぞった。外部に聞かれては困るので無線機から連絡が来たとて、そこから直接声がすることはなく片耳に入っているイヤホンから流れてくる。頭では理解していても俺と奴らを脆く繋げているものに、何度も問いかけた。おい、壊れてはいねぇだろうな。無論、返事はない。なぜだか無償に腹の底が沸騰し始めて、苛立ちを吐き出すように短く舌打ちをした。

 「…っ、くそ」

 奴らを信じているとか信じていないとかの問題ではなく、最高司令の立場の歯痒さを実感する。俺にはやはり、頂点に立つ天性の才がない。ある程度のポストで自分も戦場で活躍する方が向いていると思う。頭で考えるより先に身体が動くタイプだと、大学時代よくつるんでいた友人に言われた。俺の性格上自分が中心の組織で指示のみをして、結果をひたすらに黙って待つことは易くない。暴れたいと野心が疼く。虚しくもこの状況を打破することは出来ず時間だけを空費した。
 人のざわめきが耳に入る。思わず国会議事堂の方に目をやるがこの場所からは見えるはずがない。やけに胸騒ぎがする。どよめいている訳ではないから悪いことでは無いはずだ、今はまだ。誰かから連絡が来ている訳でもない、落ち着け。と、自分自身を嗜める。するとタイミング悪くちょうどイヤホンがザーッと雑音を奏でた。無線機を口許まで持っていき「はい」とだけ言う。もし最悪の事態が起こっていたとしたら無線の先の相手は味方ではない。不容易に所在を明らかにしては危険を招くだろう。
 身構えながら全神経を片耳に向けると、声の主は今回の作戦の最重要ポストを担った是枝正太からのものだった。少し焦り気味の声なのが伝わってくるが、はじめてにしては上々だ。爆弾の設置が完了したという内容のことを告げられた。

 「了解した、ご苦労さん」

 労いの言葉をかけたそばから、明らかに向こう側でほっとしたような雰囲気が流れ込んでくる。しかし、なぜだか声色の焦りのようなものは消えない。早々に無線を切ろうとした正太に、切られる前に告げた。

 「おい正太。お前隠しごとしてねぇよな」

 いや、いい。忘れてくれ。そういうつもりで言い逃げするため無線をこちら側から切った。正太からの連絡が来たということはそろそろ雪乃からも連絡来てもいい頃だろう。悴んだ足先を暖めるようにつま先で土を叩いた。そろそろ出番か、漸く暴れられる。不適にもこの状況に笑みを浮かべていたことを知るものは誰もいない。




>> ?


【 みなさまおひさしぶりです……!!もう忘れたよと思われているかも知れませんが…、そろそろ朝比奈の出番だと主さまからご連絡を頂きましたのでまいりました。IDは違くなっているかもしれませんが本人です。取り敢えず、ソロールというかたちでレスを置かせてもらいます。佳境に入った当スレッドにまたお邪魔できることを嬉しく思います!これからも何卒よろしくお願いいたします 】

6ヶ月前 No.79

絡繰 @ne9rodoll☆V4.8X.AnvuQ ★wgm3NQbNwV_rSG

【十姫雨 桜/国会議事堂付近・公衆トイレ】

 噎せ返りそうな程に充満した血の匂いは、純と自分だけが知っている、”非日常”の香り。初めて人をこの手で殺めた日は、雨が降っていた。降りしきる雨に血の匂いも自分の匂いもかき消され、ふわふわと地に付かない足の感覚に身震いしたのを覚えている。”ボク”は其処に存在しているのか、それすらも危ういような状態。思い起こされるのは昔の光景。泣きながら逃げて行くお友達、泣いてボクを叩くおかあさん、自分の周りに居た人は皆泣いてばかりだった。その中で唯一、笑みを浮かべて手を差し伸べたのは純だった。彼が存在し、知覚し、会話をすることで自分の存在を認知できた。目の前に転がった死体のことなんて忘れて、ただ彼の姿に見惚れていた時間は、今まで生きていた中で一番永遠にも近い一瞬だった。ボクの”高揚”は殺人にはない。自分の存在を許されること、つまり存在意義を完遂すること、ボクの”高揚感”は其処にあった。ボクの”正義”は其れだった。此れは罪ではない、正義なのだと、彼は言った。ボクはそれに頷いた。掟を破るのはいけないこと。それでも、仲間を守るためには、破らなくてはいけないルールもあると、彼は言った。ボクはまた深く頷いた。真っ赤なあの唇が、忙しなく動いて、台詞を紡ぐ。それを食い入るように見つめる。その理論が大きな矛盾を孕んでいることに気が付かないまま、あの赤の虜になっていた。

 その赤は今目の前にも広がっていた。鼻をくすぐる芳しい香りは二人だけのものと思っていたが、どうやらそうもいかないようで。投げ出された死体を受け止めた彼は怯えるでも警戒を示すでもなく、自分の怪我がないことに安堵していた。意外な対応に目を丸くしている間に、「だあれ」という質問に答えが返ってくる。おおがみ、その名前を咀嚼するようにゆっくりと唇だけでなぞれば、案外不快感はなくて驚いた。状況は置いておくとしても、紳士的な対応に鋭くなっていた眼光をいくらか緩めれば、純の手がするりと離れていく。安心させるように微笑まれ、大人しくその場に佇む。少しの寂しさを誤魔化すように未だに手に残っていた拳銃の破片を払い落した。

 血液の波紋が彼が歩いた場所から広がるのを視界の端に捉え、銀幕を隔てた出来事のように大狼と純のやり取りを眺める。彼の口角から流れる血が気になったが、純が笑っているということは大丈夫なのだろうと勝手に納得する。純の邪魔をせず、暇な時間を潰す子供のように足元の死体の傍に座り込み、傷口や服装などを見つめていたが、ふと純の口から零れ落ちた「ついてくる」の言葉に素早く反応する。会話の全容は理解出来なかったが、つまり仲間が増えるということだろうか。お友達が、増える。一気に瞳が輝く。ならば彼は守るべき対象であり、警戒や嫌悪を向けるべき相手ではないのだろう。そう認識し、よく考えもしないで舞い上がった脳は制御されることなく行動に移した。

「わぁ、純さん、仲間が増えるんですかぁ? お友達、増えるのボク嬉しいですぅ!」

 しゃがみ込んでいた姿勢から即座に立ち上がり、純の傍に駆け寄る。純が作り上げた世界の雰囲気はすっかり自分の明るい声に切り裂かれていたが、その姿は新しいものを買い与えられて喜ぶ犬さながら。難しいことはよく分からないが、彼は純が認めた男らしいということは分かったし、感じた限りでは”いやなにおい”はしない、良い人だ。それだけ分かれば十分と、それまでの警戒も遠慮も忘れて大狼に近寄る。

「なあんだ、お兄さん”わるいひと”じゃないんですねぇ! ボク、桜って言います、おおがみさん、よろしくお願いします」

真っ二つに折った銃のことなどすっかり忘れ、先ほどまでの険悪な雰囲気などいざ知らず。にこやかに自己紹介までし出す始末だったが、自分はこういう人間なのだ、という言葉でしか擁護をし得ない。そして徐にハンカチを取り出し、大狼の血が滴り落ちる頬を拭う。それは純にもした行為であり、それと同じ行為を彼にするということは自分なりの親愛を示しているということだ。友達が増えたという事実に多少舞い上がり、少しばかり彼と距離を取った純と大狼を繋ぐように二人の手を取り、優しく握る。幼い子供が両親と手を繋いで歩くことを彷彿とさせる繋ぎ方に僅かな懐かしさを覚えたが、自分は両親が揃って居たことはないので、ただの錯覚だとしばらくして気が付いた。しかし大狼に向けられた笑顔は、あどけないほどに花が咲くように綻んでいる。

「仲良く、してくださいねぇ」

 桜の中の他人への感情はおよそ二種類しかない。「好き」か「嫌い」かだ。特高に所属しているのか、サングイスに居るのか、そんなことは細事であり、仲間がこの人も仲間なのだと言えばそう認識した。嫌悪感を示す人物ではないと理解した瞬間、その人間は勝手に親しい人間にカテゴライズされる。物理的にも心理的にも唐突に詰められた距離感に大狼が驚くかもしれないなんてことは考えもせず、にこにこと振り撒かれる笑顔は血に塗れたこの空間の中であまりに不釣り合いで不気味であると、彼女が知ることはない。

────知る必要もない。


純さん、大狼さん、周辺ALL様 >>

【お返事いつも大変遅くなってしまい申し訳ありません。かなりのシリアスぶち壊しであったと自覚はしております……反省します…】

6ヶ月前 No.80

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/倉庫街】

 寂れた倉庫街を過ぎる風は、冷たく埃臭かった。ジャケットの下で軽く腕を組んだまま、ゆっくりと歩き続ける。躊躇などないつもりだが、その足取りは重かった。まるでそんなものは見えていないかのように、数棟の倉庫の横を素通りした渚砂だったが、ある一棟の扉の前でぴたりと足を止めた。鉄の引き戸は完全に閉じきっていない。中の様子は見えないが、数センチの隙間が確認できた。
 扉の前まで行くと、渚砂は両手で重い扉を引き開けた。滑りの悪い扉は耳障りな音を立てながらゆっくりと開く。倉庫の中は薄暗く、黴臭さが満ちていた。十メートルほど先、倉庫の中央辺りに一人の男の姿があった。細身の若い男は、ちょうどこちらを振り向いたところだった。先程確認したメールに添付されていた写真の男。彼は是枝正太と落ち合う予定でここにいることを、渚砂は知っていた。けれど正太はここへは来ない。そもそもそんな約束をした覚えもないはずだ。彼をここに来させたのは渚砂に他ならなかった。勿論、口の堅い零課の後輩の力を借りてではあるが。

 真っ直ぐに相手を見据え、渚砂は男に近づいて行く。見知らぬ女の登場に戸惑った表情を浮かべているようだったが、渚砂は容赦なく無言で距離を詰め、同時に自身の胸元から拳銃を取り出した。そのマズルには消音器が取り付けられていた。歩みを止めないままに安全装置を解除し、男に向けた。そして、引き金に指をかける。
 倉庫内に、低くくぐもった破裂音が響いた。外にいれば聞こえないほどの音量だった。左胸を撃ち抜かれた男はどさりと倒れたままもう動かない。痛めつける趣味はなかった。
 この男は死の間際、何を思っただろうか。恐怖する暇も与えられず、訳のわからないまま死んでいった哀れな男。彼には何の罪もなければ、何の恨みもない。ただ彼は是枝正太の情報源になってしまった、それだけだった。銃を胸元にしまいながら、渚砂は男の死体を見下ろしていた。

 倉庫内の静けさを破ったのは、携帯電話のバイブレーションだった。男の手から放り出されたスマートフォンが、鉄の床の上で震えだした。おもむろに近づき、それを拾い上げる。画面に表示された発信者の名前を見て、渚砂は口の端を小さく上げた。タイミングの良い奴だ。応答ボタンに指を触れる。

「……やあ、どうも、是枝正太」

 地声でそう応えてから、スピーカーモードに切り替える。

「お前のお友達はもう何も教えちゃくれねえよ。可哀相にな。……画面」

 そう続けて、渚砂はビデオ通話に切り替えた。スマートフォンをかざし、地に倒れた死体を映す。暗い倉庫内でどこまで鮮明に映るかわからないが、状況を理解するには十分だろう。

「よく見とけ。こいつが死んだのはお前のせいだ」

 それだけ言うと、正太の返答を待たずに渚砂は通話を切った。そのまま男のスマートフォンの電源を落とし、それを自分のジャケットの内ポケットに押し込んだ。是枝正太、頼むから、もう余計なことはするな。お前は何もしらなくていい。
 コツコツと靴音を響かせながら、渚砂は倉庫を後にした。

>正太

【遅くなりましてすみません。モブ殺害させていただきました……!お電話ありがとうございます!】

6ヶ月前 No.81

大狼 椿 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE

【大狼 椿/公衆トイレ】

 この生を、生き永らえてしまったのだと考えたことはなかった。ただそれでも、この生が一日一日と延びていくほど、その日が来た時には酷く己の心を満たすものだと想像していた。いつか出会うだろうと未だ見ぬ相手を心待った日は、今遂にあの日の自分を迎えに来た。ひどく殺してくださいと、顔中を涙でぐちゃぐちゃに濡らしたあの幼い俺を知る者は、もう自分しかこの世には居ないのだ。それならば、他を巻き込んで、もう一度あの日の再演をしなくては。


 視線の端で、死体の衣服に血飛沫が当たるのを見た。目蓋を押し上げた先で真っ赤なルージュが次に視界へと映り込む。見惚れていた。思考が止まる。痺れたように機能を止めた右手から、ずるりと死体が重力に従って落ちていく。反動で三人の内の誰かの衣服を血飛沫で濡らすだろうことも己の思考の中から外れたまま。予想よりも遥かに鈍い音を立てて、死体が血溜まりに着地した。それは飛沫と共に鋭利な生の残香となって鼻腔を突き刺していく。まるで死すらを認めていない抗いのようであった。この男の死の光景をストロボ再生のように思い出す。自分も、あのように酷く殺して下さるだろうか。胸に伸ばされたその白く骨の浮き出た掌に、長らく高鳴りを忘れた鼓動が震え始めた。一瞬にして、全てを失う覚悟を終える。初めて呼ばれた名に、吐息だけで返事をした。

 痛みを想像する。それは、酷く甘美な気持ちを運んだ。

「どうぞ、貴方の思うままに」

 右手のグローブの先を唇で食みながら、そっと抜き取った。薬指から伸びたケロイドは、右手甲までをも覆っている。唇から、グローブを落とす。この傷跡の、上書きを。左手に添えられた手に、包むようにして右手を重ねた。左口角に、無機質の冷たさを覚える。それでも、視線はルージュの唇に釘付けであった。その唇が紡ぐ、未来の言葉をただ待っていた。
 このお方は、きっとこのままナイフを引かれるだろう。内に醜い欲望を閉じ込めた、この俺の皮膚を引き裂いて下さるだろう。

 それでも、意志とは裏腹に鋭利な刃先の侵入を拒もうと己の皮膚が逆立つかのように防衛を試みる。身体の意志を咎めるように僅かに口角を緩め、刃先の侵入を誘導させる。それからは、一瞬だった。痛覚が上下左右に揺さぶられて、引き伸ばされ、小さな綻びから引き裂かれていった。厚紙を無理に裂かれたような音が脳内に木霊する。まるで、熱した鉄鍋を頬に押し付けられたようだった。――笑う度に、血が大袈裟に流れていく。

 与えられたこれは、未だ、全てではない。その言葉を噛み締めるだけで、己の醜い部分を肯定されたような、満たされる思いだった。不意に、視線が固定される。真下の黒い瞳と目が合うなり、心臓を砂利で洗われるような感覚に支配された。血濡れた口角が、歪に弧を描こうとする。その度に、傷口から溢れ出る血が目の前の白い頬を濡らしていく。まるで、神聖なものを穢していくような、一歩間違えば簡単に堕ちてしまえそうなその感覚に耐えることすら自分にとっては只の褒美であった。
 ――全部。それが表す意味。離れていく手を惜しみながら、左手を伸ばして傷口に触れる。それだけでは物足りず、態と人差し指の腹が傷口に潜る様に、何度も確かめるように撫で付けた。与えられた痛みを更にこの手で増幅させるなど、何と罪深い行為であるのか。ポケットに入れられた紙を横目で見送っては、止め処なく流れる血液に話すことを諦め、目を細めて肯定を表す。緊張の糸が解けたからか、大小の渦巻きの群れが脳内を支配し始めた。傷口に響く鼓動に合わせて、その渦巻きがうねりの幅を狭めていくのだ。

 ――ゃあ、――価値が――、――れますか。
 この生臭い鉄のにおいをかき消すような明るい声に、一瞬にして視野が開けた。意識が引き戻される。――純さん。凛とした声にそう呼ばれた相手を想い、目を伏せた。いつか、その名を自分も口にすることができるのならば。
 桜さん。名乗られた名前を早速口にしようとしたつもりが、うまく発音することができなかった。突っ張る皮膚に視線を落としながら、肯定を表すために小さく笑う。それだけでも傷口が大袈裟に開くのを感じた。そんな折、傷口を塞ぐ様にして、ハンカチが押し当てられる。驚いて意図を探るよりも先に、見えた桜さんの笑顔にすぐさまその思考をかき消した。癒そうとしているのだ、この傷と、心の底に眠る欲を。ハンカチへ左手を伸ばし、桜さんから向けられた想いを引き継いだ。不意に、右手が引かれた。むき出しの右手の傷跡を隠す間もなく、桜さんに引かれ、もう片方の手で純さんの手が握られる。――それは、少し前には考えられない奇妙な光景であった。
 仲良くしてくださいね。そう笑む彼女の顔に、偽りはなかった。その瞳は、所属ではなく個として俺を見ていた。それならばと、短く息を吐く。この想いには、応えなければいけない。

「此方こそ、宜しくお願いしますね。……お二人の行く先を、どうか俺にも見せて下さい」

 左手下、ハンカチが湿りを帯びていく。それでも、身を裂くような痛みに臆することなく言葉を紡いだ。それが意志を証明する術だと確信していたから。

>純さん、桜さんALL
【純さん、ズパッとありがとうございました! そして、桜さんの優しさに癒されております! お二人ともありがとうございました!】

5ヶ月前 No.82

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

『おい正太。お前隠しごとしてねぇよな』

 朝比奈の唐突な、そして核心を突く発言に正太は思わずたじろいだ。通信機を手を強く握りしめたまま、身体が動かない。「そ、そんなわけないじゃないですか」「ちょっと疲れてるだけですよ、ほら、やっぱり建物に潜入するのとか初めてだったので、緊張してそれで」と、咄嗟に苦しい言い訳を並べたが、それは明らかに不自然で、逆に朝比奈の疑心を深める結果に終わってしまった。すぐに一方的に通信を切られ、突如訪れた静寂と虚無に支配されながら正太は暫くの間、呆然と立ち尽くしていた。やっぱり朝比奈さんには到底敵わない。こちらの考えていることなど全てお見通しだと言わんばかりに強い圧が、 朝比奈の強い口調からは感じられた。やはり爆弾を設置した程度では百戦錬磨であるサングイスリーダーの信用は得ることは出来なかったらしい。

 正太は朝比奈という人間が好きだった。彼と出会ってからまだ幾分の月日しか経っていなかったが、彼の人柄の良さは滲み出ていたし、彼の周りに自然と人が集まるのも頷けた。知らず知らずのうちに朝比奈を実の兄のように憧れ慕っていた自分がいた。そんな彼との関係がギクシャクするのは正太としても避けたいところだった。
 ──これが終わったら朝比奈さんに謝ろう。本当はヘマをしたって正直に言おう。もしかしたら特高に自分の顔が割れたかもしれないって。追われるのも時間の問題だって。そうしたら、朝比奈さんも姉貴のことを何か教えてくれるかもしれない。今度こそ。ちゃんと。
 情報屋に電話を掛けているあいだ、奥で流れる呼び出し音に耳を傾けつつ正太は自分に言い聞かせた。
 しかしその矢先、受話器から聞こえた声は正太の予想だにしないものだった。それは全く聞き覚えのない男の声だった。

『やあ、どうも、是枝正太』

 ──……誰だ? 明らかに情報屋の声じゃない。それに……

 警戒心を露わにしたまま、正太は相手の出方を伺った。お互い一切の声を発さず、暫しの無言が続く。その後、再び口を開いた男の言葉でようやく相手がビデオ通話に切り替えていることに気が付き、正太は恐る恐る受話器から耳を離した。そして言われた通りにスマートフォンの画面に目を向ける。

「……!」

 見間違えるはずもない。その画面に写し出されていたのは間違いなく、正太が贔屓にしていたあの情報屋の死体だった。ぽっかりと小さな穴が空いた左胸からは崩壊したダムのように血が流れ出している。スマートフォンの奥にいる男が撃ち殺したのは明らかだった。
 正太が現状を把握するまでそう時間はかからなかった。次第に震えが全身を支配し、スマートフォンが掌から滑り落ちる。正太が実際に死体を見るのは初めてだった。さっきまで生きていたはずの人間が物体となって、抵抗することもできずに無様に地面に転がっている。それは正太が思っていた以上に無機質で、冷たいものだった。
 ガシャンと小さい音を立ててスマートフォンが地面に落下したときにはもう、正太はその場から駆け出していた。怖い。怖い。怖い。特高とは別に、俺の周りを嗅ぎ回っている奴がいる。それだけで正太の頭はパニック状態に陥っていた。別に行く宛があったわけではない。ただ、このままこの場所に留まっていては自分もいずれ殺されてしまうのではと思ったのだ。


>???(朝比奈さん、渚砂さん)
【もう本当、スレ主のくせにスレッドを滞らせてしまい大変申し訳有りませんでした。ようやくリアルが落ち着いたので、引き続き参加してくださったらもうこれ以上の喜びはありません。せっかく紡いできた物語をここで終わらせるのはもったいないと思うので、もしよければもう一度一緒に書きませんか。そして完全に自分のせいであるにもかかわらずお手数をおかけして申し訳ないのですが、次章準備と参加人数の把握のために点呼をとらせていただきたいと思います。詳しくはサブ記事にて】

5ヶ月前 No.83

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_a2e

【涼宮衛/裏庭】

 部屋の消火作業を一通り終えた涼宮は本来の任務、すなわち不審者の探索に戻ろうとしていた。
 正太が部屋を出てからかなり時間が経過しているため、普通なら涼宮は正太の足取りをそう簡単には追えなかっただろう。しかし、

「見つけた!」

 涼宮が正太を見失わせる原因となったものが、今度は正太の居場所へと涼宮を導く。部屋を出た廊下にくっきりと残っているのは、消火器の粉塵。正太の衣服に、あるいは靴の裏に付着した消火器の粉塵が正太が疾走するすることによって床に落ちたのだ。それは正しく正太の足取りを示すものだった。

「このまま逃がすか! こちら涼宮、議事堂内で軽微なボヤが発生しました。火元は消しましたが一応消火班の手配を、それと、付近一帯の閉鎖を願います。」

 だが、身に着いた粉塵はやがてすべて落ちきり、そうなれば正太を再び見失ってしまうだろう。それを危惧した涼宮は、自らも疾駆すると同時に上司である黒瀬へ報告をする。
 足取りはバルコニーのあたりで途絶えていたが、ここまでくればどこへ行ったのかなど明白だ。

「はっ!」

 躊躇なく2階のバルコニーから身を躍らせると、足を地面に向けた落下する。重力から解放されたような一瞬の浮遊感。
 そして、次の瞬間には足元に固く重い感触。衝撃を膝で受け流すと、涼宮はまるでネコ科の猛獣がちょっとした高さから飛び降りたようなしなやかさで、よどみなく次の行動に移った。
 下を向いていた顔を起こして周りを警戒する。落下直後の無防備な自分を攻撃してこなかったところからして、犯人はもう逃げたのか、あるいはどこかに隠れているのか。
 否、そのどちらでもなかった。
 件の少年は、なんと堂々と彼の目の前を駆け去っていく。あまりに合理性に欠ける行動だ。逃げるなら彼が来る前に逃げるべきだし、隠れていたなら落下直後の彼を攻撃するなりそのまま隠れてやり過ごそうとする。だがそれは今はどうでもいい。

「確保。」

 彼が今すべきは、自分の責務を果たすことだった。自分に背を向けて走る正太に追いすがると、右手で彼の右肩を掴む。
 別に肩を掴んだことに深い意味はない。手首でも、腰でも、首でも、肘でも、何なら足首でも構わなかった。人の身体のどこにだろうと関節はあるのだから。
 そして、涼宮はそのまま地を蹴った。正太の右肩を掴んだ自分の右手を起点にして宙返りをしながら身体を半回転させて向きを変える。正太にしてみれば、いきなり後ろから肩を掴まれたと思ったら、頭の上を何かが通り過ぎ、次の瞬間には目の前に涼宮が出現したように見えただろう。
 だが、涼宮は驚く彼にかまうことなく涼宮の肩をひねり上げて地に伏せさせ、後ろ手になった手首に手錠をかける。

「現行犯で緊急確保する。君には法に定められた範囲で権利がある。君には……」

 確保した正太にいくつかの文言を告げるも、正太は捕まったことよりも他のことに混乱しているようだった。

>> 是枝正太様 黒瀬様

4ヶ月前 No.84

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

 駆け出して間もなく誰かに肩を掴まれたと思ったら、突然目の前に降ってきた(そういう表現が果たして正しいのか分からないが、とにかく降ってきたのだ)男の姿に正太は「うわああ」と驚嘆し情けない声を上げた。彼が一体誰なのか正太が判断する隙を与えることなく、男は慣れた手つきで正太を取り押さえた。ガシャリと音がして手首に冷たい金属があたったとき、正太はようやく自分が特高に捕まったのだと理解した。強い力で肩を捻られ、背中を押さえつけられ、屈強な警官の腕力に貧弱な正太が勝てるわけもなく、正太はそのまま地に伏すしかなかった。激しい痛みを押し殺しながら頭上を見上げると、そこには今まで執拗に正太を追っていた警官の冷徹な顔が、冷静に正太を見下ろしていた。

「……は、ははは。捕まったんですね、俺」

 くどくどと語る特高を遮るようにして呟く。正太は恐怖に慄くわけでも悔しがるわけでもなく、ただ力なく笑っていた。そして今まで抵抗していた力を呆気なく解放させ、されるがままに地面に突っ伏した。正太は完全に諦めていた。八方ふさがりである彼に足掻く気力など最早どこにも残っていなかった。
(嗚呼、もうこれでよかったのかもしれない)正太は考える。(唯一の情報源は殺され、俺の行動は全部知らねえ男に筒抜けだった。次は俺が殺されるかもしれない。……もうこれ以上俺にどうしろっていうんだよ、姉貴)
 突然現れた鳳(せんせい)の存在や先程の電話の相手、サングイスと京香(あねき)の関係など、正太にはまだわからないことが多くあったが、そのどれもがどうでもいいと思える程に正太は疲弊していた。もうとうの昔に限界は超えていた。

「……あの、言っておきますけど俺を捕まえても無駄ですよ。俺、何も知らないので」

 自暴自棄とも警官への挑発ともとれるような発言をした後、正太は視線を地面に落とした。もう何を信じればいいのか分からなかった。だがこんな状況下に陥ったあとでも正太は自分を「仲間」と呼んでくれた朝比奈や他のサングイスのメンバーを売るような行為だけは決してしまいと心に誓っていた。


>涼宮さん
【またもや遅くなってすみません……!】

4ヶ月前 No.85

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_K6b

【涼宮衛/裏庭】

 淡々と法に定められた手続きの規定を述べる涼宮の耳に、何かを諦めたような笑みを浮かべた正太の声が響く。それに対して、涼宮は職務上の冷静な仮面をかぶって対応する。

「勘違いするな。君が拘束されるのは、先ほどの器物破損の現行犯に対してだ。……が、わざわざそんなことを言うということは、君はやはり単独犯ではなくサングイスの一員だということだな。」

 彼の言葉に、彼がサングイスの末端であるという確証を深めた涼宮は無線で上司である黒瀬新へと状況を報告する。

「こちら、涼宮衛です。裏庭にて先ほどの青年を器物破損の現行犯で拘束しました。なお、彼はサングイスの一員である可能性があります。現在は他のメンバーを周囲に見られませんが、引き続き警戒をお願いします。俺は、護送車に彼を連行します。」

 必要なことを告げると、無線のスイッチを切り正太に立つように促した。

「さぁ、立つんだ。いくら何でも君を抱えて護送車まで連れて行くのは骨だし、他の者が来るまでの時間が惜しい」

 正太にすれば冷たい口調に聞こえただろうが、涼宮にとって今の彼は被疑者であり、そこに油断はなかった。


>>是枝正太様


【こちらこそ、遅くなったうえに短文で申し訳ありません。これからもよろしくお願いします】

2ヶ月前 No.86

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 】

 ──しまった。

 特高の言葉を聞いて正太は初めて自分が失言したことに気が付いた。国会議事堂に侵入する前から追いかけてきていたから、てっきり自分の身元が割れているのだとばかり思っていたが、よくよく考えてみればそんなはずはないのだ。自分とサングイスを結びつける決定的な証拠がない以上、適当な嘘をでっちあげれば良かったのだ。思い返せばいくらでも言いようがあった。サングイスに追われて逃げている最中だったとか、興味本位でサングイスの手法を模倣していたとか、特高の信じそうな話をその場で作り上げることさえできていれば、最悪自分は捕まるとしてもせめてサングイスの仲間のことは守ることができただろう。

「……」

 正太はみるみると頬を紅潮させ、まるで霜焼けでもしたかのように耳たぶを真っ赤に染め上げた。恥ずかしかった。機転が利かず、早々に諦めた自分が情けなかった。
 無線で誰かに報告する警官の姿を眺めながら、正太は朝比奈のことを考えていた。さっき携帯を放り投げてしまったせいでこの現状を報告する術がない。爆弾はすでに皇族室に設置したから最悪の事態は免れたものの、いつまで経っても戻ってこなければ朝比奈も何かを察してこちらの様子を伺いにくるだろう。それだけは避けたかった。自分のことは助けなくていいと、どうにかして彼に伝えたかった。

 ──いや、今更何を考えたって後の祭りだよな。

 特高に促され、正太は無抵抗のまま彼の言うことに従った。気分は既に刑場(死に場)に向かう死刑囚のような、途方もない絶望感に浸されていた。


>涼宮さん

2ヶ月前 No.87

涼宮 衛 @sibamura ★o0W3VsenYO_sxd

【涼宮衛/裏庭→警視庁内】

 彼の一言が図星だったのか、青年は顔を紅潮させてうなだれると力のない足取りで衛の誘導に従う。その表情は正に絶望であり、さすがにサングイスの構成員としては気持ちが表情にですぎではないかと衛はいぶかる。

(……組織の内情をほとんど知らずに、サングイスに憧れていいように使われていたのだろうか? いや、先入観は禁物だ)

 内心の怪訝な思いをおくびににも出さずに青年を護送車に乗せると、そのまま庁へと護送する。マスコミや野次馬のせいで多少遅れたが、サングイスの襲撃などもなく無事に護送車は役目を果たした。

「さ、降りるんだ。」

 護送車の窓から見える庁は、青年の目からは自分の圧迫する無機質で不気味な建物に映ることだろう。もっとも、毎日出勤している衛にすれば、普通に勤務する分にはそれなりに快適なオフィスなのだが。
 そんなことを思いながらも、専用の入り口から護送車が入り、外へと繋がるシャッターが下りると、衛は護送車のドアを外から開けて青年に促した。

「とりあえず、君はまだ被疑者の段階だからな。いったん留置所へ移動する。その前に一応身体検査を受けてもらうので、こちらに来るように」

 被疑者の健康状態は隠し持っている武器の有無を調べるために医務室へと衛と正太は進んでいた。

>>是枝正太様

2ヶ月前 No.88

推古 @iwing ★gBSwv0JJyH_LOn

【御手洗 雪彦/公衆トイレ】

 狂ってる。雪彦が下した第一印象はそれだった。
 凶刃の元に晒される大狼椿。トイレの床には二人の骸が横たわる。状況は極めて悪いと言わざるを得ない。
 純と呼ばれた黒髪の女性を中心に狂気が渦巻いているのを肌で感じる。
 純から桜と呼ばれた薄い桃色の髪の女が、純の傍らに寄り添って、恭順するような素振りで付き従う様は、まるで主人と犬の関係性を連想させた。力関係が歴然だった。それは純が椿に下した処遇を見ても明らかだった。

「お楽しみのところ申し訳ありません」

 ピンと緊張の糸が張り詰めたような、やや低めの声音だった。声の主は姿を見せていない。トイレの出入り口付近から女性の声質と思われる音が聞こえてくる。ニュースキャスターが読み上げるような、感情の籠らない機械的な声だった。
 能登は最初の一手を仕損じた為に殺害された。名前の知らない男性警官は警戒を怠った故に先手を取られた。出方を誤れば椿の二の舞になるであろう。後手に回らないためにも慎重にならざるを得なかった。敵の思惑に乗るのは下策も下策だったが、相手にこちらの居場所を悟られないよう予め無線をオフにしてあった。

「アナタたちサングイスの趣向に付き合うつもりはなかったのですけれど、そもそも目的は別にあって『取引』自体はハッタリだったのでしょうか。純さん。でしたっけ。アナタ、改めて私と取引をするつもりはありませんか? 私は御手洗雪彦。特高警察一課の人間です」

 自らの身分と名前を正直に告げたのは、椿にそれとなく救出する意志を伝えるためだった。おまけに純の意図を探る目的もあった。

「今は国会内で起きた爆破テロの対応に追われているみたいですけれど、いづれここにも人員が回ってきます。そうなればアナタがたは袋のネズミです。ここで時間を潰して増援を要請する手もあるにはあるのですけれど、ここは別の場所へ移動して取引を始めるというのは如何でしょう? 特高の意識が国会内に向いてる今が動き始めるチャンスです。アナタ方にとっても悪い話ではないですが。大狼さんの治療も必要ですしね。とりあえず適当な場所を告げて下されば、私がアナタ方をそこまでお連れ致しましょう」

 トイレの出入り口付近の壁に背を預けながら、壁越しに背後の気配を伺う。
 雪彦は思い違いを起こしたが、椿は既に純の手中にあった。
 純と取引に持ち込もうとしたのはもちろんブラフであったが、隙を見て、椿と二人で協力して犯人を取り押さえるつもりが知らぬ間に袋小路に追い詰められていた。

>> 大狼 椿様、吾妻 純様、十姫雨 桜様


【お待たせ致しました】

2ヶ月前 No.89

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


 無線特有であるノイズが混じった涼宮の言葉を頭に落としたほぼ同時に、報告元である国会議事堂の方向へ視線を身体ごと向ける。聳え立つ白き大廈の映る双眸に鈍い光が過ぎった。

 サングイスの一員である可能性を持った青年の確保。長く追い続けて尚捕らえる事の適わなかったテロ組織、その重要な手掛かりに成り得るものが漸く網に掛かった瞬間に、冷え切った腸へ濁流の如き熱が埋め込まれていくのは最早条件反射の域だった。
 そんな不可視な激情からか、知らぬ間に力の入っていた右の掌に爪がギチリと嫌な音を立てて食い込む。だがまるで気に留める様子も見せず、職務を全うする為に積み重ねられた冷静な思考回路が、裏腹に平静な声色でスイッチの切り替えられたマイクに返答をよこした。

「こちら黒瀬。了解、本部へ戻り次第尋問を始める」

 拘束から本部への連行までの早急に執り行われるべき段取りを幾一伝えなければならない程部下が拙劣ではない事など己がよく分かっている。そんな知られもしない信用によるものである簡潔の一言に尽きる返答を伝えながら国会議事堂から踵を返して彼らと合流するべく歩を進めた。その後すぐに無線範囲を全体に切り替え、殆ど間を置くことなく言葉を続ける。

「こちら黒瀬。サングイス関係者の疑いがある男を拘束、現在送検中。周囲に協力者の姿は見られないとの事だが、爆破予告の猶予までに新たに行動を仕掛けてくる可能性も有り得る、気を抜くな。引き続き民間人の誘導と予告区域の警戒を続けろ」

 涼宮の報告より、拘束されたのは例の青年のみだった。規模の読めない集団とはいえ徹底して尻尾を見せなかった奴等がこうもあっさり手に落ちるとも思えない。恐らく青年は爆弾を設置するまでの役割を任された完全な下っ端だが、これが事実ならば組織の機密情報まで知っている可能性は低いだろう。例えるならば蜥蜴の尾だ。確保されたとしても組織からすれば殆ど痛手なく切り落とす事の出来る便利な小尾。
 だが生憎、この男が簡単に逃がす気など一寸程度も持ち合わせているはずが無かった。

 ────その姿が再び影に紛れる前に、藻掻く四肢を針で指して据え付けなければならない。

 先程まで言葉を紡いでいた口を一文字に閉じて無線のスイッチを切り、拍車を掛けるように一層険しく刻まれた冷徹な表情を隠す事無く、硬いコンクリートと革靴の接触音を強く立てながら、未だ騒めく人混みを過ぎていった。


>涼宮、ALL


【とりあえず黒瀬は警察庁へと向かわせましたので、合流のタイミングは涼宮さん正太くんの行動に合わせたいと思っています】

2ヶ月前 No.90

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/倉庫街→】

 ――是枝正太、もう手を引け。引いてくれ。お前なんかが首を突っ込んだところで、何にもならない。
 男の死体を倉庫内に残し、渚砂は寒風の廃倉庫沿いを歩く。是枝正太に、また京香に繋がりかねない証拠は回収した。この男の事件が報道されたところで、正太の方から関係者として名乗り出ないであろうという確信もあった。この件に突っ込んでも、情報は何も出ない。何より、是枝正太は臆病だ。
 議事堂の方はどうなったのか。先程の白煙は。遠目に議事堂の方角を見遣る。少なくとも、炎上している気配はなかった。連絡が入っていないということは、零課としてすべきことがないという意味だろう。あとは一課に任せておけばいい。一旦引くか。人を殺すのに慣れたとはいえ、空虚な疲労感は否定できなかった。

 右胸の内ポケットにいれた携帯電話が震えた。零課の連絡用のものだった。画面に触れ、届いた文面を見た渚砂は、舌打ちをした。
 是枝正太が、確保された。

「……何してんだ、あのクソガキ」

 返信などしないままに携帯電話をしまい、歩調を上げた。
 広い通りに出ると、一台のタクシーを止めて乗り込む。渚砂が運転手に告げたのには、警察庁――の近くの流行りの喫茶店だった。
 余計なことはするな、何も語るな、でなけりゃ――――。

>宛先なし

【移動レスを挟ませていただきます。】

2ヶ月前 No.91

白練夜鷹 @papillon☆0uO5mlUpCUns ★sAbT0rwP1n_mgE

【白練夜鷹/→国会議事堂付近公園】


 天使の屑。それは空から来る、無垢なるものの羽根の残骸。
 一度は止んだ雪がまた舞い始めた。薄汚れた町にお似合いな罪と塵をたっぷり飲み込んだ無数の凍れる欠片は、静々と硝煙と破滅の香りに満たされた堕落の都に降り注ぐ。それはひどく平等に、誰にでも皆平等に。狂う者にも、壊す者にも、病める者にも、悪しき者にも。

 この地に善き者など居はしない。此処に集うは血の味と紅を知る者だけだ。


「こんにちは、おにいさん」

 それは何処からか唐突に、灰色の雪と共に降ってきたかのように忽然と現れた。国会議事堂の近くにある何の変哲もない公園、其処には仲間からの報告を得ていよいよ次の手に移ろうとするサングイスのリーダーたる朝比奈藤司が居る。彼の背後、つまり死角に、それは立っていた。足音もなければ気配もない、否、それどころかアスファルトの上にうっすらと積もり始めた雪には此処までの足跡すらありはしない。

「今日も冷えますね、もう忘れていたけどこの国の冬はやっぱり寒いなぁ」

 その声は、低く深い響きをもって奇妙な程によく通る。
 朝比奈が振り向けば、其処に異様な人物が立っているのに気付くだろう。差している真白な傘で顔も見えない長身の人物は、その全身が雪に染まる風景と同化しているように見えた。白、灰、銀、淡いように見えて全ての干渉を否定し拒絶する強い色を纏って、正体不明という言葉が似合うその不確かな存在はすらりと抜き身の刀のごとく立っていた。

「待ち人来たらず、ですか? こんな雪の中、待ちぼうけは辛いですよね……良かったらこれどうぞ。そこの自販機で買ったんです、持ってるだけで温かいでしょ、ぼくコーヒー飲めないけど」

 前下がりで差されていた傘が動くと同時に、ふいの何かが空を舞う。受け止めるか、叩き落とすか、何もしないか。朝比奈の次の動作は分からないが、それはまだ温かい缶コーヒーであった。
 傘が除けられた事で、顔が見えるようになる。そこにあるのは彼とも彼女ともつかぬ、どこまでも中性的な顔だった。凛々しくも見えるが、柔らかくもある。つかみどころのなさは、その普段見覚えのない風貌も手伝っているのかもしれない。その髪は今降っている雪よりも淡く眩い、透き通るような白銀だった。染めているというより、まるで生まれつきそうであったかのように自然な、しかし何処までも不自然さが伴う色。

「そうそう、そういえば彼、もう戻ってきませんよ」

 肩に羽織った純白のロングコートのポケットのからもう一つ飲み物の缶を取り出しながら、雪細工のようなその人物はさも今思い出したとでも言いたげに、何気なく呟いた。缶が上手く開かない様子で困ったように目尻を下げ、曲げた指を小さく動かして悪戦苦闘しながら。朝比奈の方など全く見ていない、まるで隙だらけだ。

「あ、良かった開いた……可哀想ですね、一課の拷問はそれはもう酷いものなんですよ。ずたぼろにされてぽいっと……わ、思ってたより甘いなこれ」

 ようやく開いた甘酒の缶を口元に運びながら、白い人物はようやく朝比奈を見た。静脈から迸る液体を思わせる、深く暗い深紅。まるで地獄の深淵でちろちろと燃え続ける、咎の業火のような。その瞳が、その目が、笑っているようにきゅうっと細まる。

「ああ、ぽい、だなんて。ぼろ雑巾みたいなたとえは良くないですよねー、不快にさせてしまったらごめんなさい」

 今度こそ明確に、それは唇を緩めて甘く朗らかに微笑んだ。


 エンジェルダスト。それは天からの予告を携えて、終わりの始まりを告げる不吉の使者。


>>朝比奈


【初めましての方は初めまして、お知り合いの方はこんにちは、真白蝶々と申します。遅ればせながら、これからお世話になりますのでどうぞ宜しくお願い致しますね。スレ主様とのご相談の結果、まずはサングイスの長たる朝比奈さんにご挨拶に参りましたあからさまに怪しい夜鷹ですが、どうぞ宜しくお願いします】

2ヶ月前 No.92

忍者ぇ @tfride ★iPhone=VYefmAfxtC

【天野風香/国会議事堂外 警察車両付近】

『本部より通達。容疑者確保、繰り返す、容疑者確保ーー』

警察無線のその連絡に1人だけ肩を少し震わせた、日本には珍しい上下スーツの女性制服警官がいた。
その顔は少しだけ残念そうに眉をひそめる……が、それも一瞬。
車から離れていくその後ろ姿を誰も止めることはない。
歩きながら自身の警察無線機を取り外し丁寧に纏めると、その足は植え込みの中で隠れて寝込んでいる男性制服警官の目の前で止まった。
木にもたれかかっている状態で寝ている警官の膝の上にその無線機をそっと置くと、ごめんなさい…と一言添えて手を構える。

「私が手を叩くと貴方は目を覚まします」

その言葉の後にてをパンっと叩くと、警官はハッと目を覚まして周囲を見渡す。
すぐさま女性は警官を気遣うように声をかけ、警官は一言お礼を言うと立ち上がり早々に国会議事堂に走っていった。
それを見送ると女性は胸元の警察ワッペンをぺりぺりと剥がしながら歩き出した。
一度ジャケットを脱ぐとそれをひっくり返してまた着る。すると先程までの警官制服とは違い、一般的なスーツジャケットに変貌。
スラックスを引っ張りブーツの中に入った裾を引き抜くと、トンと靴の後ろを蹴ると表面が剥がれ吹き飛び、茶色の革靴が姿を現した。
白手袋を取り外し、帽子を脱ぎ脳天をグリグリと押さえつけ黒髪に擬態した鬘を剥がすと、何時もの赤青のメッシュが入ったショートヘアが覗く。
手袋と一緒に通りすがりのゴミ収集車の中に投げ込み、帽子を上空に投げ捨てると一瞬燃え上がりチリも煙も残さず消えてしまった。
ふう…と一息ついたその姿は、かつて世界をその手品で驚愕させ虜にさせたマジシャンの天野風香がトボトボと人通りのない道へと進んでいた。

「捕まってしまいましたか…」

今更敵の手にかかってしまった仲間を憂いたか、ふと後ろに目を持っていってしまった風香の一言は仲間へ対する憂いの気持ちか、もしくはまだ引き返せる若者への配慮か…。
その一言に対して応答してくれる者はその場にはいなかった。
再び前に進む足は、ふと思い出したようにポケットに手を入れることにより中断した。
先程引き剥がした警察ワッペンを取り出すと、ふっと鼻で笑い。
近くのゴミ箱に…まるで怒りや悲しみ、様々な感情が混ざった手によって力強く投げ入れられた。

>>宛先なし


【長期的に放置していたにも関わらずメインの現場のすぐ近くから始めてしまい申し訳ありません。
改めてよろしくお願いいたします。】

2ヶ月前 No.93

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 国会議事堂・裏庭 → 警視庁・医務室 】

 ガタゴト揺れる護送車内で、流れる景色をぼうっと眺める。外は未だにサングイスの犯行声明を受けて喧騒を極めていた。警官たちが大声で臣民を誘導させている姿が見える。今頃サングイス(なかまたち)もこの喧騒の中で己の役目を全うせんとしているのだろう。
 乗車してから数十分もしないうちに正太の処刑場がゆっくりと姿を現した。大日本国の中心地とも呼べるであろう、警察庁。失踪した姉のことを尋ねるため何度も訪れていたはずなのに、その日の警察庁はまるで違うものに感じられた。

(……敵に回ると、こんなにも恐ろしいものなのか)

 建物が放つ凄まじい威圧感を目の前にして正太はゴクリと固唾を呑んだ。これから起こるであろう現実に恐怖を覚え、慄(ふる)え上がる。特高警察の反社会的勢力に対する扱いの酷さは有名だった。人を人とも思わない態度で暴徒を制圧していく姿はまさに鬼。正太の身にこれから何が起きても不思議ではなかった。その場で殺されることだってあるだろう。
 正太は手錠で繋がれた両手に視線を落とした。力ずくで外そうと試みるも全くビクともしない。何度やってもカチャカチャと金属音が鳴るだけで、食い込んだ手錠が手首にくっきりと赤い痣を作った。

(もう過ぎたことを悔いていても仕方がない)正太は考える。(どうせ逃げることはできないんだ。だったらこの状況を逆手に取って奴等に姉貴の居場所を吐かせてやる)

 絶望しながらも徐々に強気な姿勢を取り戻した正太は、護送車を降りて黙って警官のあとをついていった。正太にはまだ秘策があった。その秘策を打ち破られるまでは彼らにサングイスの情報も何も渡すつもりはなかった。


>涼宮さん
【新規参加者さま方が次々と本編に参戦してくださって嬉しい限りです!みなさんこれからどうかよろしくお願いします】

2ヶ月前 No.94

朝比奈藤司 ★iPhone=sNfmgfxhTi

 花が舞う。空を見た。陰惨な空からは想像のつかないほど純真な白が、ただW白Wが降る。瞳の端で捉えた一粒のそれが高い空から地に着くまでを見届けた。美しかったはずの花びらは公園の土に溶けてしまう。儚いものを目にしたときに美しさを覚える人種がいるらしいが、それにはどうにも当てはまりそうにない。手の届かない範囲に消えてしまうものは嫌いだ。だから、死が嫌いだ。傷つけあうのも、はたまた心を埋めるように慰めあうのも。
 首元に手を置く。雪が降ると空気が数度下がった気になる。

 「こんにちは、おにいさん」

 一瞬で身を硬くした。寒さのせいにするにはあまりにも力が入りすぎている。はじめに脳内を横切ったのは、誰だ。で、次は何処だ、だった。けれど酷く冷静ではある。声の在処を探して唐突に振り返るのは相手に隙を見せることに繋がるので賢くない。目を瞑って声の場所、相手の年齢、性別、大凡の体型。そして本当に俺に話しかけているのか、を探った。同時に脳内で、大学くらいの頃に戻ったみたいだと思う。守るべきものができてからは臆病な自分が朝比奈藤司の大半を占めていたが、正太の無線か雪の華片なのか、歯車が噛み合ったかのように何かがトリガーとなって、押し殺していたヤツが貪り始めている感覚。怖くない、不安もない。ただやるべきことを従順にこなす。心に従え、と全神経が謳う。緊張しているからではなく、口角が下がる。そう、決定的にいまとむかしでは理性と責任の大きさが明らかに違っていた。呑まれてしまうことは無い。心の中に住む野犬をいまなら飼いこなせる。
 この国の冬は寒い、とボヤくのを聞き取り帰国子女かと思う。この国の人間でないにしては言葉が流暢すぎる。右膝の裏側に少し力を込めながらゆっくりと、振り返った。と、同時に目を開ける。

「…Snow white(白雪)」

 口から漏れたのは、幼い頃に読んだ本のタイトル。傘の中に身を隠す姿が一種の神秘さを感じさせた。背筋がぞくぞくした。見た目に反し、二つ名は漆黒の魔女くらいがお似合だ。白雪に毒りんごを食べさせる、あのあくどい魔女。だからこそ、わざと白雪と呟いた。
 魔法にかけられてはいけない。手をポケットの中で握る。「……」相手の話す言葉を聞き流し、必要な情報だけ抜き取る。重要な物の数だけ握った指をひとつずつ数を数えるように解き放つ。ひとつ、ふたつ、みっつと。目の前にコーヒの缶が放られても一瞥だけした。あとはただ相手の方にだけ真っ直ぐ視線を注ぐ。興味が無いとでもいいたげに上目遣いに、意識的に目を細くして。からん、と音を立てるコーヒーにロータンゼの店主の柔和な笑みを思い出して心を落ち着けた。
 白色のやつが、甘い液体を啜るのを黙って見る。余裕そうな口振りで俺の名前を吐き、W彼Wが恐らく、是枝正太のことを指すであろうことにまず疑問を覚えた。サングイスのメンバーに正太がなったことはW極W最近のことで知っているものは少ない。それに俺がリーダーであることは知られていないはずだ、顔も、名前も。

『彼はもう戻ってこない』 『拷問』 『一課』

 ポケットの中で立てられた指は三本。是枝正太は多分、奴らの手の内だ。つまり、捕まった。あのとき感じた焦燥感は間違えではなかったらしい。まだ鈍ってはいない野生の感覚に感謝する。
 言いたいことを言い終わったかのように微笑むヤツに、そろそろ決め込んでいた黙りを破ってやろうと思った。お前のターンだと言われているようで癪だが。俺のターンだ。

「……ふっ、あいつらもなかなかだと思っていたけど安心したぜ。気性が荒い奴らではあるけどよぉ…ちゃんとW待てWはできるんだぜ?口振りからして、味方では無さそうだけど特別に教育をつけてやる。なぁ?シラナイヒトと話したいときはまず自己紹介、だろうが」

 真っ白のヤツがあまりにも演技派だったので感情の起伏のない声で淡々と告げる。こういうときに相手と同じことをするのは服従することに似ている。相反するように、口角は一文字に結ぶ。腹の中で巡らせていたのはサングイスメンバーの顔だった。
 軽蔑の目を向ける。そちら側の人間に頭が切れる奴がいるのは分かった。事件とは少し離れた公園に俺が居ることを考えつくくらいには。ただ、あまり焦ってはいない。爆弾の設置はされている。欲しいものは全て手に入れてやる。是枝正太も、他のメンバーもまだ俺の触れられる距離だ。俺が守ってやれる範囲。まだ俺の雪の花弁たちは空を舞っている最中だ。地には落とさせない。そのためならば、掌の中で踊っているふりでもなんでもしてやるさ。…まぁ、最も白鳥にこそお誂え向きな舞踏ではあるが。
 吸えないくせに、何故か煙草を咥えたい衝動が襲った。





>>夜鷹、周辺ALL(?)さま





【 お久しぶりです。みなさま体調の方はいかがでしょうか。天京の充電期間はどのようにお過ごしでしたか。わたしは少しだけ、朝比奈を見つめ返す時間にしていました。朝比奈自身が今回のターンからサングイスと自分について何らかの覚悟を決め始めていることにより、少しキャラブレのように感じさせてしまうような言動が目立ってしまっているかもしれませんが、承知済みです。核心の部分ははじめからひとつですので、なにとぞご理解くださいませ。みなさまの素敵なレスを楽しませていただいております。どうか、これからもよろしくお願いします。また、夜鷹本体さま朝比奈への素敵な絡みありがとうございます…!冷たくあしらっているのは立場ゆえですのでどうか気分を不快にされないでいただけたらと思います】


2ヶ月前 No.95

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/国会議事堂付近】


 鈍い音を立てて車のドアが閉じる。普段よりも些か強い力を加えられた事で一瞬の揺れを生じた車体から、規則的でどこか忙しない足音が離れていく。
 純白の結晶が深々と降りる中で、淡々と歩く黒瀬の双眸にはその儚き様が映り込むことなど無い。その視線は揺らぐこと無く真っ直ぐと、先程到着した警視庁本部へ向けられ、目の前に落ちて溶けた白い欠片の上を踏み抜いて歩が進められる。
 仕様のないことだった。そもそもこの風情を感傷的に眺める事の出来る静穏な心情が残っていたとすれば、男はここまで灯台の存在しない暗がりに彷徨いこんでは居なかったのだから。

(漸くか、)

 刺すような冷気を表すような絶対零度の貌に反してその腹の底はただ只管に煮え滾る。どろりとした過激な執着の原因は、一体どんな顔をして己と対面するつもりだろうか。恐怖か、後悔か、憤怒か、嘲笑か。どうにしろ語られるのは、対岸の正義なのだろう。
 奴等は自身の行為をどの様な啖呵で叫ぶのか。脳裏に過った虚像が、顔を黒い線でぐちゃぐちゃと塗りつぶされたあの青年の口が、まるで強い言葉を紡ぐように大きく歪む。瞬間その景色が発砲音と共に、鏡の如く割れて崩壊した。

 砕け散った想像上の下らない虚像に反応して、影の落ちた目が鋭い光を宿す。懐に下げられた拳銃の存在をやけに強く感じる。それが何故なのかは、もう自覚していた。
 それはとても分かり易い、世の道理だ。

「────奪ったんだ、奪われても仕方ないだろう」

 目には目を。

 誰に聞かれることの無かった非情で冷酷な呟きは、薄く開かれた口から漏れた白息と共に姿を消した。

>涼宮、是枝


【少し描写が心許ないですが、車で移動後警視庁内に向かっている状況という事でお願いします。分かりにくく申し訳ない】

2ヶ月前 No.96

涼宮衛 @sibamura ★KLeSUKumOF_sxd

【涼宮衛/庁内】

「服と装飾品の他には財布、現金、身分証明書、スマホ……以上で問題ないな?」

 検査室で係員が金属性の物や危険性のある物をチェックしリストを作成、それらは一時一課に預けられることなる。ついでに服も一課預かりとなり、金属や長い紐のついていないものが貸し出される。これは何も反抗や脱獄を防ぐためだけではない、長い拘留に心を病み、ひもやベルトで自らの首を絞める者もいるための処置なのである。ちなみに、預けられたものはリストとともに保管され、正太の拘留が終われば返される手はずになっている。まぁ、無事終わればだが。
 正太の持ち物とリストを係員から受け取り、リストと物品に相違がないことを確認してすべて段ボールに納めて封をする。最後に自分の確認印を押して検査は終了だ。

「よし、それではこのまま取調室へ向かうぞ」

 そう言って、彼は無機質で長い廊下を歩きだす。聞こえるのはオフィスからの打鍵の音と彼らが歩く音のみ、ここは一課の中でも取り調べやその他が行われる部署であり一般職員もめったに入ってこない。いわば一課の暗部に近いのだ。

「ではここに入って待っていろ」

 案内されたのは、中央にデスクとパイプ椅子が置かれた殺風景な窓のない部屋だった。その部屋のパイプ椅子に正太を座らせると涼宮自身は部屋から出ていき、外部から施錠する。そのまま隣の部屋に行くと、そこからは正太が通された取り調べ室の様子がまるわかりになるようになっていた。無論、正太の側からはこちらを見ることはできない。

「ごく普通の青年に見えるが……」

 涼宮は彼を観察した感想をぼそって漏らす。そういう先入観がこの仕事に禁物だとわかっていてもつい、彼の甘い部分がそういってしまうのだ。そうこうしているうちに、部屋のドアを開く音とともに彼の上司である黒瀬新が到着する。
 上司に敬礼すると、涼宮は口を開いた。

「現在、被疑者を取り調べ室に連行しました。拘留手続き並びに所持品・身体検査も終了しています。いつでも取り調べに移れます……が」

 そこまで言って涼宮は言い淀む、言うまいか迷ってから、意を決して進言した。

「彼の容疑はあくまで器物損壊であり、未だサングイスとの関わり明確ではありません。そのような状況ですので……そのあまり過激な取り調べは……慎重に行うべきかと」

>>黒瀬様 是枝様

2ヶ月前 No.97

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/庁内】



 見慣れた扉を手元を見ることなく開ければ、連絡を寄こした涼宮がハーフミラーを訝しげな表情で睨みつけていた。その先には容疑者と思しきあの青年の姿がある。間も開けず此方に気付き模範のような敬礼を掲げて端的な報告を告げた生真面目な部下に、対して黒瀬は「そうか、よくやった」と短い理解の意を示した。鋭い視線はすぐさま取調べ室で拘束されている男に注がれる。
 そんな黒瀬の様子を察していたからか、涼宮の何処か戸惑いの混じった仕草を視界の端に捉えて彼を見た。その表情は、逡巡しているような確信のないものに思える。だが向けられている双眸には、謹厳実直の言葉がよく似合うこの男の確固たる意志が込められていた。

 そんな部下の姿を憐憫でも憤慨でもない、何とも見当の付け難い無愛想な貌で見つめ返す。普段と殆ど変わらないと見える能面の表情は、しかし何かしらの意を涼宮に訴えかけているようだった。
 そうして一文字に閉じられた口と細められた目は幾許か、人によっては途方も無く感じるような間じっと彼を見た後、漸くその重苦しい言葉を吐き出した。

「爆破予告は既に報道機関を通して拡散されている。知らない国民は居ないに等しい上、現場には分かり易い野次馬と警備が敷かれていた。このタイミングで警備の手を掻い潜ってまで国会議事堂に潜入した以上、何も知らない等という言い訳を聞き分ける道理は無いだろう」

 話は終わりだと言わんばかりに、取り調べ室へ向かうべく踵を返す。それは冷徹の一言だった。
 これ迄の経緯が意志を磔のように捕らえていく。涼宮のように他者の正義を鑑みることなど今の黒瀬には到底出来ない。出来ることと言えば、他者の正義を己の正義で踏み潰すことくらいだろう。それが幾ら虚しい事だとしても。

 蝶番に手をかけて少し動きを止めた後、表情が見えない程度に軽く涼宮の方を向いて再び口を開く。

「あくまで"容疑者"である以上、多少は考慮する。……だが手加減をするつもりは無い」

 そして今度こそ、振り返ること無く部屋から出て行った。




 殆ど色彩の無い空間は刺すような冷気に包まれ、この『取調べ室』とは名ばかりの空間で行使された拷訊の刻薄さを物語っている。

 後ろ手に扉を閉めて革靴が地面を叩く音と共に、置かれた椅子に座ることなく拘束された青年の目の前に立つ。黒瀬と、その影が被さった容疑者たる男の様子は蛇と蛙のそれに近い。青年の目の前には睨みつけるでもなく笑みを浮かべるでもなく、ただ冷淡で人間味の無い表情があるだけだ。

「先に言っておくが、」

 低い声が静寂を破る。普段に比べればやけに遅く、染み込ませるような口調。

「余計な戯言は要らん。どの選択肢を取るか、お前に問うのはそれだけだ」

 顔色同様に血色の悪い大きな両手が机の両端にゆっくりと置かれる。被さるように上から近づいた影のかかる男の姿は、青年の目にどう映るのか。

「同業者を売る苦痛か、それらを庇って受ける苦痛か。好きな方を選べ。まあ前者がお前の苦痛に当たるかどうかは甚だ疑問ではあるが……そうだな、選択するなら早くにしておけ。────俺はそれ程気の長い方じゃない」

 誰が知る由もない陽の届かない水面下で、冷戦は静かに火蓋を切った。


>涼宮、是枝

1ヶ月前 No.98

自由 @nanamaru☆43ke11mKtUk ★iPhone=dgcL1EDLvj

【 夢月 叶羽 / 国会議事堂付近 → 警察庁内 】



「 ……ふう 」

 ずっと弄っていたスマートフォンをパーカーのポケットに仕舞う。窓の外にふと目をやると、ちらちらと雪が舞っていた。確保があと少し遅かったら濡れてたなあなんて、警察官らしからぬことを考える。結局みんなが頑張って、僕、今回も大した仕事してないよね。いやすればいいんだけど。頑張ればいいんだけど。それでも僕が頑張るには、何かが圧倒的に足りなくて。みんなにあって、僕にない、何か。正義感?忠誠心?そんな言葉だけみたいな、あるようで本当はないような、薄っぺらいものではない気がして。

 ハッカー。一課で生きてる元テロリストの幹部。爆破事件の生き残り。ポケットの中で指がリズムを刻む、鎖が擦れる。微かな金属音。いち、にい、さん。

 つまりはものすごい倍率の中で生き残って、その上で処罰とか受けずに警察官になれちゃって。その割には避難誘導くらいしかしてないけど。……なんていうか、そこまで本気になれないというか、別に、僕なんか関係ないって思っちゃうところがどうしてもあって。もちろん僕の命を救ってくれた一課には感謝してる。けど、やっぱり自ら選んでこの立場に立っているわけじゃなくて。一課の力にはできるだけなりたいと思ってるけど、今のところは、これこれこういう情報を手に入れてくれだとか、そういうのもないし、だから好きにやっていいってことだって勝手に判断して、ぼうっと税金で生きてる。だから、いい。もう帰っても良い。僕が興味を持ってるのは、民間人の避難誘導でも、爆破時刻までの現場待機でもない。勿論必要であればするけれど──僕一人がいるかいないか、そのくらいはここの優秀な警察官達にとってはあまり重要じゃない。それよりも、僕が知りたいのは。

「 ……さむい 」

 ゆっくりと、足を浮かせてぶらつかせる。やっぱり狭い、つっかえる。……ああもう、まだ十八なんだけどな、僕。これはちょっと駄目人間すぎやしないだろうか。うんまあ元テロリストだからね。警察とかいう「 正義のお仕事 」やってるだけ合格点だ。テロリストが駄目人間だとは、微塵も思ってないけれど。

「 次は、××前──お降りのお客様は── 」
「 はいはいはい、っと 」

 もうすっかり乗り慣れたバス。初めて乗ったときは降り方が分からなくて焦ったっけ。……そうだ、三回目の仕事のときだ。お姉ちゃんとふたり、まだまだ「 犯罪者 」になりかけのとき。情報を得るために、別のハッカーのところへ資料をもらいに行ったときだ。おじさんは豪快に笑った。初めて見た、その人の笑顔だった。「 お前らバスの乗り方も知らねえのか 」「 しょうがねえな、お父さんが教えてやるよ 」。元気かな。元気な訳がない。僕が殺したから。見抜けなかった僕が、殺したのと一緒。未だに爆破事件の犯人も、原因さえ、つかめていなかった。だから今は、いい。僕のせいだ。

 210円入れて、「 ありがとうございました 」と微笑む。碧の瞳に向けられる好奇の視線には、もう慣れた。それだけじゃないか。この長身にも、灰の髪にも。雪が降っている。色素の薄い髪が雪と溶けて、光を浴びたみたいにきらりと輝いた。フードを被る。息は白かった。真っ白な世界に佇む高い建物。ここが僕の「 これからの場所 」だった。



「 ……ええと、取調室、かな、とりあえず 」

 声が上ずっているのが、自分でもわかる。鼓動が速い。興奮しているのか、わくわくしているのか、この状況に。

 取調室には、「 彼 」がいるはずだ。先程、黒瀬さんから報告があった男。サングイス関係者の疑いがある男。状況から見てまずサングイスの一員で間違いないだろう。どんなにすばしっこい鼠かと思えば案外易々と捕まってしまったから、サングイスの中でどのくらいの立ち位置にいるのかといえば、ちょっとわからないけれど。

「 わあ涼宮くん、さっきはお疲れ様あ、平気? 疲れてない? ほら、涼宮くんたくさん活躍してたみたいだから……あとでみんなでお疲れ様会しようねっ、僕、涼宮くんの紅茶飲みたいなあ 」

 涼宮の姿を見るなり相変わらずの口数の多さでコミュニケーションを取ろうとする。ちょっと空気読めてないかな、うんまあいいや、と張り詰めた空気を裂くように伸びをした。

 中に黒瀬さんが入っていくのが見えた。──ああ、もう始まっちゃうのか。出来ることなら取り調べが始まる前に色々個人的に聞いてみたかったんだけど。……まあ、終わってからでも遅くはないだろう。すべてが終わったあとで、「 彼 」に僕の質問に答える力が残っていれば、の話だけれど。




 > 涼宮さま( 黒瀬さま、是枝さま )



【 お久しぶりです、一課参謀夢月です…!半年振りに書き込んだかと思えばいきなり図々しく絡みにいってしまい申し訳ないです、叶羽のコミュ力に少々おつきあいくださいませ…! 】

1ヶ月前 No.99

神崎りりか @else☆TYRYeuBpk3k ★t4ewEy7NmI_AC5

【 是枝正太 / 警視庁・医務室 → 取調室 】

 窓の外は暗灰色の雲がそっと息を吐き出したかのように、真っ白な粉雪で埋め尽くされている。
 そんな冬景色を暗澹とした思いで眺めているうちに正太の身ぐるみは特高によって全て剥がされてしまった。
 財布や服だけでなく、スマートフォンも。
 連絡用に使っていたスマートフォンは先ほど国会議事堂裏に落としてきてしまった。つまり、今回奪われたのはもう一つのほう。正太が最終手段としてずっと取って置いたほうだった。

「……」

 検査員の詰めが甘かったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。結局、最後までスマートフォンの中身を調べられることはなかった。
 正太は眉一つ動かさないよう顔を顰めさせながらジッと私物の行方を瞳で追った。ガムテープのベリベリベリという引っ張られる音とともに私物を入れた段ボールは封をされ、医務室にある机の端に置かれる。正太は内心ホッとした。脱走する際にここに戻ってくることさえできればスマートフォンを取り戻すことが出来るかもしれない。絶望的な状況のなか、一矢報いる覚悟が僅かながらに蘇ってくるような気がした。

 * * *

 特高に連れられ、無機質な廊下をお互い無言のまま歩いていく。コツコツ……と二人の足音だけが空しく響き渡った。「取調室へ向かう」そう特高は言った。ということはこれから自分からサングイスの情報を引き出そうと無情な拷問が始まるのだろう。正太は自分の身体が強張っていくのが分かった。さっき着替えさせられたはずなのに、服がぐっしょりするほどの脂汗が身体中から吹き出ている。「取り調べ」なんていうのは表向きの言葉で、そんな生易しいものが待ち受けているわけがない。それは正太も、目の前を歩く特高もよく知っているはずで、お互いが敢えて言葉にしないだけだった。
 連れて行かれた先は、安っぽい折りたたみ式のテーブルとパイプ椅子が置かれただけの殺風景な狭苦しい部屋だった。何の説明もなく正太は座らされ、そのまま一人取り残される。どうやらあの特高は取調室に自分を連れて行くまでが仕事のようで、実際に自分を「取り調べ」するのは別の人らしい。

「……」

 これから訪れるであろう誰かを待っている間、底なしの無音が正太を襲う。股を広げ、無意識に貧乏ゆすりをしてしまう程に正太は音に飢えた。忙しなく右足を上下に動かしながら平静を装うとするものの、不安と緊張を隠す余裕など疾うの昔に失っていた。
 俯き、拳を強く握りしめながら「何をされても動じない、何をされても動じない……」と何度も何度も頭の中で復唱する。神も仏も頼ることはできない。頼れるのは自分だけ。そう思うとより孤独が強調されていった。しかし、だからといって一人で乗り切る他に残された術はない。
 数分も経たないうちにガチャリとドアが開く音がした。突然の大きな音に正太は驚いて顔を上げる。そして音と同時に訪れた人物に思わず声を上げた。

「えっ……」

 現れたのは大日本国民であれば誰もが知る人物だった。特別高等警察一課課長。最近の恣意運動が沈静化しているのはこの人の功績が大きいと噂されるほど、彼の峻厳な姿勢は有名だった。しかし彼の名前を別の場所でも聞いたことがあった。それは姉である京香の口からだ。
 正義のヒーローを目の前にして背筋が凍る思いをするような日が訪れようとは誰が知ろうか。「同業者を売る苦痛か、それらを庇って受ける苦痛か」と究極の二択を迫られても尚、正太は恐怖のあまり言葉を発することができなかった。無表情の顔が冷徹に正太を見下ろす。姉がこんな怖い人間と一緒に働いていたという事実が俄かに信じられなかった。
 ちょっとして正太は意を決したように再び生唾を飲み込み、黒瀬と対峙した。そして恐る恐る口を開く。

「……ど、同業者ってなんだよ。俺は何も知らねえ、から、」

 無意味であると知りながらも虚勢を張って立ち向かう。先ほどの特高とは違い、黒瀬は自分がサングイスと関わりがあることを確信しているようだった。彼にこんな猿芝居が通用するとは思えない。しかし時間を稼ぎ、脱走の機会を窺うことなら自分でもできるはずだ。
 相手が誰であろうと屈してしまえば終い、強気な姿勢を崩したら負けだと、正太は震える手足を懸命に踏ん張った。


>黒瀬さん(涼宮さん)
【自由さん久しぶりの投稿ありがとうございました!】

1ヶ月前 No.100

かささぎ @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【吾妻 純/公衆トイレ】

 幼子のようにあどけない笑みを浮かべながら仲間が増えたことを無邪気に喜ぶ桜と、口角を引き裂かれその頬から未だ鮮血を滴らせながらも、完全に「此方」側へ堕ち、自分に確かな忠誠を誓う大狼へ交互に視線を向け、そっと繋がれた手を握る。元より一人で歩もうと決めていた修羅の道だったが、不思議と同士が増えた。胸に抱く目的は多少異なれど、それぞれが抱く狂気は同じもの。同じ夢を見、同じ狂気に魅せられた大切な「仲間」を、純は満足そうに見つめた。その黒い瞳を細めながら。
 そろそろここから逃げた方が良さそうだと、外の喧騒を耳にしながら思う。大狼とは一旦別れて桜と二人、人混みのせいで皆のもとに合流できなかったと適当に口実を作ろうか、などと思考を巡らせ始めた刹那、不意に純の耳に無機質な女性の声が届く。
 先程まで浮かべていた笑みを一瞬のうちに引っ込めると、能面のように何の感情の色も浮かんでいない「静」のまま、純は声のする方へ氷のように冷たい視線を向けた。声の主は御手洗雪彦と名乗った。特高の人間らしい。表の騒ぎに準じたつもりではあったが、どうやらこのトイレの中でのやりとりを聞かれていたようだ。
 純は黙ったまま、一旦桜と繋いでいた手を離す。そのまま考えるようなポーズを取るが、視線はトイレの入口の方――御手洗がいるであろう方向を見つめたままだ。どうにも彼女の言う「取引」が気にかかる。すでに警官が二人ここで殺されているのも彼女は知っているはず。それを踏まえて、増援も呼ばず、人数的にも不利であるにも関わらず、彼女はこちらに取引を持ちかけてきた。一体どんな話を持ちかけてくるのか、興味がわかないわけではない。

「……」

 純は黙ったまま思考を巡らせていた。御手洗雪彦という人間がどれほどの手練なのか、彼女はどこからどこまで我々のやり取りを見聞きしていたのか、彼女は何を企んでいるのか。
 どのみち、此処にサングイスの人間が二人と負傷した特高が一人、そして死体が二つあるという状況で増援を呼ばれるのは非常にまずい。おそらく、ここで先方のいう「取引」に応じるのを拒否するという選択肢は与えられていない。

 目線を大狼へ送る。「有事の際には容赦なくやるように」という意を込めて。彼はもう自分の従順な犬。どんな言うことでも聞いてくれるだろう。嘗ての同僚を、仲間を手に賭ける覚悟もできているはず。

 意を決したように、純は歩き出す。純の履いたヒールが、血で汚れたタイルを叩く音があたりに響く。
 トイレの出入り口付近まで来れば、先程までの無表情とは売って変わり、余裕をたたえた表情を浮かべ、純は口を開いた。

「ふふ、おねーさんったら、取引しない? なーんて言ってるけど、私たちがそれを拒否する権利ははじめから無いようね。だって今ここで拒否したら貴女、増援を呼ぶでしょう? ……まあ、いいわ。二人殺した上にそこのおにーさんをもっと男前にしてあげたものだから、ちょっと疲れちゃったのよね、私。だからお話、聞いてあげてもいいわ。……とりあえず、"誰にも邪魔されずゆっくり話ができるところ"がいいかしら」

【お返事が大変遅くなってしまい本当に申し訳ありません……御手洗さんおまたせしました。取引、わくわくしております。これからはもっとこまめにお返事返せると思います。どうぞよろしくお願いいたします。】

>御手洗 雪彦さん、大狼 椿さん、十姫雨 桜さん、ALL

1ヶ月前 No.101

推古 @iwing ★AIO1WMlkRo_eQW

【御手洗雪彦/公衆トイレ→診療所】

「……そう、話が早くて助かりました」

純とは対照的に感情の籠らない無機質な声が響く。しかし、公衆トイレ出入り口付近には声の持ち主の姿は居ず、壁に張り付けられた小型スピーカーが声の出所だった。代わりに黒塗りの乗用車が現れトイレ前に横付けされる。
運転席から降りてきた雪彦によってスピーカーが回収されると、椿と桜を後部座席へ、そして純を助手席へ誘導する。
すっきりとしたミントの香りで満たされた車内で鉄の匂いが鼻腔をつき始める。雪彦は全員が席に落ち着いたのを確認すると、車を発進させた。
殺害現場のあるトイレが背後から遠く離れ、徐々に小さくなっていく。純らを乗せた車は中心街を離れ、郊外へと差し掛かった。

「特高によって引き起こされたある凄惨な事件を話しましょう。その劇団は自らが主宰する演劇で現政権に批判的な演目を上演したとして弾圧の対象となりました。関係者は一人残らず捕らえられる手筈でしたが、何かの手違いで凶弾により一人の幼き命が失われる事態になりました。あなたたちが知らないのも無理はない話です。その不都合な事実を世間に広めようものなら、国民の間で燻る反体制運動の機運が一気に高まる恐れがあったからです。ゆえに少年の死は秘匿にされました」

世界有数の国際都市である天京もひとたび中心街を離れれば貧民層が居住する荒れ果てた地区へ変貌する。指定暴力団の傘下組織が縄張りを張る地区だ。住人の殆どが日雇い労働者や在留外国人で構成される。
日銭を求めて人々の往来が激しく、通り掛かる人の多くは他人との関りを避けるように目線を伏せながら歩く。純らを乗せた車が通り過ぎていっても気にも留める素振りすら見せない。

「特高にある男がいました。その男は正義感に溢れ、まさしく警察官の見本とも呼べるべき人間でした。しかし、彼は行き過ぎた正義感を振り翳したために粛清されました。さっきも話したように真っ当な正義がまかり通らないのが今の組織の現実です。私は今の現状を変えるために特高に入りました」

純らを乗せた車が煙草屋の角を左に曲がると、小さな診療所の前で停車された。
診療所の玄関を通ると正面が受付になっており、コの字状の通路にはそれぞれ診察室や施術室が配置される。中は薄暗く純らの他に人の気配はない。床や机には埃が溜まっており長い間放置されてきたのが窺える。
椿をベッドの上に寝かせるとその場にある有り合わせで雪彦が施術を開始する。部屋は小さな個室だが四人の人間が収まるには十分な広さだ。机とベッドがあるだけの簡素な部屋だ。

「この診療所が閉鎖されたのはかれこれ十年以上も前の話です。ですのでもうここを訪れる人間は私たち以外には有り得ないでしょう。さぁ、今度はあなたがたの話を聞きたいのですが……まずはゆっくり腰を落ち着けてください」

椿の施術が終わったのと同時に純と桜に視線で合図を送る。ここまで純らには看視と称して付き合わせてもらっていた。ベッドの上には椿が寝ており、部屋にはちょうど三脚の椅子がある。

>> 吾妻純様、大狼椿様、十姫雨桜様


【いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。あと、ちょっと訳あって駆け足になってしまって済みません。これから純さんと雪彦で話を進めますが、ほかのお二方はついてこれるでしょうか】

1ヶ月前 No.102

Nero @nerokichi ★Android=ibuMTFvydU

【黒瀬新/取調べ室】


 人の身体というものは持ち主である本人が思っているよりも己の感情に正直である。平静を取り繕うのは存外簡単な行為ではあるが、その実気付かないところで綻びが表れる。同時にそれは、決して一つに留まらない。
 内、最も扱い易いのは"表情"だ。視線が合うこと即ちそれ一点から読まれていると錯覚するのか、心の内を晒すまいと無意識の内に貌を構える。それは限りなく悪手だ。意識を集中した脳は言わずもがなその他の器官を制御する余裕が無くなる。特高第一課より訊問を遂行する者として出張る者がその瞬間を見逃す筈もない。
 だがこれらは至って普通であり、大抵はどう意識をしてもボロが出る。余程の知識と器量を仕込み、実行する冷静さと度胸がなければ当然だ。

「…………」

 黒瀬は眉を顰めて怯えの籠った瞳を見下ろす。

 目の前の少年は、明らかに前者────素人そのものだった。
 あれほど尻尾を見せなかったサングイスの重要な手掛かりとなり得る唯一の容疑者であるその男の第一印象は、全くと言っていい程"一般人"。声をかける前から俯いたまま目に見える程身体を揺すって例に習うような動揺を此方に示し、挙句己への問答として吃りの含んだ弱々しい啖呵を返してきた。その挙動が既に背後の存在を明確にしているだろうとは、恐らく知らずに。

 率直な感想とすれば、拍子抜けの一言だ。

(此処でわざと組織の存在を仄めかす利点は無い。演技にしても粗末が過ぎる。素の反応と見ていいが……年齢を鑑みるに切り捨て可能な下っ端か。確かに厳戒態勢の指定位置に要を送り込む愚策は取らんだろう)

 初めから確信をつけるような情報を得られるとは思っていなかった。多少でも手掛かりが炙り出せるならば十分だと、深く潜っていた思考の海から戻り、小さく吐き捨てるように息を吐いて再び言葉を落とす。

「その程度でよくテロリストに加担しようとしたものだ。ただの運び屋として雇われたのか、最近入り込んだ末端なのかは知らないが、此処で意地を張った後にどういう結末を想定している?」

 机に置いていた手を離して前屈みの状態から上半身を戻す。そのまま、機械のように靴底の音を響かせながらゆっくりと青年の横に立った。

「組織に尾切りは付き物だ。特に何も知らない若造や末端は使い勝手のいい駒な上、都合のいい思想と戯言を餌にすれば幾らでも釣れる。お前はまさにその一例と言っていい。────助けなど来る筈もないだろう」

 この言葉も所詮、戯言だ。己はこの男の正体も、立ち位置も、それどころか実際にサングイスと関わりがあるかどうかの証拠さえ有りはせず、怪しいとはいえ現時点では想定の範疇でしかない。

「それとも自力で逃げ出せると思ったのなら尚の事拍子抜けだが、まあいい。……そろそろ本題に移させてもらう」

 言葉の直後、今まで緩慢だった動作が嘘だったかのように素早く黒瀬の手が彼へと伸びて、彼のか細い手首を少々とも言わず強すぎるだろう力で自身の前まで掴み上げた。青年の強ばったその手の人差し指の付け根に己の親指を宛てがい、視線を容疑者たる彼へと戻す。恐らくはその親指に込められた若干の圧を感じて、青年はこれから起こる事を否が応でも予測させられるのではないだろうか。そんな相手の心情など知った事では無いとでもいうように、黒瀬はただ淡々と言葉を続ける。
 性急すぎるように感じる行動ではあるが爆破予告の時間まで猶予は殆ど残されていない状況で、その前に現時点でのサングイスの潜伏位置が割り出せる鍵はこの青年の発言くらいだ。とすればあまり悠長に構えていられはしない。

「二択だ。サングイスについての情報を全て話すか、"手始め"に指を折られるか、」

 どちらがいい。理不尽で冷徹な選択肢、その一つ目が青年をに突き刺さった。

>是枝、(涼宮、夢月)

1ヶ月前 No.103

深町渚砂 @poko10☆sMzkA8RPRfw ★Android=rp39lsupOA

【深町渚砂/庁内・取調室同フロア】

 人一人が通れる程度の細長い空間。壁には数台の小さなモニターが設置されており、その一つが暗闇の中で煌々と光を放っていた。そこに映し出されているのは取調室の風景。
 この場所は『存在しないはずの部屋』だった。この空間の存在は、特高一課の誰も、一課長の黒瀬新ですらも知らない。零課のための、否、国家が零課を使って警察を監視するための、ただそれだけのための場所。それ故に――爆破予告によって普段以上に緊張している警察庁であっても、零課の後ろ盾さえあれば、秘密裏に入り込むのは容易だった。
 一台だけ点いたモニターの前で腕を組み、渚砂は画面を睨みつけていた。萎縮しながらも白を切り通そうとする是枝正太。それを見透かし威圧的に迫る黒瀬。モニターに繋がるヘッドホンから、取調室での二人のやり取りも全て聞こえていた。

 ――容赦ねえな。

 特高一課長、黒瀬新。データ上ではこの男のことを十分過ぎるほど知っていたし、その評判を耳に挟むこともあった。だが実際にその姿を見るのは、先刻の議事堂前での数秒を除けば、これが初めてだった。
 正直なところ、是枝正太の手指の一本や二本、折られたところで構わなかった。黒瀬新は油断のならない男だが、今渚砂が挙動を危惧しているのは正太の方だった。彼がテロリストとして逮捕されようが、拷問を受けようが、それ自体は大した問題ではない。だが余計なことを口走れば――。
 情報屋の死体を画面越しに見た是枝正太は激しく怯えた反応を示していた。あれが諦めに繋がっていれば。そう願うが、正太が何を考えているか把握しきれていなかった。

 ――頼むから、頼むから何も語るな。

 どうにか、と勝手に動いてきたが、この場所まで来てしまっては彼を諭すことなどもうできない。ただモニター越しに是枝正太を監視することしかできないのがもどかしく、腹立たしかった。画面を睨みつけたまま、渚砂は無意識に歯を食いしばっていた。

>宛先なし
【こっそり取調室の監視失礼します。スレ主様には許可をいただいています。】

1ヶ月前 No.104

涼宮 衛 @sibamura ★KLeSUKumOF_iGf

【涼宮衛/庁内】

 取り調べ室でのやり取りは、隣室からはマジックミラー越しに克明に見え、さらに取調室に設置されたマイクによって音声も明確に聞くことができた。黒瀬の指が是枝の親指を捕らえる。

「くっ!」

 次に起こるであろうことに涼宮は歯噛みする。黒瀬は多少は考慮してくれるとは言ったが、仕事に対して情を持ち込まない男だということは涼宮も知っている。おそらく、是枝があくまで黙秘を続けるのならば、本当に折るだろ。そして、それでも是枝が黙秘をするならば、さらに……

「……」

 黒瀬のしていることは、一面では残酷であるが一面では国のためである。もしサングイスが更なる計画を立てていて、それを防げなければより多くの人が被害にあうのだ。大を救うためには小の犠牲はやむを得ない。ましてや、是枝は自らの意志でサングイスに入っているのだ。

「それでも……」

 頭ではわかりながらも取調室から目を背けようとして涼宮の耳に扉を開ける音が入り、びくっと身を竦ませる。

『「 わあ涼宮くん、さっきはお疲れ様あ、平気? 疲れてない? ほら、涼宮くんたくさん活躍してたみたいだから……あとでみんなでお疲れ様会しようねっ、僕、涼宮くんの紅茶飲みたいなあ 」』

 扉を開けたのは碧の瞳の青年、夢月 叶羽だった。その柔らかな声に一瞬毒気を抜かれた涼宮だったが、一瞬気を他に逸らしたのが功を奏したのが、気を取り直して取調室に視線を戻す。

「お疲れ様です。外は寒いですからね、温かいものとお茶で打ち上げと行きましょう。ただ……すみません。取り調べが終わった後でもよろしいでしょうか」

 そういう涼宮は、己の仕事から目を背けまいと心を決めた取調室の二人を見ていた。

>> 夢月 叶羽様


【お返事が遅くなり申し訳ありません。絡みありがとうございます】

1ヶ月前 No.105
切替: メイン記事(105) サブ記事 (88) ページ: 1 2

 
 
<< TOPページ 掲示板TOP 記事データ お知らせメール ▲ページ上 >>
★必ず ローカルルールメビウスリングのルール をご覧ください。
 ▼スタンプ▲スタンプ
※スタンプはいちどに 3個 まで使えます  ×閉じる
注…進行相談・設定はサブ記事をご利用ください(テスト中)。