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《 Enclosed Eden 》【募集終了】

 ( オリジナルなりきり )
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淑女×美少年/耽美/微SM風 @clock☆VeghuuvPddk ★ZoYtgKvDiN_Er4

 その日より、楽園は音をたてて壊れ始めた。

 ▼

 朝はやることがいっぱいある。外が明るくなるかならないかのうちにベッドから出て、昨日アイロンをかけてもらったばかりの服を着て、髪の毛がちょっとでも乱れていたらその場できれいにもしなくちゃならない。部屋を出たら、本当は駆け足で一階まで行きたいんだけど、家の中で走るのははしたないことだと教育係のドリーに言われている。だから長い廊下をできるだけ早歩きで通りすぎる。
 やっとの思いでダイニングルームに辿り着くと、今度は朝食を急いで、でもなるべく上品に見えるように食べないといけない。そうして速やかに部屋から立ち去るのだ。これが僕らにとっての朝だった。誰よりも早く朝起きて、誰よりも早く朝食を食べる。なぜならば、"ご主人さま"に食事の姿を見られることはとても失礼なことだからだ。
 部屋に戻ろうとして廊下を曲がったとき、ご主人さまの一人が視界に入った。

「おはようございます、ご主人さま」

 恭しく頭を下げてから顔を上げると、ご主人さまはすでに上機嫌だった。
 おはよう。いい朝ね。今日も元気そうね。今日もかわいいのね。しまいには頭まで撫でるものだから、僕も幸せそうな笑顔を浮かべて、ありがとうございます、と小さな声で言う。なるべく、なにかを告げるのでなく、歌うように伝えるのだ。かろやかに歌えば歌うほど、ご主人さまも気を良くしてくださるらしい。
 やがて満足した様子のご主人さまは僕に手を振ってダイニングルームへと向かった。僕はその背中姿を見て、もう一回頭を下げる。
 そして、ご主人さまの姿が見えなくなった瞬間、僕はドリーの小言も忘れて夢中で階段を駆け上がっていた。

「……っ…………っは、――――――クソ、触られた!」

 二階が僕ら専用のフロアで助かった。部屋に戻ってドアを閉めるや否や、触られてから痒くてたまらない頭がかっと熱を帯びる。触られた。触られた。触られた。触られた、あんな悪趣味な女の汚い手で。毎朝、顔を合わせるたびにそうなのだ。あの女は朝会うたびにかわいいねと笑いながら僕を触ってくる。
 それでも彼女のはまだかわいい方だ。もっと汚いところを触ってくる女はこの屋敷にはごろごろいるし、女から呼び出しがかかったかと思ったら必ずどこかしらに痣をつけて帰ってくる奴もいる。
 狂っている。狂っているのだ、×するだなんて。いっそのこと、今ここで喉を掻きむしって死ぬことができたなら。だがそれは叶わない。なぜなら僕には故郷に家族がいる。もう一度、ひとめでも彼らに会えるまでは、どうしても。

「………………っ、は、…………はあ………………」

 不意に視界が揺れて、へなへなと身体中から力が抜ける。倒れ込んだ床の冷たさが、熱くなった身体にはかえって気持ち良かった。
 ――疲れた。つかのまでいい、天蓋つきの高級ベッドなんかじゃなく、このまま眠ってしまいたい。

 思考が濁る。
 窓の外から誰かの悲鳴が聞こえた気がしたが、それが誰なのかを考える余裕もなく、意識は急速に闇へと落ちていった。

 ▼

『答えなさい。貴方は何者?』
『はい、ご主人様。私は貴方の人形です』
『貴方は何のために生きているの?』
『それは貴方にこの身を捧げるためでございます、ご主人様』
『私のこと、愛してる?』
『はい、ご主人様。この世界の何よりも』
『ふふっ、いい子ね。それじゃあ――』


“この足、爪の先まで綺麗にしてご覧なさい”

 ▼

 其処は深い深い森の奥。昼は光降り注ぐ楽園、夜は闇満ち満ちた地獄の果て。
 散っては咲き、咲いては散る無数の花弁。美しきは従者に、卑しきは主人に。それが如何に甘やかな世界であったとしても、甘い蜜に溺れる心算が無いならば、一体誰がこの閉じられた楽園で生きてゆけるというのか。


「捧げなさい。その肢体、その瞳、神様が貴方に下さった何もかもを」


 ――――――嗚呼、其処は、




      《 Enclosed Eden 》


【サブ記事へお進みください】

メモ2017/02/14 01:46 : 佐渡☆VeghuuvPddk @clock★OC0h87p694_DW4

《ストーリー》

1st event『ブレックファスト・ティーには遅効性の毒をひとさじ』>>1-68

2nd event『目隠し越しの目蓋に口付けしてごらん』>>69-143

2.5 event《 tea break 》>>144-177

3rd event『麗らかな午後にカタストロフの翳は手招く』>>178-282

4th event『さようなら夢、こんにちは悪夢』>>283-303

4.5 event《 Once Upon a Time ... 》>>304-369

5th event『終焉』>>370-432

Last event《 Enclosed Eden 》(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-712#a


《本編ルール/諸注意/ロケーション》http://mb2.jp/_subnro/15334.html-555#a


《キャラクター》

※募集は終了しました。ありがとうございました!


長女/アイリス・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-539#a

次女/キマイラ・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-132#a

三女/ベイリー・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-107#a

五女/エルデガルト・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-78,79#a

六女/グレイ・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-33#a

七女/フェリシエンヌ・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-523#a

九女/ノイン・ローゼンブルク(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-577#a


美少年/マリュー(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-90#a

美少年/ロキ(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-56#a

美少年/カナニト(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-112#a

美少年/リオネル(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-120#a

美少年/ロメア(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-384#a

美少年/エトワール(http://mb2.jp/_subnro/15334.html-512#a


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ししくれ @kmnkha☆/pH2qpQf7L2 ★ieluDUuGrE_ELg

【ロメア/大広間→裏庭】


 マダムの悲痛な叫びが耳を擘く。
 女王はその地位を投げ捨て、楽園は終わった。けれどその中で何人かは心の拠り所を見つけ、皆はそれぞれに守りたいものを持った。
 誰の目にも自分の姿は映っていないから、守るべき何かに自分が含まれていないことに、彼はすぐに気づいた。
 自分がそこに存在しないような、冷たく残酷なそれは、彼の心が唯一恐怖するものだ。だからこそ彼は無関心な人には干渉せずに、それから逃れて生きてきた。けれどこの狭い空間ではどう足掻こうとも、無駄だ。

 無関心な目は、昔を思い出させる。母は新しい家族を作り、息子である自分に割かれる時間は日に日に減っていった。
 母から与えられるのは暴言と暴力だけ。でも、それさえも愛だった。愛でなくてはならなかった。母から愛されない自分の価値を、見いだすことはできなかったから。
 義父は、そこにロメアという人間が存在しないかのように過ごした。それが、心底怖かった。無関心こそが愛と対になるのだと確信した。
 そしてそれならばやはり、母から与えられるものは愛であるのだと、自分に言い聞かせた。
 けれど所詮は幼子の浅い知恵。いろんな感情を捨て、見えるものも見ないようにしなければ、生きることはできなかった。


「……嫌、だなあ」

 涙が頬を伝う。誰かに応えるためにしか流すことのなかった涙。最後に自分のために涙を流したのはいつだったか、ロメアは思い出すことができなかったけれど、母といた頃は涙をこらえていたことを覚えている。その頃はまだ、自分のための涙が存在していた。
 けれどそんな涙たちは、誰にも触れられず流れ落ちていったのだろう。今、この涙を拭ってくれる人がいないのと同様に。
 そう思うとあまりにも悲しくて、それでいて酷くくだらなくて、自嘲気味な笑いがこぼれた。それは今までに彼が持ち得なかった表情であったが、幸か不幸かそのことに気付けるほど彼の頭は冷静ではなかった。


 分離したもう一人の自分が囁く。
 "もうそろそろ、愛してあげたらいい。母に捨てられても泣けなかった愚かなあの頃の自分自身を。そして、自分に課せた、愛されなければ生きる意味はないという悍しい呪縛を解いてあげたらいい"と。


 過去を直視してしまった今、母からは愛されていなかったと認めざるを得ない。しかしそれでも怒りや憎しみはない。母はそうする他なかったのだと、思う。
 この先私には何かに激怒したり、何かを憎んだりすることは困難だろう。私は一生異端者のままかもしれない。けれどそれでもいいのだ。過去に囚われて生きてきた今までの道のりを消し去ることはできない。暴力が純粋な愛と混在する人々がいることも知っている。これからも私は、自分を必要としてくれる誰かに尽くして生きていくだろう。
 けれどもう、憎悪を愛と呼ぶのはやめにしよう。憎悪は無関心より数段素敵な感情だけれど、それは決して愛ではない。



 ――彼を縛っていた呪いは解けた。彼は自由となり、そして、自らの意思で愛に尽くす道を選んだのだ。



 ふいに外の空気が恋しくなって屋敷を出た。冷たい空気によって、彼の思考がっはきりと明瞭なものへとなっていく。踏ん切りのついた今の彼にとって、それはとても心地よいものだった。寒さは感じるものの、コートのおかげでいくらか緩和され、出歩くのに差し支えはない。ロメアはこの気分をゆっくりと味わいたくて、裏庭へ行くと、ベンチに腰掛け、美しい星空を見上げた。
 その顔には幼い頃には浮かべることの叶わなかった、清々しくて明るく、とても愛らしい笑みが湛えられている。


 >>ALL様

1ヶ月前 No.419

絡繰 @ne9rodoll ★wgm3NQbNwV_glG

【アイリス・ローゼンブルク/大広間→裏庭】

 耳を塞がれたリオネルはきょとん、とした顔。酷い顔をした私と聞こえない呟きで表情を曇らせていたが、ふと手が伸ばされたかと思うとまるで真似っこをするようにリオネルの手が自分の耳を塞いでいた。じわり、と耳を伝ってきた子供らしい高めの体温に涙が出そうになる。続くイライザの告白も種明かしも、添えられた彼の手のおかげでハッキリと聞くことは叶わなかった。それは目の前の彼も同じようで、心の奥で安堵する。これ以上、なにも聞きたくない、と思ってしまっていた。それでも耳に入った、イライザの「奪う」という言葉。視線を向ければ妹の唇を奪う何とも倒錯的な光景。ぐらり、と眩暈がした。リオネルが擽ったそうに身を捩ったのを感じ、どうしたのかと視線を向けようとした瞬間、辺り一帯は強烈なまでの閃光に包まれた。頭ごと揺すられるような光に視界に星が散る。すると目の前のリオネルが耳を塞いでいた手をすり抜け、その腕が自分の後頭部に回ってきたことを感じる。抱き着かれたのか、と碌に目も見えないまま認識し、安心させるように彼の背中をぽんぽんと優しく叩く。何度か視界を慣らすように瞬きをすれば、あの白い魔女と共に大切な妹二人が消えているのが分かった。あぁ、貴方はまた私の大切なものを奪っていくのね。日常を、母を、妹を。取り返さなきゃ、そう思っても馬鹿みたいに力の抜けた足では追いかけることすら出来なかった。もうとっくに、手遅れだったんだから。今更取り返しようないじゃない。そんな諦めと失望だけが折り重なる躰が思い通りに動くはずもなく。抱き締めたリオネルの体温だけを逃がさぬようにとぎゅうと閉じ込め、脱力した身体のまま座り込む。

 すると、耳を劈くような絶叫。その声の主は、かつて私が愛した、母だった。怯えるように髪を振り乱し、我を忘れ大広間から逃げ去っていく。その背中は自業自得としか形容できない憐れに狂った女でしかなく。酷く失望した。長女として私に重圧をかせた、良い子ね、と頭を撫でてくれた、そんな私が愛した女王の姿は消えてしまっていた。嗚呼本当に、壊れてしまったのだと、無性に泣きたくなった。大事に大事に手の内の籠に閉じ込めていた妹は消え、愛していた気高い母も消えてしまった。じゃあ、わたしは、いままでなんのために。こんな簡単に崩れ去ってしまうもののために私は”姉”になったのか。私は存在のすべての意味を失った気がして仕様がなかった。しかし、まだ頭の冷静な部分が語りかける。自分は長女だ。母が狂乱した今、皆を纏め上げ、この家を動かし、守る権利と義務があるだろう、と。そんな思いから抜けた力を入れ直そうと自らを叱咤する。でも、妹が居ないローゼンブルク家を守る意味などあるのか?愛した人が居なくなってしまった、一度崩壊した楽園を立て直すなんてことする意味があるのか?そう考えた途端、再びどうしようもない虚脱感に襲われる。唯一つ目の前にある温もりを確かめるように、狂乱の母を見てその顔いっぱいに不安を象るリオネルを強く抱きしめた。こんな情けない顔を、見られぬように。

 この場に居たくない。逃げてしまいたい。そんな甘えたな欲求が私の足を動かした。リオネルにだって、もうこんな狂った家の為れ果てを見せたくはなかった。小さく「大丈夫だよ、」と抱きしめたリオネルの耳元に酷く穏やかな声を落とし、そのまま彼の腰の辺りに手を添えて抱き上げた。流石に子供と言えどそこそこの重量はあったが、自分も決して非力ではない。彼を抱っこして歩くことくらいは出来るだろう。そのままリオネルを腕に抱き、あやす様に背中を擦りながら大広間を後にした。ふと、背後から聞こえたヴィヴィニィの高らかな声は、聞こえない振りをした。もうこれ以上、自分の手の内に居ない妹を知ってしまいたくなかった。
 特に目的もないままリオネルを抱え、ふらふらと辿り着いたのは裏庭。空は憎たらしいほど星が煌めいていたが、大きな月は雲に覆い隠され、この屋敷を照らすには少しばかり光が足りない。裏庭のベンチへ歩みを進めると、そこにはロメアが居た。未だかつてこの屋敷にいる間見たことのないような晴れやかで愛らしい表情をした彼は、幾分かその年齢より幼く見えた。

「やぁ、先客が居たか。こんな寒い中星見なんて、君もなかなか粋なことをするねェ。」

 飄々と何時もと大して変わらないような口調でロメアに話しかける。星の明かりに照らされた彼の目元に涙の痕があったのは、見ないふり。そもそも私にとって少年たちはこの屋敷の変容の要因であるようにも感じていて敬遠しがちな存在だったが、全てが壊れた今となってはもうどうでもいいと思えていた。今の私は、身体に大穴が空いたような、空っぽの気分でしかなかったから。「お隣失礼。」と相手の返答も待たずに図々しくベンチに腰かける。抱っこしていたリオネルを降ろし、防寒のためにと自分のジャケットを脱いでそのままリオネルに羽織るように着せた。ベンチに座った自分とロメアの間にポンポンと手を置き、「ハイ、ここ座ってー」と少しおちゃらけたような口調で彼を誘導する。

「リオネルくん、ごめんねぇ。こんな寒い場所に付き合わせて。向こうは大丈夫だから、お姉ちゃんとちょっと気分転換しましょ?……どれ、そのジャケットのポッケを探してご覧。きっとイイものがあるよ。」

向こうは大丈夫、なんて、そんなはずはないのに。私はまるで自分にそう言い聞かせるように、全てを放棄した自分から逃げるようにくしゃくしゃの笑顔のままリオネルに言葉を紡いだ。先ほどリオネルに羽織らせた私のジャケットのポケットにはミルク味の飴が入っている。不安と恐怖に塗り潰された彼の気分を少しでも和らげることが出来たらいいのだが。ふと、見上げれば空に一面の星。それをただ茫然と見つめる私は長女としての威厳もなにもあったもんじゃないだろう。冬の澄んだ空気と冷たさが、今の自分の喪失感と孤独感を一層際立て、じわ、と視界が滲む。あぁ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。どうして私はまた独りぼっちなのだろう。どうして私は連れ去られた妹も、逃げた母も、追いかけられなかったんだろう。ここが崩れて、”長女”としての自分が居なくなったら、私はどうやって生きればいいんだろうか。押し寄せた数々の問答に胸が痛んだのを誤魔化すみたいにリオネルを挟んだ隣のロメアに声をかける。

「随分とあか抜けた顔してるみたいだけど、良い事でもあった?……それとも、この屋敷が崩れたから、君たちは外に逃げることが出来るのを、喜んでいるのかな。」

何の嫌味も皮肉も混じっていない言葉。そうだ、元々彼らは望んでここに居る人間ばかりではないだろう。この狂気塗れの女たちに辟易してる者だっているはず。そんな箱庭が崩れた今、彼らは自由の身だ。好きなところへ行って、好きなことをしても、誰も咎めやしないだろう。あぁ、屋敷の外に、か。私も、そんなことが出来るんだろうか。ここを出れば、”長女”じゃない自分を見つけることが出来るんだろうか。外に出て、普通の人間として、人を愛し、子を授かり……なんて。出来る訳がない。三十路直前までこんな楽園に閉じこもったままの女が、平凡な人生など、歩めるはずもないんだから。でも、そうすると、リオネルもここから去っていってしまうんだろうか。こんな哀れな女の傍に居てくれる、純真で無垢な子供を縛り付けることなど出来ないって分かっている。でも、この暖かさを失うのは、寂しいなぁ、なんて。どこまでも愚かな寂しがりの自分に自嘲気味の笑みを零しながら隣に居るリオネルの頭を優しく撫でた。

リオネル様、ロメア様、周辺ALL様>>

【長女の役割もなにもかも放棄していて申し訳ありません……。そして、リオネルくんにはかなり確定ロルっぽくなってしまいました…本当に申し訳ございません。】

1ヶ月前 No.420

とと田 @totototo☆pZFOWxlGRjQ ★Android=4OhkCRUD6l

【ベイリー・ローゼンブルク/大広間】



 こちらに向けられた銃口に体が固まった。息が詰まって声が出なくなる。しかし、イライザはこちらではなく、更に奥のカナニトを見据えているようだった。
 そして、カナニトを誘う言葉。イライザの声に含まれる甘さと背徳感に酔いしれそうになる。彼女の話すことの中身は、ベイリーにはほとんど理解できるものではなかった。二人だけが解りあえる何かが、そこにあるらしかった。自分の知らない秘密のようなものが生まれているのだと分かった。

 後ろにいたカナニトがこちらに来る。行くのだろうか、と他人事のように思った。ベイリーにはそれを引き留める術がなかったし、その必要もないと感じていた。脳裏に思い浮かぶ、狂おしくも美しいイライザと共に歩むカナニトの姿は、心の琴線に触れるものがあった。
 しかし、カナニトの足は動かない。どれだけ待ってみても、ベイリーの横に留まるばかりだった。ベイリーは恐る恐る視線を動かし、カナニトの表情を垣間見ようとした。が、それは叶わなかった。再度轟く銃音に肩を跳ねさせ、両目を強く閉じる。間もなく瞼越しに眩しい光を感じ、収まった頃、そこにイライザはいない。悲鳴が響いて、エルザが取り乱しながら部屋を飛び出す。各々の行動をとる周りの人々。全てがゆっくり進んでいるように見えて、けれど一瞬の出来事で。

 横でカナニトが笑った気がした。こちらを見ようとはしないので、ベイリーも前を向いたまま黙った。何か、言いたいことがあるようだった。

 恨みごとだろうか。いや、別れの言葉かもしれない。そうだ、ドッグタグを返さなければ。もしかしたらこれを受け取っていなかったから、イライザのところへ行けなかったのかも。もしそうなら悪いことをした。
 そんなことを考えながらベイリーはドッグタグを取り出そうとケープを脱ごうとする。しかし、続くカナニトの言葉に動きを止めた。



「…………え?」


 ドッグタグよりも、欲しいもの。

 最初、内容が頭に入ってこなかった。しばらくして、やっと言葉を飲み込めるようになると、さっと血の気が引いていくのが分かった。
 ベイリーが一番恐れていることが起きてしまった。変わってしまったのだ、この子も。大切なものが変わるだなんて、よくあることなのに、失念していた。ドッグタグより……それって一体、何なのだろうか。全くもって思い付かなかった。それも当然。ベイリーはドッグタグを彼の手のひらに納めることこそが幾分かの懺悔になると思い込んでいたのだ。ドッグタグのみが彼に対する唯一の免罪符だと、すがったままここに来てしまった。それが誤りであると告げられたのだと解釈したベイリーは、重い衝撃を受けた。激しく撃たれるようなものではなくて、じわじわと沁みてくる絶望だった。

 変化を覚悟していたとはいえ、まさかこんな形で現れてくるとは、予想していなかった。いや、油断していた。赦されたい、という利己的な考えに眩んで、彼のことを見ていなかった。ベイリーも結局は己の希望的観測に甘えていたのだ。


 何か言葉を返さなければ。こういうとき、ベイリーはいっとう不器用な人間であった。あの嵐の夜、気まずさを無くそうと必死に口を開いたものの、上手く回らない頭のせいで知られたくない昔の自分について漏らしてしまったことを思い出す。あんなのはもうどうだって良い。どうだって良いから、今この状況で絶対にしくじらない方法と、それをこなす器量が欲しかった。



「そう、なの……? でも、ドッグタグ、あんなに大切そうにしてたじゃない」

 こんなことが言いたいんじゃない。

「あ、そういえば……行かなくても、良いの? イライザと……約束していたことがあるんでしょう? 貴方のこと、悪いようにするみたいには見えなかったけれど……」

 これも違う。

「わたしもお母様を探しに行こうかしら。きっと何か盛られてしまったのね。あんなに取り乱して苦しそうにして……屋敷の外に出ていたら危ないわ」

 そうじゃなくて!

「さっき銃を向けられたとき、体中の血が冷たくなっていく感じ……あんなの初めてでびっくりしちゃった。あれで撃たれたらきっと痛いだろうなって、あのとき呑気に思ってたの。貴方のたくさん持ってる傷……もしかして撃たれたときのものもあるのかしら、なんてね。わたし、何にも知らないもの……あ、違うのよ、話せって言ってるわけじゃないの……そういうことじゃ、ないの……えっと…………あのね、だから、だから……………………あっ」

 ベイリーは咄嗟に己の口を両の手で塞いだ。敬語が完全に外れた自分の口調に、今更ながら気がついたようだった。
 首筋を冷たい汗が流れていった。繕っていたものが綻んでゆく、メッキが剥がれてしまう、溶けだした氷が水になって、まるで銃で撃たれたかのように穴だらけになった心から漏れだしていく、そんな感覚。
 ベイリーは大きくゆっくりと深呼吸をして、俯いたままその場にしゃがみこんだ。それは分の悪い子供が自身の弱味を隠そうと必死になっているような、端から見れば痛ましさや羞恥さえ覚える、幼い行動であった。口元を押さえていた手を緩め、ベイリーは喉奥から「ごめんなさい」とか細い声を出した。


「わたし、持ってない……。貴方の欲しいもの、分からないけど。きっと持ってないわ……」



>>カナニト、ALL


【ぎりぎりな上、無駄に長ったらしくてごめんなさい……】

1ヶ月前 No.421

はいせ @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=Mc4I8W9x1c



【アン/大広間】


 ――いったい、誰を許したいのか。

 背にした女王の言葉は、アンの心を貫いた。銃声が響き辺りが光に包まれても、マダム・エルザの絶叫が響いても、各々が各々の意思で動いていても、アンは身体を動かすことが出来なかった。喉が乾き言葉が発せない。パープルアイは動揺に揺らぎ、床を凝視するその眼に自分を殺そうとした母親が映った。
 許したかったのは、許せなかった母親だ。過去の人をマダム・エルザに重ね、後悔を精算したかっただけ。見えていたようで見えていなかった事実、無自覚なようで自覚を避けていた真実。愛を求めず与えないと言いながら、殺意を抱かれてもなお母親に愛されたくて、許したかった己の醜さをあの人は見抜いたのだ。

 矛盾めいた、幼い、自分勝手な思考。醜い自分が暴かれ、晒され、美しいはずの己の価値が低くなる。マダム・エルザが、この楽園が壊れてしまったら、自分はどこで生きていけるのかと保身に走ろうとするその、みにくさ。前の世界は生きていけなかった。この世界でなら生きていけると思ったのに、崩壊の音は鳴り止まず徐々に大きくなっている。ぐ、と両手で頭を抱えるように押さえてアンはその場に崩れ落ちる。白いコートで体を包み、小さく丸くなる。

 変わって欲しくない、永遠が欲しい。崩壊なんてして欲しくない、このまま、ずっと――!

 胸の内を焦がす初めての激情のまま、くちびるを強く噛む。整った並びの歯が赤に染まる。くちびるを伝い流れる赤は白い肌を汚し、顎を伝いじわりと包帯を汚す。歯軋りの音が低く響くほどの力は、それだけ彼がこの崩壊を憎んでいる証である。

 混乱し疲弊した心は、一縷の希望に気付く。イライザは、キマイラに膝を折っていた。それは主に対する従者のようだった。マダム・エルザにさよならといった彼女、そしてその彼女が膝を折ったあのひとなら、あのひとたちなら――もう一度、繰り返すことができるのではないか。稚拙で自分の欲を満たすだけの考えに辿り着けば、ふらりとアンは誰かに操られるように、亡霊のように立ち上がる。

 愛などいらない、与えない。ただ確固たる不変なる永遠が欲しい。


「――もう、いちど。」


 其処がたとえ、罪に塗れた地獄だとしても。閉ざされた楽園が、欲しい。


>>大広間all

1ヶ月前 No.422

イライザ・リー @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE

【イライザ・リー/マダム・エルザの部屋:バルコニー@、A、B】


 Lunatic(狂気)、それは舞台上で哀れに踊る道化達の末路。

 美しい満月の夜には、殺人の件数が増えるという。月は人間の獣としての本性を眼覚めさせ、血に狂う本能の狂気を呼び覚ます。
重苦しい雲は流れ、夜空はようやく晴れていき、煌々と月光が降り注ぐ。悍ましい程に煌めく、魔性の月の下で。鉄壁の白と戦慄の紅に彩らせた狂女、イライザ・リーは月下のバルコニーに集った〈役者達〉の顔を見て、いっそ清々する程の悪意を孕んだ微笑を浮かべてみせた。
その顔は月明かりに照らされてますます白く、全てを飲み込んで覆い尽くす雪のごとく。故に深紅のドレスはますます際立って、時折風に靡く様はまるで地獄の業火を纏うかのよう。

 ああ、役者も演出を上々、いよいよ物語は佳境だ。

『口説くのが下手だね、御嬢さん。――でもいいよ。遊んであげる』

「口説いた、のではなく、招いたのですわ、わたくしが貴台を。結構、此処からは遊戯と参りましょう……互いの生命を代償に、この世で一等、快楽に溺れる賭けを」

 ゆっくりと、まさに卓越した手腕を秘める役者のごとき足取りでまずバルコニーに現れたのは、美少年の一人であるエトワール。元から常に演じ続け、イライザから見ればそもそも〈己〉という核が見受けられなかったエトワールだったが、今は少しばかり雰囲気が違う。
 先程大広間を去る際に彼に掛けられた言葉を思い出したのか、イライザはぎしり、と首を傾け、蛇が眼前の雛鳥を喰らおうとするかのように彼を見据える。

「嗚呼、そうですか、召し上がられてしまったのですね、あの御方は。ベラドンナには、精神を狂わせる力、あります故。最早、正気には戻れぬでしょう…………わたくしを、必要としなくなった〈もの〉など、もういらない。そうですね、かけがえのない者に悪夢(プレゼント)を贈る時、貴台はどんな顔をしたのでしょう? 汚らしい男達に愛撫される時、年端もいかぬ少女の命を散らした時、愛しいグレイ嬢には見せられぬ、貴台の本性を曝け出していたのでは? ねえ、エトワール、――――いいえ、シュテルン=v

 エトワールの言葉に、先程微かに聴こえた悲鳴を思い出して、イライザはにやぁり、厭らしい笑みを深める。
愛してくれない者など、自分を求めない者など、イライザには最早不要だった。常に、いつも、誰かの一等大切なものでありたかった。失いたくないと、そう言わせたかった。そしてその望みは、遂に今まで一度も叶いはしなかった。
そう、誰もが予想した通り、マダムが口にした水の中にベラドンナの猛毒を混ぜ込んだのもイライザであった。あのタイミングであの場所に自分のグラスがあれば、マダム・エルザは必ず水を欲する。長い間マダムの傍らに居たからこそ、彼女の行動を予測する事などイライザには容易かった。

 エトワールの瞳の奥に、何かが横切ったように見えた。それは恐らく後悔や、過去の亡霊、それでも捨てる事を許されぬ記憶の数々。それを読み取ったからこそ、イライザはあえてグレイに聞かせるように滔々と、演説じみた口調で語っていく。
そして最後に、忘れ去られた筈だった禁忌の名を呼んだ。イライザは知っていたのだ、エトワールの過去を。少年達が屋敷に買い集められた後、イライザはマダムの依頼により、あらゆる手を使って少年達の素性や過去を調べ上げていた。だからこそ、イライザはエトワールの本性を引き摺り出したかったのであろう。その名の通りきらきらと光り輝く一等星のように麗しい、この少年の奥底に隠された、血腥い暗黒の過去を。

「先程、申した筈。欲するなら、奪い返してみては如何?」

 イライザは相変わらず足音一つ無く歩み出すと、人形と化した哀れなルイスが腰掛ける椅子の後ろへと回り込む。椅子には、三本の剣が立て掛けてあった。イライザはその中から、特に軽く扱いやすそうな物を選ぶと、床に置いた後、エトワールの方へ強く押した。剣は大理石の床を滑り、エトワールの爪先にこつんと軽く当たって止まる。

「言葉はいらない、そう仰るのであれば、猶更に」

 残された二本の中から、イライザは比較的短かめで細身な剣を選んで手に取る。そしてふっと唇を歪め、挑発するかのように片手で上げて二度、三度と手招きしてみせた。

 続いてバルコニーに現れたのは、見た事の無い深い紫色のドレスを纏った五女エルデガルド。人間よりも人形をこよなく愛し、ある意味真っ直ぐに、しかしどこか歪みながらも宝石のように美しい瞳を輝かせていた少女。
あまり接点は無かったものの、イライザはこの人形狂いのご令嬢を愛らしく感じていた。人間は美しい、しかし人形の完成された美も無論捨てがたい。だからこそ、イライザは〈人間を人形にする〉術を生み出し、そして選んだ。
 彼女とは分かり合えるのではないか、イライザは密やかにそう思っていたのだ。

「これはこれは、エルデガルド嬢、ご機嫌麗しゅう。相変わらず、今宵も大層お美しい。菫の色をしたドレス、大変お似合いですわ……あらあら、そのような物を手にされて、どうなされたのです? 此処は危のう御座います、どうか居室にお戻りになり、お人形遊びに興じていて下さいませ」」

 まるで普段と変わりのない、現状を忘れたかのような、軽やかで楽しげな口調でイライザはエルデガルドに微笑み掛ける。ご機嫌が麗しい筈などない、しかし馬鹿にした様子でもなく、あくまで猫撫で声で優しく。
イライザは彼女が手にした裁ち鋏と針に目をやり、わざとらしく、さも驚いたという顔をしてみせる。そして最後の最後まで普段の調子を崩さぬまま、片手で部屋の出入り口を示すと、自分の部屋に戻るようエルデガルドに告げた。口調は穏やかままだが、その血液の色をした隻眼は爛々と強く煌めいて、有無を言わさぬ威圧感を込めている。

 さあ、またただのお人形に戻るがいい、エルデガルド。

 そう言いたげな、異様なまでの重々しさを感じさせる一言だった。
 だが、ふとイライザは側のキマイラに目を向ける。そして一瞬、この世のものとは思えぬ程残酷に、口角の片側のみをきつく吊り上げた。

「……いえ、お人形遊びの前に、ご姉妹で遊戯を為さるのも、素敵かもしれませんわね」

 イライザが恍惚とした熱っぽい目で、うっとりと瞳を向ける、その先。キマイラは、あまりにも美しかった。月明かりに照らし出されて、上気し朱に染まる頬も、熱く潤んだ紺碧の瞳も、風に流れる黄金の髪も。ヒールを失った足はその指先までも、まるで人魚の鰭が姿を変えたかのように滑らかに白く。幼い少女のような無邪気さ故に、彼女の姿は今や原初の美を体現していた。

 嗚呼、時よ止まれ、汝は薔薇より美しい。

「あなた様ならば共感して頂ける、そうわかっておりました、キマイラ嬢。あなた様は我が同志、我が共犯者、そして今やわたくしのたった一人の我が主我が君。わたくし、先程の言葉を訂正致しますわ……地獄の天使とは、あなた様のこと。この救済無き、天魔の戯言で創造されし世界で、あなた様こそが、麗しき死の天使」

 死して尚朽ちる事すら許されず、白亜の亡霊に弄ばれたルイスの亡骸に、まるで欲しかった玩具を手にした幼子のようにはしゃぐキマイラ。その姿こそが、イライザにとっての至上の理想であり、思い描く至高にして究極の〈美〉だった。
 こちらを嬉しげな笑顔で見るキマイラに、イライザは軽く頷き掛けると、まるで幼子を見る母親のような微笑みを浮かべてみせる。その笑みの裏に、あまりにも邪知暴虐な企みを隠して。

 エルデガルドの姿に目を見開いたキマイラの、彼女らしくない大きな動揺。その混乱を感じ取り、ますます凄惨な笑みを深めたイライザは、ルイスの椅子に立て掛けてあった最後の一本、重厚にして豪奢な金銀や宝石の飾りが施された、キマイラによく似合う剣を手に取る。後ずさる彼女に、イライザは恭しい手付きで剣を差し出した。

「さあ、我が主、今こそ、清算の儀式を成すべき時です。わたくしは、あなた様を新しい、まことの我が君と選んだ。ならば、あなた様もわたくしの主人となる、揺るがぬ決意を見せて欲しいのです、このわたくしに」

 今まで見せた事もない儚げな微笑を浮かべるキマイラに、イライザはほぼ強制的に剣を握らせた。ずっしりと重く、生命の若芽を刈り取る為だけに存在する、あまりにも美麗な凶器。

「――――エルデガルド嬢の首、その手で刎ねて下さいませ。紅き血の契約は、その刹那、永久に結ばれるのです……我が主とわたくし、未来永劫、途切れぬ鎖が。さあ、さあ、さあさあさあさあ、――死を、地獄を、わたくしに観せて下さいませ、我が君キマイラ・ローゼンブルク様……!」

 まさに鬼畜の所業。ぎらりと血の紅をした瞳を輝かせ、有無を言わさぬどす黒さで、イライザはキマイラを見据えて。ぎいっと牙を剥くように、あまりにも獰猛に笑った。

 そしてイライザは、ルイスの亡骸を目にして膝から崩れ落ちてしまったグレイの側へと歩み寄る。恐怖からか、衝撃故かがくがくと大きく震えるグレイの背後に屈むと、その後ろからそっと寄り添う。片手をグレイの腹部に回し、彼女の背中にそっと身を預けて、体温を感じさせない冷たい顔をその背に猫のごとく摺り寄せる。一度剣を床に置くと、意味を成さない不規則な言葉と熱く乱れた息を吐くその口元に、そっと指を当てる。愛撫するように柔らかな唇を柔らかく撫でると、ひんやりとした指先をその口内にごく浅く押し入れる。ふわりと、香りの良い花の蜜のような甘さが、その口内を支配する事だろう。

「…………グレイ嬢、わたくしの指、お吸いなさい。強く噛んでも構いませんわ……あなた様が落ち着く為なら、わたくしの凍れる血潮、啜りなさいませ」

 指を吸う、それは過度な寂しさや恐怖などストレスを抱えた子どもの行動。それは母を求める欲求の代行、精神的な安定を求める行為。イライザはそれを知っているからこそ、あえて背徳的な行為に及んだ。グレイを子ども扱いしている訳ではなく、彼女をそれほどまでに深く愛しているが故に。狂った熱を孕む、しかし静かで歪な愛情表現。

 そうしながら、イライザはグレイの腹部に回していた腕を離し、その手で彼女の両目を優しく覆う。彼女が恐れるルイスの姿が見えないように。彼女の心に平穏を齎す為に。

「恐怖、感じますか? そう、あれは人形などではない、墓を暴き、わたくしが〈施術〉を施し、ルイスは永遠に存在し続ける存在と成ったのです。それは悪意や好奇心のみの行為では御座いません、彼を殺めながらも、彼を求めて狂おしいまでに心を乱す、マダム・エルザの為に。わたくしは、マダムの最も愛した少年を、永久に生きたままにしたかったのです。それに……グレイ嬢、わたくしには、愛おしいあなた様の心、手に取るように見えるのです……美しいでしょう、あの少年は、死しても尚あんなにも高貴なる美を体現し続けている。あなた様も憧れませんか? あのように、その美しさ、久遠にしたいと思いませんか……わたくしと共に参りましょう、そうすれば、わたくしはあなた様を永遠に愛し続けます」

 グレイが存在を許されぬ〈地獄の天使〉を恐れる感情、そしてそれに美を見出してしまう加虐的ともいえる美学。彼女の思考からその全てを見抜いて、イライザはあやすように、子守歌を歌うような優しい響きで、グレイの耳元で穏やかに囁き続ける。眠りに誘うような、その甘美なる誘惑。
 グレイの背から顔を上げると、イライザは彼女の首元に唇を近付け、その肌に唇を寄せる。そしてふいに小さく口を開くと、その首に牙のような犬歯を突き立てる。小さな傷が付き、ぷくぷくと紅い小さな液体の玉が浮かぶのを、淫らな舌使いで舐め取っていく。
 それは暗く強烈な独占欲の表れ。粘着質で、あまりにも獣じみた、闇の底のごとき欲望。

1ヶ月前 No.423

イライザ・リー @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE

 その時、イライザはふっと空気が揺らぐのを感じた。同時に、大空へと舞い上がる勇猛な翼。気高き猛禽類に誘われるように、あまりにも堂々と見事な歩みでバルコニーに現れたのは、四女ヴィヴィニィ。誇り高い真の淑女にして、薔薇の一族で一番の女優たる彼女を、立ち上がったイライザは高らかな拍手で迎えた。

「なんとお美しい、最早あなた様は、存在そのものが美の極限……ようこそ、終幕直前の舞台上へ、最大限に歓迎致しますわ」

 赤黒く染まった艶やかな彼女の唇を、イライザは爛々と紅く煌めく瞳で見据えながらさも楽しげに告げる。まるで舞台の主役、正義の騎士を魔城へ迎え入れる、最後の魔物さながらに。

「〈剥製〉? 〈これ〉が、ただ防腐処理を施しただけの、惨めで哀れな骸(むくろ)だと? …………残念ですわ、本当に残念です、ヴィヴィニィ嬢。あなた様程の御方であれば、〈これ〉がただ人形を模した屍などではないこと、必ずや気付いて下さると、そう思ったおりましたのに」

 大きな、深い溜息。イライザが、久方振りに人々の前で明らかにした、作り物でない感情。それは、失望だった。
 ふいに一切の笑みを消し、仮面のような無表情になったイライザは、人形と化したルイスの背後に歩み寄る。そして、椅子に腰掛けたその亡骸の、首の辺りに手を持っていく。今まで誰も気付かなかっただろうが、首のちょうど盆の窪(ぼんのくぼ)と呼ばれる辺りに、何やら金属のスイッチのような物が見えた。イライザはそれを親指と人差し指の先で摘まむ。

「あなた様も結局〈そちら側〉でしかなかった、そういう事ですわね。それでは……本物の悲喜劇(トラジコメディ)、観せて差し上げましょう」

 その指先が、ぱちん、とスイッチを起動させた。

 最初は特に変化は見られなかった。しかし何処からか風が唸るような小さな音がし始めると、ルイスの亡骸、その指先がほんの微かに震え始める。やがて奇妙な音が大きくなるにつれ、小刻みな震えは全身に広がり、そして、ふいにそれがぴたりと止まった。

 風が止み、甘い薔薇の風を孕んだ夜風が吹き抜ける。


 前触れなく、唐突に、亡骸が大きく眼を見開いた。


 絶対に動く筈のない亡骸はすっと顔を上げると、虚無しか存在しない硝子玉の蒼眼を虚空に向ける。ひどくぎこちない動作でその両手を自身の胸に当て、祈るように組んでみせた。そして、その人工的な薄桃色に着色された唇が、天使のように可愛らしく空々しい笑みを模る。


『僕はあなたを愛しています、だから僕を愛して下さい、永遠に』


 掠れ、歪み、軋みながら響く、その声。機械的で、抑揚のないその声は、しかし紛れもなくルイスのものだった。

「――ヴィヴィニィ嬢、これでも、まだただの〈剥製〉だと仰れますか? 〈これ〉は医学と、科学と、化学(ばけがく)の結晶。人体を知り尽くすだけではまだ足りない、機械工学を学び、薬学を極め、駆使する分野は神秘学にまで及ぶ。いわば人の成し遂げられる集大成、英知の結晶、錬金術の類(たぐい)……魔を恐れず、神をも超えた、わたくしの創造せし久遠」

 イライザの口元からひどく珍しく、弾むようで、しかし密やかな笑い声が漏れ出る。最早ひと時も、歓喜と快楽に耐えられないというように。

「人形は人形を憎悪し、人形は人形に牙を剥き、人形は、生を死に変え…………死を喰らって永遠に生きる、生き続ける。永遠など、今までこの世に存在しなかった。平穏も、幸福も、静寂も。永久に続くものでは、決してありはしなかった。いずれ終焉が訪れる、どのような舞台であれ、いつか必ず終演を迎えるもの。けれど、しかし、わたくしは現世の節理を覆す。ルイスの死は、そして新たななる生さえも、所詮、未だただの通過点に過ぎない。わたくしは抗う、抗い続ける、いずれ必ずや終わらない終わりを手にしてみせるのです。その為にわたくしは世界を巡る旅に出るのですわ、我が心が何よりも愛するグレイ嬢と、仕えるべき君主たるキマイラ嬢と共に。世の裏も影も暴き、理(ことわり)に背いて、わたくしの夢観る〈久遠の美〉を世界に齎す為……その暁に、麗しきグレイ嬢、美しきキマイラ嬢を、わたくしの手で永遠の存在にする為に」

 かりそめの命を吹き込まれたルイスが、その華奢な足で立ち上がる。ふらふらと、覚束ない生まれたばかりの小鹿のような足取りで一歩進み出ると、演技な上手でない道化師のような仕草で、胸に手を当て人々に一礼してみせた。

「過程、とはいえ、それをたかが〈剥製〉と、斬り捨てられるのは悲しゅう御座いますわ、ヴィヴィニィ嬢……その上、気に食わない? 排除する? わたくしの、わたくし達の、これから始まる旅の障壁となるおつもりなのですか?」

 それを満足げに横目で見ていたイライザだったが、燃え盛る焔のような形状のフランベルジュを構え、臨戦態勢を示すヴィヴィニィに、にいっと不敵な笑みを向けた。

「ならば、たとえ我が愛しき十姉妹が一人である、四女ヴィヴィニィ・ローゼンブルク、――あなたであれ、わたくしは、許しはしない」

 すらりと、手にした剣を鞘から抜き放つ。三日月を宿したような弧を描く蒼い刀身が月光を受け、狂奔を呼び覚ますように光って。からんと空っぽな音を立て、イライザの手から不要となった鞘が転がり落ちた。

「剣を知らぬ女医と、努々ご油断なさらぬように。わたくし、これでも貴族の娘、――――死の駆け引きは、淑女の嗜み」

 最早こんな物は必要ない、とでも言いたげに深紅のドレスの裾を剣で裂き、裾を短くすると共にスリットを入れるように深く切った。更に高いヒールをそっと脱ぐと、壁際に綺麗に並べて置く。

「フランソワ、かの魔術師に喩えられるとは、光栄の極み。正直に申せば、嬉しゅう御座います、ヴィヴィニィ嬢。わたくし、一度で良い、あなたとこうして……剣を交えてみたかった」

 虚ろな笑みを浮かべたまま、現世ではない空白を見詰め続けるルイスを背に、イライザは特に剣を構えもせずに彼女へ微笑み掛ける。あまりに自然で、ある種の雅さすら放つその立ち姿からは、今から命の奪い合いをするような闘気も殺気も全く感じられない。

 と、その時。イライザの顔の半分を覆い隠す純白の仮面、そのぽっかりと開いた暗く黒い眼孔から、ふいにたらりと真っ赤な血の涙が一筋滴った。恐らく先程イライザの毒の庭にて、リオネルに投げ付けられた硬く重い書籍が原因であろう。
 イライザが微かに口元を歪めたように見えた。片手を仮面に添えると、ぱちんと音を立てて留め金を外し、固定されていた仮面を取り払う。

 ああ、其処には。今まで誰も見た事の無かった、イライザの顔の左半分には。

「…………初めて、お見せしますわね。何も恐れる事など御座いません、ただの古い傷ですから。母が、わたくしにたった一つだけ、与えてくれたもの……わたくしがこの手で毒を盛り、絶命させた母が。そしてわたくしがローゼンブルク家に仕える為の、障壁となったが為に。わたくしがその命を奪った父が、この世で最も恐れた、――主に背きし第十二使徒(うらぎり)の証」

 あまりにも白く、ただ潔癖なまでに色の無いその肌に、赤黒い大きな禍々しい傷痕が刻まれていた。ただの傷ではない、骨に達するに深く、引き攣れた火傷の痕だ。眉の辺りから眼孔を通り、頬を覆い尽くすような、奇妙な形をしたその痕。

「母はわたくしを産んだ瞬間から、悩み、苦悩していたそうです。この姿、この色を持たない異端の髪も、肌も、その全てが母を震え上がらせた。母はいつも私に語り続けました、お前は悪魔の子だ、お前は産まれてはいけない背信の子だ、だからそんな様で生まれたのだ、と。そして、わたくしを浄化すると、焼けた鉄の十字架を、わたくしの顔に」

 それは、よく見れば悍ましい逆十字の形をしていた。

「母はわたくしに、永久に消えない、罪の紋章を与えて下さいました。だからわたくしはその礼に、母に差し上げたのです、罪の子を生んだ悪しき女に、相応しい罰(ベラドンナ)を。そして、わたくしを恐れ、わたくしがローゼンブルク家に仕える事で、リー家の名が汚れる事を恐れていた父を、わたくしは生から解放したのです……勿論、わたくしの可愛い、あの毒草で」

 瞼さえ無く、ぽっかりと闇と病みを内包した、小さな地獄の口のように。黒々と開いた小さな穴の底から、真紅の毒が垂れ流されるように。真っ赤な血液が涙のように溢れて、ぽたりぽたりと大理石の床を濡らして。

 まさにその時だった。


『ころして』


 それは冷めきった、あまりにも淡々として乾いた呟き。
 グレイの口から漏れ出した、誰にも聞こえない程に小さな、その掠れた声。滅んでしまいたい、消え去りたい。そんな仄暗く甘ったるい、憐憫の情を掻き立てる心の叫び。
 すっと、イライザの片手が動いた。自らの胸元に細く長い真っ白な指を突っ込み、何かを掴み出す。何とそれは銃身の全てが真っ黒な、死神を連想させるリボルバー式の拳銃だった。

「畏まりました、仰せのままに」

 何の躊躇もなく、イライザは蹲るグレイの頭部に拳銃を突きつけ、引き金に指を掛ける。

 だが、気付いた者は居るだろうか。イライザがグレイを見ておらず、その目はぐりんと奇妙に蠢いて、エトワールとヴィヴィニィを見ていた。あまりにも獣じみた狂気で、ぬらぬらと輝く瞳で。


>>ALL


【一日遅れのレスをなりました、申し訳御座いません。かなり過激な表現、一部の確定ロルなど、ご不快にさせてしまいましたら申し訳ありません……表現などに不快感や、次のレスに書きにくさがありましたら、遠慮なさらず訂正や変更をして下さいませ。また、最後の最後にグレイ嬢に拳銃を突きつけておりますが、あくまで他のご姉妹や美少年への挑発に過ぎませんので、決して危害は加えません。嫌なお気持ちにさせてしまったら、本当にごめんなさい。イライザの暴走もあと暫くですので、もうあと少しお付き合い頂けましたら大変有難いです】

1ヶ月前 No.424

銃刀使いの使用人 @kaizelkai ★kdFzi0ED3j_mgE

【クラガミ・シンスケ/大広間→バルコニーA】


 少し歪な形をした日常は崩れる。各々の姉妹や彼らは何処かへと行ってしまう。手を伸ばそうにも止める言葉も無ければ、力もない。本当に、この屋敷は終わってしまったと実感する。もうこの屋敷に対する恩返しもこれで終わりだろう。暗殺者から使用人としての転換した人生も、感情が蘇った時は楽しかった。イライザ達は何処にと考えを切り替えると、ヴィヴィニィが突然大声を上げた。まるで一つの劇のカーテンコールが始まるように。自分の母親が発狂した直後に不気味に晴れやかに笑う彼女の姿を見て、流石に目を大きく見開いて、驚いていた。そして、彼女に胸ぐらを掴まれると抵抗する間もなく、自分の唇は彼女の唇と重なっていた。時間にして数秒、乱暴に押しのけられた直後に彼女はそのまま立ち去ってしまった。唇の感触は残り、それを確かめるかのように触れる。


「 ……人の初めて奪っといて、何処へ行くつもりだ…… 」


 感情は徐々に怒りに支配されていくのを感じる。彼女の最後の言葉の意味は、知らない言語であったがあれまるでさよならと言ってるようにも聞こえた。人の初めてのキスを奪って、自分を切り捨てるかのように去っていった彼女を見て、許せない気持ちにいっぱいになっていたのだ。胸ポケットにしまってあったネクタイピンを取り出す。彼女と共に堕ちると決めたこの証と共に、彼女の元へ行こうと駆ける。ネクタイピンをしっかりと握り締めて。



 ヴィヴィニィの歩いた先は屋敷の中であった。イライザ達も同じで屋敷の中にいれば、恐らく五階、エルザの部屋だろう。なんとなくだが、彼女達がそこにいると自分の勘が告げている。五階へ上がる途中、自分の部屋に寄る。使用人として暮らし始めた部屋ともお別れであろう。机の引き出しを開き、普段から使う事がない銃の予備の弾を持ち出す。愛銃の弾倉の六発の弾を確認し、閉じる。そしてもう一つ、黒いネクタイを取り出すと、慣れた手つきでネクタイを首に締める。最後に、鳥と蔓草が彫られた細かい細工、カラスらしい鳥の目には緑色の小さな宝石が埋め込まれたネクタイピンを付けて、身だしなみを確認する鏡を見て、準備を整えた。そして部屋を出る前に、一度振り返って部屋を見渡した。


「 ……今までありがとう、さようなら。 」


 小さく笑みを浮かべる。それはこの屋敷に対する別れの挨拶である。そして部屋を出て、五階へと向かう。その足音は遠くに木霊するように聞こえた。



 辿り着いたマダム・エルザの部屋。先客だらけのそこはバルコニーが開け放たれているその先に、彼女達がいた。良かった、まだイライザ以外は誰も死んではいない。だが何故イライザは五階へ逃げたのだろうか。それがわからない。視線の先にはルイスがいた。いや、あれはルイスではない。ルイスの死体から造られた何かというものでしか見れなかった。ゆっくりとした足取りでヴィヴィニィの前に立つ。


「 まさか、こんなものを見せるためにわざわざ此処まで逃げたのか、イライザ。それはもうルイス様でもないな、かといってもうルイス様の死体でもない……臭い粗大ゴミを部屋に置いておくんじゃない。臭いが部屋に移ったら、どうするつもりだ。えぇ?それとその剣、一体誰に向けてるつもりだ?
―――五月蝿ェ。お前の左顔面の事なんざ、知るか。そんなに死体が好きなら……死 体 ニ 変 エ テ ヤ ル。 」


 ルイスから造られた人形を呆れたように吐き捨てるように言う。死体に手をかけて、出来上がったのは大きなゴミにしか見えない。刀を右手に、懐から黒いリボルバー式の銃を左手に、イライザを射抜くように見据える。人の黒い部分を表すように、殺気を尖らせる。先ほどの大広間の時にいた時以上に。刀と銃を構える。ヴィヴィニィに刃を向ける者がいれば、それが誰であろうと容赦はしない。


 顔だけヴィヴィニィの方に振り向き、笑顔を浮かべる。だが目は笑ってはない、イライザには殺意を飛ばしていたが、ヴィヴィニィには怒りの重圧を飛ばしていた。

「 ……ヴィヴィニィ様、今はいろいろと言いたい事はございますが、とりあえず……次あんな事言ったら、俺 怒 り ま す か ら。 」


 別れを告げた彼女の行動にどうしても許せなかった。イライザとは違うベクトルの怒りがヴィヴィニィに襲いかかる。笑いながら、自分の本意を告げているが、イライザとのそれとあまり変わってはないない。このネクタイピンにつけた証に誓って、彼女を守る。これが人がいう愛なのだと肌で感じる、この気持ちを持ってしまえば、何故だか何でも出来そうな気がする。今なら、この命だって惜しくはないだろう。


>>イライザ、ヴィヴィニィ

1ヶ月前 No.425

ふぁすね @yupihiko☆d.mPOva7Vfg ★8ybzwRV12I_OSy



【エトワール/バルコニー@】





 選べない。選ぶことを放棄する。それもまた、一つの答えなのかもしれない。そもそも、グレイにここで答えを出すことを強要する必要などないのだ。しかし優しい彼女は全てを真摯に受け止めてしまうのだろう。哀願の様な言葉は、優しさにも、狂気にも染まりきれない、彼女らしい言葉。彼女のその曖昧さが、エトワールのよりどころでもあった。

 ほかの少年たちより近くに居たかった。それと同時に親密になりすぎることを恐れた。好きだからこそ、虚無に侵された自分を、そうなるに至った理由を、何よりグレイへの想いさえも、自身の空白から目を背けるために利用しているということを知られるのが何よりも恐ろしかった。だから、曖昧な関係に、グレイの態度に、エトワールは知らず知らずのうちに依存していた。このまま何も変わらずに、使用人とも恋人ともいえない中途半端な関係をずっと続けていたい。其れはお互いの抱く思いを裏切るものなのかもしれない。けれど、誰にも"自分"を知られたくないエトワールにとってそれは居心地の良いものだった。

 いくつも抱えた大切なものに押しつぶされ、憔悴しきってしまったグレイ。そんな彼女に寄り添おうと近づきかけたエトワールだったが、グレイの口から零れ出た小さな嘆願が耳朶を震わせ、鋭い刃物に切り裂かれたかのような表情になった。死を乞うその言葉は、エトワールの奥底に潜む古傷を確実に穿つ。


「――どこにも行かないって、そう言った、でしょ。やだよ、一人にしないでよ。あんたまで"みんな"みたいにいなくなっちゃったら、俺どうしたらいいの。わかんない。わかんないよ」


 思わずグレイに駆け寄ろうとしたところへ横槍を入れるかのようにイライザの言葉が紡がれた。燦然と輝く月の裏側のように、醜い疵に塗れた過去が明らかにされる。どうして、と口の端から声が零れ出た。


「……っ、ぁ、やだ、聞かないで……知られたくないっ……!」


 歌うように語るイライザの口を塞いでしまいたかったけれど、まるで磔にされたかのように体はぴくりとも動かない。否定なんてできない、紛れもない真実。一番隠しておきたかったことを、なによりも大切な人に、知られてしまった。知られたくなかったのに。見ないふりをしていたかったのに。誰にも見せたくなかった、自分の一番きたないところ。なかったことにしていた、自身の過去に刻み込まれたもう一つの忌み名。何よりも恐れていたことが現実になり、エトワールの瞳に灯されていたかりそめの灯がふっ、と消えた。足元がおぼつかなくなり、視界がぐらぐらと揺れる。崩れ落ちた足元に、月光に煌めく細身の剣が転がっていた。

 ――此れは、何なんだろう。俺はまだ、あの場所にいるのかな。逃げられたと思ってたけど、違ったのかな。じゃあ、今までのことは全部、夢? 俺なんかがしあわせになろうとするのなんて、やっぱり間違いだったのかな? きゅらきゅら。きゅらきゅら。ほら、大嫌いなあの音が、フィルムが廻る音が止まらない。"撮影"が始まってるんだ。剣を、拾って、立ち上がらないと。そうしないとまた朝まで痛めつけられる。大事な人が死ぬより酷い目に遭う。痛みも、悲鳴も、もう嫌、なのに。

 足元に転がる冷たいそれを音もなく拾い、立ち上がった。視界にはノイズが走り、耳の奥では相も変わらずフィルムの廻る音がきゅらきゅらと木霊する。エトワールは手に持った剣を、目の前でグレイに銃を向け嗤うイライザにすっ、と突きつける。


「これ以上、俺から奪わないでよ。俺にはもう、なんにも――なんにも、ないのに」


 細身とはいえど慣れない剣の重さと、これからまたあのころのように誰かを手にかけるのかもしれないという恐怖で白い女に向けた剣先はかたかたと震える。光を失った瞳からはぽたぽたと涙が零れ落ちるが、遥か昔に壊された心は其れが何なのかさえ分かっていなかった。

 不意に、なにか動く影が視界に入った。そちらへ目を向けると、其処に居たのはぎこちなく立ち上がり礼をするルイスだった人形。俺とおんなじだ、とエトワールは自嘲的な笑みを零す。躰を壊され人形になった少年と、こころを壊され人形になった少年。その双つの間にさしたる違いなど無いように思えた。




>>グレイ、イライザ、バルコニーALL

1ヶ月前 No.426

リオネル @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

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1ヶ月前 No.427

ししくれ @kmnkha☆/pH2qpQf7L2 ★ieluDUuGrE_ELg

【ロメア/裏庭】


 アイリスと、アイリスに抱えられたリオネルの姿が見えた。二人はまるで家族のように、お互いに寄り添い、慰め励ましあっているようで、自分が此処に居座るのは無粋なことに思えた。

「ふふっ、そんなものじゃないですよ。……私はただ、逃げてきただけです。自分の居場所があそこにはないから」

 愛されなければ生きてはならないという観念を捨てた今、その現実にロメアの心はさほど痛まなかった。ほんの少しの寂しさはあるくらいだ。如何に深くそれに囚われていたのか、よく分かる。
 リオネルどうやら声が出ないみたいなので、「やあ」とだけ、簡単に声をかけた。それに、例えそうでなくても、飴を含みながら幸せそうに笑う彼の邪魔をするのは気がひける。屋敷の出来事に左右されることなく、変わらず無邪気なその姿を微笑ましく見ていると、アイリスから問いが投げかけられた。その言葉はあまりにもあっさりしていて、楽園とともに彼女の何かが壊れてしまったようだ。それが無性に悲しくてならない。ドクターイライザを追い、決着をその手でつけようと、自らあの渦の中に身を落とすというのならばどうなろうとも自己責任だ。私には関係のないこ。けれど、そうでないというのならば、あんなにも哀れでくだらない茶番劇に心をかき乱される必要はないのではなかろうか。
 そうどうにか伝えたくて、アイリスお嬢様、と、声をかけようとしたけれど、寸前のところでそれを止めた。彼女が楽園の崩壊を認めているのならば、お嬢様と呼ぶのはやめた方がいいような気がしたのだ。それは改めて現実を突きつける残酷な行為のようでもあるが、今を逃せば、もうタイミングはないように思えた。それが吉と出るか凶と出るかはわからない。けれど、それが自分のすべきことだと感じる。彼女はもう主人ではないのだと心の中で唱えながら、「アイリスさん」と、名を口にする。彼女の瞳に浮かぶ涙は、見えないふりをした。

「逃げるなんて言いかたはあんまりですよ。それじゃあまるで貴方達が悪人みたいだ。……俺は此処が崩れたから逃げるわけじゃない。もう、此処に自分は必要ないから去るだけです」

 少年たちよりは丁寧に、しかしこれまでよりは砕けた口調で、柔らかく話す。彼女を見限ったのではなくて、受け入れたいのだと伝わるだろうか。尽くすわけではないけれど、受け入れ認めてあげることくらい、もしくは、そのきっかけを作ることくらいは出来ないだろうか。その答えがどうかよりも、そうしたいと思ったことに意味があると考えるのは傲慢だろうか。
 ふとリオネルに眼を落とすと、頭を撫でられ幸せそうに目を細めながらも、こちらを向き首を傾げていた。

「私は此処を去るよ。」

 リオネルを見て、もう一度そう言う。それはリオネルへ自分の意思をきちんと伝えるためだが、同時に自分の覚悟を形にするためでもあった。

「リオネルはどうしたい? 此処を出て行く? それとも、アイリスさんと一緒にいたいかい?」

 裏庭を訪れた時の様子を見たら、リオネルがアイリスのことを怖がっていないことは明らかだった。
 リオネルにこういう聞き方をするのは少し卑怯な気もしたけれど、先ほど屋敷で何が起こったのかも七歳の彼には理解できてはいないだろうから、選択肢を与えなければリオネルは考えられないかもしれないと思ったのだ。


 >>アイリス様、リオネル様

1ヶ月前 No.428

カナニト @caim ★cggvzsv7BC_mgE


【カナニト/大広間】

 ベイリーの手が、とまった。
 ぼくは、ベイリーの顔をみることができなかった。ぼくよりも背の高い影の下に、かくれるようにうつむく。ベイリーは、ケープのポケットの中にぼくのドッグタグを入れてるって言ってた。ずっと持ってたんだろうか、それとも、こうなることがわかってて持ってきたんだろうか。こわれていく音が、あちこちでしてる。ベイリーも、こわれることをわかってだんだろうか。
 ぼくはどうしていいのかわからなくなって、背中で両手をくんだ。ぎゅっと力をいれて、ベイリーのことばが落ちてくるのを待つ。じっとしていることには、慣れてた。ずっと昔と同じように、息をころす。これは、ぼくに染みついてたくせだった。だから、ぼくがやめたいと思っても、簡単にはくせは消えてはくれない。それでも、ぼくがじっとこうしているのは、今この瞬間が、いきた心地がしないからだった。
 でも、それでも、ぼくが言ってしまったことばのせきにんを、ぼくは持たなければいけないと思った。銃で負ったキズよりも、ナイフで負ったキズよりも、ことばが一番するどくて、ゆっくり心をとかしていく毒みたいだってことを、ぼくは知っていた。
 だから、今から、ぼくは、せきにんをとる。今まで軽くみてたものが、ほんとうはすごく大きかったって、わかったから。

 ぱっと、かおを上げる。

「ドッグタグは、今も大切だよ」

 ベイリーのかおを、見上げる。ごまかしたくなかった。

「ぼく、行かないよ。あれから、たくさん、考えた。考えることって、すごいんだね。ぼく、初めてたくさん考えてみたんだ。だから、今日、ちゃんとまよわなかったよ」

 あの日にあった、きみょうなできごとは、目を閉じるだけでおもいだせた。これを話したら、ベイリーは怒るかな。あの日は、初めて知ったことがたくさんあった。知りたいことも、たくさんできた。でも、たくさんは、持てない。ぼくの両手に乗っかる分しか、ぼくは持っていけない。だから、えらばなきゃいけない。持てるものを、持ちたいものを。ぼくのえらんだこたえを、聞いてほしいんだ。

「おかあ、さま……?」

 声が、うわずった。ベイリーのいうその人が、あの女のことだって気づくのに時間がかかった。ぼくは、おかあさんを知らないから、ベイリーが今どんなきもちなのかわからなかった。考えても考えても、ぼくにはやっぱりわからない。心配してるの? なにかを、怖がってるの? でも、ベイリーはすこしあせってるように見える。行ってもいいよって言おうとしたら、ベイリーが、銃って言ったから、ぼくは口をとじた。
 撃たれたキズ、そう聞いて、ぼくは無意識に右のふとももに手をあてた。銃弾があたっても、かんつうしなかったから、そのあとに銃弾を取りだすのがすごくいたかったのを思いだした。

「ぼくも、銃口にかこまれるのは、きらい。いきてる心地がしないからね。でも、あたった時はいたかったけど、しんじゃうくらいじゃなかったよ」

 ――話せって言ってるわけじゃないの。
 ベイリーがそう言ってから、ぼくは口をぽっかり開けたままで、話すのをやめた。ぼんやりと、あの夜を思いだしてた。ベイリーの話し方がその時と一緒だったからかもしれない。時々ベイリーはこの話し方をする。ベイリーがむずかしい話し方をする時は、まるでぼくもむずかしいことを話しているような気分になれる。でも、今のベイリーの方が、ぼくは話しやすいって思ってた。なんでだろう、――さっきみたいに、たくさんことばが頭に浮かんでくるからかもしれない。ただぼくは、ベイリーにまっすぐにこたえたかった。まわりがこわれていく中で、ベイリーのそばは、こきゅうがしやすかった。だからぼくは、こうして今、とまどうことなくことばを考えることができる。
 ベイリーのことばを待っていたら、ベイリーが、急にしゃがみ込んだ。ぼくよりも上にあった頭が、今はぼくの下にある。どうしようかなって両方のつまさきを重ねてから、ぼくも床に両手をついた。それから、ひざもついて、ベイリーと同じ高さになる。ごめんなさいってベイリーがぼくにいうから、ぼくは首をかしげた。ぼく、怒ってなんかないよ。それに、ガラスの欠片も持ってないよ、今日は。

「ベイリーの、時間がほしい。なんでかな、どうやっていったらいいかな……ぼく、ベイリーの、そばにいたい。ぼくね、さっき、すごく怖かったんだ。前ならね、色んなことをするの、怖くなかった。人を殺すことも、しょうがないって思ってたし、ぼくもいつか殺されるって思ってた。でも、さっき、動けなかった。ぼく、本当はしにたくなかった。ベイリーを護るのはいいけど、ベイリーと会えなくなることは、いやだった。……ぼく、ヘンかな?」

 くちびるを、かむ。

「ぼくのドッグタグ、ベイリーに持っててほしい。ぼくがしんじゃったら、思いだして。ぼくの名前がカナニトだってこと、ぼくがベイリーと一緒にいきてたこと。……だめ、かな?」

 たくさん、たくさんしゃべったから、たくさんサンソが必要だった。のどが、ごくりと鳴る。
 一度だけ、上を見た。きっと今日に、なにかがこわれて、いき残る人がえらばれる。ぜんぶこわれてしまう前に、ぼくのことばが届かなくなる前に、ぼくがえらんだことを、ちゃんと伝えておこうって思った。
 たからもの、一個だけをえらぶことなんてできなかったよ。ぼく、よくばりなんだ。ふふんと、困ったように小さく笑った。


>ベイリー、大広間ALL
【遅れてしまいました、ごめんなさい……】

1ヶ月前 No.429

七彩 @tmr☆qrj4adrhQpgH ★Tablet=rLqy3zkxxj

【ノイン・ローゼンブルグ/→大広間】

 結局、戻ってきてしまった。

 後を追いかけたけど、追いつけなかった。お母様の姿を、見ることも叶わなかった。不安で、不安で仕方がない。このままだとお母様は―ー死んでしまうかもしれない。でも私じゃ何もできない、壊れていくのを止められない。私がひとつできるなら、このままここに留まること、逃げないで沈んでいくことだけだろう。そんなことを思いながらふらりふらりと大広間に戻ってきてしまった。先ほどの告白の時よりも圧倒的に人は減っていた。追いかけたか、別のことをしてるか、逃げ出したか。多分どれかだろう。

「そこに居るのは……アン、か?」

 きらきらと光るシャンデリアの光に、紛れて消えてしまうようなその姿。そこに伝う赤いそれが、血であることだとわからないくらいに輝いているように見えた。何かに操られているような、その立ち姿に少し恐怖を覚えるが、彼がそこにいる、その存在を声だけで確かめるように本人はしっかりと声を出したつもりで彼の名前を呼んだ。けれど不安で潰されているように弱々しく、大広間に響く。

「……アン、お前はどうしたい?」

 もしかしたら、彼が応える前に問いかけたかもしれない。表情は固く、その瞳には、不安の色だけが滲んでいた。

>>アン


【絡ませていただきます……!よろしくお願いします】

1ヶ月前 No.430

有楽 @badwriter ★UFvzDhdRQJ_hgs

【ヴィヴィニィ・ローゼンブルク/バルコニーA】

>>イライザ様、クラガミ様、(グレイ様、キマイラ様)、バルコニーALL


 ヴィヴィニィは箱入り娘であり、女性であり、貴族であり、軍人の娘というわけでもない。戦争など、経験したことはない。それでも、全身で感じるピリピリとした殺気は、纏わりつく敵意は、ここがある種の戦場なのだと頭に警鐘を鳴らす。
 剥製、と彼女が一蹴したルイスは、ただの剥製ではなく。耳障りなざらざらとした声を発し、歩き、まるでそこに生命を誇示するかのようで。
 だからこそ、なのだろう。ヴィヴィニィは、イライザに対する嘲笑が止まらなかった。

「あぁ……確かに『剥製』と呼ぶには力不足だったな。……美術品として価値を見出されるのが剥製だが……なんだ、ただの『がらくた』とはなぁ」

 うんうん、と妙に得心を得たような顔で頷く。そして。嘲りをより深く刻みながらふふ、と吐息のような笑いを漏らした。

「人類史、というのは終焉あってこそ醜く、おぞましく、価値があるものだ。発明家や研究者が心血を注いで技術を産むのは、限られた未来をその者たちにとってより良く、輝かしいものにするため。芸術家が宇宙を創造するように作品を産みだすのは限られた生命の美しさ、惨たらしさ、儚さを世に知らしめるため。人は足掻くからこそ進歩があり、発展があり、滅びがある。限られた生命だからこそ滅びを受け入れようとはせず発展を未来永劫続かせたいと足掻いて争う。文明、文化もまた然り。そうして繰り返されてきた『歴史』というものは一本一本は頼りない糸であるが、やがて強固な織物となって我らを包む。
 永遠?久遠?不朽?それが成されたとき、それは決して進歩などではない。はっきり否定してやろう。それは我々が最も忌むべきもの、『怠惰』でしかない」

 その時、クラガミがバルコニーにやってきた。相変わらず、彼は強い。身勝手なヴィヴィニィを追いかけ、気遣い、しかし明確な怒気を持っていて。
 そう、ヴィヴィニィはたまらなく、これが『欲しかった』。ストレートに言葉にすれば彼女は咄嗟に否定するだろうが、心の内から欲するものを、彼女は否定できない。笑顔、しかし目まで笑っていないクラガミに少しだけ面食らい、たちまちのうちに純朴な子供のような笑みを浮かべた。

「全く……過保護が過ぎる」

 小声でそう漏らすと、彼女はクラガミを押しのけ、自分の隣に置いた。彼に視線だけ合わせると、勝気で何かを企むような笑みを浮かべて言う。

「悪いが、この問題は我らローゼンブルク家でカタをつけたい。君にだけ騎士面をさせるのは性に合わないんだ。面倒な女に惚れられたと諦めてくれるとありがたい。……背を任せられるか、シンスケ」

 再び剣を構え直すヴィヴィニィ。姉と妹の弱弱しい言葉を聞き、ヴィヴィニィは笑みを強めながら怒気を含ませてその場に言い放った。

「全く、お二人とも人が悪いぞ! このヴィヴィニィ・ローゼンブルク様が目の前で大立ち回りをご覧に入れようというんだ。少しは笑って手でも叩いてはやし立ててくれねば興も乗らないじゃあないか!!」

 雰囲気をぶち壊すように、その声は怒気を含みながらもおどけて見せて。二人とも、彼女にとってはかけがえのない家族なのだから。
 剣を構え、片手の銃をグレイの頭部に突きつけるイライザ。クラガミにアイコンタクトを取る、妹を救ってくれと。ヴィヴィニィは踏み込み、開いた左手で上空のチェスターに合図をかけた。

「唾棄しようか、ベルフェゴールの取り巻きをな!!」

 ヴィヴィニィの振り上げた剣筋はイライザめがけて降ろされようとし、合図を受けたチェスターは急降下してその鉤爪を、真っすぐ『ルイス』に向けるのであった。

【遅くなり申し訳ございません】

1ヶ月前 No.431

エルデガルト @ready50☆AaWAaYBi9xHg ★6lDqAT8MNN_X9G

【エルデガルト・ローゼンブルク/バルコニーA】

 手遅れ。
 そんな言葉が聞こえた。
 諦めたような、寂しげな笑みが見えた。

 エルデガルトは頭を振った。そして、まっすぐとキマイラを見た。視線を外さないように。

「手遅れな訳、ない。
 手遅れな訳、ないんですよ、姉様。
 壊れたものはちょっとずつ直していけばいい。時間をかけて、ゆっくりと。
 解けたものはちょっとずつ縫っていけばいい。時間をかけて、ゆっくりと……
 だからそんな顔をしないでくださいキマイラ姉様。私は、私はまた、貴方にドレスを選んでもらうためにここに来たのですから」

 ディープ・パープルのドレスは決意の表しだ。
 自分で言うのもなんだが、このドレスはとても着心地が良い。お気に入りにしたいくらいだ。そんなドレスを選んでくれた姉に敬意を表す。そして、もう一度買い物にいくためが自分の目的なのだと、エルデガルトは似合わない大声で言った。

「……お人形の皆は理解を示してくれた。
 あの子達も、私も、こんな時に遊んでなんていられないの。
 私はあの子達と約束をした。その約束を果たしていないのに部屋に戻る訳にはいかないでしょう」

 エルデガルト・ローゼンブルクでありながら、エルデガルト・ローゼンブルクではない。
 彼女は今、人形狂いではない。自分で自分に課した使命を果たすまでは、絶対に戻るわけにはいかない
 だからこそ、反抗的な目をイライザに向ける。理念を理解出来ないからこそ…いや、ある一定の理解は示せるかもしれない。しかし、しかしだ。

「……姉様、貴方は手を血で染める人間ではないでしょう?
 貴方にとって手を穢す事が美しいと? いいえ、いいえ、違います。あの日あの時、姉様が言った言葉こそが美しさの真実です。そんな……そんな惑わしに揺らぐような姉様が、このドレスを選ぶ筈が有りません。
 この私に出来て、姉様に出来ない事はないのですから。……だから、……だから姉様、貴方の言葉をそのまま、言います」

 キマイラに差し出されている剣を一瞥しながらもエルデガルトはキマイラから視線を外さずに口を開き、言葉を紡いだ。

「――どんな時でも自分を強く持ってください姉様。貴方は、これ以上堕ちてはいけない」


>>キマイラ、イライザ、バルコニーAALL

1ヶ月前 No.432

佐渡 @clock☆VeghuuvPddk ★OC0h87p694_JdE

「――London Bridge is broken down, broken down, broken down,」

 薄暗い部屋に亡霊じみた人影が揺れる。
 聞こえるものは幽かな歌声を除いて他になく、ガラスケースに映るは生気を失った緑色の瞳。

「London Bridge is broken down, my fair lady.」

 うわ言のような調子で歌いながら、エルザは両腕に抱えていた容器を床に向かって傾けた。流れ出した液体が音をたてて床に飛び散り、間もなく鼻をつく臭いが室内に充満する――灯油の臭いだ。
 ひととおり灯油を撒き終えたエルザは顔をあげて部屋を見渡した。はっきりとは見えないが、宝石やドレス、長い年月をかけて買い集めた宝の数々がこの部屋には眠っている。尊いものたち。あらゆるものを失ったこの手に最後に残った、唯一無二の美しいものたち。
 懐からマッチ箱をとりだし、迷いのない所作で棒に火をつける。
 ふと、エルザの視界に一際大きなガラスケースが映った。裸のマネキンが立てられているだけのそこには、以前はエルザが一番大切にしていたドレスが飾ってあったのだ。

「――――さようなら、私が愛した楽園(エデン)」

 ふっと、僅かに細められた双眸は一体なにを捉えていたのか。
 乾いた唇は不意に弧を描き、マッチ棒がするりと手から滑り落ちていった。

 *

 耳を劈くような爆発音が響き渡る。粉々に割れた窓ガラスから煙が吹きだし、火は屋敷の一角をたちまち赤く染めあげた。バルコニーの隣――マダム・エルザのコレクションルームだ。
「火事だ!」と誰かがすぐさま叫んだ。しかしもう手遅れだった。炎は念入りに撒かれた燃料を喰らい尽くし、じきに乾いた冬の空気を伝って隣部屋や階下にまで至るだろう。
 逃げ惑う使用人たちの怒号や悲鳴が屋敷中にこだまする。いち早く扉を押し開けたドミニコは、そのまま扉を押さえながら屋敷の中に向かって声を張り上げた。

「いますぐ正門の鍵を開けろ! まだ火の伝わりは遅いようだが、一度燃え広がっちまえばあっという間だぞ!」
「し、しかし、まだ中にエルザ様やお嬢様たちが……!」
「馬鹿、いちいち声までかけていられる場合か! いいか、ローゼンブルク家の歴史はここで終わるんだ。俺たちもそろそろ悪夢から目覚める時なんだよ!」

 軋んだ音をたてて重厚な門が開け放たれた。次々に外へ出ていく使用人たちの背中姿をひととおり見送り、ドミニコも扉を全開にして屋敷から出ようとする。出る直前、一瞬気がかりそうに大広間の方を振り返ったが、すぐに前を向くと勢いよく外へ駆け出して行った。

 静まり返った屋敷にふたたび爆発音が響き渡る。
 選ばれし演者のみを舞台に残し、閉じられた楽園は今まさに朽ち果てようとしていた。


Last event《 Enclosed Eden 》 16.01.07〜

1ヶ月前 No.433

疾風 @yuika10☆/I6eiMaHxFai ★bGyEkAoikT_81E


【ロゼッタ=シェルノサージュ=レジェンダー/自室←大広間】

自室に居て、少し落ち着いた時のことだった。私は、エルザ様への恩赦や此処で過ごした日々を思い返した。ロキと再び出会えた事。ここで、私の事を「先生」と呼び、慕ってくれた同じ使用人の者のことを。また、同じ使用人として働いていた皆にも。私にとって、最初の幸せを感じたことだったのだ。

何か、異変を感じた。私の中の第六感が、危険を察知する。バイオリンとひそかに隠し持ったお金を抱えて、上の階へ上がる。変だ。そして、その危険な予感は的中したのだった。エルザ様のコレクションルームが燃えている。紙が燃える、異臭。きっと灯油が揮発した匂い。揮発した灯油が蒸発し、燃えたのだろう。それか、早期に燃やしたのか…。中々強烈な上に染み込む匂いなので。ちょっとした知識があれば、わかることだった。私は、このことを皆様に伝えなければならないと感じた。

私は走って駆け降りる。その姿は使用人というよりも普通の少女のようだった。私はその時に、マダム・エルザ様が燃やしたのではないかと考えた。今思えば、分かることだった。精神の追い詰められたエルザ様。恐慌に及ぶのは自分が一番わかったはず。なんでもっと早くに気が付かなかったのだろうか。

私は、顔の事も忘れて、大広間のドアを勢いよく開ける。そしてこう叫ぶ。


「火事です!!! いますぐ逃げてください! 」


そういって、ロキの場所を一瞬で探した。いない…? そんな。でも、ロキのことだ。逃げてくれるはずだ…。そう思いながら、私は窓を閉める。家事の時には、窓を閉めるのが常識的だからだ。

皆さんの返信を待ちながらも自分自身も逃げる準備を早々にし始めた。この場所にいた時間は、永久では無かったのだ。永久に使えることは無くなってしまった。でも、最後は皆様の役に立ちたい。そう思いながら。返答を待った。


>>all様

1ヶ月前 No.434

絡繰 @ne9rodoll ★wgm3NQbNwV_glG

【グレイ・ローゼンブルク/バルコニー@】

 碌に力の入らない躰が恨めしかった。狂気に塗れた思考はまともな動作をせずにただ震えを伝達する。口元に宛がわれた指先から漂う白い医者の甘ったるい香りが鼻孔を侵し、さらに思考に靄をかけ、反射的に力を入れてしまった歯がイライザの白磁の指の薄皮一枚を貫く。口元に流れ込んだ僅かな血液の味に我に返り、口元の力を緩めた瞬間、視界を覆われる。耳元に刻み付けるように、母が幼子に諭すように囁かれる本能を暴く言葉に脳髄が震えあがる思いがした。しかしその言葉に狂気へ引きずり込まれるだけでなく、恐れを感じた。美を久遠に、生命の理に反して、美しさを永久にその手の内に閉じ込める。その行為がいかに世の摂理に対しての謀反か、分からないほど僕は馬鹿ではいられなかった。首筋に走る針が差したような痛みとともに明確な彼女の底知れぬ狂気への畏れが滲みだす。
 なぞる様な舌の蠢きの感触を残して離れた彼女は【地獄の天使】ことルイスの亡骸の首元に手を伸ばす。その指先が何かを弾いたと思った次の瞬間、確かにその鼓動は脈拍を刻むのをやめたはずの身体が、動きだす。作りものの瞳が現世を捉え、壊れかけのラジオのような継ぎ接ぎの声を紡ぎ出す。ぞっ、と背筋に悪寒が走る。そこに生じたのは明らかな恐怖、嫌悪感だった。確かにあの”人形”は美しかった。それこそ自らも其れを手にしたいと願ってしまうほどには。それでも、今まさに舞台上で快活に舞い続けるヴィヴィニィのような今を生きる生命の活力を携えた美しさには敵うはずもないのだ。所詮は屍。死によって作られる美も、そもそも生がなければ成立しない。ヴィヴィニィが言うように、限りがあるからこそ生まれる美というものがあるのだ。”感情”という人間の根源が存在しない操り人形は、生きとし生ける人間と並んでしまえば、その美しさは霞んで見えてしまった。そして、イライザから楽しくて仕方がないと言った声音で放たれた言葉に戦慄を覚える。僕は、あのルイスのようにこの存在を永久のものにされてしまうの?あの、優しかった、熱を出した僕の頬に触れた手で、僕は生を奪われる?僕の思考は一気に、生を失くし屍という名の美しき人形に成り果てる恐怖に塗り替えられる。

 そんな恐怖にすら耐えることの出来なかった愚かな僕が零したこの場で滅ぶことを哀願した言葉に、仮面を外しその素顔を晒したイライザは俊敏に何の躊躇いもなく反応した。その場を動けずに座り込んだまま呆然としていた僕の頭部にごり、と金属の冷たい感触が伝わる。黒金の鉄塊の持ち主に視線を傾ければ、その素顔は引き攣れた大きな傷跡に覆われていた。深淵を想像させる漆黒の窪みからは赤黒い血の涙が流れ出ている。場違いにもまた一つ彼女の本質を知れた、と僅かな喜びが浮かび上がる。銃を突きつけられた僕はひどく冷静だった。確かにこの場での死を望んだ。信じたいイライザの元へ寄り添っても、何時かあのルイスのように生を奪われたただ究極の美だけを求めた姿になる末路ならば、ここで死ぬのも本望かもしれない。どうしようもできない。救いようがない。強くなれない。何もできない。自らの後悔と自嘲に潰されたままその銃弾を拒まぬようにと瞳を閉じた。
 瞬間、耳に飛び込んできた、愛したいと、守りたいと思った人の声。そのエトワールの声は心臓が引き裂かれそうになるほど悲痛な声で。ぶつけるように掛けられた言葉に胸が締め付けられる感覚に襲われる。わからないという酷く純粋な救難の声は今の今まで自分が抱えていた想いと一緒で。僕は、何をしていたんだと、ハッと顔を上げる。今までに見たこともないような、確実に傷を抉られている彼の表情が視界に入る。

――――そんな顔を、させたかった訳じゃないのに。

僕は馬鹿だ。自分のことばかりで。自分が楽になりたいという我儘だけで。僕は決して零してはいけない言葉を紡いだのだ。苦しいのは僕ばかりだと勝手に思いこんで。僕は彼を遺したまま、自分だけ救われようと、死という救済を選ぼうとしていた。遺された相手の気持ちも想像せずに。こんなの、弱虫だとかそんな話じゃない。ただの、ひたすらに弱いばかりのそれだけしかない人間じゃないか。なんて情けない。
 溢れた感情のままに蹲ったままの身体を叱咤し動かそうとしたが、それは鋭いイライザの声と頭の拳銃に遮られる。そして、耳に入り込んできた内容に目を見開く。”シュテルン”という聞いたことのない名と共に語られる彼の禁忌であろう記録。呼吸が、上手く出来なかった。どれだけ探っても見えなかった彼の真実が、いとも簡単にイライザの手によって暴かれていく。あぁ彼は、大切なものを過去に落としてきてしまっていたのだ。亡くしていたのだ。彼の”本物”と共に。それなのに、僕はまた、彼から奪おうとしていたんだ。きっともう何もかもを差し出していた彼から。胸の奥から激情が湧き上がってくる。僕は、僕自身が許せない。それは明確な自身への怒り。目の前の、大切なものさえ守れなくてなにを僕は優しさだなんてほざいていたんだ。彼の抱えていたものも知らずに。弱いから?変わりたくないから?怖いから?ふざけるな。そんな甘えで、エトワールを、愛そうと、愛してほしいと思った人を傷つけていいものか。

 いつの間にか躰の震えは止まり、揺れ動いていた瞳は真っ直ぐにエトワールを見据える。灯が消えた瞳で震えた剣先を拳銃を構えたイライザに向ける彼。これ以上彼に痛みを与えちゃいけないでしょう。星空の瞳から零れ落ちる涙は、流した本人にさえ拭ってもらえない。ならば、それを拭ってあげなくてはいけないでしょう。強く、拳を握りしめた。小さく、布から絞りだされた一粒の水滴ほどの声で呟く。

「イライザ先生、ごめんなさい。」

 次の瞬間、丁度ヴィヴィニィがイライザに対して剣を振り上げ、彼女のチェスターの駒爪がルイスに向かった時。動くことを諦めていた足を全力で稼働させる。それこそ大広間を走り抜けたイライザの風のような速さと違わないほどの疾風の如く素早い動き。こめかみに突きつけられた銃など見向きもせず、それこそ其の引き金を引く時間すらも与えずにその場を駆ける。行動を見せるとも思われていなかったであろう僕が突然な動きをしたらそれは恐らく驚きに値する行為だろう。向かうは一直線。走り抜けた勢いのまま、剣先を避け、エトワールの首元に両手を伸ばす。ふわり、と慈しむように、守るように目の前の彼を抱きしめた。

「ごめん、ごめんなさい……僕、君にとっても酷いことしようとしてた。ごめんなさい。……大丈夫。君は、”エトワール”だから。何にも代えがたい、僕だけの綺麗な星。エトワールだよ、ねぇ……。」

彼の耳元に落とすように、零れそうな自身の涙を堪え、上擦りながらも柔く穏やかに言葉を紡ぐ。剣を持つ彼の手に自らの手を添える。震えた手に少しでも体温が伝わるようにぎゅう、と握り込んだ。

「……いいんだよ、もう僕はここに居る。君の傍に居る。だから、君がこの剣を持つ意味は、誰かを傷つける意味はないんだよ。ごめんね、僕が、弱かったせいで、君のこと傷つけた。」

少しだけ、ほんの少しだけエトワールの言葉で強くなれた、意思を持つことが出来た。エトワールを失いたくない。傷つけたくない。それは、自身も狂気に染まりきりイライザと姿を消すことを遥かに凌駕した意思であり、願いだった。それが伝わるように強く離さぬように彼を腕の中に閉じ込める。

 その時、大きく響いた爆発のような轟音に肩を震わせる。
今度こそ本当の、この楽園の崩壊を告げる音を聞いた気がした。

エトワール様、イライザ様、(バルコニーALL様)>>

【期限を越えてしまい、お返事遅くなり申し訳ありません。頃合いかな、とグレイも意思という名の強さを少しばかり持たせました。とうとうラストイベント開始ということですが、どうぞ皆様最後までよろしくお願いいたします。】

1ヶ月前 No.435

銃刀使いの使用人 @kaizelkai ★kdFzi0ED3j_mgE

【クラガミ・シンスケ/バルコニーA】


 これだけ明確に、鋭く怒りを向けているはずなのにヴィヴィニィは子供のように純粋な笑顔を浮かべていた。少しは反省でもしてくれた方が嬉しかったが、笑顔を返されては怒るに怒れなくなってしまう。あれだけあった怒りは霧散し、はぁと長く呆れた一息を吐く。これが彼女であったと改めて認識する。だがせめて一言だけごめんとか言ってくれた方がと良いと思ったが、それは次の機会にしよう。今はこの状況をどうにかする事に専念にする。


「 えぇ、わかっていますとも。貴方はそういう人でしたね。なら俺は、それを見届ける事にしますよ……判断はこちらで考えますから。どうぞ、思い切ってください。
―――シンスケって呼んでもらえるなら、俺は”ヴィヴィさん”って呼んだ方が良いのか……む、難しいな。 」


 使用人らしく振る舞いを続けているが、若干彼女に呆れた反応を示す。彼女自身で決着をつけると聞いて、自分はその場から手を出さないようにする。危なくなったら、止めるつもりではいるが。そいえば彼女は自分の名で呼んでもらっている。自分もそう呼んでいいるのなら、この前のお祭りの時のような愛称で呼んだ方がいいと思う。だが相手は年上、そこにさん付けで呼んだ方がいいのか悩んでしまう。仲の良い異性の呼び方なんて、初めて考えている。今までは単純に様付けだったから、考える必要はなかった。この状況下で、彼女の呼び名について考え込んでしまう。



 イライザに銃を突き付けられてたグレイはイライザから逃れるように、走って行く。そしてエトワールの元へ駆け寄って彼を抱きしめていた。どうやらエトワールの説得でグレイは選んだのだろう、イライザよりもエトワールを。あとはキマイラだけだが、彼女はエルデガルトが説得をしている。最初はイライザに進んでいった彼女だ、姉妹の言葉に耳を傾けてくれるだろうか。ともあれこれでイライザを守る盾はもうない。ヴィヴィニィから妹の事を頼むと言われていたので、これで姉妹を守る事に徹する事が出来る。だが突然、下から爆発音が響いた。屋敷の中から漂う何かが焼ける臭い。それは屋敷が燃えているという事実であった。


「 誰かが屋敷に火を……早く逃げないと、此処も危ないな。」


 誰かが屋敷に火を放ったようだ。下から多くの人の叫び声が聞こえる、避難は勝手にしているようだ。冬の空気は乾燥しているから、火の周りも速い。こちらにも火が回ってくるだろう。まるで屋敷の主がいなくなったように、この屋敷が崩壊を始めたような気がした。


>>ヴィヴィニィ、イライザ、ALL


【あけましておめでとうございます。最後まで、よろしくお願い致します。】

1ヶ月前 No.436

キマイラ @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★80jDqOFPYR_M0e

【キマイラ・ローゼンブルク/バルコニーA】

 自分を追ってきたエルデガルトに、諭すような口ぶりで話しかけているイライザを片目に見やりながら、キマイラは力なく頭を垂れる。すべてを投げ打って、地位を捨てて、彼女と共に高みへ昇り詰める、そう決めた筈なのに。この家にも、姉妹にも何の感情も抱いていなかった筈なのに。
 どうして、こんなに胸が痛むのだろう。

 俯いたまま、瞑っていた目を開く。視界に、自分の足が映った。土埃で汚れ、地面で擦れ薄赤色になった足。これが、すべてを捨て、罪を背負った自分の姿、その全てなのだろう。

 醜いと思った。意味もなく口から笑い声が溢れ、視界が濁る。こんなに醜いものを抱え、こんなに穢れてまで、自分は自らの追い求める「美」に縛り付けられていたのだろうか。――ああ、そうだ。イライザの言うとおりだ。もし地獄に天使が居るのだとしたら、それはきっと自分と同じ姿をしているだろう。己の欲するものを追い求めるがばかりに、本当に大切にしたかったものに気づけなかった者。気づいたときにはもう手遅れになっていた者。哀れで醜く、ぞっとするほどに悍ましい、人の形をした地獄。

 それが、この私だ。

 かろうじて人の姿を留めている内に、彼女にだけは謝っておこう。この口が人の言葉を喋れるうちに、彼女に――エルデガルトにだけは。
 口を開こうとした刹那。力なく垂れていた右腕に、恐ろしく冷たい物を感じた。徐に、右手の先へ視線を向ける。其処には、きらびやかな装飾が施された剣(つるぎ)が、イライザの手によって強制的に握らされていた。なぜ、どうして、こんなものを、イライザに訪ねたいことは次々に浮かぶ。しかし、口が動かない。 固まったままのキマイラの耳に、余りにも酷(むご)い「契約」の言葉が囁かれた。

「――……ああ、そん、な…………わたし、は……私は…………」

 重厚な剣を持った手は、力なく垂れ、苦い涙が頬を伝う。霞む視線の先に、強い意思の宿った妹の碧眼と、月光を受けて煌めく紫のドレスだけが、やけにはっきりと見えていた。紡がれる彼女の声。まだ、まだ手遅れではない、戻ることが出来る。そう静かに訴える妹の声が、周りの喧騒に交じることなくはっきりと耳に届く。しっかりと聞こえているのに、それを遮るかのように先程のイライザの言葉が脳内で繰り返されていた。
 血の契約を、地獄を、死を、私に。
 心地よかった「我が君」の響きさえ、今は胸を切り裂くかのよう。されど、もう楽園に帰る事は赦されない。原初の罪を追った者らが楽園を追放されるのと、同じことなのだ。しかし、かのカインとアベルの如き、姉妹(きょうだい)殺しの罪。それを背負うほどの覚悟を、自分はまだ持っていない。

 涙だけは、何も言わずとも止まることなく流れた。右手の剣を力なく引きずりながら、先程のイライザの言葉に突き動かされるように、ゆっくりと足を運ぶ。エルデガルトの着ているディープ・パープルのドレス。それに縋るかのように空いている左手を伸ばし、涙で頬を濡らしながら、言葉を吐き出した。

「ねえ、私、どうすればいいのかしら…………決めた筈だったの、それなのに……それなのに…………ねえ、エルデガルト……ごめんなさい……」

 上手く喋れない。身体中の力が抜けていく。剣が手から滑り、大きな音を立てて床に落ちた。キマイラもまた、エルデガルトの前に膝から崩れ落ちる。親に叱られるのを怖がる幼子のように肩を震わせ、謝罪の言葉を只々繰り返していた次の瞬間、ざわついていた頭の中に、ひときわ透き通った声が響いた。

『――どんな時でも自分を強く持ってください姉様。貴方は、これ以上堕ちてはいけない』

 目を見開く。顔を上げる。其処には、月の光に照らされた、何よりも美しい妹の姿があった。揺るがぬ決意を持ち、何者にも屈することのない強さを湛えた彼女。原初の美とは、決して揺るぐことのない美とは、この事だったのか。追い求める事をせずとも、自らの立場を捨てずとも、それは初めから、こんなにも自分の傍に在ったというのに。どういて、こんなになるまで気づかなかったのだろう。

「……エルデガルト」

 何よりも美しく、そして愛おしい我が妹の名を、キマイラは呼んだ。そして、震える唇をぎこちなく動かし、言葉を続ける。

「――――私、どうすれば…………どうすれば、貴女の姉に、戻れるかしら…………?」

>イライザ、エルデガルト、バルコニーALL

1ヶ月前 No.437

とと田 @totototo☆pZFOWxlGRjQ ★Android=4OhkCRUD6l

【ベイリー・ローゼンブルク/大広間】



「駄目、じゃない…………」

 カナニトの言葉は、とても簡単だった。意味が明確で、単純で、真っ直ぐで、でもだからこそ、ベイリーにとってはどんなに複雑な物言いよりも難しいものだった。頭では理解していても心が追いつかなかった。やっと絞り出せたのは短く、覚束無い返事のみ。自分がどこまでも無力な人間になっていくのを、むしろ最初からそうであったことを、強く認識させられてしまう。己が望む己はもうどこにもいなかった。ベイリーはちらりと横を見る。優しさとは強さなんだろうと、思った。カナニトは優しくて強かったし、何より美しかった。
 この子はどんなわたしだったとしても、側にいたいと言ってくれるのだろうか。ずっと昔に止まったままの、淀みで燻っているままの、わたしの時間を欲しがってくれるのだろうか。もしそうなら、それはきっと、幸福なことなんだろう。

 ベイリーは右手をカナニトの方へ伸ばし、銀に輝く髪をかき混ぜるように撫でた。何に恐れているのか、わずらわしいほど丁寧な手つきでカナニトの頬の輪郭を手のひらでなぞる。慈しみの色が籠った瞳をうっすらと細める。

「わたしはね……ずっと貴方と、仲の良い姉弟のようにくだらない喧嘩をしてみたかったの。友人のように談笑したかった。恋人のように手を繋ぎたかった。親子のように、貴方の行く末を祝福してあげたかった。貴方の身体に散らばった傷を見ると、安心した。どれだけの苦痛があったのか、どれだけそれを我慢してきたのか、分からないけれど。でも、確かに痛みがそこにあるんだって、知ることができるから。貴方について唯一、言葉を交わさなくても知れることだから。だって心は目に見えないでしょう」

 それはまるで、懺悔のようであった。

「本当は最初から、心を聞けば良かったのね」

 けれど、希望を唄うような光も、あった。


 ベイリーは眉を下げて、泣きそうな顔で微笑んだ。今までのどんなものより、優しい表情であった。


 すると、屋敷の上の階から唐突に、爆発音が響く。ベイリーはイライザが銃を発砲したときや眩い光に視界が奪われたときのように、驚いたりはしなかった。むしろこうなることを、どこかで漠然と予感していた。

 ――わたしは、いつまでぐずぐずしているの。

 ベイリーは腰を上げ、立ち上がった。ロゼッタの火事という言葉に、やはりそうかと納得する。恐らく母が屋敷に火を着けたのだろう。ベイリーは一つ大きな深呼吸をして、カナニトの目を見た。

「わたしは、まだやらなきゃいけないことがあります。火はもう消せないでしょうから、この屋敷は遅くないうちに火の海です。そして、全て灰になってしまう。わたしはせめて、ここに、ここにあるものたちに、お別れを告げたい。ぎりぎりまでは、ここに残っていたい。この楽園が終わってしまうまでは、秩序を保ち、矜恃を抱く、ローゼンブルクの三女でいたい。ごめんなさい、勝手なことを言って――危ないから、貴方は早いうちに外に出てください」

 今回の謝罪の言葉は、先程のものとは違い、強い意志や自信に満ちていた。敬語に戻したのも、彼女なりのけじめであった。ここにいる間はこの自分でいたいと純粋に思った。
 変わってしまうものはある。その変化が例えば終わりに向かっていくものであっても、それに真摯に向き合いたいと。それがベイリーの答えだった。



>>カナニト、ALL

1ヶ月前 No.438

イライザ・リー @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE

【イライザ・リー/マダム・エルザの部屋:バルコニー@、A、B→(退場)】


 声が聞こえた、ような気がした。

 イライザの耳には確かに届いていた、か細い歌声。全てを失い狂った女王の、最早子ども達には届かない童歌(わらべうた)。それはかつて心底愛したひとの声、今は何処までも遠い声。

『――――さようなら、私が愛した楽園(エデン)』

「さようなら、歪んだ王国を統治せし、赤の女王陛下……あなたが守り続けた、〈閉ざされし楽園〉は、今宵今こそ焼けて落ちる」

 次の瞬間、凄まじい爆発音が響き渡る。バルコニーに面した窓硝の一部が木端微塵になり、その隙間から真っ赤な業火が悪魔の舌のように噴き上がる。マダム・エルザのコレクションルームから巻き上がった焔は、バルコニーを赤く朱く紅く染めた。繰り返す爆発を知りながら、真っ赤に照らし出されたイライザの横顔は、事態を無視するかのように、あまりに静かで穏やかな微笑を浮かべたままで。

「実に素晴らしい頃合い、そろそろ〈あちら〉も、終演の頃」

 その時、まるでコレクションルームの爆発に呼応するかのように、突然恐ろしい轟音が響いた。屋敷の側、森の辺りで巨大な火柱が上がり、夜空を喰い尽くすかのごとく高く高く天を紅蓮に染め上げる。その位置を見れば屋敷の者なら火元が何処なのかは瞬時に察する事が出来ただろう、それはかつてイライザが管轄していた裏庭のThe Poison Garden≠セった。

「何もかもが灰塵に帰する。幾ら世界が広くとも、最早誰も〈地獄の天使〉を生み出す事は、不可能……このわたくし以外、このわたくしの頭脳以外では。わたくしさえ永遠に生き続ければ、崇高たる我が久遠の計画は、永久に絶えはしない……故に、故に故に、――――灰は灰に、塵は塵に、土は土に」

 そう、イライザは彼女の研究の全てを闇へと葬り去る為に、The Poison Garden≠ノ時限式の爆破装置を仕掛けていたのだ。あらゆる証拠も、資料も、研究結果も、全てはイライザの頭の中にある。今となってはあの場所は不要であり、最早無用だったのだろう。

 紅き地獄の業火こそが、イライザの新たなる〈至高の旅〉の門出を飾る、神への宣戦布告の狼煙となる。

『……っ、ぁ、やだ、聞かないで……知られたくないっ……!』

 燃え盛る焔の轟音に掻き消されそうになりながらも、確かにイライザの耳に届いたエトワールの悲壮に満ちた、懇願。その言葉に、イライザは邪悪さに満ち満ちた微笑に唇を吊り上げながら、細めた隻眼を射るように彼へと向ける。

「卑怯者。愛しいひとに、過去の真実さえ知らせず、愛を乞おうとは。ねえシュテルン=Aあまりに虫が良過ぎると、そうは思いませんか?」

 フィルムが廻る音に似て、滑らかに、そして容赦なく。きゅらきゅら、きゅらきゅら。
 邪過ぎる自信の所業を棚に上げ、イライザはせせら笑うように小さく息を吐きながら無慈悲に言葉を突き付ける。塞がり掛けた古傷を刃で抉るがごとく、彼がこの世で最も嫌うであろう呼び名を繰り返すイライザは、エトワールの瞳から温かな人間らしい輝きが消えたのを見逃しはしなかった。
 鋭利な剣を手に取り、自身へと向けるエトワールの姿にイライザも応えるように三日月に似た青白い剣を向ける。

「これ以上、奪わないで? もう、なんにもないのに? ――可哀想なひと、そして、悲しいひと。何を今更、奪われるものなど、貴台には何一つとして無いでしょう? 生まれた時から、元々貴台には何も無かった。その手で握れるのは、どす黒い血と罪と、傷付け壊す刃のみだったでしょうに……哀れな星屑、永遠の闇夜に、わたくしが還して差し上げましょう」

 とどめを刺すように、イライザは愉快そうに高らかな声で告げた。震える刃と、迸る涙。エトワールの心を再び壊し、何もかも奪った薄ら暗い快楽に微かに一度、イライザは震える。


 最後に奪うは、貴台の命だ。


 その時だった。

『イライザ先生、ごめんなさい』

 ふっと風が流れて、イライザの燃える血潮の色をした隻眼が大きく見開かれた。

 銃口を向けたままだったグレイの姿が、イライザの視界から消えた。風のような速度で、あのか弱く、儚く、何も選択出来なかった美しい淑女が、自らの足で飛び出したのだ。
 エトワールの傍へ駆け寄り、彼を抱き締めるグレイの姿を、イライザは何処かぼんやりとした表情で見つめていた。その笑みは随分と薄れたものとなっているが、恐らく無自覚の様子だ。

「そうですか。あなた様は、〈永遠〉ではなく〈星〉を選んだのですね。それがあなた様の選択であるならば、わたくしは謹んで、それを受け入れましょうとも」

 先程、グレイが噛んだ指を見た。彼女の小さな犬歯が噛み裂いた傷からは、ぽたりぽたりと今も鮮血が零れて落ちる。そっと手を口元に持っていくと、イライザは傷ごと指を口内に入れ、さも愛おしげに冷たく赤い舌を這わせる。愛した者の付けてくれて傷を、ただ一人で、愛で続ける。

 やがてふと、何かを思い出したように指を口元から離すと、その手を頭の後ろへと向ける。イライザは濡れた指で、髪を束ねている蜘蛛の紋章が刻まれた髪留めを外した。ふわりと長い長い髪が、夜風に靡いて白亜の翼を模してイライザの背後で広がる。まさに堕天使のごとく、銀の月光と赤い焔を受けて、その翼は大きく羽ばたきそうに見えた。

「わたくしが、物語のお仕舞いに、愛したあなた。一つ、たった一つだけ、あなた様にお願いが御座います。この髪留め、リー家に代々伝わる宝を、どうかカナニトに渡しては下さいませんか? これは、わたくしを追って来なかった、あの戦場(いくさば)の似合う少年への〈道標〉。あの少年がもしも望む時があれば、全てを与えると、わたくし約束したのです。わたくしは、嘘吐きには成りたくありませんの。ですから、どうかお願い致します……わたくしに、最後のお慈悲を」

 まるで子を愛でる母のような、先程までとは全く違う優しげな笑みをグレイに向けて。身を屈めると、イライザは外した髪留めを床に添わせるようにして投げる。大理石の床を滑りながら髪留めはグレイまで届き、ちょうど彼女の足元で止まった。

 実はその髪留めには秘密がある。仕掛けが施してあり、それを解くと髪留めが小物入れのように開くのだ。
 中には小さな白い鍵と、古い地図が二枚入っている。一枚は、この薔薇の一族の屋敷からは遥か遠い、とある国への地図。その国にはリー家が代々住んでいた巨大な邸宅があるのだが、それは随分前に放棄されて、今は不気味な廃墟と化している。そんな邸宅の地下室へと導く地図も添えられており、白い鍵は地下室の入り口の扉を開く為のものだ。
 もしカナニトがいつかその国を訪れ、地図の通りに邸宅の地下へと導かれて、地下室の扉を開いたとしたら。其処には脈々と続いたリー家の当主たちが集めた、世界中のありとあらゆる書籍と、彼らが研究し纏め上げた膨大な量の資料や研究結果が残された巨大な図書館が広がっているだろう。カナニトが望んだ〈世界の全て〉が、其処にある。
 それはイライザにとって、自身を選ばなかったカナニトへの、せめてもの餞別だった。

1ヶ月前 No.439

イライザ・リー @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE

 視界の隅に翻る深い紫のドレスが動いて、イライザはぐりんと異様な動きでそちらへと瞳を向ける。人間に興味を向けなかった、人形狂いな彼女にしてはひどく珍しく、感情を露わにして大きな声で叫ぶエルデガルトを見据えて、イライザが再び氷のように冷たい嘲笑めいた笑みでその顔を象った。

「お人形が、理解してくれた、と。そうですか……くだらない、くだらないくだらないくだらない。あなた様はいつも現実から目を背け、暗いお部屋に引き籠り、閉じこもってお人形遊びに明け暮れてきた。それを今更、何を変えられると? 諦めて下さいませ、諦めて、諦めなさいませ。あなた様が約束など、果たせる筈もないでしょう?」

 反抗的な、強く揺るがぬ意思を感じさせる、エルデガルトの眼差し。彼女のこんな瞳を、イライザは今まで見た事が無かった。面白い、イライザは声に出さずに唇だけをそう動かすと、真っ向から彼女の刺すような視線を受け止める。

「全て手遅れ、何もかも遅い。割れてしまった硝子細工は、どんなに上手に繋ぎ合わせても、破片を元には戻せない。麗しき薔薇の一族は、最早砕け散ってしまったのです。少しずつ浸食していた罅を無視して、目を背け続けた結果が、この幕切れなのですわ。壊れたものは直せない、解けた糸は朽ち果てて、時計の針は戻せない。もう時間は無い、全部遅過ぎる。だからこそ、血に汚れるからこそ美しい、堕ちるからこそ唯一無二となる。染まれば染まる程、闇は眩く輝くのだから……故に、これ以上、――邪魔をしないで下さいませ、エルデガルト嬢」

 自身が新たな君主と認めたキマイラの心を乱し続けるエルデガルトに、イライザは唇の片端のみを歪め、隻眼をも剃刀のように細く鋭く吊り上げると、先程までグレイへと向けていた銃口を真っ直ぐ彼女へと向けた。引き金に指を掛け、躊躇なく引こうとした。

 その横を、キマイラが力無くも、右手に輝ける刃を握ったまま通り抜けていった。イライザが、もう片側の口角を残酷に吊り上げると、エルデガルトに向けていた拳銃を下ろす。楽しげに、まるで観劇でもするかのような、場に相応しくない明るい口調で、彼女は何か小さな声で口ずさむ。それは先程も歌っていた『ロンドン橋落ちた』、この崩壊を、イライザは心の底から歓迎しているのだ。

「そうです、それでこそ我が主。キマイラ嬢、あなた様になら出来ます、必ずや完遂出来るのです。さあ、今こそその手でご姉妹の首を、その嫋やかに細く白い首を、呪われし刃の切っ先で落とすのです。わたくしはサロメのごとく、その首を求め望む。さあ、さあ、さあ……あなた様の望む永遠の美を、今、あなた様自身の手で生み出すのです……!」

 埃に汚れ赤く傷付いた素足も、破れ解れた豪奢なドレスも、苦い苦い涙に濡れたその真っ白な横顔も。堕ちて汚れたキマイラの姿は、イライザにとって何よりも好ましいものであったのかもしれない。自身と同じ、深淵の底にまで堕ちつつある、その姿は。
 だが、イライザの望みなど叶えられはしなかった。


 キマイラの手から剣が零れ落ちて、がしゃんと、けたたましくもあまりに空っぽな音を立てた。


 祈るように、許しを乞い、罪を償うがごとく。エルデガルトの前で膝から崩れ、泣きながら謝罪を続けるキマイラの姿。それを、イライザは先程までとは異なる、冬の凍空を映すような深紅の瞳で冷ややかに見ていた。その目には、普段感情を露わにしないイライザとしては珍しく、ありありと心の色が見て取れる。それは、何処までも冷たく冷酷な、失望の色だった。

「…………残念ですわ、本当に、残念です。キマイラ嬢、あなたであれば、あなただからこそ、わたくしは付き従おうと決めた。何物にも変えがたい、美への執念。この世の美しいもの全てへの、憤怒と、軽蔑と、渇望と、嫉妬。あなたであれば、わたくしと共に、天の高みの座にまでも、達しられるとそう信じていた……けれど、所詮、あなたも脆弱な人間でしかなかった。醜く、汚れきった、唾棄すべき存在でしかなかった。結構、もうあなたなどいりません」

 今となっては、キマイラはイライザの中に、先程までのような〈美〉を見出してはいないだろう。彼女の背中を見れば、イライザにはそれが手に取るようによくわかっていた。彼女は気付いてしまったのだ。イライザの掲げる死が放つ美しさより、エルデガルトやヴィヴィニィが持つ〈生きて、不条理と戦い続ける力〉こそが、この世界に蔓延る何よりも煌めく本物の〈美〉なのだと。もう、キマイラはイライザの持つ鳥籠の中には居ない。飛び立ってしまったのだ、真に美しき世界へと。
 もっと早くに、風切り羽根を切っておくべきだったが、もう遅い。


 ならばもういらない、己の手を離れた、青い鳥など。


「短い間でしたが、あなたと共に在れたこと、わたくしは思い出として、記憶の小箱に仕舞っておく事としましょう、――――さようなら、我が君」

 最早興味を失ったようで、イライザはキマイラに、最後の視線すら向けはしなかった。

 ふいに、イライザの唇から、小さな、弾むような笑い声が漏れた。

「結局、誰もわたくしには、ついて来られないという事ですね……気高き闇と病みの化身たる、ローゼンブルク家さえこの程度とは、全くお笑い種ですわ」

 同時に、イライザは恐ろしい素早さで銃口をクラガミへと向けると、一切の迷いもなく発砲した。立て続けに、凄まじい音を立てて、三発。

「塵、そう、あなたにはそう見えるのですね。塵、塵とは、また品性の欠片も無い喩えだこと。塵、それはあなた自身の事ではありませんか? 人の命を奪い、人の人生を蝕み、人の幸福を壊してきた、殺し屋風情のあなたが、塵などと口にするとは。あまりに滑稽過ぎる」

 放たれた三発の弾丸は、クラガミの爪先ぎりぎりの床に、綺麗に並んだオリオンの三つ星のように撃ち込まれていた。剣だけでなく、イライザは射撃をも学び、自在に対象を撃ち抜ける技を会得していた。それを彼に見せつける為に、あえて外してみせたのだ。

 イライザは、当然のようにクラガミの過去も調べ上げていた。彼が凄腕の、比類なき殺し屋であった事も、それを隠して使用人となり、ローゼンブルク家に従順に仕えている事も。イライザは彼を、惨めで哀れな存在としていつも影から見続けてきた。人間の命の輝きを一瞬に奪う事の出来る能力を持ちながら、哀れな虚構の一族に頭を垂れるその姿。自身と似た死の匂いを放っているのに、それを必死に隠して表舞台で踊っているように見えて、イライザはクラガミを滑稽な道化だと思っていた。

「あなたこそ、とてもとても臭いますわよ。幾ら隠そうとも、死を纏った腐臭は隠せはしない。それを隠して、偽ったまま、ヴィヴィニィ嬢と愛だ恋だと、嘯くのですか? なんたる恥知らず、なんたる醜さ、全くもって下種の極み……罰を与えて差し上げます、嘆きの河(コキュートス)に溺れなさい、永遠に永遠に凍て付く彼方へ」

 言い放つと同時に、イライザは残りの三発を目にも止まらぬ速さでクラガミへと放った。一発は額の真ん中、一発は首、一発は心臓の位置。全弾を確実に狙った箇所へと放ったイライザ。
 漂う硝煙の匂いの中、クラガミは果たして狂女の悍ましき魔弾を退ける事が出来るのだろうか。

 そして、遂に。遂にイライザは、魔の払う光の使いのごとき、美しく気高い剣士と対峙する。一切の隙は無く、それでいて何処までも麗しく、高貴なるその様。ヴィヴィニィ・ローゼンブルク、薔薇の一族、最後の切り札(ジョーカー)。
 撃ち尽くした拳銃を投げ捨て、三日月のように反った狂気の剣を握ったままの手をだらりと下げたまま、構えもせずに。完全に臨戦態勢のヴィヴィニィを前に、イライザは牙を剥くように笑う、嗤う。

「嗚呼、あなたにもわかりませんか、わたくしが目指す正真正銘、世界の理を塗り替える美の神髄が。わたくしは神に牙を剥き、悪魔を切り伏せてでも、真の永遠をこの世に齎すのです。ですから、〈これ〉は剥製などではないと、そう告げました。にも拘わらず、あなたは〈これ〉をがらくたと呼んだ……あなたも、所詮は人の子、わたくしの境地までは、届きはしないという訳ですわね」

 嘲笑を続けるヴィヴィニィに対して、くっくっと小鳥が囀るように、イライザは肩を震わせて笑い続ける。それは今まで見せてきた、無表情で無感情なイライザとは全く違う。未だに密やかで冷たいままではあるが、今まで秘め続けてきた凍れる熱情も、澱み凝縮された狂気と邪悪を垣間見せながら、イライザはヴィヴィニィの言葉を真っ向から否定していく。

「ならば、わたくしは人類史を拒否致します。終焉は文字通りの終わり。限られた未来など、所詮は滅びの元に灰に帰る、そんなものに心血を注ぐは、無意味で無価値。わたくしは限られた生命を覆す、其処から生まれるは永遠の平穏、久遠の平和、永久の美。美しいものが、美しいまま存在し続ける事こそ、人の辿り着くべき究極の楽園(エデン)。わたくしは儚きを憎悪する、足掻きを嘲笑する、滅びを唾棄する。あなたの語る歴史を、わたくしは偽りに変えましょう。そんな織物、わたくしが焼き尽くす」

 一瞬で踏み込み、目にも止まらぬ神速で斬り込むヴィヴィニィ。凄まじい速度で振り下ろされる、聖なる神が宿りし裁きの一撃。

「進歩などいらない、わたくしが望み、願い、祈り、欲するは美しき終わりなき終わりのみ。それを、あなたは否定する? でははっきりと拒絶して差し上げましょう、あなたはわたくしが最も嫌悪するもの、〈堕落〉でしかない、――――ベルフェゴールの全身は、慈雨と豊穣の神バアル・ペオル。わたくしは、あなたの背後に立つ神を、認めません」

 一瞬、イライザの姿が消える。いや、消えたかと思う程、不自然な位に低く、両足を大きく開いて地を這うようにイライザは身を屈めていた。そして全身のバネを駆使し、逆手に持って振り上げていた刃をヴィヴィニィの剣目掛けて斬り上げた。


 劈くような鋭い金属音がバルコニーどころか屋敷中に響き渡り、交わった聖と刃と邪の刃の間に蒼い火花が鮮やかに散った。

1ヶ月前 No.440

イライザ・リー @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE


「ヴィヴィニィ、今こそ、今だからこそ、あなたにはお教えしましょう。わたくしがこの顔に、焼け爛れた十字を刻まれた、本当の理由」

 ぎりぎりと斬り合せた刃を交えて、二人は眩い月光に照らされて、拮抗したまま対峙した。その視線と視線、殺気と殺気、過去と現在と未来が交差して。

「あなたの父、ローラント・ローゼンブルク公爵が、どんな男だったのか、あなたは御存知? 聖人君子のような顔をして、女と見れば誰かれ構わず手を出す、醜悪な人物だったこと、あなたはマダムから聴いていらした? そして、これはマダムも知らぬこと……ローゼンブルク家とリー家、永き闇に結ばれた鎖に、繋がれたが故の毒」

 ふいに見た事も無い程、この世にこんなにも醜悪なものがあるのかと背筋が寒く成る程に、悍ましい微笑がイライザの全てを最後の魔物として彩った。

「ローラント様は、ある種最も身近な存在であり、所詮は使役する女でしかなかった、わたくしの母を、ある夜その手で…………たった一夜、たった一度の過ち。しかし、わたくしの母は身籠り、そして生まれたのが、――――このわたくし。故に、母はわたくしを罪の子と呼び、不義の子として持て余し、呪い、憎み……神の名の下に、罰した、罰し続けた。わたくしは、産まれながらに、生まれてはいけなかった、悪しき仔羊」

 砕け散った窓からごおっと恐ろしい音を立てて悪魔が赤い焔を噴き上げて、イライザの長く真っ白な髪が紅く照らされ、真紅の悍ましき巨大な翼がその背に広がった。


「イライザ・リー、それは忌み名。本当の、わたくしの名は…………!」


 イライザハ片手を素早く下ろすと、先程裂いたドレスの裾をさっと捲り上げた。黒いタイツを履いたしなやかな足、其処には黒い革のベルトで固定されたナイフがあった。それを引き抜くと、イライザはヴィヴィニィのフランベルジェの根元に強く押し当てる。イライザの手にあるナイフは奇妙な物だった。刃の背に、でこぼことした凹凸がずらりと並んでいるのだ。その凹凸に、フランベルジェの鋭利な刃が挟み込まれる。
 次の瞬間、きん、と澄んだ音がして。きらきらと、無数の流星が落ちていくように、白銀の欠片が幾つも空を舞う。根元からへし折られたフランベルジェが、大理石の床に突き刺さって小さく震える。
 ソードブレイカー、それはナイフの形をしてはいるが、敵の武器を破壊する為に作られた特殊な物である。イライザは最初からこの時を狙っていたのだ、ヴィヴィニィを密着して剣を交える、その瞬間を。

 イライザは眼前のヴィヴィニィの頭上に、悠然とした流れるような動作で剣を振り上げる。その真っ赤に充血した隻眼が月明かりに爛々と輝き、これ以上ない程唇を歪に吊り上げると、イライザはぽっかりと開いた左側の眼孔と同じ闇を吐き出す。


「――――消えろ消えろ、短い蝋燭。人生は歩き回る影に過ぎぬ」


 三日月を模した禍々しき刃が、今まさにヴィヴィニィへと振り下ろされようとした、その時である。

 鋭い猛禽の鳴き声に、イライザが思わず振り返る。
 まるで生きているかのように微笑みながら立ち尽くす、ルイスの亡骸。その顔目掛けてヴィヴィニィの相棒たるチェスターが襲い掛かり、鋭い嘴と爪で凶行を行っている様が、イライザの隻眼に映った。

 ひゅっとその喉が反り返り、言葉にならない奇妙な音がその唇から洩れた。

 反射的に、イライザがチェスターに向けてソードブレイカーを投げ付けた。野生の王者たる猛禽にそんな物は掠りもしないが、それでもその凄まじい殺気を感じ取ったのだろう、チェスターはルイスから離れる。

 風のような速度で、音も無くイライザはルイスの元へと走った。剣を床に置くと、チェスターの攻撃で倒れ伏したルイスの身体を抱き上げて、まるで泣いている幼子をあやすように、イライザは完全に正気を失くした笑みをその亡骸に向ける。顔の左側が大きく損傷した、悍ましい亡骸に。

「嗚呼、嗚呼、こんなに傷付けられてしまって……これでは、まるでわたくしと、同じではありませんか。けれど、けれど大丈夫、幾らでも、久遠にこのわたくしが、あなたを復元し続けてあげましょう。あなたはわたくしの生の象徴、死を退けた、超越せし証。何度でも、何度でも何度でも何度でも何度でも、わたくしは死を破棄し続ける、――全てを永遠に変える、その日まで」

 慈愛と狂いに完全に染まった、その微笑。悍ましく、そしてあまりにも深い、闇と病み。

 その笑みが、突然、静止した。


「あ」


 イライザの口から、深い溜息のような、小さな声が漏れ出た。
 その腹部に、深々と湾曲した青白い刃が突き刺さっていた。先程床に置いた、三日月のごとき剣がその華奢な身体を刺し貫き、突き抜けたその切っ先がどす黒い液体に濡れて、月光にてらてらと光を放つ。

 自動で動くとはいえ、所詮は制御され、決められた動きしかせず、定められた言葉しか紡げぬ筈の自動人形。屍を使った、哀れな人形。その筈のルイスの、青白い小さな両手が、恐るべき剣をもってイライザを罰していた。

 イライザが、ルイスを見た。その、刃を濡らす液体と同じ、紅の隻眼で。
 硝子で出来た、無機質な筈のルイスの瞳が一瞬涙に濡れたように、悲しげに煌めいた。



『心せよ、亡霊を装いて戯れなば、汝亡霊となるべし』



 軋み、歪んで、圧縮されたような、澄んだ少年の声が、確かにそう告げた。
 それは生前のルイスの声だったが、今はもう一つ、弦楽器のような女性の声が重なるように響いて。それは確かに、マダム・エルザの声に似ていた。

 イライザの傷口から、鮮烈なる赤黒い液体が迸った。それはルイスの傷付いた顔の左側にも流れ込み、液体でショートした歯車と導線がぱちん、と火花を散らす。次の瞬間には、ルイスの小さな身体は血液の色をした炎に包まれていた。
 高く高く昇る業火はイライザをも巻き込み、鮮やかな薔薇色のドレスを文字通り赤く、朱く、紅く、瞬く間に焔で彩る。

 刃からも業火からも逃れる事さえ出来ず、真っ白な髪も、肌も、その全身を紅に染めて。ルイスを抱くような格好のまま、声の一つも上げずに後ずさると、イライザはベランダの縁に阻まれて立ち止まる。
 燃え盛りながらも天を仰ぎ、ただ茫然としたように冬の夜空を見上げる。紅く染まる手を伸ばし、月に向けるが当然届かない。爪を立てて、握り込むようにしてもまだ届きはしない。

 はっ、と、その口から息が漏れる。それは、溜息というより、嘲笑に聞こえた。

「何だ……何という、事もない……こんなものか…………死など、温い…………」

 ごうごうと、亡者の叫びに似て唸り続ける焔に阻まれて、その声は揺らぎのようにしか聞こえない。しかしその冷めた空虚な呟きは、確かに人々の耳にまで届いた。

 と、ふいに照る月が何かに遮られる。見上げれば、そこには極彩色の雲とも霧ともつかぬ、群れなすものが空を覆い尽くすように舞い飛んでいた。それは、数えきれない程に群集した蝶。先程、イライザが自らの部屋の飼育容器から解き放った、いずれ冬に寒さに耐えきれず落ちる運命の儚き魂の軍勢。

 イライザが、もう一度手を伸ばした。それに惹かれるように、一羽の黒揚羽が舞い降りて、しかしイライザが纏う炎の衣に一瞬にして焼け落ちる。
 焔の奥底で、イライザが幼子のような邪気の無い微笑みを浮かべたのが、確かに見えた。


「美しい」


 更に求めるように、イライザが虚空に手を伸ばす。そしてそのままバランスを崩し、バルコニーの手すりを乗り越えて、音も無く転落した。

 燃える髪を真っ赤な翼に変えて、飛び立った紅い蝶々は夜の黒を照らし、しかしすぐに常闇に飲まれて、下界に消えた。


 麗しき薔薇の園に巣食いし毒蜘蛛は、夢見るままに蝶の羽根を奪い、真っ逆様に墜落していった。


>>ALL


【十三日の金曜日、我が娘にお似合いな、この夜に。
長らくお待たせしました、そして今までの傍若無人の全てをお詫び申し上げます。このような悍ましい狂女に此処までお付き合い頂け、心の底から参加者の皆様、そしてスレ主様に感謝しております。長い間、どうもありがとうございました。
この物語に携わらせて頂き、スレ主様に微力でも協力出来たとしたら光栄です。
そして、参加者の皆様に、ほんの少しでも楽しんで頂けたとしたら、私にとってこれほど嬉しい事はほとんどないと言えるでしょう。
これにてイライザ・リーはクロエの舞台より退場致します。どうぞ皆様、最後の最後、物語の御仕舞までこの物語を楽しみ、彩り、この素晴らしいスレの幕切れを華々しく演じ尽くしてくださいませ。今まで本当にありがとうございました!】

1ヶ月前 No.441

絡繰 @ne9rodoll ★wgm3NQbNwV_glG

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1ヶ月前 No.442

疾風 @yuika10☆/I6eiMaHxFai ★bGyEkAoikT_81E

【ロゼッタ=シェルノサージュ=レジェンダー/大広間→庭園→屋敷の外の鄙びた小屋(〆)】


逃げてくださいと言った刹那。大きな爆音が再度聞こえる。ここも、もうダメなんだな、と。そう悟ってしまった。私は、泣きそうな顔になる。この展開は、兄と私が別れて行動しているときの寂しさに似ていた。使用人の声も、もうほぼ聞こえない。きっと皆逃げてしまったのだろう。私の事を知っている人間はほぼ誰もいない。そんな世界になってしまうのだろうか。この家も、もうじき果てるだろう。炎に飲まれた屋敷も幻想的で素敵だと、思う。でも、自分の母親たちとは違って、理不尽なことは少なかったように思える。そして、私はお別れの歌を歌いながら。大広間を後にする。それは讃美歌ではない。幸せそうな恋人と、この場所に似合うような、そんな歌だった。アリアで歌うべきその曲は彼女の歌声によって飾られていく。

ふと、昔のことを思い出した。私がまだ、パブリック・スクールにいた頃の話だった。管弦楽団に囲まれて、式典奏者として選ばれて弾いたバイオリンの音色。その演奏するときの照明の熱と、今のこの炎は少し似ていて、思い出させられる。私は、あの頃が一番花咲いていた頃かもしれない。そう思って。

私は、足取り重たく、ふらふらと歩く。一酸化炭素中毒になりかけていた。私には、両手に抱えるほどの荷物が存在していた。私は、まだ生きていたい。兄もそのはずだ。そう思いたい。まだ、独りぼっちにはなりたくない。私は、私は!! そう強く考えれば考えるほど、熱に侵され侵食されていく私の精神がものすごく嫌になる。私は、まだ大人になり切れてない。ただの小娘だと知っている。でも、それでも。それでも。抗いたかった。堕ちて、堕ちるまで。そのそばに居たかったのだ。

玄関をふらふらと出た直後だった。ドスン…。と何かが落ちる音。鈍い、肉の塊が落ちるかのような音。まさか…誰か落ちたのか? でも、私には確認する時間も無かった。私は急いで庭園に出る。そして、最後のお礼として、この屋敷に。歌を送る今年にした。私には音楽と学しかない。身分なんてものもない。だから。私は。この曲を送ろう。荷物を一旦、自分の隣に置き、バイオリンを取り出し、弾き始める。曲名は。


『サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン』


熱情的に奏でるこのバイオリンとピアノの旋律が特徴的なこの曲をバイオリンだけで奏でる。完璧なその場限りのお別れの歌。私にとっての恩義とこの雰囲気に合わせて奏でるべきであろうと判断した楽曲。研ぎ澄ましたその弦で。奏でるこの曲は私の中の炎を静かに燃え上がらせるだけでなく、途中の軽快なリズムのバイオリンの部分や、ピアノの部分をアレンジした彼女のための楽曲。弾くのに技術もいる。でも、この場所にいる。まだ残っているお嬢様やマダム・エルザに餞を。そして、ここで歴史が途絶えるのだと思うこのローゼンブルク家に幸あれ…。そういう思いで奏でるのだ。私は、最後の最後にも役に立てなかった。でも、それでも良かった。このまま溺れてしまうよりかは。それで良かったのだ。そして、奏で終わると同時に、涙が出てきた。今さっきまで弾いていた音色は、この最後まで散り輝くローゼンブルク家に合うように選んだはずなのに。自分の人生を見ているようで。耐えられなかった。私は、今まで奏でていたサラサーテ:ツィゴイネルワイゼンの曲が私の事をおいかける。私は逃走をした。

このはしたない顔を見られたくなかった。

私は、荷物を抱えて、走り出した。何にも否定されない自分で居たかった。そとは危険だって。知っていた。でも、もう死んでも良かった。狼に何回か遭遇してしまった。が、何とか小屋に籠ることが出来た。屋敷のだいたい800mくらい離れた位置にある、鄙びた小屋。かび臭いし、食料もない。でも、ここに兄が。それともほかの人が来ると信じて。ここでバイオリンを弾こう。そしたら、きっと。皆にあえるはずだから。そう信じて。バイオリンを一心不乱に弾いた。

【ロゼッタの一応〆レスです! 音楽に関してはフリーで聞こえたとか、見かけたとかは多用してOKです。何なら、小屋に誰か来てくれても…(寂しがり)ロキのほうはしばしお待ちくださいませ…!
ちなみに、今回のレスであげさせていただいたサラサーテ:ツィゴイネルワイゼンはこんな感じの曲です。この、終わりに相応しい曲かなと思い、選択させていただきました。よかったらこのレスを読みながら。この物語の終わりを感じながら。(買って極まりない)聞いていただければ幸いです。URL→https://www.youtube.com/watch?v=DKRE59DWsxw

1ヶ月前 No.443

ふぁすね @yupihiko☆d.mPOva7Vfg ★mbjMynBHF3_OSy



【エトワール/バルコニー@】



 ――こころの奥の、一番触れてほしくないところに爪を立てられる。シュテルン、という言葉が耳朶を震わせるたびに、見えない手で首を絞められるような心地がした。ぎりぎりと締め付けられるような胸の痛みに、口の端からは要領を得ない母音が覚束なく零れ出る。過去と現実がごちゃごちゃにまじりあった思考はろくに働かず、ひゅうひゅうと過呼吸じみた不吉な嗚咽が喉を鳴らした。

 イライザによって紐解かれた過去の記憶に雁字搦めにされ、眩暈の様な感覚に足元がふらつく。フランベルジェを手に気高く舞うアルテミスの寵児も、宝石の剣を手にし妹に許しを請うアフロディーテの狂信者も視界に入らなかった。ゆらゆらと揺れる瞳に映るのは、赤いドレスを翻し、三日月の様に口元を歪め不敵な笑みを浮かべる白き狂女のみ。月夜に閃くフランベルジェのきらめきという誘蛾灯に導かれるようにエトワールもしろかねの剣を高く掲げイライザへ斬りかかろうとしたところ、その行動は不意にグレイに抱きしめられたことによって妨げられた。

 ふわりとあたたかく広がる柔らかい感触に促されるがまま、エトワールの躰はグレイの腕の中へと崩れた。あたたかい腕の中、ぬくもりにおびえるように、躰が小さく跳ねる。剣を握る冷え切った手にグレイの手が添えられ、その温度に溶かされるようにゆるりと指がほどけた。手から落ち、大理石にぶつかった剣がきぃん、と鋭くつめたい音を立てる。そのまま紡がれるグレイのことばは、耳の奥で木霊し続けるフィルムの音をすり抜けてもっと深いところへじんわりと響いていくように思われた。

 ――エトワール。薔薇の女王によって与えられた、楽園と自身を繋ぎとめる鎖。その女王が消え、崩壊しつつある楽園の中で、其れが何の意味を成すのか、自身もよくわかっていなかったけれど、その言葉はフィルムの廻る追憶に沈みかけた意識を引っ張り上げるには十分だった。


「――ゃ、だめ、俺、」


 つたない拒絶の声が零れた。しかし言葉とは裏腹にエトワールの手は指先が白く染まるほどグレイの衣服の肩口のあたりをぎゅっと握りしめる。グレイの口から紡がれるやさしい言葉のひとつひとつは刻まれた傷の痛みを和らげるようにも感じられるが、同時に胸が苦しく締め付けられた。昔のことを彼女に知られてしまった今、エトワールの脳内を占めるのは拒絶されることの恐怖。半ば拒絶されてしまったと思いこんでしまっているエトワールにはグレイがこうして抱きしめてくれる理由もうまく呑みこめなかった。何事か呟こうと唇が動くが、目の前で繰り広げられる情景に釘付けになる。

 自らの生み出した人形に貫かれ、炎に包まれながら地へと堕ちて逝く白の女王。その凄惨な様子に目を背けたくなるけれど、なぜだかその一部始終から目を離すことができなかった。バルコニーから狂女の姿が消え、地へと叩きつけられる音が聞こえた気がして、エトワールは一度びくりと体を震わせぎゅっと目を閉じる。マダム・エルザによって屋敷につけられた火が見え隠れしたけれど、足は其処に縫い付けられたかのように動かない。おのずと、弁明のように、懺悔のように、言葉が零れ出た。


「――――暗くて、寒いところで、みんなが俺に"殺せ"って言うの。俺はそんなの嫌なのに、でもやんなきゃいけなくて、うまくできたら、痛いこと、されない、から。やだって言ったら、居場所がなくなっちゃうから、すてられる、から。俺は、何度も、何度も、首絞めたり、棒で殴ったりして、ころ、して――ッ! ――……ね、分かったでしょ。俺の手なんて、イライザせんせなんかよりも、もっとずっと穢れてるの。汚いの。だから、ほんとはこんなこと思っちゃいけないって、分かってる。分かってる、けど」


 ――あいしてほしい。俺だけの誰よりもいとしいひとに。だけど好きだからこそ、あいされたくない。俺みたいな欠陥品なんて誰も好きになっちゃいけない。きっと俺は、あんたのことを"みんな"みたいに不幸にしてしまうから。あんたにだけは、あいされたくない。

 矛盾した思いの整理がつかず、ぐちゃぐちゃな心中を吐露するかのように双眸から雫が零れる。


「嘘でもいいの。嘘でもいい、から。あいしてる、って、言って……? おねがい」


 エトワールはためらいがちに両手をグレイの背へと回し、ぎゅっと縋りついた。其れは、鎖で繋がれたあのときにはやりたくてもできない行為だった。両手を繋ぐ重い手枷は、だれかの首を絞めて殺すには十分すぎるほど長かったが、いとしいひとを抱きしめるにはかなしいほど短かった。



>>グレイ、ALL

1ヶ月前 No.444

七彩 @tmr☆qrj4adrhQpgH ★Tablet=rLqy3zkxxj

【フェリシエンヌ・ローゼンブルグ/自室】

 仮初の永遠から目覚めた私は、もう生きていられないと感じた。

 気づいた時には、思い人も大切な家族もみんな消えていた。正確には家族はいる。お姉さまも妹もちゃんといるけれど、壊れて、ゆがんで狂ってしまった。もう元通りにはならないと、私はどこかで知ってしまった。知りたくなかった、嫌だった、変わることのない永遠が確かにここにあったはずだから。オルゴールの流れる部屋の中、ベッドに座って月の光を見上げる、その膝の上にはケース。開けると渡されることのなくなった、桜をモチーフにしたイヤリングが入っていた。
 渡したかったもの、渡せなかったもの、私の半身として彼につけてもらいたかったもの。その左耳用のイヤリングを外してつけてみる。やっぱり彼じゃなきゃ似合わないなと思う反面、不思議と安心してしまう自分がいた。もう片方の耳には自分用のバラをモチーフにしたイヤリングを付ける。遠くで何かが弾ける音がした、火事だという声が聞こえた。

「……お母様、アイリス姉様、キマイラ姉様、ベイリー姉様、ヴィヴィニィ姉様」

 その言葉を皮切りに、私は机に隠していたナイフを取り出した。別に思い人に振られてから死のうなんて考えがあったわけではないし、殺そうなんて断じて違う。家族が壊れてしまったから、元通りになれないとわかってしまったから、そして最愛の支えをなくしてしまったから、もう死ぬしかないのだ。生きていようなんて思えない、それなら屋敷と一緒に燃え尽きて死んでしまうほうが――きっと、もっと、幸せなんだろうと思う。

 胸に突き立てる前に月の光に照らす、自分を貫いてくれる刃を目の前にして『死にたくない』なんて思ったりはしなかった。自分の命をちゃんと奪ってくれることだけをただ望むだけ。

 頭の奥に浮かぶセピア色の記憶。大切で暖かくて、永遠に続くと思っていた時間。もう壊れてしまったけれど、記憶はずっと変わらない。

「グレイ姉様、ノイン、マリュー、ロキ、カナニト、リオネル、ロメア、エトワール、アン、ルイス」

 ここまで来て涙が溢れて。

「クラガミさん、イライザさん、ドミニコさん……ロゼッタさん」

 最後の方は鼻声になりつつ、関わってくれた全員の名前を恐らく呼んだ。イライザさんは引き金を引いたし、母親に乗らせたということもあったけれど、不思議と憎いとは思えなかった。記憶は流れ終わったあとで、もう心残りはない。あとは自分の体を殺してしまうだけ、簡単な話だ。

「大好きな――、幸せに、なってね」

 好きな人の名前だけは、やっぱり恥ずかしくて口ごもってしまった。最後まで変わらない自分に少しだけ笑みが溢れる。そして迷うことなくその刃を自分の体へと突き立ててやる。燃えるような熱い痛みと、目も眩むような気持ち悪さ。ベッドでのたうちまわりそうになるのを必死に抑えて、シーツを掴みながら荒い呼吸をして。

「……あり、が……とう」

 その言葉とともに、オルゴールが聞こえなくなった。


【フェリシエンヌの〆になります……! 本来ならば前イベント段階で〆る予定だったのですが上手くかけなくて……無事にかけてホッとしてます。フェリシエンヌに絡んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。】

1ヶ月前 No.445

リオネル @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【リオネル/裏庭】

 決意を顕にするロメアの言葉にリオネルは驚くように瞳を大きく開いた。戸惑いに瞳が揺れる。それは表情にも表れ、眉は徐々に八の字になり寂しさと切なさを含むと、目線はロメアから地面へと移った。そんなリオネルに、ふいに問い掛けが降ってくる。
 どうしたい……。家に帰りたい。けれど、帰る家はきっともうないだろう。窶れた父と母が思い出される。兄弟達はそれぞれが家の為に出ていった。そして、それはリオネルも同じ……。そこまで記憶を辿って、はっと考えが浮かんだ。帰る場所がないなら、自分で居場所を作れば……。
 隣に座るアイリスを見上げる。飽きることなく頭を撫で続ける手。撫でられる度に桜色の髪がさらさらと揺れ、それはとても心地よくて。漠然と、この人の側が自分の居場所のように思えた。『アイリス』と唇は形を作るけれど、言葉は依然として出てこない。そんなリオネルを心配してかアイリスが優しく微笑みながら顔を覗き込んでくるのに対し、リオネルは誤魔化すように笑った。

 その時だった。突然の破壊音。抱え込まれる体。音に誘われるように目を向けると、視界に飛び込んできたのは赤。屋敷の一部から火の手が上がっていた。そこがどの部屋だったかリオネルには分からなかったが、屋敷が崩壊の一途を辿ろうとしている事は理解できた。全てを飲み込もうとする焔は徐々にその範囲を広げていく。その異常な様はリオネルにとって恐怖でしかなかった。
 目の前の体にすがるようにしがみつく。けれど、暫くするとその体はリオネルから離れてしまった。どうして……と、言いたげな表情でアイリスを掴まえようと手を伸ばす。だが、耳に届いた言葉は『別れ』を示すものだった。

 中途半端に伸ばしていた手はそのままに、アイリスの唇から次々に紡がれる言葉はリオネルに衝撃を与える。屋敷が崩壊するように、するりと頬を撫でる暖かさも、築いてきた関係も無くなってしまうのか……。嘗てないほどの痛みがリオネルを襲った。固まる体をぎこちなく動かして、ロメアへ助けを求めるように視線を動かす。彼の姿が視界に入った時、先程の問い掛けが再び耳の奥でこだました。
『どうしたい?』その答えを今ここで示さなければいけないと、リオネルは直感で感じた。そして、その答えはもう既に出ていた。後は、思いを伝えるだけ……。
 息を吸い込み、口を開ける。伝えたい。伝えたい。漏れ出るだけの吐息を音に。音を言葉に。気持ちとは裏腹に、中々でない音にもどかしさを感じる。でも、諦めるなんて出来ない。

「っ……、ぁ、ぃっ……! ぃ……いっしょに、いたいっ!」

 喉の奥から絞り出すように出た辿々しい言葉と共に、アイリスへ両手を広げて飛びつく。瞳に溜まった涙が溢れだす。嫌だった。また、大切な人と離れるのは。離れたくない、失いたくない。ずっと、側にいたい。そんな思いが至るところから溢れだして、気が付けば声を張り上げる程にリオネルは泣いていた。

>アイリス、ロメア

1ヶ月前 No.446

エルデガルト @ready50☆AaWAaYBi9xHg ★6lDqAT8MNN_X9G

【エルデガルト・ローゼンブルク/バルコニーA】

 膝から崩れ落ちた姉の姿を見て、「これでいい」と思った。
 これでいい、これでいいんだ。全ては戻った。……いや、正しく言えば戻っていない。……もう、この家は泡沫の夢となって消え去って行く。自ら虚構の底へ沈んで行く事を選択した家族もいるかもしれない。でも、でも――――一人でも救えるのならば、それが本望なのだ。

「……姉様」

 目線を姉と同じにする。慈愛の聖母の如き微笑み、キマイラの肩にそっと手を置けば、自分でも意外だと思う程の笑顔を見せた。誰にも見せないような、そもそもこの世で見せる機会があるかないかで言えば「ない」に分類されるほどの、笑顔だ。
 エルデガルトは紡ぐ。言葉を。答えを。

「また一緒に、お買い物にいきましょう。
 また一緒に、ドレスを見てみましょう。
 たったそれだけのことで――――良いんです。難しく考える事はないんですよ」

 彼女の手に、自分の手を添える。
 そして今起こっている事を把握し、目つきを変えてキマイラに言う。

「行きましょう、姉様。
 もう貴方を縛るものはありません。貴方を祭り上げようとした歪んだ福音もありません。
 生きましょう、姉様。
 楽園なら……もう一度、見つければ良い。今度は自由な楽園にしましょう。鳥籠じゃなくて、鳥達が自由に羽ばたける花畑のような……」

 こくんと頷いて立ち上がる。
 右手を差し伸べて、「さあ、早く」と告げる。
 一刻も早く逃げて、そして生きなくてはならない。生きなきゃダメだ。生きなきゃ――――燃える運命にあるお人形達に笑われてしまうのだから。

>>キマイラ、バルコニーALL

1ヶ月前 No.447

有楽 @badwriter ★Android=BrO85Ebimz

【ヴィヴィニィ・ローゼンブルク/バルコニーA】

>>(イライザ様)、クラガミ様、バルコニーALL


 凄まじい爆風と爆音、そして肌を焦がす熱風の最中、一撃目を叩き込む。空を切り裂く鋭い剣戟が交わされ火花が飛び散った。イライザは逆手に取った剣で受け止めている、と認識した時、彼女はドレスの内に隠し持っていたもう一振りの剣をフランベルジュに差し入れたのだった。
 それをヴィヴィニィは知っていた。殺傷を目的とするものではなく、相手の武器を破壊するための武器、ソードブレイカー。それを理解したとき、細身のフランベルジュの刃はあっけなく折り取られたのである。きらきらと、その破片は星のように宙を踊っていて。
 『終演』を覚悟した。
 されど『終焉』にするつもりはなかった。
 凶刃を振り翳すイライザに対し、それでも足掻くため、彼女は両腕を掲げ顔を庇うように構えたのだった。

 そして、そんな二人を裂くようにチェスターの雄たけびが響き渡る。彼はヴィヴィニィの指示通り、ルイスの人形を攻撃、破壊までいかずとも破損させることに成功していた。イライザの短く息を飲む声が聞こえたかと思うと、彼女はチェスターを引き剥がすため手にしていたソードブレイカーを投げつける。当然、そんなものが当たるはずもなく、ルイスに駆け寄るイライザを入れ違いになるようにチェスターはヴィヴィニィの肩に止まった。彼女は、息を大きく吐いてから相棒を労う。

 その先の流れはあまりに残酷で、虚無で、悲劇のようで、喜劇のような。自身の造り上げた"仮想の未来"に刃突き立てられたイライザは、彼女が放したであろう幾多の蝶に魂を導かれるように、バルコニーから転落していったのである。

 ヴィヴィニィはバルコニーの手すりから身を乗り出し、力なく十字を切った。

「……There was a crooked man.And he walked a crooked mile.He found a crooked sixpence.Upon……」

 それは、彼女なりの鎮魂歌なのかもしれない。歌い声は迫り来る炎の燃やす音でかき消されてしまうほど小さかった。

「……あなたも私も、所詮『Crooked Man』だったということさ。" 姉上 "」

 彼女の肩から、チェスターが夜空に向かって飛び出したのはそんな時だった。相棒の飛び行く方向を見届けてから、彼女は悠然と振り返る。愛しい人、その姿を翡翠の瞳に映して。ルージュはすっかり乾いて赤茶けてしまっていた。

「……色々迷惑をかけた。ここまでついてきた貴殿に対して、もう離れろ、なんて言うことは無駄だと理解している。だからこそ、私は、こう問いたい」

 隠れていない彼女の右目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。そして、ボロボロの左手を差し出して、『懇願』する。

「どうか私を、もはやローゼンブルクの名さえ地に落ち、ただのヴィヴィニィという女になった私を、導いてほしい。君の死臭なんて、私には心地よい香水だよ。シンスケ……愛してしまったんだ、心から」

 めらめらと燃え上がり、舞い上がった火の粉は、時折彼女の髪や服を焦がしていたが、どうでもよかった。

1ヶ月前 No.448

銃刀使いの使用人 @kaizelkai ★kdFzi0ED3j_mgE

【クラガミ・シンスケ/バルコニーA】


 イライザの銃から三発の弾丸が放たれる。動じない、何故なら自分を狙ってないのがわかっているか。その弾丸は自分の爪先近くの床に打ち込まれた。剣だけではなく、銃の腕も並大抵ではなかった。視線を床の銃痕からそのまま彼女に向けると、拍子ぬけたかのように鼻で笑った。


「 フッ……そうだな、俺は最低な事をしてきた最低な人間だ。塵で結構、俺はお前と違って上品なタイプじゃない。人の人生を蝕み、人の幸福を壊してきたって?ハッ、よく言うな……好きだった相手にあんな事をするお前も壊しただろう?依頼があった訳でもない、名誉が得られる訳でもない……ただ、己の欲に従って、殺したんだ。
まあこれだけは言えるか―――" 黙れ、お前にだけは言われたくない "」


 彼女から辛辣な罵倒を浴びせられるが、それに同意するかのように頷いていた。だが自分は、彼女のように欲を満たすために命を奪ってきたのではない。暗殺者は依頼があってこそ、標的の命を奪う。同じ所にいた気もするが、そこまで言う筋合いはない。何故ならお互い様だからだ。もう彼女と口をかわしても似たような事ばっかりしか出てこない。終わりにしよう、そして自身も銃を彼女に向けた。刀と銃を両方を持つのは久しぶりに感じる、まるであの頃に戻ってきたところだ。彼女の指がゆっくりと動くのが見える、そして三回動いた。その三発、全てが急所狙いで読みやすかった。


 自身の相棒の引き金を引く。彼女と同じ三発、一発は額の真ん中、一発は首、一発は心臓の位置と彼女の瞳の先を見ながら、彼女の銃弾と自分の銃弾が直撃し、弾かれる。


「 あんまり俺を舐めるなよ。さて、これで終わりにして―――こいつは……。 」


 彼女の銃の弾はもうない。最初の三発、今の三発で終わりなのは確認している。引き金を引こうとした時、ルイスの人形は彼女が置いた剣で、まるでそうなる運命かのように、彼女を刺した。ルイスの身体は燃えて、イライザにも燃え移る。そして、数多の蝶に導かれるようにそのままバルコニーへと転落した。あれではもう生きてはいない、下を見るが確認するまででもないだろう。


「 イライザ・リー……それでも俺は、生きなくちゃならないんだ、次に会うときは"地獄"だ…。」


 そしてヴィヴィニィへと振り向く。イライザとの戦闘で服も髪もボロボロになってしまっている。停電の夜や、祭りの時とはかけ離れた見た目になっている。だが今は本当の彼女の姿に見える、着飾ってもいないその姿は美しく見えた。


「 導くか……俺も、使用人から無職になったからな……なら一緒に生きよう、ヴィヴィ。この世界で、もう一度。命を奪ってきた俺は、まだ死ぬ訳にはいかないんだ。 」


 彼女の左手を両手で優しく包み込む。彼女の暖かい感触が伝わる。


「 それに悪いけど、俺の死臭はまだ嗅がせないよ。俺は、ヴィヴィと一緒に住みたい、いや家族になりたい。ってそうじゃなくて……ヴィヴィのような綺麗なお、お嫁さん欲しいと思ってたし……子供も、女の子でも男の子でもかっこ可愛いと思うんだ……あ、出来れば女の子と男の子、一人ずつ欲しいかな。えぇと、駄目かな?」


言ってる途中から小恥ずかしくなってきて、さっきまでの暗殺者としての顔が何処かへ去った。両手の指どうしでツンツンとくっつけながらも、それはまるで乙女のような想いを呟くように言った。最後は迫り来る火の粉を背景に、首を傾げて、18歳の少年に相応しい子供っぽい笑顔を浮かべた。



>>イライザ、ヴィヴィニィ、ALL

1ヶ月前 No.449

崎山 @caim ★cggvzsv7BC_mgE


【カナニト/大広間】


 ぼくは少し、ズルをした。
 ぼくが“そう”聞けば、ベイリーは“そう”返してくれるって、分かってた。ほら、ベイリーも“駄目じゃない”って、言ってくれた。ぼくは、マホウの言葉は使えないから、いいよって言ってもらえる方法を、ぼくはほぼホンノウで思いついていた。ぼくは少し、ズルくなったよ。でも、言葉も、力も、ぼくの知ってるモノすべても、ぼくと大切なヒトを護るためだけに使うって決めたんだ。今よりちょっと前に。だから、それでゆるしてね。

 ぼくは、ベイリーにぼくのキモチを伝えることができただけで、満足してた。心が透明になった。すっきりしてた。これからなにが起きても、たぶんぼくは笑っていられるし、死んじゃう瞬間もさみしいキモチにはならないだろうなって思った。いらなかったら捨てていいよ。キモチが空っぽになった反動で、思わずそう言ってしまいそうになるのを、ぼくはあわててやめた。たぶんおそらくきっと、ベイリーはぼくとの関係を、こんな形では望んでないと思うから。
 ベイリーの手が、ぼくの髪をなでる。ほっぺに降りていく手に、首を傾げながら少しだけほっぺを押し付けた。ずっと今みたいにしていられたらいいのにな。くすぐったくて、目を細めた。

 ベイリーの言う“姉弟”って、“友人”って、“恋人”って、“親子”って、なんだろう。喧嘩ってどうやるんだろう。ぼくの話でベイリーは笑ってくれるかな。手を繋ぐって、朝起きて眠るまでずっとのことを言うのかな。
 分からないことが、ぼくの前にはたくさんある。心がぎゅうと苦しくなる。これは、知りたい時の合図だ。

「ベイリーがそう言ってくれるなら、ぼく、傷があってよかったって思ってるよ。……ベイリーがそうしたいって思うことを、ぼくも、そうしたい。ベイリーと、ずっとずっとそうしていたい。だから、ぼくに、いろんなことを教えて。そのお返しにさ、ぼく、ベイリーを護りたい」

 ぼくのほっぺをなでるベイリーの手に、そっと触れる。ベイリーの蒼い目が、優しかった。あの日の、あの夜に見せた目は、ニセモノだったんだねって、思った。ああ、よかった。ベイリーの傍は、温かくて、ぼくが知ってる怖いことなんかどこにもない世界だ。この世界を、ぼくは護りたい。

「ぼくの心は、ずっとここにあるよ」

 ベイリーが泣きそうな顔をした。それでも、この後悔は、小さな種だ。遠い未来で育って、やがて花をつけるに違いない。だからぼくは、笑った。ぼくは今よりも大きく笑ったことがなかったから、ほっぺたが引っ張られるみたいに痛んだ。


 その爆発は、二度起きた。
 そんな気がしたんだ。大広間の窓から見えた、森の向こうの火柱に、ぼくは小さく笑った。さよなら。あの部屋で見たことは、内緒にするね。それがぼくと、あの人との、信頼の証拠だから。
 一つ目の音の方は、真上からだった。たぶん、どこかの部屋からだろう。それでも、ぼくにはどうしてか、ぼくたちが生きていられるような気がしてた。ベイリーの顔を、見上げる。ぼくと同じことを考えてるんだろうな。視線が、ぶつかった。

「やだ。絶対、やだ。ぼくも、一緒に行く。ぼくも、みんなと、家族だったから」

 ベイリーが普段の話し方をする。それでも、思い出すのはあの夜の日じゃなかった。ベイリーの心を知ったから、ぼくには分かってた。
 家族だった。――だった? だった? だった、だなんて。家族だ、じゃなくて、家族だった、だ。ちゃんと過去形にするためにも、ぼくも一緒に行かなきゃって思った。どうしてだろう。ベイリーとここを出る時には、分かるといいな。
 そう、ぼくは変わったんだ。これからも、きっと変わってく。靴だって小さくなったし、お腹の傷も小さくなった。ぼくの頭と体は、成長を続けてる。ぼくのキモチとは、裏腹に。止められないし、止まらないんだ。燃えさかる炎と、これはすごく似てる。


>ベイリー、ALL

1ヶ月前 No.450

ししくれ @kmnkha☆/pH2qpQf7L2 ★ieluDUuGrE_ELg

【ロメア/裏庭】


 自らを悪人と言ったアイリスの口からこぼれた笑いは乾ききっていて、あまりにも悲痛だった。伏せられた瞳も何もかもが彼女に内在する葛藤を物語っていた。
 突如、轟音が耳に入る。反射的に音の鳴った方を振り向くと、屋敷が炎で赤く染まっていた。楽園の崩壊が形を成したのだと、たったそれだけしか思わなかった。全てのものはいずれ終わりを迎える運命なのだから、決してこれは悲しむべきことではないのだ。少しして、何事もなかったかのように二人の方へ向かい直る。意外なまでにアイリスは落ち着き払っていて、しっかりと言葉を紡いだ。私はそれに冗談めかして答える。


「貴方に攫われると言うのなら本望だね」

 でも、貴方が攫いたいのは、そうまでして一緒にいたいのは、私じゃなくてリオネルでしょう? 私はおまけに過ぎなくて、強いて言えば貴方の両親が生んだ産物だ。善意はいつだってずるい。美しく、甘い、まっさらなそれこそが、時に深く人を傷つけるのだと知らない。これまでの日々を悪夢としたのが、何よりの証だ。悪夢だなんて言ってほしくはなかった。それが優しさだというのなら、そんなものは要らない。私は此処が好きだった。狂ったこの場所も、そこを拠り所とする人々も、愛おしかった。けれど、そこに私は必要じゃなかった。居場所のないところに自分が存在することへの居心地の悪さといったらない。去る他、ないのだ。これまでの日々を悪夢として片付けられてしまったのに、図々しく此処へ居座るわけにはいかない。


「攫う必要なんてないみたいだよ。リオネルは、貴方を求めているんだから」


 微笑み、そう口にしながらも、ぐしゃりと歪な心から暗い感情が芽吹くのがわかった。疎外感が俺を壊す。美しさも、いつかこの醜悪な内面に塗れ、価値を失うだろう。
 でも、それでも、愛し愛されたい。優しく、甘く、尽くして、捧げて。口付けし、体を重ね、犯して、殺して、ーーああああ、違う。違う。でも、もう、セイカイもわからない。憎しみも暴力も一緒くたに愛としてきた人生。それを急に引き剥がすのはそう簡単ではない。何度も死んでいく娼婦を見てきたし、殺してくれと懇願する客もいた。死は平等だった。たとえどれだけ美しくても醜くても、それは誰にでも訪れる。死ねば皆同じだった。過去も未来も何もない。ただの肉塊、たったのそれだけ。全てが、終わる。それに、いつのまにか魅了されていた。誰かに殺されたいと願っていた。死を恐れなかったのは死に魅了されていたから。生に依存したのは幸せな死を迎えたかったから。幸せは永遠には続かない。だからこそ、誰かに愛され、そして殺されて死に逝くことに憧れた。過去を振りほどいた今、やっとそのことに気がつくなんて、なんと愚かなことだろう。暗い感情はすんなりと心の中に落ち着いて、築き上げたものを蝕んでいく。

 涙を浮かべるリオネルを見ながら、リオネルの頬を撫でたあの腕を、アイリスに抱きつくその腕を、へし折る妄想を繰り返している自分に驚いた。しかし、止めることなどできなかった。例え腕が折れようとも、それでも二人は愛し合っているのだ、想い合っているのだ、それほどにまっすぐなのだ。何をしようとも、二人と私とでは決定的に違う。そう考えると感情がセーブできなかった。私は差し出された愛に手を差し伸べるしかなく、愛を乞う他ない。血も肉も、過去も未来も何もかも二人と交わることはない。この屋敷で過ごした時でさえ、きっと私たちは交わっていなかった。だって、私は、私には、誰かに愛を与えることなどできない。誰も私にそんなものを求めてはいないから。それに私の愛はイかれてる。枷をつけてがんじがらめにして、檻の中でとろけるように甘く、そして残酷なまでの苦痛を与えたいだなんて、そんなこと、誰にも言えるはずがない。人が私に求めるのは美しさと、自分の欲望を受け止め自分の思うがままに動く器。それ以上でも以下でもない。
 ーー嗚呼。駄目だ、駄目だ。ぐしゃぐしゃにして思考を隅へ押し込むよう努めた。


「二人で、幸せになればいい」


 いっそ屋敷とともに燃え果ててしまえば楽だろうと、そんなことを考えながらも、言葉はすらすらと口から出ていく。半ば無意識的に微笑は浮かび続けていた。


 >>アイリス様、リオネル様

1ヶ月前 No.451

絡繰 @ne9rodoll ★wgm3NQbNwV_glG

【グレイ・ローゼンブルク/バルコニー@】

 腕の中に抱きしめた温もりを感じ得た瞬間、エトワールの力がふ、と抜けたのを感じる。言葉になり損ねた拒絶の声は聞こえぬ振りをして、握られた肩口の感触だけを信じて彼を掻き抱く。それと共に背後から聞こえたイライザの声に、振り向いてはいけないと思った。振り向いたら、未練がましくまだ彼女を縛り付けてしまいそうで。彼女の籠から駆けだした罪悪感で潰れてしまいそうで。どんな失望の声をかけられるのだろうと震える瞼をぎゅっと閉じる。それでも聞こえてきたのはとろけそうなほどに甘く穏やかな声。反射的に首だけで振り返れば、そこには何処か脱力したような表情で、グレイが噛み切った指先を自ら愛でるイライザが居た。僕が彼女に残した傷口からはまるで涙のように鮮血が滴り落ちる。思いだしたように後頭部に手を伸ばしたイライザの雪原の如き髪が空に舞った。酷く柔らかい微笑みと共に滑るように足元へ髪留めが辿り着く。それを拾い上げ、強く握りしめた。何も、言葉にはせずに、ただ懺悔のような後悔と、今までの彼女の医師としての行いへの感謝を視線に授ける。
 激しい動乱の末、彼女は夢現のようにその焔の奥の瞳を無垢に輝かせながら舞台から堕ちていった。生を模した美しい人形と共に。彼女の畏怖せんばかりの白をすべて紅に染め上げ、炎の光の尾を引きながら墜落して行った光景に動揺が抑えきれない中、少年のような、淑女のような、歪んで軋んだ意思を持たぬ屍であったはず人形の声が頭に残響する。弾かれたかのように一筋だけ頬に流れた涙はそのままバルコニーの地面に落ちる。彼女は最後まで美しさに焦がれていた。それはいっそ幼子と違わぬ無邪気な欲求でありながら、それ故に酷く残酷なまでに。それでも、ひたむきに己の想いを貫き散っていった彼女は、美しかった。最期に耳に届いた死への落胆の声は何時か自分も感じるものなのだろうか。脳裏に駆け巡る彼女との思い出と、大切な者を失った現実に心が軋む音が聞こえても、案外感情は冷静で。静かに流れ落ちる涙に感情の総てを吸い取られたようだと思った。手の中に、彼女に託された髪留めを収め、寂し気に、誰にも聞こえない声で小さく呟く。自らの腕の中にいるエトワールにさえ届かぬような短い短い追悼の言葉であり、無責任な祈り。

「――――こんな僕を、愛してくれて有難う。どうか、どうか安らかに。僕の信じた白磁の蝶。」

 イライザが地へ墜落した音に僅かに身体を震わせたエトワールは堰を切ったように語りだす。己が醜さを。凄惨な過去を。屋敷という箱庭に籠ってぬくぬくと真綿に包まれて生きてきた自分からは想像もし得ないような世の醜悪さを知る。それと共に今までの自分の愚かさも目の前に突きつけられる。ここまでぼろぼろになってしまった彼の本当の心に知らんふりをして、一人だけ悲劇の主人公の殻に閉じこもっていた自分にふつふつと湧き上がる後悔と怒り。優しさなんて綺麗な言葉を被せて、結局は彼に近づきすぎることに臆病になっていただけだ。縋りつくように背に添えられた手が、ボロボロと瞳から流れる数多の星が、彼の全ての心境を物語っていた。耳元に落とされた痛烈なまでの心中の叫びに呼応するように胸が締め付けられるように痛い。なのに、それなのに、何処まで行っても愚かな僕の心は、仄暗い悦びを感じ取る。エトワールの涙に濡れた頬を両手で包み込む。その揺れる双眸を見据え、歪に微笑んだ。

「エトワール…僕ね、君のこと愛しているんだ。嘘でもなんでもないよ。きみのこと……縛って侵して汚して啼かせて、僕だけのものにしたいって、ずっと考えてるの。ごめんね、僕、こんなにきたないんだよ。僕の愚かさが生んだ罪で、僕の手だってとっくに穢れ切ってる。」

包んだ彼の顔を見つめる。仮面も体裁も何もかもが消えた。彼の”本物”。あぁ、やっと、見ることができた。切なさと悦び、相反するはずの感情は胸の中で混じり合い、歪な愛情を象りだす。今まで抑え込んだ欲望が、彼を傷つけんと必死に殺した劣情が、箍を失って溢れる。今まで追いかけ続けたものを手の内に具現させた悦びは何物にも代えがたい。赤く腫れた目尻に柔く口づけを落とす。

「君になら、殺されたっていいさ。そしたら、僕はエトワールを殺してあげる。君をひとりになんてしないから。」

不幸になるのも、幸福になるのも、生きるも死ぬも共に。そう在れば、遺されたどちらかが涙に暮れるなんてことにならないでしょう?きみが拒絶しても、上手に出来なくても、僕はずっときみの居場所になる。捨てることなんてしないから。だから――。
彼の目元から頬、首筋と慈しむように指先を這わせる。昔からこの家の落ちこぼれで、出来損ないだった僕が心から欲したもの、それは唯一無二だった。お下がりでも共用でもない、自分だけのもの。自分だけに向けられた愛。母は皆のものだった。姉も妹も自分だけのものではなかった。一番誰にでも優しさを振り撒く自分自身が、何よりも無差別な愛を嫌っていたのだ。それが壊れかけの異常な独占欲を胸に生み出した。

「君の罪も、過去も穢れも欲望も、ぜんぶぜんぶ……愛するから。――――僕だけの星になって?エトワール。」

エトワールの耳元に囁くのは、砂糖菓子のように甘い言葉。もう僕は我慢なんてしない、できないから。君も、我慢も抑圧も、もうしなくていいよ。すべてまとめて受け入れるから。だから僕だけのものに。僕だけを見て、僕だけを愛して?愛することを、愛されることを、怖がらないで?彼を包むように抱いた腕に力を込めて逃がさぬようにと檻の中に閉じ込める。ゆるりと淡く弧を描いた唇は楽園に潜んだ激情の悪魔の正体を垣間見せるものだった。
本当の悪人なんて、もう、分かりはしない。

エトワール様、(イライザ様)>>

30日前 No.452

ふぁすね @yupihiko☆d.mPOva7Vfg ★mbjMynBHF3_OSy



【エトワール/バルコニー@】




 ――愛してる。何より望み、何より恐れ拒んだ言葉。愛に見合う対価として差し出せるものは全て銀幕の中に置いてきてしまった。しかしそのことを知ってもなお、グレイがエトワールに向けて紡ぐのは優しい言葉。頬を包むグレイの両手から体温と鼓動が伝わり安心感に包まれる。こんなに、あたたかいものだったっけ。エトワールはグレイの左手に手を添え頬を摺り寄せた。

 優しい愛の言葉の中に混じるのは、歪んだ狂気と独占欲。しかし痛みと凌辱を揺り籠にして育ったエトワールにはその異常性がわからない。汚泥の底で育ち、誰かからのぬくもりを、庇護を欲した少年は、何がおかしくてなにがおかしくないのか分からないほど無垢だった。飢餓にあえぐこどものように、愛に飢えた少年は与えられた甘い言葉をむさぼり享受する。其れが依存性の高いドラッグだということも気付かずに。否、気付いても少年は其れを自ら欲し、すべてを受け入れる。夜空に煌めく星が地上の薔薇との逢瀬を遂げるには、堕ちるしかすべがないのだから。愛されることへの躊躇いさえも甘い毒は溶かし、やがてエトワールの口から、上ずった言葉が零れ落ちた。


「――――俺も、あんたのことが、好き。愛してる。ぎゅってされるのも、キスするのも、咬まれるのも、抱くのも、首を絞められるのも、全部嬉しいの。あんたがくれるものだから、だよ」


 今よりももっと上の楽園に堕ちることも厭わず、エトワールはグレイの愛の囁きに答え、啄むような触れるだけの口付けを交わす。先にあるのが束縛でも苦痛でも快楽でも構わない。それを与えてくれるのが目の前の彼女だけで、彼女がそうするのも自分に向けてだけだという事実がどうしようもないほどエトワールを多幸感に酔わせるのだ。

 すっかり泣き腫らしてしまった目元に口付けが落とされ、壊れ物を愛でるように優しく指が這わされる。こんなに泣いたのはいつぶりだろう。涙なんて、とうの昔に忘れてしまったと思っていたのに。

 物心つく前に親に捨てられ、世界の闇へと落とされた。怒りを知る暇なんてなかった。血と汚泥の底で、心が安らぐことはなかった。初めて人を殺めた時、周囲の大人たちはみんな笑っていた。その時から笑うということがなんなのか分からなくなった。涙を流す方法も、大人たちの理想の人形に近付くにつれ忘れてしまった。そのはず、だった。しかし、現にいま、自分のものとは思えないほどあたたかな雫が頬を伝っている。

 胸ポケットの中で、星のピアスが微かに音を立てたような錯覚に陥る。――しあわせに、なってね――あの子は息を引き取る前に、確かにそう言った。罪を抱え、奪われた彼らの命の分だけ生きてしあわせになることが、償いになるのなら。俺は、あんたと一緒にしあわせになりたい。

 ――変われる、のかな。変わっても、いいのかな。――今まで空っぽな胸の中を通り過ぎて霧散してしまっていたあたたかなものがほんの少しずつだけれど、胸の奥に貯まっていくような心地がした。あの場所で失ったものを全て取り戻せるなんて、都合のいい希望は抱いていないけれど、せめていとしい人の隣で、笑いたいときに笑えるようになれたらいいな、なんて。首元をなぞるグレイの手をきゅ、と握りしめる。「愛してる」もう一度ちゃんとことばにして言うと、いとおしさがますますこみ上げた。


「……こんな俺を、愛してくれてありがとね。俺もあんた以外の誰のものにもなりなくないし、あんたを俺以外の誰のものにもしたくない。俺のぜんぶをあんたにあげるから、俺をあんただけの星にしてほしい」


 そう言いながらエトワールは自身の胸元に飾られたブローチから青いデルフィニウムの飾りを一つ引き抜くと、糸がつながった其れをグレイの左手の薬指にそっと結びつけ、花弁に軽く口付けた。にこりと浮かべたはにかむような笑みは、依然として作り物じみた様相を呈していたが、心なしか今までの人形じみたものとは違い、どこか明るく、人間らしくなったようにも見えた。まるでそれが、今まで囚われていた過去から一歩踏み出したことを示す証のように。


「花言葉――は、恥ずかしいからないしょ。此処から出た後で、あんたの"答え"を教えてね。今は其れより、お屋敷から出た方が良いと思うから」


 エトワールは炎が侵食しつつある周囲を見渡してそう言うと、誓いを結んだグレイの左手を握り、引いた。薔薇の檻を抜け出たその先に待っているのが新しい別の檻だってかまわない。それこそが、エトワールが望んだ唯一のものだったから。




>>グレイ、ALL

27日前 No.453

キマイラ @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★80jDqOFPYR_M0e

【キマイラ・ローゼンブルク/バルコニー】

 頬を涙で濡らしながら、ただキマイラは頭を垂れていた。さながらその様子は、許しを乞う罪人はそのもの。原初より人の抱く七つの大罪、そのうちでも特に身も心も狂わせる「嫉妬」に、その黒い蛇に魅入られた代償というものは、こんなにも大きいのだ。
 大罪を犯し、穢れきったこの身が、再び妹への無償の愛を抱こうとしている。エルデガルトは戻ろうと手を差し伸べてくれているが、果たしてそれは赦されるのか。キマイラはただ、半ばあきらめた様子で肩を震わせる。
 ふと、視界に紫色の影が差した。
 誘われるように、思わず顔をあげる。目前には、エルデガルトが居た。膝を折り、自分と目線を同じくする彼女が、ふっと微笑む。思えば、こんなに近い距離で妹の顔を見たのは初めてかもしれない。
 自分と同じ金色の髪。賢そうな深い蒼色の瞳。鮮やかな頬。その全てが生き生きとしていて、美しかった。聖母のような笑みを湛えた彼女が、にっこりと自分に笑いかける。肩に置かれた手の重みが、重ねられた手のぬくもりが、心地よく感じた。遠い昔に忘れてしまったその温かさと、彼女の口から紡がれる「答え」が、キマイラの心を包んで行く。

「…………本当、に?」

 エルデガルトの言葉。それはキマイラにとって最高の「赦し」だった。彼女の言葉が、キマイラに祭の日の記憶を思い出させる。
 珍しく、自分が「姉らしさ」をみせた日。エルデガルトに、このディープ・パープルのドレスを贈った日。思い返してみれば、彼女の前で自分は、どうしても一人の姉で居ることを、無意識の内に望んでいたようだった。

 重ねられた手を、震える指でたどたどしく握る。そのまま彼女の手を自分の頬へ持っていけば、目を瞑って深く息を吐いた。
 共に生きて、楽園を再び創る事をエルデガルトは望んでくれた。彼女は、罰でなく赦しを与えてくれたのだ。共に在ることを、再び家族に戻る事を、彼女は望んでくれたのだ。
 瞑っていた目を開く。潤んだ蒼い瞳が、夜の水面のように淡く揺れている。

「――こんな私を求めてくれて、赦してくれて、ありがとう。……赦されるのなら、叶うのなら…………もう一度、貴女と共に生きたい。貴女と共に、歓びを、悲しみを、すべてを分かち合いたい」

 立ち上がり、差し出された右手へ手を伸ばしたその刹那。

 ――――『美しい』

 はっと目を見開き、背後を振り返る。
 深い夜の空に、眩い紅を散らすイライザの姿が其処にはあった。失ったものを、望んだ者を追い求めるように空を切った細い腕は、何をも掴むことなく堕ちて行く。燃えたぎる熱情を内に秘めた彼女の最期の声は、ひどく穏やかなものだった。彼女と結んだ禁じられた契りはこの今完全に破棄されたのだろう。不意に、キマイラの脳裏にイライザの手をとったその瞬間がよぎる。

 嵐の夜を、雨の夕刻を、そして、狂宴の晩を共にした彼女。自分と同じ罪を抱いていた彼女。イライザには死という罰が与えられ、キマイラには生という赦しが与えられた。――否、彼女にとって、死が赦しそのものだったのだろう。

「……エルデガルト、ほんの少しだけ、待って頂戴……大丈夫、一瞬で終わるから」

 そう言って、大理石の床に落ちていた剣(つるぎ)を手に取る。エルデガルトの首を刎ねるようにと握らされたそれを、徐に両手で握る。奇妙なのは、キマイラが剣の持ち手ではなく、月の光を受けて輝く刃をしかと握っている事だった。尖った切っ先が僅かに、彼女の細い手の間から覗いている。

「――イライザ。私は生きる道を選ぶ。だけど、貴女に罪と罰、その両方が与えられたというのなら……せめてもの償い。私も、貴女と同じように……罪だけじゃなく、罰も負いましょう。――永遠に」

 刹那、キマイラの整った顔。その左半分が赤く、紅く染まった。

 躊躇うことなく突き立てられた切っ先は、キマイラの白い頬を切り裂き、温い液体を止めどなく傷口から溢れさせた。キマイラはイライザの堕ちていった方を見据えながら、苦痛の声を漏らすことなく、ただただ、自らの象徴であったその整った顔を傷つけた。

「…………さようなら、もう一人の――」

 からん、と軽い音を立てて、キマイラの血で濡れた剣が床に落ちる。
 エルデガルトの方を再び振り返ったキマイラの顔左半分には、偶然にもイライザのそれとそっくりな赤く、深い傷が出来ていた。未だ赤い血の流れるそれを気にする素振りも見せず、キマイラはエルデガルトへ微笑んだ。

「待たせてしまってごめんなさい。――私の償いは終わったわ。行きましょう」

 今度こそキマイラは、エルデガルトの手をとる。罪と罰、そして赦し。そのすべてを背負い、そして、彼女とともに楽園を目指そう。

>エルデガルト、(イライザ)、バルコニーALL

26日前 No.454

疾風 @yuika10☆/I6eiMaHxFai ★bGyEkAoikT_81E

【ロキ/大広間→自室(〆)】


泣いて、鳴いて、啼いて。ここでの生活で泣いたことはほぼ無かった。俺は、今ここで存在意義など無い。そう現実を突きつけられた。妹はもう、逃げただろうか。俺は、逃げないで、この館とともに。俺の命も終わろう。そう決意した。

そう、これが俺の答えだ。

俺はふらふらと立ち上がり、煙が蔓延する自室へと歩いていく。一酸化炭素中毒で、楽には死ねる。でも、楽に死のうなんて。そんなの事微塵も持っていなかった。残虐に。殺してほしかった。自分の存在意義を知りたかった。でも、それを証明してくれるような存在は何処にもいなかった。妹であるロゼッタにも、それは無かった。認めてくれるのは、マダム・エルザ様だったのかもしれない。でも、俺を信じてくれるとは思ってなかった。俺の、名前すら。まだバレていなかった。ゆらゆらとしながらあがる階段。俺は小さな声で歌う。昔と今の記憶がごっちゃになる…。気がついたら、静かに歌っていた。

「London Bridge is falling down……Falling down… Fall…ing down. London Bridge is falling down, My fair lady.(ロンドン橋、落ちた
落ちた、落ちた。ロンドン橋、落ちたマイ・フェア・レイディー。)

Take a key and lock her up, Lock her up, Lock her up. Take a key and lock her up, My fair lady.(あの娘を鍵で、閉じ込めろ、閉じ込めろ
あの娘を、閉じ込めろマイ・フェア・レイディー。)

How will we build it up, Build it up, Build it up? How will we build it up, My fair lady?(どうやって建てよ、建てよ、建てよ?どうやって建てよ?マイ・フェア・レイディー)

Build it up with silver and gold, Silver and gold, Silver and gold. Build it up with silver and gold, My fair lady.(金と銀で建てろ、建てろ、建てろ 金と銀で建てろマイ・フェア・レイディー。)

Gold and silver I have none, I have none, I have none. Gold and silver I have none, My fair lady.(金も銀もないよ、ないよ、ないよ 金も銀もないよマイ・フェア・レイディー。)

Build it up with needles and pins, Needles and pins, Needles and pins. Build it up with needles and pins, My fair lady.(針とピンで建てろ、建てろ、建てろ針とピンで建てろマイ・フェア・レイディー。)

Pins and needles bend and break, Bend and break, Bend and break. Pins and needles bend and break, My fair lady.(針とピンは弱い、曲がって、折れる曲がって、折れるマイ・フェア・レイディー。)

Build it up with wood and clay, Wood and clay, Wood and clay. Build it up with wood and clay, My fair lady.(土と木で建てろ、建てろ、建てろ 土と木で建てろマイ・フェア・レイディー。)

Wood and clay will wash away, Wash away, Wash away. Wood and clay will wash away, My fair lady.(土と木も弱い、流れて、落ちる
流れて、落ちるマイ・フェア・レイディー。)


Build it up with stone so strong, Stone so strong, Stone so strong. Build it up with stone so strong, My fair lady.(強い石で建てろ、建てろ、建てろ 強い石で建てろマイ・フェア・レイディー。)

Stone so strong will last so long, Last so long………… Last so long. Stone so strong will last so long, My fair lady.(強い石なら、長持ち、するよ 長持ちするよマイ・フェア・レイディー。)」


歌詞の続きも最初はすらすらと歌えたのに。途中から歌えなくなってしまって。俺の灰の中に一酸化炭素が溜まっていくのが感覚として伝わる。頭がガンガンと警鐘を鳴らす。危険だ。と。それでも、自室まで迎えたことは奇跡だと思っている。そして、自室につく。いつもの、モノトーン調の部屋。個々で死のう。さっき持っていたナイフを取り出した。頸動脈を一気に掻っ切れば、死ねるはずだ。でも、後悔が残っている。ドアは開けっ放し。窓辺に俺は立つ。そして英語でまたさっきの歌を歌う。そして、ふとした瞬間に出た言葉が、あまりにも。力のない言葉だった。


「今まで。ありがとう。さようなら。俺」


そういって頸動脈を掻っ切った。それは噴水のように血が流れ出る。その表情は無で。一見したら怖い物だろうが。幸せであった。ロキにとって。ここは檻。ロキにとっての終着点となったのだ。

バイオリンの音が聞こえる。そのメロディーとともに俺だったものは倒れた。俺はこれで。自由だ。


>>all

【ロキの最後のレスです! ロキと絡んでくださった方々、誠にありがとうございました!
ちなみにロキの本名はロキ=シャルル=レジェンダーです。】

25日前 No.455

悪魔が来たりて笛を吹く @arthur ★iPhone=gwqr4lYaPU

【マリュー/→屋敷】

「ははは、死ぬ時まで芝居掛かったヒトだったなぁ」

 燃え盛るイライザ・リーの前に完成された美少年が優しげな微笑を浮かべている。死体を前にして作る表情としては不気味な穏やかさであった。決して、死者を悼む顔ではない。見世物を楽しんだ顔である。
 彼女が猟銃を打ち鳴らした時も、マダム・エルザの発狂を目の当たりにした時も、住人の抱えた狂気が炸裂した時も彼の微笑は崩れなかった。ただの一瞬を除いて。

「うん、でも日常からして演出過多な所はあったよね。予想通りって感じもしたよ。ボクみたく普段は純情そうで実は好き者って感じの方が意外性はあったんじゃないかな?」

 わざとらしく頬を引き締めて、物言わぬ演出者兼役者に悲劇の批評を行う。

「ああ、そうだ。それとルイスの死体。アレは悪趣味だったね、ボクだったらもっと上手い事やれたよ」

 急に鼻白んだらしく、一転してイライザを見下ろす瞳が明瞭な侮蔑に切り替わる。彼の微笑が崩れた瞬間はルイスの死体を見た時だった。あの時に彼の表情は世の果てよりも凍りつき、一瞬とは言え上演されていた劇に対する熱意を失ったのである。
 マリューは汚れものは大好きだ。それこそ、つい先程まで行われていた狂人たちの醜態など、なんとも言えない救われた心地になる光景である。欲望が弾ける時は剥き出しだからこそ美しい。日頃、隠されていた醜い本音や欲望にマリューはとてつもない救いと、人間に対してある種の尊さと敬意すら感じるのである。
 だからこそ、汚れを取り繕うようなルイスの死体はすこぶる気に入らなかった。料理人のような言い方になるが、素材の味を活かしていないという表現を使いたくなるザマだった。いや、イライザ・リーの在り方そのものが気に入らなかったのかも知れない。

「安心するといいさ、キミですら所詮はヒトだ。その虚飾こそがキミの人間味だよ、うん」

 もう彼女に言うことはないらしい。彼は踵を返して炎上する屋敷へと戻っていく。マリューの精神は自殺願望を生むには弾性に富み過ぎた構造だったが、名残を惜しむぐらいの繊細さは存在していたようだ。

【ある程度、ぶらぶら歩かせて〆のレスを書こうと思います。その間、絡んで下さる方がいれば是非】

>>ALL

22日前 No.456

絡繰 @ne9rodoll ★wgm3NQbNwV_4qc

【アイリス・ローゼンブルク/裏庭】

 断ち切るように吐いた言葉は、少し震えていたかもしれない。二人の方に視線は向けることはなく空を仰ぐように眺めていた。なのに、また暖かい体温に包まれたのは何故だろう?鼓膜を震わせたたどたどしい声は誰のもの?それを理解するより先に自分の肩口に濡れた感触。涙だ。リオネルが抱き着いているのだと、遅れて理解した。途切れ途切れでも確かに届いた声は、自分と共にいることを望んだ言葉。心中を吐露するように出た言葉を皮切りに、私を包んだ震える体は大きな声で泣き出した。幼くもその身に業を背負ったからだが、悲痛な叫びを上げている。なら、慰めないと。頭をなでて、だいじょうぶよって、言わないと。それが良いお姉ちゃんだから。でも、私がそれをしてしまったら、私は彼を離すことが出来なくなってしまう。それは、ダメなはずなのに。だから、逃がしてあげようと思ったのに。少し離れたところから、ロメアの声が聞こえる。冗談めかした言葉に喉がひゅ、と嫌な音を出して震えた。心の奥深くに押し込めた欲望が顔を出してにっこりと笑む。いつまで良い子ぶってるの?と馬鹿にしたような声が聞こえた気がしたが、あたりに響くのは幼いばかりの泣き叫ぶ声。呼吸が儘ならないために引き攣れる背を擦ってあげなければ、と思うのに、手は思うように動いてはくれなかった。瞳には迷いだけが残り、動けない。執着の対象を亡くした心が身動きをとれないように、私自身も迷子のようにそこにただ立ち尽くすことしか出来なかった。
 また、ロメアの声が耳に届く。微笑みが湛えられたその表情を見上げれば、何時も波のひとつもないような彼の表情が、少しばかり揺れているのを感じた。わざわざリオネルの名前だけを、二人という言葉を強調して告げた彼の激情が垣間見える。

――――あぁ、いっしょだ。わたしが、我慢してるときのかお。

怒りも嫉妬も何もかも笑みで溶かしてきた時の私の表情と、彼の今の顔はそっくりだった。それはもう、笑ってしまうほど。幼い頃の自分と彼の姿が重なる。ぎゅう、と胸が掴まれたように痛んだ。目を細め、慈しむように彼を見詰める。
そうか、アンタにとってこの夢は悪夢ではなかったのかもしれないね。閉塞的な安息の地は、私にとっての理想を映した夢だったから。だからほんとは、手放したくなんてなくて、でも”良い子”の私は駄々を捏ねて手放したくないと泣く術を、持っていなかった。それは、アンタも同じだったりして。似たもの同士、なんて言い方をしたら失礼かもしれないけど。お互いに、もう少し我が儘になれたら良かったのにね。自嘲するように零れ出た笑い。じゃあ、どうせもう変えることも出来ないのなら、離れることさえ相手を苦しめてしまうなら、とことん我が儘になってみるのも、アリかもなぁ。諦めるようにため息を吐く。ぱきん、と胸の何処かで何かが壊れる音がした。堰を切ったように溢れだした寂しさを埋めたいという願望は、もう次の執着の標的を見つけたらしい。軽薄な笑みばかり浮かべていた頬から力を抜き、表面上ばかりの良心をかなぐり捨てる。我慢なんて、馬鹿らしい。慎ましさなどとっくのとうに捨てていた私が何をしおらしくなっているんだ。メッキで出来た”良い子”なんて、ぶっ壊してしまえ。

 次の瞬間、私は飛びついているリオネルと、近くに立っていたロメアの腕を無理やり引っ張り、自らの腕の中に二人を収めた。逃れることを許さないというように、いっそ強制をも感じ得る力強さと強引さで。鉛のように動かなかった片腕は今では優しくリオネルの背を擦っている。

「リオネルくん、泣かないで。私、泣いてるアンタを置いて行ける訳ないんだからさ。そんなに大きな声で泣いたらアンタの可愛い声が掠れちゃう。」

泣きじゃくって腫れたリオネルの目元を撫でる。涙でキラキラと光に反射する瞳は宝石のようで、その瞼に柔い、母が子へ向ける慈愛のような感情が乗った口づけを落とす。そのまま流れるようにロメアのリオネルが居る方向とは反対側の耳元へ唇を寄せた。決してリオネルには聞こえないように、小さく小さく、絡み付くような言葉を紡ぐ。これは、子供には内緒のオトナの秘密だからね。

「もう少し、アンタは我が儘でいなさいな。残念ながら、私は大人げないんだ。生憎アンタの心情を汲み取って理解してやれる優しいオネエサンはここには居ない。……そうね、これはローゼンブルク家長女としての、最後の命令よ、ロメアくん。」

抱きしめるために首に回した腕をふと緩くして、ゆるりと、誘惑するようにロメアの首筋に指先を這わせる。悪人になったのなら悪人らしく、最後まで悪党で居てやろうじゃないか。未来のある少年たちを攫う怪盗にでも、なりきってやろう。すぅ、とひとつ息を吸い、それを吹きかけるように優しく、その耳元に甘く囁いた。

「――――私の身勝手な愛に巻き込まれてから、死んでくれないかなぁ?」

それは、酷く自分勝手で冒涜的なことば。私は、勝手なエゴで無差別に愛を振り撒くのが好きなんだ。だから、アンタが望むなら傷つけてあげるし、縛ってあげる。私を殴っても縛ってもいいよ?私そういうの、だぁいすき。”良い子”の仮面の奥に隠した、どろどろとした欲望は一度ザックリと裂けてしまえば傷口からどんどん溢れ出てくる。寂しいのは嫌。縛って嬲って口付けて、私の傍にいてくれないと嫌なの。もし、もし、リオネルが傍に居てくれても、純粋な彼はこれから沢山のことを知って、鳥籠から逃げて行ってしまうかもしれないじゃない。私、そんなのイヤよ。だから、一人じゃ足りないの。誰か、誰でもいいから、傍に居てほしいの。最低だって?そんなのとっくの昔から知ってるよ。くすくす、悪魔のような笑い声を残し、ロメアの耳朶に唇を充てる。あぁどうか、これ以上ない悪役の手中に堕ちてくれ。人魚姫が願いの代償に声を失ったように、アンタの愛とその身を差し出せば、壊れるくらい愛してあげる。

 ロメアの耳元から顔を離し、二人を見据える。その時、最上階の母の部屋から爆発音が聞こえた。それと共に散る炎。其れに照らされた私の顔はこれ以上にないほどに穏やかで、それでいて寒気を感じるほど底知れない闇を深めた笑顔を象っていた。

「麗しの王子様たち、私はアンタたちを幸せにするために攫うわ。さぁ、"Take my hands?"(私の手をとって?)」

 怪しい微笑と一緒に彼らに向けて両手を差し出す。幸せって?そりゃあずっとずっと私の傍で愛されることに決まってるじゃない!それが彼らの本当の幸せかなんて、知らないけど。だってもう誰一人として、逃がしたくないんだもの。今度は妹のときみたいに中途半端に縛るんじゃだめね。丁寧に綿密に頑丈な鎖で繋ぎとめておかないと。また、失っちゃう。そういえば私は、イライザのことを白い魔女と言った、けど、純粋無垢な子供を騙して、迷える少年を誑かす、自分の方がよっぽど傲慢な魔女らしいなと頭の片隅で考えた。

 失う恐怖を知った女は、さらにその檻と鎖を強固なものにして、大事なものを大切に閉じ込める。所詮彼女も歪みが蓄積されてきた薔薇の一族、ローゼンブルク家の人間。さらに母の意思を色濃く受け継いだ長女のアイリスは、再び名も知れぬ何処かで囲われた楽園を作り上げるに値する素質を、充分すぎるほどに持っていたのかもしれない。

リオネル様、ロメア様>>
【お返事遅くなってしまい申し訳ありません!】

21日前 No.457

エルデガルト @ready50☆AaWAaYBi9xHg ★6lDqAT8MNN_X9G

【エルデガルト・ローゼンブルク/バルコニー→】

 罪とは。
 背負うも背負わないもなく、もう必然的に、消えない過去と一生共にし、当然、逃れられるはずもなく最後を迎える。
 滴り落ちる血液はこれから進む道が過酷である事の暗示なのかもしれない。罪が燃えて消える事はあり得ないし、罪は人の咎として傷を遺し続ける。それは見えない形であればあるほど厄介なものだ。人を蝕み、人を壊してゆく。だから、ある程度は見える形のほうが、罪というものは分かり易いのかもしれない。
 姉の行いに、ただただ無言だった。可もなく不可もなく、ただ眺めているだけだった。私はそれを、ただただ抱き締めるだけだ。姉の微笑みに対して、私も微笑みで返した。

「――私も償いがあります、姉様。今日まで私と共にあり、今日まで私を支え続けてくれた、私の可愛い子供達」

 手をとる姉に微笑みかけ、バルコニーから出口を目指す中で、エルデガルトは自分の部屋の前で立ち止まった。
 扉を開け、未だに火が至っていない事を確認する。
 それを視て、安堵をする。けれど、同時に悲しみを覚える。
 ――――――――連れてはいけないからだ。

「――この子達は、時期に焼かれて死んでしまいます。
 私が作った、私のお人形さん達。私は皆が大好きだった。私は皆がいれたから私でいれた。皆が居たから生きていた。皆が居たから、私は姉様を取り戻せた。
 全部この子達のお陰なんです。空っぽだった私を満たしてくれた、命の恩人達なんです。みんなみんな、生きているのに――――私は……皆を見殺しにしてしまう」

 歪な涙がこぼれ落ちる。
 人形狂いは死に、その産物である人形もまた死を迎える。

「帰ってくるって……約束、したんですけどね。
 約束、守れなかったんです。私、酷い女(ひと)だなあって。私、だから、最後に、挨拶、したいなって」

 姉の手を掴む自分の手に、ふと力が入ってしまう。それに気がついて、手の力を緩めてしまう。
 「ごめんなさい」と、一言謝れば、こちらを視ているかのような人形達に、言葉を振り絞ろうとする。皆の目からは、感謝の言葉が聞こえるようだった。感謝、されたいなあ。作ってくれてありがとうって、感じに。

「ありがとね、皆」

 それを言ったきり、ドアを堅く閉めた。「さ、早くいきましょう、姉様」と、拭いたばかりの涙を皮膚に滲ませながら、エルデガルトは頷いた。

>>キマイラ

19日前 No.458

絡繰 @ne9rodoll ★wgm3NQbNwV_4qc

【グレイ・ローゼンブルク/バルコニー@→廊下】

 自分の口から囁かれる愛のことばに応える彼の表情は何時もよりずっと幼く見えた。作っていない、安心感を体現したような彼により愛しさがこみ上げる。彼はこの僕の捧げる愛の異常さを異常と捉えない。そんな無垢な彼を堕としてしまった背徳感に背筋がびりびりと震える感覚を覚えた。こんな僕が、独占していいはずもなかったのに、彼は、僕が愛することを望んでいる。僕の歪んだ行為を欲している。僕を愛することを望んでいる。それだけでとんでもない優越感と多幸感で満たされるようだ。”唯一無二”とはこれほどまでに心地よいものだったのか。仄暗い欲望と純粋な喜び、いとしさ。全てが混じり合って貧弱な僕の身体にガンガンと内側から殴りつけるほどにその存在を知らせてくる。ただひたすらに輝くことを望んだ星を、本来の舞台である夜空から引きずり下ろしてその”本物”を手にした歓喜と高揚で心臓の高鳴りが抑えられない。昂ぶる感情の儘に彼の小鳥のような口付けに応えた。

彼の目元に触れることで感じた涙の感触は、あまりにも暖かくて。今まで陶器のように冷たかった彼の体温が嘘みたいだ、と思う。作りものでもなんでもない、本物の感情の塊のような液体をなぞり、指先に纏わせた。その手をエトワールが握りしめ、またしあわせな言葉を落とす。耳を擽る言葉に微笑みを湛えながら、「ぼくも、だよ。」と心から発するには慣れないだろうその言葉に応えて、愛をふたりのものにしていく。

「……うん、ぜんぶ、エトワールの全部、僕のもの。だから、僕のすべても君に。僕のためだけに輝く星に、僕のすべてを捧げること、誓うよ。」

花が綻ぶような笑みで、それでいてどこか泣きだしそうなほど切なく願いを囁く。すると、彼は自らのブローチから飾りを一本引き抜き、それを僕の指に結ぶ。恭しく触れた唇は、その美しさと相まってまるで童話に出てくる王子様のような姿を彷彿とさせた。いつだか図鑑で見たことのある花の飾り、青いデルフィニウム。祈りのように結ばれたのは、左手の薬指。随所に散りばめられた愛への誓いや願いに涙が零れた。欲しかった、確かに僕はこれを欲していた。だけど、こんなにもらっていいのだろうか。こんな、歪んだ愛し方しか出来なかった僕が。きっと僕は、このデルフィニウムに含まれた毒のように、彼をじわじわと侵食して死に至らしめることしか出来ない。僕と共にあることの末路を、聡明な彼も分っているはずなのに、それでも愛している、と。僕だけのもので居てくれると言うんだ。あぁ、愛される歓びって、こういうものだったんだ。急速に胸の器が満たされていくことを確かに感じて、彼の今までとは少し変わった笑顔を見つめ、その言葉に声も無く頷く。

 エトワールに腕を引かれるまま、バルコニーを飛び出した。家族のことも、イライザのことも、捨てるには大きすぎるから。全て抱えて。選択も、救いも償いも出来なかった僕は、せめて、誰よりもこのことを捨てることなく、忘れることなく、抱え続けよう。大好きな姉さんも、妹も、優しくしてくれた人皆のことを、想い続ける。罪には、罰を。きっとこの楽園で許されざる罪を犯した僕には、罰が下る。だからその日までは、愛すると誓った者を守り続けたい。走り抜けた廊下は炎のせいか熱い空気が充満していた、それでも愛する人が傍に居れば、まるで駆け落ちのよう。愛の逃避行の終着点はきっとまた閉塞的な檻なのだろうけど、そんな未来さえも、いとおしかった。

 その時、握り占めた手の中の固い感触を思い出す。それはイライザから預かった、戦場を駆ける少年、カナニトへの道標であるらしい髪留め。いつだったか、ルイスの死というすべての始まりの翌日のあの雨の日。雨に濡れながらもこの身を射貫いた目線は、何処までも聡明で、美しかった。

「……届けなきゃ。ね、エトワール…僕、これをカナニトくんに届けなきゃ。先生へ、僕のせめてもの償いを、しなくちゃ……。」

彼の僕の腕を引いてくれていた手に自らの手を重ねて、必死とも言える形相でそう言葉を吐くも、その声は後半になるにつれて尻すぼみになってしまった。僕を愛してくれた彼女との最後の約束、守らなきゃ。それでも、着実に火の手は回ってきている。呑気に人探しなどをしている暇もないだろう。彼と未来を生きると決めた命、捨てることなど絶対にしない。でも、選ぶことを出来なかった僕に、それでも優しさを、愛をくれた恩返しを、僕は出来ていない。それを果たさなくては、という想いと、このまま彼を付き合わせてしまったら彼の命まで危なくなるかもしれない、という危惧が混ざり合って、不安に歪んだ顔がエトワールに向けられる。この期に及んで強く選択のできない自分の変わらない弱さを痛感し、情けなさに強く唇を噛んだ。

エトワール様>>

【お返事遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!】

19日前 No.459

とと田 @totototo☆pZFOWxlGRjQ ★Android=4OhkCRUD6l

【ベイリー・ローゼンブルク/大広間⇒コレクションルーム前】


 カナニトの瞳は強い意志に燃えていた。本当はこんな危険なところにひとときも居させたくないというのに、その確固たる表情はベイリーの首を恐る恐るながらも縦に振らせた。こんな顔されたら、断れないじゃない、と胸の内でひとりごちる。親の目は贔屓目、とは言ったものである。きっと自分は自分の好きなものに甘いのだということを、生まれて初めて自覚した瞬間であった。幼い頃は無意識にそうだったのだろうか、それほどまでに愛したものがあっただろうか。ベイリーは過去を思った。

「そうね、一緒に行きましょう」

 今度は深く頷いて、左手でカナニトの右手を掬い上げるように取った。今までの壊れ物を扱うかのごとく丁寧な仕草とは違い、性急で相手の反応を伺わない手つき。そこには確かに焦りがあった。冷静さを繕おうとしてもどうしても綻びを産んでしまう自身の爪の甘さに気が向くのをこらえ、ベイリーはカナニトの手を引いて大広間から飛び出す。もう、なりふりかまってられないのだ。

 一階の様子は普段と全く変わりなく、本当にここに終わりが来るのか、疑わしいくらいであった。冬の乾いた空気が頬を撫でる。
 廊下を早足で歩きながら、ベイリーは前を向いたまま口を開いた。

「貴方が知らないことをわたしが教える代わりに、貴方はわたしを守ってくれると言いましたね。……でも、わたしが知らないことを、貴方が知ってる……そういうこともあると思うんです。貴方が考えているよりずっと、ずっと沢山ね」

 階段をかけ上がる。
 上に上がって行くに連れて、煙たい空気が薄く広がって、鼻をくすぐっているのが分かった。

「だから、貴方だけが知ってること、持ってるもの、わたしに聞かせてください、見せてください。その分わたしも、貴方を守ります。どうですか、そしたらわたし達、向かうところ敵なしじゃありません?」

 ベイリーは愉快そうに控えめに笑った。他人に悪戯を仕掛ける為の作戦を立てているときのような、悪どさの混じった声だった。


 そんな浮わついた気持ちも、最上階を目前にすると徐々に収まりを見せる。威勢良く歩を進めていた足の動きも、重く、鈍くなっていった。しかし、終わりというものはいつか来るのが必然であり、ベイリーの足はしっかりと目的地――マダム・エルザのコレクションルーム前まで辿り着いていた。部屋の扉は既に足下の方に火が移っており、上へ上へ上るように扉を侵食していた。その火は床にも広がっていて、ベイリーは後退りして遠ざかろうとする。予想はしていたが、中にはとても入れそうになかった。一度無理に扉をこじ開けようものなら余計な被害を産むだけだろう。煙は濃く、充満していた。


 ――何を言えば良いんだろう。
 そもそもベイリーは、エルザに別れを告げる気でここに来た。あわよくば助けたい気持ちもあったが、そんな甘い願望は叶いそうになかった。何か言ったとして、それをエルザが聞いている可能性は限りなく低いし、ただの自己満足にしかならない行為に僅かでも価値を見いだそうとしている、惨めさが己に染みた。違う、と否定する。独りよがりで構わない、これはけじめなのだ。さようなら、なんて言葉は、言いたくなかった。震える唇を動かして、言葉を紡いだ。

「……お、母さん…………」


 一度声にすると、吹っ切れてしまうものだと思った。


 カナニトは、家族だった、と言った。正しいことだった。正しいというのはベイリーの主観であって、本質は分からない。けれど、ここでの記憶はきちんと過去として形どらなければいけないことなのだから、そういう覚悟をカナニトを持っていることが何となく良いことなのだろうと、感じていた。そして、ベイリーにはそれができなかった。これから先、どれだけ時が流れようとも、愛しい姉妹や美しい少年達、仕えてくれた者、母、ルイス、そして、イライザ――全ての人間を今も家族だと呼んでしまう、確信があった。一人として過去などにしてやるものか。傲慢で、貪欲な愛。勝手に与えておいて、見返りまでも欲する。ああ、これが本当のわたしなんだ、と安心する。


(皆、母を悲しい人だと言うだろうか。哀れな女だと。客観的に見ればそうかもしれない。でも、わたしは――そういう外野的な分析だとか、冷静に物事を考えるだとか、できるように繕っていたけれど。実際は全然駄目で。偏った見方しか出来なくて。だから法が裁くべきなんて、本心からの言葉じゃなかった。本当の本当は、誰が駒鳥を殺したかなんて、どうでもいい! わたしはわたしの見たお母さんしか、知らないもの。真実なんて言ってわたしの見聞きしないことを打ち明けられても困るだけよ。例えばお父さんも、他の人からしたら酷い人に見えていたのかもしれない。だけどそんなの関係ない。わたしが生きてって言ったら、生きてくれるだけで良いの。償いなんてしなくたって良いの。だって何をしたって一度失ったものは元に戻らないんだから。それならわたしの方を見るべきよ。……お母さん、ほんとに死んじゃうの? わたしがこんなにも愛してるのに? そんな――そんなのってない!)


 それはまるで、子供が駄々をこねるように。今まで無意識に押さえ込んでいた感情が溢れ出していた。体の中で暴れる気持ちを唇を強く噛んでやり過ごす。こんな我儘を他人に漏らして良いのは、この屋敷を出てからだと、自分に誓ったからだ。ここにいる間は今までの自分でいる、己との約束を破ってはならなかった。ドアノブに手をかけそうになる衝動を押さえ、ベイリーは自身の左胸に付けていたものをドレスから外した。それは、薔薇のブローチであった。様子のおかしい母を憂え、贈り物をしようと購入したブローチ。まさかこんな形で渡すことになるとは、思いもしなかった。ベイリーはそれを依然燃え続けている床に、火にくべるように置いた。赤い炎の中でブローチに埋められた宝石達が煌煌と輝いていた。ローゼンブルク――薔薇の城にふさわしい、手向けの花だろう。
ベイリーは胸の前で手を組み、祈りを捧げる仕草をした。対象は神様ではなく、ルイスだった。

 ――もし、天国や地獄があるとするならば。ルイス、わたしの母を、どうか天国へ導いてあげて欲しいのです。母を許さなくても構いません。憎んでいても構いません。手放しに与えられた赦しほど、残酷なものはありませんから。母が、貴方という駒鳥を矢で射止めた雀だというのなら。そうですね、わたしは、梟になりましょう。美しい色の石で貴方のお墓を作ります。周りに花を飾ります。貴方に姉と呼ばれたかもしれないもしもの未来に、思いを馳せて生きます。ささやかすぎる対価ですが、それで手を打ってはくれませんか。お願いします、お願いします、お願いします……。


 ベイリーはまじないの如く心の中で念じ続けた。ルイスの声を朧気に、思い出しながら。


>>カナニト、ALL



【遅くなってしまい本当に申し訳ありません……! グレイちゃんの渡しものの件もありますし、カナニト君には全然ベイリーを無視して好きに動いて頂いて大丈夫なので……!】

18日前 No.460

ふぁすね @yupihiko☆d.mPOva7Vfg ★mbjMynBHF3_OSy

【エトワール/バルコニー@→コレクションルーム前】


 バルコニーから見える月が、ひどくかがやいてみえた。今まで見たこともないくらいに、世界が綺麗に思える。この先どうやって生きていけばいいのか。この惨劇をどうやって乗り越えればいいのか。解決しなければならない問題もわからないことも山積みだったけれど、今はこの満たされた感覚に溺れていたかった。

 グレイが零す"償い"の言葉。必死なその表情は、何もかもを捨てきれずに抱えこむグレイらしいものだった。その手に握りしめられた蜘蛛の描かれた髪留めをみて、エトワールは複雑な心地になる。ローゼンブルク家を混沌と破滅の渦に巻き込み、心から愛していたからとはいえ、グレイをその手にかけようとしていた人間が最期の願いとしてグレイに託したものだ。中に何か仕舞うことができる仕組みになっているらしい其れに一体何が隠されているのか、エトワールには想像もつかなかったけれど、百パーセントの善意のみで構成されているものだとはとても思えなかった。其処に在るのはきっと、禍々しい、深淵に潜む何か。其れが危険であるかどうかは受け取ったカナニトがどうするか次第だが、エトワールはその髪留めに対する警戒心を捨てきれずにいた。しかしどうするか決めるのは自分ではない。何より、こんなにも必死に訴えかけるグレイを突き放すことなどできなかった。


「そう、だね。行こう」


 グレイの手を引いてバルコニーから屋敷の中へと戻った。煙にぼやけてかすかに見えるマダム・エルザのコレクションルームからは炎がじわじわと広がり、其れに浸食されつつある廊下は熱く煙たい空気が充満している。長居するのは危険だと本能が告げていた。

 煙が濃く満ちる廊下。ところどころが炎で照らされているとはいえこうも煙たくては視界も悪くなる。広い廊下を急ぎ足で進んで行くと、二人の人影が見えた。煙の中、其の姿ははっきりとは見えなかったが、シルエットからベイリーとカナニトだということがわかる。見つけた、と近づいていくと、彼らが佇んでいたのはマダム・エルザのコレクションルーム前だった。どうしてこんなところに、という言葉を呑みこむ。燃える床の前、祈りをささげるベイリー。彼女が何に対して、何を祈っているのかはわからなかったけれど、その姿は、言葉をかけることを憚られるほどうつくしく見えた。

 マダム・エルザのコレクションルーム。その中にはきっと、彼女が集めたこの世界のすべてのうつくしいものが収められている。彼女自身も含めて。きっともうこの屋敷に咲き誇った薔薇の女王は灼き尽くされ息絶えてしまっているだろう。エトワールはそんな彼女に思いを馳せる。

 ――数多くいた少年たちの中から自身を選び、あの地獄から救い出してくれた。"エトワール"という名前をくれた。何もかも銀幕の内で亡くした自分に"愛されなさい"と、生きる理由を与えてくれた。それは単なる薔薇の女王の気まぐれだったのかもしれないけれど、エトワールにとっては十分な救いで、死にかけていたこころに小さな灯をともすきっかけになった。彼女が狂女となり、燃え尽きるのを待つだけの存在となった今でも、エトワールが彼女に抱く思いは変わらなかった。


「――――ありがとね、女王サマ」


 煙でぼやけた先の部屋に向けて、小さくつぶやく。生きていく理由なんて、いままでひとつもなかったけれど。あなたが此処に連れて来てくれたおかげで、やっとひとつ、見つけられた。ありがとう。どうか安らかに。



>>グレイ、ベイリー、カナニト



【もう少し様子を見てから行こうと思いましたが期限も近いので投下しますね。】

13日前 No.461

リオネル @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【リオネル/裏庭】

 初めてかもしれない。自分の思いだけを優先して、誰かを求めることなんて。いつも周りに遠慮して、ついに家族にすら自分の思いを伝えることをしなかった。だって、困らせたくなかったから……。


 目の前の身体はとても温かくて心地好い。もう、離したくなくて、すがり付くように懇願する。泣き声に混じる「置いていかないで」「一緒にいたい」の言葉達は果たして届いただろうか。
 大きく肩を震わせながらも、腕は力一杯アイリスの身体を抱き締めていた。次第に泣き声は小さくなり、浅い息遣いとなる。背後からロメアの声が聞こえたが、リオネルには言葉の意味よりも、端々から伝わる寂しさを感じ取っていた。

−−みんな、さびしいんだ。

 そう思った瞬間、しがみついていた身体が動き、リオネルのすぐ隣にも温かさを感じた。腫らした瞳で見上げれば、そこにはロメアの姿があった。よく見れば、アイリスが二人を自分の腕の中に収めているのが分かる。先程よりも密着される身体。優しい手つきで背中を擦られれば、擦る手に合わせて呼吸をゆっくりと整えた。

「置いて、かないで……。ずっと、いっしょ……だからっ! 置いてか、ないでっ」

 どうしたら思いが伝わるかなんて、考える事はもうしない。ただ、ただ、一生懸命、声に出して同じ言葉を何度も何度も紡ぐ。求めるように頬を身体を擦り寄せれば、優しい声と共に瞼に口付けが落とされた。
 もっと、もっと。たった一回じゃ足りない。今までたくさん我慢したんだから。だから、もう、この先、我慢なんてしなくていいよね……?

 離れていく唇の先を辿れば、目に入るロメアとアイリス。秘め事を探るようにジッと見つめるその瞳には、純粋な嫉妬心が浮かぶ。けれど、それとは別に二人の姿はとても綺麗で、リオネルの胸の鼓動は早くなった。
 漸く二人は離れ、アイリスが此方を見据える。屋敷の方から爆発音が聞こえたが、驚くことはなかった。それよりも、大切なものが目の前にあるから。差し出された手を両手で包み込むと、静かに手の甲に唇を落とした。「王子様、でしょ?」と悪戯に笑みを浮かべながら。

 用意されている檻に自ら飛び込むのは、その意味を知らないから。けれど、閉じ込められることに慣れてしまったら、出ていくなんてきっと出来ないだろう。愛する人に閉じ込められるなら、その檻すらもきっと愛おしく感じてしまうから。

【遅くなってしまい申し訳ありません】
>ロメア、アイリス

11日前 No.462

七彩 @tmr☆qrj4adrhQpgH ★Tablet=rLqy3zkxxj

【ノイン・ローゼンブルグ/ロキの自室→屋敷】

 ひとりひとりの自室を回って、逃げ遅れた人がいないか探した。煙はある程度充満していたけど、まだ床に空気があったから、鼻と口を覆うようにハンカチと床になるべく体を近づけて部屋を回って。どんどん煙が増えていくし、炎も強まっているような気もしてくる。それでも私は、みんなに逃げて欲しかったから皆の自室を回っていった。そして、ロキの自室にたどり着いた時に、私は息を呑んだ。

「……っ、ロキ!」

 赤の湖に溺れるロキの亡骸。この量からしておそらく自ら頸動脈を切ったのだろう。胸がぎゅっと締め付けられて、苦しくなるのと同時に、また火の勢いが増した気がした。他のみんなが逃げていることだけを祈りながら、私はその場から逃げた。

―――
――


 走って、降りてきて、そこでマリューの姿を見つける。脳裏にはまだ、ロキの最期の姿が染み付いたままで。ふらりふらりと階段から降りて立ち止まる。両目からぽろぽろと涙をこぼし、煙の中を必死に走ってきた故に酸素不足になりかけた頭のまま、マリューに声をかけた。

「マリュー……火事になってるから、ここにはいられないよ、逃げない、と」

 途切れ途切れになりながらも、しっかりと目を見て伝える。そこには、どうか生きてほしいとの願いがたしかに灯っていた。

>>マリュー

9日前 No.463

キマイラ @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★80jDqOFPYR_M0e

【キマイラ・ローゼンブルク/バルコニー→】

 頬を伝う温い生の証。狼狽するわけでも、驚愕するわけでもなく、妹はただただ静かに、自分の償いの形を受け入れてくれた。
 すべてを包む慈愛の如き彼女の視線と、確かな決意で繋がった妹と自分の手の感触。手のひらから伝わるぬくもりを確かめつつ、キマイラはエルデガルトと共にバルコニーを後にする。
 焔に包まれる屋敷の中に戻るその時、一瞬だけバルコニーの方を振り返った。夜の冷たさの中、蛍の火のように降り注ぐ火の粉と、闇の中でもはっきりとわかる、床の上に残された赤。住み慣れた世界が壊れていく音に耳を傾ける。
 もう彼女は何も言わなかった。罪を犯し、罪を償い、罰を受けた今、私に残された事はただひとつ。この楽園から、逃げる事だけだ。原初の罪を犯したものは、楽園の崩壊を招いたものは、追われる定めにある。

(――さようなら)

 エルデガルトの手を取りながら、彼女の言う「償い」の場へ共に向かう。徐々に焔が屋敷を蝕んでいく。充満する煙の中たどり着いたのは、彼女の――エルデガルトの部屋だった。彼女が扉を開ける。幸い、まだ中に火は回っていない様だった。煙でくらむ視界の中、キマイラは目を凝らす。其処には、彼女が愛でた人形たちが静かに佇んでいた。よく見てみれば、その一人一人に特徴があり、同じ顔をしたものはいない。まるで生きているかのような薔薇色の頬をした彼女たちもまた、屋敷とともに燃える運命にあった。
 エルデガルトの手に力が入る。彼女の頬を伝う涙が、人形たちとのすべてを物語っていた。彼女は人形たちを愛し、人形たちもまた彼女を愛していたのだろう。何も言わず、自らの運命を受け入れている人形たちの虚空を見つめる瞳が、余計に切なかった。
 たとえそれがどんな形のものであろうと、愛した者との別れは辛く悲しい。苦しげなエルデガルトの声が、キマイラの胸を締め付ける。キマイラは黙ったままエルデガルトの告白を聞いていた。彼女が言葉を言い終えるか終えないかの内に、そっと手を伸ばして、彼女の涙をその指先で拭った。妹の頬を優しく撫でながら、口を開く。

「――貴女の愛おしい子供たちだもの、惜しみない愛を注いでくれた貴女のことを憎むはずないわ。……彼女たちの為にも、先へ進まないと、よね」

 私も貴女も同じ。生きるのではなく、生きなければならない理由が出来たのだ。罪を背負って共に歩むことが、一番重く深い償い。償いといえど、愛を与えてきた妹と、愛を与えなかった自分。それは全く正反対のもの。自分が背負うこの傷は、一生自分を苦しめるだろう。
 せめて、彼女の償いは、彼女をこの先苦しめることが無いように……。そう、祈るのみ。
 エルデガルトに手をひかれながら、燃え落ちる屋敷の中を歩む。熱い空気が喉と肺を傷つける。顔の傷から流れる血は未だ止まる素振りを見せずにいる。

 意識が朦朧とする。足が重く上手く歩けない。目に映る光景が、燃える前のものと重なる。

「――――…………あと少し、なのに……どうして、かしら」

 足が上手く動かせないのは、血が足りないからか、煙のせいか。それとも、無意識の内に自分を縛っていた、この家での思い出のせいか。

>エルデガルト 【お返事遅くなってすみません……】

8日前 No.464

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【カナニト/大広間→コレクションルーム】


 ベイリーが、ぼくの手を引く。
 手をつないでるだけで、ぼくの手からベイリーの心が流れ込んでくるみたいだった。たった少しの時間に、たくさんのことが起きた。ぼくは、こんな風にベイリーと手をつなぐことがあるだなんて考えてもなかったから、ベイリーの細い指をじっと見ていた。廊下を駆けて行く時も、ずっと。どきどきした。なんだろう、このキモチは。
 ぼくの心は、そのどきどきが過ぎてしまえば、いつも通りだった。それでも、ぼくたちが死にに行くんじゃないってことが、ぼくの中で安心に変わってた。不意に、ベイリーの言葉がふってきた。ベイリーの知らない、ぼくの知ってること?

「そんなこと、考えたこともなかったよ、ぼく。一緒にいたら、たくさん、そういうの分かるかな。……分かると、いいな」

 ぼくは、初めてのどきどきたちに囲まれて、息が上がってた。だから、つぶやくようにそう言うのがやっとだった。ぼくたちにはまだこれから時間がたくさんあるってことが、なによりもぼくの心をおちつかせていた。
 それでも、びっくりした。ぼくたちはあまり、ぼくたちを知らなかったんだってこと。二年間も、ずっと一緒にいたっていうのに。今の方が、すごく近いキョリにいる。心がぎゅうとしめつけられる。嬉しくて嬉しくて、ぼくはベイリーの手を握る力を強くした。でも、すぐにあわてて力を弱めた。ぼくの頭にあるのは、銃のグリップとか、ナイフの柄とか、――ガラスの欠片とか、ムキシツの記憶しかなかったから。痛いって言えないものしか、ぼくは手にしたことがなかったから。ぼくは本当に、なにも知らない。手のつなぎ方も、知らないことの聞き方も。ここを出たら、たくさん、たくさんベイリーに教えてもらうんだ。
 ぼくの浮ついた気持ちは、一瞬で引っ込んだ。階段を上がることに空気は薄くなって、ぼくは本能的にしなければいけないふるまいを、呼吸をしていた。心配で、ベイリーを見上げる。けれど、ベイリーの表情はおだやかで、強くて、優しかった。綺麗だった。こういうのっていいなって、思った。

「ぼくがベイリーと出会う前のこと、聞いてくれる? ぼくが知ってること、ぼくのこと、ぜんぶベイリーにあげる。はんぶんこ、しよう?」

 ――敵なし。
 そう聞いて思い浮かべることも、ベイリーの言うぼくだけが知ってることも、一緒だった。戦地でできた傷あとのこと、一つずつ話そうって思った。幸いにもぼくは覚えているから、覚えている内に、新しい楽しい暮らしの中で忘れてしまう前に、ぜんぶぜんぶ話そう。
 ベイリーの手が、指先が、かたくなる。目的の場所が近いんだ。一番最後の一段を乗りこえる。ぼくはそっとベイリーの手をはなした。


 どれだけそうしていたか分からないけれど、ぼくはずっと炎を見ていた。目がひどく乾いていく。それでも、フキソクな動きをするそれを、ぼくはずっと見ていたかった。不意に、ベイリーがぼくの視界のすみっこで動いた。ベイリーが置いたブローチに、火がからみついていく。あの人――ううん、エルザに、届くといいなあ。ベイリーが手を組む姿を見て、ぼくは遠い昔を思い出してた。ぼくの部隊に、同じ仕草をする子がいた。ぼくよりも小さくて、頭のいい子だった。だからぼくの知らないことをたくさん知っていたし、――ああ、そっか。ぼくはやっとぼくがしかたったことを思い出した。
 ベイリーの横に立って、ドアに右手を伸ばす。手をついたら、ぱちぱちと火の音が伝わってくるようだった。ぼくには、これが、エルザの一番近くにいられるように思えてた。

「ぼくにも、分かるよ。護りたかったのに、護れなかったキモチ」

 ベイリーを、一度だけ見上げた。

「これからは、ぼくが、あなたの代わりになるから。……それで、おあいこにしよう」

 ぼくの右腕を、はい上がってくるたくさんの火が、なめるようにおおってた。皮膚が焦げるにおいがする。痛みはなかった。あなたはもっと痛いだろうから。ぼくはそっと目を閉じる。――そうだね、キミも苦しかったよね。ぼくは、さっきの言葉を宛てたもう一人の子を思い出していた。二人を好きだと思ったことはないけれど、それでも、理解しようとすることはこうしてできるから。
 目を開けると、右腕にはぐるぐると巻きつくような火傷ができていた。ありがとう、さようなら。焼けただれたシャツの間からのぞく火傷に、ぼくはキスをした。

 一歩二歩、炎からはなれるように下がった。頭の中で、誰かがキケンだって叫んでた。まるで、ヘビの舌だ。のぼってくる炎の先がヘビの舌みたいに二つに分かれて、それから羽のようになって、空気にとけるように飛んでいく。羽。ハネ。――蝶々。ぼくの中で、つながった。勘が、確信に変わった。

「あ」

 無意味な言葉が、真っ暗の煙の中をさまよっていく。
 視線を逃がそうとした先に、二人を見つけた。グレイと、エトワールだった。ベイリーを、見上げる。ぼくは、少し不安だった。


>ベイリー、グレイ、エトワール
【お返事がたいへん遅くなりました、申し訳ございません……】

8日前 No.465

エルデガルト @ready50☆AaWAaYBi9xHg ★6lDqAT8MNN_v2N

【エルデガルト・ローゼンブルク/廊下】

 燃える屋敷の中を進む二人の影は、ゆらぎゆらめき、火に炙られるようにして死を招いているようにも思える。熱気によって痛む肺と喉、手を抑えたくとも、抑える事の出来ないもどかしい状況。流石のエルデガルトも一端は死を覚悟した。
 が、それでは先程姉の前で誓った事が無下になってしまう。そして、私が人形に誓った全てが無駄になってしまう。水泡に帰す、ということだろうか。そんなことはあってはならない。絶対にあってはならないのだ。

 ふと、後ろを向いた。

「お姉様……!?」

 触れている手の感触が少し軽くなった。
 ――――…………キマイラはもうろうとした意識の中に居た。止めどなく流れる顔の血だろうか。それとも煙だろうか。そして、彼女を縛っているのはこの家の記憶だろうか。どちらにせよ、見逃すわけにはいかない。
 生き残ると言って、そして、二人で生きようと言ったというのに、これでは何の意味も無い。
 何もかもおしまいになってしまう。
 覚悟が無駄になってしまう。

「お姉様、失礼します」

 朦朧とした意識のキマイラに近づき、ちょっと力を入れて、姉を背負った。屋敷の外まではそう距離も無い、だが、確実なものとするにはこうするしかない。
 私はまだまだ有り余っている。故に、ここで私が頑張らなきゃいけない。
 それは勇気という蛮勇だったかもしれない。
 だが、それは一人に成りたくないという恐怖の現れだったのかもしれない。

「もうちょっとです、もうちょっとですから――――……死なないで、キマイラ」

 届くかも分からない言葉をかけて、キマイラを背負ったエルデガルトは歩き出す。生きる為に。

>>キマイラ

【確定ロールとなってしまい申し訳有りません、このまま屋敷の外に出て〆としたいのですがよろしいでしょうか…?】

1日前 No.466

とと田 @totototo☆pZFOWxlGRjQ ★Android=4OhkCRUD6l

【ベイリー・ローゼンブルク/コレクションルーム前】


 カナニトの右腕を覆う火傷を、細めた目で見る。痛々しい痕にベイリーは眉を少しだけ潜めたが、きっと彼は痛くないと言うだろうから、もう何も口にはしなかった。


 カナニトが視線をやる方に顔を向ければ、ぼんやりとした人影があった。輪郭がくっきりと浮かび上がると、恐らくバルコニーからやって来たのであろうグレイとエトワールがいた。二人とも、酷い顔をしている、と思った。酷く美しく、酷く優しく、酷く強か。自分はそんな顔をできているだろうか。ベイリーは様々な感情で歪む己の顔を整えるように右目を擦った。ここに二人がいるということは、イライザは――咄嗟に問いかけようとして、口をつぐんだ。そう、そうなのね、と心の中で問答をする。カナニトはとっくに気づいていたらしかった。

「グレイ、エトワール。ここはもう危ないから、早く出ましょう」

 煙に息が詰まりながらも、声を張る。すると、グレイの手の中にあるものが納められているのが目についた。あぁ、と息が漏れる。

(イライザ……それはあまりにも、優しすぎる)


「きっと貴方になにかあるんでしょう。いってらっしゃい」

 カナニトの耳に口を寄せ、そうっと囁く。彼の背中を優しく二人の方へ押し出した。
 もっと色んなことが知りたいと思った。カナニトが自分に話したいこと――例えば彼の昔のこと、逃げ場のない痛みのこと、良い響きをした名前のこと。全部教えてほしい。そして、彼が言いたくないこと、言わなくていいと思っていることは、秘密にしていて欲しい。例えば、彼女のこと。その二つの采配が、とても健全で、美しいのだと思った。そういうものをずっと望んでいたのだ。


>>カナニト、グレイ、エトワール



【ギリギリで申し訳ないです! この後は、グレイちゃんから髪留めを受け取る⇒屋敷を出る、という流れで大丈夫でしょうか?】

4時間前 No.467

ししくれ @kmnkha☆/pH2qpQf7L2 ★ieluDUuGrE_H50

【ロメア/裏庭】


 同情とともに胸の中へ抱かれているようで嫌だった。そんなに下手な表情だっただろうか。そう考えるとあまりにも馬鹿らしくって、心が乾いた笑い声をあげた。それでも自分を投げ捨てることなどできない私に、拒むための腕など存在せず、この抱擁に抗うことなど出来ない。
 そっと、耳元で自分の名が呼ばれ、甘美な言葉が囁かれる。気づけば頭を反芻していた笑い声は消えていて、ロメアの顔には完璧なまでの微笑がたたえられていた。
 仮初めの幻想でも、嘘で繕われた言葉でも構わない。もしかしたら私はリオネルの予備かもしれないし、きっとついて来さえすれば誰だっていいのかもしれない。でも、それでもいいのだ。誰よりも何よりも一番に愛してなんて今更言うつもりはない。ただ、ほんの少しでも愛してく、僅かでも私を見てくれると言うのなら、ただそれだけでいい。
 視界の隅に見える、リオネルの瞳が可愛らしい嫉妬の色が見え隠れしているのが愛おしかった。私にはそんな目をすることは叶わない。
 リオネルの握っていないもう一方の手に、そっと自分の手を添えて唇を落とし、アイリスの瞳を覗き込むようにして視線を合わせた。

「Yes, my fair rady.(もちろんですとも、麗しのお嬢様。)」

 それは、身も心も、全てアイリスに捧げるための誓いの言葉。
 けれどね、アリー。悪役を望むことほど、切ないものはないよ。憎まれ疎まれ、そしてそうなりたいと望むうちはそれになることさえ叶わない。悪人に身を落とすことは困難で、悪人を演じ続けることは酷く苦しい。人を殺したからといって悪人と呼ばれるわけでも、誰も殺していないからといって悪人ではないというわけでもない。身勝手を突き通すには、世界はあまりにも物で溢れすぎている。誰もが生きづらいのだ。
 ……だけど、もしも本当に貴方が悪人だと言うのなら、もしくは私に死ぬほどの愛をくれると言うのなら。お願い。いつか私を殺して。ーーなあんて。きっと貴方も私を殺さないのでしょう。美しいだけの出来損ないは何れ捨てられる運命だ。今まで幾度となく繰り返してきた。決して変わらない現実。けれど私はこの道を選ぶ。だって、この世に愛されずに生きる以上の苦痛は存在しないのだから。

 ーー嗚呼、愛しき人。飽きるまで私を愛して。いつか私を捨てる、その日まで。


 >>アイリス様、リオネル様
【イベント終了も目前に迫っているというのにお返事が遅くなってしまい申し訳ないです。〆の方はお二人に合わせるつもりです。】

3時間前 No.468
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