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月姫伝説-月神恋ふる秋の花筐-【かぐや姫異譚】

 ( オリジナルなりきり )
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芙愛【和風恋愛浪漫幻想物語】 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB



今はとて 天の羽衣着る折ぞ
君をあはれと 思ひ知りぬる

【作者不詳『竹取物語』より】







ながつきの風。
深淵たる果てなき静寂の闇。
射干玉に夜を染める黒は、鬼哭の如き風を孕んで啾々と震える。
此の世に生まれ落ちた民草の業罪を責め立てるあの不気味な夜を、幼かった私は母に手を引かれ歩んだ。

ーー「貴方様は明日より後は、宮中にて月の姫様にお仕えするのです。良いですね、貴方も武士の子なのですから、姫様を御守りし立派に御役目を果たすのですよ」

下級武士の夫を亡くした母の手は痩せていたが、とても温かかった。御役目を果たす=A私にはその言葉が母の本心のようには聞こえなかった。私が齢七つの秋のことである。

ーー「ただの……月の姫といえどただの子供にございます。母上、私はそんな年端もいかぬ、それもおなごの従者になど、なりとう御座いません。私は、父上の代わりに母上を守りたいのに……」

月の姫。
姫などとは名ばかりで、それは己と同じ年頃の少女の身体を用いて造り上げられ祀り上げられた、人間の形をした呪具であり食糧であると聞く。
月の国より舞い降りし異邦者を、囲えば豊宇気毘売神の如くその者は栄え、その死肉を食えばその者は女神の奇跡を得られるという。それは果たして誠か嘘か。
真偽は見定められぬまま、愚かなる民は虚構の上に躍る。都人達は彼女を月の姫君と崇め奉り、もてなし、取り入ろうとし、囲い守る一方で、誰もが彼女を味見して奇跡を手に入れてみたいと睥睨している。
異郷の地よりやってきたという、出自すらも憶えていない少女。都の殿上人達が囲う玩具の人形。憐れとは思うが、武士に生まれながらも下級であるが故に、そのような得体の知れぬ娯楽人形の護衛を一生の務めと割り当てられた此の身にだって天は憐憫をくれたっていい。

道端に座り込んだ私の足元が、急に明るくなった。
幼い我儘に泣き濡れて霞んだ視界に、一面の藤色が照らし出される。ぼんやりと視界を覆うその淡紫が藤袴の群生と気付くまでに数秒を要した。叢雲が切れて月影が射したのだろう。私は、それまで気付きもしないでいた。母と二人、最後の夜にかくも麗しき場所を訪れていたのだということに。
見上げれば幽かな光を纏う遥かなる幻月。
秋の真宵を惑う孤独な月。
蹲る足元に、ポツリポツリと水の斑点が染みを作る。
私の涙ではない。
朧な雲の陰間に独り凍える月の涙だ。


ーー「……あまり月を見つめてはなりませぬ。それに…………」

母は雨除けの笠を私に被せながら苦い顔をする。私は皆まで言うなと途中で制した。

ーー「いえ。わかっております、母上。私はもう泣きませぬ。ただ少しばかり、淋しいのでございます。きっと、月の姫君と同じように」

母は安堵したような、切なげな面持ちで一つ頷き、それ以上何も言わなかった。
寒いのか、お前も淋しいのか、それとも不遜な従者の態度に傷ついたのか。と、幼き従者は掌を月へと翳した。「ごめんな」





月を見つめると狂気に憑かれる、とは、誰が言い出したのだろう。
ながつきの風。
焼けた原に、あの日母と見た藤袴の花織物はもう無い。
ただ、あの夜と同じ月だけが、儚い記憶を照らし続けている。
墨染の風の中、雲居の切れ間から、ちぎれちぎれに。

私は、幼き頃より仕え続けた主人の前に立ち尽くしていた。頭一つ小さな影は私を見上げたまま、穏やかに笑っている。
美しい、と思った。
闇夜の中に、浮かび上がる白の薄衣。紗を透かして尚も淡く光を放つ、しなやかな痩躯に真珠の肌。夢幻に見るような仄明き煌めきを纏う少女。私の主君。輝夜の月の姫。如何して私はこれまで彼女が異世界の者であるということを忘れていたのだろう。

「ーーーー」

自分が何者なのかも、何に巻き込まれているのかも、何処に行くのかも知らぬ異郷の少女。だが、其れでも良かった。
二人で逃げよう、と、主を貴族の元から連れ出した私がいけなかった。月下に降り立った一輪の花は柔らかに匂い立つ魔性を流露する。私は成す術なく取り憑かれ、正気に戻った時にはもう、彼女という存在は忽ちに遠ざかる。
なんの素性も知れぬ姫君でも、其れで良かったのに。月光という伝説の羽衣は、私が誰より良く知っていた少女の、最後の人間らしさを覆い隠す。

一度切っ先を向けてしまった時点で、思い直そうとも彼女はモノ≠ノなってしまった。
権力争いの道具に。
愚者の矮小な願いを叶える咒に。
罪人達の好奇心を嗜好を満たす精肉に。
愛する従者の前でさえモノ≠ヨと変貌してしまった。弱き私の迷いと裏切りが変貌させてしまった。感情の消え去った天女の、死人の如き虚ろな目が、その事実を示している。
私の握りしめた銀色の刃は、劍星の煌めきを宿した儘行き場を失って。

穏やかな笑みの中の、絶望。
嗚呼、今宵は満月だ。

「月へと、帰るのか」

月の姫はそれには答えず、行き場をなくして中空に漂っていた剣先へと自ら飛び込んだ。手を退くより速く、皮膚を裂き肉を断つ感覚が痺れるように伝播する。戦慄く私を抱きしめるように、刃を胸郭に深く飲み込みながら身を寄せてくる。
声にならない叫びを上げる私の耳元で、彼女は囁いた。
「私を食べてください」と。そう確かに。


壊れた絡繰人形のように倒れ伏した聖女の亡骸を、私はしばらく茫然と見つめていたが、やがてそっと抱え上げた。透き通る白妙の羽衣は、既に見る影も無く蘇芳に染まり、ずしりと重みを帯びている。
……月の国より舞い降りし異邦者を、囲えば豊宇気毘売神の如くその者は栄え、その死肉を食えばその者は女神の奇跡を得られるという。……
私は笑った。声が枯れるまで、咽び泣くように笑った。
奇跡とは何だ。長者か、天下か、不老不死か。そんなものは要らぬ。俺はただ、ただの男として彼女の事が欲しかったのに。そんな奇跡なんていう欲望の為に、月の姫君なんて馬鹿げた肩書きのために、彼女は苦しんで死んでしまった。彼女を守る筈の、此の刃に倒れて。
「奇跡なんて」
ありもしないくせに。妖でも不死でもなんでもない、ただの清らかで無垢な少女ではないか。
秋風が啾啾と哭く。
狂気の月光が、珠のような屍者の肌を、撫で回す。

ーー女神の奇跡とやらよ。
本当だというのなら、見せてみろ。

深々と刺さった刃を引き抜くと、風穴を穿ったその胸に顔を埋めるようにして剥き出しの肉に歯を立てて啜り喰らった。

ーーさあ叶えてみせろ。俺の願いを。

「…………助けてくれ…………」

時を遡り、私の主君を助けてくれ。私の弱さの所為でこんな哀しい終焉を二度と迎えることが無いように。

墨色の夜に水音だけが木霊する。
雨など降っていないのに、ピチャピチャと。其れは、ある罪深き人間の男が愛の骸となりし天女を食らう音。

時を遡る奇跡よ。
「ーーーー助けてくれ」

秋風は血生臭く、月光はさやかに。
あの夜の藤袴は枯れ果てて。
長き夜は、おそろしき闇に何処までも沈んでゆく。






時は、止まり、還り、廻る。
あの夜と同じ、長月を待つ或る秋の夜。
従者の願いは叶えられ、月の姫は宮中に坐していた。物心のつきし時より其処から歩み一つも出ること無く。
人形のように……否、いずれ誰かの手に渡り食される家畜のように、囲われていた。
強欲で哀れで愚かな地上の民は、何度でもきっと繰り返す。不二の妙薬……月の民の屍肉を食べた物が与えられる時空跳躍能力≠巡って。
従者は姫を伴い、今度こそ彼女を失わないようにと逃げようとするが、それも無駄な事。殿上人だけではなく宮中の武士や官僚、城下の民、商人、職人、難民、盗賊、逆賊、異形の者に至るまで、月姫伝説を知らぬ者は居ないのだから。









【クリック感謝いたします。当スレの主をさせていただきます芙愛と申します。

当スレは日本最古の物語・かぐや姫をモチーフとしたオリジナル和風ファンタジーです。

冒頭の武士が月の姫の屍肉を喰らい時空跳躍を起こし、一か月前に時を遡ったところからこのスレは始まります。要約すると、権力者の欲望によって宮中に囲われていたかぐや姫が護衛の従者と共に抜けだします。そこで出会う人々が、かぐや姫に惚れているなり 彼女を殺し食べることによって得られるある能力を必要とする各々の事情理由があるなり あるいはその両方の理由によって彼女を巡る争奪戦を繰り広げる和風ロマンスファンタジーです。人間関係の糸は複雑に絡み合い、縺れ合い、恋愛だけではない新たな展開と青年達の成長を物語として織り成していきます。
恋愛ももちろんいいんだけど争奪戦を通して取り合ってた男同士に絆的な何かが生まれる話がいいなぁ。

興味を持っていただければ幸いです。
皆様とのご縁と楽しい交流を心よりお待ち申し上げます。】

1年前 No.0
メモ2016/08/21 23:32 : 芙愛 @fue★iPhone-uYwUDyqtCB

一度は止まったこのスレですが、参加者様のお陰で再興頑張ってます! 現在復帰歓迎中です! 入り方わからない場合はサブ記事かSNSにてスレ主までお問い合わせください(^^)


ザ・まとめ!

http://mb2.jp/_subnro/15066.html-294#a


現在進行中!現在、八月十五日 午の刻

《八月十五日》

http://mb2.jp/_subnro/15066.html-292#a


月姫伝説再興・完結スケジュール

http://mb2.jp/_subnro/15066.html-270#a

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輝夜 @yuunagi48 ★Android=mjOuzj0gIR

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5ヶ月前 No.265

はいせ @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=jAJCPdYNL5



【光宮哉栄/自宅】


 紡がれる言葉を聞き漏らさないよう、哉栄は静かに耳を傾けていた。穏やかな顔に医者のそれを含ませながら、どのような病気の方がいらっしゃるのか、と。自分に会いに来た彼の用事は哉栄の力が必要であるものだと信じて疑わなかった。

 それだけに、「左京院」そして「桔梗の君」という言葉が出たときは顔には出さずとも驚愕した。膝の上に置いた手に力が込められ、強く拳を握る。哉栄は医者になるために多くの知識を吸収し、そしてそれを理解してきた。誇るほどではないものの聡く賢い頭は哉栄にとっては良くない可能性を挙げていく。まさか、まさか――とあの夜の少女の背後に大きな満月が浮かぶ様子を思いながら、緊張に乾いた喉をこくりと鳴らし、目を閉じた。桔梗の君は自分だと、彼の問いに答えようにも答えられない。欲望のために殺そうかと考えていた月の姫が、あの日助けた優しく可憐な少女だったということに、罪悪感で押し潰されそうになる。
 ころりころりと表情が変わり、手に触れた肌の感触は人と同じ。ただのお転婆な女の子。あの子が、月の姫だなんて。

 浮かんだ可能性を否定するも、咲秋が続けた言葉はあの夜の少女が月の姫、輝夜姫であるということだった。目を瞑る力が強まり、瞼がぴくりと震える。次いで開かれ、露になる瞳は揺らぎ、医者としてのそれは表情から抜けていた。

「……はい、姫君に桔梗の名を頂いたのは私です。左京院の姫君とはつゆ知らず、肌に触れたことをお許しください。――医者である私が手当てをするのは当然のこと。恩人などと……」

 お招き、左京院家に招待される。わずかに笑みを見せるが、心は混濁していた。罪のない、優しく清らかな少女が月の姫。願いを叶えるために殺さなくてはならない姫。殺したくないと思いながら、月の姫と接触する機会がまた来たのだと歓喜する感情があることも自覚している。

 哉栄は小さく、儚く笑う。自分の身は呪われているではないのかとさえ思う。欲してもいない能力を持って生まれ、この能力のせいで兄は死に、兄を蘇らせたいという願いを叶えるためには、優しく笑顔の似合う少女を殺さなくてはならない。良い子なのに、殺したいとは思わないが殺さなくては願いが叶わない。哀しい運命を、哉栄に希望を与えた月の姫を、そっと呪いながら、

「お招き、大変嬉しく思います。」

 と、こたえた。




【遅くなってしまって本当にごめんなさい……! 文章がぐちゃぐちゃなのもごめんなさい!】

5ヶ月前 No.266

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/城下・茶屋】

 珠芽の恐る恐る出した提案を輝夜は受け入れると共にその瞳は更なる輝きを放つ。喜びを露にする輝夜の様子に(良かった、間違ってなかった)と密かに胸を撫で下ろした。


 手を引かれるがまま、促されるまま。共に椅子へと座ると温かなお茶が運ばれ、輝夜が女性へ注文をすると直に団子達が運ばれた。どれも興味深い物達に思わず「わぁっ」と喜びの声が上がる。
 まずは饅頭から……と手に取ると大きく口を開け、詰め込む。口いっぱいに入った饅頭を不器用ながら苦戦しつつ咀嚼すると、程好い甘さが広がり思わず表情がはにゃ、と緩んだ。

「ん……うん、美味しいっ!」

 輝夜が溢す言葉に応えようと、急いで臙下をすると年相応の満面の笑顔で同意する。次は団子へ。が、珠芽が手に取ることはなかった。それは輝夜がぽつりぽつりと珠芽に語りかけたから。
 紡がれていく言葉達にそっと耳を傾ける。輝夜の言葉を聞き逃さないように、全て受け止められるように。話終わるのを待って口を開く。

「……おいら、お姫様の事が好き。大切。だから、傷付けたくなくて気が付いたら体が動いてた。でも、お姫様も同じ気持ちだったんだね。おいらもね、強くなりたいの。葛葉様みたいに。……お姫様とおいら、一緒だね」

 輝夜の優しい決意が胸に響く。こんなに大切に思われる事が今まであっただろうか? ましてや人と妖という間柄にあるというのに。その真っ直ぐな気持ちに応えようと、珠芽もまた素直で純粋な気持ちを言葉にする。柔らかな笑みで一つ一つ確かめ、噛み締めるかのように。けれども戸惑いも一つ。それは『私と一緒に逃げてね?』という輝夜の確かめるような問い。「はい」と首を縦に振れたら良かったのかもしれない。けれど何故かそれは戸惑われ、結果そこには触れず応えたのだった。

 何処と無く気持ちを残してしまったような気分の中、落ち着かせるように団子を一口。広がる甘さは口から身体へ溶け込むようだ。

「……うん。夕臙とも、一緒に食べてお話したいね」

 笑う輝夜とは対照的に珠芽は残した気持ちを引き摺るような、複雑な表情で齧りかけの団子を見つめていた。

>輝夜、周辺all

【いえいえ、此方こそ輝夜さんの気持ちを上手く汲み取れてなかったらすみません;;】

5ヶ月前 No.267

佐竹咲秋 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/城下(光宮哉栄の自宅→宮中門前)】

桔梗の名を頂いた。その一節が、蜘蛛の糸のように脳に絡みついて剥がれず、咲秋は何度もその言葉を目の前の儚げな笑みに重ねては眼を眇めた。輝夜と城下の者が親密になりすぎてはいないかという心配故でもあったが、それだけではないことは咲秋とて分かっていた。

「……姫様は、会う人会う人に花の名をつけてお呼びになるのです。私(わたくし)が賜ったのは藤袴=c…野の草花の名も姫様からすれば親愛の雅やかな表明なのでしょう。どうか、御気を悪くされないでいただきたい」

違う。これは突然渾名を付けられた光宮哉栄の弁明ではない。表向きはそうであっても、青く澄み紅く澱んだ心の深淵で、本人すら自覚できない別の感情が首を擡げていた。輝夜姫から名を賜るのは彼女を閉じ込める小さな檻籠の中の自分達だけでありたかった。自分の感知しない花の名を次々に嬉しそうに連ねる冒険の後の主の声を聞くのは複雑な気持ちだった。中でも、桔梗≠ヘ特別らしく聞こえた。桔梗≠フ示す人物が誰であるのか咲秋にはすぐに推論できたが、その桔梗≠目の前にしてなお、自分からそう名乗られると嫉妬にも似た気持ちが湧いた。否、嫉妬とはまた違う。自分が既に持っている幸福を、他人も同じく持ってしまったことで価値が下がってしまうような感覚。その幸福は他人を蹴落とさずとも減ることなどないというのに。特別な人だと選ばれたような気になって小さ過ぎる優越感を慳貪に守りたかった。藤袴の名を敢えて名乗ったのは、桔梗≠フ名の特別感を下げるためだったかと思うと、己の所業とて好ましくはなかった。

つまらぬ自分のことで一杯になっていたから、咲秋はしばらく哉栄の何処か落ち着きない様子に気付かなかった。漸くおかしいと気付いたのは、こちらを見る大きな茶の瞳が所在無げに揺れていたからだった。不健康に白く透き通るような肌の上に浮かぶ柔和な両眼は、儚く笑うように細められたが触れれば壊れてしまいそうな翳りに、咲秋はそれ以上踏み込むのを躊躇した。



哉栄の返事により、咲秋は哉栄を伴い宮中へと向かった。幸い光宮邸と宮中への門はさほど離れてはおらず、四半刻も歩けば充分に着きそうだった。哉栄と歩く道中、咲秋は冷静沈着朴念仁の無表情の下で、傍らの彼に何を話しかけようかと常に悩み妙にそわそわした。そもそも平素から他愛の無い会話などというものは不得手だ。しかも殆ど初対面の相手で、左京院家の賓客ときた。大切な客を不機嫌な表情で始終無言で迎え送る奴が何処に在るものか、何とかしてこの間を愉しませねばなるまい、そう思えば思うほど焦りは募り眉間に皺が寄っていく。
地味な袴姿に煌びやかな装飾の刀だけが目立つ武人と、控えめな着流しに羽織を纏った細く小柄な町医者が連れ立って、しかも付かず離れずの奇妙な距離で城下を歩く様子は稀有なものだろう。光宮医師を良く知る町人は珍しそうに振り返っている。

「あの……」

何か話そう、それも、友好的な会話をしよう。そう思っているのになかなか話題が思い付かず咲秋は緊張している。何か話題を探そうとするたびに先程の哉栄の「肌に触れたことをお許しください」が閃光の如く瞬いて続く思考を邪魔するのだ。姫に想いを懸ける咲秋にしてみれば彼に聞きたいことなんて先ず此れに限る。しかし穏便に気持ち良く客人を左京院邸に招くためにそんな事は聞ける訳がなかった。
また歩みがいつも通りに速く広くなりかけて、連れの歩く速さを思い出し慌てて合わせるように歩調を緩めた。

>哉栄、城下all



【こちらこそ、遅くなってしまいすみません;】

5ヶ月前 No.268

藤堂吉継 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【藤堂吉継/城下(宮中正門→羅城門)】

開け放たれた部屋の天井を胡蝶が横切る。
目で追っていると彼女は、自由気儘に顔のあたりまで寄ってきてちょんと触れた。
丸一日近く眠っていたらしい。左京院邸の自室に運ばれてから半醒半睡、眠っては覚め、醒めては睡り、幽霊にでもなったような心地で過ごした。姫も華切様も咲秋も、皆無事だったということを確認したのまでは覚えている。夢だったのではないかと思って起きてからもう一度女中に確認したが、夢ではなかったらしい。
思い出したようにあの妖との戦闘で負った傷を触って確かめようとしたが、傷は跡形もなく消えて無くなっていた。確かに鎖骨の辺りにあった筈で、骨も折れていただろう。なのに、あの出来事そのものが夢だったではないかと思う程に、傷は消えていた。
不思議な気持ちで天井の模様を漠然と見詰める。仲間達の無事を確かめた今、幾度となく心に浮かぶのは、この傷を付けそしてこの傷を自ら癒したあの「夜」と名乗る妖の事ばかりだった。

戦った時には死をも覚悟した。骨をも砕く強靭な尾、開いたそばから塞がる蛍光色の傷口、巨大な爬虫類の躰、麝香の甘く強烈な香り。しかしそれよりも頭にこびりついて離れないのは、怪我よりも痛い彼女の言葉だった。歌い紡ぐ詩の言の葉は、ずっと胸の内に引っかかっていた後ろ暗い悩みの核心を捉え、深々と突き刺さった。
ーー「本当に、本当に本当に本当に、良いのですか吉継様?」
始めは、知りもしない妖の言葉などに騙されるものかと思った。塗ってくれた妖の妙薬も、帰路で倒れた際には毒を盛られたのではないかと本気で疑った。しかし目を覚ませば彼女の言う通り傷は本当にすっかり癒えて身体も軽い。それに……。抱き締められた感触が包み込まれた甘い麝香の薫りが鮮やかに蘇る。誰にも言ったことがない心情をあんな風に言い当てられたのは初めてだった。
華切様や咲秋を疑う訳がなかった。「どんな時でも共に命を懸けて姫様を守ろう」と誓った友人を妖の言葉一つで裏切る訳がなかった。けれども、咲秋も果たして同じ気持ちなのだろうか。華切様と姫様にとって藤堂吉継≠ヘどんな存在だったのか。
あの妖の言う通りで、本当は「輝夜姫が欲しかった」。恋慕と独占欲、それから。その想いを押し殺し続けてきた。左京院家は疎まれ忌み嫌われた自分を拾ってくれた恩人だから。大切な人達との信頼や関係を壊したくなかったから。左京院華切が恋敵ではまず勝ち目はないと思ったから。おそらく咲秋も自分と同じ思いで同じように諦めたのではないかということは見え透いていた。何年一緒に居たと思っている。
胸の奥底に沈めて、踏み消した。なのに、その燻っていた火を見破られた、というより気付かされた……初めて、肯定してもらえた。

「俺は」

布団から身を起こす。驚いた蝶が慌てたように羽ばたき高度を上げて外へと出て行った。
会って、確かめるだけだ。左京院家や華切様や咲秋を裏切るなんてことはしない。何故あんな事を言ったのか何処でその情報を手に入れたのか尋問するだけだし、少しでも妙なことを言えば叩き斬る。
暫く寝ていたからか、頭が何となく重く、少しふらつく。「吉継様!?」と驚いた女官の声が何人分も呼び止めようとするが構わずに歩き続ける。ーー夜に会いに行かなくては。
この時点で既に何処かおかしかったのかもしれない。
「吉継様、何処へ行かれるのです?」「御身体の具合は!?」「華切様にはお会いになりましたか!?」背中を追う幾つもの声を無視して邸を飛び出し馬一つを伴って宮中を出た。どうせもはや罪人の身なれば華切様や姫様に「行ってきます」と合わせる顔もなかった。

何かに憑かれたように、城下の街をひたすら南下した。あの真夜中と同じ、ただ今はまだ陽があり、大路にも人が多い為それを避けて何本か脇の路を進んだ。目指す先は羅城門。彼女と出遭ってしまった場所だ。
立ち止まると、羅城門は燃え落ちた瓦礫と化していた。ただでさえ廃墟のようだった崩れかけの門は、業火に焼かれて黒く崩れていた。あの辺りに棲み着いていた貧困の民や孤児たちは如何しただろう。
そこに立っただけで、あの戦いが脳裏に蘇る。ぞくりと悪寒が背を走った。辺りはしんと静まり返って、物盗りの気配すらない。まだ夕暮れ迫る白昼というのに、ここに生きているのは自分だけのような気さえした。

「……わかってはいたけれど、何時もここに居るわけではない……か」

そっと溜息をつくと、あの晩と同じ格好で、燃え残った羅城門の残骸に寄りかかるように座り込んだ。一体何を馬鹿げたことをしているのだろう。この罪人のたった一人の理解者にもう一度会って確かめたかったのだ。


>羅城門付近all、(夜(皇出母))


【スレ主権限の乱用で物語を動かしました()
予告に則り、主要キャラクター代理投稿ですので多少の差異はお許し下さい。いつでも戻れる代理投稿者は芙愛時々夕凪様でお送りします。面白い展開をつくれたらなぁと思います。】

5ヶ月前 No.269

輝夜 @yuunagi48 ★Android=cVELcsAASG

【輝夜/城下町(茶屋)→芝居小屋前】
輝夜の言葉に真摯に耳を傾けていた珠芽がゆっくりと口を開いた。次は輝夜がその気持ちと決意を僅かに頷きながら聞く。

「一緒だね」

柔らかな笑みを浮かべながらそう言った珠芽に、同じく笑顔を浮かべながら同じ言葉を返した。輝夜にとって同じ目標を持つ仲間が出来る事は初めてで、嬉しくもあり、くすぐったくもあった。
しかし、同時に珠芽の心境がそれだけでは無い事に気付く。珠芽の言葉の間と食べかけの団子を見る表情に一瞬その姿をじっと見詰め、僅かに首を傾げた。今珠芽は何を考えているのだろうと思考を働かせてみるが、その答えに輝夜が辿り着ける事は無かった。まだ知り合って二日程しか経っていないのだから当然といえば当然なのかも知れないが、珠芽の喜びでは無いその表情に何も出来ないむず痒さを感じた輝夜は手にしていた団子の最後の一口をぱくりと口に運べば、もぐもぐと慌ただしげに咀嚼しすくっと立ち上がった。

「行こう!」

くるりと珠芽の方を向けば、にこりと笑顔を浮かべ団子を持つ方とは反対の手を握り、立ち上がる事を促すようにくいくいと手を引っ張る。珠芽が立つのを待って輝夜は歩き出した。歩みはだんだんと早足になり、人の行き交う城下町の通りを駆ける。早足とはいえ、普段内裏に囲われ体を動かす事など殆ど無い少女の早足だ。子供とはいえ妖である珠芽に着いてこれない速さでは到底無い。先程会った人の子、夕臙でも苦も無く着いて来られるだろう。しかし、元々体力の無い輝夜は多少息を乱しながら、それでも楽しそうな笑顔で珠芽に話し掛ける。

「私ね、月下香に会いたいの!会わなくてはいけないの!私も大切な人を守りたいから、だから、葛……の葉に会いに行こう!」

何故前後の言葉が『だから』と繋がるのかきっと彼女以外全く分からないであろう言葉を、迷いもなく輝夜は告げた。珠芽の表情の理由や大切な人の為に輝夜を殺すと告げた夕臙の背景も今の輝夜には分からない。城下町というものは本当に分からない事だらけだ。だけど分からないままで終わりたくは無い。きっと珠芽の隣で肩を並べて寄り添う事も出来たであろう。けれど、今は珠芽と共に前に進みたいと思った。その為に、珠芽が強さの憧れを抱く葛葉に会いに行こうとそう思い立ったのだ。

しかし、やはりと言うべきであろうか、問題は山積み。前途多難。輝夜は城下の町を目にしたのは左京院邸に来てから二度目なのだ。そもそも月下香とは誰をさすのか、葛葉が今何処に居るのか知る由もない。一体彼女は何処へ向かっているのか。
そして輝夜達が食い逃げ同然に去った茶屋では空となった皿の横に凝った装飾のされた鏡が一つ、城下の人達は物々交換をしているのだと解釈したお金という概念を持たない少女によって置かれており再び店の者達の胆を冷やしていた。


何処に向かっているのか誰も、手を引かれ向かっている珠芽自身でさえ知らない二人、否輝夜が足を止めたのはとある芝居小屋の前だった。突然輝夜はその足を止め、息を乱しながらその芝居小屋を見詰めた。

「とっても薄い藤袴の香りがする」

それは藤袴の花を指しているのだろうか、それとも彼女のよく知る咲秋を指しているのだろうか。後者ならば嗅覚では到底感じられる事の無い香りの筈だが、輝夜はその芝居小屋の前でゆっくりと首を傾げた。
>珠芽、彼岸、ALL

【かなり無理矢理な移動な気もしますが…倖様、確定描写、激謝です
崎山様、よろしければ絡みお願いしたいです!】

5ヶ月前 No.270

東雲 彼岸 @caim ★cggvzsv7BC_mgE

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5ヶ月前 No.271

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

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4ヶ月前 No.272

はいせ @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=jAJCPdYNL5


【光宮哉栄/→宮中門前】


 藤袴――そう呼ばれる彼の言葉に耳を傾けながらその声に含まれた複雑な感情をも哉栄は読み取りながら歩いていた。

 会う人に花の名をつける彼女のその可愛い所業が微笑ましく思う反面、己が殺せばその花の名をいただく数多の者に恨まれるのかと思うと途端心が竦み上がる。それがわかっているなら止せばいいのに、と乾いた笑みを心中で浮かべ不安定に揺らいだまま宮中へと向かうのを止めはしない。

「幼い頃から身体が弱い身です。渾名をつけられることなどありませんでしたので、桔梗の名を嬉しく思っておりますよ。」

 気を悪くすることはひとつもない。ただ桔梗と親しく呼ばれたことを思い出す度心臓が軋んだ。この藤袴の君は月の姫を慕っているのだろう。言葉の端々からうかがえるのは僅かな嫉妬だろうか……いや、恐らく名をつけることはできない複雑な感情。ひととは厄介だ、と哉栄は思う。自分だって呼べやしない感情を多く持て余し、その感情を見て見ぬふりをして生きてきた。願いを叶えるために、あの人に命を与えるために、自分の中で蠢く感情をまるで他人のものであるかのように客観視してきた。月の姫が可憐な彼女と知って、すべての感情と向き合わなければならなくなった今。哉栄は体から食い破って出てきそうな膨大な感情を処理するしかない。
 何をすべきか、何を考えるべきか、何を眼に映すべきか。何を望んでいるのか。例えばかつての優しい兄の掌、例えばあの月夜の少女の笑顔。例えば愛弟子の己を呼ぶ声――
 そして、医者として生き、この街に住む人々を守る未来。長い間培った信頼関係を崩してでも、願いを叶えるのか。すれ違う子どもに手を振られ笑顔を向けられても応えることができず、眉を下げ薄く笑みを浮かべた。楽しそうに道行く人々は、言葉を多く交わさずつかず離れずの距離で歩く哉栄たちを不思議そうに見ている。

 さて、何か話した方が良いのだろうかと思ったところで声をかけられて咲秋を見た。眉間によった皺に気づき小さく笑みを向ける。

「はい、佐竹さま。どうかされましたか?」

 この人はきっと、とても優しい人だ。人よりもゆっくりとした自分の歩みに合わせてくれる彼を見上げ、問うてみる。これ以上彼を深く知るとのちのち苦しむと知っていながらも、哉栄は彼を知りたいと思った。

>>咲秋、all




【咲秋くんと仲良くしたいという思いを込めて……!!!】

4ヶ月前 No.273

輝夜 @yuunagi48 ★Android=0UNebhqFKs

【輝夜/城下町(芝居小屋前)】
薄く感じた藤袴の香りに気を取られじっとその建物を見詰めていると、繋いだ手をぎゅっと握られ傍に寄るように引かれた事で、はっと我に返った。そうだ、葛の葉に会いに行くのだとまた見失いかけていた目的を思い出して、「ごめんね」と言いながら珠芽を見れば、その動作の理由が香りに気を取られた輝夜を急かすものではない事が分かった。
珠芽は建物の中を真剣に見詰め、体と表情を固くさせている。緊張しているのだろうか?

どうしたの?と言葉を続けようとして、喉まで出かけた声は掛けられた声に押し止まり輝夜は視線を珠芽から声の主へと向けた。
そこに立つのは一人の女性らしき人。輝夜を見て、珠芽を見る。そしてもう一度輝夜へと視線を向けたその人は穏やかで柔らかい笑みを浮かべて『食べてしまいたいくらい』と再び言葉を発した。

「撫子?」

首を少し傾げる様に輝夜は目の前のどこか儚げですらりとしたその人、彼岸を彼女独特の名で呼ぶ。その名は輝夜の口から初めて出た花の名だったが、それを呼ぶ呼び方は今知り合い、初めて付けたあだ名と言うより、ひょんな所で会った友人を呼ぶように聞こえなくもない。先日の夜と同じく警戒心の欠片も無い表情で彼岸を見れば、輝夜を呼ぶ声に視線を彼岸から珠芽へと向けた。緊張や不安を感じているのだろうか、声量が小さく固い声に大丈夫だよと伝える様に、珠芽の手を優しくしっかりと握り返す。

「私達ね、葛……の葉と月下香に会いに行っているの。ここで、藤袴の香りがしたから見ていたのだけど……ごめんなさい、間違えてしまったみたい」

輝夜に引かれるままに向かっていた珠芽が答えに迷うのは当然で、言葉に詰まった珠芽の後を続けるように輝夜はにこりと笑いながら自分達の目的とここに立っていた理由を偽り隠すことなく告げた。
葛葉の名を口にする時、輝夜はいつも少し詰まる様に呼ぶのだが、それは彼女にとって葛葉に付けたあだ名は『葛』という花の名であり、葉であると告げた葛葉の言葉に納得しつつも少しの違和感を感じているからだった。しかし、現在唯一本来の名と輝夜の呼ぶあだ名がほぼ一致している人物でもあり、葛葉を知る者ならばきっと分かるであろう。勿論、輝夜が皆の名を花の名で呼ぶという癖を知っているが故に違う人物を示しているのではないかと考えてしまう者も中にはいるだろうが。

そして漸く二人の容姿が都人達の目を引いている原因の一つだと指摘され、自分の纏う着物と珠芽の容姿を見るが生憎城下での普通を知らない輝夜には、そうなのかな?と首を傾げるに止まってしまった。それにより中に入ることを進めてくれた彼岸に、

「私や花菖蒲を食べたらだめよ?」

と先程の言葉をくすくすと茶化す様に笑いながらも、葛葉に会えると嬉しそうに笑った珠芽を早く会わせてあげたいという思いも強く、珍しく即決出来ずに迷っていた。
>珠芽、彼岸、周辺ALL

【うぁぁ…即決出来なかった(本当はしたかった)すみません】

4ヶ月前 No.274

東雲 彼岸 @caim ★cggvzsv7BC_mgE


【東雲 彼岸/城下・芝居小屋前】


 白髪の少年が、月の姫とを繋ぎ止める自身の手を手繰り寄せるようにして引き寄せるのを、見逃しはしなかった。この両の手を繋ぎ止める理由は、一体何であるのか。どうも、両者の雰囲気を見ている限りでは、利害一致の関係とは言い難いようではあるが。食う食われるの関係が、このような穏やかなはずがあるまい。主従――否、もっと近くて憧れに似たものだろうか。瞬きを一つして、くだらない詮索を消した。
 少年の方はわたしの正体を知ってか知らずか、かなり警戒をしているようであったが、件の月の姫はというと、そうではないらしい。脳裏に、以前に会った時のことを思い出したが、肝が据わっているのかはたまた別の理由か、とにかく彼女の頭の中には人を疑うという言葉は存在していないらしい。その姿が、振る舞いが、妙にわたしの神経を逆なでしていくようであった。一体、幾らの人間が、妖怪が、彼女の肉を、奇跡を欲しているというのか。百鬼が食らえと叫ぶのを、わたしは抑えることで必死だった。

「……なでし、こ?」

 その前は、瞿麦であったな。
 わざと曖昧に問い返しながら、その二人を結ぶ手を、心の奥底でぎろりと睨んだ。

「葛の葉? 月下香? ……藤袴、の、香り?」

 藤袴、ふじばかま、フジバカマ。嗚呼、そうか、なるほど。復唱をするふりをしながら、彼女の暗号めいたその言葉の意味を解読することができた。ほとんど、勘のようなものではあったが、それにしては妙に納得のいくものだった。藤袴とは、あの件の若獅子のことだろう。その嗅覚は、恐らく彼女の本能だ。彼女が妖怪、ということは流石にないだろうが、それでも油断はできない相手であるということは確かでもある。それこそ、若獅子と一戦交えれば、彼女にそのことが筒抜けるという可能性も捨てられない。――今が昼時で命拾いした。もし仮に、返り血でも纏えば流石の彼女とて、わたしを警戒したことだろう。いや、警戒ではなく軽蔑か。小さく鼻を鳴らして自嘲を済ませた。
 それから、あ、と間の抜けた声を上げて、指先を反らせながら両手を合わせた。百鬼は、日差しに煙を上げて消えていってしまった。

「葛の葉って、裏見先生のことかしら? もしそうなら、先生はお留守よ。わたしも先生には昔からお世話になっていてね、ちょうど届け物を預かったから少し前に訪ねに行ったんだけど、彼、しばらく家には戻らないそうよ」

 嘘だろうが真だろうが、手当たり次第に手繰り寄せて己の口を通して再構築を終える。例え、どう転ぼうともこの瞬間のやり取りはいつかのわたしの糧になるだろうと、そう考えていた。刀を使わぬ圧しは、やはり苦手だ。骨が折れる。ふと目を閉じた先に、夕臙とわたしに名乗った少年の姿を思い浮かべていた。

「まさか! 冗談よ、わたしは人食い鬼なんかじゃないわ。……さて、お嬢さんたち、どうしましょうね?」

 くすくすと笑う月の姫につられるように、目尻を下げて口元を緩める。このやり取りに違和感を覚えるのは、この中では恐らく少年くらいなものか。ふう、と溜め息を吐き、腰を下げて二人を交互に見る。例え、この場でこの少年がわたしへ牙を剥こうとも、わたしには東雲で居続けられる自信があった。恐怖を植え付けることも、圧をかけることも、偽りの関係を紡ぐことも、一度小屋へ招いてしまえば容易にできてしまうのだ。
 この、返答を待つ間のじりじりと皮膚を焦がすような焦燥が、今のわたしには心地良く感じるほどだった。


>珠芽、輝夜、周辺ALL
【遅くなりました、すみません; 彼岸の正体に感付いて輝夜ちゃんにそれを伝えようと護ろうと手を引く珠芽くんと、そんな珠芽くんの素振りに気付かず彼岸を撫子と呼んで下さる輝夜ちゃんとの対比が可愛すぎて、心が痛いです……(】

4ヶ月前 No.275

佐竹咲秋 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/城下(宮中門前)→宮中】

あの、と発した声掛けに、続く言葉は別に用意していなかった。沈黙に耐え兼ねただけだった。なのに、目の前の男は、優しく聡い其の双眼で律儀にも此方を見上げてくれている。弁が立つ訳ではない咲秋は益々困った。困ると同時に、彼に対してまるで子供じみた嫉妬のような黒い感情を一瞬でも抱いたことを内心で恥じた。こんなとき、自分ではなく、自分と二人で一つだった相棒であったならもっとこの客人を楽しませて快く案内できたに違いないと、此処には居ない療養中の吉継の影がふと頭を過ぎり益々劣等感の波が打ち寄せたのだった。
咲秋は知らず知らずのうちに眉間に入ってしまっていた力をそっと解き、眉尻を下げた。

「いえ…………貴方という答えに辿り着いてから思ったことですが、桔梗の君と云うのは、光宮殿に本当にお似合いの名だと思いまして。私と同じ、七草です。私の主である左京院華切様は女郎花。私の同僚の藤堂という男は薄です。観月祭のときに飾る、あの七草」

漸く慣れてきたのか、声音も丸く優しくなってくる。観月祭とは風流を愛するこの國の秋の祭の一つだ。「前観月」と「後観月」があり、そのどちらにも人々は七草ーー萩、薄、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗の花を月に供え、宴を催して月を愛でる風習がある。後観月は長月、前観月は、今夜だ。中秋と晩秋の、都が一番賑やかになる夜。賑やかな大通りを行き交う人が今日はいつにも増して多いのも祭の準備の為か、と風流祭事に疎い堅物な若武者は今になって気が付いた。
咲秋の賜った名と、哉栄の賜った名、それからこれから謁見する華切の名にささやかな共通点を見出したところで、二人は朱雀大路の最北端に到達し、咲秋は見張りの武士に軽く挨拶をして哉栄と共に貴族達の暮らす領域へと足を踏み入れた。この宮中と呼ばれる一画に入ってもう少し北上し、一際大きな邸を目指せば其処が左京院邸だ。

「……姫様は華切様の定められし御方です。姫様を御助けくださったのが光宮殿で良かった……もしもあの方に仇為しそうな輩が触れたとあったら、私は先に斬り捨てていたかもしれません。……ああ、此方です」

往診のために宮中を歩くのは慣れているであろう哉栄を道案内しながら、咲秋はふとそんなことを言った。何処か思い詰めたようなその横顔から発せられる言葉は、哉栄を脅すというよりはむしろ自分に念を押し言い聞かせる為のようだった。守るべき想い人は自分がつまらぬ嫉妬や独占欲を翳せる所有物ではなく、絶対の主の大切な人だから守るのだと。第一、この時点で咲秋は、哉栄が内に秘めていた黒い思も迷いも寸分たりとも気付きはしなかった。都中から信用される神の手を持つ柔和な医師の、人と同じく心に巣食う陰を疑うという発想すらなかったのだった。

>哉栄、all


【遅くなって申し訳ございません! スレ主なのに!(汗)】

4ヶ月前 No.276

語り @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【★】


葉月十五日


申の刻。
哉栄と咲秋が入ってきた宮中の邸の表では、各家の女中達は月見の支度に花々を手に行き来し、下男達は月愛でむとする主人の外出に備えて牛車の手入れをしている。この日に月を見上げて心潤すのは貴賎を問わず万民の楽しみであったが、宮中と城下、貴族と庶民とで祭事の性格は全く違っていた。貴族は管弦の宴を催したり舟遊びや舞楽や歌合わせをしたりして日頃の社交とさしてかわりない季節行事として過ごす者が多い。一方で庶民の暮らしの中では、観月祭は民間信仰で社の女神といつの間にか結び付いて、豊穣や商売繁盛、衣食住の平穏などを願う祭となっていた。葉月の前観月にも長月の後観月にも、祭の夜には庶民の街は無数の提灯や灯籠に照らされて、人々は仄紅い光に面を染めながら、一年の平穏と収穫を感謝し名月の夜を楽しむのである。

一方、輝夜達のいる芝居小屋の前の路地も、夕刻に向けて着々とまだ火の灯らぬ提灯は数を増やし、平素であればこの時間にはもう店仕舞いをする露天商達も品を増やしている。団子や、木の実や、魚の焼ける良い香りが茜の光に伸びる影と共に次第に立ち込めてゆく。

夕臙の座り込んだ神社の石段は木立の中にあるためか早くも暗くなり始めた。先程まで人一人通らない寂れた雰囲気であったのに、空を仰いだ彼の目には一つまた一つと提灯が薄紅に灯り、その下のまだ光なき石灯籠の列に紅く揺れる影を落としているのが映る。石段の上に神職らしき袴姿の男が行き来するのが見えて、不必要にも思わず息を殺した。

吉継の腰掛けていた羅城門の黒い瓦礫にまでは、その喧騒は届かない。彼は裾を払うようにして立ち上がる。遠くにざわめきのように広がってゆく薄灯りと、反対側に無限に広がる荒野の宵闇とを、見較べてはそっと佇んでいた。




【申の刻(17:00ちょい前ぐらい)をお知らせします。この日の日の入りは18:00ぐらい、月の出(満月)は17:10ぐらいから徐々に……と思っていただければと思います(^ ^) 時刻のお知らせと、この世界観の中での中秋の名月の位置付けを、と思いまして。】

4ヶ月前 No.277

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/城下・芝居小屋前】

 女性と何やら親しそうに話し出す輝夜。その様子に珠芽は首を傾げた。輝夜の知り合い……のように見える女性からは依然として、自分と似たような気を感じる。もしかして、輝夜はこの女性が妖だと知っているのだろうか?
 頭に疑問が浮かんでは解決しないまま留まる。とりあえず、二人の会話の成り行きを見守っていた時だった。衝撃を感じたのは。

「葛葉様を知っているの? 戻らないって……どういう……」

 彼岸の発した言葉に素早く反応を示す。本当かどうなのか。真意を確かめたくて、身を乗り出すようにして彼岸に詰め寄る。まさか、そんなことは……。少し離れている間に葛葉がいなくなるなんてこと。珠芽にはとても信じ難い話だった。
 彼岸の話をもっと聞きたい。葛葉について、珠芽は自分が知らないことを知りたいと強く思った。その為にはまず目の前の妖の気を放つ人物から。そう考えた珠芽は彼岸から輝夜へ視線を移す。

「お姫様……おいら少し、座って休みたいな」

 口元にだけ笑みを浮かべ、瞳には何かを決意したような力強さを湛えながら輝夜へゆっくりと話し掛ける。輝夜を危険に誘うかのような言葉。けれど葛葉は珠芽にとって目標であり、支えである。彼岸の誘いにのり、その結果、彼の情報を聞けるかもしれないのなら……。

 繋いだ手が、指が僅かに震える。それは大切な人を危険に晒すかもしれない緊張からか、はたまた大切な人を知ることができるかもしれないからか。己の判断は正しいのか、今の珠芽にはよく分からなかった。

【大変お待たせしてしまい申し訳ありません;;】

>輝夜、彼岸、周辺all

4ヶ月前 No.278

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

(薬師寺紫/薬師寺邸→大通りへ)

日が暮れ始める。夕闇は迫り、夜気は涼しさを連れてくる。肴の赤貝の煮付けを一箸、徳利から銚子に入れた酒を平の大杯に注いで一息に飲み干す。

「ああ、良い月が出そうな夜だ。」

床柱に背中を預け足を投げ出した格好で、男はそう呟き笑った。銚子を右手に、平杯を左手にとくとくと手酌をしながら、ゆるりとした動作で銚子を盆に置く。杯の角をを胸の着物の境にやり、朝の客人を思い出す。親友の医師、腹が読めない寺子屋の教師、本物ののっぺらぼうから聞いた小坊主そして、かぐや姫。こみ上げる笑いに杯が揺れ白い肋の中央に雫が走り、そっと杯を持ち上げる。

「ああ、食いてえなぁ。夕臙のヤツ、絆されてねぇだろうなぁ?」

クイと杯を傾けて飲み干し、懐紙を煮付けの器に被せて立ち上がれば、鉄製の大きな煙管を片手に縁側へと歩く。刻みを詰めて火口から火をとり、煙をあげてから、雪駄を履き、ゆるりと大通りへと歩を進めた。

3ヶ月前 No.279

輝夜 @yuunagi48 ★Android=Ka0orbQt9m

【輝夜/城下町(芝居小屋前)】
彼女を良く知る者からすれば毎度の事であるが、突然花の名で呼ばれた彼岸は曖昧に『撫子』の名を問い返してきた。次々と輝夜の口から発される花の名を疑問の形で復唱した彼岸が最後の『藤袴の香り』を言い終えた所で嬉しそうな笑顔を浮かべこくりと首を縦に振って言葉を続けた。

「そう、撫子!ピンク色でね、ポワッとしているのよ!撫でし子とも通じるから女性に例えられたりするのですって。とっても綺麗で可愛らしいの」

ふふっと嬉そうに笑う輝夜だったが、彼岸の「あっ」という声にきょとんとし、幾つもの?が浮かんでいるであろう表情になる。葛の葉と呼んだ名に心当たりがあったのか「裏見先生のことかしら」と言う彼岸だったが、そもそも葛の葉の姓を聞いた事の無かった輝夜はその問い掛けに答える事が出来なかった。しかし、輝夜が「その人は分からない」と示すより早く珠芽が弾かれる様に言葉を発した。

彼岸の言った裏見先生と葛の葉が同一人物である事が珠芽の言葉から伺えた。たった一人を除き、出会う人達全てを花の名で呼ぶ輝夜ではあったが、咲秋や吉継が「華切様がお呼びです」と言ったとしても「女郎花が呼んでいる」と理解出来る事から、華切=女郎花という脳内変換は出来ているのだ。勿論それは他の人達でも然り。しかし、 何故か口から発され、思考内であったとしても輝夜が呼ぶのは花の名なのだ。だが、珠芽が反応した事で「裏見先生=葛の葉」という繋がりが新たに出来たことは確かだった。

彼岸に詰め寄った珠芽は輝夜へと視線を移して座って休みたいと告げた。口元には笑みを浮かべ、輝夜を見るその瞳には何処と無く揺らがぬ意思の様なものを感じる。しかし、繋いだ手は僅かに震えている気がする。今、珠芽が感じているのはどういう感情なのだろうか。珠芽の中で複雑に混じり合っているだろう気持ちを的確に汲み取る事は輝夜には出来なかった。
けれど、一つ確実に分かった事は、珠芽は彼岸の誘いを受けようとしているという事。

「うん!じゃあ入ろう!」

お邪魔しよう……ではない所がまだまだ輝夜の知る常識や知識の浅さを現していたが、誘いに対する答えは決まった。後は促されるままに中へと入れば良かったのだが……。

視線を向ける珠芽を笑顔で見詰め返していた輝夜だったが、唐突に二人の顔近くまで繋いだ手を持ち上げるとじっと見詰めた。手を繋ぐ為に曲げられた珠芽の細く白い親指を何も言わずに暫し見詰めた輝夜は突如「あ」と口を開け、その親指の間接辺りをぱくりと口にした。歯をたてるわけでは無かった為唇で挟んだだけなのだが、つい先程花菖蒲を食べちゃダメだと告げた少女がその珠芽を食べたのだ。

「……ね?」

珠芽の指を口にして一瞬の間があり、唇を離した輝夜は一言そう発した。一体何がね?なのか。彼岸が口にした「食べちゃいたいくらい 」という言葉を輝夜は、人は食べても美味しくないと思うのだけど……という正にその言葉通りに捉え、もしかしたら美味しいのかな?という疑問を抱き、そして実行したのだ。しかし、やはりというべきか、当然の事なのだが、珠芽の指は今まで輝夜が口にしてきた食事や菓子の様な美味しい味はしなかった。先程手にしていた饅頭や団子のほのかに甘い香りはしたのだが。

「八重白菊だったら……」

雲や雪みたいにフワフワな八重白菊なら甘く口の中でほろりと溶けるかもしれない!……という想像は小さく口元で呟くだけで何とか押し留められた。もしこれがもう少し前、宮中で思い付いた事だったなら妖姿の珠芽も食べられていた可能性はかなり高い。
その想像微かな声で呟かれただけだったが、当本人である珠芽も先程まで「まさか!」と笑っていた彼岸も人より優れた聴覚を持つ者達だ。輝夜の声は聞こえていたかもしれない。
>彼岸、珠芽、周辺ALL

3ヶ月前 No.280

かなえ @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=Mc4I8W9x1c

【光宮哉栄/→宮中】

 彼の言葉をただ待つ。間にある沈黙は哉栄にとって耐えきれぬほど重いと思うようなものではなく、どこか心地よさを感じさせるものだった。足音だけが響く道を辿り、あまり見られては彼の居心地が悪いだろうと逸らしていた視線をふと戻せば下がりゆく眉が見えおや、と目を瞬かせた。憑き物が落ちたような顔、何か考えが解決したのだろうか。悩ませていたのだとしたらおそらく、初めて会った自分の事だろう。こちらとしては早々“憑き物”は落ちてくれそうにないが、彼の中で何かが解決したのならそれは喜ばしいことだ。もし自分の警戒心を解いたのなら――それは、喜ばしくない気もするが。表情だけでなく、声音まで柔らかくなった彼に対し複雑な思いを抱きつつ、口元には笑みを浮かべたまま耳を傾ける。自分の胸の内に気付いた時、彼はどのような声音で、どのような表情で、どのような言葉を吐くのだろう。哉栄は自分に似合いと言った桔梗の花言葉を思い浮かべ、違和感ないように目を伏せた。交友関係が広くなるほど、願いへ近づく為の痛みが増していく。あの花のように美しくはないのだと言ってしまえば、彼はどう反応するのだろう。真摯に何故?と問われれば逃げることができなくなりそうで、その疑問は胸にしまう。

 統一されない思いのまま歩いていれば、朱雀大路の最北端に到達した。見張りの兵士に軽く挨拶をする咲秋に続き、哉栄も彼らに対し会釈をし挨拶をする。体調が優れるときに訪れ治療をするその場所は哉栄にとって慣れたものではあるが、咲秋の斜め後ろを着いて歩く。その際の言葉に、哉栄は身が凍るようだった。今の自分は間違いなく“仇為す輩”である。人を殺すというのは殺される覚悟がいる――そのことを改めて感じさせられ、そっと自分を自分の腕で抱きしめた。他人からすれば寒がっているようにも見えるその仕草に合わせ、顔色も少し青ざめる。だがこんな思いをしても、哉栄は過去をやり直したいと思う。生きてもらいたい相手がいる。人を殺してでも生かしたいと、思わずにはいられないのだ。
 咲秋の隣とは言え、やや後ろに立つため彼がどのような顔をしているか分からない。牽制されている様にも感じるし、どこか自分に言い聞かせているようにも感じる。身が凍るような思いをしつつ、けれど哉栄は言いたい。

「定められた運命など、私はないと思いますよ。……と、よく姫君や左京院の方をよく知らぬ私が言うのもおかしな話ですね。すみません。」

 定め、なんて。変えよう思えば世の中変えられるものがほとんどだ。兄が死んだという過去を変えようとしている哉栄にとって、定めと言い諦めることは愚か以外の何者でもなかった。そして、哉栄は咲秋が月の姫に想いを寄せているのでは、という考えがふと思い浮かんだ。それは今までの行動や言動、そして今の言葉。定められた御方だと、だから己の入る隙間はないのだと、そういう風にも捉えられる。存外言葉がきつくなってしまったこと、そしてその考えに辿り着いたことを誤魔化すかのように後の言葉を付け足した。勿論、普段と何一つ変わらない笑みを浮かべて。
 咲秋が足を止め、此処だと告げたその場所は一際大きな屋敷だった。

「ここに、月の姫はいらっしゃるのでしょうか。」

 言葉が零れるように口から飛び出す。いて欲しいという野望と、いないで欲しいという慈愛が鬩ぎ合う中でのその一言は、子どもが迷子になっているかのような弱さが含まれていた。

>>咲秋、all



【うわああこちらこそ長くお待たせしてしまってすみません!!本当に申し訳ないです!!あと咲秋くんを愚かだのなんだの表記してしまってすみません!!愚かなのは輝夜ちゃんを殺そうとしている哉栄ですよね!周知の事実!!】

3ヶ月前 No.281

東雲 彼岸 @caim ★cggvzsv7BC_mgE


【東雲 彼岸/城下・芝居小屋前→芝居小屋】


「二階の一番手前の部屋で待っててもらえるかしら」


 ――月の姫と白髪の少年を芝居小屋へと招き入れてから暫く、入口の暖簾横にて急須で茶を注いでいた。此処は場所柄、客人への茶菓子には困らない。大粒の栗が中央に鎮座する羊羹を切り分けながら、真っ白の湯呑みの隣に合う小皿を探していた。
 ふと、推測してみる。あの少年は、わたしになにを求めているのか。少年――月の姫は彼を、小さな声ではあったが確か八重白菊と呼んでいたな――が裏見葛葉を尋ねたということは、此方側で生きることを決めたとでも言うのか。
 いや、そうではない。本題は、此方ではない。妙な経緯とは言え、手中に収めた月の姫の扱いに、どうやらわたしは焦りを覚えているようであった。包丁を手にした右手を、諌めるように左手で包み込む。嗚呼、昼間が終わろうとしている。それでも、駄目だ。この姿では、駄目だ。

 恐ろしく忌々しい過去から逃げようとした矢先にあったのは、先の月の姫の一動作であった。
 あの少年の指を口に含んだところを、確かにわたしは見た。あれは一体何であったのか。二人の間には何ら特別なことではないのか。それとも、もしや、わたしの言った言葉になぞった単なる戯れであったのか。様々な憶測が脳裏を過ぎっていく。月の姫のことだ、以前の時と同じように深い意味ではなくただ興を行動に移しただけと考えてしまえばそれまでだが、わたしへの圧力なのか、それとも一種の挑発であったというのか――。

 力んだままでいた左手を離すと、そこには鬱血の痕が残っていた。先の月の姫が少年にそうしたように、あの白く細い彼女の指に歯を突き立てることができれば。この、目の前の柔らかい羊羹を切り分けることと、何ら変わりなどない。栗を絶つように刃を羊羹へと沈めながら、わたしは瞼に思い浮かべる。一瞬だ、決心さえすれば、わたしの方が遥かに力も、素早さも優れている。彼女の肉を食らう、ただそれだけでわたしは悔やみきれないあの過去に帰れるというのに。何故できない。どうして。

「……止めなさい。それ以上は、いけない」

 嗚呼、そうか、それならば――止めなければ、ならないな。

 空気よりも重い息を吐いて、盆へとそれらを置き並べていく。
 撫子。そう、わたしは、今のわたしは撫子なのだ。女性を譬える綺麗で可愛らしい撫子に、なりきらなくては。火種を持ち直して、階段を一段ずつゆっくりと上がっていく。


「ごめんなさい、随分と待たせてしまったわね」

 音を立てずに戸を引いて、確認するように二人へと視線を投げた。それから、安堵を隠すようにして二人へと湯呑みと小皿を差し出し、灯台へ火を灯す。恐らく、少年も夜目は利くだろう。でも、それでも、今は人間のふりに徹さなければいけないような、そのような脅迫めいた意識が妙に働いていた。


>珠芽、輝夜、ALL
【東雲と共に、遅くなってしまいすみませんでした;; 進めた方がいいかなと思い、既に二人を部屋で待ってもらっている状況にしたのですが、二人を案内した部屋は彼岸が使っていた部屋なので、自由に押入れなど探索しちゃって下さい!笑】

3ヶ月前 No.282

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/城下(西地区)・神社の参道】

随分長いこと其処に座っていたらしい。木立に天を半分隠されたこの辺りは、益々薄暗く肌寒くなってきた。夕臙が神主達から反射的に身を隠していた間に、石段の両脇に並べられた灯篭には一つまた一つと光が灯る。神主が通り過ぎるのを待って再び参道に歩み出でて見ると、遥か眼下から細く続く石段を、灯篭の柔らかな明かりと祭の提灯の重く紅い光が縁取っている。現世から異界へ誘う一本道のように見えてきて、酷く心細くなる。この灯篭の行列の先、来た道を戻れば、都の喧騒に戻れる。夕臙は三歩石段を降りて、街明かりに吸い寄せられる。しかしすぐに足を止める。祭のざわめきが、遠く、遠くに去かってゆく。戻れない、身体は戻ったとして彼処はもう日常ではない。

(一体どんな顔をして父ちゃんや母ちゃんに会えっていうんだよ。何食わぬ顔して友達と観月祭にでも行けってか……無理だろ。それに、先生……。……ああ、薬師寺さんに何て言ったら良いんだろう……)

帰れなかった。特に、共犯を持ちかけてくれた薬師寺紫には、昼間の失敗を何と報告したらいいかわからなかった。彼は怒るだろうか、子供なんかに友人の運命を書き換える片棒を担がせたことを後悔するだろうか。怒って、或いは呆れて、もう協力させてくれないかもしれない。大切な人を救う筋書きから降ろされるのは、どうしても嫌だったが秒読みで目に見えている。哉栄を救いたいのに、もうその役目すら取り消されるかもしれない。
帰るところなんか無い。人を殺そうとした時点で、もう人の世に帰れない。帰れる所も自分で無くしてしまったのだから、どうせ帰れないのだから、哉栄を救う以外にこの生に意味はない。それなのに。

(薬師寺さん)

夕臙は踵を返して、今度は石段を上る。山頂へ向けて細く続く灯篭の列に吸い込まれるようにふらふらと上る。突然かさりと音を立てて脳天に何かが触れる。手をやって取ってみると、それは真っ赤に燃え尽きて枯れかけた楓紅葉だった。この時期になぜ、そう思って今度は頭上に目をやると、夕暮れには仄暗く陰を落として見えた木立は楓の木であり、立ち並ぶ灯篭や提灯の明かりに照らされて闇に浮かび上がっていた。緑に黄に紅に、この辺りは鄙びた山であるから、都よりも色付きが早いのだ。まだ緑が殆どだが、黄色や紅も混じってきている。錦に彩る煌めきは、今の夕臙にとって美しいというよりも妖しく恐ろしいものに見えた。

ーー『紅葉の手は奇跡を起こせるのね』

あの月の姫は、自分の事を「紅葉」と呼んでいた。呪われているような気にさえなってきた。自分と同じぐらいの罪無き妖の少年の血を吸って、緑から深紅へと染まった昼の紅葉一葉の映像が、責めるように蘇る。

もみじの葉は何故、落ちる前に真っ赤に染まるのか。それを昔むかし教えてくれたのは、誰だったか。

星月を塞ぐ紅葉の天蓋は、妖しい光に照らされて近くなり遠くなり、押し潰し飲み込みそうにまた近づく。緑も黄も紅も、ぐるぐると乱暴に混ざり三稜鏡の虹のようにまた分かれては極彩色の砂嵐のように視界を脅かす。
少年は息を詰まらせて、楓のようなその手を一葉ごと握りしめた。終わりかけた紅く燃える生命の欠片がくしゃりと音を立てた。

(やっぱり帰らないと。おれがもう駄目でも、薬師寺さんの所へ帰らないと。もう人に成れなくたって、おれは先生と、先生が未来に救う筈の病人達を救うだけだ)

帰るしかなかった。今までと同じで、今はもう違う人々の世界へ。
夕臙は再び踵を返し、転がり落ちるような駆け足で階段を降りる。北風を切り、木枯らしを連れて、まっすぐに城下の方へと向かっていった。
散り際のもみじが燃えるような紅に染まるのは、幹を枯らさない為に、幹から養分を取ることをやめてしまうから。在るべきものに未来の命があり続ける為に、その身を紅く染めて燃えるように尽きていくのだと。それを昔むかし…………誰だったか。


>all、(薬師寺紫)

3ヶ月前 No.283

佐竹咲秋 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹 咲秋/宮中・左京院邸前→左京院邸内・出居(客間)】

斜め前後の、一定の距離を保ちながら、時に黙り時にぽつりぽつりと言葉を交わす二人の影が、斜陽に伸びてゆく。
左京院邸の門へ着く直前。哉栄の掛けた、平素の彼よりも一つ強めの答えに、咲秋の後姿が一瞬戸惑ったように止まり、それにつられて、後頭部で結った長い髪がぴんと張った背筋で揺れる。前ばかり見ていた眼差しが、不思議そうに後方の哉栄を振り返る。

「……。いえ、謝ることなど御座いませんよ。医師であられる先生は人の運命を読み悪しき宿命と戦われる御仕事ですから、成る程。……『運命は変えられる』、貴方様が少し羨ましい」

振り向いた先の哉栄はもう何時もと変わらぬ笑みを浮かべていて、咲秋もぽそぽそと少し恥ずかしそうにすぐに視線を合わせるのをやめて再び前を向いた。まだ会ったばかりである主の客人に、鋼の仮面に隠していた心を零してしまいそうで、口にしてしまえば己の愚行に走るであろう未来が見えた気がして慌てたように口を閉じた。自分が主人を裏切ることなど絶対に無いと、静かに己に言い聞かせて、血迷った過ちの芽を摘んだ。
濃紅の山茶花の咲く掃き清められた広い道の、豪華な門の前に立ち、咲秋が門番に口を利くと、すぐに門は開いた。咲秋は哉栄を招いて門をくぐる。金木犀の香りが門の開くのとともに流れてきて、甘い香りに包まれる。

「ええ、華切様にお会いになっていただき、そのお席に姫様もお呼びいたします」

色とりどりの花と、豊かな緑に囲まれた広大な邸宅が姿を現わす。幾つもある棟を結ぶ渡殿の一つを歩いて咲秋は客人を出居いわゆる客間へと案内した。夕陽に煌めく御池を望む風流な客間には、件の秋の七草も今宵の観月の為に飾られている。咲秋は哉栄よりも一足先に入室して主である華切に、

「失礼致します。華切様、桔梗≠フ君・光宮哉栄殿をお連れして帰って参りました」

と伝えてから哉栄を「どうぞこちらへ」と招き入れた。哉栄と華切が庭を横目に向かい合うように席が設われ、咲秋は少し離れた所に控える形になっている。華切の背後にある御簾は、後に輝夜が入室するときの為に半分の高さまで降ろされている。このとき、左京院邸内は来賓のもてなしと観月祭の支度とに慌ただしく、未だこの広大な邸から輝夜姫も狐の子も吉継も消えていることに誰も気付いていないのだった。

>華切・哉栄・all


【華切王子の復活ということで、ありがとうございますー! 左京院邸まで辿り着いた……! 此方には頃合いを見て輝夜ちゃん&珠芽くん失踪と夕臙の殺人未遂の報せを入れますね!】

3ヶ月前 No.284

@kronos☆M83pBhikgC. ★Tablet=vxMphjjPfm

【薬師寺紫、思葉/大通り→西の社】

「親父さんお酒と、適当になんか見繕ってくれ」

祭に逸る宮中の空気に当てられ浮かれた陽気の中、何の変わり気なくそう告げたつもりだったが、目ざとい店主はこう返す。

「夕の早いときから酒気おわせて茶店で酒ねだるなあ、ほんにろくでもない人は旦那しかいませんな。饅頭で酒煽るつもりかい?」

「言いでないの。観月祭くらい。」

「観月祭位で、ならねぇ。ほい、癇とおはぎ。」

席に置かれる凡そ似合いもしない盆に道行く顔見知りは、笑いと軽口を言いながら過ぎていく。それをさらに軽口で応酬し猪口を一口つけていれば、隣に座る朱い着物

「相席よろしくて?」

「嫌でもするだろい。」

言葉に愛想はないが、顔から軽口とわかる軽い調子で返す。そういえば、と朱い着物の主は茶店の店主に声を掛けてから薬師寺に、少し遠くの通りに見える赤い跡を指で指した。

「ねぇ、ここで荒事があったって本当?」

聞かれギクリとする店主に薬師寺はズイと体を寄せる。

「なんで言わあねぇ!そういうのはいの一番に俺に知らせる約定だったじゃねぇか!」

蛇に睨まれた蛙とはよく言ったもので、すくみ上がる店主に助け舟を出す思葉。

「あんたはいつもそれだからびっくりしてすくんじまうんじゃねぇのかい?」

その言葉に少し体の解れた店主は、仕様に向かって恨みがましい目を向ける。しかしながらそんなのはどこ吹く風と盆のおはぎを一つ口に放って咀嚼しながら成り行きを眺める柳と化す思葉にため息一つ、先ずアンタの身内だと知らせるように話しはじめる。

「見ろこの今にも食って飲み込みそうな目を。わしはこれが恐ろしいから言いたかなかったんだ。……夕臙のあんちゃんだった。裏見さんの教室や光宮先生の場所に出入りしてる通り道だから顔は知ってる、旦那もよく光宮先生の場所に甘味持って行くのにここ使ってくださるし、その話の中にも出てるからいい子なんだと分かるよ。顔見りゃ大体分かるさ。商売してんだもんな。でな、ねえさん」

話を聞く薬師寺の顔はいつもの通り、やじ馬の顔だった。身内だろうが何だろうが関係のないその様に店主は空寒さを覚え、うら若き身なりに扮した思葉に顔を向け訂正をいれた。

「ここじゃねぇ、はす向かいの茶屋だ。」

そして事の顛末を説明する。しかしながら憤怒の形相を浮かべる薬師寺を慌てたように宥めようと言葉を紡ぐ。

「しかしな!まぁ、聞きなれよ旦那。あれは、なんかの間違い……いや、やったことは確かにやったんだが。気の間違いと言うのかい?あんまり怒らんといてやってくれんか。なんだか、あの顔を見てると可哀相になって来てねぇ。ほら、治療もしてたし……」

「思葉。」

言って薬師寺は立ち上がる。わかってると言わんばかりに間髪入れずに返す思葉

「西の神社。」

「ありがとな、夕臙をかわいいと言ってくれて。これでこいつの奴も払っとく。余ったら持っとけ」

と多めの金子を旦那に払うと、押っ取り刀で西の方へと駆けて行った。残された思葉は懐から大きめの茶碗といっても過言じゃない猪口で銚子から酒を注ぐ。

「旦那、癇をもう一本つけておくれ」

「アンタ、それが狙いだったね?」

その言葉もどこ吹く風とにんまり笑えば、着物の色は徐々に灰色から黒に転じ、赤い曼珠沙華が姿を見せはじめていた。

3ヶ月前 No.285

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/芝居小屋】

 彼岸の言葉に小さく頷くと、促されるままに階段へと足をかける。ゆっくり上へと上りながら思い起こされるのは先程の輝夜の行動だった。



「……へっ!?」

 それは予測出来ないくらいに突然の出来事。彼岸の誘いを輝夜が承諾したまでは特に問題はなかったのに。突如親指に感じた不思議な感触と生暖かさに思わず驚きの声が上がった。先程まで目の前の彼岸に向かって『食べたらだめ』と話していた彼女が、珠芽の親指を口にしていたからである。唇は一瞬の間を置いて離れたが、突然の事に珠芽は唖然と輝夜を見ている事しか出来なかった。

「……や、八重白菊もだめ!」

 呟く声は勿論珠芽の耳にも入っており、そこで漸く己を取り戻すと慌てて否定をする。輝夜の思いもよらないその考えに何故だか妙な焦りを感じ、繋いでいた手はしっとりと汗ばんだ。



 足を最後の段にとん、とかけ手前の部屋へ。目的の場に入ると閉められた小窓の向こうから僅かに光が零れ、何やら賑わっている雰囲気が感じられる。賑やかな表に対して室内は薄暗かった。珠芽は夜目が利くが輝夜は大丈夫だろうか? 階段を上る為に繋いでいた手は今は離れている。輝夜の前を歩いていた珠芽は心配になり後ろを振り返ろうとした時だった。

(此処に、何かある……?)

 それはただの押し入れ。なのに何故こんなにも気になるのか。けれど珠芽の第六感が訴える。何か秘密めいたものがそこにある……と。
 すっ、と押し入れの戸を開けると雪崩のように黒い羽織が珠芽の頭の上へと降ってきた。それは妖の香りを濃く纏う羽織。やっぱり……あの人も。

 暫く羽織に目を向けていた珠芽だったが、階段を上る足音に気が付くと無遠慮に押し入れを開けていた事に気付き、急いで羽織を押し入れへと戻し戸を閉じる。と、それと同時に現れた彼岸は「ごめんなさいね」と声をかけながら、此方に茶と小皿を差し出した。出された小皿の前に座り見ると、小皿にはまるで宵闇に満月が浮かんでいるようなお菓子が乗せられていた。

(夜行様みたい……)

 思い出される同士の一人を思い浮かべる。あの晩、葛葉の家で出会った優しくも厳しい方。どうしているだろうか、と思っていると、灯台に火が灯り辺りを暖かな光が照らす。
 そうだ、聞かなければ。本当にあの方が居なくなってしまったのかを。彼岸の動きが止まるのを待ってから口を開く。

「葛葉様が戻らないって……本当、ですか?」

 手をぎゅっと握りながら恐る恐る問いかける。その後ろ、押し入れから黒い羽織の裾が少し戸から出ていることに気付かないまま。

【此方も遅くなってしまい申し訳ありません;;】

>彼岸、輝夜、周辺all

3ヶ月前 No.286

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/城下(西地区)神社→石段のふもと】


延々と続くかに見えた神社の石段を、転がるように駆け下り、最後のほうは数段飛ばしに跳ねる。視界の脇を、迫る宵闇を仄明く照らす灯籠が幾つも幾つも通り過ぎる。ぼんやりと瞬き、また消え、光は連なって、柔らかな帯のように左右を閃く。
その道の行き着く彼方に、見知った人影を見た。秋風にはためく紫紺の着物は今にも暗がりに溶けてしまいそうだったが、そのすっとした出で立ちを夕臙はよく知っている。

「薬師寺さん……!」

薬師寺さん、薬師寺さん、と、半ば泣き出しそうになりながら、残りの数段を無我夢中で駆け下りた。近づいてくる薬師寺紫の影もまた、此方へ急ぎ足で駆けてきているようだ。上下に揺れるしなやかな体躯が、躍動するさらりとした黒髪が、常時ならば飄々として涼しげな彼の、常ならぬ事態を示していた。どうして彼が走っているのか、夕臙にはわからなかった。けれど、その影は近づけば近づくほど、心を急かした。

最後の一段を飛び降りる。山の上で見た唐紅の木の天蓋は幻だったのだと嘲笑うかのように、下界の楓は昼間見たものと同じく青々とした葉を茂らせていた。魔物に化かされていたかのように、妖しげな情景が遠き夢となり、力が抜ける。祭りの喧騒が、耳鳴りを呼ぶほどぐわんぐわんと迫ってきた。社の祭りの度に並ぶ好物の雀の丸焼きのタレの香りも、大人たちの吐く酒の息の匂いも、子を呼ぶ親と親を呼ぶ子の声の輪唱も、遠く聞こえる笛太鼓も、現実が熱風のように夕臙を一気に押し包む。

「薬師寺さん、おれ…………」

叫んだ声はすぐに萎み、消え入りそうなほど小さくなった。燃え残りの斜陽が夕臙の頬を赤く染め、最後の灯火をしずめていく。

「……おれ……失敗した。月の姫を見つけて、刺そうとしたんです。だけど、一緒にいた異形の子が、おれと同じぐらいの子……月野姫を庇ったんだ。ごめんなさい、薬師寺さん……ごめん……」

夕臙はがくりと肩を落とした。薬師寺紫がいまどんな顔をしているか見上げる勇気が湧かなくて、視線は擦り切れた薄汚い草鞋へと落とした。

>薬師寺紫、all

3ヶ月前 No.287

輝夜 @yuunagi48 ★Android=sXgGT33OGk

【輝夜/芝居小屋】

「ふわふわで甘そうなのに」

だめ!と言われた輝夜は少し拗ねた様にそう返したが、かと言って本当に拗ねたわけではないようで、興味はすぐに芝居小屋の中へと移っていった。実際思考も「そうね、お花の蜜にも毒を持つものがあるようにふわふわでも食べてはいけないのかもしれない」と少しずれてはいたが納得をしている。

珠芽に続いて告げられた部屋へと向かえば目の前に現れたのは長い階段。慣れた足取りで上がっていく珠芽を見詰めた輝夜は、それに習いほぼ正確に同じ位置に同じ足をつけて階段を上がる。
宮中の内裏が殆ど世界の全てだった輝夜は二、三段以上の階段を上がった事が無かった。初めての物に不安を抱いたわけではなかったが、階段を上るという動作にあるかもしれない仕来たりを気にしたのだ。よってほんの少し遅れて部屋に入った輝夜が目にしたのは、薄暗さでも、部屋の雰囲気でも無く、押し入れを開く珠芽の姿だった。

すっと音もなく押し入れが開かれれば珠芽の上に何処かで見た黒い羽織が降ってくる。

「花菖蒲!」

大丈夫?と手を伸ばそうとしたが、それよりも早く珠芽が羽織を押し入れに戻して戸を閉めた。それと同時に先程輝夜が入ってきた戸が開かれる。状況を良く理解できず振り向ききょとんとした輝夜と傍らの珠芽に視線を向け、待たせてしまったと言った彼岸に待っていないとただ首を振ることで答えた。

灯台に灯された明かりが、頂いた湯呑みと小皿に乗る羊羹を映えさせる。珠芽が葛葉の事を尋ねる隣で輝夜はそっと一口大に切った羊羹を口に運んだ。んー!と声や態度に出さず羊羹の甘さに至福を感じる。甘味を堪能した口に温かなお茶にそっと流せば心地よい香りと温かさが体を喜ばせた。

珠芽と彼岸の話も勿論きちんと聞いている、つもりだ。珠芽を葛葉の所に連れていってあげたかった。それは本心である。しかし、その葛葉は何らかの理由で今は留守にしているらしいのだ。彼岸は『しばらく家には戻らない』と言っていた。つまりは用事が終われば戻ってくると輝夜は捉えていた。
珠芽が今すぐに会いたいと言うのであれば華切や咲秋、吉継に聞けば何処に居るのか分かるかもしれない。もしかしたら華切達に尋ねなくても彼岸がその場所も知っているかもしれない。そう考えていた為に輝夜は彼岸達の話しに耳を傾けながらもあまり焦る事無く出された羊羹とお茶を幸せそうに口にしていたのだ。

しかし、羊羹を完食し、湯呑みのお茶も残り二割を下回った辺りで輝夜の視界がゆらりと揺れた。珠芽を連れて走り疲れが出たのか、甘味と温かいお茶により体温が上がり胃が満たされた為か、視界はぼやけ鮮明になり再びぼやけを繰り返す。瞼が重く、だんだんと開かなくなり、とうとうこてんと倒れるように横になるとすやすやと眠りについてしまった。
>珠芽、彼岸、周辺ALL

【遅くなりまして申し訳ないです。珠芽君と彼岸君を二人きり(妖同士/輝夜にまだ知らせない)にさせる為に一度眠らせます!お話が終わった所で叩き起こすか自然と起こさせますので!】

2ヶ月前 No.288

鬼女 @yuunagi48 ★Android=sXgGT33OGk

【鬼女(葵女)/郊外、山中隠れ家付近】


日が暮れる。沈む太陽が山間を照らし、紅葉の様に紅く木々を染める。方方で情報を集めた鬼女(きめ)は一度都を出てある山のふもとにある廃屋のそばに来ていた。都で聞いた夜に現れ人を襲う馬に乗った妖、『夜行の蹄』を探す為である。


都では色々と噂を聞いたが、その中に二つ彼女の興味を引くものがあった。一つは数年前に突如として現れ(もしかしたら目立たなかっただけで、それ以前も盗みを行っていたのかもしれないとも言っていたが)未だ捕まっていない盗賊百鬼。そしてもう一つが今探している夜行の蹄。
彼らの噂は都で尋ねた殆どの人が知っており、信憑性が高く、尚かつ鬼女をどきどきとさせた。もし彼らと自分の目的が似通っているのならば協力が出来るかもしれないと考えた鬼女は、会い話がしたいと思うようになっていた。

問題はどちらに会うか、である。盗賊百鬼と夜行の蹄が仲間かどうかまでは分からなかった。お互いを知らぬのなら良し、知っていても接点が無ければそれも良し。困るのは彼らの仲が険悪な場合だ。
万が一を考え、まずどちらか一人を探す事にした鬼女は人と妖、双方から情報を聞き出しようやくここへ辿り着いたのだった。



「もし、誰かいらっしゃいますでしょうか?」


鬼女は扉に向かいそっと声を掛ける。勿論、ここが 夜行の蹄の家でない場合も考えている。イメージトレーニングは充分であった。
彼女は今、都へと住まう知り合いに会う為に遠路遥々やって来た、とても疲労し喉が乾いている少女だと思い込んだ。不思議なことに、そう考えると体がとても重く、足の筋肉は張り、声が掠れてきたように感じる。途中で拾った頑丈そうな枝を杖がわりに、多少ふらつきながらも休める場所を求めて、優しい人が居る事を望みながら、扉の内から声が返ってくるのを待った。
>郊外付近ALL、(燈頭馬)

2ヶ月前 No.289

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

(薬師寺紫/石段のふもと→人気の無い道)

泣いている。目の前の愛すべき親友の愛弟子であり、可愛い弟分の少年は今目の前で泣き、視線を落としていた。

「少し、歩こうか。」

失敗を咎めるでもなく、茶屋の主人に見せた凄みのある怒りを見せるでもなく、薬師寺紫は静かに、努めて優しい声音で言った。

寂れた神社から離れているこの場所、祭りの喧噪から離れていてもちらりほらりと見える人影は、夜をまして人との境をなくし始める。「ここで下手なことは言えまい」そう判断しての事だった。べ、べつに夕臙が可哀相だとか思った訳じゃないんだからね!

もとい、彼に心配や憐憫の情が湧いたわけではない。と言うことをここに注釈として入れずとも、後にそれは伝わるだろう。

秋の深まりを見せる都は、先まで走って火照った身体を否応なしに冷ましていく。それと同じように、いや、それ以上に冷たい声は、夕臙の心に冷水を浴びせただろう。そんな問いを彼は、薬師寺紫は投げたのだ。

「なぜ、殺さなかった?」

相手などどちらでも良い、殺しても大丈夫。そんな言葉が見え隠れする無情さがそこにはあった。

2ヶ月前 No.290

東雲 彼岸 @caim ★cggvzsv7BC_mgE


【東雲 彼岸/城下・芝居小屋】


 不意に、意識が揺らぐ。

「仕草まで可愛いのねえ。もし良ければ、包んでおくからお土産に少し持って行くと良いわ」

 月の姫を見ては、視界が揺らいだ。薄ぼやけるように、わたしの皮膚を取り囲む空気が湾曲する。溺れた時のような、心地良さと焦燥が混ざるような奇妙な感覚に、抗うよりも揺蕩う方が楽であるとわたしは心の底で悟っていた。わたしの頬が、緩む。わたしの目が、細まる。わたしの手が、輝夜の、膨らんだ頬にそっと触れる。このまま揺らぎにかき消されてしまうような、か細いわたしの意識は、月の姫が倒れ込むのと同時に息を吹き返した。お前も、もう眠った方が良い。目を閉じて、自分の頬へと触れた。

 おれに問い掛けを寄越す少年の手は、力強く握りしめられていた。果たして、どのような経緯で裏見と出会ったというのか。寺子屋の生徒、という訳ではなさそうだが、もしや少年から漂う血のにおいと関係があるのか。
 ――それにしても、戸を開けたのは、月の姫と少年のどちらなのか。ぎりりと、口角を吊り上げる。

 このまま何を言ったところで、少年の方は茶菓子には口は付けないだろう。髪留めを解き、口へと咥えた。それから、女物の着物を脱ぎ、肌襦袢を晒したままで、少年の脇を通り過ぎ、羽織の覗く戸の前で止まる。

「どうせ、口にしたところで、あなたはこの子と違って、効かなかったでしょうね」

 一度だけ、少年へと振り返った。
 羽織に気付いたのがどちらであろうと、本来の意味を悟ることができたのは少年だけだろう。指を引き手に添えて引けば、黒い羽織は火の灯りを受けて、ゆらゆらと靄のような影を壁へ残していた。急がなければ、陽が暮れる。中から黒い着流しを取り出し、滑るように手を通しては、簡易式に帯を巻く。高い位置で髪を纏めて、咥えていた髪留めで結い直した。横髪が、頬を撫でる。口布をせずに素顔を晒したままでいるのは、久方ぶりか。――さて。烏の死骸のように冷たくなった黒い羽織を身に纏っては、少年へと向き直った。

 じっと少年の双眸を睨みつけながら、少年の目の前に置かれた茶菓子を口に含む。咀嚼を数度して、寝息を立てる月の姫へと視線を投げた。

「わたし……いや、おれにも効かぬ」

 すっかり、百鬼の声となっていた。じりじりと、遠くで落日が橙と藍色とで攻防を続けている。僅かに、指先が痺れはじめていた。

「葛葉の行方を知るのは、おれではない。彼女は、――ゆきはもう、眠る時間だ」

 指先を舐め、声を落とした。おれの中のゆきは、消え去った。もう、おれの悪行を見る者は居ない。その事実がどうも可笑しくて、眉根を寄せて喉を鳴らした。この瞬間を永遠に切り取ることができるならば、少しはゆきへの手向けになるやもしれん。帯に通した短刀を引き抜いては、少年と出入りの襖との間へ立ち、通路を遮断する。

「月の姫の前に、まずはお前から、か。馳走を前に邪魔をされては面倒だ。子狐よ、痛みは残さぬよう努めるが、……お前次第だろう」

 瞼を閉じると、雪のように白い髪をした彼女が、おれの横を通り過ぎていく姿が見えた。

「悪いようにはせぬ。ただ、一瞬の痛みに過ぎん。おれは、おれに授けられるはずであった本当の名が欲しいだけだ。それさえ叶えば、次はお前の好きに生きれば良い。だから、今回は、今回だけは、おれに奇跡を譲ってくれ」

 切っ先を、少年へと静かに向けた。おれを止める声は、もう聞こえない。闇に足を掬い取られようとも、この野望からは逃れられはしない。ただ、この姿を、願いを、知られてしまっては、ただで帰す訳にはいかない。これは、おれがおれにわざと科した枷だ。もし、来世へもこの記憶が受け継がれるのなら、その時は少年がおれの首を狩ればいい。人間も、妖怪も、おれを引き留める者は、すべて敵だ。


>珠芽、輝夜、周辺ALL
【素敵なパスをありがとうございました!珠芽くんが同じ妖怪の血が流れた相手であるということもあって、少しずつ過去を吐露させていこう作戦を決行中であります……( タイミング的に難しいかもしれませんが、この辺りで剣術稽古の話をしてもらえましたら……と思います……!頼られると断れない彼岸ですので……(】

2ヶ月前 No.291

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/人気のない道】

小さな頭を撫で付けるような、優しい声が頭上から注ぐ。否、優しい声と言うよりは、何かを押し殺したような静かな声だ。夕臙は黙したまま一つ頷くと、薬師寺の後ろをとぼとぼと着いて歩く。相変わらず肩を落とし目を伏せたまま、時折ごしごしと汚い袖で目頭を拭っては、薬師寺に遅れをとって小走り追いつく。連れられるままに歩くと、薬師寺は夕臙に問いかけた。「なぜ、殺さなかった?」と、その声は恐ろしいほど静かで、冷たく、夕臙は思わず立ち止まった。

「だから、殺そうとしたら姫を男の子が庇って……」
今しがた説明したことをもう一度繰り返そうとしたその時、夕臙は認識の齟齬に気付き、はっと顔を上げて目を見開いた。共犯者が問うているのは、標的たる月の姫を殺害できなかった理由ではない。何故、立ちはだかり邪魔になった部外者を殺さなかったのかと咎めているのだ。
頭頂から足の裏まで、黒く透明な悪寒が駆け降りる。心臓を氷の手で握り締められているように立ち尽くした。辺りに人影はなく、薄暗がりとなった小径で動いているものは薬師寺紫と自分の二人だけだ。
薬師寺さんは先生を助ける為ならば手段を選ばない、綺麗事を言っている場合ではない、それぐらい親友である先生を助けたいのだろう……夕臙はそう理解はしていた。けれども、彼との認識の違いを噛み締め、それを恐ろしいとも思い始めた。

「おれは……おれは、月の姫のことは仕留めます。必ず。でも、おれはそれ以外のヤツを傷つけたくないんです」

夕臙は震える弱さを叱咤するように眉を寄せて奥歯を擦り合わせた。

「先生なら、きっとそうすると思うから」

目の前で怪我人が倒れていたら、治療をする。
光宮哉栄が、少年にとっての神であり、道理であり正義あった。本当のところは、少年は師の全てなど知り得もしない。少年の思い描く光宮哉栄という人物が、或る種の幻想かもしれない医聖像が、少年の信じる全てだった。
凍てつくような声音に竦みながらも必死に抗おうとする様は、小動物の威嚇のようだった。言い終えてから、手のひらがしっとりと汗ばんで行くのを、傍から秋風が冷やしていった。

>薬師寺紫、all

2ヶ月前 No.292

はいせ @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=Mc4I8W9x1c



【光宮哉栄/宮中/左京院邸内・出居】


 羨ましいと、そう言われてしまえば、哉栄は葛藤の思いに心臓が締め付けられるようだった。本来なら、哉栄もまた運命を変えられる人間を羨むべきなのだろう。人を殺してまで、人々の信頼を裏切ってまで動けないと医者として自身を戒め、定められた運命だったと過去を「過去」と認識するべきなのだろう。――それが出来ない己の、なんと強欲て罪深いこと。願いが叶う手段があると知れば葛藤しながらも渇望する手を引くことができない。咲秋の言葉はまさしく自分がそうあるべきな姿を現しているようだ。定められた運命などないという言葉に肯定、共感してもらってこの葛藤を打ち消したかったのだと、余りにも浅ましい考えに行き着いては目の前が真っ暗になりそうだった。同時に、もう戻れないところまで来ているのだと、思い知らされる。この思いを抱いたままで何知らぬ顔をして医者に戻ることは、できそうにない。

 現に、月の姫を呼ぶという咲秋の言葉に哉栄は確かに歓喜を覚えた。開いた門のその先、咲き誇る花や柔らかな緑を見つめるも美しさを讃える言葉一つ出てこない。渡殿を一歩進む度に喉が締まった。口の中は乾いて、心臓の音が耳にまで響く。客間へと案内されても心臓がうるさいせいで、咲秋が彼の主、華切に挨拶したその言葉も頭に入ってこない。ただ招き入れられた気配がして、哉栄は治療に呼ばれたときいつもはどうしているかと所作を思い出しながら設けられた席へと落ち着く。対面する位置に緊張しながらも指を揃えてつき、頭を静かに下げた。

「本日はお招き頂き、恐悦至極にございます。光宮哉栄と申します。」

 今は、挨拶を述べることが精一杯で、この場に月の姫が見当たらなかったことに感謝した。彼女がいたのなら、哉栄はこれ以上平静を取り繕うことができなかっただろうから。

>>咲秋、華切、all



【遅くなってしまって申し訳ないです……!!華切くんに声をかけることしかできませんでしたが、よろしくお願いします!】

2ヶ月前 No.293

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

(薬師寺紫/人気の無い道)

先生なら、そうする。

確かにそう聞こえた。それは俺に対する宣戦布告のようにさえ聞こえた。震える身体を必死に押さえ込もうとする、明確な頑張りが僅かな声の震えから聞こえるのに、サァと辺りが冷たくなるような、そんな感覚が薬師寺紫に走った。

「ああ、あいつなら、栄哉ならそうするだろうよ。傷跡一つ残さずに、綺麗さっぱり治してみせるだろうな。……それで?あいつはおまえの言う光先生は!」

最初は小さな、事実を噛み砕き飲み込むような静かな物言いだった口調は、最初の問いから、茶屋の主人に詰め寄るようなあの剣幕で夕臙の肩を強く掴む。そして、その爛々とした双眸は、ひたと相手の眼を射貫き、冷たく問う。

「どうなった?」

声とは裏腹に、鷲が掴むように食い込む爪は激情を伴い肩にのし掛かる。言葉だけを聞けば夕臙を思い遣るように聞こえるそれも、見える瞳は物語る。まるで、路傍の石だと言わんがように。

2ヶ月前 No.294

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/芝居小屋】

 隣に座る輝夜の影がゆらりと揺れたかと思うと、傾き、遂には倒れてしまった。その様子に心配そうに肩を掴んだ珠芽だったが、健やかな寝息が聞こえてきたのを確認すると、安心したように手を離した。
 直後耳に届く不穏な言葉。仕掛けられた……と、思った所で既に手遅れだったのは承知だ。キッと睨むように背後の気配に視線を向けると、彼岸は在るべき姿に戻るかのように身支度を整えていた。あの、黒い羽織を纏い。

「なっ……」

 目の前に置かれていた茶菓子を咀嚼する彼岸を前に、何の為に姫を、なんて言葉が口から出ていきそうになったのを堪える。何の為になんて、分かってる。彼もまた、隣に眠る姫が目的なのを。『奇跡』が必要な事を。

 掌を握り締め、俯く。彼岸は葛葉の行方を知らないと言った。それは何となく分かっていた事実で、そして根拠のない確信を抱く。

(葛葉様はきっと……戻らない。此処には、もう……)

 すらりと向けられた切っ先を見つめる。灯台の灯りがやけに明るくて、刀身は光を反射する。彼の人を追い此処まで来た。全ては強くなるために。彼が居なくても、強くならなければ。そう、もう弱いままの子狐じゃ……ない。

「おい……おれは、奇跡なんて、いらない。欲しいのは、力だ。戦うための術だ。貴方の邪魔をするつもりはない」

 切っ先を、彼岸を真っ直ぐに見据える。両手は膝の上で堅く握られ、背筋が伸びる。指先から徐々に体が冷えるような気がした。肩が小刻みに震え、止まらない。言葉とは裏腹にこんなことを言っていいのかと、自問自答した。こんなのまるで……、

「でも、まずはおれに、おれに戦う術を教えて下さい。強さを、力を手に入れることができたら、邪魔はしません」

 彼女を裏切ってるみたいだ。



>輝夜、彼岸、周辺all
【彼岸さんがカッコよすぎて……。何となく取引じみたお願いの仕方ですが、珠芽共々お願いします】

2ヶ月前 No.295

語り @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【★】

葉月十五夜

斜陽は遂に堕ち、満ちた黄金の月が昇る。
白く眩き陽光は、天を茜色に焦がし燃え尽きるように暮れる。朱に薄紅に藤色に縹に薄藍と、虹色の残光は鳳凰の長尾の如く見事に広がり、星影が虹の薄衣の上を月の道標(しるべ)と飾った。星屑の道を辿るように、山の端から巨大な満月が顔を出す。
暮れし秋の空を仰ぎ、ある者は歓喜の声を、ある者は感動の溜息を、またある者は旅愁をある者は祷りを夜空へと零す。
肆季島國の人間達はどんな宝石よりも眩いこの黄金の満月を中秋の名月と呼ぶ。
天は忽ちに黒く濡れてゆき、輝く真円は幾重もの金色の輪を闇夜にかける。煌々として揺れる月の下、人々のざわめきは妖し者共の領域を侵食する。
今宵は彼らにとっては「前観月の祭」の夜だ。宮中からは雅やかな管弦の調べが、城下からは祭囃子や夜店の喧騒が聞こえてくる。混ざり合い、溶け合い、折り重なって、膨れ上がる。
今夜ばかりは、世を覆い尽くす恐ろしき闇の天蓋さえ、鼓動のように鳴り続く生の気配に、掻き消されてしまいそうだ。

【おまたせしました! 日没をおしらせします(時報)】

2ヶ月前 No.296

東雲 彼岸 @caim ★cggvzsv7BC_mgE

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2ヶ月前 No.297

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/ 城下 人気のない道】

一息毎に険を帯びていく薬師寺の声に、微かに残った強がりはみるみるうちに息を潜めてゆく。先程までの威勢など見る影もなく顔を青くして後退ろうとする夕臙の肩を、強い力が鷲掴みにした。「いッ…………!」細い肩に走る激痛に、夕臙は思わず呻き声を洩らす。柳のように痩せた肩を覆うまだ柔らかい皮膚に、爪が食い込む。
だが、そんな身体的痛みも、投げつけられる言葉による精神的な痛みの前に直ぐに麻痺してしまう。みつせんせいは、どうなった。夕臙の目が大きく見開かれる。薬師寺の鋭く冷たい視線と、正面から交わっているようで、それができていない。深い深い暗緑色の黒目が、焦点を見失ったように微細な振動を繰り返している。揺れる瞳から一切の光は消え、虚ろな視線は相手の眼も頭蓋も貫通して、その先に見た幻に怯えている。みつせんせいは、どうなった。薬師寺紫の放つ言の葉が引き金となり、夕臙の意識は過去へと引きずり込まれる。忘れたのか、光先生を死に追いやっているのは、自分達、病人だ。艶のない両の眼が薬師寺と幻影を忙しなく行き来して震える。回る。自責の念が廻る。呼吸は浅く早くなり、身体中の呼気を追い出していく。指先が痺れる。
肩にかかる薬師寺の力と一緒になって、重圧がのしかかる。人一人を救う事の重さ。人一人の運命を変える行為の過酷さ。己が師は、その何十何百倍もの死に逝く人の運命を書き換えてきたというのに。少年はたった一人分の重さに押し潰されるように、薬師寺紫の前に崩れた。ぺたりと両膝両脚をつき、その間に尻を沈めて、楓の両掌を地に着いた。
「ごめん……なさい」
夕臙は咽びながら辛うじてそれだけ言った。
宵闇に染まった地面に黒い染みが点々と落ちいくのを、真っ黒な眼で睨みながら、地を掻きむしった。罪無き者を救う筈だったその両手の先は、涙を吸った泥で真っ黒に汚れた。
崩壊寸前で支えていた理想の塔も、それを守る為に築いていた脆い城壁も、砂の瓦礫に変わり崩れ去った瞬間だった。

>薬師寺紫、all


【全然季節感あわないスレですが、メリークリスマス!】

2ヶ月前 No.298

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/芝居小屋】

 言い終えても尚、震えは止まらず。掌には更に力が入り、じわりと汗が滲んだ。鼓動がやけに五月蝿かった。身を挺して守った彼女の知らないところで、目的の為の取引材料にするなんて。いけない、こんなこと。自責の念に駆られたが、もう遅いことくらい珠芽には分かっていた。そして、彼女を目の前にする度に思い起こされるこの罪悪感も。

 静かに発せられる彼岸の言葉を思考の渦に溶かす。マヤカシ……。マヤカシ……かもしれない。だって、奇跡なんてものが、傷つけるだけのものならそんなの、欲しいなんて。
 そこまで考えてハッとする。瞳が揺らぐ。奇跡をもたらす月の姫・輝夜。彼女のもつ奇跡は誰も彼も−−少なくとも珠芽が出会った人達は皆−−その奇跡を欲した。奇跡とは、彼女を指す代名詞のようなもの。それを否定するということは。
 視線をちらりと隣の輝夜へと恐る恐る向ける。穏やかな寝息をたて眠る彼女の顔を僅かな灯りが照らす。もし…………、

「−−っ!!」

 途端、思考を遮るように視界の端で影が動く。珠芽が反応するより速く、それはひやりと首を冷やす。瞳を大きく見開き、鼓動はより早くなる。すぐそばで聞こえた言葉に恥ずかしさと情けなさを感じ、ギリッと奥歯を噛み締めた。
 弱い癖に、生意気にも取り引きなんて持ちかけたせいか。今になってあんな言葉を吐いた事を後悔する。カチャリ、と柄を握り直す音が耳元で聞こえ、咄嗟にギュッと目を瞑った。けれど、襲うはずの痛みはいつまでも訪れず、そろそろと瞳を開くと彼岸が納刀しているのが目に入った。

 −−助かった。力が入っていた体から情けなくも力が抜け、腕が、手が畳の上に落とされた。そのまま呆けたように彼岸を見つめていると、ふいに短刀を放り投げられ、慌てて腕を伸ばす。初めて持つ凶器は言い知れぬ重さを感じた。
 顔を上げればもうそこには彼岸の姿はなかった。けれど、彼が最後に放った言葉は脳裏に焼き付いている。

「城下の外れ、石階段の上……」

 ぼそぼそと復唱すると、今度こそ体から全ての力が抜けたように畳の上に倒れ込んだ。短刀が珠芽のすぐ側に転がる。嘘、みたいだ。自分より遥かに強い相手が、取り引きを呑んだなんて。例えそれが、ただ猶予を与えられただけだとしても。

「あ、お姫様……。起こさないと」

 そのまま暫く横たわっていたい気分だったが、彼岸の言葉を思い出すと体を起こし輝夜の肩を揺さぶる。彼女の瞳がじきに開き、珠芽へと視線を向けたとき、自分はどんな表情をしているだろうか。この先もう、以前と同じように彼女を迎える事が出来ないことを悔いながら、それでも珠芽は自分が信じる道を進むことを決意していた。

>輝夜、彼岸、周辺all

2ヶ月前 No.299

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

(薬師寺紫/人気の無い道→薬師寺邸へ)

多分に無理だ。そう薬師寺紫は理解した。かの医師への盲目的な信仰を行うこの童でも……いや、童だからこそ、人の痛みが理解できるのだ。

「いい医者になろうよ。お前ならな」

ふと抜いた力は鷲づかみにしていたそこをやんわりと血で染めた。少しは呪(まじな)いが掛かっただろうと、頷き立ち上がる。

「観月祭だ。お前も少しは酒席の場にもこれからは出るだろう?酌の供でもしてみんか。」

腰から下げたカマスからトレードマークの長煙管を出し、ふんわりと詰めた刻みに火口から火を着けゆったりと吸い込み問う。秋の風に飛ばされる煙は虚空を舞い、束の間の闇の星空へと立ち消えた。

「月が出るまで、いや、出てからでも奴らの領分だ。こんな場所サッサとずらかるが賢しいと言うもの」

言って返事を待たずに歩き始めた。

(皆様この拙文に今年も付き合いありがとうございます。来年も宜しくお願いします)

1ヶ月前 No.300

絲祈 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★yZ2R2g7qxd_yFt

【絲祈/城下・都の外れにある屋敷】

 日が落ちるのと時を同じくして、祭囃子がどこからともなく聞こえてくる。祭りの前夜の空気に人々は浮かれ、葉月の夜空には煌々と輝く満月が昇った。今宵は無礼講、皆、人ならざる者どもの存在など目には入らぬとでも言わんばかりに歌い、遊ぶ。その喧騒は闇さえも飲み込まんばかり。空の黄金は淡い光で都を照らし、すべてを見抜いているかのよう。

 しかし、夜闇に紛れ、招かれざる客が静かに口角を上げる。

 祭りに浮かれる都の、外れにある一等大きな屋敷。名のある貴族、それも人とのかかわりをあまり好まないでいる、雅で位の高い貴族が住んでいると言われているその屋敷で、妖どもの集会が開かれんとしていた。
 屋敷の中でも一番広い奥座敷には、おどろおどろしい姿かたちの魑魅魍魎が集っている。餓鬼に悪鬼、疫病(えやみ)や人の悪意をそのまんま形にしたような、醜悪で悍(おぞ)ましいそれらは、互いにひそひそと話をしていた。中には畳の上に席を取ることができず、天井や壁に張り付くものや、外の庭園から中の座敷を覗くものまで。その皆が、落ち着きのない様子で何かを待っていた。

 糸繰りに操られているかのように、屋敷の門の前に居る門守が手足を動かし、硬い表情のままその門を閉ざした。庭の垣根は背が高く、外から内を覗くことは難しくなっただろう。
 門が閉まる音が鳴り終えるのと同時に、灯の消えた奥座敷がふと静かになる。外の祭囃子がくぐもって、座敷の中に反響した。障子の壁に、葉月の満月の光によって縫い付けられた妖の影が、細々と浮かぶ。

 天井の板が一枚、ぐるりと反転した。
 そこから、かさかさという耳障りな音とともに、黒々とした蜘蛛の足が一本あらわになる。続いて、二本、三本、と足が出てくると、青白い人間の上半身が天井より姿を現した。その人間の体は蜘蛛の腹のうえからしっかりと生えていた。長い前髪のせいで、その表情はうかがえないが、まばらに顔にかかる黒い前髪の間から覗く青白い唇だけが、白い肌の上で目立って見えた。

 やがてそう時のたたないうちに、天井から出でたものの姿が、柔い月明りに照らされて闇の中に浮かび上がった。

 八本の脚をもつ女郎蜘蛛の下半身に、青白い人間の男(おのこ)の姿をした上半身。光さえも飲み込むような人間の黒い双眸に、それを取り囲む血の紅玉のような六つの蜘蛛の目玉。
 座敷に居る妖と、庭園にいる妖。その両方が息を呑んだ。あまりにも恐ろしくて醜い、蜘蛛の妖。人の住まっていたこの屋敷の人々の命の芽を摘み、自らの糸で駒として動かしている残虐なその妖は、名を絲祈(しき)と言った。
 八つの目玉を別々に動かし、ここに集った妖の全員を見る。その姿を確認すると、絲祈はかくり、と折れそうな程にまで首を傾けた。死人のそれよりも青白い唇が、小さく動く。

「――何だ、この我が、直々に招集を掛けたというのに……集まったのは、これだけか」

 蟲の羽がこすれあうような、脳髄直接刺激を下しているような声が、その場にいる全員の耳へ届いた。妖が肩をびくりと震わせるのを見、絲祈は一瞬だけ愉しそうな声を上げた。唇が弧を描き、八本の脚が畳をがりがりと引っ□く。
 再度、絲祈は口を開けば、刹那、生ぬるい夏の夜の風が障子を揺らした。

「まあ良い。主(ぬし)らをこうして集わせたのは他でもない。我は今宵――人の子らに、恐れ≠ニは何たるかを、再度教えてやろうと思うのだよ。主らもここ最近、肩身の狭い思いをしてきたであろう。しかしそれも今宵で終いだ。この祭りの夜こそ、人の子らを再び夜闇の底へ、恐怖の底へと引きずり降ろすのに相応しい。――祭囃子を悲鳴という名の管弦で塗り替え、祭りの灯を紅く染め上げてみせようではないか」

 低い声で絲祈がそう囁けば、それに賛同した妖共は歓喜の声を上げ、中には既に屋敷の外へ赴こうとしている者すら現れた。祭りの喧騒に浮かされた人々を恐怖に貶める、それを考えただけで血がたぎるのであろう。皆、血走った目のまま舌なめずりをしている。そんな妖共を見据え、絲祈は意味ありげな笑みをその青白い顔に浮かべた。
 脳裏に浮かぶのは、自らの君主である、大守宮の夜の笑み。これもまた、彼女との計画のひとつなのだ。妖が祭りの場で暴れるというのは、その序章でしかない。

「――――さあ皆、思う存分に暴れよ。明けぬ夜は、近い」

>ALL 【あけましておめでとうございます。少し遅くなりましたが、サブ記事で言った通り妖たちが動き始めました。少ししたら祭りの場で暴れさせていただく予定ですので、もうしばしお待ちくださいませ。何卒、これからどうぞよろしくお願いいたします】

1ヶ月前 No.301

佐竹咲秋 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/宮中 左京院邸】

指をつき頭を下げながら名乗る哉栄の動きに合わせ、咲秋も会釈をする。差し向かい合う主人と客人。傍に控えたまま、咲秋は黙したまま流れる空気の一部となっていた。
やがて、主である華切が口を開く。「此度は当家の宝である輝夜姫を助けていただき、まことに感謝しております」その言葉を合図に、隣の部屋との間を隔てる扉がすっと開き、左京院に仕える女中の中でも一際見目麗しい娘が三人、高坏を携えて入ってくる。衣を引き摺りながら哉栄の前までしずしずと歩いてくると、彼の前に跪き、三つの高坏を置いた。一つには金銭の入っているのであろう紫紺色の包み、一つには宵空の桔梗色に金の星月を散りばめたような装飾の輝く美しい香炉、最後の一つには礼状であろう上品な香り漂う文に秋の花々が添えられている。
「気持ちばかりではありますが、光宮殿に御受け取りいただきたい」と、言いながら主が整った所作で辞儀をするので咲秋も合わせて頭を下げる。
(目の前にいるのは、大切な輝夜姫を助けた恩人……とはいえ、自分から離れている間の姫様と一晩共にいた男を華切様はどう思っていらっしゃるのだろう)
華切の返礼の仕方があまりにも綺麗すぎて、咲秋は思わずそんな邪推をした。盗み見るように華切の表情を見ては、そんな己の器の矮小さを恥じるのだった。あの凛として誠実な御様子、心尽くしの感謝。彼は自分と違ってそんな器の小ささな男ではないのだ。それに、相手の光宮殿ほどの御方の一体どこにくだらない懐疑や不信を抱く点があろう。そもそも、姫様を自分の所有物のように見る人間達ではないのだ、きっと彼等は。咲秋は僅かに胸の内に生まれた綻びに気付くと、袴の上で作った拳を密かに握り締め、二人の横顔越しに見える庭へと視線を移した。日入り果て、空は暗い。庭へと降り立てば、見事な満月が見えることだろう。
ーー今、一瞬でも、俺は姫様を誰かのもの……華切様の所有物のように見てはいなかったか?
咲秋が無言のまま、そう思い至った瞬間、静けさを裂いて、渡殿から声が響き渡った。

「ーー姫様が! 姫様が、いらっしゃいません!」
「なんだと……!?」
咲秋の表情が豹変する。声に遅れて、血相を変えた女従者が姿を現した。咲秋は立ち上がり、女従者に詰め寄る。
「どういうことです。詳しく報告してください」
「……わ、わたくしが身辺御世話の交代の時間になりお声をかけたところお返事が無く、無断で御部屋を開けさせていただきました。その時にはもう、蛻の殻だったのです」

咲秋が更に問い詰めようとすると、今度は庭のほうから、武官の男が駆けてくる。
「大事にございます! 姫様が! ひ、姫様が! 城下町の茶屋で、夕臙という盗人の少年に、さ、刺されたと!」
「な…………っ! そんな、そんな馬鹿な!」
姫様が刺された……!?
目眩を起こすうちに、今度は庭の反対側から、見廻り隊の男が息を切らしてやってくる。
「華切様! 姫様が! 異形の少年に連れ回されているとの情報が入ったのですが、姫様は何方にーーーーっ、やはりいらっしゃらないのか! 姫様が妖しげな風貌の子供に拉致され連れていかれるところを、城下の夕臙とかいう少年がお助けしようとして妖に一撃加えるも逃げられ行方知れずとの事……!」
混乱する咲秋達がその男の言う情報と武官の男の言う事態の矛盾を認識するより早く、暇を貰っていた筈の下男の一人が血相を変えて飛んできた。
「失礼致します! 申し上げます! 『左京院の姫様が妖しげな異形の少年を連れ回し城下を練り歩いている』との民衆の噂が溢れかえっております。これは如何なることにございましょう……!?」

女従者、武官、見廻り隊の男、下男が別々の情報を持って一挙に一堂に会し、顔を見合わせ、哉栄と華切と咲秋の間にも疑問符だらけの沈黙が覆い被さる。
「華切様……」
咲秋は「探して参ります」という意味を込めて華切を見て頷いてから、哉栄に向き直る。
「光宮殿、折角御足労いただいたのにこのようなことになってしまい申し訳御座いません、非礼をお許しください」
言外に、輝夜を探しに今から城下行かねばならないことを示しながら、哉栄に申し訳ない気持ちで詫びる。

>哉栄、all


【華切王子本体様から御多忙につき投稿が難しいとの御連絡をいただき、言伝を預かりつつ王子を巻き込み先へ進ませていただきました。急展開になりましたが、そういわけですのでこのまま哉栄先生にも一緒に城下へ出ていただければと思います……!】

1ヶ月前 No.302

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/人気の無い道→薬師寺邸】

「…………」
傍でしゃがんでいた影が、立ち上がる。伸び上がる人影に追いすがるように、夕臙もつられて立ち上がった。今はもう圧力から解き放たれた、強く掴まれた部分が僅かに火照り血の巡りを感じる。血が滲むような感覚に、昼間刺した異形の少年の細い肩をふと思い浮かべた。刺した相手の事が、感触が、裂いた傷が、焼き付いたように頭から離れないなんて、こんな事で、自分は先生の為に本当に人を殺せるのだろうか。こんな事ではいけないと、もうよく分かっている。目蓋に脳裏に一生涯焼き付いたとしても、それでこの生涯を呪われたとしても、それを成さなくてはならないのだ。大切な人を助けなければ、他の誰を殺さずに生かそうと、いい医者になんかなれない。
砂埃を叩き、薬師寺を見上げる。彼の口元ではいつもの長煙管が、優雅な煙を物憂げに空へと送り出していた。
「酒席の……場……?」
少し考えてから、夕臙は素直に頷いた。
庶民の中でも一段低い位置にいる夕臙には、町民の中でも中心近くに居て人望もあるちゃんとした大人の薬師寺の言うことが完全に理解したわけではないが、彼が言うことで夕臙少年の勉強にならなかったことはあまり無かった。
それに、早くも此の、人集まる街には昼間の事件の噂が広まり始めている。最終的に被害は出さなかったとはいえ、このままぼんやりとこの街に居ては、自分は都の大人か左京院家の者達に捕縛されてしまうに決まっている。薬師寺の言う通り、彼の邸に身を寄せさせて貰うのが得策だろう。
「祭の夜は……人が勝手にそう言いだしただけで、夜は夜。ほんとは妖達の世界に違いねぇとおれも思います」
妖達の領域に、人が踏み入れようとする刻。或いは、人の世と妖の世が混ざり合う刻。それがまつり≠ネるものの正体やもしれない。
薬師寺紫に連れられるまま、夕臙は振り返る。視界の彼方で、貴族の別荘なのだろうか庶民には理解も追いつかぬ垣根の高い豪邸の門が、祭の夜だというのに外界を拒むように静かに閉ざすのが見えた。応えを待つ子供が父親にそうするように、傍の男の顔を見上げてから、二つの草鞋をするように鳴らして帰路≠急いだ。

>薬師寺紫、all


【申し遅れましたが、皆様あけましておめでとう御座います! このスレで年を跨ぐのも実は二回目ですね! 今年も宜しくお願いいたします! 今年こそ、完結……!】

1ヶ月前 No.303

藤堂吉継 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【藤堂吉継/城下 羅城門→外れの屋敷周辺】


しばらく何かに憑かれたように羅城門の焼け焦げた跡地に座り込み地を這っていた着物の裾を、いつしか斜陽が焦がし、宵闇が陰翳を被せ、やがて月光が濡らした。
それほどの時を、徒らに、一つの可能性を以って待ち惚けてしまった。
「やはり……そう簡単にはゆかぬようだ」
衣の裾に付着した煤を払い、立ち上がって満月を仰ぐ。
「月の姫≠フ奇跡……か」
目映い月光に目を細めると、頭に響くように去る晩この地で聞いたあの女の声が甦る。

『本当に、よいのですか吉継様?』

本当は、輝夜姫が欲しかった。

『またいずれ近々、余は吉継様の前に参上仕ります。その時、どうすれば貴方様が輝夜様と結ばれる事が出来るか、そのお話をゆっくりと致しましょう』

その答えを、急かしに来たのではない。だが、あの夢幻のようだった事の次第を確かめたかったのだと、自分に言い聞かせる。熱に浮かされたように、気が付いたら夢とも現ともつかぬ夜の化身の囁きを頼みに、こんなところまで来てしまった。
祭囃子が耳に届く。この音色を、よく知っている。観月の祭の笛太鼓だ。前観月に共に望月を眺めた人と、後観月の十三夜を共に見るという風習がこの地には根付いている。
去年も、その前も、毎年毎年、祭の夜は側にいた筈だ。大切な人達。明かすことのない想い人も、生涯の主も、共に育った相棒も、大切だった人達は皆あたりまえのように側にいた筈なのに。今年は一人、こんな荒れ果てた都の片隅で月の出を迎えてしまった。

しばらく黙って月を睨んでいると、やがて黄金の光はその片目の瞳に陰を落とす。
羅城門を後にして都の方へと向かった。

祭の喧騒も耳に入らず、どれほど虚ろな目をしたまま都を彷徨ったか判らない。今、目の前には閉ざされた巨大な門が聳え立っていた。何故今己がここに居るのか、熱に浮かされたようなこの奇妙な心持ちでなければ、もっと早く自問したことだろう。
身体の内に呪いのように染み付いた、記憶の種から波紋のように広がり聞こえてくる呼び声に引き寄せられるまま気付けばここに居た。この場所が、自分に何を示唆しようとしているのか、あの声が夜と名乗る妖と何の関係があるのか、暫く邸の周囲を歩き中の様子を伺おうとするも垣間見ることすら出来ない。思い過ごしか、と溜息を吐き、先程から微動だにしない門番をちらりと見ては垣根沿いにとぼとぼと歩いてゆく。

>all(特に手宛先無し)


【いつもの、代理代筆です……! 合流や絡みもオーケーです!】

1ヶ月前 No.304

輝夜 @yuunagi48 ★Android=sXgGT33OGk

【輝夜/夢の中→芝居小屋】

赤……世界が赤く染まる。輝夜はぼんやりとそれを見ていた。
空には大きな満月が一つ。星は月の明るさに紛れてか見てとれなかった。そしてその月よりも近くで鈍い輝きをを放つ刃と黒い影。それが向けられているのは他でもない輝夜自身にであった。

やはり恐怖は感じなかった。更に今回は、あっ……と思う事も無く、時がゆっくりと流れているかの様に鋭い刃の切っ先は何の抵抗も無い輝夜へと吸い込まれていった。
瞬間、世界が赤に染まる。周りに見えるもの、全てが赤一色だ。真っ赤な光源が怪しくじりじりと焼き焦がすかの様にこちらを見ている。

赤い、光?

輝夜は夢の中で首を傾げた。真っ赤な丸い光源は輝夜を責め立てる様に真っ直ぐに見詰めて来るのだ。じりじりと、熱気が思考を鈍らせる。

熱い……熱い。

身を焦がされる様な熱気に一度瞼を強く閉じ、再び開いた時世界は一変していた。変わらぬ紅い世界。しかしそれは先程の赤とは違う。紅蓮の世界だ。
それが炎だということは瞬時に理解した。そしてそれは今正に輝夜の身を焼かんと真っ直ぐに向かって来ている。逃げなきゃ……とすら思えなかった。ただ恐怖と混乱から体も思考も硬直してしまいピクリとも動けない。

『姫様!』

耳に届いたのは二つの声。輝夜もよく知る咲秋と吉継の声だ。そして伸びてきた手に掴まれ強く体を引かれた。その手の持ち主がどちらか見ずとも輝夜は知っていた。そしてこの後どうなるのかということも。
薄!と声にならない思いと共に手に引かれる方とは逆を振り返れば、そこに居たのは……女郎花、そう華切の姿。再び輝夜は混乱する。そこに居るのは華切ではなく吉継のはずなのだ。ここに華切はいる筈が無い。何故なら……

『華切様は……』

震える咲秋の声が聞こえる。輝夜の前で取り乱さない様に必死に気持ちを圧し殺そうとしているようだが、その言葉の残酷さは咲秋の全力をもっても敵わぬものだった。それだけ咲秋は彼を慕っていたのだ。そしてそれは輝夜も。

いや、いや……いやいやいや!!
その先を言わないで!!


はっと開いた目に飛び込んできたのは透き通るような綺麗な白い髪に暖かな茜色の瞳。しかし、それは心なしか揺らいでいる様にも見えた。

「花、菖蒲?」

輝夜はゆっくりと手を上げ、何となく……ほんの一瞬、不安そうにも苦しそうにも見えた珠芽の頬に手の平を当てた。日が沈んだからか、風に冷やされたのか、珠芽の頬はひやりと冷たく感じた。

「私、眠っていたの?」

目に飛び込む室内は見覚えはあるが、見慣れぬ物ばかりだ。ばくばくと速い鼓動を「大丈夫」と言い聞かせるように落ち着けると徐々にここに至るまでの経緯が思い出される。

そうか……私、花菖蒲と月下香を探して、紅葉と会って、花菖蒲が刺されて死んでしまうのかと……。それから、葛……の葉を探して、撫子に会って…………

「あっ!」

そこまで思い出した時、輝夜は大切な事を思い出してがばっと体を起こした。辺りをきょろきょろと見回すがそこに既に彼岸はおらず、灯りのちろちろと灯る部屋には輝夜と珠芽の二人きりであった。

「もう!撫子の馬鹿!馬鹿!馬鹿!!お土産に持って帰って良いって言ったのに!!」

駄々を捏ねる子供の様に床をばたばたと叩いて輝夜は不満を訴えると頬を膨らませた。そう、それは輝夜が眠りについてしまう直前の約束。彼は言った……羊羹をお土産にくれると……。
>珠芽、(彼岸)、周辺ALL

【遅くなりまして申し訳ないです!
昼彼岸君、素晴らしい絡みありがとうございます!撫子と呼べた☆ミと歓喜している背後です!そして、輝夜がまたもやすみません(汗)次、会える時はどの様な会い方になるか今からもうわくわくしております!
そして珠芽君にも……色々と考えた結果、輝夜ならばやはりこうだろう!という事になりました(汗)か、絡み難くてすみません(激謝)

せしろ様、上記咲秋君のレスにて共に城下にとあるのですが、芙愛様と少し相談した結果、輝夜を(咲秋君とすれ違う形で)一度宮中へと戻らせようかと思っております。次かその次辺りの輝夜のレスにて宮中まで移動出来たらと思っているのですが、宜しければ再び輝夜と絡まりませんか(←
夕臙君からの素晴らしいトスもありますので、再び哉栄先生とお会いしたいなぁ……なんて。勿論、少しここへ動きたい!等ありましたらそちらに動いて頂けたらと思います!】
>崎山様、倖様、せしろ様

1ヶ月前 No.305

佐竹咲秋 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/宮中 左京院邸→城下 茶屋】


血相を変えて飛び出した咲秋を、邸の者達が振り返る。
履物を粗雑に引っ掛け、馬舎に向かいかけてから思い留まり、自らの足で門の方へと駆け出す。祭の今宵は人通りが多く、馬では動きがとり難い。得手である弓も矢も携えず、唯、二振りの刀をのみ腰に帯び、公用の上等な袴姿であることも忘れて木枯らしを切った。
華切の返事や顔色を伺う事も、矛盾を孕む報告の真相をよく確かめる事すら厭う程に、咲秋は焦り取り乱していた。一昨日の過ちに対する処分も未だ決まっていないというのに、今日もまた姫が消えた。今日の事に関しては自分の責任では無いなどと、言っている場合では無かった。今は誰の過失であるかを責め合っている場合ではない。事の真相は分からねど、姫君の身が危ないのは確かなのだ。

朱雀門を抜け、城下に出る。
目の前に広がる光景に、咲秋は一瞬怯んだように立ち止まる。
視界いっぱいに広がる祭の夜の情景は、まるで知らない街に来たような錯覚を起こさせた。碁盤の目を縁取るぼんやりと暖かい提灯。通り一杯に広がり行き交う人々の群れ。異質なまでに溢れかえる生の気配、暮らしの匂い。食べ物の匂いと不揃いな喧騒が混ざり合い、静かである筈の夜の気配を掻き混ぜていた。異質な夜。空はとうに黒く塗りつぶされているのに、其処に穿たれた満月の穴のたった一つで、都は熱を帯び熱に浮かされている。うねる波に、酔いそうだった。此の中から、姫を見付けるだなんて。咲秋の表情がより険しくなる。

(一刻も早く、姫様をお探ししなくては)
先程から悪い予感ばかりしていた。
思考の中で、現在の事態に昨日華切から聞いた輝夜姫の悪夢の話が絡み付く。即ち、満月の晩に姫が何者かに刃を向けられたという夢の事が。その続きを彼女が言わずとも、彼女がその刃に斃れる結末は否応なく追随する。たかが夢、されど、絡み付いて剥がれない。
不吉なその夢は、思い返す度まるで予知夢の如く思えてくるのだ。

空を仰ぎ、月を睨む。
怯んでいる場合ではない。咲秋は思い立つと、目の前を横切った女の肩を突然に掴んだ。
「尋ねたい事がある」
あまりに唐突すぎる事とその剣幕に、町人の女は驚き脅えて声も出ない。宮中から物凄い形相で飛び出してきた帯刀の武士にいきなり肩を掴まれ怒ったように詰め寄られたのだから当然の反応だ。触れれば切れそうな鋭利な視線に貫かれ、女は萎縮する。
もしもここに相方が居たのなら溜息をついてすかさず愛想良く気の利いた助け舟の一つでも出したことだろう。輝夜の事が絡むとすぐにこれだ。普段は怜悧なその思考は矢の軌道の如く一直線に彼女へのみ突き進み、常識も道理も全て吹き飛んでしまう。

ーー

暫くして、咲秋は一軒の茶屋に辿り着いた。
鍛え上げた身体でも流石に息も弾むほど走り、人混みを掻き分け、やっと突き止めた茶屋の赤い傘が見えると、転びそうな程に慌てて駆け寄る。店は閉まった状態で、赤い布の掛かった長い腰掛けと、傘を差すように枝を伸ばす楓紅葉がひっそりと立っている。
何人もの沢山の町人に迷惑をかけ、困惑させてきた事すら今は気にならず、ただ、輝夜の身だけが心配だった。
もしも、もしも或る人が言ったのが本当で、此処で輝夜が刺されていたら。自分の命よりも余程大切な女主の身に傷一つ付くことすら、胸が痛んだ。先日の、靴擦れをおこし光宮医師に自分の知らぬところで手当てを受けて触れられていたことですら、自分を責めた。もしも此の、満月に纏わる不安≠ェ真で、姫に刃物を向ける者≠ェ実在していたら。考えただけで狂って叫びを上げそうだった。

長椅子の傍らに立つ楓の樹の下に、他と違う地の色が月明かりに光っているのが目に飛び込む。瞠目して噛み付くようにその前に膝をついた。
(……血が…………!)
月光の下でも判る、黒く乾いた血痕。床ではなく地の上であった為に除去できなかったのであろう、砂利に混ざってそれは動かぬ証拠として其処に在った。
両手両足を付いた状態で、舐めるように、その乾いた血痕を見つめる。どんなに観察したところで、それが誰の血であるのか、探し人の血であるかなど判るはずも無いのに。
姫様、姫様、と譫言のように繰り返すと、浅く吸う息に混じって、錯覚のように僅かな血潮の香りがあるのを嗅覚が捉える。
輝夜の、血。そう脳が思考を言葉に替えた瞬間に、電撃を浴びたように心臓が縮んだ。反射的に顔を上げ、目を見開くと、巨大な満月が瞳孔から脳を射抜く。
「…………!」
海馬を震撼させる鋭い痛みに、咲秋は思わず声を詰まら背を丸める。
知っている。此れに良く似た光景を、憶えている。目を閉じても瞼の裏に溢れる黄金の光。でも、何処で。満月など珍しくはない。何を、自分が知っているというのか。今はそんな夢想よりも、姫様の安否を確認せねばならぬというのに……そう自分を叱咤し、突発的な痛みが治まるまで固く目を閉じて耐える。
(これは、姫様のではない……頼む、刺されたのは、姫様では、無いと言ってくれ……!)
何者かの手が、満月の晩、月の姫に刃を向ける。予知夢が、真実となったのか。

「もし、そこのお武家様……?」

そのとき唐突に背後から響いた声に、咲秋は驚き顔を上げる。年配の女性が一人、心配そうにこちらを覗き込んでいる。咲秋が黙ったままでいると、「御気分でも悪いのでいらっしゃいますか?」と、更に心配そうな顔をして隣に屈み込み助け起こそうとしてくる。慌ててそれを辞すると、その女性の後ろで先ほどまで閉まっていた茶屋の扉が開いていることに気付く。どうやら彼女はこの店の者であるらしい。そうと判明するや否や、咲秋はさっと身を起こし、酷い剣幕で女将の着物の裾に縋った。

「頼む、此処で何が起こったのか、教えてくれ!!」

そのよく見ればまだ年若い武者の必死の形相に、驚きは次第に憐憫に変わって、茶屋の女性はこう語った。
「今日の昼下がりのことでございます。この茶屋を何処ぞの姫君風のそれはそれは愛らしいお方と、少し変わった身なりをした……というのも、雪のような白髪に南天のような赤い目が人目を引いていたからです……その幼い男の子がこの店に立ち寄られたのです」
やはり、姫様だ、と咲秋は確信する。
「……(しかし、姫様と同行していたその男の子というのは一体……)」
「ちょうど貴方様がいらっしゃるこの辺りです、此処にお二人が立ち止まると、突然刃物を持った別の少年が木から落ちてきたのです。その子を私は知っているのですが、そんなことをするような子ではないから、それはもう、私もびっくりしてしまって」
女将は「びっくり」をやけに溜めて強調した。
「それで、刺されたのは」
「刺されたのは白髪の男の子のほうでした。私には、どうもあの白髪の男の子がお姫様を庇い守ったように見えましたよ」
「…………」
「この辺りは、それはもう、血だらけでした。男の子は肩を刺されたようでしたが、更に驚いたことに、刺したほうの少年はその場で医者のように手術を始めて、自分が刺した男の子を助けたんです」

女将の話の後半の部分は、もうほとんど耳に入らなかった。刺されたのは輝夜ではない、その事実確認が出来ただけで、全身の力が抜けていくのを感じた。
安堵に胸を撫で下ろしたのも束の間、咲秋はまた表情を厳しいものにする。まだ輝夜が見つかったわけではない。
それにあの夢が予知夢だとしてまだ実現されていないのだとしたら、今こそ姫の身が危ないかもしれない。或いは、やはり何者かは同じ満月の晩にこうして彼女を亡き者にし、今は既に時を遡り誰かがやり直した世界なのではないか。その何者かは今世でも彼女を、満月のその刻が来れば殺める筋書きなのではあるまいか。死神のように。月の姫の奇跡など、信じたくもないが。


>(all)


【伏線のため事件現場へ移動させました。物語の核心(?)へと近付けていきますよ!】

1ヶ月前 No.306

夜行之燈頭馬 @bousou1235☆iDC.KIllQXs ★hiacNAxczR_qxX

【夜行之燈頭馬 / 郊外(山中隠れ家)】


 昨晩、羅城門にて繰り広げられた一戦。傍から見れば都で度々起こる異形と人間の争い事に過ぎない。しかし、月姫を中心に幾度も時を遡り巡り巡る者達にとっては些細と切って捨てる事はできないだろう。 ……あの夜は1つの“分岐点”だったからだ。死するはずだった者が生き延び、破綻するはずだった関係が未だ辛うじて存続している。新しく生まれた運命は誰もが見た事のない結末へと向けて胎動し始めていた。


 突如来訪してきた夜のまるで深淵へ導くかのような誘いを断った夜行。葛の葉が何も告げずに都を去った今、人間への怨嗟を窘める者は誰もいない。しかし、意外なことに夕暮れの刻まで住処と定めた廃屋を離れることはなかった。その間、屋内に溜まった埃等を丁寧に掃い、衣類や食器、寝床などの日用品を麻袋に収納するなど、生活の痕跡を全て消すかのように身の回りの整理整頓に慎んでいた。
 ―――――これは不帰の支度。今宵、私は討って出る。烈火の如く単騎で都を駆け抜け、眼に映る全てを燃やし尽くし、喉が張り裂けるまで呪詛を撒き、腕に力が入る限り人間共を斬って捨てよう。再び朝陽が昇る頃、彼の地に影を差すことができるのがアヤカシ達だけになるように。それを見届けた後、ようやく私は真に愛しき者達と邂逅を果たすことができる、深き深き地の底で。

 そして、遂に日没の刻。夜行は綺麗に片付いた部屋の中央に位置する囲炉裏の前に鎮座し、己が半身こと首無し馬 燈頭馬が現界することのできる刻を待っていた。不帰の支度をした手前、囲炉裏に薪をくべて火を焚くわけもいかないので、自身が生み出した紫炎の鬼火を灯りとして。ようやく全てを失ったあの晩から続く長き旅路も終わりを迎える。しかし、その表情は晴々とはしていなかった。時折愁いを押し殺そうと下唇を噛みしめ、瞼をきつく閉ざした顔は寧ろ苦しそうにも見てとれる。

 愁いの原因は例の幻覚や幻聴、そして既視感だ。時を遡るという月姫伝説を真に受けた解釈をするのなら、今こうして此処に在る私とは違う私、限りなく同じ道を歩みながらも、確実に違う終着点へと向かった私の記憶の残滓なのだろうか。だとすると可笑しな話だ。これらの愁いはまるでこれから都へ向かう私を阻害しているように感じるからだ。……分からない。私は復讐鬼。私には復讐しかない。復讐しか残されていないのだ。この血に濡れた掌は奪う事しかできない。何かも分からぬ幻なれど何故私が私を邪魔立てするのだ。


 カタッ


 引き戸の方から物音が鳴る。隙間風で水瓶の蓋でも動いたか、と傍目で音の鳴った方を見る。引き戸周辺が目に映った時、夜行は一瞬息をするのも忘れ、文字通り絶句する。限界まで見開いた琥珀色の瞳に映ったのは、引き戸に訝しげに凭れ掛かった葛の葉の姿だった。だが、彼が“本物の葛の葉”ではなく幻覚であることは直ぐに理解できた。何故ならその左胸には遠目で致命傷と分かるほど深い刺し傷があり、その痛々しい傷は夜と会合した時に脳裏を駆け巡った在りもしない記憶の中で自分が彼に穿った傷と同じだったからだ。しかし、幻覚だとは理解できても、この葛の葉に対してどう反応していいのか分からず、言葉を詰まらせたまま震える手を伸ばそうとすることしか出来なかった。狼狽える夜行と相反し、葛の葉の幻覚は只々静かに夜行を見据えていた。まるで「それでいいのか」と問いかけているように。


 『もし、誰かいらっしゃいますでしょうか?』


 予期もしなかった幻覚の干渉に苦しむ最中、外から此方の在宅を確かめる来訪者の声が屋内に響く。
 その瞬間、彼の者の幻覚は風に流された煙のように呆気なく消えてしまった。


「――――……っぅ…不甲斐ない。未だ彼に縋りつこうとするなど、…ましてや幻などに」


 乱れた呼吸を整えながら、幻相手に微動だにできなかった己が無様さを恥じ、ギリィッと音がするほど強く歯を食い縛る。死など恐ろしくない、この世に未練などない と不帰の支度をしてみたがこの始末だ。あの者に偉そうに“本質”などと語ってみたが、結局それを一番受け入れることが出来ていないのは自分自身なのだ。幾ら復讐で心を燃え滾らせようと、その奥底には全てを失い泣きじゃくっている過去の私がいる。きっと、あの脆弱で浅ましい頃から私は何も変わってはいない。煩わしいと思いながら心を捨てることができないのがそのいい証明だ。

 このような状態で来客に応じるなど土台無理な話なのだが、わざわざ訪ねてきた者を無碍に追い返すことも出来ない。身に覚えのない気配だが、戸越でも妖気を感じることから人間ではないはず。どういった意図を抱えて来たかは分からないが、恐らく彼女が此処を訪ねてくる最後の訪問者になるだろう。なので中に招いて旅路を労っても罰は当たるまい と思いつつも、懐に短刀を忍ばせて警戒を完全に解くことはせず、囲炉裏に座したまま引き戸に向かって左手を横に振る。すると、触れもしていない引き戸が拳一つ分だけ音もなく開く。


 「さあさ、どうぞ中へ。灯りなき山道は寒さが骨身にしみたでしょう。迷い家のように絢爛な馳走を振る舞うことはできませんが……」


>>鬼女


【ど、どうもお久し振りです。超弩級の遅筆になってしまいまして誠に申し訳ございません。
 鬼女様宛に返事をさせていただきます。時間軸が夜に変わったの事で不都合がありましたら、ご指摘くだされば幸いです。
 夜行は都を襲撃しそうでしなさそうな半端な雰囲気ですが、座談に洒落込むも祭りへ誘っていただいてもホイホイついていきます。
 遅筆で度々ご迷惑をおかけしておりますが、お相手の方どうか宜しくお願い致します】

1ヶ月前 No.307

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

(薬師寺邸/薬師寺紫)

「妖と言うものは、人の思いの塊だ。俺は人より長生きした妖を知らない。人の歴史より、な。」

薬師寺邸に足を踏み入れてから彼は唐突にそう言い始めた。そして、店外と裏戸に筆で書き認めた紙を張り出す。

(彼のモノ以外が入るべからず。薬師寺紫)

「まぁ、まじない程度だが、まじないと書いてのろいと読む。弥栄の親爺さんに教わったものだ。」

言いながら盥に水を張り、軽く足を拭ってから火鉢にかけている薬缶を持ち盥に注ぎ、うめる。

「夜は冷えようよ。ぬるかったら湯を足すと良い。」

鉄煙管を煙草盆の吹き出しに雁首を軽く叩きつけ灰を落とし、竈にある埋め火を灰から掻き出し薪を二、三投げ込む。徳利から銚子に慣れた手つきで酒を注ぎ湯の沸いた鉄鍋の中に浸けた。

「お茶で良いな?床の間から薄を縁に出してくれ、壺に生けてる奴だ。」

1ヶ月前 No.308

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/芝居小屋】

 輝夜の肩を揺さぶりながら、僅かに願ってしまった。このまま、彼女が目覚めず、思いに揺れる自分をその澄んだ瞳に映さないことを……。そこまで思い、首を静かに横に振った。そんなのは只の逃げだ。彼女が自分の側にいる限り、罪悪感を抱き続ける。それで、良い。それが、彼女を利用した代償だ。
 暫く肩を揺さぶっていると、輝夜の両眼がはっと開いた。ぼんやりと視界をさ迷わせた後、珠芽に焦点を合わせるとゆっくりと手が伸び、頬に触れる。その行動に内心、戸惑いながら、揺れる瞳に気付かないふりをして言葉を紡ぐ。

「よく、眠ってたよ」

 輝夜の問い掛けに少し呆れたような、けれど優しくふわりと笑みを浮かべながら頬に触れる手に手を重ねた。輝夜の手から伝わる暖かさが、じんわりと珠芽の肌に溶ける。その心地よさに身を委ねそうになりながら、ふいに思い出したのは彼岸の言葉。

「この部屋の人が、帰った方がいいって……」

 記憶を辿るように宙を見つめていた輝夜に伝えようと声をかけていると、珠芽の言葉を遮るように輝夜が声を上げ、体を勢い良く起こした。どうやら珠芽の言葉は耳に入っていなかったらしい。どうしたのだろうか、と不思議に思い様子を伺っていると、それは拍子抜けする理由で、ついフッと笑いを溢してしまった。

「お姫様、帰ろう。おれ、行かなきゃ行けないところがあるんだ。あの大きな門まで送るよ。だから、」

 バタバタと床を叩き、不満そうに頬を膨らます輝夜に「帰ろう」と再度告げながら手を伸ばす。目覚めるまでは不安と罪悪感でいっぱいだった心が、輝夜の素直で淀みない様子にスッと軽くなったような気がした。それでもまだ少しちくりと痛むこの感情は、きっと消えることはないだろう。でも、これでいい。彼女を利用するからには強くなろう。この痛みに堪えられる力も。
 片手に持つ短刀を握り締め、そう秘かに己に誓った。

>輝夜、周辺all

1ヶ月前 No.309

鬼女 @yuunagi48 ★Android=sXgGT33OGk

【鬼女(葵女)/郊外、山中隠れ家】


それ程まで間をあけずに目の前の戸はすぅと僅かに開いた。誰かの近付いて来た足音も、戸の動く音もなく……だ。その隙間の奥から一つの声が聞こえる。

「あぁ!あぁ!!有り難う御座います。山歩きは不得手でして、日も沈み困り果てておりました」

そっと手を当てゆっくりと引き戸を開く。薄暗い部屋には行灯は無く、囲炉裏に火もついていない。自然には生み出される事の無い紫色の炎がゆらゆらと揺れている以外には。
臆する事無く一歩、二歩と室内へと入ればそっと振り返り戸をゆっくりと閉める。満月により明るい外界からの光が細くなりやがて消えた。二人を照らすのは家主によって産み出されている鬼火のみだ。

「夜分遅く見ず知らずの私を招き入れて下さり有り難う御座います。私、都に住まう……」

軽く頭を下げ、挨拶と共に此処へと辿り着いた経緯を軽く語ろうと口を開いた鬼女だったが、途中で止めればふふっと笑い声を漏らした。声を忍ばせ肩を震わせて一頻り笑えば、ゆっくりと頭を上げる。その表情は何処か怪しく、しかし人懐っこい。

「いえ、もうこの様な演技は貴女様の眼前では無用ですわね。私は鬼女(きめ)と申します。都で人々が噂をしておりました『夜行の蹄』という馬に乗った鬼を探してこちらまで参りました。夜行の蹄と言うのは貴女様ですか?等と言う問い掛けは不要ですね」

ゆっくりとした動きで履き物を脱ぎ、室内へと足を踏み入れる。一歩一歩と燈頭馬に近付き囲炉裏の側に座ると鬼火に照らされる彼女の顔をゆっくりと見詰めた。

「宮中に私の大切な方が囚われております。彼は妖であるのに、その力を買われ大切な方々ものを人質に人間達を守る為に働かされているのです。私は彼を人間達から取り返したく貴女様のお力をお借り出来ないかお伺いしに参りました」

一つ一つの動作はゆっくりと丁寧に、しかし鬼女の発する言葉には有無を言わせない意思があった。それは例えここで燈頭馬が首を縦に振らなかったとしても、鬼女は他の者の所に向かうか、もしくは一人で乗り込むか、それとも燈頭馬が頷くまで彼女に付き纏うかもしれない。彼女の声と瞳には諦める等微塵も考えていないであろう決意が込められていた。
しかし、そこまで話した鬼女は僅か一瞬の間をあけただけで、燈頭馬の返事を待つ事もせず次の言葉を発した。

「しかし、貴女様はお話に伺っていたよりもとても悲しそうなのですね。都では炎の馬に乗って駆け巡るや、逆鱗の如く薙ぎ焼き払われる恐ろしい鬼だと聞いていたのですが、今の貴女様はとてもお辛そう……」

そっと口元に袖を当てると顔を少し下げる。瞳に影が落ち炎の揺らぎがはっきりとした色の無い鬼女の瞳も揺らす。仕草はその生き方故か多少大袈裟に見える所も度々とあるが、彼女が純粋に宮中に囚われている……と思っている吉継を助けたいと願い、そして目の前の燈頭馬の辛そうに見えた表情に心を痛めているのは紛れもない事実であった。
>燈頭馬、周辺ALL

【マグカップ一郎様!お帰りなさいませませ!お待ちしておりました!不都合など何も!お返事が返ってきた時には飛び上がって喜びました♪物語もラストに近付きやはり妖勢力に燈頭馬さんはいて欲しいです!!
えっとですね、現在妖勢力として、夜ちゃん、絲祈君が大きく動いているのですが、もしよろしければ絲祈君と合流いたしませんか?可能でありましたら次レス辺りで鬼女から誘わせて頂けたらなぁ……なんて(^^)】

1ヶ月前 No.310

輝夜 @yuunagi48 ★Android=sXgGT33OGk

【輝夜/芝居小屋→宮中付近】

約束したのに……と膨れていた輝夜に珠芽が手を伸ばしてきた。行かなきゃいけない所があるとそう言った珠芽の手に輝夜は自分の手をそっと乗せる。

「うん、私も女郎花に会いたい」

夢の中で聞いた咲秋の声。絞り出す様な悲痛なあの声が夢である事を確認したかった。月下香に会いたかった。その為に城下へとやって来たのだが、今輝夜の中で生まれたこの不安は華切に会わないと消える事はない。
珠芽の手をぎゅっと握ると再び輝夜は芝居小屋から走り出した。とは言っても、そもそも普段走る事も無ければ体力もない。昼間よりも更に遅く、祭を堪能する人々の速足にすら追い付かない速さで宮中へと向かう。何度か珠芽に道を教えて貰いながらも不思議と間違える回数は少なく徐々に大きな朱雀門が見えてきた。

輝夜の足が段々と遅くなり、そして止まった。門の手前、今宵の門番をしている者達からは見えない位置で輝夜は珠芽の方を見た。

「ねぇ、花菖蒲。私ね、花菖蒲が大好きよ!私の、とっても大切なお友達。だからね、何があっても大丈夫なの!だって、大切だと体が勝手に動くでしょう?だから、花菖蒲も私もきっとこの先、今日も明日も明後日も間違いはしないわ!私は花菖蒲が大切で、花菖蒲は私が大切なのですもの。大切な人の大切な人は大切なのよ!」

走った事で多少息を乱しながらもくすくすと楽しそうに笑いながら輝夜が唐突に発した言葉は、まるであの茶屋で一番最後に交わした言葉の返事のようにも、輝夜自身の決意にも、どちらも違うようにも聞こえた。

「私と花菖蒲はおんなじだから、大丈夫なのよ!」

もう一度そう言って満足気な笑みでうんうんと頷く輝夜の思考は一体どうなっているのだろうか?ただ一つわかる事は輝夜の言葉に迷いは微塵も無いという事だけだった。


珠芽と別れた輝夜は宮中へ続く門へ真っ直ぐに向かっていった。途中で輝夜の姿に気付いた門番が慌てて駆け寄る。「姫様が戻られたぞ」との声に周囲の者達が集まり、その内数人は華切や探しに出た咲秋達に伝達の為走っていった。色々と声の飛び交う中で輝夜は一言あまり大きくは無い声量で、しかしはっきりと
「私(わたくし)女郎花に会いたいのです」
と告げた。

その場に咲秋も吉継も居なかった為か、輝夜がその場に姿を表したのは暫し経ってからであった。身なりを整え、体力を全く消費していなかったとしても重い着物を纏い、顔を隠し、視線を床へと下げたまま座る。周りの者達が下がるのを待って輝夜は少し視線を上げた。

「桔梗……?」

華切が無事である事は聞いていた。そして客人が来ているということも。しかし今回世話を任されたのは輝夜を月の姫として見ていた女中であった為、彼女が自ら言うことも輝夜が問う事もなく、誰が来ているのかまで知らなかったのだ。きょとんとした瞳で哉栄を見詰める。

「桔梗と女郎花はお友達?」

華切と哉栄を交互に見ながらそう尋ねた。先程までの月の姫であった少女は何処へやら。一瞬でそこに座るのは見た目と中身の反する少女輝夜へと戻ってしまっていた。
>珠芽、哉栄、華切、周辺ALL

【彼岸君との合流へ進める為に移動をほぼ1レスで詰め込んでしまいました(汗)もしこの台詞言っておきたい!ややっておきたい!等ありましたらその様に合わせさせて頂きたいと思います!
>倖様
そして、お返事来る前に突っ込んじゃいました(汗)すみません!!もし不備がありましたら後半(門以降)を変更しますのでサブ記事にでも直接伝言板でもご連絡ください!
>某たぬき様、はいせりひと様】

1ヶ月前 No.311

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/城下 薬師寺邸】

薬師寺紫が貼った呪いの文言のしたためられた紙を一瞥すると、夕臙は彼に続いて家の中へ入る。普通の人間の子供にすぎない夕臙には、それを見ても何か妖気や殺気のような物を感じ取る事は無かったが、掛けて貰った言葉の偽薬ゆえか、避難所に逃げ込めたかのような感覚にほっと息を吐いた。
薬師寺に倣い自分も暖を取ろうと思ったが、その前に床の間から薄を出すのを頼まれた為、「わかった、おれは飲めねぇから、茶で良いですよ」と快諾して床の間へ向かう。壺に生けてある薄を、壺ごと注意深く持ち上げる。腰に力を入れ、ふらつかないよう真っ直ぐ抱え上げると、ふわふわと垂れる薄の尾が鼻をくすぐった。
夕臙がくしゃみを堪えるような顔で振り返ると、薬師寺は火に薪を足しながら、晩酌の準備をしている。縁の向こうに見える夜空はいつもより明るくて、浮かぶ黄金の月は温かそうに映った。冷えた部屋に燗つけることで立ち上る湯気が、白菊のように優雅に開いたり閉じたり揺蕩う。
「月見で一杯」と少し元気が戻った調子で言いながら、月光の当たる板敷の縁に薄を置いて戻ってくると、今度こそ薬師寺に倣って足を拭い、暖をとることにした。
「薬師寺さん……」
温かさを噛みしめるように味わいながら言った。外気は寒かったが 、それすら気にならなくなるほど夕臙は身も心も暖まる思いだった。いつもの煩いくらいの元気に比べるとまだまだしおらしくはあるが、それでもいつもの知りたがりの子供に戻って、夕臙は人生の先輩と慕う薬師寺に気になっていた疑問を投げた。
「さっきの、妖は人の思いの塊って、どういう意味ですか? まるで、人間から妖ができたみたいだ……だとしたら、どうして妖は悪い奴なんだ? どうして、あの白い妖の子は悪い奴の筈なのに姫を助けたりしたんだ?」
同じ方向を見て並ぶように腰をおろしていた少年は、大人の顔を見上げる。それは先ほどのような躊躇いの吐露ではなく、純粋な疑問だった。言ってから、先程怒られた件を思い出したように慌てて付け足す。
「……べつに、妖が悪者とは限らないとわかったからって、先生を助ける邪魔になるなら関係なく容赦はしない、ですけど」

>薬師寺紫

1ヶ月前 No.312

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

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28日前 No.313

崎山 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【東雲 彼岸/城下の外れ・石階段】


 屋根の群れを駆け抜けた先、雑木に囲まれた石階段の真下に下り立った。先の狐の気配は、未だない。羽織を直しながら見上げては、遥か最上段からは古木で作られた祠が覗いていた。
 視界は真暗に等しく、雑木のせいで月の光を跳ね返すものすらない。余程の用事でもない限り、人間であれば近付きすらしないはずである。だが、後方の足音は違うらしい。砂利を磨り潰すような足取りが此方へと向かってきている。此処からでも聞き取ることが可能なその会話内容は、下らぬ転覆ものの相談のようであった。視線を後方へと向ける。その正体は笠をかぶった二人組の男であったが、気配からも人間であることは間違いないようである。どちらにせよ、都合が良い。物腰から見るにどうも手練れであるようには見受けられはしないが、その下級の武士が持つには不相応な得物は――既におれのものであった。

 暗闇の中に、腰を落とす。
 二人組といえど、夜目も効かぬ人間を相手に死角を取るのは容易い。闇に溶けるようにして、一人の男へとすれ違うように近付く。一瞬の好機を探っていた。人間の命が簡単に摘めるとて、手にする品に対しては敬意を忘れてはならない。一人の男が、おれの領域へと踏み込む。その瞬間、左手で鯉口を下方へ落とし込むように掴み、男が重心を崩すと共に右手で揺れる角度に合わせながら瞬時に刀を抜き取った。咄嗟に左足を引き、半身になると同時に男の背を逆袈裟で斬り上げる。それから左に反れた男の身体を引き戻すようにして左から右へと真横に斬り伏せた。なんと、容易いことか。口布の奥で嗤う。斬りつけた男が大柄であったと、その地に伏せる音で初めて気が付いた。奥のもう一人の男が、口を湾曲させながら柄に手掛けをする様子が窺えたが、おれを視線で追うことはしなかった。見えていないのだ。峰の窪みに一人目の血を大量に乗せながら、切っ先を二人目の上半身の一点に定める。――が、取り乱した様子の二人目は、手掛けをしたままで視点を左右に振り続けている。じり、とわざと足音を響かせた。視線がおれの方へと固定された瞬間に、間合いを詰め、柄頭に掛けられた男の手を右足で薙ぎ払い、雑木に縫い付けるようにして押し付けた。男の口から、驚きと罵りの言葉が漏れる。どうせ、おれの正体なぞ知らぬくせに。冷えていく高揚と共に、深く考えることなく心の臓を目掛けて一突きした。人間とは、脆い。尾を引く正体不明の名残惜しさを振り切るように、男の胸に足を当て、刀身を引き抜いた。屍の手が、おれに伸びる。この弱さで、どのような野望を抱いたというのか。断ち切るようにして、その場で血振った。

 口布をずらすと、咽返るような鉄のにおいが流れ込んだ。流石に他に感付かれるか。深く息を吸って、意地悪く喉を鳴らして自嘲した。真一文字に沁み込んだ血振りの跡を越えて、下げ緒を引き千切るように男の腰から鞘ごと抜き取っては、鞘へと刀身を納めた。二本目も同様にして、自分の手に収める。質の良い姿形とは裏腹に刀身、鞘ともに傷一つない。所詮は見かけ倒しの道具といったところか。血で汚した方を腰へ帯刀しては、後方を振り返った。狐の、忌々しいにおいがした。


「上がって来い」

 振り返ることなくそう口を開いては、石段を上る。必要となれば、手に余ったもう一本の刀を渡してやるつもりだった。

「戦う術が必要だと言っていたな。……お前の言うその理由を、一つ聞かせてもらおうか」

 最上段まで足を掛けて、振り返る。血に伏せる二人の人間を視界の端に捉え、それから少年へと視線を戻した。おれの能力は示した。次はお前だと言わんばかりに、目尻を細める。この悪党に頭を垂れてまで求める理由に、単純に興味があった。


>珠芽、周辺ALL
【お返事が遅くなり申し訳ございません;;】

11日前 No.314
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