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月姫伝説-月神恋ふる秋の花筐-【かぐや姫異譚】

 ( オリジナルなりきり )
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芙愛【和風恋愛浪漫幻想物語】 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB



今はとて 天の羽衣着る折ぞ
君をあはれと 思ひ知りぬる

【作者不詳『竹取物語』より】







ながつきの風。
深淵たる果てなき静寂の闇。
射干玉に夜を染める黒は、鬼哭の如き風を孕んで啾々と震える。
此の世に生まれ落ちた民草の業罪を責め立てるあの不気味な夜を、幼かった私は母に手を引かれ歩んだ。

ーー「貴方様は明日より後は、宮中にて月の姫様にお仕えするのです。良いですね、貴方も武士の子なのですから、姫様を御守りし立派に御役目を果たすのですよ」

下級武士の夫を亡くした母の手は痩せていたが、とても温かかった。御役目を果たす=A私にはその言葉が母の本心のようには聞こえなかった。私が齢七つの秋のことである。

ーー「ただの……月の姫といえどただの子供にございます。母上、私はそんな年端もいかぬ、それもおなごの従者になど、なりとう御座いません。私は、父上の代わりに母上を守りたいのに……」

月の姫。
姫などとは名ばかりで、それは己と同じ年頃の少女の身体を用いて造り上げられ祀り上げられた、人間の形をした呪具であり食糧であると聞く。
月の国より舞い降りし異邦者を、囲えば豊宇気毘売神の如くその者は栄え、その死肉を食えばその者は女神の奇跡を得られるという。それは果たして誠か嘘か。
真偽は見定められぬまま、愚かなる民は虚構の上に躍る。都人達は彼女を月の姫君と崇め奉り、もてなし、取り入ろうとし、囲い守る一方で、誰もが彼女を味見して奇跡を手に入れてみたいと睥睨している。
異郷の地よりやってきたという、出自すらも憶えていない少女。都の殿上人達が囲う玩具の人形。憐れとは思うが、武士に生まれながらも下級であるが故に、そのような得体の知れぬ娯楽人形の護衛を一生の務めと割り当てられた此の身にだって天は憐憫をくれたっていい。

道端に座り込んだ私の足元が、急に明るくなった。
幼い我儘に泣き濡れて霞んだ視界に、一面の藤色が照らし出される。ぼんやりと視界を覆うその淡紫が藤袴の群生と気付くまでに数秒を要した。叢雲が切れて月影が射したのだろう。私は、それまで気付きもしないでいた。母と二人、最後の夜にかくも麗しき場所を訪れていたのだということに。
見上げれば幽かな光を纏う遥かなる幻月。
秋の真宵を惑う孤独な月。
蹲る足元に、ポツリポツリと水の斑点が染みを作る。
私の涙ではない。
朧な雲の陰間に独り凍える月の涙だ。


ーー「……あまり月を見つめてはなりませぬ。それに…………」

母は雨除けの笠を私に被せながら苦い顔をする。私は皆まで言うなと途中で制した。

ーー「いえ。わかっております、母上。私はもう泣きませぬ。ただ少しばかり、淋しいのでございます。きっと、月の姫君と同じように」

母は安堵したような、切なげな面持ちで一つ頷き、それ以上何も言わなかった。
寒いのか、お前も淋しいのか、それとも不遜な従者の態度に傷ついたのか。と、幼き従者は掌を月へと翳した。「ごめんな」





月を見つめると狂気に憑かれる、とは、誰が言い出したのだろう。
ながつきの風。
焼けた原に、あの日母と見た藤袴の花織物はもう無い。
ただ、あの夜と同じ月だけが、儚い記憶を照らし続けている。
墨染の風の中、雲居の切れ間から、ちぎれちぎれに。

私は、幼き頃より仕え続けた主人の前に立ち尽くしていた。頭一つ小さな影は私を見上げたまま、穏やかに笑っている。
美しい、と思った。
闇夜の中に、浮かび上がる白の薄衣。紗を透かして尚も淡く光を放つ、しなやかな痩躯に真珠の肌。夢幻に見るような仄明き煌めきを纏う少女。私の主君。輝夜の月の姫。如何して私はこれまで彼女が異世界の者であるということを忘れていたのだろう。

「ーーーー」

自分が何者なのかも、何に巻き込まれているのかも、何処に行くのかも知らぬ異郷の少女。だが、其れでも良かった。
二人で逃げよう、と、主を貴族の元から連れ出した私がいけなかった。月下に降り立った一輪の花は柔らかに匂い立つ魔性を流露する。私は成す術なく取り憑かれ、正気に戻った時にはもう、彼女という存在は忽ちに遠ざかる。
なんの素性も知れぬ姫君でも、其れで良かったのに。月光という伝説の羽衣は、私が誰より良く知っていた少女の、最後の人間らしさを覆い隠す。

一度切っ先を向けてしまった時点で、思い直そうとも彼女はモノ≠ノなってしまった。
権力争いの道具に。
愚者の矮小な願いを叶える咒に。
罪人達の好奇心を嗜好を満たす精肉に。
愛する従者の前でさえモノ≠ヨと変貌してしまった。弱き私の迷いと裏切りが変貌させてしまった。感情の消え去った天女の、死人の如き虚ろな目が、その事実を示している。
私の握りしめた銀色の刃は、劍星の煌めきを宿した儘行き場を失って。

穏やかな笑みの中の、絶望。
嗚呼、今宵は満月だ。

「月へと、帰るのか」

月の姫はそれには答えず、行き場をなくして中空に漂っていた剣先へと自ら飛び込んだ。手を退くより速く、皮膚を裂き肉を断つ感覚が痺れるように伝播する。戦慄く私を抱きしめるように、刃を胸郭に深く飲み込みながら身を寄せてくる。
声にならない叫びを上げる私の耳元で、彼女は囁いた。
「私を食べてください」と。そう確かに。


壊れた絡繰人形のように倒れ伏した聖女の亡骸を、私はしばらく茫然と見つめていたが、やがてそっと抱え上げた。透き通る白妙の羽衣は、既に見る影も無く蘇芳に染まり、ずしりと重みを帯びている。
……月の国より舞い降りし異邦者を、囲えば豊宇気毘売神の如くその者は栄え、その死肉を食えばその者は女神の奇跡を得られるという。……
私は笑った。声が枯れるまで、咽び泣くように笑った。
奇跡とは何だ。長者か、天下か、不老不死か。そんなものは要らぬ。俺はただ、ただの男として彼女の事が欲しかったのに。そんな奇跡なんていう欲望の為に、月の姫君なんて馬鹿げた肩書きのために、彼女は苦しんで死んでしまった。彼女を守る筈の、此の刃に倒れて。
「奇跡なんて」
ありもしないくせに。妖でも不死でもなんでもない、ただの清らかで無垢な少女ではないか。
秋風が啾啾と哭く。
狂気の月光が、珠のような屍者の肌を、撫で回す。

ーー女神の奇跡とやらよ。
本当だというのなら、見せてみろ。

深々と刺さった刃を引き抜くと、風穴を穿ったその胸に顔を埋めるようにして剥き出しの肉に歯を立てて啜り喰らった。

ーーさあ叶えてみせろ。俺の願いを。

「…………助けてくれ…………」

時を遡り、私の主君を助けてくれ。私の弱さの所為でこんな哀しい終焉を二度と迎えることが無いように。

墨色の夜に水音だけが木霊する。
雨など降っていないのに、ピチャピチャと。其れは、ある罪深き人間の男が愛の骸となりし天女を食らう音。

時を遡る奇跡よ。
「ーーーー助けてくれ」

秋風は血生臭く、月光はさやかに。
あの夜の藤袴は枯れ果てて。
長き夜は、おそろしき闇に何処までも沈んでゆく。






時は、止まり、還り、廻る。
あの夜と同じ、長月を待つ或る秋の夜。
従者の願いは叶えられ、月の姫は宮中に坐していた。物心のつきし時より其処から歩み一つも出ること無く。
人形のように……否、いずれ誰かの手に渡り食される家畜のように、囲われていた。
強欲で哀れで愚かな地上の民は、何度でもきっと繰り返す。不二の妙薬……月の民の屍肉を食べた物が与えられる時空跳躍能力≠巡って。
従者は姫を伴い、今度こそ彼女を失わないようにと逃げようとするが、それも無駄な事。殿上人だけではなく宮中の武士や官僚、城下の民、商人、職人、難民、盗賊、逆賊、異形の者に至るまで、月姫伝説を知らぬ者は居ないのだから。









【クリック感謝いたします。当スレの主をさせていただきます芙愛と申します。

当スレは日本最古の物語・かぐや姫をモチーフとしたオリジナル和風ファンタジーです。

冒頭の武士が月の姫の屍肉を喰らい時空跳躍を起こし、一か月前に時を遡ったところからこのスレは始まります。要約すると、権力者の欲望によって宮中に囲われていたかぐや姫が護衛の従者と共に抜けだします。そこで出会う人々が、かぐや姫に惚れているなり 彼女を殺し食べることによって得られるある能力を必要とする各々の事情理由があるなり あるいはその両方の理由によって彼女を巡る争奪戦を繰り広げる和風ロマンスファンタジーです。人間関係の糸は複雑に絡み合い、縺れ合い、恋愛だけではない新たな展開と青年達の成長を物語として織り成していきます。
恋愛ももちろんいいんだけど争奪戦を通して取り合ってた男同士に絆的な何かが生まれる話がいいなぁ。

興味を持っていただければ幸いです。
皆様とのご縁と楽しい交流を心よりお待ち申し上げます。】

2年前 No.0
メモ2016/08/21 23:32 : 芙愛 @fue★iPhone-uYwUDyqtCB

一度は止まったこのスレですが、参加者様のお陰で再興頑張ってます! 現在復帰歓迎中です! 入り方わからない場合はサブ記事かSNSにてスレ主までお問い合わせください(^^)


ザ・まとめ!

http://mb2.jp/_subnro/15066.html-294#a


現在進行中!現在、八月十五日 午の刻

《八月十五日》

http://mb2.jp/_subnro/15066.html-292#a


月姫伝説再興・完結スケジュール

http://mb2.jp/_subnro/15066.html-270#a

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語り @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【★】

葉月十五夜


城下町、洛西路地。戌の刻。
一等はじめに闇夜を切り裂いた断末魔は、露店に炙り餅を売っていた豆腐屋の主人のものであった。身重の妻と、二人の子供と共に暮らす小ぢんまりとした邸は、絲祈達の一党が会合をしていた屋敷からほんの幾つかの小径を東へ入った場所に建っていた。左様の事情は露程も知らず、男は城下街の中心から西へと家路を急いでいた。女房がこんがりと焼き上げ子供達が香ばしいタレを絡めて売っている露店の炙り餅は、想像以上の売れ行きで、店に並んでいる分は底を尽きてしまった。まさかこんなに売れるとは思っておらず、残りの材料は自宅兼見世の中だ。正直なところ、普段店で出している自慢の豆腐料理よりも余程うけがいい。妻と子を祭りの最中の露店に待たせ、街の喧騒に背を向け洛西の家へと向かっていた彼は、見てしまった。提灯の薄紅群れから遠ざかり、仄暗く寂れた洛西の小径。今宵は近隣の人も祭りへと出払って一層人の気配がない。未だ中秋の夜でありながら、底冷えするような淋しさと不気味さが辺りに漂っていた。
「参ったな」
男は天を仰ぐ。唯一の頼りであった望月の光に、さっと雲がかかり視界を奪う。同じ都とは思えぬ恐ろしい気配が夜霧と共に辺りに立ち込める。自宅までの僅かな距離にさえ竦み躊躇っていると、向こうから朧げな灯りが近づいてくる。ゆらり、ゆらり、と揺らめきながら、時折ちりんと鈴の音。次いで牛車の軋む音、やがて話し声。
心強い、と彼は思った。貴族の御方か豪商の誰かかは判別できないが、なかなかの大所帯で、ちょっとした行列だ。あの行列が差し掛かっている明るいうちに家に帰ろう……そう考えて、豆腐屋は西方から東へ入ってくる行列に駆け寄る。一つめの灯りが顔の横を過ぎる。行灯を持った先頭の従者を視認しようとしてそっと左を見る。そして仰天した。 闇夜にぼうと浮かぶ灯りは、持ち主も無く中空を漂う、ふらり火だったのである。息を飲んで男は、隣の家の垣に背を押し付けた。ぶるぶると震えながら、ふらり火の後方に続く行列を確認して、頭の中が真っ白になる。
目と鼻の先を征くのは、魑魅魍魎、百鬼夜行の群れであった。
明らかに人ではない、異形のもの達が、その姿を隠そうともせず都の通りを闊歩している。あるものは血走った目を爛々と光らせ、あるものは涎を垂らし、あるものは呪いの言葉を吐きながら。あるものは醜い皮膚を引き摺り、あるものは空を飛び、あるものは己の背丈ほどはあろうかという長い脚を繰りながら。恐ろしいなどという言葉では言い表せない。彼は叫びたい口を無理矢理手のひらで抑え、垣根と一体化して息を殺した。見つかれば殺されると、直感した。
とっくの昔に淘汰された筈の妖が、何故……これは悪夢だ。悪夢に違いない。悍ましいその姿をこれ以上見ていては、いつか声を上げるか泣き出してしまう。そう思い、目を閉じた。妖共の足音、何かを引き摺る音、息遣い、怨み言、羽音、地響きのような声。頬に生温かく獣臭い息がかかる。冷や汗が伝うのを我慢し身を固くしていると、すんすんと鼻を鳴らす音ともに気配が離れる。
「…………」
熱感が、我が物顔で練り歩く足音が、悍ましい悪夢が離れて行く。
豆腐屋は空を仰ぎ、ほっと息をついてから目を開けた。雲は切れ切れに、月影を裂いている。行ったか、と思うや否や、彼は膝からその場にへなへなと崩れた。静かになった道端に座り込むと、鼻先三寸ばかり先に、達磨柄の布地が揺れている。はっとして顔を上げれば、其処に子供が立っているではないか。達磨柄の着物に、竹の笠、丸々とした白い顔の、次男坊と同じぐらいの歳の子供。手には丸盆を持ち、豆腐を乗せてにこにこと笑っている。こんなところに、子供が居るはずがない。百鬼夜行の中にいた一体だけが、息を殺している此方に気付き、その無邪気な笑顔を貼り付けたまま、ずっと残ってこちらを見ていたに違いない。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
その考えに思い至った豆腐屋の主人は、堪らずに叫び、尻餅をついたまま腕を振り回し妖怪豆腐小僧の手から豆腐を叩き落とした。折しも月灯りが落ち、さぁっと辺りが暗くなる。豆腐小僧の顔に竹笠の陰翳が掛かり、目鼻が真っ黒に塗りつぶされる。しまった、と思ったがもう遅い。通りの遥か東に後姿だけを見せていた魑魅魍魎の群れが立ち止まり、男の悲鳴を聞き付けて一斉に振り返る。黒い霧の向こう、幾十幾百の赤い眼差しが、こちらを睨み、すーっと滑るように逆走してくる。
「頼む、助……うあ゛ああああああああああ!」

かくして祭の都の片隅で、闇を劈く最初の悲鳴が上がったのだった。
崩れた豆腐の上から、血染めの脳漿が砂にまみれて路上で混ざり合っている。




【はいっ、『妖の逆襲・前観月をジャック編』本格スタートです! お待たせしました。基本的に今までの絡みをそのまま続けてていただければ、私がモブ妖を派遣して干渉し邪魔しにかかります。もしくは、投下したモブ妖の騒ぎを聞きつけて自ら出てきて新絡み開始でも構いません。また、モブ妖はテイクフリーなので、御自由に動かしたり喋らせたり確定ロルしたり斬りつけたり倒したりして構いません! モブの数が減ってくれないと一人多役のスレ主も大変だったりするから(←)】

4ヶ月前 No.328

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

『薬師寺邸/薬師寺紫、思葉』

やれやれと二人の声が重なる。二人の目がオヤと合わさると立ち上がり同じように並んだ。

「聞いたか?薬師寺」

彼が問うと、反対側のあやかしも聞いたぞ薬師寺と応える。

「なんとも健気でかわいいモノだなあ。食ってしまいたくなる」

物騒な言葉を投げて凄みのある笑みを浮かべれば、生来の野次馬根性から家の中の店側に向かい、傷薬やら痛み止めの丸薬等を「お祭り価格」で販売しようと箱に詰めていく。
それを縁で酒を傾けながら見る思葉は、徐に夕臙へと話しかける。

「あんた、子供のクセにいい根性してるよ。あいつに食われないようにせいぜい気を付けな」

赤貝の煮付けをゴッソリ食い尽くし、銚子から直に酒を飲み干すと徳利に手を伸ばし薬師寺に声をかけ準備を待つ。

「早くしなよ!魑魅魍魎は待ってはくれないよ!」

奥から分かってらと張りのある声が飛んでくる。

「人は良い奴なのかイ?妖怪が悪い奴で?それは違うさ。大きく違う。だからこそ私たちは生まれた。人の噂も七十五日、経った言葉はどうなるか分かるかい?独り言ってのが本人が忘れたらどうなるか分かるかい?初恋破れた思い、片想いが何時の間にか忘れて居たりするあんなに燃え盛る想いだったのに?私はそんなものから生まれた。古くて新しい、古今東西の想いの塊。」

それが私さと、見せた思葉の顔はのっぺらぼうなのに、様々な感情を中に詰めた表情?が見えないのに見えると言う不思議なものだった。

「余程気に入ったか?その顔を見せるとは。だが、そいつはあの光宮の爺んとこの弥栄のもんだ、攫うのは難しかろうよ」

準備の終わった薬師寺が戻って思葉の顔を見てカラカラと笑う。

「アンタがこの子の問いに答えないから答えたまでさ。」

何の気も無い。とやり返した時の思葉の顔はむくれた顔の薬師寺になっていた。二人がどちらからともなく懐から鉄煙管、いぶし銀に装飾の入った長い煙管にタバコを詰め夕臙に向ける。

「火ぃ、着けてくれ」

子供の前で吸わない二人が、夕臙をここからは子供として扱わないと暗に決めた瞬間だった。

4ヶ月前 No.329

夜(皇出母) @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE

【夜(皇出母)/城下・都の外れにある屋敷】


 強く、熱く、暗く、重い想い。友愛、親愛、忠誠、恩。多くの絆によって押し込められ、必死に覆い隠されていた吉継の恋慕の念がはらりはらりと解けていくのが夜にははっきり見えているようで。代わりに吉継に絡み付いていくのは、信念も思慮も心すらも曇らせて、欲望の抑制を断ち切る歪な刃。それは、煌めく夜空の月を覆い隠す黒雲、魂を喰らう天魔の牙。
 全てをかなぐり捨ててでもたった一つの願望を叶えようとする吉継に、被衣(かつぎ)に隠れて見えないままの夜の唇がくうっと三日月のように薄く吊り上がる。あまりにも底の見えぬ笑みは、どんな意味を孕んでいるかも容易には読み取れぬだろう。麝香の香りをも、その存在を曖昧にする。

「存じておりますとも、吉継様が余を探し、都を彷徨っていた事は。貴方様の決意と覚悟、確かに余に届きましたわ、――――余も昔、遥か古に、添い遂げたいと願い望んだ御方と別れざるおえない運命(さだめ)に翻弄された事があるのです。だからこそ、種族の垣根を超えて余は貴方様にお力添えをと思えたのです」

 甘く濁った禍々しき妖気に満ち溢れた庭で、異形達には聞こえない程の囁く声で、夜は吉継に語り掛ける。途中からは更に声を潜めて、羽音を揺らす虫の鳴く音のごとき微かなその音はある意味驚愕の事実を告げる。それが真実か偽りか、今、数えきれない程の妖に囲まれた吉継に正常な判断が出来るだろうか。

 吉継にとって、今、眼前に広がる異様な光景はまさに地獄絵図にしか見えなかっただろう。広い庭を覆い尽くす異形の群れ、群れ、群れ、それはまさに魔の軍勢。約二百年前に人間の戦(いくさ)に敗れ、今や蔑まれ追い詰められるだけの哀れな人外。そんな異形の大群のぬらぬら、ぎらぎら血に濡れたような紅い眼の全てが吉継達の方へ向けられるその様は、普通の人間であれば震え上がるどころか恐怖のあまり発狂してしまう事だろう。
 屋敷に集いし異形は、迫害された異形達の統率者にして人間世界への反逆者として暗躍していた裏見葛葉が、長い年月を掛けてから洛外から都に呼び戻していた者達だ。葛葉が志半ばで都を去った後、夜が巡らした幾つもの策略により次の統率者となった絲祈は高位の貴族から乗っ取ったこの屋敷に異形達を集結させ、虎視眈々とこの観月の祭りの夜を待ち続けていたのだ。聖なる月さえも血煙で朱に染まる、血祭りの夜を。

 そして夜は見上げる、今や異形達の王として君臨する大妖、絲祈の悍ましくも雄々しき姿を。人間からすれば彼の容姿は化け物そのものだろう、しかし夜から見ればこの世で最も凛々しく、素晴らしく悪辣として、信用に足りる無二の存在なのだ。誰も絲祈と夜の真の関係を知らない。だからこそ夜は膝を折る様に深く一礼し、支配者たる絲祈へ敬意を示す。
 敬意を示す、ふりをする。

「絲祈殿、慈悲深き貴方様のお心に感謝致しますわ」

 そして、待つ。絲祈の次の言葉を、緩く首を傾げたまま、密やかに待つ。地獄の業火が天をも燻る、復讐開始を告げる狼煙を。
 そして聞こえてきたのは、これ以上ない程完璧で、惚れ惚れする程の悪意と殺意を撒き散らす開戦宣言。誰も知らないだろう、蜘蛛と守宮以外、誰もこの戦が傀儡どもの馬鹿騒ぎでしかない事を、今はまだ。
 解き放たれた好戦的な異形の軍全は放たれた矢のごとく、弾かれたように都へと放たれていく。中央を目指し、中心へと押し寄せ、生命の穂を根こそぎ刈る取る為に。もうすぐ天の高みにまで響く事だろう、最初の犠牲者の劈く悲鳴が。それを発端に阿鼻叫喚の地獄が始まる。それは二百年前の再来だ、あの日あの時あの瞬間、異形が舐めた苦渋と屈辱、その死よりも苦く生より残酷な終わりの始まりなのだ。
 未だ隠されたままの夜の唇が、先程までとは比べ物にならぬ程に吊り上がると共に、その花びらのような唇も耳まで裂けて邪に歪み嗤う。

「…………吉継様、流石で御座います。最早貴方様は冥府魔道に導かれし、深き業と愛の体現者。今、都に放たれたあの者どもを、貴方様は微動だにせず見送った。民の命よりも、帝の命運よりも、都の行く末よりも、貴方様は正しき選択を成された。それでこそ余が見込んだ御方、その恋慕の深き深淵こそが、貴方様と月の姫君を新たなる世界、天上のぱらいそへと貴方様方を昇華させるのです……故にこれが一つ目の願い、それはすでに今、叶えられた」

 全てを受け入れ従う証として地に堕ちた刀と、美しい鳶色の右目と枯れ草色の左目。それらを被衣の中から愛でるがごとく見据えながら、夜は滔々と謎めいた言葉を口にしていく。そして絲祈が吉継を奥座敷へと促す言葉を耳にすると、自分も絲祈の後を追って縁側から上がり、奥座敷へと向かう前に吉継に軽く頷いてみせる。親愛を込めて、誘惑する。
 静々と歩み始めたその足は、足音どころか気配すら放ちはしなかった。

 絲祈が彼の特異な能力により操作する、哀れな屍の女中達が奥座敷を去ると、その場はしんと静まり返る。女中の一人が灯した蝋燭の火がゆらゆらと揺れるが、その明るさは奥座敷に差し込む眩い月光には到底敵わない。その輝きにすら照らし出せぬ闇を背負って、夜は吉継の隣にちょこんと座り、彼と絲祈のやり取りを黙ったまま見ていた。絲祈以外には見えぬだろう、仄暗い微笑を影の奥底で浮かべたままで。
 絲祈の、羽虫の羽音が重なるような奇妙な声が吉継に告げるは、彼に人である事を捨てよと言っているかのような冷酷な要求である。しかしそれを聞いても顔色一つ変えず――心は小さな音を立ててぱきりぱきりと、少しずつ凍り付いているのかもしれないけれど――それどころか異形の王たる絲祈にすら圧力を掛けるような凄まじい殺気を放出した吉継を、夜は最早見る事もしなかった。

 彼女にはすでにわかっていたのだ、この後の吉継の選択も、絲祈の答えも。何せ、最早数える事すら面倒な程、夜は明けて暮れて繰り返してきたのだから。


 予定調和のままに、最初の悲鳴が三千世界に木霊した。


「……では、代償については、余から述べさせて頂きましょう……その前に。吉継様……、いいえ、吉継。ご覧召されよ、よもやわたくしの顔を見忘れたとは言わせませんよ」

 ふいに、夜が二人の会話に口を挟んだ。緩い仕草で立ち上がると、夜は絲祈と吉継の間に入り、軽く身を屈めて座っている吉継に目線を合わせる。それと共に、夜の口調が変わった、いいやその声さえも甘く幼く何処か高慢そうな少女のものへと変化したではないか。両手を被衣に添えると、夜はそのまま衣を畳の上へと落とす。嗚呼、その顔。驚くべき事に其処に居たのは、天照す都の最上位に君臨し、太陽のごとくその全てを導く帝の孫娘、内親王皇である皇出母であった。

「これで分かったかえ、吉継よ。わたくしは『余の』世を忍ぶ仮の姿、すでにわたくしの手引きにて、宮中にさえも人に化けた妖が幾人も紛れこんでいるという事が。これより常闇の血族は、人間達から受けた数百年にも及ぶ虐殺と抑圧の歴史に反旗を翻す。時代も運命も未来も、何もかもが今この時より覆るのよ。歯を食い縛り血の涙を流した耐え難き恥辱も、虐げられ見下され踏み躙られた罪無き命も、泣いて命乞いをして尚奪われた赤子の無垢な魂も、――全て倍に、倍の倍に、その倍に、更に倍に、其処に利子を加えて人間にお返しするわね……だから今度は貴方達が味わって、涙と血と死を。それが血族の宿願であり悲願、抗う事など叶わぬ人間の宿命にして悲劇なのだわ、当然にして必然の」

 異様に整った表情を崩さぬまま、声も荒げず滔々と、高貴なる美しき皮を被った災厄の妖魔は淡々と言葉を紡いでいく。それは二百年にも渡って倒れる程に積み重なった怨念と憤怒と悲壮が、音として形を持たないまま刃となる呪詛だ。肉体ではなく精神をずたずたに切り裂く、この世で最も恐るべき猛毒そのものである。

「…………ふふ、所詮は猿真似ですわね、茶番はこの辺りで仕舞いに致しましょう。吉継様、余が述べた事は迫害され続けた妖達の心の代弁なのです。貴方様方人間とて同じでしょう、もしも立場が違って、貴方様方が妖と同じ家畜以下の扱いを受ければ皆こうなるのでは? 生命とは踏まれ唾を吐き付けられて潰れる為だけに生まれたのではない筈です、しかし貴方様方はそれを妖に敷いた。ですから最早彼らは止まる事など出来ない、二百年ずっと振り上げ続けた拳はもう限界なのです、振り下ろして叩き壊す以外に方法を知らない。故に絲祈殿と余はそれを解放するしかなかった、暴発寸前した濁流をせき止めておく事など到底不可能だったからです……どうか、我等二人をお許し下さいませね」

 再び夜が言葉遣いと声を変えて、笑みを含むような妖しき音で吉継を惑わす。不気味なまでに穏やかな薄笑みを浮かべた出母、いいや夜は、歌うように弾んだ声で異形達の心の叫びをつらつらと言葉にしていった。そして最後に、さも申し訳なさそうに眉間に皺を寄せてみせると、胸に両手を当てて深々と頭を下げてみせた。

「吉継様にお願いしたい事は、簡単なものです。妖の軍勢は外側と内側から都を攻め、攻めて攻めて攻め落とします。それに協力して頂きたいのですわ、本当に簡単な事なのです……」

 再び上げたその顔は、咲き誇る花のように無邪気な、だからこそこれ以上ないほど残酷な微笑に彩られていた訳だが。



「吉継様、――――今より貴方様は宮中に戻り、護衛すると見せかけて帝を、そして華切様を、更に咲秋様を斬って捨てて下さいませ。その障壁となるかつてのお仲間も、邪魔をするかもしれない宮中に住まう老いも若きも男も女も、当然その刀の錆に変えて頂けますね」



 まるで幼子におつかいでも頼むかのような気安さで、夜はこの世のものとは思えぬ邪知暴虐を口にした。あまりに自然で、聞き流してしまいそうな底抜けの明るさで。

「宮中で真の武人として名高く、信頼の厚い吉継様だからこそ出来る、ごくごく簡単な任で御座いましょう? 先程申されましたものね、覚悟ならばあると。代償は何だ、と」

 優しげな声色なのに、異論も反論も受け付けぬとでも言いたげにぴしゃりと、笑みを浮かべた菩薩の彫像のように両手を合わせて冒涜的に告げると、夜はくるりと後ろを振り返り、外見そのままの少女そのものの笑顔で絲祈を見上げた。

「嗚呼、いけない。大変失礼致しました、余が出しゃばるべきではありませんでしたわね、絲祈殿……ところで余が吉継様にお伝えするのを忘れてしまっていること、他に何か御座いましたか?」

 にこり、と、あまりに無邪気に。

 神も仏も、何故この邪悪を生かしているのか。それを知るものは恐らく、天の座を永く不在のままにしているのだろう。


>>吉継、絲祈


【またお返事をお待たせしてしまいました、ごめんなさい……! それから気を遣わせてしまって申し訳ありませんでした! 絲祈本体様と話し合わせて頂き、このような流れにさせて頂きました、事後報告になってしまいますが何かありましたらどうぞ遠慮なさらず仰って下さい】

4ヶ月前 No.330

東雲 彼岸 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【東雲 彼岸/城下の外れ・石階段】

 怒りに身を任せようと奮い立たせる姿は、ひどく不快なものに映った。――まるで、何処かの誰かの幼少期を見ているようだ。理由がなくば刀を握れぬのなら、尚更その方法は当人が望む成長をもたらしてはくれない。おれは誰よりもそれを心得ているつもりではあるが、それを完全に正すことが可能なのは他人からの忠告ではなく己の経験だ。口を結んで、すうと目を閉じる。子狐の歩幅に大きな変化はない。このままいけば三歩でおれの懐へと入り込むことができる距離感。
 じゃり、と爪先に力の入る摩擦音がこだまする。風の音が一瞬のみ震える。――目を、薄っすらと開いた。

「――そう、ちょうど今のお前のように、荒ぶる気質の中で一太刀目を譲られれば……このように相手に簡単に気取られることになる」

 手にした刀を鞘の上へ平行に乗せるようにして、後足を半身になるように擦るように引く。ちょうど、刀身と鞘の真横へ子狐の振り下ろした短刀を迎えるように。振り下ろしで重心が短刀に引きずり込まれているその小さな背中へと、軽く真一文字に峰を当てるように薙ぎ払った。

「恐怖を殺せ、心を殺せ。剣技など所詮は無言の騙し合いだ。技量なぞ二の次に過ぎん。相手より自分を大きく見せられた者が勝つ。――いいか、対峙した時はいつもこう思え。目の前の誰よりも己が強い、と」

 それを単なる自惚れではなく確実な根拠として心に根を張らせるものは、この子狐の歩む先にある。ただ今は、すべてを伝授する時間もなければ、それ以上を教える義理も持ち合わせていない。取引分の役目を果たすまで。

「お前が一番理解しているだろうが、刀を交える時は相手から先に打ち込んでくるように仕向けろ。その一太刀はお前の糧になる。まっすぐ見据え、相手の全体に目を向けて癖を見抜け。幸いお前も五感は人間よりも遥かに優れている。風の音、足の踏み込む位置、捌き方……そのすべてに勝機がある。後は相手の呼吸を聞け。相手が疲労を見せた時点で己の鼓動に焦りがなければ、地に伏せる相手は決まっている」

 暗闇の中、投げかけるように言葉を発しながら、ゆっくりと左右に刀身を振りかけていく。刀の動きを目で追い易いように、風のうねりが鼓膜へ届くように、足運びに予測がし易いように。真面に正面からぶつかろうとするなとは、先に教えた。対峙する恐怖さえ手懐けてしまえば、やがてこの子狐に備わるであろう力に不足はない。

「……どうだ、刀身の動きには慣れたか?」

 短く息を吐きながら、刀を肩へ担いだ。それから、思い出したように懐から竹水筒を取り出し子狐の方へと放る。こんなところで根を上げられては困る。他にももう一つ、教えなければいけない技があるというのに。


>珠芽、ALL

4ヶ月前 No.331

語り(モブ) @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ妖)鵺/都の上空→洛西】

第一の被害者の絶叫によって惨劇が人知れず幕を開けた、その直後のことである。
西の屋敷より我先にと溢れ出した百鬼夜行の群れとは別に、宙へと、飛び立つ花火の如く昇る幾筋かの光があった。
「……くくく、此の時を待ちわびたぞ……蜘蛛殿」
天高く昇った光は瞬きながらそう言うと、弾けて巨大な獣の形を為した。虎を大きくしたような概形だが、獅子とも猿とも狸ともつかぬ部品が入り混じる。背には暗雲を思わせる大きな虎鶫(とらつぐみ)の翼。継ぎ接ぎだらけで組み立てられた人工物のように、この奇怪な獣の瞳は石榴の紅にも月影の青にも色を変え乍ら点滅した。あの屋敷に集っていた妖の一人、鵺(ぬえ)である。
遥か眼下に広がる花の都に目を細める。碁盤の目の条坊を小癪な灯りが照らし、人間どもは己が分際も弁えず笑いあっている。自分達の上に垂れ込める怨みの暗雲にも、立つ地の下に流れる呪いの気脈にも、差し迫る天変地異にすら気付こうともせず。人間が妖にしてきた事も忘れて。屋敷から地上を伝い攻め入った同胞達が、一の条から隊列を扇状に広げ四散していくのが見えた。
「何が、祭だ。愚かしきこと」
鵺が笑う。滅びゆく人の都に打ち掛かる夜の帳ごと震わせる聲。喉から洩れるそれは人の笑い声とは似ても似つかない、ヒョォヒョォと谺する悲しげな不吉の鳴声となって鳴り渡った。

空が黒に塗りつぶされる。望月が朧から軈て暗雲に沈む。垂れ込めていく闇、人々の掲げる祭の火は天つ真闇の前では余りにも小さい。浮世の熱に眩んでいた小さき者達は、はたと気付いたように一斉に空を振り仰ぐ。夜を満たし煌々と照らしていた月光が、貴族の手にした権力の象徴とも言うべき満月が、不吉の雲に覆い隠されていた。
怪鳥の鳴声が、劫罰の刻を告げ知らす。
風が震え、脈打つように騒ぎ出す。

「鵺の鳴声だ」「まさか」「鵺じゃ!」「不吉な」「なんと」「 鵺だ!」

鵺が嗤う。
轟音と共に、人々の目の前で空が裂けた。
漆色の闇に突如として閃いた霆(いかづち)が、爆音を伴い西の塔へと一直線に突き刺さる。
羅城門の傍に東西一対で建てられた絢爛豪華な五重塔、其の片割れが落雷を浴びて心柱から内部膨張をし破裂する。三十間(約55m)はあろうかという巨木の柱が真っ二つに裂け、西の塔は瞬時に天をも焦がす火柱へと変わった。
「今更……もう戻る事など叶わぬというのに」
今更のように怖れを思い出す愚の民を嘲笑い、鵺は黒雲を引き連れて洛西の上空を北へ向かって駆けた。何処か憂いを帯びた物悲しい鳴声が響く度、神鳴りが空を叩き壊し、荒魂が人も木も家屋をも貫いた。

>城下all(イベント用レスです。稲光雷鳴は遠くからでも見えると思います。城下町破壊担当の鵺自体は御希望のところに御希望のタイミングで絡み(襲い)に参ります!)

4ヶ月前 No.332

語り(モブ) @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ妖)八岐大蛇/都の上空→洛東→宮中東】

屋敷から飛び出した光の一つは、流星のように都の上空を横切ると、そのまま洛東を流れる川へと飛び込んだ。
握り拳ほどの小さな光を飲み込むと、川は瑠璃の蒼に輝き出す。漆色の闇にぼうと浮かび上がる夢幻の蒼は、美しさを通り越していっそ妖しい。水面が揺蕩う度に、底に秘めたる天の河の如き鉱石の煌めきが星屑のように瞬いた。ころころとせせらぐ都人の命の水は、神鳴る空の下で今再びの生を受ける。
瑠璃に玻璃に薄縹に紫紺に紺碧に、襲の色目のようにその表情を変えながら、玉水が凝集し盛り上がっていく。鼓動の律でその身に映した星が瞬くと、傍らの鳥達が不穏を感じて一斉に飛び去った。
雷鳴に空が白み穢土の罪を晒せば、其処に澱む汚泥を押し流さむと大河の精が目を醒ます。
「絲祈……其方の言葉、聞き入れたぞ。われらも、この断罪の時を心待ちにした」
軈て紺碧の水の塊は、銀河の煌めきを内包したまま、巨木のような八つの首を擡(もた)げ扇のように広がる。
貴人の領域を囲う城壁の高さなど優に超える魁偉なるハつ首の大蛇。
「ふん……鵺よ、貴様には何処が都の要であるか見当も付いておらぬようだな」
都に眠る河の化身・八岐大蛇は、人間達が「宮中」と呼ぶ砦の城壁の上から巨大な頭を八つ並べる。本体は巽の方に、八つの頭を卯の方角から午の方角にかけて扇状に広げて、宮の内を覗き込んだ。

宮中・左京院邸よりしばらく東入り南に下ったところに邸を構えていた貴族・綾小路家の人々がはじめに異変に気がついた。宮中でも巽の端の方に位置していた綾小路邸の庭園から満月を愛でていた彼等であったが、月が翳り始めると興も冷めてきて、漫然と続く宴に酔いと眠気も回ってきた頃のことである。月の消えた空をぼんやりと眺めていると、城壁の彼方に稲光が走り、次いで激しい落雷の音が聞こえた。落雷は遠く離れた城下の南西の外れのほうであったが、これは一雨来るやもしれぬと少し早めに宴を片付ける事にした。
水の音が聞こえる。それも、いつも聞こえる優しげなせせらぎの音ではない。氾濫した河のような、荒ぶる轟々とした音だ。もう嵐が来たのかと再び天を仰いで、邸の者達は絶句した。
この貴族達の安寧を護る、城壁の上に、巨大な蛇の頭が生えているのである。蛇は夜空を映す川のように黒く透き通り、内には銀に煌る光の礫が漂っている。鎌首を擡げた高さは三十尺(約10m)ばかり。頭の形こそは蛇だが、どちらかといえばこれは龍だ。それも、頭は一つではない。此方を見ている頭は二つ、その他に、城壁に沿って一定間隔に赤い目の光る大蛇の頭が並んでおり、全部で八つの蛇に居城ごと囲まれた形になる。
綾小路家の者達は皆一様に間抜け面でぽかんと口を開け、なす術もなくその場に崩れた。
「は、は、はやく、人を! 人を! 武家の者ども、何をしておる! 早く弓を引、け…………」
邸の主人がそう言う間にも、蛇の腹はどんどん伸びて頭は細く長い舌を出し入れしながら此方に近づいてくる。天の河が動き出し宙から落ちて、都にのしかかろうとしているようだった。この夜空に伸び上がった巨大な化け物は、宮中の何処からでも見えた。人々の悲鳴が、貴族達の間にも伝染していく。彼が言葉を言い終わらぬうちに、大蛇の一頭は弾みをつけて綾小路邸に飛び掛った。邸の主人に飛び掛ったのではない。家屋ごと踏み潰す勢いで東の城壁から突っ込んだのである。見事な庭を誇った綾小路邸は一瞬にして濁流の水圧と城壁の瓦礫に押し潰されるようにして大破した。周囲の邸からそれを見ていた他の貴族たちや使用人達から悲鳴が上がる。宮中は瞬く間に大混乱に陥った。右往左往する人々が逃げ惑う先々で、相次いで同じように邸が押し潰され人が飲まれた。西天の雷鳴が、負けじとして北へ北へと近づいてくる。
「「見たか下衆共よ。此れが永年貴様等がわれらに植え付けた怨毒。此れが貴様等が贖うべき罪の仕儀ぞ」」
大蛇の声が、八つの首から輪唱のようにずれて重なりながら恐怖の夜に谺(こだま)する。蛇の腹を引き摺りながら、赤い目を持つ八つの首は左京院の邸と帝の住居を目指す。周囲の建物を薙ぎ倒しながら、東の城壁から中央へと進む。

星空のように澄んでいた蛇の胎内は、今や破壊された人工物の屑や瓦礫や死体が漂い澱(おり)に塗(まみ)れて、人の世の川のように汚れていた。

>all(同じくイベントレスです。遠くからでも見やすいように大きめの妖にしてみました。こちらは宮中破壊担当なので、次レスで華切本体様との打ち合わせ通り(?)左京院邸に向かいます。華切様、哉栄様、輝夜様、心の御準備を!)

4ヶ月前 No.333

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/城下・薬師寺邸庭先】

草臥れた草鞋で土を踏みしめ、庭に降り立った夕臙は、顔を見合わせた二人の薬師寺紫≠したり顔で見ては嬉しげに鼻を掻いた。
「まったく二人とも物騒だなぁ……」

片方の薬師寺紫は店のほうへと支度に戻り、もう一人の薬師寺紫は銚子を片手に酒を飲み寛ぎ出した。正直なところどちらが本物の薬師寺紫であるか、こうなるまで自信を持って断言出来なかった夕臙であったので、少し安心したのかもしれない。自分の傍に居るのは本物の薬師寺紫ではなくて、彼に化けた妖のほうなのであるが、本人の言う通り其処まで悪い奴にも見えなかった。それに、人間だからといってそれが良い奴とは限らないという言葉にも今なら共感できた。何故なら、自分だって人間だけれど良い奴≠ナは無いからだ。
「忘られた言葉や想い、その化身が、おまえ……」
薬師寺が支度を整えるのを待つ間、夕臙は怯えもせずに薬師寺の姿をしていた妖の話を興味深げに聞いた。大きな丸い目を見開いて、自分の今迄知らなかった世界の物語を一言も聞き漏らすまいとして聞いた。彼女の姿がとうに薬師寺のものでなくなっても、目の前の顔がのっぺらぼうに変わっても、震えるどころか好奇心に目を輝かせた。
「すげえ……」
すげえすげえと残念な語彙力で賞賛しながら、薬師寺が支度に時間がかかっている手持ち無沙汰に、夕臙は懐から墨筆と木札を取り出して地面に座りこみ彼女の絵を描き始めた。一面の彼岸花咲く廃墟の原に佇む女性。その顔には目も鼻も口も無いようで、極淡い薄墨で幾つもの顔、幾つもの表情が重ねて描かれている。螺鈿細工の偏光のような目の前の不可思議を単色で描き切ると、その絵は即興ながら今にも動き出しそうだった。
『人の思ひは言の葉に、言の葉の枯れたる先には曼珠沙華の妖しの花叢ぞ咲く。人しも妖をなん産むなる』ーーそう端書きを添えて、見聞を広めた感動をいつものように書き置くと、そのうち先生にも見せようと懐にしまった。そうこうしているうちに、薬師寺紫が商売道具を携えて戻ってくる。
都に騒ぐ気配に、慌てて飛び出したいところであったが、それが利口でないことはわかっている。
「ありがとうな、……ええと、」
薬師寺を待つ間、自分の知らない世界を教えてくれた思葉に礼を言おうとしたが名前がわからず、「おれ、夕臙。天下の名医・光宮哉栄大先生の一番弟子だぜ!」などと先ずは自分から名を名乗り、破顔した。

「遅いっすよ、薬師寺さん。一服したら、先生の無事を確認しにすぐに行きますよ」
帰ってきた薬師寺に夕臙が急かすように口を尖らせると、いつの間にかのっぺらぼうだった顔はもう一人の薬師寺紫に戻っていた。二人の薬師寺紫から同時に刻たばこの詰められた煙管を差し出され、一瞬不思議そうに目を丸くしてから、その意味を悟ってか両の口角を上げた。「はい!」と元気に返事をすると、慣れない動作で煙草盆を覗き込み、火入れの灰に包まって熱した炭が入っていることを確認する。これでいいのだろうか、と確認したくて堪らなげな表情で恐る恐る両手に包み持ち、それぞれが煙管を加えながら楽に着火できそうな高さまで近づけた。

もう何度目だろうか、暗雲立ち込める天が白く光って、瞬きの間を数えてから空を裂く音と悲鳴が門の外に上がった。

>薬師寺紫・思葉

4ヶ月前 No.334

輝夜 @yuunagi48 ★Cp5kaJcUnj_yFt

【輝夜/宮中】
哉栄と華切が友人という立場ならば、この場を取り巻く空気は不釣り合いに重い。それもその筈、哉栄は輝夜の怪我を手当てした恩人としてここに呼ばれているのだから、宮中の者からすれば大切な客人であるし、客人である哉栄からしてもきっとこの場は気の休まるものではないであろう。
しかし、唯一その空気を酌めない、否そもそも空気の重さすら感じていないのかもしれない少女は哉栄の言葉で思い出した様にはっとする。

「ごめんなさい、私あの時桔梗にちゃんとお礼も言わずに飛び出してしまって。治してくれてありがとう!桔梗が治してくれたからもう痛くないのよ」

身に纏う唐衣裳の上から足の辺りをそっと擦る。僅かに出来た傷が跡形なく完治するにはまだ早いが、痛みがない事は確かだ。

「あ!私ね、今日桔梗みたいなすごいお医者様に会ったのよ!お医者様は老若男女?本当にどんな人でも治してくれるのね。
花菖蒲からたくさん血が出た時はびっくりして、とっても怖くて……だけど紅葉がいろいろな物を使ってそれを治してくれたの。私、花菖蒲や紅葉が赤くなっていくのが怖くて泣くしか出来なくて、だけどね紅葉に強くなれって言われて私も強くなりたいって思ったの!」

突然、両の手の平を胸の前でぱふと合わせた輝夜は今日あった事を思い出しにこにこと嬉しそうに話し始める。花菖蒲から真っ赤な血が噴き出したあの瞬間は絶対に忘れることが出来ない程に輝夜に衝撃と恐怖を与えた。同時に、二度とこんな事が起きない様に強くなりたいと心の底から決意させた。
夢の中で少しだけ見た、咲秋や吉継の姿。真剣を持ち目の前のものと戦う強さ。鋭い刃や重い力によって時に傷つけ、時に傷つけられる。それは紛うこと無き強さではあるが、輝夜はそれが自分には出来ない事を思考せずとも理解していた。
ふと昨日の吉継の姿が思い出される。咲秋に身を委ね、一度はその目を開くもののすぐにまた意識を手放してしまった。輝夜は咲秋や吉継はとても強いと思っている。華切が剣を持ち戦う姿は見たことが無いけれど、彼はとても頭が良いし、華切が居るから咲秋や吉継はもっともっと頑張れるのだとも思っている。つまり華切も咲秋達とは強さの種類は違えどとても強いのだ。

しかし、そんな吉継でも怪我を負う時だってある。華切だって……哉栄へと向けていた視線を華切へと向ける。大丈夫、と自分に言い聞かせるように一度強く瞼を閉じると再び開いた。
華切の強さ、咲秋の強さ、吉継の強さ、珠芽の強さ。皆違う強さを持っていた。そして輝夜の目指す強さもまた彼らとは別の所にあった。それはまだ言葉に出来る程はっきりとしたものではなかったけれど、輝夜が見詰める先にぶれも迷いも無い。


「ねぇ、女郎花。私ね桔梗と……宮をお散歩したいの」

輝夜は変わった。彼女独自の眼でほんの一部であれど外の世界を見て、彼女独自の脳でたくさんの情報を得た事で、『月の姫』である時は相も変わらず人形ではあるが、珠芽の時もそうであった様に華切達に対しては『こうしたい』と意思を告げるようになった。
桔梗と、と言ってはいるが本心は『桔梗と女郎花と散歩をしたい』なのだろう。言葉には出さずとも表情がそう告げていた。

観月祭の『前観月』である今日は露店の出る城下は勿論、宮中も普段とは違った色に染まっている。
白い小袖に葡萄色(えび色)の袴という比較的動きやすい着物に着替えさせてもらった後、輝夜はゆっくりと庭を歩いていた。その歩みは一日の疲れもあるからか普段よりも遅い。だが、その足の重さはそれだけではない様にも思える。
足を止め、先程まで満月により藍色だった空を見上げるが今は雲が覆い漆黒に変わっていた。なんとなく気持ちが落ち着かない。輝夜の頬をくすぐり、髪をさらりと揺らした風の匂いに感じる違和感が肺から全身へと浸透するように広がっていったその時、大きな音と一瞬の輝きと共に空気が震えた。

「種が割れた」

稲妻が空を裂いた光景を目にした輝夜はそう呟いた。それはお転婆少女である『輝夜』とこの世界に生きる者全てと同じで違う『月の姫』が混ざり酷く歪に聞こえた。この都の行く末も己の未来さえも冷静に客観視しているようなのに、とても不安そうにも聞こえる。誰も見る事の出来ないどこか遠くを見ている様なのに、目の前の光景に瞳が揺れる。満月が隠れ、漆黒の空に落ちた種から一瞬で人間の世界に伸びた根は、祭を楽しんでいた人間達の精気を吸い上げ茎を伸ばしてゆく。赤……まだ咲くには至っていないこの花の色も夢で見たのと同じ赤色だ。
宮中の東から流れてくる混乱の中、輝夜は空へと向けていた瞳をゆっくりと根源へと向ける。その目に映る八つの首は、根が大地から吸い上げる水の様に見えた。
>華切、哉栄、周辺ALL

【大変遅くなり申し訳ないです(汗)どういう風に動かそうかと迷った末にこんな形になってしまいました。華切君や哉栄先生は一緒に居るも(輝夜が着替えに行った為)まだ合流していないも、断るも出来るようにあえて描写などはしておりませんのでどういう形でも合わせられます。その他ここはこうして欲しいなどありましたらお申し付けください】

4ヶ月前 No.335

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

『薬師寺邸→裏通り/思葉、薬師寺紫』

「あんたから先に呑みなよ。」

夕臙の持つ炭を紫に進める思葉。それに甘え火を着け、遅れて思葉が火を着ける。ゆったりと燻(くゆ)る煙に視線を漂わせながら、吹き戻す煙は輪っかを作った。

「先生は……弥栄は無事だろうよ。誰も彼も無事だろう。」

何気なく呟く言葉を、火皿の小さい思葉の煙管の雁首が灰吹きの縁にカンと高く響く。

「今が無事じゃないならそりゃ嘘だよ。ほら、行くよ、無駄にデカい火皿しやがって、大煙管の古狸じゃあるまいに」

動き出す思葉の背中に四十匁を十も詰めて呑めるもんか、と文句を言いながら薬箱を背負い夕臙の頭を撫でる。

「これは確かに忘れられねぇ思い出だよなぁ。いや、忘れたくねぇ思い出……か。目星は付いてんのか?その大先生の居場所のよ?」

茶化したような口調でタバコを口の脇に咥え器用に吹かしながら問い掛ける。都を襲う怪異を背に紫の声色は喜色を帯び、目には危ない光が灯り始めるが、そこに思葉から頭を軽く小突かれ睨むように見上げれば、呆れ顔の同一人物の顔

「分かってたらアンタなんかに頼るかい、勝手に飛び出していくよ。悪いね、名前を言うのを忘れてた。思葉、もっと有名なのは、捕まるのに足の付かない人攫いさ。」

自己紹介序でに薬師寺を窘め、踵を返すと、裏戸を開けて辺りを見回す。漂う妖怪の気配に眉根を寄せ独りごちる思葉。

「蜘蛛かヤモリのおばんか。どちらにしろ派手にやってくれるよ」

4ヶ月前 No.336

夕臙 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/薬師寺邸→城下町】

先生を含め、誰も彼も無事だろうーーそう言う薬師寺の言葉は、もしかして其れこそまじない≠ネのだろうか。二人の吹き出す煙の燻りながら昇りゆくのを横目に見ながら夕臙は思った。くしゃりと髪をかき分け頭の上に被さる大きな掌は、束の間の不思議な出来事を、少年の決意を頭の中に閉じ込めていくようで温かかった。

「……その通りなんだ、思葉=B実はおれにも先生の居る処はわからねぇんです。けど、まずは先生の邸に行ってみましょう。急患でもあれば外出されているかもしれないけど……」

思葉、と教えられた名を繰り返し、彼女の後をついて裏の戸に出る。薬師寺紫と思葉の言う通り、夕臙には哉栄が何処にいるかわからなかった。日頃の恩師の行動傾向や体力を思い返し、祭の賑わいを歩き回っているというよりは、祭の宵であろうとも自宅かもしくは彼を必要としている患者の元にいる気がした。自宅に居ればそれで安心なのだが、祭で急患が出たとなって何処かに呼ばれていたら厄介だ。

「……! これは…………」

思葉の袖の陰から薬師寺邸の裏戸をくぐれば、其処は既に夕臙の知る都ではなかった。裏戸が面した小径から大路を覗けば、悲鳴をあげ逃げ惑う人々と、それを追い掛ける百鬼夜行の群れが建物の隙間を西へ東へ往来している。薬師寺紫と共に此処へ来る道中で通った、祭に賑わう灯り揺れるあの大路はさながら地獄絵図のようだった。
店も持ち物もうち捨てて悲鳴をあげて逃げる若い女を、一本足の鬼が追い掛ける。炎を上げる輪入道から逃げた男が呉服屋に逃げ込めば、車輪は勢いをつけて戸口に体当たりをし玄関を大破して扉ごと男を轢き殺した。幼子の髪を掴み宙吊りにして笑う牛鬼。逃げ惑う団子売りの青年の足元に急に泥水が広がり引っ張り込む泥田坊。僧侶を締め上げる蛇体に娘御の首を持つ妖。鼬のような妖怪から逃げ切った親子は、一陣の風が吹くと同時に血飛沫を上げて倒れた。向こうから来た老人は空から降る雷に貫かれる。

「酷ぇことしやがる……」

あまりの光景に思わず顔を顰めるが、今妖達一人一人がしていることは、自分が目的の為に月の姫や邪魔者にしようとしている事と同じ事だ。本当なら、関係ない人間を巻き込み傷つけるなんて赦せない。しかしその叫びを飲み込み拳を震わせ黙認する程に少年夕臙は変わってしまった。

自分も医に生きるものであれば、本当は全ての命を救いたい。けれど、どうせ医聖たる師匠と違って、おれは成り損ないの殺人者になる男だ。これから見殺しにする全ての命と引き換えに、先生が助かるのなら、それでいい。

「あいつらに見つからないように光宮邸まで向かいましょう!」

表情を険しくして「やべぇな」と吐き棄てると、薬師寺紫と思葉を見上げた。漆黒に塗り潰された空は時折真白に点滅し、地を揺るがすような酷い音を立てる。主な通りには魑魅魍魎の群れが人々を右に左に追いやりながら溢れかえっていた。此の世の終わりかと思うような光景に怯んだのはたった一瞬のことで、夕臙は人気のない猫の道のような細い路を選んで駆け出した。

>薬師寺紫・思葉

4ヶ月前 No.337

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/城下の外れ・石階段】

 やけに五月蝿い鼓動と己の荒い呼吸に混じるように、その声はとても冷静に師としての役割を担う。
 勢いのまま振り下ろした短刀は、虚空を切り裂き、そのまま地に吸い込まれるように沈む。体勢を戻すにはあまりに遅く、その背に薙ぎ払うよう峰が当たれば何の抵抗も出来ず、重力に従うまま地に伏せた。砂が口に入り、土で身体が汚れる。
 始めから上手くいくなんて思っていなかったけれど、こうもあっさり地に伏せる事になろうとは思わず、悔しさが込み上げる。と、同時に初めて振り回した短刀で相手を傷つけずに済んだ事に、僅かに安堵している自分に気付いた。

(駄目だ、傷つける事が怖いと思っちゃ……。覚悟を決めて、此処まできたんだろ!!)

 心中で自身の決意をより強くすると爪に土がくい込むことも厭わず、珠芽は手足に力を入れると身体を起こし、再び短刀を構えた。今度は自分の胸の前で逆手に持つと、暗闇へと目線をさ迷わせる。響く声は戦うことへの心構えを珠芽へと語り、言葉を受けた珠芽は瞳を閉じて気を張り巡らせた。

(恐怖を、殺せっ……心を、殺して。そして……)

 教えの言葉を噛み締めるようにそっと心中で呟く。五感を最大限に活用出来るように、己の動きを少なくし、相手の動きへと集中する。すっ……と瞳を静かに開いた瞬間、珠芽のすぐ側で僅かな風を感じ、短刀を突き出した。刃を捉えることは出来なかったが、彼岸を視界に捉えることはできた。

(おれは、誰よりも、強いっ!!)

 珠芽の意志に反応するように、身体の奥底から纏わりつくような熱が込み上げて、珠芽は息苦しさを感じたが、構わず身体を動かす。次に振りかけられた刀身へと短刀を突き出した時、それは異なる容姿をしていた。

 雪のように白い髪は腰ほどまでに伸び、身体の大きさも以前とは比べ物にならないほど成長し、白を基調とした浄衣を纏う。顔立ちはやや幼い面影はあるものの、人で言えば十七、八の青年へと変わっていた。

 突き出した勢いと、先程よりも苦しい呼吸に転ぶように、どさっと音をたてて地面へと手や尻をついた。何が起きたのか自分自身ですら分からず驚愕の表情を浮かべたまま、息苦しさを感じた胸を抑える。視界に入る自身の異変に困惑していると、纏わりつくような熱は全身へ廻ると、今度は血液が沸騰するような熱さへと変わった。息が詰まるように呼吸がままならず、はっ、はっ、と短く吐き出す事すら精一杯だ。
 暫く苦しいままだった呼吸が漸く落ち着き始めた頃、彼岸から竹水筒を投げ渡された。その好意に甘え、竹水筒に口をつけるとゆっくりと喉を潤す。暫くして竹水筒から口を離すと、困惑と驚きが入り雑じったような表情で珠芽はぽつりと小さく呟いた。

「……おれ、どうした……んだ?」

>彼岸、周辺all

4ヶ月前 No.338

語り @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【★】

左京院邸、広間。
中庭の空が、紫電に光った。夜の帳が裂ける。
突如として轟音が鳴り渡り、南西の空に一筋の稲妻が走って火柱が上がる。
左京院家に使えるもの達も、その一瞬は都中の人々と視線を共有し、燃え上がる西の塔を呆気にとられたように見つめていた。

遠くで轟く雷鳴に気を取られていると、今度はこの邸の程近くで悲鳴と轟音が鳴り渡った。中庭に集まってきた下男や武士達に緊張が走る。この都に迫る危機を確かめに、彼等は武器を手に音のしたほうへ駆けて行こうとしてそのまま動きを止めた。
「なんだ、あれは……!」
東の空を塞ぐ壁のようにして、其処には大蛇の首があり、こちらを睨んでいるではないか。
宮中の南東の外れの方で音と悲鳴がしたと思ったのに、もう左京院邸の間近まで迫っている。
「物の怪め!」
「弓を放て!」
警備兵達は一斉に手にした弓から矢を放ったが、恐れが軌道を狂わせて一矢たりとも大蛇に届かない。
濁流のようなその身体は、飲み込んだ物で膨れ上がり、黒い水流が中で渦巻いている。
「……!」
左京院邸の片隅から木造建築の倒壊する激しい音が聞こえたかと思うと、中庭を挟んで向こう側の車宿と武士達の詰所が潰されている。二百年間平穏に漫然と流れていた日常が、音を立てて崩壊しはじめた。

輝夜の支度を待つ間自室に居た華切が、輝夜の「桔梗と宮をお散歩したい」という言葉を思い返していると、突然女中に呼ばれた。血相変えている。
「華切様! 此処にいては危険です!」
「大蛇に御座います!」
広間に戻ってみると女中に女房、下男に馬飼、料理人に庭師も、中庭を臨む広間に集まってきて右往左往している。
「宮中の東門付近の壁を壊し侵入してきたのです。奴の通った後は瓦礫と成り果てております! 奴めこの邸をも食らう気にございます!」
報告に来た門番や、非番だった警護役、左京院に仕える武士や当主に仕える従者まで、立ち向かうのを諦め中庭で身を寄せ合っている。
「この事態に、咲秋殿も吉継殿も不在とは……華切様! 逃げましょう!」
女中頭に脱出を促されるが、輝夜の姿も哉栄の姿も見当たらない。観月祭の宮中へ哉栄と共に散歩に出たいと希望し支度を済ませた輝夜はこの時既に邸の表側にある庭の方で哉栄と待ち合わせていた為に、中庭側からでは姿が見えないのだった。

邸の離れを破壊した大蛇の頭が、中庭へと侵入し、広大な池の向こうから広間にいる左京院家の者達を見つめている。
「皆の者、無事か。早く、支度を整えて邸を出るぞ」
騒ぎを聞きつけた左京院家の主人・左京院伊織が珍しく息を切らして戻ってくる。中庭や広間で棒立ちしている使用人達に次々に指示を出すと、華切にも避難を促す。樹々の焦げる匂いがした。何処からか火まで回っている。
「華切、姫と皆の者を連れて逃げなさい。私は帝の元へ戻り帝をお連れ申し上げるから」
自分の栄華の象徴である邸を潰され焼かれて、今すぐにでも何か言いたいのであろう言葉を、この緊急事態にぐっと飲み込んだ表情は険しい。華切を振り返り、裏門へと皆を招くと自分もその向こうへ消える。華切の周りの家臣達は皆逃げる支度を始めるが、その中には輝夜の姿が無い。


>哉栄、華切、輝夜、all



【そろそろ頃合いかと宮中組へのイベントですー。
華切王子本体様のぽんぽこ様からの御希望で、邸から脱出の際に一度輝夜ちゃんや哉栄先生や左京院家の人々とはぐれる……ということで、このようにさせていただきました。哉栄先生、輝夜様、宜しければ表の庭のほうから合流して、危機を察知して脱出でも他の家臣に促されて脱出でも八岐大蛇と対決でも二人きりになってむしゃり未遂でもむしゃりでもお好きなものをどうぞ……! 王子へはこの辺でバトンターッチしたいです〜】

3ヶ月前 No.339

華切 @poko10 ★Android=MNgMSKnMpI

【華切/左京院邸広間→輝夜自室】

 ――何が起きている?

 得体の知れぬの轟きと、邸が崩れ始める音。様子を見に行こうとした華切の元に、女中が息を切らして駆けてくる。女中について広間に向かうと、近づくにつれて使用人達が騒ぐ声と物が焼け焦げる臭いが強くなる。そして広間に到着し、混沌と化した邸内の中庭に見たのは巨大な蛇の頭だった。あれに立ち向かえる者はここにはいない。この屋敷はもう終いだ。それは仕方ない。この屋敷自体に、死してまで守る価値があるわけではない。皆を逃がさなければ――。
 そう思ったとき、慌てふためき騒がしかった中庭が急に静かになる。現れたのは父親であり当主の左京院伊織だった。短い言葉で避難する指示を出し、臣下を連れて裏門に消えていく。そうだ、輝夜、輝夜はどこにいる。怯え、右往左往するばかりの使用人達を華切を見回す。輝夜はどこだ? 広間にその姿が見えないことが分かると、華切は火の手が上がる宮の奥へと一人向かっていた。散歩をしたいと言った輝夜は、奥の部屋で歩きやすい着物に着替えさせてもらっているはずだった。徐々に煙が濃くなり、無意識に足早になっていく。

「輝夜!」

 梁が歪んでいるらしく引くことはできなかったため、襖を押し倒して輝夜の部屋に入る。中は煙が立ち込めていた。視界が悪い中、鼻と口を着物の袖で覆って二、三歩足を進める。目を凝らしても、室内に人の姿はなかった。この状態で此処にいれば無事では済まなかっただろう。そう思って少しだけ安堵する。既に外に出たのだろうか。それならば良いが確信が持てない以上すぐに逃げる選択肢は選べなかった。元は壁があった場所を通り、噎せながら隣の部屋に移動する。ここにも誰もいない――そう見えたが、部屋の隅に若草色の何かが見えた。よく見ればそれは着物で、細い足が覗いている。慌てて駆け寄り、横たわる上半身を起こすも、それは輝夜ではなかった。顔は見たことがあるが、名も知らぬ若い女中。かといって放っておくわけにもいかない。華切がどうするべきかと思考を巡らせていると、ばたばたと騒がしい足音を立てて誰かが追ってきた。

「げほっげほっ、ごほっ、か、華切様! 姫様は宮の外へ出られたとのことです、ですから早くお逃げくださっ、げほっ」
「それは確かか」
「ええ、間違いございません」
「――分かった……この娘を運んで逃げてくれ」

 ちょうど良いタイミングで現れた従者に女中を預け、華切は立ち上がる。

「か、かしこまりました。え、あれ? 華切様は?」
「案ずるな、私もすぐに行く」

 そう言い残し、華切は真っ直ぐにさらに別の部屋へ進む。既に輝夜は外に逃げたならば、とりあえずのところは安心だ。しかし、輝夜を囲い守る場所がなくなった以上、自分にも輝夜を守るための力が必要だ。いつも咲秋や吉継が守ってくれるわけではないのだから。
 華切が足を止めたのは、父、伊織の部屋だった。目当ての品――左京院家に伝わる一本の刀を慎重に握りしめる。真剣を握ったことはあるが、振るったことは、ましてや人を切ったことなどあるわけがない。自分には余りある物だということは重々分かっていたが、万一に備えて少しでも戦える力が必要だった。

>all

【ご無沙汰でほんとにほんとに申し訳ありません……!哉栄先生と絡みたい!と思っていたのに中々復帰できず、レスに華切つけてもらっていたのに申し訳ごさいません(´;ω;`)】

3ヶ月前 No.340

語り(モブ) @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ下人)佐野 暁時/左京院邸】

夏の夜空を焦がして、栄華の跡が燃えている。肺を満たす苦い香りと熱気を巻き上げて、人の築きし欲の権化は崩れ落ちる。様も無い。視界を覆う紅は地を這い、波のようにうねり、曇天を突く柱となる。
真っ赤な梁が燃え落ちるのを飛び越えて、佐野暁時(さの あかとき)という壮年の使用人は燃え盛る左京院邸の中心を目指した。古びた粗末な草履も衣服も綻んでいて、顔も身体も煤だらけのまま邸内を駆け巡る。汚れ窶れた痩躯の、背を丸めて火の海を駆ける様は人というよりは地獄の亡者に近いものがあった。

ーー『大蛇にございます!』
ーー『華斬様、逃げましょう!』
混乱の極みと言わんばかりに、左京院家家臣達の声が囀る。宮中には南東の方角より大蛇が現れ、邸には業火が回っている。此れを一大事と言わず何と言おう。
そんな騒ぎを尻目に、暁時は単身、群れから離れて邸内を逆走する。ギラギラと憑かれた目を光らせて、黒茶けた褸衣を引きずり、灼熱の畳を土足で踏みつける。襖を開け、千切るように取り払っては、傍の焔に投げ与えた。餌に歓喜する獣のように焔が渦を巻き煙と火の粉を吹き上げる。
極楽浄土の権化と言われた麗しの大邸宅が、無惨な地獄絵図を経て燃えかすと化してゆく様はなんと無情で滑稽なことだろう。

窶れ汚れて屍の如きその顔の上で、二つの目ばかりが活き活きとしてギョロギョロと周囲を見回している。恐れもせず、焼け落ちて行く大邸宅の中を駆け巡り、彼はある物を探しているのだ。まだ邸内に当主の息子・左京院華切が居るとも知らずに。


これを好機と、襖を乱暴に蹴り開ける。目的のものは此処にもある筈だった。暁時の腕にはこの時既に、輝夜の部屋にあった調度品や高価な着物、伊織の所持していた茶器や宝石の類が抱えられていた。元々左京院邸に仕えていたこの下人の男は、火事の混乱に乗じて盗みを働こうとしていたのである。
襖の向こうに左京院華切という予想外の人物の姿を認め、盗人は一瞬凍りついた。
「……華切様」
しかしそれも束の間のことで、すぐに諦めにも似た下卑た笑みを浮かべた。
父の刀を手にする華切。盗んだ財宝を手にして襖を破壊した暁時。二人の間に、梁が燃えながら落ちてくる。畳に叩きつけられて、其れは砕けて火の粉を撒き散らした。
揺らめく熱風を透かして、華斬を睥睨する。火の粉が爆ぜるのを、花火を鑑賞する清々しい心持ちで眺めながら、暁時は鼻で笑った。

「お久しぶりですね、若君。以前此処に仕えていた頃より相当御立派になられたようだ。嗚呼、最も左京院には数多の使用人が居るのですから、あなた方にとっては雑草に等しい。貴方にはこの盗人が誰か分かりますまい」

>華切、all


【他のお方の都合がつくまで、モブ(元使用人の裏切者)で絡ませていただきますー。モブですので、好きに使っていただいても構いませんよー。放っておくと心を抉るかもしれません()】

2ヶ月前 No.341

絲祈 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【絲祈/城下・都の外れにある屋敷】

 月への調べを謳う祭り囃子が、段々と悲鳴に塗り替えられてゆく。遠く霞がかった夏の夜に、罪深き人間たちが見る悪夢。寝ても覚めてもけして消えぬそれは、人々にどれだけ深い傷を負わせるか。
 座敷の空気は張り詰めている。月の光が差し込む其処だけが、騒がしい現実から乖離しているかのようだった。我々を前にしてもなお余裕の表情をみせつつ在る吉継の、色の違う瞳を八つの瞳でじいと見つめる。絲祈はただただ、耳障りな笑い声をその喉から漏らした。

「――ふふ、流石は夜が見込んだ男子(おのこ)よ」

 先程彼が放った、間合いの内にいるような殺気でさえ絲祈は心地よく感じた。元々戦の中に身を投じるのを好む性分だ、彼がその気ならば、その殺気さえ糸で絡めて腹の底に引きずり込んでやろうかと思った時分ではあるが、それはまた別の楽しみにとっておくとしよう。絲祈は、今頃阿鼻叫喚の騒ぎとなっているであろう城下と宮中の様子に思いを馳せ、そっと舌なめずりをする。形あるものを壊す感触と上がる悲鳴、絶望の表情、そのすべてが絲祈の心を躍らせる。
 夜の艶やかな唇が、きれいな三日月を描いていた。彼女の浮かべる笑みの、その意味を絲祈は瞬時に理解する。さて、この人間の覚悟がいかほどのものなのか。試させてもらうとしよう。

「人の子よ」

 夜が立ち上がり、吉継に目線を合わせる。

「――――目を逸らすのでは無いぞ?」

 吉継の前に姿を現れたのは、夜の仮の姿でもあり、吉継がずっと目にしてきた、彼にとっては「本当」の夜の姿。表情を崩すことなく、その金色の瞳の奥に、夜は、皇出雲は静かに燃え盛る憎悪の焔を灯す。紡がれる恨みの言の葉がじわじわと屋敷の中に満ちていき、あっという間に三人を包んだ。

 紅玉のような蜘蛛の瞳がぎょろりと蠢く。吉継は今どのような表情をしているのだろう。驚愕しているか、落胆しているか、それとも。そちらに目を向けようとするのだが、奥座敷の光景がどんどん変わっていく。目に映るその光景を自分はよく知っている。それは遠い過去の記憶。身に染み付いた赤黒い血の色と、腕の中の感触。生暖かい血の匂い。強い、強い憎悪の感情、そして、視界に映っているのは――。

 無意識のうちに歯を食い縛っていたらしい。薄青の唇から垂れた血の雫が一滴、畳に染みを作った。絲祈は唇に滲んだ赤を指先で器用に拭う。
 赦してはならぬ、赦してはならぬのだ。この感情が廃れぬうちに、人間共に復讐せねばならない。

 胸の内が灼けるようだった。身体が熱く火照り、思わず手を握りしめる。今にも暴れ出しそうな復讐心を押さえ込んでいた所で、「絲祈殿」という夜の声が耳に届いた。
 顔を上げ、ゆっくりと息を吐く。あらかた、夜が吉継へ「代償」の説明を終えた所であろう。そして、自分に話題を振ったということは。
 再び絲祈は、余裕の表情を浮かべ、口を開いた。その唇は、先程の血のせいで、薄く紅を引いたようにも見えた。

「――なあに、主の覚悟とやらを、我らに見せて欲しいのだよ。我が今一度問いたいのは、嘗ての師を、同胞を……愛しい愛しい姫の為に斬り捨てる事が出来るのかという事。それを完遂した暁には……月の姫君を、夜ではなく、主の手で直接攫わせてやろう。勿論夜が手助けをする。宮中の信頼のある主と、内親王に成りすました夜。主ら二人が揃えば、いとも簡単に成せる筈だ」

 くっくっと、絲祈が愉しそうに笑った。残酷な代償を告げ、彼は吉継の返答を待たずしてその身を徐に動かす。八本の脚が無造作に蠢き、障子に影を作ったかと思えば、絲祈はそのまま壁伝いに、音もなく天井裏に蜘蛛の下半身を隠した。上半身を天井から覗かせ、不気味な笑みをその顔に浮かべたまま、再度口を開いた。

「此処まで来て、最早引き返せまい。主の腹も、決まっているであろう? …………言葉はいらぬ。よく考え、己の行動で示せ」

 そして絲祈は、禍々しい絡新婦の妖は、奥座敷から姿を消した。後に、蟲師の羽音のような嗤い声だけを残して。

>夜、吉継

【絲祈/城下・外れにある屋敷/???】

 其処は、絲祈の「巣」とも言える場所だった。
 幾重もの分厚い糸で覆われたその部屋は、奥座敷の半分ほどの広さである。壁、天井、畳、その全てに縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の糸に、屋敷の主人や妻、女中の皮が括り付けられている。何とも不気味な雰囲気の、月の光さえ入り込まない奥座敷の更に奥、絲祈と夜しか知らぬその「巣」の真ん中で、彼の八つの瞳が怪しげに光っていた。
 クスクスと笑いながら、時折何かをつぶやく。彼の指先を伝う無数の子蜘蛛が、かさかさと小さく音を立てながら屋敷の外へ列を成し出ていく。

 血のような、鮮やかな赤に染まる瞳。絲祈は子蜘蛛を操る手を止め、傍らにある小さな蝋燭に、そっと火を灯した。

「――――嗚呼、必ずや……」

>対象なし

【お返事が遅くなってごめんなさい! あとで絲祈の操る死人(モブ)を使って都にちょっと仕掛けをさせて頂きます……!】

2ヶ月前 No.342

藤堂吉継 @fue ★iPhone=uYwUDyqtCB

【藤堂吉継/城下・都の外れにある屋敷→路上】


夜の頭上から、手房から、被衣がはらりと落ちて床に転がる。水面に落つる花弁の如き衣擦れの音に、焚き染めた香が幽かにのぼる。何処ぞで聞いた覚えのある声音に思わず視線を引かれてその顔貌を見るや、信じ難き光景に眼差が開かれる。目を逸らすなという絲祈の言葉が、仮令無かったとしても。

「皇出、母、…………内親王様……」

驚きの余り掠れた息が締まった声帯を震わせ、条件反射的に体が額(ぬか)ずいてしまう。皇出母内親王。帝の孫娘にあたる佳人が、何故都の転覆を目論む妖達の中心にいるのか。その答えは、問わずとも大凡理解できた。かつて皇出母内親王と親交のあった自分の主・華切と彼女とのやりとりが、ある時を境に急にどちらからとなく変容した様子であったことを思い出す。なるほど、と呟いては、最高の敬意を示すその姿勢を解き、口許にふと笑みを浮かべた。それはどこか諦めに似た、暗い笑みであった。その笑みが、吉継の答えだった。
あれほど妖を差別し異形を排他する宮中の、その中央にさえ妖は潜り込んでいる。まして、貴族や城下の庶民など尚更だ。妖は何処にでもいる。この都は、とうの昔に妖共に囲まれ内部から蝕まれて喰われていた。二百年もの時を経て静かに浸潤し、深く染み渡っていた、怨念の毒。腐りきり呪詛に塗れた天地に、人間は気付くのが遅すぎる。勝ち目などないのだ。

「許すも何も。貴女がたの怨念と憤怒の前に、人間の為す術などそもそも無いように思う」

空が鳴り地の揺れる音が、人々の悲鳴が、この屋敷の中にまで聞こえてくる。その断続の間隔は次第に狭まり、外の喧騒は祭のものから阿鼻叫喚の地獄絵図を連想させるものへと変わる。都に放たれた魑魅魍魎の群れが、怨讐を振り翳し、呪詛を撒き散らし、人の命を刈りながら今も夜を征くのだろう。あの時、自分が止めもしなかったから。否、己一人が止めたところで都の命運など変わることはなかった筈だ。それだけ妖共の辛辣たる怨嗟の念は深い。どれだけ夜に賞賛されようと、吉継は少しも嬉しくなかった。

「深き業と愛の体現者……ね。やんごとなきお褒めの言葉を戴きまして。俺が行かずとも時間の問題で宮中の人間は殲滅されるように思うんだが?」

夜と絲祈の提示した代償≠ノ、ほんの少しだけ狼狽の色が浮かんだ。しかしそれはほんの僅かな事で、ややあってクックッと可笑しそうに喉を鳴らすと、皮肉混じりにそう言って愛刀を掴み立ち上がった。

「まあいいさ。時間の問題だ。大切なのは『覚悟』なのだろう。……仰せの通り、宮中へ向かうとしよう」

此度は斬りかかるような茶番など無く、求められた通り『行動』で示すかのように出入口と踵を返す。その間に背後で蠢いていた気配へと振り返れば、天井から絲祈の上半身が逆さまに生えている。重力を無視した奇妙な光景に眉を顰めながら座敷の奥の女郎蜘蛛と大守宮を一瞥すると、此方の退出を待たずして大蜘蛛の姿は消えた。吉継も奥座敷に背を向ける。鞘を握りしめる拳が微かに震えているが、その足取りは来た時よりも確りとしている。
来た道を真っ直ぐに戻り、あの悍ましい奥座敷が、今は不気味に静まり返った庭が、重苦しい門が、順に背の向こうへと消えていく。夢から覚めつつまだ寝ぼけて夢現の狭間に置き去りにされたように、吉継は今や地獄と化した城下の通りに立ち尽くしていた。

>夜、絲祈、all


【心に迫る勧誘シーンをありがとうございます! 偽継君もこれにて屋敷から退場させたいと思いますー。】

2ヶ月前 No.343

東雲 彼岸 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【東雲 彼岸/城下の外れ・石階段】

 ――それは、本能であった。忘れかけていた恐怖であった。懐かしい焦燥であった。
 手の平が弓なりに撓ると同時に、柄を握っては引きずりおろすようにして肩から刀身を離した。一瞬だった。己の判断を下す時間を待つことさえ、億劫な程であった。柄頭を己の右腰に引き寄せ、逆手で刀身の上から手の平を乗せ構える。それは、攻撃ではなく防衛のための添えて突きの構え。
 だが、それは、いとも呆気なくおれの横を通り抜けていった。ぐしゃりと“それ”が地に伏せるのを認識した後、やや遅れて頬の横を汗が伝っていく。横髪が頬とじっとりとへばりついた。
 ただ一つ、焦燥が杞憂に終わってしまえば、残るのは不快のみであった。

 脅威となるだろうものに危機を感じるのは妖怪の本能であるのか、それでも此方に刃を向ける者ではないと落ち着いていられるのは人間としての理性であるのか。一度刀身で真横に空を薙ぎ払っては、静かに納刀を終えた。呼吸はとうに通常のものへ戻っていた。

「なんだ、それは。“それ”を、おれは教えてはいないが……」

 静かに近付き、目の前の“得体の知れない者”へ爪先を向ける。
 すんと鼻を鳴らす。気配は、間違いなく先の少年と同じであった。圧のようなものを本能的に感じていた。どうやら変化したのは容姿だけではないらしい。どうせ時空を越える奇跡が罷り通る世だ。妖怪の一匹が急に成長を遂げたとて何も不思議ではない。――ただ、気になるのは、力を手にしたこの狐が何を望むのであるか、だ。この狐は刀を取る理由を信じる道を貫くためだと言っていたが、その終着にはおそらく件の月の姫が絡むことであろう。他から月の姫を護るためか、それとも他を寄せ付けずして食すためか。

「子狐……いや、狐。お前、故郷は?」

 なぜそんなことを聞き出したかは、おれが一番驚いていた。己の表情を悟られぬように地に伏せる狐の横へとしゃがみ込んでは、目の前の白雪のような細い髪をぐしゃりと手の平で押さえ付けた。――白い髪の妖怪を見るのは、これで三度目か。
 ほんの、一瞬であった。視線を投げるように横にして、狐へと戻そうとした刹那、その瞬間は訪れた。

 けたたましい引き裂くような稲光と、轟音であった。
 湿る空気と共に、都に赤い光が移っていく。無意識に唇を、噛んでいた。尖った歯によって血が流れ始めてから、おれはその異常に気付いた。あのたった一人の友人の後姿が、瞼の奥で滲んでいたのだ。どうか護られていてくれと、おれを妖怪だと罵った人間たちの姿を思い浮かべていた。なんとも皮肉な話だ。それでも、おれの向かう先は決まっていた。どうせ人間に妖怪なぞ斬れるものか。

「詮索は止そう。おれは行かなければならぬ。……約束を果たし切れなかったことは、許せ。その代りに、一度だけ助けてやる。その時になったら、おれを呼べ。月の姫に手を掛けるのは、その後だ」

 もう一度、狐の頭を押さえつけては、下駄底を擦りながら立ち上がる。人間ではない気配の多さに、思わず喉を鳴らし口角を吊り上げた。やがて牙をむいてくるだろう脅威を脅威と正しく理解しなかったのは、既に己に目的が存在していたからかもしれない。


>珠芽、ALL
【たいへん遅くなりました、すみません;
 彼岸帰ろうとしていますが、此処で一緒に珠芽くんと妖怪軍を相手に共闘したいと思います……!】

2ヶ月前 No.344

はいせりひと @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=vaUwG0CLgh

【光宮哉栄/宮中・庭にて】


 目の前の景色は本当に現実なのかと、哉栄は目を疑った。しかしすぐに、自らの持つ人離れした治癒の力を思い出し、現実なのだと理解した。畏怖した。何よりも、こうなっては野望が叶わないのではないのか――と。

 いっそ、憎らしいほどの無垢さで。悲しいほどの優しさで、目の前の少女は自分を望んだ。散歩がしたいというその一言に信頼の形が見えて泣きたくなるほど悲しかった。この状況に至って考えるのはやはり可愛い我が身、我が願い。かつての月の晩のように、何も知らなかった頃のように接することはもうできない。それは過去の自分が許さない。
 庭を歩く月の姫へと哉栄は近付いた。その足取りは散歩に行くというより罪人が処刑される寸前のようで、柔らかい薄茶の髪が揺れる度にうかがえる表情はひどく、暗い。おどろおどろしい光景を、大人である自分よりしっかりと見つめている姫は手を伸ばすのも躊躇うほど美しく、高貴で。汚してはならない存在に手をかける、殺してはならない人を殺そうとしている罪悪感に押し潰されながら前に出る足は止まらない。


 視界を塞ぐように、正面に立つ。あどけない顔立ちはそれでも、月の姫に相応しく凛としていて、儚くて、守ってあげたいと思う反面きっと殺めることができると思わせた。
 『僕』は手を挙げて、初めに彼女の手を取った。小さくて白い手、人と変わらない五本の指に淡い色の爪。それでも彼女は『人ではない』と言い聞かせ、その手を眼前へと持ち上げる。

「――あなたを殺し、そのにくを食べれば、奇跡が起こると聞きました」

 語る口調は淡々と、どこか幼さを感じさせ、懇願するような色を含んでいる。残念なことに、哉栄は今武器となるものを持っていない。持っていたとしても何もできないことを哉栄は分かっている。自分にこの子を殺せはしないことを、自分がずるい大人であることを。

 この子が優しいことを。

「兄が、いました。兄は、死にました。僕のせいで昔、死にました。僕が死ぬはずだったのに、僕をかばって、死にました。僕は、あの日のことを、もう一度やり直したいんです」

 ぽつり、ぽつりと。溜めていた思いを吐き出す――罪を、告白する。許しを乞うように見えてその実、許しを奪おうとしている。引き下がれない、もう止められない。堂々巡りを、終わらない輪廻を、断ち切りたい。

 少し、口を開ける。白い指を含み、そして思い切り閉じた。口に広がる鉄の味、皮膚を裂き、肉を貫いた先の硬い感触は骨だ。音はしなかった。ただきっと、こんなに深く噛んでしまっては彼女が痛いだろうと思うと、涙がこぼれた。一筋だけ、片目から、静かに流れていく。決して泣く資格などないのに。
 口からその指を解放して見れば、白い指は赤く染まっていた。哉栄の口周りも少量の血が付着しており、涙と混ざって赤い雫が顎から落ちる。

「ごめんなさい、――ごめんなさい。ぼくのために、死んでくれませんか」

 そうして、哉栄はわらった。
 ずるい言い方をしている。自分の手を汚さないやり方を選んでいる。

 血に染まる彼女の右手を、懇願するように握りしめ、嗚呼こんな姿をあの愛しい弟子や友人、慕ってくれる人々に見られたくないと保身を願ってしまう。
 こんな自分、はやく消えたくて、仕方ない。声なくもう一度、ごめんなさい、と少女の死を乞うた。


>>輝夜、all




【お返事遅れてしまって本当にすみません……!!哉栄のできる精一杯のむしゃりです。きっと哉栄なら、輝夜ちゃんの優しさを理解しそこにつけこむんだろうなあ、と思いがぶがぶしました。ずっとがぶがぶしたかったのでやっと念願叶いました、しかし輝夜ちゃんごめんなさい、本体の心が痛い。一人称『私』だとなんか違和感があったので、昔はきっと『僕』って言ってたんだろうなあと考えてちょっと変えてみました(雰囲気)。もし現在の状況と異なる部分がありましたら教えてください……!】

2ヶ月前 No.345

輝夜 @yuunagi48 ★Android=GJQVGCUts0

【輝夜/宮中 庭】
ごうごうと音を立て大地から吸い上げられる水のようで、人々が妖と呼ぶものを二つの瞳で真っ直ぐに見詰めていた輝夜は一歩、また一歩とその妖へ足を進める。その姿だけを見て判断するならば、恐れは無く、興味でも、宮中を守らねばという使命感でもない。まるで輝夜自身が吸い上げられる水の一滴となり引き寄せられるかのように、ゆっくりと歩み寄って行った。

輝夜が足を止めたのは視界いっぱいに、今目の前で起こっている惨状に似つかわしくない柔らかな色合いをした着物と白めの肌色が広がったからであった。視線を少し上に向ければそこには輝夜を見る哉栄の姿。輝夜は何も言わず哉栄を見詰め返す。先に動いたのは哉栄の方であった。

そっと輝夜の手をとる。哉栄の手に導かれ抵抗もなく上へと持ち上げられる。一枚、薄紫色をした花弁が開いた。
哉栄の唇が動き輝夜の背負っている定めを言葉にする。この世界では輝夜にそれを直接言葉にして伝えてきた者は哉栄が初めてであった。また一枚、花弁が開く。
更に哉栄の言葉は続く。ゆっくりと、一言一言を選び、胸の奥底から絞り出すように。輝夜は何も言わず真っ直ぐに哉栄を見詰め続ける。また一枚、花弁が開く。

思いを告げた哉栄は輝夜の指を自らの口に入れると、強く閉じた。瞬間の激痛。輝夜の体は反射的にびくりと跳ねた。皮膚が裂け、肉が断たれ血管から真っ赤な鮮血が噴き出す。体が小刻みに震え、汗がじわりと滲み出る。しかし、輝夜は顔を歪め息を呑むだけで叫び声をあげることはなかった。顔色は血の気が引き蒼白である。それでも哉栄を見る瞳は僅かに涙を潤ませながらも真っ直ぐなまま、恐怖も、怒りも浮かべてはいない。ただ、慣れぬ痛みを堪えているだけ。哉栄の片目から一滴の涙が頬を伝う。花弁がまた一枚開く。
離された指は溢れた血で赤く染まっていた。同じく輝夜の血に濡れた口で哉栄は再び言葉を紡ぐ。
ごめんなさい――と。そして自分の為に死んで欲しい――と。最後にわらった哉栄に最後の一枚が開き、星を描いた。

「……きれい」

月の姫に奇跡の為に死んで欲しいと願った男に、願われた少女がようやく発した言葉であった。右手を哉栄に握られたまま、自ら上げた左手で哉栄の頬に触れる。そっと、慈しむように。

「咲いたのね、美しい桔梗。優しい桔梗。香りはほとんど主張しないけれど、その色は見るものを癒し心落ち着かせる。とても他想いの優しい人」

振り返れば輝夜は哉栄の事を「蕾の桔梗」と咲秋に伝えていた。哉栄と出会ったあの夜、輝夜の目に映る桔梗はまだ蕾であり、花開いていなかったのだ。そしてそれが今目の前で美しく開花した。輝夜の表情が蒼白のまま和らぎ、ほほえむ。

しかし、直後に輝夜の眉尻が下がった。哉栄の頬に触れた手も加えられていた力を失い重力に従って下に下がる。一拍の間があき、輝夜は再び口を開く。

「だけど……あのね、私、桔梗の気持ちは、とても良くわかるの。大切な人を亡くしてしまう苦しみも、悲しみも、とても良くわかるの。だから私も桔梗に出来る事なら力を貸したい。でも!私を、大切にしてくれる人が居るから、守ろうとしてくれる人が居るから……私はその人達を、悲しませたくはないの。大切な人を失うのは……とっても苦しい事だから。大切な人に苦しんで欲しくないの。だから、私は……生きたい」

先程とは違い悩みが伺える。その言葉は途切れ途切れに声量も安定していない。それでも最後の一言だけは静かにはっきりと告げた。視線を哉栄の手と、未だ血を溢れさせる自らの手に向ける。そして更に続ける言葉から迷いは既に消えていた。

「それにね、桔梗。もし貴方が貴方の言う奇跡を得て、昔をやり直したとしても桔梗がその結果死んでしまったとしたら、今桔梗の目の前にいる私を含めて、桔梗を大切に想う人はとても悲しむわ。例えそれが無かった未来になってしまったとしても、桔梗の悲しみと同じ悲しみを抱くの。だから、もし、この先桔梗が過去をやり直したとしても必ず生きて。そしてやり直した桔梗として笑顔で今日をむかえないとだめ」

輝夜の言葉は矛盾する。生きたいと望みながら、桔梗が過去へ戻った時の話をする。そしてどちらも紛れもない本心であった。それはきっと経験があるからこそ、今どちらも伝えておかなければと思ったからであろう。

「桔梗は優しいから」

逃げられないと諦めている様子でもなく、かといって逃げ出す様子もない。全てを燃やしつくそうとする業火も、全てを飲み込もうとする濁流も、再びその傷口に歯を突き立てられるだけで強制的に時間を戻されてしまうこの現状も輝夜の目には見えていないのではないかと思えるほどに、ただ静かに笑ってた。
>哉栄、周辺ALL

【やったー!念願のむしゃり(←ぇ)哉栄先生が儚くて綺麗すぎて萌えております!(←)
かなり矛盾に長々と語っておりますが、もしこうして欲しい(食われて欲しい、逃げ出して欲しい、宮中から外に向けて欲しい等々)というのがありましたら追加で動きもくわえられますのでご一報ください!】

2ヶ月前 No.346

語り(モブ) @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ妖)鵺+火車+屍達/城下・石階段】

彼岸が珠芽の絹糸のような白髪を掌で抑えた其の瞬間、復た空が光り雷鳴が轟いた。
瞬くよりも短いほんの刹那、夜空は月も星も消え去る真昼の白さに閃く。珠芽の長い髪が、殊更に明るく銀のように煌めいた。
低い空に紫電が這い、不吉な鵺の鳴き声が幾重にも谺する。暗雲垂れ込める空の彼方から、生きとし生けるものを狙い撃つ恐怖の砲口が、轟音と共に稲妻を放ってまた一つ邸を造作もなく撃ち抜いた。

「……大蛇め。屑を無駄に蹴散らしおって。逃さず仕留めねば蜘蛛殿の本懐は遂げられまい。……くはは、逃げられると思うたか愚かしき人間!」

虎鶫の翼が、奇々怪々たる化物の身体をぶら下げて都の夜を滑空する。裁きの雷雲を引き連れて舞い上がり、高笑いと共に神の鉄槌を愚かしき人の世へと落とした。空が白く光るたび、民草からは悲鳴が上がり、それを鵺は愉悦の内に眺めては殺した。

洛西の一角は、既に焼け焦げた瓦礫と屍で埋め尽くされていた。雷電は住居を焼き、焔は住民を包んだ。直接的に落雷に撃たれた者も居る。その一角に突如として、ぼうと青い火が灯った。焔は一つが二つに、二つが四つに増えて、雨雲の間から落ちてくる。鬼火のようにぐるぐると回っていたそれは、よく見れば単なる火の玉ではない。地底湖のように青く燃え盛る人力車であった。到底この世の物ではない。煙も立てず幽かに透き通りながら青く揺らめく人力車を、二足歩行の猫のような妖が引いている。焼け焦げた屍の匂いを嗅ぎながら四匹の猫は四台分の火の轍を刻み都人達の死体を物色している。
「鵺サマ、人間遊ビ、シテモイイ?」
一匹が天を仰ぎ、小さな口を開いた。
「……向コウノ山ニ、遊ンデル強イ妖怪イル」
別の一匹も口を開いた。
「「人間遊ビ、シタイ」」
鵺は返答の代わりに空を劈く高笑いを一つ投げると、一際大きな稲妻を空に走らせた。
ーー「汝らの好きにするが良い、火車」

火車、と呼ばれた猫のような妖怪達は歓喜に小躍りし、手にした太鼓を打ち鳴らして集めた屍の周りをぐるぐると回り始めた。怪しい儀式のような、何処か滑稽で且つ不気味な光景である。太鼓を打てば音は電流に代わり、軈てそれは綾取り糸のように編み目を作って痺れるような音と光を立てる。織り上げた紫電の網に絡まって、死体が起き上がる。ばちばちと耳障りな音を立てながら、横たわっていた幾つもの死体が、仰け反るように背筋を弓にしてのたうち回り、筋の不随意運動に手足をびくつかせた。生命は内部に発生する電流によって神経を興奮させ体を動かしている。火車達の浴びせた僅かな電流により屍体に魂は無くとも反魂の術の如く筋を刺激し活動を与えているのだ。
「「ワアア、動イタァ!」」
焼死体が立ち上がり歩き出すと、火車達は歓声を上げる。黒く焦げて剥がれた皮膚を骨筋の上にぶら下げて、かつては都人達だったその死屍の群れは歩き出す。肉の焼けた酷い匂いが充満した。するとどういうわけか、火車達の引いていた人力車の中からも次から次へと人間の死体が溢れ出し隊列に加わった。火車は、罪人の死体を盗む妖。人力車の中には惨劇の都で彼らが集めていた死体が詰まっていたのである。
「行ケ行ケ、人間。山ノ妖ト相撲ダゾ」
火車が指揮をとると、数十名の軍勢にまでなった屍たちは一斉に神社へと続く石段を登り始める。いつの間にか手には武器を持って、はじめはぎこちなく歩いていた者も次第に俊敏な動きへと変わっていって、破れた皮膚やはみ出した内臓を引き摺りながら、鬨の声すら上げて石段を駆け上がった。其の先には、天狗の半妖と、若い狐の妖の姿がある。
二人が話している間に、火車に操られた屍の軍勢は取り囲むように分散し、各々武器を構えた。

彼岸が立ち上がったのと、其れは同時だった。何度目かの白い瞬きが宙を覆った。雷鳴が闇を破る開戦の銅鑼となって辺りに響く。それを合図に、既に魂を失っているとは思えない動きで屍達は一斉に二人に斬りかかった。

>彼岸、珠芽、all


【師弟の格好良い殺陣を期待しています! GOOD LUCK!】

2ヶ月前 No.347

夕臙 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/城下→宮中・左京院邸 庭】

「光先生……何処に……!」

光宮邸に哉栄の姿は無かった。城下の其処彼処に溢れる妖達の目を掻い潜り此処まで辿り着けたのは、夕臙の日頃の行い≠フ賜物だろう。薬師寺や哉栄には勿論秘密にしていたが、もしかしたら薬師寺は薄々気づいていたかもしれない。なんとか光宮邸まで辿り着いたはいいが、哉栄が留守ということは、彼があの地獄絵図のような都の何処かにいるということになる。城下の有様を見たからこそ、夕臙は焦った。
「薬師寺さん! 思葉! 先生は宮中にいるっ!」
其れは強運の持ち主故の勘というものなのか、或いは聡い少年の推理であったのか、夕臙は突然そう叫ぶと鉄砲玉のように光宮邸から飛び出して、再び混沌の都の夜へと飛び混んで行ってしまった。

--

宮中へと潜り込むことは、想像を遥かに超えて容易かった。月の姫を狙って偵察していた時は巨大な門と立ちはだかる衛士の姿に侵入はまず不可能と思っていた殿上人達の住処も、今や門は開け放たれ門番も逃げ出したのか姿は無く、通過しても咎める者は無かった。最も、「哉栄先生を救う」という大義の前であればどんな危険が其処にあろうと今の夕臙は構いはしなかっただろう。
途中で落ち延びる貴族と思しき一団と擦れ違った。逃げていく者といってもその服装は夕臙が今着ているぼろよりも身綺麗で、牛や馬を連れている者もいる。泣いている女もあったが、夕臙は荒んだ心ですれ違い様に舌打ちした。今まで私腹を肥やしてきたであろうあの貴族たちの留守邸にこの好機に忍び込んだら、どれほどの豊かさを盗むことができるだろう。
ーー(……それどころじゃないから、しねぇけど)
夕臙は心の中で自問自答すると、一人流れに逆らって絆の呼ぶほうへと駆けた。

一際大きな邸の庭に、探し人の姿はあった。
先生、ーーと声を掛けようとして、慌ててそれを呑み込み、夕臙はさっと隠れた。
先生は……光宮哉栄は、月の姫と一緒に居たのである。その身を口にすれば時を遡る奇跡をもたらすという、月の女神。夕臙は薬師寺紫と共に光宮哉栄を死すべき運命から救う為にその少女の命を狙っていた。そのことは哉栄には勿論知らせていない。何故彼が月姫と共にいるのか訳が分からず、夕臙は混乱した。

ーー『……僕が死ぬはずだったのに、僕をかばって、死にました。僕は、あの日のことを、もう一度やり直したいんです。……』
ーー(せ、んせい……?)

聞いてはいけないものを、見てはいけないものを、見聞きしてしまっている。それを頭では分かっていた。分かっているのに、鼓膜に飛び込んでくる恐ろしい告白を、網膜に飛び込んでくる信じ難い光景を、遮断することすらできずに、夕臙は其処に根付いた植物のように立ち尽くしてそれを垣間見ていた。都じゅうの時が止まったような景色の中で、己の心臓がぎゅうぎゅうと大袈裟な脈を絞る。こま送りのように吸い込まれていく姫の白い指を、其処に歯を立てる師匠の姿を、息を詰めて見守った。膝が笑い手が震える。混乱のあまり頭が割れそうに痛かった。

あんな先生を自分は知らなかった。
あれが、先生の願い。先生は、その為に、月の女神を。あの先生が、願いの為に、……一人の少女を。
それでも、たとえ先生が自分に隠し事をしていたとしても良いと思っていた。先生の願いが叶うなら。過去の先生の願いが叶う事で先生が医者にならず、その神懸の力を使う事もなく、未来まで丈夫な身体を持ち幸せに生きてくれるなら。それで構わないと思っていた。その願いの為に代わりに殺人だって遂行する覚悟だった。
けれど、先生のやり直したい願いは、過去の光宮哉栄が兄の代わりに死ぬことだという。それでは、先生が死んでしまう願いでは、先生を救うことができない。それでは、先生の願いを叶える意味が無くなってしまう。

(先生、駄目だ、そんなの……)
如何すれば良いのか、此処にいない薬師寺紫に尋ねることもできずに夕臙は巨大な矛盾の前に立ち往生する。手を取り指先を齧る恩師の横顔は今にも消えそうなほど儚く、涙は見ていて苦しくなるほど美しかった。自分にとっての神が理想通りではなかった事は、衝撃ではあったが今は二の次で、それよりも彼を救う作戦が潰えた事が動けぬ程の打撃を与えていた。

(お願いだ、先生、やめて……)
哉栄が月の姫を食べてしまったら、時間が戻ってしまう。夕臙が生まれるよりも前かもしれない、光宮哉栄が子供のうちに兄の代わりに死んでしまう世界へ。
阻止しようと声を上げるより先に動いたのは、他でもない月の姫だった。
天女のような微笑みで哉栄を諭す輝夜に、夕臙は暫く我を忘れて魅入る。それほどまでにその物言いは神々しく、柔和で、慈愛に満ちていた。茶屋で花菖蒲≠切りつけた時に泣いているばかりだったあの子供と本当に同一人物なのか。月の女神は人ではないーーあのときは「こんな小娘が月の女神な筈はない」とさえ思っていた夕臙だったが、今こそは本気で信じた。普通の人間がそう思うのと同じように「生きたい」と願う彼女も、自分に危害を加えようとした相手に「生きて欲しい」と願う此の世の理を越えた彼女も、今目の前にいる美しい少女が、古より言い伝えられた奇跡の月姫なのだと。
夕臙が如何するか迷ったのは言うまでもない。輝夜を食べさせれば哉栄を救えると思っていた夕臙だったが、哉栄の願いと哉栄の命は矛盾するもので、更には輝夜の「桔梗が今を生きられないような願いは叶えるわけにいかない」という説得のほうが夕臙の願いに近かったのだから。握り締めた小刀の行き先を見失ったまま途方に暮れていると、視界の端で何かが動いた。

「ーーーー!」

一瞬小さな蝶が羽ばたき動いたように見えた。しかしそれはとんでもない幻覚で、其の正体は火の勢いを増して燃え上がった左京院邸の柱だった。火の粉を吹き上げながら根元から折れ、輝夜と哉栄がいるほうへと倒れてくる。

「危な………………いっ!!!!」

夕臙の頭から、理性というものが瞬時に消し飛んだ。叫び声と共に髪に付けたあの鈴の音が響く。気付けば、夕臙は哉栄・輝夜の二人と柱との間に飛び出していた。迫り来る柱が頭上に影を落とした時、
(嗚呼、そういえば……月の姫が言ってた桔梗≠ニかいう医者……なぁんだ、光先生のことだったんだな)
と酷く場違いで呑気な感想が浮かんだ。
師がその人ならざる癒しの力を使う時に表れる美しい星の華を思い出して、やり場のない切ない気持ちになった。その星の命の灯を奪って、この身は生きてしまったのだ。だから、元の生命が枯れるくらいなら我が身を紅く染めて離れていくべきだと、そう思っていた。
肌を焼く熱が距離を詰める。過去を悔やみ未来を憂いながら人の子は、今≠フ価値に抗えない。夕臙は両の手のひらを、師に生かされた紅葉の手のひらを前へと突き出した。

>哉栄、輝夜、all


【どうしても師弟に互いの真相を知らせてみたくなってしまった……(残酷)乱入すみません! ここからはどんな展開になっても楽しいのでお二人にお任せします!】

2ヶ月前 No.348

華切 @poko10 ★Android=MNgMSKnMpI

【華切/左京院邸】

 手にした刀を見つめて輝夜を案じる華切の耳には、邸が崩れ落ちる音も、使用人たちが騒ぐ声も、遥か遠くに聞こえていた。まさしく今現在の輝夜の置かれた状況を華切が知っていたならば、すぐにでも邸から飛び出していくのであろうが、何も知らない華切はただ、静かに輝夜の身を案じていた。
 そんな華切の佇む部屋に、突如襖を乱暴に蹴破って一人の男が現れる。その男にとっても華切がここにいたことは予想外の様子だった。華切を昔から知る様子のその男は、淡々と、そしてやや挑発的に華切に語りかける。

「佐野、暁時……」

 華切は男を見据えて、ぼそりと名を口にした。華切自身、自分が男の名を覚えていたことが意外だった。ここで再会することがなければ、恐らく一生このかつての使用人を思い出すことはなかっただろう。
 幼少の頃、華切はこの男と話すのが好きだった。決して子供扱いせず、かといってただ崇めるわけでもなく、暁時は華切に色々な話をした。知性に溢れるものではなかったが、彼の話は興味深かった。暁時自身が優秀さを垣間見せることはなかった。だが、父である伊織が彼を買っていたのだから、優秀な武士だったのだろうと思う。だからこそ、父は暁時の裏切りを許さなかったのだ。

「それが、今のおまえの仕事か」

 混沌と化した邸の中で盗み出してきたのであろう様々な物品を抱える暁時に、冷めた視線を向ける。邸はじきに灰塵となり果てるだろう。物も、金も、惜しくはない。善悪の区別がつかないわけでもあるまい。羞恥を覚えない幼子でもあるまい。己の首を絞めたければ、好きにすればいい。
 再び、二人の間に炎を纏った梁が落ちてくる。邸を支える骨組みの倒壊も、それほど遠くないのかもしれない。

「……ここから失せろ。死ぬぞ」

 ふいと暁時から視線を背け、刀に目を落としてそう告げた。

>佐野暁時、all
【素敵なモブおじさんありがとうございます!勝手に雰囲気こんなかなぁと定めてしまった節があり、申し訳ないです。どうぞ抉ってくださいませ!】

2ヶ月前 No.349

@kronos☆M83pBhikgC. ★Tablet=vxMphjjPfm

【薬師寺紫/思葉/宮中、左京院邸 庭】

「おや、まぁ、呆れたねえ」

直感というものに従い駆け抜ける夕臙を必死に追いかける二人。かく言うも阿鼻叫喚の城下はある種の障害物競走といっても過言ではなかった。小さな体で縫うように駆ける背中に振り切られなかったのは偏にやじ馬根性、または鉄火場をくぐり抜けた経験が活きたからだろう。とにかくも二人は夕臙の探し人を突き止めた。その勘の良さに当てられて出た言葉の主は思葉だったが、すぐにそれを制止する腕が伸びる。もう一人の男薬師寺紫だ。

哉栄の独白にも似た言葉は、幼なじみの長年の付き合いから何となく察しが付いていたため差ほどの驚きはなかった。寧ろ驚いたのはかぐや姫の方だ。宮中では物静かな人形然とした噂しか聞かないあの娘がまさかあのような言葉を吐くとは、とある種心動くものを感じた。

「夕臙、あれを……」

言いかけたが早いか、颯爽と飛び出したかの少年は、燃え落ちる柱から二人を庇おうと飛び出す。柱は目の前、踊り出たところであの矮躯では押しのけるはおろか反らすことさえ不可能だろうに。

「焼きが回ったかしらねぇ私も……」

薬師寺を抜けて動いたのは思葉だった。何度も官吏に捕まる経験のある思葉の姿は、がっちりとした体躯の偉丈夫へと変化し、夕臙の後ろからその丸太のような太い腕を突き出したのだった

2ヶ月前 No.350

語り(モブ) @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ盗人)佐野 暁時/左京院邸】

佐野、暁時。まさかその名前を呼ばれるとは思わなかった。
華切が十数年越しにその名を呼んだことで、火事場の盗人に成り果てたこの男の心が一瞬揺らいだ。紅蓮の炎が波のように、二人の間を寄せては返す。

「華切様」
記憶の中の左京院の若君は、まだほんの幼い頃の姿のままで止まっていた。それだけの長い時間が、此処に居場所を失ってから流れてしまったのだ。時折揺らぐ橙色に染まる暁時の薄汚れた顔は、次の句を失ったような後悔の表情を滲ませた。しかしそれは名を呼ばれたその時だけのことで、華切冷めた視線を感じ取ってか元の厭な卑屈な笑みに変わった。

「ええ、若君の御父上様のお陰様でねぇ。この通り、日頃はしがない賭博師ですが都の危機とあれば職業は立派な物盗りですよ。それに今は『佐野』とは殆ど名乗りません。あなたの父上は、妻と病気の子のために生きて帰りたいと願った男を臆病者と謗り武士の名を剥奪したのだから」

足元に崩れ落ちてきた燃える御簾を軽々と跳んで避けながら、暁時は悪党然として豪放に笑った。如何やら盗みを生業としているこの男はもう火事場を歩く事には慣れてしまっているらしい。
華切が子供の頃左京院家に出入りし、暇があれば華切に気さくに頼まれもしない楽しい話を語って聞かせた嘗ての使用人は、輝夜姫がやってくる少し前に邸からひっそりと姿を消した。宮中にある宝物を守る任務を授かったというのに、敵が強大と知って命惜しさに逃げ出したということが左京院家当主伊織の怒りを買ったのだ。武士の名を剥奪されて宮中を追い出された彼はすっかり落ちぶれてこの有様というわけである。

「若君のその侮蔑の目、冷めた目。嗚呼、左京院様に似ているなァ。こうしなければ生きていけない者の事など理解も出来ないという貴族様の目だ。くははっ、言われなくともおれは此処で死ぬ気などない。お気遣いをどうもーーーーそうだ」

悪びれた様子など微塵も見られない。寧ろ自分から目を逸らし「失せろ」と言い放った嘗ての主人に、愉しげな声を蛇のように執拗に絡ませた。

「久方ぶりに興味深い話を致しましょうか、華切様? 今宮中を襲っているあの八岐大蛇は河の妖であって、火など吹かない。今更信じないかもしれませんがおれは別に左京院に放火するほどの怨みはない。今頃別の部屋を荒らしてるだろうおれの同業者達もだ。金品に興味があるだけ、人殺ししようとは思わねぇ。確かにざまみろとは思っているが、だがしかし火は放っていない」

ーー何が言いたいか判りますかい、ぼっちゃん?
その何処か少し砕けた親しげで飄々とした語り口調だけは昔のままで、嘗て少年華切に色々な話をしてくれていた暁時のようだった。しかしその口調で告げる真実は、少しも優しいものではないことを、人生を狂わされた裏切り者の暗い瞳が物語っていた。

>華切、all


【いえいえ、華切王子のおかげでモブおじさんのキャラに思いも寄らぬ深みが出て美味しいです……! 抉りに掛かりましたぁ!←】

2ヶ月前 No.351

絲祈 @september9☆l2RtaxPLX0X6 ★gXyGHSaxw7_M0e

【屍たち(モブ)/城下・宮中】

 きりきり、きりきり。
 か細くて、それでいて脳内に直接響くような嫌な音を立てながら、蜘蛛の糸が幾重にも幾重にも撓る。目を凝らさなければ気付かないような、ひどく細やかな銀色のその糸は、月の光を受けててらてらと濡れたようにきらめき、そして人々の悲鳴に共鳴するかのように震えていた。
 きりきり、きりきり。
 糸が撓るたび、すでに色を失った屍ががくりがくりと不気味に蠢く。死体の四肢から、首から、節穴と貸した眼孔から、張り詰められた蜘蛛の糸が伸びているのだ。蛇のように蠢くその糸は、まるで意思を持っているかのように着々と伸びてゆく。逃げ惑う人々の合間を縫って、きりきりという耳障りな音を立てながら、数多の死体を介して糸を伸ばしていく。

 崩壊しかけた屋敷の屋根に。
 折れた松の枝々に。
 動きを止めた水車の上に。
 かろうじて形を保っている家の垣に。
 ――あろうことかそれは、宮中にさえ侵入していた。

 建物に蜘蛛の糸が張り巡らされていく度に、それに合わせて哀れな屍がびくりと蠢く。黄泉の国から這い上がってきた彼ら彼女らは、死臭を漂わせながら、狂乱の都を闊歩する。張られた蜘蛛の糸に操られる哀れな人形(ひとがた)は、あるものは空洞となった頭から脳髄と髮を垂らし、あるものはそのぽっかり開いた胸から助骨を覗かせ、あるものはただれた手足を引きずりながら、それでもなお、残虐な蜘蛛の糸に操られていた。
 屍の口から、絲祈が屋敷から放った子蜘蛛がぞろりと溢れた。地に落ちたそれらは、新たな宿主を探さんとまた騒ぎの中へ繰り出していく。

 そして今、蜘蛛の糸は、城下と宮中、その殆どに張り巡らされた。

 ぴたり。蠢いていた屍たちが、動きを止めたかと思うと、そのまま天に引っ張られるかのように宙へ浮かぶ。高い木や屋敷の屋根から、細い銀の糸たちから吊られるように、力なく屍が夜の空を背に項垂れている。さながらそれは、蜘蛛の巣にかかった獲物のようだった。城下と宮中、その両方にて、点々と屍が蜘蛛の巣にかかっているという、何とも不気味な画が出来上がっていく。異変に気付いた人々が立ち止まり、訝しげな表情で屍たちを見上げた刹那。

『――――この世の地獄を、再び!』

 世にも悍ましい蜘蛛の妖、絲祈の声が、屍の口から溢れる。次の瞬間、吊られた屍たちが、一瞬にして青紫色の焔に包まれた。
 死臭と、腐った肉の焼ける匂い。その両方を当たりに散らしながら、鮮やかな焔は月の下でめらめらと燃える。生き物のように張られた糸を伝い、ひときわ焔の尾を揺らしながら、家屋や木々を焼いていく。昼間のような明るさの中、この世に現れた灼熱の地獄。美しい青紫の焔は次々と人を飲み込み、そして街のすべてを焼き尽くさんばかりに広がっていった。不思議な事に、蜘蛛の糸は焼け落ちる様子を微塵とも見せなかった。

>ALL 【絲祈の策略によって、城下と宮中に火を放させて頂きました……! 糸は焼け落ちないだけなので物理攻撃を加えれば千切れますのでよろしくお願いします】

2ヶ月前 No.352

佐竹咲秋 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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2ヶ月前 No.353

藤堂吉継 @yuunagi48 ★Android=GJQVGCUts0

【藤堂 吉継/城下、屋敷付近路上→宮中へ向かう途中、路地】

宮中に向け一歩一歩着実に足を進める。確りと巻き直した包帯により、慣れた片目に飛び込んで来た光景は一変していた。じゃりと赤い水気を含んだ砂が足の下で音を立てる。羅城門へと向かう時に感じたものとは別の死臭が鼻を突く。

「な……」

一瞬、その眼を僅かに見開き丸くする。今しがた歩いてきた道に転がる憐れな屍が壊れた絡繰人形の様に起き上がり動き始めたからだ。その数は中心部に近付くにつれ次第に増えていく。元は人間であった絡繰達がその歪さを隠す事なく我が物顔で歩く姿にふっと息を漏らしわらった。

『――――この世の地獄を、再び!』

正にこれを地獄と呼ばずに何と呼ぼうか。絲祈に操られた絡繰達は空へと浮かび青紫の焔に包まれた。呼吸をする度に吐き気を催す程の肉の焼ける異臭が肺をどす黒く侵してゆく。絲祈と夜の言葉が脳から、目の前の光景が視界から、臭いが肺から染め上げられていく。

ふと、足を止める。それは幼少期より長年共に同じ主に仕え、戦い、相棒として互いの呼吸すら知り合ってきた為か。視線を前方から横へと向ければ細い横の路地のそのまた向こうに左眼を押さえる咲秋の姿。

あぁ、そこに居たのか。探していたぞ、咲秋。

右の口角を僅かに持ち上げ、腰の鞘から太刀を抜く。咲秋に向かい駆け出せば、右足に力を込め跳躍、再び獲物へ襲いかかろうとしていた残された一羽の心臓を刺突した。

「咲秋!眼をやられたのか?それに何故ここに……まさか姫や華切様も」

着地と同時に咲秋へと駆け寄れば肩を掴み詰め寄る。妖達の様子を見る限り絲祈と夜に逆らおうとする者は居ない様に思えた。しかし、この様な混乱の中に姫が居たとしたならば無事である保証は無い。周囲を見回し姫や華切の姿を探した。
>咲秋、周辺ALL

【ひ、久しぶりの吉継君に探り探りの上、冷や汗にじませながらの投稿です。不備やそもそも理解の間違い等ありましたら指摘お願いします!/夕凪】

2ヶ月前 No.354

佐竹咲秋 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/城下・路地】

自分が持つ筈のない記憶、気の所為と一蹴するには余りに現実味を帯び過ぎた既視感、潮騒の如く絶え間なく胸の内に鳴り続ける警鐘。青藍に染まった雲を歪ませて、眩暈が空をも敵をも景色をも遠くへと隠した。
足元がふらつくと、崩れかけた身体を支える腕があった。肩にかかる何処か懐かしいような力強い圧に、一瞬だけ身を委ねて咲秋は手放し掛けていた意識を取り戻す。
「……吉継……」
駆け付けてきたらしい脈と体温の上昇を衣越しに感じながら、咲秋は両の眼を開いた。
走馬灯のように流れていた悪い夢が、痛みが、友の出現によって一気に遠ざかり、すぅっと消えていく。吉継を見上げ、首を横に振る。
「華切様は未だ邸にいらっしゃる筈だ。姫様が、姫様が居られなくて探しに来た。そうしたら……」
悪夢から目覚めた咲秋は、吉継に預けていた重みを自らの足に戻し、確りと自立する。そうしたら、この有様だ。と、振り返り気味に視線で荒廃の城下を示した。吉継も見てきたであろうから言葉にするまでもない、といったところか。眉間には深い皺が刻まれている。

如何して此処にいる、何処へ行っていた、体調はもう良いのか、相棒に聞きたいことは幾つもあった。しかし今は、この状況に於いて行方知れずの輝夜の事こそ最重要事項だ。
「今宵こそ姫様が危ない」
咲秋の声は緊張を孕んで僅かに掠れた。
肩を掴んでいる吉継の腕に力が入っているのも、都の此の状況に彼も危機感を覚えぬ訳が無いからだと理解していた。

「姫様は御自身が満月の晩に亡き者にされるという悪夢を見ておられるそうだ。唯の悪夢と一蹴するには、怖い」
聞いてくれ、と、咲秋は吉継の目を見てその根拠を語り出した。
「姫様の事だ、俺にはそれが単なる夢ではなく不吉な予知夢のように思えてならなかった。実際に……今日、姫様が洛東の茶屋で刃物を持った少年に襲われたらしい」

悔しそうに顔を歪ませる。昼間のことは己が過失では無いとはいえ、あの茶屋で見た血痕と、茶屋の女将の話を思い返すだけで胸が痛んだ。どれほど、怖かったことだろう。其処に自分が居れば。何故自分が付いていなかったのか恨めしく思った。

「幸い姫様に怪我は無かったようだが、もしもあれが予知夢なら、まだ実現されていないだけで今夜こそが姫様の危機だ。……もう一つの可能性として、」
日頃無口なこの男がこんなに喋るのは珍しい。堅かった口調は次第に熱を帯びていく。

「刃を向けられるその夢が、予知≠ナはなく記憶≠セったとしたら? もしも月姫の伝説が真実だとしたら。姫様は前に一度満月の晩に何者かに殺されて、俺たちがいる今は、その誰かが時を遡ってやり直した世界なのだとしたら! その何者かは今世でも、満月の今宵その刻が来れば同じ様に姫様を亡き者にしようとするのではないか」

青く光る不吉の夜風に染められて、咲秋の顔色は蒼白に見えた。追い詰められた者の神経衰弱的な世迷言といえばそれまでかもしれない。だからこそ咲秋は無二の友と思う吉継にしか伝えられなかった。鬼気迫る様子で訴えるのは彼を信用しているからに他ならない。吉継はこんな不吉な妄想をなんと言うだろうか。蟠りの全てを打ち明けてから不安が胸を掠めたが、この最悪の予感を伝えずには居られなかったのだった。

「俺だって月姫の奇跡など信じたくはない。気を違えたと思うならそれでも構わない。俺の危惧する最悪の可能性の話だ」

>吉継、all


【さくっと推理&模索編ということでなんだなちょっと説明っぽくなってしまった……すみません。何か過不足ありましたら書き直しますね(汗)夕凪様ありがとうございます!】

1ヶ月前 No.355

夜(皇出母) @papillon ★6ycWB2hnsK_mgE

【夜(皇出母)/城下・都の外れにある屋敷→】


 己の前に額づく吉継を、内親王たる皇出雲の姿を借りた悪しき何者かは無邪気が故にあまりにも邪悪な微笑を浮かべ、ただにこやかに見下していた。足元に落ちた被衣はそのままに、姿勢を崩して薄ら暗い笑みを浮かべた吉継と目を合わせて。ありとあらゆるこの世に降り注ぐ輝き、たとえばあの天上の月明かりさえも蝕んで覆い尽くす闇の化身やる夜は、吉継の言葉に目を細めてみせる。

「流石は吉継様、察しがお早いようで。ただ一つだけ訂正させて頂くのなら、少なくとも余の目的は怨念を晴らす事でも、憤怒の激情に突き動かされた訳でも御座いませんけれど。それはまたいずれお話するとして……ただ人の子を殲滅するだけでは飽き足りぬのが我等妖の業。仰る通り貴方様の〈覚悟〉こそが〈契約〉に必要な最後の言の葉。その言霊が満願成就の鍵となり、開く筈の無い錠は今こそ焼けて落ちて未来へと開くのです」

 仄暗く、しかしあまりにも愉しげに笑う絲祈の言葉に一度頷いてみせながら、夜は歌うがごとくすらすらと語っていく。それは真意を語るようでいて相手を霧の中、崖っぷちで惑わし、煙に巻いて突き落とす戯言の調べ。

 虫の羽音に似た奇妙な笑い声だけを残して、絲祈の姿が天井へと消える。
 それとほぼ同時に、屋敷から去っていく一つの人影。諦めと、決意と、ほんの少しの迷い。どす黒い想いを胸に屋敷を後にする吉継の後姿に、夜は着物の袖を空いた手の指で押さえつつ、小さく手を振って見送った。

 冷めた風に焼けるような鉄の匂いは混じって、甘く苦く香る。最早祭囃子は欠片も聞こえず、まるで現世を地獄の色で塗り込めたような絶叫と高笑いが奥座敷にまではっきりと届いている。
 ぽつんとひとり、奥座敷に残された夜の唇が、ふいにきゅうっと三日月のように避けて歪んで吊り上がる。

「――――あだし野の風にみだるる糸すすき来る人なしに何まねくらむ」

 すすき、薄。確かにそう口にした。

 声も出さないままにただただ笑いながら、夜は踵を返すと音も無く奥座敷の更に深き奥、一片の光も差さぬ闇の中へと歩んでいく。気配のひとつも残さずに、始めから其処に何も無かったかのように。
 ただ、強過ぎる麝香の香だけが、紅い鉄の匂いすら凌駕して満ち満ちていた。


>>吉継




【夜(皇出母)/→城下・都の外れにある屋敷/???】


 闇に満たされている筈なのに、その空間は何もかもが白亜に包まれていた。白い糸、いと、絲。絶対の拒絶と罪深さの象徴たるその白骨の色、鉄壁の要塞。
 絲祈の糸によって完璧に護られた〈巣〉、其処にふわりと何かが舞い降りた。反吐が出る程に甘い香りを纏った、目も覚める程悪趣味な衣を纏った、少女の顔をしたなにかが。

「絲祈」

 先程までと声色が違っていた。凍て付く冬の水底のような、北の海に浮かぶ氷塊のような、世に見捨てられた人の心の澱みのような。あまりに冷えて凍えて結晶と化した、熱も温もりも一切感じさせない氷の声。
 それだけではない、先程まで浮かべていた笑みも今や其処には存在せず、その顔に貼りついているのは能面のような虚無だった。
 そう、それこそが本当の、本物の夜。嘘偽りの無い裏にして影の顔。この世でたったひとり、真の夜の知る者にだけ見せる本性。

 夜の片手には、何やら竹を切って小さな器にした物が握られていた。反対の手の指には、葦と思われる細い植物の茎が。指先で摘まんだ茎を竹の器を満たす水に着けると、夜は茎をその艶やかな唇に近付け、そっと息を吹き込む。すると茎の先端から無数の七色に煌めく薄く弱い泡に似た物が放たれ、ふわふわと漂った後にぱちんと弾けて消える。
 夜は場違いにもしゃぼん玉に興じていたのだ。しかしその顔に遊戯を楽しんでいる柔らかさは皆無、だからこそそれはまるで呪詛の儀式のようにすら見えた。

「――ひとがもえている、まちがやけておちる、みやこがかいじんにきする……だが余が求め欲するはそんなものではない。他の妖どもが復讐を望もうとも、報復に興じようとも、どんな残酷な処刑も悲惨な駆逐も鬼畜な淘汰も、余の心を少しも揺るがしはしない。絲祈、お前には、お前と余にだけは分かるだろう? そんなものに意味はないのだよ、その程度の児戯ならばもはや何千、何万、何億、何兆、那由多に至るまで我等は見てきたものな。時が逆巻き、何度も何度も何度も、幾ら過去を改変しようとて所詮悲劇が回るだけよ。揺るぎはしない、巡る輪廻はあまりにも無慈悲だ」

 淡々と、ただあまりにも淡々とした静かな声で。夜は巣の奥へと歩みながら、ふわりふわりとしゃぼん玉を増やしていく。奇妙な事に、しゃぼん玉一つ一つの中には何か映像が浮かんでは消えていくのだ。それはまさに今この時、都のあちこちで繰り広げられる悍ましき惨劇の光景。妖達が人間を貫き、焼き、喰らい、解体し、崩し、潰し、痛め、滅し、跡形も無く真っ平にしていくその残虐なる様。その全てが一瞬だけ映し出されて、やがてしゃぼん玉はぱちんと弾けて消える。
 それはまるで人間達の短く儚き人生のごとし。邯鄲の夢たる人の命に、さも意味など無いかのように。飛んで、壊れて、消える。

「だが、だからこそ余は繰り返す。何度巡ろうとも、たとえ果たされぬとしても、あの業火に呑まれる地獄絵図がこの瞼から消えぬ限り。いや、最早そんな事はどうでも良いのかもしれないな……お前が其処に居て、余が此処に居る。それで十分なのだ、それだけで我等は神をも恐れず天の座を喰らう夢を願えるのだから。奇跡吐き出す月の姫と、集いし七本の秋草の首をもってして、――――我等が望む〈一等美しき闇〉を夢見よう、何度潰えようとも、無限の彼方まで」

 しゃぼん玉に揺らぐ恐るべき影の数々を少しも見ようとはせず、遂に夜は絲祈の前に立った。

「我等は共に忘れはしないであろう、あの日の、あの夜の、あの瞬間の夜空の月を。遥か遠い過去になろうとも、天まで赤く朱く紅く焦がす焔の色を、晒され崩れて白い砂へ埋もれゆく砦も、城壁から吊るされた女子供の髪が靡く啜り泣きも」

 現世の全ての妖を総べる者、疑う術も無い程の最強にして、人類最大の天敵たる存在、絲祈。しかし誰も知らぬ事だが、絲祈は遥か昔よりたった一人の主に仕えていた。それこそが夜、今はとある過去の事情により全盛期の力を失ってはいるが、誰にも悟らせぬまま実は今でも絲祈と夜の関係は途切れぬまま続いていた。今は完全に力関係が逆になろうとも、仕えるものと君臨する者の立場は変わらない。すでに約二百年、そしてきっとこの先も、未来永劫。

「お前を染めた血の色も、冷たくなっていく腕の中の感触も、滴り落ちて地に還る血の匂いも……二百年の月日さえも、そしてその間に何度も何回も幾つも幾重にも、無数に巡り続けたひとつとななつの輪廻の記憶も。何度巡ろうともお前と余が分かたれぬ限り、過去は覆せず、未来は訪れない。何故なら〈今回も〉、余とお前が〈現在(いま)〉を殺めるからだ、――空蝉を覆そう、城砦より、不幸せの足音を引き連れて」

 無数の屍を操り都に火を放つという外道の所業を成し遂げた絲祈の前で軽く背伸びすると、夜は彼の頬を両手でそっと覆った。白く、あまりにも熱を失った二つの手で。そして真っ直ぐに、逸らしもせず見つめるのだ、八つの紅玉の眼を。

「余は今より宮中に向かい、仮初の祖父(みかど)の首を刈り、女郎花……いや左京院華切と遊戯をして参ろう。絲祈、お前は他の野花衆≠ニ戯れてくるがいい、ただ時が来るまで一本とて手折らぬようにな。彼奴等に相応しき〈舞台〉は〈いつものように〉用意してあるのだからな」

 ふと夜の視線が、絲祈の唇で止まる。先程奥座敷で彼は己の唇を噛み、傷から流れた血液はその薄い青い色をした口元を紅に染めていた。
 ふいに伸び上がると、夜は絲祈の唇に己のそれを重ねた。目を閉じもせず見開いたまま、その唇に異様に赤く濡れた小さな舌を這わせて、唇を彩る鉄の味を舐る。

「…………さて、一つお前に頼みたい事がある。お前の糸を少し分けてくれ、さすればお前と余は常に共に在れる。お前の糸で裂き、お前の糸で斬り、お前の糸で切って開く……それはつまり、余とお前が一心同体である証。嫌か?」

 やがて解放された口元からつうっと銀の糸が一筋流れて。夜は、絲祈の血を吸ったかのように華やかに色付いた唇を妖しく吊り上げると、小首を傾げて問うた。

 その姿は少女のようでいて、まるで途方もない程底知れぬ深淵そのものに見えた。


>>絲祈


【お待たせしました、大変遅くなってしまい誠に申し訳御座いません! しかも後半、確定ロルで恐るべき大暴挙に出てしまいましたが……この二人ならこれ位妖しい関係でもいいかな、なんて……かささぎ様、ご不快でしたら避けた事にして下さいませ、お願い致します……! そして意味深な事ばかり言っておりますけれど、今はどうぞ気にされずさらりと読んで頂ければと思います。皆様には遅筆でご迷惑をお掛けしておりますが、宜しければどうぞ引き続きお相手下さいませ!】

1ヶ月前 No.356

華切 @poko10 ★Android=MNgMSKnMpI

【華切/左京院邸】

 華切本人にとってすら意外だったのだ。壮年の盗人にとっても当然、名前を覚えられていたことは予想外のことだったようだ。暁時の短い言葉から、彼の挑発的な態度が崩れたのがわかった。ただし、それもほんの一瞬のこと。すぐに再びどこか楽しげで、しかし卑屈さを滲ませながら暁時は華切に語りかける。
 華切は何も返すことなく、静かに刀に視線を落としていた。かつての姿がどうであろうと、所詮落ちぶれた男の戯れ言。幼少の頃から称えられ、持ち上げられてきたが、それと同じくらい数多くの悪意を向けられてきた。他人の言葉に一々揺さぶられるような繊細さは疾うに捨ててしまった。華切は暁時の言葉を聞きながらも、一方では焼け落ちる邸から逃れた輝夜の身を案じていた。

『久方ぶりに興味深い話を致しましょうか、華切様?』

 そう言って語り始めた暁時の話にも、華切は初め意識を向けていなかった。宮中と輝夜の安否に思いを馳せる華切の耳を、暁時の言葉が淡々と通り抜けていく。
 華切が暁時の言葉の意味に気付いたのは、暁時が言葉を切って数秒経ってからだった。黙ったまま、華切は暁時の方を振り向く。

「何が言いたい」

 そう口にしたが、わかっている。この男が何を語ろうとしているのか。
 彼の楽しそうな語り口調。暁時は知っているのか。

「誰が邸に火を放った……? お前は、知っているのか」

>佐野暁時、all

1ヶ月前 No.357

はいせりひと @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=vaUwG0CLgh

【光宮哉栄/宮中 中庭】




 少女の言葉がはじめ、理解できなかった。騙していたことに対する罵詈雑言、恨みの眼差しを覚悟していた哉栄にとって夢のような言葉だった。指をかじり、裏切りを告白し、自らの罪を晒した。それでも『きれい』と言い、己に触れるこの手の柔らかさは、すべてを許すかのような優しさで哉栄の心を溶かしていく。美しくなんてないのだと言ってしまいたかったが、口を開けば嗚咽が溢れそうでただ輝夜の言葉に耳を傾けた。
 こんな自分を労る言葉の数々。彼女自身が生きたいと、切に願っていたように己の生までも願ってくれる優しさにはらりとまた一筋哉栄は涙を流す。頬に添えられた手へ幼子のように擦り寄り、彼女の手を撫でた。小さな手、柔らかい手、けれどこの手に救われた。

「――だめですね。私は、きっと、あなたを殺せません」

 既に『過去』となった、あの日。命を賭して守ってくれた兄と同じく、輝夜により心を守られていると気付いてしまえば、兄と彼女を天秤にかけることはできなかった。長年抱いた野望が、心の中で消えていく感覚。町民を、弟子を、貴族の方々を、目の前の少女を裏切り続けて呆気なく許された心地に浸り、罪悪感が募るも、それを言葉にしたとしてまた少女が救いの言葉をくれるのだろうと思えば笑うしかできなかった。

「私は、今を、やり直します」

 その笑みは、今まで見せたことのない晴れやかな、そして温かみのある表情で。

 ありがとうと感謝の意を伝えようとしたそのとき、最愛の弟子の声と、聞きなれた鈴の音が聞こえて勢いよく体を声の方向へ向けた。危ないと、言っただろうか。状況が理解できないが弟子が危険を危険を冒そうとしていることは、付き合いから理解できた。涙で濡れた目で周囲を見渡せば、燃え盛る柱がこちらに向かって倒れてきている。助けようとしているのか――だがあの勢いのままでは夕臙が下敷きになるのでは。それは嫌だ、嫌だ、生きてほしい。彼はきっと、良い医者になる。人に愛され、慕われ、頼られる人間になるだろう。こんなところで命を落としていいはずがない。最悪の事態が頭をよぎっては、引きつった声が漏れた。
 しかし、弟子の手が届く前に彼をとらえる腕があった。逞しい腕の彼に見覚えはなかったが、その後ろに紫の姿が見えて安心する。弟子を助けてくれた彼、そして紫と共にある。ならば信頼して良いのだろう。

 哉栄は頬に触れている手を掴み、もう片方の手で肩を掴んだ。背後から倒れてくる焼けた柱、彼女を抱え横に飛び避けるほどの瞬発力は残念なことに持ち合わせていない。なら、とる行動は一つだ。
 力を振り絞って、目の前の彼女を夕臙の方向へと突き飛ばす。真横に押し出すのは存外力を必要とするようで勢いはさほどなかったが、柱が倒れる範囲からは抜け出ただろう。直後背中に感じた灼熱に、間に合ってよかったと心の底から思う。柱が倒れるままに哉栄の体もまた地面へ伏すが、幸か不幸か柱が一本であること、柱の炎は倒れるに従い火の勢いが衰えくすぶっていることから下敷きとなっても何とか意識を保てた。

 視線を輝夜へと向ければ、哉栄の薄い茶色の目が金色へと変わっていく。その目の色と同じ金の光に輝夜が包まれるこの現象は、哉栄が夕臙を救った能力である。光の粒子は哉栄が噛んだ指に集中し、癒していく。その様子を見ていたが、柱がぶつかった衝撃で頭に傷を負ったのかこめかみから流れる血液が視界を覆った。

「やっ、と、……守れた」

 誰に言うでもなく、言葉を落とす。能力を使用すれば五感が失われるが、今はそのおかげで哉栄は熱も痛さも感じていない。意識が朦朧とする中、幸せそうに笑っては金の目を閉じた。


>>中庭all



【お待たせしてすみません……!! そして輝夜ちゃんに確定ロル多数してしまって申し訳ないです! 一応現段階では哉栄は生きておりますので、如何様にでもしいただければと思います。彼の最大の(?)見せ場楽しかったです……!】

1ヶ月前 No.358

語り(モブ) @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ盗人)佐野 暁時/左京院邸】

嗚呼、目が合った。
暫く手元の刀に視線を落としていた華切が、ようやく此方を振り返った。裏切り者の最後の悪ふざけすら軽く聞き流そうとしていた冷徹な横顔が微かに揺らぐのが見えて、暁時はにんまりと笑った。
月の姫の事以外には興味がない、いつから御曹司は冷えた現世に固く心を閉ざしてしまったのだろう。自分がまだ左京院家に居た頃には知りえなかった理知的で淡白な表情。しかし大人になった華切が、かの如く成ってしまった事には大して驚きは無かった。貴族の世とは、そういう所だとよく知っていたから。彼が人間不信になっていたり心を閉ざしていたとしてもそれは想像に易い。

「……いえ、大したことではありません。華切様は既に御察しの事と思いましたが」

ーーもう会う事は無いだろう。可哀想なぼっちゃん。
暁時は暗く嗤った。

「貴方の家を焼いたのは、妖でも我ら盗人でもありません。火を付けたのは、今尚左京院家に仕える人間です。他の貴族に買われた今の貴方の部下です。それも、一人ではありません」

邸の壁という壁は焔に包まれ、視界は紅蓮の一色に呑まれ始める。触れずとも伝わる温度が空気を震わせ肌を焼く。直ぐ近くにあった筈の襖絵すら蜃気楼の彼方に見えた。此処に長居は無用と警告を発するように、天井を支える柱が一つまた一つと崩れて落ちる。

妖襲来の混乱に乗じて左京院の邸に火を放ったのは、他でもない、同じ宮中の人間だった。散々敵視してきた妖でもなく、差別してきた庶民罪人でもなく。隣人の危機は、隣人を潰す好機……華やかな都人の世界は、泥水を掛け合う亡者の上に危うげに浮かぶ睡蓮のようなものだったのだ。わかりきった事ではある。妬みあい、嫉みあい、蹴落とし合う。妖に勝とうと罪人を討とうと、人の欲望のある限り争いは絶えることがない。

「貴方がたに味方は無く、業火の果てに希望は無い。因果報応ってやつですよ。都一の権力者たる左京院に関わるものは、不幸なもんだなぁ……」

誰も信じるべきではない。邸の外へ逃げ果せた身内さえも。自ら出口を塞いで絶望し孤独になればいい。自分達がどれほどの数の人間から恨まれ、どれほど身近な人間から出し抜かれているのかを知ればいい。自分達が踏みつけてきた屍の重みに気付けばいい。
この御曹司に怨みはなくとも、それだけ貴族の人間は妬ましくその失墜を愉悦の内に待ち望んだ。

>華切、all

1ヶ月前 No.359

夕臙 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/左京院邸・庭】

あつい。
迫る熱風が頬を舐める。肌を焦がすような熱の伝播を受けて、その気配だけで背後に飛ばされる心地がした。
死ぬんだ、と思った。
燃え落ちて倒れ掛かる柱に潰され、灼熱の焔を浴びて。皮膚は張り付き骨は砕かれ、内臓など焼かれながら破裂するに違いない。痛いだろう。一息に死ななければ、圧力に喘ぎ苦しみながら少しずつ燃えて死ななければならないのだろうか。
怖いのか? 莫迦だな。ーー迫り来る死を恐れる心を何処か遠くから見ている己の乾いた笑いに加えて、走馬燈が過る。酷く淋しい気持ちと、清々しい気持ち、そして圧倒的な恐怖が混じって、目を閉じる。

熱い。
しかしその熱さが、離れた。
ふわりと浮き上がる身体。自分のものではないように背後に引き戻される。大きな腕に抱えられ、子供が母に抱き上げられるように。
その感覚を、一瞬死≠ニ誤認した。魂が身体から引き離される錯覚に、胃臓が浮いた。

「えっ……」と目を開けてから声を上げる間の僅か一瞬で、夕臙は自らが死んだわけではないことを、人のものではない巨大な腕に抱き寄せられて無駄死を免れたことを、そしてその腕が追ってきてくれていた思葉のものであることを理解した。

全てが、一秒を十秒に変えたこま送りのように見えた。
燃え盛る柱が、凶事の唸りが、死が、遠ざかる。自分を後ろから抱え掴み寄せた腕は力強い大男のようだったが、それが先程は薬師寺に化けていた思葉という妖女のものだと直感した。
助かった。師の為なら死ねると思っていた夕臙だったが、死に臨み帰って来れば流石に冷や汗に塗れていた。忘れていた呼吸が戻ってきたとき、信じられない光景が目の前に展開されて、呼気は絶叫へと変わる。

柱が、夕臙が止めようとした燃え盛る柱が、障害物が無くなったことで真っ直ぐに哉栄と輝夜に向かって倒れてくる。もう一度飛び出して守りたいのに、背後から回された腕によって動けない。もし仮令動けたとしても間に合うはずも無いし反らせる力も無い。

「せんせぇっ!」
抱えられた胴を乗り出して夕臙は夢中で叫ぶ。全身がカッと熱くなりそれから瞬時に冷たくなる。先生、逃げて……そう言い終わる前に、返答の代わりに寄越されたのは、哉栄の腕から突き飛ばされた少女の身体だった。哉栄は少女を守る為に夕臙と思葉の方へと輝夜を突き飛ばしたのだ。身体の重みを感じない花のような可憐な少女の黒髪と着物が舞う。紅蓮の火事場に不釣り合いに美しく。歪んだ視界を黒髪の沙羅が横切れば、暗転した後の舞台のように其処には最悪の光景が広がっていた。

「せ、んせぇっ! いやだ! せんせぇっ!!!!」

柱が倒れている。さっきまで夕臙と輝夜と哉栄が立っていた場所に。火の勢いは弱まり、燻り煙を上げる柱の下に、良く見知った控えめな色の着物が敷かれている。夕臙が慕う恩師その人らしい奥ゆかしい趣味の質素な着物が。夕臙は思葉の腕を無理矢理振り解いて転ぶように駆け寄る。哉栄の下敷になって倒れている。

「光先生、みつ先生、みつせんせい」

まだ火を孕む焼けた柱を退かそうと構わずに触れて押したり引いたりするがぴくりとも動かない。絶望的な気持ちになって滲む視界で哉栄を揺り起こそうとすると、その額から血が流れて思わず息を飲む。頭部外傷の出血からあらゆる最悪の状況が想起されて夕臙の目から大粒の涙がぼたぼたと落ちた。

「先生、いやだ、死んじゃいやだ、先生……」

哉栄が目を開ける。まだ意識があった事に僅かな希望を見出すも束の間、その黄金に光る瞳の意味を知る夕臙は更に絶望した。
自分も、その灯を奪った罪人の一人だから分かる。その癒しの星の瞬きは、術者の命を削る煌めき。今の哉栄にとってはそれが引導ともなろう。
自分が救おうとしたから。柱に潰されず助かってしまったから。月の姫がそこに居たから。あと少し柱の位置が違ったら、あと少し自分が早かったら、先生が月姫を助けなかったら、あの時自分が身代わりになれていたら……。後悔ばかりが胸に迫り、想いは嗚咽に変わる。

「先生……先生……っ」

幼い頃とうの昔に消えるはずだった命を灯してくれた星の光が、青白い瞼の中に消えた。この生を照らすただ一つの星の導(しるべ)があれば、月も陽も要らないとさえ思うのに。
やっと守れた、って、貴方はいつも守ってくれたのに。
聞いて欲しい事があったのに。貴方に生きて欲しいと、おれじゃなくて過去の貴方にも未来の貴方にも生きて欲しいと伝えたかったのに。その為に人を殺そうとしたことも伝えて、失望されても良いから、元気になって欲しかった。
先生は、おれが医者になるよりも良い医者だ。人に愛され、慕われ、頼られる先生を、おれはどれだけ生きてもきっとずっと越えられない。おれが生きるよりも先生が生きることが、多分医学の未来の為なのに。
泣きじゃくりながら何度も「先生」と呼ぶ声は、力を使った後で感覚を喪ったようになっている哉栄にはきっと届いていない。穏やかで真白な哉栄の笑顔を、直視出来ないまま夕臙は、柱の陰から覗くその華奢な身体に縋り付いて顔を埋めた。

>哉栄、思葉、輝夜、薬師寺、all


【先生ぇ……(;_;)ぶわっ。すみません、とりあえず夕臙に叫ばせたくて、行動を起こす前に。泣き叫んでしかいないです←】

1ヶ月前 No.360

輝夜 @yuunagi48 ★Android=VWGqsUcxdj

【輝夜/宮中 庭】
哉栄の言葉を輝夜は素直に喜ぶことが出来なかった。輝夜の『生きたい』という願いが叶うということは、哉栄の願い、哉栄の兄の死をやり直す事が出来ないということだ。例えそれがこの世界で現実であったとしても、哉栄はその悲しみを抱え生き続けなければならない。それがどれだけの痛みを伴うか知っているからこそ、きっと哉栄がどちらを選んだとしても輝夜は喜ぶことが出来なかった。

困ったように眉を下げた輝夜と、雁字搦めだった自責の念が少し弛んだかの様な温かな笑顔を向けた哉栄の耳にリンッという鈴の音が聞こえた。輝夜は哉栄から音のした方に視線を向ける。その瞬間、目の前の景色が揺らいだ。
今と同じリンッという音と空から降ってきた金と銀の光、そして飛び散った赤。それはあの時の、あの茶屋での光景。ぞくりと一瞬寒気が襲った。

両目に映る光景が現実へと戻った時、輝夜の理解の速度を超えて状況は変わっていった。
まず目に飛び込んで来たのは紅葉の『あか』。次に炎の『あか』。燃えた柱が倒れてきたのだと理解するより早く曼珠沙華の『あか』が加わった。哉栄によって肩を掴まれどんっと体が夕臙達の方へと押された。一歩、二歩と外部からの力により崩れる体勢を整えようと足が自然と先に出る。哉栄から離れる体とは逆に視線は哉栄へと向けられた。炎の『あか』が斜めに落下し、哉栄と共に視界から外れた。
真横からの勢いをなくし自らの足で立った輝夜は視線を地面へと向ける。そこには焼け、燻る柱の下に今まで話していた哉栄が倒れていた。今しがた咲いたばかりの薄紫の星が血の『あか』に染まる。

あか、あか、あか。
どうして視界を染める色はいつも赤なのだろうか。そんな悲しみに浸る間もなく哉栄から発せられた光が輝夜の指に集まる。それは希望の光の色。
その瞳に希望の色を映した輝夜は体を翻し元居た方へと足を進める。哉栄の元へ、輝夜よりも先に駆け寄った夕臙の元へ。燻る柱の熱さに臆する余裕もなく下敷きになった哉栄にすがる夕臙の着物の肩を後ろから掴むとぐいっと自らの方へ引っ張る。腰を落とし、しりもちをつくように体重全てを使い夕臙をこちらに向かせる。乱れる夕臙の懐へはしたなく手を入れれば目当ての物はすぐに指に触れた。

小刀を握り、奪うように取り出した。鞘を抜き捨て、現れた刃を自らの左腕半ば辺りに押し当て、手の甲に向けて強く引いた。
鋭い痛みに表情をしかめ、体を震わせる。この痛みは何度体験したとしても慣れることはないであろう。泣きたくなる程に痛い。けれど、心はそれ以上の焦りと恐怖に染まっていた。
着物が裂かれ、皮膚と肉が断たれる。鮮やかな血の『あか』が着物の袖を濡らす。瞳から溢れる涙は痛みからだろうか。それとも目の前で消えてしまうかもしれない命への恐怖からだろうか。

「食べて!」

そう言葉を発すると同時に座り込んだまま夕臙の口元へと血の溢れる手を押し付ける。そもそも身長が近い為彼の口に手を伸ばすのは小さな輝夜でも難しい事ではない。

「絶対に、助けるから!」

柱の倒れて来た時、哉栄の一番近くに居たのは輝夜だった。そしてこの場で夕臙が輝夜を食べ、今の一瞬をやり直したとしてこの記憶を持つのは輝夜と食べた夕臙の二人。ならば、戻った先で一番早く動かなければならないのは自分である事は理解していた。夕臙が戻る先にもよるだろうが、倒れる直前ならば再び夕臙は思葉に助けられるだろう。
力の弱い輝夜に哉栄がした事と同じように、この柱の倒れる線上から彼を動かす事が出来るだろうか?
それでも、絶対に助ける。助けなければいけないと心が叫んでいた。
>哉栄、夕臙、思葉、薬師寺、周辺ALL

【哉栄せんせぇぇ……(泣)夕臙君確定描写すみません(汗)一応芙愛様にほんのりとご相談させて頂きました。戻るとしましても数レスですので宮中(中庭)の方々以外の方はそのまま続けて頂けたらと思います!】

1ヶ月前 No.361

夕臙 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

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1ヶ月前 No.362

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/城下の外れ・石階段】

 突然の変化に珠芽は戸惑うしか出来なかった。けれど、身体の成長に伴なってか内から溢れだすその妖力は、幼少の時の僅かな力とは違い、身に余る程に格段と強くなっている事には容易に気づけた。ずっと望んでいた強い力。後は、どう、使うか……。

 繁々と変化を遂げた己の身体を見つめながら、身の内に感じる強い妖力に口元がつい緩む。が、目の前の気配からの静かな動作から揺れる空気と響く声に気付くと緩む口元を引き締めて、珠芽は顔を上げた。向けられた爪先は、そのまま近付くと長く伸びた髪を押さえ付ける。そこで漸く、未だに地面に倒れ込み、上半身だけ起こしていた事に気づいた。

「おれだって、何がなんだか……。故郷だって、あの山の向こうの」

 そう戸惑いながらも、指を山へ向けようとしたその刹那。天を引き裂かんばかりに走る稲光に、地を揺るがすほどの雷鳴。立ち上る煙と燃える臭い。そして次々に響き渡る悲鳴は、都の方からだと容易に分かった。更にあちこちから感じられる妖気に何事かと気を張り巡らせる。そんな中頭に浮かんだのは、輝夜と夕臙の姿。彼らは今も都に……。ならば、早く行かなくては。
 彼岸も誰かを思い浮かべたのだろうか。再び珠芽の頭を押さえながら、話す様子に行かなければならない理由が柿間見えた様な気がした。

 話をしている間にそれは不快な肉の焼け焦げた酷い臭いを放ちながら、石段を駆け上がり、あっという間に二人を取り囲んだ。袖で鼻を覆いながら、珠芽は身を構えていると、それは形こそ人間だが、とうに死んでいる筈の屍達。そして先程から感じる妖気に、屍を動かしているのが妖の仕業だということにはすぐ気づいた。

「簡単には行かせてもらえないみたいですね。戦うしか、ない」

 彼岸に向かってそう告げながら身体を起こすと、珠芽は短刀を抜いた。先程教えてもらった戦い方を、こうもすぐ実戦出来るとは。口元に僅かに笑みを浮かべながら、短刀を逆手に構え、もう片方の手は爪を鋭く尖らせる。これで、身体の一部を引き裂くくらいはできる筈だ。

 響く雷鳴を合図に、屍達は其々の武器を持って襲い掛かる。向かって来る屍を見据え、動きを見極めると刃を突き立て、その鋭く尖った爪で身体を引き裂いた。

>彼岸、周辺all

【大変遅くなってしまい申し訳ありません。彼岸さんと共闘できてとても嬉しいです!】

1ヶ月前 No.363

鬼女 @yuunagi48 ★Android=VWGqsUcxdj

【鬼女/郊外、山中隠れ家→城下、路地】


鬼女は走っていた。何処で着替えたのか青地の着物を黒地に桜の花弁が舞う着物に変え、人の足では決して出すことの出来ない速さで山を駆け下り、宮中へと向かっていた。
郊外の山中の家で『夜行の蹄』と呼ばれる鬼と会っていた最中、近くを通る小さい妖達が都の外れのとある屋敷に妖達を集め人間へと復讐を果たそうとしている者達がおり、その決行が今夜なのだと話しているのを耳にしたからであった。妖達を集めている妖が居るという噂は都で情報を集めていた時に耳にしていた。しかし、人間に宮中の事を嗅ぎ回っている者が居るとバレない様にと、遠回しに情報を得ていた為その決行がまさか今夜だとは知らなかった。

「お聴きになられました?どうやら都では貴女様と心同じくする者達が多く居る様でございますね。とても運の良い事に、私彼らの集まる場所を知っていますの。此方へ書いておりますので、宜しければ貴女様もご一緒に如何ですか?その悲しみが僅かかも知れませんが癒えるやもしれません」

夜行の蹄にそう伝え、彼らの集まる屋敷の場所を書いた紙をその場に残し、鬼女は隠れ家を後にした。向かうは都の宮中。勿論吉継の所だ。吉継がその様な妖達に引けを取る等とは思っていない。しかし吉継が何かを守る為に仕方なく宮中で働いているのだと心底から思っている鬼女は、その為に吉継が戦えず怪我を負ったりせぬよう。そしてあわよくば人間達が吉継を繋ぎ止めている首輪を引き千切ってしまえないかと考えていた。

門をくぐり路地を走る。遠くに見えていた宮中が少しずつその姿を大きくしていくにつれ、ぽつりぽつりと妖や屍となった人間の姿を見ることが出来た。操られているのだろうか?既に事切れているであろう人間の肉体が壊れた操り人形のように不恰好に空に吊り上げられている。
滴る血や肉片に自らが汚れないよう多少注意しつつも足を進めれば端からはぼんやりとしているようにも見える視線が一人の姿をしっかりと捉える。突然の事にも関わらずぴたりと足を止められたのは、その速さが彼女の全力疾走でなかった事を意味していた。

「吉継様……」

口元に手を当て涙ぐむその様子は、長年会う事の出来なかった恋人達がこの地獄の様な現状で奇跡的に出会えた様にしか見えないであろう。しかし、その内事実であるのは地獄の様な現状だけなのだが。

「吉継様!吉継様!お探ししておりました。ご無事で……ご無事で良かった。もし貴方様に何かあれば私……私っ……」

たたっと駆け寄った鬼女は吉継の足元に両膝をつき、吉継の帯にそっと手を触れ、吉継を見上げ涙ながらにそう告げた。
>燈頭馬、吉継、咲秋、周辺ALL

【さて、次の鬼女ちゃんで咲秋君に仕掛けようと思います!長文ご準備を/←】

1ヶ月前 No.364

藤堂吉継 @yuunagi48 ★Android=VWGqsUcxdj

【藤堂 吉継/城下、路地】

眼をやられていたわけでは無いようで、肩を掴めば咲秋は眼を開き此方を見ると首を横に振った。咲秋から得た情報に言葉を失う。
華切様の居場所はこれで分かった。そしてこの状況、宮中で起こっているであろう有り様に抜け出す事は容易では無く、更に姫様が居ない事を知っていれば華切様が一人で都から遠くへ逃げる事もまず無いであろう。つまり華切様を探しだす事は今時点ではそう難しくないと言うことだ。
しかし同時に、夜や絲祈に示す覚悟よりも先にしなければならない最悪の事態も知れた。この地獄の様な都で姫様が再び行方不明となっていると言うことだ。夜や絲祈が姫様に手を出す事は無かったとしても、他の妖はどうだ?姫様がその牙や爪にかけられる等と想像ですらしたくない。一瞬、夜や絲祈が姫様を保護していたら……等と考えそうにもなるが、それならば言ってこないわけがない。示す覚悟が咲秋や華切様を斬る事ならば保護していると伝えた方があの二人にとっても良い筈だからだ。『今夜こそ』という咲秋の声が遠くに聞こえた。

真っ直ぐに咲秋が此方を見てきた事で我に返る。更に告げられた言葉は何れも嘘であって欲しいと願わざるを得ない事ばかりであった。しかし、それを告げているのが他でもない咲秋であるということが、現実であり、事実なのだと証明していた。

珍しく、咲秋が更に喋る。次第に言葉に力が入っていくのが分かった。月姫伝説、今や庶民、子供ですら知らぬ者は居ないのではないかと言われるまで知れ渡ってしまった姫様の存在。勿論俺達も知らぬわけがない。しかし、その伝説や奇跡の存在を知っていながらもそうであって欲しくないという願いからか、咲秋が月姫についてこんなにも語ったことは無かった。
俺としては月姫の奇跡を望んだ事が無いわけでは無かった。戻りたい過去が俺にはあった。その奇跡が姫様の死をもって叶うのでなければ求めていたかもしれない。姫様があの姫様でなければ戻りたいと望んでいたかもしれない。
鬼気迫る様子で訴える相棒に首を横に振った。

「今日姫様の身に起こった事、姫様の見ておられる悪夢、咲秋の考える可能性、それは分かった。特に、昼間の事は絶対に、絶対に起こってはならない事だ。だが!」

咲秋の肩を強く掴む。今ここで引き戻さねばと思った。咲秋は冷静であり、不器用で馬鹿な程真面目だ。真っ直ぐ過ぎる程に真っ直ぐな男だ。しかし、それは姫様や華切様の為となれば容易に崩壊する程脆くもある。だからこそ、今、引き戻さねばこの不器用な男は何処へ向かうかわからない。

「俺達のする事は変わらない。姫様の周りにある危険物を全て排除する。そうだろ?それが妖であれ、月姫の奇跡を求める人であれ、俺達が今、すべき事はこの悪鬼羅刹が跳梁する都から姫様を探し出し守りぬく。そうだろ」

示さねばならない覚悟がある事それを忘れてはいない。だが、それは姫様が危険な状態である今優先すべき事ではない。今は一人でも人手が欲しい。
そう思った時だった。突然呼ばれた名に振り向けば、見知らぬ女性が駆けてきた。じゃりと砂の音をたて、足元に座る。腰元に手を添え見上げるその女性を最初は見覚えが無いと思った。しかし、その特徴的ともいえる瞳にふと昔の記憶が思い出された。

まだ都に行くことも決まっていない程幼い頃、泣いていた一人の少女を発見した。傷を負っていた彼女に持っていた布で手当てをした事があった。虹彩が薄い灰色をしている為、遠目では白目との区別がつきにくく怖がられるのだと彼女は言っていた。
たぶんあの時の彼女なのだろう。そうでなければ身に覚えが無い。しかし同時に何故彼女が此処に居て、何故探されていたのか?次々と沸き上がる疑問に咲秋へと視線を投げた。
>咲秋、鬼女、周辺ALL

【薄の当初設定より、輝夜を求めていた(過去形)でお話を進めさせて頂いておりますが、代理にて過去を語らせる事はせず、こういう形にさせていただきました/夕凪】

1ヶ月前 No.365

輝夜 @yuunagi48 ★Android=eE3SybQ6rj

【輝夜/宮中、庭】
夕臙の唇が少し動いた気がした。食べる為ではなく、何かを呟く様に。
そして、両の手で輝夜の既に真っ赤に染まった腕を持ち、同じ赤に染まった唇を開く。痛みに冷や汗が全身から滲み出ていた。それでも輝夜は強く自らの肉を噛む夕臙を真っ直ぐに見詰め、そして、笑った。


景色を捉えたのは夕臙の叫び声がしたからだった。
目の前には温かな笑顔を向ける哉栄の姿。リンッという鈴の音が聞こえた。状況を把握するより早く輝夜は自らの手を優しく撫でる哉栄の手を掴み、お尻と背中から倒れるように後ろへと体重をかけた。
視界が揺らぎ金と銀と赤が更に視界の中で揺らいだ。瞳に映っていた現実と思い出された過去の記憶が共に揺らぎ吐き気を伴う酔いを感じる。
しかし、それも一瞬、どんと背中を地面にぶつけ景色は現実へと戻る。同時に何か重い物の倒れる音と、僅かな呻き声が聞こえた。
嫌な予感に上半身を起こし、音の方を見る。

「紅葉……紅葉っ!紅葉ぃぃ!!」

ばたばたと宮中の姫と名乗るには到底似つかわしくない慌て様で倒れた柱へ駆け寄る。どうして良いかわからずに動かせないのかと柱に手をつき無謀な挑戦を試みた。ジリッとした痛みが手の平に腕に響き、反射的に腕を引きそうになるが、必死に逃げようとする腕をその場に押し付ける。しかし、大半の大人一人ですら全体重を使っても動かせない彼女に重い柱を動かすだけの力はなかった。

輝夜のしがみ付いた場所より少し上から夕臙の力なく、しかし満足げな言葉と笑い声が聞こえた。

「いいえ……いいえ、紅葉。貴方が医者として正しいことをしたとしても……友として貴方は間違えたのよ。助けたのが大切な人なら……紅葉が死んではいけないの!紅葉の死を受け取らなくてはいけないのは、紅葉が守ろと紅葉を大切と思う人達なのよ!」

力なく瞳から大粒の涙を溢しもう聞こえない笑い声に茶屋の時と同じく泣きじゃくることしか出来なかった。柱に焼かれる痛みは既に感じられず、手のひらや哉栄に噛まれた指は火傷により治療とは呼べぬ方法で出血を止められた。
ふらつく足で紅葉へ近付き顔を見た輝夜は思い出した。ここは夕臙によってやり直された世界なのだと。そしてやり直す前の世界でこの柱の下敷きになったのは哉栄だった事を。

哉栄の命を助けたくてやり直した世界で、哉栄の命の代わりとなったのは夕臙であった。友達を助けたかったのに、失ったのは別の友達であった。
前の世界で涙した者が柱の下敷きとなり、前の世界で下敷きとなった者が涙する世界となった。

何が変わったの?
倒れている人が変わった。
何故やり直したの?
変えたかったから。
変えられた?
……ううん、同じだった。
諦める?
………………

輝夜は涙を溢していた目を真っ直ぐ哉栄に向ける。その瞳からはもう涙は溢れておらず、悲しみにもうちひしがれてはいない。一歩、一歩ゆっくりと哉栄に近づき、真正面に立った輝夜は静かに口を開いた。

「桔梗、聞いて。此処は一度やり直された世界。本来この柱の下で倒れているのは桔梗、貴方であったの。けれど私と紅葉はその世界を哀しんでやり直した。その結果、桔梗は守られ代わりに紅葉が下敷きになったわ。桔梗、貴方は今三つの選択が出来る。一つこの柱を退けて頑張って治してみる事、一つこのまま嘆く事、一つ……私を食べて再び時を遡る事」

人差し指から順番に中指、薬指と立ててゆく。その口調は先程までの輝夜とは思えぬ程抑揚のない冷静なものであった。声だけではなく漆黒の瞳は此処ではない何処か遠くを見ているようで、薄紅の頬も汚れや傷さえなければ透き通る様に白い。

「けれど、遡った先で再び選択を誤れば柱に潰されるのはまた別の誰かとなり、別の誰かが悲しみに涙をする。永遠に救いのない輪、繰り返しとなるわ。
その永遠から抜け出す為には何処かで誰かがその悲しみを受け止めなければならないのよ。例え今貴方の胸が張り裂けそうに痛みを訴えていても、貴方がやり直す事はその痛みを、ただ他の人に押し付けるだけになるかもしれないわ」

輝夜は一拍だけ間を置き再び口を開く。

「けれど、それでも紅葉の死をやり直したいのなら、桔梗、貴方は絶対に生きなければならない。やり直した世界で、この死の根元を全員が避けなければそれはまた同じ悲しみ、同じ結末を辿るわ。やり直すなら生きて。貴方も、紅葉も、私も、……。貴方の今感じる痛みを大切な人に押し付けては駄目」

……。と輝夜の言葉には間が空いた。しかし、その間に不自然は無く喋り続けていた様に輝夜は続きを話し始めた。そこに『内緒』であった「曼珠沙華」の名がある事が、彼女が過去をやり直した証でもあるのだろう。
駄目と最後の言葉を口にした直後、輝夜の表情が突然崩れた。憑き物でも落ちたかの様に瞳には光が戻り、止めどない涙が溢れては零れた。頬は泣きじゃくっている為か薄紅を通り越し赤く、乾いた唇から発せられる声は震えていた。

「だから!お願い……紅葉を助けて!!紅葉は、花菖蒲を助けてくれたの!紅葉は桔梗が死んでしまうかもって泣いて……泣い、て、やり直して、私達を助けて、くれたの……私は!紅葉を助けたい!桔梗に、死んで欲しくないの!お願い!紅葉を助けてぇ!!」

膝から力が抜け、その場にずしゃりと座り込んだ。震える手を哉栄へと伸ばす。それは火傷により強制的に出血の止められた哉栄の噛んだ指。出血は止まっているが、怪我が治ったわけではなく痛々しく肉が見えるその指を哉栄に差し出し、涙で歪む瞳で見詰めた。
>哉栄、夕臙、思葉、薬師寺、周辺ALL

【状況が旨すぎる!!夕臙くぅぅぅうん(号泣)えっと輝夜を食べるも、哉栄先生や思葉さんの力を合わせて助けるもお任せします!その場合、輝夜のなっがい台詞は途中で切って行動しちゃってください!そしてここ数レスの確定ロルすみません!/でも背後は大満足であります♪】

1ヶ月前 No.366

佐竹咲秋 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/城下・路地】

親友は、自分を信じてくれた。
焦りと不安の余りに我を忘れてしまいそうな咲秋の言葉にさえ、吉継は真剣に耳を傾けてくれた。輝夜を守る、その為に十年以上結託し続けていた絆だ。お互いの只ならぬ状況になれば互いに察知し支え合い、何方かが道を違えればもう一人はそれに気付き正してくれる、そんな仲だと、少なくとも咲秋はそう思っていた。危機を伝えることに夢中になり焦っていた咲秋は、吉継が考えていた別の事になど気付く筈もなかった。

「吉継……」

俺は、この親友に叱咤して欲しかったのかもしれない。肩を揺すられ、強い指先の力を衣越しに肌に感じながら咲秋は思い、久しぶりに親に叱られた時のような、安堵に似た感覚が湧き上がり自分が徐々に冷静になってゆくのを感じた。友に、月明かり無き夜の指針を示して欲しかったのかもしれない。

「お前の言う通りだ、吉継。感謝する。……姫様を探し出し、姫様の安全を脅かすものは全て斬る……月に掛かる叢雲は、全て」

何処かまだ追い詰めた表情もあるが、それを含めていつもの咲秋であったかもしれない。引き摺り込まれかけていた悪夢から目を覚まさせてくれた吉継に感謝をすると、僅かに恥ずかしそうに眉尻を下げた。昔から、吉継にはそういうところは敵わないと思っていた。

「……早く姫様を探しに行かねば」

そう言いかけた時、向こうから突然少女が近づいてきて、吉継の名前を呼ぶ。青緑の髪が軽やかな足取りと共に躍る。この地獄絵図と化した都で、普通の人間の少女が物怖じした様子もなく、逃げ惑う様子でもなく健康的に走っているというのは、不自然だ。此方に知り合いでも見つけたかのように立ち止まる彼女の目を見て、違和感は確信へと変わる。あれはきっと人型をした妖の女だ、と。しかし解せないのは妖が吉継の事を「吉継様」と呼び駆け寄ってきた事。そして驚いたのは、膝をつき恋人との再会かのように涙を流す妖を見た吉継の表情だった。

ーー(吉継は、この妖を知っている……?)

何故、一体どういう関係だというのか。吉継が地方豪族の生まれであったが、和歌や政治の貴族的な分野では落ちこぼれ居心地が悪く、左京院家から声がかかった時には喜んで飛び出すように家を出た、というような出自は昔話してくれた。本人は少し自虐的に言っていたが、それは或る意味、当時宮中で評判が悪かった彼の左右違う瞳の色が、妖に関するものではなく彼が列記とした人の子だという証明でもあったのだ。子供の頃吉継の目を見て妖の血では無いかと謗った貴族達を、そう言って退け、彼は包帯で目を隠すようになった。成長するにつれそんな些細な違いは問題にならないほど武芸に人望に容姿に秀でてきた吉継は宮中でも後ろ指をさされるようなことは無くなったが、其れでも彼が忘れる筈はないだろう。その吉継が何故、妖の少女などと面識を……? 咲秋は疑問に思わずにはいられなかった。人間であると言っていた彼は何故、妖に焼き滅ぼされた都を闊歩する妖女から、泣き付かれるまでに愛されているのだろう。

「吉継、……知り合いか?」

自分は、親友を疑うわけではない。
疑うわけではないのだが。
親友が自分を信じたように、自分は親友を信じられるだろうか。

>吉継、鬼女、all


【遅くなりました! 鬼女ちゃんの術待ちでとりあえず声だけかけるレスにしようとしたら吉継君本家のプロフ紹介みたいになってしまった(^_^;) 鬼女ちゃん、よろしくお願いします!】

29日前 No.367

東雲 彼岸 @caim ★Vxqs1Pnm4y_mgE


【東雲 彼岸/城下の外れ・石階段】

 焼け焦げた肉の臭いに、懐かしい光景を思い出していた。ただ、その記憶の中にあった死体の数々は、目の前のこいつらのように動いてはいなかったのだが。
 この妖術が人間のもたらしたものではないことは明確だった。迷う必要などない。大元を葬ったところでこの者たちは、もう手遅れだ。おれの隣で狐が袖で鼻を覆う。狐の告げた通り、不本意だが此方を片付けねば此処を離れることはできないらしい。狐一人を此処へ残す選択を考えようとも石段一杯に広がるその屍の群れに、仕方なく抜刀をした。

 雷鳴が、合図であった。

 狐に背を向け、屍の持つ農具のような刃を半身で避ける。動きを見たところ、人間以上の身体能力は持ち得ていないらしい。かた、とよろめいた屍の首を真一文字に薙ぎ払った。残った胴体は、そのまま動きを止める。二度生を受けたところで、その身体は不死身ではないらしい。ふと、狐を視線で追う。
 ――その横顔に浮かんだ笑みに、僅かに皮膚が粟立った。
 先程までのあの弱弱しくも意志の強い鬼気迫る表情を思い出しながら、狐の振るう爪の先を追う。今溢れ出さんとしているこの強力な狐の妖気は、代償のようなものであると受け取ることにした。この爪が向かう先は、いずれ何処へ定まるっていくのか。

「大勢を相手する時は、刀身を立てて指針の一つとしろ。相手の攻撃を寸前まで引き寄せ、その攻距離と方向を見極めた後に反撃に入れ」

 ――即ち、矢切。
 本来は、己に向かう矢を打ち落とすための技であるが、間合いを学ぶには十分な機会だろう。対峙する相手へ踏み込まねば、有効な一太刀は届くまい。相手の攻撃を受けるということは、括目して目先に迫るまで待つ必要がある。むしろ、精神を鍛える待ちの技とした方と例える方が近い。
 そうして、口を閉じた。これであの時の子狐との約束は果たした。もう教えられることは何もない。

 振り向きざまに、呻く屍へ逆袈裟を放つ。続けて、咄嗟に腰を低めながら切っ先を返すように、目の前に集う八つの足を後方に下がりながら上下で切り離した。分断された上半身が、両手を地に付けながら喚いている。その姿を見下しながら、目の前の頭部を上から足で押さえつけた。

「人間にも戻れず怪に命を弄ばれた半端者が……おれに盾突こうとでもいうのか」

 かしゃかしゃと骨を鳴らす群れに、爪先を進めていた。受け太刀など、していられなかった。怪の手を借りた人間を斬る。その事実に己の皮下の血が沸いているようだった。堕ちられる。何処までも。
 屍の獲物に刀身を絡め、攻撃を誘導する。屍となってまでも慌てる様子を垣間見る瞬間に、口角を吊り上げていた。恐れを知らぬ兵とは、皮肉だ。勝機の有無に構うことなく屍が放った槍や鎌が、おれのすぐ横をすり抜けていく。即座に、目の前の屍の喉仏へと切っ先を滑り込ませた。そうして、柄を捻るように回す。刀身を引き抜いた途端に崩れ落ちるその身体の向こうに、小さな影が佇んでいた。背丈は、年端もいかぬ童ほどであった。その童の首へ、ぴたりと刃を寄せる。先の屍に寄り添っていた童が、此方に視線を向けた。落ち窪んだ眼窩からは、表情は窺えない。再度、刀を構えて、その細い首を刎ねた。

「おいたましや」

 死は、無力だ。弱いことよりも、遥かに無力なのだ。他へ奇跡を託すことしか、望みはないのだから。


>珠芽、周辺ALL

28日前 No.368

華切 @poko10 ★Android=MNgMSKnMpI

【左京院華切/左京院邸】

 邸に火を放ったのは左京院家に使える使用人だと暁時は言う。それも、一人ではなく複数の。
 暁時の眼差しを見れば、それが自分を揺さぶるための嘘などではなく、真実なのだろうと窺えた。

「そうか」

 暁時から視線を外し、静かに目を伏せる。虚しかった。身内に裏切り者を抱えていたという事実。そして、それを聞いて心の何処かで「やはりか」とすら思ってしまう自分。衝撃など受けていない。疑念を持ちながら使用人たちと関わってきたわけではないが、その事実をすんなりと受け入れられてしまう自分が虚しかった。
 暁時の悪意のある言葉も、心に直に刺さることはなく通りすぎていく。結局、自分は使用人と心を通わせようとしたことなどなかった。信用もしていなかった。父親もそうだったのかまでは定かでないが、それを見透かされていたのかもしれない。

「……気は済んだか」

 淡々と、自分の精神を揺さぶり続ける暁時に向かって冷たくこぼす。尤も、彼が期待していた反応ではなかったかもしれないが。
 梁が焼け落ちるたび、飛び散る火の粉が着物を焦がす。もう、この場所も限界かもしれない。

>暁時、all

27日前 No.369

輝夜 @yuunagi48 ★Android=eE3SybQ6rj

【鬼女/城下、路地】


吉継の瞳が、あの美しい眼差しが自分に向いたことで恍惚な表情を浮かべる。ずっと探していたのだ。長い間、この瞬間を待ち望んで来た。彼と、吉継と再会し、吉継をこの都という牢獄から解放する瞬間を。彼を自由にし、共に手をとり新たな未来へと歩み出す最初の一歩を。
しかし、それも束の間。ようやくその時が訪れたというのに、最初の壁が立ちはだかった。鬼女はゆっくりと視線を咲秋へと向ける。その表情には吉継を都へ閉じ込める人間に対する怒りと親しげに「吉継」と呼ぶ咲秋へと嫉妬が混じり合う。

吉継の視線が鬼女から咲秋へと向く。それすらも憎らしい。『子供の頃手当てした少女に……』と言う吉継の言葉も右から左へと流れ、ゆっくりと立ち上がった鬼女は咲秋を睨み付けた。

「人間、お前が吉継様につけこんだのですね?吉継様の大切なものを奪い自らの傀儡とする……卑劣な人間がしそうな手口ですこと」

咲秋の正面に立つ。咲秋が剣を振れば確実に当たる距離であるのに鬼女に恐れる様子は無く、また鬼女自身も直接的な攻撃を仕掛ける様子もない。両腕はだらんと重力に従い下げたまま、立ち姿も両足に均等に体重をかけている。

「ふふっ、卑しき人間、貴方の心の闇を私に見せてくださいませ」

しかし、表情から伺える怒りや放つ殺気とは裏腹に楽しそうに鬼女が笑った次の瞬間、彼女の瞳が黒に染まった。白い紙に墨を一滴垂らしたかのように中央にぽつりと色付いた黒は一瞬で薄灰色の虹彩をその色に染めた。鬼女の使える能力『無幻世界』が咲秋へと向けられる。
>咲秋、吉継、周辺ALL

【咲秋君酷い言い様でごめんなさい(汗/謝)】

27日前 No.370

はいせりひと @bloodycat☆T3u8MhS.e3A ★iPhone=vaUwG0CLgh

【光宮哉栄/中庭】





 燻る炎に身を委ね、このまま熱に溶かされて、ただただ醜い心根までも灰にしてくれたなら。未練もなく、悲しみもなく、消えていけるだろう。
 微かに耳に届くのは柱が弾ける音ばかり、哉栄は周囲が無音に近づくのを感じながら意識を落とした。



 ――――意識を取り戻したのは、最愛の弟子の叫びだった。ちかりとわずかな違和感を感じながらも輝夜に手を添えた頬から伝わる柔らかさや温かさが、状況を思い出させた。どこか寝て起きたばかりのような、頭に霞がかかった感覚がするのはなぜだろうか。こんなにも晴れた気分で、やり直そうと思ったばかりなのに。

 いや、違う。夕臙の声が、先程聞こえたのに。たった今の出来事をどうして昔のことのように思い出す必要があるのだろう。違和感は違和感を呼び、混乱する頭でふらりと足元が地から浮いているような不安定さの中で輝夜に手を引かれ、その力に逆らうことなく哉栄は倒れ込んだ。

 次いで聞こえた輝夜の声、そして彼女の視線の先へと目を向ければ弟子が柱に潰されている。

 柱に、潰されて――

「ゆう、べに……?」

 吐き出した声はか細く、呆然としていた。目の前の光景が到底理解できない。必死で柱を動かそうとする彼女の傍らに座り、目を大きく見開かせては現状を理解しようとするのがやっとだった。大切な人、それは私だろうか。それとも月の姫だろうか。いや、そんなことはどうでも良い。大切な人のために他人を殺めようとした己に比べ、彼は大切な人のために自身を犠牲にしたのだ。医者に大切な献身の心と優しさを持っている、大切な弟子。

 その手が力なく地面に転がるのを目にすると、涙を零した。
 そしてこちらに近付く輝夜の、号哭にも似た言葉に耳を傾ける。『やり直された世界』『自身が下敷きだった』それを聞いて、哉栄は疑うことは無い。月の姫の伝説を知っていたこともあり、そして何より信じ難い力なら自分だって持っている。夕臙は、自分を助けようとしてやり直したのか。そう思うと更に涙が溢れた。心優しいあの子が死ぬなんて、あってはならないのに。良い医者になる、僕よりも慕われる医者になる。そんな優しい子だからこそ、僕を庇ったのだろう。
 やり直した世界で僕が夕臙を庇えば、またあの子が僕を庇う。その度に傷付くのは恐らく、この少女だろう。こうして考えている間にも最愛の弟子の体が焼けているかと思うと身が引き裂かれそうな苦しみに襲われる。自分以上になきじゃくる少女のために、何より愛しい子のために、哉栄がとる行動はひとつだった。

「――いたい思いをさせてしまって、ごめんなさい」

 心にも、からだにも。悲痛な表情で、哉栄は輝夜の指を噛み千切り、嚥下した。戻るのはかつて望んだ、兄の元へではない。
 ――夕臙が遡った少し後、彼が叫ぶ少し前。




 手に感じる柔らかさや温かさを感じるのは、何度目になるのだろう。ふと視線を周囲に見渡せば遠くに三人の影が見えた。戻った、戻ってこれた。夕臙が何かに気づいたようにこちらへ走ってくる。あんな勢いで走っては、転んでしまいそうだ。
 哉栄は輝夜の頬から手を離し、肩を掴んで夕臙たちがいる方向へと飛び退けた。助かる、助かるはずだ。早くに行動したのだから。それでも体力や筋力に自信のない哉栄は不安だった。肩を掴んだ輝夜が万が一にも傷つかないように飛び退いた瞬間腕に抱いた。たくさん傷付き、自分の勝手で傷つけてしまった少女を守りたかった。
 柱が倒れる轟音は、哉栄たちの足元で響いた。崩れ落ちた衝撃で飛び知った木片や火の粉が哉栄の足を少し焼いたが、大したことではない。何より、腕の中の少女も己も心臓がちゃんと動き、生命の危機を脱しているのだから。

 荒い呼吸を繰り返しながら、そっと腕の中から少女を解放し、勢いよく向かってくる弟子の方向に体を向けた。飛び込む勢いの彼がこの倒れた柱へ突っ込まないように腕を広げて彼の身体を抱き留めた。既に満身創痍な哉栄は勢いに負けて背中から倒れ込む。それでも上に感じる重みを離すことはなかった。その重みが、何よりも嬉しかった。

 夕臙が己を庇って柱の下敷きになったとき、兄が死んだ記憶がフラッシュバックしていたのだ。自分を庇って逝ってしまった兄のように、弟子までもが自分を置いて逝くのかと思うと怖くて、怖くて、何より悲しくて寂しくてたまらなかった。じわりと滲む涙を拭うこともなく、弱々しい力ではあるがしっかりと抱きしめ、存在を確かめる。

「……ごめんなさい。お前まで、置いていかないでください」

 生きてほしい。生きてほしい。守りたい、助けたい。医者としてその信念を胸に長年過ごしてきた。その気持ちは偽りじゃない。

「きずつけて、ごめんなさい。僕のわがままで……お前も、姫も、きずつけて……」

 失いたくない、大切にしたい。兄のように自分を犠牲にして助かるのならそれでいいと思うのに、それを弟子が許さない。――ならもう、罪や、苦しみや、後悔や、兄の命を、腕の中の温もりを背負って、生きていくしかない。
 生きたいと、思った。

>>中庭all




【私の勘違いだったりすれ違いがあったらごめんなさい……!! 哉栄も遡りました! 夕臙くんが遡ったあと、叫ぶ少し前です。がっつり確定ロルすみません……! もし何かあれば遠慮なく仰ってくださって構いませんし、確定ロルも遮ってください! とても楽しい展開です! 胸熱! なんか色々すみません!】

22日前 No.371

佐竹咲秋 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【佐竹咲秋/路地】

この女はおかしい。吉継に見惚れたようにうっとりとした表情を浮かべる鬼女を見て、本能的な危機感を覚えた。その端正な容姿と明朗快活な性格から宮中では吉継に想いを懸ける女中や娘御などは少なくは無かった。恋の悩みの相談に乗れだの恋文を代わりに渡してくれだの、宮仕えする華やいだ女子達に色男な相棒の所為で引っ張り回された咲秋には良く分かる。尤も、そんな色恋話も相談窓口である咲秋の朴念仁ぶりに女子達が興ざめし、近頃は漸く蚊帳の外となったわけだが。
しかしこの女の妄執にも似た夢見る横顔は、そんな咲秋から見ても異常だ。妖の恋というのはかくも重いものなのか。吉継が危ない、と直感した。

「吉継、お前、姫様を守る身でありながら妖に情けをかけたのか」

昔助けた、と答える友人に、咲秋は厳しい口調で問うた。姫様を、否、彼女だけでなく宮中を脅かす妖は一人たりとも朱雀の門を通さず、指一本でも触れようものなら切り捨てよと教えられ、それを守ってきた。仮令先日の狐の子のような者であっても輝夜か華切の言葉がなければ情けを懸ける事は許されず、心を鬼にしてきた。それなのにもしも、合わせの貝のように二人で一つだった友人が妖の女と通じ合っていたのだとしたら。想像するだけで震撼した。昔と云うのはもっとずっと前だと言って欲しかった。だがそんなに昔なのなら、この女のこの恋人のような態度は一体何だ。

「貴様のほうこそ、吉継に何をした。吉継もこの咲秋も、左京院の物であり姫様の物だ。妖め、誑かそうとてそうは行かん。俺達は姫様を裏切らぬ! 立ち去れ!」

立ち上がりながら此方を睨み付けてくる鬼女を、咲秋も睨み返した。触れれば切れそうな眼差しは、鬼女の嫉妬に燃える眼光とぶつかり合い、乾いた火花を散らす。唸るように声を低め、退魔の宝刀の柄へと指を這わす。重心を落とし柄を握り込む間際に、「友人の助けた女」という文言が、羽ばたく胡蝶のように脳裏を過る。抜刀の間際のその迷いが、命取りだった。

彼女の放つ視線が空気を震わせて、さながら時を氷漬けに止めたようだった。墨絵に描いた雪景色のような薄灰色の虹彩の中に、黒い点がぽつりと浮かび上がると、ぶわりと滲むようにその瞳を染めた。釘付けになった咲秋の視線を射抜くように漆黒は伝搬して、瞳孔から網膜を侵し、視神経を喰いながら脳を染め上げる。あれは墨染の風の色だ。長月の風の色。びくりと痙攣したように一度身体を震わせ、咲秋は磔に遭ったかの如く一切動かなくなった。開かれた瞳の奥は伽藍堂で、そこから鬼女の呪詛が、そして遠い過去の記憶が体内へと流れ込んでくる。

---

咲秋の意識は記憶の底へと沈み、幻覚に映し出された焼け野が原を漂っていた。

ながつきの風。
焼けた原に、あの日母と見た藤袴の花織物はもう無い。
ただ、あの夜と同じ月だけが、儚い記憶を照らし続けている。
墨染の風の中、雲居の切れ間から、ちぎれちぎれに。

咲秋は、幼き頃より仕え続けた主人の前に立ち尽くしていた。
雲が切れると黄金色の巨大な満月が、その全貌を現す。
輝夜の後ろ姿が、月の前でこの世のものとは思えない影絵を織り成し、咲秋は目を見開く。
闇夜の中に、浮かび上がる白の薄衣。紗を透かして尚も淡く光を放つ、しなやかな痩躯に真珠の肌。夢幻に見るような仄明き煌めきを纏う少女。
射干玉の黒髪を甘き風に放つ後ろ姿が、月の出た途端に遠のいていくように感じて。
忘れていた、虚構のような現実を、思い出す。
目を背けてきた、初めから目の前にあった御伽噺が、突き付けられる。

見てはいけない。駄目だ、振り向かないでくれ……
咄嗟にそう思うのに、咲秋はまた、磔られたかの如く身じろぎひとつできない。
月を見つめると狂気に憑かれる、とは、誰が言い出したのだろう。
黄金月華の煌きの中で、咲秋の願いとは裏腹に輝夜がゆっくりと振り返る。

そうであった。わかっていたのに。彼女は異郷のーーーー
決して届かぬ、月だ。彼女は。
どれほど焦がれようとどれほど手を伸ばそうと、
月無き夜の闇だろうと、月下に綻ぶ花だろうと、触れられない事には変わりない。

咲秋が誰よりもよく知っていた少女が、急に遠い人へと変わろうとしている。

ーー「逃げられないって……如何して。 何故、何故そのようなことを! これ以上、誰が…………」

夢幻の中で咲秋は必死に叫んでいた。
これ以上誰が、 ……これ以上、誰が私から貴女を奪うのですか、と。それではまるで、輝夜を自分の所有物とでも思っているようだった。これ以上、と、いうことは、今までにも、自分は誰かに輝夜を奪われた気でいたのかと。それに、それこそ月に魅せられた他の都人達と同じように。

なんて生々しい夢だ。否、夢ではないことを、咲秋は知っている。
目の前の映像は、嘗て本当に此の目が見たものだ。聞こえる声は、本当に聞いたもの。これら全ては、咲秋が既に経験してきたもの。何故なら、続く輝夜の次の句を、思い出して耳を塞ぎたくなったのだから。

ーー「私……女郎花が好きだったのね。けれど、私が好きになる人は私を置いていってしまうの。だから……」

私では、駄目だったのだ。
閉ざされていた記憶の扉が開かれる。やめろ、と自分を制したいのに、既に書いてしまった消せない筋書きのように物語は展開する。

ーー「やはり私には貴女は理解できない。遠すぎるのです。触れることができないのです。月の姫。……申し訳ありません。此処に居るのが、私が、女郎花≠ナはなくて。……華切様ではなく私が貴女の身代わりになっていれば、貴女を本当に愛していた彼であれば、」

劔星を映す鏡の刃、破軍の星を宿す切っ先が、つ、と下りてきて、輝夜へと向けられる。追い詰められ絶望した者の冷徹な眼差しが、水面のように静かに、輝夜を見据えた。

ーー「こんな真似は、しなかったのでしょうね」

咲秋の心に罅が入り、崩壊する硝子細工のように砕け散る。

「あ……ああああああああ!!!!」

現世で動かなくなった空の咲秋は、突然絶叫した。見開かれたままの虚ろな瞳から涙を流し、月に吠えるように絶叫した。

如何して、一体如何して忘れていたのか。己の業罪を。

「や、めろ……もうやめろ!!」

息を乱し汗と涙に塗れて、懺悔にも似た言葉を吐いても、めくるめく記憶の夢幻は止まることがない。

巨大な望月の映写幕、黄金の光の中で展開されるは幻想影芝居。二人の影は重なり一つとなって、その背を貫いた一振りの影が、舞い散る血飛沫を伴いゆっくりと伸びた。
記憶の中の輝夜は戦慄く咲秋を抱きしめるように、刃を胸郭に深く飲み込みながら身を寄せてくる。

鮮やかに、生々しく、蘇る。

首に回される両腕の温度を、抱き締めるその胸の温度を、互いの腹を真っ赤に染めて広がる血液の温度を、耳にかかる絶えかけた吐息の温度も。

此の腕の中で息絶える最愛の少女が、あの言葉を囁く。
「私を食べてください」と。そう確かに。

---

輝夜を月の姫に仕立て、殺して食べたのは他でもない、自分自身だった。自分が斬り捨ててやろうと息巻いていた誰でもなく、最愛の人を殺して食した佐竹咲秋が、狂気の果てにやり直したのが此の世界だった。

「姫様を殺したのは」

そう力無く呟いたきり、咲秋は糸の切れた傀儡のようにどさりと両膝をつき、術から覚めると同時に倒れ伏した。


>吉継、鬼女、all

【皆様へ、咲秋が見た記憶の詳細は、此方の番外小説です。( http://sns.mb2.jp/fue/d-193)
ダイジェスト版がこのレスと >>0 の後半なので、番外小説は時間が沢山ある方だけお読みくださいませ(^ ^)】

22日前 No.372

語り(モブ) @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ妖)屍達+火車/城下・石階段】


珠芽の手にした短刀は、一つの屍の腹に刺さると、そのまま一文字に皮膚と筋と腹膜とを切り裂いた。溢れ出るのはとうに生命活動を終えた冷めた臓物。振るう反対の腕は鋭い爪で胴を裂き、その勢いで走る屍は薙ぎ倒された。内容物と固まりかけた血潮を撒き散らしながら、動く屍達は武器をとる間もなく躍るように跳ねて転がり呆気なく斃れ伏す。生命力と妖気に溢れる若き大妖狐の前に怯む屍も、其処までの知性が無いのか我武者羅に向かってくる屍も、次々にその皮を破られ身体を貫かれて土人形のように泥に還る。
彼岸の足元に、屍の屍(かばねのしかばね)が折り重なって行く。前に続いて武器を無計画に振り回す事しか知らない空虚な傀儡は、自ら彼岸の刃に吸い込まれるように向かっては斬られ、抉られては仲間の上に斃れた。

嘗ては幸せに生きていた人間であったのかもしれない。或いは貧困の中を必死に生き抜いてきた人間であったのかもしれない。死はそれらの物語を同じ芥に踏み躙り、それから血の海で等しく踏み均した。
胴からはずれた頭、武器のほうについていった腕、血染めの顔は空の眼窩で思い思いの星を仰ぎ、下半身と分断された上半身は他の動く屍に踏み付けられた。
それでも屍達は向かってきた。爛れた皮膚をぶら下げ、的外れな武器を手にして、滑稽なまでに愚かしく向かってきた。斬られても血飛沫すら上がらない、とうに冷たくなった身体で。とめどなく、されど確実にその数を減らしながら。弔いの火も無い物騒で哀れな葬列が、土気色の顔で押し寄せる。

四方八方から襲い掛かってくる屍達は、彼岸と珠芽を囲繞する輪は、狭小化してはまた開き、花弁のように舞い散っては蟻のように集まる。肉を切り骨を断つ音が、淡々と続いた。骸を並べた舞台の上で陽炎のように佇む二つの影が、鮮やかに躍動する。数多の死の影が二人に襲い掛かろうとする度に蹴散らされて、再び物言わぬ姿となって宙を舞う。

一体、其々が何体目の骸を斬った時だろうか、すっかり疎らになった死者の波の向こうから、鮮やかな青色の火の玉が近づいて来る。積もる亡骸を徐々に染め上げて、火の玉はその実態を露わにする。
「山ノ妖、強イナ」
「人間ハ、弱イナ」
二人の前に現れたのは、青く燃える人力車を引いた猫の様な姿をした妖ーー即ち、火車である。四体の火車は、自分達が戯れに送り込んだ屍達の様子を見物しに来たようだった。

「人間ガ負ケタナ」
「人間ハ相撲ニモ負タナ」
「何ヲヤッテモ駄目ナ人間」
「マダマダ、人間、イケイケ、人間、コレデドウダ」

哀れで滑稽な玩具が壊されているのを嗤いながら、火車は好き勝手に喋っている。興味も尽きて帰るのかと思いきや、その内の一体がテンテンと太鼓を鳴らし始めた。小太鼓の音に呼応するように、木っ端微塵に壊された屍の部品が宙に浮き寄せ集められ固められて、闇夜には巨大な髑髏が浮かび上がった。がしゃ髑髏ーー埋葬されなかった死者達の骸と無念の集合体。

「「「オオッ イイゾイイゾ! コレデドウダ!」」」

屍体の恐るべき再利用に他の火車達がどっと湧き、歓声を上げながら太鼓を打ち鳴らす。眼窩に同じ青の火の玉が灯り、がしゃ髑髏が動き出す。一つになった巨体を擡げ、白骨と変わり果てた両拳を珠芽と彼岸の其々を目掛けて振り下ろした。

>珠芽、彼岸、all


【お二人の殺陣が至福……。火車会ってみたい!というリクエスト(えっそんなものなかった?)にお応えして、火車と合体ロボ・がしゃ髑髏を登場させてみました。登場させてみたけど、そろそろ他所との合流などもありましょう、どうぞサクサクッと倒してしまってくださいませ! 木っ端微塵の滅多斬りにするも良し、おめめを狙ってグサリでも良し、操り主である火車達を倒すでもよし、お任せしまーす。そしてあわよくば次レス辺りで撤退しますねー】

22日前 No.373

語り(モブ) @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【(モブ盗人)佐野暁時/左京院邸内部→退却】


「ああ。それだけだ。……驚いては、無さそうだな」

目を伏せる華切を前にして、裏切者は鼻を鳴らした。初めから部下たちの事など信用して居なかったという事か、という意味を息継ぎの間に込めて暁時は侮蔑するように笑う。栄華の坂を転落した左京院の御曹司の横顔には、驚きや怒りや哀しみすらも寄り付かぬような底知れぬ虚無が寄り添っているように見えた。

「ぼっちゃん、精々地獄で会いましょう。この盗人にも今や守るものがありましてね……そうそうあの日左京院様に背いてまで選んだ、家庭、というやつです。賎民にも金は要りますし此処で死ぬわけにもいきません。……くくく、お互い様ってものでしょう」

思っていたほど華切が動揺しなかったのを見ると、興が冷めたように暁時は攻撃的な物言いを解いた。可哀想な人だ、という憐憫と軽蔑の入り混じった気持ちで皮肉な笑みを浮かべる。

別れの辞を述べると、暁時は盗んだ左京院の財宝を腕に抱えたまま、華切の元を立ち去ろうとする。二人の周囲は会話の間に四方に火が回り、紅く染まった壁に取り囲まれたこの空間に、脱出口など無いように見えた。しかし逃げ場など無いかに見えても盗人は慌てた様子も見せなかった。
彼が立ち去るべき瞬間を狙ったかのように、天井に人一人が通れるくらいの穴が空いたのである。
「あんた! 遅いじゃないか! 早く来な!」
顔を覗かせたのは勇ましく天井を破り抜いた暁時の妻である。
「昼顔。おまえこそ! 待ちくたびれて灰になるかと思ったぜ」
暁時は煤けた顔でにやりと笑って天井の穴から覗く伴侶の名を「昼顔」と呼んだ。

人の世が転覆されようとする今、貴賎の区別など越えて危機に瀕した今、より生き残る勝率を高めるのは、生きたいと願う気持ちがより強いほうであると暁時は信じていた。この身の生きる意味である「大切なもの」を自分は信じられる。それは目の前に佇んでいる、その身を取り囲むあらゆるものを信じられない貴人に勝る強みではないかと、思っていた。勿論、華切の輝夜への想いなど知る由もなく。

暁時は焼けた畳を踏みしめてから助走をつけ、あらん限りの力で跳び上がる。ぎりぎりまで伸ばしたその腕を、天井裏から伸ばした妻の掌が掴む。武官とその細君であった二人の運命は一度は狂わされ火事場泥棒の夫婦に成り果てはしたが、見事なまでの阿吽の呼吸で天井に穿たれた穴に吸い込まれるようにして華切の前から姿を消しこの危機を脱した。彼等には彼等なりの守るべき者と生きる術があるというだけのこと。二人の泥棒は天井裏から屋根の上へと抜けて、中庭へと柱が倒れていくのを気にすることもなく、再び混沌の夜の中へと溶けていった。
残された伊織の居室には、派手な退却の所為で加わった振動により、天井の木材までが落ちてきた。女泥棒・昼顔が夫の為に開けた脱出孔から、荘厳重厚に見えた天井は綻び、煌びやかな絵画装飾も呆気なく崩壊し、ばらばらと氷柱のように華切へと降り注ぐ。可燃物が落ちてきたことで焔は勢いを増し、更に高く燃え上がった。

>華切、all


【華切様ー! お相手ありがとうございました! 道場対ゾンビ編も終わりに近づいてきた為、モブおじさんは退散させていただきます。このあとはたぬき様と崎山様のお好みの展開で、彼岸さんとの再会を果たしていただければと思います(^o^)】

21日前 No.374

夕臙 @fue☆dTW3Rdrh5/. ★iPhone=uYwUDyqtCB

【夕臙/宮中・左京院邸庭】

自分を呼ぶ声がする。誰かの泣く声がする。
ーーせんせ、い?
あの時と同じだ。子供の頃、生死の境を彷徨っていた魂が聞いた声。見た光。母親が泣いていた。父親が呼んでいた。あの時は曖昧な景色の向こうから、光宮哉栄は現れて、その手で命の灯火を分けてくれたのだった。
今度は、自分を呼んでいるのは誰だろう。泣いているのは誰だろう。
懐かしい光の中で、夕臙は振り返ってその姿を見た。

かちり、と、何かが歪みそして再び噛み合うような奇妙な感覚があった。

…………。

気付いた時には夕臙は、燃え盛る邸の柱と、倒れんとする導線上に居る哉栄と輝夜を前にして立っていた。

おれは、先生を助けるためにあの子を食べて時間跳躍をした。それなのに、なんだか長い夢さえ見ていた気がする。何をしているんだ、今ならまだ間に合うのに。

次第に瞭然としていく意識の中で、夕臙は何故自分が何をしようとして此処にいるのかを思い出す。一度目は哉栄・輝夜と柱の間に無鉄砲に飛び出した為に、途中で思葉に助けられ、結果としてその後ろにいた哉栄が犠牲になってしまった。その哉栄を救おうとやり直した二度目で自分が下敷きになってしまったことを、夕臙は憶えていない。二度目で身代わりになった夕臙を救おうと今度は哉栄が時間跳躍ををした為に、夕臙の記憶は自分が時間跳躍をしてきたあとのこの瞬間に上書きされてしまったからだ。
自分が一度死んで助けられている事など気付く由もなく、夕臙は今しがた哉栄を救おうと時間跳躍をしてきたつもりで、同じ思考回路で智慧を巡らす。

ーー思葉の腕が哉栄を救うか、或いはその前に柱の向きを逸らせば良いのだ。
一度目は無謀にも柱を静止した両手で迎えようとしたから逸らせなかった。つまりーー

同じ結論。その瞬間から旋風のように駆け出した。師の時を超える想いにも、輝夜が此の身の為に傷を増やしたことにも、そして自らの死の運命が既に一度描かれていたことにも、気付く事すらなく。

「……さ、!」

さがれ、そう叫ぼうとして、夕臙は事態が既に変わっていることに気付いた。輝夜だけを安全なところに突き飛ばして柱の崩落に巻き込まれる筈だった恩師、その動きが夕臙の知っているものと違う。哉栄は輝夜の肩を掴み、自らも共に飛び退いたのだった。二人の隣を掠めるようにして、僅差の距離で柱が倒壊する。
ーー……奇跡が起こった。
夕臙は喜びとそれをも凌駕する驚きに失速する事も忘れてしまう。まずい、このままでは突っ込む……そう思った時にはもう、少年の小さな身体は最愛の師の両腕に包まれていた。

半ば哉栄を押し倒す体勢で、天地が引っくり返る。何よりも守りたかった鼓動を胸の下に、紅い星の咲き誇る夜空を背の上に。師を下敷きにしたまま、弟子はその脈打つ胸に頬を寄せ、喜びと安堵に泣いた。背中に細い腕が回り抱き寄せられる優しい力に甘え、暫くその存在を確かめるように味わった後、ややあってから不思議そうに顔を上げた。

「先生……?」

見れば哉栄も泣いていた。自分と同じように、誰かを失う恐怖から解放されたように泣いていた。少し自らの身体をずり上げて、彼の白い肌に光る温かな涙を、指の甲で慈しむように拭い取りながら、不思議そうに哉栄の言葉に頷いた。「お前まで」に続く彼の言葉はつまり、夕臙が今しようとしていたことの行く末を知っていたかのようではないか。其処まで考えた時、夕臙の丸い目はまた大きく潤んだ。

「おれ……っ、光先生が、このまま神様の力を使ったら死んじゃうって、知ってて……だから、先生がおれを含め誰も救わない運命に、先生が名医にはならないけど幸せに長生きできる運命に、……変えたくて……先生の兄ちゃんが助かるように過去を変えれば、って、それで」

堰を切ったようにぼろぼろと大粒の涙が零れおちる。もう哉栄の前にも輝夜の前にも本当の事を隠しておくのは辛すぎた。

「おれは、医道を志す者でありながら人を殺そうとしたんです……。さっき先生を助けてくれたのは、月の姫なのに、そのお姫様を……っ。おれは先生の弟子を名乗れるような良い子でも優しい子でも本当は無いんです」

夕臙は恥も掻き捨てて、涙と鼻水で顔を汚しながら泣きじゃくった。人は傷付けるし、人から奪った金で学校に行ってたし、欲しい本があれば盗んだし、人を殺そうとさえしたし、関係のない妖の少年を切ってしまった。全てを知っているのは薬師寺紫ぐらいで、尊敬する哉栄の前ではどうしても良い子で居たかったから、失望されるのが怖かったから、隠していた。それなのに哉栄はいつも自分を優しい子と評するから辛かった。更に哉栄はそんな自分をまたしても救ってくれた。それらを今、すべて明かした。けれど、それは哉栄も同じことだったと、輝夜との会話を垣間見た時に、輝夜の指先を彼が噛んだ時に知っていたのだった。

「失望されると思って言えなかった。だから、先生がお姫様を食べようとしていた時……驚いたし阻止しなくちゃと思ったけど、何処かで少し安心したんです」

神のように崇めていた恩師の、聖人君子の衣は少し剥がれ、只の人間と同じ衝動が彼にも等しく在ることを弟子は知ってしまった。それでも尚一層、落胆どころか其れすらも含めて守りたいという愛しさが湧いた。

「光先生に生きて欲しかった。はじめはおれが先生に助けられたことも帳消しにして平凡に幸せに長生きして欲しかったけど……でもやっぱりおれは、どうしたって先生に出逢えて良かったと思ってる。やっぱりおれは、先生に逢いたい。……みつせんせいと、生きたい」

この先、哉栄に残されている時間はそれほど長くはないかもしれない。あの星飾の不思議な奇跡の力を発揮しない過去に書き換えられたなら、薬師寺の言うようにもっと命を延ばすことが出来たかもしれない。それでも、哉栄が輝夜の前で「今を生きたい」と決断した事に比べたらそんな仮定に如何程の価値があろうか。夕臙の心に掛かっていた叢雲は雨に融けて、晴れた夕月夜へと変わっていくようだった。

>哉栄、輝夜、思葉、薬師寺、all


【輝夜ちゃん、哉栄先生、ありがとうございます! 美味しいレスで夕臙復活です! 遡った後、叫ぶ少し前から書かせていただきました。めちゃめちゃ楽しかった……!】

20日前 No.375

@kronos☆M83pBhikgC. ★Android=Esl6XVmNcI

(薬師寺紫、思葉/左京院邸庭→何処かへ/)

終わった。そう思った瞬間の薬師寺の動きは速かった。着物のどこに隠していたのか短刀を右手に忍ばせ輝夜へと向かおうとする。しかし、そこで変化があった。気付かない。何も変わらない。何をしていたのか、何が起こったのか。

同じく陰に隠れていた思葉も同じく、何かを掴んだはずだった。いや、何も掴んじゃ居ない。何かを助けたいと願った筈だ、妖怪と世間に謳われる自分が。しかしそれすらも記憶にない。現実は何も変わらない。

薬師寺紫は先の茶店にて、店主に迫った様な恐ろしい顔をしていた。何故なら、たかが弥栄の優しさに触れただけで、あの覚悟を決めた夕臙は泣いて謝ったのだ。

思葉は落胆した。やはり人は変わる存在。あの覚悟も、何かを成し遂げるという意思も、あの夕臙からは抜け落ちたように見えたのだから。

ふたりは知らない。何が起きたのかを。故に怒る、故に見放す。

「詰まらん」

どちらかが呟いた言葉は其れを最後にその場を後にした。

20日前 No.376

珠芽 @d0ap ★Android=oiMOxDsfGh

【珠芽/城下の外れ・石階段】

(……酷い臭いだ)

 利きすぎる嗅覚を呪いながら、顔をしかめつつも短刀を横へ縦へと振り、もう片方の爪で更に追い討ちをかける。が、先程戦い方を学んだばかりで大勢を相手にしたことなどない珠芽は少々苦戦していた。そんな中、師の声が響く。彼岸の言葉に一つ頷くと、教え通りに身体を動かし、再び屍達を切りつける。寸前まで引き付け次々に切り裂くと、身体をぐらっと傾け倒れていく。
 骨が擦れる音と共に次々と屍達は地に伏せる。哀れな者達。人として静かに逝けず、妖に弄ばれるとは。珠芽はそんな屍達に少なからず同情していた。

「大体……片付いたか?」

 立ってる屍の数が始めよりも明らかに減り、一つ息を吐きつつ呟く。すると、屍達の向こう側に青色の揺らめく炎が目に入る。屍達を動かしている妖怪……近付いてくるその姿が露になった。猫のような姿をし、太鼓を携えるその姿は、

「火車……。人の亡骸を奪い、戦わせて何が面白い」

 好き勝手に喋る火車達に、溜め息と共に言葉を吐き出す。が、その中の一体が陽気に太鼓を打ち鳴らせば、たちまち屍はがしゃ髑髏として姿を変えた。

「あぁ、可哀想に……」

 がしゃ髑髏を見つめ、無意識に言葉が飛び出していた。哀れだと同情する反面、宮中での出来事が思い出される。篭に入れられ傷だらけにされた自分。訴えれば訴える程に、酷い仕打ちを受けた。今、その時の報復として戦うのか。……否、そんなものの為に戦いたくない。これは、人をあるべき場所へ返す為。

「面倒な事を。お前達も、いつまで妖に遊ばれているんだ」

 火車とがしゃ髑髏に向かって眉を潜める。この巨体に、短刀では挑みきれないかもしれない。それは圧倒的な経験不足からそう思ったのか。珠芽は短刀を納めると、その姿を九尾狐へと変えた。これならば、少し動きやすい。

「おれは、がしゃ髑髏を倒す」

 彼岸に宣言するよう、そう言い放つと振り下ろされた白骨の拳から素早く駆け上がり、その眼窩の青い炎に向かって狐火を放った。

>彼岸、周辺all

13日前 No.377
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