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【12日本編開始】Fate/Grail of Mebius

 ( なりきり掲示板 プロ )
- アクセス(431) - ●メイン記事(35) / サブ記事 (3) - いいね!(13)

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

 神秘、神秘、神秘。この世界は神秘で溢れている。

 起こりうる全ての神秘は、あの聖杯の内に秘められているのだろう、なんて不確かな確信を抱きながら。


 天は笑う、天は嗤う、天は嘲笑う。

 一度脱線した歴史は戻れない。繰り返す。

 天も地もそこにいる人間も、善も悪も関係なく、ただひたすら、繰り返す。



 『正しい形の戦争』など、あっただろうか。

【諸々定まってないけど、勢いでスレだけ建てたくなって書き始めたら止まらなくなって建ててしまった。許せ。予約は既に埋まっているので新規様の募集はしてないよ。もちろんレス禁】

切替: メイン記事(35) サブ記事 (3) ページ: 1

 
 

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月29日 午前2時頃 柚木の空家】

「……やってみますか」

 ドンから借りたやたら重厚な本を片手に、自分に言い聞かせるように呟く。正直言ってまだ魔術だのなんだのはめっきり信じちゃいない。確かにドンの右手の甲にあったこの刺青がおれの手に移動してきたときは、これが魔術、とも思ったが、あれはなにかの夢なんじゃないか、という疑念の方が圧倒的に強い。
 本に書いてあった通りのことは一通りやった。こんな人通りのめっきり無いゴーストタウンを不用心に歩いていた人間を2人。不慣れな作業だったから、血を絞り出すだけでかなりの時間を要してしまった。生きている人間は、傷口がある限り、切り口が塞がるまで血が溢れ続ける。しかし、死んだ人間はそうはいかなかった。よく考えればわかっただろう、心臓が止まったら血は流れない。

 ここは工場街になる予定だった場所だったらしい。外観としてはまさにそれで、あまり背の高くないビルと、ドーム型の屋根をした建物が連なっている。しかしここは云わばゴーストタウン。誰もここで商いすることを選ばなかったのだ。それはおれ達にとって非常に好都合だった。ここを制圧する、具体的に言えば、ほとんど使われていない港の一部欲を言えば全てを手中にする。本土へ向けて2本かかる橋のうち1本は検問も何も無い──ここ七日野も日本の一部だから当然と言えば当然なのだが──日本へ通ずる道ができれば、商売は一気にやりやすくなる。

「素に銀と鉄。……なんて読むんだこれ、あ、いしずえ。礎に石と契約の大公」

 魔法陣の上に乗せたままだった死体を蹴り飛ばし、本に書かれた文言を読み上げる。長いこと日本語を喋っていなかったので、正直読めない漢字が一部あるのだが……。こめかみを押さえたりなどしてみながら、記憶から知識を持ち上げる。英霊召喚はこんな大それた儀式が無くても出来ることらしいし、これくらいのズレはどうってことないだろう、と、そのまま次の文章へ目を移す。

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て、王国に至る三叉路は循環せよ」

 ──血が、蠢く。乾いて固形になり始めた血の塊が、それぞれが蜀のように蠢き始めるように見えた。
 淡々とした声が響く。そこに期待や恐怖などの感情は乗っておらず、流れる音量は一定。
 男は魔法陣の1本外側で片膝を付き、翳した右手が蜀を支配する。空気までも伝わるほど、地面が放つ強大な力を受けて、揺れる。無風な筈の室内でも、髪が、揺れる。男の左手に持たれた本だけが、自分の存在、その頁を主張するように、僅かたりとも動かなかった。

「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 翳した右手が逆光で見えなくなるほどに。綴じた生命であるはずの蜀達が、青白い光を放つ。男の表情は変わらない。淡々、淡々、淡々と。目の前に起こっている現象に驚きも感嘆も無く、単純作業を繰り返しているような、ただそこにある文章を読むだけ。

「────告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ、誓いを此処に。

 我は常世総ての『悪』と成る者、我は常世総ての『善』を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──」

 ────青白い光が、消える。全てを塗りつぶしたような漆黒が、その空間に訪れた。先程の蠢く蜀や、男の姿も、その完全な暗闇の中で見つけることはできなかった。

「…………」

 ──幾時。

 それが1秒なのか1時間なのか、さては1年後なのかわからないような錯覚だった。一通り文言を読み上げたあとの、暗闇。文字通り光とは程遠い生活を送ってきたおれでも、体感したことのなかったような、暗闇。時間の感覚さえも無くなってしまうような、満月の淡い光でさえも塗りつぶしたような。闇が晴れるまで、おれの中の時間は、完全に膠着していたのだ。

 光が、戻る。照明なんか付けていなかった。夜目は効くほうだし、明かりなんかつけて誰かに見られてしまったら堪らない。戻ってきたと言っても、ゴーストタウンの濁った空気に濾過された濁った月明かりだ。カーテンの無い窓から差したその光が、おれの前を鈍く照らした。

「……はは、嘘だろ」

 ──正直言って、信じられない。

 さっきはいなかった。ここにはおれしかいなかった、近寄ってくる人の気配も無かった。それなのに、なぜ。

 ……魔術、魔術。ああ、魔術、か。

 脳の処理処理が追いつかない。片膝をついたまま、顔だけを上げるしかなかった。

>>キャスター

12日前 No.1

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上/メリル・マリア・アトウッド】

 風。

 この風が、この世界に必要無いもの全て、奪い去って行ってしまったらいいのに。

 夜が明ける直前、都会の空気が1日で最も透き通っている時間。イギリスを思い出す排気ガスの臭いも嫌いじゃない。人が生活した証、愛おしい臭いだ。それでも、それとは別に、この刺すように澄んだ空気も嫌いじゃない。凍えそうな空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。まるで自身の魂さえも抜けていってしまいそうな、長い長い、溜息。

 屋上から見下ろした通りは、新年を祝う人達で賑わう。1ヶ月ほど前からこの七日野に滞在しているが、こんな朝早く──いや、深夜、日付が変わる前からこんなに賑わうのは始めてだ。祝い事の日、新しい1年を祝う日。なんとも素敵な、生きる人間の催しだろう。

 まだ暗かった空が、徐々に明るくなり始める。藍から、空色へ。白みゆく空。夜が死んでいくようだ、なんて柄にも無く詩的なことを考えながら、手すりにかけた手を離し、コンクリート打ちの屋上階の地面を見る。そこには大きな魔法陣。

 ──ボク達父子の、悲願。

 誰も取り零さない、誰も彼も全て、人道の外側になんか置かせはしない。魂は選べない、選べなかった魂を身勝手な損得で摘ませはしない。

「……ああ、終わりだよ、何もかも」

 誰に聞かせるでもなく──いいや、世界全てに聞かせるように、その声は響いた。風に宛てられたのか、魔法陣の中央に置かれた1枚の絵札が、僅かに動いた。


 ──男の爪先が、魔法陣の端にかかる。その瞬間に、糸のように細いその線が、眩い光を放った。

 男の瞳と同じ、淡いピンク色。その色が、無骨なコンクリートを霞んで見えなくさせるほどに、光り、燃え、周囲を夜明けのような眩さで照らす。

「素に銀と鉄、礎に契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 ──陽が、登り始める。ローズピンクの輝きと対抗するような、夜明けの光。男の手に握られた宝石が、その言葉に呼応するように融け出した。

「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ! 繰り返す都度に五度。ただ、満たされる刻を滅却する」

 男の顔は東を向いていた。太陽の光を反射した瞳、開きき切った瞳孔。焦り、期待……。そこにどんな感情があったのか。友への別れ、かつて愚直にそれだけを見つめていた日への別れ、あるいは、不幸なこの世界への清々しい別れ。

「────告げる」

 一際大きな声が響いた。それまでとは比べ物にならないほど、強い意志の篭った。まるで、今まさに明けようとしている太陽に聞かせるように。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ、誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者──」

 風。

 先程とは違う、吹く風ではなく、巻き上がる風。男を取り囲むように、その風は巻き上がる。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 ────夜が、明けた。

 最後の言葉に合わせ、手に汗握ったその声に合わせ。日が昇ったその瞬間の長い影が、それさえも覆い尽くすような大きな物に隠された。

「……はじめまして」

 宝石を握っていた右手に、今は何も無い。全て融け出したから。果たして彼女がボクが呼びたかった『それ』なのかはわからない。あの歴史の文献から、その姿を想像するのは非常に困難だったから。でも、わかる、わかる。ボクほどの魔術師、あれだけの触媒があれば、『それ』に違いない。

 細く長い指が、微かに震えた。

 ──これで、終わらせることができる、何もかも。

 その確信への、期待だろうか。

>>バーサーカー

12日前 No.2

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★Android=LYOl0pG1zo

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/相見氷雨】
「消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲む、と……よし。人払いも済ませましたし、これで行けますね」

 目前の地面へと描いた、英霊を召喚するための魔法陣の内容に間違いがないかと確認し。既に人払いの術式も起動させたことを改めて口に出し。
 マスターとして聖杯に選ばれた魔術師の一人である相見氷雨は、未だ暗闇の中、この世界が陽光と共に溶け動き出す前に最も冷え込む時間である日の出の直前に、英霊召喚の儀式を開始した。
 召喚の触媒として用いるのは、月桂樹の枝と葉の化石。古代ギリシャの時代から太陽神の、あるいは英雄の象徴として、また時代が下ってからは皇帝の象徴ともされたそれの、よりそれらが『そういう物であった』時代の物。現代に生えるそれらそのものよりも、更により強く象徴とされていたものである。月桂樹に、あるいはそれから類推されるであろう神にまつわる神話は数多く、特定の英霊を召喚するには弱いものである。しかし、氷雨はそれを逆に利用した。そもそも触媒無しで召喚される場合は召喚者と相性が良いとされる英霊が召喚されるという。そして、触媒によって該当する英霊が多い場合、縁がある中でもより召喚者と相性の良いサーヴァントが召喚されるという。例えば、『聖剣の鞘』によってアーサー王が、円卓の欠片によって彼/彼女を含む円卓の騎士たちの中でも召喚者と相性が良い一人が召喚される、といった具合に、だ。如何に強い英霊を引き寄せようとも、相性の悪さで決裂するなどとなってしまっては元の木阿弥だ。それを避けるべく、氷雨は敢えて特定の英霊を喚ぶには弱いものを用いることにしたのである。古代ギリシャの英霊であれば、それぞれ得意な分野が違えどもいずれも一騎当千の兵だ。その中でもより相性の良い者とであれば、勝ち抜くことも出来よう、と算段したのである。

 召喚陣の前に立ち、氷雨は令呪を宿す己が右手を前へと差し出す。
 失敗への恐怖は無い。この儀式は、成功すると確信している。問題はその先、召喚に応じたサーヴァントと共に勝ち抜けるか、という事。それも、誰が来るかわからない今は、心配するだけ無駄なことだ。大丈夫、きっとなんとかなるのだから。
 夜明け前の冷たい息を吸い込み、頭の中と心をクリアにする。
 魔術回路を起動させ、全ての条件が整ったことを改めて確認し、詠唱を開始する。


「“素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖に我が主神・天照大神。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
 閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する”」

 詠唱が進むごとに、陣の外側から内側へと魔力が巡り、中盤へと至る頃には陣の全体が魔力を帯びて、放つ色も緋色から白銀へと変わった。光り輝いている召喚陣の所為で、もしもそれを外部から見ている者がいたならば、さながらそこだけ昼間となったかのようだとさえ思ったことだろう。術者の右手の甲に存在する令呪も、その全体が赤々と光を放っている。
 しかし、それを術者が気にすることは無い。

「“―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ”」

 聖杯、万能の願望器を求める英霊。あるいは、それを求める英霊との戦いを望む英霊。ただ『喚ばれたから』という理由で訪れる英霊。いずれにせよ、その理由に貴賤は無いと氷雨は思う。願わくば己が抱えるものと同じようなことを求めてくれていればとは考えつつも、実際はそうでなくても構わないのだ。
 自分に喚ばれて、ここまで来てくれるのならば。きっと彼/彼女とは、上手くやっていけるのだろうから。

「“誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者。
 汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――”」

 限界まで高まった魔力によって召喚陣が更に光り輝き。世界が、白い光で塗りつぶされる。

 光に視界を奪われ、身を押し返すほどの強い魔力の奔流によって聴覚も触覚も意味をなさなくなり、それでも感じられるのは、『誰か』と繋がった・その『誰か』をこちら側へと引き寄せた、という事のみ。

 光が薄れ、魔力の渦が収まり、渦によって立てられていた煙が晴れた時。
 召喚陣の中に佇むのは―――。

>>神託のアーチャー

【本編開始おめでとうございます。久々の参加ですので粗が目立つかと思いますが、お目こぼしいただければ幸いです……!】

12日前 No.3

はるみや @basuke21☆MhETKCZLYfIV ★BM7f0m3zYL_5ZM

【12月31日23時30分頃/柚木町廃ビル屋上/久遠寺美命】


 空に瞬き輝く星々と、見守るように夜空に鎮座する月。柔らかい白黄色の光は、柚木町を照らしていた。
 中途半端な建築物が立ち並ぶ、忘れ去られた町柚木。人々が残した叡智は、今や瓦礫や石ころと大差ない価値となっているようであった。
 そんな連なる建築物の中に、一際背が高く、そして倒壊寸前のビルが存在を主張していた。灰色と黒色と銀色がむき出しで、寂れた雰囲気を隠し切れていなくて、人はおろか、生き物の気配を感じられない、とにかく取り残されたビル。
 中は瓦礫や小石、ガラスの破片が散らばっていて、一歩踏み出す度に小気味のいい音が反響する。
 空気中を舞う埃は鼻孔を擽り、

「……くっしゅ」

 クシャミが

「くっしゅ、ぶぇくっしゅ!」

 止まらない。
 動く影。揺れるレース。靡く紫。香る柑橘。響くしわがれた声。
 忘れ去られた町の取り残されたビルに、分厚い洋書を片手に唸る紫色の少女がいた。少女──美命の眼前には、その小さな身体を囲えるほど大きな大きな魔法陣が怪しげに光っていた。外から差す月光をも覆う、血よりも鮮やかな赤。
 小さな鼻をぷっくりとした手でむごむごしながら、左手に持っていた洋書を開こうとする。するとそこでハッと目を見開き、「あ」なんて間抜けな声を出す。短い言葉は壁に反響し、やがて消えた。

「贄……触媒だったか、を忘れてしまった。むむむ、困ったぞ」

 少女とは思えないほど低く、しわがれた声。ぷっくりとした右手は顎に手を当て、眉を寄せ、もう一度「むむ」と唸る。
 しかしそれも束の間、眉に寄っていた皺は無くなり、右手は洋書のページを開き始め、

「まあいいか」

 と軽く流す。触媒の必要性や意義を理解していない魔術師としても浅い美命は、「触媒無しでも喚べるだろう」なんて言ってみせる。実際召喚できるにはできるのだが、まさか自分の精神そのものが弱いとはいえ触媒になること、自分と似た精神性を持ったサーヴァントが召喚されるなんて、宙に舞う埃の大きさ程も思っていなかった。
 ページを捲る。捲る。まだまだ捲る。乾燥した手指ではページを捲ることが難しい。思わず顔を顰める。それでも捲る。「あった」呟く。
 割れた窓から風が吹く。これから始まることを示唆するような、穏やかな、けれども冷たい風。
 動く影。揺れるレース。靡く紫。香る柑橘。響くしわがれた声。光を増す召喚陣。赤に染まるフロア。……感じる確かな気配。

『──素に銀と鉄。礎に石と契約の大公』

 ピンッと糸を張るような、壁を穿つかの如く大きな声。

『──手向ける供物は血』

 行き場を失った声は埃と共に宙を舞う。

『──降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』

 風が強く吹く。声と埃は揺れ、どこか気怠い感覚が走る。

『──閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する』

 細い脚が僅かに震え、額に真珠のような汗が浮かび始める。

『──告げる』

 召喚陣が揺れる。グリーンの双眸も揺れる。

『──汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に』

 手の甲に佇む令呪が光りだす。血よりも赤く、闇よりも暗く。

『──聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!』

 幼い心臓と、高らかな声と、大気が震える。

『──誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』

 幼い身体を囲う光と、双眸に孕む期待と不安が強まる。

『──汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!』

 風が福音をもたらす。
 魔力が光に吸い込まれていくような、あるいは吸い込まれるような……形容しがたい感覚に、美命は眉を顰め小さく呻く。生まれたての小鹿のように、必死に己を支える細い脚。荒い呼吸。それでも強く放つ光を射抜く視線。
 真珠のような汗がぽたりと地面に落ちる。じわりと広がる染みに一度視線を落とし──もう一度召光へ視線を向ける。弱くなってきた光。浮かび上がるシルエット。

「わ……」

 空気の漏れた風船のように、弱く、しかし自然な……年相応の感嘆の声。
 ワクワクするような、ドキドキするような、モヤモヤするような、あまりにも忙しすぎる感情。──本当に召喚できてしまった。これから戦争が始まる。どう声を掛けようか。これからどうすればいいのか。
 美命はただ口をはくはくと動かすだけで、その口からは何も音が出なかった。


>>黄金のアサシン

【本編開始おめでとうございます〜!美命同様魔術師としての知識が浅いことに加え、久々のオリなり参加ですので色々とやらかすかと思いますが……何卒よろしくお願いします!】

11日前 No.4

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上/虚妄のバーサーカー]

 狂。

 この狂いが、この世界の嘘偽り全て、破壊して行ってみせましょう。

 元々、ただそこにいただけの存在だった。描かれただけの、黒雲と炎を纏った物体。書き手の意図とはなんだったのだろうか。連なる列の最後に現れて、絵巻を締めくくる存在。それが自分だった。否、手や足や体や顔がないように、自分に意思も意識もなかった。生物でもない。絵巻の一部。ほとんどを墨とする絵。何かを考えるとか思うとかそんな手段など持ち合わせておらず、結果論として今現在、これから意識を持ち合わせるが故に自分はあれだったのかと絵巻を眺めることが出来るだけである。
 自分に願いなどない。ただそこにいただけなのに最強だ何だと持ち上げられあるはずもない地位と力を押し付けられた。望んだ覚えのないそれらを疎まれるなど流れ弾もいいところだ。自分が知らないところで話が盛り上がり、関与できないところで進み、反論も訂正も出来ないまま存在するものとされた。訓練したとか、特訓したとか、そんなものは一切ない。存在が確立するという中に自分の強さは前提として必要だったらしい。

 ──あぁ、私の描き手よ。私とはいったい何なのでしょうか。

 作り話。言えばそれは嘘から生まれた。見方を変えることで、予想は結果へと置き換えられていく。列の最後に現れるそれは、上に立つべき存在。上に昇るべき存在なのだと。投げられた小石以上に波紋は長く大きく広がる。


 自分は嘘偽りの存在なのだと自らの首に手で強く絞める。自分は存在してはいけない。本来はいない存在。存じ上げない在るモノ。勘違いから生まれた自分は、自分は、自分は。違う──違う違う違う違う違う違う。

 そうだ。この世が全て嘘なのだ。自分が存在しているという事実がこの世は嘘偽りだという証拠だ。五感で感じるこれらも、思い返せるこの記憶も、これから自分が参加することになる戦争も、全てが嘘なのだ。間違いない。自分は間違っていない。この虚妄の世界が、自分を含む全てが、総てが、偽物。


 自身を認める方法が自身以外を認めないとは何と身勝手で幼稚だろうか。本末転倒もいいところである。
 だが彼女にはそれを成し遂げようとする力がある。その力も知らぬ間に望まぬうちに押し付けられた力とは何と皮肉なことか。まさに狂っている。だが、その狂いだけが“ 彼女”を突き動かす。


 風。

 ホテルを中心にまだ少し風が吹いている。いつの間にか立っていた彼女は昇る太陽と共に現れた。黒衣に付属しているフードを黒い手袋をした手を使い脱ぐとまだ何か被っているのかと疑うような前髪が現れた。陽の光さえ飲み込んでしまいそうな底の見えない黒。
 少し息を吐いた彼女は目の前の男性より先に、昇り始めた太陽を見据えた。

「なるほど。毎日朝に昇って夜には沈んでいるのに、この日だけはその当たり前を特別視する……私を喚ぶにはうってつけというわけですか」

 首を不自然な程に傾けると彼女の重たい髪が流れ、瞳が覗いた。黒い球体と燃えるような円。人間ではないそれで彼を見つめた。

「失礼。挨拶が遅れてしまいました。──初めまして、我がマスター……貧乏くじを引かれましたね。私はバーサーカー、真名を……一応──と言います。私は虚妄と錯誤から生まれた存在、生憎伝承は持ち合わせておりません。嘘偽りでありながら、人々が私の存在を信じたゆえに存在しております」

 控え目な声で淡々と語る彼女は話しながらも、ギョロという擬音がまさに似合うように目を動かしては彼の観察を行った。
 まだ力が入っている右手。自身を喚ぶために使った何かが握られていたのだろうか。反対の手が、指が、微かに震えている。恐怖だろうかとも思った。だがそれは彼のどこか決意が見える表情によって否定された。狂戦士に期待を抱くなどそんな人物がいるだろうか。彼がそうなのだろうか。

「……この世のすべては嘘偽り。目に映り、耳に聞こえ、鼻で嗅ぎ、手で触り、舌で味わい、脳で考えたことさえ真実ではないのです。この世に本当などありはしない」

 その決意もまた偽り。彼に夢があったとしたもそれも虚しきもの。世の全ては、世の理に本物などありはしない。あるのはただ虚しさと寂しさと怒りや欲望。そういった負の感情が混ざり合い黒々と燃え盛っているのみである。

 ──だが、言ってしまえばそれらもすべて虚妄の一部。

 彼女は一歩相手へと近づき、そのまま正座の姿勢を取った。両手で前髪を中心から左右に分け、両目を見せた。手を膝に移し、背筋を伸ばした。

「……ですが、いつか覚める夢としても貴方様と巡り会ったのは何かの御縁でしょう。願いを、マスター。貴方様の望みを阻む者は私が嘘偽りのように消してみせましょう」

  細く長い指を、静かに握った。

 ──これから、始めることができる、何もかも。

 虚妄を本当にするために。


>>メリル・マリア・アトウッド様

11日前 No.5

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

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11日前 No.6

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_J3h

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11日前 No.7

ハールさん @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【12月27日午前2時00分/北区役頭タウン邸宅地下室/シャーロット=エリザベス・ソフィアテラ】

――草木も眠る丑三つ時、高級住宅街の一角で、その儀は執り行われる。

「――さて。準備は整ったし、始めるとしましょう」

薄暗い地下室に、似つかわしくない一人の少女がいる。金の髪に碧い瞳の映える、ただ其処にあるだけで高貴な威風を放つ少女。彼女の前には、床一面に描かれた魔法陣。その中心には、まるで供え物のように拳大の氷結晶が置かれていた。

少女の名はシャーロット。シャーロット=エリザベス・ソフィアテラ。歴史と秘密こそを貴び、神秘を魔術として己の力とする、由緒正しき"魔術師"。
彼女は、己の知と力を数居る魔術師達に示し、その名を轟かせる為に、『その夜』に身を投げ出した。


――――聖杯戦争。それは万能の願望器たる聖杯を廻り、七人の魔術師が凌ぎを削る奇跡の饗宴。その身に資格たるを宿す者のみに許された、陰謀詭計渦巻く戦渦。
勝者には名誉を。敗者には辱しめを。夜毎に繰り返されるその争乱は、例外無く試練として七人に降り掛かるだろう。
シャーロット=エリザベス・ソフィアテラも、その内の一人。右手にその資格たる令呪を宿し、己こそが『最も優秀な魔術師』であると示すべく、魔術師の総本山たる時計塔より一人離れ、この時の為に備えをして来たのだ。


本当は、もっと良い触媒が欲しかったのだけれど――と、少女は一人ごちる。床に描かれた魔法陣の中心に捧げられているのは、英霊を呼び出す為の触媒そのもの。
北欧はアイスランドの永久凍土――その、最も古き層の氷結晶。決して溶ける事の無い、永遠の結氷。それが、彼女が用意した触媒であった。
触媒が無くとも英霊は召喚出来る。だが、触媒無しでの召喚には多大なるリスクが伴う。一流の魔術師であれば、有り得ない選択肢だ。故に、"良い触媒"を用意出来るか否かが、魔術師として試される第一の試練でもある。
少女は、他の魔術師達からすれば理想的に見える触媒を用意出来た。だが、満足はしていない。少女は、確実に一流の英霊を呼び出せる触媒こそを求めていた。これでは足りない、と不満を露にするが、背に腹は変えられない。

ぺち、と頬を軽く叩いて気持ちを入れ換える。今必要なのは過去への後悔や反省ではなく、英霊召喚の儀式への集中だけだ。

「ふう……やっぱり、緊張はするものね……」

少女は静かに目を閉じる。これより先は未知の領域。抑えているつもりの興奮が、蓋を押し上げて沸き出そうとしている。
二度、深く息を吸って。ふうっ、と大きく吐く。昂りを今度こそ仕舞い込んで、少女は朗々と唱い出した。


「――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師■■■■■■」

 降り立つ風には壁を。
 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」

 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する。

「――――告げる」

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

「誓いを此処に」

 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」


瞬間。右手に宿した令呪に魔力の熱が通い、吹き荒ぶ風と共に魔法陣が青く輝き出す。思わず身動ぎしてしまう程の突風はやがて収束し、目も眩む光が魔法陣より沸き出した。
その光の中に、一つの影が浮かび上がる。思わず少女は息を呑み、しかし呼吸と姿勢を整えて平静を保つ。

呼び出されたるは、歴史に名を刻んだ英霊の一欠片。人智を超えた力を持ち、一角の魔術師の如きが敵うべくも無い英雄。契約による拘束が無ければ、己の命さえ危ういだろう。

「――顔を向けなさい。私が、貴方の契約者たるマスターです」

されど少女は、努めて気丈に振る舞う。止めどなく沸き出す恐怖や興奮に蓋をして、鋼の心で英雄の写し身と相対する。
少女は己の優秀たるを知り、故に己に綻びがあってはならないのだと克己する。全ては、己の力を示さんが為。その強かさ、その頑なさ――果てさて、この夜の饗宴にて如何に作用するだろうか――。

>>セイバー

10日前 No.8

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上/メリル・マリア・アトウッド】

 夜明けから取り残されたようだった。

 ……夜明け前が一番暗い、とは誰の言葉だったろうか。徐々に白んだ空も、夜明のその瞬間は、藍と朱に染まる。その暗さを、そのまま閉じ込めたような、『暗』がそこに佇んでいた。フードを取ってもまだ内側に暗は続く。墨で塗りつぶした、その墨が紙だけでなくその下の机まで黒に染めたような。全てを喰らい尽くす色だ。その暗から受けるものは、恐怖。最強とも言われたその存在は、それが本来相手にしなかったボクら人間でも、恐れを抱いてしまうほどに。

 全てを焚くような陽光に目を向けた彼女が言葉を発した。その声は、澄んだ空気を飲み込んだ。空気を揺るがすのではなく、空気を食い尽くし、ボクの耳へ脳へ直接流れ込んでくるよう。もちろんそんなのただの勘違いや思い込みの類、だと言い切れてしまうのだけれども。

「……」

 瞳が、覗いた。
 これまでの異質だった『ような』ものが、完全に、『異質』になる。人間じゃない──いいや、そんな言葉じゃ足りない。人間離れした人間なんてごまんといゆが、これは違う。英霊になるのは史人であったり物語の英雄であったりする。しかしこれは、どれにも当て嵌はない、人では無いものに無理矢理人の形を当て嵌めた『妖怪』だ。存在は知っていた、だから呼ぼうとした。でも実際対面したら、嗚呼、なんて恐ろしさなんだろう。

 どこかからか湧き上がった感情に震えた手が、握られた。こちらを見据えたその両目は、深淵。全てを呑み込んだ色。
バーサーカー、これが、バーサーカーなのか? いいや、いくら詠唱でバーサーカーを呼ぶ文言を付け加えても、既にバーサーカーが召喚されていたならボクには呼べない。でも、確かに彼女は自らを『バーサーカー』だと名乗った。ならば。

「あなたに出会えてよかった。……本当などありはしない、か。ふふ、そうだったらいいね」

 その表情に名前はつけられない。微笑んだようにも見える、悲しそうな顔にも見える。あるいはどちらとも含んでいるのか。

「我が願い……。悪しき風習の根絶──もっとハッキリ言おう、魔術の根絶。この世から人の手で起こす神秘を全て奪い去る。あなたとなら出来るはずだ、ボクのサーヴァント、□□」

 正座をした彼女と目線を合わせるように、自らも片膝をつき、空いた右手で反対の手を覆うように握った。

 夜明け、太陽。真っ黒に塗り潰されたその太陽は、全ての妖怪を呑み込んだ『最強』であったらしい。最強、などとわかりやすい肩書きを持つような英霊が他にそんな数多くいるだろうか? いない。だから彼はその文献を読んだ時、決めた。何としてでも聖杯戦争に勝たなければならない、聖杯でなければその望みは叶えられない。

「全て消してしまおうか」

 先程とは違う、眼光。淡く穏やかなローズピンクの瞳が、こんなに真っ直ぐ前を向いたことなんてあっただろうか。それでも表情は穏やかだった。1月1日、特別な陽の光がコンクリート打ちの屋上全体に光を流し込んだ。夜が明けた、全てのものは立ち去る時間だ。立ち上がった男は、自身げに告げる。

「最強の名を冠したサーヴァントと、んー……流石に最強と呼ばれたことは無いけど、ボクというかなりの魔術師がここにいるんだ。既に何体かのサーヴァントは確実に召喚されている、行こう」

 屋上から建物内へ入る階段へと向かいながら、誰とは決まっていないが、その言葉は宣戦布告。監督役からの開戦の報せなんか待ってられない、と言わんばかり。急いでいるのではない、寧ろ遅すぎた。遅すぎた時間を少しでも取り戻そう、と。歩く速度が早かったのも、そのせいだろうか。

>>バーサーカー

10日前 No.9

doubt @casebycase☆0c9nqQGSPbs ★31edPDrQpE_mgE

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/一條 癩蔵】

「――――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

暗い暗い密室。

水の滴る音とモーターの駆動音だけが響く機械室に錆びれた男の声音が混じる。決して大きな声量でも無いそれが、されどその他の雑多な音に掻き消されず部屋の隅々までも行き渡り波紋を起こすように跳ねて沈む。それは超常の神秘を呼び起こす呼び水。既存の科学技術では証明できぬ領域の事象。即ち魔術、それ即ち魔導の御業に他ならない

―――――――――――――――

七日野市。首都東京より二本の橋で繋がれた人工島。竣工から早五年、本土より移住した多くの人々の生活を支えるライフライン設備。中でも水供給の中枢を担うのがこの七日野浄水場である。固有の水源が無い人工島、本土よりひいてきた上水を島の各所へと分配、また生活排水を収集し濾過浄水することで海へと放流する。島の全域、さらには本土にまで繋がるこのシステム.。技術革新の賜物か人を介さずとも機能する無人施設。水を媒体とし魔術を行使するものにとっては都合の良い物であり、男が其処に利用価値を見出すのは最早必然であったのだ

浄水場、魔術工房と化した第一制御室にて男、一條癩蔵は淡々と儀式を進める。自身に宿る魔術回路、腹部に移植した魔術刻印の脈動が滞りない魔力の循環を教えてくれる。魔術行使の不快感に顔を顰めつつも、魔力を束ね編んで義を組み上げる。全てはこの瞬間の為に。全てはこの瞬間の為に。例えそれが艱難辛苦を極める修羅道であろうとも、それが畜生へと堕ちる外道であったとしても。男は歩みを止めるわけにはいかない

「祖には我が源流、一條の魔導を」

小脇より抜き放つ刺刃、浅く切った左掌から滴る液体が足元の方陣を朱く染め上げていく。密室に吹くはずの無い一陣のそよ風が男の頭髪を撫でる。回路(パス)は繋がっている。あとは喚び、繋ぎ止めるだけだ

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
室内をゆくそよ風は烈風に、方陣は照明の如くに発光し壁を埋めつくす計器類を煌々と照らしている。巻き起こる大気の暴威に晒されて病身の青年が呻く。左上に宿る令呪が熱い。暴れ蠢く左腕を抑え前方へと掲げる。止まらない。止まれない。既に超常の存在は眼前にまで迫っていた

「――告げる」

――これは宣言だ。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

――これは誓いだ。

「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

――これは■■だ。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!」

瞬間、烈風が絶え白光が室内を塗り潰した。次元に穿たれた穴を通り、「それ」がこの世界に顕現する。収束する魔力の奔流、先までの暴威が嘘だったかのように静まり返った暗所。再び響く水と駆動音の中、白煙上げる方陣の中心に「それ」は在った。触媒との縁に集い、聖杯を求め、世界の外より降り立った者。人の身で決して縛ることの叶わぬ物。それ故に最強の盾であり矛、至上の従者(サーヴァント)として機能するモノ

「来たか、我が傀儡……我が剣」

――さぁ、始めよう。生存の為の闘争を

>深紅のランサー

【本編開始おめでとうございます。当方、物を書くことは久方ぶりではありますが、皆さまよろしくしていただければ幸いです】

10日前 No.10

白熊けらま @tokyoapple ★PGcX3mEBer_Hhd

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  朝夕に花待つころは思ひ寝の夢のうちにぞ咲きはじめける







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【 12月29日 丑の刻 / 柚木の空家 / 白峯のキャスター 】

 閃光。雷鳴のような轟音。旋風。
 未熟な魔術師の詠唱は慥かに作動した。小さな嵐のようなそれらを身に纏い、魔法陣の中央に『彼』は現界した。
 幾何の暗闇と静寂を挟み、月光が室内を照らす。

 立ち込める靄の中から姿を現したのは和装の青年だった。
 絹のように細く白い髪を地に届かんばかりに伸ばし、青白い肌は蝋人形を思わせる。
 六尺を超える長身は、体格の判り難い和装に於いても“細長い”という印象を強く与えるため、痩身、それも相当なものと思われた。
 端正に整っている貌は、しかし明瞭と刻まれた隈がおどろおどろしく。
 長い瞼が小さく震え、その眼がゆっくりと開かれると洞穴のような暗い瞳孔が覗く。

 異様と云えるその風貌は、かつての英雄たる英霊というよりもきっと幽霊、亡霊の単語の方が相応しい。
 何処までも生気を感じさせない男は、伏せていた眼から虚ろな視線を緩緩と持ち上げる。

 いつしか風は止んでいた。足元の鮮血で描かれた魔法陣は役目を終えたと云わんばかりに輝きを失い黒ずみ干乾びている。
 男は眼球だけを僅かに動かして周囲の有様を確認し、それから漸く今し方彼を喚び出した青年―――此度の主の顔を見る。

 「―――初めまして、召喚者」

 薄い唇から柔らかな含みのある声が零れた。
 男は人の好い笑みを浮かべたが、それも作り物のような空虚な堅さである。

 「サーヴァント、キャスター。ここに参上致しました。
  現界の場としてはやや風情に欠けますが……まあ、折角喚ばれたのですから、サーヴァントとしての義務は果たしましょう」

 最初の挨拶は単なる儀礼とばかりに二言目にはやんわりと苦言を呈する辺り、どうも忠義に厚い性質ではない。
 それどころか、使い魔として主に使役されるというサーヴァントの勤めに対する倦怠感すら言葉の端に感じられる。
 自分本位な混沌属性らしい振る舞いと云えるだろうか。

 彼らが立つ場所は、他に人気を感じられない、恐らく無人の一般家屋。召喚の際に発生した突風で部屋の壁や装飾品は軒並み傷付き剥がれていた。
 隅には血を抜かれた亡骸まで。如何に強い風と謂えどそれだけで人が死ぬとは考え難く、大方目の前で膝を付いている主の手に依るものだろう。
 男―――魔術師(キャスター)は、眉根に皺の一つでも寄せたいところだったが、大きく明いた窓から差し込む夜更けの月光は唯一気に入った。
 もう一つ加えるならば、マスター足る男が利益の為、魔法陣を描くために人を殺め手を汚せるだけの利己主義である点も気に入っていた。
 人殺しなんて可哀想なことは出来ない、などとほざくような善人がマスターでないことに取り敢えずは安堵しつつ。

 「お察しの通り英霊どころか怨霊たる我が身ですが、誇り高き英雄方に勝るとも劣らずの実力は有ると自負しております。
  貴方が求めるならば、聖なる杯とてこの手に収めて見せましょうや」

 今にも倒れそうな儚く不健康な様相とは裏腹に、その口調は静かな自信と気品に満ちていた。

 「問いましょう。私を呼び、私を求め、この現世に招きし召喚者。貴殿の名は―――」

>東亜亜澄


【遅くなってしまいましたが、メイン解禁おめでとうございます。どうぞよろしくお願いします】

10日前 No.11

雪鹿 @class ★Android=435tdfZpEo

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/深紅のランサー】

 日の注ぐ城内の中、それも王座の前で私は膝を突き、並び立つ焦がれた騎士の一人は好奇を、一人は猜疑を、一人は親愛を。正に十人十色と言わんばかりの視線を浴びていた。そして、見上げた先に立つ彼の気高き理想の王は問う。

「■■■■■■、貴殿は時に民を守り抜く盾となり、時に我らが敵を穿つ槍となる事を誓えるか」

 直感的に、あるいは自然と理解したーーこれは、今は遥か遠く過ぎ去りし記憶だ。ああ、たとえ夢だとしても此処は心地が良い。なにより自身を見つめ直すのであれば、これほど相応しい場面はないだろう。
 王の手に握られ、肩に置かれた槍は然したる力が掛けられている訳ではない。そう、だから、肩に感じている感じた事もないような重みは決して槍の重さではない。
 これは騎士という称号が持つ重みだ。数多の民が委ねた思いと命が、気高き我が理想の王から賜りし信頼が、はかり知れぬ重みを、その槍へ与えていたのだ。

「ええ、誓います。たとえ、この身果てようとも民に降りかかりし災厄を打ち払い、艱難辛苦を穿つ槍となりましょう。そして、我が忠義を民が信ずる貴方へと捧げましょう」

 これが遥か遠く過ぎ去りし記憶なのだろうと分かっていた。しかし、だからこそ私はこう答える他ないーー否、そうでなくとも『私』はそう答えるはずだ。
 槍へ口付けをした。騎士としての忠義を示すために、貴方の願いに立ちはだかる障害を貫き、皆が後に続くよう道を切り開く槍であるために。

 しかし、槍の柄を向けられて私へ差し出された時、確かな違和感が其処にあった。違う、この時に託された我が槍はこれではない。この白亜の槍が此処にあるはずがない……!!

 僅かな動揺と共に再び顔を上げる。そこには険しき王の顔があり、差し込んでいたはずの日の光は其処になかった。騎士達の顔も何処か険しく、隣には友である■■■■卿と■■■■■■卿の姿があった
 だからこそ、すぐに現状を理解した。だが、なんという事だろうかーーこれは彼らと共に私があの命を拝した日だ。

 それを噛み締める為に瞳を閉じる。それから間も無く、ふと奇妙な音が聞こえた。液体の滴る音と何かが規則的に動くような音……これはモーター、と呼ばれる物に近しい。そして、生前にはない知識があるという事は成る程、つまりはそういう事ですね。
 再び瞳を開けば、そこに親しんだ城の姿は無く、知識としてはあれども記憶には存在しない光無き暗澹とした空間。視界を僅かに遮る白煙と閃光のせいで感じた気配の姿は見えなかったが、繋がった回路が気配の正体を示していた。

 左手に握られたそれを一閃、光と煙を打ち払うように振り下ろすーーああ、この槍を再び手にする事になろうとは。僅かな落胆を胸中に秘めながらも、銀槍へ追随して音をたてて巻き起こる陣風によって被った帽子のつばを掴み、顔を僅かに下へと向ける。
 右肩から垂らした三つ編みを揺らして微かな白き幕を裂いた。一間置き、つばから手を離し顔を上げれば、その先にあった顔を見据えた。

「ランサー、真名を■■■■■■。召喚に応じ、馳せ参じました。貴方が私を呼んだ者で違いありませんね?」

 碧眼は眼前に立つ男の瞳を真っ直ぐに捉え、深紅の外套と共に鎧を纏った彼は、その真名に違わぬ昂然たる振る舞いによって、相手への敬意と共に自身が誓った信念を示す。

 顔の上部、その半分を包帯で覆った灰も目立つ黒髪に鋭い黒目、服装からしても東洋系の人物である事に間違いないであろう。そして、左右を振り向かずとも他に人らしき気配はない。となれば、この者こそがマスターと呼ぶべきである事も恐らくは違いない。だが、主君と呼ぶ前に一つ問わなければならないだろう。二度と後悔の無いように。

「我が忠義を捧ぐ前に、不躾ながら二つ御尋ねさせてください。こうして貴方が聖杯を求める理由はなんでしょうか? ……それから、よろしければ貴方の御名前を是非」

 変わらず、真剣な眼差しで見詰めたままに三歩近付き、左手に携えた鈍く輝く銀の槍の矛先を下へと向けて一つ目の質問を口にする。毅然とした彼は一転して名を尋ねる際には、瞳を細めて口角を少し上げて柔らかく微笑む。
 如何なる答えが返ってこようとも、それ一つで切り捨てる真似はしないが、それでも仕える以上は志を問わない訳にはいかないだろう。もしも、本当に聖杯が本物だとするならば、少なくとも正しい志の元に使われなくてはならない物だーーそう、この槍と同じように。

>一條 癩蔵様

【本編開始おめでとうございます!何分、不馴れでは御座いますが、何卒よろしくお願いいたします!】

9日前 No.12

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/神託のアーチャー】

ぱちぱち、とアーチャーは何度か瞬きをした。……というのも、目の前の女性が自分のことをじっと凝視している━━━━とまではいかずとも、決して弱くはない視線を向けていたからである。何か、見苦しいところでもあったのだろうか。少々不安になったアーチャーだったが、次いで放たれた女性━━━━相見氷雨の言葉によって、その不安は杞憂だったとわかった。なるほど、びっくりしてしまったのならそれは仕方ない。誰だって何らかの儀式が成功した時には少なからず驚くものだ。……そう、アーチャーは解釈した。

「ええ。そういった認識で間違いはありません。━━━━アマテラス……天照、大神。それが、この地を照らす、太陽神の御名なのですね。うふふ、それはとても良いことを聞きました」

氷雨の自己紹介を耳にしたアーチャーは、彼女が口にしたこの国の太陽神の名前を反芻する。生前は神に仕える立場であったアーチャーだが、他国の宗教に口出しをするつもりはない。その辺りは英霊となるに当たって割り切っているのだろう。異教と顔をしかめることはなく、むしろ太陽神ということに喜んでいるような素振りさえ見せていた。彼女の生きていた頃の故郷も多神教を信じていたから、なんとなく親近感のようなものでも湧いたのかもしれない。自身のマスター━━━━氷雨が巫女であったというのだから尚更だ。共通点が多いことはアーチャーとしても喜ばしいらしい。その表情には見た目の年齢相応の、少女らしい笑顔が浮かんでいた。

「……そうですか。それを聞いて安心しました。私は巫女として生きていた頃に今のような願いを口にしたことはありませんが、少しでも神に仇なすと見なされるような発言をすれば、それだけで周りから睨まれていました。マスター、あなたが巫女であったと聞いて、私は内心不安だったのです。私の願いを否定されるのではないか、と。
……けれど、あなたは私の、ちっぽけな人間の願いを、否定することはなかった。それに、あなたの願いは、私にとっても共感出来るものです。……争いの火種は、神がおらずとも燻るものですからね」

まずは安堵を、次いで共感を。アーチャーはその空色の瞳を憂いに翳らせながら、氷雨の“聖杯にかける願い”にうなずいた。神代でも戦は絶えなかった。アーチャーが生きていた時代は、それこそ戦火と戦禍にまみれたものであった。無辜の民が無慈悲に命を摘み取られていくのは、アーチャーからしても肯定出来ることではなかったのだろう。神代が終わったこの時代にも戦が絶えないことを知って、彼女としても思うところがあったようだ。だからこそ、氷雨の願いをアーチャーも否定することはしなかった。

「……そう言っていただけると、私としても助かります。あっ、その、あなたに仕えるのが好ましくないという訳ではないのです、決して!私はこれまで、巫女として生きてきたものですから、主従関係なるものはまだよくわかってはいないのです。ですから、マスターにとって失礼な立ち振舞いをしてしまうかもしれないというか……英霊として喚ばれた立場だというのに情けないのですが、私はサーヴァントとして上手くあなたに仕えることが出来るのか、不安なのです。勿論善処は致します。主たる太陽神に仕える身とは言えど、此度の現界はあなたの尽力なくしてはあり得なかったものです。ですから━━━━」

従者として仕えることを強制されなかったことへの安心━━━━で収まるはずはなく、アーチャーは焦ったように弁明のようなものを始めた。このうら若き乙女は考えていることのほとんどを口に出してしまう性分らしい。素直なのは良いことだが、余計なことまで口にしてしまいかねない不安感がある。だがそれは、アーチャーがマスターである氷雨と真っ直ぐに向き合おうとしているが故の行動なのだろう。少なくともアーチャーはそのつもりだった。
慌てたように早口で話し続けていたアーチャーであったが、その言葉はある時点で引っ込んだ。何故なら、氷雨が自身の前に自らの右手を差し出したことに気づいたからである。しばらくきょとんとしていたアーチャーだったが、恥ずかしそうにぽっ、と白い頬を淡く染めた。

「……申し訳ございません。私、早とちりをしていたようです。私としても、マスターとは佳き関係を築いていきたい所存にございます。……もともと、姉妹もおらず、周りに友人と呼べるような人間があまりいなかったものですから、すぐには難しいかもしれませんが……。とにもかくにも、これからよろしくお願いいたしますね、マスター」

慣れていないのか、そっ、と優しく氷雨の右手を自らの両手で包み込みながら。彼女に召喚されたアーチャーはふにゃりと柔らかな笑みを向けてそう告げた。

>>相見氷雨様

9日前 No.13

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月23日午後4時05分/七日野市北駅近郊集合住宅地/ウーノ・マスグレイヴ】

 到着駅の名前を告げるアナウンスが市営モノレール車内に流れる。ラッシュというにはほど遠いまばらな座席にのんびりと腰掛けていた少年は、長い前髪で隠れた左目で窓の外を、七日野の街を見る。これからしばらくの間世話になる街だ。あるいは終の棲家にもなりうる戦場か。隠れていない右目がつ、と細められる。10代半ばにも満たない少年が浮かべるには乾いた表情で少年――魔術師ウーノ・マスグレイヴは年相応におびえようとする小心をああ馬鹿馬鹿しいと打ち払った。すでに可能性は見えている。これは勝てない戦いではない。

 到着した七日野北駅から歩いて数分、新しい建物ばかりではないが古めかしい建物もない住宅街を一車線道路を右に二度曲がり、左に一度曲がり、緩やかな坂を上ったその先に目的の“我が家”がある。聖杯戦争への正式な参加が決まって用意した一戸建て、車庫と庭付きの住宅。表札には灰野と書かれたこの家がウーノが用意した魔術工房の表向きの姿だった。外套のポケットをまさぐっていると隣の家から女性が出てくる。女性はウーノに気が付くと人のいい笑みを浮かべて、「あらおかえりさない」と声をかける。

「今日も寒いわねぇ」
「はい冷えますね。お買い物ですか? もう暗くなるのも早いし、お気をつけて」
「ええ、ありがとう。レイくんも早くあったまってね」

 静かな住宅街、自転車に乗った女性はエコバックらしき物を前かごに入れて去っていった。その後ろ姿をしばし見送ってウーノは外向けにあつらえた笑顔を崩して息を吐き出す。隣人との初めての会話は問題なく終わった。前回下見に訪れた際に敷いておいた魔術はうまく機能しているようだ。少なくともこの住宅街においてウーノは「数年来のご近所さん」に他ならない。が、この人工島に来た理由はご近所づきあいを楽しむことではない。鍵を開け住み慣れたことになっている仮の我が家に入ると廊下の壁に仕込まれた隠し扉を通って地階に降りる。薄暗いが設備の整った工房。道具も聖遺物もすでに揃っている。あとは、喚ぶべきものを喚び、そして勝つのみだ。
 コンクリートの上に極めて正確に書かれた召喚陣が出来上がる、その中央に置かれたのは黄金に輝く鹿の角。これこそが今回の戦争のために入手した触媒。これにより呼応する英霊はかなり絞られる。クラスこそ決められないが、一騎当千の神話の英雄が自分の武器となるはずだ。時を超えた邂逅にかすかに胸を高鳴らせながらウーノは静かに詠唱を始める。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

静かに、そして正確に。教科書をなぞる様に、音も拍子も手本のように詠唱の声が地下に反響する。
正しくやるのは昔から得意だった。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。」

正しくやっていればいつのまにか周囲は俺を天才と呼んだ。
正しくやっているうちにいつのまにか周囲は俺を怠け者と蔑んだ。

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

だからこの戦いに勝って、その文句も嫉妬も届かない高みへ登ってやる。

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

勝利の未来はすでに捉えた。あとはただそれをなぞるだけ。
大丈夫、可能性があるならば、勝てる戦いならば、俺は勝てる。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

勝って、もう一度――。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 部屋に渦まく魔力の密度が頂点に達する。あふれ出る光に目が眩む。五感すべてを上書きするような魔力の奔流に前後不覚となる中で、左手の甲に浮かび上がる令呪が熱を帯び召喚陣のその先で何かが結びつく感覚が、魔力を通し魔術回路をなぞる様に伝わってくる。それを逃したくはなくて、かざす左手を強く握りこんだ。
 全身をこわばらせ、せめて転ばないように踏ん張り続けて数秒、もしかしたら数分は経っていたかもしれない。一気に魔力が引いていく感覚に、ふ、と息をつめていたことを思い出した。何度か目をしばたかせ視界の回復を図る。地下は薄暗いコンクリートの部屋に戻っていた。そして、召喚陣のその中央に立つ人影に息をのむ。儀式は成功した。だがまだ終わりではない。ここから自分はマスターにならねばならない。望む未来のために失敗は許されない。

「……よく召喚に応じてくれた。初めに問おう、お前の名と願いは何だ」

精一杯の威厳を声と顔に込め乾いた喉をどうにかごまかして、これまで努力というものに縁がなかった少年は、今初めて自ら未知に挑もうとしていた。

>>ライダー

9日前 No.14

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_J3h

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/相見氷雨】
 思ったよりもすんなりと、目の前の少女は状況を受け入れてくれたらしい。彼の国の神話も、大まかに言っても頂点に位置する12の神を初めとして、多くの分野の神様が存在している。太陽神として名高いアポロン神ではあるけれど、より古い時代には別の名の神が太陽神だったりするし、その辺りはこの国と大差はないと言ってしまって差し支えないだろう。個人的には親和性も決して低いものではないと思う。大きく場所が離れているというのに何とも不思議なものだけれど、同じことを考える人はどこにでもいるという事になるのだろうか。

「それについては口に出したのが全てよ。貴女がそう思うだけの事がきっとあったのでしょうし、何なら同じ経験をしたら同じ結論に帰結するかもしれないとさえ思うわ。だから貴女が思った事は否定しないし、尊重するわ」

 まずは彼女の、アーチャーの願いに関する考えを、伝えるべきだと思った言葉を限りなくそのままに、素直に口に出す。本来巫女として、神に最も近く神を崇め奉る者として口に出すことさえ憚られた願いではあれど、彼女がそう思うのであればそれはそれでありなのだ、と、少なくとも自分は尊重する、と。明確に、声に出して、断言する。
 敬虔な巫女だったはずの彼女がそうまで思うようになった経緯を、自分が同じことを同じように経験したならば、同じ結論を出す……かどうかはまだはっきりと断定することは出来ないけれど。似たようなことを考えるに至るのではないか、何ならもっと過激な思想に至るのではないか、とさえ思わなくもない。過去の文献を見るに、きっと、アーチャーが経験した物事を見ることになるだろうから、その時まで結論は取っておけばいい。

 アーチャーの、彼女の勘違いに起因するマシンガントークも、不思議と厭な気持にはならないものだった。決して嘘を吐いているわけではないだろうからとか、そもそも彼女が悪い事を考えないだろうからとか、そういうところもあるのだろうけれど、多分一番の理由は、彼女の天然っぽさをプラスに捉えることが出来たからなのだろうと内心で分析する。例え一緒に居る時間が多く過ぎてからも、この天然を面白く思う事こそあれ、疎むことなどまずないだろう。

「ごめんなさいね、私も言葉が足りなかったわ。関係性は、まだ時間はあるし、どうとでも出来ると思っているわ。何しろ、貴女とは気が合いそうだという気しかしないもの。
 改めて、よろしくねアーチャー。一緒に頑張りましょう」

 アーチャーの柔らかな笑みに、昼間の陽光のような温かな感慨を受けつつ、自らの右手に触れたアーチャーの右手に左手を重ね、丁度互いに互いの右手を包むような状態に持って行く。両手に触れる感触は、ある意味予想していた通りに、『弓兵』のものではなく『巫女』の、生前のみならずその後も今まで汚れを知らないであろうとさえ思われる、無垢で柔らかなものであった。神への捧げものを持つ白い手で弓を引き、敵を殺めてその手を血に染める。己が彼女に強いようとしている、神に背くともいえる行為に気が遠くなるような錯覚を覚える。
 いや、勿論、アーチャーはそれを承知で召喚に応じたはずだ。彼の神はそれを承知で彼女に力を、太陽の加護を与えたはずなのだ。だとしても、いいのか。

 ―――それを疑うのは、いくら何でも彼女に失礼だ。

 脳内で自分自身に突っ込みを入れる。
 これは戦争なのだ。可能な限り血を流さず、戦わずして勝てるならばそれに越したことはないとはいえ、アーチャーが敵陣営を殺す覚悟を持ってきているものだという事はそもそも確かめることさえ、彼女に失礼なのではないだろうか? 逆の立場ならまず間違いなく多少なり憤慨する。

「アーチャー、早速で悪いのだけれど、今後の話をしましょう。具体的には、聖杯戦争が開始してから、恐らく戦闘が勃発するであろう夜と、何事もなく過ぎていくであろう昼の話よ。私が一方的に話すのも何だから、適宜口をはさんで頂戴?」

 思った事を頭の片隅へと追いやるように、氷雨は話題を切り替える。
 今後の話、つまり聖杯戦争にかかわる話。だから結局脳内で考えている事象が上手い事押しのけられたわけではないのだけれど、この際だからそれも含めて話すことにしてしまおう。

「私達、私や他のマスターも含めた魔術師は、魔術を秘匿することが義務付けられている……というのは、解説しなくても大丈夫かしら。その辺りもちゃんと聖杯から知識を得ているとみているのだけれど、そうでなくともそういうものとして受け取って頂戴ね。
 この秘匿の義務から、戦闘が行われるのはまず間違いなく深夜であるとみていいでしょう。真昼間に戦闘を行うのは、秘匿の観点からも、無関係の一般人を巻き込むのを避けたいという点からも、仕掛けるのも仕掛けられるのも避けたいわ。後、昼夜を問わず長射程の宝具を市街地の方角に向けるのもなるべく無しにしましょう。
 あと、基本的に戦闘前に相手に投降を促すつもりでいるわ。全員が絶対に退くとは思わないけれど、複数の少年少女がマスターとして参加するようだという話を聞いているから。一応、死にたくないのなら令呪を捨てて投降すれば命は助けるという事を言うつもりでいるわ。それで退かないなら死ぬか令呪を捨てて降参するまで容赦もしないつもり。異論があるなら聞くわ。
 ついでに早めに打ち明けておくと、さっき巫女だったって私言ったでしょ。家の命令で巫女としての任を離れてから、ここ5年になるかしら、魔術協会っていう魔術師の組織の総本山に所属して、貴重な魔術を使う魔術師を敵対する組織から『保護』するっていう物騒なことをやっていたから、ある程度対魔術師戦闘は経験しているわ」

 神秘、この場合は魔術の秘匿。これは魔術師、根源を目指そうとする全ての魔術師にとって、金科玉条の事項である。何故ならば、神秘が公に知られるようになり格落ちすることによって求めるものから遠のくためである。魔術師が公に原理が知られている学問、例えば物理学や生物学などを専攻しないのも、言ってしまえばそれが理由になる。故に魔術が公になることによってそれが『一般常識となる』事、それによって魔術という神秘が薄れることを最も忌避する。
 つまり、少なくとも相手が真っ当な魔術師同士であれば、戦うのは基本的に夜中、人々が眠りにつき、起きている人々の視界が闇に遮られる時間となる。無論そうではない場合が無いとは言い切れないが、基本的には、そういう事になる、と氷雨は見込んでいた。
 また、先程気になったこと。つまり、そもそも敵対陣営に属するサーヴァントあるいは魔術師を殺すことになっても大丈夫か、という事も織り交ぜる。これから参加するのが名前だけでも戦争と付いたものなのだから、そういった事に対してアーチャーとて認識しているとは思うのだけれど、不確定事項をあまり長い事そのままにしておくのも良い事ではないだろうと考えたのである。

「今日、今からできることとして、可能な限り敵対陣営を欺瞞し、余計な戦闘を回避するために、どういうことが出来るかって考えてみたの。
少なくとも昼間は貴女を、普通の、私と同年代の女の子として扱おうと思うわ。同意してもらえるなら、貴女に強いる負担は実体化してもらう事と、現代のこの国にある程度溶け込んでもらう事に集中するから……まずはそうね、着替えてもらう事かしら。
 幸いこの国の首都はどこであれ、服装さえ合わせればどこであれ貴女がいてもそこまで浮くことは無いわ。同じ時間を過ごすにしても、ずっと主従主従って気を張るより、一緒に楽しむのもアリだと思わない? 私も出来る限り貴女の顔を見て話したいし」

 さて今日から何が出来るか、と考えた時に、ここが『東京である事』を最大限に活かすべきではないか、と気が付くことが出来たのは、何なら本当に天啓なのではないだろうか。
 先程対等にありたいと、直接の言葉にはしなかったけれど意思表示したこととも通じると言えよう。アーチャー次第ではあるし、彼女には大分生真面目なところもあるけれど、先ほどまでの会話を考えれば首を横に振る事は無いだろうと思われた。ダメだったら霊体化して付いてきてもらう事になるが、いくら何でもそれでは味気ない。どうせ話すならば顔を見て話したいところだし。

>>神託のアーチャー

9日前 No.15

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月29日 午前2時頃 柚木の空家/東亜亜澄】

 神秘なんて存在しない。人は殺せば死ぬし、死んだ人間が再びこの世界で二本足で立つことなんてありえない。

 ──しかし、それは起こった。

 轟音、暗闇、そして現れたのは人間。……いいや、人間なのか? 膝をついたおれの見上げるような視点からはよくわからないが、飛び抜けて巨大だったり小さかったりするわけではない。言葉でどうにか表すなら、地に付くほど長い髪、指一本でも触れたら砂の城のように崩れ落ちてしまいうな痩躯。ゆっくりと開かれた目の全て見透かすような白銀の瞳。紡がれた「はじめまして」という言葉も、空虚ではあったが虚無ではない。
 その姿は、どこを取っても『生きている人間ではありえない』わけではない、それなのに、これはなんだ。この感覚はなんだ。血が──いや、おれの身体を巡っている、血ではない何かが、その勢いで身を裂いてしまうんじゃないかというほどに暴れ出す。──と思えば。

「……すいませんね。風情だのなんだの気にする性分じゃないので」

 この苦言だ。おぞましい……と言ったら言い過ぎのようにも思えるか。しかしその姿から零れた文句にしては、どうでもいいというか、人間臭いというか、立っていただけの姿よりかは幾らか。サーヴァントという存在について、話に聞いたり本で読んだりはしたが、まだ多くは掴めていない。意識や記憶の共有、なんて機能がくっついているらしいが、おれの無知さがこんな一瞬で通じてしまったのなら、この「しょうがないから仕える」と取れるような態度も当然のものだろう。

「はぁ……」

 なぁにがお察しの通りだ。さっきの旋風によって乱された前髪を右手でかきあげながら、溜息とも嘆息ともつかないような息と共に立ち上がる。確かに英霊か怨霊かと問われれば、その容貌は怨霊だろう。しかしなんのヒントも無しに「怨霊の類いか」と見抜けるほどわかりやすくはない。……いや、ちゃんとした魔術師は、こういうこともわかってしまうのだろうか。それにおれは聖杯そのものに大して興味は無い。別に願いが叶えば聖杯じゃなくてもいい──と言ったら、もしかしたら嫌われてしまうだろうか。一度死んだ人間がわざわざ現代に戻ってこようと思えるほど、その聖杯とやらは価値のあるものなのだろうか。
 髪をかきあげたついでに、追いつかない頭をどうにかしようと爪で軽く引っ掻いてみた。まぁそうやって頭を掻いたくらいで何も変わらないが。

「あー……あ、名前。東亜亜澄。願いとかは……言っていいんですか、これ」

 いいや、言っていいんですかも何も、この人はおれの願いなんかまだ知らないんだ。知らないものに対して許可を求められるなどどうしようもできない──と、つい口走ったあとで気付いた。まだ頭が追いついていない感覚がしてならない。頭は割とキレる方だと自負しているが、魔術だのサーヴァントだの聖杯だのの未知の洪水には呑み込まれ流されてしまうしかなかった。

「えっと……あんたが、その、おれの、サーヴァントってやつ? ……あー、なるほど、とりあえず最初っから全部説明お願いします」

 なにがなるほどなのか。理解してないのに理解したフリをするのは愚の骨頂だろう……。確認というか純粋な不明瞭というか、何もわかっていない頭から出てきたのは間抜けな質問。あくまでサーヴァントを従える身、としては、本来こちから「これからどうする」だとかそういう話をしなきゃならないと思うのだが、生憎そこまで考えるほどの下地が圧倒的に足りない。

「……お察しの通り何もわかってないんですよ。戦い方とか、全部アンタに任せますね。おれが死なない範囲でなら、できることはするので」

 どこか気の抜けた喋り声が、生活感の無い、伽藍堂の室内に僅かに響いた。対して申し訳もなさそうに思っていないような、それでも一応は無知な自分を恥じるフリをしているように眉を顰める男。鬱金の瞳は、窓から覗く丑三つ時の月と同じ色のようにも見えた。
 そこに佇むもう1人の男の異様な空気に宛てられたのか、それ以上近寄る気にはなれなかったのだろう。初めまして戦友、というような空気ではないことは確かである。

>>キャスター

9日前 No.16

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上/虚妄のバーサーカー]

 すべてを燃やそう。壊そう。潰そう。消そう。正そう。私には、それが出来る。偽物を本物に変えるのではない。皆が偽物と言っているものが、真実なのだと教えるのだ。どんな殺戮も暴虐も間違いではない。時に痛みを持った教示でなければ人は変わらない。
 教えるのだ、本当を。知らせるのだ、真実を。見せるのだ、現実を。

「だったら、ではないのです。そう、なのです」

 相手の言葉尻をとらえるように言葉を返した彼女。笑顔と言われるとそう見えるが、どこか寂しげで悲しげだった。哀の感情が奥底からじわりじわりと滲んでいるようなそんな顔をしていた。不思議な顔だと思う。どちらとも見えるし、両方の感情を含んでいるようにも見える。不思議で面白い。
 そのまま彼は先程の問いに答えた。悪しき風習とは、と一瞬だけ首を傾げたが続く言葉に彼女の瞳孔が更に開いた。魔術の根絶とは大きく出たものだと心中で唸る。人類が長い時間を得て手に入れた神にも届く技術を根から燃やそうと言うのだ。人が起こす神秘、奇跡。それらを無に帰す。聖杯に願わなければきっと叶えることが出来ない規模の願い。とても、とても良い。何が彼をそこまで突き動かすのか。彼の過去に何かあったのだろうか。ただ興味向いた青年か、魔術に家族を殺された復讐者か、争いを無くしたい平和主義者か。予想はいくつでも挙げられる。面白いですね、と口を開こうとした時。
 消してしまおうか。その一言に喉を掴まれた気がした。少しの息苦しさを感じ、口から出ようとした言葉は戻って行き胸の辺りで消えてしまった。先程の笑顔とも悲哀とも取れる顔とは違う眼光に無意識に体が強ばる。鋭さを孕んだ雰囲気とそれには合わない笑顔。完全に夜が明けたのか、眩しく差し込む陽の光が彼の顔に深淵を掛けた。

 彼は自分のことをかなりの魔術師、と形容した。彼の言葉がどこまで本当かは分からないが、その言葉に少し自信を貰えた。これから起きる戦争では共に行くのだから相棒は少しでも実力者の方がいいに決まっている。バーサーカーを使役させるなら尚更だ。

 今はその言葉を信じるとしましょう。魔術の根絶など人が聞けば世迷いごとだと呆れ、笑い飛ばすような願いを持つ人間。相応の覚悟は持ち合わせているに違いありません。言うならば、貴方様も、狂われている。


 両手で分けた前髪を元に戻す。彼の言葉によると既に何体かサーヴァントが召喚されているらしい。曲げた膝を伸ばすと屋内へと繋がる階段へと歩を進めた。彼女も続くように立ち上がると黒衣に着いた埃を軽く払いその背を追った。
 争いにルールなど建前でしか存在しない。動くならば早い方が良いのは当然であり、既に先手を打たれている可能性だってある。彼の歩く速度が早いのもその危惧の念があるからだろうか。彼女も駆け足で追いついた。

「そう言えば、御名前を伺ってもよろしいでしょうか。どんな結果とは言え、曲がりなりにも、私と貴方様は組み合わされたわけですから、まず、御名前の一つも知らないとはあまりにも不格好でしょう」

 隣ではなく二歩程後ろを歩きながら彼女は言葉を投げた。名前一つ聞くにも言葉を連ねる辺り、面倒と言うべきか。これから起きる戦争、起こす行動に見据えた前を向く顔を斜め後ろから眺めながら言葉が返ってくるとよいと小さな期待を抱いた。
 彼の事はまったく知らない。何も見えない暗闇は時に何よりも恐ろしい恐怖となる。分からない、は連携にも支障をきたす可能性があるので知りたいというのが建前。彼がどのような人物なのかを調べたいというのが本音であった。

>>メリル・マリア・アトウッド

9日前 No.17

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【あの日/□□□□□□】

 ──なんで。

「余は──僕は、王にはなれない、彼女のいない僕に何が残ると言うんだ。……お前に任せたよ、□□□□□□。大丈夫さ、僕と一緒に14年間も旅をして、見事に魔王を討ち取った。そんな英雄であるお前に、王が務まらない理由があるか?」

 ──なんで。

「僕はどうするか……? ……どうしようか。でも、もう、それすらも考えられないんだ」

 望まない玉座。空になったここに座っていいのはたった1人しかいない。神の子、英雄、そしてぼくの兄。その人の名は□□□。なぜ皆そうやって兄さんの邪魔をする。なんでだよ。兄さんがいなかったらこの国はいつか滅んだ。兄さんはこの世界を愛していた、守りたいと願った。あの人のことを守りたいと願った。なのになんで。なんで兄さんからあの人を奪うんだよ。

 ぼくの前に道はただ1本しか無くなった。皆ぼくを讃える。英雄、救世主、□□□□□の化身。ああそうだ、ぼくは英雄だ。でも英雄は僕だけじゃない──!!

 ────そこから先の歴史は記されていない。


【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/破魔のライダー】

「…………」

 久しぶりの感覚だ。
 ぼくは、今、立っているのか。

「…………」

 目を開けるのなんて、久しぶりだ。
 ぼくは『存在したもの』だ、『生きていたもの』ではない。死んだことの無いぼくが、なぜ、死したものとして、こうやって再び地に足をつけることができたのだろう。

 固い地面だ。ぼくの知らないにおいだ。息苦しい無音だ。徐々に開けた瞼から目に届いた光は薄い。でも眼前になにがある、何が起こったか理解するだけの情報を得るには充分だ。

 ……少年。

 ぼくが王国を飛び出し旅に出たときと、同じくらいの年頃だろうか。1歩、その少年へ近寄る。そうか、彼が。

「……サーヴァント、ライダー。私の名は□□□□□□。願いなど大したことではない。物語の一節、分岐した一節が欲しい。語られていない歴史の一節、その結末の可能性を見たい」

 若い声だ。質問に答える。1歩進む。ある程度の距離があるとわからなかったが、近付くと目線が僅かにずれる。ぼくより小さい、本当にまだまだ少年なのだろう。聖杯戦争の知識は与えられている、概要は理解している。その上で純粋に疑問だ、『なぜこんな子が』。
 ……いいや、ぼくが兄さんと共に魔王討伐の旅に出発したのも、これくらいの年齢だ。覚悟さえできていれば、決して曲がらぬ信念さえあれば、この年齢で若すぎることは無いだろう。そう考えれば、なるほど、立派なものじゃないか。

「……自身を偉大に見せようとしてるのか? ぼくは見かけの偉大さなんて興味無い、そんなことより君自身のことを教えてくれ」

 ──しかし、二言目にはこれである。先程の一声目と比べると、気持ち、緩んだ声色だろうか。少年から発せられた張り詰めた空気を溶かしてしまうようだった。
 落ち着いた声色に合わせて少しずつ前身していた足が、軽やかな歩調に代わり、少年と青年の距離は縮まる。青年の表情は、「自信げ」なのだろうか。僅かに微笑み、その両手で少年の右手を掬いあげた。

「とにかく君の名前を教えてくれ、マスター。呼んでくれてありがとう。この聖杯戦争に必ず勝って、君の願いもぼくの願いも、きっと叶えてみせるよ」

 ──希望。そこにあるのは、ただそれだけだった。明るい調子の声と、自信に満ちたピンとした立ち姿。薄暗い室内に、燃える様な赤と朱の色が舞った。

>>ウーノ

9日前 No.18

doubt @casebycase☆0c9nqQGSPbs ★31edPDrQpE_mgE

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/一條 癩蔵】

かくして聖杯戦争の第一歩、英霊召喚がここに成された。姿こそ未だ白煙の向こう、目にすることは叶わない。しかし活発に活動する魔力回路、脈動する魔術刻印がサーヴァントの現界を雄弁に物語る。この世の法則から外れながらも干渉が許された存在。如何に聖杯の奇跡によりこの世界に招くことが出来たとしても、それを繋ぎ止め続けるには相応の対価を支払わなければならない。例え高潔な武人、清廉な聖人であろうともサーヴァントは生粋の人喰らい(マンイーター)なのだ。ただそこに存在するだけで主から相応の魔力を簒奪する

一歩、二歩方陣へと歩を進める。 魔力供給に滞りはなく、召喚の成功は明白だ。ならば次は自身の刃となるべき者を見極める。三歩目を踏み込んだところで頬を一陣の風が撫でる。薄暗がりを縫うように疾る白銀の軌跡。立ち込める白煙を斬り伏せ薙ぎ払い、鋭利な切っ先が姿を現す。流麗な形状の突撃槍、その柄を握るのは装甲された長く細い指。さらに鎧の上からでも 認識できるしなやかな腕が続く。所作に合わせて踊る赤銅の髪、赤の騎士の動きを追う癩蔵の視線が狩猟帽の庇より覗く碧眼とついには出遭う

『ランサー、真名を■■■■■■。召喚に応じ、馳せ参じました。貴方が私を呼んだ者で違いありませんね?』

雑多な音に溢れる暗室においてなお耳朶をうつ涼やかな声音。白幕を切り裂き現れたのは紅い装束を纏った美丈夫だった。自身よりも頭一つ高い体躯は堅牢な鎧を纏っているにもかかわらず物音一つ立てず、動作の一つをとっても重量を感じさせずにいる。どこか幼さを残した顔立ちは二十代半ばといったところだろうか。青年と呼んで差し支えない相貌でありながら刻まれた表情は歴戦の気風すら感じさせる。そして何よりも眼前の青年を印象付けるのがその強い意志を宿しているかのような、覗き込めば魅入られるかのような深い深い碧の双眸
魔術を修めた。それを学究では無く己の利の為に行使してきた。その性質上、人を殺めるには都合がよく、その数は両手では効きはしない。死線と呼べるものを潜った回数も一度や二度ではないだろう。その癩蔵と比して眼前の青年はそれでも格が『桁』で違ってくる。力量が?否、その程度の些末な差異では断じてない。彼の者こそは誉れ高き騎士の殿堂に名を連ねる者。この世界にその武勲を以て名を刻み死してもなお座へと召し上げられた本当の英雄である

顕現した英傑、その圧力を前にして魔術使いはしかし平静を保っていた。前述の通り自身と彼の者では格が違う。歴史に名を刻む英雄と一介の魔術使いが同等のはずも無く、されど男が傅くでも狼狽えるでもなく平常通りに振る舞えるのは魔術使い故の認識によるところが大きい。
成程眼前の騎士は確かに英雄であることに疑う余地はない。が、それはあくまで現身、現世に存在する為の仮初の器に過ぎない。彼の残した偉大な功績、武勲。それは賛美され賞賛されるべきものだろう。敬意は表すれど必要以上に畏まる必要性がないのもまた事実である。あれは『駒』だ。その信念が、その在り方が強く清く美しい物であったとしてもあれは聖杯に組み込まれたシステムの一端に過ぎない

『我が忠義を捧ぐ前に、不躾ながら二つ御尋ねさせてください。こうして貴方が聖杯を求める理由はなんでしょうか? ……それから、よろしければ貴方の御名前を是非』

「一條、一條癩蔵だ。我が従者……その問いの答えは至極簡単だ。人として当然の欲求なのだからな」

彼の生き方をそのまま体現するかのような真っ向からの問い掛け。その眼差しを受け止めながら癩蔵は静かに言の葉を紡ぐ。覚束ない足取りで一歩また一歩と距離を詰める。男の傷ついた左掌が騎士の得物へと添えられる。突撃槍は切っ先こそ鋭いが形状上刃を持たない。白銀の槍を己が紅で穢しながらも緩慢な動作で自身の眼前へと導く。ランサーの刃が男の半面を覆う包帯を切り裂き、断った

「生きたい……この身を蝕む一條の呪詛。これに打ち克ち永らえる……聖杯に賭した俺の願いは唯一それだよ」

露わになった青年の半面、それは醜悪そのものだった。タールの如くに黒ずみ変色した肌は表面に泡立つ腫瘍を生み続ける。崩壊と壊死を繰り返し頬の位置まで降下した眼窩に納まるのは白濁した眼。焦点は合わずただ虚空を見つめ続けるそれは感覚器官としての機能を喪失していた。自嘲に健常な方の口端は歪んでいるが、その反対は引き攣って固定されているかのように引き結ばれたままとなっている。言葉を紡ぐたびに開く口腔は毒花のような赤。半死人。誰の目から見ても余命幾許とない青年の、それでも鮮烈な意思宿す黒瞳が紅の騎士を見据えていた

>深紅のランサー

8日前 No.19

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上→七日野中央教会周辺/メリル・マリア・アトウッド】


「ああ、確かにそうだね、『そう』しなくちゃいけない」

 ……どうしてこんな言い方をしてしまったんだろう。どこかで願いへの意思が揺らいで──いいや、そんなことはある筈ない。何気なく発した一言、きっとそんなに意味なんてない、ボク自信の深いところで、そんな『叶わない希望』に思っているようだなんて、そんなこと。

「ごめんね、こんな馬鹿げた願い聞かせちゃって」

 ……それでも、あなたもボクも、同じようなものかもね、と続けようとしたがその言葉は飲み込んだ。サーヴァントに失礼を言って契約を破棄されてしまったら堪らない。あんな発言をした彼女がこの程度で、とも思うが、慎重に越したことはないだろう。

 立ち上がった男の後ろを追いかけた女が駆け足で追いついてきた。男はうっかり、という表情をしながら女の方へしっかりと振り向き、少し俯きながら右手の人差し指でメガネをかけなおした。そのまま、その白い手を自身の胸に当て、

「メリル・マリア・アトウッド」

 その声は強い輪郭を持って放たれた。

「……こんなふうに名乗るのは、ちょっと気恥しいね。あんまりこういうことする機会、最近は殆ど無かったから」

 真剣な眼差しが一転、ふにゃりと緩んだ。魔術師同士の決闘をしていたりなどしていたら、こう堂々と名乗りを上げることもあったかもしれない。でも、ここ10年くらいでボクがやっていたことは、父の研究の手伝いと、時計塔のカレッジでの講師。カレッジではこんなに仰々しい自己紹介をすることなんて殆ど無かった──のはボクだけかな。

「……気が急いじゃったね。とにかくまずは工房へ案内しよう。移動中だけは霊体化してもらっていいかな? ……あ、霊体化とか念話とか苦手なら言ってね。ふふ、大丈夫だよ、ボク達の見た目だと目立っちゃいそうだけど……多少目立ったってたぶん平気。工房はここからなら歩いて10分かからないくらいかな」

 元の柔らかい口調に戻った男は、屋上から屋内へ入る階段へのドアを開ける。硬い底の靴が、心臓の高鳴りと同じ速さでペースで音を刻んだ。1階だけ階段を降りると、そのままエレベーターに乗り込み、地上界へ。その間は、一応はイギリスからの旅行客としてこの七日野に寝泊まりしていること、17階の一室に怪しまれない程度の生活感を残しながら工房に篭っていること、をつらつらと伝えた。「下手な行動を起こして犯罪者に勘違いされちゃ堪らない」、と最後に付け加えて。

 エレベーターが地上階へ到着し、そのまま豪奢な内装を通り抜け、屋外へ。通りは新年を祝う人々で賑やかだ。男は北の方角へ指をさし歩き始める。長身が持つ長い脚の1歩は、速い歩調と合わせてかなりの早足だろうか。

「工房はこのナナヒノハイアットから北に少し歩いた住宅街。教会の近くなのは、ボクがクリスチャンで、なんとなく気分が落ち着くから。そこの路地から地下に入れる場所があって、そこが工房になっている。結構前から色々持ってきたから、そうだね、時計塔に元々あったボクと父の工房に環境はかなり近い。できるだけ不便はさせないよ。

 あとは……ボクの魔術は宝石を用いたルーン魔術だ。そうだね、1番稀有──と言うか、使えそうなものでいうと、刻印の探索のルーンかな。これはボクの記憶とか、その人の持ち物や身体の一部や、そういった痕跡をほぼ確実に追跡する。……そう、その人の痕跡を手に入れたら、確実に見つけられる。これはかなりの強みじゃないかな。

 うーん、とりあえずここまでで、わからないこととか、もっと知りたいこととかある?」

>>バーサーカー

8日前 No.20

雪鹿 @class ★Android=435tdfZpEo

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/深紅のランサー】

 こうして武装した者を相対していながらも、その奥に広がる暗澹とした空間にも似た黒き瞳は揺れる事無く、平静を保ったままに吟味をするように此方の出で立ちを確認しているのだろう。
 現代の魔術師というものが臆する事を禁じられる程の険しき道を歩むものかどうか、それは分からないが、少なからず覚悟しての召喚であったはずだ。故に、彼へ覚悟を問うような無粋な真似は不要。あくまでも一人の騎士として培った意思を見定める眼が鈍っていなければ、の話ですが……それは杞憂でしょうね。

 戦争へと身を投じる覚悟があろうとも、其処へ至った理由によっては止める必要がある。だからこそ、真に忠実足りうる騎士として、彼にそれを問うた。生前と同様に、何処までも真っ直ぐに。
 それは決して、眼前に立つ相手を下に見ているからではない。ましてや、英霊たる自分の力量に自信があるからではない。私は生前から、そうして生きてきたのだ。如何なる困難においても、如何なる者に対しても。

 一條 癩蔵。そう名乗った彼は、その問いへ静かに応じ歩みと共に答えを紡ぐ。その言葉とは裏腹に歩みは数歩と言えども安定せず、万が一に備えて支える心だけは構えておく。
 やはり、顔だけでなく身体の方も怪我をなさっておいででしたか。立ち姿の一つにおいても、それは伺えはしましたが確信が無かったが故に言葉にこそしませんでしたが……今は、それほどまでの身体をもって尚も歩みを止めない理由を聞く時ですね。

 手を伸ばせば届く距離まで来たところで召喚の儀式の際に切ったのであろう、浅くも塞がってはいない傷が残る左掌を白銀の槍へと添えた。その掌より滴る鮮血が少しずつ切っ先へと伝ってゆく。
 添えられた手に敢えて従うようにして槍の切っ先を動かす事に助力していたが、それが顔へと向けられれば意を問うように相手の瞳を改めて見据える。だからこそ、言葉にはしなかったーーその必要は無いと、その瞳が物語っていたのだから。

 その顔を覆う包帯へと掛けられれば、意に従って槍の切っ先が裂く。白き包帯が解けて落ちて行き、それが守り隠していた物が露となる。

 そこに在ったのは、病等では無い人の身に余る呪詛。煮え立つ溶岩のように泡立つ腫瘍を生み続ける黒人のそれとは明確に異なる黒き肌。眼窩と共に白濁とした瞳は、何を映す事もないだろう事は想像に難くなかった。曲線を描く筈の唇も片や歪み、片や結ばれたままにある。
 ーーその有り様に絶句した。決して落胆した訳ではなく、斯様な苦しみが現世においても存在している事に衝撃があったのだ。

 それでいて尚も目を僅かに見開く程度に収まったのは、やはり生さ前の記憶や経験が大きいのだろう。確かに衝撃はあったが、大きく取り乱す必要も無い。なればこそ、騎士として昂然と受け止めてみせよう。

『生きたい……この身を蝕む一條の呪詛。これに打ち克ち永らえる……聖杯に賭した俺の願いは唯一それだよ』

 一條の呪詛ーーつまり、この呪詛は彼の一族による物だと言うのか。彼が何をしたのか知る由も無いが、一体何をしたら此処までの仕打ちが許されると言うのか。
 しかし、彼の聖杯を求める理由は分かった。そして、恐らく彼の元へ私が呼ばれた意味も。

「……貴方の願いは確と聞かせて頂きました。貴方の意思を届けるべく聖杯への道を切り開く槍として、此度の生においては我が忠義、貴方へと捧げましょう」

 それは生を求める本能が故か、鮮烈な意思を宿した黒の瞳に、負けじと純潔でありながらも勇猛たる瞳が応える。白銀の槍と共に腰を降ろして右膝を突き、僅かに下を向いて左膝を立てた。束の間とは言えども彼の騎士として、忠義を示すために。
 思えば、同胞と共に聖杯を求め旅をした時も、誰かの呪詛を解く為であった。そう、嘆きを鎮める為にーーしかし、此度はその必要が無くなるやもしれない。本来であれば、私が用いて良い筈が無いものだが、救える筈の命を救わない事は出来ない。ましてや、それが忠義を尽くすと決めた相手であるならば尚更に。

「……マスター。既に御存知やもしれませんが、私の霊基に登録された宝具の一つに貴方の願いを叶える事が出来る可能性があるものが御座います。しかし、魔力消費が激しい……召喚を為した今は控えた方が賢明かと。代わりと言ってはなんですが、助力致しますので不便があれば言ってください」

 手慣れた所作で音の一つも無く立ち上がり、身の丈よりも幾分か大きい白銀の槍を握りしめ、意を決して一つの宝具の事を告げる。他者を引き込む程に透き通った碧眼は鮮烈な意思の宿りし黒き眼と恐らくは捉える事無き白濁とした眼の両方を捉える。
 決して逸らす事も無く、その姿を嫌悪する事もない。確かに「なんと惨い事を」と思いはしたが、彼の中ではそれで終わり。故に、その発言も悪意の欠片も無く微笑みを浮かべた彼には哀れみや同情は無く、其処にあるのは困っているのであれば手を貸すべきという騎士道に基づく善意のみなのだ。なにより乗り越えようとしているならば、同情など不要なのだから。

>一條 癩蔵様

7日前 No.21

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/神託のアーチャー】

アーチャーは人を殺めることを好まない。好まないが、必要に駆られれば躊躇うことなく対象を殺めるだけの覚悟と思い切りはあるつもりでいる。もしもマスターが道理から大きく外れていたら。神に仕える自分に、それらを冒涜するような行為を強制させるのなら。アーチャーはマスターを殺めることも辞さなかっただろう。……とは言え、マスター殺しに気が進まないのは事実である。だからこそ、自分の意見を尊重してくれる氷雨には心から感謝した。この国ではどのようにして感謝の気持ちを伝えるのかはっきりとわかってはいないが、アーチャーは深々と頭を垂れて「ありがとうございます、マスター」と感謝の言葉を述べた。

「そうですね、私もあなたと同じ意見です、マスター。マスターとは似通った部分も多いようですし、神託を受け取らずとも上手くやれそうな気がします。あなたと巡り合うことが出来たのも、天道の加護故かもしれませんね」

自分の手を包み込む氷雨の掌の温かさに目元を細めながら、アーチャーは生前あまり好き好んでこなかった運命なるものに少しだけ感謝した。アーチャーにとって運命とは、神が人間を束縛するもの━━━━というイメージが強く、人智を超えたモノが人間社会に介入することを厭うアーチャーからしてみれば好ましくないものなのである。だが、こんな風に気の合うマスターと出会えたのなら、少しだけ、ほんの少しだけだが、考えを改めても良いのではないかと思った。その辺り、アーチャーは割りと柔軟なのである。
此処で氷雨から今後の予定について切り出されたので、アーチャーはそちらに耳を傾けることにした。戦略を練ることは何に際しても重要である。基本的にはマスターの意向に従うつもりでいるので、アーチャーはしばらく氷雨の言葉に耳を傾けていた。彼女の話が一区切りついた時に、アーチャーは口を開くことにする。

「神秘の秘匿に関しましては、私の方も重々理解しています。無関係の民が巻き込まれるようなことがあってはなりませんからね。その辺りは細心の注意を払うつもりでいますよ。ですからご安心を。
━━━━まあ、此度の聖杯戦争には年端もゆかぬ少年少女も参加なさるのですね。ですが、かといって手加減は出来ません。これはなんとなく……本当に、神託でもなくただの予感なのですが……。此度の聖杯戦争は、一歩踏み間違えれば無辜の民をも平気で殺めかねない災禍が投げ込まれるような気がしてならないのです。どのようなものか、と言われれば説明には困るのですが……。けれど、なんとなく私の背筋が寒くなるような、そんな感覚がするのです。ですから、私も決して手を抜きはしません。どれだけ幼くとも、この聖杯戦争に出るということはそれ相応の覚悟があってのことなのでしょう。むしろ手加減する方が無粋というものです。少なくとも、私は戦士の矜持を傷付けたくはありませんからね。ひょんなことから因縁を付けられては本末転倒です。
ええ、マスターが戦うことに関しても、私は特に異論はありません。……ですが、くれぐれも無茶はなさられませぬよう。あなたは私のマスターなのです。生前に戦った経験のないサーヴァントでは不安もあるかもしれませんが、私を頼ってくださいね。そうでないと私、不安でなりませんから」

神秘の秘匿に関しては、アーチャーは何よりも気を遣うつもりでいる。彼女が聖杯にかける願いもあってのことだが、やはり一般人は出来るだけ巻き込みたくはないのだ。それゆえに、一般人を巻き込もうとする、または神秘の秘匿に努めない陣営は先に潰したいところだった。そういった者がなるべく少ないと良いのだけれど、とアーチャーは内心で憂い顔をした。
氷雨にはやや懸念されているようだが、アーチャーはアーチャーとしてこの聖杯戦争を勝ち抜く気概は有している。生前武器に触れない巫女だったからといって、敵を殺せぬ言い訳にはならない。殺さなければ殺される。そういった状況が勝ち抜くまで続くのが聖杯戦争というものだろう。運が良ければ見逃されることもあるかもしれないが、そんな幸運が何度もあるとは限らない。神の加護を無駄にしないためにも、アーチャーは敵に弓を引く覚悟を既に決めていた。━━━━まあ、聖杯戦争以前に神々に弓を引いているようなものなのだが、加護が授けられている辺り仕えている神からはある程度見逃されているらしい。ありがたいやら申し訳ないやら、複雑な感情が芽生えてしまう。

「普通の、女の子━━━━ですか?え、ええ、マスターがそうしたいのなら私は構いませんし、外に出ての情報収集も大事ですから、私は良いと思うのですが……。私、見ての通り世間知らずですから、慣れるまでに相当の時間がかかってしまうかと思われます。それでも良いのなら、諸々の案内をお願い出来ますでしょうか?」

そして次いで放たれた氷雨の提案に、アーチャーはあたふたとしながらもこくりとうなずいた。物心ついた時には巫女として聖地で過ごし、生涯主たる太陽神に仕えた身としては、この時代における“普通の女の子”として過ごすのは、何だかこそばゆかったのだ。きっとマスターにたくさん迷惑をかけてしまうのだろうな、と思いつつも、実のところ楽しみでもあることはさすがに胸の中に仕舞っておいた。

>>相見氷雨様

7日前 No.22

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月27日午前2時03分/北区役頭タウン邸宅地下室/セイバー】


遠い昔の話である。かつて神の世が終わるその前に、先に乱れた人間たちの世界があった。倫理観は腐敗し、裏切りと猜疑心によって戦火は広がり数多の死人が出た。地面が血に濡れなかった日はなく、空には怨嗟の声が渦巻いていた。その地獄の中では誰もが強いものに踏みにじられ、自分より弱いものを踏みにじり、己の無力を嘆き、この世の不条理に怒り狂った。狂っていた。誰も彼もが狂っていたのだ。

狂わせたのは誰だ。

私は知っている。人は弱く賢い生き物だ。寄り添わなければ生きていけないことを理解している。厳しい自然の中で手を取り合い、助け合い、善を尊び悪を誅して幾度も訪れる困難を生き延びてきた。だが、人は賢く弱い生き物だ。余裕を失えばどんな善人も「自分だけは」と他人を犠牲にする。その手口は時に乱暴であり時に賢しく、どれもが醜悪だった。しかし、ただ生き延びようとする彼らをいったい誰が咎められようか。彼らは追い詰められ、狂ってしまっただけなのだ。

狂わせたのは■■だ。

いつしか人は自分に降りかかる不幸に意味を見出した。それは「試練」と呼ばれ、人は試練のその先に苦難に見合うだけの希望があると信じた。信じることで人は自己のうちに眠る悪意を押さえつけ、じっと時が過ぎるのを待つようになった。つまるところ、人に善悪どちらも混ざっていたとしても、狂わぬ限り、善であろうとする限り、その姿は美しく尊いものなのだ。

人が生きる限り「試練」はそこに待ち受けているだろう。ならば、狂うてなお美しい心であればもはや地獄は現れまい。



 まず初めに、ああ呼ばれたのだと感じる思考が生まれた。それまで世界に希釈された概念だった私が私としてろ過され世界と隔てられていく。足先、膝、指、腹、肩、頭、一つ一つが私として構成され、ふと、肌に空気を感じて、瞼を持ち上げるとそこに床があった。描かれているのが召喚陣だろうか。そこに立っているこの足が私だろうか。顔の前まで動かした手を眺める。白っぽい肌色をした手。これが私に与えられた形。この世に存在できたことを感慨深げに眺めていると、凛とした声がかけられる。張り詰めた弦を弾いた様な、そんな声。考えるよりも先に体が動いて、声の主を視界に収める。

(……綺麗な目)

 ピンと伸ばされた背筋、固く引き結ばれた唇、なによりも強い意志を輝きにして閉じ込めたその瞳が美しかった。
 こうして私が個として存在することで初めて認識できる個人。この美しい子が私がずっと寄り添ってきた人という生き物の一人なのだと理解すると興味がわいた。真っすぐ見据えられているその視線を手繰る様に目を合わせたまま鼻先三寸まで近づくとまじまじとその顔を覗き込む。すると彼女の瞳に人影が映る。私は、彼女の瞳を通して初めて自分の顔を見た。自分の形を認識すると気がそれてしまい、急に満足した。顔を離すと、そういえば自己紹介をされたことを思い出した。。名乗られたわけではないがマスターだと述べたということは、すなわち自分と相手の関係を言語化する一種の挨拶なのだろう。聖杯より与えられた知識を整理しながら、適度な距離に戻ると自分の体の胸に手を当て口を開く。

「初めましてマスター。ええ、私が貴方のサーヴァント。クラスはセイバー、私を指す名前は――――。……呼んでくれてありがとう。これからよろしくね」

 口内に空気が流れる感覚をむずがゆく感じながら名乗り、礼を述べて、挨拶につなげる。最後に握手のために手を差し出すことも忘れずにできた。

7日前 No.23

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上→七日野中央教会周辺/虚妄のバーサーカー]

「メリル・マリア・アトウッド」

 これから共に戦うのであろう彼の名を小さく復唱した。先程の息苦しさと確固たる決意を感じた表情とは打って変わって柔和な笑みを浮かべた。その顔は実年齢をいくつか下回るように幼げであり、心優しい青年そのものであった。同じ人物かと疑うほど、とまではいかないものの大きく何度も変わる表情。だが魔術の根絶などという願いを持つ彼の本心、胸の奥底がまるで見えてこない。悟らせないようにしているのか、こちらを試しているのか。まるで光の差さない空間を眺めているようで、どこまでも続くと錯覚しそうで何とも恐ろしい。その中でまだ踏み入れない線がはっきりと引かれている。どれだけのものを抱え、どれほどのものを背負っているのだろう。彼女がそれをはっきりと知る日は来るのだろうか。
 硬い音を響かせながら変わらない速度で階段を降りていく。そのままエレベーターに乗り込む。その道中に彼は名前以外にも様々な事を話してくれた。イギリスからの旅行客として、この地にいること。ホテル滞在を上手く装いながら自らの工房にいること。最後に付け加えた言葉で彼がいかに上手く息を潜めながら召喚を行ったかが伝わってきた。周りに溶け込み、怪しまれないように自身の願いを叶えようと行動している。彼女は、口だけではないようだと心中で唸った。

 エレベーターが地上階に着き、扉が開く頃にははたから見るとエレベーター内には彼しかいないように映っていた。彼が言った下手な行動を起こして犯罪者に勘違いされちゃ堪らない、という言葉はこれから自身にも付きまとうのだと覚悟を決めた。共に戦うのならば彼の足を引っ張らないようにしなくてはいけない。一見、優しさのように見えるがあくまで彼のマイナスは自身にも繋がる可能性が高いからという自己中心的な思考そのものであった。
 ホテルを出た彼は言葉を続けた。これから先程話した工房に連れて行ってくれるようだ。おそらくそこが拠点となるのだろう。教会が近くにあるようで特に疑問は持たなかったが彼がクリスチャンで近くにあると落ち着くのだと教えてくれた。自身はクリスチャンとはかけ離れた存在であるが特に気にもならなかった。そして彼は父と時計塔にて何かをしていたらしい。工房と言うことは何かを作り出し、生み出す場所のはずだ。
 そして彼は最後に自身のルーン魔術について説明してくれた。宝石を用いた魔術。彼自身の口から稀有と言葉が出たがこれは自分を含む魔術師に向けた皮肉なのだろうか。魔術を根絶する道すがらも魔術に頼るのは上手い笑い話なのだろうか。笑った方がいいのかと迷っていると詳しい説明が耳に入ってきた。
 探索のルーン。思わず、ほぉと実際に声に出して唸ってしまった。彼の記憶やその人の持ち物や身体の一部などこの痕跡をほぼ確実に見つけ、追跡するといったもののようだ。これは素晴らしい。敵対するものの索敵は戦闘の一番最初であり重要視されるべきものだろう。相手に気づかれないまま、こちらが相手の場所を把握していれば奇襲を仕掛けたり上手く誘導したりなど出来るかもしれない。それはとても便利ですね、と無意識に口から零れてしまった。
 そして彼は分からないことや、もっと知りたいことはないかと聞いてきた。

「今すぐ知るべき最低限の情報は知ることが出来ました。誠にありがとうございます。あとは趣味嗜好や好き嫌いは追って知れば問題ないことでしょう。ルーン魔術の詳細な情報、弱点なども工房に着いてからで問題ありません────ですが」

 彼女は一度切った言葉を繋げた。消えていた姿を実態化させ、歩を止めた。そしてまた首を真横に近いほど不自然に傾け、流れた髪の間から不気味な瞳を覗かせた。

「先程、謝罪と、共に── こんな馬鹿げた願い、と、仰いましたね?」

 夜明けの光が差し込む住宅街にて炎のように揺れる深淵が現れる。

「あれは何故ですか?貴方様の言う願いは馬鹿らしいものなのですか?覚悟も持ち合わせず抱いたのですか?すべて消してしまおうかという言葉に馬鹿らしいと笑う者は含まれていないのですか?貴方様に喚ばれた私が貴方様の願いを笑うと思ったのですか?」

 早口で語る彼女は疑問符一つごとに彼へと近づいた。深淵は目の前で立ち止まると、彼が背にしていた家にフェンスとして積まれたコンクリートブロックに彼の首の横を通るようにして手を伸ばした。軽く手を置いたかと思うと砂で出来た団子のように握ってしまった。

「そうだとするなら、私の方が覚悟があるようです。私は貴方様の願いを馬鹿らしいと思うことはありません。貴方様の願いを馬鹿らしいと笑う者がいれば私が嘘にしてしまいます。勿論、貴方様も含まれているのですよ。──マスター、本当に願いを叶えたいのであれば二度と自身を疑わないでいただきたい。

 “ マスターの願いを笑う者としてマスターを殺したくはありませんので”」

 彼女はそう言うと油の指していないブリキのように首を戻した。

>>メリル・マリア・アトウッド

7日前 No.24

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_J3h

【12月26日午前6時40分/本土・東京神宮境内/相見氷雨】
 尊重すると告げた言葉に対して、アーチャーから感謝の言葉と共に深く頭を下げられてしまった。余程受け入れられたことに対して安堵したのか、彼女が先ほど口にした生前の体験が心に棘となって刺さっていたからか、あるいはそのどちらもだろうか。いや、その分析は無粋だろう。
 何にせよ、彼女を尊重するというのは何のことは無いほどに当たり前のことで、礼を言う必要もないと思うという事を、改めてアーチャーへと伝える必要があると感じた。その気持ちは世辞などではなく、現代の一般社会に多少なり教育を受けたものとして持っていてしかるべきものだとさえ思っているものであった。

「当然のことだと思うのだけどね。生前巫女であった時から、今は英霊となっていたとしても、貴女は人格を持ち、感情を持った一人の個人であることに代わりはないわ。であれば、貴女を尊重しない方が、使役するされる関係なしに、人として駄目なのではないかしら?
 うん、アーチャーの言う通り、太陽神のご加護はありそうね。あるいはもっと直接に、神がお定めになった運命、とも言ってもいいかしら。とにかく、来てくれたのが貴女であったことには感謝しないと。その点ではお礼を言わないといけないのは私の方ね」

 アーチャーが口にした天道の加護という言葉に、氷雨も同意し笑みを見せた。少なくとも、他に望むべくもないほどに上々の相性のサーヴァントと引き合わせて貰えたのだから、感謝できる先があるのならば何であれしておくべきなのではという使命感さえ覚えるほどだ。
 今回の召喚に於いて召喚先として該当しえた多くの英霊の中でも彼女がアーチャーとして来てくれたという事は、本当に感謝するしかないと思っている。余人に聞かれたらまだ聖杯戦争が始まってもいないのにと言われてしまいそうではあるが、ここまで波長が合うサーヴァントが、しかも互いに不足点を補えるであろうと思われるクラスで召喚に応じてくれたというのは、まさに僥倖としか言いようがない。

 作戦に関して思うところがあれば何時でも意見を言ってくれて構わない、とは言ったものの、アーチャーが口を開けたのは自分が一通り方針を言い終わってからの事だった。律儀、あるいは真面目と言い換えてもいいだろうか。先ほど口を挟んでもいいと言った手前余りこういう風に言うのも妙ではあるが、ちゃんと最後まで話を聞いてくれるというのは結構有り難いものなのだな、と素直に感じられた。それ故に氷雨も、彼女の言葉を最後まで聞いて、時には咀嚼してから再び口を開いた。

「助かるわ。わかってくれているならこれに関してはもう言う事は無いわ。
 ―――あぁ、なるほど。神話に描かれる戦士たちも、そういう事には敏感だものね。それは実際に見聞きした貴女の方がよく分かっているでしょうし、そう断言してくれるなら、私としても非常に心強いわ。
 貴女の予感については、心に留めおくわ。何がどう来るかもわからないけれど、貴女がそうまで言うのなら『何もない』ってことはないでしょうし。何もないならそれに越したことはないけれど、ね。
 勿論、貴女を信じるわ。サーヴァントとしても、共に歩むものとしてもね。貴女のさっきの、そして今の言葉で、私は貴女に全幅の信頼を置かなければと改めて思ったわ。言葉で伝えても貴女が不安になるのなら、貴女が納得する方法でいくらでも示して見せるわ。ええ、でもそこまで言ってもらえるなら、私が敵に刀を振るう事の無いように、頑張ってもらわないといけないわね」

 神秘の秘匿、そして一般人を巻き込まないように配慮するという事については、特段何を言うまでもなく彼女もよく分かっているらしい。アーチャーの言葉を受け、それ以上確認する必要もないだろうと氷雨はその件に関しては会話を切り上げた。
 戦士の矜持を傷つけるのは良くない、という言葉には、氷雨も反対意見は無かった。神話に謳われた、例えば『イリアス』のアキレウスの姿のように、彼ら戦士のプライドを傷つけるという事がどういうことかということは氷雨も聞き及んでいる。アーチャーはその世界に生きていたのだろうから、それを考えればそういった事をなおのこと肌で感じている筈だ。であれば、その辺りの―――戦時における他のサーヴァントとの会話なども、特に不安がる必要はないだろう、と判断する。何より、結果的にではあるが、彼女がちゃんと決意を抱いてこの場にいると確認が出来た。もう少し良いやり方もあったかもしれないが、今のでも最悪ではないだろう。彼女の予感というのも、きっと何もないという事は無いと思われるので、きちんと覚えておかなければ、という意味も込めて、声に出しておく。
 そう、彼女が戦えるのならば。マスターとしてそれを信じ、彼女に対して相応の態度を示して然るべきだろうし、そうしなければならない。言葉として口に出し、態度としても表す。彼女を信じて、信頼する相手に対していつもそうするように振舞っていれば、きっと通じるはずだと、氷雨は考えた。

「ええ、だから、貴女がそうしたいなら、友をそう呼ぶように、私の事を名前で呼んでもいいのよ。私は貴女の真名を秘匿しないといけないから、基本的にアーチャーと呼ばせてもらうけどね。もし、貴女の本来の名前を憶えていたら、貴女が教えてもいいと思えた時に教えてくれたらいいわ。
 それとねアーチャー、世間知らずと言うけれど、誰もが最初はそうよ。かつての私もそうだったように、人は他人との関係を通じて『世間』を知るものだもの。だから、私に迷惑をかけることを恐れてはだめよ。今後改善しようとしてくれているのだとは思うけれど、私としては今この時点では、自分が世間を知らないと自覚しているだけで十分よ。
 私は貴女のマスター、一蓮托生の間柄ですもの。犯罪行為は叱るけど、そうでないのなら、例えどれだけ貴女が奇想天外な行動をしてもそれを楽しんでみせるわ」

 普通の女の子として対等に扱うというからには、そういう事も許していいと思うのだ。今のところはまだ彼女の名前を秘匿する必要があるのだからアーチャー呼びになるのは勘弁してほしいところだけれど、いずれ彼女がそれを許してくれるならば、彼女の事も本来の、『ピューティアー』の役職名ではない本来の名前で呼んであげたいと思っているのだ。それも織り込んで、アーチャーへと伝える。いざ言うと何となく照れが入ってしまうが、それでも友人としてなら名前の呼びあい位普通の事だろう。照れてしまったのは、やはり旧来の友人の少なさゆえだろうか。
 アーチャーは恥じ入っているようだったが、少なくとも氷雨は、アーチャーが世間知らずと言う事を笑うつもりも、また叱るつもりもなかった。知らないという事を知っている事、『無知の知』と言えば、ギリシャでもトップクラスに有名な哲学者ソクラテスの言葉だ。彼が周囲の哲学者と自らと比して発したその言葉は、現代においては、知らないという状態に留まらずそこから先へ、新たな学びへとつなげてこそその知らないことが活かされる、という解釈もなされているという。今はそう自覚しているだけで充分で、今後治す意思があるのなら努力してほしいしその手伝いはする、という事を伝える。
 でもきっと、彼女の言動を楽しめるくらいじゃないといけないのだとも思うので、微笑みを浮かべつつそれも加えて言葉に出す。実際、アーチャーの行動が現代社会からずれている部分があるであろうことは今の時点でもある程度予想は出来る。だからこそ、心構えとして『楽しむ』くらいと口にしたのである。

>>神託のアーチャー

7日前 No.25

金の髪は宵月に煌めきて @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【12月31日23時30分頃/柚木町廃ビル屋上/アサシン】

……今も、脳裏に過る。赤々と燃える街並み、無辜の人々の慟哭。

『どうして』

『いやだ』

『ゆるさない』

ただその人種だったと言う不運だけで死なねばならなかった者達の怨嗟が、金の髪を火で赤く染め上げる僕へ向けられる。僕はそれらを尻目に、ただひたすらに同じ業を繰り返し続ける。
次第に騒音は悲鳴から鬨に代わる。見事です、と誰かが僕に声を掛ける。僕はただ、速やかに撤収しろとだけ命じて、赤々と燃える街並みだけを見ていた。

――■■■■を殺した。百、千、万――それ以上。後の世に、世紀の大虐殺として伝わる所業を。

全ては平和の為に。総ては国の為に。命じられるまま、求められるまま、僕は悪逆の限りを尽くした。ならば、僕とは即ち悪党だろう。私利私欲の為に人道を蔑ろにする鬼畜に他ならない。言い訳などしない。そうでなければ、僕の終わりはああでは無かったのだろうから。
だが――空虚だ。どれだけの数の命令をこなし、どれだけの数の虐殺を繰り返そうと、僕の裡に残るものは無いに等しかった。

……そうだ、何も無かったのだ。達成感も、罪悪感も。ただ望まれるままに使命を果たし続けて刻限を迎えた僕には、何一つ、残るものは無かった。
なんて乾いた人生だったろう。名誉も悪名も、僕には"虚"にしか思えない。僕の内に残る火の熱は、何処にも無かったのだから。

……ああ。××。愛しい人よ。きっと君はこの望みを笑うだろう。『私では不満かしら』と笑うだろう。ああ、そうじゃないんだよ。僕の裡には君しかない。けれど、君の裡には僕以外の多くがあるのだろうから。
君は、虚ろな僕の中にただ一つ灯った火だった。だがもしも叶うならば、もしもこの身に欲を懐いて良いのならば、僕は君と同じだけの熱が欲しい。

――この身を昂らせ、心を奪われるだけの"熱"が。


――――


――僕は目映いばかりの光の中で、血の暖かさと、骨肉の軋みを認識する。この眼は開いているのか、それとも閉じているのか。分からない。ただ分かるのは、今正に僕は血肉を得、久方ぶりに人の形を取っているだろうと言うことだけ。

――そうか。"喚ばれた"のか。僕を喚ぶとは、物好きもいたものだ。さて、では、行くとしようか――。



少女は想いを胸に秘め、声高に唱う。その小さな身に見合わぬ大望を背負いながらも、しかしその重責を見事果たし切らんとする強き思いが、この夜に一つの奇跡をもたらした。
即ち英霊召喚――"座"に刻まれた英霊の一側面を喚び出し、己の助けとする大魔術。少女は、それを見事成し遂げてみせたのだ。

目映い光の中から、一人の男が姿を現す。すらりとした高身長に、近代の軍服を思わせる装いの、輝く金の髪の男。少女の背丈が小さいと言う事もあって、二人の大きさはまるで親と子ほどもある。

「――サーヴァント、アサシン。召喚に応じ参上した。問おう、君が僕のマスターか」

薄い唇から紡がれる言葉は玲瓏で冷ややかで、少女の胸の奥に凛と響き渡る音色をしている。身格好に佇まい、眼差しの一つに至るまで。それら全てが蠱惑的で、氷のような冷ややかさがありながらも、惹かれずにはいられない魅力を放っていた。
しかし同時に、彼が其処にいると言うだけで、冬の寒気とも違う、冷たく張り詰める様な緊張感が漂う。存在故に冷酷さと冷徹さを思わせる空気――それこそが、アサシン、■■■■■■の本質を如実に顕していた。

澄ました金の眼差しが、興奮冷めやらぬ様子の少女をじつと見つめる。その眼は、少女には冷たく、しかし何処か優しげに見えただろう。


埃混じりの冷や風が二人の間をそっと吹き抜け、白い月灯りが静かに男と少女を照らし出し、二つの小さな運命の歯車が回り出した。

>>久遠寺美命
【遅くなりまして申し訳ありません……!】

7日前 No.26

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/ウーノ・マスグレイヴ】

 薄暗い部屋の中でもよくわかる。こいつは根っからの善人だと。召喚陣の中央に佇むその英霊を顔を見るなりウーノは思わず目をすがめた。
 基本的に魔術師のやることは人道を道として定めない。必要とあれば獣道であろうと、はては道ですらない生への冒涜であろうと喜んで飛び込む。そういう気狂いの集団が魔術師だとウーノは認識している。ウーノ自身はそれに対して是とも否とも思っていないが、好かれるものではないとは理解している。特に、後世にまで英雄と讃えられるような善人からはすこぶる受けは悪そうだ。もちろん、英霊を召喚するのだから倫理観の違いについては大いに覚悟はしていた。穏便に済むのであれば多少非効率でもサーヴァントがやりやすいように合わせてやってもいいとさえ思っていた。だがコイツはおそらく骨の髄からのお人好しだ。時には勝利よりも別の何かを優先するほどの。
 ウーノの問いに答えた彼のクラスはライダー、自身の望みを大したことはないと語るその目は自分すら偽っているようには見えなくて、やはりそうかとぐっと眉根にしわを寄せた。

 それだけであれば、まだ、主と従以上に思うところはなかっただろう。

「……は?」

 ピキ、と音でも立てそうな勢いで、ウーノの表情に怒りの色が浮かぶ。ライダーの穏やかな声音、ゆったりとした足取り、纏う威風は当然のように王者のそれであり、たとえ彼が意図していなかったとしても上に立つものとしての気配がそこに在った。その一挙手一投足がウーノの神経を逆なでする。主人はこちらで、お前はしょせんコマなのだと喉元までせりあがってきたところで、ライダーに手を取られてハッとする。いけない、この程度で動揺するようではなおさら舐められるだけだ。

「勝つのは当然だ。そのために来たんだからな、あまりなめるなよライダー。」

 顎を引き、キッと若干上にあるライダーの目をにらみつける。が、咎めるのはここまでだ。気持ちを切り替えるように短く息を吐くと、幾分か声音を和らげて続ける。

「俺はウーノ・マスグレイヴ。だが、ここでは灰野レイという名前で通しているし、お前の灰野なんたらということになる。文句はないな?」

 下の名前は適当に自分で考えろと放り投げた。戦争の開始はまだ告げられてはいないが、猶予があるとは言えない。ある程度の知識は聖杯から授けられてはいるだろうが、細かなことはこちらから説明をしなければならないし、戦っている間に諍いをしている暇はないのだから互いの地雷は確認しておきたい。さらにマスグレイヴの同調魔術にはそこに溶け込むための「設定」が重要になってくるから、そこだけは何よりも優先して共有しておく必要があるだろう。

「他にも説明することは山ほどあるが……まずは拠点の案内をしてやる」

 かといって必要以上になれ合うつもりもないと、とられた手をほどいて背を向け階段を上がっていった。

>>ライダー

6日前 No.27

はるみや @basuke21☆MhETKCZLYfIV ★sBHPZi6My9_OSy

【12月31日23時30分頃/柚木町廃ビル屋上/久遠寺美命】


 姿がはっきり視認できるようになった。
 美命はバクバクと高鳴る心臓を押さえるように胸元で拳を握り、相手──アサシンを見上げる。決意と覚悟の篭った双眸ははっきりとアサシンの双眸を捉えていた。
 ──綺麗な瞳だな、と美命は思った。彼の双眸は美命を捉えているはずなのに、その奥には幼い美命には届かない……この世の真理の如く深い、深い闇が広がっているように見える。それでもその闇に恐怖や不安といった負の感情は抱かない。
 凍てつく冷たい瞳、けれど温もりを持った瞳。対極的な存在感を醸し出すアサシンの瞳に、美命はアサシンの問いをぼー、と聞き流していた。
 次第に瞳だけではないことに気付く。夜空に浮かんでいる星よりも目を奪われる金髪、豪奢且つ機能的な軍服、すらりとした躰、整った顔のパーツ。……どこか懐かしい雰囲気。
 美命はとてもアサシンがアサシンのように見えなかったし、サーヴァントや単なる駒とは思えなかった。
 幼い魔術師は目の前の英傑にただただ言葉を失うばかりだった。

「……凄まじいな、君」

 アサシンが美命に問いを投げ掛けてから暫く経った頃。長い沈黙を破ったのは、解ではないものだった。
 複雑な思いを、幼い美命は凄まじい、と表現した。ぷっくりとした唇が迷いなく言葉を発する。
 発言した後、間髪を入れず

「む、問いを無視してしまった。そうだ、私は君のマスター。名は久遠寺美命。……、…………。」

 と続ける。
 他にも何か言いた気に口を開いては閉じてを繰り返すが、それ以降美命の口から言葉が出てくることはなかった。

>>アサシン

5日前 No.28

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃 七日野中央教会周辺/メリル・マリア・アトウッド】

「よかった。それじゃあ工房は──」

 1度途切れた彼女の言葉の隙間に差し込んだ一言は、すぐにその行動によって喉の奥へと押し戻された。

 姿を表した深淵、空間に真っ黒い穴が空いた。1歩、1歩ずつ、その深淵が身に迫る。人気の無い路地、突如虚空から現れたその姿を目にすること、ボクの微かに零れた悲鳴は幸い誰の耳にも届くことは無かった。

 背後で、何かを握り潰した音がする。砕かれたものが、地面に落ちる途中で手の甲を掠める。

「ごめん、」

 何への謝罪だ? 彼女? 願い?
いいや違う、違う、そうじゃない。ボク自身への弱さを恥じたんだ。壮大な願いを持ちながら、ボクの存在はあまりにも脆い、たかが1人の人間。彼女が言った『ボクの願いのためにボクを殺す』。そうだ、それだ、ボクはボクの願いに押し潰されないように、『強くならなくちゃいけない』。

 ぎ、と音をたてたようにも見えるような、歪んだ機械のような動きをした彼女の首。ああ、改めて思い知らされる……これを、従えるのか。
『これ』を喚ぶんだと決めた時、相応の覚悟はしていた。常人では務まらない、でも、それなのにボクは、まだ『ただの魔術師』だった。ただの魔術師には、××のマスターも、この願いにも耐えられない。狂っている者でいなければならない。

 パラパラと砂が地に落ちる音が完全に止むまで、ボクの意思は一瞬だが2つに割れていた。覚悟が無いのなら、それとも、覚悟を決めるか。しかし、その問は、砂が重力に従い地に落ちる僅かな時間で直ぐに決着のつく、簡単な問だ。わざわざ悩む程でもなかった、最初っから決まっていたんだ、と。

「……あなたがボクに手を下す必要は無い」

 彼女の頭はちょうどボクの目線のあたりにある。鼻の先まで迫った深淵へ、強い意志を示す。
 重く長い前髪の隙間から、黒い闇に赤の浮かんだ、人ならざる眼が僅かに見える。次の言葉の前に、1度、奥歯を噛み締めた。

「魔術師が何千年もかけて積み上げたものを、壊す。中途半端な覚悟でこんな願いを抱くかな?そんなことないだろう。別にボクはただなんとなく、自分の癖みたいなもので、遠回しするようなボヤかすような言い方をしただけだ。意思の揺らぎなんか微塵も無い!」

 気圧されて背中のフェンスにもたれかかっていた身体を起こし、じりじりと後退していた足の片方を前に踏み出す。もう、先程のような震えは、恐怖なんてものはそこには無い。
 大きな声を出すことなんて殆ど無かった、ボクが感情を顕にしたことなんてほとんどない。『なんだか、何考えてるかわからない』、それがボクだ。別に意識していたわけじゃない、ただ、なんとなく、いつも穏やかだね、と言われていただけ。囁かな、一言。意味なんて無い。でもそのお陰で気付くことができた。

「……あなただって、ボクの召喚に応えてくれたんだから、ボクがそういう人間だってことは知っていたはず」

 後半は、いつも通りの、柔らかい空気を醸す彼だった。

 ──通りに、1話の烏が舞い降りた。

 烏にしては、その歩みは幾らか優雅すぎないか、と言いたくなるようなゆったりとした歩調で、その烏は2人の足元まで歩いてきた。そもそも、まだ新しい人工島であるこの島に烏の住処などあったのか。

(魔力の気配がダダ漏れ──いいや、漏らしているのか)

 使い魔とは、魔力の痕跡を出来る限り薄くして、偵察相手に気付かれないようにするものだと思っていた。だが、この烏は、その気配を隠すつもりもない。まるで、『自分の存在に気付け』とでも言いたげなように。

「……開戦だ」

 開戦の報せなんてあくまで形式的なものだ、と過去の聖杯戦争の文献には載っていた。形式的、と言っても、その詳細なやり方が書いてあったわけでもないし、『これ』がそういうことなんだろう。

「正式に開戦となったわけだけど。……どうしようか?」

 斜め下の烏に向けていた目を、彼女の方へ戻す。その声は幾らか楽しそうで、まるではしゃぐ子供をそのまま大人の殻に入れたようで。

>>バーサーカー

5日前 No.29

ハールさん @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【12月27日午前2時04分/北区役頭タウン邸宅地下室/シャーロット=エリザベス・ソフィアテラ】

束なる光の中、"それ"は静かに、しかして確かに姿を顕す。玉の白肌に雪のような冷たさを兼ねる、玲瓏な女性の姿が其処にあった。
彼女はまるで浅い眠りから覚めたばかりの様で、何処か呆けたような印象さえシャーロットに与えたが、しかし一度口を開けば鈴の音のような声で確とサーヴァントの矜持たるを述べる。告げられるクラスは、セイバー――。

「セイバー、セイバー。……フフフ、当然ね。この私が使役するサーヴァントだもの、最優でなくては。これで私の勝利も磐石で――ん、こほん。失礼」

少しばかり舞い上がっていたシャーロットは、一つ咳払いをする。名家の跡取りたるもの、相応しき振る舞いをしなければと己を律し、再び口を開く。

「そう、――と言うのですね。私はシャーロット。二千年続く、由緒正しき魔術の大家たるソフィアテラの次期当主です。……尤も、貴方にとっては使役されるべきマスター以外の何者でもありません。必要以上に畏まらないように。良いですね」

礼儀には礼儀を返す。己の名を告げ、差し出された手を優しく握り、親愛を示す。セイバーの手は冷たく、まるで冬の寒気のようだとシャーロットは感じた。

「では、今後の相談を――する前に、一つ」

手を離したシャーロットは、ぴっと指を立て、真剣な眼差しでセイバーに告げる。

「当然お分かりだとお思いですが、貴方は私の使い魔であり、"手駒"です。貴方の一挙手一投足まで、私の意のままにならねばなりません。私がこの聖杯戦争に勝利する為に、貴方の心、貴方の身を私に捧げなさい。さもなくば――……」

ちらり、と右手の甲に宿った令呪に目をやる。それは、マスターのサーヴァントに対する絶対命令権。文字通り、どんな命令であってもそれを使えばサーヴァントは従わざるを得ない。
さもなくば、それを使うことも躊躇わないとでも言うつもりなのだろうか――場の空気が緊迫し始めたところで、突然シャーロットがふっと笑う。

「――フフッ。なんて、冗談です。世の中にはその様に考える魔術師がいるのですが、私はそうは思いません。貴方が私の使い魔であるのは事実ですが、しかし、貴方もまた一個の人格を持った英霊の一欠片。抱く思想、理念は尊重されるべきと考えています。ですので、大まかな方針だけは従って頂きますが、その中で貴方がどう行動するか、までは口出し致しません。貴方なりの戦い方で、どうか私を勝たせて下さいますね、セイバー?」

悪戯っぽく頬笑む彼女の姿は年相応で、或いはあらゆる束縛を失えばそうなるのだろうか。だがしかし、シャーロットは魔術師である。少女らしい姿など、所詮は一側面に過ぎない。その本質は冷酷で、冷徹な、目的の為ならば手段を選ばない存在だ。今は見せずとも、いずれはセイバーも知る事になるだろう。その時に、果たして二人が今の様に協調出来るだろうか。それは、誰にも分からない事。今は、この出会いを祝福しよう。


――一人の少女と、一つの冬の、運命の夜が動き出す。

>>善意のセイバー

4日前 No.30

白熊けらま @tokyoapple ★4tVNp19FCY_Hhd

【 12月29日 丑の刻 柚木の空家 / 白峯のキャスター 】

 「―――東亜亜澄」

 トウア、アスミ、と己が主の名を噛み締めるように繰り返す。

 「宜しい。契約は成立しました。
  ……この時代の者は風流などには疎いと聞きます。感覚と云うものは時代によって形を変える。
  致し方ないですが、しかし私のマスターである以上少しは気に掛けて頂けると幸いです」

 キャスターは、再度の苦言を交えながら改めて主の顔を見た。
 体格は見る限りではそう一般人と変わらず、中肉中背という言葉が相応しいか。
 背丈はキャスター比べるとやや低いが、この時代の平均的なものよりは僅かに上。東洋人らしい薄めの顔立ち。
 くすんだ金の瞳は差し込む月を思わせて嫌いではないのだが、どうもその表情が引っかかった。

 亜澄と名乗った男は、畏怖や召喚の達成感よりも困惑の色を強く浮かべている。
 通常、魔術師は聖杯を得るという悲願達成のために英霊をサーヴァントとして喚び使役するのだと認識していた。
 聖杯戦争は次回が開催されるまでに数十年の時を要する場合もあると聞く、ならば召喚に驚くこと自体は珍しくもないが。
 しかし、彼の浮かべる表情は、自ら喚んでおきながらサーヴァントの存在すら今の今までまるで信じていなかったような―――

 「―――……成程。魔術師(キャスター)の主が魔術の素人とは。
  その様子ですと、そも聖杯とは、聖杯戦争とは何かと云ったところから始めるべきでしょうか」

 亜澄はどうやら魔術に関しての知識は殆ど持ち合わせていないようである。聖杯という単語にも首を傾げていた。
 サーヴァントを現せて従えるということは、即ち聖杯戦争に参加するということだ。
 この段階で前提の知識をも持っていないということは大きなハンディキャップとなる。
 本人も辛うじてその自覚はあるようで、こちらが言葉を発する前から―――やや芝居がかった仕草で―――眉を顰めて教えを乞うた。
 対価として基本的な振る舞いはこちらに委ねるとまで付け加えて。キャスターは小さく息を吐いた。

 魔術の素質が一切ない人間は聖杯に選ばれることもない。感じられる魔力の供給も微力乍ら安定しているように思う。
 彼は基盤となる回路はきちんと有しているのだろう。偶々魔術とは縁遠い人生を送ってきたのか。
 それで居ながら魔法陣を描き、恐らく正規の手順に従って召喚を行った。何処かで手順を知ったか、何者かに教わったか。

 「……簡潔に申し上げますと、聖杯戦争は英霊をサーヴァントという使い魔の枠に押し込め、それを使役する魔術師たちの殺し合いです。
  聖杯はその勝者に与えられる、どんな願いでも叶える聖遺物……響きは陳腐ですが、現にこうして私が立っているのも聖杯の力に依るもの」

 「サーヴァントは七騎―――剣士、弓兵、槍兵、騎兵、魔術師、暗殺者、狂戦士の内いずれかの位に就いており、私はキャスターのクラスで現界しました。
  基本的にはそれぞれにマスター、貴方のようにそれを召喚した主となる魔術師が存在するので七騎七人。計14人の戦争ですね」

 ここまでは宜しいでしょうか、と一言を挟むものの返答を待たずに説明を続ける。

 「使い魔と謂えど元は英霊、多種多様な者が居ります故、中には指示に従わない者も居りましょう。
  そういった場合にサーヴァントを縛るものが、聖杯から齎された令呪と呼ばれる刻印です―――貴方もお持ちの筈。
  一画消費するごとに絶対服従の命令を発動し、他にも遠距離から即座に呼びつける、魔力を爆発的に向上させる等。
  便利な代物ですが、三画全てを使い切れば聖杯戦争の参加権を失います。乱用はお控えください。
  ……一先ずお教え出来るのはこんなところでしょうか」

 これだけ知っていれば充分だろうか。細かい部分は追って話していけば良い。
 ゆったりとした話し方ではあったものの元々多弁な方ではないため、簡潔に淡々と説明することを選んだ。

 そこでふと先ほど彼が言いかけていたことを思い出し、お返しとばかりに問いかける。

 「聖杯が何かも知らずに貴方が召喚を行った理由は存じ上げませんが、これから命を賭した争いに身を投げ打つのです。
  聖杯戦争に参加したくないと云ったところで他の魔術師には通じないでしょう。明日にでも命を狙って来ます。
  サーヴァントは消滅したところで死ぬ訳ではありませんが、貴方は違う。願いの一つでも表明したところで罰は当たりませんが」

 聖杯への願い。勿論知らないままでも共闘関係で居ることは出来るのだが、キャスターは興味を抱いた。
 他人すら容易く殺める、力有る男の願望。他者への興味も薄い利己的な彼は、一体何を考えて争いに足を踏み入れるのか。

>東亜亜澄

4日前 No.31

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/神託のアーチャー】

神代とは平たく言って動乱の時代であった。神代が終わってからも人間社会が荒れたことは多々あったのだろうが、神代はその比ではなかった……とアーチャーは思う。それゆえに、神と人との中継人であるアーチャーたち巫女や神官は重宝された。
だが、其処に個人として尊重されるような記憶はなかった。巫女は巫女であり、神託を受けとるための人間でしかなく、個人の名前ではなくその巫女たちを総括した名前で呼ばれた。アーチャーの真名が本名でないのもそのせいである。故にこそ━━━━彼女は、彼女のマスターたる氷雨が自分を一人の少女として扱おうとしていることに、感謝の念を抑えきれないのだろう。

「……ありがとうございます。そうおっしゃっていただけるだけでも、私は幸福者です。
━━━━ふふ、もしそうだったのなら、我が主たる太陽神は本当に私のことを思ってくださっているのかもしれませんね。我が主たる太陽神は、良くも悪くも多くの縁を結ばれております。その中で私が選ばれることなどほとんどないようなものなのに……嬉しい悪戯をしてくれたものです」

そっと聖遺物を手に取って、アーチャーはいとおしげにそれを眺める。月桂樹。それは彼女の仕える太陽神のシンボルであり、その巫女たる彼女の頭にも月桂冠が乗っている。いくら人間社会に神が干渉することを厭うアーチャーでも、神そのものを嫌っている訳ではない。手を出さずにただ見守ってくれているならば、アーチャーはそれで良いのだ。アーチャーが望むのは、あくまでも人智を超えるものの排斥ではなく、彼らの不干渉なのだから。
閑話休題。氷雨はアーチャーの言葉を全て聞き終えてから口を開いた。アーチャーが先程していたのと同じように、だ。彼女は話の途中で適宜意見するように、と言っていたので、最後にまとめるようにしたのはまずかったかしら、と少しアーチャーは反省したが、その反省は杞憂に終わった。そのため、アーチャーもきちんと氷雨の話を聞いてから意見を述べることにする。

「見聞きしたといいましても、私は話として人伝に聞いただけに過ぎません。ですので、他の英霊の方々の琴線に触れてしまうこともなきにしもあらず、といったところです。勿論十分注意は致しますが、彼らがどのような人生を紡いできたのか、私にはほとんどわからないと思います。出来るだけ彼らとは必要以上に波風を立てずに戦うよう、私としても善処いたします。
━━━━あくまでもこれは予感に過ぎませんから、この不安が杞憂に終わることもあるかもしれません。……ですが、どうしても、これからの私たちに試練と大いなる壁が待ち受けているようで仕方がないのです。これは私が生業としていた神託を授かる能力……に由来しているのかもしれませんが、絶対に正確なものではありませんし、ぼんやりとしたものでしかありません。ですがくれぐれも用心を、マスター。用心し過ぎて命取りになることはないのですから。
マスターに信じていただけるのなら、それ以上の喜びはありません。これよりは、あなたにとって善き英霊となれるよう、私も尽力して参りますね」

生涯を主たる太陽神の神域で過ごしたアーチャーは、あまり外界の情報を自分から手に入れることはなかった。その多くは、主たる太陽神からの神託の中で知るものであったり、神域を訪れる人々から口伝えに聞いたものであったりした。故にアーチャーは当時の世界において天地を揺るがすような大きな事件だとか、逆に日常的で些細なことだとか、そういった偏った情報しか知らない。言ってしまえば一か百か、なのだ。戦禍の絶えない時代であったからその辺りについてはよく聞き及んでいる。後に叙事詩に記されるような事件も、アーチャーにとっては“何処か遠くで起きた出来事”くらいの距離感であった。
そしてアーチャーが危惧する予感。それは彼女の有するスキルである千里眼によるものだろう。あくまでもぼんやりとした予言に過ぎないのだが、それでもアーチャーは懸念せざるを得ない。特にマスターの身に関わることならば尚更だ。出来るだけ大事にはならないで欲しいというのが正直なところだが、聖杯戦争ではそうも言ってはいられない。アーチャーの顔は僅かであるが憂いに翳った。
━━━━が、氷雨からの信頼を得られたことにはそんなアーチャーの表情も自然と綻んだ。当初は、ただの巫女だった小娘に何が出来るのだと責められても可笑しくはないと覚悟していたのだ。こうして信じてもらえるだけでアーチャーは嬉しい。マスターとの信頼関係について心配することはなさそうだ。

「わ……わかりました。しかし、戦闘においては僅かな情報の漏洩が命取りになることもありますので、私が慣れるまではマスター、と呼ばせていただきます。……いえ、嫌ではないのです。ただ、あまり慣れていないものですから。本当に、本当に大丈夫な……戦闘のない場合には、時にあなたを名前で呼ぶこともあるかもしれません。
私の真名━━━━ですか。申し訳ないのですが、そういったものは神代に置いてきてしまいました。ですが、そうですね。もしもこの聖杯戦争に勝つことが出来たのなら、その時にでもお教えいたしましょう」

アーチャーは自分の━━━━彼女個人として名付けられた名前を、決して忘れている訳ではない。だが、デルポイで巫女となった時に、そういったものは己が内に仕舞い込んでしまった。自分は巫女の一人なのだから、と。だから聖杯戦争に勝つまで、彼女は個人の名前を名乗るつもりはない。己が願いを叶えてこそ、自分は一人の人間になれるような気がして他ならないのだ。

「マスター、あなたには多くのことをご教授いただくことになるのでしょう。私に対して此処まで心を砕いていただけること、心から感謝いたします。マスターのご厚意を、決して無駄にはいたしません。この体が砕け散る時まで、私はサーヴァントとして、あなたを護り続けましょう」

にこり。アーチャーは微笑む。この先、何が待ち受けるのかはわからない。だが━━━━だが、このマスターとならば、勝利を目指しても良いと、たしかに彼女はそう思えた。故に、アーチャーはマスターたる氷雨を護ると決心する。この聖杯戦争を勝ち抜き、人のための世を実現するために。

>>相見氷雨様

4日前 No.32

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/破魔のライダー】


 ……面倒くさそうなやつだ。

 言葉にはならなかったが表情には丸見えだっただろうか。昔から嘘は嫌いだし、世辞の類もどうも苦手だった。火を見るより明らかに、この少年からぼくへの第一印象は、最悪、それに尽きる。こちらを睨みつけるその表情、『勝って当然』という言葉の端々からも、底に穴の空いたバケツかというくらい零れ出ている。だがこれで諦めたらぼく達に勝利は無い、戦争とはそういうものだ。結局最後の最後は精神力に頼らざるを得ないし、それの原動力は怒りや敵愾心や絆や愛。『ぼくが英雄である』というだけで勝てる戦争ではないのだろう。……さて、どうすればいいものか。

「そうか、ウーノか。良い名だな」

 ウーノ・マスグレイヴ。その名を心の中で何回か繰り返した。……灰野レイ。……偽名? なぜ? ……現代とはそういうものなのだろうか、それともウーノが特殊なだけなのか。(ぼくも灰野なんたらなら、ウーノ──いや、レイの兄ということになるのか?)と、適当な名前や、先程ウーノが発した『設定』という単語に、おとがいに右手を当てながら思考を巡らせる。

「ああそうだ、拠点も気になるが、それより前にひとつ聞いてくれ。とても大事なことだ」

 ぼくに背を向けせかせか歩き出した小さな背中を、数歩そちらを追いかけながら呼び止める。

「ぼくがどういう"英雄"かは知っているか? ……聖杯戦争のことは知ってはいるが、どうしても気に入らないことが多すぎる。そのことについてだ」

 先程との柔らかで自身に満ちた面持ちとは違う。キッと細められた目、引き締まる口元。先程にくらべいくらか抑揚が少なくなった声のトーンからひしひしと伝わる、青年は『真剣』そのものだった。


「ぼくは『誰も殺さない』」

 ──誰も、殺さない。

 聖杯戦争のルールはよく知っている。サーヴァントより生きた人間である魔術師を狙った方が効率良く戦えるのも、ある程度は察していた。それでも、こうやって宣言したのだ。『必ず勝つ』、そして、『誰も殺さない』。

「ぼくは最後の一騎のサーヴァントになる。でもウーノ──いや、マスター、君は7人目だ。……ああいや、これは比喩みたいなものだから、他のサーヴァントから殺されそうになったマスターを保護するとか、そういう意味ではない。……未来ある命をこの手で葬ることは、ぼくには"できない"」

 「やりたくない」ではなく「できない」。令呪で命令されたりすればそういうこともするのだろうが、逆に、そうではない限りは絶対に、と。「できない」という部分には、特に、強い意志が込められているようで。

「これだけは、いくらぼくが君に仕えるサーヴァントだとしても、どうしても譲ることはでにない。外道や下衆だって、正攻法では可能性の無い勝利のためなら仕方ないだろう。しかしそれを、ぼくは絶対に許さない。なぜならぼくはそういう英霊だからだ」

 ……ぼくは、"生きたことの無い"英雄だ。歴史には存在しない、物語の中の存在。ぼくは『人間』としての自由だったり型から外れたりする思考や行動はできない、ぼくは文字に書かれた『英雄』だ。人の信仰がぼくの存在を形作り、その信仰がぼくを英霊の座に着くことができるサーヴァントたらしめる。
 ……こういう考えが、受け入れられないとするなら。ぼくの願いなんて自己満足の些細なことだ、ぼくという存在を捻じ曲げてでも叶えたいものでは無い。返答次第では……と、マスターを試すような目で睨めつけた。

>>ウーノ

2日前 No.33

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 七日野中央教会周辺/虚妄のバーサーカー]

 人が恐れ怖がる様はきっと英霊として人の体を得る前も多く見てきたのだろう、だなんて意志を持ち合わせていなかった頃の自身を思い返す。悪い気分はしないが、気持ち良いと言うほどでもない。自身を恐れている相手が自分のマスターだからだろうか。怖がらせるために言葉を発したわけではないが、彼の言葉に疑問が浮かんだのだ。確かめねばと狂戦士の何かが動いた気がした。
 彼の願いに笑うことなどありはしない。だからそれを彼自身が一番に否定しかけたことが──悲しかった、という感情は正しいのだろうか。彼に悲しい、悔しい、と言えるほどまだ彼を知らない。どんな感情も同情も偽物になってしまうことが心に引っかかる。そんな中、戻った前髪の隙間から見つめていると彼が小さく謝罪の言葉を述べた。

 一番聞きたくなかった返答が謝罪であった。鉛のように重く、灰色のため息が口から長く長く吐き出された。呆れた。呆れた。呆れた。疑いから少しだけ残っていた糸が切れた気がした。彼は一体何に、誰に謝ったのだろう。どこかへ向けられた謝罪は冷える空気へと溶けていってしまった。
 その謝りは願いを疑ってしまった自分へか。願いを笑うと思ってしまった彼女へか。または願いそのものへか。そのどれだろうと関係はない。気にする必要もない。
 彼は今ここで死ぬのだから。自らが喚んだ英霊の手によって首を絞められ、首の骨を折られ、抵抗する暇もなく、恐怖に歪んだ顔で。字のごとく、書いて字のごとく、読んで字のごとく“ 夢半ば”で死ぬのだ。

 願いは口にするだけならば誰でも出来る。そこに叶えてみせるという覚悟、如何なる犠牲も問わない決意を付け加えることが出来るかは人次第である。わざわざ狂戦士を喚ぶほどの人物がどれほどかとも思っていたが彼女の心は急速に降下して行った。
 致し方ないと一度離れた相手に再度一歩近づき、粘土のある黒い空間からずるりと引き抜くように手を動かして相手の首へと伸ばそうとした時。

 彼は言葉を続けた。手を下す必要はないと。ほぉ、と疑問符に怒りと興味と少しの喜びと期待が交じる。喚ばれた時と同じ、強い意志がこちらに向いていた。深淵を喚び、正面から見つめる彼は先程まで見せたどの顔とも違っていた。
 分かってはいた。数千年の叡智を怖そうという願いはちょっとやそっとで思いつくものではないことぐらい。だからそれを願わずにはいられない何かが彼にはあったのだろう。ただの興味では命を掛けた戦争にまで乗り込まない。覚悟がないわけがない。決意などとっくにしていたはずだ。彼女かこの世に意思と人の形を成した時に、虚妄を望んだ事と同じように。
 伸ばされた手は行き場を失うと深い闇へと還るようにそっと下げられた。

「……大変申し訳ありませんでした。私とした事が貴方様を疑ってしまいました。──本来ならば目玉の一つ抉って貴方様に差し上げるか、腕の一本、足の一本折らねばいかぬ失態ではありますが」

 自身の目、腕、足を順に触った彼女は一度言葉を区切ると視線を顔ごと、足元へと来た烏へと移した。確かに烏ではあるが、烏ではない。明らかに野生とは違う気配、魔力を感じる。溢れ出るそれはおそらくわざとであり、見落とされないように強く込められたのだろう。
 彼も小さく、戦争が始まったのだと述べた。いくら戦争と言えど報せは来るのかと思ってしまう。これより以前に仕掛けたところで勝てば官軍が覆るわけではないが、ここからは大手を振って攻めいることが出来るのだ。

「開戦となりますと、私が損傷しているのは危険ですね。このお詫びはまたの機会にさせていただきます。……そうですね、早速探索を使ってルーンで近くの相手に攻め入るのも……否、流石にまずはこちらの拠点への到着を優先するべきでしょうか……」

 相手の視線に合わせるように彼女も相手を見た。口元に手を添え、ぶつぶつと言葉を虚空へと投げる彼女もまた彼と同じように悩むことを楽しむようで新しい玩具を与えられた子供のようにも見えた。

>>メリル・マリア・アトウッド

2日前 No.34

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月29日 午前2時頃 柚木の空家/東亜亜澄】

 なるほど、契約。つまり、おれとこの男の間に、聖杯戦争とやらのため、互いの利益のたに共闘する契約を結んだ、ということになるのか。

「ああ……風流ですか。そういうのとは縁遠いところで生活してたんですが、ああ、はい、努力はしますね」

 先程から、この男の態度は鼻につく。きっと、魔術師などとは決して言えないような俺が魔術師を使役するのは本来有り得ない──いいや、事実こうやって有り得てるのだから、かなり珍しい、但し歓迎される珍しさではない、ということか。

「ふぅん……」

 聖杯戦争のルールだけでなく、おれが説明を求めていないだけで全く理解していなかった、その他の説明までしてくれるようだ。こちらの怪訝とか唖然とか、そういう表情を汲む、汲む気は存在するようだ。サーヴァントやら英霊やら聞いて、てっきり人間なんか相手にしないものだと思っていたが……。

ここまでは大丈夫か、という問いに頷くだけで答える。聞いたことはあるが聞き慣れてはいない言葉を、とりあえずそのまま、理解は置いておき、記憶する。男は自身をキャスターと言った。

「令呪」

 れいじゅ。全く知らない──いや、向こうにいるときに1度くらいは聞いた気がするが、その程度だ。小さな声でその言葉を繰り返す。……なるほど、絶対服従。つまりおれがこれを持つ限り、この男──キャスターを支配、更に、令呪はおれにとって、キャスターの行動をある程度制限できる保険にもなる、ということか。

「ええ、とりあえず、言われたことだけ。アンタがそれだけの情報を最低限、と思うなら、一先ずは」

 目を細め、なんとなく、理解したとは言えないが、とりあえず情報として取り込んだことを。

「……願い、ですか」

 どうやら、この男の口ぶりからするに、聖杯といのは本当に『なんでもできる』らしい。つまり、おれの願いは、それこそ『聖杯戦争で命を懸けてまで』叶えることではない、ということか。いや、どういう方法を取るにせよ、命が懸かることには間違い無いんだから、犠牲──いや、駒を最小で済ませられるように、といことか。

「おれの願い……いや、目的って言った方が近いですかね。目的は、七日野港の制圧です。でもあんたのその言い方じゃ、どうやら他の兵士──参加者? は、命を懸けていいほどの願いを持ってここに集った、と。こんな『別に聖杯戦争じゃなくてもいい』願いとは比べ物にならないくらい」

「逃げられないってなら、おれの願いはそれよりも優先して、『死なないこと』です。形の通り、カタギじゃない商売人の癖して、生存本能だけは人一倍強いんで」

 ──とは言うのに、ポケットからタバコとライターを取り出し、流れるような慣れた手つきで火を付け煙を吸い込む。のは、結局自分を殺すことにならないのか。と、いつも言われるのだが、それはそれ、としか言えないのだが。

>>キャスター

1日前 No.35
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