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【12日本編開始】Fate/Grail of Mebius

 ( なりきり掲示板 プロ )
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陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

 神秘、神秘、神秘。この世界は神秘で溢れている。

 起こりうる全ての神秘は、あの聖杯の内に秘められているのだろう、なんて不確かな確信を抱きながら。


 天は笑う、天は嗤う、天は嘲笑う。

 一度脱線した歴史は戻れない。繰り返す。

 天も地もそこにいる人間も、善も悪も関係なく、ただひたすら、繰り返す。



 『正しい形の戦争』など、あっただろうか。

【諸々定まってないけど、勢いでスレだけ建てたくなって書き始めたら止まらなくなって建ててしまった。許せ。予約は既に埋まっているので新規様の募集はしてないよ。もちろんレス禁】

メモ2019/05/16 12:31 : 陽香☆r92H8KW1RF2 @brahman★Android-lmNuvruUyx

【現在は 1月1日 日中 です。このパートは19日までです】


■Fate/Grail of Mebius Wikipedia(外部ページ) https://seesaawiki.jp/grail_of_mebius/


■ルール http://mb2.jp/_subnpr/5.html-1#a

■本編開始直後の時間の進め方について http://mb2.jp/_subnpr/5.html-2#a


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  現在『 2020年1月1日 朝・昼 』


■市街地

  アーチャー陣営、バーサーカー陣営

    ・相見氷雨

    ・神託のアーチャー

    ・メリル・マリア・アトウッド

    ・虚妄のバーサーカー


■七日野港埠頭

  キャスター陣営、(アサシン陣営)

    ・東亜亜澄

    ・白峯のキャスター

    ・(久遠寺美命)

    ・(黄金のアサシン)


■七日野市南区 七日野ダム

    ・一條癩蔵


■ナナヒノショッピングモール フードコート

    ・深紅のランサー

…続きを読む(4行)

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雪鹿 @class ★Android=435tdfZpEo

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/深紅のランサー】

 日の注ぐ城内の中、それも王座の前で私は膝を突き、並び立つ焦がれた騎士の一人は好奇を、一人は猜疑を、一人は親愛を。正に十人十色と言わんばかりの視線を浴びていた。そして、見上げた先に立つ彼の気高き理想の王は問う。

「■■■■■■、貴殿は時に民を守り抜く盾となり、時に我らが敵を穿つ槍となる事を誓えるか」

 直感的に、あるいは自然と理解したーーこれは、今は遥か遠く過ぎ去りし記憶だ。ああ、たとえ夢だとしても此処は心地が良い。なにより自身を見つめ直すのであれば、これほど相応しい場面はないだろう。
 王の手に握られ、肩に置かれた槍は然したる力が掛けられている訳ではない。そう、だから、肩に感じている感じた事もないような重みは決して槍の重さではない。
 これは騎士という称号が持つ重みだ。数多の民が委ねた思いと命が、気高き我が理想の王から賜りし信頼が、はかり知れぬ重みを、その槍へ与えていたのだ。

「ええ、誓います。たとえ、この身果てようとも民に降りかかりし災厄を打ち払い、艱難辛苦を穿つ槍となりましょう。そして、我が忠義を民が信ずる貴方へと捧げましょう」

 これが遥か遠く過ぎ去りし記憶なのだろうと分かっていた。しかし、だからこそ私はこう答える他ないーー否、そうでなくとも『私』はそう答えるはずだ。
 槍へ口付けをした。騎士としての忠義を示すために、貴方の願いに立ちはだかる障害を貫き、皆が後に続くよう道を切り開く槍であるために。

 しかし、槍の柄を向けられて私へ差し出された時、確かな違和感が其処にあった。違う、この時に託された我が槍はこれではない。この白亜の槍が此処にあるはずがない……!!

 僅かな動揺と共に再び顔を上げる。そこには険しき王の顔があり、差し込んでいたはずの日の光は其処になかった。騎士達の顔も何処か険しく、隣には友である■■■■卿と■■■■■■卿の姿があった
 だからこそ、すぐに現状を理解した。だが、なんという事だろうかーーこれは彼らと共に私があの命を拝した日だ。

 それを噛み締める為に瞳を閉じる。それから間も無く、ふと奇妙な音が聞こえた。液体の滴る音と何かが規則的に動くような音……これはモーター、と呼ばれる物に近しい。そして、生前にはない知識があるという事は成る程、つまりはそういう事ですね。
 再び瞳を開けば、そこに親しんだ城の姿は無く、知識としてはあれども記憶には存在しない光無き暗澹とした空間。視界を僅かに遮る白煙と閃光のせいで感じた気配の姿は見えなかったが、繋がった回路が気配の正体を示していた。

 左手に握られたそれを一閃、光と煙を打ち払うように振り下ろすーーああ、この槍を再び手にする事になろうとは。僅かな落胆を胸中に秘めながらも、銀槍へ追随して音をたてて巻き起こる陣風によって被った帽子のつばを掴み、顔を僅かに下へと向ける。
 右肩から垂らした三つ編みを揺らして微かな白き幕を裂いた。一間置き、つばから手を離し顔を上げれば、その先にあった顔を見据えた。

「ランサー、真名を■■■■■■。召喚に応じ、馳せ参じました。貴方が私を呼んだ者で違いありませんね?」

 碧眼は眼前に立つ男の瞳を真っ直ぐに捉え、深紅の外套と共に鎧を纏った彼は、その真名に違わぬ昂然たる振る舞いによって、相手への敬意と共に自身が誓った信念を示す。

 顔の上部、その半分を包帯で覆った灰も目立つ黒髪に鋭い黒目、服装からしても東洋系の人物である事に間違いないであろう。そして、左右を振り向かずとも他に人らしき気配はない。となれば、この者こそがマスターと呼ぶべきである事も恐らくは違いない。だが、主君と呼ぶ前に一つ問わなければならないだろう。二度と後悔の無いように。

「我が忠義を捧ぐ前に、不躾ながら二つ御尋ねさせてください。こうして貴方が聖杯を求める理由はなんでしょうか? ……それから、よろしければ貴方の御名前を是非」

 変わらず、真剣な眼差しで見詰めたままに三歩近付き、左手に携えた鈍く輝く銀の槍の矛先を下へと向けて一つ目の質問を口にする。毅然とした彼は一転して名を尋ねる際には、瞳を細めて口角を少し上げて柔らかく微笑む。
 如何なる答えが返ってこようとも、それ一つで切り捨てる真似はしないが、それでも仕える以上は志を問わない訳にはいかないだろう。もしも、本当に聖杯が本物だとするならば、少なくとも正しい志の元に使われなくてはならない物だーーそう、この槍と同じように。

>一條 癩蔵様

【本編開始おめでとうございます!何分、不馴れでは御座いますが、何卒よろしくお願いいたします!】

3ヶ月前 No.12

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/神託のアーチャー】

ぱちぱち、とアーチャーは何度か瞬きをした。……というのも、目の前の女性が自分のことをじっと凝視している━━━━とまではいかずとも、決して弱くはない視線を向けていたからである。何か、見苦しいところでもあったのだろうか。少々不安になったアーチャーだったが、次いで放たれた女性━━━━相見氷雨の言葉によって、その不安は杞憂だったとわかった。なるほど、びっくりしてしまったのならそれは仕方ない。誰だって何らかの儀式が成功した時には少なからず驚くものだ。……そう、アーチャーは解釈した。

「ええ。そういった認識で間違いはありません。━━━━アマテラス……天照、大神。それが、この地を照らす、太陽神の御名なのですね。うふふ、それはとても良いことを聞きました」

氷雨の自己紹介を耳にしたアーチャーは、彼女が口にしたこの国の太陽神の名前を反芻する。生前は神に仕える立場であったアーチャーだが、他国の宗教に口出しをするつもりはない。その辺りは英霊となるに当たって割り切っているのだろう。異教と顔をしかめることはなく、むしろ太陽神ということに喜んでいるような素振りさえ見せていた。彼女の生きていた頃の故郷も多神教を信じていたから、なんとなく親近感のようなものでも湧いたのかもしれない。自身のマスター━━━━氷雨が巫女であったというのだから尚更だ。共通点が多いことはアーチャーとしても喜ばしいらしい。その表情には見た目の年齢相応の、少女らしい笑顔が浮かんでいた。

「……そうですか。それを聞いて安心しました。私は巫女として生きていた頃に今のような願いを口にしたことはありませんが、少しでも神に仇なすと見なされるような発言をすれば、それだけで周りから睨まれていました。マスター、あなたが巫女であったと聞いて、私は内心不安だったのです。私の願いを否定されるのではないか、と。
……けれど、あなたは私の、ちっぽけな人間の願いを、否定することはなかった。それに、あなたの願いは、私にとっても共感出来るものです。……争いの火種は、神がおらずとも燻るものですからね」

まずは安堵を、次いで共感を。アーチャーはその空色の瞳を憂いに翳らせながら、氷雨の“聖杯にかける願い”にうなずいた。神代でも戦は絶えなかった。アーチャーが生きていた時代は、それこそ戦火と戦禍にまみれたものであった。無辜の民が無慈悲に命を摘み取られていくのは、アーチャーからしても肯定出来ることではなかったのだろう。神代が終わったこの時代にも戦が絶えないことを知って、彼女としても思うところがあったようだ。だからこそ、氷雨の願いをアーチャーも否定することはしなかった。

「……そう言っていただけると、私としても助かります。あっ、その、あなたに仕えるのが好ましくないという訳ではないのです、決して!私はこれまで、巫女として生きてきたものですから、主従関係なるものはまだよくわかってはいないのです。ですから、マスターにとって失礼な立ち振舞いをしてしまうかもしれないというか……英霊として喚ばれた立場だというのに情けないのですが、私はサーヴァントとして上手くあなたに仕えることが出来るのか、不安なのです。勿論善処は致します。主たる太陽神に仕える身とは言えど、此度の現界はあなたの尽力なくしてはあり得なかったものです。ですから━━━━」

従者として仕えることを強制されなかったことへの安心━━━━で収まるはずはなく、アーチャーは焦ったように弁明のようなものを始めた。このうら若き乙女は考えていることのほとんどを口に出してしまう性分らしい。素直なのは良いことだが、余計なことまで口にしてしまいかねない不安感がある。だがそれは、アーチャーがマスターである氷雨と真っ直ぐに向き合おうとしているが故の行動なのだろう。少なくともアーチャーはそのつもりだった。
慌てたように早口で話し続けていたアーチャーであったが、その言葉はある時点で引っ込んだ。何故なら、氷雨が自身の前に自らの右手を差し出したことに気づいたからである。しばらくきょとんとしていたアーチャーだったが、恥ずかしそうにぽっ、と白い頬を淡く染めた。

「……申し訳ございません。私、早とちりをしていたようです。私としても、マスターとは佳き関係を築いていきたい所存にございます。……もともと、姉妹もおらず、周りに友人と呼べるような人間があまりいなかったものですから、すぐには難しいかもしれませんが……。とにもかくにも、これからよろしくお願いいたしますね、マスター」

慣れていないのか、そっ、と優しく氷雨の右手を自らの両手で包み込みながら。彼女に召喚されたアーチャーはふにゃりと柔らかな笑みを向けてそう告げた。

>>相見氷雨様

3ヶ月前 No.13

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月23日午後4時05分/七日野市北駅近郊集合住宅地/ウーノ・マスグレイヴ】

 到着駅の名前を告げるアナウンスが市営モノレール車内に流れる。ラッシュというにはほど遠いまばらな座席にのんびりと腰掛けていた少年は、長い前髪で隠れた左目で窓の外を、七日野の街を見る。これからしばらくの間世話になる街だ。あるいは終の棲家にもなりうる戦場か。隠れていない右目がつ、と細められる。10代半ばにも満たない少年が浮かべるには乾いた表情で少年――魔術師ウーノ・マスグレイヴは年相応におびえようとする小心をああ馬鹿馬鹿しいと打ち払った。すでに可能性は見えている。これは勝てない戦いではない。

 到着した七日野北駅から歩いて数分、新しい建物ばかりではないが古めかしい建物もない住宅街を一車線道路を右に二度曲がり、左に一度曲がり、緩やかな坂を上ったその先に目的の“我が家”がある。聖杯戦争への正式な参加が決まって用意した一戸建て、車庫と庭付きの住宅。表札には灰野と書かれたこの家がウーノが用意した魔術工房の表向きの姿だった。外套のポケットをまさぐっていると隣の家から女性が出てくる。女性はウーノに気が付くと人のいい笑みを浮かべて、「あらおかえりさない」と声をかける。

「今日も寒いわねぇ」
「はい冷えますね。お買い物ですか? もう暗くなるのも早いし、お気をつけて」
「ええ、ありがとう。レイくんも早くあったまってね」

 静かな住宅街、自転車に乗った女性はエコバックらしき物を前かごに入れて去っていった。その後ろ姿をしばし見送ってウーノは外向けにあつらえた笑顔を崩して息を吐き出す。隣人との初めての会話は問題なく終わった。前回下見に訪れた際に敷いておいた魔術はうまく機能しているようだ。少なくともこの住宅街においてウーノは「数年来のご近所さん」に他ならない。が、この人工島に来た理由はご近所づきあいを楽しむことではない。鍵を開け住み慣れたことになっている仮の我が家に入ると廊下の壁に仕込まれた隠し扉を通って地階に降りる。薄暗いが設備の整った工房。道具も聖遺物もすでに揃っている。あとは、喚ぶべきものを喚び、そして勝つのみだ。
 コンクリートの上に極めて正確に書かれた召喚陣が出来上がる、その中央に置かれたのは黄金に輝く鹿の角。これこそが今回の戦争のために入手した触媒。これにより呼応する英霊はかなり絞られる。クラスこそ決められないが、一騎当千の神話の英雄が自分の武器となるはずだ。時を超えた邂逅にかすかに胸を高鳴らせながらウーノは静かに詠唱を始める。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

静かに、そして正確に。教科書をなぞる様に、音も拍子も手本のように詠唱の声が地下に反響する。
正しくやるのは昔から得意だった。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。」

正しくやっていればいつのまにか周囲は俺を天才と呼んだ。
正しくやっているうちにいつのまにか周囲は俺を怠け者と蔑んだ。

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

だからこの戦いに勝って、その文句も嫉妬も届かない高みへ登ってやる。

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

勝利の未来はすでに捉えた。あとはただそれをなぞるだけ。
大丈夫、可能性があるならば、勝てる戦いならば、俺は勝てる。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

勝って、もう一度――。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 部屋に渦まく魔力の密度が頂点に達する。あふれ出る光に目が眩む。五感すべてを上書きするような魔力の奔流に前後不覚となる中で、左手の甲に浮かび上がる令呪が熱を帯び召喚陣のその先で何かが結びつく感覚が、魔力を通し魔術回路をなぞる様に伝わってくる。それを逃したくはなくて、かざす左手を強く握りこんだ。
 全身をこわばらせ、せめて転ばないように踏ん張り続けて数秒、もしかしたら数分は経っていたかもしれない。一気に魔力が引いていく感覚に、ふ、と息をつめていたことを思い出した。何度か目をしばたかせ視界の回復を図る。地下は薄暗いコンクリートの部屋に戻っていた。そして、召喚陣のその中央に立つ人影に息をのむ。儀式は成功した。だがまだ終わりではない。ここから自分はマスターにならねばならない。望む未来のために失敗は許されない。

「……よく召喚に応じてくれた。初めに問おう、お前の名と願いは何だ」

精一杯の威厳を声と顔に込め乾いた喉をどうにかごまかして、これまで努力というものに縁がなかった少年は、今初めて自ら未知に挑もうとしていた。

>>ライダー

3ヶ月前 No.14

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_J3h

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/相見氷雨】
 思ったよりもすんなりと、目の前の少女は状況を受け入れてくれたらしい。彼の国の神話も、大まかに言っても頂点に位置する12の神を初めとして、多くの分野の神様が存在している。太陽神として名高いアポロン神ではあるけれど、より古い時代には別の名の神が太陽神だったりするし、その辺りはこの国と大差はないと言ってしまって差し支えないだろう。個人的には親和性も決して低いものではないと思う。大きく場所が離れているというのに何とも不思議なものだけれど、同じことを考える人はどこにでもいるという事になるのだろうか。

「それについては口に出したのが全てよ。貴女がそう思うだけの事がきっとあったのでしょうし、何なら同じ経験をしたら同じ結論に帰結するかもしれないとさえ思うわ。だから貴女が思った事は否定しないし、尊重するわ」

 まずは彼女の、アーチャーの願いに関する考えを、伝えるべきだと思った言葉を限りなくそのままに、素直に口に出す。本来巫女として、神に最も近く神を崇め奉る者として口に出すことさえ憚られた願いではあれど、彼女がそう思うのであればそれはそれでありなのだ、と、少なくとも自分は尊重する、と。明確に、声に出して、断言する。
 敬虔な巫女だったはずの彼女がそうまで思うようになった経緯を、自分が同じことを同じように経験したならば、同じ結論を出す……かどうかはまだはっきりと断定することは出来ないけれど。似たようなことを考えるに至るのではないか、何ならもっと過激な思想に至るのではないか、とさえ思わなくもない。過去の文献を見るに、きっと、アーチャーが経験した物事を見ることになるだろうから、その時まで結論は取っておけばいい。

 アーチャーの、彼女の勘違いに起因するマシンガントークも、不思議と厭な気持にはならないものだった。決して嘘を吐いているわけではないだろうからとか、そもそも彼女が悪い事を考えないだろうからとか、そういうところもあるのだろうけれど、多分一番の理由は、彼女の天然っぽさをプラスに捉えることが出来たからなのだろうと内心で分析する。例え一緒に居る時間が多く過ぎてからも、この天然を面白く思う事こそあれ、疎むことなどまずないだろう。

「ごめんなさいね、私も言葉が足りなかったわ。関係性は、まだ時間はあるし、どうとでも出来ると思っているわ。何しろ、貴女とは気が合いそうだという気しかしないもの。
 改めて、よろしくねアーチャー。一緒に頑張りましょう」

 アーチャーの柔らかな笑みに、昼間の陽光のような温かな感慨を受けつつ、自らの右手に触れたアーチャーの右手に左手を重ね、丁度互いに互いの右手を包むような状態に持って行く。両手に触れる感触は、ある意味予想していた通りに、『弓兵』のものではなく『巫女』の、生前のみならずその後も今まで汚れを知らないであろうとさえ思われる、無垢で柔らかなものであった。神への捧げものを持つ白い手で弓を引き、敵を殺めてその手を血に染める。己が彼女に強いようとしている、神に背くともいえる行為に気が遠くなるような錯覚を覚える。
 いや、勿論、アーチャーはそれを承知で召喚に応じたはずだ。彼の神はそれを承知で彼女に力を、太陽の加護を与えたはずなのだ。だとしても、いいのか。

 ―――それを疑うのは、いくら何でも彼女に失礼だ。

 脳内で自分自身に突っ込みを入れる。
 これは戦争なのだ。可能な限り血を流さず、戦わずして勝てるならばそれに越したことはないとはいえ、アーチャーが敵陣営を殺す覚悟を持ってきているものだという事はそもそも確かめることさえ、彼女に失礼なのではないだろうか? 逆の立場ならまず間違いなく多少なり憤慨する。

「アーチャー、早速で悪いのだけれど、今後の話をしましょう。具体的には、聖杯戦争が開始してから、恐らく戦闘が勃発するであろう夜と、何事もなく過ぎていくであろう昼の話よ。私が一方的に話すのも何だから、適宜口をはさんで頂戴?」

 思った事を頭の片隅へと追いやるように、氷雨は話題を切り替える。
 今後の話、つまり聖杯戦争にかかわる話。だから結局脳内で考えている事象が上手い事押しのけられたわけではないのだけれど、この際だからそれも含めて話すことにしてしまおう。

「私達、私や他のマスターも含めた魔術師は、魔術を秘匿することが義務付けられている……というのは、解説しなくても大丈夫かしら。その辺りもちゃんと聖杯から知識を得ているとみているのだけれど、そうでなくともそういうものとして受け取って頂戴ね。
 この秘匿の義務から、戦闘が行われるのはまず間違いなく深夜であるとみていいでしょう。真昼間に戦闘を行うのは、秘匿の観点からも、無関係の一般人を巻き込むのを避けたいという点からも、仕掛けるのも仕掛けられるのも避けたいわ。後、昼夜を問わず長射程の宝具を市街地の方角に向けるのもなるべく無しにしましょう。
 あと、基本的に戦闘前に相手に投降を促すつもりでいるわ。全員が絶対に退くとは思わないけれど、複数の少年少女がマスターとして参加するようだという話を聞いているから。一応、死にたくないのなら令呪を捨てて投降すれば命は助けるという事を言うつもりでいるわ。それで退かないなら死ぬか令呪を捨てて降参するまで容赦もしないつもり。異論があるなら聞くわ。
 ついでに早めに打ち明けておくと、さっき巫女だったって私言ったでしょ。家の命令で巫女としての任を離れてから、ここ5年になるかしら、魔術協会っていう魔術師の組織の総本山に所属して、貴重な魔術を使う魔術師を敵対する組織から『保護』するっていう物騒なことをやっていたから、ある程度対魔術師戦闘は経験しているわ」

 神秘、この場合は魔術の秘匿。これは魔術師、根源を目指そうとする全ての魔術師にとって、金科玉条の事項である。何故ならば、神秘が公に知られるようになり格落ちすることによって求めるものから遠のくためである。魔術師が公に原理が知られている学問、例えば物理学や生物学などを専攻しないのも、言ってしまえばそれが理由になる。故に魔術が公になることによってそれが『一般常識となる』事、それによって魔術という神秘が薄れることを最も忌避する。
 つまり、少なくとも相手が真っ当な魔術師同士であれば、戦うのは基本的に夜中、人々が眠りにつき、起きている人々の視界が闇に遮られる時間となる。無論そうではない場合が無いとは言い切れないが、基本的には、そういう事になる、と氷雨は見込んでいた。
 また、先程気になったこと。つまり、そもそも敵対陣営に属するサーヴァントあるいは魔術師を殺すことになっても大丈夫か、という事も織り交ぜる。これから参加するのが名前だけでも戦争と付いたものなのだから、そういった事に対してアーチャーとて認識しているとは思うのだけれど、不確定事項をあまり長い事そのままにしておくのも良い事ではないだろうと考えたのである。

「今日、今からできることとして、可能な限り敵対陣営を欺瞞し、余計な戦闘を回避するために、どういうことが出来るかって考えてみたの。
少なくとも昼間は貴女を、普通の、私と同年代の女の子として扱おうと思うわ。同意してもらえるなら、貴女に強いる負担は実体化してもらう事と、現代のこの国にある程度溶け込んでもらう事に集中するから……まずはそうね、着替えてもらう事かしら。
 幸いこの国の首都はどこであれ、服装さえ合わせればどこであれ貴女がいてもそこまで浮くことは無いわ。同じ時間を過ごすにしても、ずっと主従主従って気を張るより、一緒に楽しむのもアリだと思わない? 私も出来る限り貴女の顔を見て話したいし」

 さて今日から何が出来るか、と考えた時に、ここが『東京である事』を最大限に活かすべきではないか、と気が付くことが出来たのは、何なら本当に天啓なのではないだろうか。
 先程対等にありたいと、直接の言葉にはしなかったけれど意思表示したこととも通じると言えよう。アーチャー次第ではあるし、彼女には大分生真面目なところもあるけれど、先ほどまでの会話を考えれば首を横に振る事は無いだろうと思われた。ダメだったら霊体化して付いてきてもらう事になるが、いくら何でもそれでは味気ない。どうせ話すならば顔を見て話したいところだし。

>>神託のアーチャー

3ヶ月前 No.15

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月29日 午前2時頃 柚木の空家/東亜亜澄】

 神秘なんて存在しない。人は殺せば死ぬし、死んだ人間が再びこの世界で二本足で立つことなんてありえない。

 ──しかし、それは起こった。

 轟音、暗闇、そして現れたのは人間。……いいや、人間なのか? 膝をついたおれの見上げるような視点からはよくわからないが、飛び抜けて巨大だったり小さかったりするわけではない。言葉でどうにか表すなら、地に付くほど長い髪、指一本でも触れたら砂の城のように崩れ落ちてしまいうな痩躯。ゆっくりと開かれた目の全て見透かすような白銀の瞳。紡がれた「はじめまして」という言葉も、空虚ではあったが虚無ではない。
 その姿は、どこを取っても『生きている人間ではありえない』わけではない、それなのに、これはなんだ。この感覚はなんだ。血が──いや、おれの身体を巡っている、血ではない何かが、その勢いで身を裂いてしまうんじゃないかというほどに暴れ出す。──と思えば。

「……すいませんね。風情だのなんだの気にする性分じゃないので」

 この苦言だ。おぞましい……と言ったら言い過ぎのようにも思えるか。しかしその姿から零れた文句にしては、どうでもいいというか、人間臭いというか、立っていただけの姿よりかは幾らか。サーヴァントという存在について、話に聞いたり本で読んだりはしたが、まだ多くは掴めていない。意識や記憶の共有、なんて機能がくっついているらしいが、おれの無知さがこんな一瞬で通じてしまったのなら、この「しょうがないから仕える」と取れるような態度も当然のものだろう。

「はぁ……」

 なぁにがお察しの通りだ。さっきの旋風によって乱された前髪を右手でかきあげながら、溜息とも嘆息ともつかないような息と共に立ち上がる。確かに英霊か怨霊かと問われれば、その容貌は怨霊だろう。しかしなんのヒントも無しに「怨霊の類いか」と見抜けるほどわかりやすくはない。……いや、ちゃんとした魔術師は、こういうこともわかってしまうのだろうか。それにおれは聖杯そのものに大して興味は無い。別に願いが叶えば聖杯じゃなくてもいい──と言ったら、もしかしたら嫌われてしまうだろうか。一度死んだ人間がわざわざ現代に戻ってこようと思えるほど、その聖杯とやらは価値のあるものなのだろうか。
 髪をかきあげたついでに、追いつかない頭をどうにかしようと爪で軽く引っ掻いてみた。まぁそうやって頭を掻いたくらいで何も変わらないが。

「あー……あ、名前。東亜亜澄。願いとかは……言っていいんですか、これ」

 いいや、言っていいんですかも何も、この人はおれの願いなんかまだ知らないんだ。知らないものに対して許可を求められるなどどうしようもできない──と、つい口走ったあとで気付いた。まだ頭が追いついていない感覚がしてならない。頭は割とキレる方だと自負しているが、魔術だのサーヴァントだの聖杯だのの未知の洪水には呑み込まれ流されてしまうしかなかった。

「えっと……あんたが、その、おれの、サーヴァントってやつ? ……あー、なるほど、とりあえず最初っから全部説明お願いします」

 なにがなるほどなのか。理解してないのに理解したフリをするのは愚の骨頂だろう……。確認というか純粋な不明瞭というか、何もわかっていない頭から出てきたのは間抜けな質問。あくまでサーヴァントを従える身、としては、本来こちから「これからどうする」だとかそういう話をしなきゃならないと思うのだが、生憎そこまで考えるほどの下地が圧倒的に足りない。

「……お察しの通り何もわかってないんですよ。戦い方とか、全部アンタに任せますね。おれが死なない範囲でなら、できることはするので」

 どこか気の抜けた喋り声が、生活感の無い、伽藍堂の室内に僅かに響いた。対して申し訳もなさそうに思っていないような、それでも一応は無知な自分を恥じるフリをしているように眉を顰める男。鬱金の瞳は、窓から覗く丑三つ時の月と同じ色のようにも見えた。
 そこに佇むもう1人の男の異様な空気に宛てられたのか、それ以上近寄る気にはなれなかったのだろう。初めまして戦友、というような空気ではないことは確かである。

>>キャスター

3ヶ月前 No.16

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上/虚妄のバーサーカー]

 すべてを燃やそう。壊そう。潰そう。消そう。正そう。私には、それが出来る。偽物を本物に変えるのではない。皆が偽物と言っているものが、真実なのだと教えるのだ。どんな殺戮も暴虐も間違いではない。時に痛みを持った教示でなければ人は変わらない。
 教えるのだ、本当を。知らせるのだ、真実を。見せるのだ、現実を。

「だったら、ではないのです。そう、なのです」

 相手の言葉尻をとらえるように言葉を返した彼女。笑顔と言われるとそう見えるが、どこか寂しげで悲しげだった。哀の感情が奥底からじわりじわりと滲んでいるようなそんな顔をしていた。不思議な顔だと思う。どちらとも見えるし、両方の感情を含んでいるようにも見える。不思議で面白い。
 そのまま彼は先程の問いに答えた。悪しき風習とは、と一瞬だけ首を傾げたが続く言葉に彼女の瞳孔が更に開いた。魔術の根絶とは大きく出たものだと心中で唸る。人類が長い時間を得て手に入れた神にも届く技術を根から燃やそうと言うのだ。人が起こす神秘、奇跡。それらを無に帰す。聖杯に願わなければきっと叶えることが出来ない規模の願い。とても、とても良い。何が彼をそこまで突き動かすのか。彼の過去に何かあったのだろうか。ただ興味向いた青年か、魔術に家族を殺された復讐者か、争いを無くしたい平和主義者か。予想はいくつでも挙げられる。面白いですね、と口を開こうとした時。
 消してしまおうか。その一言に喉を掴まれた気がした。少しの息苦しさを感じ、口から出ようとした言葉は戻って行き胸の辺りで消えてしまった。先程の笑顔とも悲哀とも取れる顔とは違う眼光に無意識に体が強ばる。鋭さを孕んだ雰囲気とそれには合わない笑顔。完全に夜が明けたのか、眩しく差し込む陽の光が彼の顔に深淵を掛けた。

 彼は自分のことをかなりの魔術師、と形容した。彼の言葉がどこまで本当かは分からないが、その言葉に少し自信を貰えた。これから起きる戦争では共に行くのだから相棒は少しでも実力者の方がいいに決まっている。バーサーカーを使役させるなら尚更だ。

 今はその言葉を信じるとしましょう。魔術の根絶など人が聞けば世迷いごとだと呆れ、笑い飛ばすような願いを持つ人間。相応の覚悟は持ち合わせているに違いありません。言うならば、貴方様も、狂われている。


 両手で分けた前髪を元に戻す。彼の言葉によると既に何体かサーヴァントが召喚されているらしい。曲げた膝を伸ばすと屋内へと繋がる階段へと歩を進めた。彼女も続くように立ち上がると黒衣に着いた埃を軽く払いその背を追った。
 争いにルールなど建前でしか存在しない。動くならば早い方が良いのは当然であり、既に先手を打たれている可能性だってある。彼の歩く速度が早いのもその危惧の念があるからだろうか。彼女も駆け足で追いついた。

「そう言えば、御名前を伺ってもよろしいでしょうか。どんな結果とは言え、曲がりなりにも、私と貴方様は組み合わされたわけですから、まず、御名前の一つも知らないとはあまりにも不格好でしょう」

 隣ではなく二歩程後ろを歩きながら彼女は言葉を投げた。名前一つ聞くにも言葉を連ねる辺り、面倒と言うべきか。これから起きる戦争、起こす行動に見据えた前を向く顔を斜め後ろから眺めながら言葉が返ってくるとよいと小さな期待を抱いた。
 彼の事はまったく知らない。何も見えない暗闇は時に何よりも恐ろしい恐怖となる。分からない、は連携にも支障をきたす可能性があるので知りたいというのが建前。彼がどのような人物なのかを調べたいというのが本音であった。

>>メリル・マリア・アトウッド

3ヶ月前 No.17

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【あの日/□□□□□□】

 ──なんで。

「余は──僕は、王にはなれない、彼女のいない僕に何が残ると言うんだ。……お前に任せたよ、□□□□□□。大丈夫さ、僕と一緒に14年間も旅をして、見事に魔王を討ち取った。そんな英雄であるお前に、王が務まらない理由があるか?」

 ──なんで。

「僕はどうするか……? ……どうしようか。でも、もう、それすらも考えられないんだ」

 望まない玉座。空になったここに座っていいのはたった1人しかいない。神の子、英雄、そしてぼくの兄。その人の名は□□□。なぜ皆そうやって兄さんの邪魔をする。なんでだよ。兄さんがいなかったらこの国はいつか滅んだ。兄さんはこの世界を愛していた、守りたいと願った。あの人のことを守りたいと願った。なのになんで。なんで兄さんからあの人を奪うんだよ。

 ぼくの前に道はただ1本しか無くなった。皆ぼくを讃える。英雄、救世主、□□□□□の化身。ああそうだ、ぼくは英雄だ。でも英雄は僕だけじゃない──!!

 ────そこから先の歴史は記されていない。


【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/破魔のライダー】

「…………」

 久しぶりの感覚だ。
 ぼくは、今、立っているのか。

「…………」

 目を開けるのなんて、久しぶりだ。
 ぼくは『存在したもの』だ、『生きていたもの』ではない。死んだことの無いぼくが、なぜ、死したものとして、こうやって再び地に足をつけることができたのだろう。

 固い地面だ。ぼくの知らないにおいだ。息苦しい無音だ。徐々に開けた瞼から目に届いた光は薄い。でも眼前になにがある、何が起こったか理解するだけの情報を得るには充分だ。

 ……少年。

 ぼくが王国を飛び出し旅に出たときと、同じくらいの年頃だろうか。1歩、その少年へ近寄る。そうか、彼が。

「……サーヴァント、ライダー。私の名は□□□□□□。願いなど大したことではない。物語の一節、分岐した一節が欲しい。語られていない歴史の一節、その結末の可能性を見たい」

 若い声だ。質問に答える。1歩進む。ある程度の距離があるとわからなかったが、近付くと目線が僅かにずれる。ぼくより小さい、本当にまだまだ少年なのだろう。聖杯戦争の知識は与えられている、概要は理解している。その上で純粋に疑問だ、『なぜこんな子が』。
 ……いいや、ぼくが兄さんと共に魔王討伐の旅に出発したのも、これくらいの年齢だ。覚悟さえできていれば、決して曲がらぬ信念さえあれば、この年齢で若すぎることは無いだろう。そう考えれば、なるほど、立派なものじゃないか。

「……自身を偉大に見せようとしてるのか? ぼくは見かけの偉大さなんて興味無い、そんなことより君自身のことを教えてくれ」

 ──しかし、二言目にはこれである。先程の一声目と比べると、気持ち、緩んだ声色だろうか。少年から発せられた張り詰めた空気を溶かしてしまうようだった。
 落ち着いた声色に合わせて少しずつ前身していた足が、軽やかな歩調に代わり、少年と青年の距離は縮まる。青年の表情は、「自信げ」なのだろうか。僅かに微笑み、その両手で少年の右手を掬いあげた。

「とにかく君の名前を教えてくれ、マスター。呼んでくれてありがとう。この聖杯戦争に必ず勝って、君の願いもぼくの願いも、きっと叶えてみせるよ」

 ──希望。そこにあるのは、ただそれだけだった。明るい調子の声と、自信に満ちたピンとした立ち姿。薄暗い室内に、燃える様な赤と朱の色が舞った。

>>ウーノ

3ヶ月前 No.18

doubt @casebycase☆0c9nqQGSPbs ★31edPDrQpE_mgE

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/一條 癩蔵】

かくして聖杯戦争の第一歩、英霊召喚がここに成された。姿こそ未だ白煙の向こう、目にすることは叶わない。しかし活発に活動する魔力回路、脈動する魔術刻印がサーヴァントの現界を雄弁に物語る。この世の法則から外れながらも干渉が許された存在。如何に聖杯の奇跡によりこの世界に招くことが出来たとしても、それを繋ぎ止め続けるには相応の対価を支払わなければならない。例え高潔な武人、清廉な聖人であろうともサーヴァントは生粋の人喰らい(マンイーター)なのだ。ただそこに存在するだけで主から相応の魔力を簒奪する

一歩、二歩方陣へと歩を進める。 魔力供給に滞りはなく、召喚の成功は明白だ。ならば次は自身の刃となるべき者を見極める。三歩目を踏み込んだところで頬を一陣の風が撫でる。薄暗がりを縫うように疾る白銀の軌跡。立ち込める白煙を斬り伏せ薙ぎ払い、鋭利な切っ先が姿を現す。流麗な形状の突撃槍、その柄を握るのは装甲された長く細い指。さらに鎧の上からでも 認識できるしなやかな腕が続く。所作に合わせて踊る赤銅の髪、赤の騎士の動きを追う癩蔵の視線が狩猟帽の庇より覗く碧眼とついには出遭う

『ランサー、真名を■■■■■■。召喚に応じ、馳せ参じました。貴方が私を呼んだ者で違いありませんね?』

雑多な音に溢れる暗室においてなお耳朶をうつ涼やかな声音。白幕を切り裂き現れたのは紅い装束を纏った美丈夫だった。自身よりも頭一つ高い体躯は堅牢な鎧を纏っているにもかかわらず物音一つ立てず、動作の一つをとっても重量を感じさせずにいる。どこか幼さを残した顔立ちは二十代半ばといったところだろうか。青年と呼んで差し支えない相貌でありながら刻まれた表情は歴戦の気風すら感じさせる。そして何よりも眼前の青年を印象付けるのがその強い意志を宿しているかのような、覗き込めば魅入られるかのような深い深い碧の双眸
魔術を修めた。それを学究では無く己の利の為に行使してきた。その性質上、人を殺めるには都合がよく、その数は両手では効きはしない。死線と呼べるものを潜った回数も一度や二度ではないだろう。その癩蔵と比して眼前の青年はそれでも格が『桁』で違ってくる。力量が?否、その程度の些末な差異では断じてない。彼の者こそは誉れ高き騎士の殿堂に名を連ねる者。この世界にその武勲を以て名を刻み死してもなお座へと召し上げられた本当の英雄である

顕現した英傑、その圧力を前にして魔術使いはしかし平静を保っていた。前述の通り自身と彼の者では格が違う。歴史に名を刻む英雄と一介の魔術使いが同等のはずも無く、されど男が傅くでも狼狽えるでもなく平常通りに振る舞えるのは魔術使い故の認識によるところが大きい。
成程眼前の騎士は確かに英雄であることに疑う余地はない。が、それはあくまで現身、現世に存在する為の仮初の器に過ぎない。彼の残した偉大な功績、武勲。それは賛美され賞賛されるべきものだろう。敬意は表すれど必要以上に畏まる必要性がないのもまた事実である。あれは『駒』だ。その信念が、その在り方が強く清く美しい物であったとしてもあれは聖杯に組み込まれたシステムの一端に過ぎない

『我が忠義を捧ぐ前に、不躾ながら二つ御尋ねさせてください。こうして貴方が聖杯を求める理由はなんでしょうか? ……それから、よろしければ貴方の御名前を是非』

「一條、一條癩蔵だ。我が従者……その問いの答えは至極簡単だ。人として当然の欲求なのだからな」

彼の生き方をそのまま体現するかのような真っ向からの問い掛け。その眼差しを受け止めながら癩蔵は静かに言の葉を紡ぐ。覚束ない足取りで一歩また一歩と距離を詰める。男の傷ついた左掌が騎士の得物へと添えられる。突撃槍は切っ先こそ鋭いが形状上刃を持たない。白銀の槍を己が紅で穢しながらも緩慢な動作で自身の眼前へと導く。ランサーの刃が男の半面を覆う包帯を切り裂き、断った

「生きたい……この身を蝕む一條の呪詛。これに打ち克ち永らえる……聖杯に賭した俺の願いは唯一それだよ」

露わになった青年の半面、それは醜悪そのものだった。タールの如くに黒ずみ変色した肌は表面に泡立つ腫瘍を生み続ける。崩壊と壊死を繰り返し頬の位置まで降下した眼窩に納まるのは白濁した眼。焦点は合わずただ虚空を見つめ続けるそれは感覚器官としての機能を喪失していた。自嘲に健常な方の口端は歪んでいるが、その反対は引き攣って固定されているかのように引き結ばれたままとなっている。言葉を紡ぐたびに開く口腔は毒花のような赤。半死人。誰の目から見ても余命幾許とない青年の、それでも鮮烈な意思宿す黒瞳が紅の騎士を見据えていた

>深紅のランサー

2ヶ月前 No.19

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上→七日野中央教会周辺/メリル・マリア・アトウッド】


「ああ、確かにそうだね、『そう』しなくちゃいけない」

 ……どうしてこんな言い方をしてしまったんだろう。どこかで願いへの意思が揺らいで──いいや、そんなことはある筈ない。何気なく発した一言、きっとそんなに意味なんてない、ボク自信の深いところで、そんな『叶わない希望』に思っているようだなんて、そんなこと。

「ごめんね、こんな馬鹿げた願い聞かせちゃって」

 ……それでも、あなたもボクも、同じようなものかもね、と続けようとしたがその言葉は飲み込んだ。サーヴァントに失礼を言って契約を破棄されてしまったら堪らない。あんな発言をした彼女がこの程度で、とも思うが、慎重に越したことはないだろう。

 立ち上がった男の後ろを追いかけた女が駆け足で追いついてきた。男はうっかり、という表情をしながら女の方へしっかりと振り向き、少し俯きながら右手の人差し指でメガネをかけなおした。そのまま、その白い手を自身の胸に当て、

「メリル・マリア・アトウッド」

 その声は強い輪郭を持って放たれた。

「……こんなふうに名乗るのは、ちょっと気恥しいね。あんまりこういうことする機会、最近は殆ど無かったから」

 真剣な眼差しが一転、ふにゃりと緩んだ。魔術師同士の決闘をしていたりなどしていたら、こう堂々と名乗りを上げることもあったかもしれない。でも、ここ10年くらいでボクがやっていたことは、父の研究の手伝いと、時計塔のカレッジでの講師。カレッジではこんなに仰々しい自己紹介をすることなんて殆ど無かった──のはボクだけかな。

「……気が急いじゃったね。とにかくまずは工房へ案内しよう。移動中だけは霊体化してもらっていいかな? ……あ、霊体化とか念話とか苦手なら言ってね。ふふ、大丈夫だよ、ボク達の見た目だと目立っちゃいそうだけど……多少目立ったってたぶん平気。工房はここからなら歩いて10分かからないくらいかな」

 元の柔らかい口調に戻った男は、屋上から屋内へ入る階段へのドアを開ける。硬い底の靴が、心臓の高鳴りと同じ速さでペースで音を刻んだ。1階だけ階段を降りると、そのままエレベーターに乗り込み、地上界へ。その間は、一応はイギリスからの旅行客としてこの七日野に寝泊まりしていること、17階の一室に怪しまれない程度の生活感を残しながら工房に篭っていること、をつらつらと伝えた。「下手な行動を起こして犯罪者に勘違いされちゃ堪らない」、と最後に付け加えて。

 エレベーターが地上階へ到着し、そのまま豪奢な内装を通り抜け、屋外へ。通りは新年を祝う人々で賑やかだ。男は北の方角へ指をさし歩き始める。長身が持つ長い脚の1歩は、速い歩調と合わせてかなりの早足だろうか。

「工房はこのナナヒノハイアットから北に少し歩いた住宅街。教会の近くなのは、ボクがクリスチャンで、なんとなく気分が落ち着くから。そこの路地から地下に入れる場所があって、そこが工房になっている。結構前から色々持ってきたから、そうだね、時計塔に元々あったボクと父の工房に環境はかなり近い。できるだけ不便はさせないよ。

 あとは……ボクの魔術は宝石を用いたルーン魔術だ。そうだね、1番稀有──と言うか、使えそうなものでいうと、刻印の探索のルーンかな。これはボクの記憶とか、その人の持ち物や身体の一部や、そういった痕跡をほぼ確実に追跡する。……そう、その人の痕跡を手に入れたら、確実に見つけられる。これはかなりの強みじゃないかな。

 うーん、とりあえずここまでで、わからないこととか、もっと知りたいこととかある?」

>>バーサーカー

2ヶ月前 No.20

雪鹿 @class ★Android=435tdfZpEo

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/深紅のランサー】

 こうして武装した者を相対していながらも、その奥に広がる暗澹とした空間にも似た黒き瞳は揺れる事無く、平静を保ったままに吟味をするように此方の出で立ちを確認しているのだろう。
 現代の魔術師というものが臆する事を禁じられる程の険しき道を歩むものかどうか、それは分からないが、少なからず覚悟しての召喚であったはずだ。故に、彼へ覚悟を問うような無粋な真似は不要。あくまでも一人の騎士として培った意思を見定める眼が鈍っていなければ、の話ですが……それは杞憂でしょうね。

 戦争へと身を投じる覚悟があろうとも、其処へ至った理由によっては止める必要がある。だからこそ、真に忠実足りうる騎士として、彼にそれを問うた。生前と同様に、何処までも真っ直ぐに。
 それは決して、眼前に立つ相手を下に見ているからではない。ましてや、英霊たる自分の力量に自信があるからではない。私は生前から、そうして生きてきたのだ。如何なる困難においても、如何なる者に対しても。

 一條 癩蔵。そう名乗った彼は、その問いへ静かに応じ歩みと共に答えを紡ぐ。その言葉とは裏腹に歩みは数歩と言えども安定せず、万が一に備えて支える心だけは構えておく。
 やはり、顔だけでなく身体の方も怪我をなさっておいででしたか。立ち姿の一つにおいても、それは伺えはしましたが確信が無かったが故に言葉にこそしませんでしたが……今は、それほどまでの身体をもって尚も歩みを止めない理由を聞く時ですね。

 手を伸ばせば届く距離まで来たところで召喚の儀式の際に切ったのであろう、浅くも塞がってはいない傷が残る左掌を白銀の槍へと添えた。その掌より滴る鮮血が少しずつ切っ先へと伝ってゆく。
 添えられた手に敢えて従うようにして槍の切っ先を動かす事に助力していたが、それが顔へと向けられれば意を問うように相手の瞳を改めて見据える。だからこそ、言葉にはしなかったーーその必要は無いと、その瞳が物語っていたのだから。

 その顔を覆う包帯へと掛けられれば、意に従って槍の切っ先が裂く。白き包帯が解けて落ちて行き、それが守り隠していた物が露となる。

 そこに在ったのは、病等では無い人の身に余る呪詛。煮え立つ溶岩のように泡立つ腫瘍を生み続ける黒人のそれとは明確に異なる黒き肌。眼窩と共に白濁とした瞳は、何を映す事もないだろう事は想像に難くなかった。曲線を描く筈の唇も片や歪み、片や結ばれたままにある。
 ーーその有り様に絶句した。決して落胆した訳ではなく、斯様な苦しみが現世においても存在している事に衝撃があったのだ。

 それでいて尚も目を僅かに見開く程度に収まったのは、やはり生さ前の記憶や経験が大きいのだろう。確かに衝撃はあったが、大きく取り乱す必要も無い。なればこそ、騎士として昂然と受け止めてみせよう。

『生きたい……この身を蝕む一條の呪詛。これに打ち克ち永らえる……聖杯に賭した俺の願いは唯一それだよ』

 一條の呪詛ーーつまり、この呪詛は彼の一族による物だと言うのか。彼が何をしたのか知る由も無いが、一体何をしたら此処までの仕打ちが許されると言うのか。
 しかし、彼の聖杯を求める理由は分かった。そして、恐らく彼の元へ私が呼ばれた意味も。

「……貴方の願いは確と聞かせて頂きました。貴方の意思を届けるべく聖杯への道を切り開く槍として、此度の生においては我が忠義、貴方へと捧げましょう」

 それは生を求める本能が故か、鮮烈な意思を宿した黒の瞳に、負けじと純潔でありながらも勇猛たる瞳が応える。白銀の槍と共に腰を降ろして右膝を突き、僅かに下を向いて左膝を立てた。束の間とは言えども彼の騎士として、忠義を示すために。
 思えば、同胞と共に聖杯を求め旅をした時も、誰かの呪詛を解く為であった。そう、嘆きを鎮める為にーーしかし、此度はその必要が無くなるやもしれない。本来であれば、私が用いて良い筈が無いものだが、救える筈の命を救わない事は出来ない。ましてや、それが忠義を尽くすと決めた相手であるならば尚更に。

「……マスター。既に御存知やもしれませんが、私の霊基に登録された宝具の一つに貴方の願いを叶える事が出来る可能性があるものが御座います。しかし、魔力消費が激しい……召喚を為した今は控えた方が賢明かと。代わりと言ってはなんですが、助力致しますので不便があれば言ってください」

 手慣れた所作で音の一つも無く立ち上がり、身の丈よりも幾分か大きい白銀の槍を握りしめ、意を決して一つの宝具の事を告げる。他者を引き込む程に透き通った碧眼は鮮烈な意思の宿りし黒き眼と恐らくは捉える事無き白濁とした眼の両方を捉える。
 決して逸らす事も無く、その姿を嫌悪する事もない。確かに「なんと惨い事を」と思いはしたが、彼の中ではそれで終わり。故に、その発言も悪意の欠片も無く微笑みを浮かべた彼には哀れみや同情は無く、其処にあるのは困っているのであれば手を貸すべきという騎士道に基づく善意のみなのだ。なにより乗り越えようとしているならば、同情など不要なのだから。

>一條 癩蔵様

2ヶ月前 No.21

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/神託のアーチャー】

アーチャーは人を殺めることを好まない。好まないが、必要に駆られれば躊躇うことなく対象を殺めるだけの覚悟と思い切りはあるつもりでいる。もしもマスターが道理から大きく外れていたら。神に仕える自分に、それらを冒涜するような行為を強制させるのなら。アーチャーはマスターを殺めることも辞さなかっただろう。……とは言え、マスター殺しに気が進まないのは事実である。だからこそ、自分の意見を尊重してくれる氷雨には心から感謝した。この国ではどのようにして感謝の気持ちを伝えるのかはっきりとわかってはいないが、アーチャーは深々と頭を垂れて「ありがとうございます、マスター」と感謝の言葉を述べた。

「そうですね、私もあなたと同じ意見です、マスター。マスターとは似通った部分も多いようですし、神託を受け取らずとも上手くやれそうな気がします。あなたと巡り合うことが出来たのも、天道の加護故かもしれませんね」

自分の手を包み込む氷雨の掌の温かさに目元を細めながら、アーチャーは生前あまり好き好んでこなかった運命なるものに少しだけ感謝した。アーチャーにとって運命とは、神が人間を束縛するもの━━━━というイメージが強く、人智を超えたモノが人間社会に介入することを厭うアーチャーからしてみれば好ましくないものなのである。だが、こんな風に気の合うマスターと出会えたのなら、少しだけ、ほんの少しだけだが、考えを改めても良いのではないかと思った。その辺り、アーチャーは割りと柔軟なのである。
此処で氷雨から今後の予定について切り出されたので、アーチャーはそちらに耳を傾けることにした。戦略を練ることは何に際しても重要である。基本的にはマスターの意向に従うつもりでいるので、アーチャーはしばらく氷雨の言葉に耳を傾けていた。彼女の話が一区切りついた時に、アーチャーは口を開くことにする。

「神秘の秘匿に関しましては、私の方も重々理解しています。無関係の民が巻き込まれるようなことがあってはなりませんからね。その辺りは細心の注意を払うつもりでいますよ。ですからご安心を。
━━━━まあ、此度の聖杯戦争には年端もゆかぬ少年少女も参加なさるのですね。ですが、かといって手加減は出来ません。これはなんとなく……本当に、神託でもなくただの予感なのですが……。此度の聖杯戦争は、一歩踏み間違えれば無辜の民をも平気で殺めかねない災禍が投げ込まれるような気がしてならないのです。どのようなものか、と言われれば説明には困るのですが……。けれど、なんとなく私の背筋が寒くなるような、そんな感覚がするのです。ですから、私も決して手を抜きはしません。どれだけ幼くとも、この聖杯戦争に出るということはそれ相応の覚悟があってのことなのでしょう。むしろ手加減する方が無粋というものです。少なくとも、私は戦士の矜持を傷付けたくはありませんからね。ひょんなことから因縁を付けられては本末転倒です。
ええ、マスターが戦うことに関しても、私は特に異論はありません。……ですが、くれぐれも無茶はなさられませぬよう。あなたは私のマスターなのです。生前に戦った経験のないサーヴァントでは不安もあるかもしれませんが、私を頼ってくださいね。そうでないと私、不安でなりませんから」

神秘の秘匿に関しては、アーチャーは何よりも気を遣うつもりでいる。彼女が聖杯にかける願いもあってのことだが、やはり一般人は出来るだけ巻き込みたくはないのだ。それゆえに、一般人を巻き込もうとする、または神秘の秘匿に努めない陣営は先に潰したいところだった。そういった者がなるべく少ないと良いのだけれど、とアーチャーは内心で憂い顔をした。
氷雨にはやや懸念されているようだが、アーチャーはアーチャーとしてこの聖杯戦争を勝ち抜く気概は有している。生前武器に触れない巫女だったからといって、敵を殺せぬ言い訳にはならない。殺さなければ殺される。そういった状況が勝ち抜くまで続くのが聖杯戦争というものだろう。運が良ければ見逃されることもあるかもしれないが、そんな幸運が何度もあるとは限らない。神の加護を無駄にしないためにも、アーチャーは敵に弓を引く覚悟を既に決めていた。━━━━まあ、聖杯戦争以前に神々に弓を引いているようなものなのだが、加護が授けられている辺り仕えている神からはある程度見逃されているらしい。ありがたいやら申し訳ないやら、複雑な感情が芽生えてしまう。

「普通の、女の子━━━━ですか?え、ええ、マスターがそうしたいのなら私は構いませんし、外に出ての情報収集も大事ですから、私は良いと思うのですが……。私、見ての通り世間知らずですから、慣れるまでに相当の時間がかかってしまうかと思われます。それでも良いのなら、諸々の案内をお願い出来ますでしょうか?」

そして次いで放たれた氷雨の提案に、アーチャーはあたふたとしながらもこくりとうなずいた。物心ついた時には巫女として聖地で過ごし、生涯主たる太陽神に仕えた身としては、この時代における“普通の女の子”として過ごすのは、何だかこそばゆかったのだ。きっとマスターにたくさん迷惑をかけてしまうのだろうな、と思いつつも、実のところ楽しみでもあることはさすがに胸の中に仕舞っておいた。

>>相見氷雨様

2ヶ月前 No.22

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月27日午前2時03分/北区役頭タウン邸宅地下室/セイバー】


遠い昔の話である。かつて神の世が終わるその前に、先に乱れた人間たちの世界があった。倫理観は腐敗し、裏切りと猜疑心によって戦火は広がり数多の死人が出た。地面が血に濡れなかった日はなく、空には怨嗟の声が渦巻いていた。その地獄の中では誰もが強いものに踏みにじられ、自分より弱いものを踏みにじり、己の無力を嘆き、この世の不条理に怒り狂った。狂っていた。誰も彼もが狂っていたのだ。

狂わせたのは誰だ。

私は知っている。人は弱く賢い生き物だ。寄り添わなければ生きていけないことを理解している。厳しい自然の中で手を取り合い、助け合い、善を尊び悪を誅して幾度も訪れる困難を生き延びてきた。だが、人は賢く弱い生き物だ。余裕を失えばどんな善人も「自分だけは」と他人を犠牲にする。その手口は時に乱暴であり時に賢しく、どれもが醜悪だった。しかし、ただ生き延びようとする彼らをいったい誰が咎められようか。彼らは追い詰められ、狂ってしまっただけなのだ。

狂わせたのは■■だ。

いつしか人は自分に降りかかる不幸に意味を見出した。それは「試練」と呼ばれ、人は試練のその先に苦難に見合うだけの希望があると信じた。信じることで人は自己のうちに眠る悪意を押さえつけ、じっと時が過ぎるのを待つようになった。つまるところ、人に善悪どちらも混ざっていたとしても、狂わぬ限り、善であろうとする限り、その姿は美しく尊いものなのだ。

人が生きる限り「試練」はそこに待ち受けているだろう。ならば、狂うてなお美しい心であればもはや地獄は現れまい。



 まず初めに、ああ呼ばれたのだと感じる思考が生まれた。それまで世界に希釈された概念だった私が私としてろ過され世界と隔てられていく。足先、膝、指、腹、肩、頭、一つ一つが私として構成され、ふと、肌に空気を感じて、瞼を持ち上げるとそこに床があった。描かれているのが召喚陣だろうか。そこに立っているこの足が私だろうか。顔の前まで動かした手を眺める。白っぽい肌色をした手。これが私に与えられた形。この世に存在できたことを感慨深げに眺めていると、凛とした声がかけられる。張り詰めた弦を弾いた様な、そんな声。考えるよりも先に体が動いて、声の主を視界に収める。

(……綺麗な目)

 ピンと伸ばされた背筋、固く引き結ばれた唇、なによりも強い意志を輝きにして閉じ込めたその瞳が美しかった。
 こうして私が個として存在することで初めて認識できる個人。この美しい子が私がずっと寄り添ってきた人という生き物の一人なのだと理解すると興味がわいた。真っすぐ見据えられているその視線を手繰る様に目を合わせたまま鼻先三寸まで近づくとまじまじとその顔を覗き込む。すると彼女の瞳に人影が映る。私は、彼女の瞳を通して初めて自分の顔を見た。自分の形を認識すると気がそれてしまい、急に満足した。顔を離すと、そういえば自己紹介をされたことを思い出した。。名乗られたわけではないがマスターだと述べたということは、すなわち自分と相手の関係を言語化する一種の挨拶なのだろう。聖杯より与えられた知識を整理しながら、適度な距離に戻ると自分の体の胸に手を当て口を開く。

「初めましてマスター。ええ、私が貴方のサーヴァント。クラスはセイバー、私を指す名前は――――。……呼んでくれてありがとう。これからよろしくね」

 口内に空気が流れる感覚をむずがゆく感じながら名乗り、礼を述べて、挨拶につなげる。最後に握手のために手を差し出すことも忘れずにできた。

2ヶ月前 No.23

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 ナナヒノハイアット屋上→七日野中央教会周辺/虚妄のバーサーカー]

「メリル・マリア・アトウッド」

 これから共に戦うのであろう彼の名を小さく復唱した。先程の息苦しさと確固たる決意を感じた表情とは打って変わって柔和な笑みを浮かべた。その顔は実年齢をいくつか下回るように幼げであり、心優しい青年そのものであった。同じ人物かと疑うほど、とまではいかないものの大きく何度も変わる表情。だが魔術の根絶などという願いを持つ彼の本心、胸の奥底がまるで見えてこない。悟らせないようにしているのか、こちらを試しているのか。まるで光の差さない空間を眺めているようで、どこまでも続くと錯覚しそうで何とも恐ろしい。その中でまだ踏み入れない線がはっきりと引かれている。どれだけのものを抱え、どれほどのものを背負っているのだろう。彼女がそれをはっきりと知る日は来るのだろうか。
 硬い音を響かせながら変わらない速度で階段を降りていく。そのままエレベーターに乗り込む。その道中に彼は名前以外にも様々な事を話してくれた。イギリスからの旅行客として、この地にいること。ホテル滞在を上手く装いながら自らの工房にいること。最後に付け加えた言葉で彼がいかに上手く息を潜めながら召喚を行ったかが伝わってきた。周りに溶け込み、怪しまれないように自身の願いを叶えようと行動している。彼女は、口だけではないようだと心中で唸った。

 エレベーターが地上階に着き、扉が開く頃にははたから見るとエレベーター内には彼しかいないように映っていた。彼が言った下手な行動を起こして犯罪者に勘違いされちゃ堪らない、という言葉はこれから自身にも付きまとうのだと覚悟を決めた。共に戦うのならば彼の足を引っ張らないようにしなくてはいけない。一見、優しさのように見えるがあくまで彼のマイナスは自身にも繋がる可能性が高いからという自己中心的な思考そのものであった。
 ホテルを出た彼は言葉を続けた。これから先程話した工房に連れて行ってくれるようだ。おそらくそこが拠点となるのだろう。教会が近くにあるようで特に疑問は持たなかったが彼がクリスチャンで近くにあると落ち着くのだと教えてくれた。自身はクリスチャンとはかけ離れた存在であるが特に気にもならなかった。そして彼は父と時計塔にて何かをしていたらしい。工房と言うことは何かを作り出し、生み出す場所のはずだ。
 そして彼は最後に自身のルーン魔術について説明してくれた。宝石を用いた魔術。彼自身の口から稀有と言葉が出たがこれは自分を含む魔術師に向けた皮肉なのだろうか。魔術を根絶する道すがらも魔術に頼るのは上手い笑い話なのだろうか。笑った方がいいのかと迷っていると詳しい説明が耳に入ってきた。
 探索のルーン。思わず、ほぉと実際に声に出して唸ってしまった。彼の記憶やその人の持ち物や身体の一部などこの痕跡をほぼ確実に見つけ、追跡するといったもののようだ。これは素晴らしい。敵対するものの索敵は戦闘の一番最初であり重要視されるべきものだろう。相手に気づかれないまま、こちらが相手の場所を把握していれば奇襲を仕掛けたり上手く誘導したりなど出来るかもしれない。それはとても便利ですね、と無意識に口から零れてしまった。
 そして彼は分からないことや、もっと知りたいことはないかと聞いてきた。

「今すぐ知るべき最低限の情報は知ることが出来ました。誠にありがとうございます。あとは趣味嗜好や好き嫌いは追って知れば問題ないことでしょう。ルーン魔術の詳細な情報、弱点なども工房に着いてからで問題ありません────ですが」

 彼女は一度切った言葉を繋げた。消えていた姿を実態化させ、歩を止めた。そしてまた首を真横に近いほど不自然に傾け、流れた髪の間から不気味な瞳を覗かせた。

「先程、謝罪と、共に── こんな馬鹿げた願い、と、仰いましたね?」

 夜明けの光が差し込む住宅街にて炎のように揺れる深淵が現れる。

「あれは何故ですか?貴方様の言う願いは馬鹿らしいものなのですか?覚悟も持ち合わせず抱いたのですか?すべて消してしまおうかという言葉に馬鹿らしいと笑う者は含まれていないのですか?貴方様に喚ばれた私が貴方様の願いを笑うと思ったのですか?」

 早口で語る彼女は疑問符一つごとに彼へと近づいた。深淵は目の前で立ち止まると、彼が背にしていた家にフェンスとして積まれたコンクリートブロックに彼の首の横を通るようにして手を伸ばした。軽く手を置いたかと思うと砂で出来た団子のように握ってしまった。

「そうだとするなら、私の方が覚悟があるようです。私は貴方様の願いを馬鹿らしいと思うことはありません。貴方様の願いを馬鹿らしいと笑う者がいれば私が嘘にしてしまいます。勿論、貴方様も含まれているのですよ。──マスター、本当に願いを叶えたいのであれば二度と自身を疑わないでいただきたい。

 “ マスターの願いを笑う者としてマスターを殺したくはありませんので”」

 彼女はそう言うと油の指していないブリキのように首を戻した。

>>メリル・マリア・アトウッド

2ヶ月前 No.24

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_J3h

【12月26日午前6時40分/本土・東京神宮境内/相見氷雨】
 尊重すると告げた言葉に対して、アーチャーから感謝の言葉と共に深く頭を下げられてしまった。余程受け入れられたことに対して安堵したのか、彼女が先ほど口にした生前の体験が心に棘となって刺さっていたからか、あるいはそのどちらもだろうか。いや、その分析は無粋だろう。
 何にせよ、彼女を尊重するというのは何のことは無いほどに当たり前のことで、礼を言う必要もないと思うという事を、改めてアーチャーへと伝える必要があると感じた。その気持ちは世辞などではなく、現代の一般社会に多少なり教育を受けたものとして持っていてしかるべきものだとさえ思っているものであった。

「当然のことだと思うのだけどね。生前巫女であった時から、今は英霊となっていたとしても、貴女は人格を持ち、感情を持った一人の個人であることに代わりはないわ。であれば、貴女を尊重しない方が、使役するされる関係なしに、人として駄目なのではないかしら?
 うん、アーチャーの言う通り、太陽神のご加護はありそうね。あるいはもっと直接に、神がお定めになった運命、とも言ってもいいかしら。とにかく、来てくれたのが貴女であったことには感謝しないと。その点ではお礼を言わないといけないのは私の方ね」

 アーチャーが口にした天道の加護という言葉に、氷雨も同意し笑みを見せた。少なくとも、他に望むべくもないほどに上々の相性のサーヴァントと引き合わせて貰えたのだから、感謝できる先があるのならば何であれしておくべきなのではという使命感さえ覚えるほどだ。
 今回の召喚に於いて召喚先として該当しえた多くの英霊の中でも彼女がアーチャーとして来てくれたという事は、本当に感謝するしかないと思っている。余人に聞かれたらまだ聖杯戦争が始まってもいないのにと言われてしまいそうではあるが、ここまで波長が合うサーヴァントが、しかも互いに不足点を補えるであろうと思われるクラスで召喚に応じてくれたというのは、まさに僥倖としか言いようがない。

 作戦に関して思うところがあれば何時でも意見を言ってくれて構わない、とは言ったものの、アーチャーが口を開けたのは自分が一通り方針を言い終わってからの事だった。律儀、あるいは真面目と言い換えてもいいだろうか。先ほど口を挟んでもいいと言った手前余りこういう風に言うのも妙ではあるが、ちゃんと最後まで話を聞いてくれるというのは結構有り難いものなのだな、と素直に感じられた。それ故に氷雨も、彼女の言葉を最後まで聞いて、時には咀嚼してから再び口を開いた。

「助かるわ。わかってくれているならこれに関してはもう言う事は無いわ。
 ―――あぁ、なるほど。神話に描かれる戦士たちも、そういう事には敏感だものね。それは実際に見聞きした貴女の方がよく分かっているでしょうし、そう断言してくれるなら、私としても非常に心強いわ。
 貴女の予感については、心に留めおくわ。何がどう来るかもわからないけれど、貴女がそうまで言うのなら『何もない』ってことはないでしょうし。何もないならそれに越したことはないけれど、ね。
 勿論、貴女を信じるわ。サーヴァントとしても、共に歩むものとしてもね。貴女のさっきの、そして今の言葉で、私は貴女に全幅の信頼を置かなければと改めて思ったわ。言葉で伝えても貴女が不安になるのなら、貴女が納得する方法でいくらでも示して見せるわ。ええ、でもそこまで言ってもらえるなら、私が敵に刀を振るう事の無いように、頑張ってもらわないといけないわね」

 神秘の秘匿、そして一般人を巻き込まないように配慮するという事については、特段何を言うまでもなく彼女もよく分かっているらしい。アーチャーの言葉を受け、それ以上確認する必要もないだろうと氷雨はその件に関しては会話を切り上げた。
 戦士の矜持を傷つけるのは良くない、という言葉には、氷雨も反対意見は無かった。神話に謳われた、例えば『イリアス』のアキレウスの姿のように、彼ら戦士のプライドを傷つけるという事がどういうことかということは氷雨も聞き及んでいる。アーチャーはその世界に生きていたのだろうから、それを考えればそういった事をなおのこと肌で感じている筈だ。であれば、その辺りの―――戦時における他のサーヴァントとの会話なども、特に不安がる必要はないだろう、と判断する。何より、結果的にではあるが、彼女がちゃんと決意を抱いてこの場にいると確認が出来た。もう少し良いやり方もあったかもしれないが、今のでも最悪ではないだろう。彼女の予感というのも、きっと何もないという事は無いと思われるので、きちんと覚えておかなければ、という意味も込めて、声に出しておく。
 そう、彼女が戦えるのならば。マスターとしてそれを信じ、彼女に対して相応の態度を示して然るべきだろうし、そうしなければならない。言葉として口に出し、態度としても表す。彼女を信じて、信頼する相手に対していつもそうするように振舞っていれば、きっと通じるはずだと、氷雨は考えた。

「ええ、だから、貴女がそうしたいなら、友をそう呼ぶように、私の事を名前で呼んでもいいのよ。私は貴女の真名を秘匿しないといけないから、基本的にアーチャーと呼ばせてもらうけどね。もし、貴女の本来の名前を憶えていたら、貴女が教えてもいいと思えた時に教えてくれたらいいわ。
 それとねアーチャー、世間知らずと言うけれど、誰もが最初はそうよ。かつての私もそうだったように、人は他人との関係を通じて『世間』を知るものだもの。だから、私に迷惑をかけることを恐れてはだめよ。今後改善しようとしてくれているのだとは思うけれど、私としては今この時点では、自分が世間を知らないと自覚しているだけで十分よ。
 私は貴女のマスター、一蓮托生の間柄ですもの。犯罪行為は叱るけど、そうでないのなら、例えどれだけ貴女が奇想天外な行動をしてもそれを楽しんでみせるわ」

 普通の女の子として対等に扱うというからには、そういう事も許していいと思うのだ。今のところはまだ彼女の名前を秘匿する必要があるのだからアーチャー呼びになるのは勘弁してほしいところだけれど、いずれ彼女がそれを許してくれるならば、彼女の事も本来の、『ピューティアー』の役職名ではない本来の名前で呼んであげたいと思っているのだ。それも織り込んで、アーチャーへと伝える。いざ言うと何となく照れが入ってしまうが、それでも友人としてなら名前の呼びあい位普通の事だろう。照れてしまったのは、やはり旧来の友人の少なさゆえだろうか。
 アーチャーは恥じ入っているようだったが、少なくとも氷雨は、アーチャーが世間知らずと言う事を笑うつもりも、また叱るつもりもなかった。知らないという事を知っている事、『無知の知』と言えば、ギリシャでもトップクラスに有名な哲学者ソクラテスの言葉だ。彼が周囲の哲学者と自らと比して発したその言葉は、現代においては、知らないという状態に留まらずそこから先へ、新たな学びへとつなげてこそその知らないことが活かされる、という解釈もなされているという。今はそう自覚しているだけで充分で、今後治す意思があるのなら努力してほしいしその手伝いはする、という事を伝える。
 でもきっと、彼女の言動を楽しめるくらいじゃないといけないのだとも思うので、微笑みを浮かべつつそれも加えて言葉に出す。実際、アーチャーの行動が現代社会からずれている部分があるであろうことは今の時点でもある程度予想は出来る。だからこそ、心構えとして『楽しむ』くらいと口にしたのである。

>>神託のアーチャー

2ヶ月前 No.25

金の髪は宵月に煌めきて @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【12月31日23時30分頃/柚木町廃ビル屋上/アサシン】

……今も、脳裏に過る。赤々と燃える街並み、無辜の人々の慟哭。

『どうして』

『いやだ』

『ゆるさない』

ただその人種だったと言う不運だけで死なねばならなかった者達の怨嗟が、金の髪を火で赤く染め上げる僕へ向けられる。僕はそれらを尻目に、ただひたすらに同じ業を繰り返し続ける。
次第に騒音は悲鳴から鬨に代わる。見事です、と誰かが僕に声を掛ける。僕はただ、速やかに撤収しろとだけ命じて、赤々と燃える街並みだけを見ていた。

――■■■■を殺した。百、千、万――それ以上。後の世に、世紀の大虐殺として伝わる所業を。

全ては平和の為に。総ては国の為に。命じられるまま、求められるまま、僕は悪逆の限りを尽くした。ならば、僕とは即ち悪党だろう。私利私欲の為に人道を蔑ろにする鬼畜に他ならない。言い訳などしない。そうでなければ、僕の終わりはああでは無かったのだろうから。
だが――空虚だ。どれだけの数の命令をこなし、どれだけの数の虐殺を繰り返そうと、僕の裡に残るものは無いに等しかった。

……そうだ、何も無かったのだ。達成感も、罪悪感も。ただ望まれるままに使命を果たし続けて刻限を迎えた僕には、何一つ、残るものは無かった。
なんて乾いた人生だったろう。名誉も悪名も、僕には"虚"にしか思えない。僕の内に残る火の熱は、何処にも無かったのだから。

……ああ。××。愛しい人よ。きっと君はこの望みを笑うだろう。『私では不満かしら』と笑うだろう。ああ、そうじゃないんだよ。僕の裡には君しかない。けれど、君の裡には僕以外の多くがあるのだろうから。
君は、虚ろな僕の中にただ一つ灯った火だった。だがもしも叶うならば、もしもこの身に欲を懐いて良いのならば、僕は君と同じだけの熱が欲しい。

――この身を昂らせ、心を奪われるだけの"熱"が。


――――


――僕は目映いばかりの光の中で、血の暖かさと、骨肉の軋みを認識する。この眼は開いているのか、それとも閉じているのか。分からない。ただ分かるのは、今正に僕は血肉を得、久方ぶりに人の形を取っているだろうと言うことだけ。

――そうか。"喚ばれた"のか。僕を喚ぶとは、物好きもいたものだ。さて、では、行くとしようか――。



少女は想いを胸に秘め、声高に唱う。その小さな身に見合わぬ大望を背負いながらも、しかしその重責を見事果たし切らんとする強き思いが、この夜に一つの奇跡をもたらした。
即ち英霊召喚――"座"に刻まれた英霊の一側面を喚び出し、己の助けとする大魔術。少女は、それを見事成し遂げてみせたのだ。

目映い光の中から、一人の男が姿を現す。すらりとした高身長に、近代の軍服を思わせる装いの、輝く金の髪の男。少女の背丈が小さいと言う事もあって、二人の大きさはまるで親と子ほどもある。

「――サーヴァント、アサシン。召喚に応じ参上した。問おう、君が僕のマスターか」

薄い唇から紡がれる言葉は玲瓏で冷ややかで、少女の胸の奥に凛と響き渡る音色をしている。身格好に佇まい、眼差しの一つに至るまで。それら全てが蠱惑的で、氷のような冷ややかさがありながらも、惹かれずにはいられない魅力を放っていた。
しかし同時に、彼が其処にいると言うだけで、冬の寒気とも違う、冷たく張り詰める様な緊張感が漂う。存在故に冷酷さと冷徹さを思わせる空気――それこそが、アサシン、■■■■■■の本質を如実に顕していた。

澄ました金の眼差しが、興奮冷めやらぬ様子の少女をじつと見つめる。その眼は、少女には冷たく、しかし何処か優しげに見えただろう。


埃混じりの冷や風が二人の間をそっと吹き抜け、白い月灯りが静かに男と少女を照らし出し、二つの小さな運命の歯車が回り出した。

>>久遠寺美命
【遅くなりまして申し訳ありません……!】

2ヶ月前 No.26

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/ウーノ・マスグレイヴ】

 薄暗い部屋の中でもよくわかる。こいつは根っからの善人だと。召喚陣の中央に佇むその英霊を顔を見るなりウーノは思わず目をすがめた。
 基本的に魔術師のやることは人道を道として定めない。必要とあれば獣道であろうと、はては道ですらない生への冒涜であろうと喜んで飛び込む。そういう気狂いの集団が魔術師だとウーノは認識している。ウーノ自身はそれに対して是とも否とも思っていないが、好かれるものではないとは理解している。特に、後世にまで英雄と讃えられるような善人からはすこぶる受けは悪そうだ。もちろん、英霊を召喚するのだから倫理観の違いについては大いに覚悟はしていた。穏便に済むのであれば多少非効率でもサーヴァントがやりやすいように合わせてやってもいいとさえ思っていた。だがコイツはおそらく骨の髄からのお人好しだ。時には勝利よりも別の何かを優先するほどの。
 ウーノの問いに答えた彼のクラスはライダー、自身の望みを大したことはないと語るその目は自分すら偽っているようには見えなくて、やはりそうかとぐっと眉根にしわを寄せた。

 それだけであれば、まだ、主と従以上に思うところはなかっただろう。

「……は?」

 ピキ、と音でも立てそうな勢いで、ウーノの表情に怒りの色が浮かぶ。ライダーの穏やかな声音、ゆったりとした足取り、纏う威風は当然のように王者のそれであり、たとえ彼が意図していなかったとしても上に立つものとしての気配がそこに在った。その一挙手一投足がウーノの神経を逆なでする。主人はこちらで、お前はしょせんコマなのだと喉元までせりあがってきたところで、ライダーに手を取られてハッとする。いけない、この程度で動揺するようではなおさら舐められるだけだ。

「勝つのは当然だ。そのために来たんだからな、あまりなめるなよライダー。」

 顎を引き、キッと若干上にあるライダーの目をにらみつける。が、咎めるのはここまでだ。気持ちを切り替えるように短く息を吐くと、幾分か声音を和らげて続ける。

「俺はウーノ・マスグレイヴ。だが、ここでは灰野レイという名前で通しているし、お前の灰野なんたらということになる。文句はないな?」

 下の名前は適当に自分で考えろと放り投げた。戦争の開始はまだ告げられてはいないが、猶予があるとは言えない。ある程度の知識は聖杯から授けられてはいるだろうが、細かなことはこちらから説明をしなければならないし、戦っている間に諍いをしている暇はないのだから互いの地雷は確認しておきたい。さらにマスグレイヴの同調魔術にはそこに溶け込むための「設定」が重要になってくるから、そこだけは何よりも優先して共有しておく必要があるだろう。

「他にも説明することは山ほどあるが……まずは拠点の案内をしてやる」

 かといって必要以上になれ合うつもりもないと、とられた手をほどいて背を向け階段を上がっていった。

>>ライダー

2ヶ月前 No.27

はるみや @basuke21☆MhETKCZLYfIV ★sBHPZi6My9_OSy

【12月31日23時30分頃/柚木町廃ビル屋上/久遠寺美命】


 姿がはっきり視認できるようになった。
 美命はバクバクと高鳴る心臓を押さえるように胸元で拳を握り、相手──アサシンを見上げる。決意と覚悟の篭った双眸ははっきりとアサシンの双眸を捉えていた。
 ──綺麗な瞳だな、と美命は思った。彼の双眸は美命を捉えているはずなのに、その奥には幼い美命には届かない……この世の真理の如く深い、深い闇が広がっているように見える。それでもその闇に恐怖や不安といった負の感情は抱かない。
 凍てつく冷たい瞳、けれど温もりを持った瞳。対極的な存在感を醸し出すアサシンの瞳に、美命はアサシンの問いをぼー、と聞き流していた。
 次第に瞳だけではないことに気付く。夜空に浮かんでいる星よりも目を奪われる金髪、豪奢且つ機能的な軍服、すらりとした躰、整った顔のパーツ。……どこか懐かしい雰囲気。
 美命はとてもアサシンがアサシンのように見えなかったし、サーヴァントや単なる駒とは思えなかった。
 幼い魔術師は目の前の英傑にただただ言葉を失うばかりだった。

「……凄まじいな、君」

 アサシンが美命に問いを投げ掛けてから暫く経った頃。長い沈黙を破ったのは、解ではないものだった。
 複雑な思いを、幼い美命は凄まじい、と表現した。ぷっくりとした唇が迷いなく言葉を発する。
 発言した後、間髪を入れず

「む、問いを無視してしまった。そうだ、私は君のマスター。名は久遠寺美命。……、…………。」

 と続ける。
 他にも何か言いた気に口を開いては閉じてを繰り返すが、それ以降美命の口から言葉が出てくることはなかった。

>>アサシン

2ヶ月前 No.28

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃 七日野中央教会周辺/メリル・マリア・アトウッド】

「よかった。それじゃあ工房は──」

 1度途切れた彼女の言葉の隙間に差し込んだ一言は、すぐにその行動によって喉の奥へと押し戻された。

 姿を表した深淵、空間に真っ黒い穴が空いた。1歩、1歩ずつ、その深淵が身に迫る。人気の無い路地、突如虚空から現れたその姿を目にすること、ボクの微かに零れた悲鳴は幸い誰の耳にも届くことは無かった。

 背後で、何かを握り潰した音がする。砕かれたものが、地面に落ちる途中で手の甲を掠める。

「ごめん、」

 何への謝罪だ? 彼女? 願い?
いいや違う、違う、そうじゃない。ボク自身への弱さを恥じたんだ。壮大な願いを持ちながら、ボクの存在はあまりにも脆い、たかが1人の人間。彼女が言った『ボクの願いのためにボクを殺す』。そうだ、それだ、ボクはボクの願いに押し潰されないように、『強くならなくちゃいけない』。

 ぎ、と音をたてたようにも見えるような、歪んだ機械のような動きをした彼女の首。ああ、改めて思い知らされる……これを、従えるのか。
『これ』を喚ぶんだと決めた時、相応の覚悟はしていた。常人では務まらない、でも、それなのにボクは、まだ『ただの魔術師』だった。ただの魔術師には、××のマスターも、この願いにも耐えられない。狂っている者でいなければならない。

 パラパラと砂が地に落ちる音が完全に止むまで、ボクの意思は一瞬だが2つに割れていた。覚悟が無いのなら、それとも、覚悟を決めるか。しかし、その問は、砂が重力に従い地に落ちる僅かな時間で直ぐに決着のつく、簡単な問だ。わざわざ悩む程でもなかった、最初っから決まっていたんだ、と。

「……あなたがボクに手を下す必要は無い」

 彼女の頭はちょうどボクの目線のあたりにある。鼻の先まで迫った深淵へ、強い意志を示す。
 重く長い前髪の隙間から、黒い闇に赤の浮かんだ、人ならざる眼が僅かに見える。次の言葉の前に、1度、奥歯を噛み締めた。

「魔術師が何千年もかけて積み上げたものを、壊す。中途半端な覚悟でこんな願いを抱くかな?そんなことないだろう。別にボクはただなんとなく、自分の癖みたいなもので、遠回しするようなボヤかすような言い方をしただけだ。意思の揺らぎなんか微塵も無い!」

 気圧されて背中のフェンスにもたれかかっていた身体を起こし、じりじりと後退していた足の片方を前に踏み出す。もう、先程のような震えは、恐怖なんてものはそこには無い。
 大きな声を出すことなんて殆ど無かった、ボクが感情を顕にしたことなんてほとんどない。『なんだか、何考えてるかわからない』、それがボクだ。別に意識していたわけじゃない、ただ、なんとなく、いつも穏やかだね、と言われていただけ。囁かな、一言。意味なんて無い。でもそのお陰で気付くことができた。

「……あなただって、ボクの召喚に応えてくれたんだから、ボクがそういう人間だってことは知っていたはず」

 後半は、いつも通りの、柔らかい空気を醸す彼だった。

 ──通りに、1話の烏が舞い降りた。

 烏にしては、その歩みは幾らか優雅すぎないか、と言いたくなるようなゆったりとした歩調で、その烏は2人の足元まで歩いてきた。そもそも、まだ新しい人工島であるこの島に烏の住処などあったのか。

(魔力の気配がダダ漏れ──いいや、漏らしているのか)

 使い魔とは、魔力の痕跡を出来る限り薄くして、偵察相手に気付かれないようにするものだと思っていた。だが、この烏は、その気配を隠すつもりもない。まるで、『自分の存在に気付け』とでも言いたげなように。

「……開戦だ」

 開戦の報せなんてあくまで形式的なものだ、と過去の聖杯戦争の文献には載っていた。形式的、と言っても、その詳細なやり方が書いてあったわけでもないし、『これ』がそういうことなんだろう。

「正式に開戦となったわけだけど。……どうしようか?」

 斜め下の烏に向けていた目を、彼女の方へ戻す。その声は幾らか楽しそうで、まるではしゃぐ子供をそのまま大人の殻に入れたようで。

>>バーサーカー

2ヶ月前 No.29

ハールさん @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【12月27日午前2時04分/北区役頭タウン邸宅地下室/シャーロット=エリザベス・ソフィアテラ】

束なる光の中、"それ"は静かに、しかして確かに姿を顕す。玉の白肌に雪のような冷たさを兼ねる、玲瓏な女性の姿が其処にあった。
彼女はまるで浅い眠りから覚めたばかりの様で、何処か呆けたような印象さえシャーロットに与えたが、しかし一度口を開けば鈴の音のような声で確とサーヴァントの矜持たるを述べる。告げられるクラスは、セイバー――。

「セイバー、セイバー。……フフフ、当然ね。この私が使役するサーヴァントだもの、最優でなくては。これで私の勝利も磐石で――ん、こほん。失礼」

少しばかり舞い上がっていたシャーロットは、一つ咳払いをする。名家の跡取りたるもの、相応しき振る舞いをしなければと己を律し、再び口を開く。

「そう、――と言うのですね。私はシャーロット。二千年続く、由緒正しき魔術の大家たるソフィアテラの次期当主です。……尤も、貴方にとっては使役されるべきマスター以外の何者でもありません。必要以上に畏まらないように。良いですね」

礼儀には礼儀を返す。己の名を告げ、差し出された手を優しく握り、親愛を示す。セイバーの手は冷たく、まるで冬の寒気のようだとシャーロットは感じた。

「では、今後の相談を――する前に、一つ」

手を離したシャーロットは、ぴっと指を立て、真剣な眼差しでセイバーに告げる。

「当然お分かりだとお思いですが、貴方は私の使い魔であり、"手駒"です。貴方の一挙手一投足まで、私の意のままにならねばなりません。私がこの聖杯戦争に勝利する為に、貴方の心、貴方の身を私に捧げなさい。さもなくば――……」

ちらり、と右手の甲に宿った令呪に目をやる。それは、マスターのサーヴァントに対する絶対命令権。文字通り、どんな命令であってもそれを使えばサーヴァントは従わざるを得ない。
さもなくば、それを使うことも躊躇わないとでも言うつもりなのだろうか――場の空気が緊迫し始めたところで、突然シャーロットがふっと笑う。

「――フフッ。なんて、冗談です。世の中にはその様に考える魔術師がいるのですが、私はそうは思いません。貴方が私の使い魔であるのは事実ですが、しかし、貴方もまた一個の人格を持った英霊の一欠片。抱く思想、理念は尊重されるべきと考えています。ですので、大まかな方針だけは従って頂きますが、その中で貴方がどう行動するか、までは口出し致しません。貴方なりの戦い方で、どうか私を勝たせて下さいますね、セイバー?」

悪戯っぽく頬笑む彼女の姿は年相応で、或いはあらゆる束縛を失えばそうなるのだろうか。だがしかし、シャーロットは魔術師である。少女らしい姿など、所詮は一側面に過ぎない。その本質は冷酷で、冷徹な、目的の為ならば手段を選ばない存在だ。今は見せずとも、いずれはセイバーも知る事になるだろう。その時に、果たして二人が今の様に協調出来るだろうか。それは、誰にも分からない事。今は、この出会いを祝福しよう。


――一人の少女と、一つの冬の、運命の夜が動き出す。

>>善意のセイバー

2ヶ月前 No.30

白熊けらま @tokyoapple ★4tVNp19FCY_Hhd

【 12月29日 丑の刻 柚木の空家 / 白峯のキャスター 】

 「―――東亜亜澄」

 トウア、アスミ、と己が主の名を噛み締めるように繰り返す。

 「宜しい。契約は成立しました。
  ……この時代の者は風流などには疎いと聞きます。感覚と云うものは時代によって形を変える。
  致し方ないですが、しかし私のマスターである以上少しは気に掛けて頂けると幸いです」

 キャスターは、再度の苦言を交えながら改めて主の顔を見た。
 体格は見る限りではそう一般人と変わらず、中肉中背という言葉が相応しいか。
 背丈はキャスター比べるとやや低いが、この時代の平均的なものよりは僅かに上。東洋人らしい薄めの顔立ち。
 くすんだ金の瞳は差し込む月を思わせて嫌いではないのだが、どうもその表情が引っかかった。

 亜澄と名乗った男は、畏怖や召喚の達成感よりも困惑の色を強く浮かべている。
 通常、魔術師は聖杯を得るという悲願達成のために英霊をサーヴァントとして喚び使役するのだと認識していた。
 聖杯戦争は次回が開催されるまでに数十年の時を要する場合もあると聞く、ならば召喚に驚くこと自体は珍しくもないが。
 しかし、彼の浮かべる表情は、自ら喚んでおきながらサーヴァントの存在すら今の今までまるで信じていなかったような―――

 「―――……成程。魔術師(キャスター)の主が魔術の素人とは。
  その様子ですと、そも聖杯とは、聖杯戦争とは何かと云ったところから始めるべきでしょうか」

 亜澄はどうやら魔術に関しての知識は殆ど持ち合わせていないようである。聖杯という単語にも首を傾げていた。
 サーヴァントを現せて従えるということは、即ち聖杯戦争に参加するということだ。
 この段階で前提の知識をも持っていないということは大きなハンディキャップとなる。
 本人も辛うじてその自覚はあるようで、こちらが言葉を発する前から―――やや芝居がかった仕草で―――眉を顰めて教えを乞うた。
 対価として基本的な振る舞いはこちらに委ねるとまで付け加えて。キャスターは小さく息を吐いた。

 魔術の素質が一切ない人間は聖杯に選ばれることもない。感じられる魔力の供給も微力乍ら安定しているように思う。
 彼は基盤となる回路はきちんと有しているのだろう。偶々魔術とは縁遠い人生を送ってきたのか。
 それで居ながら魔法陣を描き、恐らく正規の手順に従って召喚を行った。何処かで手順を知ったか、何者かに教わったか。

 「……簡潔に申し上げますと、聖杯戦争は英霊をサーヴァントという使い魔の枠に押し込め、それを使役する魔術師たちの殺し合いです。
  聖杯はその勝者に与えられる、どんな願いでも叶える聖遺物……響きは陳腐ですが、現にこうして私が立っているのも聖杯の力に依るもの」

 「サーヴァントは七騎―――剣士、弓兵、槍兵、騎兵、魔術師、暗殺者、狂戦士の内いずれかの位に就いており、私はキャスターのクラスで現界しました。
  基本的にはそれぞれにマスター、貴方のようにそれを召喚した主となる魔術師が存在するので七騎七人。計14人の戦争ですね」

 ここまでは宜しいでしょうか、と一言を挟むものの返答を待たずに説明を続ける。

 「使い魔と謂えど元は英霊、多種多様な者が居ります故、中には指示に従わない者も居りましょう。
  そういった場合にサーヴァントを縛るものが、聖杯から齎された令呪と呼ばれる刻印です―――貴方もお持ちの筈。
  一画消費するごとに絶対服従の命令を発動し、他にも遠距離から即座に呼びつける、魔力を爆発的に向上させる等。
  便利な代物ですが、三画全てを使い切れば聖杯戦争の参加権を失います。乱用はお控えください。
  ……一先ずお教え出来るのはこんなところでしょうか」

 これだけ知っていれば充分だろうか。細かい部分は追って話していけば良い。
 ゆったりとした話し方ではあったものの元々多弁な方ではないため、簡潔に淡々と説明することを選んだ。

 そこでふと先ほど彼が言いかけていたことを思い出し、お返しとばかりに問いかける。

 「聖杯が何かも知らずに貴方が召喚を行った理由は存じ上げませんが、これから命を賭した争いに身を投げ打つのです。
  聖杯戦争に参加したくないと云ったところで他の魔術師には通じないでしょう。明日にでも命を狙って来ます。
  サーヴァントは消滅したところで死ぬ訳ではありませんが、貴方は違う。願いの一つでも表明したところで罰は当たりませんが」

 聖杯への願い。勿論知らないままでも共闘関係で居ることは出来るのだが、キャスターは興味を抱いた。
 他人すら容易く殺める、力有る男の願望。他者への興味も薄い利己的な彼は、一体何を考えて争いに足を踏み入れるのか。

>東亜亜澄

2ヶ月前 No.31

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【12月26日午前6時30分/本土・東京神宮境内/神託のアーチャー】

神代とは平たく言って動乱の時代であった。神代が終わってからも人間社会が荒れたことは多々あったのだろうが、神代はその比ではなかった……とアーチャーは思う。それゆえに、神と人との中継人であるアーチャーたち巫女や神官は重宝された。
だが、其処に個人として尊重されるような記憶はなかった。巫女は巫女であり、神託を受けとるための人間でしかなく、個人の名前ではなくその巫女たちを総括した名前で呼ばれた。アーチャーの真名が本名でないのもそのせいである。故にこそ━━━━彼女は、彼女のマスターたる氷雨が自分を一人の少女として扱おうとしていることに、感謝の念を抑えきれないのだろう。

「……ありがとうございます。そうおっしゃっていただけるだけでも、私は幸福者です。
━━━━ふふ、もしそうだったのなら、我が主たる太陽神は本当に私のことを思ってくださっているのかもしれませんね。我が主たる太陽神は、良くも悪くも多くの縁を結ばれております。その中で私が選ばれることなどほとんどないようなものなのに……嬉しい悪戯をしてくれたものです」

そっと聖遺物を手に取って、アーチャーはいとおしげにそれを眺める。月桂樹。それは彼女の仕える太陽神のシンボルであり、その巫女たる彼女の頭にも月桂冠が乗っている。いくら人間社会に神が干渉することを厭うアーチャーでも、神そのものを嫌っている訳ではない。手を出さずにただ見守ってくれているならば、アーチャーはそれで良いのだ。アーチャーが望むのは、あくまでも人智を超えるものの排斥ではなく、彼らの不干渉なのだから。
閑話休題。氷雨はアーチャーの言葉を全て聞き終えてから口を開いた。アーチャーが先程していたのと同じように、だ。彼女は話の途中で適宜意見するように、と言っていたので、最後にまとめるようにしたのはまずかったかしら、と少しアーチャーは反省したが、その反省は杞憂に終わった。そのため、アーチャーもきちんと氷雨の話を聞いてから意見を述べることにする。

「見聞きしたといいましても、私は話として人伝に聞いただけに過ぎません。ですので、他の英霊の方々の琴線に触れてしまうこともなきにしもあらず、といったところです。勿論十分注意は致しますが、彼らがどのような人生を紡いできたのか、私にはほとんどわからないと思います。出来るだけ彼らとは必要以上に波風を立てずに戦うよう、私としても善処いたします。
━━━━あくまでもこれは予感に過ぎませんから、この不安が杞憂に終わることもあるかもしれません。……ですが、どうしても、これからの私たちに試練と大いなる壁が待ち受けているようで仕方がないのです。これは私が生業としていた神託を授かる能力……に由来しているのかもしれませんが、絶対に正確なものではありませんし、ぼんやりとしたものでしかありません。ですがくれぐれも用心を、マスター。用心し過ぎて命取りになることはないのですから。
マスターに信じていただけるのなら、それ以上の喜びはありません。これよりは、あなたにとって善き英霊となれるよう、私も尽力して参りますね」

生涯を主たる太陽神の神域で過ごしたアーチャーは、あまり外界の情報を自分から手に入れることはなかった。その多くは、主たる太陽神からの神託の中で知るものであったり、神域を訪れる人々から口伝えに聞いたものであったりした。故にアーチャーは当時の世界において天地を揺るがすような大きな事件だとか、逆に日常的で些細なことだとか、そういった偏った情報しか知らない。言ってしまえば一か百か、なのだ。戦禍の絶えない時代であったからその辺りについてはよく聞き及んでいる。後に叙事詩に記されるような事件も、アーチャーにとっては“何処か遠くで起きた出来事”くらいの距離感であった。
そしてアーチャーが危惧する予感。それは彼女の有するスキルである千里眼によるものだろう。あくまでもぼんやりとした予言に過ぎないのだが、それでもアーチャーは懸念せざるを得ない。特にマスターの身に関わることならば尚更だ。出来るだけ大事にはならないで欲しいというのが正直なところだが、聖杯戦争ではそうも言ってはいられない。アーチャーの顔は僅かであるが憂いに翳った。
━━━━が、氷雨からの信頼を得られたことにはそんなアーチャーの表情も自然と綻んだ。当初は、ただの巫女だった小娘に何が出来るのだと責められても可笑しくはないと覚悟していたのだ。こうして信じてもらえるだけでアーチャーは嬉しい。マスターとの信頼関係について心配することはなさそうだ。

「わ……わかりました。しかし、戦闘においては僅かな情報の漏洩が命取りになることもありますので、私が慣れるまではマスター、と呼ばせていただきます。……いえ、嫌ではないのです。ただ、あまり慣れていないものですから。本当に、本当に大丈夫な……戦闘のない場合には、時にあなたを名前で呼ぶこともあるかもしれません。
私の真名━━━━ですか。申し訳ないのですが、そういったものは神代に置いてきてしまいました。ですが、そうですね。もしもこの聖杯戦争に勝つことが出来たのなら、その時にでもお教えいたしましょう」

アーチャーは自分の━━━━彼女個人として名付けられた名前を、決して忘れている訳ではない。だが、デルポイで巫女となった時に、そういったものは己が内に仕舞い込んでしまった。自分は巫女の一人なのだから、と。だから聖杯戦争に勝つまで、彼女は個人の名前を名乗るつもりはない。己が願いを叶えてこそ、自分は一人の人間になれるような気がして他ならないのだ。

「マスター、あなたには多くのことをご教授いただくことになるのでしょう。私に対して此処まで心を砕いていただけること、心から感謝いたします。マスターのご厚意を、決して無駄にはいたしません。この体が砕け散る時まで、私はサーヴァントとして、あなたを護り続けましょう」

にこり。アーチャーは微笑む。この先、何が待ち受けるのかはわからない。だが━━━━だが、このマスターとならば、勝利を目指しても良いと、たしかに彼女はそう思えた。故に、アーチャーはマスターたる氷雨を護ると決心する。この聖杯戦争を勝ち抜き、人のための世を実現するために。

>>相見氷雨様

2ヶ月前 No.32

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/破魔のライダー】


 ……面倒くさそうなやつだ。

 言葉にはならなかったが表情には丸見えだっただろうか。昔から嘘は嫌いだし、世辞の類もどうも苦手だった。火を見るより明らかに、この少年からぼくへの第一印象は、最悪、それに尽きる。こちらを睨みつけるその表情、『勝って当然』という言葉の端々からも、底に穴の空いたバケツかというくらい零れ出ている。だがこれで諦めたらぼく達に勝利は無い、戦争とはそういうものだ。結局最後の最後は精神力に頼らざるを得ないし、それの原動力は怒りや敵愾心や絆や愛。『ぼくが英雄である』というだけで勝てる戦争ではないのだろう。……さて、どうすればいいものか。

「そうか、ウーノか。良い名だな」

 ウーノ・マスグレイヴ。その名を心の中で何回か繰り返した。……灰野レイ。……偽名? なぜ? ……現代とはそういうものなのだろうか、それともウーノが特殊なだけなのか。(ぼくも灰野なんたらなら、ウーノ──いや、レイの兄ということになるのか?)と、適当な名前や、先程ウーノが発した『設定』という単語に、おとがいに右手を当てながら思考を巡らせる。

「ああそうだ、拠点も気になるが、それより前にひとつ聞いてくれ。とても大事なことだ」

 ぼくに背を向けせかせか歩き出した小さな背中を、数歩そちらを追いかけながら呼び止める。

「ぼくがどういう"英雄"かは知っているか? ……聖杯戦争のことは知ってはいるが、どうしても気に入らないことが多すぎる。そのことについてだ」

 先程との柔らかで自身に満ちた面持ちとは違う。キッと細められた目、引き締まる口元。先程にくらべいくらか抑揚が少なくなった声のトーンからひしひしと伝わる、青年は『真剣』そのものだった。


「ぼくは『誰も殺さない』」

 ──誰も、殺さない。

 聖杯戦争のルールはよく知っている。サーヴァントより生きた人間である魔術師を狙った方が効率良く戦えるのも、ある程度は察していた。それでも、こうやって宣言したのだ。『必ず勝つ』、そして、『誰も殺さない』。

「ぼくは最後の一騎のサーヴァントになる。でもウーノ──いや、マスター、君は7人目だ。……ああいや、これは比喩みたいなものだから、他のサーヴァントから殺されそうになったマスターを保護するとか、そういう意味ではない。……未来ある命をこの手で葬ることは、ぼくには"できない"」

 「やりたくない」ではなく「できない」。令呪で命令されたりすればそういうこともするのだろうが、逆に、そうではない限りは絶対に、と。「できない」という部分には、特に、強い意志が込められているようで。

「これだけは、いくらぼくが君に仕えるサーヴァントだとしても、どうしても譲ることはでにない。外道や下衆だって、正攻法では可能性の無い勝利のためなら仕方ないだろう。しかしそれを、ぼくは絶対に許さない。なぜならぼくはそういう英霊だからだ」

 ……ぼくは、"生きたことの無い"英雄だ。歴史には存在しない、物語の中の存在。ぼくは『人間』としての自由だったり型から外れたりする思考や行動はできない、ぼくは文字に書かれた『英雄』だ。人の信仰がぼくの存在を形作り、その信仰がぼくを英霊の座に着くことができるサーヴァントたらしめる。
 ……こういう考えが、受け入れられないとするなら。ぼくの願いなんて自己満足の些細なことだ、ぼくという存在を捻じ曲げてでも叶えたいものでは無い。返答次第では……と、マスターを試すような目で睨めつけた。

>>ウーノ

2ヶ月前 No.33

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6時頃 七日野中央教会周辺/虚妄のバーサーカー]

 人が恐れ怖がる様はきっと英霊として人の体を得る前も多く見てきたのだろう、だなんて意志を持ち合わせていなかった頃の自身を思い返す。悪い気分はしないが、気持ち良いと言うほどでもない。自身を恐れている相手が自分のマスターだからだろうか。怖がらせるために言葉を発したわけではないが、彼の言葉に疑問が浮かんだのだ。確かめねばと狂戦士の何かが動いた気がした。
 彼の願いに笑うことなどありはしない。だからそれを彼自身が一番に否定しかけたことが──悲しかった、という感情は正しいのだろうか。彼に悲しい、悔しい、と言えるほどまだ彼を知らない。どんな感情も同情も偽物になってしまうことが心に引っかかる。そんな中、戻った前髪の隙間から見つめていると彼が小さく謝罪の言葉を述べた。

 一番聞きたくなかった返答が謝罪であった。鉛のように重く、灰色のため息が口から長く長く吐き出された。呆れた。呆れた。呆れた。疑いから少しだけ残っていた糸が切れた気がした。彼は一体何に、誰に謝ったのだろう。どこかへ向けられた謝罪は冷える空気へと溶けていってしまった。
 その謝りは願いを疑ってしまった自分へか。願いを笑うと思ってしまった彼女へか。または願いそのものへか。そのどれだろうと関係はない。気にする必要もない。
 彼は今ここで死ぬのだから。自らが喚んだ英霊の手によって首を絞められ、首の骨を折られ、抵抗する暇もなく、恐怖に歪んだ顔で。字のごとく、書いて字のごとく、読んで字のごとく“ 夢半ば”で死ぬのだ。

 願いは口にするだけならば誰でも出来る。そこに叶えてみせるという覚悟、如何なる犠牲も問わない決意を付け加えることが出来るかは人次第である。わざわざ狂戦士を喚ぶほどの人物がどれほどかとも思っていたが彼女の心は急速に降下して行った。
 致し方ないと一度離れた相手に再度一歩近づき、粘土のある黒い空間からずるりと引き抜くように手を動かして相手の首へと伸ばそうとした時。

 彼は言葉を続けた。手を下す必要はないと。ほぉ、と疑問符に怒りと興味と少しの喜びと期待が交じる。喚ばれた時と同じ、強い意志がこちらに向いていた。深淵を喚び、正面から見つめる彼は先程まで見せたどの顔とも違っていた。
 分かってはいた。数千年の叡智を怖そうという願いはちょっとやそっとで思いつくものではないことぐらい。だからそれを願わずにはいられない何かが彼にはあったのだろう。ただの興味では命を掛けた戦争にまで乗り込まない。覚悟がないわけがない。決意などとっくにしていたはずだ。彼女かこの世に意思と人の形を成した時に、虚妄を望んだ事と同じように。
 伸ばされた手は行き場を失うと深い闇へと還るようにそっと下げられた。

「……大変申し訳ありませんでした。私とした事が貴方様を疑ってしまいました。──本来ならば目玉の一つ抉って貴方様に差し上げるか、腕の一本、足の一本折らねばいかぬ失態ではありますが」

 自身の目、腕、足を順に触った彼女は一度言葉を区切ると視線を顔ごと、足元へと来た烏へと移した。確かに烏ではあるが、烏ではない。明らかに野生とは違う気配、魔力を感じる。溢れ出るそれはおそらくわざとであり、見落とされないように強く込められたのだろう。
 彼も小さく、戦争が始まったのだと述べた。いくら戦争と言えど報せは来るのかと思ってしまう。これより以前に仕掛けたところで勝てば官軍が覆るわけではないが、ここからは大手を振って攻めいることが出来るのだ。

「開戦となりますと、私が損傷しているのは危険ですね。このお詫びはまたの機会にさせていただきます。……そうですね、早速探索を使ってルーンで近くの相手に攻め入るのも……否、流石にまずはこちらの拠点への到着を優先するべきでしょうか……」

 相手の視線に合わせるように彼女も相手を見た。口元に手を添え、ぶつぶつと言葉を虚空へと投げる彼女もまた彼と同じように悩むことを楽しむようで新しい玩具を与えられた子供のようにも見えた。

>>メリル・マリア・アトウッド

2ヶ月前 No.34

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月29日 午前2時頃 柚木の空家/東亜亜澄】

 なるほど、契約。つまり、おれとこの男の間に、聖杯戦争とやらのため、互いの利益のたに共闘する契約を結んだ、ということになるのか。

「ああ……風流ですか。そういうのとは縁遠いところで生活してたんですが、ああ、はい、努力はしますね」

 先程から、この男の態度は鼻につく。きっと、魔術師などとは決して言えないような俺が魔術師を使役するのは本来有り得ない──いいや、事実こうやって有り得てるのだから、かなり珍しい、但し歓迎される珍しさではない、ということか。

「ふぅん……」

 聖杯戦争のルールだけでなく、おれが説明を求めていないだけで全く理解していなかった、その他の説明までしてくれるようだ。こちらの怪訝とか唖然とか、そういう表情を汲む、汲む気は存在するようだ。サーヴァントやら英霊やら聞いて、てっきり人間なんか相手にしないものだと思っていたが……。

ここまでは大丈夫か、という問いに頷くだけで答える。聞いたことはあるが聞き慣れてはいない言葉を、とりあえずそのまま、理解は置いておき、記憶する。男は自身をキャスターと言った。

「令呪」

 れいじゅ。全く知らない──いや、向こうにいるときに1度くらいは聞いた気がするが、その程度だ。小さな声でその言葉を繰り返す。……なるほど、絶対服従。つまりおれがこれを持つ限り、この男──キャスターを支配、更に、令呪はおれにとって、キャスターの行動をある程度制限できる保険にもなる、ということか。

「ええ、とりあえず、言われたことだけ。アンタがそれだけの情報を最低限、と思うなら、一先ずは」

 目を細め、なんとなく、理解したとは言えないが、とりあえず情報として取り込んだことを。

「……願い、ですか」

 どうやら、この男の口ぶりからするに、聖杯といのは本当に『なんでもできる』らしい。つまり、おれの願いは、それこそ『聖杯戦争で命を懸けてまで』叶えることではない、ということか。いや、どういう方法を取るにせよ、命が懸かることには間違い無いんだから、犠牲──いや、駒を最小で済ませられるように、といことか。

「おれの願い……いや、目的って言った方が近いですかね。目的は、七日野港の制圧です。でもあんたのその言い方じゃ、どうやら他の兵士──参加者? は、命を懸けていいほどの願いを持ってここに集った、と。こんな『別に聖杯戦争じゃなくてもいい』願いとは比べ物にならないくらい」

「逃げられないってなら、おれの願いはそれよりも優先して、『死なないこと』です。形の通り、カタギじゃない商売人の癖して、生存本能だけは人一倍強いんで」

 ──とは言うのに、ポケットからタバコとライターを取り出し、流れるような慣れた手つきで火を付け煙を吸い込む。のは、結局自分を殺すことにならないのか。と、いつも言われるのだが、それはそれ、としか言えないのだが。

>>キャスター

2ヶ月前 No.35

一條 癩蔵 @casebycase☆0c9nqQGSPbs ★C8xv3x058Y_Oem

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/一條 癩蔵】

露わになった腐敗した半面、刹那見開かれる碧眼に一瞬の揺らぎを感じる。されど表面上はランサーに大きな動揺は見られず、そこは流石と言ったところだろうか。もっとも此方としても情に訴えかける手法はあまり好んでおらず、その点ランサーから向けられる憐憫も嫌悪も含有されていない視線がある種心地よい
と、自らの眉間に据えられていた切っ先が揺れる。添えていた手がやんわりと離される。ランサーの介助があったとはいえその重量は触れていた癩蔵にも伝わっている。それが音も無く退かれ流麗に納められる。そしてその一連の所作には無駄な力みや滞りが一切感じられないのはランサーの持つ膂力が規格外であるという何よりの証左なのだ

『……貴方の願いは確と聞かせて頂きました。貴方の意思を届けるべく聖杯への道を切り開く槍として、此度の生においては我が忠義、貴方へと捧げましょう』

深紅の装束を翻し、忠義の槍士が跪く。信頼を勝ち取った、とは言わない。ただ一時とはいえ主従としての盟約を取り付けたのはやはり大きい。かの者は誉れ高き■■の騎士。例えそれが契約、利害一致故の仮初の忠節であったとしても彼は決して裏切らない。此方からの離別を言い出さない限りは、あれは決して裏切れない。そういう観点から言っても彼は従者として申し分ない存在なのだ

「分かった……俺の命運、お前の刃と忠に預ける。勝利を我が手に、奮起しろランサー。それと、その宝具に関しては今のところ使用の想定は無い。当初の定石通り、この戦を勝ち抜くことでこの身体の賦活を図る」

視界の隅、召喚の触媒となった■■の欠片がチラリと映る。此度聖杯戦争参戦にあたって依頼主より託された幻想の足跡。曾て古の兵どもが集った騎士の殿堂。自身と紅の騎士の縁を繋いだ聖遺物。召喚に用いられる触媒が複数の英霊たちとの縁を持つものであった場合、招かれる英雄は召喚者たるマスターの性質に
彼が名乗る真名は青年も聞き及ぶところだ。曰く主である王より■■の探索を拝命した騎士。曰く■■の担い手。解呪を乞い、嘆きを鎮める為の旅路を歩んだ彼が召喚に応じたのは宿命だったのだろう。成程、騎士なんぞとはウマが合うはずも無いという認識だったが、今回ばかりは依頼主の御節介にも礼を言う他ない

「監督役からは未だ声はかからんが、俺は他の陣営よりも一段早い段階でお前を召喚した。開戦までまだいくらは時間があるだろう……さしあたってだがお前には地理の把握と調査を任せる。聖杯からの知識もあるだろうが、今はこの現世を目に焼き付けておけランサー」

開戦までには時間があるが、実際に召喚してみない事には自身の魔術が機能しているか実感として掴み難い。この一か月はそういった意味での実践と調整の期間だがその間にサーヴァントを遊ばせておくのも理が無い話しなのだ。ランサーはさして外れてはいないが、英霊の中には精神構造がマスターたる現代人と大きく乖離したものがいることも事実だ。ようは価値観の摺合せ、聖杯から現代の知識を授けられているとはいえこの作業は肝要だろう

【返信遅くなり申し訳ない!】

>深紅のランサー

2ヶ月前 No.36

たますだれ @zfrower ★Android=4gOqpaO6ow

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2ヶ月前 No.37

雪鹿 @class ★Android=435tdfZpEo

【12月2日 午前2時頃/七日野市南区 都立七日野浄水場/深紅のランサー】

 確たる目的の元に銀嶺が如き静けさの中で、何時か見た炭を焼べた暖炉が如く熱を感じさせる黒き瞳と意志すらも届かぬ白濁の瞳。それは決して見た事が無いわけではない。同じとは言うまいが、それでも似た物は見た事がある──それは敵国の戦士であったか、民の一人であったか、あるいは武勇を競った好敵手でありながら、肩を並べたかつての同胞の一人かもしれない。
 ただ、そのどれであったとしても眼前に立つ彼とは違う事だけは確かだろう。先入観というものは矛先を曇らせる。故に、主君たる彼を信じるのみだ。彼を信じ、道を違う必要の無いように正しき道を切り開けば良い。

「そうでしたか。であらば、過ぎた真似を失礼致しました──ええ、我が誇りに懸けて」

 聖杯という奇跡に託す程の切なる願いを叶える宝具ならば何時かは使うのだろう、そう覚悟していたからこそ相反する答えを意外とは思えども、万が一の思惑は勘繰る事無く素直に受け入れ、碧玉に見紛う瞳を静かに閉じて僅かに頭を下げ、要らぬ節介を詫びた。後に、一層猛く熱を昂らせる瞳を向け、奮起の命に呼応する。
 ふとマスターの視線が僅かに移ろい、その先を同じようにちらと振り向けば、幾度と無く見た物の一片が其処にあった。見紛う筈もない──しかし、そうか。やはり、■■は滅んだのか。あれが此処にあるという事が事実だと改めて痛感させられる。
 その最期を見届ける事が出来なかったが故に何処か薄くあった実感。一つの物が在り続けない事は知れども、何処か口惜しくもあったのは事実だ。されども、こうして現世にまで保管が為されていた事実が物語る。我等が誇り、そして彼の理想は決して無為に帰した訳ではない、と。

 そんな思いを馳せていると主君である和洋折衷と呼べる装束を纏う彼が口を開く。後に時間の取れるであろう想いに暮れるより、主君の命を聞き逃すまいと気をそちらへ向け直し、顔もそちらへと向ける。

「成る程、それはありがたい。私としても、知識ではなく経験として戦場となるこの地を知りたかったものですから。その命、慎んでお受け致します」

 既に瞳が映す熱は平常へと戻り、毅然と在りながらも表情は害意無く柔らかく。そうありながら、知る筈の無い現世を、そして此度の戦場を真の意味で知るという命を受諾した。
 現世が如何なる物なのか。知識として知れども見なくては真価は分からない。ましてや、戦場とするならば情報としてではなく経験として地を知るべきだ──と、誰かさんも言っていましたしね。

 すると、思い立ったように触媒となった欠片の元へ歩き、それを持ち上げて再び立っていた場所へと戻る。外へ出掛ける前に、それの在る場所を明確にしておくべきと思ったのだ。

「マスター、これは貴方が持っていてください。然したる力は無いでしょうが、ちょっとした御守り位にはなるやもしれません──なにせ、これは我等騎士の象徴なのですから」

 掌に乗せたそれをマスターである癩蔵へと差し出し、その顔に麗らかな春の日射しに近しい穏やかな微笑を湛えた。その姿勢は白銀の槍を携えるままにあっても一切崩れる事はなく、張りぼてであるかのように重みを感じさせない程にあった。
 今は力無き我等が時代の一端。しかし、かつては辛苦を打ち破り民を守り抜いた我等が象徴。であらば、御守りとしても問題は無いだろう──まあ、所詮は気休めですし我等が騎士も決して一枚岩では無いので効果があったとしても保証はしかねるのですが。なんて、苦笑を内心で僅かに漏らす。

 それに、これは更に受け継がれるべきものだ。我等へ切に助けを求める者が居る限りは、騎士としてその声に応える事に何の躊躇いがあるだろうか。少なくとも、この私にはない。それが正しき願いならば。

>一條 癩蔵様

【いえいえ、どうぞお気になさらず!!】

2ヶ月前 No.38

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/破魔のライダー】

 ……やはり、か。
 こういう考え方が受け入れられないこともある、自分の中では分かっていたはず。それでもこのぼくへの反感を隠そうともしない態度を見れば、わかってしまう、歓迎されていないのは火を見るより明らかだ。

「正気に決まっているだろう。ぼくは決して嘘はつかない」

 半ば呆れたかのように、一度はぼくの正気を疑い訂正したその台詞に被せるように返した。先程までの険しい目線はいつの間にか緩んでいた。やはりぼくは表情筋を強ばらせたまま保つのが苦手なようだ。
 正直、令呪でも使って従わされると思っていた。本来ぼんやりとした命令には効果が薄くなる令呪も、優秀な魔術師であれば、そんな具体性に欠けるような命令さえも強制させることができる、らしい。ぼくの炉に流れる魔力の量は非常に多い──だから、この少年が「この歳では考えられないほど」ではなく、「魔術師として」かなり高位の存在であることは分かっていた。そういう訳で、やや上から目線なのが鼻につくが、「譲歩しよう」と返ってきたのは、少し意外だったんだ。マスターとの契約を破棄して折角限界したのに座に逆戻り、なんてことにならずに済んだのはとても嬉しい!

 ……そうか、そうか。本心で受け入れたかはともかく、こういうことをわかってくれるのなら、きっとぼくたちは良い関係を築ける。友、兄弟。懐かしい感触、もう一度手に入れることができるだろうか。これから始まるのは人間を相手にした戦争なのに、胸が高鳴る。兄弟と往く道は、何よりも心躍るものだったから。

「他? ……そうだな、ぼくがどういう英霊か知っていたのなら、話は早い。ぼくは現代には色々思うところが多い。ぼく自身気に入らないものや考え方は、いくら君がマスターでもその都度否定する。

 ああ、あと、言わずもがなだが、誰も殺さない、というのには君も含まれている。家だとか夢のためだとか、そんな理由で命の幕引きだなんてことは言わせない────ああ、そうだ!」

 そうだ。大事なことを聞いていなかった。ぼくもウーノも、『それ』のために、この七日野の地で出会ったんだ。ぼくはそれを言った。ならば、ぼくだって教えて貰えるはずだ。階段に一度足をかけられるくらいに、ぼくたちの距離には間があった。だがしかし、話すなら、やはり手の届くくらいの距離がいちばん良い。

「君の願いだ。何かあるはずだろう? もしよければ教えてくれ」

>>ウーノ

2ヶ月前 No.39

たますだれ @zfrower ★tP0oGcL4Sz_keJ

【12月23日午後4時過ぎ/七日野市北駅近郊集合住宅地/ウーノ・マスグレイヴ】

 基本的に自分の感覚が世間、魔術の神秘を忘れたその他大勢のそれとはズレたものだという自覚がある。それは魔術師だからだ。神秘を追い求めそれ以外を切り捨てる求道者。といえばずいぶん高潔な在り方に聞こえるが要するに我欲のために人道から片足踏み出した気狂いのことを指す。が、マスグレイヴの同調魔術は他であり多の認識と感覚を根源への入り口と定めたために移り変わる世間の感覚も重視し取り込むことに躊躇いがない。だから自分も魔術師という道が気狂いのそれと変わりないと判じるだけの「一般感覚」も持ち合わせている。そのおかげで殺しを忌避するライダーの感情は多少なりとも理解はできる。ただ厄介なことに、すでにおおよそを受け継いだ魔術刻印の影響で自分の思考とは関係なくその場になじむように感情が傾いてしまう。つまりは、だ。召喚後間もないにもかかわらず、なぜか機嫌が良さそうにも見えるこのライダーの、底抜けの善性にさっそく影響されかかっている。
 これはよくない。非常によくない。時計塔では周りはどこを見ても魔術師ばかりだったから自分の芯の部分まで影響を受けるようなことはなかった。それなりにお人好しのやつらもいないわけではなかったが、その本質が魔術師である限り人の道をまともに歩けているような奴がいるはずもなく。おかげさまで『魔術師らしい』態度を保っていられていた。それが少し甘っちょろい英霊を召喚しただけでこのざまである。七日野に到着して以来何かを口にしたわけでもないのに、口の中に苦い何かが広がる感覚がした。

「願い? ――ああ、願いね」

 魔術師であれば当然、目指すものは一つしかない。だがそれを口にしようとすると何かがつっかえる。ほんの一瞬、息が止まったような気がした。
 この程度で言い淀む姿を見せてさらに侮られるわけにはいかない。軽く咳払いをして「ンなもん決まってるだろう」と肩をすくめてみせた。

「聖杯がどこまで万能かは知らないけど、6騎を叩くだけで根源に至れるならこんなに楽な話はないだろう」

 だろう、と問いかけるような言葉だが肯定も否定も求めるつもりはない。過度なコミュニケーションはおそらく自分にとって不益をもたらすだろうという予感があった。彼だって戦争が終わり願いをかなえてしまえば今この瞬間の記憶も記録以上の意味を成さなくなるのだ。ライダーには悪いが最低限距離をおかせてもらおう。戦いに支障が出ない程度に険悪に。しかし目指すのは命を殺さない完ぺきな勝利。予想以上の難題だが、やるしかないだろう。

 ようやく腹もくくれたのか、これもライダーに影響されたのか、こわばっていた表情筋が多少緩む。

「せっかくの縁だ。お互い自分のためにうまくやっていこうぜ」

 険の和らいだ表情と声音でウーノはライダーに言うと、こんどこそ拠点の案内のために先だって階段を上がっていった。

>>ライダー
【5月1日ということでいったん区切り?になるように書かせてもらいました。邂逅としてのこちらからのレスは以上になります】

2ヶ月前 No.40

白熊けらま @tokyoapple ★iPhone=RGAcSVe0GA

【 12月29日 丑の刻 / 柚木の空家 / 白峯のキャスター 】

 呆れたような苦々しさを僅かに、しかし露骨に滲ませながらの返答。
 Servant(召使い)として喚ばれた者が有ろう事か自らが主だとでも云わんばかりの態度なのである。当然の反応だ。
 しかしキャスターもそれを不敬と怒るでもなく、矢張り態とらしい柔和な笑みで頷いた。

 キャスターも本来はこのような捻くれた性格ではないのだが、彼には少々特殊な事情があった。
 宝具による性質の反転───謙虚で物静かなかつての皇は尊大で傲慢な独裁者と成り果てている。
 傍らに転がる哀れな死体を見ても動じない、精神汚染スキルまで持った姿。
 皇の位も複雑な事情から名ばかりのものだった為、落ちぶれたとまでは云わないだろうか。
 強要された訳でもなく他でもない自らの意志で魔道に堕ちた人間、それが彼の男であった。
 とは云え完全に歪んでしまった訳ではなく微かに元の人間性は残っているのだが、それが却って痛々しい。

 「───器量は悪くないようですね。安心致しました」

 意外なことに、キャスターは亜澄の素性に関して、少なくとも彼に魔術の知識がないことに関しては特に厭な感情は抱いていなかった。
 マスターが半端に魔術の知識や経験を持っていると、自らの格を勘違いして勝手に指図して来るような事が在っても怪訝しくない。
 その点好きに動かせてくれるという亜澄は好都合であった。偉そうな能無しは一番嫌いだ。
 諸々の基礎知識を伝えたのもこれからの開戦で訳も分からず死なれて敗退、なんて間抜けな事態を避けるためである。
 恐らく彼には初めて耳にする単語だらけだろうが、反応を見る限りそれなりに呑み込めてはいるようだ。
 こんな素人にさァ今から熟練の魔術師どもに対抗しろと云うのも酷だが、多少の心の準備ぐらいは出来るだろう。

 「ええ、真逆ここまで私と話しておいて令呪も無いなんてことは……良かった。ほら。歪ですが立派な図柄ですね」

 ちょっと失礼、などと呟きながら断りもなく亜澄の手を取る。
 甲に刻まれた紋様を見つけると、薄く微笑みながら細い指で印を撫でる。長い白髪が揺れ、落葉の香がふわりと漂った。
 兎にも角にも一言皮肉を挟まないと気が済まないのか、それでも触れる手つきは柔らかい。

 令呪にはその持ち主の魔術師としての規格、魔術回路の特性が反映されるのだと云う。
 形が線対称で整っているほど均衡が取れており、非対称であるほど不安定な性質。
 亜澄のそれは三日月を思わせる形───光の差す部屋に鈍い金の瞳。つくづく月に縁のある男なのだろうか。
 キャスターも燦燦と眩い太陽よりは死を彷彿とさせるような昏い冷たさを持った月の方が好きだった。

 不安定な性質であることは確定したが、今のところ魔力は問題なく供給されているようだ。
 キャスターの宝具による安定もあるだろうか。供給量が心許ないとしても当分の間は無問題だろう。
 ならば良しと手を放し、自らの“欲”について語る主の顔を見定めるように見据える。
 一体どのようなものかと不思議に思ってはいたが、矢張り聖杯戦争に懸けるにしては奇妙なものであった。

 「亜澄と云いましたか。……面白い方だ」

 先ず最初の目的として、この地にある港の制圧。
 そんなもの個人で勝手にやれと思うが、この時期に目立った真似をしたら他の陣営に邪魔をされる可能性も高い。
 サーヴァントという武力を持っていてもクラスはキャスター。港そのものを工房にでもしない限り迎撃には適さない。

 ───港なんて小さなものを求めて彼は慣れぬ英霊召喚まで行ったことになるが、その理由は話されなかった。
 正規の魔術師では無い、しかし易々と人を殺めそれに慣れることが出来る。彼に召喚の儀を教え、恐らくはその制圧まで命じた人間が居るのだろうか。
 そしてその人物は、この場に居ないうことは自らの手で動くこともなく、目的の為ならば亜澄の命すらも軽視する。逆らえない関係性なのか。
 『カタギじゃない商売人』と自称しているが、その実態は恐らくキャスターにとって碌でもない。
 内心で黒い澱のようなものが僅かに蠢く感覚がしたが、そこは追々尋ねていくとするか。

 次に彼が挙げた、彼をこの殺し合いに巻き込んだ当初の目的よりもさらに優先されるもの。
 他の者たちが人生を、命運を懸けて来るのだと承知した上での目的───キャスターは、それを聞きくつくつと笑みを零した。

 「成程。成程成程。……ふふ、そうですね、死んでしまっては元も子も無い」

 死なないこと。彼が聖杯戦争に臨む上での第一目的、最優先事項である。
 慥かに、港の制圧自体は道具などを用いればサーヴァント抜きでも充分可能なのだ。そちらは聖杯戦争が終わってからでも如何にでも出来よう。

 魔術師足るもの、聖杯への悲願の為ならば最悪自らの命すらも容易に投げ捨てるのだと云う。
 キャスターはそんなもの、愚鈍な贅としか思えない。
 使命、悲願、そんな曖昧なもののために自由な生を費やし、あろうことか棄てるだなんて到底理解できないことだ。
 亜澄の考えは魔術師でないが故にシンプルであった。目的を完遂するために、他の幾つもの願いを祈りを押し退けてでも。生きたい。

 「他人は所詮他人、己の命こそが最重要だとおっしゃるか。ええ、ええ、構いませんとも。
  聖杯云々に限らず、ありとあらゆる局面に於いて他を蹴落とし自らを肯定するのが人間の在り様。
  思う存分他者を踏み躙りましょう、その想いを砕破してやりましょう。気に病む必要などありません」
  .........
 この私が赦すのです───そう吼えながら、どこか吹っ切れたように大怨霊は破顔した。

 「善いでしょう!───東亜亜澄、貴方を気に入りました。
  我が名は■■■。この身に満ちる魔を尽くし呪いを尽くし、その命をお守り致します」

 キャスターは嬉しそうに己が主を覗き込んだ。警戒を伴った皮肉屋の皮は剥がれたようだ。
 亜澄の吸う煙草を興味深そうに眺めると、ひょいと箱から一本を抜き出して見様見真似で咥える。
 同じ行為を行うことで警戒を解き、取り敢えずは信用していくことを示す───そして、古今東西口付けは契約の証にも用いられた。
 手っ取り早いライターの火をねだることもなく、キャスターは迷わず亜澄の口にある煙草から微かな火を移す。
 よろしくおねがいします、その一言の代わりに煙の中で小さく目を細めた。

>東亜亜澄

2ヶ月前 No.41

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6時頃/七日野中央教会/時貞蒔苗】

 日曜礼拝の準備をしていた。聖堂教会から派遣された私であるが、一応は、この七日野中央教会で、神父としての仕事を果たしている。この教会を取り仕切る神父は別にいるので、あくまで私はその手伝い・勉強など、そういう体だ。

 ────そろそろ、と思ったいた頃。

 1ヶ月ほど前から、先週から急速に、その光は灯り始めた。そして、最後のひとつが、夜明けと共に。

「……始まるぞ」

 ポケットに入れた霊騎板をちらりと見る。7つ目。7つ目が灯った。

「すいません、ちょっと外に出てもいいですか。ええ、すぐに戻ります」

 共に準備をしていた神父にことわりを入れてから、まだ真新しく、重いが軋んだような音はしない扉を開ける。私が周囲を一瞥すると、屋根の上や、空にいた烏達が私の足元へ降り立った。

「魔力を辿って、正確でなくてもいい、怪しい場所の上空を飛んできなさい」

>>対象者無し

2ヶ月前 No.42

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_J3h

【1月1日午前6時00分/七日野市北区東部/氷雨の工房/相見氷雨】
 陽が昇る。新しい一年、新しい世界の幕開けを告げるかのように、太陽が世界を照らし出す。

 氷雨は初日の出を確認し、東方に顔を出した太陽に向けて二礼し、二拍柏手を打つ。そして両手を合わせたまま目を閉じ、一礼。願う事は、世界の平穏と、聖杯戦争への勝利。
 祈念を終えて目を開け、姿勢を正す。魔力を感じてふと視線をそらすと、烏が一羽、飛んで来ていた。普通は使い魔がこのように魔力を漏らすようなことは無い。その理由があるとすれば二つ、使役する者が相当に未熟であるか、あるいは『気付かせるため』。恐らく後者であろうと察した氷雨は、窓を開け、桟に烏を止まらせる。想定は正しかったらしく、烏は監督役である聖堂教会の神父の物であったらしい。それが今日来る理由は、一つ。

「―――ええ、承りました、と。神父様にお伝えください」

 聖杯戦争の開始を告げる知らせに、了承したと返す。それが形式的なものであろうと、その価値は大きい。
 今日からは、六人のマスターと六騎のサーヴァント、計12の願いを等しく退けて自らの願いをかなえるための戦いが始まる。勝てるか、と問われれば、やってみないとわからない、と答えるしかないだろう。アーチャーの戦力に不満があるわけではない。神の権能の一端さえも再現しうる彼女の戦闘力は、優秀とされる三騎士の一角たるアーチャーとして遜色ないだろう。問題は、他のサーヴァントとの相性だ。だが、それを言ってもどうにもならないだろう。

「アーチャー、まずは『カリ・フロニャ』、『フロニャ・ポラ』……で良かったかしら。発音が変かもしれないけど見逃してね。
 聖杯戦争、今日から始まったわ。今日からは一層気を引き締めていきましょう」

 一週間を現世で共に過ごした自らのサーヴァント・アーチャーに対して、まずは彼方流の新年の挨拶と聞いた言葉を告げる。こちらで言う所の『あけましておめでとう』『今年もよろしく』くらいの言葉でいいのだったろうか。彼方の言葉に詳しい訳ではないので、彼女から突っ込みを受けたら素直に受け入れるとしよう。
 次いで、聖杯戦争が始まったことを伝える。それは彼女がこの現世に召喚に応じた理由であり、現世に留まる理由。彼女にも今後は楽しむだけではなく『働いてもらう事になる』と暗に告げる。

「それでね、アーチャー。今だからこそ言うけれど、初詣に行きましょう。
 神様に、今年もよろしくお願いします、この戦いで勝ち抜けるように見守っていてください、って、そうお願いしに行かない? この国の流儀を貴女に強いることになっちゃうのは申し訳ないけれど」

 そうして氷雨は、何を考えているのかとアーチャーに言われてしまってもおかしくないことを口にした。聖杯戦争が始まったという事は、いつ敵陣営に依る襲撃が起きてもおかしくはないし、それが昼間に起こる可能性だって充分にある。それを加味した上で、氷雨はアーチャーにこの国の神事の一端を体験してほしいと思ったのである。
 此方の流儀で、とは言ったものの、その辺りはきっと合わせてくれると思う。きっと和服だって彼女に似合う事だろう。問題は彼女が行きたがるかどうかという事だけれど、首を横に振る事は無いのではないだろうか、と氷雨は予測していた。

>>神託のアーチャー(、時貞蒔苗)


【祝・開戦! という事で、改めてレスを投下します。今後の展開が滅茶苦茶楽しみです】

2ヶ月前 No.43

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

【1月1日午前6時00分/七日野市北区東部/氷雨の工房/神託のアーチャー】


━━━━日が昇る。

黎明の空を照らしゆく日輪に、神託のアーチャーはほう、と小さく感嘆の息を漏らした。やはりいつの時代でも、何処であっても、太陽とは自分の道標のようなものだ。其処にあるだけで心は安心と充足感で満たされるし、何よりも信じるものが其処に存在するという事実を身をもって感じられる。神々に叛するような望みを有しておきながら、と批判されることは承知でいるが、生前巫女という職業を生涯全うしたアーチャーとしては、その在り方をどうやっても己が生き方から切り離すことが出来ない。今で言うところの職業病のようなものだろう。神に仕えた上で身に染み付いてしまったものを病と称するのは主たる太陽神に不敬であると共に、アーチャーは職業病なんて言葉をほとんど使わないのでそういった考えに至ることはないのだが。

「……なるほど。この国では、あのように祈りを捧げるのですね」

己がマスターである氷雨の様子を見て、アーチャーは彼女の動作を一挙一動真似することにした。昇る日は同じであったとしても、その国にはその国なりの流儀というものがある。詰まるところ、郷に入っては郷に従え、という奴だ。アーチャーはこの一週間である程度日本の文化に慣れてきたが、やはりまだまだ知らないことは多い。しかし知らないからと言って自分の好きなように動いて良いとは限らないので、まずは形からでも入ってみるようにしている。
氷雨と同じように一礼してから、アーチャーは次いでその場に膝をつくと、そっと両手を組み合わせる。これはかつて彼女が祈りを捧げていた時のものだ。祈る相手は勿論、自分の主たる太陽神である。

「我が崇高なる太陽神よ、黎明を呼び起こす光よ。我が道のりを照らすこと、あまねく民を見守ること、地に恵みを与え給うこと、此処に感謝し礼と為す。その光を鎧い、我が光芒は万里を駈ける。願わくは、我がマスターに聖なる杯を与え給わんことを」

本来ならば、彼女が祈れば神託が下る━━━━はずなのだが、この状況を鑑みてか神託が下ることはなかった。ただ、一瞬だけ照る朝陽の暖かさがアーチャーを包み込んだ……気がした。あくまでもアーチャーがそう思っただけで、真偽は定かではない。だがアーチャーとしてはそれだけで満足だった。
祈りを終えた神託のアーチャーは立ち上がってマスターである氷雨のもとに向かう。どうやらアーチャーが祈りを捧げている間に聖堂教会から便りが来ていたらしい。此方を向いた氷雨は、まずややたどたどしさを含んだ、アーチャーの故郷の言語での挨拶をする。そしてこの日から聖杯戦争が始まったということを彼女に告げた。

「いいえ、いいえ。懐かしき我が故郷の言葉、とても嬉しいです。ありがとうございます、マスター。
ええ、とうとう始まったのですね。私としても心身共に引き締まる思いです。あなたを聖杯まで導ける光となれるよう、尽力致しますね」

にっこりと微笑んでから、アーチャーは聖杯がに向けての気概を告げる。どのようなサーヴァント、そしてマスターが参戦するのかはわからない。だが、まだ邂逅していないにせよ、彼らが一筋縄ではいかないことはなんとなくアーチャーにもわかっていた。なんとなく、そんな予感がしたのである。

「初詣……ですか。ええ、構いませんよマスター。いつまでも工房に閉じ籠っているのもよろしくありませんからね。もしかしたら動きを見せる陣営もあるかもしれません。戦闘に持ち込むのは夜になってからの方が望ましいですが、情報収集という点からすれば良い機会です。……それに、私も直接神殿の方でお祈りしたいですし。細かいことは、マスターにご教授願うことになるかもしれませんが……」

未だに神社と寺の違いをいまいち把握出来ていないアーチャーからして、そういった神事に纏わるものは全て神殿ということになっている。……まあ、深く突っ込まれることもないだろう。きっと真面目なアーチャーなら現地に行ってから学ぶことも多いに違いない。
ともあれ、これから初詣に行くことに関してはアーチャーも賛成である。作法などはまだわからないこともあるので不安だが、氷雨がいてくれるのなら問題はない。結果的に言えば、アーチャーは氷雨の提案に是とうなずいた。

>>相見氷雨様

【後れ馳せながら開戦おめでとうございます……!改めてよろしくお願いいたします!】

2ヶ月前 No.44

一條 癩蔵 @casebycase☆0c9nqQGSPbs ★C8xv3x058Y_Oem

【1月1日 午前6時頃/七日野市南区 七日野ダム/一條 癩蔵】

2040年、元日。新たな年の幕開けを祝うかのような快晴に中空は既に夜の暗さを忘れている。凪の東京湾に佇む人工島、朝の陽光の中にその威容を以て聳えるコンクリ壁があった。
七日野ダム。浄水施設にて放流可能域まで浄化された生活排水は此処に一度貯められ、一挙に放水することで発電する。人口増加、一般人の居住に伴い消費電力が飛躍的に増大した七日野市にとってこの施設は既に欠かせないライフライン一翼を担っているのだ

コンクリの壁面上、今は凪の水面を湛えた貯水槽の上方に海風に揺られる痩身。その半面を腐汁滲む包帯で覆う青年、些か以上に時代外れの外套を寒空に洗いながら癩蔵は待っていた。確信など在るはずも無く、故にこの行動に深い意味などありはしない。強いて言うのであれば勘、という他ないだろう。曰く虫の知らせ、曰く予感がする。常の人間なら一笑に付すような思いつき、それでも男が行動に移すには十分に過ぎる理由だ。この地平にあるは己唯一人、そんな矜持が男にはある。思いのままに生き思いのままに死す。己を、人をそう定義するが故に。一点の曇りもありはしない

そして男の信念に呼び込まれたかのように、男が待ち望んだそれは天より現れ

波音に紛れ空より降るは枯れた鳴き声と羽音。青年が差し出した腕にふわりと着地したのは一羽の黒々とした烏だった。理知を含んだ黒瞳、鳥類でも屈指の知能を持つ種類だがこうも人に慣れているのは不自然という他ない。危機感の欠如、否それは最初からこの人物は危険を齎す存在ではないということを知っていたかのような。それは飼われるにせよ餌付けされたにせよ、人為的な介入失くしては在り得ない人への過度接触。青年の勘働きの正統性が此処に証明される

『ナナキ……ゲンカイ、カクニン……ハジマル、ゾ。セイハイ――セン、ソウ』

黒々とした嘴が紡ぐのはしわがれた男の音声。まるで出来そこないの悪夢のような光景ではあるが魔術の知識がある以上は態々反応してやる必要すらない。用件は終えたとばかりに飛び立つ使い魔を見送る

「だ、そうだ。七騎の現界、これをもって聖杯戦争の開始とする。事前の約定通りだな」

陽光を背に遥か街並みの向こうまで消えていく影、視線はそちらに向けたまま青年は一瞥をくれることもなく背後へと言い放つ。依然ダム上には人影はただ一つ、風に嬲られゆれる青年の孤影のみ。だがそこには確かに在る。青年の傍、主を守るかのように侍る騎士。■■が誇る白銀の槍遣い

「とりあえずは騎士としてのお前の技量、手並み拝見といったところだな。この街は最早お前の猟場。使い魔で補助はするが方針は任せる。見事獲物を狩り出して見せろランサー」

――――今宵、深紅の猟犬が解き放たれた

>深紅のランサー、ALL

【開戦おめでとうございます。場面転換で蹴りレス気味になったこと申し訳ないですが、今後ともよろしくお願いします】

2ヶ月前 No.45

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日午前9時頃/七日野港埠頭/東亜亜澄】

「ふぁ……」

 晴天は、この目には堪える。ただでさえ、朝の9時なんてたいていは寝ている時間だ。──ああいや、生活習慣が不規則だから、たいてい、と言っても、ほぼ毎日そうだということもないのだが。

「ああ、すいません、この前は『アンタの好きにさせる』とは言ったんですけど、こっちの約束はアンタ来る前のやつで」

 欠伸をした口を閉じかけ、キャスターの方を横目で見遣りながら、思い出したように口に出す。あまり長い時間、この浮世離れした男と目を合わせて面向かって話すのは苦手だ。左手の人差し指中指の2本で持ったタバコ、その灰を、親指にとんとんと本体を当てて、コンクリートの地面に落とした。元から殆ど利用されず、更に祝いのムードで溢れる正月。こんな場所に来る人なんか殆どいないだろう。

「……久遠寺美命、本名か偽名かどうかはわかりません。恐らく日本人の年端も行かない女でしょうが、魔術ってものが存在するのなら、その年齢も怪しいでしょう。おれとは、本業の方で繋がりがありました。で、結構前……令呪出てきたあたりですかね。そんときに、お互い気が変わらなければ、まぁ気休め程度にしかならなさそうですが、協力しましょうねって」

 事務的に、淡々と、その『約束した相手』のことを述べる。ここまで述べたとこで、はぁぁ……、と長い溜め息。顔の右半分を僅かに歪ませた。煙が少なくなってきたタバコを地面に落とし、革靴の底で火を踏み潰す。

「……で、その会う時間はいつか、っていうのを決めてないから、こういうことになっています」

 僅かに歪ませていた程度の顔から力が抜け、先程よりも、更に長い長い溜息と共にその言葉は吐き出た。儀礼的なものであるが、あれは開戦通知、らしい。この目出度い日に戦争の始まりとは、なんとも皮肉なことだろう、とも思いながら、『会うならばこの日か』と、前に取引場所として使ったことのあるこの場所へ来た。

「相手にその気があったとしても、待ち合わせ場所と時間がすれ違っていたら意味無さそうですね。まぁ、気長に待ちましょう」

 近くにあったコンテナによりかかり、また新たなタバコに火をつけた。

>>キャスター(、美命、アサシン)

2ヶ月前 No.46

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_T0f

【1月1日午前6時頃/七日野市北区東部/氷雨の工房/相見氷雨】
 合っているかやや不安があったギリシャ語もちゃんと通じたらしいことに、内心胸をなでおろす。彼女の機嫌を取りたいとかいう訳ではなく、友人として彼女と接するにあたっては彼女の文化に触れることも必要だというのが氷雨の思想の一つだ。故に氷雨は意図的に彼女の母国語を喋り、それが受け入れられたことに対してほっとしたのであった。
 彼女の聖杯への意気込みに対して、多くの言葉を今更かける必要などない。ただ、『期待しているわ』という言葉と共に微笑み返す。彼女の(そして彼女の主神の)光の矢が、自らの望む結果への道標となるのであれば、それに従うのみだ。

「そうだよね、私も貴女も閉じこもるのが好きな性格じゃないものね。初詣を済ませた後、昼間のうちに、もう一度街に変化が無いか見ておきましょう」

 実際のところ初詣が断られるとはそこまで考えていなかった氷雨は、彼女の言葉に同意しつつ、更に街の巡回を提案する。何もなければ気楽な日向の散歩で終わる所だけれど、恐らくそう楽観視も出来まい。気の早いどこかしらの陣営が仕掛けるであろうことは必定であるとさえ言ってしまってもいいだろうけれど、それが自分たちであるとは思わない。
 ちなみに、もし仮にアーチャーから神社と寺の違いとは何かと問われたら、氷雨は『そこで何をするかの違い』と答えたであろう。前者は西洋の神殿と同様に神への祈りを捧げるための所であり、後者は宗教職にある者が修行をするための所だ、と解説したであろう。

「合わせるって言っても、現代の服を着て貰って、礼拝方法も合わせてもらうってくらいね。本当に細かいところだけど、この国の神様は心中で祈るだけでわかってくださるから口に出す必要はないし、あとは神殿の前で跪くのは無し……ってところかな。この国で一般人が神殿に跪く文化は無いから、悪目立ちしちゃうのは避けたいわ。こういう事を強要するのは申し訳ないけれど、祈り方ひとつとっても宗教宗派が明確になっちゃうし、そこから少し調べれば貴女の真名が割れるわ。貴女自身に文句があるわけではないのだけれど、考慮してくれたら助かるわ」

 次いで、アーチャーに対して、実際に神社に行くにあたって注意してほしい点を述べる。彼女の信仰そのものに対して反感があるなどと言うわけではないものの、彼女が一般人と比較して異なる行動を採れば採るほどに周囲から浮いて目立つこととなり、それは結果としてアーチャーの真名が割れ、彼女の能力の源となる主神の権能の対策を取られ、自陣営へと大きな不利を齎すことになる。それをアーチャーとて判っているだろうとは思いつつも、実際に言葉に出して確認することは必要なことだ。それ故に、実際に気を付けてほしい事を包み隠さずに彼女へと伝える。

「本当なら和服っていうこの国の伝統的な服を着せてあげたいんだけど、特に慣れないうちはどうしても身体の動きを阻害しちゃうから、いつ仕掛けられるかもわからない状況で着るのはやめておきましょう。
 特に質問が無ければ、着替えて出かけましょう。行き先はショッピングモールよ、あそこの屋上が一番近い神社だからまずは行ってみましょう」

 顔立ちも整っていて綺麗なアーチャーならば和服だって着こなしてくれるだろうとは思うのだけれど、しかし彼女が戦闘態勢に入った時に彼女の動きが阻害されてしまうのでは本末転倒だ。何のために彼女を召喚したのかという事を考えれば、彼女の戦闘に支障が出る物事はマスターとして可能な限り排除するべきである。よって今回は彼女に和服を着てもらうのは諦め、私服で行こうと暗に告げる。
 昼間に行動するならば早めに出た方が良いだろうと、彼女に早めの準備と出立を提案した。氷雨からすればショッピングモールの屋上に神社があるなどどういうことだと思わずにはいられないのだけれど、この島に於いてそこくらいしか場所がなかったのだろう―――と自らを納得させる。あのあたりからならば島のほぼ全体を見ることができるだろうし、何ならナナヒノハイアットと絡めて唯一の狙撃可能地点になるかもしれない。やはりもう一度見に行っておく必要があるだろう。

>>神託のアーチャー

2ヶ月前 No.47

白熊けらま @tokyoapple ★veWEhTYe1o_Rb6

【 1月1日 巳の刻 / 七日野港埠頭 / 白峯のキャスター 】

 眠そうな様子の亜澄を横に立ちにこにこと眺めるキャスター。
 元旦の朝。新しい一年を始めるハレの日に世間は賑わいを見せているが、聖杯戦争に休日はない。
 実体化し一見穏やかに微笑んでるだけのキャスターも、水面下では周囲に気を張り巡らせている。
 近接主体の相手ならまだしも、恐ろしいのはアーチャーの遠距離狙撃とアサシンによる不意の暗殺だ。
 サーヴァントとしての気配はしっかりと消しているが、警戒は怠らない。

 陣地に籠るでもなく人気もないこんな辺鄙な場所に赴いた理由。
 いえ構いません、とは答えたものの矢張り気になった。
 数日間行動を共にしていたが、今のところこの島に知り合いがいる様子はなかった。『仕事仲間』だろうか。

 顔を覗き込むように首を傾げるが目線は交わらない。
 この男はあまり目を見て話すタイプではないのだろうか、しかし召喚されたばかりの頃は違ったような気もする。
 いかに歪み穢れた精神だろうと己が他者との距離感を測るのが苦手である、という欠点はそれなりに自覚している。
 何か嫌われるようなことをしただろうか―――小さく不安を覚えたが、それならばもっと距離を置かれているだろう。

 『……久遠寺美命、』

 キャスターの予想は一つ当たっていたようだ。
 亜澄の仕事付き合いで知り合った女、恐らくは魔術師―――そして、確実にマスターの一人である人間。
 年端も行かぬ年齢で社会の暗面と関わっているならばそれなりの遣り手なのだろう。
 彼が言う通り魔術で化けている可能性もあるが、か弱い女子の姿では不都合も多いだろう。実力者である点に変わりはない。
 亜澄はこの局面で誰彼構わず顔を合わせるような愚者ではないと、ここ数日でキャスターは判っていた。
 キャスターが喚ばれる前に取り決めた事ならば尚更、とやかく口を出す必要もないだろう。それでも、

 「この状況でわざわざ貴方ほどの人が会いたがるからには、相応の信頼があるのでしょうが。
  聖杯戦争を生き延びるためには遠からず殺し合うことになる女です。……どうかお忘れなく」

 「しかし相手を選んだ上で協力者を募るという案には賛成です。選択肢は多いほど良い。
  その方に魔術の心得があるなら、少し教わってみるのも良いでしょうね」

 魔術の中にも多様な種類があり、一人一人に適性や向き不向きが存在する。
 キャスターが扱うそれは生前■■■■■から習ったため呪術や修験道の色が強く、この時代の人間には恐らく適さない。
 例え主が完全なる素人であっても守り通すだけの気概はあるが、多少は他の魔術師から学んでおいても損はないだろう。

 だが、ここで問題が一つ。

 「…………そうですか。まあこの一帯は私や使い魔の狗が見ていますから、急な敵襲もないとは思います。
  折角の祝いの日ですしのんびり過ごすのも一興ですね」

 亜澄と美命はどうやら普段は一切の連絡を取っていないらしい。キャスターが彼女のことを知らない筈である。
 当然、会おうとするのに時間も日取りも決めていないため目星を付けて待ち惚けをすることになる。
 迷わず埠頭を目指して来たのは此処が彼女との“逢瀬”に使っていた場所だからなのだろう。

 今朝方、監視役の使い魔と思しき鴉から開戦の知らせがあった。
 慥かに同盟を組むなら出来得る限り早い方が良い。
 契機には持って来いだが、果たして彼女が同じ考えでここまでやって来るのだろうか。いっそ賭けにも近い。

 キャスターが埠頭の入り口の方向に目を遣ると、倉庫の屋根で丸まっている犬が嬉しそうに長い尾を振った。
 狼より一回りほど大きい身体に虎柄の模様、彼の使い魔である『天狗』である。
 天狗と云うものは赤ら顔で鼻の長い妖怪と認識されがちだが、元は流星のように天を駆ける狗を指す言葉だった。
 死後に怨霊あるいは天狗になったとされるキャスターは、天狗にまつわる存在を使い魔として使役できる。
 彼に魔術を教えた■■■■■との関係で本来ならば鴉たちも自在に動かせるのだが、こちらはどうにも効きが悪い。
 他にも鴉を操るサーヴァントあるいは魔術師がいるのだろうとは踏んでいたが、監視役もその一人だったようだ。

 「 “波羅僧羯諦”、 ……少し暖まりませんか」

 寒そうに白い溜息を吐きながらいつもよりハイペース気味に煙草を吹かす亜澄に、咎めるでもなく手を差し出す。
 キャスターが小さく唱えると掌に小さな炎が上がり、それを翳して微笑んだ。

 「餅や雑煮の一つでも用意出来れば良かったのですが、如何にも陽の気が満ちる日は好きになれず」

 気が利かぬ給仕で申し訳ありません、と肩を竦めておどけながら初の日の出に背を向ける。
 にこやかな態度を繕いながらも、その内心は来るやもしれぬ女とそのサーヴァントへ昏く冷たい敵意を濁らせていた。

>東亜亜澄、(久遠寺美命、アサシン)

2ヶ月前 No.48

深紅のランサー @class ★Android=435tdfZpEo

【1月1日午前6時頃→午前8時頃/七日野市南区 七日野ダム→ナナヒノショッピングモール フードコート/深紅のランサー】

 こうして眺めたのは幾度目か、長いようでいて短くも感じられた。されども、その寒空に浮かぶ陽光を遮る物はなく、静けさに包まれながらも夜の帳を開き、新たな幕開けを告げる。
 人々の生活の一端を担う湖面を前にし、海風を浴びて灰と黒の髪揺らす男。彼が此処に立つどころか、その身が故に外へ赴く事も殆ど無いと確かに記憶していたものの、今日ばかりは外へ出向く様子であった。ならば、とこうして傍らに侍る。それが従者(サーヴァント)であり、騎士としての務めなのだから。

 しかし、潮風や寒空といったものを視認しているが、それらを決して肌で感じる事はない────未だ正体の分からぬ現代を生きる六人の魔術師と六人の英霊への不用意な露見を防ぐと共に主君へ向けられた刃を散らす為に霊体化という形を取ったのだ。魔力の消費を抑えるためにも滅多に行わないが、今回ばかりは値する程の意味があると直感した。

 生前と変わり無く直感は当たっていたようで、おおよそ餌の一つも無いであろうこの場へと数多の色を束ねし黒翼で羽音を鳴らし此方へと向かってくる。その鳥が聡明である烏だからこそ、確信せざるを得ない。記憶にある魔術師が使い魔を持つ事もあったのですから、尚更に。
 いや、それにしても烏とは。この国では凶兆とされているようですが、生憎と私にとっては吉兆とまでは言わずとも激励にも見える程なのです……まあ、醜態を晒す訳にはいかなくなりましたが、それは元より。双肩の重みに然したる変わりはありませんとも。

『ナナキ……ゲンカイ、カクニン……ハジマル、ゾ。セイハイ――セン、ソウ』

 マスターの差し出した腕を止まり木代わりに留まった双翼を収め、端まで黒々と嘴を開けば烏が鳴く。
 その声はしかし、常ならざる老父の声。今更この程度で驚嘆は致しませんが、やはり始まるのですね────願うが故に命運を託す魔術師と応えし過去の英傑が競り合う聖杯戦争が。

 後方にて控えていた此方へ振り向く事もなく、此度の主君は私へ告ぐ。空気が揺らぎ、潮風に波紋を広げ行く湖面に映る孤影、その傍らに深紅と白銀に彩られた影が映る。

「ええ、良き結果を必ずや御覧に入れましょう。では、早速偵察と参ります……蛇足かと思いますが、マスター。貴方もどうか、お気を付けて」

 掛けられた期待に報いる為にも、そして、願いに応えた一人の騎士として責務を果たさんとする意志は、穏やかな微笑みの中にあっても陰る事は無く、粗野な音の一つも立てず威風を纏い、その命を拝す。僅かに頭を下げ、左手を腹部へと当てた。
 周囲に不審と取れる気配を感じないからこそ、こうして姿を現したが、街に繰り出すならば、この様相は相応しくない。故に、頭を上げる頃には再び霊体化により淡い光と共に姿を消す。

 ───斯くして、白銀の槍携えし緋色の騎士は戦場へと臨む。自らが主君とした者へ、確たる勝利をもたらすために。


──────────


 新たな年を迎え、早朝だと言うにも関わらず平常の頃よりも喧騒を増す大型ショッピングモールの一角、よくあるフードコートの片隅に一人の青年の姿があった。
 純白の羽飾りがあしらわれた深紅の中折れ帽子から覗く顔立ちは幼さ以上に精悍と言えようもので、装飾の殆ど無い深紅のロングコートと白いセーター、黒のストレートパンツに包まれた贅無き長身と相成れば少なからず人目を引くものであったが、彼を注視する者は誰一人として居ない。

 マスター曰く、人の目を寄せない魔術だとか……正味、私は造詣がある訳でも無いので、完全に理解は出来ていないのですが、これにおいても感謝する他ありませんね。

 顔も知らぬ人を探すのならば……木を隠すのなら森の中というもの。さて、この時期に人が集まる場所と言えば一つ。ナナヒノショッピングモール。聞けば、屋上に神社なるものがあるそうで。日本ではそちらへ参拝をするのが文化の一つとしてあるようですから……不用意に歩き回るよりは、こうして人の出入りが多く紛れやすい場所を探る。手間ですが、一番手っとり早いとも言えます。
 それから───これは単なる私情ではありますが、それでもなお敢えて言うならば粗暴を働かれた際に此所が最も被害の大きくなる場所であると判断したまでの事。それに此処からならば、住宅街にも駆け付けられる。神秘の秘匿という条約も、裏を返せば「秘匿さえ行われていれば問題はない」とも取れます。ならば、私が優先すべきは住民の安全……などと言っていては、小言を賜ってしまうやもしれませんがね。

「それにしても……紅茶とは良いものですね」

 窓の外を眺めていた顔を正面へ向け、外から伝う寒冷のせいか白い湯気が立たせて華やぐ清涼感のある香りと共に、純白のカップに注がれた鮮やかな紅の湖面を傾けては口を運ぶ。
 物音一つ立てぬ丁重な所作を取り、戦争という渦中にありながらも悠長と取れる言葉を染々と漏らす。それは今を想ってか、はたまた追憶に浸るが故か。あるいは、この先を憂いてか。

 だが、こうして窓辺に佇む鎧無き彼の騎士の姿を見れば、隙の一つや二つ取れる程に弛んだものに思えるだろう。だが、あくまでもそれは極めて普通の尺度で計ったまでの話。
 騎士に余暇などありはせず、隙は意図して生むものであり、決して無為に作るものでは無い。

 ───それがたとえ、平穏を慈しむ一間であったとしても。

>一條 癩蔵殿、all

【いえいえ、むしろ半端に繋ぐ形にしてしまいすみませんでした……!それと、使い魔に関しては帽子の中でも服の内ポケットでも、居る事にして大丈夫ですので……!】

2ヶ月前 No.49

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日 午前6〜7時頃 七日野中央教会周辺→市街地/メリル・マリア・アトウッド】

「腕とか脚は……ちょっと怖いから大丈夫かな」

 ……もう、いつも通りだった。緊張が和らいで感覚が元に戻ってきてのか、真冬の空気に晒しっぱなしだった両手を、コートのポケットに入れた。

 ぶつぶつ、と、思案を口に出す彼女の姿もまた、「楽しそう」であるのがわかった。

「そうだね。きっとボク達が最後だったのかな、思っていたより時間は無い。……そうだね、この街を、見て回ろうか。さっき、屋上から少しだけ見えていたとは思うけれど、下から見ないとあまりよくはわからないでしょう? 夜になったら、無防備に歩いてもいられないし」

 正直、1番最後というのはあまり想定していなかった。令呪が現れてから少しずつ日本に色々持ってきたりこの街の探索をしていたけれど、その時点で悠長にし過ぎたか……。
 いくら魔術師が人道とは離れたような存在であろうと、こんな人通りの多い場所でいきなり戦闘、となることは無いはず。神秘の秘匿にも関わる。

「この島を一緒に歩いてみようか。その間で偶然サーヴァントの気配に会ったら──それをできる限りボクが覚える。夜になったら、そのサーヴァントを探しに行こうか」

 右手をポケットから出し、路地から大きな通りへ戻る道を指差した。目線を彼女の元へ少し残しながら、ゆったりとした歩調で歩き出す。この辺りは住宅街だから、そうだね、ショッピングモールの方へ戻ろうか、と、少し先の方に見える背の高い建物を指差した。

 先程、ホテルからここまで来た時からは別の道を歩き始める。「寒いね」、などと、他愛もないような言葉をときどき挟みながら。この辺りの大きな道はだいたい頭に入っている。流石に住宅街や柚木の似たような街並みの1つ1つまでは覚えられなかったけど、この北区の駅や主要な建物は自在に行き来できる。

 先程から少し遠回りの道だったのか、かかった時間は少し長い。人混みで道が混んで、少し歩きにくかったのもあるだろう。その人混みの中から、見逃さなかった。

「こんちには。……あけましておめでとう、かな? ミス・相見と、お嬢さん」

 考古学科の女傑。特別親交が深い訳ではなかったけれど、名前くらいは知っている。……こんなところに、封印指定執行者。彼女も、か。彼女の故郷は日本と聞いたけれど……この島ができた時期を考えると、たぶん、彼女の出勤地ではない。年明けだから里帰り、ということでなければ、そういうことなのだろう。

「こんなところで会うなんて奇遇だね。そちらの方は妹さん?」

 ……当たり障りの無い。『いつもの』穏やかな笑みで続けているが、その下で考えていたことは、さて。

>>バーサーカー、氷雨、アーチャー


【たいへんお待たせ致しました】
【有栖川さま、確ロルの許可ありがとうございます】

2ヶ月前 No.50

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

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2ヶ月前 No.51

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_T0f

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2ヶ月前 No.52

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日朝/七日野港埠頭/東亜亜澄】

「信頼、と言われると、また違うかもしれませんけどね。人間として、おれは久遠寺美命のことを知らなさすぎます。信頼できるか否かの判断をするのも難しい」

 商売相手を信頼、と言うと、なんだか違う意味になってしまいそうだった。おれは客としての久遠寺美命しか知らないが、それの印象で特段変わったことは無く、至ってやりやすい客の中の1人、にしか過ぎなかった。客の私情には突っ込まないことが大原則なので、魔術師、と初めて知った時は流石に驚いたが。
 一度煙を肺いっぱいに吸い込んで、それを吐き出してから続ける。

 「……それくらいわかってますよ、信頼とは違うって言ったでしょう。あくまでおれのための協力者です」

 こちらを覗き込むようなキャスターを、一瞬見遣る。その表情は微笑んでいるが、その奥は底知れない。……教わる、か。持ってて邪魔になる技術は無いと思うが、まさか、魔術。聖杯戦争中にそんな悠長なことをしていられる余裕があるかはわからないが、「余裕がありそうだったら、それも頼んでみますね」と、一応の本心を伝えておく。

「使い魔、ねぇ……」

 キャスターがそちらを見たのに釣られ、埠頭の入口の方へ目線をちらりと移した。見たことない生き物だ。おれ自身日本の史実に疎いからわからないが、昔はああいうのが、それこそ文字通りいきていたんだろうか。

 波羅僧羯諦。耳慣れない単語だったが、キャスターと数日行動を共にしている間に、その単語は何回か聞いた。ありがとうございます、と言いながら、手を地面の方にやり、吸っていたタバコの灰を地面に落とした。燃える火は、刺すような海の風の冷たさを幾分か和らげる。いくら潮の動きが少ない東京湾の真上と言えど、冷たい水のすぐ近く、というのはそれだけで寒い。スーツの上にコートの1枚羽織っていても、まだ寒いくらいの気温だろう。

「雑煮……ああ、日本では1月1日の方を盛大に祝うんですよね。おれの住んでいた方では、新年と言えばもう少し先なので。どちらにせよ、風習も大して気にするような質でもないので」

 眩しい太陽に目を細めたまま、春節、って言うんですよ、と続ける。そうだ、今日は、本来ならば、新しい年の幕開けとなる大事な1日なのだろう。春節までには生きて帰りたいですね、と零した。向こうに家族がいるわけではないが、あの年末から既に始まる、1ヶ月かけての、賑やかを通り越した喧騒は嫌いじゃない。

「陽の気がダメって……アマテラス、っていうんでしたっけ? あんたも一応太陽に連なるものなんじゃなかったんでしたっけ」

 英霊は過去のなんたら、でも、その性質そのまま出てくるわけではないのだろうか。……アマテラス、天を照らす。その性質そのままのサーヴァントであったら、おれにとってはこの上なく「やりづらい」相手であったことは確かだったから、今のこういう姿勢の方が楽ではあるのだが。ある程度の期間を共にしても、キャスターについてわからない、理解できない点は未だ多い。……この程度の時間で人間ひとりを理解する、というのも厳しい話ではあるか。

 来る気配の無い待ち人のことは一時頭の隅に押し込み、どうせなら、まだかまだかと待つだけより、この間に話せることがあるんじゃないか。
 葉のほとんどが燃えたタバコをまた地面へ落とし、靴のつま先で火のついていたところを踏み潰す。

>>キャスター

2ヶ月前 No.53

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

[1月1日 午前6〜7時頃 七日野中央教会周辺→市街地/虚妄のバーサーカー]

 その後の彼は始めて出会った時のような雰囲気に戻っていた。彼女との質疑で改めて自身が抱く願いがどれほどのものか知ったのだろうか。それは一瞬、謝罪へと繋がったが今は彼がしっかりとその手に握っている。まだ彼の査定が終わったわけではないが殺さなくてよかったと心中で息を吐いた。彼が指さした方向へ共に歩きだす。先程とは違い落ち着いた足取りで今来た道とは違う道で大きな建造物へと歩を進めた。周囲を確認する仕草を見せながらも迷うことなく動く様子を見ると辺り一帯の地理は頭に入っているということだろう。道中何度か彼が話を降ってきたが、えぇ、はい、そうですね、と素っ気ない返答しか出来なかった。まだ彼を信用していないからだろうかと自分へと問いかけてしまう。
 手のひとつでも繋げばいいのだろうかと思っていると人混みへと出た。自分がこの国出身であり、今日が一月一日ということが重なり、服装で疑われることはないだろう。人ならざる目だけをしっかり隠すように前髪に触れた。既に開戦の合図が出ている以上、最悪の状況を常に考えて動くべきである。万が一を想定するなら霊体化しておくべきだったと小さく舌打ちをしてしまう。だがすぐに彼の狙いに気づいた。遅い時間帯ではあるが人混みが出来ているのだ。大方の人間ならば人混みでの戦闘は避けるはずだ。まずそれで奇襲を受ける可能性は下がる。木を隠すなら森の中とはよく言ったもので上手く紛れることも普段よりは容易い。そして何より彼が所有しているのは探索のルーン。こちらが先に人混みの中から特定できれば大きく有利を取れる。デメリットも勿論あるがそれを補うだけの手段を彼は持ち合わせているのだ。人の間をするりと抜けていく背中が大きく見えた。

──太陽が二つ昇る。

 待っていたと言わんばかりに立ち止まると彼が口を開いた。相見と呼ばれた人物を見た。名を知っているということは知り合い。教え子だろうかとも思ったが直接話すのは始めてのようだ。バーサーカーとは違うしっとりとした綺麗な黒髪に若干吊り上がった目がこちらを見据える。彼の質問に返す声は探りを入れているようだった。年齢以上に落ち着き、こちらの情報を少しでも多く手に入れようとしている。だがそれでもバーサーカーは人の形を成す前から自分に恐怖する者は呆れるほどに見てきた。琥珀色の瞳が僅かに揺れる。何だこれは、と自身の今までの経験、知見、記憶を思い返しても掠ることさえない何か。分からないという恐怖。召喚したマスターさえ見せたその表情。だが相見と呼ばれた女性はそれを全身で感じながらも言葉を続けようとした。強い。彼女はきっと強い。戦争に参加している時点で特殊な人間であるのは必然だが自分の体調や恐怖心よりも、こちらがどのような相手なのかを調べようとしている。これではこちらも迂闊に動けない。彼女がもう少しはっきりと弱さを見せたならば口を開こうかと思ったがこれ以上はこちらも踏み込めない。顔が少し引き攣る。無駄な言葉を発するわけにはいかない。マスターに向けられた奥様がいらっしゃるとは、という返しには彼を一度見てから会釈するだけにした。

 顔を上げるとマスターが妹かと問い、相見が友人と答えた女性に視線を移した。見下ろす形になり、相手を見た時に一閃の光が走った。

──どこかで会ったことが。

 否。そんなはずはない。彼女とは間違いなく初対面である。それでも錯覚してしまうほどに見覚えがあり、“似ていた”。と、言ってしまうのは語弊があるだろう。

 靡く白銀の髪。
 沈む漆黒の髪。
 澄み切った空色の瞳。
 燃えるような紅の瞳。
 暖かな木漏れ日のような女性。
 世の万物を燃やすような女性。

 何から何まで違う。だが根幹が限りなく同じに近い。バーサーカーはすぐに太陽という言葉が浮かんだ。万人に降り注ぐ暖かい光を持つ太陽。それは太陽が持つ側面の一つであり、柔和で優しげな空気を纏う彼女はそれらを具現化させたような人物に見えた。だがそれだけではなく、自然であり絶対的なものであるという強さも持ち合わせているように感じる。暖かいだけが太陽ではない。微笑みを崩しはしないが、明らかにこちらを警戒している。当然と言えば当然だ。

「急に話しかけて申し訳ありません。彼が知った顔がいると言って来てしまって」

 一歩マスターへと近寄り距離を詰めると、次は先程とは違い深く頭を下げた。ここからどう転ぶか。マスターの、相見の、そしてもう一つの太陽がどう動くか。彼女は少し拳に力を入れた。

>>神託のアーチャー様 メリル・マリア・アトウッド様 相見氷雨様

2ヶ月前 No.54

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日朝/市街地/メリル・マリア・アトウッド】

 暖かく柔らかい日差しと、それを反射する静かな水面。

 見知らぬ少女、柔らかな光の少女。その光はどこか冷たい白ではなく、僅かに黄や橙が混ざった、暖かい光。言葉を発しないのは、人見知りか、あるいは下手なことは言えないと迷っているのか。……当然、後者。
 相見氷雨はマスター、そして、この少女が彼女のサーヴァントであることは明らか。でも……気付かなかった、目の前に来るまで気付かなかった。それくらい、この景色に溶け込んでいたのだ。霊体ではなく実体、背後ではなく隣を歩く。話に聞いた、写真で見た程度だけれども、相見氷雨の顔と名前を知らなければ、この人混みの中、この2人が一般人ではなく魔術師とサーヴァントだなんて。もしかしたら、もう少し距離が遠ければ、全く気付けなかったことも有り得る。

 ……正直、正面切って戦いたい相手ではない。封印指定される魔術師は、そのほとんどが強大な力を持ち、それを相手取る彼女の力は底知れない。聖杯戦争がマスターの力量で決まるわけではないけれども、僅かな気の弛みも許されないことは確か。

『……こんなところで奇遇ですね、アトウッド教授。こうして直接お話しするのは初めてでしたか。ええ、あけましておめでとうございます』

 ……その笑顔には、違和感があった。静かだった水面が、僅かに揺れる。でも、ボクは彼女のことをよく知らない。彼女の普段の笑い方を知らない。実際に相対した最初の印象では『静かな水面』であるとおもったけれど、こういう僅かな揺れがあるのが普段の姿なのかもしれない。

「そうだったんだ。折角の旅行、楽しんで」

 友人、だと呼ばれた少女の方を見遣りながら、僅かに目を細めた。……彼女は、誰だ。現代の装いに身を包んだ姿では、情報が少なすぎる。この段階で真名を探るのは不可能、と己の中でとりあえずの決着をつけてから、もう一度相見氷雨の方を見た。

 こちらに近付いたバーサーカーの纏う意思が、僅かだか変化したのがわかった。

「素敵な方でしょう?」

 奥様ですか、という問に、肯定も否定もせず、答えにならない答えを返す。普段のボクでも、隣にいる女性がサーヴァントでなかったとしても、きっと似たようなことを返すだろう。昔から「話していても掴み所が少ない」とよく言われた。
 バーサーカーの「知っている人がいたので」という答えを聞き、

「ああ、ボクの方も急に話しかけてごめんなさい。遠い土地で知っている顔を見ると、嬉しくなっちゃって」

 嬉しくなった、ということに関しては、心の中でそっとツッコミを入れたけれども。

「長く引き止めてごめんね、良い一年を。それじゃあ、また」

 道の真ん中で引き止めてしまったことに軽く謝罪をする。ボクも彼女も、こんな人通りの多い場所で魔術を使ったり、一般人を巻き込むことを承知で戦闘を始めたりしないだろう。

 先程から、表情はほとんど変わらない「微笑み」。出る言葉も、抑揚があって淡々とした印象は無いが、言葉を通したトーンは変わらなかった。「また」とは言ったが、それは宣戦布告ではなく、それこそ、ただの知り合いに「また会えたらいいね」と言うようで。

>>アーチャー、氷雨、バーサーカー

2ヶ月前 No.55

すずり @suzuri0213☆uVgy9R1pZdc ★Android=ti0IvmfI1e

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1ヶ月前 No.56

有栖川 @hananomi☆Mwp.W.uiBT6 ★5tuXai74if_T0f

【1月1日朝/七日野市街地/相見氷雨】
 落ち着くためにと可能な限り静かに呼吸しつつ、氷雨は意識を『魔術師』として研ぎ澄ませる。彼の英霊は、どういった類の物なのか。真名は何か、どこの出身か、どういうカテゴリに当てはまる英霊か。判断するための材料を見逃すまいと、意識を研ぎ澄ます。
 一見して、本能的に、あの女性は正規の英霊―――自分が喚び出したアーチャーのような、人の側に立つ英霊ではないと思われた。どことなく地平に沈む直前の夕日を思わせるような、明るさと昏さ、静けさと激しさ、一見矛盾した要素が混在している、そういう印象を受ける目をしているような気がする。
 あのような、人を根源的な恐怖で圧するかのような異様な雰囲気を持つ英霊が、果たして人の側に立つものであるかと問われれば、首肯することはまずできない。何事にも例外が存在するものではあるが、まず十中八九の確率で人を害した、あるいは害しうる力を持っている者ではないだろうか、と推測する。
 今の今まで、聖杯戦争の開始までに彼女に会わずに来たのが、メリルの戦略によるものなのか、それとも出会えなかったのか。あれが今朝召喚されたであろう七騎目であれば、恐らくあの和服が着の身着のままだとは思われるが、彼の策略で彼女が隠されていたならば、その推測も無意味であろう。ただ良く似合っているだけというならば、アーチャーに着せた洋服だってそうだと言える。この国にちなんだ英霊であるのかどうかという事は、まだ絞りきれないと言わざるを得ない。
 見知った顔がいたもので、と、女性の言葉に合わせるように。メリルもほぼ同じことを口にした。本当にそうだったのかもしれないし、そうではないのかもしれないけれど、彼らの会話を最初から聞いていたわけではない氷雨にそれを推し量ることは出来ない。彼らがどちらも口をそろえてそう言うのならば、そうなのだと思う事にする。

「いえ、お気持ちはわかりますのでお気になさらないでください。誰しも見知らぬ土地で見知ったものを見かければ、声を掛けたくもなりましょう。
 ええ、では。良い一年の始まりに、良い元日を」

 相対する陣営の二人の双方に対して、努めて丁寧に笑顔で応対して、別れの言葉を口にする。あまり長居してもいい事はなさそうだし、ここで自然に別れるのが正解だろうと判断する。
 古い言い方をするならば、営業スマイル、なんて言われるようなものだけれど、それでも今はちゃんとできている。ちゃんと表情筋は動いているし、口角が上がっている感覚もある。先ほどまでのような恐怖感が薄れたわけではないけれど、しかしそれでも喋ったことで緊張が和らいだのだろうか、と自己分析する。大丈夫、此方のペースを取り戻した、と内心で自らを落ち着かせる。
 雑踏が再度、二組を分断する。充分に距離が離れたと判断して、ふぅ、と小さく息を吐く。あの教授は徹頭徹尾、掴みどころのない男だった、と思う。互いに通じるであろう例えを使うならば、まるで活きたウナギのような、掴んだと思えば逃げていくような、未だ会話のみではあるけれどそういう印象を受けた。流石に時計塔の教授というだけある、彼は政争にも長けた相手であるというのは確かなようだ。
 知らず知らずのうちに肩に力も入っていたらしいのが、アーチャーの声とともに元に戻っていく。このまま戦闘に発展するのではないかと、無意識のうちに緊張してしまっていたらしい。こちらから仕掛けるつもりこそなかったものの、相手方がどうか不明な以上緊張するのも仕方ない事だ、と正当化する。

「……そうね。あの男はメリル・マリア・アトウッド。魔術師でありながら、学生に法と政治を教えてきた教師よ。戦略に関してはこちらより一枚も二枚も上手、と思ってかかるべきね。サーヴァントに対しては勿論なんだけど、マスターに対しても特に警戒しないといけないでしょう。
 もし戦闘になるとしても、願わくば、充分にサーヴァントの情報を得てからにしたいところね」

 一筋縄ではいかない、と口にしたアーチャーの言葉に同意し、現在持っている情報を簡潔に開示する。本来ならばもっと早く教えておいても良かったとは思うのだけれど、彼の参加が確定していない状態でどうこう言って彼女を混乱させてしまうのは良くないような気がしていたのだ。今はもう確実に彼が参戦していると言ってしまってもいいだろうから、こうして伝えるというわけだ。
 次いで氷雨は、話をマスターからサーヴァント……黒い和服の女性、未だクラスさえ知らないサーヴァントへと話を移していく。

「貴女は、あの女……まず間違いなくサーヴァントだと思うのだけど、あれを見てどういう印象を受けた? 私はあれが『滅ぼすもの』……すごくふわっとした言い方になっちゃうんだけど、何もかもを滅ぼし得るモノが人の形を得た、という印象を得たわ」

 アーチャーの眼を見るように彼女の方に顔を向けつつ、そう問いかける。特に理由もなくそうしたつもりだったけれど、あのサーヴァントとは違う、晴れた空のような青々とした綺麗な瞳を今見たいと思う理由をつけるとすれば、アーチャーの眼を見て、声を聴いて、自分の調子を落ち付かせたかった、というところだろうか。
 自分のマスターとしての、言い換えれば一人の人間としての印象よりも、信用すべきことはアーチャーの、サーヴァントとしての印象だ、と氷雨は思っている。彼女の感性を信じれば、それはおのずと勝利へと導かれるべき道筋となるだろうと、そう自分の中の何かが告げていると思われるのだ。だからこそ、このタイミングで彼女に問いを投げかけたのである。

>>神託のアーチャー、メリル・マリア・アトウッド、虚妄のバーサーカー

1ヶ月前 No.57

神波 @thousand00☆hyqkMkn9Rthi ★Android=uJs7nQDOiH

【1月1日朝/市街地/虚妄のバーサーカー】

 自分と似ても似つかない少女を幕のように下りた髪の間からそっと見つめた。彼女もこちらを見据えており視線がゆっくりとぶつかる。相見とは違い彼女には見てわかる負の感情は見受けられなかった。肝が据わってるのか、こういう人物に慣れるような世界で生きてきたのか、単純に興味と好奇心だけで見ているのか。幾つか選択肢を脳内で並べてみるがきっとそのどれでもない。強いていえば肝が据わってる、というのが掠るくらいか。彼女はきっとサーヴァントなのだろう。視線がぶつかったことに微笑む。一瞬見て、交わすというほどの会話もしていない。外見を一通り見ただけでは彼女が“ 誰か”はバーサーカーには分からなかった。自分と似たような雰囲気を持つというだけでそれ以外はまだ憶測の域を出ることはなく、不明瞭。確定しているのはバーサーカーのクラスでないということだけである。スキル、宝具などは分からずこちらから仕掛けるにはあまりにもリスクが大きい。

──私の前の“ 列”にいた顔ではありませんね。

 自身が分かる範囲で絵だった頃の記憶を思い返すが合致する物の怪はいなかった。今バーサーカーが持ち合わせる手札ではこれ以上の絞込みは不可能であると判断した。相手が視線を外したことを確認してからこちらも視線をメリルと言葉を交わす相見へと移した。彼女は先程の恐怖を既に感じさせないように振舞っていた。今の相見の姿だけを見るならばバーサーカーなど眼中に無いとさえ感じる。感情を押し殺すのが得意なのだろうか。戦争において情は時に命の危険を舞い込む。その点彼女は実に争い事向けの性格をしているのかもしれない。それほどまでに願うものが相見の中にあるのかと思うと、虚しさと嘘で飲み込んでしまいたくなる。
 彼女がメリルと簡単な挨拶を済ませている時にただ見つめているのは怪しいと思い視線を群衆へと動かした。その間、おそらくサーヴァントと呼ばれる女性が相見へと数歩近寄ると肩が当たるほどの距離へと近づいた。言葉を使わず友人であると見せるための行動か。だがその姿は本当に仲睦まじく、彼女の顔や雰囲気もどこか和らいだような気がして──。

「……っ」

 ──抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ教えたい知らせたい見せたい殺したい。

 顔や手に出ないように足に力を込める。どうしても上がってしまう口角を隠すために微笑みを装って口元を手で覆う。
 良い一年の始まりに、良い元日をと相見が挨拶を締めたのを確認するとメリルより踵を返して人混みへと向かった。今までは彼に着いていく速度と歩幅を保っていたが今回は一刻も早くこの場から、正しくは彼女達から離れたかった。
 人混みへと入り、宛もなく進むとバーサーカーはふと歩く速度を落としメリルを待った。心臓は早く高鳴り、呼吸も荒い。胸元を強く握っておりまとう黒衣には深い皺が出来ていた。そうしてメリルが追いついているのか確認さえせずに口を開いた。

「マ、マスター……申し訳ございません。あと10秒でもあの場にいたらあのお二人を殺していたかもしれません。あの人達に本当の現実を見せられると思ったら、私、私、あぁ」

 口角は上がり、燃えるような瞳は不気味に歪んでいた。恍惚とさえ見えるその表情を見せたかと思えば今度は黒色の手袋をした両手で顔を覆い声を震わせた。声は震え、涙混じりへと変わった。

「──ですが、あのような仲睦まじい二人の友情、おそらくサーヴァントと思われる彼女の相見さんへと対する信頼、相見さん本人の強い意志と夢。……そのどれもが嘘偽りであり、それを知った時のお二人のことを考えたら私、胸が張り裂けてしまいそうです」

 バーサーカーは、何を言っているのだろうか。目まぐるしく変わる話の内容と声色と表情、感情。すべてを無理矢理に混ぜて作り上げられたそれは狂うという言葉さえ可愛らしく見えた。

「ですがそれを教えて差し上げるのが私の使命であり役割。やりきってみせましょう」

 顔を上げると目の縁に溜まっていた暖かい水を手袋越しの細い指で拭った。指で目元をなぞり、見えるようになった赤黒い混沌が空を見つめていた。

>>メリル・マリア・アトウッド様 相見氷雨様 神託のアーチャー様

1ヶ月前 No.58

白熊けらま @tokyoapple ★4UW5ciLXfL_3wf

【 1月1日 巳の刻 / 七日野港埠頭 / 白峯のキャスター 】

 「ならば良かった、半端な信頼は判断を鈍らせますから。疑り深いぐらいが丁度良いでしょう。
  呼び出し自体が罠という危険も捨てきれませんけれども」

 懐疑的な答えを返す亜澄に安堵したように頷き、しかし刺す釘はしっかりと増やしておく。
 信頼とは違うと繰り返すが、キャスターは現時点で彼と久遠寺美命の関係性を解っていない。
 この主を守ると宣言した以上、守りたいと思ってしまった以上は少しの油断も許されないと考えているのだ。
 元来は真面目な性格なのである。生真面目と云ってもいいだろう。

 『おれのための協力者』、という一語に小さく微笑むキャスター。
 同盟を組む上で憂慮すべき事柄はいくつもあるが、その最たるものとして相手に情が湧いてしまい戦えなくなるという事が挙げられる。
 だが亜澄の場合は最初から最後まで自身の為を一貫している。矢張り心配の必要はなさそうだった。 

 「直接の見聞はないものの、私の時代も大陸との交流はありました。
  平時でしたら郷に入っては何とやら、折角の祭りは楽しむべきだと説くのですが……開戦の狼煙は既に上がっておりますからね」

 開戦の報せが届いたのが卯時。恐らく最後のサーヴァントの現界が今朝方だったのだろう。
 若しかすると他にはのんびりと元旦を満喫している陣営もあるのかもしれないが、だからといってこちらも休む訳にはいかない。

 故郷を懐かしむような零しに、キャスターはそうですねと曖昧に答える。その声はやや無機質染みていた。
 亜澄の中に僅かでも窺える、人間らしい郷愁の想い。
 ■■■■■、己の生まれ育った■を焼き滅ぼさんとする激情の焔はキャスターの宝具の一つだ。
 キャスターがどんなに彼にシンパシーを感じていたところで、愛する生国が存在する、その一点は決定的に異なる。
 安心したような残念なような煩雑な感情が頭を擡げるが、妬ましい、憎いなどとは思わない。それ自体は素晴らしいことなのだ。

 「…………お詳しいこと。私の素性をご存知でしたか」

 取り繕った弾むような声色とは反対に、キャスターの表情は複雑であった。
 サーヴァントの境遇や逸話を把握しておくのはマスターの義務と云っても差し支えないだろう。
 聖杯戦争に臨む上で少しでも有利に事を運ぶために、世界各地の神話や英雄に予め精通しておく者も少なくないと聞く。
 とは云えキャスターにとって、己の不幸を簡単に他人に知られるのは快く思えなかった。
 数奇な生涯を送った自覚はあれど、軽率な憐れみを向けられるのは癪だ。
 亜澄は労いのような言葉こそ贈るものの憐れむことも腫れものに触るような扱いをすることもない。
 きっと己がサーヴァントに対してですら特別大きな興味は抱かないタイプなのだ。その点でも理想的なマスターと云えた。

 「ええ。本来ならば私は天の皇に連なる身、天照大神を祖に持つ血筋ですが……
  魔道に身を堕とした今では妖魔の仲間入り。日輪の眩い光も煩わしくて敵いません」

 もし太陽神が私を見ればお怒りになるでしょうか、と自虐的に微笑む。
 キャスターの青白い肌は慥かに日を嫌い戸に籠る者のそれに近い。

 「素性と言えば、私は未だ亜澄のことをよく知らないのです。
  一方的に知られたままというのも不公平ですから、宜しければいつか貴方の話を聞かせてください」

 亜澄は多くを語らない。彼が大陸の出だというのも今し方知った事実である。
 キャスターも根掘り葉掘り詮索したがる性質ではないものの、何も知らないで居るのは些か物寂しい。
 いつか、と敢えて日時を暈かすことでこの殺し合いを生き延びる遠回しな決意表明とした。

>東亜亜澄、(久遠寺美命、アサシン)


【お待たせしてしまい大変申し訳ありません……!】

1ヶ月前 No.59

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日朝/市街地/メリル・マリア・アトウッド】

 「また」と言ったあとで、雑踏に呑まれ遠ざかる2人に向けて、右手を軽く振った。

 ……どうだ。どうだ。『やれる』か。相見氷雨は強敵だ。その相見氷雨が選んだサーヴァント、今パッと見た限り、交友関係にだって目立つ違和感は無い。マスターに協力的なのはあくまでも契約、心の底から信頼してるだなんてのはかなり珍しいだろう。それだけに、そういう珍しい陣営であったら、彼女らはかなり厄介になる。

「あ、待って……」

 踵を返して、彼女らが行った方と反対側の方へ消えかかったバーサーカーを追いかける。けっこうな速さで歩いていったのか、この雑踏の中、一瞬で追いつくことはできなかった。遠ざかる宵闇が、その移動するペースを緩めたところで、やっと距離を縮めることが出来た。

「急にどうしたの、」

 「大丈夫?」と続けようとしたが、その言葉を発する前に、異変に気づいた。

 狂気。恍惚。悲哀。差し出しかけた手を空中でついつい静止させながら、その目まぐるしく変わる姿を眺めるしかできなかった。荒い波のようで、寄せ、盛り上がり、砂を呑み込み沈み、そんな風に。

「……昼間だからって、気遣ってくれたのかな。ありがとう」

 『殺していたかもしれない』という言葉に返すには、少々軽いか。まだ、自分の自覚があるところまで、そういう『壊すこと』へのある種の執着無かった。バーサーカーの言葉に、まだ何も言えるでも無く、その異変をただただ眺める。

 彼女の言う『現実』や『嘘偽り』が一体何なのか、正直まだよくわかってはいない。この短い間では、その断片を掴むのがやっとだった。……ああ、でも、そうか、『嘘偽り』。

「そうだね。こんな世界、全てあなたの言う通り、嘘偽りだ」

「……ふふ、教えて差し上げる、か。誰かにものを教えることは得意だから、頼りにしてくれると嬉しいな」

 長い髪の僅かな隙間から見えた涙。それを見逃さなかった。目まぐるしく変わる感情は、そのすぐ近くにいるだけで自分にも移ってくる気がする。僅かに熱くなった目の奥。教えて差し上げる、上に立つのは自分だという強い意志。

 嘘偽り。朝聞いたことの繰り返し。何度も何度も、その言葉を刻みつけるように繰り返した。……その中に、彼の一番最初の目的はあったのか。
 人間は、あまりにも大きな力に宛てられて、その芯の1番深いところでさえも変わってしまうことがある。……さて、彼はどうだろうか。表側では何も変わらない、変わったことに見た目で気づくことはできない。しかし、その内側は確実に、灼け、削られ、変わりつつあるようだ。

>>バーサーカー(、氷雨、アーチャー)


【ありがとうございました。とりあえず1月1日日中のメリルは、これで最後になると思います】

【日中パートは本日までです】>>All

1ヶ月前 No.60

陽香 @brahman☆r92H8KW1RF2 ★Android=lmNuvruUyx

【1月1日朝/七日野港埠頭/東亜亜澄】

「ええ。あんたの名前聞いてから、調べられる範囲では」

 日本の史実には疎い。空き家でキャスターと出会いその真名を聞いたときは正直ピンと来なかったが、時間を見つけて、インターネットや簡単な本で調べられる範囲のことは調べておいた。その知識と照らし合わせると、その存在はあまりにも『違った』のだ。
 人間相手でも、それが客ではなく協力者であるなら、素性の知らない人間のことは徹底的に調べ尽くす。『史実』というまた別の形ではあるが、知らない人間のことを調べたくなるのは、刻みつけられた性に近いのかもしれない。

 へぇ、そういうこともあるんですか、と、キャスターの言葉を頭に収める。『本来ならば』『身を堕とした』……こういう言葉には、共感、同意……いや、何とも違う、共通点、のようなものに感じる。確かに、その佇まいは昼ではなく夜、太陽ではなく宵闇。真っ白な髪も、明るい光ではなく、そこにあった何かが抜け切ってしまったような。

「……素性、ですか」

 今度は、こちらが複雑な表情になる番だった。自分のことを話すのはあまり得意ではない。……いつもなら、時と場合に合わせて言わなければならないことは定まってくるが、いかんせん初めての経験だ。自分のことを知りたいと言われても、何を言ったらいいのか、なんて検討がつかない。

「面白い話でもないですけど、一方的が嫌ならおれからも何か話しますね。……そうですね、いつか」

 キャスターの言った『いつか』の意味。また、いつか。いつか、がある。聞きたいこと決めておいてくださいね、と呟いた。
 数分間、なんとなく左脚の方にかけていた体重を、右脚の方へ移す。いつくるかわからない、来るかもわからない相手の待ちぼうけは、想像以上に堪えるものだった。

>>キャスター(、美命、アサシン)


【短くてすいません! 明日から時間転換ですので、キリがよさそうなとこで終わらせていただきました汗】

1ヶ月前 No.61
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