ヴァンピィ☆4H2CCC.TU8ct ★Android=zbCXnRRWFb
【城前広場→移動開始/ヴァンピィ】
>タスク
「ヴァンピィちゃんはだいじょーぶっ。このくらいなんでもありません」
実際、ヴァンピィも吸血鬼だ。
人間に比べれば体力も多いし、傷の治りも早い。
さすがにガロンは強く、結構な傷を負ってしまったが…それでも少し休めば元通り、だ。
この程度で切り抜けられたことは――幸運と呼ぶしかないだろう。
「タスクは、トリズナーなんだよね。なら…王様の言葉を覚えておくべきなのはヴァンピィちゃんよりアンタかも」
ヴァンピィはこの星が消えれば還るだけの存在だ。
でも――タスクは違う。
彼らにはこの先、まだ何度となくこうした戦いが待っているのだ。
「そんじゃ、ヴァンピィちゃんはそろそろ行きます。帰り道は気を付けてね!」
その行く末に少しだけ思いを馳せつつ。
ヴァンピィはその翼をはためかせて――終焉の王が終った場所を後にした。
【お相手ありがとうございましたっ】
ヴァンピィ☆4H2CCC.TU8ct ★Android=zbCXnRRWFb
【兵舎/五十鈴れん】
>バイロン、十兵衛
…まだ、先がある。
そう仄めかして、吸血鬼は去っていった。
それをれんは見送るしかなくて――すぐにはっとなり、十兵衛に駆け出そうとする。
でも――体が動いてくれなかった。
それもそのはず、傷だらけだ。
あんな無茶をすればいくら魔法少女といえどもすぐには治っちゃくれない。
「だい、じょうぶ…ですか?怪我とか、その……」
だから立てないまま、座り込んだままで十兵衛に安否を問いかける。
そんなれんの耳の奥にはいまも、あの歯車のような音がこびりついていた。
…もっと、力が要る。
今のままじゃ――あれには勝てない。
胸がどくんと嫌に脈打つのを感じながら、れんは十兵衛の答えを待って。
【お相手ありがとうございましたっ。次で絡み離脱するかどうかは十兵衛様におまかせしますー。】
ソル @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【礼拝堂/ソル=バッドガイ】
悪竜と銀狼の決戦は佳境を迎えていた。共に姿を変え、変わりし姿は双方共に全霊の証。互いに互い、譲り合う気がない以上どちらかが消えることでのみ両者の戦いは終わりを迎えることが出来る。
両者互い真っ向から突撃する。ソルの放つ爆炎がヴォバンに襲い掛かるがヴォバンに後退という文字はなくその身を焼かれようが構わず突き進む。
その拳が、ソルの眼前まで迫った――ところで止まっていた。その拳は狼から元の人のものへと戻っていた。
ヴォバンの身体が光の粒子となって空に溶けていく。この勝負、ソルの勝ちだ。
だが負けたというのにヴォバンは恨み言の一つも残さず、高らかに笑い、ソルのいつの日にかの再戦を誓って消えていった。
「大概にしやがれよ、ジジイ…」
ソルはドラゴンインストールを解除し壁にもたれ掛かり、先ほどまでヴォバンがいた場所を少し見つめる。
「悪いがジジイ、てめえの待ってる場所には俺はいかねえよ。
そもそも負けるつもりなんぞねえからな…!!」
そう低く呟くとソルはジャンクヤードドッグを担ぎ上げ、破壊され尽くした礼拝堂をあとにした。
>ヴォバン
【お相手ありがとうございましたー】
永久の夜 @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
エボルトは悪魔城にて与えられていた自室にてコーヒーを作っていた。基本的にエボルトはある『契約』に関することを除いては自由に動く権利を与えられていた。
そんなわけでエボルトはコーヒーを飲んでいたのだが唐突に手に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣が浮かんだ手をエボルトは電話のように耳に添えた。相手は――この星のドミネーター、ドラキュラだ。
「どうしたんだい伯爵殿」
『エボルト、貴様に役目を果たしてもらうときがきた』
エボルトの表情が邪悪に歪む。
「その口振り、ガロンもやられたんだな?
そして、俺の出番が回ってきたわけだ」
『わかっているなら話は早い。いけ、奴らを全て根絶やしにせよ』
「はいよ」
エボルトはコーヒーを飲み干すと部屋を出て行く。
ドラキュラの切り札『仮面の蛇』が遂に本気で動き出す。
永久の夜 @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
エボルトはある場所に来ていた。それはこのキャッスルヴァニアにて最初にトリズナー達が勝利を収めた街『ウィゴル』の門前。
「恨むなら、トリズナーを恨んでくれよ?」
エボルトは腰にエボルドライバーを装着する。よく見ればエボルドライバーには黒い拡張パーツが装着されている。
その名を『エボルトリガー』。エボルドライバー用機能拡張デバイスである。
エボルトがドライバーを起動する。
『オーバー・ザ・エボリューション!』
次いでコブラとライダーのエボルボトルを装填。
『コブラ!ライダーシステム!
レボリューション!Are you ready?』
「変身」
『ブラックホール!ブラックホール!ブラックホール!
レボリューション!』
エボルトの周囲に特殊加工装置「EV-BHライドビルダー」が出現し、無数のキューブが直方体を形成して回転しながら縮小・消滅して、直方体があった場所に姿を表して変身が完了する。
「フェーズ4…さあてと」
大まかな見た目はフェーズ1と同じだが、白と黒を基調としたデザインに変化し腰にはマントのようなEVOベクターローブが追加されている。
その名を『仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム』。エボルの完全体である。
エボルトはエボルドライバーのレバーを激しく回す。
『ready Go!ブラックホールフィニッシュ!!』
エボルトは上空に両手を翳す。するとどうだ。ウィゴル市街の上空にブラックホールが生成されたではないか。ブラックホールはウィゴル市街の全てを跡形もなく飲み込んでいく。建物も、人も、動物も全てだ。
ウィゴル市街が更地になるまでに要した時間はほんの数分。それだけの時間でエボルトは街一つを壊滅させたのだ。
「あーあー、テステス。
見てたかい?トリズナー、それからシュトルツの諸君」
エボルトは魔法陣を顔に翳して話す。今頃シュトルツの古城の上空ではエボルトの顔が大スクリーンのように表示されているだろう。
「伯爵殿の指示という事で手始めに見せしめとしてお前達が救ったウィゴルを消させてもらった。
これから十分につき一つ、人の街や村を消していく。
それが気に食わないなら止めにこい。ウィゴルの跡地で待ってるからよ」
それを最後にエボルトは魔法陣を消して待つ。正義に駆られたトリズナーが、シュトルツが来るのを。
永久の夜 @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【王の間/ドラキュラ&マルド・ギール】
「エボルトはよくやったようで」
此処からでもわかる凄惨にして圧倒的な破壊を目の当たりにしたマルド・ギールは不敵に嗤う。
「当然よ。アレは他の異聞星攻略のための要にして切り札であるが故にな」
ドラキュラはフン、と鼻をならす。まさか他異聞星との戦いが本格化しないうちにガロンを失いエボルトをこうして出撃させることになろうとはドラキュラも予想していなかった。
だがこれで終わりだ。本当の切り札を切った以上こちらに最早負けなどあり得ない。だがここまでで戦力を大きく削がれたのもまた事実。
「マルド・ギール、戦力が削がれた今を狙い我らが首をとらんとする者が現れんとも限らん。
戦う用意はしておけ」
「御意に。マスタードラキュラ」
ドラキュラの言葉にマルド・ギールは頷きドラキュラの傍に控える。これが最後の決戦だ。無論ドラキュラは自らの勝利を疑わない。
この星の夜だけは明けないのだから。
>ALL
【これより5節を開始いたします】
鬼の少女 @recruit ★Android=2AWrmBu7z5
【兵舎/柳生十兵衛"茜"】
>>1667,1669
「……あ、んのヤロ……ッ」
肺に残った空気を吐き出すようにして、十兵衛はまるで其処に居たこと自体が、幻か何かであったかのように姿を消した敵へと、悪態を突く。
結局の所、始まりから終わりまで、この戦いは奴の手中の上でしかなかったか。
腹立たしいが───かといって、追跡をする気にはなれない程に身体はボロボロで、尚且つ何処へ消え去ったのかも定かではない。
「……ん。ああ、俺は……大丈夫って、おっきな声じゃ言えねぇな。こんなんじゃ」
せいぜい、出来る事と言えば自分に掛けられた身を案じる声に応えるくらいのこと。大丈夫かどうかと聞かれれば、平気……と言いたいが、目の前で情けない姿を晒した手前、下手に取り繕ってもやせ我慢にしか思われないだろう。
「……俺の事は気にすんな。そっちも、暫く休んどきなよ」
当然、同じように疲弊してるのは自分だけじゃないだろう。
夜明けの訪れはまだ遠い。
そう感じながら……
【返信が遅れてしまい申し訳ありません……! お相手ありがとうございましたー!】
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_DRC
【→ウィゴル跡地/クロエ・フォン・アインツベルン】
───"悪"が動き出した。
その事実はシュトルツの面々に、想像を絶する大破壊という形で以って齎された。
誰もが一目で理解しただろう。あれは、この星に……凡そ人が生きるべき惑星に居ていい存在ではないと。
端的に言って次元が違う。端から見ても分かる単純極まる脅威性もそうだが、それ以前に。
アーチャー
(……私の中の"英霊"が言ってる)
───クロエ・フォン・アインツベルンは正当な人間ではない。
とある聖杯の器となるべく生まれた少女の一要素が外部に出力され、弓兵のクラスカードを核に現界を果たしている異端の存在。
そんな彼女だからこそ……"正義の味方"の魂をその骨子に遺すクロエだからこそ、誰よりも明確に件の蛇の危険を認識することが出来た。あれは地球上に生まれ落ちた存在でもなければ、自分達の理解が及ぶほど容易い存在でもない。
領域外より来たりて哂うモノ。人類悪(ビースト)ならぬ降臨者(フォーリナー)。
故にこそ最悪なのだ。何故ならそれは、この漂白を成し遂げたる《異星の王》と本質的に同種であることを示すのだから。
「とことん損な役回りだけれど───こうなりゃヤケよ。この身体が壊れて尽きるまで、アナタの正義に殉じてあげる」
斯くしてクロエは魔境の中枢へとその姿を見せる。
恐るべき降臨者を退け、この星を真に剪定するために。
無明の星、何するものぞ。光ある星を取り戻すべく、投影剣を片手に今、聖杯の断片は悪の化身と相対する。
>ALL
アイリス=G・アスカリッド @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_Tbw
【 悪魔城外部/→ウィゴル跡地/アイリス=G・アスカリッド 】
あの時、打倒しておくべきだったッ――。
ウィゴル跡地へと向けて、駆け抜ける漆黒が一つ。ハルバードを手に、銀の軌跡を走らせながら、真っ直ぐに向かうその先は、かつてウィゴル市街と呼ばれていた場所。取り返せたはずのその場所は、星の皇の命令で動く蛇の戯れによって完全に無に帰した。
のみならず、癪に障る話だが――彼らは街を人質にとった。
ただ攻め滅ぼすのならばまだしも、一方的に、非常に短期間での蹂躙を行うと宣告している。
ここで止めなければ、ウィゴル市街の二の舞だ。だから、行く。だから、止めに行く。これが、この身を賭けて出来る最後のことだ。
、 、 、 ・・・・・
ゴウメイとの戦いで、《強化再生》を使い過ぎた。
人の形を保てる分には肉体の修復を終えたが、それでも積み上がった負債を帳消しにできるわけではない。
この分では、良くて相打ち、悪くて無駄死にだろう。だが、それでも命の使い方だけは決めている。
アレはロクなものではない。
ヒトの常識の埒外にあり、領域の外から好き放題に手を伸ばす神。
此処で、その息の根を絶つ――。
同じく、駆け付けていた黒い少女の姿がそこにあった。
その視線は街の一帯へと向けられ――そして、"悪"の姿を探していた。
だが、そこにあの蛇の姿はない。
「――出てきなさい、エボルト!」
広場であったはずの中央に立ち、叫んだ。
住宅があったはずの場所も、見せしめのように晒されていた死骸も。
みな全て、無へと還っていったその地に、彼女の凛とした声が響いた。
>クロエ・フォン・アインツベルン (エボルト)
ミラ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【王の間/ミラ=マクスウェル】
かつて、名のあるヴァンパイアハンターは。
彼の城の名を混沌の産物と名付けたという。
出入りするたびに姿を変える魔の巣窟、日食と共に姿を現す不定形の魔城。
そこには無限の時を生き続けることで神に対する久遠の復讐を続け、死と再生の螺旋を繰り返しながら怒りと憎しみを滾らせた夜を統べるもの、魔王と呼ばれるものが座し、無限に等しい闇の軍勢と眷族たちを従えるのだ………と。
世界の表側には断じて知られることもなかったはずの歴史の遺物。
本来ならば最も日食の強まる日に現れ、その度に乾坤の一族らに打ち滅ぼされる黒白の混沌。
その名を、嘗て彼らと戦いの輪廻を編んでいた者たちはこう呼んだという。
―――キャッスルヴァニア。
「(此処が………か)」
その威容と異様を、脚を踏み入れてから最深部まで愚直に突き進んだミラは、改めて感じていた。
城の内部は何がどう繋がっているのかも判断しようがない。
あの魔海から此方、ヒトの建物というやつは別に初見ではなく、入り組んだ洞窟/アジトにせよ、鋼の要塞とでも言うべき鎮守府/天使の座する場所にせよ、数々の地点へと足を踏み入れて来たが、この城は予想を遥かに超えている。
怪しげな薬液が上下し、そうかと思えば重量を感知して動く棘のような仕掛けが印象に残る錬金研究棟。
深入りこそしなかったが、一面を書で埋め尽くした、その道の者には垂涎ものだろう蔵書庫。
恐らくは城の最上層から離れているが故立ち寄りこそしなかったが、入り口から研究棟へと進むための道中には地下に水脈があることを窺わせるものもあった。恐らくだが、進んで行けば更に異様な光景を目にすることもあっただろう。
しかし決して、ミラはこの城へと観光に臨んだわけではない。
あの神経を逆撫でするような男の言葉に付き合う義理もない。むしろ―――それを考慮するが故に、この星で最も巨大な建物である“悪魔城”へと足を踏み入れることを決めた。
断りを入れるでもなく、他のトリズナー等も同じ結論に至るだろうと考えて。
誰よりも早く、一足先に駆けあがるようにして城を攻略し、いよいよ最上部へと足を踏み入れた。
豪奢な大理石で形作られた階段。
この星の唯一の光として大地を照らす月明かりに染められたこの道を進めば、城の主の下へと付くのだろう。
かつ、かつと音を立てること幾度となく―――まるで無限に続くのではないかと錯覚する程度に長く伸びた階段を昇っていく。目指す先に待っているものを、ミラはすぐさま幻視し、そしてその光景は現実のものとなった。
血塗られた赤に陰惨で、果実のように鮮やかな、矛盾した美しさを誇る赤き絨毯。
王の間は如何なる原理で灯されたのかも分からぬ魔性の光によって照らされていたが。
その先に―――ふたつ。その灯でさえも照らせぬ闇がいた。
闇と形容した片割は魔術師だ。何者かの傍らに控え、玉座に坐すものの忠実な配下のようにふるまっている。
だが、その闇をはるか上回る異物を、ミラは認めた。
その黒をも飲み込む、まさしく混沌の城に相応しい“あるじ”の姿を認めて―――。
・・・・・
「貴様が、ドラキュラだな?」
躊躇いなく、一撃叩き込んだ。
薙ぎ払うように振った細剣―――ディオ・ブランドーという邪悪との闘いで壊れた剣に変わる、ほぼ同一の代物―――の切っ先から鋭く放たれる風の刃は、その玉座もろとも彼を両断しようと突き進んでいく。
最も、言わせてみれば挨拶代わり。この男が星を支配するものなれば、今更言葉をどうして掛けようか。
ミラ=マクスウェルに言わせてみれば、その男に断じて酌量の余地などありはしない。
この星の姿が全てを表している。この男は、ヒトと精霊という一面からその立場を当てはめるならば―――。
「この混沌諸共………、貴様を討ちに来たぞ」
断じて、敵だ。
>ドラキュラ、マルド・ギール
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_DRC
【異端礼拝堂/乃木園子】
「───急がなきゃ」
とうとうすべてが始まってしまった。もとい、すべてが終わり始めてしまった。
エボルト───報告だけでしか知らぬ存在ではあるが、件の"仮面の蛇"は明らかに尋常な存在ではない。
あの《御遣い(バーテックス)》達とも違う。彼らはあくまでも領域内より来るものであったが、エボルトはその真逆だろう。
つまりは、乃木園子が最も危惧する存在の同種である。ともすれば《異星の王》よりも恐れて然るべき、時を這い寄る混沌に性質としては近い。
恐らくエボルトの居るウィゴル跡地には既に複数のシュトルツ構成員が向かっているだろうが、敵はエボルトのみでもなければ、時を同じくして本格的な胎動を開始したドラキュラらのみでもない。
今という暴れ時に寓けて暴れ出す魑魅魍魎、妄執の軍勢が雨後の筍が如く湧いてくるのは見えている。
だからこそ、急がねばならないのだ。重要なのは各個撃破……他の誰かのもとに向かう前に、目に付いた脅威を排除する。勇者として、或いは終わった星を旅する者として。
(どれくらいの子が動けるかな……こっちは。
さっきまでの戦いで重傷を負ってる子も多いだろうし、もしかしたら戦力で押し負けちゃうかも。
そう考えると、エボルトとドラキュラ以外に一番怖いのは───)
その幼く、可愛らしい見た目。そしておっとりとした言動からは想像も出来ないほど理知的な脳髄を回して、乃木園子は考える。
そうした結果、浮かんできたのはとある怪物の名であった。
陰陽を狂乱させ、真なる不死幻想の賜物を名乗る《藍血貴》。ジョージ・ゴードン・バイロン。
《異宙の錨》に連なる者でないという時点で先に挙げた連中よりは若干脅威度で劣るが、それでも純粋な戦闘能力であれば、彼らに勝るとも劣らないものを秘めているのがあの吸血鬼だ。
そして、何より……アレは。
. チ ク タ ク マ ン
(時計人間の端末。第二の、《奪われた者》)
問題は山積みだ。
解決の刻限は迫っている。もう、時間は幾許も残されていない。
異端なるものを崇拝する為に拵えられた礼拝堂の一角に立ち、園子は己が戦うべき敵を待つ。
>ALL
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_DRC
【廃墟群/ジョージ・ゴードン・バイロン】
───音が聞こえる。
チク、タク。チク、タク。
規則的な歯車の音が、秒針の音が、ずっと聞こえている。
幾度となく、果てもなく。
失って久しい鼓動の代わりとでも言うように、延々と。
「ああ、煩い」
それを一蹴しながら、黄金の吸血鬼が降り立ったのは廃墟の山であった。
これなるはジョージ・ゴードン・バイロン。千年を生きる不死の怪物、この世にまろび出た幻想の産物である。
偉大なる真祖の血を引く彼女が狙うのはただひとつ、異聞星キャッスルヴァニアの奪取だ。
その為には、ドラキュラ並びにエボルトが失脚するのが最も手っ取り早い。しかしながら───それはバイロンがこの局面に於いて立たず、抗いし者達の前に立ち塞がらない理由にはならない。
彼は、どうしようもないほどに怪物であるから。たとえ一時なれど、定命の者に与するなど有り得ない。
「無粋な音色よな。
ドラキュラ───我が崇拝を冒涜する偽りの真祖よ、気付いているのか? ネクローシス
その"蛇"はいずれ貴様をも噛み殺すパンドラの匣だ。エルピスをも喰らい尽くした悪星の降臨者……貴様に果たして御せるかな」
くつくつと笑いながら彼方、悪魔城の方を見つめつつ、バイロンは廃墟と化した時計塔の天辺にその両足で佇む。
ああ、実に甘美な光景だ。さぞかし多くの血が流れ、さぞかし多くの命が潰えるのだろう。
宴は楽しまねばならない。貴人たるもの、出された料理に口を付けぬ無粋は恥であるとバイロンは心得ている。
故にこそ、この混沌模様の中にあっても彼は人類種の敵。すべてを喰らい貪らんとする、幻想の怪物として君臨する。
今、此処に。廃墟の街は───幻想なるものの狩場と化した。
>ALL
真人☆4H2CCC.TU8ct ★Android=zbCXnRRWFb
【死翼の間/真人】
>all
「死翼、ってどういうものを指すんだろうねえ」
死翼の間。
そう名付けられた陰気な空間で――真人は一人遊んでいた。
椅子に座った彼の足元には人間が二人。
正確には…「人間だったもの」が、二つ。
「君たちはどう思う?…って、もう喋れないか」
シュモクザメのような形に歪んだ頭。
顔はできの悪いオブジェのようになり――そして背中からはいびつに変形した肩甲骨が翼のように生えている。
有為転変。
真人という呪いが持つ――魂の不可逆変化。
「難しいねえ、何事もさ」
彼にとってはドラキュラもエボルトもどうでもいい。
ただ――自分の好奇心が満たされるかどうか。
それだけのために…此処にいるのだ。
五十鈴れん☆4H2CCC.TU8ct ★Android=zbCXnRRWFb
【兵舎→黒魔術研究棟/五十鈴れん】
>十兵衛、all
言われた通り休もうと思った。
その矢先のことだ。
れんも一度戦った、あの「悪魔」が――動いたのは。
「(っ…!何、あれ…)」
れんが思い出したのはミッドウェーの大天使だ。
あれに近い。
勝るとも劣らないものを確かに感じた。
…そしてその感知は、少女に強い焦りと使命感を与える。
「あの…ごめんなさい。私、ちょっと行ってきますね」
だめだ。
これから先の戦いは確実に激化する。
休んでなんか――いられない。
体は満身創痍だ。
いくつも傷があって血も足りない――でも、動けないわけじゃない。
「(それが、今の私の体なんだから)」
その気になれば痛みなんて消してしまえるのが、魔法少女なのだから。
れんは兵舎を後にして、悪魔城へと急いで向かう。
そして…研究棟の一つへと、足を踏み入れるのだった。
エボルト @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【ウィゴル跡地/エボルト】
『蛇』は呼びかけに応じて現れた。暗黒物質で構成された球体がエボルトを討ちに赴いた彼女らの前に現れエボルトは球体の中よりその姿を現す。
「ハハッ、ようこそと言っておこうか。
『黒騎士』と…そっちの嬢ちゃんはザントをやった奴だな?」
『黒騎士』ことアイリス=G・アスカリッドはエボルト自身が刃を交えた事もあるがもう一人、褐色肌の小柄な少女は初見だ。だが情報ならある。曲がりなりにも闇の眷族の精鋭たるザント、彼を討った事だ。
エボルトはじろりじろりとまさに蛇が獲物を定めるが如く二人を見る。とはいえ順番などない。この星において闇の眷族に反旗を翻す者全てを抹殺するのがエボルトの使命なのだから。
「さあて、では早速始めようか。
音楽で言えばさながら最終楽章ってとこか?
月下の夜想曲最終楽章ってな!!」
エボルトは人差し指を天高く掲げる。そこより発射されたのは幾つもの赤い稲妻だ。放たれた赤い稲妻は天高く上りやがて落ちてくる。
無論その全てがアスカリッドを、クロエをその雷撃にて焼くためにだ。
>アスカリッド、クロ
ドラキュラ @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【王の間/ドラキュラ&マルド・ギール】
どうやらこちらにもきたか。ドラキュラは玉座に座ったまま侵入者を見る。
傍らに控えるマルド・ギールがドラキュラに伝える。
「マスタードラキュラ、この者…ナイトメアとディオを討った女であるかと」
だがマルド・ギールの報告にもドラキュラは一切同じない。ああ、確かにこの者は既に一つの異聞星を壊しこちらの精鋭も打ち破ってきたのだろう。だがそれで?
ドラキュラは手を軽く上げて炎の壁を噴出させ風の刃を受け止める。ドラキュラは玉座より立ち上がりながら侵入者、叛逆者、すなわちミラ・マクスウェルという女を見据える。
「聞き飽きた台詞だ。幾多の者がそのような台詞を吐き、この異聞星の闇の中に消えていったことか」
そのような台詞は既に聞き飽きたとドラキュラは吐き捨てる。だが切り札の一つたるガロンも含めた幾多の精鋭が叛逆者の登場にて討たれたのもまた事実。だがそれもこれで終わりだ。
「消えよ、叛逆者。
ここが貴様達の行き止まりであると知るがいい」
ドラキュラは大きくマントを翻す。そこから放たれるは暗黒の魔力球だ。無論マルド・ギールもただ見ているだけということはなくミラへと人差し指と中指を向ける。ミラの周囲の床を突き破り出撃するは多数の『茨』だ。マルド・ギールの茨にて敵を縫い止めドラキュラの暗黒魔力球で撃ち抜くという単純な連携だがその破壊力は疑うべくもなないであろう。
>ミラ
ミラ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【王の間/ミラ=マクスウェル】
闇が、揺れた。
宙に乗った言葉が、地響きのような威を持って霧散する。
一際大きな方の闇が、玉座から身を持ち上げ、ただ一言、宣戦布告の言葉を一蹴する。
あのアルカードという青年に感じた“魔”が脆弱であったとは思わないが、コレと比較すれば、どうだ―――。
「(この膨大なマナ、支配者を気取るだけはあるか………)」
魔を統べるもの、それこそがドラキュラ。
その言葉に嘘偽りがないと錯覚してしまうほど、これは力を手足の指先にまで漲らせている。
同様に、どす黒く煮え滾りながらも、触れるものすべてを凍て付かせるような炎の如き情を。
魔に飲まれた戦士がどれほどの力を持っているのかは、ナイトメアとの戦いで見届けた。
吸血鬼というヤツの強さとしなやかさは、ディオ・ブランドーとの戦いによって学んだ。
王という存在の傲岸さとその自負の強さは、ギルド・テゾーロとの戦いが教えてくれている。
だが、それを差し引いて尚、この存在は城同様に底が知れぬ。
どれほどのものが、この巨きな暗闇に食われて消えていったのか。図る術はない。
ミラには、この果てしない混沌の最深に、根源を断たんとする意思を以て乗り込んだ者たちが数知れず居たこと、そしてその霊魂の全て、無念のうちに闇に食われ、夜の帳の一部と化していったことを、その言葉から察する程度だ。
まして、隣りに立つ男とて決して軽いものではないのだ。どれほどの無謀かなど別に測るまでもない。
それは越えるべき壁の大きさを測ることの無意味さでもあり―――。
「越えてみせるさ………!
貴様の王道は何処にも根付いてはならない、後には何も残さぬ滅びの道だッ!」
ミラ=マクスウェルにとっては。
壁を測り、怖気付くという行為そのものが無意味であるからだ。
この王の作り出した世界は、紛れもなく救いようがない。
黒き森の奥底に広がる闇は、最早何も生むことはない炎のようだ。
憎悪と悔恨こそこの星の形。
無意味で非生産的な復讐こそ、この星の支配者が掲げる王道ならば―――魔海以上に、此処は“ヒト”に適さない。
疾駆―――遠距離からの術の打ち合いにおいて、ミラに勝ち目はない。
零でないなら勝機もつかめよう。だがあの魔力球一発一発に込められたマナ(あるいはそれに近しい要素)の膨大さは筆舌に尽くし難い。単調な軌道ゆえに間隙を縫うことは容易なれども相殺は困難どころか不可。
ならばと踏み込み白兵に持ち込もうにも、それを成させないのがあの茨であり、あの男だ。
「チ………!」
床を突き破って迫りくる茨は正面、側面、後方すべての行く手を阻む。
被弾覚悟の突破など早期には選べず、脚を打たれたのならばその時点である種“詰み”だ。
跳躍するように茨を避け、可能な限り魔力球に足を止められることなく近付く。
接近のしすぎはあの茨を操る副官に隙を晒すに等しく、しかし軽い技が伯爵を討てるとも思えぬ。
故に―――。
「 “――― 一剣を以って万業を滅却せん! ―――” 」
、 「 “――― 抜刀ッ! ―――” 」
此処から繰り出されるのは、雨水で岩を穿つような気の遠い、かつ予断を許さぬ打ち合いになる。
故にこそ、走りながら組み上げた術式がマナに雷を帯びさせ、精霊術として形を組み替え―――暗黒球の嵐を潜り抜けたミラの眼前に巨大な雷剣が現れると、ひとりでに動き出したマナの雷剣はドラキュラ目掛けて縦斬りと左右薙ぎ払いを繰り出し、続いてもう一本の巨大な剣が切り裂いた先へと失墜をかける。
更に―――踏み込み過ぎでマルド・ギールに意識を取られぬよう、後ろに軽く下がり。
手にした細剣を振り下ろせば、魔法陣が出現して前方へと飛んでいく。
飛来した魔法陣はある程度の距離を進めば爆風を起こし、『サンダーブレード』の一撃で陣形を崩しに掛かった両者のうち、留まろうとした方には追撃として機能するだろう。
此方は一撃貰えば取り返しが付かず、彼方は何十貰おうとも文句なし。
数の不利に加えて質の不利だ―――そうもなる。
それでも―――出来る出来ないを語るつもりはない。
>ドラキュラ、マルド・ギール
タスク @antinomie☆yzl4MFL1dRLB ★AmPQPE9EE6_M6M
【→王の間/龍炎寺タスク】
そして、終わりが始まった。
生まれ出でた闇が、町一つ飲み込む光景。それを見てからのタスクの行動は、分かりやすいものだった。
両足に空を駆けるための光輪を生み出し、速度を上げて飛んでいく。
その最中、思い返すのはつい先ほどの出来事。
終焉の王が放った言葉と、吸血姫から受けた忠告。
「……わかってる。大丈夫、……大丈夫」
どちらにせよ止まってはいられない理由があるのだから、忘れるわけにもいかない。
彼女たちの言葉も、言う意味も。その上で、今ある問題を片付ける必要がある。
白き蛇、仮面の戦士―――エボルトの言葉通りなら、この局面が長引けば長引くほど、この星は荒れる。
本当なら、直ぐにでも彼方を止めに行くべきだ。簡単に町一つ消してしまえるような存在であっても、関係ない。
だが同時に、ガロンという切り札を失った彼らの状況もまた良くはないのだと推察することができる。
なら、どうする。どうするのが、最も良い?
タスクの答えは――……。
「コール!《英雄竜 ジャックナイフ》ッ!!!」
『ォオオオ!!!』
タスクの視線の先。
吸血鬼の住まう、悪魔城。その玉座へと続く道へ目掛けて、加速を緩めず手を掲げれば。
赤い炎の紋様が刻まれた鎧を纏った、光の剣を携えた相棒<バディ>が、その入り口を砕きながら飛び込む。
頭部の剣は展開済み。先に開かれている戦端を察するよりも前に、ジャックは敵影二つへ突進を仕掛けた。
「……お前たちの選択肢は、一つ」
後に続くように、浮かびながら現れるのは覚悟を定めた少年だ。
その手には、相棒たる竜を模した長銃《輝光星銃 ドラグナーパルス》が握られており。
その身には、《フューチャーフォース》による輝きを纏う。腰まで伸びた青い髪をはためかせて、銃口を二者へ向け。
「此処で倒されて、破壊活動を止めさせる……だ!
ッ、……支援します!」
同時、光の線が二条、放たれる。
破壊力は足りないかもしれないが、気を逸らすくらいは出来るだろう。
一先ずサポートの手を打ったのは、既に場に発生している力場は、タスクには想像しがたいものだから。
>ドラキュラ、マルド・ギール、ミラ
アスモデウス @genmwhite ★HGFSFqNdXl_f3y
【王の間/アスモデウス】
怪物を討つのが人であり、人は怪物を倒すための勇気という意志を持つ。その意志を受け継ぎ、人という生物は栄えてきた。その人を堕落させ、絶望に叩き落とし、闇の中へと葬った紅魔の世界。
この城はその象徴。存在するだけで畏怖を与え、人々の希望の白を、絶望の黒で塗りつぶしていく悪魔の城。混沌に満ちた世界に漂うフォトンの一つ一つが、散っていった人間たちの無念か。あるいは負念か。
その一つ一つが指から体内へ、ヴィータの肉体へ供給されていく。何かを背負うわけではない。この魂たちの無念を知るわけでもない。ただ女が歩むのは、人界を守護する悪魔(メギド)の一人として、それらを破壊せんとする闇を切り裂くのみ。
闇の眷属として召喚されたこの身は、闇に近しいもの。しかし、アスモデウスと呼ばれた女が闇に従わぬワケがすでにあった。彼女はすでに主人が存在する。その契約を破棄することはできない。ましてや強力な指輪さえもないこの世界で。
だからこそ、主人……あるいは下僕か。ソロモン王の導くままに人に加担した。その戦いが終わる瞬間がこの地であり、叛逆者(トリズナー)という"勝算"が踏み越えてゆく壁の一つ。
「───おォォッ!!」
蒼炎が舞う。火の粉を撒き散らしながら、地より生える禍々しき『茨』の一つ一つを滅さんとする悪魔の炎。振るわれたのは黄金の細剣。赤々と宝石のような光沢の熱を放つそれを握って現れたのは、《シュトルツ》に身を置く悪魔(メギド)───アスモデウスだ。
精霊の剣士、光の竜とそれを操る勇者と対峙する、魔を統べる者と冥府の門の悪魔。第二の星の運命を決める戦いに乱入してきた混沌の体現者。炎の悪魔。煉獄の使者───数は超えど、質は未だ届かぬ。アスモデウスも相応の実力者たれど、この差を完全に埋めることはできない。
暴力の象徴は踏み込み、雷の剣を振るい続け、魔法陣を発射するミラと光の線が二条放つタスクを援護するように、細剣より蒼炎を迸らせ、まるでサラマンドラのごとくドラキュラとマルド・ギールへと飛来。炸裂したそれは槍の如く降り注ぐ。
まだ戦いが始まったばかりであることを悟り、威力は先鋭化させたもの。フォトンを食うが、出し惜しみをしていれば押し負けるのはこちら側に他ならない。
「……死んでいないな、貴様たち。無事ならばいい。
私は───今は味方だ。それだけ覚えておけ」
二人の叛逆者にその言葉だけを残せば、アスモデウスは自らの周囲に蒼炎を纏わせながら後ろへ下がる。
……この戦い、あくまで彼らを討ち取るべきは叛逆者たちだ。漂流者でしかない彼女は、その資格はない。故に、ここは最も勝算のある者たちへ賭けるのが道理というもの。
カバーリングをするように立ったのはそのためだ。マルド・ギールが地中から荊を生やしたように、攻撃はいつどこからくるかなどわかったものではない。それを潰すためのカバーをすれば…………叛逆者どもも少しは戦いやすいだろう。
>ドラキュラ、マルド・ギール、ミラ、龍炎寺タスク
十文字撃 @genmwhite ★HGFSFqNdXl_f3y
【廃墟群/十文字撃】
十文字撃は走っていた。黒い大渦、ブラックホールに飲み込まれていくこの星を見て。
焦っていたのは事実だが、何よりも出遅れていることが彼にとっては恥ずべきことだった。前回───つまり、魔海での戦いで損傷したコンバットスーツの修理と、傷みに傷んだ自分の肉体の完治。それが待てぬ以上戦える身ではなかった。
足を引っ張るのを嫌う以上、どうにか戦おうとしたが、逆の命を脅かされる始末。そうして治ったとしても、すでに星は終わりを迎えつつあった。もうすでに悪魔城には他の叛逆者たちが向かっている。
撃も、それを目指して走っていた。だが、途中で異様な気配を感じた。確か……ここは時計塔の近くだったか。だが、もはやそれすら感じられぬ廃墟となっているではないか。今更、ここで何が行われているというのか。
そんな中で、撃はその理由を知る。そして、……視界に映った人物を見、激しい怒りの感情を抱く。それが当然。なによりそいつは……怪物であったから。人の敵、人類にとっての悪魔そのものだったからだ。
「よう、随分と楽しそうじゃねえか。祭りでもあったのかよ」
デコを滑り落ちる汗は、少なくとも内心恐怖の感情を捨てきれないことによる焦りだ。それでも前へ進まなければならない。生半可な覚悟を抱いてこの戦いに来たわけではないし、腹はすでに括っているのだから。
手に握ったレーザーブレードすら冷たく感じるとほどの相手の圧倒的なオーラ。凄みがあるという言葉では形容しきれないくらいの威圧感と存在感。これは間違いなく、ドミネーターにも匹敵する危険な雰囲気を放っている。
戦わなくては───だがまずは相手の言葉を聞いてからでも遅くはあるまい。蒸着は一瞬で済まされるからこそ効果があるのだから。相手が……何らかの情報を握っているものとして、今ここで対峙しなくてはならない。
「もう戦いは始まってるってのに……一人で何やってんだ。
答えろよ───吸血鬼野郎ッ!」」
それは彼(彼女)からすれば無粋な言葉だろう。まさに怒りを込めた感情むき出しの言葉で、撃はバイロンの前へと立つ。
手にしたレーザーブレードは未だ光を発さず、実体剣のままとして存在している。それが……彼がまだ応戦する状態ではないことを一目で表しているだろう。なにせ生身。彼の場合は、生身ではなくスーツを纏った姿が戦う姿なのだから。
宇宙刑事が、幻想なるものという大敵へ挑まんとしている瞬間。火蓋が切って落とされる瞬間は、果たして───。
>ジョージ・ゴードン・バイロン
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【ウィゴル跡地/クロエ・フォン・アインツベルン】
「覚えて貰えてたみたいで光栄ね。ええ、そうよ。私があの王サマを殺りました」
僭王ザント。決して英雄めいた実力を持つ訳ではないクロエに言わせれば、彼を倒すのも命からがらのことであった。
しかしその点、今自分の目の前に居るこの《仮面の蛇》は───ザントの数倍以上もの力を持った、文字通り規格の外側の相手だ。
まず間違いなく、自分ひとりで戦えば死ぬだろう。逃げに回って何分耐えられるか、そうでなければ何秒の世界になると言っても何ら大袈裟ではない、それほどまでに絶大な力の差が自分とエボルトの間には存在する。
そのことをクロエは、英霊を宿すが故の本能的直感により理解していた。
だからこそ、一歩遅れて姿を現した援軍の存在がありがたい。天秤は以前としてあちら側に傾いたままだが、先ほどより少しはマシになった。
「悪いけど前線は貴女に任せるわ、騎士様。わたしはこの通りか弱い女の子だから、あんなのとまともにやり合えば一撃で溶けちゃうもの」
悪いとは思うが、効率の問題だ。火力でも防性でも彼女に勝っているとはとても思えない自分が先陣を切って戦うことに意味があるとは思えない。
クロエ・フォン・アインツベルンが黒騎士アスカリッドに勝っている部分があるとすれば、それは投影宝具を用いるが故の小回りの利き具合だろう。後は、"壊れた幻想"に頼って叩き出す瞬間的な爆発力。それ以外ではまず、自分は彼女に並べない。
だからこそ、今与えられた人事を尽くして天命を待つ。
クロエは自身を囲むように十数本の剣を投影して地面へ突き刺すと、魔力で以ってそれらを浮動。地から逆方向に天を目指して駆け上がる、剣の対空砲としてエボルトの雷撃目掛け打ち込んでいく。
無論接触などしようものなら忽ち硝子細工の如くに砕け散ることは見えている為、接触の一瞬手前で剣を「起爆」───本来の用途によって生み出されるざっと数倍の威力を内包した魔的爆発を引き起こし、出来る限り雷撃の勢いを減衰させる。
その上で矢/剣を番え、クラスカードの英霊の力に任せた高速弓撃を放ち、エボルトの逃げ場を塞ぐように鏃の雨を降り注がせる。
仮に命中したとしても、それほど大きなダメージは期待出来ない。だが、この豆鉄砲がアスカリッドの重撃を届かせる階になるというのなら無意味ではない。
自分に出来る最大の仕事は、彼女が輝ける"布石"を用立てることである。そう理解したなら迷わない。欲を掻かず、弓兵らしく、ただただ合理的な戦法に殉じて星喰の大蛇を狩り殺す。
>エボルト、アスカリッド
ミトス @antinomie☆yzl4MFL1dRLB ★AmPQPE9EE6_8Ou
【廃墟群/ミトス・ユグドラシル】
世界を喰らう蛇が動き、星の終わりは加速していく。
虚空へと飲み込まれていく星の一部を横目に捉え、天使は冷めた瞳で闊歩する。
叛逆者たるトリズナーたちに、この星に根付いた正義の味方、シュトルツ。彼らのことだ、この事態を看過することはない。
それは、同時に彼方側の最大戦力との接触を意味する。要は、最終決戦……正しく終わりの始まりだ。
この星のことはさして嫌いでもなかったな、と独り言のように呟く。
それはある種の弔いだ。厄災が降り注げば、どう転んでもこの星に生きるものどもは生きてはいけない。
さて、どれほどの犠牲が出るだろうか。それがシュトルツの面々であるならば、ミトスにとっては関係がない。
だが―――……。
「こんなところで数を減らしてくれるなよ、叛逆者ども。
でなければ、僕たちがこうしている意味が本当に無くなってしまう」
口を吐いて出たのは、思ってもいない心配ごと。本来、他者の……特にヒトの心配など、してやることはないのだが。
瓦礫を蹴り飛ばし、舞う粉塵を魔剣にて薙ぎ払いながら、昏い瞳で周囲を見る。
「(雑魚共に構う暇もないけど、……あいつらは僕たち以上にその暇がない)」
それではどうする。
単純だ。本命を取るように動くのが彼らであるならば。
我々の選択肢は、他の徹底排除。この星自体の鍵となるのはドラキュラたちだ。其方は、任せてしまえばいい。
仮面の蛇、エボルトに関しても同じ。元より、自分にとってはこの星の生物などどうでもいい命だ。なら、あとは懸念の一つ。
「退屈そうだね、吸血鬼。
お前はあっちに混ざらなくていいの?大物狙いなら、城の方にでも立っていた方が集まると思うよ」
……まあ、そうさせないために来たのだが。
既にこの場に立っている、一人の叛逆者―――あろうことか、完全なる戦闘態勢ではない一人の男を、目を細めて眺めながら。
此方は、命を守ってやらなければならないとはいえ意に従う理由はない。魔剣を、地を這わせるように薙ぎ払う。
「《魔詠剣》……!」
地を走るのは、魔力<マナ>を帯びた衝撃波。怪物と歓談する趣味はないぞ、とまっすぐな殺意でそれを放って様子を見る。
>ジョージ・ゴードン・バイロン、十文字撃
猿渡一海 @antinomie☆yzl4MFL1dRLB ★AmPQPE9EE6_8Ou
【平原/猿渡一海】
一人、野を駆ける男の姿がある。
冗談じゃない、と口から漏らしながら、必死の形相で走るのは猿渡一海だ。
今しがた落とされた戦いの火蓋は、彼の心火に燃料を注ぐ。その原因は、街一つを消し去ったブラックホール……エボルトの、存在。
「あいつは、やるって言えば絶対にやる……!」
現に、既に一つの場所が地図から消えている。
思い起こされるのは、自分が死する前の記憶だ。あの時も、あいつは。
―――しかし、どういうつもりなんだ?この星の支配者……ドラキュラ、ってやつは!
心の底で叫びながら、流れるような動作でベルトを腰に巻き付けてゼリーを装填する。
あの力を行使させるということは、彼の力について理解があるということだ。もしかしたら、本人が多少秘匿しているのかもしれないが。
それでも、アレを見て平然と支配者面をしていられるものだろうか。
エボルトは星を狩る。奴はそういう生物だし、結局それはこんな場所でも変わっちゃいねえ。
なら。きっと、最終的にはこの場所だって。
歯噛みしながらベルトのレバーを倒し、黄金の戦士<仮面ライダーグリス>へと変身。
沸き立つ有象無象の眷属に拳を叩きつけながら、視界をウィゴルの、エボルトらの居るであろう方角へと向ける。
「つまんねえ、ふざけた祭りを開いてんじゃねえぞ……!」
湧き上がる闘志に、怒りに、システムが作用して相乗効果を齎しながら。
男は、ただ真っ直ぐに走り抜けていく。
>ALL
アイリス=G・アスカリッド @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_8Ou
【 悪魔城外部/ウィゴル跡地/アイリス=G・アスカリッド 】
トリズナー
《反逆者》クロエ・フォン・アインツベルン。
星を渡り各地の王を殺す者にして、この夜が昼を凌駕し、魔が人を支配する世界にて精鋭ザントを討った者。弓兵<アーチャー>の霊基を宿し、中距離主体の戦いを得意とする者だということは、シュトルツ構成員よりあがってきた報告書で把握はしていた。
「わかった。――気を付けて」
全てを飲み干し喰らう漆黒の球体。未だ固定化することすら不可能とされているはずの暗黒物質の奥より、ぬるりと這い出てきた白い大蛇のねぶるような視線を受けながらも、お互いに怯む様子を一切見せることはしない。
願ってもない分担だった。今、命の刻限が迫っている自分の身では、掠り傷ですら致命傷に繋がる危険性がある。だが、自分には遠距離砲撃を撃ち落とす手段はないに等しく、まともに飲み込まれれば見逃せない損害を受けるだろう。
小回りと対応力に特化している彼女に背を預ければ、使い尽くす直前まで攻撃のためだけに武器を振るうことが出来る。
疾駆、大気を抉じ開けるような前進。夜の闇と白い月の真下、漆黒が一陣の風となって駆け抜ける。
クロエが投射した剣の対空砲が、地に落ちる紅の雷撃と衝突し、威力を減衰させてゆく。
自分の前進に追従し、逃げ道を塞ぐように飛翔する鏃の雨。
援護を受けながら破竹の勢いでエボルトに接近したアスカリッドは、戦斧を背を向けんばかりの勢いで振りかぶった。
「ハァァァァアアアアッ!」
裂帛の気合と共に一回転しながら振り抜かれた戦斧は、岩を砕き鋼を叩ききらんばかりの威力を誇っていた。
砲弾のような風圧が、右から左へと通り抜けていく――その先に残っていた大木をへし折るほどに、強烈な。
>エボルト クロエ・フォン・アインツベルン
ドラキュラ @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【王の間/ドラキュラ、マルド・ギール】
生半可な者であるなら今のドラキュラとマルド・ギールの初手にて消し飛んでいたであろう。だが敵は仮にも一つの異聞星を滅ぼした叛逆者である。
たかだか一撃、それも渾身ですらない技にて滅ぼされるほど安い相手ではなかった。
迫る雷剣をドラキュラは自らの身体を無数の蝙蝠として分裂させ回避、躱した先に振り下ろされたもう一本を腕を振るって弾く。更に生成された魔法陣の爆破はマルド・ギールが黒い薔薇を投げつけ巻き起こした呪力の爆発にて相殺する。
「何も残らぬ?
否、最後に残るのは闇、即ち我が異聞星キャッスルヴァニアである」
ミラの言葉をそう一蹴してドラキュラがマルド・ギールと共に攻勢に入ろうとした時だ。
「む?」
「新手か」
王の間入り口より突撃する竜が現れた。その突進をマルド・ギールは跳躍して、ドラキュラは転移して躱す。次いで放たれるドラキュラとマルド・ギール目掛けて放たれる二条の光条をドラキュラは腕で弾き、マルド・ギールは茨を束ねて防ぐ。竜に続き現れたのは長銃を握る少年だ。
「マスタードラキュラ、この少年とドラゴン…ガロンを討った者と情報が一致する」
「ほう、此奴らがガロンを倒したのか」
今度はドラキュラの表情にも変化があった。興味と幾何かの驚き。何せ切り札の一つを倒した叛逆者が現れたのだ。無論、単独で倒したとは思わないがそれでも脅威であるのは確かであろう。加えて言えば増援は『彼ら』に留まらなかった。
だが――
「一度下がれ、マルド・ギール」
「御意に、マスタードラキュラ」
ドラキュラはマルド・ギールを後方に下がらせ自らが前に出る。
「《ダークインフェルノ》」
ドラキュラの放つ無数の暗黒の火炎球が蒼炎を相殺する。新たな介入者の情報をマルド・ギールはドラキュラに伝える。
「マスタードラキュラ、その者はシュトルツのアスモデウス。悪魔でありながらシュトルツに与する女だ」
「貴様と真逆よな、マルド・ギール」
当初はミラしかいなかったが瞬く間に戦力が集結した。だがドラキュラにも、マルド・ギールにもそれは脅威になり得ない。
再び前に進み出ながらマルド・ギールが不敵に嗤いながら語る。
「愚かな奴らだ。先ずはエボルトを倒してから我らと事を構えるべきであったというのに。
否、アレはそんな次元の者ではなかったか」
マルド・ギールが手を前方に軽く翳す。放たれるは濃密な、花弁を模した呪力の波動だ。次いでドラキュラが追撃する。
「いずれにせよ、我がキャッスルヴァニアを穢した罪は重い。血の十字架を胸に抱き、地獄へ落ちるがよかろう。
《フェイタルレイ》」
ドラキュラが高く軽やかな音を立てながら指をスナップさせる。同時に降り注ぐのは破壊の光の雨霰だ。花弁と雨の連奏が刃向かう敵を喰らいつくさんと襲来する。
>ミラ、タスク、アスモデウス
ミラ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【王の間/ミラ=マクスウェル】
雷剣―――仮にも相応のマナを用いて起動する《サンダーブレード》の精霊術によって編み込まれた雷撃。
決して侮ったつもりはない、初動から相応の威力を含む術を起動させたのはそれが理由だ。
それがあの深い闇の前においてはいとも容易く、赤子の手を捻るが如く無力化され。
二の矢も、その隙を見逃さぬ茨の魔術師の前においてはまるで意味を成さぬ。
小さく舌打ちをしつつも、その微かな焦燥を乗せたミラの表情は、しかしすぐに切り替わった。
「………<トリズナー>か! いいや、そうでなくとも意図は分かった。
手を焼く程度で済むなら良かったが、一人では如何ともし難くてな。助力を恃もう」
近付いて来る足音が一つ、否二つ―――弾かれるように視界に飛び出す竜の姿が一つ。
視界の中に入る閃光一条、それぞれが闇を穿つように解き放たれ。
その光を掻き消す一対の闇の虚を突くように迫る蒼炎を、ドラキュラがその手で飲み込むように撃ち滅ぼす―――己が第二第三の術を立て続けに放ったわけでもない以上、これは紛れもない第三者、即ち先んじて飛び出した身であるが、どうもこの調子ならば同じ結論に至った者達の手による援護射撃というわけだ。
単身であればさておき、複数であるならば話は違う。
古来より数が質を圧するなどと説かれた覚えはないが、しかし突破口は先程より十分に開けた。
そしてこうもなれば、十分に近付く猶予が生まれる。
彼方の暴風じみた術の打ち合いに付き合うことなく、近距離の間合いに飛び込める。
そこに生じるリスクは言うまでもないが、そのリスクは少なくとも今までに比べれば減少したのだ。
、 、 ドラキュラ
「ボタンを掛け違えるなよ、支配者………!」
降り注ぐ怒濤の光の雨。
呪力の波動を伴う正面の制圧砲撃に、いちいち立ち止まった防御などしていられない。
集って貰っておいて難ではあるが、そちらを庇うような手も回してはいられない、そも回すつもりはない。
回している時間が惜しいと、ミラは短い距離を突き進むように、ジグサグの軌道を残してひた奔る。降り注ぐ光に解き放たれる呪力、花開く混沌は大口を開けてこちらを迎え入れているが、それらはまともに付き合ってはいられぬ代物だ。
脚を止め、臆するならば即ちその身を食われる未来が待ち受けよう。
ならば多少の対価を払ってでも、“ヤツ”の間合いから此方の間合いに持ち込まねばならない。
落ちる光が身を掠め、それだけで身を焼き焦がすような音と痛みが伴うが―――ドラキュラに剣が届く間合いに入った。少なくとも、この君臨する黒き者に、その刃を届かせる間合いに入った。
狙うはただ王の首だけ。茨の副官を退かせるのが最善だろうが、それは生半可な手では成し遂げられまい。
「貴様の星が何も残さないと言っているのだ、私は!
此処には何もない―――ただ焼き尽くすだけの黒い焔があるのみだろう!
、 、 、 、 ・・
ヒトも貴様たちも、何もかも焼き尽くし、未来を見据えず陥穽するのがこの夜の星だ―――!」
ならば先ず、王の首にその剣を届かせる。
それを以て盤石を崩す。
そのために、疾駆と共に細剣を鋭くドラキュラの下へと届かせんと振り抜けば。
そこから流れるように、近距離のクロスレンジから舞うようにして細剣を幾度も振り抜く。
合計五度にわたる剣戟は、ドラキュラをその場に留める役割も兼ねるが、だからと言って手傷を負わせられぬほど軽く浅いのかと言われたならば、それは別だ。
>ドラキュラ、マルド・ギール、タスク、アスモデウス
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【廃墟群/ジョージ・ゴードン・バイロン】
「貴人の嗜みというやつよ。折角お誂え向きな宴が催されているのだ、これに乗らぬは無粋というものであろう」
これは、人倫を介さぬ者である。
否、より正確に言うならば───介した上で、それを知らぬと足蹴にする者だ。
人の苦悶と涙を何よりも愛すべき美酒と据え、友誼も情愛も執念さえも、そのすべてを玩弄して使い潰す人類の天敵。
死を想うことのなき幻想の住人。己を夜の闇と定義し、千年以上に渡り世に蔓延り続けている名実共に最悪と呼ぶべき吸血鬼の一体。
それこそが、このジョージ・ゴードン・バイロンという存在(モノ)。果たしてドラキュラが握るキャッスルヴァニアが星に定着した場合と、このバイロンが星を奪取した場合、どちらの方が人にとって過酷な未来になるかは定かではない。
ただひとつ言えることがあるとすれば、いずれの未来であろうと人の生きる場所はそこにはない。それだけは、頑として不動である。
「ほう、何かと思えば造花ではないか。
おまえのような紛い物が何故人の真似事をしている?
定命の人間に情でも湧いたか。何にせよ、実に奇特なものよな」
くつくつと笑うバイロンに呼応するように、廃墟の街へコールタールのように広がった闇が……彼の影が有機的な蠢きを見せる。
古の真祖より直接与えられた神託の賜物───"賜力"。血を吸い、蓄えれば蓄えた分だけ猛悪に成長する祝福の異能も、バイロン程の規格外ともなれば最早次元違いの作用を生み出すに至る。
影の中から這い出た刃が複雑に交差して柵となり、ミトスの魔力刃を実に容易く受け止めてみせる。
それだけだ。影刃は小揺るぎもせず、やがて衝撃波は失せて消えてゆく。その様は宛ら、か細い光が闇に呑まれて潰えるように。
「ドラキュラの小倅めは些か判官贔屓が過ぎるようだな。
蓋を開ければか弱い人間か、魔道に墜ちきれぬ三下かの二択とは興醒めも甚だしい。
───総じて底が浅いぞ、分を弁えよ。朽ちぬ不滅の薔薇に傅き、怯え哭いて散るが良い」
解放───刹那。
前後左右、全方向からミトス並びに撃へと殺到する黒き刃。
その勢いは最早、魔法少女と少女剣士を相手取った時に見せたものの比ではない。
千年を生きる吸血鬼の全霊。終局を告げる宴となれば、もう牙を隠して加減する意味も存在しないのだから。
これぞ不滅の怪物、物語の中にのみその存在を許された忌まわしきもの。彼らの形は数あれど、共通するのはただひとつ。
大きすぎる闇は、光の存在を許さない。
>十文字撃、ミトス
エボルト @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【ウィゴル跡地/エボルト】
「やるじゃあないか。
なら今度は俺の喉も噛み切ってみせるかい?」
仮にも仲間をやったやられたという話をしているというのにエボルトはフランクな調子を崩さずそれがまた不気味さを醸し出す。エボルトは親指で咽を切るジェスチャーをした後に構えて戦闘態勢になる。
ここからだ。遊びを捨てた仮面の蛇が遂に牙を剥く。初手の雷撃に応じたのはクロエだ。多数の剣を生成しそれを上空に射出。それを爆破して雷撃を凌ぐ。
「ははぁ、こいつァいい!!
両手に花ってのはこういう事を言うのかねえ!!」
クロエとアスカリッドは互いに役割分担をしてこちらに攻めかかる手法を選んだようだ。更に今度はクロエが放つ鏃の雨霰。弓矢だというのに機関銃めいた速さで襲い掛かるがエボルトもまた愛用の武器たるトランスチームガンを使い、そこから放たれる銃弾で矢を的確に撃ち落とす。その間を縫って迫るアスカリッド。
「フェーズ1の俺なら悪くなかったかもなあ黒騎士…だが――」
振りかぶられる戦斧をエボルトはまるで踊るかのようなアクロバティックな動きによる蹴りで弾き飛ばした。
「今の俺はフェーズ4!!
対惑星、文明を想定した形態なんでなァ!!」
そう高らかに、笑い、豪語しながら追撃に足払いから膝による蹴り上げ、更にフロントキックの連撃をアスカリッド目掛けて放つ。無論、その破壊力はかつての、フェーズ1のそれを大きく上回っている。しかも器用な事にエボルトはトランスチームガンにてクロエへの妨害も行う。トランスチームガンから放たれる多数の弾丸。無論ただの弾丸で収まる範疇を軽く超えており着弾すれば火柱が起きるほどの火力を誇っている。無闇に突っ込めばどうなるかなど語るべくもないであろう。
>クロエ、アスカリッド
タスク @antinomie☆yzl4MFL1dRLB ★AmPQPE9EE6_8Ou
【王の間/龍炎寺タスク】
自分たちが飛び出すのとほぼ同時。
薙ぎ払われる蒼炎が、支配者たちの放つ攻撃を呑み込まんと撃ち出されるのを見た。立っているのは、多少の魔性を感じさせる女性だ。
それを言うなら、先んじて此処にいた彼女も純然たるヒトとは言い難い雰囲気を醸し出していたが。
―――ともあれ、だ。どちらも、敵ではない。ドラキュラとその隣に立つものに対峙している以上は、味方だ。
「分かりました、今は一緒に……っ」
ならば警戒する必要はなく、一歩下がる女性と交差するようにスカイサークルを唸らせて前進する。
ジャックの突貫も、此方の射撃もろくな結果は残せていない、が。少なからず、自分たちの登場は彼らに驚きを与えたみたいだ。
ある種、当然。彼らの切り札を討った二人のうち、一人だ。少しでも注目を浴びていない方がおかしい。
ドラキュラより放たれた暗黒が蒼炎を喰らい、次いで撃ち出された花弁の呪いと破壊の光。
どちらも、人の身で受けるには過ぎた威力だ。直撃を受けようものならひとたまりもなく、かといって後退しては戦えない。
「……エボルト?……外の方は、きっと僕たちの仲間が止めるさ。
だったら、此方がやるべきことも明白!いつまでも余裕でいられるとは、思うな―――キャストッ!」
展開するのは、星の盾《アースバリア》。もちろん、これは持続力のある盾ではない。
前に進み、ジャックに接近しながら機動する。掠める光は、鋭く痛い。でも、貫かれてはいない。
タスクと破壊光の間に割り込んだジャックに、タスクはカードを掲げる。輝きとともにジャックが背負うのは、巨大な武器庫だった。
《剣星機 J・アーセナル》。星竜の武器庫たる支援機を纏ったジャックは、タスクへ迫る攻撃を受け止めて。
『……ぐ、……喰らえ!』
反撃だ、と言わんばかりに、その武器庫から火器を撃ち放つ。タスクの持つそれよりも威力は高いが、代わりに狙いが甘い。
比較的無軌道に飛び回るミサイルや光の弾丸を確認して、タスクもまた再び前へと飛び出した。
「そこ、だっ!」
弾幕の張り合いであれば、少なくともジャックは引けを取らない。タスク自身が思考をする暇があれば、という条件付きだが。
既に真っ直ぐ切り込んでいる叛逆者の仲間に、驚きの視線を向けた。怖くないのか、とも思う。
あの距離まで接近すれば、返しの手は痛烈にならざるを得ない……と、思う。だったら、此方ですべきことは。札使いとして、場を見ながら戦う戦士として出来ることは。
弾幕をばらまきながら視線を此方に向けたジャックが小さく頷く。タスクも、それに呼応する。
新たに握った武器は、星の光を宿す双銃。
《二挺星銃 ジャック&ファング》。二つで一つの銃剣のエネルギーを、自ら迫りつつある二つの巨敵目掛けて、放つ。
ジャックと、タスク自身の攻撃。質ではなく量で攻めたそれは、威力としてはそう大きなものではないだろう、が。
前に出た彼女の退路や、支援の手を出してくれている女性への隙。それらに貢献するには十分だ。
>ドラキュラ、マルド・ギール、ミラ、アスモデウス
血碧石 @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【異端礼拝堂/アーヴ】
その礼拝堂にて祈り、崇められるものは、決して神のそれではない。
混沌を束ねるドラキュラの掌中にあり、実体に等しく、総体と呼んでも過言ですらない“悪魔城”の一角に備えられた彼の礼拝堂は、神を崇め奉り、祈りを捧げるために存在するのではなく―――その逆。
神を崇めるための聖域を用いて、ほかならぬ神を永遠に貶めるが故の“異端”。
復讐の黒き炎を大地の端から隅々に至るまで行き渡らせ、ヒトとヒトの織りなす信仰による統率を徹底的に砕き穢すための礼拝。異端なるもの、夜を統べる魔王ドラキュラという怪物が作り出した、ある種信仰と言う言葉に対する感情の象徴がコレだ。
であるにその地は、聖域と呼ぶ程度に厳かな空気を保ちながらも。
紛れもない邪な気に満ち満ちていて、祈りの場でありながらサバトのそれでも開けるのではないかという空気の混同した歪な地であった。そこに、なんの音がなかったのも、この地の用途を思えば明白だ。
だが、そこに一つ音が鳴り響く。
澄んだ少女の声だった。少女の声と呼ぶよりは、それは紛れもない戦士の声だ。
全てが終わり始めたこの時に、ドラキュラの束ねた混沌の軍勢を相手取るべく乗り込んだ者。
トリズナーと呼ばれる者達が、反逆のための希望の芽であるならば。
彼女は嘗てその芽であったもの。花咲く前に枯れ落ちて、今や新たなる芽に希望を託して育て上げるものだ。
―――彼女の背から、声がする。
「ふぇふぇふぇ………そこで誰を探しておるのじゃ」
老人の、声だ。
しわがれた声は老獪さと残忍さを織り交ぜ、ヒトのそれでありながら底から湧き出るような邪悪さに満ちていた。
杖を突きながら、乃木園子の背後より距離を詰めて歩く司祭は、この祈りを捧げる場にふさわしい出で立ちをしていたが………その出で立ちは決して、神を崇めるためのものではないし、ましてや悩めるものを導く素振りでもない。
「我らの王か? 当然違う。
ならば狙いは………《仮面の蛇》でもなし。さもなくば………ああ、不敬者の《藍血貴》か。
居らぬ居らぬ。ヤツらは王の威光に靡きもせねば見向きもしない暴れ馬でな。そこはお互い幸いであったのう?」
呵々、と笑う老人の声は愉快気なものであるが、決して澄み切ったものとは言い難い。
むしろ真逆の陰湿さを漂わせていた。
赤い髪に大きな隈を目に残した司祭の男―――邪なる聖者アーヴ。
彼こそは城に訪れた者を“歓迎”するべく現れた闇の眷族なれば、当然、此処に来た意味は一つしかなく。
「そう、わしにもじゃ。話には聞いておるとも、<トリズナー>とやらではない何者かが居ると。
何者ですらない不確定要素があると―――ふぇふぇふぇ。不確定要素は早めに摘み取るべきと思わぬか?」
「生かしてはおけぬなァ、我らが王の行く手を阻む小娘よ………―――『Divine』」
―――彼は静かに、死を宣告した。
礼拝堂にて邪なるものに祈りを捧げるように、鍛え研鑽したのだろう魔を披露する。
勇者の少女の足元より無数に出ずり貫くように飛び出した光は、やがて彼女の立つ場所とその周辺を巻き込むように収束し、大きく破裂の音を立てて周辺へ拡散する。さながらこの星に無きもの、即ち太陽が暗闇から昇るように。
>乃木園子
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【ウィゴル跡地/クロエ・フォン・アインツベルン】
……馬鹿を言え、とクロエは思う。
正直、これを相手取るならあの僭王を五人相手取った方がまだマシだ。
あれは確かに力はあったが、しかしそれだけだった。
クロエの得意の戦法である搦め手が極めて通じやすく、挑発の類も効き易い。だから、虎の子を切るまでもなく撃破することが出来たのだ。
その点このエボルトに、そういう技はまず通じまい。何しろ悪意が形を成して歩いているような存在なのだ、言葉で翻弄出来るとは思えないし、搦め手だって下手なものならあっさり踏み砕かれてお終いだろう。
端的に言って相性が悪い。ジャイアントキリングという言葉はあくまでも、手の届く範囲の敵にしか適用されないことをクロエは知っている。
虎をも噛み殺す毒を秘めた蟻が居たとして、それが天を衝く巨人の足指を噛んだところで何ら通じはすまい。
(っち……! やっぱりただの豆鉄砲にしかならないわね、分かっちゃいたけど───)
投影剣の掃射は決して弱い攻撃ではない。
所詮贋作、されど贋作。触れれば弾けるという特性も相俟って、並の魔獣ならば一方的に封殺出来る程度の火力はある。
だが、エボルトはそれを手持ちの銃であっさりと迎撃してしまった。やはり、粗製の濫造品ではたかだか一瞬注意を反らすのが関の山らしい。何の効果もない訳ではないようだが、この効率では無為な魔力の浪費止まりだろう。
殺到する銃弾を編み上げた夫婦剣の刀身で弾きながらも、クロエはどうにか次の手を講じようと試みる。
その瞬間───クロエ・フォン・アインツベルンの姿がその場から綺麗さっぱり掻き消えた。そして次の瞬間には、エボルトの背方数メートルの地点で再出現。空間転移……ごく小規模ながら、位置座標の概念を無視出来るクロエの常套手段のひとつである。
「はあッ!」
そのまま、不意を突く形でクロエは夫婦剣の片割れを、魔力を込めた上でエボルトへ向けて投擲した。
回転刃と化しながら、彼の首元へと迫る干将剣。クロエの魔力をこれでもかと込めた刃、如何に星食らう蛇といえどもまともに受ければ負傷は免れないだろうが……如何に。
>エボルト、アスカリッド
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【異端礼拝堂/乃木園子】
「……アーヴさん、だったかな」
異端なるものを崇め、礼賛する、実にこの星"らしい"礼拝堂の中に、嗄れた老人の声が響いた。
愉快げに笑うその口振りとは裏腹に、声色は陰湿さと陰険さに満ちている。
これすらも彼が駆使する呪詛の一片なのではないかと見紛いそうな程に、その響きは不吉の気配を多く含んでいた。
. . ・・・・
「やっぱり気付いてるんだね〜、そっち側も。
けれど、ちょっと───貴方とはお話は出来なそうだね」
それは何も、この星に限った話ではない。
かのミッドウェーにも、そしてこれから先延々と連なる四つの星に於いても。
観測者が如き者が在る。叛逆でも漂流でもまして支配でもない、己のすべてを奪われた者が在る。
故に乃木園子はそこにこそ最大限の警戒をし、遙かなる時空を遡りて嘲笑する名状し難い歯車の音色を遠ざけんと努めているのだったが……此処で一旦、その思考を断絶せざるを得なくなった。
ドラキュラの信奉者のひとり、アーヴ。話には聞いている。死を宣告する者、魔徒。危険度で言うならば、ドラキュラの残存戦力の中でも間違いなく上位に食い込むだろう老獪なる邪悪。
これは、倒さなければならない。園子も対面するのは初めてだったが、その澱んだ声と悪意を直に浴びてすぐに確信した。
旅人ではなく、人を護り導く勇者として。この老人は無視出来ないと、その身を護る遠き神の加護が告げていた。
園子の立つ地点を、魔の光が瞬く間に蹂躙していく。
足元より這い出たそれは次第に収束していき、破裂音と共に地上の太陽として炸裂した。
これに巻き込まれては、如何に頑健なる肉体を持つ勇者/旅人の少女といえど只では済まないだろう。
だが───光の中より飛び出したのは、乃木園子であった。地を蹴り、槍を確りと握ってアーヴを目掛け疾駆する。
そのまま、勢いに任せた槍撃で以って眼前の邪悪を祓い落とさんとした。狙うは心臓、急所だ。この呪わしい老人を倒すには、そうでもしなければ不足であると、勇者の直感が閃いた故に。
>アーヴ
アイリス=G・アスカリッド @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_8Ou
【 ウィゴル跡地/アイリス=G・アスカリッド 】
エボルトが《トランスチームガン》の火を噴かせれば、矢/剣で構成された物量の雨霰が瞬く間に撃ち落とされてゆく。
弾ける音が幾つも鳴り響き、閃光と爆熱の花びらが次々と空に咲き乱れていく様は、幻想的にすら映る。
そこに視線を向けている隙に肉薄し、戦斧を振るうアスカリッド。
鋼同士がぶつかり合う音が、跡地に高らかに鳴り響く――。
(重い――!?)
やってくれる――戦斧の一撃が、全くといっていいほど通っていない。
ゴウメイとの戦闘でリミッターは外れており、怪力乱神といっても過言ではないほどの火力にまで引き上げられているのは間違いない。
だが、複雑な幾何学模様めいたフォルムと化したエボルトは、舞うような動作から放つ蹴りで弾き返してきた。
・・・・・
今の自分が重いと感じるほどの衝撃は、本人も自称する通りその戦闘能力が何倍にも向上していることを示唆していた。
まだ、防御すれば耐えられる範囲だ。だがしかし、一気呵成に攻め立てられれば《強化再生》は確実に切らなければならない。
だが使いどころを間違えれば、こっちが先に自滅。クロエも追い詰められ、ジリ貧に立たされるのは間違いない。
打撃の連打が迫る――戦斧を垂直に立て、足払いを防御。
膝蹴りを腹部で受け止め、戦斧を回してフロントキックを受け流した。
《無敵甲冑》越しに伝わる強烈な衝撃が、アスカリッドの痩躯を蹂躙していくものの、すぐさま再生能力が傷を癒してゆく。
「対文明、惑星――そこまでの力を持ってるのに、どうしてドラキュラに!?」
質問に意味はないのは分かっている。だがそれでも、声を張り上げる。
仮面の蛇からすれば、全てがチェス盤上での道楽にしか過ぎないのだろう。
気まぐれ、輿が乗った。ただそれだけで、人類史に悪意の手を伸ばす、人理の敵。
、 、 ・・・・
エボルトの背後に出現したクロエ。
そして、エボルトの首元目掛けて高速で回転しながら、黒い旋風となりて迫る凶刃。
気づいているか、いないのか、否――気づかせてはならない。確実に、通す。
「ォォォォォオオオッ!!!」
フロントキックを受け流した戦斧を強引に引き戻し、断ち切るような一閃。
更に慣性の法則などあってないような速度で振りかぶりなおせば、横薙ぎの一閃。
そのまま一回転し、打ち下ろすようにして斧を振り下ろす――相手の目を、此方に釘付けにする。
>エボルト クロエ・フォン・アインツベルン
血碧石 @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【異端礼拝堂/アーヴ】
「ふぇふぇふぇ………まさか、まさか! ぬしらほどではない。
王が如何程、彼奴めを脅威と認識しているのかも含めて、わしが口を挿むものではない」
呵々、と今一度笑う男の言葉は、同時に彼女の言う“気付き”に対してそれ以上の結論を出さなかった。
実際のところ、その脅威を間接的にとはいえ体感し、理解して来たものこそが“旅人”だ。
彼らほどその脅威を認知しているものは居ないだろうし、アーヴの認識は前提として彼女のそれを上回るかも怪しい。それの脅威が真の意味でどのようなものなのか、嘲弄する声の正体が如何程大きなものなのか。
まして、それはそもそも人間の認識に余るものなのか―――そこまでは、彼は感知していない。
ただ一つ。男は、漂流者だ。
この異聞に滾る黒い炎の担い手に己が理想を見出した邪なる聖者こそが司祭アーヴのパーソナリティであり。
彼は嘗て、その王に似通った、ヒトを滅ぼす魔性へと、己の業を上乗せするが如く心身を捧げた過去がある。
その過去の結末が、王の死―――魔王と嘗て呼ばれたものの、死であるということも含めて。
「ない、が―――わしは臆病な男でな。二度の失敗は犯さぬようにと、目を皿にして探したものよ。
ぬしらとあやつが“それ”よな。王の治世は、得てしてそのような癌細胞にこそ弱いもの………」
二度目は与えぬ。
二度目は許さぬ。
己を見縊り己を貶めたヒトの種へ報復するにあたって、もはや隙すら残すことはない。
もはや二度も不確定要素は作らぬ。一から十までを定め、必ずや理想を成し遂げねばならぬ。
そのアーヴが、あらゆる漂流者というカテゴリを、そして“それ以外”のカテゴリへ意識を傾け、魔王の治世を文字通り完成/陥穽させるべく働きかけようとしたのは、至極当然の話だ。
その知識の担い手。
異聞星の“からくり”を知る旅人の一角。
脅威としてトリズナーと呼ばれる者達の中に、力の区分では上のものも居るかも知れぬが、しかし。
その経験が、その意思が、果たして星の何を揺らがすかは分かったものではないのだ。彼が此処で乃木園子を探り当て、殺すための手段を取りに掛かることは、少なくとも彼にとっては千載一遇の好機である。
この女は危険だ、と。
方向性、経緯こそ違えども、奇しくも同じ感想を伴った上で―――。
「二度は許さぬ、手は惜しまぬぞ………?
我が王の治世を乱すものの全て! 必ずや『始末』してくれよう、ふぇふぇふぇ………!」
戦闘の火蓋を切ったのはアーヴであり。
その中から返す刀で飛び出して来たのは、勇者の少女であった。
その健脚を以て飛び出し、槍を担って疾駆する。
瞳に宿る感情は絶望とは縁遠く、忌々しいほどの光に満ちている。
槍の担い手というところまで、アレらを束ねていたものと同じだ―――度し難さの一つも覚えようというもの。
そして当然、近接の間合いにおいて、類まれな身体能力を見せ、実際に戦いを続けて来た勇者と、同じく戦いを続けては来たが専門が武器の打ち合いではないアーヴで比較をしてしまえば、軍配は前者にこそ挙がるだろう。
勢いに任せた槍撃が身へと突き刺さる。
だからこそ、使い惜しみはしていられない。
アスモデウスならびにシフとの戦いで不意を衝くために温存し続けた『ワープ』の杖を、彼は早々に切った。
カードの一つを切る―――転移の手段があることを明かし、転移の前には若干のラグがあることも目の前で披露する。
白兵を受け止めて即死というほど、この老司祭の肉体は軟ではないが、何事も不測の事態というものがある。コインを100度投げた時、1度か2度は表裏などではない奇想天外な結果が起きるように、ただの手傷では済まない可能性もある。
立て続けざまの魔法による攻撃を避け、大きく距離を取る。
詠唱と同時に繰り出すものは魔法ではない―――『ディヴァイン』とて相応の光魔法、魔性なるものであれば一撃で致命さえも期待出来るし、そうでなくとも彼の練り上げられた司祭としての力を用いて放てば、文字通り軍を蹴散らす威力となる。
なるが、あの光に巻き込まれる前に飛び出す速さと手傷のなさを思うに、“それだけ”では如何にも力不足だ。
「―――行けい………ッ!」
ならばこのアーヴ。再三繰り返すが出し惜しみはせぬ。
手が二つで足りず、己の手を増やす術を持たぬならば、従順な手足になり得るものを呼べばいいのだ。
刻まれた方陣から紫光が迸り、正面に1体、左右にそれぞれ1体の異形が姿を現す。
正面、無骨で粗雑な大斧を武器とする、数メートルの威容を誇る一つ目の巨人。
/個体名、サイクロプス。
左右、異形の目に複数の触手が突き刺さったように生え、瘴気をまき散らしながら浮遊する異形の魔物。
/個体名、アークビグル。
召喚されると同時、一つ目の巨人は『ワープ』により距離を空けたことで生じた数mの距離を、
大股の重みのある歩みを以て縮め、園子の下へと迫りながらその剛腕と大斧による薙ぎ払いを繰り出し。
左右に飛ぶ異形の目玉のような魔物は、そのサイクロプスが手を出した地点を凝視するようににらみつけ、
その地点へと呪詛を収束させることで不規則に爆発のような衝撃を起こしていく―――即ち、どちらも取った手段は面制圧。脚をそこで止めさせ、疲弊を狙うような、短期決戦による必殺を狙わせぬような、高みから押し潰す圧殺の策だ。
これ以上の数による攻めは不可能では無かろうが、此方はこの類の相手にはリスクが高い。雑兵を百千と揃えたところで相手にもなるまいし、むしろそれを逆手に取られて間合いに持ち込まれては世話もない。
故に半端な数と相応の質による召喚は、試金石とでも呼ぶべきものだ。惜しむつもりがないと言った以上、コレを上位の魔物でさえ押さえきれぬならば“切り札”を視野にせねばならぬ。
>乃木園子
十文字撃 @genmwhite ★HGFSFqNdXl_9W9
【廃墟群/十文字撃】
「そうかい……! ───蒸着!!」
人類の天敵は謳う、それは貴人の嗜みだと。その時点で、撃は問答無用と捉えた。自身より後に現れたミトスの攻撃は吸血鬼には届かず、影刃によって阻まれている。ひしひしと伝わってくる相手の強さが、きっとこれまで本気というものを出していなかったのだろうと思わせる。
溢れ出る殺意というものが背筋を震わせ───全身を包む恐怖感。それを押し殺すように撃は「蒸着」の掛け声とともにコンバットスーツを身に纏う。銀のエネルギーとともにバリアを貼り、全方位より襲来する黒き刃を遮る。
バリアーを容易く突き破らんとする影から逃れんとレーザーブレードを振るい、加速器を噴射させながら空中へ躍り出るギャバン。既にこの廃墟に敷き詰められた、コールタールのような影。それそのものが攻撃の手段ならば、これほど厄介なものは早々見受けられない。
逃げ場はナシ、魔海での戦いを容易に超えてくる脅威に、思わず汗を滴らせる。
「レーザーブレード!」
手加減はできない、したらその場で死が確定する。自身の持てる全力を出さなければ勝てない戦いを前に、ギャバンは己の切り札が一つ・レーザーブレードを解禁する。左手からバードニウムエネルギーをすすぎこまれたレーザーブレードの刀身が光り輝き、燐光のように煌めきをあたりへ散らす。
闇を切り裂き悪を討つ、それを体現した正義の魂を持って、ギャバンは戦いへ挑む。コンバットスーツに備えられた性能をフルに使って戦わなければ、絶対に勝機を掴むことはできないのだから。
「まずはこいつだ、レーザーZビーム!」
空中に浮遊したまま右腕を突き出し、充填されたバードニウムエネルギーを指先から特大の光線として発射する。
魔海の戦いにおいても宇宙海賊の火球を相殺する光が、まるで槍のごとく吸血鬼へと飛来。撃ち切ると同時に、加速しながら敵の背後を取るようにして───直進。
手にしたレーザーブレードを持って、その身を一刀両断せんと迫る。この隙にミトスもなんらかの行動を起こすだろう。意思は同じだったとしても、即興で連携が取れる相手とも思えない。
だからここは、お互いが自由に戦うことを想定している。高い実力を持つのはもう、既に天使との戦いで見ているからだ。
>ジョージ・ゴードン・バイロン、ミトス・ユグドラシル
アスモデウス @genmwhite ★HGFSFqNdXl_9W9
【王の間/アスモデウス】
さすがにドラキュラ相手に蒼炎が通るわけもなく、暗黒によって彩られた力によって相殺され尽くしてしまう。
軽い舌打ちをしながらタスクと交差するように下がったアスモデウスは、剣を突き刺して黒い炎を展開。自身に纏わりつくように燃え広がり、軽い防御壁を生み出す。
初見殺しにも等しい呪力の波動を辛うじて相殺しきるが、続けざまに放たれる破壊の光の雨霰に関しては傷を免れない。
黒き炎と、立ち上る蒼炎の剣を振るうことでいくつかは飲み込めるものの、無傷とはいられない。光が掠めるだけでも痛みは迸るが、それを無視して剣を振るい続ける。
ドラキュラへ吶喊するミラと、マルド・ギールも含めて巨悪二人へ、面による量の攻撃を放つタスク。このうち、ドラキュラに関しては真に討つべき敵。
叛逆者たちがその喉元に剣を突き立てるのがふさわしい。
タスクがそういう行動をしたのなら、アスモデウスも速やかにシフトし、狙いをマルド・ギール一人に絞る。ドラキュラ一人でも脅威なのは事実だが、ヤツもまたエボルトらと並ぶ高い実力を持った漂流者だ。
そこを分断しない限り、勝算を見出すことはできない。援護と攻撃───これらを切り替えながら戦うほかない。
やはり数で上回ったとしても総合的な質がここで壁を打ち出してくる。歩みを止めた漂流者と違って、前へ進むことができる叛逆者たちこそ、この戦いでの勝算に繋がる希望だ。彼らにはなんとしても、この壁を打ち破ってもらわなくてはならない。
「業火よ穿て、苦痛をもたらせッ!」
ドラキュラへ迫らんとするミラに対して、十中八九マルド・ギールはそれに対する妨害を行うだろう。それを未然にするためにも先んじて手を打たねばならない。故にアスモデウスは膂力に任せて剣を突き出す。蒼炎はその勢いと力によって噴射され、まるで槍のごとく一筋の光となる。
黒き炎によって濃度を高めたフォトンが蒼炎に纏わり付き、その炎をより鋭き熱へと昇華させていく。
未だドラキュラたちの真の力が見えない以上、メギド体を使う必要性がない。勝算がない限り、そのような奥の手を使うことは愚策にもほどがある故に。
「貴様らの謳う闇など灼きつくしてくれる……!」
押し込む───蒼炎の剣から噴出される炎がまるで天をも焦がすほどの勢いになれば、それを一気にマルド・ギール目掛けて振り下ろしてゆく。
黒き炎によってより威力を高めたその剣は、生半可な一撃では勢いを留めぬほどに燃え上がっている。地獄の業火(メギドフレイム)とも言えるほどの、残酷な熱で。
同時にフォトンを回収することで体力の供給を済ませつつ───これで少しは手傷が生まれればいいが、とらしくもない憶測に賭けるのだった。
>ドラキュラ、マルド・ギール、ミラ、龍炎寺タスク
エボルト @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【ウィゴル跡地/エボルト】
エボルトがここまでドラキュラに『フェーズ4』を制止されていた理由は単純、『強力過ぎる』からである。
フェーズ4のエボルトが本気で暴れれば街の一つ二つは容易く壊滅する。そして無闇な破壊で惑星が痩せ細ればドミネーターによる惑星間の闘争どころではなくなるからだ。
だが精鋭が次々と敗れ切り札の一つでもあった『終焉の王』たるガロンが敗れた今、最早形振り構っていられる状況ではなくなった。
本来ならこのフェーズ4も本格的に惑星間の戦争が始まってから解禁されるはずであったのだ。
しかしながら封を解かれたエボルトは闘争を謳歌する。事実今エボルトがやりたいこととドラキュラの望みは上手い具合に噛み合っているのだ。だからエボルトはそれを愉しんでいる。
「『契約』だよ黒騎士ィ!!
俺と伯爵殿とのなァ!!もちろん悪い条件ばかりじゃない、俺もちゃんと楽しめるように組まれた契約さ!!」
アスカリッドの言葉にエボルトは笑いながら答える。全て契約に基づいた事。その契約に従いエボルトは今こうして最後の、シュトルツとトリズナーを叩き潰すための戦いに赴いたのだ。
強化されたエボルトの猛攻すらもアスカリッドは耐えきる。先の蹴りで弾いた一撃からも察したがアスカリッドのパワーも先にエボルトが刃を交えた時よりも数段上がっている。フェーズ4の今の状態でそう感じたのだから錯覚ではないだろう。
アスカリッドの特性は理解しているがもう一方の、ザントを倒した少女はエボルトも初見でありまだ能力の全容が掴めない。何か仕掛けてくるかと横目で見ながら――
「消えやがった…!?
透明化か…いや、こいつは転移か!!」
エボルトは少女の姿を探すものの足を止めて探すには不可能なほどの実力者であるアスカリッドがまだエボルトの前には健在なのだ。
「ウオオオォォォ!!」
咆哮するエボルトは愛用の片手剣、スチームブレードにてアスカリッドの戦斧を迎撃にかかる。一撃一撃が凄まじく大地が割れ、空気が震える。
「――そこかァ!!」
クロエの姿を確認したエボルトはトランスチームガンとスチームブレードを連結させてライフルモードに変形させコブラエボルボトルを装填。
『コブラ!スチームショット!!』
ライフルから発射されたエネルギー弾は蛇のように曲がりくねりながらクロエの胸を撃ち抜かんと襲い掛かる。更に投げつけられた夫婦剣をむんずと掴み取った。
「良い武器だなあ…切れ味は如何なもんかなあ!?」
更にエボルトは悪辣な事に笑いながらアスカリッドの首元を狙い、先ほど掴み奪ったクロエの剣を以てエボルトはアスカリッドの咽を切り裂きにかかった。
>クロエ、アスカリッド
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【異端礼拝堂/乃木園子】
園子は実のところ、こういう老獪な手合いとの交戦経験はどうにも乏しい。
あの四国で《御役目》に殉じていた頃に相手取っていたバーテックスは良くも悪くも直進的な脅威であり、奸計を弄してくることはなかった。
すべてを御破算にしてくれた輝きの魔王も、異聞星が成立してから相手取ったノアや邪竜騎士といった存在も……どちらかと言えば直情的。決して容易い相手ではなかったが、分かりやすい敵ではあった。
しかし眼前のこれは違う。園子にとってはむしろ、相性の悪い部類の敵と言えるだろう。
どれだけ苛酷な道のりを辿っていようが、乃木園子は所詮十歳そこらの幼い少女でしかないのだから。数十、ともすればそれ以上の年月を生きている老魔の類に知恵比べで勝てよう筈もない。
だからこそ言葉は極力交わさない。徹底して、此方のペースで押し潰す。
そう目論んだ故の奇襲攻撃だったのだが───突き出した槍の穂先は空を切る。つい一瞬前まで確かにそこに在った筈のアーヴの姿は今、綺麗さっぱり園子の眼前から消失を果たしていた。
ワープ
「転移───」
あくまで冷静に、園子はたった今開示されたカードを分析する。
確かに空間を吹き飛ばすが如き転移の術は脅威だが、転移の前には微かながらラグが存在するようだ。
隙があるとすればそこ、か。尤も、器用な小技には覚えのない自分にそんな芸当が出来るかは怪しいだろうが……。
「……困ったな〜。そんなことも出来るんだね、お爺ちゃん」
そんな園子に対し、老魔術師はとことんまでに慎重だった。
彼が呼び出したのは二体の手下。召喚獣、という奴だろうか。
無骨な大斧を携えた全長数メートルもの一つ目巨人に、最早人の面影すら存在のしない、複数の触手を蠢かせる浮遊異形。
……正直な話、非常に分の悪い展開だった。というのも、勇者は"基本的には"対軍用の戦力ではない。あくまでも各個撃破が基本なのだ。特に、園子のような近距離型の勇者については尚のこと。
しかし、不平を零していても始まらない。
園子は己の槍を傘のように展開させ、サイクロプスの薙ぎ払いをどうにか受け止める。されど圧倒的な剛力の前に後退を余儀なくされ、腕にはビリビリという厭な痺れが走る。
更に、一拍遅れて発生する爆発の衝撃が彼女の身体を実に容易く地面へ転がした。
───先に述べた相性の悪さを、誰が見ても感じ取るだろう光景。さりとて諦める訳には行かない。逆境とは勇者にとっての常であり、救援にも期待出来ないのだから獅子奮迅の働きを見せる以外に選択の余地はないのだ。
「……でも、お爺ちゃんにこれは───ついてこれるかな?」
跳ね起きると同時に地を蹴って跳躍し、器用に異形の触手の上に着地。
更にそれすらも足場としてロケットスタートの要領で加速───閃光の如くに殺到。
それと共に、今度は数に飽かした連続の突きで制圧を試みる。
そして無論、転移に対しての対策も折り込み済みだ。数度突きを放った後には一気に踏み込んで、逃げを許さない追撃の強烈な一刺しで駄目押しを試みる。これで滅んでくれるなら、上々。が、そうならなかったなら……やや苦しいものは否めないか。
>アーヴ
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【ウィゴル跡地/クロエ・フォン・アインツベルン】
(不味、っ……!)
分かっていたことだが───強い。
というより、最早出鱈目の領域だ。
たかだか一発の弾丸でこれだけの威力とは、端的に狂っているとしか言いようがない。
咄嗟に残った莫耶の面を立てて防御するが、胸には凶悪な衝撃が襲い掛かり、口からぺっと血の混じった痰を吐き出す羽目になる。
だが問題は、ものの見事に掴み取られてしまった干将にある。あれは贋作とはいえ、宝具だ。切れ味はそこらのなまくら刀とは比べ物にならない。
魔力を込めて投げているのだ。下手な実力で掴み取りに掛かれば、腕ごと持っていかれても不思議ではないというのに、事もなげにこういう絶技を決めてくる辺りにほとほとクロエは辟易する。
……しかし、此処に限っては好機であるとも言えた。何故ならこれはそもそも、"ただ投げた"だけではないのだから。
「……山を抜き、水を割り───」
口にて言祝ぐは祝詞。
それと同時に、エボルトの握っている干将に逆方向の力が働く。
即ち、主の方へ戻らんとする指向性の力。物理法則と明らかに矛盾した運動エネルギーが、エボルトの目論見を砕かんと仕事を開始する。
もしもエボルトに、この恐らく不測であろう事態を力ずくでねじ伏せてしまうだけの力があったなら面食らう羽目になるが、その辺りは賽が上を向くまでは分からない。
二対目の干将・莫耶を投影し、瞬く間にクロエはエボルトへと接近。防御と同時に投げ捨てた莫耶が、それとタイミングを合わせたようにエボルトへと向かっていく。
つまりは同時攻撃。タイミングを合わせたが如くの華麗なる連舞!
されど、これは未だ繋ぎに過ぎない。どうか、崩してくれるなよ、と。心の内で祈りながら、クロエは刃を振り抜いた。
>エボルト、アスカリッド
ドラキュラ @evil☆wlNTvj.bQ62 ★Android=c1E0DIQTEq
【王の間/ドラキュラ、マルド・ギール】
ここから先のドミネーターがどうなのかはわからない。だがこのドミネーター、ドラキュラには一つ言えることがある。マルド・ギールからの進言もあったからであるのだがドラキュラはマルド・ギールと『連携を重んじている』という事だ。
ドラキュラは自身の力も強大であると自負しているしマルド・ギールの力も認めている。だからその二つの強大な力を掛け合わせればどうなるかというマルド・ギールの進言を受けドラキュラは連携を重視する戦法をとるようになった。
弱者が身を寄せ合い強者に対抗するというのはよくある話だ。ならば強者が結託すればどうなるかという話である。
だがそれでもドラキュラとマルド・ギールの同時攻撃を浴びても脱落した者は誰もいなかった。
「《フレイムピラー》」
「《荊》」
相棒たる竜と共にあるトリズナーたるタスク達の攻撃をドラキュラは炎の、マルド・ギールは荊の壁で防ぐ。
次いでミラがドラキュラに攻めにかかるがドラキュラの周囲から生えた無数の茨がミラの剣戟を弾く。これはドラキュラの力ではなく、マルド・ギールの力である。だがそれでも、ドラキュラの豪奢な衣服には幾つかの傷が、顔からは血が滲んでいた。
「それは貴様の理屈にしか過ぎんよ叛逆者。我らの闇は不滅である。故に我がキャッスルヴァニアは永久の不滅の星として完成する」
恐らくだがここにいる者達の、ドラキュラに敵対する者達の皆がこう思っているであろう。『ドラキュラは魔法による攻撃が得意である』と。それ自体は間違ってはいない。だがこう思っているならば間違いである。『ドラキュラは近接戦が不得手』。
故に、そう考えて踏み込んだのならそれは愚かという他ない。ドラキュラの足が、刃のようにミラの顎を蹴り上げんと振り上げられた。間髪入れずにドラキュラの足が振り下ろされる。
「《ジェノサイドカッタァーッ》!!」
ドラキュラの蹴りから放たれる月の刃がミラを切り裂かんと襲い掛かる。
同時にドラキュラはまた違う魔術も行使していたがそれはミラを襲うためのものではなく――
「愚かな悪魔だ。
マスタードラキュラの言葉を借りてこう言わせてもらおう。『聞き飽きた台詞だ』と」
貴様らの謳う闇など灼きつくしてくれると猛るアスモデウスにマルド・ギールは冷ややかにそう吐き捨てた。マルド・ギールとてまさかガロンが倒されるとは予想外であったがそれもここまでだ。エボルトが、自分が、ドラキュラ自身が動く以上最早敵に先は無い。
燃え盛る炎の剣が天を焦がすかのように灼熱してもマルド・ギールは動じない。マルド・ギールは両手を構え、上と下から挟み込むように受け止めた。
「愚か、ではあるが力だけは大したものだ。だが消えよ」
マルド・ギールの手の中に炎が飲み込まれ消えてゆく。まるで火を喰らう悪魔に、吸われ飲み込まれていくように。同時にマルド・ギールの両脇に現れたものがあった。黒い雲で形作られた狼。ドラキュラの魔術である『ウルフクラウド』だ。マルド・ギールがドラキュラを支援するようにドラキュラもまたマルド・ギールを支援する。狼は群れを成してアスモデウスに食らい付き、そのスキをついてマルド・ギールは呪力の込められた拳をアスモデウスに叩き込む。
更に、タスクとジャックには多数の魔力で生成された蝙蝠が四方八方から襲い掛かる。『バットムーブ』、これもドラキュラの魔術である。このように、ドラキュラとマルド・ギールは多数が相手であろうと一切苦にしない。これが、星を統べる者である。
>ミラ、タスク、アスモデウス
ミトス @antinomie☆yzl4MFL1dRLB ★AmPQPE9EE6_8Ou
【廃墟群/ミトス・ユグドラシル】
ち、と舌打ちをしながら、影―――闇の中に消えていく魔力の刃を見据える。
所謂牽制の一撃だ。効果の程度は知れていたが、一切の揺らぎ無しとは多少堪える。
何も、吸血鬼に知り合いがいるわけではないが……あの力、厄介だ。あの呪いの男もそうだが、変幻自在というのはどうにもやり難い。
不機嫌そうな表情を一切隠すことなく、腕を持ち上げ魔剣の切っ先を敵対者へと向ける。
「……うるさいよ。ヒトなんかに情を分けてやるほど僕は暇じゃない。それに―――好き勝手言ってくれるじゃないか。
“半端者”は自分の前には立つなって?何処の世界のどんな奴でも、変わらない考えだね」
紛い物、墜ちきれぬ三下。それらの言葉が、何かを思い起こさせたのか。不機嫌な色を濃くしながらつぶやいて。
前後左右、あらゆる方向から迫る刃を一瞥しながら、ミトスは転身をする。時空剣技《空間翔転移》―――いつまで契約がもつか分からない以上、頼りすぎるのは毒でもあるが。
それでも、この場の最適解はこの術技で負傷を避けることだった。転移先は、バイロンの真上。本来ならば、此処から斬りつけるまでが技の一動作だが。
「(……なんて、熱くなっている場合でもない。この女に、……ただでさえ厄介そうなのに……)」
何かあるなんて、本当は考えたくないけど。
空中で、魔剣を指揮棒のように振るう。どうやらあのトリズナーは前に出ているらしい。
結果がどうなるにせよ、ただの一撃で揺らぐ相手ではない。なら、多少派手に立ち回るのが良いだろう。
“―――剣に秘められし、七色の裁きを受けよ”
声なき声に呼応して、ミトスの魔力が発揮された。ミトスの背から、バイロンの立つ場所目掛けて光の剣が降り落ちる。
四本の光の剣が無差別に地へと落ちていき、次いで三本がその合間を縫うようにバイロン自身を狙うように墜落する。
計七本の墜ちる光の剣、魔術《プリズムソード》を見た後に。自らもまた、切り込んだ。
「底が浅いかどうかは、……自分で確かめてみれば。《瞬詠刃》!」
魔力<マナ>で構成された十二枚羽での加速と、時を司る魔剣がもつ権能。
それらの相乗効果によって爆発的加速を生み出したミトスは、最高速度のまま、剣先を吸血鬼へと向けて飛び込む。
繰り出されるのは、基本中の基本。突きだ。だが、付与された加速に、元来より持つ剣の腕が合わさり十分な破壊力を持つ。
あの、黒い泥―――影。彼女の力の有効範囲は、少なくとも常識の範疇にはない。
このまま前をあのトリズナーに任せて魔術での圧を掛ける手もある、が。そもそも、悠長にしている時間はほとんどない。
>ジョージ・ゴードン・バイロン、十文字撃
アイリス=G・アスカリッド @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_8Ou
【 悪魔城外部/ウィゴル跡地/アイリス=G・アスカリッド 】
一撃、衝突。両者の間で交わされる打ち合い一つ一つが大地を揺らし、大気を爆せさせる。
鎧はまだしも、内部の肉体に伝わる威力は尋常という物差しで測れるかが怪しい。
一撃を受けとめるごとに骨にヒビが入り、肉が震え、肌が裂け、血交じりの痰と共に吐血する。
一度人間の領域を越えてしまったとはいえ、打ち合うたびに手傷を負っているのが現状であった。
だがまだやれる。
正面からの殴り合いで拮抗出来ている内は、限界を越えても肉体の形を保つことが出来るのだから。
届くか、到達するか、クロエが放った黒の軌跡――アスカリッドの読みは外れた。無論、悪い意味で。
あろうことか魔力を帯び、高速で回転を続ける刃をそのまま掴み取ったのだ……実に、容易いと言わんばかりの素振りで。
そして、返し手と言わんばかりに凶刃をこちらの喉元目掛けて振るってきた。
喰らえば、出血多量で"発動"は確実だ。
アスカリッドはその展開を享受するつもりはない。だが、今から腕を引き戻しての防御は間に合うか――迫る軌跡に、異変を見出した。
黒剣が、エボルトの振るう腕に抵抗するように逆向きに反っている。
その狙いを強引に捻じ曲げ、仮面の蛇に突き刺さらんが如く、あるいは――主の下に帰らんとするかのように。
そして、エボルトの背後に迫るクロエ――賭けるしかあるまい。
引き戻さんとしていた戦斧の手を止め、大きく後ろへバックステップ――視界に映るは、エボルトの下へ向かう一本の白剣。
塞ぐべきは上空。
疾走し踏み切れば、アスカリッドは天高く跳躍した。
クロエの攻撃に割り込まず、かつ唯一の逃げ道である真上を潰すための後詰め。
流星一条。天からの襲撃。落下のエネルギーも合わせ、その攻撃力を何倍にも増幅させる。
空中で反り返るようにして斧を振り上げ、そのままエボルトの頭上目掛けて落下すると同時に戦斧を振り下ろした。
>エボルト クロエ・フォン・アインツベルン
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【廃墟群/ジョージ・ゴードン・バイロン】
「いいや? それなりに愛でようはあると思っているともさ。
永く生きると面白おかしい曰くを抱えた輩をそれなりに目にするものだが、おまえもその口だろう?
大方、死んだ女の尻でも涙ぐましく追い回しているのか───やはりおまえは、浅い男だ」
無論、ジョージ・ゴードン・バイロンはミトス・ユグドラシルという《旅人》について特段深い知識を持っている訳ではない。
強いて言うならば、シュトルツにどうやらトリズナーでもドリフターでもない、惑星漂白の生き残りが加担していることを嗅ぎ付けていた程度だ。
だというのにこうも神経を逆撫でする言葉を吐けるのは、有り体に言えば年の功だった。
千年を生きた鬼の精神性もまた魔性のそれに達している。故にこそ、少し語らえば傷口の位置など手に取るように分かるのだ。愉快愉快と喉を鳴らす姿は邪悪の一言以外に形容の術のないものであり、そしてバイロンの最も厄介な点は言わずもがなそことはまた別にある。
「ほう、これは面白い。ヒトの科学というのも存外馬鹿には出来んな」
自分へ向けて迸る輝きの熱線を前にして、バイロンは惜しげもなく感嘆の声を漏らした。
異能に由来せぬ科学の力とは思えない研ぎ澄まされた一撃は、下手な同族ならばこれだけで撃退してしまえるだろう代物だ。
熱を帯びているというのも、悪くない。なかなかどうして己のような吸血鬼に対しては相性の良い技術を搭載しているようだ───考察しつつもバイロンは先程と同様に、闇より這い出る影の刃を十重二十重にも交差させて防御する。
星の夜闇をも吹き晴らさんばかりの感光を佳い佳いと哂いながら、「しかし───」とバイロンは続けた。
「策としては下の下だな、見え透いている。これしきならば、既存の"狩人"の域を出ん」
評すると共に、バイロンはひらりと舞い踊るように身を翻せば、そのまま足取りひとつでレーザーブレードの一閃を軽々と回避。
更に翻った外套の内に広がる無間にすら思える深い、昏い闇の内から数えることが億劫になるほどの刃が瞬時に突き出し、十文字撃の全身を無惨な槍衾に変えんとする。
そうしてバイロンの注意は向かい来るミトスの方へ。
どうやら利口なことに、慢心なく最高の速度で吶喊を仕掛けているらしい。戦略爆撃機の直進にも匹敵する絶速から繰り出される一撃は直撃すればバイロンと言えど無視の出来ない痛手を被るだろうそれだが、しかして愚直の誹りは免れない。
コールタールのように広がった影の海がミトスの足元へと侵食する。それと同時に、あくまでも直進に重きを置いた彼の痩身を囲い込むように、影刃が突き出して地獄の断片めいた惨殺領域を顕現させた。
「造花の血は好まぬ。そのまま無為に死んでいけ、紛い物の《旅人》よ」
>十文字撃、ミトス
カイ @phile☆fFByNj5QP5A ★AnStI6F1tD_8Ou
【悪魔城外部/森林部/カイ=キスク】
鬱蒼と繁る森の中、生気の感じられない草を踏みしめて歩く男がひとり。
その表情は厳しく、つい先ほど深い闇に呑み込まれて消えたウィゴル市街の方角を向いていた。
星を支配する者の切り札の一つ『仮面の蛇』が動き出したと、そう聞いている。軽い挨拶だとばかりに振り撒かれた崩壊の渦が矛先を向けたのは、最初にトリズナーたちが解放した街だった。
今すぐにでもそちらへ駆け付けたいが、最善はそれではない。カイは逸る己をつとめて抑えながら、冷静に状況を分析していた。
・・
「(……端末も現れたと聞く。ここが正念場か──)」
軍靴の音を響かせながら、剣の柄を握り直す。
この異聞の中心に立つ者たちが表立って動き出した以上、この星の情勢も大きく変わることになるのは間違いない──星の皇が姿を現すまでも、そう間はないはずだ。
トリズナーたちがその前へ立った以上、騎士のすべきことは露払いであろう。
静かに周囲を見渡しながら、宵闇に沈む森の中で青い雷光を瞬かせる。
法力のわずかな開放による灯りの生成──『この星の住民ならざるものがここに在る』ということを示す行為に他ならなかった。
>ALL
呪縛者 @wakame3☆FYUOhnBVGmk ★2RykzmoSz4_8Ou
【悪魔城外部/森林部/呪縛者×2】
深き森の深淵には、決まってそうした亡者が集う。
殊更にそれは夜の闇からさえも疎まれた者たちが住まうもの。
その中で矢庭に一筋の光が差せば、そこに注目が行くのは道理であろう。
しかしその中で彼らの反応はことに異色であった。
それは"憧憬"であった。
旧い昔に忘れ去ったものへの渇欲があった。
森の奥深くを征く旅人カイ=キスクは、誘いをかけるようにその手から灯しを放った。
その魔術。何気なく用いたに過ぎぬ単純な法術を、"彼ら"の時代では『照らす光』と呼び。
それは遥か古に失われ、遂には竜の学院ですら再現することが叶わなかった秘法であった。
ただ永遠の夜が統べるこの星においては、宝石より尊ばれる御業であった。
その光。小さな煌きを僅かにでも目にしたならば、それが動かぬ道理はなく。
まさに誘蛾灯に惹かれる羽虫のように、森の深みよりそれは姿を現した。
突如として巻き起こる黒き呪詛の奥より、赤い眼光がぎらりと浮かび上がる。
顕れたのは、まるで巌のような重厚な黒甲冑だった。兜から覗く眼光からは、とても正気など窺えない。
ただ人の名残を求めて、小人の末裔を狩り続ける……彷徨える黒鎧の騎士。それを或るものは不死狩りと呼び、或るものは王の近衛と呼び、また或るものは呪縛者と呼ぶ。
馬手に携え持つは呪いの特大剣。鉄塊、鉄板と呼ぶが似つかわしい大段平。
弓手に翳し持つは抗呪いの大盾。その途方もない巨大さにより、後世に呪いに抗う愚かさを伝えたという鉄壁。
超重量級の装備でありながら、その体はゆっくりと地を離れ、中空に浮遊する。
騎士は、特別強大な存在ではない。一介の亡霊、亡者など到底及ばないが、純正なドリフターと比べれば一回りほど劣る存在である。
しかし。気配は一つではなかった。
まさに相手の退路を断つように、カイの背後からも同質の闇が顕れ出していた。
彼は。彼らは、遥か古に放逐された黒鉄の騎士。刻まれた呪いの故に祖国を追われ、終わりなき贖罪のために亡者を狩り続けた呪われし戦士たち。
正気を失い、敵を狩り滅ぼす理由すら忘れ果てても――敵対者を殲滅する手法を忘れ去ることは決してなく。
ともすれば『王』に達しうるカイの大いなるソウルの漲りを感じ取った呪縛者は、最大限の警戒を以て二対一の布陣を敷いたのだ。
「「―――――――」」
騎士は語る言葉を持たぬ。ただ唸り声を上げて、その大剣を一閃するのみだ。
深い森の木々を、体一つでなぎ倒しながら、二方向からの吶喊がカイへ迫る。
前方からは大盾を構えた騎士によるシールドバッシュ。
後方からは同じく一気に距離を詰めて特大剣での打ち下ろし。
怪力から放たれる一撃は共に人体を粉砕して余りある暴力の旋風である。いかな英雄と謳われし『旅人』とて、不覚をとれば一撃で瀕死に追い込まれよう。
>カイ=キスク
ミラ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【王の間/ミラ=マクスウェル】
振り抜く剣戟を阻むものはドラキュラの力ではない。
地から生え揃い、邪気を伴って王を害するものを阻まんとする無数の茨。
奴の力でないとするならば紛れもなく、副官マルド・ギールの手によるものか―――。
思っている以上に刃の傷は浅い。
それはミラが相手取った敵手の中においては、終ぞ体験した覚えのない手口だ。
この夜の星にて初めて他者と共に戦うということを成したミラは、そもそもの話として“徒党を組む敵手”というものを知らない。まして、先に彼らを混沌と形容したように、一つ一つが大きな力を持つ個体が、一糸乱れぬ生物のように―――群<レギオン>の如く統率され、指揮されるという類の相手を彼女は知らない。
信頼から成るものなのか、あるいは―――王と従者が織りなす関係図なのか。
いずれにせよ、事実は一つ。
「(浅い―――だが!)」
剣が刻んだ傷は零ではないが酷く浅い。
しかし、剣戟が一切通らないわけではないのだ。
動きそのものも決して鋭敏というわけではなく、踏み込むことさえ出来れば通らぬわけでもない。
決して不可能ではないのだ。ならばあとは、あの茨の魔術師をどうにかして弾き出すことが出来れば………。
―――そう、考えていたミラの思考をあざ笑うように。
魔王の足元から稲妻のように閃く何かが、彼女を襲った。
「がッ―――」
視界が弾けるような感覚だった。
思いきり身体を揺らされ、肺の中の空気を纏めて吐き出させられる。
蹴り上げるように振り抜かれたそれは、はじめ足元から昇ってくる鋭い刃のようにすら見え………やがてその、己をかち上げるようにして振られたものが“脚”であることが分かった頃には、己の身体は空を舞っていた。
ギロチン
さながら断頭台のようだ。
言葉として知っているだけで、実物がどうかは分からないが、降り注ぐ豪脚の重さと鋭さは、そうした刃に近しいものがある。空を舞った自分の態勢を立て直すより早く―――。
「―――ッ、ぐ、ァ………ッ!」
降り注ぐ脚がその身を烈しく打ち据える。
叩き付けられた時になにか鈍い音が一つして、鋭い痛みが全身に走る。
大きく転がり打って身体を起こし、そのまますぐに距離を取るが―――ミラの脳裏に去来したのは“してやられた”という思いだった。あのドラキュラという伯爵、いざ動き出せば肉体の頑強さも鋭敏さもピカイチだ。彼方の土俵が遠距離の魔術戦であるというなら、嘗て戦った屍霊使いのように近接は不得意と判断した自分の間違いだ。
「まだ、だ………」
………切り替える。
ゆっくりと身体を起こし、剣を構え直しながら―――。
「 “ ―――黒雲招来、雷神咆哮!――― ” 」
紡いだ詠唱が、ドラキュラの頭上に雷球を作り出す。
そこから無数に落ちる稲妻は不規則にドラキュラの周囲へと落ち、時には当人へと失墜する。
識別込みの精霊術ゆえにタスクとアスモデウス、およびタスクの使役する召喚獣には一切の影響がなかろうが、ドラキュラとマルド・ギールに対しては、その降り注ぐ紫雷は等しく身を焼くモノとなるだろう。
「―――何方でも構わん、その茨の魔術師を任せる!」
その上で、彼女には決して他者との共同した戦いという経験がないが。
ただ、彼らの連携を崩さないことには始まらない以上、委ねるべき内容は一つだった。
嘗てナイトメアと戦った時、連携が成功していたのは、ただあのソルジャーの技巧と観察眼ゆえだ。
此度においてもそれを期待するのは酷だろうし、ミラにはそもそもそういう自覚はない。
だからこそ、もう一度稲妻の渦に突っ込む前に、同じく肩を並べる二者へとただ一言―――マルド・ギールを引き剥がせないかという提案だけを、やや一方的に口にして。彼女は再び細剣を構えてドラキュラとの輪舞曲に応じる。
「不滅なものか! 貴様はただ目を逸らしているだけだ………!
貴様の心の内に秘める憎悪の念は、いずれ何もかもを焼き尽くす―――!」
懐に飛び込むと同時、片手を振って描いた幾つかの方陣から無数の光槍が飛び出した。
それらは『バニッシュヴォルト』が生み出した稲妻の雨に続いて横殴りに叩き付ける牽制となり―――その中をかいくぐるようにして、跳躍したミラが、稲妻と光槍の十字砲火ごと両断するように急降下して細剣を振るう。
>ドラキュラ、マルド・ギール、タスク、アスモデウス
血碧石 @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【異端礼拝堂/アーヴ】
「肉体労働は苦手でのう………そこはそれ、適材適所よ。
捌き切るほど余裕はあるか? ふぇふぇふぇ………」
召喚した魔物の押し込みに対し、
見せた相手の表情を推し量るように目をやりながら、アーヴは狡猾に思考を巡らせていた。
どこか間の抜けたマイペースな物言いながらも、この小娘は戦局を正しく見ている。
最初の愚直な直撃は力押しの脳筋というわけではなく、己のペースに持ち込まれないように速攻を視野にしたというわけだ―――そして実際、アーヴよりも彼女は素早く、靭く、鋭い。
老体にして魔の術を磨き続けたアーヴに無き若さと輝きに加え、そもそもの得意分野が違うのだ。これではアーヴとて、懐に入り込まれたのなら幾分かの傷を許すより他にない。先程の転移の杖とて、使用と詠唱の間を突かれたならばどうしようもないのだ。二度も三度もこの手は通じはするまいと、彼は彼なりに状況を弁えている。
その上で、数と質による試金石をかけたのは、今後の方針を決定するためだ。
数を仕掛ければ構わぬと薙ぎ払う阿呆ならば、物量による徒労を狙うことも視野に入れた。
数にいちいち律儀に応じて行く武器一辺倒の馬鹿ならば、彼は“相応”の魔物をけしかけながら戦うことを考えた。
斬撃、魔法、どちらかに明確な傷を受けるならば………それに比重を置いた攻めを仕掛けることを考えた。
結論から言うならば、アーヴの狙いとしてはそれなりに上手く嵌った。
この女は一撃で全てを薙ぎ払おうとする力任せの類ではないが、それを“しない”のではないのだ。恐らくだが、出来ない―――軍団による攻めにおいて、巨躯を誇る魔物の群れに対して、それを効率的に処理する手段を持たない。
付け入る隙はある。
とは、いえ―――。
「むうッ―――」
問題は、それだけではないということだ。
跳ね起きると同時の跳躍、着地を繰り返す器用な動きはさながら魔物の八艘跳び。
アークビグルがその接近を感知する暇もなく、容易く足蹴にされて気付けぬほどの俊足。
閃光のように殺到して迫る刃、数段の突きに対してアーヴは『ワープ』の杖を遣う暇がない。
となれば後は、嘗て魔を宿した焔の女に対してやったように、致命の一撃を避けるべく動くのみだ。
「来やれ!」
当然―――動きは後手に回る。制圧を試みるような突きのラッシュが先ず二発ほど被弾。
噴き出した血はアーヴが魔の手先になって尚人間であることを示す紅。
残る数発の突きを前にして飛び出してくるのは、先程踏み抜かれた目玉の魔物、アークビグル―――サイクロプスより敏捷ではあるが、決して槍の一撃を受け止められるほど堅牢な魔物ではない。それは軽々と貫き抜かれ、肉体を構成する魔力を失い霧散するが、アーヴが最後の一撃で射貫かれない程度の時間は稼げた。
「(ふうむ。思っているより幾分も手強い。
伊達に星を滅ぼしたと謳うわけではなしか。単独ではわしの手に余りかねるな―――では)」
………生半可な魔物では壁にもならぬ。
サイクロプスほどの力があれば話は別だが、それでは最早翻弄されるだけだ。
「………この星が成り立った頃、多くの血族が、漂流者どもがわしらに歯向かった。
わしらというよりは―――王に、のう。王の御子息から、忌まわしい獅子の王から、少しは聞いておるか?」
「当然、それら全てを王は撃滅なさった。愚かなヴァンパイアハンターも、
ぬしらのように歯向かう勇者も。その全てを闇の中へと葬り去った」
と、なれば―――やはり。
「しかし。それらの漂流者とて相応に強き者だった。被害者も、此方の陣営に当然出たものよ。
それをただ捨てるにはあまりに惜しいと、わしは考えた。駒とは潰しても後から湧いて来るものではないしのう」
切り札を切る時だ。
今までより大きな陣を描き、彼はその正面から巨大な“なにか”を引き摺り出した。
なにかが解き放つ攻撃は当然のようにサイクロプスを巻き込むが、アレよりも素早く、そして力強い“最強”の切り札だ―――別に惜しむことはない。そして、惜しんでいてはこの不確定要素の一つを押し潰すことは適うまい。
「―――こやつは。
その滅ぼした漂流者の中でも強き者の一人。竜に成る力を備えた『マムクート』のなれの果てじゃ」
故に、と。
アーヴが早々に切ったワイルドカードは―――竜だった。
それもただの竜ではない。
方陣から現れ、嘶くような咆哮を上げながらも漂わせる腐臭と、所々から突き出した骨。
その巨躯は骨と皮のみで作られた骸のようであり、竜の威光はその力を残して何処にも残らない。
、 、 、 ..マムクート
嘗てこの地に漂流し、そして果てた竜人が成れの果て。
それが変じることで姿を変えた、数メートルほどの巨躯を誇る屍のドラゴン。
所謂『ドラゴンゾンビ』とでも呼ぶべきものが、アーヴの切り札だった。
「生憎と、何体も“備える”わけにはいかなくてのう。
ぬしまで使うつもりはない。生かすつもりも、ない―――さあ! 掃えェい!」
命じると同時に、アーヴの前面に躍り出た屍竜はそのマナを集め、ブレスを吐き散らす。
触れたものを腐らせ死滅させる滅びの吐息―――礼拝堂の備え諸共広範囲を薙ぎ払い。ともすれば足場に出来るだろうサイクロプスも、横方向への逃げ道も、構わず吹き散らすような暴威が吹き荒れる。
そして、それだけではまだ勇者の動きを射止めるには至らない。
とっておきのダメ押しを仕掛ける時だ。
アーヴは『ワープ』の杖から別の杖に持ち替え、彼女の方へと突き出すようにしてそれを振るった。
青い宝玉のはめ込まれたその杖は、彼女にある誘いを持ちかける。昏い闇へと誘い、落とす―――人が誰しも、夜において懐くある欲求と感情を増幅させる微睡みの術を持つ杖だ。
………杖の名前を『スリープ』。
狙った対象を睡魔へといざなう、まどわしの杖である。
単体では全く効果もなかろうが、竜の攻撃と組み合わせれば、さてどうなるか―――。
>乃木園子
スレ主 @artemish☆8cfl5/j3VDw ★utloP7NDPP_RBc
【異端礼拝堂/乃木園子】
(……やっぱり、思った通り。このお爺ちゃん、あくまで中身は人間みたい)
確かな手応えに園子はそう確信するが、この劣勢を覆し得る革命的な情報かと言われれば甚だ怪しかった。
穿けば倒せる、それは最早戦略どうこう以前に大前提だ。
言うなればスタートラインの存在が明らかになった程度のことであり、当然本題にすべき問題は他にある。
その最たるところが、アーヴが用立ててくる召喚獣だ。数を並べて圧する戦法は範囲火力に乏しく、一対一の状況にあってこそ輝く勇者である園子に対してはまさに覿面の一手であると言えた。
今しがたアーヴの代わりに貫いた一体は首尾よく消滅させられたようだが、状況は依然として全く好転していない。
そして一度痛い目を見た以上、アーヴは園子の接近に対してこれまで以上に慎重になるだろう。そうなればいよいよ以って一方的な戦況となることは見えている。物量任せの圧殺で、この小さな旅人は簡単に踏み潰されてしまうだろう。
「っ───!?」
アーヴの言葉に憤りを覚えない訳ではなかったが、その手の感情を発露させることは戦いの場においては無意味なことであると園子はこれまでの経験上心得ている。
ましてそれが、老獪という言葉が服を着て歩いているようなこの魔道師を前にした場合であるのなら尚更だ。
しかしながら、それでも彼が繰り出した"切り札"の威容は園子の度肝を抜く代物だった。予想の外、などという次元ではない。想定し得る最悪の事態を容易く飛び越えてきたと、そう言わざるを得ない程の代物。
曰く、かつてこの星を打倒せんと挑み、そして敗れ去った強き漂流者───その、成れの果て。其は竜化の術を備えていたとアーヴは言うが、世間一般の気高く荘厳な竜のイメージと、今園子の前に現出した"それ"の姿形はあまりに乖離を極めていた。
一言で言うならば、ゾンビ。骨と皮のみから成る身体に竜の肉付きはなく、かの日の威光は今や何処にも見当たらない。
だというのに災害もかくやといった絶大なる力だけが変わり果てた遺骸の裡に残留している。これが元々どういった志の下に羽撃き、夜の星を落とさんとしたのかを園子は知り得ないが、彼我の間に絶望的なまでの力量/出力差が存在することだけは明確に理解出来た。
「……嫌なものを思い出しちゃうな〜、まったく……」
記憶の中に今も尚焼き付いている過去の絶望を嫌でも想起させられる、その巨躯。威容。秘めたる猛威。
園子の幼顔を冷たい汗が一筋伝った。これの出現に巻き込まれたサイクロプスは跡形もなく消え去ってしまったが、それはこの状況において何のプラスにもならない。その分のプラスを遥かに凌駕するマイナスを叩き付けられたのだから当然だろう。
未だ猛威の全容をまるで見せていない竜ではあるが、園子にはこれがサイクロプスよりも力強く、おまけに速いアーヴの虎の子であるという確信があった。アーヴという老魔の智慧の深さをある意味では信じているからこそ油断の感情は欠片も浮かんでは来なかったし、そうでなくてもこの恐るべき居姿を間近で見れば誰もがその境地へ到達しよう。
槍を握る手に力が籠もる。しかし園子が行動を起こすよりも遥かに速く、竜は勇気を消し去る暴威の風を吐き出した。
ドラゴン・ブレス
───竜の吐息。
熱量を腐性に置き換えて、生前とは全く別ベクトルでの破壊力を実現させた広範囲殲滅攻撃。
これを前にしては精霊の自動防御も、神樹の加護篤き勇者の身体も意味を為すまい。
園子は死を直感し、喰らうわけには行かないと、どうにか押し付けられた腐滅の定めから逃れようとするが───
「……あ」
その途端に膝が崩れ落ちる。
意識を満たすのは、強烈な眠気だった。
ついさっきまで鮮明だった意識に靄が掛かり、自我が少しずつ微睡みの底へ溶け落ちていく。
何かをされた、と認識することですら精一杯の園子に、必然襲い来る腐滅の嵐を避ける手段などありはせず。
少女の矮躯は、滅びの渦に巻かれて消えた。
やがてすべては粉塵に覆い隠されて、夜の闇に轟々と、風の音色だけが妖しく響く。
───されど。不屈なるもの、輝けるものこそが《勇者》であるならば。
嵐の向こう側にて───花開くものがある。
それは大いなる花弁。神に祝福された少女による、貢ぎの儀式。
遍く艱難辛苦を振り払い、夜の闇すらも輝きの下に吹き散らす花結いのきらめき。
「……まだ使いたくはなかったんだけど。そろそろ限界だったし、仕方ないね」
そんな言葉だけが、聞こえて───
嵐の内側から、滅びの定めに否を突き付けるが如く、一振りの槍がアーヴを目掛けて電光石火の勢いで飛翔する。
>アーヴ
血碧石 @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ
【異端礼拝堂/アーヴ】
産声を挙げた竜にもはや生前の気高さも勇猛さもない。
骸を彩るのは死後の時間が経過した爛れた肉に皮と骨のみであり、
残された力以外にもはやかつて光を取り戻さんと羽撃いた竜の面影はない。
嘗て彼が、ドラキュラより前の。
この世界ではないどこかで、魔を統べる王に仕えていた時の産物だ。
死者をよみがえらせる魔王の力―――アーヴもまた賜ったその能力を、漂流者という分類に在るが故に自在に行使できる。その力を用いて作り出した竜の骸こそ、アーヴが誇る最大の切り札。“切るべき時に切る”最強の魔竜だ。
これを打ち出さねばあの女は殺せない。
距離を詰めるたびに繰り出す槍の鋭さと重みは増していき、
召喚した魔物の群れはあの動きに追従出来ぬ。より早く、力強いものでなければ勇者は打ち崩せぬ。
「ふぇふぇふぇ………流石に躱せんか? 躱せまいなァ。
眠りの時間にはまだ早いが、ぬしのような手合いには夜の鐘は覿面のようじゃの―――」
―――だが、だからこそ。
この瞬間に呼び寄せた『ドラゴンゾンビ』の暴威は、覿面の効果を発揮した。
単品だけならば、あるいはこの女、そのたぐいまれな反射神経と機動力を生かして攻撃を回避していたかもしれない。
薙ぎ払うブレスの暴威は確かに触れたものを腐滅の海へと沈める、生けるもの全てへの業毒に相応しい力であるが、当たらねばそんなものはただの風車だ。だからこそ、この『スリープ』の杖を使うことでダメ押しとした。
万全の状態で躱せるならば、万全の状態を打ち消す手段があれば良いのだ―――要は、それだけの話。
勇者の瞳に宿る希望を、勇者もろとも吹き消すために。
アーヴは何より、その絶望に屈さない瞳を知っている。
不確定要素を忌む彼の本質は、とどのつまり、嘗て己と己の主がその不確定要素に打ち取られたからだ。
絶望の宙にて、一寸先は闇とでも呼ぶべき世界において、その瞳に絶望の暗闇を宿さぬ得体の知れぬ存在を。
―――光を束ねた王の子も、確かにそれを持っていた。
紅蓮に燃ゆるような槍。夜を照らす焔のような、太陽のような光を。
「―――ぬ!?」
、 、 ・
―――であるに、その槍もまた何者かと重なった。
光速と見紛う勢いで風を裂き、迫る一矢の如くして己に迫る一本の槍も。
閉ざされ窮した滅びにつながる袋小路。
行く先全てが死に直結せしめる、腐敗の吐息の内側にて、否を突きつけるように花が開く。
絶望に閉塞した黒の空を、輝きを以て照らし出し、暗闇の荒野に道を開くが如くして―――。
間に合わぬ。
防御の指示を出すよりも早く、ドラゴンゾンビの動きが間に合うよりも遥か早く。
その槍が己を貫き、殺す方が早い。―――分かったならば、あっさりとアーヴは杖を捨てた。
正確には回避しつつ、飛翔するその槍の勢いを捻じ曲げるように『スリープ』の杖を物理的に振った。
結果、僅かに軌道を逸れた槍は、アーヴの胴体を射貫いて即死、という結果を描くことはなく………。
「ぐ………ぬ、ゥおっ………!」
されど、傷らしい傷として彼の肉体に風穴を開けた。
即死ではないが、致命傷には近しい。
あの娘が、己よりも早く鋭いこと程度は分かっている。
しかし、あれほどの力と速度を兼ね備えた者だという認識はなかった。
手負いの獣ほど恐ろしいというが、これは違う。そのような獣の強さではない。
むしろ竜の威容にさえ屈さぬ光は―――嗚呼。覚えがあるとも。それはなんとも悍ましく、忌々しい。
「忌々しいものじゃ―――なぜ絶望せぬ。なぜ屈さぬ」
その憎らしい不屈の魂に、それこそ否を突きつけるが如く。
詠唱を進め、杖を持ち替え、同時に“切り札”を腐らせることなく活用する。
未だ舞いながら視界を阻む粉塵、その内側か。
そこに、恐らく存在するだろう“勇者”目掛けて。
前に歩み出た屍の竜が、唸るような咆哮を挙げつつも、その尾を振り払うことで視界の全てを吹き飛ばす。
横薙ぎに叩き付けられる大質量の物体は、嵐の向こう側にて花開いた“勇者”の正体を暴き、あわよくば今度こそ、その向こう側にある瞳を打ち砕かんと狙いを定めて―――。
>乃木園子
タスク @antinomie☆yzl4MFL1dRLB ★AmPQPE9EE6_8Ou
【王の間/龍炎寺タスク】
ジャックへの指示と、自身の戦闘行動の最中で全体の動向を見る。
叛逆者、ミラ=マクスウェルは支配者たるドラキュラの首を狙っている。そして、その過程で大きな障害になるその側近を封殺せんと動くのが現れた女性だ。
これまでの戦いであれば。少なくとも、タスクが認知している複数対複数の戦いであれば、それは上等な流れだ。
その筈だった、が。結果は、どうも芳しくない。
それもその筈だ。支配者と、その隣に立つもの。彼らは互いの力を理解し、その上で連携を取ってくる。
此方は、仲間同士とはいえほぼほぼ初見。付け焼刃の連携で、そのまま攻め立てるのは無理がある。
受け止められていく自身らの攻撃と、対処されつつある二人の仲間の攻撃を見ながら内心で表情を曇らせた。
「大丈夫です、か―――ッ!?」
瞬間、打ち上げるような蹴りが仲間のうち一人に決まるのが視界に入り、もう一方にも狼の牙が迫っていく。
そして当然、此方もノーマークというわけにはいかない。蝙蝠状のエネルギーに周囲を囲まれていた。
タスクの扱うデッキの内、盾に値するものは複数ある。が、それらは万能ではない。このように、囲まれてしまえば―――。
「ぐ、ぅっ……!?」
通さざるを、得ない。ジャックもまた、直撃を受け止めるが何とか踏みとどまっている。
全身に断続的に走る痛みに、歯を食いしばり。流れるような動作で、デッキから一枚のカードを引き抜いて掲げる。
ミラの声が聞こえる。凡その内容は、全員が成すべき第一歩。彼方の連携が上手なのであれば、分断をすべきだということ
「―――解放ッ!!!《氷雪のドラゴンフォース》……!
……ジャック!星合体(クロスナイズ)!《大竜装機 ソニックブラスト》!」
身に纏うは、相棒との絆を最大限高めた《ドラゴンフォース》の力の一つ。同時に、ジャックへと音響兵器じみた武装を装備させ。
『―――ォ、おおおおおお!響けェッ!!!』
ジャックの咆哮とともに、攻撃力を持った音波が室内を支配し、ドラキュラとマルド・ギールへと迫る。
タスクは、氷雪の力で凍り付いて竜角のようになった髪の一部を輝かせながら、手を翳した。
「……お前たちが、何を言おうと。何を成そうと、それが闇である限り栄えることなんてない。
闇がある限り、光もまたあり続ける。それを、知っているからこそ―――……此処で、お前たちを倒す……!」
氷雪の力で以て形成するのは、二つの槍。内一本を、全速力でマルド・ギールへ向けて投げた。
そして、タスク自身は並び立つ巨悪……二人の間へと目掛けて飛び込み、槍を薙いだ。
「(……同じだ。今までと、同じ。ただ戦っても、最も実力で劣るのは僕だ。
だから、僕は僕にしか出来ない手段を取る。ジャックとの連携を前提に、全部を利用してみんなと協力する)」
それが、タスクの取る戦術。
この身は一つではない。ジャックがいて、自分の組んだデッキがあるのだから、その手数を発揮してやればいい。
故にこそ、札使いは戦況を見極める。どう転んでも最も臨機応変に動けるのは、ある程度融通の利く力を持つ自分だと自負したために。
>ドラキュラ、マルド・ギール、ミラ、アスモデウス