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【ALL】Chrono Crisis【戦闘/シリアス】

 ( なりきり掲示板(フリー) )
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時を巡る旅路 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_UxJ

進化と共に新たなる技術を生み出し、その活動域を地球全体へと広げていった人類。
彼らは常に自らの生活を豊かにすることを考え、革新的な発明を世へ送り出し続けてきた。
留まることを知らない人類の科学力は、やがて禁断の領域へと足を踏み入れていくこととなる。

西暦6990年、それまでの常識を、それどころか世界の法則さえも歪めてしまうような大発見が人類にもたらされた。
時間遡行……俗に言う"タイムマシン"を駆り、現在と過去や未来を繋ぐ手段。人は、その方法を確立した。
今まで文献を漁ることでしか様子を知ることの出来なかった過去と、思いを馳せることしか出来なかった未来。
それらへの道が開かれたことは、確かに衝撃的ではあったが、同時に新たなる問題も浮上することとなった。

タイムパラドックス。未来からやってきた人間が過去に干渉することによって起こり得る、歴史の改変。
たった一つの筋を辿るように紡がれてきた歴史に矛盾を生じさせてしまえば、世界そのものの崩壊を招きかねない。
不測の事態が発生することを恐れた時の世界政府は、直ぐ様会議を開き、"時間遡行法"を制定。
資格を持たぬ者の時間遡行を禁ずると共に、時間遡行中の行動に厳しい制約を設け、歴史の改変を未然に防ごうとした。
―――しかし、全ての人間が、その決定を黙って受け入れた訳ではない。何せ、これは空前絶後の大発見。
上手く時間遡行を利用すれば、世界を思い通りに操ることも可能……そんな邪な考えを持った人間が現れるのは、当然の流れであったのだろう。

時間遡行法の制定から数年が経過したある日、歴史の保護を目的に設立された組織、「時空防衛連盟」が、大規模な時空振動を観測する。
遙か数千年前より発せられし、時空の歪み。それは紛れもなく、今この瞬間に、"歴史の改変"が実行されていることを示していた。
改変を止めることが出来なければ、タイムパラドックスの連続によって、やがて世界は消滅してしまう。
時空振動の余波によって、世界線の境界そのものが揺らぐ中、時空防衛連盟の面々は、人類の歴史を護るための戦いに挑む。



【クリックありがとうございます。この物語の舞台は時間遡行技術が確立された未来と、能力のある者のみが人権を得ることの出来る古代、人類と魔族が熾烈な戦いを繰り広げる中世という三つの異なる時代です。歴史是正機構は禁忌である歴史の改変を実行しようとしています。彼らの思惑を阻止するべく行動する時空防衛連盟の面々と、何としてでも歴史を書き換えようとする歴史是正機構、更にはそんな両組織の戦いに巻き込まれた各時代の人々の姿を描くのが、このスレッドの主な目的です。

オリキャラでの参加は勿論、版権作品をあまり知らないオリなり民の方も歓迎ですので、オリなり民の方も、どうぞご遠慮なくご参加下さい。
なりフリー民とオリなり民、互いに協力しあうことで、よりよきスレを目指しましょう。

なお、合図があるまで書き込みは禁止ですので、ご注意下さい。まずはじめに、サブ記事の方を確認頂くようにお願いします。】

メモ2018/03/04 20:57 : 風神少女☆XQ6phrzcKMtR @infernus★F7MrHN45jw_cjE

―――現在は、第四章です―――


第四章:「昇華の革命」

中世にて起きた人類と魔族の闘争は、本来の歴史にはない、両者の和平という形によって幕を閉じることとなった。

幸いにも、時空断裂が起きることはなく、時間は止まることなく紡がれている。この"小さな"改変により、未来の人類と魔族の関係が改善されたのは、幸運というべきか。

しかし、帰還した時空防衛連盟の面々を待ち受けていたのは民衆の歓迎などではなく、未来世界にて発生した新たな問題であった。

突如として世界政府から出される非常事態宣言、錯綜する情報。そんな折に飛び込んできた、大統領が暗殺されたという報せ。

世界政府及び時空防衛連盟の情報系統が完全に混乱している隙を突いて、歴史是正機構が遂に革命を起こす。

彼らは人類を昇華へと導くため、今、この時代の"改変"を目論んでいたのだ。古代や中世の改変失敗も、全て計算の内であったのである。

まともな準備も整わない内に、この日のために準備を進めてきた相手との戦闘を強いられる時空防衛連盟。

もしも、敵が歴史是正機構だけであれば、どれだけ幸せだったことだろう。彼らは、自分達を疎ましく思う全ての勢力と、一度に対峙することを迫られたのである。


ルール&プロフィール:http://mb2.jp/_subni2/19695.html-1#a

役職一覧:http://mb2.jp/_subni2/19695.html-2#a

世界観・用語解説:http://mb2.jp/_subni2/19695.html-3#a

各陣営の目的:http://mb2.jp/_subni2/19695.html-4#a

第四章のロケーション:http://mb2.jp/_subni2/19695.html-222#a


・現在イベントのあるロケーション

大統領官邸:大統領暗殺事件

時空防衛連盟本部:時空防衛連盟と歴史是正機構の全面戦争

歴史是正機構本部:時空防衛連盟と歴史是正機構の全面戦争

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似非翼 @kyouzin ★XC6leNwSoH_LoN

【時空防衛連盟本部/休憩室/トエル・アイムニー】

「ふふふっ……馬鹿、本当に頭の足りない馬鹿共、私に逆らうからこういう事になる。 くそっ……気持ち悪い糸残しやがって――へあっ!?」

コーフィンから発せられる強烈な熱エネルギーと爆音。 間違いなく特攻は成立し、相手は纏めて吹き飛んだとトエルは確信すら得た。
確かにほとんど弾薬を使い切っているので残りの火薬量は少ないが、それでもかなりの大きさの機体が自爆したのだ、普通の相手が耐えられるはずが無い。
膨大な熱エネルギーの前に、相手は焼き殺され死亡しているに違いない。 後は、この絡みついた糸を、ゆっくりとエンチャントした属性弾で千切るのみ。
しかし、死んでもなお、こんな汚くて気持ち悪い粘つく糸を残してやがってと、トエルは完全に、二人を殺したつもりで悪態を付いていた、逆らうから死ぬハメになったんだと見下しながら。

だからこそ、相手の声が聞こえてきたその瞬間、トエルは素っ頓狂な声を出した。
まぁ、根拠が一切無いとは言え、それほどの自信があったと言うのに、無傷と言うのは驚愕に値するだろう。 それにしても情けない悲鳴であったが。

「うひぃっ、気持ち悪い、死ね、消えろ、吹き飛べぇっ!!」

もはや命中率すら壊滅的な拳銃の射撃が放たれる。 当然それらはまともな狙いが付けられておらず、完全に笑顔のマフェットに恐慌してしまっていた。
それでも、罵声を浴びせる口だけはよく動くが、ほとんど彼女の全身は満足に動かせておらず、頭を大きく上げることも出来ないために、オーネットの生死すら判別できないという有様だった。
勿論、それが届く事は無く、彼女はこちらに近づいてきたかと思うと"お仕置きが必要"と告げてきた。

気持ちよくなる? 嫌だ、こんな化け物なんかに。
何を想像したかはさておいて、おそらくその想像よりも冷酷な事に、マフェットはトエルに大量の糸を発射した。

より厳重に拘束するつもり、いや、それだけではない、それは、トエルからすれば、巣を張っている蜘蛛が、獲物を保存が効く繭へと変えてしまう行為その物だ。
付け加えるならば、ただ全身を一巻きする程度では済まされない、それだけでもトエルは身動き取れなくなるだろうに、過剰梱包と言えるレベルで、何重にも糸が重ねて巻きつけられた。

それは一瞬の事だった、まさしく、蜘蛛が小さな獲物を捕らえた時の光景その物だった。
当然ながら、糸は乱雑に巻き付けられているので、顔まで彼女は縛り上げられてしまった、と言う事は当然。

「むぐぐぐっ、んんっ、んぐ……んんんんん!! んぐ、むぐううううう!!」

口も鼻も完全に塞がれる、そこから迫り来るのは窒息死と言う末路。
死の恐怖が眼前に迫り、視界すら奪われたトエルは、最初こそ恐怖しきって大人しかったが、自身の呼吸状況を把握して、必死にばたばたともがいた。

火事場の馬鹿力と言う物は本当にあるのか、地面に張り付いた糸はぶちぶちと切れている物もあったが、何重にも、貼り付いているのではなく「巻き付けられている」糸が切れるはずもなく、ただ白い芋虫が狂ったように、ギチギチと音を立て、呻き声をあげながら跳ねているようにしか見えない。
そして暴れたために、余計に息が続かなくなり、視界が霞み始めたその時、息が出来るようになった。

マフェットが口と鼻から糸を外して自由にしたのだ。

「ぜぇっ、ぜぇっ……ひっ、うぇっ、気持ち悪い、気持ち悪いぃ……」

ある程度の呼吸が出来るようになれば、今度はうわ言のように、自分があれほど汚いと煽っていた糸に全身を拘束されている事に気持ち悪いと呟き続ける。
先ほどのように必死にもがいている訳ではないが、それでも抵抗はあるようで、糸の軋む音は鳴り止んでは居なかった。

そしてここで頭に浮かぶのは、屈辱である。

自分は、コイツに笑いものにされた、確実に殺せて、捕食できたところを、あえて生かされたのだ、とトエルは気づいたのだ。
その瞬間、顔が真っ赤になるが……まぁ、口元と鼻ぐらいしか見えていないので、誰にも分からないだろう、彼女の羞恥心は次の言葉によって始めて周りに気づかれる。

「この腐れ蜘蛛がああ! 私を、助けたな! 今すぐこれを解け。 役立たずの味方! 生きてるんでしょう!? さっさとこれを解いて私を助け、そしてその蜘蛛を殺せぇ! 私はトエル、いや、アイム家のエルだぞ!!」

暴言、そして全く自分の立場を分かっていない解けと言う発言。
それはマフェットだけではなく、生きているであろうオーネットにも浴びせられる。 既に縁を切られている家の名前を脅迫材料にして、ギシギシとその身を揺らす姿は滑稽の極みと言えるだろう。

少なくとも"すぐ"助けられる"事は無く。

「このぉ……役立たず共がぁ……締め付けられて痛いし苦しい、早く、早くこれをぉ……」

若干弱音が混ざり始めるが、それでも尊大な態度は変わらない、ここまで来るとまさに「本物」と言えるだろう。

>マフェット オーネット


【お相手ありがとうございました! あとオーネット様本体様にお願いですが、今後の展開の都合上"助けないでください、拘束を解かないでください、でも最後にちょっと虐めるのは自由です"】

7日前 No.1355

対峙の刻 @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【大統領官邸/シチュエーションルーム/ヴァイスハイト・インテグラーレ】

――それは、本当に一瞬の出来事だった。

無我夢中の突撃は、全くの考えなしで放たれたもの。しかし、それ故にヴァイスハイトはバビロンの虚を突く事が出来た。
まるで美食家の様に雄弁に語り驕る男の脇腹にその突進が突き刺さり、思い切り吹き飛ばす。
その先にあるのは大きな窓。考えなし、だからこそ普段以上の力を発揮するヴァイスハイトは、それを易々と突き破ってバビロンを突き落とす。
其処から落ちる、と言う事はユーフォリアとフォルトゥナには二度と追い付けないと言う事。それは即ち、バビロンの実質的な敗北を意味している。

……筈だったが。

「お前、何を……? ――ッ!?」

バビロンは窮地にありながら、まるで神(だいさんしゃ)の視点から語る様な言葉を吐く。

――決めた。

その言葉の意味をヴァイスハイトが理解するよりも早く、強烈な負荷が彼を襲った。

「グッ……こいつ! 俺を巻添えにする気か……っ!? この……っ!」

気付いた時には既に遅い。魔人の凶手はヴァイスハイトをがっちりと掴んで離さず、地獄の底へと引き摺り落とそうとする。全力で抵抗するも、宙に浮いているとは到底思えない程の力で引っ張られては長くは持たない。
其処でヴァイスハイトは一つの決断をする。振り切るのは無理だと割り切って、最後の力を振り絞って従姉妹達に発破を掛ける。

「くっ……ユフィ! フィル! 俺の事は、良い! 構わず行け――ッ!」

彼の言葉が途切れた、その次の瞬間。窓の外へと、奈落の底へと、ヴァイスハイトはその身を引き摺り込まれて行った。新たにユーフォリアへと降り注いだ死神の御姿を彼が視ずに済んだのは、果たして幸か不幸か――。

>>ユーフォリア、フォルトゥナ、ダグラス、アルカディア




【大統領官邸/→庭園/ヴァイスハイト・インテグラーレ】

「――――ぐぁっ……! く、バビロン……!」

ヴァイスハイトが魔人に引き摺り落とされた先は、戦いの場に相応しく無い豪奢な庭園。幸いな事に人はいなかったが、逆に言えば救援を求める事も出来ない。
体を強かに打ったが、問題無く動ける。ユーフォリアやフォルトゥナに比べれば随分と脆弱ではあるが、仮にも能力者の肉体だ。
改めて、招かれざる来訪者にして地獄へ己を引き摺り落とした張本人を見遣る。

「俺だけでも道連れにするつもりだった……か?」

ヴァイスハイトにはバビロンの真意が読めない。『決めた』とは果たして何を指しているのか。この期に及んで今尚余裕の笑みを浮かべるその男は何者なのか。何もかもを量りかねている。
ただ、そんな彼でも一つだけ分かるのは、その異常さだ。先程の信じられない程の怪力が、果たしてあの男の何処にあったのか。余りにも、バビロンと言う男は未知数に過ぎる。

(無理はするべきじゃない、な。ユフィに言われたばかりでもある)

それでもヴァイスハイトは努めて冷静だった。例え相手がどれだけの力を持った魔人であろうと、勝つ事は不可能であれど逃げる事は可能だろう、と理解していた。防戦に徹すれば、多少の痛手は負うだろうが逃げおおせるだろう、と。……それが、何れ程得難い選択肢であるかも理解せずに。

……灰と黒混じりの空を覆っていた。まるで、この先に起こる事態を予見しているかの様に。

>>バビロン

7日前 No.1356

バビロン @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_zRF

【 大統領官邸/庭園/ダン・マッケーニ=バビロン 】

「よっ――とォ!」

 ヴァイスハイトが着地するのとほぼ同じタイミングで、バビロンも着地した。
 踏みしめた地面に僅かにヒビが入る。……まるで、この男の中に鋼鉄でも詰め込まれているかのように。
 周囲に自分達以外の人影はいない。いや、いたのだろうが既に逃げたか、あるいは死んだかしたのだろう。
 だが、バビロンにとってはどうでもいい。寧ろ好都合だ。一対一を邪魔無しで楽しむことが出来るのだから。

 口元は三日月に割れている。
 喉の奥から零れてくるそれは、己の勝利を信じ切っている者が浮かべることの出来る笑みだ。

「いいや? 俺は妥協が大嫌いな性格なんだ」
「お前だけでも――ヴァイスハイトだけでも、などとは思っちゃいない」
「第一失礼だろ、妥協なんて真似を相手にしたら。"お前でいい"ではない。"お前がいい!"、の方がいいわけさ」

 肉食獣ですら、バビロンの瞳に射貫かれれば委縮するだろう。
 ヴァイスハイトに向けられている視線は、それほどのものであった。
 ダン・マッケーニ=バビロンが異能者であること以外は、鍛えることを生業としている一般人でしかないにも関わらず。

「俺はお前のような人間こそ、生身で月まで飛ぶべきだと感じたのだ」
「昨今は恵まれた強者ばかりが、己の夢を叶えるばかりでね。
 この――そう、言うなれば"未来社会"の格差はもちろん知ってるだろ?」

 異能者<デュナミス使い>とは「人間の進化の過程」であると唱えた学者がいる。
 荒廃し、変動しつつある社会に対して適応しようとし続けた人間の成果。いうなれば突然変異。
 しかし、異能を身に着けたからといって肉体が劇的に強化されるなどという話は――夢物語だ。
 最低限「己の力で潰れないように」肉体が強化されるのみで、必要以上のスペックを齎すことはない。

「"才能"だ、"天のお恵み"だ、"運"だ――それを手に入れた奴が上に行く。
 出来なければ下だ。そして、下の奴は上を見て羨み、妬むのさ」
「"ああ、彼、彼女には才能とスペックが備わっていた。それさえあれば私も"――と」

 だからこそ、不可解なのはダン・マッケーニ=バビロンという存在そのものだ。
 彼は誰から見ても……そう、熟練した異能者が見ても「精々鍛えた一般人」程度でしかない。
 ユーフォリアが見ても、ミシャールが見ても、……それこそヘルガが見たとしても。
 間違っても人智を超えた領域に踏み込めるほどではない。そのはずなのに。

「だが、俺は違うと思っている」
「努力をしたか? 覚醒したか? 血のにじむような鍛錬を百日、千日続け、血反吐を吐いたか?
 全身の骨が砕けるような鍛錬をしたか? 眠りすらも惜しんで戦い続けたか?」
「やってないとは言わせねぇ――ソイツが出来なきゃ、上へのし上がるなんて夢は叶えられないんだよ!」

 ――彼は確信している。最後に勝つのは、"己だ"と。

「だが、そこへ踏み出す一歩は怖い。当たり前だよなぁ? だからこそ俺が押してやるのさ――さて」

 その場で、ポージングするバビロン。
 その構えはボクシングスタイルだ。

「お前に夢へと走り、覚醒する喜びを教えてやる。
 さて、まずはボクシングだ。俺が大好きなのは、フロイド・メイウェザーでね――」

 大きく一歩踏み出し、ヴァイスハイトに接近。
 瞬時に侵食されるヴァイスハイトの間合い。彼の領域<テリトリー>に、バビロンは堂々と踏み込んだ。

「――そぉらッ!」

 射程内にヴァイスハイトを捉えた瞬間、バビロンの右腕が撃ちだされた。
 ジャブだ。
 拳を軽く握り、脱力し、素早く撃ちだし、素早く引き戻す。
 ボクシングスタイルにおけるもっとも基本的なパンチ。
 ストレートやアッパーといったパンチと比べれば破壊力に甚だ劣る。
 故にその用途は打撃そのものよりも、牽制や自身のリズムを取る用途、相手との距離を測る目的で用いられる。
 いわば、補助的なパンチだ。

 だが、このパンチはストレートやアッパーにはない武器がある。
 それが速度である。
 ジャブはあらゆるパンチの中で最速。――否、現存する徒手空拳格闘技数百派、武器術も含め数千派。
 その全ての技を連ねても比肩するもののない、正真正銘『最速』の体技。

 バビロンの放つジャブの速度は、音を超えていた。
 ――格闘技を収めているだけでは説明の付かない、最速の害意。
 大気を切り裂き進む拳は、下手に受ければ確実に骨にヒビが入る威力を秘めている。

 まず顔面へ向けて一発。
 バビロン更に二撃、三撃、四撃――獲物を追い詰めるようにジャブを放ち続ける。

 音を超えた嵐のような拳のラッシュが、ヴァイスハイトへ向けて襲い掛かる――!

>ヴァイスハイト

7日前 No.1357

再始動その2 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【大統領官邸→時空防衛連盟本部→大統領官邸/大統領執務室/シフォン・ヴァンディール】

涙の離別の後、シフォンは機上の人となっていた。久々に駆る愛機、やや前時代的ながらもよく手に馴染む。これまた久しい地球軍時代の友軍と合流し、馳せ参じるは連盟本部。
ただでさえ存亡をかけた戦いの中、あの老兵が襲撃をかけているとなれば救援にいかない手はない。是正は本気だ。古代と中世を巡る争いという陽動の後に、真の目標たる未来を堕とそうと、最後の総力戦に出てきている。
エントランス前に屯する歩行兵器・ウォーカーを視界に捉えるや、一隊は三機ずつの密集隊形を取った。

「私に続いて。攻撃のタイミングを指示します」

<了解。リーダー>

<了解。一泡吹かせてやりましょう>

ハゲタカの如く襲い掛かる戦闘機隊。機関砲による近距離戦を捨て、プロトン魚雷を惜しみなく浴びせるアウトレンジ戦法が功を奏し、ウォーカーの熾烈な対空砲火はシフォン達を撃墜するに至らない。いくら高火力とはいえ、距離を取ってしまえば戦闘機のシールドでも防げるレベルに軽減されるのだ。
反対にこちらの魚雷は命中さえすれば威力絶大、一定の効果が約束されている。敵の動きに目を凝らすシフォンに攻撃の余裕はないが、彼女の指揮を受けた両機がやってくれた。そうして瞬く間に歩行兵器群を無力化すると、シフォン機のみが隊を外れ、次なる目的地を目指す。

<執務室で合流しましょう。

大丈夫、必要なものは全て揃っています>

端末を耳に近づけ、"とある人物"への伝達。これから肩を並べ、果たすべき任務に立ち向かう仲間…いや、親友へ宛ててだ。
白銀の機体に陽の光を浴び、司令官機は静かに官邸の屋上に降り立つ。

「散らかった部屋はあまり好かないのだけれど…

まずはイルグナーさんを返していただけるかしら」

惨状。血みどろの事故物件と化した執務室に踏み入り、重斧を携えた戦鬼を一瞥する。ミシャール・ルクセン…現在の地球軍に於ける数少ない良心にして、シフォンの大先輩にあたる人物。
この度の官邸襲撃事件の張本人でありながら、その佇まいは威風堂々。このような凶行に及んだ理由としては、諸説の候補が浮かび上がるが…今はそれどころではない。
気を失ったイルグナー議員を保護した後に、ミシャールの説得を試みる。そしてその目論見が外れた暁には…文字通り死を賭しての争いを繰り広げなければならないだろう。

だが案ずることはない。親友に伝えた通り、必要なものは全て揃っているのだから。

>>ミシャール・ルクセン、(ユーフォリア・インテグラーレ、フォルトゥナ・インテグラーレ)


【大変駆け足の文章で申し訳ない!本体様から許可が下りたので、ミシャールさんのところに絡みを出させていただきます。

どうぞよろしくお願いします】

6日前 No.1358

対峙の刻 @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【大統領官邸/庭園/ヴァイスハイト・インテグラーレ】

ヴァイスハイトが痛みに呻いて立ち上がるのとほぼ同時に、バビロンも庭園に着陸する。彼とは対照的に、軽々と二本の足で地面を踏み締めての着地だった。
そちらへ向いたヴァイスハイトの目に最も印象的に映ったのは、バビロンが浮かべている笑み。作り笑いでもなく、それを隠そうともせず、ただただ己の思うがままにバビロンは笑っている様に思えた。

「――俺を? 何故だ。ユフィやフィルを狙っていたと言うのなら、分からない事も無いが……」

ヴァイスハイトは、奇妙な感覚を覚えていた。バビロンの目は、獲物を品定めする豹の様だ。それでいて彼奴の言葉には少なからず称賛の意味があった。それが奇妙で、何よりおぞましかった。

「冗談じゃない。全ての人々がお前が言うほど理想に生きられると思っているのか?」

顔をしかめてバビロンの言葉を否定する。彼奴の言う通り、誰しもが少なからず心の内に暗い感情を秘めている。彼奴が懐く『諦め』への異常な程の敵愾心も、全く理解の余地が無い訳でもない。
だがそれでも、『それ』は違うと一蹴する。『それ』を認めるのならば、弱い人間の在り方を否定する事になる。

「……手の届かないものがある。叶えられなかった夢がある。沢山のものをどうしようもないと取り零して、それでも平凡な毎日を生きている。挫折して、山ほど後悔して、無理だったと諦めたとしても、それを赦して生きて行けるのが人間じゃないのか」

バビロンが朗々と語る持論を糺す様に。或いは、それは自分に言い聞かせる様に。自分が赦せなかった事を、誰よりも赦した者達の顔を思い浮かべて。

「お前が何を思おうと勝手だ。大層な夢を抱こうと好きにすればいい。だが、お前の理想の為に、無関係の人々を巻き込むな! 」

ヴァイスハイトは改めて、彼の魔人と対立する意思を固める。これは、理解してはならない相手だ。その思想の意味を理解し呑み込んではならない。奴は、普通の人間とは"在り方"からして違うのだ、と。

「――ッ! 速い……くっ!」

魔人はヴァイスハイトの想像を遥かに上回る程の速度で迫る。先程の怪力から"種"はあるのだろうと予想は出来るが、理屈を考えるより速く悪意の拳が迫る。
挨拶がわりにと繰り出された神速の連拳。速度を重視したものの様に見えるが、まともに食らえば身が軋むだろう。

「……負けるか!」

然りとてヴァイスハイトも能力者だ。決して戦う事に向いた力では無いものの、それでも全くの一般人よりはこなして見せる。
一発目を最低限のスウェーで避ける。と同時に二丁の拳銃を取り出し、何時でも反撃が取れる様に構える。二発目は両腕に力を入れて受け止めた。痺れる程の衝撃を堪えながら三発目を後退しながら回避し、四発目以降には矢鱈に銃撃を撃ち込む事でごまかしながら凌ぎ、下がりながら更に二発撃って追撃の可能性を削ぐ。

(この速度では逃げられない。それに長々と戦える程余裕もない。隙を突いて動きを止める!)

バビロンの人外染みた動きを受けて、ヴァイスハイトは作戦を切り替える。コートの下に忍ばせてある"それ"に思考を走らせる。即ち、自らの血液から作った毒薬(アンプル)だ。対人間用の筋弛緩剤。常人なら致死の可能性があるものだが、この相手に得物を選んでいる余裕は無いだろう。

故に、隙を伺いながらも銃撃は弛めない。密着しなければ使えないアンプルよりは、まだ銃の方が信頼出来るからだ。何より、"それ"は最後の手だ。使わないで済むに越した事は無い。

右で二発、左で三発撃ち込んで、近付かれる前に双方ともマガジンを交換する。弾はまだ残っていたが、何時換えられるか分からない事もある。古い弾倉を捨て、それぞれの手で器用にマガジンを挿入する。
一瞬たりともバビロンから目は離さない。離せない。目を離せばやられると言う警戒心もあったが、それ以上に何か、胸の奥で沸き立つざわめきが、バビロンから目を逸らさせずにいた。

>>バビロン

6日前 No.1359

時空の守護者 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【大統領官邸/シチュエーションルーム→大統領執務室/ユーフォリア・インテグラーレ】

暴力での解決を、ユーフォリアは望まない。ある意味、最も彼女らしいとも言える選択。そんな従姉を前にして、ヴァイスハイトが述べたのは、感謝の言葉であった。
もはや心配事など何もない。フォルトゥナも恐らく、彼の謝罪を受け入れるだろう。敢えてそちらへは目を向けなかったが、妹が自分と似た者同士であることは、彼女も理解している。
溜息ばかり付いているヴァイスハイトの様子は、彼が如何に凄まじい重圧を抱えていたかの動かぬ証拠であろう。フォルトゥナを置いて逃げた罪悪感は、確実にその心を蝕み続けていた。
そのような負の連鎖も、今日限り。これからは、新しい姉妹と従姉弟の物語が始まる。アルカディアの喜びようを見て、ユーフォリアの顔には思わず微笑が浮かんだ。

しかし、歓喜の渦の狭間で鳴り響いた端末は、これから起きる惨劇の予兆に過ぎなかった。ユーフォリアも、このタイミングでのそれが気になっていたところではあるが……
現れたのは、最悪の二文字が相応しい人物。ダン・マッケーニ=バビロン。政界に長らく身を置いていた彼女は、よく知っている。彼もまた、汚職官僚に分類されるべき者の一人だ。
そんな彼が、何故ここへ? ようやく掴んだ幸せを不幸で塗り潰すかのような悪を前に、ユーフォリアは反射的にアルカディアを自分の後ろへとやりながら、険しい表情で件の相手と対峙する。
狂っている。そうとしか表現出来ない、滅茶苦茶な理論を語った後、フォルトゥナへ向けて放たれる凶弾。ユーフォリアは即座に彼女を庇うように行動するが、それよりもヴァイスハイトが動くのが先であった。

「っ……!」

ヴァイスハイトがバビロンを突き飛ばし、ダグラスが弾丸を叩き落とし、それでも万が一のことがあってはならないと、ユーフォリアはフォルトゥナの前に虹の防御壁を展開する。
直後に視界に飛び込んできた光景を前に、ユーフォリアは思わず絶句した。ヴァイスハイトがバビロンともつれ合ったまま、窓を突き破って階下の庭園へ転落していったのだ。
彼が無事であるかを確認するべく、窓へと駆け寄ろうとするユーフォリア。だが、どこまでも意地悪な運命が、彼女達の幸福を願わない者の陰謀が、それを阻止する。
空気を引き裂くような音が聞こえ、腕が振り下ろされる。すぐ隣にいたフォルトゥナは全く巻き込まず、自分だけを狙った攻撃。それを彼女は、既のところで回避する。
仮に掠りでもしていれば、彼女の身体は瞬く間に熱を奪われ、死へと至っていたことだろう。一瞬の内に最悪の方向へと転がっていく状況。第二の乱入者を前に戦闘態勢を取ったところで、遥か彼方の地表から、ヴァイスハイトの声が聞こえてくる。

―――『くっ……ユフィ! フィル! 俺の事は、良い! 構わず行け――ッ!』

ユーフォリアの性格からして、こうでも言われなければ、彼を放っておこうなどとはしないだろう。しかし、彼女達に残されている時間は、あまりにも少ない。
唯でさえ、フォルトゥナとの戦闘で時間を浪費した後なのだ。ここでクルトやバビロンを相手取っていれば、大統領を救うことなど、まず不可能となってしまうだろう。
苦渋の決断。親族の危機を見過ごしたくはなかったが、自分には時空防衛連盟の総統として、果たさなければならない使命はある。ヴァイスハイトのためにも、今はそれを優先しなければならない。

「散開よ。私は大統領の元へ向かう。彼に構っている余裕はないわ。全員、自らの安全を最優先にしなさい」

ユーフォリアがこの場にいた全員へ向けて、指令を飛ばす。クルトが自分達を足止めするために差し向けられた刺客であるとしたら、それと戦う意味などまるでない。
幸いにも、フォルトゥナやダグラスには、自分で自分を護れるだけの力がある。アルカディアはまだ不安が残るが、一人でここまで来れたのだから、彼女の力を信じよう。
せめてもの時間稼ぎ、とばかりに虹の光球を数十発、クルトへ向けて放ちながら、ユーフォリアはそのまま反転し、大統領執務室を目指す。後ろは一切振り返らなかった。
正直に言えば、もしもの事態が起きた時にそれを目に入れたくなかった、というのはある。そんなものを見てしまったら、自分は足を止めてしまうだろうから。
しかし、そんなことは起こらないと、ユーフォリアは信じている。願っている。立ち塞がる歴史是正機構の尖兵達を吹き飛ばしながら、彼女は駆けた。どんな人物だろうと、その人物が汚職の根源であろうと、一つの命を迫りくる魔の手から救うべく。

「ええ。私も、間もなくそちらへ着くわ」

道中、入ってきた通信にそう答えながら、ユーフォリアは執務室前最後の廊下を走り抜ける。何故だか、嫌な予感がする。どうか、杞憂であって欲しい。そんな願いも虚しく、彼女はそこで、衝撃の光景を目の当たりにすることとなるのであった。


風が吹き抜ける音がする。外は雨でも降っているのか、冷たさが身体に纏わりついてきた。十分に周囲を警戒しつつ、ユーフォリアはようやく、執務室の前へと辿り着く。
開け放たれた扉、その向こう側にある首のない死体。遅かった。大統領執務室にあったのは、物言わぬ肉塊へと姿を変えた大統領と、気絶した一人の女性、先に到着していた親友、そして、下手人の姿のみ。
その下手人の容姿に、ユーフォリアは己の目を疑う。こんなことが、あってたまるものか、と。絶対にそのような凶行には走らないであろうと認識していた者の姿が、そこにある。
親友からの連絡を聞いてもなお、信じることの出来なかった事実。本当に彼女が、ミシャールが大統領を殺したというのか。これまでにない動揺を感じつつも、表面上は冷静を取り繕い、彼女は静かに口を開く。

「ミシャール・ルクセン。貴方は、ここで何をしていたのですか」

聞かなくとも分かるだろうと言われるかも知れない。お前には目が付いていないのか、と皮肉られるかも知れない。それでも、ユーフォリアは未だにこの事実を受け入れることが出来ていない。
汚職に塗れた世界政府の中で、唯一自分の味方をしてくれた実力者。後援者を得られずにいた自分のバックに付き、防衛大臣という役職すらも譲った偉大なる人物。
故に、納得がいかない。どうして、彼女が大統領を殺したのか。暴力による解決は、断じて根本的なものとはならないことくらい、ミシャールであれば理解しているはず。
確かに大統領は、その役職に相応しくない人物ではあっただろう。だからこそ、正々堂々とした方法で勝利を収めることにこそ、意味があった。真っ向から勝負を挑み、敗北させることで、大衆の力を実感させなければならなかった。
しかし、その機会は二度と訪れない。大統領は、過去の人物と化してしまった。ミシャールがこのような行動に走った理由は、何か。それを確かめるべく、ユーフォリアは戦闘態勢を取らずに、相手の返答を待つ。

>ミシャール・ルクセン、シフォン・ヴァンディール、フォルトゥナ・インテグラーレ、ヴァイスハイト・インテグラーレ、ダグラス・マクファーデン、アルカディア・クアドリフォリオ、ダン・マッケーニ=バビロン、クルト・ライヒナム

6日前 No.1360

バビロン @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_zRF

【 大統領官邸/庭園/ダン・マッケーニ=バビロン 】

 対峙するヴァイスハイトは、戦線に立つ回数こそ少ないものの善戦を演じてみせる。
 スウェーで回避。両腕をクロスしてガード、からの寄せ付けない銃撃。
 更に二発の射撃で牽制しながらバビロンの射程範囲から脱出してみせる。

「やるなァ、おい!」

 同じく、バビロンもバックステップで僅かだが距離を取った。
 命中したのは腕に撃ち込んだ一発のみだ。だが、ヴァイスハイトの強化された肉体には効果は薄い。
 骨を軋ませたのみ。しかし、バビロンは楽しくて仕方ないというように称賛の言葉を贈る。

「挫折も、後悔も、そりゃあするさ。そこは当たり前だ。最初から完璧に出来上がってる超人なんざいない」
「いたらそれはヒトじゃない、化け物だ。だがらって――」

「――そうやってヘラヘラ笑って、妥協しながら生きるのは楽しいか?」

 黄金王の言葉に、ほんのわずかだが苛立ちが混じった。
 ダン・マッケーニ=バビロンは心底苛立っていた。この未来世界の現状そのものに。
 怒りのあまり拳を握るバビロンの力が強くなる。爪が肌に食い込み、零れ落ちるのは血液。

「親から言われなかったか? あるいは世間、友人、誰でもいい。言われたはずだ、"諦めは癖になる"と」
「俺はこの言葉こそがこの世の真理だと思っていてね。見たか? スラムの連中の顔ぶれを」

 ダン・マッケーニ=バビロンは何もせずのうのうと金を貪っている官僚よりは"マシ"だった。
 彼は常に本気で、真剣に、自分の夢の事を考えていた。
 何時か停滞した世界をひっくり返す大物が見つかると信じて。
 だからこそ最底辺を視なければならない。経済の発展から置いて行かれた、淀んだスラムの街並みを。

 何故なら目を付けたかの"英雄"ユーフォリア・インテグラーレもそうしていたからだ。
 "英雄"達は皆そうするだろう。だからバビロンも、それに恥じぬよう追いつけ追い越せと努力する。
 金の使い道も惜しまない。使わない金は貧困層を救うために投資を行い、逆に無能は切捨て金を配分する。

 そして下層に降り、貧困層の顔を見たとき、まず感じたのは怒りだった。

「諦めていた、淀んでいた。にも拘わらず聞こえるのは嫉妬と諦めの嵐だ!」
「"金が足りない"、"弾圧される"、"見せしめ処刑"――ああ、ああああ見るに堪えない聞くに堪えない!」
「奴らは生きていない。呼吸をしモノを食って排泄するだけの死人だ!
 人の可能性を、人生の価値を、宝物目指して走り続けるその行為をどれだけ馬鹿にしていやがる!?」

 激情。
 怒りで我を見失いそうになっていたのは、後にも先にもこの一瞬だけだろう。

「奴らは待っていやがるのさ。なんとなく自分に優しい新世界や、都合よく自分に甘いどこかの誰か」
「――そして適当に舞い降りる奇跡を願ってヘラヘラと!」
「インテグラーレという英雄様が現れれば、こぞってこびへつらうだろう。己の人生を捨ててでも!」

 彼らは――諦めた。言い訳をして、祈って願って毎日を過ごして。
 夢があるというのに、輝ける素質があるというのに、たかがその程度の壁で挫折し妥協してしまう。
 勿体ない。鋼の決意で実行したならば、死ぬ可能性など障害にすらなりはしないのに。

「俺はそれが我慢ならねぇ。だから言うのさ、大志を抱けと!」
「それに、そんな風には生きられないと言ったな? それは違う」

 駄々をこねる子供を、諭すような口調だった。
 本気で、真面目に、この未来世界――否、人類の輝きを考えているからこその台詞。
 それは決して政府官僚の口からは出てこないだろう。されど、人間の口から出ていい台詞でもない。


「ユーフォリアにも出来たぞ。
 ラファエレ・インテグラーレにも出来たぞ。
 俺にも出来た――そして何より、お前自身が出来た。実感してるだろ?」


 再びヴァイスハイトへと向けて駆けだした。
 此方に向けられた銃口、そこから放たれた弾丸など意にも介さないというように。
 そして直進の結果、全弾被弾する。臓器を貫通し、出血。五つ分の孔より血が滲み噴き出す。
 だがバビロンが止まることではない。"こんな傷ごとき知ったことか"とでも言うかのように。
 接近を防ぐための牽制として放った弾丸をあえて受けながら再び間合いを侵食することで、相手のペースを崩しにかかる。

「ならば出来ない道理はあるまい? 出来ないんじゃあない、やろうとしないだけさ」
「此処にいて、俺はやったぞとも叫べない奴の言い訳だ――!」

 ステップで距離を詰め、再び右より音速のジャブを繰り出す。
 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃――拳の弾丸を撃ち、牽制しながら距離を詰め、肉薄した。

「――お前の得物は銃か。ならば俺もそれに倣おう!」

 そしてヴァイスハイトの腹部に、硬い感触が当たる。
 銃だ。それも、片手で撃てば反動でロクに狙いも定まらないであろう大口径弾を用いるデザートイーグル。
 あろうことかそれを左手のみで瞬時に取り出して構え、引き金に指を掛けた。

 必殺の左とでもいわんばかりに、ヴァイスハイトの命を刈り取らんと弾丸が撃ちだされる――!

>ヴァイスハイト

6日前 No.1361

老兵 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【時空防衛連盟本部/エントランス/ヴァルガス・スターン】

真なる覚醒。傷つき混迷する獅子に浴びせかけた容赦のない言葉が、遂に彼を究極の塵殺者へと目覚めさせた。
ここに至るまで老兵が発した言葉は、全て警告とも受け取れる内容であったが…それが招いた結果を目の当たりにすれば、『耳を貸すな』という少女の制止は正しかった。
確かにレオンハルトは"踏み外した"。追い縋る味方を振り払い、自らの踏みしめる大地すら焼き砕き、地獄の炎へと、大釜へと沈んでいく。正確にはまだそこまで至っていないとはいえ、最早時間の問題だ。
対峙する宿敵にして、かつての同胞。幾度となく教育を施した教え子でもある。そんな彼の、先程言い当てた通りの末路を前に、老兵の面持ちは明るくない。
しかし、ここは戦場。第一に我々は敵対者同士。自らの利と置き換えられる要素は、是非とも利用させてもらわねばなるまい。

「お嬢さん、君は『自分を信じろ』と言ったが。

"アレ"を…同胞の信頼に応えた結果を見て、どう思いなさるかね?

君の一言が作り上げた怪物を見て……

どう思いなさるかね」

揺さぶりを目的とした嫌らしい物言い。無責任な愛を注いでしまった責任こそあれど、まだ幼い少女には背負うべき罪など断じてない。
だが、いやだからこそ、この無情な現実を突きつけるかのような発言が刺さると考えた。この目論見が実を結べば、元より危うかった二人の連携など、完全に断ち切られてしまうことだろう。
鋼鉄の軍人であると同時に、老獪さを兼ね備えていることを思い出させる一手。卑怯だとの誹りを受ければそれまでだが。

(しかし…何者にもなれん、とは言ったが)

こちらの反応速度を遥かに上回っての肉薄。再度死角よりもたらされるは、対象を切り裂き焼き焦がす紅蓮の緋斬。しかしこの手は一度見ている。
紙一重まで迫った熱を、殺意を、何より獅子の魂を背に感じながら、振り向くと同時に細槍で以て迎撃。先程と何も変わらない。経緯も、経過も、結果も。

――結果も?否、今度は違った。受け止めるヴァルガスの踵が、僅かにだが地面を抉り沈み込む。それだけレオンハルトの引き出された力が、かける圧が強いということだ。
続く右方から襲い来る一撃離脱の斬撃。叩き付けられた銀槍には、細身ながら堅牢な造りであるにもかかわらず、深く抉られた痕跡が刻まれる。
ヴァルガスの腕にも相当な衝撃が伝わったらしく、忌々しげな表情を浮かべながら数歩後退。休む間もなく追撃に対応させられる。

(何者にもならないのが一番なのだよ…!)

天空より降り注ぐは、罪人を跡形もなく消し去る断罪の緋焔。本部の天井を貫き、エントランスの施設までも断ち裂かんばかりの焔剣一斬。
迎え撃つは、大河の如き奔流が龍の姿を得たかのような防護壁。咄嗟の展開にも拘わらず高威力、かつ火炎を一飲みにするかのような特大の規模。そうして防ぎ切ったはいいが、肝心の反撃に出る力が残っていない。

<敵機接近!210の方向に12機!>

否定しようのない劣勢に立たされるのと、ウォーカー部隊からの通信が入るのとはほぼ同時だった。現場の正確な状況が掴めない故、瞬時に的確な指示を出すのは至難の業だ。
そうして手をこまねいている内に、通信機にヴァルガスが最も聞きたくなかった音声が舞い込んでくる。耳をつんざくような爆音。間を置かずに通信が途切れ、彼に確認する余裕はないが、端末の画面からも該当のウォーカーが消去される。
侵攻部隊が牙を折られ、歩兵を能力者の手から守るべく戦う自分にも、もう猶予は残されていない。

最早、この老兵に出来ることと言えば、あと一、二分あるか否かの時間稼ぎ。しかし無駄ではない。丞相閣下の理想の実現に、来たるべき人類の昇華の瞬間に、僅かながらでも貢献できるのなら。

一呼吸おいて残り少ない魔力を解放。用途は当然身体強化だ。狙いはレオンハルトただ一人。切っ先を突き付け、タックルも同然の猛烈な勢いで肉薄。
高圧の電流を纏わせた槍を振るい、前方からは物理、後方からは高圧力の水槍という挟撃を仕掛ける。どこまで行こうと、彼を衝き動かすのは誇りと忠誠心。

鋼鉄の軍人の核たる部分もまた、変わることはないのだ。

>>サシャ・インテグラーレ、レオンハルト・ローゼンクランツ

6日前 No.1362

裁定者 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【大統領官邸→歴史是正機構本部/シチュエーションルーム→丞相室/ダグラス・マクファーデン】

 歓喜が飛び交う空間を、一瞬にして再び緊迫とした空気へと塗り替えるは一人の男。政界に身を置いていた者として、次期大統領と目されたラファエレ・インテグラーレを失墜させた家系の一人として、黄金王が如何なる者であるかを知らない筈がない。かの男が齎さんとするは、一種の最悪の結末。今、漸く掴まれた家族の幸福が、新たに不幸で塗り潰されようとしていた。
 フォルトゥナを目掛けて放たれる凶弾。引金を引かれた刹那に、炸裂するヴァイスハイトの突貫は、銃弾の軌道をあらぬ方向へと変えさせ。それでも万が一の事はあってはならないと、光の刃を揮って総てを弾き落とす。そして、念には念を入れる形で、彼女の眼前へと虹の防護壁を展開するユーフォリア。これで、彼女の安全は一先ず確保される。

 ――その直後、繰り広げられる光景。黄金王の手は、突貫して来た男を尋常ならざる力で掴み、奈落の底へと引き摺り込まんとする。抵抗も虚しく、共に庭園へと堕ち行く二人。振り切る事は不可能と悟った男が、従姉妹達に発破を掛けたのを最後に、交わされる言葉は無くなった。

 その一方。彼の無事を確認しようと窓へと駆け寄らんとするユーフォリアに、強襲を仕掛けるは一人の男。彼女だけを仕留めるべくして振り下ろされる凶手は、しかし死を齎す断頭刃には成り得ず、掠める事は無かった。仕向けられた刺客を前に戦闘態勢を取らんとする彼女、しかし発破を掛けられた事で考えを改め、この場からの散開を命じる。
 残された時間は少ない。彼を相手している暇も無ければ、親族の危機を救いに行く余裕も無いのだ。彼女の苦渋の決断を見届けると共に、追撃を阻む様にして敵の前方へと展開するは、無数の岩壁。そして、そのまま近くの窓を目掛けて体当たりを仕掛けて強引にぶち破ると、落下しながら連盟側の通信端末を取り出す。

「聞こえるか? 聞こえているのなら、直ぐに迎えに行ってやれ。
 お前の事だ、どうせ心配になって彼女を追って来ているんだろう。
 ……じゃあ、頼んだぞ」

 通信の相手は、連盟に所属している"ある人物"。何処まで関係が進展しているのかは解らないが、簡潔に言ってしまえば、"彼"は一人の少女と非常に仲が良い。そんな"彼"に暫くの間、ナイト役として働いて貰うとする。自分が請け負っても問題があるかと言えばそうではないが、生憎と此方はやらねばならない事がある。
 地面へと着地すると端末を仕舞い込み、今度は是正側の通信端末を取り出しつつ、大統領官邸から移動し、目的の場所へと向かう。端末から聞こえてくる内容は、丞相ヘルガ・アポザンスキーの最後の命令。既に連盟と是正機構との雌雄は決しつつあると見て違いない。ならばこそ、正しい形でこの戦いに決着をつけねばならないだろう。
 官邸を離れ、街を駆け――移動に魔力を動員させて駆け続ける事、十数分。是正本部へと辿り着くと、そのまま内部へと侵入を果たして一直線に、ある一室へと向かう。正確に記憶している内部構造を頼りに走り、遂に辿り着く目的地。
 閉じられている扉に手をかけ、そのまま全力で開けると室内へと足を踏み入れる。右手には光の刃を、左手には闇の刃を構えて臨戦態勢を整えると、そのまま一瞬だけ静止する。

「……既に俺がどういう立場に在るかは、知っているな?」

 語らいだけに傾倒するだけの余裕はない。即座に地面を蹴って空中へと飛び上がると、風を操り推進へと変え、急降下すると共にヘルガの背後へと回り、先手を放った狼の援護をするように、敵の背を目掛けて刃を二度揮う。そして、直後に後方へと一度距離を取ると、自身の周囲に無数の属性球を浮遊させ、発光する球体からの無数のレーザーによる攻撃を仕掛ける。力を出し惜しむ心算はない、全力でぶつかるのみ。

「ヘルガ・アポザンスキー。最早、お前達に勝ち目は無い……降伏しろ、これ以上の戦いは単に無駄死にを増やすだけだ」

>ヘルガ・アポザンスキー イアン・ガグンラーズ

>(ユーフォリア・インテグラーレ)(フォルトゥナ・インテグラーレ)(ヴァイスハイト・インテグラーレ)(アルカディア・クアドリフォリオ)(ダン・マッケーニ=バビロン)(クルト・ライヒナム)


【多少の自演をお許し下さい(予告)】

6日前 No.1363

暁光 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【時空防衛連盟本部/エントランス/サシャ・インテグラーレ】

サシャの声は届いていたのか否か、レオンハルトはヴァルガスの言葉に強い反発の意志を示し、覚醒する。それだけであれば、どれだけ幸せだったことだろうか。
字面だけ見れば勝利への道が切り開かれたように見えるかも知れないが、実際は逆。今の彼は、サシャの言葉を切っ掛けに、絶対に進んではならない道へと堕ちてしまったのだ。
当の彼女は、まだその事実に気付いていない。ただ、レオンハルトが戦意を取り戻した姿を見て、嬉しそうな表情を浮かべただけだ。しかし、サシャは、ヴァルガスの言葉によって真実を知らされることとなる。

「えっ……?」

改めて、レオンハルトの様子を見る。背に開けられた風穴からは、流れ出すべきものが流れ出さず、代わりにその奥で紅蓮の炎が揺らめいていた。あまりの出来事に、サシャは腰を抜かす。
自分が、自分が彼をあのような化物に変えてしまったとでもいうのか? あの一言がこんな方向に彼を突き進ませたというのか? そんな、自分はそんなつもりでは……
ショックを受けたサシャは呆然とするばかりで、ヴァルガスの言葉に返答することすら出来ない。ただただ、レオンハルトとヴァルガスを交互に見るばかりである。

「れ、レオン……あたしは……」

混乱したままレオンハルトに話し掛けるサシャであったが、続く言葉が頭に浮かんでこない。この状態の彼に、どんな言葉を掛けてやればいいのかが、全く分からないのだ。
少なくとも、ヴァルガスの作戦は成功したといえるだろう。もはや、サシャとレオンハルトが連携する可能性など望めない。サシャがそれを望んだとしても、レオンハルトが同調しないだろう。
完全に心を抉られる形となったサシャは、ふらふらと後退して、戦意を失ったかのようにその場を後にしていく。彼女の目には光がなく、あらゆる自信を失ってしまったかのようだ。
無責任な優しさは、時に人を誤った方向へと導いてしまう。今回の一件で、サシャにもそれがよく分かっただろう。そこから学び、自らの成長を促すことが出来るかどうかは、別の問題だが。
結果として、エントランスの戦いは、レオンハルトとヴァルガスの一騎打ちとなる。あのような形とはいえ、覚醒を果たしたレオンハルト。形勢そのものは、時空防衛連盟側に傾いているといえるかも知れない。

>ヴァルガス・スターン、レオンハルト・ローゼンクランツ
【サシャ、茫然自失に付き戦意喪失で撤退。お相手ありがとうございました】

5日前 No.1364

紅焔 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【時空防衛連盟本部/エントランス/レオンハルト・ローゼンクランツ】

 猛烈な戦意を宿した紅眼が、力強く老兵の姿を見据える。この瞬間、真に辿り着きたいと願う理想の結末、今一度それが何なのかを知る為にも、紅焔の獅子は己の意志を以てして、再び塵殺者としての道を突き進む決意を新たにした。
 次は互いに敵として相対するであろう、己に制止をかける者達。それらを振り切り、この道を敢行するだけの意志が、己に宿っているのならば。其の時は、最期の死が訪れる瞬間まで、塵殺者として在り続けよう。その軌跡には何も残らず、誰かに己の生き様とやらを伝える事も無い。ただ、総てが虚無に満ちた終わりを迎えるのだ。
 逆に、意志が足りずに挫く事があるのであれば。其れは、己の理想とする結末では無いと言う事になる。もしも仮に、その様な顛末を辿ったとして、新たな道を探し出す事がまだ赦される身であるのならば――其の時は堕ちた奈落からの脱却を、望むだろう。

 ――そう、彼の歩む道とは。破滅へと堕ち行く道であると同時に、新生を迎える可能性を秘めた道であるとも言える。
 ――遠き日に喪った、本物にしたいと願う理想を。過酷な現実に擦り切れた、輝かしき希望を。暗雲に閉ざされてしまった、尊き太陽を。
 ――今までと同じ物は行かずとも、代わりになる物をこの手に収める。
 ――真に其処まで辿り着けるかどうかは解らないが。例えそうでなくても、この道は必ず敢行しなければならない。

(……もう一度止めに来てほしい、等とは口が裂けても言えないな。彼女の再三に渡る制止を、意図して無視した俺にそんな資格は無い。
 そして、こうして完全に道を踏み外そうとしている以上、次に会った時は殺意を向けられたとしても文句は言えまい)

 我が身を案じ、己を止めようと立ちはだかるであろう者達の姿を想い返す内に辿り着いた一つの名前。重傷を負った身を案じて制止をかけ、それを無視して戦いに赴き、護ると言う言葉さえ無視して突き進み――思い出す度に、己が如何に狂っているかを突き付けられる。これでは、望みを告げる事はおろか、望みを抱く事すら赦されざる行為と言う他ないだろう。

 水槍で我が身を穿たれ、開かれるは大きな風穴。紅き血潮が流れ出る事は無く、内側で揺らめくは紅蓮の業火。逸脱を果たした身体は未だ人には戻らず、緩慢とした速度で傷は修復されて行く。
 これは断じて、少女の告げた一言が齎した結果などでは無い。焔獅子がいずれ人を逸し、怪物へと変ずる運命は既に定められていた物。少女が、怪物が、魔王が――いずれかが関与せずとも、いずれは必ずここへと辿り着く宿命にあったのだ。
 偽りで塗り固められ、今は封じ込められた焔獅子の記憶に隠された真実。その真実が紐解かれる時はまだ遠く、そして明かされるかどうかも、今は未明。

 そして、その老獪さを以て、少女の心を打ち砕くは老兵の言葉。いつの時点で怪物へと変じたのかを知らない少女は、あたかも自らの言葉が引き金となって、破滅の道を歩ませたのだと思い――混乱の果てに、茫然自失を引き起こして戦場を去り行く。
 その後姿を、焔獅子は何も言わずに見届ける。彼女にかけるべき言葉は、"怪物"である今の己には何もない。

(……謂れの無い罪を、背負わせてしまったな。しかし、お前のせいではないと解らせるだけの言葉を、俺は持ち合わせていない。
 この身体が人ではなくなった原理は、俺も正しくは理解していない。解るのは、その原因が俺自身にある事くらいだ。
 ……酷だとは思うが。どうか、立ち直ってくれ。今の俺を止めようとしてくれるだろうと、自信を持って言えるのは……お前だけなんだ)

 灼熱の翼を広げて老兵へと瞬時の肉薄を果たし、緋色の刃を揮い。戦意に呼応して増幅する灼炎は、受け止める銀槍へと深く抉られたかの様な傷痕を刻み込んで。天空へと飛翔し、天頂を貫くが如き威容へと変ずる緋焔の刃を振り下ろすと、それに迎え撃つは火焔を呑み込むが如し大河の防護壁。

「今歩もうとしている道が、本当に俺が望む道なのかを確かめる為にも……
 少佐、俺は貴方を倒し、その先へと進ませて貰う……!」

 残り少ない魔力を解放し、突撃を仕掛けて来た老兵。高圧の電流を帯びた銀槍の切先を向け、前方から仕掛けるは物理による一突き。対する後方からは、高圧力の水槍による挟撃。経験と技術、二つの要素が織り成す御業は、並大抵の雑兵はおろか熟練の兵すらも一蹴する事を可能とするだろう。
 しかし、逸脱した超常の力を前にして、それらは通用しない。そんな現実を証明するが如く、灼熱の翼はその威容を拡大し、迫る水槍を瞬く間に蒸発させて。迫る銀槍を迎え撃つは、再度形成されると共に高速で揮われた焔の刃。
 槍の軌道を逸らして退けると共に、大きく後方へと距離を取った焔獅子は、右手に構えた焔剣の刀身を長く引き延ばし、纏う焔の勢いを強める。戦場の一帯を一薙ぎできる物かと疑わせるだけの焔剣、触れる物総てを灰燼へと誘う烈焔を、天を目掛けて高く掲げると、一気にそれを老兵を目掛けて振り下ろす――

>ヴァルガス・スターン (サシャ・インテグラーレ)


【お相手、ありがとうございました】

5日前 No.1365

リインカーネーション @genomirai ★5PyZcP0Vz3_BXv

【時空防衛連盟本部/周辺市街地/魔大老エスト(残魔具1002個 残魂数7)】


彼女には女帝の語る声は聞こえない、魔を追求し続け才がなくとも万人が使える魔術、魔法を編み出したにもかかわらずその声は届かない。それは女帝の異常を如実に表していた、この場にいる五人の声以外など有りはしないのだ。
それでも尚死者の復活を、愛しいものが目の前に舞い戻ると信じて疑っていない。確かに女帝の魔力量は彼女と比べるべくもなく強大だ、限界こそあるものの不自由なく扱えよう。だが少なくとも彼女の知る死を司る魔は、魔力だけが問題ではないのだ。
才能として持っていたならば腑に落ちよう、しかし女帝も彼女もその方面の才は無いに等しい。であれば莫大な時間と多くの物資、地形から天候などあらゆる条件が成立してこそなる儀式に等しい魔術。少なくともこの場で、今すぐに、出来る訳がないのだ。
そうでなければこの世に死者が蔓延るだろう、何度でも言うが死は近くとも遠く在らねばならない存在だ。容易くその壁を乗り越えることは禁忌だ、有り得てはならない事だ、だからこそそれだけの労力を必要とするものなのだ。
彼女は注視する、女帝の一挙一動を見逃さないように目を凝らす。そこから至る結論は死者蘇生ではない、それに連なる、若しくは似た現象を引き起こす大魔術だと。術式の中断は危険を伴う、なればその対処を持てる知識で最大限尽くすのみ。
肢体から滴る血、気に止めるほどでもない。治癒に割く魔力すら今は惜しい状況だ、意識も其方へ割きたくはない。持てる全てを女帝へと注がねば活路は見いだせない、虚空へと放たれた鎖を眺めながら彼女の腕は記録書へと重ねられていた。
青年、少女、盟友の三人の即席の連携は女帝の光の大剣を防御へと回させていた。鎖を放った隙故か、はたまた三人の苛烈な攻撃によるものか、防ぐよりも受ける方が上回っていた。急所こそ不正ではいた、が火炎弾の直撃を受け倒れこもうとしていた。
その時であった、声高らかに夢を再度語った女帝が引いた鎖から何かが飛び出したのは。感じるのは既知の悍ましき気配、薄れた記憶では断定できないが現れた存在の一部を確かに知っていた、相対していた。
女帝を優しく抱き留める人型の異形、明らかに人間を逸脱している存在にも安堵の表情を浮かべている。うわ言には確かに幸福感が感じられた、歓喜があった、だが傍目から見ればそれは互いに狂っていた。
そしてこれは死者の復活ではなかった、依り代を元にした同一存在の招来とでも言えばいいのだろうか。互いに互いを認めてはいる、だがそれは互いの本物ではない、言うなればあったかもしれない女帝の愛する存在だろう。

「……そう、か。可能性の存在、私達とは違う私達とでも言うべきか。それに、頼ってまでか、……そうか。」

呟く言葉は積み上げられた責と悔、こうになるまでどうしようもできなかったのかと自身を貫く贖罪の剣。彼女が何をしたとてこうなったかもしれない、そんな都合の良い可能性を彼女は認めない、どうにかできたと思っているから。
独り善がりな責任感の中、少女に異変が起きる。憤怒、憎悪、これまでの少女からは欠片も感じる事の出来なかった激情。奪われた存在が、奪った存在もまた奪われていた事への都合の良さへのどうしようもない感情。
奪われたから奪った、奪ったから奪われる、それを当然だと彼女が冷めた目で見ているのは奪われた経験がないからだろう。正確には奪われた記憶すら奪われているから、だからどれだけ奪われ様とも理解は出来ぬ。
今この瞬間奪われたくないのは盟友と女帝だ、もし少女がまた繰り返そうというならば、彼女は躊躇いなく背後に控える巨人の矛先を向ける。故に闇の刃を突き破り、光線を掻い潜り女帝へと目指す少女へ巨人の赤い核が狙いを定めていた。
収束する魔力、女帝の目前にまで迫る少女へ放たれる寸前であった。しかし少女も、放たれる寸前であった光線も止めたのは青年であった。黒雷を伴い憎悪の牙を受け止め、極光も迸る黒雷で消し飛ばしていた。
止まったのであればと彼女は意識を再び女帝へと向けていた、青年の語る言葉もきっと彼女には理解は出来ないからだ。大切なものはある、奪われたこともある、だがその事実は記憶と共に消え失せてしまった。だから、復讐心も抱けやしない。
盟友は大切だとも、女帝も大切だとも、だからこそあの二人が止めるために殺すというのならばその前に殺そう。奪われて尚奪うのならば、奪えなくすればいいのだから。そうとも、彼女とあの二人では過去からして違うのだ、立場が違えば殺し合っても何らおかしくはない。
仮に、女帝を止めるだけであるならば共同戦線は維持されるだろう。それは復讐心を抑え込めという酷く残酷な事を押し付ける事にもなる、現にあの青年も言葉と心情は大きくかけ離れているだろう。それだけの激情を抑え込め続けろというのだ。

「……まあ、いい。」
「―――女帝よ、貴方の言う声は私には聞こえん。それが何かも知りはしない。だからこそ、その夢は壊れなければいけないものだ。」

記録書が光を放つ、前衛が二人足止めされている今狙われるは盟友。あの異形に襲われながらでは女帝に近付くことは難しいだろう、ならばやるべきことは単純だ。あれを、彼女が止める。盟友を極光から守る。それだけだ。
発動するは空間転移、異形の背後を取る形で現れると同時に再び記録書は光を湛える。転移と共に繰り出す踵落としだが先の移動速度から見るに効果は薄いだろう、しかし転移の隙を狙われるより良い。脳天へと踵を振りぬく。
そして発現する魔法は二つ、一つは盟友を極光の雨から守る魔力霧。光線という性質を利用し弾き、攪乱させる紫の霧。間に合わせではあるが盟友が無事に走り抜け、女帝へと辿り着くには十分な強度があるだろう。
そしてもう一つ、それは異形と彼女を中心に展開された結界。此方も即座に編むには複雑すぎるが故に、魔力糸が至る所に張り巡らされているだけの簡素なものだ。対象を異形に固定してあり、それ以外は触れて問題はない。
しかし異形が触れれば絡みつき、強力な電流を流し行動を阻害する。ただでさえ身体能力で劣り、近接戦でも劣る、その有利を僅かにでも削らねば瞬く間に屍へと変化するだろう。大した差ではないが彼女は手負い、油断する要素はない。
狙うは後の先、攻撃した隙を突き一撃で確実に仕留める。盟友に無茶をするなとは言われたが、この程度は彼女には無茶にはならないのだ。大切な存在の為に動くことのどこが無茶であろう、ただただ想いのみでも動けるだろう。
光の巨人はその輝かしい身体を未だ保ったまま、その核を女帝と異形へと向けている。まだ、動く気配はない。

>>パージルク・ナズグル マロン・アベンシス レイブン・ロウ ニケ・エタンセル


【遅れてしまい申し訳ありませんでした、ザーシャ、フォルトゥナも随時返していきます】

5日前 No.1366

老兵 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【時空防衛連盟本部/エントランス/ヴァルガス・スターン】

真なる塵殺者への覚醒が、戦いの流れを大きく変えた。携わる者の心を壊した。単騎でも勝利を掴むに値する力と引き換えに、掛け替えのない仲間が離れていった。
我を失い、炎渦巻く惨状に背を向けた少女の背中を、老兵は静かな悲しみを湛えた面持ちで見送る。彼女に罪はない。追い討ちをかけるような物言いも、全て戦況を優位なものへ変えようとしたためのもの。
"無責任な愛情が招いた結果"と、優しい彼女は受け止めてしまったかもしれない。純真無垢なその心に、一生消えることのない傷を刻んでしまったかもしれない。ただ、これで女子供に手をあげずに済むのもまた事実。
手を下す必要のない存在が立ち去ると、老兵の淡い灰色の瞳は、悲願の宿命へ羽ばたく堕天使ただ一人を見据える。覗き込めば光を奪われるが如き灼炎。手を伸ばせば消し炭すら残らないであろう爆炎。

"死ぬな、この若者は"と思った。

決して力及ばぬが故ではない。愚かであるが故でもない。気高いからこそ死ぬのだ。死に急ぐのだ。彼自身は当然、取り巻く仲間達にも背負いきれないような重責を背に、死んでいく。

大志を胸に、死んでいく。

一度挫かれ、砕かれたはずの願い。再び火が灯されたことは、果たして彼にとって幸運だったのだろうか。誰が唆し、油を注いだかは、自分の知るところではない。
これほどの原石、先程の言葉程度で磨き上げられるはずもない。既に何者かが"切り出し"、"磨き上げた"。自分はただ、その上に積もる塵に、息を吹きかけてしまっただけだ。

"だけ"というのは語弊があるかもしれないが…他人事とはいえ胸糞が悪い、そう老兵は内心で思った。同時に己の至らなさ、まだまだ不完全な指導者であることも思い知らされた。
投げかけ続けた、厳しくも警告を孕んだ言葉の数々。彼がかつての同胞にして、教え子であるが故の忠告は、最終的にすべて裏目に出ることとなってしまった。

レオンハルト・ローゼンクランツの破滅に、確かに自分も加担してしまったのだ。

「確かめる、か…」

残る力全てを込めての突撃。温存しつつも猛攻の前に削られた力を、全て麾下の兵達を生き永らえさせるために解放する。
前方からは、電流を伴う刺突が。後方からは、肉体を穿つ水流が。有象無象の雑兵はおろか、名将ですらも叩き伏せるが如き挟撃。
しかし今のレオンハルトには通らない。はためく灼熱の輝翼が、まるで装甲であるかのように彼の背後を守る。再度形を成した紅蓮の剛刃が、迫りくる鋭電の切っ先を受け止める。
切り結ぶと同時に耳に飛び込んでくるのは、己が道を戦いによって見定めるという、紅蓮の塵殺者の新たな決意。これが正しき道を歩む者の声なら、太陽に見守られながら進む者の言葉なら、どれほど周りの人々の心を暖めただろうか。

彼は違う。死に場所を探している。最期の一秒まで"塵殺者"であり続ける道を探している。誰からも看取られることなく、虚へと、無へと還ることを望んでいる。

こればかりは推して知ることはできないが、ヴァルガスは甚だ疑問であった。本当に望んでいるのか、と。それが君の本心なのか、と。
今の彼からは想像もつかない、あの動揺した姿。まるで心の籠っていなかった刃。果たして、本心から無残な最期を望んでいて、あのような真似ができるものなのか。

(戦いで道や答えを探れるのならば、誰も生き方を誤ったりせんだろうに)

自分が彼にそうしたように、弾かれ逸らされる白銀の細槍。虚しく途切れる青白い電流。体勢を崩しよろめくほんの一瞬、老兵は珍しく"己を含めた多くの人々"の運命を嘆いて顔を曇らせた。

民に降りかかる火の粉を払うべく、その命を燃やす地球軍。古参として長年勤めあげてきたはずの自分が、数多の戦場を潜り抜け、何千何万という兵に道を説いてきたはずの自分が、今こうして犯罪者の巣窟に身を浸している。
もちろん悩み抜いた末の決断だ。これしかないと、こうするしかないと思い立って決めた。例え丞相閣下がいなかろうと、歴史是正機構が存在しなかろうと、自分はこの道を歩んでいただろう。
しかし世間から見た機構はテロリストの集団。禁忌たる時空改変に未来を見出し、悪と血に手を染める、れっきとした悪党なのだ。

そう、自分も間違いなく誤った。踏み外した。幾度となく経験と選択の機会を与えられたにもかかわらず、最終的に悪の道を選んでしまった。

こんな自分と比べて、若くして正答を導き出し、人民の光となっている者達はどれだけ崇高な存在か。

「そうさな。これは今しがた気付いたことだが……

君への最後の言葉にでもしようか」

打ち払われた細槍が手を離れ、残骸となって散らばるのを尻目に、これが最後となるレオンハルトへの忠告を口に出そうとする。
道を定める寸前に至り、ほぼ完全な決意を固めた彼にとって、もう老いぼれの言葉など何の意味も持たないかもしれないが…時間と彼が許すのなら、伝えよう。
そうでなくては死にきれない。彼の倍の時間を生き、本来崇高かつ偉大な人物となっていなければならなかった己が、自他の人生を振り返って見出した教訓。

当たり前かもしれない。幼い子供でもわかることかもしれない。いや、だからこそ年老いた自分はそれを忘れ、見失ったのだろう。


「戦争で偉大にはなれんよ。


英雄など以ての外だ」


宙を衝かんばかりの大焔刃。このエントランスごと断ち裂き焼き尽くさんばかりの天火、烈刀が一斬。それを見上げる老人は、豪壮な建築物に目を奪われた幼子のようで。
口を開け飲み下そうとする"死の具現"を目前に、穢れなき子供の心を取り戻したからこそ、辿り着くことができた最後の教え。

人を殺して偉大にはなれない。ましてや英雄など。民と平和を守るべく血を流し、流させた者は、後世にて英雄と語り継がれるのものだ。

だが、いつしか順序が逆転してしまった。目的と手段とが入れ替わってしまった。名誉を手に入れたいがために奪うのだ。殺すのだ。
そうなれば最後、"連鎖"する。偽りの大義名分によって成された非道は、復讐心を芽生えさせ、新たな惨劇の火種となる。
眼前の塵殺者までもがそうであるとは言わない。思わない。しかし、彼の背中を押した者は…狂気と破滅の種を植え付ける元凶は、きっと血塗られた英雄譚ですらも好物とするような、紛れもない悪魔なのだ。

僅かばかりの教訓を言い終えると、老兵は満足気に息をつき、天を仰ぐ。目は閉じない。顔も背けない。老い先短い老人の最期を、これだけ豪勢な終焉で以て、締めくくろうとしてくれているのだから。
大往生だ。役目は果たした。求められたことは全てやり遂げた。後は自らの手で鍛え上げた若者達がやってくれる。

空高く掲げられた焔柱が、ぐらりと傾く。振り下ろすための予備動作だろう。

果たして、焔柱は振り下ろされた。離れていても伝わる熱が、老いた肌から生を奪い去っていく。

熱が眼前に迫る。光を失い、永久の暗闇に取り残される。次の瞬間には、自分はもう地獄に落ちていることだろう。

ああ、そうだ。もう一言だけ、言っておかなければなるまい。


「丞相閣下――」


――光栄でした。


>ヴァルガス・スターン(Chrono Crisis オリジナル)@本部侵攻をかけた戦いにて敗北し、殉職する。目覚めた塵殺者の力量は、技術や経験の差を埋め塞いでなお余りあるものであり、後には塵一つ残らなかった。


>>サシャ・インテグラーレ、レオンハルト・ローゼンクランツ


【お二方、お相手いただきありがとうございました!初めての純正な敵キャラ使用に、これまた初となる自キャラの死。至らぬ点等多かったと思いますが、とても楽しかったです!】

5日前 No.1367

人類昇華への道 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【歴史是正機構本部/丞相室→丞相室(壁崩壊)/ヘルガ・アポザンスキー】

各地から入ってくる敗戦、敗走の報告。それに対して、ヘルガは返答を返さず、静かにその現実を受け入れる。完全に情勢は、時空防衛連盟側に傾いてしまった。
勝利の可能性がないにも関わらず、ヘルガが逃走という選択肢を選ばず、この場に留まり続ける理由はなにか。少なくとも生き延びれば、再起を図るチャンスを得ることが出来るはずだ。
それには、彼女の持つ"とある思想"が大きく影響していた。ある意味、ヘルガをヘルガたらしめているといっても過言ではない要素。それに殉ずるのであれば、逃げるなどという選択は不可能。
だからこそ、ヘルガは待つ。丞相室に、誰かが入り込んでくるのを。そしてそこが、己の最後の戦場となるであろうことを感じながら。扉が開け放たれる音。聞こえてきたのは、彼女を呼ぶ声。

まさか、部下が今更になってここへ戻ってきたのか? とも思ったが、どうやら違うようだ。気が抜けてしまうような言葉を投げ掛けてきたのは、尻尾が特徴的な一人の銀狼。
丁寧に入室してきたかと思えば、後ろ手で扉を締める辺り、どこか抜けているようにも思える。しかし、油断してはならない。彼女には少なくとも、歴史是正機構本部の最深部まで、単身で乗り込む実力があるのだから。
威勢よく啖呵を切ってくる銀狼の言葉に、ヘルガは思わず苦笑いを浮かべた。彼女は、実に幸せそうだ。この戦いが終わった後にも、明るい未来が待ち受けている。
恐らく魔族であることからして、実際の年齢がどの程度なのかは予想が付かないが、精神年齢的にはまだ若いと見た。このような若者達が希望を持てるのであれば、この世界もあながち捨てたものではないのかも知れない。
放たれる白銀の真空波。これに当たれば、晴れて時空防衛連盟は勝利を収めることとなるだろう。だが、そう簡単にやられてやる訳にはいかない。右手をかざし、力強く振るうヘルガ。
すると、真空波はあろうことか、青い炎に焼き尽くされ、そのまま消滅してしまった。本来燃える物質ではない真空波を、彼女は自らの異能で炎上させてみせたのである。

「知っているか、ダグラス。敗者は、勝者の世界では生きられない」

想定通りに、敵として眼前に現れたダグラスに、ヘルガは少しだけ悲しそうな表情をしながらそう語る。まるで、自らの死の運命を、既に受け入れているかのように。
それでも、無抵抗で倒されるつもりはないらしく、彼女は軽やかな動きでレーザーの嵐の中から脱出し、二人の敵をその視界に捉える。つい先程まで彼女が座っていた椅子が、粉々に砕け散った。

「ここで私に負ければ、貴様らの未来も潰える。手加減はしない。それが嫌なら、本気で私を殺してみせることだ」

両手を交差させたまま頭上に掲げ、勢いよくそれを振り下ろすヘルガ。次の瞬間、灼熱のパワーが地面を迸り、二人の足元から強烈な火柱が立ち昇ってくる。
攻撃はそれだけに留まらず有り余る熱を、彼女は両手を前に突き出すことで、青い火炎のレーザーとして撃ち出した。この一連の攻撃だけで、熱に耐え切れなくなった丞相室の壁は溶け、周囲の部屋と一体化して巨大な一つの部屋へと変貌を遂げる。
これで、狭い部屋だから実力を出しきれない、などといった言い訳はなしだ。本気の勝負で、最後に生き残った者こそが勝者。敗者の未来は一つ、逃れようのない死、ただそれだけ。

>イアン・ガグンラーズ、ダグラス・マクファーデン
【第四章ラストバトル、開演】

4日前 No.1368

健啖の銀狼 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【歴史是正機構本部/丞相室→丞相室(壁崩壊)/イアン・ガグンラーズ】

開戦。歴史是正機構を相手取る、最後の戦いが始まった。彼女が正真正銘の最終戦に踏み切るのと、忠臣達が敗北や徹底・死を迎えるのは、ほぼ同時の事であった。
常に先手を打ち、後手に回らざるを得ない連盟を相手に、二度の敗北こそすれど着々と準備を進めて生きた是正機構。事実未来を巡る争いの序盤にて、彼らは確実にリードを奪っていた。
消耗の上に機構以外の敵とも対面しなければならない。それが時空の守護者達に突き付けられた現実。そう、敵は機構だけではなかった。

世界を平らげることさえ容易な大海の王。どれだけ優秀な人材であろうと、それがヒトである時点で彼には遠く及ばない。良くも悪くも人間とは"頭の作りからして違う"リヴァイアサン。

本当の敵は表に出てこない。陰から世界を支配する。慎重と狡猾の極限。世渡りの究極形。金儲けでも人脈でも、成功者にとって必須の条件である"嗅覚の鋭さ"を体現する傀儡の女王。

当然、この二人以外にも多くの魔王が、腐敗が連盟を包囲している。正義という御伽話の中でなら最強の矛を、腐らせ、砕き、折り取り、踏みにじる。
だが、守護者達はこの劣勢を覆そうとしている。太陽はもう間もなく傾き、瞬く間に地平線に姿を消してしまうことだろう。

後は一押し…最後の一押しを叩きこむだけだ。

「燃やした!?しかも青い!?かき氷にかけるやつだ!」

(ピザを焼くときもそうなっちゃうのか?)

命中間違いナシ、そう思われた白銀の真空波。しかし鋭利なる先刃は何の成果もあげることなく、空中に"燃え潰えた"。繰り返す。"燃えた"。
呆気に取られても仕方のない怪現象、おまけに炎の色は青い。ただ、これのおかげで『アイツの火は普通のよりヤバいんだ』ということだけは掴めたらしい。
カッコよくて強いのはいいことだが、食べ物を焼くときに消えてしまうと困るのではないか…という疑問はぐっと堪え、来たる反撃に備える。

「あーちゃちゃちゃちゃ!?!?!?!?!?」

しかし、足元への気配りが出来ていなかった。間一髪全身を焼かれることは免れたものの、真っ赤に染まる床を見てからでは遅い。
尻に火がついたとわかるや否や、野生の本能なのかゴロゴロと転がって瞬時に消し止める。ふと、ロンカ村で初めてキャプテンと出会った時のことを思い出した。
確かあの時は、食べ物を奪おうとして、狐耳の子に火を付けられて…

(くそぉ、また同じ失敗を…それも同じお尻じゃないか!

ボク、もしかしてあの時から…)

そんなことはない。這いつくばったままブンブンと首を振って、頭に浮かんだ最悪の妄想を打ち消す。
そんなこと、あってはならない。自分なりに努力してきたのだから。キャプテンとの約束は守った。嬉しいことをしてもらったら、他の人にも同じことをしてあげた。強くなるための訓練も欠かさなかった。

じゃあ、後は何が足りないんだろう?

必死に頭を回転させるも、彼女の小さな脳味噌は答えに辿り着けない。熱に焼き溶かされ、崩落する壁の残骸を回避するのに精いっぱいで、駆けつけてくれた味方との連携もままならない。

「ダーさん、ボク頑張るから!

一緒に戦おう!キャプテンのために、皆のために!」

半ば自分に言い聞かせているかのような、仲間への鼓舞。そうだ、仲間と協力するのだ。一人では決して勝てないような強敵でも、二人、三人、四人と増えていけば、無限大の力を手に入れることが出来る。
単純に二倍、三倍と増えるわけではない。愛や友情がもたらす力。お互いの長所を伸ばし、短所を補い合う発想が生み出す可能性。それらによって数百、数千、数万倍と広がっていくのだ。

ただ、イアンには肝心の発想というのが浮かばなかった。ダグラスの特徴や戦い方がイマイチ掴めていないのも一因だが、何より気付かされるのは"仲間をよく見てこなかった"こと。
ずっと一人で生きてきて、自由奔放な人生を送ってきた彼女は、仲間を深く知るという試みをしたことがない。仲間への配慮、チームプレー。そう、チームプレーだ。これが今回の最後にして最大の課題となるだろう。

「バイシクルゥゥゥ…ビーストォ!」

今の彼女が思いつくのは、『とにかく強い攻撃を放って、味方の役に立つ』という単純なもの。
幸いフィールドは広くなった。彼女の機動力を生かせるだけの空間がもたらされた。そう把握するや、震える両モモをパンと叩き、力を込めて走り出す。
技を繰り出すのは、丞相の十数メートル手前。強く踏み切り跳躍、空中で大きく身体を捻る。同時に眼前に生成された、銀色のオーラの塊。これにオーバーヘッドキックの要領で強烈な蹴脚を叩きこみ、丁度敵に背を向ける形で降下。
片膝をついた姿勢で着地し、目をカッと見開くと共に、衝撃を受けて膨れ上がった銀塊が炸裂。溢れ出し敵の喉元目掛けて突き進むは、唸り怒れる白銀の波動。荒野を駆ける獣の、鋭牙が敷き詰められた口のような。蛮虐なる爪の聳えた、強靭な腕の一撃のような。

獣の姿で戦っていたころから使い込まれた『バイシクルビースト』の最終形態。短期間とはいえ、間違いなく修行の成果は出ている。
後は運を天…いや、そんな言い方はよそう。やれるだけのことをやる。自分に出来ることをやり遂げる。それしかない。

>>ヘルガ・アポザンスキー、ダグラス・マクファーデン

4日前 No.1369

激情、そして @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【大統領官邸/庭園/ヴァイスハイト・インテグラーレ】

余裕の無いヴァイスハイトに対して、バビロンは楽しげでいる。さながら、獲物を甚振る猫の様だ。
だがヴァイスハイトに反論するバビロンの言葉に、僅かに苛立ちの感情が混じった。謳う様に語るにつれその僅かな苛立ちは激しく燃え上がり、繕う余地の無い程にバビロンと言う男の本質を照らし出す。
それは紛れも無い情熱だった。忌憚の無い真理だった。バビロンと言う男が垣間見たこの世の掃溜めと、"それ"へ懐いた奴の憤激だった。
とどのつまり、バビロンと言う人間は決して悪党ではない。己の理想の為に邁進し続けただけの、超人だ。

「お前が見ているのは実現しようの無い理想論だ。それを他人に押し付けるのは傲慢でしかない。お前の詭弁に、これ以上付き合っては――」

しかし、彼奴の語る言葉に正当性はまるでないのも事実だ。一見筋の通った弁論にも思えるが、なんの事は無い。"持たざる者"を理解しようとしない傲慢さが生むだけの、上から目線の暴論だ。
これ以上奴の戯言を聞いてはならない、と断じて耳を塞ごうと決める。しかし、バビロンが己の思想を正当化する為に出したある者の名が、ヴァイスハイトの琴線に触れる。

「――お前」

その者の名前は、他の誰でも無い。
誰より苦悩し、誰より努力し、誰より誠実に生きた一人の女性。

ヴァイスハイトが多くを託し、託された者――ユーフォリア・インテグラーレ、その人の名だった。

「ふざけるな……! お前にあいつの何が分かる……! 何の責も無いのに、ただ汚職をした政治家の娘と言うだけで、嘲弄され侮辱され続けて、どれだけあいつが苦しんだと思う!」

バビロンがその名を口にした途端に、これまで冷静さを保っていたヴァイスハイトが、一転して激情を露にする。
ヴァイスハイトでさえ、ユーフォリアの全てを理解出来ているとは言い難い。彼女が今日まで感じていたであろう苦悩を考える事すら憚られる。それを、まるで誰もが出来て当然と言う様に語るバビロンの傲慢さが、ヴァイスハイトには許しがたかったのだ。

「他人の威を借りて自分の理屈を正当化するな! お前はただ、"自分が見たいもの"しか認めないだけの外道だろう!」

怒りのままに魔人の言葉を否定する。出来ただろう、等とほざくその魔人に。お前如きに何が分かるものか、と。
一人で全てを背負う苦痛を。大切な妹を失い掛けた恐怖を。それはユーフォリアただ一人だけのものであり、他の誰かが背負えるものではない。
ヴァイスハイト自身の道もそうだった。過ち、悩み、後悔し続けて、それでもやっとの思いで光明を見出だした人生だ。"これ"を他の誰かに背負わせようなどと、考える気もしない。
だからこそ、バビロンが軽々しく『ユーフォリアには出来た』と語る事が許せない。個人の進む道はその人だけのものだ。重い軽い、困難か容易か等で比べるべくもない。人の生き方を軽々に否定する詭弁は、決して看過されるべきではないのだと。

「お前を拘束する……これ以上、好き勝手はさせるか! 負けて……たまるか!」

先程と同じか、更に速く感じられる怒濤の拳を下がりながら寸でのところで回避する。しかし全ては避けきれず幾つかは腕で防御せざるを得ず、下がるより早く距離を詰められるのにも対応し切れない。
明らかにバビロンが優勢だが、それでもヴァイスハイトは食らい付こうとする。隙を見は射撃を捩じ込み、常に致命の一撃だけは避け続けようと意識する。腕の痛みが重ねられ続けるのも気に留めず、ひたすら凌ぎ続けた。

「! 銃……まずい――!」

だが、そんな鍔迫合いも終局となる。終わりを告げたのは、バビロンが唐突に取り出した一丁の銃だった。今まで拳撃に気を取られていたヴァイスハイトはそれに気付くのが遅れたのだ。

「――ぐ、は……っ!」

体を捻って回避を試みるも、間に合わない。致命傷にこそならなかったが、脇腹に風穴を空けられて鮮血が噴き出す。

(だが、ただでは……!)

しかし、一矢報いる機会はある。零距離、かつバビロンは片手が銃で塞がっている。仕留めるならば今しかない。
咄嗟に両手の銃を手離し、腹部を庇うふりをして右手で懐から筋弛緩剤のアンプルを取り出す。左半身をバビロンへ向けて体当たりを繰り出し、相手の死角になった太腿へ向けて"それ"を突き刺さんとする。

>>バビロン

4日前 No.1370

豪腕剣士 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【時空防衛連盟本部/周辺市街地/マロン・アベンシス】

圧倒的な実力を持つ女帝であろうと、四対一という数の不利を覆すのは難しい。その証拠に、前衛三人の連携攻撃によって、パージルクは徐々に追い詰められ始めている。
呆気ない終焉。しかし、マロンは嫌な予感を抱いていた。確かに、序盤から戦略を無視するレベルで彼女が飛ばしていたのは事実。だとしても、ここまで簡単に倒れるものか? と。
果たして、その疑念は現実のものとなった。地面に倒れ伏す直前、突然覚醒したかのように鎖を引くパージルク。そこから飛び出してきたのは、文字通りの異形。
マロンは彼女が呟いた言葉から、それが"パージルクの夫を模した何か"であることを悟った。死者蘇生といえば聞こえはいいが、所詮は記憶を頼りに再現した紛い物に過ぎない。
感動の再会、などとは口が裂けても言えなかった。こんなのは違う、と声を大にして叫びたかった。だが、今のパージルクには、何を言ったところで無駄であろう。

「お前! やめろ、それじゃ今のパージルクと何も変わらないぞ!」

そんなパージルクの姿に触発されたのか、ニケまでもが憎悪に取り憑かれ、怨みのままに攻撃を繰り出す始末。惨状ともいえる光景に、思わずマロンは顔を歪める。
最悪の事態すら覚悟する状況であったが、ニケの暴走はレイヴンが身を呈して止めた。ならば、自分は余計な口出しをするべきではないだろうと、迫り来る攻撃への対処に集中する。
単なるメスの斬撃であればマロンは楽に対処出来ただろうが、射撃魔法ともなると危険だ。前述の通り、彼女は魔法に掠りでもすれば、重傷を負うこととなってしまう。
必死の形相でそれを躱すマロン。だが、続く極光までもは、さすがに彼女の身体能力を持ってしても間に合わない。もはやこれまでか……そう思われた矢先、マロンの周囲を、魔法の霧が優しく包み込む。
エストだ。彼女が既のところで、防御壁を張り巡らせてくれたのである。あくまで、これは無理をした訳ではない、ということか。盟友の期待に、マロンは笑顔で応える。
これで、マロンとパージルクの間に邪魔をする者はいない。かつての君主を眼前へと見据え、大剣を構える。魔法を使われれば、ほぼ勝ち目はない。それでも、接近戦に持ち込めれば、勝機を掴める自信はあった。

「ふざけんな! 死者が蘇ることなんてないんだ! お前が呼び出してるそれは、もうお前の知ってる奴じゃない! ただの化物だ! それすらも分からなくなったのかよ、パージルクッッ!」

怒りも交えながら、パージルクに語り掛けるマロン。もはや、言葉など無意味に等しいかも知れないが、それでもこうせずにはいられない。彼女が、どんどん悪い方向へと進んでいくのを見過ごすことが出来なかった。
マロンはまるで片手剣のように大剣を高速で振り回し、四連撃を放つ。パージルクを止めるのに残された時間は、それほど多くはない。このままのペースで攻撃を続ければ、いずれ彼女は自滅してしまうからだ。
どうにかして戦闘不能に持ち込まなければ、今度こそ永遠の別れが訪れる。言葉で駄目なら、力づくしかない。こんな方法でしか彼女を止められない自分に悔しさも感じるが、迷っている場合ではないだろう。

>パージルク・ナズグル、ニケ・エタンセル、レイヴン・ロウ、エスト

4日前 No.1371

バビロン @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_BXv


【 大統領官邸/庭園/ダン・マッケーニ=バビロン 】

 バビロンが放つジャブの嵐。常人ならば目で追うことすら精一杯の攻撃に、ヴァイスハイトは必死に食らいつく。
 銃撃による拳へのダメージ。しかし"それがどうした"とバビロンは止まらない。
 地名の一撃だけは避けるべく腕でガードしつつ、後退していくヴァイスハイト。
 しかし、それより早く距離を詰めたバビロンが繰り出した必殺の銃撃は回避しきることが出来なかった。

 元々ジャブとはそういうものだ。最速の害意は、相手に対し二つの選択を要求させる。
 防ぎ続けるか、それとも被弾覚悟で反撃を繰り出すか。
 そして、ジャブを繰り出す者は出来た隙に剣を差し込むがごとく必殺の一打を加えんとする。
 今回のバビロンの肉薄もまた、その内の一つと言えよう。

 重い銃声が鳴り響いた。
 マグナムから吐き出された大口径弾が、彼の体に大きな風穴を空ける。
 致命傷だ。少なくとも、治療を受けなければいずれ死に至る。

 ――しかし、それはヴァイスハイトにとっては絶好の好機だった。

「む――!?」

 拳銃を手放し、体当たりを仕掛けるヴァイスハイト。
 零距離故に回避しきれないバビロンは甘んじて受けるものの、太腿に感じた僅かな痛みから発せられるそれに膝を付いた。
 体に力が入らない。
 致死量の猛毒が全身に巡る。呼吸が、出来ない。息が苦しい。めまいがする。頭が上手く働かない。
 筋弛緩剤による作用だ。病院への立ち合いも仕事柄行っている故、この症状はよくわかっていた。
 だが気付いたところでもう遅い。リヴァイアサンは地に墜ち、哀れに横たわる。

 彼は、瀕死だ。
 あと一撃で死ぬだろう――そう、一般人のように。
 いや、彼は一般人だ。異能持ちということを除けば、ただの。

 ――そう、ダン・マッケーニ=バビロンを完成させるには、一般人でなければならなかった。

「……まだだ、まだ終わらねぇさ」

 、  、  、  、  たび
 >>蛮勇誇りし英雄よ、汝の試練は終わらない。
 >>悪辣なりし神の命じるそのままに、この黄金の園を踏み荒らすのだ。

 詠唱<ランゲージ>が静かに紡がれる。
 そして、静かに、ゆっくりと、バビロンは立ち上がった。
 致死量の毒を受けているにもかかわらず。

「――なぁ、ヴァイスハイト・インテグラーレよ。お前は、何か勘違いしていやしないか?」

 落ち着いていた。不気味なほどに、落ち着いていた。

「本気で努力し、夢へと突き進む素晴らしさ。
 これを何故、俺がこうまで語れると思う?」

 >>主神と女王の婚姻よ。我が庭にて祝福の陽を浴びよ。
 >>眠りを知らぬ百頭竜。果実に触れし不届き者へ、罪科を裁くと猛るがいい。


   ・・・・
「――俺自身が、何も持っていなかった状態からここまできたからさ」


 そうだ。
 対峙した誰もが抱く違和感は、何も間違ってはいない。
 ダン・マッケーニ=バビロンは真に「何も持っていない」のだから。
 劇的に変えるための力も持たず、精々が軍役や自主トレーニングなどをこなして鍛え上げた筋肉。
 そして身に着けた数々の武術しかなかった。……それも、異能や魔法の前では完膚なきまでに潰される。
 彼自身は蓋を開ければ吐いて捨てる程度いる、「凡才」でしかなかった。

 >>積み上げられる死骸を前に、果実の番人は笑うのみ。

「俺は、そいつらの有様にあこがれた、生き方にあこがれた。
 夢をかなえることが出来た奴らの背中に憧れ――そして成功してみせた!」
「その時に感じたのだ。夢は必ず叶う。それは誰にでも権利があって、必要なのは本気で目指すことだけだと!」

 >>――さあ勇敢なる者達よ。この黄金を獲りに来い。

「本気で、本気で本気で本気で本気で本気で本気で本気で努力し続け――夢をかなえるという形でな!」
「そして今度は、この素晴らしさを世の奴らに教えてやらなければならないと思った!」

 ただ一つ、彼は「死ぬほど努力し続けた」ことが力になることを除いては。
 そして、それを支える、いや――毒すのが彼の異能であることに関しては。

「さぁ、人々よ。英雄の足跡に続くのだ」
「お前の抱く大志はきっと素晴らしい。目指したいのならば、手助けをしてやろう!」
「だからお前も抱けよ、何ごとにも揺るがぬ鋼の心を。恐れず進め、必ず叶うさ、と!」



 >>お前が食した叡智こそが、汝の大望の糧となる!



「言ったな? ユーフォリアの何がわかると。お前の何がわかると。
 分かるさ。鋼の意志で進み続けるその生き様を見ているのだからなァ――!」

 バビロンの不敗神話を支えるのは、ただ一つ。
 「彼が意志の力では絶対に負けない領域」にいて、彼との闘いは「意志のぶつかり合い」にしかならない。
 そして負けたものは、「意志の力が足りなかった」で一掃される。

「起動ォ――」

 そう、その真理を体現し、他者に齎すその力こそ。
 まさしく神の知恵を授ける果実に相応しい。


 、  Goldener Mythos
「《黄金の果実よ、我に力を》」


 ――全身の器官と筋肉、神経回路を"根性で"復活させ、"気合で"まだ体内に残留する薬物を浄化した。

 立ち上がったバビロンは、受けた薬物など何でもないかのように振舞っていた。
 こき、こきりと拳を鳴らす。そして、ぐ、ぐ、と体を伸ばしてから――。

「それじゃ、俺も覚醒してみたことだし――第二ラウンドといこうやァッ!」
「此処でへばってくれるなよ。俺はお前に期待しているッ!!!」

 神速の回し蹴りを、彼の顔面目掛けて撃ち込んだ。
 それは振るだけで大気が引き裂かれる悪夢のような威力。
 鋼鉄は容易くへしゃげる膂力にまで"目覚めた"バビロンの攻撃は、これより全てが致死となる。

 そして間髪入れずに腹部目掛けて叩き込むのはストレート。
 これもまた、下手な直撃を許せば粉砕されることは目に見えている。

>ヴァイスハイト

4日前 No.1372

裁定者 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【歴史是正機構本部/丞相室→丞相室(壁崩壊)/ダグラス・マクファーデン】

 歴史上の様々な時代を舞台に繰り広げられた戦いは、遂に終幕の時を迎えようとしている。忙しなく伝えられる報告の数々は、同じ志を胸に今日までを戦い抜いて来た忠臣達の敗北を示す物。常に先手に立ち続け、一切の予断を許さずに準備を進め続けて来た是正機構に、しかし勝利の女神は微笑みを見せず。この時、完全に情勢は時空防衛連盟へと傾いていた。既に彼等に、勝者としての未来は存在しない。
 その事を理解しているにも関わらず、彼女が逃走せずに此処に留まり続けている理由。それは恐らく、迫る死の運命を受け入れ、此処を己の死に場所として捉えているが故だろうか。確証を得る程の間柄を築いている訳ではなく、実際にそれが本当に正しいのかどうかは解らない。彼女の理解者ではない己が出来る事と言えば、根拠もなく想像を膨らませる事くらいだ。

「……敗者が必ずしも死を迎える必要はない。そして、更に言うのであれば……お前は死ぬべきではない人間だ」

 敗者は、勝者が築く世界の中では生きられない。戦いに敗れた者達が辿る末路は全て、死のみであると。少しだけ悲しげな表情を浮かべながらもヘルガは語る。そして彼女は、己の運命を悟りながらも、それでも無抵抗のままで殺されはしまいとして、レーザーが織り成す嵐の中を軽やかな動きで脱出しては、二人の敵対者の姿を捉えて臨戦態勢を取った。
 それに対し、己が紡ぐは否定の言葉。勝者が築く世界の中でも、敗者は生き続ける資格はあり、同時に果たさねばならない義務と言う物が存在する。無論、全ての敗者にそれが当てはまるとは限らない。世界の未来に悪しき影響しか及ぼさない様な思想は、断固として排斥すべき物であるからだ。仮に彼女がそんな思想を掲げる輩であったのなら、こうして言葉も交わす事は無く、躊躇いもなくその命を奪いにかかった事だろう。
 しかし、実際の彼女の思想。その方法は間違っていたとはいえ、"人類の昇華"自体を、己は決して悪しき物であるとは捉えない。人類の衰退は、正しき未来を切り拓くにあたって懸念すべき物であり、正しき形で対処していかなければならない物だ。敗者の思想を、ただ黙殺するだけではまた、同じような事が繰り返される事となる。

「正しき未来を築く為に、勝者が義務を背負わなければならない様に。敗者にもまた、背負わねばならない義務がある」

 足元から立ち昇る火柱。攻撃の動作と、力の動きを見極めて、青き焔に焼かれる前にその場から離れる。続け様に放たれる青焔のレーザーを、身体強化と風による推進強化を組み合わせて、素早い動きでその合間を潜り抜けながら、反撃の機会を窺う。一連の攻撃が為す、狭い一室の壁を融かし尽くし、広大な空間へと変貌させる業。全力を出し合う舞台は今、整えられた。
 先の戦いでもアルカディアに"ダーさん"と呼ばれ、次は狼の少女――イアンにまでその渾名で呼ばれている事に、思わず一瞬だけ苦笑いを浮かべるが。彼女の決意の言葉に対して頷くと、再び視線をヘルガに向け直して、戦いを続行して行く。

「お前は此処を死に場所として捉えているようだが……悪いが、その意志を尊重する心算はない。生きて、降伏して貰うぞ」

 広がる地面の上を加速しながら駆け抜け、勢いの良い踏み込みと共に肉薄を果たす。正面から光の刃で袈裟に斬り、直ぐ様その背後へと回ると、今度は闇の刃で斬りかかる。幾度となく、あらゆる方角からの連続攻撃で切り刻まんとする。そして、味方の攻撃が炸裂する直前に、軽やかな動作で後方へと跳躍すると、先程よりも多くの属性球を周囲に生み出し、彼女の周囲を取り囲む様にして移動させる。
 単発での威力は間違いなく、かの銀狼の一撃が大いに勝る。極端な話、その一撃さえ直撃出来れば、戦いの命運を掴めると言っても過言ではあるまい。故に、その命中率を高める為にも、属性球はその役割を果たす。放出されるは夥しい数を誇るレーザー。逃げ場など、与えはしない。だが同時に、それが無意味に終わる可能性も考えられる。彼女程の実力者となれば、強引にでも逃げ場を生み出してくるだろうからだ。

>ヘルガ・アポザンスキー イアン・ガグンラーズ

4日前 No.1373

人類昇華への道 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【歴史是正機構本部/丞相室(壁崩壊)/ヘルガ・アポザンスキー】

敗者が必ずしも死を迎える必要はない、というダグラスの理論を、ヘルガは心の中で否定する。勝者と敗者は、同じ世界で手を取り合って生きることなど出来ないのだ。
いつの時代もそうだった。勝者は敗者を塗り潰し、新たな理の元に世界を作り上げる。魔道帝国もそうだ。マロニス王国もそうだ。彼らは皆、須らくして、敗者の屍の上に成り立っている。
ならば、未来でも同じことが成されないなどというのはあり得ないだろう。今宵、時空防衛連盟は歴史是正機構を乗り越える。世界政府が消えた今、彼らはその屍の先に、新たなる世界を創造する。
最後の抵抗、といえば聞こえはいい。だが同時に、自分を倒せないようであれば、時空防衛連盟にも世界を統べる権利はない、ともいえるだろう。この戦いは、それを見極めるには丁度よい機会だ。

ヘルガの立ち昇らせた火柱によって、文字通りイアンの尻に火が付く。すぐに地面を転がることによって消し止めたようだが、その機転の良さと瞬時の判断力は素晴らしいというべきだろう。
あるいは野生の本能、といったところか。いずれにしても、この一撃で致命傷を与えることは出来ず、彼女は戦意をより明確にして、皆のために戦うことを宣言してみせる。
一方のダグラスはというと、こちらの動きを見ると同時に身体強化を施し、無数の攻撃の合間を潜り抜けて迫ってくる。是正機構に属していた頃から衰えることない、むしろ向上しているようにすら思える戦闘力。
やはり、一筋縄ではいかない相手だ。それでもまだヘルガは、綻びを見せない。まだ実力が足りないといわんばかりに余裕の表情で、彼らの反撃を注視する。

「歴史とは、勝者が作り上げるもの。その中で敗者はやがて忘れ去られ、塵と消える。生きようが死のうが、それは変わりないことだ」

ダグラスの言葉にそう返答しながら、彼女は正面から踏み込んできた敵の光の刃を躱し、背後からの闇の刃は瞬時に身を屈めることによって素通りさせる。
周囲を取り囲むように配置された属性球は、どんな属性だろうと関係ないと言わんばかりに、それ自体を自らの異能で炎上させるという荒業で切り抜けてみせた。
結果として、最後に襲い掛かってきたイアンの攻撃に対処する十分な時間を得たヘルガは、青い炎の壁を前方へ出現させ、それによって攻撃を押し止めることによって減速させ、範囲外へと逃れる。

憂いを帯びた表情を覗かせながら、ヘルガは反撃を開始する。自身の眼前に優に百はあろうかという無数の青い焔を浮遊させたかと思うと、それを弾幕のように二人へ向けて放つ。
直後に加速したヘルガは、イアン、ダグラスの順で敵の懐へと飛び込み、それぞれ右手と左手を真横に薙ぐことによって、剣のような軌道の炎で相手の身体を焼き切ろうとする。
敗者は歴史に関わる資格を持たない。ならば、生きるも死ぬも同じだろう。彼女の瞳が、そう語る。まるで、次なる世界に、敗者となった自分の居場所はないのだと宣言するかのように。

>イアン・ガグンラーズ、ダグラス・マクファーデン

4日前 No.1374

健啖の銀狼 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【歴史是正機構本部/丞相室(壁崩壊)/イアン・ガグンラーズ】

各々の本気を込めた一撃が炸裂する。白銀の鋭刃は、敵を切り裂き、同時に未来を拓かんとし。光冥を筆頭に全属性を網羅した魔弾は、先述の銀刃の命中に一役を買いつつも、それ自体が戦いの趨勢を決める威力を持っている。
そしてその全力の上から、蒼く揺らめく炎で以て焼き尽くすのが丞相、ヘルガ・アポザンスキーだ。先制攻撃とばかりに放った真空波同様、相方の属性弾までもが焼き潰えるのを見ると、流石の銀狼の顔にも渋い色が広がる。
まだ完全な性質を見極められてはいないが、アレは飛び道具を限定としての効果なのだろうか。徒手空拳を駆使した接近戦も仕掛けられるが、もし手や足まで燃やされるようなことがあれば、リターンより圧倒的にリスクの方が大きい。

ただし、本人にかかる負担故か、一度に使える魔力の限界か、迫りくる一切合切を焼いてしまうということは出来ないらしい。事実、挟撃する光冥の刃は体術で以て回避したし、渾身の『バイシクルビースト』に関しては、炎の壁で威力を削いで切り抜けている。
あまりのインパクトに囚われて、あの能力だけを注視していては、勝利は掴めないということだろう。今はとにかく慎重に…かつ大胆に、遠距離攻撃を軸として戦いを進めるべきだ。

と、ここまでの考察にイアンがかけた時間は、圧巻の十数秒。無数の火炎弾の展開を阻止することもせず、考えに耽ってしまっていた。

だが。

「させるもんか!

使うよ!レイジングゥゥゥ…ビーストォッ!」

雨あられの如く襲い来る蒼弾を見るなり、右掌に力を入れて走り出す。ギュッと握った拳にエネルギーを集め、身体を横に捻りながら大きく跳躍。一回転の勢いを残したまま、床を鋭利な爪で以て削り上げる。
その軌道に展開されるは、岩肌に荒々しく刻まれた爪痕が如き、銀光の柱。それも五本。たちはだかる壁となって火炎弾を弾き、見事炎熱の脅威から二人を守ってみせる。

「やった、できた!

ボクにも…!?」

自分勝手な攻撃ばかりでなく、味方の支援も成功したことに小躍りする…が、直後、全身を震わす強烈な衝撃。確かに左胸を発生源としていて…同時にとても"熱かった"。心臓が溶けてしまいそうなほど。
動悸にも似たそれに戸惑い、胸に手を当てる。もう熱も衝撃も感じないものの、心臓だけはバクバクと異変を訴えてくる。
本当に何だったのだろう。心底気になって仕方がないが、今はそれどころではない。敵は火炎弾如きで満足するはずもなく、加速を重ね一瞬で距離を詰めてきた。
まんまと接近を許してしまったイアンは、せめて攻撃の瞬間だけは見切ろうと、相手の一挙手一投足に目を凝らす。黒い瞳をギラつかせる様だけ見れば、野生に生きるオオカミそのものだ。
諸手を振り抜くことで火炎の軌道を描き、敵対者を焼き切らんとするヘルガ。瞬時に尻尾にオーラを纏わせて、薙ぎ払うことで相殺に持ち込もうとするも、打ち消しきれなかった分がイアンの背中を焼く。

「ううっ…」

幸い致命傷には至らない。魔族の屈強さなら、数日で治ってしまう程度だ。しかし身体を焼かれる痛みばかりは人間と変わらない。
ロンカ村での決闘を思い出し、自分の心を奮い立たせることでなんとか踏みとどまる。同時に、あの戦いに幕を下ろした技も、頭の片隅に思い起こされる。
そうだ。アレなら、一気に決着をつけることも夢じゃない。物は試しと言わんばかりに銀狼の姿を取るや、今度はイアンがヘルガ目掛けて突進をかける。

「月創のぉ、アルテミスーッ!」

荒野を駆ける獣の如く疾走。喉元にエネルギーを溜め込みながら踏み切り、大跳躍からの放出。
驚くほど細いが鋭く、目標ただ一点を見据えた白銀の光線。見た目だけなら完全に『月創のアルテミス』のそれだが…どうも威力が伴っていない。
先程の『バイシクルビースト』をただ細くしただけのような出来になってしまっている。無理も無かろう。あの時は敵の能力で理性を失い、箍が外れた状態になっていたからこそ、凄まじいがまでの威力になったのだから。

再現のため、もしくはこれを上回る技を編み出すためには、強大な力を得る必要がある。
だが無理な話ではない。ロンカ村でその片鱗を見せた通り、必要なモノは彼女の内に眠っている。それを今一度引き出し、自由に扱えるようになれば…間違いなく、戦いの流れを引き寄せることが出来る。

>>ヘルガ・アポザンスキー、ダグラス・マクファーデン

4日前 No.1375

リインカーネーション @genomirai ★5PyZcP0Vz3_BXv

【大統領官邸/???(ホテル屋上)/ザーシャ】


「……はあん、成程なあ。てめえの持論は良く分かった、序でに人間がそう言うもんだってのは百も承知してらあ。んであのガキなあ……」

叔父様方に人気とはそりゃあ結構な事だ、そんだけ少女染みた真似が出来れば歳食って地位もある男からすりゃあ気に入られもするだろうよ。んな面倒臭え真似を延々とやれんのは正直尊敬すらするわ、俺にゃあ絶対出来ねえって意味でなあ。
人の好みに合わせて自分を変えるなんざ何処か壊れてなきゃ出来やしねえ、相手が望むままに変えられるってのは自分がねえのか、それともそれ以外を変えても構わねえような何かが存在するかだ。どっちにしても、壊れてるよ。
そんな壊れてる奴に好かれても困るし、そもそもぶっ飛ばす相手にどんだけ好意を持たれようが興味ねえ。俺の価値観を相手にぶつけてる?そんなもんは当然だ、俺は俺でしかねえからな。俺の代わりなんざいちゃ困るし、俺は俺だけでしかねえ。
だから俺は俺をありのままに出しているだけ、人が見てえ物しか見ねえのは知ってらあ。傭兵やってた時顔見て寄ってきても、腕見りゃあ一転魔族扱い。同業者って看板よりも安易に虐げられる魔族って看板の方が都合がいいからなあ、一部除きゃそんなもんだ。
だからそいつが挙げた例も理解は出来る、見た目が良けりゃあ人は寄ってくる、身なりがしっかりしてりゃあ要らん不審を抱かれない、好きな人間を容認しちまうってのは俺には痛い話だ。あと、俺が男なら確かにまあ控えめに言って化け物扱いだろうよ。
生物として当然っちゃあ当然だ、見て苦痛でないものを選ぶし不快感が湧かねえほうを選ぶ。魔族の中でも人間に味方する奴は、魔族よりも人間の方がいいからこそそうした訳だ。そう考えりゃあ生きるもの全てがそうだと言ってもいいんじゃねえのか。
外面で満足する、踏み込まねえのは深い仲になんねえなら一番の方法だろうよ。互いに外行きの仮面被って仲良しこよしだ、その内に線引きを忘れてこいつのような奴に全部持ってかれちまう。人間を、いや生物を知っているからこそできる芸当だろうよ。
そうだとも、あいつの言っていることは大よそは間違っちゃいねえ。人は選り好みもする、警戒心のない奴は気に入れば貢ぐ、んでそれを利用して地位を得て来たのがあいつだろうよ。まああいつの地位や肩書なんざ知らねえけどな、興味もねえ。
だがなあ、分かりやすい様に言った答えがガキが可愛かったって言葉。嫌でも理解が出来ちまうんだよなあ、こいつならそう言った事に躊躇なくガキを貸せると嫌な信頼感すらできてやがる。ついでに言えば俺の言葉への返答でもある。
あげるで済む程度の存在、それなら相手を篭絡するための手段の一つとして使うのは何ら不思議じゃあねえ。ああ、こいつの中では効率的なんだろうよ。俺でも使えるもんがあるなら使う方が良いとすら思う、それが『物』なら、なあ?

「ああ、―――可愛かったとも。よーく分かったよ、てめえなら間違いなくそう使うってこともなあ……!」

あのガキは生きてんだよ、何もねえと言いながら何かを探してたんだよ、それを物の一つとして使い潰そうとしていた。許されるはずがねえ、あのガキはれっきとした『人間』だ、生まれがどうとか関係ねえ。生きて何かを掴もうとしていた、それを……
過ぎたことだ、今どれだけ俺が怒れども起きてしまった事だ。んなこたあ分かってる、今如何こうしようともあいつにとってはもう使う価値すらねえもので、既に使い道がなっくなってんだ。手遅れだ、今更悔もうとどうしようもねえ。
それでもだ!俺はこいつは絶対に許さねえ、もっと早く出会っていればなんざ泣き言も言わねえ。そんなことがあってもあのガキは俺の手を掴んだんだ、なら俺がやれることに変わりはねえ。俺は、あいつを、ぶっ飛ばす。
狂い咲く憤怒に冷静さを欠く、なんざ間抜けな事はしねえ。考えなしに動いた時点で罠張られて愉快な標本にされるだろうよ、感情に身を任せる愚かさなんざ何べんも見て来た、見てきた記憶が流れ込まされた。なら、どっかの誰かの失敗を繰り返すのは阿呆だろうよ。
振りぬく大曲剣、真空の刃を纏いたそれは華奢な身体を両断するために振ったが、足元に血を集合させて自分でぶった切った腕に大剣を作って逸らしやがる。だとしても反応させたのは上々、追撃の隙があると信じてもう一度振るが、まあ甘くはなかった。
聳え立つは朱き壁、襲い掛かる風の数々全てを防ぎ切る全天の防壁。振るった大曲剣が弾かれる前に引き戻し、僅かに下がる。血と侮っちゃあいたが結構な硬さだ、ぶち破るんならそのつもりで攻撃しねえと破れねえだろうよ。
不意に壁が半分崩れたかと思いきや腕と空へと別れて行きやがる、挟撃狙いかとも思ったがそれにしては密度がすくねえ。が、んな予想はすぐに捨てることになった。襲い掛かるは巨大な咢と無数の杭、七面倒臭いことしやがって。

「はっ!てめえに好かれるなんざ悍まし過ぎんだよ!遊びであっても御免だ!法廷は一人で行って自白でもしてればいいんじゃねえかなあ!?」

降り注ぐ杭に迫り来る咢、控えめに言ってやべえな。杭を大曲剣で叩き落していくが如何せん数が馬鹿げてやがる、纏風なんざ役に立たねえ以上は風の魔術での迎撃も無理だ。障壁で弾き、力場で逸らしはするも手は足りねえ。
少しずつ後退しながら咢から逃れようとするも少しばかり猶予が足んねえ、どっちが食らったら不味いかなんざ明確。だから俺は杭への対処を一旦やめ、追い風と共に身体を吹き飛ばした。間一髪、咢は避け切った。まあ、そうなりゃあ御察しだろうよ。
胴に三本、左腕に一本、右腿に一本、左脚に一本、んで最大の問題が頭部に一本刺さってることだ。磔はまあ問題だが、全力で床叩けば、ほらこの通り。かえしがあったら少し面倒だが、ねえなら抜くのは簡単だ。
避けても良いとは言いやがったが、結果は御覧の有様。目が潰れたが眼帯の方で助かったというべきか、しっかし脳天に刺さってて生きてるのはどうも慣れねえ。まあ、これ以上は少しやばいな。無謀は控えねえと流石に死ぬ、それだけは駄目だからなあ。
若干ふらつきながらも未だけたけた嗤うあいつへと身体を向ける、ちょいと賭けに出る必要があるなあ。これ以上は余りにも危険、次に致命的なもん食らったら大体死ぬ。だがまあ、防御も堅牢、攻めも変幻自在、俺にゃあ少し光明が見えねえ。
だから、少しだけ戦士の誇りを捨てさせて貰う。あの朱い槍の兄さんにはすまねえが、卑怯で姑息な技で勝ちに行く。そうじゃなきゃあガキが本当の意味で自由になれねえ、あれよりもっと卑怯だがそれでも構わねえ。

「……あー、先に行っておくけどなあ。ちゃんと、避けろよ?御丁寧に避けていいと言った礼だ。」

滴る血は気にしねえ、使うは隠密。俺の姿は末端から徐々に消え失せ、やがて音も気配も感知できなくなる。まあ温度は消せねえのが難点だが、この状況じゃあ大した欠点にはならねえ。この場で俺を捉える手段は、恐らくねえ。
消えた姿のまま竜巻の流れに乗り宙を舞う、滴る血が屋上へと垂れ居場所を知らせているがこれも気にしない。これを故意と捉えるか、判断能力の低下と捉えるかはあいつ次第だが、まあリスク嫌いなら警戒するだろうよ。
幾度も竜巻の流れに乗り、屋上上空を周回する。機を窺っている訳じゃあねえ、ただ間が必要なだけだ。あいつを冷静にさせて、見えない奇襲を防ぐ最善の方法へと辿り着かせることが目的。何の事はねえ、動かねえで全周囲を守ればいい。
その結論に行きつけば俺の勝ち、そうでなければ苦戦は必至、ただそれだけだ。避けろと言った意味は只思考を揺らすだけ、その意味をどう捉えるかにもよるが大抵は防がれたくねえからと思うだろうよ、まあ小手先の口八丁だ。
さてさて、五分程度経った今。依然として血は滴り落ちている、場所自体はバレバレ。それでいい、そのまま真上へと移動し大曲剣を構える。狙うは頭上からの串刺し、隠密は移動以外をすれば解ける不親切さ。詰まる所、決め時は今!
その小さな頭部へと大曲剣を突き刺さんと俺は落下する、真空刃を纏わせて生半可な防御はさせはしねえ。さらには全方位からの風の刃、共に落下する風の槍。どれか一つをとっても致命傷に至る風の魔術、これも全部布石だ。
本命は何か?それは風の魔術の特性、位置を指定して発生させられる故の奇襲。前触れは僅かな風の流れ、だが竜巻に包まれ、周囲から数多の風が迫る状況で分かる訳がねえ。決まれば一撃で屠れるだけの代物。
それは、体内に直接風の魔術を発生させるだけのことだ。今回は特別に八つ裂きに出来る様に炸裂するように仕組んである、言っただろう?八つ裂きしか出来ねえってなあ、どう八つに割くかまでは言ってなかったけどなあ。
奇襲としての完成度は高い、が問題がある。それは一歩、たった一歩動かれただけで致命傷に至らねえ可能性があることだ。発生場所の中心はあいつの腹、下手すりゃ身を捩りゃあ避けられちまうだろうよ。
これまでの無駄に見える全てはその場での防御を選ばせるための仕組み、だがまあ勘のいい奴なら気づいてもおかしくねえくらいには杜撰なもんだ。だからこそ賭け、それもかなり分の悪いな。だとしても普通に戦ってちゃあ何れ負ける、それくらいは分かる。
だから卑怯であっても、姑息であっても、この賭けに挑まなきゃあならねえ。負けて死んじまったら俺を認めてくれたあの人に申し訳が立たねえ、あのガキをまた一人にしちまうのは死んでも死に切れねえ。
故に、俺は決めた。こいつはどんな手を使ってでもぶっ飛ばす、卑怯だろうと誇りのねえ戦い方でも構いやしねえ。
そうしなきゃ、俺が俺を許せねえ。

>>ストライフ・ロスチャイルド

4日前 No.1376

リインカーネーション @genomirai ★5PyZcP0Vz3_BXv

【大統領官邸/シチュエーションルーム→大統領執務室/フォルトゥナ・インテグラーレ】


幸せな時間は瞬く間に目まぐるしく変化し、最悪へと変化した。人の形をした何かはヴァイスハイトを引きずり込み、窓から落下した。それは深淵に飲み込まれるのではないかと錯覚するほどであった、すぐに追わんと立ち上がるもまだ坂を転がり落ちる途中であった。
万が一を案じ、彼女の前に立つ姉。ヴァイスハイトを心配し、即座に窓へと向かった背後を狙う灰の死神。その手刀は寸分違わず愛しい姉の首を断つために振るわれていた、しかし寸での所で回避し事なきを得た。
混乱する状況の中で彼女は冷静に努めようと判断していた、しかし姉が狙われたことがその枷を外したのだろう。立ち上がり、一直線に死神へと駆ける。無論手練れであることは理解している、自身もこの瞬間まで気付かなかったのだ。
だからこそ即座に無力化しなければならない、その後にヴァイスハイトを追いあの人型の何かを打倒す。そう結論付けその拳に闇を纏わせたとき、そのヴァイスハイト本人の声が響く。構わずに行け、確かにそう言った。
その言葉で僅かに動きを止め、冷静さを取り戻したおかげか姉の言葉が率直に届いた。散開し、自身の安全を優先しろと。相手取る必要はない、そう指示をした。姉を狙ったその死神は許せない、許せないが姉本人がそう言っているならばと拳を降ろす。
虹の光球を死神へ放ちながら振り返らずに大統領の下へ向かう姉、その背を狙う可能性を危惧して彼女は死神から目を逸らさずにじりじりと後退する。その拳には未だに闇が渦巻いている、仕掛けてくるならば容赦はしないと言外に語っていた。

「……次に相見えた時、必ず打ち倒す。」

姉が安全な距離まで離れたのを横目で確認し、渦巻く闇を死神へと放ちながら全速力でシチュエーションルームから離脱する。渦巻く闇は時間差で炸裂し、周囲に高濃度の魔力毒を撒き散らす。足止めには十分だろう。
道中の歴史是正機構の精鋭は姉の手によって散らされた後であった、幸い致命傷になった者はいない様だ。既に裏切り者と同等の身であれど、僅かな間籍を置いた組織に寄せる想いは少なくない。何も出来ない事を僅かに悔みながら、その場を後にした。

視界に入る姉ともう一人の女性、時空防衛連盟の司令官の一人シフォン・ヴァンディールが居た。嘗て丞相から受け取った情報がどこまで真実かは
分からない、しかしそれによれば姉の親友だという。ならば、警戒する必要はないと判断する。
そしてその二人が見つめる先に居るのが地球軍中将、ミシャール・ルクセン。この騒動の主犯とされる人物であった、この大統領暗殺自体は歴史是正機構が利用するために情報こそは得ていたが、その真意は不明。
首より上がなく事切れている大統領であった何かとその側近、そしてまだ息がある女性が一人、管理省大臣、イルグナー・シュタウンハウゼン。イルグナーのみが重傷を負いながらもまだ息がある、なぜ殺されていないのかその理由は不明だ。
時に、ミシャールと姉は後援者としての交友もあったと情報にある。ならば心当たりがあるのではないかと、ちらりと表情を窺うもそうではない。問いかけた言葉も何故を問う物であった。ならば独断で行った、そう考えるのが自然と結論付ける。
様子見が終われば、構えを取らずに他二人の前へと出る。シフォンも姉も説得を試みている、恐らくはイルグナーの受け渡し自体は問題なく行われるだろう。だがそれ以上は、と彼女は思う。それだけの行動を起こす何かがあった、ならば止めるには力づくだと。
この場の関係を情報でしか知らない彼女にとって、また第三者に最も近い彼女にとって、止めるならば力によるものでしか無理だと判断した。彼女自身の前例は特殊なものだと理解した上で、だ。

「部外者として一つ問いたい、何故この行動を選んだ?」

此方から仕掛けはしない、が他二人とは違いその答え次第では力づくで止めるという意思を持って問いかけた。行動の理由を聞いた、その訳。一つ、弁解の余地。二つ、大義名分。三つ、その真贋。
そうしなければならない理由があればいい、相応の報いがあるのは分かっているはずだから。何かの為にする必要があるならばいい、犠牲が生まれるにはまた犠牲が必要になるだけだから。真実であればいい、虚飾する理由などないのだから。
どのような答えであっても彼女の答えは変わらない、何故短絡的な方法を取ったのか。それだけである。それは己にも帰ってくる言葉、だからこそ彼女は問うのだ。それをして後悔はないのか、別の方法があったのではと思い悩むのではないかと。
相対するが百を越える先達であっても彼女は引くことなく問うだろう、そうして彼女自身は己を許せないほど責めたのだから。最早引き返せはしないが、それでも軽減することは出来るかもしれない。あんな思いをする人間は少ない方がいい。
幾分か和らいだものの、依然真剣な表情でミシャールを見つめる。動きを見せたならば即座に対応できるよう、身体強化も万全、何が起きても不足はない。勿論、何も起きぬ方が良いのだが。彼女はそうは思っていなかった。

>>ミシャール・ルクセン ユーフォリア・インテグラーレ シフォン・ヴァンディール

(ヴァイスハイト・インテグラーレ ダグラス・マクファーデン アルカディア・クアドリフォリオ ダン・マッケーニ=バビロン クルト・ライヒナム)

4日前 No.1377

焔雷の若騎士 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【大統領官邸/シチュエーションルーム/エルドラッド・イルシオン】

 ――通信端末より聞こえてくる男の声。此方が何をしていたのかを見透かされている事に対して苦笑いを浮かべながらも、任された役割を果たす為に目的地へと急ぎ足で向かう。彼から送られて来た情報が正しければ、合流すべき相手は今、この大統領官邸の一室であるシチュエーションルームの近辺に居る筈だ。同時に送られて来た官邸の地図を頼りにしながら、道を進んでいく。

 官邸内を全力疾走して、幼馴染である一人の少女――アルカディアと合流する為にひたすら急ぐ少年、エルドラッド。資産家の家系に生まれた彼は、表向きは世界を脅かす歴史是正機構の打倒の為に、そして本当の理由としては、時空防衛連盟に加入したのみならず精鋭の一人として戦うようになった幼馴染を心配するあまり、彼女の監視兼護衛役として連盟へと加入した。
 とは言え、彼もまた精鋭の一人として数えられている様に、熟練した者達には及ばないが、中々の実力を誇る。得意な魔術属性は焔と雷、今は更に風属性の会得にも挑戦しており、行く行くは三属性を操る事を目標としている。全ては、幼馴染を守る騎士役として――あまり恰好付けた表現をしないのであれば、ただ単純に頼りがいのある男になる為に。

「アルカディア!」

 全力で駆け抜ける事、二十数秒。息を切らした様子も無く、幼馴染の姿を見つけるや否や、大声で彼女の名を叫んでは呼び掛ける。このまま合流して、後はそのまま連盟へと帰還するのみ……と行きたい所ではあるが。先程の通信の中で聞かされた情報によれば、アルカディアの従姉であるユーフォリアを狙っている刺客が居ると言う。このまま交戦へと突入する事も考え、鞘に納めてある細剣を引き抜いてから、彼女へと近づく。

「……怪我はしてないよな?」

 一目で見れば解るだろう、という野暮な突っ込みは置いておくとして、何処か怪我をしている所はないかと確認を取る。彼の説明で詳細はかなり省かれてしまったが、刺客が現れる前にも色々な事が起こっていたらしい。仮のその過程の中で、怪我を負っているのであれば、ここから無事に生き延びる為にも自分が一層奮闘しなければならないだろう。

「ダーさんから刺客がいるって聞いたんだけど、今どこに……」

 連続に渡っての質問。色々と忙しくて申し訳ないとは思うが、此方も確認しなければならない事だ。まだ近くに居るのであれば、敵の足止めをする事も考慮しなくてはならない。連盟の総統であるユーフォリアが討たれる様な事があれば、それこそ大問題になる。それを未然に防ぐ為にも、それを聞いておきたい。

>アルカディア・クアドリフォリオ クルト・ライヒナム

4日前 No.1378

指輪の女帝 @kyouzin ★XC6leNwSoH_LoN

【時空防衛連盟本部/周辺市街地/パージルク・ナズグル+イフ】

「黙れッ! それだけの力がありながら、"私の"彼を殺し、"彼が"真に愛した私を殺したのは第二人種であり、その第二人種共に味方したのは誰だ!? お前たちの何かを奪った兵に命令を下したのが私であるなら、私の大事な物を奪った愚か者共に加担する貴様らも、私にとっては彼を奪った者に他ならない!!」

ニケの憎悪に対して、そのニケを制止するような敵対者たちの言葉を聞きながらも、パージルクは吠えた。
誰かに味方をして、剣を向けると言うのはそういう事。 言っていること自体はまだ理論が破綻している訳でもない、古代での冷静な姿を見れば圧倒的に見劣りするが、それでもマシな物だ。
だが、それは第二人種と言うあまりにも広い範囲を含む"敵"に向けていた物であると言う点が、ある種、パージルクのこの発言を狂人の戯言にしていた。

"だから第二人種、自分の愛する者を奪った者を殺す事も出来ないし、庇う貴様らは第一人種であったとしても殺す、お前が言ったような憎しみを持って"。 そのようにパージルクは語った。

……だが、その語った内容によって同時に、少しだけ彼女が直前に言った全ての言葉の意味が変わってくる。
パージルクは確かに「愛しいあの人」であるとか「あなた」と言うだけではなく、"私の彼"、"彼の私"、と明言したのだ、即ち……心の底では、それこそレイヴンやマロンが言ったこと、彼女を守っているイフという存在は紛い物であると言う事実を「認識」している。
幾ら狂おうが、元々の知識が失われる事は無い、それでも、彼女は"紛い物"に縋り続ける、彼女なりの理由があった。

ニケが切ったカードの一枚、これに対して対応すべきはまず前衛の混沌の魔物"イフ"のほうであろう、故に"彼"はパージルクの前に立ちはだかり、その攻撃を受けようとした。
だが、実際に攻撃を受けたのは、全くの別人だった。

しかし、庇ったからと、何だというのだろう。
パージルク側は驚き、そして"心から望んだこと"が起きたかとすぐに攻撃に移れる状態になかったが、イフにとってはアランは他人でしかなく、そのメスが彼の首元に向けられた。
放たれる雷光、しかし、それはイフを止めるには至らない、至らないはずだった。

ピタリと、先ほどまで身体の各所を蠢かせ、不気味に脈動していたイフが静止する、まるで直ぐに攻撃に移れるように準備を行いながらも、話を聞く意思がある、あるいは、思う所があったように。
降り注ぐ極光が雷光を消し去ったその時、確認を求めるように、ペストマスクがパージルクのほうを向いた。

「……反逆者共め、貴様らには最初から戻る場所があるだろうに、魔道帝国と我が忠臣、そして娘を殺して得た平穏があり、仲間、あるいは共謀者が居るから、こうして徒党を組んで私を殺そうとしている。 私にはもう彼しか居ない、過去にしか私の友や愛した者は居ない。 "未来"を知ってから、まだ"死んでいないだけの"エスメラルダや忠臣と再会したからなんだと言うのだ。 だから彼や、復活させた者をここで本物にする、長い時間が掛かるだろう、だが彼の力を使えば、それだけの時間は私にも与えられる! 彼もそれを望んでいるのだ」

そんな事をパージルクは言った、彼女にとって忠臣と娘の死が確定しているところに戻っても、それは直ぐに崩れ去る。
ここまで来た忠臣には、彼女目線では裏切られた。
だから"今"を生きている愛の対象は"彼"だけで、彼は自分が真に求めている者に成る事が出来るのだと。

イフが動き始めた、それと同時に、その背後にエストが転移して踵落としを食らわせる。
まるで水死体のようなぶよぶよした肉体がぐにっと言う不快な感触と共に押さえつけられ、黒い液体を撒き散らしながら頭部が破裂する。 だが、それでもイフは何の問題も無いように動く、事実として、既に造形が崩れているように、ペストマスクは浮遊するように全く同じ位置にある。

一気にエストに振り向き、別のメスを腕から"生やして"斬りかかる、だが、それを糸と電流が阻害する。
それだけで詰みになるようなイフでもなく、今度は自分の身体の一部であるヘドロのような体液を弾丸のように様々な場所へと乱射する。 それらの一部は糸に絡まって消滅したが、多くは糸と糸の間をすり抜けて、壁に付着した途端、眷属とも言える真っ黒なカラスの形を取る。

そして、糸の外からカラスが魔力霧に覆われたマロン以外の全ての敵対者に闇の光線を放つ。

だが、イフがそういったことをしている間にも、パージルクの眼前にはマロンが迫っていた。

「私を殺す度胸が無いなら失せろ! お前たちにとって幸せな世界に帰還するがいい。 どうせこの世界はお前たちの生きる世界とは違う、私がこの世界をどうしようとも、貴様らには一切の関係が無いのだ! 第二人種を幾ら殺そうとも、私と彼の限りなく本物に近い紛い物が築かれたとしても!!」

その言葉と共に、パージルクは光剣ではなく、防御に向いていない光の鞭を手元に作り出して、それを振るう。
四連撃の二回は当たるが、そこは、まさしくバビロンが言うところの「夢」と、イフより放たれる闇の魔力で"埋め合わせる"。
この後どうなるかよりも、今、外敵を殺すことこそが、パージルクにとって最優先事項であった。

光の鞭が振るわれ、それ以上の攻撃を防ごうとする。
もしも、相手が無理押しを選択するならば、光の鞭は相手の身体に絡みつき、そして、全身をズタズタに引き裂くだろう。

>ニケ・エタンセル マロン・アベンシス レイヴン・ロウ エスト

3日前 No.1379

ブリッツガール @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【大統領官邸/シチュエーションルーム/アルカディア・クアドリフォリオ】

感動に包まれた和解の刹那の後、本当に色々な出来事があった。ずっと従姉妹の胸に顔を埋めていたかったというのに、辛い時間に比べて幸福はまるで長続きしない。
ヴァイスハイトに飛び掛かる"形容しがたいヤバさ"がぷんぷんする男。彼への対応を巡って一気に場がかき乱される。
続け様に襲撃をかけてくるのは、ターバンや随所の厚着からしてこれまた異様な雰囲気の男。先程の襲来者といい、ここでカルト宗教の集会でも予定されていたのかと思わざるを得ない。
まだ実戦経験の少ない彼女は、銃を抱きかかえたまま大人達の後ろで見ているしかなかったが、幸いにもターゲットだったらしいユーフォリアに被害は及んでいない。
そのユーフォリアと和解したばかりのフォルトゥナは別の場所へ、そしてダグラスまでもが移動を開始したため、この場にはアルカディア一人が残されることとなった。

「女の子に嫌われるタイプ、教えてあげよっか。

空気が読めない。乱暴。むさくるしい。

全部クリアしてるのって才能だよ?さっきの変なオジサンもだけど」

だというのに。逃げたり仲間達の後を追ったりするどころか、自慢の銃を構えてずかずかと距離を詰めていく。余計な挑発も添えて。
余程自分の腕と武器の威力に自信があるのか。はたまた和解を経て気が大きくなっているのか。まだユーフォリア一行がそれほど遠くへ行っていない以上、彼女の身に何かあれば、救援に駆けつけてもらうことも出来るだろうが…

彼女がやけに強く出ているのは、そういった理由からではない。

して、そのワケとは。

「やっほーエル!最高のタイミングじゃん!」

彼に他ならない。エルと親しげに呼ばれた銀髪の少年――エルドラッド・イルシオン。アルカディアの幼馴染にして同級生、連盟の精鋭とあらゆる経歴が一致している、まさに相棒と呼んで差し支えのない人物である。
直前のダグラスの通信で彼の接近を知っていたため、あのような大柄な態度がとれたというわけだ。ただ、相方の戦闘力にかまけてのことではない。
『彼となら負けはありえない』とでも言うべきか、非常に重い信頼を置いているからこその自信。傍から見れば蛮勇や若気の至りでも、アルカディアからすれば不変の定義なのである。

「やだなーもう、心配しすぎ。見ての通りだよ。

ああ刺客ね、あのターバン。スゴイそれっぽいじゃん。

……ところでさ。」

見てわかる身体の状態まで案じてくれる幼馴染に、若干の照れ笑いをしながらも脇腹を小突いて誤魔化す。
ダグラスの言う"刺客"はどこにいるのかという問いには、今まさに砲撃をかまそうとしていた眼前の男を指さして答える。
攻撃目標が彼にも伝わったところで、胸の前で双銃を構えて踏ん張り、ぶちかますは強烈な魔力の弾丸。数は二発のみ、かつ無属性であるものの、威力と速度は十分。白く光り輝く外見は少年少女の心をくすぐるに値する。

「アイツ、お葬式の主役にしない?

私たちの力、今こそ解放する時だよ」

>>クルト・ライヒナム、エルドラッド・イルシオン


【イキリ構文の数々をお許しください('ω')】

3日前 No.1380

裁定者 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【歴史是正機構本部/丞相室(壁崩壊)/ダグラス・マクファーデン】

 其々の手に握られた光闇の双刃を構え、大地の上を駆け抜けながら、向かって来る無数の熱線の合間を潜り抜けては、前へとひたすらに突き進む。肉薄の一瞬、敵の真正面へと力強く踏み込み、勢い良く振るった光の刃は躱される。間髪入れず、即座に背後へと回り込んで振るう闇の刃。空間に奔る漆黒の一薙ぎは、虚しくも空を裂く音だけを響かせる。
 予感はしていたが、やはり一筋縄では行かない強敵だ。単純な魔術による身体強化だけでは、相手の精錬された体術に追い縋る事は厳しい。そして、味方による強力な一撃を直撃させる為の援護として放った、複数に渡る属性を網羅した属性球による攻撃も、敵は属性間の相性を無視し、純粋な威力の差で消し飛ばすと言う強引な荒業を以て突破して来る。
 蒼く揺らめく灼熱の炎。属性相性に於いて優位に立てる筈の水属性すらも、容易く凌駕する高熱を宿したそれを脅威として捉えながらも、それに取るべき対処法は瞬時に思い付く。それは至極単純、威力には威力をぶつけるのみ。純粋な一として完成し切っている混沌を、複数の属性に細分する事なく撃ち出すのだ。下手な小細工など不要、講ずれば講ずる程、沼へと嵌まって行く。それが"ヘルガ・アポザンスキー"という強敵なのであると、裁定者は推測する。

「敗者という存在を黙殺し、彼等が目指した場所を知らずして、勝者が思うがままに築く歴史に価値など無い。
 争いの火種となった根本的な部分を正さない限り、必ず同じ様な争いが繰り返されるからだ。
 そうさせない為にも、勝者は敗者の思想を正しく知って行かねばならない」

 銀狼の一撃を蒼炎の壁で押し止め、範囲外に逃れてから、すぐさまヘルガは反撃を開始してくる。憂いを帯びた表情を覗かせる彼女が眼前へと展開する、百余りの無数の蒼炎弾。忙しなく押し寄せる大群を前にして、先んじて対処へと移ったのはかの銀狼。床を削り上げる爪撃が立ち昇らせる銀光の柱は、迫る炎弾を弾いて見せ、一切の被害を被る事無く脅威を退ける事に成功する。
 味方の支援を成功させた事に心躍る銀狼の姿、しかし直後に彼女が見せる異変に思わず意識を一瞬だけ取られる。現状、戦いに対する影響は無いと見えるが、万が一の事を考えて、気には留めておくべき事だろう。共に新しい時代を築き上げる同志なのだ、此処で失う訳にはいかない。

 炎弾の直後に加速した敵は銀狼、そして己という順で近接による攻撃を仕掛けて来る。其々の手が振り抜かれ、斬撃を描く様な軌道で襲い来る炎撃を前にして、咄嗟の判断で地面を蹴り飛ばして左横への回避へと移る。
 刹那、右脇腹を中心に荒れ狂う激痛の波。完全な直撃は避けられたものの、回避するに当たっての初動が遅れたが為に、一撃が右脇腹を掠めたのだ。その威力を示すが如く、掠めた部位に刻まれる火傷。身体強化によって常人以上の耐久を得ていたからこそ、消し炭にならずに済んだ、と言うだけでも如何に脅威であるかが窺える事だろう。

「だが、我々が目を向けねばならない物は多い。混迷を極めるこの時代、悠長に考えていくだけの余裕はない。
 だからこそ、敗者は明日を生きて、勝者にそれを伝えて行く必要がある」

 それでも、痛みを何とか堪えながら、敵を見据えて反撃へと移る。属性の細分化が意味の無い物となった今、撃ち出す属性は無論、最大限の威力を発揮できる混沌の形。双刃を手放し、代わりに右手の掌へと収束させて行く魔力。全身を循環する魔力の一割を掻き集めて行きながら、大地の疾走を開始する。
 大地を踏み締める度に加速して行きながら、肉薄する直言に跳躍。敵の頭上を目掛けて振り下ろされる右手の掌から放出されるは、白と黒とが織り成す混沌の輝剣。単発の威力だけを追及して放つ一撃、真っ向からの勝負へと挑みかかるが、果たして。

>ヘルガ・アポザンスキー イアン・ガグンラーズ

3日前 No.1381

憎悪の黒炎 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【時空防衛連盟本部/周辺市街地/ニケ・エタンセル】

「知るか。いい歳こいて寝ぼけたこと抜かしてんじゃねえよ。

無差別殺人の女帝サマと一緒にするな」

吠え散らすパージルクの顔面目掛け、唾でも吐きかけかねない忌々しげな表情。敵対しつつもある種理解を示し合っていた二人の間に、もう永遠に埋めようのない溝が生まれた瞬間であった。
この時を境に、ニケの目的は『説得』から『殺害』へと変わってしまった。もう二度と古代の土を踏ませるつもりはない。未来からも、この世からも叩き出す。
だからこその激昂と切り札だったのだが…衝突する怨嗟と怨嗟。黒い焔に黒い雷。技の発動者を確かめるまでもない。アランだ。あろうことか味方サイドの人間が止めに入った。
ニケが抗議の声を上げる間も無く始まるは、帝国に与することを余儀なくされた"レイヴン・ロウ"としての想起。告白。ニケと寸分違わぬ過去を、いや遥かに上回ると言っていい絶望を、屈辱を味わってきた男の、血を吐くような言の葉。
犠牲者だからこそ、本来復讐に生きる鬼と成り果ててもおかしくないからこそ、至れるであろう一つの境地。敵を恨むより、仲間を愛する。喪った過去に囚われるより、現在(いま)あるものを抱きしめる。

間違いない、これが正解だ。仇を討ったところで心の霧は晴れない。雲は陽の光を遮り続ける。そんなことは…そんなことはわかっている。

「おいおい。これはお前の言う、"二度と悲劇の起こらない未来"のために必要なことなんだぜ?

いいか!パージルク・ナズグルは!クソッタレな帝国の種は、今もこうして生きてやがんだ!

種を潰さない限り、また何度でも繰り返される!今だってそうだろうが…!」

わかってはいるが…もう理屈などで、この心は、身体は止められない。おまけにパージルクは、ここ未来に於いても同じことを繰り返していた。彼女の言う"第二人種"の虐殺をだ。
これを廃さずしてなんとする。彼女の死はどうしても必要なことなのだ。

「それをやり遂げるのに、お前も力を貸してくれると思ってたんだがな。

ガッカリだよ。アラン」

立ち塞がる親友の右肩を掴み、押しのけて前へ進む。両足や脇腹に負った傷が、真っ赤な血を噴くのにも構わず。憎悪の化身となって、突き進む。
彼の隣を通り過ぎた時の彼女は、どこか悲しげな表情をしていたが…それが何を指すのかは本人にしかわからない。思い起こされる痛ましい記憶の数々か。友に辛辣な言葉を吐きかけてしまったが故か。
しかし、如何なる苦しみを背負おうと、この使命だけは果たさなくてはなるまい。もう一人の親友にも理解されないかもしれない。二人の気持ちを裏切った心無い怪物と誹りを受けるかもしれない。
それでも。肉親亡き今、家族同然に愛した彼らの未来を守るためには、これしか方法は残されていないのだ。

故に、やり遂げる。

「いいこと言うじゃねえか、女帝サマ。

消えろよ、コイツを仕留める気がないヤツはよ」

"殺す度胸が無いなら失せろ"と一喝するパージルクに、嘲るような笑いを以て賛同する。ペストマスクの怪物から放たれる闇の光線を迎え撃つは、負けず劣らずの黒さに染まった灼熱の光線。
ことごとく相殺に終わったものの、これ以上何を望もうか。数も半分以下に減らすことが出来ている。初撃と二撃目で被弾を無視しながら前進した以上、もうこれ以上の傷は負えないというのが彼女の考えであった。
結果としてあれだけ罵った味方への援護にもなっているというのは、非道の仮面を被ってなお優しさを捨てきれない、復讐の血に染まりきれない彼女の性根故か…

「どこまで未練タラタラだ!

あの世でホンモノと再会すりゃあいいだろうが!」

呼び寄せた"あの人"とやらを、一応紛い物だと認識していることを知り、意外そうな表情を浮かべる。しかし、だからといって彼女が歩みを止めるうもない。怒りが収まるはずもない。
もう一度『太古の牙』を撃つだけの力が回復していないと見るや、黒い焔の大小様々な塊を複数生成して浮かべる。計30個ほどの小さなものと中くらいのものは、異形を破壊するべく。
計20個ほどの大きなものは、当然パージルクへ。中でも一際大きい、両腕を広げたくらいのサイズを誇る一つに限っては、魔力で以て強化した肉体による、熾烈極まりない蹴りを以て撃ち出す。
戦闘不能に追い込むのでも、攻撃を相殺し続けて平行線を辿るのでもない。"パージルクとあの怪物を殺す"。ただそれだけに特化した、怒りの具現とも呼ぶべき集中砲火が炸裂した。

>>パージルク・ナズグル、レイヴン・ロウ、魔大老エスト、マロン・アベンシス

3日前 No.1382

黒鴉 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【時空防衛連盟本部/周辺市街地/レイヴン・ロウ】

 怨嗟の焔と怨嗟の雷。報復を願う意志が生み出す暴虐な力を激突させる中で、自身に掛かる負荷の余りに血反吐を吐き、心で燃え滾る憎悪の焔の駆られるがままに拳を強く握り締めながらも、口に出して紡ぐ言葉の数々で狂乱する親友を止めんと尽力する。復讐とは、誰かが終止符を打たない限り、延々と連鎖して行く終わり無き物。此処で止めねば、また悲劇が繰り返されると訴え掛けるが。
 それでも、怒り狂う親友を止めるには至らない。自分の右肩を掴んでは押し退け、復讐を完遂させるが為に彼女は女帝の下へと一歩一歩と踏み締めて行く。その過程の中で吐き出された失望の言葉。それは此方の台詞だと言わんばかりに、心の中で憤りが増して行く。冷徹な判断の下、止まらなければ全てを殺すと言う算段が、湧き起こる感情によって消え去り――代わりに、力づくでも止めると言う選択が浮き出て来る。

「……がっかりなのはこっちの台詞だ、ニケ。お前も大切なモノを奪われた者からこそ、理解してくれるとは思っていた。
 あんな外道であろうとも、今も大切に思っている奴は確かに居るんだ。それこそ、其処の大剣使い――マロン・アベンシスのようにな」

 其々の手で引き抜く銃剣。憎悪と猛烈な殺意の具現たる黒雷を刃に纏わせると、黒翼を大きく羽搏かせて、空へと浮く。

「お前の言う通り、女帝を殺せば確かに一つの種は潰えるだろう。だが、それは同時に別の種が芽吹く事を意味する。
 誰かにとっての大切なモノを奪ったお前に対する、復讐が始まるんだ!
 ……これが最後の警告だ! これで止まらないのなら、今から俺はお前を殺しに掛かる!
 其処まで堕ちているのなら、俺はもう親友だとは思わない。ただの赤の他人として、処理するだけだ……!」

 迫り来る闇の光線を、身体が傷つく事も厭わずに強引に突破しながら空を駆け抜け。再び女帝を庇う様にして彼女の行く手へと立ちはだかると、無数の黒き雷剣を周囲に侍らせ、それらを操り黒焔の塊を迎撃して行く。一際大きい巨大な塊、それに対しては構える双刃を交差させ、巨大な黒雷の刃を生み出し、振り下ろして両断する。
 一部は迎撃し切れずに逃した他、負荷に更なる負荷を加えた事も相まって、己の身体は内部でより一層激しく傷ついて行く。吐き出す血反吐の量は先よりも増し、刻々と死へと近づいて行っている事が実感できる。だが、まだ死ぬ訳には行かないとして意志を更に強め。最後の警告を兼ねて、ニケの周囲へと黒雷の剣を飛ばす。止まらなければ、今度は直撃させると言う意志を込めて。

(……マロン、エスト。少しの間、女帝と奴はお前達に任せる。
 俺はこいつを何とかしなくてはならない……)

 言葉を交わしているだけの余裕は無く、心の中で女帝とかの怪物を二人に委ねる。まだ自分にとっての親友である彼女を、放っておく訳には行かないのだ。

>パージルク・ナズグル マロン・アベンシス エスト ニケ・エタンセル

3日前 No.1383

鮮やかに、ときに無慈悲に── @libragreen ★iPhone=tgA6sy8CRm

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3日前 No.1384

ある男の敗北 @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【大統領官邸/庭園/ヴァイスハイト・インテグラーレ】

ヴァイスハイトの目論見は見事成功した。打ち込まれた劇薬はバビロンの全身を駆け巡り、体の自由を奪い去る。哀れ、大仰に語り続けた魔人は力無く地面に倒れ伏す。
痛みと疲労で倒れそうになるのを堪え、肩で呼吸をしながら、地に臥せる男の最期を眺める。
呼吸を整えようとして大きく息を吸い込むと銃創が酷く傷んで呻き、咳き込む。ヴァイスハイトもまた深傷を負わされている。最早長居は無用。バビロンを連行する為に救援を呼ぼうとした、その時だった。

ヴァイスハイトは、信じられないものを目の当たりにする。

『まだだ、まだ終わらねえさ』

口を動かす事さえままならない筈の男が、流暢に語る様を。

「――な」


――己の辿った道のりを誇らしく語りながら、ゆらりと立ち上がる、ただ一人の魔人の姿を。


「有り得ない……! 何故動ける……!?」

ヴァイスハイトは驚愕と困惑の入り雑じった表情を浮かべ、魔人が平然と復活するのを見ていた。見ているしか、出来なかったのだ。
直後、先刻とは比べものにならない程の超威力の暴力がヴァイスハイトを襲う。回し蹴りだけは間一髪で屈んで避けたものの、最早それまでだった。重機さえひしゃげさせるだろう渾身の右ストレートを、防御行動も取る事が出来ないまま受けてしまう。

「ガ、ハッ……」

鈍い破裂音が響いた後に夥しい量の血を吐いて、ヴァイスハイトはどたりと倒れ伏す。間違いなく内臓のいくつかが潰れたのだろう。即死していないのが不思議な程だ。奇しくも勝利を確信した先程と真逆の構図――否、それ以上の結果となった。
バビロンはけろりとしているのに対して、ヴァイスハイトは息も絶え絶えだ。起き上がるだけの体力すら残ってはいない。

「馬鹿、な……あれが効いていなかった、のか……?」

掠れ掠れで今にも消え入りそうな声で、無意味だと分かっていながら切り札を破った能力について問い質そうとする。
尤も、結論から言えば"それ"に種など無い。ただバビロンと言う異次元にいる男が『俺なら出来る』と思い込んだ。その思い込みを実現した。"それだけ"の話だ。

「俺は……死ぬ訳には……」

地に臥せり、抵抗も出来ない。正しく絶体絶命の状況だが、それでもヴァイスハイトはまだ生への執着を見せる。
それは死にたくない、等と言う未練がましい生存欲求に依るものではない。

――――二度と、フォルトゥナを一人にしないと約束して――――

――――共に過ごせるのなら、きっと――――


……己を罪の渦中から救った人との誓いが、全てに代えても支えるべき人の言葉が、今にも途切れそうなヴァイスハイトの意識を繋ぎ止めていた。
永く後悔し続けた彼にとって、それこそが全てだったからだ。ある種の呪いとも言えるだろうその感情こそが、彼を未だ死から遠ざけ続けている。

「まだ……俺、は……ユフィ、フィル……」

だがしかし、その命は間違いなく風前の灯。何もせずとも力尽きるであろう、際の際だ。
最早ヴァイスハイトの命は、彼を見下ろす魔人の采配一つに委ねられている。

>>バビロン

2日前 No.1385

バビロン @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_BXv

【 大統領官邸/庭園/ダン・マッケーニ=バビロン 】

 振るった蹴りが空を引き裂き、魔拳がヴァイスハイトへと突き刺さった。骨を砕き、内臓を潰す。
 べこりと奇妙なくぼみが出来ているようにさえ、ヴァイスハイトは感じられただろう。
 事実、バビロンが感じたのはそうなっていてもおかしくはない手応え。

 内臓は確実につぶれただろう。潰れただろう。
 超威力の拳が齎したのは、敵対者の体内をミンチに変えるという結末だった。

「いいや? 効いていたさ」

 吐血により赤黒く染め上げられた庭園。
 倒れ伏したヴァイスハイトを見下ろす形で、バビロンは眼前に立った。

「ソイツを撃ち込まれれば、ヒトならまず間違いなく死ぬ」
「猛獣だろうが地に伏せるのは間違いねぇよ。喰らった俺が保証してやろう」
「いいや、断言してもいいね――まず無理だ。ヘルガだろうが、決めれば一撃だよ」

 黄金の林檎を喰らう者は、何時の神話においても力を手に入れて来た。
 神に愛されし子は、恩寵を受けることで強大な力を得た恵まれた存在だ。
 そうでない凡人がその領域に辿り着く方法は一つ――力を自身に取り込むこと。それも、自壊覚悟で。
 "神話越え"を目指して走り続けた全ての者達が、求めてやまなかった黄金の林檎。
 その理不尽極まる能力の一片が、詠唱<ランゲージ>に呼応し解放される。

「心底シビれた、憧れた、そして思った――テメェを超えてぇと」
   、   、   、   、   、   、   、  ・・・
「だからいっちょやってみるかと、本気でやってみたのさ。すると出来た」

 ヴァイスハイトの猛毒に対し、自身の出力を"引き上げた"。
 毒への抗体を本気で作るよう脳に命じ、暴走させる。
 しかし、素体に見合わぬ無理なスペックの拡張は、肉体に膨大な負荷がかかり最悪死ぬ。
 まして今回のヴァイスハイトの猛毒は、レオンハルトの本気に等しいクラスの力だった。
 此方もそれなりに引き上げなければ死ぬのは目に見えていただろう。

「見ろ、俺は致死の猛毒を受けても生き延びている! 俺はやったのだ!
 現実の無理と無謀に打ち勝ち、踏破してみせた!」

 隕石を茶碗で受け止めるような暴挙を、しかし――。


「やっぱり本気は最高だ! どんな馬鹿げた不可能も、可能に変えることが出来る!
 夢物語だと嘲笑う連中に、俺は出来たぞとまた一つ証明することが出来たんだからなァ!?」


 ――受け止め、覚醒した。

 「俺ならきっと出来る」。
 自己の内在世界を何処までも押し広げ、拡張し、他者の世界を飲み干していく。
 そして、相手の実力に追いつき――大口を開けて船飲み干すリヴァイアサンが如く上回ってゆく。
 それこそがダン・マッケーニ=バビロンの異能<デュナミス>。
 この世に存在するありとあらゆる不可能は、彼の手によって「可能」へと変えられていく。
 彼の前では「限界」は陳腐な妄想へと堕ち果て、賢者達はすべからく戯言を吐く道化<ピエロ>と化す。

 何時まで経っても、ヴァイスハイトから次の攻撃が来ない。
 彼の怒りは、彼の気概は、彼の執念は、果たして一体どこへ行ってしまったのだろうか。

「おいおい……どうして覚醒しないんだ?」
「俺はやっと温まってきたとこなんだ、お前のおかげでよ」
「だというのに何やってんだ、ええ? そのお前が、挨拶代わりの一発ぐらいで死ぬなよな?」

 容赦なく、その腹部を踏みつけて笑う。
 何度も、何度も、生き残った内臓も全て掻き混ぜんが勢いで。


「――此処からがウィニングロードの始まりじゃねぇか。限界超えようぜ、本気で掛かって来いよォ!」


 見下ろすバビロンの目は爛々と輝いている。
 何処までも猛る焔が如く、何時でも飲み干せる、と。

「それとも、アレか?」
「ああいや、燃料には十分か。ユーフォリアは動じないだろうが、さてお前なら――」

 ふと、思い当たることでもあったかのように。

「インテグラーレ議員のことは残念だったなぁ。アイツも覚醒して牢の一つでもブチ破るかと思ったんだが」
「お前聞いたよな? 何故苦しみがわかるかって。その答えを今から提示してやろう」

 語り掛ける言葉は、悪魔の囁きでしかない。
 それは、全ての発端となったあの事件――。

「アレは大変だった。だが、それに見合う英雄――ユーフォリアが出てきたから良しとしよう。
 何故なら、アイツは戻ってきてくれたのだから! 苦難の道を、茨の道を、それでもと昇ってきてくれた!」

 無邪気に、笑っていた。
 己の塔が出来あがったとでも言わんばかりに、決定的な一言を告げる。


「ラファエレ・インテグラーレ疑獄事件。
 そしてユーフォリア・インテグラーレの時空防衛連盟への左遷――あれ全部俺が仕込んだ」
「嘘だと思うならコイツを見るといいさ」


 バビロンは、狂笑<わら>っていた。
 ヴァイスハイトの前にぶちまけた、折り畳まれた書類。
 一枚の紙に書かれた「機密文書」、部下や他の官僚に対して宛てたそれの責任者の名前にハッキリと刻まれている。
 ダン・マッケーニ=バビロン、――全ての事件の首謀者であるということを示す名前が。

>ヴァイスハイト

2日前 No.1386

クルト @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_8gk

【大統領官邸/シチュエーションルーム/クルト・ライヒナム】


   状況分析/標的は離脱した/追撃は容易。
   残り二名/散開して各個に行動/優先順位は低い、無視で構うまい。


 死神の腕は、死神に魅入られたもの全てが宿す生命の熱を奪うもの。
 其の名は氷結地獄よりの来訪者、善も悪も男も女も老人も若人も、皆平等に殺す殺戮者。
 オートメーションのように淡々と暗殺を実行し。しかし、それが失敗したと見て追撃を掛けるよりも、クルトの視界には撤退する標的と駆けつける援軍が認識される方が早く。
 今後のクルトの行動はそこで確定した。即時殺害が成れば是し―――そもそもクルト自身が紛れもなく“そこで殺す”つもりで奇襲を仕掛けたわけだが―――されど、その失敗を如何に素早く挽回出来るのかが戦闘者の鉄則だ。それで逃げられると思っているなら、彼の死神に対する危機認識が………傀儡の女王に対する危機認識が、足りていないにも程がある。

 とどのつまり、あの女はバビロンという自走する爆弾を投げつけておきながら、
 それが成功することを最初から計算に入れていない。災害を誘導することを策略の初手に突っ込んだ程度に過ぎない。アンノウンにしてイレギュラーである彼がユーフォリア・インテグラーレを“殺す”ことが出来るならばそれで良く、しかしそうでない場合に関して幾つも蜘蛛糸を張り巡らせてこその暗躍者というものだ。
 つまり―――仮に逃がしたところで、十分に追える。想定され得るポイントを含め、この大統領官邸の警備会社と各種システムは文字通り買収済み。それがミシャール・ルクセンの元に出向いたことさえ確認したのなら、十分追撃と抹殺のチャンスがある。逃れ得ぬ運命こそが死なれば、それを振るう死神から逃れる道理はない。


 態勢を立て直す。拳を握り、外套が割れた窓より差し込む風に揺られている。
 ゆらりと亡霊のようにそれを動かし、獲物を意識の中に組み込んだ。
 脚は地面を踏みしめたまま、その両腕が手に嵌められた黒い手袋を外して仕舞う。
 外されたその先、指から掌から腕から、彼の手の全てが触れ、クルトという暗殺者が纏う空気そのものの温度ががくりと下がったように思えたのは、錯覚か―――それとも。

 殺す前の通過儀礼など必要はない。クルト・ライヒナムという人間に限って言えば尚更のこと。
 どんな人間でも、“引き金を引く”“命を奪う”という儀式を行うためには理由が要るが―――彼という男にはそれが無い。仮令この場で一斉に包囲され、銃口を向けられていようが、何ら動揺も興奮もすることはなかっただろう。


   安い挑発/買う意味なし/優先順位の変更もないが/標的はこちらだ。
   オーダーを再確認/英雄を殺す/“身内”を殺せば英雄は錆び付く/最善ではないが、次善。


 黒い外套をはためかせながら、一切言葉に取り合うことなく近付く。
 目前まで二発ほどの銃弾が迫って来ているにも関わらず、平然と―――そう、平然と。

 言葉の一つさえも発することはないのは、パフォーマンスでもなんでもない。
 そもそも戦闘状況において、いちいち言葉を発し、平行線になるだけの理屈をぶつけることの無意味さは語るに及ばない。クルトにとっての彼女たちは、ユーフォリアという標的を追うルートに存在する障害だ。
 そこに優劣などあろうはずがない。どんな人間だろうが、どんな来歴を持っていようが。
 殺せば死ぬのだ。それが分かっている以上、男の魔手は揺るがない。いちいちこれから殺す人間の気持ちに酌量余地を持つほどクルトは標的にコミュニケーションを取るつもりはなかったし、彼はそもそもある部分において救いようがないほど歪み、狂い、揺るがないが故に………その挙動には一切の無駄がない。

 雨風によって穿たれ、削られ、鍛え終わった巌のように。
 彼という死神は、ヒトを殺すことのスキルとスペックに関しては完成され切っている。

 さて。
 その銃口を向ける少女と、彼女を護る騎士は、ともすれば己の心臓を食い破るだろう。


   ■■■■■/そうでなければ、■の■■がない/そのためにも殺す。
   嗚呼、その啖呵は実に■■■■/願わくばそれが■■で終わらぬよう。


 向けられた銃弾、威力と速度に関しては想定範囲で戦術規模。
 白光を放つそれの見た目は派手だが、銃口から火線の予測は可能。

  死神は轟と風音を立てて、地面を踏み抜き走り出す。

 踏み抜きと同時の跳躍はしかし縦方向への上昇を微塵も持たず、銃弾の上方向スレスレをぎりぎり飛ぶような飛翔の挙動を披露する。最短距離と最短動作、射撃直後のラグと隙間を見逃さない、距離にして10m如何のそれを瞬き一つの間に詰める神速。そして何より、少しでも飛び方を間違えれば被弾/直撃を招くリスキーな挙動。
 自分の挙動に自信があるのかと言われれば是。ただし、それだけに限らない。
 撃たれたがっていたのかと言われるとこれは否。であるに、解答はただ一つ。


 ―――文字通り、それが“何かを殺すための最短動作だから”に他ならない。
    攻撃直後の隙を突くという意味において、時間は1秒に満たぬ刹那さえも、惜しい。


 黒衣をはためかせ、死神が近づく―――死神は片方の腕を振り翳し、無造作に薙ぎ払い。
     、    、    、   同時に姿勢を空中で組み替え少女へ蹴撃を放つ。

 なにもない虚空を薙ぎ払っただけのそれは、しかし。
 薙いだ大気中の水分を瞬時に凝固させ、割れる硝子片のように鋭利、かつ鋭い氷刃を無数に発生させた。一つ一つがさながら掘削用のドリルのように、官邸の壁一つならば構わず貫通する程度の速度と鋭さを兼ね備える、いわば“氷柱針”だ。それはアルカディアから前後の退路を奪うように展開されると同時、エルドラッドの割り込む余地を刈り取る。
 より正確に言うならば、介入してきた第三者であるエルドラッドを即座に前衛《フォワード》と見抜いたが故の処置だ。広範囲に散らす攻撃は“どこに何が飛ぶかを把握しているクルト以外の”動きを著しく制限する。破壊しながら突っ切るにしても、即座に割り込みに掛かる時間と余裕は持つまい。

 その挙動とほぼ同時に放った蹴撃は、さながら横殴りに襲い掛かるギロチンのよう。
 狙いはアルカディア・クアドリフォリオの首の骨。直撃≒即死を狙った文字通りの殺し手であり、そこに温情や手心と言った要素は微塵もない。前後の牽制と奇襲を織り交ぜた上での、疾風怒濤の一撃。
 何より速度を維持して繰り出す打撃故に、攻撃は電光石火の一撃離脱―――相手に反撃の暇を与えることなく、即座に戦場の端まで離脱。シチュエーションルームの壁を軽く蹴るようにして停止し、今度はアルカディア、エルドラッドの両名から距離を取った場所で地面にその掌を叩き付ける。

 ………叩き付けた先に意識を向けていたのなら、その光景の異様さを識るだろう。
    彼の掌が触れた室内の床が急速に凍て付き、加速的に氷床を広げていくその有様に。

 底冷えするような冷気は、淡々とした殺意に入り混じって空間を支配する。
 それに物怖じし、距離を取ったクルトにその場で攻撃を仕掛けようなどと考え―――あるいは、“接近して反撃を”などと考えていたのならばそこで文字通りの詰みだ。
 彼の掌と大気中の水分を介し、男の掌から半径10mほどは数秒と立たずに氷の平原と化した。そこで足を付けて居ようものなら………流石に直接ではない、全身とは行かずとも、そのまま足元から凍て付き、容赦なく狙いの的となるだろう。


 弾丸回避と同時に急接近。
 勢いを殺さぬままに氷柱の広範囲射撃で牽制、同時に蹴撃で即座にアルカディアへ一撃必殺狙い。
 そのまま離脱すると同時に、接近を読んで足元からの凍結。―――モノも言わず、しかし“おまえを殺す”という意図のみは、いかに戦いに身を置かぬ人間だろうが、本能として把握できるほどの、淡々かつ苛烈なる殺人者の流儀が二人を出迎える。


 ―――死神の肉体に熱と呼ぶべきものは、もうなかった。
    いくら、あらゆる場所の熱をかき集めたとしても。彼がその身体に熱を帯びることはもうなく。


 ―――故に彼は、摩訶鉢特摩からの使者なのだ。
    生命を刈り取り、収穫する者。かつて死神に追われて、今は死神に成った者。


>アルカディア・クアドリフォリオ、エルドラッド・イルシオン

2日前 No.1387

人類昇華への道 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【歴史是正機構本部/丞相室(壁崩壊)/ヘルガ・アポザンスキー】

人の歴史は、いつの時代も争いの歴史であった。人類にとって、"敵"という言葉は何とも便利なものなのだ。例えば、国がまとまらず、内部だけではどうにもならない時。
そのような際は外部に敵を作ることで、国民の団結を促せる。勝手に敵と認定された方は溜まったものではないが、その後戦いに発展したとして負けてしまえば、その扱いは悲惨なものとなるだろう。
勝者は、敗者の歴史を面白おかしく書き換えることが出来る。特に、今のようなインターネットの発展していない時代であれば、尚更のことだ。古代や中世の文献は、皆勝者によって紡がれてきたもの。
敵国の記述は、果たしてどれだけ正しいといえるだろうか。主観だけでは、正しく物事を見ることは出来ない。だからこそ、ヘルガは勝利こそが正義であり、敗北は死と何ら変わりないと考えた。

「貴様の言う通りだ。だが、歴史とはそういうものに過ぎない。敗者となった時点で、発言権はなくなったも同然だ。勝者は自らの思想で敗者を塗り潰す。悠久の昔から繰り返されてきた必然を、今更変えられるとでもいうのか?」

ダグラスの理論は正しい。勝者が好きなように作る歴史に、価値はないも同然だ。故に、ヘルガは人類の歴史というものを軽視している。そんなものは、結局のところ勝者にとって都合よく書き換えられているものだ、と。
今の世界政府が倒れなければ、未来においても同じことが起きていたに違いない。いくら情報社会とはいえ、どうしても民衆の目の届かない部分はある。そうしたところで不正を働いても、何らかの形で表沙汰にならない限りは、真相は闇の中なのだ。
一体どれほどの人間が、無実の罪で投獄されてきたのだろう。一体どれほどの人間が、過去に犯した罪を隠したまま生きているのだろう。世界政府の官僚は、一部を除き、皆私腹を肥やすためには手段を選ばない連中であった。
権力という箕を着て、安全圏から大衆を虐げ自らだけは利益を得る。地位を脅かされそうになれば、争い事となるまえに相手を失脚させ、安全を確保する。
そんな連鎖が、世界政府を木偶の坊のような役立たずの組織へと変えたのだ。表から彼らに挑んだところで、ラファエレやユーフォリアと同じ道を歩むだけ。何としてでもあの腐り切った豚共を排除するため、ヘルガは裏の道を進む決心をしたのだ。
彼女は、汚職に勝つためには、こちらも汚い手段を使わなければならない、と考えている。綺麗事を並べたところで、戦いの舞台にすら立つ前に力を奪われるようでは、全て無意味なのだから。

(……変えられるのかも知れんな。少なくとも、世界は貴様らを選んだ。もはや私の思想は、所詮選ばれなかった者の戯言だ)

再び、ヘルガの表情が憂いを帯びる。先程、歴史は勝者によって作られるものだと語った。しかし、現実として、歴史是正機構は敗北の道を突き進んでいる。この運命は、変えようがない。
即ちこれは、自分の思想が間違っていたということではないか、と彼女は内心複雑な感情を抱いていた。ここまでして、時空防衛連盟と世界政府を打ち倒す策を練り、実行したとしても勝てない。定められた運命などという言葉は軽々しく使いたくはないが、まるでそうであったかのようにすら感じる。
とはいえ、彼らの作る世界に、自分の居場所がないことだけは明らかだ。何せ、自分は世界の転覆を目論んだテロリスト。助かる道理などなく、それを求めることすら烏滸がましい。

自らの放った無数の炎弾の行方を追いながら、ヘルガは思う。ここで死ぬことが、自分の運命なのだと。彼らに殺されることが、自分の人生の終着点なのだ。
それでも、抗うことをやめない彼女。自分でも、生きたいと思っているのか死にたいと思っているのか分からないが、もはやそういうことはどうでもよい。これはある種、意地のようなものだ。
炎の弾幕は、イアンが展開した銀色の柱によって防がれる。だが、これは牽制の一撃。本命は、次なる近距離での炎撃だ。二人はいずれも、完全に凌ぎ切ることが出来ず、その身を焼かれる。
普通の炎能力者とは規模の違う超高温の炎に触れれば、どうなるかは想像に難くない。たとえ掠っただけであっても、彼らは壮絶な痛みを感じていることだろう。

反撃に移るイアンとダグラスを視界に収めながら、ヘルガは瞬時に後退する。銀狼は跳躍から続け様に光線を放つが、どうも見掛け倒しとのようであり、威力はそれほどでもないようだ。
集中すべきは、続く裁定者の一撃。手数で攻める戦法が通用しないと判断したのか、彼は威力を重視する方針に切り替えてきた。直撃は避けなければ、重傷は免れない。
イアンの攻撃を難なく躱した後、巨大な炎を地面から吹き上がらせることによって輝剣の勢いを削ごうとするが、完全に止めきるには至らず、ヘルガの左肩に深い傷が刻まれる。
飛び退きつつ、苦悶の表情を浮かべて右手で傷を押さえるヘルガ。流れ出す鮮血。こうして痛みを味わうのも、いつ以来だろうか。戦闘に支障はないものの、血が滴り落ちていく度に、着実に自分が死へと近付いていることを認識する。

己の能力で傷口を焼き、荒療治で止血を施しながら、彼女は体内のエネルギーを解き放つ。刹那、彼女の背後に、小型の太陽が出現したかのような錯覚が、二人を襲う。
その太陽を背に大きく宙へと飛翔するヘルガ、地上の両者を見つめながら、溢れ出る炎の奔流を身にまとい、空中で宙返りしながら、勢いよく撃ち出した。
空気すらも焦がし、蒸発させるかの如き強烈な炎の光線が、イアンとダグラスに向けて放たれる。速度も尋常ではなく、視認してから動いたのではまず間に合わないだろう。
最後の最後に、自分自身が生きた証を刻み付けるかのように、ヘルガは鬼気迫る表情を浮かべる。完全に防御を無視した一撃。隙を狙われれば危険なことは分かっていたが、これは"必然の選択"なのだ。

>イアン・ガグンラーズ、ダグラス・マクファーデン

2日前 No.1388

究極一番星 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【歴史是正機構本部/丞相室(壁崩壊)/イアン・ガグンラーズ】

かつてのリーダーとして、かつての部下として、戦いの中でも思いの丈をぶつけ合うヘルガとダグラス。その全てを理解することは能わずとも、懸命に二人の会話に耳を傾ける。
この戦いが『ただ力を振るって生き抜けばいい』ものではないことは、イアンと言えど徐々にわかりかけてきた。時空防衛連盟と歴史是正機構。片や、陽の下に戦う正義の使徒。時空の守護者。片や、暗躍を重ねた犯罪者集団。禁忌を犯す者。
ただし、完全な"善"と"悪"という、安直な二極化は避けねばなるまい。互いに張り詰めた想いから来る、筋の通った思想があって――思い描いた理想の未来があって。
そうだ。見方を変えれば、機構もまた、世界の未来を案じていたのだから。蔓延る澱んだ空気を、腐り落ちた政界を、何より人類の行く末をなんとかしたいと願ったが故の非道。
確かに褒められたものではない。如何なる理由があろうと、暴力や侵略行為は許されたことはない。

だが。彼らを一括りに"犯罪者"と呼び、必死に訴えかける声にすら耳を傾けないのであれば、同じ過ちが繰り返されることとなる。

否。我々が次代の悪となる。

「ま、負けたら死ななきゃダメなの?

キャプテンはボクを仲間にしてくれたよ…?」

刹那、丞相の面を覆う憂いの色。心理や言葉に込めたメッセージは読み取れなくとも、こういったワンシーンを見逃さない鋭さは流石獣といったところか。
あの瞬間、確かに彼女は葛藤していた。眼前まで迫った敗北に、肩に手をかけようとする死神に、折れず踏みとどまった心を曇らされていた。
"敗者は消えなくてはならず、その全てが否定される"という世の定め。ヘルガの言葉によって気付かされたイアンもまた、連盟が自分を受け入れてくれた時のことを思い出して動揺していた。
本来、この無駄な思考に価値はない。重みが違いすぎるのだ。たかだか盗み食いを原因とした取っ組み合いと、世界を巡っての二大勢力の衝突とでは。
それでもイアンは真剣に考えていた。彼女がこの先どうなるのか。彼女らが信じた理想は、崩壊する機構と共に埋もれていってしまうのか。そして何より、自分達はどうすべきか。

考えて、考えて…考えに考えた。まだ考えた。これでもかと考えた。

して、導き出された答えとは。


「うおおおおおおおおおおおお!

わっかんないいいいいいいいいい!」


雄叫び。半ばヤケクソじみた突進。狼の姿のまま駆けに駆け、躍り出たのはダグラスの前方。神炎の照射は――穢れた下界を焼き尽くす天火の柱は、もうすぐそこへと迫ってきている。
このままでは防御もままならず、相方の動きすら阻害しかねない暴挙。一体全体、彼女の狙いとは。敵が己が生き様を刻もうとする真ん前で、何をしでかそうというのか。

「うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!」

受け止めた。人の姿へと戻ったかと思うと、湧出するオーラを全て胸の前に集め、盾そのものとなって受け止めた。
当然タダでは済まされない。障壁ごしに伝わる熱が容赦なくその身を焼き、体力ばかりか生命力すらも奪い去っていく。けたたましいまでの悲鳴が、激痛、苦痛、そして迫る死の証明だ。
見る見るうちにオーラも焼き尽くされていき、絶望的なまでの威力さに耐え切れなくなったイアンは、ラガーマンにタックルを受けたかの如く弾かれ、押し込まれる。

それでも諦めない。もう一度体勢を立て直し、ガッツポーズもさながらの姿勢で全身に力を込める。そうして踏ん張るうちに、ダグラスに背中が触れようかというギリギリのところで、彼女は猛熱の全てを受けきることに成功したのだった。

「止めたぜ!だっ…ダーさん見たか。見たなぁ…!

ボクのチカラを……!」

燃えさしのような姿で振り向く。服も全て焼け落ち、顔を見なければイアンとわからないほどの重傷。いくら魔族と言えど、こうなってしまえば強靭さも生命力もあったものではない。
もう間もなく彼女の時は"止まる"。腐敗の名残が完全に消え失せるより早く。歴史是正機構が真の敗北を迎えるより早く。未来はおろか、戦いの終焉すらも見届けることなく、あの世へ逝ってしまう。

そして、相方に口を開かせる間も無く、その瞬間は来た。ぐらりと傾く身体。揺れや不意の風に怯むといったような、命ある者に起こる現象ではない。もう生も力も意志も失いかけ、何かの支えなくしては立っていられないが故のもの――

「ッ!!!???

うぎゅううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」

突如、現世に引き戻されるかのような、再度の動悸。止まったはずの心臓から生み出され、燃え尽きたはずの全身へ染みわたる温もり。
時を同じくして湧出するは、もう出尽くしたはずの白銀の波動。先を争うかのように四方八方へと溢れ出し、その凄まじさは身体を食い破らんばかり。
身を焼かれるのとはベクトルの違う苦しみに、たまらずイアンがあげるのは咆哮にも似た悲鳴。血を吐き散らすかのような痛ましさ。

(苦…しいっ…!


キャプテン…助けてぇ!)

もう叫ぼうにも声が出ない。喉をかきむしりながら、心の中で助けを求める。中世の魔族達。ロンカ村の人々。連盟の面々。そして、自分を受け入れてくれたユーフォリア。
漏れ出すオーラはますます多くなり、勢いも激しさを増していく。せっかく死の淵から引き戻されたというのに、これでは余計な苦しみを与えられているようにしか見えない。

だが。目を凝らせば、その様をよく見ていれば、とある一つの推測に辿り着くはずだ。
まるで"あまりに過剰なエネルギーを排出している"ようではないか、と。その規模は最早イアンの姿が見えないまでに至っている。仮にこの推測が正しければ…今起きているのは、紛れもない『覚醒』だ。
答えはもう間もなく導き出される。遂に逃がしきれなくなった力が器を膨張させ、文字通りの大爆発が巻き起こった先にいるのは――

「…?

えっ?えっ?」

一番星。太陽に見下ろされようが、凛と輝く宵の明星だ。
傷一つ見当たらない身体。癖もなくサラリと伸びた髪。全身を包む白いワンピース。裾が自身の起こした風で揺れている。
先程とは何もかもが違う、まるで生まれ変わったような自分。視線は掌から胸、そして全身へと移る。動ける。声も出せる。

そして何より、無限に力が湧いてくる。

「…なるほど、面白いじゃねえか。

これが新しいオレ様ってわけだぁ!」

戸惑いを捨て、進化を、覚醒を受け入れた途端、口を突いて言葉が飛び出す。以前とは打って変わった荒々しい口調。そして走り出す。速い。疾い。一歩で数キロメートルを走破しているかのようだ。
踏み込む足は床に亀裂を生じさせ、あまりの速度に切り裂かれた空間は歪み、暴風を巻き起こす。その様は言い表すならば"究極"。アルティメット。極みに迫ることの何たるかを体現している。
神速を以て瞬時に距離を詰めるや、唐突なブレーキ。前のめりになるとともに、獲物に掴みかかる肉食獣の如く両腕を振り被る。背後で白銀のオーラが大狼の姿形を成す。発するは百獣の王たる絶対強者に相応しい、威厳と力強さに満ちた咆哮。

「覇者の牙ァッッッ!!!!!」

なお余りある力の下にエネルギー塊を生成し、奥義の名を叫ぶと共に烈蹴で以て射出。時を同じくして背後の大狼ももう一吼えし、巨大な口を開けてヘルガに襲い掛かる。
『月創のアルテミス』すら遠く突き放す絶技。目覚める前とは全てが違う。解き放たれたのだ。時空の彼方――ロンカ村にて覗いた、あの圧倒的なまでのチカラの片鱗が。完全に解放された。

もう無力ではない。もう愚かではない。今の彼女なら、戦いの流れを変えられる。ダグラスと一緒に答えを掴みにいける。

イアン・ガグンラーズの覚醒。それは、希望をもたらし未来を切り拓く"究極一番星"が、守護者達の頭上に煌めく瞬間であった。

>>ヘルガ・アポザンスキー、ダグラス・マクファーデン

2日前 No.1389

首狩りヴァルキリー @kyouzin ★XC6leNwSoH_LoN

【大統領官邸/大統領執務室/ミシャール・ルクセン】

音を立てて雷電を撒き散らしていた斧、その光の刀身がふっと消える。
それは戦闘終了を意味する、どうやら、あのクソガキの思惑を一つ潰せたようだ、気分がいい。
だが、自分の自己満足が出来て十分、と言う発想に至るほど、ミシャールは自分が演じている"役柄"に染まれておらず、地面に倒れこんだイルグナーに自分の服の一部を破って、最低限の止血を行い、あの偉そうな大統領が使っていた無駄に豪華な椅子にでも置いておく。

流石に、彼女を連れて連盟の奴に引き渡しに行く、なんて事が出来る状況ではない。
自分はこうすると決めたのだから、そこは、多少イルグナーに辛い思いであるとか、死の危険性が発生したとでも、やり遂げねばならない。
そう、所詮は、彼女と戦って、殺すのではなく、止めたと言うのも、自分の自己満足に過ぎない。 ここからは、自己満足ではなく、目的のために動かねば。

さて、しばらく経っただろうか、相変わらずまともにセキュリティビットの駆逐も出来ない愚か者共の様子を残存機の数と言う材料から推測していたミシャールだったが、あるタイミングから一気にそれらが激減し始めた。
なるほど……そろそろかと、ミシャールは両手に持つ斧の光の刀身を再度出現させる。

「ハッ、ようやく来たか。 随分と遅かったじゃあないか、えぇ?」

開かれた扉を見て、ミシャールはこの場に転がっている者たちを殺した時に付いた返り血を拭い、その目を三人に向けた。
随分と遅かった、煽るようにそう問いかけたミシャールであったが、その面子を見て到着が遅れた理由は大体察しが付いていた。 本当なら、目を瞑り「良かったじゃあないか」なんて声を掛ける所だったが、ここは戦場であり、ユーフォリアのお家事情の進展にいちいち喜び、隙を晒す事があってはならない。

まずは、特段相手の言葉を遮ることも無く、ミシャールは三者三様の問いを聞く、仮に反逆者であっても、質問を聞いて答えるぐらいは許されるだろう。 ただ、余裕を持っている殺戮者として振舞えればそれで良い。

――ひとつめ
なんて言って、ミシャールはシフォンのほうを見て指を一本立ててから問いに答える。

「好きにしろ。 アタシはこいつに興味が無い、とっとと部下でも呼んで回収するこったね」

――ふたつめ
今度はフォルトゥナのほうを見て、答える。
だが、ここは本当に思っていることを答えない、それを語れば自分の書いたシナリオが台無しだ、だから、ミシャールは目を見開き、いかにも「狂人」のように振舞う。

「あんたらが弱くて無能だからさ、転がってる"これ"にも言える事だがね。 強い者が支配する、それは当然の事だろう? アタシはそれを馬鹿共に最も分かりやすい方法で伝えた、そんな所かねぇ?」

――最後に

「大統領を殺した、はむかってきた馬鹿を一人気絶させた。 そして今からアタシが頂点に立つにあたって邪魔なあんたを殺す。 話は終わりだ、始めようじゃあないか。 ユーフォリア、元からあんたの間抜け面にはウンザリしてたのさ。 会話するだけでも不快で仕方が無い」

ユーフォリアの問いかけに対してミシャールはそのように冷たく返した、その建前も何も無い直球な物言いその物は、確かにミシャールが好む物だが、それでも、仮にユーフォリアを敵対者と見ていたとしても、ありえないような乱暴で、感情に篭っていないように思える言い回しだった。
だが、多少トーンに違和感があっても問題ない、民衆が見るのは「言葉」だけで、実際に発音なんて物を聞いて、違和感に気づけるのはこの場に居る者だけだ。

ミシャールの両腕に持っている大斧に雷電が走る、そのままミシャールは片方の斧を勢いよく振るい、斧に走った雷電を、そのまま攻撃手段としてこの場に撒き散らした。

>ユーフォリア・インテグラーレ フォルトゥナ・インテグラーレ シフォン・ヴァンディール

2日前 No.1390

悪童 @prismriver☆kFuUk0otHg5u ★TZkXkdft22_rY9

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2日前 No.1391

焔雷の若騎士 @zero45 ★h2BOlEz4kD_sgs

【大統領官邸/シチュエーションルーム/エルドラッド・イルシオン】

 合流を果たした少女の、先程まで従姉や従兄に見せていた態度とは一転して、猫を被っていない素の態度を見せるその姿は、彼女をよく知らない者達にとっては正しく驚きもの。その経歴からして今までの関わりが皆無であったフォルトゥナの反応は兎も角として、ユーフォリアやヴァイスハイト、ダグラスと言った面々が見たとすれば、各々どの様な反応を返すか、或いは返したのだろうか。其処は想像を膨らませて、予想を立てるしかない。
 エルドラッドが此処へとやって来る事は、既にダグラスを通して伝わっていたのか。待っていたと言わんばかりに、幼馴染はいつも通りの愛称で彼の事を呼ぶ。こうして合流するより前にも、彼女が刺客を相手に強気な態度を取れた要因が、偏に彼の存在である事からも、彼女が如何に多大な信頼を寄せているかが窺える事だろう。
 見れば解る無事な姿、されど彼女を案じるが故に言葉の上でも無事を確かめようとする彼を、若干の照れ笑いしながらもその脇腹を小突いて誤魔化す幼馴染。緊迫とした雰囲気など知った事かと言わんばかりの、独自の雰囲気を形成する二人。だが、態々言うまでも無く此処は戦場であり、いつまでもそんな雰囲気で居る訳には行かない。

「あー……確かに。いかにも刺客って感じ」

 ダグラスを通して伝えられた"刺客"の存在、それが彼女の指差すターバンの男である事を知ると、即座に攻撃目標として彼を認識する。彼女のそれっぽいと言う表現には、大いに同意する。一目見ただけで、この男に漂う危険な雰囲気を感じ取る事が出来る位に、彼の姿は"刺客"という言葉を宛がうに相応しい物を持っていた。
 先んじて双銃による魔力の弾丸をぶっ放す幼馴染。白光に輝く二発の魔弾を前にして、刺客は一言も発さずして近づいてきて、抹殺対象を追うルート上に存在する障害を排除する為に、突き進んでくる。殺害する事のみに特化した最短の動作は、たった一つの誤差で被弾を招く様な危険を孕みながらも、しかしその誤差が引き当てられる事は無い。
 薙ぎ払われる腕、同時に幼馴染の首骨を狙った蹴撃。薙ぎ払う虚空の中に存在する水分を凝固させ、生み出すは無数の鋭利な氷の刃。広範囲に渡って撃ち出される氷柱針、それらは個々の進む軌道の一切を把握している死神以外の動作を著しく抑制し、無慈悲極まる断首の一撃の炸裂を確かな物へと変えんとする。

「葬式とはまた物騒な。
 まあ、でも……アイツには主役になって貰わないと」

 それを前にして、悠長に見ているなどと言う思考は彼には存在しない。最短の道を切り開くようにして、片手を起点に直線上に放射するは焔。高熱を帯びた緋色が、行く手を阻む氷柱針の一部を遍く溶かし尽くし。刹那の身体強化を重ねてから、地を蹴り猛烈な加速を得ると、滑り込む様な動きを見せると共に幼馴染の眼前へと躍り出る。迫る死神の蹴撃、それが彼女の首を穿つ前に腕を差し出して、それを受け止める。
 迸る腕の痛み。強化によって手にした強靭さを以てしても、相殺し切れぬ衝撃が我が身を苛む。そして、何より敵の動きは疾風怒濤による一撃離脱。此方が反撃を講ずる間も無く、距離を取っては次の動作へと移っている。

「後退して奴に撃ちまくれ!」

 叩き付けられる掌を介して、水分を凍結させて作り出される氷の平原。単純な足場の悪化では済むまいと警戒を強めるエルドラッドは、幼馴染に後方へと退いてから双銃を敵に乱射する様に告げる。同時に、自身も地を蹴ると、魔術で磁力を操り空中を浮遊する。そしてそのまま空中を高速で駆け抜けながら、自身の周囲に針の様な無数の雷を顕現させると、死神に向けて一気に撃ち出す。広範囲に渡って撒き散らす雷電を直撃させたが最期、その身へと高圧電流を流して感電死させる魂胆だ。
 だが、此処から更に肉薄して接近戦を挑む事はない。攻撃を放ち終えると、そのまま後退して、いつでも味方が襲撃されても応じられる様に、空中で静止を保つ。

>クルト・ライヒナム アルカディア・クアドリフォリオ

2日前 No.1392

麗人 @sable ★8O0rjcH5GN_8gk

【大統領官邸/大統領執務室/シフォン・ヴァンディール】

対峙。幕開けを目前にして、最後通牒の如く突き付けられる三者三様の問い。敗北した者の処遇。蛮行の根源にある思想。それら全てに真剣な面持ちで耳を傾ける。
幸いにも、これでほぼ間違いないだろうという答えが出せた。彼女は"演じている"。程度の大小までは判別しきれないが、心の底から暴力と圧政を愛しているはずはない。
さて、その推測に至った根拠を挙げるとしよう。第一にイルグナーの処遇に関してだが、彼女は言った。『興味が無い』と。息の根を止められていないのは、大した興味もなく、殺意を向けられていなかったが故の結果と見ることが出来よう。
しかしだ。傷ついた彼女の身体のうち、出血を生じるような裂傷を負った箇所に目をやると、やや矛盾じみた点が浮かび上がってくる。止血が施されているのだ。ミシャールの召し物と同じ柄の布によって。
興味がない、歯向かったから気絶させたと言いつつ、自分の衣類をあてがっての応急処置。その後は、大統領が腰を下ろしていたであろう、一際豪華な椅子に安置。
果たしてこれが、心無い殺人鬼の成すことであろうか。

第二に、ユーフォリアに対する宣戦布告。歯に衣着せない言葉選びはミシャール特有のものだが、どうも声色が"らしくない"。特徴的な言い回しすらもが違和感を感じさせ、挙句感情すら篭っていないように聞こえてくる。敵愾心や悪意の類など、微塵も匂いはしない。
以上の二点からして、彼女の発言は本心から来るものではないと見て間違いなさそうだ。となると浮上するのは脅迫や洗脳の線だが、彼女ほどの人間がその手の謀略に絡め取られるとは到底思えない。

ここから先は憶測の域を出ないが、シフォンは顔を曇らせた。ミシャールは、これ以外に世界を救う手立てはないと…そう思い詰めていたのではないか。
腐敗が蔓延し、澱んだ世界。正々堂々、真っ向勝負を愛する清廉潔白の徒には、暗中への抹消という破滅が待ち受けている。ラファエレ・インテグラーレだけではない。副総統、シャル・ド・ノブリージュの父君も、失意のうちに世を去った。そして従姉妹のショコラ・ヴァンディールまでもが危険に見舞われている。
正義であることが不利益たる世の中。正直者がバカを見るとはこのことか。最早不義なくして革新など望めようはずもない。

故に、ミシャール・ルクセンは…

「…」

聡明なユーフォリアとその肉親なら、もう老婆の苦心に勘付いていてもおかしくない。彼女らの顔にちらと目をやり、意思疎通の意味を込めて小さく頷く。
直後、双斧より雷電が迸る。危険にいち早く反応したシフォンは、振りかざす拳に氷の魔力を込めて立ち向かう。青白い光を放つ右腕で以て、大きく弧を描いた後の放出。吹き荒れるは『ブリザードウォール』を遥かに上回る猛吹雪。
絶対零度の突風が轟雷を阻み、忽ち凍り付かせてしまう。更にコースを変えた吹雪は、イルグナーの周囲の温度を急激に下げ、彼女を包囲するようにして硬氷の結界を生み出した。これで交戦中に巻き添えを食わせてしまうことはない。
単純な威力の上昇はもちろん、追加で生成される囲い(サークル)によって追撃をも阻む、雪原の女神の加護が如き防御。その名も『ブリザードサークル』。

「散らかった部屋は嫌いと言いましたけれど…

下手なお芝居はもっと好きませんことよ」

>>ミシャール・ルクセン、ユーフォリア・インテグラーレ、フォルトゥナ・インテグラーレ

1日前 No.1393

ブリッツガール @sable ★iPhone=AwSGOZkqWk

【大統領官邸/シチュエーションルーム/アルカディア・クアドリフォリオ】

相棒の参戦が何よりの後押しとなり、俄然勢いづくアルカディア。

しかし危機に陥る。出会い頭の光弾は、極限まで無駄を省いた挙動によって無力化され。自信と闘志に火照った頬は、降り注ぐ氷針の纏う冷気によって、瞬く間に熱を奪われていく。
彼女の双銃はこの手数に対応できるようには造られていないし、どれだけ運動神経が良かろうと所詮齢15の子供。"目標を仕留める"、この一点に己が全てを注ぐ殺し屋についていけるはずもないのだ。
これが現実。先程までの威勢はどこへやら、終焉の瞬間を立ち尽くして待つだけの案山子に成り果てる…が、ここでもエルドラッドの介入が彼女を助けてくれた。
直上に放射される炎は、行動を阻害する氷針の数を減らし。首を折りとらんばかりの蹴撃までもが、彼の身体を張った防御によって食い止められる。
魔力による身体強化あってこその行動だろうが、それを加味しても彼の身体には深いダメージが刻まれているはずだ。

「ごっ、ごめん…」

礼より先に詫びが飛び出してしまう。あれだけ大口を叩いておいてこのザマという不甲斐なさが、見る見るうちに彼女から覇気を奪っていく。
だがこの程度でしょぼくれていては、相棒の奮闘を無駄にすることになる。それだけは絶対にゴメンだと、もう一度両足に力を込めて魔力を充填。
敵の動きを見れば、拳を打ち込んだポイントを中心に、瞬く間に床が凍結していく。あれだけの使い手ともなれば、単なる行動の阻害程度では収まらないはずだ。
一たび彼の領域(フィールド)に踏み入ろうものなら、モノ言わぬ氷像にでもされてしまうのではないか――そんな不安がよぎる。ただこちらは遠距離攻撃の使い手、あの布陣を前にしても打てる手がある。
エルドラッドの指示も納得だ。彼が実力を発揮しづらい局面なら尚更、こちらが奮起せねばなるまい。

「了解!いくよ、【砲撃】っ!」

フル充填が完了した双銃を構え、インターバルをほとんど挟まずに7連射。反動と魔力の消費に思わず肩で息をつくが、都合14発の魔法弾がきっと成果を挙げてくれる。
仮に回避されてしまっても、着弾の衝撃によって氷を引き剥がすことが出来るだろう。

立て続けに魔力を少量込め、意趣返しとばかりに展開するは妨害目的の弾幕。小ぶりで一発当たりの火力は大したものではないが、無理に突破して十数発被弾したとなると、無視できない量のダメージが蓄積することとなる。
敵の飛び道具の威力減退にも繋がる、見た目以上の頼もしさを備えた弾幕を張りつつ、発射の反動で距離も確保。一時はどうなることかと思ったが、エルドラッドの援護と指示のおかげで見事に持ち直した。
やはり二人は最高のパートナーなのだ。前衛と後衛だけでなく、こういった役回りまで見事に分担されているが故に。

>>クルト・ライヒナム、エルドラッド・イルシオン

1日前 No.1394

ストライフ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_8gk

【大統領官邸/???(ホテル屋上)/ストライフ・ロスチャイルド】


 女の話をしよう。

 さて。
 愛情の反対は無関心などとは良くも言うが。

 ―――そもそも、人間のリソースは無限ではない。
    遍く全てに意識を配り、関心を持ち、心を砕くような輩がもしも居るとしたのならば。
    ………きっと、だれしもが口を揃えてこう言い放つだろう。

 ・・・・・・・・・・・・
 そんなものは人間ではない。

 どんな生物だろうが欲と情はある。
 見たいものを見たいと思う欲望、見たくないものから目を逸らす怠惰。
 そうした感情があることを、傀儡の女王は良く知っている。そしてそれは、ヒトという生命体が結局は世界全てに自分というリソースを割くことの出来ない生き物であると知っているも同然である。結局この世の智慧を持つイキモノというやつは、自分以外の何かを抱くことは出来ないのだと、現実的に弁えている。
 であるから、彼女だって同じ。見たいものは見るし、当然見たくないものは見ない。分からないと思ったものは“分からないまま”運用するし、その価値すらないと思えば可及的速やかに抹消する。そうして忘れ去られて塵になっていくものが幾ら積み上がったところで、世界という巨きな歯車が錆び付くことはないと知っているからだ。

 それがヒトの社会だ。
 自分だけを抱いた輩の小さな歯車が、たまたま噛み合って完成するだけの歪な機構。
 やがて音を立てて砂の城のように崩れていき、やがて飽きもせず“今度こそは”とくみ上げられて再編する。小さな譲らない領域《セカイ》の集まりは、噛み合わないパーツ同士がぶつかり合えば容易く崩壊するほどに脆く儚くちっぽけだ。傀儡の女王と名を冠したそいつは、それを良く知っている。
 それを知っていながら、人間という生き物は性懲りもせず自分の領域《セカイ》を広げていく。いずれ窮屈になるほど広がってしまえば、必ず誰かのパーツを壊し始めると分かっているのに。………その繰り返しが、今日に至るまでの人類史と呼ぶべきものを作り上げて来たことを、そいつは良く知っている。

 だから彼女は、他人の為と、さも善良であることが免罪符であるように語る人間が殊更に苦手で嫌いだった。出来もしないことを、分からないことを、頭に蛆でも沸いたかのような理屈でこねくり回す―――そんな輩が兎にも角にも、自分という小さな領域《セカイ》に突如として出現した癌細胞かなにかの如く嫌いだった。

 だって、そんなものは人間ですらないからだ。
 決して譲らない領域《セカイ》のかたちを持ちながら、他のパーツを食い荒らす無自覚の捕食者。

   それを人々はこう指すのだと知っている。
   清廉なる鋼の神。機械仕掛けの、最後にやって来て全てを解決するもの。
   人間社会という歯車の主。聖人と言う名前の、何処のどんな誰よりも狂っている形のパーツ。
   歴史が作った自浄作用ですらない、引き伸ばし、目を背けさせるためだけの輝かしい舞台装置。

 ・・・
 そいつは、それが嫌いだった。

 自分以外の何物かに、自分というセカイの主導権を渡すものかとさえ思っていた。
 それが賢者の行いであるというならば、女は喜んで愚者であることを望んでいた。

 だから―――。


>ザーシャ



【長いよ! と怒られたので何度かに分けて投稿させていただきます】

1日前 No.1395

ストライフ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_8gk

◇ ◆ ◇


「そーだよぉ?」
「たとえば、どうでもいいものに好き嫌いなんて言わないじゃない?
 だって、それを言ったら“関心がある”のを認めちゃうことになるからねぇ〜」


 口にした言葉は、彼女の言葉を“そうだ”と認めるように。
 無垢さと老獪さを織り交ぜた、いくつもの仮面を被ったような可憐な少女の笑顔が出迎えた。
 その感情を微塵も見せることなく、いつものような平常《ニュートラル》のままに応じる。愛想のいい笑顔と一緒に紡がれた言葉の調子は相も変わらず軽く、何処か的を得たような聡明さを見せていた。
 それこそが女の平常。他人という領域《セカイ》を侵すため、不要なものを知って偽装した結果。

  外観から声色、主義から主張。
  根っこの芯以外であるならば、自分という極小の世界を幾らでもクリエイトする。

   それは須く、ストライフ・ロスチャイルドがこれを重視していないが為だ。
   勝利し、私欲を満たす。君臨する女王はただ一人。
   傀儡の糸を手繰り寄せ、世界を犯して侵して冒すプレデターの願いなどそれだけ。

   勝つこと。最後に笑うこと。そんな、人間の普遍にして不変の欲望。
   それを、ちょっとばかり純度の高い主張とちょっと大仰な仕込みで口にしているに過ぎない。

 だから、それ以外の要素など最初からどれだけ煌びやかだろうが、ただの手札に過ぎない。
 中身がどうこう語る前に、まず外面が伴わなければ人間は寄ってこない。その感情を理解する気が無くとも、識っているからこそ彼女は有効活用した。それこそが、ストライフという女の根本だ。
 見た目麗しく天真爛漫、しかしてその実態は狡猾にして変幻自在。他者を篭絡し、陥落させ、支配して侵略する者。天秤に乗ったリスクリターンの内訳を見極めるための感覚を持ち合わせた伏魔殿の怪物。それこそがストライフ・ロスチャイルドという女のサガだ。そんな女だからこそ、その言葉は正論ではあるのだ。

 正論ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない。
 何故なら女が、正論に正論以上の価値を持たせようとはしていない。
 すべてをねじ伏せるような圧倒的な暴力も、百年先を見通すような天賦の叡智もない。が、だからこそ彼女は極大の悪党なのだ。彼女は誰よりも、世界というものを小さく見積もっている。
 それこそ、自分の掌に収まる小さな箱庭のように―――何時如何なる時も、その箱庭を必要なだけ育て、必要なだけ食い荒らし、必要なだけ侵し必要なだけ護り、弄ぶ傍観者。誰よりも自分に忠実だからこそ、彼女は誰よりも人間という生物を知り尽くし、誰よりも人間から“奪う”やり方を知っているというわけだ。
 それは彼女が最も欲しがるものを手にするために、必要なことであったから。


 ―――だから、それ以外は須くどうでも良かった。
    最後に笑い、その手元に勝利に値するものを収められるならば、なんでも。

 どうでもいいと思ったものに、人はリソースを割かない。それは当然の理屈だ。
 ストライフにとって、自分個人以外の全ては、極論を言えば“優劣はあるが、捨てたとしてもリカバリーが利く程度にはどうでもいい”道具でしかないのだ。

 どうでもいいから、どうなってしまっても良かった。
 生きていようが、死んでいようが、笑おうが泣こうが怒ろうが―――。

 ………あるいは、自分の手で殺そうが。自分の手元から離れようが。
    自分の生き写し、代替用の道具が紛失しようが、そこに過剰な感情など懐かない。


「(あーうん、釣られもしない。釣られてくれたらそれはそれで楽だったのに。
  いやーうん良いオトモダチ出来たわねあの子。なんだってこんなクソ面倒な―――こっほーん。ともあれ、流石に安全確保したとはいえ敵陣のど真ん中で社会勉強はミスだったかなー。誤差は修正修正、以後の指標にしましょっと)」

 ………それでも、強いて言うならばストライフには小さな誤算があった。
    彼女の存在だ。傀儡の女王はザーシャと言う名前を持つアンノウンのことを知らない。

 ましてそれが、失敗したらそれまで、と投げ棄てた道具を見つけ。
 その道具が発した蜘蛛糸《アラクネ》を手繰り寄せてやって来たなど、夢にも思っていなかった。とんだ誤算、とんだポカだと内心では自嘲気味に笑っていた―――のも、秒にして1秒と満たない。
 成功の秘訣は失敗から来るストレスを如何に“過去”にするかだ。女はそれを弁えているから、速やかに頭を切り替えた。過ちを気に病むことはなく、ただ認めて次の糧にするのが大人の特権であり、彼女はそれを忠実に実行しているだけに過ぎない。………本来ならばリスクの釣り合いが取れない戦闘行動を続けているのもそれが理由だ。

 彼女が向けている殺意が、どうも一過性の感情ではないことは明白だった。
 その理由は言うまでもないが、仮に“アレ”がいなくともそもそも性格と性質からして合うまい、とさえ思っていた。そのリスクを払拭するためには、どうあれ戦闘行為の結果に導き出されるものが必要だったというだけだ。


「そこまで嫌っちゃう? やだ、こんなにアプローチ掛けて来た癖に………」

「あっそれとも何か、届かないものが欲しかった系? だったらごめんね品切れなのです!
 再入荷の日時とかは特に決めていません! よっろしく〜!」

 だから、食い殺しに掛かった。
 如何なる失敗へのリカバリを考慮してこそであるが、最上を逃すほど日和見主義者でもない。
 リスクをリターンが上回る場合は大胆不敵。
 ザーシャという女を生かすリスクは、―――彼方が“そう”考えるように、此方にもありはしない。

 側面より迫る咢―――獣の牙のように獰猛で、処刑刀のように冷酷なる死の象徴。
 彼女の内側から流出し、飛び散った紅い液体が再構築されたのがその獣機二つを織り交ぜたような咢であるが、それを振るうと同時に打ち込まれた無数の杭はある意図を秘めて放たれたものでもある。無論狙いは彼女を一撃で食い潰すことではあったが、大々的な範囲攻撃というものは得てして人間の目を逸らさせるものだ。
 大きなものをバラまいて、その中に小さな本命、殺しの道具を仕込ませる………再三口にした“モノの殺し方”だが、それは戦闘行為以外でも変わらない。ある種の騙しの手品、ミスディレクションというやつである。もちろん、それが決まったのかと言われると堪えは否、彼女は当然咢から逃げ延びることを優先した。

 避けてもいいと笑って言った通りだ、“実際に避けて貰った方がありがたかった”。これらの着弾地点は全てこの高層ビルの屋上………突き刺さった杭は、今はそのままの形を保ち続けるだろう。少なくとも、今はまだ。
 少なくとも、全て叩き落とそうとしなかった時点で幾つかはそのまま突き刺さっている。最も杭への回避を捨てられた現状、ストライフが期待しているほど周囲に残留した杭の数は少ないわけだが―――それはそれだ。どう転んでも構わないように一手を打ったのだから、そこ自体にはなんとも思っていない。

 たった一本でも突き刺さってくれたのなら、それでいいのだ。

 ………距離を取った彼女に追撃を掛けることはない、徹底的な後の先。
    身体速度で後れを取るならば、思考速度で上回る。
    それが彼女の基本的なこの戦いのスタンスだから、攻めに行く理由と意味はない。

 ―――それにしても。


「はーりねーずみー! ………というか凄いわねー、病院行く?」
「良いとこ知ってるよ〜。痛みなく安らかに眠れそうなところとか〜」

 良くもまあ、生きているものだ、と。
 ストライフは内心で感嘆したように呟いた。

 胴三本、腕一本、右腿一本、左足一本、そして―――頭に一つ。
 ただでさえ傷だらけの少女は、事ここに至って血濡れのハリネズミもかくやの有様と化していた。グロテスクにも程がある、何処に出しても恥ずかしくないホラーの怪物そのものだ。
 これで一言も喋らないなら、正しく怪物の定義を全て満たしたとも言えるくらいに。

 刺さった個所は間違いなく急所もある。特に、頭。
 頭に刺さっておきながら生きているなどもはや人体構造も物理法則もあったものではない、物理的に人間を止めているのもいいところまで来た。………それだけに興味はあるが、しかし得体が知れないというのはそれだけでも脅威だ。
 つくづく惜しい。などと思いながら、ストライフは目を凝らし、その事態に気付いた。もうどちらの血かも分からないような滴る血を零しつつ、不敵な表情で紡いだ台詞を耳にした瞬間のことだった。


「はぇ?」
「(………いない? 逃げ―――有り得ない。何処かにいるな)」

 姿が、見えない。初めは自分の眼かなにかの異常を疑ったが、そうではない。それを確かめる手段がストライフには存在し、尚且つすこぶる自分が正常であるというのなら、後は本当に姿が消えたというだけだ。

 視界はもちろんのこととして。
 声や足音、服の擦れるような音も、風に乗ってくる匂いも、気配も、すべて。
 まさかこの期に及んで、あの手合いが逃げを選ぶとは思えない………であるなら、少し意識を傾ければ―――すぐにでも見つかった。ソラから屋上へと垂れてくる、見知った赤い液体だ。それを彼女は見逃さない。


「(判断ミス? 違うなこれ、誘いか)」
「(まあ、そもそも………上がるつもりないんだけど)」

 見逃さなかったが、ザーシャの思惑とは違う意図で彼女は動くことをしなかった。
 ただの一歩も動かないのは、後の先という盤石の姿勢を崩す気がなかったからだ。
 単にその方が、ストライフの見えている盤面の中では勝率が高いという事実があったからにほかならず、だからこそ彼女はその旋回にこそ意識を向けた。“外側”に意識を傾け、何らかの仕込みをした可能性を疑った。

 ………そうではない、と判断し終える。

 此方の手札に気付いた気配も今のところは無し。
 その判断を、彼女が降りてくる少し前に完成させたストライフは、再び血の盾を起動させた。
 一斉攻撃の合図を、吹きすさぶ風で感じ取ったからだ―――ストライフは少しだけ“あるもの”を動かして、未だ切り落とされっぱなしの左腕からより自身の領域《セカイ》を広げようとする。それは想定される規模の攻撃に対して、あまりにも彼女の攻撃が苛烈極まりないものだったからだ。

 頭上から迫ってくる大曲剣。真空刃を纏うそれの火力は理解済み。
 それを1段階上回る程度の防御を貼ればいい。

 落下する風の刃と槍。全方位から迫るそれは防御以外の手段がない。
 少なくともストライフは盤面の中でそう理解したが故に、同じ処置を取った。


「やっほ〜、蒼穹から女の子とはクールだねえ」

 違うのは、攻撃の仕方だ。
 彼女は先ほどのように全方位へのガードを展開したが、相違点が幾つかある。
 それは頭上の前面に、血の壁が集中しているという点だ。収束されたそれは、まるで食虫植物のようなぱっくりと大口を開けた罠へと変貌し、飛んできたザーシャを火に入る夏の虫だと嘲るように身構えていた。
 それは飛来する彼女の剣を引き裂かれながらも受け止め、胴体を食いちぎるように振るわれるだろう。どちらが早いかは言うまでもなくザーシャの方だが、運が良ければ腕のどちらかは持っていける正真正銘のクロスカウンター。

 ただし。
 側面、背面への防御はその分薄い。それはストライフが“その必要がない”と判断したが故のこと。ダメージを受けることを嫌っただけの構えならば、あれだけ長い時間の仕込みを仕掛けて来た以上必ず何かがある………と、判断したが故のこと。要は、自分が散々ばら頭の中で語って来た言葉と同じ理屈だった。

 大きく派手な陽動の中に、小さく地味な仕込みを入れる。
 人間を殺す時の基本は、そんなものだ。

 ストライフはそのリスクを嫌った。だから、特に背面の防御を緩めた―――何故かと言われたら、風の刃に自分を押して貰うためだ。ある理由で“足元に何かがある”ことだけはないと分かっていたが、予測が付かないからこそ彼女はそこのところに関して言えば盤石だった。留まったままの集中砲火から抜け出しつつ、反撃を狙う攻防一体の手。


「それじゃあ、抱き締めて―――」


 ………唯一の、失敗は。

    ストライフ・ロスチャイルドは戦う人間ではなく。
    なにより、未来を識るような超人でもなかったことだ。

 魔術の是非は当然知っている。
 ザーシャの行動に含まれるものが、風の魔術であることには理解を及ばせていた。




     、      、    だが、しかし。

     、      、  それが、どんな人間でも。


   、        、       、   風の刃が、内側から蠢いた。
   、        、       、   きっかけは、ただそれだけ。


   、      、    「―――、―――は?」



   、        、       、   それは、唸りを上げ腹の中で広がって。


.   、      、   「ちょ、嘘、待っ―――」


   、        、       、   女を、内側から文字通り“八つ裂き”にした。



    、      初めて見るものには、反応が遅れるものだ。


◇ ◆ ◇


>ザーシャ

1日前 No.1396

ストライフ @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_8gk

 まず足が飛んだ。作り直した足が、ちぎれて外周の風壁に激突して細切れになる。
 続いて胴体と四肢のパーツがはじけ飛ぶように飛び。
 ザーシャを食らうはずだった血の咢が原型を失うと、飛び散った臓器の山を大曲剣と槍が砕く。
 バラバラに散って砕け、広がっていく赤い海が再び屋上を満たす。
 ストライフの首だけが、無残に他のパーツと違って残っていた。原型をとどめない、肉塊だが。


 ………そう、どんな生き物でも。
       初めて見るものには、反応が遅れるものだ。


  臓器の中に、心臓に相当するパーツはなかった。
  八つ裂きになる直前、彼女はほんの少し前に足を踏み出していた。

  ………そもそも防御を行う時、彼女は“あるもの”を動かしていた。


 ―――だから。



>     、     、   .   おめでと、でも死ね

>     、     、   「―――Auf Wiederseh´n」




    ―――着地したザーシャの背中を、何かが強襲した。
       身体として5mほどになるだろう、巨大な質量を持つ何かだった。


    、   、   、   、  、  、 ・・
 ………およそ生物の声ではない、悍ましい声をした何かだった。




◇ ◆ ◇



. リトライ
 再構成。

 リスタート  リテイク  リライト  リコール
 再構成、再構成、再構成、再構成!





 さあ。種明かしと答え合わせをしよう。




 実際のところ、それは明確に決まった。
 ストライフ・ロスチャイルドが、ザーシャの罠に完全に掛かったのは否定のしようがない。
 肉が削げて皮が剥がれ骨を削って血をぶち撒ける。
 曰く“天真爛漫な少女”のガワが、無残なスプラッタ画像になったのが良い証拠だ。

 彼女は戦う人間ではない。思考速度はともかく、一手を仕掛ける速度では遅れる。
 後手こそ最善であったのは事実だが、それが“一歩も動かない”ことによる詰みを作ったのは明白だ。

 もう一度言う。
  、  、   、   、   、  、 ・・
   ストライフ・ロスチャイルドという人間の外面は、今の行動で粉砕された。

 しかし。繰り返す、それは外面だけだ。
 それは、あくまでもストライフ・ロスチャイルドという極小規模の世界/領域を押し留めるための肉の檻に他ならなかった。生命の循環を成すための器など、言ってしまえばどんなものだろうが“どうでもいい”のだ。

 彼女という存在を定義する最小単位の生命。
 それは心臓にして核。


      Revive  Restart Retry  Retake
「―――《再起動》《再構成》《再構成》《再構成》」



  かつて迫害の地位にあった魔族数千人を『素材』とし。
  圧縮することで完成した極小にして無尽蔵の循環を引き起こす永久機関。
  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 ・・・・・
  ストライフ・ロスチャイルドの意識を中核に宿して鳴動する、彼女の本体に他ならない。



 Code Of Paracelsus
 「《愚者の輝石》」




 ザーシャの背後に転がり、しかし即座に肉体を再構成して襲い掛かって来たもの。
 赤黒い鮮血を内から外へと放出し、地面にへばりついた液体を再結合して即座に“巨人”と呼ぶべき異形の生命を形成、即座にその内側に収まった心臓とも呼び難い黒い日食のようなヒカリを放つものがあった。
 それはノイズの走る声で紡いだ詠唱で以て、巨人を形成すると、構わず突撃を掛ける。
 愚直なタックルではあるが、今までとは比べ物にならないパワーとスピードは疲弊した彼女を一撃で吹き飛ばし転落させるだろう。それを示すだけの威力が、不意打ちであることも相まってその攻撃にはあった。


 そうとも、これが正解だ。
 ストライフ・ロスチャイルドは小さな一つの領域《セカイ》である。
  、   、   、    、    、   、   、   、  エイリアン
 世界という箱庭の中、いずれ崩れる人間社会の全てを否定しながら掌握する侵略者である。

 何物にも侵されず、何物をも侵し尽くすどす黒いプレデター。
        それ自体が永久の連環を生み出す愚者の願望。


 誰よりも浮かれ、誰よりも醒めている。
 誰よりも人間の愚を愛しく思い、誰よりも人間の愚に諦観する。

 愚かなる賢者、自らしか抱けぬが故に、自らを抱くことだけに特化した唯一無二の征服者。
 世界を飲み干す強欲とも、世界を取り巻く欲望ともまた違う。
 勝利し、支配する。ただそれだけのために、全てに無関心となった、傀儡の女王の正体だ。



「高かったんだよ、そのパーツ。その身体」
「でもあげる。あげた―――じゃあ、交換しないとねェ?」



 自らの基点とするべきものは、自らでしかない。
 何よりも強くそれを思ったが故に、彼女は“自分というイロで世界を塗り潰す”モノとなった。


 ―――かつてパラケルススと呼ばれた愚かなる賢者が。
    その手元に、世界を塗り替えるほどの大きなちからを作り出したように。

>ザーシャ

1日前 No.1397

時空の守護者 @infernus☆XQ6phrzcKMtR ★F7MrHN45jw_yO9

【大統領官邸/大統領執務室/ユーフォリア・インテグラーレ】

ユーフォリアが執務室へと到着してから遅れること数十秒、先に部屋に踏み入っていた二人に続くようにして姿を現したフォルトゥナの気配を感じつつも、視線はミシャールから逸らさない。
こうして彼女の前に、姉妹揃って登場したのは、当たり前のことだが初めてだ。世界政府の中でも良識派として尊敬していたミシャールに対し、ユーフォリアは自らの抱える事情を話したことがある。
他人を巻き込むことを嫌う彼女のことだ。全容を話した訳ではないが、勘のいいミシャールであれば簡単に察することが出来ただろう。しかし、幸せな結末の先に待っていたのは祝福などではなく、罵倒の言葉であった。
遅れた理由は分かっているはずなのに、彼女は敢えてそうした。今まで自分に接していた時は、猫を被っていたとでもいうのか。最初から狙いは、頂点に立つことだったというのか。
明らかに、無理をしているようにしか見えないミシャールの態度。何のためにそんなことをしているのかは未だに不明。それでも、彼女が大統領を"殺した"のは、疑いようのない事実。

「……貴方がこのようなやり方に頼るところは見たくなかった。あくまで暴力による革命を望むというのなら、私は全力でそれを止めなくてならない」

大統領とそれが率いる世界政府は、確かに巨悪であった。民衆の声には一切耳を傾けず、己を含めた上流階級のためだけに政治を行い、私腹を肥やすことばかりを優先する。
そうして立場が危うくなれば、反対派を何らかの方法で失脚させる、もしくは死へ追い込むことによって、長らくの間権力を揺るがされることなく、君臨し続けてきたのだ。
だからこそ、ユーフォリアは考えた。彼らのような不届き者は、真正面からの戦いで打ち倒さなければならない、と。いくら勝つためであろうと、悪事に手を染めてしまえば、その時点で汚職官僚らと変わりない存在となってしまう。
勿論、それが難しいことであるということは理解している。実際、ユーフォリアは防衛大臣となり、次の大統領選挙に立候補する直前というところで、時空防衛連盟総統へと左遷された。
父、ラファエレも、次期大統領候補として目され、期待されたところで、虚偽の罪をなすりつけられ、失脚させられたのだ。汚職官僚は、安定を維持するため、"戦いに発展させない"という手段を取るのである。
つまり、彼らはいざ戦いとなれば、作法を知らないが故、その時点で勝ち目がない。どんな仕打ちを受けようとも、一度さえ彼らに挑戦する権利を得ることが出来れば、悪夢は終わりを告げるはずであったのだ。

―――だが、その機会は永遠に訪れない。
何故なら、ミシャールが大統領を殺してしまったから。暴力という手段で、世界政府を破壊してしまったから。これによって、選挙という正当な手段でユーフォリアが勝利を収める可能性は、未来永劫失われることとなった。
彼女が大きな失望を抱いていたのは、それが原因だ。よりにもよってミシャールが、このようなことをするとは考えていなかった。更にその理由が、自分が頂点に立ちたいがためなどいう下らないものであったなんて。
とはいえ、ミシャールが嘘を吐いているのはほぼ確実だ。長らく接してきた身だからこそ、分かることもある。悪人を演じてはいるが、普段と若干声のトーンが違う。
どうして自分の本心を偽ってまで凶行に走らなければならなかったのかは、これから始まる戦いによって明らかにしていくしかない。少なくとも、攻撃そのものは本気。慢心している余裕などなかった。

部屋全体に撒き散らされた雷光を、ユーフォリアは瞬時に跳躍することで回避する。その間に、シフォンが猛吹雪による防御を展開し、それを抑え込んだ。
安全が確保されたことを認識し、着地するユーフォリア。間髪入れずに加速し、ミシャールの間合いへ。虹の光を両手に宿し、それを前方へ突き出すと同時に、強烈なレーザーを放つ。
相手の実力の高さは把握済み。この一撃で決まるはずがないと判断した彼女は、直ぐ様後退し、大技を解き放つ。宙返りをし、地表へ降り立つと同時に左手を大地へ、右手を真横へと伸ばし、ミシャールを見据えるユーフォリア。
刹那、巨大な虹の魔法陣が、執務室の床に描き出されていく。敵を中心に出現したそれは、次の瞬間眩い輝きを放ったかと思うと、凄まじい威力の虹の柱を天へと立ち昇らせた。
空間全体を包み込むほどの規模を誇る必殺の一撃。回避の余地は、ほぼ残されていない。あくまで殺意はないが、ここまでしなければミシャールは止められないと、彼女は考えているのだ。
美しい七色の煌めきが場の空気すらも清らかに変えていく中、ユーフォリアの表情は優れない。彼女の瞳はまるで、ミシャールに何かを訴えかけるかのように、哀愁を漂わせていた。

>ミシャール・ルクセン、フォルトゥナ・インテグラーレ、シフォン・ヴァンディール

1日前 No.1398

地を這う芋虫 @kyouzin ★XC6leNwSoH_LoN

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1日前 No.1399

カリー @karikari10 ★Android=GZn0EZmRVy

【大統領官邸/???(ホテル屋上)/橋川 清太郎】

機人との戦いで気絶した後、どこかしらの隊員の手で再び医務室へ運ばれる。今回は重傷といえる傷はなかったので左手足に本格処置を施すだけで終わった。それからは宛がわれている研究室で新装備の最終調整を完了させ、早々に準備を整えて出撃した次第だ。
現在は大統領官邸目指して上空を飛行しており、あと一分もしないうちに到着出来る。
ふと、目的地から戦闘のものらしき魔力反応を幾つかバイザーが捉える。どうやら宿泊施設の屋上から出ているらしい。望遠機能を使い、ウィンドウ方式でその地点を拡大。全身がほぼ紫一色の、貴族風の礼装に身を包んだ少女と、大曲剣を持った隻眼の女性がはっきりと映し出された。
後者には見覚えがある、連盟(うち)に協力者という形式で所属している人員の一人で、名前は確か……ザーシャといったか。それだけ思い出せれば充分、もうやることは決まったようなもの。
迷うことなく降下体勢に入った、視界の中で地上の建造物やら何やらが少しずつ迫りくる。自身の空気抵抗から生まれる、重厚な風切り音を尻目に二人を肉眼で捕捉、そろそろ着地の頃合か。

(これは……!?)

紫の少女が八つ裂きにされたかと思うと、その直後に変貌、肥大化しザーシャへ襲いかかろうとしている。

(あまり悠長にはしてられないな)

姿勢を逆起立から仁王立ちに近いそれへ変える。各スラスターで位置の微調整及び減速、床に穴を開けない程度の速度で鈍い衝突音と共に、二人の間に割って入る形で着地を成功させた。

「遅れ馳せながら、助太刀させてもらうよ」

現れたのは、灰と赤の機械鎧。常の白き姿ではなく更なる装甲と新たなる武具を携えし雄姿。堅牢極めし甲冑の奥に、脆弱ながらも確かな義心を秘めて。

PS-M-3352-GAWND・SwordPack装備型、ここに見参。

「はぁっ!」

掌底の要領で片腕だけを使い突進を受け止める。端から見れば馬鹿正直とも受け取られる手段だが、単純故に防御の観点でいえば有効だ。証拠としてザーシャは勿論のこと、こちらの装甲にもほぼダメージはない。SwordPackのパワーと防御力だからこそ出来る芸当である。
敵にも味方にも、この装備を披露するのは初めてだ。厳密にいうと一部の整備員は協力を扇いでいたので知られていたし、別に極秘というわけではなくまた特別知りたがる者もいなかった。よって結果として秘密兵器じみた体となったに過ぎない。

>>ザーシャ、ストライフ


【お相手よろしくお願いします】

1日前 No.1400

世界を駆ける者 @x5mas☆sECYEVcUXiI ★iPhone=zRxoq6YIp9

[時空防衛連盟/救護室/【リプレイサー】]

「――ああ、そこはメインパルスの……。そうそう、それでいい。後、なんかアタッチメントを着けてくれれば完璧なんだが……」

救護室の少々奥、人の往来が激しい区域に、黒服の奇術師の姿はあった。かの盗賊王と別れた彼は、戦闘の余波で受けた傷の――と言っても、ほんの僅かに表皮を裂かれただけではあるが――治療を受けていたのだ。
奇術師の右脚からは普段の銀色の補助装置は外されており、代わりに薬剤をたっぷりと染み込ませた包帯がグルグル巻きにされている。職員は確か、巻いて十数分もすれば、傷は勝手に塞がると言っていた。どうやら数千年の歳月は医療技術の進歩にも助力してくれたらしい。

「うーん、増血剤飲んでも頭痛は治らねーか……。後で鎮痛薬も貰っとくしかないな。頭痛薬も進化してんのかね?」

だから、脚の方は問題は無い。寧ろ気掛かりなのは、先から断続的に襲ってくる頭痛の方だ。奇術師はてっきり、出血多量による貧血が原因だと思っていたのだが、珍しくアテが外れた。今思えば、此処で目覚めた時も似た頭痛に襲われていた。脳内に靄が掛かるようなこの感覚……となると、やはり『あの力』が原因なのだろうか。

『千里眼』、人はこの奇怪な力をそう呼ぶのだろう。奇術師には何故か、世界を『文字列』として捉え、遍く全てを“俯瞰”することが出来るらしかった。昏睡から醒めた直後から、脳裏を過っていった無数の文字列。今でこそ制御が効くようになり始めたが、ずっとあの調子が続いていたなら、今頃気が触れていた所だ。

――奇術師が救護室を訪れたのは、何も傷の治癒だけを目的としたものではない。“絶対者”を始めとした『世界の歪み』、かの“黄金狂”が齎らした戦火の拡大、そして時空防衛連盟と歴史是正本部、世界を巡って争う二者の雌雄を決する戦い……それら全てを確実に『監視』するため、比較的安全な区域に退避しておく必要があったのだ。

仮にこの頭痛が偽物の千里眼によるものだとすれば、戦場で完全に解放するなど自殺行為も同然。見えていながら助力の一つも出来ないというのは少々心苦しいが、そこはきっと大丈夫だろう。彼らは紛れもなく『英雄』だ、そう簡単に破られることはあるまい。

それに、下手に移動が出来ないからと、機械の補修班が救護室に駐留してくれていたのは嬉しい誤算だった。先程、イカレてしまった補助装置を投げてみたら、多少の愚痴は吐きながらも修理を開始してくれた。異界産のブツではあるが、根底理論さえ同じならば大丈夫とのこと。十二分に頼もしいサポートだ。

「そんじゃ、ボチボチ始めるか……っとっと……」

それでは、器具の調整調整を待つ間に此方は『監視』体勢へ入っておこうか。グラつく意識を纏め上げ、踝に力を込める。多少足元がフラつくが、まだ倒れるには至るまい。眼裏を巡る熱の唸りを、眉間を押さえて耐え忍ぶ……

と、視界が敷衍を始めたちょうどその時。不意に、奇術師の背後から声が掛けられた。

『どうした、さっきからフラついて。ずっと寝込んでたのが祟ったか?』
「ん、あー……そうかもな。ある意味、それで間違っちゃいない。で、何だ、お前さん。とびっきりの頭痛薬でもくれるのか?」

声を掛けてきたのは、救護室常駐の職員の一人。ハシカワ――多分、古代で共闘した彼の事だろう――からの連絡を受け、昏倒状態の奇術師を受け取ったスタッフだったと聞いている。口調は然程深刻そうでもない、彼にしてみれば、ほんの軽口みたいなものだろう。ならば軽口で返してやるかと振り返った視界の中。奇術師は、妙な既視感を覚えた。

『あるにはある、と言っておこうか。欲しいなら渡すぞ。見たところ、コレは魔力を含めた治療薬の一種みたいだからな。頭痛でも効果は発揮する筈だ。』
「なるほど、そいつは中々イイこと聞けたが――アンタ、これをどこで受け取った?」

確かに言葉通り、彼の手には何かが転がっていた。凡そ治療薬とは思えない外見だ。これはまるで、飴玉のような――


『つい先程、此処に転がり込んできた協力者の一人から受け取った。これは簡易的な分析もしてあるし、少なくとも効果については信用できそうだ。で、どうする。貰っておくか?』
「ああ、いや。ソイツはもっと重傷負ってる奴に使ってくれ。多分、死んでさえなけりゃ、ソイツ一つで治せる筈だ。で、渡してきた奴は何処に居るよ?」
『今頃ベッドの上だろう。随分と疲弊してるようだったからな……。それじゃ、また。無理はするなよ。』

簡単な相槌を打って別れを告げる。次の瞬間には、奇術師の爪先はベッドの並ぶスペースへと向いていた。一つ、二つと列を越え、入口近くにまで至った時。奇術師は、あるベッドの前で静かに脚を止めた。

嗚呼、そうだとも。決まっている。飴玉なんぞを治療薬に使うなど、少なくとも奇術師には一人しか思い当たる人物がいない。奇術師は一人、そんな“最高に”馬鹿げたヤツを知っている。
そして――

「どうした、『相棒』。らしくないな。ダンスでも踊り過ぎちまったのか?」

――ソイツは今、此処に居る。

奇術師は、翡翠色の双眸をベッドに倒れた彼へ向け、“いつも通りに”皮肉混じりの声を掛けた。いつかと同じように、その口の端を半寸ほど引き上げて。

「あの時の話、覚えてるか。俺はまだ、『とっても素敵なバー』ってのを教えてもらってねーんだ。アンタにゃまだ、くたばってもらっちゃ困る。」

合縁奇縁とはよく言うが、つくづく運命とは不思議な織物だ。何に導かれるでもなく、世界線を越えた遥か先で。まさか、まさか、この懐かしい魔女野郎《ワーロック》に逢えるとは。
奇術師は内心で驚嘆と口笛を吹きながら、眠りに落ちかけた彼へと不敵に笑いかけた。

>>オーネット

【世界すらも越えた、再開の挨拶】

1日前 No.1401

悪女 @hal0406 ★Android=FuD56rsS9O

【大統領官邸/正門/エステランディア・フラムフラッド・エル・セルク・オディール】

――あーあ、遂にやった。うーん良い調教したものね。流石私ってところかしら〜。

ストラーヴが明確な殺意を以て元上官のフォッサに槍を突き立てた。まさしくそれは雷速の一撃。致命傷こそ避けた様だが、完全に回避するまでは出来なかったらしい。その凄惨な争いを見て、悪女はほくそ笑んでいる。
後は弱ったところに少し追撃を入れれば片が着く。勝敗は最早決した様なものだ。……ものだった。だが、しかし――……。

「……? ストラーヴ、どうしたの。ほら、もうあとちょっとよ。ほら、ほら、さっさとやっちゃって?」

ストラーヴの様子がおかしい事に気付いたのは、槍を突き立ててから暫く、フォッサに抱かれる様に静止していたからだ。
最初それをエステルは単に獲物に抵抗されて離れられずにいるだけだと思っていた。だがじっと観察していると、それはむしろストラーヴが己の意思で離れようとしていない様だった。それが何を意味するのか――理解出来ない程、エステルも馬鹿ではない。

「ちょ、ちょっと……冗談でしょ? ほら、早く、早く! もうあとちょっと何だから、出来るでしょ!? 何してるのよ!?」

……即ち。ストラーヴは肉欲の快楽から脱け出したのだ。全てを惚けせる快感の海ではなく、優しく抱き締め受け止める、その腕の温かさを求めたのだ。それは、悪女が理解こそすれど、決して持ち合わせないもの――それこそが、断絶を決定的にする最後のピースだったのだ。

状況が飲み込めた途端、エステルは面白い程に焦り始める。その顔から余裕の色は消え失せた。浮かべているのは、強がって見せる引き笑いだけだ。

――ちょっと嘘でしょ……!? 今ストラーヴが動かないってなったら、この後……!?

手駒を失った王将の末路を想えば、途端に血の気が失せる。悪女に特異な戦闘能力などはない。殆ど一般人と同じだ。かと言って、魔女の様に世界を手玉に取るだけの謀略も、魔人の様に全てを引っくり返すような理不尽な精神力も持たない。その上で、たった一つの手駒さえ失えばどうなるか……答えは火を見るよりも明らかだった。

「私よ私、エステル! 大至急官邸に戦闘ヘリ! 何故……って、そんなの私がピンチだからに決まってるでしょ!? 良いから早く!」

即座に連絡用端末を取り出して通信し、救援を要請する。最早強がりの笑みさえ消え失せ、青ざめた顔に浮かべるのは焦燥の色だけだ。頬をつうと伝った汗は、きっと暑さによるものでは無かったのだろう。

>>ストラーヴ、フォッサ

【済みません、大変お待たせ致しました……。】

1日前 No.1402

クルト @aroundight☆SdjaOljKHtOm ★msJh1WzJ3A_keJ

【大統領官邸/シチュエーションルーム/クルト・ライヒナム】


   手応えが浅い/打撃は成立したが狙い通りに非ず。
   追撃の気配無し/手を打つ速度はこちらが上/ならば問題は手数になるか。


 打撃の瞬間、脚に伝わる感覚は娘の首の骨を折った感触ではなかった。
 そちらを視認せずとも、確かに状況は伝わってくる―――原因は言うに及ばない、微かに感じられ、すぐさま消えた仄かな熱。この死神が舞い踊る戦場で“熱を感じる”というその状況こそが、クルトにとっては門外漢にカテゴライズされる魔法の行使であることを伝えてくれている。砲撃手の所為でないなら、残りは後者か。
 動きの筋は良い。感触からして剣ではなく腕と見るべきだが、それをへし折れなかったとなれば多少の強化を施した上での防御だったと考えられる。最も………軽い手傷ではないだろう。何より庇いに来たのは戦略的判断とも言えるが、今の行動への所作で概ねの検討はついた。初動で決まるならば申し分ないが、そうでなくとも釣りが来る。

 死神はこの場の誰よりも戦闘慣れしているが、だからこそ、それが齎す利を侮らない。
  、 ・・・
 ―――数の差だ。戦いとは極論、頭数を揃えるのが手っ取り早く戦力を向上させる基本手段となる。
    まして、それが烏合の衆ではない、意思の疎通が取れる輩であるというなら尚更のことだ。

 これらの初動における視線と態度、声色に含まれる感情が、少なくとも砲撃手とその騎士《ナイト》に一朝一夕ではない繋がりがあることを感じさせる。一笑に付しても構わないが、驕りは足元を救うものだ。
 死とは誰の上にでもやって来る。老若男女問わず、皆の元へと平等に。
 ………死神は、誰よりも死を贈って来たものだから。それを知っている。
 殺す事に手慣れているというのが、死を遠ざけられる証明であると驕れるような経験はしていない。何時だって、足元を疎かにしたものから死んでいく。死神に追いつかれる者は、何時も不運と自業自得が織り成すのだと知っている。であるから、クルトはその二人を侮るような真似はしなかった。

 ………何よりも、彼は■■していたからだ。
    正確には、ユーフォリア・インテグラーレに向けられたものだったのだが。

 しかし、それはこの際、別になんでも構わなかった。
 むしろ、ただ一度で終わることは命令の遂行という意味では最上だが、個人としては―――。


   射程からの後退/乗っては来ない/見込み通りに。
   追撃を確認/回避するべき/氷床には頓着しない/破壊されても別に構うまい。


 正面、弾丸の七連射。二挺拳銃が齎すバースト射撃は見掛け以上に制圧範囲に優れる。
 銃とは元々引き金を引くだけで効率よく人間を殺傷できる武器だ。
 射線と銃口の先を認識していれば回避は容易だが、その意図は妨害目的―――強引な突破を嫌ったが故の動作と見るか。一発、二発であれば問題ないが、あれを数発受け止めるというのは少しばかり骨が折れる。
 最も前方のみから繰り出される二次元的な弾幕だ、回避は容易だろう。そのままならば。
 指示を下したのは彼方の男。その当人が降り注ぐ稲妻のような魔弾を以てして火線を集中させ、頭上からの十字砲火を完成させている。対する砲撃手も余程そいつを信用………否、信頼しているのか、号令をかけてからのアクションに一切のラグがない。前者と後者の間での認識に齟齬があるとすれば、それは戦術面に関するものではないのだろう。
 単独ならば狩れていた。それはあの男も同様だ。だが二人ならば、若輩でも随分食い下がる。

 ………表情も見えない暗殺者は、何も語ることはない。
    語らず、告げず。ただ只管に、その掌に載せた死を叩き付けるべく奔走する。

 氷床は弾丸の余波を受け、あるいは着弾と同時に幾つかが破壊されてそこで留まる。
 浸蝕は随分とゆっくりになったが、それに両者がもう頓着していないことは明白だ。


   ■■■ない/そうでなければ、■の実感がない/そのためにも殺す。
   嗚呼、その双眸は実に■■■い/願わくばそれが■■で終わらぬよう。


 白兵こそが自分の本懐。
 得意距離が分かっているならば、それの押し付けは基本中の基本だ。
 剣士に剣で対抗する阿呆はいない、術士に智慧をぶつける者は紛れもない愚者。
 英雄に根気で張り合う三流の覚えもなければ、銃器を前に打ち合いをするほど無為なものもない。

 故にクルトは、確認するよりも早く―――特に、雷弾を認識したのとほぼ同タイミングで。
 またもや何のためらいもなく吶喊した。
 死への恐怖を微塵も感じさせない。黙して語らず、常に追い縋るようにその腕を振るう沈黙の暗殺者。それは正しく怪物のように乱暴で、かつ洗練された技術と削ぎ落とされた無駄には戦場への適正というものを感じさせた。

 ………だれしも、戦いと言う場所、人の死に触れる場所を生きる拠所には選べない。
    彼女らがよく知る総統とて、常態とするべき場所は政治であり日常だ。その血縁も同様。
    あるいは、死神を此の場に送り付けた女など以ての外、彼女はそのリスクを好まない。
    あの荒唐無稽なる“リヴァイアサン”でさえも、戦うことを本懐になどしてはいまい。

 それが、この男には出来る。
 この男の生きる場所は戦場でしかないと、誰しもにそう思わせる。
 仮にしくじって、アルカディアの魔弾またはエルドラッドの剣が命中したとしても、微塵も対応を変えるまい。四肢をもぎ頭を跳ね飛ばすその瞬間まで対象の殺害と言う行動を止めないだろう。
 それは、機械じみた冷徹さとも、獣じみた獰猛さともまた違う。
 この場に先程まで居た者が絶賛する、人の可能性など対極ですらある。

 それは全くの平常心だ。
 全くの平常心で、男は“被弾を一切考慮せず雷弾の嵐に突っ込んだ”。

 それを平常に出来ることを、“異常”と呼ばずして何と言う。
 死をなによりも畏れない。撃たれること、銃を向けられる事。
 まして敵意と殺意を微風のように受け取るさまは、はためく黒衣と合わさって一つの印象を懐かせる。

 ………雷弾の半数以上は、実際のところ軌道を逸らした。
    正確には、左腕を伸ばして突っ込んで来たクルトによって、前面のみは防御されていたからだ。

 彼の手元を起点として発生し続ける超低温のフィールドが、そこにブロックのような氷塊を形成する。
 直撃する無数の雷電を見据えるや否や、彼はそれを展開し、着弾の直前に触れたまま殴り抜いた―――理屈としては寸勁と呼ばれるものに近い、手を置いたまま各部の運動エネルギーを即座に伝達させる所業だ。
 それによって氷塊は無数の破片となって砕け散り、上空にいるエルドラッドを構うことなく襲い抜く。相手の射撃とほぼ同時に撃ち放たれたこのショットガンじみた攻撃は、着弾点で破裂し、その温度を奪うことだろう。

 しかし、当然のことながら。
 それで防いだのは前面だけ、間違いなくクルト・ライヒナムの肉体には雷槍が直撃した。
 一つや二つではない。十か、二十、あるいはそれ以上を越えるだろう、無数の弾丸が、である。
 真っ当に考えれば、感電、のち即死だ。絶縁装備の類でもあれば話は別だが―――断言してもいい、クルト・ライヒナムはその手の装備を持ち合わせていない。対魔力加工程度なら防具に備えているかもしれないが、そんな局地的なものを用意している人間などごく少数だ。エルドラッドの行動が“殺し技”であったことは言うまでもない。


 ………ところで。

 人が感電によって死ぬ原因は、心肺の停止に起因するという。
 人体を電流が流れることにより、本来微弱な電気信号の経路である神経系の情報伝達が途絶、阻害されることによる機能不全。循環器への致命的なダメージによるエラーこそが、死の原因なのだ。
 または、流れる電流が非常に多ければ、発生した熱によって人体を構成するタンパク質が変性を起こして破滅する。それだけでも人間は死ぬ―――ただの一瞬で、安らかに、かつ速やかに逝くものだと相場が決まっている。

    ・・・
 ―――だから。
   、・・・ ・・・・・ ・・・・・
    男には、何の変哲も、問題もなく。
    死神は、被弾しようとも一切の減速を掛けなかった。


   狙いは感電だったのだろう/悪くはない発想だが。
   それでは俺は止まらない/それだけならば俺は止まれない。


 そして彼は、構うことなく空中に飛んだエルドラッドに狙いを定めた。
 左腕ではなく右腕を、彼の腹へとさながら横殴りに叩き付けるように、
 絵面としては所謂ラリアットと呼ぶべきものに等しい―――その加速を維持したまま殴りつけ、命中したのであればそのまま壁まで構わず叩き付けんとする剛力と俊速から繰り出される一打だ。構わず首と狙っても良いが、流石に挙動の関係で無理がある。故に次善、打撃を優先したが故の一撃。
 なにより死神の腕にはある異常性が存在する。見ていれば分かることだ。
 掌であれば一瞬、亡霊のように彼の全身を覆う黒衣越しであっても、徐々に、毒のように、―――掠めただけでも、その接触した部分から熱量と呼ぶべきものを奪い去る。あるいは、暖かな生命を刈り取る死神の鎌のように。

 ………アルカディアを此処に来て狙わなくなった理由など単純だ。
    少なくとも今、この段階で、クルトはエルドラッドとほぼ似たような位置取りを取った。

 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
 射線が覆い被さり、誤射の危険性がある空中での白兵戦だ。
 仮に命中に成功したのならば、クルトへの射撃は当然エルドラッドを巻き込む危険性がある。

 最初のような、命中すれば彼にも危険がある射撃を打ち込むならば当然のこと―――そのリスクを頭に入れられるほど下手に聡明ならば、必ず行動に一つ二つの躊躇いは生じよう。
 それが最大の狙いだ。死神が見極めるべき砲撃手の性質は、たった一つだけ。


   ―――是ならば/■■も良いところだ/だが否ならば。


 死神の鎌が宙より迫る。
 少女から、まず少女の騎士を構わず奪い去らんと。


 ………全くの余談であるが、クルトは雷針でダメージを受けていないわけではない。
    着弾点の焦げた跡は、確かに彼の内側に稲妻が通り、ダメージを与えたことを証明している。
    真っ当に考えれば、ほぼ間違いなく、彼は“死ぬ”はずでもあった。


 ではなぜ、それで感電死と行かなかったのかと言われると。
 ―――答えは単純だ。だが、敢えて、これ以上は語るまい。


>アルカディア・クアドリフォリオ、エルドラッド・イルシオン

22時間前 No.1403

悪童 @prismriver☆kFuUk0otHg5u ★TZkXkdft22_gfw

【時空防衛連盟本部/休憩室/マリア・シャロムスキー】

しばらく椅子に座ったままトエルの様子を眺めていたマリアだったが、彼女がここから逃げ出そうとしていることの気づくと、すぐに立ち上がってその尻を踏みつける。何度も、何度も。背中や足も含めて、およそ100回は踏みつけただろうか。あとで全身が真っ赤になって腫れ上がってもおかしくないぐらいの衝撃を与えたところで、もう一度背中を踏んで、身動きを取れなくしたところでマリアが口を開く。

「いつ逃げていいって言った? もう少し私と遊ぼうじゃないか。時間はたっぷりあるんだからな」

お仕置きとばかりに、また顔に強酸が注がれる。次に同じようなことをすれば、今度こそ顔を溶かしつくしてやるという脅しなのか、その威力は先ほどよりも高められていた。トエルは誰かに助けを求めているが、わざわざ彼女を助けようとする者などいないだろう。連盟内でもきっと評判はよくなかっただろうから、むしろこの機会に死んでくれないかとすら思われているかもしれない。そもそも、助けに来たところで、マリアが邪魔をするので、命をかけてまでこんな奴を助けようという価値を感じていない限りは、早々と撤退するだけだろう。

「昔、お前が私にしたことはどれくらい覚えてる? 確か、こんなこともあったよなあ」

不気味な笑いを浮かべながらマリアは、さっきまで自分が座っていた椅子を掴むと、それを振りかぶって思いっきりトエルの頭に叩きつけた。一度ではなく、何度も。かつてのマリアは腕で防御をすることができたが、手足を拘束されているトエルはそれができない。結果として彼女は、マリアの気がすむまで、無防備で殴られ続けることになる。

「ゴミクズみたいなお前を拾ってくれた連盟に伝えておけよ、私は昔虐めていた妹に仕返しされました、ってな。誰かが同情してくれるかもしれないぞ? まあいい、今回は特別に生かしておいてやるよ。約束通り、今度会ったらその顔を見た他の奴らの感想、私に聞かせてくれよ」

マリアは最後にそう言い残すと、ぐちゃぐちゃとうるさいトエルの口に、口枷代わりとばかりにハンカチを危うく気道がつまりそうになるくらいまで詰めこんで、腹の上に椅子を乱雑に投げつけると、ついでとばかりにベッドなども体の上に乗せて、動きを封じるための重しとして、部屋を出ていく。この混乱の中で、彼女が発見されるのはいつになるのだろうか。次に会った時が楽しみなのだから、どうにかここは生き延びてみてほしいところだ。死んだところで別に困りはしないが。

>>トエル・アイムニー

【色々やらせていただきありがとうございました】

1時間前 No.1404
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