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ペイン・トレード

 ( ホラー小説投稿城 )
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ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

それは、卵の孵化に似ていた。

なんの前触れもなく、地球のいたるところに、パックリと亀裂が入る。その時点で人類には甚大な被害を生んだが、そこまではまだ自然災害の範疇だった。(ただし歴史的に見ても希な規模の、だが)

しかし追い討ちをかけるようにそのヒビから正体不明の生物たちが這い出てくると、事情は一変した。

先ほどの例えで言うと、彼らは生まれたばかりの雛のようなものだった。ただし餌は、我々人間だ。

体長10メートルを超える大蛇、熊の肉体にワニの頭を持った怪物、双頭の猛犬など、異形の生物が闊歩し、人類を蹂躙した。

もちろん、人類もただやられていたわけではない。警察や自警団や他国の軍隊が出動し、近代兵器による反撃を試みた。

しかし、化け物たちは次から次へと湧いて出たし、単なる銃弾程度では傷一つつけられないので、人類に為す術は無かった。

最初は混乱し、怒りと憎しみに燃えていた一般市民も、この事態がどうやら軍にも、政府にも、いや誰にもどうすることもできないと知ったとき、恐怖という感情だけが残った。

人々は我先にと逃げ出した。すでに安全な場所などどこにも無いとも知らず・・・・

切替: メイン記事(7) サブ記事 (4) ページ: 1

 
 

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

原稿はそこで終わっていた。
これを書いた人間はすでに逃げてしまったのか、死んでしまったのか。
私には分からないし、どうでもいい。
この原稿も暇つぶしになればと思い盗んできたものだ。

おっと、盗んできたと言っても勘違いしないでほしい。私は決して犯罪者なんかではない。

そもそも、人類が死に絶えたこの世界で何をすれば犯罪になるというのか。

話を戻すが、この原稿はなかなか良い。世界が終わりを迎えてから、山ほどニュースや記事が出たが、そのどれもが『天罰』とか『神の意志』とかを持ち出して説教しようとするだけのつまらないものだった。
それらに比べ、この原稿はただ事実だけを残そうという努力が窺えた。

その通り、世界は理由なんてなく、いきなり破滅したのである。偉い人も貧しい人も、若い人も年老いた人も、どんな神を信じていようが例外はなく。

生き残ったのが何人くらいいるのか、私は知らない。少なくとも私が根城にしている新宿駅近辺では、1ヶ月以上前から生きている人に会ったことはない。ほとんど骨だけになった『食べ残し』なら何度か見たことはあるが。

などと物思いに耽っていると、グルルルッと、獣の唸り声が聞こえた。

少し油断しすぎたようだ。
今は日が高いから彼らの時間でないとはいえ、基本的に彼らは人間を標的にしているわけで、見つかってしまえば当然捕食される。

私は護身用のカッターナイフを構える。とはいえ別に武術の心得があるわけではないので、あまり意味はない。

そんな私を嘲笑うかのように、ソイツは姿を現した。
見た目は黒いドーベルマン。ただし、頭が2つあり、ちょっとした子熊くらいの大きさがある。
眼はギラギラと気味悪く輝きつつも、こちらを捉えて離さない。動物を飼ったことのない私でも簡単に分かる。コイツは完全にイカれている。

ソイツは、大きく跳躍した。ごく普通の女子中学生には避けることも耐えることも出来ないだろう、私は突き飛ばされ、のし掛かられ、一噛みで絶命するに違いない。

この通り、ヒトは簡単に死ぬ。
これでジ・エンド。

ーーー普通のヒトならば。

私はドーベルマンが襲いかかるより一瞬だけ早く、カッターナイフで自分の左手首を切り裂く。

傷口から赤い血液が噴き出すが、それが地に着くよりも早く、私は契約の言葉を唱える。

「100ccの血液と『武器』をトレード」

次の瞬間、私の血は万有引力の法則に逆らい、1つの武器を形作る。

赤い、赤い、全身深紅の凶悪な鎌。

ドーベルマンはこちらの変化に気づいたようだが、空中で身動きできるはずもなく。

瞬きするより早く、深紅の鎌が飛び掛かり、獰猛な2つの首と、手足、肉体はバラバラに切り刻まれ、ドーベルマンだったものは、ただの肉塊に成り変わった。

6ヶ月前 No.1

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

危機を逃れ、安堵の溜め息をついていると、背後から「クッ、クククッ」と笑い声が聞こえたので、振り返る。

そこにいたのは一言で言うと手足の生えた梟。
私の『取引先』であり、かつ絶対的な取立人でもある悪魔。名前はストラス。

「あんな雑魚相手に『取引』とは、勿体無かったな。」

ストラスが、ニヤニヤといやらしく笑う。
もちろん私も同じ意見だが、それを認めるのもシャクだったので、一度合わせた視線を逸らす。

「うるさい、命には代えられないでしょ。」

強がりだと分かったのだろう、ストラスは「クククッ」と笑い声で応える。

それは放っておいて、ドーベルマンの返り血を拭き取る。急がないと、血の臭いは奴らを呼び寄せる。
気をつけたつもりだったが、ジーパンの裾にかかったらしく、赤黒い染みが出来ているため、足下10cm程度を切り捨てる。どこかで着替えも調達が必要だと頭のメモ帳に記録する。

一方左手首の傷口はというと、いつもの通り、すでに塞がっていた。
『取引』は絶対だ。契約以上に失うことはない。

もし心臓を代償にすれば、本当に他の血や肉は残したまま心臓だけを抜き取られるだろう。
悪魔にシェイクスピア風のトンチは通じるはずもない。

血の処置が終わったが、早くこの場を離れた方がいいだろうことは間違いない。

ちょうど良い。昼飯と夕飯を調達しがてら、新しい住み処を見つけに行くとしよう。

6ヶ月前 No.2

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

外はまだ明るかった。
私は腕時計(正真正銘、自分の)で今の時刻を確認する。
13時45分。
日が暮れるまで約3〜4時間、それまでに食料と今日寝る場所を探さなければならない。つまり時間がない。

まずは食料だが、こんな風に世界が破滅しても、コンビニが便利なことは変わらない。
自動ドアが使えないのは不便だが、大抵の店はすでに入口が破壊されているので、今回もそういった元自動ドアから侵入を試みる。

しかし、ここで異変を感じる。
店内に人の姿があったのだ。

後ろ姿ではあるが、ぱっと見、30代の女性。何故か季節外れの冬用コートに身を包み、何をするでもなく一人で立っている。

もしここが彼女の縄張りであるなら、今すぐ引き返すべきだ。人は自分の利益のためならいくらでも獰猛になる。
特にこんな世の中じゃ法律なんて何の役にも立たないのだから。

しかし同時に、もはや数少ない『生き残り』同士、情報を交換したいという気持ちもある。
彼女は見たところ五体満足で大きな怪我も負っていないようだし、それには必ず理由があるはずだった。

実は武術の心得があるとか、銃器の類いを持っているとか、あるいはーーーそう、私のように悪魔と取引をしているのかもしれない。

多少のリスクが発生するのは承知の上で、私は彼女に声を掛けることにした。もちろん、向こうの対応次第では迷わず回れ右をするつもりだが。

「……あの、すみません、」

彼女が振り向く。
その表情は、なんといったらいいだろう、笑ってはいるがどことなくぎこちなく、見ている人間を不安にさせるような作り物めいた印象を感じる。

「いや、驚かせるつもりはないんです。ただ、もしよかったら、少しお話しできませんか?お互いに情報が必要だと思うのですが。」

私はいたって理性的にそう告げる。
あとは彼女の出方次第なのだが、なかなか口を開こうとしない。
ひょっとして耳が聞こえないのかと疑問を感じたころ、彼女は笑顔のまま店の奥へと姿を消してしまう。

ついてこいという意味なのだろうか?
たしかに、いくら日中とはいえこんな往来で話をしていたら、いつ奴らに見つかってもおかしくない。

私はそう解釈し、青と緑の色が特徴的な某コンビニエンスストアーの中へ足を踏み入れる。

入った途端、ひどい臭いが鼻をつく。

それが腐敗臭で、臭いの元が目の前の女性だと気づいたときには既に全てが遅かった。
彼女の口から勢いよく、何か細長くヌルヌルとしたものが飛び出す。
それが大蛇の化物で、まんまと罠に掛かったのだと悟った頃、私は後ろに大きく吹っ飛ばされ、意識を失った。


5ヶ月前 No.3

ばでほり @17854 ★Android=V2XtkxYYcb

夢を、見ていた。
まだ世界が崩壊したばかりで、また今まで通りの、なんてことない日常が帰ってくるんじゃないかと、みんなが淡い夢を見ていたころ。
それでも怖くて仕方なかった私は、たった一人の家族であるパパにすがって泣いた。
パパは、そんな私の頭を撫でながら、優しく慰めてくれる。

「大丈夫さ、きっと何もかも上手くいく。だからもう、泣くのはやめてパパに笑顔を見せておくれ。」

パパはいつも優しくて、どんなときもとても頼りになった。私の涙はとっくに止まっていたのだが、パパにもう少し撫でていてほしくて、しばらく泣いているフリをした。

そうしていると、いつの間にかパパの声が聞こえなくなったことに気付き、不審に思った私は顔を上げ、パパの方を見る。

すると、いつの間にかパパの姿は消えていた。

私は不安でたまらなくなり、パパのことを呼びながら、立ち上がった。
すると、背中にドンっと、何か重いものが当たり、私は振り返る。

それは、最初大きなお人形かと思った。
だって、天井から一本の縄で吊るされていたから。
でも、それが紛れもなく本物の人間で、しかも大好きなパパの顔で、でもその顔は青黒く変色し、目玉も飛び出す寸前まで盛り上がり、完全に死人の顔をしていることに気付いたとき、私は簡単に発狂した。

「いやぁぁぁぁっっぅあぁぁっ!!!」


5ヶ月前 No.4

ばでほり @17854 ★Android=3T2NFi2bD7

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2ヶ月前 No.5

ばでほり @17854 ★Android=3T2NFi2bD7

どこをどう歩いたのか全く覚えていないが、それでも私は一つの雑居ビルに辿り着いた。

1階がドラッグストア、2階が書店、3階より上が飲食店(下から順にカレー屋、居酒屋、ジンギスカン、空きフロア、トルコ料理)で、私は迷わず2階に入った。
別に理由らしい理由はない。ただ、本がある場所の方が落ち着けるのだ。それに時間を潰すこともできる。

中に誰もいないことを確認し、ようやく腰を下ろす。少し休んだら、下のドラッグストアで必要な薬やら飲み物やらを手に入れよう。そこまで考えてからふと自分の手元に視線を落とすと、そこには先ほど蛇の化物を切り裂いた『武器』がまだ握りしめられていた。

あらためて眺めると、それは少し大きめのペーパーナイフのような代物だった。
全体が白く、金属的な光沢を放つ不思議な材質でできており、刀身と柄との境目もあやふやだ。最初、腹から生えるように現れたときはどうなるか不安だったが、今はこうして私の右手に収まっている。

「血のときと違って無くならないのはなんでなの?」

「血や肉は時間がたてば元に戻る。だが失った骨は戻らないだろう?そういうことだ。」

半ば独り言として呟いた問いかけだったが、意外なことに答えが返ってきた。

それも、全く知らない男の声が。

1ヶ月前 No.6

ばでほり @17854 ★Android=3T2NFi2bD7

全身に緊張が走る。

声のした方に視線を向けると、一人の男が傲然と構えたままこちらを見下ろしていた。
私は内心の動揺を必死に隠しつつ、相手の男を睨み付ける。

「あんた誰?」
「人間さ。そして今、お前が最も必要としているもの、頼りになる仲間でもある。」

男はパッと見20代後半、背も高く筋肉質で、尊大で偉そうな態度を抜きにすれば、まあまあハンサムと言っていい容姿だ。

しかし、私は男の言葉を鼻で笑った。
何を勘違いしているのか分からないが、私に最も必要なのはパパだけだ。

強くて優しかったパパ。
こんな世界に耐えきれず、首を吊って死んでしまったパパ。
でもけして私を一緒に連れていってはくれなかったパパ。

もちろん、こんな得体の知れない男にそんなことを告げる気はないが。

「黙れ。仲間なんていないし、いらない。さっさと帰れば。」

誤解の余地など無いくらい完璧に拒絶したはずだが、それでも男はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、懐からあるものを取り出す。

「まあそう噛みつくなって。どうするか決めるのはこれを見てからでも遅くはないぜ。」

そう言いながら男が小さな包みを放ってくる。私はそれを素直に受け取る。普通だったら考えられないくらい迂闊な行為だが、私にはその包みを目にした瞬間から中身が直感で分かっていた。

いや、あるいはそれはただの願望だったのかもしれないが、はたして、中身は期待していた通りのものだった。

丸くて、白い、米の固まり。
すなわち、おにぎり。

私は警戒という概念をかなぐり捨てて、目の前の白米にかぶりついた。

1ヶ月前 No.7
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