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奇譚町の在り来たりな日常

 ( ホラー小説投稿城 )
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友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★Ywte4t2Nfq_Q1n




 ――奇譚町は恐怖に事欠かない町だ。

 場所は台東区、浅草のお隣さん。
 雷門は無いけれど、お隣さんというだけあって町並みは浅草とさほど変わらない。良くも悪くも古式ゆかしい下町風味だ。でも観光客はほとんど浅草に取られているので、町並みは似たようなものでも観光客の数には天と地ほどの差がある。わざわざここいらまで来ておいて浅草ではなく奇譚町を選ぶ観光客というのは、降りる駅を間違えてここを浅草だと勘違いしてしまっているわけでないなら、大概が怖いもの見たさの肝試しグループか筋金入りのオカルトマニア、後はネットでこの町の噂を見つけてホラーなテレビ番組の取材か何かのためにやって来たメディアの方々くらいなものだ。

 この狭い町の中だけで百を優に超える事故物件がひしめき合い、学校の怪談の数は七不思議なんてものじゃ済まない。
 平成に入った今でも神隠しなんてものが当たり前のように発生し、町の寺と神社はお守りやお祓いを求める人で縁日じゃなくとも賑わっている。
 心霊スポットはいくつもあるし、何ならその心霊スポットに住んでいる変人だっている。
 もっと言えばこの町そのものが心霊スポットみたいなものだ。

 それでもこの町の住人がよそへ移ろうとしないのは、単にずっとこの町で暮らしてきたから感覚が麻痺してしまっているのか、それとも恐怖することの快感を覚えてしまったのか。
 あるいは他に、もっと別の理由があるのかもしれないけれど――僕がこの町で暮らし続けている理由は、おおよそ後者のほうだ。

 恐怖することの高揚感と快感に夢中になったジャンキーの僕と、そんな僕の愉快で不愉快な友人知人たち。そしてどこかイかれた奇譚町の住民たち。
 この物語は、そんな僕らが繰り広げる、夢も希望もファンタジーもない……どこにでもあるわけじゃないけどここでは在り来たりな、ただの日常茶飯事だ。



メモ2017/02/09 17:42 : 友禅☆fXqsD0VZIxk @yuuzenn★Ywte4t2Nfq_mwG

第一話・第一幕……>>1-4

切替: メイン記事(4) サブ記事 (8) ページ: 1


 
 

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★Ywte4t2Nfq_Q1n




 第一話・第一幕:声に出してはいけない詩



7ヶ月前 No.1

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★Ywte4t2Nfq_Q1n



 観てはいけない呪いのビデオだとか、行ってはならない死の心霊スポットだとか。
 今の世の中にそういうキャッチコピーはありふれていて、その大概が紛い物だ。

 僕がバイトさせて貰ってる羅霊能事務所――読み方は「られいのうじむしょ」ではなく「うすものれいのうじむしょ」だ――にだって、たまに「見たら一週間後に死ぬって言われてる呪いの画像とか見ちゃったんですけど、私大丈夫ですか? 呪われてませんか?」と相談に来るお客さんもいるが、大抵そういう画像の多くは偽物なのでお客さんももちろん呪われちゃいない。
 画像を見てから体調が悪くなったと言っている人は呪われたという思い込みでプラシーボ効果的にそうなっているだけだし、人の視線を感じるとか不気味な声が聞こえるようになったとかは、ぶっちゃけこの奇譚町には幽霊なんてそこら中をふよふよしているからストレスによる神経過敏が霊感にまで及んだとかそういう事だと思う。あるいはただの気にしすぎ。要するに画像自体が呪われているというより、呪われた画像を見てしまったという思いによって生じたストレスが身体や精神に悪影響を及ぼしてそれっぽい症状が発生してしまうのだ。

 だから僕が、その『声に出してはいけない詩』の話を依頼人から持ちかけられた時。
 まず心を過ぎったのは、また何の恐怖も感じられないつまらない依頼になりそうだな、という落胆だけだった。


「ええっと……念の為にお聞きしますけど、それって『トミノの地獄』のことではありませんよね?」


 まだ事務所のニ階で眠りこけている所長に代わって依頼人の相手をしながら、自分で淹れた1kgで820円の安い業務用インスタントコーヒーを一口飲む。とりあえず少量の水で練ってから湯を注げば大抵のインスタントコーヒーは美味くなるというご近所さんの言葉を信じてやってみたが、そもそもこのインスタントコーヒーの封を切ったのは今日が初めてなので普通に淹れた時との味の違いはよく分からない。でもあれだけ力説するくらいならきっとお湯だけで淹れるよりは美味しくなっているんだと思う。じゃなきゃいくら有名な豆知識とはいえ、自信が無ければあそこまでのドヤ顔では語れまい。


「たぶん違うと思いますけど、その『トミノの地獄』って何でしょうか?」


 目の前のソファーで同じコーヒーを飲む依頼人がきょとんとした表情で小首を傾げる。……所長や他のアルバイトとばかり話していると忘れてしまうが、そういえばトミノの地獄なんて一般人なら知らない人のほうが多い話だった。内輪での「当たり前」に慣れすぎるとこういう事が起こるから良くない。
 うん、とりあえず目の前でハテナマークを飛ばし続けている依頼人さんの為に説明しよう。


「『トミノの地獄』っていうのは、声に出して読むと凶事が起こると実しやかに囁かれている詩です。どこぞの劇作家さんがそれを口にして読んでからしばらくして亡くなった。なんて曰く付きの。
 ――姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは宝玉を吐く。ひとり地獄に堕ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き。鞭で叩くはトミノの姉か、鞭の朱総が気にかかる。叩きや叩きやれ叩かずとても、無間地獄はひとつみち。暗い地獄へ案内をたのむ、金の羊に、鶯に。皮の嚢にやいくらほど入れよ、無間地獄の旅支度。春が来て候林に谿に、暗い地獄谷七曲り。籠にや鶯、車にや羊、可愛いトミノの眼にや涙。啼けよ、鶯、林の雨に妹恋しと声かぎり。啼けば反響が地獄にひびき、狐牡丹の花がさく。地獄七山七谿めぐる、可愛いトミノのひとり旅。地獄ござらばもて来てたもれ、針の御山の留針を。赤い留針だてにはささぬ、可愛いトミノのめじるしに」


 これで全文です、と言って口を閉じる。
 せっかく懇切丁寧に説明したというのに、依頼人さんは何故だか僕のことをドン引きしたような目で見つめていた。後ろにゴキブリでもいるのかと振り返ってみたものの、そこにあるのはただの悪趣味なマーブル模様の壁紙だけだけだ。これに今さら引くくらいなら入って来た時に引くだろうに。一体彼女は何が理由で顔を引き攣らせているのやら。


「ご、ご丁寧にどうも。でも、やっぱりそれじゃないと思います。内容が全く別物ですから。ちょっと待って下さい、いま実物を見せますので」


 そう言って革のハンドバッグを漁った後、取り出されたのは何の変哲もない一枚の茶封筒だった。中身を自分で触るのも嫌なのか、依頼人の女性はその茶封筒を汚いものでも触るように指先でつまみながらこちらに寄越してくる。それを両手で受け取って、糊付けがきっちりされすぎていて開け辛かったから上の方をビリッと破いて中身を取り出す。また女性に「何だコイツ」みたいな目を向けられた。さっきから、一体彼女は何に引いているんだろう。

7ヶ月前 No.2

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★Ywte4t2Nfq_Q1n



 茶封筒の中身はザラついた質感の和紙。四つ折りにされたそれを文字が見えるように開いてざっと流し読む。……内容からすると、恋愛を語った詩だろうか。『私』なる人物から『君』と呼ぶ相手に当てた、ぶっちゃけ僕からすると詩というよりラブレターに見える、そんな青臭くて甘酸っぱい文章。どう考えたって呪いや心霊の二文字と関わり合いにならなさそうな雰囲気の文面。
 この手紙から嫌な気配も漂ってこないし、文章だって、口にすることで自分に呪いをかける怪しい呪文とかじゃなさそうだ。なのにこれを『口に出してはいけない詩』として恐れこんな悪趣味な外観の霊能事務所に本気で相談しに来る以上、少なくとも彼女にとってはこの詩が原因としか思えないような不幸が立て続けに発生したのだろう。一度の不幸なら「まさか」と思いはすれど、いきなりただの詩と結びつけて心霊現象扱いはしない。


「あの、これ……依頼者さんは、どうしてこれが『口に出してはいけない詩』だと思ったんですか?」


 手紙をひとまずテーブルの上に置いて問いかければ、依頼者さんはさっと顔を青ざめさせて口を噤んだ。ううむ。この反応から察するにこの詩を心霊現象に結びつけるに相応しい相当な出来事が起こったのだろうに、その割には本当にこの詩からは何も感じない。
 さっき諳んじたトミノの地獄と同じで、口にしなきゃ何の害も無いタイプの詩なのかな。なら手っ取り早く真偽を試すために声に出して読んでみるかと、再びその和紙の便箋を手に取ろうとすれば。


「いやあぁぁ!! やめて、それはさっきのトミノなんちゃらと違って本当に呪いの詩なのよぉッ!」


 僕が何をしようとしていたのか察したらしい依頼者さんに、とんでもない形相でバッと和紙を取り上げられてしまった。依頼者さんがテーブルに乗り上げた拍子に二人分のコーヒーカップが倒れて、棺桶みたいなデザインの悪趣味なテーブルは瞬く間に茶色い液体に侵食されていく。所長の嗜好が大いに反映された不気味なテーブルの上に溢れれば、ただのコーヒーもなんだかおどろおどろしい液体に見えてくるから不思議なものだ。この部屋のライトが未だに本物の蝋燭を使ったアンティークなシャンデリアや燭台しかないのも相まって、ぼんやりした光の下ではなおのことそういう風に感じた。
 っていうか所長、先月地震が起こった時この照明設備のせいでボヤ騒ぎになりかけたのにまだ蝋燭貫くんだもんな。蝋燭を一切使用するなとは言わないけど、適度にLEDも取り入れれば良いのに。


「あ……ご、ごめんなさい。私ったら取り乱しちゃってつい……ごめんね坊や、ビックリしたわよね。でも、これは本当に危ない詩なの。絶対に口に出して読もうとなんてしないで」


 途中からこの状況と全く関係のない事を考えていたせいでボーッとしていたら、その無言はどうやら依頼者さんには『男子高校生を自分の態度で怖がらせてしまった』と受け取られたらしい。慌てて謝られるが、別に依頼者さんの態度に驚いたり怯えたりしたわけじゃないので彼女は謝り損だ。ついでに付け加えると、いくら男子高校生でもその前に『怪しい霊能事務所のアルバイトをしている』と付けばそこまで丁寧な態度をとる必要もないと思う。だってその肩書きが付く時点でロクな奴じゃないのは決まりきっているじゃないか。
 僕も、所長も、もう一人のアルバイトも。ここにいる面子は全員悪人じゃないのは保証できるけど、それと同じくらいにロクな奴じゃないのも保証されている。だから常識とか良識とかかなぐり捨ててもっと手っ取り早く事を進めて欲しい。まともじゃない相手にまともな対応を心掛けたって時間を喰うだけ。そんなのお互いの為にならないし、何よりこれが本当に『恐怖』をもたらしてくれる呪いの詩なら、僕はさっさとその恐怖を味わいたい。
 僕が欲しいのは気遣いではなく恐怖なのだから――と。今の絶叫とコーヒーカップが倒れる音でついに所長の目が覚めたようだ。ニ階から聞こえてくる足音。ついでに気の抜けたあくび。一段一段がまるでピアノの鍵盤みたいに白黒交互のカラーリングになった螺旋階段は、屋外でもないのに鉄骨製なあたりがまたまた悪趣味極まりない。手すりは人骨をツギハギにしたような意匠の大理石。ステンドグラスの天窓は射し込む夕日をサイケデリックな極彩色へと変え、スポットライト代わりに降りてくる所長の頭上を妖しく照らしていた。
 それをどこか呆気にとられた表情で眺める依頼者さん。当然だ。なにせ降りてきた所長は長いトレーンを引きずった黒のウエディングドレスなんぞを着ているのだから。


「扇ィ、さっきのバカデケェ悲鳴なんだよ。お前好みの凶悪な幽霊でも出やがったか?」


 透けたヴェールの向こう側。紫色をした片目がまだ眠たそうに細められ、階段を降りてくる足取りは酷く気怠げだ。真っ黒なヴェールと真っ赤な髪の組み合わせは、この建物の内装の悪趣味さと相まってどことなく禍々しいもののように映る。片目を隠すコウモリ柄の眼帯が、彼女の魔女じみた雰囲気には良くも悪くも似合いすぎていた。単体で見ればアメジストのようだと形容できそうな瞳も、彼女の眼窩にはまってしまえばそれは魔女が大鍋で煮詰める毒薬の色と見紛う。肌の白さに引き立てられた唇の赤さが、艶かしくも恐ろしい奇怪な美女。
 羅栫(うすもの・かこい)――この羅霊能事務所の所長。僕の雇い主。そして凄腕の霊能力者にして、筋金入りのオカルトマニア。この建物の内装が全て彼女の趣味によって決められたものだと語れば、独特のセンスの持ち主であることも予想がつくだろう。女性としては珍しいくらいにチンピラ地味た口調と、出会った時から変わらない、人のフルネームから適当に漢字一字だけ抜き取って呼ぶ癖。
 猫背気味の姿勢で階段を降りきった所長は、そこでようやっと依頼者さんの存在に気付いたようだった。「あぁ?」とガラの悪い声を漏らして眉根を寄せた後、相手の表情を覗き込むようにずいと顔を寄せる。怪しさの塊みたいな美女にいきなりメンチを切られた依頼者さんは、恐怖というより混乱と困惑でリアクションか取れないでいる。所長も寝起きじゃなければもっと愛想が良い……いや、良くはないな。愛想がもっとマシなんだけど、今回は目覚めてすぐなのが悪かった。

7ヶ月前 No.3

友禅 @yuuzenn☆fXqsD0VZIxk ★Ywte4t2Nfq_mwG

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7ヶ月前 No.4
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