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眠れない日のための夜想曲

 ( ホラー小説投稿城 )
- アクセス(139) - ●メイン記事(13) / サブ記事 - いいね!(1)

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=ViUKTznmMP


(まずい…早く離れなくては…)
頭では理解していても何処に逃げればよいのか思考が追い付かない。
ステルは完全に闇に陥ってしまったのだ。
“礼拝室”から出来るだけ遠ざかろうとするのだが校舎を闇雲に歩いてもいつの間にか礼拝室のすぐ近くに来てしまう。
…まるで何かに呼び寄せられているかのように。
「ぅ…頭が割れそうだ…なんなんだよこの曲…」
ステルが礼拝室から離れなければならない理由。
それがこの礼拝室から漏れてくる奇妙なパイプオルガンの音なのだ。
短調に不協和音の混ざった気分の悪いメロディー。
フーガのようにピッタリした不協和音ではない。
頭痛を伴い、吐き気を呼ぶ。
しかもステルはその曲は聞き覚えがない。
たいていのクラシックは分かっているはずなのに。
このハゥテル音楽院で一番頭のいいはず自分が、…こんなに苦しむとは。
ステルは苦痛に顔を歪め、その場にへたりこんだ。



    * *

初めての方ははじめまして!
そうでない方はお久しぶりです!!
実に一年ぶりのホラー小説。最近、青春系や恋愛小説ばっかし書いてたので久々にホラーを書こうと思い出す(*^^*)
ちなみにホラーというよりはダークファンタジーですかねー
サブ記事にいつでもコメントやアドバイスお待ちしてます。お気軽にどうぞ!

[paranoia-嘘つきな君へ- ⇒ http://mb2.jp/_voc/1978.html ]
[愚者に偏差値70を⇒ http://mb2.jp/_rs/29883.html ]
も更新中です。


あ、更新ペースはカメですw
ではスタート!

…2016.3.24


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1年前 No.0
メモ2016/05/14 22:51 : アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111★Smart-cJ4YLgaciQ

登場人物]

「ステル・オクターヴ」Steru Octave

パリの音楽学校に通う男子生徒。バイオリン科。頭も良くキレた人間で女子にとってアイドル的存在だが、本人は人と接するのが苦手。


「高崎 柊南」Takasaki Hina

日本からパリの音楽学校に転校してきた。筆記テストと面接だけで入学できたため、楽器が何もできない。声楽科。幼い頃、姉を亡くしたらしい。


「ルート」 Root

音楽学校の教師。所属はピアノ科だが幅広い音楽の知識をもつため学校の生徒みんなに人気。


「高崎 実南」Takasaki Mina

柊南の七つ上姉。柊南が小さいころ不慮の事故で命を落とす。バイオリンをよく弾いていたらしい。


…後々増えます!


[レス毎目次]

>>0 序奏

「1.Sound Wave -音波-」

>>1>>6

>>7 間奏曲1

「2.Etudes -練習曲- 」

>>8

ページ: 1


 
 

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★bGGQidQER3_8yY


『1.Sound Wave -音波-』





「今日は、新しく入ってきた転校生を紹介するわね。」
朝のホームルーム。この教室の担任であるルートが黒板に名前を書きながら言った。
カツカツとリズムよく書かれたその名前にみんなは目をみはる。

この教室で一番、いやこの音楽学校で一番頭のよいステルでさえ“漢字”を読むのに苦労した。
「た…か、さ、き。」
かろうじて苗字を読み取るとルートは嬉しそうに笑った。
「そうよミスター・オクターヴ!高崎柊南さん。…入って!」
ルートが声をかけた一拍後、教室前方のドアが音もなくあいた。姿を現したのは黒髪を耳の下で結った、れっきとした日本人の女の子だ。
彼女は教壇に立ち、ルートとは違う繊細な手つきで「高崎柊南」と書かれた横に「Takasaki Hina」と書き加えた。
「…高崎柊南といいます。両親の仕事の都合上、日本からこの音楽学校へやってきました。よろしくお願いします。」
教室の生徒たちは一瞬とまどったが、誰からともなく拍手がおこり柊南の歓迎ムードが出来上がった。
「さ、新たな仲間も加わったことですし今日も一日頑張りましょう!」
柊南はルートに指さされた席に黙ってついた。
「ねえ、あなたすごいわね!」
柊南の前の席に座っていた金髪の女の子が振り向き柊南をまじまじと見つめながら問いかけた。
「転入でここに入るってことはあなた、国際コンクールで優勝したことがあるの?あ、それともうちの校長を驚かせるくらい演奏の腕がいいとか…あ、それとも親のコネ?」
柊南はひとつひとつ首を振ってこたえた。
「ううん。全部違う。わたし、実技試験なんかやってないよ?」
「え?ウソ?」
彼女はきょとんとしたまま答えた。
「うん、だってわたし筆記テストと面接しかしてないもの。」

(得体のしれないモンスターが転校してきたようだ…。)
ステルは真横から、ふたりの少女の会話を盗み聞きしながらそう考えた。

1年前 No.1

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=ViUKTznmMP

「えっ、あなた楽器の実技テストなしで入学!?うそでしょう!?」
金髪をゆらゆらゆらしながら驚愕の表情を浮かべる少女をきょとんとした顔で見つめ返しながら柊南は言った。
「うん。面接で歌いはしたけどね。」
「…えっ?」
その言葉に反応したのは二人の会話を盗み聞きしてたステルだった。
「面接で『わたし楽器出来ません』って言ったら校長先生が歌ってみろって言うから…」
ステルは眉間にシワをよせた。
聞いたことがない。
楽器の実技テストなしで筆記テストと面接で歌を披露しただけで入学?
なんなんだこの女…
「うちの学校の声楽科に入学ってことか?いや、無理無理。だって声楽科がやる曲はオペラとか讃美歌ばっかだぞ?日本人の君が……」
ステルの論議にさえ小首をかしげた柊南はニッコリ笑って自身の腹部に手をそえた。
すぅ、と空気を吸い込み口角をあげる。

「Ave Maria, gratia plena〜♪」

「な……!!」
教室のみんなもルートも、視線がいっせいに柊南の方へ集中する。
「 Dominus tecum〜♪」

ワンフレーズを歌いきると彼女は「天使祝詞。アヴェ・マリア!!」と笑顔を見せた。

「驚いたわ!ミス高崎!!それラテン語じゃないの!」
ルートが目を丸くする。
ステルはただただ口をポカンと開けているだけだった。

1年前 No.2

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=ViUKTznmMP



          * *


「さ、午前中の授業は終了!お疲れ様。午後の個人レッスンはみんな各先生に指定された教室へ行くのよ〜」
ルートが教室から出ていくと教室の生徒たちは背伸びをしたりカバンからお弁当を取り出したりと自由に動き出す。
ステルもパンでも買いにいこうかと財布をポケットに入れて立ち上がった。
「…あれ、」
その時、なにをどうしていいか分からずオドオドと挙動不審な柊南が目に留まりステルはなれたナンパのようにさらりと声をかけた。
「今から昼休みだからさ、一緒に行く?」
柊南はパッと表情を明るくしてうなずいた。



鉄錆びた屋上の扉がきしんだ音をたてて開く。
柊南は両手を広げて屋上に吹く風を感じているようだ。
「どうしたよ?そんなにはしゃいで」
「ん?日本の学校じゃあ屋上なんて好き勝手に入らせてもらえないの!だからお昼食べるのも教室だし遊ぶのもお昼寝も教室なの!」
がっくりと肩を落とす柊南をステルは珍しそうに見つめる。
「へえ、篭の中の鳥だな…でもいいじゃないか日本。過保護くらいにしとかなきゃ事故が絶えないぞ?」
そして誰にも、隣の柊南にさえ聞こえないくらいの小声で「この学校みたいにな」とつぶやいた…
「とにかく、食べよう。お腹減ったな。」
「うん!」
二人の隙間を四月の暖かい空気が通りすぎていく。
柊南が食べている『とれたて農家のいちごサンド』の甘い香りが日本の桜を思い起こさせた。
「ステルくんは何科?」
「…バイオリン。」
「へー!バイオリン!かっこいいね〜わたしほら、何も出来ないから…」
「いやいや、さっきすげー歌えてたじゃんかよ!」
「歌うくらい誰でもできるよ?…あ、わたしのお姉ちゃんもバイオリン弾いてたんだよ」
ステルは目を丸くした。
「お!趣味があいそうだ。弾いてたって?もうやめちゃったの?」
柊南は少しうつむき、一瞬ためらってから口を開く。
「死んじやったの。わたしが七歳の時に。」

1年前 No.3

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=ViUKTznmMP

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1年前 No.4

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=ViUKTznmMP

ステルのその言葉を聞くと柊南は顔をぱっとほころばせた。
「何それ!聞きたい聞きたい」
はしゃぐ柊南にステルは困ったように笑うとコンクリートの地面を見つめて語り出す。
この学校にいつからか語り継がれるようになった怪談。

いや、怪談と言うより“言い伝え”。
いつから出てきたのか分からない。ずーっと昔かもしれないが最近造られた物語なのかも知れない。


この学校の生徒なら誰でも知ってるはずの言い伝えを。彼は語り出す。














その青年は非常に勉強熱心だった。
その日もいつものように図書室で授業の復習をしていた。
ふと辺りを見れば外は闇を塗りたくったように真っ暗。
遠くで雷鳴がしていた。風が窓をガタガタと揺らす。
今日は帰ろう。
彼は不吉そうに思い、灯りを消し図書室をあとにした。








………はずだった。

靴箱のある一階に降りたい。
下に降りてきたのだ、自分は。

なのになぜ自分は今四階にいるのだろう。
自分の頭がおかしいのか?
いや、いくら馬鹿でも上りと下りは間違えない。
じゃあ何故?

考えられる理由はひとつ。

頭ではない。
この学校がおかしいのだ。


恐怖と孤独に思考を支配された青年は泣き叫びながら校舎を闇雲に走った。
走ったらべたべたと取り巻く恐怖が振り落とされるような気がしたのだろう。
無我夢中で階段を降り続ける。
一階を目指して。
それでも階段を降りても降りても、壁にモーツァルトの微笑む肖像画がかけてある四階に来てしまう。
彼はその場にへたりこんだ。
階段を下る気力はおろか、もう立つのもきつい状態だった。
ぼんやりとした意識の中で彼は微笑んでいたはずのモーツァルトが、あんなに意地悪そうにニヤリと冷笑していたか…と不信に思う。
その時。
青年のすぐ右側でパイプオルガンの音がけたたましく響いた。
「_____!!!!」
幸い、止まらなかった心臓をギュッと押さえ彼は一歩一歩音源に向かって近づいていく。
…そこは【礼拝室】だった。
讃美歌の練習をしたり、祈りを捧げる場所。
教会のようなつくりになってるそこは、パイプオルガンまで完備されている。
彼はそっとドアをあげる。
耳が破れそうだ。
気持ち悪い。
不快な曲はとどこおることなく演奏されているのだ。






1年前 No.5

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=cJ4YLgaciQ

青年は黒々と闇に塗りたくられたなかでうごめく何かをじっと見つめた。
パイプオルガンに向かっている【それ】の姿を必死にとらえようとしたのだろう。
彼はもう、不快なオルガンの音は感じなかった。人間の耳が慣れてしまったのか、彼自身がおかしくなってしまったのか…
一歩一歩、着実に【それ】に近づいていく。
「…え」
パイプオルガンを愉快に不愉快な音を立てる【それ】の正体に気づいたと同時に、彼はとんでもない事に気づいた。

オルガンの不愉快な音が感じなくなったのではない。「彼の耳が聞こえなくなっていた」のだ。
「ぅ…あ、あぁっ…!!」
自分の声さえ届かない。
すぐ近くにいる、近くで愉快に××が演奏しているのに…
彼は闇の中で、なにも聞こえない中で孤独になった。

















「………。」
「って感じかな。どう?日本の七不思議もこんな感じ?」
ステルは柊南うつむいてるのを見て慌てた様子で言った。
「いや、多分作り話だよ!安心して!」
「……の?」
「え?」
「その後、彼はどうなっちゃったの!?」
柊南の目には好奇心と若干の恐怖があった。
ステルは頭をかく。
「んーと、確かここの学校やめたんじゃなかったかな?耳が聞こえないんじゃ…いても意味ないしな」
ステルの言葉を聞いて柊南は「そっか…」と悲しそうな声をあげる。
「でも、国境を越えて七不思議があるってなんだか新鮮だね!」
「そうだな。」
二人の間に再び温かな春風が通りすぎていく。
その日射しに柊南は日本の桜を思い浮かべた。


1年前 No.6

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★iPhone=cJ4YLgaciQ


ー間奏曲1<7年前に捧げるレクイエム>ー


わたしは14歳でパリの音楽学校へ来た。
7歳の妹は父と日本で暮らし、わたしと母はパリに身をおいた。
週に二回、日本の妹から手紙がくる。
数ヵ月に一度は父がパリまで遊びにきてくれる。寂しくなんてなかった。
学校では友達もできた。
ピアノを専攻としてるルートという女の子だ。
彼女はピアノ科なのに他の楽器の知識もある。
楽器だけではなく音楽家についても詳しいし、楽譜の譜読みもいつも一番に終わる。
彼女は、心から尊敬する存在と同時によき親友だった。
「××はバイオリン科でしょ?」
「うん。まだまだだけどねぇ」
「今度さ、わたしのピアノと××のバイオリンで重奏しない?」
「おぉ!楽しそう!」
「曲、どうする?モーツァルト?王道すぎるかしら。」
わたしは一瞬迷ったあと口を開いた。
「わたしが作った曲じゃダメかな?」
わたしの言葉を聞き、ルートはキラキラと目を輝かせた。
「××が作曲したの!?すごい!いいよいいよ、なんて題名?」

ルートの反応が意外とよく、わたしは得意気に笑って言った。

「“眠れない日のための夜想曲”って言うんだ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1年前 No.7

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=cJ4YLgaciQ


「2. Etudes -練習曲-」


第二音楽室に割れんばかりの拍手が起こった。生徒の輪のなかではバイオリンを掲げたステルの姿があった。
グランドピアノによりかかりながらルートも満足気にうなずく。
「やるわね〜ミスター・オクターブ。」
恥ずかしくなったのかうつ向きかけるステルに畳み掛けるように誉め言葉が投げられる。
「やっぱ天才の演奏は違うよなあ」
「ステルくんの演奏、シンプルで素敵!」
「オレもこんな風に弾きてえな〜」
「お前の演奏は力強さが売りなんだろ?シンプルなんてほど遠いよ」
「ひでぇ!」
人と接するのがあまり好きではないステルはその場をそっと離れ、グランドピアノの前に座りみんなの様子を眺めていた柊南の元に歩みよると「どうだった?」と聞いた。
柊南は少し考えたあと、
「んー、やっぱりザ・シンプルって感じ!天衣無縫な演奏だよね」
と笑顔で答えた。
「てんいむほう?」
ステルは聞きなれない言葉に首をかしげる。
「故事成語って言うの。日本語の授業で習うんだよ」
嬉しそうに話す、その時むんずと肩をつかまれた。
「イチャイチャするなんてダメよ、ミス高崎!ミスターオクターブ、もしかして彼女が好きなの?」
からかいの視線を送るルートを合図に生徒も次々に冷やかしだす。
「なっ、ち、違いますよ!」
ステルはあわてたように弓をとりおとすと第二音楽室を去っていった。
「…ミス高崎、彼、気があるみたいよ〜!」
「そんな訳ないじゃないですか〜」
柊南はステルが出ていった扉をじっと見つめながらそう答えた。

1年前 No.8

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=cJ4YLgaciQ

柊南がステルを追いかけて第二音楽室を出ると彼はそばの階段に座ってボーっとしていた。
「ステルくん」
「……っおぉ!!」
ステルはあわてて振り返り頬を赤く染める。
『…ミス高崎、彼、気があるみたいよ〜!』
柊南の頭に先ほどのルートの言葉がよみがえったが転校してきたばかりなのにそんな漫画みたいな事があるはずない、と勝手に思いこんだ。
「あ、あのさ柊南。今日の放課後よかったら一緒の練習室でやらない?」
突然ステルが思いたったかのように言う。
「えー!いいの!やるやる」
ステルはそれを聞くと満足そうにうなずいた。
「バイオリンの音だけじゃ何かしけるんだ。柊南の歌と合わせて演奏したいんだよなあ」

二人は今日の午後、2:45に練習室Cで待ち合わせをすることにした。
午前中最後の授業が終わり、昼休みをはさんで午後の実技練習の時間だ。

「それよりステルくん、音楽室戻らないと。まだ授業途中だったよね?」
「あ…」

柊南はくすりと笑い音楽室に帰っていった。
内心、はやく2:45になってほしいと望んで。

1年前 No.9

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★iPhone=cJ4YLgaciQ



カラン…カラン…ランラン…ラン……

教会の鐘みたいだな、と柊南は思った。
昼休み終了を知らせる鐘の音だ。
日本人が抱く結婚式のイメージは真っ白な教会で最高の笑顔をふりまく花嫁の隣で照れ笑いする新郎。花びらがキラキラと舞って、そして頭上ではカランコロンと素敵な鐘の音が……
そこまで想像したところで柊南は正気に戻った。
昼休みが終わったから、次は実技授業だ。

実技授業はいわゆる体育や技術家庭科といった副教科のようなもので、午前中習ったこと使って各自楽器を自主練するのだ。

そしてここの学校のいわゆるチャイムがこの鐘の音だ。
柊南が小学生の頃聞きなれたキーンコーンカーンコーン、というチャイムではなく最初はロマンチックすぎて違和感をおぼえたほどだ。
(…今では慣れちゃったけどねえ)
異国の地で音楽を学ぶことに始めは抵抗があった。
(でもお姉ちゃんも頑張ったんだし…わたしも!!)

柊南はひとつの教室の前でピタリと足を止める。
練習室C。
ステルと待ち合わせをした場所だ。

コンコン…

「失礼します。高崎です、柊南です」

……しかし返事がない。

「ステルくん?」
まだ来てないのだろうか。
そう思い扉の前に腰をおろそうとした途端、校舎を震わす悲鳴が頭を刺した。
「……!!」
体が勝手に悲鳴がした方へと走っていた。



声の主は、練習棟と本校舎を結ぶ渡り廊下で体を折って呻き声をあげていた。
数名の生徒が目を見開いて硬直している。
「ちょ、どいて!」
柊南があわててかけよると声の主はゆるゆると顔をあげる。
「…あ、あなた…!!」
その人は柊南に一番始めに声をかけたあの金髪の女の子だった。
「…ぁ…」
「誰か!先生を呼んできて!」
怒鳴るが生徒は硬直し動かない。柊南が「はやく!」と叫ぶとひとりが弾かれたように駆け出した。
「落ち着いてね、何があったか話せる?」
少女を抱きかかえ優しく問う。
見たところ体に傷などない。

少女は柊南を見上げて話そうとした。
「…せ、……ぃ…が……ぁ」
柊南がかすれたその言葉を理解しようと耳を傾けた瞬間少女が大きく咳き込んだ。
背中をさするも苦しそうに息を吐き続けるだけだ。
(…待って…どうしたらいいの?)
比較的冷静を保ったのだが柊南自身もパニックになりつつあった。
「ミス高崎!」
聞きなれた声に振り替えるとルートが血相を変えてかけよってきた。
「せんせ…」
「大丈夫よ、安心してね。」
ルートは柊南に力強くそういい少女を軽々と抱えて本校舎に走っていった。
周りにいた生徒も心配そうに付き添っていく。
…渡り廊下には柊南だけが取り残された。



1年前 No.10

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=cJ4YLgaciQ

柊南はひとり、呆然と立ち尽くしていた。
ふとコンクリート床を見下ろすと先程までのたうち回っていた少女の姿がフラッシュバックしぶんぶんと頭をふる。
一瞬、彼女が心配で保健室に行こうかと考えた。
…が意思に反して体が全く動かない。
きっと怖いんだろう。
心と頭は恐怖を感じていない。しかし普通に生きていれば見ることがないような光景を目の前にし、身体が恐怖を覚えているようだった。
(練習室に戻ろう…ステルくんが待ってるかも…)
渡り廊下を進み、練習棟まで戻ると案の定そこにはステルがいた。
柊南のもとに走りよりそっと肩を抱く。
「なんか女の子が倒れたんだって?うちのクラスの子だろ?大丈夫だった?」
その“大丈夫だった?”がその少女の容態ことなのか、それとも柊南の心の状態のことなのか…
とりあえずどちらの状態も良くないため首を横に振った。
ステルは表情を曇らせ「そうか」とつぶやく。
「柊南、きついようなら今日は練習休むか?午後の練習は先生に許可さえもらえれば早退可能なんだ。ルート先生のことだからきっとすぐにOKしてくれるよ?」
柊南の心はうっかり楽な方向へと流れてしまいそうになった。
が、そこはしっかり踏みとどまる。
「ううん、平気。ステルくんと一緒に練習する約束だったから。」
ステルは「本当に?」と念を押し、柊南が勢いよくうなずいたのを確認して練習室Cの扉を開けた。

1年前 No.11

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★iPhone=cJ4YLgaciQ

部屋は、グランドピアノが一台あっても狭く感じないぐらい広かった。
窓辺ではガラス瓶に生けてあるバラの花がキラキラと光っている。
メトロノームや楽譜立ても完備してあり、はじめて入った練習室に柊南は興奮をおさえきれない。
「わあ、すごい!」
ステルは得意気に笑いながらバイオリンをケースから取り出す。
「広いだろ?ここ練習室Cが一番でかいんだ。」
その様子を見て柊南も鞄からファイルを取りだし楽譜を探す。
「ステルくん何弾くの?」
「えーと、柊南が歌えるやつがいいからクラシックはダメだな。歌詞ついてないし」
ステルが『讃美歌・オペラ』という付箋が貼られた楽譜をパラパラとめくっていると「大丈夫だよ」という声が飛んだ。
「歌詞、なくても大丈夫だよ!」
「……へ?」
ステルは最初、柊南がなにを言ってるのか理解できなかった。
「い、いや。柊南歌うんだろ?じゃあ歌詞がないと歌えないじゃないか」

「大ー丈夫。やってみよ?」

柊南の笑顔に思わずステルは「そうだな」とうなずいてしまった。



「曲はなに?ショパン?ハイドン?モーツァルト?」
「いや。シューマンかな」
「シューマン!子供の情景、素敵ねぇ」
ステルはロベルト・シューマン『子供の情景』の楽譜を開いた。
「トロイメライを演奏しようか。柊南、本当に歌える?」
即座にうなずく。
「分かった。やってみようか」


ステルはそっと、弦の上に弓をおいた。
一瞬、迷いや不安と訣別し一呼吸おいて一気に弓を滑らした。
その様子を柊南は食い入るように見つめた。
ステルが引いた弓がやわらかい音を出す。

___ロベルト・シューマン、トロイメライ。
シューマンが作った曲集『子供の情景』のなかでもっとも有名だと言われているこの七番目の曲。
大人のための子供の曲と言われ、大人が子供のころを思い出すようなやさしく、それでいて寂しい曲調だ。

ステルはあせらず、ゆったりと演奏する。


そして一行弾きおえたところでリピートに入る。同じメロディーの繰り返しだ。

…そこで柊南が楽譜を机に置き前を見据えて口をひらいた。

「Laー」
ステルはほんの一瞬だけ、弓を遅らせた。
柊南が…歌っている。
「LaLaLa、La〜♪」
高音にきれいにビブラートがかかり練習室に響きわたる。
「LaーLa、LaLa、」
ステルは感嘆の息を漏らす。
そして、
「「LaLaLa、La〜La」」
気がつけば自分も歌っていた。

きれいに1オクターブ低い音がハーモニーを奏でる。
柊南もステルも、ずっとこのまま歌い続けたいと思っていた…

1年前 No.12

アヤメ@空想爆裂ガール @2001010111 ★Smart=cJ4YLgaciQ

「La、La、Laー・・・・・・。」

最後の余韻を残してバイオリンと柊南の声、ふたつの音が消えた。
「はーっ。緊張した…!!でもやっぱりステルくんは天才だね。君のバイオリンは神の音に等しい!」
ステルは素直に照れ笑いをし、続けて柊南に対して拍手をした。
「いや、柊南の歌声もなかなかだよ。のびのびしてて透き通ってて…いい声だ」
柊南はその言葉を聞き、両手をわざとらしう上げて「やった!」と喜んだ。
「声を誉められるのって嬉しいんだ。なにも楽器できないからさ…」
「本当に素敵な声を……」



その時、ステルは部屋の異変を感じとった。
やわらかな日射しをともなう穏やかな天気は一変。
蒸し暑く息苦しくなり、それでいてゾクゾクと悪寒がしだしたのだ。

「ひっ…」
突如柊南がドアの方を見たまま硬直する。
その視線を追って入り口をみたステルも絶句した。

…そこにはなんと“包丁を握った少女”がいたのだから。
髪は、恐らくもとはきれいな金髪だったのだろうが煤けてボサボサになり、目には怒りと狂気と殺気で満ちている。
制服にもところどころ穴が空いたり擦りきれたりしていた。
そしてなにより握られている包丁がギラギラと光っているのだ。
『素敵…?どこがだ…そんな赤子をなだめるかのような馬鹿馬鹿しい声を…?』
かすれた声でそうつぶやき、練習室の中に足を踏み入れた。
(…まさか柊南の才能に嫉妬するやつが…)
そんなことを考えた自分をすぐさま正す。
いくらなんでも包丁を持っていればすぐに先生に取り押さえられるはずだ…
『透明な…透き通ったお前の声を壊してやる…』
一歩進んだ少女と対照的に柊南は一歩下がる。
「誰だ…貴様!」
柊南をかばうように立ちはだかったステルも足がかすかに震えている。
『お前の喉を切り裂いてやる…!!』
「やだっ…!」
とっさに柊南は手にしていたファイルを少女にぶちまけた。
中にはさまっていた楽譜が辺りに散乱する。
少女は鬱陶しそうに手で楽譜を払いのける。相手がひるんだのも一瞬、彼女は包丁を逆手に持ち変えた。
(…まずい!)
ステルはなにか相手の気をそらそうと辺りを見回す。
柊南がばらまいた楽譜のなかに、ぼんやりと光を放っているものがある…
ステルは無意識にそれに手を伸ばす。
手書きの、すこしかすれた音符が独特のリズムで綴られている。
(…オリジナルの曲?聞いたことないな…)
ふと壁際に目をやると柊南が追い詰められそうになっているのが見えた。
ステルはとっさにバイオリンをかまえ、その曲を演奏していた_____。



『……。』
案の定、少女はこちらを振り向き驚いて目を見開く。
少女の気をそらすことが出来たようだ。
「ステルくん…」
柊南は楽譜を目で追いながら演奏を続けるステルの才能にまたと感嘆の息をもらす。
初見で一回のミスもなく。
『ぐっ…うぅ…』
突如、演奏に浸っていた少女が包丁をとりおとし地面に倒れた。

ステルの演奏が止む。

少女はピクリとも動かない。
その場には時間だけが流れていく…

「ね、ねえっ」
柊南が声をかけた瞬間、少女のからだは空気に溶け混むように透明になり消えた。
「…え」
「なに、なんだよ今の…」

練習室には何事もなかったかのようにやわらかな日射しがさしていた。





1年前 No.13
ページ: 1

 
 
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