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メビウスの耽溺

 ( リレー・合作小説 投稿城 )
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王道ファンタジー @else☆TYRYeuBpk3k ★iPhone=ZmYwVHcILu


 ――神が創り出した箱庭で、生きる証を探す狼狽の使者。吊るされた糸に気付くことなく、ただただ道標に従うその様は、まさに生きるマリオネット。
 使者が生み出した舞台で、高みの見物をする孤高の神。見飽きた結末に頬杖をつき、ただただせせら笑うその様は、まさに死せる愚者。
 マリオネットは戯曲を奏でながら、今日も高らかに神の手の上で踊る。
 終焉の合図が鳴ることなく、延々と、延々と繰り返す。全ては神の機嫌をとるためだけに――

「馬鹿馬鹿しい話もあるもんだ」
 そこまで読んで、マリオネットは本を乱雑に投げ捨てた。
「仮にこの話が本当だとしても、この俺が運命に屈するわけが無い。そんなチンケな糸なんかがあったら、真っ先に引きちぎってしまうからな」
 そういって彼も、次の舞台へと身を乗り出した。自身の後ろの糸に気付きもせずに。





※注意※
→当リレー小説は宮瀬いろは、小豆、幻灯夜城による合作です。他の書き込みはご遠慮願います。
→感想等はサブ記事にて。とても喜びます。長編作品ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。

2年前 No.0
ページ: 1


 
 

Epsode1-1 @else☆TYRYeuBpk3k ★iPhone=ZmYwVHcILu


【 第一章:ロイヤルウェディング 】


 空は青々、日は燦々。
 悠々と浮かぶ朧雲の元で、新たな緑の芽が大地から萌え出そうとしていた。仄かな花の香りと共に、遠く、峻険な山々から吹き降りる風は暖かく、そっと、まるで春の訪れを伝えるかのようだった。

 世界に名高いルーシフ王国の王都は、その日、一際な賑わいを見せていた。堂々とそびえ立つ白亜城の門前には沢山の騎士が並べられ、フラワーガールたちが空に向かって花を撒く。華やかな音楽が辺りを包み、民は喝采と祝福の声を上げて、歌い、踊り、騒ぎ回っていた。イグナーツ・エルベンもその例外に過ぎず、一人、溢れんばかりの興奮を抑えきれずにいた。そこに一切の邪念はなく、今から訪れる一幕を待ちわびるその姿はまさに少年のよう。居ても立ってもいられない様子で彼は腰に構える剣に手を添え、騎士団の方へと駆け寄っていった。

「なあなあ、ヴェンツェーヌ王国のお姫様ってどのくらい可愛いんだろうな」
「何を言ってるんだ、うちの国王陛下が惚れた姫君だぜ。そりゃあ、べっぴんさんに決まってんだろう」
「私、早くヴィリーゼ様にお会いしたいわ! 結婚式はまだ始まらないのかしら」
「嗚呼、僕みたいな奴がロイヤルウェディングっつーやつを見れるだなんて夢のようだよ! 」
「遠い国からわざわざお越しになって結婚式だなんて、ご苦労なことねえ。これからは此方の国に住まわれるのかしら」

 周囲を掻き分けていくと、民衆の浮き足立った声が耳に届く。それもそのはず。何を隠そう、今日はルーシフ王国国王とヴェンツェーヌ王国第一王女が結ばれるめでたき日で、その晴れ姿を一目拝もうと、国中の民が騒ぎ立てているのである。
 その一杯機嫌な調子が気に食わないのか、イグナーツは辺りを見回したあと、軽く舌打ちをして、
「おいおいおい、良い歳過ぎた大人が揃いも揃って気を緩め過ぎじゃねえか? 」
 と、悪態をついた。逆立てた茶髪が纏うはサギラン魔法学校の制服。彼は今日、王家の護衛者としてこの式に参加していた。


「少年、今まで何処に行っていた。式はすぐに始まるぞ」
 門前に辿り着けば、すぐさま鋭い叱咤の声がイグナーツを殴りつけた。猛牛のような体をした騎士が多いなかで、唯一細身なその騎士は、彼を一目したあと、再度彼に答えを催促する。
「何処って、ただ巡回がてらに街の様子を見て回っていたって言うか……」
「そんな事をお前に頼んだ覚えはない。それとその物騒な剣をしまえ。今お前に騒ぎを立てられたら、たまったものじゃないからな」
 涼しげな顔で述べる騎士に逆上したイグナーツは、
「何でだよ! もう敵は此方に来てるかもしれねぇんだぞ! 」
 と、吠える。対して騎士は一切それに動じることはなく、
「興奮する気持ちも分からなくはないが、今の最優先事項は式の警備体制が万全であることだ。それに民間人に刃を向ける王立騎士団がどこにいる」
 と、淡々と答えた。
「じゃあ何だよ、未然に防げるチャンスを黙って見過ごせってのか? ハッ、さすがのエリート騎士様は余裕綽々ってわけか! 」
「今お前と言い争っている暇はない。直に国王陛下がお見えになる。早く持ち場につけ」
 あっさりと言い負かされたイグナーツは渋々ながらも剣を収め、門をくぐっていった。彼の頭を過るは敵、近頃勢力を増している「魔王」の存在。彼はそればかりが気に掛かって、ロイヤルウェディングどころではなかったのだ。
 そんな魔法学校の生徒が騎士の任務に参加するに至るまで。それは一週間前の話に遡る。

2年前 No.1

Epsode1-2 @else☆TYRYeuBpk3k ★iPhone=ZmYwVHcILu


「騎士たちと一緒に姫様を護衛!?」

 サギラン魔法学校の学長室でイグナーツは叫ぶ。
 ロイヤルウェディングが開かれる一週間前、学長に呼び出された数十名の生徒は、式当日の段取りについて説明を受けていた。
「そうだ。当日、諸君には王立騎士団と合同で警備そして護衛にあたってもらう。我が国王陛下の妃となるヴィリーゼ様は御年17歳、護衛は年の近い魔法学生のほうが適任だろうと、騎士団長によるご配慮だ」
 学長は静かに語る。
 王立騎士団――王国に貢献することがこの世の最たる名誉であるこの国では、その身を捧げ、剣を振るう騎士団が最高職とされている。誰もが彼らを敬慕し讃美した。男なら一度は憧れる役職だった。

 今回、学長の口から告げられたそれは、騎士団入りを夢見る魔法学生らにとって思ってもみない朗報だった。
 騎士を養成するサギラン魔法学校では、度々こうして生徒を騎士団に送っている。しかしそんな中でも彼らと同じ任に就くことは、魔法学生の栄達を意味する一種の「ジンクス」としてとても有名だったのだ。
  選ばれたことに対する興奮を隠せない学生たちをよそに、学長は淡々と必要事項を述べた。
「近頃魔王軍が勢力を伸ばしているという話も聞く。当日の式は厳戒態勢の中で行われるが、万が一の場合は諸君も騎士団の力になってほしい」
「はい!」
 魔法学生達は大声で意欲を示した。やる気に満ち溢れていた。
「諸君を統括するはリベラトーレ・N・ギッティ卿、王立騎士団の中でも一二を争う実力者だ。当日は彼の命令に従い、式典の円滑な運営に寄与してほしい。くれぐれもサー・リベラトーレに粗相のないように……」
 何とも言えない高揚感に襲われたイグナーツは、最早学長の話など聞く耳を持たない様子だった。今すぐにでもここを飛び出して、ついにこの日が来た、と叫びたい気持ちだった。
「……とはいえ諸君等は未だ学生の身。一種の社会勉強だと思って、当日は気負わず、彼らの補助に徹してほしい。諸君の健闘を期待する」
 そう告げられ学長室を出たイグナーツ達は、扉を閉めると同時に感嘆の声をあげた。抱き合い、その喜びを表現する者もいた。

「やったなイグナーツ。数いる魔法学生から俺たちが護衛に抜擢されたんだぞ。しかも期待されているときた。これは叙任式も近いんじゃないか?」
 イグナーツと同じく学長に呼ばれていたジャンは、親しげに彼に話しかけた。退屈な講義を受け、きつい鍛錬に耐え、魔術と剣術を磨き上げてきたのは、全て騎士となり魔王をこの手で討つため。今までの努力が漸く身を結ばれたのだと思うと、居ても立っても居られないのは彼も同じようだった。
「いや、まだまだだ。結婚式当日、何かしら爪痕を残して騎士団の目に止まらねえと意味がない。手柄、手柄を……」
 しかし喜ぶジャンをよそに彼は内なる情熱を口にする。
 意欲に燃える彼は、自身の勇姿を讃える活劇を妄想していた。それは魔王の手先から姫を救い出すという、見事な英雄譚だった。

2年前 No.2

Epsode1-3 @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★xv3jzoowMR_ccm

 昼時。
 直視するには眩しい陽射しが、窓より降り注ぐ。しかし、その道にある一本の大樹は枝葉を広げ、真下へと降り注ぐ陽射しを優しく暖かなものへと変えていた。
 質素ではあるが何処か現世とは一線を画した王女の部屋。その中に、空気が違う年季の入った古い机がある。ヴィリーゼ・シュタインベルグ・ヴェンツェーヌこと、ヴェンツェーヌ王国第一後継者は机上に広げたノートに覆いかぶさるように、眠りこけていた。
 陽射しに揺らされて、眠る。
 ノック音。
「ヴィリーゼ様ー?」
 少女の声。無論、返事は無い。続いてノブを捻る音と共に、扉が開かれる。声の主は無防備に寝ている主の姿を見て、溜息を一つついた。
「……仮にも一国の王女が、そんな姿でよろしいのですか?」
 体裁とか、面子とかそういう問題ではなく、要は心構えという話。呆れたような面持ちで近づいて、ゆさゆさ、ゆさゆさとヴィリーゼの肩を揺らす。「起きてくださーい」と何度か揺らしてみるも効果は無い。
「あとごふん」
「起きてください。もう昼を過ぎてますよ〜。」
「あとごふん〜、どうせならちゅうしょくもってきて、ついでにおとーさまへのほーこく、ついでにれぽーとていしゅつもおねがい〜。」
 いやいやするように、メイドの手を払い除けるヴィリーゼ。
 その様子に更に深い溜息をついてみせれば、唐突にヴィリーゼの傍を離れ、寝たふりを決め込む彼女に聞こえるように大声で。

「起きなかったら昼食は抜きにしますので。あー、残念ですねー、ダルボさんが作ってくださった、ラズベリー入りのロールケーキがあるのになー、私一人で全部食べちゃいましょう!」

 がばっ。
 擬音が聞こえる勢いで起きるヴィリーゼ。
「……起きてましたよ? 貴女も意地が悪いですねシオン、そんなお話を聞かされて起きないはずがないでしょう?」
「素直でよろしい。」

 髪をシオンに整えてもらいながら、ヴィリーゼは公務の確認を行っていた。
 ここ最近はロイヤルウェイディングが近いということもあってルーシフ王国との会議が多く入っている。最も、此方の方は国王、つまり父上に任せればいい話。
 問題は、ロイヤルウェイディング絡みの段取り決めや騎士団との顔合わせなのだが……。
「……シオン、何時もの頼み、よろしいですか?」
「聞かなくても分かることだと思いますが、一応聞いておきます。何ですか?」
 それは、毎度の如くヴィリーゼがシオンに頼む願い。
 籠の鳥である少女が、その籠から脱出するための手段。
「――私、この会議出席しません。ですので、後のことはよろしくお願いします。」

 ――キィ、バタン。
 扉が、閉まる。
 手に持っていた鍵で、王女の部屋にシオンが鍵を掛ける。
「全く、毎度のことですが、危ない橋だということを分かっていらっしゃるのでしょうか。」
 とりあえず、この心労はもうしばらくの間は絶える事はないらしい。とりあえずは、自分の務めを果たすべく王室へと向かう。

 それから数分の後。
 王女の部屋の窓から、枯れ草色のワンピースを纏い、金糸の如き髪を一本に束ねた少女が中庭へ、そして外へと飛び出していった。

2年前 No.3

Episode 1-4 @else☆TYRYeuBpk3k ★iPhone=ZmYwVHcILu

 王宮の警備網を知り尽す王女は、人目を盗んで庭園を駆け抜け、 そっと城壁の前に立つ。
 たくさんの蔓に囲まれたそれは、ヴィリーゼだけが知る隠し扉。葉を掻き分け、現れた石壁をそっと押せば、それはのようどんでん返しのように回転して王都へ続く道を示し出した。
 ヴィリーゼは慣れた手つきで扉を開けると、あっという間に城を抜け出した。そして木漏れ日が彩る、斑点模様の砂利道を鼻歌交じりに歩く。

 一国の王女は毎日のように城を抜け出しては、このスリリングな散歩を楽しんでいた。
 日々厳粛な場に身を置き、王女としての優美な立ち振る舞いを強いられるのは少々狭苦しい。彼女にとってのそれは一種の息抜きだった。

 林を抜け、視界が開けたその先でヴィリーゼは王都を一望する。
「ふう、今日も絶好のお散歩日和ですね」
 そう言う彼女の目は輝いていた。
 目の前に広がるは活気付いた、いつものヴェンツェーヌ王国の風景。彼女の愛する景色だった。

 お忍びで行く王都は何度訪れても新鮮に映った。
 ヴィリーゼは金色の髪をなびかせながら、大市の品物をしげしげと眺める。新鮮な果物に、焼きたての菓子、色とりどりな花草に、独特な骨董品。外来商人が出品していたこともあって、その中には彼女も見たこともないようなモノも沢山売り出されていた。
 いいなあ。市場を歩きながら、彼女は思う。
 王都にいる全ての民が自分より輝いて見えた。周囲を見回せば、自分と変わらない年頃の子供たちも、無邪気に駆け回っていた。彼らとは違い、変えられない自身の運命が、御国の為とはいえ数日後に迫る結婚式がヴィリーゼは嫌で仕方がなかった。

 すると少女は、ある一つの店の前で立ち止まった。
 質素なパン。
 香ばしい匂いが彼女の食欲をそそり、そういえば今日まだおやつを食べていないことに気が付く。ヴィリーゼは王宮の豪勢な食事も好きだったが、こういった庶民の味も好みだった。
 買うか買うまいか悩む最中、突如、凄まじい衝撃がヴィリーゼを襲う。
「きゃっ」
 ヴィリーゼは耐えきれずに倒れ込むと、彼女と同様に尻餅をつく男がいた。
「いってぇー」
 そう呟く男は、よく知る異国の服を着ていた。

2年前 No.4

Episode 1-5 @tukuyomi07☆RSMACIR1opU ★xv3jzoowMR_wpU

 ルーシフ王国。
 結婚相手の国であるのもあってかかの国には何度か訪れており、よく見かける服装だということもあってかヴィリーゼはすぐに分かった。皮肉なもので、幾らその国に嫁ぐことを嫌がっていようとも、謁見に向かう度に目にしていれば自然と文化も把握できてしまう。
 男の手に大事に抱えられているのはずっしりと膨れ上がった袋。形状からして硬貨が入っているであろうソレ。
 そして、そのよく見かける服装が古ぼけていることから何となくだが男の経済状況が把握できた。

「だ、大丈夫ですか?」
 幸いにして何処にも怪我をしている様子はない。自分も相手も少々土埃で汚れた程度であり、恐らく洗えば直ぐにでも取れるだろう。前を見て歩け、と本当なら言うべきところであるがその向こうに見える明かな怒気を纏った者を見るとその言葉は喉元で一気に押し込められる。
「オイ何処に行ったコソ泥! ぶっ殺してやる!」
「っ、ヤバい、もう来た!」
 怒声に怯え駆け出そうとする男。すぐさまヴィリーゼはその手を取る。
「っ、何だよ、文句なら後で」
 焦燥に駆られる男。
 向こうより迫る怒声を背に、ヴィリーゼの決断は早かった。これでも王宮を抜け出したり、追ってくるかもしれない兵士から逃亡するために腕力も脚力も鍛えているのだ。すぐさまがっしりと掴んだ手で男を思い切り引っ張り、土煙を上げて駆け出す。
「こっち!」
 駆け出した先は裏路地。法の秩序から少し外れた世界。
 酒場、宿屋、倉庫、繁華街にはよくある入り組んだ迷宮。
 背後から迫る怒声。捕まったら何をされるだろうか。
 今日はとってもスリリングな一日になりそうな予感がした。

 何度か曲がり角を曲がり、男と共に走り抜ける。道は覚えている。問題ない。兵士の目が届かない道としてよく利用しているから、何度か角を曲がっていけば追っ手を撒ける事も実証済みだ。走るのにも問題はない。一旦立ち止まって背後を振り返り、自分が引っ張ってきた男がいて、怒声を上げる者がいないことを確認してほっと溜息を付く。
「……なぁ、アンタ。悪かったな」
「……何でしょう?」
 ルーシフ国民であろう男が申し訳なさそうに謝罪してきた。
「分かってんだろ?」
「だから何をですか?」
「俺が盗人だってこと。まずいんじゃあないのか? 協力しちまって」
 淡々と、しかし目の前の少女を巻き込んでしまったという事実。共犯扱いされるのだけは避けたい、だから微かに「俺は怖い泥棒だぞ」と威圧をかける男。しかしヴィリーゼにとってはそんなものさしたる問題ではない。
 目の前の男がルーシフの民で、強盗に走らなければならない程の事情があるかもしれないという予測。
 その予測は、民を、人を、分け隔てなく愛する彼女の心にちくりと針を刺した。

 それからもう一つ理由がある。
 今、追われている、という状況でヴィリーゼは閉じこもっていては味わえないスリルに心から笑えていたから。

「別に、大丈夫です。貴方にも事情があるんでしょうから。それに」
 頭の中を疑問符で埋め尽くす男。
 にこり、と笑って少女は続けた。

「これ位スリルがあった方が、楽しいじゃないですか。
 ――なーんて、あははは……」

1年前 No.5

Episode 1-6 @dainagon ★iPhone=jWWbGAjwEQ

 ぽかんと男の口が空く。盗人の手助けをし、物騒な罵声を吐く追っ手から命辛々逃れたこの状況を、目の前の少女はこともあろうに「楽しい」と笑顔で言ってのけたのだ。
 胆力があると言えば聞こえは良いが、スリルを求めるならもう少しやり方があるだろうに。犯罪者である自分に手を貸すことがどういうことか、一歩誤れば命すら危うくなるということが、この上品な娘には分かっているのだろうか。
 分からない。男がヴェンツェーヌ王国に来て久しく経つが、こんなことは初めてだった。異国の、決して見なりも良くない自分の手を取る人がいたなんて。

「……アンタ、変な奴だな」

 出稼ぎにこの国へ訪れて、けれども仕事はうまく行かず挙げ句の果てには盗みに手を染めた。そんな男に、少女の手は久方ぶりの人の温かみを思い出させてくれるような気がして。
 もっと気の利いた言葉か感謝の言葉のひとつでも出てくればいいのだが、生憎と男の語彙力には限界があった。

「私は民……じゃなくって! 困っている人を、放っておけないだけです」

 それでも、ふわりと香る花のような微笑みを浮かべてくる少女が、男には酷く眩しいものにみえて。同時に、彼女を巻き込むわけにはいかないと一層の決意を固めさせる結果となった。

「…さて、助けてくれてすまねえな。俺はもう行く」
「行くって、どちらにですか?」
「逃げるんだよ。捕まったら俺ぁ殺される。嬢ちゃんはさっさと帰んな」
「! 嫌です!」
 路地の奥へと進もうとした男の行く手に少女が立ち塞がる。
「スリルならもう味わったろ、そこどいてくれ」
「私も一緒にお手伝いします!だって、お金を盗む理由があるんでしょう?」
「危険だ。あんたまで殺されちゃ寝覚めが悪くて仕方ねえ」
「わ、私だって自分の身位は守れます!」
 脇をすり抜けようとしても、先程の逃走劇を繰り広げただけあって少女は随分と機敏だ。フェイントの応酬が何度となされるうち、男の痺れが切れてくる。

「ガキは家に帰ってママのお手伝いでもしてるんだ!」

 ついに声を荒げ、男はビッと逃げてきた道を指さす。両者が一瞬動きを止め、静寂が広がった。
 見れば、言葉に少女の頬がみるみるうちに膨らんでいくではないか。

「私は! もう17です!!」
「…………えっ」

 思わず零れた驚きの声は、随分と間の抜けたものになってしまった。17といえば、人によっては嫁に行く可能性もある年齢、立派な大人の一員だ。
 しかし、仁王立ちで眉を吊り上げる少女は男の胸元辺りまでの背丈しかない。大きな青い目が輝く顔立ちは大人と呼ぶにはあまりにあどけなく、おまけに反らしているにも関わらずその胸は、何というか。

「……ちっさ。」

 たった一言、呟くような感想が少女への印象を全て物語っていた。
それが雷に打たれたかのような衝撃なのだろうか。文字通りそのような表情を浮かべ、少女の小さな拳がぎゅうと握りこまれる。

「ち、ちっちゃいとか言わないでくださいっ!」
「あ、悪ぃ悪ぃどー見ても10歳くらいにしか見えねえもんだから……あ、」
 それが地雷であると男が気付いた時には既に遅く。少女のワンピースに包まれた小さな肩はふるふると震え、大きな瞳には零れそうなほどに涙が溜まっていく。

「ち、ちっちゃくなんか、ちっちゃくなんか……むねぺったんでもないもん……もん……ぐすん」
「わ、悪かったって! ほら嬢ちゃんそんなに泣くなよ? なっ?」

 慌てて背を屈めて目線を合わせた男の慰めは、果たして聞こえているのだろうか。
 少なくとも、涙を堪える姿も含めやはりどう見ても幼子にしか見えない少女を泣かせてしまった罪悪感が、彼女を放置して逃げるという選択を男から奪っていったことは確かなようだ。

1年前 No.6

Episode 1-7 @else☆TYRYeuBpk3k ★iPhone=ZmYwVHcILu

 結局ヴィリーゼの半ば強引な押し売りで始まった二人の旅路は、気付けば半日が過ぎていた。
 人の目を掻い潜りつつ、郊外へと足を向けた二人。ヴィリーゼのおかげで道すがら誰に見つかることもなく、日が落ちる頃には、既に王都から遠く離れた街外れに辿り着いていた。
 その間に何度か盗みを繰り返したのだろう、いつの間にか男の袋が数倍にも膨れ上がっていたような気もしたが、少女は敢えて何も聞かなかった。
 まるでかくれんぼのような逃走劇。
 それは彼女にとって今までにない冒険であり、至福の時。対して男は、いつまで逃げられるのだろうかという恐怖心が募るばかりであった。

「今日は随分と王国の兵達が警備にあたってますね……」
 物陰に隠れながら、ヴィリーゼはそっと呟く。
「近頃お姫様が結婚するとかってんで、重役さん達が城に集まってるからだろう。まあ俺には縁のない話だが」
 男は淡々としていたが、どこか弱々しくも見える。
 その言葉で漸く今日の重要会議を思い出した少女は一瞬、固まった。
 それだけではないことを、彼女は知っていた。
「きっと私が城を抜け出したのがバレたんだわ」と、うわ言のように呟く。重要会議を欠席したことが父に知られることは由々しき事態。「どうしましょう」という、彼女の弱音は幸いにも男の耳には届いていないようで、独り周囲の音によって掻き消されていった。

「あ、ありゃあルーシフ王国の軍旗じゃねえか?」
 事の重大さに少々怖けるヴィリーゼを、男の声が現実に引き戻した。
 彼の視線の先を辿ると、遠くの大通りで列をなした兵隊達が城に向かって行進していた。よく見ると自分と変わらない年齢層の者もいたが、そのほとんどが見た事のない顔ばかり。
 ――何をしに来たのだろう、ロイヤルウェディングの段取りでも組みにきたのだろうか。
 そんな事を考えていると、男が覚悟を決めたかのように深く息を吸った。
「そろそろ潮時だな。国外へ逃げるとするか」
「当てはあるのですか?」
「あることにはあるが、はみ出し者の溜まり場みてえなところだ。嬢ちゃんが来るような場所じゃねえよ」
 そう言って少女の頭を撫でる男。
「ま、またそうやって私を子供扱いして……!」
「お遊びはここまでだ嬢ちゃん。お前、見たところ良い家柄の出だろう? 悪遊びは控えたほうがいいぜ、俺みたいになっちまう前にな」
 クシャクシャな笑顔を向ける盗人に、ヴィリーゼは返す言葉が見当たらなかった。
 盗みを働かなければ、生きていけない者がいる。
 頭では分かっていた事でも、こうも目の当たりにするまでは実感が湧かなかった自分を恥じた。
 ――この者を救える程の力が、今の私にはない。

「分かりました。これまで付き合っていただいたご恩もありますし、ここは大人しく引き下がりましょう」
 拳を握りしめながらも、ヴィリーゼは笑顔で言う。
「ですが、せめて貴方のお名前だけでも教えていただけませんか」
「あ? そういや、まだ名乗ってなかったか。俺の名は……」
 彼女に応じ、男が自分の名を口にしようとした、そのとき。

「おいお前達、ここで何をしている」
 いつの間にか背後にいた兵が、まるで尋問するかのように、低く、冷たい声でこちらを見下ろしていた。

1年前 No.7

Episode 1-8 @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★ssiVBx8qzf_6Gk

 その甲冑の腕に捲かれた腕章。それはまさしく――当然なのだが――ルーシフ王国のものであるということ。何度見てもその結果は覆ることはなく、それが目の前に在ることそれ即ち男の逃亡劇の最大の難関が目の前に立ちはだかったことの証明に他ならなかった。
 ここまで来るといっそのこと清々しささえ覚える。神様なんてこの世にはいない。自分の窮地を救ってくれる頼れる仲間とか、つらい時に隣にいてくれる友とか、そういう純粋な空想(モノガタリ)はティーンエイジャーにのみ許された逃避の権利。今この場、この瞬間においては逃避する思考も出来ず、目の前の現実を直視するしかない。いや、前提からして。

 そもそもこんな世界に、救いはあったのだろうか。

「何をしていると、聞いている」

 淡々と、しかし威圧を込めて兵士は言葉を反復する。押し黙った彼らへと向けて早く口を開け、あるいは自分の仕事を長引かせるんじゃないと鬱憤をぶつけるように、問いかけてくる。決して赤子に対するものではない。答えをしくじれば一発縛り首だってありうるかもしれない。
 低く、冷たい目で見下ろす兵士へと男は見上げるような形で媚びを売った。

「旦那、ここは見逃していただけませんでしょうか?」
「お前が答え次第では見逃してやる。早く言え」
「いえ、私も忙しいんですよ。借金取りに追われて夜も眠れないもので」

 言うなり、おもむろに男は自分の「収穫」の入った袋に手を入れた。そして取り出したものをすばやく、そっと、兵士の手の平に握らせた。陽が当たることのない、影にある金貨数枚。どれもこれも、先の店の店主からかっぱらってきたもの。
 そしてそれを見ていたウィリーゼはその行為が何を意味するものかを悟ってしまった。悟ってしまった上で――口に出そうとして、塞がれた。

「むぐぅ!?」
「――まぁ、これで失礼します」
「……そうだな。特に異常はないようだ」

 男はウィリーゼの手を引っ張り路地裏へと消える。
 兵士は何食わぬ顔で彼らを見送る。何も異常はない、「そういうこと」にされたのだから異常はあってはならないのだ。もしくは他の異常を捕まえる、あるいは手柄立てるついでに通常を異常に仕立て上げて捕まえなければならないのだ。
 男は兵士の目が完全にこちらから外れる所まで動き、ようやくその手を離した。

「ここまでくりゃ、追って来ないはずだ」

 安堵する。今日も生き延びられることに、そして名も知らぬ少女を巻き込まなかったことに対して、この神のいない世界に感謝の念を捧げるのを忘れない。

「あの」
「何だ?」

 何かを言いたげなウィリーゼの視線が男に突き刺さる。
 今更、罪悪感を覚えるつもりもないが、純真無垢であろう少女の咎めるような視線というのはどうにもこうにも、慣れないものである。

「さっきのあれ、賄賂、ですよね」
「知ってんのか。親から教えてもらったのか?」
「本で読みました」

 ついうっかりしてしまうと「小さいのによく色んなこと知ってるな」と言いそうになるが、仏の顔も三度まで、出かけた言葉を喉奥にしまいつつ出来るだけ、出来るだけ軽い調子で意地の悪い質問を投げかける。

「で、どう思った?」
「どうって、……」

 答えられるはずがない。
 男は幾ら17でも泥沼に腐りきった現実を直視するには速すぎると考えていたのだから。
 少女は自国の兵の実態を把握していなかったことにショックを受けていたのだから。答えに窮し、黙り込んでいたウィリーゼに、更に重ねるようにして冗談めかして笑った。

「いや、いい。答えられないわな。
 悪いことだろうよ。でも、これが生きる術だってこともある。
 むかーし、どっかの国で逮捕された大物政治家だって賄賂を繰り返してきた。俺が今やったのは、それに比べればちっぽけだが……悪なんだろう、きっと」

 悪だ。そう言いたかった。でも言えなかった。
 確かに、それは悪だ。だが、仕方のないことであるはずなのだ。そうでなくてはあまりにも非情過ぎやしないか。
 沈みかける夕日。
 陽の射さぬ裏路地。だんまりになってから、どんよりとした空気が漂い始めた男女の影。

「悪い、喋りすぎた。俺はもう行く。次見つかれば多分ただじゃすまねぇだろうし、顔も割れちまったからな」
「あっ……」

 男はそのまま早足で何処かへ去っていく。
 呼び止めることも出来ずに、ウィリーゼはその背中へと伸ばしかけた手を、ゆっくり、ゆっくりと引っ込めるしかなかった。

1年前 No.8

Episode 1-9☆XALa6Ydqk4eL ★P9FTsKohqY_cci

 握らされた数枚の袖の下は魔法の道具だ。見たものを見なかったことにする記憶改ざんの魔法。
それを握らされてしまったのならば仕方ない。ここには何も異常はなかったと、自分は ”魔法によって” 思わされてしまったのだ。
 方便は喉の奥に、魔法の道具は甲冑の下に。けれど、鉛色の甲冑に黄金の輝きは目立ちすぎる。

「随分と良くできた菓子だな、チャールズ」
 静かだが覇気のある声で呼ばれた名に兵士の肩が跳ねる。金属と金属の間にできる摩擦は少ない。弾みで指先から滑り落ちた黄金は石畳の道を車輪のように転がって、やがて、こつり。
高い音を立てて金貨は地面に横たわる。ぶつかった軍用ブーツをなぞるように視線を上げた兵の顔がさっと青ざめるのが兜越しにもわかった。
 赤い魔石が目を惹く膝丈のマント、それに隠されるような一対のサーベル、そしてルーシフ王国騎士団の正装。それだけで、声の主が誰であるかなど考えるまでもなかった。

「リ、リベラトーレ卿!?」
 リベラトーレ・N・ギッティ。今回の遠征にて婚姻式の警備責任者として抜擢された人物であり、チャールズと呼ばれた兵士直属の上司でもある男は、大剣を振るうにはいささか心もとない太さの両腕を組み、呆れたようにため息をついた。
「買い食いならば警邏の後にしろ。その姿で店先に行ったところで、いたずらに国民を怯えさせることになるだけだ」
 指し示された甲冑は、ただでさえ恵まれたチャールズの体格をより一層大きなものに見せている。そうでなくとも、異国の騎士なんてのは一般人にとっては物々しく得体の知れない存在なのだ。

 仕事が終わってからなら好きにすればいい。そういった旨の言葉に、チャールズは手の中に残っていた “菓子” を握り込み愛想笑う。どうにか誤魔化してしまえ。そう囁いたのは手の中にあるものでも魔法の力でもない。他ならぬ彼自身だ。
「い、いやあ、市場の喧嘩に仲裁に入ったところ店主から礼にと渡さ、」


ヒュン、と、言葉尻と風が斬れるのは同時のことであった。

 兜ごと首を落とす直前で寸止められたサーベルの刃先から伝わる殺気が、チャールズの全身の血液を凍りつかせる。震える視線を移し、一瞬のうちに間合いを詰めてきたサーベルの持ち主へと向ければ、真っ直ぐに射殺さんばかりの眼光を伴った緑の目がチャールズを睨めつけていた。

「貴様、自分のしたことがわかっているのか。それでも我がルーシフ王国の騎士に名を連ねる者か! この恥知らずめ!」

 激昂が狭い路地に轟く。雷魔法で感電したかのような痺れを手足の先にまで伝わせる気迫は、騎士団の頂点に立つ者の証だ。

 リベラトーレの頭には幾つもの感情が行き交う。嘘をついた部下への憤り。賄賂を渡した浮浪者の行い。彼をそのような状況にまで追い込んだ情勢への嘆き。数えればきりがないそれらを押さえ込んで、いずこへか消えた浮浪者を追うことよりも部下の矯正を優先させたリベラトーレは憎々しげに歯を食いしばった。

「も…申し訳、ありません……どうか卿、命だけは…!」
「………もういい。それよりも、我らにはヴィリーゼ姫をお探しする任がある」

 会議を放り出して消えたヴェンツェーヌ王国第一王女の捜索と護衛。それが今のリベラトーレが騎士として課された第一の任務であった。騎士の誇りはもはや持ち合わせていない部下に、構っている暇などない。
 サーベルを鞘に収め、マントで再び覆い隠す。「行くぞ。手がかりは容姿の特徴のみだ」踵を返したリベラトーレの後ろを、恐怖が引いたチャールズもまたついていく。

「……腐っている」

 苦々しげに呟かれたリベラトーレの声は、誰の耳にも届くことはなかった。

1年前 No.9

Episode 1-10 @tukuyomi07☆2nDyzvx51us ★3aNoMW8gGM_Y9V

 夕刻、何時もの抜け道である窓から垂れていたシーツを器用に伝って部屋へと戻る。
 テーブルの上には魔法で鮮度が保たれたラズベリーのロールケーキと『今日は部屋から出ないように』というシオンの書き置き。

 重要会議を抜け出したことで、兵士をも駆り出す程の大騒ぎになってしまっていたのは大誤算であった。何時もなら、少しお小言を貰う程度で済むのだが今日というばかりは誤魔化しきれなければどうなるかは目に見えている。
 秘密を共有している彼女には、「体調不良で寝込んでいる」と伝えるようにはあらかじめ、何時ものように頼んではいるが――事の大きさが大きさだ、何時気付かれてもおかしくはないだろう。現に今部屋に入られていないというだけでも奇跡に近いというのに。
 ……考えれば考えるほど最悪の想像ばかりが過ぎって嫌気が差してくる。今回の婚姻の段取りに関しても己の望むところではないのだし、出席する意味にしても体裁を保つためだけだというのだから、己がいなくともいいではないか。

 ベットに寝転がり天幕を見上げる。
 思い返すは今日出会った浮浪者の事。そして兵士が簡単に賄賂に応じてしまったということ。
 父からは善政の話しか聞かされていないが、ウィリーゼは歳を経るにつれてそれに懐疑的な印象を持ち始めていた。丁度、好奇心の導くままに始めて抜け出したあの日、聞いていた話と実際の民の暮しの乖離を目の当たりにしたからである。
 百聞は一見にしかず。聞く情報と見て、体験する情報には大きな差が出るとはよく言うが。……これまで見てきたもの然り、今回の出来事然り、「国民の未来を目指した政治を敷いている」という印象とは大きく異なっているようにしか感じられなかった。
 このことを父に聞けた試しはない。何時もの優しい父親、そして会議の場での厳格な姿しか知らない故にどうしても尻込みしてしまう。

「……はぁ」

 ――はみ出し者の溜まり場みてえなところだ。

 国外逃亡の当てを聞いたとき、確かに彼はこう言った。
 裏を返せばルーシフ王国の首都外にはそういった場所があるということだ。あるいは、どの国にも所属出来ない治外法権の場所の可能性もある。
 明日はそこを目指して飛び出してみようか。何事も無ければ、……だが国外まで行くともなればリスクも大きくなるだろう。泊まりがけ出行かなければならないのは確かだし、何よりそこまで誤魔化し切れる自信もない。勇気というより無謀な挑戦であるのはウィリーゼ自身も理解しており、まずシオンからストップがかかるのは確かだろう。
 だがそれでも見なければという意志は確かであった。この目で見て、話して、実情を理解する。己が将来民の上に立った時に必要なことを今の内に全て成し遂げてしまうのだ。

 ……だがこれ以上の当てがない。
 理想は大きいのに現実が全く伴わない。
 等身大の己では出来ないという力不足に、不貞寝という形で現実を逃避する。

(……)

 らくえん
 理想の国を創りたい。そうでなくても、皆が報われる政治を創りたい。
 何かしらの形で人の上に立てば誰もが夢視ることで、そして誰もが現実を前に妥協に妥協を重ね始める。
 最初は理想。次は現実。その次は妥協。その次は落としどころ。最後は民へ、そして昔の自分への誤魔化し。

 ――ウィリーゼも、その一人となりつつあった。

18日前 No.10

Episode 1-11 @else☆TYRYeuBpk3k ★iPad=MUiShf7G5m

「……そうか。報告ご苦労」

 リベラトーレは隊員からの報告を受けて一息ついた。
 どうやらヴェンツェーヌ王国第一王女の失踪事件は杞憂に終わったようで、先ほどヴィリーゼが自室で寝ているところを兵士が確認したらしい。それならば初めから城の中を探していれば出動せずに済んだのではないか、とも思ったが、上も上で焦っていたのだろう。リベラトーレは鞘に収まったサーベルをいじりながら部下達に撤退を命じた。沈みかけた夕日は兵士たちの白皙を赤色に染めあげる。かなり無駄足を踏んでしまったが、一刻も早く王都に戻って婚姻式の手筈を整えなければならない。

「どうだ、子守りは大変だろう隊長さん。だがこれからはもっと大変になるぞ」
 共にヴィリーゼを捜索していたヴェンツェーヌ国の兵士が話しかける。にたにたと気色の悪い笑みを浮かべていた。
「何が言いたい」
「あの姫様は昔からとんだお転婆娘でね、こんなことは日常茶飯事さ。滅多なことがなければ表沙汰にはならないが、だいたいは姫様を探して一日が終わる。もうすぐ姫様がそちらに嫁ぐんだろう? これからは覚悟しておけよ」
「……」
 リベラトーレは返事をする代わりに男を強く睨みつけた。反吐が出た。本来民を守るはずの王立騎士団が、いつから子守り集団に成れ果ててしまったのだろうか。

 兵士を引き連れ帰途につく最中、道端で遊ぶ少年少女が目に付いた。貧相な身なりからおそらく庶民の出だろう。彼らが転がしたボールが靴に当たり、リベラトーレはそっと拾って返す。「騎士様ありがとう」と頭を下げる子どもたちに軽く手を振り、去りゆく姿を見送った。どの国でもやはり子どもは無邪気ながらも溌剌としていて、逆境の中でも小さな喜びを探す強さを持っている。
 −−そういえば、ヴィリーゼ王女は齢十八であったか。
 リベラトーレは思う。もしかしたら姫君もあの子どもたちと同様に年相応に振る舞いたいだけなのかもしれない。すると彼の中で一つの考えが思い浮かんだ。

 王宮に戻ればすでに婚姻式に関する事前会議は終わったようで、貴族や重役たちがぞろぞろと部屋を後にしていた。
 そこを掻き分けるようにして、まだ在席していた男のもとへと寄る。
「おお、これはこれはリベラトーレ卿。この度はご苦労であった」
 彼に気づいた男が声をあげた。アーベル・ヘルムート・ヴァン=ルーシフ。彼こそがリベラトーレの主君であり、ヴェンツェーヌ王国第一王女を嫁に迎えるルーシフ国王だった。
「陛下。早急に陛下のお耳に入れたい事柄があるのですが」
 片膝をついたあと、静かに切り出す。リベラトーレはサギラン魔法学校の生徒たちのことを話に持ち出した。

13日前 No.11
ページ: 1

 
 
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