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鯨と地球と灯台と

 ( 中級者 小説投稿城 )
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アジアンタム @adiantum ★PSP=2IvQFNiHHR


この物語は一言で言えば、
北海道・室蘭市に住む人々のマイペースな日常である。


登場人物(主要キャラのみ)
丘珠都子(おかだまみやこ)・・・主人公。室蘭に引っ越してきた。
花畔緋那(ばんなぐろひな)・・・都子のクラスメイト。世話焼き。
長万部司郎(おしゃまんべしろう)・・・緋那の友達。寡黙。
千歳香澄(ちとせかすみ)・・・女子力高い系男子。モテる。
音更ひかり(おとふけひかり)・・・音更病院の箱入り娘。完璧。
・・・And More!

1年前 No.0
メモ2015/12/20 21:34 : アジアンタム★PSP-2IvQFNiHHR

登場人物の名字は北海道の地名です。

これを機に覚えていただけると嬉しいななんて。

ページ: 1


 
 

アジアンタム @adiantum ★PSP=2IvQFNiHHR

三月。北海道の春は遅い。
「じゃあね」
「またね」
「手紙書くよ」
たくさんの友達に別れを告げ、彼女は両親と姉と共に、札幌からこの港町・室蘭市へと越してきた。
都会生まれ都会育ちの彼女・・・丘珠都子にとってみれば、室蘭市などただの田舎だ。
本当は来たくなんてなかったのに。都子は車の中で一人、膨れっ面で窓の外をみていた。
「いつまでそんな顔してるの。新しい生活に夢を持ちなよ」
「・・・お姉ちゃんうるさい」
姉が唇をとがらせ、スマホに目をやる。
「あら都子、見て!」
母がいきなり指を指した窓の外。
・・・ああ、海だ。テトラポット、防波堤、カモメの群れ・・・。
札幌のビルの海原では見られない、本物の海。
「わ、凪いでるね。空と海の境界線がくっきりだ」
いつもは口数の少ない父も、明るいトーンで言う。
都子も、海は好きだった。夏休みには必ず小樽に行って、水族館に行く途中に海を眺めたものだ。
・・・きっともう暫く、小樽には行けないけれど。
「ねぇお母さん、室蘭ってなにが有名?」
「そうねぇ、考えてみたら私あんまり知らないわ」
うーん、と悩む母の後ろの座席で、姉が素早くスマホに指を滑らせた。

1年前 No.1

アジアンタム @adiantum ★PSP=2IvQFNiHHR

「『室蘭市で有名な食べ物はカレーラーメン、室蘭焼き鳥。室蘭焼き鳥は鶏肉ではなく豚肉を使っており、長葱の代わりに玉葱、さらにからしをつけて食べる』」
「それ本当に焼き鳥なの?」
「らしいよ。あとは、『観光名所は地球岬灯台、工場夜景、ホエールウォッチング』だって」
ぱっとしないなぁ、と、都子は再び海を見つめた。遠くの方に黒いなにかが見える。そのフォルムはまるで・・・
「鯨!?」
母がどこどこ?ときょろきょろする。
姉がまたもやスマホから情報を読み上げる。
「『クジラ岩』っていうのらしいよ。アイヌ民話にも出てくるみたい」
クジラ岩。それに関しては私からお教えしよう。
大昔、このあたりに住んでいたアイヌの人々の村では、大飢饉が起こっていた。
食べるものもなく途方に暮れるなか、一人の若者が海の上に見える黒い塊を見つけた。
若者は『あれは鯨の死体に違いない、あれがこちらへ流れてきてくれれば飢饉から逃れられる』と村人達と考え、ひたすら鯨が流れてくるのを待った。
数日、数週間経っても、鯨は一向に流れてこない。村人達は飢えによって無念にも死んでしまったという。
若者が見つけた鯨らしきものは、ただの岩だったのだ。

1年前 No.2

アジアンタム @adiantum ★PSP=2IvQFNiHHR

そんな民話に登場する岩が、クジラ岩である。
「なんだか悲しい話ねぇ」
母がぼそ、と呟いた。




1年前 No.3

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

新しい家は、古いアパートだった。
ところどころがひび割れ、住む人もそう多くはなさそうだ。
部屋からは海は見えないが、すぐ近くに海水浴場があるという。
「ボロすぎ」
「こら都子、そんなこと言っちゃだめだよ」
荷入れはすぐに終わった。段ボール箱を開け、梱包を解いて、一日が終わった。

次の日、父が突然
「白鳥大橋、行ってみようか」
と言いだした。
白鳥大橋とは室蘭市民ならば誰もが知っている、その名の通り白く大きい橋だ。
天気のよい日に車で通ると、ドライバーが泣きたくなるほど高い。ただ乗っているだけならいいのだが。
「今日なら晴れてるし、父さんの腕試しにもなるさ」
らしくない父の発言に不信感を抱きつつ、都子は「うん、いいね」と言った。

1年前 No.4

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

白鳥大橋。晴れた空に青い海と、綺麗な光景が眼下に広がる。室蘭市の象徴ともいえる数多の工場まで見えるのだから、文句の言い様もない。
「なんだ、全然怖くないじゃん。もっとジェットコースターみたいなのを想像してたのに」
「いくら何でもそんなはずないでしょ。都子はバカなんだから」
姉の悪態も気にせず、都子は海と工場群を眺めた。もくもくと白い煙が青空へ昇っていく。
「あの工場、何を作ってるの?」
素朴な疑問が口をついて出た。
「あれは新日鐵だ。鉄を作っている。こっちは日鋼。鉄鋼所だよ」
室蘭はものづくりの町だからね。父は余裕な表情で都子に教えた。
「ものづくりの町、かぁ」


「はじめまして八幡様。これからよろしくおねがいします」
八幡神社にお参り。八幡神社は由緒ある神社だ。鯨の絵馬があることでも有名である。
「お神籤は引かないの?」
「折角だ、引いていこうか」
一回100円。朱塗りの箱がおいてあって、そこに直接代金を入れる。
「私、吉だ!」
「母さんは小吉・・・」
「俺は中吉だ」
都子もそうっとお神籤を開く。『大吉』の文字が現れた。

1年前 No.5

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

帰宅して早々に、姉がぽつりと呟いた。
「・・・学校、明日からだよね」
そういえばそうだった。引っ越してきたのはいいが、考えてみたらまだ一度も学校を見に行っていない。学校の裏は道路を挟んで海らしい。
「学校ってどこ?」
「明日はついて行ってあげるから、場所は明日覚えなさい」
父も賛同する。明日は忙しくなりそうだと思いながら、都子の一日は終わった。

翌朝、姉の制服姿を見て、やっと都子は目をさました。ランドセルには今日必要な道具がぎっしりと詰まっている。
「あ、やっと起きた。おはよう、都子」
「早くご飯食べて歯磨きして顔洗って着替えして・・・」
「それくらいわかってるよ!毎朝の事だし!」
どたばたと朝は過ぎていく。

都子の通う小学校と姉の通う高校は隣同士にある。
裏に海と学校を隔てるように小振りの岩山があって、小学校と高校で呼び名が違うそうだ。
「都子、頑張りなよ」
「お姉ちゃんも」
ガッツポーズで別れ、都子は母と校門をくぐった。
靴箱にはもう自分の名前が書いてある。まめだなあと思いつつ、真新しい上履き用のスニーカーを履いた。

1年前 No.6

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

転入生は図書室で待機、と書かれていたので、母と都子は図書室へ向かった。思ったより転入生は少ないようだ。
「お母さん、少ないね」
「そうねぇ・・・何だかウチだけ浮いちゃってるみたい」
母がキョロキョロと辺りをみつつ恥ずかしそうに呟いた。
そうこうするうちに時間になって、体育館に行くことになった。母が頑張ってねと手を振り、都子は親指でそれに応えた。
引率してくれていた若い女の先生がくるりとこちらを向き、都子の目をまっすぐに見て挨拶をする。
「厚岸なおといいます。私は五年二組の担任をするから、都子ちゃんの担任だね。みんないい子だから、きっとすぐ仲良くなれるよ」
「はあ」
厚岸先生はにっこり笑って、じゃああとで、と先生方のブースに行ってしまった。

始業式・入学式が終わって、都子もクラスへ行けることになった。五年二組は二階。この校舎は複雑な造りで、覚えるまでに時間がかかりそうだ。

1年前 No.7

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

「初めまして、丘珠都子です。札幌からきました。室蘭はあまり知らないけど、これから知って行きたいです。よろしくお願いします」
ぱちぱちぱち、と拍手が起こる。クラスは和気あいあいといった雰囲気で、都子の緊張もすぐにほぐれた。
「都子ちゃんは、司郎君の隣の席ね」
促されるままにその席につくと、司郎と呼ばれた少年がぼそっと、
「・・・よろしく」
と言った。
「よろしく」
都子も返事をする。

休み時間、都子の周りには生け垣の如く人が集まっている。
「札駅行ったことある?」
「大通の雪まつり、見た?」
「え、えっと・・・」
質問の一つ一つが、期待をはらんでいる。
うまく答えられない。
「札駅は、普段はあんまり行かないかも。大通、雪まつりは、一回だけ見た」
それだけしか言えなかった。それでも女子たちは羨むように言う。
「いいなぁ」
と。彼女たちにとって大切なのは、頻度や時間ではなく、その場所に行った、という確かな真実なのだ。

1年前 No.8

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

生け垣の中に混じっていた女子の一人はじゃあ、と質問を重ねてきた。
「都子ちゃん、お化けとか信じる?」
「え?」
急に変わった質問。他の女子たちは興味がなくなったように去っていった。
「信じる?お化けって言うか、超常現象みたいなのとかそういうやつ」
「オカルト、みたいな?」
「そうそう!」
にこにこと微笑みながら言われても、突然すぎてなにが何だか。
「お前さ、本当にそれやめた方がいいって。都子困ってるしょや」
さっきまで無口だった司郎が、急に話し出した。
「あ、一応自己紹介するけど。俺は長万部司郎。爺ちゃんが漁師やってる」
ここで注目したいのがこの「俺」のイントネーションなのだが、通常の『オ→レ→』ではなく、『オ↑レ↓』というように発音されることが多い。
「私、花畔緋那。ひなって呼んでね。不思議なものとかが好きで、腕っぷしが強いってよく言われる」
えへへ、と照れ笑いをする度に、フワフワしたピンク色のスカートが揺れる。女の子らしい女の子だが、腕っぷしが強いとは如何に。
「緋那の家は焼き鳥屋をやってるんだ。都子も行くといいよ。友達ですって言えば何かかんか安くしてくれるし」
「それはお得!」
思わず笑顔になる。

1年前 No.9

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

緋那がくすくす、と笑って司郎の肩を強く掴む。ぎりり、と音がした気がした。
「やだぁ、司郎。それあんまりやられると困るから教えないでねって言ったのにぃ」
「あ、悪い」
また司郎が黙ってしまった。緋那の手が余程痛かったのか。しかし漁師の孫ともあって、肌は浅黒いし筋肉もそこそこあるように見える。
「いや、分かってくれればいいんだよ?・・・あ、それでね都子ちゃん。他の子ともお話した?」
考えてみたら、先ほど緋那が崩した生け垣以外のクラスメイトとは一切話していない。向こうからも特にこれと言って話しかけられていないので、まぁ当たり前と言えば当たり前なのだが。
「まだ話せてない人もいる」
「室蘭の子たちってシャイだから、待ってても話しかけてくれるのはごく少数だよ。私とか司郎とかは例外だけどさ」
「まぁ、そうだな。俺たち以外とも交流しとかないと、つまらないと思うけど」
それはそうだ。友達の少ない休み時間は憂鬱だ。仲のいい友達が風邪で休んだりした日には、惨めなことこの上ない気持ちを味わうことになる。

1年前 No.10

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

「生け垣グループはやめた方がいいよ。あの子たちはちゃんとした友達としては扱ってくれないと思う。私が昔話しかけたときも、あんまり良い反応じゃなかったから」
完成した集団とでも言うのかな、と、緋那が寂しそうに笑う。妙に大人びたその表情と言葉は、都子を驚かせた。
「それから、あっちの集団。あれは通称『赤平軍団』。いじめっ子のグループだから、まず近づかない方がいいかもね・・・まぁ、男子だけだからあんまり興味ないか」
小学五年にもなって、まだいじめっ子がいようとは。今の世間では生まれてから死ぬまでいじめと隣り合わせの毎日を過ごすことになると言うのだから凄い。
そこで都子は、欠席者の席と教室の隅で本を読みふけっている少女を見つけた。
「あの子は?」
「音更ひかりちゃん。音更病院っていう病院の娘さんで、凄く頭がいいんだよ。・・・ちょっとプライドが高いけど」
「へぇ」
話しかけてみよう。決心して、都子は音更ひかりの前までずかずかと歩み寄った。
「・・・何?」
「読書の邪魔してごめんね。私、ひかりちゃんと話してみたかったの」
ひかりは不満そうに眉間にしわを寄せながら、「あっそう」と言った。
「私は話したいことなんてないけど」

1年前 No.11

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

都子はしょげることなく続けた。
「あの、ひかりちゃんって凄く頭が良いって聞いたよ」
「普通だよ。みんなの頭が悪いだけじゃないの」
「そんな言い方しなくても・・・」
突然ひかりが机を叩いた。バン、と大きな音がして、教室にいた人はみんながひかりと都子の方を向いた。
「こんな言い方しかできないの。私の頭がいいのは当たり前よ!病院の跡取りにならなきゃいけないんだから。私しかいないんだから!」
ひかりが叫ぶように言い放った後、しばらくの沈黙が訪れた。
「・・・ごめんなさい。こんなつもりじゃなかったの。私、人と関わるのが苦手だから」
「いや、私こそごめん。無理矢理話そうとしちゃって」
ひかりは本を置くと、都子に握手を求め、手を出した。どうやら和解の証らしい。都子は喜んで自分の手を重ねた。
「よろしく、都子」
「こちらこそよろしく、ひかり」
二人はまるで昔からの友人のように仲良く話し合った。緋那と司郎もそれに加わり、ここに新しいグループができたのだった。
「そういえば、あの空席は?」

1年前 No.12

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

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1年前 No.13

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

学校からの帰路、都子は緋那から抜け道を伝授された。緋那曰く、先生は通学路に厳しいから、細心の注意を払って使わなければならないらしい。

家に着き、古い鉄製の重い扉を開けると、生臭い空気が都子の鼻腔を刺した。
「うえぇ・・・」
「あら、都子。お帰りなさい」
母はエプロンに血の付いた包丁姿。一見すると殺人鬼だが、都子は一瞬で状況を把握した。
「もう、魚捌くのは良いけど換気ぐらいしてよ!」
そう、母は魚を捌いていたのだ。都子はすぐに窓を開けた。やや強めの風が爽やかに部屋を吹き抜ける。
母の生まれは小さな港町で、魚を捌くのは遊びのようなものだったらしく、札幌では入手できなかった活きの良い魚を捌けるのが楽しくて、つい換気もせずに作業に取りかかってしまったようだ。
確かに室蘭の魚介類は安くて鮮度も抜群だ。これは港が近いことが理由だろう。

1年前 No.14

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

都子は母に、緋那や司郎、ひかりという友達が出来たこと、明日の放課後は緋那達と公園に遊びに行くことなどを話した。母もほっとした様子で、「そう」と優しく微笑んだ。

夕食の席。父はサッポロクラシックを飲んでいる。話題は姉の学校での出来事だった。
「札幌出身ですって言ったら男の子達は、おおっ!ていう反応だったのね。でも女の子達は嫌そうな顔してた」
「嫌そう?お姉ちゃん何か嫌われるようなことしたんじゃないの」
「失礼な妹!今度から妹子って呼ぶよ!」
よく解らないことを口走る姉に頬を引っ張られつつ、都子は自分の学校で起きたことを話した。
「私のところでは、いじめっ子グループがいるって聞いた。まぁ、私も腕っぷし強いし大丈夫だと思うけど」
「小さな町だから、色々な人が居るんだよ」
父がビールの缶をテーブルに置いて言った。つまみは勿論、昼間、母が捌いていた魚、ホッケの味噌漬けだ。香ばしい香りと脂ののったほろほろの身が食欲を誘う。

1年前 No.15

アジアンタム ★PSP=2IvQFNiHHR

「郁子、お前の言ってた女子達は、多分お前に嫉妬しているんだろう。郁子はそこそこ見た目も良いし、都会的だから男子だって振り向くだろ?」
「そこそこは余計だよ、お父さん」
「・・・まぁ、なんだ。それが悔しかったんじゃないか、きっと」
「そうかなぁ・・・そこそこはホントに余計だけど」
納得いかない表情で、姉・郁子がホッケを食べた。都子も続く。

1年前 No.16

アジアンタム ★PSP=o2V0ReeHzm

翌日も、あの空席には人の気配が無かった。緋那や司郎とひかりと挨拶を交わし、都子は着席した。海町の室蘭らしく、今日も風が強い。
朝読書の時間は8時20分から15分間。早めに行って、周りの子と話すのがベストだ。歩いて10分。8時に家を出れば余裕のよっちゃんである。(ちなみに都子は比較的家が学校に近いので徒歩だが、一部生徒は家が遠いので、ある道路を境界線として向こう側にバス通学区分がある。但し家の立地が境界線ギリギリの所でバス通学を逃してしまう生徒もおり、彼らは家を7時45分に出なければならない)
先生の来ない朝読書の時間は憂鬱だ。静かに本を読みたくても、誰か彼かが私語を嗜む。それでいて注意しようものなら、『空気読め』という空気を作り出してくる。こうなると厄介だ。非常に厄介だ。
この日も昨日のいじめっ子グループが、ああだこうだと騒ぎ立てていた。都子は見ないフリに徹したが、緋那は彼らを許さなかった。
「ちゃんと本読みな」
都子は驚いた。昨日はあんなに関わるなと言っていたのに。
「は?うるせぇんだけど」
「口答えなんて上等じゃん。あんた達の私語の方が数倍うるせぇんだよ、さっさと口閉じろ」

1年前 No.17

アジアンタム ★PSP=o2V0ReeHzm

緋那の口調が迷子になっているぞ作者、と思われたかもしれない。しかしこれは間違いではありません。緋那はこのとき確かに口調をガラリと変えて彼らを挑発していたのだ。・・・その姿はさながらヤンキー。いじめっ子が無視をして本を読み出すと、緋那
はにっこり(ニタリ、に近いかもしれない)、その微笑みがまた怖い。都子が呆気にとられて口をポカーンと開けていると、隣の席の司郎が都子の袖をくいくい、と引っ張った。一言だけ「これ」と言った司郎は手を都子に突き出した。都子がそれに応じると、紙を渡された。紙には司郎の字で緋那について、と書かれている。司郎は辞書か、と軽くツッコミを入れつつ、紙の内容に目線を滑らせた。
『緋那について、緋那の父ちゃんは元漁師で元ヤンキー。緋那も最低限の護身術と称して喧嘩の仕方を習ってるから強い』
嘘。緋那はおっとりしてて可愛いなって思ってたんだけど。都子は驚愕の意を込めて『!!?』と紙に書き加え、司郎に渡した。司郎はそれを見て、無言で親指を上に立てた。何がGoodなのだろうか。

1年前 No.18

アジアンタム ★PSP=o2V0ReeHzm

厚岸先生が職員会議から帰ってきて読書時間が終わり、朝の会へ移行。日直は何と緋那だったようだ。先ほどの気迫のある顔はどこへやら、穏やかな微笑みを浮かべている。
「起立」
立ち上がって、
「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
挨拶をして、
「着席」
席につく。毎朝の一連の流れだ。挨拶するのに立ち上がる意味は無いような気もするが、きっと何らかの理由があって今まで続いてきたのだろう。
「先生からの連絡です」
緋那がすたすたと自席へ戻る。相方の男の子も緋那に続いて歩いた。
「皆さんおはようございます。これといって重要な連絡はないんだけど、一応二、三お話しておくね」
厚岸先生が黒板に何やら絵を描き始めた。線が波打っていて見づらいが、近くの道路周辺の地図だろうか。
「実は最近、この辺で空き巣があったらしいの・・・」
空き巣など小学生に関係ないではないか。都子は何気なく聞き流した。

1年前 No.19

アジアンタム @iceland ★PSP=lLz7iL8beW

厚岸先生の長話を半ば上の空で聞き終えると、チャイムが鳴った。厚岸先生は話が長い。
「あれ、私ったら話が長かったみたい。でもとにかく、知らない人には気を付けて行動してね。先生からは以上」
緋那が号令をかけて、朝の会が終わった。
五分の休憩で一時間目の用意をする。算数だ。
「あ、コンパス忘れた・・・」
不意に司郎が呟いたので、都子は予備のコンパスを貸そうか、と言った。しかし司郎は首を振った。
「・・・作るからいい。ありがとな」
「へ?作る?」
「おう」
司郎は使い古された紺色のランドセルから、やや太めの糸(紐に近い)を取り出して、緋那を呼んだ。
「緋那、針持ってる?」
「うん、あるよー」
「一本貸して」
「いいよー」
緋那がはい、と司郎に針を手渡す。やけに太くて穴が大きい針だ。司郎は紐を針に通し、結んだ。紐のもう片方の先には、鉛筆が結わえられている。
「これでよし、緋那サンキュ」
「どういたしまして」
緋那は自席に戻っていった。
「司郎、この針何?めっちゃ太いけど」
「漁網用の奴。緋那ん家の店の飾りに漁網使ってて、自分で編むんだってよ」
「緋那ちゃんすごい!」

11ヶ月前 No.20

アジアンタム @iceland ★iPhone=U8mUOusqxT

放課後、都子は学校裏の砂浜を眺め乍ら歌を歌っていた。潮風と鴎の鳴き声が心地好い。
「…それ、なんて歌?」
不意に横から声がして、歌を聞かれた事を恥じて都子は口を覆った。其処に立っていたのは、一見女子のように見えたが、よく見れば男子。同じ位の年に見えるが、背は都子より高い。
「えっと…」
「君は地元の人じゃ無いでしょ。だって僕の事知らないから」
「え?」
「いいんだ。その方が返っていい」
不思議な物言いをする少年をじっと見て目をぱちくりさせていると、少年が微笑んだ。あまりにそれが儚くて、都子の心臓はどきりとした。
「僕、地元のこの辺の子嫌いなんだ。…僕の事助けてくれないもの」
「助けてって、何かあったの?」
「それは言いたくないけど。…君、観光客じゃ無さそうだね。じゃあ引っ越してきたのかな。なら君もみんなと同じになっちゃうね。…あ〜あ、残念だな」
少年が手を振って去っていく。白いシャツが、色の抜けた青いジーンズが、段々遠ざかっていく。都子は夢でも見ていたかのように防波堤の前に残された。白い午後の光が、海面に反射して都子の頬を照らした。

19日前 No.21

アジアンタム @iceland ★iPhone=U8mUOusqxT

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19日前 No.22

アジアンタム @iceland ★iPhone=U8mUOusqxT

その日の夕食には見慣れない魚が並んだ。龍の様な形の魚。
「お母さんこれ何?」
「八角」
「美味しい?」
「食べればわかるわよ」
半分に切られ、ネギ味噌を掛けられ焼かれたその魚は、都会育ちの都子から見たら未知の領域だ。
「軍艦焼きって言うんだって。魚屋さんが教えてくれたの」
へぇ、と呟いて魚の身を掬うように箸で摘み、口に放り込む。脂ののった白身の甘さと、酒や味噌やネギの風味が口の中で溶け合う。
「うわぁ美味しい…なんじゃこりゃ」
「リアクションの薄い娘でお母さんつまんないわ〜」
決して作者はグルメ紹介をしたい訳では無いのだが、どうしても昔を思い出すと美味しかったものの記憶が真っ先に出てくる。それだけ室蘭は美味しいものの宝庫なのであった。

19日前 No.23

アジアンタム @iceland ★iPhone=U8mUOusqxT

翌日、あの空席には人影があった。この前見たあの少年だった。変わらず白いシャツと色の抜けた淡い青色のジーンズ。白い肌、綺麗な薄茶の髪、大きな鳶色の瞳。間違いない。
「…香澄」
司郎が目を見開いて呼ぶ。香澄は振り向きもしない。つかつかと近付き、司郎が香澄の手首を掴んだ。
「…何で今更僕に構うの?司郎」
「…何で今更学校へ来た、香澄」
決してその視線は合わない。只、両者の輪郭の外側を互いに睨みつけていた。香澄は薄く笑う。嘲笑する様な、嘲る様な笑みだ。
「…怖かったんでしょ?アイツが」
「…ちがう」
「違わないよ。君は僕を殴ったアイツが怖かったんだ。だから僕を見捨てた、そうでしょ?」
司郎の手に込められる力が強くなる。
「…痛いよ」
「…悪い」
「君は昔から腕っぷしが強かったよね。漁師の息子なんて皆大体そんなもんなのかもしれないけど。でも君は僕を助けてくれなかった。その腕っぷしで、アイツを殴り飛ばしては呉れなかった」
司郎は黙って香澄の話を聞いている。然しその瞳は怒りの焔で燃えていた。
「でも僕ね、司郎の事、恨んじゃいないんだよ。だって皆、強者には逆らえない。僕だってそうだもの…少なくとも、あの時の僕の立場が君と逆なら、僕も同じように君を見捨てたよ」

12日前 No.24
ページ: 1

 
 
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